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今日はただの雪の日で。
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- 1 : 2018/02/01(木) 23:59:53 :
- 春川さんの誕生日なので、投稿します。おめでとう!
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- 2 : 2018/02/02(金) 00:01:07 :
2月1日、放課後。
ただいつものように授業を終え、放課後、寮に戻る途中のこと。
「……雪?」
随分水っ気の多い、雪というよりみぞれが降ってきた。
先程まで弱い雨が降っていたこともあり、シャーベットみたいなそれは地面に着くなり存在感皆無に消えていく。
そういえば昨夜、今日の夜に雪が降ると騒いでいた気がする。
スーパーブルーなんとかムーンとやらが昨日はしっかり見えていたというのに、天気は気まぐれなものである。
まあこの調子ならば積もることもないだろう。
風により傘を潜り抜け体に当たる雪を、傘を傾けることで何とかしのいで私は自室へと向かった。
肌に当たる雪は、何かに怒っているみたいにひどく冷たく、チクチクと痛かったのだ。
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- 3 : 2018/02/02(金) 00:05:43 :
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昨日は1日で、一日寝たから今日は2月2日だ。
特筆することは無いが、しいて言うならば今日は私の誕生日である。
誕生日は私にとってさほどめでたいものではなかった。
孤児院では一人一人の誕生日に目をかけて祝うほど余裕はなかったし、仕事をするようになってから自分の命が生まれた日など祝う気持ちにはとてもなれなかった。
命を奪うくせに、命の誕生を貴ぶとはこれいかに。
私には誕生日を記念日とする暇も余裕もなかったのだ。
しかし毎年一度必ず憂鬱な気分になる、というのも何か癪なので2月2日を『何もないただの日』だと思うことにしている。
だから、今日は何でもない日。
寒さのあまり布団から出るのが億劫でそんなことをぼんやり考えていたが、いつまでもそうはしていられないのでゆっくりと体を起こした。
冬は体が鈍くて嫌になる。
ふと、まだ明け方なのにいやに明るいことに気付いて、そばにあった上着を着て窓に近寄った。
そこにあったのは一面の雪。
白、白、白。白いふっさりとした雪が街灯に照らされ、銀色に輝いていた。
外が明るかったのは雪が光を反射していたからだった。
先程の言葉を訂正しよう。
今日は、『ただの雪の日』だ。
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- 4 : 2018/02/02(金) 00:06:49 :
制服に着替えていると、電子生徒手帳がぶるりと震えた。
メールが届いたらしい。
『おはようございます。
本日記録的な積雪により、一部生徒、基教師が学園に来ることが困難な状況となっており、従って今日は休校とします。
事故、怪我の恐れがありますので、不要不出の外出は控えてください。』
他にも何か書いてあったが、必要なのはこれだけだ。
黙ってベッドに手帳を投げた。
既にほとんどの準備を終えてしまっていた私は、やれやれと首を振ってまだ冷たい制服を脱ぐ。
少ない私服の中から肌に密着する薄手のものと、厚いものを取り出して着た。
下は裏地が暖かなパンツに、厚手の靴下。
これから向かうのは屋内の食堂だから、この程度でいいだろう。
そして私は朝食をとるため、冷え冷えとした廊下へと繰り出した。
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- 11 : 2018/02/02(金) 00:09:02 :
短い道なり、途中で赤松に会う。
「あ、おはよう春川さん」
「おはよ。今日はいつもより早いんだね」
「あー、うん。……実は雪が積もってるんじゃないかと思って、楽しみで早起きしたんだよね」
「……子供じゃないんだから。雪でそんなにはしゃがないでよ」
「あはは、ごめん」
どちらから言い出したわけでもなく、なんとなく連れ合って歩く。
食堂の扉を開けると、既に何人か集まっていた。
扉があいた音で東条が厨房から顔を出していった。
「おはよう赤松さん、春川さん。朝食、悪いのだけどまだできていないから、席に座っておいていただけるかしら。出来次第運ぶわ」
東条が朝食を用意してくれるのは、ありがたいことに見慣れた流れである。
珍しく少し遅れていたが。
「たくさん雪が降ったから、食材が搬入?されるのが遅かったんだって」
獄原が向かいの席から話しかけてきた。
「へえ、やっぱりそうかぁ。この雪じゃ確かに車も走らせるの大変だろうしね」
赤松がふむ、とうなづく。
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- 12 : 2018/02/02(金) 00:30:54 :
- 「遅れてごめんなさいね。今運ぶわ」
「ううん、全然!こっちは作ってもらってる身なんだから。私も運ぶよ」
「ゴン太も手伝うよ!」
「ありがとう。じゃあお願いするわね」
白銀、獄原が厨房へ消える。
自分の分くらい自分で運ぼう、そう思い腰を浮かすと何故か赤松に止められた。
不審に思っていると、獄原が若干危なっかしい手つきでトレイを持ってきた。
ので支えようとしたが赤松に席に押し戻される。
何故。
「春川さん、ゴン太春川さんの分を運んできたからすわってて!」
目の前にそろり、ことりとトレイが置かれた。
「……え?」
目の前にあったのはお子様ランチ風の品々。
……何故。
若干の混乱に陥った私を責めることは誰にも出来ないだろう。
だって、いきなり朝食にお子様ランチを出されたら誰だって驚く。朝なのに、ランチ、である。
というかこれは本当に私のものなのだろうか。王馬とか、夢野とか、ここにいる獄原のではなく?
今日は回す予定のなかった思考が慌ててぐるぐる回転しだす。
と、急に声が上がった。
「春川さん……」
「「「お誕生日、おめでとう!」」」
「……ん…?」
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- 13 : 2018/02/02(金) 01:03:05 :
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……今、彼らは何といったのだ?
誕生日、おめでとう。といったのか。
……まずい、何と返したらいいのか、全く分からない。
「えっと……ひとまずありがとう。で、なんでお子様ランチ?」
一度受け止めてから、簡潔に問う。
「獄原君が、どうせならただおめでとうを言うんじゃなくてサプライズをしたい、というものだから。つい」
つい、ではない。
しかし珍しく茶目っ気を出した東条に突っ込む暇はない。私の脳は只今、情報処理中なのだ。
とにかく、このサプライズとやらは成功ではなかろうか。
なにしろ、サプライズは驚く、という英単語動詞である。勉学に疎い私でも知ってる。
そしていま私は驚いている。つまりサプライジングだ。仰天だ。仰天プライスなのである。
ちょっと意味が分からない上に似合わないことを言ったが、さっきから獄原が不安そうにこちらをうかがっている。今はとにかく、この場をさばかなくてはならないだろう。
「……まあ、あり、がと。驚いた。本当にびっくりしたよ」
サプライズをそっちの方向に持ってきたことに。
獄原はパアァとうれしそうな顔をした。
「良かったね、ゴン太君!」
「春川さん喜んでくれたね!」
「獄原君のおかげね」
決して喜んではないのだが、場はとても和やかである。何か言えるような雰囲気ではなかった。
いただきます、とつぶやいて、プリンカップ型に盛られたケチャップライスに手を付ける。
甘い。
ケチャップの味だ。
獄原はまたなにかそわそわとこちらをうかがっている。
具体的には今食べているライスにだが。
「……食べたいの?」
首を振られた。違うらしい。
「じゃあ……こっちの、旗。いる?」
縦に嬉しそうに振っている。旗が気になっていたようだ。
てっぺんに突き刺さっていた、おなじみのつまようじフラグを抜き、ティッシュペーパーで拭って手渡した。
目が輝いている。何がそんなにうれしいのか私にはわからないが、とにかくうれしそうだったので言った
「良かったね。東条が作ってくれたんだから、どうせなら大事にしなよ」
「うん!」
獄原のニコニコ度が増した。
赤松がニヨニヨ笑っている。
「いやー、流石は保育士だね!慣れてるっていうか?子供たちが春川さんを好きになるのも分かる気がしてきたよ」
「……いや、別に、そんなんじゃないし」
顔が若干曇る。自分が暗殺者だと今まで話してこなかったため、屈託なく『保育士の私』を彼女は褒める。
多少の罪悪感を隠すため、朝にはいささか重すぎるプレートを消費しにかかった。
途中うるさいメンバーがそぞろ入ってきて、お子様ブレックファーストをからかわれたのに心底うんざりしたのは別の話である。
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- 14 : 2018/02/02(金) 16:49:06 :
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廊下で、クラスメイトにすれ違うたびにおめでとうと言われ、不慣れな私はどう返すべきか分からず、とにかくありがとうと月並みなことを言うしかなかった。
正直、嬉しさよりも戸惑いが大きかった。
自分がただ生まれただけ、他人が生まれ落ちただけの日に何故そんなに喜び、祝おうという気になれるのか。
祝ってくれる相手に無粋だとは思いつつ、そう問うた。
すると決まって、何故そんなことを聞いてくるのかと不思議そうな顔して、それから「春川は他人ではなくクラスメイトだろう」と返してくる。
付随する細かな言葉は違えど、皆そう言っている。
まるで、私の誕生日を疎ましく思っているのは私だけだ、とでも言いたげに。
腑に落ちないでいると、相手は私がプレゼントがないのを怒っていると思ったらしく、お菓子とかジュースとかを渡してきた。
それを見た他の奴らが、春川はお菓子が好きなのだ、と思ったのか皆こまごまとしたお菓子を押し付けてくる。
別に、求めてなかったのに。
祝ってもらいたくも、もらう資格もなかったはずなのに。
それに朝から例のプレートとか、このプレゼントとか、いったい私のことをなんだと思っているのだろう。
こんなものに喜ぶ精神は持ち合わせていないし、年齢的にもそぐわない。
でも、彼らが屈託なく楽しそうに笑って手を私に伸ばすから。
知らぬ間に、一度も断ることなく全て受け取っていた。
一つは大きくなくとも、15個も集まれば両腕に抱えきれないほどの大きさで。
鍛えているとはいえ、それなりの重さで。
彼らからしたら何気なく、それこそ何でもないというようにおめでとうと言って安いお菓子を送っているだけなのだろうが、こんなに多くの人から私のために用意されたものを受け取ることが、本当に、本当に初めてで。
戸惑いの気持ちはいつしか、両腕の中のその体積と質量に対してうれしさを感じるように変わっていた。
15名からしたらただの日常のワンシーン。
だが私にとっては、これまで過ごしたどの日よりもずっと輝いて見えた。
落とさないよううまくバランスをとって、昼過ぎの明るい廊下を渡って、自室へ向かう。
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- 15 : 2018/02/02(金) 17:32:36 :
もらったペットボトル入りのミルクティーがまだ暖かったので、椅子に腰かけ、口をつける。
初めて祝われた誕生日には、今日のこれは十分すぎるほど十分だ。
本日二回目の訂正しよう。今日は『何もないただの日』でも『ただの雪の日』でもなく『とてもいい日』だ。
……もっときれいなことを言えないのかとも思うが、センチメンタリティーではないから仕方ないだろう。
休校だからと何もしないわけにはいくまい。
私は菓子類を机の隅に追いやると、空いたスペースにテキストとノート、筆記用具を広げた。
勉強は苦手だ。今まで時間がなくて手が付けられなかった分が、一気にのしかかってきて、混乱する。
だから人より勉強しなくてはならない。
『ピンポーン…ピピピンピンポーンピンポーン』
一時間ほど机に向かっていたところで、唐突にインターホンが乱打されて飛び上がる。
「よーう、ハルマキ!」
「……。百田」
集中を乱され、少しイラつきながら戸を開けると、ニカニカ笑っている百田が立っていた。
ダウンジャケットにマフラー、手袋。防寒か重装備だった。
「何。そんな重たい格好してどうしたの」
「ああ、これから雪合戦しようと思ってな。テメーを誘いに来たんだ」
「……はあ。悪いけど私寒いの嫌いだし。今勉強中だから」
「んなっ、今日という日に勉強なんかしてんじゃねーよ!それに、外雪積もってっからどうせ今日はトレーニング出来ねーだろ?今のうちにやっとこうぜ。動けばあったまんだろ!引きこもりとか不健康だぞ!!」
「……何でそんなに行きたがるわけ?」
「んっ…んーと、だ、だって雪だぞ!!こんなところに雪なんてめったに降らねーんだから遊ばないともったいねーだろうが!」
赤松ごめん。ここにも雪にはしゃぐ高校生いた。
ともかく、百田はどうしてもひかなそうな勢いだった。
「はあ……分かったよ。用意するからちょっと外で待ってて」
「!おう!早くしろよ!!」
急に誘っておいて早くしろとは……まあいい。さっさと暖かいものに着替えよう。
クローゼットから黒のジャケットを取り出して、羽織る。水を通さない皮の手袋をつけ、防水の靴を履いた。
これから動くし、これくらいでいいだろう。
準備を終えた私は、外に出た。
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- 16 : 2018/02/02(金) 23:01:59 :
「ところで、雪合戦には誰が来るの?」
「ああ、俺とハルマキと終一の三人だ」
「……三人?なんで奇数?もっと人多い方がいいんじゃないの?」
「だから、これは夜のトレーニングの繰り上げだって言ったろ?それに俺は一人でも、テメーら助手にはまけねーぜ!」
「あっ、そ」
謎の自信に満ち溢れた百田が先導し、最原が待っている第二校庭へ向かう。
第二校庭は第一校庭よりも小さい。三人だからそんなにだだっ広くなくていいし、何より第一校庭より監視の目が薄いのでやりやすいのだろう。
まさかこんな雪の日まで人はいないはずだ。
真っ白な雪に最原のものと思わしき靴の影がいくつも残されていて、そこに二人分の足跡が加わる。
足の裏に伝わるザクザクとした感触と、耳に入るその音が心地いい。
ほどなくして、校庭についた。
こちらに気付いた最原が、軽く笑って手を振っている。
「おおー、終一ー!」
百田は手を振り返し、全力で駆けていった。
「ちょ、百田……あんまり急ぐと__」
「おわっと!?」
案の定転ぶ。
幸い下はふかふかの雪だったため、打ち身もせず無事だったみたいだが。
「も、百田君大丈夫?」
「全く……走ったら危ないって分かるでしょ?小さい子じゃないんだから」
「悪ィ。気を付けるってこれから。よしっ、終一雪玉の用意はいいか?」
「あ、うん。いくつか作っておいたよ。最近は便利だよね、100均で雪玉製造機が買えるなんて。一気に何個も作れるんだ」
「お、そんなら買っておいてよかったぜ。ハルマキ、見ての通り抜かりはねぇ。雪合戦、するぞ!」
「ここに来た時点でやるって決めてるって。で、ルールは?」
「「えっ?」」
「「「……」」」
どうやら考えてなかったらしい。誰がどう見ても抜かりある。
「……ま、まあ、とにかく投げまくりゃいいんだよ!いちいちルールとか気にしてたら男らしくねえ!」
「そ、そうだね……。えっと、百田君が的なんだっけ?」
「そう……いやっ、的!?ちげぇよ、お前ら二人で組んでいいぞって言ったんだ!的とか言ったら俺がコテンパンにやられるみてぇじゃねえかよ!いじめられっ子か俺は!」
「いいよなんでも……じゃあ、先にリタイアした方が負けってことでいい?」
「ん、ああそうだな。それでいいや」
ひと悶着あったが、何とか雪合戦(トレーニング)が始まった。
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- 17 : 2018/02/03(土) 00:04:12 :
「ぜぇっ、ぜはっ、くそ、ギ、ギブ……だ……」
「はぁっ、はぁ……ようやく認めたね百田君……ふぅ……」
「息切れすぎでしょ。スタミナないの?これからメニュー変える?」
「むしろ何で息切れてねーんだよ……鬼か何かか……」
やる気満々だった百田は私たち二人の雪玉攻撃に対し手も足も出ずひたすら防戦一方で、逃げ惑っていたが何発も顔に食らっていた。
結果的に的になっていたが、最原にはそれを言う余裕がないみたいだった。
途中で雪玉はなくなって、雪を拾い上げて投げつけることになっていた。もはや雪合戦ではなく雪の掛け合いだった。
今は雪の上に寝そべり大きく呼吸して、二人は息を整えている。
「ふぅー……あちー……」
「そうだね……雪の上だけど暑くて仕方ないや……」
よろよろと体を起こすと、二人は手袋を取った。
「ちょっと。いくら今暑くても外して雪触ったらしもやけになるよ。……というかまだやる気?」
素手で雪玉を作り出した百田と最原に声をかけるが返事はない。
一心に雪玉を作っている。
しかも体温で雪を溶かし、握りこんで固くした氷みたいなのをどんどん大きく形成していく。
これが投げられた暁には、死を覚悟しなければならないだろう。
この二人は殺し合いでもするつもりなのだろうか。
「ねえ、何して___」
「「うおおおおおお!!」」
唐突に雄たけびを上げて手に持った球を地面に転がし始めた。
雪がそこかしこに舞う。濡れた球の表面に、転がした分がひっついて、雪玉はあっという間に顔三つ分ほどの大きさになった。
なるほど、雪だるまを作っているようだ。
息が乱れに乱れまくった最原が、ひいふう言いながら百田の作った球に乗せようとする。
が、重すぎたのかはたまた疲れすぎたのか中々持ち上げられない。
仕方ない、手伝うかと踏み出すと止められた。
百田と最原が、息を合わせてドスッと片割れに頭をのっけた。
百田が自分のまいていたマフラーを雪だるまに巻き、最原が何故か上着から枝を取り出して胴に突き刺し、脱ぎ捨てた手袋を拾ってはめる。
深呼吸をして呼吸を整えると、「ハルマキ」「春川さん」と声を合わせてきた。
「「誕生日、おめでとう!!」」
「……なっ」
何故、ここでまた。
「いやー流石にお菓子がプレゼントは寂しいかなと思って。百田君と話した結果、春川さんが楽しんでくれるものがいいよねって話になって」
「それは……また、どうも。でもアンタたちからもうおめでとう言われてるのに……」
「いい言葉は何度も言った方が得だろ?どうだ、プレゼント、気に入ったか?」
「……材料費ゼロ円のプレゼント?」
「そ、そこはほら……何よりも気持ちこもってんだろ?そういう意味じゃナンバーワンだと思うぞ??」
「うん……分かってる。本当に……」
重要なのは、値段じゃないってこと、今日身をもって知ったから。
想いがこもっているものは、値段じゃ決められないほどの価値があるって思わされたから。
「……本当に、いいプレゼント。……ありがとう」
素直に、二人が必死に作ってくれたという事実を心から嬉しく思った。
雪だるまを眺める私の目線に喜色が混じっているのを察したのか、二人は誇らしげに笑う。
風が吹いて、防寒具を失った二人がぶるりと震えた。
いつの間にか、太陽はほとんど落ちていた。
宵の明星が顔を出す。
百田が不意に手帳を見た。
何かにうなづくと、私に声をかけてくる。
「あのよ……手かじかんでるしマフラー無くて寒くなってきたから食堂行って早めの夕食取らねぇ……?」
「あ、僕もそうしたい……汗が乾いて寒くなってきた……」
「……はあ。だから言ったのに……」
呆れた声を出して、歩き始める。
まだ立ち止まっている二人を見やり、声をかけた。
「早く行くよ。さっさとしないと凍えても知らないからね」
「!い、行く!」
「あっ、待って百田君脱ぎ捨てた君の手袋が」
慌てたようにうしろから二人がついてくる。
薄暗い道を歩くのが、何かいやに楽しく感じた。
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- 18 : 2018/02/03(土) 13:28:54 :
- 食堂まで並んで歩いている最中。
「ね、春川さん」
「ん、何?」
「今日一日、良いことあった?」
「……ずるいこと聞くね。うん。私にはもったいないくらい良いことだらけだったよ。多分、今まで生きた中で今日は一番」
「随分素直に言えるようになったもんだな。俺たちのおかげか?」
「五月蠅い。……否定はしないけどさ」
「や、やっぱ素直じゃねぇな……。まあそれは良くて。ハルマキ、お前今日誕生日じゃんか」
「そうだけど」
「お前には今まで縁がなかったかもしれねーけど、誕生日にはよ、いつもより豪華な食事とかするもんだぜ」
「……知ってるよそれくらいは。別に、興味ない。いつもとおんなじので十分。それに、納得してないけどすでに朝特別メニュー出たしね」
「ああー、アレな」
「あのお子様プレート……。あのね春川さん、それを今日のメインだと思ってるんじゃないかと思うんだけど、多分あれはジョークだよ」
「は?」
「前座、だよ。春川さんを油断させるための」
「待って。それってどういう__」
「お、着いたぞ。うっし、さっさと入ってうまいもんでも食うか!」
言われた意味が分からなくて考えあぐねていると、両横にいた百田と最原が我先にとばかりに食堂の扉を押し開けた。
中の明るい光と、ぬくもりが廊下に漏れ出てきて__
『パンッパンッ』
「!?」
軽い発砲音とともに、何やら細長い紙が体にまとわりつき。
『『『『『お誕生日、おめでとう!!!!』』』』』
「…………!!!」
大合唱が響いた。
私は、またしても祝われていた。
壁にかかっているカラフルな装い。
テーブルに並んだ豪勢な食事。
大きなバースデーケーキの上に載っているチョコプレートには春川魔姫の文字。
「いつまでも入口に立ってないで、中に入ってください、主役さん。風邪ひくっすよ」
「え、あ、ごめん……」
煌びやかな光景に呆然としながら、言われるがまま中に進む。
「何ボーっとしてんだよ!何の感想もねぇのか?はっ!流石馬鹿は語彙力がねぇなぁ!」
「入間さん、少し黙ったほうがいいヨ」
「祝いの席にー、そういう言い方は良くないと思うよー?」
「さっすがクソビッチは脳が足りないんだね!」
「ひぐっ……そ、そんなに言わなくてもぉ……悪かったってぇ……」
目の前でおこなわれている茶番への意識もおざなりだった。
「こ、これ……何?これ」
「何って、貴方の誕生日パーティですよ、春川さん!」
「んあー。サプライズは成功したようじゃのう」
「朝からこまごましたことを起こして油断させたのは正解だったわね」
「フン。俺なんかに祝われてもうれしくないだろうが……一応尽力させてもらった。お前のためのパーティだぞ」
「私の……?」
そんなはずは。私には今日、もう十分すぎるほどいいことがあったのに。
「だから言ったでしょ、春川さん。今までのは前座だって」
「超高校級の私たちが、あんなお菓子と、……ふふっ、お、お子様ランチで終わらすわけないでしょ?まさか本当に終わりだと思ってたとは、と思うまであるよ!」
「ごめんね春川さん!祝う気持ちは本当だったんだけど……ゴン太なりにどうしたらいいか考えて……」
「いやー、地味に功を奏してたねー」
「な、何で、こんなに……私には__」
私には、こんなにも大掛かりに誕生日を祝ってもらう資格などなかったはずなのに。
「……こんなの、私には、もったいない……」
「何言ってんだ、ハルマキ!」
横にいた百田が声を上げる。
「もったいないかどうかはテメーじゃなくて俺たちが決めるもんだ!このパーティは、俺たちが、テメーのために考えて用意したんだ!それをもったいないとか言って受け取らねーとか、許さねーぞ!!だから、だからさ、ハルマキ____」
ふっと、声をやわらげて、言った。
「誕生日、おめでとう」
今日、何度も何度も、いろんな人から言われたこの言葉に、何故か、どうしても、飽きが来ない。
自分を肯定して祝ってくれる人がいる人がいるという事が、こんなにもうれしい事なんだって、今まで知りもしなかった。
じわりと暖かな言葉に、目線に。
感動とかとはまた少し違う、言い表せない激情に名前が付けられない私にはやはり語彙力がない。
その感情に充てられて、私は言葉を詰まらせた。
考えて考えて考えて、結局出てきた言葉は。
「……っ、あり、あり……がとう……」
拙く幼い感謝の言葉だった。
クラスメイトはにこやかにうなづいた。
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- 19 : 2018/02/03(土) 13:45:01 :
- 「よっしゃー!乾杯すっぞ!!飲みモンとれ!!!」
「ちょっと、飲み物調達係誰だったの?プァンタばっかじゃん!」
「にししっ、良いじゃん?別に!だって飲みたかったんだもんねー」
「お主の会ではないというのにぃ……」
「はい、春川さん」
「うん、うん。ありがと……」
「今日はそればっかだな。っはは!」
一同が飲み物を掲げる。
『『『『『かんぱーーーい!!』』』』』
今日という日に。
生まれてこれたことに。
大切な仲間に。
ありがとう。ありがとう。
もう一生分おめでとうを言われ、ありがとうを返した気がする。
でも嫌な気持ちは全くなくて、寧ろもっと、もっとずっと言われ言い続けたいとさえ思った。
もう何度目になるか。ボキャ貧だけれど、訂正する。
今日は、『最高の日』だった。
本当に本当に『最高の日』だった。
最高の仲間に、ありがとう。
ちなみに後に切り分けたケーキの大きさでひと悶着あったのは、また別の話だ。
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- 20 : 2018/02/03(土) 13:45:31 :
- 『今日はただの雪の日で。』END
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- 21 : 2018/02/03(土) 13:46:34 :
- 読んでくださり、ありがとうございました。
完結が一日遅れてすみませんでした。
本当におめでとう。春川さん、生まれてきてくれて、ありがとう。
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- 22 : 2018/02/03(土) 14:34:38 :
- お疲れ様でした
なかなか無いタイプのサプライズでよかったです。いい話でした
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- 23 : 2020/10/25(日) 21:28:17 :
- http://www.ssnote.net/users/homo
↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️
http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️
⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
今回は誠にすみませんでした。
13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
>>12
みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました
私自身の謝罪を忘れていました。すいません
改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
本当に今回はすみませんでした。
⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️
http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi
⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ごめんなさい。
58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ずっとここ見てました。
怖くて怖くてたまらないんです。
61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
お願いです、やめてください。
65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
元はといえば私の責任なんです。
お願いです、許してください
67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
アカウントは消します。サブ垢もです。
もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
どうかお許しください…
68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
これは嘘じゃないです。
本当にお願いします…
72 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:59:38 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
お願いです
本当に辞めてください
79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ホントにやめてください…お願いします…
85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
それに関しては本当に申し訳ありません。
若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
お願いですから今回だけはお慈悲をください
89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
もう二度としませんから…
お願いです、許してください…
5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
本当に申し訳ございませんでした。
元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。
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