この作品は執筆を終了しています。
戦刃むくろが武器を置けなかった日
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- 1 : 2017/11/07(火) 19:07:20 :
- この作品は
・ししゃもさん主催秋のコトダ祭り投稿作品
・テーマは『ナイフ』
・戦刃さんが主人公
・ダンガンロンパのネタバレ注意
です。
最終日投稿申し訳ないです。
それではどうぞ!
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- 2 : 2017/11/07(火) 19:07:34 :
- 「えっと、今日はみんなに大事な話があるんだ」
苗木が照れくさそうに教壇の前でそう宣言した。
普段、大人しい苗木がこのように皆の注目を集める行いをすることがないため、自然とクラス中の視線を集めた。
「苗木君? どうかしたんですか?」
「苗木っちがとんでもねえことを言うって俺の勘が言ってるべ」
「隣りに戦刃ちゃんがいるのが関係あんのか?」
「静粛に! 皆、苗木君の言葉を拝聴するのだ!」
そう高らかに宣言した石丸の言葉でざわついていたクラスメイトが静かになる。
「時間取らせてごめんね。えっと…」
苗木が口をもごもごとさせながら、顔を少し赤くする。
戦刃はそんな苗木をじっと見つめている。
「突然なんだけど……ボクと戦刃さん……付き合うことになったんだ!」
78期生の教室から怒号と黄色い歓声が希望ヶ峰学園中に響いた。
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- 3 : 2017/11/07(火) 20:24:08 :
- 事の始まりは、クラスから孤立しつつあった戦刃に苗木が話しかけたことだった。
戦刃は屋上で空を眺めていた。
そこにまだ学園に慣れていなかった苗木が屋上にまで迷い込んできたのだった。
「あ……戦刃さん?」
「………誰?」
「クラスメイトの苗木誠だよ。超高校級の幸運。キミは超高校級の軍人の戦刃むくろさんだよね?」
「……なぜ私の情報を……もしかしてスパイ?」
「クラスメイトだって言ったよね!?」
それがファーストコンタクトだった。
それから苗木は屋上に何度か行っては戦刃に話しかけるようになった。
「戦刃さんって超高校級の軍人なんだよね?」
「…そう」
「じゃあ、やっぱり武器の扱いならスペシャリストってことだよね」
「……銃とナイフのことなら任せて」
「すごいなぁ…高校生なのに…」
「…年齢は関係ない。戦場では子供でも武器を持つ」
「………だよね」
最初はぎこちない会話をしながらも、苗木もすぐに戦刃の会話のペースを掴んでいった。
戦刃も話しかけられたら答える、程度で苗木のことは"自分のような人間に話しかける変な人"という評価だった。
そんな日々を過ごしていたある日。
「---そうしたら桑田君がね」
「……ねぇ、苗木君」
珍しく苗木の会話を遮って戦刃が話しかけてきた
「…? どうかしたの?」
「……苗木君は………怖くないの?」
「……? 怖いって?」
「……私のことが…」
「なんで怖がる必要が…?」
「……私は…軍人だよ? …過去に…人を殺してる…」
「………そう…だよね…」
「………」
やっぱり怖がられたか、と戦刃は目を伏せる。
だが、苗木の反応が普通であり、怖がられないかもしれない、なんて期待を持った自分が間違いなのだ。
戦刃はそう言い聞かせて、苗木がいなかったこれまでどおりの日常に戻るのかな…とぼんやり考えていた。
「……怖くない…というよりは、すごい。と思うかな」
「……すごい?」
「うん。ボクにはできない事ができて、ボクにはないもの…才能を持っていて……ボクとは別の世界に住んでる人…って感じかな。……そんな人たちとクラスメイトになれたから…色々話をしてみたいって思ったんだ」
「………そうなんだ」
「うん」
その日は会話もなく解散となったが、次の日も苗木は屋上に来て戦刃に話しかけていた。
そんな二人が互いに惹かれあっていくのは当然のことであったと言える。
クラスの中にアイドルやカリスマギャルという面々がいる中でも、なぜ戦刃に惹かれたのかは苗木にもわからなかった。
「戦刃さん…ボクは……」
「うん」
「…キミのことが好きだ…よ」
「………うん」
「だ…だから……えっと…ボクと付き合ってくだしゃ……」
大事なところで噛んだ苗木も顔を真っ赤にし、好きという感情をぶつけられた戦刃も顔を真っ赤にした。
「……うん…」
顔を赤くして自分でも似合わないと思いながら、戦刃は苗木を受け入れた。
「こ、これからよろしくね。戦刃さん」
「……うん。よろしく」
こうして、二人は晴れて付き合うことになったのだった。
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- 4 : 2017/11/07(火) 20:33:16 :
- 話は冒頭に戻る。
ざわざわと色々な意味で騒ぐクラスメイトたちが苗木たちを質問攻めにする。
「オイイイイイ! 苗木! テメェ! い、いつから!」
「えっと……付き合い始めたのは1週間前くらい…」
「おめでとうございますですぞ。それで、今後の作品のためにもお二人の馴れ初めやエピソードをお聞きしたいのですが…」
「まだそんなにないけど、いいよ」
「めでたいべ! その幸せ分として、ちょっとでいいから金を恵んでくんねーか!?」
「あげないよ」
「い、戦刃さん! な、なんて告白されたんですか!?」
「え、えっと……す、好きだよ…付き合ってくださいって…」
「へぇー。ねぇねぇ、一緒に遊びに行ったりした?」
「うん。一緒にミリタリーショップに行った…」
「ふむ。我に恋愛の何かはわからぬが、二人が結ばれたというのなら祝福しよう」
「…ありがとう」
そんな感じに祝福された二人だが。
「へっえー! お姉ちゃんが苗木とねー」
ずっと退屈そうにしていた江ノ島が笑顔を輝かせながら近づいてきた。
「……うん。そうなった」
「いやいや、この展開はさすがに私様も予想外だ人間よ!」
「残姉ちゃんに男ができるなんてどんなもの好きだよ!って思ったが、こんな草食系男子代表みたいなやつとくっつくとはね~」
「いやぁ…本当……めでたいね!」
ニッコリと笑う江ノ島にからかいの感情はない。
本当に姉を祝福する妹に見える。
「…ありがとう、盾子ちゃん!」
戦刃もなんの疑問もなく、妹の祝福を受け入れた。
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- 5 : 2017/11/07(火) 20:40:54 :
- 「にしてもよ、苗木。なんで付き合うーなんてクラスで宣言したんだよ。そんなん別に必要ねーだろ?」
桑田が当然の疑問を口にする。
「隠し事をしたくなかった、っていうのと隠してると行動も自然とコソコソとしたものになるでしょ? ……超高校級の探偵がいるクラスで隠し事なんてできる気がしないし、それならいっそ自分からバラしてしまおうかと」
苗木がチラとこちらに参加していない霧切を見るが、霧切はブスっとした表情のまま窓の外を見ている。
「はー、なるほどな。確かに言われてみればそうかもな。……オレも舞園ちゃんと付き合えたらクラスにだけは公表するべきか……?」
絵に書いた餅状態で桑田は本気で悩んでいた。
一通り質問攻めも終わり、それぞれが用事や帰宅を始めた。
「…帰ろうか。戦刃さん」
「…うん」
こうして今日も苗木と戦刃は、一緒に帰宅するのだった。
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- 6 : 2017/11/07(火) 20:48:21 :
- 次の日。
二人で学園に来ると、さっそくからかわれるのだった。
「あ、苗木に戦刃ちゃんだー! 仲いいねー」
顔を少し赤くしながらニヤニヤしている朝日奈は、からかうつもりしかないと全身で表現しているようだった。
「あ、朝日奈さん…」
「…うん。苗木君とは仲良し」
苗木は恥ずかしさのあまり言葉が詰まらせたが、戦刃は堂々と言い放った。
「……わぁ。堂々としてる…。からかおうと思ったのにそんな気も無くしちゃうね」
「…すごいなぁ、戦刃さん」
「…? 事実を言っただけ」
キョトンとする戦刃に苗木は苦笑した。
「おーっす、苗木ー! なんだよ、朝からアツアツだなコノヤロー!」
「うわっ!? く、桑田君!?」
「オレさ、昨日一晩考えたんだけどよ。苗木と戦刃ちゃんがカップルになったのなら、この勢いに乗るべきなんじゃねえかって」
「…えっと?」
「ってわけで、オレは今日! 舞園ちゃんに告ってくるぜ!」
「え、ええええ!?」
「………」
「やっ、残姉ちゃん」
「あ、盾子ちゃん」
「苗木との仲は順調みたいねー、ん?」
「う、うん……」
朝日奈に言われたときは堂々と認められたが、江ノ島には…妹に指摘されると恥ずかしく感じてしまう。
なぜかは戦刃にもわからなかった。
「…うっわ…幸せで嬉し恥ずかし希望オーラを感じられて絶望的……」
どんよりとした雰囲気を醸し出す江ノ島はすぐに表情を変えて、二枚の紙を取り出した。
「ここでオイラの素晴らしい提案をしてやんよ!」
「……これは……長方形の紙…」
「どっからどー見ても遊園地のチケットだろうが! ただの紙をここで取り出すわけねーだろうが!」
「ご、ごめん…。それがどうかしたの…?」
「はぁ……ここまで察しが悪いと余計なことをしてる気しかしません……。あげるといっているんです…。苗木君と一緒に行ったらどうですか……」
「な、苗木君と一緒に……」
遊園地。今まで遊びに行ったこともないし、苗木とも当然いったことはない。
別段興味はないが、苗木となら楽しい場所になるだろうと思えた。
「ありがとう。盾子ちゃん。誘ってみる!」
「はいはい、いてらー…………うぷぷ…」
江ノ島が笑っている姿に戦刃は気付かなかった。
ちなみに、桑田は放課後にものすごく沈んだ顔で教室へと戻ってきて誰もが事情を察していた。
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- 7 : 2017/11/07(火) 20:49:36 :
- 放課後。
「あ、あの…苗木君……」
「ん? 何かな?」
「えっと…あの…」
戦刃は焦った。
いつもはどこかへ行くにも、会話をするにも9割…否9.9割は苗木から働きかけてもらっていて、自分からしたことはほぼない。
自分から誘うことがこんなにも言葉が詰まり、何を話せばいいかわからなくなるとは…。
(苗木君はこんな難しいことをずっとしていたんだ…)
苗木の評価が上がった。
「どうかしたの?」
「えっと……盾子ちゃんが…これ……」
「遊園地のチケット…が2枚。ああ、これに一緒に行きたいってこと?」
「う、うん…!」
「いいよ。じゃあ、今週末の休みの日に行ってみようか」
(さすが苗木君。さらっと誘ってくれるなんて…)
また苗木の評価が上がった。
「………戦刃さん。ちょうどいい機会だから一つお願いがあるんだ」
「…何?」
「…遊園地に行く日……武器を何も持ってこないで欲しいんだ」
「………なぜ?」
ただただ、困惑した。
格闘技で相手を制圧する力は持ち合わせているが、武器があったほうが成功率は跳ね上がる。
それを持ってくるな、というのは戦刃にとって理解できなかった。
「戦刃さんには…一度でいいから普通の女子高生みたいに過ごして欲しんだ。戦刃さんは武器がなくっても十分強いけど、それでも武器の存在が戦刃さんを軍人至らしめてると思うんだよね。…だから、その日だけは武器も軍人も意識せずに普通に過ごして欲しいって…」
「……苗木君が願うならその通りにする」
「…ありがとう」
苗木は穏やかに笑って、それを見て戦刃も嬉しくなった。
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- 8 : 2017/11/07(火) 20:50:47 :
- デート当日。
「………よし」
準備完了、と戦刃は制服姿のまま胸を張る。
足や腰に武器の装着はなし。
服のいたるところに今までは針を装備していたが、今日はその全てを取り払っている。
「………体が軽い」
ぴょんぴょんと跳ねると、体が羽のように軽い。
「……よし。行こう…!」
気合充分に戦刃は自室の扉を開けた。
「……ホルスターだけならいいよね…?」
ナイフのホルスターが付いていないことに違和感を感じたため、それだけは足に装着して出かけて行った。
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- 9 : 2017/11/07(火) 20:52:13 :
- 希望ヶ峰ランド。
希望ヶ峰学園出身の超高校級の卒業生が関わって作成された遊園地だ。
その前で戦刃は立ち尽くしていた。
休日ということだけあって来場者が多く、戦刃は歩く人を眺めながら苗木を待った。
「………」
待ち合わせは10時。
現在10時半。
「…………」
そのまま待ち続けて12時。
『---戦刃むくろ様。戦刃むくろ様。あなたの待ち人がお待ちです。至急事務室へお越し下さい』
「………呼ばれた。…待ち人……苗木君?」
戦刃は事務室へと向かった。
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- 10 : 2017/11/07(火) 20:54:33 :
- 事務所にたどり着くと、誰もいなかった。
だが、戦刃にはわかる。
(……いる)
戦刃は一見無警戒な様子で事務所へ入ると、背後から風切り音と共に何かが迫ってくる気配がした。
戦刃は半歩体をずらすことでそれを避け、後ろ回し蹴りを繰り出した。
「げうっ!?」
何かを戦刃に振り下ろした人物は壁に激突し、崩れ落ちた。
「……何者……。これは……」
その人物は男。
服装はシャツにチノパンで普通の格好だ。
そこまでは普通であるが、問題は黒と白のクマの覆面を付けていることであった。
戦刃はこれを見たことがある。
「…これ…盾子ちゃんの……」
『せいかーい!』
「……盾子ちゃん?」
『あー、どっから話しかけてるとかめんどいからパス。状況だけ説明してあげるとね。苗木君は預かった。返して欲しかったら私様の試練を乗り越えてみよ…ってね!』
事務所にはいくつかモニターがあり、その中の一つが点灯した。
そこには苗木が口にガムテープを貼られ、縛られている様子が映し出されている。
「……何が目的?」
『目的? なぁにお姉ちゃん。苗木に感化されて、そんなことまでわかんなくなっちったの? はぁ、こんな残念な姉を持つなんてホント……絶望通り越して、無関心になるわ』
「………」
『わかるように説明してあげるなら……希望あふれるアンタらの仲を崩してやりたくなったのさ。……お姉ちゃんがあまりにも残念だと…苗木の命は保証しないからね?』
「………」
『いい顔になったねお姉ちゃん。それじゃあ、今倒した男の胸ポケットを探ってみな』
戦刃が男の胸ポケットを探ると、一枚のカードが出てきた。
カードには『ミラーワールド』と書かれている。
『苗木がいる場所のヒント…がある場所。ヒントを集めてって苗木までたどり着いてねーん! じゃ、またねー!』
ブツ、と何かが切れる音がした。
「………」
(盾子ちゃんの目的はわからない。けど、現状として苗木君は盾子ちゃんに捕まっている…)
「……必ず助ける…!」
戦刃は事務室を弾丸のように飛び出した。
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- 11 : 2017/11/07(火) 20:57:26 :
- 『ミラーワールド』
四方が鏡で囲まれており、中は迷路になっている施設だ。
希望ヶ峰ランドのマップに堂々と載っていたため、戦刃もすぐに発見することできた。
戦刃は何も知らずに飛び込み……。
一瞬四方の鏡に映った自分にぎょっとしたが、すぐに慣れてミラーワールドへ踏み込んだ。
鏡に映った自分が敵に見える。
先ほど事務所で襲われたがために、いつ襲われるのかと警戒していた。
(…この状況が目的……?)
そのまま警戒したまま、戦刃は進み……そして……。
何事もなくミラーワールドをクリアしてしまった。
「……?」
特に何もヒントがなかった。
(見落とした…?)
『さっそくつまづいてるねー、お、ね、え、ちゃ、ん』
「………」
『あー、一つ連絡忘れてたけど、制限時間は16時までね。それを過ぎたら……わかるよね?』
「………いい。やるだけだから」
『おおー。かっくいー! まっ、頑張ってねーん』
再びミラーワールドへ入ってみて、今度は観察をすることにした。
鏡にはそばかすが多い自分の顔が映っているが、それ以外の天井、床、背後、の光景に注意を向けた。
「……これ…」
最初は気付かなかったが、床に文字が書いてある。
普通に見る限りだと、意味不明な文字列だが、鏡越しに見てやっと気づいた。
『break』
「フッ!」
戦刃はその文字が書いてある周囲の鏡を何の躊躇いもなく蹴りくだいた。
足や露出している部分に鏡の破片が飛び散り、切り傷をいくつか残すが、戦刃は全く気にしなかった。
1枚、2枚、3枚目…。
3枚目の鏡をくだいたところで、その裏にちょっとした空間が現れた。
その空間には一本のナイフと再びカードが置いてあった。
「……射撃場…」
戦刃はこんなこともあろうかと……否、ナイフを抜いただけのホルスターを足に付けて来たため、目の前のナイフを問題なくしまえた。
なぜかサイズはピッタリである。
戦刃はカードに書いてある射撃場へ向かった。
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- 12 : 2017/11/07(火) 20:58:35 :
- 「……射撃場……ない…」
園内の地図を見ても、射撃場なんて場所はない。
ヒントを得たと思ったところで、戦刃は目的地を見失った。
「……どうしよう…」
もしかしたら『射撃場』というワードを見逃したのかも…と戦刃はもう一度地図を見る。
『……あのさ。お姉ちゃん。どんだけ残念なの?』
「…盾子ちゃん?」
『絶望通り越してやばいよ。絶望的に残念なのに、全く絶望できなくって、もう今すぐ殺してやりたいくらいだよ』
「……それで盾子ちゃんの絶望になれるなら…」
『たった今ならないって言ったでしょ! ホント残念だな!』
「ご、ごめんなさい…」
『はぁ……残念すぎるお姉ちゃんのためにスペシャルプレゼンツ!』
江ノ島が何やらゴソゴソと物音を建てると、戦刃が聞きたかった声が聞こえてきた。
『い、戦刃さん…!』
「な、苗木君! 大丈夫!?」
『ボクは無事だよ! えっと、時間がないからボクから言えることは……露店を回っ、ムググググ!!』
「苗木君!?」
『はい。時間切れー。じゃ、頑張ってねー』
「………露店」
苗木から得られたヒントを噛み砕き、再び戦刃は地図を見る。
「…露店エリア……」
園の入口付近には来場者がお土産や軽食を食べることができるエリアがある。
「……苗木君が命をかけてくれたヒント……絶対に活かす」
どこかで捕まっている少年が「死んでないよ!」と言っているような気がした。
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- 13 : 2017/11/07(火) 21:01:18 :
- 露天エリアには園内限定のグッズや食事が売られていた。
(……苗木君と回りたかったなぁ…)
ぼんやりと眺めていると……目的のものを見つけた。
『アイテムシューター』。
景品が棚に並べられており、それをモデル銃で打ち、倒したら景品がもらえるというものだ。
世間では射的場と呼ばれる施設である。
「………」
「…いらっしゃい」
普通の射的場なら客を迎える店員だ。
その顔にシロとクロのクマの被り物をしていなければ…。
「特別に無料だ。やっていくといい」
店員がピストルを戦刃に渡し、戦刃も受け取った。
警戒して銃を観察したが、特に仕掛けもなさそうだったため、戦刃も普通に受け取った。
「……これは…」
ズッシリとした重さ。
この銃を使ったことはないが、普段使っている銃と似たような重量感。
それに触った感触。
「……本物…」
「お前さんが打ち抜くのはアレだ」
店員が指差す先にはカードが入ったプレートがあった。
あのカードが次のヒントなのだろうと戦刃は予想した。
「…………」
(…こんな簡単な試練…?)
戦刃は少し疑問に思いつつも、ピストルを構えて……。
パァン!
銃弾を打ち出した。
「……うっ……」
その瞬間、戦刃は腹部に鈍い痛みを感じた。
超高校級の軍人である戦刃には、何が起きたのかがわかっていた。
(…あのプレートが倒れた先に……別のプレート………)
そのプレートに弾が当たり、さらに別の景品に弾があたり、戦刃に返ってきたのだった。
予想外であったため、避けることができなかった。
が。
「……防弾チョッキがなかったら危なかった…」
「………デートで防弾チョッキを着てくる女…な…」
店員が打ち抜いたカードを戦刃に渡すときにぼそっとつぶやいたが。
「それだけじゃない。防刃、対衝撃アーマーだからいろんな攻撃を防いでくれる」
今までにないくらいきりっとした表情だったという。
さすがの店員も呆れ返った。
カードを見ると……。
苗木の頭を胸に埋めて、カメラに向かってピースをしている江ノ島が写っていた。
カードではなく、写真だった。
「………二人とも……仲いいんだね」
『彼女としての自覚はねーのかあんたは!』
「あ。盾子ちゃん」
『あ、じゃねえよ! ほら、最後最後。こっちはもう飽きてきてるんだから早く見つけてね。じゃないと……苗木の……色々もらっちゃうからね!』
「……苗木君の…色々?」
『例えば……ファーストキス…とか』
「それはダメ」
戦刃は全身から闘気が漲っているのを感じた。
戦刃とて乙女。
自分の大好きな人の初めての人…とか、相手にとっての初めてなことに特別を感じる……。
「私と盾子ちゃんがするならいいけど、苗木君ととはダメ」
『ズレてんだよ、テメーはよ!』
ブツ、と電源が切れる音が聞こえて音声が聞こえなくなった。
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- 14 : 2017/11/07(火) 21:02:27 :
- 戦刃は改めて写真を見ると、苗木は椅子に縛り付けられて顔を赤くしている。
江ノ島はピースをして、本当に楽しそうだ。
「………いい風景」
二人の周りは園内周囲の光景が遠くまで見える。
「………高い建物……あれ?」
遠くで円形の巨大な建物……観覧車が回っているのが見えた。
戦刃は観覧車に向かって走りだした。
観覧車を見ると、人が集まっているのが見えた。
「……面倒…」
戦刃は人ごみを掻き分け、前に出てみると「本日貸切」という文字が見えた。
「…貸切……」
「あ、ようこそいらっしゃいました。どうぞ」
戦刃が顔を向けると……普通の女性スタッフと思われる人物が話しかけてきた。
否、普通ではない。よく見ると、クロとシロの熊を象ったペンダントを首から下げていた。
「あの子が貸切にしたのか? 何者?」
「ママー、観覧車乗りたい…」
「希望ヶ峰ランド、観覧車貸切 事件の予感…っと」
外野の声は全く気にせず、戦刃は観覧車へと踏み出した。
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- 15 : 2017/11/07(火) 21:05:41 :
- スタッフが観覧車に乗るように促してくる。
辺りを警戒しながら、観覧車に乗り込み戦刃は外を観察した。
「……なるほど。この乗り物に乗って、外の風景を楽しむのか……」
楽しそうに遊ぶ家族やカップルが見え、観覧車付近には大きな湖があり、その周辺も色々な人たちが歩いているのが見える。
苗木君と来たかったなぁ…と、再びぼんやりと考えていると。
ガコン…。
と、大きな音と衝撃を戦刃に伝えながら観覧車が止まった。
『うぷ、うぷぷ。さぁ、最後の試練だよお姉ちゃん』
「…盾子ちゃん」
『苗木はこの観覧車のどこかにいるけど……そ、の、ま、え、に』
ピッ、ピッ、ピッ、と電子音が聞こえてきた。
『まずは、10秒以内に脱出してね!』
戦刃は江ノ島が言い終わった瞬間、さっきのアイテムシューターでそのまま持ってきたピストルで窓を打ち抜いた。
周りの状況を見渡し、戦刃はすぐに自分が載っていたゴンドラの下のゴンドラに飛び移った。
瞬間。
ボン! ボン!
戦刃にとっては小さな爆発音が頭上からして、すぐにギギギギ、と何かが軋む音が聞こえた。
すぐに頭上からさきほどまで載っていたゴンドラが地上へと落下していく。
「……留め具の部分に爆弾…」
『せいかーい。そんな感じで残り24個のコンドラに仕掛けてるからさ。3分以内に苗木を見つけないと……死ぬよ? じゃあ、スタート!』
一斉にピッ、ピッ、と電子音が聞こえてくる。
ここまで重なった電子音は不気味に聞こえる。
戦刃はすぐに苗木の探索を始めた。
まずは見える範囲に苗木の姿が見えるかを確認した。
しかし、苗木の姿は見えない。
「……上」
戦刃は観覧車とゴンドラを繋ぐ鉄の棒を新体操選手の如く、器用に上へと登っていく。
その際、一瞬でもゴンドラの中を見るのをやめない。
「…いない……いない…」
そろそろ頂上へたどり着く…というくらいに登ってきたが……。
「……いない……?」
頂上のゴンドラも確認したが、苗木は発見できなかった。
登ってくるので2分は使ったため、あと約1分。
「……どこに…………あ。あそこ…!」
戦刃がまだ探していない場所。
それは、載っていたゴンドラが爆破されたときに着地した直下のゴンドラ。
そこから見える範囲は探したが、それより下は探していない。
「……何となく上にいると思ったけど、そっか…あの辺り…」
戦刃は時間短縮のために載っていたゴンドラから飛び降りた。
傍から見れば飛び降り自殺であり、事実ギャラリーから悲鳴が上がった。
目的の高さにあるコンドラ前で新体操の大車輪の要領で衝撃を殺し、コンドラの中を探す。
「……いた!」
着地したゴンドラの一つ下のゴンドラ。
そこに見覚えのある緑色のパーカーと茶髪が見えた。
「……フッ!」
戦刃はゴンドラに向かって跳躍し…
パン! パン! パン!
ピストルを窓に向かって放ち…
「せいっ!」
ひび割れたゴンドラのガラスを蹴り破った。
「んんんんん!?」
苗木が自分の名前を呼ぼうとしたのがわかったが、構ってる余裕はない。
どうやら苗木は身動きできないように縛られてるようで……だが、戦刃にとっては好都合だった。
「…あと数秒かな…」
「んー!?」
戦刃は苗木を抱え上げると、割った窓から外を見る。
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- 16 : 2017/11/07(火) 21:06:47 :
「ごめんね。苗木君」
戦刃は苗木を縛っているロープをナイフで切ると、そのロープにピストルを縛り付ける。
某考古学者よろしく、ロープを観覧車とゴンドラ間に投げつけてくそのままくりつけた。
ちゃんと括りつけられたかを確認する余裕はない。
ピストルがいい感じに引っかかってくれるだろう、と期待して、戦刃は苗木を抱えて飛んだ。
「んーーーー!??」
苗木が声にならない悲鳴をあげる。
直後。
ボボボボボボボン!!!
連続して、観覧車のゴンドラ接合部が爆発する音が聞こえた。
戦刃は一先ずロープがしっかりと結び付けられていることに安堵しつつ、目的の位置まで飛んだところで手を離した。
「んむぅぅぅ!??」
苗木が悲鳴を上げるが、戦刃には何の心配もなかった。
「……湖の場所…確認しておいて良かった」
戦刃が呟いた瞬間、湖にモノが落ちる音が辺りに響いた。
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- 17 : 2017/11/07(火) 21:09:34 :
- 「ゲホッ…ゲホッ…!」
「大丈夫? 苗木君」
「う、うん……何とか…」
湖から這い上がった二人は、お互いが無事なことを確かめて一先ず安堵した。
そして、苗木がさっきまでいた観覧車を見た。
「……これ……大事件…だよね…」
「…テロとか疑われるかも…?」
「ど、どうしよう……」
苗木が江ノ島の安否を心配していると、戦刃はあることを思い出した。
「……な、苗木君…ごめんなさい…」
「え、どうかしたの?」
「……武器、途中で拾ったモノとはいえ……持ってきちゃった…」
戦刃がナイフを差し出すように苗木に見せる。
苗木は一瞬キョトンとしたけど、すぐに苦笑した。
「……ボクのほうこそごめん。無理させちゃったし…。途中で拾ったとはいえ、戦刃さんも武器がなかったらボクも助かってないかもしれないし…」
「そういえば、まだお礼を言ってなかったね。戦刃さん。本当にありがとう」
「……ううん。彼女として当然」
「………まっ、いっか…」
(戦刃さんに武器を持つことを制限させても、特に意味はなさそうだし………武器を使う戦刃さんかっこよかったし………男として情けないとかは…あんまり考えないようにしよう……)
苗木が密かに男のプライドを傷つけられている中、戦刃はシャツをちぎって、傷の応急手当をしていた。
『……ホント、残念な奴』
その音声は誰にも聞こえなかった。
この日希望ヶ峰ランドはテロ事件を疑われる大事件が起きたが、それとは別にとあるカップルの絆が深まることになった。
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- 18 : 2017/11/07(火) 21:11:18 :
- 「はぁ………今回のホントやんなくてよかったなぁ…無駄だった…」
江ノ島は本日の思いつきをひどく後悔していた。
まさか自身の姉が男を作って何かが変わったと思ったら何も変わっていない上に、予想を超える残念っぷりを発揮するとは思わなかった。
「……恋人同士でコロシアイなんて絶望的! ……とかやろうかと思ったけど、労力に見合わないわぁこれ……」
いずれくる計画のために二人にはより親密になってもらおう、と思ったということと、ちょっとした暇つぶしでここまで疲れることになるとは思っていなかった。
「……最後まで防弾チョッキに仕掛けられた盗聴器と小型スピーカーに気付かなかったし…本当、残念だね…まっ…」
(…これはこれでコロシアイの動機になりそうなことが拾えそうだし、いっか)
江ノ島は苗木と戦刃がイチャイチャとする音声に吐き気を催しながらも、未来に絶望しながらポジティブな思考をすることにした。
後に二人の絆が強すぎて、記憶消去が上手くいかずにコロシアイが行われなかったり、江ノ島が無念の内に野望を打ち砕かれたりするが……それはまた別のお話である。
END
-
- 19 : 2017/11/07(火) 21:16:29 :
- 以上です。
ナイフで書こうと思ってずっと考えていたんですが、これじゃない、これじゃないって書き直しを4回(全部戦刃が主人公)やって、やっとこのSSができました。
ナイフって言えば戦刃さん、ってことで彼女を主人公に書こうとしたんですが、あんまり喋らないイメージのせいで書くのに苦労しましたね…。
昨日書き始めて今日書き終えましたので、どこかガバガバなところあるかと思いますが、時間なかったので許して…!
他にも多くの方がコトダ祭りには参加しておりますので、そちらの作品もぜひ見ていきましょう…!
それでは、またどこかで。さらばっ!
※追記:タイトルを
戦刃むくろが武器を置いた日 から
戦刃むくろが武器を置けなかった日
に変更しました。
タイトルと内容が微妙に合っていないと思っての処置。お許しを!
-
- 20 : 2017/12/03(日) 07:41:42 :
- お疲れ様です。テーマアイテムを一度放棄して、最終的にむくろに返ってくる流れと纏まりが良かったです。
-
- 21 : 2017/12/04(月) 23:25:08 :
- >>20 ありがとうございます!
-
- 22 : 2020/10/26(月) 15:02:34 :
- http://www.ssnote.net/users/homo
↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️
http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️
⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
今回は誠にすみませんでした。
13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
>>12
みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました
私自身の謝罪を忘れていました。すいません
改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
本当に今回はすみませんでした。
⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️
http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi
⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ごめんなさい。
58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ずっとここ見てました。
怖くて怖くてたまらないんです。
61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
お願いです、やめてください。
65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
元はといえば私の責任なんです。
お願いです、許してください
67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
アカウントは消します。サブ垢もです。
もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
どうかお許しください…
68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
これは嘘じゃないです。
本当にお願いします…
79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ホントにやめてください…お願いします…
85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
それに関しては本当に申し訳ありません。
若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
お願いですから今回だけはお慈悲をください
89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
もう二度としませんから…
お願いです、許してください…
5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
本当に申し訳ございませんでした。
元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。
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