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生者の決意

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  1. 1 : : 2013/11/04(月) 23:25:45
    どうも、ここで初めてSSを書きます、サシャッカーマンと申します。
    投稿はゆっくりですが、良かったら見てください。
    設定としてはトロスト区奪還後から壁外調査以前の間のお話。所々勝手な設定がありますがそれでもよければ。
  2. 2 : : 2013/11/04(月) 23:29:35
    「班長、こちらの遺体処理、清掃は完了しました」
    「ご苦労。今日はもう上がれ。ほかの班員にもそう伝えろ」
    「」
  3. 3 : : 2013/11/04(月) 23:30:38
    誤字です。すいません、そう伝えろ、の続きから...
  4. 4 : : 2013/11/04(月) 23:50:43
    「はい、班長、お疲れ様です」
    班員はそう言うと自分の班の班長、リコ・ブレチェンスカ背中を向けて足早に去っていった。
    ふぅーっと一息吐いてリコは夕暮れ時の空を見上げた。空は美しい夕日で西日がリコの美しい銀髪を照らした。
    やっと一日が終わった。

    ―トロスト区奪還から2日、トロスト区内の巨人を一掃してから1日、ようやく落ち着く時間ができた。そして仲間の死を思い出す時間も。
    リコの同僚の多くはこのトロスト区攻防戦で命を失った。その中には同じように精鋭班の班長を務めていたイアン・ディートリッヒ、ミタビ・ヤルナッハも含まれていた。
    巨人化して岩で穴を塞ぐエレン・イェーガーを護る際に2人は命を失った。ミタビは丸ごと巨人に食われたが、イアンは首から下が食われ、首から上だけが地面に無残に残されていた。調査兵団が駆けつけ、一旦体制を整えようと壁を登ろうとした時に彼の生首が目に飛び込んできた。一瞬目を疑い、頭には思いっきり殴られたような酷く気分の悪くなるような衝撃を喰らったが班長である彼女には狼狽えることは許されず、その生首から目をそらし壁を登ったのだった。その後はドット・ピクシスが派遣した援軍とミタビ、イアン両班の残りの班員をまとめあげ巨人の討伐に尽力した。調査兵団の援護もありだいぶ手間が省けたが、結構な人数を統率することに彼女も集中して悲しむことをしなかった。昨日も同じような日を過ごし、そして今日は戦いの傷が大いに残る街に残る死体処理と瓦礫などの撤去、血の清掃に追われた。駐屯兵団の兵士の管理は当然ながらリコも任されておりいつも通り真面目に仕事をこなし、今日のノルマは先程終わらせたばかりだ。そんな訳で漸く彼女にも落ち着くことが許されたというわけだ。

  5. 5 : : 2013/11/05(火) 00:00:20
    リコはゆっくりな足取りで塞がれた扉の所まで歩いた。このあたりはまだ清掃が行き届いておらず遺体処理以外はまだ何もなされていなかった。
    この辺だっただろうか。
    リコはイアンの生首が転がっていたところで足を止めた。夕日に照らされた壁の影が伸び佇むリコを包んだ。リコはすっと瞳を閉じた。脳裏にはまだあの戦いが――人間の奮い立つ声や巨人の叫び声も――鮮明に思い出された。
    あの先頭の際、リコはイアン、ミタビとは異なり地上へ降りなかった、いや降りれなかった。ピクシスに状況伝達を煙弾で行うように任されていたのだ。仮にリコが巨人に食われていたとすれば状況はうまくピクシスにまで伝わらず二次被害が出てくる可能性もあった。だからリコは共に戦いたい気持ちをぐっとこらえていた。104期の首席、ミカサ・アッカーマンと協力して巨人を討伐したのは彼女の我慢が限界に達したためであった。
  6. 6 : : 2013/11/05(火) 00:08:07
    どうせなら――
    リコは目を開けて唇を噛んだ。血の味が口に広がる。
    どうせなら――伝達を違う人に任せてくれれば良かったのだ。それならば私も死ねた。こんな辛い思いをすることなかったのだ。死なずとも、もしかすれば何人かの命を救えたかもしれない。
    信頼を置いているピクシスにこの時ばかりは彼女も少しの恨みを抱いた。ただ、ピクシスが間違っていたとは思えない。仮にミタビが煙弾を持っていたらあの決死作戦は誰もやらなかったであろうし、リコが精鋭班の指揮権を任されていればエレンを早々に諦めていただろう(もしかするとそこでミカサに切りかかられていたかもしれないが)。
    かといってエレンを恨むことは彼女には出来なかった。彼とて殆ど初めての試みだったのだ。事実被害は増大したものの人類の命は何とかつなぎとめたのだ。喜ぶべきことである。
  7. 7 : : 2013/11/05(火) 00:08:38
    長くなりそうです....今日はここまで。また書きます。
  8. 8 : : 2013/11/05(火) 22:08:32
    しかし、それを喜ぶにはあまりにもリコはこの戦いで傷を負いすぎた。今この落ち着いた時間、亡くなった者たちとの思い出がどんどん思い出される。懐かしく、悲しい記憶だ。

    いや、思い出せるだけましなのかもしれない。

    そんなことを考えながらリコはすっと膝を降ろして地面にこびり付いた、イアンの生首から流れたとおもわれる血にすっと手を当てた。

    ああ、イアンよ。

    心の中で密かに思っていた人の名を呟く。

    貴方は立派だった。この上なくね。あなたの決断が結果的にはミタビの決死作戦を決行すさせ、そして人類の勝利を齎した。ある意味、イェーガー以上の英雄だ。きっとーーもしものことなんか言っても無意味だろうし、私らしくもないけれどけどーー貴方が生きてたらきっと破格の待遇を受けてただろうね。内地に行く権利も、貰えただろう。そして人類の英雄は綺麗なお嫁さんを貰って何の不自由もない生活を送る。
    素晴らしい、最高じゃないか。そして私からどんどん離れていく。どんどん離れてきっと手の届かない様な、それこそあちこちから尊敬されるような人になっていたかもしれない。
    けれど――けれど貴方はそれを望まなかった。貴方は真面目すぎるから、この上なく真面目すぎるから訓練兵の時から憲兵団を蹴って
    人類の命を守りたい、守る壁になりたい。
    なんて格好つけたことを抜かして、誰もやらないのに自分だけは手を抜かず訓練をして――そうだ、貴方はきっと昔から自分の命を引換に人類の命を守ることを望んでいたのだ。
    ただ私が貴方のように真面目すぎなかったから気づかなかっただけで、それは多分みんなも気づいてないけれど、貴方にはその覚悟がとっくの昔から備わっていたんだ。だから正しい判断が出来たし、人類を守れた。
    もし私の考えが当たってるなら、良かった。イアン、貴方は悔いなく死ねたに違いない。だけど――

    リコの頬に一筋の涙が伝う。

    貴方は悔いなく逝った筈なのに私は少しもスッキリしないし、悔やしいのはなぜだろうか――
  9. 9 : : 2013/11/05(火) 22:20:35
    面白い!!
  10. 10 : : 2013/11/06(水) 19:30:17
    〉〉9
    ありがとうございます!かなりゆっくりでしかも長くなりそうですが良かったら最後まで見てやってください!
  11. 11 : : 2013/11/06(水) 19:32:27
    間違えました汗

    >>9
    ありがとうございます!かなりゆっくりでしかも長くなりそうですが良かったら最後まで見てやってください!
  12. 12 : : 2013/11/06(水) 19:53:14
    ――あれ――?

    リコは自分の頬にすっと手を当てた。手が涙で濡れてじんわりと温まる。

    どうして泣いてるんだろう。前に泣いたのはいつだ。覚えてさえいない。悔しかったことも、悲しかったことも今まであったけれどそれでも泣きはしなかった。なのに――

    メガネを外しすぐになみだをそででぬぐう
  13. 13 : : 2013/11/06(水) 20:06:51
    泣いてなんかいられない。

    壁を塞いだ大岩を真っ直ぐに見つめた。

    これからは私が、私だけであいつらの代わりをしなくてはいけない。泣いてなんかいられない。イアンに誓ったはずだ。人間様の恐ろしさを見せてやると。それなのに――巨人との戦闘では人は簡単に死ぬとあれ程学んだのに――こんなことで泣いていては巨人に舐められてしまう。ああ、人間とはこんなに脆いのかと。そうじゃない、そんな脆弱じゃない。もっと誇り高くあらなくては。なのに――

    再び涙が伝う。それをまた袖で拭うが今度は止まらない。止めたいが涙を止める手段など今まで習ったことも聞いたこともない。
    止めたい止めたい。だが涙は止まらない。感情は正直だ。それでもリコは感情に逆らう。逆らおうとして嗚咽を漏らす。苦しくて地面に両手を付いた。涙がイアンの血の跡にどんどん落ちていった。
    リコはこんな自分が嫌だった。情けない姿を周りに晒すなど大嫌いであった。だから体格に恵まれずともそれをハンデにしない程の戦闘力を身に付け、現実的に物事を直視し見誤らず、そして弱気な面は見せない。

    違うだろうリコ・ブレチェンスカ。

    リコはやっと平常心を取り戻し、再び壁の扉部分だったところを見た。もうあたりはすっかり暗闇に包まれていた。

    私がこんなことで泣いていられない。私がみんなを引っ張っていくのだから。誤るな、正しい道を示せ。イアンやミタビのように――

  14. 14 : : 2013/11/06(水) 21:11:00
    がんば!
  15. 15 : : 2013/11/06(水) 21:23:07
    >>14
    ありがとうございます!!
  16. 16 : : 2013/11/08(金) 00:53:27
    目の前には秩序を失った駐屯兵団の兵士達、そして次々と兵士達を、掴んでは喰いちぎる巨人。リコはただ立ち尽くしていた。

    「おい、お前達落ち着け!!」

    混乱を収めようとリコは指揮を執るが全く兵士達は云うことを聞かずただ逃げ惑い、そして死んでいった。丸ごと食われるもの、喰いちぎられ体の一部は地面に生々しく落ちてしまってる者。気づけばリコの努力も虚しくリコしか生者はいなかった。
    そして背後から巨人に胴体を掴まれ、為す術もなくその体は口元へ運ばれた。

    ま、まだだ――まだ人間様の恐ろしさを――





    「リコ、リコ!」

    体は優しく揺すられ、窓からは朝日が差し込む。目が覚めた。ここはトロスト区駐屯兵団本部。あまりの忙しさのためリコはここに数日泊まっていた。枕元にあったメガネを付けると目の前にはリコの上司でドット・ピクシス司令の直属のぶか、アンカ・ラインベルガー参謀の姿があった。
    アンカは心配そうにリコの顔を覗き込んだ。

    「大丈夫?大分唸されていたけれど」

    「大丈夫です」

    リコはまだ少し寝ぼけたような声でゆっくりと答えた。

    よかった。夢だった。嫌な夢だ。

    リコはさっきまでの惨状が夢だと気づいた。

    まるで自分が無力なようだったな。そういえばイアンもミタビもいなかったな―――無力?

    「目が覚めたばかりのところ悪いのだけれどピクシス司令がお呼びなの。来れるかしら?」

    リコの思考をよそにアンカはさっと要件を告げた。リコはすぐに勿論ですと答えベットの上から降りた。
    アンカの言うようにうなされていたようで寝巻きは汗でびっしょりと濡れていた。そして重くなっていた。
    少し頭痛がして気分も悪いがそんなことも言っていられない。
    リコはすぐに寝巻きを脱ぎ、薔薇のエンブレムの刻まれた兵団服を着た。身も心もキュッと引き締まった様な気がした。
    それでもなお体がどこか重かった。






    長いと邪魔だからだろうか、髪を纏めたポニーテールを揺らし女は廊下を歩く。まだ朝は早く、眠気も失せてない。思わず欠伸が出るが、そうは言っていられない状況だ。

    「全く酷いねぇ」

    女は小さく漏らした。

    私にとて新兵、エレンを見張る権利はあるだろうに。いや、むしろ私が見たい。彼を研究すれば今後の調査にも――
    それなのにあの二人は私をここへ。まぁいいんだけれどね、久しぶりに後輩に会えるから。
    けどやはりエレンが気になるなぁ。きっと恋なんていうものもこんな感情なのだろうか。いや、もっと純粋で綺麗なものだろうか。
    どの道そんなものに壁の外で剣を振り、巨人を狩る私は関係がないのだから。

    そんなことを考えて歩いてると目的の部屋の前に着いた。ノックを二回して入る。

    「失礼します――」
  17. 17 : : 2013/11/08(金) 02:08:10
    上のストーリーは投稿者名無しになってますが自分が自分がやりました。誤作動です。すいません。
  18. 18 : : 2013/11/08(金) 02:10:32
    期待&支援!!!!!
  19. 19 : : 2013/11/08(金) 06:54:18
    支援

    登場人物の名前は一般的に呼ばれてる部分だけ(リコとかピクシスとか)にしといた方がみんな調べやすいと思うよ。大抵のSSはそれで統一してるから。
  20. 20 : : 2013/11/08(金) 08:10:28
    >>18
    ありがとうございます!頑張ります!!
  21. 21 : : 2013/11/08(金) 08:11:07
    >>19
    指摘ありがとうございます!修正します!
  22. 22 : : 2013/11/08(金) 18:25:46
    にしても

    リコは寝室を出てピクシスの部屋に向かった。カツカツと廊下に足音が響く。

    こんな朝早くから何だろうか?まさかまだ巨人がいたとか?いや、それにしてはアンカさんは落ち着いていた。

    頭のキレるリコであったが、この時は想像が及ばなかった。頭が痛いのも思考が働かない要因だろう。

    部屋の前に到着し、ノックをしてからノブを回し部屋に入った。

    「」
  23. 23 : : 2013/11/08(金) 18:53:44
    「」と間違えたので修正します修正します。


    「失礼します」

    扉を丁寧に閉じ、前を見るとピクシス司令ともう一人、ここには普段いるはずのない者がいた。
    リコはその人物がさほど好きではなかつた、というか寧ろ苦手であった。
    巨人への興味は留まるところを知らず、行動も読めずいつも従えてる部下に心配ばかりかけている。そのくせ頭はかなりよく、立体機動の扱いも上手い。死と隣り合わせの調査兵団で5年以上活躍し続ける、ハンジ・ゾエだ。
    リコより2期上の訓練兵団を卒業した先輩でもある。リコが優秀ということで調査兵団へ勧誘したり、それ抜きにしてもよく話しかけたりとハンジはリコのことをよく思っているらしい。
    しかしながら、リコはこの女が苦手である。

    「久しぶりー」

    ハンジがにっと笑って軽く右手を振ったのでリコは軽く溜息を吐いてから腰に手を当てた。

    「なんでここへいらしてるんですか?暇なんですか?コッチは忙しいんですが。巨人トークならまた今度にしてください」

    「相変わらず気がきついねぇ。そんなんじゃあはちきれちゃうよ」

    ハンジはリコの物言いを何も気にせずけろりとした様子で答えた。逆に何故かリコがドキリとさせられた。

    はちきれる――

    「まぁリコよ...そうカリカリするな。これは大事な任務なのでな」

    まだ朝というのにグラスにすすいだ酒を飲み干しながらピクシスがリコに言った。街はまだ落ち着いてないというのにピクシスは随分と悠長だ。

    「任務?任務とは...?」

    リコが眉を顰めて言う。
    ハンジが椅子から腰を上げた。

    「今回も悪いけど巨人の話だよ...けれど、今回は訳が違うよ。人類の存亡がかかってる...エレン・イェーガーの話しだ...」

    いつもは不可解な言動をしてようとハンジはやはり兵士なのだ。人類の命が絡むと途端に別人のようになる。

    「実はエレンの処遇問題でね...今回の件で人類に有害か...それとも希望となる存在であるか、が議論されるって訳」

    エレン・イェーガー

    リコは心の中で名を呟いた。イアンとミタビが、そしてその部下達をはじめとした兵士が、人類の勝利のために守り抜いた少年。

    あいつが害をなすだと...?

    「それであなたにもその議論...審議に参加して欲しいというわけ。後、その際の参考資料として巨人化した際のエレンの様子などについての資料もまとめて欲しいというわけ。出来るだけ詳しくね」

    「出るのは構いませんが、資料も?」

    「確かにあなた以上に彼の巨人化を近くで見た者はいる。例えば、ミカサ・アッカーマンやアルミン アルレルト、その他の104期訓練兵団の一部たち。
    けれどね、彼等彼女等がそのような物を纏めるとやはり私情というか、エレンを守ろうという意識が働くと思ってね。
    私達は彼を殺したいなんて毛頭思ってないけれど、やはり公平にしないと、なんせエレンを害虫呼ばわりしているのはあの憲兵団様だからねー。楽には行かないと思うんだ。だからリコ、君には客観的かつ公平な意見を求めたいんだ。だから審議への参加、資料まとめをお願いするために今日はいたという訳。どうかな?」

    「分かりました」
  24. 24 : : 2013/11/10(日) 18:29:25
    面白い!
    応援してます!
  25. 25 : : 2013/11/10(日) 21:24:57
    >>24
    ありがとーございます!!
    ゆっくりですけどよかったら最後まで読んでくださーい!(^^)
  26. 26 : : 2013/11/11(月) 20:19:55
    リコはすぐに頷いた。迷いはない。この人物の頭は相当キレる。
    リコとて座学はかなりのものであるし、現状把握能力も並ならぬものではあるが、やはり調査兵団という場に身を置いているだからだろうか、発想の転換が凄い。
    おそらく、この先輩のいうことに大ハズレはない、寧ろ正解が多い。
    部屋の扉が開いた。アンカだ。

    「司令、憲兵団からの使いです」

    「全く...面倒なやつよのぉ。ハンジ分隊長よ、久々に来たのだから、こんな状況下じゃが少しでも気分転換でもしていってくれ」

    ピクシスはそう言うと渋々腰を上げ、アンカについて部屋を出ていった。
    残されたのはリコとハンジ――しばしの沈黙が訪れた。しかし、それを打ち破ったのはハンジであった

    「ねえ」

    「何ですかハンジさん?また私のメガネ奪って遊んだりしないでくださいよ」

    リコはぶっきらぼうにそういった。
    先程も言ったが、やはりリコはこの変人が嫌いだ。二人きりなんてとんでもない。何をされるか分かったもんじゃない。勿論、兵士としては尊敬する面もあるのだが。

    「いやぁ...今のリコにはそういうのも必要かと思うけど?」

    「はい?」

    「――その顔の下...感情を無理して隠してる」

    「...!」

    やはり嫌いだ、とリコは心の中で呟いた。察しがいい。ハンジは声のトーンを落とす。いつもの変人と言われる面が消える。

    「やはり、仲間の死は堪えたか?」

    「......」

    「...そうか。駐屯兵団の者たちがまさかこんなに巨人に襲われるなんて――例え5年前のことがあっても――想像出来ていたとは思えない。そうだろ?」

    「.......」

    リコは黙っていた。図星だ。
    やはり調査兵団で分隊長を任されるだけのことはある。

    私よりも何枚も上手だ。だが、確信には――

    「ただ――君がそれだけでそれ程堪えるとは思えない。いや、勿論悲しんでいることはヒシヒシと伝わるよ。私とて毎回璧外調査で死体を見たら心が痛むさ――どんな兵士でもね。
    ただ今のリコには...何だろう。後悔とか、不安とか、そういったものが感じられる――どうかな?」

    リコはわざとらしく大きな溜息をついた。首を横に振る。

    「適いませんね、貴方には」

    「へぇ、珍しく弱気な面を見せるんだ」

    「貴方の察しの良さには本当に凄いです」

    そう言ってリコは少し間を置いてから再び口を開いた。
  27. 27 : : 2013/11/11(月) 20:32:58
    「怖いです。これからが」

    何か茶化すかな、とハンジのことをそんな人と思っていたが、意外にも(失礼極まりないが)リコをしっかり見つめ真摯に話を聞こうとしていた。

    「イェーガーを壁の穴まで誘導する際に多くの兵がミタビの決死作戦に乗じて命と引き換えに穴を塞ぐことに貢献しました。
    彼らは英雄です――間違いなく。しかし、その時にその選択をして、そしてその作戦に同意した私は正解だったのかなって。
    同意した割に私は殆ど戦闘に加わらなかったし、何よりイアン、ミタビという重要な戦力を失いました。そしてこれからは私が二人の分まで駐屯兵団をまとめていく必要があります。けれど、私にその役目が果たせるかどうか、不安です。正直」

    どんどん声が小さくなる。
    今朝の夢が頭によぎる。あれは正夢になりかねないのだ。列を乱された蟻の様に秩序を失い混乱する兵士、そして何もできない無力な自分。

    「自分は本当に無力だと思います。班長なんて名ばかりで今回は何も適切な判断ができなかった...そんな気さえします。なんなら、イェーガーを最初は殺そうとも思いましたし...」

    リコがそう言うとハンジはゆっくりと目の前にあった紅茶の入ったカップに手を伸ばした。そして息を吹きかけ冷ましてから少しだけ飲んだ。
  28. 28 : : 2013/11/15(金) 01:51:21
    「無力か...あながち間違いではないと思うよ...けれど人間なんて皆巨人と対峙すれば無力同然さ」

    ハンジはカップを唇から離し、飲みきってからそう言った。リコは少し納得できず言い返す。

    「皮肉ですか?調査兵団最前線で生き延びているあなたが無力なんてことは――」

    「無力さ。私は勿論、ミケもエルヴィンも...リヴァイも」

    「何ですかそれは。皆実力者じゃないですか。リヴァイ兵士長なんて...人類最強なんて謳われてますし」

    リコが怪訝そうに言うとハンジは少しだけ目線を下げた。

    「あなたと同じようにリヴァイも悩んでいるんだ」

    「私と同じ...?」

    「そりゃああいつはとんでもない奴さ。ある意味巨人よりも化け物じみてるよ。
    本気になった彼の動きは目で追うのがやっとだよ。多分新兵なんかは見失うくらいにね。
    だけれどもあいつにも限界ってものがある...あいつだって人間さ。昔は俺様みたいな面もあったんだけどね...ある日自分の判断ミスで――たった一回のミスで――仲間は殺されたんだ
    それからあいつは仲間をそれまで以上に大切にするようになったし、なくなった兵の名は全員覚えてる。凄いよ。私でもできない。
    けれどやはり限界はある。今まで何人殺されたかわからない。彼の人類最強の実力をもってしても仲間の死は止められないことの方が多い。
    あんまり表には出さないけれど、あいつは相当葛藤してるよ。人類最強なのに何も守れやしないってね。
    リヴァイもエルヴィンもミケも私も他の皆も、未だにわからない。何が正しく、何が誤りなのかね。けれど我々調査兵団は止まらない。過去を糧にし自由を手にするその日まではね」

    ハンジはそこまで語ると顔を再びあげてリコに微笑みかけた。

    「だからあなたも判断を誤ることは仕方ないことなんだよ。誰にもわからない。何が正しいのかなんて。例え正しいとわかっても、それは後からついてきた結果論であり、予測できるものじゃあない。今回だって穴を塞げたからアルミン アルレルトの作戦に乗ったのは正解ってわかった訳だし。
    まぁ完璧主義のあなたは納得できないかもだけど?」

    「そのとおりです」

    「アハハ!相変わらずお硬いなぁ。
    ただね、あなただって立場的には駐屯兵団最強の兵士だよ。これは私が保障するし、多分周知の通り――まぁ言ってしまえばリヴァイとそんな変わらない――
    あいつだって迷う。だからあなたも悩めばいい。ただ、それを皆には見せてはダメ。周りにまで不安な気持ちが伝染する。
    そして諦めないでくれ。貴方達がいるから我々だって外へ行けるのだから。
    大丈夫、みんなあなたについてきてくれるよ。イアンもミタビもあなたになら安心して班員を預けられるはず」

    「ハンジさん...」

    少し、ほんの少しだがこころが軽くなった気がした。
  29. 29 : : 2013/11/15(金) 16:48:22
    〜トロスト区での戦いから約二週間後〜

    「今日の訓練はここまでだ。明日は休日とする。特に新兵は疲れているだろう。ゆっくり休むようにな」

    調査兵団新兵の指導を担当しているシスが愛馬シャレットに乗りながら言った。夕暮れがシャレットをオレンジ色に染めた。

    「やっと休みかー!」

    「何します!?」

    コニーが伸びをしながら言うとサシャが横に並んで声をかけた。訓練後だというのに相変わらず元気で、笑顔が絶えない二人だ。それを見てユミルがバカは元気で羨ましいと微笑んだ。そして隣のクリスタを見た。

    「まぁ私は愛しのクリスタとデートにでも」

    「もー何言ってるのユミル。私はクタクタだから明日は一日中休むよ」

    クリスタがユミルを見上げて微笑む。対照的にユミル顔は少し残念そうに苦笑いだ。
  30. 30 : : 2013/11/16(土) 04:41:01
    だが、ミカサは違った。彼女は待ち焦がれていた、というかどちらかというと焦っていた。訓練兵時代に感じた、何事も早くしないと怒られる、そんな感覚だ。
    彼女は見てしまった。まだ知り合って浅いが、あの強気で真面目な先輩が夕暮れの陰に隠れ、泣いていた。
    声をかけようかと思った。でもできなかったし、するべきじゃないと思った。

    私のせいだろうか。

    少し頭を今でも悩ます。ミカサの我侭にイアンは付き合った。結果それでエレンは今も生きていて、人類もまだ生き永らえている。

    それでも、と思う。

    ほかに方法があったかもしれない。

    イアンもミタビも素晴らしい指揮官であった。特にイアンはミカサの班長で、新兵なのにミカサを無理に管理しようとせず自由に動かしてくれた。そして戦闘能力だけでなくあの精神力。

    無理だ。私にはあの方法は思いつかないし、あそこまで人をまとめられるとも思えない。

    そして心強い仲間を亡くした先輩は泣いていたのだ。結局お礼も、謝罪も殆ど出来ていないのだ。だからこの休日こそは、とずっと前から考えていた。
    もしかしたら相手にされないかもしれない。もしかしたら会ってくれないかしれない。もしかしたら罰を喰らうかもしれない。もしかしたら斬り殺されるかもしれない。

    それでも――会わなくてはいけない。それが死んでいった人達へのせめてもの礼儀だ。
  31. 31 : : 2013/11/19(火) 18:29:10
    「エレン、アルミン」

    ミカサは訓練を終えたばかりなのに明日自主トレをやろうと意気込むエレンとそれに付き合おうと話していたアルミンに歩み寄った。
    向上心を持つことはいいことだ。それは違いな――しかしミカサにはこの二人と共にほかにしなくてはならないことがあるのだ。行かなくてはならない所があるのだ。

    「なんだよミカサ」

    「明日、ついてきて欲しいところがある」

    「なんだよ、自主トレしたいっつーのに」

    「まぁまぁエレン...ここ最近は新しい生活で心も体も疲れてるはずだから少しは休まないと...ね?ミカサ」

    アルミンは不満そうにミカサを見るエレンを宥めていたがミカサは少し残念な気持ちに駆られていた。
    エレンが不満そうだからではない、二人ともそこへ行かなくてはいけないことを忘れているからだ。

    「気分転換にも、休みにもならないと思う」

    寧ろ苦痛、というか悲しい気持ち、申し訳なさ、自分の無力さ、そんなものを感じ、皮肉や罵声を浴びせられるかもしれない。

    「はぁ?お前それはどういう意味だ?まさかサシャの食べ歩きに付き合えとでも?」

    「いや、エレン...違うよ」

    エレンは依然ミカサに不満そうな様子を見せるが、アルミンはハッと気づいたように真剣で少し申し訳なさげな表情をした。

    いや、無理もない。

    ミカサは考え方を変えた、というか忘れていた。

    エレンはわたし達とは違い恐らく殆ど穴を塞いだこと、そしてそれまでに起こった過程を知らない(私の頬の傷を見た第一声が「お前それどうしたんだ」というものだった)。
    つまりエレンは自分がどの様に守られたかもあまりはっきり覚えてなかった。多分、私が見たイアン班長の死も見ていない。
    言葉は雄弁だ。しかし、時に無力である。どれほど真剣に語っても視覚が与える印象には及ばないことも多い。
    今だってそう。私とアルミンエレンにあの日起こったことを全て話した。エレンは優しい。のでその時は凄く申し訳なさそうな顔をしていた。
    されど私達が見たほどの衝撃は残念ながらエレンには与えられていない。

    「エレン...私達はあの日以来まともに駐屯兵団の方にお会いできていない。審議所の時も結局は話せていない。つまりまだ謝ることができていない」

    「日程的に仕方ないとは思うけど...せめてきちんとピクシス司令やリコ班長達には...きちんと会わなければいけない...そうでしょ、ミカサ?」

    アルミンは理解が早い。言いたいことを言ってくれた。が、もしかすると駐屯兵団の中にはアルミンの策のために多くの方が死んだと言うものもいるかもしれない。
    そしてエレンは俯いて黙っていた。やがて口を開く

    「...自分が恥ずかしい...そんなことも忘れてたなんて」

    ひどく情けない声だ。こんな声は聞いたこともない。相当堪えたのだろう。

    「エレン、そんな落ち込まなくていい。気づけただけでもいい。明日、会いに行こう」

    「ああ」

    「...けれどエレンは...リヴァイ兵長から許可降りるかな?エレンは基本的に特別作戦班の目の届くところにいないといけないし...」

    「アルミン...気にしなくてもいい。そうなればあのチビを削ぐ」

    「お前...謝りに行く前に問題起こすなよ」
  32. 32 : : 2013/11/19(火) 19:30:02
    「何?外出許可だぁ?」

    幹部クラスになればデスクワークも多い。壁外調査の度に資料や功績をまとめたりと忙しい。リヴァイは座ったまま見つめていた紙から顔を上げ3人を見つめた。

    「お前...自分の置かれてる立場、忘れたんじゃねぇだろうな?ましてやトロスト区へ行くなんて...復興真っ最中の街中でお前が巨人化したって騒ぎが起きりゃあどうなるかくらいわかんだろ」

    「なんとか...お願いします!行かないとならないんです」

    ミカサも意地を捨てて頭を下げた。続けてアルミンも頭を下げた。

    「テメーまで頭を下げるかアッカーマン。お前らが何をしたいかはわかってる。駐屯兵団の本部へ行くんだろうが」

    リヴァイが手に持っていた資料置き、椅子から腰をあげた。窓の外を見つめる。
    しばしの沈黙。

    「...わかってるだろうが、ただすいませんと謝って帰ってこれる問題じゃねぇ。が、騒ぎは起こすなよ。これは兵士として当然の勤めだ。外出じゃねえ。任務だ。そのつもりで行ってこい(ハンジも言ってたが、あの班長も相当参ってるらしいからな...)」

    3人は一瞬キョトンとした顔をしたがすぐにありがとうございます、と頭を急いで下げた。
    兵士長にはお見通しというわけだ。

    「おい、アッカーマン、アルレルト...今回のエレンの護衛はお前らに任せる。騒ぎを起こさせるな」

    「「ハッ!!」」

    「が、アッカーマン。テメーもキレるなよ。いつかどこかの誰かに見せた狂犬みたいな表情をすんじゃねぇぞ」

    「......チビが」

    「なんか言ったか?」

    「いえ、なにも」

















    その夜の会議の後の晩御飯後

    「いやー珍しいね!頑固なあなたがエレンに護衛もなしででかけるのゆるすなんて!」

    リヴァイの肩を白い歯を見せながらハンジがバンバンと叩く。リヴァイ班の面々の顔が驚いたような表情をしている。

    「奇行種...テメェ..何聞いてやがる」

    「ん?何も知らないよー私はね」

    「外出許可じゃねえ。任務を与えたまでだ」

    「ははは!よく言うよー常に誰か付けさせてるのにあの三人だけにいかすなんて!」

    「おめーがあの班長のことを俺に言わなけりゃこんなことになってないはずだ」

    「あれー?私に行かせたのはどこの誰だっけ?それにあなたもわかってるはずでしょ?行かせなきゃ行けないことくらいさー」

    ハンジは相変わらず笑顔だ。リヴァイは舌打ちしてその食堂を後にした。
  33. 33 : : 2013/11/20(水) 19:19:26
    〜翌日〜

    「いいか、ピクシス司令には連絡を入れた。恐らく参謀のアンカ辺りが出迎えてくれる。馬車は俺が手配したから行きも帰りもそれを使え。わかったな。絶対に騒ぎを起こすな。じゃねぇとエレン、お前は今度こそ殺されるからな」

    「はいっ!心得ています!」

    快晴の昼下がり、エレンのハキハキとした返事が調査兵団旧本部の一室に響いた。
    想像以上にリヴァイがトロスト区行きの為の手配をしてくれた為自分達が馬を使って行く必要性がなくなった。
    そして馬車に乗り激戦の繰り広げられたトロスト区へ向かった。






    トロスト区の内門はちょうど開かれており、エレン達はそこで下車し、馬車の騎手に一旦礼を告げて門をくぐろうとした時、何者かに呼び止められた。

    「し...司令!?」

    アルミンが驚いて1歩身を引いた。エレンとミカサは慌てて敬礼をした。
    当のピクシスは口元に笑みを浮かべていた。

    「イェーガー訓練兵、いや、調査兵..アッカーマン、アルレルト両調査兵、本日はお遣いご苦労」

    「な...何故司令自ら...」

    「何..アルレルト調査兵よ...それほど驚く事ではないぞ...たまたま巡回しておったのじゃ...」

    ピクシスはフフフとまた笑ったがミカサはそれが嘘と直感した。流石に司令自ら出迎えることはおかしい。何かしら理由がなければ――

    ――さっきから感じるこの視線は...?

    ピクシスは懐から酒の入った容器の蓋を開け、少しだけ飲んだ。

    「なに...人類の希望が殺されてはたまらんからのぅ...イェーガーよフードを被りなさい」

    そう言うとエレンは訳がわからなそうなままフードを被った。

    なるほど。

    ミカサは視線の主がわかった。先のトロスト区の戦闘で同僚、後輩、上司を亡くした駐屯兵団の者達だ。
    恐らく、奪還作戦においてそういった者達を失った者達だろう。
    一卒の新兵により自分の大切な者達が失われた。結果人類が助かったとしてもそれは変わらない。
    だが、そうなると――

    「アルミン」

    「何、ミカサ?」

    「貴方もフードを被るべき」

    「やっぱりそうだよね...」

    やはりアルミンは気づいている。あの作戦を実行へ移したのは実質的にはアルミンだ。
    もしそれが駐屯兵団の者へ知れ渡っていればアルミンも恨まれる対象である。

    「では着いてきなさい」

    ピクシスはゆっくりと門の先へと歩いていった。
  34. 34 : : 2013/11/23(土) 16:09:17
    街の中を進んでいく。そして周りから聞こえるヒソヒソと、何か恐ろしいものを見るような目をした兵士達や市民の声。
    やはり司令が人を案内するとなると超重要人物であることくらい、頭は悪くてもわかる。しかしもしそれが憲兵団のナイル・ドークや調査兵団のエルヴィン、リヴァイならフードをかぶる必要がない。それならば――分かってしまうだろう。それにどのみち自由の翼が背中に記されている。ミカサが仮にフードを被ってもばれる。

    何故あの人はこんな街の真ん中を通るのか。

    ミカサには分からなかった。多分アルミンにも分からない。

    エレンが襲われたらそれこそ只事ではない。それでも司令は周りを、ミカサを気にせずゆっくりと復興具合を確認しつつ本部へ歩を進めていく。そしてちょうど街の広場へと差しかかった。


    ――!?

    ミカサの背中に突如殺気が走る。だがときは既に遅し――ピクシスとミカサ達の四人の周りを銃を持った駐屯兵団の者達が囲んだ。

    「...何の真似じゃ?」

    「司令...我々にその者達を射殺する命令をお出しください」

    ピクシスに向かい合った男の駐屯兵が言う。本気の目だ。これは本当に人を殺す――いや、巨人を殺る目だ。

    「そいつらは...エレン・イェーガーらでしょう...?」

    「お主は人類の希望を殺す気か?」

    「何が希望ですか...!街はめちゃくちゃ...仲間の兵は失われ...尊敬していた上司までも...。巨人になれる者がいたから、こんな作戦を思い付いた者がいたから...」

    「...よかろう...お主の気持ちもよぅわかるぞ...。だが、ワシはこの者達に希望を託した。その判断は間違っていたとは思えん...
    お主が失ったものは全て私の責任じゃ...だからこの者を殺したいならまずはワシを殺せ...」

    空気が固まる。訪れる沈黙、その中で確かに感じられるピクシスから放たれる気、ピクシスへ銃を向けた者の迷い、恐怖感。
    この隙にエレンとアルミンと立体機動で逃げ出そうかと思ったが、残念ながら周りの建物とは距離がありすぎた。

    「どうした?早く撃たんか」

    「くっ.......」

    「――この無礼者...司令に銃を向ける奴がいるか!」

    正面からピクシスに銃を向けた者の肩に手が置かれた。そして一発の拳が男の頬へ入った。男は突如の事だったので倒れ、その後ろから小柄な女性が現れた。

    「おい、私の命令だ。銃を降ろせ」

    リコがそう言うと他の駐屯兵も銃を降ろした。そしてリコはゆっくりと指令に歩み寄った。

    「申し訳ございません、司令。私の管理が甘かったためです」

    「何を...気にするでない」

    「そして良ければ...イェーガー等と話をさせてください」

    「...お前も言いたいことが多かろう。構わぬ」

    「ありがとうございます」

    リコはそう言うと礼をしてピクシスの横を通り抜けた。
    ピクシスは少し離れたところからその様子を見るように決めたようだ。
    リコが止まる。

    「久しぶりだな、アッカーマン」
  35. 35 : : 2013/11/23(土) 16:30:05
    面白いです!
    がんばってください!
  36. 36 : : 2013/11/23(土) 19:43:56
    >>35

    ありがとうございます!!
    更新ゆっくりですいません!
    できるだけ早く書くのでよろしくお願いします!!
  37. 37 : : 2013/11/24(日) 11:37:17
    「リコ...班長...」

    「どうした――今更何しにきた?」

    周りの達が固唾を呑んで見つめる。
    駐屯兵団の者達も薄々気付いていた。トロスト区戦後、リコが無理をしているということ、ギリギリのところで頑張っているということを。

    「あの....」

    「本当にすいませんでした!!!!」

    先に何かを言おうとしたミカサの脇からエレンが現れ、フードを脱ぎリコの前で土下座した。

    「俺が未熟なばかりに...」

    「――黙れ!!!」

    リコが声を荒らげる。

    こいつはこんな事をすれば許されると思っているのか?

    「仮にお前達全員がそんな醜態をここで晒したところで何も変わりやしない!わかるだろう...?」

    そうだ。巨人とは違う。人の命は一度きり。再生したりはしない。

    「お前らには分からないだろうな。大切なものが失われた後のこの虚無感、そして気づく自分の無力さ。ああ...わかるはずもない。何度絶望したことか!あいつらがいなければ私はただの班長という肩書きだけの兵だ...兵団をまとめあげることもままならん...」

    リコの頬には伝う涙。今まで張り詰めていたものが切れてしまった。全てを曝け出す。

    私はどうして泣いている?私まで醜態を晒してどうする。















    「....リコ班長...」

    アルミンが小さく零す。
    彼らも大切なものを失った悲しみは経験してきた。
    エレンは突如母を失い、ミカサは実父母、エレンの母、そして一時はエレンまでも失った。アルミンももう自分を育ててくれた者はこの世にいない。

    ただそれを言うべきなのかどうか、アルミンの頭の中で迷いがあるのだ。

    「――わかります...」

    アルミンが顔を上げた。声の主はミカサ。
    アルミンはドキリとしたがここまでこればもう引き返せない。





    「その気持ち、わかります」

    「黙れアッカーマン」

    リコは厳しい口調で言い返したが、ミカサはエレンとアルミンが見つめる中続ける。

    「私は...家族を二度...いや、正確には三度失いました」

    リコの目が眼鏡越しに微かに見開かれた。

    「一度目は実父母、二度目は謂わば養母を、三度目は――一時的ですがエレンを失いました」

    ミカサは真っ直ぐにリコを見つめた。
    彼女は見てしまったのだ。あの日、夕陽に照らされながら頬に光るリコの涙を。
    本当に偶然だった。そしてその時以来、ずっと謝らなければいけないと強く感じていた。
    完璧には分かり合えずとも、少しなら分かり合えるかもしれない。
    ミカサはそう思っていた。
  38. 38 : : 2013/11/24(日) 16:02:21
    リコはミカサの思わぬ発言に口をつぐんだ。場の雰囲気が変わった。
    ミカサは淡々と続ける。

    私はこいつがどの様な奴が分からなかった。
    冷静沈着かと思えば上司に平気で剣を抜き、無礼な行為もする。
    かと思えば稀に女性らしくしおらしい一面も兼ね備えている。
    今はそんなこいつの冷静な一面だろう。

    「エレンを失った時、私は無責任にも仲間を先導し、結局は自分は一度死にかけました。最終的には仲間に助けてもらいましたが、私の先導で何人もの104期の兵は命を落としました。
    じぶんの力を過信しました。結局は仲間がいなければ何もできませんでした。
    戦いの後、仲間の死体を見て、自分の正しいと思っていた判断が誤りと気づいた...ああ、何て無力なんだろうと」

    ――リヴァイも悩んでいるよ。

    あの奇行種上司も言っていたな。リヴァイ兵長でさえ正解はわからないと。
    過去を糧にする、それが調査兵団の人達の強さのようだった。
    やはり強い奴はこのことをわきまえているのか。

    リコは1つ溜め息をついた。

    「今日はよく喋るな...アッカーマン」

    「...すいません」

    ミカサは恥ずかしくなったのか少し顔を赤らめた。リコはもう一つ溜め息をついた。

    ほら、今度はしおらしい一面だ。意外と表情が豊かな奴だ。

    「まぁ、私はその仲間をたくさん殺されたわけだがな...
    どっかの新兵が考案した作戦と、たらたらした野郎のせいでな!」

    リコがそう言い放つとミカサの表情は一変、今度は怒りを顕にする。
    リコはそんなミカサに臆することなく睨み返す。目には少しの涙。

    「だがな!残念ながらコイツに頼るしかなかったわたし達の無力さ、これがそれ以上の原因だ!
    私達に調査兵団をも凌ぐ力があればコイツを使わずにすんだ!」

    ミカサの表情から怒りが消え、少し驚いたような表情になる。代わりに周囲の駐屯兵団の者達からざわめきが聞こえてくる。
    ピクシスは酒を取り出し、飲み干すと少し微笑んだ。
    リコはミカサから視線を外し周りの者達を見た。

    「新兵に頼る...こんな情けないことがあってなるか!
    しかも頼っておいて文句を言う?巫山戯るな!
    イアンとミタビが生かしたこいつをここで殺す?
    では何の為にイアンとミタビとその班員は死んだ?お前達はあいつらに反抗する気か!?
    あいつらが自らの命を投げ打って生かした――謂わば人類の希望をここで殺すか?残念ながらそれはできないだろうな」

    リコの発言に駐屯兵団の者達はなにか感じたのか情けなくなったのか下を向いた。

    「私はイアンとミタビに言った!人間様の恐ろしさを教えてやるとな!
    だが、残念ながら私もお前等も過去を嘆くばかりだ!
    それは違う!過去から学べ、そして強くなれ!私は生きるぞ。私もお前等もあいつらの分まで生きなくてはいけない。
    だから、そのためにも共に頑張ろう。そしてついてきて欲しい」

    しんと静まり返る広場、そしてリコはミカサ達の方へ再び視線を戻した。
    ミカサ達の表情が少し強ばる。

    「イェーガー...」

    「はっ...はい!」

    「私達がお前にして欲しいのは土下座なんかじゃない。さっき言ったように多くの人が死んだ。そして私達に責任はあるし少なからずお前が批判されることも仕方ない...それは許してやってくれないか。
    そしてお前は生きろ。死んだ者達の分まで生きろ。死んだ者達の分まですべての人類に自由を、幸福を届けろ!
    いいな...決して死んだ奴らを無駄にするな...そして忘れるな」

    「はっ...はい!」

    エレンは心臓を捧げた。リコはそれを見て少しだけ口元を緩めた。

    「お前ら三人には私も謝りたかった。あの時は...イェーガーを殺そうとして済まなかった」

    「リ、リ班長!頭なんか下げないでください!」

    リコの礼を見てアルミンがアタフタと慌てる。
    リコは少ししてから頭をあげた。

    「...リコ班長、ありがとうございました!」

    エレンたち三人も礼を返した。
    リコはそれを見て思い出したようにミカサに詰め寄った。

    「アッカーマン、お前...そういえば私に斬りかかり、舌打ちまでしたな...」

    「あ..あれはその...家族の危機だからやむを 得ず...ので..すいません」

    ミカサのどもる様子を見てリコは口を押さえて笑った。
  39. 39 : : 2013/11/27(水) 23:39:35
    ~数日後~

    「よし、終わった」

    上着を脱ぎ、シャツの袖をまくったリコのこめかみに汗が垂れる。
    そうここはトロスト区の片隅にある墓場。勿論、前々から存在した物であったが今回のトロスト区での戦いで多くの人が死んだ為、急に墓石が増えた。特に駐屯・訓練兵団における死亡者の数はかなり多いので訓練兵、駐屯兵、それぞれ一つの大きな墓石にまとめて弔われることになった。
    そしてリコは今日、休日を利用してその墓場の掃除及び手入れにやってきたのだった。今はちょうど地面のゴミを掃除し終わったところだ。

    「これでいいかな...もう」

    リコは上着を着てまず訓練兵達の墓の前にかがみ、手を合わせ冥福を祈った。
    まだまだ若く、これからの可能性も大いに秘めていただろう彼らの未来への希望も、たった一日や二日で命と共に儚く消えてしまうこととなった。
    自分達がもっとしっかりしていれば、リコは彼らへも責任を感じたのだった。

    続けてその隣の駐屯兵団の者達が祀られた墓石の前に屈んだ。そして目を閉じ、手を合わす。

    マルティナ、ルートビッヒ...訓練兵の頃から苦楽を共にし同じ窯の飯を食べてきた。そして、イアン、ミタビ...勇気のある決断と行動により人類を救った影の英雄。

    世間はイェーガーを英雄としても私はお前達のことも必ず忘れず、そして語り継ぐ。
    だが、今は時間がない。だからもう少し――その少しは数日か数ヶ月かはたまた何年後か解らないが――待ってくれ。
    その為にも生き抜く。この不条理な世界、巨人に抗い人間様の恐ろしさを思い知らせてやるとな。
    皆の分まで...










    「ハハハ...いい心意気だな」

    「!?イアン!?」

    不意に声がしたので目を開けた。目の前には死んだはずのイアン・ディートリッヒ。その後ろにもミタビやマルティナ、ルートビッヒ...リコの良く知る面々が笑顔でリコを見つめていた。

    ここは?

    論理的なリコの思考がすぐに働いた。だが、今はそんなことはどうでもいい。彼らに会えた。それだけで十分だ。

    「いい心意気だが...無理は禁物だぞ...お前は昔からなんでも一人で考えるからな...」

    イアンが微笑みながら言う。リコはそっぽを向く

    「ふん...それは貴方達が頼りないから」

    「あれぇ?俺達がいないからと急に不安に駆られてたのは誰だ?」

    「っ! うるさいよミタビ!大体何よ...私1人残してさ...私がどんなに...」

    あれ、また涙。

    強い口調の物言いの反面、リコの目には涙。

    久々に会えたのに情けない...止まれ――

    そう願ってもやはり体というものは正直で寧ろ涙の量は増えるばかりであった。

    延々と泣くリコの頭にイアンの左手がポンと置かれた。リコは顔を上げる。そこには優しいイアンの顔。

    「お前なら大丈夫、やれるさ。真面目できちんと物が考えられて...お前の決意は皆が知っている。
    俺達もお前なら安心して任せられる。先に逝ってしまったことは本当にすまないと思っている。だが、俺達は無力でこうするしかなかった...。
    だから...お前が言うように俺達はお前に生き抜いてほしい...語り継ぐとかはどうでもいい。けど、お前の決意は悔いのあるまま終わらせるな...お前の決意を実現してくれ。それならば俺達は何の後悔も無い。
    お前は俺たち駐屯兵団の希望だ...同僚としてな。大丈夫...自信を持って...後ろを振り返らずな――」

    「イアン...みんな...あり...がとう――」

  40. 40 : : 2013/11/28(木) 00:07:41
    「――おい、リコよ」

    肩を叩かれ我に返る。顔を上げるとピクシス司令がリコの右肩に手を置いていた。

    今のは夢――?

    「墓へ行くとは聞いておったが中々帰ってこんのでな...ワシも墓参りのついでにお前がいるかと思ってみれば...まさかお主が墓石の前で寝てるとは思わんかったわい。しかも涙を流して笑顔とはな...」

    ああ、やっぱり寝ていたんだ。

    当然だ。あれは夢に決まってる。何故なら会えるはずもない者たちに会えたのだから。とは言ってもやはり少し残念だ。

    いや――けど

    リコは考え直した。

    あれでよかったんだ。
    あれ以上いたら私はまたあいつらに依存してしまうところだった。もう一人では何もやれなかっただろう。

    すっと頭に触れてみた。まだ少しイアンの温かみが残っているような気がした。

    「ピクシス司令―」

    「なんじゃ?」

    「失礼を承知ですが...私はトロスト区戦後、あなたを恨みました。
    どうして私が伝達係なのか。私じゃなければあいつらと一緒に死ねたのにと...」

    ピクシスは黙っていた。リコは墓石を真っ直ぐみつめる。その瞳には真っ直ぐ強い光。

    「しかしアッカーマン達とも話、また独りでも考えたりハンジさんに言われたことも思い返してみましたが...そんなことを悔やんでる暇はありませんでした。
    私は死んだ奴らの分まで頑張らないといけない。あいつらの努力を無駄にしないように...」

    「...伝達のことで悩んでおったか...それはすまんかったな...
    だが、ワシはアッカーマン等と話した時のお主をみて思ったぞ。こやつなら大丈夫、駐屯兵団を任せられるとな...ハンジも言っておったわい...彼女なら大丈夫だと思う、とな」

    「そんなお言葉は勿体ないです」

    「ふふふ...
    リコよ...これからもいつ巨人が壁を破って攻めてくるかは解らぬ。あいつらは謎ばかりじゃ。兵士の数も減り厳しい状況じゃが...
    これからも頼むぞ...必ずあの木偶の坊達を倒そうぞ...ワシは生きてるうちに勝利が見たい...こやつらの分も勝利を喜びたい...」

    「―はい」

    リコとピクシスは墓石を見つめた。
    リコの添えた薔薇の花の赤い色が眩しい。

    「さて、ワシは帰るが...お主はどうする?」

    「私もご一緒します。万が一の事があってはなりません」

    リコは立ち上がりピクシスの後ろをついた。
    墓の出口の前、リコは一度だけ振り返り墓石を少しだけ見つめた。

    ―今度会うときは必ずいい報告を届けてやるからな―

    墓石が夕陽を反射した。キラキラと光る。
    独り壁の前で泣いたあの日と同じような夕焼け。
    だが、今度は泣かない。
    進むべき道がある。
    護るべきものがある。
    成し遂げなければいけないものがある。
    そのためには泣いている暇などないのだ。
    進撃を止めてはいけない。
    抗い続ける。そこに絶望しかなくとも。

    リコ・ブレチェンスカ―一人の兵士の生者の決意。


    ~生者の決意 完~
  41. 41 : : 2013/11/28(木) 00:11:56

    やっと終わりです。ありがとうございました。

    もう少し盛り上げたりできれば良かったのですが自分の実力不足です。申し訳ありません。あと、当初よりもだいぶ長くなりました。

    こんな話があればいいなぁと妄想したものであります。

    あと更新が遅くてすいません。

    拙い文章を読んでくださりありがとうございました。
    少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
  42. 42 : : 2013/11/28(木) 00:13:36
    また、よろしければ簡単な感想やダメ出し、批判などもお待ちしてます。

    本当にありがとうございました。
  43. 43 : : 2013/11/28(木) 00:26:49
    今気づきましたがお気に入りにしてくださってる方もいらしたんですね!
    こんな拙い内容なのに...ありがとうございます!
  44. 44 : : 2013/12/02(月) 00:59:07
    流石ですね!
  45. 45 : : 2013/12/30(月) 02:23:24
    >>44
    すいません、今更気づきました(;・・)
    お褒めの言葉ありがとうございます!
    今後も頑張っていきます!

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