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 第一話「入学」

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  1. 1 : : 2014/08/15(金) 14:20:15
    こんにちは、はじめまして浮雲です(^ー^)

    今回は自分が趣味で作った物語(笑)を投稿しようと思います!

    まだ完成はしていませんが(笑)

    もし読んでいただけたなら感想など貰えると非常に喜びます(*ゝω・*)ノ

    よろしくお願いします!
  2. 2 : : 2014/08/15(金) 14:24:38


    6月上旬、進級も終わりクラスの奴らの名前を何となく覚えきった頃だ。




    日本首都“東京”の夏、その前期間の鬱陶しい梅雨を迎える。




    いつもと変わらない、一人で住むには広すぎる家の中を歩く日曜の朝……、




    『神崎アヤメさんが失踪しました』




    という一通の電話が自宅にかかってきた。




    “神崎アヤメ”……つまり俺の妹は、いなくなったそうだ。




    そう学校から連絡があった。




    ─────意味が分からなかった。




    失踪?




    何でアヤメが?




    そもそもなぜ学校から連絡がきたのか?




    いや、別に不自然というわけではないのだが………、




    普通なら警察から連絡があるものじゃないのか?




    そう、受話器に問う。




    『ある課題の最中にどこかへ行ってしまったものと思われます』




    『契約上、そういう決まりですから』




    どうも、入学者達は学校側が提示する課題をこなしていかなくてはならないらしい。




    そして、その課題の最中に起こったトラブルについては自己責任となることを約束した上で入学をするそうだ。




    なんだってアヤメはそんな学校に入学したんだか。




    一応警察にも相談してみた。




    そしたら、あの学校で起こった事件には関与できないんだそうだ。




    ───打つ手なし。




    俺にはもう、なにもすることができない。




    ただの高二男子にできることなんてなにもない。




    俺は、諦めがいい方だ。




    だからその日は、何事もなかったかのように過ごした。
  3. 3 : : 2014/08/15(金) 14:27:26

    一週間ほど過ごした頃、小さいときアヤメが拾ってきたネコが一月ぶりくらいに帰ってきた。




    コイツは自由奔放な奴で、うちに帰ってくることは希だった。




    久々にみたミケという名の猫は、窓から中に侵入し、リビングにあるいすの上で丸くなった。




    そこはアヤメが学生寮に入る前にいつも座っていた席だった。




    ミケはそこで昼寝を始めた。




    ふと、考えないようにしていたアヤメのことを思い出してしまった。




    いつも鬱陶しいくらい笑って、たまに喧嘩して、仲直りをして、そんなことをして過ごしていた。




    寮に入ると言ってこの家を出て行ってからは少し寂しくもあった。




    まぁ、一人でいることもなんだか新鮮でそれはそれでいいと思っていた。




    ───今はどうだろうか。




    本当の意味でアヤメがいなくなり、その現実から目を逸らすようにこの一週間を過ごした。




    なぜ、目を逸らしたのか………。




    “孤独”だからだ。




    両親がいない俺にとってアヤメは、最後の家族だった。




    その“孤独”であると言う事実を受けいられなかったのだ。




    一週間前、いきなり投げつけられた現実を今見つめる。



    このままでいいのか?



    アヤメのことを俺は忘れられるのか?




    答えはすぐに出た。




    ポケットからスマートフォンを取り出し、俺の通う学校に電話をかける。




    プルルルルという音の後、聞こえてきた声は前の担任のものだった。




    その先生と軽く与太話をした後、転校をしたいと言う意を伝えた。




    転校先は……『国立裏影大学付属高校』




    妹の通っていた学校の名だ。



    その名を、受話器の向こうに伝える。


  4. 4 : : 2014/08/15(金) 14:31:51


    妹の通っていたその高校は、いわゆる政府お抱えの警察学校みたいなもんだ。


    そこでは学校という建前を守るために勉強もさせてはいるが、基本的には“戦闘訓練”をしている。


    なぜそんなことをするかというと、ぶっちゃけ警察が頼りなさすぎるためだ。


    と言うのも、警察はおとり捜査禁止、発砲も許可なしではできない、その上もし失敗でもしてしまえば威厳というものが無くなってしまうのだそうだ。


    そんなんじゃあ自由には動けない。


    その現状を打破すべく作られたのがこの学校だ。


    警察が取っつきにくい麻薬だとかヤクザの抗争だとかテログループの検挙、解体など難易度の高いものをあの学校で消化させるのだ。


    もちろん命を落とすことも多々あるそうだが、その分かなりの高待遇を受けられる。


    大学を卒業すると就職先は警察に行けば初めからそこそこの地位を約束されてるし、そのほかの勤務先でも優遇することを政府が定めてる。


    つまり、裏影を卒業できれば将来を約束されるのだ。


    アヤメはそんな理由で行ったんじゃないだろうけどな。


  5. 5 : : 2014/08/15(金) 14:33:31



    手続きにはまた一週間ほどかかった。


    普通なら転校先の学校で試験などを受けないといけないため連絡を取って日程の決定やら面接の準備やらでひと月くらい時間をとられるものだが『 国立裏影大学付属高校 』は日本の法律で転入希望の生徒をできるだけ早い期間で入学させるようにしているのだ。


    理由は簡単だ。


    気が変わる前に入学させてしまおうって魂胆だ。


    毎年定員割れ起こしてるからな。


    募集人数がハンパなく多いってせいなのだが。



  6. 6 : : 2014/08/17(日) 14:35:27


    「すみません、試験はどこで受けるんですか?」



    俺は今、転入試験を受けるために裏影大学付属高校まで足を運んでいる。


    国立大学付属ともあって敷地面積がかなり広い。


    高校だけでなく大学生の校舎も隣接、さらに無駄にだだっ広いグラウンド、園芸サークルが使っているのかよくわからん花や草などが並べられたビニールハウス、奥の方にはコンビニまであるぞ。


    他にもまだまだ学生寮だったりスポーツジムっぽいものなど色々な施設があるが、見学なんてしている暇はない。


    今日はオープンスクールで来たわけじゃないんだ。



    「それでしたらあちらの教務棟へ向かってください」



    この学校の入り口、入ってすぐ右にあった道の端にある交番みたいな所に入ってどこに行けばいいか訪ねた。



    「……教務棟、ですか」



    この学校は教員専用の校舎が建てられていたらしい。


    国立とはいえ、金の使い方が尋常じゃないな。


    少し他の学校に分けてやれよ。



  7. 7 : : 2014/08/17(日) 16:57:16


    教務棟に入りエレベーターを使って三階に行き教務室のスライドドアを引く。


    教務室特有の冷房による冷風に寒気を感じながらも担当の教師の名前を呼ぶ。


    因みに教務棟には教師が寝泊まりする部屋が二階にあるらしい。


    教務棟なんて教務室以外になにがあるんだろうと思ってたが、教員はここで生活してんだな。


    教務室に行く途中にコインランドリー室あったし。



    「お前が転入生か?」



    そういって中から出てきたのは黒崎という理数科の教師だった。


    モデル並のスタイルを持った女性だ。


    背中の半分まではある長い黒髪、それをアップに結ったポニーテール、すらっと長い足、ウエストも細い。


    身長に関しては俺よりもでかいな。


    俺が170㎝あったはずだから、180は越してるな。


    そしてこの大女、肩に日本刀担いでやがる。


    確か刃渡り15㎝以上は銃刀法違反だとかで引っかかるもんだが、そこは政府の裏影。


    もちろん法の外だ。


    だからって150㎝のポン刀担ぐのはいただけないが。



    「あ、はい」


    「こっちだ。来い」



    俺の前を通り過ぎる瞬間、香水のような甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。


    ふつうの男子なら飛んで喜ぶもんだが、俺にとってはどうでもいいことだ。


    いや、だからといって男が好きというわけでももちろんない。


    まず教師に対してそういう感情を持つことも問題あるからな。


  8. 8 : : 2014/08/17(日) 16:58:24

    ダダダダダダ………。


    ……ん?


    ドン!!!



    「ぐはぁ!??」



    ドサッ。


    背後から何か突進物が来た。


    それも減速せずにぶつかったからだろう、あり得ないくらい痛い。


    出血は……してないな。


    危ないな、全く。


    “アレ”になったら面倒なんだから。



    「不知火ぃ、廊下は走るな!」



    なんとも教師らしいことを言ってらっしゃる。


    ポン刀ぶら下げてなかったら100点だな。



    「ご、ごめんなさい~!」



    俺の上に多い被さるように倒れたソイツは、声を震わせながら弁解のセリフを述べる。


    ここの制服を着ているところを見るに高校生なんだろうが、ぶっちゃけ小学生みたいななりをしてる。


    みた感じ身長は140㎝あるか?


    ショートカットの髪こそ茶髪だが地毛なんだろう。



    「なんで廊下を走ってたんだ?」


    「あ……そ、それは……」



    殺気を感じさせる眼光で小学生──不知火って言ったか──を睨みつける黒崎先生。


    やめてあげろよ。


    小刻みに震えちゃってるじゃんか。


    (いや、その前に……)



    「えっと、不知火だっけ?そこどけてくれないか?」


    「わひゃい!!!??」



    う、うるせぇ……。



    「ご、ごごごごめんなさい!!」



    男に対しての免疫が皆無なのか、俺に話しかけられただけでかなりのあわてようだ。


    ガシャン!


    そのせいなのか、何か金属のようなものをスカートの中から落とした。


    ……。


    スカートの中?



    「不知火ぃ、コイツはちゃんとしまっとけよ」 



    そう言って黒崎先生が拾い上げたそれは……




    ───拳銃だ。




    『ワルサーP5』


    第二次世界大戦後に作られたドイツ製の拳銃だ。


    なぜそんなものを学生が持っているのかというと、この学校は刀剣と拳銃の装備を生徒に義務づけてるためだ。


    要約するに学校が「銃刀法違反しやがれコノヤロー」と言ってるのだ。


    無茶苦茶なのだ。



    「す、すみません!」



    その頭でっかちな拳銃を受け取り、レッグホルスターに納める。


    その時見えたスカートの中身がクマさんだったことは忘れよう。



    「で、なんで走ったんだぁ?」



    この人、ふつうにしてれば顔も美人なんだが、そうもいかないみたいだな。



    「……その、二週間前に疾走した“神崎アヤメ”さんの居場所の手がかりが見つかって」


    (!!?)



    いきなりアヤメの情報が転がって来やがった。



    「おい、それは詮索しないように指示したはずだ」



    一層殺気が増す黒崎先生。


    さすがに俺も怖くなってきた。



    「……どういうことですか?」



    が、それとこれとは別だ。



    「ああ?お前には関係ねぇだろーが」


    「あ、あの……アヤメさん捜索の許可をいただけないかと思ったんですけど……」


    「ダメだ。あの組織には近づくな。死ぬぞ」




    ───あの組織?




    アヤメは一体なんの事件に首を突っ込んだんだ?



    「で、ですが」


    「神崎、試験会場に行くぞ」



    小学生(身なりだけ)を無視する教師。


    最悪だな。



    「は、はい」



    黒崎先生が歩き出したのでその後に続く。


    置いて行かれたら迷いそうだしな。


    俺は方向音痴なのだ。


    後ろで何か言ってた気もするが、優先順位的に仕方ない。


  9. 9 : : 2014/08/20(水) 13:51:14


    昼から行われた試験は夕方には終わった。


    転入試験は筆記のみで実技──入試の時は戦闘だったらしい──は無いらしい。


    一般人にいきなり銃持たせても意味ないってことなんだろう。


    それにしても筆記試験楽すぎるだろ。


    数学なんて三桁のかけ算が面倒だったくらいしか印象に残ってないし。


    あんなの算数だ。



    「あ、あの!」



    教務棟を出たところ、柱の陰から出てきた誰かに話しかけられる。


    夕日が逆行になっていて顔がよく見えないが、たぶん昼に突進してきたしょうがく……高校生だろう。



    「えっと……神崎、さん……?」



    俺の名字を読んだソイツは俺の顔をまじまじと眺めている。


    外の明るさに目が慣れてきたおかげではっきりと見えたその顔は、その体格に相応しく幼かった。


    そっちの趣味がある奴なら飛んで喜びそうだな。



    「あ、あぁ……えっと」


    「不知火です!不知火愛菜」



    軽く自己紹介をされた。


    ので、俺も名乗ろうと思ったが神崎ってことは知ってるみたいだし別にいいか。


    自分の名前、あんまり好きじゃないし。



    「確か昼に会ったよな?」


    「は、はい。あの時はぶつかってしまってごめんなさい」



    少しショボンとして俯いた。


    どう見ても素直に反省してる小学生にしか見えない。



    「いいよ、あれくらい」



    昔よく親父にどつき回されたからな。


    アヤメも一緒に。



    「……あの、聞きたいことがあるんですけど」


    「なに?」


    「神崎さんって、もしかしてアヤメちゃんのお兄さん?」



    ……まぁ、隠すこともないか。



    「あぁ、そうだ」


    「やっぱり!アヤメちゃんを探しに来てくれたんですか?」


    「まあな」


    「わぁぁ!スゴい優しいんですね!」



    なんか知らんが目をキラキラさせながら俺を見てる。


    王子様でも見つけたのかって感じだな。


    俺そういうキャラじゃないけど。



    「アヤメちゃんの言ってたとおりですね!」



    アヤメの奴、俺のことなんか話してたのか。


    あのブラコンめ。



    「お兄さんはアヤメちゃんのことが大好きなシスコンなんですよね!」


    「はあぁ!??」



    あんにゃろ、変なこと言いふらしやがって。


    俺がシスコンだと?


    逆だ逆。


    あいつがブラコンなんだよ。



    「え、違うんですか?」


    「当たり前だ!」


    「わひゃ!?」



    少し頭に血が上ったせいで少し乱暴な言い方になってしまった。


    それにビビる不知火。



    「わ、悪い。驚かせたか?」


    「だ、大丈夫です」



    にしてもコイツ、よくこんな物騒な学校に入ったもんだな。


    てっきりゴツい大男みたいなのとか戦闘狂っぽい奴しかいないと思ってたんだが。



    「で、では本題に入ります」


    「おう」




    「私と一緒に神崎アヤメさんを探してください!」




    「断る」


  10. 10 : : 2014/08/20(水) 13:55:29


    「……え?」


    「断る」



    念押しにもう一度。



    「ど、どうしてなんですか!?」


    「アヤメは俺の家族だ。俺一人で探す」



    正直、不知火は不安要素が多い気がする。


    今はまだただの一般人である俺が言うのもなんだが、足手まといになるような感じがするのだ。


    それに昼の会話を聞くところ、かなりヤバい組織が絡んでるらしいしな。



    「そ、そんなの無理ですよ!本当に死んじゃいますよ!?」



    まぁ、そうなる可能性もあるだろうな。


    むしろ俺は死ぬだろう。


    でもな、妹のことで誰かを巻き込んで死なせる方がダメだろ。


    だから……




    「死ぬなら、それでいい」




    自殺願望ってわけじゃないが、そう思われてもいい。


    こう言えば引き下がってくれるだろ。




    ───ぽたぽた。




    不知火の瞳から何かがあふれ出してる。


    それは夕日に反射し、きらきらと輝いていた。


  11. 11 : : 2014/08/20(水) 13:56:15



    ……待て。




    「だ、ダメですよ……」




    だから待て。


    なんで泣いてんだよ。




    「し、死んでもいいなんて、言っちゃダメ……です」




    今日の昼に会ったばっかだろ?


    そんな奴のために泣くとかふつうできないだろ。



    「わ、悪い。だから泣くな!」



    どうもさっきから謝ってばっかだよな。


    今日運勢悪いのかな。



    「ぅ…ヒック」



    しゃくりあげてはいるがなんとか泣きやんでくれた。


    周りに人がいないのは幸いだったな。


    端から見たら小学生をいじめてる高校生にしか見えんからな。



    「じゃあ一緒に探してくれますか?」



    涙目で俺を見つめてくる。


    ……ちょっとかわいかったりもするな。


    一応言っておくがロリコンじゃないからな?



    「それとこれとは話が違うだろ」


    「だったら泣きます」



    こ、こいつ……目に涙ため始めてるぞ。



    「わ、わかった!一緒に探すから」


    「はい!よろしくお願いしますね!」



    やられた。


    一瞬で笑顔になりやがった。


    最後のは嘘泣きだったのかよ。


    ……にしても、さっきも思ったがやっぱりかわいいな、コイツ。


    流れた涙の軌跡が夕日できらきらと光って、余計にそれを強調してる。


    加えて、たぶん性格もいい子なんだろう。


    さっきの言動を聞くに。



    「じゃあ、改めて自己紹介を。不知火愛菜です!」


    「あぁ、よろしく」


    「神崎さんも、自己紹介してくださいよ」


    「いや、俺は……」


    「私、神崎さんの下の名前知りませんよ?」



    これは名乗らなきゃいけない流れだよな。


    あー、できれば言いたくないんだけどな~。



    「わかった。俺は……」



    少し言いよどみつつも、嫌いな自分の名を口にする。




    「……神崎キルア。よろしくな」


    「はい!よろしくお願いしますね、神崎さん!」




    ……よし、少しイタズラしてやろう。


    たぶん有効なはずだ。



    「せっかく下の名前まで教えたんだからそっちで呼べよ」


    「ふえぇえ!?」



    予想通り。


    男に対する免疫ゼロっぽいな。


    俺も似たようなもんだが。



    「わかったか?」


    「は、はい!」



    夕日のせいもあるんだろうが、顔が赤いな。


    作戦成功ってとこか。



    「じゃあ……き、キルアさんですね」


    「おう。よろしくな、愛菜」


    「ま、まま愛菜!??」



    ノリで言ってみたが、俺も少し恥ずかしいな。



    「だってそうだろ?そっちだけ下で呼ぶんじゃ不公平だからな」


    「そ、そういうものですか?」


    「そういうもんだ」



    すまん、適当なこと言ってる。



    「……わかりました。それでいきましょう!」



    いい子で素直な愛菜ちゃん。


    ダメだ。


    どうしても高校生に見えん。



    「じゃあそろそろ帰るよ」


    「はい!また会いましょう!」



    愛菜に見送られつつ、裏影大学の教務棟を後にする。


    にしても、ホント広い学校だな。


    校門まで歩いて10分かかるんしゃないか?


  12. 12 : : 2014/08/22(金) 08:51:42


    校門まで歩いて15分かかったため電車に乗り遅れ更に次にくるのは30分後というコンボを食らったせいでブルーな俺はどうにか自宅にたどり着いた。


    ドアの鍵を開け、昼間に夏の太陽に熱されたためムッとする空気にイライラしながらクーラーをつけ、誰もいないリビングでコンビニ弁当を食べて、風呂に入って、ただ時間が過ぎていくのを待つ。



    「にゃー」



    ……いや、一人じゃなかったな。



    「にゃーにゃー!」



    ミケが帰ってきたんだっけ。



    「にゃにゃにゃ!」



    で、ミケはどこにいんの?


    さっきから鳴き声ばかりでみあたらないんだが。



    「にゃー、にゃにゃにゃにゃ!」



    ばたん!



    「ふにゃ!」



    リビングにあるキャリーバックが唐突に倒れた。


    (……まさか)


    それに近づいて、三分の一ほど開いていたチャックを開けてみる。



    「にゃー」



    にゃーじゃねえよ。


    どうやってこの中に入ったんだよコイツは。


    まぁ猫には狭い所に入りたがるっていう習性があるとかないとか誰かが言ってたような気がするしおかしいことじゃないか。


    コイツもちゃんと猫だってことだ。



    ────プルルルルルル、プルルルルルル。



    風呂場の方から着信音がする。


    そういえばスマホがないな。


    風呂から出たとき置き忘れてきたのか。


    風呂場に行き、まだ鳴り続けていたスマートフォンの着信画面を見てみると……裏影大学付属高校?


    一瞬転入試験の合否でも出たのかとも思ったが昼に受けたばかりだったのでそれはない。


    と思っていたのだが……



    『合格です。明日こちらの学生寮に入ってください』



    なんだこのスピード入学は。


    しかも明日学生寮に入れだ?


    別に都合が悪いわけじゃないが、もうちょっと考えて入学させようよ。


    だからって落とされても困るけどさ。

  13. 13 : : 2014/08/22(金) 17:49:49


    まぁとにかく入学が決まったので、時間を持て余すのは止めて衣類やら何やらを鞄に詰める。


    学生寮に住むことになるからかなりの荷物になると予想した割にはキャリーバックの容量に多少の余裕を残した。



    「にゃー」



    因みにミケはおいていくつもりだ。


    キャリーバックに詰めることもできなくはないが……よそう。


    動物虐待は犯罪なのだ。


    まぁ、今も半分野良猫みたいなもんだし大丈夫だろ。


    そうこうしているうちに11時。


    就寝時間としてはかなり早めだがやることもないので寝室へ向かう。


    ベッドに転び、数十分ほど経過して睡魔に襲われ始めた時……



    「にゃー」


    カリカリカリ。



    ドアをひっかくような音とミケの鳴き声が聞こえた。



    カリカリカリカリ。



    珍しいな。


    アヤメがいた頃はよく行ってたらしいが、俺のところに来たことなんてなかったのに。



    カリカリカリカリカリカリカリカリカリ。



    あーはいはい。


    今開けますよ。



    がちゃ



    ドアを開けると、俺の足下をすり抜けてベッドの上で丸くなった。


    お前、今日はそこで寝んのかよ。


    別にいいけどさ。


    寝返りして踏んずけても猫パンチとか勘弁な。


    あーでも暑いな。


    夏ってのもあるがミケの体温もなかなか……。


  14. 14 : : 2014/09/04(木) 13:59:53



    じりりりりん!じりりりりん!


    ピッ



    「……ふわあぁあ」



    朝だ。


    ケータイのアラーム音で目を覚まし、時刻は午前9時。


    12時頃に裏影の教務棟に学生寮の鍵を取りに行かなければならないが、余裕だな。


    ミケのおかげでいつも以上に寝汗かいたし、シャワー浴びてこよ。




    寝室を出て風呂場に直行。


    そのあと昨日買っておいたランチパックを朝食にして顔を洗う。


    そういえば、ミケがいない。


    どうせまたいつもの放浪生活に帰ったんだろ。




    一時間かけてゆっくりと身支度を整え、電車の時間を10分ほどミスっていたため慌てて家を出る。


    キャリーバックのガラガラと言う音を耳障りにも感じつつ、走った甲斐がありなんとか予定通りの電車に乗ることができた。


    この電車を逃したとしても遅れるってわけじゃないが、時間ぎりぎりに行くのは少し気が引けるもんだ。


    あー、でもなー。


    シャワー浴びたばっかなのにまた汗かいちまったよ。


  15. 15 : : 2014/09/04(木) 14:25:32


    そんなこんなで着いた政府お抱え学校。


    その教務棟で俺の部屋──第三学生寮の510号室──の鍵を受け取りだだっ広い敷地で軽く迷子。



    「あ、キルアさん!」



    そこに現れたちびっ子愛菜ちゃん。


    小学生の引率を受けて学生寮を目指しております。



    「キルアさんは何号室なんですか?」


    「第三学生寮の510号室だ」


    「それなら、どなたかと相部屋かもしれませんね!」



    マジか。


    いや学生寮だしそれがふつうなんだが……できれば一人部屋にしてほしかったところだ。


    百パー初対面になるし。



    「因みに私は第二学生寮の208号室ですよ!」



    だからなんだ。


    遊びにとか行かないからな?


    っていうかさ、



    「そこって女子寮なんだろ?」


    「あ、そうでした」



    ちょっと残念そうな顔になったな。



    「でもキルアさんの部屋には遊びに行けますね!」



    来ちゃうのか。


    まぁ、断るのも可愛そうだしな。


    ……待てよ?



    「俺のところって男子寮じゃないのか?」



    女子寮もあるんだし男子寮だろ、ふつう。



    「はい!」



    ほらやっぱり。



    「違いますよ!」


    「へ?」


    「第一が男子寮、第二が女子寮で第三はいわゆる予備の学生寮なんですよ。第一第二で入りきらなかった生徒のための寮なんです」



    あー、そういうことか。


    でもそんなになるんだったら募集人数減らせよ。



    「あとキルアさん、コンビの話ってもう聞きましたか?」



    コンビ?


    コンビニなら昨日見かけたが……。



    「いや、聞いてない」


    「うちの学校ではクエストっていうのがあって、それを行う際に二人一組で行動するんですよ。これをコンビって呼んでます」



    クエスト……。


    課題みたいなもんか。



    「私たち生徒は午前中に学習、午後にはいろいろなクエストをこなして単位をとっていくので、結構重要なんですよ?報酬ももらえますし」


    「へぇ。報酬があるのか」


    「はい。クエストの難易度にもよりますが一日で10万円稼いだりもできますよ」



    なるほどね。


    学校の単位を取るのと同時に金も稼げればバイトなんてしなくていいし、こっち──戦闘訓練や警察のお手伝い──に専念できるもんな。


    日本政府よ、そんなことに頭使ってないで増税とかその辺のこと考えてやれよ。


    結構困ってたんだぞ、俺が。


  16. 16 : : 2014/09/05(金) 13:29:07


    エレベーターで予備学生寮の五階に上がり、そこから歩いて10番目の扉の前に立っている。


    ドアのすぐ左の壁には長方形の型みたいなのが二つあって、上の方の枠に『神崎キルア』と書かれたプレートがはめ込まれている。


    どうやら住居者の名前プレートをはめ込むらしいな。



    「なあ、これって俺一人だけが住むってことなのか?」


    「……」



    返答なし。


    何で?



    「愛菜?」


    「はい!何ですか?」



    名前呼べってか。


    昨日はあんなに恥ずかしがってたのに、この変わりようは一体……。
     


    「俺の一人部屋ってことでいいのか?」



    深く考えないようにしよう。


    めんどくさいし。



    「そうなりますね。名前の彫られたプレートをこの枠にはめ込むのは学校の規則ですし、今この部屋に住んでるのはキルアさんだけですよ!」


    「そうか」



    思っても見なかった幸運に柄にもなくはにかんでしまった。


    微笑中の微笑だが。



    「……」


    「ん?顔に何か付いてるか?」



    なぜか愛菜は俺の顔を凝視してる。


    顔もほんのりピンク色っぽくなってるし。



    「あ、い、いえなんでも」



    ぱたぱたと手を振る女性特有の否定をして俺から目を逸らした。


    いや、手を振ったのは自分を仰ぐためかもしんない。


    顔ほんのちょっと赤かったし。


    夏だし。



    「じゃあ私は帰ります。良かったら遊びに」


    「行けないだろ」


    「あ、そうでした」


    「じゃあな。また明日」


    「はい!また明日です!」



    たったったったった……


    エレベーターのドアが閉まるところまで見送って、教務棟でもらった鍵──最新のカードキー──を使って入室。


    おおお、結構広いな。


    玄関を入ってすぐ両脇に寝室──名前プレートが二つなだけに寝室も二つみたいだ──があり、その向こうにまた左右にトイレと洗面所の扉。


    フローリングの廊下の突き当たりの扉の向こうはダイニングキッチンになっている。


    加えて30インチはありそうな液晶テレビ、当然のようにエアコン完備。


    学生にこれは贅沢なもんだ。


    ホント、税金の使い方もっと考えろよな。



    ガタガタガタ



    「……何の音だ?」



    ガタガタガタ



    玄関か?


    鍵は閉めたはずなんだが、いやその前に無断で入ったりすんのか?


    ……。


    あれ?


    誰もいない?



    ガタガタガタ


    「うお!!?」



    玄関先に起きっぱなしにしたキャリーバック、それがガタガタと音を立てていた。


    なにこれ。


    怪奇現象?


    学生寮が曰く付きとかマジ勘弁だろ。



    ヒョコッ


    「にゃー」


    「……」


    「にゃー」


    「にゃーじゃねぇよ!」



    チャックを三分の一ほど開けっ放しにしていたところから顔を出している見慣れた猫を一発キックしてやりたい衝動に駆られたが、動物虐待で捕まってもあれなのでこらえる。


    いや、その前にアヤメに殺されるか。


    アイツ、ミケのことに関してはうるさかったもんな。



    (ってか何でついて来ちゃってんの?)



    まぁ確かに昨日コイツがバックの中に入る習性があって、今日の朝も急いでいて中を確認できなかった俺も悪いんだが……。


    ここ動物大丈夫なのか?



    「にゃー」


    「……」



    まぁいいや。


    どうせすぐ放浪生活しだすさ。


    ってことで本日二回目のシャワー。


    家を出たあとにかいた汗を流してベッドにダイブ!


    昼飯抜いたから腹は減ってるが眠気もなかなかの強者(つわもの)。


    このまま寝てしまおう。


    ベッドふかふかだし。


  17. 17 : : 2014/09/05(金) 16:28:55
    かちゃかちゃ……



    「う……ん?」



    なんの音だ?



    がちゃ


    「は?」



    ドアの開く音……?


    誰か入ってきたのか?


    ミケ……なわけないか。


    今ここで寝てるしな。



    ばたん



    っと、それどころじゃなかった。


    侵入者だ。


    もしくは黒崎先生あたりが様子でも見に来たのか?


    ってことで寝室のドアを開けると……



    がちゃ


    「!」



    女の子だ。


    年は同じくらいだろう。


    身長も160㎝位はありそうだ。


    で、特徴的なのが長い黒髪。


    腰のあたりまであるぞ。



    「……誰?」



    いやこっちのセリフだから。


    なにあんた向かいの寝室に入ろうとしてんの?


    それとその肩に担いでるゴルフバックみたいなのはなに?



    「俺はここにす」「ここの生徒じゃない」



    おい、人の話を最後まで聞け。


    あと何で殺気放ってんだよ。


    一般人にはわからないだろうが、俺は親父のしごきのせいでその辺には敏感なんだよ。



    「何でそう思うんだ?」


    「……制服」



    あー、制服か。


    そーいやまだもらってなかったな。


    よく見るとコイツも愛菜と同じ制服着てるし。



    「ああそうだよ。ここの生徒じゃない。これから……」


    シャッ、ぴたっ



    『これから入学すんだよ』と言いかけて、止めた。


    俺の首もとに日本刀の刃が当てられたから。



    「動けば斬る」



    何だこのどっかの時代劇みたいなセリフは。


    それよりもコイツ、速い。


    気を抜いてたのもあるが、動けなかったぞ。


    ってかどっからポン刀取り出したんだ?



    どさっ


    (……ん?)



    動いたら本気で斬られそうだったので、目だけで音の発生源を追う。


    そこにはゴルフバックらしきもの、その上の開け口から見え隠れしている数本の日本刀。


    ちっちゃい武器庫みたいな感じで使ってたのか。



    「なにをしに来た」



    おいおい、そんな殺気流すなよ。


    ふつうの奴だったらビビってしゃべれなくなってるぞ?



    「この学校には転校してきたんだ。で、今日からここで生活しろって言われた」



    親父に比べたら可愛いもんだけど。



    「……聞いてない」


    「知るか。つうかおまえこそ誰だよ」


    「……」



    こっちの質問には無視すんのかよ。


    あといい加減この刀下ろしてほしい。


    殺気の度合いで殺す気じゃないのはわかるけど落ち着けん。



    「にゃー」


    「!!」



    あ、ミケ。


    コイツ今起きたのか。



    サッ



    お、やっとポン刀から解放された。



    ばたん!



    ……あれ?


    アイツ寝室に引っ込みやがった。


    どういうことだ?



    「にゃー」


    (……もしかして)



    猫、苦手なのか?



    「お、おい」


    しーん……



    返答なし。



    がちゃがちゃ



    鍵までかけてやがる。


    ……よし、愛菜でも呼び出すか。


    俺からかけることになるとは思ってなかったが、連絡先交換しといて良かったな。

  18. 18 : : 2014/09/12(金) 14:30:30



    ピンポーン



    「!」


    がちゃ



    誰か来た!


    と思ってたら入って来ちゃったよ黒崎先生が。


    今のインターホンの意味あるか?



    「よお神崎、昨日ぶりだな」



    男言葉な女。


    あと先生、一言言いたいことがある。



    「あの、靴脱いでください」



    ここは日本なんだから。



    「まぁ細かいこと気にすんな」



    細かいことに分類されてしまった日本の文化。


    がんばれ、日本!



    「ところで神崎、喜べ。ルームメイトがさっき決まったぞ」


    「……」



    いやーな予感。



    「えっと、もちろん男子ですよね?」


    「……お前、そっちなのか?」


    「断じて違います」



    何でそうなる。


    俺の言い方が悪かったのか?



    「まぁいい。ルームメイトは女だ」


    「ちょっと待ってください」


    「心配するな。お前がそっち系なんて思ってないから」



    そこも重要だけど違う!



    「何で俺は異性といきなり同居しなくちゃならないんですか!」


    「そっちじゃないんならうれしいだろ?」


    「そういう問題じゃない!」


    「そうかっかすんな。名前は“佐々木灯華”っていう奴だから。特徴はだな、えっと……」



    なんか勝手に話が進んでるし……。



    「もしかして日本刀何本も持ってたり……」


    「そうそう」


    「腰まである長い黒髪とか」


    「よく知ってるな」



    だってさっき斬られそうになってましたから。


    ミケに助けられたけど。



    「……そこのドアの向こうにいますよ」


    「なんだ、もう来てたのか」


    「それより彼女に俺がいること伝えてたんですか?」



    たぶん伝えてないだろうけど。



    「それが忘れちまっててな、だから神崎に忠告しとこうと思ったんだが」


    「忠告?」


    「灯華はすぐに斬りかかる癖があってな……」



    どんな癖だよ。


    そんなんで殺されたら笑えねえぞ。



    「よく無事だったな」


    「……まぁ、なんとか」



    どうなるんだ俺の高校生活は。


    こうなったらアヤメを見つけてさっさと出てってやる。



    どんどん!


    「おーい、灯華出てこーい」



    ドアをノックする黒崎先生。


    シーン……


    そして安定の応答なし。



    「はぁ、ったく」



    気怠そうに肩に担いだ日本刀を抜いて……あれ?


    なにすんのこの人?



    「せ、先生?」



    め、目が据わってらっしゃる……!


    その長すぎる刀を上段に構えて……


    ザン!!


    き、斬りやがった!


    右斜め上からきれいに対角線にそって振り下ろされたその刀は……その長すぎる刀身のせいでフローリングの床に三分の一くらい刺さってやがる。



    「……ふぅ」



    一息付いてんじゃねえよ!


    なにいきなりドア斬っちゃってんの!?


    どか!


    無惨にも黒崎先生の一発の軽い蹴りで寝室の内側へ飛んでいく扉。


    中を覗くとベッドの上からひきつった顔をこちらに向けてる佐々木灯華。


    うん、怖いよねやっぱり。



    「よう、灯華」



    なんだこの爽やかなデカ女は。


    何でそんなに顔がスッキリしてんだよ。


    こちとらこれから住もうって家の扉が一つ無くなって落ち込んでんだぞ。



    「言い忘れてたんだがこの神崎ってルームメイトがいるから、よろしく」



    こくこく


    声が出ないのか頷いて肯定表現。



    「よし、じゃあ私は帰るから。あと明日あたり新しいドアくると思うから頼むね」



    新しいドアがくるってなに?


    それは日本語ですか?



    ばたん



    ってか帰るの早っ!


    それだけのためにドア犠牲になったってのかよ!

  19. 19 : : 2014/09/12(金) 14:31:03




    ・・・・・。


    そして見知らぬ異性と二人きり。


    誰かこの沈黙をぶっ壊してくれ。


    家具等は傷つけずに。



    「にゃー」



    ナイス、ミケ。


    でもお前さっきまで隠れてただろ。


    黒崎先生から。



    「!!?」



    この子、また過剰反応してる。



    「猫、苦手なのか?」


    「……ち、ちがう」



    声震えちゃってるよ。


    これは相当だめなんだろう。



    「……はぁ」



    これじゃ話にならないのでとりあえずミケを俺のいた寝室に閉じこめてやる。



    「にゃー」



    カリカリカリ



    「ちょっとそこで待ってな」



    おまえがいちゃルームメイトとコミュニケーションがとれないんだよ。



    「これでいいか?」


    「……」



    いなくてもとれてないのは気にしないでくれ。



    「お前、人見知りだろ」


    「……」


    「とりあえず一緒に住まなきゃなんないんだから仲良くしたいんだが」


    「……」


    「あ、ミケ」


    「!!?」



    おお、ビビってるな。



    「悪い、魔が差した」


    「……」



    またそんなに殺気めいちゃって。


    お前くらいのやつじゃ怖くも何ともないんだが。



    「俺は神崎キルア。よろしく」


    「……神崎?」


    「なんだ?」


    「……」



    あ、そっぽ向きやがった。


    コイツ俺としゃべる気ねぇな。



    「おい、名前くらい名乗れ。ミケつれてくるぞ?」


    「……佐々木灯華」



    いいねこれ。


    当分はミケをネタにして会話をしよう。



  20. 20 : : 2014/09/17(水) 15:25:27



    例によってそれ以上の会話はなく、外を見ると夕焼け空だった。


    ので、夕食を買うという体(てい)で学生寮脱出。


    あそこ俺の部屋なのになんだあの居心地の悪さは。


    という愚痴をさっき呼び出した愛菜に吐き捨てながら校内散策中。



    「まぁ、佐々木さんはああいう人ですから」


    「普段もああなのか?」


    「私とは学年が違うのでよくわかりませんが、たぶんそうだと思います。いろいろ噂が流れてくるので」


    「やっぱり愛菜は一年生だったのか」


    「そうですけど……やっぱりってどういうことですか」


    「うっ……それは」



    ちょっとムスッとした感じの愛菜。



    「キルアさんも私を幼いとか思ってるんですか」



    これは身長とかのワードはタブーな感じか。


    目が怖い。


    なんというか、殺気とかは皆無なんだがそれ以上にメンタルをもってかれる感じだ。



    「いや、そんなことはないぞ?今だってこうやって愛菜を頼ってるんだから」



    とってつけたような言い訳。


    どうもそれが有効だったらしく……



    「そ、そうですか」



    うれし恥ずかしそうに笑ってる。


    よし、切り抜けたぞ。



    「キルアさんは男子校と共学、どっちに通うんですか?」


    「俺は共学の方にいこうと思ってる」



    ここ裏影大学付属高校では男子校、女子校、共学とこの三つから選ぶことができる。


    もちろん俺が女子校に行くなんてことはできないししたくもないが。


    あと当然、それぞれに校舎がある。


    何でそんなことをしてるかというと、人集めだ。


    『女子校なら入る!』とか『共学だったら……』って学生を逃がさないためだ。


    ホント、この学校はどうなってんだか。


    因みに佐々木は女子校らしい。


    学年は俺と同じだ。



    「キルアさん!着きましたよ!」


    「……おお」



    昨日はさっとしか見てなくてわからなかったが、奥にスーパーがあったぞ。


    マジで何でもアリかよ。


    ここの敷地面積どんだけ広いんだ?



    「……そういえば、コンビニってなかったか?」


    「はい、ありますよ」


    「コンビニ弁当とかで十分なんだが」


    「だ、ダメですよ!栄養が偏っちゃいます!」


    「そりゃそうだが、料理なんてほとんどできないぞ?」


    「じゃあ私が作ります!」


    「いやそれは悪いって」


    「いいんです。私が好きですることなんですから」



    なぜ好き好んで人の家の夕食をつくんだよ。


    お前はどこぞのシスターか何かなのか?


    なんかブツブツ夕食のメニュー唱えてるし。


    あーもう、知らね。


    別に困るようなことじゃないし、好きなようにやっちゃってください。

  21. 21 : : 2014/09/19(金) 00:11:18





    7時過ぎ、俺の新しい部屋の食卓に並ぶ夕食を見て軽く絶望する。


    いや、どれもうまそうだよ?


    この6月が旬の新じゃがを使った肉じゃがはめちゃくちゃおいしそうだし、これまた旬のオクラとエリンギの炒め物は夏バテにいいらしいし、ありがたいことこの上ない。


    それに加えてカツオの叩き、イカの刺身、デザートにパイナップルまである。


    文句の言いようがない。


    質(クオリティ)がハンパない。


    それと同じくらい、量も。



    「さぁ、いっっぱい食べてくださいね!」



    これは……完食しなきゃいけないのか?



    「い、いただきます」



    がんばれ、俺の胃袋。


    今が正念場だ。



  22. 22 : : 2014/09/21(日) 23:16:15



    「キルアさんスゴいですね!まさか食べきるとは思ってもいませんでした!」


    「……ウップ」



    愛菜もそう思ってんなら自粛してくれよ。



    「どーぞ、胃薬です!」


    「……どうも」



    準備がいいことで。



    「それじゃ私は佐々木さんに夕食を届けてきますね!」



    俺が食ってる間に作ってた女子用ヘルシー料理をおぼんに乗せてキッチリ一人前運んでいく。


    佐々木の一人前と俺の一人前……男女の差を差し引いても余りある俺の一食の量は一体……。


    因みに佐々木は買い出しから帰ってきたときドアのない寝室でベッドに腰掛けていた。


    扉のある向かいの寝室に行けばいいのにと思ったが、俺がミケを入れてたからダメだったんだろう。



    「佐々木さん、どうぞ」



    俺と話すときと明らかにテンションの違う愛菜が言う。


    アイツ佐々木のこと嫌いなのか?


    カリカリカリカリ


    あ、そういえばミケをまだ入れっぱなしだったな。


    そろそろ出してやるか。


    「キルアさーん、お部屋に何かいるんですかー?」


    よし、ちょうど寝室の近くに愛菜がいることだし……



    「その部屋の向かいに猫がいるんだよ。出してやってくれ」


    「猫ちゃんですか!?」



    おおう、テンション急上昇。


    がちゃ。



    「ふわぁぁ!かわいい♪」


    「ふにゃ!?」



    おいミケ、ふにゃってなんだよ。


    なに潰れたみたいな声だしてんだ?


    と思ったら愛菜に抱きかかえられてきたミケは本当に潰れたみたいな感じだったとさ。


  23. 23 : : 2014/09/21(日) 23:17:03




    ナデナデ


    「にゃーにゃー」


    「かわいいですね~♪」



    ……さて、もういいだろ。



    「ミケ、こっち来い」


    「にゃ」



    ミケはその辺の猫と違って名前を呼んだらちゃんと寄ってくる。


    それも神崎家の人間限定で、な。


    神崎家の猫自慢終了。



    「あ、キルアさん!どうしてミケちゃんとるんですか!」


    「ちょっと話がしたくてな」



    佐々木がこの家の中にいるのが気になるが、たぶん大丈夫なはずだ。


    ミケを外に出したからドアのある方の寝室に移動したみたいだし、こっちの声は届かないだろう。






    「何の話ですか?」




    「アヤメのことだ」




    「!、……」






    愛菜は表情を真剣なものに変えて俺の次の言葉を待っている。






    「昨日、『アヤメの居場所がわかった』って感じのこと黒崎先生に言ってたよな?」




    「……はい」




    「教えてくれ」




    「……正確には居場所の手掛かり、ですが」




    「何でもいい。頼む」






    “アヤメを見つけること”。


    これは俺が一年とちょっと過ごした学校を捨ててまでここに来た目的。


    その情報ならどんな些細なことでもいい。






    「アヤメさんはある組織にさらわれたんです」







    ……誘拐か。


    まぁ、そうだろうな。


    アイツが自分から失踪なんてするとは思えんし。






    「その組織の名前まではわかりませんが、かなり前からある大きな組織だそうです」





    (厄介だな)






    新しくできたばっかの犯罪グループならつつけば自滅してくれたりもするんだろうが、昔からある組織となるとそんなラッキーは望めない。


    場数を踏んでるだろうし、そういうところは決まって手強いもんだ。






    「そして、その組織の頭がこの前まで関西の方へ移動してたみたいなんですが、またこの東京に戻ってきたみたいなんです」




    「今がチャンスってことか」




    「はい。でもさすがに私とキルアさんだけで動いても勝ち目は少ないと思うので、正式にクエストで受ければ裏影の力を借りれますから、焦りは禁物ですよ?」




    「ああ、わかった。……1つ聞いていいか?」




    「はい、なんですか?」




    「アヤメを探してるのって他にもいるのか?」






    さっきの言い方、俺たちだけで探してるって感じだったし。






    「……はい。アヤメさんの捜索は初めはかなりの人数でしようってことになったんですが、教務課から禁止命令が出たせいでみんな動けなくなっていまして」




    「動けなくなる?」




    「そういう騒ぎを起こした人たちは謹慎処分になってます」






    徹底してんだな。


    そんなことする暇あんならアヤメ探してろってんだ。






    「学校としても自分の身は自分で守れっていう方針ですので仕方ないことなんです」






    俺の気持ちを感じ取ってか、愛菜はなだめるようなことを言っている。






    「……わかってる」






    この学校についてはある程度わかってはいるが……自分の身内が見捨てられてる形になってるってのはどうしても見過ごせない。


    だからって愛菜に言っても意味ないんだがな。


    それがただの八つ当たりだってことも、な。





    「私の情報はここまでです。すみません」




    「なに謝ってんだよ。思った以上の情報だったし、感謝してる」




    「はい!ありがとうございます!」




    「なんだよ、謝ったり元気になったり忙しい奴だな」




    「キルアさん、なんかヒドいです……」




    とにかく、今はチャンスだ。


    だが、さっき愛菜が言ってたように焦りは禁物だ。


    “焦り”は“破滅”を呼ぶ。


    親父もよく言ってたっけな……。


  24. 24 : : 2014/09/21(日) 23:17:38


    そのあとは軽く談笑をして、愛菜は門限がどうとか言って8時半には帰って行った。


    寝るにはまだ早いので、目測30インチくらいのテレビでも見ようと向かいのソファーに腰掛ける。



    がちゃ、ばたん。



    ん、なんだ?


    また黒崎先生でも進入してきたか?


    もしそうだったら学生寮破壊を阻止しなくてはならないため監視しなくては。


    とも思ったがさすがにこの時間は来るはずがないので、少々思案。


    のち、この部屋には俺以外に佐々木灯華というルームメイトがいたことを思いだし自己完結。


    テレビのリモコンを手にとって……


    ぽちぽち。








    ……つまんねぇ。


    ってまだ10分ちょっとしか経ってねぇのかよ。


    時間経つのおっそいな~。



    (……よし、風呂だ)



    今日風呂場に行くのは三回目になるが湯船に浸かるのは一回目だ。


    こういう時間を持て余した時は長風呂でもして疲れをとっておこう。


    半身浴もいいな。


    ってことでリビングから出てすぐの扉、そいつを開ける。


    洗面所の中にもう一つ曇りガラスがあって、その向こうにシャワーと浴槽がある造りだ。


    まぁ大抵どこの家もそんな感じだよな。



    がちゃ。



    そうそう、人が入浴中だったりしたらこんな風にガラスに人影が映ったりしてな。


    ……あれ?


    誰かシャワー浴びてる?



    (さ、佐々木か!?)



    よく見たらシルエットが男のそれじゃない。


    いやまぁこの部屋には俺と佐々木しかいないわけで、もちろん佐々木は女子だから当たり前なんだが……む、胸の膨らみがしっかり見えてしまってるじゃないですか!


    しかしそのしたの腹部はしっかりとくびれていて……ってそれどころじゃない。


    佐々木のものと思われるシルエットはどうやらこちらの洗面所に移動するつもりなのか曇りガラスに手をかけたっぽいぞ!


    なんてタイミングの悪さだ!



    (は、早く逃げないと斬られる……!)



    振り返って洗面所を出ようとする……が、



    ガッ!


    「うおっ!??」


    ドサッ



    扉付近に転がっていたゴルフバックに躓いてしまった。


    な、なんで入ってきたときは大丈夫だったのに出るときは引っかかっちまうんだよ!


    がらがら。



    (や、やべ!)



    とっさに振り向く……べきではないのはわかってたが脊髄反射的に無理だった。


    そこには……あ、あられもない姿の佐々木さんではありませんか。


    だが不幸中の幸い。


    その、よ、要所はなんとか湯気的なものでぼやけてるぞ。


    しかし、そんなちっさな幸運なんてあまり意味がなく……



    「……!!!」



    少し状況把握に手間取ってたみたいだが、佐々木の顔はその後急速赤面。


    加えて両手を駆使し上半身と下半身の一部を隠す。



    「こ、これはだな」


    「」サッ



    弁解を使用としたが全く意味はなく、佐々木が右足を高々と上げる。


    俺はいわゆる仰向けに転がってる状態なのでなんかすんごい光景だった気もするが殺気的なものがガチだったのでそれどころではなかった。


    振り上げられた踵は俺の腹部──その急所であるみぞおちに一直線に急降下。



    「ぐはぁ!?」



    なんというか、言葉にならない“音”を残して俺の意識は途絶えた。



  25. 25 : : 2014/09/21(日) 23:18:35


    無事意識が回復してきたのは時計をみるにおよそ30分後。


    ちょっとした記憶の混乱があったが落ちついてきて自分のした過ちを後悔。



    (そこの角に頭ぶつければ記憶消えるかな)



    というようないけない方向に思考が偏っていったため風呂に入ってリセットすることにした。


    ちょうど洗面所だし。


    しかし、なかなかというか一切うまくいかないもので風呂はまた沸かし直さなければならない。


    仕方なく5分ほど待って入浴。


    今日1日で受けたストレスを洗い流すようにくつろいで終了。


    リビングで日本刀を上段に構えて待つ佐々木が簡単に想像できたため恐る恐るドアを開けるが……、



    「にゃー」



    いたのはミケだった。


    ってことは、佐々木の奴はいないだろう。


    猫、めちゃくちゃ苦手みたいだし。


    ていうか多分もう寝てる。


    寝室のドアが閉まってたし、時間も……



    (まだ10時か)



    だがもう眠い。


    風呂に入ったからって完全に疲れがとれるわけじゃないからな。


    そのあとの睡眠が大事なんだ。


    なので俺は寝室のドア……はないのでそのまま入ってベッドにゴロン。


    ん、なんかほんのりいい匂い。


    そういえば佐々木、ドアが斬られたとき確かベッドの上にいたっけ。


    女ってなんか知らんが甘くていい匂いがするよな。


    別に匂いフェチってわけじゃないが、悪い気はしないな。



    (……なに変なこと考えてんだろ)



    寝よ寝よ。


    俺が自分を変態認定してしまう前に。




  26. 26 : : 2014/09/21(日) 23:19:14



    ぺしぺし。



    「ん、んう?」


    「にゃー」



    んだよ、変な時間に起こしやがって。


    まだ真っ暗じゃねえか。


    時間は……やっぱり5時か。



    「にゃー」


    「ったく、仕方ねぇな」



    ミケは家に帰ってくると、一晩過ごした場合は朝5時に決まって起こされるとアヤメがいつも嘆いていた。


    コイツの放浪生活なんて知ったこっちゃないが、どうも朝食はこの時間帯に食べるらしい。


    だから起こされたのだ。


    さすがに俺も「一人で勝手にして食べろ」なんて猫にいえるわけもない。


    ので、仕方なく用意してやることにした。



    (でもキャットフードとかないしな~)



    買ってるくるか?


    コンビニなら開いてるんだろうが……ないよな、キャットフードなんて。


    仕方無い。


    何か作るか。


    俺自身朝飯食べたくなってきたし。


    愛菜にはぜんぜん作れない的なこと言った気もするが、ぶっちゃけできないことはない。


    やる気になればできるのだ。


    ってことで、寝室のドアを開けて……あれ?


    ドアがあるぞ?


    あー、そういえば黒崎先生が言ってたな。


    明日にはドアが来るとかどうとか。



    (……怖!!)



    いつのまに入ってきたんだよ!


    フローリングの床まできれいさっぱり跡が残ってないし。


    侵入者に気づけない俺も悪かったが、無断で入ってくるなよな。


    しかも多分真夜中に来たんだろうけど、常識的にもありえん。


    ……いや、この学校に常識を求めちゃいけないな。



    「にゃー」



    あー、はいはい。


    わかりました、作りますよ。


    猫と言えば魚と言うことで昨日愛菜が安いからと買っといてくれた鰆(さわら)の切り身を頂こう。


    ミケは生でも大丈夫だろ。


    俺は……塩焼きにでもするか。


    塩ふってグリルで焼くだけだし、楽なもんだ。


    あとはまぁ味噌汁かな。


    お湯入れて終わりのアレだけど。


    っと、その前に米だ。


    で、ダラダラと米をといでセットして、魚に塩まぶして焼いて、お湯入れて……全部できた頃には6時過ぎになっていた。


    米の早炊きで1時間かかるから当然だが。



    (……さて、起こすか)



    鰆はちょうど三切れあった。


    俺は基本一切れで足るし、ミケだってそんなにデブ猫じゃない。


    だからアレだ、ついでに佐々木の分も作った。


    ので、起こしに行く。



    こんこん!



    ドアをノック。


    だが起きる気配なし。



    どんどん!


    「おーい、起きろ。朝飯できたぞ」




    しーん。




    「ミケ、こっち来い」


    「にゃー」


    ドタバタドタバタ!



    ホント、猫ダメなんだな。


    鳴き声だけでこんだけ反応するんだから。



    ガチャ、ゴン!


    「いで!!?」



    急に開いたドアに鼻骨を強打。



    「……な、なに?」



    ドアのちょっとした隙間から佐々木の声が聞こえる。


    なにを言ってるのかわからない。


    とりあえず鼻が痛いのだ。



    「……」


    ギィ……


    「待て待て待て!」



    何勝手に閉めようとしてんだよコノヤロー。



    「……」


    「朝飯、食うか?」


    「」こく


    「ほれ」


    「……」ジーッ


    「ああ、ミケか?心配すんな、入れたりしねえから」


    「……ありがとう」


    「ん」


    がちゃ。



    うし、任務完了っと。


  27. 27 : : 2014/09/21(日) 23:20:06


    ────ポタッ。




    「!!!?」






    血がフローリングの床に一滴、落ちた。


    恐らく鼻血だろうな。


    さっきぶつけたし。





    ────ドクン。




    (……やべぇ)





    心の臓が、脈を打つ。




    一層、強く。






    「にゃー?」






    ミケが俺の顔をのぞき込む。




    俺を心配してんのか?




    かわいい奴だな。




    俺の手がミケに伸びる。




    ……殺しても、良いか?。







    ピンポーン。






    「!!!」


    「キルアさーん、入りますよ~?」


    ガチャ


    「にゃあ」


    「あ、ミケちゃん!おはよー!」




    ガチャ、バタン。


    後ろにある───佐々木がいない方の寝室に入り、


    ガチャ。


    内側から鍵を閉める。



    「き、キルアさん?」


    ……ドクン、ドクン。


    (くそ、まだ引かねぇのか)



    体が、熱い。


    額から汗が滴(したた)り、呼吸も徐々に荒くなっていく。



    コン、コン。



    「あの、キルアさん?体調が悪いんですか?」



    控えめなノックと、気遣うような愛菜の声。



    「……なんでもない。少し、寝る」


    「えっと、学校が始まっちゃいますけど……」


    「心配するな。ホームルームに間に合わないかもしれないけど、顔は出すつもりだから」


    「……わかりました。じゃあ、後片付けなどはしておきますね」


    「ああ、悪いな」



    ドアを背に腰を下ろし、深く深呼吸をする。


    こうすると経験上、“引き”が早くなるのだ。



    (……愛菜に助けられたな)



    ギリギリのタイミングだったが、結果オーライだ。


    今度お礼でもするか。



  28. 28 : : 2014/09/24(水) 15:12:23


    カリカリカリ。



    「……ん、」



    どうやら俺は寝ちまってたらしい。


    ポケットからスマホを取り出すと『AM10:00』と言う文字が真ん中で光ってやがる。


    学校初日から遅刻ってのも気が引けるから、寝るつもりなんてさらさらなかったんだがな。


    座って寝たせいで固まった体を無理やり起こして、背後にあるドアノブに手をかける。


    ドアの前にはカリカリカリと言う音の発生源である猫が俺を見上げていた。


    佐々木の奴は……もう行っただろうな。


    待ってる方がおかしいってもんだ。


    これ以上時間を無駄にするわけにもいかないので、寝室に戻り身支度を整える。


    15分経過のち、戸締まりチェックのため──無駄に多い不法侵入者に備えて──リビングに向かう。



  29. 29 : : 2014/09/24(水) 15:17:58
    スタスタスタ……。



    今俺は学生寮をあとにして共学である校舎に向かっている。


    愛菜と一緒に。



    「ん、ふわぁぁ」



    こいつ、呑気にあくびなんてしてら。



    「何で先に行かなかったんだよ」



    しかもなにをするでもなく寝てたし。



    「あ、えーっと……えへへ」


    「笑ってごまかすな」


    「だ、だってキルアさん全然起きてこなかったじゃないですか!」


    「だから先に行けって言ったんだが」


    「いやです!」



    ダメだ。


    まともに会話できる気がしない。


    何でこういうとこは子供っぽいんだろ。



    「……と、ところで、キルアさんはコンビの件、どうするつもりですか?」


    「コンビ?あの二人一組でクエストをするっていうやつか?」


    「はい!そのコンビです!」


    「それってもう組まなきゃいけないのか?」


    「そうですね。二年生になるとコンビで行うレベルのクエストを受けなくてはならなくなるので」


    「……そうだな。今のところあてはないが、そのうちできるだろ」


    「そ、それじゃあわ、私と組みませんか?」



    どことなく緊張した様子で俺とコンビになることを提案する愛菜。


    だが何に対して緊張しているのかサッパリわからん。



    「でも愛菜はまだ一年だろ?そんなもの組んでも大丈夫なのか?」



    確かこの学校のクエストにはシングル、コンビ、チームといった種類があって、難易度も変わってくる。


    愛菜の言っていることを聞くに、一年の時は恐らくシングルレベルのクエストを受けていくようになるんだろうが……



    「大丈夫です!組まなきゃいけないってことはないだけで、組んでもいいんですよ?」


    「……危険、じゃないのか?」


    「そ、それは……」



    一年が二年レベルのクエストを受けることになるのだ。


    しかも元一般人の俺とだ。



    「で、でもコンビになった方がアヤメさんを探しやすくなりますよ!」


    「まぁ、そうだろうが……」



    だからって、愛菜を危険な目にあわすわけにもいかない。


    これだけは、曲げちゃいけねぇだろ。



    「……キルアさん、もしかして私が足手まといだと思ってるんですか?」


    「い、いやそういうわけじゃないぞ?」


    「本当に?」


    「おう」


    「じゃあ、どうしてコンビになってくれないんですか?」


    「そ、それはだな……」



    どうする?


    危険な目にあわせられないってことを正直にいうか?


    でも十中八九『やっぱり足手まといだと思ってたんですね……』的なことになりかねん。

  30. 30 : : 2014/09/24(水) 15:18:28




    「」ピタッ


    「ま、愛菜?」



    さっきまで歩いていた愛菜の足が止まった。


    それどころか、俯いて小刻みに震えていた。



    「わ、私のこと……」



    お、お前……何泣きそうな声出してんだよ。



    「う、ひっく……うっとうしい、とか…おもってるん、ですか?」


    「ば、バカ!なに泣いてんだよ!」



    初めてあったときといい、今回といい、お前泣き虫だな。



    「だ、だって…う、く…き、キルアさんに……き、きらわれて、」


    「違う!俺は愛菜を嫌ってない!」



    何でそうネガティブな考え方に何だよ、ったく。



    「だって……だって、ひっく」


    「あーもう、わかった!コンビ組むぞ!」



    やけくそ気味に宣言。



    「ほ、ほんとですか?」


    「ああ。でもそのかわり、あんまり難しいクエストとかそういうのは受けねぇからな!」


    「は、はい!」



    うわぁ。


    笑顔が輝いてんな~。


    この写真とったら高値で売れたりすんだろうな。


    女に特別興味のない俺でもドキッとしちまう。



    (あー、くそ。何で組むなんて言っちまったんだろ)



    昨日の話からしてアヤメをさらったのは絶対危険な組織だ。


    ただでさえ仲間っていう仲間がいねぇのに、コンビになっちまったら完全に二人だけで挑む感じになるじゃねぇかよ。



    「じゃあキルアさん!教務棟に行きましょう!」


    「はぁ?学校はどうすんだよ」


    「遅刻届を取りに来たってことにしましょう!」


    「愛菜は学校サボって大丈夫なのか?」


    「私はいいんです!勉強得意なので!」



    そういって俺の手を引いて走り出した愛菜は、無邪気な笑顔で、年相応に可愛かった。


    すごく、可愛いと思った。



    (……守るしか、ないな)



    俺にはこの笑顔を今からまた泣きっ面にする事なんてできない。


    不本意に泣かせちまうばっかだが、笑った顔の方が好きだしな。


    だから俺が、危険なことからこいつを守るしかないんだろうな。


    今の俺じゃ力不足だろうが、その辺は今は大目に見てくれ。


    あの“トラウマ”を思い出すことになるかも知れんが、何とかするさ。


    俺の全身全霊を駆けて。


    そう、決めた。






  31. 31 : : 2014/09/24(水) 15:19:21


    教務棟に入ってすぐ入り口にある受付窓口みたいなとこに遅刻届を貰おうとすると……



    『この学校にはそんなものはない。授業を受けなくても進級は出来る』



    だそうだ。


    全く、愛菜も遅刻届とか言うし、この学校もそうだがテキトーすぎるだろ。



    「あの、コンビの申請をしに来たんですけど……」


    「はい、不知火愛菜さんですね。まだコンビを組まなくてもいい時期ですが、よろしいですか?」



    この学校でコンビを組んでクエストを受け始めるのは二年になってかららしい。


    というのも、クエストにはコンビの他にシングル、チームという三つの種類があって、難易度的にはコンビはレベル2。


    一年の時はレベル1のシングルを受けるのが基本だからだ。



    「はい!大丈夫です!」



    因みにアヤメ関係のクエストは恐らくレベル2。


    そのためコンビまたはチームを組む必要があるんだそうだ。



    「では、どなたと組まれますか?」


    「神崎キルアさんとのコンビを申請します!」



    これで晴れて俺と愛菜のコンビ成立。





    ……と、思いきや、



    「不可能です。キルアさんは既にコンビを組まれてしまっています」


    「は?」「へ?」



    俺と愛菜の気の抜けた声に続いて……





    「神崎キルアさんは佐々木灯華さんとのコンビを組まれてます」






    という予想もしなかったような返答を聞かされた。




    「な、なんでですか!」


    「お、俺は何も知らねぇって!」


    「因みに神崎さん、あなたには今からある場所にクエストを達成しに行かなければなりません」


    「はああ!?」


    「ちょっと待ってください!キルアさんは昨日ここに来たばかりなんですよ!?」


    「心配ありません。それほど難易度の高いクエストでもないですし、佐々木灯華さんがいますから」


  32. 32 : : 2014/10/02(木) 17:29:35
    ブオォォォ!


    曇天の空の下、大きなエンジン音をあげて走るスポーツカーが一台。



    「……」



    俺は今、顔も知らない同級生の運転する車──裏影では18歳未満でも免許が取れる──で佐々木の待つ現場に向かっている。


    どうも勉学よりクエスト優先らしく、車やバイク、ヘリやある時は戦車なんかの乗り物を専門にする生徒を授業中に呼び出しやがったのだ。


    俺(と愛菜)はこの車に乗るまでいろいろ抵抗してみたが黒崎先生のご登場で即アウト。


    打つ手なしって奴だ。



    「で、神崎っつったっけ?」



    運転席に座る気さくそうな男──名前は近藤らしい──が話しかけてくる。



    「ん?」


    「気分はどうだい?」


    「今季最悪だよ」


    「そりゃそっか。なんたってあの佐々木とコンビだもんな」


    「そっちじゃねぇよ。何でいきなり現場にかり出されなきゃいけないんだ」


    「おお、そっちだったか」



    どう考えたってそうだろ。


    第一“あの佐々木”ってなんだよ。


    「まぁその辺はいいじゃねぇか。俺らが行った頃には終わってんじゃね?」


    「そんなもんか?」


    「だってあの佐々木だぜ?」


    だから“あの佐々木”ってなんなの?


    もし聞いてメンタル的にきつい奴だったら俺発狂するから聞かないけどさ。



  33. 33 : : 2014/10/06(月) 22:41:25



    後藤の運転する車は人気の少ない廃ビルの並ぶところにやってきた。


    黒崎先生曰わく、このあたりにどっかの金持ちのお嬢さんを誘拐したグループが逃げてきているらしい。


    拳銃付きで。



    「……」


    「なにやってんだ、神崎。着いたぞ」


    「はいはい、行けばいいんだろ、行けば!」



    俺、今日死ぬかも。


  34. 34 : : 2014/10/10(金) 23:36:40

    車を出ると、近くにブラックのバイクが一台、停まってるビルがあった。


    恐らくそこにアジト的なのがあって、佐々木が侵入してんだろう。


    曇天に廃ビルとかいかにもアジトって感じだな。



    「……」



    車の中で着替えたこの制服は、防弾繊維でできてるらしい。


    だから撃たれても致命傷は避けられるそうだ。


    ヘッドショットにはどう対処すべきか聞いたら『避けろ』っていわれたけど。



    (はぁ、何でこんな目に……)



    一応この手の訓練はよく受けてた。


    親父から。


    だからそれほど緊張はしてないが……、実戦経験はゼロ。


    不安要素で頭破裂しそうだ。


    今すぐ帰りたいという衝動を抑えつつ、足音をたてない歩行──スニーキングという──で薄暗い建物の中へ進んでいく。


  35. 35 : : 2014/10/13(月) 12:02:38


    (ここは……玄関フロアか)



    この廃ビルの一階は真ん中奥に受付用の台があるだけの、いたってシンプルな造りになっていた。


    ここに人がいれば一発でわかるだろう。


    隠れられる場所と言えば受付台の陰だけ。


    三人くらい隠れられそうだが、そこ以外に隠れる場所が無いため敵に100%警戒される。


    で、侵入者に対して先手を打てないため、そこに潜むことはまず無い。


    そう高を括って侵入をしております。



    (どうせ最上階とかその辺に陣取ってんだろう)



    その方が遠くまで見渡せて敵の接近に気付きやすいし、上に上がってくるまでにある程度の準備ができるからな。


    こういうことは親父に叩き込まれた知識によるものだ。


    全く、普通の教育方針で育ててくれないもんかね。



    「う、動かないでください!!!」



    ピタッ


    受付台の右脇にある階段、そいつを上ろうと台を横切った瞬間、女の甲高い声とともに俺の背中に鋭い何かが触れた。



    (……マジ、かよ)



    い、いきなり大ピンチじゃねぇか。


    つうか何でそこに隠れてんだよ。


    まさか有り得ないところにわざと隠れて不意を突くっていうことか?


    ……いや、あり得ん。


    見た感じ隠れてたのはこの女一人。


    この場合俺が単体で乗り込んでこなかったときに圧倒的不利に陥ってしまう。


    つまりコイツは……、



    (ド素人のラッキーパンチ)



    そういや親父が『素人には常識が通用せんから困る』って言ってたっけ。



    「あ、あなたは誰ですか!」



    おいおい、そんなに声張るんじゃねえよ。


    遠くに俺の仲間でもいたらあんたアウトだぜ?


    いないから困るんですけどね!



    「早く答えてください!!」



    ああもううるせぇ!



    「俺が誰かって?」



    こうなったらなるようになりやがれ!



    「それだったらそこにいる奴に聞けばいいんじゃないか?」


    「ここにはあなた以外に誰もいません!」


    「後ろ、確認してみろよ」


    「!!!」


    バッ!!



    (よし!!!)ザッ!



    「あっ!」


    ジャキ!!


    「……形勢逆転だな」



    後藤の車に乗せられるときに黒崎先生がよこしてきた拳銃──デザートイーグルという大型拳銃──を女に向けながら言い放つ。



    「う、嘘つき!!」


    「騙される方が悪い」



    でもまさか、こんな見え見えのフラグに引っかかるなんてな。


    さすがド素人ってとこか。



    「さて、今度はこっちが聞こうか。お前、誘拐グループの一味か?」


    「それはあなたでしょう!!」


    「違う。俺はその」「動かないで」シャキン



    (!……今度はなんだよ、ったく)



    背後から刀が俺の首に添えられ、また形勢逆転。


    ってか俺、何回後ろとられれば気が済むんだよ。

  36. 36 : : 2014/10/13(月) 12:03:11


    「と、トウカさん!」



    親父だったら半殺しに……あれ?


    “トウカ”さん?



    「……なんで?」


    「……お前が勝手にコンビ申請したからじゃないのか、佐々木灯華さん?」


    「え、えぇぇぇ!!???と、トウカさんのお知り合いだったんですか!??」


    「……知らない」



    おいこらルームメイト。


    そんなこといったらあのド素人ちゃんが混乱してナイフでぶすってしちゃうかもしんないだろうが。



    「……俺はコイツの仲間だ。目的も一緒で、まぁ応援にきたってとこだな。そして佐々木、刀をおろせ」


    「必要ないといった」


    「黒崎先生にか?」


    「」ふるふる



    言ってねぇのかよ。



    「そ、そうだったんですか……」


    「そういうこと。あと刀おろせ。落ち着けん」



    二度目の忠告でようやく解放された。



    「あ、あの……さっきはすみません」



    ナイフをしまったド素人女──薄暗くてよく見えん──が俺に対して謝罪を述べる。



    「別にいい、気にしてない。で、実際のところアンタは誰なんだ?」



    なんとなく予想はできてたりもするが……。



    「彼女は西園寺アリス。今回誘拐された被害者」


    なんともお金持ちっぽい名前だな。


    俺の偏見でしかないが。



    「おおかた、佐々木が一人で救出して、周りの様子を見てくるからここにいろって時に俺がきたってところか?」


    「……だいたい合ってる」


    「よし、じゃあこれでミッションクリアだな。戻るぞ」


    「……なにもしてない」


    「何かしないと帰っちゃいけないのか?」


    「け、ケンカはやめてください~!」



  37. 37 : : 2014/10/13(月) 12:03:51


    廃ビルを出て、近藤は車の中で昼寝をしていたため叩き起こして来た道を辿る。


    西園寺は佐々木のバイクに乗ってったので無論、男二人。



    「なぁキルア~」


    「いつから下の名前で呼び出した」


    「いいじゃねえか、タメなんだしよ。俺のことも大祐でいいぜ?」


    「お前、下は大祐ってんだな」


    「んだよ、知らなかったのか?」



    「無茶言うな。『俺近藤ってんだ。よろしく』って挨拶からわかるわけねぇだろ」


    「っと、そうだったな」



    こいつ、今のどこにおもしろいとこがあったってんだよ。


    ニヤつきやがって。



    「ん?なにニヤニヤしてんだよ、キルア」


    「知るか。……よろしくな、大祐」


    「おう!」



    ……とりあえず、転入生特有のぼっち現象は起こらなさそうだな。



    「で、どうだった?西園寺さんは」


    「何がだよ」


    「見るのは初めてだったんだろ?あの巨乳をさ」
      

    「……別に、普通だよ」



    身長は目測で150-160㎝、外国産の蒼い目と金髪はロングでウェーブ。


    どっかの絵本に出てきそうな感じのお嬢様だった。


    まぁ、その……大祐の言うとおり、でかかったが。



    「おいおい、俺たち裏影共学男子のアイドルを普通ってどういうことだよ」



    ……“裏影共学男子のアイドル”?



    「西園寺って、裏影の生徒なのか?」


    「おうよ!」


    「……」


    「どうした?考え込んじまって」


    「いや、なんでもない」



    廃ビルでの西園寺の行動は正直に言って一般人と同レベル。


    この学校でやっていくのは厳しいだろう。



    「あ、どうせお前も西園寺さんのこと狙ってんだろ?わかるぜ、その気持ち」



    アホか、こいつ。



    「勝手な妄想はやめろ」


    「いやいや恥ずかしがんなって」


    「蹴るぞこんにゃろ」


    「はっはっは!因みに西園寺さんは一つ年上の一年生だ。もう二回も留年しちまってんだよ」



    (まぁ、だろうな。あの感じじゃ進級できないのもわかる)



    「って、何でそんなことペラペラしゃべってんだよ」


    「知りたかったんだろ?愛しの西園寺さんの情報」


    「ドロップキックしてやろうか?」


    「いやいや恥ずかしがんなって」



    あーもう、疲れる。





    何やかんやで時刻は3時をまわっていたため、大祐のやろうが腹が減ったと駄々をこね始めた。


    俺はすぐに帰りたいと言ったのだが、あいにくこの車はあいつが運転してる。


    ので、行きつけらしい小汚いラーメン屋に連れて行かれた。


    味は、うまかった。


    思った以上に濃厚で、それでいて後味はサッパリとしていた。


    大祐曰わく『ああいう雰囲気のラーメン屋は旨い』らしい。


    そして裏影の門をくぐったのは5時過ぎ。


    大祐は第一学生寮に帰ったが、俺はクエストクリアの報告をしなくてはならないらしく、午前中に行った教務棟の受付窓口の隣の……報告窓口的なところに行かなくてはならなかった。


    そこで俺が知ってる限りの現場の状況を説明していると……



    「じゃあ、佐々木とは完全に別行動だったんだな?」


    「はい、玄関フロアに西園寺が既にいたので」


    「……そうか」


    「あの、最上階で何かあったんですか?」


    「いや、そっちは何もおかしいことはなかった。気になるのはそのあとだ」


    「あと、ですか?」


    「ああ。西園寺の報告によれば、佐々木が犯人グループ8人を拘束し、1人を取り逃がしはしたがクエストをクリアした。だが、佐々木は西園寺1人を廃ビルに残し、逃げたやつを追跡し始めた」


    「それのどこがおかしいんですか?」


    「佐々木は非常に優秀だ。私達の与えたクエストを忠実にいつもこなしてきた。そんな奴がクエストの目的である西園寺を1人にして深追いをしたりすると思うか?」



    ……なるほどな。


    あの時、廃ビルの来たのが俺だから良かったが、もし犯人どもの仲間だったりしたら即アウト。


    そのリスクがあったにも関わらず飛び出した佐々木の行動がおかしいってことか。



    「……佐々木がどんなに優秀なのかわかりませんが、正しい行動だとは思えないです」


    「そうだろ?君、何か知らないか?」


    「いえ、わからないです。昨日会ったばかりですから」


    「昨日?それでもうコンビを組んでいるのか?」


    「……はい」


    「……よくわからん話だな」



    ごもっともです、先生。





  38. 38 : : 2014/10/19(日) 16:14:18


    エレベーターを使い第一学生寮の五階へ上がり、501号室のドアロックをカードキーで開けると……




    「にゃー」




    と出迎えられた。


    (ミケがここにいるってことは佐々木は帰ってない──猫がダメすぎて入れない──んだろうな)


    と思ったが、靴もあるしリビングのドアが閉まってるところをみるにどうにかしてミケを避けて入れたらしいな。


    ちょっと話したいこともあったので、リビングの扉を開けると……




    「にゃー!」ダッ




    てな具合でミケが突入して


    ドタバタ、ゴン、バッタンドシン!


    というように荒れた。


    仕方なしに俺も参戦してミケを寝室に閉じ込めると、佐々木はゼェ、ハァといった感じで疲れきっていた。


    因みに部屋は大いに散らかった。


    ちっちゃい台風でも来たのかって感じに椅子やらテーブルが倒れてたり逆さまだったり。


    日本刀の詰まったゴルフバックがないことが幸いしてなにも斬られてないのは良かったと思う。


    うん、良かったのだ。


    ポジティブにいこう。




    「……おい、片づけるぞ」




    テーブルを倒してバリケード的な感じでその後ろに隠れてる奴に部屋の掃除を促す。




    「……猫を、入れるのが悪い」


    「んなこと言われても入ってったもんは仕方ねぇだろ」


    「仕方なくない」


    「仕方ない!」




    なんてどうでもいい会話をしつつ、疲れきった佐々木をほっといて1人片づけをする俺であった。





    くぅぅぅ……


    これは何の音かというと、腹の虫だ。


    時刻を見れば7時半過ぎ。


    夕飯時である。


    あ、因みにあの音の発生源は俺じゃない。


    俺のはもうちょっとこう、“ぐぅぅぅ”って感じだ。


    まぁつまりは佐々木何だが……。



    「……」



    あーあ、顔赤くして俯いちまった。


    ったく、無駄に可愛い顔しやがって。



    「……飯、何でもいいだろ?」



    そういって財布を手に取ると、



    「お肉以外」



    がいいらしい。


    まぁそれなら探せばあるだろ。


    ざるそばとかコンビニに売ってあるし。


  39. 39 : : 2014/10/19(日) 16:15:58


    コンビニに行くとなぜかざるそばを食いたくなったため、仕方なしに二つビニール袋に入れて帰路を辿る。



    (……愛菜怒ってんのかな)



    何となくだが、部屋に戻ると愛菜が居るような気がしていた。


    が、実際はいなかった。


    まぁあそこは俺(と佐々木)の部屋であって、愛菜が住んでるわけじゃないから当たり前っちゃ当たり前だが。


    『何で勝手にキルアさんとのコンビ申請したんですか!』って佐々木に怒ってる方が自然な気がした。


    まだそこまで長いつきあいってわけじゃないから確証はないけど。



    プルルルル、プルルルル



    スマホの着信音。


    画面を見ると……『不知火 愛菜』と表示されてる。


    噂(というほどでもないが)をすればなんとやらか。


    スマホ画面の通話ボタンを押して……



    「もしもし?」


    『あ、キルアさん……ですか?』


    「そりゃそうだろ。俺のスマホなんだし」


    『そ、そうでした。あははは…』


    「で、どうした?」


    『えっと、佐々木灯華さんとのコンビ、どうでした?』


    「ああ、俺が行ったときにはもう終わってた」


    『……さすが、ですね』


    「おう」


    『……』


    「愛菜?」


    『は、はい、なんですか?』


    「いや、その……コンビの件、悪かったな」


    『い、いえ……だいじょうぶ、です。キルアさんが悪いわけじゃないので』


    「……まぁ、確かに」


    『そ、それじゃ私はちょっと用事があるので』


    「おう、またな」


    「……はい。さようなら、キルアさん」



    プツッ、プー、プー



    (……なんだ?)



    愛菜は結局、なにが聞きたかったんだ?


    まぁ、怒ってなかったみたいだからいいか。


    さっさと帰って飯食べよ。


  40. 40 : : 2014/10/19(日) 16:16:48



    リビングにいた佐々木にざるそばをやると、すぐに食いだした。


    けっこう腹が減ってたみたいだんだな。


    対する俺は、大祐につれられて食ったラーメンがまだ腹の中に残ってたため、まだ食べる気にはなれてない。


    かといってざるそばすすってる佐々木をずっと見とくってのも食いにくいだろうし、俺だってそんなことしたくない。


    ので、先に風呂だけ済ませることにした。


    だがどうやら佐々木も既に風呂は済ませていたらしく、濡れたタオルやらがかごの中に放り込んであった。


    ……いや、漁ったりしないからな?


    がちゃ、ばん!


    「うぉ!?」


    さっきしめた扉が急に開けられて……


    「」サッ、バタン!


    佐々木のものと思われるタオルやらを持って出て行った。


    「……いや、漁ったりしないからな?」


  41. 41 : : 2014/10/19(日) 16:17:33


    風呂から出ると佐々木は寝室に入っていた。


    別にすることもなかった俺はテレビを見ながら時間をつぶす。


    そういえば、今日黒崎先生からもらったデザートイーグル返してないな。


    てか、こんな反動のデカい銃をよく素人の俺に渡したよな。


    下手なやつが撃ったら肩はずれるんじゃないのか?



    (……にしても)



    随分汚れてる。


    絶対倉庫とかの奥底にあったやつをとってきた感じのやつだろこれ。


    仕方ない、暇だしメンテナンスでもしてやるか。


    親父、手入れとかに関しては特にうるさかったからな。



  42. 42 : : 2014/10/19(日) 16:18:13


    時刻11時過ぎ。


    拳銃のオーバーオールをしてたためこんな時間になっちまった。


    暇してたからちょうど良かったんだが。


    ちょっと疲れて程よい眠気に襲われてきたので、寝室に入ると……ミケが居た。


    というか寝てた。


    ベッドのど真ん中で。


    そういやここに帰ってきたときに閉じ込めたんだっけ。


    で、忘れてた。


    なんだかミケに悪い気がしたので、起こさないように俺は端に寄って寝ることにした。


    幸い寝相は悪くないので、落ちることはないだろ。



  43. 43 : : 2014/10/19(日) 16:18:48


    「……う、く、、あ、」


    「にゃー?」


    「う、あ……!!」ガバッ


    「にゃ!」ビクッ


    「はぁ、はぁ」


    夢、か。


    つうか、悪夢だった。


    親父にしごかれてる夢とか、目覚め悪すぎだろ。


    「にゃーにゃー」


    (あー、はいはい。朝飯だよな)



    悪夢に浸る意味はないので、そそくさと二人と一匹の朝食の準備をする。




  44. 44 : : 2014/10/19(日) 16:20:12




    うちの親父は、普通じゃない。



    というかぶっちゃけ、“人殺し”だ。



    いや、正確には“人殺しを認められた殺し屋”的なやつだ。



    この国では近年、死刑確定申告というものが犯罪者側に付けられる。



    その申告を受けた犯罪者と対峙したとき、捕まえるとこが不可能であれば殺してもいい。



    もちろん警察は極力そんなことはできない。



    なぜなら発砲する事自体に制限が多すぎるためだ。



    まぁ、そのためにこの学校があるわけだが。



    しかし俺の親父、“神崎 大牙”は死刑確定申告があろうと無かろうと個人の判断でそれを決めることができた。



    まぁ、死刑確定申告があっても殺さずに捕まえることができるような人だったんだけど。



    昔はよく、犯罪者に対する戦闘だとか、いろいろな基礎知識をたたき込まれた。



    アヤメ共々。



    多分自分のあとを継がせたかったんだろうな。



    やる気になったのはアヤメだけだが。



  45. 45 : : 2014/10/19(日) 16:22:39


    できた朝食は猫にあげたり寝室の前に置いたり自分で食べたりした。


    親父(のせい)で寝汗べっとりのため、シャワーを浴びて身支度を整える。


    佐々木はどうやら先に行ったみたいだな。


    多分ミケがリビングに行ってる隙を見計らって出てったんだろ。


    ……なんか、ミケを避けるのうまいな。


    がちゃ、ばたん。


    オートロックの扉を閉めて、このくっそ広い学校のどの辺に共学用校舎があるのか記憶をまさぐる。


    とりあえず昨日愛菜と歩いた道を途中まで歩いて……、!



    (そういえば、今日は愛菜来なかったな)



    いや、来ないのが普通なんだけどさ。


    来てくれたら迷うことなんて絶対にないってだけであって……。



    「おーい、キルアー!」


    「」ピタッ



    この声……。


    昨日俺を廃ビルまで送ってくれた大祐か。


    そう思って振り向くと……いたいた。


    こいつ、昨日は運転ばっかだったから気づかなかったが、だいぶデカい。


    190㎝はあるか?


    そしてそれに見合うガタイ。


    こんなやつとは喧嘩したくないね。


    うん、仲良くしよう。



    「お前、共学だったよな。一緒に行こうぜ」



    大祐からそう提案してくる。


    よし、これで道に迷うこともないだろう。


    「おう」とだけ答えて、大祐と二人で歩く。


    よく見ると回りにもちらほら、登校をしている生徒がいた。


    本を読みながら歩く奴、ミュージックプレイヤーで音楽を聴く奴、部活の朝練なのか、ジャージ姿で走っていく奴。


    ここまでは俺の日常の風景となんら遜色(そんしょく)はないな。


    しかし、中には黒崎先生もそうだが刀をもって歩く生徒、なんか曰く付きっぽい杖みないなのを大事そうに抱えて歩くアイツなんて変な雰囲気を醸(かも)し出してる。



    「なにキョロキョロしてんだよ。女でも探してんのか?」


    「アホ。んなわけあるか」



    何でキョロキョロしてただけで女なんだよ。


    コイツそんなことばっか考えてんのか?



    「狙うなら女子校の奴らがいいぞ。アイツら出会いが無さ過ぎて飢えてんだよ」



    ニヤニヤしながらなんとも失礼なことをいうやつだ。


    いつかきっと天罰が下るだろう。



    「共学の中だったら……、やっぱ西園寺さんかな」


    「聞いてねぇよ」


    「あ、でも気をつけろよ。うちの学校の女子は怒らせたら下手したら死ぬ」


    「……それは比喩か?」



    いや比喩なんだろうけど、こんな学校だから怖くなっちまう。



    「まぁそりゃ防弾繊維でできた制服着てるから死んだりはしねえだろうけど……」


    「……は?」


    「でも死ぬほど痛いんだぜ?」


    「なにが?」


    「着弾」


    「何の?」


    「銃弾」



    ……………。


    いや死ぬやん。

  46. 46 : : 2014/10/19(日) 16:24:08


    大祐のおかげで少し女子と関わるのを控えようと決意した俺は、なかなか遠かった共学校舎の入り口で大祐はクラスに、俺は教務室──教務棟だけでなく各校舎にもあるようだ──に向かう。


    そこで学年主任らしき眼鏡をかけた少し若い(25くらい?)男に挨拶に行き……



    「やぁ、始めまして。私は大角です。これからよろしく」


    「はい、よろしくお願いします」


    「さっそく昨日クエストに行っていたみたいですが、どうですか?」


    「あ、えっと、少し緊張しました」


    「ほう。それは優秀だ」



    そういって微笑むような顔をした。


    とても人の良さそうな感じかする。



    「君のような転入生がクエストに行くと、決まって即退学をしていくか、二度と行きたくないと駄々をこねる生徒が多くてね。その点、君は肝が据わっていて、これからが期待できるよ」


    「あ、ありがとうございます」



    そりゃあ、親父より怖いものなんてこの世に存在しないと思ってますんで、はい。



    「ところで君、もうコンビは組んだかい?」


    「はい」


    「手が早いね。誰と組んだのか教えてくれるかい?」


    手が早いとは何だ、手が早いとは!



    「佐々木灯華です」


    「佐々木……。あぁ、あの女子校の2年生の子だね」



    やっぱあいつ、有名人なのかな。


    この学校、募集人員が毎年1000人越えてるし、全員の名前なんて覚えらんないからな。



    「うーん、弱ったなぁ。もし知り合いがいればその子と同じクラスにしてあげようと思ったんだけど……」



    少し困り顔で頭をくしゃくしゃと掻くこの先生は、どこからどう見ても普通だ。


    うん、いいことだ。


    黒崎先生みたいなのばっかだったら成り立たないだろうし。



    「君、他に会った生徒は?」


    「えっと、不知火と近藤、あと西園寺さんです」


    「不知火って言うのは愛菜さんのことだね。他の二人の下の名前は?」


    「えっと、近藤大祐と西園寺アリスです」


    「!……近藤大祐君は共学の2年E組だったね。良かった、君と同じクラスになれる知り合いがいて」


    「じゃあ俺のクラスは……」


    「うん。2年E組だけどいいかな?」



    おいおい、今クラス決めんのかよ。


    そこは前から決められてたりするんじゃないのか?


    あ、でも学校の裏側とかよくわかんないから以外とこれが普通だったりするのか?


    ……ないか。


    というかこの先生、1年の愛菜のことまでフルネームで知ってたぞ?


    実は全校生徒3000人の名前全部覚えてたりすんのか?


    だとしたらこの人人間の皮を被ったコンピューターが何かだな。



    「それじゃあ2年E組の担任の大府先生のところに行ってきなさい」


    「はい、分かりました」



    大角先生が示した机付近に行くと、こちらも眼鏡をかけた温和そうな女の人がいた。


    どうやらこの人が俺の担任らしい。


    良かった。


    何か安全そうだ。



  47. 47 : : 2014/10/19(日) 16:26:16



    話してみると、思った通り優しい人だった。


    その後ホームルームまではまだ時間があるからと控え室に連れて行かれ、待つこと15分、いよいよクラスメイトとご対面だ。



    「それじゃあ神崎くん、いらっしゃい」



    ガラガラ。


    自然と集まる視線。



    「よぉキルア!やっぱお前か!」という大男の声。



    「神崎キルアです。よろしくお願いします」



    と全くオリジナリティの欠片もない挨拶を済ませ、そそくさと空いた席へ移動、着席。


    これで晴れて防弾制服常備学校の一員となった。



    「それでは皆さん、ホームルームはこれで終わりです。一限目には遅れないようにしてくださいね」



    がらがら、ぴしゃ。


    それが合図のように俺を囲んで「どこから来たの?」「キルアって名前ってことはハーフ?」「彼女いる?」という質問責めに遭った。


    それに丁寧に「東京」「違う」「いない」などと答えて自由時間終了。



    「よし、授業始めるぞ~」



    名前もよくわからん教員が入ってきて、数学Ⅰの教科書を取り出すよう指示してきた。


    しかし数学Ⅰなんて普通は1年の時に終わらしいるので、つまらない。


    偶然にも俺の席は窓際で、外の景色でも見て暇をつぶす。



    (……ん?)



    よく見ると、ここの生徒が数人、校舎から出ていくのがわかる。


    今、授業中のはずなんだが……。


    あ、そういえばここは授業よりクエスト優先だったっけな。


    となるとあの4~5人の集団はチーム何だろうな。


    なんか武装してるし。


    あ、なんか車がきた。


    武装チームの前に停まって……乗り込んで行ったぞ。


    多分これから何かしらのクエストに行くんだろうな。


    というように次々と出発していく同世代を見送っていると……り、リムジン?


    しかもあれってリンカーンタウンカーっぽくないか?


    アメリカで販売されてた高級リムジンだぞ。


    そのブラックに装飾された高級車は女子校舎の前で待機してるようだ。


    誰だよ、あんなもん呼んでクエストに行こうって奴は。


    一体どんな奴か拝んでやろうと思ったが、なかなか現れない。


    クエストに行く生徒は次々とリムジンを素通り──チラチラと横目で見てはいるが──していく。


    そうして5分…10分…15分…20分と時間が過ぎていった。


    もはやあのリムジンは何かのミスで入ってきたんじゃないかと思い始めた時、



    (!……愛菜?)



    女子校舎から出てきたそいつは、一直線にリンカーンへ向かい、乗り込んでいった。


    そして高級リムジンは動き出し、愛菜を乗せてこの学校を出ていく。


    ……にしても、愛菜って金持ちのお嬢さんだったのか。


    全然気付かなかった。


  48. 48 : : 2014/10/19(日) 16:28:52



    きーんこーんかーんこーん。


    一限目終了。



    「おう、キルア。さっきは大変だったな」



    大祐登場。



    「そう思うなら助けろ。薄情者め」


    「っはは、わりぃわりぃ」


    「やぁ、神崎クン。はじめまして」



    大祐の後ろからなんかちっこいのが出てきた。


    愛菜ほどじゃないが、まぁ150㎝ってとこか。


    中性的な顔をしてるが、ズボンをはいてるので男。


    正直、顔だけ見たんじゃどっちかわからん。


    いわゆる美男子ってやつか。



    「っと、忘れてた。キルア、コイツは大角リオ、俺のダチだ」



    “リオ”ねぇ。


    これまた中性的な名前。



    「……大角?」



    そういや学年主任も大角って名前だったよな。


    まさか親子?



    「ん、どうした?」


    「あ、いや何でもない。よろしくな」


    「うん。僕のことはリオでいいから」



    いや、偶然だろう。


    なんせここは一学年1000人だからな。


    定員割れしてるからもうちょい少ないんだろうけど。



    「おう、よろしくな、リオ」


    「よろしく。ところで神崎クン、コンビはもう組んでるんだよね?」


    「ああ、組んでる」


    「誰と組んだんだい?」


    「あー、そういやリオには言ってなかったっけな。佐々木だよ、女子校の」



    俺に対するリオの質問を大祐が答える。



    「ああ、あの佐々木サンか。神崎クン、スゴい人と組んだんだね」


    「……昨日から気になってたんだが、あの佐々木って何のことだ?」



    あの時はいきなり実戦にかり出されて情緒不安定だったから聞けなかったが、今なら何とかなりそうだ。



    「そういやキルアはしらねぇよな」


    「佐々木サンはね、一年の時のバトルランキングで7位だったんだよ」


    「バトルランキング?」


    「そう。毎年学年ごとに男女共通て行われてる行事で、そのバトル部門だね」


    「男女共通で……7位?」


    「ああ。女だけだったらダントツの1位だ」



    な、なんだよそれ。


    そんな奴とコンビ組んでんのか。



    「だから彼女は去年は1人でどんなクエストもこなしてたし、2年になっても組む必要がなかったんだよ」


    「昨日もコンビクエストでも余裕でクリアしてたもんな」


    「……だな」


    「……でも、不思議だね。どうして佐々木サンはコンビを組んでなかったんだろ?」


    「そりゃあ、佐々木は1人で十分強いから組む必要なんて無かったんじゃねぇのか?」


    「確かにそうかもしれないけど、2年になるときには必ずみんなコンビは組んでた筈なのに……」


    「何にしても、全くうらやましいぜ。どうやってあの佐々木を口説いたんだよ」


    「知るか。向こうが勝手にコンビ申請してたんだよ」


    「マジで?」


    「それって、神崎クンに気があるんじゃないのかな」


    「あ、てことは元のコンビを解消してキルアに乗り換えたのか!」


    「あり得ん」



    だって初対面で斬られそうになったし。


    記憶が曖昧だが、踵落としもくらった気もするぞ。


    何でかは覚えてないけど。



    「そうだよな。お前は西園寺さんがターゲットだもんな」


    「お前、いい加減そのネタ止めろ」


    「え、そうなのかい?」


    「リオも信じなくていいから」



    がらがら。



    「神崎くーん、ちょっといいですか?」と大府先生。


    あの先生もなかなかイイよなとかほざくアホはほっといて、リオに行ってくるとだけ言って教室の出入り口へ。



    「そういえば、校舎の説明がまだでしたね」


    「はい」


    「次の時間は先生の授業がないので、中をいろいろ見て回りましょうか」


    「わかりました」



    俺の授業は?とか思ったが、どうせまた数学だし、異論は唱えないことにした。


  49. 49 : : 2014/10/19(日) 16:31:36



    流れるチャイムの音を聞き流して、他の生徒が授業をする横を通り過ぎる。


    校舎自体はすぐに見終わり、外へでて別の施設に向かう。



    「そういえば、神崎くんはもう自分の拳銃、持ってるの?」



    まさか日本でこんな質問を受けるとは思わなかった。


    さすが裏影。



    「えっと、昨日黒崎先生に渡されたのならありますけど」


    「見せてくれる?」


    「あ、はい」



    そう言われたのでショルダーホルスターからマッドシルバーのそいつを取り出し、渡す。



    「あら、デザートイーグルじゃない。こんな銃扱えるの?」


    「あ、えっと、どうでしょう?」



    正直、撃てるかわからん。


    ベレッタとかグロックは撃ったことがあるが、あれとは反動の大きさが違うだろう。



    「うーん、どうしましょ」


    「あの、拳銃ってみんな持ってる物なんですか?」


    「ええ。拳銃、または2本以上の打撃、斬撃系の武器は常備させてるから」



    マジすか。


    てことは大祐はもちろん、あのリオも何かしら持ってるってこと?


    恐ろしい学校だな。



    「でも、よく手入れされてるわね。確かデザートイーグルって扱いが難しくて、誰も使わないから奥にしまいっぱなしだったはずなんだけど……」


    「あ、それ俺がメンテナンスしました」


    「え、ホント?」



    あ、やべっ。



    「ここに来る前に、扱ったこととかあるの?」


    「あ、いや……その、」



    この学校が法の外ってだけで、一歩出て行けば銃刀法違反というものがあったの忘れてた。



    「こういうのに興味があって、いろいろ調べたりしてたんです」


    「あら、そうなの。それにしてもキレイになってるわね」



    お、何とか誤魔化せたっぽい。



    「あ、神崎くん、着いたわよ。ここが射撃場よ」



    前を見ると、ドーム状の建造物。


    「……それじゃあ、試しに撃ってみましょうか」


    「……へ?」


    「さ、中に入って」


    「は、はい」



    撃ってみましょうかって、あんたこの銃の威力の大きさ知ってるよね?


    いやまぁ一応基本はわかってるけどさ、初っぱなからコイツはキツいでしょ。




  50. 50 : : 2014/10/19(日) 16:34:39


    「はい、構えて」


    「……」チャキ



    異論を唱えようと思ったが、俺の中にも少しこの銃を撃ってみたいという好奇心があり、それを妨げる。


    よって、この大型拳銃を木製のターゲットに向け、ねらいを定める羽目になった。



    「……うん、構えも出来てる。神崎くん、こんなことまで調べてたのね」


    「まぁ、はい」



    言うまでもない、親父だ。



    「それじゃ、自分のタイミングでいいから撃ってみなさい」


    「はい」



    ターゲットの中心に銃口を向け、一呼吸。


    さて、どんな反動がくるのか……、



    ドオオン!!



    「!!」



    射撃場に響く普通のハンドガンとは明らかに違う低い音。


    確かに反動はデカいが、撃てないほどじゃない。



    「……うん、それでいいわね!」


    「え、いいんですか?」



    撃てないほどじゃないんだが、よく見ると的の中心からはそこそこ外れてるし、その上この威力だ。


    連射なんて機能はないしあったとしても扱いきれん。


    多分俺が一発撃つ間に他の奴は3点バーストとかで連射してくるんだろうな~。


    怖いな~。


    これで良い訳ないじゃん、先生。



    「その銃、貰っときなさい。もし必要性があるならまた新しいのを買えばいいんだし」



    おうおう、何かテキトーだなこの人。


    いいのかそんなんで。


    下手したら死ぬんだぜ?



    「あなたのコンビは佐々木さんでしょ?ちゃんと守ってもらいなさいね」



    あー、なるほど。


    超絶強いらしいあの女の子に守ってもらえと。


    ……俺のプライドはどこへやら。




  51. 51 : : 2014/10/20(月) 14:12:07
    期待
  52. 52 : : 2014/11/03(月) 23:57:57


    このドーム状の射撃場の設備の説明を受けて、二限目終了。


    教室に戻るとすぐにチャイムが鳴り、休む間もなく授業を聞く。


    まぁ、気を抜いてもどうにでもなりそうな内容だから、これが休憩。


    その後は普通に休み時間になって、四限目が始まって、なんとも学生らしい一時を過ごした。


    ここまでは、な。






    「……うし、行くか!」




    昼飯にマックへ行って、100円のやつを6つ平らげた大祐はどこかへ行くらしい。


    うん、いってらっしゃい。




    「なにやってんだキルア。さっさと食えって」


    「待てよ。飯くらいゆっくりしてもいいだろ」


    「なんなら手伝ってやろうか?」


    「丁重にお断りする」




    お前6つも食ったのにまだ食えるのかよ。


    まぁ、その体なら必要なのかも知れんが。




    「つうか、どこ行くんだよ」


    「女子校」


    「ぅ、、げほっげほ!!な、なんでそんなとこ行かなきゃいけねぇんだ!」


    「ガールウォッチング!」


    「1人で行け」


    「つれないこと言うなよ」




    ダメだコイツ。


    ただのアホだ。




    「何で行かなきゃいけないんだよ」


    「目の保養だ」


    「共学にも女子はいるだろ」


    「飽きちまった」


    「あのな~」


    「ほれ食ったなら行くぞ!」ガシッ!


    「うおっ!ちょ、待てって!」




    コイツ、みた目通り力つええなおい!


    こんなの掴まれたら逃げらんねーぞ。


    よし、次からは捕まる前に避けよう。


  53. 53 : : 2014/11/03(月) 23:58:34


    といった具合に強引に連れてこられた女子校入り口。


    そこから離れた林の中に身を隠して大祐曰わく『ガールウォッチング』実践中。


    といっても俺は見てないけどね。


    大祐はしきりに顔を出したり引っ込めたりしながら見学中だが、俺はやる気ゼロ。


    背を木に預けてスマホをいじってる。




    「おー、新鮮新鮮♪」




    何かぼやいてるが無視。


    液晶画面に目を向けてただひたすらに手頃な拳銃を探しております。




    「お、あの子可愛いな。……!おいキルア、見てみろって」


    「ちょ、引っ張んなよ!」


    「いいから、ホラ、お前の相棒、佐々木さんのお目見えだぜ?」




    どうやら俺のコンビがいたようなので呼んだらしいが、ぶっちゃけ見るほどのことでもない。


    まずそんな仲良くもないどころか他人に近い状態だってのに。


    だがそんな俺の心情なんて関係無く、引っ張り寄せられる。


    仕方なく見ると……、いた。


    しかしかなり遠い。


    100mはあるだろうか。


    そもそも身を潜めてるこの林自体女子校舎から随分と遠いから仕方がないのだが。




    「な、いるだろ?」


    「……お前、こんなとこから見てよく可愛いとかそうじゃないとかわかるな」




    俺も佐々木だと認識はできたが、それは長い髪とゴルフバックの武器入れがあったからわかったのだ。




    「へっ、んなの余裕だ。その気になればスリーサイズだってわかるぜ?」


    「通報していいか?」


    「冗談はよせって」




    ハハハって笑ってるが、割と本気だぞ?




    「ん?なぁキルア、佐々木こっち見てないか?」


    「そんなわけ無いだろ」


    「……いや、何かこっちに向かって歩いてきたんだが」


    「偶然だろ」




    そもそも林とは、中から外は見やすいが外から中は薄暗くなっているため全くこちらの姿は見えない。


    向こうが俺たちを見つけるには視力10くらいいるんじゃないのか?




    「……でもよ、何であいつ一直線にこの林に近づいてきてんだ?」


    「知るかよ。とりあえず今見るのはよせ。近づいてきてんなら見つかるかもしれないだろ」




    何で俺やましいことなんてしてないのに隠れなきゃなんないんだろ。


    あー、帰りたい昼寝したい。




    (こんな事になるんなら大祐じゃなくってリオについて行けば良かった)


  54. 54 : : 2014/11/03(月) 23:59:03



    「な、なぁキルア」


    「なんだ?」


    「お、俺の横から突き出てるもの、なんだかわかるか」


    「はぁ?」




    全くもって意味の分からんことを言い出した大祐の方を見ると、隠れていた木の側面から“刀”の刃が突き出していた。


    俺は恐怖した。




    「お前、なにしてる?」




    あ、明らかに佐々木の声じゃねぇか。


    マジで気付いてたのかよ。


    大祐のやつ、ビビって声でてねぇし。




    「神崎キルア」


    「な、なんだよ」


    「一緒に来て」


    「い、いや俺は別に」「来て」




    あーもーとばっちりだろこれ。


    つうか何で俺なんだよ。


    主犯がそこにいるだろ。


    お前はお前で何でご愁傷様的な感じで見てんだよ。


    デザートイーグルで撃つぞこんにゃろ。


  55. 55 : : 2014/11/03(月) 23:59:36


    流石に抜き身の刀を持った佐々木に逆らうことなんてできず、俺だけ連行されてます。


    抜いた刀を鞘──正しくはゴルフバック──に納め歩き出した俺のルームメイトについて行くこと、15分。


    着いたのは昨日来た教務棟入り口前の様々な張り紙が貼られている掲示板の前。


    昨日、一昨日来たときは気付かなかったが、どうやらクエストについての張り紙らしい。


    左からシングル、コンビ、チーム、種類ごとに分けられている。


    ……にしても、ここに張り出されるのは緊急じゃないクエストばかりで、つまりは昨日みたいな誘拐事件とかそういうんじゃなく、何かのボディーガードとか、猫探しとかもあるぞ。


    これ絶対警察がめんどくさがってやらない奴をこっちに流してるだろ。




    「どれ?」


    「何が?」


    「今日受けるクエスト」


    「俺が選んでいいのか?」


    「」コク


    「てか、クエストって毎日受けないといけないのか?」


    「……別に、受けなくてもいい。でも、単位がある」


    「ああ、そういうこと」




    確かによく見ると0.5とか0.1とか書いてる。


    一体何単位必要なのかはわからないが、早めに終わらしといても悪いことはないな。


    (……さて、何にするかな)


    正直、決めかねるな。


    一番安パイなのは『猫探し』なんだが、コイツ猫アウトだからな~。




    「なぁ、あんまり危険じゃないクエストって何か無いのか?」


    「……これ」




    独り言のように呟いて手に取ったのは、シングル、コンビ、チームクエストのどれにも属さないところに貼られてた用紙だ。




    「それ、コンビのクエストか?」


    「違う。共通クエスト」


    「?……あ、1人でもチームでもいけるってことか?」


    「」こく




    今思ったが、コイツあんまりしゃべらねぇよな。


    意志の疎通が難しいタイプだ。




    「で、どんな内容なんだ?」


    「パトロール」


    「具体的には?」


    「歩く」




    何となく理解。


    とりあえず街を歩いて、何かあればそれを解決しろってことらしい。


    確かに昨日の奴に比べたら危険じゃない。


    それどころか下手したら散歩して終わる可能性だってあるぜ。


  56. 56 : : 2014/11/04(火) 00:01:24



    佐々木の持った用紙を受付窓口に渡して、久しぶりに東京の街を歩く。


    別にこれといった目的も持たずに、ただブラブラと。




    歩き始めて20分~30分ほど経過したとき、無言で歩いていた俺たち2人の間にある音が飛び込んだ。


    『くぅぅぅ……』


    聞いたことのあったその音は、やはり佐々木が発生源。


    なった瞬間ちらっとこっちを見てきたので、何となく聞こえてない振りをした。


    そんな俺の様子を見て安心したようで、『ふぅ』と小さく息をついた。


    きっと、昼飯を食ってないんだろう。


    そうじゃなかったら消化早すぎ俺びっくり。




    とりあえず佐々木が空腹であることは理解できた。


    ので、適当に目に付いたファミレスに入ろうと足を速める。


    結果、俺が先頭を行く形になり、それに佐々木も続く。


    その流れで一緒にファミレスに入ってきてくればよし。


    嫌だといったらダイエットでもしてるんだろうと推測。




    「待って」


    「ん、何?」


    「どうして?」


    「昼飯食ってないんだよ、俺」


    「……今はクエスト中」


    「いいじゃねぇか、これくらい。お前も入れよ。奢るぜ?」




    あれ、何でこんな気前のいいこと言ってんだろ。


    しかも奢るって言ったらちょっと考えてから入ってきたし。


    あーもう、調子乗って失敗。


  57. 57 : : 2023/08/09(水) 13:33:40
    http://www.ssnote.net/archives/90995
    ●トロのフリーアカウント(^ω^)●
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    2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
    sex_shitai
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    oppai_jirou
    catlinlove

    sukebe_erotarou
    errenlove

    cherryboy
    momoyamanaoki
    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
    shoheikingdom

    mikasatosex
    unko

    pantie_ero_sex
    unko

    http://www.ssnote.net/archives/90992
    アカウントの譲渡について
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3654

    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ

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0708

浮雲

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