この作品は執筆を終了しています。
羽ばたきの朝【女上アサヒ×泪飴 コラボ企画】
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- 1 : 2014/05/08(木) 00:25:47 :
- こんばんは!泪飴です。
進撃57話発売まであと1日となった今、私もまた、進撃の小説書きとして、今までとは違う、新しい第一歩を踏み出そうとしています。
名付けて、
『女上アサヒ×泪飴 コラボ企画』!!!!!
互いに考えた、進撃の巨人の小説のネタを交換し、それを元に各々で小説を書き上げました。
具体的には、
泪飴が考案したネタをもとにアサヒさんが下書きを書く
→その下書きをもとに、泪飴が小説を完成させる
という流れでした。
アサヒさんの方は、上記の流れのちょうど逆、すなわち
アサヒさんが考案したネタをもとに泪飴が下書きを書く
→その下書きをもとに、アサヒさんが小説を完成させる
という流れになっています。
こうすることで、どちらの作品も、2人の個性が十分に混ざり合った作品になっております。
ちなみに、私の担当は、原作3巻の特別編「リヴァイ兵士長」からのネタでした。
まず、最終的に完成した作品を載せます。
その後で、元ネタおよびアサヒさんが書いて送ってくださった下書きを掲載したいと思います。
泪飴のネタをアサヒさんがどのように消化し、アサヒさんの下書きを泪飴がどのように泪飴色に染めたのか、比較してお楽しみください。
それでは、行きます!
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- 2 : 2014/05/08(木) 00:29:21 :
静かな市街地の朝。
そこに、百人を超す兵士の一群がやって来る。
その先頭を行くのは、第13代調査兵団団長、エルヴィン・スミス。
カラネス区の壁外へ繋がる門の前には、血気盛んな調査兵団の兵士達が各々の愛馬に跨って並ぶ。
開門は今か、今かと興奮が先走るが、その心中は、興奮と、それと共についてくる強い恐怖とがない交ぜになっている。
真の恐怖を味わう前の兵士達の背中で、自由の翼は風に吹かれ、儚くも美しく踊る。
エルヴィンの広い背中を眺めるのは、分隊長であるミケ・ザカリアスとハンジ・ゾエ。
そして、そのはるか後方に立つ、兵士長たるリヴァイもまた、エルヴィンの背を想う。
ハンジは、壁外に広がる地平線や、巨人達を想像して、口元に笑みを浮かべている。
その横に並ぶミケの目に、荒く上下するエルヴィンの肩が映る。
ふわりと風が吹くのを感じて、ああ、風でマントが揺れてそう見えるだけか、と思って、フッと笑う。
だが、風が止んでも、やはり相変わらず肩が動いている。
むしろ、マントが風になびいていてもわかるくらいに、エルヴィンは肩で息を何度もしているのだ。
ミケは思わずごくりと息を飲む。
何度も死線を共に生き抜いてきたエルヴィンの、普段は決して見せない姿。
今すぐにでも駆け寄って、大丈夫か、と聞きたいくらいだが、それは兵員の士気を下げることに繋がりかねない。
祈るように空を見上げれば、壁上の兵士達が、壁の門付近の巨人を遠ざける作業に勤しんでいる。
当のエルヴィンは目を閉じ、エレンが調査兵団に託された日のことを思い返していた。
夕陽の差し込む審議所の控え室。
ハンジの手当を受け、ソファーに座るエレン・イェーガーの前に立つ。
「すまなかった…」
少しばかりの怯えと、緊張の混じった表情で、エレンはこちらを見上げてくる。
視線を合わせるために身を屈め、笑みを交えて握手を求めた。
「君に敬意を…エレン、これからもよろしくな」
「はい!」
エレンは憧れの調査兵団の入団が決まった実感が湧いて来たらしい。
上官となったエルヴィンの期待に力の限り応えよう、という熱意を胸に、はちきれんばかりの笑顔でその手を握り返した。
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- 3 : 2014/05/08(木) 00:29:48 :
控え室は、先程より更に傾いた夕陽が射し、窓から外を眺めるミケの横顔をオレンジ色に染めている。
ハンジとエレンが控室を出て行って静かになると、エルヴィンはエレンが座っていたソファに歩み寄る。
そこに座ったままのリヴァイの横に、静かに腰を下ろす。
「エルヴィン、おまえの言うとおり、効果的なタイミングとやらでカードが切れて…あれだけの啖呵を切った。今回の壁外調査、あいつは本当に役に立つのか…?」
リヴァイはエレンを足蹴にしている最中、エレンの反応を観察していた。
その眼に秘めた、化物じみた野心は相変わらずだったが、その他においては、ただの子どもだった。
身体が固定されているとはいえ、エレンは無抵抗のままだったからだ。
「まぁ…いつも通り、出たところ勝負に挑んでこその調査兵団、だ…無論、エレンが巨人の力を発揮してくれれば、不測の事態を切り抜けることが出来るかもしれないが、リスクは大きい…」
エルヴィンは両膝に肘をつき、両手指先を重ねると、その上に顎を乗せた。
一見すると遠くを見つめているように見えるが、その表情の裏に何らかの思惑を秘めている、とミケは気づいた。
近くに置いてあった木製の椅子を持ってきて、背もたれを抱えるように座り、重たそうに口を開く。
「エルヴィン、今回の壁外調査…何か重大な秘密でもあるのか?エレンの参加とは別の…これまでとは違う目的が…?」
「まぁ…まだ何とも…」
やはり。
エルヴィンには何らかの秘めた考えがある。
だが、本人がまだ話すべきでないと考えるのなら、今は聞くべきタイミングではないということだ。
幸い、まだ時間はある。
エルヴィンにも、俺達にも。
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- 4 : 2014/05/08(木) 00:30:23 :
スン、と鼻を鳴らしたミケとエルヴィンを交互に見てから、リヴァイが口を開く。
「俺は…これから、俺と共にエレンを監視する兵士達を集め、新たな班を作る…それでいいだろう?エルヴィン…これから、何があろうと、太刀打ちできる…特別な作戦班が必要だ…お前の思惑を、頭の中だけに留めておくつもりじゃねぇんならな…」
審議所での一計は、全てエルヴィンが考えたことだが、その派手なパフォーマンスを演じたのは自分だ。
ならば、エレンを調査兵団に引き入れたことが何らかの不利益を起こすのなら、その責任を取るべきだ。
いや、それだけじゃない。
エレンに対して、俺の心のどこかにこびりついた、エレンが本当に人類の味方なのか、という疑念…そしてその奥にある、憎しみと殺意。
巨人になれるからといって、エレンの本質が巨人と同じというわけではないのに、沢山の部下や仲間達を奪ってきた、憎いあの化物とエレンを同一視せずにはいられない。
こうしてみれば、自分もあくまでもただの人間に過ぎないのだな、と実感する。
特別作戦班の編成にあたり、今一度自分自身を見つめ直すリヴァイの眼は鋭い。
だが、微かに温かい光が差している。
エレンを「異端」として憎み、疑う彼と共に、エレンが人類の希望だと信じてやまない彼が居る。
その矛盾を孕んだ灰色の瞳が秘めた、複雑な心境の渦を見抜いたエルヴィンは、静かにくすりと笑う。
「そうだな…その場合はあの旧本部の古城を使え。班員は、もう目星はついているんだろう…リヴァイ?」
「ああ。だが待て…あの古城はかなりの長期間、誰も使っていないはずだが…?」
「そうだ…しかし、何かあったときのエレンを拘束できる地下室を備えているし、街からもかなり離れている。調査までの短くも長い時間を、エレンと共に過ごすには絶好の場所だ」
その通りだが、最初の数日は朝から晩まで掃除三昧になるのは間違いなさそうだ。
リヴァイは小さく舌打ちする。
「まぁ…立体起動装置をたやすく操るような奴等ばかりだ…あいつらに任せれば古城も輝きを取り戻すだろう」
「とにかく、班の兵士の選抜はお前に一任する。私はもう行かなければ…」
エルヴィンとミケが部屋を出て行った後、一人残されたリヴァイは目を閉じる。
今回の壁外調査に対し、エルヴィンが抱えている得体の知れない策略とは、いったい何なのか。
あいつは何を見ている?
いや、何を見ようとしている?
普段から刻まれている眉間の皺が、更に深くなる。
「ちっ、考えても仕方がねぇか……」
誰も居ない部屋で小さく呟くと、リヴァイは組んでいた足を元に戻し、立ち上がった。
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- 5 : 2014/05/08(木) 00:30:58 :
翌日、エルヴィンは執務室で作業をしていた。
壁外調査の要とも言うべき長距離索敵陣形の、各兵の配置計画を立てているのだ。
今回の調査には、104期の新兵達も参加させる。
それによって、細かな変更点が幾つか出て来るのだ。
……この陣形で、私は今まで、どれだけの仲間を死に追いやったのだろうか。
エルヴィンは眉をしかめ、図面をペン先でつついた。
自分の作戦で多くの仲間や部下を巨人に食わせてしまった罪悪感が、今更だとわかりながらも、重くのしかかってくる。
エルヴィンのペンは、索敵班の配置を何度もなぞる。
自分の作戦通りに事が運べば、次の壁外調査では、特に索敵の兵が危険に晒される。
それぞれの人生をこの作戦で終わらせてしまうかもしれない。
それでも、エルヴィンはペンを走らせる。
その手を突き動かすのは、父への思いだった。
…父さん、俺は…あの仮説を証明したいがために、罪のない兵士達の命を捧げることになるかもしれない――
かつて、敬愛していた父を死に追いやってしまったその仮説は、今は、エルヴィンを調査兵団に留め、真実へと導く道標となっている。
幼き日、墓石に刻まれた父の名を目の当たりにした時、いつか、この世界の真相を明らかにしてやる、と誓った。
そしてその暁には、ここに再び報告に来よう、と。
それ以来、エルヴィンが父の墓へ足を運ぶことは殆ど無かった。
訓練兵団時代の淡い恋心も、調査兵団に入ると共に捨て、ただ毎日、兵団のために全てを捧げて走り続けて来たのだ。
エルヴィンの思考を遮るように、ノックの音が響く。
「エルヴィン、俺だ」
「ミケか…入れ」
気がつけば、左手の甲であごを支えて、長く考え込んでいたようだ。
ペン先は、空中で止まっている。
昨日も、リヴァイよりも先に、俺の考えを鋭く突いて来た男だ。
うわの空で考え事をしていたことを知れば、間違いなく追及してくるだろう。
ペンを動かし、作業に没頭しているかのような態度を取る。
急用なら、俺が作業をしていようと、していなかろうと、構わず聞いてくるはずだからだ。
部屋に入ってきたミケは何も言わず、私の机を通り過ぎて行く。
私の背後の窓際に立つと、黙ってハンジが捕らえた巨人の実験場を眺めていた。
…こいつ、やはり何か感付いたな――
ミケとは長い付き合いだ。
だからわかる。
この生来寡黙な大男が、この部屋に入って来て何も話さない時は、いつも決まって何かを腹に抱えている時だ。
「30日後に拠点作りの壁外調査…それも今期卒業の新兵を交える」
「入団する新兵がいれば――」
静かに話しながら、エルヴィンは何食わぬ顔で定規を手に取る。
淡々としたミケとの受け答え。
ミケは目を細め、鋭い眼差しのまま問う。
-俺にも建前をつくのか?-
ああ、決定的な一言が聞けた。
この男になら、気兼ねなく話すことが出来る。
俺の心が流す血の匂いまで嗅ぎつけてしまう、この男になら。
「時期が来れば話す」
ミケの視線をしっかり受け止める。
静かにミケが頷くと同時に、再び執務室のドアが開いた。
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- 6 : 2014/05/08(木) 00:31:32 :
リヴァイが、新しい班員達を連れて来た。
「エルヴィン、こいつらが俺の班員だ――」
エルヴィンのデスクの前にエルド・ジン、グンタ・シュルツ、オルオ・ボザド、そしてペトラ・ラルが並び、心臓を捧げる敬礼をする。
リヴァイが一人ずつ紹介する中で、エルヴィンは違和感を覚えた。
ペトラが紹介するリヴァイの眼差しに、普段は無い熱が籠っているような気がする。
まさか、な。
まぁ、いい。
リヴァイの冷静さは多少のことでは揺るがない。
それこそ、時期が来た時に尋ねればいいことだ。
「リヴァイからはまだ聞いていないと思うが、これから君達には、次回の壁外調査までの時間をエレンと共に過ごしてもらう。…この特別作戦班…通称、リヴァイ班の一番の使命とは、エレンの死守と監視だ。いかなる敵からも、エレンを守れ。そして、エレンが暴走した場合は、どんな手を使ってでも止めるように…いいな?」
エルヴィンの言葉に、一同は顔を強張らせる。
そんな中、エルヴィンの鋭い眼の奥に、グンタは何かを感じ取った。
団長は…まだ、何かを隠しているのではないか?
何かを、考えていらっしゃるような気がする…。
いや、それは当然か。
今回の壁外調査は、兵団の、場合によっては人類の未来を大きく変えるかもしれない大勝負だ。
すぐには明かせない秘密があっても何ら不思議ではない。
そもそも、調査兵となったからには、団長の命令に全身全霊で従うべきだ。
例え、その意図を汲み取ることが出来なくとも。
「了解です!!」
右手を左胸に、強く押し当てる。
緊張で心臓が暴れているのを手の平に感じながら、しっかりと敬礼する。
エルヴィンはそれを見て大きく頷く。
「頼んだぞ…では、リヴァイ、」
「ああ……翌朝にはエレンを連れ、調査兵団旧本部へ移動する…お前達は、さっそくその準備に取り掛かれ…恐らく、ひと月はそこに滞在することになるはずだからな」
「はい!」
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- 7 : 2014/05/08(木) 00:31:59 :
リヴァイは最後に部屋を出たペトラがドアを閉めるのを確認すると、舌打ちしてエルヴィンのデスクに軽く腰掛けた。
組んで、浮いている方の脚が微かに揺れる。
「おい…てめぇ、何考えてやがる?」
「何って…エレンを守りながら、壁外調査へ――」
「…違うだろ…?」
リヴァイの、突っかかるような言葉に、ミケも眉を潜める。
もともとリヴァイは誰に対しても高圧的な態度ではあるが、これは威嚇に近い。
普段以上に鋭い眼が赤い光を湛えているのを見て、ミケも口を開く。
「エルヴィン、話すべき時期とは…今、なんじゃないか?」
エルヴィンは、ふ、と細く息を吐く。
「…まだ、推測の段階…とだけ、先に付け加える…」
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- 8 : 2014/05/08(木) 00:32:50 :
5年前。
超大型巨人が出現した後、鎧の巨人がウォールマリアの内門を壊した。
それ以来、あの2体は同時に出現するものだ、という固定観念が生まれつつあった。
だが、先日の襲撃では、鎧の巨人は現れなかった。
偶然だった、といえばそれまでであるが、エレンの巨人化といい、何か意味がありそうだ。
それを明らかにする絶好の場が、今回の壁外調査だといえよう。
リヴァイが目の色を変えてエルヴィンの言葉を遮る。
「待て…!!それは…エレンを囮に、鎧をおびき出すということだろう…?ただでさえ危険な壁外で、しかもその意図もあいつらに隠したまま……そんな推測に、なぜ部下の命を晒すほどの価値があるのか?」
「エレンのように、人間が知性を持った巨人へと変身することが分かった今、超大型と鎧の2体には、『中身』である人間が存在する可能性がある。そして、トロスト区に、鎧が現れなかった理由…それが、その『中身』の人間が、壁内でエレンの巨人化を目撃したからだとしたら?」
「まさか、兵団内にスパイがいたってことか?」
「そうでなければ、トロスト区の内門が無事だった理由が説明できない」
眉をしかめ答えるエルヴィンの後ろで、額に汗を浮かべたミケが問いかける。
「そのスパイは…一体誰なのか、見当がついているのか…?」
「いや…それはまだだ…エレンを目撃したのだから、あの場に居た兵士の可能性が高いとは思うが…ただ、これだけは言える…5年前の超大型と鎧の巨人出現以前の100年間、そいつらは現れていない。ということは…」
「そのスパイは5年前の襲撃時、壁内に紛れ込んだ…ってことか?」
ミケは目を見開く。
「さすがだな、察しがよくて助かる…今回の壁外調査では、そいつを炙り出すことを目指す……無論、何事も無ければ、『エレンをシガンシナ区に送るための試運転』という、表向きの目的を達成するだけとなるが…」
「なるほどな…なら、俺の班にもそれを伝えておこう」
エルヴィンは遮るように言う。
「いや、お前の班員ですら、調査兵になって5年未満だ。精鋭とはいえども、敵でない確証は無い…」
「あいつらが、人類に仇なす巨人だと…?」
リヴァイは舌打ちしてエルヴィンを睨む。
「リヴァイ、まるでお前は…ペトラを、危険な目に遭わせたくない……とでも言いそうだな?」
エルヴィンは両肘をデスクについて両手の指を絡ませその上にあごを乗せる。
その目は遠くを見ており、リヴァイを責めてはいないが、リヴァイ本人は言葉に鋭さを帯びて行く。
「何を…あいつだけじゃない…危険な目に遭わせたくないのは、俺の班の人間、そして兵団員、全員だ。例外なんかない…」
「まぁ…いいだろう、お前が、らしくなく…ペトラを熱っぽく見つめていた…というのは、寝不足の俺の見間違いか、勘違いなんだろう」
鋭い眼差しのままリヴァイは言い放つ。
「…お前はいいよな…昔惚れていたとかいう、マリーって女…薄ら髭の野郎が守ってくれるんだからな…」
エルヴィンは鼻で笑い、リヴァイを見るが、それ以上何も語らない。
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- 9 : 2014/05/08(木) 00:33:09 :
リヴァイは何度かエルヴィンと王都に行った時、人には興味を示さないエルヴィンが、珍しく道を行く人々を目で追っていることに気づいた。
馬車がある屋敷の前を通った時、ちょうど憲兵団師団長のナイル・ドークが出てきた。
何だ、ナイルを見ているのか。
「おい、エルヴィ…」
言い掛けて、止めた。
エルヴィンの目が、すぅ、と細められたからだ。
ナイルの後に続いて、子供連れの女性が出て来た。
ナイルのコートの襟が立っているのを微笑んで直し、はしゃぐ子供達を宥めて抱きかかえる。
ナイルもまた、兵団服を着ている時には見せない、柔らかい笑顔をその女性と子供たちに注いでいる。
その女性がナイルの妻で、あの子供達の母親であることは、誰が見ても明らかだった。
女性を見るエルヴィンは、安心しきったように、安らかな笑みを浮かべている。
その女性も視線を感じたのか、こちらに美しい眼を向けた
マリー。
エルヴィンの唇が微かに動くのを、ため息のようにその女性の名を漏らすのを、リヴァイは黙って見ていた。
あえて触れずに来たことだったが、エルヴィンがペトラのことを言うのなら、俺も言ってやろう。
「だがな、エルヴィン…巨人が壁内で現れれば、その女もどうなるか――」
「…その通りだ。所詮、壁の中の民衆も、壁外に出る我々も、巨人を前にすれば風前の灯のような命だ…だからこそ、何をしてでも…我々は真相に辿り着かなければならない……壁内において、人間の姿をした敵と、我らの同志を明確に線引きする基準、それは今のところ、調査兵としての兵歴が5年未満の兵士…これだけは、残念だが例外は作れない。わかってくれ、リヴァイ」
そう言われたところで、リヴァイは当然納得できるわけがない。
だが同時に、リヴァイにはエルヴィン以上の作戦を立てることも出来ない。
長年培ってきたエルヴィンとの信頼関係を踏まえても、同意せざるを得なかった。
「…わかった……俺がしっかりして…あいつらを守ればいいだけの話だからな……エルヴィン、そいつが巨人として現れた場合、どうするつもりだ?」
「捕獲する」
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- 10 : 2014/05/08(木) 00:33:38 :
「巨人を?どうやって?…ソニーとビーンとはわけが違うぞ?」
ミケは驚きで早口で問う。
「まぁ…それはハンジの分野だろう。彼女と共に、知性巨人を捕獲する方法を考えることにする」
その時のエルヴィンは現れるであろう巨人は鎧だと踏んでいた。
「そいつが現れたら…どれだけ部下が死ぬんだろうな…全人類を壁一枚分後退させるような巨人と、壁外で遭遇するんだ…全滅も覚悟した方がいいんだろうな…」
「おそらく…最低でも、半分以上が命を落とすだろう」
「多くの命を落として…そいつを捕まえて…それが何か意味を成すのか?」
「人類滅亡を阻止するための輝かしい一歩…何よりも価値のあるものだ」
「ほう…」
リヴァイはエルヴィンが絡める両指が震えていることに気づく。
「エル…!!」
「…命を投げ打つ覚悟で皆に臨んでもらう…俺も含め…今までとは比べものにならない、強い覚悟が必要だ…」
エルヴィンは手汗の光る手の平を見つめる。
「この俺が…震えるとはな――」
「平気か?」
「…ああ、平気だ……ミケ、リヴァイ、5年以上調査兵団に属する兵士達を呼んでくれ。全てを話した上で、箝口令を敷くことになるだろうが…」
リヴァイは、デスクから降り立つと、エルヴィンを見上げる。
その眼は、もう兵士長の眼に戻っていた。
「5年以上か……残念だな…5年もこの兵団で生き残ってるような奴らは、皆お前の『博打』に慣れすぎていて…全員が、迷わず心臓を捧げるだろうな…俺も含めて、だが…」
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- 11 : 2014/05/08(木) 00:33:57 :
壁外調査の前日、エルヴィンは人知れず兵団本部を抜け、何十年ぶりに父親の墓にきていた。
墓標は汚れ、人が来た形跡は何年もないのが安易にわかった。
父親の名前を指先でなぞり、跪いて祈る。
…父さん、長い間、すまなかった…明日はあのときの無念が晴らせそうだが…その引き換えに俺も近いうち、そっちにいくかもしれない。今日は前もっての挨拶に来た…
再び父の名前をなぞると拳を強く握り、振り返らずそのまま本部に戻る。
彼なりの覚悟の儀式を終え、気分は晴れやかだが、尋常ではない緊張感に左胸の鼓動は強く鳴り響いて止むことが無い。
未来を見つめるその双眸は、どこか弱々しかった。
******
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- 12 : 2014/05/08(木) 00:34:26 :
目をそっと開いたエルヴィンの背中の翼は、命の重みを背負い、未だ羽ばたく準備が出来ない。
背筋を伸ばしても、重い。
涼しい顔をしても、手綱を持つ手に力が入るのを抑えられない。
リヴァイは、静かに自分の位置を離れ、エルヴィンの傍に向かう。
冷静さを欠いたその表情に、リヴァイは驚く。
ふざけるな。
ここにいる連中は、皆お前を信じて戦うんだぞ。
皆、帰りの切符があるかもわからないまま、進むと決めたんだぞ。
お前がそんな顔をしてどうする。
発破をかけてやろうと思いながらエルヴィンに近づくリヴァイは、ふと視線を感じた。
気配を追うと、その先には、隊列を見送る人垣の隙間から、心配そうにエルヴィンを見つめる女性の姿があった。
じろり、と見ても、その女性はリヴァイには気づかない。
あの女は。
リヴァイ、エルヴィンにそっと近づく。
「エルヴィン…お前の位置から南西方向…ナイルの女が、お前を熱い眼差しで見ている…」
それだけ言うと、リヴァイは持ち場に急いで戻った。
エルヴィンの手綱を持つ力にさらに力が入る。顔を少し動かしてそちらをみれば、マリーが笑っている。
…子供の頃、父さんが貸してくれた本に書いてあった…
戦いに臨む兵士は、一輪の花を見て心を安らげてから戦場に向うと…。
俺も一輪の花を見つけたようだ、マリー――
正面を見据え右口角に笑みがこぼれると、壁上の駐屯兵から開門の準備が整ったとの合図が届く。
震えはもう、止まっていた。
リヴァイのことを言えないな、と苦笑してから、幕開けのようにゆっくりと開く重い門を睨みつける。
直後、マリーに送っていた優しい眼差しが、修羅のような眼に変わる。
「第57回、壁外調査を開始するッ!!前進せよーーーッ!!!!!!!!」
命を削る怒号のような号令を上げながら、愛馬と共に勢いよく駆け出す。
壁外のどこまでも広がる開放感が溢れる空気を包んだ青空の下、エルヴィンの自由の翼のマントがなびく。
多くの命を背負った翼は重く、簡単には羽ばたけない。
だが、一度翼を広げてしまえば、その重さ故に、どんな強風にも負けずに風を切ることが出来る。
エルヴィン率いる調査兵団は。真の自由を求め、大空の舌を、力強くどこまでも駆けていった。
【END】
-
- 13 : 2014/05/08(木) 00:49:38 :
- 以上になります!
今回は、普段の泪飴の小説に比べるとかなり短めです。
アサヒさんの素晴らしい文に手を加えるなんて、とても畏れ多かったのですが…この泪飴、全身全霊を尽くして書かせて戴きました!
アニメ第17話を元にしたのですが、流石、アサヒさん…エルマリ・リヴァペトを、ここに入れて来るとは…!!
なので、泪飴の大好物のエルリも封印して、腹を探り合うような、微妙な2人の関係を描くよう心掛けました。
アサヒさんの下書きから、戦いに向かう男達の物語、という雰囲気が伝わってきたので、あえてハンジさんのシーンは少なめにしました。
***
【この小説の元ネタ】
第17話「女型の巨人」より
壁外調査の前夜~朝の幹部組達のやり取り。
(兵長との絡みでリヴァイ班も入ってくるかもですね)
団長視点で。笑
オチ:開門直前→「進めぇええ!!!」の所。覚悟を胸に、壁外へ。
※幹部組、特に団長が、ほんのちょっとだけ、心のどこかに、失敗する恐怖や、仲間を犠牲にする罪悪感、迷いを抱えていたりなんかすると素敵だと思います←
***
という風に、アサヒさんにお伝えしました。
これをもとに、アサヒさんが書いて下さった下書きがこちらになります。
-
- 14 : 2014/05/08(木) 01:05:40 :
【アサヒさんの送ってくださった下書き】
※あくまでも下書きなので、誤字脱字などが多少含まれるのは、眼をつぶっていただけると助かります
エルヴィン・スミス団長を先頭にカラネス区の壁外へ繋がる門の前には血気盛んな
調査兵団の兵士たちがそれぞれの愛馬にまたがり、開門は今か興奮が先走るが
後からついてくる恐怖もない交ぜになる。
まだ本当の恐怖を味わう前の兵士たちの背中で自由の翼は風に踊っている。
エルヴィンの広い背中の眺めるミケ・ザカリアス、ハンジ・ゾエ、リヴァイ。壁外へ広がる何度も見て地平線が広がる大地はなじみがある。
だが、エルヴィンの自由の翼のマントが風になびいても
肩で息を何度もしている様子が伺える。ミケは何度も死線を共に生き抜いてきたエルヴィンが『大丈夫か』と思いごくりと息を飲む。
壁上で勤しむ駐屯兵団の兵士が壁前の巨人を遠ざける作業の最中、
エルヴィンは目を閉じて、エレンが調査兵団に託されたことを思い返していた。
「君に敬意を…エレン、これからもよろしくな」
「はい!」
審議所の控え室のソファーに座るエレン・イェーガーに視線を合わせその身を屈め、
エルヴィンは笑みを交え握手を求める。エレンは憧れの調査兵団の入団が決まり
そして上官であるエルヴィンの期待にこたえるようにはちきれんばかりの笑顔で
エルヴィンの手を握り返す。エレンは巨人の能力の影響か、リヴァイに
足蹴りにされた全身の傷はほとんど治りつつある。
念のためハンジと共に医務室に向うことになった。
控え室は西日が射し、窓から外を眺めていたミケの顔はうっすらオレンジに染まる。
エレンを見送ったエルヴィンはエレンが座っていたソファに腰を下ろす。
もちろん、となりにはリヴァイは座ったまま。
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- 15 : 2014/05/08(木) 01:05:51 :
- 「エルヴィン、おまえの言うとおり、効果的なタイミングとやらでカードが切れて…
あれだけの啖呵を切った。今回の壁外調査、あいつは本当に役に立つのか…?」
リヴァイはエレンを足蹴にしてる最中、例えその身体は固定されているとはいえ、
エレンから強さは感じなかった。人間に潜む巨人の力は未知数、
それなりの年齢の少年を殴っている感覚しかなかった。
「まぁ…いつも出たところで勝負の我々が調査兵団だ…だが、エレンを
伴えば、毎度の結果よりも期待は出来るかもしれないが…」
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- 16 : 2014/05/08(木) 01:06:01 :
- エルヴィンは両膝に肘をつき、両手指先を重ねると、その上にあごを乗せた。
遠くを見つめるが、思惑顔に気づいたミケは木製の椅子を取り出し、
背もたれを手前にしてまたがる。背もたれに両肘を乗せながら、重たそうに口を開く。
「エルヴィン、今回の壁外調査…これまでとは何か重大な秘密でもあるのか?
エレン以外で…?」
「まぁ…まだなんとも…」
ミケは鼻をすするが、エルヴィンの相変わらずの思惑顔に何かあるだろうと踏む。
だが、秘密はあるだろうが、まだその確信まで迫っていない、というのならまだ
聞くタイミングではないと判断する。
「俺は…これから、エレンを面倒を見る兵士を集め新たに班を作る。
それでいいだろ?エルヴィン…これから、何があろうと、太刀打ちできる班を作る」
リヴァイは審議所の派手なパフォーマンスを演じた責任を取る、ということでなく
エレンを生かすのも殺すこともできない、監督としての責任を果たす役目は
自分しかいないと確信している。その目は鋭く、だがほんの少し温かさも滲んでいた。
「そうだな…その場合はあの旧本部の古城を使え。もう目星はついているんだろ?リヴァイ」
「ちょっと待て、あの古城は何も使っていないだろう?」
「あぁ…だが、何かあったときのエレンを拘束できる地下室を備えている…」
リヴァイは掃除が大変なのが簡単に想像できると、舌打ちする。
「まぁ…立体起動装置をたやすく操る奴等ばかりだ…そいつらに任せれば
古城も輝きを取り戻すだろう」
「とにかく、班の兵士はおまえにまかせる。もう行くぞ…」
エルヴィンは重い腰を上げるようにソファから離れると、控え室の扉に手を伸ばす。
ミケが後に続くと、リヴァイも何か今回の壁外調査でエルヴィンが抱える得たいの知れない
何か考えると眉間に力が入る。組んでいた足を元に戻し、立ち上がると、控え室の扉を
閉めていた。
-
- 17 : 2014/05/08(木) 01:06:11 :
- 翌日、エルヴィンは執務室で来る壁外調査で必要な『長距離索敵陣形』を作成のため、
デスクで定規を使い図面を引いていた。
・・・…この陣形で今までどれだけの仲間を死に追いやったのか
エルヴィンは眉をしかめ、図面をペン先でつつく。自分の作戦で多くの仲間や部下を
巨人に食わせてしまった罪悪感がのしかかる。
また来る壁外調査で特に索敵の兵の負担を考えると頭を抱える。
それぞれの人生をこの作戦で終わらせるかもしれない。
それでもエルヴィンは父への思いを馳せるとペンを走らせるしかなかった。
・・・父さん、俺は…あの仮説を証明したいがために、また新たに命を捧げることになる――
エルヴィンは父親が壁外に巨人がいながら、壁内で生き残る人類について
仮説を立てたことがあった。それが彼の不注意で憲兵に知られると、
父親を死に追いやってしまった。これまでの人生でそれを忘れることはなかった。
墓石の父の名前を目の当たりにしたとき、いつか、この世界の真相を明らかにしてやる、
そしてここにその報告に来る、そう誓って以来、エルヴィンは父の墓へ行くことはない。
もちろん、それは彼にとって不本意だが今でも続いている。
ペンを走らせずに、左肘をデスクで支え、左手の甲であごを支えているときだった。
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- 18 : 2014/05/08(木) 01:06:20 :
- 「エルヴィン、俺だ」
「ミケか…入れ」
ノックと共にドアの向こうから聞こえたミケの声に反応すると、エルヴィンは
勘の鋭いミケに覚られないようにペンを再び走らせることにした。
ミケは何も言わず、エルヴィンの後ろ側の窓際に立つと、ハンジが捕らえた
巨人の実験場を眺めていた。
・・・こいつ、やはり何か感付いたな――
長い付き合いでエルヴィンはミケが執務室に入ってきて、ただでさえ無口な
彼が最初から何も話さない場合、何か嗅ぎ付けたと確信し鼻を鳴らすと、
ミケが何かを発するまで、そのままペンを走らせることにした。
「30日後に拠点作りの壁外調査…それも今期卒業の新兵を交える」
「入団する心配がいれば――」
エルヴィンは何食わぬ顔で定規を手に取る。淡々としたミケとの受け答えに
ミケは俺にも建前をつくのか、と眼差し鋭く問う。
時期が来れば話す、と返事をする頃、再び執務室のドアが開かれた。
リヴァイが『リヴァイ班の兵士』を連れてやってきていた。
「エルヴィン、こいつらが俺の班だ――」
エルヴィンのデスクの前にエルド・ジン、グンタ・シュルツ、オルオ・ボサド、
そしてペトラ・ラルが心臓を捧げる敬礼をする。
リヴァイが一人ずつ紹介するなかで、エルヴィンはペトラが紹介するときの
彼がいつもの冷めたまなざしの中にも熱がこもっているような気がする。
いつも冷静なリヴァイのため、あえて気にせずにいた。
エルヴィンがリヴァイ班の本来の目的である、エレンを死守するということを
伝えると、皆は顔を強張らせる。エルヴィンの思惑顔した三白眼に見つめられると、
特にグンタは何かを感付く。だが、今回の壁外調査は団長にはすぐには明かせない
何かがあるかもしれない、と感じると、
あえて質問をせずエルヴィンの命令に全身全霊で挑もうと誓っていた。
リヴァイは班員に翌朝には古城の旧本部へ移動できるよう準備するよう促すと
再び心臓を捧げる敬礼をすると、皆は執務室を後にした。
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- 19 : 2014/05/08(木) 01:06:30 :
- リヴァイは最後のペトラがドアを閉めることを確認すると、舌打ちしては
エルヴィンのデスクに軽く腰掛ける。左足で身体を支え右足は浮いている。
「おい…てめー何考えてやがる?」
「何って…エレンを守りながら、壁外調査へ――」
「そうじゃないだろ?」
リヴァイはエルヴィンに突っかかるように話しかける。もともとリヴァイは誰に対しても
高圧的な態度だが、この時ばかりはいつも以上の上官への態度とは思えないほどの
威嚇だ。
「エルヴィン、話す時期は…今でいいんじゃないのか?」
ミケもエルヴィンの何かを隠すような態度に感じている。それ故にリヴァイの態度を
見ながら、ついで、というと悪いと感じながら、彼の威嚇の波に乗ることにする。
「まぁ…まだ、推測の段階…とだけ、先に付け加える」
5年前の超大型巨人が出現した後、鎧の巨人がウォールマリアの内門を壊した。
だが、今回は鎧は現れなかった。あの巨人が二人一組で行動するのが常だった場合、
それは今回はなかった。それは偶然だったといえばそれまでだ。だが、もし二人一組での
行動の場合、なぜ、鎧が現れなかったのか。エレンが巨人に変身した可能性が高いだろう。
なおかつ巨人に立ち向かう巨人が現れた。我々にとっても驚くべきことだったが、
敵にとっても、予想外の事態だったのだろう。だが、だが、あくまでも仮定。
それを証明できるのは、壁外調査、の可能性が高い。二人一組で行動するのなら、
もう一体の鎧が現れる可能性も拭いきれない、ということだ。
-
- 20 : 2014/05/08(木) 01:06:42 :
- 「あくまでも…推測ってこと…そんな推測にどうして部下の命を晒さないといけないんだ?」
「トロスト区鎧が現れなかった理由…
それは壁内でエレンを見ていた、ってことだったら…どう思う?」
「まさか、スパイでもいたってことか?」
「そうとしか…考えられない」
エルヴィンは眉をしかめ答える。
「そのスパイは見当がついているのか…?」
ミケはエルヴィンの背後から額に汗して質問する。
「いや…それはまだ…だた、これだけは言える。超大型と鎧の巨人が5年前に
現れたそれ以前の100年、そいつらは現れていない」
「まさか、その後…ってことか?」
ミケは目を見開く。
「さすがミケだ、察しがよくて助かる。
5年前、あの二体の巨人とともに壁内で何事もないように…
もしかして被害者面して…のうのうとスパイは暮らしているかもしれない…」
リヴァイの涼しい眼差しは変わらないままだが、鋭さそのままにエルヴィンに聞く。
「俺の班にもそれを伝えた方が」
エルヴィンはさえぎるように言う。
「いや、おまえの班でさえ、調査兵になって5年未満だ。精鋭とはいえども…」
リヴァイは舌打ちしてエルヴィンを睨む。
「ペトラを…危険な目にあわせたくないとでも言いたいのか?」
エルヴィンは両肘をデスクについて両手の指を絡ませその上にあごを乗せる。
その目は遠くを見て、リヴァイを責めているわけではない。
「何を…あいつだけじゃない、俺の班、全員だ」
「まぁ…いいだろう、おまえがらしくなくペトラを熱っぽく見つめていた…ってのは俺の勘違いだろう」
鋭い眼差しのままリヴァイは言い放つ。
「てめーはいいよな…惚れていたとかいう、マリーって女…薄ら髭の野郎が守ってるからな」
エルヴィンは鼻で笑い、リヴァイを見るが、これ以上何も語らない。
リヴァイは何度かエルヴィンと王都に行ったとき、人には興味を示さないエルヴィンが
珍しく人を目で追っていることに気づいた。馬車で通るそのルート上で
ある屋敷の前を取ったとき、憲兵団師団長のナイル・ドークが出てきた。
リヴァイはナイルを見ているのかと思ったが、目が釣りあがったため、目的は彼じゃないと
気づく。だがあるとき、その家から子供連れの若い女性が出来きた。
その子たちの母親でナイルの妻であろうとリヴァイは想像する。
女性を見たときのエルヴィンは安心しきったような表情でかすかに笑みを浮べている。
その女性は調査兵団の馬車と気づいたのか、馬車の中を食い入るように見ていた。
目が合った気がしたエルヴィンは『マリー』と小さく名前をつぶやく。リヴァイはそれ以来
ナイルとその女性とエルヴィンとの間で何かあったのだろうと勘ぐっていた。
-
- 21 : 2014/05/08(木) 01:06:51 :
- 「だがな、エルヴィン…巨人が壁内で現れれば、その女もどうなるか――」
「まぁ…あくまでも壁外調査で現れると予想ができる。壁内の巨人…スパイは
もちろん我々と同じ人間の姿だろう。それを線引きする基準、今のところ
5年未満の兵士…ってことだ」
リヴァイは到底納得できるわけがない。だが、今まで作戦立案で知恵を搾り出し
死亡率が下がっていることを目の当たりにしている。
エルヴィンを信用している以上、同意せざるを得なかった。
ミケも口を開く。
「エルヴィン、その鎧が現れた場合、どうするんだ?」
「捕獲するしかないだろう…」
「巨人を? どうやって?」
ミケは驚きで早口で問う。
「まぁ…それはハンジの分野だろう。彼女と共に鎧を捕獲する方法を…考えてもらう」
その時のエルヴィンは現れるであろう巨人は鎧だと踏んでいた。
「そいつが現れたら…どれだけ部下が死ぬだろうな」
リヴァイは上の空だが、眼差し鋭くエヴィンに聞く。
「かつての大打撃は…一度の壁外調査で半分の兵が死んだという報告がある。
おそらく…それ以上だろう」
「多くの命を落として…そいつを捕まえて…それが何か意味を成すのか?」
「人類滅亡を死守する…それまでだ」
「ほう…」
リヴァイはエルヴィンが絡める両指が震えていることに気づく。
「命を投げ打つ覚悟でみなに挑んでもらう…俺も含め…いつも以上の
覚悟が必要だ…」
息を飲み手のひらを見つめる。
「この俺が…震えるとはな――」
-
- 22 : 2014/05/08(木) 01:07:02 :
- 自嘲の笑みを浮かべると、エルヴィンはリヴァイ班が遂行すべき作戦を伝え
ミケには5年以上調査兵団に属する兵士たちを呼ぶように伝えた。
その日、5年以上属する兵士たちには現れるであろう巨人の捕獲作戦を
伝えるが、極秘の為、口外しないよう、かん口令を敷く。
ただその兵たちがエルヴィンがやろうとする『博打』を、
信用する団長の作戦だからと皆は心臓を捧げる覚悟を決める。
壁外調査の前日、エルヴィンは人知れず兵団本部を抜けると、
何十年ぶりに父親の墓にきていた。墓標は汚れ、人が来た形跡は何年もないだろうと
安易に想像できた。父親の名前を指先でなぞり、祈る。
・・・父さん、長い間、すまなかった…明日はあのときの無念が晴らせそうだが…
その引き換えに俺も近いうち、そっちにいくかもしれない。今日は前もっての挨拶だ…
再び父の名前をなぞると拳を強く握り、振り返らずそのまま本部に戻る。
彼なりの覚悟であるが、今回の尋常では緊張感に左胸の鼓動は
強く鳴り響く。だが眼差しは弱々しかった。
壁外調査当日の早朝。エルヴィンを先頭に多くの調査兵たちが開門を今か遅しと
待ちわびる。エルヴィンの背中の翼は命の重みを背負う。背筋を伸ばしても
重そうに見える。涼しい顔をしていても手綱を持つ手に力が入る。
リヴァイ、エルヴィンの後姿を見ながら、さすがにこいつでも緊張するのか
と鼻で笑う。リヴァイ、見送る住人の顔と顔の隙間から、エルヴィンを心配そうな眼差しを
送る女性がいることに気づく。何気なく見てもその女性はリヴァイには気づかない。
その女性こそマリーだった。リヴァイ、エルヴィンにそっと近づく。
「エルヴィン…てめーの位置から南西方向…ナイルの女が熱い眼差しで見ている…」
エルヴィンは手綱を持つ力にさらに力が入る。顔を少し動かしリヴァイいう方向に
視線を落とすと、愛しむような眼差しでエルヴィンを見つめるマリーに気づく。
・・・子供の頃、父さんが貸してくれた本に書いてあった…
確か、昔の兵士は戦いの前に一輪の花を見て心を落ち着かせ戦場に向うと…。
俺も一輪の花を見つけたようだよ、マリー――
正面を見据え右口角に笑みがこぼれると、壁上の駐屯兵から開門の準備が整った
との合図が届く。エルヴィンは覚悟を決め、幕開けのようなゆっくりと開く重い門が
開くと、顔を上げる。マリーに送っていた優しい眼差しが険しさに変る。
「第57回、壁外調査を開始する。前進せよーー!」
命を削る怒号のような号令を上げながら、愛馬と共に勢いよく駆け出す。
壁外のどこまでも広がる開放感が溢れる空気を包んだ青空に
エルヴィンの自由の翼のマントがなびく。
多くの命を背負った翼は重みがあり、簡単には羽ばたけない。
だが、一度翼を広げると、真の自由を求め大空高く、力強くどこまでも飛び立っていった。
-
- 23 : 2014/05/08(木) 01:18:48 :
- 以上です!
こうしてみると、全く同じあらすじに沿った小説でも、書き手によってかなりカラーが変わって来る、というのがわかりますね。
とても興味深いです。
今回、この企画を進めるにあたって、アサヒさんとは何度も綿密な打ち合わせをしました。
このシーンはこの解釈でよいですか?とか、ここはこうした方がよいのでは、であるとか、細かい所を色々と聞いてしまいました。
ですが、それは私にとってはとても新鮮な体験でした。
普段の小説は、個人的にこっそりと書いて、完成したら発表する、と言う形でしたが、今回の企画では、普段とは大きく異なったスタイルで、小説を書くことが出来、大変勉強になりました。
最後に、この場を借りて、アサヒさんと、ここまで読んで下さった読者の皆様への感謝の念を述べたいと思います。
本当に、ありがとうございました。
機会があれば、企画第2弾もやっていきたいと思います♪
では!
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- 24 : 2014/05/08(木) 01:20:54 :
- アサヒさん担当のSSのURLは、こちらになります♪
http://www.ssnote.net/archives/16294
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- 25 : 2014/05/08(木) 08:53:24 :
- お疲れ様でございましたぁぁ!びしいっ(最敬礼!)
アサヒ様と飴様の二大作家のコラボレーションとくりゃぁ私が飛びつかないはずがないのでございます!はい!(興奮冷めやらぬ状態失礼)
リヴァイの心の動きを察知するエルヴィン素敵です
その描写が神の領域に達していて震えました
次のコラボも超絶期待しております!
アサヒ様、飴ちゃんファイトでございますよー!
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