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November story

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  1. 1 : : 2014/10/07(火) 20:11:38
    タイトル「November story」と英語で洒落こみました。実際に日本語に訳すと、「11月のお話」となりますね。

    今回のお話は短編詰め込みです。
    11月は30日あります。なので、30話。

    そして、1話1話にタイトルがあります。
    それはその日の誕生花の花言葉。
    少し自分でもロマンチックかな、とか思ったりしました。

    みなさんに楽しく、時には笑え、そして心温まるような作品づくりを心がけたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

    また、感想はこちらに▼
    http://www.ssnote.net/groups/257/archives/17

    感想いただけると、作者が泣いて喜びます。

    長文失礼しました。
  2. 2 : : 2014/10/07(火) 20:12:26
    《目次》

    >>3 11.1 「懐かしい思い出」ソバ

    >>14 11.2 「あなたと踊ろう」シザンサス

    >>22 11.3 「仲直り」カモミール

    >>30 11.4 「ひかえめな美」 サフラン

    >>35 11.5 「可憐」 オンシジューム

    >>41 11.6 「再会」サネカズラ

    >>46 11.7 「悲哀」マリーゴールド

    >>52 11.8 「詩」ノバラ

    >>59 11.9 「祈り」ジュズダマ

    >>64 11.10「約束」モミジ

    >>71 11.11「申し分ない愛らしさ」ツバキ

    >>77 11.12「気まぐれ」ワックスフラワー

    >>85 11.13「元気になる」サルトリイバラ

    >>92 11.14「時」モミ

    >>98 11.15「追憶」ローズマリー

    >>105 11.16「あなたを信じる」フユサンゴ

    >>112 11.17「また会う日を楽しみに」ネリネ

    >>121 11.18「博愛」ポインセチア

    >>130 11.19「変化」ワレモコウ

    >>141 11.20「淡い恋」ウィンターコスモス

    >>150 11.21「努力」カリン

    >>156 11.22 「健康」アロエ

    >>163 11.23 「決断」ラケナリア

    >>170 11.24 「幸福」ストック

    >>175 11.25 「小さな愛」セントポーリア

    >>182 11.26 「好奇心」ラケナリア

    >>187 11.27 「憐れみ」ニワトコ

    >>196 11.28 「長続き」シルバーキャット

    >>199 11.29「親切」ベゴニア

    >>205 11.30 「音楽」アシ

    >>213 おまけ 1 「アルミンの誕生日」

    >>221 おまけ2 「焼き芋」
  3. 3 : : 2014/10/07(火) 20:13:04
    「懐かしい思い出」





    この頃、僕は夢を見る。
    あの懐かしき、幼い頃の思い出を。








    「異端者め」

    そう言われるのは、何度目だろうか?
    もう、慣れてしまった。
    だけれど、暴力より言葉の方が痛いことを僕は、そう言われた最初の日に知った。

    僕のお母さんはいつも
    『他人の痛みを知りなさい。そして、他人の痛みと自分の痛み、どちらを優先すべきか見極めなさい。』
    と僕に言い聞かせていた。
  4. 4 : : 2014/10/07(火) 20:14:47

    そんなお母さんも、そして大好きな父さんも、巨人に食べられ、死んでしまった。
    そんな哀しみの中、僕は外の世界を知った。

    知ったと同時に、このように異端者扱いされたのだが、僕は後悔はしていない。

    「何か言えよ、異端者」

    いじめっこは、僕にそう言った。
    これ以上、僕に何を望んでいるのだろうか。

    アルミン「君たちは、僕に何がしたいの…?」

    僕がそう言うと、いじめっこは一瞬困った顔になる。
    そして、何も言い返せず、やり場のない怒りで僕を殴ったりしてきた。

    吐きそうなくらいの痛み、それが僕を襲う。
    だけど、僕は決して泣かない。
    何故なら、そう決めたから。
  5. 5 : : 2014/10/07(火) 20:15:29



    「やめろぉぉぉぉぉぉ!」

    遠くから声がした。
    僕といじめっこはその声がする方を見た。

    声がする方には光があった。

    「誰だ?返り討ちにしてやる」

    いじめっこは僕のことを置いといて、僕と同い年くらいの男の子に飛びかかる。
    男の子は、一発殴られた。
    鼻からは血が出ている。

    しかし、男の子は尚、いじめっこに向かっていく。
    そして、殴られ、立ち上がるを繰り返す……。
  6. 6 : : 2014/10/07(火) 20:16:12

    アルミン「もう、やめなよ…」

    僕がそう言うと、男の子は

    「お前がやられた分はどうなるんだよ?」

    と言って、またいじめっこに飛びかかっていった。
    なんて諦めの強い男の子なのだろう、僕はそう思った。

    男の子は身体中がボロボロになる。
    だけど、男の子は立ち上がる。

    そして、男の子がいじめっこに飛びかかっていく瞬間、いじめっこがぶっ飛んだ。

    「誰だよ?!この女ぁ」

    いじめっこは、殴られた鼻を抑えて言った。
  7. 7 : : 2014/10/07(火) 20:17:13
    いじめっこを殴ったのは、綺麗な黒髪をなびかせて、赤いマフラーを首に巻いている女の子だった。

    ボロボロの男の子は、女の子を見て

    「ミカサっ!何で来たんだよ?」

    マフラーの女の子の名前はどうやら、ミカサという名前らしい。

    それにしても、男の子を軽くぶっ飛ばすほどの威力が女の子にあるのだろうか。

    もしかしたら、あの女の子は女の子ではないのかもしれない。
  8. 8 : : 2014/10/07(火) 20:17:52
    「エレン、早くその子を助けて、薪拾いに行こう。薪拾いをしに行く為に、エレンの場所へ来た、ので問題はない」

    ミカサという女の子がそう言うと、エレンという名前の男の子は、

    「そうだな…」

    と言って、あっさり了承してしまう。

    いじめっこは少し涙目になりつつも、立ち上がる。
    悔し涙なのか、それとも女の子にやられたという恥ずかし涙なのか、それともただ、殴られた痛さの涙なのかは、僕にはわからない。

    「お前ら、次会った時には容赦しないからな!」

    いじめっこは最後の負け惜しみを言い、去って行った。
  9. 9 : : 2014/10/07(火) 20:18:41
    すると、エレンという男の子はヘラッと笑い、その場に倒れた。
    慌てて、僕とミカサという女の子が駆け寄ると、エレンという男の子は

    「スッキリしたか…?」

    と僕に訊いてきた。
    僕は少し驚き、

    「えっ…?」

    と聞き返す。
    すると、エレンという男の子はニカッと笑い、

    「お前のやられた分、返したぞ、まあミカサがだけどな」

    そう言って、エレンという男の子はニカッとまた笑った。
    その時僕は気付いたんだ。

    エレンという男の子…。


    エレンが僕の光なのだと。








    僕が君といたいと思う理由なのだと。



  10. 14 : : 2014/10/08(水) 20:53:40
    「あなたと踊ろう」





    貴族がいつも目にかけている人物というのは、やはり調査兵団兵士長、人類最強の兵士リヴァイだということは誰でもわかること。

    調査兵団の兵士達の中でもリヴァイに憧れを抱いているものは、そう少なくはないだろう。


    それは、私もそのひとりだから。


    私が新兵だった頃から、あなたは私の憧れの的、今は貴方の部下。
    余計に、貴方に近づきたいという気持ちがふくれるばかり。

    これが恋心なのか、それともただの好奇心か、それは私にもわからない。

    ただ、貴方の側にいたいと思った。
  11. 15 : : 2014/10/08(水) 20:54:37


    リヴァイ班は、今後のエレンの為にも貴族が開いたダンスパーティーに出席しなければならなかった。

    エレンという巨人になれる青年を、貴族はあまり良く思っていなかったからだ。
    そこで、貴族に気に入られているリヴァイの出番であった。

    要は、貴族のご機嫌とりである。


    オルオ「お前、踊れんのかよ?」

    同じリヴァイ班の、同期のオルオが話しかけてきた。

    いつも、私にかまってくる。
  12. 16 : : 2014/10/08(水) 20:55:10
    そんなオルオが鬱陶しいと、日に日に思ってくる。

    ペトラ「うるさいわね、踊れるわよ。まあ、あんたなんかとは踊りたくないけどね」

    そう私がかましてやると、オルオはフッと前髪を掻き分けた。
    本人はリヴァイの真似をしているのだろうけれど、全然、全く似ていない。

    オルオ「ペトラ、お前が俺のにょプギャァ…」

    いつも通りの展開である、オルオが舌を噛むことにはだいぶ慣れてきた。
  13. 17 : : 2014/10/08(水) 20:56:08
    そんな風に和気あいあいと話をしていると、貴族の綺麗で若い女性がリヴァイに近寄るのを、私は見た。

    きっと、踊りの申し込みなのだろう。
    少し胸がチクりとする。
    気のせいだろうか。

    案の定、貴族の若い女性は

    「リヴァイ兵士長様、踊っていただけませんか…?」

    と上目遣い気味にリヴァイに訪ねる。

    リヴァイはきっとあの貴族の女性と踊ってしまうのだろう。
    少し嫌な気持ちになる。

    リヴァイ「すまないが、俺は踊る約束をしている人がいるんでな」

    と言って、断った。
    私は少し驚いたが、それと同時にホッとする。

    しかし、踊る約束をしている人物とは一体誰のことか。
    ハンジさんだろうか、それともこのパーティーの開催者の娘だろうか。
    私にはわからない。

    わかるとしたら、リヴァイに、貴方に踊ってほしくないという気持ちだけ。

    モヤモヤする気持ちになり、この場にいたくなかった私は屋上へ行った。
  14. 18 : : 2014/10/08(水) 20:56:39
    屋上には、誰もいない。
    そして、綺麗な三日月が見える。
    この三日月のように、美しければな、と私は思う。

    ペトラ「嫌味なことに何であんなに綺麗なのだろう?」

    私はそう呟いた。
    月を妬むように。

    「そうだな…」

    後ろから声がした。
    私が憧れている貴方の声。

    ペトラ「り、リヴァイ兵長!?どうしてこちらに?」

    私は驚きのあまり、声が大きく、そして甲高くなってしまった。
  15. 19 : : 2014/10/08(水) 20:57:28
    リヴァイは、はぁと深いため息をついた。

    リヴァイ「お前が途中で消えたからな、どこへ行ったものかと、探した」

    リヴァイに迷惑をかけてしまったのか。
    わざわざ探させるようなことまでしでかしてしまったのか、私は。

    私が慌てて謝ると、リヴァイは
    「気にするな」
    と言って、フッと笑った。

    その笑った顔に少し元気をもらった気がする。

    リヴァイ「お前は踊らないのか?まさか、踊れないというわけじゃあ…

    ペトラ「踊れますよ!ただ…」

    少しムキになって、声を強めてしまった。
  16. 20 : : 2014/10/08(水) 20:58:14
    リヴァイ「何か理由があるのか…?」

    リヴァイが冷静に訊く。
    だけれど、いつもと違い少し優しい声。

    私のわがままみたいなものなのに、貴方にこんなに気を遣わせてしまう。
    何でだろう…?

    ペトラ「…兵長、私と踊りませんか…?無理でしたら、断っていただけて結構ですから」

    無理なことだとわかっても、ききたかった。

    きっとリヴァイは断るだろう。
    リヴァイには踊ると決めた人がいるから。

    それでもいいから、ほんのすこしの奇跡というものがあるのかもしれない、少し甘えたことだが、甘えたかった。



    リヴァイが私にスッと手を伸ばしてきた。
    私が
    「えっ…?」
    というと、



    リヴァイ「ペトラ…踊るんじゃねえのか?」
  17. 21 : : 2014/10/08(水) 20:59:18
    少し涙目になってしまう。
    これ以上、貴方の口から優しい言葉が溢れたら、私はきっと泣いてしまうのだろう。

    少し涙目になった私にリヴァイは、

    リヴァイ「何故、泣きそうになる?」

    少し驚き気味に訊いた。

    ペトラ「だって、リヴァイ兵長は誰かと踊る約束をしているって…。だけど、踊ってくださるから、嬉しくって……」

    リヴァイは、
    「なんだそのことか」
    と少しため息まじりに言う。

    私はその言葉に少し驚きを覚える。

    リヴァイ「あんなの、断る為の口実に決まっているだろう…?」

    断る為にああ言ったのか、と私も納得した。
    確かに、ああ言えば、貴族の女性にも断りやすいだろう。

    ペトラ「…良かった……」

    私は思わず、ボソリと言ってしまう。
    慌ててリヴァイを見るが、リヴァイは気づいていないようだ。

    リヴァイ「ペトラ、踊るんじゃねぇのか?」

    ペトラ「はい!」




    兵長、私気づいたんです。







    貴方のことが好きなんだということを。




  18. 22 : : 2014/10/09(木) 21:59:42

    「 仲直り」


    『酷いぜ…アニ、いやお前はアニじゃねぇ。〝バケモノ〟だ』



    『何でアニは私を殺したの?何で教えてくれなかったの?酷い…』



    『お前がアニだって?バケモノの癖に、名前を名乗ってんじゃねえよ』



    『君は誰だい…?』


  19. 23 : : 2014/10/09(木) 22:00:03



    アニ「はっ…」

    私は目が覚めた。
    汗をだらだらと身体中かいている。

    気持ち悪い。
    吐き気がする。

    私が起きた時はまだ、夜。
    みんなはまだ寝ている。
    私はそっと起きて、外へ行く。
    何かに導かれたように。

    トロスト区奪還作戦が数時間前に行われた。
    私もその場にいた。
    そして、今はトロスト区奪還作戦が成功したところ。
    みんなは疲れはてて、絶望と恐怖を見て、グッスリと眠っている。
  20. 24 : : 2014/10/09(木) 22:00:32
    私の親友の、ミーナは……
    まだ見当たらない。

    ミーナとは同室じゃないから、見当たらないのも当たり前だ。
    きっと、ミーナは生きている。

    ミーナとは、トロスト区奪還作戦の時に少し言い合いになってしまった。
    早く、一秒でも早く仲直りがしたい。




    夜空にはたくさんの星々がちりばめられている。
    そして、綺麗な満月が光輝いていて、誠に美しい。

    こういうのを神秘的というのだろう。

    ふと、私の目の前に青く輝く美しい蝶がとんだ。
    蝶は私の周りを一周…二周…三周する。
    蝶は私についてきてと言わんばかりにとんでいく。
    私はつられて、蝶を追いかける。
  21. 25 : : 2014/10/09(木) 22:01:23
    蝶を追いかけた末に、その場所にはミーナがいた。

    アニ「ミーナ、生きていたんだね…」

    私はミーナが生きていたことにホッとする。
    ミーナが死んでいたら…。

    ミーナ「アニこそ、生きていて、良かった…」

    ミーナはいつものように笑う。
    その笑顔が暖かい。

    アニ「ミーナ、ごめん、さっきは…」

    私は謝った。
    素直に。

    ミーナ「私こそ、ごめんね…」

    と言って、ミーナも謝る。
    これじゃあ…。

    アニ「ミーナは何でこんなところにいるの?」

    私はミーナの隣に座り込む。
    先ほどまで立っていたからわからなかったけれど、低い位置から見ると、それは大層美しい花が咲いていた。

    小さいけれど、美しく、儚げで。

    ミーナ「なんとなく、ここに来たら、アニに会える気がしたから…」

    ミーナはそう言って、微笑む。
    その微笑みに私も口元が緩くなる。
  22. 26 : : 2014/10/09(木) 22:02:32
    私はさきほどの花を見る。
    やはり綺麗だ。

    ミーナ「その花、綺麗でしょ?カモミールって言うの…」

    カモミールか。
    白く綺麗な花。

    ミーナ「アニ、聞いてほしいんだけど…」

    ミーナは少し哀しそうに言う。
    私はどうしたのだろうと、思ったが、静かに頷いた。

    ミーナ「明日にはもう、どこの兵団に所属するか決まってしまう。アニはすごいから、きっと憲兵団に行くと思う。憲兵団は巨人と離れたところ、だけどいつかもしかしたら、アニは死んでしまうかもしれない。だけどね、絶対に自ら死にに行こうなんて考えないで…」

    ミーナ「アニといれた三年間はとっても楽しかった。アニはいつも私のくだらない話に、耳をかたむけてくれた。アニはいつも、私が足手まといになるにもかかわらず、手をさしのべてくれた」

    ミーナ「私がアニといれたこの三年間はかけがえのないもの。私がもし死んだとしても忘れないで、アニと出会えて本当に良かった。例え、アニが全ての人を敵に回しても、私はアニの味方だから…それだけは、覚えておいて…」
  23. 27 : : 2014/10/09(木) 22:02:56
    初めて聴いたミーナの本心。
    ミーナに言って欲しかった。

    アニ「忘れるわけないじゃないか、ミーナこそ、私が死んでも忘れるんじゃないよ?」

    私がそう言うと、ミーナはフッと笑う。
    それにつられて、私も笑った。

    ミーナ「そろそろ戻らなくちゃね…」

    アニ「そうね…じゃあ、ミーナ、また明日」

    ミーナ「うん、また明日」


    ふと、ミーナの体が透けて見えたのは気のせいだろうか。
    ミーナは哀しそうに笑い、去っていった。
  24. 28 : : 2014/10/09(木) 22:03:24


    目が覚めた。
    いつもより、気持ちのいい朝。

    食堂に行って、ミーナを探しに行く。
    いつものように、楽しくミーナと薄いスープに固いパンを食べよう、そう思っていた。

    しかし、ミーナはいつになってもこない。
    ミーナと同室の子に聞いてみようか。

    アニ「ミーナってどこにいるんだい?」

    私がそう訊くと、訊かれた子は顔を真っ青にする。
    もしかしたら…いや、そんな筈はない。
    だって、昨日話したから。

    「ミーナは…」

    お願い、その続きは言わないで。
    お願いだから。
    私は心の中で叫ぶ。

    本当の答えを知っているけど、その事実を認めたくない私がいる。

    「死にました…」

    私のなにかが崩れた…。

    アニ「そ、そうなんだ…悪いね…」
  25. 29 : : 2014/10/09(木) 22:04:36


    私は駆け出した。
    昨日のあの場所へと。

    ミーナが死んだ?そんな筈はない。
    昨日、話したから。


    昨日の場所にはあんたがいた。

    アニ「ミーナ!」

    私は叫ぶ。
    目に涙を浮かべて。

    ミーナはいつものようにニッコリと笑う。

    ミーナ「アニ、ごめんね…」

    ミーナは哀しそうに言う。

    アニ「私は信じないよ…」

    私の目からは涙が溢れる。
    ミーナの目からも。

    ミーナ「もう側にはいれないや…アニ、大好きだよ…」

    ミーナは消えていく。
    ひとつひとつの光が空へと登っていく。

    アニ「ミーナ!」

    私はこれ以上涙がないってくらいに。
    かれてしまうほどに泣いた。







    私はミーナのお墓を作った。
    ミーナの体はここで安らいではいないけれど、ここがミーナの安らぐ場所。
    カモミールの花に囲まれて。




  26. 30 : : 2014/10/10(金) 21:40:51

    「ひかえめな美」


    俺がアイツのことを好きになったのは、いや、憧れに近いかもしれない。
    アイツの黒髪は誠に美しい、だがクリスタとは違う綺麗さがあった。

    俺がアイツの隣にいることで、俺の何かが変わるのかもしれない。
    他人任せの俺は酷く甘えていたのだ。

    アイツは俺を見ていない。
    アイツはいつも俺とは違う方向へ向いている。
    それは、いつになっても、俺がいくら頑張っても無理なことだった。

    違う方向の先には、エレンがいた。
    だから、俺はエレンに嫉妬し、羨ましく思い、何事も突っかかっていたのだろう。

    エレンは俺なんかみたいな普通の道を歩むのではなく、光の道を歩むのだろう。
    それは、結果を見なくてもわかることだ。

    だけど、諦めない。
  27. 31 : : 2014/10/10(金) 21:41:22



    ジャン「よお、ミカサ」

    俺は朝一番に、食堂でミカサに会った。
    俺が挨拶をすると、ミカサは軽く会釈をし、

    ミカサ「おはよう、ジャン」

    と挨拶を返した。
    ミカサはいつもより眠そうだった。
    目の下にはくまができている。

    俺は気になって、

    ジャン「昨日はよく眠れなかったのか?」

    俺がそう訊くと、ミカサは少し俯く。
    何かあったのだろうか。

    いつも、ポーカーフェイスを崩さない、強くてその姿は凛々しく見える。
    そのミカサが今日は弱々しく見えるのだ。
  28. 32 : : 2014/10/10(金) 21:41:52
    ミカサ「ジャンには関係のないこと」

    ミカサはそう言って、それ以上追求するなとでも言う顔をしている。

    ミカサ「でも、ありがとう、ジャン。心配してくれて」

    ミカサは弱々しさを隠し、いつもの凛々しい顔で少し笑う。

    俺はこれ以上言わなかった。
    言わなかったのではなく、言えなかったのだ。

    ミカサはその場を立ち去り、エレンのもとへと行った。
    きっと死に急ぎ野郎はミカサの目の下にあるくまには気付かず、いつも通りにしているのだろう。

    それがミカサにとっても幸せなのかもしれない。
    それが一番良いのかもしれない。
  29. 33 : : 2014/10/10(金) 21:42:24



    午後の訓練が終わり、俺はそそくさと倉庫へ向かう。
    今日はブレードの数と立体機動装置の数を数えなくてはならない。

    俺は黙々と数える。

    とりあえず、ブレードの数を数え終えると、紙にチェックをする。
    次は立体機動装置の数を数えなくては。

    そう思っていると、ドアがガラッと開く。
    俺が振り返ると、そこにはアイツ───ミカサがいた。
  30. 34 : : 2014/10/10(金) 21:42:59
    ジャン「ミカサか。どうしたんだ…?」

    ミカサは朝と同じで少し弱々しい。
    今日の訓練もいつもの本調子ではなかった。
    まあ、本調子でなくても、一番の成績だった為、周りには気づかれはしないだろうが。

    ミカサ「ゴミの回収に来た」

    ブレードのかけたりしたやつとかをあつめなくてはいけない。
    ミカサがたまたま、回収の当番だったのだろう。

    ジャン「そうか。それより、ミカサ大丈夫か?」

    俺はまだ、ミカサが心配だ。

    ミカサは、大丈夫と言ってるものの、きっと大丈夫ではないのだろう。

    ジャン「辛くなったら、俺に言えよ…、一人で無理しても辛いだけだ。お前の辛いもんは俺も背負ってやる…」

    辛いのを我慢したら、余計辛くなる。
    辛さを分ければ、少しは楽になる。

    ミカサ「ジャン、ありがとう。私は大丈夫だから。私が背負っていればいいの。これ以上、誰にも負担をかけたくはないから」

    ミカサはそう言って、俺が今までで見たことのないくらいの笑顔。

    俺はそのミカサの笑顔を、きっと忘れないだろう。
    儚げでひかえめな美を。




  31. 35 : : 2014/10/11(土) 21:58:09

    「可憐」





    私はその日、部屋で仕事の書類を片っ端から片付けていた。
    本来は、日頃の疲れをとる為に、巨人の本でも読みながら優雅にもらった貴重なハーブティーを飲むつもりだった。

    しかし、私の優秀の大変面倒見の良い部下に、

    モブリット「ハンジ分隊長、今日こそは仕事の書類を片付けてくださいね!それまでは、休憩はなしですから!!」

    と言われてしまった。
    立場が逆転している気もするのだが、気のせいだろう。

    というわけで、私は書類と戦っている。
  32. 36 : : 2014/10/11(土) 21:58:39
    そういえば、リヴァイからもらった書類の提出日、今日だっけな…?
    いや、昨日だ。
    これはヤバい。
    私の命はもう尽きてしまうのだろうか。

    私は大急ぎで、書類を片付ける。
    片付け終えると、リヴァイの部屋へと向かった。



    コンコン、コンコンと私はリヴァイの部屋をノックする。
    中から、

    「誰だ?」

    と少し不機嫌な声がする。
    相当お怒りなようで、彼は。

    ハンジ「私だよ、ハンジだ」

    私がそう言うと、中から低い声で
    「入れ」
    と言われる。
    私はリヴァイの部屋へと入っていった。
  33. 37 : : 2014/10/11(土) 21:59:24
    リヴァイの部屋はとても綺麗でゴミどころか、塵ひとつと言っていいほど綺麗で清潔な部屋。
    私じゃぁ、この部屋の状態を保つのは、無理なことだろうと思う。

    リヴァイ「何のようだ?」

    リヴァイは私に不機嫌そうに訪ねる。
    私は額に冷や汗をかきながら、

    ハンジ「リヴァイからもらった書類を渡しに来たんだけど…」

    私は恐る恐る言う。
    すると、リヴァイは

    リヴァイ「珍しいこともあるのだな、お前が提出日に出すなんて、明日は巨人が進撃してくるんではないか?」

    提出日…?
    提出日は今日だったのか。
  34. 38 : : 2014/10/11(土) 21:59:46
    ハンジ「そ、それは笑えないじ、ジョークだよ、リヴァイ」

    私は動揺を隠せない。

    リヴァイ「まあな、早くお前は帰れ」

    リヴァイはシッシッと、まるでゴミでも見るかのように私を見る。
    あんまりじゃないか、私はゴミではない。

    ハンジ「全く、人をゴミでもかのように私を見るんじゃないよ、それじゃあ失礼するよ」

    私はリヴァイの部屋を出て行った。
    出て行く間際に、リヴァイはボソリと言った。

    リヴァイ「ゴミだろ、アイツは」

    と言う声が聴こえたので、私はリヴァイの部屋をガタン!とおもいっきり閉めた。

    時間はまだお昼。
    ご飯を食べていなかった私は、調査兵専用の食堂へと向かった。
  35. 39 : : 2014/10/11(土) 22:00:22


    食堂はお昼だというのに、全く人がいない。
    少し不思議に思いつつも、私は食堂のオバサンから、パンとスープをもらう。

    そして、窓際のいつものお気に入りの席に座ろうと思ったのだが、リヴァイ班のペトラがいた。

    ハンジ「やあ、ペトラ」

    私が声を掛けると、何やらボーッとしていたのか彼女は、少し驚き、

    ペトラ「こ、こんにちは!ハンジ分隊長!」

    と大きな声で私に挨拶を返してくれた。
    ペトラは若く、調査兵団でも中堅。

    ハンジ「ここに座ってもいいかな?」

    私は遠慮がちに訊く。
    すると、ペトラは首を縦にコクコクと頷いた。

    ハンジ「ペトラもこの席好きなの?」

    私が訪ねる。
  36. 40 : : 2014/10/11(土) 22:00:53
    ここの席は、よく晴れた日には太陽の光がさしこみ、すごく温かく、陽気な気分でいられる。

    だから、私もここが好き。

    ペトラ「はい、ここにいると、心が暖まるんです。調査兵団は、心が凍えてばかりですから。」

    ペトラはこの場所が暖かいと言う。
    この場所が心暖まる場所だと。

    ハンジ「心が凍えてしまう?」

    私は少し意味がわからない。
    心が凍えてしまう、その意味が。

    ペトラ「調査兵団は、今隣にいた友人が、いつ死んでしまうかわかりません。私の大切な仲間が死に行く姿は、心が凍えてしまいます。」

    ペトラは哀しそうに言う。
    彼女の綺麗な瞳には、今からでも涙が零れそうだ。

    ペトラ「あそこの花壇見えます?」

    ペトラは、窓の外を指でさした。

    窓の外には、立派な花が咲いている。
    今の環境では、育ちにくい。

    ハンジ「すごく逞しく、綺麗だね…」

    私がそう言うと、ペトラは
    「ええ、そうですよね…」
    と言った。

    ペトラ「あの花は、私と同期が死んだ仲間ひとりひとりの弔いとして、育てているんです。雨にも負けない、風にも負けない。そんな花たちは、すごく逞しく、そして可憐です」

    あの花たちは、ペトラが言うように可憐。

    ペトラ「時々、この花たちは、死んだ仲間達の生まれ変わりではないかと、私は思うんです」






  37. 41 : : 2014/10/12(日) 18:34:44


    「再会」




    調査兵団に入ることを今日、決意した。
    いや、決意しなければならなかった。
    俺の唯一の理解者であった、マルコが死んだと知って。

    マルコとは、一緒に憲兵団に入ろうと、昔から、3年前から決意し、共に頑張ってきた。

    それなのに、マルコは死んじまった。
    巨人に喰われて。
    せっかく、明日からは憲兵団に入れる、もうすぐだと思ったのに。

  38. 42 : : 2014/10/12(日) 18:35:11


    夜の風はひんやりしている。
    月は輝いていて、雲一つない夜空。

    今頃、マルコと明日は憲兵団に入れる、入ったらどうするか、ずっとこのままの関係でいよう、と話をし、グッスリと眠っていたはずなんだ。

    ジャン「マルコ…何で死んじまったんだよ…」

    俺の目からは涙が零れる。
    この部屋にいるのは、俺とひとりだけ。

    あとは、みんな…。

    俺は今日のことを忘れよう、巨人の恐怖を忘れようと眠った。
    そして、夢を見た。
  39. 43 : : 2014/10/12(日) 18:35:49


    「やあ、ジャン」

    この声だけで、誰かを認識することができた。
    目が霞んでいて、姿は見えなかったが。
    俺は目を擦り、再び俺に話しかけてきた奴を認識した。

    ジャン「マルコ…」

    マルコだった。
    マルコは死んだ筈ではなかったか。
    そうか、これは夢なのか。

    マルコは訓練服を着ていた。

    ジャン「お前、死んだんじゃなかったか……?」

    俺は恐る恐るマルコに訊く。
    マルコはコクリと頷き、

    マルコ「ああ、死んでしまったんだよ。ここは君の夢さ」

    マルコは少し哀しそうに俺に笑いかける。
  40. 44 : : 2014/10/12(日) 18:36:21
    マルコの側にいると落ち着く、夢でもいいから、マルコに会えるなんて。

    マルコ「だけど、唐突な別れだったから、君の夢に出てきたんだ」

    俺の夢に。

    ジャン「そうか…夢でもお前が出てきて、良かった」

    俺の心に空いた穴が少し埋まった気がした。
    マルコは、
    「僕もだよ」
    と言って、少し嬉しそうな顔をした。

    マルコ「君との約束を守れなくて、ごめん」

    俺はお前に謝って欲しくなんか、ない。
    お前との3年間の話がしたい。

    マルコ「ジャンと今までの3年間を話したいけど、それには時間が少しばかりか足りない」

    そう言った。
    時間が足りない。
  41. 45 : : 2014/10/12(日) 18:36:51
    マルコは、
    「だけど…」
    と言って続けた。

    マルコ「僕は先に逝ってしまうけど、ジャン、君はまだ来ては駄目だよ。巨人を一匹残らず…」

    ジャン「駆逐してから、だろ?」

    そう言って、俺は笑った。
    お前との話はなんて暖かいのだろう。

    マルコ「できれば、駆逐してからでも、しばらくは来て欲しくないかな」

    そう言って、マルコも笑う。

    マルコ「じゃあね、ジャン」

    マルコはそう言って、歩きだす。
    光がある方へと。

    ジャン「先に行っててくれ、俺もしばらくしたら、行くからよ」

    そう言うと、マルコはこちらを振り向き、

    マルコ「…ああ」

    と言って歩きだした。
    マルコの目からは、涙が零れていた。
    その涙は、光輝いていて、今日みた月よりも美しかった。

    ジャン「また、会おうな、マルコ」















    マルコ「ジャン、また会おう………」




  42. 46 : : 2014/10/13(月) 19:52:15


    「悲哀」



    トロスト区奪還作戦。
    それは、人類にとっては巨人に初めて勝利したことであった。

    しかし、その勝利に歓喜するには、失った人々の数があまりにも多すぎた。


    「リコ班長、リコ班長」

    肩を強く揺すられたことに私は気付いた。
    こんなに強く揺すらなくてもいいじゃないか。

    リコ「そんなに強く揺すらなくてもいいじゃないか」

    私がそう言うと、部下は困ったような顔をする。
  43. 47 : : 2014/10/13(月) 19:52:40
    困った顔をしたいのは、こっちのほうだ。

    「リコ班長が、何度も私が呼んでもボーッとしたままだったので…」

    ああ、そうか。
    そういうことか。
    それなら、私の部下も私を強く揺すらねばならないというわけだ。

    リコ「それはすまないことをした。しかし、どうしたのだ?」

    私がそう訊くと、私の部下は、

    「ピクシス司令がお呼びですよ」

    と言った。
    ピクシス司令が私に何の用なのだろうか。

    きっと、今回のトロスト区奪還作戦での死者を数えたりする仕事を押し付けられるのだろうか。
    この仕事なら、アンカさんがやれば良いものなのに。

    リコ「そうか、わかった」

    私はジャケットを羽織って、ピクシス司令がいる司令室まで向かった。
  44. 48 : : 2014/10/13(月) 19:53:19


    ノックをすると、中からピクシス司令の声がきこえた。

    「入りなさい」

    私は、
    「失礼します」
    と言いながら、司令室に入った。

    ピクシス司令は、イスに座って、書類を眺めていた。

    ピクシス「随分、早く来たな。君の部下は優秀というわけじゃな。そこに座りなさい」

    司令室には何度も入ったことがあるが、あまり落ち着かない。
    少し、ソワソワしてしまう。

    リコ「何の御用ですか?ピクシス司令」

    私がそう訪ねると、ピクシス司令は、

    ピクシス「君も検討がついているだろうが、トロスト区では多くの兵達が亡くなった。それの書類をな…君に頼みたい……」

    ピクシス司令は、少し苦しそうな顔をした。

    リコ「わかりました…」

    私はそう言って、ドアの方へ向かう。
  45. 49 : : 2014/10/13(月) 19:54:53
    今回のトロスト区奪還作戦で死んだ兵は、私の同期、私の部下……。

    ピクシス「君もご苦労だった…」

    あのときのことを思い出すと、目から大量の涙が零れそうだ。

    リコ「では、失礼します」

    そう言って、私は司令室を出ようとした。
    すると、ピクシス司令は私を、
    「ちょっと待ってくれ」
    と言い、呼び止めた。

    リコ「何ですか…?」

    涙が零れそうだなのを堪えた。
    声が自然と震える。

    ピクシス「エレンという訓練兵は今、憲兵団が引き取るか、調査兵団が引き取るかで問題になっておる」

    エレン…?
    あの巨人化ができる、訓練兵のことか。
    だけど、私達駐屯兵団には関係のないことでは…。

    しかし、憲兵団に引き取られてしまったら、私の同期や部下は…無駄死にじゃないか。

    リコ「それがどうしたんですか?」

    私は少し強気に訊く。
    そうでもしないと、涙が零れてしまう。

    ピクシス「今のままでは、十中八九憲兵団に引き取られ、エレンは解体されるであろう。人類の救世主をな」

    ピクシス「これじゃあワシらのしたことも無意味。だからな、駐屯兵団が調査兵団側につくとこにするんじゃ」

    〝駐屯兵団〟が〝調査兵団側〟に〝つく〟
    それは、私にとって一番大事な、大切な、意味のある行為・事柄だった。

    リコ「そ、そうですか…。では、失礼します」

    私の何かが、崩れた…。

  46. 50 : : 2014/10/13(月) 19:55:22



    私はいつの間にか、外にいた。
    大雨にうたれながら。

    私達がトロスト区奪還作戦で、自分達を犠牲にする代償を払う意味があったか。

    せっかく、人類の救世主を守り切った意味が。

    私の同期の、ミタビやイアン…。
    彼らの命と引き換えに、人類の平和を取り戻す意味があったのか。

    私はその意味を探し続け、求めていた。
    私と人類の救世主が、私達と人類の平和がそれに見合うのかを、求めていたのだ。

    答えは見つかった。
    私の探し求めていた答えが、見つかった。


    リコ「死んだ甲斐があったな…みんな」


    私は空を見上げ、そうボソッと呟いた。


  47. 51 : : 2014/10/13(月) 19:56:00



    「何をしているんですか?!リコ班長!!」

    突然声をかけられ私は驚く。
    声をかけたのは、私の部下。

    リコ「いや、ちょっと雨にうたれたい気分でな」

    そう言うと、部下は、
    「もう、何やっているんですか?あなたが風邪引いたりしては意味がないじゃないですか」
    とブツブツと文句を溢しながら、私に傘とタオルを渡す。

    私はそれを
    「ありがとう」
    と言って、受けとると、部下は

    「早くもどりましょう」

    と言って先に行ってしまった。

    突然、雲がはれていく。
    雲の間からは、綺麗な光と空が。

    そして、綺麗な七色の虹が。
    私はその虹に向かって、呟いた。


    リコ「しばらく、待っていてくれないか?みんな…」






  48. 52 : : 2014/10/14(火) 12:50:52


    「詩」



    ユミルはいったいどこへ行ったのかしら。
    ユミルの行きそうな場所なんて、心当たりがないし。

    すると、私の目にうつったのは、背をこちらに向け、隠れるようにして身を縮こめて、しゃがんでいる者の姿が。

    私は少し気になって、声をかけてみた。

    クリスタ「ねぇ、何をやっているの?」

    そう訊くと、縮こめていた者は、目を瞑って、悲鳴にならない悲鳴で、

    「どっ、どうかお許しを~!」

    と私に向かって叫んできた。
  49. 53 : : 2014/10/14(火) 12:51:34
    この声には聞き覚えがあった。

    クリスタ「サシャ、また、盗んできたの?」

    そう言うと、サシャは瞑っていた目を開け、私をみた。
    すると、安心したような顔でその場にヘナヘナとしゃがみこむ。

    サシャ「なんだ、クリスタだったんですか…」

    そう呟くと、サシャは先ほど食べていたものをまた、食べ始める。

    クリスタ「もう、盗んできちゃ駄目じゃない!」

    私がそう注意すると、サシャは少し申し訳なさそうな顔をして、

    サシャ「ぬ、盗んではいませんよ?!もらったんです、べ、ベルトルトから…」
  50. 54 : : 2014/10/14(火) 12:52:04
    盗んではいないのなら、良かった。
    しかし、サシャの〝もらった〟ほど宛にならないものはない。

    可哀想にベルトルト…。

    クリスタ「そうだ、ユミルを探していたんだわ!サシャ、ユミルを知らない?」

    私は本来の目的を思い出した。
    サシャは、
    「ユミルなら食堂にいましたよ」
    と教えてくれた。

    私は食堂へ向かった。


  51. 55 : : 2014/10/14(火) 12:52:29

    食堂にいたのは、ミカサとユミル、その二人だけだった。
    ユミルは何かを書いていて、ミカサはそれを眺めていた。

    クリスタ「ユミル、何をしているの…?」

    私がそう訊くと、ユミルは

    ユミル「愛しのクリスタ、どこへ行ってたんだ?」

    いつものふざけた調子で言ってくる。
    私はいつも、
    「それ、やめてよ」
    と注意するんだけど、懲りないみたい。

    クリスタ「ユミルを探していたの」

    そう言うと、ユミルは
    「探させちまってわりぃな」
    と謝った。
  52. 56 : : 2014/10/14(火) 12:52:59
    私はユミルの書いているものが気になって、紙をジィーと見る。
    紙には何やら〝詩〟のようなものが書かれていた。

    クリスタ「詩を書いているの…?」

    私はそうたずねる。
    しかし、ユミルが詩を書くなんて意外。

    ユミル「まあ、詩っちゃあ詩なんだが。これはな、東洋で流行っていた恋の歌の歌詞なんだ」

    東洋で流行っていた恋の歌。
    なんで、ユミルが知っているの?ときこうと思ったがやめた。
    訊くべきではないと思ったから。

    ミカサ「私のお母さんがよく歌っていた。まさか、ユミルが知っているとは思わなかった」

    ミカサは少し懐かしそうに、紙に書かれている歌詞を見た。
  53. 57 : : 2014/10/14(火) 12:53:28

    クリスタ「見せて」

    と私が言うと、ユミルは見せてくれた。

    恋の歌の歌詞の内容は、遠いところへ行ってしまった想い人を思う女性の気持ちだった。

    クリスタ「いい歌詞だね…」

    私がそう言うと、ユミルは少し笑った。

    ミカサ「懐かしい…」

    そう言って、微笑んだ。


  54. 58 : : 2014/10/14(火) 12:54:01



    恋する気持ち、それは私にはまだわからない。
    何故なら恋をしたことがないから、人を好きになったことがないから。

    私達のような待遇ならば、最愛の人や想い人といつ離ればなれになるかわからない。

    好きにならなければ辛くはならない。
    私はそう考えてきた。
    だから、友人も異性とも一線を引いたりしている。


    だけど、恋っていいな、と少しばかり思った。



    ミカサが恋の歌を鼻歌で歌っている。
    それは、温かくて切ないものだった。








  55. 59 : : 2014/10/15(水) 21:30:20



    「祈り」


    僕と君が出会ったのは、まるで運命のような奇跡だったことを僕は覚えているよ。

    僕は君を一目見た、その瞬間から君との運命を感じた。
    そして、僕は気づいたんだ。
    君のことが好きなんだって。

    それから、僕は君に猛烈にアタックをした。
    君は僕の想いに気付いてくれて、僕と恋人になってくれた。

    君は美しくて、輝いていて、そしてとても心温かく、思いやりがある。
    そんな君に僕はますます惹かれて行った。

  56. 60 : : 2014/10/15(水) 21:30:42


    フランツ「ハンナ、僕と付き合ってくれてありがとう」

    僕はこの有り難みを毎日噛み締めるようにしている。
    君と1秒でも多く一緒にいたい。

    ハンナ「私もよ、フランツ」

    ハンナはそう言って、僕の腕をさらに強く抱く。
    そんなハンナが愛しくてたまらなかった。

    そんな日々が愛しくてたまらなかった。
    しかし、そんな日々が崩れるのもあっという間だった。

  57. 61 : : 2014/10/15(水) 21:31:06


    僕ら訓練兵はやっと卒団し、新たな兵団へと所属できる。
    そうなったはずの日。
    巨人が再び、壁の中に襲来してきたのだ。

    ハンナ「フランツ…」

    巨人…。
    それは恐怖の塊でしかなかった。

    フランツ「大丈夫だ、ハンナ。僕が君を守る!」

    しかし、ハンナを守る、そう決意した時には恐怖などとうに消えていた。

    嫌なほど光輝く太陽が僕らを照らしていた。
    僕は今から死ににいくのではなく、生きてまたハンナと。

  58. 62 : : 2014/10/15(水) 21:31:41


    ハンナとは同じ班だったが、班のみんなとはぐれてしまった。

    フランツ「ハンナっ…」

    何か嫌な予感がする。
    そう感じたのは気のせいだろうか。
    気のせいだと思いたい。

    フランツ「お願いだから、無事でいてくれ…」

    僕はそう祈った。
    自分の命と引き換えてでも、ハンナは……。

    「いやぁぁぁぁぁ!」

    悲鳴が聞こえる。
    僕はこの声の持ち主がわかった。
    僕は真っ先に駆けつける。

    フランツ「ハンナ!!!」

    ハンナのもとへと巨人が向かっていく。
    このままでは…。

    フランツ「ハンナを僕は守るんだ!」

    僕はその巨人のうなじへと向かう。
    そして……。

    うなじを削いだ。

    フランツ「良かった、ハンナ。君が無事で……」
  59. 63 : : 2014/10/15(水) 21:32:05
    そう僕は呟き、ハンナのもとへと行った。

    フランツ「ハンナ、大丈夫かい?」

    そうきくと、ハンナは震えていた。
    恐怖に怯え。

    ハンナ「ほ、本当に死んで、し、しまうかと思ったわ…」

    ハンナは涙を流しながらいった。
    本当に良かった、ハンナが無事で。

    僕はハンナを抱き締めた。
    ハンナの恐怖を取り除けるようにと。

    そして、やっと離れた時に、ことは起こった。

    ガシッ

    僕の体を何かが掴んだ。
    そして……。

    巨人ば僕を巨人の口元へと運ぶ。

    ハンナ「いやぁぁぁぁぁ!!!!」

    ハンナ、ごめん。
    君に辛い思いをさせて。
    本当に、ごめん。

    だけど…



    フランツ「君を守れて、良かった……」






  60. 64 : : 2014/10/16(木) 20:49:55

    「約束」


    私は何かを追求することが好きだった。
    幼い頃も、訓練兵の頃も、ただ真実を追いかけていた。

    一つだけ、真実を明らかにすることができないものがあった。
    それは、『外の世界』。

    私の本に記されていることは、塩水でできている『海』、1日中雨が降らない『砂漠』。
    そして、外の世界へ行った者は誰ひとりとして帰らない。

    私は外の世界に憧れを抱くようになった。
    そして、唯一外の世界へと行ける調査兵団に入ると決意したのが3年前のこと。

    調査兵団での3年前。
    3年間は私にとってすごく大切で忘れられない。
    大切な人と約束した3年間だったから。

  61. 65 : : 2014/10/16(木) 20:50:32


    3年前

    これは、初めての壁外調査のことだった。
    外の世界へと憧れを抱いていた私だが、巨人を見て臆してしまった。

    「ニファ!」

    私に向かってきた、巨人のうなじを削いだ親友は、私にかけよってくる。

    私の親友は、憲兵団へ入れば破格の待遇がうけられたはずだった。
    なのに、彼女は、私の親友は調査兵団に入ったのだ。

    「大丈夫、ニファ?」

    そう訊かれた時に、自分が置かれている状況に気がついた。

    ニファ「ご、ごめん…」

    私は巨人に臆して、さらに彼女を危険にさらしてしまった。

    ニファ「駄目だ、私……本当に。ごめん、本当にごめん。私なんかが足手まといになったりして…」

    そう言うと、彼女は怒ったような顔をした。
  62. 66 : : 2014/10/16(木) 20:51:02
    「ニファ?!あんたには私がついてる、私にはあんたがついてる。足手まといって思うぐらいなら、巨人を怖がるな!巨人を怖がるより、死を怖がりなさい!!!」

    そう言って、彼女は私を叱ってくれた。
    私は突然だった為、驚きを隠せずにいた。

    「ほら、ニファ、シャンとして!」

    彼女は私の頬を、彼女の両手でパンと軽く挟んだ。

    ニファ「……ありがとう…」

    これで、私も収まりがついた。
    彼女の顔は、怒ったような顔から、嬉しそうな顔へと変わっていた。

    ニファ「……目が覚めた気がする」

    そう言って、私と彼女と馬のもとへ戻ったのだった。

  63. 67 : : 2014/10/16(木) 20:51:43


    そして、私は調査兵団での壁外調査で死なずに、自分の欲しい答えを追い続けていた。


    これは、1年前のこと。
    壁外調査は、調査兵団の恒例のもの。

    いつものように、私は巨人のうなじを削ごうとしていた。
    壁外調査はどんな状況でも、逃げれぬ場合は巨人のうなじを削がなければならない。

    その日の天候は最悪。
    雨で削ぎにくい。

    ニファ「はぁあああ!」

    私は巨人のうなじを削ごうとしたところ、足が滑って、地面に強く叩きつけられた。

    このままでは、マズイ。

    「ニファ!」

    私を呼ぶ声がする。
    雨と霧で周囲がわかりにくい。
    だけど、この声の持ち主だけはわかった。

    そう、彼女だ。

    彼女は私に向かってきた巨人を削ごうとしていた。
    初めての壁外調査と同じで。
  64. 68 : : 2014/10/16(木) 20:52:17
    巨人のうなじを削いだ、そう思った瞬間、彼女は何かに捕まれた。
    そう、巨人に。

    彼女は血を吐いた。
    彼女の綺麗な顔の口元は深紅に染まる。

    ニファ「…………!」

    私は彼女の名前を叫んだ。

    彼女は精一杯の力で持っているブレードを使い、自分を掴んでいる巨人の手を切った。

    彼女は地面に落ちる。

    その後、援護で先輩の団員がその巨人のうなじを削いだ。

  65. 69 : : 2014/10/16(木) 20:53:02


    彼女のあばらはバキバキにおれていて、血がお腹あたりから出ている。

    「私死んじゃうのかな…」

    彼女はいつもの凛々しさは無く、弱々しく言った。
    私はなんとか誤魔化そうとした。

    ニファ「大丈夫だから…」

    本当は8割死んでしまう、そんな大怪我。

    「ねぇ、ニファ、私死ぬの?」

    彼女は私に答えを言わせるようにそうきく。
    それを言われたら……。

    ニファ「わからない……死んでしまうかもしれない…」

    そう言うと、少し彼女はホッとしたような顔をした。
  66. 70 : : 2014/10/16(木) 20:53:31
    彼女が私のせいで死んでしまう……。
    まただ、私は何にも変われていない。
    彼女の足手まといになっている。

    ニファ「本当に、私のせいで……ごめん」

    謝ることしかできなかった。

    「ほら、もっとシャンとして?ニファは成長したわ!ニファには叶えたいことあるんでしょ?そんなんじゃ駄目じゃない!」

    彼女は笑いながら、私を叱る。
    その姿は美しく、太陽のように光輝いていた。

    ニファ「……うん」

    彼女の言葉のひとつひとつに励まされ、気づかされる。

    「ニファ、あんたはしっかりと夢を叶えてね、ニファの夢が叶うことが私の夢。だから、私の分までッ……生きて、約束よ……?」

    彼女の美しく茶色の目から雫がこぼれた。
    彼女が涙を流したのは初めてのことだった。

    ニファ「約束…。絶対叶えてみせるから…!!」

    彼女の手を強く握る。

    「あんたの外の世界の話、好きだったわ」

    そう言って彼女は笑い、そしてもう二度と開かぬ目を閉じた。
    嘘であって欲しい、そう思うが、彼女の目は開かない。

    ニファ「約束、守るから…」

    私はもう彼女のいない世界で、私は彼女との約束を果たしてみせる。
    そう誓った。



    雨と霧ははれて、綺麗な青空が覗いた。
    まるで、彼女を祝福しているみたいに。





  67. 71 : : 2014/10/17(金) 20:19:30

    「申し分ない愛らしさ」


    その日は、訓練が午前だけという訓練兵にとっても幸いな日であった。
    僕はその午後の時間をどう使おうかと、考えていた。

    食堂には人がちらほらといる。
    エレンは部屋で筋トレをしているみたいで、ミカサは多分女子と過ごすのだろう。

    アルミン「さて、僕はどうしたものかな…」

    そう呟くと、

    ベルトルト「午後だけがお休みだとやることがないね…」

    とベルトルトが話しかけてきた。
    ベルトルトは温厚な性格というよりも、控えめな性格と表現すべきだろう。
  68. 72 : : 2014/10/17(金) 20:20:07
    あまり、ライナー以外の人物と会話しているのを見たことがない。
    僕だって、ベルトルトと同室なのだけれど、あまり話さない。

    アルミン「そうだね。しかし、今日はいい天気だよね」

    僕がそう言うと、ベルトルトはコクンと頷き、
    「そうだね、久しぶりのいい天気」
    と返事を返した。

    アルミン「午後は散歩でもしようかな…」

    そう呟き、僕はベルトルトと別れ、散歩をしに行くことにした。


  69. 73 : : 2014/10/17(金) 20:20:41


    しかし、11月というのは、すごく冷えていてさらに乾燥している。
    僕はあまり好きになれない季節である。

    木々の葉は枯れていて、先月まで色づいていた葉はどこへやら。

    そんなことを考えつつも、僕は空を見上げた。
    もう冬の空で、空が遠い。
    雲ひとつなく、清々しいはずなのに、どこか切なさと哀愁が漂う。

    しばらく歩いていると、前から誰かが歩いてきた。
    金髪の髪で青く透き通った色の瞳のクリスタ、そばかすがあり目元の凛々しさが目立つユミルだった。

    向こうも僕に気づいたようで、クリスタが僕に手を振ってくれた。
  70. 74 : : 2014/10/17(金) 20:21:07
    クリスタ「アルミン、何をしているの?」

    クリスタは寒さのせいか、頬が赤く染まっている。
    ユミルは少し寒そうにして、ズボンのポケットに手をいれていた。

    やはり、いくらこんなに晴れていても、冬というのは寒いものである。

    アルミン「散歩をしようかと思って、ね」

    僕がそう言うと、クリスタは
    「そっか、風邪ひかないように気をつけてね」
    と僕に言った。

    そして僕は、クリスタとユミルと別れ、散歩を続けた。

    しばらく歩いていると、向こうから人が見えた。
    ジャン、だろうか。

    アルミン「やあ、ジャン」

    僕はジャンに軽く挨拶をすませる。
    すると、ジャンは
    「よお、アルミン」
    と返事を返した。
  71. 75 : : 2014/10/17(金) 20:21:47
    アルミン「ジャンは何をしているの?」

    そう僕がたずねると、ジャンは

    ジャン「散歩だよ、散歩」

    と言った。
    僕と同じで散歩か。

    アルミン「そうなんだ、奇遇だね、僕も散歩の真っ最中なんだ」

    などと、軽く話してから僕とジャンは別れた。


  72. 76 : : 2014/10/17(金) 20:22:15


    ジャンと別れてから、僕はしばらく歩いていると、何やらうずくまっている人を見つけた。
    うずくまっていたのは、アニだった。

    アルミン「アニ、何をしているの?」

    そう僕がいきなり声をかけたものだから、アニは驚いて目を見開いた。
    そして、僕が声を掛けたとわかると、アニは
    「なんだ、アルミンか」
    と少しホッとしたような顔で呟いた。

    アルミン「なんだとは、酷いな。ところで、こんなところで何をしているの?」

    アニは僕の問いに答えるようにして、あるものに指を指した。
    アニが指を指したのは、白い毛並みの猫だった。

    アルミン「猫…?」

    しかし、アニが猫を見ているのは意外であった。

    アニ「猫、可愛いよね。愛らしくて…」

    アニが猫を見る目はいつもの、アニの目のきつさがなく、暖かい目付きであった。

    アルミン「そうだね、愛らしいよね…」

    この日は、寒いが、一番暖かい日だった気がする。







  73. 77 : : 2014/10/18(土) 19:13:25


    「気まぐれ」





    訓練が休みの日は街へ行ったり、寮で1日過ごしたりする。
    今日はどうしようかと、悩んでいた。

    そういえば、馬小屋にタオルを忘れてきた。
    取りに行かないと、余計にタオルが馬臭くなる。

    馬小屋の周りは少し森みたいになっている。
    しかし、馬小屋の周りは陽の光がよく当たる。

    春になれば、花が綺麗に咲く。
    夏になれば、緑が生い茂り涼しげになる。
    秋になれば、紅葉となりそれは美しい。
    冬になれば、当たり一面白銀の雪の世界へと変わる。

    俺は、結構その森が好きだった。
    季節の変わり目が見ていてとても楽しい。

    俺は馬小屋にタオルを取りに行った。


  74. 78 : : 2014/10/18(土) 19:13:49



    ジャン「ふぅ、あったあった。しかし、やっぱり一晩中置いてあったわけだから、少し馬臭いな」

    タオルには少し馬の匂いと森の匂いが染み付いていた。
    馬の匂いがとれるように、しっかりと洗わなくては。

    俺の愛馬は、おとなしくて正確性のある真面目な馬だ。
    俺は、自分の馬が好きだ。
    忠実で、何よりも真面目というところが。
    道を外れることもなければ、いきなりペースが落ちることもない。

    どちらかといえば、俺の馬術の成績は良いほうである。
  75. 79 : : 2014/10/18(土) 19:14:19
    しかし、クリスタには勝てるものじゃない。
    クリスタは自分の馬にも他の馬にも優しい。
    それが伝わっているのか、馬もその熱意に答えてくれる、というわけだ。

    そして、サシャやコニーは狩猟民族というだけあって馬の扱いにも慣れている。
    他にも、ベルトルトは当然のように馬も器用にのりこなしていた。

    アルミンやマルコは温厚な性格だから、馬との相性も良い。
    そういえば、アニやユミルも馬術の成績は良かった。

    しかし、ミカサは意外と馬術が苦手なようだ。
    そして、一番苦手としているのは、エレンだった。

    エレンは馬に対する要求が厳し過ぎるため、馬にも嫌われ、馬術では悲惨なことに。

    なんて考えつつも、俺は馬小屋を出た。
    出たやさきに、俺が目にしたのは、うたた寝をしスヤスヤと寝息をたてている、アニの姿だった。

  76. 80 : : 2014/10/18(土) 19:14:39


    アニは何にもかけずに寝ていた。
    木によりかかりながら。
    11月というのは、冷える。

    俺は風邪を引いては困る、と思ったため、アニを起こした。

    ジャン「ほれ、起きろ」

    俺がそう言うと、アニは長い睫毛のはえている瞼を重そうに開いた。
    アニは俺を見るなり、驚いたように目をギョッと見開く。

    アニ「何であんたがいるの?」

    少し不機嫌気味に訊かれる。
    アニは普段も目付きが鋭いが今はそれの倍鋭い。
  77. 81 : : 2014/10/18(土) 19:15:13
    ジャン「馬小屋にタオル取りに行ったら、お前が何にもかけずに寝ていて、風邪を引いては困る、と思ったから起こした」

    俺がそう説明すると、アニは
    「ふーん…」
    と言って、いつもの目付きに戻る。

    アニ「そうご親切にありがと。あんたがそういう気遣いするとか意外」

    そう言って、アニは少し笑う。
    そう言えば、アニの笑った顔は初めて見た気がする。

    ジャン「意外か?それより、お前笑うんだな。氷の女だから、笑わないかと思ってた」

    そう言ったら、俺はアニに蹴られた。
    まあ、仕方のないことだろう。
  78. 82 : : 2014/10/18(土) 19:15:38
    アニ「そういうことは言うもんじゃないよ、次言ったらそれの倍の強さで蹴るからね…」

    これの倍の強さとか、すごく痛いじゃねぇか。
    しかし、蹴られたところがヒリヒリする。

    ジャン「お前、気まぐれな奴だろ?」

    そう言うと、アニは
    「は?」
    と聞き返してくる。

    ジャン「お前は結構気まぐれな性格だろ?って訊いたんだよ」

    そう言うと、アニは少し笑った。
    俺はアニが何で笑ったかわからなかった。

    アニ「初めてだよ、そう訊かれたことは。いつも冷たい奴とか言われているから」

    アニはそう言った。
  79. 83 : : 2014/10/18(土) 19:16:15
    確かに、外から見ればアニは冷たい奴に見えるし、無表情で無反応。
    ポーカーフェイスを崩さない。

    しかし、アニの内面を見れば、ちょっと踏み込んで話してみれば、彼女への印象が劇的に変化するだろう。

    アニ「気まぐれ、ね。そう、私は気まぐれな性格よ」

    そう言ってアニは笑顔になる。
    アニの笑顔は花が咲いたような美しいものだった。

    ジャン「やっぱり、気まぐれな奴なんだな」

    俺がそう言うと、アニはコクリと頷き、寮へと向かうため、クルッと俺に背を向けた。
    そして、

    アニ「じゃあ…」

    と振り向き、少し笑う。
    そして、寮へと向かい、森を去った。


    ジャン「笑うんだな、アイツ」

    俺は寮へと戻った。
    今度この森へいつ来るだろうか。
    きっと馬術の時間に何度か来るだろう。





  80. 85 : : 2014/10/19(日) 18:26:30


    「元気になる」



    訓練兵の食事というものは、質素なものであり、硬いパンに味の薄いスープ、それだけだった。

    肉などを食べられる機会は月に一度あったら良いものだし、その肉さえ薄っぺらい肉の一枚だけ。

    ましては、スープにはどんな土地でも育つじゃがいもが形バラバラにはいっており、それ以外の野菜は月に数回、人参やキャベツ、玉ねぎといったものがはいっていた。

    5年前は肉も月に数回食べることができた。
    肉の他に、野菜も多く、味もここまで薄くはないスープが出ていた。
  81. 86 : : 2014/10/19(日) 18:26:59

    しかし、5年前にウォールマリアのシガンシナ区に超大型巨人が出現したことにより、人類は領土の三分の一失った。

    このことにより、食料不足の問題が生じたわけであった。

    しかし、今の五年後の方が、三、四年前よりはマシと言っても良いものだった。
    三、四年前は肉というものが半年に二回から三回しか出なかったし、野菜はじゃがいもすらはいってないことがあった。

    それに比べれば、今の食事はどんなにも裕福なものかと言えるだろう。


  82. 87 : : 2014/10/19(日) 18:28:55


    お腹空いた、と私は思いながら、食堂へと向かう。
    今日もパンだろうか。
    芋はないのだろうか、そう思いつつ私は食堂へと入っていった。

    今は夕食の時間なのだが、まだ人は少ない。
    私の顔見知りの人以外は極僅かな人数しかいなかった。

    クリスタ「サシャ!席はとって置いたよ、早く食事をとってきてね」

    クリスタが私に天使のような笑顔をこちらに向けて言った。

    そういえば、クリスタが本当に天使だと思ったことがあった。
    私が何故か『死ぬまで走れ』と教官に言われ、飢え死にしそうだった時、クリスタは私にパンと水をくれた。
  83. 88 : : 2014/10/19(日) 18:29:16
    サシャ「ありがとうございます!」

    そう言うと、クリスタの隣にいたユミルが
    「芋女、今日はクリスタからパン、貰うんじゃねぇぞ?」
    と少し怒り気味の口調で言った。

    サシャ「わ、わかりましたよー」

    私がそう言うと、ユミルはまだ私を疑っているような顔をした。
    そんな場面を見たクリスタは、ユミルに

    クリスタ「私があげたいから、あげているんだから、いいじゃない!」

    とクリスタも少し怒り気味に言う。
    しかし、クリスタが怒り気味に言っても、怒っているようには見えない。

    ユミル「お前はただでさえ、細いんだからもっと食べねぇと駄目だろ?」

    ユミルにそう言われ、返す言葉もないクリスタは、ただ頷くことしかできなかった。
  84. 89 : : 2014/10/19(日) 18:29:49
    サシャ「しかし、クリスタは細いですよねー。確かにもっと食べないとデカくなりませんよ?」

    私がそう言うと、クリスタは
    「そ、そうだよね、もっと食べなくちゃ」
    と言って、パンを頬張った。

    私はあっという間に食事が終わってしまった。
    しかし、まだお腹が空いている。
    さて、今日はどうしたものか。

    すると、隣のテーブルに座っているライナーとコニー、それからベルトルトとジャンが気になった。

    ベルトルトとコニー、それからライナーはまだパンを食べていないようだ。

    サシャ「ベルトルト!それから、ライナーにコニー」

    そう呼ぶと、三人は少し驚いたようにこちらを向いた。
  85. 90 : : 2014/10/19(日) 18:31:30
    コニーは手でパンを隠している。

    サシャ「半分パンを貰えませんか?」

    そう訊くと、コニーは
    「またかよ?!今回はあげねぇぞ!」
    とパンを口にいれる。
    それから、

    コニー「ベルトルトとライナーもサシャにあげな…」

    コニーがそう忠告をいい終える前にライナーとベルトルトは自分のパンを半分ちぎって、サシャに渡した。

    サシャ「ありがとうございます!!」

    そう言って、食べる。
    空腹がドンドン満たされ、幸せな気持ちでいっぱいになる。

    ベルトルト「サシャがものを食べている時の顔ってすごく幸せそうだよね…」

    と、ベルトルトが言った。
  86. 91 : : 2014/10/19(日) 18:32:00
    ものを食べることは、私にとってすごく幸せなこと。

    サシャ「幸せですよ、本当に」

    そう言って、もう一個のパンをちぎって食べる。
    やはり、幸せになれる。

    クリスタ「何か、見ているこっちまで元気になるね、サシャの食べている姿って」

    クリスタが、私に向けて天使の微笑みを投げ掛けた。

    サシャ「そうれふか?」

    私はパンを口の中にいれ、噛みながら喋った為、少し何を言っているかわからない状態になる。

    ライナー「確かに元気がでるよな…」

    私は口にはいっているパンをゴクンと飲み込んで、言った。

    サシャ「これからは、もっとパンを私にくださっても構わないんですよ?」

    その後、私がみんなから駄目だしを食らったのは、なかったことにしましょう。




    私の食べる姿、顔だけでみんなが元気を出す、出るなら、それもいいですね。
    私がみんなの役に立てるということですしね。
    というは、私の心に閉まっておきます。






  87. 92 : : 2014/10/20(月) 19:53:45

    「時」


    時というものは人によって感じる、速さや遅さ、長さや短さが変わる。

    しかし、時の感じかたが違うのは人個人個人の感じかたの違い以外にもある。

    辛い時、苦しい時は時は遅く、そして長く時は流れていくように感じる。
    それとちがい、幸福な時、楽しい時は速く、そして短く流れていく。

    時とはどんなにも理不尽なのだろう、そう思うかもしれないが、そんなのは人間の考えである。

    辛く長く感じる楽しく短く感じる、それは自分が招いた結果。
    それすらが、悪なのだ。


  88. 93 : : 2014/10/20(月) 19:54:07



    私が60年間もの時間を浪費したのは、調度12歳ぐらいの時のことだろう。

    望んでなりたくもない化け物になったわけじゃあない。

    しかし、その事態を招いた、それは私が悪なのだ。

    60年間、私は壁の外をさ迷い続けていた。
    時々、壁の外にやってくる人間を、食べて、潰して、食べて…。

    そんな悪夢のようなことを繰り返していた。
  89. 94 : : 2014/10/20(月) 19:54:42

    そんなことが更なる悪い事態を招くとはその時、私は少しも思っていなかった。

    しかし、招いたのは自分であり、悪なのは自分なのだ。

    ベルトルト「君は何で壁の外をさ迷い続けていたの?」

    ベルトルトは私にそうきく。
    そんなことは私にもわからない。

    何故私はあんな化け物になったのか。
    それは…

    ユミル「そりゃ、教えられないね…。しかし、この化け物から人間に戻れたのはあんたの同郷のなんとかっていう奴のお陰ではある」
  90. 95 : : 2014/10/20(月) 19:55:14

    コイツの同郷を食ったお陰で私は人間に戻れた。
    私が戻れたのは嬉しいが、コイツの同郷にとっても、コイツにとっても嬉しいことではない。

    ベルトルト「彼はこの道を選んではいけなかったのだろうね…」

    そうだ、そうしか考えることができない。
    その道を選んだ結果、死というものが同郷を待っていたのだ。
    それは、選んだ同郷が悪ということだ。

    ベルトルト「あぁ、訓練兵だった頃に戻りたい…」

    ベルトルトはそう呟いた。
    無理なことを微かに望んだ。
  91. 96 : : 2014/10/20(月) 19:56:03
    その望みが叶わないことは、コイツもわかっているのだろう。

    しかし、そう望みがあるのだろう。

    ユミル「何でだ?ベルトルさん。お前の大好きな故郷へ戻る時間が遅くなるんだぞ?」

    そう言うと、ベルトルトは困ったような顔をした。

    コイツにはまだ、使命というものが残っているのだろう。

    ベルトルト「戦士は辛いから、訓練兵になりきることで楽をしているんだよ、卑怯だろ?あんなにも人を殺しといて、楽をしているなんて」
  92. 97 : : 2014/10/20(月) 19:56:26

    ベルトルトは自分を嫌悪し、罪悪感からか、苦虫を潰したような顔をしている。

    卑怯?ふざけるな。
    どこが卑怯なんだよ?
    自分の選んだことすらが、悪なのだから。
    卑怯という言葉は全ての人間が背負っているんだ。

    ユミル「お前が戦士としての重荷が辛いのは心から同情する。しかし、お前の生き方が卑怯だと思わない。いや、今こうして息を吸って、食べて、飲んで、眠っている全ての人間が…」

    ベルトルトはゴクリと唾をのんだ。
    私は少し凄ませて言う。


    ユミル「卑怯なんだよ?」







  93. 98 : : 2014/10/21(火) 20:30:59


    「追憶」



    僕の故郷には、大きな森があった。
    秋になると、団栗や栗、松毬が落ちていて、アニとライナーとよく拾っていたりした。

    懐かしき故郷。
    早く戻りたい。
    あの頃へと、戻りたい。





    ベルトルト「ねぇ、ライナー、アニ」

    僕は何をして遊ぼうか、と訊こうと思ったのだけれど、アニが

    アニ「誰が一番松毬を拾えるか競争しない?」

    と提案してきた。
  94. 99 : : 2014/10/21(火) 20:31:30
    松毬は、この森に落ちている数が団栗に比べてかなり少ない。

    僕はライナーと顔を見合わせた。
    言葉には出さないけれど、
    「どうする?」
    「アニがやりたいというなら…」
    「そうだね」

    というやり取りをした。

    ベルトルト「松毬拾いしよっか。範囲はみんなが見えるぐらい」

    そう言うと、アニは少し嬉しそうに頷いた。
    ライナーが付け足してこう言った。

    ライナー「先に五個見つけた奴が勝ちな」

    僕達は松毬拾いを始めた。
  95. 100 : : 2014/10/21(火) 20:32:09

    ライナーは僕達のお兄ちゃんみたいな存在で、いつも意見をまとめてくれる。

    アニは僕達の妹みたいな存在、という言い方がいいのかもしれない。

    この二人は僕の幼なじみで、毎日遊んでいると言っても過言ではない。

    春になれば、桜を見て、お花見をした。
    夏には、虫をとったりした。
    秋には団栗拾いをしたり、お月見をした。
    冬には雪合戦をしたり、雪だるまをみんなでつくった。

    いつでも一緒、この二人といれば僕はなんだって出来る気がしたし、この二人といると、安心する。


    松毬は見つけるのが大変。
    だけど、僕は松毬がたくさん落ちている場所を知っていた。

    そこは、松の木の根のくぼんでいる穴の部分。
    そこには、松毬がよく落ちていた。
  96. 101 : : 2014/10/21(火) 20:32:38

    今日も、そこには3つ、松毬が落ちていた。
    すると、アニの声がした。

    アニ「五個見つけたー」

    僕はアニの元へ言った。
    アニの側には、すでにライナーがいた。

    ベルトルト「もう見つけたの?早いね、アニは」

    そう言うと、アニは花のような笑顔になった。
    この笑顔を守りたい、そう思った。

    ライナー「ベルトルトはいくつ見つけたんだ?」

    ライナーにそう訊かれたので、僕は
    「3つ見つけたよ」
    と言うと、ライナーは

    ライナー「俺はひとつしか見つけられなかったよ」

    と少し項垂れた。
  97. 102 : : 2014/10/21(火) 20:33:11

    さっきから、アニが静かだ。
    僕はアニの方へと向くと、アニはウトウトとしている。

    ベルトルト「アニ眠いの…?」

    そう訊くと、アニはウトウトしながら、コクリと頷いた。

    ライナー「どうする?」

    どうしたものか、と僕は少し頭を悩ませた。
    僕はあることを閃いた。

    ベルトルト「僕がアニをおんぶすればいいんだよ」

    そう言うと、ライナーは
    「確かに、アニを移動させることができるし、いいな。じゃあ、ベルトルト、おんぶの体勢をつくってくれ」
  98. 103 : : 2014/10/21(火) 20:33:53

    僕はライナーの言われる通りに、おんぶの体勢をつくった。
    ライナーはアニを抱っこし、僕の背中に渡す。

    すると、アニはウトウトとしながらも、僕の首に腕を回した。

    ベルトルト「これでなんとか移動ができるね…」

    そう言って、僕達は家へと向かった。
    スヤスヤと眠るアニはとても可愛らしい。

    ライナー「妹みたいだな…」

    ライナーがそう言った。
    確かに、まるで妹みたいだ。

  99. 104 : : 2014/10/21(火) 20:34:26

    お兄ちゃんのようなライナーに、妹みたいなアニ。
    兄弟だったら、良かったのに、とちょっぴり思ってしまった。

    11月は夕暮れ近くになると、一気に冷える。
    夕暮れは美しく、僕の目を魅了した。

    僕らは、暖かい家へと戻った。





    子供の頃の思い出が、繊細に思い出せる。
    早く故郷へと戻って、また、アニとライナーと…。






  100. 105 : : 2014/10/22(水) 20:45:53


    「あなたを信じる」




    風が揺れる。
    もう11月だから、風が冷たく、肌寒い。

    エレンと出会った時もこんな寒さだった気がする。

    ただ、一言
    「寒い…」
    と言った私にエレンは自分のマフラーを貸してくれた。

    私は
    「あったかい…」
    という言葉が口から漏れた。
  101. 106 : : 2014/10/22(水) 20:46:25
    その時、身体も心も全てが温かく感じた。
    そして、エレンは、俺達の家へ早く帰ろうと言ってくれた。

    私はその言葉を忘れない。
    お母さんとお父さんを同時に亡くし、身も心も冷たくなった、ボロボロになった私を包んでくれた。



    エレン「おい、ミカサ。何やってんだ?早く行くぞ」

    ボーッと考え事をしていた私にエレンは声をかけた。
    私は
    「うん…」
    と言って、エレンに着いて行く。

    アルミンが少し心配そうにこちらを見た。
  102. 107 : : 2014/10/22(水) 20:47:06
    私は「大丈夫」とでも言うかのようにアルミンを見た。
    すると、アルミンはホッとしたような顔をした。

    今から対人格闘の訓練。

    はっきり言って、巨人を相手にすることが兵士の務め。
    なのに、何故人間を相手にする訓練を行っているのか、という疑問がいつも頭の片隅にある。

    ミカサ「エレン、一緒に組もう」

    そう言うと、エレンは私を見てから、アルミンを見た。

    エレン「アルミンはどうするんだよ?」

    そう私に訪ねる。
    すると、アルミンが口を挟んだ。
  103. 108 : : 2014/10/22(水) 20:47:53
    アルミン「大丈夫だよ、エレン。僕はマルコと組む約束をしているんだ」

    アルミンがそう言ったので、エレンは
    「そうか、なら良かった」
    と少し安心したような顔をする。

    エレン「じゃあ、ミカサやるか。手抜くなよ?」

    エレンはそう言って、構える。
    この構え、アニに似ている。
    きっとアニから教わったのだろう。

    確かにアニに教えてもらうというのは、少々複雑な気持ちではある。
    しかし、それでエレンの身が自分で守れるというなら、それに越したことはない。

    だから、少なくともアニには感謝している。
    しかし、寝技を教えるのもかけるのもやめて欲しい。

    ミカサ「わかった、私がならず者ね…」

    片方が被害者、片方がならず者。
  104. 109 : : 2014/10/22(水) 20:48:36
    本来の兵士の立ち位置は、被害者。

    エレンの行動はひとつひとつ単純。
    それはアニも理解していた。

    アニの技も力任せと思っているようだけれど、本質は違う。
    だから、エレンはその本質を理解しない限り、アニの技を身につけるのは難しいだろう。

    しかし、前よりは格段に上手くなった。
    無駄な動きが減って、常に冷静を保っている。
    これもアニのお陰なのだろう。

    だけど、まだまだ甘い。

    ミカサ「エレン、わきが開きすぎている…」

    そう私は冷たく言いはなって、ならず者用の木でできたナイフをわきにさす。

    エレン「ちっ…。今回も駄目だったか…」

    エレンは腰をおろした。
    そして、ふぅーっとため息をつく。
  105. 110 : : 2014/10/22(水) 20:49:35
    ミカサ「エレンは常にわきが開いている。そこがまず駄目」

    そう言うと、エレンは
    「わかってるよ」
    と少しふてくされて言った。

    いつもこうだ。
    だけど、必ず最後には…。

    エレン「ミカサ、絶対お前に勝つ。お前に勝って、アルミンやお前を守って巨人を駆逐してやる…。そして、俺達一緒に海を見るんだ…」

    そう言って、前向きなことを言った。
    昔から何も変わらない。

    明らかに自分より強そうな相手に立ち向かうところも、無理して怪我をするとこも、負けず嫌いなところも、努力を欠かさないところも、常に正しくあろうとするところも、前向きなところも、全部、変わっていない。

    変わらない。

    いつか、巨人も駆逐して、アルミンとエレンで海を見ることがあるかもしれない。
    その時も、エレンは変わらないのだろう。



    だから、あなたを信じて着いて行ける。
    あなたの側で支え、歩いていける。


    だって、あなたを信じているから。






  106. 112 : : 2014/10/23(木) 20:20:57


    「また会う日を楽しみに」




    葉巻から灰色の煙がモワッと出る。
    吸うと、葉巻の先端がジュッと火の音がした。

    葉巻を口から離し、口内の煙を出す。
    葉巻の匂いがあたりに漂う。

    冬の寒い風が頬を掠め、葉巻の煙を運んで行く。
    煙の匂いがあたりに充満する。

    「ハンネスさん、そんなに吸っていたら、身体に悪いですよ?」

    後ろから、女の声がする。
    その声は温かくそして柔らかく、包んでくれるような声。
  107. 113 : : 2014/10/23(木) 20:21:25

    俺は後ろを振り返る。
    振り返った場所には、アンカがいた。

    アンカはピクシス司令のお世話係にも近い、というかそれが仕事と言っても過言ではないほど、ピクシス司令のお世話をしていた。

    ハンネス「吸ってなきゃ、やってられねぇよ…」

    俺がそうぶっきらぼうに言うと、アンカは少し苦い顔をした。

    きっと、「それでも身体には悪いんですよ」とでも言いたいのだろう。

    アンカ「まあ、そういうものですかね…」

    アンカはふぅとため息を漏らした。
    俺は葉巻の煙をふぅーとはいた。
  108. 114 : : 2014/10/23(木) 20:22:04
    ハンネス「1年っていうのは早いな…」

    俺はそう言って遠くを見た。
    俺の視線の先にいたのは、親子だった。

    母親の手を取って楽しそうに歩く息子。
    楽しそうに歩く息子を少し嬉しそうに見ている母親。


    きっとあの親子もシガンシナ区出身なのだろう。


    あの子達は届かなかった。
    もし、あの時俺が…。

  109. 115 : : 2014/10/23(木) 20:22:48


    ーーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーーー


    俺はアルミンにアイツ等が危ない、そう聞いて、アイツ等の家へと向かった。
    アイツ等の家は崩れていた。

    俺に気付いたカルラは泣き叫んだ。
    『ハンネスさん!!待って!!戦ってはダメ!!』

    何故だ?
    俺は驚きのあまりにかける言葉さえ思い付かなかった。

    カルラ『子供たちを連れて…逃げて!!』

    逃げれるわけなんかない。
    お前を、カルラを助けなかったら、アイツ等はどうなる?!
  110. 116 : : 2014/10/23(木) 20:23:17
    ハンネス「見くびってもらっちゃ困るぜ、カルラ!!俺はこの巨人をぶっ殺して、きっちり3人とも助ける!恩人の家族を救って、ようやく恩返しを──」

    最後の言葉をいいかけた時、カルラの叫び声にかきけされた。

    カルラ『ハンネスさん!お願い!!』

    そう泣き叫ぶカルラの姿、顔は強く美しかった。
    こんなに美しい顔を見たことはない。

    アイツ等はカルラの上にのしかかる、瓦礫をどかそうとしている。
    俺は…。

    確実に二人だけは助ける方を取るか…、巨人と戦って全員助ける賭けに出るか…。

    カルラの願いに応えるか…、俺の恩返しを通すか…!!
    選択肢はふたつ。

    俺は──!!

    ようやく決心がついた時のことだった。
    俺の目の前には巨人がいた。

    その瞬間、恐怖が俺を襲った。
    もし、3人を助ける賭けに出たとしたら、俺は死ぬかもしれない…。
  111. 117 : : 2014/10/23(木) 20:23:45
    俺は…。

    俺はアイツ等を脇に抱え、歩き出した。
    カルラは俺に


    『ありがとう』


    と言った。
    今、死にそうな自分を見捨て、コイツ等を助け、巨人の恐怖に怯えている俺に。
    カルラはただ一言、ありがとうと言った。

    エレン『ハンネスさん!?なにやってんだよ!!おい…母さんがまだっ』

    エレンは叫んだ。
    俺のせいで、俺の…。

    カルラ『エレン!!ミカサ!!生き延びるのよ…!!』

    カルラはそう叫んだ。
    俺の頭に痛いほど響く。
  112. 118 : : 2014/10/23(木) 20:24:30
    巨人はカルラを掴み、そして食べた。
    俺はその瞬間を見なかった。
    何故なら背を向けていたから。

    しばらく走っていると、エレンに強く後頭部を叩かれた。

    ハンネス「エレン!?何を──」

    そういいかけた所でエレンに鼻を蹴られる。
    そして、エレンは怒鳴った。

    エレン『もう少しで母さんを助けられたのに!!余計なことすんじゃねぇよ!!』

    俺の頭に響く。
    エレンがまた殴ろうとしたので、俺はエレンを投げた。

    ハンネス「お前の母さんを助けられなかったのは…お前に力がなかったからだ…」

    ハンネス「俺が…!巨人に立ち向かわなかったのは…俺に勇気がなかったからだ…」

    俺の目からは涙が溢れていた。
    俺と同様、エレンの目からも。

    ハンネス「すまない…」

    ただ、その言葉しか言えなかった。
    すまないと謝るしかできなかった。



    ーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーーー

  113. 119 : : 2014/10/23(木) 20:25:01



    アンカ「あの子達はもうすぐで卒団ですかね…?」

    そういえば、そうだった。
    あの子達はもう卒団なのだろう。

    あの子達と別れてから3年が経った。
    あの子達が訓練兵になるだろうと、予測はついていた。

    そして、3年前、訓練服に身を包んでいる姿は、親ではないが、何とこんなにも成長したのだろうと、思ったほど立派で凛々しく、たくましいものだった。

    3年という時は長く、そして短かった。
    いや、あの子達と出会った時間の流れは、長いようで短かった。

    ハンネス「3年か、きっとアイツ等は憲兵団にも駐屯兵団にも入団しないんだろうがな…」
  114. 120 : : 2014/10/23(木) 20:25:24

    きっとそうだ。
    直感ではなく、確信であった。

    アンカ「何故です?」

    何故かそんなもの決まっている。
    きっとアイツ等が生まれた時から決まっているのかもしれない、とでも思える。

    ハンネス「自分達の夢を叶えるためだ…」

    そう言って、俺は葉巻を地面に落とした。
    葉巻は地面と擦れ、ジュッと火の音をたてた。
    俺はそれを足で踏みつけ、火を消した。

    アンカは黙って頷き、遠くを見ていた。
    何も言わず、ただ黙って。


    きっとお前等は調査兵団に入るんだろう。
    どんなに苦しいことがあっても俺はお前等の味方だ…。

    成長したお前等に会えることを楽しみにしている。








  115. 121 : : 2014/10/24(金) 21:45:27


    「博愛」




    11月にしては珍しく、空が晴れ晴れとしていた。
    いつもなら、どんよりと雲が鮮やかな空を覆い、冷たい風が頬を掠めていた。

    しかし、今日はその雲も、冷たい風さえ吹いておらず、今吹いているのは冬の風とは思わせぬ暖かい風。

    そんな風に揺られる枯れ葉はカラカラと音を立てた。

    この日の訓練は、訓練の中でも比較的に簡単というか、楽な訓練であった。
    それは、馬術。
  116. 122 : : 2014/10/24(金) 21:45:52
    馬術は、馬との相性なども結果に及ぼすもの。
    しかし、どの馬も温厚なのだが、それに合わない人達もいるみたいで。

    僕は周りと比べれば、馬術は成績の良いほうだった。
    だけれど、別に秀でているわけじゃあない。

    馬術に限ったことではない。
    対人格闘、座学、立体機動…。
    そのどれもが秀でてはいなかった。

    周りと比べれば、成績が良かっただけだった。

    今日の馬術の訓練は、スピードを競うものらしい。
    約500メートルの距離を1往復する。

    人と競うのはあまり好きではない。

    僕は自分の馬を撫でると、馬はそれに答え、ねだるようにすりよってくる。
  117. 123 : : 2014/10/24(金) 21:46:18
    僕はその希望に答え、撫でると馬は気持ち良さそうな顔をした。

    「おっ、オイ!コラッ!!」

    どこからか、怒鳴り声が聞こえた。
    僕は気になり、怒鳴り声がする方向へと振り返る。

    振り返った先には、エレンがいた。
    エレンはどうやら、訓練服を馬にかじられたようだ。

    エレン「オッ、お前!離せって…!!!」

    エレンはそう怒鳴るが、馬は訓練服を噛み続けている。

    慌てて、近くにいたアルミンが、エレンの元へ行き、
    「エレン!そんな怒鳴らないで」
    と宥めに行った。

    エレンはそれでもなお、怒鳴り続ける。
  118. 124 : : 2014/10/24(金) 21:46:51
    アルミンは馬を撫でて、エレンの訓練服を離すと、エレンは馬の後ろへとヨロヨロと後ずさる。

    危ない、そう直感的に感じた。

    だから、エレンの馬の元へ行き、手綱を引っ張り、こちらの方へと寄せる。

    エレン「何しているんだよ?ベルトルト」

    少し苛つき気味にエレンはそう言った。
    このままでは、エレンがキレてしまうと思ったので、僕はやんわりと言った。

    ベルトルト「馬の後ろにいると、蹴られちゃうから、さ」

    そういうと、エレンは
    「馬が主人を蹴るわけねぇだろ…?」
    と少し突っ掛かってきた。

    相当、今は苛ついているようだ。
    人と言い争いをするのは嫌いなんだけどな。
  119. 125 : : 2014/10/24(金) 21:47:21

    アルミン「エレン!習ったじゃないか!馬の後ろにいると、蹴られ…」

    アルミンがいいかけた時、凛々しい声が響いた。
    その声の持ち主は天使や女神などと吟われる人物だった。

    クリスタ「エレン!何をやっているのよ?!!馬の後ろにいたら、蹴られるに決まっているじゃない!それに大声で怒鳴ってくる人を蹴りたいと思わないほど、馬だって温厚じゃないのよ?!!」

    初めて聞いた、天使の怒号。
    そのどれもが正論で、しかし、互いを傷付けない言い方だった。

    エレン「で、でもよ…」

    エレンが言い訳をしようとすると、すかさず、クリスタの怒りが放たれた。
  120. 126 : : 2014/10/24(金) 21:47:49
    クリスタ「でもじゃないわ!しかも、大声で怒鳴ってきて、気遣ってもくれない。自分を道具としか思ってない人をどうやって主人だと思えるのよ?それに…」

    クリスタが最後の言葉をいいかけた時、
    「レンズ訓練兵の言う通りである」
    と威厳のある声が聞こえる。

    キース「イェーガー訓練兵は罰として、今日は馬小屋掃除をしてもらう。良いな?」

    厳しい声が響いた。
    エレンは、素直に
    「わかりました」
    と言った。

    クリスタは呆気にとられていた。
    まさか、エレンに対して言った言葉を教官に聞かれてしまったとなると。

    それから、僕たち、訓練兵は予定通り、速さ争いをした。
    1位は当然、クリスタで、そのあとに続いたのは、サシャだった。
  121. 127 : : 2014/10/24(金) 21:48:43


    馬術で今日の訓練はおしまいだった。
    僕は教官から頼まれた馬小屋のムチの位置をずらそうと、馬小屋に行く。

    何故かというと、以前はムチは馬の見える場所にあった。
    しかし、それだと馬が萎縮してしまう為、見えない場所に置くということにしたらしいのだ。

    馬小屋には当然誰もいないのだろうと、思ったのだが、人影があった。

    ベルトルト「…クリスタ?」

    そう訊くと、クリスタが顔を出した。
    手には箒を持っている。

    ベルトルト「こんなところで、何をしているの?」

    僕がそう訊くと、クリスタは少し困ったような顔をした。

    クリスタ「…馬の世話をしているの…」

    馬の世話か。
    クリスタらしいといえば、クリスタらしい。
  122. 128 : : 2014/10/24(金) 21:49:20
    ベルトルト「そうなんだ。だけど、何でそこまで親切にできるの?」

    僕は少しの好奇心で、トゲのある言い方をしてしまった。
    しかし、彼女の親切心を動かしているのは何だろうか。

    もとから善良な人間だったのだろうか。
    全ての人間、動物を平等に慈しむ彼女は、一体…?

    クリスタ「昔から馬だけが、私の友達だったの。いや、動物だけが、私の友達だった」

    少しクリスタは哀しそうに笑って、馬を撫でた。
    このクリスタの哀しげな笑い姿でさえ、絵になる。
  123. 129 : : 2014/10/24(金) 21:49:59

    クリスタ「だけど、開拓地へ行って、全ての命あるものは平等なのだと知ったの。悪いものは悪いし、良いものはいい。全ての命あるものはどれも変わらない。だけど…」

    彼女は続ける。
    少し辛そうに。

    クリスタ「巨人は違う。こんな私みたいな性格は駄目だと思うんだよね。人間が一番慈しまらなければならないんだろうけど、でも…」

    彼女は尚続ける。
    哀しげに馬と僕に微笑みかけた。

    クリスタ「全ての命あるものが慈しまられなければならないと思うんだよね…」

    彼女の愛は愛の一文字ではない。
    博愛なのだ。

    全てのものを等しく愛すこと。

    それが彼女の親切心を動かしているのだ。


    しかし、それは叶わないことだ。
    僕は知っていた。
    だけど言えなかった。



    あんなに哀しげに笑った彼女を見てしまったから。







  124. 130 : : 2014/10/25(土) 16:53:14


    「変化」




    肌寒い中、訓練では対人格闘をやらされた。
    もう少し、分厚い素材の訓練服にならないものかと、私は考える。

    そんな風に考えつつも、時間は過ぎて行く。

    別に対人格闘は真面目にやらなくてもやれる。
    何故なら、訓練兵の大半は流してやっているからだ。

    何故か、それは点数稼ぎにもなりもしないからだ。

    だいたい、巨人と戦う訓練兵が何故、人間と戦う術を学ばなければならないのか。
    それに疑問を覚え、感じる。
  125. 131 : : 2014/10/25(土) 16:53:42
    私はこう考えた。
    この訓練兵のあり方、いや訓練兵の流れを。

    強い術を持つ者、技術を持つ者ほど、巨人から離れて、弱い者ほど巨人の近くへ行く。

    それでは何の意味があるのかと、考えるが、そんなのは不必要だ。
    まず、巨人に勝つことなんて必要のないことなのだろう。

    必要なのは、自分の地位。

    人間なんて所詮そんなもの。
    だから、訓練兵の奴らも、みんな憲兵団を狙う。

    巨人と離れ、内地で暮らし、安全な生活、安定した地位、それを手にいれる為。
    それを言葉にする奴はいないだろう。

    言葉にする奴がいたら、貶す。
    最悪だと、最低だと思う。
    しかし、それでもあながち、間違ってはいない。
    それが人間というものなのだから。

  126. 132 : : 2014/10/25(土) 16:54:46


    「オイ、お前…」
    そういきなり声をかけられた。

    声をかけてきた奴は、調査兵団に入って巨人を全滅させると語っていた奴。
    本当に巨人なんかを全滅させられるのか、否。
    そんなのの答えはわかっている。

    アニ「…なんだい」

    少しぶっきらぼうに言い、睨む。
    せっかく、丁度良くサボれていたのだが。

    声をかけてきたのは、金髪のゴツい男。
    ライナーだった。
    ライナーの顔にはニマニマとした笑みが良く表れ、何かを企んでいるということがわかった。

    ライナー「ちょっと、来い」

    そうライナーに言われるがままに、ライナーに付いていく。

    ライナーに付いて行くと、いたのは私より背の高い訓練兵のところ。
  127. 133 : : 2014/10/25(土) 16:56:15
    確かコイツは、調査兵団に入って巨人を全滅させるなどとぬかしていた奴だ。
    巨人を全滅させるなど、コイツ何かには到底不可能なことだと思うのだけれど。

    ライナーの目はコイツと組めと言わんばかりの顔をする。
    「教官の頭突きは嫌か?」

    ライナーは調子に乗ったのか、続ける。
    「それ以上身長を縮めたくなかったら、ここに来た時を思い出して真面目にやるんだな」

    ライナーはニヤニヤと笑う。
    私に赤っ恥をかかせたい言わんばかりのほどに。

    エレン「は?何だその言い草…」

    そうコイツは戸惑ってこっちをチラリと見る。
    私はコイツを睨んだ。
    睨んだ理由、そんなものはないけれど。
  128. 134 : : 2014/10/25(土) 16:58:29
    ライナー「そら!始めるぞエレン!」

    ライナーが始めると言ったので、私は構える。
    私が構えたのに驚いて、エレンという奴は目を見開いた。

    エレン「!アニ、これは刃物の対処を形式的に覚える訓練だぞ?やり方は知ってるだろ?」

    そんな寝言をぬかし、
    「行くぞ!」
    と叫び向かってきた。

    私は向かってきたエレンのすねを思いきり蹴る。
    そうすると、エレンは膝をついて倒れた。

    エレン「何だ…足…蹴られたのか?」

    エレンはブツブツと呟いた。
    私は
    「もう行っていいかい?」
    と訊いた。
    すると、

    ライナー「まだだ!短刀を取り上げるまでが訓練だ!」
  129. 135 : : 2014/10/25(土) 16:59:00
    そう言った。
    エレンは少し焦って
    「……オイ!!ちょっと待てよ」
    と言った。

    私ははぁーっと溜め息をつくと、エレンに歩いていく。
    エレンはまだ、
    「これにはやり方があるんだって!」

    私はそんな戯言を聞かずに、エレンを飛ばしみっともない格好にした。
    そして、木でできたナイフをライナーに渡し、
    「次はあんたが私を襲う番だね」
    と言いながら髪を掻き分けた。

    ライナー「イヤ、俺は…」

    ライナーの顔から笑みがサッと消えた。
    エレンはみっともない格好になりつつも、
    「やれよライナー。兵士としての…責任を…教えてやるんだろ?」
    と言った。
  130. 136 : : 2014/10/25(土) 16:59:28
    ライナーの顔から笑みがサッと消えた。
    エレンはみっともない格好になりつつも、
    「やれよライナー。兵士としての…責任を…教えてやるんだろ?」
    と言った。

    ライナーは覚悟を決めたようで、
    「あぁ…兵士には引けない状況がある。今がそうだ…」

    それから、10秒もかからなかっただろう。
    エレンと同様にみっともない格好にさせて、私はその場を去ろうとした。
    すると、

    エレン「お前の倍近くあるライナーが宙を舞ったぞ…。すげぇ技術だな。誰からか教わったんだろ?」

    いきなりそんなことを訊かれるとは思っていなかった。
    だから、答えるのに戸惑った。
  131. 137 : : 2014/10/25(土) 17:01:56

    アニ「お父さんが…」

    そう言うと、エレンは
    「親父さんがこの技術の体現者なのか?」
    と訊かれる。

    こんなことは…

    アニ「どうでもいい…こんなことやったって意味なんかないよ」

    そう言うと、エレンは戸惑った顔をし、
    「この訓練のことか?意味がないってのは…」
    と言った。

    アニ「「対人格闘術」なんか点数にならない。私を含め熱心な内地志願者はああやって流すもんさ…。過酷な訓練の骨休めに使っている。それ以外はあんたらのようなバカ正直な奴らか、単にバカか……。あ…」

    サシャという大食いな女の方へ向くと、教官が向かって行くのが見え、思わず「あ…」という言葉が漏れた。
  132. 138 : : 2014/10/25(土) 17:02:23
    私は持っていた木のナイフをエレンに向け、先ほどの話の続きをする。

    アニ「とにかく…点数の高い立体機動術じゃなきゃやる意味が無い。目指しているのは立派な兵士ではなく内地の特権を得ることだから」

    アニ「なぜかこの世界では巨人に対抗する力を高めた者ほど巨人から離れられる。どうしてこんな茶番になると思う?」

    エレンは私が力強く向けたナイフをグイッと引いた。
    「何でだろうな!」
    いきなり引かれたので少し動揺したが、支障はない。
    私はエレンのフラフラの足を力強く蹴り、エレンが仰向けに倒れたところにナイフを指そうとする。
  133. 139 : : 2014/10/25(土) 17:03:45

    アニ「それが人の本質だからでは?
    私の父もあんたらと同じで…何か現実離れした理想に酔いしれてばかりいた…幼い私は心底下らないと思いながらも…この無意味な技を習得を強いる父に逆らえなかった…」

    本当にお父さんは、私にこんな技術を習得させようとしたのか。
    私はもうこれ以上…

    アニ「私はもうこれ以上この下らない世界で、兵士ごっこに興じれるほど、バカになれない」

    そう言って私は去った。

  134. 140 : : 2014/10/25(土) 17:04:16


    その日の夕飯、またエレンという奴と憲兵団志望の奴が揉めていた。
    きっと、ただの取っ組み合いになるのだろうとそう思っていた。
    しかし、違かった。

    エレンという奴は私がエレンにかけた技を、憲兵団志望の奴にかけたのだ。

    驚いた。
    まさか、そうなるとは。


    後日、エレンがこちらに話しかけてきた。
    ジャンという奴が変わった、本気で技術を学ぼうとしている、などと口走っていた。

    エレン「しかし、どうだ。オレの蹴り技は?見よう見まねだが、うまく決まったよな」

    思わず笑いが溢れた。
    そんなことをぬかすとは思っていなかった。

    アニ「全然駄目。全くなってない…」

    そう言うと、エレンはどこが悪いかを訊いてきた。
    私はどこが悪いかは答えなかった。



    しかし、少し兵士というものに歩みよってみた。
    最終的には、あの技を体に叩き込ませたのだけれど。







  135. 141 : : 2014/10/26(日) 19:07:18


    「淡い恋」



    僕が初めて友情とは別の感情をいだいたのは、六歳ぐらいの頃だった。
    その人のことを思うと、胸が痛む。

    エレン「遊ぼうぜ、アルミン」

    そうやって来たのは、僕の幼なじみのエレンだった。
    エレンは知らない誰かを連れていた。

    アルミン「うん、わかった。その子…」

    僕がそう言うと、エレンは
    「あ、紹介するよ!」
    と言った。

    エレン「コイツは、ミカサ。家族になったんだ、一昨日ぐらいに」
  136. 142 : : 2014/10/26(日) 19:08:04

    家族。
    きっとミカサを引き取ったのがエレンのところだったのだろうか。

    僕は彼女を見た瞬間、綺麗だと思った。
    風に揺れる黒い髪、あまり見かけないが整った顔立ち、そのすべてに僕は魅力された。

    アルミン「…そ、そうなんだ。僕はアルミン、よろしくね、ミカサ」

    そうぎこちなく言うと、ミカサはコクリと頷き、
    「…よろしく」
    と言った。

    初めてミカサの声を聞いた。
    思ったより、声が低く、まるで大人かのように落ち着いている声だった。
  137. 143 : : 2014/10/26(日) 19:08:43
    エレン「今日は、ミカサにも外の世界の話をしてやってくれ!」

    僕は「わかったよ」と言って、僕は外の世界の本を持ってきた。
    この本はおじいちゃんとエレンと僕しか知らない。

    何故なら、憲兵団に知られてしまったりすると、没収とされる。
    没収とされる理由、それは壁の外へと興味を持つことを禁止されているからだ。

    この頃の僕は何故、禁止とされているのかを不思議にも思いもせなかった。

    僕が外の世界の本を持ってくると、ミカサは不思議そうに呟いた。
    「外の世界…」

    アルミン「そうさ、外の世界。壁の外の世界には僕ら人類はまだ知らぬ未知の世界なんだ」

    僕がそう言うと、エレンは目を輝かせ、
    「外の世界にはまだ、俺らが見たこともないスゲーのがたくさんあるんだ!」
    と言う。
  138. 144 : : 2014/10/26(日) 19:09:19
    ミカサはわかったようだ。
    「外の世界…」

    エレン「あの野原へ行こう」

    あの野原、そこはひとつ大きな大木がある。
    春は花があたり一面に咲き、夏はその大木の下で涼しみ、秋はコオロギの美しい音色を聴き、冬は雪であたり一面白銀の世界となる。

    いつもその野原で、僕とエレンは外の世界の話にふけていた。



    野原に着くと、大木の葉は茶色に染まっていた。
    大木に下には枯れ葉が落ちている。
    コオロギは鳴いておらず、静かな空間。
    まるでそこだけ隔離されたような場所だった。
  139. 145 : : 2014/10/26(日) 19:09:57

    僕達は大木の下に腰をおろした。
    エレンが早く早くと僕を煽るような、輝いた目でこちらを見てきた。

    僕は本を開き、
    「まずは、この塩と水でできた〝海〟」
    そう言うと、僕は本の中に描かれている絵を指した。

    エレンはキラキラと目を輝かせている。
    ミカサはその絵をじっくりと見て、
    「海…」
    と呟いた。

    アルミン「海は塩と水が混ざり合ったもの、これを〝海水〟というんだ。海は地上よりも倍広いんだ」

    そう言うと、エレンは
    「地上より広いのか…」
    と少し悩むように言った。

    アルミン「僕たちは水の中、海の中では呼吸ができない。けれど、海の中に住んでいる生物がいる。それは〝魚〟」
  140. 146 : : 2014/10/26(日) 19:10:22

    魚は色とりどりの鎧みたいな〝鱗〟を持っている。
    そして、その魚を僕たちは食すことができる、らしいのだ。

    アルミン「次に氷の世界。氷というのは水が凍ってできたのもの」

    氷の世界には、熊に似ている動物がいるのだが、熊の毛色とは正反対の白いろ。
    また、鳥なのに翔べない鳥もいる。

    アルミン「次に〝山〟」

    ミカサは先ほどからずっと、僕の指した絵を見て、本をじっくりと見る。
    ミカサが外の世界の話に夢中になっているようで、僕は嬉しかった。

    アルミン「山は地面が盛り上がってできたのものなんだ。山はすごく高いんだよ」

    そんな風に僕たちは本の外の世界の話に夢中になっていた。
  141. 147 : : 2014/10/26(日) 19:10:49


    空が朱色に染まりつつあることに気づいた僕らは、自分の家へと戻ることにした。

    エレンの家の方が野原からは近かった。
    エレンの家に着くと、エレンは
    「ちょっと待ってくれ…!」
    と言って、僕とミカサを家の前に置いていった。

    ミカサ「アル…ミン?」

    自分の名前を呼ばれたので、僕は少し驚いた。
    それと同時に、ミカサに呼ばれたことが嬉しかった。
    僕は「何だい?」とミカサに訪ねる。

    ミカサ「外の世界の話をしてくれてありがとう。すごく楽しかった」

    ミカサはそう言って、笑った。
    ミカサの笑顔は花が咲いたような笑顔で、綺麗だった。
    そんなミカサの顔を見て、胸が傷んだ。
  142. 148 : : 2014/10/26(日) 19:11:35

    その時から僕は気づいたのだ。
    僕はミカサに恋をしているのだと。
    たった数時間でも、彼女に恋をしてしまったのだ。

    ミカサ「また、話してくれない?」

    そう訊かれ、僕は嬉しかった。
    僕は
    「うん、いいよ」
    と平静を装おって言った。


    だけどね、僕は気づいてしまったんだ。
    この恋は叶わない、数年、何十年、一生叶わないのだと。

    僕とミカサとエレンは家族。
    ミカサはきっとエレンのことが好きなのだろう。

    家族愛としてではなく、人を愛しくなるという別の感情。

    ミカサが僕に抱いている感情は、きっと家族愛なのだろう。

    それはこの先ずっと変わらない。



    僕の恋は少年となる前に終わりを告げていた。









  143. 150 : : 2014/10/27(月) 21:39:28


    「努力」




    部屋にある窓からは、まだ陽の光が差し込んでいなかった。
    それは、まだ朝の四時頃というせいだろうか。
    それとも、冬だから陽が昇るのが遅いせいか。

    同じ部屋のみんなはまだ起きていない。
    それもそのはず。
    みんなが起きるのは6時頃。

    訓練兵の起床は6時と決まっている。
    6時を知らせる金が鳴るのだ。

    僕は気分がてらに散歩をしに行った。

  144. 151 : : 2014/10/27(月) 21:39:54


    朝の散歩は気持ちがすごく良いというほどのものではなかった。
    冬だから寒いわけだし、しかも朝というのだから、余計に寒さを増す。

    僕がはぁと溜め息をつくと、白い煙のようなものがでる。

    散歩といっても、面倒だったので、寮の周りを歩くことにした。

    今日の訓練はなんだっただろうか。
    きっと、座学と立体機動術だろう。

    そんなことを考えて歩いていると、人影が見えた。
  145. 152 : : 2014/10/27(月) 21:40:23

    黒い髪をなびかせて、赤いマフラーをしている。
    そんな格好、容姿をしているのは、訓練兵団の中には一名しかいない。

    そうミカサだ。

    ミカサはこちらに気付いたようで、
    「ベルトルト…」
    と呟いた。

    僕は軽く会釈し、
    「おはよう、朝早いんだね…」
    と挨拶をした。

    ミカサは少し戸惑いの表情を見せた。
    そして、
    「……おはよう」
    と挨拶を返してくれた。
  146. 153 : : 2014/10/27(月) 21:40:51

    ミカサとはあまり喋ったことがない。
    というか、あまり関わりがなかった。

    対人格闘術ではまだペアになったことがないし、立体機動術で同じチームにもなったことがない。

    ミカサの顔立ちはここら辺では珍しい顔立ちだった。
    黒い髪や黒い目、アルミン曰く、東洋人だというのだ。

    ベルトルト「こんな朝早く、何をしているんだ?」

    僕がそう訊くと、ミカサは抑揚のない声で、
    「…自主練習をしているの」
    と言った。

    僕は顔に出さないが、内心驚いていた。
  147. 154 : : 2014/10/27(月) 21:41:19

    彼女は強く、何でもできる、歴代の中でもかなりの逸材。
    その彼女が練習をする必要性があるのかわからなかった。

    ベルトルト「君は強いのに?」

    そう訊くと、ミカサは首を横にふった。
    黒い髪が揺れる。

    ミカサ「もっと強く…」

    これ以上強くなる、それは可能なのだろうか。
    限界の域を越している。

    ベルトルト「君は誰の為に、強くあろうとするの?」

    誰の為に、そこまで強くなろうと強く思えるのか、それが気になった。

    強いなら強いでいいと、僕は思う。
  148. 155 : : 2014/10/27(月) 21:41:48

    ミカサ「エレンを守る為…」

    やっぱり、そうなのか。
    彼女が何故そこまで彼に対して執着するのか、僕にはわかる気がしなかった。

    ベルトルト「君はいいね、努力というものができて…」

    少し嫌味なように聞こえるが、僕は気にしなかった。

    ミカサ「あなたは、努力しないの?」

    ミカサは不思議そうに訪ねる。
    誰もが君みたいに守りたいものがあるわけじゃないんだ。

    誰もが、守りたいものに命を懸けれるわけじゃないから。

    ベルトルト「努力がね、必要ないんだよ。悲しいことにね」

    僕は何の感情も込めずに言った。
    彼女は不思議そうに、だけど僕の気持ちを察してくれたのだろうか、黙って僕を見つめただけだった。



    君みたいに守りたいものがあるわけじゃないんだ。
    君みたいに守りたいものに命を懸けれるわけじゃないから。

    そこまで努力することができないんだ。

    故郷には帰りたい。
    だけど、それは努力で叶えられるものではない。

    全ては素質なのだから。



  149. 156 : : 2014/10/28(火) 19:51:55


    「健康」



    朝起きると怠さが感じられた。
    頭が重く、体中が暑い気がした。

    しかし、私はそんなの気のせいだろうと、無理に仕事をすることにした。

    どこか寒々とし、ちょっとした風がすごく寒いと感じられた。

    私は仕事の書類を提出する為に、リヴァイとハンジの部屋に行かなくてはならない。
    とりあえず、一番近い部屋がリヴァイの部屋なのでそちらに先に行くことにした。

    リヴァイの部屋は何度か入ったことがあるが、とても清潔感のある部屋だ。
  150. 157 : : 2014/10/28(火) 19:52:16

    それとは正反対に、ハンジの部屋は物置小屋みたいな状態になっていることがしばしばある。

    体がふらつくのを感じながら、私はリヴァイの部屋へと着いた。

    コンコンとノックをすると、中から
    「入れ…」
    と言うリヴァイの声が聞こえる。

    私は、一応服の埃を少し落とす。
    落とさないと、リヴァイが怒るから。

    ナナバ「失礼するよ…」

    そう言って、私はドアを開けた。

    リヴァイの部屋は、やはり綺麗だった。
    余計なものが一切ない、綺麗な部屋。
  151. 158 : : 2014/10/28(火) 19:52:37

    机には書類が数枚、きちんと揃えて置かれている。

    リヴァイ「何の用だ?」

    リヴァイはこちらを伺いながら訊く。
    私は、リヴァイの机に書類を置いた。

    ナナバ「この前頼まれていた書類を終わらせたから、持ってきたんだ」

    そう言うと、リヴァイは
    「すまねぇな」
    と言い、書類に目を通す。

    ナナバ「…エルヴィンから頼まれたんだけど、一ヶ月後の君の新しい班についてだけど…」

    そう言うと、リヴァイは書類から目を離し、こちらを見る。

    ナナバ「くれぐれも、実力のある者を選ぶようにと、あと決して強くなりすぎぬように、だってさ」
  152. 159 : : 2014/10/28(火) 19:53:06

    私は、エルヴィンに頼まれたことを言った。
    だけど、エルヴィンが伝えた言葉の意味はわからなかった。

    リヴァイ「わかった…」

    リヴァイはそう頷く。

    ナナバ「私はそろそろ失礼するよ…」

    そう言って、ドアのある方へと向かおうとした時、そこで私の意識は途絶えた。






    〔ちょっと…ハンジ分隊長!〕

    〔何だよ、モブリットぉ~、君はナナバが心配じゃないのかい?〕
  153. 160 : : 2014/10/28(火) 19:53:37

    〔いや、まあ心配ですけど、リヴァイ兵長も安静にと…〕

    〔でも!心配じゃないか!!〕

    〔ちょっと!!声が大きすぎです、ハンジ分隊長!!〕

    この二人の会話で、私は目が覚めた。
    私は自分の部屋のベッドに横になっていた。

    ナナバ「うっ…」

    少しめまいがする体を起こした。
    すると、二名は私が起きたことに気づいたみたいで、

    ハンジ「ナナバー!起きたんだね?!大丈夫かい??」

    ハンジが抱きつきながら、言ってくる。
    「大丈夫、大丈夫だから離れて…」
    そう言うと、ハンジは素直に離れた。
  154. 161 : : 2014/10/28(火) 19:54:14

    ハンジ「いやぁ~、ナナバはもっと丈夫にならなくちゃ駄目だよ?」

    ハンジは側にあった椅子に座る。
    確かに私は普段でもよく風邪を引いたりする。

    ナナバ「そうだね、健康管理をきちんとしないとね…」

    そう言って、苦笑いをした。
    まだ体は怠い。

    ハンジ「リヴァイの部屋で倒れてさ、リヴァイがナナバを運んだんだよー、リヴァイすごいねー、チビのくせに」

    私は苦笑した。

    いや、待てよと考える。
    ここまで、リヴァイに私は運んでもらったのか。

    ナナバ「今回は迷惑をかけちゃったね、健康管理を怠りすぎたね…」

    私がそう言うと、どこから
    「栄養不足、睡眠不足」
    と言う声がした。
  155. 162 : : 2014/10/28(火) 19:55:04

    声がする方に立っていたのは、リヴァイだった。
    リヴァイは珍しく、兵団のジャケットを脱ぎ、白いシャツの袖をめくっている。

    ナナバ「睡眠…不足…か」

    確かに、もう少しで壁外調査ということで仕事の量も多く、忙しかった。

    リヴァイ「とりあえず、おかゆを作ったから、それ食べて、寝ろ」

    リヴァイはそう言って、ベッドの側にある小さい机におかゆを置いた。

    ハンジは意外とでも言う顔をし、視線をリヴァイにさす。

    リヴァイ「何だ?クソ眼鏡…」

    リヴァイは少し嫌そうな顔で言う。
    ハンジは真顔で、
    「意外だったから…」
    と言う。

    ハンジ「リヴァイ、今日は優しいんだね…」

    ハンジがそう言うと、リヴァイは
    「馬鹿言え、俺は元々優しい方だ」
    とぶっきらぼうに言った。

    ナナバ「リヴァイ、ありがとう、迷惑かけてしまってすまないね。おかゆは美味しくいただくよ」

    そう言って、おかゆの入っているお皿を取る。

    ナナバ「いただきます…」




    私はおかゆとリヴァイの優しさを味わったのだった。






  156. 163 : : 2014/10/29(水) 21:04:02


    「決断」



    卒団式、訓練兵達は、今までの辛く苦しい訓練が終わったと実感し、喜ぶ日であった。

    しかし、私は喜べなかった。

    卒団式では、四番と憲兵団に余裕を持って入れる順位だった。

    しかし、これを最後に訓練兵の仲間とは、もう会えなくなるのだと少し悲しく思うからだ。

    これから、私は訓練兵の仲間を、その親も、国も滅ぼそうとしている。

    何故こんなことをしているのか、それは故郷に帰る為だった。
    しかし、人類を滅ぼす意味は、果たしてあるのだろうか、そこのところは定かではなかった。
  157. 164 : : 2014/10/29(水) 21:04:24

    今、隣にいる奴を自分の手で殺すというのは、すごく嫌だし、嫌悪感で吐き気がする。

    しかし、私たちは成し遂げなければならない。
    兵士と戦士の狭間で苦しみ、もがいていた。

    どちらの道を歩むのか、それとも、どちらの道も歩んではいけないのか。

    私にはわからない。
    だけど、故郷に帰る為なのだったら、迷わず戦士の道を歩むのだろう。




    「いーよな、お前らは、十番以内に入れてよ!どーせ憲兵団に入るんだろ?」

    誰かが、ジャンに向かって言った。
    その声は嫉妬が混じっていた。
  158. 165 : : 2014/10/29(水) 21:04:57

    ジャンは少しうざったそうに、
    「ハァ?」
    と聞き返した。

    ジャン「当たり前だろ、何のために十番以内を目指したと思ってんだ」

    確かにそういうものだろう。
    憲兵団なんて、給料が良いのと、内地だからということしかない。
    それ以外はクズだ。

    マルコ「俺も憲兵団にするよ。王の近くで仕事ができるなんて…光栄だ!!」

    マルコの瞳は輝いていた。
    しかし、前向きに考えるもんだね。

    だれも、マルコのような野心を持っていないだろう。
    こんなにも真っ直ぐな野心を。
  159. 166 : : 2014/10/29(水) 21:05:20

    ジャン「まだ、お利口さんをやってんのか?マルコ…」

    ジャンはそう言ってマルコの頭をガシッと掴んだ。
    マルコはその時、丁度飲み物を飲んでいたため、
    「ぶッ!!」と吹き出した。

    ジャン「言えよ本音を、内地に行けるからだろ?」

    ジャンは悪どい顔でマルコに迫った。
    ジャンは続けて言った。

    ジャン「やっと、このクッソ息苦しい最前線の街から脱出できるからだ!!内地での安全な暮らしが俺達を待ってからだろうが!!」

    ジャンはすごく嬉しそうな顔をした。
    無理もないだろう、私も少しぐらいはジャンと同意見であるわけだ。
  160. 167 : : 2014/10/29(水) 21:06:08

    マルコは心底、ジャンを軽蔑したような顔で、
    「は…恥を知れよ、少なくとも俺は──」
    と反論をする。

    ジャン「あ~すまん、俺が悪かった。お前は優等生だったな」

    そうだるそうに、ジャンは言った。
    「しかし、お前らならどうする?」

    周りにいた同期を巻き込んでジャンは続けた。

    ジャン「俺達が内地に住める機会なんてそうそうないぜ!?それでも「人類の砦」とかいう美名のためにここに残るのか?」

    ジャンは回りの同期等の顔を見渡す。
    同期達は、
    「そりゃあ…好きでこんな端っこに生まれたわけじゃないし…」
    「巨人の足音に怯えなくて済むんなら…」
    などと口々に言った。
  161. 168 : : 2014/10/29(水) 21:06:41
    ジャン「だよなぁ…みんな内地に行きたいよな…。で…お前らは?」

    ジャンの真向かいの席の私とベルトルトにそう訊いた。

    ベルトルト「僕は憲兵団を志願するよ」

    私が憲兵団に志願するのは、ジャンのように内地に行きたいからでもない。
    巨人の足音に怯えたくないからでもない。

    アニ「私もだけど…あんたと一緒だとは思われたくないわ」

    私はそう素っ気なく言うと、ジャンは大声で笑ったのだった。




    その日の真夜中、私は部屋を抜けて、寮の裏へと行った。
  162. 169 : : 2014/10/29(水) 21:07:08
    そこには既に、ベルトルトとライナーがいた。

    アニ「計画はこの前話した通り…」

    私がそう言うと、二人はコクリと頷いた。

    アニ「ライナー、あんたは戦士なの?兵士なの?」

    私がそう訪ねると、ライナーはおし黙った。
    この沈黙に何を意味するのか…。

    ライナー「…今の俺は戦士だ」

    ライナーがそう言うと、ベルトルトはホッとしたような顔をする。

    アニ「あんた等、憲兵団に行くんだからね、私達は」

    そう言うと、ベルトルトとライナーは神妙に頷いたのだった。


    あの作戦が私達の決断の時だと、今の私は知るよしもなかった。





  163. 170 : : 2014/10/30(木) 19:28:41


    「幸福」



    今日は掃除をする日だった。
    1週間に1度の割合で、掃除をする日が設けられている。

    丸1日というわけではなく、午前だけ。
    午後からは休日ということ。

    訓練兵達は掃除に勤しんでいたのだった。




    その日の私は、外を掃除する当番だった。
    同じ掃除場所には、ジャン、アニ、アルミン。

    ジャンとアニはめんどくさそうにやっていた。
  164. 171 : : 2014/10/30(木) 19:29:01

    ジャン「本当に、面倒くせぇ…」

    ジャンがボソリと呟いた。
    ジャンの呟きが聞こえたアルミンは、
    「まあ、しょうがないよ。だけど、外掃除なんて、ね」
    と少し含みを持たせる言い方をした。

    この時期の外掃除なんて辛いものなのだ。
    いくら掃いても、風が吹けばあっという間に、また枯れ葉が落ちている。

    しかも、寒い時期なので、かじかんでしまう。

    私は手にハァーと息を吐くと、息はほんのりと温かい。
    ほんの少しの温かさに救われる気がした。

    アニ「寒いんだから…さっさと、終わらせるよ…」
  165. 172 : : 2014/10/30(木) 19:29:27
    アニはそう言って、ちりとりを地面に置き、手をパーカーのポケットにいれた。

    ジャン「ズリぃぞ、アニ」

    きっと、パーカーのポケットのことなのだろう。
    確かに、ポケットにいれたら、温かそうだ。

    アニ「は?知らないわよ…」

    アニはそう言ってジャンを睨んだ。
    アルミンは二人の仲裁に入った。

    アルミン「まあまあ、二人とも。ちゃっちゃと終わらしちゃおうよ、ね?」

    しかし、何か持っていないのだろうか。
    温かくなるようなものを。
  166. 173 : : 2014/10/30(木) 19:30:14

    そう言えば、手袋を持っていたっけ、と思いつつ、ジャケットのポケットを漁る。

    すると、手袋が4つはいっていた。
    私は、
    「ジャン、アルミン、アニ。この手袋使いなよ、1人片方ずつだけど…」

    そう言うと、ジャンとアニ、アルミンは手袋を受けとった。

    クリスタ「みんな、お揃いだね~」

    私はそう言った。
    私とアニが赤色、アルミンとジャンが青色。

    ジャン「ありがとな、クリスタ」

    アニ「…ありがと」

    アルミン「クリスタ、ありがとう」

  167. 174 : : 2014/10/30(木) 19:30:40

    3人は口々にお礼を言ってくれた。
    誰かから、感謝されることが嬉しかった。

    クリスタ「ううん、気にしないで」

    そう言って、私は笑った。
    いつもの作り笑いじゃなくて、自然な笑い。

    私の足のふもとになにかが見えた。
    小さくてよく見えなかった。

    私はしゃがんでそれを見た。
    私がみたそれは…

    クリスタ「花だ…」

    私がいきなりしゃがみ、花だと呟いたことに気づいたアルミンは、
    「どうしたの?クリスタ」
    と尋ねた。

    クリスタ「花、花が咲いている、白い雪のような花が」

    この時期に、こんな場所に花が咲くのは、奇跡的なことだった。

    幸せなことだと思った。

    小さいけど、小さいけど小さな幸福だと、私は知った。








  168. 175 : : 2014/10/31(金) 21:41:02

    「小さな愛」


    アイツは、誰かから必要とされるのに、誰かから感謝されようとするのに必死で、いつも自分が苦しい道を行く。

    なぜ、そこまで感謝されたいんだ?
    なぜ、そこまで必要とされたいんだ?


    ーーーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーー


    ユミル「本当に疲れたわ~」

    私がそう言うと、クリスタは
    「そうだね」
    と相槌を返してくれた。
  169. 176 : : 2014/10/31(金) 21:41:22

    クリスタは正直、天使と言ってもいいだろう。
    見た目も、心も。

    ふと前を見ると、金髪の女性の訓練兵が大きな荷物を抱えていた。

    クリスタはその訓練兵に向かって小走りで行き始めた。
    やっぱり、と思った私はクリスタについていった。

    クリスタ「アルミン、その荷物、半分持つよ」

    クリスタは小柄な方だから、持つのしんどい癖に、いつも持とうとするんだよな。

    女性の訓練兵ではなく、アルミンだったのか。
  170. 177 : : 2014/10/31(金) 21:41:43

    アルミン「ありがとう、クリスタ」

    クリスタは大きな荷物を抱えてフラフラと歩き出す。
    見てるこっちが、ハラハラする。

    仕方がなく、
    「クリスタ、私が持つよ」
    そう言うと、私はクリスタの荷物をヒョイと取る。

    クリスタ「でも、私が…」

    ユミル「いいって、お前は華奢なんだから…」

    そう言って、私はスタスタと歩き出した。
    クリスタは私にヒョコヒョコとついてきて、
    「ありがとう、ユミル」
    と言った。
  171. 178 : : 2014/10/31(金) 21:42:12
    しばらくすると、荷物を置く場所について、私は荷物をおろした。

    アルミン「二人とも、ありがとう」

    アルミンがそう言うと、クリスタは天使のような微笑みで、
    「困った時はお互い様だからねっ」
    と言った。

    それから、アルミンと別れ、私とクリスタは寮へと向かったのだった。


    寮へ向かう途中に、マルコがいた。
    マルコは少し困った顔をしている。

    クリスタはマルコのもとへ行き、声をかけた。
    やっぱり、と思った私はクリスタについていった。

    クリスタ「どうしたの?マルコ」
  172. 179 : : 2014/10/31(金) 21:42:46

    そう訪ねると、マルコは
    「今、教官のもとに行かないといけないんだけど、ベルトルトとの約束の本をあと五分後に渡さなくちゃいけないんだ」
    と言った。

    クリスタは、少し悩んだ後こう言った。

    クリスタ「私がここで待っていて、ベルトルトに本を渡すよ、だから教官のもとへ行ったら?」

    そう言うと、マルコは
    「本当かい?すまないね!ありがとう!」
    不安の色が顔から消えたのだった。

    クリスタはニッコリと笑い、こう言った。
    「気にしないで!」

    マルコは教官のもとへと急いで行った。


  173. 180 : : 2014/10/31(金) 21:43:12


    五分ぐらいした時、ベルトルトがやって来た。
    私達がいることに少し驚いているようだ。

    ベルトルト「クリスタとユミル、マルコを見なかったかい?」

    ベルトルトがそう言うと、クリスタは
    「マルコが用事あって、代わりに本を渡すように頼まれたんだ」
    そう言って、本をベルトルトの前に出す。

    ベルトルト「ありがとう」

    そう言って、ベルトルトと私達は別れた。


    私達は寮へと向かった。
  174. 181 : : 2014/10/31(金) 21:43:31

    ユミル「お前はいいことしようとし過ぎなんだよ」

    私がそう言うと、クリスタは困ったような顔をした。
    私と初めて会った時のような顔。

    クリスタ「でも、困っている人を見て見ぬふりはできないじゃない…」

    そう言って、クリスタはうつむく。
    私は少し言葉に困り、頭をポリポリとかいた。

    ユミル「本当に、お前は天使のようないい奴だなー」

    そう言って、クリスタの頭をくしゃくしゃっと撫でると、クリスタは
    「もうユミル、それやめてよー」
    と笑った。








  175. 182 : : 2014/11/01(土) 22:00:16


    「好奇心」



    リヴァイ「エレン、今日も実験だそうだ。俺は先に行っている」

    朝一番、リヴァイ兵長に会っての言葉だった。
    さすがに俺でも悲しくなってきた。

    エレン「えっ…またですか」

    俺がそう不満をもらすと、リヴァイ兵長は
    「お前も散々だな…まあ、クソ眼鏡の知識欲を舐めるなよ.…」

    そう言って、リヴァイ兵長は去った。
  176. 183 : : 2014/11/01(土) 22:00:40

    しかし、昨日、一昨日と実験三昧の日であった。
    巨人化というのはかなり辛いものでもある。

    あの人は何を考えているのだろうか。
    俺にはさっぱり、ハンジ分隊長の考えていることがわからない。

    「エレン」と呼ばれて、俺は振り返ると、そこにはペトラさんがいた。

    エレン「おはようございます、ペトラさん。どうされました?」

    俺がそう訊くと、ペトラさんは
    「モブリットが来ているわ、実験をしに行くって」
  177. 184 : : 2014/11/01(土) 22:01:05

    エレン「わかりました、ありがとうございます」

    俺は少し項垂れ気味にモブリット副隊長のいる場所へと向かおうとする。

    ペトラ「エレン、頑張ってね」

    ペトラさんはそう言ってくれた。

    エレン「ありがとうございます」

    俺はそう言って、モブリット副隊長のいる場所へと向かった。


    モブリット副隊長は、馬の手綱を持ち、馬を撫でたりしていた。

    エレン「お待たせしてしまって、すみません」
  178. 185 : : 2014/11/01(土) 22:01:34

    俺は自分の馬の手綱を引きながら、そう言った。
    モブリット副隊長は
    「こちらこそすまないね、さあ行こうか」

    そう言ってモブリット副隊長は馬にまたがった。
    俺も同じように、馬にまたがった。

    モブリット「しかし、君も大変だろうね」

    モブリット副隊長はそう言った。
    俺は頷くにも頷けず、
    「ええ、まあ…」
    と言葉を濁した。

    エレン「今回はどんな実験をするんですか?」

    俺がそう訊くと、モブリット副隊長は
    「今回は再生能力の速さの実験らしいんだけど」

    モブリット副隊長にそう言われ、俺は顔をしかめる。
    いくら、巨人の体でも、痛いものは痛かった。
  179. 186 : : 2014/11/01(土) 22:02:08

    モブリット「君も痛いんだろうけど、頑張って」

    モブリット副隊長は励ましてくれる。

    エレン「この実験って、意味あるんですか…?」

    俺は少し踏み込んで言ってみると、モブリット副隊長は顔をしかめた。

    モブリット「ひとつひとつの謎を解いていかないと、答えにはたどり着かないんだ」

    モブリット副隊長は先ほどの穏やかさはなく、力強く言った。

    モブリット「無駄だと思うかもしれない。しかし、それが答ええの一歩となる。好奇心は物を知るのに一番必要な能力だと僕は思う」

    モブリット副隊長はそう言って、遠くを見つめた。

    俺は少し驚かされた。
    そして気づかされた。

    好奇心、それはハンジ分隊長が一番持っているものだろう。
    好奇心を持っているものこそが、答えにたどり着ける。

    モブリット「さあ、ついたよ…」




    答えにたどり着くまで頑張ってみるか。







  180. 187 : : 2014/11/02(日) 19:52:17


    「憐れみ」



    その日は対人格闘があった。
    私はこの時間をいつも、体を休める時間に充てていた。

    しかし、ある人物のせいで、体を休める時間として充てることができなくなった。

    ソイツは調査兵団に入って、巨人を駆逐するなどとぼやいている死に急ぎ野郎だった。

    エレン「アニ、今日も組んでくれ」

    断りたい気持ちもあった。
    だけど、なんとなくコイツと組んでやる。

    コイツの呑み込みは遅くて、少し私を苛立たせる。
  181. 188 : : 2014/11/02(日) 19:52:44

    アニ「だから、あんたは力任せにやりすぎなんだよ」

    私がそう言うと、コイツは
    「力任せにやらないと、この技はできないだろ?」

    そう言って、私の話に聞く耳を持たない。
    そして、何度も私に向かってきて、投げられを繰り返していた。

    どこからか、殺気がする。
    きっと、死に急ぎ野郎の保護者だろう。

    まあ、仕方のないことだ。
    こちらとしては、別に死に急ぎ野郎の相手をしたい、というわけではない。

    しかし、あの保護者から見れば、私はこの死に急ぎ野郎に危害を加える奴、という位置付けなのだろう。

  182. 189 : : 2014/11/02(日) 19:53:10

    まあ、別にいいのだが。

    死に急ぎ野郎は、私を力任せに腕を引っ張る。
    私は少し苛つき、死に急ぎ野郎に引っ張られるがままにし、死に急ぎ野郎の足のすねを蹴った。

    死に急ぎ野郎は私の腕をパッと離し、足を抑えた。
    すねを蹴られると、誰でも痛い。
    そんなことはわかりきっている。

    先ほどより、私に向けられる殺気が増している。
    死に急ぎ野郎のすねを蹴ったからだろうか。

    アニ「だから、力任せにやることに頭をとられていたら、いつまで経っても、このような結果になっちまうよ。今のあんたじゃ隙ありすぎ。呑み込み悪すぎ。あんたのライバルの方が呑み込みが良いんじゃないかい?きっと」
  183. 190 : : 2014/11/02(日) 19:53:49

    私は冷たく言い放った。
    このぐらいじゃへたれないだろう。

    エレン「アニの説明はあやふやでわからねぇ…」

    エレンは愚痴をこぼした。
    別にあんたにこの技を好きで教えているわけじゃないんだけどね。

    しかし、これ以上やっても意味がない。
    無駄な労力、無駄な時間。

    次回、もう一度やり直したい方が良さそうだ。
    コイツの頭はもう、早く技を修得することで頭一杯すぎて、やる意味が無い。

    アニ「今日は終わりだよ、これ以上やっても無駄」

    私がぶっきらぼうに言うと、死に急ぎ野郎は
    「何でだよ?」
  184. 191 : : 2014/11/02(日) 19:54:15

    そう訊いてきたので、
    「あんたは技を修得するのに頭が一杯すぎて、集中力に欠けている」

    そう言って、私は違う相手を探しに歩き出した。
    死に急ぎ野郎が何やら喚いているが、私の知ったことではない。





    夕食を食べ終わり、湯浴みの時間まで一時間近くあった。
    食堂にいても無駄だったので、私は兵舎の周りを散歩することにした。

    今の時間帯には誰もいないだろう。

    夕方と夜の間の時間。
    空は紫色に染まっていた。
    星や月も微かに見え、美しい。
  185. 192 : : 2014/11/02(日) 19:54:52

    バン、バンと何かの音がした。
    私は音がする方へと向かうと、そこにはミカサがいた。

    エレンの保護者であり、主席で卒業するだろうと思われる人物であった。

    ミカサ「アニ…、何をしているの?」

    そう訊かれたので、私は
    「あんたこそ、何をやっているんだい?ストレスの発散かい?」

    きっと、対人格闘の練習だろう。
    しかし、コイツがやる意味など皆無である。
    コイツが対人格闘の練習をすることは、無駄な時間を過ごすということに等しい。

    ミカサ「ストレスを発散しているように見えるの?」

    ミカサはこちらを見つめた。
  186. 193 : : 2014/11/02(日) 19:56:14
    私は肩をすくめて、
    「さあね。だけど、練習する意味なんてあるのかね?」

    ミカサ「エレンを守る為に、私は強くならなければならない」

    死に急ぎ野郎を守る為か。
    しかし、ミカサはどうしてそこまで死に急ぎ野郎に執着をするのだろうか。

    アニ「死に急ぎ野郎を守る為…か。いくらあんたが強くなったって、死に急ぎ野郎を守ることはできないと思うけどね…」

    ミカサ「何故?」

    ミカサはギロリトとこちらを見る。
    まるで獲物を狙う獣のよう。

    アニ「獲物を狙う獣のような目で睨むんじゃないよ」

    そう言うと、ミカサは少し睨むのをやめ、こちらを見つめた。
  187. 194 : : 2014/11/02(日) 19:56:42

    アニ「自分の命を捨てるのも守るのも、死に急ぎ野郎が決めることだろ?あんたが勝手に決めたりしちゃ駄目だろ?死に急ぎ野郎は…」

    私は途中までいいかけてやめる。
    これ以上言ったら、コイツが何をしてくるかわからない。

    アニ「あんたは何故、死に急ぎ野郎にそこまで執着するんだ?」

    そう訊くと、ミカサは少し悲しそうな顔をした。
    「エレンは私の家族、唯一の。私の恩人。家族を、これ以上失いたくはない」

    その時、私が見たコイツの顔は希望にすがる少女の顔をしていた。
  188. 195 : : 2014/11/02(日) 19:57:08

    アニ「なんだ…結局、自分の為っていうわけ」

    私がそう言うと、ミカサは先ほどより鋭く私を睨む。
    しかし、何も言えない。

    アニ「あんたは、あんたなりの生き方があるから、口出しはしないよ。せいぜい、死に急ぎ野郎のことを守るんだね」

    そう素っ気なく言って、私はその場を去った。




    あの時みた、アイツの顔は忘れないだろう。
    普段冷静で大人びたアイツが、希望にすがる不安な少女の顔をしていたことを。






  189. 196 : : 2014/11/03(月) 21:58:02


    「長続き」




    俺は元々、図書室にはかなり行く方だった。
    たまの休みには、だいたい図書室に行く。

    だけど、最近図書室に行っていない。
    何故かって、それは疲れているから。

    だから、久しぶりに図書室に来た。
    図書室はいつも静かで人が少ない。
    しかし、今日はいつもなら、見ない顔があった。

    マルコ「やあ、サシャ、アルミン」

    俺はその二人がいる場所へと近づき挨拶をすると、アルミンが
    「やあ、マルコ。君も試験の為に勉強かい?」
  190. 197 : : 2014/11/03(月) 21:58:24

    試験の為の勉強?
    そういえば、あと数週間後に座学の試験があった。

    マルコ「しかし、サシャが勉強するなんて珍しいね。どうして?」

    俺が訪ねると、サシャは
    「今回の試験で半分の点数取れなかったら、追試なんです。それと、一ヶ月間食事当番なんですよ~」

    サシャは今にでも泣きそうな顔でこちらを見た。
    「アルミンは勉強なんてしなくてもいいんじゃないのかな?」

    俺がそう言うと、アルミンは
    「サシャの勉強を見てあげているんだ」

    そういうことなら、納得できる。
    アルミンは座学トップの成績であるわけだし、彼に教われば、半分の点数なんて余裕なのだろう、多分。
  191. 198 : : 2014/11/03(月) 21:58:46

    アルミン「マルコは何しに来たの?」

    そう訪ねられたので、俺は
    「興味深い本があってね…」

    そう言った。
    興味深い本…。

    アルミン「どんな本なの?」

    マルコ「壁についての本なんだ…」

    壁について。
    そもそも、あんな巨大な壁を俺らの祖先はどのように作ったのだろうか。

    歴史の本には詳しく載っていない。
    何故か、それは俺にもわからない。

    もしかしたら、もしかしたらだが、壁のことは詳しく知ってはいけないことなのだからなのだろうか。

    外の世界に興味を持つことは、禁じられているのと同じように。

    こんなことを俺がいくら考えても無駄なのだけれど。

    俺の夢は憲兵団に入り、王にこの身を捧げることのみ。
    壁や外のことなんかに深く肩入れしてはならない。

    こんな意志もいつまで持つか、わからない。




  192. 199 : : 2014/11/05(水) 21:44:37


    「親切」




    ミカサ「ねぇ、ベルトルト」







    いきなり声をかけられて、僕は驚いた。
    驚いた僕をミカサは不思議そうに見る。

    エレンはアルミンと教官のもとへと行ってしまったし、ライナーは風邪で医療室。

    何故か、僕とミカサは一緒に夕食を共にしていた。
    ミカサは無言で食べていたので、僕も黙って食べていた。

    その無言が消されたので、僕は驚いた。
    これは当たり前のことだと思う。
  193. 200 : : 2014/11/05(水) 21:45:20

    ベルトルト「な、何かな?」

    僕がそう言うと、ミカサは抑揚のない声と感情の全く読めない顔で言った。




    ミカサ「情というものはかなりあるけれど、そのどれもが意味が違うのかしら?」





    予想外の質問だったので、僕は内心驚いた。
    愛情、友情、劣情…。

    ベルトルト「さあ、僕にはわからない。僕がもしそのことを考えたと仮定するならば、どれも〝執着するもの〟と答えを導き出すと思うよ」

    僕がそう言うと、ミカサは満足したように、僕に微笑む。
    そして、また、口を開く。
  194. 201 : : 2014/11/05(水) 21:46:46



    ミカサ「なら、優しい人と良い人、何が違うの?」



    キョトンとこちらを見るミカサに、僕は何かを感じた。

    ベルトルト「優しい人は、自分に対して良くしてくれる人。良い人は、はっきり言うと、〝無害〟ということなのだろうね」

    僕がそう言うと、ミカサは哀しそうな顔をする。
    こういう答えでは駄目なのだろうか。

    ミカサは「そう…」と言って、また口を開いた。
    「親切とは…?」

    ベルトルト「親切とは、周りに対して思いやりのある配慮のこと…」
  195. 202 : : 2014/11/05(水) 21:47:26

    僕がそう言うと、ミカサは
    「なら、あなたの目からクリスタは親切に見えるのかしら?」
    少し楽しそうに言う。

    ベルトルト「少なくとも、僕は親切に見えないよ、クリスタは」

    ミカサ「なら、アルミンは?」

    ベルトルト「アルミンも、親切に見えないよ」



    ミカサ「なら、あなたにとって親切な人は?」




    僕にとって親切な人。
    そんな人はいるのだろうか。
  196. 203 : : 2014/11/05(水) 21:48:10
    きっといない、いない筈だ。
    仮にだとすれば、それは、




    ベルトルト「自分」




    ミカサ「何故?」

    ベルトルト「自分への配慮が行き届いていない時点で、それは親切と言うことができない」

    ミカサは満足したようだ。
    ニッコリと微笑んだ。




    ミカサ「質問に答えてくれて、ありがとう。ベルトルト、あなたは〝親切〟ね」









  197. 205 : : 2014/11/07(金) 21:38:41


    「音楽」



    とある日のことだった。
    午前の訓練の最中、雨が降ってきた。

    雨の中、実行するには危険がある為、訓練は中止された。
    雲の量的には、当分止むこともないだろう、そう俺は思った。

    訓練が中止になり、喜ぶ奴がいた、いや、喜ぶ奴が大半だった。
    しかし、死に急ぎ野郎は少し悔しそうな顔をしていた。

    訓練がしたいのだろうか。
    それもそうだろう。
    何せ、夢が夢だからな。

    そんなことを思いつつ、俺は寮へと戻り、自分の部屋へと行く。
    部屋には、マルコとアルミンがいた。
  198. 206 : : 2014/11/07(金) 21:39:32

    二人は、濡れた訓練服を部屋に干して、着替えを済ませていた。

    アルミン「ジャンも着替えたら?」

    アルミンにそう言われたので、俺は
    「そうだな…」
    そう言って、訓練服を干して着替えを済ませた。

    アルミンとマルコは外を眺めていた。
    雨が止むかどうかを見ているのだろうか。

    ジャン「どうしたんだ?」

    俺がそう訊くと、マルコが
    「秋の空は女の心模様って言うじゃないか?だから、止むかもしれないと思ってね」
  199. 207 : : 2014/11/07(金) 21:39:56

    俺は「そうか」と言って、ドアへと向かい、ドアノブを捻った。
    すると、誰かにぶつかる。

    ジャン「…ってぇ!」

    俺は悲鳴をあげた。
    それは、ぶつかった相手も同様。

    コニー「いってぇ、すまん…なんだ、ジャンか」

    ジャン「なんだとは、なんだよ?コニー」

    コニーはまだ、濡れた訓練服を着ていた。
    「お前、早く着替えろよ」

    そう言うと、コニーは
    「それもそうだな」

    そう言って着替えを始める。
    正午を知らせる鐘が鳴り、俺はマルコと一緒に食堂へと向かった。


  200. 208 : : 2014/11/07(金) 21:40:30


    食堂にはまだ人があまりいなかった。
    俺とマルコはおぼんにパンと味の薄いスープに蒸かした芋を載っけて、適当な席についた。

    ジャン「この頃、芋多くねぇか…?」

    俺がそう愚痴を溢すと、マルコは「そうだね」と言って、パンをちぎって口に運んだ。

    訓練兵になれば、食事だけは安定していた。
    安定していると言っても味は保証できるものではない。

    スープは味が薄く、野菜もはいっていない。
    パンは硬く、芋が毎日のように出る。

    俺は早めに食事を済ませ、マルコと別れた。
  201. 209 : : 2014/11/07(金) 21:41:02
    何故、早めに食事を済ませたのか、それは早く寮に戻り、休みたかったからだ。

    廊下には、昼食を食べる為に食堂に向かってくる奴等と通りすがる。

    しかし、それもしばらく歩けば、ひとりもいなくなってしまい、廊下は静かになった。

    寮へと向かう廊下には、技巧室、会議室などの脇を通る。

    すると、どこからか綺麗な音色が聴こえてきた。
    どこからかはわからないが、その音がする場所へと俺は向かった。

    音がした場所は、使われなくなった部屋だった。
    そこにいたのは、アニ。
    アニはピアノを弾いていた。

    ピアノを弾いているアニの後ろ姿は、まるで別人のようだった。
  202. 210 : : 2014/11/07(金) 21:41:34

    しかし、こんなところにピアノがあったこと事態に驚く。
    ピアノというのは、かなり高級なものだったはず。

    訓練には関係の無いものが、何故、ここにあるのだろうか。

    アニが弾いている曲は悲しい感じがした。
    今日の雨を表現しているかのように。

    曲が終わると、俺はそれに魅了されていた。
    無意識のうちに、拍手をしてしまう。

    アニは驚いて、後ろを振り返った。
    俺は「良かったぜ」と言った。

    アニは少し鬱陶しそうに、
    「なんであんたがここにいんのよ?」
    そう言って、俺を睨み付けた。
  203. 211 : : 2014/11/07(金) 21:42:07

    ジャン「たまたま、ピアノの音がが聴こえてな」

    俺がそう言うと、アニは「あ、そう」とぶっきらぼうに言う。

    ジャン「お前、ピアノ弾けるんだな」

    ピアノは高級なもの。
    それが、弾けるということは育ちが良いのだろうか。

    アニ「近所にピアノがあってね…」

    アニは懐かしそうに言った。
    アニは椅子から立ち上がり、帰ろうとドアへと向かった。

    もう一度。
    もう一度聴きたいと、そう思った。
  204. 212 : : 2014/11/07(金) 21:43:07

    曲名は知らないが、哀しくて、切ない。
    そんな感じがした。

    ジャン「もう一度、弾いてくれねぇか?」

    俺がそう言うと、アニは「えっ…?」と歩く足を止めた。
    俺はさっきの言葉をもう一度言った。

    アニは少し戸惑ったような顔をし、
    「…いいよ、弾いてあげる」

    そう言って、ドアの方へと向いていた足をピアノの方へと向け、ピアノの方向へと向かい、椅子に座る。

    そして、アニは音を奏で始めた。

    いつの間にか、外の雨は止んでいた。
    アニとピアノに、日差しが差し込んだ。

    アニの弾いている曲は先ほどと違い、温かい曲、そんな感じがした。







  205. 213 : : 2014/11/08(土) 12:56:50


    アルミンの誕生日



    11月は僕の嫌いな月であった。
    嫌なことを思い出すからだ。
    僕の誕生日の日に、おじいちゃんは壁外遠征に行った。

    母さんと父さんはもう他界していた。
    おじいちゃんが他界して、僕はひとりになった。

    おじいちゃんが遠征に行く前に、僕はおじいちゃんに心配をかけないようにと、明るく
    「いってらっしゃい、頑張ってね。おじいちゃん、待ってるから」

    そう言った。
    僕は心の中では、「いってらっしゃい」というほどの気持ちではなかった。
  206. 214 : : 2014/11/08(土) 12:57:37

    本当は、
    「行かないで、僕をひとりにしないで」
    そう言いたかった。

    後悔している。
    もう二度と会うことは叶わないと、幼い僕でもわかっていたのに。

    何故、本当の気持ちを、ありのままの気持ちを伝えなかったのだろう。

    おじいちゃんや、大人達が壁外遠征に行くと、食べ物は前より裕福になった。

    今、何故裕福になったかを考えると、それは大人達が壁外遠征で他界して行き、その分を僕達が食べているのだと。

    おじいちゃんが他界した後、僕はひとりになった。
    幼馴染みのエレンやミカサがいて、僕のことを気にかけてくれたが、僕はひとりな気がした。

    エレンやミカサも、お母さんを亡くし、お父さんが消えて、僕と同じ状況なのに。
    僕はそんな二人を心の何処かでは…。

  207. 215 : : 2014/11/08(土) 12:58:10


    眩しい光が差し込んで、僕は目を覚ました。
    目を覚ますと、真っ白な天井。

    いつもの寝ている寮ではない。
    ここはどこだろうと、体を起こす。
    すると、頭がズキリと痛んだ。

    辺りを見回すと、ここは医務室だということがわかった。
    薬品の匂いがし、壁や天井は真っ白。
    そして、真っ白なベッド。

    アルミン「何で僕はここに…?」

    そう呟くと、ドアから声がした。
    「高熱で倒れたんだよ」

    そう言う声がした。
    ドアの所に立っていたのはジャンだった。
  208. 216 : : 2014/11/08(土) 12:59:26

    アルミン「高熱で、倒れたんだ…僕」

    僕は自分に言い聞かせるように言った。
    昨日は何をしたのか、僕はあまり覚えていない。
    そもそも、今日が何日なのか、ということも。

    アルミン「ジャン、今日は何日?」

    僕はそう訪ねた。
    ジャンはこちらに近づき、椅子にドカッと座った。

    ジャン「11月4日だよ」

    今日が11月4日ということは、昨日は11月3日ということか。

    ジャン「しっかし、ツイてないな、お前。昨日ななのによ」

    ツイていない?
    どういうことだろう。
  209. 217 : : 2014/11/08(土) 12:59:53

    アルミン「えっ…?ツイてないって?どういうこと?」

    僕がそう訊くと、ジャンは驚いたように
    「お前、昨日がお前の誕生日だってこと、覚えてねぇのか?!」

    昨日が僕の誕生日…?
    11月3日、11月3日..

    アルミン「あ…僕の誕生日だ」

    僕は自分の誕生日をどうやら、忘れていたようだ。
    ジャンはこめかみを抑えた。

    ジャン「はぁ…まあ、最近忙しかったもんな.…」

    ジャンは少し呆れ気味に言った。
    僕は少し不思議そうに、
    「だけど、僕の誕生日ってだけじゃないか。どうして、そんなに呆れた顔で言うんだい?」
  210. 218 : : 2014/11/08(土) 13:00:29

    僕がそう訊くと、ジャンは
    「昨日、エレンやミカサ、クリスタがお前の誕生日を祝おうってなってな」

    ジャン「そんで、クリスタがケーキは無理だけど、パンなら作れると言い出して、それに珍しいチョコレートをお前にあげようと、なってな…」

    ジャンはそう説明してくれた。
    僕のために、わざわざエレン等が。
    なのに、僕は高熱を出して倒れてしまったとは。

    ジャン「まあ、まだ朝早いからアイツ等は来ないだろうけど、ん…?」

    ジャンは後ろを振り返った。
    僕もつられてジャンが振り返った先を見た。
  211. 219 : : 2014/11/08(土) 13:01:11

    アルミン「アニ…?」

    アニ「あんた、誕生日だったんだってね、昨日」

    アニがこちらに近づいてきた。
    なんで、アニが僕の誕生日が昨日だってことを知っているのだろうか。

    アルミン「何でアニが知っているの?」

    アニ「クリスタが残念そうに言ってきたからだよ…」

    アニはジャンの隣の椅子に座る。
    「そうなんだ…悪いことしちゃったな…」

    僕がそう呟くと、アニは
    「まあ、気にすることないよ…」

    アニ「とりあえず、まあ…その……おめでと」
  212. 220 : : 2014/11/08(土) 13:01:35

    アニがそう言ったということを、僕は耳を疑った。
    普段はあまり会話もしないし、関わることも少なかったアニが、自分に対してそう言ったことに驚いた。

    それは、ジャンも同様だった。
    アニが僕にそう言ったことに、驚いていた。

    ジャン「あ、俺もいい忘れてた、おめでとさん、アルミン」

    僕は二人に
    「ありがとう…」

    そう言うと、二人は笑った。
    ジャンはいつもの意地悪そうな笑いではなく、太陽みたいだった。
    アニは苦笑いではなく、花のような笑顔。

    その二人の笑いが自分に向けられたこと事態に僕は喜びを感じた。




    「ありがとう…」









  213. 221 : : 2014/11/09(日) 08:27:30
    焼き芋


    冬の寒さは辛いものだ。
    木の枯れ葉は落ち、それを掃除するのも訓練兵のやることだった。

    たまたま、掃除当番になった俺は「寒い」などと愚痴を溢していた。

    俺の他にここの掃除当番は二人いる。
    ミカサと、コニーだ。

    俺とミカサが枯れ葉を掃き、コニーが集まった枯れ葉を捨てに行く、そんな流れでやっていた。

    捨てに行く場所は、何故か微妙に遠い。
    だから、コニーがいない間は俺とミカサの二人だけになる。
    正直、気まずい。
  214. 222 : : 2014/11/09(日) 08:28:02

    ミカサがこちらをジーッと見てきた。
    俺は少し後ずさると、ミカサは口を開いた。

    ミカサ「ライナーは…寒くなさそうね」

    あまりにいきなりのことだったので、俺は驚いた。
    「寒くなさそうったら、ミカサの方が温かいんじゃないか?」

    ミカサの格好は、赤いマフラーに赤い手袋、それに耳当てまで。
    完全に寒さ対策である。

    ミカサ「私は冷え症、ので寒い…」

    ミカサはそう言って、枯れ葉を掃く。
    「俺も寒いんだが…、何故寒くなさそうなんだ?」
  215. 223 : : 2014/11/09(日) 08:28:37

    俺がそう訊くと、ミカサはこちらをジーッと見てきた。
    いや、俺を見ているのではない、俺の身体を見ていたのだ。

    ミカサ「貴方には、筋肉という毛皮があるから」

    真顔でミカサはそう言った。
    「毛皮じゃねぇよ…!」

    俺がそう言うと、ミカサは不思議そうにこちらを見て、「寒いの?」と訊いてきた。

    ライナー「寒いに決まっているだろ」

    そう言うと、ミカサは「そうなの…」と言って笑った。
    何故、ミカサが笑ったのかは、俺にはわからなかった。
  216. 224 : : 2014/11/09(日) 08:29:02

    コニーが一輪車を手押しでゴロゴロ、ガラガラなどと音を立ててこちらに向かってきた。

    コニー「なあ、ミカサ!ライナー!」

    コニーがそう叫んだので、俺とミカサは少しギョッと驚いた。

    ミカサ「…どうしたの?」

    ミカサがそう訊くと、コニーは鼻の穴をふくらませ、ドヤ顔気味に
    「この枯れ葉で焼き芋しようぜ!」

    と言ってきた。
    しかし、問題点がある。
  217. 225 : : 2014/11/09(日) 08:29:50

    ライナー「コニーしては良い考えだが、肝心な焼き芋はどうすんだ?」

    そう言うと、コニーは「あ!」と、忘れていたみたいな声を出した。
    ミカサを見ると、少しウキウキ感が漂っている。

    ミカサ「…ここにサツマイモとジャガイモがあります…」

    そう言って、ミカサはポケットからジャガイモと焼き芋を何個か取り出した。

    コニー「流石、ミカサだな!早速、枯れ葉集めようぜ!」

    そう言って、コニーは俺のを取って掃き始めた。
    「それ、どこから取ってきたんだ?」

    そう訊くと、ミカサは少し妖艶な、悪魔のような笑みを浮かべた。
    俺は少しゾッとする。
  218. 226 : : 2014/11/09(日) 08:30:14

    ミカサ「サシャが食料庫から、芋などを盗んでいたのを見てしまった私は、サシャと取り引きし、この芋をもらった」

    そう言うと、ミカサも枯れ葉を集め始めた。
    先ほどよりも、かなり速いスピードで。

    枯れ葉はあっという間に集まり、コニーはマッチと古紙を持ってきた。

    焼き芋に古紙を巻いて、水に浸し、それを絞る。
    そして、そこら辺でミカサが見つけてきた網の上に載っけ、コニーがマッチに火をつけ、枯れ葉に火をつけた。

    ミカサは手袋を取り、手を火にかざした。
    「コニー達もかざしたら?」

    ミカサがそう言ったので、俺とコニーはしゃがんで、火に手をかざした。
  219. 227 : : 2014/11/09(日) 08:30:48

    コニーがそう呟くと、ミカサがフッと笑った。
    俺もつられて笑った。

    それから、三十分くらい話した後、火を消し、焼き芋を取ると、温かかった。
    古紙を取ると、焼き芋はホクホクに焼けていた。

    コニー「いただきま~す…」

    そう言って、コニーが焼き芋にかぶりつく。
    「あち…うまっ!」

    俺も焼き芋にかぶりつくと、冷えていた体の芯が、温まっていく。

    ミカサもいつもはあまり見ない笑顔で、焼き芋を食べていた。

    焼き芋をしていることを見かけた、アニやジャン、アルミンなどがこちらにやってくるのが見えた。

    寒いはずの十一月が、温かく感じたのだった。







  220. 229 : : 2014/11/09(日) 11:37:50
    これで、「November story」は完結です。
    次の「December story」はテストが終わるくらいから、執筆を始めたいと思います。

    ここまで読んでくださり、ありがとうございました。お気に入り登録をしてくださった方、読んでくださった方、ありがとうございました!

    2014.11.9 蘭々
  221. 230 : : 2014/11/13(木) 21:50:18
    「December story」

    http://www.ssnote.net/archives/27129

    よろしくお願いいたします。
  222. 231 : : 2020/10/06(火) 09:08:11
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986

    http://www.ssnote.net/categories/%E9%80%B2%E6%92%83%E3%81%AE%E5%B7%A8%E4%BA%BA/populars?p=12
  223. 232 : : 2020/10/27(火) 10:11:46
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。
  224. 233 : : 2023/07/04(火) 09:35:53
    http://www.ssnote.net/archives/90995
    ●トロのフリーアカウント(^ω^)●
    http://www.ssnote.net/archives/90991
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3655
    http://www.ssnote.net/users/mikasaanti
    2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
    sex_shitai
    toyama3190

    oppai_jirou
    catlinlove

    sukebe_erotarou
    errenlove

    cherryboy
    momoyamanaoki
    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
    shoheikingdom

    mikasatosex
    unko

    pantie_ero_sex
    unko

    http://www.ssnote.net/archives/90992
    アカウントの譲渡について
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3654

    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ

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