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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

空舞う道化-白 【56話ネタバレ有・アカリ・エルリ】

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  1. 1 : : 2014/04/10(木) 22:42:29
    4月9日は進撃祭でしたね!
    週マガ、別マガ、単行本13巻特装版、兵長スピンオフ「悔いなき選択」単行本第1巻を手に入れた泪飴の幸福度はMAXでしたが、散財祭でもありました。笑

    そして、ネットでも大変騒がれております、例の56話。
    幹部組大好きな泪飴には大変熱い展開でした。

    特に最後の数ページの兵長のアレww

    あの部分のお蔭で、5月が待ち遠しくなった上に泪飴の妄想スイッチが完全に押されてしまいました←

    そこで、56話をネタに、急遽3本の小説を書くことにしました!
    今回は、いや、今回も、泪飴にとって初挑戦の、変わった形式にしようかと思います。


    ネタバレ有りと言うよりは、むしろ読んでない人には分からない内容になっていくかと思いますので、別マガを読んでない方は閲覧の際、くれぐれもご注意下さい。


    その1作目がこちらになります。
    相変わらずの亀更新ですが、どうぞよろしくお願いします!
  2. 2 : : 2014/04/10(木) 22:46:34
    こちらこそ!
    期待してるですよ♪
  3. 3 : : 2014/04/10(木) 22:47:03
    期待ですv(・∀・*)
  4. 4 : : 2014/04/10(木) 22:55:04

    木の幹を思い切り蹴って、木々の間を全速力で飛び始めて数分。

    「リヴァイさん…!!親父が…エレンとヒストリアがっ…!!」

    息を切らして戻って来たリーブスの息子、フレーゲルの声がまだ耳に残っている。
    言葉と共に涙を溢すフレーゲルの報告を聞いてすぐに、俺は飛び出した。

  5. 5 : : 2014/04/10(木) 22:57:13

    フレーゲルの話が本当なら、敵はフレーゲルが生き残ったことを知らないことになる。ならば、すぐに追っ手が来るとは思わないかもしれない。

    だが、連絡係が居る可能性くらい向こうだって予想しているだろう。ならばこちらも、待ち伏せの危険性を想定するべきだ。

    そうした状況下で、死角だらけの森の中を単独で移動するのは、かなりの危険が伴う。
    巨人との戦いから遠ざかって、少し鈍った勘を研ぎ澄ます。

    その時、樹の下に倒れ伏すリーブス達が見えた。


    この光景。
    また、だ。


    また、自分達の力不足で、仲間が死んだ。


    関係者全員が死を覚悟の上で参加した作戦とはいえ、兵士ですらない老いた人間が戦いに巻き込まれ、命を落とす現実は心の底を焦がす。

    「ちっ…」

    全く、何てザマだ。
    中央憲兵は性根が腐ってるついでに頭もスカスカだと思っていたが…どうやらそれはサネス達に限るようだ。


    これから、という時になって、大物が出てきた。


    『アッカーマン隊長』

    懐かしくもおぞましい、その響きに唇を噛む。

    しかも、『対人制圧部隊』ときた。
    まるで、俺達のような人間が現れるのを待ち構えていたかのようだ。


    さて、これからどうするか。


  6. 6 : : 2014/04/10(木) 23:50:15

    可能なら、本来の作戦通りに連中を尾行し、ロッド・レイスの元まで辿り着くことが望ましい。

    だが、あいつが出てきたとなれば、話は別だ。
    調査兵団は、すぐにでも攻撃を受けることになり、そして恐らくかなり苦戦するだろう。そうなる前に、エレンとヒストリアを取り返さなければならない。

    今、それができなければ、奪還の、もうこれ以上の機会はない。

    レバーを握って加速した瞬間、木々の合間に、こんな人里離れた場所に似つかわしくない、大型の馬車が見えた。

    間違いない。
    あれだ。

    なるべく姿を見られないよう注意しながら馬車に接近していく。

    御者は1人で、傍らには銃が置いてある。
    長さから、ある程度の射程距離を持った銃であることがうかがえる。
  7. 7 : : 2014/04/10(木) 23:50:51

    しくじれば、自分の体に大穴が空く。

    呼吸を整え、御者台に向かって急降下する。
    その切っ先がとらえたのは、御者の首筋と、馬の胴だった。
    赤い飛沫をマントに残して、リヴァイはすぐに距離を取って身を潜める。

    傷を負った馬は暴れ、馬車がひっくり返りそうになる。
    それと同時に、立体機動装置を着けた2人の黒服の男が、馬車から飛び出し、こちらに向かって銃撃してくる。

    狙いが一か所に集中していないところを見ると、リヴァイの正確な位置まではわかっていないようだが、身を隠している木の幹にも時々弾が当たり、削れる音がする。

    だが、それもすぐに止む。

    余計な弾は使ってこない。
    やはり、特別な訓練を受けた人間のようだ。


    「出て来い」


    銃撃が止んで静かになった森に、アッカーマンの声が響く。
    無論、そう言われて大人しく出て行くわけがないのだが…

    「出て来なければ、ヒストリアを殺すぞ」

    そう言われたら大人しく出て行くしかない。
    仏頂面で血の付いた刃を両手に構え、木の陰から出る。

    リヴァイの姿を確認し、馬車から最初に飛び出して来た2人が銃口を向ける。
    アッカーマンの横には、目隠しをされ、口枷を嵌められて拘束されているエレンとヒストリアが座り込んでいる。白いフード付きのコートを来た女性が2人を動かないよう押さえつけている。

    アッカーマンはにやりと笑う。

    「よぅ…久しぶりだな…リヴァイ」

    「アッカーマン…」

    アッカーマンの言葉と、俺の声に、拘束されている2人がピクリと反応する。
    俺が助けに来たことがわかったらしく、俺を探すように首を動かしている。

    「さて、どうする?エレンとヒストリアを連れ帰りたいんだろう?勇敢なのは結構だが、1人で来るとは…無謀だな?」

    「無謀かどうか…確かめるか?」

    「是非とも。昔のように、色々教えてやろう」

    「ああ…そうさせてもらう……こっちは聞きたいことだらけだ……てめぇらが壁内の人類を見捨てる理由…壁外への進出も、技術の発展も邪魔する理由……とかな」

    「ふん、エルヴィン・スミスに色々仕込まれたか。少しは頭が良くなったようだ」

    「…少なくともてめぇらよりはな…」

    「前よりよく喋るようになったな…どうだ?調査兵になって『おんも』に出て、性格も開放的になったか?」

    「……」

    答えないリヴァイを見て、くく、とアッカーマンは笑う。

    「リヴァイ……お前は俺の誇りだ。殺すのが惜しいくらいにな……これほどまでに研ぎ澄まされた殺人者は見たことが無い」

    リヴァイが心底嫌そうな顔をするのも気に留めず、アッカーマンは続ける。

    「だから、選べ……リヴァイ・アッカーマン……調査兵団と共に沈むか……俺達と共に王家を守るか………お前だってこんなところで嬲り殺されるのは不本意だろう?」

  8. 8 : : 2014/04/10(木) 23:51:10


    いつか、いつかはこんな時が来るのだろうと思っていた。
    エルヴィンから死んだ父親の話を聞かされた時、ハンジから中央第1憲兵がニックを殺したと聞いた時、…そんな時はいつも、頭の片隅にお前の影がちらついていた。

    誰にも名乗らずに来た名字が、ずしりと胸の重みを増す。

    そんな思いを振り払う代わりに、被ったままだったフードを払いのけるようにして外しながら答える。

    「沈むのはてめぇらだろうが……それに」

    エルヴィン、ミケ、ハンジ、…兵団の仲間達の顔が浮かぶ。

    そうだ。
    言ったのは自分じゃないか。

    『これがお前の運命だ。それが嫌なら戦え』

    アッカーマンを睨んで言い放つ。

    「俺はリヴァイ・アッカーマンじゃない……調査兵団兵士長の…リヴァイだ」



  9. 9 : : 2014/04/11(金) 00:03:38
    ここで一旦蛇足。

    ここまでの内容は、実は先に漫画として描いた内容になります。

    こちらのサイトで見れますので、もし興味を持って下さった方がいらしたら、是非参考までにご覧になってください。

    http://www.pixiv.net/member_illust.php?illust_id=42807125&mode=medium

    そして、ここから先は激しく、モブリ・エルリ警報です!ww
    苦手な方、18歳未満の方は退却願います汗

    以上、蛇足でした!
  10. 10 : : 2014/04/11(金) 00:08:27
    リヴァイの苗字がアッカーマンだとするとリヴァイ東洋人説が少し薄くなった気もしますよね?
  11. 11 : : 2014/04/11(金) 06:46:12
    うん、
    漫画読みます和ー
  12. 12 : : 2014/04/11(金) 07:54:14
    これはがちに期待な予感
    てかここからモブリ来るんですか!?ww
  13. 13 : : 2014/04/11(金) 08:55:25
    13巻のモブリットかっこよすぎる。もうモブじゃない。主人公だ!
  14. 14 : : 2014/04/12(土) 00:58:31

    俺の言葉を聞いたアッカーマンの眼に、怪しい光が差す。

    「お前達は手を出さなくていい」

    部下達に銃を下ろさせると、アッカーマンは、コートの下に着けていた剣を抜いた。

    「そうだ、可愛い部下にも兵士長の勇姿を見てもらえよ」

    アッカーマンの言葉を聞いた白服の女の手で、エレンとヒストリアの目隠しが解かれる。

    2人は不安と期待の入り交じった眼で俺を見ている。
    縋るような2人の目に、俺はただ、黙って頷いて応える。

    暫く睨み合った後、どちらからともなく動き出し、激しく斬り合う。
    静かな森の中、鋭い金属音が鳴り響く。


    力はほぼ互角といったところか。

    体格差はあれど、単純な戦闘力なら俺の方が上なのかもしれないが、あいにくこちらは対人用の装備ではない。
    薄く、捲れやすいブレードは、アッカーマンの持つ対人用のブレードと相性が悪く、いつ折れるかわからない。

    刃の磨耗を防ぐために普段と斬撃の角度を変えて戦っているせいで、リヴァイは全力が出せないのだ。

    だが、これでは埒があかない。
    そもそもここでアッカーマンに勝っても、他の仲間に撃ち殺されて終わりだ。

    エレンとヒストリアを取り返すには、このまま戦い続けても意味がない。

    ならば。
    リヴァイは一瞬エレンの方を見てから、アッカーマンに向かって突進する。

    当然、単調な動きは読まれやすい。

    リヴァイの動きに合わせ、アッカーマンの刃が横薙ぎに襲い掛かって来る。

    防ぎきれなかったアッカーマンの剣が、肩を掠めた。人を斬るために研ぎ澄まされた刃は、軽く触れただけでも皮膚を切り裂く。

    痺れるような痛みを肩に感じながらも、リヴァイは剣を振り抜き、刃だけを飛ばす。
    刃はアッカーマンのすぐ横を通り、大きな放物線を描いて、エレンの傍の地面に突き刺さる。

    それに気づいたアッカーマンが、しまった、という表情を浮かべる。


    「エレン!!やれ!!!!」


    俺が叫ぶと同時に、エレンが刃に腕を押し付ける。

    それを見たアッカーマンが白服の女性の体を掴んでエレンから離れる。
    自分も、地面を転がるようにしてエレンから遠ざかる。


    次の瞬間、周囲に閃光が迸った。


  15. 15 : : 2014/04/12(土) 01:16:15
    飴さん、頑張って!ヾ(〃゚ω゚)ノ☆
  16. 16 : : 2014/04/12(土) 01:40:25

    蒸気と砂埃の中、巨人化したエレンが立ち上がった。
    その手の中にはヒストリアが居る。

    肩の痛みに耐えながら飛び、エレンの肩に降り立つ。
    下を見下ろすと、アッカーマン達も既に体勢を立て直している。
    その視線の先には、エレンのうなじがある。

    エレンをうなじから引きずり出されてしまったら、終わりだ。

    「エレン、走れ!!」

    何度か巨人化を繰り返すうちに、エレンも能力を使いこなし始めているようだ。
    俺の声をきちんと聞き取って、従った。

    対人立体機動装置を使って追いかけて来る4人に気付いたエレンが、俺とヒストリアを手で包んで守る。

    女型が急所を手で守った時は厄介な能力だと思ったが、こうして味方が持てばかなり心強い。ヒストリアの拘束を解いてやりながら、指の隙間から外の様子を伺おうとした時、突然激しく揺さぶられた。

    エレンの手から抜け出して外に飛び出すと、すぐ傍にアッカーマンが着地した。どうやら、エレンの脚を傷つけて転ばせたようだ。他の3人はエレンのうなじの傍に居る。

    巨人化直後のエレンは衰弱して動けない。
    今、うなじから引きずり出されてしまったら、またエレンもヒストリアも連れ去られてしまう。

    エレンのうなじに向かおうとした時、アッカーマンが間に割り込んで来た。
    アッカーマンと刃を合わせながら叫ぶ。

    「立て…!!立て!エレン!!」

    それを聞いたエレンが、ヒストリアを隠していない方の手で地面を鷲掴みにした。

    「ウォオオオオオオオ!!!!」

    エレンが雄叫びを上げながら立ち上がる。
    うなじの所に居た3人は衝撃でエレンのうなじから落下した。

    自分も、反射的に剣とアンカーをエレンの体に刺し、振り落とされないようにする。アッカーマンも同じようにしてしがみついている。

    くそ、このしぶとい奴め。


    再び走り出したエレンの、体の上で、リヴァイとアッカーマンは激しく斬り合っていた。
    アッカーマンの剣を躱しながら、リヴァイは思考する。


    フレーゲルがニファ達を連れてここまで来るにしても、まだ時間が掛かるはずだ。

    今、俺がすべきは、エレン達を守ること。

    この、時間も余裕もない状況の中であっても、隠れ家で呑気に過ごしている時でも、壁外調査で女型に追われた時でも、エレンが人類の希望である限り、それは変わらない。


    そんな思考も、アッカーマンの剣が目の前を過ったことで中断される。

    リヴァイはしゃがみ込んでそれを躱すと、アッカーマンの腕を掴んだ。
    そして、そのまま後ろに倒れ込む。



    驚いた表情のアッカーマンを道連れに、リヴァイはエレンの体からそのまま飛び降りた。



  17. 17 : : 2014/04/12(土) 02:04:36


    もちろん、投身自殺をするつもりはない。

    地面に叩きつけられないよう、アンカーを近くの樹に撃ち込んで樹の上に着地する。
    アッカーマンの方も、空中で体勢を立て直して着地する。

    刃こぼれした刃を捨て、新しい刃を装着する。
    剣を低く構え、アッカーマンを睨みつける。

    急に周りが暗くなって、驚いて真上を見ると、そこにはエレンの手があった。

    まるで、掴まれ、とでも言うかのように、エレンが自分に向かって手を伸ばして来る。
    エレンを一瞬だけ見て、俺は背を向けた。

    その手を掴む代わりに、命令を出す。



    「行け……!!」



    瞬き3回分の静寂の後、ズシンズシンという重い足音が遠ざかっていくのを背中に感じて、安堵した。


    これでいい。
    エレンが巨人化した時点で調査兵団の首は繋がったようなものだ。


    先程振り落とされた3人が追いついて来たらしく、アッカーマンの横で剣を構えている。


    後は、この4人を少しでも足止めし、エレン達を逃がす事が、今の俺に与えられた役目だ。
    俺は俺の役を果たす。


    その引き換えに、何を失うとしても。


    エレンとヒストリアが去った森の中に、再び金属音が響き始め、それはあっという間に止んだ。



    ************



  18. 18 : : 2014/04/12(土) 02:05:35

    俺は、人をあまり褒めない。

    よくやった、などと言うのは、本当に稀だ。

    ましてや、自分自身にそんな言葉を使おうと思ったことは一度も無い。

    だが、今の自分には心底、よくやったと言ってやりたい気分だ。



    「ったく、てこずらせやがって……」

    「ぐっ……」

    地面にうつ伏せの状態で押さえ込まれる。
    振りほどこうとするが、2人がかりで体重を掛けて全身の関節を地面に押し付けられてしまえば、指先を動かすことしかできない。

    「あの状態で、4人相手にここまで粘るとはな…流石、といったところか?リヴァイ…だが、もう諦めろ…これはエレンが暴れたら使う予定だった薬だ。まさかお前に使うことになるとは思わなかったが…」

    アッカーマンがそう呟きながら注射器を取り出す。

    「リヴァイ、これで『また』お前は俺のものだ」

    嫌な予感しかしない言葉と共に、身体に針が刺され、体内に薬品が広がっていく。

    全て注射し終わると、リヴァイを押さえ込んでいた手が離れる。
    すぐに立ち上がって逃げようとするが 、体に力が入らない。
    フラフラしながらも何とか立ち、何歩か歩いたが、そのまま地面に倒れ込んでしまった。

    「うっ…くっ……」

    地面に体を擦るようにして、必死に這って逃げようとするが、アッカーマン達の嘲笑を誘っただけだった。

    みるみるうちに薬は全身に回り、指先すらもまともに動かせなくなる。
    舌を噛み切って死のうかと思ったが、力の入らないこの状態では血すら出ないだろう。

    そんなことを考えていると、先程より少し小型の馬車がこちらにやって来る。

    「お、こっちの方が内装が綺麗だな」

    アッカーマンの声が霞がかった意識に染み込んでくる。


    何故だ?

    何でこんなに都合良く新しい馬車が来る?


    「ちょうど、この辺りで馬車を替えようと思ってたところだったんだ」


    リヴァイに聞かせるためにわざと大声で発されたアッカーマンの言葉に、愕然とした。


    こいつは一体どこまで読んでるんだ。
    俺の追跡も、エレンの奪還も、全て想定内だというのか。

    全く力の入らない体をアッカーマンに持ち上げられ、少し開いた唇から言葉にならない呻きが零れ落ちた。



    馬車に乗り込むと、アッカーマンはリヴァイを床に寝かせ、身ぐるみを剥ぎ始めた。

    体のあちこちに隠し持っていた武器は全て取り上げられたが、アッカーマン達の目的の物は見つからなかったらしい。

    その目的の物―エルヴィンからの指示の証拠は、全て隠滅するようにしておいて正解だったな、と朦朧とする意識の中で思う。

    浅い呼吸を繰り返し、ぐっしょりと汗をかいた体が外気に触れ、小刻みに痙攣する。

    アッカーマンは、自分を殺すのではなく、体の自由を奪う薬を使って来た。

    なら、次に何をされるかは大体予想がつく。
    恐らくは、サネス達がニックに行い、自分達がサネス達に行ったのと同じことだろう。

    痛みによる拷問は耐え切る自信がある。
    薬物による拷問も、恐らく耐えられる。
    その他の拷問にも、可能な限り抵抗するつもりだ。
    機会があれば逃げ出すし、それが叶わないなら隙を見て自決することも考える。

    どちらにせよ、この先に待っているのはあまりいいことではないらしい。
    いっそ、もうこのまま目が覚めなければいい、と思いながら、リヴァイは意識を手放した。


    そう、この時の俺はわかっていなかった。

    俺を殺さなかった、アッカーマンの意図を。

    そして、「痛み」や「死」を上回る苦しみが、自分に、そして仲間達に降りかかることになることを…。


    ***************
  19. 19 : : 2014/04/14(月) 00:15:46
    幼い頃、生活の身近にあった模様。

    アッカーマン家の紋章。

    何で、これが目の前にある?

    …ああ、そうか、俺は…




    「リヴァイ、気分はどうだ?」

    枕元に立つアッカーマンを睨んで答える。

    「……シーツが綺麗なのは評価できる」

    布で手足をベッドの四隅に繋がれているが、寝かされているベッドのシーツは洗濯されて清潔だ。
    「客人」でないことは確かだが、「監禁」とも言い難いくらいの待遇に、内心驚いている。

    「お気に召してもらえて光栄だ」

    「ここは……てめぇの屋敷か」

    「懐かしいだろ?お前のかつての家だ」

    「…違う」

    「へぇ、じゃあどこがお前の家なんだよ」

    「それ…は……」

    「調査兵団か?…お前、連中にアッカーマン家のことも自分のことも一切明かさなかったらしいじゃねぇか…あいつらが信頼できなかったか?」

    「…必要無いから言わなかっただけだ…」

    「ふん…まぁ、いいが…」

    沈黙が流れる。
    こちらから特に話すこともないので黙っているが、四肢を繋がれ横たわった状態を、無言で見下ろされるのは非常に気分が悪い。

    これなら皮肉を言われていた方がまだいい。

    エレンに夢中な方のアッカーマンといい、こいつといい、アッカーマンと名のつく人間は言語力が残念なのだろうか。

    色々考えた挙げ句、気まずい沈黙に耐えるのを諦めることにした。

    「特にすることが無ぇんなら、この悪趣味なものを外せ」

    アッカーマンがにやっと笑う。
    やはり、黙っていればよかった。

    「外してやってもいいが、その体で何が出来る?本当はその手足の拘束も要らないくらいだろう」

    その通りだった。
    何かの薬を使われたのか、体に力が入らない。
    動かせないわけではないが、起き上がることも這うことも難しそうだ。

    「てめぇ……」

    「昔、お前を躾るのには苦労したもんだ…お前に必要だったのは『教育』じゃなく『教訓』だった…そしてそれには『痛み』が一番有効だった…」

    そう言うと、アッカーマンは突然リヴァイの喉に噛みついた。

    前歯でギリギリと肉を挟まれる、鋭い痛みに必死で耐える。

    アッカーマンが離れた時には、リヴァイの喉元は酷く内出血して紫色になっていた。

    「ほぅ…痛みに強くなったな、リヴァイ…これじゃあちょっと殴ったり鞭で打ったりした程度じゃ折れなさそうだな」

    そう言いながら、アッカーマンはリヴァイの上着を脱がしていく。

    「それなら、『痛み』の次に有効なものを与えてやろう…どうだ、昔を思い出すか?」

    アッカーマンが皮の手袋を付ける。

    それは、いわば『躾』の象徴だった。

    条件反射のように、リヴァイは体を小さくする。
    無駄だとは思いながらも、体を捩らせて少しでも逃げようとする。

    もがくリヴァイの顎をアッカーマンが掴んで押さえる。


    「躾の時間だ、リヴァイ」

  20. 20 : : 2014/04/14(月) 00:21:55

    ******


    「ふ……う……っ」

    胸の飾りを弄られ、首筋を舐め上げられ、膝で股間を服越しに擦られては、声を抑えるのがやっとだ。

    「おいおい、そっち用の薬はまだ使ってねえってのに、随分敏感だな…開発済みってわけか?さては、エルヴィン・スミスだろう…あの男もお前を躾る時にこうしたのか?それともご褒美にして貰っていたのか?」

    「黙……れ……」

    涙の滲む双眸に怒りを湛えているリヴァイを見れば、答えがわかってしまう。

    「おっと失礼、両方だったか?」

    バカにしたように笑われて、リヴァイは悔しさに歯軋りする。

    仮に自分が処女だったとして、誰にも侵されていない無垢な体を暴くのがこの男というのは最悪だ。

    しかし、エルヴィンに仕込まれたこの体を別の男に、それもよりにもよってアッカーマンなんかに好きにされるのも、同等の苦しみだった。

    「時間はあるからな……また昔みたいに丁寧に教えてやるよ…」

    下着を剥ぎ取られ、下半身を剥き出しにされる。

    リヴァイの中心は既に膨らみ、勃ち上がり始めている。

    意思に関係なく立ち上がるそれを見たくなくて、思わず目を逸らす。

    唇を噛み締め、意地でも声を殺そうとした。

    「…!!うっ……!!ふっ……!ぁ…」

    アッカーマンが、ハンカチでリヴァイのそそり立つ先端を擦り始めたのだ。

    突然与えられた刺激に、腰が跳ねる。

    優しく、触れるか触れないかの柔らかい単調な摩擦の中に、時折、ゾクッと高まる瞬間がある。

    何度か身を震わせたリヴァイを見て、アッカーマンは擦るのを止め、今度は揉むように握り始めた。

    「くぅ……や、やめ……ぅあ…」

    もう既に身体中が汗で湿る位には感じてしまっている。

    「ああ、やめてやる。今度はこれだ」

    そう言って、性器を軽く握り直し、ゆっくりと上下に扱き始めた。

    「あぁっ…く……ぅう…!!」

    歯を食いしばり、身体中を震わせて耐える。

    「そんなにいいか?」

    「は……ぁあ……え、エルヴィンの方が……まだマシだ……この下手くそが……」

    アッカーマンはくく、と笑うと、扱くのを止めて性器を優しく揉みしだく。

    「ぃあっ…あぁ……」

    「これでもまだ下手くそだと言えるか?」

    「ひぃっ…あ…あ………はぁ…っ…」

    「ん?ほら、はっきり言えよ」

    快楽に溺れかけているリヴァイの胸の尖りを思いきりつねる。

    「ぁあッ!!……や、やめ…」

    「聞こえねぇな」

    「く…そが…ぁあっ…!…ぬる…すぎだ……っ!!」

    「じゃあ、もっとやってやるよ」

    「ひっ…!や……やぁ…!!」


    わかっている。
    何と答えようと、待っている結果は同じだ。


    だったら、せめてエルヴィンだけは守りたい。
    あいつが俺の一番だと、最後まで言い張りたい。

    しかし。

  21. 21 : : 2014/04/14(月) 00:22:21

    「ぁあ!…あ…っ!や…ひぃっ!!」

    「狂ってきたな…くく、躾だってことを忘れそうにやるよ…」

    アッカーマンは、性器を揉む動きと、上下に扱く動きを交互に使う。
    絶妙なタイミングで異なる刺激を与えられ、リヴァイにはもう声を殺す余裕がない。

    繰り返すごとに扱くスピードはどんどん上がり、握る圧力も強くなっていく。

    与えられる刺激が大きくなっていくのに合わせ、陰茎はどんどん敏感になる。


    早く終われ、と、力無く閉じたリヴァイの瞼が痙攣する。


    だが終わらない。
    アッカーマンは、わざと責めをじっくりと行う。

    これは「躾」なのだから。

    「あぁっ!!!うっ…やああ!!あーっ!!…はぁっ…」

    もう、性器の感覚が無いような気がする。

    いつ意識が飛んでしまってもおかしくないくらい追い詰められたリヴァイに、仕上げとばかりにアッカーマンが扱く手を速める。

    「ああああああああ!!!!!!!」

    派手に体を跳ねさせ、リヴァイは達した。
    時間をかけられた分、襲い来る快感の大きさも、溢れる白濁の量も尋常ではない。

    リヴァイは体を激しく震わせ、舌を突き出し、射精の余韻に溺れた。

    意識も瞳も体も何もかもがすっかり蕩けきったリヴァイを嘲笑いながら、アッカーマンはその後孔に手を這わせた。


    「躾」は、リヴァイの意識が3回飛んだ頃に、やっと終わりを迎えた。


    ******



  22. 22 : : 2014/04/14(月) 00:28:48



    「聞こえるか、リヴァイ」


    喘ぎすぎて声が掠れて、泣き腫らしたリヴァイの目は、虚ろに見開かれている。

    意識が戻ってからどれほど時間が経ったのだろうか。

    前も後ろも弄られて、意識が飛ぶほど責められたが、未だに、アッカーマンからは何も要求されていない。

    ただ喘がされ、ただ吐き出させられているだけだ。

    俺をこんな風に貶め、弱らせて一体何がしたいのだろう。

    俺のそんな思考も読み取ったのか、アッカーマンが目を覗き込んでくる。

    「俺が何を考えてるか、知りたいか?わからないんだろ?」

    「…気違い…変態野郎が…考えてることなんか…わかるわけねぇだろ……」

    「変態はどっちだ」

    後孔の周りを撫でられて、あぁあ、と情けない声が出てしまう。

    その時、アッカーマンの手下が部屋に入ってきて、何かを耳打ちした。
    全て聞いてから、アッカーマンは頷き、リヴァイにゆっくりと向き直った。

    薄気味悪い、残酷な笑みを浮かべて言い放つ。



    「調査兵団の『リヴァイ兵士長』。突然で申し訳ないが、君には消えてもらうことになった」



    (続く)
  23. 23 : : 2014/04/15(火) 16:50:52
    寝巻き姿の上からマントを羽織って、立体機動装置を急いで身に付け、ブーツを履く。

    マントも装置もブーツも、泥や血らしきもので汚れていて気分が悪かったが、仕方がない。

    今は、とにかくここ、アッカーマンの屋敷から逃げ出すことだけを考える。

    大きな音を立てないよう気を付けて割った窓から飛び降り、深夜の森の中をあてもなくひたすら走った。

    エルヴィン…エルヴィン…!!

    本人に届かないとは知りつつも、心の中で呼び続ける。

    あいつはきっと俺を探している。
    あいつだけじゃない、皆がきっと探している。
    このまま諦めずに走れば、調査兵団の誰かに見つけてもらえるはずだ。

    まだ薬が体に残っているせいなのか、追われる恐怖によるものなのかは定かでないが、少し走っただけでも、いつも以上に息があがってしまう。

    足が濡れているような気がして、視線を向けると、鮮血が伝っている。
    割った窓のガラスで、知らないうちに切っていたらしい。

    森を抜け、市街地に近い区域に差し掛かった頃には、東の空が明るくなり始めていた。

    このままではまずい。
    早朝の王都を、寝巻き姿に立体機動をつけてフラフラ走る人間など、目立つなんてものじゃない。

    どこかに身を隠さなければ。

    物音に気づいた。
    音の聞こえてきた方を見ると、見覚えのある馬車が通る。

    咄嗟に伏せる。
    目の前の自分の手が、情けないくらいに震えている。

    馬車が通り過ぎたのを確認してから、ゆっくりと身を起こす。

    馬車が向かった方向とは逆の方向に足を踏み出した瞬間、背後から凄まじい力で体を押さえつけられ、路地へと引きずり込まれる。

    抗う間もなく、人通りの無さそうな所まで、片腕で抱かれるようにして連れていかれた。

    暴れようかと思った時、耳元で懐かしい声がした。

    「リヴァイ」

    低い声に、はっとする。

    振り向けば、ここまで走りながらずっと呼び続けた男が居る。
    思わず腕にしがみついた。

    「エルヴィン…」

    そのまますぐ側の馬車に乗る。
    そこには、

    「リヴァイぃいいい!!!!」

    ハンジとモブリットが居た。
    狭い車内で、泣きながら飛び付いてくるハンジを、モブリットが必死に押さえている。

    「分隊長!そんなに強くしたら、兵長が生き急いでしまいます!!というか死にます!!」

    「これが騒がずにいられるか!リヴァイが無事だったんだぞ!!うわぁああん!!リヴァイぃいい!!」

    「だから現在進行形で無事じゃなくなってるんですってば!!」

    普段なら悪態の1つや2つをくれてやるのだが、今日は黙って抱かれていた。

    「よく、よく頑張ったよ…」

    子供のように頭を撫でられて、リヴァイは目を閉じた。


  24. 24 : : 2014/04/15(火) 16:51:33
    ******




    エルヴィン達は、シーナ内を馬車で移動し、大きな邸宅の前で降りた。

    家から、見覚えのある薄ら髭…ナイル・ドークが出てくる。

    「早かったな」

    「あぁ、リヴァイ自身が市街地まで自力で来てくれたからな…」

    「はぁ…流石だな…敵の所から逃げ出して来たのか」

    ナイルが目を丸くしている。

    「あぁ…このザマだがな…」

    そう答えて足の傷を見せると、ナイルは顔をしかめて、そうか、と言って頷く。

    とにかく入れ、と、邸宅の中へ招かれた。

    ***

    ナイルの屋敷は広かった。
    大小様々な部屋が幾つもあり、エルヴィンと、リヴァイ班とハンジ班の面々全員が集まっている今でも、まだ使っていない部屋があるとのことだった。

    屋敷には家政婦が数人居て、リヴァイの世話を甲斐甲斐しくしてくれた。
    傷の手当を済ませ、簡単に身を清めると、リヴァイは空き部屋に通された。

    疲れてるところ悪いけれど、と前置きしてから、エルヴィンとハンジ、ナイルがやって来て、報告をし合った。
    エルヴィン曰く、当初のエレン達を囮にする作戦は書き換えられ、全く別の、新しい作戦を練っているところだという。
    ほぼ全ての情報を共有すると、休むように、と言い残して3人は部屋を出て行った。

    誰も居なくなった部屋で、リヴァイは大きく息を吐く。
    清潔なベッドに横たわると、吸い込まれるように意識が闇に沈んだ。

    その口元は、微かに笑みを湛えていた。




    ******
  25. 25 : : 2014/04/15(火) 16:51:56


    エルヴィンは、自室で書類を書いていた。

    リヴァイから聞いた、アッカーマン家の情報を頭の中で整理する。
    ふと、エレンとヒストリアからの報告が頭の中を過る。

    『リヴァイ・アッカーマン』

    リヴァイが、敵にそう呼ばれていた、というのだ。
    アッカーマンといえば、ミカサと同じ名字だが…ミカサも、一切心当たりはないと答えた。

    先程の報告でも、リヴァイはその話題には触れなかった。

    本来ならあの場で聞くべきだったのだろうが、すっかり疲れ切ったリヴァイの姿を見て、これ以上の負担を掛けたくない、と思ってしまったのだ。

    リヴァイが起きたら、2人きりで話をしよう。

    そんなことを考えていると、エルヴィンの部屋にノックが響く。

    「誰だ?」

    「…俺だ」

    そう言いながら、立体機動装置を着けたリヴァイがそろりと入って来る。

    「リヴァイ…!起きたのか……ん…?何故、装置を?」

    「いつアッカーマン達が来るかわからねぇんだ……念のために、だ」

    それはそうだが、さすがに部屋の中でまで…と言い掛けたが、拉致されて、少し臆病になっているところがあるのかもしれない。

    2時間ほど熟睡して、リヴァイの体はかなり回復したようだった。
    重い装置を着けても、ふらつくこともなくしっかりと歩くことができているのを見て、安心する。

    「そうか」

    書類を机に置くと、エルヴィンは立ち上がった。
    ナイル達の目の前では出来なかったが、今ならいいだろう。
    軽いスキンシップでも取って、リヴァイが戻って来たという事実を感じたい。

    「本当に、無事でよかったよ」

    「ああ、自分でも、ここにこうして帰って来れるとは思わなかった…」

    「お前を誇りに思うよ……これからだな……中央第1憲兵の隊長の屋敷の場所も、お前のお蔭で特定できたし、奴を手掛かりにしてロッド・レイスへと辿り着くことはそう難しくないはずだ」

    「ああ」

    「これからだ。これから…戦いが始まる」

    そうだな、と答えながら、リヴァイはブレードの柄に手を置く。

    そうだ。
    俺は、これからもこれを握って生きていくのだ。

    命のある限りこれを振り、血を浴び、生きていく。

    何があっても、ずっと。


    例えば、今も。


    愛おしそうに、厳かに俺の名を呼んで前に一歩進み出た金髪の男の首に向かって、俺は刃を一閃した。



    ***
  26. 26 : : 2014/04/15(火) 16:55:38



    記憶、というものは、とても曖昧で不安定なものだ。

    いつまでも色褪せずに…とか、自分の中でいつまでも…とか、そんなことを言えるのは文学の中だけだ。

    実際には、非常に都合良く、柔軟で常ならざるものである。

    何故なら、記憶を組み立てるのは、その時の自分ではなく、今の自分だからだ。

    絵に例えるなら、こんなことがあった、あんなことをした、といった事実は線画であり、殆ど修正されない。
    だが、「記憶」を思い起こすことは、線画に色を付ける作業に等しい。

    そして悲しいことに、その線画が複雑で濃度の濃いものであるほど、色の付け方次第で、全く正反対の「記憶」となってしまうのだ。


    ***
  27. 27 : : 2014/04/15(火) 16:56:09



    俺は、リヴァイ・アッカーマン。
    今は中央第1憲兵の隊長を務める男に拾われて養子となり、幼少の頃から戦う術を叩き込まれ、彼の跡継ぎとして育てられた。
    今から10年以上前、いつか下されるであろう任務のために王都の地下街のゴロツキに身をやつし、調査兵団に入った。
    そして、調査兵団が王に背くことを決めた瞬間から、俺の任務は始まった。
    その最初の仕事が、これだ。


    『エルヴィン・スミスを殺害した後、エレン・イェーガーとヒストリアを拉致せよ』


    追われている振りをして屋敷を抜け出し、お前達に保護された。
    可能な限り情報を聞き出して、作戦に移る。

    これが、アッカーマンの計画だった。

    エルヴィン、俺は、リヴァイ・アッカーマンとして、お前を斬る。



  28. 28 : : 2014/04/15(火) 16:56:37



    なのに。


    俺の刃は空を切った。

    飛んで地に転がるはずだった男の顔は、俺の目の前にある。

    その唇は、俺の唇に触れるか触れないかの距離で、彼が生きている証である温かい吐息を吐き出す。


    そういうことか。

    不意打ちでキスをしようとしたらしいエルヴィンは、身長差を縮めるべく身を屈めた。

    この男の強運によるものか、命を預け合ってきた絆が起こした奇跡かは知らないが、俺が作戦を開始する瞬間として選んだタイミングは、エルヴィンにとっては最高の、俺にとっては最悪のタイミングだったようだ。

    それにしても、色事のせいで命を落とす奴はごまんと見てきたが、逆に命拾いする奴は初めて見た。

    空振りした刃は、エルヴィンの頭上を掠めた後勢いだけが残り、手元を離れて近くの壁に刺さった。

    気まずい静寂に包まれる。
    見つめ合う2人の均衡を破ったのはエルヴィンだった。


    「リヴァイ、私を殺すつもりか?」


    恐ろしい速さで現状を理解したらしいエルヴィンに、近すぎる距離で囁かれる。
    そのせいで、冷静に見える表情の横に冷や汗が伝い、吐息が震えているのがわかってしまう。


    「ああ、俺が調査兵団に戻ってきたのは、お前を殺すためだからな」


    懐かしい会話だ。
    何の因縁の巡り合わせだろうか。


    「お前が連れ去られて、とても心配した。帰ってきてくれて、とても嬉しかった。…何故だ?」

    「俺が、リヴァイ・アッカーマンだからだ」

    「アッカーマン…?」

    「俺は、お前が憎くて憎くて堪らない中央第一憲兵隊長の秘蔵っ子なんだよ、エルヴィン」

    エルヴィンの目が見開かれる。

    「お前を殺して、エレンとヒストリアを貰う。これが、俺の『役』だ」


  29. 29 : : 2014/04/15(火) 17:00:44


    数秒間、エルヴィンは無反応だった。
    死んだのかと思って心配になった時、エルヴィンは瞼を静かに閉じ、直立の姿勢に戻った。

    「…そう…か……」

    エルヴィンらしくない反応だった。
    こういう時こそ、異常な反応を見せる男なのに。

    「何だ……知ってたのか……?」

    「エレン達の報告から、予想はしていた。だが…たとえそれが事実でも…お前の心臓は、我々の心臓と共にあると信じていた……」

    「ああ、それは本当だ…俺も、人類に心臓を捧げているんだからな……だが、お前らのやり方じゃ壁の中は救えない…『人類』のために消えてもらうぞ、エルヴィン・スミス」

    静かに、鞘に残っている方の剣に手を掛ける。

    今度こそその首を、と強く握り込んだその瞬間に、すぐ後ろの扉がけたたましい音を立てて開いた。

    「リヴァイ…!!あんた…っ!」
    「兵…長……?」

    ハンジとエレンが立ち尽くしている。
    外で会話を聞いていたらしく、信じられない、といった表情を浮かべている。

    「ちょっと…喧嘩にしちゃやりすぎだよね……というか……どういうつもりなんだよ……!!なぁ、リヴァイ!!」
    「兵長……何で…!どうして…あなたが団長を……!!」

    「お前らも聞いて知ってんだろ…そりゃあ、俺がリヴァイ・アッカーマンだからだ。エレン、別れを言っておきたい奴が居るなら今のうちに言っておけ。俺もお前も、調査兵団とはお別れだからな」

    「リヴァイぃ………貴様…!!」
    「兵……長…………」

    「クソメガネ、てめぇも消した方がいいようだ……片腕に丸腰のエルヴィンならいつでも殺せる。お前が先だ…『人類』のために俺を殺してみろよ」

    ハンジの目に、僅かに怯えと迷いの色が浮かぶ。
    それを見たリヴァイはふっと笑う。

    ハンジは優しすぎる。
    こいつに、俺を殺すことはできない。

    「リヴァイ」

    見ると、エルヴィンがこちらを睨んでいる。

    「私はお前の判断を信じることに迷いはない。お前が、こうした方が人類のためになるというのなら、そうすればいい。だが、…それなら、必ずやり遂げろ。何があっても人類を救ってくれ。そうでなければ、私はお前を絶対に許さない」

    「はっ……立派な遺言だな……わかってる。そのつもりだ……」

    エルヴィンが目を閉じる。



  30. 30 : : 2014/04/15(火) 17:01:00



    お前、今、何を考えているんだろうな。

    中央第1憲兵に殺されたとかいう、父親に謝っているのか。
    志半ばで死んでいく無念を嘆いているのか。
    全てを裏切った俺を呪っているのか。

    もし俺を呪っているなら、これはその効果なのか?
    これ以上ない好機がやってきた今になって、手の震えが止まらないのは何故だ。

    「リヴァイ……?」

    エルヴィンが目を開けて、不思議そうに俺を見る。
    震えの止まらない俺の手を見て、驚いた顔をしている。

    ここまで来て、何で出来ない。

    こいつが、こんな顔をするからか。
    こんなに悲しそうに、辛そうにするからか。
    それを見たハンジも、僅かに希望を見出したらしい。

    「…!!やめろ…やめろリヴァイ!!あんたはリヴァイだろ!アッカーマンじゃないだろ!!頼む、思い留まってくれ…!!エルヴィンを殺さないでくれ…っ!!!」

    「くそ……うる…せぇ……!!」

    ハンジの声を背中に浴びながら、震える手で無理矢理剣を掴み、振り上げる。
    だめだ、やめろ、という心の声を振り切って、まさに振り下ろそうとした瞬間。



    「やめろぉおおお!!!」



    エレンの叫び声と同時に、ピリッという音が脳内に響く。
    突然、体が固まったように動かなくなる。

    「エレ…ン……てめぇ……これは……一体……」

    リヴァイが、エレンの言葉通りに動けなくなったことに、エルヴィンが気づく。

    そうか、エレンの『叫び』の力。
    やはり、人間にも影響を及ぼすことが出来るということだ。
    それなら…!!

    「エレン!!続けるんだ…!!叫び続けろ…!!」

    エルヴィンの指示を聞いたエレンは、声を張り上げて叫び続ける。

    「…あなたはリヴァイ・アッカーマンじゃない!!リヴァイ兵士長だ!!そうでしょう!?」

    「違…う……俺…は……」


    『思い出せ!!!』


    エレンの咆哮と共に、さっきと同じ、電流の流れるような音が響く。


    心の中の靄が晴れていく。
    今まで見て来た光景が走馬灯のように流れて行く。




  31. 31 : : 2014/04/15(火) 17:01:15




    親を亡くし、身寄りのなかった俺は、アッカーマンに拾われた。
    一応養子ということになっていたが、それは書類上の話だけだった。

    俺は、アッカーマンにより、彼の後継者として育てられた。
    対人格闘から立体機動に至るまで、様々な戦闘術を叩きこまれた。
    時折、『躾』と称して耐えがたい苦痛を与えられることもあった。
    その効果なのかどうか知らないが、俺は、奴の「誇り」と言われるまでに成長した。

    だが、俺は自分が何者なのか、何のために生きているのかわからなくなった。
    気づいた時には、アッカーマン家を飛び出していた。

    行くあてもなく彷徨った結果辿り着いたのは、地下街だった。
    それからは、エルヴィン達の知る通りだ。
    アッカーマンの陰に怯えながら、兵士長にまで登りつめ、生きて来た。

    そして、アッカーマンと再会した。

    エレン達を逃がした後、俺は負け、薬で身動きできなくされ、拉致された。
    アッカーマンの屋敷で、散々アッカーマンに限界まで追い詰められた。

    すっかり疲弊し切った所に現れた、黒髪の女。


    ヒストリアに似ている。
    レイス家の人間なのか?


    そう思っていると、女は静かに歩み寄り、額を俺の額に重ねた。
    俺にしか聞こえなさそうな小さな声で、ごめんなさい、と呟いて。

    「お別れだ、『リヴァイ兵士長』」

    アッカーマンの声と同時に、脳内にピリッという音が響く。

    次に目を覚ました時、俺は、都合良く記憶を改竄されていた。
    加えて、アッカーマンに色々と吹き込まれ、奴の思う通りの色に記憶を染め上げてしまったのだ。


    ***


  32. 32 : : 2014/04/15(火) 17:01:38


    呼びかけに一切反応しなくなったリヴァイに向かって、エレンは必死に叫び続ける。

    「兵長…!!だからっ…だから…!!」

    「エレン」

    突然、リヴァイが口を開く。

    「へ…兵長……」

    「もう叫ばなくていい……思い出した」

    そう言うと、腰に着けた装置を外し、床に投げるようにして置いた。
    床の上を滑り、装置はエレンの足元で止まる。

    両手を上げて攻撃の意思がないことを示す。
    そのままゆっくりとエルヴィンから離れ、その場に跪いた。


    何て事だ。
    俺は…エルヴィンを殺そうとしていたのか。


    不可抗力だったとは言え、自分がしようとしていたことの恐ろしさに汗が吹き出す。
    誰の目も見れない。


    地面にへたり込み、俯く俺の肩に手が置かれた。
    顔など見なくても誰の手かすぐわかる。

    「立ちなさい、リヴァイ」

    「エル…ヴィン……」

    「私が誰か、わかるね?」

    「あぁ…当然だ……すまない…すまないエルヴィン…!!」

    頭を深々と垂れる。
    エルヴィンの手が顎を軽く持ち上げる。
    エルヴィンの目を真っ直ぐ見る。

    「…リヴァイ、お前は何者だ?」

    「俺は…」


    アッカーマンから学んだ「殺すこと」。
    ファーランとイザベルから学んだ「守ること」。

    そして、エルヴィンから学んだ、「選ぶこと」。


    調査兵団か、中央第1憲兵か。
    エルヴィンか、アッカーマンか。
    人が殺し合う地獄か、巨人に喰われる地獄か。


    それと同じように、今、選ぶのだ。


    自分は、リヴァイ兵士長か、リヴァイ・アッカーマンか。


    そしてその答えは明らかだった。

    滅多なことではしない、敬礼をする。


    「俺は…リヴァイ…リヴァイ兵士長だ…」


    エルヴィンがリヴァイの手を取る。
    久々に見る、お前の柔らかい笑顔。

    「リヴァイ兵長…お前に、敬意を」

    「エルヴィン…!!」

    手を握り合う俺達を見て、気を利かせたハンジがエレンを連れて部屋を出て行こうとした瞬間、扉が勢いよく開く。

    「お前らぁあああああ!!!!そこに直れぇえええ!!!!」

    滅多に聞けない、ナイルの「叫び」が響き渡った。


    ******

  33. 33 : : 2014/04/15(火) 17:03:16


    エルヴィン、リヴァイ、エレンの3人がナイルの前に正座している。
    リヴァイのはどう考えても胡坐にしか見えないが、これでも譲歩した方だった。

    ナイルは腕を組み、湯気を立てそうな勢いで怒っている。

    「お前らなぁ…人の屋敷に好意で泊めてやってんのに何だこの有り様は…!!壁に剣が刺さってるわ、急に叫び出すわ、一体どういうことだ!いいか、マリーはもうすぐ子供が生まれるんだぞ!?お腹の子に何かあったらどうするつもりだ!!」

    「すまないナイル。マリーにも、申し訳なかったと伝えておいてくれ」
    「…てめぇも叫んだだろうが、薄ら髭」
    「すいません…」

    「一名、全っったく反省が足りてないようだが…?」

    「まぁまぁナイル、リヴァイに素直に謝らせられるのはエルヴィンだけだよ。しょうがないしょうがない」

    「おいクソメガネ…何でてめぇだけ説教免除されてんだ」

    「私は何にもしてないもん」

    「だからリヴァイ、勝手に喋んな!」

    「ちっ……」

    「……ナイル、子育てに失敗するとこうなるからね、気をつけるんだよ」

    「ハンジさん…その話題は今地雷なんじゃ……その、兵長を育てたのって…」

    「黙れクソガキ……俺は別に気にしてない」

    「す、すいません……」

    自由奔放な調査兵団の会話に、ナイルは頭を抱える。
    大きなため息を吐く。

    「で………解決したのか?」

    ナイルの問いに、4人がきょとんとした顔をする。

    「リヴァイ、どうなんだよ。お前は納得のいく結論が出たのか?」

    「解決した……俺は、エルヴィンを信じ、従う」

    リヴァイの真っ直ぐな目を見て、ナイルは目を閉じる。
    口元が少し緩んでいる。

    「そう来なくっちゃな………」

    全員が立ち上がる。

    「皆を、ここに呼んでくれ…作戦を話す」

    エルヴィンの目がギラリと鋭い光を帯びる。



    さぁ、始めよう。




    (完)
  34. 34 : : 2014/04/15(火) 17:19:43
    最後までお読みくださり、ありがとうございました。

    56話以降の物語の妄想小説、「空舞う道化」の第1作目、「白」は以上で完結となります。


    とにかく56話が衝撃的過ぎて、勢いで書いてしまいました。
    「白」が約1週間で書き終わったので、ARIAの「悔いなき選択」の最新話が出る4月末までに3作とも書き終わればいいなあ、と勝手に思っています。


    「白」では、兵長はアッカーマン隊長には服従しておらず、完全に調査兵団側の人間、という設定です。

    また、作中でも触れましたが、兵長はアッカーマン隊長の養子(拾われっ子)で、幼い頃に色々と鍛えられた、という設定にしました。

    悔いなき選択の最新話に出てきた「ある人物」というキーワードがずっと気になっていたんですが、56話を読んで、もしかしてそれって、アッカーマン隊長ないしはロッド・レイスなんじゃないか?と思い、無理矢理繋げてしまいました。

    また、そろそろ調査兵団の人間にも、王政の魔の手が忍び寄ってくるのでは、ということで、兵長の拉致及び記憶改竄、それからエレンの能力の人間への使用といったエピソードを入れてみました。

    アニ誕で記憶喪失モノを書いたばかりだったので、書いてる私自身が少し食傷気味なんですが、「白」から書くと決めてしまったので、仕方がありませんね汗

    ミカサちゃんのリミッター解除とエレン君の「戦え!」という『叫び』の関係性は不明ですが、エレン君が能力を人間に対して使う日はそう遠くないのかな、と予想します。

    ただ、正直に言うと、このエピソードを入れた本当の理由は、またもや(?)連れ去られてしまったエレン君にも花を持たせようと思ったのと、調査兵団幹部組に立ちまくっている死亡フラグをへし折りたかったというものでした笑

    こうはならないにしても、いつか、兵長を助けるエレン君が見たいですね(’-’*)♪

    ナイルさんの家族は、これから何らかの形で出てくるのではないかと思ってます。
    団長が馬車の中であれだけ真剣に語っていたので、ナイルさんも調査兵団サイドに来たらいいなあと思います。

    今回は触れませんでしたが、ピクシス司令及び彼率いる駐屯兵団が今後どのように関わってくるのかも気になるところです。

    残り2作は、また設定を変えて書きます。
    多少重複するエピソードもあるかもしれませんが、ご容赦ください。

    今のところ、残り2作には18禁な内容は入れない予定です汗
    要望があれば入れますが…。←


    では、また次の作品で。


    貴重な時間を割き、最後までお読み下さいまして、本当にありがとうございました。
  35. 35 : : 2014/04/21(月) 13:27:48
    す、すごすぎです・・・
    何を読んでも、私考察とか全然でない人なんで・・・
    面白かったです(´▽`*)

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