「声は良いんだけどねえ」


苦笑いしながら声優事務所の面接官は言葉を続ける。


オブラートに包んだ言い方ではあるものの、要するに、近頃声優は半ばテレビタレントの様なものである事から、容姿が伴っていないと活躍は難しいであろうということ。


ここ半年で不合格となった他の声優事務所と同じ言い分だった。


先日、実家に帰った際、気丈に送り出してくれた両親だが、その目に心配の色もまたあった。


今回不合格となったら、実家に帰ろうか。
と、最後のつもりで挑んだオーディションは、「やっぱり」で終わろうとしていた。




でも…私の容姿を卑下する目。




でも…私の声を茶化す人達。



でも…あの日、こんな私でも一生懸命生きようと思わせてくれた、テレビの向こうの女の子。



だから…



「私は、それでも誰かを救う、誰かに!
私になりたい!
だから…誰にも、綺麗な人にも負けません!なので!」



「あっ…申し訳……その、失礼します…」



「君はさ」



逃げるように面接室から出ようとする私に、今まで部屋の片隅に座っているだけだった男性が声を掛ける。


「君は…その声で…その気持ちで…誰よりも綺麗な人に、なれるのかい?」


「なります!」


「おぉ。そうかそうか。……あぁ、もしもし。マイプロです。監督、お疲れ様。あのさ、春からの女の子沢山募集してた学園物のオーディションまだ間に合う?」


「あのさぁ…一人、追加!……ありがと〜!今度飲み行こうね!じゃまた、ハーイ。…よし、と」


唐突に、どこぞに電話をかけたその男性は、早々に話を取り纏めた。


「オーディション…?誰が…?」


と、頭がついて行かない私に、男性が改めて顔を向ける。


「じゃあ、なりたい誰かに、なってご覧なさい。」



声優志望のロリ声デブ






―――桜咲く頃、夢、叶う。