このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
牽衣頓足【調味料杯】
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- 1 : 2017/03/25(土) 19:17:55 :
- 調味料杯参加作品です
『牽衣頓足 』
誤字脱字が酷かったり、文章がおかしかったりしたので
所々、修正しました。
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- 2 : 2017/03/25(土) 19:24:03 :
- 愛する彼の胸には深々とナイフが刺さり、白いシャツが赤い鮮血に染まった。最愛の人を殺めた私は天を仰ぐ。
「どうしてこうなっちゃったんだろ。」
まばらに見える星に、ポツリと言った。だけど星は何も言わずに小さく光ってる。
それが何だか悲しくて。寂しくて。
涙でぼやけた春の星空は、美しいカーテンのようにも思えた。
群生している黄色い水仙が風に揺らいだ。
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- 3 : 2017/03/25(土) 19:24:30 :
- 「僕を殺して欲しい。」
喫茶店でそう告げられた時、私は苦笑いを作って冗談きついよと言ったけど、あなたの真っ直ぐな目を見て困惑した。
「な、なんでかな?」
彼は目を逸らして頭をポリポリ掻いた。...私の好きになった彼の仕草だ。同じ高校の同じ学年のクラスメイトだけど、私は彼を目で追うようになっていたのはいつからだろう。
「理由はちゃんとあとで話すから。」
そのあと何を質問しても彼はそれしか言わなかった。彼はじっと手元のコップを見つめていた。
「分かったわ...。とりあえず了承云々の前に理由をちゃんと教えて?」
「...うん、だけど。僕にはちょっと時間がないね。少し買い物しないとダメだ、一緒に来て。」
会計を済ませて店を出る。外は晴れてこんなに気持ちがいいというのに、彼は殺して欲しいというのか。
電車に乗って数駅。私達は大きなホームセンターに入った。彼は無言で歩き、私はそれについていった。
「何を買うの?」
「うーん。そうだね。何買おうかな。」
「え?」
「君が刺殺がいいか、絞殺がいいかだね。」
何を言ってるんだ。この人は。
「待って、待って。私はまだ殺すこと了承してないし、本気なの?それ?」
「本気だよ。僕は君に殺されたいんだ。」
こちらを向いて真面目な顔で言われると腹が立ってくる。本当に頭のネジが外れてしまったのか、彼は。
「うーん。そうだね。お金に余裕はあるし、両方買おうかな。」
彼はそう言って適当なロープをカゴに入れてから、十分にナイフのコーナーで品を吟味してからカゴに入れた。
「これから少しやることもある。それを済ませながら話しをしたいんだ。いいかな?」
会計を済ませ持っていた大き目のバッグに押し込んでから彼は口を開いた。学校では無口でミステリアスな彼だけど、ここまで頭がおかしい人だとは予想もしなかったわけで。私は一応、それならいいよって答えて彼に付いていくことにした。
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- 4 : 2017/03/25(土) 19:26:08 :
「僕はね、殺されたいんだ。」
「なんでなの?」
「うーん...それはまだ言えないかな」
どういうことなの?全く理解が出来ない。
「じゃあ、君は。死にたいとか思ったことある?」
「そりゃ...あるけど」
「だったら、そういうことだよ。」
彼はそれから駅で結構離れた距離まで行くらしく、二人分の切符を買って渡された。水族館に行くという。
「水族館に行ってやることって何なの?」
「え?」
「ほら、ホームセンターで言ってたじゃん。やることがある、って。」
「水族館なんだから、静かに鑑賞することがやることだよ。」
何なんだ、本当にこの人は。
私は心底がっかりした。私が学校で思い描いていた人じゃない。人がこうであるって考えを押し付けていたせいもあって自己嫌悪がマックスに。
「さ、降りよう。」
彼は降りて改札を抜けると、トイレに入るから改札付近の支柱で待っていてくれと言われた。私は悶々とした気持ちが整理出来なかった。
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- 5 : 2017/03/25(土) 19:27:47 :
- 「ごめんごめん、お待たせ。」
彼はにこやかにこちらに歩いてくると、さぁ行こうかと笑った。彼の歩くスピードが少し遅くなった気もしたが、特に咎めることもしなかった。
「そうだね、水族館で一通りまわったら話すことにするよ。」
彼は作ったような笑顔を見せた。...こんな、作ったような顔、あなたらしくないのに。
水族館には、駅から無料のシャトルバスが出ていてそれに乗った。十分程度で着き、私達は大きな建物の前に着いた。
「改めて言うけどお金は君が払わなくていいよ。君には付き合わせているから、気にしなくていい。」
彼は入場券を買う際に、そう言って私が財布を出すのを止めた。私はバイトもしているわけじゃないから、そこはちゃっかり奢られることにした。
「ここでは大きな水槽があって、その一つの水槽に沢山の数の魚が泳いでいるんだ。とても美しいと評判なんだ、それを見よう」
彼は入場すると思い出したかのように早口で言った。私はクスリと笑ったけど、彼について行く。
入館するとまずいくつかの水槽の中で様々な魚が泳いでいて、その姿も一個一個確認しながら歩いていく。
しばらく歩いていくと、イワシが数百匹泳いでいる水槽があって、彼はそれを食い入るように見つめた。
「凄いね、これ」
「そうだね、言葉が出ないや。」
彼は目を輝かせて水槽を見つめ続けた。
まるで小さい子供になったように。
しばらく水槽を眺めた彼はポケットから出した白いハンカチで口を押さえ、またトイレに入って行った。私は彼の姿を見てからイワシの水槽を眺めた。
集団で泳いでいる姿がとても美しい。
その中で二匹、同じ水槽に大きな魚が泳いでいた。
下の方をゆっくり寄り添うように泳いでいる。
「ごめんね、お待たせ。」
「咳してたけど、大丈夫?」
「あー、大丈夫だよ。...それより、館内にレストランがあるんだ。そこで話したいことがある。」
そう言って彼はいいかなって了承を得てからレストランに向かった。自分勝手な彼に対して少し嫌気が差していたが、元々お金を払ってはいるから彼が主導なのは仕方がない。
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- 6 : 2017/03/25(土) 19:28:21 :
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「私はウインナーコーヒーを一つ。」
「僕はホットコーヒーで。」
ウエイターは注文を取ってから厨房に戻っていく。彼はその姿を見てから身を乗り出して喋り始めた。
「僕はね、もうあと一週間も生きていられない」
突然の告白に私は言葉を失った。
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- 7 : 2017/03/25(土) 19:28:49 :
- 「まぁ、ちょっとした理由があってね。」
「ちょっとした理由で人は死なないわよ。」
「はは...そうだよね。」
彼は寂しそうに笑ってお冷を一口飲む。
もし本当に彼が死んでしまうなら。そう仮定した時、パズルのピースがぴったりとハマったように、私の中で納得のいく答えが出てきた。
「病気...?」
「うーん。まぁ、そんなもんだね」
「病院には...?」
「冬休みにぶっ倒れて、まぁ最後くらいは自由にってことで退院したんだ。でも、明日また入院することが決まってる」
次々とピースがハマっていく感覚で、私は身震いしてしまった。彼の作ったような笑顔の目はとても悲しそうなんだ。
「僕は、魚の図鑑を見るのが大好きだったんだ。ここに来て本当に良かったよ。」
満足気に話す姿を見て、腹に深く重く沈む何かを感じたけど、それが何なのか私には分からない。
「お待たせしました。ホットコーヒーと、ウインナーコーヒーです」
注文したコーヒーが来て一口啜る。
甘いクリームが私の脳を働かせる。
「ねぇ、なんで私に殺させようとしたの?」
「うーん...君は誰に対しても平等に見れる目をしていると思っていたからかな。」
私は素直に驚いた。
「だから、殺される時も一人のクラスメイトとして殺してくれる人がいいから、君に殺して欲しいんだ。」
そう言って彼は下手くそな作った笑みを浮かべた。その嘘にイライラしてしまって、私はドンドン不機嫌になる。
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- 8 : 2017/03/25(土) 19:29:51 :
- 「ゴホッゴホッ...」
彼はまた咳をし始めて、本当なんだって現実に叩きつけられる。しばらく彼は噎せこんだ後、苦し気な顔をして胸と口を押さえた。荒い息、青ざめた顔色。
私は彼を心配はするも、何をどうしていいか分からないから、手も出すことも出来なかった。
「ごめんごめん...もう大丈夫」
彼はやっぱり嘘の作り笑いをした。ムカついて私はクリームとコーヒーを混ぜてとっとと飲みきる。
彼はもうコーヒーが飲めないと言うので角砂糖を入れさせようとするが、ポトリと机に落としてしまう。ボールのように二,三回跳ねて転がった。どこか寂しそうにそれを見つめた彼を見て、重いものが更にお腹の奥に沈んでいった。
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- 9 : 2017/03/25(土) 19:30:01 :
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彼に引っ張られて私は森に来ていた。彼は時折よろめきかけることがあり心配になるけど、私の手首を掴んだ右手の力はとても強かった。
空は暗くなって、不安で押し潰されそうになって帰ろうと言うけど、それでも彼はどんどん森に入っていく。
「ここにしよう。」
比較的開けた場所に来た。お互いの顔が分かる程度に暗くなってて、私の森に対する恐怖が増えていった。
「ここで、僕を殺してくれないか。」
彼の声は微かに震えていた。
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- 10 : 2017/03/25(土) 19:30:23 :
- 「嫌だ。」
私はキッパリと断る。だって、こんなあなたを殺すなんて出来るわけがない。
「そっか...」
声が震える。
「ねぇ...なんで...ちゃんと教えてよ...」
「何がだい?」
彼は比較的穏やかな声をして私を見つめる。私の手首を握ったまま。
「どうして私なの...。私にどうして殺させようとするの...。」
「それは、レストランで言ったとおり...」
まただ。
またその顔だ。
「その分かり易い作り笑いをしながら言われたんじゃ、信憑性なんてこれっぽっちもないわよ!」
「...」
「だから...本当のこと、ちゃんと教えてよ...。」
私の手首から手を離し、頭をポリポリ掻いて溜息を吐いた。
そして優しく私の頬に触れる。
「墓場まで持っていこうと思ったんだけどな。やっぱり僕は嘘が下手くそみたいだね。」
彼の震える指は私の涙を拭った。近付いて分かる、彼の容態。彼の呼吸の浅さ、月明かりでも分かる彼の顔色。
「僕には好きな人がいた。だけど、叶わないだろうから。せめて...好きな人の手で殺されたかったんだ。」
「君のことが、ずっと前から好きだった。」
「だから、どうか。殺して欲しい」
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- 11 : 2017/03/25(土) 19:30:56 :
- やめてよ。そんな顔で私を見つめないでよ。
「嫌だよ...。私だって、好きだから。」
俯いて呟く。もう鼻水と涙でグシャグシャだ。私の涙を拭った彼の手は離れて私の頭に乗る。
「...」
彼は何も言わずに黙っていた。私も自然と黙って、彼のシャツの裾を掴む。森の静寂が私達を包み込む。
しばらくしてから彼は、パッと離れた。
バッグからホームセンターで買ったナイフを取り出す。私の方を見て、やっぱり寂しそうな顔で笑った。
「君に殺して欲しいんだ。お願いだ...。」
「何度も言ってるでしょ!嫌なものは嫌なの!」
「......」
「私はあなたに生きて欲しいの!」
「無理なんだ!!!」
声を荒らげた。
するとまた苦しそうに咳き込んだ。今度は何かを吐いた。
「...ごめん、もう幾許も時間が残されてない。」
月明かり照らされた彼の口元は赤くなっている。彼の呼吸の音は明らかにおかしくなっていて、ヒューヒューと漏れている。
「...もう、弱った自分を。見たくないんだ...。」
そう言って彼はドサりと倒れ、私は彼の元に駆け寄る。震える両手で彼は自分の鳩尾にナイフを押しつけた。
「...手伝ってくれ。」
今まで見せていた無機質な双眸とは違い、彼の瞳には確かな熱がこもっている。私はもう...。
何も考えられなくなった。
黄色い水仙に血飛沫が飛んだ。
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- 12 : 2017/03/25(土) 19:31:19 :
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ボーッと私は星空を見上げたあと、彼の手を握った。
ヌメっとした血がついている。
彼の開いた瞼を下ろさせ、彼が血を吐いた口にキスをした。
虚しさが。
絶望が。
鉛のように重くのしかかる。
「あなたに、会いたいから。」
私は彼の胸に深々と刺さったナイフを引き抜く。血脂がベットリとしていて、私の服の裾で拭う。
「ちゃんと会って話をしよう。」
私は決意を固めて木に登る。
彼の持っていたバッグからロープを取り出して、そこで頑丈な枝に括りつけ、反対側には輪っかを作って首に掛ける。なんて事はない。陳腐な自殺。
春の夜空は赤く、そして悲しげに。
月は、私達の愚かさを優しく照らしていた。
今度はちゃんと話そうね。
大好きだったあなたを殺したナイフを力いっぱい胸に刺して飛び降りる。
ドクドクと溢れる血。首に食い込む太い縄。
だけど、私は苦しくない。
互いを求め過ぎた私達は、死んでいく。
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- 13 : 2017/03/25(土) 19:33:19 :
- 以上です。ありがとうございました!
下記URL【調味料杯】
http://www.ssnote.net/groups/2175
あとがきに黄色い水仙の花言葉を残します。
黄色い水仙は
「もう一度愛して欲しい」「私のもとへ帰って」
という意味があるそうです。
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