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この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

風を追いかけて

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  1. 1 : : 2014/03/22(土) 23:53:25



    春。




    ふわりと風が吹き、つばの広い帽子が宙に舞う。



    その帽子は木の梢に留まる。





    涙を流す君。



    その帽子を僕が代わりに取ってあげる。




    帽子を優しく被せたとき、君は花のように笑う。




    その笑顔に僕は恋をした。






    遠い・・・遠い・・・春の日の出来事。


  2. 2 : : 2014/03/22(土) 23:58:12
    いちばーん、ですかね|・ω・*)チラ
    今か今かと待っておりました。楽しみにしています!
  3. 3 : : 2014/03/22(土) 23:59:47
    二番!!
    期待ですよ!!
  4. 4 : : 2014/03/23(日) 00:00:47
    マリンさん、早い!!
    はい、一番乗りですよ(´∀`*)

    ありがとうございます!


    EreAniさんもお早い!!





    改めて、皆さんこんにちは。

    シュウです。


    4作目の投稿となります。


    今回は「ベルアニ」を中心とした作品に挑戦します。


    現パロになります。
    キャラの設定は大きく変えることはありませんが、オリジナルの設定を盛り込みますので、お読みになる際はその点をご了承ください。


    ゆっくり更新して参りますので、気長に投稿をお待ちいただけたらと思います。


    どうぞ、よろしくお願いします。
  5. 5 : : 2014/03/23(日) 00:01:10
    三番!
    楽しみです(≧∇≦)!
  6. 6 : : 2014/03/23(日) 00:03:32
    店員さん、ありがとうございます!!

    ・・・皆さん、反応が早くてびっくりです(;・∀・)


    ベルトルトとアニ。ともにファンの方が喜ぶような作品にして参ります。

    応援よろしくお願いします!
  7. 7 : : 2014/03/23(日) 00:18:14


    ・・・






    窓から風が入ってくる。



    昨夜、閉めた筈の窓。



    そのお陰で目覚ましが鳴らなくても体が勝手に起きてしまう。




    ・・・寝足りない。





    窓を開けたであろう当の本人は下の階で、朝食作りに勤しんでいる。


    そのことはここまで匂ってくるパンの匂いで分かる。




    春休みも昨日までで終わり。



    寝巻きのまま階段を下りる。



    途中天井が低くなっているところを屈むのは、もはや習慣となっていた。





    「んん~~。」


    台所から何かを取ろうと頑張っている声がする。



    僕は黙ったまま台所に入り、上の棚から食器をとって渡してあげる。




    「あら、ありがとう。」



    屈託のない笑顔。



    でも、その後に続くのは、悪意なく自尊心を傷つける呼び名。





    「助かるわ、ベルちゃん。」




    「・・・。」


    僕は困った顔をして俯く。




    そして


    「それ・・・恥ずかしいからやめてよ、お母さん。」


    そう答えた。









    朝食をすませ、学校に向かう。



    往き交う人々は僕を物珍しげに眺めている。



    普通の人よりも頭ふたつ分も上に伸びていれば、それも当然だろう。



    ・・・もう慣れた。



    ポンと後ろから肩を叩かれる。



    「よ。ベルトルト。」



    僕の親友。


    「・・・おはよう、ライナー。」



    せっかくの親友の挨拶なのに、僕は随分と気のない返事をしてしまう。




    「なんだよ、元気ないな。何か嫌なことでもあったのか?」



    思わず黙ってしまう。


    当たらずとも遠からず、だったから。



    「・・・高校2年にもなって、”ベルちゃん”は無いよね・・・。」


    「あぁ・・・。お前のところのお母さん、猫っかわいがりしてるからな・・・。心中察するぜ・・・。」




    そう言って互いに笑い合う。



    気心知れた友達とこうして話ができるのは本当にありがたい。



    僕はちょっと人見知りなところがあるから、新しく友達を作るのが苦手だ。


    そういった時、必ずフォローしてくれるのがライナーだった。


    僕だけじゃない。ライナーは体格の良さに加えて、面倒見もよく、他のクラスメイトのフォローに入ることが多々ある。


    そんなこともあって、同級生からは”兄貴”なんて呼ばれることもある。



    ・・・もっとも、本人は嫌がっているようだけど。







    学校へ続く坂道を僕らは登る。



    その頂きに来たとき、ふとライナーが遠くを眺める。


    プロペラ機がまもなく飛び立とうとしている飛行場。



    ライナーはここに来ると、決まって、遠くに見えるその飛行場を眺める。



    以前、その理由を聞いたことがあったけど、「いや・・・」とだけ答えて、その後は何も話さなかった。


    だから僕は、この件についてライナーには何も訊かないことにしている。

  8. 8 : : 2014/03/23(日) 00:21:45


    校門を過ぎると、昇降口に続く道に人だかりが出来ているのが見えた。



    新しいクラスが掲示されていて、みんな我先にと自分の名前と友達の名前を確認しあっている。


    僕ももちろん新しいクラスに興味はあった。


    だけど、もうひとつの方が気がかりだったから、掲示板に構わず僕はその人だかりを上から眺めた。






    ・・・やっぱり、いた。



    1箇所だけポコンと背丈が低くなっている場所。


    他の学生みたく背伸びしたり、飛び跳ねたりすればいいのに、それをせずじっと前が空くのを待っている。




    やれやれと言わんばかりに、僕はため息を吐き、その人の傍に近づく。



    とんとん


    肩を叩くと彼女はゆっくり振り向いて、僕を捉える。


    僕はちょいちょいっと手招きをして人混みから出るように促し、彼女もそれに応える。




    特に背伸びも飛び跳ねることもなく、僕は悠々と掲示されている名前を見つける。



    そして、彼女のところに戻り、



    「ライナーと僕と同じ、Aクラスだよ、アニ。」


    そう伝えた。






    「やっぱり、その身長は便利だよな、ベルトルト。」


    そう言ってライナーが笑っている。



    「こういう時だけだよ、役に立つのは。あとは厄介なだけさ。」




    「そうだな。・・・アニ、今年1年、改めてよろしくな。」




    「・・・うん。よろしく・・・。」


    そう言って何だか恥ずかしそうにアニは項垂れる。





    この幼馴染の3人が一緒のクラスになるのは、随分久しいことだった。



    最後に一緒のクラスになった時のアニは、もっと・・・




    「・・・ベルトルト。」



    「なに?」







    「・・・ありがと。」










    「・・・どういたしまして。」








    もっと・・・笑っていたと思う。
  9. 9 : : 2014/03/23(日) 00:24:09


    今夜の投稿はここまでです。


    ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


    今後もよろしくお願いしますm(_ _)m
  10. 10 : : 2014/03/23(日) 10:37:33
    流石の文章力、圧巻のひと言に尽きますね!
    新作投稿お疲れ様です♪

    続きも期待してますね〜٩(◦`꒳´◦)۶
  11. 11 : : 2014/03/23(日) 10:43:15
    新作、期待です♪
    ベルちゃんに吹いた♪
    可愛いお母さん!!
  12. 12 : : 2014/03/24(月) 00:22:00
    ゆきさんへ

    圧巻だなんて!
    恐縮してしまいます><

    アニを可愛く表現できるか分かりませんが、楽しく投稿させていただきます!




    88さんへ

    ベルトルさんのお母さんはこの作品の良心にしたいと考えているので、今後も登場予定です。
    可愛いですよね!

    今後もよろしくお願いします!
  13. 13 : : 2014/03/24(月) 00:29:02



    何となく、人だかりから視線を感じた。


    見ると、何人かの女子がこちらを見てクスクス笑っている。




    雑踏の中、こんな言葉が聞こえてくる。





    『ふふ・・・。まるでお姫様ね。』





    ライナーもその言葉は聞こえていたようだ。


    珍しくしかめっ面をしている。




    その顔を残したまま、


    「・・・早くクラスに入ろうぜ。」


    そう僕らを促した。








    無言のまま廊下を歩く3人。


    ライナーと僕が歩く後ろを、アニは俯いて歩いている。



    通りすがる人のほとんどが僕たちを見ていく。




    先頭にはしかめっ面をした、体格のいい男子生徒。


    その後ろには190を越える大男。


    一番後ろに、視界にも入らないくらい小さく、しかし目鼻立ちの整った美しい女の子。



    傍から見れば、確かに”お姫様”を護衛する男2人に見えなくもない。







    昔から、アニと僕たちの関係はこんな感じだった。



    小学校の頃までは、アニの方から好んで僕たちの後ろについてきていた。



    アニは小さくて愛らしいのだけれど、それが故に目立ち、同級生の女の子たちにヤキモチを焼かれ、友達の輪に入れてもらえないことのほうが多かった。


    そんな自分をまるで樹の影に隠すかのように、僕たちの後ろについて回っていた。


    そんな風に頼られることに、僕は一種の誇りと嬉しさを感じていた。




    しかし、アニのその奥ゆかしさも、今では”お姫様”なんて揶揄されている。



    全然そんなことないのに・・・。



    ライナーもそのことを知っているから、好き勝手言ってくる人たちに対して憤りを隠せないでいるのだ。




    教室に入ると、みんなは、先生が来るまでわいわいと賑やかに話している。


    でも僕たちだけは、誰と話すわけでもなくただただ、黙って席に座っていた。




    アニと席が遠いのが、何だかとても不安だった。



    それに・・・その隣に座っている男のことも気がかりだった。
  14. 14 : : 2014/03/24(月) 01:28:14




    「はい。みんな、席について。ホームルームを始めるよ。」


    担任の先生は、エルヴィン先生だった。



    ほっと胸をなでおろす。



    恐らくは、この学校で一番顔を合わせている先生だったから。




    一人一人、名前が読み上げられる。




    やがて僕が注視していた男の番になる。




    「・・・エレン・イェーガー。」



    「・・・はい。」




    教室が不思議な緊張感に包まれる。




    ぶっきらぼうを絵に描いたようなこの男は、何かと目立っていた。




    奔放というべきだろうか。


    とにかく狼のような雰囲気を漂わせている男で、顔はよくよく見れば美形なのだが目つきが鋭く近寄りがたいオーラがある。




    ・・・でも何故だか男女問わず人気があった。



    ライナーほどではないけど、面倒見がいいという噂や身体能力も高いとも聞いている。




    ・・・男の敵だ。




    アニの方をちらりと見る。


    特にエレンのことを気にしているわけでもない。



    ほっと、安堵のため息を吐いた。

  15. 15 : : 2014/03/28(金) 02:30:36
    初めてシュウさんの作品にコメントします

    奥ゆかしくて、もどかしくて...好きですね。こういうお話

    頑張ってくださーい!(*ゝω・*)ノ
  16. 16 : : 2014/04/05(土) 01:17:22
    更新が遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。


    私生活も落ち着いてきたので、これからは更新も早めることが出来ると思います。


    ミロさんへ
    コメントありがとうございます!(´∀`*)


    このもどかしさが中心の物語なので、そのようにおっしゃっていただけると嬉しいです!


    続き行きます。
  17. 17 : : 2014/04/05(土) 01:26:15
    「・・・はい、これで全員だね。本当だったら、ここで一人一人自己紹介、といきたいところだけど、ほとんどが顔見知りだと思うし、さっき名前を読み上げたから、それで十分だと思う。」


    皆の顔に笑みがこぼれる。



    その様子を見て、先生がニヤリと笑う。


    「でも、クラス委員は決めてもらうよ。役割といっても、席替えの時や文化祭の出し物の取りまとめくらいだけどね。」


    「誰か立候補はいないかな?」




    ・・・



    ・・・



    通夜のような沈黙。



    この年になって、好き好んでクラス委員になるような人間はいない。


    誰しもが顔を下に向け、自分に話題が振られないようにしている。




    ふっ・・・と先生が笑う。


    ”予想通り”ってことだろう。




    「では、推薦を募ろう。誰かこの人ならば、という人はいるかい?」




    知っている者どうし、顔を見合わせガヤガヤと騒がしくなる。



    チラリと僕は隣のライナーを見る。


    相変わらずしかめっ面をし、教室の様子を見据えている。




    アニは・・・。



    誰とも話さず、机の上で掌を合わせて行儀よくじっと座っている。



    その周りでは、顔見知りどうしが和気あいあいと話している。


    ポツリとアニだけが取り残されている。




    この席に座って何もできないことが、これほど恨めしいとは思わなかった。




    そんな中、誰が言うともなくこんな声が上がる。







    ・・・アニさんがいいんじゃない?







    その声はじわじわと教室内に満ちていく。



    「・・・推薦したい人がいる場合は、手を挙げてから言うこと。」



    エルヴィン先生がそう言うと、女生徒の一人が手を挙げ、


    「レオンハートさんがいいと思いま~す。」


    悪びれない様子でそう言った。




    「推薦の理由はなんだい?」



    「えぇ~っと・・・。レオンハートさんは真面目で勉強もできるし、取りまとめも上手そうなのでいいかなっと思いました。」



    うんうん、と頷くクラスメイトたち。



    先生はやや困った顔をしながら、


    「・・・と、言っているけど、レオンハート君どうかな?」


    そうアニに尋ねた。




    アニは俯いたまま黙っている。



    そんな時、こんなささやき声が聞こえてくる。





    『・・・お姫様がクラス委員なんて受けるかしら。』



    『そうよね。お姫様だものね・・・。』




    クスクス・・・クスクス・・・




    僕の位置からはアニの表情は見えない。


    でもきっと、怒りと悲しみと両方が入り混じった、そんな顔をしているのだと思う。



    アニの小さい背中からそれを感じることができる。










    「・・・やります。」




    アニはそう言って、席を立ち教壇に向かう。


    さっきまでざわついていた教室が水を打ったように静まり返った。
  18. 18 : : 2014/04/05(土) 01:36:34
    期待です!
    文章力すごいですね!
    私も見習わなければ…
  19. 19 : : 2014/04/05(土) 02:00:26
    葉月さん、このような時間に読んでいただいてありがとうございます(≧∇≦)


    いえいえ、まだまだ磨くべきところがあるとは思っておりますよ。
    ですが、そのようにおっしゃっていただけるとすごく嬉しいです!

    応援よろしくお願いしますm(_)m
  20. 20 : : 2014/04/05(土) 02:50:59




    「・・・レオンハート君、ありがとう。自己紹介を兼ねて、名前を黒板に書いてくれないか。」



    先生の促しを受け、無言でチョークを取り名前を書く。






    「低くて見えないな・・・。」



    後ろの席にいる、心無い男子がそうぽつりと呟く。





    途中で書く手が止まる。


    それでもアニは書き直したりせず、そのまま最後まで名前を書いた。




    アニがくるりと振り返り、クラスのみんなと向き合ったところで先生はこう言った。



    「女子だけだと、男子の意見を汲み取りにくいから、男子からも1名誰か推薦して欲しい。もちろん、立候補でもいいぞ。」



    交わらない視線が男子生徒の中で飛び交う。



    一際、視線を集めていたのはライナーだった。



    しかし、ライナーは1年生の時もクラス委員をやっている。

    多くのクラスメイトはそれを知っているから、ライナーを推薦はしなかった。





    僕はそういうのは苦手だ。


    人一倍目立つ背格好をしているのに、目立つことは嫌いだったし、取りまとめなんてもっての他だった。




    それはアニも一緒のはず・・・。



    あんなことを言われたから、売り言葉に買い言葉でクラス委員を引き受けたのかも知れないけど。





    苦手をものともしないあの姿勢。




    それを見た僕は、安心したような・・・淋しいような・・・そんな不思議な気持ちに駆られる。





    アニを見る。


    アニも僕を見る。


    憂いを秘めた目で何かを僕に訴えかけているようだ。






    ・・・勇気。



    そう僕に必要なものは勇気だ。



    僕に・・・勇気を・・・!




    そう思いおずおずと右手を胸の高さまで上げる。

















    「俺・・・やりますよ。」








    椅子の背もたれによりかかりながら、右手をあげている男子生徒。




    相変わらず、何を考えているのか分からない目をしている。





    「ありがとう、イェーガー君。」


    そう言って先生は優しく微笑む。




    エレンは無言で席を立って、黒板に向かう。



    そして、チョークで自分を名前を黒板のやや上の方に書くと、綺麗な字でアニの名前も横に書き揃え、





    「後ろのやつ。これで見えるか?」






    自然に。ごく自然に・・・。



    皮肉も怒りも感じさせない声でエレンはそう確認した。






    この男ならば・・・アニと一緒にクラス委員を任せてもいい。










    そう思えてしまうのが、悔しかった。



  21. 21 : : 2014/04/05(土) 08:33:30
    誤字がありました。

    ×自分を名前を

    ○自分の名前を

    失礼しました。
  22. 22 : : 2014/04/05(土) 14:39:47


    始業式が終わり、ホームルームも終わると、僕はライナーたちと別れてある場所に足を運ぶ。




    その部屋の前に立ち、戸に手をかける。



    ・・・鍵がかかっていた。



    「また、僕が一番か・・・。」




    そう言って小さくため息を吐き、職員室に向かう。




    「失礼します。」



    昼下がりの職員室。




    いつもの場所に行き、いつもの台帳に名前を書いて、いつもの鍵を持っていく。




    ”美術室”



    鍵のプレート書かれた部屋の名前。




    鍵を開けると、校庭に面した南向きの窓から春の陽気が伝わってくる。



    換気のために窓をあけ、春風を招き入れる。



    部員は僕だけではないのだけれど、自由参加の部活だから始業式の日まで来る人の方が少ない。




    自分のスケッチブックを取り出し、鉛筆とねり消しをもってデッサンを始める。







    「お、やはりフーバー君だけか。」



    扉を開けて入ってきたのは部活の顧問。



    エルヴィン先生だ。





    「先生は何でもお見通しですね。」



    手を動かしながらそう応える。



    「何でも、というわけではないさ。私は神様なんかじゃないからね。」



    いそいそと画材道具を準備しながら応える先生。




    「何よりも経験さ。経験と推察の訓練が”読み”を鋭くしていく。絵の世界も一緒だね。」


    「恩師の受け売りだよ。」



    そう言って、少し離れた場所に腰掛け、デッサンを始める。



    先生のデッサンは速くて正確で・・・雰囲気がある。



    先生のものと自分のものを比べて、いつも落ち込んでしまうけど、自分の絵を嫌いになることはなかった。



    自分が好きになれない絵を書いてはいけない。


    そう言ってくれたもの先生だった。

  23. 23 : : 2014/04/05(土) 14:47:10


    カリカリ




    カリカリ





    鉛筆が走る音だけが聞こえる美術室。



    今日のモチーフは帽子。




    僕には描きたい絵がある。



    一つ一つそれに近づけるように日々練習している。



    先生にはそのことはまだ内緒だ。



    卒業する前に、相談しようと思っているけど・・・。






    「・・・レオンハート君は・・・」



    急に先生が尋ね出したので思わず体が跳ね上がる。


    スケッチに深い鉛筆の跡がついてしまった。





    「いつも、ああいう立ち位置なのかい?」



    淡々とデッサンを続けながら質問をする先生。




    「・・・。」


    僕はそんなに器用じゃない。腕を下ろし、言葉を選ぶ。





    「いえ。普段はあのように前に出る娘(こ)じゃないです。どちらかというと3歩後ろに下がって歩くような・・・。」



    「奥ゆかしい娘(こ)なんだね。」



    「はい。そうです。」



    「可哀想なことをさせてしまったかな・・・。」



    「周りの揶揄もあったと思いますけど・・・。受けたのはアニですから、先生のせいではありませんよ。」



    「うん・・・。」



    そういって曇った目をする。



    「フーバー君。クラス委員の立候補の時、手を挙げてくれていたね。」

    「私は・・・とても嬉しかったよ。イェーガー君があそこまではっきり手を挙げていたから、彼に委員を任せたけども。」




    「いえ・・・あれは・・・。」


    歯切れの悪い返事をする。





    『アニが前に出たから』



    こんなことは言えないから。



    「君は、その体格もあってこれ以上目立つのを極端に避けているようだけど、私は君にはもっと前に出てもらいたいと思っている。」

    「周りに合わせて萎縮するなんて・・・これほど馬鹿馬鹿しいことなんてないのだから。」




    「・・・はい。」




    萎縮・・・か。



    確かに、そうなっている節はある。


    大きすぎるのは迷惑だと思っていたから。





    不意にエレンの背中が思い浮かぶ。



    あの男は・・・萎縮などしたことがあるのだろうか。


    あの奔放さはどこから来るのだろうか。







    エレンとアニが教壇で肩を並べている光景を思い出す。



    眉間にしわが寄る。




    ・・・やっぱり嫌だ。



    あの男とは話したくない。




    狂ったデッサンを僕は乱雑にねり消しで消した。
  24. 24 : : 2014/04/09(水) 21:57:53


    結局、その後も部員は誰も来なかった。


    僕は残念に思ったけど、先生はさして気にしていない様子だった。




    玄関の扉を開ける頃には、すっかり太陽は沈んでいた。



    自分の部屋に入り、鞄を机に置く。





    「・・・。」




    机の上には雑誌が置かれてある。



    スタイルのいい男性が表紙のファッション雑誌。



    一瞥して食堂に下りていく。





    「~♪~♪」



    呑気に鼻歌を歌いながら夕食の支度をしている母親の横を通り過ぎ、ソファーにおいてある新聞を読む。




    「その姿。段々とお父さんに似てきたわね、ベルち・・・ベルトルト。」



    「・・・。」




    黙って新聞を折りたたみ、ソファーに腰掛ける。



    「もうすぐ出来るわ。お父さんは今日遅いらしいから先に食べてましょ?」



    「・・・うん。」



    素直に応えてしまう自分に情けなさを覚える。



    お母さんの料理は・・・おいしいのだ。









    ・・・




    黙々と食事を口に運ぶ僕をニコニコ笑いながら眺めている母親。



    その笑顔は、今日が誕生日であることを誰かに言って貰えるのを待つ子どものようだ。





    「・・・。」



    もぐもぐと必死にご飯を食べることで、無視しようとする。





    「・・・。」



    箸が止まる。



    やっぱり無理だ。








    「・・・応募なんてしないよ。」




    「まだ何も言ってないじゃない。」




    「言わなくたって分かるよ。」

    「何度も言ってるじゃないか。僕は目立つのが嫌いなんだ。」




    「でもせっかくお父さんが紹介してくれているのに・・・。」



    「とにかく嫌なものは嫌なんだ。」





    そう言って、お茶を飲み干し席を立つ。




    「もう・・・困った子ね。」




    ぶすくれた顔で両肘を机につけた母親を残し、僕は部屋に戻る。





    暗い部屋の電気をつけようとしたとき、携帯が点滅しているのに気づく。


    メールが1通来ていたようだ。




    送信者の名前を見て、心が飛び跳ねる。





    件名は「なし」。文章もない。



    あるのは添付ファイル一つだけ。



    それは、机に所狭しと並べられた料理の写真だった。







    急いで上着をはおり、階段を下りる。




    「これからどこ行くの?」



    驚いたような声で尋ねる母親。




    「・・・ライナーのところ!」



    そう言って玄関を飛び出す。




    言えない用事がある時、僕はいつもこの言い訳を使う。




    こんな夜中に行く場所を正直に言えば、止められるに決まっているから。




    もう一度メールの送信者を確認する。




    ”アニ・レオンハート”


    何度見ても嬉しかった。

  25. 25 : : 2014/04/11(金) 01:15:35


    横腹の痛みを抑え、彼女の家のインターホンを押す。




    ピーンポーン・・・





    1秒ごとに心臓が高鳴っていくのを感じる。



    早く会いたいけど、まだ会いたくないような不思議な気持ち。




    カチャ



    玄関のドアが開く。





    素朴なエプロンをつけたアニの姿。


    恥ずかしそうにもじもじしている。


    それが、とても似合っていて可愛い。





    「・・・入って。」



    そう言って俯きながら僕を招き入れた。





    久しぶりにお邪魔したアニの家。



    女の子が住んでいる家はこんなにも良い匂いがするものかと、改めてドキドキする。



    リビングの前を通り過ぎる。


    中を覗こうとしたとき、



    「今日は、私一人しかいないから・・・。」


    そうアニが言った。



    「そうなんだ。久しぶりにお父さんたちに挨拶がしたかったのだけど・・・。」

    と正直な思いを言う。





    「だから呼んだの。」



    背中を向けながら台所に向かうアニの表情は分からない。


    だけど、アニがどう思っているかは首が赤くなっていることが代弁していた。




    台所のドアを開けると、写真のとおり料理が所狭しと並べられていた。



    「すごいね、アニ!これ一人で全部作ったんだ。」



    「うん・・・。」


    そう言って奥に入り、お茶を淹れている。



    「料理を作っていると、何も考えなくていいから、つい・・・。」




    その言葉を聞いて、僕の顔から笑顔が引いた。



    やっぱりアニは・・・。


    やっぱり・・・。




    「今日のこと、やっぱり気にしてるんだ?」





    「・・・。」


    コクンと頷くアニ。





    「”お姫様”なんて言われていい気なんかしないよ。でも・・・。」



    「でも?」



    「ベルトルトたちにいつまでも迷惑はかけてられないから。」



    だからって・・・




    「だからって、クラス委員なんか・・・」


    「いいの。私が決めたことだから。」




    机を挟んだ向こう側に座っているだけなのに、とても距離が遠く感じる。




    「でもね・・・」


    アニが続ける。



    「・・・ベルトルトがエレン君の前に手を挙げてくれて、嬉しかった。」


    「ありがとう。」




    そんなの・・・



    「そんなの、当たり前だよ。」



    「どうして?」



    「それは・・・」





    思わず口ごもる。でも、今正直な気持ちを言うわけにはいかない。


    だから・・・



    「友達だからさ。」



    こう応えるしかない。





    「・・・そう。」



    無表情のままアニはそう応え、お茶を僕の前に置く。




    「せっかくだから頂くよ!アニの手料理なんて久しぶりだから。」



    「・・・小学校の調理実習以来じゃない。」



    「でもそれがきっかけで料理を覚えたんでしょ?すごいよ。」




    ふふふっとアニが上品に笑う。


    「料理なんて誰でもできるよ。今まで恥ずかしくて振舞ったりしなかったけど、今日は特別。」


    そう言って、いたづらっぽい笑みを浮かべ、


    「どうせ、お母さんの夕食は食べてきたんでしょ?食べれるものだけでいいからね。」




    「ごめん・・・。」



    「謝らなくていいよ。こっちが勝手に呼んだんだから。・・・ありがとう。」




    「こちらこそ。ありがとう。」



    そういって僕たちは、食卓を囲んで時を忘れて談笑した。

  26. 26 : : 2014/04/11(金) 01:24:02
    ふわぁ、アニの透明感というか、純粋さが半端ないですね♪
    なのに美しく、上品、何処と無く大人…
    シュウさんのアニ、大好きです♪
  27. 27 : : 2014/04/11(金) 18:21:32
    88さん!

    本当にいつも読んでいただいてありがとうございます。


    奥ゆかしさを表現したかったので、このようなアニになりましたが、喜んでいただけて私も嬉しいです。


    透明感のあるアニをこれからもお楽しみください。
  28. 28 : : 2014/04/12(土) 11:58:28

    ・・・



    もう随分時計が回ってしまった。



    僕にとっては、本当にあっという間だったけど。



    「あんまり遅いと、お母さん心配するから。」


    そう言ってアニは笑いながら、僕のお茶をさげる。




    「・・・また、ごちそうしてよ。」



    流しでお皿を洗うアニの背中にそう呼びかける。



    一瞬、アニの動きが止まり、またお皿を洗い出す。




    返事はしないけど、口元が緩んでいる。


    僕はそれを返事と受け取った。





    「じゃあ、帰るよ。また明日、学校でね。」



    「うん。おやすみ。」



    流しの前に立ちながら、アニはその場で僕を見送る。



    本当は、玄関先までアニに見送ってもらいたかったけど、近所の人にでも見られたら大変だから、僕は一人でアニの家を出た。



    満たされた気分で、一本の電話をかける。







    僕の親友に。





    ・・・ ・・・



    ・・・






    「おや、フーバー君、こんばんは。ライナーに会いに来たのかい?」





    「おじさん、こんばんは。こんな時間にすみません。」




    「なに、高校生なら大した時間じゃない。あがりなさい、上にいるから。」




    「お邪魔します。」



    そう言って靴を揃えて、上にあがる。




    この家の勝手は、良く分かっていた。






    コンコン



    扉をノックする。





    「おう。」




    中から声がする。




    部屋に入ると、ヘッドホンを外しながらライナーが出迎えてくれた。





    「なんだこんな時間に、うん?」


    とニヤニヤしながら訊いてくるライナー。




    「まぁ、そう言わないでよ。色々あるんだ。」



    「ふ~ん。」



    それでもニヤニヤを止めない。




    「ま、お前が俺のところに来るときは、大抵困ったときだからな。今日は何があったんだ?」




    「ええっと・・・。」



    照れ隠しに頬を指で掻く。





    「と、とりあえず、さっきまでずっとライナーの家にいたことにしてくれよ。」





    「うん?そりゃあいっこうに構わないが・・・。」



    「その理由(わけ)を言えよ・・・。」




    ふふんと笑うライナー。



    参ったな・・・。











    「・・・アニのところか?」





    「!!!」





    カアアっと顔が赤くなる。




    「ち、ちがっ・・・」




    「まぁそう照れるな。そうか、そういうことか。」



    優しい笑みを浮かべるライナー。




    「お前たち二人は、お互いに奥手だからなぁ。見てるこっちがヤキモキする。進展があってよかったじゃないか。」


    「そういうことなら、喜んで協力するぜ。ちょっとオヤジたちに話してくるわ。」



    そう言ってライナーは部屋を出て行く。





    ・・・ぽつんと僕一人、部屋に残される。




    今時の高校生にしては、アイドルのポスターもなければスポーツ選手のポスターもない。


    シンプルな部屋。



    およそ、「趣味」が伺えるものが何も無い。


    ゲーム機ぐらいはあるけど・・・。





    机を見るとは無しに見る。



    そこに小さく、複葉機のそばで佇む一人の男性の写真が置いてある。


    ハンサムな男性だ。




    ・・・この人は・・・誰だろう?




    トン・・・トン・・・


    階段をあがってくる音がする。




    僕は慌てて机を離れ、何事もなかったかのようにライナーを出迎えた。

  29. 29 : : 2014/04/12(土) 16:16:03



    「おはよう。」



    「おはよう!」




    クラスに朝の挨拶が飛び交う。



    昨夜の“工作”が功を奏し、アニの家に行ったことは母親には伝わらなかったけど、


    「本当にずっとライナー君の家にいたの?」



    と家を出るまで訊かれたから、逃げるように登校してきたのだ。



    おかげでいつもより大分早く学校に着いてしまった。



    まだ仲良く話せる友達もいないから、手持無沙汰だ。



    とりあえず、時間まで校内をぶらつこうと思い、廊下に出る。




    「あ・・・」



    廊下の向こうから、鞄を担いだ男と、その隣におそらくは男子生徒であろう背の低いかわいい生徒が歩み寄ってくる。



    はたと目が合う。




    「え・・・っと。」


    エレンの方が先に口を開いた。



    「たしか同じクラスの・・・。」



    「ベルトルトだよ。」



    「お、おう、そうか。わりぃ。」



    そう言って頭を掻くエレン。


    「もう、エレン。そんなぶっきら棒な態度だとクラス委員なんて務まらないよ。せっかく朝早く来たのに。」



    「うるさいな。先生みたいなこというなよ。」



    「その“先生”に、今日起こしてくれ、ってメール打ったのはどこの誰かな?」



    僕はエレンの横にいる生徒を良く知らないけど、エレンのきっと親友なのだろうということは分かった。


    やや置いてかれているなぁ、と感じていると、




    「あぁ、ごめんね!僕はエレンの友達のアルミン。昨年、ライナー君と同じクラスだったからベルトルト君のことは何となく知ってたんだ。」

    「何より、身長高いしスタイルもいいしね。」



    僕を見上げるアルミン君の目はキラキラしていた。




    「あ、ありがとう。」



    そう言われても、素直には喜べない自分がいた。




    「じゃあね、エレン。クラスメイトと仲良くね。恐い顔しちゃ駄目だよ!」



    「・・・あぁ。」



    そう言ってアルミンは隣の教室に入っていった。









    「・・・。」



    「・・・。」




    廊下で二人、対峙する。




    「仲・・・いいんだね。」



    「まぁな。」



    「いつからの付き合いなの?」



    「う~ん・・・。覚えてねぇな。とにかく気づいたら一緒に遊んでた。」



    「そうなんだ。」



    アルミンも大変だな。




    「・・・。」

    「どうしてク・・・」





    「エレン君、おっはよう!」



    話を割って、クラスの女子がエレンに話しかける。




    「・・・なんだよ。今、ベルトルトと話してんだろ。邪魔するなよ。」



    「え?そうなの?ごめんごめん。で、なんて?」





    「いや、いいんだ。続けていいよ。」


    そう言って僕は教室に戻る。



    まもなくライナーも来ると思うし、何よりも、エレンとあんなに活き活きとして話す女の子を様子を見たら、引き下がらざるを得なかった。





    廊下で女の子と話すエレンを教室から眺める。



    仏頂面をしているけど、どこか包容力も感じるその姿は、同じ男として尊敬を覚えてしまうほどだ。



    心に沸き起こる嫌な感情を抑えるべく、反対の方を向いたときだった。






    ドサッ




    廊下で誰かが転んだような音がした。




    「あ、ごめ~ん。気がつかなかった。大丈夫?」



    さっきの女の子の声だ。





    廊下に出てみて、息を呑む。



    倒れているのはアニだった。




    鞄と教材が床に散らばっている。




    アニ!


    そう言って駆け寄ろうとした時だった。





    エレンがその女の子を押しのけて、アニに手を差し伸べる。




    「立てるか?」




    「・・・平気。」




    アニはその手を取らず、教材を鞄に詰めだした。


    エレンも黙ってそれを手伝いだす。



    そして粗方手に取ったあと、




    「ほらよ。悪かったな、気ぃ配れなくて。」





    「・・・別にいいよ。」



    そう言ってアニは教室に入る。




    ぶつかった女の子が心配そうに見ている。


    その肩をぽんぽんと叩き、



    「まぁ、気にするなよ。次、気をつけような。」


    そう言い残して、エレンは教室に入り、鞄の中身を机にいれる。





    僕の肩に誰かがぽんと手をのせる。



    「何、出遅れてるんだよ。」


    心配そうな顔をしたライナーがそこにいた。

  30. 30 : : 2014/04/14(月) 05:06:08
    すごい惹きつけられるのに、アニとベルトルトの距離感のせいかなんとなく続きを読むのが怖いと感じますね、!w
    ベルトルト、アニ、そしてエレンの三人の関係が今後どうなって行くのか?!
    期待と不安との両方が募ります、w
    更新お待ちしておりますね♪(๑′ᴗ‵๑)
  31. 31 : : 2014/04/21(月) 18:11:15




    カチャ カチャ




    お箸の揺れる音を聞きながら、私はある場所に向かう。



    今日はとても教室でお昼を食べる気にはなれなかった。





    背中から感じる刺すような視線。


    こそこそ聞こえる、おそらくは私にとって都合の悪い内緒話。




    その原因の一翼を担っている人物は、どうとも思ってない様子であったけど・・・。






    頼るまい、頼るまいとは思っているけど・・・。


    逃げたくなるときは、いつもここに来る。








    コンコン



    「・・・失礼します。」




    扉を開けた途端に鼻につく、独特のアルコール臭。




    ちらりと奥をみると、寝台のカーテンはすべて開いている。


    ほっと胸を撫で下ろす。




    「な、なんだい、なんだい!アニちゃんじゃないか!久しぶりだねえ!」



    そう言って、慌てた様子で眼鏡を掛けながら私に話しかける女性。




    「・・・机につけていた頬の部分が赤くなってますよ、ハンジ先生。」




    「え!?うそ!?ここ?」




    「そっちを下にして寝てたんですね。頬はどこも赤くないですよ。」







    「え・・・?」



    「・・・あぁ!くそ!またやられたなぁ!」



    そう言って、たっはっはと笑う先生。


    その顔を見て、私も思わず笑みがこぼれる。




    「まぁ、とりあえず適当に座りなよ。たまの客人は嬉しいからね。」


    先生がお弁当を出したのにあわせ、私もお弁当の包みを開いた。


  32. 32 : : 2014/04/21(月) 18:29:39
    シュウさん久しぶりです。

    相変わらず圧巻の文章力、流石と言わざるを得ませんね。

    この先どの様にベルトルトは動くのか。
    アニは何を思うのか。

    続きに期待しています。
  33. 33 : : 2014/04/21(月) 18:49:07
    ぺトラ団長、お久しぶりです。


    圧巻の文章力など、もったいない言葉です!
    ありがとうございます。


    なかなか更新できず、申し訳ありませんでした。


    ご期待に沿えるよう、がんばります!
  34. 34 : : 2014/04/21(月) 20:16:12


    「~♪~♪」



    上機嫌でお弁当を食べる先生の横で、私はちみちみとお弁当を食べる。



    やがて私は箸を止め、先生にこう訊いた。




    「どうして先生は、そういつも楽しそうにできるのですか?」







    先生は、口に運ぼうとしたご飯を一旦お弁当に戻し、一瞬伏し目になる。


    そして、



    「だってせっかくのご飯だよ?まずそうに食べるよか、おいしそうに食べるほうがおいしいじゃん。」



    笑顔でそう応えた。





    「・・・そんな簡単でいいんですか?」




    「じゃあ他にあるかい?少なくとも、私は今までの人生の中でそれは見つけられなかったな。」




    そう言って、さっき箸をつけたご飯を口にくわえた。




    「アニちゃんも、もっと楽しそうに食べなよ。せっかく美味しそうなお弁当じゃないか。」


    「そうしないと、先生が食べちゃうぞ!」




    そろ~っと箸が私のお弁当に伸び、私の好物をピンポイントで取ろうとする。




    「・・・フン。」



    思わず、両手でもったお弁当を、体を反らして先生から遠ざける。





    「・・・けち。」



    先生が唇を尖らせた時だった。





    ガラガラガラガラ




    「ハンジ先生、います?」


    そう言って、保健室を覗き込んだのは、私の担任の先生だった。





    「エ、エルヴィン先生!へ、部屋に入るときは、ノックしろって言ってるじゃないか!」



    お箸を置いて、口元をハンカチで拭いて、エルヴィン先生の元に走り寄る。




    「で、どうしたんだ、急に?」



    「いや・・・。さっき教材を片付けていたら、うっかり指を切ってしまってね。大した怪我じゃないと思うのだが、だいぶ先が汚れていたんでね。念のため消毒に来たんだ。」




    「まったくしょうがないな!この私が、手当てしてしんぜよう!」




    るんるんとした足取りで、椅子の中から綺麗なものを用意し、エルヴィン先生をそこに座らせる。



    丁寧に、そして繊細に消毒をし、絆創膏を貼っていく。







    「・・・これで・・・オッケイ!また怪我したときはここに来るんだよ!」





    「ここまで大仰にやってもらわなくてもよかったのに。でも、ありがとう。また来るよ。」



    椅子から立ち上がる時、私のことを先生がチラリと見る。


    しかし、先生は何も言わなかった。



    そして、



    「失礼しました」



    そう言って部屋を出て行った。
  35. 35 : : 2014/04/22(火) 01:25:15


    「・・・まったく。とんだ邪魔者が入ったけど・・・。さぁアニちゃん、お昼を再開しよう!」



    そうは言っているものの、先生の顔は、さっきよりもずっと艶やかになっているように感じた。







    「・・・邪魔者は私ですよ。」



    お弁当を膝の上に載せて俯く。





    「な、何を言ってるんだよ!私は、アニちゃんと一緒にご飯ができて嬉しいぞ?」


    「さっき、どうせ食べるならおいしそうに、って話をしたけど、やっぱり一人で食べるのと誰かと一緒に食べるのでは楽しさが違うんだ。」


    「だからそんな風に言わないでおくれ。先生悲しいぞ!」







    「・・・その”誰か”が私じゃないほうが、先生はもっと楽しいのではないですか?」




    「なんでさ?」





    「・・・もういいです。」




    私はムスッとしてお弁当を食べる。






    「ど、どうして怒るのさ?」




    「先生が話をはぐらかすからです。」




    「はぐらかしてなんかないよ。ご飯の話をしていたじゃあないか。」





    はぁ・・・、とため息を吐く。




    「じゃあ言い方を変えます。不味そうに食べるのと、美味しそうに食べるとなら、美味しそうに食べるほうが良い。」

     
    「一人で食べるのと、誰かと一緒に食べるのなら、誰かと一緒に食べるほうが良い。」


    「では、その誰かと一緒に食べるのが、私とエルヴィン先生だったらどちらが良いのですか。」





    「・・・?」



    キョトンとした顔をするハンジ先生。



    「アニちゃんだけど?」




    「・・・。」




    あまりにもあっけらかんとした回答。


    拍子抜けしてしまう。





    「あれあれ?もしかして、アニちゃんは私とエルヴィン先生が”そういう”関係なのかと思ったのかなぁ?そんな訳無いよ!」


    そう言ってケラケラ笑う。





    「アニちゃんも年頃の女の子だねぇ。異性関係がそういう風に見えるようになるなんて。」



    「何でもない異性でも、意識ひとつで恋愛とかそういうものに結びつけてしまうこともある。」



    「もしかしたら無意識的に、アニちゃんにも思い当たる節があるのかもしれないね。」




    笑う先生を余所に、私は物憂げに俯く。



    私の胸中に、二人の男性が思い浮かんだから。





    でも私は頭を振る。



    「・・・からかうのは止めてください。」




    そう言って、お弁当を食べる箸のペースを速め、




    「ごちそうさまでした。」




    と無愛想に保健室を後にした。










    「・・・。」



    一人保健室に残された私・・・。




    窓際で頬杖をつく。


    座っている椅子は、さっきエルヴィン先生が使っていた椅子。




    「私って・・・正直で・・・ひねくれてるな・・・。」



    ぽつり。


    そうつぶやいた。

  36. 36 : : 2014/04/29(火) 00:04:49
    やばい...常に緊張感が漂っていて、下手にコメントできない(´+ω+`)ガクブル

    がんばー!シュウさん!!(๑>◡<๑)
  37. 37 : : 2014/04/29(火) 00:05:45
    (ミロさん、うん、わかるわかります。同じ気持ちです。期待ですよ)
  38. 38 : : 2014/04/30(水) 22:00:15


    ごったがえす食堂。




    座る場所がとられた中庭。






    眉にしわをよせたまま、ライナーは僕を連れて校舎の外れに向かって歩く。







    ひと気が段々周りからなくなっていく。




    すっかり誰もいなくなった頃、ライナーが重い口を開く。



    「・・・なんで今日は一人で早めに登校してんだよ。」




    呆れと怒りが混じった声。





    「せっかく昨日の夜二人仲良く、水入らずで話せたんだろ?一緒に行けばよかったじゃねぇか。家も同じ方向なんだし。」


    「こういったのは、流れと勢いじゃねぇか。てめぇでそれを掴まなくてどうするんだ。」




    こちらを向くことも無く、前を歩きながら一方的に腹を立てている。




    そんな背中に、ポツリ。




    『おせっかい・・・』。



    そう言ってやりたかった。






    僕にとって、昨晩のことは特別だったのだ。



    久しぶりにアニに誘われて。


    久しぶりに二人だけで話して。



    そして、


    アニのたくさんの笑顔を見れた。




    僕はそれだけでも充分幸せだった。




    流れも勢いもない。


    今の関係をゆっくりゆっくり噛み締めていきたかった。






    それは・・・やっと・・・


    あの頃に戻れた気がしたから。




    僕にとっては、そっちの方がずっとずっと大事なんだ。





    そう・・・大事・・・。




    大事な筈・・・。




    大事だ・・・。




    反芻するにつれ、だんだんと顔が俯いていく。







    「お前がどう思っているか知らないけどな・・・。」



    ライナーの語尾が沈む。


    僕はその先が気になって顔を少し上げる




    「・・・アニに・・・彼氏がいないことの方がおかしいんだ。」





    「・・・。」


    僕は思わず立ち止まる。





    「・・・そうだろう?」



    ライナーも立ち止まり、顔半分をこちらに向ける。





    「アニは傍からみてもいい女だ。幼馴染としての意見を抜きにしてもな。表には立たないが、ライバルは多い。それに・・・」



    言葉が詰まる。



    「・・・アニの気持ちだって、どう揺れ動くか分からない。」




    「・・・。」


    そんなの分かってる。










    「何を躊躇っているのか知らないが、ことは急いたほうがいい。さもないと・・・」





    「“後悔する”・・・って?」




    風が木々を揺らす。




    「・・・そうだ。」






    風が二人の間を取り持つ。



    僕はライナーを置いて歩き出し、すれ違うときにこう呟いた。








    「・・・やっぱり君はおせっかいだ。」



    と。
  39. 39 : : 2014/06/08(日) 18:16:26

    き、期待です・・・頑張ってください♪
  40. 40 : : 2014/06/20(金) 23:23:22
    無為。


    この言葉がぴったりだと思う。



    ライナーが僕を叱った後の僕の日常は無為に他ならなかった。


    席替えもなく、僕はただ、アニの小さい背中を見つめるだけの日々が過ぎて行った。


    授業の時も。下校の時も。


    あの日以来、アニは僕に目を向けることはほとんどなくなった。


    時々廊下ですれ違う時くらいしか、目を向けてくれなくなった。




    始めこそは羨望と好奇心の目が向けられていたクラス委員の二人についても、今ではすっかりクラスの風景に馴染み、溶け込んだ。


    朝の号令はエレン。夕方はアニ。


    議題がある時は、進行はエレン。書記はアニ。


    ぶっきらぼうだけど、的確に進められるエレンの進行に、アニも実に的確に応え、静かに、滑らかに記録を取っていく。


    ある意味では献身的とも言えるアニの姿勢に、”お姫様”の陰口は日に日に消えていった。




    ゴールデンウイークが過ぎても、美術部にはちらほらと部員が顔を出すだけで、常連なのはもっぱら僕とエルヴィン先生だけだった。



    ”あの配役は先生の指示ですか?”


    何度となく、二人きりの美術室で僕は先生にそう尋ねようかと思った。


    しかし、その度に言うのを止めた。


    あのエレンが進行役を自ら買って出るとは思えないし、アニがエレンにそれとなく進行役をお願いするのも想像が出来ない。


    残る選択肢としては、先生が上手に二人を誘導した、としか考えられない。


    答えが分かり切っていることを訊くのは、愚問というものだ。


    だからいつも僕はその質問をしなかった。



    だけど・・・。



    ある一つの疑念が僕につきまとっている。


    もし先生が指示していないとしたら、自発的にあの二人が互いに相談しあって配役を決めたことになる。


    おそらくは二人きりで・・・。




    スケッチの手が止まる。


    モチーフは空を見上げているブロンズ像。



    「何だかその絵だと・・・。単に首が凝っただけの人に見えるね。目の先に空が広がっている感じがしない。」


    僕の後ろから先生がそう言った。



    「らしくないね。空間というか雰囲気が売りのフーバーくんの個性が消えてるよ。何か気に病んでいることでもあるのかい?」


    鉛筆を持つ指がぴくりと動く。



    「・・・。」


    言うべきか。流すべきか。


    眉を寄せて思案する。



    その時。


    クスッと先生が笑った。



    「フーバーくん。何を躊躇っているか知らないけど、やるかやらないかで悩んでいるなら、やった方が気楽だよ。」


    「悩むっていうのは、思った以上に疲れるし、よくないエネルギーを使うからね。構わず言ってごらん。」


    この学校で一番色々なことを考えていて、一番悩んでそうな先生からの言葉。


    きっと自省を込めてのものだろうと思うととても気が楽になった。


    先生も人間だ。ましてや僕なんてもっと・・・。


    バカと思われていいから、さっと聞いて終わろう。


    「クラス委員の二人ですけど・・・。あの配役は先生のアドバイスですか?」


    にこやかに僕はそう尋ねた。




    「ああ、そんなことか。」


    先生は声をあげて笑う。


    思わず僕もつられて笑う。



    ほら、こんなもんだ。

    杞憂だ。


    僕は安心して先生の次の言葉を待った。




    「あれはあの二人で相談しての申し出だったんだよ。私の願っていた配役通りだったし、何より生徒自身の申し出だったからとても先生嬉しかったよ。押し付けるのは簡単だけど、それでは成長しないからね。」


    中空を見上げて本当に楽しそうに笑う先生。


    その傍らで僕の顔は真逆に引きつっていった。



    後悔が頭を過る。




    緑が芽ぶいた桜の木。


    その下で、道端に散った桜色の花びらは風が吹くたびに、ころころと踊らされるように転がるだけだった。

  41. 41 : : 2014/06/23(月) 08:20:08


    私って、何をしているんだろう。



    日誌を胸に抱きながら夕暮れの廊下に足音を刻む。




    ハンジ先生にからかわれてから、二人のことを変に意識してしまうようになった。


    それを隠そうと今まで以上に無表情になり、素っ気ない態度を心掛けるようにした。




    たかが仲のいい先生の一言で、幼い頃から見知った人にも余所余所しくなる自分の浅薄さに呆れつつも、現状ではこれが精一杯だということも自覚していた。





    もっと余裕のある人間になりたい。



    あの日以後、私はそれを強く願うようになった。




    いわゆる「アソビ」というものが私にはまだ出来ない。


    クラスの同性を見ていると、皆上手にアソんでいるなぁ、と羨ましく思う。



    冗談を言ったり、躱したり・・・。



    いつか私もそうなるようになる日が来るのだろうか・・・。






    あともう少しで職員室。




    その時。


    香ばしい匂いが鼻を喜ばせる。


    クッキーだろうか。




    見るとは無しに家庭科室を覗く。


    愛らしい割烹着に身を包んだ女の子達が黄色い歓声を上げている。







    ・・・楽しそう。



    声を出したつもりはなかった。


    でも小さく零れたのかもしれない。


    女子の何人かが私の方を振り向いた。



    「・・・っ!」


    私は目の合った子猫のようにその場から逃げ出した。








    ・・・


    ・・・


    「失礼します。」


    ゴールデンウィークを前にした職員室はまだ少しだけ騒がしい雰囲気だった。


    だけど、我らが担任の席のまわりだけは、温度が少しだけ低く、落ち着いているように感じた。






    「先生。」


    声をかけると、先生は穏やかな顔で私を出迎えた。


    「レオンハート君、ありがとう。わざわざすまないね。」


    そう言って日誌を受け取る手には、まだあの絆創膏が貼ってあった。



    「先生。手の怪我、大丈夫ですか?もうあれから一週間くらい経ちますけど。」



    「あぁ・・・。」


    先生はしげしげと自分の指を眺めながら、


    「別に膿んでいるとか、そういう大事にはなってないよ。お風呂に入るとすぐふやけてしまうから、治してもらった次の日にはもう取ってしまったのだけど、ハンジ先生が目敏く見つけてはまた絆創膏を貼ってくれるんだ。」

    「まぁ、保健の先生だし、心配するのも当然か。」


    と答えた。




    「・・・。」




    『先生って鈍いんですね。』



    喉元まで声が出かかったが、湧き上がるハンジ先生への憤りがそれを上回った。



    ・・・何が、
    『そういう関係に見えたのかな?』
    よ。



    子供騙しにもなってない。





    「・・・嘘つき。」



    「うん?先生がかい?特段嘘をつく必要もないのだが・・・。見るかい?」


    エルヴィン先生に言われて、慌てて我に帰る。


    「そ、そうではありません。決して先生に言ったわけでは・・・。」



    「そうか・・・。」




    「・・・。」

    「・・・。」



    私と先生との沈黙の間に他の先生方の話し声が流れる。



    この場を切り上げようと私が、


    「では、これで。」

    そう言った時だった。







    「・・・イェーガー君は・・・クラス委員をきちんとやっているかい?」






    「・・・。」


    「今のところ、不満に思ったことはありません。」



    意図はわからないが、思うところを正直に答えた。




    「そうか・・・。ありがとう。もう帰っていいよ。」


    先生は簡単にそう言うと椅子を回して仕事に戻ってしまった。




    会釈をして職員室を後にする。




    エレン。


    努めて意識しないようにしていた折、あの様な質問をされると困ってしまう。




    逃げてはいけない、ということだろうか。



    相変わらず、エルヴィン先生の頭の中はわからない。




    思案しながら自分の教室に戻ろうとした時だった。




    二つ、三つ。私の前に影が飛び出してきたのだ。
  42. 42 : : 2014/06/23(月) 21:17:25



    「一年生?」


    カラフルな割烹着に身を包んだ女生徒たち。


    今はバンダナと言うのか。


    いずれにしても、とても華やかで魅力が溢れてる。


    キラキラとした目に思わず当てられそうになる。


    「さっき廊下で見てた娘でしょ?料理に興味があるなら寄ってってよ!今なら絶賛見学アンド入部受付中何だから!」


    きゃいきゃいとはしゃぐ部員たち。


    「いや、でも・・・。あの・・・。」



    『私、一年生じゃないし・・・』



    そう言おうとした時、


    「ほらほら、恥ずかしがってないでさ!クッキー出来たばかりだし、美味しいよ。食べよ、食べよ!」


    と手を掴まれ半ば強引に家庭科室に引っ張られた。





    部屋にはクッキーの匂いが満ちていて、お菓子が好きな女の子でなくともお腹が鳴りそうなほど。


    思わず鼻をクンクンとしてしまう。



    「は〜い、座って座って♪」


    肩を抑えられながら私は木の椅子に座らせられる。



    「いや〜、こうやってお客さんが来てくれるとやっぱり嬉しいね!料理は食べてくれる人がいてナンボだから。」




    「・・・。」


    ベルトルトが私の料理を嬉しそうに食べる絵が浮かぶ。




    「・・・そうですね。」


    ポツリと答える。


    「でしょう?それにこんなに愛らしくて、お淑やかな子が来てくれるなんて嬉しいわ。」



    「ねえ!お名前は何ていうの?」



    まるで芝居でもうっているのかと思うほど、見事に三人は会話をローテーションさせている。


    目で追うのがやっとだ。


    三人のキラキラとして目が私に注がれる。


    しかし。


    私はここでこの三人の期待を裏切る自己紹介をしなければならなくなる。



    本当に嬉しそうにしているのを見ると、気が引けるが・・・。


    騙すよりずっと良い・・・。




    一息入れて、私はこう自己紹介した。






    「”2年A組”のアニ・レオンハートです。」






    ・・・。



    ・・・。



    時間が止まる。



    当然だ。




    一年生じゃなくて、ごめんなさい。






    「・・・か・・・」





    か?








    「か〜わ〜い〜い!!二年生にこんなにちっちゃくて愛らしい子がいたなんて知らなかったわ!先輩嬉しい!」



    「私たちも二年生だけど知らなかったなぁ。すごく今まで損した気分。よろしくね、アニちゃん!」



    三年生の先輩と二年生二人がニコニコしている。







    肩を縮めて、目をそらす。


    でも頬が紅潮しているのを感じる。





    ・・・嬉しかった。



    この人達は私が”お姫様”と揶揄されていることも、クラス委員の男子との仲を噂されていることも知らない。



    純粋に、料理に興味のある、ただの女の子として見てくれる。



    ただそれだけのことが嬉しかった。




    「あ・・・ありがとう・・・ございます。」



    もぞもぞして小さくそう答えた私を、三人は産まれたての赤子を愛でる様な目で見ている。


    そして、



    ぱんっ


    と手を叩いて、


    「さ!お茶にしましょう!」



    と先輩が舵を切ってくれた。
  43. 43 : : 2014/06/23(月) 21:19:55
    上の投稿は私、シュウのものです。


    何故かログアウトになりました。
    申し訳ありません。
  44. 44 : : 2014/06/26(木) 22:52:39

    まだ温かいクッキーと、出来たての紅茶を交えてのひと時は私のこころもあたたかくしてくれた。


    紅茶の味自体は高校生が用意できる茶葉だからびっくりするようなものではなかったけれど。



    「また来てね。」


    手を大きく振って私を見送ってくれた部員たち。


    帰り際のその言葉が心にずっと残っていた。




    黄昏の住宅街。


    一人の帰路。


    心に余熱を感じながらも、頭は冷えていく。


    その空白を埋めるように、意識しまいと思っていたものが去来する。




    寂しいからだろうか。



    家庭科室にいた時には忘れていたものが蘇る、というのはそれが原因がしれない。



    今まで女の子たちに、いい事をされてこなかった記憶から、部活動などのクラス以外での交流を極力避けていた。



    心を閉じているから、寂しいという感情も入る余地が無かった。



    だけど、あの三人は・・・。


    何の道具も使わずに、私の心に入ってきた。



    魔法でもかけられたような不思議な気分。




    でも・・・



    心地よかった。





    明日は何を作っているのかな。




    母と並んで料理をしながら、私はあの家庭科室で作りたいレシピを頭の中に所狭しと並べていた。
  45. 45 : : 2014/08/02(土) 15:40:32
    「終わらない夏休み」を見てからシュウさんのファンになりました!やっぱりすごいですね!相変わらずの物語の構成と進め方が!その辺の小説なんかよりもずっとずっとおもしろいですよ!これからもアニとベルトルさんに注目&期待です!
    (長文と上からですいませんm(_ _)m)
  46. 46 : : 2014/08/03(日) 21:34:46
    アルミン大好き組合会長さん、コメントありがとうございます!


    実は最近賞を目指した執筆活動をしており、中々SSNOTEの方に力を注げないでおります。

    正直、誰も見てないなら破棄しようかと思っておりましたが、組合会長さんの応援を受けて、やはり最後まで書こうと思い直しました。


    今しばらく時間がかかるとは思いますが、最後までお付き合い願います。
  47. 47 : : 2014/08/04(月) 10:46:39
    ありがとうございます!でも、賞の方にも心血注いでください!SSの方は空いた時間でもいいので!僕はちゃんと最後まで見ますよ☆〜(ゝ。∂)
    賞取れるようにがんばってくださいね!応援しています
  48. 48 : : 2014/08/05(火) 08:20:42


    朝の香りは嫌いなんかじゃない。


    目玉焼きの焼ける音とその匂いは、いつも目覚ましの代わりに私を起してくれる。




    でも今日はいつもと違った。


    あの食欲をそそるサラダ油の香りではなく、ケーキのような甘い匂いが家を包んでいた。



    いつもなら制服に着替えてから食卓につくのだけれど、好奇心の方が勝り、私はパジャマ姿でリビングへと続く扉を開けた。




    「ごめんなさい。起しちゃったかしら。」



    私の姿を見て、お母さんはそう言った。


    碧色のミトンを両手にはめて、オーブンから匂いの正体をお母さんは楽しそうに引き出した。




    「・・・シフォンケーキ?」



    パタパタとフローリングの床にスリッパの音を響かせて私はお母さんの傍に近寄る。





    「当たりよ。流石ね、アニ。」



    出来たてのふわふわとした、でもしっかりと中身のつまったケーキは誰の目に見ても美味しそうだった。



    「久しぶりにケーキなんて作ったからちょっと不安だったけど、バッチリね。」


    ミトンを外しながらお母さんはほくほくとした笑顔を見せていた。






    「・・・何か良いことあったの?」


    私はお母さんにそう訊ねた。そうでなければ突然朝からケーキを焼くなんてことはありえない。




    「ふふ。お母さんじゃないわ。あなたのことよ、アニ。」




    ・・・一瞬、どういうことか分からなかった。朝はそんなに強くない、というのもあるかもしれないが。



    「私が?」


    「そうよ。」


    「どうして?」



    「どうしてって、あなた昨日の夕食を作るとき、とても嬉しそうな顔をしていたじゃない。」





    「友達が出来たんでしょ?」






    私はしばらく呆然としてしまった。



    『友達』という言葉がすんなりと具体的なイメージとして頭に入っていかなかったからだ。




    あの人たちは・・・


    あの料理部の人たちは・・・





    割烹着に身を包んだ彼女たちの笑顔が浮かぶ。




    「あなたの制服からクッキーみたいな匂いがしていたから、きっと友達とお菓子でも食べてきたんでしょ?そのお返しにと思ってお母さん、ケーキを作ったのよ。」


    そう言ってお母さんはにこにこしながらケーキを切り分けている。




    ”あの人たちは友達なんかじゃない”


    はっきりとそう答えることができず、その場に突っ立っている私にお母さんは、



    「ほらほら。そこにずっと立っていないで、着替えてきなさい。ご飯にしましょ。」


    そう言って私を促した。
  49. 49 : : 2014/08/06(水) 11:38:14
    おおぅ…お母さんの優しさが辛い…
    どうなるんだろう…期待です!
  50. 50 : : 2014/08/10(日) 14:45:39


    自分の部屋に戻ってピンクのパジャマを脱ぎ、制服に着替える。


    制服のスカートを風が優しく揺らしている。



    『友達』


    その言葉を頭の中で私は何度も反芻していた。




    ・・・やっぱりそうなのかな。



    アイロンのかけられたハンカチを制服のポケットに入れながら、私はそう思い直していた。



    忌憚無く楽しいお話が出来る人。


    それが友達とするならば、彼女たちはまさしくそれに当たる。


    彼女たちがあまりにもすんなりと仲良くしてくれたから私の心の準備が出来て無かっただけなのかもしれない。




    私の気持ち次第か・・・。




    いつものように鏡の前に座って髪を結う。



    ・・・髪型変えてみようかな。



    そんなことを私は考えていた。





    台所に戻ると、お母さんはケーキを丁寧に型ズレしないように小さい箱に詰め、クマのマスコットの絵が描いてある袋を用意しているところだった。




    ちょっと子供っぽいんじゃ・・・。



    私の顔にそう書いてあったのだろう。お母さんは、ふふんと笑い、



    「このマスコット可愛いじゃない。言ったってまだアニは高校生なんだし、可愛いものを使っても恥ずかしくないわよ。ほらほら!持っていった、持っていった!」


    と、ことさら元気に私のパンの皿の横に置いた。





    ・・・



    「行ってらっしゃい!」



    朝ごはんを済ませ、学校に向かう私の背中にお母さんはそう言って手を振った。


    そして、角を曲がってしばらく歩き、お母さんの目にはきっともう届かないだろうという距離になってから私はケーキの入った袋を鞄の中に詰めた。


    クラスの人たちにクマの袋を持った私の姿など、やはり見られるのは恥ずかしかった。





    ・・・


    ・・・




    「おはよう。」


    「おはよう!」



    クラスの見知った者同士で交わされる朝の挨拶。



    人の満ちた空間なのに、一人でいるよりも寂寞な感情が湧くのが不思議だ。



    鞄を机の横にかける。







    ・・・放課後。お礼に行かないといけない。


    日誌を先生に届けに行くときにでも寄ってみようか。





    そう思ったときだった。




    「おはよう、エレン。」


    私の前を横切った影にクラスメイトの男子が話しかける。




    「おう・・・。」


    鞄を肩に担ぎながらエレンはぶっきらぼうにそう応え、自分の席に向かっていた。






    ふと、


    エレンが私を見た。



    私もたまたまエレンを見つめていたから、必然的に互いに目があう。





    「・・・。」



    「・・・。」


    妙な沈黙が二人の間で流れる。



    私が目を逸らすのと同時にエレンも歩き始めた。









    ・・・何だったのだろうか。



    机の上で立てひじをついて考える。






    「まさか・・・」


    ケーキを持ってきたことがバレた・・・?






    ふふっと笑って頭を振る。



    そんな訳ないか。たまたまだろう。



    そうこうしている内に、


    「お~い、みんな~席ついて~。」


    エルヴィン先生がクラスに入り、ホームルームを促していた。



  51. 51 : : 2014/08/10(日) 16:14:15



    放課後。


    ケーキを鞄に入れたまま、私は日誌を片手に職員室に向かう。


    先生に日誌を渡すと今日は何も訊ねられることもなく、職員室を後にすることができた。




    そうすると、やるべきことはあと一つしかない。



    鞄を開け、ケーキの袋を取り出す。




    自然と足が家庭科室に向かう。










    しかし、私は出鼻をくじかれる。



    その扉は今日は閉まっていた。



    まだ日が昇っている時間だから、電気がついているかどうかも分かりづらい。




    ・・・開けてみるか。



    そう思い取っ手に手をかけた時だった。





    「ちょっと二人で話しててね!おわっ!!」



    タイミングよく扉が開き、三年生の先輩の部員がちょうど出てきた。


    危うくぶつかる所だったけど・・・。




    「アニちゃん!アニちゃんだ!!」



    先輩は私の手を取ってぴょんと飛び跳ねた。





    「今日も来てくれたのね!先輩嬉しいわ!・・・あら?これなぁに?」



    先輩は私の手にぶら下がっている、クマの袋に目をつける。




    「あ・・・あの・・・これ・・・。お礼です、昨日の。」




    「あら、嬉しいわ!お礼だなんてアニちゃんって律儀ね。さあさあ中に入って入って!退屈してたのよ。」



    先輩に手を引かれ家庭科室の中に入る。





    二年生の二人も笑顔で手を振って迎えてくれた。


    昨日と同じように紅茶を飲んでいたらしい。


    カップが3つ並んでいた。






    「・・・先輩。何か用事があるんじゃなかったんですか?」



    椅子に座らせられながら、私は先輩にそう訊ねた。



    「あぁ、それね。」


    「私たち、持ち回りでお菓子を持ってきているの。ストックがなくなったから今日は私の番。だからさっき取りに行こうとしていたのよ。」




    カチャカチャと私の分のカップ一式を二年生の女の子が持ってきてくれる。




    「そうなんですね。・・・あ、いえ、今日は結構です。本当にお礼をしに来ただけなので。」



    そう言って私は、袋からシフォンケーキを取り出す。



    「お菓子が今無いならちょうどいいと思いまして。良かったらどうぞ、食べてください。」



    黄色い歓声があがる。



    改めて自己紹介を受けると、先輩はユイさん、二年生で髪の長いのはミホさんで、ショートヘアーなのはロイさんだそうだ。





    「せっかくだし、アニちゃんも一緒に食べていこうよ。まだ余ってるし。」


    ロイさんがそう提案する。





    「いえ、私は・・・」


    きっぱりとお断りをしようとしたときだった。








    「・・・あれ。なんだここに居たのか。」




    入り口からぶっきらぼうな声が聞こえてきた。




    ・・・思わず絶句する。



    この人たちの前で、この人には会いたくなかった・・・。








    「・・・なに?エレン。」



    それでも私は意を決して立ち上がり、扉を挟んでエレンと対峙した。

  52. 52 : : 2014/08/10(日) 16:25:36
    すごくおもしろいです!

    期待!
  53. 53 : : 2014/08/11(月) 01:39:17


    「いや・・・ちょっとな・・・。」



    エレンはバツの悪そうな顔をして頭をぽりぽり掻いている。



    ちらりとエレンが見た先には料理部の女の子たちが座っている光景。




    「・・・二人で話したいことがあったんだけど、今日はいいや。お楽しみのようだし。」



    「いや、違う。」



    私ははっきりとそう答えた。



    「・・・そうなのか?」



    エレンはそう言ったっきりまた家庭科室を眺める。そしてポツリと、



    「・・・おいしそうなケーキだな。」


    そう呟いた。





    私の後ろから、ガタンと席を立つ音が聞こえる。



    スタスタと歩く音は私との距離を縮めていく。



    そしてちょんちょんと私の脇腹をつついて、





    「ほれ、一口あげなよ。」


    にまにました顔をしたミホさんがケーキ一式をお皿に持ってそこに立っていた。







    「いや・・・そんな・・・。」


    私がしどろもどろしていると、






    「それってアニさんが作ったんですか?」


    とエレンはミホさんに訊ねた。




    「うん!きっとそうだよ!おいしそうでしょ?」




    「ほんとですね。」




    二人で会話を重ねている。







    ・・・敬語もちゃんと使えるんだ。



    変に私は感心してしまった。ぶっきらぼうで非常識な人だと思っていたからだろう。



    そう思っていると、ミホさんが私の靴にちょこんと自分の靴を当てた。





    「・・・。」



    私はフォークでケーキを一口大に切り、先に刺すと無言でエレンに差し出した。




    「いいのか?ありがとよ。」



    そう言ってパクリとケーキを食べるエレン。



    そして“おいしい”、という代わりに子どものような笑顔を私に見せた。





    ・・・トクン





    初めて見る笑顔。


    耳が何故だか熱くなる。



    横と後ろから部員たちの視線を感じる。




    「そ、それで用って何?」



    私はその場をごまかしたくてそうエレンに訊ねた。





    「あ、あぁ・・・。」


    エレンはポリポリと頭を掻く。



    「クラス委員のことなんだけどさ。はっきり役割分担とか話し合ってなかったろ?日誌とかもアニに任せっぱなしだし。この機会にどうかなと思ってな。」


    「なんだ、そんなこと・・・。」



    本当に何てことないことだった。“二人きりで”なんていうから変に身構えてしまったけれど・・・。




    「別にお金貰っている仕事じゃないんだし、適当でいいんじゃない?」


    正直に思っているところを私は答えた。



    「まぁそれもそうなんだけどな・・・。」



    エレンは宙を仰いでいる。




    「俺さ・・・。」


    「会議とかそういうのを早く済ませたい方だからさ。下手な進行でいらいらするよりも自分で進めたいことの方が多いんだ。」


    「ただ、メモ取りとか黒板取りとかがちょっとなぁ・・・。」




    私はエレンとは逆に下を見る。



    「私もね。委員会とかクラス会とか苦手なの。でも前に立って進行とかするのは得意じゃない。メモとかは得意だけど・・・。」



    互いに目を合わせる。



    「朝は得意か?」


    「苦手。」


    「荷物運びとかは俺がやるよ。」


    「軽いのは任せて。」




    そして二人で微笑みあう。



    「明日からよろしくな。ケーキまた食べさせてくれよ。」


    エレンはそう言い残して恥ずかしそうにポケットに両手を突っ込み、私の前を去っていった。



    エレンを見送る背中にチクチクと目線を感じる。


    3人組がにこにこ笑って見つめていた。





    ・・・しまった。




    「アニちゃん。このケーキのお礼と言っては何だけど、ゴールデンウィークに一緒にエプロンでも・・・」



    「昨日は本当にありがとうございました。せっかくの楽しい時間をお邪魔してすみませんでした。失礼します。」




    私は乱暴に鞄を持って、家庭科室を後にした。


    呆気にとられた部員たちに顔を向けることもなく・・・。




    クラスの人たちとあの人たちが一緒ではないと信じたい。



    だけど、しばらくはエレンとのことをやいのやいのと言うだろう。



    ・・・それは私にとって煩わしい意外何物でもないのだ。




    家に帰り、夕飯が出来るまでの間、部屋のベッドでうつ伏せになる。




    窓から風が吹いている。



    その窓からマフラーを外したやかましいバイクが数台走り抜ける音が耳をつく。



    暖かくなるとああいう無粋な輩が現れるから嫌いだ。



    私は静かに暮らしたい。




    人の噂話や世間話なんて、あのバイクと何が違うのだろう。



    お母さんが声を掛けるまで、私は枕に顔をずっと埋めていた。

  54. 54 : : 2014/08/19(火) 16:55:49
    お忙しいながらのこのクオリティ…素人が言うのもなんですが、やっぱりすごい!
    期待です(((o(*゚▽゚*)o)))
  55. 55 : : 2014/08/21(木) 18:49:48
    組合会長さん、いつも応援のコメントありがとうございます!

    そんな素人だなんて卑下しないでください。
    私もプロなんかではないので・・・(汗)


    物語は中盤を過ぎ、まもなく終点に向かいます。


    彼らの人間模様がどうなるか、期待していただければと存じます。


    更新は今しばらくお待ちくださいませませ!
  56. 56 : : 2014/08/21(木) 20:05:52
    いよいよ終盤かぁ!
    更新?全然待ちますよ!えぇ!シュウさんもお忙しいはずなのでゆっくりでも全然大丈夫です!これからにも期待です!
  57. 57 : : 2014/09/04(木) 22:46:27


    この日もやっぱり雨が降っていた。


    美術室でクラス委員の二人のことを知ったあの日から早一月。



    五月のからりとした空が懐かしくなるほどに、ここ数日は陰鬱でじめりとした梅雨の空が続いていた。



    傘を差しながら登校する生徒たちは皆俯き、歩幅も狭くなっている。



    本来なら、僕もその一員となるはずだった。


    でも・・・。




    僕はさらさらと雨が舞い落ちる空を見上げる。





    この雨に彼女も打たれているのだろうか。



    彼女もこの空の下を歩いているのだろうか。





    この雨だけがアニと僕とをつなぐ、唯一の架け橋となっていた。






    同じクラスじゃないか。


    幼馴染じゃないか。



    そんな声もあるだろう。




    でも、クラスに居れば居るほど、アニと僕との心理的な距離はますます開いていくように僕は感じていた。




    エレンと共にクラス委員をこなすアニのことを信頼するクラスメイトが多くなり、”クラス委員としてのアニ”と仲良く話す女の子もちらほら見え始めた。


    中には、エレンと話す口実を作るためにアニと話そうとする女子もいるようだけど・・・。



    そんな人たちにも嫌な顔をしたりせず、クラスメイトからの相談や意見に対して真面目に、誠実に応える様は、男の僕から見ても凛としていて格好良かった。



    クラスに居る限り、僕はその光景を見せられ続けてしまう。



    そしてその度に、何だか僕はひどく置いていかれたような、そんな気持ちが湧き上がるのだ。




    幼いときからずっと傍にいたから、余計にその距離感を感じてしまう。




    同じクラスだろうが、幼馴染だろうが、そんなのは関係ない。



    むしろ、それらは僕とアニの心の距離をより引き離す道具のようにも感じた。




    でも、この雨は違う。


    誰の上にも等しく注がれるこの雨は、等しく傘を差す人たちの顔を俯かせ、歩幅を狭くする。



    アニもきっとそうだろう。



    互いの家の距離よりもずっとずっと遠くにあるこの空が、僕とアニの気持ちを近しいものにしてくれているというのは、皮肉意外何物でもなかった。


  58. 58 : : 2014/09/05(金) 01:12:00

    とはいえ、2年生になってからの二ヶ月の間に、僕のまわりの人間関係が全く変化しなかったか、というとそうでもない。



    多少人見知りをするとはいえ、歳相応に人付き合いの仕方も学んできたから、世間話が出来るクラスメイトもできたし、願っても無いスペシャルゲストも僕の友達になってくれた。



    エレンの保護者、という名目でちょくちょく僕のクラスに来ていたアルミンがその人だ。




    昨年、ライナーと同じクラスだった、というのもあるけれど、元々会話の引き出しが多いというのと切り返しが上手というのもあり、するすると僕たちの間に溶け込んだ。




    校舎の外れで僕を叱ったライナーだったけれど、彼自身もアニのクラス委員を務める様子に、以前のような接し方はできないと感じ始めたようで、僕の煮え切らない態度に対する姿勢はやや軟化しつつあった。


    それでも、どうしてもあの日よりも前と比べると、一歩距離をとられている、という感覚は拭えない。



    アルミンはそれを感じ取っているのかどうかは分からないけれど、、無理にライナーと僕を二人で話させるような会話を避け、僕らが和気藹々と会話が弾むような話題をいつも提示してくれていた。



    自然と僕らの周りは花が咲いたように明るくなる。



    会話が盛り上がる頃になると、あのぶっきら棒なエレンがじわりと近づいてきて、




    「よくもそんなに話題がもつな・・・。」


    と、アルミンに話しかけるのが最近の通例となっていた。





    『倶に天を戴かず』、なんて言葉があるけれど、エレンと僕はそんな関係かと思っていた。



    しかし、こうしてアルミンを通して4人で話していると、別に敵でも仇でもない。ただの同じ歳の男の子でしか無いんだなと思うようになってきたから不思議だ。




    もっとも、エレンは初めから僕のことを別に悪くなんて思っていなくて、『背の高いクラスメイト』程度の印象しかなかったらしい。


    それを知ったのも、つい先日のことだった。








    雨の音色を聞きながら、午前の授業が過ぎていく。


    曇り空を窓から臨む昼休み。


    普段は屋上や中庭で昼食をとる生徒たちも、今日ばかりは教室でお弁当を広げている。


    もちろん僕らもその一員だ。


    世間話に花を咲かせる。




    「こう雨が続くといやになるね。川の増水も気になるし、土砂崩れなんて起きなきゃいいけど。」


    アルミンが赤いウィンナーをお箸でつまみながらそう切り出す。



    「この学校は高台にあるから平気かもしれないが、家のことを考えるとやはり心配だよな。」


    そう言ってライナーがご飯を口に入れる。



    「小学生が面白がって、川の近くに行って流されたりすることもあるからね。雨もいいことばかりじゃないね。」


    二人の会話に僕は合わせる。



    エレンはというと、学食で買ってきたパンを食べながら窓の外を眺めていた。そしてポツリと、




    「まぁ・・・でも、俺雨の日好きだからな。」


    そう呟いた。




    「どうして、雨の日が好きなんだい?」


    僕はそう訊ねる。



    「うーん・・・。雨が降っているとさ、夜中のいろんな音が無くなって、雨の音だけが聞こえるんだよ。・・・それがすごく落ち着くんだよな。」


    「それに・・・」





    「他人(ひと)に素直になれるしな。」



    エレンはそこまで言って、また無言でパンをもぐもぐと食べだした。



    僕らは次に言うべき言葉が見つからずに黙ってしまう。




    アルミンはあえて何も言わなかった。




    きっとエレンの言葉には、アルミンが話せない何かが裏にあったのだろう。



    僕はそれが気にはなったけれど、詮索しようとは決して思わなかった。


    もし必要なら、エレンの口から話すだろう。そう思ったからだ。



    クラスの端で男子たちがトランプを持ち出して盛り上がっている。


    その騒がしさから逃れるように僕たちは三々五々、校舎の静かな場所に散り、昼休みが終わるのを待った。

  59. 59 : : 2014/09/05(金) 01:20:41
    期待してます!
  60. 60 : : 2014/09/06(土) 13:25:25


    その日は下校時間までも、しとしとと雨は降り続いていた。



    部活動を終え、家に帰るとお母さんがこの天気なんて全く気にしてないような陽気さで僕を出迎えてくれた。




    2階に上がって着替えている僕の耳に気の良い鼻唄が聞こえてくる。



    それに合わせてお母さんは夕食の準備をしているようだ。



    何か特別なイベントでもあったかな、と普段着に着替えながら僕はぼんやりと考える。


    しかし、結局これといった答えは導けない。



    とんとんと音を立てながら階段を下りていると、家の車庫に車を入れるあのジャリジャリとした音が聞こえてきた。



    ・・・お父さんがこの時間に帰ってくるなんて。



    珍しいこともあるもんだ。




    台所へ続く扉を開けると、お父さんの好物が机一杯に並べてある光景が飛び込んできた。



    「・・・今日ってお父さんの誕生日だったっけ?」



    この小さい体にいったいどんなエネルギーが溢れているのかと不思議に思うほどに、お母さんはちょこちょこと忙しなく動いている。



    その手を休めることなく、お母さんは



    「今日は結婚記念日よ。」


    と短く答えた。





    夫婦仲良きことは良きことだ。


    とは言っても、何となく蔑ろにされているような気分もあり、いい歳した大人が・・・、などとも思わなくも無い。


    いつも気をかけてくれる人が急にそっぽを向いたようになると、妙に落ち着かないというか構って欲しくなるというか。




    ふぅ・・・と小さく鼻だけでため息をつく。




    ・・・僕もまだ親離れができていない。



    そのことに気づいて、少し自分にがっかりした。





    ピンポーンと玄関のチャイムが鳴ると、お母さんは嬉々として駆け出していく。



    そして玄関口で二言三言会話を交わした後に、二人分の足音を廊下に響かせて両親が台所に入ってきた。




    「突然のことでびっくりしただろうベルトルト。」


    ソファに鞄やら紙袋を置きながらお父さんが話しかける。



    「まぁね。もう何年目になるの?」


    「お前と同じ年さ。」


    「・・・よく飽きないね。」


    「好きである限り飽きることはないよ。」



    お父さんはそういうと、紙袋からお母さんの好物のチーズケーキを取り出し、机で夫婦肩を並べてケーキを切り分けだした。








    ・・・17年。僕の人生分か。



    仲睦まじい夫婦を見ながら、ふと思いを巡らせる。





    それだけの間、同じ人を想い続ける。



    容易いものでは決してない。多くの人はコロコロと相手を変えるだろう。


    だけど。




    雨の降っている窓の外を見る。




    ・・・僕はその難しいことを継続できている。



    秘かな誇りを感じながら、心の奥底で嫌な警告を鳴らす自分の存在にも気づいていた。




    『ひとりよがりじゃないか?』



    僕を叱ったライナーの顔が過ぎった。




    お母さんに呼ばれ、親子3人で食卓を囲む。



    ファミレスでカップルと合い席になったような気まずさを感じながらご飯を食べる。



    僕はお父さんから、あのファッション雑誌のことを言われたりするのではないかと少し警戒していたが、それは杞憂に終わった。



    恙無く夕食を終える頃には夫婦は取って置きのワインを飲み始めていた。



    「・・・ごちそうさま。」




    酔っ払いに絡まれると損だから、僕はするりと食卓を後にする。



    部屋に戻っても良かったが、雨がいつの間にか上がっていたことと夫婦水入らずにしたかったこともあり、散歩もかねて夜の住宅街に出ることにした。




    たっぷりの湿気は必ずしも夜の散歩を快適なものにはしてくれなかったが、雨上がりの街を歩く物好きも少ないから、人目を気にせず散歩できるという点では一役買ってくれていた。



    増水している川に近づいて危ない目に遭いたくないから、高台の方を散歩しようと足を向けた時、向かいからカサリカサリとビニル袋が擦れる音を共に一人の若者が歩いてきた。




    お互いが街灯の下に来た時、彼が誰だか判明する。





    「・・・エレン。」



    「・・・ベルトルトか。」




    電灯の青い光の下で二人向き合う。



    何か特別にエレンと話したいこともなかった。エレンもきっとそう思っているだろう。


    しかし、何も話さずにこのまますれ違うのは、何だかもったいない気もしていた。






    「・・・ちょっと散歩しようぜ。」




    エレンから意外な提案を受ける。でも僕はそれに対し驚きもせずに、



    「いいね。」


    そう応えた。
  61. 61 : : 2014/09/07(日) 18:17:00

    街灯の青い光に導かれるように、僕とエレンはどこに行くともなく二人肩を並べて歩いている。



    高台に続く坂道をエレンは降りてきたら、また元の道に戻るのも芸がない。


    多分それだけの理由でエレンはぶらぶらと別の道を歩いている。



    「・・・。」



    「・・・。」



    二人とも会話を交わさない。



    僕から切り出してもよかったが、そうすると何だか自分から「折れた」ような気がして、あんまり面白くない。



    かと言って、このまま無言で歩き続けるのも不気味だ。



    そう思っていると、




    「そこ、気をつけろよ。」


    エレンが忠告する。




    街灯もないところだから、言われるまで気づかなかったけれど、とても跳んで超えられるような大きさではない水溜りが広がっていた。



    「あ、ありがとう。暗いから言われるまで分からなかったよ。よく分かったね。」




    「あぁ・・・。」


    「数日前、そこの水溜りのせいで靴下まで濡れた人がいたからな。」




    「へぇ。小学生かい?」




    「いや・・・。」



    歯切れが悪いというか、口を濁したような言い方だ。



    答えづらい人物なのだろうか。ならば、詮索するのも良くないことだ。



    僕は話題を変えた。





    「・・・エレンは、お菓子か飲み物でも買ってきたのかい?」



    「いや。晩飯だ。おれんちには親がいないからな。」




    「え・・・。」



    僕の様子を見て、エレンはふっと笑う。




    「勘違いするなよ。仕事の関係でたまたま二人とも留守にしているだけだ。電話もちょくちょくもらうぜ。」



    「そうなんだ。」



    ほっと僕は胸を撫で下ろす。




    「ちょうど腹が減った頃に雨が止んだからな。そこのコンビニで夕食と朝飯を買ってきたって訳さ。」



    「辛くはないかい?」




    「うーん。最初はゴミだしとか食器を洗うのが億劫だったけどな。でも自分のタイミングで飯も風呂も入れるから、慣れると気が楽だぜ。」



    「ただ・・・。」



    「ただ?」





    「・・・独りでこういう飯を食っているときに、近くから家族の笑い声とかご飯の匂いがすると・・・ちょっと辛いけどな。」


    「だから俺は雨の日は落ち着くんだ。余計な音も匂いも流してくれるからな。」




    夜空を見上げるエレンの傍で、僕は顔を俯ける。




    昼間のあの言葉の意味はこういうことだったのか。



    親にご飯を作ってもらいながら、何かと文句を垂れる自分の立場と比較して、エレンの堂々とした様子の理由が少し分かった気がした。





    「まぁ、でもこうやって知り合いと話ができて良かったぜ。つまらねぇ話に付き合ってくれてありがとうな。」



    「つまらなくなんて無いよ。むしろ、大事な話をしてくれてありがとう。」



    「そんな大した話でもないけどな。」




    会話を重ねている内に、神社の前まで僕らはやってきた。




    近くの電柱には、気が早いと思われるけど夏祭りのポスターが貼ってある。パウチがされてあって雨対策はバッチリのようだった。






    境内には大きい木が一本立っている。




    あの木は・・・。



    あの木には・・・。






    「夏祭りまであと少しだな。」



    エレンが突然切り出したから、僕は驚いてしまう。




    「そ、そうだね。祭りの雰囲気は好きなのかい?」




    「まぁ・・・嫌いじゃないな。気がまぎれるし。」

    「・・・夏祭りでバッタリ会うかもな。」




    意味深とも取れる言葉。僕が口を開こうとした時、




    「俺んち、もうすぐそこだから。散歩の邪魔して悪かったな。じゃあまた明日学校でな。」


    エレンはそう言ってポケットに手を突っ込みながら家の方に向かっていく。




    住宅街の中の一軒家だ。一人であの家に住むのは、きっと広すぎるだろう。





    「・・・おやすみ。」


    まだ寝る時間には早いだろうと思いながら、僕はエレンの背中にそう呟いた。

  62. 62 : : 2014/09/20(土) 20:02:20
    今が冬であるならば、『雪解け』と表現するだろう。



    でも、今は梅雨だから『梅雨の晴れ間』と呼ぶのがふさわしい。



    エレンと散歩したあの夜を境に、連日の雨はぱたりと止み、久しぶりの晴れ間が3日ほど続いていた。



    エレンとのわだかまり・・・と言っても僕が勝手にそう思っていただけだけど・・・、は少しだけ解けて、この空のように爽やかな日々を僕は過ごした。



    あいかわらずエレンは、僕たちと一緒に居るときでも口数は多くはないけど、どこかほっかりしたような安心したような、そんな顔をするようになった。



    アルミンもその様子を感じ取ったようで、いつも以上にニコニコした可愛らしい笑顔をするようになった。



    僕もそれにつられて穏やかに笑うようになったけど、ライナーだけは少し曇った顔をしていた。




    ライナーは最近エルヴィン先生と話す機会が多くなった。



    思えばその頃からライナーの顔に曇りが目立ち始めていたと思う。



    でも、僕からはライナーにどんな事情があるかを聞くことを避けていた。


    ライナーも僕には話したくない、という固い意志があるようにも見えた。





    一つ解れれば、一つ縺れる。


    そんな年寄りくさい分別のついたことを、この歳で思うようになるなんて・・・。




    それが少し悲しかった。
  63. 63 : : 2014/09/20(土) 20:03:07
    その日のお昼もライナーは先生に呼ばれて職員室へ。エレンは別の友達と話すことがあると言って僕らとお昼を一緒にしなかった。


    必然的に、アルミンと僕だけになる。




    アルミンはそのことをむしろ喜んでいるみたいで、軽快な足取りで僕を屋上へと連れて行った。





    青い空を目の前に臨むことのできる屋上は晴天時には人気の場所だ。



    とはいえ、晴れの日が数日続いた後だから多少は人ごみは落ち着いていた。



    アルミンはそれを見越して、僕をここに連れてきたらしい。





    適当な段に腰をかけて、気持ちの良い風を感じながらお弁当を開く。




    他愛の無い話。話してくれるのは主にアルミンだ。


    こんな僕と話していて何がそんなに嬉しいのか分からないけれど、話題が湧き出すようにアルミンはニコニコと話していた。



    そんな中だった。





    「そういえば、ベルトルトとエレンって最近なんか会話を交わすのが穏やかになったね。何かあったの?」



    アルミンが不意にこんなことを聞いてきた。




    「ああ・・・。」


    そういえば、あの日の顛末をアルミンにまだ話してなかった。



    「いや、数日前の夜にね、バッタリ家の近くでエレンに会って二人で話したんだよ。エレンが一人暮らしをしていることとかを話してくれたんだ。」



    「へぇ~。エレンはあまり他人にそう言った話をしない人だけどね。きっとベルトルトを信頼しているんだよ。」



    「そ、そうかな。」



    「うん!きっとそうだよ!」



    自分のことのようにアルミンは喜んでいる。




    思わず僕も嬉しくなり、言葉を続けてしまった。



    「僕は暗くて全く気がつかなかったけど、広い水溜りに気をつけるようにエレンが注意してくれたんだ。彼って親切だね。」




    「水溜り?靴下まで濡れた子がいたって話?」



    「そうそう。アルミンもエレンからその話聞いたんだ?」



    「聞いたも何も、あの日の朝にエレンからいきなり電話があったんだ。困っているクラスメイトがいるから力を貸してくれってね。」



    「力を?」




    「うん。この学校って服装の校則だけはやたら厳しいでしょ?だから靴下も学校の紋章が入ったものじゃないと睨まれちゃうからさ。」

    「僕のお姉さんもこの学校に通っているんだ。だから事情を説明して一足借りることにしたんだよ。」



    「でも、黙っていればバレないと思うけど。」




    「まぁ、そうなんだけどね。ただその女の子は立場が立場だったからさ。余計にね。」






    アルミンがそこまで話したときに僕は首を傾げる。



    ・・・立場?









    「靴下を届けにエレンの家にあがると、奥のリビングの椅子にその女の子が座っていてね。申し訳なさそうに俯いていたよ。」


    「あの子って、ベルトルトのクラスのクラス委員の女の子じゃなかったかな?ちらっとしか見なかったから断定はできないけど。」


    「ま、エレンも家の掃除はそこそこしているようで安心したよ。・・・そのことまでもエレンと話したんじゃないの?」






    アルミンがキョトンとした表情で僕の顔を見上げている。


    察しのいいアルミンのことだ。僕がどんな気持ちを抱いているか、僕の表情を見て感じてくれたに違いない。





    驚きと焦り。


    ご飯を食べる箸も止まり、口を半開きにして僕は俯いていた。





    また、距離が開いてしまった。



    僕らをつないでくれる雨までもが、距離を広げてしまったのだ。




    僕の頭上に広がっているこの青い空が、文字通り単なる気休めに過ぎないとは考えたくも無かった。



    黙り込んでしまった僕をアルミンが偲びなさそうな目で眺めている。




    友達にも気の毒な思いをさせてしまった。



    アルミンのことを思い、僕はまた悲しくなった。
  64. 64 : : 2014/09/22(月) 01:03:24
    その日の午後は、授業の内容もろくに頭に入ってこなかった。



    淡々とクラス委員をこなす二人の間に、どんな会話があったか何て知る由も無いけれど、もはや僕が立ち入ることのできない世界には変わりは無かった。





    放課後。


    美術部の部屋で、一人デッサンを行う。しかし、やはり筆の進みは良くは無かった。



    ガラガラと扉を横に引いてエルヴィン先生が中に入ってくる。




    その顔は、何だか嬉しいような、でもそれを素直に喜べないような・・・なんとも複雑な表情をしていた。



    おそらく、ライナーのことだろう。



    でも、僕はそのことを聞く権利は無い。




    押し黙って僕はデッサンを続けていた。





    先生もいつも通りデッサンを始める。



    無言の状態がしばらく続いた。





    1時間ほど経った頃だろうか。美術室の扉をノックする音が聞こえた。




    僕と先生は互いに顔を見合わせ、訝しそうに首を傾げる。



    先生を立たせる訳にもいかないので、僕が扉を開けに席を立つ。




    そこに立っていたのは意外な人物だった。





    「ハンジ先生?」



    「やぁ・・・。エルヴィン先生はいるかい?」



    「はい・・・。いますけど・・・。」




    そう僕が答えると、ハンジ先生は一瞬だけ僕に目配せをしたような気がした。


    しかし、中に入るともなく、言葉をかけることもしないで扉の前に立っていた。




    「・・・フーバー君。ハンジ先生を中に案内してください。」



    エルヴィン先生が筆を止めて穏やかに言を発する。




    「部活中に申し訳ない・・・。」





    「いえ。構いません。幸いにして他の部員もいませんし。」


    「準備室に行きましょうか?」




    「いや・・・。ここの方がいい。」



    先生同士で会話を重ねている。



    僕は近くにあるパイプ椅子を持ち出し、広げた状態でハンジ先生の近くにそれを置いた。




    「ありがとう、ベルトルト君。」


    「あれ?ハンジ先生は僕の名前をご存知なのですか?」


    「ま、まぁね。美術部員だから。」


    「・・・?」



    首を傾げる僕に助け舟を出すようなタイミングでエルヴィン先生が口を開く。



    「ハンジ先生と私は歳も近いこともあって、割とよく話すんだ。美術部のことなんかも話題にするんだよ。君はその筆頭さ。」


    「はぁ・・・。そうですか。」



    何となく分かったような分からないような感覚を覚えながら、とりあえず適当な椅子に僕も腰をかける。



    「・・・それで、今日は急にどうしたのですか?フーバー君と一緒に聞いて大丈夫な話なのですか?」


    エルヴィン先生がハンジ先生に訊ねる。



    ハンジ先生は、いつものあの闊達な雰囲気とは違って、中々話を切り出せずにいた。


    しかし、意を決したように、ゆっくりとハンジ先生は口を開いた。

  65. 65 : : 2014/09/27(土) 23:28:16

    「・・・アニちゃんのことなんだけど・・・。」



    その名前を聞いて、思わず僕は息をのむ。


    エルヴィン先生はというと、目を少し伏せただけで、いつもの平静な様子に変わりは無かった。


    先生のことだ。ハンジ先生がそう切り出すのを想定していただけなのかもしれない。




    『続けて。』



    掌を顔の前で組みながら先生は目だけで先を促す。




    「・・・最近、私のところにも来てくれなくなったし、時々下校するときの姿を見かけるんだけど、寂しそうに俯いて一人でいつも歩いているんだ。」


    「心配なんだ。アニちゃんのこと・・・。エルヴィン先生。アニちゃん何か言ってなかったかい?微妙なお年頃の女の子をからかったりしたからかなぁ・・・。」




    ハンジ先生は細い指をした手をぎゅっと握り、両膝の上に拳を置いて俯いた。





    エルヴィン先生はしばらく沈黙する。



    そして、やおら口を開いた。




    「・・・私が、まだレオンハート君から信頼されていないだけかもしれないけれど、彼女から私に何か特別に相談を持ちかけられたことはないね。」


    「ただ・・・。」




    「ただ?」


    ハンジ先生が身を乗り出す。





    「私が指を切って1週間後くらいだったかな。職員室で話したときに一言彼女が呟いたんだ。“嘘つき”ってね。」


    「彼女は私のことではない、と言っていたからその時はさして気にも留めなかったけどもね。私が思い当たるのはこれくらいだ。・・・すまない。」





    「・・・。」



    ハンジ先生は乗り出した体を椅子に戻し、悲しい顔をして項垂れた。



    「・・・そうか。やっぱり私に原因があるんだ・・・。」




    「ハンジ先生?」



    「ううん、何でもない。ありがとう。参考になったよ。」



    「そうか・・・。」



    エルヴィン先生はそう言った後に、僕を方を振り向く。



    「フーバー君。君とブラウン君はレオンハート君と昔からの付き合いだったね。・・・異性だから難しいかもしれないけど、良ければ気にかけてもらえないかい?」



    「・・・。」


    僕は黙って俯く。



    気にはかけている。でも、気にかけることしかできないから僕も辛い思いをしているのだ。



    「ベルトルト君、頼むよ・・・。私からもお願いするから。」



    ハンジ先生が頭を下げる。



    「先生、止めてくださいよ。頭下げられるほど、僕は上出来な人間じゃありませんから。」



    そう言ってもハンジ先生は頭を上げようとしない。



    流石に僕も弱ってしまった。


    情けなくもオロオロしてしまう。




    しかし・・・。



    一方でもう一人の自分が囁く。


    話しかけるチャンスじゃないか、と。




    アニは自分から悩みを打ち明けることを何故かあまりしてこなかった。



    たとえ偽善でもいい。助け舟を僕が出すことができるのではないか。




    ライナーの言葉を思い出す。




    後悔なんてしたくない。




    「・・・分かりました。やるだけやってみます。僕も、彼女のこと心配していましたから。」



    「そうかい?非力な先生を許しておくれ。」



    「非力だなんて、そんな・・・。幼馴染としての役目を果たすだけです。」



    「ありがとう・・・。」




    ハンジ先生はそう言って立ち上がると、僕らに一礼をした。



    「ここに相談に来てよかった・・・。エルヴィン先生。」



    「ん?なんだい?」



    「・・・また来てもいいかな?」




    エルヴィン先生はチラリと僕を見る。そして、



    「もちろん、構わないよ。」


    そう応えた。



    一瞬だけど、ハンジ先生の頬が紅くなったように見えた。だけど先生はそれを隠すようにそそくさと扉に近づき、



    「失礼しました。」


    と言って、美術室を後にした。
  66. 66 : : 2014/10/05(日) 23:35:48

    部活が終わった後。茜色の空の下を歩きながら、今日のことを考える。



    どの面下げてアニに話しかけたら良いのだろうか。






    アニの家でご飯を食べて以来、ほとんどまともに口をきいていない日々が続いている。



    ほんの数ヶ月前だったらすぐにライナーに相談したのだけど、今はおそらくそんな雰囲気ではない。




    「どうしよう・・・。」


    ポツリと独り言を呟く。





    きっかけ。


    そう、欲しいのはきっかけだ。



    幼馴染だからきっかけなんて特別に設けなくても良いのだろうけど・・・。



    鞄に手をかけながら、俯いて歩を進めていく。




    そう言えば・・・、とふと気づいて立ち止まる。





    あの仲の良い、お父さんとお母さんはどういうきっかけで出会ったのだろう。




    何だかんだで二人の馴れ初めを聞いたことはなかった。




    きっと、上手にきっかけを利用して結婚まで結びついたに違いない。



    少し気恥ずかしいけれど・・・。僕はお母さんにそれとなく聞いてみることにした。








    家に帰ると、またいつもの気の良い鼻歌が聞こえてくる。



    部屋の机には、これまたいつものようにファッション雑誌が置いてある。



    でも今回ばかりは腹を立てず、お母さんから話を引き出すことに専念することに決めた。






    「最近、良い天気が続いているわね。洗濯物がよく乾いて嬉しいわ。」


    僕がリビングに入ってくるなり、お母さんが話しかけてくる。



    「そうだね。ちょっと前までは部屋干しで除湿機をずっと付けていたものね。」



    「やっぱりお日様の香りのするのは良いことだわ。」



    うきうきしながらご飯をよそうお母さんに合わせて、僕は黙って席に座った。



    「あら。今日は素直ね。」



    「そ、そうかな。いつもこうだよ。」



    ふ~ん、と言いながらもやや嬉しそうにお母さんは席についた。



    お父さんの帰りは今日も遅いそうだ。


    それは僕にとっては追い風だった。





    ・・・





    テレビの雑音を耳にしながら、二人で食事を進める。


    バラエティの賑やかな笑いにつられてお母さんも、あははと楽しげに笑っている。



    下手にシリアスな場面だと話が切り出しづらい。



    機と見て僕はお母さんにこう話しかけてみた。





    「この前の結婚記念日、楽しかった?」



    「あら?なぁに、この子は急にそんなこと訊いて。」



    と、口ではそう言っていながらも、お母さんはすごく嬉しそうな、恥ずかしそうな、笑顔を浮かべた。






    「・・・楽しかったわよ、それは。」



    「そうか・・・。よかったじゃない。何だか、お父さんとお母さんというよりも、知らないカップルを見ているような気分だったよ。」



    「あらら。息子にそんなこと言われるなんて思ってもみなかったわ。何だかこそばゆい感じね。」





    うふふとお母さんは笑う。



    「僕くらいの子がいる夫婦って、結構冷めている人もいるらしいけどお母さん達は違うね。何か秘訣でもあるの?」



    「秘訣って・・・。」


    ニコニコしながら唇に指を当てて思案する。




    「・・・私がお父さんのこと、今でもカッコいいって思っているからかしら。」


    「そして、それはこれからも、もっとカッコよくなって欲しいと思っているの。だからかな。」




    「それが秘訣なんだ?」




    「うん。お母さんはそう思うわ。ベルトルト、あなただって自分の好きな女の子から応援されていたら頑張れるでしょ?それと一緒よ。」


    「私は、輝いているお父さんを見るのが好き。だから私は今でもお父さんのことが好きで、ずっと応援しているの。」





    それを聞いて、僕は思わず黙りこむってしまった。



    僕はどちらかと言うと、今アニを応援している。アニを見ているのは僕の方だ。



    でも、アニは・・・。






    その図式が逆でも関係は長続きするのだろうか。



    経験のない僕でもなんとなく答えは分かる。「否」と。





    「・・・じゃあ、お母さんってお父さんのどういう所が好きになったの?何かきっかけでもあったの?」



    このままじゃいけない。


    状況を変えないといけない。



    そのヒントが僕は欲しかった。だからそう訊ねた。

  67. 67 : : 2014/10/05(日) 23:40:18

    「そうねぇ・・・。お父さんの仕事をしている時の『眼』だったかしら。」



    「眼?」




    「ちょっと冷たいけど、深くて澄んだ眼に吸い込まれたのよねぇ・・・。あと、私に仕事を教えてくれるときの声も好きだったわ。」


    「本当はもっと一緒にいたかったけど、新人だった私をお父さんが心配していつも先に帰してくれていたの。中々時間が合わなくて辛かったわ・・・。」




    「それで?」




    「でも私待ったの。お父さんが男性の割には甘いものが好きだって言うのは知っていたから、近所のおいしいお店をチェックしていてね。新商品が出るタイミングを待ったの。」


    「そしたら丁度新商品の出る時と、お父さんが仕事で早上がりする日が重なったのよ!この時しかないって思って声掛けて・・・。それからかな。」




    「待つ・・・。」



    「そう。待つのよ。焦っちゃだめなの。本当に逢うべき人なら、運命の女神様がチャンスをくれるのよ。その時を待つの。そして必ず行動に起すこと。それだけよ。」



    「待つ・・・。」



    僕はもう一回同じ言葉を繰り返した。




    「ベルトルトも、そういう人がいるならやってごらんなさい。悪い結果にはならないわ。」



    お母さんはそう言うと、テレビのチャンネルを変え、しっとりとした歌の流れる番組を見始めた。




    本当に逢うべき人なら。


    必ず行動に起すこと。



    チャンスをくれる。




    「・・・ありがとう。」




    久しぶりにお母さんにこの言葉を言った気がする。


    やっぱり親ってすごい。



    テレビを見て嬉しそうにしているお母さんの横顔を見ながら、僕はそう感じた。



    明日の吹く風を信じよう。


    僕はそう心に決め、席を立った。
  68. 68 : : 2014/10/13(月) 19:10:19
    待つということ。


    機をうかがうということ。



    受け身のようで、実は能動的な姿勢。



    お母さんからアドバイスをもらったあの日から、僕はチャンスが来るのを待った。



    トランプで自分の上がりのカードを引き寄せるように。





    二日間は何もなかった。



    そして、金曜日を迎えた。




    その日の朝。


    パンをつまんでいるときのことだった。



    一本の電話が鳴った。


    パタパタとスリッパの音をたてながらお母さんが受話器を手に取る。



    短い会話だった。




    「誰からなの?」


    受話器を置いて台所に戻るお母さんに僕はそう訊ねる。



    「お父さんからよ。出勤する車から朝焼けが見えたんだって。ベルトルト、念のため、折り畳みの傘を持って行きなさい。」


    僕はそれを聞いてチラリとテレビを見る。


    天気予報がちょうど流れていて、終日晴れ間が続くと、可愛らしいアナウンサーが話していた。



    「今日は一日晴れだっ・・・」



    「持って行きなさい。」



    間髪入れずにお母さんはそう繰り返す。




    「・・・はい。」


    こういう時のお母さんは融通が効かない。



    予報に加えて、学校に置き傘をしていることを僕は話さなかった。



    鞄に折り畳み傘を入れて登校する。


    イヤミなほどの青い空。



    「・・・今日はお母さんの顔を立てよう。」


    僕は独り言を呟いた。





    しかし、この発言は二限目の途中から撤回することになった。


    にわかに空が曇ってきたかと思うと、間をおかずにパラパラと雨が降ってきたのだ。



    短時間で止みそうにない、息の長そうな雨だった。




    授業中にも関わらず、クラス中から「ええ~」とか「傘持ってきてねぇよ」といった愚痴がこぼれて行く。



    その中で黒板の前でチョークを握っていた先生は、教科書を見ながら、



    「はいはい。先生も含めて、今日はみんなで仲良く濡れて帰りましょうね。」


    と淡々と述べ、その場の無駄口を切り上げさせた。




    昼休みは、いつもより賑やかな教室の中でお弁当を広げてアルミンたちと食べることになった。



    20分ほど過ぎたあたりだろうか。


    お弁当を平らげて雑談をし始めた折だった。



    「フーバー君。ちょっと来てくれるかい?」


    エルヴィン先生が僕の肩をたたいてそう言った。



    「え、ええ。構いませんけど・・・。」



    席を立って、アルミンとライナーに片手を上げて『ごめんね』のポーズをすると、僕は一人職員室に向かった。




    職員室は静かなものだった。


    先生方は黙々と食事を取っている最中だったからだ。


    エルヴィン先生の元に向かうと、



    「悪いね、呼び出して。」


    と言って、僕を、丈の低い丸くて灰色の椅子に座らせた。




    「今日、従姉妹から連絡があってね。子どもに傘を持たせてないから送ってやってくれって頼まれたんだ。何でも塾に間に合わせたいらしい。」

    「やぶさかではないが、私も部活の顧問だ。連絡も無しに姿を現さないと君も心配すると思ってね。それで呼んだんだ。」


    浪々と先生は説明する。


    僕はそのことに別段口を出すことはなかった。



    「分かりました。部員が来たらそう伝えます。先生も大変ですね。」


    と笑顔で応じると、先生はふっと笑い、



    「学校自体はすぐそこだから、大した労力ではないけれど、問題はこの雨だ。あいにく傘を持って来ていなくてね。車を出さなくていけなくなりそうだ。」


    と応えた。



    「あまり車を出したくないのですか?」



    「うん・・・。送ってもらうのが当たり前と、幼いうちから覚えてしまうのはあまり誉められたものではないと私は考えているからね。」


    「病気や怪我でもしてない限り、自分の行先は自分の足で歩いていけるようになってもらいたいんだ。」


    静かに先生はそう言い終えた。




    「・・・。」


    僕は思わず黙り込んだ。


    幼い子に限らず、僕らにもそのことは当てはまると感じたからだ。




    自分の行き先。進路。


    それを自分の足で歩く。



    僕らは行き先を自分で決めているだろうか。


    そして自分の足で歩こうと努力しているだろうか。



    間をおいて考える。


    そして一つの答えを出す。


    それは、少なくとも今の僕は、胸を張って「そうだ」と言えないということだった。


  69. 69 : : 2014/10/14(火) 01:18:47

    「・・・その子が羨ましいです。」



    「どうしてだい?」




    「当たり前のことを、当たり前のことと教えてくれる存在が身近にいるからです。」


    僕がそう言うと先生は悲しく笑って、



    「問題なのは、受け入れてくれるかどうかなのさ。」


    そう応えた。






    その後は特に会話もなく、僕は教室に戻った。


    午後の授業の間も、しとしとと雨は降り続いた。





    放課後。




    いつもの通り美術室に向かう。どうせ僕が鍵を取りに行くことになるとは知っていながらも扉に手をかけた。



    カラカラカラと抵抗もなく開く扉。




    思わぬ展開に困惑してしまう。




    美術室にはハンジ先生が立っていた。




    「ハンジ先生?」


    部屋に一歩だけ踏み込んで僕はそう訊ねる。



    「ベルトルト君か・・・。」



    少し残念そうにうなだれる先生の服装は、いつもの白衣のそれではなくボーイッシュな、でもセンスのある私服姿をしていた。



    「エルヴィン先生を見ていないかい?」



    「先生は今日、従姉妹のお子さんを迎えに行ってからこちらに来るそうですよ。」



    「そうか・・・。うん、ありがとう。」



    先生はそう言って静かに部屋を出て行く。



    あの闊達な先生の割には、言葉数が少ない。



    でもその後姿は落胆、というよりかは寧ろ、これから試合に向かう選手のような、そんな意思のようなものに感じた。





    ・・・


    ・・・



    窓の外から雨音を感じながら、美術室で一人デッサンを行う。





    一時間ほど経った頃、ようやくエルヴィン先生が美術室に顔を出した。



    その顔には、やや満足げな微笑みを湛えていた。




    「お疲れ様です。結構、時間かかったんですね。近くの学校だと聞いていましたから。塾の場所が遠かったのですか?」



    「いや。散歩も兼ねて一緒に歩いて送ってあげたんだ。久しぶりにゆっくり自分の時間を過ごしたような気分だったよ。」



    「しかし、先生は今日傘をお忘れになったのでは?」



    「ああ、それは・・・」




    先生は僕の横を通り過ぎ、窓の前に立つ。ぼおっと外を見つめた後にこう続けた。




    「ある人が傘を貸してくれてね。それに、車を出すべきではないという私の考えを後押ししてくれたんだ。やっぱり教育者だよ。」



    「そうですか・・・。それは良かったですね。」



    僕は特段の詮索をしなかった。する必要がないと感じたからだった。





    「それはそうと、レオンハート君はまだ学校に残っていたよ。私に授業のことで聞きたいことがあるからわざわざ残っていたそうだ。殊勝な心構えだよ。」



    「彼女は真面目ですから。」



    「そろそろ雨足が弱まりそうだからお先に失礼しますって言っていたよ。確かに、礼儀正しくて真面目な子だ。」




    僕は先生が眺めている窓の外を見た。





    まだ陽が完全に沈んでないから、雨の様子が見て取れる。



    確かに小雨になりつつあった。



    そう。走れば傘を差さなくても帰れるくらいの雨に・・・。







    俄かに、僕は威勢よく立ちあがり、鞄に手をかけた。



    「どうしたんだい、フーバー君?何か急用でも思い出したのかい?」



    先生は目を丸くして問いかける。




    「戻ってきたばかりなのに、すみません。僕・・・急用がありました!」




    先生の言葉も待たず、僕はバタバタと音を立てて昇降口に向かう。



    まるで吸い寄せられるように。






    僕には妙な確信があった。




    今、ここで昇降口に行けばアニに逢える。



    その確信を信じて、僕は夕方の校舎を駆け抜けた。
  70. 70 : : 2014/10/15(水) 15:42:29

    息が弾む。


    鼓動が早くなる。


    僕の望む光景を求めて・・・。




    靴箱が立ち並ぶ昇降口は、ひと気もなくひっそりと雨の情緒にひたっていた。


    息を整えるべく駆けるのを止め、ゆっくりと歩み寄る。



    そして・・・。


    昇降口の軒下に、彼女はやはり佇んでいた。


    鞄を膝の前にし両手で持つその姿は、可憐な少女の雰囲気を醸し出していた。



    小雨の降り注ぐ空を見上げる彼女の憂いたような横顔は、とても美しかった。



    彼女はまだ歩み出す素振りを見せない。


    僕はゆっくりと、でも確実に彼女との距離を縮めた。


    途中、傘立てから自分の傘を抜き出す。



    カタンと音が立つ。


    彼女はそれに気付き振り向いた。



    「あ・・・。」


    アニは小さく一声だけ発する。





    僕らは、手を伸ばせば触れられるほどの距離まで近づいた。


    互いに体は向き合うも、僕は空を、アニは足元を見ていた。





    「・・・急な雨だったね。」



    「うん・・・。おかげで傘を忘れちゃったよ。」



    「そうだね。でも、優しい雨だね。」



    「涼しくて、気持ちいいわ。」


    しとしとと二人の間に雨垂れの音だけが流れていく。


    沈黙も決して嫌ではなかった。



    僕はおもむろに傘を広げる。


    そして、そっとアニに傘を差し出した。


    「大丈夫よ・・・。やむまで待つから・・・。」



    「お母さんが心配するよ。それに僕は予備があるから遠慮なんてしなくていいよ。」


    そう言って鞄から折りたたみ傘を頭だけ出す。



    「でも・・・」



    「受け取って。そうでないと僕が帰れない。」


    僕は優しく微笑む。



    アニはおずおずと僕から傘を受け取る。




    僕は折りたたみ傘を開き、雨空の下に繰り出す。



    「じゃあ、またね。」


    アニの性格だと、一緒に帰るときっと気を揉んでしまうことは容易に想像できる。


    だから僕は彼女のために、あえて一人で帰った。



    僕の背中にアニの視線を感じた。


    チラリと振り返ると、傘を握ってアニは小さく佇んでいた。


    それでも僕はそれ以上振り返ることなく、一人、誰もいない校庭を歩いて行った。



    校門を出たあたりから、今さらのように恥ずかしさが湧き立ち、胸がドキドキして止まらなかった。


    久しぶりに話せたことと、アニに傘を貸すことができたことに、えもいわれぬ達成感を僕は感じた。


    帰り道で空を見上げる。



    やっぱりこの雨は僕とアニをつなげてくれた。



    誰も見ていない住宅地の道端で、僕は小さな水溜まりをぴょんと軽く跳び越え、そして家に帰った。
  71. 71 : : 2014/10/15(水) 18:42:54

    満足度に包まれたからだろうか。


    夕食を取ると僕は睡魔に襲われ、部屋で横になった。


    静かな雨音も心地よい音楽のように睡眠に拍車をかけた。




    ・・・


    ・・・



    どれくらい眠っただろうか。


    あたりはすっかり静かになり、窓の外には月が出ていた。



    階段を登ってくる音を聞きながら、僕は眠たさに任せてベッドで横になっていた。


    ノックして入って来たのはお母さんだった。



    「ベルトルト、起きてる?」


    「うん?」









    「アニちゃんが来ているわ。」






    「・・・分かった。」




    それきりで会話を切り上げた。




    本当は駆けてでも下に降りたかった。


    しかし、親の手前、恥ずかしさもあり、僕はそれをしなかった。



    寝起きで体がまだ素早く反応出来ない、というのももちろんあるけど・・・。





    下に降り、いったん顔を洗った後、僕は玄関に向かった。




    扉を開けると、紙袋と綺麗に畳まれた傘を前に持った、私服のアニがそこにいた。



    「やぁ、アニ。こんばんは。雨、あがったね。」


    「うん。そうだね。」



    僕は努めて『何てことないよ』、というような雰囲気を作る。



    アニは右の手首に紙袋をぶら下げながら、両手で僕に傘を差し出す。



    「これ・・・ありがとう。本当に助かったの。」



    「これくらい、何てことないよ。アニが濡れなくて良かった。」



    「うん・・・。」



    アニは俯いて押し黙ってしまう。



    何から切り出せばいいのか。


    何を言えばいいのか。


    言葉を探しているようだった。



    そして・・・


    「ベルトルト・・・。これ、食べてほしいの・・・。」


    しぼり出すようにアニは話した。


    近所のケーキ屋さんから買ってきたシフォンケーキだった。



    「そんな。お礼なんていいのに。」


    僕はクスクスと笑う。







    「食べて・・・。」


    僕とは対照的に、アニは何故だか不安そうな、何かにすがるような表情をしていた。



    もっと朗らかに笑いあってもいい場面のはずだった。



    その違和感に僕も笑うのを止めてしまう。



    「う、うん。いいけど、ここでかい?」


    「そう、ここで・・・。」



    アニはケーキにフォークを通し、食べやすい大きさに切って、それを僕の口元に運んだ。



    上目遣いのアニに、胸がドキドキしてしまう。


    きっと、僕の口にあうかどうか心配に思っているに違いない。


    そう思った僕は、ケーキを食べるとにこりと笑い、


    「とても美味しいよ、アニ!」


    と本心を打ち明けた。




    安心したアニの笑顔が見れる。


    僕はそう期待した。



    しかし、アニは・・・。


    アニは・・・。





    口を小さく開き、悲しそうな、ショックを受けたような、そんな顔をしていた。



    「アニ?」


    思わずアニに問いかける。



    僕の行動に何かおかしなことがあったのだろうか。



    「違うの・・・。」


    「違うって何が?」



    「ベルトルトのせいじゃないの・・・。本当よ。」


    アニはそう言って、ケーキの箱と袋を僕に渡す。


    「夜にごめんなさい。おじゃましました・・・。」


    「待って!」


    背を向けたアニを呼び止める。


    ライナーの忠告を僕を忘れはしなかった。



    「せっかくだから送っていくよ。女の子が夜中に一人で帰るのは危ないから。」



    「・・・ありがとう。」


    背を向けたまま、アニはそう答えた。
  72. 72 : : 2014/10/16(木) 23:42:29


    雨もあがっていた。


    話すきっかけもできた。


    なのに僕たちは会話を交わすことなく、黙々と歩いている。





    僕は何となく、エレンと二人で歩いたあの夜を思い出していた。



    あの時も話す時間よりも、静かに歩いている時間の方が長かった。


    でも違うのは、出会って数ヶ月の同性ではなく、幼い頃からの付き合いの異性と一緒に歩いている、ということだ。



    思いつめたように俯いているアニに無理に話しかけるのは、とても勇気が必要だった。


    また何かしらのきっかけが舞いこまないといけないような感じだった。



    僕が下を向いて、ポケットに手を入れた時。


    アニがポツリと口を開いた。



    「夏祭り・・・近いね。」


    電柱に貼ってあるチラシを見てのことだった。



    「久しく行ってなかったよ。」


    「私も。」



    幼い頃は三人で行っていた。


    しかし、いつだろうか。


    三人でお祭りをまわっているところをクラスメイトに見られ、アニがからかわれた。


    その頃から。


    三人でまわることがなくなっていった。



    一度、ライナーと二人だけでまわったことがあるけど、とても味気なくてやめた。


    アニはやはり、僕らの花だった。




    「・・・ねぇ、よければ神社をみていかない?もののついでだし。」



    「・・・いいわ。」



    もうチャンスを逃しはしない。


    でも焦ったりもしない。


    逸る心を僕は懸命に抑えた。




    ・・・


    二人、肩を並べて歩く。



    エレンが教えてくれなければ、アニと同じように足が浸かる水溜まりは、前と同じ場所にできていた。


    話題にあげてもよかった。


    でも、僕らはそれをしなかった。



    あげたところで、それは結局エレンに行き着き、ひいてはエレンとアニの二人のことに行き着くから。


    僕からも、そしてもちろんアニからも。そんな話題をあげることはなかった。




    器用に水溜まりを避け、少し歩く。



    子どもの頃と少しも変わらない神社がそこにあった。


    僕らは鳥居の前で立ち止まった。



    夏を感じる、湿った風がアニの髪をなでた。




    「変わってないね。」


    「そうね。ここは変わってないわ。」



    「ライナーと僕たちとでよく遊んだね。アニは憶えてる?」



    「忘れるわけないよ。」



    「あの頃は楽しかった。」



    「私も・・・。」




    「アニ・・・」
    「ベルトルト。」


    ほぼ同時に口を開く。



    「先に言って。」


    「アニが先でいいよ。」


    「先に言って。」


    アニの言葉に意思を感じた僕は、すぅっと息を深く吸うと、勇気を持ってこう切り出した。



    「アニ・・・。今年の夏祭り、二人でまわらないかい?」



    「・・・。」


    アニは押し黙り、俯いていた。




    僕は待った。


    アニの返事を。


    もしダメならば、それはその時だった。
















    「・・・いいよ。」



    ポツリとアニは応えた。




    やった!と僕は声をあげたかった。


    でも気恥ずかしさもあり、それは押さえた。



    「なら、まだ先のことだけど、夜の7時半にここに集合でいいかな。」


    「うん。いいよ。」




    「楽しみにしているよ。」



    「・・・そうね。」



    緊張でもしているのか。


    アニはいつも以上に口数が少なかった。



    その雰囲気に飲まれ、僕らはそれっきり会話をしなかった。



    そして、アニの家の近くまで来ると、




    「ここでいいから。・・・おやすみ、ベルトルト。」


    アニはそう言って僕のそばを離れた。



    「お休み。またね。」


    僕は微笑んで手を振る。




    アニは小さく頭を下げ、


    「さようなら。」


    と言って家に入って行ったのだった。
  73. 73 : : 2014/10/18(土) 00:02:38


    「・・・さようなら。」


    玄関の扉を閉めた私は、小さくその言葉を繰り返す。


    冷酷な言葉を私は吐いてしまった。


    背中を扉につけて、力なく私はうなだれる。






    何でこんなことになってしまったのだろう・・・。


    どこで間違ったのかしら。



    分からない・・・。



    ベルトルトの笑顔を思い出すたび、胸がズキリと痛む。



    あの優しい笑顔を見るたび、私の中に罪悪感が湧いてくる。



    私には、優しくされる資格なんてない。私は悪人・・・。









    「アニ?もう帰ってきたの?」


    お母さんがリビングから顔を出す。




    「う、うん。ただいま。」



    「せっかくだからゆっくりしていけばよかったのに。お風呂どうする?」




    「・・・いい。寝汗かくから明日の朝、入るわ。」




    「そう?」


    お母さんはそれだけ言うと、ゆっくりと顔を戻し、リビングへと帰っていく。



    私はそれを見届けると、階段を上がり、自分の部屋に入る。


    そしてベットの上にうつ伏せに倒れこんだ。



    枕に顔を埋め両手で握りしめる。





    「さいてい・・・。」


    呻くように呟き、私は今日のことを思い出した。





    ・・・


    ・・・






    エレンの笑顔を見てから、私の心が弾むようになった。



    また見れる。


    その時を私は密かに心待ちにしていた。



    エレンとの共同作業は息が合っていたし、テキパキ仕事をこなす私の姿を見ていて欲しかった。




    クラス委員として、いつでも気兼ねなく話すことができるのも嬉しかった。



    他の女の子たちには無い。私だけの特権。



    エレンは優しいことも知った。


    水溜まりに気づかず、靴下を濡らした私をエレンは気遣い、家にあげ、洗濯をして、飲み物まで出してくれた。


    男の子一人の家の割りには綺麗にしているのも、とても嬉しかった。



    借りてきた猫のように小さくなっていたけど、心はドキドキと大きく鳴っていた。




    私の生活にも張りができてきたのを感じていたのだ。




    そして今日の帰りのこと・・・。





    いつものように日誌を届けに職員室に向かっていた。



    ふと私は雨の降る窓の外を眺めた。


    校庭に向かって色とりどりの傘の群れが歩いている。



    その中で何故、その二人を見つけられたのか私にも分からなかった。


    でも私は見た。



    エルヴィン先生とハンジ先生が同じ傘の下で寄り添って歩いているのを。


    歩を止めて、二人の歩みを目で追っでいた。



    ハンジ先生は笑っていた。


    いつものあの豪快な笑いではない。


    好きな人と一緒に笑う、そんな笑顔だった。





    「・・・そんな顔もできるんだ。」


    私はそう呟いた。




    最後にハンジ先生とお弁当を食べた日を思い出す。



    何を食べるかよりも、誰と食べるか。


    誰と過ごすか。



    私も過ごす人が変われば、あんな笑顔を見せることができるのかな。



    エルヴィン先生の机に日誌を置いて帰ってもよかったけれど、雨はまだやみそうになかったから、それまで時間を潰そうと私は教室に戻った。
  74. 74 : : 2014/10/21(火) 12:47:36


    雨足が弱まるまで教室で宿題でもやって過ごす。




    一時間ほどした頃だろうか。


    雨が少し弱くなった。



    宿題で一箇所わからないところがあり、エルヴィン先生についでに質問できるならしようと職員室に再度向かう。





    自席で先生はコーヒーを飲んで一息ついていた。





    「先生。」


    後ろから声をかける。




    「やぁ、レオンハート君。」


    いつになく先生は上機嫌に見えた。





    「何か良いことでもあったんですか?」



    「うん?そう見えるかい?」


    こくりと頷くことで答える。




    「いや、教育者が身近にいるってことを再認識できて嬉しいんだよ。」





    「・・・ハンジ先生のことですか?」




    「・・・よく分かったね。ハンジ先生と最近お話できたのかい?」



    「いえ・・・。たまたま一緒に歩いているところが見えたので・・・。」



    「そうか。障子に目あり、だな。」



    そう言いつつも先生は特に気を害した訳でもなさそうだった。





    「ハンジ先生はどんな様子でしたか?」


    日誌を渡しながら、それとなく尋ねる。



    「うーん。別にいつも変わりなさそうだったよ。ただ、いつも以上にニコニコしていたかな。それと・・・。」



    「それと?」




    「”もう逃げないから”。そう呟いていたよ。それ以上は詳しく話してくれなかったけどね。」





    ・・・もう逃げないから、か。



    私はその言葉を心の中で繰り返す。





    「レオンハート君は、もしかしてわざわざ日誌を手渡すために残ってくれていたのかい?」


    はっと我に帰る。


    「い、いえ。宿題で一つ分からないところがあったので、雨宿りをするついでに質問しようかと。」



    「そうか。いいことだ。どこが分からなかったんだい?」




    ここです、と持ち出すと、ものの数分教わっただけで、するすると不明な点が氷解した。




    「ありがとうございました。そろそろ雨足が弱まりそうですので、お先に失礼させてもらいます。」



    「うん。気をつけて帰るんだよ。先生もそろそろ部室に顔を出そう。フーバー君に留守番をさせているからね。」






    ・・・ベルトルト。



    私をこのところ気にかけるような視線を送っているのは感じていた。




    エレンとクラス委員の仕事をやっている時は楽しいけれど、帰る時や一人でクラスにいるのは、やはり寂しかった。



    遠くから見守ってくれていることに感謝を感じつつも、エレンと話す時にはそれを心に押し込めていた。




    いつまでも頼っていては良くないから・・・。






    「では、私はこれで。失礼します。」


    淡白にそう先生に告げて、私は教室に戻る。



    鞄を手に取り、昇降口に向かうも雨はまだ降っていて、歩いて帰るにはまだ少し難しいように見えた。





    空を見上げて待っていた時、私の傍に来てくれた人がいた。



    それがベルトルトだった。
  75. 75 : : 2014/10/30(木) 20:00:17


    「あ・・・。」




    こうやって面と向かい合うのは、あの日以来だ。




    勝手に私が避けていたから・・・。








    穏やかに笑いながら近づくベルトルトの顔を見ると、途端に罪悪感がこみ上げてくる。




    幼い頃から、あんなに私のことを気にかけてくれたベルトルト。



    それを余所に、会って数ヶ月のクラスメイトに心が揺れるなんて・・・。




    うつろう自分の心をひっぱたいてやりたい衝動にかられる。





    ベルトルトの変わらぬその笑顔が救いだった。








    「・・・急な雨だったね。」




    「うん・・・。おかげで傘を忘れちゃったよ。」




    「そうだね。でも、優しい雨だね。」




    「涼しくて、気持ちいいわ。」







    こんな掛け合いも、本当に久しぶりだった。



    雨の情緒を感じながら、少しずつ、私は以前の感覚を取り戻したかった。






    次の言葉が来ると思っていた矢先。





    ベルトルトは言葉ではなく、手に持っていた傘を私に差し出した。







    「大丈夫よ・・・。やむまで待つから。」



    これは私の本心だった。雨足が弱まってきたとはいえ、傘なしで帰るにはちょっと難しい雨量だった。






    「お母さんが心配するよ。それに僕は予備があるから遠慮なくてしなくていいよ。」




    「でも・・・。」




    私はもっと話したかった。やむのを待ってもよかったのに。





    「受け取って。そうでないと僕が帰れない。」



    優しくベルトルトは言った。



    私は受け取らざるをえなかった。




    私が傘を受け取ると、ベルトルトは折り畳み傘を開き、「じゃあ、またね。」と優しく言うと、振り返らずに校舎の外へと消えて行った。







    一人、昇降口に取り残される私・・・。




    せっかくの会話をもっと大事にしたかった。




    膨らんだ心の風船が、少しずつ萎んでいくのを私は感じていた。







    「まだ降っているね。」



    「わたし梅雨って嫌いだわ。」





    下駄箱に女生徒がちらほら見え出した。



    よく見れば、彼女らは私のクラスメイトだった。




    なんとなく私は彼女たちの視界に入らないように角に隠れる。



    あまり仲良くない女の子たちと同じ軒下で過ごすのは憚られた。







    「なんだ。まだ残っていたのか。」




    聞きなれた、ぶっきら棒な声。



    顔を半分だけ覗かせると、エレンが二人のクラスメイトの前に立っていた。





    「突然の雨だったもんな。これ、使うか?」



    エレンは傘立ての中から、大き目のビニル傘を取り出し、彼女らに差し出す。





    「きゃー!いいの?いいの?!でも、エレン君濡れちゃうじゃん。」




    「ああ・・・俺は・・・。」



    エレンは宙を仰ぐ。



    そして間を置いて、




    「・・・俺は予備があるからいいよ。ほれ、使えよ。」



    そう言って女の子たちに渡した。




    「エレン君やっさし~い!ありがとね!」




    ひらひらと手のひらを泳がせて、女の子たちは相合傘をして校庭にくりだした。




    エレンは彼女らを見送ると、はぁ・・・とため息を吐き、







    「雨・・・止むまで待つか。」



    そう呟いた。

  76. 76 : : 2014/10/30(木) 21:00:24


    エレンはまだ私に気づいていなかった。



    空を見上げるエレンの瞳は、黒く・・・深く・・・そして澄んでいた。




    整った鼻筋。


    艶やかな頬。



    シャツからちらりとのぞく色っぽい鎖骨。




    しだいに私の鼓動が早くなっていく。



    吸い寄せられるように私はエレンの前に姿を現してしまった。



    エレンと目があったときに、自分が何をしたのかを知り、驚いたほどだ。



    「何だ、そこにいたのか。」


    エレンはそれだけ言うと、また空を見上げた。



    私はエレンの隣に並ぶ。





    「どうして嘘をついたの?」




    「うん?あぁ・・・見てたのか。別に意味はねえよ。ただ・・・。」



    「ただ?」



    「あいつらには、待っている親がいるだろ。だからだよ。」




    胸が・・・きゅんとするのを感じた。



    少しさみしそうにする目。



    その目に、私の心はまた揺れた。










    「・・・ねぇ。」










    「なんだ?」











    「一緒に帰ろうよ。」











    「傘は?」








    「私のを使えばいいよ。」











    「悪いだろ。」









    「いいの。この前のお礼。ここでさせて。」












    「・・・いいぜ。」








    私は水色の傘を開く。




    エレンは私の鞄を持ってくれた。





    「行こ。エレン。」




    エレンの背は高く、腕を伸ばす必要があった。





    だけど。



    エレンは頭を少しだけ下げて、私の負担にならないようにしてくれた。




    このまま、他の人なんていなくなってしまえばいい・・・。





    一瞬そんなことを考えるくらい、私の心は満たされた。
  77. 77 : : 2014/10/31(金) 00:51:36
    エレンとの帰り道。



    何を話したか、ほとんど覚えてなんかいない。



    ただ。





    エレンも、私も、笑っていた。



    それだけは覚えていた。





    もっと家が遠ければよかったと思えたのは、人生で初めての経験だった。




    エレンを家まで送り、手を振って別れる。





    心臓が高鳴ったまま家路を辿る。




    玄関を開けて、いつもより陽気に「ただいま!」と声を上げる。




    奥からお母さんが怪訝そうな顔をして出てきた。














    「アニ?今日、傘持っていかなかったでしょ?誰かに傘を借りたの?」




    「あ・・・。」




    その時やっと・・・私の顔から笑顔が消えた。





    そしてじわじわと、私のしてしまったことの重大さを感じていた。








    私は・・・ベルトルトに借りた傘でエレンと・・・。







    「その傘、だれの?」




    「う・・・。べ、ベルトルト。」




    「あらぁ、悪いことしちゃったわね。フーバー君濡れなかったかしら。」




    「お、折りたたみ傘、持ってるから大丈夫って貸してくれたの。」





    「あら。だったら一緒に帰ってくればよかったのに。知らない仲なんかじゃないんだから。ちゃんとお礼しておきなさいよ。お母さんからもお礼言っておくから。」




    お母さんはそう言うと、スリッパの音を立ててリビングへと消えた。






    玄関に傘から垂れた水が広がっていく。



    まるで私の罪悪感のように・・・。





    ふらふらと部屋に上がり、椅子に座って俯く。






    感情に身を任せたとはいえ、あれは・・・。





    自分が浅薄な人間であることに直面し、私は頭がくらくらした。




    いや。私はそんな人間ではない。



    たまたまエレンのあの笑顔を見たせいなのだ。



    エレンだけが原因ではない。



    別の人にも同じことをすれば、きっとその時もドキッとするのだ。




    そうでなければ・・・。



    それはつまり・・・








    私はぶんぶんと頭を振る。



    その先は分かっていた。だけど認めたくなかった。



    私は、長い付き合いの幼馴染よりも、つい最近知り合った人に靡くような底の浅い、恩知らずではないはずだ。




    それを確かめないと。



    すくっと立ち上がり、リビングに降りる。



    雨はまだ降っていた。


    せっかく借りた傘をまた濡らすのは忍びない。



    夕飯を食べ終わる頃には雨はあがりそうだった。



    家庭科室でエレンにやったことと似た状況を作って確かめる。



    他ならぬ、私の心を。




    今夜、私の気持ちが決まる。



    緊張で、夕飯の味はろくに分からなかった。
  78. 78 : : 2014/11/02(日) 03:02:54


    雨はあがった。




    夕飯の後、お母さんに行く先を告げて家を出る。手には傘を持って。





    最初は、近所にあるケーキ屋さん。




    子どもの頃からよく通っていたお店だ。





    お母さんに手を引かれ、初めてこのお店に入ったことを思い出す。



    あの頃はまだ・・・。









    ガラスケースに並んでいる色とりどりのケーキに心が奪われそうになるも、私は一つのケーキを指定する。




    エレンに食べさせた、あのケーキと同じものを・・・。






    ケーキ入りの箱を詰めた袋を私に手渡す、女性の店員さんの笑顔が眩しい。




    でも、次に私が向かう場所は・・・。






    心が落ち着かない。




    歩みも心なしか遅くなっていた。




    それでも私はそこに行かなければならない。





    私の幼馴染・・・ベルトルトの家へ。











    見慣れた街路。



    見慣れた交差点。




    見慣れた彼のお家。






    チャイムの前で私は佇む。ボタンを押すのが怖かった。




    近所に住んでいるのであろう通りすがりの人が訝しそうに私を眺める。




    ずっとこうしている訳にもいかない。




    胸の嫌な鼓動を感じながら、私はチャイムのボタンを押した。











    「・・・はい、どなたかしら?」



    声の若い、ベルトルトのお母さんだ。





    「レオンハートです。夜分にすみません。ベルトルト君・・・いますか?」





    「あらぁ!アニちゃん。久しぶりねぇ。ベルトルト?いるわよ。ちょっと待っててね、今呼んで来るから!」








    ・・・こわかった。




    待っている間、私の心はぶるぶると震えていた。




    ベルトルトのお母さんの、いつもと変わりない優しさが却って辛かった。



    何も変わっていない中、私だけが変わってしまったような気持ちにおそわれた。




    俯いてベルトルトを待つ。






    そして。







    玄関の扉が開き、ベルトルトが姿を現す。






    「やぁ、アニ。こんばんは。雨、あがったね。」






    “気をつかわなくていいよ”と、口では言わないけれど顔にそう書いてある。




    その気遣いが辛かった。





    「うん、そうだね。」




    淡白に私は答える。




    胸が痛むほどに鼓動が高まる。




    でも。







    『もう逃げないから』





    俯いた顔をゆっくり上げ、私は話を切り出した。


  79. 79 : : 2014/11/02(日) 13:46:27
    「これ・・・ありがとう。本当に助かったの。」






    私が雨に濡れずにすんだこと。



    エレンと一緒に帰ることができたこと。




    二つの意味の“助かった”。




    含みを持たせたこの言葉を、顔色を変えずに使っている自分に吐き気を覚えた。







    「これくらい、何てことないよ。アニが濡れなくてよかった。」




    「うん・・・。」





    当然、ベルトルトはエレンとの事を知らない。






    私は辛かった。ベルトルトのその純粋さが。






    ・・・。



    言葉が詰まる。





    幼稚園の時。小学生の時。





    ベルトルトの背中に守ってもらっていた日々が甦ってくる。




    何もこんな時でなくていいのに・・・。





    私はベルトルトのことを・・・どう思っていたの?




    昔から、今日まで。




    私にとってベルトルトはどんな存在だったの?




    唇が震えそうになるのを懸命に堪える。




    そして・・・









    「ベルトルト・・・。これ、食べてほしいの・・・。」




    終わりに導く言葉を私は搾り出す。







    エレンの時と同じ気持ちになればいい。




    ならないとダメなんだ。










    「そんな。お礼なんていいのに。」




    ベルトルトはクスクスと笑っている。







    違うの、ベルトルト。





    そんな簡単なことじゃないの。





    笑い事なんかじゃないの・・・。







    「食べて・・・。」





    私は怖かった。ベルトルトの笑顔を見て、エレンの時のような感情が湧かなかったら・・・。




    私は・・・





    私は・・・








    フォークでケーキを一口大に切って、ベルトルトの口に運ぶ。






    そう。あの家庭科室で私がエレンに行ったのと同じように・・・。







    お願い・・・






    お願いだから・・・







    同じ気分にさせて・・・

























    「とても美味しいよ、アニ!」





    満面の笑み。本心からの嬉しさ。






    長い付き合いだから分かる。




    この笑顔は作ったものなんかじゃないってこと。








    だったら・・・





    だったら・・・


























    ど う し て、エ レ ン の 時 み た い に 私 の 心 は と き め か な い の ?


















    ・・・違う。







    違うんだ。







    同じ場面でも沸き起こる感情は違うんだ。









    ベルトルトとエレンへの『想い』は違ったんだ・・・。






    私は・・・あなたのことを・・・








    「アニ?」




    ベルトルトが心配そうに話しかける。




    「違うの・・・。」





    ベルトルトは何も悪くない。






    「違うって何が?」




    「ベルトルトのせいじゃないの・・・。本当よ。」





    違ったのはただ一つ。





    私の想いだけだった。







    「夜にごめんなさい。おじゃましました・・・。」




    もう逃げたい。ここから去りたい。




    だけど・・・





    「せっかくだから送っていくよ。女の子が夜中に一人で帰るのは危ないから。」




    ベルトルトは帰してくれない。





    その優しさをもう無下になんてできっこない。





    私は、糸の切れたマリオネットのようにうな垂れ、力なく彼に従うしか、もうできなかった。

  80. 80 : : 2014/11/02(日) 14:59:45
    会話なんてできるはずもなかった。





    胸の痛みは去り、そして自分でも驚くほど、気持ちが冷めていくのを感じていた。






    二人で過ごした思い出さえも遠い。








    ふと電柱を見る。





    夏祭りのチラシ。







    二人でよく遊んだあの神社。



    ライナーも私たちのことを少し離れた所から笑って見てたっけ。







    あの大きい樹もそのまま残っているだろう。





    あそこで、ベルトルトに帽子を取ってもらったこともあった・・・。







    「夏祭り・・・近いね。」





    ベルトルトたちと遊んだ一番古い記憶。




    始まりの場所。





    この場所が・・・ふさわしい。






    「久しく行ってなかったよ。」




    「私も。」






    3人で一緒にいるところをからかわれて以来、行ってなかったよね。








    「・・・ねぇ、よければ神社を見ていかない?もののついでだし。」




    「・・・いいわ。」






    こういうのを餞別っていうのか。




    思い出の地を巡るのも、悪い気はしなかった。







    途中、あの広い水溜りに出くわす。




    特にベルトルトに、あの日の顛末を話す必要なんてない。



    私たちは無言で通り過ぎる。






    そして神社の前に。




    やはり、あの木はあの春の日と変わらず、そこに佇んでいた。




    ベルトルトも、ライナーも、周りの大人たちも、ここも変わっていない。




    変わったのは・・・







    「変わってないね。」



    「そうね。ここは変わってないわ。」





    変わったのは私だけ。






    「ライナーと僕たちとでよく遊んだね。アニは憶えてる?」




    「忘れるわけないよ。」




    「あの頃は楽しかった。」




    「私も・・・。」





    本当に・・・あの頃は・・・楽しかった。




    でも、もう。今は。




    「ベルトルト。」
    「アニ・・・」





    同時に互いの名前を読んだ。




    私は、ここでしめにしてもよかった。




    でも、ベルトルトは未来のことを言おうとしているようだった。




    私からは言えない。




    「先に言って。」



    「アニが先でいいよ。」



    「先に言って。」






    ベルトルトは少し間を置いた。



    彼の意思を確認する。








    「アニ・・・。今年の夏祭り、二人でまわらないかい。」









    二人で・・・か。










    私は思案した。









    確かに、今ここでなくてもいい。






    気持ちの整理もしておきたかった。














    思い出の地で、思い出を終わらせる。






    なんでこんなにも冷酷なことを考えられるのだろうかと自問自答する。






    ショックと疲れで頭が回っていないのだろう。





    およそ一ヶ月以上は時間がある。






    だから





    「・・・いいよ。」





    そう私は答えた。





    その後、2,3つ問答があったような気がした。




    だけどよく覚えていない。







    私の家の前までベルトルトは送ってくれた。





    そこまでしてくれたベルトルトに・・・私は・・・





    「さようなら。」



    そう告げた。




    またね、じゃない。




    さようならを。






    自己嫌悪になりつつも、頭は冷えていた。





    あと一ヶ月・・・。






    あと一ヶ月なんだ。







    自室で枕に顔を埋めながら、私の目は光彩をなくし、沈んでいった。
  81. 81 : : 2014/11/03(月) 23:25:27



    ・・・



    ・・・





    アニを送り届けた後、家に戻って携帯の電話帳を検索する。






    「この番号を生徒に教えるのは、君が初めてだ。」




    エルヴィン先生が僕にそう言ってくれたのを昨日のように憶えている。






    今は、夜の10時。



    電話をするには、非常識と言われないまでも遅い時間帯だ。





    でも、どうしても。今日、先生に電話をしたかった。










    プルルルルル



    プルルルルル






    「・・・フーバー君かい?」




    いつもと変わりない、穏やかな声。







    「先生、夜分に申し訳ありません。今、大丈夫ですか?」





    「あぁ、構わないよ。電話だなんて珍しいね、どうしたんだい?用事は無事済んだのかな?」





    「はい、おかげさまで。実は折り入ってご相談がありまして。」





    「相談・・・?」





    僕は電話を握りながら大きく息を吸う。




    ずっとずっと作りたかったもの。








    アニの・・・



    あの春の日の・・・



    僕がアニを好きになったあの笑顔・・・










    「描きたい絵があるんです。それもあと一ヶ月で。」








    「ほう・・・。どんな絵だい?」






    「帽子をかぶって、笑ってこちらを見上げる女の子の絵です。」








    「・・・。」





    先生は電話の向こうで黙っている。




    そして、







    「ずっと準備をしてきていたものだね。やっと打ち明けてくれたか。」



    そう穏やかに言ってくれた。






    「・・・はい。遅くなってしまい、申し訳ありません。でも決して二の足を踏んでいたわけではありません。いつも描こうと思っていました。」





    「そして今日、その覚悟ができたって訳だね。」




    電話越しだけど、先生が微笑んでいるのが分かった。





    「はい。」



    僕は意思を固めたようにそう答えた。




    チャンスをもう逃しはしない。



    逃げたりもしない。




    僕は、夏祭りの日にアニと向き合うんだ。






    「悔いの残らない作品にしなさい。君ならできる。応援するよ。でも・・・」



    「でも?」











    「夜更かしは駄目だよ。いい作品はいい睡眠から生まれるんだ。」





    「はい!」




    僕と先生は笑いあった。





    そしてそれ以上は語らず、僕たちは携帯を切り、眠りについた。









    それからの僕は毎晩遅くまで絵を描き続けた。



    学校にいられる時間も限られているから、時には家に持ち帰って描いたりもした。




    土曜日も日曜日も。






    だけど、勉強の方も疎かにはしなかった。




    夏祭りの前には期末試験がある。




    成績を落とすわけにもいかなかった。






    時には授業中に睡魔に襲われることもあった。




    こっくりこっくりと頭が下がり、その度に頭を振って授業についていくようにもしていた。







    ずっと前から思い描いていたモチーフ。



    だから筆の進みは速かった。




    色使いもイメージできていた。






    エルヴィン先生も感心する筆の速さ。







    僕は、この絵をアニに見せるんだ。



    夏祭りに自分の思いの丈を伝える。




    体は疲れていたけど、心は晴れていた。




    僕は『生』を感じていた。




    そして・・・




















    初夏の陽気を感じる窓辺。




    美術室の椅子に腰をかけ、絵の具のついた筆を僕はぶらりと腕ごと垂らす。





    心なしかこけた頬を風が撫でる。





    自分が静かに息をしていることを感じる。





    僕の眼はずっとその絵を見ていた。








    「・・・できたんだね、フーバー君。」





    僕の後ろにエルヴィン先生が佇んでいた。




    先生も、頬がこけ、ヒゲがうっすらと生えていた。





    僕はにっこりと笑った。



    先生も笑った。






    夏祭りの一日前。







    土曜日の昼のことだった。

  82. 82 : : 2014/11/04(火) 00:19:12


    夏祭りは夕方から始まる。




    道には気の早い人たちが浴衣などに身を包んだのが見える。



    みな、あの神社に向かっていた。







    昨日、美術室で絵を完成させた僕は、その絵を家に持って帰り布をかけてベッドの横に立てかけた。




    そして夕飯もそこそこに睡魔に襲われ、昼の2時まで寝た。









    「日曜とはいっても、随分とお寝坊さんね。」




    お母さんは冷たい麦茶をつぎながらコロコロと笑った。






    「ずっと夜更かしをしているようだったから心配していたけど、もう大丈夫なの?」



    僕に麦茶の入ったコップを出しながら、お母さんはそう訊ねる。









    「心配かけてごめんね。もう、大丈夫だから。」





    「そう?お父さんが“詮索するな”ってお母さんに釘を刺すもんだから何も言えなかったけど・・・。ベルトルトがそう言うならお母さん信じるわ。」




    お母さんはそう言うと、庭に向かい、干していた洗濯物を取り込み始めた。






    僕もそれに合わせて席を立つ。



    こんな頭と顔じゃアニに会えない。






    寝汗でベトベトする体を流しに僕は風呂場に向かいシャワーを浴びた。








    シャワーを浴びながら考える。




    今夜はどんな格好をして行こうか。





    「・・・。」





    シャワーの流れる音を聞きながらあれこれレパートリーを考える。




    だけど結局、僕はラフなTシャツとカーゴパンツの組み合わせで行くことにした。






    下手に気合を入れて浴衣などを来て行って白い眼で見られたくなかったし、何より今日の花はアニなのだ。





    アニより目立っても意味がない。




    風呂場から出た僕は、普段あまりつけることのないヘアワックスを少しつける。




    今日はアニの引き立て役だけど、手を抜いていいわけじゃない。





    陽が沈んでいくほどに、僕の心は高鳴っていった。










    空が茜色に染まる。




    僕はお母さんに「友達と夏祭りに行ってくるから」と告げて家を出た。





    お囃子が、遠くから僕を呼んでいた。


  83. 83 : : 2014/11/06(木) 00:09:47


    日が沈んだ住宅街。



    神社へと導く道の両脇には提灯が紅く、ずらりと連なっている。





    まばらながらも人の波。



    その流れに従って待ち合わせの場所に向かう。





    集合時刻の10分前。



    やや早めの到着だが、アニを待たせるわけにはいかない。







    神社の入り口の階段の脇に立ち、人の波を眺める。






    お母さんに手をつながれた女の子。




    お父さんに肩車された男の子。



    今日だけ特別に許されたお小遣いを持って、友達とはしゃいでいる子どもたち。




    小学校の低学年と見られる子どもたちの中には、男の子と女の子が交じって楽しげに駆けていくのもあった。






    僕にもあんな時期があった。




    アニにも・・・



    ライナーにも・・・












    カラン



    下駄の鳴る音がした。




    右の方を振り向く。






    ちょこんと小さい女の子。




    白を基調とした浴衣に身を包み、髪を上げた姿。




    道行く人がチラリチラリとその娘(こ)を見つめている。





    綺麗だった。




    可愛くもあった。





    しかし何よりも目を引いたのは、その肌の美しさだろう。



    露出の少ない服から覗く肌は白く、艶やかだった。









    「待った?ベルトルト。」




    アニは俯きながら僕にそう訊ねる。








    「ううん、全然待ってないよ。・・・とっても綺麗だね。似合ってる。」




    「・・・ありがとう。」






    ドキドキした。



    うっすら化粧していることが、祭りのほのかな灯りの中で見える。







    「じゃあ行こう、アニ。」




    手をつなぎたかった。



    でも出来なかった。




    あまりにもアニが綺麗だった。




    触れると汚れてしまうような気がするほど・・・今夜のアニは美しかった。
  84. 84 : : 2014/11/10(月) 15:41:23


    露店の灯りが境内を明るく照らす。



    町の中にある神社だから、そんなに広々としているわけでもない。



    それでも、夏の始まりを感じさせる祭りを盛り上げるには充分のお店が広がっていた。





    お面売り場。



    やきそば屋。



    綿菓子。



    焼りんご。






    僕とアニは、境内に並ぶ露店の合間を縫って歩いた。



    何を買うわけでも、見るわけでもない。




    子どもの頃に一緒に回った夏祭りをこうして二人でまた回ることに意義があった。






    「賑やかだね。」



    僕はアニにそう話しかける。




    「そうね。昔のままだわ。」




    「あの頃はもっと神社が広く感じたけどね。」




    「そうだね。」





    「・・・ここだと人が多いから、ゆっくり座れるところ探そうか。」






    「・・・いいよ。」






    神社の外れには水神を祀る小さな池がある。



    そのまわりはお店もなく、人も少ない。




    僕とアニは二人でそこに向かう。




    途中、誰ともすれ違ったりもしない。




    それでもお囃子は聞こえ、お店の灯りも届いているから、特別に暗いとか怖いといった印象は受けない。






    冷たい風が頬をなでる池のほとり。



    あの大きな木が露店の灯りに照らされてシルエットと化している。




    ここからでもはっきりと見える。





    子どもの声も、酔っ払いの声もしない。




    この静かな場所で僕は・・・






    「涼しいね・・・。」






    一言ずつ噛みしめるようにアニに話しかけた。
  85. 85 : : 2014/11/11(火) 01:12:58


    「そうね。」



    アニは星空を眺めながらそう答える。






    「アニは、この池が怖くて僕らがいても一緒にこっちまで来てくれなかったよね。」




    「子どもだったから。」




    アニはくすっと笑う。





    「今でも少し怖いよ。一人だと。」





    「そうなんだ。まぁでも、普通一人で来るところじゃないからね。」





    「そうよね。」










    「・・・。」





    「・・・。」




    俄かに沈黙が流れる。





    一人で来るところじゃないから、アニを呼んだ。



    それをアニも感じ取っていた。







    息が少しずつ荒くなっていく。



    緊張していた。




    でも、ここで何も言わないわけにはいかない。




    僕は拳を握る。





    何度も何度も頭の中で練習してきた言葉。





    言おう。



    言うんだ。




    ここで。






    「ねぇアニ。誰かを見て心が騒いだことがあるかい。その人を見るだけで嬉しく思うことはあるかい。」





    「僕は・・・あるんだ。」













    「・・・。」



    アニは俯いている。




    僕は空を見て、続けた。












    「その娘は小柄だけど華麗で、それを鼻にかけることなくお淑やかなんだ。」





    「真面目で、一生懸命で・・・料理が上手で・・・」





    「時々見せる笑顔がきれいで、かわいくて・・・」





    「さみしい時は、すぐ顔に出るけど声には出さないから、守ってあげたくなる。」





    「そんな娘なんだ。」









    ずっと、ずっと、ずっと心の中であたためていた想い







    「そして、その娘は、今僕の隣にいる。」

















    言え。











    「ねぇ、アニ。僕の気持ち・・・聞いてくれる?」













    言うんだ。



























































    「僕は、君が好きだ。」





















    そう。





    この言葉をずっと伝えたかった。










    僕はずっと、アニが好きだった。
  86. 86 : : 2014/11/15(土) 19:06:19


    さわさわと、夏の夜というのに風が吹く。




    自分の鼓動が耳に響く。









    空を見上げていたアニはゆっくりと僕に顔を向けた。





    そしてこう言った。











    「ベルトルトの口から、はっきりとそう言って貰えて、私嬉しい。」






    アニは微笑んでいた。



    まっすぐに僕の目を見すえて。






    とても綺麗な笑顔だった。








    「それじゃあ・・・!」






    「ねぇ、ベルトルト。」







    僕の言葉を遮るようにアニは僕の名前を呼んだ。






    「今度は、私の気持ち・・・聞いてくれる?」








    『もちろん』と言いたかった。





    だけど、言えなかった。




    まっすぐに僕の顔を見るアニの表情に、僕は言い知れぬ感情を感じ取った。




    気圧されたに近かった。













    「私もね、誰かを見て心が騒いだことがあるの。その人を見るだけで嬉しく思うことがあるの。」





    さわさわと風が吹く。




    アニの前髪が少し揺れた。








    「その人はね、私よりも背が高くて優しいの。」




    「口数はそんなに多くはないけど、一緒にいると安心できる・・・。」





    アニ・・・











    「その人は・・・ぶっきらぼうで目つきが鋭いけれど、一緒に仕事をしていて頼もしく思うし、世話焼きなの。」








    やめてよ









    「時々見せる笑顔が子どもっぽくて、かわいくて・・・。」







    「さみしい時は、ちょっとだけ表情に出るけど何も言わないから傍にいてあげたくなる。」






    「そんな人なの。」









    やめて・・・







    僕はアニから目を逸らす。






    でも、アニは僕を見つめたままだった。









    「私は・・・。その人が好きなの。単なる興味なんかじゃない。その人の傍にいると時が経つのを忘れるの。女に生まれて良かったって思えるの。本当よ。」







    スン




    すするような音。






    僕からも、何かが零れてきそうだった。











    「わたしね・・・。ベルトルトの気持ちが聞けて嬉しいの。これは本当なの。」







    「だけどね・・・。今日の約束をしたあの夜から・・・、わたしはずっとずっと考えていたの。」







    「ベルトルトは、わたしにとってどんな存在なのかって・・・。」






    「そしてね、わかったの。」








    「わたしは、ベルトルトが好きなの。だけどね。これは彼への気持ちと同じじゃないの。」







    「あなたへの気持ちは・・・。恋とか愛とかそういうものじゃないの。これは・・・そう・・・“おにいちゃん”とかを慕う、あの気持ちに近いの。」










    「わたし・・ベルトルトのことを、おにいちゃんのように慕ってた。頼ってばっかりだった。守ってくれて嬉しかった。こんな私を本当に、本当によく守ってくれた。感謝しきれないくらい。」






    「でもね・・・。」





    アニの唇がほんのわずかに震えた。







    「わたしは・・・“おにいちゃん”を好きになれないの。こればっかりは自分に嘘をつけない。




     苦しいけれど、辛いけれど、これは事実なの。だから・・・ここで言わせて。」








    「”おにいちゃん”。いままで・・・ほんとうに・・・ほんとうにありがとう。そして・・・」






    「さようなら。」












    カラン・・・コロン・・・






    アニは下駄の音を儚げに鳴らして去っていく。




    振り向かず。涙も見せず。





    僕はアニの背中を見ることすらも出来なかった。







    祭りのお囃子の下。




    擦れ違う二人。








    僕だけがそこに取り残された。







    誰もいない神社の外れ。









    祭囃子が・・・遠くで、いつまでも・・・いつまでも・・・ないていた。


  87. 87 : : 2014/11/15(土) 20:46:05


    下駄の音も聞こえなくなる。





    あの大きな樹のシルエットに月が重なる。







    夜空を見上げた。





    零れないように。






    ふわりと風が木々を揺らす。




    青い葉が一枚。僕の頭に舞い降りた。





    手を伸ばそうとした時、後ろから風が吹く。




    その葉は風に舞う。





    僕はその葉を掴もうとした。けれど、出来なかった。







    風が、僕の手のひらを通り抜けただけだった。





    青い葉は夜空へと消える。





    月の光へ伸ばす手のひらを見て、僕は悟った。










    僕ははじめから、手に入らないものを望んでいた。




    叶わないものを願っていたんだ。





    掴まえられないものを、ずっとずっと追いかけていたんだ。




    そう・・・






    僕は・・・




    風を・・・






    風を追いかけていたんだ。










    滑稽じゃないか。





    はじめから無理だったんだ。






    風に舞う木の葉のように、僕は勝手に踊っていただけだった。






    唇が震えているのに、僕の頬は笑っていた。





    馬鹿だよね。






    一粒。あたたかいものが流れた。





    それだけだった。








    ・・・




    僕は人並みの間を縫って歩いた。




    その図体のせいで、迷惑そうに見られていても気にしなかった。








    心のどこかで、こうなるのではないかと思っていなかった訳でもなかった。





    だけど・・・いざその結末を迎えるには、僕のこころはひ弱すぎた。






    家の重い扉を開ける。




    ただいまも言わずに部屋に入った。









    ベッドに立てかけてある絵。





    布をはらりと落とすと、つばの広い白色の帽子を被って笑う女の子の絵が広がる。




    モネの「散歩、日傘をさす女性」の色合いをイメージした絵。






    この絵を描くことが全てだった。



    昨日までの僕の集大成だった。





    今まで描いたもので一番の出来だった。






    でも。




    それももう無意味だ。




    この絵のモデルになった娘はもうこの世にいない。




    僕の心の中の幻影だった。




    僕が求めていたものなど、はじめからいなかったのだ。









    ふらりふらりと歩き、自分の引き出しを開ける。




    そしてそこからカッターを僕は取り出し、刃を出した。









    僕は自分自身を殺すことにした。




    昨日までの自分を。












    僕はその刃を絵に向ける。





    そしてバツの字を描くように引き裂いた。







    ためらう力すら残っていなかった。





    アニへの思いを、絵を殺すことで殺した。










    カッターの刃をしまい、机に置く。




    そこには、あの雑誌が載っていた。









    周りに合わせて萎縮するなんて・・・これほど馬鹿馬鹿しいことなんてないのだから。





    あの春の日に、エルヴィン先生が言ってくれた言葉を思い出す。





    昨日までの僕は死んだ。





    ならば・・・















    僕はその雑誌を片手に1階に下り、リビングに向かう。




    心配そうに僕を眺めるお母さんに僕はこう言った。







    「・・・お父さんに伝えてよ。やってみるって・・・。」







    半ば自棄だった。



    だけど自分をもう変えてみようと考え始めていた。





    クラス委員をやると言ったアニのように。





    昨日までの僕は、あの絵と共にもう死んだ。




    僕は昨日の僕と違う道を歩み始めた。
  88. 88 : : 2014/11/16(日) 00:56:32


    ・・・



    ・・・





    通り過ぎる人たちのほとんどが私の顔を見ては逸らしていく。




    憐れみ。




    そう顔に書いてある。






    着飾った女が、独り目を赤くして歩いていたら誰でも何かあったと思うだろう。







    下手糞な学芸会の役者のような振る舞いを私はした。




    たどたどしく頭の中で練習したセリフを吐いただけ。





    でも自分の気持ちに嘘は吐けなかった。







    私は神社の入り口に向かう。



    境内を見る限り、まだエレンは来ていないようだった。





    クラスメイトの男子との会話で、エレンがこの夏祭りに行くことをちらりと話していた。






    今日ならば・・・



    いや。今日でないとダメなんだ。





    気持ちが固まっている時に、大切な話をしておきたかった。





    入り口の近くに立って、人混みを眺める。





    この流れのどこかにエレンがいるかもしれない。




    キョロキョロと忙しなく目を動かす。







    祭りももう半ば。




    少しずつ人の数も減っていく。








    早く会いたい。





    会いたい。




    想いが募っていく。











    エレンの家の方に目を向ける。





    人混みに割れ目ができた、ちょうどその時だった。






    待っていたその人の姿が現れた。





    遠くだけど、すぐに分かった。





    胸が躍る。



    駆け寄りたかったけど、逸る気持ちを抑えた。





    エレンに話しかけてもらいたかったから。








    エレンはこっちに向かって、3,4歩進む。



    彼は私の方を見た。




    私は姿勢を正して向き合う。





    やっぱりエレンは私を見つけてくれた。




    嬉しい・・・。




    そう思ったときだった。







    彼は、ゆっくりと後ろを振り向く。



    間を置いて、彼が出てきた角から、同世代の女の子が出てきた。






    黒髪の綺麗な女の子。



    エレンはその娘に手を伸ばす。




    その娘も手を伸ばす。




    そして二人、手を繋ぎあった。




    二人は笑いあいながらこっちに向かってくる。









    「うそ・・・。」




    私は首を横に振る。






    うそよ・・・。嘘だと言ってよ・・・。





    心のつっかえ棒が外れてしまったように、私は思考の柱を失った。









    そして私の悪い癖・・・




    都合が悪くなると、逃げる癖・・・




    二人から逃げるように、私は神社に背を向けて夜空の下を駆けた。


  89. 89 : : 2014/11/24(月) 15:14:30

    ・・・




    ハァ・・・ハァ・・・





    周りに人もいない住宅街。





    遠くで祭りの灯りがぼんやり夜空を照らしている。






    動揺していた。





    ベルトルトを捨ててまで、私はエレンと結ばれたかったのに・・・。





    私の勝手な横恋慕だった。







    もう・・・こんな私を支えてくれる人などいない。




    守ってくれる人なんていなくなってしまった。






    私が手放したから・・・。









    独りは怖い・・・




    独りは寂しい・・・




    幼い頃、夜道でお母さんとはぐれたときの気持ちを思い出す。




    あの時は泣くことができた。







    今は・・・泣けない。




    泣く資格がない。







    私は・・・残酷な女だから・・・。












    走るのを止め、独り暗がりの中佇む。




    闇が私の心を襲う。




    声を上げて叫びたかった。







    その時。



    祭りの方から、こちらに向かって女の子たちが歩いてくるのが見えた。




    私はとっさに角に隠れ、彼女らに背中を向けてやりすごそうとした。







    浴衣姿じゃなく、Tシャツにホットパンツといったラフな格好を彼女らはしていた。



    仲がとても良いのだろう。




    きゃいきゃいと花が開いたように話している。





    幸せそうだった。






    私には・・・もう・・・そんな笑いは・・・

























    「・・・アニ・・・ちゃん?」






    一人が私の背に向けて問いかけた。





    “ちがいます”。そう答えたかった。




    だけど、この優しそうな声は・・・。





    声を出したらばれてしまう。




    私は押し黙っていた。







    一人が近づいてくる。



    逃げるべきだった。だけど、私の足は不思議と動かなかった。





    ぽんと肩を叩かれる。






    私は首だけ振り向いた。







    先輩のユイさんが心配そうな顔をして、私の肩に手を置いていた。








    「やっぱり・・・。どうしたの?こんな所で・・・。」






    「・・・な、なんでもないんです。たまたまここに居ただけで・・・。」








    「あー!アニちゃんじゃん!!久しぶり!今までどうしてたの?全然こっちに顔出してくれなかったじゃん。浴衣似合ってるぅ!一人?」





    ショートヘアのロイさんは、ここまで喋って『あ・・・』といった顔をする。



    ロングヘアのミホさんが“しまった”といった顔でロイさんの肩を叩く。






    「・・・。」








    ・・・やめてよ。







    どうして私を放っておいてくれないの・・・。




    どうしてそんなに察しがいいの・・・。





    自分がみじめになるだけ・・・。





    私は唇を噛む。











    祭りの囃子が微かに聞こえる。



    提灯も飾られていない、白色電灯の下。






    私を含む4人は誰も言葉を発しない。



    夜の沈黙だけが支配していた。












    ・・・ャーン



    ・・・ニャーン






    気のせいとも思えたが・・・。




    子猫の鳴くような声がする。





    子猫の声は、人間の赤ん坊の声とよく似ている。







    きっとお母さん猫とはぐれたのだろう。



    心細い声で鳴いている。





    今の私と同じ。寄る辺のない身。







    その声のする方へ私は歩を進めようとした。



    助けてあげたかった。
  90. 90 : : 2014/11/24(月) 17:05:08


    そっと。私の右手を誰かが掴んだ。




    優しくて、温もりのある手。








    「アニちゃん。大丈夫だよ。」




    ユイさんがそう言って暗闇の先を見る。




    親猫が草むらに来て、子猫の声のする場所に入っていった。








    よかった・・・。




    私は心の中でそう呟いた。





    あの子には寄り添ってくれる存在がいた。



    無償で寄り添ってくれる存在が・・・。




    私とは違う。















    ポタリ



    固いコンクリートの地面に何かが落ちた。





    いや。分かっていた。




    でも、目を逸らしたかった。








    何故涙がこぼれたのか分からない。






    子猫が親猫に会えた安堵感からなのか。



    比べて私が独りになってしまったことへの喪失感からなのか。






    分からない。




    だけど、この涙は自分だけのものにしておきたかった。








    この期に及んで泣いたって・・・





    許されるわけじゃないから・・・
















    「・・・泣いてるの?」







    私の手を握るユイさんがそう問いかける。










    「・・・泣いてなんかいません。」





    決して顔を見られないように、ツンとして背ける。








    「やさしいのね。あの猫のことを心配したんでしょ?」




    ユイさんが、うふふと笑う。







    やめて・・・




    優しくしないで・・・





    優しくされると・・・








    「私は・・・独りが似合っているんです。だから・・・」




    こんな私を捨てておいて。








    「だから?じゃあ独りにさせる?いやよ。だって、アニちゃんの手は私が握っているんだよ。絶対に離さないわ。」





    「離して・・・」





    「いや。」






    「離してください。そうでないと私・・・私・・・。」






    泣けない






    泣きたい








    「また甘えてしまう・・・。」








    「甘えられて嬉しい人もいるんだよ。例えばここに、3人ね。」






    ユイさんは私を胸に抱いた。





    温かくて、柔らかい。





    氷のように固めていた心が溶けていく。





    氷が水になったように。



    私の目からぽろぽろと涙が零れていく。




    3人は何も言わない。




    でも、3人は私の肩を抱いてくれた。




    あたたかい。









    悲しみの涙じゃない。





    初めて私は・・・





    嬉しくて涙を流した。







    独りじゃない。









    こんな私を包み込んでくれた。








    子ども返りをしたように、幼く泣きじゃくる私と一緒に、3人は泣いてくれた。








    初夏の夜風がさわさわと紅い提灯を揺らしていた。

  91. 91 : : 2014/11/24(月) 18:51:44


    ・・・




    寝覚めの悪い朝だった。



    暑さのせいもある。





    寝癖のついた頭もそのままにベッドをおりる。




    部屋の隅には引き裂かれた一枚の絵。








    夢じゃなかった。




    こんな古典的な考えを、まさか自分がするなんて思ってもいなかった。



    だけど、昨日の夜の出来事はあまりにも密度が濃くて現実味がなかったのも事実だった。





    食堂へ続く階段を下りる。



    いつものように少しだけ頭を下げて。






    洗面所で顔と頭を整える。



    お父さんの歯ブラシが濡れていた。




    相変わらず、忙しい人だと思った。







    食堂に行くと、お母さんがいつものように朝食の準備をしてくれていた。




    僕が入ってきたことに気づくと、「おはよう。」とニコリと笑った。







    「・・・おはよう。」



    僕はやや不貞腐れたように席に着いた。



    ふてぶてしい、と言ったほうが適当なのかもしれない。






    昨日の一件で、少し自棄というか自分のことを大事にしすぎなくなったのか。





    パンと珈琲を僕の前に置くときに、お母さんが目を少し丸くして首を傾げた。






    「なぁに?」





    「う~ん・・・なんだか・・・」




    そして、うふふっと笑うと




    「目・・・。仕事をする時のお父さんの目に似てきたわね。いい男になるわ。」




    と言ってルンルンと流しに向かう。






    お母さんに聞こえないように僕は一言、





    「親ばかって言われちゃうよ。」



    と言って笑った。












    朝食を済ませて制服に着替える。



    鞄を手に持って部屋を眺めると、あの絵が目に付いた。




    心配性のお母さんのことだ。このままにしておけば何事かと思い、色々と気にもむだろう。





    僕はその絵に白い布をかけて脇に抱える。




    そしてお母さんに見つからないよう、静かに玄関に行き、「行ってきます」と告げた。







    夏の高い空を見上げてため息を吐く。



    あのクラスに行けば、嫌でもアニの顔と声を聞くことになる。




    アニもきっと気を使ってしまうだろう。




    気が重かった。










    校門の前に来ると、いつものように飛行場からプロペラ機が飛び立つのが見えた。




    ぼおっと突っ立って飛行機が空に舞う様を眺める。




    制服の人並みが僕を迷惑そうに避けて校舎の中に流れていく。




    校庭を囲むように植えられた桜の木から鳥の音が聞こえる。








    「・・・。」





    僕はまっすぐ教室には向かわずに校舎裏の方へ一人歩いていった。





    美術室から程近い校舎裏。




    生徒の声さえも聞こえない場所。






    ダイオキシンが出るとかでもう使われなくなった焼却炉がここにある。



    もっぱらゴミ捨て場となっているこの場所は、代々美術部が失敗作を捨てていく場所でもある。





    焼却炉の前に立って、はらりと布を下ろすとバツの字に切り裂かれた絵が顔を出す。







    『失敗作』



    とは思っていない。



    だけど、必要なものではなかった。





    思い出も。これまでの経過も。





    無残に裂かれた絵を、敢えて僕はむき出しのまま焼却炉に立て掛けた。







    隠すこともない。



    恥ずかしいことでもない。





    あの絵は、あの夏の夜までの僕の人生そのものだった。




    それは否定することはできなかった。






    始業のチャイムが鳴る。




    僕はその音を聞きながら、白い校舎には入らずに、この青空の下をふらりふらりと歩いていった。

  92. 92 : : 2014/11/24(月) 22:03:14


    校門を抜けると、僕は制服の上着を脱ぎ、Tシャツと黒い長ズボンだけのスタイルとなった。



    この服は、これからの時間を自由に歩くにはあまりにも目立ちすぎると思ったからだ。





    行くあてがある訳でもなかった。




    けれど、何となくこの空に近づきたかった。




    飛行機の舞う、この空に。








    小学生の頃。遠足という名の小旅行で、この街の高台の公園に来たことがあった。



    家から少し遠いから、美術部に入ってからは余り行くことは無かったけれど。





    一人になりたいときや、考え事をまとめるときはその公園に行くことにしていた。






    学校も、飛行場も、住宅街も、神社も一望できる場所だった。






    蝉の音が高らかに鳴っている。





    夏休みのほんの少し前の時期だけあって、平日の朝の公園は人も少なく広々としていた。






    人気席の、街を一望できるベンチにも人は座っていない。





    僕は近くの自販機でお茶を買うと、ベンチに腰をかけ一口飲んだ。






    「はぁ。」




    おいしい。





    素直にそう思った。





    学校をサボっているにも関わらず、何故だか僕の心は晴れ晴れとしていた。






    「そう言えば、今日は期末試験の結果発表の日だったなぁ。」




    ベンチに寝そべって、空を見ながら一人ほくそ笑んだ。








    ・・・このふてぶてしさ。




    何だかうちのクラス委員のようだ。





    でも不思議と悪い気はしなかった。





    ある意味では嫉妬。ある意味では憧れていたエレンに近づいた気がしたからだ。




    成りたかった自分に一歩近づいた。




    たとえ錯覚でも、そう思うこと自体で罰は当たらないだろう。





    僕は木陰の涼しさと風の爽やかさに身を委ねて、目を閉じた。


  93. 93 : : 2014/11/24(月) 22:03:30
    ・・・





    ・・・






    ジャッ







    寝入ったしまったのか。



    一瞬意識が飛んでしまったのだと、その足音で気づかされる。




    近所の人か。それとも、僕のように学校をサボっている不良か。






    どっちでも良かった。




    僕は寝たフリをし、そのまま横になっていた。






    その人は、僕がお茶を買った自販機で同じように何かを買っていた。





    そしてまっすぐにこちらに歩み寄り、僕の頭のすぐ傍に腰をかけた。














    「・・・寝たふりをしたってバレバレだぞ。」





    聞きなれた声。





    しばらく心の距離を感じていた、僕の親友。








    「・・・授業はどうしたの?」






    「抜けた男(ヤロー)が一人でも二人でも変わらねぇよ。勝手に進むさ。」






    「それもそうだね。」






    はははっと二人で笑った。





    久しぶりの感覚。とても心地よかった。







    「・・・しかし、お前らしくないな。何だって急に学校を休んだりしたんだ。アニも来てなかったしよ。」





    「アニも・・・。」




    体を起しつつも、僕はうな垂れた。







    「おかげで担任からは何か知らないかとホームルームの時に質問されて困ったぜ。素直に知らないといわざるを得なかったがな。」






    「・・・絶対、アニなら来ると思ってたのに。」






    「どうしてだ?」






    「会いたい人がいるはずだったから。」









    「・・・。」






    「・・・そうか。」





    ライナーは苦い顔をした。






    「すまん・・・。何もできなかったな。」





    「僕のせいでもあるんだよ。ライナーは僕をきちんと叱ってくれたじゃないか。それを生かさなかった僕が悪いのさ。」







    「だけどね。」



    僕は立ち上がる。





    「後悔はしてないよ。昨日までの僕で、僕は僕のできることをやったつもりだ。結果は結果として受け入れるよ。」





    「うん・・・。」





    「うじうじした自分が嫌だったけど、今はそれも自分の一つじゃないかなって思えている。そして・・・これは自棄になってたこともあるけれど、新しい自分に挑戦したい。」




    「新しい自分?」






    「お父さんの扱っている、ファッション雑誌のモデルさ。勢いに近いとはいえ、きちんとお母さんに伝えたよ。上手くいくかなんて・・・分からないけどね。」





    ライナーは飲み物をベンチに置くと、僕に背を向けて立ち上がった。








    「できるさ。あんな立派な絵を短期間で描けた男だ。そして・・・俺の自慢の親友だからな。」




    「遠まわしに自分も褒めてない?」





    「・・・ばれたか。」




    そう言って、くるりと振り向く。






    「俺も・・・お前に言いたいことがある。お前にだけ言うことだ。」





    僕らは互いに微笑み、そして僕はライナーの次の言葉を待った。
  94. 94 : : 2014/11/25(火) 00:00:32


    「俺の夢。まだ話してなかったな。」




    「ライナーの・・・。」








    「以前、学校に続く坂道でお前が俺に訊いたことがあったな。あの時は俺は答えなかった。」





    「事情がある、と思ってね。」






    「あぁ・・・。」












    「お前、アニの家にあがった帰りに俺ん家に来て、机の写真を見なかったか?」



    「あの人は親父の親友だった人だ。」





    「そして、俺に夢をくれた人だ。」







    ライナーはあの飛行場を眺めた。




    「・・・パイロットだった。俺が物心ついたときにオヤジに連れられて、彼は俺を助手席に乗せてくれたんだ。」




    「初めてのプロペラ機はちょっと怖かったけど、同時に空の楽しさを知ることができた。俺はあの人みたいに空を自在に駆け巡りたい。そうずっと願っていた。」




    「だが・・・」







    「もしかして・・・」



    僕は何となく分かった。あのハンサムな人の『今』が。








    「そう。亡くなったんだ。5年ほど前に。趣味のグライダーでの事故だった。」




    「俺のオヤジには、昔からパイロットになりたいと言っていた。だけど、“親友に続いてお前も失うわけにはいかない”と、それ以来俺にその夢を禁じた。」



    「オヤジの気持ちは分かっている。でもな・・・やっぱり俺は夢を捨てたくないんだ。たとえ、親の想いがどうであろうとも。」






    険しい顔をライナーはしていた。




    こうなった時のライナーは頑固だった。ライナーのお父さんとライナーの顔が被ったのは僕の気のせいかそれとも・・・。









    「でも、どうして今まで僕にそのことを黙っていたんだい?君のお父さんに僕が告げ口すると思ったから?」




    「それは違う。」



    ライナーははっきりとそう言った。







    「お前と・・・アニは、自分で何かを決めて突き進むことが苦手だった。昔からな。大抵はおれが何かを提案して、足りないのを補うのがベルトルトの役目だった。でも・・・」



    「でも?」




    「これからは違う。もう高校生だし、一年後には受験も控えている。自分の人生は自分で決める時期が来ているんだ。同世代の誰にでもな。」




    「俺はお前の兄貴でも何でもない。対等な・・・俺の唯一の親友だ。だから、俺が夢を決めたから、ベルトルトも夢を決めたというような・・・そんな、俺の後を追うような親友の姿は見たくなかった。」








    「だから黙っていたんだね。僕が自分の道を決めるまで。」





    「そうだ。・・・辛かったぞ、お前に相談できないのは。」






    「僕だけが相談できずに苦しんでいたわけじゃなかったのか。」






    僕は恥じた。自分だけが一丁前に悩み苦しみ、他の人はそこまで悩んでいないと心の底で感じていたことを。



    僕の親友も人知れず苦しんでいたんだ・・・。










    「ただ。エルヴィン先生には流石に打ち明けた。自分の進路をな。あの人は俺がこっそり飛行場を見に行っていることを知っていたようだから。」





    「先生と最近よく話していたのは・・・」





    「その相談のことだった。オヤジに内緒にすべきか、大学に行くべきか、お金をどうするか・・・。真剣に聴いてくれた。」




    ライナーは静かにそう言うと、飲み物を2,3口含み、ゆっくりと飲み込んだ。







    「久々に心の内を話すと・・・ちょっと疲れるな。」







    ライナーはベンチに座った。



    僕もライナーの隣に座る。





    誰も邪魔する者がいない、二人の静寂を僕らは微笑みながら楽しんでいた。
  95. 95 : : 2014/11/25(火) 01:16:19

    夏の風を感じる。



    ふと気になったことをライナーに訊く。





    「ライナーは、僕の絵をどうやって見つけ出したんだい?ここに来るまでにそこまで時間がかかってなかったように思えるけど。」




    「あぁ・・・あれはな・・・。」





    ぽりぽりとライナーは頭を掻く。



    あまり見ない行動だ。







    「実は・・・まぁ・・・なんだ。1限目を“腹痛”ですっぽかしてお前を探しに行こうとしていた時にな、下駄箱にエルヴィン先生が居て無言で“こっちに来い”と言われていった先にあったんだ。」





    「・・・先生は“お見通し”だったって訳か。」





    「流石に嫌な汗が出たぜ・・・。あの人には逆らわない方がいいな。」





    あの落ち着いているライナーが冷や汗を垂らす様子は、ちょっと見てみたいかもと僕は思った。








    「先生な・・・。お前の絵を両手で持ってじっと眺めていたよ。素人の俺が見ても・・・見事な絵だと思ったからな。裂かれていたけど。」





    「先生にも無理して手伝ってもらったからね。これは一発怒られるかな。」





    「そん時は、多分俺も一緒だな。」





    そう言って笑う僕らの上を飛行機が飛んでいく。









    「お前は、きっといいモデルになる。アルミンとか隠れファンがもういるからな。今に、外を歩くとサインを要求される身分になるぜ。」




    「やだなぁ。プライベートぐらいゆっくりしたいね。」





    「その様を俺はあそこから眺めるんだ。お前は背が高いから、きっとよく見えるだろうぜ。」







    飛行機雲が描かれた青空を見上げながら、ライナーは楽しそうに笑っている。




    僕も同じ空を見上げて笑う。









    今まで僕は、風を追いかけていた。




    手に入らないものを。



    追うべきものではないものを。











    でも久しぶりに、親友と話して気づいた。




    風は追いかけるものじゃない。







    風は僕らの後を押してくれるものなのだと。






    風を追いかけるのではなく、風が僕らの背中を追いかけてくれるような人間になるんだ。





    風を受けて飛ぶ、あの飛行機のように。








    時には逆風もあるだろう。



    時には風が止むこともあるだろう。





    その時に支えあい、進むべき道に向かって一緒に歩いてくれる人。




    そんな人が本当の友達で、親友なんだと思う。






    それに気づけた今。





    風を追いかけていたあの日々が、何だかとても美しくて、楽しくて、宝石のように輝いていたなと、僕は思った。





    そしてそれはきっと・・・




    アニも同じなんじゃないか。





    僕は・・・そう思ってる。
  96. 96 : : 2014/11/25(火) 01:42:01


    ・・・ ・・・




    ・・・





    彼は一つの雑誌を眺めていた。




    表紙には、今話題の子役と一緒に、190cmはあろうかという背の高い優男がお洒落な服を着て写っている。



    ページをめくると撮影の風景やインタビューの内容が掲載されていた。





    彼はクスっと笑うと、栞代わりにある写真を持ち出す。









    街のとある料理教室での一枚。



    真ん中には金髪で背の小さい、鼻筋の整った女性。



    その周りを14,5人の参加者が囲んでいる。



    特に3人は真ん中の女性にハグをして満面の笑みをこぼしている。







    雑誌をダッシュボードにいれ、計器を確認する。




    窓枠には、ずっと大事にしてきたハンサムな男性の写真。







    イヤホンから無線が流れる。






    「間もなく離陸します。シートベルトをご確認ください、先生方。」




    後ろの席には、絵の具が手に少しついている男性と、メガネをかけた女性の夫婦。





    そして横には、元気な男の子。





    エンジンを起動させると、プロペラがゆっくりと回りはじめる。






    弧をかいて滑走路に行き、水平線に続く線の真ん中に機体をつける。








    「ライナー・ブラウン。これより離陸します。」





    ブレーキから足を外し、加速する。






    その翼は風を受け、遠く遠く、果てしなく広がる蒼空へと飛び立った。



          


       
                                                    - Fin -
  97. 97 : : 2014/11/25(火) 01:55:18
    4作目、執筆終了しました!


    いや~・・・描き始めから8ヶ月・・・。


    形にできて感無量です。



    ストーリーと終わり方は最初の段階で整えていましたが、青春期の微妙な心の描写を行うのにこれほど神経を使うとは思いませんでした。


    物語全体に緊張感をもたせるために、筆者自身が神経をすり減らしてしまうという本末転倒なことが起きてしまいました。


    まだまだ修行が足りません。



    そのせいで、この作品を読んでいた方も遅々として投稿が進まないことにイライラした方もいらっしゃると思います。


    申し訳ありませんでした。





    途中で止めてしまおうかと思った時期もありますが、応援のコメントいただいたことでこうして形にできました。


    本当にありがとうございました!




    この作品を読まれた方が、一文でも一言でも良いので、皆さんの心に残るものがあるならば、私にとってこれ以上の喜びはありません。






    この作品を全ての若人に捧げます。


    ありがとう。


     シュウ
  98. 98 : : 2014/11/25(火) 02:09:40
    執筆お疲れ様でした
    シュウさんがベルアニを書くと言ってから、自分はこの作品を毎回楽しみに読んでました!
    ベルトルトがアニに寄せる想い、アニがエレンに寄せる想い……どこか切ない、けれど辛い現実を乗り越えようとするベルトルトの姿が読んでいて感じ取れました!
    それだけじゃなく、エルヴィンがベルトルトやアニ、ライナー達の事をしっかり見ているのは立派な先生であると思います。実際、こんな良い先生がこれから現実に増えて欲しいと素直に思いました!
    自分が1番に綺麗だと思ったのがベルトルトが告白してからのアニが帰るジーンズですね
    読んでるとアニが『お兄ちゃん』ベルトルトが『好きな人』と想いが違う…けれど二人ともがそれぞれを想っている
    上手く現す事ができませんが、シュウさんの文章力があってこその作品だと思いました
    最後のライナーも格好良くて、ライナー大好きな自分には本当に嬉しかったです!
    長文を書いてしまいました、そして何だか自分が書いた文章が変な気がしますが……
    こんなに素晴らしい作品を読ませて貰えて本当にありがとうございます!
    シュウさんの今後の作品も期待してます!
    お仕事が大変だと思いますが、身体の方を壊さないように頑張ってください♪
    シュウさんのファンとして応援してます!
  99. 99 : : 2014/11/25(火) 18:48:18
    EreAniさんへ



    投稿が終わってから、すぐのコメント本当にありがとうございます!!


    こんなに遅い投稿ペースの作品でありながら最後まで読んでいただいて恐縮です。



    この作品のテーマは「離別」による「成長」ですので、切なさや擦れ違いを感じつつも少しずつ強くなっていくベルアニの様子を感じ取っていただいてとても嬉しく思います!



    エルヴィン先生は良い先生ですよね。自分のことで一杯いっぱいになっている大人が多い中、生徒のことを第一に考え一歩でも二歩でも先を読んでいるエルヴィンは私のかくありたいという理想像でもあるんです。


    彼の言葉の一つ一つが私の先生の言葉です。それだけに感情もひとしおでした。




    夏祭りの別れのシーンは、私の中でもお気に入りのシーンですね。

    書き終わった後にしばらく放心していたのは内緒ですw



    ライナーの出番は少ないですが、ベルアニの兄貴として最後に存在感を残したかったんですよ。




    グループなどで色々あった私ですが、EreAniさんからコメントいただいて本当に救われた気持ちになりました。



    今作が私のSSの最後の作品にしようかと思っていましたが・・・

    EreAniさんの応援を受けると不思議と次回作に意欲が湧いてきました。



    私もあなたのファンです!


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シュウ

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