下書き②投稿用(泪飴)
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- 1 : 2014/05/06(火) 18:02:42 :
- 相手から受け取った原稿を、今度はこちらで、自分のオリジナルで仕上げて行きましょう!
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- 2 : 2014/05/06(火) 18:43:05 :
静かな市街地の朝。
そこに、百人を超す兵士の一群がやって来る。
その先頭を行くのは、第13代調査兵団団長、エルヴィン・スミス。
カラネス区の壁外へ繋がる門の前には、血気盛んな調査兵団の兵士達が各々の愛馬に跨って並ぶ。
開門は今か、今かと興奮が先走るが、その心中は、興奮と、それと共についてくる強い恐怖とがない交ぜになっている。
真の恐怖を味わう前の兵士達の背中で、自由の翼は風に吹かれ、儚くも美しく踊る。
エルヴィンの広い背中を眺めるのは、分隊長であるミケ・ザカリアスとハンジ・ゾエ。
そして、そのはるか後方に立つ、兵士長たるリヴァイもまた、エルヴィンの背を想う。
ハンジは、壁外に広がる地平線や、巨人達を想像して、口元に笑みを浮かべている。
その横に並ぶミケの目に、荒く上下するエルヴィンの肩が映る。
ふわりと風が吹くのを感じて、ああ、風でマントが揺れてそう見えるだけか、と思って、フッと笑う。
だが、風が止んでも、やはり相変わらず肩が動いている。
むしろ、マントが風になびいていてもわかるくらいに、エルヴィンは肩で息を何度もしているのだ。
ミケは思わずごくりと息を飲む。
何度も死線を共に生き抜いてきたエルヴィンの、普段は決して見せない姿。
今すぐにでも駆け寄って、大丈夫か、と聞きたいくらいだが、それは兵員の士気を下げることに繋がりかねない。
祈るように空を見上げれば、壁上の兵士達が、壁の門付近の巨人を遠ざける作業に勤しんでいる。
当のエルヴィンは目を閉じ、エレンが調査兵団に託された日のことを思い返していた。
夕陽の差し込む審議所の控え室。
ハンジの手当を受け、ソファーに座るエレン・イェーガーの前に立つ。
「すまなかった…」
少しばかりの怯えと、緊張の混じった表情で、エレンはこちらを見上げてくる。
視線を合わせるために身を屈め、笑みを交えて握手を求めた。
「君に敬意を…エレン、これからもよろしくな」
「はい!」
エレンは憧れの調査兵団の入団が決まった実感が湧いて来たらしい。
上官となったエルヴィンの期待に力の限り応えよう、という熱意を胸に、はちきれんばかりの笑顔でその手を握り返した。
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- 3 : 2014/05/07(水) 10:06:03 :
控え室は、先程より更に傾いた夕陽が射し、窓から外を眺めるミケの横顔をオレンジ色に染めている。
ハンジとエレンが控室を出て行って静かになると、エルヴィンはエレンが座っていたソファに歩み寄る。
そこに座ったままのリヴァイの横に、静かに腰を下ろす。
「エルヴィン、おまえの言うとおり、効果的なタイミングとやらでカードが切れて…あれだけの啖呵を切った。今回の壁外調査、あいつは本当に役に立つのか…?」
リヴァイはエレンを足蹴にしている最中、エレンの反応を観察していた。
その眼に秘めた、化物じみた野心は相変わらずだったが、その他においては、ただの子どもだった。
身体が固定されているとはいえ、エレンは無抵抗のままだったからだ。
「まぁ…いつも通り、出たところ勝負に挑んでこその調査兵団、だ…無論、エレンが巨人の力を発揮してくれれば、不測の事態を切り抜けることが出来るかもしれないが、リスクは大きい…」
エルヴィンは両膝に肘をつき、両手指先を重ねると、その上に顎を乗せた。
一見すると遠くを見つめているように見えるが、その表情の裏に何らかの思惑を秘めている、とミケは気づいた。
近くに置いてあった木製の椅子を持ってきて、背もたれを抱えるように座り、重たそうに口を開く。
「エルヴィン、今回の壁外調査…何か重大な秘密でもあるのか?エレンの参加とは別の…これまでとは違う目的が…?」
「まぁ…まだ何とも…」
やはり。
エルヴィンには何らかの秘めた考えがある。
だが、本人がまだ話すべきでないと考えるのなら、今は聞くべきタイミングではないということだ。
幸い、まだ時間はある。
エルヴィンにも、俺達にも。
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- 4 : 2014/05/07(水) 10:06:09 :
スン、と鼻を鳴らしたミケとエルヴィンを交互に見てから、リヴァイが口を開く。
「俺は…これから、俺と共にエレンを監視する兵士達を集め、新たな班を作る…それでいいだろう?エルヴィン…これから、何があろうと、太刀打ちできる…特別な作戦班が必要だ…お前の思惑を、頭の中だけに留めておくつもりじゃねぇんならな…」
審議所での一計は、全てエルヴィンが考えたことだが、その派手なパフォーマンスを演じたのは自分だ。
ならば、エレンを調査兵団に引き入れたことが何らかの不利益を起こすのなら、その責任を取るべきだ。
いや、それだけじゃない。
エレンに対して、俺の心のどこかにこびりついた、エレンが本当に人類の味方なのか、という疑念…そしてその奥にある、憎しみと殺意。
巨人になれるからといって、エレンの本質が巨人と同じというわけではないのに、沢山の部下や仲間達を奪ってきた、憎いあの化物とエレンを同一視せずにはいられない。
こうしてみれば、自分もあくまでもただの人間に過ぎないのだな、と実感する。
特別作戦班の編成にあたり、今一度自分自身を見つめ直すリヴァイの眼は鋭い。
だが、微かに温かい光が差している。
エレンを「異端」として憎み、疑う彼と共に、エレンが人類の希望だと信じてやまない彼が居る。
その矛盾を孕んだ灰色の瞳が秘めた、複雑な心境の渦を見抜いたエルヴィンは、静かにくすりと笑う。
「そうだな…その場合はあの旧本部の古城を使え。班員は、もう目星はついているんだろう…リヴァイ?」
「ああ。だが待て…あの古城はかなりの長期間、誰も使っていないはずだが…?」
「そうだ…しかし、何かあったときのエレンを拘束できる地下室を備えているし、街からもかなり離れている。調査までの短くも長い時間を、エレンと共に過ごすには絶好の場所だ」
その通りだが、最初の数日は朝から晩まで掃除三昧になるのは間違いなさそうだ。
リヴァイは小さく舌打ちする。
「まぁ…立体起動装置をたやすく操るような奴等ばかりだ…あいつらに任せれば古城も輝きを取り戻すだろう」
「とにかく、班の兵士の選抜はお前に一任する。私はもう行かなければ…」
エルヴィンとミケが部屋を出て行った後、一人残されたリヴァイは目を閉じる。
今回の壁外調査に対し、エルヴィンが抱えている得体の知れない策略とは、いったい何なのか。
あいつは何を見ている?
いや、何を見ようとしている?
普段から刻まれている眉間の皺が、更に深くなる。
「ちっ、考えても仕方がねぇか……」
誰も居ない部屋で小さく呟くと、リヴァイは組んでいた足を元に戻し、立ち上がった。
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- 5 : 2014/05/07(水) 13:59:09 :
翌日、エルヴィンは執務室で作業をしていた。
壁外調査の要とも言うべき長距離索敵陣形の、各兵の配置計画を立てているのだ。
今回の調査には、104期の新兵達も参加させる。
それによって、細かな変更点が幾つか出て来るのだ。
……この陣形で、私は今まで、どれだけの仲間を死に追いやったのだろうか。
エルヴィンは眉をしかめ、図面をペン先でつついた。
自分の作戦で多くの仲間や部下を巨人に食わせてしまった罪悪感が、今更だとわかりながらも、重くのしかかってくる。
エルヴィンのペンは、索敵班の配置を何度もなぞる。
自分の作戦通りに事が運べば、次の壁外調査では、特に索敵の兵が危険に晒される。
それぞれの人生をこの作戦で終わらせてしまうかもしれない。
それでも、エルヴィンはペンを走らせる。
その手を突き動かすのは、父への思いだった。
…父さん、俺は…あの仮説を証明したいがために、罪のない兵士達の命を捧げることになるかもしれない――
かつて、敬愛していた父を死に追いやってしまったその仮説は、今は、エルヴィンを調査兵団に留め、真実へと導く道標となっている。
幼き日、墓石に刻まれた父の名を目の当たりにした時、いつか、この世界の真相を明らかにしてやる、と誓った。
そしてその暁には、ここに再び報告に来よう、と。
それ以来、エルヴィンが父の墓へ足を運ぶことは殆ど無かった。
訓練兵団時代の淡い恋心も、調査兵団に入ると共に捨て、ただ毎日、兵団のために全てを捧げて走り続けて来たのだ。
エルヴィンの思考を遮るように、ノックの音が響く。
「エルヴィン、俺だ」
「ミケか…入れ」
気がつけば、左手の甲であごを支えて、長く考え込んでいたようだ。
ペン先は、空中で止まっている。
昨日も、リヴァイよりも先に、俺の考えを鋭く突いて来た男だ。
うわの空で考え事をしていたことを知れば、間違いなく追及してくるだろう。
ペンを動かし、作業に没頭しているかのような態度を取る。
急用なら、俺が作業をしていようと、していなかろうと、構わず聞いてくるはずだからだ。
部屋に入ってきたミケは何も言わず、私の机を通り過ぎて行く。
私の背後の窓際に立つと、黙ってハンジが捕らえた巨人の実験場を眺めていた。
…こいつ、やはり何か感付いたな――
ミケとは長い付き合いだ。
だからわかる。
この生来寡黙な大男が、この部屋に入って来て何も話さない時は、いつも決まって何かを腹に抱えている時だ。
「30日後に拠点作りの壁外調査…それも今期卒業の新兵を交える」
「入団する新兵がいれば――」
静かに話しながら、エルヴィンは何食わぬ顔で定規を手に取る。
淡々としたミケとの受け答え。
ミケは目を細め、鋭い眼差しのまま問う。
-俺にも建前をつくのか?-
ああ、決定的な一言が聞けた。
この男になら、気兼ねなく話すことが出来る。
俺の心が流す血の匂いまで嗅ぎつけてしまう、この男になら。
「時期が来れば話す」
ミケの視線をしっかり受け止める。
静かにミケが頷くと同時に、再び執務室のドアが開いた。
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- 6 : 2014/05/07(水) 13:59:46 :
リヴァイが、新しい班員達を連れて来た。
「エルヴィン、こいつらが俺の班員だ――」
エルヴィンのデスクの前にエルド・ジン、グンタ・シュルツ、オルオ・ボザド、そしてペトラ・ラルが並び、心臓を捧げる敬礼をする。
リヴァイが一人ずつ紹介する中で、エルヴィンは違和感を覚えた。
ペトラが紹介するリヴァイの眼差しに、普段は無い熱が籠っているような気がする。
まさか、な。
まぁ、いい。
リヴァイの冷静さは多少のことでは揺るがない。
それこそ、時期が来た時に尋ねればいいことだ。
「リヴァイからはまだ聞いていないと思うが、これから君達には、次回の壁外調査までの時間をエレンと共に過ごしてもらう。…この特別作戦班…通称、リヴァイ班の一番の使命とは、エレンの死守と監視だ。いかなる敵からも、エレンを守れ。そして、エレンが暴走した場合は、どんな手を使ってでも止めるように…いいな?」
エルヴィンの言葉に、一同は顔を強張らせる。
そんな中、エルヴィンの鋭い眼の奥に、グンタは何かを感じ取った。
団長は…まだ、何かを隠しているのではないか?
何かを、考えていらっしゃるような気がする…。
いや、それは当然か。
今回の壁外調査は、兵団の、場合によっては人類の未来を大きく変えるかもしれない大勝負だ。
すぐには明かせない秘密があっても何ら不思議ではない。
そもそも、調査兵となったからには、団長の命令に全身全霊で従うべきだ。
例え、その意図を汲み取ることが出来なくとも。
「了解です!!」
右手を左胸に、強く押し当てる。
緊張で心臓が暴れているのを手の平に感じながら、しっかりと敬礼する。
エルヴィンはそれを見て大きく頷く。
「頼んだぞ…では、リヴァイ、」
「ああ……翌朝にはエレンを連れ、調査兵団旧本部へ移動する…お前達は、さっそくその準備に取り掛かれ…恐らく、ひと月はそこに滞在することになるはずだからな」
「はい!」
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- 7 : 2014/05/07(水) 14:00:33 :
リヴァイは最後に部屋を出たペトラがドアを閉めるのを確認すると、舌打ちしてエルヴィンのデスクに軽く腰掛けた。
組んで、浮いている方の脚が微かに揺れる。
「おい…てめぇ、何考えてやがる?」
「何って…エレンを守りながら、壁外調査へ――」
「…違うだろ…?」
リヴァイの、突っかかるような言葉に、ミケも眉を潜める。
もともとリヴァイは誰に対しても高圧的な態度ではあるが、これは威嚇に近い。
普段以上に鋭い眼が赤い光を湛えているのを見て、ミケも口を開く。
「エルヴィン、話すべき時期とは…今、なんじゃないか?」
エルヴィンは、ふ、と細く息を吐く。
「…まだ、推測の段階…とだけ、先に付け加える…」
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- 8 : 2014/05/07(水) 14:00:41 :
5年前。
超大型巨人が出現した後、鎧の巨人がウォールマリアの内門を壊した。
それ以来、あの2体は同時に出現するものだ、という固定観念が生まれつつあった。
だが、先日の襲撃では、鎧の巨人は現れなかった。
偶然だった、といえばそれまでであるが、エレンの巨人化といい、何か意味がありそうだ。
それを明らかにする絶好の場が、今回の壁外調査だといえよう。
リヴァイが目の色を変えてエルヴィンの言葉を遮る。
「待て…!!それは…エレンを囮に、鎧をおびき出すということだろう…?ただでさえ危険な壁外で、しかもその意図もあいつらに隠したまま……そんな推測に、なぜ部下の命を晒すほどの価値があるのか?」
「エレンのように、人間が知性を持った巨人へと変身することが分かった今、超大型と鎧の2体には、『中身』である人間が存在する可能性がある。そして、トロスト区に、鎧が現れなかった理由…それが、その『中身』の人間が、壁内でエレンの巨人化を目撃したからだとしたら?」
「まさか、兵団内にスパイがいたってことか?」
「そうでなければ、トロスト区の内門が無事だった理由が説明できない」
眉をしかめ答えるエルヴィンの後ろで、額に汗を浮かべたミケが問いかける。
「そのスパイは…一体誰なのか、見当がついているのか…?」
「いや…それはまだだ…エレンを目撃したのだから、あの場に居た兵士の可能性が高いとは思うが…ただ、これだけは言える…5年前の超大型と鎧の巨人出現以前の100年間、そいつらは現れていない。ということは…」
「そのスパイは5年前の襲撃時、壁内に紛れ込んだ…ってことか?」
ミケは目を見開く。
「さすがだな、察しがよくて助かる…今回の壁外調査では、そいつを炙り出すことを目指す……無論、何事も無ければ、『エレンをシガンシナ区に送るための試運転』という、表向きの目的を達成するだけとなるが…」
「なるほどな…なら、俺の班にもそれを伝えておこう」
エルヴィンは遮るように言う。
「いや、お前の班員ですら、調査兵になって5年未満だ。精鋭とはいえども、敵でない確証は無い…」
「あいつらが、人類に仇なす巨人だと…?」
リヴァイは舌打ちしてエルヴィンを睨む。
「リヴァイ、まるでお前は…ペトラを、危険な目に遭わせたくない……とでも言いそうだな?」
エルヴィンは両肘をデスクについて両手の指を絡ませその上にあごを乗せる。
その目は遠くを見ており、リヴァイを責めてはいないが、リヴァイ本人は言葉に鋭さを帯びて行く。
「何を…あいつだけじゃない…危険な目に遭わせたくないのは、俺の班の人間、そして兵団員、全員だ。例外なんかない…」
「まぁ…いいだろう、お前が、らしくなく…ペトラを熱っぽく見つめていた…というのは、寝不足の俺の勘違いだろう」
鋭い眼差しのままリヴァイは言い放つ。
「…お前はいいよな…昔惚れていたとかいう、マリーって女…薄ら髭の野郎が守ってくれるんだからな…」
エルヴィンは鼻で笑い、リヴァイを見るが、これ以上何も語らない。
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- 9 : 2014/05/07(水) 14:01:12 :
リヴァイは何度かエルヴィンと王都に行った時、人には興味を示さないエルヴィンが、珍しく道を行く人々を目で追っていることに気づいた。
馬車がある屋敷の前を通った時、ちょうど憲兵団師団長のナイル・ドークが出てきた。
何だ、ナイルを見ているのか。
「おい、エルヴィ…」
言い掛けて、止めた。
エルヴィンの目が、すぅ、と細められたからだ。
ナイルの後に続いて、子供連れの女性が出て来た。
ナイルのコートの襟が立っているのを微笑んで直し、はしゃぐ子供達を宥めて抱きかかえる。
ナイルもまた、兵団服を着ている時には見せない、柔らかい笑顔をその女性と子供たちに注いでいる。
その女性がナイルの妻で、あの子供達の母親であることは、誰が見ても明らかだった。
女性を見るエルヴィンは、安心しきったように、安らかな笑みを浮かべている。
その女性も視線を感じたのか、こちらに美しい眼を向けた
マリー。
エルヴィンの唇が微かに動くのを、ため息のようにその女性の名を漏らすのを、リヴァイは黙って見ていた。
あえて触れずに来たことだったが、エルヴィンがペトラのことを言うのなら、俺も言ってやろう。
「だがな、エルヴィン…巨人が壁内で現れれば、その女もどうなるか――」
「…その通りだ。所詮、壁の中の民衆も、壁外に出る我々も、巨人を前にすれば風前の灯のような命だ…だからこそ、何をしてでも…我々は真相に辿り着かなければならない……壁内において、人間の姿をした敵と、我らの同志を明確に線引きする基準、それは今のところ、調査兵としての兵歴が5年未満の兵士…これだけは、残念だが例外は作れない。わかってくれ、リヴァイ」
そう言われたところで、リヴァイは当然納得できるわけがない。
だが同時に、リヴァイにはエルヴィン以上の作戦を立てることも出来ない。
長年培ってきたエルヴィンとの信頼関係を踏まえても、同意せざるを得なかった。
「…わかった……俺がしっかりして…あいつらを守ればいいだけの話だからな……エルヴィン、そいつが巨人として現れた場合、どうするつもりだ?」
「捕獲する」
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- 10 : 2014/05/07(水) 14:01:31 :
「巨人を?どうやって?…ソニーとビーンとはわけが違うぞ?」
ミケは驚きで早口で問う。
「まぁ…それはハンジの分野だろう。彼女と共に、知性巨人を捕獲する方法を考えることにする」
その時のエルヴィンは現れるであろう巨人は鎧だと踏んでいた。
「そいつが現れたら…どれだけ部下が死ぬんだろうな…全人類を壁一枚分後退させるような巨人と、壁外で遭遇するんだ…全滅も覚悟した方がいいんだろうな…」
「おそらく…最低でも、半分以上が命を落とすだろう」
「多くの命を落として…そいつを捕まえて…それが何か意味を成すのか?」
「人類滅亡を阻止するための輝かしい一歩…何よりも価値のあるものだ」
「ほう…」
リヴァイはエルヴィンが絡める両指が震えていることに気づく。
「エル…!!」
「…命を投げ打つ覚悟で皆に臨んでもらう…俺も含め…今までとは比べものにならない、強い覚悟が必要だ…」
エルヴィンは手汗の光る手の平を見つめる。
「この俺が…震えるとはな――」
「平気か?」
「…ああ、平気だ……ミケ、リヴァイ、5年以上調査兵団に属する兵士達を呼んでくれ。全てを話した上で、箝口令を敷くことになるだろうが…」
リヴァイは、デスクから降り立つと、エルヴィンを見上げる。
その眼は、もう兵士長の眼に戻っていた。
「5年以上か……残念だな…5年もこの兵団で生き残ってるような奴らは、皆お前の『博打』に慣れすぎていて…全員が、迷わず心臓を捧げるだろうな…俺も含めて、だが…」
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- 11 : 2014/05/07(水) 14:04:30 :
壁外調査の前日、エルヴィンは人知れず兵団本部を抜け、何十年ぶりに父親の墓にきていた。
墓標は汚れ、人が来た形跡は何年もないのが安易にわかった。
父親の名前を指先でなぞり、跪いて祈る。
…父さん、長い間、すまなかった…明日はあのときの無念が晴らせそうだが…その引き換えに俺も近いうち、そっちにいくかもしれない。今日は前もっての挨拶に来た…
再び父の名前をなぞると拳を強く握り、振り返らずそのまま本部に戻る。
彼なりの覚悟の儀式を終え、気分は晴れやかだが、尋常ではない緊張感に左胸の鼓動は強く鳴り響いて止むことが無い。
未来を見つめるその双眸は、どこか弱々しかった。
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- 12 : 2014/05/07(水) 14:17:18 :
目をそっと開いたエルヴィンの背中の翼は、命の重みを背負い、未だ羽ばたく準備が出来ない。
背筋を伸ばしても、重い。
涼しい顔をしても、手綱を持つ手に力が入るのを抑えられない。
リヴァイは、静かに自分の位置を離れ、エルヴィンの傍に向かう。
冷静さを欠いたその表情に、リヴァイは驚く。
ふざけるな。
ここにいる連中は、皆お前を信じて戦うんだぞ。
皆、帰りの切符があるかもわからないまま、進むと決めたんだぞ。
お前がそんな顔をしてどうする。
発破をかけてやろうと思いながらエルヴィンに近づくリヴァイは、ふと視線を感じた。
気配を追うと、その先には、隊列を見送る人垣の隙間から、心配そうにエルヴィンを見つめる女性の姿があった。
じろり、と見ても、その女性はリヴァイには気づかない。
あの女は。
リヴァイ、エルヴィンにそっと近づく。
「エルヴィン…お前の位置から南西方向…ナイルの女が、お前を熱い眼差しで見ている…」
それだけ言うと、リヴァイは持ち場に急いで戻った。
エルヴィンの手綱を持つ力にさらに力が入る。顔を少し動かしてそちらをみれば、マリーが笑っている。
…子供の頃、父さんが貸してくれた本に書いてあった…
戦いに臨む兵士は、一輪の花を見て心を安らげてから戦場に向うと…。
俺も一輪の花を見つけたようだ、マリー――
正面を見据え右口角に笑みがこぼれると、壁上の駐屯兵から開門の準備が整ったとの合図が届く。
震えはもう、止まっていた。
リヴァイのことを言えないな、と苦笑してから、幕開けのようにゆっくりと開く重い門を睨みつける。
直後、マリーに送っていた優しい眼差しが、修羅のような眼に変わる。
「第57回、壁外調査を開始するッ!!前進せよーーーッ!!!!!!!!」
命を削る怒号のような号令を上げながら、愛馬と共に勢いよく駆け出す。
壁外のどこまでも広がる開放感が溢れる空気を包んだ青空の下、エルヴィンの自由の翼のマントがなびく。
多くの命を背負った翼は重く、簡単には羽ばたけない。
だが、一度翼を広げてしまえば、その重さ故に、どんな強風にも負けずに風を切ることが出来る。
エルヴィン率いる調査兵団は。真の自由を求め、大空の舌を、力強くどこまでも駆けていった。
【END】
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