この作品は執筆を終了しています。
squall
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- 1 : 2017/11/26(日) 23:47:12 :
- こんばんは、雨都(あまと)です。
秋のコトダ祭り、引き続き参加させていただきます。
第4週目のテーマアイテムは「衣装」です。
最後までよろしくお願いします。
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- 2 : 2017/11/26(日) 23:48:00 :
オレは強いってずっと思ってた。
誰よりも強いって、ずっと思ってた。
オレは料理も編み物もできねぇ。
ギターもピアノも弾けねぇ。
絵なんてガキの落書きレベルだろうし、勉強なんてカスほどもできねぇ。
言葉で女を口説くことも、他人に興味を持たせることもできねぇ。
けど、喧嘩なら誰にも負けねぇ。
男なら、それで充分。
自分と誰かを守れる力がありゃあ、男はそれで充分だと思っていた。
確かに、自分という存在を認めさせるって思いが無いわけではなかった。
自己の証明のために強くなるという気持ちは無いわけじゃなかった。
けど、あくまで『自分と仲間を守るため』と自分に言い聞かせて強くなった。
攻めるためではない、あくまで守るため。
そう、言い聞かせた。
けど、やっぱダメだった。
オレは兄貴より劣った存在だという負い目から、もう守るためとか関係なく、ただ強くなることを考えるようになった。
どんな手を使っても、一番に。
兄貴を超えて、頂点に。
『オレが最強』に。
誰よりも、何よりも強え男に。
そこからの崩壊は、早かった。
強さとは、『自分を恐れない者がいないこと』。
そう思い始めてからオレに少しでも逆らう奴らはボコボコにしてやった。
強さとは、『傷つくことを恐れぬこと』。
そう思い始めてから、喧嘩の傷は治さずに耐性を付けようとした。
ナイフやノコギリによる切り傷だって必死に痛みに耐えた。
強さとは、『自分を知らぬ者がいないこと』。
そう思い始めてからオレは『暮威慈畏大亜紋』の名を世にもっと知らしめるために無駄な喧嘩を続けた。
流れなくてもいい血が、できなくてもいい痣が、オレにも相手にも増えた。
強さの意味を履き違え、曲解したその行動は、見てられるものではなかったろう。
一体オレの何がダメだったのか、そんな簡単なことさえ分からなかった。
兄貴。
何故兄貴があんなにも皆に慕われているのか。
何故オレとさして変わらない身長の兄貴の背中があんなにもでかいのか。
『強さ』とは、何なのか。
やっとわかった気がする。
こんな、惨めで、誰にも慕われなけりゃ誰にも愛されないまでに堕ちてから、やっと、やっとわかった気がする。
せっかくオレに寄り添ってくれた小鳥の、まだ小さくて羽ばたくのもままならない翼を千切ってしまってから、やっと気付いたんだ。
この小鳥こそが、『強さ』なのだ。
ああ、二度目だ。
オレは、本当の強さが何なのか気付くチャンスを、二度も自ら駄目にしてしまった。
兄貴を超えることに拘り続け、囚われ続け、そうして何もかもを滅ぼした。
それが強さだと勘違いし、その勘違いにさえ気付けないままここまで来てしまった。
なぁ、兄貴。
オレは、この学ランを、『暮威慈畏大亜紋』の名を刻んだこの大切な衣装を、着ていてもいいのか?
『超高校級の暴走族』の名を、兄貴が創ってきた『強さ』の象徴を、本当は誰よりも惨めで、誰よりも情けなくて、誰よりも弱かったこのオレが、背負っていてもいいのか?
教えてくれるわけねぇよな。
だって、もうこの世にいないんだから。
すまねぇ、兄貴。
すまねぇ、チームのみんな。
オレは、この服を、この名を、刻まれた思いを、捨てる。
オレは自分が許せない。
強さを曲解し、本当の強さってモンをただただ妬み続け、行く道も帰る道も失って、遂にはこの世で一番大切な人の命と、こんなどうしようもないオレに寄り添ってくれた命を、消してしまった。
悔やんでも遅い。
だからこそ、オレは無責任に全部捨てて、オレをやり直したい。
そうすれば、もう兄貴や強さや負い目なんて、そんなものに囚われることはない。
拘りすぎて別の脇道を見失うことも帰り道を失くすこともない。
最初から、やり直せる。
オレが今まで生きてきた中で言われたこと、見てきたものが全て詰まったこの服に、別れを告げる。
チームと兄貴と、そして今までのオレ自身に。
サヨナラ─────オレの全て。
「大和田くん……?」
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- 3 : 2017/11/26(日) 23:49:22 :
- 「……ん?」
ハッと、我に帰る。
目の前には困った顔の不二咲がいた。
「……わりぃ、ボーッとしてた。んで何だっけ?」
「ああ、うん。ええっとね」
おかしいな。
オレは今、たしかにダンベルでこいつの頭を─────。
「僕、強くなりたいんだ。変わりたいんだ」
そう、そのセリフだよ。
それ確かさっきも聞いたような。
それを聞いてオレは……。
「お、大和田くん!?」
オレは学ランを不二咲に羽織らせた。
「不二咲、お前が目指す強さってのがどんなのかは分からねえ」
「けど、お前はオレみてーな見た目ガラ悪ぃ奴を恐れないばかりか、信じて隠してた本当のことを話してくれた」
「本当はツラかったのに、それでも傷つく覚悟で打ち明けてくれた」
「それだけで……お前は充分強ぇよ。その点オレは、そんなお前を目の前にしてもまだ言いたくないことが沢山ある」
「オレは弱ぇな……いや、お前が強いのか?どちらにせよ、オレよりもお前の方が何百倍何千倍強ぇさ!」
「だから……こいつはお前にやる。兄貴も言ってたよ、『お前 が一生付いていきたいと思う人間に出会えたら、その時はこの学ランを譲渡しても構わねえ』ってさ」
「で、でもぉ……大事なものなんでしょ……?」
「さっきまでは、な。けど、もういいんだ」
「オレも……変わりたい。強くなりたい」
「……生まれ変わりたい」
自分の率直な思いを、こんなに赤裸々にぶちまけたのは、何年振りだろうか。
オレもこいつも、強くなる。
後悔しないように、生まれ変わる。
「大和田くんは……自分が弱いって思うの?」
「ああ、そうだよ。だがオレもいつか、お前のように─────」
「弱いんだったら、僕のために死んでよ」
「えっ?」と言おうとしたときには既に包丁で喉を切り裂かれていた。
「ふずぃっ…………ひゅぅ…………」
「理由が何だって、女装してたなんて世間や同級生にバレたくないし」
「それに、この服お気に入りだから中学生みたいなダッサい学ランで汚さないでよ」
血に染まった包丁で学ランの袖をビリビリに切り裂いてその場に捨てる。
「さて、証拠隠滅したら証人も隠滅だね。セレスさんのあの衣装 も血で染めてあげよっかな」
END
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- 4 : 2017/11/26(日) 23:50:31 :
- 一番難しくて試行錯誤繰り返した結果これでした。最後までありがとうございました。
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