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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

エレン「彼女はまぐろ」

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  1. 1 : : 2014/07/15(火) 23:24:47
    「はっ……はっ……、く、もう限界だ……」

    あまり高価とは言えない、少し臭みの強い蝋燭が一本。
    ゆらりゆらりと、天辺で橙色の仄かな灯火を揺らしていた。
    辺りはその蝋燭が唯一の光源として、あまり鮮明にこの室内のあちこちを見渡す事は出来ない。
    すると、その部屋で黒く大きな何かがモソモソと動く。
    それは、荒れた壁紙に投影された2の男女の影。

    「くッ……!! ……、はぁ……はぁ……」

    重なりあっていた大きな一つの影が、男が果てた事により分裂し、一つは柔らかなベッドに身体を横たわらせたモノに、もう1つはそのベッドにウデを立てた状態で横たわるそれを見つめるモノ。

    「まだまだ頑張れるよね?」

    そんな鈴の音のような耳に心地のいい声音とは裏腹に、内容は「もっと頑張れ」と言ったものであった。
    男は苦々しく頬を吊り上げた。

    「ったくよ……!」

    男は、荒く女へと飛び掛かる。
    それは攻撃的なモノではなく、そのまま一緒に横たわり、緩く抱擁するような優しげなモノ。
  2. 2 : : 2014/07/15(火) 23:26:34
    男は指先で女の体表をなぞっていく。
    女のユビサキも、男の硬質化した海綿体を包み込むようにして撫で上げる。
    最初は竿をソフトなタッチで撫でていたのだが、次第にユビサキは根本へと伸び、そこからぶら下がる睾丸へと触れる。
    パンパンに張る精巣をつつくようにして楽しんでいるようだ。

    「いれるぞ」

    男が女の耳元で囁くと、女は擽ったそうにして、身を揺する。
    いいよ、吐息混じりにそんな声が男の耳元で囁かれる。
    男が自身の生殖器を女の穴へと宛てがうと、少しだけ粘液が這っているのを感じられた。
    ゆっくり、ゆっくりと肉壁を掻き分けるようにして、奥へ奥へと禍々しい欲望の具現が突き進んでゆく。
    そして進んでいるのだからいつかは行き止まりがある。
    陰茎亀頭が女の奥を重たく突いた。
  3. 3 : : 2014/07/15(火) 23:28:25
    「もう……、こんなに硬くしちゃって」

    「お前のせいだろ?」

    男は女の頬を撫でてやりながら、ゆっくりと陰部を抜いていく、そして亀頭が外気に触れるか触れないかの所で勢いよく穴の中へと再度捩じ込む。

    「ああ……、出したばっかだってのにもうキツいんだけど」

    「ほらっ、ファイトッ! ファイトッ!」

    男は表面上ではヘラヘラと笑みをつくりながらも、内側では酷く自己嫌悪に囚われていた。
    俺が、不甲斐ないばっかりに……。
    そんな男の気持ちを知りもしない女は、小首を傾げ、クリクリとした瞳で男を見上げる。

    「どうしたの?」

    「なん……、でもねえ……っよ!」

    腰を激しく上下させ、奥へと触れる度に電撃のように全身を駆け回る快楽に身を震わせている男とはうってかわって、女酷く涼しげな表情でニコニコと笑っている。

    (ちくしょう……)
  4. 4 : : 2014/07/15(火) 23:30:08
    女は別に男へと好意を寄せていない訳ではない。
    男の陰部がお粗末な訳でも、男の腕がお下手なわけでもない。
    ただ、女が、’’まぐろ’’なだけであった。
    男は更に腰にかける力を強めた。
    まぐろとは大雑把に言うと性行為などで快楽を得る事の出来ない女性の事を指す。
    そう、女は産まれてこのかたオーガズムに達した事がなかった。
    男は彼氏として最大限に女をオーガズムに導く為に努力してきた。
    だがそんな努力も実る事はなく、女は今日も涼しげに必死な男の顔を見上げるだけ。
    挿入時にオーガズムに達するのは、女性としても稀、それくらいは男も知識として持っていた。
    だが女はレベルが違った。
    首、乳房、乳首、脇、あばら、へそ、骨盤、陰核、脚、足などなど、あらゆる箇所を試したのだが、結局女は微塵も快楽を得る事は出来なかった。
  5. 5 : : 2014/07/15(火) 23:31:40
    男は悩んでいた。
    これでいいのだろうか?
    それにあの粘液さえ、快楽から来たモノでは無く、海中で生きていく上で重要な保護液で……。
    エレンは腰を止め、女の上に覆い被さる。
    硬い鱗が人間の柔らかな肌には少しキツい。

    「どうかした?」

    優しげに心配され、男は、なんでもない、と無愛想にこたえる。
    案外魚類特有の生臭さはなく、硬い鱗も我慢出来る。
    ただ、その保護液だけは、鼻や耳や口にまとわりつくので、少し鬱陶しい。
    それを勘づかれないようにゆっくりと男は隣に寝転がる。

    「なあ……、今お前は幸せか?」

    自分で言っておきながら、少しビクビクしながらも、女は、幸せだよ、と望んだ返答を返してくれる。

    「そっか……」

    男、エレン・イェーガーの彼女は’’まぐろ’’であった。
  6. 6 : : 2014/07/16(水) 00:49:28
    エレン「はぁ……」


    蜜蜂「なんだぁーエレン? 朝っぱらから重たい溜め息なんかつきやがって」


    エレン「なんでもねえよ」


    蜜蜂「ははーん♪ さてはマグロちゃんとうまくいってねえんだろ」


    エレン「近くて遠い。多分聞いたら笑うぞ」


    蜜蜂「任せろ。面白い話は好きだ」


    エレン「ったく、いい性格してるよ本当」


    消しゴム「や、ここいいかい?」


    蜜蜂「おう、いいぜいいぜー」


    エレン「なんでわざわざ俺の横くんの?」


    消しゴム「駄目かな?」


    エレン「いや、駄目じゃねえけど」


    蜜蜂「なッ! エレン!! お前まさか両刀か!?」


    エレン「なんでだよ。俺はノーマルだっての」
  7. 7 : : 2014/07/16(水) 00:51:10
    蜜蜂「いーや、怪しい……、こうなったら両刀って認めるか、マグロちゃんと何があったか吐くまでホモみたくスリより続けるからな!!」スリスリスリスリ


    エレン「うおっ!! 気色悪ッ!! 何もねえって言ってんだろ。お前のせいであらぬ誤解が生まれたらどうすんだ」


    消しゴム「え? なになに? エレン、マグロちゃんとなにかあったの?」


    エレン「ほらあー」


    蜜蜂「いいじゃねえか吐け吐け」スリスリスリスリ


    エレン「別にうまくいってねえわけじゃねえんだよ」


    蜜蜂「じゃあなんだ?」スリスリスリスリ


    エレン「いやな、アイツまぐろじゃん?」


    消しゴム「マグロだね」


    エレン「同時にあっちの方もまぐろなんだよ……」


    蜜蜂「え、マジで?」


    エレン「マジで」
  8. 8 : : 2014/07/16(水) 00:52:53
    消しゴム「えー? まぐろってなに?」


    エレン「お前にはまだ早い」


    蜜蜂「なんかごめんな」


    エレン「ほんとだっての」


    蜜蜂「でもま、そう気を落とすな! 俺なんか一回やっちまったらコイツ爆発しちまうんだぞ?」


    エレン「マジで!?」


    蜜蜂「マジで」


    消しゴム「なにが? なにが爆発するの?」


    エレン「いや、色んな意味でお前にはまだ早い……」


    蜜蜂「でもそれは何かと辛いな……」


    エレン「だろ? 本気で腰振ってんのにアイツメッチャ笑顔なんだぜ?」
  9. 9 : : 2014/07/16(水) 00:55:00
    消しゴム「え、なに? ダンスでも踊ってるの?」


    蜜蜂「ベッドの上で運動会開いてんだよ」


    エレン「やめろ蜜蜂!! 消しゴムたんを汚すんじゃねえッ!!」


    消しゴム「なんの事?」


    蜜蜂「ま、俺も純粋無垢な消しゴムたんを汚したくはないからお口チャックしまーす」


    消しゴム「ぶー、教えてくれたっていいじゃん」


    エレン「じきにわかるって」


    蜜蜂「だな。お、見てみろよお二人さん。アイツまたスープのせいでふやけちまってる」


    エレン「ん? ああ、紙か」


    消しゴム「紙君も大変だよねー、立体起動の時なんかいつもクシャクシャになって帰ってくるし」
  10. 10 : : 2014/07/16(水) 00:56:42
    蜜蜂「そんな事言ったら豆腐の奴なんかヤバイよな、いつもバラバラだぜ?」


    消しゴム「可哀想だよね」


    エレン「ま、自分でここに来たんだからしょうがねえだろ」


    消しゴム「まあ、そうだけど……」


    蜜蜂「ん、おお! やっと来たかマグロちゃん!」


    まぐろ「うん、ごめんね、ちょっと布団についたヌルヌルに手間取っちゃって」ヌルヌル


    エレン「うおっ! ヌルヌルが飛んできた」


    まぐろ「ごめんごめん」ヌルヌル


    消しゴム「もう海の中じゃないんだしそのヌルヌル止めたらいいんじゃないの?」


    まぐろ「それがね、これって無意識のうちに呼吸してるのとおんなじで自動的に出てきちゃうの。それにこれ細菌からも守ってくれる便利なヌルヌルなんだから」ヌルヌル


    エレン「で、それは分かったとして、なんでお前は来て早々粘液撒き散らしながら机の周り回ってんだよ。マグロが泳ぐのやめたら死ぬのって浮き袋が無いからだろ? ここは地上なんだし走らなくてもいいだろ」


    まぐろ「最早癖みたいなものだね」


    エレン「そっすか」
  11. 11 : : 2014/07/16(水) 01:21:08
    消しゴム「ん、そろそろ移動だね」


    まぐろ「ええっ!? 私今来たばっかりなのにー」


    エレン「お前がそんなヌルヌル分泌してるのが悪いんだろ」


    まぐろ「エレン、それ私に死ねって言ってるのと同じだからね」


    エレン「不便だな、まぐろって」


    まぐろ「そりゃもう不便だよ。不、の便、で不便だよ」


    蜜蜂「まあいいじゃねえかマグロちゃん! 君にはその滑らかな体型に、食べちゃいたいような赤身、煌めく鱗、そう! マグロちゃんには容姿っていう最強の矛があるんだからよお!」


    まぐろ「わあー! 誉め上手だね蜜蜂君って!」


    エレン「人の彼女に手だすんじゃねえぞ?」


    蜜蜂「わかってる、わかってる」


    まぐろ「あぁーん、パンぐらい食べさせてよぉー」


    エレン「置いてくぞー」


    まぐろ「もう! エレンのばーかっ!!」
  12. 12 : : 2014/07/16(水) 01:45:32


    ーー対人訓練ーー



    ハゲ「これより対人格闘の訓練を行う!! 二人一組でペアを組み、ただちに始めろ!!」ツルツル


    蜜蜂「いやー、今日もよくハゲてるなー」


    エレン「ハゲてるなー」


    蜜蜂「あれって育毛剤効くのかね?」


    エレン「いやー、効かねえだろ? だってアレ多分毛根死滅してるぜ?」

    蜜蜂「だよな?」


    ハゲ「そうかそうか、そんなに私の髪型の事が気にいったのならお前達も同じ髪型にしてやろうか?」ツルツル


    エレン「結構であります!!」


    蜜蜂「申し訳ございません!!」


    ハゲ「まったく、はやく始めろ」ツルツル


    エレ蜂「「ハッ!!」」
  13. 13 : : 2014/07/16(水) 01:45:53
    エレン「こえー!! 焦るぅぅぅ!!」


    蜜蜂「なんだよあのハゲ地獄耳かよッ!!」


    エレン「はぁ……、で、どうする? やるか?」


    蜜蜂「いや、俺はサイズ的に消しゴムたんとやってくるわ。他の奴と組ませて何かあったらたまったもんじゃねえ」


    エレン「そうだな、じゃあ俺はゴリラ辺りとやってるわ」


    蜜蜂「おう」


    エレン「おいゴリラー、今あいてるよな?」


    ゴリラ「ウホッ、ウホウホウッホッ」


    エレン「おーけー、ゴリラ。じゃあ俺が暴漢役やるわ」


    ゴリラ「ウホホホホ」


    エレン「うるせえよ!! 今日こそは勝つからな!!」

















    豆腐「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


    ペットボトル「は、ハゲ!! また豆腐がグチャグチャネッチャネチャの木端微塵になりました!!」


    ハゲ「なに? またか……、食堂に連れていってやれ」


    ペットボトル「はい!」


    ハゲ「だから木綿にしろとあれほど言ったのだ……」
  14. 14 : : 2014/07/25(金) 20:39:17
    まぐろ「超人ちゃーん、一緒に組まない?」ヌルヌル


    超人「ええ、構いませんよ」


    まぐろ「じゃあ私から暴漢役ね、いっくよー!」ヌルヌル


    超人「……」フッ


    まぐろ「……、……、あの、ナイフを吐息だけで破壊しないでくれるかな……」ボロボロ


    超人「え? ああ、無力化するなら武器を没収するのが効果的かと思いまして」


    まぐろ「うん、そうだね。短刀壊れちゃったし素手でいくね」ヌルヌル


    超人「ええ、あ、まぐろさん」


    まぐろ「なにかな?」ヌルヌル


    超人「どこ辺りまでなら削いでいいですか?」


    まぐろ「どこまでとかじゃなくて削いじゃ駄目だよ!?」ヌルヌル
  15. 15 : : 2014/07/25(金) 20:39:45
    超人「はあ、そうなんですか。……おや、あの方も素手でやってるようですね」


    まぐろ「え?」ヌルヌル














    エレン「おい! 足元にバナナ落ちてるぞゴリラッ!!」


    ゴリラ「ウホッ!?」


    エレン「嘘じゃボケエッ!!」ガシッ


    ゴリラ「ウホッ!? ……こッ……くぁ……こほっ……」















    まぐろ「騙したくせにガチめの大人げないチョークスリーパーキメてるね……」ヌルヌル


    超人「お知り合いですか?」


    まぐろ「まあね……」ヌルヌル


    超人「はあー、そうですか。おや、あちらでもまた一段と激しい組み合いをしてますね」


    まぐろ「ん?」ヌルヌル



















    熊「ガフゥ……、ガフゥ……」


    骨付き肉「いやああああああ!! 私のこの脂の乗ったなんかこうジューシーでふっくらしたなんか美味しそうな所がなんやかんや噛みちぎられるぅぅぅぅぅ!!」





















    まぐろ「大丈夫なのかなあれ?」ヌルヌル


    超人「さあ? いちようあのお肉さんは紅潮して荒く息を吐いてますけど」


    まぐろ「大丈夫そうだね」ヌルヌル
  16. 16 : : 2014/07/25(金) 20:40:54
    オカマ「あら、まぐろちゃーん! 今日も可愛いわねえー!」


    まぐろ「あ、オカマちゃん」ヌルヌル


    オカマ「今二人でやってるの?」


    まぐろ「そうだよー」ヌルヌル


    オカマ「あらっー! じゃあ私も一緒にやってもいいかしら?」


    超人「私は構いませんよ」


    まぐろ「いいよ! いいよ! 大歓迎だよっ!」ヌルヌル


    オカマ「じゃあ私が襲われる役やるわねー」


    まぐろ「あ、そういえば今短刀がないから素手だけどいいかな?」ヌルヌル


    オカマ「ぜんっぜん、構わないわよ」


    まぐろ「そう、よかった! じゃあまずは超人ちゃんからね!」ヌルヌル


    超人「私ですか?」


    オカマ「あらー? その反応、もしかして私の事見くびっちゃってる感じぃー? 別に気にしなくてもいいわよ。これでもスラムで日々レスリングをこなしてきた女の子なんだからっ☆ アナタみたいな細い身体にはまだまだ負けないわよぉーん」


    まぐろ「え? レスリング?」ヌルヌル


    オカマ「そ、レスリング」


    超人「そうですか。ならばこちらも全力でいきましょう」


    オカマ「ええ! バシッときなさい! バシーー」バシュ


    まぐろ「おお!! 流石は超人ちゃん!! パンチがはやすぎて残像を初めて生で見たよ!!」ヌルヌル


    超人「いえいえ、そんな。大した事ないですよ」


    まぐろ「大した事だよ!! 大体、超人ちゃんはこの訓練所でもトップレベルの……、あれ? オカマちゃんの頭はどこいったの?」ヌルヌル


    超人「さあ?」


    オカマ「」ピュー
  17. 17 : : 2014/07/25(金) 20:42:20
    なんたこれwww期待ですwww
  18. 18 : : 2014/07/25(金) 20:42:55
    >>17
    ありがとうございます。







    ***食堂***



    蜜蜂「いやあ、にしてもゴリラはつえーな。エレンが投げ飛ばされる所なんて滅多に見れねえよ」


    エレン「ほっとけ」


    ゴリラ「ウッホウホホ」


    エレン「励まされるのが一番辛いって知ってる!?」


    男「ーー、ーー、ーー」


    消しゴム「確かにね。エレンがどう頑張ってもゴリラ君に勝つ事なんて出来ないかもね」


    エレン「うるせえっ!! これから強くなんだよ、成長期なめんな!?」


    超人「すいません。ここよろしいですか?」


    男「ーー、ーー」


    超人「ありがとうございます」


    蜜蜂「おお! 誰かと思ったら超人ちゃんじゃないの!! 珍しいね。君がここに来るなんて」


    超人「ええ、まぐろさんにお呼ばれしてもらいまして」


    蜜蜂「なるほど」
  19. 19 : : 2014/07/25(金) 20:46:25
    消しゴム「あ、そういえばみんなは知ってる? 今日の夕食の事」


    エレン「ん? 今日なにかあんの?」


    消しゴム「何かね、今日はやけに豪勢な食事が出てくるらしいんだけど」


    ゴリラ「ウッホウウホ?」


    消しゴム「ふふっ、違うよ。別に最後の晩餐なんかじゃなくて、あの耳が悪いおじいちゃんが捕まえてきたらしいよ」


    蜜蜂「うちのコックってパワフルだな」


    男「ーー、ーー、ーー」


    エレン「だな」


    超人「ちなみにどんな食材なんですか?」


    消しゴム「んーとね、この104期の全員が食べても有り余る位の大きな獲物だったんだって」


    エレン「へえー、猪かなんかか?」


    蜜蜂「無難に鹿とかじゃねえのか?」


    ゴリラ「ウッホホホホ」


    エレン「ハハッ、流石に熊はねえだろ」


    消しゴム「ま、どのみち楽しみだよね」


    蜜蜂「だなー」
  20. 20 : : 2014/07/25(金) 20:48:22
    日が壁の外へと沈み、夜空に煌めく満天の星々がそんな夜闇の中で自身達を見上げる一人の漢を微細ながらも小さく照らしていた。

    手羽先(衣)「ふぅ……」

    手羽先は、訓練兵の寮の裏の森の、周りを木々に囲まれた小さな泉で手頃な岩に腰を下ろして自身をここへと呼び出したその人物を待ち続けていた。
    19時間。
    手羽先は、訓練をサボり処罰を覚悟した上でその岩の上に座り続けていた。
    最早尻の感覚はない。
    秒速30万キロの速度で地球に到達したその光の群れを眺めながら、手羽先は汗が染み込みふやけてきた衣をキツく握る。

    手羽先(衣)「勇気をだせ俺……! 臆病風に吹かれるな……」

    弱気になり、逃走という選択肢を頭の中に思い浮かべてしまった手羽先は、頭を左右に力強く振り、頬を勢いよく殴り付ける。
    拳の喰い込んだ頬が、焼けるような熱を放つ。
    拳をはなすと、涼しげな夜風が頬を緩く撫でていく。
  21. 21 : : 2014/07/25(金) 20:50:50
    手羽先(衣)「お前ならいける、そうだ。いけるさ。絶対に前みたいに奇声を上げるんじゃねえぞ俺……」

    ブツブツと、自身に暗示のように語りかけながら心を落ち着けていた手羽先であったが、脳内では上手くいっても、いざ行動に移そうとすると上手くいかないように、手羽先は背後から唐突に投げ掛けられたちょっとした挨拶に「キエエエエッ!!」と奇声を上げた。

    手羽先(衣)「ペ、ペニスバンドちゃん……!」

    慌てて振り返ると、そこには黒のお高そうな革製のベルトで直立した、手羽先の意中の女性、ペニスバンドがニコニコと微笑んでいた。
    ペニスバンドとは、勃起力の足りない男性や、女性などが装着する張形、別名ディルドの事である。
    可愛らしい笑顔が刻まれたその身体は、禍々しい陰茎を模しており、やけにリアルな造形が手羽先の胸の内を熱くさせる。
    それこそ、先程まで頬に感じていた痛覚のように焼けるような熱を。
  22. 22 : : 2014/07/25(金) 20:53:09
    ペニスバンド「えへへ、待った?」

    手羽先の頭の中では、それはもうごく自然に「待ってないよ」。
    そう返したつもりだった。
    だが実際は、「おぼっちゅ」。

    現実は残酷であった。

    手羽先(衣)「そ、そそその……!!」

    ペニスバンド「ん?」

    手羽先(衣)「きえいあ!!」※訳『綺麗だ』

    ペニスバンド「うん。ありがとっ!」

    ああ、もう死んでもいい。
    手羽先はだらしのない筋肉の緩みきった顔を晒しながら、そんな事を考える。
    手羽先は別に、女性が苦手、なんて事はないのだ。
    昔はそれはもうチャラチャラで、仲間からは「あ、チャラ」と呼ばれていた程であった。
    女をみれば即座に顔の確認。
    女と話せば確実に求婚。
    女がいれば余裕で発情。
    と、中々の男ではあったのだが、そんな手羽先も、今では一人の女性を堅実に愛する、立派な漢になっていた。
    何故手羽先がそれほどまでに変わってしまったのか、それはこのペニスバンドが大きく関与していた。
  23. 23 : : 2014/07/25(金) 20:58:27
    時は遡り2年前……。
    手羽先がまだチャラで、大元から分離する、鶏だった頃。
    兵士としての訓練をこなしていた鶏はある日、一人の男に捕らえられてしまった。
    その名は、【おじいちゃん】。
    そんな極悪非道な名前を掲げた一人の男は、つい便所で用を足していた鶏を、家畜だと勘違いしてしまい、調理場へと連れ去ってしまったのだ。
    鶏はもちろん反抗し、自身は兵士だ、と叫んだ。
    だが生憎おじいちゃんは耳が悪く、

    鶏「ヘイッ!! おい、おじいちゃんヘイッ!! ミーは兵士だYO!!」

    おじいちゃん「はいはい、今調理してあげまちゅからねえー」

    鶏の必死の叫びはおじいちゃんに届く事はなかった。
    ドンマイ鶏。
    そして調理場へとたどり着くと、食材達の芳しい芳香が鼻に優しく入り込んでくる。
    鶏は釣り上げられ、船の上で必死に足掻く魚のようにして、体をブンブンと揺らす。
    おじいちゃんは、それを煩わしく感じたのだろう。
    鶏は、硬く、よく洗われていないせいかやけに生臭いまな板の上に勢いよく叩きつけられた。
    おじいちゃんのフルスイングで、まな板へと頭をしたたか打ち付けた鶏はそこで意識を手放してしまう。
    こうやって調理の直前に息の根をたつ事で、新鮮な肉として調理出来るという確かな技術ではあるのだが、鶏は思わずにはいられなかった。

    「普通に首おとせばいいんじゃね?」

    だがおじいちゃんには届かない。
    だって耳が悪いんだもの。
    ドンマイ鶏。
  24. 24 : : 2014/07/25(金) 21:01:27
    そしておじいちゃんは、今までに幾つもの命を奪ってきた、業物、「たかし」とひらがなで小さく彫られた包丁へと手を伸ばす。
    おじいちゃん、いや、たかしは、その包丁を見てつい自身にこれを譲ってくれた人の事を思い出す。

    ばばあ『あ、たかしーこれいる? なんか新しい包丁拾ったからやるわ』ブンッ!!

    思いでの中の母親が、オーバーでこちらへと包丁を投げ付ける記憶が蘇る。

    おじいちゃん「母ちゃん、なんで死んじまったんだよ……、くそ……」ポロポロ

    たかしの皺だらけのふやけた顔を、涙が皺をなぞりながら顎へとつたっていく。
    だがいつまでもそんな感傷には浸っていられない。
    だってたかしは、おじいちゃんだから。
    おじいちゃんは力強く包丁の柄を握る。

    おじいちゃん「おじいちゃん……いきます……!!」

    おじいちゃんは包丁を投げ捨て、皺くちゃの両手で勢いよく鶏の脚をもぎ取った。

    鶏(右脚欠損)「え、ちょ、あぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!??」ブシャー

    おじいちゃん「もういっちょ」グッ

    鶏(両脚欠損)「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」ブブシャー
  25. 25 : : 2014/07/25(金) 21:04:29
    引き千切るという情けの「な」の字もない暴力により、荒い傷口から真っ赤なドロドロの鮮血が一気に溢れ出る。
    脚を動かす事に重要な神経が、人間の陰毛のように傷口から複数垂れ下がる。
    鶏の自慢であった純白の羽は、自身の血液により少し黒みがかった赤に染まる。
    溶岩にでも突っ込まれたような灼熱に、死を体現したかのような限度を間違えた現実離れの激痛。
    身体の穴という穴から粘液が噴き出す。
    喉を全力で酷使した大爆音の悲鳴と共に、糸を引きながら唾液が散る。
    今まで無数の女を見定めてきた目からは、滝のように涙がこぼれ続ける。

    鶏(なんで、なんで俺がこんなめに……)

    おじいちゃん「あ、きったね! おニューの靴が汚れちったあー」

    そういっておじいちゃんは1度、調理場へと背を向けた。

    鶏(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い)

    自身が何かしたのか? いや、他人に迷惑をかけるような事はしていない。
    誰かの妬みをかってしまったのか? いや、妬みをかわれる程の何かを自分は持っていない。
    自問自答を繰り返し、このような事になってしまった原因を探ろうとするが、そんなモノは見付からない。
    なんせ今回の発端は勘違いなのだ。
    見付かる訳がなかった。
    そして鶏からすればただの悪魔、おじいちゃんが調理場へと帰ってきた。
    鶏はもちろんおかえり、なんて事は言わない。
    かわりにおじいちゃんが自分で「おかえり」と自分に言葉を投げ掛ける。
  26. 26 : : 2014/07/25(金) 21:13:02
    おじいちゃん「さて、続きを始めよう」

    逃げなきゃ。
    鶏は辛うじて残っていた気力を振り絞り、残った羽でまな板をかく。
    だが鶏の羽は、歩く事も飛ぶ事も出来ないような、飾りと同等なもの。
    羽は自身の身体を持ち上げる事さえ出来ない。

    鶏「動け、動けよ……!! クソッ!! 誰か……、助けて、助けてくれよッ!!」

    おじいちゃん「こらこら、動くと危ないぞ」

    そんな鶏の叫びは誰にも届かない。
    そして次の瞬間、鋭利な鈍色が鶏の胴を貫いた。
    その鈍色に刻まれた「たかし」の文字が血の赤を纏う。
    おじいちゃんのひび割れた指先が鶏の羽を掴んだ。
    そして力任せに腕に力を込める。
    それは、洗練されていないからこそ、無駄に痛みを倍増させる。
    鶏の口からは、最早言語ではない何かが壊れた蛇口のように音を垂れ流しているだけであった。
    大空を羽ばたき、空高くを飛翔する事すら、地を踏みしめ、疾風のように駆ける事すら出来なかった飾りで、役立たずな両羽であったが、鶏は自身のそんな羽が好きだった。
    確かに飾りみたいな羽ではあったが、それは紛れもなく自身の身体なのだ。
    だが、そんな愛着のあった純白の羽は、今では血にまみれ、身体から分離している。
    この残虐の塊のようなこれが、最初で最後の、最悪で最低な、手羽先の誕生の瞬間でなのであった。
  27. 27 : : 2014/07/25(金) 21:13:44
    おい






















    おい
  28. 28 : : 2014/07/25(金) 21:16:51
    ーー食堂ーー


    手羽先(衣)「……、……」

    そして手羽先は訓練兵の食卓に並ぶ。
    つい先程までは自身も、自身の胴体だった部分や、脚だった部分を笑いながら喰らう者達の一員だった。
    そして自身も今の自身のように虚ろな目をした者達を喰らい、生きてきた。
    このままだと喰われてしまう未来は確実で……。
    だがそんな事よりも、手羽先の頭の中では、火山のように煮えたぎった油の中に放り込まれ、長時間の間その地獄の海を溺れていた自身や、元身体の事なんかが頭から離れず、それが酷く愉快に躍り狂う。
    ただひたすらその記憶から逃れようとしていた。
    だがそれは一向に離れようとしてくれない。
    むしろそれは考えれば考える程に、自身の脳へと力強く根を下ろす。

    手羽先(衣)「くそ……、誰か……、誰か俺を殺してくれ……。お願いだから俺を許してくれよ……」

    手羽先は生きる事に絶望し、むしろ死という選択が最良とさえ思えた。
    殺してくれ、手羽先の悲痛な叫びは酷くか細く虚弱で脆弱あった。

    だが、
  29. 29 : : 2014/07/25(金) 21:20:58
    「ねえ、アナタは生きたくないの?」

    それはまるで天使の囁きのような神々しい声音をしていて、手羽先はそれが自身の壊れかけた脳味噌が生み出した幻聴だと認識した。
    今の手羽先に、その声を性的な対象にするだけの余裕は残っていなかった。
    そんな手羽先の幻聴は続く。

    「せっかくまだ生きられるのになんで死にたいの?」

    幻聴は続く。

    「もったいないよ。だって命はそこに一つしか存在しない貴重なものなんだよ?」

    いくら天使の如き幻聴でも、今の手羽先にはただの雑音に等しく、手羽先はその声から耳を背けた。
    幻聴は続く。

    「アナタはまだ生きれるじゃない。死ぬにはまだはやいよ」

    「うるせえなッ!!」

    手羽先は叫び、その余韻が消え去った直後に、やっと自身が声を張り上げていた事に気がついた。
    そしてそれと同時に、その声が幻聴なんかではなく、現実のモノなのだと言う事もその声を発していた本人を視認して確かめた。

    「……、もう、ほっといてくれ……」

    手羽先は痛む筋肉組織を気力で動かし、その奇妙な天使に背を向ける。
  30. 30 : : 2014/07/25(金) 21:24:28
    「ほっとけない、ほっとけないよ。だってアナタ苦しそうだもの」

    「苦しいよ……、そうさ苦しいさ!! だけどな、もうどうする事も出来ない!! 今の俺がどんな顔をしてるか、俺の心がどんなものかは自分が一番わかってる……、もう、生きていける自信がねえんだよ……!」

    長々と動かした顎や、つい勢いで振り返ってしまった為に、あの地獄を思い出させるような熱と痛みが全身を駆け巡る。
    クソッ……。
    手羽先は小さく拳を叩き付けた。

    「そんなのやってみなきゃわかんないよ」

    「黙れ。俺はそういった確証のない戯言をヒーローぶって演説ぶる奴が一番嫌いなんだ」

    「私はヒーローじゃないよ」

    「知ってる。お前はヒーロー擬きだ」

    「私はヒーロー擬きでもないよ」

    「そうやって痛い所をつかれると、ただ否定の言葉を並べるだけの機械になっちまう、そんなお前はヒーロー擬きだってんだ」

    「違うよ、私はヒーローになろうとも、なりたいとも思わない。でもアナタの事は救いたいと思ってる……、だから、そう、私は僧侶さん」

    「は?」

    知らないの? 僧侶さん、と的外れな事を問い掛けられ、手羽先はつい少しだけ戸惑ってしまう。
    それを知らない、という事だと受け止めた少女は、僧侶さんっていうのはね、と僧侶なるものの説明を始める。
  31. 31 : : 2014/07/25(金) 21:27:14
    「まてまて! 僧侶がなんたるかは知ってる、ただお前が変な事言うから……」

    「私変な事言ったかな?」

    「言ったろ、私は僧侶さん、とかキチガイ染みた事を」

    「変な事じゃないよ?」

    「変だろ、なんでお前が俺を癒そうとしてんだよ」

    「え?」

    「は?」

    無言の沈黙が手羽先の全身をピリピリと刺激する。
    少女は少女で、可愛らしく小首を傾げており、心底な疑問の表情を浮かべていた。
    つい自分が間違っているような気持ちになってしまった手羽先は、自身の発言を振り返る作業に入る。
    だがそれは途中で中断される事となる。

    「だって、そんな悲しい眼をした人を助けたいって思うのは当然でしょ?」

    それは鳩が豆鉄砲を喰らったような、それは死角から急所を抉られたような、そんなよく状況が分かりきっていないアホ面。
    手羽先は、自身のどこか奥底からうねりながら巻き上がるドロドロとした何かを感じ、唸る莫大なエネルギーが出口を求めて喉を競り上がってくる。
  32. 32 : : 2014/07/25(金) 21:34:58
    「俺……、を、救う……だと?」

    「うん。アナタは辛そう」

    「ふざ……けんなよ……! 何が僧侶だッ!! 何が救うだッ!! 世の中を知りもしないような半端もいかない餓鬼がいっちょ前に救うなんて抜かしてんじゃねえぞ!! お前はしってんのか!? 無限の苦の中、仲間達の悲鳴を聞き続ける辛さを!! 全身を蝕む痛覚に悶えながら、必死に足掻く醜さを!! 騒音が喧しい地獄の中で、その騒音が自分の悲鳴だって気付いた時の絶望をッ!! もう無理なんだよ!! ここまで徹底的に壊れちまったら、もうそれは夢物語でしかーー」

    必殺を立て続けに吐き出す自動機銃のような、けたましく吐き出され続けていた哀愁の音は途端に止む。
    思考が一時的に停止する事によって、脳味噌と同じように開けっ放しの口からは音が漏れる事はなくなった。
    柔らかな抱擁が手羽先を包み込む。

    「私は僧侶さんだから、困ってるアナタを救ってあげる。かなしんでるアナタを癒してあげる。独りなアナタを二人にしてあげる。私じゃ、完全に癒す事が出来なくても……、アナタの’’いたみ’’を軽くする事位は出来るんじゃないかな……?」

    少女は淀みの一切含まれない純白の笑みを顔いっぱいに広げて、手羽先を包む両の腕に少しだけ力を込めた。
    手羽先は砂漠のど真ん中に全裸でほっぽりだされた気分であった。
    行き先もわからず自身の位置さえ、そして目的地すら存在しない。
    そんな少女と同等かそれ以上の純白が手羽先の頭の中を塗りたくる。
  33. 33 : : 2014/07/25(金) 21:41:39



    「な、な……んで、な、んで世界は最後の最後にこんな眩しい光を俺によこすんだよ……、くそ、なんなんだよ……」




    「まだ最後なんかじゃない、まだアナタは生きる事が出来るんだよ。アナタがどれだけの深い傷を、癒える事のない病を持ってたってね」




    アナタはもう独りじゃないんだよ。




    少女の音は、薬物依存の腐りきった内蔵のような手羽先の心を、暖かく、大きく、力強く、光の一切入り込まなかった密室の扉が開き、光が満遍なく室内を満たしていくように、焼ける程の光量で室内を照らしあげ始める。




    手羽先は、生まれて初めての、本気で本当の、重たく、硬い、確かな恋をした。


  34. 34 : : 2014/07/25(金) 21:45:00
    手羽先(衣)「そ、その……、ペニスバンドちゃんッ!!」

    ペニスバンド「ん?」

    手羽先(衣)「本当に……、こんな俺を救ってくれてありがとう」

    手羽先は、体が90度を越すレベルで腰を折った。
    深々と下げられた頭は、梃子でも動きそうにない位の何かを感じさせる。

    ペニスバンド「もう、何回目? 手羽先君が私に頭下げるの。いい加減おこっちゃうよ?」

    ペニスバンドは、わざとらしく頭頂部に、両手で人指し指製の角をつくり頬を膨らませる。
    もうそれだけで手羽先の天井知らずな心拍数が更に加速する。
    手羽先は、慌てて、ごめんッ!! と頭を垂れた。

    ペニスバンド「ほら、またさげてるよ?」

    手羽先(衣)「ご、ごめーー」

    ペニスバンド「ストップ! ストップ! このままじゃ会話がウロボロスだよ!!」

    手羽先(衣)「ごめ……、……、うん、そうだね。あとそのウロボロスっていう知的な比喩で尚且つ博識な表現、いいと思うよ」

    ペニスバンド「なんでわざわざそこをピックアップしたの!?」

    手羽先(衣)「そのピックアップっていう単語をセレクトしたセンス、脱帽だよ」

    ペニスバンド「もう、うん、わかったからやめて……、恥ずかしいってば」

    つい、喉元まで謝罪の音がのぼってきたので、手羽先は無理矢理にそれを飲み下す。
  35. 35 : : 2014/07/25(金) 21:49:42
    手羽先はこれじゃ前回の二の舞だと、気を引き締める為に頬に張り手をかます。
    バチンッ、と、よく知りもしないよう色々な虫達の鳴き声だけが響いていた、自然の豊富な夜の森で、一際大きく手羽先の気合いのスイッチの音が鳴る。
    ペニスバンドがその奇行に、え? え? と疑問符を頭上に浮かべていたが、手羽先は構わずペニスバンドへと言葉を贈る。

    手羽先(衣)「その、ペニスバンドちゃん……」

    ペニスバンド「な、なにかな?」

    手羽先(漢)「僕と一緒にベッドで新たな生命をはぐくみませんか?」

    ペニスバンド「え?」

    手羽先(驚)「え?」

    手羽先が、自身の発言を見返してその意味を理解したその刹那、ドッ、と大量の冷ややかな汗が衣を湿らせる。
    やってもおたぁぁぁぁぁぁぁ!!!
    手羽先はここに呼び出しをもらったその日の夜から、人生でも一番と言っていい程の葛藤を繰り返し、最良の「付き合ってください」を考えに考えた。
    そして今、手羽先の口から飛び出した「付き合ってください」は、36回目に思い付いたフレーズ。
    最早それは「付き合ってください」をかっ飛ばしたプロポーズな上に、手羽先が最良だと判断した「付き合ってください」は、3429回目に思い付いた考えに考え抜いたフレーズだったのだが、そんな必死の苦労も徒労に終わる事となった。
    手羽先の頭の中に、3本の紐が現れる。
    荒縄に、立体起動装置に、自身の腸。
    うふふふ、光を綺麗さっぱり失った瞳の手羽先の口から、笑っているのに’’喜’’の感情の全く含まれない笑いが漏れる。
    だが、そんな絶望の深淵に飲み込まれた手羽先とはうってかわり、幸福の塔を登りはじめた少女もいた。
  36. 36 : : 2014/07/25(金) 21:54:41


    ペニスバンド「もう……、私が先に言おうと思ったのに……」


    意識が一足先に地中深くまでにめり込んだ手羽先には、その蚊の羽音のような呟きは届く事はなく。
    ペニスバンドは、あーあ、と笑顔で落ち込む仕草をみせる。


    「私も君の事が大好きだよ」


    ペニスバンドは、今世紀最大の笑顔でそう言った。





















  37. 37 : : 2014/07/25(金) 21:58:50
    蜜蜂「お、きたみたいだな」


    そんな蜜蜂の声を合図としたように、視線はある一点に集まった。
    そこには、やけに湯気のたつ皿が複数乗ったトレーを震える両手でしっかり握ったエレンがいた。
    エレンは危うい足取りで蜜蜂達の待つテーブルへと向かう。


    エレン「ちょっ! こぼれる!! こぼれる!! 誰か持ってくれ!!」


    消しゴム「もう、エレンは本当に不器用だね」


    エレン「うるせえよ!! そう思うなら俺に任せるんじゃねえ!!」


    蜜蜂「ああ、馬鹿! こぼれてる!! こぼれてる!!」


    ゴリラ「もったいない。こぼれちゃったじゃないですか」


    エレン「誰が俺に任せたんだよ、誰が……!!」


    なんとか無事トレーをテーブルへと運ぶ事ができ、トレーをひっくり返すなんていう最悪の事態にはならなくてすんだ事に、エレンは重たく息を吐き出す。
    だがエレンはそこで、素直に目の前の食事を堪能する事が出来なかった。
    こぼれちまったじゃねえか、などと非難を受けながら、エレンの前に一際量の減った皿が荒く置かれたからだ。
    もちろん、エレンはその事に対して反抗の意思を示したが、罰ゲームでお前が持ってくる事になったんだろうが、と周知の事実を突き付けられ、あえなく沈没する。
  38. 38 : : 2014/07/25(金) 22:02:06
    超人「あの、そんなに食べたいのでしたら私の分を分けましょうか?」


    消しゴム「駄目だよ超人ちゃん、エレンは甘やかすとすぐ癖になっちゃうからね」


    エレン「いや、俺は犬かよ。んーと、超人……、だっけか? 別に気にしなくていいよ、勝負に負けたのは俺だしな」


    蜜蜂「そうだぜ超人ちゃん。とにかくまずは飯を食おうぜ。折角の貴重な肉なんだから冷ましたらもったいねえよ」


    エレン「そうだな、じゃあ今日はいつもより更に腕に力いれろよ」


    消しゴム「そういえばエレン?」


    エレン「ん?」


    消しゴム「いつも思ってたんだけど、それは何を表してるの?」


    エレン「だからー、これは生産者への感謝の気持ちをだな」


    蜜蜂「いや、多分そっちじゃねえだろ、それは何回も聞いたし、そのポージングの事を言ってんだろ」


    消しゴム「そうそうそっちそっち」


    エレン「ああ」


    エレンは、自身の今取っている頭上で掌同士をあわせたポージングの事を見返してみる。
    これは、親から教わった食事の作法で、腕に力を込めれば込める程に感謝の気持ちを表しきれているというものなのだが、本人も言われて気付いたのだが、これは何を意味しているのだろうか……?
  39. 39 : : 2014/07/25(金) 22:07:51
    エレン「こうやって無防備な状態を晒す程に感謝してますよー、とか?」


    蜜蜂「無防備も糞も、俺達は食事の場で何と戦ってんだよ」


    消しゴム「エレン本人も知らないんだね」


    エレン「まあ、やってたからやってた程度の認識だったしな」


    男「オブシャバラルッパアwwwwwwwwwwwww」


    エレン「あ、すまんすまん! じゃあ飯が冷めちまったらどうしようもねえしな。手を合わせろー」


    エレンの号令にあわせて、この食前の儀式に今まで付き合ってきた超人以外の面々は、なれたように皆がエレンと同じポージングをとる。
    超人もすぐにそれが正常なんだと理解し、似たようなキテレツなポージングとる。


    エレン「いただきます」


    いただきます、と、超人が少し出遅れながらも、皆もエレンに続いてそれを言葉にする。
    これで食前の儀式は終了となる。


    エレン「超人、わざわざ付き合ってもらってわりいな、もう終わったから普通に食っていいぞ」


    超人「いえいえ、賑やかな食事の時間が過ごせるので、私としては感謝してるんですよ」


    消しゴム「ま、確かに賑やかだよね。というか賑やか過ぎるかもね」


    男「ァッブアチョロロロロロwwwwwwwwwwww」


    エレン「そうだぞ! 男の言う通り、静寂よりも多少の騒がしさの方が楽しめるだろうが」


    ゴリラ「まあ、その静寂が好きな人もいるんですけどね」


    エレン「やかましい。そんな事言い出したらキリがねえよ」


    蜜蜂「ん!! このスープうめえ!!」


    エレン「ああ! 蜜蜂だけズリイぞ!!」


    蜜蜂「もう儀式は終わっただろうが」
  40. 40 : : 2014/07/25(金) 22:10:25
    お前等もはよ食え、と蜜蜂に促されエレン等はゴロゴロと大きな肉が複数沈む、そのスープへとスプーンを突っ込む。
    スプーンを入れた事により、下側のまだ熱の多大に残っていた部分が湯気を発し、その湯気と共に芳しい具材達の芳香が脳へと強烈な信号を送り付ける。
    明らかな唾液の分泌量の増加を感じながら、エレンはその大きな肉の塊を口の中へとゆっくり運ぶ。
    少しだけ熱が高すぎた気もしたが、どうやら食べられない事はなさそうだ。
    肉に染み込んだ調味料の味が、肉の本来の味のおかげで幾分か濃く感じられ、エレンは肉へと愛でるように歯を突き立てていく。
    一回の咀嚼で肉からスープや肉の旨味なんかが、水をたっぷりと吸い込んだスポンジのように果物でも噛み砕いたように溢れ出してくる。
    いつもいつも、薄いスープや硬いパンなんかを食べてきたエレン達からすると、それはもう濃すぎる位の’’味’’が、味覚の乾ききったエレン等の舌を痛い程に喜ばせる。
    エレンは口内へと放り込んだその刹那に思い浮かんだその一つの単語を、声帯をつかって声にして表す。


    エレン「うめえ!!」


    蜜蜂「だろ?」


    消しゴム「んんー! もしかしたら僕ってこのお肉を食べる為に産まれてきたのかも」


    ゴリラ「少しオーバー過ぎる気もしますが、確かにそれだけの価値はあるかもしれませんね」


    超人「ん、美味しい」


    男「オブラルリリリリwwwwwwwwwwwwww」
  41. 41 : : 2014/07/25(金) 22:13:36
    各々、その大味なスープに称賛の声をあげながら、黙々と手を口元と皿に往復させる。
    消しゴムの言ったように、この為だけに産まれてきた、と言うのも案外頷ける程の絶品であった。


    エレン「いやあ、うめえなー、母さんのつくる蛙焼きには劣るけどな」


    蜜蜂「なんだそのゲテモノ、あんな生きてるのか死んでるのかわかんねえよおな目の奴食いたくねえよ」


    エレン「いやいや、それがうめえんだって」


    ただ、それでも会話の為の口が止まらないのは、エレン達の強い絆が大きく関与しているのだろう。


    消しゴム「うーん! 美味しいなぁ……、幸せだねぇ……」


    超人「ですね。お肉にしては柔らかく、油分が少なめでさっぱりしてる所なんかは私の好みです」


    男「オビュルルルルルルwwwwwwwwww」


    ゴリラ「確かにそうですね。女性の方々が好きそうな感じです」


    消しゴム「ん、それだけ大好評のこのお肉って何のお肉なんだろう?」


    エレン「ん? 知らねえのか?」


    蜜蜂「エレンはしってんのかよ?」


    どうやらエレン以外は皆、この肉の正体を知らないらしく、自身の実家を思い返してみると、確かに実家でもそんなに目にする機会はなく、世間にもあまり浸透してはいなかった。
  42. 42 : : 2014/07/25(金) 22:16:34
    エレン「これは魚の肉だよ。ほら、水路なんかを泳いでるあんなの」


    ゴリラ「ほほお、魚のお肉ですか」


    エレン「魚は知ってんのな」


    蜜蜂「脂が少なくて食いやすいな魚って」


    エレン「そうなんだよ。だから俺は魚よりかは牛とか豚とかの肉の方が好きだな。あの肉汁が溢れ出てくる感じがたまんねえよな」


    男「アビュバラバラバラwwwwwwwwwwwwwww」


    消しゴム「うん。男の子は牛とか豚とかの方が好きそうだね。まあ僕は断然魚派かな」


    確かに牛や豚なんかの脂のたっぷりな肉の方が好きではある。
    ただ劣ると言っても、この魚の肉が舌を唸らせるだけの物という事実は変わらない。
    エレンと蜜蜂は「うめえな?」「うめえな?」と、会話であって会話ではない何かを展開していた。


    超人「そのまま焼いて食べても美味しそうですね」


    そして二人がそんな中身のない会話を繰り広げていると、そんな聞いた瞬間に腹の虫が騒ぎ出すような予想が打ち立てられ、二人は「うめえな?」という無限ループから脱出する。
  43. 43 : : 2014/07/25(金) 22:38:24
    エレン「俺は断然焼き派だな」


    蜜蜂「焼きを食った事がねえからわかんねえよ」


    男「アブルラリラルレビャップルwwwwwwwwwwwww」


    ゴリラ「そうなんですか」


    エレン「世界って広いなあ」


    蜜蜂「そうだな……」


    消しゴム「ねえ、そういえばこのお魚のお名前ってわかったりする?」


    エレン「んー、鮭とか……じゃねえよなー」


    エレンが自身の知りうる限りの知識を総動員して、その魚が何なのかを導きだそうとするが、その魚は最早肉片レベルで煮詰められ、魚の種類事態、そこまで知ってる訳では無かったので、答えが見つかる訳がなかった。
    だがどうやら味だけでその魚がなんなのかを当てられる猛者がいたようで、その猛者が言うには、「アブルルルルバルアwwwwwwwwwwww」。


    蜜蜂「へえー、これまぐろなのか。って事はまぐろちゃんが喰ったら友食いになんじゃねえかよ」


    エレン「やべえな。ん? そういえばまぐろの奴遅いな。もう食べ終わっちまっうぞ」


    超人「まぐろさんならトイレに行くと言っていましたけど」


    蜜蜂「トイレかあー、便秘でもしてんじゃねえのか?」


    エレン「そうだな、後で薬でも持っていってやるか」
  44. 44 : : 2014/07/25(金) 22:41:03
    エレンは、ちょっとした具材の残りなんかも綺麗に片付けたので、スプーンを置き、満足気に長く息を吐いた。


    エレン「ゴリラ、お前もう食い終わったのかよ。相変わらずはえーな」


    ゴリラ「そうですか? これくらい普通だと思うのですが」


    蜜蜂「いやいや、俺でも今食い終わったってのに、お前は開始十数秒で食い終わってたろ」


    エレン「はやすぎんだろ……」


    男「アンバラロロリョョョョョョwwwwwwwwwwwwww」


    エレン「ブフッ!! お前……、案外毒舌だよな……ふふっ」


    蜜蜂「くくっ……、デブとかお前言ってやるなよ……、気にしてるかもしんないだろ?」


    ゴリラ「いや、これは脂肪じゃないですよ!! 筋肉です! き、ん、に、く!!」


    エレン「なあ、明日外出許可だしてどっか行こうぜ」


    蜜蜂「お! いいねえ。超人ちゃん、アンタもどうよ?」


    超人「私ですか? 構いませんよ」


    男「ハムラバラララwwwwwwwwwwwwwww」


    ゴリラ「話を聞いてくださいよ!!」


    しばらく、ゴリラをいじって遊んでいた3人であったが、本気で言っているのではないとゴリラも分かっていたので軽いスキンシップのようなものであった。
    その事に、皆が楽しさを感じ始めていると、消しゴムがマグロの煮込みスープを、器用に小さな肉片までも残さず綺麗に食べ終わる。
  45. 45 : : 2014/07/25(金) 22:45:25
    消しゴム「ふう、ごちそうさまでした」


    エレン「ちょ、待て待て、お前を待ってたのになんでお前が一番最初に終わってんだよ」


    消しゴム「ええー? 別にいいでしょー」


    エレン「駄目だな。今までやってきたんだし、そこら辺はキッチリしてーんだよ」


    男「ブルアアアジョボボボwwwwwwwwwww」


    ゴリラ「そうですよ、ちゃんとつくっていただいた方々に感謝をしなくてはいけませんからね」


    エレン「ほら、手あわせろ」


    消しゴム「はいはーい」


    蜜蜂「あわせたぜー」


    皆は、始まりと同じように、天に指先を向けたマヌケなポージングで、緩く目蓋をおろす。


    エレン「んじゃ、ごちそうさまでした」


    そして感謝の気持ちを言葉に。
    皆もエレンに続き、この食材をここまでの美味に調理してくれたコックに、エレン等の血と肉となり巡りに巡り始めたその食材に感謝の気持ちを込めて、



    「「ごちそうさまでした(アブルボボボボジャァァァァァwwwwwwwwwwwwwwwwww)」」





    完食☆





  46. 46 : : 2014/07/25(金) 22:49:25
    感謝って大事。

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