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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』

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  1. 1 : : 2014/01/15(水) 23:12:53
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
    (http://www.ssnote.net/archives/2247)

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
    (http://www.ssnote.net/archives/4960)

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』
    (http://www.ssnote.net/archives/6022)

    巨人に右腕を喰われたエルヴィンと
    最愛のミケを失うが、
    エルヴィンに仕えることになった
    隠密のイブキの新たなる関係の続編。
    『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した
    オリジナルストーリー(短編)です。

    オリジナル・キャラクター

    *イブキ

    かつてイヴと名乗っていた
    エルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵
    生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
    ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。

    *ミランダ・シーファー

    エルヴィンの最愛の女性であり、同期の調査兵。
    かつての壁外調査で命を失った。
    若き自由な翼たち(http://www.ssnote.net/archives/414)の主役
  2. 2 : : 2014/01/15(水) 23:13:21
    手のひらに伝わるシーツにわずかに残る温かみを感じていると、
    自分のそばから、すでに誰かが去った後だとわかった。
    そして、目元に柔らかいプラチナの輝きが
    朝の訪れを知らせているとイブキは気づいた。
    その日差しが射す窓のそばでは、調査兵団団長であるエルヴィン・スミスが
    輝かしい朝日とは対照的に浮かない表情を窓ガラスに映していた。

    「エルヴィン…おはよう」

    イブキもエルヴィンの左側に立ち、
    朝焼けを眺めていると、
    彼の表情が沈んでいると、改めて気づいた。

    「おはよう、イブキ…また…過酷な毎日がまた始まる…」

    「そう…この空のように晴れた気持ちで…という訳にはいかないか…」

    「…そうだな」

    エルヴィンは力なく答えるが、その眼差しには
    調査兵団団長としての力強い眼差しが、再び灯ったように
    イブキは感じていた。
  3. 3 : : 2014/01/15(水) 23:13:38
    「イブキ、頼みたいことがあるのだが、いいか?」

    「うん、わかった…それは何?」

    「俺の執務室に今から来て欲しい――」

    エルヴィンはイブキの肩に左手でポンと叩くとそのまま
    二人はそのまま執務室に向った。
    エルヴィンの足腰は兵士としては、まだおぼつかないが、
    日常生活には支障がない程度に回復していた。
    そして、イブキが執務室のドアを開けると、エルヴィンはイブキに
    自分のデスクに座るように促し、自ら後ろに立った。
  4. 4 : : 2014/01/15(水) 23:13:54
    「エルヴィン…何なの?」

    「あぁ、代筆をお願いしたい」

    「代筆…? 何を書くの?」

    エルヴィンは引き出しからメモ用紙を取り出し
    デスク上にあるペンをイブキに持たせた。

    「今から言うことを…リヴァイに伝えに行って欲しい」

    「わかった」

    イブキがペンを握り、深呼吸すると、
    ペンを小さな紙に走らせた。
    紙の小ささとは不似合いな衝撃的な
    作戦の内容をイブキが書き終えるころには
    ペン先が震えていることを感じていた。

    「エルヴィン…この作戦に本当に踏み切るの?」

    「あぁ…そうだ」

    イブキが小さなメモの淵を掴み、
    震える手で自ら書いた文字を
    目線で追っていると、信じがたい内容だった。

    ・・・これを…ミカサをはじめ、みんなが実行するの…?

    イブキが強張った表情でエルヴィンの方向に身体を向けていた。

    「ホントにこの作戦を…?」

    エルヴィンはただ、うなずくだけだった。
    その目はイブキが久しぶりに見る堅物であり、
    策略家としてのエルヴィンの強い眼差しにも見えた。
    この作戦実行となると、イブキの姪、
    若いながらも実力者のミカサ・アッカーアンを始め、
    数少ない調査兵たちが危険にさらされると思うと
    イブキは青ざめ強張らせた表情をさらしていた。
  5. 5 : : 2014/01/15(水) 23:14:19
    「大丈夫なの…? あなただって――」

    「問題ない…」

    エルヴィンがイブキへ力なく返事すると、
    左の手のひらを肩に置いた。
    イブキがエルヴィンの手を握ると指先は冷たく
    血の気がないだけでなく、かすかに震えているようにも
    感じられた。

    「わかった…リヴァイに無事に届ける」

    イブキが立ち上がりエルヴィンの表情を見上げると、
    伏目がちになり、つい先ほど宿っていたはずの
    調査兵団団長としての力強い眼差しが消えかかり、
    悲しみを抱えているようにも見えた。

    「エルヴィン…まさか、あなたは――」

    イブキはエルヴィンが死を覚悟しているのかと感じていた。
    それを悟られたと知ったのか、
    不安な表情で立ち上がったイブキを
    エルヴィンは左腕で力強く抱きしめた。
  6. 6 : : 2014/01/15(水) 23:14:41
    「調査兵として死への扉はいつでも開きっぱなしだ…。まぁ、一度は死に損なったが」

    「…そんな」

    イブキは抱きしめられながら、エルヴィンが震えているかと感じていると
    その震えはイブキ自身が震えていると気づいた。
    イブキはエルヴィンを見上げ、頬に手を伸ばし優しく触れていると、
    またミケ・ザカリアスのように失うのではないかと、心が乱れていた。
    喉はカラカラに渇き、エルヴィンに掛ける言葉も見つからない。
    そして最愛のミケを失ってわずかな時間しか経ってないのに
    この不安な気持ちを『ふしだら』な気がしてならなかった。

    「…イブキ」

    エルヴィンは悲しげに名前を呼ぶと、、
    長い黒髪を撫でていた。

    「イブキ…俺のことを…」

    『――心配しなくていい』とエルヴィンは言いたがったが、
    イブキの前では嘘が付けなかった。

    「エルヴィン…ホントに大丈夫なのね…?」

    「あぁ…」

    イブキはエルヴィンが嘘をついていると感じながら、
    再び抱きしめられていた。
  7. 7 : : 2014/01/15(水) 23:15:02
    「イブキ…早速で悪いが…このメモをリヴァイに…」

    エルヴィンはデスク上のメモをイブキに渡すと、
    丁寧に二つ折りにしてその手に握られていた。

    「わかった…早速、リヴァイの元へ――」

    イブキは何もかも振りきるように執務室を後にした――
    それは愛するミケへの気持ちを確かめるようにそして、
    エルヴィンへの『ふしだら』と感じた気持ちを抑えるように
    隠密としての強い眼差しで、正面を見据えていた。
    そして任務を遂行するために
    冷たい心を取り戻したかのように。

    忍装束姿のイブキが誰にも見つからずに森を駆けていると、
    不可解な輩たちが森にいると感づいた。

    ・・・この気配…隠密ではないが…気持ち悪い…死の気配…?

    森の木々に身を隠し、様子を伺っているとその輩たちは
    銃を持ち身を隠していた。
    しかし、イブキにはいとも簡単に気づかれていた。

    ・・・それでも隠れているつもり…? ヤツ等を殺してしまえば、犠牲は最小限に――

    ・・・――イブキ、ダメだ

    イブキが懐の隠密の武器である、クナイを握ったときだった。
    その手が握られ押さえつけられる感覚と共に心に声が沸きあがってきた。
    それは、いつもイブキが危険な状況に面したときに
    心に沸いてくる最愛のミケ・ザカリアスの声だった。
  8. 8 : : 2014/01/15(水) 23:15:22
    ・・・ミケ…あなたは…どうして止めるの…?

    イブキはミケがこれ以上、人を殺めて欲しくないのか?と想像してると、
    少しずつ押さえつけられている手の感覚が緩んでいる気がしていた。

    ・・・わかったよ…ミケ…他の手段を考える

    イブキはうっすら涙を浮かべると、指先で涙を拭っていた。

    ・・・だけど、私がエルヴィンに抱きしめられても…何も言わないんだね

    イブキは虚しさも込み上げてくるが、
    改めてリヴァイへエルヴィンからの指示が書かれた
    メモを届ける任務を遂行するため
    隠密の厳しい眼差しに戻っていた。
    森の中で怪しい輩たちを監視していると、
    明るい時間に忍び込めば、
    見つかる可能性が少なからずある。
    そのため、日が暮れるまで身を隠し、
    タイミングを計りリヴァイ班の隠れ家である山小屋に
    忍び込める隙を伺っていた。
    分厚い雲が月を隠し、辺りが暗くなる一瞬の空を見上げたイブキは
    リヴァイの部屋に忍び込んでいた。
    そして、ひらりと音も立てず着地をして身を屈めたときだった。
    イブキの首元にブレードの刃が鋭くギラリと輝く同時に
    リヴァイの舌打ちが鳴り響いた。
  9. 9 : : 2014/01/15(水) 23:15:42
    「なんだ…イブキか…ビビらせやがって…!」

    「さすが、リヴァイね…! 
    この私の気配を感じてすぐに刃を向けるなんて」

    「そんな偉そうなテメーの態度はどうでもいい…何の用だ?」

    イブキが立ち上がると、
    エルヴィンの懐から取り出したメモが
    その手に握られていた。

    「ホントに偉い人からの手紙だよ」

    イブキがエルヴィンからの指示が書かれた小さなメモを
    リヴァイに渡すと、暗がりながらも目を見開くように驚きの表情を見せた。
    しかし、内容を理解したリヴァイは
    すぐに口角を上げ冷ややかな笑みを浮かべていた。

    「ほう…さすが、エルヴィン…バカなことを考えやがる」

    「言われてみれば、そうね…それから、この周り妙なヤツ等が――」

    イブキの話の途中でリヴァイは舌打ちをして、話を遮った。

    「テメーに言われなくても、そのくらい気づいている。
    この俺に気づけないとでも思ったのか?」

    「それもそうね…!」
  10. 10 : : 2014/01/15(水) 23:16:01
    イブキも冷ややかな笑みをリヴァイに向けていた。
    そしてリヴァイは静かにリヴァイ班の面々を呼び、
    自分の部屋に集まるよう命じた。
    ミカサはリヴァイがイブキの部屋で発見すると、
    叔母に会えたという喜びよりも、
    突然現われたことで、何かが起きていると察していた。

    「おい…テメーら…全員読んだか?」

    エレン・イェーガーが中心となり、
    リヴァイ班がろうそくの明かりを頼りに
    メモを読んでいると、
    その指示の内容にただ驚き
    見入っているだけだった。

    「リヴァイ! 今、雲が月を覆っている。
    脱出するなら、今よ」

    「あぁ…」

    リヴァイが窓の外を見上げると、指示が書かれたメモを跡形もなく燃やした。
    すぐさま皆に指示をして気配を消しながら、山小屋から離れた丘に移動していた。
    隠れていた月が周辺を照らし始めたときだった。
    得たいの知れない多くの輩が松明を持ち、隠れ家となっていた
    山小屋を囲っている様子を見下げることが出来た――
  11. 11 : : 2014/01/15(水) 23:16:22
    「今夜も向こうに寝ていたら、俺たちはどうなっていただろうな…」

    コニー・スプリンガーが目を見開き強張った表情で
    今まで自分たちの住処にしていた山小屋を見つめていた。

    「コニー、まぁ、よかったじゃない。 危機一髪だったけど!」

    「イブキさん、確かにそうですね」

    コニーはイブキに声を掛けられると、安堵感に浸っていた。

    「イブキ叔母さん、これからどうするの…?」

    ミカサはやっと話が出来る自分の叔母のイブキに
    不安げな表情を見せていた。

    「私は…無事に山小屋から皆が抜け出したことを
    エルヴィンに報告するためにまた本部に戻らないといけないの」

    「そう…」

    ミカサは肩を落として、なかなか一緒にいられないイブキに対して
    寂しげな表情を見せていた。
  12. 12 : : 2014/01/15(水) 23:16:45
    「ミカサ、大丈夫よ…!リヴァイをはじめ、みんなが付いている」

    ミカサは優しく抱きしめられると、
    懐かしい母のぬくもりを思い出していた。

    「やっぱり…お母さんと同じ匂いがする」

    「ミカサ…!」

    イブキは心配しながらも、ミカサを抱きしめるしかなかった。
    その様子を伺っていたコニーは『俺も抱きしめて欲しい』と願うも
    それは叶うことはなかった。
    そしてリヴァイが舌打ちをして二人に言い放った。

    「おい…感傷ごっこは終わりだ。 作戦に入る」

    「ミカサ、無事で…」

    「イブキ叔母さんも」

    ミカサの強い眼差しを見ると、イブキの不安な気持ちは少し拭われたようだった。

    「リヴァイ、みんな…特にアルミン…! 健闘を祈る」

    イブキがアルミン・アルレルトに心配ながらも
    鋭い眼差しを向けると、皆の前から煙の如く消えた。
    そして、そのまま森を駆け抜け、調査兵団本部へ向い、
    リヴァイ班の面々は月明かりを頼りにトロスト区へ移動し始めた――
  13. 13 : : 2014/01/15(水) 23:17:12
    イブキが調査兵団本部の施設へ戻ると、
    エルヴィンの執務室が見える窓際を見上げていた。
    月明かりが本部の建物や周辺を照らす中で、
    窓際からランプのオレンジ色の灯りが漏れていた。
    エルヴィンがまだ待っているとイブキが感じると
    その淡いオレンジ色が安心させているようだった。

    「エルヴィン、待たしてしまったね」

    「イブキ、ご苦労…」

    イブキが忍装束から顔をさらすと、
    デスクで待っていたエルヴィンは無表情で
    凍りついた表情をしていた。

    ・・・今までなら…私の顔を見たらホッとしていたのに、どうして…

    エルヴィンの表情がイブキの不安な
    気持ちを膨らませるばかりだった。
    そして、帰りが遅くなった理由や、山小屋であった出来事、
    リヴァイが作戦を実行に移したことを話していた。
  14. 14 : : 2014/01/15(水) 23:17:30
    「そうか…あとはリヴァイにまかせていたら、予定通りだろう」

    「だろうね…」

    「――それから」

    エルヴィンはイブキに強い眼差しを向けると、
    伏目がちになった。

    「エルヴィン、どうしたの?」

    「イブキ、また頼みたいことがある…」

    「それは何…?」

    「俺の…『団長の最後の世話』をお願いしたい」

    「わかった…」

    エルヴィンが立ち上がると、執務室から出て、
    元の病室に向った。
    そしてそこには軍医が待っていた。
    右腕の調子を看ると、『職務には問題ない』と診断されていた。

    「それから、すまないが…例のものを用意してくれないか」

    「了解しました」

    エルヴィンは顔と髪の毛を触る素振りをしながら、
    『例のもの』を用意するよう軍医に対して指示すると
    一旦、病室を離れた。
  15. 15 : : 2014/01/15(水) 23:17:50
    「エルヴィン、例のものって何?」

    そばにいたイブキは想像が出来ず、エルヴィンに問う。

    「あぁ…団長の最後の世話…
    イブキ、君に俺の身だしなみを整えて欲しい…」

    エルヴィンはイブキに対して髪の毛を整え、
    髭を剃ることを願っていた。

    「えっ…! 私に出来るかな…」

    「その君の服を自分で仕立てられるくらい器用なら、
    俺の髪や髭くらい、どうってことないだろう」

    イブキは目を泳がし唇を強張らせるが、
    エルヴィンが忍装束に視線を向け
    口角を上げ笑みを浮かべていた。
    イブキはその日、
    初めてエルヴィンの笑顔を見たような気がしていた。

    「うん…! わかった…やってみるよ」

    イブキは軍医からヘアカット用のハサミやクシ、
    髭剃りに必要な道具を渡されると、
    エルヴィンの病室から再び離れた。

    「エルヴィン…髪から切るね…」

    「わかった、頼む」

    イブキがエルヴィンの柔らかい金色の髪にそっと
    クシやハサミを入れていると、
    彼は穏やかな表情をしていた。
  16. 16 : : 2014/01/15(水) 23:18:10
    「思ったより…出来るみたい」

    「そうか…顔は傷つけないでくれよな」

    「それは、もちろん! 男前を台無しにしちゃ、
    調査兵団の面子にも傷がつく」

    「それはどうか…」

    イブキが笑みを浮かべ冗談を言うと、
    エルヴィンも釣られ微笑む姿に
    イブキは安堵しているようだった。

    「今度は本当に笑わないでね…!」

    イブキがエルヴィンの顔に石鹸の泡を乗せ、
    刃を入れ始めた。
    イブキが丁寧に刃がエルヴィの髭を剃っていると、
    真剣な眼差しを注いでいた。
    強張る様子ではなく、何か心に決意をしてそれに挑む眼差しのも似ていた。
    その表情にイブキは心が揺らぐ気がしていた。
  17. 17 : : 2014/01/15(水) 23:18:29
    ・・・エルヴィン…そんな目で私を見ないで――

    イブキがエルヴィンの顔を温かいタオルで丁寧に拭くと
    いつも通りのキレイに整ったヘアスタイルに戻っていた。
    端整の顔立ちは髭が剃られたことで、痩せたことが
    際立って目立っているようだった。

    「エルヴィン…出来たよ…! 鏡で見てよ」

    「あぁ…問題ない、すまなかった」

    「それじゃ…最後の仕事が終わったから…私は行くね…」

    エルヴィンは顔はスッキリしたが伏し目がちになると
    左手でイブキの肩をポンと軽く叩いていた。
    そしてイブキはカットして床に落ちた髪の毛や刃を片付けると
    自分の部屋に戻っていた。

    「私は…エルヴィンを…」

    イブキはため息をつきながら、自分のベッドの上に座っていた。
    そして上の空で、天井を眺めエルヴィンへの気持ちが
    改めて『ふしだら』と感じながら、シャワーに入っていた。
    そのまま自分の部屋で寝るつもりでいたのに、
    気がつけばエルヴィンの病室に向っていた。
  18. 18 : : 2014/01/15(水) 23:18:47
    「イブキ…来てくれたか…」

    眠れない様子のエルヴィンはベッドの上に座り
    イブキを待ちわびているようだった。

    「うん…『団長の最後の世話』がもう一つあったことを思い出した」

    イブキはイタズラっぽい表情をエルヴィンに向けていた。

    「それは…何だ…?」

    「団長の添い寝…!」

    エルヴィンはイブキのその声でフッと声が漏れるくらい、
    口元をゆるめ笑みを浮かべると、
    左腕でイブキを抱き寄せていた。

    「明日の朝まで…一緒にいて欲しい」

    「わかった…」

    エルヴィンは隣で横たわるイブキを見ながら
    安心した表情を浮かべると、そのまま寝息を立てていた。
    イブキもその日の疲れもあってか、エルヴィンの寝息を聞くと同時に
    そのまま眠りに付いた。
    そして、いつも通りにやってきた
    朝日の輝きが病室を明るくすると、
    二人はほぼ同時に目を覚ましていた。
  19. 19 : : 2014/01/15(水) 23:19:07
    「エルヴィン…おはよう」

    「あぁ、イブキ…おはよう…とうとう、この朝が来たか…」

    エルヴィンは何か、とてつもないことに挑むのだとイブキは感じていた。
    それは怖くて聞けなかった。
    二人は無言のまま身支度を整えると、
    エルヴィンは大きく深呼吸しながら、イブキが座るソファーのに腰を下ろした。

    「そろそろ迎えに来る頃だが…」

    「えっ…! 誰が来るの?」

    イブキは自分の顔が引きつって
    恐怖に戦いていることに気づいた。

    「心配するな…」

    エルヴィンはイブキの顔を見ると、
    口角を上げ、左手で彼女の肩に触れていた。

    「エルヴィン…珍しいな、おまえに女がいるとは」

    軍医に連れられ
    エルヴィンの病室に入ってきたのは
    憲兵団師団長のナイル・ドークだった。
    ナイルは心配そうにエルヴィンを見つめるイブキが視界に入ると
    『エルヴィンの女』だと真っ先に思っていた。

    「勘違いするな…彼女は同じ調査兵だ。
    イブキ…すまないが、外してくれないか」

    「…うん…わかった…」

    イブキはナイルを一瞬見たかと思うと、
    目線を落とし、怪しげな二人に対して
    不安な気持ちを抱えながら病室から一人、出て行くことにした。
  20. 20 : : 2014/01/15(水) 23:19:27
    「まったく…おまえに女がいるときって、昔からほとんど、いい女だな」

    「ナイル、おまえが言うな」

    エルヴィンはため息交じりに嫌味を言うナイルに対して
    冷ややかな視線を送っていた。
    イブキは途方に暮れながら、調査兵団本部内を歩いていると、
    無意識に遠くに壁が見えるバルコニーに来ていた。
    この場所がイブキにとって本部内で落ち着ける場所となっている。

    「エルヴィン…今まで、職務の話は私の前でもしてくれたのに…
    今回はどうして…」

    イブキはバルコニーの手すりに両肘を乗せ、
    遠い壁を見据えていると深いため息をつきながら、
    さらにその心にはさらなる不安が影を落としていた。

    「私は…ホントに一人ぼっちになるのかな、ミケ…」

    イブキは透き通る青空を見上げながら、ミケを思い出していた。
    そして、押しつぶされそうなくらいの寂しさをイブキを襲うと
    チクリと心に針が刺される感覚がした。
    そして、孤独感が波紋のように広がっていった――

    「ミケ…声を聞きたいよ…」

    イブキは自分の胸に手を当ててもミケの声は沸きあがってこない。
  21. 21 : : 2014/01/15(水) 23:19:55
    ・・・どうして…? ミケ…私がエルヴィンを心配するから…? どうして――

    イブキがうつろな表情でミケを想い、心に問いかけているときだった。

    「イブキ…やはり、ここか――」

    ナイルと話を終えたエルヴィンがイブキの元へゆっくりと歩み寄ってきた。

    「エルヴィン、その格好…?」

    「あぁ…これからナイルと出かけるのだが…正装する必要があってな」

    エルヴィンは調査兵の制服でも
    式典に出席するときに着用する正装のジャケットを身にまとっていた。

    「そうなの…あっ、エルヴィン…ループタイが――」

    イブキはエルヴィンの襟元のループタイの左右のバランスが
    ちぐはぐになっていることに気づくと、長さを整えていた。

    「イブキ、すまない――」

    エルヴィンはイブキを間の前にすると、
    今まで抑え付けていた気持ちを解放するかのように
    うつろな表情のイブキを見ると左腕で強く抱きしめていた。
  22. 22 : : 2014/01/15(水) 23:20:16
    「身なりは…キチンとしなきゃね、何かに挑むときは」

    イブキがエルヴィンを見上げると、左手で頬を寄せられ、
    唇から漏れる吐息を感じるくらい近づいていた。

    「俺と…いいのか…」

    イブキが潤んだ眼差しを注ぐと何も言葉を発することはなかった。
    そのままエルヴィンが頬を寄せ、自らの唇がイブキの柔らかい
    唇の感触を感じていた。そのとき、イブキの唇が自然に開いたことを感じると
    エルヴィンはむさぼるようにイブキの唇を求めた。
    互いの唾液が混じり合わさるような
    激しくも悲しい口づけを二人は交わしていた。
    そしてエルヴィンはイブキを再び左腕で抱きしめながら、耳元でささやいた。

    「この続きが…出来る日が来るといいな…」

    「えっ…」

    エルヴィンは伏目がちになると、すぐさまイブキから離れた。
    空洞のようなジャケットの右腕を風になびかせると、
    ナイルが待つ馬車の元へ向う足取りは重かった。
  23. 23 : : 2014/01/15(水) 23:20:42
    「エルヴィンと…まさか、こんなことに」

    イブキは自ら招いたとはいえ、エルヴィンと交わした口づけの感触が
    残る自分の唇を指先でなぞっていた。

    ・・・ミケ…私はなんて『ふしだら』なの…ごめん…

    イブキはミケに対して背徳行為のため罪悪感に包まれたのは一瞬で、
    なぜか後悔はしていなかった。ただ胸の鼓動が激しく鳴り響き
    身体の芯から火照る感触がすると、エルヴィンを失いたくないと願うだけだった。
    ただ一人の女としての様々な思いが複雑に織り交ざる感情だけが
    イブキを悩ませていた。

    ・・・私は…女として最低だ――

    イブキは虚無感でバルコニーから見えるエルヴィンが
    馬車に乗り込む姿を見つめていた。
    その時だった。
  24. 24 : : 2014/01/15(水) 23:21:16
    ・・・エルヴィン・スミスを…守って

    それはエルヴィンがかつて心から愛したミランダ・シーファーの声が
    イブキの心に沸いてくるように聞こえてきた。

    「ミランダさん…ごめんなさい、私とエルヴィンが――」

    イブキはハッと我に返った。
    エルヴィンが愛したミランダが危険だと察知して
    イブキにそれを知らせたというのなら、
    エルヴィンとの未来が見えない関係や
    自分の感情に振り回されるときではない――
    ただ、ミランダの言うとおり、エルヴィンを守らなければ、
    という気持ちが湧き上がってきた。
    イブキは改めて忍装束を身にまとうと、
    エルヴィンが乗る馬車を追うことにした。
    昼間の街中のため身を隠しながらの行動のため
    更なる慎重さが必要とされたが、それを気にしていられないほどだった。
    エルヴィンはイブキに追いかけているとはと気づかずに
    馬車の中ではナイルに真意が見出せない質問を投げかけ、
    困惑の表情を浮かべさせていた。

    「エルヴィン…質問の的を絞ったらどうだ」

    エルヴィンはただ薄ら笑いを浮かべ、ナイルを見ていた。
    そして目的の施設前に馬車が止まると、エルヴィンは一人ゆっくりと降りた。
    ナイルに背を向けたままエルヴィンは言い放った。
  25. 25 : : 2014/01/15(水) 23:21:33
    「…俺もマリーに惚れていた――」

    エルヴィンは若かりし頃、酒場で出会ったマリーに
    文字通り惚れていたが
    ナイルと恋に落ちてそのまま結婚していた。
    気持ちを寄せるだけで、
    エルヴィンは何の行動を移すこともなく、
    マリーはナイルを選び共に人生を歩み始めていた。
    ナイルは当初、心のどこかで『俺はエルヴィンの代わりじゃないか』と感じることもあったが、
    家庭を築けたことを誇りに思うと、それは些細な感情だと自分に言い聞かせていた。
    馬車のドアが閉められ、エルヴィンがその施設に向かい歩き出していた。

    「エルヴィン、そんなことは知っていたよ!
    おまえが選んだのは…巨人じゃねぇか!?」

    ナイルは呆れた表情でエルヴィンには届かない独り言を言うと、
    イブキが心配そうな眼差しを
    エルヴィンに注いでいたことを思い出していた。

    ・・・おまえは本当にどうかしている…また巨人を選ぶとは――

    ナイルは腕を組みながら、
    エルヴィンから問われていた
    簡単には理解しがたい内容を思い返して
    深いため息をついていた。
  26. 26 : : 2014/01/15(水) 23:22:03
    ・・・エルヴィン…この施設は…!

    そこはイブキが忍び込もうとしたとき、隠密の影が見えたため
    ミケに忍び込むことを止められた
    巨人の秘密を大いに握った施設でもあった――
    イブキがエルヴィンの背中を見送ると、隠密が潜んでいるために
    容易く忍び込めず、どうにもできない、もどかしさだけが残る。
    しかし、その施設に向かい堂々と歩いているエルヴィンの背中を見送るしかなかった。

    「エルヴィン…あなたの無事を祈るしかないの…?」

    イブキは影からエルヴィンの背中を見守ると
    ただ拳を強く握り、胸元にあてがっていた。
    そして突然、
    エルヴィンが時々、一人で薄ら笑いを浮かべる姿を思い出すと
    背筋が凍る感覚が沸いてきた。
  27. 27 : : 2014/01/15(水) 23:22:17

    「…もし、あなたの策略で…皆を裏切ることがあれば絶対に許さない…
    あのとき、私があなたと初めて会ったとき…
    あなたの暗殺が成功していたら、って…後悔させないで――」

    イブキは再びエルヴィンに対して胸の鼓動を抑えられなかった。
    それは何か得体の知れない策略に対する疑いが原因だった。

    「やっと…か…」

    エルヴィンが神殿にも似た
    その施設を神妙な面持ちで眺めていると、
    左手の拳は強く握られていた。
    そして調査兵団団長、エルヴィン・スミスとして
    巨人に挑むとき以上の確固たる信念がその心には宿っていた。
  28. 28 : : 2014/01/15(水) 23:22:37
    ★あとがき★

    『進撃の巨人』の最新話に
    私の妄想を書き足して隠密のイブキを登場させ
    SSとして描きました。
    今回はイブキに翻弄されうろたえるエルヴィンを封印して
    カッコよさだけを残してみました。
    これからも、最新のストーリーに妄想が浮かび上がってきたら、
    このシリーズで描いていきたいと思います。
    誤字脱字には気をつけ、そしてわかりにく表現も
    訂正していますが、それでも至らない点がありましたら、
    申し訳ありません。
    お読みいただいてありがとうございました。

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

この作品はシリーズ作品です

密めき隠れる恋の翼たち~ シリーズ

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