「1人で泣くなよ、スガ。」
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- 1 : 2014/08/01(金) 23:25:12 :
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『影山飛雄』
その名前を見たとき、心臓が跳ねた。
…あの天才セッターが、烏野《うち》に来る。
これから烏野は強くなるかも知れない。
みんなの士気がさらに上がるかも知れない。
そんなことよりも、まず頭に浮かんだのは
『俺はどうなるんだろう。』
そのことだった。
俺…菅原孝支は、入部届のその名前を見て目を輝かせるチームメイトの大地と田中の様子を、一歩引いて見ていた。
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こんにちは、はじめまして。
ページを開いてくださって、ありがとうございます。
少年ジャンプにて連載中の漫画『ハイキュー‼︎』のSSです。
一度上げてたのですが、ハイキュー‼︎のカテゴリが新設されたので、新しくスレッドを立て直しました。コメント、お星様をつけてくださっていた方、申し訳ありません。
・菅原さんの1人語り的視点でお話が進みます。
・単行本だと7,8巻までのお話の内容を含みます。
拙い文章ではありますが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。
どうぞ宜しくお願いいたします。
では、続きをどうぞお楽しみくださいませ。
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- 2 : 2014/08/01(金) 23:29:55 :
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田中「おい!こいつって、北川第一の『コート上の王様』だよな?」
澤村「ああ。去年のあの試合、強烈だったもんな。なあ、スガ?」
菅原「あ、うん。」
澤村「そうか、こいつが烏野かあ。楽しみだな。」
菅原「…」
…大丈夫、大丈夫。
まだ俺の方が劣っているって決まったわけじゃない。
それでも、背中を嫌な汗が伝うのが分かった。
去年の3年生が引退して、俺はやっとスタメンに入ることが出来た。
それから今まで、烏野の正セッターとして、インターハイや春高を目指して練習を積んできた。
…のに。
やっと掴んだその座を、新入生の『天才』に取って代わられるかも知れない。
怖かった。
…そして、俺の懸念は現実のものになった。
インターハイのコートに立つチームメイトを、ウォーミングアップエリアから見つめる。
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- 3 : 2014/08/01(金) 23:34:23 :
試合の相手は、3月にボロ負けを喫した伊達工業高校。
『鉄壁のブロック』が旭のスパイクを弾き飛ばし、審判の笛が短く鳴る。
眼光鋭い大柄の選手がガッツポーズをすると、伊達工業の応援団が一斉にメガホンを叩いて声援を送る。
スコアをちらりと見るとまだギリギリ烏野がリードしているものの、試合の流れは完全に伊達工にあった。
澤村「ドンマイ、旭!」
西谷「旭さんすんません!次は取ります!」
旭の肩を叩くチームメイトたちに向けて、言葉を投げかける。
菅原「旭!いっぽーん!」
その声にこちらを振り向いた旭が、にかっと微笑む。
よかった、大丈夫そうだ。
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- 4 : 2014/08/01(金) 23:41:33 :
旭は強くなった。
もう3月の試合の時のように、そう簡単に折れたりはしないだろう。
大地も、西谷も、田中も…みんなあの時とは違う。
そして何より日向、影山の存在だ。
2人は俺らが想像していた以上の成長を遂げ、今や烏野の攻撃の要だ。
今の烏野は、昔とは違うぞ。
離れたネット越しに相手の様子を伺う。
そうだ。
今の烏野は、昔と違う。
『今の烏野のコートには、俺がいない。』
自分の言葉に、俺の中の『自分』がはっとした。
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- 5 : 2014/08/01(金) 23:45:57 :
- 期待です…!
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- 6 : 2014/08/02(土) 00:21:02 :
旭も、
大地も、
西谷も田中も、
みんな3月より強くなって、コートに立っている。
けど、俺は?
後輩にポジションを取られ、今年未だに公式戦に出ることすら出来ていない。
俺以外のみんなは昔より強く成長しているのに、俺はさらに昔に逆戻りだ。
…情けない。
ゴールデンウィークの合宿の時、烏養監督に『次に進む切符が取れるのが俺より影山なら、迷わずに影山を選ぶべきだ』と言ったことを思い出した。
今もその気持ちに変わりはない。
けれど…
ウォーミングアップエリアの白い枠に目線を落とす。
俺も試合に出たい
あの緊迫した空気を感じたい
スパイカーにトスを上げたい
みんなと試合をしたい
1試合でも多く
1プレーでも多く…
『次に進む切符』が取れるのが俺より影山だということは、自分でもよくわかっていた。
それが、余計に悔しかった。
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- 7 : 2014/08/03(日) 18:45:57 :
日向「トス持ってこ〜〜い!!」
ボールが割れるのではないかと思うような鋭い音と共に、日向の打ったスパイクが伊達工のコートに落ちる。
あのスパイクを生む速く正確なトスが上げられるのは、影山だけだ。
悔しい気持ちをぐっと堪えて、日向と影山にエールを送る。
俺がいなくても
いや
俺がいない方が
烏野は強いんだ。
ピピー!という空気を切り裂くような笛の音が、広い体育館に響く。
スコアは25-22。
3月にストレート負けした伊達工業に、今度はストレート勝ち。
嬉しかった。
次に進む切符が、また手に入ったのだから。
でも、
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- 8 : 2014/08/03(日) 23:02:06 :
菅原「…もちろん、自分のトスで勝てたら良かったと思うよ。」
会話の端につい漏れた一言が、試合を終えて隣を歩いていた大地の耳に入り、彼は少し困ったように視線を宙に泳がせた。
し、しまった!
こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。
菅原「わ、悪い!いまのはここだけの話で…」
やっと勝ったところなのに、水を差すようなことを言ってしまった自分を戒める。
けれど大地の口から出た言葉は、予想をしていなかったものだった。
澤村「いや、良かった。」
菅原「え?」
澤村「お前がまだ戦うつもりで居て、良かった。」
菅原「!」
澤村「明日も試合だ、勝ち残るぞ。」
菅原「…おお。」
そうだ。
明日も、試合があるんだ。
ここで諦めて、へこたれてどうする。
そう自分に発破をかけて、大地に遅れまいと歩く速度を上げる。
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- 9 : 2014/08/05(火) 11:17:30 :
「「きゃあ〜〜〜!!」」
突如上がった黄色い歓声に、俺と大地は驚いて前につんのめりそうになった。
その声がした方向にある隣のコートに目をやると、県内屈指の強豪校、青葉城西の及川のサーブの順番が回ってきたようだった。
既に2セット目のスコアは、青城が相手校に大差をつけてリードしている。
そのまま危なげなく点を稼ぎ、青葉城西はあっさりと勝利した。
日向「やっぱ大王様すっげぇ〜!早く試合したいなあ!」
西谷「俺も!及川サーブ俺のとこ狙ってくれねえかな、取りてえ!!」
澤村「2人とも頼もしいな…けど、青城は強敵だ。気ィ引き締めていけよ。」
2人「「おす!!」」
…今日より、さらに強い相手と戦う。
そんな明日の試合に、俺の出る幕はあるのだろうか。
また今日みたいに、狭い白い枠の中からコートを眺めることしかできないのではないだろうか。
これから先、俺は烏野のコートに立てるのだろうか。
一時は前を向いた視線は、また足元を見つめていた。
及川を労う女子たちの声が、何時もにも増して耳障りだった。
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- 10 : 2014/08/05(火) 23:11:53 :
烏養「よーし、明日に備えて今日はしっかり疲れをとって、早く休めよ。」
全員「「おす!」」
烏養「じゃあ解散!」
澤村「お疲れっしたー!」
全員「「したー!!」」
学校に戻ってミーティングと今日の反省を兼ねた軽い練習をすると、その日はすぐに解散になった。
影山と日向が競い合うようにコートにモップをかける様子を見ながら、ほとんど量の減っていない水筒に口をつける。
澤村「スガ、肉まん食って帰ろうぜ。」
菅原「あ、悪い。今日はやめておくよ。」
東峰「スガが断るなんて、珍しいな。」
菅原「少しやることがあってさ。」
澤村「そうか、じゃあまた明日な。」
菅原「おう。」
大地と旭がひらひらと手を振って体育館を後にする。
田中と西谷たち2年生も、挨拶をして部室へと向かった。
菅原「あ、ネットは俺が片付けるから、張ったままでいいよ。」
そう山口に声を掛けると彼は一瞬変な顔をしたが、はい、とだけ言って月島の後を追いかけて行った。
いつまでもグズグズ体育館にいた日向と影山を追い立てると、ただっぴろい体育館には俺1人だけになった。
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- 11 : 2014/08/09(土) 21:22:21 :
用具室からボールをひとつ取り出し、手でくるくると回す。
床に落として感触を確かめると、ダン、という心地いい音が館内いっぱいに反響した。
ネットの前真ん中のセッターの位置で、1人トスを上げる。
繰り返し
何度も
何度も。
この体育館で、何回トスを上げただろう。
その数は間違いなく影山よりも多いのに、どうして実力はそれに比例しないんだろう。
そんなことを考えたって仕方がないのは、百も承知だ。
けど、試合に出たいという気持ちを抑えつけることは出来ない。
強いものだけがコートに入れる。
それは当たり前のこと。
頭ではよくよく分かっていても、心が駄々をこねる。
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- 12 : 2014/08/12(火) 09:35:10 :
菅原「くそ…」
視界がぼやけ、トスを上げたボールが見えにくくなる。
それでも上を見上げ、何回も何回もボールを宙に上げ続けた。
影山に追いつけるように
影山を追い越せるように
『圧倒的な実力の影山に隠れて、安心してた。』
町内会チームの人たちと対戦した時、俺はみんなにそう言った。
けど安心すると同時に、誰もがその才能を認める影山を、羨ましくも思っていたんだ。
俺が3年間このチームでやってきた経験をも一瞬で越えて行くような技術は、まさに天才の名に相応しい。
それでも影山は、日々の鍛錬を怠らない。
…俺は、きっと影山には追いつけない。
瞬きを一つすると、頬を雫がつうっと伝った。
それでもトスを上げる手は降ろさない。
小さく漏れた嗚咽が、キュ、という靴音に掻き消される。
俺は今日の試合でボールに触れなかった分を取り返すように、ただただトスを上げ続けた。
コントロールが乱れ、真上に上げ続けていたボールがレフトに飛ぶ。
けど、拾いに行く気力は残っていなかった。
…俺はきっとこのまま、もう試合に出られずに現役を終えるんだ。
ボールがコートに落ちるのを待ちながら、そう諦めかけていた時だった。
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- 13 : 2015/09/07(月) 10:50:35 :
- めちゃくちゃ期待です!
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- 14 : 2016/12/29(木) 16:45:10 :
- ―4月―。
桜の花びらが舞い散る空の下。
暖かな風が柔らかく、優しく心を撫でていく季節。
そんなある日、俺のもとに一通の手紙が届いた。
淡い空の色の封筒に、きれいな字で『烏野のみんなへ』と書かれている。
封を切って中を見る。
真っ白な便せんが一枚だけ入っていた。
―元気ですか?-
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