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今日の日と明日のヨゾラ

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  1. 1 : : 2019/08/12(月) 07:15:12
    例えば私がゼンマイ仕掛けのお人形だったなら。


    きっと何も思うことは無かっただろう。


    きっと何も傷つくことは無かっただろう。


    いっそその方が良かったのかもしれない。


    でももしもそうだったなら


    彼に会うことは、きっと、無かっただろう。


    だから一一一一一一・・・・・・







  2. 2 : : 2019/08/12(月) 07:39:44

    第一夜


    また一つ星が流れた。一度瞬いて、すぐに私の視界を横切り消えた。今夜の流れ星は4つ目だ。無感情にカウントする。もう流れ星を見ても何も思わなくなってしまった自分自身を嘲り、笑った。子どもの頃…といってもまだ16だし子どもなのだろうが、5,6歳の頃には母とよく2人で窓際に座り、流れ星を見つけ、願い事を唱えた。たしか明日はハンバーグが食べたいとか、新しいお洋服が欲しいとか、そんな下らないことばかりだったけれど。けれど母はよく私に、何をお願いしたの、と聞いた。お母さんがずっと幸せでいられますようにとお願いした、いつもそう答えた。

    願い事はあくまで願い事だ。叶うかどうかは星に願ったって分からない。そんな当たり前を知ったのは12の時だった。それからは馬鹿らしくなって、こうして窓際に座り流れ星を見つけても願うことは無くなった。何もしないのは退屈だから、数を数える。一晩中。日が昇ったら、眠る。この数年、ずっとそんな生活を続けている。


  3. 3 : : 2019/08/12(月) 10:43:59
    夜起きて昼に眠るのは、単純に昼間は眩しすぎるし、騒がしすぎるからだ。窓際に射し込むぎらつく太陽の光は、私には眩しすぎる。聞こえてくる他人の声はどれも退屈でただの雑音(ノイズ)でしかない。だから昼間は窓もカーテンも閉め切って眠り、日が沈んで外の喧騒が止んだ頃目を覚ます。カーテンから外を覗き、日が沈んでいるのを確認してから、窓を開いて外の空気に触れる。運ばれてきた、無駄に絢爛な食器に盛られた夕食を食べ、使用人が下げる。ここ数年変わらない日常だった。

    それからは、窓際で星を眺め続ける。部屋の外に出ることは許されていない。あいつがそう決めた。あの日一一一母が死んだあの日に、あいつは、今後部屋の外に出るなと、そう言った。それから、部屋の前に見張り役の使用人が常駐するようになった。窓から外に出ることも一時期考えたことがあったが、3階から飛び降りたら痛いじゃ済まないだろうし、やめた。

    だから私は星を見ていた。他にすることも無いし、窓際でこうして座って星を眺めていると、母が隣にいる気がして。隣にいる母が、私のお願いごとを聞きたそうにしている気がして。

    けれど私は、もう願うことは無い。

  4. 4 : : 2019/08/12(月) 12:04:10
    また視界の中で煌めきが起こり、夜空の沈黙に消える。これで今日は5回目。普段は夜が明けるまでに3,4つ流れる程度だから、今夜はいつもより多い。退屈を紛らわすことができるから、流星は多いに超したことはない。

    まだ夜は明けない。月はようやく折り返し地点、最高点に到ったようだった。母の趣味でファンシーに彩られた部屋の壁、これまたファンシーなデザインの時計で時間を確認する。2時47分。いつもなら6時前ぐらいまで空を見上げているのだが、今日はなぜだか眠かった。きっと夕方起きるのが早すぎたせいだ。そう思った。もう今日は寝よう、とも思った。

    寝る前は窓もカーテンも閉める。寝ている時に他人の声で起きたり、陽の光で眩しくならないように、普段はそうしていた。けれどなんだか窓を閉めたくなかった。普段より早いから、外の喧騒が始まる前で、街はひっそりと静まり返っていた。ただ夜の暗闇に横たわっていた。夜特有の、少し湿った、けれど肌に心地よい空気だけが、ゆったりと部屋に流れ込む。その風をもう少し感じていたかった。だから私は、窓もカーテンもそのままに、ベッドに潜り込む。期待どおり流れ込む風に肌を撫でられながら、静寂と暗闇に身を任せ、目を閉じる。

    明日、『いつも通り』が無くなればいいと星ではない何かに縋るようにして、いつも通りに、また眠った。
  5. 5 : : 2019/08/12(月) 12:59:10

    第一夜

    ~ Another side ~


    雪村ソラは悩んでいた。彼にとって、非常に深刻な悩みだった。

    「なあ…どっちがいいと思う?」

    「知らねえよ、ってか昼なに食べるかでいちいち深刻そうにするな鬱陶しい」

    街中のとある定食屋。隣にいた同僚にバッサリ切り捨てられ若干へこむ。結局500円出して唐揚げ定食を購入し、同僚といっしょに食べ始めるソラ。しかし頭の中には先程諦めたカツ丼が渦巻いている。お値段620円。思わず声が漏れる。

    「やっぱカツ丼にしとくべきだったかぁ…」

    そんなソラのぼやきを華麗にスルーして同僚が話し始めた。

    「お前知ってるか?こないだ軍の上層部で話題になってた話」

    「いや?なんだそれ」

    「幹部のやつが1人殺されたんだってさ、死神に」

    「死神に?またかよ」

    最近よく聞くワードをここでも聞いて、少し驚く。この世界では、人間がごくごく普通に暮らしているが、人間以外にも高度な文明をもつ種族がいる。それが『死神』だ。そして、死神は人間の天敵と言っていい。死神と人間が一緒にいると、人間は必ず死ぬ。なぜかという具体的な研究はまだ途中段階にあるが、ともかく死神の近く、数メートル内に人間がいると、その距離や個人差にもよるがだいたい半日で死に至る。死因は心臓麻痺やら血管の破裂やら、交通事故、殺人など様々ではあるが、必ず死ぬのだ。
    だから人間は死神を憎んでいた。死神側がどうあれ、近づくと死ぬのだから、当然といえば当然なのだろう。

    とはいえ人間は死神を駆逐することもできない。死神は高度な文明を持つ。分野によっては人間以上に高度なものもある。そのうえ近づけば死ぬために、人間から死神に手を出すことはできなかった。
  6. 6 : : 2019/08/12(月) 19:08:42
    死神という種族は、基本的には人間とほとんど変わらない。見た目は通常の人間であり、区別はつかないうえ、言語、文字も同じである。それが、人間が死神を滅ぼせずにいる原因の一つでもある。

    しかし、死神達は人間に対して攻撃的な動きを見せることは無かった。死神たちには、人間とは別に独自のコミュニティがあるらしく、人間と積極的に関わろうとすることはない。いわく、暗黙のルールがあるらしい。死神はできる限り人間に近づかない、人間も死神に関わらない。そういった了解だ。だから、

    「異常だよな、ここ最近死神による被害が増えてる」

    「……あぁ」

    異常だった。人間が、それも軍のものが死神に殺されるというのは前代未聞に近い。

    『軍』とは、人間を死神から守るために存在する組織である。ソラも、話している同僚もこの軍の一員だった。軍の活動は、死神と人間を近づけないようにすることと、人間に危害を一一一つまり人間を殺した死神を、殺すこと。この2つだ。

    しかし死神と人間はそうそう区別はつかない。死神の周りで人間は死ぬということしか分からない。ゆえに、軍の活動は困難を極める。それでも、意味不明な脅威、いつ死ぬか分からないという恐怖を抱え続ける人類にとって、軍の存在は大きな支えになっていた。そんな心強い組織に入ろうと思うのは、子供たちにとって当然の思考だった。ソラもそうして軍に入った。

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