この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』
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- 1 : 2014/11/14(金) 10:27:15 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
(http://www.ssnote.net/archives/2247)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
(http://www.ssnote.net/archives/4960)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』
(http://www.ssnote.net/archives/6022)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』
(http://www.ssnote.net/archives/7972)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』
(http://www.ssnote.net/archives/10210)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』
(http://www.ssnote.net/archives/11948)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
(http://www.ssnote.net/archives/14678)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』
(http://www.ssnote.net/archives/16657)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』
(http://www.ssnote.net/archives/18334)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
(http://www.ssnote.net/archives/19889)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
(http://www.ssnote.net/archives/21842)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』
(http://www.ssnote.net/archives/23673)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』
(http://www.ssnote.net/archives/25857)
★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと
最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった
隠密のイブキとの新たなる関係の続編。
『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した
オリジナルストーリー(短編)です。
オリジナル・キャラクター
*イブキ
かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。
※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
お手数ですが、コメントがございましたこちらまで
お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
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- 2 : 2014/11/14(金) 10:28:15 :
- 3つの兵団を束ねるダリス・ザックレイ総統と移動を共にしていた調査兵団に属するエルヴィン・スミスは一先ず彼から離れることになった。
それはザックレイが王政幹部に拷問をしては、重要な情報を得る、という目的が第一だった。
しかしながらエルヴィンがその拷問の方法を耳にしたとき、すぐさま怪訝に眉根を寄せた。
人に痛みを与えるはずのザックレイがそれは楽しむものと言わんばかりに無邪気な笑いを堪えきれない、という顔つきをエルヴィンに傾けていたからだ。
壁外で巨人の脅威を何度も目の当たりをしたはずだが、人間の非道さの方が醜いのか、とエルヴィンは心の根で感じてもそれをあえて口にしなかった。
エルヴィンは兵団の施設内で懐かしむ間もなく調査兵団の制服のジャケットに左腕を通し、ループタイをその襟元に締める。
鏡の前で前髪に櫛を通し自分の顔の見ながら、治りかけの顔の傷に触れた。もう痛みは感じない。
兵士たちが待つ広場に出たとき、見上げた空は曇りで、夜空は顔を出さない。部下たちと出立について打ち合わせながらも時々空を見上げていた。
この空はすぐには晴れないだろうと安易に想像でき、重たい鉛色の雲が兵士たちの上空に広がっていた。
王政からの新着情報を得られ、例え突然この空に晴れ間ができ、月明かりが射したとしても、エルヴィンは気持ちまでは晴れないだろうと感じていた――。
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- 3 : 2014/11/14(金) 10:30:30 :
- 「まずいのう…エルヴィン……」
エルヴィンの背中に少しばかり落胆した駐屯兵団司令、ドット・ピクシスの声が響いた。
部下の女性兵士、アンカを伴ってエルヴィンの元へ近づいて、王政の幹部が吐いたという情報を
伝えるも、それはすでに知っていることである。
亡き父の仮説が正しいと改めて思い知らされ、命を賭した考えに間違いないとエルヴィンは当然の如く確信していた。
レイス家が記憶の改ざんを都合よく出来るとしても、真実さえ葬れるのか、と想像が巡ったとき、
エルヴィンの脳裏にかつて亡き父が自分に向かい話してくれた自分の人生を決定付ける瞬間が思い返された。
(これまでの人生も書き換えられるのか…? エレンの『叫びの力』を手に入れれば、人類にとって
都合が悪いことを都合よく消し去ることができる…?)
冷徹な眼差しでピクシスと話しながらエルヴィンは左手で自然に拳を作り、強く握る。
同時にエルヴィンは隠密から調査兵に生まれ変わり、イブキを想う。
彼女の笑顔を思い出したくても、なぜか不安げに自分に向ける眼差ししか浮かばない。
(君のことさえ…忘れる可能性があるのか……イブキ)
イブキのことを思い浮かべながらも、あえて表情を変えずピクシスと話す。
互いにザックレイの野望について話してはピクシスは再び伏し目になり、エルヴィンに背を向けた。
「ワシは…お主と違って、賭け事を好まん…またお主らと違って、己よりも生き残る人類の数を
尊重しておる――」
ピクシスが言葉を重ねるごとに語尾は弱くなっていった。エルヴィンは表情を変えることなく耳を傾け続ける。
互いの意見は少し食い違っても、壁の中の和平を探る道を彷徨っていることに変りはない。
「――団長! 総員準備が整いました!」
モブリット・バーナーはエルヴィンの前で姿勢を正し、出立の手はずが整ったと報告する。
ピクシスが彼らから遠ざかろうとしたとき、エルヴィンは肩越で微かに薄らいだ眼差しを返した。
「……人類が一人以下になれば、人同士の争いは不可能となります…」
「ははは…そんな屁理屈を聞きたかったわけではないわい…!」
ピクシスが振り向いてエルヴィンに向けた返事は呆れ気味に乾いた笑い声だった。
「あぁ…そうだ、エルヴィン! 忘れておった…あの黒髪の美女によろしく――」
思い出したように右手を軽く上げ、ピクシスは踵を返した。
イブキのことを言われ、エルヴィンは自分の本心を悟られぬよう自由の翼のマントをその背にまとい、口はつぐんでいた。
肩越しにエルヴィンの姿を眺め、ピクシスは、ははっと再び笑い声を立てる。
「屈強な男だが…理屈なしに惚れているってことじゃな……まぁ、あの美女なら、何が何でも会いたくなるかのう…」
ピクシスは背後に組んでいた両手を解いて、右手で後頭部を軽く叩いた。
楽しげに微笑を浮かべている横顔を隣で歩くアンカに気づかれる。
「司令、どうかされましたか…? 一人で笑って…?」
「いや…アンカ、お主にもいえることじゃ…。 『命短し、恋せよ…』って誰かが歌っておったんじゃが…誰だったかのう…?」
ピクシスはアンカを尻目に見ては二人して背中でエルヴィンをはじめ調査兵たちを見送った。
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- 4 : 2014/11/14(金) 10:33:47 :
- エルヴィンは自身を信用する調査兵たちから漲る力を感じる。今こそ心臓を捧げる瞬間だと感じてもエルヴィンの心のどこかには必ずイブキが存在していた。
(イブキ…無事でいてくれ…)
本心を隠しながらエルヴィンは愛馬にまたがり呼吸を整え、団長として蘇る精気を落ち着かせた。
「総員整列! これよりエレン及びヒストリアの奪還作戦を開始する!!
目標と思われるレイス領地礼拝堂を目指す!!」
モブリットをはじめ、部下たちは久方ぶりの団長の力強い激を目の当たりにし、改めて調査兵としての覚悟で武者震いするようだった。
先頭のエルヴィンを見据え、兵士たちは本物の自由をつかむため、それぞれの愛馬で駆けていく。
エルヴィンはもちろん調査兵団団長としてこの再陣にエレンとヒストリアを確実に奪還すると誓っていた。
憲兵団に属するマルロ・サンドとヒッチ・ドリスはレイス家の領地へ向かう途中、民家が見えると馬を休ませると同時に、その家の持ち主に目的地への道順を尋ねることにした。
調査兵団兵士長のリヴァイは荷馬車の上で『切り裂きケニー』のことを皆に初めて話す。
敵に俺がいるようなものだ、と言われ、リヴァイ班の面々は大きく目を見開いて唾を呑み込んだ。
「――ケニーの姓は『アッカーマン』って言うらしい…おまえの親戚だったりしてな」
ミカサ・アッカーマンは冷徹な上目遣いのリヴァイに言われても、特に表情を変えず、『アッカーマン家』のことを淡々と話し出した。
イブキもミカサの冷静な声に耳を傾けるが、自分が知らされていたことと異なり、ただ眼差しが険しくくなっていった。
曰く、ミカサの母親は東洋人であることから、差別的な立場に遭い、また父親の姓『アッカーマン家』も理由が不明なまま迫害を受け、両者は山間部へ追いやられ出会った、ということだった。
「ねぇ…ミカサ、それは…姉さんから聞いたの…?」
「うん、そうだよ…お母さんが話してくれた」
ミカサの凄みのある目つきに嘘偽りなく話しているとイブキは確信した。
両親が組織を裏切り、頭(かしら)の一家に殺された直後、すわなわちミカサの祖父母が死んだ直後、命からがら逃げ出したミカサの母親がウォール・マリアの山中で彷徨い、アッカーマン家に救われ育てられた――。それはイブキが組織から聞かされていたことだった。
姉が、ミカサの母親が娘にその事実を隠し通していた、というのならイブキは自らその事実を話すべきではない、とあえてその場で、またこれからでも口を閉ざそうと決めていた。
「おまえ…あるとき突然、力に目覚めたような瞬間を経験したことはあるか…?」
唐突にリヴァイはミカサに問う。
イブキをはじめ皆はそのリヴァイの乾いた問いに、ただミカサに視線を送り答えを待っていた。
「…あります」
リヴァイは大して驚きもせずミカサの答えを聞いて、ケニー・アッカマーンのことを改めて話し出した。
彼にもその瞬間が訪れていて、突然バカみたいな力が沸き、何をどうすればいいのかわかるという――。
「……その瞬間が俺にもあった」
皆はミカサに向けていた視線をリヴァイに移動させ、また彼女に戻したりと繰り返していた。
バカみたいな力をイブキは知らなかった。これまで、ミカサの身体能力の高さは自分たちの隠密の血、母方の血を引いているからだと信じて疑わなかった。だが、それは勘違いの可能性が高い。
「もしかして…イブキおばさんにもその瞬間があった…?」
「いや…私には…なかった…。 私の本当の父親は実力者だったけど…殺されてしまい…育ての親がその……」
「ケニーか?」
口ごもるイブキの代わりにリヴァイが答えた。今度はイブキが皆の視線を集めていた。
「私がいた代々続く暗殺組織の頭(かしら)が…ケニー…なの…」
固い口調で初めて告白して、イブキは皆の視線に居た堪れずにすぐさま視線を落とした。
「イブキおばさん、どういうこと…?」
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- 5 : 2014/11/14(金) 10:36:29 :
- イブキはミカサの緊張感の滲む声に少しずつ話し出す。
「頭は…ケニーは秘密が多い人だった。 なぜか姿を長期間、姿を隠す生活を送ったり…ひょっこり戻ってきたりの繰り返しで…また肝心なことは教えてもらえないことが日常的だった。 リヴァイが言うように『アッカーマン』という姓を名乗っているなんて…私が調査兵になって初めて知ったよ…」
一通り話して大きく呼吸をして、イブキは再び伏し目がちに話し出す。
「『切り裂きケニー』という別の顔があるのは知っていたけど…また格闘技の弟子がいたことは…
言葉の端々でどうにか知っていた。 その弟子の一人がリヴァイだと思っていたけど…どうやらそうじゃないみたいね――」
顔を上げ小首を傾げるイブキにリヴァイは冷めた返事を投げかけた。
「バカいえ…俺が教えられたのは格闘技ではない…」
氷のような冷めた眼差しにリヴァイ班の面々は骨まで凍りつくようで、いったい何を教えられたのか、と想像するのも怖いくらいだった。
「だが…俺たちが感じている通り、ヤツは肝心なことは何も言わなかったな…」
「…しかし、あなたたちは一緒に暮らしていながら、切り裂きケニーの情報がないなんて…」
調査兵団分隊長のハンジ・ゾエがケニーに関する疑問を呈しつつ、対人制圧部隊について実戦経験は浅いだろうと予想し、それゆえアルミン・アルレルトもそれが弱点かもしれないと意見を挿んだ。
「イブキ、彼らについて…何か思い当たることある?」
「うん…私と同じ組織にいたかつての仲間も見かけたし、そうじゃない奴等もいる…厄介なのは
かつての仲間たちだよ。 互いに手の内を知っているからね…」
ハンジの問いにイブキの語尾はため息混じりになっていた。
リヴァイの眼差しは相変わらず冷めてままで、イブキに向けられる。
「…まぁ、俺にとっては…そいつらは足元にも及ばない……厄介なのはケニーだけだ――」
マルロとヒッチは住人からレイス家領地の道順を聞いた直後、礼をしてそれぞれの愛馬に戻ろうとしていた。
彼らが離れているほんのわずかな間であるが、荷馬車には重苦しい空気がの圧し掛かりまとわりついた。
それでも皆の目的はひとつで、エレン・イェーガーとヒストリア・レイスの奪還である。
兵団の合流を待つべきという意見を耳にしたとき、イブキはエルヴィンのことを思い浮かべた。
(あなたは…右腕がもう…。 どうか無茶はしないで、エルヴィン……)
イブキはエルヴィンに気持ちを寄せると自然に胸元のシャツをぎゅっと握った。
少しばかり狼狽させる眼差しと、わずかな動揺をリヴァイに気づかれ鋭く睨まれる。
「おい、イブキ…エルヴィンの野郎共が俺らに合流すれば…特にヤツは腕が…とにかく、おまえは
エルヴィンと一緒に戦え…わかったか…?」
「えっ…うん、わかった…! 了解…」
イブキは自分の気持ちに気づかれたのか、と戸惑いながらもリヴァイの命令に従うことにした。
その声を肩越しに聞いたアルミンは彼女に思わず話しかけた。少し前まで互いに互いを守る、と話していたはずだが、リヴァイがイブキに対して新たな命令をしたからである。
「イブキさん、僕は僕で何とかするから…巨人が出てきても、
例えケニーと対峙することになっても、団長を守ってよ…!」
「うん…そうする…」
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- 6 : 2014/11/14(金) 10:39:51 :
- バツが悪そうにイブキは俯いた。団長、と聞いてハンジは思い出したように目を見開いてイブキに視線を向ける。
「そうだ、イブキ…あなたの存在、どうやら他の兵団幹部にも知られていて…だけど、エルヴィンは
イブキは以前から調査兵団の諜報部に属している、って説明しているの――」
「まさか、そうんなふうに…?」
ハンジの言うことにイブキは驚きを隠せない。だが彼女の眼差しは険しく、イブキに注がれる。
「もしかして…それこそ『エルヴィン団長の弱点』はイブキ、あなただと…敵は思っているかもしれない。
だから…エルヴィンと共に、命を賭して…二人して挑まなくてはいけない――」
熱がこもったハンジの語気にイブキはただ頷くだけだった。
真夜中の冷たい空気に包まれているにも関わらず、イブキの額には汗が滲み出す。
それでも決意を表すように唇をかみ締めたときだった。
(イブキ…俺がついている……)
その心に彼女を見守る存在のミケ・ザカリアスの声が優しく響く。
突然のことで目を見開くが、温かなミケの声に和まされ妖しく、微かに笑みを浮かべた。
リヴァイだけはその笑みに眉根を寄せ、舌打ちを投げた。
「おい…イブキよ…エルヴィンの野郎を想っても、ここで女に戻るな……」
イブキの心にミケの声が響いた、とリヴァイは微塵も感じることはない。
その舌打ちはイブキだけでなく、ゆらゆらと揺れる松明の明かりの下に現れた彼女の妖しい微笑に魅了される自分以外の男たちに向けられたものだった。
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- 7 : 2014/11/14(金) 10:41:13 :
- レイス家の地下深い場所で、ヒストリア・レイスがエレン・イェーガーの背中に触れたとき、自然と涙が溢れてきた。
「この…私に優しくしてくれたお姉さんは…誰? 私は孤独じゃなかったんだ…」
涙が粒がヒストリアの頬をすべる。両手で頭を軽く抱え、脳裏に浮かんだ黒髪の女性を懐かしく感じては涙をぬぐうことはしなかった。それは腹違いの姉、フリーダ・レイスであると父のロッド・レイスから聞かされ、彼女は幼い妹が放っておけなかったようだ、と優しく諭した。
(小さいとき…あの優しくしてくれて、親しみがあったお姉さん…長い黒髪…イブキさんに会ったとき…そういえば…)
ヒストリアは初めてイブキと話したとき、わけもなく懐かしい感覚に包まれていた。
それは今となっては同じ長い黒髪の女性であり、心に奥底に眠るフリーダの記憶が疼いていたのだと実感していた。
ロッドはヒストリアを抱きしめながら、宥めてフリーダの懐かしくも口にするのも辛い思い出を話す。
エレンの父、グリシャ・イェーガーがしてしまったことを聞いて、ヒストリアは自分の繋がり断ち切った人物の息子、エレンを憎しみこめて睨み付けた。
鎖で繋がれたエレンの体を隔てた遠い場所から、突如、ケニーの低く主張のある声が響いてきた。
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- 8 : 2014/11/14(金) 10:41:25 :
- 「――オイオイオイ…! あんたら、まだくっちゃべっていたのかよ…!」
何かを演じているように大げさに身振り手振りを交え、遠くのロッドにケニーは話しかけた。
兵団が寝返って、その場所も見つかってしまう、すべきことを早く済ませろ、とケニーは改めて
主張するが、当のロッドは冷静だ。
「ケニー…君を信用している…指示通り、対人制圧部隊はここから離れるんだ…」
「怒っちまったか? 王さまよ…? 俺も信用しているぜ…」
まるで不満をぶつけるようなケニーだったが、最後は敬意を示し軽く頷いて、二人に背を向けた。
お気に入りの黒のテンガロンハットのツバから覗く眼差しは苦々しくて、口端は歪む。
ロッドに見せた軽口を叩いていた態度は消えうせ、その代わり殺気を立たせながら正面を歩く仲間たちを眺めていた。
「あのチビが…」
全兵団が王政を制圧したことを思い返したと同時に、ケニーはリヴァイたちと再び応戦するかと想像しては、苦虫を噛み潰すようにあえて名前を出さず、チビという。
幼い頃から知っているリヴァイの成長に思わず頬を緩ませていた。
「体格は相変わらずだが……イブキ…おまえは…」
思わず口をついて出たイブキの名に、ケニーは歩みを止めた。
赤子だったイブキを引き取って育て、一時は父としての愛情を注いだこともあった。
テンタロンハットのトップを左手で軽く持ち上げ、右手の指先で黒髪を整え後ろに流す。
その仕草は父としての眼差しを見られないような、ごまかしでもある。
「おまえは…俺やリヴァイとは違い…能力はなかったが…。 その代わり、教えたことを何でも吸収する能力があって…俺らに近い実力を得ていたよな……。だが、親子そろって俺らを裏切るとはな、イブキよ……」
組織を裏切ったイブキの両親を若きケニーは死に追いやっていた。
それを思い出しては、身体にまとう対人立体起動装置に目を配る。
「何でも武器を扱えたおまえが…立体起動装置を使いこなせば…まぁ、手の内は知っている。
何せ俺がおまえを育てたんだからな…それをご披露願おうか…」
ケニーは皮肉っぽくイブキに向けて独り言を口にする。
止めていた歩みを再開すると、眼光鋭い視界に仲間たちを招き入れた。
「アッカーマン隊長、どうやら…調査兵団団長もこちらに向かっているようです…!」
多くの仲間を調査兵団に属するリヴァイによって死に追いやられ、新たに得た情報をケニーに伝える語尾には棘があるような物言いだった。
しかしその直後、ケニーの部下はニヤっと厭らしく口端をあげる。
「――イブキは…団長にとって、どうやら『アキレス腱』らしいです…」
「そうか…それじゃあ、右腕を巨人に喰われて可哀想な団長さんだが…脚も奪うか…。
実際の脚ではなく、この場合はイブキってことだがな…」
くくっと喉を鳴らしてケニーは愉快さと憎しみが交差したような笑みをその顔に浮かべる。
年を重ねた目じりのしわもその笑みで幾分か目立つようだった。
その心にはかつて愛情を注いだ娘に対する気持ちは消え去り、ただ自分の夢を叶えるため、その過去さえ踏みにじることは容易と言いたげである。
「リヴァイ、イブキ…待っていろよ……」
レイス家領地の出入り口目前、ケニーは両腿に備え付けられたブリットの鉛を両手に宛がい冷たさを味わう。
その鉛の無機質の冷たさを調査兵団にぶち込めると想像し、ケニーは舌なめずりをしては装填の準備を開始した。
そこにはかつて王都を震え上がらせた『切り裂きケニー』が冷酷な顔を晒し、佇んでいた。
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- 9 : 2014/11/14(金) 10:41:54 :
- ★あとがき★
みなさま、いつもありがとうございます。
今回の原作最新話はいろいろなことが表面化しましたが、それよりザックレイのインパクトが
強かった、と感じる方の方が多かったかもしれませんね。
リヴァイやミカサの秘密も知らされたようなそんな気もします。
イブキもそんな中、活躍させたいと思いますが、エルヴィンとの関係はどうなるのでしょうか。
毎月二人は会えるのか、と思いつつそれは先延ばしになっています。。
二人を会わせてあげたいのですが、いつになるのでしょうかね。
今回の密めき~は話が降りてくるまで、時間がかかりましたが、完成まではあっという間でした。
また妄想を滾らせ(こじらせ?)挑んでいきますので、どうぞ引き続きごひいきによろしくお願いします!
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!
⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*
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密めき隠れる恋の翼たち~2 シリーズ
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