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エレン「…無駄、だな」

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  1. 1 : : 2024/11/26(火) 00:18:37
    Vanitas Vanitatum Omnia Vanitas.

    空の空、一切は空である。

    人生を生き、そして巨人への深い憎しみを抱く俺の心に刻んだ言葉。

    全ては虚しい。故に己の人生に意味などない。

    そう思いながら、俺は今日まで頑張って生きてきた。

    圧倒的な矛盾。しかしそれは、俺の心がその言葉に反抗したい一心がある事を示す。

    だが、それもここまでかもしれない。

    ある時期を境に伸び悩む俺の成績、肉体、結果。周りの奴らは成長するのに、俺だけが幾度となく努力を行っても置いていかれる虚しさ。

    Vanitas Vanitatum Omnia Vanitas.

    今なら心の底から言える。

    俺の努力は虚しいものだったのだと。









    「エレンが訓練をサボり始めた」

    「…え?」

    僕は幼馴染の口から信じられない事を聞いた。

    「嘘、だよね?」

    「本当。現に一昨日の対人訓練ではアニやユミルと同じくサボっていた上に、昨日の立体機動では最初に数体、倒すのではなく討伐補助を行って残り時間はただ飛んでいた」

    「…あの、エレンが?」

    未だ信じられない。あのエレンが訓練をサボるなんて。

    「何かあったのかな」

    「分からない。昨日聞いてみたけど、適当に流された」

    「…一応、僕の方でも聞いてみるよ。丁度もうすぐ晩御飯の時間だからね」

    「お願い。私は今日はサシャ達と食べる」

    「うん、任せて」















    「エレン、最近訓練をサボってるそうじゃないか。何かあったの?」

    アルミンが唐突に話しかけてくる。

    咀嚼していたパンを飲み込んで、俺は無言でスープに手を付けた。

    「話してくれないの?」

    「…話す気になれないだけだ」

    嘘だ。本当は話せるし、別に隠すことでもない。気分的に、今は会話をする気分じゃない。

    「悪い、少し具合が悪いみたいだ。適当に風呂入って寝るから、誤魔化しておいてくれ」

    「あ、うん…」

    席をたった時だ。

    「おう死に急ぎ野郎、今日は愛しの保護者がいなくて意気消沈してんじゃねえか」

    「…」

    ジャンか…前から思っていたが、なんでこいつは俺に突っかかってくるんだろうな。面倒臭い。

    「聞いてんのか?おい。無視すんじゃねえよ」

    「…話はそれだけか?悪いが後にしてくれ」

    「テメェ…!」

    背を向けて立ち去ると、背後から俺に向かってくる足音が聞こえる。

    俺の真後ろに迫ってきた瞬間、俺は身体を大きく横にずらして脚を前に出した。

    「うおっ!ぐっ!?」

    「…俺は体調が悪い。遊びたいならアルミンかミカサのとこ行ってくれ」

     今度こそ俺は食堂を出た。










    「っつ…」

    「大丈夫?ジャン」

    「おう、すまねえ…ってぇ。おいアルミン、アイツどうしちまったんだ?最近様子がおかしいぞ」

    「それが僕にも…様子がおかしいのだってさっきミカサに聞いて気づいたくらいだし」

    「体調が悪いだの、そんなやつが攻撃を見ずに避けれるかっての。ぜってーなんか隠してやがるな」

  2. 2 : : 2024/11/26(火) 00:31:53


    …風呂なんて言ったが、正直風呂に入るのも面倒臭いな。

    今日は汗なんて書いてないし、このまま寝ちまうか。

    …部屋に戻ったらアルミンと顔合わせちまうしな…。

    仕方ない、今日はどっかの部屋借りて寝るか。










    「うー、寒い寒い…」

    晩御飯に間に合って良かったー、寒いからお馬さん達が中々大人しくしてくれなかったから困ったよ。

    …ん?

    「あれ、エレン…空き部屋になんのようがあるんだろう」

    私の視界の先にいるエレンは、確か誰も使っていない空き部屋の中に入っていった。

    人の通らない場所だし、何か隠れてやってるのかな?ちょっと見てみようかな。

    そーっと、そーっと…足音を立てずに近づいて、私はドアを少しだけ開ける。

    中は見たことなかったけど、訓練兵用の予備の布団やタオルケットがたくさんある部屋だった。

    エレンはその中で何も喋らずに床に座っている。

    …本当に何をしてるんだろう、もしかして寝てるのかな?

    少し心配になって、ドアをもう少し開けて静かに中に入る。

    近寄るとエレンは目を閉じて寝ている。

    なんでこんなところで寝てるんだろ、起こした方が良いのかな。

    …うん、こんなところで寝てたら風邪引いちゃうし、起こした方がいいよね。

    「エレン、こんなとこで寝たら風邪ひいちゃうよ」

    「ん………」

    目を少し開けて、エレンは私を見つめる。

    「…クリスタか、なんでここに?」

    「エレンがここに入っていくの見ちゃったから。何してるのかなって」

    「…ただ寝てただけだ。何も気にすることはない」

    …? エレンってこんな性格だったっけ。

    「でも風邪引いちゃうと思って」

    「…そういえばそんな奴だったな。…分かった、別の所で寝るよ」

    そう言ってエレンは立ち上がって、私の横を通り過ぎる。

    「うん、風邪ひかないようにね。おやすみ、エレン」

    「…あぁ」

    短い返事だけ残して、エレンは部屋から出て行った。

    なんか様子がおかしかったけど、眠たかったのかな?

    それにしても、エレンの寝顔…ちょっと可愛かったかも。

  3. 3 : : 2024/11/26(火) 18:09:17


    翌日。

    数少ない休日の日。

    …眠いな。

    以前の俺はよく自主練をやっていたもんだ、今だとただ面倒臭いとしか思わないのに。

    …空が青い。

    「あれ?エレン」

    …クリスタか、昨日といい、なんで俺の場所が分かるんだ?

    俺は手を上げるだけの挨拶をした。

    「もー、挨拶はちゃんとしなきゃダメだよ」

    「…こんにちは」

    「はい、こんにちはっ。エレンはお昼寝中?」

    「…あぁ」

    「あらら、凄い眠そう………」キョロキョロ

    見て分かるなら放っておいてくれよ…。

    「…よしっ」

    んっ…?

    「私もお昼寝しちゃおーっと」ポスッ

    「…」

    「エレン見てたら私も眠くなっちゃって…」

    「…そっか」

    確かに、うとうとしてる…。

    …まぁ、いいか。

  4. 4 : : 2024/11/27(水) 00:28:29


    エレン、凄く眠そう。

    つられて私もうとうとしちゃったけど、男の人とこんな距離で寝たことないから、緊張が勝っちゃってる。

    顔が熱いなぁ。

    …。

    「…」ジー

    「スー…スー…」

    睫毛長いなぁ…唇…はっ、私ったら何を考えて…!?

    「…!!」バタバタ

    「…スー…(なんか騒がしいな…まぁいいか)」

    め、目を逸さなきゃ…エレンじゃなくて空を…

    「…(あ…腕…)」

    私の頭の上にあるエレンの腕。

    「…うー…えいっ」ポスッ

    の、乗っけちゃった…!

    柔らかい…?いや硬い?どちらにしても心地の良い枕のような感じがする。

    人肌の温もりがあって、足にもお腹にもまるでエレンに包まれてるような…え?包まれてるような?

    私は薄目を開けて状況を見た。

    「ぴっ…!?」

    「スー…スー…」ギュー

    つ、包まれちゃってるぅ!?エレンに包まれちゃってる!?

    エレンの脚が私の足に絡みついて、腕枕とは逆の腕が私のお腹の上にあって…あわわわわわわっ。

    ち、近いよエレンっ!いくらなんでも精神的にも物理的にも距離が近すぎるよエレンっ!

    でもあったかーい!(迫真)

    …あと良い匂いがする。

    お日様?いや、こう…なんだろう、あぁ、ここが私の帰る場所なんだって思えちゃう感じの…な、何を言ってるんだろ私。

    でもやっぱり心地が良過ぎる。こんなの知っちゃったら私もうベッドじゃ満足できない身体になっちゃう…!

    い、今だけ…今だけは堪能しよう。この暖かみを。

  5. 5 : : 2024/11/27(水) 17:52:26


    起きたらクリスタが腕の中に…なんでだ?

    暖かいから別に嫌ではないが…腕が動かせないのが辛い。

    完全に腕を枕にしてるから引き抜けもできないしな…このままでも良いがせめて楽な姿勢になりたい。

    「スー…スー…」

    「…」

    そうだ、別に腕を動かさなくとも、腕を起点に身体を動かせば良いのか。

    だったら、クリスタを障害としてではなく、何か別のもの…そうだな、枕と仮定しよう。

    枕にされている腕を下に、俺がクリスタに抱き付けば…。

    「ピッ…⁉︎」

    ついでに脚も寒いから…よし。

    あったけぇ…。
  6. 15 : : 2024/11/27(水) 18:23:36


    「ん…」

    あれ…確か、私エレンと…。

    目を擦ろうとして、腕を上げようとする。しかし、何かに遮られて腕が上げられなかった。

    「…?」

    「…もう起きたのか」

    「…!?」

    え、エレン!?なん…はっ!そっか私エレンと!?

    は、離れ…られない!?

    「え、エレン?」

    「…もうちょっとこのまま…ダメか?」

    なっ、そんな子犬のような目で見られても…見られても…うぬぬ…!

    「…い…いいよ?」

    「…そっか…」

    そう言って、エレンは抱きしめる力を少し強くした。

    脚も強く絡んで、エレンの顔が私の頭のすぐ近くに来る。

    私の顔は茹でられたように赤くなる自覚があった。だって火傷しそうなほど熱いから。

    え、エレンってこんな積極的な性格だったっけ。もっとこう…アニの言葉を借りるなら訓練バカって感じの人で、あんまりミカサ以外の女子との接点を作ろうとしない人だと思ってたんだけど…。

    い、今はなんかこう…無気力?噂だとこういう休日とか、就寝時間後に睡眠時間を削って自主練とかしてるって聞いたけど、それとは全く真逆に見える。

    あんまり関わらない私だけど、今のエレンはなにかおかしい…というか、あまり関わりのないエレンにこう抱きしめられてる私って…。
  7. 16 : : 2024/11/27(水) 23:40:59


    クリスタと別れ、数時間後

    夕飯時

    「…」モグ…

    「…エレン、食べるの遅いけど体調が悪いの?」

    「…いや、寝過ぎて食欲がな…」

    「…明日は訓練だから、食べなきゃダメ」

    「…おう、そうだな」モグ…

    「…やっぱり、何か…変?」

    「何がだよ?」

    「…変」

    「何がだよ…俺からしたらお前が変だぞ」

    「…私は変じゃない。エレンが変」

    「へいへい…まぁ、気にすることじゃねえよ。原因も、理由も分かりきった事だからな。…だから心配すんな」ナデナデ

    「ん………分かった。でも、何かあったら教えて。私が力になる」

    「あぁ、頼りにするよ。…アルミン、このパンサシャにやっといてくれ。千切って食ったから口は付けてねえからよ」

    「…あ、え、う、うん(なんか、とんでもない光景を見た気がする)」

    「…いいの?明日訓練なのに」

    「食わねえと元気も出ねえけど、食えねえのに食っても苦しいだけだからな。スープだけ飲んで早く寝る」

    「そう…分かった」

    「…(やっぱりエレン、何かがおかしい…何がだ?もう少し情報を集めないと、明確な答えが出ない。…協力者を作る必要があるね)」


  8. 17 : : 2024/11/27(水) 23:57:54


    「立体機動…久々だな」

    「確かに、最近は座学と対人格闘だけだったからな。腕が鈍ってねぇか心配だぜ!」

    「鈍る腕も無いのによく言えますねー」

    「んだとサシャ!?うっしゃエレン!今日誰がパネル一番倒せるか競争しようぜ!負けたやつは勝ったやつに晩飯のおかず一品献上な!」

    「そ、それはパンでも良いんですか!?」

    「あー、どうするエレン?」

    「どっちでも良いぜ。どうせ俺はパンをやるからよ」

    「昨日に続いて良いんですか!?エレンは神様です!」

    「おいおい最初からそんな負け腰かよ!へっ!だったら俺がぶっちぎりで勝って腹一杯食ってやるよ!」

    「私も負けませんよー!」

    「…ふっ(飯が関わる勝負事だと、サシャは強いからな。コニーじゃ勝てないだろ。…さて、まぁ適当に足首とかを削いで飛んでおくか)」













    「訓練、開始!!!」

    「うおっシャァッ!」パシュッ

    「パァァン!!!」パシュッ

    「よっと」パシュッ

    思った通り、サシャが一番前か。なら俺は適当にコニーの補助に回るか。

    あと数十mでパネル…あ?俺今何を…

    違和感を感じた瞬間、俺の視界に模型のパネルが映った。

    「…?」

    今、俺あれが見えてなかったのに、なんであるって確信したんだ?位置はランダムな筈なのに…。

    …まぁいいか、じゃああのパネルの足首を削ぎに行くか。

    「ふっ」パシュッ

    目標は足首、目に映る“ライン”に身体を走らせて…削ぐッ!

    「シッ!」ズバァッ!

    うし…う、ん?あれ、今俺…。

    思わず木の上で立ち止まって、模型を振り返る。

    深く抉れた模型の足首。切る場所である専用のクッションよりも深く抉ってしまったようだ。

    いや、それよりも無意識過ぎてよく分からなかったが…今目に映った“ライン”はなんだ?

    目標を意識した瞬間に目に映った青い線…あれが出てきた瞬間、俺は無意識の内にあの足首を削ぎ落とした。

    …一体何が起きている?…いや、まぁいいか。それよりこれ以上立ち止まると不審に思われる、あまり目を付けられるのは気分的に面倒だ。

    さっさと行こう。

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著者情報
Garia

うづき

@Garia

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