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この作品は執筆を終了しています。

終わらない夏(ホラー)

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  1. 1 : : 2014/02/01(土) 23:12:17



    「あなたが向き合わなかった問題は、いずれ運命として出会うことになる。」

                     カール・グスタフ・ユング
              













    闇。




    吐息と足音が響く。




    ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・




    振り返る。



    影は見えない。





    ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・





    角の壁に背中を任せ息を整える。



    壁から片目だけ覗かせ様子を見る。



    ・・・静寂。



    足音も聞こえない。




    安堵。




    深く息を吐くとともに目を閉じる。




    ハァー・・・ハァー・・・



    ハァー・・・



    ・・・






    気配。




    悪寒・・・




    声。




    耳元。







    見  つ  け  た








    走る。




    息が荒くなる。





    コツ・・・コツ・・・コツ・・・




    距離が段々縮まる。




    振り向けない。




    角を曲がる。







    ・・・ドン




    壁。





    壁・・・?



    こんなところに壁なんて無い・・・。




    見上げる。


    ゆっくりと。




    ニヤリと笑う口元。




    腕を掴まれる。




    「・・・っ!・・・っっ!」



    懸命に叫ぶも、その声は届かない。



    闇に手を伸ばし、尚も叫ぶ。



    体が浮く。


    抱え上げられている。



    足をばたつかせ、なお叫ぶ。




    名を・・・。



    その人の名を・・・。







    その人は・・・








    ・・・














    目を開く。




    コチ・・・コチ・・・コチ・・・




    安い目覚まし時計が時を刻む。



    闇。



    部屋の端にある回線の青い灯が、不定期に点滅している。


    唯一の光源。



    むくりとベッドから上体を起こす。




    またあの夢だ・・・・




    手の平で前髪をおさえる。




    足元には黒猫が眠っている。








    憂いのある切れ長の眼


    透き通る白い肌


    匂わんばかりに整った容姿


    腰まで伸びた、長く、艶やかな黒い髪


    そして、青い瞳・・・



    すらりと長い腕をのばし、猫を撫でる。



    ゴロロ・・・ゴロロ・・・


    喉を鳴らす。



    時計を見ると、3:14をさしている。


    起きるにも寝るにも半端な時間。



    「・・・。」


    思案した後、体を倒す。




    明日のこともある。


    夜は寝るのだ。





    ・・・彼女は瞳を閉じ、朝がくるのを祈った。


  2. 11 : : 2014/02/02(日) 21:36:33




    「・・・・・・です。従って、家族や友人と触れ合い、一生の思い出に残る・・・」





    つんざく蝉の音。



    額には汗。



    熱気。




    揺れないカーテン。





    ・・・睡魔。






    1学期最後の日。






    俺たちは終業式のため、暑い中体育館で話を聞いている。


    もう、かれこれ5分。



    ザックレー校長の話。


    ひどく単調であくびがでる。





    脇腹をつつかれる。


    振り返ると黒い瞳が二つ、こちらを見つめている。



    ・・・ミカサ。



    やはりお前か。



    ちらりとある方向をミカサが見る。



    先生だ。



    こちらを見て微笑む。

    いたずらっぽい目。



    ぽりぽりと頭を掻く。



    ・・・しょうがない。


    今日のところは、先生に免じて我慢して聞いてやろう・・・。










    「エレン。校長先生が話している時に、あくび何かしちゃダメ。」

    がやがやと皆が喋る中、教室に向かう。

    話しているのはミカサだ。



    「わかってるけどよぉ。あの喋り方だとどうしても眠くなるんだよ。話長いし。」



    「はは。気持ちは分かるけど、校長先生もみんなの前で話す数少ない機会だし、たくさん伝えたいことがあるんだよきっと。」

    アルミンがフォローを入れる。



    俺たち3人は、いわゆる幼なじみだ。

    大抵はこの3人で一緒に行動している。


    中学で最初の夏休みを明日に控えた俺たちは、何をして過ごそうかとあれこれ話していた。




    そんな時。




    ・・・ ・・・



    「・・・」


    ふとアルミンが振り向く。



    何かを探しているようだ。



    「どうした、アルミン?」



    「・・・いや・・・。何だか誰かが走っていったような気がして。」



    「はぁ・・・?」



    そう言いつつも、アルミンと一緒にあたりを見回す。


    が、すぐに頭を振る。



    「あのなぁ、アルミン。こんなに人がごった返しているんだぜ。走ってどっかに行く音なんて聞こえるわけないだろ。」


    「あの噂のせいだろ。」



    「うん・・・。そうかもね。」

    やや自嘲気味にアルミンは笑った。






    噂。



    取るに足らない噂だが、俺たちの心に影をおとしているものだ。



    何でもこのところ、自分の後ろを誰かがヒタヒタとついてくるような体験をする人が多く、静まった校舎内を誰かが走り回る音がするという目撃情報が後を絶えない、という話が実しやかに囁かれている。



    ・・・この内容を説明するだけで恥ずかしくなるような、どこにでもあるような怪談話。



    実際は、俺らの周りでそんな体験をしたクラスメイトはいないし、あったとしてもたまたま帰りの方向が一緒だったとか、トイレか何かに急ぐ生徒の足音だとかその程度だと思う。


    幼稚でありきたりな噂。



    でも・・・



    「なんか無視できないんだよね・・・。」

    アルミンが続ける。



    そう。

    そこなのだ。


    この噂の奇妙なところは・・・。




    はいはい、と言って終わる話なのに。誰かが吹聴している訳でもないのに。


    なぜか”気にかかる”のだ。


    まるで、根か葉があるような・・・。



    「アルミン。」


    ミカサが突然話しかける。


    「これ以上、その話はしないで。」






    「エレンが怖がる。」



    なっ!?



    「ミカサ!無いこと無いこと言うんじゃねぇ!どこに怖がる要素があるんだよ!」


    「・・・エレンは昔から怖い話が苦手だった。だから今もそうだと思う。」


    「・・・昔からって、いつの話だ?」


    「よんさい。」


    「・・・。」


    「あのなぁ・・・。あれからもう8年も経ってんだぞ・・・。いい加減忘れろよな。」


    「大丈夫。何があってもエレンは私が守るから。」


    「・・・っ!」



    呆れて物も言えないとはこのことだ。

    いつまで子ども扱いされればいいのか。


    俺はビビってなんかないっつの・・・。



    アルミンを見ると、クスクスと笑いを押し殺している。


    ・・・もう、いいよ。


    若干拗ねてしまう。



    とっととホームルームを終わらせて、通知表もらって帰ろう。


    そう思ったときには教室に着いていた。


    各々席に座り、雑談をしながら先生が来るのを待った。

  3. 12 : : 2014/02/03(月) 00:20:39



    ペタペタペタペタ・・・



    足音が近づいてくる。


    クラスメイトたちも会話をやめ、各々の席につき先生を待つ。








    ・・・











    扉が開かない。


    クラスメイトの多くが怪訝な顔をしている。


    教室にざわめきが満ちる。



    コツ・・・コツ・・・コツ・・・



    「え・・・?」



    思わず声に出てしまう。




    ガラッ



    「あら?今日は皆さん、席についていますね。先生、嬉しいです。」



    見慣れた俺らの担任。


    ぺトラ先生だ。




    じゃあ、さっきのは・・・。




    呆然とした顔をしている俺たちに、先生はきょとんと首を傾げるしか反応できなかった。





  4. 18 : : 2014/02/04(火) 21:13:42



    「それでは、通知表を配りますね。番号順に取りに来てください。」




    ・・・




    皆、無言で通知表を取りに行く。


    定期的な間隔で、椅子を引く音と歩く音が交差する。





    ・・・皆、同じことを考えている。





    さっきの足音。







    ここにいるほぼ全ての人が聞いていた。



    勘違いなんかじゃない。




    しかし・・・


    そんな馬鹿なこと、あるはずない・・・







    「エレンくん?」


    先生に呼ばれ、我に返る。


    平静を装い、先生の前に立って通知表をもらう。

    もちろん両手で、だ。




    じっ・・・


    先生が俺の目を見つめる。



    何かを見透かされているようで気が気でない。




    ・・・でも。


    ちょっと嬉しい・・・かも。



    ふふっと笑って次の人の名前を呼び始めた。




    一体なんだったのだろう・・・。


    ほっとしたような、がっかりしたような。

    そんな気分。




    ともあれ、クラスの半分位に通知表が渡る頃には、友達どうしで見せ合いっこや、誰それが勝った負けただの、恒例の風景が繰り広げられた。


    もちろん、俺たちも見せ合いっこをする。

    やっぱりアルミンが一番成績がよく、次いでミカサ、俺の順だった。


    各々に苦手な教科があり、逆に得意な教科もある。

    互いに教えあえる、とてもいいバランス。


    つくづく、こいつらと幼なじみでよかったと思う。







    「はいはい。皆、静かにね。」

    ぺトラ先生が手を叩いて皆を静める。



    「校長先生も仰られたとおり、明日から夏休みです!大いに遊ぶのも結構ですし、部活動に専念するのも結構です。」

    「ただ・・・。皆さん、怪我と犯罪だけには気をつけてくださいね。特に、”肝試し”なんて言って、夜の校舎に忍び込んだり、プールに入ったり、廃屋に行ったりするのは絶対にやめましょう。」


    生徒の顔、一人一人の目を見る。



    「9月に皆、元気にこの教室で会いましょう。それでは皆さん、さようなら!」

    「「さようなら」」


    声を揃えてそう言い、各々席を立つ。



    部活に行く者。帰る者。


    それぞれが、それぞれの行動をする。




    俺たちも帰ろうとした時だった。


    「エレンくん、アルミンくん。ちょっと手伝って欲しいことがあるから、職員室来てくれる?」


    輝く笑顔で先生は俺たちにそう言った。

  5. 20 : : 2014/02/04(火) 22:22:11



    「悪い、ミカサ。ちょっと待っててくれないか。」




    ミカサの表情は時々読めないことがある。

    しかし、この時はこう読めた。



    『あなたが先生のところに行くのは、おもしろくない。』



    ぶすっとした顔で俺たちを見ている。



    「そう怒るなよ。先生に呼ばれたんだからしょうがないだろ。」



    「・・・。」

    「ぺトラ先生と話すときのエレン・・・楽しそう。」



    「な、なに言ってんだよ。気のせいだよ、気のせい。さ、アルミン行こうぜ。」


    ミカサを置いてそそくさと職員室へ向かう。



    「下駄箱で待ってて。すぐ戻るから。」


    アルミンがミカサにそう告げる。



    ばたばたと走る俺たちの姿をミカサはジトっとした目でずっと見つめていた。








    「失礼します。」


    職員室の扉を開けると、先生方が忙しなく動き回っている様子が広がっていた。


    部活の顧問をしている先生はこれから準備にとりかかる。

    この忙しさはそのためだ。


    とはいえ、学校自体はもう終わっているため、多くの先生はまったりと談話したり、飲み物を飲んだりしていた。


    ぺトラ先生を目で探す。



    ・・・いた。


    席に座り、何やらメモをとっている。



    「せ~んせ!」

    席に近づき声をかける。



    「あら、ありがと、来てくれて!・・・ミカサちゃんは?」



    「下駄箱で待たせてます。何故ですか?」



    「う~ん、あの子のことだから、てっきりあなたに付いてくるのかと思っていたわ。ま、いっか。」


    そう言って俺たちに向き直り、小さく手招きをする。







    「・・・今日、何かあったの?」



    「・・・!」




    アルミンと顔を合わせる。




    正直言って、何て答えていいか分からない。


    口を紡いでしまう。





    「・・・」


    『誰もいないのにペタペタと歩く音がしたんです。』



    ・・・こんなこと言えない。


    言えるわけない。



    しかし、何か言わないと先生が却って心配してしまう。

    現に、すでに心配そうな顔をして先生がこちらを見つめている。




    ちらりとアルミンに目配せをする。


    こういう時のアルミンはいつも機転が効く。






    「・・・ちょっと、怖い話をしていたんですよ。」



    「怖い話?」



    「はい。先生を待っている間、小学校で流行っていた怪談話なんかを皆で話してたんです。」

    「その中で、あまりにも酷く、悲しい話があったものですから、つい皆黙ってしまって・・・。」

    「先生がいらしたのは、その時なんですよ。ご心配おかけしてすみません。」


    頭に手をやり、ぺこりと謝る。


    「なんだ、そういうことだったの!先生心配したわ。もしかしたら誰かが苛められてたのかもって・・・。」



    「そんなことはないですよ!今のクラスは皆イイやつばっかりで、イジメなんて起きませんよ。」


    おどけてみせる。誤解が解けてよかった。




    「・・・それで、先生はどうして僕たちを呼んだんですか?もしかして、そのことを聞くためですか?」

    アルミンだ。



    「それもあるけど・・・。ちょっと図書室に運んでほしいものがあるの。男手が欲しくて、つい呼んじゃった。」


    テヘッっといたずらっぽく笑う。


    一回り年の違う先生だけど、子供っぽさと大人の余裕がいい感じで合わさっている。


    ・・・とても魅力的だ。




    「俺らでよければいつでもいいっすよ。どれですか?」


    「あそこのダンボールよ」

    そう言って指をさす。



    ・・・なるほど、結構な大きさだ。

    腕が鳴る。



    「分かりました。運んでおきますよ。」



    「助かるわ。・・・でも・・・。」



    「でも・・・?」





    「あそこね・・・。ちょっと嫌な話があるの・・・。」


    「嫌な・・・話?」


    「そう・・・。」


  6. 21 : : 2014/02/04(火) 23:44:04


    ・・・ある女生徒の話。




    その生徒は放課後に図書室で本を探していた。




    ない・・・


    ない・・・


    ない・・・



    目星をつけた戸棚を調べるも、その本は見つからない。



    おかしい・・・。




    外をみると、すっかり日が暮れていて、図書室にいた生徒たちもいつの間にか帰っている。



    部屋には自分一人・・・。







    コト・・・



    不意に音が聞こえる。




    コト・・・スー・・・コト・・・スー




    誰かが本を棚から出しては元に戻す音。





    ・・・他にもいたんだ・・・。


    ほっと胸を撫で下ろす。



    折しも、ちょうどその時、目の前に探していた本を見つけた。


    思わず手にとって中を読む。


    探した甲斐があった。








    コト・・・スー・・・コト・・・スー





    自分ばかり舞い上がっていて忘れていたが、もう一人はいまだに本を探しているようだ。





    コト・・・スー・・・コト・・・スー




    一つ奥の棚から本が消え、また戻ってくる。




    そこにいるんだ。




    でも・・・



    コト・・・スー・・・コト・・・スー




    姿は見えない。





    コト・・・スー・・・コト・・・スー





    いや、手は見える。






    コト・・・スー・・・コト・・・スー





    誰?


    そう思い隣の棚を覗き込む。




    ・・・いない・・・?






    コト・・・スー・・・コト・・・スー






    後ろの棚から聞こえる。








    え?



    いつの間に回り込まれたのだろうか。







    コト・・・スー・・・コト・・・スー



    段々と近づいてくる・・・。





    手が震える。



    ・・・誰?



    誰?





    ばさっ




    震えのせいか、本が床に落ちる。



    慌てて拾おうとする。


    屈んだその時・・・。








    お ま え が 持 っ て い た の か








    肩から声・・・。



    肩には・・・。



    肩には・・・!













    「手が・・・」




    「手が・・・?」










    ・・・ぽん



    エレンの肩に手が乗る。




    「うわああああああああああああああ!」



    肩に乗った手を払いのけながら振り返ると、アルミンが手をぶらさげてニコニコしていた。





    「・・・くく・・・・くくく・・・。」



    ぺトラ先生がお腹と口を押さえて必死に笑いをこらえてる。



    「・・・っ!・・・っっ!」


    口がパクパクする。


    恥ずかしさで顔が真っ赤になっていくのがわかる。




    「・・・先生!やめてくださいよ、ほんとに!アルミン!お前もだよ!」




    「ごめんごめん。先生がアイコンタクトするもんだから、つい、ね。でも楽しかったでしょ?」



    「楽しいわけねえだろ!本気でびっくりしたんだからな!先生も先生ですよ!これから図書室に行くって時にそんな話しないでくださいよ!」



    「あーはっは!ごめんなさい。でも人は見かけによらないわね。エレンくんが怖い話が苦手だなんて。ホームルームの前に怪談話してたんでしょ?私もあやかってみたの。どうだった?」


    うふふ、と屈託のない笑みを浮かべる。



    「知らないですよ、もう!」


    へそ曲げたような態度をとってみせる。

    しかし、先生の笑顔を見たら、そんな気も失せてしまった。


    不思議な人だ。




    「・・・じゃあ、図書室行ってきますね。・・・アルミン、お前重たい方持てよな。」


    「ふふっ。わかったよ。」



    先生に見送られながら、俺たちは図書室に向かった。


  7. 29 : : 2014/02/05(水) 22:41:24


    手をひらひらさせながら、二人を見送る。

    ・・・かわいい子たち。

    先生という職に就き、どんな辛い日々が待っているかと思っていたけど・・・。

    とんでもない。

    とっても素敵な日々。


    ・・・柄にもなくエレンくんをからかっちゃった。


    童心に帰ったような気分。


    生徒の意外な一面を見るのは楽しい。

    そう思いながら、席に座り業務の続きを行う。



    ・・・

    妙に廊下から声が聞こえる。


    部活動に励む生徒たちの声だ。


    よく見ると、職員室の扉が閉め切られていない。

    あそこから声が漏れていたのか。

    席を立ち、扉を閉めにいく。



    その時。



    ・・・足が止まる。


    異物。

    そう表すのが相応しい。



    半開きの扉



    隙間から



    子どもがこちらを覗いてる




    ・・・

    ・・・

    ・・・だれ・・・?





    ガタガタッ


    反対側の扉が開き、先生が入って来る。


    もう一度さっきの扉に目を戻す。


    扉は半開きのまま。

    廊下の壁が見えるだけ。


    ・・・

    しばらく放心する。


    今のは一体、なんだったのだろうか・・・。


    ふと・・・エレンたちの姿が目に浮かぶ。



    言い知れぬ不安がペトラの心をよぎった。



  8. 30 : : 2014/02/05(水) 22:43:43
    ミスです。

    最後の3行は消し忘れです!

    コメントって消せないのかな(−_−;)
  9. 31 : : 2014/02/05(水) 22:44:16
    やべえ…期待だ!
  10. 32 : : 2014/02/05(水) 22:53:52
    ありがとうございます!

    実はパソコンの様子がおかしくて、携帯からうっているのですが…

    レイアウトや行間がイメージしづらくて、辛いです(>_<)

    読みにくい投稿が続くかもしれませんがご容赦ください。
  11. 33 : : 2014/02/05(水) 23:39:03


    スタスタスタ・・・



    俺とアルミンはひと気のない校舎に足音を響かせている。


    グラウンドや中庭では運動部が声を出して練習している。


    朧に聞こえるその声は、何だか妙に自分が外界の人間であるかのような気持ちにさせる。



    昼間だというのに、この辺は妙に薄暗い。


    あと少しで着く。






    ・・・着いた。


    プレートにはこう書いてある。


    ・・・図書室



    扉の前で対峙する。







    「手首・・・」


    アルミンがぽつりと言う。


    「そんなものは出ないよ。さ、行こうよ。」


    「・・・分かってるよ。荷物が重たいから持ちかえていただけだ。」


    そう言って扉を開ける。



    中には、本好きの生徒がちらほらいて、カウンターには図書委員が座っていた。



    ほっとする。


    先生の怪談話が作り話とは言え、今日の出来事を思い出すと、何か起こり得るのではないかと考えてしまう。


    そう言うところが怖がりなのかもしれないが・・・。



    カウンターの生徒に言伝を残し、ミカサの元へ向かう。



    その途中。

    ふいにアルミンの足が止まる。



    扉が気になるようだ。



    プレートには“校長室”と書いてある。


    「どうした、アルミン?」


    「・・・うん。ちょっとね・・・。」


    歯切れのない返事。



    「エレン。僕、トイレ行ってきていい?」



    「・・・お、おう?先、行ってるからな。」


    「うん。ごめんね。」


    そう言ってタタタっとトイレにアルミンが向かって行く。


    「何だあいつ・・・」

    そう呟きながら、俺は歩き出した。


  12. 34 : : 2014/02/06(木) 00:02:15


    ミーンミンミンミーン・・・



    茹だるような暑さ。



    職員室に行ったエレンたちを昇降口で待つ。


    下駄箱に寄りかかりぼおっとする。



    苛立ちと、それを隠す心とが入り乱れている。



    早く戻ってきて・・・



    ペトラ先生と楽しそうに話すエレンのことを思うと胸が苦しい。



    ・・・あんな先生より私のほうがよっぽどエレンのことを分かってる。




    嫉妬。

    というべき感情だろう。


    そんなこと思っても無意味なのは百も承知なのだが・・・。


    はぁ・・・


    溜息をつく。


    そんな時。



    「あれ?ミカサ?」


    愛くるしい声。


    隣にはジャージを巻くしあげた、一見すると男みたいな相方。



    「クリスタ・・・、ユミル・・・。」


    ぽつりと名前を呼ぶ。



    「何だよ、つれねえ言い方だな。・・・ん?いつも連んでる奴らはどうした?」


    「・・・ペトラ先生のお手伝い。」



    ユミルがニヤリと笑う。

    「ほうほう・・・。そりゃ気が気でないなぁ・・・。ペトラっちは男子生徒に人気だからなぁ・・・。今頃エレンの奴、鼻のした伸ばしてデレデレしてるだろうぜ。」


    「・・・。」


    「ちょっとユミル!からかわないの!大丈夫よ、ミカサ。すぐ戻ってくるわ。」



    「・・・ありがとう。ところで、あなたたちは何をしているの?」



    「私たち、ブラスバンドに入っているんだけど、先輩に買い出し頼まれて・・・。これから行くところなの。」


    「・・・ユミルのその格好は?」


    「あ、これか?今日暑いだろ?どうせ汗をかくから、こっちの方が楽なんだ。お前もどうだい?涼しいぞ。」


    「遠慮しておく。私はエレンとアルミンを待つから、あなたたちは頑張って。」


    「うん!エレンたち、早く戻って来るといいね!じゃユミル、いこ?」



    二人で仲良く歩き出す。


    後ろから見ればカップルに見えなくもない姿。


    羨ましい。






    突然。


    クリスタが振り返る。


    目だけで何かを探してる。




    「どうした?」

    ユミルが尋ねる。




    「うん・・・。何か・・・。誰かに見られてるような気がして・・・。」


    不安そうな顔で辺りを警戒している。


    「何ィ?どこの誰だ、私のクリスタを盗み見ている奴は!ひどい目にあわせてやるから出て来やがれ!」

    蝉の声に負けないようにユミルが叫ぶ。



    当然ながら反応はない。




    「ちっ、臆病者め!」

    そう吐き捨て、クリスタの肩を抱き、校門に向う。



    クリスタは尚も周りを気にしているようだ。


    その二人の様子を見ながら、私はエレンとアルミンのことを考えていた。




    ・・・遅い。



    苛立ちは不安に変わりつつあった。
  13. 40 : : 2014/02/09(日) 14:22:03


    キュッ




    「ふー・・・。」


    蛇口の栓を閉め、鏡の前で息をつく。



    別にトイレに用があったわけじゃない。


    それは単なる口実。


    本当の理由は他にある。



    ・・・これ以上、エレンを怖がらせるわけにはいかない。


    あの時。


    校長室の前を通った時。


    エレンは気づいてなかったようだけど。


    僕の目の前で、扉がわずかに「開いた」。


    開いていた、のではない。


    「誰か」が5cmほど扉を「開けた」のだ。


    音もなく。



    ザックレー校長は規律に厳しい方だ。


    生徒のいる前で、そんな扉を開けっ放しにするような人ではない。




    つまり・・・


    あの中には、校長先生でない「誰か」がいる。


    そしてそれは恐らく、この学校の人間ではない。




    ここ数日、学校をにぎわす噂。



    そして今日のこと。


    体育館からの帰り。

    ホームルームの前に聞いた足音。

    校長室の扉・・・。


    これらの謎を突き止めるための“何か”があそこにある。




    ・・・僕は今からそれを確かめに行く。



    親友を巻き込む訳にはいかない。





    エレンを助けるのは



    この僕だ。
  14. 41 : : 2014/02/09(日) 14:57:57
    続ききたーーっ!
    アルミン、原作と同じで勇気がありますね。どきどき。
    お仕事頑張ってくださいね☻
    更新を楽しみに待っております!
  15. 42 : : 2014/02/09(日) 15:19:42
    マリンさん、ありがとうございます(>_<)

    結構投稿に時間が空いたので忘れられたのではないかと内心ビクビクしてました。

    親友のための勇気はすごいですよね。

    続きは夕方になるかと。

    よろしくお願いします!
  16. 43 : : 2014/02/09(日) 22:37:20


    一歩・・・



    二歩・・・



    一歩一歩、校長室に近づいていく。



    心臓の鼓動もそれに合わせて大きく、速くなっていく。


    今の僕には自分の足音しか聞こえない。



    校舎には多くの生徒がいるはずなのに、まるで今は自分しかいないような静寂がこの廊下を蔽っている。






    校長室



    プレートを確認したとき、一際鼓動が激しくなる。




    問題の扉と対峙する。



    5cmの隙間を凝視する。


    扉の向こうには木目調の床が見えるだけ。



    何かが隠れている様子はない・・・





    そう思った刹那。






    扉がススス・・・と指一本分開いた。






    いる・・・。


    やっぱりここには何かいる。


    想像が確信にかわる。



    「腹を決めるぞ、アルミン・アルレルト・・・」

    小さい声で自分に言い聞かせる。


    万が一にもないと思うが、念のためこれはやっておく。


    コンコン・・・


    扉をノックする。


    やはりというべきか、返事はない。


    つまり、少なくとも校長先生や他の先生がこの部屋には今はいない、ということ。



    ドクン・・・ドクン・・・


    心臓の音が聞こえる。




    扉に一歩近づき、手を掛ける。


    手が震えている。



    怖さを紛らわすため、僕は扉を一息に開いた。

  17. 44 : : 2014/02/11(火) 13:52:20

    ばんっ





    はぁー・・・はぁー・・・



    息が荒くなる。





    部屋の中をゆっくり見渡す。



    怪しいものは見当たらない。





    ・・・隠れたか。



    今一度、校長室の中を注意深く見ていく。




    隠れられそうな場所。




    校長先生の机。


    観葉植物の裏。


    応接机の下。


    そして・・・





    扉の横の戸棚。








    何かが飛び出てきてもいいように、そろりそろりと近づく。



    鍵付きの、古い木製の戸棚。


    本棚ともいうべきか。





    唾を飲む。



    かがみ込んで、戸棚に手をかけ、ゆっくりと横に開ける。


    ススス・・・


    中にはあまり物が入っていない。



    奥の方は影になっている。


    そこに目をやる。

















    目が・・・合った。








    ・・・







    ・・・















    「ん?・・・」



    私の部屋に誰かいるのか。




    ゴト・・・ゴト・・・




    何やら音がする。



    扉も開いている。







    中に足を踏み入れて、見渡してみるが、部屋の様子はいつものまま。






    ・・・ふと


    扉の脇の戸棚を見る。



    かがみ込んで戸棚を確認する。




    ゴト・・・ゴト・・・



    鍵はやっぱりかかっている。




    ・・・生徒のいたずらか。




    今度・・・職員会議で先生たちにきちんと伝えないとな・・・。




    扉を閉ざし、長椅子に腰掛け、ザックレー校長は執務に取り掛かった。




    戸棚は沈黙を保っていた。


  18. 45 : : 2014/02/11(火) 15:59:46




    暑い・・・




    陽が高く昇る商店街を革靴で歩いている。



    汗でシャツはびっしょり濡れている。



    化粧もこの暑さでは意味をなさない。



    朝から歩きっぱなし。


    足が棒になりそうだ。



    ハンカチで額を拭う。




    ・・・この街も変わったな。



    足を止め、高く青い空を見上げながらそう思う。



    大きく立派な道路が走り、田畑が店に変わっている。




    ・・・。


    表情が曇る。




    あの時のこと。


    忘れたはずだったのに・・・。






    俯いて歩みを始める。




    ドン



    「キャッ!」



    横から走ってきた女の子に気付かなかった。


    その子は派手に転ぶ。


    ビニール袋から汗をかいた飲み物がコロコロ転がっていく。




    「あらあら、大丈夫?」



    声をかけ、手を伸ばす。


    小さくて、お人形さんみたいに可愛い子。



    「いたたた・・・。ごめんなさい、ちょっと慌ててて・・・。あれ?」



    地面をキョロキョロ見渡す。


    白いソフトクリームが無残な姿。



    ふと自分の服を見ると、クリームがべっとり付いていた。




    「あ・・・。あぁ!すみません!すみません!せっかくのスーツが・・・。」


    小動物のようにちょこちょこ動いて頭を下げる。


    可愛くて怒る気にもなれない。




    「いいのよ。こんなに暑い日ですもの。むしろ上着を脱げて良かったわ。」



    スルッと艶かしく上着を脱ぐ。



    色っぽい鎖骨。


    長いまつげ。


    豊かな胸元。


    香水の匂い。






    ・・・何故だろう。ドキドキする。



    「あ、あの!」


    「なにかしら?」


    「わたし、クリスタって言います!お詫びがしたいので、お名前とご連絡先を教えていただけますか!」



    「・・・そんなに気を使わなくていいわよ。それよりも、せっかくのアイスが台無しになってごめんなさい。おごってあげるわ。」



    「いいんです!これ以上ご迷惑はかけられません!どうか、お願いします!」



    自分でもびっくりするぐらい必死に食い下がる。


    ここで断られたら、まるでもう一生会えないような・・・。そんな気がしたから。





    「・・・ヒストリア。」



    「え?」



    「ヒストリア。私の名前よ。これ、連絡先。」


    名刺を私に渡す。




    「ありがとうございます!ありがとうございます!夕方にお電話いたします!」



    「えぇ、大丈夫よ。今日はもう仕事は終わりだから。」



    そう言って、ヒストリアは長く美しい黒髪をかきあげ、スゥっと立ち去った。


    私はその背中を、半ば放心して眺めていることしかできなかった。


  19. 51 : : 2014/02/14(金) 21:30:17

    「どうした、ぼおっとして。」


    ユミルがソフトクリームを舐めながら歩み寄る。



    はっと我に返り、落とした飲み物を慌てて拾う。


    「誰だ、さっきの女は?」


    ユミルが詰め寄ってくる。


    「し、知り合いのお姉さんよ。さぁユミル、部活に戻りましょ!」


    「・・・。」




    地面にはさっき買ったばかりのソフトクリーム。


    近くにある公園の木陰でゆっくり食べようと楽しそうに話していた。


    大方、あの女にぶつかって飲み物とソフトクリームをぶちまけたんだろうが…。



    頬を染め、照れ隠しをするような態度。


    “知り合い”とやらを見送る、寂しそうな背中。


    下手くそな嘘。



    もしかして・・・




    さっきの女にでも惚れたのか。


    いや、憧れの感情を抱いた、という方が自然だろうか。



    前を歩いて、そそくさと学校に戻ろうとするクリスタを見て、


    「何だか悔しいな。」


    そう呟いた。









    昇降口に戻って来ると、エレンとミカサが何やら言い争っている。



    「どうした、お前ら。」


    横でビクビクしているクリスタに代わって聞いてみる。



    「アルミンが中々戻ってこないから、校舎の中を探そう、と私が言ったらエレンが放って帰ろうと言った。」

    「幼なじみがいがみ合うのは見たくない。だからそれはダメだと言ったら、あなたたちが戻ってきた。」


    ミカサが淡々と答える。



    「どうしてエレンはアルミンを置いて帰ろうと思ったの?」


    クリスタがおずおずと質問する。



    「どうせあいつはどっか校舎に隠れてて、また俺を脅かそうとしているだけなんだ。
    その手には乗らないから先に帰ろうって言ったんだ。」


    子どもの駄々にも見えなくもない、そんな様子。


    ミカサも少し狼狽している。



    「エレン。確かにアルミンは時々
    お茶目なところがある。でも私たちに心配をかけさせてまで、いたずらをするようなことはしない。」


    「そうだけどよぉ…」






    「もしかして、先生やお友達のお手伝いでもしているんじゃないかな?」


    後ろから声。



    「マルコ・・・。そして、ジャン。」


    「人を付属品みたいに言うんじゃねぇよ、エレン。」


    これから部活をするのであろう、ジャンとマルコの二人。



    「ずっと待っててもいいと思うけど、今日は暑いし、部活をやってないエレンたちの帰りが遅いと親が心配するよ。」

    「アルミンにメールだけ打って先に帰ったらどうかな?」


    マルコがミカサに目配せをする。


    「う、うん。分かった。そうするよ。」

    エレンはそう言い、メールを打ち出した。


    「クリスタとユミルもこれから部活でしょ?暑いけど頑張ろうね。」


    「う、うん。」

    クリスタが応え、ユミルとともに音楽室に向かう。


    「行こうか、ジャン。」


    「お、おう・・・。」

    名残惜しそうな顔をしながら、ジャンはマルコとともに校舎に消えた。





    ・・・気でもまわしてくれたのか。


    さっきの意味深な目配せを思い出す。



    「おし!メール送信したぜ。」

    エレンが携帯を閉じながら歩き出す。




    ・・・アルミンには悪いけど


    エレンとの二人きりの下校を楽しむことにしよう。





    サワサワ・・・


    風が吹く。


    北風。


    西の空を見ると大きい入道雲。


    一雨・・・来るかもしれない。
  20. 54 : : 2014/02/14(金) 23:00:54


    「ただいま。」




    こんな陽の高い内に家に帰れるのは、いつ以来だろうか。



    汗でぐっしょり濡れたワイシャツと靴下を順に脱いでいく。



    部屋の中も相当に暑いのだが、さっきまでのスーツ姿に比べれば何倍も涼しい。








    ニャーン





    一人でいて退屈していたのだろう。



    私の家族が足に擦り寄ってくる。





    「ただいま。今日は暑いね。」



    そう言って、冷蔵庫から氷をいくつか取り出す。





    「ほら、涼しいぞ。」


    猫の水入れに氷を入れる。




    でもそんなものには興味はないようだ。



    構ってくれと言わんばかりにゴロゴロと喉を鳴らし、顔を私の足にぐりぐりと擦り付ける。





    ・・・最近、あんまり構ってあげられなかったからな。




    喉。


    頭。


    背中。


    順に撫でていく。




    するとゴロンとお腹を見せて横になる。




    「ふふっ。」


    優しくお腹を撫でる。



    恍惚とした表情。





    その姿を見ながら、さっき名刺を渡した女の子を思い出していた。







    何で連絡先なんて教えたんだろう・・・。



    あの必死さに気圧された、というのもあるが・・・。





    「・・・似てる。」



    それが一番の理由だった。



    髪の色こそ違うが、顔立ちは私の幼い頃と似ている。



    あの小さくておどおどした感じも。



    目の色も・・・。




    だから、何かほっておけなかった。







    撫でる手を止めて、ベランダに出る。



    空は高く、青い。



    風が吹いているのか。涼しさを感じる。




    クン




    湿り気のある夏の香り。





    入道雲が近くなったように感じた。
  21. 56 : : 2014/02/15(土) 21:37:07

    夏の空。




    エレンと肩を並べて歩く。



    人通りの多い道。


    周りから見れば、私たちはどう見えるのだろうか。


    友達?


    幼馴染?


    ・・・恋人どうし。


    そう思われていると嬉しい。



    エレンは鞄を右肩に担いでいる。


    ・・・左手があいている。



    ゆっくりと私は右手を伸ばす。


    手を振りほどかれたりしたら・・・。


    こわい。



    あと少しで指が触れる。


    「ん・・・? お、おい!」


    エレンの左手が上にあがる。


    怒られる。

    そう思って目をつむる。




    「アルミン!おい!アルミン!」


    ・・・違った。


    向こうの通りに見覚えのある男の子。



    しかし、エレンが懸命に呼んでいるにもかかわらず、アルミンはあさっての方を向いて突っ立っている。



    「おい、アルミン!無視するな!」


    そう言って歩道を渡ろうとするも人波に遮られる。


    私たちの身長ではアルミンの姿を確認できない。


    ぴょんぴょん跳んでみても無駄。


    波が去った時には、アルミンの影すらなくなっていた。



    「何だよ、あいつ・・・。」


    怒りとも悔しさともつかぬ声。



    ・・・あの姿は本当にアルミンだったのだろうか。
  22. 57 : : 2014/02/15(土) 23:28:49

    蝉の音にひぐらしの声が混じる頃。


    部活も終わり、生徒たちはいそいそと下校を始める。


    「クリスタ!今日も一緒に帰ろうぜ!」


    私の肩を抱きながらユミルが話しかける。




    でも今日は・・・


    「ごめん、ユミル。今日は用事があるの。」


    毅然とした態度答える。



    「用事?何の用事だ?」


    顔が近い。


    「い、いいでしょ別に。私だって色々あるのよ。」


    「・・・あの女か。」


    「ち、違うわ!とにかく、今日は用事があるの!ついて来ないでね!」


    そう言って、慌てて鞄を持って駆けだす。



    なんだかんだ言って、ユミルは私のプライバシーにまで立ち入ることはしない。


    だから追ってくることはないはず。



    タッタッタッ


    ・・・


    タッタッタッ


    ・・・ ・・・



    「・・・。」




    何だろう。


    後ろから誰かがついて来ているような・・・。




    昇降口まで来た時、立ち止まって振り返る。



    ユミル・・・じゃない。


    「ユミル?」


    念のため名前を呼んでみる。


    返事はない。




    嫌な気分。


    買い出しの前に感じた視線のような。


    「早く行こう・・・。」

    独り言を呟いて靴に手を掛ける。



    その時。


    目の端に入ってきた異物。





    昇降口のガラス戸。


    両手をぴったりガラス戸につけてこちらを見ている子どもの姿。





    誰?


    そう思って顔をガラス戸に向ける。


    子どもの姿は無い。



    ・・・見間違え?


    にしてはあまりにもはっきりとした子どもの姿だった。




    嫌だなぁ・・・。



    靴を急いで履き、外に出ながら携帯に手を掛ける。


    昼間もらった連絡先の番号にダイヤルをする。




    今はあの人の声が聞きたい。


    プルルルル・・・
    プルルルル・・・



    コール音が長く感じる。



    「・・・はい。ヒストリアです。」


    顔がほころぶのを感じた。









    「暑いですね〜今日も。」


    右手でパタパタしながら、心ばかりの風をつくるサシャ。



    「ほんと。でもだからと言ってあんなにアイス食べてたらお腹壊すよ。」


    「美味しいもの食べてお腹壊すなら本望です!それよりもミーナ、もう一本どうですか?」


    「私はもう食べたからいいわよ。太りたくないし。」


    私がこんなに体型維持に気を使っているのに、サシャは何もしなくても美しいプロポーション。


    不条理だ・・・。


    ふいっと向こうを見るとユミルが一人で歩いてる。



    「へぇ〜、珍しいわね、ユミルが一人でいるなんて。」


    サシャに話しかけるとも無く呟く。


    「何がですか?」


    何本目か分からないアイスを口に頬張りながらサシャが答える。


    「ほら、あそこ。いつもはクリスタと一緒のユミルが一人でいるなんて珍しいね。」



    「・・・、はぁ・・・。」


    私の言葉など上の空でサシャはユミルを見つめてる。




    「一人・・・ですか?」


    「え?そうだよ。」


    「一人・・・。」


    「なに?」



    「いえ、何でもないです。」


    サシャは尚もユミルを見つめてる。


    「どうしたの、サシャ。ほら行くよ。」


    「はい。」


    顔はユミルに向けながら足を動かしだす。








    「確かに珍しいですね。」










    「男の子と一緒だなんて。」
  23. 61 : : 2014/02/16(日) 18:17:44


    ・・・気分が乗らない。



    あの女の所に向かったクリスタが気になる、というのもあるが。




    学校を出てからどうも肩のあたりが重い。






    空を見上げると昼間の青い空から一変して鉛色の空。



    風も吹いてきたし、湿っぽい。





    「こりゃ、急がないとな。」


    独り言を呟く。




    幸い、私の家はここから近い。



    空が泣き出す前に家の門をくぐりたいものだ。










    ポツ・・・






    ポツ・・・






    ポツ・・・ポツ・・・






    ポツポツポツ・・・




    ザーーーーーーーー









    ダメだったか。



    大粒の雨が体に降りかかる。



    冷たい、というよりも痛いほどの雷雨。



    汗まみれの服がみるみる雨に侵食されていく。




    「こりゃひでえ!」


    この距離なら普段なら走ることはないが、今回ばかりは別だ。


    カバンを頭に抱え、家まで走る。





    バシャバシャバシャバシャ



    あっという間にできた水たまりでスニーカーが汚れていくが、そんなの気にしてられない。



    マンションの自動扉を開け、エレベーターに乗り込む。


    そして、家の鍵を開けて一息つく。





    「ふぅ・・・。ただいま。」



    家に誰もいないのは百も承知だが、癖で「ただいま」を言う。





    乱雑に靴を脱ぎ捨て、びしょ濡れになったジャージと靴下をポイポイ脱いでいく。



    今は下着だけ。




    「ジャージを着ててよかったぜ。制服だったらスケスケになってたとこだ。」



    タオルで頭を拭きながら言う。






    親は共働きでこの時間は帰ってこない。




    今、家にいるのは私だけだ。


    人目を気にすることもない。


    ラフな格好で冷蔵庫に向かい、牛乳を飲む。





    単なる夕立だ。1時間もしないうちに雨は上がるだろうが・・・。


    この雨量はちょっと心配になる量だ。






    それに・・・。





    ゴロロロロロロ



    雷の音。




    見た目に反して、私は雷が苦手だ。




    早く雨が上がって欲しい。











    ・・・




    ・・・




    ・・・ン




    ・・・コンコンコン





    最初は雨音で聞こえなかったが、玄関をノックする音が聞こえる。



    「チッ。んだよこんな時に。」


    と、言ってみるものの、もしかしたらこの雨にやられたクリスタかもしれない。そう思って玄関に向かう。






    コンコンコン



    ノックが繰り返される。




    「はいはい。まったく・・・。」



    そう言ってドアスコープを覗く。





    金髪のショートヘアー。小さい背丈。


    俯いていて顔は見えないが、やっぱりクリスタだろう。




    ガチャリとドアを開けると、雨の音が急に大きくなる。






    「あれ・・・?」



    廊下には誰もいない。




    おかしいな。確かにクリスタだと・・・。





    ドアを閉める。




    そういえば・・・




    何でチャイムじゃなくてノックなんだ?



    それに、あの”クリスタ”は・・・





    制服を着ていたか・・・?


  24. 62 : : 2014/02/16(日) 20:18:49
    ひやぁぁ!!こ、こわひ…!
    一人で夜中最近起きているから、ビクッとしてしまいます(^w^)
    臨場感溢れてて怖い楽しい!!
    お化け屋敷のよう…
    ユミルかっこいいけど何だか色っぽいですね…(*´ω`*)
  25. 63 : : 2014/02/16(日) 21:11:18
    ふふふ・・・。

    88さんに怖がってもらえて嬉しいですね(*´∀`*)

    ユミルの色っぽさが伝わって良かったです!

    怖く楽しい物語をお楽しみください。
  26. 64 : : 2014/02/16(日) 21:45:55





    ペタ・・・







    ペタペタペタ・・・




    ・・・何だ、この足音。






    体全体で振り返ると、リビングへと続く通路に足跡が点々とついている。




    子どもサイズの足跡。


    しかもぐっしょり濡れている。






    私の足跡か?



    そう思ったがすぐにそれが勘違いだと分かる。




    その足跡は指の形が無い。


    まるで濡れた靴下を履いたまま歩いた跡のように。



    私は家に帰ってすぐに”靴下を脱いだ”のだから・・・。






    鼓動が速くなる。




    「おい・・・何なんだよ・・・。」




    ここにいてはいけない。


    ここから出よう!





    ドアノブに手をかけてふと気づく。




    私・・・下着じゃん・・・。



    いくら夏だとは言え、こんな格好では外に出られない。




    私の部屋はリビングの手前にある。





    「・・・大丈夫さ。」


    そう言いつつも、傘立てにある傘を一本抜き出す。




    無いよりかはマシだ。



    恐る恐る自分の部屋に向かう。




    ほんの目と鼻の先にある部屋がこんなにも遠く感じる。






    ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・



    息遣いが荒くなる。




    ドアノブに手をかけ、一気に押し開く。



    そして、襲撃を受けないように顔だけそぉっと覗かせる。





    電気のついていない、薄暗い自分の部屋。



    足跡は・・・ない。




    部屋に一歩踏み入れようとした時





    ピカッ!



    一閃。




    その一瞬。



    部屋の中に笑みを浮かべた男の子。



    「ヒィッ!。」




    ゴロゴロゴロ・・・



    雷鳴が鳴ったときには、もう誰もいなくなっている。






    ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・



    心臓が張り裂けそうだ。




    わけがわからない。



    でも・・・このままじゃどうしようもない。



    傘を強く握り締め、


    「うわぁぁ!!」


    と叫んで部屋に飛びいる。



    心臓がバクバクしている。





    早く・・・



    早く・・・!




    震える手でタンスを開ける。



    とりあえず何でもいい!




    手にとったキャミソールとホットパンツを慌てて着る。




    これでいい!



    これで外に出られる!













    ・・・バタン







    自分の部屋の扉が勝手に閉まる。




    血の気が引く。





    「おい!ふざけんなよ、てめえ!」



    怖さのあまり、いつも以上に口が悪くなる。




    乱暴にドアノブに手をかけ、無理やり開ける。







    びちゃ・・・



    通路が濡れている。






    もう嫌だ!





    リビングにある携帯を手に持ち、玄関へ一目散に駆けていく。





    共用廊下には誰もいない。




    雷雨の音がザアザアと鳴いている。







    ハァ・・・ハァ・・・



    エレベーターはダメだ。



    階段だ。







    カンカンカン




    金属音を響かせ、急いで下りていく。



    吹きさらしの階段。


    容赦なく雨が打ち付ける。



    髪も服も濡れていく。






    カン・・・




    ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・






    カン・・・



    カン・・・








    来てる。




    奴も下りてきている。







    もっと早く!











    「あっ!」



    踊り場でバランスが崩れる。







    ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・





    追いつかれる。





    早く!



    体勢を立て直し、下ろうとした時。






    あ の 子 に 近 づ く な






    はっきりと、少年の声が聞こえた。





    そして、




    トン・・・





    背中を押された。









    ガン!ゴトトトトトト・・・





    ドシャ・・・














    ザーーーーーーーー













    打ち付ける雨。






    薄れていく意識。





    手元から離れた携帯電話。










    ピチャ




    ピチャ




    ピチャ










    ・・・誰だ?そこにいるのは。








    その人は私の携帯をダイヤルしている。







    なにしてやがる・・・



    かえせ・・・








    意識が遠くなる。



    痛みも消えていく。



    はぁ・・・



    はぁ・・・



    はぁ・・・




    ・・・




    ・・・




    ザーーーーーーーーーーーーーーーー





    雨音だけが無機質に鳴り響いていた。


  27. 69 : : 2014/02/16(日) 23:13:06


    「ひでえ雨になったな。」



    ベッドの上に立ちながら窓の外を眺める。



    雨が降る前に帰ってきてよかったぜ。サンキュー、マルコ。



    そんなことを思う。




    しかし・・・



    「あいつ・・・。大丈夫かな・・・。」



    土砂降りの中、カバンなどを頭に乗せ走っていく人々を眺めながら思う。







    あの時。雑踏の中にいたアルミン。


    あれから何の連絡もない。



    あのままでいるなら、アルミンもこの雨に打たれていることになる。






    自分の自尊心のためだか何だか知らないが、昇降口でアルミンを置いていったのは俺だ。



    「アルミン・・・。」



    後悔と罪悪感が押し寄せる。









    「ん?」



    いつの間にそこにいたんだろう。




    俺んちの玄関前に、雨に打たれたアルミンが俯いて立っている。




    「あのバカ!」




    そう言って急いで玄関まで下りていく。






    ダダダダ




    ガチャ





    「おい!アルミン!」




    「・・・あれ?」




    いない。



    アルミンがいない。









    傘もささず庭に出る。



    目の前の道路にも出て、右から左へ見渡してもアルミンの姿はない。



    雨はびしゃびしゃ俺の体を打ち付ける。






    どこ・・・どこだ!




    この雷雨で視界が悪い。




    もう一度・・・









    いた!




    角にいる。




    ふぅっと、まるで生気が抜かれたかのように路地に消えていく。





    「アルミン!」






    ごめん・・・ごめん!




    心の中で何度も繰り返し、アルミンの後を追う。





    路地の角を曲がる。







    「あれ?」





    まただ。




    またアルミンがいない。



    あの歩く速さからして、絶対に追いつけるはずなのに。






    「なんだよ・・・これ・・・。」



    思考が現実に追いつかない。





    でも、ほっておくわけにはいかない。




    待って・・・待ってくれ!





    傘もささずに街なかを走る俺を、他の通行人は不思議な目で見ている。



    そんなのどうだっていい。




    俺は・・・




    俺の親友を見捨てるわけにはいかないんだ!


























    ・・・やっぱり降ってきたか。




    容赦なく降り注ぐ雨の音を聞きながら、エレンとの帰り道を思い出す。






    私との時間よりもアルミンの方が大事なんだ・・・。





    こんなことを考えている自分に嫌気がさす。





    アルミンはエレンの親友。そして私の親友でもある。



    エレンがアルミンを気にかけるのは当然ではないか。




    胸に抱いた枕をぎゅっと強く抱きしめる。



    さみしい・・・



    エレン・・・







    ピカッ!


    ゴロゴロゴロ・・・




    雷が激しく鳴っている。



    風も強く吹いてきているようだ。



    雨が吹き込まないように窓はしっかり閉めている。



    おかげで部屋の中は無風状態。





    パタン





    ・・・何だろう。



    何かが倒れたようだ。




    部屋の中を見渡す。





    写真立て。




    倒れたのはこれだったのか。




    その写真を起こす。





    エレンを真ん中にした、私とアルミンの3人がうつった写真。



    小学生の時、両親と一緒に山に行った時の思い出。




    「え・・・?」



    写真を見ると、エレンの顔に傷が入っている。



    こんなもの、前までなかったのに。






    この激しい雨。



    学校での様子。



    いなくなったアルミン。




    予感。





    エレン・・・一人で走ってはダメ。





    あなたは





    私が守るから。


  28. 70 : : 2014/02/18(火) 00:17:39


    「クソ!最悪だぜ、この雨はよ!」


    ジャンが鞄を頭に抱えながら叫ぶ。


    それは僕も同じだ。


    とにかく、何処でもいいから雨をしのげる場所に行きたい。


    商店街まで行けば、どこか軒下くらいは借りれるだろう。




    ・・・と、思ったが。


    考えることは皆同じ。


    大抵の軒下は学生やサラリーマンで埋まっていて空きがない。



    「マルコ!こうなったらもう家まで走ろうぜ!」

    雷雨に負けじとジャンが叫ぶ。



    「うん、仕方ないね。そうしよう!」



    バシャバシャと水たまりを踏み抜きながら街を走る。




    「お?」

    ジャンが何かに気づく。



    古びた駄菓子屋のところに女生徒が二人。


    軒下はまだ空いている。



    息を切らし、軒下に飛び込む。


    「はぁはぁ・・・。ふぅ〜助かったぜ!」







    「・・・ジャン!それにマルコじゃない。」


    聞き覚えのある声。



    「ミーナじゃねぇか。それにサシャまで。お前ら帰宅部だろ。こんな時間まで何してたんだ?」


    ジャンがタオルで髪を拭きながら質問する。



    「・・・サシャの食い倒れ大会に参加していたのよ。お陰で酷い目にあったわ。」


    はぁ・・・と溜息を吐いて遠くを眺める。



    「シャワーを浴びたみたいでいいじゃないですか!私は気持ちいいですよ!」


    サシャは髪から水を垂らしながら何故かウキウキしている。


    子どもっぽさが中学生になっても抜けてない。




    それにしても・・・


    チラッとサシャの姿を見る。




    長い髪は水気を帯び、セーラー服が透けていて、水色の下着のラインが見えている。


    屈託のない可愛い笑顔の下には、
    豊かに膨らんだ胸元と、すらりと伸びた生足。


    そして時折、無防備に髪をすくう仕草。





    ・・・いけない。


    中学生には刺激の強すぎる光景。


    思わず僕はそっぽを向いて理性を保つ。





    ・・・あれ?



    「どうしたんですか、マルコ?」


    サシャがつかつか歩み寄る。



    「あ、あぁ。あそこを見て。」


    滝のように雨が降る道路の先に指を差す。



    「アルミン・・・ですか?」



    この雨の中、道端に突っ立っている。


    こちらに背を向けているとはいえ、あの背格好を間違えることはない。



    あんな所で何をしているんだろう。



    てっきりミカサとエレンに気を使って、先に帰していただけだと思っていたけど・・・。




    「・・・マルコ。」



    真剣な表情のサシャ。



    「何だか様子が変です。アルミンを追いましょう。」



    言うが早いが、サシャはこの雨の中を駆け出す。



    「ちょっと、サシャ!どこ行くの!」


    続こうとするミーナを手で制する。


    「・・・ミーナ、ここは僕に任せて。ジャン、もし何かあったら連絡するから、その時はよろしく頼むよ。」


    そう言って返事も聞かずにサシャの後を追う。






    バシャバシャバシャバシャ



    この悪路の中、なんて足の早さだ。


    必死に距離を詰めようとするも、だんだん引き離されていく。



    「サシャ!」


    これ以上離されたら追いつけなくなる。




    ピタッ



    サシャが急に立ち止まる。



    キョロキョロと辺りを見回している。



    公園の前だ。



    かなり開けた場所。


    サシャなら見失うことなどないはず。


    本人もそう思っている筈だ。


    だからこそ、こんな所でアルミンを見失ったことに一番驚いているのは、他ならぬサシャ自身だ。



    「サシャ・・・」








    ・・・




    ・・・・・・かい・・・




    ・・・・・・よ・・・





    サシャがおもむろに公園の方を見る。







    もーいーかい



    まーだだよー




    アハハ・・・アハハ・・・




    こんな雨だというのに、近所の子どもたちが、隠れる場所もろくにない公園で遊んでいる。





    異様な光景。




    これは一体・・・何だ・・・。






    ぴちゃ・・・



    ぴちゃ・・・








    ・・・。



    後ろに気配。




    ゆっくり振り返る。





    「・・・。」


    「どうして・・・」






    君がここにいるんだい?
  29. 76 : : 2014/02/18(火) 22:05:54


    カツン・・・コツン・・・



    無機質な建物の中を一人、歩いている。







    ・・・ン・・・スン・・・



    誰かのすすり泣く声。



    屈み込んで、両手で顔を押さえて泣いている。






    『だいじょうぶ?』


    そう声を掛けようと近づく。





    ・・・。


    その子は泣き止む。



    そして顔だけをゆっくりこちらに向ける。






    ぞくっとした。







    その子には顔がない。



    正確に言えば、目と鼻と口がない。



    屈み込んだまま、顔だけをこちらにずっと向けている。






    思わず後ずさる。




    顔をこちらに向け続けたまま、ゆっくりとその子は立ち上がる。




    一歩。



    二歩。



    こちらに近づいてくる。





    いや・・・



    いや!



    背を向けて逃げ出そうとする。










    『また、僕を置いて行くの?』





    口のないその子が、そう言う。







    ・・・



    ごめん・・・



    許して・・・



    目をつむって私は逃げる。






















    お願いだ・・・





    僕の友達を






    助けてよ・・・















    ・・・












    ヴーーーーーーー



    ヴーーーーーーー






    机の上の携帯が鳴っている。



    気づけばもうひぐらしが鳴き始めている時間。





    ・・・寝ていたのか。




    暑さによるものではない、嫌な汗。




    携帯を開く。


    見覚えのない電話番号。





    「・・・」



    「・・・はい、ヒストリアです。」





    「あ!ヒ、ヒストリアさんの携帯でよろしいですか!わ、わたしです!クリスタです!」





    愛くるしい声。





    急に世界が明るくなる。




    「ふふっ。クリスタさんね。そろそろ電話が来る頃だと思っていたわ。」




    電話越しでも分かる、嬉々として話す様子。



    私までもつい笑顔になる。





    話しながらちらりと窓の外を見る。


    だいぶ雲行きが怪しくなってきている。




    「ねぇクリスタさん、あなたお家は学校から近いの?」



    「え?えぇっと、歩いて20分くらいです。」



    「なら、私の家の方が近いわね。一雨きそうだから、よかったら家にいらっしゃいな。」




    わぁ!いいんですか!


    嬉しそうにそう答えるのを受け、道しるべとなるものと部屋の番号を伝えた。





    パチ


    携帯を閉じる。




    この家に人をいれるのは初めて。



    ・・・あんな夢を見たからかもしれない。




    誰かと一緒に話して、気を紛らわせたかった。




    ごめんね、クリスタさん。


    こんなことに付き合わせてしまって・・・。





  30. 77 : : 2014/02/18(火) 23:45:42


    ・・・








    「まぁ大変!すぐに着替えとタオルを用意するわ!」



    思ったより雨足が速かったようだ。



    私の家に着く前に大粒の雨が降り出したせいで、クリスタさんがズブ濡れになっている。




    「とにかく着替えましょ。そこのお風呂場でこれに着替えてね。」



    秋用のパジャマを渡す。




    「・・・はい。」


    さっきまでの元気はどこへやら。すっかりしおらしくなっている。




    ポットの電気をいれ、お湯を沸かす。




    ひどい雨。


    窓を閉めていても、打ち付ける雨の音を遮れていない。



    こんな激しい夕立は久しぶりだ。


    ここに来るまで、さぞかし冷たかったことだろう。






    「ヒストリアさん・・・」



    蚊の鳴くような声で私のことを呼ぶ。


    見ると、ぶかぶかのパジャマに身を包んだクリスタさんの姿。



    「ごめんなさいね・・・。あなたに合うサイズの服がなくて。さ、温かいものでも飲みましょう。」





    突然・・・



    クリスタさんの頬に涙が伝う。



    「ど、どうしたの?どこか具合が悪いの?痛い?」







    「・・・違います・・・。」

    「私・・・ヒストリアさんに色々ご迷惑をかけてばっかりで・・・。それどころかこんなに優しくしてもらって・・・。情けなくて・・・。」






    優しい・・・




    「私は・・・優しくなんかないわ・・・。」



    「え?」



    「あ、ううん、何でもないわ!あんなの気にすることないわよ。私こそ、こんなかわいいお客様が来てくれて嬉しいわ。ありがとう。」




    クリスタさんは頬を赤らめ、ベッドの横で体育座りをする。


    真っ赤な顔を膝に埋めている。


    何がそんなに恥ずかしいのだろうか?





    「ヒストリアさんって猫を飼っているんですね。」


    急に話題を変える。


    布団の上でウトウトとしている私の家族。



    「よかったら触ってみる?私以外の人に触られるのは初めてだけど、大人しい子だからきっと平気よ。」




    サワサワとクリスタさんが背中を撫でる。



    ゴロロ・・・ゴロロ・・・


    喉を鳴らしている。大丈夫のようだ。






    「そういえば、ヒストリアさんは何のお仕事をしてらっしゃるんですか?スーツを着ていましたけど。」




    「あぁ・・・。」

    コーヒーを一口含む。



    「見ての通り、営業よ。」



    「えいぎょう?」



    「そう。保険のね。でも私、この商品あまり好きじゃないの。」


    冷ややかな目で契約関係の書類の山を見る。




    「おかげで、成績は万年ビリ。あっちこっち異動させられて・・・。この町で成績をあげれなかったら、もうクビなの。」


    ふっと自嘲気味に笑う。



    「でも、今日やっと1件契約が取れそうな話になったの。ギリギリって感じね・・・。ただ・・・。」



    「ただ?」



    「その人は、商品というよりも、ただ”私”に興味があるだけみたい。」




    憂いを漂わせる目。


    それがまた色っぽく、美しい。





    「ごめんなさい。こんな話をしちゃって。」




    「・・・ヒストリアさんは、今のままでいいんですか?」




    「・・・。」




    「何だか・・・ヒストリアさん、苦しそうです。」











    「・・・もうこの町で、自分と向き合うのは嫌よ。」








    ザーーーーーーーー








    雨の音だけが二人のいる部屋に鳴り響いていた。


  31. 78 : : 2014/02/18(火) 23:49:20
    期待です☆キラ~ン
  32. 79 : : 2014/02/18(火) 23:54:30

    めちゃ期待!さいこー!
  33. 80 : : 2014/02/19(水) 18:48:26
    いつかさん、クリスタ・レンズさん、期待してくださりありがとうございます!

    今日の更新は難しいかも知れませんが、できる限りやってみます。
  34. 81 : : 2014/02/20(木) 21:46:58
    ヒストリアさんが鍵を握ってる風ですね…!
    いつもわくわく読んでいます。
    更新はゆっくりでも、わくわくした気持ちはそのまま楽しみにしておりますね〜☻
  35. 82 : : 2014/02/21(金) 01:07:13

    ピリリリリリリ


    ピリリリリリリ



    静寂を打ち破る着信音。



    クリスタさんの携帯だ。


    申し訳なさそうにこちらを見る。



    『どうぞ』


    口には出さないが、穏やかな笑みと手の動きで携帯に出るよう促す。



    会釈した後、携帯に出る。



    「もしもし?ユミル?どうしたの?」



    「もしもし?もしもし?」




    様子がおかしい。


    「ユミル!ねぇ、どうしたの?何かあったの?返事をしてよ!」



    「・・・クリスタさん、ちょっと代ってくれるかしら?」



    「はい・・・。」


    不安な表情で私に携帯を託す。



    ザアアアアアアア


    携帯からはこの激しい雨音しか聞こえない。


    呼吸の音も聞こえなければ、服などが擦れる音も聞こえない。



    ・・・携帯をかけた直後に何かしらの事故にでもあったのだろうか。




    ピーポーピーポー


    サイレンが聞こえてくる。



    その音はだんだん大きくなり、やがて救急隊の方が電話に出た。









    「・・・はい。・・・はい。いえ、その子の知り合いです。・・・はい。・・・はい。」




    ヒストリアさんが誰かと話している。


    ユミルじゃない・・・。



    窓の外から救急車のサイレンが雨に混じって聞こえてくる。


    もしかして・・・ユミル・・・?


    不安がこみあげてくる。


    思わず窓の方を見る。







    いやああああああああああああああああああああああああっ!




    携帯を閉じた、まさにその時。クリスタさんが悲鳴をあげる。





    「クリスタさん!どうしたの?」



    クリスタさんが私に抱きつく。


    震えている。




    「どうしたの?何かあったの?」


    「まど・・・」



    「窓?」



    窓を見る。


    さっきまでと同じ。雨が打ち付けている様子。




    「・・・何もないわよ?」


    「男の子・・・。」



    「え?」



    「男の子が・・・」




    ドッ  ドッ   




    心音が大きくなる。




    偶然・・・?


    私の夢にも出てきた。




    それがどうしてこの子にも・・・?



    ・・・だけど・・・




    「クリスタさん。落ち着いて?ここは9階よ。窓の外に男の子なんているわけないわ。」





    「でも・・・」


    「私はユミルさんの学校に連絡するわ。ここの近くにある小学校でしょ?ネットで調べればすぐに分かるわ。」




    え?



    「ヒストリアさん。私、小学生じゃありません。それにこの近くにあるのは中学校です。小学校は随分昔に隣町の小学校と一緒になりました。」



    「え・・・?」




    ・・・



    「ヒストリアさん・・・。

     
     もしかして、


     あなたはこの街に、以前住んでいたことがあるのですか?」
  36. 83 : : 2014/02/22(土) 22:30:08



    張り詰めた空気が流れる。



    あんなに優しいヒストリアさんの顔つきが険しくなっている。



    すうっと私から目を逸らし、


    「クリスタさん。あなたとユミルさんのクラスと担任の先生を教えてくれるかしら。
    私が学校に連絡している間に救急の方から連絡があったらメモをしておいてね。」



    淡々として、事務的な言い方。



    距離。拒絶。



    そんな言葉が浮かんで来る。




    嫌・・・。


    ヒストリアさんは、私が・・・憧れていた理想的な大人の女性。



    そんな人が現実に現れて、恋慕にも近い感情を抱いているのかもしれない。



    その人に嫌われたくない。



    離れたくない。





    「ヒ、ヒストリアさん・・・」



    「何?」




    ズキッ



    冷たい目。冷たい声。



    どうしよう・・・。私が変なことを言ったせいだ・・・。



    「い、いえ・・・その・・・。ご、ごめんなさ」





    ピリリリリリリ


    私の携帯が鳴る。



    ヒストリアさんは無言で私の携帯を貸すように促す。




    「はい、ヒストリアです。・・・はい。・・・はい。・・・はい、分かりました。すぐ向かいます。」



    「え・・・」



    「クリスタさん。ユミルさんの運ばれた病院が分かったわ。これから学校に連絡して、ユミルさんのご両親が来るまで私が病院にいなきゃいけないから、あなたはここで一人、お留守番しててくれる?」




    絶句して顔を横に振る。




    「ヒストリアさん、お願いです・・・。私も一緒に連れて行ってください!一人でいるのは・・・とても心細いんです!」



    「気持ちは分かるわ・・・。でも、あなたはそんな格好だし、外は大雨よ。あなたにまで何かあったら、それこそ大変。ね?クリスタさん。あなたはお利口さんだから・・・。」




    頭を優しく撫でる。



    おりこうさん・・・だから・・・



    ずるい言葉・・・



    「はい・・・。でも、やはり一人では不安です。このお家に私の友達を呼んでも良いでしょうか?」





    にこっ



    菩薩のような微笑み。



    許してくれたのだろうか・・・。



    ヒストリアさん。やっぱり私・・・あなたのそういう笑顔をいつまでも見ていたい・・・。






    この街には何か良くない思い出があるのかもしれない。


    でも、それがヒストリアさんを苦しめているのなら・・・。


    私がそれを解消するお手伝いをしたい。


    そしてそれが恩返しとなれれば嬉しい。





    病院とヒストリアさんの住所をメモで控えている間、ヒストリアさんは学校に連絡をする。


    そして、濡れてもいい格好に着替えたヒストリアさんは、私に笑顔を残して家を出ていった。
  37. 84 : : 2014/02/23(日) 14:19:36

    ・・・


    大人げないことをしてしまった。



    タクシーの中でそう思う。




    クリスタさんは、私のことを心配してくれた。


    それなのに私は、自分の過去に触れられたくなくて、あんな冷たい態度を・・・。




    「ダメな大人ね・・・私・・・。」



    そう呟いて窓の外を見る。


    相変わらずの大雨。




    その中をひとりの少年が傘もささずに走っている。



    何かを探しながら必死に。




    あんな風に必死になることって最近まるでなかった。


    なんとなく営業に行き、なんとなく給料を貰い、なんとなく日々を過ごしている。



    淀んだ人生。





    あの時から・・・。

    私の中で何かが止まっている。




    私はまだ、あの少年のように、走ることができるのだろうか。


















    ハァ・・・ハァ・・・





    アルミン・・・




    どこだ・・・




    アルミンの姿は現れては消え、現れては消える。



    息があがる。限界だ。






    ハァ・・・ハァ・・・






    ・・・・・・・かい・・・




    ・・・・・だだよ・・・・







    ・・・こんな雨の中で声が聞こえる。




    俺の足が自然とそっちの方に向かう。




    急に視界が開ける。



    公園だ。





    「あ・・・。」



    見慣れた人影が2つ。



    走るのを止め、ゆっくり歩いていく。



    一人が俺に気づく。





    「・・・どうして。君がここにいるんだい?」




    マルコに・・・サシャ。



    サシャの方も俺に気づく。



    「エレン!何してるんですか、そこで。」



    それはこっちのセリフだ、そう言いたかったが俺はこう聞いた。





    「アルミンを見なかったか?」




    明らかにマルコとサシャの顔に驚きが走る。



    「エレンもアルミンを探しているのかい?僕たちもアルミンを追いかけてきたのだけど、この公園で見失ったんだ。」




    マルコたちも?



    ますます意味がわからない。



    疲れと冷えが思考を奪う。






    あはは・・・あはは・・・



    こんな雨の中、子どもたちが遊んでいる。


    さっきの声はこの子たちだったのか。





    もう帰ろうぜぇ!



    そう言って子どもたちが俺たちの間を横切っていく。


    わらわらとちびっ子たちが去っていくのを俺たちは突っ立ったまま眺めている。




    その最後尾。


    くるりと顔だけをこちらに向ける少年。




    その顔は・・・



    アルミン・・・?





    呆然とする俺たちにサシャが歩み寄る。



    「やっぱり一人多いです。あの子たち。」


    「え?」



    確かめようとしたが、彼らの姿はもう消えている。



    「多いって何が?」


    マルコが尋ねる。



    「私たちがここに来た時に公園で遊んでいた子どもの数と、さっき帰っていった子どもの数が違います。さっきの方が一人多かったんです。」


    ごく自然な様子で説明するサシャ。


    この雨のせいではない、嫌な寒気が背中に走る。



    「何を言って・・・」





    ピリリリリリリ


    着信音が鳴る。



    マルコのだ。



    「もしもし?ジャン?・・・うん・・・え!?分かった!すぐ戻るから!」


    神妙な顔つきをするマルコ。




    「サシャ、エレン。ユミルが大怪我をして今、病院に運ばれている。そしてクリスタが一人でいるそうだ。不安だからみんなと来て欲しいって。」



    3人で顔を見合わせる。



    互いに頷き合い、俺たちはクリスタの元に向かった。
  38. 85 : : 2014/02/24(月) 00:56:38


    パタン


    携帯を閉じる。



    連絡ができたのはミーナだけ。


    隣にジャンがいたらしく、彼がマルコたちを呼んでくれるそうだ。





    カタカタ・・・カタカタ・・・


    風が窓を揺らす。



    ベッドにあがり、布団を頭からすっぽり被る。



    ヒストリアさんの飼っている猫と一緒とは言え、やはり一人は心細い。





    それに・・・



    昇降口とこの部屋で見た男の子を思い出し、身震いする。




    階の問題ではない。


    私はあの男の子を確かにそこで見た。



    つまりは近くに“いる”ということ。


    布団の端をぎゅっと握る。




    ヒストリアさんの匂いのする布団とこの猫が私のこころの支え。



    ミーナはここからそう遠くない場所にいる、と言っていた。

    ならば、あと半時もしない内にここには来るはず。


    それまで耐える。





    ・・・この猫(こ)は何て呼ぼう。


    真っ黒だからクロでいいかな。






    パチン




    電気が消える。





    ペタペタ



    ペタペタ



    扉一枚向こう側。廊下を誰かが歩いている。




    クロの耳がピンと立つ。



    空耳じゃない。




    予想はしていただけに、大きな動揺はしないがそれでも鼓動は速くなる。



    クロが立ち上がる。



    フウウウウウウウウウウウウウ



    毛を逆立てて扉の向こうを威嚇する。




    コンコン



    ノック音。



    ベッドの端に寄り、気休めの武器にと枕を手に持つ。







    ふふふ・・・


    あはは・・・



    頭の中に直接響くような笑い声。








    どうして・・・


    この子は私に付きまとうのか。




    ペタペタ


    ペタペタ



    扉の前をウロウロしているような音。




    私はドアノブを見る。



    ここが動いたら、その時は・・・。




    でも・・・




    トントン


    飛び跳ねるような音。





    何だろう・・・



    不思議な勘だけど、“この子はこの部屋には入ってこないのでは?”と私は感じている。



    何度も何度も扉の前をうろついたり、飛び跳ねたりするだけ。



    わからないけど、こう言っている気がする。



    『僕は、ここにいる。』




    そう思うと、何だか怖くない。むしろ・・・かわいそうな・・・









    シャッ!



    「痛!」


    私の手の甲から血が流れていく。




    クロが爪をしまい、私の目をじっと見つめる。





    そう・・・そうよね。


    同情なんてしたらダメ。




    心を強く持たないと・・・。



    生きている人間の方が、強いんだから。







    ピーンポーン



    チャイムが鳴る。






    ミーナたちが来た!



    喜び勇んでインターホンを覗く。







    薄気味悪い笑み。


    俯いて顔の見えない男の子がそこにいる。




    「ヒッ!」



    思わず後ずさる。






    ハッ・・・ハッ・・・





    ピーンポーン




    またチャイムが鳴る。




    もう一回見る勇気はない。






    ピーンポーン





    ピーンポーン





    ピーンポーン







    もうやめて・・・!





    そう願った時。





    ・・・


    クロの威嚇が止まる。




    扉の向こうから音が消える。




    『クリスター?いるー?あけてよー。』




    インターホンから漏れるミーナの声。




    私はヘナヘナと座り込んだ後、オートロックを解除し、皆を招き入れた。
  39. 92 : : 2014/02/26(水) 01:26:39

    病院の待合室の長椅子に腰掛ける。


    雨はまだ止まない。


    日中ということもあり、人の往来は少ない。


    前屈みになりながら、自分の行動を振り返る。


    ・・・クリスタさんを一人にしてしまった。


    あんなに怖がりながら、こんな私を頼りにしてくれたのに・・・。


    もっと側にいてあげたかった。


    唇をかむ。



    そんな時。


    自動扉が開き、一人の老婆が受付に向かう。


    手には小さな花束。


    ひと言ふた言話し、花束を受付の看護婦さんに渡して去って行く。


    ふと目があう。


    その方は丁寧にお辞儀をした。


    私も立ってお辞儀を返す。


    その方は優しく微笑み、帰って行く。


    入れ違いに男性が駆け込んで来た。


    受付の方が幾つか説明をした後、私の方を指し示す。


    その人はユミルさんのお父さんだった。


    私は彼に現状の説明と引継ぎを済ませた後、「知り合いが待っていますので、これで」と言ってその場を去った。


    その際、受付に向かい、気になっていることを聞いた。


    「先ほどの女性の方は、どういう方なのですか。」と・・・


    『またその質問か』とでも言いたそうな顔をしながら事務的に看護婦さんが答える。



    「近くの丘にある、教会の管理人さんですよ。以前、ここに入院してた時にお世話になった子の命日ってことで花束を持ってくるんです。もう10年以上になりますよ。」



    「・・・。」

    「そうですか・・・。ありがとうございました。」


    そう言って私は受付を離れ玄関の外に出る。



    命日・・・


    この言葉が私の心に重くのしかかる。


    この街で一番聞きたくない言葉だ。




    ヴーーーーーー

    携帯のバイブが鳴る。


    急いで電話に出る。



    「もしもし?クリスタさん?大丈夫?」


    「・・・ヒストリアさん!ヒストリアさん!」


    感極まった感じの声。


    「ごめなさい。一人にさせて・・・。怖かったでしょう。」


    「はい・・・。でもクロが守ってくれました!それに今は皆がいるので、もう大丈夫です!。」


    ほっと溜息を吐く。

    クロというのは私の猫のことだろう。



    「それは良かったわね!ユミルさんのお父さんもみえられたから、私もこれから家に戻るわ。あ、タオルとかは勝手に使っていいからね。」


    「ありがとうございます!

    ・・・でも、ヒストリアさん。こんな変な事を体験したのは私だけではないみたいなんです。」


    眉間にしわがよっていく。


    「・・・どういうことかしら?」


    ドクン・・・ドクン・・・


    鼓動が速くなる。



    まるで・・・

    嘘が見破られる時のような緊張感。




    「はい・・・。私の同級生のアルミンがいなくなったんです。でもエレンやサシャたちの前に出てきては消えてを繰り返すらしくて・・・。
    あと、ユミルが怪我する前に見た時には、彼女が小さい男の子を連れていたりしてたみたいです。」


    「これって何なんでしょうか。ヒストリアさん、何か分かりますか?」


    電話の向こうで愛くるしい声で尋ねてくる。


    しかし、私の意識は別のところに行っていた。



    ・・・


    ・・・


    ・・・アル・・・ミン?



    思わず口をつむぐ。





    ・・・気の迷い。

    そうに決まっている。



    「・・・クリスタさん。電話では伝わらないこともあるから詳しいことはお家に帰ってから聞かせてもらうわ。」


    努めていつものように話す。


    「はい・・・。へんなこと言ってすみませんでした・・・。

    あ、あと、後からもう一人、ミカサって女の子が来ます。

    その子も一緒に話してもいいですか?」



    ・・・


    ・・・


    妙な緊張が胸をよぎる。


    だけど・・・


    「いいわよ。」


    今の私はこう答えないといけない気がした。
  40. 95 : : 2014/02/26(水) 23:33:09



    家の扉を開けるとずぶ濡れの靴が6人分ある。


    クリスタさんの分を除けば、5人のお友達が上がっていることになる。


    きちんと足を揃え、端に寄せられている。



    ・・・立派なご両親にみんな育てられたのね。


    そう思う。



    嬉しく思う反面、どこか嫉妬に似た感情が沸き起こる。


    私には、こんなに友達がいなかったから・・・。





    「ただいま。」


    そう言って扉を開けると、クリスタさんが胸に飛び込んできた。



    優しく抱え込み、金色の綺麗な髪を撫でる。



    「よしよし・・・。よく頑張ったね。えらいわ。」



    「ヒストリアさん・・・。」



    心から落ち着いているような声。


    安心した。





    顔をあげると、温かい飲み物で暖をとっているクリスタさんのお友達が不思議そうな顔で見つめている。


    それもそうよね。目の前でこんなことを見せ付けられたら・・・。




    そう思っていると、



    「クリスタにそっくりですね!なんだか姉妹みたいです!」


    と発育のいい女の子が声をあげる。



    横にいるおさげ髪の女の子も無言でうんうんと頷く。


    3人の男の子にいたっては、私の顔を見てぽぉ~としているだけ。





    その中のひとり。

    目つきの鋭い男の子。


    あなたは・・・





    「ねぇ、あなた。もしかしてさっきまでこの近くを走っていなかった?」



    「・・・え?おれ?じゃなかった、僕ですか?確かに走ってましたけど・・・。」


    やっぱりそうだ。

    この子もクリスタさんのお友達だったなんて・・・。




    「エレンって言います。」


    クリスタさんが紹介してくれる。


    「左から、マルコ、ジャン、サシャ、ミーナです。みんな私の大事な友達です。」


    弾ける笑顔。



    それに合わせて全員「お邪魔してます」と挨拶する。


    若さが眩しい。




    「ヒストリアです。よろしくね、皆さん。」


    そう言って私は胸の痛みとともに微笑んだ。











    ・・・




    ゴロゴロゴロ・・・


    雨は降り続ける。




    腰を落ち着けてみんなの話を聞く。



    大体の内容はクリスタさんが電話で言った通り。




    「急にこれだけおかしなことが起きると、さすがに不安になります。」

    マルコと紹介された少年が話す。


    「この中で変な目にあっていないのは、ジャンとミーナだけだね。」


    こくりと二人が頷く。




    「しかし、わからねぇ。」


    馬面のジャンとかいう少年。


    「いなくなったと思ったアルミンがいきなりお前らの前に現れて・・・。それで追っかけて行ったら逃げて・・・。意味がわからねぇよ。」




    「・・・どこかに誘導している、のかもね。」

    マルコ君が神妙な顔をして呟く。



    「でも誘導しているって言ったって、結局たどり着いたのはただの公園だろ?アルミンがからかっているだけなんじゃないのか?」





    「・・・アルミンはそんなことしない。」


    エレン君がしぼり出すように呟く。




    「アルミンは確かに時々おどけるときがある。でもこんな雨の中俺たちをひき連れまわして楽しむような奴じゃない。俺にはわかっ・・・。」


    悲しさと悔しさと怒り。これらが入り混じった顔をする。


    それっきり彼は黙ってしまった。




    「アルミンと付き合いの長いエレンが言うなら間違いないと思う。でもだったら尚更・・・。」



    「かくれんぼしている子どもがいるだけでしたもんね。」





    思わず顔をあげてしまう。




    ドクン・・・ドクン・・・



    ハァ・・・ハァ・・・



    心なしか息が荒くなる。






    落ち着いて・・・。


    大丈夫よ・・・。



    あの時のことはもう私にとってもう何も・・・。






    視線。



    見るとクリスタさんの驚いた顔。


    でも、クリスタさんはすぐに顔を逸らし、何も見てない風を装う。





    見られた・・・。


    でも大丈夫。



    大丈夫なんだから。



    こんなのは単なる偶然。



    そんなこと・・・ありっこない。










    ピーンポーン




    チャイムが鳴る。


    カメラを見ると、黒髪の女の子。


    もしかして・・・



    「ミカサさん、かしら?」


    「はい、そうです。無理を言ってすみません。お邪魔してもよろしいですか、ヒストリアさん。」



    『どうぞ』

    そう言う代わりに私はロックの解除ボタンを押し、この子を招き入れた。
  41. 96 : : 2014/02/27(木) 00:29:55




    「ミカサ!お前何しにきやがった!いきなり来て、ヒストリアさんに迷惑かけるんじゃねえぞ!」



    ミカサさんが家に入ってくるなり、エレン君が叱りとばす。



    「ごめんなさい・・・エレン。でも、どうしても気になって・・・。」


    今にも泣きそうな顔。




    「おい、エレン!てめぇ・・・ミカサがあんなに心配してんのになんて言い草だ!ミカサに謝れよ!」


    ジャン君が立ち上がって怒気をとばす。




    クリスタさんがオロオロしている。






    「・・・二人ともいい加減にしな!ヒストリアさんの前で何やってるの、ほんとに!」

    温厚そうなミーナさんが怒った。




    さすがにバツが悪くなったのか、二人とも怒りを収めて下を向く。





    「・・・悪かったよ・・・。ホラ、手をかせ。他人の靴、踏んじゃまずいだろ。」



    手が触れたとき一瞬だけどミカサさんの顔がほころぶ。



    罪な子・・・。


    そう思った。






    「ヒストリアさん、急にお邪魔してすみません。私、ミカサ・アッカーマンです。エレンのと・・・幼なじみです。」


    改めて自己紹介を受ける。




    この子の髪も黒い髪。



    綺麗な子・・・。



    ジャン君がチラチラ見ている。



    彼女もまた・・・罪作り。





    「一体何があったの、ミカサ?」


    マルコ君。




    「これを見て欲しい。」


    そう言って彼女は胸に持っていた写真立てを出す。




    「これって・・・」



    「私とエレンとアルミンの写真。エレンの顔に急に傷がついていた。だから私はエレンの身に何かあったのではないかと不安になってクリスタに連絡をした。」

    「エレンは携帯に出なかったから・・・。」








    「・・・見せてくれる?」


    私がミカサさんに尋ねる。


    「どうぞ。」


    そう言って私に写真立てを渡す。




    すぅっと大きく息を吸う。


    ゆっくり目を開けて私は写真を見た。









    ・・・っ!!











    ・・・どうしたのだろう。

    ヒストリアさんが写真を持って震えている。



    驚きと恐怖が入り混じったような顔。



    でも・・・私が聞いたりしていいものだろうか。





    「・・・ル・・・。」



    「え・・・?」





    「アル・・・。」





    恐れおののいた表情でヒストリアさんが呟く。





    「アル?アルミンのことですか?」


    エレンが尋ねる。



    顔をゆっくりと横に振る。




    「違うわ・・・。アル、よ・・・。」



    「私の・・・友達・・・だった人・・・。」



    「そして・・・




     
     





     




     
     私が殺した人。」

  42. 99 : : 2014/02/27(木) 20:47:41


    痛ましいほどの沈黙。



    息をする者までいない。


    そう思えるほどの静寂。





    チラリとヒストリアさんを見る。


    思い詰めたような、悲愴な顔。



    また嫌われたくない。


    だから、私からは聞けない。





    「ちょっと見てもいいですか?」


    そう言ってサシャがヒストリアさんから写真を受け取る。



    「・・・確かにそっくりですね。ユミルの側にいた男の子とそっくりです。」


    はい、と私に写真を手渡す。




    山の中で撮ったのであろう、幼い日の三人。



    エレンの顔には確かに傷がある。


    アルミンは・・・



    「アルミンは昔、髪がもっと短かった。」


    ミカサがとつとつと説明する。


    「顔立ちは今とあまり変わっていないけど、髪型の印象はやっぱり変わってくると思う。」


    もう一度写真を見る。



    顔は確かにアルミンだ。


    私の見た男の子とそっくり。



    あの子はうつむいていてよく顔が分からなかったけど、言われて見れば確かに似ていた。





    再びみんなの視線がヒストリアさんに注がれる。




    すぅっと長いまつげが私を捉える。


    優しく、そして悲しさを湛えて私に微笑みかける。


    何かに観念したかのような笑み。



    小さく息を吐いて、ヒストリアさんは雨音と共に話し始めた。







    「・・・あれは・・・今から、もう15年も前のこと。



     あなたたちの中学校の場所に、まだ小学校があった頃のことよ・・・。」
  43. 100 : : 2014/02/27(木) 22:06:45


    ・・・



    当時の私は、いわゆるお嬢様というやつで、ピアノにバレエに英会話といった英才教育を毎日毎日やらされていた。



    本来ならば、小学校も同じようなお金持ちの集まる私立の学校に通うはずだった。



    だけど、母の意向もあり、小学生の間は地元の公立学校に通うことになったの。



    でも・・・私はそこで友達ができなかった。




    それもそうよね。



    学校が終われば遊ぶ間もなく、家に帰らされてレッスンに次ぐレッスン。


    漫画本やテレビも見てなかったから周りのみんなの話題にもついていけない。


    そのくせ、読んでる本は大人が読むようなものばっかりだったから妙に大人びた態度で・・・。



    私があの時のクラスメイトであっても友達にはなれないわよね・・・。



    そんな日々が3年間も続いたの。


    3年間も・・・。






    そしてあの夏の日。


    1学期の終業式が終わって、私は図書室でお迎えが来るのを待っていたわ。


    外では無邪気に遊ぶ同級生の声。


    私はこのあと、好きでもないレッスンが待っている。


    憂鬱だったわ・・・。



    ふと気がづくと一人の少年が座っていたの。



    本を逆さまにして挿絵を眺めていたわ。





    「何をしているの?」



    「うん・・・。ヘッセって言う人がね、”心の中にある絵をしばらくの間、逆さまに懸けてみるのはいいことだ”って言っていたから、試しに逆さにしてみたんだけど。・・・よく分からないや。」



    それを聞いて、私の心はときめいた。


    「あなた、ヘッセを知っているの?わたしも、わたしも!ねぇ、しばらくお話していいかしら?」



    本のことを話せる同年代の子どもなんて、周りにいなかったから嬉しかったわ・・・。


    その少年も、最初は驚いていたけどすぐに笑顔で話しだしたわ。




    「アルって呼んでよ!ヒストリア。」


    色が白くて華奢な少年だったけど、あの時の笑顔は素敵だった。




    それからは無我夢中で話したわ。


    話がわかる相手なんていなかったもの。


    当然ったら当然よね。


    今まで溜まっていたものを遠慮なく外に出していったわ。



    こんな身近に話せる人がいるのに、どうして今まで気がつかなかったのだろう。そう言うと、



    「僕はここが弱くて、学校にあまり通っていないんだ。同じ窓を眺めるだけではつまらないから、本をずっと読んでいたんだよ。」


    と、胸の左側を抑えながらアルは説明してくれた。



    「でも・・・」

    アルが校庭の方を眺める。


    「本もいいけど、僕もああやってお友達と遊びたかったなぁ・・・。」



    「・・・。」


    「アル・・・。遊びましょうよ!走るのはできないかもしれないけど・・・。学校でできる遊び、やりましょ?」


    そう言って、私はアルの手を引いて図書室を出たの。


    本当を言うと、レッスンに行きたくなくてサボりたかった、というのもあるけど、純粋に、初めて出来た友達のアルと小学生らしい遊びをしたかったの。




    「じゃあ・・・隠れんぼ・・・とかする?」


    はにかみながらもアルはとても嬉しそうに私に提案したわ。

  44. 101 : : 2014/02/28(金) 00:07:54


    最初はアルが鬼役。


    私なりに見つかりにくい場所にいたつもりだけど、アルは何故だかすぐに私を見つけたわ。



    私、悔しくてね。それでアルにこう言ったの。



    「アル!もっと難しいところに隠れて。それでも私、アルを見つけて勝ってみせるんだから!」



    アルは優しく私に微笑んだ。





    ・・・それから3分数えて、私はアルを探した。



    でもどこにもいないの。


    考えつく場所、色々探したけど・・・。



    その内・・・



    「お嬢様!お嬢様!」



    迎えの人の声がした。



    私は校舎内を逃げたわ・・・。



    だってアルとの隠れんぼの途中だもの。それにレッスンにも行きたくなかった。






    ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・




    振り返る。



    影は見えない。





    ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・





    角の壁に背中を任せ息を整える。



    壁から片目だけ覗かせ様子を見る。



    ・・・静寂。



    足音も聞こえない。




    安堵。




    深く息を吐くとともに目を閉じる。




    ハァー・・・ハァー・・・



    ハァー・・・



    ・・・






    「見つけましたよ、お嬢様。」




    走る。




    息が荒くなる。





    コツ・・・コツ・・・コツ・・・




    距離が段々縮まる。




    振り向けない。




    角を曲がる。







    ・・・ドン




    壁。





    壁・・・?



    こんなところに壁なんて無い・・・。




    見上げる。


    ゆっくりと。




    「こんなところに。さ、お嬢様、帰りましょう。」



    ニヤリと笑うもう一人のお迎えの人。



    腕を掴まれる。




    「待って・・・。アル!・・・アル!」



    掴まれていない方の手を伸ばしながらアルの名前を叫ぶ。



    その内、私の体は抱えられる。



    足をバタつかせながらも、私はアルの名前を叫んだわ・・・。




    でも・・・アルは返事をしなかった。
  45. 102 : : 2014/02/28(金) 23:39:14


    それから私は3日ほど缶詰にされた。


    どこへ行くにも人の目があって、生きた心地がしなかった。


    そして何より、アルのことが心配だった。


    隠れんぼを途中で投げ出して、私は帰ってしまったから・・・。



    でも、アルのことだから、きっと事情を分かって途中で帰ってくれている。



    ・・・そう思いたかった。






    全てがわかったのは、私の引越しが決まった日だった。



    家の人に理由を聞いても、誰も教えてくれなかった。



    父の書斎に置いてあった新聞。


    そこには、私の学校で男子生徒の遺体が見つかった、って書いてあった。


    死因は心臓発作。




    両親は不名誉な学校にもはや行かせることよりも、私をそこから引き離し、私立の学校に行かせることに決めたのだ。




    ・・・私は怖かった。


    自分があの時、アルを遊びに誘わなければ・・・。


    アルに「もっと難しい場所に隠れて」なんて言わなければ・・・。



    アルを殺したのは、私だ・・・。


    私がアルを殺したんだ。



    その重責に私は応えることなど、できなかった。





    それからの私は生気が失われたように学生生活を過ごしたわ・・・。



    でも、子供って残酷ね。


    新しい環境に馴染むのが精一杯で、いつしかアルのことは記憶から薄れていったわ。


    ううん。この街に戻ってくるまで、私は忘れていたの。


    ・・・忘れたつもりだった。




    父の会社の経営が悪くなって、父が斡旋してくれた保険会社に就職して日々を漫然と過ごしていたけど・・・。


    何の因果か、この街に私はとばされてしまった。


    その日から・・・あの日の記憶がずっと夢に現れた。




    あの夏の日は・・・まだ終わっていない。


    私にとってあの夏の日は・・・終わらない・・・




    終わらない夏なの。

  46. 103 : : 2014/03/01(土) 03:13:06
    ここでタイトルを回収ですね、
    色々な伏線を一気に回収して物語はいよいよ大詰めへ!というところですかね。
    続きも期待です!
  47. 104 : : 2014/03/01(土) 04:32:03
    うわあ。次々謎が暴かれていって、なんだか既にスカッとしました。
    タイトルの回収の仕方なんて本当に素晴らしいですね!参考になります。
  48. 105 : : 2014/03/01(土) 11:44:49
    ゆきさん、マリンさん、本当にいつもありがとうございます!


    タイトルの回収という大事な場面でしたが、ちょっと急ぎすぎたかな・・・、なんて反省もしております。

    物語も終盤です。

    よろしくお願いしますm(_ _)m
  49. 106 : : 2014/03/01(土) 18:04:16


    サァァァァァァァァ



    雨音が少し弱くなった。


    誰も顔を上げず、俯いて押し黙っている。




    私は、またヒストリアさんをちらりと見つめる。


    ヒストリアさんも私を見つめる。





    「・・・クリスタさん。あなたは私のこと、「優しい人」って言ってくれたでしょ。でも、実際はこうよ。」


    「自分ひとりの都合で、友達を見殺しにした残酷な女。ましてや、あなたに過去を暴かれそうになったときに、突き放した態度をとってしまう・・・、そんな情けない女なのよ。」



    そう言って、膝をかかえて小さくなった。


    その姿は、一人の魅力的な大人の女性というよりも、私たちとあまり年の変わらない、幼い女の子の姿に見えた。





    「・・・。」


    すくっと一人の少年が立ち上がる。


    そして玄関の方へを向かっていく。



    「エレン。どこに行くの?」


    ミカサさんがエレン君にそう尋ねる。




    「決まってんだろ。アルミンを探しに行ってくる。」

    「俺は・・・自分のせいで友達を失いたくない。手遅れになる前に、アルミンを見つけるんだ!」



    まっすぐな子・・・。タクシーの中で感じたとおりだわ・・・。




    「待って、エレン。ヒストリアさんとサシャの話が本当なら、ユミルについていったのはアル君ってことになる。ユミルの怪我にアル君が直接関係しているとは断定できないけど・・・」

    「ミカサの持ってきた写真にある、顔の傷が警告とするならば、あまり一人で突っ走るのは感心しないよ。」


    ミカサさんの不安げな表情を汲み取ったマルコ君がエレン君を説得する。



    「だけどよぉ・・・」



    「でも不思議ですね。」


    上を見ながら、頬に人差し指をつけたサシャさんが突然切り出す。



    「アル君がクリスタについてくるのは分かるのですが、何故ユミルについていったのでしょう。私にはよく分かりません。」






    「・・・私にはわかる気がする。」


    「ミカサ・・・?」



    クリスタとユミルが仲良く歩く光景と、ぺトラ先生と仲良く話すエレンの様子が思い浮かぶ。



    「・・・自分の大切な人が、他の誰かと仲良くしているのを見るのは・・・とても、とても辛いから。」


    「時には・・・、自分でも信じられないような冷たい行動や、考えを起こすことがある。」


    「それだけ、クリスタ・・・ううん、ヒストリアさんがアル君にとって大事な人だってことだと思う。」



    ミーナさんがジャン君を見つめる。


    皆、それぞれに思うところがあるようだ。





    「・・・ヒストリアさん。ヒストリアさんはどうしたいんですか?」


    私を含め、全員が驚いた顔をしてその人に目を向ける。


    あぐらをかいて、前かがみになりながら掌を組んでいるジャン君だった。





    「過去に起きたことは、もう終わったことでしょ?アルミンがいなくなっているのは今、起きていることです。俺はこれからアルミンを探しに行きます。」


    「おい、ジャン!それは俺が・・・」


    「エレンはよぉ・・・。ミカサの気持ちを考えたことがあるのか?おまえがアルミンを探しに行って、万が一ユミルみたいなことになってみろ。この中で誰が一番傷つくと思うんだ?」



    「・・・。」

    エレン君が口を紡ぐ。


    「・・・俺が必ず、アルミンを見つけ出してきてやる。てめぇは黙ってミカサの傍にいろよ。」


    決意と悲しみを湛えた目。


    エレン君と同じように彼も真っ直ぐだ。





    私はどうだろうか。


    私は・・・どうしたいのだろうか。


    私は・・・




    バサッ


    契約書類の山が崩れる。



    「・・・。」



    『・・・ヒストリアさんは、今のままでいいんですか?』


    『何だか・・・ヒストリアさん、苦しそうです。』



    クリスタさんの言葉が蘇る。



    私はこの街で、何度自分と向き合えばいいのか。




    アルを見殺しにした自分。


    今の仕事を続けるべきかどうかを悩んでいる自分。




    あの時は、親が勝手に進路を決めた。


    今の就職先も・・・。



    何一つ自分で決めていない。




    ・・・



    『また、僕を置いて行くの?』


     夢の中の声。


    『お願いです・・・。私も一緒に連れて行ってください!一人でいるのは・・・とても心細いんです!』


     クリスタさんの声。




    そして・・・

    『お願いだ・・・僕の友達を・・・助けてよ・・・』


    消えゆく願いと声。




    「・・・。」


    「・・・ジャン君。」



    「はい。」



    「私も一緒に行くわ。アルミン君と・・・アルを見つけるの。私は・・・私自身の手で、あの夏を終わらせる。」




    雨があがった。
  50. 111 : : 2014/03/03(月) 20:04:17



    黄昏の校舎が緋色に染まっていく。



    夜を迎えんと、半月と明星が東の空に輝き始めていた。




    校舎はあの時と比べて、大きくそして綺麗になっていた。


    でも、校庭はあの時のまま・・・。



    校舎を見上げ、私は思わず拳を握る。






    ・・・ ・・・



    ・・・





    「僕の家でお泊まり会をすることにしよう。」


    あの後、マルコ君がそう提案した。


    「アルミンがすぐ見つかるとは限らない。夜遅くになってもいいように、親にはそういう風に言うんだ。いいね。」


    男子全員が頷く。



    「女性陣はミーナの家でいいんじゃないかな?だけど、危険な探索かもしれないからできれば皆、家にいてほしい。」


    3人が首を縦に振り、1人が横に振る。



    「マルコ・・・。気持ちは嬉しいけど、アルミンは私とエレンの大事な親友。私だけ家にいるわけにはいかない。

     私は、入り口で皆を待つ。」



    覚悟と決意を秘めた目。



    「・・・分かった。だけど、僕も一緒にいるよ。あの時、アルミンを置いていったのは僕にも責任がある。」



    「マルコとミカサが入り口で待ってくれているなら百人力だな!

     それと・・・。エレン。くれぐれも先走るなよ・・・。」



    口惜しそうな表情でエレン君は黙っていた。




    「ただ・・・。」


    ジャン君が続ける。





    「もし・・・俺に何かあったら・・・その時は、頼むぞ。エレン。」


    二人は視線を交わし、無言で頷きあった。




    タオルで拭いたとは言え、濡れた制服のままでは風邪をひいてしまうため、一旦は私の家から皆の家に帰り、着替えと伝言を親に残した後、校舎に集合する手筈となった。



    クリスタさんは、とても不安そうな顔をしていた。



    私はこれ以上、彼女に不安と心配、そして何より心の距離感を感じさせたくなかった。


    だから私はこう言った。



    「・・・クリスタさん。私の家の鍵を預かってくれるかしら?事が済んだら・・・あなたにお礼が言いたいの。そして、あなたとまた一緒にお話したいの。
     
     あなたのお陰で前を向くことができたから・・・。だから、ここでお友達と待って、私たちの無事を祈ってて欲しいの。」


    「できる?」




    サシャさんとミーナさんも頷く。



    クリスタさんが私に抱きつく。


    「・・・淋しいですけど・・・。私、待ってます。アルミンとアルを・・・必ず見つけ出してきてください。」




    私は小指を出す。


    クリスタさんも小指を出す。



    「約束よ。」


    そう言って私たちは小指を合わせた。




    ・・・








    「お待たせしました。」



    マルコ君に続いて、エレン君、ミカサさん、ジャン君。


    ミカサさんだけはきちんと傘をさして私の家に来たから、服装はそのまま。


    男子3人は着替え直してここに来てくれた。




    この学校のどこかにアルミン君とアルがいる・・・。



    白い無機質な校舎が、大きな棺桶のように感じた。
  51. 112 : : 2014/03/03(月) 20:09:33

    今時の学校には、昇降口に警備の人がいる。



    エレン君がアルミン君の下駄箱をこっそり確認する。




    ・・・靴はやっぱり残っている。


    彼は下校すらしていないのだ。




    放課後とは言え、私服の学生と、OBであるとは言え学校関係者でもない私が正面から入ることは好ましくない。


    私たちは昇降口以外の場所から学校に入ることにした。




    西日すら差さない裏口。


    部活も終わっているため、校舎内は辺りを払ったかのように静寂に包まれている。




    エレン君の話によると、図書室に寄った後、校長室前で別れてアルミン君はトイレに向かった、とのこと。



    その後、アルミン君がどこに向かったなど検討のつけようがない。


    一つ一つ、当たっていくほかないだろう。



    「上から見ていきましょう、ジャン君。」


    そう言って、私は靴を脱ぎ、靴下のまま校舎に入っていく。



    ジャン君は入口で少し立ち止まっている。


    そして、ミカサさん、マルコ君、エレン君の順番で見ていった後に、


    「エレン。ミカサの傍から離れるなよ・・・。」


    そう言って私と一緒に校舎に入っていった。





    もうほとんど日が差さなくなった校舎。


    夜になる前に、何とかして二人を見つけ出したい。



    でも・・・


    アルがどこで亡くなったかなんて、わかる訳ない・・・。


    見通しの立たない搜索に、つい表情が暗くなり俯く。



    そんな時


    「ヒストリアさん。」


    私の前をずんずん歩いていたジャン君が話しかけてきた。



    「俺・・・思うんですけど、アルとアルミンは一緒の場所にいるんじゃないかって気がするんです。」


    「ここ最近噂になっている、校舎で聞こえる足音。俺はエレンのクラスの奴から部活の時に聞いたんですけど、ホームルームの前にクラスの奴らがほとんどその音を聞いたらしいんです。」


    「探究心のあるアルミンがその謎を解明しようと足を突っ込んで、アルと接触した。」


    「そう考えたほうが、アルミンの現れては消える行動から、公園で”かくれんぼ”の光景を見せるまでの流れに関連性があると思うんです。」


    「もちろん、想像の範囲内ですけど。」


    「だから、アルミンを見つければ、アルも見つかる。俺がアルミンを見つけようと言ったのはそれが理由です。」



    朗々と説明してくれるジャン君。


    ぶっきらぼうな言い方だけど・・・もしかしたら、彼なりに私に方向性を示しているのかもしれない。



    社会人と中学生ではなく、同じ目的をもつ仲間。


    そんな思いが伝わってくる。




    だから私は、



    「ありがとう・・・。」


    そう答えた。
  52. 113 : : 2014/03/03(月) 22:43:42

    上階から、鍵のかかっていない部屋を片っ端から二人で見ていく。


    しかし、当たり前のようにアルミン君は見つからない。



    窓の外は緋色から紫へと景色が変わっていく。




    焦り。



    不安。



    全く二人で会話を交わさなくなったことがそれを裏付ける。





    ダメよ。


    ここは大人の私がなんとかしなきゃ・・・。


    そう思っても打開策が思いつかない。






    段々と狭まっていく選択肢。



    もし、1階の部屋を全部見終わって、誰も見つからなかったとしたら・・・。



    鍵のかかった部屋まではさすがに捜索できない。


    その時は・・・




    そこまで考えたとき、ジャン君が立ち止まる。





    ”図書室”


    1階の端にある大部屋。



    私とアルの邂逅の場所。




    ガラ


    扉を開ける。






    ・・・部屋の配置は大きく変わっていた。


    本棚にある種類も、中学生相応のものに変わっている。



    でも・・・


    窓の位置までは変わらない。



    窓際のあの席。


    あそこでアルと出会ったのだ。



    私が立ち止まっている間、ジャン君はカウンターを始め、人が隠れられそうな場所を次々と探していたが、一頻り見たあとに私の方を見ながら首を横に振った。









    ・・・


    ・・・遅い。


    裏口の前で座り込み、ジャンとヒストリアさんが出てくるのを待っているが・・・。


    すっかり日は地平線の向こう側に沈んでしまい、夜が顔をもたげ始める。




    ただ留まることしかできない自分の立場に苛立ちと情けなさを覚える。


    校舎を裏口から覗く限り、妙な人影や足音も聞こえない。



    だったら・・・!


    そう思って立ち上がる。







    俺の左手が掴まれる。



    ミカサだ。




    「お願い・・・エレン。お願いだから、傍にいて。」




    俯いて、泣きそうな声で訴える。




    ちらりとマルコを見る。


    難しい顔をして、携帯のサブディスプレイを気にしている。



    ・・・みんな同じ気持ちなんだ。



    俺はミカサと手をつないだまま、黙って横に腰掛ける。



    待つのも勇気だ。



    幽かに聞こえてきた虫の音とミカサの体温を感じながら俺たちは待った。

  53. 114 : : 2014/03/03(月) 23:52:02



    上階での確認の速さとは打って変わって、1階での私たちの捜索は遅々極まりないものだった。



    体育館の鍵も閉まっている。


    残っているのはこの区画だけ。



    窓の外はもはや色を無くし、非常口を案内する蛍光灯の方が明るいくらいだ。



    焦りは最早なくなり、絶望が私たちを支配し始めた。



    奥を見れば、昇降口が見える。


    あそこまで行ってしまえば、それこそまさに”終わり”。




    校長室の前を二人とも通り過ぎる。



    そして隣の部屋に入る。





    いない・・・。



    いない・・・。





    ・・・



    ・・・



    ・・・いない。




    気がつけば、私たちは昇降口の前にいた。



    墨を流したような暗闇が大きな窓を覆っている。




    言葉も出ない。


    無機質な床を見下ろし、小さく息を吐く。



    私は・・・負けた。




    友達を見つけられない自分自身に負けた。





    あれだけ探しても見つからなかった。



    あとは、学校の人に頼んでもらうしか・・・



















    『アル!もっと難しいところに隠れて!』



    急に私の言葉が蘇る。




    『心の中にある絵をしばらくの間、逆さまに懸けてみるのはいいことだ。』


    ヘッセ・・・









    ・・・盲点。


    "不可侵"な場所。





    顔をあげ私は走った。



    「ヒストリアさん!?」


    ジャン君の驚いた声が背中から聞こえてくる。




    最後の・・・最後の希望。




    その扉の窪みを掴み力を込める。



    抵抗もなく、その扉は開いた。





    暗闇と静寂と高級感。






    校長室に、私は入った。


    人生で初めて・・・。






    応接机。観葉植物。執務用の机。そして・・・




    古びた背の低い戸棚。




    一歩一歩。


    床の感触をかみしめるように歩み寄る。



    戸を開けようとかがんだ時



    コト



    幽かに内側で音がした。



    一息に戸を開ける。









    ・・・私の心の中に光が溢れた。










    「ヒストリアさん!」


    校長室にジャン君が駆け込んでくる。



    そして、私が胸に抱いているその人を見て、喜びと安堵が入り混じった顔をして、





    「・・・俺、エレンたちを呼んできます!」


    そう言って裏口まで駆けていった。

  54. 115 : : 2014/03/04(火) 00:29:41


    「アルミン君・・・。アルミン君!」


    虫の息のようなアルミン君の肩を叩いて何とか意識を戻そうとする。



    「起きて・・・。ねぇ・・・起きてよ!」


    体を大きく揺する。





    ・・・ゆっくりと、アルミン君の瞼が開く。


    ラファエロの描いた聖母のような半開きの目。



    そして、わずかに口が開き、




    「君の勝ちだね・・・ヒストリア・・・。」


    そう呟いた。




    ・・・っ!!



    思わず息を飲む。






    あなたは・・・



    「アル・・・?アルなの?」


    そう尋ねた時


    アルミン君の目が急にくるくるっと円な瞳になる。そして、





    「・・・えええっ!?ちょちょちょ・・・えええっ!?」


    顔を真っ赤にしながら私の腕の中で狼狽しだした。




    「アルミン!!」


    エレン君が駆け込んでくる。



    「エ、エレン!こ、こ、このキレイな女性(ひと)はいったい誰!?なんでこんなに暗いの!?」


    状況がつかめてないアルミン君をしり目に、エレン君は私に代ってアルミン君を胸に抱き、




    「よかった・・・よかった・・・。」


    と涙をこぼし始めた。





    感動的な幼なじみの再会。



    それを横で感じながら、私はアルミン君の入っていた戸棚をもう一度見る。


    携帯でライトを点けてじっくりと見渡す。






    ・・・戸棚の内側に溝がある。


    爪で引っかいたような跡だった。




    その溝を指でなぞる。




    こんな場所でアルは・・・。




    ごめんね・・・。とても辛かっただろうね・・・。



    ぽたりと涙が零れてくる。




    そして私は告げる。


    終わりの言葉を。




    「アル・・・み~つけた・・・。」







    セピア色だった私の過去の全てが・・・



    春の花のように



    七色に変わっていくのを感じた。

  55. 119 : : 2014/03/04(火) 20:20:11



    「終わったね・・・。ジャン。」



    「あぁ・・・。」


    裏口でずっと待ってくれていた親友。


    さぞかし心配してたんだろうな、って思う。


    顔がやつれていたから。




    「・・・ン・・・スン・・・。」


    横でミカサがすすり泣いている。



    「ミカサ・・・。泣くなよ、もう。アルミンが無事見つかったんだ。もっと笑って喜べよ。」



    「・・・私は・・・アルミンに会う資格がない。アルミンを私は・・・、私は・・・。」






    「・・・親友ってのは、生きている内なら何度でも謝ることができるだろ?生きて・・・一緒にいればそれでいいんだ。」

    「ほら、涙拭けよ。」


    そう言って、ジャンがハンカチを差し出す。



    「・・・ありがとう。でも、ジャン。私は自分の弱さを知ってしまった。私なら大事な人を守れる、そう思っていた。だけど実際は、手を掴んで留めておくことしかできなかった。

     そんなことでしか、守ることができなかった。だから私は・・・」







    「・・・しゃらくせぇな・・・。」



    「・・・え?」




    「しゃらくせえって言ったんだよ!いいじゃねえか!どんな手段であったって大事な人が守れればそれでいいじゃねえか!

     大事な人と一緒にいる。それが一番大切なことじゃねえか!」



    そう言って乱暴にミカサの背中を押す。



    「ほら、とっとと行け!親友ふたりが待ってるぞ。」




    「・・・。」


    「うん。ありがとう。」



    そう言ってミカサは美しい笑顔を残して校舎の中に入っていった。






    「・・・。」


    ふーっと長いため息を吐いて夜空を見上げる。




    「・・・相変わらず、損な役ばっかり引き受けるよね。」


    マルコが微笑みかける。





    「いいんだよ。俺は、これで。」



    「でも僕は・・・、ジャンと親友であること、誇りに思うよ。だって君は、5人も救った。ううん、それ以上。」



    「・・・。」



    「ありがとう、ジャン。」



    「あぁ・・・。」





    さわ・・・さわ・・・




    夜風が優しく吹いている。



    ここの空はこんなに綺麗だったかな・・・。


    なんて、柄にもねぇことを思っちまうぜ。





    ・・・


    ジャッ・・・ジャッ・・・



    「・・・君たち。こんな時間に何をしている?」



    「「あ・・・。」」




    夏にも関わらず、俺たちはその場で凍りついてしまった。








    ・・・ ・・・



    ・・・












    「みんな~!そこ、今から水かけるわよ~!いい?」



    「はーい、せんせ~!!」






    夏の朝。



    高く青い空。



    白い雲。



    塩素の独特の匂い。



    緑のブラシ。






    私たちは、学校のプール掃除をしている。


    理由はとても簡単。


    夜の校舎で”肝試し”をしてしまったから。


    いわば罰だ。





    あの後、私たちはザックレー校長に見つかり、エレン君をはじめ全員正座で説教を受けた。


    その中に、大の大人の私が混じっているのはさぞかし滑稽な光景だっただろう。



    エレン君たちの担任であるぺトラ先生も立ち会っていたけど、笑いを堪えるのに必死だった。



    結局、ぺトラ先生自身も健闘虚しくザックレー校長に「教員としての自覚がなってない」と説教をされ、このプール掃除を命じられたのだ。





    「ほらほら~♪」



    「キャー!つめたい!あはは!」



    裸足でプールの中に立ち、ブラシを片手に持ちながら、ミーナさんとサシャさんが遊び回る姿を眺める。



    この光景を見ていると、果たしてこれは罰なのか、それとも校長の粋な計らいなのか分からなくなってくる。




    アルミン君は大事をとって、日陰のベンチに腰掛けている。



    ”実行犯”の生徒4人は夏の空に似つかわしくない、真面目な顔で掃除をしている。



    そして・・・



    チョンチョンと私の服の裾を引っ張る女の子。



    「ヒストリアさん、あともう少しですよ。頑張りましょう!」


    クリスタさんの笑顔がそこにあった。




    昨夜、私たちはこんなことを話した。
  56. 120 : : 2014/03/04(火) 21:51:39

    しこたま説教を受けた後の帰り道。



    虫の音の合唱を聞きながら、私たちは歩いて帰った。



    雨の中、神出鬼没な動きを見せたアルミン君の話題になると、当の本人は目をまるくして驚いていた。


    本人が言うには、ただ”夢”を見ていた、というのだ。






    「戸棚の中に誰かがいて、目が合ったところまでははっきり覚えているんだ。でもその後が、なんだかふわふわしていて・・・。」



    難しい状況を身振り手振りで説明しようとするアルミン君は、男の子というよりもなんだか小動物っぽくて可愛かった。





    「夢の中の僕は、何度もエレンやミカサに話しかけたんだけど、ちっとも聞こえていないんだ。」



    「気づいたら、小さい頃の僕にそっくりな男の子が傍にいて・・・。」



    「”何をしているの”って聞いたら、”お友達を待っているんだ”って答えるんだ。」



    「”どんな人?”って聞いたら、”あの子みたいな人”って言いながらクリスタをじーっと見てるんだ。」



    「そしたらユミルが出てきて、クリスタと仲良く帰っただろ?すると彼が怒り出してね。ユミルも挑発するもんだからヒヤヒヤしたよ。」



    淡々と、でも何だか楽しげに話す内容は、アルミン君には一切語っていない”現実”に起きたこと。




    その後も、話が続いた。



    アルに「友達を公園に集めてきて」と頼まれたアルミン君は、声が届かない状況を打破するためにエレン君たちの前に姿を見せ、とりあえず公園に誘導したこと。


    ミカサさんは慎重だけど、エレン君のことになると必ず行動を起こすから、わざと写真に傷をつけ写真立てを倒したこと。


    別行動になったアルが心配で追ってきたら、ユミルさんが倒れていたので慌てて電話のリダイヤルを押したこと。


    アルが”友達を見つけた”って言ったこと。


    そして・・・アルがユミルさんに謝っていたこと。




    アルミン君本人にとって見れば、単なる夢の中の行動だから決して不思議なことなどなかったようだけど、彼の話を聞いていた私たちは呆気に取られてしまった。




    「不思議なことがあるもんだね・・・。」


    マルコ君の言葉が全てをまとめてくれた。







    皆を家に帰し、私も家に戻る。



    9階の部屋の電気が点いている。



    いつも家の電気を点けるのは私だったから。


    だから、「ただいま」って言って「おかえりなさい」と言われたとき、無性に嬉しくなった。



    サシャとミーナさんは二人でお家に帰り、クリスタさんはわがままを言って私の家に泊まった。




    二人でご飯を食べて、二人で一緒に笑い、狭いベッドで枕を並べて寝る。


    本当に私の妹のような、もしかしたら娘かもしれないけど、そんな気がした。



    話し疲れて眠ったクリスタさんをそっとベッドで抱きしめる。


    温かくて、とてもいい匂いがした。




    二人の間にもう一人の家族が飛び乗ってくる。


    ”クロ”って呼ばれていたけど、本当の名前は夜々(やや)。


    夜みたいに真っ黒だからそう呼んでいたけど・・・。




    今日、クリスタさんを守ったお前はKnightのNight。


    やっぱりお前は”夜々”だよ。



    そう言って私が眠りにつくまで撫でてあげた。

  57. 121 : : 2014/03/04(火) 22:29:25


    ・・・



    「みんな~、ひと休憩しましょ~。」



    プール掃除を6割方終えて、日陰に入りそれぞれ持ち寄った飲み物で喉を潤す。


    クリスタさんたちは、私が昨夜彼女にうっかり今日の”罰”のことを話してしまったため、「連帯責任」などとよくわからないことを言って押しかけてきている。




    子ども達は子どもたちでキャッキャと楽しく話している。



    その光景を目を細めて見ている私の横にぺトラ先生が腰をかけた。






    「たまには悪くないですね、こういうの。」



    ぺトラ先生が飲み物を口に含む。






    「会社・・・辞められるんですって?」



    「えぇ。」


    そう言って私も飲み物を口に含む。





    「元々、好きで入った会社じゃありませんから。続けること自体苦しかったですし・・・。正直ほっとしてますよ。」

    「ただ・・・今の家は、職員用のマンションなので、辞めるとなると早々に家を探さないといけませんね。」


    そう言いながらも、私はなぜか優しく笑っていた。






    「・・・だったら、私と一緒に住む?」


    そう言って先生はニカッと笑う。


    「この辺りって微妙に田舎だから、土地は安いんだけど、借りるとなると最低でも2部屋くらいついてくる物件しかないのよ。一人暮らしにはスペースが余っちゃって・・・。」


    「どうかしら?」



    いたずらっぽい目。


    歳はあんまり変わらないと思うけど、とても可愛い人だ。





    「・・・。」

    「ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いします。」


    と頭を下げる。




    何だか、人生の歯車がいい方向に回り始めたような気がした。





    「やったぁ!美人のルームメイトができたわ!みんなに自慢しちゃおっと!」


    そう言って生徒の方に駆けていく。




    ・・・先生っていいものだ。そう思う。




    図書室でのアルの笑顔を思い出す。



    今からでは遅いかもしれないけど・・・


    今、私にはなりたい夢がある。




    本当は昔からあったけど、押し殺していた夢。




    司書。それと小説家。



    遠い夢かもしれないけど、その夢に向かって私は走ってみたい。





    エレン君が雨の中、一生懸命に走る姿に私は憧れた。


    走れないんじゃないかって思っていたけど・・・。


    アルを見つけるために、私はあの廊下を走ることができた。



    できると思う。



    子どもたちの眩しい笑顔を見ても、私は胸を痛めることなどなくなった。

  58. 122 : : 2014/03/04(火) 22:49:45


    プール掃除を終えた私は、一人である場所に向かう。



    クリスタさんとはお昼を一緒にする約束を取り付けた。


    それまでの間、みんなはユミルさんのお見舞いに行ってくるそうだ。





    その病院のすぐ近くにある丘。



    真っ白なチャベルが清らかに佇んでいる。





    辺りを見渡しながら、ある人物を探す。




    その人は礼拝堂の窓を拭いていた。




    病院で出会った老婆。


    その方に丁寧に挨拶をし、昨日が命日の少年のお墓の場所を聞く。



    おそらくは教会の土地の中で一番見晴らしのいい場所。



    「窓の外の風景しか見てなくて、かわいそうだったから。」


    老婆はそのように言っていた。









    そのお墓の前に私は立っている。




    『 アルバート・クルーガー  ここに眠る 』


    命日は15年前の昨日。







    「・・・あなたの名前・・・15年目ではじめて知ったわ・・・。とても素敵な名前ね・・・アル。」




    そう言って、一輪の花を供える。



    花の名は紫苑。




    花言葉は、『君のことを忘れない』。








    一陣の風が吹く。



    草原が波立つ。






    私は空を見上げる。



    どこまでも澄んでいて、高い空。




    人は、誰からも忘れられた時に、はじめて死ぬ。






    私は、あなたのことをもう二度と忘れたりはしない。



    彼らと過ごしたあの夏の日を忘れはしない。







    私にとってこの夏は・・・


    ずっと・・・ずっと・・・


    心に残り続ける。









    そう・・・




    終わらない夏






            ― Fin ―

  59. 123 : : 2014/03/04(火) 23:03:13
    2作目、ついに執筆完了しました!


    初めてのホラーに挑戦しましたが、自分自身とても楽しんで執筆できました。

    応援の言葉をかけてくださった皆さん、本当にありがとうございました!この場を借りてお礼申し上げます。



    裏話とでも言いましょうか・・・。設定のことを少し・・・。

    ヒストリアさんの人物像ですが、原作の53話・54話で登場する黒髪の女性と、筒井康隆作・今敏監督の映画『パプリカ』の主人公、千葉敦子さんからイメージしてつくりました。


    また、ストーリーについては、映画「学校の怪談」の1と4を参考にさせていただきました。


    少しでも読まれている方が、「楽しい」「怖い!」と思っていただけたのなら、これ以上の喜びはありません。


    ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
  60. 124 : : 2014/03/04(火) 23:21:56
    執筆、お疲れ様でした!
    前半は本当に怖くて何度もスマホを投げ出しそうになり、そのクオリティにただただ驚いていました。特に>>57サシャの「男の子と一緒にいるなんて」というセリフには背筋がぞわぞわあっとしました。
    それと合わせて、謎めいた部分に強く惹かれました。神出鬼没なアルミンのような少年やヒストリアさんの存在など、どうまとめてくれるのかなあとわくわくしました。
    あと、夏の情景描写が素晴らしいですね。雨の様子や透けたシャツなど、実際に見ているように感じました。
    そして謎解きですが、絡まった糸を引っ張るように次々スルスルと謎が解けていったのがテンポもよくて読みやすかったです。
    最後のアルの本名の描写にはもう感服です。

    素晴らしい作品をありがとうございました。
    気が早いですが、次回作も楽しみにしておりますね☻
  61. 125 : : 2014/03/04(火) 23:27:42
    これを夜読むのが楽しみでした!!
    最初は怖い…マジ文章力が凄いからさらに
    怖さがしっかり出てて本当におもしろ怖いでした
    正直そこらへんの小説読んでるより面白いです!
    これが小説で売り出したら絶対買いますね!!
    マリンさんも言ってますげと本当に情景描写が
    凄すぎです!!引き込まれますよ!これは絶対!
    とても読みやすくて面白かったです!!
    自分も次の作品を楽しみにしてます!!!
    素晴らしい作品をありがとうございました!!
  62. 126 : : 2014/03/04(火) 23:28:09
    執筆お疲れ様でした!!

    最初は怖くてドキドキ…だったのが、だんだんわくわくに変わりながら引き込まれていきました

    最後は涙がでました
    悲しみから清々しさへの印象の移り変わりが、本当に美しかった

    夜々ちゃんの名前ネタバレがまた込み上げるものがあり、細部にまで緻密に構成された作品なのだなと、舌を巻きました!!

    素晴らしい作品に出会えて幸せです♪
    また自作も期待しています!!
  63. 127 : : 2014/03/05(水) 00:00:59
    お疲れ様でした!

    最初はかなり怖かったです…
    文章がしっかりしていて余計に怖かったです
    しかも読んでたのが夜中の1:00くらいだったのでやばかったです
    クリスタが窓の外に男の子がって言ったときなんてもう気絶しそうになりました…

    トイレに行くのもやばかったですボソッ


    でも最後は感動しました!
    もうウルトラヤバスですよ!

    この作品を一言にいうなら
    『すばらしい!』『面白い!』『感動!』
    …三言になってしまった…
    つまり!この作品は本にしたら大人気になるということです!

    次回作期待です!
  64. 128 : : 2014/03/05(水) 00:44:53
    書き始めからずっと読ませて頂きましたが、ただただ素晴らしい作品でしたの一言に尽きますね!

    ホラー展開の最中での終わらない夏と、エンディングにきてからの終わらない夏の対比もとても綺麗な表現で感動でした(๑′ᴗ‵๑)

    黒猫の名前、バンプの某曲を思い出しましたw

    みんなコメント長くて見劣りしそうですね、私のコメw
    執筆お疲れ様でした!次回作も期待です!
  65. 129 : : 2014/03/05(水) 01:14:05
    >>124 submarineさん
    いつもいつも応援のコメント、本当にありがとうございました!
    今作で一番最初にコメントをしてくださったのもマリンさんでしたね。
    私自身、>>57のサシャのセリフは絶対言わせてみたかったホラーならではのセリフだったので、そのように仰っていただけると本望です!

    散らばった謎を一本に集約するとき、どうすれば「気持ちのいい」回収の仕方ができるかを悩んでいたので、お褒めいただいて嬉しいですよ!
    ありがとうございました!


    >>125 EreAniさん
    アレアニさんも当初からお褒めの言葉をかけてくださいましたね!
    小説家を目指す者として、「本にしたら買う」というのは最も嬉しい言葉です。ありがとうございます!次の作品も頑張ります。
     

    >>126 88さん
    怖さ→わくわく→感動、この流れを感じていただいてとても嬉しいです(≧∇≦)
    夜々の名前については、ストロベリーパニックとバンプの曲を参考に名付けたので、とても思い入れがあります。
    素晴らしい作品と仰っていただいて、ありがとうございました。



    >>127 赤点コンビさん
    グループでの会話から、私の作品に興味を持って下さり、ウルトラヤバスとまで仰っていただいて・・・。ほんとうにありがとうございます!
    本になったら大人気・・・。とても嬉しい褒め言葉です!


    >>128 ゆきさん
    コメントいただけると信じておりました!
    「終わらない夏」というタイトルについては、やはり2つの意味を持たせたいな、というコンセプトで執筆したので、そのように仰っていただけると本当に書いた甲斐があったな、と思います!

    夜々の部分は完璧にバンプの曲をパクリましたw
    ヒストリアさんがバンプファンだってことで一つ・・・。

  66. 130 : : 2014/03/05(水) 01:21:15
    ※補足です

    執筆終了後に、もう一度頭から読み返してみて、一つ回収していないものがありました。


    クリスタがヒストリアの家に向かう前に、ヒストリアが見ていた夢で「お願いだ・・・僕の友達を・・・助けてよ」という言葉があります。

    これはアルミン、アルの言葉ではありません。

    ヒストリア自身の思いが投影した言葉です。

    自分の本心を”アル”みたいな男の子(顔がないのはアルじゃないってことを表しています)に投影し、自分自身に訴えかけている、というシーンを表現してみました。

    校長室に行く前のシーンで、この言葉を思いだしていますが、その際に上の説明を入れ忘れていました。


    違和感を感じられた方、申し訳ありませんでしたm(_ _)m
  67. 131 : : 2014/03/05(水) 01:40:53
    お疲れ様でした!
    最後らへんは泣きそうでした!
  68. 132 : : 2014/03/05(水) 03:17:41
    やべぇ、こんな時間に読まなきゃ良かった怖すぎる
  69. 133 : : 2014/03/05(水) 07:51:57
    思わず泣いてしまったいい話だった
  70. 134 : : 2014/03/05(水) 09:09:42
    すごい……
    ホラーではあって、続きを読むのが怖くなるけど怖いの一言だけでは言い表せない何かがあるような感じがしました。
    前半部分の核心に触れない表現が素晴らしくて、久しぶりに、読んでいくうちに絡まった糸がするする解けていくような感覚になりました笑

    ほんと……すごいです!尊敬します(๑°ㅁ°๑)‼✧
  71. 135 : : 2014/03/05(水) 21:27:44
    最初は3DSで見てたけど見終わると素晴らしい作品だと思いました次回作期待です頑張ってください
  72. 136 : : 2014/03/05(水) 22:40:58
    >>131 アルミンLoveさん
    ありがとうございます!
    感動していただいて嬉しいです!

    >>132 erenさん
    怖い、と言ってもらうのは褒め言葉です。
    ありがとうございます!

    >>133 ダリウスさん
    涙を流していただけるなんて・・・
    ありがとうございます。(ノД`)

    >>134あるぱかさん
    「花の香りと恋の予感」見てましたよ!
    あるぱかさんに、すごい作品と仰っていただいてとても誇らしいです(≧∇≦)

    >>135藤子イェーガーさん
    ありがとうございます!次回作も頑張ります!
  73. 137 : : 2014/03/06(木) 02:44:52
    ここ最近読んだSSで一番面白かった、乙です!…トイレ行けねぇ…
  74. 138 : : 2014/03/06(木) 19:48:38
    最初は何が起こるのか怖くて怖いのにいつの間にか夢中になりました。でも後々読むと謎が解明されて最後はすごく感動しました。
    またこういった作品など見せてください!
    おもしろかったです!
  75. 139 : : 2014/03/07(金) 20:26:07
    これ本にしちゃえ
  76. 140 : : 2014/03/07(金) 22:01:02
    今からトイレ行くのにどうしてくれるんですか‼︎(>人<;)
  77. 141 : : 2014/03/08(土) 18:50:41
    どうしたらこんなおもしろいものがかけるんですか。もうあなたを尊敬しますよ。
  78. 142 : : 2014/06/05(木) 16:53:20
    >>139 私もそう思う これホラーのレベルじゃない
    泣きましたよ、これほど感動させられたssは初めてです
  79. 143 : : 2014/06/21(土) 10:03:19
    本にしてくださいwいやこれほんとに本にしたほうがいいですよw
  80. 144 : : 2014/07/26(土) 14:30:48
    なんだこれ…すごすぎるぞ…
    ホラー&感動ストーリーなんて初めて見た
    はじめは、「うわぁ…怖いのかな…」
    なんて思った私はどうかしていた…
    そんなこと思ったのを後悔しました
    >>139ですよねw
    出版社に行きましょう!!
    お疲れ様です!
  81. 145 : : 2014/07/26(土) 22:57:48
    とっても怖かったです!本当に…ヒストリアさんもアル君を見つけれて良かったですね!感動的ですよ!
  82. 146 : : 2014/07/28(月) 01:22:39
    もう冷や汗がとまらないです
    おもしろかった〜!
  83. 147 : : 2014/07/29(火) 18:31:00
    まるで映画を見ているようでした!
    とってもおもしろかったです!
    次作も楽しみにしています(^^)
  84. 148 : : 2014/08/02(土) 15:11:05
    最後まで読んできてみて、こんなに物語として素晴らしいと思ったのは多分始めてです泣
    小説家を目指してるっていってましたけど、何いってんですかぁ
    (((もう一小説家ですよぉぉぉお!)))
    偉そう言ってすいませんm(_ _)m
  85. 149 : : 2014/08/03(日) 21:30:44
    しらばく見ないうちにコメントがこんなに!!


    皆様、ありがとうございます!


    特にアルミン大好き組合会長さんにあたっては、執筆中の作品にもコメントを頂きまことにありがとうございます。


    応援のコメントをいただけると本当に励みになります。

    皆様の声援を受け、現在、スマホ大賞などに投稿できるように、オリジナル版に再編集すべくあれこれ考えております。


    これからもご指導ご鞭撻、そして応援をよろしくお願いいたします!!

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