このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
黒の喰種 修正再掲
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- 1 : 2017/08/20(日) 23:11:56 :
- プロローグ
無意味に繰り返される争いの毎日、追われるのが日常だった。
そこから抜け出すために私は、地下から、24区からこの区に来たのだ。
20区。あんていくという喫茶店があることでこの区は、比較的平和を保てていると聞く。
…今まで、持って生まれた喰種としての力の強大さ故に、平和とは遠い生活をしてきた。
生きてく過程の中、私は家族にさえ見捨てられ、裏切られ。
いつしか人を、世界を憎み、
いつしか人を、世界を信じられなくなった。
誰も道を探そうとしない。
人々は間違いを放置したまま進み、この世界を歪めていく。
この世界は、間違っている。
ここにいる人たちは、なにか違うのだろうか。
私は諦めと、少しの期待を胸にドアノブに手をかけた。
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- 2 : 2017/08/20(日) 23:30:23 :
- 1話 環境と感覚
カランコロン
ドアベルの心地よい音が響く。
「いらっしゃいませー」
店に入ると高校生くらいの女の子が応対してくれた。
軽く会釈して席に着いた。
見渡すと、たじろぐほど落ち着いていてお客さんの雰囲気も良さげで。
おおよそ、今までの生活の中では想像もつかないほどだった。
しかし当然と言えば当然かもしれないが、店長はじめここの店員は全員喰種らしい。
いや、それも含めた安堵感かもしれない。
案内された座席についた私はそんなことを考えながら待っていた。
「ご注文は?」
先刻まで自分の世界にいたのが、彼女の言葉で現実に引き戻される。
「珈琲をお願いするわ。…ブレンドを1杯。」
彼女は注文を取るとカウンターの奥へ。
しばらくして1杯の珈琲が運ばれた。
「ごゆっくり。」
あまり人と話さない私だが、壁を感じないような話し方や表情には気分が和らぐ。
全ての人がここにいるような人たちなら、世界はもう少し、違う方向に向くだろうに。
早速、珈琲を口にする。
程よい苦味に深いコク、最適な温かさが私を安堵させた。
ここまで落ち着いた気分に浸れるのは何年ぶりだろうか、いや、これが初めてかもしれない。
ゆっくりと飲み込んで、その余韻に浸る。
「美味しい…」
その動作を数回繰り返して、それで1杯が終わる。
私好みと言うこともあるのだろうが、今までに飲んだ珈琲の中で1番に美味だったと思う。
私はその後も様々な種類の珈琲を口にした。
勿論、ラテだとかそういう方向ではないが。
だかしかし、周りの客にも喰種が混じっているので浮くことはない、やはりこの環境は居やすくていい。
そうして店の雰囲気を1通り満喫した私は、会計を済まし、あんていくを後にした。
無論、もう少し居たい気持ちもあったのだが、私は今日ここに越して来たばかり。
既に家具やらの配置は済ませたが、備品を揃えていない。
もっとも、喰種である私には人間のような食料は必要ないのだが、例えば今まで着ていた服は今着ているこの服以外ここでは着れたものではないし、そもそも家具だけで過ごす人もいないだろう。
人間の服の凝り方には目を張るものがあり、地下にいた私にとってはどれもこれも新鮮な物となる。
先程の諦めは薄れ、私はそんな期待を胸に街の中心に出たのだった。
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- 3 : 2017/08/20(日) 23:33:29 :
- そうして繰り出した街の賑わいは、それもまた見たこともないものだった。
いや、正確にはここに来るまでに何度か見た筈なのだが、これまでバタバタしていてあまり気にかけていなかったらしい。
先程からの心境からもうお察しだろうが、まず私が向かったのは洋服店。
期待以外の理由で1番に選んだ理由があるとすれば今の服装、不自然ではない…と思いたいが少なくともお洒落ではない。
地味過ぎて浮いているような気がしていたのだ。
ないと思うがあまりのおかしさ故に職質なんてことになっては…身元を漁られるのは不味すぎる。
それに、今までお洒落に、むしろ華やかさというものに無縁だったのだが私も一応年頃の1人の女子である。
思えば小さい頃、外の世界で綺麗な服を着て友達なんかと話して、そんなことが夢だったりした。
ここまで年を重ねるまでにそんな感情は薄れ、埋れてしまっていたが、明るく賑わった街の人々の声が、それを呼び起こしてくれたような気がする。
私は続く期待と、新たな不安、緊張を秘めて、店の中へ足を踏み入れた。
目に飛び込んで来たのは様々な色に染められたきらびやかな服たち。
思っていたことがあるが地上で言う「普通の服」って、豪華すぎはしないだろうか。
私が「普通じゃない」服装だからかもしれないが、こんな服装、地下で着ていたら追い剥ぎにあって売られるのが始末だろう。
地味を求めて地味に、目をつけられないように生きて来たせいか無駄な考えを張りめぐらせてしまう。
「…そういえば……」
この服たちの値段、どのくらいなのだろうか。
24区といえど、別に謎の通貨が流通している訳ではない。
勿論喰種にとって米なんて幾分の価値もないし、ましてや物々交換で止まっている訳でもない。
一応ここに来るまでに、色々な喰種達と戦って頂いたお金があるので結構持っているつもりだ。
…しかし今考えれば、地下では今見ればほぼ布みたいな服ですらそれなりの値段で取引されていた。
理由はただ単に「ぼったくり」でもあるだろうが24区では外より圧倒的に頻繁に戦闘が起きる。
なのでしっかりとした服を着ても赫子の放出で台無しになってしまうのだ。
それにしたって、ほぼ布ような服がそれなりの値段で取引されていたのだ、このきらびやかな服の前にこの金額は通用するだろうか…
目に入った白いワンピースに恐る恐る値札に手を伸ばす、すると…
「3980円!?」
思わず声が出た、周りの人に奇異なものを見る視線を向けられた気がするが…これは…
「…安い。」
まさかこれほどまでに質のいい服がこの値段で取引きされているとは。
先程説明した「ほぼ布のような服」だが相場は5000〜10000円程度であった。
地下のあの商人の、安いという売り文句はやはり嘘だったか。
1つ、呆れ笑い。
かつての回想にふけりながら私は迷いなくその服に手を伸ばした。
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- 4 : 2017/08/20(日) 23:35:03 :
- 結局、あの後も色々な服を見すぎて日が暮れてしまった。
「買いすぎた…かな」
20区…というより地上の商品のコストパフォーマンスに感動した私は、現在抱え切れない程の服をそれでもなんとか抱え、帰路に着いていた。
「赫子が出せれば…」
地下にいた時は周りには喰種しかいなかったので大量の荷物を運ぶ際は鱗赫や尾赫を使ったものだった。
しかし、当然ながら今ここでそんなことをしては白鳩のお世話になってしまう、我慢するしかない…
そうこうして、なんとかアパートに着いた。
「疲れたぁ…」
このアパート、築年数が長いだが訳ありだかでかなり安く借りることが出来た。
インターネットには汚いだのと書き込みされていたが、来てみると私には綺麗過ぎるほどだった。
それに戸籍を誤魔化したり様々な苦労をして手に入れた住居である。まだ来て一日も経っていないが気に入っていた。
このアパート、なんと中にお風呂やお手洗いまでついているのだ。
更に電気やガスの配備も完璧で、最初に入った時は驚いた。
その感動を不動産の人に伝えのだがよく分からないと言うような顔をされた。
後から分かったがどうやらこっちでは当たり前のことのようで、地下との差に衝撃を受けた。
24区は元はと言えば喰種が掘ったただの穴。
深部ではそれなりに整備されたところもあるが、大体は酷い環境であった。
…と、ここで食事の話に移るが私、以外と大喰いに分類されるほうである。
というのも地下での治安は大変悪く、秩序の欠片もないような喰種が多く見受けられた。
昔は仲間に頼み込んで分けてもらった人肉を喰べていたが、ある程度年を増すと戦闘力も付いたので、治安を乱す喰種達を殺していわゆる共喰いをしていた。
最初は吐くほど不味く、気が進まなかったがいつの間にか体も慣れ、先程言ったように治安を乱す喰種はたくさんいたので結果的に大喰いになったのである。
…しかし、ここの喰種は比較的温厚、殺害は躊躇われる。
街へ出直した私だったがそれほど柄の悪い喰種もおらず、また人間もおらず、結局食事をしないまま帰ることになった。
体を洗いくらいはしていたが、人生で数度しか経験したことがない湯船に浸かるという行為に胸はずませながら先に布団を敷く。
そして体を洗っていよいよ、入浴である。
「はぁ…」
「生き返る…」
人間は食料として、下に見るように言われて育ち、矛盾に悩まされながらもそうして生きてきた私だが、この浴槽を考えた人間に感謝と尊敬の意を表したい。
私は入浴しながら、これからのことを考えていた。
ふと、先程の買い物で見かけた男女のことが思い返された。
匂いで喰種だとは分かったが、男性の方は変わった匂いをしていた。
人間の匂いが混ざっているようで、喰種相手に美味しそうだと思ったほどである。
しかし、その見た目は強烈であった。
白髪に眼帯をしていて、連れていたのも明らかに年下だった。
確か誰かのサイン会なるものに並んでいたあの2人、独学で文字を覚えている今の私にはその作家の名前は「高」と「泉」と言う字しか読めなかったのだが、あの2人は私以外の人から見ても目立っていたのではないだろうか。
喰種なのに目立っていいのだろうか。
そんなことを考えながら風呂を上がった私は、体を拭き上げ、保湿剤やらを塗り、髪の毛を乾かして店で買った寝巻きを着て、布団に潜った。
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- 5 : 2017/08/20(日) 23:36:39 :
- …夢を見ていた。
私は必死に逃げている。
何から逃げているのかも分からない、でも振り返ることも出来ずひたすら走っている、何処からか声が聞こえる。
これはきっといつかの記憶。
でもこれがいつ起きたことなのか、そこは何処なのか、あの声は誰なのか、起きると覚えていない。
でも夢から覚めても恐怖だけは染み付いている。
私は、この夢をよく見る。
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- 6 : 2017/08/20(日) 23:43:59 :
- 2話 感情と順応
気が付くと朝になっていた。
なにか恐ろしい夢を見ていた気がするが、もうどんな内容だったかよく思い出せない。
思い出そうとしても頭が痛くなるだけで細かいことはさっぱりなのだ。
「こんなことしてる場合じゃないわよね、今日は…」
時計を見ると…12時を回っている。
「朝じゃなかった…」
今日もあんていくに出向こうと思っていたのだがこれでは無理そうだ。
昨日は夢中になりすぎて服しか買っていないので、今日は備品を揃えなければならない。
「はぁ…」
それに、食事も4日前からしていなかった。
洗面や歯磨き、着替えを済ませ重い足を踏み出し外に出た。
玄関を出て、そこから見える風景は悪くない。
ここは少し高い所にあるのでこのあまり高さのない建物からでも街を軽く見渡せるのだ。
それを眺めて少しテンションの戻った私は、階段を駆け下り坂を駆け下り、街へ。
今日最初に行くのは自転車屋。
地下ならそれこそ羽赫を出現させ、高速で移動出来たがここではそれももちろん無理。
喰種としてそれなりに強い力を持っている私は、実は赫子を出さないでも時速80km程度で走ることが出来るのだがそんな事をしては、やはり捜査官のお世話になる。
聞くと、自転車は免許証というものが必要ないらしく大人でも子供でも乗れる乗り物として人間の間で人気らしかったのでこれを選んだわけである。
いずれ免許証を取ってバイクや車にも乗りたいと思っているが、恐らく随分先になるだろう。
早速店内に入り様々な自転車を見た。
よく分からなかったので店員さんにオススメを聞いたのだが、「ママチャリ」というのはどうも気に入らなかった。
説明をしてくれたのだが何を言ってるのかさっぱり分からず、適当に会釈していたとき、ある自転車が目に飛び込んできた。
「あの…あれは?」
「あちらのコーナーはマウンテンバイクになります」
マウンテン…確かどっかの言葉で山の意を持つ言葉だったはず、登山用ということか?
「あちらのモデルですと、36段ギアを搭載していまして細かい変速が可能となっています、更に…」
相変わらず説明は何を言っているのか分からないままだったが、気に入った。
「少々値は張りますが…」
「買います!」
迷わずに言った。
「お、お買い上げありがとうございます!」
私の勢いが強かったせいか、少し動揺してるようにも見えたが時に問題もなく取り引きすることが出来た。
直線と曲線が描く美しい黒いボディに…
なんかバネみたいなのが付いていたりしてかっこいい。
自転車のことはよく分からないが他のと比べると値も張るしきっといいものだろう。
そう思いながら店を出て、早速自転車にまたがる。
「ここを…こぐのよね、子供でも出来るんだし…」
…ガシャーン!!
即、転倒。
気づいたら天地がひっくり返っていた。
「いたた、どうやるの?これ…」
何度か挑戦したが、結局上手くいかず、押してアパートの駐輪場に持っていった。
「はぁ…」
その後は結局、歩いて買い物を済ませ、帰宅した。
しかし思ったよりも早く用事が済んだので、私は今日もあんていくに行くことにした。
そういえば、確かあんていくでは自分で狩りが出来ない喰種のために、人肉を提供していると聞いたことがある。
「お世話になろうかしら…でも…」
そう、私は1人で「狩り」が出来る。貴重な食料だろうし、貰うのは悪いだろう。
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- 7 : 2017/08/20(日) 23:45:04 :
- 「いらっしゃいませー。」
入店すると昨日の女の子がまた接待してくれた。
「昨日もいらしてくれましたよね。」
暗い青髪の彼女は言った。
「ここの珈琲美味しくて。」
「ありがとうございます!」
そう言った彼女の表情は本当に嬉しそうで、やはりいい印象を受けた。
「今日は何になさいます?」
「今日は…またブラックで珈琲をお願いするわ。今回も…ブレンドから。」
「かしこまりました。」
カウンターの方へ向かう彼女を目で追うと、1人の老紳士の姿が見えた。
ここの店長だろうか、確か年齢は結構いっているというような話を聞いたこどがある。
あの人がこの店を…
彼は落ち着いていて、この店の雰囲気そのもののような暖かさを持っているように見えた。
珈琲は彼が淹れていた。
「お待たせしました。」
「ありがとう。」
覗いた珈琲に写った自分の表情は、緩んでいた。
「お客さんはどちらからいらしたんですか?」
周りに客がいないからか、ふと店員さんがそんなことを聞いてきた。
彼女に話かけられて私は、少しの間忘れていて自分のいた所、24区のことを思い出した。
でも、不思議と悪い気持ちはしなかった。
「24区からね、最近ここに引っ越してきたの。」
「そうだったんですか…」
24区と言う言葉を聞いて、彼女は少し申し訳無さそうな顔をした。
「気にしないで、悪いことばかりでもなかったのよ。」
実際、ここにいることでいい思い出も思い返せるようになっていた。
その後も私と彼女は話を続けた。
こちらの過去を話もすれば、彼女の話も聞いたりして。
その中で彼女が学校に通っていること、人間の友達がいることなども知った。
久々の"会話"は、とても楽しいものになった。
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