ssnote

x

新規登録する

作品にスターを付けるにはユーザー登録が必要です! 今ならすぐに登録可能!

このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

東方幸記録

    • Good
    • 0

loupe をクリックすると、その人の書き込みとそれに関連した書き込みだけが表示されます。

▼一番下へ

表示を元に戻す

  1. 1 : : 2018/04/25(水) 17:58:18
    本作は東方Projectの2次創作になります。
    ・オリ主そこそこ強め
    ・特定の人物と引っ付かないハーレム
    ・一部キャラクター原作改変
    ・オリジナル展開

    これらが含まれます。

    更新は1日1投を目標にはしますが用事などで遅れることがあります。生暖かい目で見守ってあげてください
  2. 2 : : 2018/04/25(水) 18:35:42
    「久しぶりだな…」

    男は今、とある神社の前にいる。

    その神社の名を…博麗神社

    博麗の巫女が代々営んでいる由緒ある神社だ。

    その博麗神社へと歩みを進めるこの男、名を剣(ツルギ)と言い、男が歩むこの地の名は幻想郷。人々に忘れ去られしものが集い、それぞれの形を形成している不可思議な場所。

    これは、優しい男ツルギと彼の元へと集う娘たちの楽しく愉快な物語。

  3. 3 : : 2018/04/25(水) 19:06:03
    「博麗神社…懐かしいな。」

    …彼女は元気にしてるんだろうか。まぁ、これをやればすぐにわかるか。

    ツルギは、神社の賽銭箱の前に佇み、財布を開く。
    そして、お札を1枚取り出して2つに折りたたみ、間に500円玉を挟んで賽銭箱の中へと入れる。

    パンッ!パンッ!

    「(みんなと、はやく会えますように)」」


    ダダダダダダダダダダッ!!

    「(お、きたか)」

    「今お賽銭入れてくれた!?入れてくれたよね!?ありがとおおおお!! 」

    …この娘の名前は博麗霊夢。当代の博麗神社の巫女だ。その才能は歴代随一と言われ、鬼や吸血鬼をも退ける。
    …巫女なのにお金に対する煩悩まみれなのは…この際目を瞑るとしよう…。

    「久しぶりだな…霊夢」

    「…へ?…ああああああああああ!!」

    …そんなに驚かなくても…

    「つ、つつつツルギ!!帰ってくるならそう言っておいてよ!!」

    「んな無茶な…。でもまぁ…元気そうで何よりだよ」

    「元気かなんて関係ないわよ!!うぅ…まさかこんなところを見られちゃうなんて…ツルギに嫌われちゃう…」

    「大丈夫だって。俺はそんな霊夢も可愛いと思うぞ?」

    「グスッ…ほんとう?」

    「あぁ、本当。…これあげるから機嫌なおしてよ。」っ外からのお土産お菓子詰め合わせ

    「ありがとう!!お土産もお賽銭もくれたし、やっぱりツルギはいい人ね!!」パァ!

    「現金な奴め…」ははは…


    「霊夢ー。邪魔するぜー」

    「あ!こら魔理沙!また勝手に上がり込んで!」

    「いいじゃないか。どうせ減るもんでもないんだし、私とお前の仲だぜ?」

    「よくないの!それに今日はツルギが帰ってきてるのよ!?」

    「なに!?ツルギが帰ってきたのか!?…へぶっ!?」ステーン

    「あ…こけた」

    「うぅ…酷い目にあったぜ…」

    「まぁ、どんまい?」

    「いてて…そ、それよりもツルギ、久しぶりだな!」

    「あぁ、元気そうで何よりだよ」

    「そりゃそうだぜ!スペシャル魔理沙ちゃんは風邪なんかひかないぜ!」

    「そうか。確かに引くわけないよな。(馬鹿は風邪をなんとやら…)」

    「あああ!!絶対失礼なこと考えてるぜ!!」

    「よくわかったね。」

    「否定しろおおおお!!」

    「よしよし。俺が悪かったって」ナデナデ

    「…んっ…。って!撫でればいいってもんじゃないんだぜ!!」

    「じゃあやめるか?」

    「ぐっ…ぐぐぐ…やめないでくれ…だぜ」

    「そうか。よしよし」

    「ああああ!!魔理沙ばかりずるい!私にもやってよ!」

    「お、おう。」ナデナデ

    「んっ…」

    「やっておいてなんだが、俺みたいな男に撫でられるのってそんなにいいのか?」

    「そ、それは…」

    「き、聞くな!」

    「…まぁ、そうだよな。今のはデリカシーがなかった。」手を離す

    「「あ…」」

    「さて、俺は幻想郷を回ってくるよ。久しぶりにあいつらにも会いたいしな」

    「そう…」

    「きっと喜ぶぜ。特にあの4人は」

    「そうだな。最初は紅魔館に行く予定だし、最初はあの娘か。んじゃ、行ってくるよ。お土産は早めに食べておいてね」

    「ありがとう。いただかせてもらうわね。」

    「行ってらっしゃいだぜー」もぐもぐ

    「ああ!!勝手に食べてるし!」

    「ツルギからのお土産を独り占めにはさせないぜ!」

    「返しなさい!それは私のよ!」

    ガシャン!!ドカッ!バキッ!

    ブォォォォン!!(マスパ)

    「…見なかったことにしよう、うん。よくあること…よくあること…。さて、行きますか。」

    次の瞬間、ツルギの足は地面から離れ空を飛行し、ツルギは次の目的地、紅魔館へと向かって行った。





  4. 4 : : 2018/04/25(水) 21:39:09
    紅魔館、門の少し前

    …スタッ

    「ふぅ…久しぶりに来たな。紅魔館」

    紅魔館。それは、吸血鬼が住まう紅い館。その大きさは幻想郷でも随一で、紅い見た目も合わさって異様な雰囲気を醸し出している。

    そして館の門前、そこには、1人の門番が佇んでいた。

    「zzZZ…」

    「(寝ている…)」

    彼女の名前は、紅 美鈴。紅の館、紅魔館の門番。
    その格闘センスはなかなかのもので、もし仮に人間が相対しようものならすぐに沈められてしまう。

    …が、彼女には致命的な欠点が存在する。それは、門の前で寝てしまう悪い癖があることだ。そのため侵入者の発見が遅れてしまい、その度に館の住人が侵入者の排除に右往左往することとなる。

    …おそらくこの先、館の住人の仕事から侵入者の迎撃がなくなることはないだろう。

    「(困った…。美鈴に取り次いでもらおうと思っていたんだが…)」

    と言いつつ、ツルギは美鈴へと歩み寄り、軽く肩を揺らしてみる

    「むにゃぁ?…ハッ!!敵!!」シュッ!!

    「うぉっ!?」ブンッ!!

    美鈴の意識が覚醒し、これで取り次いでもらえるなとツルギが安心した瞬間、彼女の鋭く速い足蹴りがツルギを襲う。
    それをツルギは間一髪で交わし、2撃目をもらう前に美鈴のレンジの範囲から距離を取る

    「私は紅魔館の門番、紅美鈴!。紅魔館は、私が守る!」

    「…さっきまで寝てた人が言うセリフじゃないぞ…まったく」

    「貴様は何しにここへ来た!紅魔館に仇をなすと言うならば!私が貴様を倒す!」

    「…もしかして、俺を忘れたか?」

    「何を言う!貴様のような人間など知らな…い……!?」

    「…やっと気づいてくれたk」

    『ええええええええええええええええ!?!?』

    「…うるさい…」耳キィィン

    「つ、つ、ツルギさん!?いつ帰って来たんですか!?」

    「態度変わるの早いなぁ君。下手したらあの蹴り俺に当たってたんだぞ?」

    「い、いやぁ…あはは…って!話逸らさないでくださいよ!」

    「悪い悪い。」

    「第1、私をここまで鍛えてくれたのは紛れもなくツルギさんじゃないですか…」

    「そうだったね。まただいぶ強くなったみたいで。」

    「はい、ツルギさんの特訓メニューを続けてますから。…それで、今日はどのようなご用件で?」

    「久しぶりに幻想郷に帰って来たから挨拶回りにね。館の主はいるか?」

    「はい、いますよ。本来なら取り次いでからになるんですが、ツルギさんなら問題ないでしょう。どう「美鈴」ぞ…さ、咲夜さん!?」

    「貴方、いきなりあんな大声あげてどう言うつもり?またお仕置きされたいのかしら?」

    「い、いえ、これは…その…」

    「言い訳無用。」

    「いやぁぁぁぁ!!ツルギさん!助けてくださいぃぃぃぃ!!」

    「つ、るぎ…?」チラッ…

    「久しぶり。咲夜」

    ガシッ!!

    咲夜がツルギの姿を確認し驚愕による硬直から覚めた次の瞬間、すでに彼女はツルギに正面から抱きついて、ツルギの胸板に体を預けていた。

    これは、彼女の能力である時間を操る能力によって時間を停止させ、素早くツルギに抱きついたために起こる現象だ。

    「おっと…」

    「…」ギュ

    「…咲夜?」

    「…」うるっ

    「?」

    「お久しぶりでございます…ツルギ様」

    「…あぁ。久しぶり」

    彼女…その名を十六夜咲夜。

    その昔、まだツルギが旅を続けていた際に助け、育て上げた4人のうちの1人だ。
    最初のうちは人間に対してひどい憎悪を抱いており、ツルギに対しても非常に敵対的だった。しかし、一緒に過ごす時間が増えるにつれて次第に心を開き、彼女の生まれ持った能力である時間操作のコントロールの練習にも付き添った結果、今では時間操作以外にも、時間に密接に関係している空間をも操作することが可能となった。だから今の彼女の能力は時間操作だけではない



    【時間と空間を操作する程度の能力】
  5. 5 : : 2018/04/26(木) 17:59:38
    「…落ち着いたか?」

    「…はい…申し訳ありません…お恥ずかしいところをお見せしました…」

    「気にしないでいいよ。久しぶりに咲夜の元気な姿も見れたしね。…さて…咲夜、館の主人に会いたいんだけどいいかな?」

    「はい、もちろんでございます。こちらへどうぞ」

    「わかった。」

    「ツルギさーん!今度手合わせしましょうねー!」

    「あなたは今日の夜を乗り越える方法を考えるのが先じゃないかしら?」

    「うぇえ!?そんなぁ…」ガクッ…

    「大変そうだな」

    「ええ。あの子が昼寝をせず真面目に働いてくれれば、私の仕事も減るのですが…」

    「侵入者の排除は咲夜の仕事なのか?」

    「はい…。他の妖精メイドはあいにくと、敵を識別できる知能も、排除できる戦闘力も持っていないので私がやるしかないのです。」

    「…そうか。頑張ってるな。」

    「ツルギ様にお褒めいただけるとあれば、この程度のことなど造作もありません。」

    「ははは…頼もしいよ。」

    やはり、彼女は変わっていない。
    彼女…咲夜は俺に依存している。
    人間に対してのひどい憎悪の反動だろうか、彼女は、俺に懐くのと並行してその依存度をあげていった。それこそ、1日中ずっと俺の後ろを付いてくるほどに。

    そんな彼女がなぜ、俺の側を離れて紅魔館のメイドをしているのかといえば、話はこの紅魔館が幻想郷にきた日にまで遡る。

    その日、空が紅い霧に包まれ、湖の先に紅魔館が出現した。後の紅霧異変である。
    その異変は霊夢及び魔理沙の活躍で終結したが、館の主人はこの幻想郷へと移り住むことを願い出て来た。しかし異変の規模と異常性に警戒心を抱いた幻想郷の住人は当初それを拒否。だが外に居場所がないという住人の発言を聞き、館の監視及びストッパーを務める人材を1人入れるという条件で幻想郷の住人は渋々とだがこれを承諾。

    そして、その人材として取り上げられたのが咲夜だった。

    もちろん、咲夜はツルギの側を離れまいと断固としてこの提案に対して拒否の姿勢をとった。だが、幻想郷の住人の必死の説得と館の住人による咲夜を派遣することへの要望の声、そして俺と他の3人以外と親しくなるいい機会だという俺の意見が決め手となり、咲夜はこれを承諾し、晴れて紅魔館に所属することとなって今に至る。

    ギィィィィ…
    「ツルギ様。ようこそ紅魔館へ。」

    「…いつ見ても広いな。」

    大きな玄関の扉を開くと、中に広がっているのは外から見た館の何倍もありそうな広い空間。
    これは咲夜の能力によって、館内の空間を広げているがためである。

    1度、掃除大変じゃないか?と咲夜に聞いたことがあるのだが、咲夜からの返答は

    「ツルギ様の従者として、生半可な仕事はできませんから」

    だった。


    コツッ…コツッ…コツッ…

    コンコンッ…
    「お嬢様、ツルギ様がお見えになりました。」

    長い廊下の先、一際目立つ扉が開かれると、中にはこの紅魔館の主が鎮座していた。

    その主の名を

    「いらっしゃいツルギ。久しぶりね。」

    レミリア・スカーレット。見た目こそ少女ではあるが、その実は、長い時を生きた吸血鬼である。
  6. 6 : : 2018/04/26(木) 22:48:05
    コツッ…コツッ…コツッ…

    カチャ…スッ…

    「どうぞ。」

    「ありがとう咲夜。」

    「あぁ、ありがとう。…うん、美味しいよ。やっぱり紅茶は咲夜が淹れたものに限るね。」

    「ありがとうございます。ツルギ様。」

    「咲夜。少し席を外してもらえないかしら?ツルギと1対1で話したいことがあるの」

    「…」チラッ…

    「…」コクッ…

    「かしこまりました。何かございましたらお呼びください。」

    次の瞬間、咲夜は物音1つさせずに消えた。これも咲夜の能力だ。

    「ふふっ…咲夜は普段は言うことをよく聞いてくれるのだけれどね、あなたがいるとそっちを優先するみたい」クスクスッ

    「…すまないな。俺自身も咲夜のそういうところを直すためにここにやったのに…」

    「いいのよ。それに咲夜をはじめ、あの4人のあなたを何より優先してくれる姿…好きなんでしょう?」

    「…まぁ…な。」

    「さて、とりあえずこの話はここまでにして…」スッ…

    テクッ…テクッ…テクッ…

    ポフッ…

    「…なぜ膝に?」

    「いいじゃない、今は2人しかいないんだし。ん…やはりいい匂いね、落ち着くわ」

    「…そうか?」

    「えぇ、とても。…ねぇ…ツルギ…」

    「どうした?」

    「…あの4人は何よりもあなたを優先してる…私はそう言ったわよね?」

    「あぁ。」

    「私にとって…最も優先すべき事は妹を守ること、それは変わらない。…でも…私も、あなたを大切に思ってる。あなたが危険に陥ったならすぐに助けに行くと断言できるほどに」

    「…」

    「あの4人には負けるかもしれない。でも…私は…ツルギのことが大切で…あなたを想っている。これだけは忘れないで」

    「…レミリア…。ありがとうな」なでなで

    「ん…ふふっ、あなたの手、暖かいわね。これが人間の…ツルギの手…落ち着く…。」

    バタンッ!!!

    「お姉様!!お兄様が帰ってきてるの!?」

    「…フラン!?こ、これはその…」

    「ああああ!!お兄様に撫でてもらってる!私もやってもらうのー!!」

    「あっこら!フラン!ツルギに迷惑かけないの!」

    「お姉様だってお兄様の膝から離れないじゃない!」

    「むむむ」

    「むむむむ」

    「フラン、久しぶりだね。元気にしてたか?」

    「うん!ねぇねぇお兄様!私もなでなでしてー!」

    「ん?あぁ、わかった」なでなで

    「えへへー」

    ギュッ…

    「ん?」

    「わ、私も…その…お、お願い…」

    「…わかった」なでなで

    「ん…」

    「ところで、お姉様とお兄様は何してたのー?」

    「うぇっ!?えっと…えーっと…う〜…」

    「久しぶりに帰ってきたからね。レミリアとフランに会うついでに帰ってきたよーって伝えにきたんだよ」

    「え?…そ、そう!そうなの!」

    「ふーん、そうなんだー」

    「…さて、そろそろ俺は図書館にいくよ。」

    「え!?…そう…」

    「お兄様どこかいくのー?」

    「うん、図書館にも帰ってきたよーって言いに行かないとね。」

    「私も行くー!」

    「フラン様。おやつのご用意ができました。」

    「食べたい!…でも…お兄様にもついていきたいしぃ…」

    「先に食べた方がよろしいかと。」

    「…咲夜ぁ」

    「我慢は体にあまりよくないですよ?。それに、この時間に食べてしまわれませんと、夕ご飯が食べられなくなってしまいます。」

    「…うぅ…わかった…」

    「…ありがとう咲夜。」

    「お困りのようでしたので。…私は御同行してもよろしいのでしょうか?」

    「久しぶりの紅魔館だし、道案内も含めてよろしく頼む。」

    「!!承りました!」

    「つ、ツルギ!わ、わたしm「あ、そうだ。レミリア」…?」

    「あの言葉、嬉しかったよ。ありがとう」

    「?……!!!?!?///」ボンッ!

    「それじゃ、行ってくる。」

    「…行ってらっしゃーい」モグ…モグ…

    「///」シュゥゥ…




    コツッ…コツッ…コツッ…

    「ツルギ様」

    「ん?」

    ギュッ…

    「…咲夜?」

    「ありがとうございます…。」

    「…もしかして…聞いてた?」

    「…はい」

    「…」

    ギュッ…

    「…あ…」

    「ありがとう…」

    「ツルギ様…」

    「俺を何より優先してくれる、そんな咲夜も俺は好きだ…。これからも、よろしく頼む。」

    「…はい、承りました。…ツルギ様…1つ、わがままをお許しくださいませんか?」

    「ん?」

    「その、腕を…組ませていただきたいのですが…」

    「うん、いいよ。」

    「!ありがとうございます!」

    咲夜はツルギの左腕に腕を絡め、2人は次の目的地、図書館へと向かって行った。

    その間、咲夜は終始笑顔のままだったという。それも、ツルギ以外には見せない心からの笑顔のまま…
  7. 7 : : 2018/04/27(金) 18:41:20
    紅魔館内、大図書館。
    そこは、幻想郷内でも最大の知識量を誇る図書館。漫画や小説などの娯楽本から、果ては忘れ去られた古代の書物なども集まる。
    そのため、暇つぶしの本や専門的な知識を求め、幻想郷の住人もよく利用している。

    ツルギは、案内役の咲夜を引き連れて入口前へと来ていた。

    「こちらが、大図書館への入り口となります。」

    「ありがとう咲夜。助かった。」

    「ツルギ様のお役に立つことができ、この咲夜、身に余る光栄にございます。」

    「それは少し大袈裟な気もするが…でも本当に助かった。」

    「私は、この後に予定が入っておりますのでここで失礼いたします。ご用がございましたらお呼びください。」

    「ありがとう。それじゃあ行ってくる」

    ガチャ…ギィィ……バタン…





    コツッ……コツッ…コツッ…

    ピタッ…

    「…」

    彼女は、ツルギの腕に絡まっていた自分の手を眺めながら、静かに心の内を嘆いた。


    ツルギ様と腕を組ませていただけた…。
    あぁ…ただそれだけなのに、なんという多幸感。
    しばらく会えなかったせいもあるかもしれない…でも、ツルギ様がいなくなられてから、これほどまでの幸せを感じた事はない…。

    「あぁ…ツルギ様…。私は…あなたと出会えて、あなたと共に生きることができて…本当に幸せでございます…。あなた様が見てくださる…あなた様が褒めてくださる…あなた様のお役に立てる…それだけで私は、他に望む余地もないほどに、幸せでございます。」



    …ツルギ様がいない今日までの日々…私が何をしていたか…なにを考えていたのか…なにも思い出せない、ツルギ様のいない時間など…停止した時間と同じ。ツルギ様は私のすべてであり、私が存在する理由。

    「ツルギ様…私は、たとえ何を失うことになろうとも、あなたをお守りし、あなたを想い続けます。だから…もう2度と、私を置いていかないでください…もう…ツルギ様に会えない日々を過ごすのは…嫌でございます…。」

    咲夜の頬を伝わる…水の雫。
    それは際限なく溢れだし、咲夜自身の手によって止まった時の中で、ただポツポツと、時の流れを感じさせていた。




    「…さぁ、頑張りましょう。ツルギ様は帰ってきてくださった、ツルギ様は、私を好きだと言ってくださった。私の失態はツルギ様の恥。ツルギ様のお顔に泥を塗ることなど、絶対に許されない。」

    そこから立ち直った咲夜は、能力を解除してすぐさま仕事に取り掛かった。

    その仕事っぷりは、ツルギのいなかった昨日までの効率の実に数倍にもなり、咲夜の機嫌は終始最高潮であった。
  8. 8 : : 2018/04/28(土) 08:11:18
    時はツルギが咲夜と別れ、図書館へと入った時にまで遡る。

    ギィィ……バタン…

    「…相変わらず凄いな、この本の量。」

    ツルギは図書館の本棚を見てそう言った。
    本棚自体のサイズもツルギ2人分に匹敵するほどの大きさはあるだろう。その本棚に隙間が全くないほどに本が敷き詰められ、さらにそれが2階にまであるのだから驚くのも無理はない。


    立ち並ぶ本棚の数々を眺めながら中を進むこと数分…
    本棚と本棚の間が開いてできたそこそこ広い空間の中心、本がたくさん置いてある書斎に座りひたすらに熟読している彼女。

    「パチュリー。久しぶり」

    名をパチュリー・ノーレッジ、この大図書館の管理者である。

    「…あら、ツルギ、久しぶりね。」

    「あぁ。パチュリーも元気そうで何よりだ。」

    「そうね…喘息も最近はあまりでなくなったし。」

    「それはよかった。…はいこれ、外で集めた本。いくつか信憑性に乏しいものもあるけど、暇潰しにはいいかと思って一緒に持ってきた。」

    「あら、ありがとう。あなたの持って来る本はとても気に入ってるわ。この本もあなたからの貰い物だし」

    「そういえばそうだ。懐かしいな、まだ読んでくれてたんだ」

    「当然よ。あなたから貰ったものは全部私の宝物だもの。」

    「大切にしてくれてるんだな。ありがとう。」なでなで

    「むきゅ〜…」

    「どうだ?」

    「…あなたの手、とても気持ちいい…。」

    「それはよかったよ。」

    「…さて、さっそくあなたから貰った本を読んで見たいのだけれど、それにはまずこの山積みの本をなんとかしないとね。…こあ〜」

    「はーい!…およびですかパチュリー様?」

    「ここにある本を片付けてもらえるかしら?」

    「あれ?でもパチュリー様、この本はさっきお出ししたばかりですよ?」

    「新しい本が手に入ったから、今日はそれを読んでみようかな?と思ってね」

    「新しい本ですか?でも何方が…」

    「…」チラッ

    「うぅん?」

    「…久しぶり。小悪魔」

    「…へっ?わきゃぁぁぁぁ!!」

    「小悪魔、驚きすぎじゃないかしら?」

    「も、ももも申し訳ございませんパチュリー様!…本当に…ツルギ様なのですか?」

    「うん。このブレスレットを持ってるのは、いくら幻想郷でも俺しかいないんじゃないかな?」

    ツルギの左腕に嵌められたあまり大きくはないが、とても立派なブレスレット。
    このブレスレットは、ツルギにとってとても大事なものだ。それは追々…

    「…本当に…ツルギ様なのですね?」

    「うん。しばらくぶりだ」

    「…うぅ…ツルギぁぁぁぁ!」ダキッ…

    「うぉっ…」

    「寂しかったですツルギ様ぁぁぁ!」

    「…寂しい思いをさせてしまったみたいだな…すまなかった」なでなで

    「うぅ……」グスッ…

    「…パチュリー、これは?」

    「こあ、あなたがいなくなったって聞いてかなり落ち込んでたのよ?そこから立ち直らせるのは苦労したんだから。」

    「それは…すまない…迷惑をかけた」

    「気にしないで。それに、ちゃんと戻ってきてくれたじゃない。それだけでわたしは嬉しいわ。」

    「…なんだか、少し照れるな。」

    「ふふっ…私もあなたがいなくなって寂しかったのよ?普段からこんな感じだから、みんなには気付かれなかったみたいだけれどね。」

    「そうか。」

    「うぅ…」

    「…落ち着いたか?」

    「はいぃ…」グスッ…

    「こあ、お仕事の方を頼みたいんだけれど?」

    「グスッ…はい!…あの、ツルギ様」

    「?」

    「また、会えますよね?」

    「あぁ、もちろん」

    「!!…ありがとうございます!パチュリー様!私頑張ります!」

    「よかったわねこあ。でも張り切り過ぎて失敗しないようにね?」

    「はいっ!!」

    小悪魔は、さっそくパチュリーの書斎の上にある本を数冊抱きかかえ羽を広げて本棚の方へと飛んでいった。



    「…ツルギ」

    「ん?」

    「…次はいつ…外に行くの…?」

    「…それなんだが、これからは多分軽い買い物以外じゃ出ることはなくなるかもしれない。」

    「!…じゃあ、ずっと幻想郷にいるってこと?」

    「行きたかったところも回ってしまったしな。…それに、ここほど落ち着ける場所はそうない」

    ガタッ!!タッタッタッ…ダキッ!

    「…パチュリー。そんな急に走って喘息が出たらどうするんだ」

    「いいの…。今は…こうしたかったから…」

    「…」

    「…ツルギ」

    「…?」

    「…お帰りなさい」

    「…あぁ、ただいま。」ギュッ

  9. 9 : : 2018/04/28(土) 12:08:31
    パチュリーがツルギに抱きつき、ツルギがパチュリーの背中を優しく撫でる。
    これを続けること数分…。パチュリーは満足したのか、ゆっくりとツルギを抱きしめる腕を解いた。

    「…ごめんなさい。少し、取り乱したわ」

    「気にしないでいい。俺も久しぶりにパチュリーに会えて嬉しかったからな。」

    「!?///そ、そう…///」

    「あぁ。」

    「ねぇ…ツル「邪魔するぜー!」ぎ…」

    「…あの声…」

    「よぉパチュリー。また本を借りにきたぜー」

    「…魔理沙…」

    「どうした?そんな視線だけで人をやれそうな目をして…誰かいるのか?」

    今、ツルギは本棚によってちょうど魔理沙から隠れるようになっている。そのため、魔理沙は今ツルギの存在に気づいていない。

    「…なんでもないわよ…。それより魔理沙、あなたが前に盗っていった本、まだ返してもらっていないんだけれど」

    「そうだったっけ?悪い悪い、今度持ってくるぜ」

    「はぁ…あなた、今までそう言って返したことあったかしら?」

    「あはは…」

    「言葉を濁さない!…もう」

    「今度ちゃんと持ってくるって…。ん?あの書斎の本…見たことないやつだな。ひょっとして…新しい本があるのか!?」ビューン!!

    「…あれ、完全に本を返却する約束忘れたわね…はぁ…」

    「おぉ…今までに見たことない種類の魔法が書いてある!パチュリー!!これどこで手に入…れ…た…!?」

    「魔理沙、さっきぶりだね。」

    「つ、つつつツルギ!?どうしてここに!?」

    この娘は霧雨魔理沙。
    博麗神社にて霊夢とお土産の取り合いをしていた人間だ。
    彼女は魔法を駆使して戦う魔法使いで、その魔法の研究のためによくこの図書館に入っては本を借りて行くんだとか。
    別名、頻度最多の紅魔館侵入者

    「いや…神社で最初に紅魔館に行くって言っただろう」

    「てっきり私はもう他に行ったものと思ってたぜ…。でもまぁ、こうやってツルギに会えたんだし結果オーライ」

    「何が結果オーライよ…。それより、その本は私がツルギに貰ったものなの。」

    「えぇ!?これツルギがくれたのか!?」

    「いいでしょう」ふふん!

    「だったら尚様借りて行くぜ!」

    「ダメよ。まだ私が読んでいないんだから。」

    「そんな堅いこと言うなよ。長い付き合いだろ?」

    「それとこれとは話が別よ。それに、ツルギから貰ったものをそう簡単に渡せるわけがないわ。」

    「…どうやら交渉は決裂したようだぜ…」ゴゴゴゴゴゴ…

    「元から交渉の余地なんてないと思うのだけれど…」ゴゴゴゴゴゴ…

    やがて、魔理沙は懐から八卦炉を。パチュリーは魔道書を取り出し、互いが互いと距離をとった瞬間双方の周囲に無数の魔法陣が浮かび上がった。

    「お、おい2人とも。少し落ち着いたらどうだ」

    「魔理沙…この際だから、今まで盗られた本の恨みもここで晴らさせてもらうわ。」

    「今度こそ、お前に弾幕の素晴らしさを説いてやるぜ…」


    「…ダメだ。2人とも自分の世界に入ってしまっている…。仕方ない」

    ツルギはそう言うと同時に左腕のブレスレットへと手をかざし、まるで忍者が手裏剣を投げるかのようなモーションでそこから2つの光弾を放つ。

    放たれた2つの光弾は、飛翔する中で光の輪のようになり1つは魔理沙の、1つはパチュリーの上から大体胴体中腹あたりで止まり、やがて急激に輪の内を狭めて腕もろとも2人を捕縛した。

    「うぉっ!?」

    「きゃっ!!」

    「まったく。2人とも、ここが図書館なら魔法で本が吹き飛ぶことを考えなかったのか。」

    「で、でも、この図書館の本にはある程度の魔法じゃビクともしない結界が…」

    「お前達の魔法が、その結界を吹き飛ばせるほどのものだって考えなかったのか?しかも、手加減なんてする気なかっただろ。」

    「…わ、悪かったぜ…」

    「そ、そうね…。」

    「まったく」

    ツルギがそう嘆いたと同時に、2人を縛っている光の輪が飛翔し始めたばかりの2つの光弾に変化してツルギの左腕へと戻っていき、元のブレスレットの形に戻った。

    「いてて…少しお尻を打っちゃったぜ…。にしても、相変わらずその腕輪便利だな。私の八卦炉以上なんじゃないか?」

    「まぁ、八卦炉以外にも魔法が使える魔理沙と違って俺はこれが唯一の武器だからね。生半可なものじゃやっていけないよ。」

    「そうだったな。」

    「…そういえば、ツルギは純粋な人間だったわね。」

    「酷ッ!!私が普通の人間じゃないっていうのか!?」

    「あなたは魔法が使えるじゃない。咲夜も時間と空間を操れるし。…でも、あなたはそんな能力は持ってないのよね?」

    「あぁ、俺にもそんな能力があれば便利なんだろうけどね。俺は、生粋の無能力者だよ。」
  10. 10 : : 2018/04/28(土) 19:54:00
    「じゃあ、もし誰かの能力が手に入るとしたら誰のが欲しいんだ?」

    「うーん…そう言われるとないね。」

    「…なぜ?」

    「俺にはこのブレスレットがあるし、何より強すぎる力はいろいろとめんどくさいからね。魔理沙も心当たりあるだろ?厄介ごとが転がり込んでくるっていつも愚痴っているとある巫女のこと。」

    「あぁ…確かにな。」

    「だから俺の能力に対する認識は、『あった方が便利だけどなければなくてもいい。』程度かな。」

    「なるほどなぁ。」

    「これを魔理沙と同じ人間が言ってるんだから、おかしな話よね。人間は欲にまみれてるってよく言うじゃない。」

    「ちょっと待てパチュリー。それは私が欲に取り憑かれた人間だっていいたいのか?」

    「あら?気に入った魔道書を私に無断で持って行く人が果たして欲がないと言えるのかしら?」

    「ぐぬぬぬ」

    「なによ?」

    「…ちぇ。お前、そう言う小さいことをいちいちネチネチと言ってくるよな」

    「言われたくなければ盗っていった本を返してからにしてくれるかしら?」

    「…根暗」ボソッ

    「何か言ったかしら白黒?」

    「!…ピンク妖怪!!」

    「!!きのこバカ!」

    「喘息持ち!」

    「泥棒!」

    「「ぐぬぬぬぬ!!」」

    「お前ら…」


    バタンッ!!

    「お兄様!!」ビューン…ダキッ!!

    「うおっと。フラン、頼むからもう少し優しく抱きついてくれ」

    「ごめんなさーい」すりすり

    「お、フランじゃないか」

    「あら、フランがここにくるなんて珍しいわね。」

    「どうしたんだ?確かおやつを食べていなかったか?」

    「えへへ。お兄様、待っててもなかなか来なかったから自分から来ちゃった!」

    「え?もうそんな時間経ったのか?」

    「あぁ、そういえばもうそろそろ日が暮れ始める時間だな。」

    「そうかぁ…。じゃあもうそろそろ次の目的地に行くとするかな。」

    「次はどこに行く予定なの?」

    「最初は白玉楼にしようと思ってたんだが、今夜は満月で比較的明るいし、先に永遠亭に行こうと思う。夜の竹林はなかなか乙なものだぞ。」

    「そう…行ってしまうのね」

    「お兄様…またどこか行っちゃうの…?」

    「大丈夫だよフラン、また会いにくるから。パチュリーも誤解を招く言い方をしないでくれ…」

    「ふふっ…ごめんなさい」

    「ほんと…?本当にまた会いに来てくれる?」

    「ほんと。指切りするか?」

    「!!するー!!」

    「「ゆーびきーりげんまん、嘘ついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!」」

    「絶対だよ!」

    「うん。絶対」

    「…さて、私もそろそろお暇するかなぁ」

    「あなた、貸した本を返しにくる約束忘れないでよ?」

    「わかってるよ!ったく、ツルギが帰るからってその鬱憤をこっちに向けるなよな。」

    「あら?あなたがこのタイミングで帰るのもツルギと少しでも長く居たいからじゃないのかしら?」

    「あぁそうだぜ?どこかの誰かさんみたいに病気を持ってないとこう言う時いいよなぁ?」チラッ

    「それは誰に向かって行ってるのかしら?」

    「さぁ、誰だろうなぁ?」チラッ

    「なによ…」

    「なんだよ?」

    「「ぐぬぬぬぬ」」

    「あの2人は相変わらずか…」

    「お兄様!私お見送りする!もう暗いから外までいけるよ!」

    「ありがとう。よし、行こうか。」

    「ツルギ様、お帰りですか?」

    「咲夜か。うん、そろそろ次の目的地に行こうと思ってね。」

    「…そう…ですか」

    「大丈夫だよ、また会いにくるから。なぁ?フラン」

    「うん!咲夜、ツルギと指切りしたんだよ指切り!」

    「…ふふっ…そうですか。」

    「そう言うことだ。すまないが咲夜、レミリアを呼んできてくれるか?」

    「かしこまりました。場所は玄関でよろしいですか?」

    「あぁ…フランは門まで来るみたいだし、門のところでいいよ。」

    「承りました。」シュン…

    「ふぅ…さて2人とも、そろそろ行くよ。」

    「あ!ツルギ!待ってくれだぜ!」

    「私も行くわ。」

    「あれ?ツルギ様お帰りですか?私もお見送り行きます!」



    「本当に行ってしまうの?今夜くらい泊まっていけばいいじゃない。」

    「…そうしようとも思ったんだけどな、他の奴らにもはやく会いたいし、行くことにしたよ」

    「…そう…」

    「また来るから、その時は泊まってもいいか?」

    「!!えぇ!最高の夜を約束するわ!」

    「お兄様、約束…忘れないでね…?」

    「ツルギさん、今度お手合わせお願いしますね!」

    「あなたから貰った本、大切にするわね。」

    「ツルギ様!またいらしてくださいね!」


    「ツルギ様、道中、お気をつけて。」

    「みんな、お見送りありがとうな。」

    「ツルギー。はやく行こうぜー」

    「あぁ、悪い魔理沙。じゃあな!」
  11. 11 : : 2018/04/28(土) 20:30:32
    「また来てね。」

    「ばいばーい!」

    「「さようならー!」」

    「…ツルギ様…」

    「寂しい?」

    「…パチュリー様…」

    「心配無用よ。ツルギは優しいから、約束を無下にするなんてありえないわ。」

    「…そうですね。」

    「そうですよ咲夜さん。ツルギさんは優しい人です!」

    「思いつかなかったのなら無理に慰めなくてもいいのよ?それと美鈴、あなたへのお仕置き、忘れてないからね?」

    「うぇえ!?そんな殺生な!」

    「…どんなお仕置きにしようかしら。」

    「聞いてますか咲夜さん!?そんな恐ろしいことを考えないでくださいよ!咲夜さんってばああああ!!」

    「と言うことは、また美鈴はお昼寝していたのね…。まぁ、魔理沙が入って来た時点でわかってはいたけれど…」

    「咲夜も変わったわね。」

    「レミィ?」

    「ああやって誰かに話しかけてる姿を見ると、ここに来て少しは変わってくれたのね。」

    「まるでお母さんみたいな発言ね」

    「私にとってこの館の住人は家族のようなものだもの。もちろんあなたもね?」

    「ふふっ…ありがとうレミィ。でも、あなたも変わっているのよ?」

    「私?」

    「ここに来てすぐの頃はあんなに人間を憎んでたあなたが、人間である咲夜を迎え入れた上恋心まで抱くなんて。」

    「にゃ!?な、なんのこと!?」

    「隠さなくてもいいわよ、みんな知ってることだもの。」

    「そ…そんな…私の…私の威厳が…吸血鬼としてのプライドが…」

    「いいじゃない。ここは幻想郷よ?常識に囚われる方がどうかしてるわ。」

    「…パチェ…」

    「それに、ツルギに好印象を持ってない人なんてこの幻想郷にはいないんじゃないかしら?」

    「そう…よね」

    「でも、競争率高いわよ?」

    「…ふふふ。まさかパチェに励まされるなんてね。…私は吸血鬼として、絶対にツルギを手に入れてみせるわ!」

    「それでこそレミィね。…でも、フランも、美鈴も、こあも、咲夜も、もちろん私だって負けないわよ?」

    「ふふ、勝負ってことね?」

    「そういうことね」

    「知人だからって手加減はしないわよ?」

    「望むところ」

    「…ですが、ツルギ様のご迷惑になるようなことは、絶対にしないでくださいね…」

    「「さ、咲夜!?」」

    「もし…ツルギ様のご迷惑になるようなことがあれば…その時は…」

    「も、もちろんよ!」

    「ぜ、絶対に迷惑はかけないわ!!」

    「そうですか…。それならばよろしいのですが…」



    「…強敵…ね」

    「咲夜も含めて、あの4人はね…」

    「そういえば、ツルギは永遠亭に行くって言ってたわよね?」

    「そうね。ということは、咲夜の次はあの子ね。」

    「でもあの子がそこにいるなんて、ツルギは知っているのかしら」

    「そういえば、彼女があそこにいるようになったのはツルギがいなくなってからだったわね。」

    「…面白くなりそうね」

    「そうね。」

    「「ふふっ…」」


    その夜、紅魔館からは謎の笑い声と、これまた謎の悲鳴が聞こえて来たという…
  12. 12 : : 2018/04/29(日) 06:15:51
    満月の月明かりに照らされた夜の空、月に被さるようにある小さな2つの黒い斑点。霧雨魔理沙とツルギである。

    2人は今、少し肌寒い夜の空を並んで飛行していた。

    「うぅ…さみぃ…。」

    「大丈夫か?」

    ヒュュュュン…

    「うぅっ…はぁ…すぅ…はぁ……やっぱり耐えられん!」

    魔理沙は、寒さで震える手を懐へと忍ばせて中から八卦炉を取り出し、片手で持って温風を自分にあてた。

    「はぁ…あったかいぜ。やっぱり私の相棒はこいつだな」

    「なんだかんだ魔理沙も八卦炉を気に入ってるんだな」

    「そりゃあそうだ。こいつは私の大事な相棒だし、これがない生活なんて考えられないぜ。料理の時とかにも重宝するしな」

    「へぇ、そうなのか。じゃあ俺もあったまろっと。」

    一方ツルギはブレスレットに軽く手をかざしただけですぐに元の姿勢に戻り、見た目の変化は特になかった。

    「うん、だいぶ暖かくなった。」

    「ふむぅ…」

    「どうした?」

    「いや。ふと思ったことなんだが、そのブレスレットに弱点とかあるのか?」

    「そうだねぇ…。やっぱり、道具だから盗られることかな。自分の武器ならこれほど頼もしいものはないけど、敵に回すとこれほど厄介な物もない。」

    「まぁ…確かにな。私もそれを止められる自信はないぜ。…っと、ここでお別れだな」

    「もうそんな距離まで来てたのか、ありがとうな魔理沙。1人で飛行は寂しかったから助かった」

    「へへっ、いいってことだぜ。それに私もツルギを独り占めしてた感じがしてよかったしな。」

    「…まぁ、褒め言葉として受け取っておくよ。それじゃあ、帰り道気をつけろよ」

    「ツルギもな〜」

    軽い別れの挨拶を交わし、魔理沙はそのまま我が家へと向かい、ツルギは方向を変え、目的地へと向かっていった。



    ヒューン……スタッ…

    「永遠亭に行く前に、まずはここを抜けないとな。」


    ツルギが降り立ち、目の前に広がっているのはとても立派な竹が生い茂った竹林。
    ここは迷いの竹林。いつも深い霧が立ち込み、竹の成長も異様に早く目立った目印も特にないために1度足を踏み入れるたら最後、2度と出ることは叶わないと言われているほどの大竹林。

    ここを抜けると、ツルギの目指す場所である永遠亭があるのだ。


    「…」スッ…

    ツルギは左腕のブレスレットに手をかざし、少しの間目を閉じる。
    そしてツルギの目が開かれると、彼の肉眼には不思議な模様が浮かび上がっていた。

    これはブレスレットの能力の1つ。自身の目自体に情報を浮かび上がらせ、目的地へと導いてくれる機能だ。

    「…ほんと、このブレスレットって便利だよな。」

    今一度自分の持つアイテムの有用性を再確認し、ブレスレットの光源機能で前方を照らしながらゆっくりと迷いの竹林へと入っていった。
  13. 13 : : 2018/04/29(日) 10:00:25
    サクッ…サクッ…サクッ…
    キリリリリ…キリリリリ…

    竹林内の乾いた土を踏む音と、昆虫の鳴く声のみが聞こえてくる。

    ツルギが竹林へと入ってから、ちょうど30分程度が過ぎたころ…

    竹と竹の合間から、日本家屋然とした屋敷が姿を現した。そう、それこそがツルギの目指していた場所である永遠亭。
    あたりを竹で囲まれた独特の立地でありながら屋敷自体は手入れがしっかりされており見事に景色に溶け込み月明かりも合わさってとても神秘的な雰囲気を醸し出している。

    ツルギは目の探索能力を解除し、ブレスレットのライトを頼りに永遠亭へと近づいた。

    その時

    ……スタッ…

    「やいやいやい!ここは由緒正しき永遠亭であるぞ!それを知っての狼藉か!」

    永遠亭の入り口にある塀の上に、見た目兎耳をした小さな少女が乗っていた。

    「あ、てゐじゃないか」

    「ん?あんた、なんで私の名前なんて知ってるんだい?」

    「(また忘れられてる…俺、印象薄かったのかなぁ…。そう考えると、俺だとわかってくれた咲夜とフランには頭が上がらない…)えーっと、俺って言ってわかるか?」

    「んんんん…わかるような…わからないような…」

    「…」

    「んん?でもあんたのその顔…どこかで…」

    ツルギはどうやら完全に忘れられたようで、仕方なく腕のブレスレットを突きつけながら自分の名前を名乗ることにした

    「…ツルギだよ…」

    「ん?そのブレスレット…ツルギ………・・・!?」

    『どぅえええええええ!?』つるっ…

    「あっ…」

    「へっ?…うわぁぁ!?」ドシンッ!

    「だ、大丈夫か!?」

    「うぅ…いったぁ……って、ツルギ!!帰ってきてたの!?」

    「お、おう、ついさっきな。それよりお尻は大丈夫か?」

    「くそぅ…この因幡てゐ、いたずらで他者に遅れを取るなど…一生の不覚っ!!」

    「いや…別にいたずらしたわけじゃないんだが…」

    「…まぁいいや、ツルギだし。それよりも…っと!」

    てゐはそれはそれは見事に綺麗な飛び上がりで、体勢を立て直した。

    「久しぶりだなツルギ!!」

    「うん、君も相変わらずでよかったよ。というか、まだあの口調やってるのか?」

    「はははぁ…1度覚えちゃうとつい癖でねぇ〜。それで、ツルギは今日はどんな用事で来たんだい?」

    「あぁ、久しぶりに帰って来たから挨拶回りに。入ってもいいか?」

    「おう!いいよいいよ入っちゃって〜。今日はちょうど月見の日でお餅ついてたんだ。ツルギも一緒に食べようよ!」

    「とりあえず、了承がでたらそうさせてもらうよ」

    「出ると思うんだけどなぁ…まぁいいや。こっち〜」

    「あぁ。」


    永遠亭、廊下移動中・・・

    テクッ…ギシッ…テクッ…テクッ

    「あら、因幡…」

    「お、鈴仙ちょうどいいところに!今お客さんを招待しててさ?聞いて驚くなよ?なんとそのお客とは・・・」

    「い〜な〜ば〜!!」

    「あぅ?」

    「また餅作りを抜け出して!!今日という今日は許さないわよ!!」

    「わぁぁ!!鈴仙待って!今はそれよりも・・・」

    「問題無用!」

    「ああああ!!頭ぐりぐりはやめて!痛いから!痛いって!イタタタタタタタッ!!」

    「…楽しそうだな。」

    「ぐりぐりぐりぐり・・・・!!!…ふんっ!」ドテッ…

    鈴仙の頭ぐりぐりの刑は、見事てゐの頭にクリーンヒットし、てゐは床に力なく倒れ込んだ…

    「ふぅ…さてと、私も早く戻らなくちゃ。…あら?」

    「…」

    「どなたかしら…もしかして人間さん?」

    「…久しぶり、鈴仙」

    「?なぜ私の名前を?…あ、さっきの会話聞かれちゃったか…」

    「いや、元々知ってたんだが…」

    「となると…この永遠亭に無断で入った侵入者…?」

    「いや、ちょっと待て…」

    「…なるほど。あの竹林を抜け出し、あまつさえてゐの耳を凌げる程の人間ですか…惜しい人材ですが、この永遠亭に入ったのが運の尽きでしたね!」

    「いや!だからちょっと待てって!」

    「問題無用!私の狂気を喰らいなさい!」

    次の瞬間、鈴仙は狂気を操る程度の能力をツルギに向けて発動して来た。

    しかし…

    「…あれ?なんで…なんで効いてないの!?」

    ツルギは狂った様子など微塵も見せず、ただじっと、鈴仙を眺めていた
  14. 14 : : 2018/04/29(日) 15:44:47
    「なんで…」

    「いや、まず落ち着いて?」

    「そりゃ効くわけないじゃん」

    いつ回復したのか。地面に突っ伏していたはずのてゐがツルギと優曇華の話の間に入って来た。

    「てゐ、大丈夫か?」

    「まぁね。相変わらずの馬鹿力だよまったく」

    「てゐ…効かないって…どういうこと…?」

    もはやさっきまでの優曇華はどこへやら。今の彼女は、目尻に涙を浮かべながら腰を地面に落としておりとても弱々しい

    「だって、ツルギだもん」

    「つ…るぎ…?」

    「そ。あのツルギ。」

    「…え?」チラッ…

    「…久しぶり」

    「…」

    『ええええええ!?』

    「…なぁ、てゐ。幻想郷の住人って驚くといきなり奇声をあげるものなのか?」

    「い、いやぁ…全員がそうでもないと思うんだけど…」

    「つ、つつつツルギ様!?」

    「うん。」

    「ほ、本当にツルギ様なのですか!?」

    「うん。」

    「…す…す…す…」

    「ん?」

    「すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!」

    優曇華が行ったこと。それは人が人に対して謝罪をする最上級の方法、土下座であった。
    そのフォルムはそれはそれは見事だったと、後にてゐは語っている…

    「…え?」

    「まぁ…そうなるよね」

    「ツルギ様だとはつゆ知らず…本当に申し訳ございませんでした!」

    「い、いや。別に怒ってないから立ってくれないか?…人に頭を下げさせるのはいい気分はしないし…」

    「つ、ツルギ様…」うるうる

    「ほら、立って」

    「は、はい…。あ…」

    ツルギは優しく優曇華に手をさしのべ、優曇華はそれをしっかりと掴んで引き上げてもらう。

    だが、抱き上げた反動で今のツルギと優曇華は軽く抱き合った状態になってしまった。

    「あ、悪い。」

    「い、いえ…その…もう少し…このままで…」

    「そ、そうか…」

    「…はい…」すりすり…


    「んっ、ん"ん"ん"…。そういうことは2人きりの時にやりなよ。ムカつくなぁ、特に鈴仙」

    「…へ?わ、わきゃぁぁぁ!///わ、私、なんてことを…///」

    「まぁまぁ…。それで鈴仙、他のみんなはどこにいるんだ?」

    「ふぇ!?あ、は、はい!えーっとですね……。妹紅さんと姫様は余興だと言って中庭で弾幕ごっこを、師匠はそれを見物なさっていますね」

    「そうか…ついでに俺も見物したいんだが問題ないか?」

    「はい!それは問題ありません。むしろみなさんお喜びになると思いますよ!」

    「そ、そうか」

    「にしし。ほらね?私の言った通り」

    「まぁ確かにてゐの言った通りだったな。」

    「さ。ツルギ様、こちらへ」

    「こっちだよー」

    「お、おう」

  15. 15 : : 2018/04/30(月) 09:39:29
    ヒュン…ピシュン!…ドンッ…ドンッ

    「避けてるだけじゃ勝てないわよ〜?」

    「無駄玉は撃たない主義なんでな。…1撃で決める」

    「私を相手にそんな余裕なんて、強くなったものね〜」

    「言ってろ。お前に褒められたところでなにも感じない。」

    「ふふ、やはりあの人じゃダメなわけ?ピュアなのね」

    「…ほっとけ///」

    「あらあら…うふふ。でも、もしあの人が褒めてくれるなら私も負けるわけにはいかないのよね〜」

    「…!」プツン…

    「褒めてもらって、頭を撫でてもらって…『よくやったぞ輝夜』って言ってもらうの」

    「…どうやら、お前にはここで引導を渡さなければいけないようだ」

    「あらあら、無駄玉は撃たないんじゃなかったの〜?」

    「前言撤回する。お前は全力で落とす!」

    「だからって私も負けないわよ?他のものならいざ知らず、あの人からのご褒美は私がもらうんだから。」

    「やらねぇよ!」

    「いただくわ。」


    ヒュン…ピュン!ピュン!…ドドドドド…ブォォオ…ピシュン!ピシュン!


    「姫様も妹紅も、何かあったのかしら?。妹紅は弾幕を使い始めたし、姫様もさらに密度をあげている…」

    「おぉ、やってるね〜」

    「お二人共、なんかちょっと怖くありませんか?」

    「あら?てゐに鈴仙。」

    「あ、師匠!」

    「おいっすー」

    「2人共どこに行ってたのかしら?」

    「私は門前で警備を…」

    「嘘をつきなさい。あなた、そう言って餅つきサボってたじゃない」

    「サボってないし!警備も立派な仕事だし!」

    「…それで、鈴仙は?」

    「私は、餅つきをサボってたてゐを探してまして」

    「なるほどね。…それで、そちらの方は?」

    「…久しぶり、永琳。」


    「…へ?…つ、つつつツルギ!?」

    「よかった…。永琳は覚えててくれたのか」

    「それはそうよ!忘れるわけないじゃない!」

    「そうか…ありがとう…」うるっ

    「ど、どうしたの?」

    「い、いや、名前を覚えててくれたのが嬉しくてな…」

    「忘れるわけがないわ。あなたは私にとって大事な人だもの」

    「…永琳」

    「よしよし。」

    「…ありがとう…」ギュッ

    「ふふっ、可愛いわね。」チラッ

    「…」ピュー、ピュー、

    「すいません…すいません…すいません・・・」ガクガクプルプル

    「…あとで薬の実験をしなくちゃね」悪い顔




    「…すまん、永琳。忘れてくれ」

    「いいじゃない。貴方の弱いところ、私好きよ?」

    「…やめてくれ。…それはそれとして、あの2人の状況は?」

    「話逸らしたわね…まぁいいわ。見ての通り、妹紅が優勢よ。さすが、貴方が育てただけはあるわね。」

    「ははは…」

    ツルギの隣で会話をしているのは、八意永琳。
    この永遠亭の主である輝夜の従者である。元々は月の住人だったのだが、輝夜とともに地上へと来た経緯を持ち、その頭の良さとあらゆる薬を作る程度の能力によって、幻想郷の住人をよく診察してくれている。

    ピシュン!ピシュン!ピシュン!

    「くっ…」

    2人のうち、黒い髪をした女性は蓬莱山輝夜。
    この永遠亭の主人である女性で、かつて蓬莱の薬を服用し月を追放された元月の住人。性格は天真爛漫で、よく永琳は愚痴をこぼしている。

    「どうした?その程度なのか?」

    そして、輝夜を挑発している銀髪の女性は藤原妹紅。咲夜と同じくツルギが育てた4人のうちの1人。
    事故によって蓬莱の薬を服用してしまった不老不死の女性で、ツルギと出会った頃はもはや生きることにすら無関心な生きた死体のようであった。
    だが、咲夜と同じくツルギとの生活を通して生きがいを感じ始め、自分の能力を鍛えるという趣味もできたこと、そしてもう一つの事がきっかけで元の性格へと回復。それからというもの、妹紅はツルギの元で特訓を開始。
    妹紅はツルギとの特訓を通して、その老いる事も死ぬ事もない程度の能力を昇華させ、筋力や思考、果ては皮膚の硬さに至るまで、自分自身の肉体を100%使用・操作できるようになり、妹紅が持つもう1つの力である妖術も、御札や陰陽などの妖怪退治用のものから、治癒や水、風などを操る妖術まで使用可能になった。
    その妖術の中でも特に妹紅が得意としているのは炎を操る能力。特にこの炎に関しては並々ならぬ努力をしており、ツルギの炎に関する様々な知識や技術をすべて身につけて、さらに不老不死の肉体を活かした地獄のような特訓の結果、高熱の赤い炎を上回る、超高熱の蒼白の炎を操ることができるようにまでなった。

    【老いる事も死ぬ事もなく、自身の肉体を完全に操作する程度の能力】
  16. 16 : : 2018/04/30(月) 14:22:49
    「ふぅ…やるわね」

    「どうした?もう体力が尽きたのか?」

    輝夜が妹紅を攻撃し、妹紅はそれを高速で避けながら反撃するということを繰り返して数十分。
    急に輝夜の弾幕が止まり、妹紅も不審に思いその場に停滞する。

    「そろそろお餅も出来上がる頃でしょうし、ここで決着をつけようと思ってね?」

    「なんだ、やっとその気になったのか。」

    「ふふっ、私の全力、受けて見なさい!」

    途端、輝夜の周囲には陣のようなものが5つ形成され、そこから5色のそれぞれ色の違ったレーザー及び弾が妹紅めがけて発射された。

    「ふっ、ならば私も全力で行かせてもらう!」

    しかし妹紅は輝夜の弾幕を前にして笑い、得意の蒼白の炎を出現させる。
    妹紅の出した蒼白の炎はやがて、妹紅自身の体を包み込み巨大な不死鳥のシルエットを作り出した。

    それこそが妹紅最大の技。
    自身の不死身の能力を利用し、超高熱の蒼白の炎を全身にまとわせて不死鳥を作り相手に突撃する。

    その熱量によって大抵の弾幕は打ち消され、たとえその影響を受けなかったものが炎に直撃してもすぐに再生して向かってくる、まさに大技。

    「きてみなさい。」

    「望むところだ。」

    パンッ!!!

    2つの大技がぶつかろうとしたその時、手を叩く音が響き渡り、それを聞いた2人は自分の技を解除していた。

    「余興はここまでよ、お餅が出来上がったわ。姫様も妹紅も、食べましょう。」

    「できたの?やった〜」

    「わかった。」

    先ほどまであんなにやり合っていたのに、終わってみると意外と淡白。この2人の弾幕ごっこはいつもこんな感じだ。

    「ほーい、持ってきたよー」

    「妹紅さんも姫様もお疲れ様でした。」

    2人に持ってこられたのは、つきたてのお餅が入った関西風ぜんざい。

    「ありがとうてゐ。」

    「私たちは別の場所で食べてますから、食べ終わった食器は持ってきてください」

    「わかったわ、鈴仙もありがとう」

    ぜんざいを届け終えたてゐと鈴仙は、2人に1度軽い会釈をした後、部屋を出て行った。


    「じゃ、食べましょうか。いただきます。」パクっ

    「いただきます。」パクっ

    「!!美味しい…美味しいわこのぜんざい!」パクッ、パクッ、パクッ

    「…!」

    「あら、どうしたの妹紅?」

    「…」うるっ…

    「も、妹紅?」

    「…」パクッパクッパクッ!ごくっ…ごくっ…ごくっ……カチャン…

    「…グスッ…」

    「大丈夫なの?」

    「わ、悪い…なんか、懐かしい味だったから…な…」

    「そうなの?このぜんざいが懐かしいなんて、ちょっと羨ましいわね。どこで食べたとか覚えてる?」

    「あ、あぁ…あの人に作ってもらった物とにて……!!」ダッ!!

    「あ、妹紅!…行っちゃった。なんなのよ一体…」パクッ…パクッ…ごくっ…ごくっ…カチャン…

    「ごちそうさま。さて、妹紅を追いかけようかしら。ふふっ」




    「やっぱり美味しいです。ツルギ様の手料理」パクッ…

    「鈴仙に同意、超美味しい。」パクッパクッパクッ

    「いったいどこで覚えたのかしら」パクッ

    「はは、喜んでもらえて何よりだよ。」

    「これを昔から食べてたあの4人には嫉妬しちゃうね。」パクッパクッパクッ

    「確かに。」パクッ

    「…ごちそうさま。ツルギ、美味しかったわ」カチャン…

    「ごちそうさまでした…はぁ…ツルギ様のお料理が食べられて幸せでしたぁ…」

    「ツルギーおかわりー!」

    「ごめん。もう材料がないんだ。」

    「うぇえ!?そんなぁぁぁ…」

    「あんたがまともに餅作りを手伝っていればこうはならなかったのよ。反省しなさい!。ツルギ様、今日はありがとうございました。おやすみなさい。」

    「うぅぅ…今日ばかりは手伝わなかったことを後悔してるよ…ごちそうさま…」とてっ…とて…

    「…さて、私も部屋へと戻らせてもらおうかしら。ツルギ、貰った新薬の情報、ありがたく研究させてもらうわね。」

    「よろしく。俺がやるより永琳に頼んだ方がいい結果になりそうだしね。」

    「ふふっ、あなたにそこまで言われたからには頑張らないとね。」

    「ほどほどに頼むよ。」

    「心配してくれるの?でも大丈夫よ。1度や2度の徹夜ぐらいで身体を壊すほど柔じゃないわ。」

    「そうだったね。食器は俺が片付けておくから」

    「悪いわね。」

    「いいって。あいつらの笑顔も見れたしな」

    「…まるで主夫みたい。」

    「よくいわれる。」

    「ふふっ、おやすみなさい」

    「あぁ。おやすみ」


    ジャァァァ…カチャン…カチャン…


    ドタドタドタドタ!!

    「(ん?この足音…てゐか?)」

    バタン!

    「どうした?そんなに走っ」

    「…ツルギ」

    「…妹紅」

  17. 17 : : 2018/04/30(月) 21:45:29
    「…ツルギ…本当に…ツルギなのか…?」

    「…あぁ。」

    「…ツルギ…ツルギ!!」ダキッ…

    「久しぶりだな、妹紅。」ギュッ…なでなで

    「…寂しかった…」

    「ん?」

    「寂しかったんだからな!お前がいなくなって…本当に…」グスッ…

    「…ごめん。」

    「でも…よかった。また…お前に会えた。何かあったんじゃないかって…もう会えないんじゃないかって…不安で…グスッ…不安で…」

    「…ありがとうな。心配してくれて」

    「あたりまえだ!お前がいない世界なんて…考えたくもない!」グスッ…

    「…本当に、ごめんな。」

    ツルギのその一言で、妹紅は耐えきれず声を出して泣いた。それをツルギは優しく抱きしめ、背中を優しく撫でる。
    月明かりに照らされた夜の永遠亭で、妹紅はただひたすらにツルギの腕の中で泣いた。


    数分後


    「…落ち着いたか…?」

    「…あぁ、ありがとう。もう大丈夫だ。」

    「でも俺がいるってよくわかったな」

    「あのぜんざい、お前が作ったんだろ?あの味はツルギじゃないと出せないものだった」

    「すごいな、俺の料理の味を覚えてるなんて。」

    「あたりまえだ。お前の作った料理で覚えていない味なんてないし、お前の作ったもの以上に美味しい料理など私は知らない」

    「…ありがとうな。そこまで言ってもらえると料理を作った人間として最高に嬉しいよ。」なでなで

    「ん…。お前の手…大好きだ」

    「そうか?」

    「…落ち着く…」

    「ふーん、そういうこと」

    「!?」バッ…

    「輝夜」

    「お久しぶりね、ツルギ。これ私と妹紅の食器」

    「ありがとう。味は大丈夫だったか?」

    「えぇ、とても美味しかったわ。」

    「それはよかった。」ジャーー…カチャン…カチャン…

    「ふふ。妹紅泣いてたわね」

    「!?///わ、忘れろ!!」

    「私に黙ってツルギと抱き合ってた罰よ。」

    「ぐっ…」

    「それにツルギに撫でてもらうなんて、妹紅にはもったいないわ!」

    「なんだと!!」

    「なによ!」

    「「ぐぬぬぬぬぬ」」

    「(なんか、この展開は既視感を覚えるな…)…2人とも、みんな寝てるんだから静かにな。」

    「…それもそうね。」

    「…悪かった」

    キュッ…

    「…さて。食器も洗い終わったし、そろそろ寝るか。」

    「お前はどこで寝るんだ?」

    「俺は外で寝るよ。永琳に泊まっていいか許可ももらってないし。」

    「あら、わざわざ永琳に許可をもらう必要なんてないわよ?なんせここの家主は私なんだし、私がいいといえばいいのよ。」

    「ありがとうな。でも、やっぱり俺は外で寝ることにするよ。昨日まではずっと野宿だったから、そっちの方が落ち着く」

    「………そう。なんかごめんなさいね」

    「いいよ気にしなくて。妹紅はどうするんだ?」

    「私は元から野宿だ。」

    「そうか。じゃあ輝夜、俺は行くよ。」

    「えぇ、また来てね。おやすみなさい。」

    「おやすみ。」

    「じゃあな。」

    「妹紅」

    「なんだ?」

    「…変なことするんじゃないわよ」

    「!?///ばっ、馬鹿!!」

    ダッダッダッダッダッ!!

    「…心配だわ」

    輝夜は、ツルギと妹紅が出て言った玄関を深刻そうな顔で見ながらそう1言つぶやき、自分の寝室へと消えていった。
  18. 18 : : 2018/04/30(月) 22:47:51
    永遠亭を後にし、迷いの竹林を進むこと数分後。

    ツルギは竹に背を預け座り込み、妹紅はその隣に同じく竹に背を預け座り込んだ。

    「はぁ…今日だけで色々ありすぎて疲れたよ。」

    「ここに来る前にどこかいってたのか?」

    「博麗神社と紅魔館にね。」

    「そうか。…咲夜にはあったか?」

    「…あぁ。」

    「あいつ、お前がいなくなってから私たちの集まりにも顔を出さなくなってな。1度3人で紅魔館まで行ってみたんだが、本当に本人かと疑うくらい暗かったぞ。」

    「…すまない」

    「いいって。もともとツルギが外に行くことは聞いてたんだ、覚悟ができてなかったのはこっちさ。」

    「…」

    「それにさっきも言っただろう?またお前に会えたんだ、それだけで十分さ。咲夜も、私も、きっとあの2人もな。」

    「…」

    「だから、早くあってあげてくれよ。咲夜が一番影響を受けていたとはいえ、あいつらも受けなかったってわけじゃないんだからな。」

    「わかった。…ありがとう妹紅」ギュッ…

    ツルギはそう言うと、隣に座る妹紅の手を優しく握った。

    「どうした?」

    「本当は、皆の反対を押し切って外に行ったことに少なからず罪悪感があったんだ。…だから妹紅がそう言ってくれて、だいぶ気持ちが楽になった。あり…が…とう…」

    「ツルギ?」

    「…」スヤスヤ…

    「ふふっ。寝てしまったか」

    妹紅にとってツルギとは、自分を生かしてくれた恩人で、私を鍛え上げてくれた大切な人で、それ以上にずっと想いを寄せている愛しい人。

    つまり、ツルギに依存している。それは、彼女も自覚しているだろう。だが、それを治すことも、治したいとも彼女は微塵も考えていない。ツルギは彼女にとって、咲夜と同じく自分が生き、存在する理由。自分の全てだと言っていい。

    彼女が自身の不老不死の能力を昇華させたのも、ツルギを守る盾として自分を使うため。
    彼女が妖術を極めたのも、ツルギを守る矛とするため。

    彼女の行動原理は全て元を辿ればツルギのためなのだ。

    そのツルギが、今自分の隣で寝ている。彼に依存する彼女が何も思わないわけがなかった。

    「…ツルギ…私は、お前がいなくて寂しかった…。お前がいない間、私は何をしても…何も感じなかった…。やっぱり、私にはお前が必要だ。もう2度と…私を置いていかないでくれ…私を…1人にしないで…ツルギ」ちゅっ…

    妹紅は、ツルギに近づきその頬に口づけをした。

    「私を抱きしめてくれて、本当に嬉しかった。ツルギの手も、匂いも、感触も、全部大好きだ。ツルギは私が守る、ツルギを害する奴らは、私がすべて倒してやる。ツルギの敵を排除する、それが私の最優先事項だ。」ちゅっ…

    「おやすみ」

    そして、今一度ツルギの頬に口づけをして妹紅も瞳を閉じる。
    夜空の満月は、手を繋ぎ並んで眠るツルギと妹紅を優しく照らしていた。
  19. 19 : : 2018/05/01(火) 17:49:41
    「ん、んん……ふぁぁ…」

    翌朝、竹の隙間から降り注ぐ朝日の光によって妹紅は目を覚ました。

    「んん……あれ…ツルギ…?」

    昨日、隣で一緒に寝たはずのツルギがいない。
    それは、妹紅の不安を煽るのに十分な情報だった。

    「夢…だったのか…?」

    次第に妹紅の瞳には雫が浮かび上がってくる。
    自分にとって大事な人が、翌朝には消えていた。彼に依存する妹紅にとって、その真実はとても受け入れられるものではなかったのだ。

    「…そんな…なんで…なんで…」ポロポロ…


    バシャッ……バシャッ……

    「…え?」

    妹紅の近くから、水の音が聞こえてくる。この竹林には、小さな湖がいくつか存在しており、おそらくそこに誰かがいるのだろう。
    妹紅は溢れた涙を拭き取り、竹の隙間をぬって音のする方へと向かった。


    ガサッ…ガサッ……ガサッ!!


    そこにいたのは、湖に下半身を沈め、体を水で洗っているツルギだった。

    「ツルギ!!」

    「妹紅、起きたか」

    「…よかった…ツル…ッ!?」

    「…?どうした?」

    妹紅は言葉に詰まってしまった。
    ツルギの体には隙間がまったくないほどの大量の傷があった。
    刺し傷、切り傷、火傷、痣と、傷の内容も様々だ。

    「…それ…」

    「ん?あぁ…ごめん。見ていて気持ちいいものじゃないよな。」

    「ち、ちょっと待て。お前…その傷、どうしたんだ…」

    「…外にいるときにちょっとな。…それより、少し別の方向向いててくれないか?」

    「?」

    「…」

    「…あ…」

    意味を理解した妹紅は、顔をりんごのように真っ赤に染め上げすぐに後ろを向く。
    その様子をツルギは、苦笑しながら見ていた。

    「…ツルギ」

    「どうした?」

    「…痛いか?」

    「痛みはないな。」

    「…そうか。」

    「…」

    「…」ガサッ…ゴソッ…スチャ…

    「よし、もう振り向いていいよ。」

    「…うん」

    「さてと」

    「…次は、どこに行くんだ?」

    「えーっと…白玉楼だな。」

    「私も行く」

    「…大丈夫なのか?永遠亭のこととか」

    「大丈夫だ。それに、私はあそこの住人じゃない」

    「…そうか。じゃあ、よろしく頼む」

    「任せろ。」

    ツルギがブレスレットの力を発動させ、迷いの竹林の出口に向けて歩き出して数分後、ツルギは背中に重みを感じた。

    「…妹紅?」

    突然、妹紅はツルギの背中に寄りかかってきた。妹紅の体は、異常なほどに震えている。

    「…いやだ…」

    「?」

    「…会えたのに…せっかく…会えたのに…また、ツルギがいなくなるなんて…いやだ…」

    「…」

    「傷が痛むなら、すぐに言ってくれ…。お前のためなら、どんな薬だって手に入れて見せる…だから…私を1人にしないでくれ…お願いだ…」ポロポロ…

    「…」ポフッ…

    「!…ツルギ…」

    「大丈夫だ、もう俺はどこにもいかない。それに、お前達の知るツルギはこの程度で消えてしまうほど柔な人間だったか?」

    「!!」

    「だから、心配するな」なでなで

    「……わかった。」

    「さ、白玉楼に行こう。」

    「グスッ…あぁ!」

    再び溢れた涙を拭き取り、立ち直った妹紅は出口へと足を進めるツルギの後ろを、周囲を警戒しながらついて行った。



    そして、この出来事がきっかけとなり、妹紅のツルギに対する心配性と依存はより強くなり、このことを知った他の3人も、よりツルギへの依存を強めたという。
  20. 20 : : 2018/05/02(水) 19:41:25
    幻想郷上空。ツルギと妹紅は白玉楼へと向かうべく、冥界の入り口へと向かっていた。

    「…もうこっちもすっかり春だな」

    「そうだな…ポツポツと桜も咲き始めた頃か」

    「…そういえば、あいつが白玉楼に付くきっかけになった異変もこの時期だったか。」

    魂魄妖夢

    これから向かう白玉楼にて、庭師兼とある人物の監視を任されている人物。
    そして妹紅や咲夜と同じく、ツルギが育てた4人のうちの1人でもある。

    その昔、冥界にある西行妖を開花させんと冥界の管理者の手によって春が独占され、幻想郷に春が訪れない異変が発生。その異変は、最終的に霊夢と魔理沙の2人によって早急に解決することとなった。

    (この異変の際には、ツルギも咲夜を通じて霊夢に伝言を行なったり、魔理沙に推測ではあるものの情報を伝えたりなどの行動を起こしていた。)

    のだが、異変解決の際に冥界の管理者が一時ダウンした影響で、この世とあの世を分ける結界が弱まってしまい、この世に強い恨みを持つ一部の幽霊が結界を突き破って地上へと降りてくる事件が起こってしまった。異変を解決した当人である魔理沙と霊夢は、宴会の影響で完全に酔いつぶれてしまっており、このあの始末に動いたのが妖夢だ。
    彼女は、自身が持つ2振りの剣「楼観剣」と「白楼剣」を使った剣技で次々と幽霊を切っては成仏させ、冥界の結界が回復するまで、見事に地上を守りきってみせた……のだが、その時の妖夢の技を冥界の管理者が気に入ってしまい、幻想郷側としても、今後このようなことを起こさせないためにも監視する者が必要だということで、その監視者に選ばれた妖夢は、咲夜と同様渋々とではあるが冥界へと移り住んだ。

    「懐かしいな…」

    「私たちからすれば、お前と離れなくちゃならなくなった原因だがな。今でも少し恨んでいるくらいだ。」

    「…すまない」

    「お前が謝ることじゃないだろ。確かに、私たちが監視に付くことにお前は賛成はしたが、お前の考えを私達はちゃんと理解しているつもりだ。」

    「…」

    「それに、元はと言えばあいつらが私達に目をつけたのが悪いんだ。だから、お前が気負うことじゃない。」

    「…ありがとうな。ほんとうに、俺には過ぎた仲間だよ」

    「(私としては、仲間以上の関係でもいいんだがな)ボソッ…」

    「ん?」

    「いや、なんでもない。(だが、たとえ選んだ相手が私じゃなくても、私はお前から離れる気はないぞ)」

    「見えてきたな。冥界の入り口」

    「あぁ。(だからこれからも、ずっと一緒にいてくれ…ツルギ)」


    2人は、空に見える冥界の入り口へと入っていった。
  21. 21 : : 2018/05/03(木) 09:56:15
    スタッ…スタッ…
    スタッ…スタッ…

    冥界に入り、地に足をつけ進むこと数分、ツルギと妹紅は、白玉楼へと続く長い階段を登っている。

    「相変わらず、この階段は長いなぁ…」

    「お前の走り込みに比べればなんて事ないものじゃないか」

    「まぁそうなんだけどね。やっぱり、訓練としてやるのと軽い気持ちでやるのとでは体感は違うよ。」

    「ふふっ…そうか。…っと、やっと頂上が見えてきたな。」

    「おぉ、本当だ」

    スタッ…スタッ…
    スタッ…スタッ…

    階段を登ること数十分。
    ついに階段を登りきり、一息ついた2人の視界には1つの建物が映った。
    その建物こそが白玉楼。ツルギの目的の場所だ。

    サッ…サッ…サッ…

    そして白玉楼の玄関前、そこには竹箒で掃き掃除をする1人の女性がいた。

    「妖夢」

    そう、彼女こそが魂魄妖夢。咲夜と妹紅と同じくツルギが育てた4人のうちの1人であり、この白玉楼にて冥界の管理者を監視する役目を帯びた人物だ。

    「…ツルギ…様…」カタン…

    妖夢は、自分を呼んだ相手がツルギだとすぐさま理解し、それと同時に持っていた竹箒を手放してすぐにツルギの側に駆け寄る。

    「久しぶり。妖夢」

    「本当に…ツルギ様なのですね……ツルギ様…お会いしたかったです…」ダキッ

    「すまない…本当は昨日のうちに来たかったんだが…」なでなで…

    「大丈夫です…こうして…ツルギ様は私に会いに来てくださったのですから…」

    「そうか…遅くなったな」なでなで…

    「…ツルギ様の手…匂い…とても…落ち着きます」

    「…それはよかった。」ダキッ

    「?…妹紅?」

    「少し…嫉妬した」

    「…悪い。」なでなで

    「ん…いいぃ…」

    妖夢と妹紅は、ツルギに正面から抱きついてツルギを全身で感じつつ、その暖かな手を心ゆくまで堪能した。


    数分後…

    「…申し訳ありません…ツルギ様。」

    「大丈夫。それに俺も妖夢に会えて嬉しかったし。」

    「!!ありがとうございます!」

    「久しぶりだな妖夢」

    「久しぶり、妹紅。また強くなったみたいね」

    「そういう妖夢もな。」

    「…それで妖夢、あいつは今いるか?」

    「はい、おりますよ。…ただ、今お客が来ておりまして」

    「…珍しいな。」

    「そうでもないのよ?」

    「!!…びっくりした。いきなりすぎるぞ幽々子…。まぁ、なんだ、久しぶりだな」

    彼女こそがこの冥界の管理者である西行寺幽々子。この冥界にある巨大な桜の木、西行妖を開花させんと春を独占した元凶だ。

    「うふふ、お久しぶり。見てたわよ?妹紅ちゃんと妖夢ちゃんが貴方に抱きついた所〜」

    「「///」」

    「そこから見てたならはやく声を掛ければよかったじゃないか」

    「だって、せっかく妖夢の可愛い姿が見れたんですもの。私にはまったく見せてくれないし、いかにもお仕事ですみたいに淡々としか話してくれないしぃ…」

    「私が敬愛を捧げるお方はツルギ様お一人ですので。」

    「ほらね?」

    「まぁ、確かにな。」

    「だからツルギ〜慰めて〜」

    「…わかった。」なでなで

    ツルギは幽々子の頭を優しく撫で、小さい子を落ち着かせるように慰める。
    しかし、ツルギが幽々子を撫で始めて数秒後、幽々子はいきなり抱きついて来た。

    「ゆ、幽々子?」

    「んふふ〜。やっぱりツルギの匂いは格別ね〜、妖夢が大好きになるのもわかるわ。でも、貴方は私がいただくけどね〜?」

    「まだ言ってるのか?それ」

    「んふふ〜いいじゃない。本当のことだもん」

    「あら?その発言はいただけないわね」

    幽々子がツルギの胸板にスリスリと頬擦りをしていると、突然空間が割れ、中からは幽々子と同じくらいの身長の女性が姿を見せる。

    「紫か」

    彼女の名前は八雲紫。この幻想郷を作った賢者の1人で、幻想郷でもかなりの古参になる。
    普段はかなり冷静沈着で、彼女の境界を操る程度の能力と独特の彼女の雰囲気によって幻想郷の住人からもあまり関わりたくないと言われている人物

    …の、はずなのだが

    「ツルギーー!!久しぶりーーー!」

    「うおっ!?」

    ツルギの前は幽々子でいっぱいなため、紫はツルギの背中に抱きついて来た。

    何を隠そう彼女…紫は、ツルギの前では性格を急変させ、まるでツルギの妹であるかのように性格が幼児化するのだ。
    しかし肉体は立派なレディーの肉体であり、たまに見せる姉のような包容力も持ち合わせているため、かなり油断できない人でもある。
  22. 22 : : 2018/05/03(木) 22:43:22
    「ツルギーぃ…ツルギの匂いだぁ…」すりすり

    「んふふ〜。ツルギの手は私のものよー」

    …今、ツルギは2人の女性に言葉通り板挟みにあっている。2人のとある箇所は実に膨らんでいるので、性格には"板"ではないかもしれないが…

    「むぅ…幽々子ずるいわよー。ツルギー、私もなでなでしてー?」

    「い、いや、後ろにいる相手を撫でようにも俺の関節はそこまで曲がらないのだが…」

    「だったら私も前に行く!」

    「うおっ!?」

    「きゃっ!?」

    紫はツルギに撫でてもらうために、すぐに体をツルギと向かい合う位置に移動させた。だが、その時の余波で最初にツルギの前方にいた幽々子は弾かれてしまった。

    「はやくー」

    「わ、わかった。」なでなで

    「むうう!私だって負けないんだから!」ダキッ

    「あ!幽々子!邪魔しないでよ!」

    「先に邪魔して来たのは紫なのよ?むしろ返してもらいにきたわ!」むきゅむきゅ…

    「なにをー!」もきゅもきゅ…

    「ち、ちょっと2人とも…」

    チャキン…
    ボゥ…

    「幽々子様…ツルギ様のご迷惑です。」

    「それ以上ツルギに迷惑をかけるなら、2人まとめて燃やしてもいいんだぜ?」

    ツルギが2人の対応に困っていると、妖夢と妹紅から助け舟がきた。

    「あらあら…私からツルギを奪う気?いくら妖夢でもそれは許さないわよ?」

    「少し腕に自信があるからって、私を舐めすぎじゃないかしら?」

    「ツルギ様のご迷惑だと私は言いました。それ以上ツルギを不快にさせるようなら、今、あなたを監視するものとしてここで粛清してもよろしいのですよ…」

    「確かに勝てはしないだろうな。だが、負けもしない。なぜなら私は不死身だからだ。」

    「「「「(ゴゴゴゴゴゴゴゴ…)」」」」

    「…なぜだ…なぜこうなる…」

    ツルギは頭を抱えた。自分のことを想ってくれる幽々子と紫も、自分を助けてくれる妖夢と妹紅もツルギにとっては両者の思いは心から嬉しいことなのだが、こうやって互いの意見が食い違い、あまつさえそれが起因となって臨戦態勢に入られた場合、この幻想郷の住人は自分の世界に入り込み他人の言葉を受け付けなくなる。紅魔館で魔理沙とパチュリーが、永遠亭で輝夜と妹紅がそうであったように。
    こういう場合、それを止める方法は1つしかない。それは、対象を鎮圧することだ。

    ビュン!ビュンビュン!ビュン!

    「きゃっ」

    「あら?」

    「…!」

    「これは…」


    「そこまでだ。」

    ツルギは、魔理沙とパチュリーの闘争を止めたときに使用した光輪を使用して4人を捕縛した。

    「幽々子も紫も、俺を想ってくれるのは嬉しいが、もう少し加減してくれないか?俺は純粋な人間だ、大妖怪の2人に本気で力を加えられれば体がもたん」

    「「…ごめんなさい」」しょんぼり…

    「妖夢と妹紅も、助けてくれたのはありがたいがもう少し穏便に頼みたい。」

    「…申し訳ございません…」

    「…悪かった…」

    「ふぅ…」

    ツルギは4人にそれぞれ言葉をかけ終えると4人を縛る拘束を解除した。

    「やっほー、幽々子いるー?って、これどういう状況?」

    ちょうどそのとき、この白玉楼に紅白の色が加わった。博麗霊夢が来たのである

    「霊夢か」

    「あれ?ツルギじゃない、昨日ぶりね。…それで、この状況はなに?」

    「えっと…これはだな…」青年説明中…

    「…なるほどね。」

    「あぁ。」


    「うぅ…ツルギに怒られた…」グスン…

    「ツルギに嫌われた…ツルギに嫌われた…」ズーン…

    「ツルギ様を不快にさせてしまった…斯くなる上は…」

    「ツルギを不快にさせてしまった…また…ツルギがいなくなってしまう…いやだ…いやだいやだいやだ…」


    「…重症ね。」

    「…それで、霊夢はなんで白玉楼に?」

    「あぁ、今日ツルギが帰って来たからその記念に私のところで宴会をやるのよ。それで、料理のできる奴がいる場所を重点的に回ってるわけ」

    「なるほど、ここには妖夢がいるしな。」

    「そういうこと。でも、今言っても聞こえなさそうね…」

    「じゃあ俺が伝えておくよ。」

    「いいの?」

    「もちろん」

    「じゃあよろしくね?」ヒューン…

    「任された。」

    霊夢はツルギに、妖夢への伝言を頼むとそのまま次の目的地へと飛んで行った。
  23. 23 : : 2018/05/04(金) 11:55:44
    「…妖夢、妹紅」

    「!…は、はい…」

    「…」

    「そう落ち込むな。それに、過程はどうあれお前たちは2人を止めてくれたんだ。ただ、もう少し手段を考えてくれれば完璧だったけどな。」

    「…ツルギ様」

    「…ツルギ…」

    「それと妖夢。今日博、麗神社で俺が帰ってきた記念の宴会をするそうだ。それで、宴会の料理を作って欲しいと霊夢が伝えにきてたぞ。」

    「ツルギ様のための宴会…ですか?」

    「まぁ…そうなるのか?だから、妖夢の料理期待してるぞ。」

    「!!はいッ!!」

    「それと妹紅、お前にもぜひ料理を作って欲しい。お前の料理の腕は他の3人にも負けないからな。」

    「!わかった!」

    「あと、これはできればなんだが…」ごにょごにょ…

    「?…ふむ、わかった。」

    「よろしく。…妖夢、紫と幽々子には、俺は嫌わないとだけ伝えておいてくれ。この様子だと復帰はしばらくかかりそうだ。」

    「承りました。ツルギ様」

    「頼んだ。それじゃ、俺は妖怪の山に行ってくる。料理、期待してるぞ」

    「はい、ツルギ様。腕によりをかけて作らせていただきます。道中お気をつけて」

    「私は永遠亭に戻るが、本当に気をつけろよ?」

    「わかっている。それじゃ、また後でな」

    妖夢と妹紅に必要なことをすべて伝え、ツルギはブレスレットの能力を発動させて次なる目的地へと飛んで行った。



    「…ツルギ様…よかった…お元気そうで」

    「妖夢も心配してたからな。」

    「当然です。あの御方にもしものことがあるなど考えたくもありません。」

    「それは同感だ。…なぁ…妖夢」

    「…?なんですか?」

    「少し耳を貸せ」

    「?……!?本当…なのですか…?」

    「…あれは間違いなく本物だった」

    「…ツルギ様のお身体に傷…そんな…」

    「それも、もはや無事な箇所がないほどに…な。」

    「誰が…そんなことを…」

    「理由はわからない、ツルギも触れて欲しくなさそうだったしな。…だが、この幻想郷にいる間は、ツルギは私が守る。2度とツルギに苦痛など与えさせるものか」

    「…妹紅…」

    「…?」

    「ツルギ様のお美しいお身体にそのような穢れを刻んだ愚か者ども…私は、絶対に許しはしません…」

    「…妖夢…」

    「私も、ツルギ様を全力でお守りします。ツルギ様は、私に希望を与えてくださった御方。今の私があるのも、ツルギ様のおかげ…ツルギ様に害を及ぼす輩は、私が全て切り捨てるッ!!」

    妖夢の能力は
    【剣術、体術、妖術全てを完璧に扱う程度の能力】
    剣術を扱う程度の能力を、妖夢がツルギとの特訓の中で昇華させた能力。
    妖夢は最初、この能力は弱いものだと決めつけ毛嫌いしていたのだが、ツルギがブレスレットを変形させて武器を作りだし、数多の敵を倒す様子を見ていた妖夢は次第にツルギに憧れを持つようになり、それがきっかけで妖夢はツルギに指導を受けるようになる。そして今では、妖夢の戦闘能力はこの幻想郷でもトップクラスであり、肉弾戦のみで鬼を相手取れるほどにまでなった。

    そして、最初は毛嫌いしていた彼女の能力も、ツルギにもっとも近づける能力であるとして彼女の誇りになっている。

    なお、妖夢の持つ2振りの剣のうちの1本「楼観剣」はツルギが能力の昇華祝いとして妖夢に渡した武器だ。

    そんな彼女が敬愛する人間を傷つけられたのだ。妖夢の怒りも当然の結果だろう。

    「…だが…まぁ、まずは目先のことをしないとな。ツルギに美味いものたくさん作ってやるぞ、妖夢。」

    「…そうですね…ツルギ様のお口に合うものをお作りしなければ」

    「そのいきだ。…ところで」


    「ツルギぃ…嫌わないでぇ…」

    「ツルギぃ…ツルギぃ…」



    「この2人はどうするか」

    「放っておくべきでしょう。持ち直したら、ツルギ様からの言伝を伝えればいいのです。それに、今の私はツルギ様のお食事のことで精一杯です。」

    「相変わらずだな妖夢。…ま、それもそうか。」

    妹紅は、ツルギに食べさせる料理を作るためと、宴会のことを伝えるために永遠亭へと引き返していった。

    この時に2人を放っておいた妹紅が妖夢とあまり変わらないことは、妹紅本人も気づいていることだろう。
  24. 24 : : 2018/05/05(土) 12:14:08
    妖怪の山
    天狗を中心に様々な妖怪が住む山。幻想郷で山といえばこの山のさす。
    そして、今

    「うーん…」

    周りを天狗で囲まれている。…悪い意味で…

    「人間、ここが妖怪の山だと知って足を踏み入れたのか」

    「えーっと、ここに住む人物に用事がありまして…」

    「人間如きと繋がりを持つものなどここにはおらん、早々に立ち去れ」

    「えぇ…」

    「立ち去らんというならば…」

    周囲を囲む狗天狗、及び空の鴉天狗は次々と武器を取り出してはツルギに刃を向けた。

    「い、いや、別に争いに来たわけじゃ…」

    「黙れ人間。私は立ち去れと警告をした、それを無視したのは貴様だ」

    「いやだから、別に邪な気持ちで来たんじゃなくてその人物に会いに来ただけなんだって」

    「問答無用!かかれ!」

    「はぁぁぁぁ!!」

    「せりゃ!!」

    「うおっ!?くっ…ッ!!」カインッ!!

    周囲の天狗から無尽蔵に放たれる斬撃の数々をツルギはすべて回避するが、一際立派な肉体をしている天狗が攻勢に出てくるとすべてを避けきるのは難しい。だから、ツルギはブレスレットを槍に変形させてその攻撃を防いだ。

    「やはり武器を隠し持っていたか!」

    「あくまでこれは護身用で…」

    「黙れ!貴様をこれ以上先には行かせん、ここで断ち切ってくれる!」

    「話を聞いてくれよ…頼むから」

    ここに咲夜がいてくれたら、一瞬のうちに鎮圧してくれるんだがなぁ…と、ツルギは考えつつも槍で天狗の攻撃をすべてさばいていく。

    「貴様ら何をやっている!たかが人間1匹すぐに片付けろ!」

    「し、しかし隊長、こちらの攻撃はすべていなされてしまいます!」

    「つ、強い…」

    「…いつまで続ければいいんだ…これ…」

    「ええい…こうなったら私が直々に手を下して…ッ!!」

    隊長と呼ばれる一際立派な肉体を持った天狗は、それ以上言葉を発せなかった。
    なぜなら、その天狗の首元にナイフが突きつけられていたからだ。後ろに佇む白い髪の天狗によって

    「何を…しているんですか?」

    「い…犬走…殿…わ…わたし…は…敵を…排除…し…ようと…」

    そこまで天狗が言いかけた時点で、背後の白い髪の天狗のナイフを持つ力がさらに加えられ、突きつけられた首からは血がではじめている。

    「そのお方が、一体誰なのか…わかってやっているんですか?」

    「じ…じらない…でず」


    「グギッ!?」

    「ガッ…」

    「グヘァッ!!」

    ドサッ…ドサッドサッ

    みると、さきほどまでツルギに刃を向けて空で待機していた鴉天狗がすべて地面に倒れ伏している。

    「喧嘩を売る相手は、考えたほうがいいですよ。」

    「まったく、他のやつならいざ知らず、その人に手を出すなんて。あんた達も勇気あるわね、私を敵に回すのに」

    そして鴉天狗をすべて沈めた2人は、ツルギの側へと降りて来た。

    「ありがとう…助かったよ、文、はたて」

    射命丸文、姫海棠はたて。
    この妖怪の山で新聞を作って暮らしている鴉天狗である。

    しかし、他の鴉天狗とは違って2人には羽がない。それ故に昔はこの妖怪の山では酷い扱いを受けていたのだが、見兼ねたツルギが2人に妖術で飛行する技と戦う術を身につけさせた結果、さっきの鴉天狗瞬殺である。

    「お久しぶりです、ツルギ」

    「久しぶりね。元気にしてた?」

    「まぁ、そこそこかな」

    ドサッ…

    「ツルギ様!!」ダキッ

    「おぉ…。久しぶり、椛」

    犬走椛。
    ツルギが育てた4人のうちの最後の1人。彼女は白狼天狗と呼ばれる種族なのだが、耳と尻尾を持っていないどちらかといえば人間に近い体の形をしている。
    椛もまた、それ故にこの妖怪の山では酷い扱いで、挙げ句の果てに山を追放されていたところをツルギが保護した。
    他3人と同様に、ツルギと特訓を重ねに重ね、今ではさっきみたいに天狗の中でも強い部類に入る隊長クラスを瞬殺可能になった。
    ちなみに、咲夜はナイフ、妹紅は炎、妖夢は刀をメインとして使用するのだが、彼女は武器に執着せず、剣と盾を主軸として扱いつつ、あるなら大剣だろうと弓だろうと使いこなし、それ以外にも彼女の服のいたるところにナイフや毒矢、フックショット等の河童が作った小道具なども隠し持つ。

    ちなみに彼女が天狗隊長に突きつけていたナイフも、彼女が袖口に常備しているナイフだ。
  25. 25 : : 2018/05/06(日) 09:46:24
    「ツルギ様♪ツルギ様♪この匂いはツルギ様だぁ…♪」

    椛は、天狗を相手取っていた時とは打って変わり、満面の笑みでツルギの胸に顔を埋めた。
    その様子はまるで飼い主を見つけた忠犬のよう…彼女にはないはずなのに、尻尾がブンブンと揺れている幻影が見えてくるようだ。

    「椛、ツルギさんが困ってますよ。」

    「羨ましい…」

    「ツルギ様!いつお戻りになられたんですか!?」

    「昨日帰ってきて、今はみんなに会って周ってるところ。だからみんなのところにも案内してくれると助かるんだが。…また絡まれたくもないし」

    「そういうことならお任せください!この椛が案内いたします!」

    犬走椛の能力は
    【あらゆるものを見透かす程度の能力】

    彼女の千里眼の能力を昇華させた能力で、千里以上の距離を見通すことができ、相手の思考を前後数時間の範囲で読み取る、相手の筋肉の動きや血流の流れを見透して相手の行動を読む、肉眼で見ずとも心眼でこれらの能力を使用可能などかなりバリエーションが多い。

    「でしたら、私もご案内します」

    「もちろん私もやるわよ?」

    「よろしく頼む」

    「いきましょう!ツルギ様!!」

    「あぁ。」


    椛に手を引かれ、後ろを文とはたてが追随する形でツルギは山を登り、ひたすら歩くこと数十分。椛が目的としていた場所が見えてきた。

    守矢神社

    外の世界からこの妖怪の山に転移してきた神社でよく山の住人が参拝にきている。中にはただ暇つぶしのためだけに来ている者も数名いるが

    「やっぱり、守矢神社に来るのは一苦労あるな。山奥すぎないか?ここ」

    「まぁ…それは確かに思いますね。」


    「あら?御参拝客に人間の方とは珍しいですね」

    東風谷早苗。
    この守矢神社の若い巫女であり、お淑やかな性格とそのボンキュッボンのスタイルが目的で参拝に訪れる男天狗が後を絶たないのだとか。
    巫女としての振る舞いも完璧で、博麗霊夢よりも巫女らしい巫女である。

    「早苗、久しぶり」

    「…もしかして…ツルギさんですか?」

    「うん。」

    「お久しぶりです。なるほど、妖怪の山に人間は珍しいとは思いましたが、ツルギさんなら納得ですね」

    「なんだかんだで俺も排除されそうになったけれどね。でも椛達のおかげでなんとか来れたよ。」

    「ツルギさんをですか…。命知らずな天狗もいたものです。ふふっ」

    「ツルギ様に危害など加えさせません。もし万が一ツルギ様にお怪我を負わせるようなことがあれば…その時は…」

    「はいストップ。椛はそれ以上考えないの。今はツルギがいるんだから」

    「そうですよ椛。…早苗さん、お二方は今どちらに?」

    「神奈子様と諏訪子様でしたら、境内でお寛ぎなされておりますよ。」

    「ふむ…ツルギさん、私が他の方達を呼びに行きましょうか?その方が早いと思うのですが」

    「そうしてくれると助かる。」

    「了解しました。では行って来ます」

    「悪いな」

    「いえいえ、後で頭を撫でてくださるだけで結構ですから!」

    「わかった。」

    文はツルギに言いたいことを言い終えると、ものすごい速さで飛んで行った。文のスピードはこの幻想郷でも随一なのだ。

    「では、ツルギさん。神奈子様と諏訪子様もお会いになりたいでしょうし、こちらへどうぞ。椛さんとはたてさんもよろしかったら」

    「ありがとう。そうさせてもらうよ」

    「ツルギ様が行くところになら何処へでも!」

    「私も上がらせてもらうわ。」

    「わかりました。では改めて、守矢神社へようこそ。」
  26. 26 : : 2018/05/07(月) 17:16:20
    早苗に先導されて廊下を少し進み、襖をあけると、中には女性が2人、向かい合って将棋をしていた。

    「神奈子様、諏訪子様、ツルギ様がお見えになりました」

    「ん?おぉ、ツルギ!」

    「やっほー。ツルギー久しぶりー」

    長身の女性が八坂神奈子。
    この守矢神社の表向きの祭神で、かなり大胆な性格をしている。

    そして身長の低い少女のような姿をした方が洩矢諏訪子。
    守矢神社の真の祭神で、東風谷早苗は彼女の子孫にあたる。


    「神奈子さんも諏訪子も元気そうで何よりです」

    「私達は神だからな。病気などせんよ。」

    「ツルギも一局どう?」

    「久しぶりにやろうかな?…でもこの後の宴会のために食材買ってこないといけないしなぁ…。あ、そういえば今日博麗神社で宴会があるって霊夢が言ってたよ。」

    「なに!?それはいいことを聞いた!早苗!諏訪子!酒飲むぞ酒!」

    「神奈子はいつもお酒のことばかりじゃん」

    「お酒も追加しておかないとですね。あ、ツルギさん、宴会の件了解しました。ツルギさんも来るんですよね?」

    「もちろん。」

    「じゃあ、いつもより腕によりをかけて作らせていただきます!」

    「ありがとう早苗。はたてと椛もいいか?」

    「了解しました!」

    「わかったわ。お酒となにか持っていくわね。」

    「…さてと。文が戻って来るまで暇だし、将棋やろうかな。神奈子さん代わってください」

    「おう、いいぞー」

    「さぁツルギ!私は負けないよー!」

    「うーん…久しぶりで感覚鈍ってないといいけど…」

    「ツルギさん!頑張ってください!」

    「ツルギ様なら勝てます!」

    「応援してるわ、ツルギ。」

    「ちょっ!?誰か私も応援してよー!ツルギばっかり不公平だー!ふがー!」トンッ

    「大丈夫だ。私は応援するぞ」

    「か、神奈子…」

    「ツルギを」

    「神奈子の馬鹿ぁぁぁぁ!!」

    「だ、大丈夫か?」パチッ

    「グスン…みんながいじめるんだ…グスン」パチッ

    「まぁまぁ…そう泣くな。」なでなで…パチッ

    「!!えへへー♪ツルギに撫でてもらった!」

    「ああああ!!諏訪子ずるいぞ!」

    「ツルギ様の撫で撫では私のものです!」

    「してやられたわね…」

    「ツルギさんの頭撫で撫で…///」ポッ

    「えへへーいいでしょー。みんなが私をいじめた罰が当たったんだよーだ。」

    「…諏訪子、そろそろ駒を進めて欲しいんだが…」

    「おっと、ごめんごめん。」パチッ

    パチッ…パチッ…パチッ…
  27. 27 : : 2018/06/30(土) 14:23:48
    パチっ…

    「あ、あれ?」

    パチっ…
    「えーっと…」

    パチっ…
    「王手」

    「ぬわぁぁぁまた負けたぁぁ!!」

    諏訪湖 対 ツルギの将棋勝負、現在10局目が終局。勝者、ツルギ

    「なんで神に勝っちゃうの!?ツルギってほんとに人間なの!?現人神なの!?」

    「違うから。これでも立派な人間だぞ。…たぶん」

    「ツルギさんが現人神だったら私とお揃いですね。…ツルギさんとお揃いかぁ…フフッ…///」

    「さすがですツルギ様!私もにとりさんに負けないくらい強くなりたいです!」

    パシャッ!!
    カシャッ!

    「ツルギさんの顔写真ゲットですね。これで明日の新聞の一面はツルギさんに決定です。」

    「ツルギの横顔を写真に写せるなんて、カメラも持ち歩いてみるものね。」

    「文、戻ってきてたのか」

    「はい。呼んできた方達ももうそろそろ来る頃だと思いますよ。」

    「ありがとうな文。助かった」なでなで

    「んっ…」

    「ぐぬぬっ…文のやつ羨ましいわね…。やっぱり私がやるべきだったわ…」

    文はツルギに撫でられると、目を閉じて気持ちよさそうにしている。その顔はまるで、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ、ツルギの手の感触をより強く確かめているかのようだ。
    その光景を隣で見ているはたては、恨めしそうに文を睨んでおり、椛もまた、お預けを食らった犬が如くしょんぼりとしている。

    「うぅ…神様なのにぃ…」

    「よしよし。相手があのツルギじゃ仕方ないさ。流石に私でも勝てそうにないしな。」

    そしてツルギと将棋のボードを挟んで反対の場所では、椛とはまた違った意味で落ち込んでいる諏訪湖を神奈子が慰めるという側から見れば親子のような光景が広がっていた。

    その頃早苗は、1人頬を染めながらなにかの想像をして体をいやんいやんくねらせていたという…

    パタンッ!!

    「ツルギが帰ってきたって本当なのか!?」

    そんな若干カオスと化した空間に水を差すように襖が勢いよく開かれ、青い髪をした少女が1人現れた。

    「久しぶり、にとり。」

    「あっ…」

    彼女の名前は河城にとり。
    妖怪の山に住む河童の1人。
    妖怪の山随一の技術者集団である河童の一族なだけあって彼女もエンジニアとしては最高級の腕を持ち、椛の使うアイテム等もほとんどはこのにとり作のものらしい。

    ツルギは自分の位置を示すため、手を掲げてにとりに合図を送り、にとりもそれに気づいたようでこちらに近づいてきた。
    その際掲げた手は文の頭を撫でていた方の手であったため、文は手を離されて名残惜しそうだ。

    「おお、本物のツルギじゃないか!久しぶりだなぁ。元気そうでなによりなにより」

    「にとりもな。」

    「ところでツルギー。そのブレスレット私に預けてみないか?」

    「出会って早々か。…前にも言った気がするけど、これは貸さないよ。絶対」

    「いいじゃんかー少しくらい貸してくれてもー。今なら私の笑顔もつけるからさ、な?な?」

    「いや、笑顔は普通に見せてくれよ…」

    「いいじゃん!ブレスレット1つで私の笑顔が見れるんだよ?プライスレスだって!」

    「いや…だから…」

    「ねーねーn『ガスッ!』イタッ!!」

    「まったく、あなたは自分の利益を追求しすぎよ。」

    「げっ…華扇…」

    「げってなによ、げって。」

    「すまない華扇。助かった」

    「意図的ではなかったけど、ツルギを助けられたのならよかった。久しぶりツルギ。」

    「あぁ、久しぶり。」

    「邪魔しないでよ。せっかくツルギとの感動の再会を楽しんでたところなんだから。」

    「あなたの目的は彼のブレスレットでしょ…。だいたいあなたは利益を求めすぎて周りが見えなさすぎてる。いつもいつも…」

    「ああああ!!華扇の説教はなし!今は華扇もツルギに会いにきたんでしょ!?」

    「…そうね。そういえばツルギ、私たちになにか用事でもあったの?文がものすごい勢いで飛んできて『ツルギさんが呼んでますから、守谷神社に来てください。今すぐ!』って言って私の言葉も受け付けずに飛んで帰っていったのだけど」

    「帰って来たっていう報告をしようと思ったんだけど、妖怪の山を回るのも大変だろうって文が呼んでくれたんだよ。」

    「そういうこと。」

    「あと、この後博麗神社で宴会があるらしくて、それのお誘いも兼ねてる。」

    「それはツルギも参加するの?」

    「もちろん。霊夢曰く俺の帰還祝いを兼ねてるらしいから、行かないわけにはいかないしな。」

    「なら、私も参加しようかな。料理、楽しみにしててね?」

    「あぁ。華扇の料理は美味しいからな。」

    「ふふっ。そこまで期待されたら、応えるしかないわね。」
  28. 28 : : 2018/07/01(日) 07:54:38
    「そういえば華扇、美鈴がまたよろしくって言ってたぞ。」


    『あ、そういえばツルギさん』

    『なんだ?』

    『幻想郷を周るってことは、妖怪の山にも行きますよね?』

    『そうだな。ただ規模からして最後になるだろうけど…それが?』

    『もし華扇さんにあったら、また特訓をお願いしますって伝えておいてもらえませんか?』

    『わかった。伝えておくよ』

    『!!お願いします!』


    「…そう、美鈴が…」

    「美鈴、俺が伝えることを了承したらものすごくいい笑顔してたぞ。美鈴の鍛錬、ありがとうな華扇」

    「いいのよ。私は努力する人は好きだし、暇つぶしも兼ねてたから。…それに…」


    『…茨木華扇さんとお見受けします』

    『あら?あなたは紅魔館の…何か御用?』

    サッ…
    『!?ち、ちょっと!?』

    『お願いします!私に特訓をつけてもらえませんか!』

    『!?…それって、武術のってこと?』

    『はい!』

    『…私の特訓はスパルタよ?あなたについて来られるかどうか…』

    『厳しいことは百も承知です!武の道に近道なんてありませんから!』

    『!!…わかったわ。ただし、見込みなしだとわかったなら、すぐに叩き落とすからね。』

    『あ、ありがとうございます!!』パァ…


    「…(あそこまで頼まれたら、やるしかないじゃない。それに、美鈴の肉体は想像以上に成熟してて飲み込みも早かったし。…それで私も楽しくなっちゃって、特訓メニューをさらに厳しくしたこともあったけど…)」

    「?どうかしたか?」

    「…なんでもないわ。でも、これで納得した。」

    「?」

    「こっちの話よ。」


    『ところで、美鈴って言ったかしら?』

    『はい!紅美鈴と言います!』

    『あなた、これ以上強くなって一体どうするつもりなの?』

    『えっ///!?えーっとそのぉ…///』

    『?』

    『ま、守りたい人がいる…じゃだめでしょうか?』

    『それは門番として?それとも個人の意思?』

    『うぇ!?うぅ…個人の意思…です…///』

    『…そう(なんで顔を赤くしてるのかしら…)』


    「(美鈴の守りたい人をツルギに当てはめたら、すべての辻褄が合う…。まさか、美鈴の守りたい人がツルギだったなんてね。…負けられない)」

    「さて、そろそろお暇させてもらうよ」

    「…あら?もう行くの?」

    「少し長居しすぎたな。宴会料理の件もあるし」

    「そう」

    「なんだいツルギ、もう行くのか?」

    「まぁな。」

    「ツルギ様!!お供いたします!」

    「私は、宴会に持って行くものをこしらえておくわ。」

    「私は記憶が鮮明なうちに新聞を発行しておきます。椛、ツルギさんを頼みますね。」

    「もちろんです!」

    「よし、じゃあ行くか。諏訪子、神奈子、早苗、俺たちはもう行くよ」

    「えー、もう帰るのー?」けろっ

    「そうか…。ツルギ、宴会料理期待してるからな」

    「あぁ、神奈子もいい酒期待してるよ」

    「!!あぁ、最高のものを用意させてもらうさ!」

    「早苗も、料理楽しみにしてるから」

    「はっ…///つ、ツルギさん!?は、ははははいっ!精一杯作らせていただきます!!」あわわ…

    「た、頼む…?。早苗、神奈子、諏訪子、また後でな。」

    「お邪魔しました。…ツルギ様っ!ツルギっ様!えへへ〜♪」

    「お邪魔しました」

    「邪魔したわね。」


    「帰っちゃったねー」

    「…そうだな」

    「(さっきの早苗、私たちが声かけても戻らなかったのに、ツルギだとすぐ戻ったねー?)」

    「(愛のなせる技…だろうな。…羨ましい…///)」

    「(ああ、神奈子羨ましいって思ってるー、顔あかーい。)」

    「(ッ///)…諏訪子には少しお仕置きが必要なようだな…」

    「うぇ!?声に出てるよ声に!?ツルギ助けてえええ!」

    「問答無用」

    『ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!』


    「(ぽ〜…)///」
  29. 29 : : 2018/07/01(日) 15:54:12
    「これとこれ…後これもください」

    「あいよ。毎度ありー」

    人里の小さな八百屋にて。

    ツルギは妖怪の山で文・はたてと別れた後、残った椛を引き連れて宴会料理のための食材買い出しに来ていた。

    「ツルギ様、たくさん買いましたね。」

    「今日の宴会には幽々子も来るだろうし、華扇も割と食べる方だから買っておいて損はない。…まぁ、ブレスレットの収納機能がなかったら、とても持ち運べる量ではないのは確かだな。」

    「ブレスレット様様ですね。」

    「椛のやつも入れるか?」

    「私はこのまま持っていきます。ツルギ様にご迷惑はかけられませんから。」

    「そうか。…椛、少し茶屋で休憩していこう」

    「はい!」



    「いらっしゃいませー。」

    「とりあえず冷たい茶を2杯。椛は何にするんだ?」

    「そうですね…私は栗団子を2本ください」

    「俺は三色団子を2本」

    「かしこまりました。あちらの席にどうぞ」

    注文をしたツルギと椛は、店の人に指定された座席に横並びに座り腰を落ち着かせた。
    そして今、椛はツルギの腕に自分の腕を絡めてとても幸せそうにしている。

    「今日の宴会、楽しみですねツルギ様♪」

    「そうだな。久しぶりの幻想郷の宴会だからか、自分でも知らず知らずのうちに期待していたらしい。…さっきの買い物も、本当はもう少し少ない予定だったんだ。」

    「いいではないですか。ツルギ様のお料理は幻想郷随一ですし、私もたくさん食べちゃいます!」

    「はははっ、ありがとう。椛達に喜んでもらえるように、俺も精一杯作らせてもらうよ。」なでなで

    「えへへ〜♪」すりすり

    ツルギは椛の髪を撫で、椛はツルギの腕に頬ずりをする。
    その様子は、父にじゃれつく娘のようにも、飼い主に懐いている忠犬のようにも、彼氏彼女のイチャイチャにも見えたという。

    「お待たせしました。三色団子と栗団子になります。」

    「おぉ…」

    「美味しそうです!」

    「だな。それじゃ…」

    「「いただきます」」

    パクッ
    パクッ

    「美味しいです!」

    「うまいな。…ふむ、白の団子はこしあんの詰まったあんこ団子、緑は抹茶が練りこまれた抹茶団子、ピンクは桃の風味の桃団子といったところか。味に飽きないし、お茶によく合っている」

    「ツルギ様ツルギ様!」

    「どうした椛?」

    「あーん♪」

    「!?…あ、あーん」パクッ

    椛から差し出された栗団子を、ツルギは戸惑いつつも頬張った。

    「どうですか?」

    「…うまい。栗と餅は意外に合うんだな。ありがとう椛。…ほら」

    「ふぇっ!?///」

    今度は、ツルギが椛にあーんをする。
    流石に口に出してあーんとはいわないが、椛からしてみれば完全な不意打ちが決まってしまい、今はかなり顔が赤い。

    「…どうした?嫌いな団子があったか?」

    「いっいえ!!えっと…じゃあ…」パクッ

    「…どうだ?」

    「…美味しい…です」

    「よかった。」

    「///(シュ〜)」

    「この串、椛にあげるよ。」

    「あ、ありがとうごじゃいまひゅ…///こ、これ…栗団子…よかったら…」

    「あぁ、ありがとう。いただきます」パクッ

    「…///」パクッ

    パクッ

    パクッ

    「「…」」ゴクッゴクッゴクッ…

    「はぁ…ごちそうさまでした」

    「ご、ごちそうさまでした…はうぅ…」

    「お粗末様でした。全部で900円になります。」

    「あ、私の分は私で「はい、900円」つ、ツルギ様!?」

    「はい、ちょうど900円ですね。ありがとうございました」

    「椛、いくぞ」

    「えっ!?ツルギ様!?ま、待ってください!」

    「お客様、お忘れ物ですよ」

    「あ!食材!あ、ありがとうございました!」タッタッタッ…


    「ツルギ様、私の分は私が…」

    「いいんだよ。」

    「で、でも…」

    椛を含めた4人は、ツルギからの施しを良しとしない。
    自分がツルギに対して尽くすことはあっても、自分たちに気を使わせることがあってはならないと考えているからだ。
    だからツルギは、不意打ち等で気を動転させ、思考能力を低下させた上で世話をする。個人個人によってやりやすさは変わってくるが、椛は4人の中でも比較的やりやすい部類にはいる。

    『ポフッ』

    「…あ…」

    「久しぶりに帰ってきたんだ。こんな時くらい奢らせてくれ」なでなで

    「…ツルギ様…」

    「…さ、はやく準備して宴会に行こう」

    「!!はい、ツルギ様!『ダキッ』えへへ〜ツルギ様ぁ〜♪」

    ツルギは抱きつく椛とともに、人里を離れていった。
  30. 30 : : 2018/07/04(水) 16:26:15


    「…今日はあまり来ませんでしたね…」

    私の名前は紅 美鈴
    吸血鬼レミリア様が住まう紅魔館にて門番をやらせてもらっている者です。
    今日、私はやることがあまりなく、暇とも、のんびりとも言える1日を過ごしていました。
    というのも、いつもならたくさん来客のある紅魔館ですが、今日だけは数名しか来なかったからです。
    おそらく霊夢さんの言っていた宴会の準備のためでしょうが、ここまで来客が少ないのも寂しいものがありますね…。

    「さて、そろそろ私も宴会に行く準備をしなければ…」

    そう思い門を開き中に入ろうとしたところで、遠くに2つの人影が見えました。
    先ほども言ったとおり、今日は宴会の準備があって皆さん忙しいはずなのですが…。これは警戒しておいた方がよさそうですね。

    「こんにちは…いや、もうこんばんはかな。昨日ぶり、美鈴。」

    「あ、ツルギさんでしたか。それと椛さんも。」

    「お久しぶりです。妹紅さんと妖夢さんと、咲夜さんに会いに来た時以来ですね。」

    「そうですね。それでツルギさん、今日はどのようなご用件でしょうか」

    「宴会料理を作るためにキッチンを借りたいなと思って。本当は椛の家にお邪魔する予定だったんだが、どうしても必要な調理器具が紅魔館にしか置いてなくてな…。」

    「私はツルギ様が心配だったのでその付き添いです。ついでに、私も咲夜さんに頼んで作らせていただこうかと。」

    「そういうことですか。咲夜さんも今宴会の準備中でしょうし、直接キッチンまでお送りしますね。」

    「すまないな。よろしく頼む」

    「お任せください。」

    まさかあの人影がツルギさんと椛さんのものだったとは…。
    昨日は咲夜さんにお仕事を取られましたが、今日はツルギさんをしっかりと、キッチンまでご案内しなければ!
    …キッチンまで少しありますし、ツルギさんとお話しするくらいなら大丈夫ですよね…?。それから、できれば手を繋ぐところまで…

    「(ジトー…)」

    「!!」ビクッ!!

    そうでした…今日は椛さんもいらっしゃるんでした…。
    うぅ…無念です。でも!私は諦めませんから!


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    今、俺は美鈴に案内されてキッチンまでの道を歩いている。
    椛は、歩いている間ずっと俺の腕に抱きついて離れようとしない。
    男としては嬉しいんだが、どうも歩きにくい…。そして、さっきから会話らしい会話もないせいで、椛から押し付けられるその2つの山にも意識がいってしまっている…。

    こういう時は…

    「そういえば美鈴、華扇に例の件伝えておいたからな。」

    自ら話題を振って意識をそらすしかない…!

    「!!ありがとうございます!」

    「ツルギ様、例の件とは?」

    「美鈴の特訓相手のお願いかな?華扇にあったら伝えておいてくれって美鈴に頼まれてたんだ」

    「それで…華扇さんはなんと?」

    「問題ないらしい。華扇の話から察すると、美鈴のことはかなり良い評価みたいだぞ」

    「そうですか…。武術を嗜む者として、嬉しい限りです。期待を裏切らないよう、もっと精進しなければ…!」

    「あぁ、頑張ってくれよ。」

    「はい!。でも、華扇さんから良い評価をしていただけたのもツルギ様の特訓のおかげですね。」

    「俺の場合、普段美鈴がやってた特訓から無駄を省いたメニューを渡しただけだったからな…。華扇のように直接見て細かな修正ができる特訓と違って成果に結びつきにくかっただろう…。」

    「そんなことありません!ツルギ様の特訓メニューは効果覿面です!そのことは、私たちが一番よく知ってますから!」

    「そうですよツルギさん!。華扇さんの特訓も確かに身につきますが、ツルギさんが作ってくださったメニューのおかげで今の華扇さんの特訓についていけてるんですし、無駄を省くことの大切さを知れたのも、無駄を発見する観察眼を身につけられたのもツルギさんのメニューのおかげなんです。決して『〜しただけ』程度のものではありません!」

    「…ありがとうな。今度の手合わせの時にでも、またメニューを改善してみようか。前に渡したメニューを作ったのもだいぶ前だし、華扇に鍛えられてる美鈴じゃ、今までのメニューじゃ物足りないだろう」

    「昨日の約束、覚えててくださったんですね!。ぜひ、よろしくお願いします!」

    「ツルギ様!私もお願いします!」

    「わかった。」

    「やりました!…あっ、ツルギさん、椛さん、着きました。ここが、紅魔館のキッチンになります」

    美鈴に先導され、ツルギと椛は目的地である紅魔館のキッチンにたどり着いた。
  31. 31 : : 2018/07/07(土) 21:05:29
    「ありがとう美鈴、助かった。」

    「いえいえ。…では、私はここで失礼しますね。キッチンの中には咲夜さんの許可がないと入れないので…。咲夜さんは扉をノックすれば出て来られると思いますから。」

    「わかった。じゃあ美鈴、宴会の時にまた。」

    「はい!。椛さんも、また後で」

    「はい。案内ありがとうございました。」

    別れた美鈴が廊下を進みある程度距離が離れるまで見送った後、ツルギはキッチンの扉を数回ノックした。
    すると、ノック後数秒しないうちに中から扉が開いた。

    「…はい。何か御用でしょうか?」

    「やぁ、咲夜。」

    「!!ツルギ様!」

    「いきなり来てすまない。…少しキッチンを借りてもいいか?今日の宴会料理を作りたいんだ。」

    「はい、大丈夫です。…椛も久しぶりね、元気そうでよかったわ。」

    「咲夜もね。…私もキッチン借りていい?」

    「もちろんよ。椛、ツルギ様、どうぞこちらへ」

    咲夜に促され、ツルギと椛はキッチンの中へと入っていった。



    「椛、ツルギ様、どうぞ」

    「…おぉ」

    中に入りすぐに見えたキッチンを見て、ツルギは思わず声を出した。
    キッチンには、白を基調とした調理場に、様々な用途の調理器具が輝きを放ちながら並べられていたのだ。
    その様は、綺麗を通り越して神々しさすら感じてしまう。

    「こちらが、紅魔館のキッチンになります。」

    「…すごい。さすがだな咲夜。」

    「ありがとうございます。調理器具や調味料でわからないものがあればお呼びください。」

    「助かる。」

    「では、私は「咲夜、ちょっといいか?」あら、どうしたの?」

    その時、ボウルを持った女性が咲夜に声をかけてきた。

    「あぁ、これの味見をして欲しくてな。」

    「わかったわ。…少し濃いわね。もう少し薄めた方がいいと思うわよ。」

    「あぁ、ありがとう咲夜」

    「どういたしまして、"妹紅"」

    「…妹紅?」

    「ん?この声…ツルギか!?」

    「どうしました?」

    咲夜に声をかけた女性の後ろから、さらに女性がもう1人顔を出した。

    「…妖夢か?」

    「…へ?ツルギ…様?」

    顔を出した女性は、白玉楼にて別れた妖夢であった。

    「どうしたんだ?2人とも」

    「私はキッチンを貸してもらってたんだ。ここほど調理器具の揃った場所は他にないからな」

    「私も妹紅と同じくキッチンを。」

    「なるほどな。」

    「妖夢、妹紅、久しぶり」

    「おぉ。椛、久しぶりだ。」

    「椛も宴会料理を?」

    「はい。でもまさか妖夢と妹紅もここで作ってるなんて思わなかったです。」

    「私だって、ツルギと椛が来るなんて予想できなかったさ。」

    「私もです。」

    「…さて、そろそろ料理を作り始めようか。あまり遅くなっても悪いからな。」

    「はい!ツルギ様!」

    「ふふっ、昔を思いだすわね。」

    「懐かしいな…。昔はいつもこうやってみんなで料理してたっけ。」

    「私が加工を、咲夜が味付けを、妹紅が加熱を、椛が盛り付けをし、そしてツルギ様が私たちのバックアップを。…本当に、懐かしいです」

    「…久しぶりにやるか?」

    「私は構いませんよ」

    「問題ありません」

    「大丈夫です!」

    「…よし、久しぶりにやるか!」

    「「「「はい!!」」」」
  32. 32 : : 2018/07/08(日) 11:13:47
    「咲夜、こっちの野菜とお肉は切り終えました。」

    「了解。妹紅、追加分用意できたからお願いね。」

    「あいよー。…そろそろ蒸籠蒸しが出来上がる頃か。こっちの茄子と鶏肉の味噌炒めもいい感じだ。よし、椛、これ頼む。さて次はっと」

    「蒸籠の物はそのままで大丈夫だと思います。えーっと、次は味噌炒めですね…。」

    「…ふむ、少し肉料理が少ないか?妖夢、肉の追加を頼む。…そうだな、中華料理が少ないから青椒肉絲と回鍋肉を追加してくれ」

    「了解しました!」

    ツルギ、咲夜、妹紅、妖夢、椛が役割を分担し調理を行うこと1時間
    出来上がった料理の数は合計、30品目に到達した。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「…はぁ…終わりましたね。」

    「えぇ。…いつもよりも疲れたわ。」

    あれからさらに1時間後、料理の数が100品目を迎え、咲夜たちの宴会料理準備は終了した。

    「ふぅ…ただまぁ、これだけ作れば足りないって事にはならないだろう。」

    「そうですね…。あれ?ツルギ様は?」

    全品目を作り終えた4人が休息をとっていたその場に、ツルギの姿は見当たらない。

    「みんな、お疲れ様。」

    だが、4人がツルギの行方を心配したのもつかの間、すぐにツルギはトレイを持って姿を現した。

    「「「ツルギ様!」」」

    「ツルギ!」

    「とりあえず水。特に妹紅は水分取っておけよ。」

    「あ、ありがとう。」

    「ありがとうございます。」

    「ありがとうございます!」

    「咲夜も。」

    「あ、はい。…いただきます」

    「それから…」

    持っていたトレイからツルギが出したものは、シートに包まれ、きつね色に揚げられた小判形の

    「はい、これ。」

    「「「「!!」」」」

    ハッシュドポテトであった。

    「ツルギ…これ、もしかして…」

    「あぁ。妹紅に取ってきてもらった芋だよ。」


    『あと、これはできればなんだが、妹紅の菜園の芋を、少し分けてもらえないか?』

    『それは全然構わないが、何に使うんだ?』

    『それは後でのお楽しみってことで。』

    『?…ふむ、わかった。』


    「さ、冷めないうちに食べてくれ。」

    「はい。ツルギ様、いただきます。」

    「うまい!」

    「美味しい…!」

    「ツルギ様!とっても美味しいです!」

    まだツルギ、咲夜、妹紅、妖夢、椛が一緒に過ごしていた頃、ツルギがおやつとして芋を練って揚げたものを出したのがこのハッシュドポテトの始まりだった。
    ハッシュドポテトは、咲夜たちはかなり気に入っているらしく、果実などの甘味類を差し置いて、よくツルギにねだってくるほどだった。
    その中でツルギは少しずつ改良を重ねており、今のハッシュドポテトは芋を荒く刻むことで少し芋の食感を残している。

    「それはよかった。(パクッ)…うん、美味しい。妹紅、無理言ってすまなかった…。ありがとな。」

    「問題ないさ。むしろこれが食べられるならもっと持ってくればよかったぜ。」

    「あまり多くても食べきれなかったからな、これくらいの量で充分さ。…咲夜、妖夢、妹紅、椛」

    「はい。」

    「どうした?」

    「なんでしょう?」

    「ツルギ様?」

    「…これを食べたことは、俺たちだけの秘密な?。」

    「! はい!かしこまりました!」

    「もちろんだ!」

    「もちろんです!」

    「わかりましたツルギ様!」

    「よし。…じゃ、見つからないうちに早く食べて、料理を運ぶとするか」

    「「「「はい!」」」」

    宴会準備は終わらない。
  33. 33 : : 2018/07/14(土) 10:54:34
    ー博麗神社ー

    紅魔館にて料理を作り終えた俺たち5人は、100品目を5等分した20品をそれぞれが分担して持ち、博麗神社に来ていた。
    妹紅や椛はともかく、妖夢と咲夜はそれぞれの主(監視対象者)とともに行くものだと思っていたのだが、博麗神社の準備のために先に行くと、事前に報告していたらしい。

    そんなこんなで、俺たち5人は霊夢主導のもと、博麗神社の宴会準備を進めている。

    「あぁ、その机はそことつなげておいて」

    「わかった。」

    「その置物はとりあえずこっちに置いて。あと、座布団と敷物はそこの押入れの中にあるから。」



    「ふぅ、こんなものかしらね。」

    「じゃあ、あとは人が来るのを待つだけだな。」

    「そうね。だけど、まさかこんなに早く事が進むなんて思わなかったわ。ツルギさまさまね」

    「俺は微調整しかしてなかったろう…。礼なら咲夜達に言ってやってくれ。」

    「もちろん咲夜達には感謝してるわよ。でも、その咲夜達がここまで動いたのはツルギがいたからなのよ?」

    「…そんなもんか?」

    「そんなもんよ。」

    「ツルギ様!宴会の準備終わりました!」

    「あぁ、ありがとう椛。」なでなで

    「えへへ〜♪♪」

    「こっちも終わりだ」

    「ツルギ様、座布団及びシートを敷き終わりました。」

    「宴会料理及びお酒もすでにテーブルに並べ終えております。」

    「お疲れ様、妹紅、妖夢、咲夜。とりあえず宴会開始までの間は、ゆっくり休め。」

    「じゃあ…。ツルギ様!こっちに来てください!」

    「?わかった。」

    椛に先導された先に敷かれた座布団。
    椛はツルギをそこに座らせると、胡座をかいたツルギの足に座り、背中をツルギに密着させた。

    「も、椛?」

    「ツルギ様は朝からずっと動き続けてるんですよ?ツルギ様こそ休んでください。」

    「い、いや。動いてたと言っても挨拶回りだけで、大変なことは1つも…」

    「そうだぞツルギ」

    「も、妹紅?」

    「椛の言う通りです」

    「妖夢まで…」

    「どうぞ、ツルギ様。」

    「いや、酒は皆が集まってからの方が…って、これ鍋島じゃないか。しかもnew moon…」

    「ツルギ様の好まれるお酒をご用意いたしました。」

    「いや、だが「ツルギ様」」

    「椛のように、休んでいただきたいと言う思いも確かにございます。ですがそれ以上に、ツルギ様。私たちもツルギ様と共に休みたかったのです。ですから、私たちのお願いを叶えるということで、どうか…」

    胸の前に手を合わせ、願うようにこちらを潤んだ目で見つめる咲夜と、同じく潤んだ目を向けてくる妹紅、妖夢、椛。

    こうなってしまっては、ツルギもお手上げとなる。

    「わかった…休ませてもらうよ。」

    「…はい!。ではツルギ様、こちらを」

    「ツルギ様、お酌は私がいたします」

    「ツルギ、おつまみもたくさんあるぞ!」

    「ツルギ様ぁ〜♪」すりすり

    「帰ったわよー!。…まぁ予想はしてたけど…。」

    パシャっ

    「…ん?」



    「おぉ、見事な宴会料理の数々ですね。これはわざわざ秘蔵のお酒を持ってきた甲斐がありました。」

    「まさかあんたがそんな酒を隠し持ってるなんてね。私ももう少し取集癖をつけるべきなのかしら…」

    「あら、いらっしゃい。文、はたて。」

    「お邪魔します」

    「邪魔するわね。」



    「うわぁ、いい匂いだぜ。」

    「本当ね。魔理沙にはもったいないくらい」

    「!そう言うお前にこそ、もったいないくらいだ。」

    「なんですって?」

    「なんだよ?」

    「「ぐぬぬぬぬぬぬ」」

    「相変わらずね、あの2人」

    「ねぇお姉様、はやくいこー?」

    「そうね、フラン。」



    「宴会だー!」

    「ちょっとてゐ!急ぎ過ぎよ!」

    「永琳、あのお酒は持ってきてくれたかしら?」

    「はい、姫様。こちらに」

    「そう。なら、はやく行ってツルギに飲ませなきゃね。」



    「…で、あなたはツルギのところに行かなくていいの?」

    「…行きたいけど、あの場に行くのは気が引けるのよ…」

    「へぇ。ツルギの前じゃ暴走して幼児退行するあなたが、引くことを覚えるなんてね」

    「私だって、ツルギのことはちゃんと考えてるわよ。ただ抑えが効かなくなるだけで…」

    「充分重症よ…」

    「ツルギ〜♪♪」

    「…で、あそこの気分ルンルンでツルギに向かってる白玉楼の主は放っておいていいわけ?」

    「…ずるい」

    「紫?」

    「霊夢」

    「…一応聞くけど、何?」

    「いってくりゅ!!」バッ!

    :つるぎぃぃぃ!!

    :!!負けないわよ〜!ツルギに抱きつくのは私なんだから!


    「はぁ…ツルギも大変ね。」
  34. 34 : : 2018/07/15(日) 09:14:56
    それから、博麗神社には幻想郷のさまざまな妖怪、妖精、人間が来た。

    その中には、俺を襲ってきた鴉天狗の面々もいるのだが、俺を見た瞬間一気に顔を青くして端の方に固まってしまった。

    …一体何をされたんだ…


    「ツルギ様ぁ…」スヤスヤ…

    「ツルギ、このつまみも美味しいぞ!」

    「ツルギ様、お酒の追加はいりませんか?」

    「ツルギ様、酒肴をお持ちしました。」

    そしてこの、両手に花どころではない四方の花。
    男として嬉しいことは嬉しい…が、

    「「…」」

    そこに寝そべっている幽々子と紫を見ると、さっきの出来事が鮮明に脳に映し出される。




    『ツルギーーーー!!』

    『ツルギぃぃぃぃぃ!!』

    『うわっ!!幽々子!?紫!?』

    幽々子と紫は、宴会料理や酒には目もくれず、ツルギに一直線に突っ込んできた。

    『最初に甘えるのはわたs…ギャフン!!』

    『わたしよ!!…キャッ!!』

    しかし、ついにツルギに抱きつくことはできなかった。
    幽々子と紫の前に、咲夜と妖夢が立ちふさがったからだ。

    『ツルギ様のご迷惑になるようなことはするなと…あれほど言いましたよね…』

    『ツルギ様の御休息を邪魔するというのなら、たとえ誰であろうと容赦しませんよ…』

    『ふ、ふふふ…まずはあなたたちをなんとかしないと、ツルギに抱きつけないのね…?やってあげるわ!』

    『私を敵に回したこと、後悔させてあげる!』


    そこからは一方的だった…。
    相手から放たれた弾幕は、すべてを容易く回避され、気付いた時にはすでに意識を刈り取られていた。
    結果…咲夜と妖夢の圧勝である。

    咲夜は、紫がスキマを発生させても空間を歪めることで無効化し、時間を止めた隙に紫の意識を失わせ、妖夢は、空間を切り裂き短距離のワープを繰り返して幽々子に近づき、刹那の時間に峰打ちを加えて意識を刈り取った。

    『キュゥ…』

    『つ…る…』



    …そして今に至る。
    このすぐに戦闘思考になるのだけは、どうにかして改善しなければ…。幻想郷に帰ってきて、たった2日で悩みの種を拾ってしまった。

    「ツルギ様、どうかしましたか?」

    「…いや、なんでもない。すまない椛、少し席を外すから膝から降りてくれないか?」

    「…わかりました。」

    素直に椛は膝から降りてくれたが、その顔は不満げである。なので、少し頭を撫でてあげてから席を外した。
    ちなみに、妹紅、妖夢、咲夜の3人は、紫達が暴れたせいで出た神社の破損部位の修復や散らかった料理の数々を片付けてくれている。


    「ふぅ…」

    まだ肌寒さが残る夜。夜空の月に照らされた草木の数々は、とても幻想的な雰囲気を醸し出している。
    少し酔いが回っていた俺の顔に、冷たい風が当たってとても心地いい。

    「…あら?ツルギじゃない」

    風を浴びて涼んでいると、隣から声がかけられた。
    暗い夜に青い月、それらとは正反対の白と赤の服をまとった人物

    博麗霊夢だ。
  35. 35 : : 2018/08/01(水) 16:10:39
    「どうしたの?」

    「酔いを覚ますためにな。…霊夢こそどうしたんだ?」

    「私もそんなところよ。せっかくだからツルギもこっちにきて一緒にどう?お茶菓子もあるわよ?」

    霊夢の持つ盆にのった、2つの湯飲みと羊羹。
    どう見ても意図して用意されているような気がするが、ある意味これも、霊夢の1つの能力である。
    霊夢は昔から勘が鋭い。適当に調べたことでも物事の本質を捉えるのには充分な資料となり、適当に話しかけた相手が事件の黒幕だったことすらざらにあるくらいだ。

    「じゃあ、もらおうかな。」

    「そう言ってくれると思ってたわ。」

    霊夢とツルギは盆を挟むようにして座り、神社の鳥居とその上に輝く月を眺めてお茶を飲む。

    「はぁ。」

    「ふぅ。…なぁ、霊夢」

    「んー?何?」

    「なんか悩みでもあるのか?」

    「!?ど、どうして?」

    「いや、ふと昨日ここにきた時のことを思い出してな。」

    「…」

    「あの時の霊夢のことで、どうしても引っかかることがあったんだ。たしかにお前は賽銭箱の音に敏感ではあるが、それに気づいたとしてもあんな高いテンションで出迎える人間ではなかったはずだ。それで」

    「…ふふっ、まったく。ツルギには敵わないわねぇ…。」

    「じゃあ、やっぱり…。」

    「えぇ。…だいぶ前の話なんだけど、自分が自分ではなくなっていってる気がして…」

    「自分が自分でなくなる…」

    「…なんていうの。こう…自分の感情が激しく右往左往する波長みたいになるの。たまにどうしてもテンションが抑えられなくなる時もあれば、何に対しても冷たい感情しか出てこない日もあって…まるで、誰かに感情を操作されているみたいな錯覚に陥ってしまう…それが怖い。」

    「じゃあ昨日は…」

    「そのテンションが抑えられない時だったの。今は少し冷めた方に傾いてはいるけど普通ぐらいね。」

    「…そうか。」

    「ねぇ、ツルギ。」

    「?」

    「私ってなんだと思う?」

    「…」

    「空を飛べて、妖怪の知り合いがいて、どんな強敵にだって勝てるぐらいの力だってある。でも、人間はもっと弱い存在。じゃあ、私はなんなのかなって、時々考えてしまう…。」

    「…」

    「さっき言った感情だって、自分でコントロールすることができないのよ…。」

    「お前は人間だ」

    「…ぇ?」

    ツルギは霊夢の前に立ち、しっかりとその目を見つめる。

    「確かにお前は空も飛べる、妖怪の知り合いだっているし、強い。でもそれだけだ。感情だって、他人より少し起伏が激しいだけで何も変わらない。だから、気にする必要はまったくないんだ。」

    「…ツルギ」

    「それに知ってるか?人間にはデオキシリボ核酸というのがあってだな…」

    「…ぷっ、あははははははっ!。何よそれ!はははっ」

    「…やっぱり、女の子は笑ってた方が可愛いと思うぞ。」

    「はははっ!はぁ〜…久しぶりよ、こんなに笑ったのなんて。そうね、ツルギと話してたら悩むのが馬鹿らしくなっちゃった。」

    「悩むのも悪くないが、そうやって吹っ切れるのも大事だと思うぞ。それに、お前を心配してくれるやつだっているんだからな?」

    「そうみたいね。…もういいわよ、私もツルギもとっくの昔に気づいてたから」

    すると、言葉を投げかけられたその人物は、玄関に続く廊下の曲がり角からゆっくりと姿を現した。

    「やっぱり、二人とも気づいてたのか」

    「当たり前よ。どれだけ長く付き合ってると思ってるの。魔理沙」

    姿を現した人物とは、博麗霊夢とよく一緒にいる霧雨魔理沙であった。

    「あっははぁ。霊夢には敵わないぜ。…霊夢、何かあったら私が相談に乗るぜ?だから何か困ることがあれば、私を頼れよな。」

    「魔理沙…」

    「霊夢、こうみえても魔理沙はお前の感情の起伏を観察して、テンションを変えたりしてんだぞ。」

    「そうなの?」

    「やり方は痛々しいことこの上なかったけどな。…なぁ?スペシャル魔理沙ちゃん?」

    「あ、あああああれは忘れてくれ!」

    「あぁ…なるほど。」

    「霊夢!お前もあの時のことは忘れろ!」

    「魔理沙」

    「ぐぬぬっ。…え?」

    「いろいろありがとうね、スペシャル魔理沙ちゃん?…ぷぷっ」

    「ああああ!!お前今笑っただろ!」

    「いやいや〜、いいじゃない。スペシャル魔理沙ちゃん。…プハッ、だめ、堪えられない…あはははははは!!!」

    「こんのぉ…。人がせっかく気遣ってやってたのに!」

    「あはははははは!!やばい!止まらない!あはははははは!!」

    「くぅぅ…ぐすんっ」

    ポフッ

    「ほへ?」

    「ありがとうな魔理沙。これからも霊夢を頼む」なでなで

    「んんっ…わ、わかった。ツルギの頼みなら…」

▲一番上へ

名前
#

名前は最大20文字までで、記号は([]_+-)が使えます。また、トリップを使用することができます。詳しくはガイドをご確認ください。
トリップを付けておくと、あなたの書き込みのみ表示などのオプションが有効になります。
執筆者の方は、偽防止のためにトリップを付けておくことを強くおすすめします。

本文

2000文字以内で投稿できます。

0

投稿時に確認ウィンドウを表示する

このSSは未登録ユーザーによる作品です。

「東方Project」カテゴリの最新記事
「東方Project」SSの交流広場
東方Project 交流広場