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Reset - アニ誕生祭2014 -

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  1. 1 : : 2014/03/22(土) 23:23:49
    アニ生誕祭SS、書くつもりなかったんですが、Twitterでフォロワーさんと会話しているうちにネタを思いついてしまったので、書きます!
    間違いなく途中で日付変わってしまうと思いますが、頑張って書き上げます!

    コメにお返事は出来ないと思いますが、少しずつUPしていきますのでお付き合いください。
    書き上がったら、お返事させて戴きますので、コメ大歓迎です♪

    では、行きます!
  2. 2 : : 2014/03/22(土) 23:25:54
    「リヴァイ!!大変だ!!」

    「ハンジ?何だ…何があった…!?」

    「彼女が、突然目を覚ました…!!」

    「彼女…?」

    「アニ…アニ・レオンハートだ!!」



    【Reset】



    「アニ、おはよう」

    まばゆいばかりの朝日の中で、私の顔を覗き込む眼鏡の女性。眼鏡の奥の眼は、様々な感情が入り混じっているのがわかる。

    興味、恐怖、…そして、憎しみ。

    何でそんな目で見られなければならないのか、わからない。わからないのはそれだけじゃない。


    私は、誰なの?


    何も、覚えていない。そんな空っぽの心に、眼鏡の女性の複雑な視線は突き刺さる。

    「アニ、覚えているかい?わかるだろう、私達には時間がないんだ。すぐにでも全て話して貰いたい。話してくれなければ、貴女には酷いことをすることになる。でも、そんなのへっちゃらだって、貴女は思うんだろうね、だって貴女は…」

     息継ぎもままならないほど、焦って話す女性。何がそんなに彼女を興奮させているんだろう。


     そこに、それを静止する低い声が降って来る。

  3. 3 : : 2014/03/22(土) 23:26:57
    泪飴さん!!期待です♪
    はぁはぁ!!
  4. 4 : : 2014/03/22(土) 23:27:25
    俺もです!!期待です!!
  5. 5 : : 2014/03/22(土) 23:34:18

    「やめろ、ハンジ。様子がおかしい」

    眼を動かすと、刈り上げ頭の、眼付きの悪い男が立っていた。

    「そりゃ、そりゃおかしくもなるさ!!何でリヴァイはそんなに落ち着いていられるの!?アニが…アニが意識をこんなに早く取り戻したんだぞ!しかも、表情の変化もあるんだぞ…まるで私の問いかけに応えるように…!!」

    「おい、本当に落ち着け、ハンジ。お前がおかしいのはわかってる、前からな…様子がおかしいのはこいつだ……俺には、こいつは今自分が置かれている状況が、まるでわかってねぇように見える……もしかするとこいつ…記憶がないんじゃないのか…?」

    ハンジ、と呼ばれていた女性が目を見開く。

    「…そうなの…アニ…?」

    リヴァイというらしい男と、ハンジが会話している間に、自分の手足に枷か何かが嵌められていて、動かせなくなっているのは把握していた。酷いことをするとか言ってたし、さっきのハンジの目の奥の憎悪のことから考えても、何かしら反応しなければ、と思った。
    自分大きく見開かれたまま揺れるハンジの瞳に向かって、頷く。

    「…!!わかるの、アニ!やっぱり聞こえてたんだね、アニ!…本当に、本当に何も覚えてないんだね、アニ…!!」

    狂ったように何度も繰り返される2文字が、きっと私の名前なのだろう。

    それが、全てがリセットされた「私」が調査兵団に初めて会った日、そして、調査兵団が私と「再会」した日だった。
  6. 6 : : 2014/03/22(土) 23:49:34
    おおおーー!
    泪飴さんのアニ誕SSとな(*゚∀゚*)ぱああ
    楽しみです!しえーん☺︎
  7. 7 : : 2014/03/22(土) 23:53:34
     それから、「ハンジ」「リヴァイ」「アニ」の3語しか知らない私に向けて、彼らは様々な言葉を浴びせた。

    巨人、調査兵団、エレン、第57回壁外調査、女型、…しまいには、彼ら自身もよくわからない、と言う「故郷」「座標」なんて言葉まで出て来た。

    もちろん、それぞれの言葉の辞書的な意味は分かる。でも、その一言一言に籠った、彼らの強い感情は全くと言ってわからなかった。

    最初は枯れ切っていて動かなかった喉も、清潔な布を使って水を丁寧に口に含ませてくれたハンジのお蔭で、だんだん回復してきた。

    ハンジ達は言った。
    私は、ある凶悪な犯罪者によく似ている。そして記憶が無い。だから、もしかしたらその犯罪者なのかもしれない。なので、拘束させてもらっている、と。

    ショックだった。自分はそんな人間だなんて思えなかった。信じたくなかった。でも同時に、そうなのかもしれないと思った。
    容姿がよく似ていて、記憶が無いなんて都合がよすぎる。ハンジ達がそう思うのも無理はない。
    むしろ、よく、見つかってすぐに処刑されなかったな、と思った。でも、そうできないほどに、私に似た犯罪者の犯した罪は重いのかもしれない、と考えて、また余計に悲しくなった。

    私は、ハンジやリヴァイを困らせたくなくて、一生懸命素直に答えたのだけれど、話せば話すほど、ハンジ達は困った表情になっていく。
    私の返事は殆どが「覚えていない」だったあら。

    3日経っても、私の拘束はトイレ以外外されなかったし、常に見張りがいた。

    見張りの99%はハンジで、私の横で巨人の話やら何やら、この世界の人間にとっての「常識」を朝も夜もなく語り続けた。

    特に、巨人の話の時は私が途中で居眠りしてしまったのにも関わらず語り続けていたらしく、夜食を運んできたモブリットという優しそうな男の人に説教されていた。

    見張りの99%はハンジ、と言ったけれど、正確にはリヴァイも同じくらいだ。私の横には来なくても、部屋の外に居る。でも、私の横に来るのは1%くらいの時間だけだった。
  8. 8 : : 2014/03/23(日) 00:06:23
    ハンジと対照的に、殆ど何も話さないリヴァイは、足を組んで椅子に座って、私のことを黙って見ている。
     時々、何か思い出したか、クソはしなくて平気か、何か飲むか、と不愛想に聞いてくるくらいだった。
     でも、私はそんなに嫌いじゃないな、と思った。

     その次の日、私の部屋にエルヴィンと名乗る男の人が来た。何となくオーラがあって、偉い人なんだろうな、と思った。
     エルヴィンは意外にも、今まで私が飽きるほどされてきたのと同じ質問しかしなかった。その代わり、どこを見ればいいかわからなくなるほど真っ直ぐに、私の眼をずっと見ていた。
     目のやり場に困って逸らした先に、エルヴィンの袖があった。本来手があるはずのそこは、空っぽだった。
     エルヴィンはすぐに私の視線に気づいて、この前無くしてしまったんだ、と答えた。嫌な予感が胸を掠めて、それはすぐに口を突いて出た。

    「私に似た犯罪者が、やったの?」

    エルヴィンは驚いた顔をして、いいや、と答えた。そしてすぐに、何か思い出したのか?と聞いてきた。

    「覚えてない。だけど、私がその犯罪者だったら…どうしよう、って思って」

     その反応が彼らの信頼を勝ち取ったのか、それとも何か別の思惑があったのか、それは結局いつまでもわからなかった。
    でも、その日を境に、私の枷は外され、腰縄だけになったのは確かだった。

  9. 9 : : 2014/03/23(日) 00:29:07
    拘束が甘くなった日の翌日、腰に「立体機動装置」を付けたリヴァイが、私と同じくらいの子ども達を連れて来た。

    憎悪の視線を向けるエレン。
    憎悪を通り越して殺気をむき出しにするミカサ。
    最初のハンジが見せたのと同じ、困惑に満ちた表情のアルミンとジャン、サシャ、コニー、クリスタ。

    そんな様子なので、最初、彼らは、私に似た犯罪者が起こした事件の、被害者の遺族なのかと思った。
    けれど、リヴァイはいつもの無表情のままで言う。

    「こいつらは、てめぇの友人だ。アニ・レオンハートが、104期訓練兵だった頃のな」

    そこで初めて、私は、私に似た犯罪者の情報ではなく、私自身についての話を聞いた。山奥の村出身で、憲兵団に入ることが目標で、人を寄せ付けない雰囲気があってやや孤立気味だったけれど、成績は優秀で、卒業時は4位に入ったのだと。
    エレン達の目が怖いのは、孤立気味だったからなのだろうか。いや、それにしてもおかしい。

    「その後は…?卒業した後の私は…?」

    リヴァイ以外の表情が一斉に変化するのを見て、怖くなる。

    「憲兵団に1ヶ月程度勤務して、姿をくらました後、記憶を無くした状態で発見された」

    そうだったんだ。しかも、リヴァイ達は皆「調査兵団」の兵士だと言っていた。「憲兵団」は上位10名だけが入ることを許され、入れば内地でいい暮らしが出来るのに対して、「調査兵団」は貧乏で、壁外に出て巨人と戦う大変な仕事だという。
    アルミン以外は全員上位10名に入っていたのに、調査兵団に来たんだそうだ。いや、そもそも、私達の訓練兵団から憲兵団に行ったのは私一人だったらしい。
    エレン達の目が冷たいのはきっとこのせいだ。

    私は必死でエレン達に話しかけた。最後まで、ミカサは完全無視で、エレンも殆ど答えてくれなかったけれど、アルミン達は少しずつ話してくれるようになった。
    特に、アルミンは慎重に言葉を選んでいるようで、私が反応しそうな語句を会話に織り交ぜていたようだった。でも、そのどれにも私は反応しなかったみたいだ。

    陽も傾いて、そろそろ帰る、といってリヴァイ達が部屋を出て行こうとした。リヴァイの脚が目に入って、特に何も考えずに、前から気になっていたことをリヴァイに聞いた。


    「リヴァイは…時々脚を引き摺るように歩くけど、それは何で?」



    触れてはいけないことに触れたらしい。

    あのリヴァイが、目を見開いた。

    エレン達に至っては、言うまでもないだろう。でも、リヴァイはすぐにいつもの無表情に戻る。

    「…この前巨人と戦って、怪我をした…が、もう治る」

    そう吐き出すように答えたリヴァイの表情は、見えなかった。
  10. 10 : : 2014/03/23(日) 00:35:55


    不愛想だけど、口が悪いけれど、人を良く見ているリヴァイのことは、結構気に入っていた。

    だからこそ、リヴァイのあんな、初めて見る態度は、私を落ち込ませるには十分だった。

    ところが、リヴァイ達が出て行った後に入ってきたハンジは、今までとどこか違っていた。本当の意味で、私の記憶がないことに確信を持てたような、そんな、吹っ切れた顔。
    リヴァイを不愉快にさせたあの言葉の効果らしいが、それが何故なのか、わからない。


    結局、その日は眠れなかった。



  11. 11 : : 2014/03/23(日) 00:53:29

    翌朝早く、今までと何も変わらない表情で、リヴァイが同じメンバーを連れて来た。

     顔を見てすぐに、昨日はごめんなさい、と謝ると、気にするな、と答えてくれた。

    その後は、ハンジと同じだった。アルミン達は、もう殆ど普通に会話してくれたし、エレンも少しずつ話すようになってきた。ミカサだけは変わらなかったけれど、もともと仲があまりよくなかったらしいと知って、気にならなくなった。

    訓練兵時代の話を沢山聞いて、かなり場の雰囲気が和んできた頃、エルヴィンとハンジが入ってきた。

    「アニ、意識が戻ってから約1週間、ずっとこの部屋の中に閉じ込めて申し訳なかった。今までの会話から、君が記憶を無くしていることはほぼ証明された。ただ、君がその犯罪者ではないという確証はまだ得られていないから、無罪放免にするわけにもいかないんだ。わかるね?」

    コクリと頷く。エルヴィンは、安心したように少し笑った。

    「そこで、君には、我々調査兵団の一員として過ごしてもらおうと思う…いいね?」

    意外だった。せいぜい、もう少し環境の良い別の施設に移されるくらいだと思ったのに。

    「もちろん、てめぇの監視そのものはもっと厳しくなる。お前がその犯罪者だった場合、そして記憶が突然戻った場合、脱走する恐れがある…下手すりゃ、俺達はお前に殺されることになるからな」

    今の私は、もしその通りになっても、絶対にエルヴィン達に危害を加えない自信がある。必要なら罰も受ける覚悟だし、知りたいことがあるなら全て話そうと思う。

    でも、そんなのはわからない。だったらせめて、その日が来るまでは、私は彼らにとって、「いい人」であり続けよう。そんな日が来ないことを、祈りながら。

    私は、右手を左胸に掲げた。

  12. 12 : : 2014/03/23(日) 01:23:15
    それから、3日間の訓練を経て、私は一応正式に調査兵になった。
    最初、3日程度で、4位の実力が戻るわけない、と思った。
    正直、エルヴィン達もそう思っていたみたいだ。だって、彼らが戻したいのは、私の実力じゃない、記憶の方だもの。当然だ。

    でも、結論から言えば、戻った。
    ハンジ曰く、体が覚えているとのことだった。それに私だって、本気で習得しようとしたし。

    立体機動訓練は、慣れるまでは井戸の中、対人格闘訓練などの訓練は地下室という、少し変な環境で行われたけれど、きっとこれにも、記憶を取り戻す為の工夫が隠されているのだろう。

    そして今、私の上司はリヴァイ…いや、リヴァイ兵士長だ。
    私は、彼が班長を務める班、通称リヴァイ班に配属された。

    最初はそうとは知らずに、かなり慣れた態度を取ってしまったが、実はかなり偉い人だった。冷静で、どんな事態にも柔軟な対応をし、そして何より、凄く強い。
    そのため、エレン達を含めた、多くの調査兵から信頼されていた…といっても、私はエレン達以外の調査兵とは会わされなかったけど。

    詳しいことは一切教えてもらえなかったけれど、今、調査兵団はかなり大変な時期らしい。古参の精鋭達が次々と命を落とし、兵長が脚を負傷したり、エルヴィン団長が腕を無くすなど、戦力が大きく落ちてしまっているらしい。

    あと、忘れていたけど、ミカサも実は病み上がりらしい。今はもう良くなっているみたいで、全然そうは見えないけれど。

    しかも、調査兵団をあまりよく思わない何者かによって、調査兵団は攻撃を受けるかもしれないのだという。
    リヴァイ班もその例外ではない。だから、こんな山奥に隠れるようにして過ごしているのだという。

    私の訓練は、リヴァイとハンジとミカサが必ず付いた。
    調査兵として迎えた対人格闘の訓練で、兵長は、変わった提案をした。

    「自由に、戦ってみろ」

    今までは、一つ一つ、どの兵士も習う基本的な型に従った訓練だった。でも、今日は、自分が思うままに戦えというのだ。しかも、その相手は…


    「俺がやる」

  13. 13 : : 2014/03/23(日) 01:50:30


    兵長と私とでは、身長差はそんなにないけれど、恐ろしいほどの威圧感だ。当然だ。人類最強が相手なのだから。

    軽く右足を前に出して、拳を構える兵長には全く隙が無い。とりあえず、今まで習った通りの攻撃を仕掛けるが、突き出した手を軽く蹴られて、いや、足で払われて終わりだった。

    汗だくになり、地面に何度も叩きつけられているのに、兵長には一回も攻撃が届いていない。

    こんなの無理だ。勝てっこない。男と女じゃ、まず体のつくりが違う。ましてや、兵長なんて、同じ男と比べたって凄い差のはずだ。

    投げ出したくなるけれど、兵長はそれを許さない。

    その時、ハンジ分隊長が兵長に何か指示を出した。一瞬だけこっちを見て、やってみよう、と答える。

    「アニ」

    急に名前を呼ばれてどきりとする。

    「こうして、みろ」

    兵長が、見たことのない変な構えを見せる。両手を肘のところで曲げ、額のあたりに拳を構えている。
    こんなの、教えられたことはない。でも、やるしかない。

    見よう見真似で、同じ構えをする。
    意外にしっくり来る、なんて思っていると。

    その瞬間、兵長がどう考えても本気としか思えない速度で突っ込んできた。反射的に脚が上がる。
    自然に、足先が綺麗な弧を描いて、兵長のこめかみに向かう。
    兵長はすぐにそれを受け止めたけれど、意外に重い蹴りだったらしく、少し顔を歪めた。

    信じられない。兵長のアドバイス通りだったし、受け止められてしまったけれど、それでも、私なんかの蹴りが兵長に入るなんて。

  14. 14 : : 2014/03/23(日) 01:50:45

    脚を降ろして、茫然と突っ立っていると、兵長がすかさず喝を入れる。


    「何してるアニ!休むな!!」


    胸が、ざわめいた。

    何だろう。

    凄く、心が揺さぶられる。


    でも、それはきっと、尊敬の念が生まれつつある兵長の言葉だからだ。
    きっとそうだ。

    そう思うことにした。

    さっき教えられたのと同じ構えを慌てて取り、向かってくる兵長の拳をガードし、そのまま鋭い突きを繰り出す。


    別に、特別な技を使ったつもりはない。

    でも。

    その突きが繰り出された瞬間、兵長はそれを避け、ありえない力で私の顔に向かって拳を突き出した。その先には、私の目がある。

    まさか、と思った。
    格闘技で、目を狙ってはいけないのは常識だ。
    兵長がそんなことをするはずがない。


    思わず、目を堅く閉じる。


    「おい」


    目を恐る恐る開けると、兵長の拳が目の前で止まっていた。


    「何か思い出したか?」

    無表情で聞いてくる。


    …思い出したのかもしれないけど、間違いなく今の恐怖で忘れました。



    その日は、それで訓練はお終いだった。
  15. 15 : : 2014/03/23(日) 02:06:20

    全員揃って取る食事。

    兵長が、所謂お誕生日席で、後は皆それぞれ自然と定位置に着く。

    食事の時は、大体サシャとコニーがよく喋る。
    そこに、ジャンとエレンとアルミンが加わるイメージ。
    アルミンに関しては、兵長にも話を振って会話を上手く繋げている。


    私は、殆ど喋らない。


    訓練で疲れ切っているから、話す気が起こらないのが理由だ。
    その上、無理にでも加わりたいような話でもない。

    この山奥に閉じ込められているのは私だけじゃない。
    当然、新しい話題も無いのだ。

    以前の私が比較的無口だったと聞いたから、という言い訳もある。

    でも、一番の理由は、私が話すと空気が悪くなるような気がするからだ。

    もちろん、表面上は普通に接してくれる。
    でも、それはたぶん、気を遣ってくれているだけだ。

    それに、少なくとも、ミカサは良い顔をしない。
    特に、私がエレンと話す時は。


    でも、それでいい。
    私の記憶が戻らない以上、そういう態度になるのはしょうがないんだ。

  16. 16 : : 2014/03/23(日) 02:15:00
    その日の夜、夢を見た。

    霧のかかった寒い屋外で、必死に丸太を蹴る私。

    蹴るのをやめると、後ろから喝が入る。

    「何してるアニ!休むな!!」

    兵長の声?
     でも、少し違う。
     誰だろう。


     目が覚めても、やけに鮮明に残るその夢は、兵長との対人格闘訓練が鮮烈すぎて焼き付いてしまったものなのだろう、という結論に、自分の中で達した。
  17. 17 : : 2014/03/23(日) 02:53:07


    翌朝。

    兵長は、私を朝の散歩に連れ出した。
    もちろん、兵長の方は立体機動をしっかりと装備した状態だったけれど。

    散歩といっても、隠れ家の周りの森の中を一周するだけの短いものだった。

    「アニ、何か思い出したか」

    いつも通りの質問。

    「いいえ、何も…」

    そう言いかけて、夢のことを思い出した。私の前をサクサクと歩く兵長の背中に向かって、言うべきかどうか逡巡する。

    「昨日の格闘術は」

    兵長は続けて話す。

    「お前によく似た犯罪者が使っていたものだ」

    そう聞いて、愕然とした。
    じゃあ、あれを自然と使いこなした私は…。

    「俺は、お前が犯罪者だと思っている」

    兵長がこちらを見る。憎しみも何も感じ取れない目。

    そっか。

    私は膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。

    「そしたら…私は……どうなりますか…?」

    兵長ははぁ、とため息をつく。

    「どうなると思う?」

    「…殺されますか…?または、何かの罰を…?」

    「そうしてやりてぇ、と思う奴は星の数ほど居るだろうな」

    「そう…ですか……」

    ああ、何だか何もかも馬鹿らしくなってきちゃったな。
    一生懸命訓練したりして、さ。
    大体、見たこともない、その存在を知ってまだ2週間も経ってない、「巨人」を殺すための技術を磨いて何になったんだろうね。
    ああ、もう嫌だな。

    「だが俺達は、そうはしない」

    兵長の言葉に、顔を上げる。

    「もしお前を殺すつもりなら、昨日、お前があの技術を難なくやってのけた時点で、そのまま首をへし折ってる」

    この人なら、それくらい余裕だろうね。

    「だが、そうしなかったのは、お前にはまだ生かしておく価値があるからだ。お前が必要だからだ」

    私が必要。
    何て甘い響きなんだろうね。
    この人は、女性を口説くのも上手いんじゃないか。

    「お前が失った記憶の中には、俺達調査兵団にとって有益な、いや、必要不可欠な情報があった。俺達は、それを必要としている」

    何だよ。

    必要なのは私じゃなくて、私の中の情報か。

    期待させておいて、突き落とすのが上手だな。
    これも罰のつもりかい?兵長さん。

    「じゃあ、思い出したら殺すんですね」

    「そうなるかもな……だが、俺達はもう一つの可能性に賭けている」

    「もう一つの可能性…?」

    「お前には、それだけ凶悪な犯罪を起こせるほどの力があった。そんなお前を、俺達の味方につけたい」

    え…。何を、言っているの?

    「俺達と一緒に戦え、アニ」

    兵長の目は真剣だ。
    何だか、プロポーズされたような気分だ。

    「お前が必要だ」

    打算にまみれた言葉だとわかっていても、嬉しい言葉ってあるんだね。
    安心しな。
    答えは、調査兵になると決めた日から変わってないよ。

    「了解です」

    心臓を捧げる、敬礼をする。
    兵長は一度だけ深く頷いて、そのまま歩き出した。

    「お前の記憶を取り戻すために、今まで避けて来た訓練を行う」

    「何ですか…?」

    「立体機動の、実地訓練だ」

  18. 18 : : 2014/03/23(日) 04:00:51

    「今まで、お前に井戸の中でしか立体機動をさせなかったのは、逃走の恐れがあったからだ。だが、お前の記憶を取り戻すのに、これほど手っ取り早いものもないだろう」

    装置を着けて、森の中に進んで行きながら兵長が言う。

    「お前の訓練には、今まで通り、俺とハンジ、ミカサが付く。アルミンとジャン、コニーとサシャには、巨人代わりの的を操作して貰う」

    柄に装着した刃を除いて、鞘からは刃を全て抜く。ガスも、最低限しか入れない。万が一逃亡しても、遠くに行けないようにするためだろう。
     その方が、気が楽だ。記憶が戻った時、どうなるかわからないのは私も同じなのだから。

     ハンジ分隊長が旗を上げたのを確認して、私は思い切り飛び出す。すぐ後ろに、兵長達が付いてきている。

     やはり、この体は知っている。こうして樹の間を飛び回る感覚を。

     1つ目の的が目に入り、回転しながら斬りつける。巨人代わりの的、といったが、木片に赤い布を巻いて吊るしただけの、簡素なものだった。
     それをうなじに見立てて、回転しながら削ぐ。
     急に吹いた風に、ふわりと的が靡いて当たらなかった。

    気を取り直して、次の的を探そうとすると、珍しい声がする。

    「アニ、それは当たるまでやるの」

    ミカサがこちらを見ている。
    目が合うと、ぷい、と目を背けてしまった。

    「落ち着いて、的より少し高い枝の上に一度静止して。そこから、しっかり的を見て、斬りかかる」

    あれだけ自分を毛嫌いしていたミカサのアドバイスに、少し嬉しくなる。
    何が何でも、やってやろうと思った。

    言われた通りに、的を斜め下に見下ろせる位置に降り立ち、身を屈める。
    ただ、好機をひたすら待つ。

    風が止み、的が安定した。
    今だ。

    一直線に的に向かい、剣を振り抜く。

    どさり、という、成功を示す音を背中で聞く。
    的の横を通り過ぎる時、木陰に隠れて、的を吊るす縄を持っているアルミンが一瞬見えた。
    何かを言いたげな目でこちらを見ている。
    後で、聞こう。

    そのまま飛んで、次の的を探す。すぐに見つかった。

  19. 19 : : 2014/03/23(日) 04:01:29

    それは、2つ並んで、地上にあった。

    1つは、地面から2mくらいの位置。
    もう1つは、地面すれすれ。50cmくらいの位置。

    両方とも固定された的だ。そう難しくない。
    一度に削ぎ取ろう、と思い、急降下する。

     まず低い位置にある方を削ぐ。
    それから、アンカーを上へ射出して、高い位置にある方を削ぐ。

    その瞬間、聞こえないはずの、というか、覚えていないはずの、2体の巨人のうめき声が聞こえたような気がした。

    巨人を討伐した記憶?わからない。
    でも、これなら思い出せるかもしれない。

    ガスを吹かせて上昇する時、サシャとコニーが見えた。
    その姿を見送った時、一瞬ハンジ分隊長と目が合った。

    鋭い眼。

    何だろう…。
    さっきのアルミンといい、不思議だ。

    でも、とにかく今は集中しなきゃ。

    4つ目の的は、変わっていた。
    調査兵団の緑のマント。それが、吊るされていて、フードの付け根あたりに的であることを示す布が巻かれている。

    変なの。
    そう思いながらも、思い切り剣を振る。

    今までの、3つの的を斬っていく中で、身体は完全に4位の力を取り戻していた。
    出来る、と思った。

    出来た。

    その瞬間に、誰かの悲鳴が聞こえる。
    後ろを振り向くと、ミカサ達が付いてきている。

    別に、誰も叫んでなんか……。

    兵長?

    兵長は、私が切った的が地面に落ちる前に空中で掴み、まるで大切なもののように握りしめている。
    その唇が震えているのが見える。

    何?何なの…?
    さっき聞こえた悲鳴は未だ耳の奥で鳴っていて、怒号のような声に変わっていた。

    的は全て斬った。
    この幻聴のことも話さなきゃ。
    空中で方向転換し、兵長の所に行こうとした時。

    ぷしゅっ。

    急に、気の抜けるような情けない音がする。
    これは…まさか。

     立体機動のガスが切れ、そのまま落ちそうになる。
     反射的に手を伸ばして、枝を掴んでぶら下がる。


     そこまで高い樹ではないが、ここから落ちたらただではすまない。
     ひっ、という、悲鳴に成り損なった声を絞り出しながら、助けて、と心の中で叫ぶ。

     「アニ」

    ミカサが、私の掴んでいる枝の上に降り立ち、私に向かって手を伸ばす。

    「アニ、捕まって」

    そう、言ってくれたはずなのに。
     私には聞こえてしまった。

    “アニ、落ちて”

    消して、上塗りしたはずのものが剥がれ落ちて行く気がした。

    目覚めてから見て来た全てが、繋がっていく。

  20. 20 : : 2014/03/23(日) 04:23:05

    目覚めて最初に見た、興味、恐怖、憎しみが入り混じっているハンジ分隊長の目。
    彼女は言いかけていた。

    「アニ、覚えているかい?わかるだろう、私達には時間がないんだ。すぐにでも全て話して貰いたい。話してくれなければ、貴女には酷いことをすることになる。でも、そんなのへっちゃらだって、貴女は思うんだろうね、だって貴女は…」

    だって私は。

    女型、だもんね。



    「リヴァイは…時々脚を引き摺るように歩くけど、それは何で?」
    何も知らない私の、素直な問いかけ。
    笑っちゃうよ。
    そりゃ、慌てもするよね。
    だって、その脚を傷つけたのは私だもの。


    井戸の中、地下室での訓練。
    急に巨人化しても、抑え込めるように、だろ。


    私はエレン達以外の調査兵とは会わされなかった。
    当たり前だよね。
    彼らの仲間を一体何人殺したか。
    合わす顔もないよね。


    「何してるアニ!休むな!!」
    兵長がそう言ったのは、偶然だろうね。
    でも、あれは、父さんと同じ言葉だった。


    対人格闘の訓練。
    私の突きを避けて、私の目を狙った。
    覚えているよ。人類最強の名に恥じない、あんたの戦い方をね。


    兵長が欲しい、って言ってた力は巨人化のこと。
    確かに、私の硬化能力があれば、ウォール・マリアの奪還も容易いだろうね。


  21. 21 : : 2014/03/23(日) 04:23:19


    極め付けが4つの的だ。
    あれは、私が今までにしてきたことの再現だったんだ。

    1つ目は、トロスト区での、アルミンの作戦だろう。
    ガスの補給をするために、104期の精鋭で斬りかかったんだ。

    2つ目と3つ目は、ソニーとビーンだ。
    ハンジ分隊長があんな目をするわけだよ。

    そして。
    4つ目は…グンタ・シュルツ。
    そうだよね、リヴァイ兵士長。

    そうだよ。あの時もああやって殺したんだ。

    それから、私を見下ろすミカサ。
    落ちて、ってね。
    そう言われたときは、流石の私の心も折れたよ。
    まぁ、これは偶然だったんだろうけど、結局引き金になったね。


    よく出来てる。
    本当に良く出来てるよ。

    これも全て、あんたの作戦かい?
    エルヴィン・スミス。

  22. 22 : : 2014/03/23(日) 04:23:51

    あはは。
    悪魔の末裔の分際で、色々知恵を絞ったんだね。

    でも。

    でもね。


    こんなに愛おしい悪魔を、私は知らないよ。


    私は戦士じゃない、兵士だって言えるなら、どんなに楽だろう。
    私の故郷はここだって言えるなら、どんなに幸せだっただろう。


    私は、あんたの手は掴めないよ。
    あんたはエレンの手でも掴んでな。


    ミカサが伸ばした手を振り払う。
    そのまま、落ちる。

    私の体から、蒼い光が放たれる。

    「アニ!!」

    皆の呼び声を聞く。
    眼下に、ジャンが居る。

    「おいアニ!!お前また…!!また繰り返す気か!!!」


    パキパキと音を立てながら、視界が水晶で埋め尽くされていく。




    リセット、できてたのにな。


    私も、兵士になれて。
    調査兵団も、私と仲間になろうとしてくれて。


    それでも私は。


    この想いごと、この硬く冷たい揺り篭の中に閉じ込めるんだ。


    いつか訪れるその日まで。


    【Reset 完】
  23. 23 : : 2014/03/23(日) 04:36:14
    ホントに書き終わるまで寝ませんでしたww

    もう1時半過ぎた頃から完全な深夜テンションでした…

    勢いで書いたので推敲?何それおいしいの状態です←
    わかりにくいところが多々あるのかもしれませんが、怖いので仮眠取ってから見直しますw

    心配なので一応説明をつけておくと、この物語は一応、ライベルからエレン奪還後、団長も覚醒後の、新リヴァイ班発足~エレン巨人化実験開始前(つまりニック司祭拷問事件前)までの予定です。
    こんなにのんびりしている時間無かっただろ、って話なんですが…妄想なんで!(逃)
    しかもアニの口調の変化も上手く書けてない気がするし…


    というかアニ、誕生日だったのに結局こんなシリアスな話になってしまってごめんよ…

    やっぱり原作に忠実に行くと、アニにはまだ水晶の中で寝ていてもらわないといけないんだ…

    しかも、思いっきり単行本13巻の内容も入ってしまってるし…

    そして、どうしてこんな…リヴァアニな話になってしまったのかわからない。ごめん、わからない。泪飴、ほんとにわからないんだ。ごめん←

    まだまだ色々あるんですが、とりま一旦退散します!
    コメ返も仮眠後にします!

    では、ありがとうございました!笑
  24. 24 : : 2014/03/23(日) 10:58:42
    早朝まで執筆、お疲れ様です!

    アニの記憶喪失かは始まり記憶を取り戻すまでの一連の物語の組み立てが物凄くお上手で、思わず読みふけってしまいました、(・∀・`*)
    要所要所に入るリヴァアニという組み合わせも物珍しく、とても目を惹かれましたねw

    素敵な作品をありがとうございました♪
  25. 25 : : 2014/03/23(日) 13:13:16


    >>3
    88さん!
    88さんが応援して下さらなかったら、この作品を文にしようとは思いませんでした…!!
    ホントに感謝です♪

    >>4
    EreAniさん!
    全然エレアニ要素無くてごめんなさい><
    いち早く応援に駆け付けて下さって、本当にありがとうございました!


    >>6
    マリンさん!
    アニちゃんは、「駆逐依存症」シリーズの2作目で書いたっきりで、普段あまり小説に登場させないので、何だかドキドキでした。
    誕生日は過ぎてしまったけれど、ささやかなお祝いになりますように☆


    >>24
    ゆきさん!
    エレア二じゃなくてごめんなさい汗
    リヴァアニは、本当に自分でもどうしてこうなった、って感じなんですが、たまにはこういうのもいいかな、という泪飴なりの遊び心だと思って戴きたいです笑
    まぁ、お互いに恋愛感情は無い予定で、むしろ、ああいう出会い方をしなければ、ちゃんとお互いのことを思いやれた、アニだって普通の女の子なんだ、というのを描きたかったです^^



    皆さん、本当にありがとうございました!!
  26. 26 : : 2014/04/07(月) 13:20:22
    おおおこれは良い!
    面白かったです

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tearscandy

泪飴

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