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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

エルドとその恋人の〈巻末イラスト(くち作)をいただきました〉

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    • 16

loupe をクリックすると、その人の書き込みとそれに関連した書き込みだけが表示されます。

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  1. 1 : : 2014/05/24(土) 19:53:03

    ・エルドと彼の恋人のお話です。

    ・彼女は、アニメ22話で登場されたあの女性です。なので、このお話でも名前はありません(えっ)。

    ・時期は、女型捕獲作戦の約1年くらい前の設定です。

    ・イラストレーターくち作の巻末イラストは、是非ご覧ください( >>77 >>84 )。

    ・僕にしては珍しく、(比較的)真面目に、愛をもって、情熱的に、進めていきます。

    ・リヴァイ班や大人組など、いろんな人たちが登場します。

    ・またちょっと途中がコメディっぽくなったかもしれませんごめんなさい(笑)
  2. 3 : : 2014/05/24(土) 20:02:54



     あれは…リヴァイ兵長…?いや…違う!!誰だ!?


     グンタさんッッ!!ちょっと…どうして…!?


     なんでよ…!?まだ…目が見えるわけがない…まだ…30秒も…!


     …何故だ…?刃が通らねぇ…


     ─結果は誰にも分からなかった…





     『今すぐそのうなじを!!』








    「エルドが、戻ってくるらしいよ」


    「…!」


    気がつけば、もう日も暮れかけていた。


    今のは…。


    「…そう」


    「…大丈夫かい?ぼんやりして…」


    「…何でもない」


    「また汚れて帰ってくるよ、あの子。…洗濯したの、あげておいで」


    「…そうね」



    日光の微かな暖かさを残した彼のシャツを、のろのろと畳む。


    きれいに畳もうと思うのに、手が震えて上手くいかない。


    袖の通されないままのそのシャツを、爪が白くなるほどに握り締めた。



    悔しかった。



    どうして待たなければならないのか。


    どうして知らない遠くを歩いてゆくのか。


    どうして変わらないと信じてしまうのか。



    こんなことを口にすれば、きっと優しくしてくれる。当たり前のように、惜しみなく、血の温もりそのままの優しさをくれる。


    けれど、そうやって得た優しさは時々、灰色い後味の悪さを残した。ずるくて、不躾で、とても中毒的なやり方─そんな気さえすることもあった。



    強い彼に相応しい人間でいること。



    それは誇りであり、意地でもあった。だから、いつもその壁を越えて行くことができなかった。



    ─あの日から、とても長い月日が経ってしまった気がする。




    彼は何故か、今日まで一度も、私の名前を呼ばない。


  3. 4 : : 2014/05/24(土) 20:10:55


    その日はちょうど、誕生日だった。


    家族からは毎年、ささやかな贈り物がある。19歳を迎えたその年は、若草色の、丈夫で軽い、少しいいところのロングスカートだった。


    「ちょっと歩いてくる」


    そのスカートを履いて、いつものお気に入りの場所を目指した。



    小さな川で、やはり小さくて手すりのない橋のかかった水辺。ひんやりした空気を大きく吸い込む。


    水面の眩しさに思わず目を細める。


    まるで絵のように静かな景色だ。


    人なんて滅多に来ないのに、何故橋があるのかも分からないけれど、いつ来てもこの場所は変わらない。


    どんなに年を取ろうとも、どんな変化があろうとも、川の水は知らない場所から来て、また知らない場所へと流れていく。



    いつしか、こうして変わらないものを求めてしまっている。



    音を立てないように、小さな虹のような橋の真ん中へと歩いてゆく。


    何となく叫びたくなって、再び大きく息を吸い込んだ。


    「こんにちはーっ!わたしー!今日19になりましたーっ!!」


    声が川の水の音に優しく溶かされて、世界中へと運ばれていく。この感覚がとても好きだった。


    「私の名前はぁーっ─」


    「ただいまぁぁぁーっっ!!」


    「…えっ?」


    突然の大きな声に驚いて、声のした方を振り向く。


    金髪の長い髪を後ろで束ね、髭を生やした長身の男が立っていた。


    (兵士…?)


    その人は兵服を着ていた。よく見ると、その胸には交差する翼。


    (調査兵団…)


    その兵士は静かに、橋の中央へとすたすた渡り寄ってくる。


    (えっ…私…何か悪いことした…?)


    (ここで叫んじゃいけないって決まりあったっけ…?もしかして、立ち入り禁止区域になってたとか…?)


    (でもただいまってどういう…)


    男が数歩先で立ち止まる。


    ここはきちんと話をつけるべき…そんなぎりぎりの気持ちで仁王立ちをしていると、男はこう言った。


    「俺だよ、覚えてないか?」
  4. 5 : : 2014/05/24(土) 20:14:25


    「…え?」


    男はもどかしそうに眉を寄せる。


    「エルドだよ、エルド・ジン。昔よく遊んでただろう?」


    「は…?」


    「いや、は?って」


    彼はわざと肩をすくめてみせる。


    「エ…エルド…?」


    「ああ」


    「あのエルドなの…?」


    「エルドは俺しかいないだろ」


    「嘘…」


    彼の顔を、穴が開くほどに見つめた。


    「待って…落ち着きましょう…」


    「俺は落ち着いてるつもりだが」


    「あなた…どんだけ変わったのよ…」


    「えっ?」


    「だって…昔は私と同じくらいの背だったじゃない…なんでそんな大きくなってるのよ?…髪も、前は短かったし…声だってなんか今は、こう…男!って感じで…それから…そう!何よその髭!!ただでさえ顔つきも変わっちゃってて分かり辛いのに…髭くらい剃ってから出直しなさい!」


    「…ふっ、ははっ」


    エルドが可笑しそうに笑う。


    その目の細め方や口や眉の動きは、記憶の中の少年と、確かに一致していた。


    そのことに気づくのと、身体の脈打ちがちくりと強くなったのは、ほぼ同時だった。


    「良かった、君はちっとも変わってない」


    目を逸らした。彼はとても近くに立っていた。


    「…エルドが変わりすぎなんでしょう」


    「あ、でもそっちも髪、長くなったな」


    「ちょっとっ…!?」


    髪に触れようと手を伸ばしたエルドに驚いて、思わず後ずさる。


    足が橋のへりを踏み外して、若草色のスカートがふわりと揺れた。

  5. 9 : : 2014/05/24(土) 21:51:39
    こんばんは。
    愛に飢えた数珠繋ぎが愛ある話を頑張って支援します(笑)
  6. 10 : : 2014/05/24(土) 22:52:06
    これは素敵な一人称。

    「彼は何故か、今日まで一度も私の名前を呼ばない」でグッとつかまれました!
    心の動きが丁寧でキラキラしてますね、眩しいっ!
    展開が楽しみです!
  7. 12 : : 2014/05/24(土) 23:58:03
    こんばんわ♪エルカノ期待です(屮°□°)屮頑張って下さい!!
  8. 15 : : 2014/05/25(日) 10:37:14


    「危ないだろ…」


    エルドがとっさに背中に手を回して、身体を支えていた。



    水没の危機を免れてもなお、恐怖の余韻と安堵で心臓がうるさい。


    「助かった…このスカート、今日もらったばっかりなのよ…」


    「そういえば19になったんだよな。おめでとう」


    「聞いてたの?」


    「壁外からでも聞こえる大声だったよ」


    こんな強い彼の腕なんて知らない。絶対に知らないはずなのに。


    「…エルドは誕生日、まだだっけ」


    「あと何ヶ月かしたら俺も19だ」


    「あら、じゃあ私がしばらくお姉さんね」


    「君がお姉さんか。それも悪くないな」


    「こんな危なっかしい姉貴は嫌だ!…って、正直に言ったら?」


    「うーん、そうだな…その…」


    「何よ」


    「…どう言ったらいいだろう」


    そのどこか涼やかな顔立ちは、相手の胸中を伺うように、一瞬だけ迷いを見せた。


    「お姉さん役にはもったいないというか…」


    彼はややためらった表情で、訴えかけるような眼差しを向けた。


    その彼の頬に手を伸ばす。


    が、そのままその手で兵服のジャケットの襟をつかんで身体を起こし、エルドの腕から逃げた。


    「兵士って、力持ちなのね」


    「いや…」


    彼はきまりの悪そうな顔を、ふいっと照れくさそうに背けた。



    およそ7年ぶりの再会だった。

  9. 16 : : 2014/05/25(日) 13:06:20


    「…お母さん、何ておっしゃるかなぁ」


    エルドの家への帰り道を、並んで歩く。日没に向けて、だんだん冷え込んできた。


    「調査兵団だなんて…」


    「俺が決めたことだ」


    隣を歩くエルドの横顔と、兵服の腕についた翼を見比べる。


    「…その前に7年も帰ってなかったことも問題なわけだけど」


    「ああ…デッキブラシで尻をぶちのめされる以外のお出迎えが想像できない」


    二人で溜め息をつく。


    「あなたみたいな家柄の人間が…」


    「関係ない」


    彼はきっぱりと言い捨てる。


    「…どうして急に帰ってこようと思ったの?」


    エルドはしばらく黙っていた。


    その間にも、日は刻々と沈み、幾羽もの鳥が、地面にその翼の影を落として飛び去っていった。


    「…4年、調査兵として生きてきた」


    やがて彼は静かに口を開いた。


    「その間に、たくさんの人間が死んだ」


    「…」


    「…俺がこうして生き残っているのも、ほとんど奇跡に近い」


    エルドは真っ直ぐ前を向きながら、ゆっくり話す。


    「12で家を出て、ほとんどこの故郷も捨てたような思いで、俺は今日まで意地を張って避け続けてきた」


    そして彼はわずかに視線を落とした。


    「たった一人の身内である母さんを、君に押し付けたようになってしまった」


    「…」


    「俺だけ後悔しないようにいろいろ尽くすのは、死んでいったあいつらにも申し訳が立たないが…」


    彼は一瞬だけ言葉を止めた。


    「兵士になって俺が何を学び、どんな道を進むべきだと考えているのか。それを伝えておかなければならない。そんなふうに、今、俺は感じている」
  10. 17 : : 2014/05/25(日) 17:00:34

    「…この、故郷のみんなに?」


    「俺がそうすることで、報われる意志があるかもしれない」


    少しの間、並んで口を閉ざす。


    「…あなたを正しく理解してくれる人も必ずいるわ」


    「…だと、俺も心強い」


    それに、と彼は付け加える。


    「とにかく、一言謝っておかないと」


    「お母さん?」


    「ああ。お互い死んでも死にきれないからな」


    「縁起でもないことを…」


    彼は乾いた笑い声を漏らした。


    「いや、ジン家の屈強な母上のことだ…巨人より先に俺を仕留めにくるかもしれない」


    小さな針が耳に入り込んだような感覚があった。


    「…ふざけないで」


    「えっ…?」


    エルドが初めて視線を向けた。


    「…この7年、いろんなことがあった。あなたがいない間に、楽しいことも、苦しいことも。それで…私は、やっと…」


    その先の言葉は出てこなかった。特別に変な意地が邪魔をした。


    「…普通は、家を継いで、平穏無事に暮らしたいと考える。あなたにはその特権があるのに」


    代わりに出てきたこの味気ない台詞を、エルドは黙って聴いていた。


    「…すまない」


    彼の答えはとても美しく、明白だった。


    それとは対照的に、夕暮れの冷えた空気はしつこく肌に絡んでくる。


    「…ねぇ」


    「何?」


    家々の明かりが道の先に見え出した。


    「壁の外って、どんな感じ?」


    彼の眉がピクッと動いた。


    「どんなって?」


    「エルドはこの壁の中の人々を解放するんでしょ。観光の予習をしとこうと思って。一応」


    「…あはは、そうか」


    口元は少し緩んだものの、その目は真剣に、わずかに細まった。


    「きっと」


    彼はゆっくりと言葉を探す。


    「きっと、広すぎてびっくりするぞ」

  11. 18 : : 2014/05/25(日) 17:38:23
    エルカノ大好きなんで、本当にこのss大好きです!!!
    期待すぎて鳥肌がぁ……!!!
  12. 21 : : 2014/05/26(月) 00:23:52
    お恥ずかしながら、いままでArtさんはラジオの印象がとても強かったので、テンポのよい軽快なお話を想像しておりました。
    しかし、入りからラジオとは少し違った意味ですごく惹き込まれてしまいました。
    綺麗な水辺の様子が目に浮かぶようで、ここからの展開、とても期待しておりますわくわく。
    更新楽しみにしておりますね!
  13. 23 : : 2014/05/26(月) 11:07:53


    「ああ…くそっ…」


    「…エルド、大丈夫?」


    エルドは椅子に座って、腰の辺りに手を添えながら呻いた。


    「本気でぶちのめしに来るとは…」


    「何を言ってるんだい!今までのお前の行いを清算できるほど、男の尻に価値なんて無いんだよ!」


    エルドの母がデッキブラシを構えながら一喝する。


    「勝手に出て行って、一切便りも寄越さず、挙句の果てには調査兵団?」


    「まあまあ…お母さん…」


    彼の大きな実家には、今は彼の母がたった一人で住んでいる。


    小さい頃からほとんど毎日、日課のように、この人─普段はとても穏やかなはずの─に会いに行っていた。


    「家を捨て、人を捨て、今度は自分の命まで捨てようってのかい?」


    彼は手に力を込めて訴える。


    「いや…俺はそんな…」


    「まだ話し終わってないでしょうが!!」


    ドンっ、とデッキブラシの柄で壁を突くエルド母。


    「ひっ…」


    「お…落ち着けって…な?」


    「この親不孝ものが…!お前は本当に…」


    彼の母は大きく溜め息をついた。


    「…本当に、お前の父親そっくりだよ」


    「…」


    エルドの母は何も無い床の一点に目を落とした。


    「…お前はせめて、生きて戻ってきた。その分、あの人よりは…」


    静かに首を振った。


    「…これ以上は、ブラシでは済まないよ」

  14. 24 : : 2014/05/26(月) 14:13:32


    「ねぇ…どうして髪と髭、伸ばしたの」


    月明かりを受けて、エルドの家の庭は透明に浮かび上がっている。


    その中の古いベンチに、並んで腰かけていた。


    「気に入らないか?」


    「そうじゃないけど」


    自分の顎をさすりながら首を傾げる彼に、とびきり呆れた視線を送る。


    「何かあったのかな、って思っただけ」


    「…大した理由なんてないさ」


    エルドの声はとても落ち着いていた。


    「何年も経てば、趣味とか考え方とか、いろいろ変わるだろう」


    「何年も見ない間にこんなチャラチャラしたおにいさんになって」


    「なんだ、やっぱり気に入らないんじゃないか」


    エルドはさも心外だと言うように眉間にシワを寄せた。


    「冗談よ、目がまだ慣れていないだけ」


    「なんだそれ。向こうに戻るまでに慣れてくれよ?」


    「…明日の昼、だっけ」


    「ああ…長居できなくて、ごめんな」


    うっすら雲が張りだし、空の明かりが弱まって、地上の空気が少し重くなる。


    もうじき雨が降るのだろう。


    「…あなたがいなくなった12歳の時」


    ぽつりと言葉が口をついて出た。
  15. 25 : : 2014/05/26(月) 20:32:57

    「…どこに行ったのだろうとか、どうして何も言わずに行っちゃったんだろうとか…何度考えても分からなかった」


    「…」


    「…あなたのお父さんも、家を継がずに兵士になって、ほとんど帰って来なかった。…だからお父さんを探しに行ったのかな、とか、そんなふうに勝手に考えていたけど」


    エルドは自分の足元辺りを見つめながら、黙って聴いている。


    「きっともっと、エルドの気持ちがあったのよね」


    いったい何を話しているんだろう。


    「エルドは昔から賢かったから、普通の私には正解を見つけるのは難しかったけれど…」


    今夜は喋りすぎる─。


    「今のエルドを見ていれば、エルドは正解を見つけたんだなって、よく分かるんだよ」


    彼はやっぱり自分のつま先辺りに目を落としたまま、堅い表情で聴いていたが、不意に微笑んで一言口を開いた。


    「ありがとう」


    何だかよく分からない、変な笑い方をした。


    「何一つ変わらないまま、ずっとここに閉じこもって暮らす私が、偉そうに言うのもおかしいんだけどね」


    「変わったじゃないか」


    エルドは楽しそうな表情を浮かべた。


    「髪が伸びた」


    「もう。エルドそればっかり」


    彼はあははは、と笑った。そして真っ直ぐに目を捉えて、


    「綺麗だ」


    と付け足した。


    その言葉を振り払うように、半ば反動的に立ち上がる。


    「か…帰ろう」


    「ああ、そうだな」


    足の裏を地面の芝草が押し上げて、少し身体が浮かぶような感覚に陥る。


    彼の家の門から外へ出ようという時、エルドが急に口を開いた。


    「なあ」


    「ん?」


    彼が立ち止まる。


    「今夜、泊まっていかないか」


    静か過ぎる夜に、彼の声は行き場を失う。


    ふっ、と肩を落として溜め息をつく。


    「無茶な夢の中には入れないわ」

  16. 26 : : 2014/05/27(火) 17:23:02

    「…という感じで、フラれたわけだ」


    調査兵団本部内の宿直室で、エルドとグンタがそれぞれ離れた簡易ベッドに腰掛けて話している。


    「何て言うか…気の毒にな」


    「もっと慰めてくれても構わない」


    グンタは少し顔をしかめた。彼はベッド脇のテーブルに広げた、次の壁外遠征の陣形図の端をトントンと指打つ。


    「エルドにしては、随分と焦った行動だな」


    エルドはやや浮かない顔で、小さく溜め息をついた。


    「…やっぱりそうだよな」


    「そりゃあ…誰でも戸惑うと思うぞ…その日に、その…」


    グンタは咳払いをして声を落とす。


    「泊まっていけとか言うのは…」


    エルドは考えるように小さく数回頭を振った。


    「…焦っていた」


    グンタは横目でちらっと彼を見やる。


    「…相手の気分が上がったり変わったりするのを、気長に待つ男なのにな」


    いつもは、と付け加えるグンタ。


    「…強引に変えるのは好きじゃない」


    エルドは静かにつぶやく。


    「他人に関しても、自分に関しても。俺は自然と変わっていくのを待っていたい」


    「…そうだな」


    「だがまだあいつは」


    彼は顎に手を置き、その髭に触れた。


    「変わらないものや、変わらないでいることも大事にしたいと考えている」


    「…」


    「…グンタ。俺たちには、時間がないかもしれない」


    グンタは指打ちを止めた。


    「俺は…もう変わってしまった。平穏に、ずっと家で笑って暮らす生き方は、もうできない」


    彼は目を閉じた。


    「無茶な夢の中には入れない…あいつのその気持ちは自然だし、当たり前だ。だが…俺は…」


    一瞬の呼吸を置く。


    「あいつがいいんだ」


    二人はしばらく黙り込んだ。


    「兵士でなくても、エルド、誰しもいつかは死ぬ」


    グンタは低い声で、だがはっきりと言った。


    「そして、お前に限らず、誰しもいつかは変わる」


    「…」


    「この二つは、俺たちにどうこうできる範囲の問題じゃない。高度に普遍的な問題だ」


    エルドは黙って彼の言葉を聴いている。


    「だからな、そこは放っておいた方がいい。そして今後、お前が示せる精一杯の誠意は」


    グンタは陣形図を指差した。


    「生きて壁外から帰ってくることだ」


    エルドはパッとグンタを見た。


    「グンタ…」


    「…何だ」


    「お前がそんなに恋愛経験豊かだったとは」


    「こ…これはそういうものではない…人生観だ。ばかたれ」


    険しい顔に動揺を隠しながらそっぽを向くグンタを見て、エルドは頬を緩めた。


    「お前のおかげでもう少し粘れそうだ」


    「まあ…ならいい。一応お前はリヴァイ兵長の部下の取りまとめ役なんだからな。もやもやを抱えてしくじってもらっては困る」


    「そうだな…オルオみたいなのもいるしな」


    「あいつは実績だけはあるんだがな…」


    「…討伐数だけでは兵士の優劣は語れない」


    と、その時、宿直室の扉がノックされた。
  17. 27 : : 2014/05/28(水) 19:13:27

    「入ってくれ」


    エルドの返事を確認して、扉の向こうから明るい髪色の女性兵士が入ってきた。


    「エルド、いる?」


    「ああ、ペトラか。どうした」


    ペトラは少しだけ首を傾けた。


    「リヴァイ兵長が呼んでる」


    「そうか。すぐ行く」


    エルドとペトラが連れ立って兵士長室へと向かう。


    「何だろうな、兵長」


    「ふふ、お叱りだったりして」


    「それは参ったな…」


    ペトラはまた笑ったが、やがて心配そうな目をエルドに向けた。


    「どこかでミスしたんじゃない?最近エルド、少し元気ないから」


    「…そう?」


    「女の子の目はごまかせない」


    「そうだった、ペトラも女の子だったな」


    「エルド…あなたには失望したわ…」


    「冗談冗談。気にかけてくれてありがとうな」


    エルドは笑って、複雑な表情のペトラの背中をポンポンと叩いた。

  18. 28 : : 2014/05/28(水) 20:35:29

    「…合同演習、ですか?」


    エルドは、リヴァイの埃一つない部屋で、脚組みして座る彼の前に立っていた。


    「ああ。面倒くせぇが…」


    「どうしてまた急に…」


    リヴァイはちっ、と舌打ちする。


    「名目上は合同演習だが、内実は中央貴族のお遊びだ」


    「…貴族が?」


    エルドはどこか苦い表情を浮かべる。


    「まあな。詳しいルールなんかは、エルヴィンが参加させる予定の兵士を集めて解説する」


    「ルール?」


    「遊びだからな」


    リヴァイは眉間のシワをより深くした。


    「合同演習である以上、憲兵や駐屯兵のやつらもいるわけだが。まあ、あいつら貴族連中にとっちゃあ、兵士なんざみんな同じなんだろうな」


    エルドはリヴァイの言葉を飲み込んでから、ゆっくり口を開いた。


    「…おおまかに、どのような内容かお尋ねしても?」


    「簡単に言やあ、人命救助だ。一つの区を使うそうだが、そのどこかに貴族連中の身内が隠れる。それを俺たち兵士がせいぜい頑張って見つけ出す」


    どうせ、とリヴァイは関心なさげな顔をする。


    「隠れるのは娘だな」


    「…なるほど」


    エルドは怪訝そうに目を細めた。


    「たしかにお遊びですね」


    リヴァイはエルドに目を向けた。


    「…察しがいいじゃねぇか。最近不調そうだったが」


    エルドは一瞬驚いたような表情でリヴァイを見たが、すぐに目を伏せた。


    「情けないです」


    リヴァイは組んでいた脚を下ろした。


    「自分で気づいてんなら、俺は特別に言うこともねぇ」


    エルドは小さく数回、静かに頷いた。


    「…すみません」


    「それで、だ」


    リヴァイはエルドに鋭い視線を向ける。


    「"いつものように”、お前から他のやつらへ伝令させるのはかわいそうだと思うが」


    エルドはハッとして顔を上げる。


    「お前と、グンタ、オルオ、それからペトラ。とりあえずこいつらには出てもらう。明日の朝礼後、揃ってエルヴィンの所に出向くように伝えろ」


    「…はっ!!」


    「他にも出さなきゃならねぇが、調査兵団の枠には限りがある…先に決まってる面子は早めに押さえておきたい」


    「分かりました」


    リヴァイの部屋は清潔すぎるくらいだが、居心地の良い体感だった。
  19. 29 : : 2014/05/29(木) 19:06:53


    彼の家の郵便受けをチェックしてその家の母に手渡すのが、ここ数年の日課となっている。


    「へぇ…あの家の娘さん、結婚するんだ」


    今は母以外の誰も住んでいないとはいえ、旧家だからか、各地の要人や知人から定期的に郵便物が届いている。


    「…会ったことなんてないんだけど」


    しかしすぐに、いや、と思い直す。


    「…遠くから見たことならあったっけ」


    エルドがこの家にいた頃は、そういう名家同士の交流もまだ盛んだった。


    彼の父親は兵として遠征することも多く、滅多に姿も見かけなかったが。


    「…あれは、たしか…」


    当然、彼の父親は身内や知人からはあまりよく思われていなかった。


    そんな父親の代役を務めさせられるかのように、エルドはたくさんの集会に駆り出されていた。



    「退屈だよ」


    彼は食事会なんかに行く前はいつもそう言っていた。


    「みんな同じことばっかり話してる」


    彼が故郷を離れる少し前、とある祝賀会が催された。


    「君と遊んでた方がずっといい」


    12歳を目前にした彼が、堅苦しい背広を慣れたように羽織るのを、ぼんやり見ていた。


    「それ着てるとエルドじゃないみたい」


    「俺もそう思う」


    ドレスなんて着たこともなかった。


    「また明日遊ぼうな」


    彼はそう言ってにっこり笑った。


    彼が遊んでくれるのも、本当はあまり快く思われていないのではないかと、薄々感じてはいた。彼の母と、たまに帰ってくる父親を除いて。


    「エルドはすごいね」


    彼の関わるべきとされる世界は、本の中でしか知り得ないものだった。


    「お嬢さん。その格好ではお入れすることができません」


    気がつけば、祝賀会場の門前で、給仕の男に止められていた。


    「…」


    いつものカーディガンとスカートに、ぺったんこの靴。


    「招待状をお持ちでしたら、手配差し上げられますが…」


    その時、給仕の後方の遠くの扉から、金髪の少年が出てきた。


    「あっ…」


    そして彼のすぐ後を追うように、同い年くらいの華やかな格好をした少女が現れる。


    少女が少年を呼び止めるような仕草をすると、少年は振り返って少し驚いたような表情になった─。



    その結婚式への招待状を机に置くと、他の郵便物の中から一枚の葉書が落ちた。


    「…合同演習?」


    その文面には、三兵団合同演習における区内の全道と上空の使用に関する通達、とあった。

  20. 30 : : 2014/05/29(木) 20:30:18


    「…おい、エルド…エルド!」


    「っ…!」


    間一髪で木との衝突を避けたエルドに、オルオが野次を飛ばす。


    「何ボーッとしてやがんだ!?危ねぇだろうが!?」


    「…」


    二人はトンっ、と着地した。


    「…ったく、ほんと最近ダメだなお前」


    オルオはブレードのグリップの先端をイライラと指で叩く。


    「まあ、俺にはお前が何でいじいじ悩んでいるのか、手に取るように分かるがな。何故分かるか分かるか?分からんだろうな…何故分からないか分かるか?それはまだお前が俺の域に…」


    「エルド!大丈夫?」


    ペトラが追いついて着地した。


    「ああ。何ともない。すまなかった…」


    「あのスピードのまま木に向かっていくんだもん…間に合わないかと思ったわ」


    ホッと安心したような表情でエルドを見るペトラの背後で、オルオがフン、と鼻で笑う。


    「惚気て事故死なんざ何の武勇伝にもならんだろうが」


    「おいオルオ、誰が惚気だ」


    「ばーか、全部顔に書いてあんだよ。お前はそういうのだけは実に分かりやすくできてるからな」


    「オルオでも分かるんだもん、相当よ」


    「ペトラ…それはヤキモチか?嫉妬か?まあ…お前にもそういういじらしい一面があるのは、俺は当然知っているがな」


    「何だ?何を揉めてるんだお前たち」


    グンタが厳しい表情で降りてきた。


    「エルドの野郎が惚気て死にかけた」


    「オルオのバカが気持ち悪いのよ」


    グンタは目を閉じて溜め息をつく。


    「エルド」


    「…グンタ、悪い」


    グンタは肩をすくめた。


    「お前たち、合同演習にそんな呑気な態度で参加するつもりか?調査兵団の恥さらしだぞ?」


    「…そうね、明日はエルヴィン団長との打ち合わせもあるんだし。ちゃんとしなきゃ」


    「フン…俺はいつも通り戦績を上げるだけだ」


    エルドは、訓練前に廊下ですれ違ったハンジから聞いた噂を反芻していた。



    ─俺が、故郷の空を…。

  21. 31 : : 2014/05/30(金) 19:29:16


    「えーっ!?私らまで出るの!?」


    団長室にハンジの悲鳴が上がった。


    「ちっ…うるせぇぞクソメガネ」


    「落ち着いてください…分隊長」


    「これが叫ばずにいられるか!」


    バンッ、と机を叩くハンジ。


    「私の理性がこんなに嫌がってるんだぞ!」


    「…フン」


    「ねぇどうして今ミケは鼻で笑ったの。何なの」


    「参ったな。ハンジがそんなに嫌がるとは」


    さして参ったような表情も浮かべずに、エルヴィンは言った。


    「ナナバっ!!ナナバなら私の気持ち、分かってくれるよねえ!?」


    ハンジはナナバの肩を揺する。


    「…エルヴィン、とりあえず内容を詳しく」


    ナナバはどこか冷めた表情で、エルヴィンを見た。


    「ルールは至ってシンプルだ。正午から日没までの間に、区内の各所に隠された貴族方の令嬢らを見つけ出す。見つけ出した兵団には、その家が出資協力をしてくれる…かもしれない」


    「かもしれない…」


    モブリットが小さく溜め息をついた。


    「ほらッッ!全然面白くないじゃないか!人間しか出て来ない!演習なのにっ!」


    「…巨人を出したらそれこそ演習ではなくなる」


    ミケは目を細めた。


    「ああ。憲兵や駐屯のやつらがかわいそうだな」


    「本当にかわいそうだと思ってらっしゃいますか、リヴァイ兵長…」


    「主催が主催だから、うちの団だけ辞退するわけにはいかないのは分かる…でも、エルヴィンやリヴァイたち上位幹部がわざわざ出てくる意図は何?」


    ナナバが静かに問いかけると、エルヴィンは腕組みを解いて、その手を机上で組み直した。


    「…私には、前々から探りを入れておきたいと考えている対象がある」


    「探り?」


    ハンジは不審そうな顔をした。


    「今回の演習は、本格的にその探りに入る前の下調べとなりうる」


    エルヴィンはそう言って、その場にいる人間の顔を一人一人追っていった。


    「…一体、何を考えているんだ。エルヴィン」


    「…時期が来たら話す」


    エルヴィンの言葉に、一同は口を閉ざした。
  22. 32 : : 2014/05/30(金) 19:55:20
    「…それで」


    リヴァイが迷いのない口調で沈黙を破る。


    「他に注意しておくべき内容はねぇのか」


    エルヴィンはリヴァイを見て頷く。


    「今回の演習では、確保できる令嬢の上限数はない。したがって、より多く確保すれば、出資の期待もそれなりに高まる。令嬢の名前、人相や特徴については、このリストが交付される」


    そう言ってエルヴィンは一枚の紙をかざした。


    「…そんなもの、出回って大丈夫なんでしょうか」


    モブリットが訝しげに口を開く。


    「万が一、それが犯罪者の手に渡れば…」


    「その通りだ。最初の案ではこれを兵士全員が持ち歩くとなっていたが、危険性を鑑みて、演習開始前30分だけ公開し覚えてもらう、という内容に修正してもらった」


    「元の案を考えたやつが脳足りんなのはよく分かった」


    「30分で覚えろだって?」


    ハンジは悲しそうな目をエルヴィンに向けた。


    「てめぇは巨人の顔もそう簡単には忘れねぇんだから心配すんな」


    「だから人間の顔には興味ないんだってば」


    「それから、ある令嬢を確保すると、特別に多額の出資を得られるようになっている。それがどこの誰であるかは、主催側以外には知らされていない…はずだ」


    「何その宝くじみたいな」


    「はずだってことは、例えば憲兵あたりがいやに迅速な動きを見せた場合、いろいろ事情を聞く時間を割いてやってもいい、ってことなんだろうな?」


    意味深なリヴァイの言葉に、エルヴィンは微笑する。


    「そのあたりの"守るべき”ルールは定められていない」


    「ああ…もう…このクソ忙しい時に…」


    ハンジは絶望の表情で机に頬をピタッとつけて倒れた。


    「分隊長、たった数時間ですから」


    「モブリット…班員への実験の引き継ぎよろしく…」


    「自分でやってくださいよ」


    「担当区画は私が割り振って近日中に内示する。喧嘩せず、仲良くやってくれ」


    「それはリヴァイだけ気をつければいい」


    「リヴァイと一緒だったら嫌だな」


    「ああ?何か言ったか?ミケ…ナナバよ…」


    「あとな、リヴァイ」


    エルヴィンが思い出したように付け加える。


    「確保した令嬢の家側からいろんな誘いがあるかもしれんが、無下に断らないように。兵士一般には滅多に得られない貴重な情報源だからな」


    「…ちっ」


    その日何度目かも分からないリヴァイの舌打ちが、団長室に響いた。
  23. 34 : : 2014/05/31(土) 20:07:10


    「人間が空を…飛んでる…」


    目を覚ますと、閉め切ったカーテンに何か鳥のようなものの影が飛び交っていた。


    「これが…あの人が話してくれた、立体機動…」


    何人もの兵士が、重たそうな装置をつけて空中を浮かんでいる─そんな不思議な光景に、目を奪われた。


    エルドの楽しそうな顔を思い出して、耳が熱くなる。



    「習得にはとても時間がかかるんだ」


    彼は難しい顔をして言った。


    「遠心力とか、そういう自分に働く力を正しい姿勢で制御しなければならないし、重心の移動も考えなければならない」


    「へぇ」


    「ワイヤーの巻き取りの力と、ガスの噴射による推進力。この二つのエネルギーを、いかに無駄なく持続させるか…」


    「…」


    普段は、彼はあまり自分については話そうとしない。だから余計に珍しくて、きっと変な顔をして聴いていた気がする。


    「…オルオってやつがいるんだが、そいつは立体機動のレベルも高くてな。ただ憎まれ口で、よく舌を噛む…俺はあれはバチが当たってるんだと思ってるが…」


    優秀で、意地っ張りだけど根は優しいオルオさん。


    「…ペトラは本当に周りをよく見ている。些細な変化にも敏感で、それが戦績にもよく出てる…オルオとは夫婦と言われてる…そう言うと怒るけどな…」


    人の良さを理解できて、いつも朗らかなペトラさん。


    「…グンタは、素っ気ない感じであんまり喋らないが、真剣に人の話を聴いて、一緒に考えてくれる…モテるんだろうけどな…本人曰く、女っ気は要らないとかなんとか…」


    真摯で思いやりがある、彼の親友グンタさん。


    「…俺は今、リヴァイ兵長…知ってるか?…その人に就いてるんだが…」


    リヴァイ兵長はもちろん知ってる…でも長かったから省略。


    「…私もいつか、会えるかな」


    エルドは少しだけ驚いたように目を見開いた。けれどすぐに嬉しそうに笑って、


    「俺もその日が待ち遠しい」


    と言った。


    昔から、笑うと目頭の下に線が入る─。



    「やっぱり、翼の紋の兵士は速いわね」


    エルドの母が、飛び交う兵士たちを見ながら、そうぽつりと呟いた。


    「…エルドも、いるのかねぇ」


    「どうかな…訊いておけば良かった」


    彼がこんなふうに飛んでいるのを想像するのは、何だか気恥ずかしくてたまらない。


    よく晴れて、兵士の腰の装置がきらきらと眩しかった。

  24. 35 : : 2014/06/01(日) 13:37:59


    「いくら何でも、少なすぎじゃない…?調査兵団枠…」


    ハンジがうめき声をあげる。


    「駐屯兵団6、憲兵団3、調査兵団1って…」


    「実際の兵士数に合わせてあるんじゃないですかね」


    モブリットが令嬢のリストを読みながら、適当に答える。


    「にしても、憲兵団3でうちが1はおかしくない?」


    「おいクソメガネ…てめぇ目標の面は覚えたのか?残り5分もねぇんだぞ」


    リヴァイがハンジの横から口をはさむ。


    「リ…リヴァイだって覚える気ゼロじゃん!」


    リヴァイはとうの昔に令嬢のリストを放棄していた。


    「隠れてる人間ってのは、隠れてるっていう気配で分かる…素人ならなおさらだ」


    「何それこわい…」


    「スンスン…」


    「ミケ、リストのにおいを嗅いで何が分かるのか教えてくれない」


    その時、区内図を見ながら思案していたエルヴィンが、ふと顔を上げた。


    「ナイル…」


    「…」


    ナイルは疲れたような面持ちでエルヴィンのもとに近づくと、小声で話し出した。


    「…時間がない。手短に要件だけ伝える」


    「何だ?ここで会ったが百年目、とか言い出すんじゃないだろうな」


    穏やかに微笑むエルヴィンに、ナイルは顔をしかめる。


    「…多額出資の華族についてだ」


    「…?」


    ナイルは構わず続ける。


    「その家の令嬢には、出資確約の証明として‘赤いバングル’を着けさせている」


    「ほう…」


    エルヴィンは顔色一つ変えずに呟く。


    「証明、か…」


    「…以上だ。互いに健闘を」


    ナイルが去って行った後、エルヴィンはリヴァイに同じ内容を伝えた。


    「ちっ…あの薄ら髭、何考えてやがる…」


    「…お前が特に使おうと考えている部下には伝えておけ。それ以外の者には話す必要はない」


    エルヴィンはちらっと時間を確認する。


    「開始だ。行け」


    「…了解だ、エルヴィン」


    エルヴィンは黙って頷き、また思案を始めた。

  25. 36 : : 2014/06/01(日) 15:55:46


    「ったく…何だよ、赤いバングルって」


    「オルオ、そのことは大きい声で言わないのよ」


    オルオとペトラの二人は、担当区画の家の屋根を飛び移る。


    「しかしこりゃあ…演習でも何でもねぇな」


    オルオが苦い顔をする。


    「ただのかくれんぼじゃねぇか」


    「オルオ!あれ!」


    ペトラがある方向を指差す。


    一般市民に紛れ、派手な服装の男女が通りを歩いている。


    「おい…やつら何故あんな貴族バレバレな格好してるんだ…」


    「…やる気ないのよ、中央の貴族だもん」


    「まあ…一応行っとくか…」


    オルオとペトラはアンカーを発射し、目標へと接近する。


    「先に私が行く」


    男女の真上の屋根に着地したオルオは、声をかけに降り立とうとするペトラを見守っていたが、その時ハッと異変に気づいた。


    「ペトラ!!引けッッ!!」


    それとほぼ同時に、周囲に銃声が響き渡った。


    「…っ!!」


    「おい!ペトラ!!」


    オルオは体勢を崩したペトラに駆け寄ると、彼女を抱えて近くの建物の中に飛び込んだ。


    「大丈夫か?ペトラ?」


    ペトラは怖い表情で立ち上がる。


    「市街地で発砲するなんて…」


    「…あそこから狙ってやがった」


    オルオは窓越しに遠くの時計台を顎で示した。


    「派手にやりやがって…クソが…」


    先ほどの銃声のおかげで、目標はおろか、市民ですら一斉に姿を消してしまっていた。


    「一体何者なの?ボディガードにしても、演習で兵士が接近することくらい分かってるはず…」


    「…あの距離から撃てる銃だ、音の方が遅れてくる。…ってことは」


    「兵士を追い払うための余興だったらやりすぎでしょ…」


    「いや」


    オルオはペトラの言葉を遮った。


    「あいつが狙ってたのは、ペトラじゃねぇ」


    「えっ?」


    「銃声が聞こえたのはお前が着地する前だ。奴はそれより先に発砲を終えてることになる…」


    「…まさか」


    「…空中で不安定な兵士の動きを狙うのは考えにくい。だとしたら、奴の狙いは…」


    オルオは険しい表情で、時計台を睨む。


    「はなっからあの貴族連れってことだ」

  26. 37 : : 2014/06/01(日) 16:27:36


    「分隊長!!どこへ行くんですか!!」


    街中を一心不乱に飛びつづけるハンジの背を、モブリットが追いかける。


    「ああ…もう…!せめて行き先くらい…!」


    その様子を見て、地上の子どもたちが歓声を上げる。


    「おい!あの兵士たち、すっげぇ飛んでるぜ!」


    「後ろの兵士さん、何か叫んでるね」


    「前の眼鏡の兵士と喧嘩したのかな」


    ハンジはあちらこちらに目を動かしながら進む。


    「…!」


    するとハンジは急に、停止姿勢に入った。


    「よいしょ…っと!」


    ハンジとモブリットが屋根の一つに着地する。


    「分隊長…止まるならできたらもう少し早めにですね…」


    やれやれといった様子のモブリットを無視して、ハンジは屋根から地上へと移動する。


    「…」


    ハンジが立っていたのは、こじんまりしたパン屋の店先だった。


    「…ここが、どうかしたんですか?」


    ハンジはしばらく何か思案していたが、そのまま何も言わずに店の中へと入ってしまった。


    「分隊長…?」


    パンの香ばしい香りの染み付いた店内で、ハンジはぐるりと頭を動かす。


    「いらっしゃい!」


    調理着姿の中年男性がにこにこしながら出てきた。


    「兵士さん、今日は特別に安くしときますよ」


    ハンジは店主に静かに近寄る。


    「今日のおすすめはですな…」


    するとハンジは、店主の脇を通り抜け、店主が出てきた厨房内へと入って行った。


    「ちょっと!?分隊長!?」


    「おい!?あんた…!」


    慌ててモブリットと店主が追いかけると、ハンジは厨房の大きなオーブンの扉に手をかけているところだった。


    「何勝手に…!」


    慌てる店主を他所に、ハンジはオーブンを開いた。


    「見ぃーつけたぁ…!!」


    そこには、少女が一人膝を抱えて座り込んでいた。


    「これは…!」


    モブリットがハンジに駆け寄る。


    「令嬢…」


    「ふふふっ…見つけたよ…私の大事な研究費ちゃん…!!」


    「えっ…?」


    嬉々とした表情のハンジに、モブリットは思わず後ずさる。


    「お昼なのに?パン屋さんなのに?火を焚いてないの、おかしいなぁって思ったんだよねえ…!!」


    不気味な笑顔を浮かべるハンジ。


    「いいかい…早く帰ってパパにお願いするんだ…調査兵団に出資してください大好きなパパ…ってねえ…」


    オーブンの中で怯える少女。


    「君のパパは必ず、私がこれまで受けた以上の研究費をその財力の限界まで支払うことになるでしょう!!ああ!!可哀想に!!」


    救助に来たのか拉致に来たのか分からなくなった…とモブリットは頭を抱えた。

  27. 38 : : 2014/06/01(日) 18:24:45


    イアン、リコ、ミタビの3人は、立体機動にはまだ移らずに、市街をその足で歩いていた。


    「ここは混んでるなぁ」


    ミタビが空を見上げて言った。


    「こんなに兵士が飛んでいるんじゃあ、危なくていかん…」


    「人混みは苦手だ」


    リコがムスッとした表情で呟く。


    「まあな…立体機動慣れしている調査兵団には有利かもしれんが」


    イアンは腕組みをして目を細める。


    「渋滞に巻き込まれるのはな」


    リコはわずかに首を傾ける。


    「だいたい、これのどこが演習だと言うんだ。わずらわしい」


    「ははっ。リコは正直だな」


    イアンが可笑しそうに微笑む。


    「…それは褒めているのか、けなしているのか。何なのだ」


    リコが小さく呟くと、ミタビはにやにやを隠しもせずに彼女を横目で見やる。


    「さて?何なんだろうなぁ?イアン?」


    「ん?何がだ?」


    「訊くなっ!知るなっ!」


    呑気な彼らの横を、若草色のスカートを履いた、日の光を受けると飴色らしい長い髪の娘がすれ違った。

  28. 39 : : 2014/06/01(日) 20:47:00


    エルドとグンタは市街地を外れ、ひっそりとした森林地帯に降り立っていた。


    「暑いな…今日は」


    グンタがそう言って空を見上げる。


    「ここはまだ拓けて風通しがいい」


    エルドはそっと深呼吸をして、さわさわと揺れる木々のしなる音に耳を傾けた。


    まさかこんな形で帰郷できるとは、と彼は思った。


    「令嬢は全員で52名」


    グンタがポキポキと首を鳴らす。


    「どのくらい確保は進んだだろうな」


    「…どうだかな」


    やや気の抜けた返事をするエルド。


    「少なくとも、赤いバングルの令嬢はこの辺にはいなさそうだが」


    「うむ…人探しは難しいな」


    「こうしているうちにもどんどん令嬢の情報を忘れていく…」


    「…人間の記憶は儚いものだ」


    エルドは森を越えた遠くに小さく見える集落をじっと見つめた。


    「…実家はあっちの方なのか?」


    グンタが目の上に手をかざし、エルドの視線の先を望む。


    「…え?…ああ」


    エルドはぎこちない返事をした。グンタはちらっとエルドを見ると、無頓着に口を開く。


    「フラれた例の彼女に会えたりしてな」


    「…職務中だ」


    二人はほとんど同時にアンカーを発射した。

  29. 40 : : 2014/06/02(月) 12:56:26


    リヴァイは河川沿いの倉庫地帯にて、4人目の令嬢を発見したところである。


    「…で」


    リヴァイは倉庫から引っ張り出した娘を丸太の上に座らせ、自分もその隣に腰かける。


    「…お前はあれを持ってんのか?」


    娘は首を振った。


    「…どの女が持ってんのか、知ってたら答えろ」


    娘は少し考えた後で、再び首を横に振った。


    「…ふん」


    リヴァイは横目でその様子を観察する。


    「…正直で悪くない」


    そして眉間にシワを寄せた。


    「前の娘もちょうどこの辺に隠れてやがったが、べらべら喋るわりに俺の質問には真剣に答える気もなかったみてぇだからな…それなりの輸送方法で本部に送還したわけだが」


    娘は、岸に垂れ下がった、ボートをつなぎ止めていたはずのロープの切れ端と、何を考えているのかも分からない隣のリヴァイを交互に見た。


    「お前はそのまま何も喋らず、おとなしくしてろ…早くお家に帰りたきゃあな」


    そう言うとリヴァイは突然娘を小脇に抱え、そのままアンカーを発射して空へ飛び出した。

  30. 41 : : 2014/06/02(月) 16:22:31

    普通に歩いてる兵士も、思ったよりたくさんいる。


    薔薇の紋章をつけた3人の兵士とすれ違いながら、買い物袋を抱え直した。


    家への道を進むにつれ、人が減っていく。


    エルドも今頃、市街地を飛んでいるのかもしれない─。


    そう考えると、何だか歩幅が小さくなった。


    家までの最後の道は一本道で、周りには木も建物もない。広々とした草原が広がって、それがただただ風に薫るばかりだ。


    その途中で、一台の馬車と、その影で何やら揉める男女がいた。


    「離してよ!」


    「じゃあ僕の話も聞けよ!」


    「こんなことしていいと思ってるの!?」


    「君こそ!どうして僕に黙ってこんな…」


    「仕方ないじゃない!あなたと私はもう会うべきじゃないのよ!」


    「そんなの!やってみないで何が分かると言うんだ!」


    女の方には見覚えがあった。


    あの時、エルドを追いかけていた─。


    「…あなたたち、何を言い争っているの」


    男と女がびっくりしたように言葉を止めて、こちらを見る。


    「…あなたには関係ないです」


    男が俯いて言い放った。


    くたびれたシャツにズボン、そして土のついたままの靴。


    「でもうちの近くでこんな…」


    「とにかく!私はもう行かなくちゃいけないの!」


    女は馬車に乗り、バタンと戸を閉めた。


    「おい!待てよ!」


    男が戸を叩く。


    しかし、非情にも、馬車は走り出す。


    「く…っ!!」


    すると男は意を決したように馬車を追いかけ、その足場の不安定な側面に飛び乗った。


    「えっ!?ちょっと!?あなた危ないわよ!?」


    買い物袋を放り出し、男がしがみついた馬車を走って追いかける。


    「何で来てるんですか!?関係ないって言ったでしょう!」


    男が戸惑った顔で叫んだ。


    「関係ないって…!」


    何だかとてもイライラした。


    「あるのよっ!!私は私で!!」


    そう言って、男の隣に飛び乗ってしまった。


    ぺったんこの靴で良かった。心底そう思った。


    「なっ…!?」


    何とか馬車にしがみついていると、男が怒鳴る。


    「何してるんですかあなたはッッ!!」


    「それはこっちの台詞よ!さっさと降ろしてもらいなさいよ危ないでしょうッッ!!」


    「あなたほんと一体何なんですか!!」


    「あの子の知り合いの知り合いよ!!」


    「はあ!?」


    と、その時、馬車が大きく揺れ、思わず足が滑った─。



    「…はぁ…っ…だ…だから来るなと…」


    男が苦しそうな表情で、腕を掴んで何とか引っ張り上げている。


    「…はやく、そこ…掴まってください…」


    何とかして元の体勢に戻った。しかし、男は腕を掴んだままだった。


    「また、いつ落ちるか分かりませんからね…」


    「…追いかけて、どうしようというの」


    「…さあ」


    男はふっと苦笑いした。その額から、汗が一筋流れる。


    「今追いかけないと、もう一生会えないような気がして」


    男の言葉が、ちくりと胸を刺した。


    「…私にはそんな勇気、なかったわ」


    「えっ…?」


    馬車は一本道を抜け、前方に森林が見え始める。



    ふと、その森林の方角から、二人の兵士が歩いて来るのに気づいた。
  31. 42 : : 2014/06/02(月) 19:21:04


    ミケとナナバは、生け捕りにした令嬢を真ん中に、広場のベンチに腰かけ、暇そうに令嬢をつついていた。


    「何か知ってるんじゃないの?赤いバングルの子について?」


    ナナバはつんつん、と令嬢の頬をつっつく。


    「隠しているにおいがするな…スンスン」


    ミケが逆側から令嬢の匂いを嗅ぐ。


    「言わないと、君、きっと損すると思うんだ」


    頬からつつーっとその指を令嬢の唇に触れるナナバ。


    「だが強情な匂いも…スンスン」


    耳の裏あたりを執拗に嗅ぐミケ。


    「その情報さえ手に入れば、うちの団長、満足するかもしれない」


    ナナバは唇をなぞっていた指をそのまま顎から鎖骨へと這わせる。


    「しかし泣きたいのを堪えているような…スンスン」


    ミケが今度は首の後ろに回る。


    「エルヴィンが満足すれば、私も早く帰れるかもしれない。そうなれば」


    ナナバの指が令嬢の胸元まで降りてきた。


    「私は君をもっと満足させてあげられる」


    ミケはふっ、と鼻で笑った。


    と、その時、広場の入り口から兵士が二人、駆けてきた。


    「ミケ分隊長!ナナバさん!」


    「…オルオに、ペトラか。どうした」


    「今すごくいいところなんだけど」


    オルオとペトラは一瞬だけおぞましいものを見るような目を向けたが、すぐに顔を引き締めて口を開いた。


    「何者かが、令嬢を狙撃しようとしています」

  32. 43 : : 2014/06/02(月) 20:22:29


    エルヴィンは確保した令嬢を、お姫様抱っこで本部まで連れ戻った。


    「もっと早く見つけてあげられれば良かったんですが…」


    エルヴィンはさも申し訳なさそうな表情を演出する。


    「えっ、お礼?ははっ、そんなことお気になさらずとも…」


    と、その時、正面からナイルが、確保された令嬢たちを引率してやってきた。


    「私、イアンという方に助けていただいたのよ。とてもクールなお方で」


    「あら、素敵じゃない?どこの兵団の方?」


    「美しい薔薇の紋章でしたわ」


    「私は調査兵団の、グンタさんとエルドさんに」


    「調査兵団!ワイルドねぇ」


    「御二人ともお若くてハンサムでしたわ」


    「調査兵団の兵士さんって、お体も引き締まっていらして素敵よね」


    「ふふっ、もう!はしたなくってよ」


    「私、リヴァイ兵士長殿に見つけていただいてしまって…」


    「あらあ!」


    「うらやましいですわぁ!」


    ナイルは咳払いをして、令嬢のために部屋の扉を開けてやる。


    「…ご親族の方がいらっしゃるまで、ここでお待ちください」


    エルヴィンは、自分が抱っこしていた令嬢をその部屋に一緒に入れてやると、立ち去ろうとしたナイルを呼び止めた。


    「何だ。何か用か」


    「いや、随分お疲れのように見えてな」


    ナイルは額に手を当て、小さく溜め息をついた。


    「…女はよく喋るな」


    「ははっ、男が喋らんだけかもしれんだろう」


    そう言うと、エルヴィンは真面目な顔になった。


    「…まだ、見つからないな」


    ナイルは、ああ、とだけ答えた。


    「…何故、お前がその情報をこちらに流したのか、ずっと考えていたんだが」


    「…お前も暇だな」


    「あれは、証明というより…」


    「エルヴィン団長!」


    エルヴィンの言葉を遮って、本部の入り口から4人の兵士が飛び込んできた。


    「…ミケ、ナナバ」


    その後ろには、オルオとペトラがいた。


    「…エルヴィン、少し話がある」


    ミケが低い声で言った。


    「できれば、ナイルも一緒がいいかもしれん」


    エルヴィンと、額に手を当てたままのナイルは、訝しげに顔を見合わせた。

  33. 44 : : 2014/06/02(月) 20:36:28


    エルドとグンタは森を立体機動で抜けると、集落への一本道を歩き出した。


    「いい景色だ」


    グンタはそう言って、草原の広がる四方を見渡した。


    「立体機動には向かないけどな」


    エルドは苦笑いする。


    故郷の家並みが近づくにつれ、彼の心は落ち着かせるのが難しくなってきた。


    「…ん」


    グンタが不意に声をもらした。


    「馬車が来る」


    二人は馬車を通すために、道の端に寄った。


    やがて、がたがたと音を立てて、馬車が前方から向かってきた。


    何の変哲もない馬車。


    の、はずだった─。


    「ん!?」


    「…!?」


    馬車の側面に、人が二人、張り付いている。


    「何だ?あれは…?」


    エルドはその張り付いている人間を見て、声にならない声を上げた。


    「な…っ!?」


    馬車がざざっと通り過ぎる。



    ─エルド!!



    その声を聞いた彼は、気づけば馬車を追って走り出していた。

  34. 45 : : 2014/06/02(月) 20:49:55


    「エルド!!」


    馬車がすれ違う瞬間、兵服姿の彼と目が合った。


    ああ…。


    やっぱりエルドだ─。


    再びずり落ちそうになると、横の男が背中を腕で抑える。


    「エルドっ!!」


    若草色のスカートが、パタパタとなびく。


    エルドともう一人の兵士が追いかけてくる。


    「おい!?お前何やってるんだ!?」


    彼は馬車から離れないように走りながら叫んだ。


    「何なんだ!?何をしてる!?」


    そしてエルドは横の男と交互に見比べる。


    「誰だそいつは!?」


    「話せば長くなるの!」


    「君!とにかく降りなければ…!」


    走っているもう一人の兵士が声を上げる。


    「馬車を止めろ!!」


    中の者が制止しているのだろう。御者は馬車を止めない。


    「おい!何なんだグンタ!?この状況は!?」


    エルドが声を張り上げる。


    「いや分からん…駆け落ちかもしれん…」


    エルドの顔がその言葉を聞いて絶望した。


    「駆け落ちって…嘘だろ!?その男とか!?」


    「そんなバカなことあるわけないでしょ!!」


    「暴れないでくださいよ!!落ちますよ!?」


    「おい!!彼女にあまり触るんじゃないッッ!!」


    エルドが指を立てて叫ぶ。


    「今はそれどころじゃないでしょう!」


    「エルド、それどころじゃない」


    「俺だってまだそんなに触ったことないんだぞッッ!?」


    「エルド、見苦しい」


    「いいから早く止めて!!」


    「だから何なんですかあなたたちは!?」


    すると突然、エルドともう一人の兵士が、馬車の両脇にそれぞれ分散した。


    「…ようやく平地を抜けたな」


    「…ここに来るのを待っていた」


    馬車は森の中に突入した。


    エルドとその兵士が同時に空中を飛んだ。



    ─初めて、彼の立体機動を見た瞬間だった。



    そして、ワイヤーのようなものが背後を通ったかと思うと、次の瞬間にはエルドに抱えられて木々の間を縫って飛んでいた。


    「…エルド」


    「…」


    エルドは黙って着陸する。


    もう一人の兵士も、男を抱えて傍に降り立った。


    馬車は走り去っていく。


    「あれは止めた方がいいのか」


    エルドは男に訊いた。


    「…中の人間に用がある…しかし…」


    エルドは男の言葉を待たず、再び飛び去った。


    「俺はあんまり気乗りしないがな」


    もう一人の兵士が、そう言いながらも彼の後を追う。


    二人は一気に馬車を追い越すと、その腰の装置から刃を抜いた。


    「…っ!」


    そして、馬車と馬を繋ぐ綱と馬具を断ち切る。


    馬車がやや前のめりに、ガタン、と止まった。


    御者は馬車を放置してどこかへ走り去る。


    「…大丈夫か?」


    エルドは中の女が外に出るのを手伝う。


    「…!」


    エルドともう一人の兵士が、女の腕にはめられた赤いバングルを見て、目を見合わせた。

  35. 46 : : 2014/06/03(火) 17:37:10


    「ああ?赤いバングルの人間が目標?」


    既に9人目の令嬢を確保して本部に戻ったリヴァイが、オルオたちの話を聞いて眉をひそめた。


    「そういうことだ」


    ナイルがぶっきらぼうに口を開いた。


    「じゃあ何か?てめえら憲兵のやつらは、その目印をつけてる女が狙われるかもしれねぇことが分かっていた上で、こんなくだらねぇお遊びを止めなかったってのか?」


    ナイルは苦々しい表情を浮かべた。


    「この演習を進めるも止めるも、決定権は兵士ではなく貴族側にある。忘れるな」


    「…はっ」


    リヴァイは乾いた声をもらした。


    「てめぇのその主張でいくと、狙われるのも貴族だが、狙ってるのも貴族、ってことになるが」


    「…推測でしかないが」


    「十分だな」


    リヴァイがイライラと目を細める。


    「どうだ?エルヴィン…貴族のやつらの共食い…下調べにしては十分すぎる成果じゃねぇか」


    エルヴィンは腕組みをして、じっと何かを考えていたが、やがて重い口を開いた。


    「どんな理由があって、彼らが対峙するのか…そこまでは分からないが、今回のこの演習のように、‘あえて混雑をきたす環境’を演出することは、最も手っ取り早い策ではある」


    一瞬の呼吸を置くエルヴィン。


    「敵は巨人だけではない。壁の中にも潜んでいる…これで少しははっきりした」


    そして、と付け加える。


    「良心的なナイルが、私に情報を流したわけもな」


    「で、だ…俺がさっきから気になってることは」


    リヴァイはわずかに首を傾ける。


    「オルオとペトラが最初に見つけたやつらは、何で狙われたのかってことだ」


    オルオとペトラが顔を見合わせる。


    「バングルなんざしてなかったんだろ?」


    少しの沈黙が訪れる。


    「彼らが狙われたことで、発生した事態は」


    ナナバが口を開いた。


    「貴族の命を狙っている勢力の存在が明らかになったことと」


    ナナバは声を低くした。


    「市街地の警護のため、兵士が集中したことだ」


    「…なるほどな。そうなると」


    ミケがゆっくりと言葉を発する。


    「オルオたちが見つけた貴族は敵の手先…ということもあり得る」


    「全くよくねぇな…エルヴィン」


    リヴァイはスッと立ち上がった。


    「…郊外が手薄だ」

  36. 47 : : 2014/06/03(火) 17:45:39
    アートのシリアス新鮮だけど、私には本領を発揮しているように見えるのです
    期待しています
  37. 48 : : 2014/06/03(火) 18:58:10


    「彼女、もうすぐ内地の貴族と結婚するらしいの」


    男と女が話し合っている場所から少し離れて、木の幹に背をもたれながら地面に座る。


    隣にはエルドが立っている。


    「でも、あの地元の男の子とずっと仲良くしていて…」


    「…なるほどな」


    そこへ、もう一人の兵士が、主人のいなくなった馬を率いてやってきた。


    「調査兵団の、グンタ・シュルツです」


    「あ…!」


    息を飲んで兵士を見る。


    「あなたがグンタさん…!」


    彼は少し驚いたような表情で、エルドを見た。


    「彼女は…?」


    するとエルドは、困ったような、はにかんだような顔になった。


    「ほら…その…」


    グンタさんは、エルドと私を交互に眺めて、やがてハッとしたような表情を浮かべた。


    「…ええッッ!?」


    何故か驚いた声を上げるグンタさん。


    「ちょ…っと、いいか?エルド?」


    エルドが彼について行く。そして二人で何やら小声で話し出した。


    「…おい、エルド」


    「何だ」


    「…」


    「おい」


    「…いや、やっぱり何でもない」


    「言えよ!?気になるだろ!?」


    「…はぁ…もったいない…」


    「何だ?よく聞こえないぞ!?」


    「…俺は彼の家の荷馬車を借りて、あの令嬢を本部に送ってくる。バングル持ちだからな」


    「じゃあ俺も…」


    「お前は彼女を送ってから立体機動でも何でも使ってさっさと上がって来い」


    「いやしかし…」


    「じき雨が降りそうだ」


    あんなに晴れていた空に、いつしか灰色の雲が立ちこめていた。


    「急げよ」


    そう言って彼はエルドの肩を叩くと、男と女の方へと走って行った。


    「グンタさん、何て?」


    「あの二人をどうにかするってさ」


    エルドはフイっ、とこちらを見下ろした。


    「送っていく」


    すると、遠くから女が私に向かって手招きした。


    「…怪我、なかった?」


    彼女はそう言って、申し訳なさそうな目を向ける。


    「ええ。あなたこそ」


    「あれ…エルドなの?」


    彼女は、向こうで黒い空を見上げて立っているエルドをちらっと見た。


    「随分雰囲気変わったわね」


    「…やっぱりそう思う?」


    彼女はしばらくじっとエルドを見つめていたが、やがてぽつりとこう言った。


    「…私、エルドが好きだった」


    そして、私に強い視線を向ける。


    「あなたが彼とどういう関係かは聞かないけど」


    「…」


    「彼に相応しくあるのはすごく難しいってこと、私は知ってるの」


    そう言うと、彼女は腕につけていた真っ赤なバングルを外した。


    「これ、あげる」


    「えっ?」


    「持っていたら、何かあなたたちの役に立つと思うわ」


    彼女は冷やかに微笑んだ。


    「それに、真っ赤で趣味も悪いし」

  38. 49 : : 2014/06/03(火) 19:27:17


    エルドの立つ傍で、さっきと同じように、木の幹にもたれて地面に座る。


    グンタさんは二人を連れて、集落の方に行ってしまった。


    風は相変わらず吹きつけている。ただ、空の色が今にも泣きそうな色に変わっただけだ。


    「…早く戻らないとな」


    エルドが口を開いた。


    「…うん」


    けれどどちらも、その場を動こうとしなかった。


    「…びっくりした」


    彼はふっと息をつく。


    「けっこう大胆なことするんだな」


    「…自分でも、よく分からないわよ」


    何故か怒りもしない彼の横顔を見上げる。


    「…エルドの立体機動、初めて見た」


    「ああ、そうか。どうだった?」


    彼と目が合う。


    「どうだったって…」


    上手な言葉が見つからない。



    彼の兵服と、その腰に鈍く光る装置。


    初めて地面から足が離れた感覚。


    自分を抱える腕の強さ。



    現実のエルドは目の前にいて、その存在の感触もしっかり残っているのに。


    頭の中では、まだ、12歳の彼が微笑んで立っている─。



    「…強くなったんだね」


    エルドはその言葉を聞くと、いたずらっぽく片目を細め、やや首を反らしてみせた。


    「それだけ?」


    「…欲張りね」


    もう知らない、というように彼から顔を背けると、急に彼は笑って、私の目の前に跪いた。


    「会えて良かった」


    熱い頬に、ポタッと、空から水滴が落ちてきた。


    エルドの方を向いて、彼の目を真っ直ぐに見つめる。


    雨の落ちてくる感触が増える。


    その時の彼はきっと、12歳のあの頃と同じように微笑んでいたのだと思う。


    でもやっぱり、覚えていない。


    変われない自分の頑固さのせいで、何も覚えていない。



    すると、エルドは小さく溜め息をついて視線を落とした。


    「まだ…そういう目をするんだな」


    雨が木々の葉を染みて、落ちてくる。


    「あの日と同じ目だ」


    「…あの日?」


    「君の誕生日、橋の上で話した日だ」


    彼は悔しそうな、もどかしそうな、苦しそうな表情で俯いている。


    雨が激しくなる。


    頭上の葉はそれらをもう、受け止めきれない─。



    「はぁッッ…!!くそっ…!」



    そう言うと突然、エルドは両肩を強く掴んで、激しく唇を重ねた。



    逃れようとすれば顎を抑えられた。


    立ち上がろうとすれば木に身体を押し付けられた。


    声を上げる一瞬の隙も与えられなかった。



    ─息すらできない、長くて痛いものだった。



    「…っっはぁッッ!!…っ!」


    肩で息をするエルドの目は鋭かった。


    言いしれない沸々とした感情がこみ上げて、堪えるように歯を食いしばる。


    「…くそって」


    頭を振ると、水滴がポタポタと髪から滴り落ちた。


    「くそって…そんな…!そんな汚い口で…こんなこと、しないで!!」


    「俺は真剣だ!!」


    彼は訴えるように手に力を込める。


    「俺は見た目も所属も、お前の知ってる俺とは変わった!それは認める!だが気持ちはガキの頃から変わらない!!」


    雨の音も、風の音も、何も聞こえない。


    「俺はずっと!!お前が…」


    「もういい!!もう分かったからッッ!!」


    「お前が好きだ!!」


    頭も、目も、胸も、痛かった。


    「ちゃんと聞いてくれ!!」


    「聞いてるわ!!」


    「いや聞いてない!!」


    「何でよ!!」


    「好きだって言ってる!!」


    「だから…!!」


    「分かるまで何度でも言うからな!!俺は…」


    「ちょっと待ってよ!!」


    そう言って、エルドの兵団服の襟を掴んだ。


    視界が霞むかのように、雨の水煙はすさまじい。


    けれど今は、目の前のエルド・ジンを、はっきり見ることができた。


    変わってしまったものの中で、変わらないものがずっと待っていてくれていた。


    臆病で、意地っ張りで、強がりなこの心を。


    どうして、こんなに長い道のりを歩いてしまったんだろう。


    だって、本当は。いつだって─。



    「…やり直して」


    「えっ…?」


    「…さっきの、痛かったから!」


    エルドはやっと、ふっと表情を崩した。


    笑うと、目頭の下に浮かぶ線─。



    と、その時、雨の音を切り裂いて、森の中に銃声が轟いた。

  39. 50 : : 2014/06/03(火) 19:55:57


    「…どこにいる」


    エルドが庇うような姿勢で、森の中を見渡す。


    背をもたれていた木の幹からは、雨に混じって焦げるような臭いが立っていた。


    「一体…」


    と、その時、頭上の木々がざわざわと音を立てて揺れた。


    「…っ!!」


    エルドが装置の刃に手をかける─。



    「見ぃーつけたぁーッッ!!」



    「…!?」


    「…えっ!?」


    頭の上から、人が落ちてきた。


    「…ハ…ハンジ分隊長…!?」


    ハンジと呼ばれた人は、ギラギラとした異様な目つきでこちらを見ると、ニヤッ、と笑った。


    「ひ…」


    「見つけたよ…私の研究費ガール…」


    その人はそう言うと、私の肩をガシッと掴んだ。


    「ちょっと…!ハンジさん!?」


    「おや?エルドが先に見つけたんだねえ?でも関係ないよねえ、同じ調査兵団なんだからさあ…」


    「な…何のお話でしょうか…?」


    「ははっ…嫌だなあ…令嬢さまはお芝居が下手くそでいらっしゃる…」


    「ハンジさん!!こいつは令嬢ではありませんよ!!」


    「…うん?」


    動きを止め、エルドを怪訝そうに見るハンジさん。


    「じゃあ、何であいつは狙ってた?」


    「あいつ?」


    「分隊長!!」


    突然、茂みから兵士がもう一人顔を出した。


    「あ、モブリット!やつは仕留めた?」


    「ええ、何とか」


    モブリットと呼ばれた兵士は、茂みから銃と、ぐったりした男の腕を持ち上げて見せた。


    「よくやった!さすがモブリット!」


    ハンジさんは親指を立てる。


    「結構大変だったんですからね?」


    と言いつつ、やれやれ顔のモブリットさんも親指を立てた。


    「…何なんですか、あの男は?」


    エルドがハンジさんに問いかけた。


    「赤いバンクルの令嬢を狙った殺し屋さんだよ」


    「えっ…?」


    「話せばちょーっとややこしいんだけど」


    でも、とハンジさんはこちらを見た。


    「ほんとに令嬢じゃないの?」


    「…違います…あの、でも」


    「でも?」


    おそるおそる、ポケットからバンクルを取り出した。


    「…おい!?何でお前がそれを…!?」


    エルドが驚きの声を上げる。


    「さっきのあの子が持ってたはずじゃ…」


    「もらったの」


    「はあ…?何で…」


    「きっといいことあるから、あげるって」


    「いいことって何だよ?」


    「聞いてない」


    「ふうん…」


    ハンジさんは真っ赤なバンクルをじっと眺めて、考えるように首を傾けた。


    「…そういうことなら」


    「…ハンジさん?」


    「分隊長…?」


    ハンジさんはパッと笑顔になった。


    「君!ちょっとだけ私たちと来てくれ」


    エルドとモブリットさんの3人で、顔を見合わせる。



    いつの間にか、雨も小ぶりになり、うっすらと夕暮れの色が空に差していた。

  40. 51 : : 2014/06/04(水) 17:49:07


    たくさんの兵士が行き来する建物内の小さな部屋で、エルドと一緒に並んで座っている。


    「政府から出資を得られることになった」


    彼は腕組みをして、落ち着いた声で話す。


    「本当はその家からか、主催の貴族連中の折半だったんだろうが…」


    「この演習にそんな目的があったなんて知らなかったわ」


    「…俺たち兵士はいいように使われた、それだけだ」


    エルドは小さく肩を落とした。


    「モブリットさんが捕らえたあの銃の男によると、政府は、兵団への最大出資の見返りとして、その貴族に'ある権利’を与えると約束していたらしい」


    「権利?」


    「どんな権利かは、あの男個人には知らされていなかったようだ…目印を奪え…ただそう命じられて動いていたそうだ」


    「…目印っていうのは、あのバングルのこと?」


    「ああ。'権利を得る権利’を証明するものだな。あれを持っていれば、政府からその権利を与えられる」


    「でも…それって危険じゃないの」


    「…演習中に目印をつけていることは、政府が貴族に示した条件だ」


    「そうまでして欲しい権利って…」


    あげるわ、と言った彼女の表情を思い出す。


    でも、きっと彼女は何も知らなかったに違いない─。


    「ハンジさんの推測通り、それを持っている人間は誰でも良かったんだ」


    たしかに、バングルは回収されたものの、私自身に主催側や政府が何か言ってくることはなかった。


    「これは団長たちの考えだが」


    エルドは目を細める。


    「高額出資の証明、という情報を憲兵団に流し、それがどんなルートで誰に伝わるか。政府にとっての危険因子はどの派閥か。その情報を得ることが、政府の最大の目的だ」


    「…政府があなたたちに出資を決めたのは、それが得られたから?」


    「…かもしれない。あるいは」


    「…?」


    「口止め料だな」


    彼はふっ、と息をつく。


    「貴族に共食いさせたなんて、あんまりいい噂にはならんからな」


    「…どうして、そんなことするの?」


    「それは」


    エルドは小さく頭を振った。


    「兵団組織には降りてこない情報だ。もっと違う次元の組織が絡んでいるらしい。エルヴィン団長は密かにそれを追っている」


    「エルヴィン団長が…」


    しばらく、沈黙が流れる。


    「…何がなんだか、さっぱりね」


    「巻き込んで、悪かったな」


    「でも、ハンジさんの研究費が潤って良かったわ」


    ふふっ、と笑ってみせる。


    「彼女の言ってたいいことって、こういうことだったのかな」


    するとエルドはふと思い出したような顔をした。


    「…彼女、何か言ってたか」


    「ああ…あの子…」



    ─私、エルドが好きだった。



    この大事な言葉は、彼に向けられたものではなくて、私に向けられたものだということ。


    彼女のあの目を見れば、それは明白だった。



    「…ううん」


    エルドは黙って頷いた。


    「幸せになってくれたらいいと思う。あの彼とも、もう少し向き合ってみるべきだ」


    その時、部屋の扉がノックされた。

  41. 52 : : 2014/06/04(水) 19:13:05

    エルドがドアを開けると、金髪で碧い目の背の高い兵士と、神経質そうな黒髪の小柄な兵士が現れた。


    「調査兵団第13代団長、エルヴィン・スミスです」


    背の高い方の兵士が微笑みながら手を差し出す。


    「…そして、こっちはリヴァイ」


    「リヴァイ兵長…」


    リヴァイ兵長はエルヴィン団長の後ろで、壁にもたれて他所を向いている。


    「今回は無関係の君を巻き込み、危険にさらしてしまった。私は心から申し訳なく思っている」


    「ああ…いえそんな」


    元はと言えば自分から飛び込んでいったようなものだったので、かえって恥ずかしかった。


    「…悪かったな。てめぇも、エルドも」


    初めて聞くリヴァイ兵長の声は想像以上に涼しげだったが、どこかしっかりとした思いの伝わる声色だった。


    「御者を呼ぶ。君の実家まで送らせてくれ。今回は特別に、リヴァイの護衛付きだ」


    「えっ?」


    リヴァイ兵長はふん、と息を漏らした。


    「危ないことはないと思うが、念のためにね」


    それから、とエルヴィン団長は真剣な面持ちで付け加える。


    「今回のことは、君の胸の中だけにしまっておいてもらいたい」


    「あ…ええ、それはもちろん」


    エルヴィン団長はうむ、と頷いた。


    「良かった。では、夕食後にまた迎えに伺おう」



    エルヴィン団長とリヴァイ兵長が部屋を出て行くと、二人で同時に溜め息をついた。


    顔を見合わせて、ふっと笑う。


    「偉い人と話すのは疲れるわね」


    「まあな」


    「リヴァイ兵長と家まで…何話したらいいのかな…」


    「そうだな…掃除のコツとかだな」


    「何よそれ」


    「割と真面目に言ってるんだが…」


    エルドの困ったような顔が、おかしくて仕方ない。



    こんなふうに話せるのは、次はいつなんだろう。


    数ヶ月。


    いや、数年先かもしれない─。



    ふと、彼の兵団服の翼の紋章が目に止まった。


    そしてそれが、彼を遠くへと羽ばたかせるものであることを思い出す。


    その翼が一瞬だけ、心に黒い影を落とした─。



    「…エルド」


    背の高い彼を見上げる。


    優しく見つめ返してくれる。


    どうしてだろう。


    こんなに近くにいるのに。



    とても苦しい。



    「…ねぇ、私の名前…ちゃんと覚えてるの?」


    「はあ?」


    エルドは何言ってるんだ、という表情になった。


    「なんでだよ」


    「だって、一度も呼ばないから」


    「…そうだったか?」


    彼はとぼけたような、照れくさそうな様子で耳の後ろを掻いた。


    「まあ…また次会った時な」


    「ええ?何よそれ?」


    と、その時、窓の外から人の声がした。


    「…ちょっとオルオ!!近づきすぎよ!」


    「グンタ!そこにぶら下がられると全く見えないんだが!」


    「静かにしろお前たち!」


    エルドは顔をしかめて溜め息をつくと、窓を勢いよく開け放った。


    「お前らっ!覗きとは随分いい趣味だな!?」


    ─ペトラさんとオルオさんにも会えた。


    窓の外に立体機動でぶら下がる3人の兵士とエルドを見ながら、私は声を上げて笑った。

  42. 53 : : 2014/06/04(水) 19:32:55


    「膨大な出資の恩恵は、調査兵団が手にしたそうだ」


    そう言ってイアンはコーヒーを飲み干す。


    「とてもどうでもいい」


    リコはカップにフーフーと息を吹きかける。


    「リヴァイを出されたんじゃなぁ」


    ミタビは角砂糖を5つほど、何のためらいもなく投下する。


    「一人で12人も確保したんだろ?化けもんかよ」


    「ほぼ4分の1だな」


    「まるで勝負にならん」


    「一体何のための演習だったのだ」


    リコはコーヒーを少し含むと、険しい顔をした。


    「子どもたちは喜んでいたな」


    イアンが2杯目のコーヒーを注ぐ。


    「そういう市民の好感を後ろ盾にするのは、貴族たちの昔からのやり方だ」


    「ふん…くだらない」


    「だがイアンは令嬢との会食権を獲得したんだってな?」


    ミタビが愉快そうにスプーンをくるくる回す。


    「なんだそれは」


    リコがミタビを睨む。


    「イアンは忙しいなぁ」


    にやにや笑いを隠さず、さらに角砂糖を3つ投下するミタビ。


    「ん?何の話だ?」


    「…イアンはそのままでいい」


    2杯目のコーヒーを飲み干すイアンの隣で、リコはまだフーフーと息を吹きかけ続けるのだった。

  43. 54 : : 2014/06/04(水) 19:56:22


    ナイルは令嬢たちが全員親族に引き取られたのを見届けると、痩けた頬をさすりながら、どっかりと廊下のベンチに腰を下ろした。


    「…やあ、ナイル」


    「またお前か…」


    エルヴィンがナイルの隣に座る。


    「無事に終わって何よりだ」


    「疲れた。風呂に入りたい」


    エルヴィンは疲弊した旧友に笑いかける。


    「お前がこちらに情報を流してくれたおかげで、失われかけた命が救われた」


    「…」


    「ナイルにしては、なかなか大きい賭け事だったな」


    ナイルは横目でエルヴィンを見た。


    「…市民を守るのが、俺の第一に果たすべき務めだ」


    エルヴィンはおかしそうに目を細める。


    「案外賭け事向きかもしれないぞ」


    「冗談」


    ナイルは頭を振った。


    「まあ、こちらとしても、おかげで次の遠征にかかる費用を調達できた。礼を言う」


    「ふん…そりゃ良かったな」


    「結構大掛かりな装置を必要としていてな」


    「なんだ、珍しい巨人でも生け捕りにする気か?」


    ナイルは苦笑した。


    「せいぜい、仲間の命は大切にしてやれ。お前はどうも浪費癖がある」


    「…最善を尽くそう」


    二人の友人は、まだ見ぬ前途を思って沈黙した。

  44. 55 : : 2014/06/04(水) 20:14:06


    馬車の前でエルドと話していると、その傍をリヴァイ兵長が無言で通り過ぎて馬車に乗り込んだ。


    「あっ…」


    慌てて二人で馬車に駆け寄る。


    「す…すみません、兵長…」


    戸口からエルドが、馬車の奥に腰かけるリヴァイに謝罪する。


    「…何で謝ってんだクソが」


    「いえ…その、もしかして…随分お待ちだったのではと…」


    「待ってねぇ」


    「…本当ですか?」


    「待ってねぇっつってんだろうが」


    リヴァイ兵長はちっ、と舌打ちした。


    「…結構長くかかるかと思って、先に乗っておいてやろうと思っただけだ」


    無愛想なリヴァイ兵長の様子に、エルドと私は思わず、顔を見合わせて笑った。



    「…エルドには、今後は本格的に俺の班員として動いてもらう」


    家路をたどる馬車の中で、リヴァイ兵長は突然そう言った。


    「俺の部下ということは、つまり最前線を行くということだ」


    向かいに座るエルドの上司を、しばらくぼんやりと眺める。


    「…そのことをお話してくださるために、わざわざ?」


    「…」


    リヴァイ兵長は、何も答えずに黙っていた。


    目つきは鋭いし、いつも眉間にシワを寄せて、近づきがたい雰囲気の人。


    でも、仲間や部下のことをとてもよく理解して、思っている。


    ─エルドの言っていた通り。


    「…彼がそれだけ優秀ということなんですよね」


    馬車はがたがたと走り続ける。


    「…人間を見ることに関しては、俺は元々結構してきた方だ」


    リヴァイ兵長は静かにそう言ってくれた。


    「…昔から、変わらないんです」


    「…」


    「彼は…広い世界を歩く人です。みんなが歩きやすいように、先に立って歩いていく人なんです」


    力を込めて、リヴァイ兵長を見つめる。


    「彼はきっと、あなたのお力になります」


    馬車が小石を蹴り上げる。


    「だから…」


    「…」


    「…エルドに、自由をください」


    長い長い沈黙だった。


    「約束しよう」


    もう、外は暗かった。



    先ほど別れたエルドとの会話を、ひっそり思い出す。

  45. 56 : : 2014/06/04(水) 20:29:54


    「気をつけて帰れよ」


    馬車の前で、エルドが明るい声で言った。


    「リヴァイ兵長が一緒なんだから、無敵よ」


    「ははっ、それもそうだな」


    リヴァイ兵長はまだ来ていなかった。


    「手紙でも出そう」


    「ほんと?」


    「ああ」


    「でもエルドの手紙、3行くらいで終わりそう」


    「失礼だな…こう見えて言いたいことは山ほどあるんだぞ?」


    日はすっかり落ちてしまっていたが、通りはまだ兵士がちらほら行き来する。


    「どうせ箇条書きとかでしょ」


    「なんでそんなに疑うんだよ」


    エルドはいかにも不服そうな顔をする。


    「お前こそ、ちゃんと寝ろとか、髭剃れだとか、小言ばっかり書くなよ?」


    「それ以外に何か書くことあるの?」


    「おい、冗談だろ?」


    さすがにちょっとかわいそうになってきて、垂らされていたエルドの手をそっと捕まえる。


    彼の眉がわずかに上がった。


    「大事なことは直接言うって決めてるの」


    「何だよ、大事なことって」


    エルドは捕まった手を少しだけ動かす。


    まるで戦う前のように挑戦的な目をして微笑む彼を、黙って見つめ返した。


    そのまま、エルドは自分の指と指との間に、彼を捕らえていた指を絡ませる─。

  46. 57 : : 2014/06/04(水) 20:48:15



    気がつくと、彼のシャツを握り締めたまま、随分時間が経っていた。


    握っていた部分は、すっかりシワになってしまっている。



    あの演習の日から今日まで、彼は一度も帰って来なかった。


    19歳から20歳になった。


    あの時はお姉さんだとか何とか言っていたけれど、今回は、すでに彼も同じく20歳になっている。



    ─まあ…また次会った時な。



    どうしようもない約束だった。


    何故だろう。


    涙が止まらない。



    今頃は調査兵団の帰還行軍が、市街を進んでいるだろう。



    泣きたくない。


    ねぇ、エルド。



    たくさんの人々が、ぼろぼろになった彼らを賞賛したり、蔑んだりするだろう。



    止まらないんだよ。


    どうしたらいい。


    ねぇ、エルド─。



    居ても立ってもいられなくなって、駆け出した。



    市街地とは逆方向に走る。


    もう地平線上の太陽も、わずかに顔を出しているだけだった。


    あの日と同じ、草原の薫り。森の木々のしなり。


    そして─。



    たくさんのマッチの火を浮かべたように、夕日にきらきらと燃える水面。


    群青色に移りゆく空に、一番近い橋の上。


    若草色のスカートを揺らす風に乗る、変わらない川のせせらぎ。



    「エルドっっ!!」



    水の音はやっぱり、その叫びすらも優しく溶かして、世界中へと運んでいく。



    ─どこまで運んでくれるのだろう。



    ねぇ。


    エルドは知ってる?


    私の知らない、遠くの道を、たくさん歩いてきたんでしょ?


    広い広いその世界にも、この流れは続いているんでしょ?


    エルドは賢いから、帰り道を迷ったりしない。


    私が。


    私が、この流れの途中で待っていれば。


    この橋の上に立っていれば。


    はやく。


    あの日と同じように。


    ねぇ。


    はやく、たどって帰ってきてよ。



    「…エルド」



    その時、一際強い風が吹いた。



    「…」



    その中に、目を閉じてじっと佇む。



    こつん、と、額に何かが触れた気がした。


    それは私を確かめるように、私の額にぴったりと触れている。



    ─エルド。



    目を閉じたままそっと顔を上げると、鼻先が彼の鼻先に触れた。


    額を彼の額に押し当てたまま、そっと擦り合わせる。


    彼は触れた額を離さないように、それを受け止める。



    彼の優しい眼差しがそこにあるのが分かる。



    そっと、何度も、互いの額を擦り合わせる。


    その温もりを、しっかりと焼き付けるように。



    長く、長く。



    優しく、何度も。




    ─ただいま。




    やっと二人で帰ってきた。


    全てに懐かしい風と、せせらぎの中に。


  47. 58 : : 2014/06/04(水) 20:49:06


    終わり
  48. 59 : : 2014/06/04(水) 20:54:02
    執筆お疲れさまでした。

    何と言ってよいのかわからないほど、美しくてさわやかで切なくて
    エルドと彼女の間を割いた残酷な運命に涙があふれます…。

    うまく言葉になりません…。

    素晴らしい作品をありがとうございました。
  49. 60 : : 2014/06/04(水) 22:25:19
    やばい…涙が止まらない…
  50. 61 : : 2014/06/05(木) 07:06:46
    >Ms.88
    あなたに読んでいただけたことを、僕は本当に誇りに思います。大きな勇気を、ありがとうございました!

    >Ms.なすたま
    こちらこそ、女性の方に楽しんでいただけたのなら報われます。良かった…(笑)親愛なるエルドと彼女に。

    >コバルト・ニッケルさん
    最後まで読んでくださったことに、僕は心から感謝します。また何か書いたときには、よろしくお願いします!
  51. 62 : : 2014/06/05(木) 07:33:06
    わぁぁ!!凄くよかったです!!
    お疲れ様でした!
  52. 63 : : 2014/06/05(木) 07:37:19
    執筆お疲れ様でした
    エルドの心模様が手に取るようにわかる、切ない暖かいラブストーリーでした

    心理描写と動作描写が、臨場感により一層華を添えていて、さすがの表現力にあっぱれです!!

  53. 64 : : 2014/06/05(木) 18:02:15
    >ざわわ@元JCなっちさん
    ありがとうございます!最近エルドになりたすぎる僕が、自己満足に書きました(笑)読んでくださって、とても嬉しいです。

    >Ms.88
    しばらくこういう感じのを書いていなかったので、英語で下書き、日本語訳…が大変でした(笑)趣味丸出しで申し訳ありません!
  54. 65 : : 2014/06/05(木) 20:28:40
    切ない(>_<)泣きました!!

  55. 66 : : 2014/06/05(木) 20:34:23
    お疲れさまでした…なんとも、言葉にできない複雑な思いを抱いております。
    美しい文章に魅了され、恋人さんとエルドの触れ合う描写に涙が流れました。
    素晴らしい作品をありがとうございます!
  56. 67 : : 2014/06/06(金) 08:06:35
    執筆、お疲れ様でした。
    数珠繋ぎ、Artさんの作品の世界から、今帰ってきました。
    本当に馬車のひづめの音が聞こえたり、雨に自分も濡れている感覚になったりと、すごく引き込まれました。
    立体機動を使って、覗き見してるオルオ、ペトラ、グンタは、すごく可愛いかったです。
    次回作も、ぜひ読ませてくださいね。
  57. 68 : : 2014/06/06(金) 19:56:22
    >旦那の性格がリヴァイ(絶望)さん
    いつもいろいろ読んでくださって、本当にありがとうございます。ラジオを放置して急いで書き上げたので(笑)、おかしいところもたくさんありそうですが、映画のように楽しんでいただけたら!
  58. 69 : : 2014/06/06(金) 19:58:28
    >卿さん
    この二人は爽やかに書きたかったので、恋人関係にしてはいろいろ物足りないところもあると思うのですが、そう言っていただけると僕は報われます…卿さんの書き方、とても参考になりました!
  59. 70 : : 2014/06/06(金) 19:58:39
    >数珠繋ぎさん
    おかえりなさい。景色を気に入っていただけたのなら、僕は本当に嬉しいです。覗き見はどこかで絶対入れてやろうと思っていました!(笑)僕も進撃の劇団や違うお話を、期待していますね。
  60. 71 : : 2014/06/07(土) 03:34:31
    執筆お疲れ様でした。
    SSを読んで、ここまで本気で涙したのは初めてです。温かな雰囲気から非情な別れへの転換が、とても切なく感じました。
    場面場面の描写をとても丁寧に描かれているせいか、風景からその場の空気感まで、脳内で完全に再現されました。素晴らしかったです。
    あと、最後のショックで忘れかけていましたが、立体機動で盗み聞きをするオルペトと、猫舌リコさん、超甘党ミタビさんがとても可愛かったです。笑
    長くなってしまってすみません。これでもまだ気持ちを伝えきれていないくらいなのですが、このくらいでコメントを閉じさせていただきますね。素敵な作品をありがとうございました。
  61. 72 : : 2014/06/07(土) 17:50:30
    >Ms.submarine
    このお話は場面を選ぶのがとても難しかったです。まだ20歳そこそこ(たぶん)の彼と彼女には、ぎこちない恋愛をさせようと決めていたので、抱き締めるといった場面も削ぎ落としました。それでも、何か彼らの気持ちを伝えることができたのなら、僕はエルドファンとして大変嬉しく思います。最後まで、本当にありがとうございました。

    猫舌リコさんと甘党ミタビさん、思いついたら可愛かったので入れてみました(笑)

    僕は、あなたの『積み木の塔』やマルコのお話が大好きです。自信を持って、皆さんにおすすめします。
  62. 73 : : 2014/06/08(日) 20:31:00

    作品拝読させていただきました。
    情景が鮮やかに浮かぶ美しい描写と優しくて洗練された台詞が合まって、まるで一本のフィルムを見ているようでした。
    素敵な作品をありがとうございます(。-_-。)
  63. 74 : : 2014/06/08(日) 22:56:18
    >月子さん
    読んでいただき、光栄です。ありがとうございます。
    僕は小さい頃は映画監督になりたかったんです。なので、フィルムを見ているようだというお言葉、心から嬉しく感じます。

    月子さんの作品は『風を読む者』や『百花繚乱』が僕は好きです。おすすめです。
  64. 75 : : 2014/06/12(木) 01:53:37
    Artさん!俺は6月21日までにあなたを超えて見せます!!絶対に負けません!!
  65. 76 : : 2014/06/12(木) 12:23:55
    >セントラルカノン
    (びっくりしたよウルバン笑)
    来てくれたことに敬意を!だが!君のウルトラシリーズの新作が今月で読めなくなるのは僕は悲しい!
  66. 77 : : 2014/06/18(水) 11:59:20

    イラストレーターの“くち”より、このお話のイラストを戴きました。

    http://t.co/Zx1Nb0EMVT


    So incredibly kind and honest. amazing!
    thanks mate, much love.
  67. 78 : : 2014/06/18(水) 12:08:00
    その情景が想像できて、読んでいて心にグッとくる作品で本当に凄いとおもいました。本当に素敵な作品を読ませて頂き嬉しいです!本当にありがとうございました!!次も期待してます!
    絵も凄いですね!!
  68. 79 : : 2014/06/18(水) 12:43:19
    おおお、くちたんのイラストエルド超かっこいい!w
    アートさんの作品が絵でまた反芻できて幸せです!
  69. 80 : : 2014/06/18(水) 12:50:27
    くちさん凄いwww
  70. 81 : : 2014/06/18(水) 20:45:50
    >EreAniさん
    読んで嬉しいとは!僕が嬉しいですよ!
    最近ようやく読むことができたのですが(遅くなりました…)、EreAniさんのお話の中では『恋心』が個人的に好きです。ユミル視点が素敵で!

    >Ms.88
    僕も幸せです!サプライズの贈り物でびっくりしました、彼女は本当に素晴らしいアーティストです。

    >カノン
    すごいだろう!!感動したよ!!
  71. 82 : : 2014/06/21(土) 15:44:10
    良かった。個人的にはもう少しエルカノの心理描写が細かいと良いと思う。
    だがしかし、とても魅了された。素晴らしい作品だ。
  72. 83 : : 2014/06/21(土) 18:19:21
    >gjさん
    あなたに読んでいただけたことを、心から誇りに思います。
    そうなんです、よく'砂漠のサボテンのような文章'と言われます…(笑)分かりにくいので、あんまり良くないのですが。
    次はもっとつやつやした文章が書けるように、勉強します。ありがとうございます!
  73. 84 : : 2014/06/22(日) 15:29:15

    くちより、またまたイラストのサプライズです。もう僕は何とお礼を申し上げたら良いか分かりません…!

    http://t.co/hTWN7OZZvG

    「こんにちはーっ!わたしー!今日19になりましたーっ!!」
  74. 85 : : 2014/06/22(日) 15:34:27
    あ、Artシャン!
  75. 86 : : 2020/10/04(日) 12:07:40
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986
  76. 87 : : 2020/10/26(月) 23:10:33
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。
  77. 88 : : 2023/07/04(火) 09:21:43
    http://www.ssnote.net/archives/90995
    ●トロのフリーアカウント(^ω^)●
    http://www.ssnote.net/archives/90991
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3655
    http://www.ssnote.net/users/mikasaanti
    2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
    sex_shitai
    toyama3190

    oppai_jirou
    catlinlove

    sukebe_erotarou
    errenlove

    cherryboy
    momoyamanaoki
    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
    shoheikingdom

    mikasatosex
    unko

    pantie_ero_sex
    unko

    http://www.ssnote.net/archives/90992
    アカウントの譲渡について
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3654

    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ

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