エレン「これ、誰の…」
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- 1 : 2020/03/03(火) 03:24:38 :
- エレン「いやあ、中々に壮大な結婚式だな」
エレン「ワインも上等だし、料理もキャビアやフォアグラとか高級な料理ばかり」
エレン「新郎新婦も幸せそうで…」
エレン「……あれ?」
エレン「新郎新婦って、誰だったっけ?」
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- 2 : 2020/03/03(火) 03:45:49 :
- エレン「俺は新郎側だったっけ、新婦側だったっけ」
エレン「それとも両方と知り合いだったか」
エレン「おかしいな、全然思い出せない」
エレン「あ、ワインおかわり」
エレン「お、余興が始まるみたいだ」
エレン「西遊記だな…そうそう、岩の下敷きになった悟空のところへ、三蔵法師が…」
エレン「……」
エレン「結婚式の余興って、こんな本格的にセット組むもんだったっけ」
エレン「…何か妙な違和感があるな…飲みすぎたか」
エレン「新郎新婦の名前ぐらい確認しないと、受付に行くか」
エレン「受付は誰もいないな……そういえばご祝儀とか渡してない気が」
エレン「でも、いつもご祝儀なんか渡してないな、記帳もしてない……」
エレン「……いつも?」
エレン「えーと新郎新婦の名前は…ウエルカムボードはどこかな、外かな」
エレン「そこの扉から外に出るか」
エレン「……」ガチャガチャ
エレン「カギがかかってる……?」
係員「お客様、どうされましたか」
エレン「えっ」
エレン「いや、ちょっと外へ出ようかなと」
係員「外へ?何故ですか?」
エレン「なぜって、いや新郎新婦の名前を…その…」
係員「…お客様、なにか混乱されてるようですが」
係員「いかかです、別室でリセットされますか」
エレン「えっ」
エレン「い、いえ大丈夫です。戻ります」
係員「………そうですか」
エレン「…なんだリセットって…なんの事だ…?」
エレン「…」チラ
係員「…」
エレン「まだこっちみてる……とりあえず席に戻るか」
司会者「本日はお越しいただきありがとうございました」
司会者「列席者のみなさまは左手出口より退場し、お部屋にておくつろぎ下さい」
エレン「終わったか…とりあえず、部屋に戻るか」
エレン「左手の出口からずっと廊下を歩いて、654番が俺の部屋」
エレン「中はバスルームとベッドだけの部屋だ」
エレン「まずは礼服を脱いでカゴにいれ、ドアの外に出す」バサッ
エレン「そして入浴して、ベッドに横になると」
エレン「どこからかプシュッて音がして、数秒後に」
エレン「Zzz…」
ピリリリリリ…
エレン「お、朝か…」
エレン「スッキリとした目覚めだ…ドアの外にはクリーニングされた礼服…」
エレン「よいしょ…礼服を着て、身だしなみを正して、今日も結婚式に出るか」
エレン「………」
エレン「いや、おかしいだろ、こんな生活…」
エレン「なんで俺は毎日結婚式に出てるんだ?」
エレン「新郎新婦は毎回違う人だけど、いったいどこの誰だ?」
エレン「それ以前に……俺は誰だ?」
エレン「部屋の窓には…」
エレン「深い森の中みたいだ、ロビーの窓からも森しか見えなかった」
エレン「この式場はどこに建ってるんだ…俺なんでこの中でだけ生活を…」
エレン「俺一人で考えられる事じゃない」
エレン「…あいつに相談するか」
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- 3 : 2020/03/03(火) 16:20:20 :
- エレン「なあ、この結婚式って誰の結婚式だったっけ」
アルミン「え?」
アルミン「誰の結婚式って、新郎も新婦も毎日違う人じゃない」
エレン「だから、何で俺たちが出席してるのかって話だ、俺たちとどういう関係のある人なんだ」
アルミン「結婚式ってそういうもんじゃないの?例えば村で誰かが結婚するときは、村の人は、だれでも好きに出席して祝え、る……」
アルミン「……あれ?」
アルミン「いや、おかしい…なんで僕たちが出席しているの…」
アルミン「そもそも、僕たちはこの生活に入る前まで何をしてたの…」
アルミン「それになんで結婚式で中華…?」
エレン「お前もか…」
アルミン「ええと、そう言えば僕たち、互いの名前も知らないね」
エレン「俺の名前……モヤッとしてるが、確か、エレンだ…姓しか思い出せないが」
アルミン「僕はアルミン…だった気がする」
エレン「会話することはあるけど、余興の話や料理の話だけだからな」
アルミン「朝から晩まで結婚式に出てるからね…」
アルミン「何が起こってるんだろう…スタッフの人に聞いてみる?」
エレン「いや、あまり目立ちたくない…」
エレン「実は昨日の式で……」
アルミン「リセット?」
司会者「続きましての余興は中庭で行われます、どうぞご移動ください」
エレン「とりあえず移動するか」
アルミン「そうだね」
エレン「中庭も本当に立派だな」
エレン「かなりの広さがあるし、噴水や彫刻もある、花壇も立派だ」
エレン「余興もほんとに色々ある、こないだは手持ち花火ってやつやったし」
アルミン「ジャグリングや水芸もあったね、音楽なら弦楽四重奏からヘビメタまであるし」
エレン「今日は何だ、何人か出てきたけど」
アルミン「組体操みたいだね」
アルミン「とりあえずケーキバイキングがあるから何個か取ってくるよ」
エレン「だな、俺の分も頼む……」
エレン「……いや、それどころじゃないんだった」
エレン「興味がすぐ式の方に行くな、なんでだろ…」
エレン「すごい技だな、五人が肩車でタワーになってる」
アルミン「カステイだね、スペインのバレンシア地方で見られる伝統的な組体操だよ」
エレン「しかし、さすがにちょっと高すぎる気が……」
エレン「あっ!」
エレン「てっぺんの奴が落ちた!!」
ボキィィッ
エレン「あああああああ!!く、首が!!首が折れてる!!」
司会者「おっと、ちょっとしたトラブルのようです」
司会者「大丈夫です、すぐに別の余興を用意いたしますので、しばしご歓談ください」
エレン「べ、別の余興って……」
エレン「……なんだ、組体操してた他のメンバーも、何事もなかったように落ちたやつを運んで……」
エレン「本当に次のが来た、ピエロが三人」
エレン「ジャグリングが始まったけど、いや、さっきの人はどうなったんだ……」
アルミン「……」
アルミン「エレン、見た?」
エレン「見た、首がポッキリと……」
アルミン「そうじゃない、頭から落ちたでしょ、頭部に大きな裂傷ができてたのに、血が一滴も出てなかった」
エレン「そうなのか?」
アルミン「あれはロボットだ、人間じゃない」
エレン「!!」
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- 4 : 2020/03/03(火) 19:23:57 :
- エレン「な、なんでロボットが余興を!?」
アルミン「わからない……」
アルミン「それに、あんなに人間そっくりなロボットは見たことがない」
アルミン「というか、今はいったい何年……?」
エレン「……そうか、分かったぞ」
アルミン「うん?」
エレン「俺たちも……ロボットなんだ」
エレン「俺たちはこの結婚式場のスタッフなんだ」
エレン「列席者という役割のロボットなんだ!」
アルミン「……」
アルミン「…確かに、式に出てくれる友人が少なかったり、新郎と新婦で来客数に大きな差がある場合、サクラで式に出るアルバイトがある、という話は聞くね」
エレン「俺たちはこの式場が用意してるロボットなんだ……」
アルミン「いや、それは違うと思うよ」
エレン「どうしてだ?」
アルミン「だって僕たちは飲み食いしてるし、トイレも行くし」
アルミン「顔にうぶ毛も生えてるし、唾液や涙も出る、ロボットでここまで再現するとは思えない」
アルミン「さっきのロボットは血が出てなかったけど、僕たちは血管も見えるし、脈も打ってるから」
エレン「それはそうだが…」
アルミン「じゃあ何か、目に見える証拠を探そう」
アルミン「エレン、そこのスプーンを頬の内側に当ててみて」
エレン「へ?こうか?」モゴモゴ
アルミン「ミネラルウォーターのペットボトルを用意して、首の少し下で切る、漏斗の形だね」
アルミン「そしてフタにアイスピックで穴を開ける」
アルミン「ここに丸いガラス玉かビーズをはめ込めば、手作りの顕微鏡になるんだよ」
アルミン「プレパラートもペットボトルの切片で作れる」
エレン「ビーズなんて何処に…」
アルミン「結婚式場ならあちこちにあるよ、そのコサージュされてる造花にもついてる」
アルミン「見える見える、これが頬の内側の細胞だね」
エレン「おお、凄いな」
アルミン「これで証明できたね、さすがに細胞レベルからロボットを作るとは思えないし」
アルミン「僕らは人間だ」
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- 6 : 2020/03/04(水) 18:22:35 :
- エレン「俺たちがロボットでないのはわかったけど、何が起ってるのかは謎のままだな」
アルミン「そうだね、情報が欲しいけど、うかつに人には聞けないし、外にも出られない……」
アルミン「無電源ラジオを作るには材料のハードルが高いなあ」
アルミン「バス停や蛇口がラジオになったなんて例もあるけど、あれは送信所の近くの話だし…」
エレン「話についていけねぇ」
司会「さあ新婦によるブーケトスです、ご希望の方は列の前にお並びください」
アルミン「!!」
アルミン「エレン! あのブーケ取ってきて!」
エレン「へ?」
アルミン「いいから早く!」
エレン「わ、わかった」
司会者「さあブーケをお投げください」
エレン「うおおおおぉぉっっ!!!」
ゴロゴロ
エレン「はあはあ……と、取ってきたぞ、礼服に土がついた…」
アルミン「ありがとう、ちょっとトイレに行こう」
エレン「?」
エレン「トイレに来たけど、どうしたんだ?」
アルミン「よく見て、このブーケ、生花じゃなくて造花だ」
エレン「だな」
アルミン「その中に、英字新聞で作った手裏剣みたいな花が混ざってる」
エレン「ふむふむ、んで?」
アルミン「英字新聞だよ、立派な外の情報だ」
エレン「あっ! そうか!」
アルミン「読んでみるよ、えーと、ん……」
アルミン「『休刊のお知らせ』」
アルミン「『617年に渡りご愛顧いただきましたデイリー・テレグラフ紙は、その歴史的な役割を終え、休刊となりました』」
アルミン「『もはや報道されるべき犯罪もなく、抱くべき不安も耐えて久しく、新聞がその役割を終えることは大いなる歓びであります』」
アルミン「『以後は気象情報、年中行事その他につきましては電子版にて配信を行います』」
エレン「ふーん、休刊するのか…」
アルミン「…………」
アルミン「そ……そんな、バカな……」
エレン「ど、どうした?新聞が休刊になるのは珍しいかも知れんが、別に……」
アルミン「そうじゃない…デイリー・テレグラフ紙はイギリスの新聞だけど」
アルミン「その創刊はえーと……クリミア戦争の頃…そう、たしか1855年だよ」
エレン「?」
アルミン「それが617年間のご愛顧って…」
アルミン「つまり今は、少なくとも西暦2472年以降だよ!」
エレン「なッ!?」
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- 8 : 2020/03/07(土) 14:22:25 :
- エレン「も、もう驚くのも疲れたけど、どういうことだ」
アルミン「……僕たちの記憶は21世紀初頭のものなのに」
アルミン「僕たちはここで400年近くも…?」
エレン「だが、新聞が役割を終えたってのも変な書き方だな、犯罪がないとか、不安がないとか」
アルミン「……」
アルミン「いろいろ、可能性は考えられるけど、これ以上は考えても仕方ないね」
アルミン「ここを出よう、外は森だったし、少なくとも冬じゃなかった、出てしまえば何とかなる」
エレン「だけど、ドアには鍵が…窓から逃げるのか?」
アルミン「こっそり逃げるとは言ってないよ」
アルミン「火事を起こせば、お客は外に出さざるを得ないでしょ?」
エレン「えっ」
-数日後-
アルミン「準備完了だ、今夜の0時ちょうどに自動発火装置が作動する」
エレン「お前すごいな、ありあわせの材料でよくそんなもん……」
アルミン「原始的なものだよ、でも設置した部屋のスプリンクラーは壊してるし、紙も置いてるから、それなりの大火事になるはず」
アルミン「今日はベッドに横にならず、床に座っててね」
エレン「床に座っとけばプシュッてならないのは確認済みだからな」
アルミン「そう、火災のベルが鳴るはずだから、そうしたら式場の前まで走ってきてね」
アルミン「服は着てたほうがいいな、礼服はカゴに置かずに着たままでいて」
エレン「わかった」
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