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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』

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  1. 1 : : 2014/06/14(土) 10:43:30
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』   
    (http://www.ssnote.net/archives/2247)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』   
    (http://www.ssnote.net/archives/4960)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』   
    (http://www.ssnote.net/archives/6022)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』  
    http://www.ssnote.net/archives/7972)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』 
    (http://www.ssnote.net/archives/10210) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』 
    (http://www.ssnote.net/archives/11948) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
    http://www.ssnote.net/archives/14678) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』   
    http://www.ssnote.net/archives/16657

    巨人に右腕を喰われたエルヴィンと   
    最愛のミケを失うが、   
    エルヴィンに仕えることになった   
    隠密のイブキの新たなる関係の続編。   
    『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した   
    オリジナルストーリー(短編)です。 

    オリジナル・キャラクター   

    *イブキ   
    かつてイヴと名乗っていた   
    エルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵   
    生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。   
    ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。   
  2. 2 : : 2014/06/14(土) 10:44:42
     調査兵団団長、もとい、元団長のエルヴィン・スミスは第一憲兵団の馬車に乗り込み、
    その窓から潤いを取り戻しつつあったトロスト区の街並みを眺めていた。
     拳を強く握った左手を膝に置き、覇気のない顔の住人たちが働く様子をエルヴィンは眺め続ける。
     馬車が移動するにつれ、住人が視界から消えてもその視線は遠い未来を見ているようだった。

    (イブキ、リヴァイ……どうか、皆…生き残ってくれ、この戦いは…血涙を絞るしか…それしか出来ないのか――)

     エルヴィンは手放したくない存在のイブキ、信頼に足るリヴァイを始め部下たちの命が
    まさに死と隣り合わせであると想像するだけで、左手の拳は更に強く握られる。
     ハンジ・ゾエに調査兵団を託し、『調査兵団の表の顔を通す』と言ったものの、
    これから兵団のため、直ちに何が出来るかと、これまでの経験や知恵をその頭脳に
    注ぎ込んでも、最善策は脳裏に浮かばなかった。

    (…この期に及んでも俺は…博打打か……)

     不甲斐なさに自嘲の笑みで頬を緩ませながら鼻を鳴らす。
     エルヴィンが遠くを見ながら笑みを浮べる横顔に対して、隣に座る第一憲兵は
    冷徹な眼差しで口を開いた。

    「エルヴィン、何を笑ってやがる……? まぁ、今後を案ずれば……これがおまえの最後の
    微笑みになるかもしれないな……」

     その冷え切った声を耳にしても、エルヴィンが遠くを見つめる眼差しのまま、第一憲兵団の馬車は
    目指す施設に向う。
     トロスト区の鉛色の雲が浮かぶ空の下、不快に轟いていたはずの車輪の音はいつのまにか
    消えてなくなっていた――。
  3. 3 : : 2014/06/14(土) 10:46:12
     嫌味なくらい晴れ渡るストヘス区の空の下、イブキはケニーの攻撃から逃げ惑いながら、
    隠密としての自分の動きがとてつもなく鈍いと初めて思い知らされていた。

    「へぇー、イブキ…さすが、俺の子だな、もう気配を消しやがった……」

     リヴァイとイブキを襲った屋根の上はケニーが放った弾丸で、その一部は瓦礫を作り出していた。
     横たわる調査兵の遺体を気にも止めず、対人立体起動装置の弾丸を装填させながら、
    しわの目立つ目じりを細める。その眼差しは冷酷と形容する以上の冷酷さが宿っていた。
     ケニーはイブキを必要以上に追いかけず、ただリヴァイだけを的に絞り、再びストヘス区の
    空に飛び立った。

    「おまえは…俺が手こずらせるまでもない……リヴァイは…あのチビはどこだ――」

     かつては自分の子としてイブキを育ててきた親の愛情はケニーに存在したこともあった。だが、
    それさえも捨て去り、自分の野望を果たす為、やはり一時は一緒に暮らしたこともあるリヴァイの
    命も奪う目的で銃を向けていた。 

     イブキはリヴァイとは反対方向に逃げ、彼女の視界には遥か彼方に立体起動を操り小さくなる
    後姿を捉えるが、彼は更に対人立体起動装置を身につけた敵に追いかけられていた。

    「今まで…私が命をかけてやってきたことが……もう、活かせないなんて……」

     レンガ造りの建物に身を隠し、遠くのリヴァイを刺すような視線で眺めていた。自分の実力が
    敵に追いつけない悔しさで奥歯を噛み締めるが、プライドが崩れそうになる瞬間をイブキは否めない。

    「だけど…この戦いで…そんなことを気にしている場合じゃない…! うわあっ!!」

     リヴァイを目で追うことに集中しすぎて、イブキの耳が敵の動きを捕らえることに鈍らせたそのとき、
    彼女の背後に弾丸が放たれ、危機一髪で交わすも左腕を負傷してしまう。

    「…イブキじゃねーか…まさか、こんなところで会うとは……! まぁ、涙の再会ではないことは
    確かだがな」

     隣の建物の屋根にかつての仲間が降り立ち、イブキに銃口を向けたまま睨みつけていた。

    「やっぱり……死んでなかったんだな、あんたは…確かに腕っ節は強いが……
    それよりも、男を惑わす方が勝っていたな……調査兵団では何人に…その身体を使ったんだ…!?」

     罵声を浴びせられたイブキは自分を睨むかつての仲間へ怒りと殺意が沸く。彼が次の弾丸を
    装填して、有効射程距離を計る最中、イブキは隙を突いて素早くその身を建物の影に隠した。
     その仲間の周りには続々と敵が集まるが、かつての仲間たちもいれば、イブキが見かけたこと
    さえない輩も多いと気づく。物陰から彼等を睨み返すイブキは佇まいで、隠密としての動きや
    勘を頼れる敵は少ないと判断した。

     イブキの視線を感じたかつての仲間が彼女に銃口を向けるが、自国に戻れば一流と言われる
    隠密としての彼女が身を隠す動きは素早く、かつての仲間たちの目前で瞬く間に煙の如く消え去った。

    「あの女、どこに行きやがった?」

    「立体起動なしで俺たちから逃れるはずがない、今はリヴァイが優先だ、行くぞ――」

     調査兵でも野放しにしておけば一番の厄介者のリヴァイを最優先とし、イブキは後回しにされる。
     だが、これも彼等の作戦の一つであり、すぐにイブキを捕まえられる自信に充ちた行動でもあった。

     かつての仲間たちがリヴァイを追いかけストヘス区の空でその姿が小さくなったとき、
     イブキは通り沿いにあるレンガ造りの大きな屋敷に忍び込んでいた。罵られたことで、
    かつての仲間たちに怒りや憎しみがイブキの心に渦巻く。
  4. 4 : : 2014/06/14(土) 10:48:07
    「あいつら…絶対に許さない…これ以上、生きていられるとは思うなよ……」

     人の気配が感じないその屋敷にイブキはしばらく身を潜めることする。血が滴る左腕の傷口を
    右手で押さえる。左手にはニファのブレードが握られたまま、目を凝らし止血できる布がないか
    探しているときだった――

    (……イブキ、殺すな…)

    「えっ…? ミケ…!」

     突如、ミケ・ザカリアスの声がイブキの心に響く。彼女の命が危ういとき、ミケの声がイブキの
    心に沸いてくるように感じることがある。懐かしさと愛しさで、血で濡れた左手でその胸を押さえていた。
     ミケの声を感じても、イブキは奥歯を噛み締め、肩をすぼめる――

    「…この地獄から抜け出すには…私はまた暗殺者のイヴとして…
    氷のような非情の心を取り戻さなければいけない……」

     かつての仲間たちの脅威を目前にしたイブキは暗殺者の闇から救ってくれたミケの前で、
    再びその闇に戻るべきと震える唇で決意する。

    「ミケ…わかって……」

    (……お願いだ、やめろ……イブキ、愛して――)

    「…ミケ! わかってよ!!」

     悲しげなミケの声が心に響いたとき、その名を叫びながら、イブキは握るブレードを振りかざし、
    何もない空間を切り裂いた。イブキはミケへの想いを断ち切るつもりで、力強く振りかざしていた。
     それは自分が調査兵としての頑なな覚悟の表れでもある。

    「ミケ…私だって…この壁内の困難に命をかけると誓った調査兵――」

     イブキがミケにゆっくりと語りかけようとしたとき、その鋭い耳が立体起動で空(くう)を駈ける
    ガスの音を捕らえた。屋敷内の窓近くの壁に背中を合わせに外を睨みつけ、イブキはその正体を知る。

    「あいつか……」

     窓際を通り過ぎたのは自分を少し前に罵ったかつての仲間だった。
     イブキが窓の鍵を無音のままに開錠する。その右手にはニファのブレードがぎゅっと握られていた。

     他の仲間を探しているのか、左右を見渡しながら、突如空中で止まった瞬間、
    イブキが窓を開け、手早く彼に目掛け憎しみを込めたブレードを投げつける。
     背中の立体起動装置に命中し、瞬く間に機材が壊れ、彼は悲鳴と共に地面に叩きつけられた。
     
    「ざまーみろ……」

     地に落ちたかつての仲間を冷めた眼差しで見下げても何事もなかったようにイブキは静かに窓を閉める。
     窓際から姿を隠して、イブキは空ろなまま、ため息をついた。

    「私だけの力では限界……私も飛び方を変えなければいけない…」

     ブレードを失って、イブキは忍び込んだ屋敷で武器になるものはないか探し回り、たどりつたのは台所だった。
     流し台を見回ってもナイフやフォーク、包丁くらいしか見つからなく、再び深いため息をつく。
     その時、左腕の傷に痛みが走るが溢れ出ていた血はすでに止んでいた。 
     
    「台所だし…これしかないか…」

     自嘲の笑みを浮べながら、器用に包丁を使い、イブキは布巾を縦長に切って包帯の形を作る。
    傷口を水で洗い、イブキは丁寧に傷口の手当をしていた。

    「ちくしょう……あいつら…覚悟をしていたとはいえ…互いの手の内を知っているだけに面倒だ……」

     包帯で巻いた腕に優しく触れ、イブキは今できることはないかと、ナイフやフォークを手に取り
    流し台に並べる。
     次に目に付いた近くの皿を取り出し、ひっくり返す。 裏側の淵を指先でなぞり感触を確かめていた。

    「これなら……出来る…」

     ナイフやフォークの刃先を砥石代わりの皿の裏で研ぎ始める。その場にあるモノを使い代用品から
    武器に変えることは隠密として当たり前のことである。ただ、その代用品にイブキは鼻で笑う。

    「これじゃ……あいつらの武器に比べると、子供のおもちゃだね……」

     イブキは呆れ顔で再び鼻をふん、と鳴らす。
     用意していたナイフとフォークの刃先が尖り始め、最後のナイフの刃先が太陽の光を反射し、
    その頂が妖しく輝きだす。その輝きがイブキの目に映りこんだとき、
    彼女の心に命を尊いとも感じなかった暗殺者、イヴの非情な気持ちが蘇ろうとした――
  5. 5 : : 2014/06/14(土) 10:49:31
    「まぁ…これで、多少は何とか…なるか…あとは、この家は金持ちそうだから、
    銃とか隠し持っているんじゃないのか……」

     刃先が鋭い新しい武器を自分の懐に隠しながら台所から離れ、銃を探そうとしたそのとき、
    イブキの動きが自然に止まる。

    「えっ…これは、でも…なぜ――」

     イブキの脳裏に突然、ミケとの思い出が映し出された。二人で笑顔と共にした食事、
    初めてキスしたときの彼の唇の感触、そして初めて二人が夜を過ごしたとき、その手に触れた
    彼の素肌や見上げた優しい眼差し――その光景にイブキは呆然と立ち尽くし、胸が苦しくなる。
     それは非情な心を取り戻そうとするイブキにミケが見せたものだった。
     
    「ミケ…そんな……」

     イブキはミケへの気持ちで胸が高鳴り、ミケへの想いが蘇りそうで怖くなった。
     同時にエルヴィンの顔もその脳裏にチラついていた。

    「だけど、私は…もうエルヴィンと……」

     非情な気持ちを取り戻そうとしていたのに、イブキの心はミケへの罪悪感が重くのしかかるようだった。

    (……イブキ、俺は…いつでもおまえを見守っている……)

     ミケの声がイブキの心で静かに響いて、その声は心の奥深く沈んでいくような感覚がしていた。

    「どうして……私は…どうしたら……」 

     イブキはエルヴィンとの新たな関係を思い浮かべ、涙がゆっくりと頬をつたう。命をかけて挑もうと
    した決意が揺らごうとしたとき、わざと左腕の傷を強く握り、痛みを腕に走らせ我に返る。

    「……い…っ…ミケ、ごめん」

     ミケが見せた光景のおかげで、イブキは非情にならなくて済んだ。戦いに冷静さは必要だが、
    闇には戻してはならない、とミケが感じていたのか――とイブキは想像した。

    「ミケ……私は…でも、あなたを裏切ったのに――」

     ミケの優しさが、思いやりが、イブキに罪悪感を残す。それはエルヴィンに気持ちを向けることにより、
    心の奥底で失ったはずの彼への気持ちである。

    「私は…なんて女なんだ……」

     涙を右手の指先で伝う涙を拭うと、自分の血の匂いがする。それさえ気にせず、イブキは
    溢れる涙を血に濡れた手で拭わずにはいられなかった。
  6. 6 : : 2014/06/14(土) 10:52:01
     腕の傷でイブキは気配は消しても、空(くう)は飛べない。しばらくこの屋敷で身を隠し
    外の様子を伺うべきか、逡巡しているときだった。

    「馬車の…音か」

     窓の外を見下げると、御者が空っぽの荷台を引いて石畳の路面をゆっくりと駈けている。
    御者は緑色のフードで顔を隠しているが、更にその後ろから馬に跨る見覚えのある顔に
    イブキはホッと胸を撫で下ろした。

    「みんな……無事…ってことは、まだあいつらとは直面していない…のか――」

     安心も束の間、イブキは窓を開け、タイミングを見計らいその姿を晒す。

    「あれは…イブキ叔母さん…? どうして、こんなところに……?」

     リヴァイから託された作戦実行の最中、予想さえしなかった通り沿いの建物から
    顔を出す叔母であるイブキの顔をミカサ・アッカーマンは呆然と見上げていた。

    「イブキ叔母さん、どうしてこんなところで……?」

    「訳はすぐに話すから、その荷馬車、ちょっと止めて!」

     御者のアルミン・アルレルトはイブキの声に手綱を引き、操る馬の動きを止めた。
     その瞬間、イブキは3階の窓から、荷台に目掛け、飛び移るが、怪我の影響でバランスを崩し、
    着地する頃には身体を横に回転さながら、荷台の内壁でその身体を止めていた。

    「――痛っ…さすがに…怪我してたら、うまく飛べないわ……」

     荷台で転がった影響で全体的に左右に揺れ、馬が興奮しそうに走り出そうとするが、アルミンが
    どうにかなだめていた。黒い忍装束の左腕上腕部は白い布で覆われ、二の腕が際立っている。
     立ち上がるイブキは傷を気にする様子はないが、白い布から滲む血にミカサが目を見張った。

    「イブキ叔母さん、何があったの……? それにその傷は…?」

    「あぁ…これね……残念だけど、もう直ぐ…この傷を負わせた奴等が…ご登場かも…」

    「一体誰と応戦したの…?」

    「それより、ミカサ……私にも立体起動装置の使い方を教えてよ…!」

    「えっ! どうして……? イブキ叔母さんは立体起動なしでも、飛べるでしょ…?」

     皆はイブキが立体起動を使いたい、ということに目を見開き驚かされた。だが、傷を押さえ
    眉間にシワを寄せる深刻な眼差しに本気だと直ちに理解される――

    「もう、みんな…そんなにビックリすること…? まぁ…私たちが生き残ったときで構わないから…
    …私が怯んでしまう…それくらいの敵に挑むってことだよ」

    「敵って、第一憲兵なの…?」

    「かもしれないけど…そうじゃないかもしれない……だけど、自分たちの目で確かめたらいいよ…
    そいつらがもうじき現れる。銃声が聞こえるだろ……?」

    「銃声……?」

     イブキの鋭い耳が捉える銃声にミカサを始め皆は首を傾げるが、
    ただ一人、目を見開き反応したのはサシャ・ブラウスである。

    「はい、私も先ほどから聞こえていました! 銃声です! ほら、何発も…!」

    「さすが、サシャだね…! アルミン、この荷馬車を出して……作戦実行中かもしれないけど、
    リヴァイが来たら…新たな指示があるかもしれない、それを従うまで…移動するよ、
    止まったままだと奴等のいい餌食だ――」

    「は、はい…!」

     凄みのあるイブキの声を背後で聞いたことで、直ちにアルミンは手綱を馬に打ち前に進むことにした。
     皆が追っている霊柩馬車が建物を隔てた向こうの通りで走る様子が伺える。

     リヴァイの新たな指示があるまで、皆で忠実に作戦を実行しているが、銃声が聞こえる前に
    立体起動装置でストヘス区の空を駈ける兵士がいると気づく。

    「何だ、ありゃ?」

     手綱を引きながら、ジャン・キルシュタインは驚きを隠せない。その兵が握る手の形で
    さらに目を見開く。

    「立体起動装置なのか? まさか、銃を持ってるみてぇだが…まさか!?」

     兵士がトリガーを引いて銃が轟音を響かせる。その弾丸の的はリヴァイであった。
     リヴァイが弾を交わしながら反撃の如く兵士にワイヤーを突き刺し、立体起動を操作する。
    叫び声を上げる兵士が自分に近づいてくるタイミングを推し量り、リヴァイはブレードを使い
    敵の身体を真っ二つに削いでいた――

     リヴァイが自分たちの真上で人を殺める瞬間を目の当たりにすると、皆はただ頬を強張らせ、
    唖然とするだけだった。

    「殺した…!」

     見てはいけないものを見てしまったような心境に陥るジャンの目の前でリヴァイは立体起動で
    飛び続けている。直後、リヴァイが皆を見つけると瞬く間にガスの音を吹かせながら荷馬車へ飛び降りた。
     皆は額から血を流すリヴァイに息を飲むが、彼は荷台にイブキがいることに安堵することなく
    血で滲む眼差しを注ぐ。
  7. 7 : : 2014/06/14(土) 10:54:10
    「イブキ…生きていたんだな……」

    「当たり前でしょ! 特にリヴァイ…あんたの本当の正体を知るまで、死ねないね…!」

     勝気なイブキの眼差しにリヴァイは冷徹な針で刺すような鋭い目つきを返す。

    「まぁ…おまえもこいつらの動きが読めるはずだ……立体起動装置を教えるべきだったな」

    「えっ…」

    「エルヴィンの野郎、おまえと…いちゃつく暇があるなら、教えるべきだったんじゃねーか――」

    「こんな時に何を…!」

     珍しくリヴァイがイブキに対して前向きなことを言うが、エルヴィンに対する恨み節も含まれる。
     イブキは命からがら敵から逃げてきたリヴァイの横顔に嫌味ではなく、人を殺して殺気立つ
    氷のような声に本気で話していると踏んだ。

     リヴァイは皆にこの場を乗り切る最善の指示をし始めると、他の3人の調査兵がすでに殺されて
    しまったことに愕然としていた。エレン・イェーガーとヒストリア・レイスを一旦諦め、
    逃げ延びることに兵士として備える力のすべてを振り絞ると決意する――

     ミカサに対して殺しを命ずるリヴァイだが、彼女は正面を見据え受け入れた。イブキは自分の
    姪にこの状況下で人を殺させない、とは言えなかった。
     立体起動装置のガスを吹かせる音が続々と近づいてくる上空に皆は息を止めるように構える。
     イブキが胸元からナイフを取り出す姿に冷めた眼差しで舌打ちする。

    「何て…時代錯誤だ…立体起動のブレードを使ってあいつらの銃に敵うのは俺くらいだろう…」

    「確かに…あなたは最強と呼ばれる兵士……もちろん、ミカサだってあなたに次ぐ最強でしょ…? 
    それに武器って扱うヤツの腕次第なんじゃないの――」

     二人の真正面に空を駈けて近づく敵目掛け、ナイフを勢いよく放つ。
     ナイフは敵の太もも奥深くまで突き刺さり、空を駈けながらバランスを崩して身体は
    地面に打ち付けられた。

    「ほう…確かに、イブキ…腕はあるな……だが、これじゃ、追いつけねーんだよ!!」

     リヴァイは自由の翼を休めるのも束の間、彼は再び空に駆け出す。挑んでくる敵の
    身体にブレードを入れ幾人も死に追いやる。その姿を見ながらジャンはライフル片手に
    荷台へ飛び乗った。

    「何で…こんなことに…!」

     背後で震えるジャンの声を聞いたアルミンが振り返る。巨人を駆逐するため、調査兵になった
    はずの彼の決意が揺れ動いていると手に取ってわかるくらいだった。

     敵が荷馬車に回りこみアルミンに銃口を向けた瞬間、空中でミカサに足蹴にされ一人の敵は
    荷馬車に転げ込む。
     目の前の敵に動くな、と叫びながらジャンは銃口を向けても、血を流すその顔に
    トリガーを引くことを躊躇してしまった――

    「動くなっつってんだろ!!」

     ジャンの叫び声も虚しく、敵は手持ちの銃を振り上げ、ジャンのライフルを勢いよく撥ね退けた。
     次に敵の銃口がジャンに向けられ、弾丸が発射される轟音があたり一面に響いた――

     その音にイブキは顔を背けるが、目前でジャンの帽子が放物線を描き飛ばされてゆく。
     イブキは彼の顔をまともに見られなかった。

    (戦いに…犠牲はつきものと…わかっている……エルヴィン、私はあなたの大切な部下たちを
    守れない……私は無力――)

     うつろな眼差しで懐のナイフを再び取り出したイブキをかつての仲間が冷めた目で上空から眺めていた。
     イブキと気づいた敵は彼女が捨てた闇にいつまでも潜んでいて、冷酷で非情な眼差が見開いた。

    「……イブキ、このあばずれがーーー!!」

     奇声にも似た金切り声を上げ笑いながら、荷馬車を標的に立体起動で空を駈ける。
     狂気で満ちたその右手の銃口はイブキに向けられていた。
  8. 8 : : 2014/06/14(土) 10:55:25
    ★あとがき★

    みなさま、いつもありがとうございます。
    今月はエルヴィンが原作で登場せず、寂しい限りでした。来月号で姿を見せることを期待
    するしかありません…。
    今月はエルヴィンが出てないことで、妄想がなかなか下りてこない、というだけでなく、
    初めてのバトルシーンでどのような描写が伝わりやすいか、時間を掛け案を練っていました。
    来月も同じようなシーンが続くかもしれませんが、皆でジャンの無事を祈りたいものですね。
    あと、空を『駈ける』と表現しましたが、正しくは空は『翔る』だそうです。
    立体起動で空を飛ぶ姿は、生き急ぐようで、でも皆を守るため、空を蹴って駆け抜けていく
    イメージで、あえて『駈ける』にしました。ちなみに敵もそんな感じで駈けてます…。
    更新した後、誤字脱字が気になり、修正をすると思います。
    それまで、すいませんがご了承ください。。
    来月もまた楽しみながら更新出来たらと思います!ありがとうございました。

    ★Special thanks to 泪飴ちゃん★( ˘ ³˘)♥ ゚+。:.゚

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

この作品はシリーズ作品です

密めき隠れる恋の翼たち~2 シリーズ

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