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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』

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  1. 1 : : 2014/07/16(水) 11:20:39
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』   
    (http://www.ssnote.net/archives/2247)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』   
    (http://www.ssnote.net/archives/4960)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』   
    (http://www.ssnote.net/archives/6022)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』  
    http://www.ssnote.net/archives/7972)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』 
    (http://www.ssnote.net/archives/10210) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』 
    (http://www.ssnote.net/archives/11948) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
    http://www.ssnote.net/archives/14678) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』   
    http://www.ssnote.net/archives/16657

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』   
    http://www.ssnote.net/archives/18334

    ★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと
    最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった   
    隠密のイブキとの新たなる関係の続編。   
    『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した   
    オリジナルストーリー(短編)です。 

    オリジナル・キャラクター   
    *イブキ   
    かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵。
    生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。   
    ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。  

    ※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
    お手数ですが、コメントがございましたら、
    こちらまでお願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2 
  2. 2 : : 2014/07/16(水) 11:22:22
    「……イブキ、このあばずれがーーー!!」

     ウォール・シーナの上空で、聞き覚えのある奇声が自分に近づいてくると気づいたイブキは
    空虚な眼差しで顔を上げた。見上げたその先にはイブキの姪、ミカサ・アッカーマンが奇声を
    上げた敵を足蹴にして彼はバランスを崩しながら荷馬車の上空を通過していった。

    「……あいつは――」

     その憎たらしい顔を見た瞬間、イブキは我に返り自分を取り戻す。敵は空(くう)でバランスを
    崩しているが、銃口はイブキに向けられたままだった。イブキは素早く胸元からナイフを取り出し
    敵に目掛けて投げつけた途端、額に命中し、厭わしい眼差しを彼女に注ぐ。直後、地面に叩き
    付けられ、その身体は幾度か横転を繰り返し仰向けでようやく止まった。
     駈け続ける荷馬車の上からその敵の様子を伺っても再び起き上がることなく、姿は小さくなってゆく。

    「おまえをいつか…手にかけようと思っていたが、まさかそれが今日だとは……」

     イブキは苛立ちを表す口調で、動くことはないかつての仲間で現在の敵の姿を睨みつけていた。
    その仲間はイブキが彼女の身体を使いながら暗殺対象者を仕留めることを罵るだけでなく、
    関係を迫ることもあった。
     イブキにとって『耐え難い仕事』ということもあり、仲間内でその態度に応じることはもちろんなかった。
     イブキは耐えに耐えていたが、怒りが沸いても『すべては大儀のため』と無視することを貫いていた。

    「――街を抜けるまでもう少しだ!」

     切羽詰ったアルミン・アルレルトの声にイブキが振り向くとジャン・キルシュタインが顔を
    強張らせながらしゃがみこみ、荷馬車の内壁にもたれていた。
     イブキは無事だったジャンに胸を撫で下ろす。

    「よかった……ジャン、生きていた……」

    「あぁ、アルミンが敵を撃って……助かった」

    「アルミンが…?」

     御者として手綱を握るアルミンの背中が殺気立っていると感じたイブキがゆっくりと近づき彼の
    肩に触れようとしたとき――

    「イブキさん、僕には物資を運ぶ責任があるんだ……! 
    だからイブキさんも今、自分が出来ることをやってよ!」

     背を向けるアルミンは気丈に堪えているようだが、最後は涙声になっていた。イブキはわかった、と静かに返事をしてアルミンの言う通り上空の敵を注意深くじっと見ていた。
     どこまでも広がる清々しい青空の下、それとは不似合いの血なまぐさい争いも、どこまでも
    繰り広げられてる。

     リヴァイとミカサに応戦する敵は多くいてもアルミンが操縦する荷馬車には誰も近づかなかった。
     イブキは命が救われ、安堵することなく全身を硬直させるジャンと声を掛けても口を閉ざしてし
    まったアルミンの背中を目配せして2人を見守っていた。 
  3. 3 : : 2014/07/16(水) 11:23:27
     ウォール・シーナ内、ストヘス区にて調査兵団と憲兵団が応戦していると一報を受けた
    憲兵団師団長のナイル・ドークは愛馬でその現場に駆け出していた。
     屋根から屋根へ立体起動装置で移動する輩を見上げ、驚くと同時に彼等が調査兵団でもなければ
    自ら長を勤める憲兵団ではない、とわずかな間に理解していた。

    「あいつらは……なぜ…こんなところに……?」

     平常心と共に駆けつけたはずなのに、彼等が握る銃に目を見開いた。手のひらの手綱にも
    思いのほか力が入り、背中に抱えているライフルに手を伸ばすことさえナイルは忘れてしまう
    ほどだった。
     これまで憲兵団のトップでありながら新型の立体起動装置が開発されていたことも知らなければ、
    組織系統が全く異なり、裏の顔のはずの中央第一憲兵たちが真昼間から街中で堂々と
    活動していることにただ唖然として上空を舞う彼等を見上げることしかナイルには出来なかった――

     ナイルは彼の本来の部下である憲兵団の兵士たちに街中で無残に死に追いやられた兵士たちの
    遺体を回収するよう命じていた。そんな最中、ナイルは2人の新聞記者に囲まれるがこれまで
    通り、中央憲兵の存在を伏せ、また新型立体起動装置についても隠し通し、記事にせず表に
    出さないよう半ば強要していた。

    (散弾が……巨人に効果的だと到底思えん……まさに調査兵団を殺す……だけでない、
    対人ということは……その銃口は我々憲兵団にも向けられる…それもあり得るのか――)

     ナイルは腕組みしながら部下たちが遺体を続々と運んでいく姿を物憂げに見つめ、
    訓練兵時代を共に過ごした調査兵団に属するエルヴィン・スミスと最後に話した情景を思い出す。
     目的地に向いながら馬車に揺られ、エルヴィンは質問の的を絞らず、止め処もない話を
    繰り返していた。

    『…その妄想は真実に変りつつある』

    『この小さな世界が変ろうとしている……希望が、絶望か、選ぶのは誰だ……? 誰が選ぶ?』

    『――おまえは誰を信じる?』

     話すべき内容をわずかの間にまとめ切れないエルヴィンが、あいつなりに何かを伝えたかったのではないかと、ナイルの頭の中ではその時の記憶が渦巻いていた。

    (エルヴィン、おまえが信じた妄想が真実であると証明するにはどれだけの犠牲が払われる……?
    いずれ俺もそこに含まれるのか――)

     ナイルは晴天の上空を見上げ、エルヴィンが見ようとしていた何かを想像しても、その脳裏には
    浮かぶことなく、次第にその眼差しは空ろになっていった。

    「憲兵団の長として、俺は誰を…何を信じればいいのだ、エルヴィンよ……」

     ナイルは誰にも聞かれないように、悲壮感が漂う唇でつぶやく。まるでエルヴィンに投げかける
    質問のようだった。また同時に苦渋の色を浮かべエルヴィンを見つめるイブキの姿も逆巻いた。

    (支えてくれる女はいても、巨人を選ぶ……やはりそれだけは…俺には理解できん)

     ナイルは小さなため息をつくが、大切な家族の姿はその脳裏には容易く思い出されていた。
     憲兵団の長として今すべき仕事をこなそうと決意し、自らを『憲兵様』と名乗った
    長身男の目撃者から改めて事情聴取するように、と改めてナイルは部下たちに指示を出していた。
  4. 4 : : 2014/07/16(水) 11:24:55
     新リヴァイ班とイブキは命からがら街中から逃げ出すことに成功し、人知れずその身を山奥に
    隠していた。古ぼけた馬小屋で皆はそれぞれの愛馬の世話をしたり、サシャ・ブラウスは
    リヴァイの傷の手当をしていた。
     ただ一人、アルミンだけは何もせず馬小屋の裏で呆然と立ち尽くし、その様子をイブキが見守っていた。
     イブキは初めて人を殺してしまったアルミンの心に受けた衝撃が抱えきれないほど大きすぎて、
    今は頭の中は真っ白で何も考えられないだろうと踏んでいた。ミカサがイブキに近づき、気がかりな
    アルミンのことをそっとたずねた。

    「イブキ叔母さん、アルミンは?」

    「変らない……ずっと…あの調子だよ」

     アルミンは突如、木の幹に手をついて、腹の中の物を苦しそうに吐き出した。ミカサはアルミンに
    駆け寄り背中を摩る。

    「アルミン、大丈夫……?」

     背中を優しくさ摩られ、まぶたを涙で腫らしたアルミンは自分でも予想さえしなかった言葉が
    その口から飛び出す。

    「……ミカサもこうなったの…?」

    「えっ…」

    「あぁ……ごめん」

     ミカサに対して投げかけた言葉にアルミンは直ちに謝るが、イブキはアルミンが口にした意味を
    理解していた。彼女の姉であるミカサの母が殺されたその日、ミカサが後に誘拐犯たちを幼いながら
    刺殺したということを――。アルミンがそれを指していると察するが、叔母として
    ミカサにその光景を思い出させてはいけないと咄嗟に判断し、アルミンの傍にしゃがみこんだ。

    「アルミン……その苦しみ、普通の反応だよ、人としてのね…。 私は暗殺者として育てられ、
    人を殺めることが罪深いとは想像さえしなかった……私にはこれが当たり前で、
    ただの仕事って……感じだったんだよ……」

     イブキはアルミンの傍に足を抱え座り、落ち着いた口調でゆっくりと語りかける。

    「戦いに犠牲はいつでもつきまとう……やるか、やられるかと、わかっていながら、手にかける。
    敵だって死を覚悟して挑んでいたんだから…気にするな、っていうのは変だけど……
    私たちは多くの命の上に立っている……いつもそれを思っていなきゃ――」

     イブキは頬を指先で掻きながらため息を付く。アルミンに自分の気持ちを話したくても、彼の
    涙を見ていると『人を殺める』という心境を伝えづらかった。 

    「イブキさん、ありがとう、何となくわかったよ……」

     アルミンの頬はまだまだ強張るが、少しだけ笑みを浮べていた。ミカサは2人だけにした方が
    いいのか、と何も言わず密やかにその場を離れた。
     イブキとアルミンは木々の合間から夕焼け空を見上げられる場所に移動して、調査兵団に入って
    夕焼けをよく見るようになった、と他愛のない話をする。アルミンは少し茜色に染まった大空を
    ぼーっと見上げていた。
  5. 5 : : 2014/07/16(水) 11:26:37
    「何か…嫌なことがあったら、自然に触れると……安堵するっていうか、落ち着く……
    それを初めて知ったのは……調査兵団に入ってからかな……」

    「そうなんだ……」

     アルミンは無気力に空を見上げ返事をする。その横顔をイブキは柔らかく見つめる。

    (夕焼けは……ミケとよく見たっけ……でも、朝焼けはエルヴィンと――)

    「あっ……そうだ、アルミンの聡明さって……とてもエルヴィンに似ていると思うんだ」

    「えっ…僕が団長に……?」

     アルミンは目を見開き驚きの眼差しをイブキに注ぐ。イブキは久しぶりにエルヴィンのことを
    少し思い浮かべては、薄々感じていたアルミンと似ていることを話し出す。

    「必要とあらば、私のような……暗殺者さえ仲間に引き込む。いつも死を覚悟して、さらには
    様々な角度から物事を捉え、吟味して、それでも犠牲を厭わず前に進む……
    そんな考えかな……でも、アルミンは知っているよね、部下だし」

    「……日ごろから感じていたよ、団長は……リスクを覚悟の上、前に進む……」

    「そうね、でも……一人になると、結構…皆のことで思い悩んでいるよ」

    「へーっ……そうなんだ……」

    「エルヴィンは……自分の右腕を失っても、屈しない強い気持ちで挑んでいる。皆にはエルヴィンが
    無くした右腕になって欲しい、それができると思う――」

     イブキはアルミンの横顔に強い口調で言うが彼はまだ無気力のまま自分の気持ちを少しずつ
    話し出した。

    「僕は死ぬ理由が理解できれば、命を投げ出そうと思っていた……だけど反対に……
    命を奪うとこんな気持ちになるとは――」

     アルミンは膝を抱え身体を丸めた。イブキが包み込むように彼の肩を自分の元に引き寄せる。

    「命は尊い…簡単に投げ出しても、奪ってもダメ…でも、前に進まなきゃいけない…難しいね」

     イブキは震えるアルミンの身体を指先に感じると、ただ抱きしめるしか出来ない。時間が解決するしかないのか、という考えが逡巡し、アルミンの身体がイブキの胸元と密着したときだった。

    (立ち止まっては、勝てない……)

     イブキの心にミケ・ザカリアスの声が響いてアルミンにも伝わる。アルミンは涙目のまま、彼女から少し距離を置いた。

    「今、ミケ分隊長の声が…聞こえた…! 僕、人を殺しておかしくなったのかな……?」

     アルミンのその声にイブキは笑みを浮かべそっと彼の金色の柔らかい髪を撫でる。

    「聡明なあなたには…理解し難いことかもしれないけど、ミケは私の心で……生きているのよ」

    「えっ……」

     さらにアルミンは驚き冷めず、丸々とした眼差しでイブキを見つめる。だが、肝心なイブキは
    穏やかな表情を浮べていて、次第にアルミンは落ち着きだした。

    「……止まっていては、人類は勝利は得られない……ってことをミケは言いたいのかな……それに
    きっとミケだけじゃない、これまで命を落としていった仲間たちだって……あなたたちを見守っているだろうね」

     再びアルミンはイブキの肩に甘えるようにもたれ、そっと背中を摩られていた。太陽が西の空に
    沈み木々の合間からは藍色の夜空が少しずつ姿を現していた。アルミンはイブキと話して
    本来の自分を戻せそう、と安堵のため息を小さく漏らした――
  6. 6 : : 2014/07/16(水) 11:28:15
    「おーい、アルミン、イブキさん…晩飯の用意が……って…
    俺のポジションだったのに……そこは――」

     コニー・スプリンガーは食事の用意ができたと、イブキとアルミンを呼びにきたが、
    2人が寄り添い夜空を見上げる姿に焼きもちを焼く。
     コニーは疲れた自分もイブキに癒して欲しいと強く願っていた。
     サシャが馬小屋の表で見張りをする合間、皆は手作りの囲炉裏を囲み食事を始める。
     アルミンはまだ顔は空ろな色を浮べている。彼を心配するイブキは隣に座った。
     リヴァイがアルミンを見つめる眼差しはいつもと変らず鋭い。アルミンはすべてを見越した上での
    咄嗟の行動力があり、それがなければジャンはいなかった、と諭す。
     ジャンからありがとう、と礼を言われてもアルミンは俯いたままだった。

    (…いつも厳しいけど…でも、たった今から少し先を見据えて行動するよね、リヴァイって――)

     アルミンの背中に触れながらイブキは頭(かしら)とリヴァイの関係を問いただしたいけれど、
    更なる動揺を生み出し余計な心配を皆にさせてはいけないと察する。
     それを強く思うことでリヴァイに向ける眼差しは疑いの色でとても濃くなる。
     リヴァイを見つめながらイブキは自然に奥歯を噛み締めていた。彼女の視線に気づいたリヴァイは舌打ちして睨み返す。

    「イブキ……俺の顔に何かついているのか……?」

    「いや……なんでもないよ……」

    「だが、おまえのその格好は……この面子の中では目立つ。ミカサ、余分なシャツは持っていないか……?」

     イブキは忍装束で身を包んでいるが、顔は皆に晒している。全身黒ずくめの格好が皆の中で
    際立ってしまうことをリヴァイは懸念した。ミカサはリヴァイに対して、シャツを持っている、と返した。

    「――おまえら2人……背はイブキが高いが体型は似ている…サイズも問題なく着られるだろう……」

     イブキの忍装束は二部式で、上下に別れているが、上部は前合わせの着物で帯を締めている。
     皆の格好と違和感を感じさせないように下部は動きやすいパンツスタイルを選び、仕立て上げていた。
     リヴァイに命じられ馬小屋の隅でイブキは着替え、またミカサが手伝うことになる。
     身につけていた着物を取り去ると、ミカサはイブキの左腕の傷に目を見張った。

    「イブキ叔母さん、大変……! これも手当てしなきゃ――」

     ミカサはサシャの救急箱を拝借して、イブキの腕の手当てをする。痛みはすでに消えているが
    イブキはミカサの真剣な眼差しに笑みをこぼしていた。

    「ミカサ、ありがとう……とてつもなく大変なことが続いているのに……
    やっとあなたと長い時間、一緒にいられるね――」

    「うん…!」

     快活に返すミカサはエレンの前でしか見せないような柔らかい微笑みの花を咲かせていた。
     忍装束の上部のみをミカサのシャツと取替えて皆の前に現れたイブキに2人はそっくりだと
    改めて驚かれていた。特にジャンは初めてミカサと会った訓練兵時代の髪が長かった頃に
    似ていると息を呑んでいた。

    「イブキ…おまえもこれからはリヴァイ班の一員だ……あいつらの行動も俺の部下たちより
    簡単に把握できるだろう……覚悟して挑め――」

    「えぇ、もちろん…! みんな、よろしくね!」

     イブキはリヴァイに負けじと眼差し鋭く返す。隣に立つミカサはリヴァイ班に頼もしい仲間が
    加わった、というだけでなく叔母がそばにいることが何より心強いと感じる。
     ミカサがイブキを見つめる眼差しは鋭く、ただ口角は少しだけ上がっていた。
  7. 7 : : 2014/07/16(水) 11:30:19
    「『通常の憲兵団』がきっとこの辺りを踏み込んでくるのも時間の問題だ……イブキ、明日の早朝、
    おまえに立体起動を教えてやる――」

    「ホントに!?」

     イブキは自分の飛び方を変えなければ、と考えていたため、リヴァイの一言に自然と頬が綻ぶ。

    「何度も言っているが……本来はエルヴィンの野郎が教えるべきだった……まぁ、あいつは
    おまえに熱を上げているからな……一緒にいれば、きっと他のことをしたく――」

    「リヴァイ……! 皆の前で何を言うの!!」

     リヴァイの淡々とした尖った声にイブキは自分の声を荒げ、綻んでいた頬は瞬く間に紅潮していく。
     皆からは不思議そうな眼差しを頬を赤く染めるイブキに注がれていた。

     翌日の早朝――。
     藍色の東の空が少しずつ明るくなり朝焼けの薄紫の色が大空を差す頃、リヴァイを始め皆は
    立体起動が出来そうな高い木々のふもとに立っていた。
     予備の立体起動装置を用意したミカサがイブキの身体に装着させ長い髪もポニーテールのように
    結ぶ。
     思ったより軽いんだね、とイブキの感想を聞きながらミカサは必要な装置を備え付け、大まかな
    操作方法を教えていた。

    「イブキ……飛べ」

    「いきなり…!?」

     直ぐにでも飛べ、というリヴァイにイブキは訝しげに睨む。またリヴァイも負けじと眼差しは鋭くなる。

    「ほう……まぁ、ナイフくらいしか扱えないおまえには……一度では覚えられないか――」

    「……わかった」

     嫌味を含む発破をかけられたイブキは眉根を寄せ、その目は少しずつ鋭くなっていく。
     両手に握るグリップに力が込められる。ゴクリと息を呑みながらグリップのトリガーを操作すると、
    突如ワイヤーが上空目掛け飛び出し、勢いよくイブキの身体も後を追うように大空に投げ出された。

    「うわああああーーー!! でも……これ――」

     イブキは驚くあまり叫び声を上げるが、簡単に飛べることにも驚き、
    アンカーを木の幹に刺すことなく途中から自分の飛べる技を使い、
    高く聳え立つ木の突き出した枝にひらりと着地して膝を付いていた。 

    「何これ……! すごくいい……!」

     降り立ったと同時にイブキは腰を上げ、ワイヤーを装置に収める。
     自分の技と比較にならないくらい、授けられた新しい翼の威力に心が躍るようだった。

    「イブキ叔母さん、すごい……初めて使うのにアンカーを幹に刺さず、枝に降り立てるなんて……」

     いつも冷静なミカサが口を開きながらイブキを見つめる。その姿に冷めた眼差しでリヴァイは
    鼻を鳴らしていた。

    「おまえが飛びたいように……飛べ、イブキ」

     リヴァイの声を聞いたと同時に再びグリップを操作してイブキは降り立った枝から
    はるか上空目掛けて飛び出した。太陽が登り始め、東の空で少し顔を出す。暖かな朝の光に
    イブキは目を細め、手のひらをかざしながら目元を隠す。その唇は新しい翼を手に入れた喜びで
    緩んでいた。

    「こんなに……高いところから、太陽を拝めることができるなんて――」

     イブキは目を閉じ、空中に浮いたまま両手両足を広げ一日の始まりを告げる、暖かい日差しを
    全身で浴びる。

    (イブキ……よかったな)

    「ミケ…」

     ミケの声を感じながら全身で心地よい暖かさに包まれていると、イブキの身体には彼の温もりが
    蘇るようだった。ミケの声が響いた胸元に手を添えイブキは恍惚とした笑みを浮べていた。

    (ほう……さすが、ケニーが育てただけあるな――)

     リヴァイは朝日に照らされ上空を舞うイブキに視線を傾けながら心根で思っていた。
     装置の扱いに慣れてきたイブキはいとも容易く、ガスを吹かしながら皆の前に戻ってきていた。

    「どう? 扱えるのはナイフだけじゃないでしょ?」

    「まぁ……これがあれば、ある程度、死なない工夫は出来るだろう……」

     腕組みをして、自慢気に顎を上げるイブキにリヴァイは相変わらず冷めた眼差しだが、
    右口角は上がっていた。
  8. 8 : : 2014/07/16(水) 11:32:54
     突如、綻んでいたはずのイブキの頬が強張り、リヴァイを見つめる眼差しも鋭くなる。

    「私たち以外の……人の気配が向こうから……」

     イブキは向こうから、と言いながら人影は見えない森の中を指差した。その声に反応したのは
    もちろんサシャである。

    「はい、足音が聞こえます……2人います」

     リヴァイの眼差しは涼しいままイブキと耳を澄ますサシャを目配せする。

    「もしかして憲兵団の捜索隊がこのあたりに…とうとう来たか……奴等を捕まえる、アルミン、囮になれ」

    「わかりました、兵長――」

     イブキが指差した方向からアルミンに鋭い視線をリヴァイが移しても、
    彼は当たり前のように従う。前日までの不安の色はその眼差しから消えうせ、
    再びリヴァイについていく意気込みを取り戻していた。

     2人の憲兵が囮となったアルミンの前に現れた途端、隠れていた木々の上からリヴァイとミカサが
    飛び掛り、難なく捕まえることが出来た。
     捕まえられた2人の憲兵はマルロ・サンドとヒッチ・ドリスである。イブキはミカサなら問題なく
    成し遂げられるだろうと、深く心配せず少し離れた木陰から見守っていた。

    (この高さだったら……立体起動がなくても、私にも出来たかもね――)

     リヴァイとミカサが飛び出した木を見上げながらイブキは密かに唇の端を上げる。ただ新しい
    自由の翼を手放し気持ちにはなれず、ガスボンベに手のひらを添え冷たい感触を味わっていた。 
     リヴァイは短期決戦としてミカサとアルミンを憲兵団に忍び込ませエレン・イェーガーたちの
    居場所を突き止める、という作戦を立案した。

    「リヴァイ、忍び込むなら私が――」

    「いや、おまえはまだここでは新兵だ……却下する」

     イブキが自ら忍び込むと提案するが、リヴァイは認めない。だがその光景を見ていた憲兵の
    マルロが皆に協力すると言い放つと一同、驚きで目を見開き、特にリヴァイは怪訝な表情を浮べた。

    「中央憲兵を探る任務なら俺にやらせてください!
    変装なんかするよりも、ずっと確実なはずです!!」 

    「何だおまえは……」

     決意が篭った口調で、マルロは必死にリヴァイに自分の考えを訴える。不正を正したい、という
    彼の主張を目の当たりにしたジャンはある人物を思い浮かべマルロと重ねていた。

    (こいつ……本物のバカだ)

     リヴァイはマルロの主張に耳を貸すことはなく、サシャに2人を近くの木に拘束するよう命じた。

    「兵長、ここは俺にやらせてください――」

     思惑顔のジャンがリヴァイに自ら2人を任せて欲しいと頼む。リヴァイはジャンに何か企みが
    あると踏んでそのまま任せることにした。

    (ジャンなら……何かしてくれるだろうね――)

     ジャンを尻目に、イブキは彼に期待しながら3人が森の中に消えていく背中を見送った。
     
     皆がそれぞれの愛馬に餌をやり、出かけの準備が整った途端、額から少しだけ血を流すジャンが
    馬小屋に目掛け、駆け足で戻ってきていた。その姿に眼光鋭くリヴァイは舌打ちする。

    「ジャン、てめー……何が――」

    「兵長! マルロとヒッチが調査兵団に協力するという覚悟を証明してくれました…!」

     いち早くリヴァイに一報を届けたい、というジャンは駆け出してきた影響で荒々しく息を切らす。
     その顔は活き活きとしているが、左右の手のひらを膝につけ、
    身体全体で息をしているようだった。
     ジャンは『思い当たる人物』の人格とマルロを重ね、
    彼ならきっと協力するだろうと、睨んでいた。
     命を懸けて彼等を仲間に迎え入れようと意気込んだ結果が実り、それをリヴァイに突きつけた――

    (今度は憲兵団から新たな仲間を……エルヴィンの部下らしいわ――)
     
     ジャンの活躍にイブキは微笑みを送る。額から血を流しても、達成感からか、傷を気にしない
    ジャンにサシャは目を見張り、救急箱を取り出して、手当てを始めた。ジャンは手当てをされ
    初めて血を流していたと気づく。それほど夢中で彼等の協力を勝ち取ろうとしていたのだった。
  9. 9 : : 2014/07/16(水) 11:33:04
     中央憲兵団の根城を見つけたリヴァイ班は月明かりの下、その城を目標とし辺りの草むらから
    忍びゆく。
     イブキにとってはそれが『専門分野』であり、草むらから顔を出さないように、
    また風で草が揺れると、咄嗟に身を屈め足音を立てない忍び独自の歩き方をしていた。
     リヴァイはジャンと憲兵2人から得た情報で予想よりもとても早くこの場所までこれたと
    確信するが、イブキの気配を消しながら移動する『戦術』に目を見張る。

    (ケニーの野郎……こんなことまで教えていやがったのか…あの野郎は相変わらず
    俺の知らないことだらけだな――)

     身を屈めながらリヴァイは小声で皆に指示を出す――

    「あの城まで……この満月の明かりは頼りになるが……
    敵に俺たちの姿を晒しているかもしれない……
    全員、イブキの動きをできるだけ真似をして動け…今度はこっちから仕掛けてやる」

     リヴァイは皆に背中しか見せていないが、きっとその目はエレン・イェーガーと
    ヒストリア・レイス奪還を主とする作戦遂行を最終目標とし、頭上の柔らかい月明かりとは
    正反対にその眼光は強く輝きを放っているだろうと、イブキを始めリヴァイ班の皆は睨んでいた――
  10. 10 : : 2014/07/16(水) 11:33:31
    ★あとがき★

    皆様、いつもありがとうございます。
    お手数ですが、ご感想等はこちらまでお願い致します!
    ⇒ http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2

    8月号もエルヴィンの姿は登場せず、寂しい限りですが…今後、ナイルと2人での活動も
    見込まれるのでしょうか。
    イブキが立体起動装置を簡単に扱えた、というのは隠密としての身体能力の高さもあれば
    ミカサの叔母でもあり、同じような素質を持っていた、ということです。
    イブキもリヴァイ班の一員となりましたが…また来月はどうなるのでしょうか?
    エルヴィン&ナイル…2人はどういう機会で会うことになる…?色々と妄想が(笑)
    益々目が離せないですね。。これからも進撃していきます!
    引き続きよろしくお願い致します!

    ★Special thanks to泪飴ちゃん★(・ㅂ・)/♡love*

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

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密めき隠れる恋の翼たち~2 シリーズ

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