このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
#5 失う【セレナ続き4】
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- 1 : 2014/02/14(金) 21:30:39 :
- #0生まれる、#1集う、#2いとしむ、#3刻む、#4、想うに続き、6作目の作品を執筆させていただきます。よろしくお願いします。
いよいよ104期生の登場です。
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- 2 : 2014/02/14(金) 21:36:07 :
- 846年、ペトラ、オルオ、セレナの3人は、調査兵団入団を果たし、兵士として飛躍的な成長を遂げる。
850年、第104期訓練兵たちは、解散式を終える。
その後のトロスト区防衛戦において、エレン.イェーガーは巨人へと変身を遂げる。
そしてトロスト区奪還戦にて、巨人化したエレンの活躍により、人類はトロスト区奪還に成功したのである…。
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- 3 : 2014/02/14(金) 21:59:12 :
- ー850年
「…しかし、夢みたいな話だよな…」
「うん…巨人を味方にして、領土を奪い返すなんて…」
ペトラとオルオを含む調査兵団は、先日のトロスト区奪還戦において、壁外調査を終えた後、駐屯兵団工兵部と共に、トロスト区に残された巨人の根絶に成功したのである。
「えっと…何て名前だっけ、その巨人になった子って…」
ペトラの問いに、オルオは皮肉そうに笑い、
「そんなだからお前はその程度なんだよ。俺には分かる、分かるが、それ
をあえて…」
「エレン.イェーガー。」
背後から声がする。セレナだ。
「あ、セレナ。」 「お前、負傷兵の回診はもういいのか?」
「ええ。…みんな、エレン.イェーガーの話でもちきりね。」
調査兵団内では、人間が巨人に変身し、しかも味方になった、という話でもちきりだった。
なんでも今、エレン.イェーガーは兵法会議にかけられているという。団長や兵士長をはじめとする兵団の上層部も、会議に参加している。
「会議の結果次第では…処刑もあり得るでしょうね。」
「やっぱり、巨人は巨人ってこと…なのね。」
ペトラが言う。
「私も人伝に聞いただけだけど…自我を失って兵士に向かって拳を振り上
げたこともあるそうよ。その後自我が戻って岩を運んだみたいだけど。」
「…どっちにしろ、信用するにはまだ早い、という訳か…」
セレナの言葉に、オルオは皮肉な笑みを浮かべる。
「今期卒業の新兵の首席は、歴代でも類の無い逸材だっていうし…どんな
子が入ってくるか、楽しみね。」
セレナも微笑する。
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- 4 : 2014/02/14(金) 22:15:43 :
- そんなとき、本部に1人の兵士が駆け込んできた。息が乱れ、口から唾液が漏れているのも構わず、叫ぶ。
「エ…エレン.イェーガーの調査兵団入団が決定した!」
「!?」 周囲は驚き、色めき立つ。
兵士は、その場に崩れ落ちる様に膝をつくが、報告を続ける。
「リ…リヴァイ兵士長に…監視を任せた…らしい…とっ…特別作戦班を…
結成するって…」
セレナは口元に手を触れ、思案する。
「リヴァイ兵士長をリーダーにして、エレン.イェーガーの監視班を作るつ
もりなんだわ…まだ、完全に信用を勝ち得たわけではないのね。」
「特別作戦班かぁ…」
ペトラは天井を仰ぎ見ながら、
「誰が選ばれるんだろ。」
「フッ、安心しろペトラ。お前はまだ俺の域に達していない…。俺が選ば
れなければお前が選ばれることは…」
得意気にオルオは話していたが、いつの間にか、ペトラもセレナもいなくなっていた…。
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- 5 : 2014/02/14(金) 22:38:23 :
- 翌日、特別作戦班、通称リヴァイ班が結成される。
リヴァイを筆頭に、エルド.ジン、グンタ.シュルツ、オルオ.ボザド、ペトラ.ラルの5名である。
リヴァイ班は、エレン.イェーガーと共に、旧調査兵団本部に集結し、共に生活をし、第57回壁外調査に備える事となった。
さて、ここは本部。セレナは、呆れ顔で目の前の分隊長を見つめていた。ハンジ.ゾエ分隊長である。
「もぉ~~~、ソニーとビーンが手に入っただけではなくて、さらにエレ
ンまで…この感動と興奮をっっ誰が抑えることが出来ようかっ、いや、で
きないっ!」
ずっとこの調子である。セレナはため息をついた。ハンジの話を気長に聞いていられるのは、セレナか、ハンジ直属の部下、モブリットのみだった。
「セレナっ!」
ハンジはセレナの両肩をつかむ。
「……はい。」
「君も実験に参加してみない!?」
ものすごく輝いた目で言うハンジ。セレナは愛想笑いを浮かべ、
「…そう…ですね…時間が合えば…ぜひ…」
「そう言うと思ったよっ!約束だよっねっねっねぇっっ!!」
ハンジはそう言いながら、セレナの肩を揺すりまくる。
目を回すセレナ。
「あの…ハンジ分隊長…そろそろ旧本部へ向かわれては…」
セレナの言葉に、ハンジは手を離し、
「そうだね!じゃ、行ってくるよ!!」
と言うと、ハンジは去っていった…。
(旧…調査兵団本部…私も今度行かなくちゃ…エレン.イェーガーの体調の
チェック…任されてるもんなぁ…)
イスの背もたれにだらりともたれ掛かったまま、セレナは思った…。
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- 7 : 2014/02/15(土) 07:14:29 :
- しかし、事態は一転する。被験体であった巨人、ソニーとビーンが殺害されたのである。
結局無許可で立体起動装置を使い、巨人を殺害した兵士は見つからず、新兵勧誘式を迎え、総勢21名が、第104期調査兵団となった。
「エレン.イェーガーくん…よね?」
旧本部内をオルオとペトラの3人で歩いていたエレンは、背後から呼び止められた。
「はい?」
エレンは振り向く。…見ると、栗色の髪を束ねた、美しい女性兵士が立っている。
「…あなたは…?」
「私は、看護兵のセレナ.ラングレー。あなたの体調管理を任されたの。…
といっても、本部の方の回診もあるから…時々ここに来て、診察させても
らうわね。」
セレナは、微笑する。エレンの顔が、少し紅潮する。
「セレナも大変だよね。看護兵も人手不足だし…」
ペトラは心配顔で言う。セレナは笑って、
「でも…」 ここで、ペトラもいたずらっぽく笑い、
「「エルヴィン団長から指名を受けたから」」
ペトラは、セレナと声を合わせていた。セレナはとまどう。ペトラは大笑いして、
「セレナの言うことなんて、いつも決まってるもの。分かるよ。」
オルオも笑って
「いつもワンパターンなんだよ、お前は。」
そんな3人のやり取りを見て、エレンは言う。
「もしかして…3人は同期なんですか?」
「そうよ。私たち、第100期生なの。もう長い付き合いになるわね…腐れ
縁ってやつかしら。」
ペトラは答える。
「フッ。お前たちが俺の域に達するには、まだまだ手順をこなしてないが
な…」
オルオが言う。一同、沈黙。
「……………オルオってさ、最近、雰囲気変わったよね…」
セレナの言葉に、ペトラは冷たく
「…気にしないであげて。」
と言った…。
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- 8 : 2014/02/15(土) 07:30:09 :
- セレナはエレンの診察を始めた。脈拍、血圧の他、問診もした。
「…気分が悪いとか、そういうことは、ない?」
「はいっ、ありませんっ。」
「昨夜はよく眠れた?」
「はいっ。」
「食事はちゃんと食べれてる?」
「はいっ。」
セレナはクスリと笑い、
「…そんなに緊張しなくていいのよ。」
側についていたペトラが笑って
「セレナに照れてるんじゃないの?」
エレンの顔が赤くなる。
「そんなんじゃありませんって!」
「そうよね。エレンは入団したばかりで、まだ分からないことが多いだろ
うし。」
セレナが言う。
「そう。そうなんです…オレ、本当に自分でも分からないことだらけで…
」
エレンはそう言ってうつむいた。ペトラ、セレナの顔も曇る。
「…申し訳ないけど、私たちもあなたのことに関しては、分かっていない
ことだらけよ。でも、できる限りのことはしていくつもりだから。そう重
く考えることもないわ。」
セレナは言った。
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- 10 : 2014/02/15(土) 07:49:04 :
- 数日後、調査兵団の合同訓練があり、セレナも同行することにした。
訓練の際、エレンは右足を負傷し、セレナの手当てを受けることになる。
「大層なケガをしたものね。あまりはりきるのも、考えものよ。」
セレナは手際よくエレンに包帯を巻いていく。その手早さに、エレンはつい見入ってしまう…。その様子を、遠くから見ていた人物がいた。
こちらに向かって走ってくる…!
「おい、エレン!!」
茶色の短い髪を刈り上げた少年だった。目付きの悪い面長なこの少年は、勢いよくエレンにつかみかかる。
「…ジャ、ジャン、なんだよ!今、訓練中だろ!?」
「今やっと休憩時間になったとこだよ!さっきから見てりゃお前、訓練中
に美人に介抱されてデレデレしやがって!」
ジャンと呼ばれた少年は、エレンを揺さぶりながら、そうまくし立てる。
「ケガしたんだから、しょうがないだろ!デレデレなんてしてねぇよ!お前
と一緒にすんな、この馬面!!」
「なんだとこの死に急ぎ野郎!!」
2人のやり取りを聞き、駆け寄ってきた2人の新兵がいた。
金髪の髪に、青い瞳をした少年と、黒い髪をなびかせた、美しい少女だった。
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- 12 : 2014/02/15(土) 08:19:24 :
- 「やめなよ、2人とも!」
金髪の少年が、2人をなだめる。
「どうしたの、エレン…ケガしたの?」
黒髪の少女が、心配そうにエレンにたずねる。
「ん?…あぁ。大したことねぇよ。そんな心配すんなよ、ミカサ。」
ミカサと呼ばれた少女は、セレナの方を見、
「…エレン、この人は?」
ミカサの質問に、セレナが答える。
「私は看護兵のセレナ.ラングレー。エレンの体調管理も任されているの。
よろしくね…えっと…」
「ミカサ.アッカーマンです…」
ミカサが答える。続けて金髪の少年が
「僕は、アルミン.アルレルトといいます。」
そして、ジャンはエレンを離し、
「ジャン.キルシュタイン…です。」
ミカサは、素早くエレンのそばに寄る。セレナは今一度、エレンの足の状態を見て、驚く。
「すごい…もう治りかけてるわ…」
そしてミカサに向かって微笑みかけ、
「大丈夫。すぐに良くなるわ。」
と言う。ジャンは再びエレンの両肩をつかみ、
「…お前、本当に頼むぞ。分かってんな?」
エレンはふと、ジャンから目をそらし、
「ああ…分かってるよ…」
「あ、みんな、そろそろ訓練が始まるよ。」
アルミンが言う。ジャン、ミカサ、アルミンは、訓練へと戻っていく。
3人の背中を見送りながら、セレナは言う。
「あなたも…良い仲間に巡り会えたのね。」
その言葉に、エレンも3人の背を見ながら、
「…はい。」
と、答えた。
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- 13 : 2014/02/15(土) 08:31:30 :
- そして…運命の日が来る…。
「開門始め!!第57回壁外調査を開始する!前進せよ!!」
その後、右翼索敵班、女型巨人が率いる巨人たちに襲われ、壊滅。
女型の巨人、エレンら中央荷馬車護衛班を追走。
リヴァイ班、女型巨人と遭遇する。
そして…
「片目だけ!?片目だけ優先して早く治した!?そんなことができるなん
て!!」
「ペトラ!!早く体勢を直せ!!」
「ペトラ!!早くし…」
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- 14 : 2014/02/15(土) 08:44:34 :
- 「重傷者を最優先!!自分で動ける者は各自荷馬車へ移動して!」
撤退命令の後、セレナは必死に負傷者の対応にあたっていた。思ったよりも、負傷者は少なかった…多くの兵が、死亡したからである。
しかし、一刻を争う重傷者もいる。看護兵もやられている。セレナも体にキズを負い、完全な状態ではなかったが、まだ動くことができる。
やるしかない。…もう、辛い選択はしたくない。一生懸命やろう。
ペトラが自分を信じてくれているのだから。
つかの間の待機の後、カラネス区へと帰還するため、移動を開始する。移動の際の震動も、負傷者にとっては大きなリスクだ。
セレナは、重傷者の体を震動から守るため、必死に支えていた。周りは皆、虫の息の者ばかりだ。
(みんな、生きて生きて…お願いだから…)
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- 15 : 2014/02/15(土) 08:51:05 :
- 後方では、巨人が出現したらしい。巨人から逃れるため、遺体を棄てているようだ。セレナは少しの間目を閉じ、黙祷した…。
『セレナー!』
…ペトラの声が聞こえ…た…?
「ペトラ!?」
返事はない。ペトラの姿も確認出来ない。負傷兵がうめき声をあげる。
そうだ…今は…
「ペトラ!…また、あとでね!」
セレナは、答えた…。
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- 16 : 2014/02/15(土) 09:20:07 :
- カラネス区に到着し、本部にたどり着くと、セレナは意識を失い、倒れた。セレナ自身、相当な重傷を負っていたのだ。
そのままセレナは2日間、昏睡状態に陥った…。
『…ナ…セレナ…?』
『え…?』
ペトラがこっちを見ている。どうやらイスに座ったまま居眠りをしていたようだ。
…ここは…訓練兵宿舎の…食堂…?ああ、そうか。どうやら自分は、長い夢をみていたようだ…。
『こんな所で眠りこけてると、マヌケヅラが丸見えだぜ?』
…オルオの声だ。オルオも笑ってこっちを見ている…。
『マヌケヅラって、何よ。あんたの顔よりはマシでしょ?』
ペトラが反論する。
『なんだよ、お前の寝顔よりはマシじゃねぇのか?』
『わっ…私の寝顔って…見たことあるの!?』
ペトラが赤くなってる。オルオは、いたずらっぽく笑って
『見なくても…大体想像はつ…』
オルオの足に、ペトラの蹴りが炸裂する。オルオは苦痛に顔を歪める。
(もう…やめなさいよ…2人共……でもこの瞬間…大好きだなぁ…)
ペトラはそこで、何かに気づくと、
『…ほら、オルオ。私たち、もう行かなくちゃ。』
『ああ…そうだな』
ペトラは、笑顔でセレナの方を向き、
『じゃあセレナ、私たち、行かなくちゃ。』
『マヌケヅラしていつまでも寝てんじゃねぇぞ。』
オルオも、笑顔をみせる。
奥の扉が開く。まばゆい光が溢れている…。
『じゃあね、セレナ!』
『そんじゃな。』
2人は笑顔で手を振る…
(え…どこ行くの…2人共…ねぇ…どこに…ねぇ…)
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- 19 : 2014/02/15(土) 11:45:28 :
- 「ねぇ…」
目が覚めた。…訓練兵宿舎ではない。ここは…調査兵団本部の…病室…?
「あっ、セレナさん!」
右隣で声がする…エレンだ。
「エレ…ン…大丈夫…なの?」
その言葉に、エレンは笑って
「それはこっちのセリフですよ。セレナさん、自分の体のことも考えない
で無理に動くから…」
そう言われて、初めて自分の体の状態に気づく。あちこちに包帯が巻かれてある。
「ごめんなさい、エレン。本当は、私があなたの体のことをきちんと管理
しなきゃいけないのに…」
「オレなら、大丈夫ですから、セレナさんこそ、きちんと体を治してくだ
さいね。」
エレンの言葉の後に、部屋の奥からもう1つ声がした。
…リヴァイ兵士長が、腕組みをし、壁にもたれかかってこちらを見ている…。
「そうだな。…お前にはやるべき事がまだ山ほどある。しっかり体調を整
えろ…俺も他人のことは言えんがな。」
「…分かりました。今は自分の回復に努めます。」
セレナの返答に、リヴァイは目を閉じ
「…ならいい。」
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- 20 : 2014/02/15(土) 12:11:42 :
- セレナは、エレンの方を見、
「エレン…申し訳ないのだけど…ペトラを呼んできてもらえないかし
ら…」
エレンは、目を反らした。
「…エレン…?」
エレンは答えない。
「エレン…オルオは…ペトラは…?」
エレンは答えない。セレナは、長く息をつき、目を閉じ…
「…そう…」
すべてを、悟った。
「すみません…セレナさん…」
ようやくエレンが口を開く。セレナは問う。
「どうしてあなたが謝るの…あなたが殺したの…?」
「ちがいます!…でもオレが…選択を誤らなければ…」
「選…択…?」
「おい、エレン。」
場の空気を打ち消す様に、リヴァイが鋭く言い放つ。
「もう行くぞ。…お前も俺も、それほど暇じゃねぇんだ。」
エレンはその言葉に、伏し目がちに、
「…はい。…セレナさん、失礼します。」
「うん。…ありがとう、エレン。」
意外なセレナの言葉に、エレンは一瞬驚いたが、リヴァイが足早に立ち去る姿を見るなり、慌ててあとを追った。
セレナは、天井を見た。
泣けない。涙が出ない。不思議だが、懐かしい感覚でもあった。地下街にいたころ、何人もの男たちに犯されていたときも、こんな感覚を味わっていた。
悲しい…はずなのに。泣きわめいてしまえば、楽なのに。何だか色々なものが自分の中でうごめいて、おかしくなりそうだ。
(ペトラ…オルオ…まさかまさか…うそだ。)
セレナは、ふと思い立った。そうだ、資料室。
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- 21 : 2014/02/15(土) 12:28:26 :
- 資料室には、壁外調査の度に出る犠牲者の名簿が納められていた。
そこの第57回の名簿を見れば…。
セレナは起き上がり…多少ふらついたが、何とか歩ける。
資料室へ向かった。普段ここは、誰も出入りしない。
多くの書物の中から、第57回壁外調査の資料を手にとる。
頁をめくる…犠牲者の名簿。
「…。」
<オルオ.ボザド>
オルオ…。思えば、訓練兵の時、罰ランニングの後、布団で眠ることができたのは、あなたが助けてくれたからだった。
薬棚の一件で、気まずくなってしまったあとも、何事もなかったかのように、普通に接してくれた。
…オルオ…
「…ありがとね。」
セレナは、オルオの名にそっと触れた。
触れた指をどかすと、大好きな名がそこにあった。
<ペトラ.ラル>
ペトラ…ペトラ…私を…救って…くれた…
『私たち…友達にならない?』
ペトラ、私、うれしかったよ。私、あれからね、本当に楽しかったよ。毎日ね、笑うことができて、一緒におしゃべりして、笑って…ケンカもしたよね、仲直りもしたね。
いつもいつもいつも…一緒に…いたのに…。
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- 22 : 2014/02/15(土) 12:36:09 :
- セレナは、その場にしゃがみこんだ。声も出せず、涙も少ししか出なかった。こんなにも悲しい思いをして苦しんでいても、もう慰めてくれる友人もいない。もう二度と、あの大好きな瞬間は訪れない。
不意に、体の痛みがセレナを襲った。
自分の体はおそらく回復するだろう。そしてまた、壁の外で戦う…。
セレナは思い出した。あの、きれいな翼を。
『さあ行こう、セレナ…』
思い出した。そうだ、私は約束した。私が生まれることと引き換えに。
セレナは、資料室をあとにした。
(ペトラ…ありがとう。またね。)
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- 23 : 2014/02/15(土) 12:46:06 :
- 翌日、アルミンの発案により、女型巨人の正体の目星がつけられ、エレンや調査兵団の王都召集の日を同じくとし、捕獲作戦が練られた。
リヴァイは足を負傷していたため、作戦の実質的な参加は認められなかった。
作戦会議後、リヴァイは1人、自室にいた。
『兵長…ありがとうございます…』
声を聞いた気がした。あの日、後ろから抱きすくめられたとき、何も感じなかった訳ではない。彼女のぬくもり、胸の膨らみ、わずかな息遣い…。
リヴァイは、額に手をやる。
「…ああ…そうか…」
理解した。自分に不安だと打ち明け、背中を抱いてきた女と、自分が何度も抱いたシーナの女…
2人は…似ている…。
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- 24 : 2014/02/15(土) 13:06:08 :
- ーウォール.シーナ
「来てくださったんですね…ありがとうございます。」
肩まで伸はした茶色の髪に、大きな瞳。
リヴァイはまた、この娼婦のいる店を訪れていた。部屋に入り、女が、リヴァイに触れようとする…が、それをかわし、リヴァイは女に背をむけた。リヴァイは言う。
「…俺は、調査兵団兵士長、リヴァイだ…」
“女を買う”という行為のうえで、絶対的なルールがあった。
それは、お互いの名を明かさないこと。名前を明かしたことは即ち、永久的な契約破棄を意味する…。
女は、悲しそうな目をした。リヴァイは続ける。
「お前の名前を…教えてくれないか…」
「私…何かあなたに気に障ることを…」
「いや、お前に非は一切ない。金は言い値で払う。」
客の訴えに対し、口を出してはいけない。厳しく教えられてきたことだった。…もう…終わりなんだ…。
「…言いたくないのなら、それでいい。」
リヴァイは黙って立ち去ろうとする…
「…ミシェル…」
リヴァイは立ち止まる。女は、精一杯の笑顔をみせ、
「私の名は…ミシェル.テグナー。」
リヴァイは、まっすぐにミシェルと向き合った。
「…そうか。」
ミシェルは言った。
「あの…お願いがあります。」
「何だ。」
「私の名前を…呼んでもらえませんか…」
リヴァイは一度目を伏せ、またミシェルを見た。
「…ミシェル…」
ミシェルは、涙した。
「ありがとう…リヴァイ。」
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- 25 : 2014/02/15(土) 13:14:54 :
- 2日後、女型巨人捕獲作戦が実行に移された。
ーウォール.シーナ ストヘス区
女型巨人と思しき人物、アニ.レオンハートを地下へと誘き出そうとするが、失敗。アニは巨人化し、エレンを奪おうと街を破壊し始める。
「な…何でお前らは…戦えるんだよ」
「仕方無いでしょ?世界は…残酷なんだから」
その後、エレンも巨人化し、激しい攻防戦が続く…。
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- 26 : 2014/02/15(土) 13:25:13 :
- その一報を聞いたとき、ミシェルは“接客”していた…。
「…?」
扉の向こうがなぜか慌ただしい。
「…だ!!巨人が現れたぞ!!」
巨人…?まさか…。客の男も驚き、行為をやめる。
「巨人…そんなまさか…」
男の戸惑いをよそに、扉の向こうでは、人々の逃げ惑う音が聞こえる。男は慌てて窓のカーテンの隙間から、外を見る。
「…どっ…どうなってんだ、ありゃ!?」
ミシェルも外を見た。
「…!?」
2体の巨人が…戦って…いる?
ミシェルが驚くのを尻目に、男はさっさと見繕いを済ませ、出ていってしまう。
「あ…」
待って…1人にしない…
ガシャン!!!
大きな音と衝撃を感じ、ミシェルは頭を抱え、その場に伏せた。
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- 27 : 2014/02/15(土) 13:42:52 :
- 周りの空間すべてが、ビリビリと震える。ミシェルはようやく顔を上げた。瓦礫の破片が、建物の近くに落ちたのだ。
おそらく、巨人が破壊した…
ミシェルの心臓が、早鐘のように打ち始める…。
だめだ…早くここから逃げないと…
ミシェルは急いで見繕いを済ませ、部屋を出…
ガシャンガシャン!!
「ひっ…」
瓦礫が建物内を直撃した。巨人が動くたび、振動がここまで伝わってくる…。
ドシャグシャッ!!
また落ちた。この近くだ。ミシェルは耳を塞ぎ、夢中で駆け出した。
…ふと、足が止まる。外に出た。外は…
「あ…」
おそらく、瓦礫の破片が直撃したのだろう。数人の遺体があった。血のにおいがする…。ミシェルは、その場に立ちすくした。
不意に、頭上を照らす日光が遮られる…
見上げると、建物の一部が崩れ、目前に迫ってきた…。
『…ミシェル…』
あのひとの声がする。優しい声。あなたのぬくもりを、内に秘めた優しさを、どのくらいの人が知っているのだろう。
これから誰が…知ってゆくのだろう…ね…。
人類最強の兵士の…ぬくもりを…
ミシェルの唇が、かすかに動く…それを読みとることは、もう、できない…。
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- 28 : 2014/02/15(土) 13:50:37 :
- 以上で#5 失う を終了させていただきます。
さて、次回は…
これから先、原作と重複する部分が多くなってきます。ただ、原作のノベライズ版を作っても仕方ないので、様々な視点から、進撃の世界感を第一に考えて物語を進めていきます。
読んでいただき、ありがとうございました。
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