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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

Real Panic ~本当の恐怖~

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  1. 1 : : 2017/08/06(日) 22:28:02
     しゃぁ!ssのお時間です!!どうも!ルカです(´・ω・`)

     今回はミーシャさん主催夏花杯に参加させて頂いての作品となります!(因みに初参加!)
    (URL:http://www.ssnote.net/groups/835)

     今回の作品は、ルカのぬるま湯ss史上初のキャラクターからストーリーまでを自分で考えてのssになります!

     さらには、初ホラーに挑戦させて頂きます!

     ホラーになってるかの不安と、サスペンスいるのか?と言う不安がありますし、駄作者の私がいていいのか分からないのですが、全力でがんばらせて頂きますので、よろしくおねがいしますm(_ _)m

     では、前書きが長くなりましたが、レッツラゴー(o・д・)
  2. 2 : : 2017/08/06(日) 22:33:42
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     ここはある学園の廊下である。

    タンタンタンタン……

     軽快な足音が廊下を駆け抜ける。窓から流れる月明かりがその人物を照らしていた。どうやら1人の女性のようだ。


    「はぁ……はぁ…………」


     その女性は何かから逃げているように後を気にしながら走っていた……

     全身汚れており、足もフラフラな状態だった。


    「(下足室のほうまで走れば脱出できる!)」


     下足室まで残り100m……

     すると、後ろから大きな叫び声が聞こえた。


    「マテェ……ニゲルナァ……タダデハニガサンゾォ……」


     彼女の後ろから白い服を身にまとった少女が大きな叫び声を上げながら追いかけてくる。その顔は鬼の形相を浮かべていた。


     逃げている女性は頭の中で考えていた。


    「(目の前で××が殺された。あの女に首をはねられた。あの女に捕まれば私が()られる!)」

    「なんでこんなことになったのよ…………」


     そう……彼女にとって、今回のできごとは予想外だったのだ。



    「(私たちは、ただ……)」


     下足室が見えた!彼女は手でブレーキをかけながら下駄箱を直角に曲がり、扉まで全力で走った。


     彼女は手を伸ばす……下足室の扉に向けて……


    「とどけぇぇぇ!!」
  3. 3 : : 2017/08/06(日) 22:40:26
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     2014年8月23日。セミの鳴き声が響く東京の住宅街をゆっくりと歩く1人の高校生がいた。

     名前は、中島(なかしま)(れい)。全国模試で学年トップの成績を取ったり、野球部のエースとして、今夏の予選の決勝で甲子園常連の晩稲(おくて)実業を苦しめるなどの文武両道という言葉が相応しい、好青年である。

     プロ野球界ではドラフト1位候補と言われていたが、


    「プロに挑戦する前に大学に行きたい!」


     と言って、プロ入りを見送ったのだ。



     そんな中島をセミの鳴き声が襲う。


    ミーン……ミーン…………ミーン……


     ただですら暑い道中なのにセミの鳴き声がそれを引き立てる。

     中島はタオルで汗をぬぐいながら、住宅街を歩いていた。

     すると、中島はある家の前で立ち止まり、その家を見上げた。

     よくある一軒家だ。庭に犬を飼っているらしく、

    ワンワン!

     と近所にも聞こえるように吠えていた。ボクは大きく深呼吸をして、


    ピンポーン……


     とチャイムを鳴らす。すると、インターフォンから元気な声が聞こえた。

    『はい!』

    「おはようございます!玲です!くるみを迎えに来ました!」

    『ちょっとまって!』


     インターホン越しから聞こえた声が家中をこだまする。そして、その声と別の声が答える。どうやら、先ほど出たのは姉か……いや、彼女は一人っ子だから母だろう。


    ミーン…………ミーン……ミーン……


     さっきのインターホン越しでのやりとりの間も、中島があのやりとりの様子のことを考えている間もセミは鳴くのをやめなかった。

     中島は諦めたようにため息をつくと、カバンの中からスポーツドリンクを出して口に含んだ。


    「ぬるい……」


     よくある現象だ。カバンの中で熱せられたスポーツドリンクほどマズいものはない……

     すると、中島が立ってる家の前の公園から猫が顔を見せた。テクテクと優雅に中島の前を通り過ぎていく。中島もその猫を目で追ったが、中島はあることに気づいた。


    ……この猫、黒猫だ…………


     中島はこの類いの話を信じていなかったので、『だからなんだ!』と言う表情を見せながら、スポーツドリンクをカバンに投げ込んだ。
  4. 4 : : 2017/08/06(日) 22:46:04
     ふと、中島は自分の腕時計を見た。時刻は7時50分をさしていた。


    「今日もギリギリの到着か……」


     中島はそうつぶやき、1つため息をついた。その矢先、家の扉が

    ガチャリ……

     と開いた。

     扉からは髪をポニーテールに結んでいて制服を着た女の子が出てきた。


    「ごめん、玲!待った?」

    「いや、そこまでまっていないよ。」


     と中島は彼女に返し、手をつないで駅まで歩いた。

     彼女は高橋(たかはし)くるみといい、中島の幼なじみであり、彼女でもある。中島と同じ野球部でマネージャーをしており、チームを陰で支えている。

     顔、スタイル全てにおいて申し分なく、校内では、『美男・美女カップル』と言われている。


    「それでね!今日、テレビで美味しいスイーツ屋さんが紹介されてたんだぁ!始業式終わったらいこうよ!」

    「そうだね!たまには甘いものもいいかな。」
     

     いつもこのような会話が行われていて、中島は普段は断るのだが、今回は馬が合ったらしく、高橋と放課後に行くことにした。



     中島達が通っている学校は、家からはそこまで距離はない。最寄りの駅から3駅ほど電車を乗って、そこからは歩いて5分ぐらいでつく。

     中島と高橋が電車を降りて、駅の改札口をぬけると、目の前に大きな時計塔がある。その時計塔を見ると、1人の少年が腰かけていた。その少年に対して中島は声をかけた。


    「田中くん!少し遅れちゃった!ごめんね?」

    「いいって!今ついたとこだし!」


     時計塔に腰掛けていた彼はそう言うと、すっと立ち上がり、中島の元に歩み寄った。

     彼は、田中(たなか)崇史(たかし)。部活はサッカー部でゴールキーパーをしている。中島とは別の学校だったが、共通の知り合いがいたために、中学の時から親交があった。


    「それから、玲!オレのことは呼び捨てでいいって言ってるだろ?」

    「いや、なんか、今更な気がしてね……」


     それから、田中は中島から下の名前で呼んで欲しいらしく、会う度にこの会話から始まる。そして、決まって中島が田中にこの一言を投げかける。


    「それよりも西条さんとはどうなの?もう告白したの?」


     西条とはクラスメイトの西条(さいじょう)優輝(ゆうき)のことで、『西条コンツェルン』のお嬢様だ。田中は彼女に好意を持っているのだが、まだ告白できずにいたのだ!


    「バ……そんな話はいいだろ!!」


     と言うと同時に、田中のチョークスリーパーがきまる。このチョークスリーパーは思いのほか深く入るらしく中島はぬけるのに必死だ。


    「ちょっ……ま…………ギブギブ!!これ以上はおちちゃうよ!!」


     中島は必死に田中の手を叩いた。これはいつもの光景だ。それと、この後聞こえる怒号もいつもの光景である……
  5. 5 : : 2017/08/06(日) 22:49:13
    「おい!テメェ!何してやがんだ!」


     その声の主の男が、全力で田中の腕を掴みねじった。田中はそのまま地面に突っ伏した状態になり、悲鳴を上げていた。すると、その男が中島に声をかけた。


    「おう!玲!大丈夫か?」

    「岩鬼くん!ありがとう!」


     岩鬼という男は田中の手を放し、中島と話をしていた。すると、田中が立ち上がり、腕をブンブンふりながら、岩鬼に怒鳴る。


    「っつう……てめぇ!なにしやが……お?補習の岩鬼じゃねぇか!」

    「ウルセェ!それで呼ぶな!」


     これも田中の岩鬼いじりだ。もちろん、このあと、岩鬼からげんこつを喰らうのは言うまでもない。

     彼は岩鬼(いわき)(たけし)。通称『補習の岩鬼』。ラグビー部に所属しているため、筋骨隆々でかなりのパワーの持ち主である。将来は『警察官』らしい。

     すると、岩鬼が中島達に背を向けて、走る準備をした。そして、少し走りだしながら中島達に声をかける。


    「おい!ダラダラしててもいいが。早く行かねぇと遅刻だぞ!!」


     岩鬼はそう言うと、スピードを上げて走っていった。


    「ちょっとまて!流石に学期最初に遅刻は嫌だぞ!」

    「うん!急ごう!!」


     中島達も遅刻は嫌なので、セミの鳴き声が聞こえる中を走っていった。
  6. 6 : : 2017/08/06(日) 22:53:52
    キーンコーンカーンコーン……


     校内にチャイムの音色が鳴り響く。チャイムは合計4回鳴る。





    キーンコーンカーンコーン……


    ダダダ……

     廊下を走る音が聞こえる。


    「こら!廊下を走るな!」


     生徒指導の先生の声が校内に響く……

     それを聞かずに、中島達は全力で階段を駆け上がる。





    キーンコーンカーンコーン……


     見えた……教室のクラスの看板……もうすぐだ!

     中島が扉に手を伸ばす。




    キーンコーンカーンコ……

    ガラッ!

    ……ーン……


    「まにあったぁぁ……」


     中島達4人はその場にへたり込んだ。すると、岩鬼と田中はその場でカッターシャツをぬぎ、汗ふきシートで体を拭いていた。中島も席に着きカバンを開いて汗ふきシートをとりだして体を拭いた。

     高橋は服を脱ぐわけにもいかずシャツと汗ふきシートを持って女子トイレに行こうとしたら、ツインテールの美しい顔立ちの少女が近づいてきた。彼女が西条だ。


    「高橋さん……ご機嫌よう……」

    「おはよう!優輝ちゃん!」

    「おはようございます。高橋さん。私もご一緒しますわ……」


     高橋とは打って変わって、丁寧な言葉遣いを欠かさない西条であった。そして、2人で話をしながら女子トイレへとむかった。

     中島達の汗がひき、シャツを着替えてスッキリしたのと同時に高橋と西条も帰ってきた。そして、岩鬼と田中が自分の席にどかっとすわった瞬間、校内放送がなる。


    『今から始業式を行いますので、生徒のみなさんは教室前に整列をして、体育館に向かいなさい!』

    「んだよ!休む間もないのかよ……」

    「田中さんは遅刻なされたのですから当たり前でしょう。」

    「西条!俺たちは遅刻してねぇぞ!」


     廊下にむかって歩く西条を追いかける田中を尻目に、岩鬼と中島はのんびりと準備をしていた。高橋は既に並んでいたのだが、ダラダラしている男子を連れてくるのに教室に戻った。

     そうこうしているうちに、全員が整列し、列が動き出した。中島は二学期が始まるうれしさをかみしめながら体育館へと向かった。
  7. 7 : : 2017/08/06(日) 22:59:08
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
     体育館には全校生徒500名が整列していた。進学校ということもあり、服装も整っており、列はまっすぐだ。

     教師陣も教師陣の列が存在するぐらい、生徒を信じている。もし、列が乱れた場合は演台の上から注意されると言うもっとも恥ずかしい形を取られる。

     それを回避したいが為に性格の荒い岩鬼ですら、立ち姿はともかく、列や服装は整っている。


    「いまから、2学期始業式を始める!気をつけ!」


     教頭先生の声にあわせて、体育館には

    キュッ

     と、グリップ音が響く。


    「礼!」


     教頭先生の声にあわせて生徒全員が礼をする。岩鬼も不格好ではあるがきっちり揃った。どうやら、やることはやっているようだ。

     その後、教頭先生に促され、校長先生が壇上に上がった。始業式と言うことで用意された校旗に校長先生が一礼する。そして、演台まで歩み寄り、生徒に一礼した。それにあわせて生徒たちも一礼する。


    「おはようございます。みなさんの笑顔が見れて本当にうれしく思います。さて、夏休み前にも話をしましたが…………」


     と校長先生が話し始めた矢先、体育館の扉が

    ダァァン!

     という音とともに蹴破られた。その場にいた全員の体が震え、恐る恐る扉の方を見ると、高校生ぐらいの年の男が5人並んでいた。手には日本刀は持っており、リーダー格の男の腰には手榴弾が吊されていた。

     その彼らの出で立ちに体育館はざわつき始めた。教師陣が対応するために後のドアにむかって歩き始めた。

     ふと中島は彼らの目を見た。その目は殺意に満ちており、中島は身震いした。

     岩鬼もそれを察したらしく戦闘態勢になったが、中島に制止されちめ構えていた腕を降ろした。
  8. 8 : : 2017/08/06(日) 23:07:09
    「だ……だれだ!君たちは!」


     すかさず校長先生がマイク越しに質問した。声は少し震えていたが、毅然とした態度は崩していない。

     すると、その5人組のリーダー格の男が、日本刀を床に突き刺し、こう叫んだ。


    「俺たちは、この学校に点数が足りていたのにもかかわらず、入学できなかった恨みがある!俺たちはこの人生に絶望した!だから、貴様らも道連れだ!」


     その叫びとともにリーダーの男が日本刀を床から引き抜いた。それを見た全員が叫び声を上げて、生徒の集団に突っ込み、近くに居た生徒から切り刻んでいった。


    「キャーーーー!!」


        「やめろぉぉぉ!!」

     
            「痛い……痛いよぉ…………」



     その光景はまさに地獄絵図だった。首がはねられるもの。片腕がはねられて苦しみのあまりに死んでいくもの。心臓をひと突きにされるもの……

     教員、生徒を含むたくさんの人がドンドン倒れていき、体育館はパニックとなった。

     その後、校長先生からの指示で体育館を脱出した生徒はグラウンドに行くことになった。

     脱出の最中、中島は見た。体育館に乗り込んだリーダー格の男が手榴弾のピンを抜いたところを……

     そして、彼はニコリと微笑み、それを地面におとした……

     次の瞬間……




























    ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォン!!






















     体育館が爆発した。

     体育館の壁には血肉が飛び散っていた。

     中島を含めた10名程が爆風で5m程飛ばされた。

     頭を抑えながら起き上がった中島が体育館の方に目をやるとそこには、スプラッター映画のような光景が広がっていた。

     体育館から出る煙とともに、バラバラになった死体の首、四肢、内臓などが散らばっているのが見えた。

     思わず、中島はその場で吐いた。高校生の彼には目に余る光景だ。

     腐った血肉の匂いが鼻に突き刺さる……

     夏だから死体の腐食も早く、体育館の周りは直ちに『死の臭い』につつまれた。

     それがさらに中島の嘔吐を助長させるのであった。



     この事件が、中島達にとって、史上最悪の日になったことは言うまでもない。

     その後は、校長からの指示で中島達は教室に戻りそのまま下校した。中島達のクラスだけでも半数以上が犠牲になったという。

     皆が悲しみに暮れていた。2学期の華々しいスタートがこうなることを誰が予想しただろうか……

     あの陽気な高橋ですら無言だった。

     その日の放課後、朝に約束したスイーツ店には行かなかった。

     そして、教員同士の会議の場で校長から来年度から生徒をとらない方針をとることが告げられ、事実上、廃校処分となったことは中島達にも伝わった。

     これが後に語り継がれる虐殺事件の全貌である。
  9. 9 : : 2017/08/06(日) 23:08:53
     翌日、中島は家にいた。学校は1週間休校するようだ。周りは喜んでいたが、中島は素直に喜べなかった。

     なぜなら、冬休みが短くなることを彼らは知らなかったからだ。まぁ、おそらくは土日を削るのであろうが……まぁ関係ない。

     朝起きて食卓に行くと、トーストがあった。父親と母親は中島よりも家を出るのが早いから準備に追われていた。

     そんな様子を尻目に、中島はテレビをつけニュースを見た。ちょうど昨日の事件が取り上げられていた。

     そのテレビをジーッと見ていると被害者情報が流れていた。


    アイカワ コウキ

    ウラ ダイキ

    エノサキ アカネ


     ずーっと続く名前……


    オオタカ キヨシ

    カガワ タツヤ

    カラスマ キョウコ


    ピッ……


     中島はチャンネルを変えて別のテレビにした。正直今流れてた名簿は中島のクラスの生徒ばかりだった。

     心が痛い。

     そう感じながら、これからの生活を送るのだと思うと、なんだか、滅入ってしまった。




     1週間後に学校は再開したが、最初の1か月はみんな、何かを引きずっていたのか、話し声も響かなかった。しかし、だんだん慣れてきたのか、いつものクラスに戻り、卒業時には皆笑顔を見せていた。


     中島達はそれぞれ別々の道に旅立つ。

     唯一同じなのは高橋とまた同じ学校だと言うことだ。

     こうして、彼らの波瀾万丈な高校生活は幕を下ろしたのであった。
  10. 10 : : 2017/08/06(日) 23:19:20
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
     あの事件から4年が経ったある日。中島と高橋はある旅館へと向かっていた。なぜかというと、そこで、中島達の通っていた高校の同窓会が行われる予定だったからだ。

     高校の同級生の実家が箱根で旅館をしているらしく、2泊3日で貸し切りにしてくれたらしい。

     中島と高橋の関係は相変わらず良好だった。来年の春には入籍も考えているという。

     中島は高校時代とあまり変わっていないが、高橋は髪を肩ぐらいの長さにして、かなりさわやかになった。

     そんな中島と高橋を乗せたタクシーは旅館に着いたようで、料金を支払い、タクシーを後にした。




     旅館に着くと、田中、西条、岩鬼の3人が入り口の前でまっていた。


    「よう!変わんねぇな!」

    「田中くんこそ!」

    「高橋、髪切ったか?」

    「うん、よく気づいたね!岩鬼くん!」

    「それだけばっさり行くと流石に気づきますわよ……」


     高校の時の会話がよみがえった瞬間だった。

     その後、中島達は旅館でチェックインを済ませ、部屋へとむかった。部屋はどうやら5人部屋を用意してくれたらしく、幹事を務めた男性に感謝の意を述べた。

     部屋は趣のある和室で、山の上にあると言うことで、景色も綺麗だった。


    「うわぁ!いい景色ねぇ!」

    「そうだな!空気も美味しいし、いい気分だぜ!」


     田中と高橋が景色を眺めていたが、岩鬼の号令で、近況の話をすることになった。

     田中は今は東京のチームでプロ選手として活躍しているらしく、そのチームで正GKの座を奪って以降は毎試合出ている。さらには次の日本代表候補として騒がれているらしい。

     西条は西条コンツェルンの次期社長として、父から経営方法を学んでいる最中だった。

     そして、岩鬼は念願の警察学校に入学を果たし、いまはいろいろ勉強中とのことだった。


     そういった話で盛り上がっていると幹事から電話がかかってきた。どうやらパーティーは19時かららしい。ふと、中島が時計を見ると、パーティーまでは、まだ時間があった。すると西条が、


    「汗で体がべたべたなのでお風呂に入りませんか?」


     と提案したので、皆で大浴場へと向かうことにした。
  11. 11 : : 2017/08/06(日) 23:21:10
     大浴場は、かなり広かった。露天風呂も絶景で、吹き抜ける風が心地いいぐらいの湯温だった。熱すぎずぬるすぎず、いわゆる適温だ。

     中島達は露天風呂を確認すると、先に体を洗いに行くことにした。

     しかし、体を洗ってからが少し大変だった。田中が女子風呂のぞきに行こうとして、岩鬼に露天風呂に沈められたり、中島がタオルをまいたまま露天風呂につかろうとしたところを岩鬼と田中に怒られたり、色々あった。

     まあ、これだけ楽しめるのも温泉の醍醐味である。

     すると突然、岩鬼の方から真剣な顔で話があった。


    「おい!テメェらのところにチケット来てねぇか?VR体験のやつなんだけどよぉ……」


     すると、田中と中島も心当たりがあるようで、


    「オレにも西条にも来てたよ!玲は?」

    「ボクたちにも来てたよ!アレってなんなんだろ?」


     とそれぞれ答えた。すると、岩鬼が中島と田中の顔を見て続けた。


    「じつは、その会社、曰く付きなんだ……」


     田中と中島の顔が凍り付いた。温泉で温まったからだが一気に冷めていく……

     風が先ほどよりも冷たく感じる。その曰くがなになのか、中島と田中には分からなかった。中島達は岩鬼の次の言葉を静かに待った。
  12. 12 : : 2017/08/06(日) 23:24:45
     この5人にVR体験のことを知らせた会社の名前は、

    『デビルズアーバン』

     何とも恐ろしい名前だが、巷では有名なゲーム会社である。どうやら、岩鬼によると……


    「この会社のVRモニターに参加したやつが全員失踪したらしい……」


     ということだった。中島は2つのことについて考え事をしていた。1つはそんな失踪事件なんて聴いた覚えがないということ。もし、大きな失踪事件なら、ニュースで取り上げられるはずだが、ニュースでも流れたことはない。つまりは『デビルズアーバン』の隠蔽(いんぺい)か……

     そしてもう1つは、『デビルズアーバン』は過去に、300人に対してVRのモニターを頼んだとニュースにあった。岩鬼が言うには、そのモニターに参加した人達ももその後の行方は分からないらしい。

     中島は恐る恐る岩鬼にきいた。


    「それって、何人失踪したの?」


     すると岩鬼が神妙な面持ちで答えた。


    「ざっと1000人だ……」


     2人とも開いた口がふさがらなかった。1000人なんて現実的な数字じゃない!

     そして、岩鬼は続ける。


    「警視庁も捜索はしているらしいがどうしても見つからなくて、最後の手がかりがこの『デビルズアーバンのVR』なんだ……協力してくれねぇか?」


     めったに、頭を下げることがない岩鬼が、中島と田中に頭を下げた。

     2人は少し考えた。風が優しく彼らの間を吹き抜ける。少し肌寒くなるのを感じながら、中島は口を開いた。


    「よし、『デビルズアーバン』にいこう!!」


     中島が強く答えると、それに呼応して、岩鬼達もさけんだ。

     そして、そろそろ宴会が始まる時間だろうと言うことで、大浴場を後にして、宴会場へと向かった。
  13. 13 : : 2017/08/06(日) 23:28:35
     その夜の宴会はとても盛り上がった。皆お酒が強くて、カラオケや一発芸などが飛び交う大宴会となった。

     中島達ももちろん飲んでおり、ほろ酔い加減になっていた中島が高橋に改めて告白したり、田中が西条に告白したり、岩鬼がクラスメイトの女の子に告白したりと告白ラッシュが起きた。

     すると、幹事の方から宴もたけなわと言うことで、今回の宴会は終わると言うことが全員に告げられた。

     一応旅館は2泊3日でとってるらしく、2日目は各自観光したりご飯を食べたりと言う内容になるらしい。

     それを聴いて、今日は解散となった。最後に一本締めをして、それぞれ部屋へと戻っていった。

     中島達は部屋に戻ると、部屋に敷いてある布団に腰かけた。

     すると、高橋が口を開いた。


    「ねぇ……お風呂で優輝ちゃんと話をしてたんだけど、VRの参加チケットのことで……」

    「ひょっとして、デビルズアーバンのやつ?」


     中島はすぐさま答えた。高橋は中島の答えに頷いた。そして、中島は西条の方に目をやると、西条は中指と人差し指を胸の谷間に差し込み、そこからチケットを取り出してヒラヒラと掲げた。


    「それで、みなさんは行かれるのでしょうか?」


     その西条の言葉を皮切りに、中島は岩鬼に目配せをし、岩鬼から風呂で中島達に話した話を西条と高橋にも話した。

     高橋の顔は青ざめていた。そんな、失踪事件が起きていたなんて、知らなかったし、なんと言ったって、彼氏の中島がそれに関わろうとしているとは……

     一方の西条は顔色1つ変えずに、話を聴いていた。そして、話が終わると、にっこり笑い、


    「なるほど……わかりましたわ。私達も行きます。」


     と告げた。これには高橋も驚き、


    「ちょっ!?何を勝手に!!」


     と反論した。西条が行くというのなら別にいいが、勝手に自分も巻き込まれたことに高橋はくってかかった。


    「あら……いいのですか?殿方が危険に身を投じるというのに……」

    「それとこれとは……」


     高橋はそう言った後に気づいた。逃げ道がないことに……


    「あぁ、もう!!わかった!私も行く!!玲を1人にさせられないしね!」


     思わず中島は苦笑いしたが、高橋の気持ちをくみ取ったようで、高橋に対して、一言告げた。


    「くるみは絶対ボクが守るよ……」


     その後5人は同窓会終了の翌日に『デビルズアーバン』に行くことを確認して、それぞれ床についた。
  14. 14 : : 2017/08/07(月) 19:30:32
     楽しかった同窓会も終わりを告げ、ついに約束の時となった。

     結局、同窓会の2日目は5人で観光をし、旅館で眠って帰路につくというごくふつうの旅行を楽しんだのだ。

     ただ、その翌日に行くとなると、とても大変だった。旅行疲れが残ってしまい、中島達は珍しく寝坊をして、午前中には『デビルズアーバン』につく予定のはずが、午後集合になってしまったのだ。

     大慌てで準備した中島は集合場所である、昔通っていた高校があったところの最寄り駅に向かった。

     中島がついた頃には、既に全員揃っていて、女子は既に車に乗り込んでいた。


    「玲!(おせ)ぇぞ!」

    「ごめん!またせて!」


     普段は遅れて怒られているはずの岩鬼に注意された。中島は田中から缶コーヒーを受け取り岩鬼の車に乗車した。岩鬼はちゃんと5人揃っていることを確認して、田中とともに車に乗車して、駅を出発した。

     その道中、皆は緊張で顔がこわばっていたが、田中の気転で車内に曲を流したことにより、緊張がほぐれ皆のテンションが上がりっぱなしだっった。

     一時間ほど、車を走らせただろうか……目の前に大きな建物が近づいてきた。


    「おい……ついたぞ!あれが、『デビルズアーバン』だ。」


     岩鬼の声で全員が前を向く。岩鬼が指さしたところを見ると、名前の割には大きく明るい建物だった。駐車場も地下にあり、警備員や監視カメラなどセキュリティは万全だ。

     岩鬼が駐車場に車を止めると、中島達はコーヒーを飲み干して、心を落ち着かせてから車を後にした。
  15. 15 : : 2017/08/07(月) 19:37:10
     中島達は車を降りると、1階の受付へと向かった。岩鬼が受付嬢に話しかけている。岩鬼にしては珍しく丁寧な口調だった。


    「すいません、VRの体験に呼ばれている岩鬼ですが……」

    「あぁ、岩鬼様、西条様、田中様、中島様、高橋様ですね!社長から聴いております!どうぞ!エレベーターで20階まで上がってください!」


     受付嬢から名札を受け取り、エレベーターに乗った。エレベーターに乗ると、中島が岩鬼に向けて、


    「会社の外観といい、雰囲気といい、なんだか、失踪事件が起きたと言う会社のイメージではないね……」


     と自分の今の気持ちを話した。中島には根拠もあった。その根拠は受付嬢の態度だった。もし、失踪事件があったことを、理解していれば、あのような態度で接することは出来ない。ただし、岩鬼の見解は中島とは違った……


    「んなもん、隠蔽工作しようと思えばいくらでもできんだよ!上層部しか事件のことを知らないって言うのもザラだ。そう言うときに被害を受けるのは、さっきの受付のねぇちゃんみたいな何も知らない奴らなんだよ。」


     と毒づいた。警察が今まで取り上げた事件ファイルを片っ端から読んでるだけあって、説得力があった。そういう話を岩鬼としているうちに、エレベーターの電光掲示板は20階を示した。
  16. 16 : : 2017/08/07(月) 19:47:15
     20階についたエレベーターの扉が開くと、そこには1人の男がベンチに腰かけていた。

     その男は中島達を見ると、ベンチから立ち上がり、両手を広げて中島達に近づいてきた。


    「どうも!デビルズアーバンにようこそ!!私は代表取締役をつとめております、烏丸(からすま)雄一郎(ゆういちろう)です!どうぞ!お見知りおきを……ささ……奥にどうぞ!」


     烏丸の案内に従い、中島達は奥へと歩を進めた。


    「(烏丸……どこかで聴いたような…………)」


     そう考えていると、中島達は様々なゲームが並んでいるエリアへときた。


    「おい!これ、大ヒット格闘ゲームの『BATTLE!』じゃねぇか!」

    「そういえば、お前、格ゲーマニアだったな……」


     飛びついたのは岩鬼だった。田中が言うように、彼はかなりの格ゲーファンだった。


    「おう!しかし、このゲームがこの会社で作られていたとは知らなかったぜ……」


     まるで、童心に帰ったかのようにはしゃぐ男子を尻目に女子達は考え事をしていた。そして、西条が口を開いた。


    「ところで、烏丸さん……」

    「なんですか?えっと……」

    「西条ですわ。西条コンツェルンとの提携会議でお会いしておりますが……」

    「あぁ、西条コンツェルンの!その説はお世話になりまして!どうされましたか?」


     西条と烏丸との緊張感のある会話に、流石の男子も我に帰り、彼らの動きに注目していた。


    「わたしたちに、いったいどのような娯楽(エンターテインメント)を用意しておられるのですか?」


     この西条の質問に場が凍り付き、烏丸の足も止まりそこは静寂に包まれた。
  17. 17 : : 2017/08/07(月) 19:49:26
     西条の質問からしばらくすると、烏丸はくるりと方向を変えて、ゆっくりとした足取りで西条に近づいてきた。その表情は不気味に輝いていた。


    ……カツーン…………カツーン……
     

     革靴の乾いた音が廊下に響き渡る。その音を聞いていた中島達は西条の方を見ていた。そして、烏丸は西条の前に立ち止まり、あごを指で

    クイッ

     と持ち上げ、背中に手をかけた状態になり今にもキスしてしまう勢いで顔を近づけ、


    「さすがは西条家ご息女……話が早い。」


     と狂気に満ちた顔で告げた。西条はその言葉を聞いて冷や汗をかいていたが、すぐにあごに触れていた烏丸の手を払いのけ、烏丸を突き飛ばした。

     西条に突き飛ばされたことにより烏丸は尻餅をついてしまった。そして、烏丸に見下すような視線をおくり、西条は更に質問した。


    「なにが、どう話が早いのか教えてくださる?」


     すると、烏丸は立ち上がり、まるで自分がエンターティナーのように、両腕を広げて声高らかに話を始めた。

    「いまから、みなさんには『Real Panic』と言うゲームを体験して頂く!」


     『Real Panic』……

     本当の恐怖……どういうことだ?


     中島達の頭の中に疑問符がとんでいるのを気にとめず、烏丸は続ける。


    「このゲームの舞台は廃校になったある学校がだ!その学校の七不思議をといて脱出できればクリアとなる!」

    「なんだ、簡単じゃねぇか!」


     田中と岩鬼は笑顔になり、

    パァン!

     とハイタッチをした。しかし、中島は見逃さなかった。その光景を眺めながら口元が緩んでいる烏丸の姿を……
  18. 18 : : 2017/08/07(月) 22:18:20
     中島たちは、VRルームへと到着した。その部屋にはVRのセットが5台用意されているだけであった。

     部屋を見渡していた5人を尻目に、烏丸は説明を始めた。


    「君たちのリアルの体はゲーム中は動かすことは出来ないんだ。つまりはゲーム上でどれだけ動いても、リアルの体ははまったく動かないから安心してほしい。今回はモニターだから、ゲーム続行不可能な状態になったらログアウトだ。もちろん、ゲームクリアしてもログアウトになる。」


     中島はまた引っかかった。


     『ゲームが続行できない状態になったらログアウト』……

     『ゲームをクリアしてもログアウト』……


     意味合いは同じなのか……

     そんなことを考えていると、


    「おい!玲!どうした!暗い顔して……」


     誰かに肩を掴まれて、中島はハッとした。肩を掴んでいた人物は田中だった。


    「いや、大丈夫だよ。田中くん。」


     自分が悩んでいるのを隠すようにして、中島は準備を始めた。

     いよいよ、始まる……

     中島が覚悟を決めたその時、別室から烏丸がアナウンスをする。


    『では……諸君……』

    『健闘を祈る!』


     ……は?ちょっとまて!なんだ、最後のは!?


     ……暗転



































    「ククク……またこれで救われる……」

    「いまからお前の友達が行く……仲良くやるんだぞ……」
  19. 19 : : 2017/08/07(月) 22:38:22
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     中島はゆっくりと目を開いた。そして、辺りを見渡した。

     中島の周りは様々な色の光が輝きを放っていた。まるで、万華鏡だ。そして、自分の体がういているような感覚に襲われていた。

     さっきの烏丸の最後の言葉……『健闘を祈る』とは何を表しているのか……

    「(モニターだから絶対クリアできるのではないのか……?それとも、クリアできない何かがあるのか……?)」

     これから先起こりうる様々な可能性を考えていると、いきなり女性の声がこの空間に響いた。


    『Real Panicへようこそ!それでは、この世界について説明します!』


    「(チュートリアルか……)」


     中島はそう考えていると、いきなり、目の前の景色が変わった。


    「(これは……僕たちの通っていた高校……?)」


     そう、中島の目の前には、彼自身が通っていた高校が映し出されていたのだ。


    『ここは、私立善悪学園!都内で有数の進学校です。駅の近くに建設された学校は交通の便も良く、電車で通学する人が多かったそうです。』


     確かにそうだ。学校の名前はともかく話の内容には間違いない。


    『しかし、この有名な進学校を廃校へと陥れる恐ろしい事件が起きてしまったのです。時にして、2014年8月23日!』


     すると、中島の目の前が体育館へと変わった。

     扉を蹴破って入った高校生たち、マイクで誰かを問い詰める校長先生……

    「(この光景は……ま……まさか……)」

     中島がそう考えていると、中島の耳に断末魔が聞こえた……
     

    「キャーーーーーー!」


         「たすけて……たすけてーーー!」


      「死にたくない……」


     な……なんだ、この映像は……

     中島にとっては聞き覚えのある断末魔……そして、積み上げられた死体の近くには手榴弾のピンを抜く人物の姿……

     記憶がフラッシュバックする……


    「(ボクの記憶が正しければ……この後……)」

    「や……やめろぉぉぉぉぉぉ!!」


     思わず叫んだ中島だったが、声が届くはずもない。

     手榴弾は地面に落ち……


     ドゴォォォォォォォォォォォォン!!


     記憶の中によみがえる『死の臭い』…………臭い……?

     VRなのに……感じる……?
  20. 20 : : 2017/08/07(月) 22:45:02
     中島は不思議な感覚を感じながら、残りのチュートリアルに耳を傾けようとしたが、先ほどの『死の臭い』と記憶が頭から離れない。中島は頭を抱えてうずくまってしまった。

     そんな中島のことを気にすることなく、チュートリアルは説明を続けた。


    『この極悪非道の無差別殺人事件のあとに、私立善悪学園の廃校が決まりました!そして、廃校になったこの善悪学園ですが、その後もこの学園に潜まれた『七不思議』により、様々な人身事故が起きてしまったのでした。このことにより、都内有数の進学校は、誰も寄りつかない曰く付きの学園へと変わっていってしまったのでした。』


     中島は違和感を感じた。後半の話は聴いたことがない。つまり、このゲームは、リアルに起こった出来事に、フィクションを盛り込んだ話なのかということに中島は気づいた。


    『なので、みなさんはこれから、この学園に入り、その人身事故の元になったといわれる七不思議の謎を解き、この学園を曰く付きの学園と言うことから解放して欲しいのです!ということで、行ってらっしゃ~い!』


     チュートリアルはそこで終わり、中島の目の前に道路のアスファルトが現れた。中島がゆっくりと顔を上げると、そこには暗闇に紛れた大きな建物が現れた。おそらく、チュートリアルの言っていた善悪学園だろう。


    「(まずは、みんなと合流しないと……)」


     そう思った中島は、大きく深呼吸をし、善悪学園の校門をくぐり抜けた。
  21. 21 : : 2017/08/07(月) 23:02:12
     校門をくぐり抜けて周りを見渡した中島は身震いした。なぜなら、木の配置なども含めて、すべてが中島達の通っていた学校そのものだったからだ。


    「(驚いたな。ここまできっちりと再現できるものなのか。)」


     中島は『デビルズアーバン』の技術力に感心をしていた。まだ、内装は見ていないが外観だけならば、中島達の通っていた高校とこの善悪学園は全てにおいて同じであったからだ。


    「(おっと……みんなと合流しないとな…………)」


     あまりに感心しすぎて、中島はみんなとの合流のことをすっかり忘れていた。


    「(もし、皆がいるとすれば、下足室のほうだろう……)」


     そう思った中島は下足室へと歩を進めた。そして、中島の思惑通り、下足室には既に岩鬼達が揃っていた。


    「おい!(おせ)ぇじゃねぇか!」

    「ごめん!色々見て回ってた!」


     中島は正直に岩鬼達に告げると、肩に2回ほど指で

    トントン……

     と叩かれたような感覚があった。後ろを振り向くと、そこには西条が立っていた。


    「中島さん、1つよろしいですか?」


     西条が質問をしてきた。中島は断る理由がないので、西条にむかって頷いた。


    「チュートリアルの時にどのような映像を見られましたか?」


     中島は西条の質問に対して、見たままの意見を答えたら、西条は少し考える仕草をした。そして……


    「だとすると、少し危険かも知れませんね。」


     この西条の言葉に対し、田中は震えながら聞き返した。


    「ど……どう危険なんだよ……」

    「それは……」


     西条が答えようとすると、


    『はぁ~い!』


     とさっきの陽気な声がまた聞こえた。
  22. 22 : : 2017/08/07(月) 23:20:34
    『おーい!伝え忘れたことがあるから話してもいいですか?』


     全員飛び上がった。その勢いで、田中と高橋はその場に倒れ込んでしまった。


    「その説明はちゃんと聞くから、少しボクたちに時間をもらえるとうれしいんだけど!」


     中島は見えない人物に話しかけた。チュートリアルの声の主は、


    『う~ん』


     と少し考えた後、


    『うん!それじゃぁ、5分後にまた来るね!』


     といった。おそらく、いまは黙っているのだろうが、チュートリアルにも意思があるのだなと中島は驚かされた。

     そして、中島は西条に話の続きをするように促した。

     西条は頷くと、皆に聞こえるぐらいの小声で言った。


    「このゲームは運営が用意した『デスゲーム』だと私は考えます。まだ、運営からのルールは聴いておりませんので、判断は難しいですが……」


     中島は必死に考えた。

     デスゲーム……デス?…………DEATH……


    「つまり、このゲームは『死のゲーム(デスゲーム)』ということ?」


     中島が結論づけて西条に返すと、西条は無言で頷いた。ただ、現実に起こりえないことを聴いた人は、時にはパニックを起こす。


    「ちょっとまてよ!?『死のゲーム(デスゲーム)』ってなんだよ!?」

    「死ぬの!?ワタシたち、死んじゃうの!?」


     田中と高橋がパニック状態に陥ってしまった。これでは、チュートリアルを聴くどころではない。すると、西条は2人を自分の方向に引き寄せ、耳元でこうささやいた。


    「落ち着いてください。私は可能性の話をしたまでです。それに、もしこれがデスゲームなら説明を聞かないと殺されてしまう可能性があります。しっかり、チュートリアルを聴きましょう。」


     2人とも無言で頷き、大きく深呼吸して、まえを向いた。

     2人をなだめた西条だった。しかし彼女も表情には出さないが体は震えていた。気高く振る舞っているつもりだったが、体は恐怖を隠せていなかったのだ。

     2人が落ち着いたのを確認した中島と西条は扉の近くにそっと腰をかけた。
  23. 23 : : 2017/08/07(月) 23:27:17
    ゴクリ……

     ここにいる全員が口にたまっていたつばを飲み込んだ。体感温度は涼しいはずなのに、汗が滝のように流れていた。

     皆が恐怖という波に耐えようと苦難していた。岩鬼はトレーニングをはじめ、田中と高橋は2人で体を寄せ合っていた。

     中島はずっと、西条の言っていたことが引っかかっていたので、彼女に確認することにした。


    「ねぇ……西条さんがこのゲームをデスゲームと思う根拠は何?」

    「私は数々のゲームを経験して参りました。主にマネーゲームですが。ただ、父の教えでデスゲームの知識もありました。このようなゲームの場合、まず、自分たちにトラウマとなっていることをみせるのが定石だそうです。」


     中島の質問に対して西条が答えた。すると、それをまとめるかのように岩鬼も腕立てをしながら答える。


    「つまり、俺たちが最初に見た映像がトラウマと言うことか。」

    「えぇ……それも全員まったく同じ映像でした。私達の中でのコロシアイはないでしょうが、運営の方々によって、私たちがデスゲームに送られたことは完全に肯定もできなければ否定もできないというわけです。」


     つまり、可能性の話だが、頭に入れとけということか……

     中島は今すぐに判断をすべきではないと考え、西条の方を向き、


    「わかった、西条さん!ありがとう!」


     と礼を告げ、チュートリアルを待つことにした。
  24. 24 : : 2017/08/08(火) 00:43:01
    『5分経ったよ!話はすんだ?』


     チュートリアルが聴いてきたので、中島は頷いた。


    『それじゃぁ、チュートリアル再開するよ~!』

     
     その声とともに、チュートリアルが再開された。


    『すっかり忘れてたんだ!七不思議を解決しろっていったけど、その七不思議が何かを伝えるのを忘れちゃってね!だから、七不思議を教えておくよ!』


     すると、目の前に四角い木箱が現れた。中島は恐る恐る手を伸ばした。そして木箱を掴む。とりあえず爆発はしなかった。中島はそっと胸をなで下ろした。

     そして、中島はその箱をくるくる回しながら眺めた。


    「……開きそうだな。」


     そうつぶやくと、中島は覚悟を決めて箱を開けた。中には紙が一枚と懐中電灯が人数分入っていた。

     中島はその紙の方を見た。暗くて文字が読めなかったので、高橋に懐中電灯で照らしてもらった。

     すると、その紙にはこう書いてあった。


    『七不思議リスト』
  25. 25 : : 2017/08/08(火) 00:49:24
     七不思議リスト……その紙にはこう書いてあった。


    「おい!なんて書いてんだぁ?」


     岩鬼の声が響いた。最初は中島が読んでいたが、声が震えて聞き取れなかったため、高橋が読むことにした。


    「えーと、七不思議リスト。以下の七不思議をクリアすること。」


     高橋から読まれた七不思議は、

    一.音楽室で聞こえる歌声
    ニ.理科室で動く模型
    三.水道から流れる血液
    四.段数の違う階段
    五.地獄の入り口がある職員室
    六.体育館で聞こえる叫び声
    七.保健室にいる天使


     と書いてあった。それを聴いた田中が身震いをして、


    「いかにもって感じだな。」


     と答えた。その表情はこわばっていた。


    『ちなみに、その七不思議を全て体験できればクリアだよ!』


     中島はまた引っかかる。


    「(……体験?どういうことだ?)」


    『それじゃぁ、自分たちのタイミングでスタートしてね!』


     と言う言葉を残し、チュートリアルは終わった。


    「っしゃぁ!とっとといこうぜ!」

    「岩鬼くん!待って!」


     意気揚々と扉にむかった岩鬼を制止して、中島はポケットの手帳とペンを取り出した。


    「んだよ!早く解決して烏丸の野郎をしょっ引かねぇと!!」

    「わかってるよ!けど、これがもしアイツが仕込んだデスゲームなら、僕たちの命も危ないんだよ!!」


     岩鬼は初めて中島にすごまれて、言い返す言葉がなくなった。ばつが悪くなった岩鬼は、そのまま下足室の扉前にある階段に腰かけた。そして、岩鬼が胸から警察手帳を取り出したのと同時に、他のみんなも手帳とペンを用意していた。


    「中島さんは分かりましたのね……このゲームの真意が……」

     
     西条は中島に問いかけた。


    「うん。まだ、確信は持てないけどね!ただ、これはでたときにアイツにぶつける。」


     田中と高橋は中島の異変に気づいていた。中島は相当キレていたのだ。だが、中島はすぐに心を落ち着かせて、話を続けた。


    「七不思議の一~四についてはすぐ終わると思うんだ。一般的な七不思議と同じだしね!問題は五~七だ。こんな七不思議聴いたことがない。」


     彼らは全員メモをとっていた。そして、田中が付け足す。


    「そこを気をつければいいんだな?」


     その言葉を聞いて、中島は頷いた。もちろん、気をつけるのはそこだけじゃないことを最期に付け加えた。


    『全員で生きて帰る!』


    中島は手帳に大きくその文字を書き残し、たちあがった。そして、自分を落ち着かせるために大きく深呼吸をする。


    ドクン……ドクン……


     荒くなった自分の心臓を落ち着かせる。


    ドクン…………ドクン…………トクン…………


     よし!準備はできた!


    「みんな!準備はいい?」


     中島は問いかけた。その場にいた全員は力強く頷いた。 


    「よし!いこう!」


     皆の決意を胸に、中島は下足室の扉に手をかけた。
  26. 26 : : 2017/08/08(火) 07:27:38
     中島は下足室の扉に手をかけると、手に力をこめる。

    キィッ……

     奇妙な音を立てて扉が開かれた。それを皮切りに4人が中に駆け込んだ。全員入ったのを確認し、中島も中に入る。

     一歩……二歩……三……

    バタン!!

     大きな音を立てて閉まった扉に全員跳びはねた。その音が鳴ったときに足を降ろそうとしていた中島はよろけてそのまま岩鬼にもたれかかった。

     岩鬼は中島を抱きかかえると、そのまま起こし、自分は田中を引っ張って電気がつくか確認に出かけた。

     1番近くに居た西条が扉を開けようとしてみるが、

    ガタガタガタ……

     と音を建てるだけで開かなかった。


    「閉じ込められてしまったようですわね……」


     西条が更に辺りを見渡して、下足室の全ての扉をチェックしたか、どれも開かなかった。


    「全てを解決するまででられないのは本当だったみたいだな。」


     田中が付け足した。岩鬼が電気がつかないかスイッチをいじってくれたが、それも

    カチャカチャ……

     と音を立てるだけで、反応はしなかった。


    「電気がつかねぇなら、コイツで行くしかねぇなぁ!」


     そう言うと岩鬼は懐中電灯のスイッチを入れた。


    「おい!そんなムダにつけて電池は減らないのか?」

    「恐らく大丈夫だよ!この紙にもゲームが終わるまでは消えないって書いてある!」


     この中島の解答を聞いて、田中はすぐに懐中電灯のスイッチを入れた。


    「さぁ行こうか。」

     
     中島の声に全員が頷いた。それを確認した中島がゆっくりと歩み始める。
  27. 27 : : 2017/08/08(火) 07:29:20
     道中は中島の提案で、前列に田中と中島。中列に高橋と西条。殿(しんがり)に岩鬼という形で並んで進んでいた。

     歩く速さもゆっくりと慎重に進んでいた。辺りを懐中電灯でしきりに照らすのも忘れない。

     もし、何かあったときは、3人は内側に固まり、女子を囲って外敵から守るという布陣だ。

     その布陣を保ちながら、中島達は音楽室を目指した。音楽室は4階にある。この校舎は4階建てだから、上から攻めるのは常套手段というわけだ。

     階段を上っている時は後の3人が足下を照らし、前の2人は上を照らしていた。これは上からの投石などに気づきやすくするための策である。

     4階につき、廊下を歩く。月明かりがサーチライトのように彼らを照らしている。

     一歩一歩歩いて行く姿が、まさしく怪盗の類いであった。

     そして、中島達はある扉の前で止まった。


     音楽室だ……
  28. 28 : : 2017/08/08(火) 07:35:09
    「開けるよ……」


     中島は恐る恐る音楽室の引き戸を開いた。

    ガラガラガラ……

     そこは何の変哲もない音楽室だった。真ん中にはピアノがあり、壁には様々な人の肖像画が飾ってあった。


    「やはり、夜の肖像画はおっかねぇな……」


     田中がそうつぶやきながら、中へと入っていく。それに続いてみんなも入っていった。


    「これだけの再現ぐらいなら……」


     中島がそう言って、ピアノの前に行くと岩鬼が大声を上げた。


    「おい!崇史!こっちこい!」


     岩鬼に呼ばれて田中がむかった後に、田中の声が震えた。


    「ま……マジかよ……」

    「どうしたの?」


     すぐに中島も駆け寄る。すると、岩鬼と田中が話し始めた。


    「オレら高校の時よぉ……音楽の授業の前によく野球してたんだよ!その時にバットがこすれちまって、壁に痕が出来たんだ。音楽の先公に謝ってゆるしてもらったんだがよ……」

    「それと同じ傷があるんだ。まったく同じ場所……同じ深さ……大きさ……全てが一致した傷が!!」

    「な!?なんだって!?」


     中島達は驚いた。あまりに完璧すぎる再現……ということは、ここは現実?いや、でもVR……


     そんなことを考えている彼らに更に追い打ちをかけるようにある音が鳴り響いた……
















    「オオオオォォォォォォォォォ!!」















    「イヤァァァァ!!」


    高橋が叫んだ。


    「な!?なんだ!?」


     その声に反応し、田中が慌てる。皆は辺りを見渡した。


    「オオオオォォォォォォォォォ!!」

    「歌声だ!音楽室の歌声だ!」


     中島達の耳に歌声が流れてきた。いや、歌声と言うよりも発声練習の声出しみたいな声だった。


    「部屋の中央に集まるんだ!背中合わせになって、辺りをチェックしよう!」


     中島の号令で全員が中央に集まると背中をあわせ、辺りをチェックする。

     額から一筋の汗が流れる。背中がぞわぞわする感覚が訪れる……


    「オオオオォォォォォォォォォ!!」



     まだ聞こえる……すると、


    「あら?」


     何かに気づいたのか、西条が塊から抜け出してそのまま歩き出した。


    「ちょっと!優輝ちゃん!危ないよ!!」


     高橋が必死に止めるが、止まらない。そして、窓の近くに行くと、西条は静かに窓を閉めた。


    「オオオオォォォォ!!…………」


     ……音が止んだ。


    「な……なんだったんだぁ?」


     岩鬼は西条に問いかけた。


    「風なりですわ。それが歌声のように聞こえていたんですわ。」


     なぁんだ……と全員が落ち着く。すると今度は次の七不思議を確認しようとした中島が叫ぶ。


    「みんな!ちょっときて!」
  29. 29 : : 2017/08/08(火) 13:02:53
    「どうしたの?玲!」


     高橋が駆け寄ってきた。他のメンバーもぞろぞろと集まってくる。


    「これを見て!」


     中島は皆に『七不思議リスト』をみせた。すると、そのリストの文字の『一.音楽室で聞こえる歌声』のところが赤く染まっていた。


    「おそらく、ミッションクリアしたら赤く染まるのね!」


     高橋がいつもの調子で話す。確かに高橋の言うとおりだ。今回、中島達は音楽室から聞こえる歌声を『体験』したから文字の色が変わった、つまりこの七不思議をクリアしたと判断してもいいだろう。そう結論づけた中島から次の目的地が指定された。


    「よし!次は理科室だ!!」

    「理科室ならこの階だな!」


     中島は次は岩鬼に先頭に行くように促し、中島と田中は殿をつとめた。

     これは、先頭が受ける重圧と殿が受ける重圧を和らげるために交替していくと言うことらしい。

     歩いている中でも特にはかわったことはなかった。いわゆるふつうの夜の校舎だ。少し、怖いという臨場感があるが、今の段階ではそれだけだ。いわゆる、林間学校などで行われる肝試しと同じ感覚である。

     そんな肝試し感覚を味わっていた一行は次の目的地の理科室についた。

     また、例により中島が扉に手をかける。

    ガラガラガラ……

     扉を開き、中に入ると今度はいきなり、





















    カタカタカタカタカタカタ…………

     と、小刻みに何かが揺れる音がした。


    「い……いきなりかよ!」

    「いもってんじゃねぇ!進むぞ!」


     田中に対する岩鬼の喝も入り、ゆっくりと進んでいく。理科室を見る限り人体模型はない。だが、確かに何かがカタカタ揺れる音は聞こえる。


    「(ということは、準備室か……)」


     中島は準備室に歩を進めた。扉の前に進むと、

    カタカタカタカタカタカタカタカタ……

     と音が激しくなってきた。


    「みんな!!」


     少し大きめの声で注目を集め、ハンドサインで呼び寄せる。集まってきた全員も音が大きくなる様子をしっかり聴いている。

     現場に静寂が訪れる……


    「準備はいい?」


     全員が頷く。中島は扉を開いた……

    キイッ……

     扉を開けた先……



























     そこにあったのは……
























    カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……


     独りでに揺れ動く人体模型の姿だった。
  30. 30 : : 2017/08/08(火) 23:46:00
    「キャァァァァァァァァァ!!」
    「イヤァァァァァァァァァ!!」


     これには高橋だけでなく、流石の西条も悲鳴を上げてその場に座り込んでしまった。それもそうだろう。理科の実験で使うような複数の人体模型が独りでに揺れているのだから。これほどの恐怖はない。

     だが、男性陣は冷静だった。田中は特に冷静で懐中電灯を人体模型の頭の上めがけて照らすと、からくりが分かったように微笑んだ。

     それに気づいた中島が田中に声をかけた。


    「田中くん!わかったの?」

    「いや、まだ確信じゃねぇが……!?」


     田中は窓に目をやると、窓には野球ボール大の穴が複数個開いていた。


    「そう言うことか……」


     と言う言葉を残すと、田中は近くにあったガムテープを窓に貼り付けた。


    「これでよし!」


     田中がそう叫ぶと、人体模型のカタカタと言う音が次第に小さくなり、鳴り止んだ。
  31. 31 : : 2017/08/08(火) 23:46:42
    「も……もう、大丈夫なの?」


     恐怖のあまりいつもの口調と表情を忘れてしまった西条が田中にきいた。


    「あぁ、大丈夫だ!」


     西条はそっと胸をなで下ろした。そして、高橋と抱き合い涙を流した。その姿を見ながら、田中はからくりを語り始めた。


    「ここの人体模型達は上から糸か何かで吊されていたんだよ。だから、揺れることで、カタカタと音が鳴った。あと、原因としては、窓に貼ったガムテープのところにちょうど、穴が開いてたんだ!そこから風が来ることによって、揺れていたみたいだぜ!」


     また風か……と中島はあきれていたが、『七不思議リスト』を眺めてみると、このことに関する記述のところが赤文字になっていたので、解決したのだろうと思い込んだ。


    「まさか、ぜんぶ、これぐらいぬるいわけじゃないよな?」


     中島はそう思って呆れてしまったが、次の場所にむかうことにした。
  32. 32 : : 2017/08/08(火) 23:48:30
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     中島は気が滅入っていた。それもそうだ。二回連続でかなりぬるすぎる内容の展開が起こってしまったからだ。

     中島はため息をつきながら歩いていた。それを見た高橋が、1回休もうかと提案して、トイレ休憩をすることになった。

     相変わらず電気はつかないが、尿を足すことも大事だ。というか、VRなのに排泄が出来ると言うことに驚いている。その辺の技術は流石だが……


    「なんだろう……このヌルゲー感。」

    「あぁ、確かに、こんなもんクソゲー認定だぜ!これやった後に本当に失踪するのか?」


     思わず漏れた問に対して、田中が答える。そして、田中は岩鬼に告げた。


    「おい!剛!これって、ガセじゃねぇだろうなぁ?」

    「あ?何がガセだゴルァ!」


     2人が喧嘩しそうになっていたので、中島は止めに入った。

     その後、2人は階段に座り何かを話していた。その話に中島は加わらず、一人で考えごとをしていた。おそらく、七不思議の3~4もこんな感じだろう……

     ただ、この展開で『Real Panic』というなら、それだけで名折れだ。他にも展開があることを予測しておいた方がいいのだろうな。

     中島はそんなことを考えながら、女子2人の帰りを待った。
  33. 33 : : 2017/08/08(火) 23:56:47
     高橋と西条がトイレから戻ってきた。すると高橋が、


    「とりあえず、このヌルゲーを終わらせにいきますか!」


     と元気に声をかけていたが、中島の顔が暗い。それを見かねた高橋が中島に声をかけた。


    「玲?何か悩んでるの?」

    「いや、そんなんじゃない!ありがとう!くるみ!」


     中島は高橋に感謝の意を示したが、また悩んだ表情を見せてしまった。ここで言うべきか……

     その表情を見て高橋もため息をつき、もう一言付け足そうとした。

     すると、いきなり中島の背中から、

    ドゴォォン!!

     という強い衝撃が背中に走った。中島はふと後ろを振り返ると、岩鬼が拳を握って中島の後ろに立っていた。そして、中島に叫ぶ……


    「言いたいことがあんならはっきり言いやがれ!1人でため込んでんじゃねぇよ!」


     そう叫ぶ岩鬼の顔を見て、中島は悩みが吹っ切れたかのように涙が流れた。改めて、仲間の大切さを学んだ中島だった。

     中島はすぐに涙を拭いて自分が悩んでたことを全て告げた。このヌルゲー展開は明らかにおかしいこと。もし、この展開のままのゲームなら『Real Panic』なんて、たいそうな名前をつけないこと。そして、誰も失いたくないこと……

     それを伝えると、みんなが今更何言ってんのと言う表情で中島を見ていた。

     岩鬼と田中に到っては笑っている。みんなの表情を見ると、心の中につっかえていたものがなくなり、体が軽く感じた。

     中島が背負っていた積み荷をみんなが持ってくれた。そう感じ中島は


    「みんな!ありがとう!」


     と感謝を述べた。そして、中島の決意も固まった。


    「絶対脱出するよ!!……誰1人欠けることなく、全員で!!」

    「おう!!」


     中島を中心に一致団結し、次の目的地へとむかった。このゲームのクリアを目指して……
  34. 34 : : 2017/08/09(水) 00:01:13
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     次の目的地に中島は3階東水道を指定した。といっても、七不思議を順番にといていかないといけないから仕方ないのだが……

     といっても、あそこの水道はもう古い。他の水道は取り替えられているのに対して、ここだけは取り替えられていなかったのだ。だから、おおむね予想は出来る。

     中島達は到着した。そこで、水道をひねる。


    ジャーーー……


     出てくる水は赤黒かった。そして、よくみると、破片みたいなものが流れてきて、流しにたまっていた。

     それを確認した中島は思わずため息を漏らした。


     赤さびだ……


    「また、ヌルゲーだな……」


     田中が言うのと同時に文字が赤く浮かび上がった。





     そして、次の行き先は4階東階段になった。そこは、段数が違うと言われた階段だったが……


    「……段数同じだな…………」

    「あぁ……」


     段数をはかった岩鬼と田中がため息をついていたときに、高橋が大声を出した。


    「みんな!屋上にむかう階段だけ段数が違うよ!!」


     その声に応じて確認してみると、踊り場からフロアまでの段数が、ふつうの階段は10段に対し、屋上は13段だった。


    「……まさか、これだけ?」


     中島が恐る恐る『七不思議リスト』を見てみると、リストの文字が赤文字になっていた。

     思わず、全員ため息が出てしまった。


    「本当にヌルゲーだな……」

    「でも、何か起こるとしたらこの後だよね?」

    「あぁ……気を引き締めよう!」


     中島の声に、みんなは頷いた。そして、次の七不思議の現場である職員室へと歩を進めた。
  35. 35 : : 2017/08/09(水) 20:21:19
     中島達は職員室の前へとついた。そして中島は改めて紙を見た。


    『五.地獄の入り口がある職員室』


     名前からして、いかにもという感じが漂う。それに、職員室は2階の突き当たりにあるため、いかにもそれっぽい。しかし、ここも調べないわけにも行かない。

     扉に手をかけようとした中島だったが、その手を掴む人物がいた。岩鬼だった。


    「たまには、オレにも開けさせろよ!」


     岩鬼は笑顔で中島の手を扉から遠ざけると、自分は扉の真正面に立った


     そして、岩鬼の合図で扉を……

    ドガァァン!

     ……蹴破った。中島は中を見渡したが、地獄につながる入り口なんてなかった。


    「ばかやろう!中に誰かがいたらどうすんだ!!」


     田中がこう言ったが、岩鬼も警察の卵だ。その辺は知っている。


    「もし、中に誰かいたときに逃げられないようにするためだ!さぁ探すぞ!」


     中を調べたが、それらしき場所も空間の歪みもない!


    「なんだよ!外れか?」


     田中がそう言うと、岩鬼もつられて


    「なら、でようぜ!」


     といい、扉の方に歩いて行った。しかし、そんな岩鬼の足が止まった。中島が岩鬼の顔を見ると、その顔は凍り付いていた。

     心配になった中島が岩鬼に近寄ろうとした。すると……


    「近寄るんじゃねぇ!!」


     と大きな声を上げた岩鬼により、突き飛ばされた。中島はもんどり打って、教員用の机に頭をぶつけた。


    「剛!てめぇ!」


     その光景を見た田中が殴りかかろうとしたら、岩鬼が鬼の表情で振り向き、


    「扉からはなれろ!!今すぐに!!」


     と叫んだ。その言葉を聞いた瞬間、田中は急に立ち止まった。そして、岩鬼に突き飛ばされていた中島は体を起こして入り口の方を見た。

     そこにはあり得ない光景が広がっていた。なんと、職員室の入り口の向こう側の景色ががぐにゃりと歪み始めたのだ。

     そして、そのぐにゃりとゆがんだ空間から、


    「オオオオオォォォォォォォ……」


     という声が聞こえた。みんな体が震えていた。


    「(どうする……)」


     中島は思考を巡らして、最適案を考える……そして、大声で叫んで指示を出した。
  36. 36 : : 2017/08/11(金) 13:06:15
     その光景を見た中島はすぐに田中達に指示を出した。


    「入り口が歪んでる!何かが起きるぞ!田中くん!西条さん!くるみ!離れて!」


     その指示を聴いた田中達はすぐに扉から距離をとる。


    「岩鬼くんも早く!!」


     その声に頷き岩鬼が動こうとしたときだった。





















    ガシッ……












     何かが、岩鬼の足を掴んだ。岩鬼がゆっくりと自分の足を確認すると、岩鬼の足を掴んでいたのは手だった。見るからにゴツゴツしていて、まさに『鬼の手』。

     そして、その手の出所を見ると、入り口の歪みから伸びていたのだ。つまりはここが『地獄の入り口』ということなのだろう。


    「な……なんだこれ!!放しやがれ!!」


     岩鬼が驚いた表情で扉から伸びている手に対して怒号を飛ばすと、その手に背を向け、前傾姿勢になった。

     岩鬼の足に絡みついた鬼の手はそのままゆっくり岩鬼を地獄の扉に連れて行こうとする。しかし、岩鬼もラグビー部で鍛えた足腰で踏ん張る。

     岩鬼はラグビーでよくやっていたようにジタバタと暴れてみても鬼の手が離れない。それどころか、ぴくりとも動かなかった。

     少し暴れて時間が経った後、3本の『鬼の手』が歪みから伸び、岩鬼は両腕ともう一方の足を捕まれてしまった。そのまま岩鬼は十字架の体制になる。

     すると、岩鬼は何かを悟ったかのように抵抗をやめてしまった。前を向いていた顔がゆっくりと下を向いていく。


    「岩鬼くん!」 「剛!」


     中島と田中が、岩鬼に駆け寄る。まさに脱兎のごとくとはこのことを言うのであろう。物凄いスピードで岩鬼に突っ込んだ。しかし、もうすぐ岩鬼に届くと言うところで、岩鬼が……


    「玲!崇史!来るなぁ!!」


     と声を荒げて叫んだ!その叫び声が中島達の動きを止めた。
  37. 37 : : 2017/08/11(金) 13:24:01
     岩鬼の顔は依然下を向いていた。しかし、中島はこの岩鬼の行動に激昂した。


    「なんで止めるんだよ!今の状況分かってんの?死ぬかも知れないんだぞ!!」

    「分かってるよ……俺が助からねぇこともな……」

    「だったら!」

    「だったらなんだ!!オレが助かることができる策はねぇんだ!だから、オレは覚悟を決めたんだよ!それに、テメェらがいなくなったら、誰がくるみと優輝を守るんだ!!」


     その声で彼らはハッとした。そうだ、周りが見えてなかったな……

    「(もしもボクたちに何かあったらくるみたちは……)」

     ふと、中島と田中は彼女らの顔を見るとこちらに心配そうな表情をみせている。


    「(そうか、ボクたちは知らないうちにくるみたちに不安を与えていたんだな……)」


     中島と田中はお互いを見合い頷いた。そして声をそろえて岩鬼に向かい叫んだ。


    「岩鬼くん!くるみのことは……」
    「剛!西条のことは……」

    「ボク(オレ)たちに任せろ!!」


     その言葉に、岩鬼はつぶやいた……


    「ありがとよ……テメェら……」


     そうつぶやく岩鬼をよそ目に、中島と田中の頬には一筋の涙が流れていた。そして、岩鬼が吠える。


    「オレの……こんなバカのためにテメェらの命を捧げるんじゃねぇ!わかったか!!」


     こう吠えた岩鬼の顔は笑顔ではあったが、恐怖が隠せていなかった。この笑顔に彼らは『(おとこ)・岩鬼』の覚悟を見た。


    「岩鬼くん!」 「岩鬼さん!」


     同時に叫んで駆け寄ろうとした、高橋と西条を中島と田中がそれぞれが止める。


    「話してよ!玲!」 「田中さん!なんで……」

    「うるさい!男の……『(おとこ)・岩鬼』の覚悟をボクたちは無駄にはできないんだ!」


     涙ながらに中島が叫ぶと高橋と西条も涙を流してそれぞれ男の胸で泣いていた。それを見た岩鬼は、にっこりほほえみ、


    「そうだ……それでいい……」

     
     とつぶやいた後、


    「ウォォォォァァァァァァァ!!」


     と声にはならない声で叫んでいた。そして、表情を鬼のように変えた岩鬼が、渾身の力を振り絞り吠える。


    「見やがれ!これが漢・岩鬼の死に様だぁ!!」


     そういうと、岩鬼は全力を出して一歩ずつ歩み始めて鬼を引きずり出そうとした。

     それは、まるで、何人もの選手にタックルを受けながらも前を向いて突き進むラグビー選手のようだった。

     岩鬼はしっかりと前を向き、手をパーに開き、中島たちにを伸ばす。

     中島達もそれに答えるように手を伸ばした。

     そして、岩鬼が叫んだ……


    「玲!崇史!くるみと、優輝をまも……」


     岩鬼がそう叫んでるときに……
































    グサッ……



















    「……は?」
























     岩鬼の体に何かが刺さるような鈍い音がした。そして、岩鬼の腹部に激痛が走った。
  38. 38 : : 2017/08/11(金) 13:31:29
     目の前には驚いた表情を見せる中島達がいた。最期の力を振り絞り、自分の腹のところを見てみると……

     そこには、見たことのない、異形のものの腕が岩鬼の腹を貫いていた。そして、


    ……グサグサグサグサグサグサグサグサ…………


     後を追うかのように岩鬼の体に十数本の鬼の腕が突き刺さった。そのうちの1本には岩鬼の心臓らしきものが握られて、中島たちの眼前にみせられていた。 


    「グハァッ!!」


     岩鬼は大量の血を吐いて、体の力がなくなっていた……


    「岩鬼くん!」 「剛!」 「岩鬼さん!」


     4人が同時に叫ぶが、岩鬼には抵抗する力もなく、目線も地を向いていた。すると、岩鬼に生気がないことを確信した鬼の手が岩鬼の心臓を握りつぶし始めた。鬼の手に段々力が入っていく。


    「や……やめろ……」

    「玲!!落ち着け!!」


     鬼にむかっていきそうになった中島を田中が必死に止める。


    「放せ!放せ!やめろ、やめろ、やめろぉぉぉぉぉ!!」


     その声むなしく、
































     グチャッ……







































     岩鬼の心臓は鬼の手によって握りつぶされてしまった。そして、完全に人形のようになってしまった岩鬼を鬼の手は……

    ……ズル…………ズル…………

     と地獄の入り口へと引きずり込んだ。岩鬼が最後まで引きずられた後、歪みは元通りの空間へと変わっていた。

     中島たちは憔悴しきっていた。性格は荒かったが、勇敢で人一倍優しかった岩鬼を失ったのだ。心のダメージは大きい。

     人の死を惜しんでいる中島達であった。ふと中島が横目で『七不思議リスト』を見ると、『五.地獄の入り口がある職員室』の文字が赤く変化しているのであった。
  39. 39 : : 2017/08/11(金) 13:34:44
     岩鬼が異世界に引きずり込まれて一時間以上は経ったであろう。残された4人はその場にたたずんでいた。

     高橋と西条は泣き崩れ、田中は無念の表情を浮かべていた。中島も心ここにあらずの状態だった。

    グサッ……

     岩鬼の胸に『鬼の手』が突き刺さった瞬間が脳裏に浮かぶ。


    「クソッ!」


     田中は近くにあった消火栓を蹴り飛ばした。

    ガァァン!

     消火栓はむなしい音を立てた。その音を聞くと、余計にむなしくなり、田中はうずくまってしまった。

     そんなとき、中島はずっと頭の中にもやがかかっていた。


    『七不思議を体験したらクリア』


     チュートリアルの時に聞いた言葉。その意味を思い知らされた瞬間だった。


    「(もっと早く気づいていれば……)」

    「クソッ……!!」


     そんな、後悔の気持ちを抱きながら、中島は近くにあった壁を殴り、唇をかんだ。そんなときに、先ほどまで泣いていた高橋が口を開いた。


    「ねぇ……そろそろ行かない?岩鬼を助けるためにも前に進まないといけないと思うんだ……」


     高橋がみんなに語りかけた。


    「(そうだな……ここでクヨクヨしても仕方ないな。)」


     中島は前を向くことにした。(おとこ)の勇気を無駄にしないために。そして、中島はみんなに語りかけた。


    「あのさ?僕達は岩鬼くんのために、ここから脱出しないといけないと思うんだ。岩鬼くんが残してくれたものを無駄にしないためにも……」


     その言葉を聞いて田中も立ち上がる。


    「そうだな!こんなところでいじけてたら、剛に合わせる顔がねぇ!しっかり、最期までやりきってやるぜ!」


     中島達は前を向いた。自分たちのために犠牲になった仲間の思いをつなぐために……
  40. 40 : : 2017/08/11(金) 13:37:04
     職員室前から移動する前に田中からある提案があった。その内容は……


    「玲!ここからは別行動にしようぜ!」


     というものだった。中島は驚いた表情で田中を見た。そう、中島は今まで通り4人で回った方がいいと考えていたからだ。これからは何が起こるか分からない。そのためにも4人で行動する方がいい気がしたからだ!そう思っていた中島は、


    「なんで?4人の方が……」


     と言いかけた。しかし田中は、


    「2人ずつのほうが被害が少なくてすむんだよ!」


     こう答えた。確かにその方が犠牲は少ないけれども……

     中島は少し考えた。考えた末に中島は田中の意見に賛成した。ペアとしては、田中・西条組、中島・高橋組に別れることとなった。


    「それじゃぁな!玲!高橋を守ってくれよ!」

    「そんな、最期みたいな挨拶はやめようよ!田中くん!」


     縁起でもない挨拶をされて、困惑している中島は、田中に詳しいことを伝えた。


    「この紙に書いている情報では、『六.体育館で聞こえる叫び声』はフロアに行かないといけないんだ!」

    「3階か……」

    「うん!だから、もしなにかあったら、すぐに逃げて!」

    「あぁ、わかったぜ!」


     中島からの注意事項を聴いた田中は大きく息を吐き、


    「そんじゃ!いくか、西条!!」



     と西条に声をかけた。すると西条も、


    「そうですわね!別れを惜しむのは性に合いませんので……」


     と言う言葉を発し、田中の元へと歩んだ。そして……


    「あ、そうだ!玲!」

    「なに?」

    「……死ぬなよ!」

    「……そっちこそ!」


     お互いに拳をぶつけて、生き残る約束をしたのだ。
  41. 41 : : 2017/08/11(金) 13:43:45
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     田中と西条は体育館に向かっていた。体育館は保健室よりも何倍も職員室から近かった。職員室横の渡り廊下から一直線で体育館の2階に入れるからだ。


    「体育館か……なんか、それっぽいなぁ……」

    「あら?こわいのですか?」

    「は!?んなわけねぇだろ!」


     田中が少し怖じ気づいていたところを西条がからかう。そして、それに田中がすぐに応える。彼らなりの愛情表現だ。そんな、たわいもない会話をしているうちに、体育館の2階に着いた。

    体育館の2階は教官室になっており、体育教師の部屋となっている。誰もいない教官室をそのまま進んでいき、教官室の扉を開いた。そして、そのすぐ近くにあった階段を一段一段上がっていく。

     その階段を上がる度に、田中と西条の呼吸と心拍数は上がっていく。

     その心拍数を抑えるために自然と田中と西条の手がつながれていた。

     階段を上りきった先にはフロアへの入り口があった。その扉を田中が開ける。

    ガチャッ……

     フロアには誰もいなかった。窓から月明かりが入り込みフロアと舞台を照らしていた。田中と西条はお互いに頷いて、フロアをゆっくりと懐中電灯を照らしながら捜索した。

     体育館の壁の周りには当時と同じ血肉や血痕が残っている。

     体育館のステージには演台があり、いつも、教師4人ぐらいで動かしているのを西条と田中は知っている。

     このフロアには手がかりはなさそうだった。


    「何もねぇな……そんじゃ、戻るか!」

    「そうですわね……」


     一通り見終わりフロアの中央にいた田中と西条は、中島達に何もなかったことを伝えるために、外へ出ようと演台に背中を向けた。すると、いきなり『それ』は始まった。
  42. 42 : : 2017/08/11(金) 14:29:36
    「キャァァァァァァァ!!」


     いきなり鳴り響いた悲鳴に2人は耳をふさいだ。


    「な……なんなんだよ!いきなり……」

    「わ……わかりませんが、これが……悲鳴では……ないのですか?」


     そう西条が言うと、また別のところから悲鳴が上がった。


    「キャァァァァァァァ!」

              「キャァァァァァァァ!」

    「キャァァァァァァァ!」

              「キャァァァァァァァ!」

    「キャァァァァァァァ!」

              「キャァァァァァァァ!」

    「キャァァァァァァァ!」

              「キャァァァァァァァ!」



     色々なところから聞こえる悲鳴に2人はパニックになっていた。


    「なんなんだよ!一体どこから!」

    「も……もう……やめて……」


     田中と西条は必死になって原因を探したが、その原因は見つかりそうもなかった。


    「キャァァァァァァァ!」

            「キャァァァァァァァ!」

    「キャァァァァァァァ!」

            「キャァァァァァァァ!」


     彼らが探している間もなり続いた悲鳴は数分間も鳴り続けた。そして、悲鳴は突然鳴り止んだのだ。
     
     悲鳴が鳴り止むと、西条がゆっくりと顔を上げ、舞台の方を見た。すると……


    「あ……あぁ…………」


     西条は声にならない声を上げ、がくがくと震えてしまった。


    「どうした!西条!」


     その西条の様子を見て、田中が声をかけた。すると、西条が震えながら指をゆっくりと舞台の方をさすように伸ばした。


     その西条の指の先を恐る恐る見た田中もその光景に固まってしまった。

     そこには、さっきまでいなかったはずの白いワンピースを着た髪の長い4人の少女の姿があったのだ。
  43. 43 : : 2017/08/11(金) 14:35:54
    「(それぞれ身長に違いはあるが、小学生ぐらいの背丈だな。)」

     
     そう田中が考えているとその少女4人が演台の後ろへと回り込む。配置としては舞台から少女、演台、田中・西条だろうか……むしろ、演台は明らかに西条よりだった。


    「(この配置……まさか!!)」


     これに気づいた田中は西条の方を向いて大声で叫んだ。


    「西条!!避けろ!!」

    「え!?」


     西条が田中のほうに顔を向けたときには既に遅く、少女4人が演台を投げ飛ばした後だった。

     演台は物凄いスピードで西条めがけてとんできた。


     それを見た西条は逃げようとした。体を舞台と直角に向けて走った。

     西条が逃げるために一歩目を踏み出す。

     次の瞬間……





























    …………ゴシャ……



















     もはや、なんの音かも分からない音が体育館に響いた。おそらく、西条に演台が衝突したのであろう。その音とともに、演台はそのままスピードをおとすことなく、床に衝突した。

























    ドゴォォォォン!!

















     けたたましい音が体育館に鳴り響く。

     そして、演台が床にぶつかった勢いで西条の体が演台に潰された。

     若干斜め下方向にとんできたからであろうか……西条の首と脚の部分が、ゴロッと床に転がった。


    「さ……い…………じょ……う……」


     田中は膝から崩れ落ちた。まさか……自分の最愛の人がこんな形で亡くなるとは思わなかったからだろう。そして、体育館に悲痛な叫び声が聞こえた。


    「さ~いじょう~~~~~~~~~~~~~~~~!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
  44. 44 : : 2017/08/11(金) 14:42:12
     田中は泣き叫んだ。力ある限り泣いた。泣き終わると、フラフラと西条の元へと歩を進める。すると、耳元に女の声が聞こえた。


    「ねぇ……お兄ちゃん……」


     その声は今までに聞いたことのない声だった。勿論、高橋や西条の声でもない。田中は恐る恐る後ろを振り返った。

     すると、そこにいたのは、先ほど演台にいた少女4人だった。


    「この遊び楽しいよ?一緒に遊ぼうよ!4回歌ったら最期(おわり)だよ!」

    「(4回歌ったら最期(おわり)?何言ってんだ?)」


     田中が考えているのをよそに、少女たちは体育館のフロアの中心で円を作る。


    「な~べ~な~べ~~そ~こぬけ、そ~こがぬけたらかえりましょ!」

    「(あぁ、この曲か……小学校の時にやってたな……)」


     田中が感傷に浸ってる間に、2回目が流れた。


    「な~べ~な~べ~~そ~こぬけ、そ~こがぬけたらかえりましょ!」

    「(ん?この歌詞引っかかる。……そうか!!)」


     田中は何かに気づいたが、そのとき彼女らは三回目を歌い始めていた。


    「な~べ~な~べ~~そ~こぬけ、そ~こがぬけたらかえりましょ!」


     田中は中島ほどではないが、しっかりと分析をして、状況を整理した。


    「(この歌詞の最後の部分は『底が抜けたら還りましょ』ととることができる!つまり4回目が歌い終わる前に脱出しないと……)」


     田中は後を振り返り脱出しようとしたが、衝撃の光景を見てしまった。

     まず、扉の前に、先ほど西条が押しつぶされた演台があったこと。

     そして、先ほどまでそこら辺に転がっていた西条の首が演台の上で立っており。先ほどの歌を歌っていたこと。


    「はぁ!?」

    「(いや、落ち着け、驚いてる暇はない。)」


     田中は一度驚いたが、脱出することを先に考えていたので、心を落ち着かせ、別の脱出口を探した。

     その結果20メートル先にある横扉からの脱出をはかろうとした。


    「な~べ~な~べ~~……」


     4回目が始まる。田中はダッシュを始める。


    「そ~こぬけ」


     もうすぐで扉に手がかかる。

    ミシッ……ピシッ…………

     床に亀裂が入っていく。


    「そ~こがぬけたら」


     田中の手が扉の取手を掴む。

    ガチャガチャ……

     ……開かない…………

     …………開かない……

     ………………開かない!!


     田中が焦っていると、歌は突然鳴り止んだ。
  45. 45 : : 2017/08/11(金) 14:50:38
     田中は不思議に思い、辺りを見渡していたが、先ほどの少女はどこにもいなかった。


    「(なんだ……とんだ幻影か……)」


     そう思い、ほっと一息ついた田中は演台の方にむかって歩き出そうとした。しかし、足に何か違和感を感じた。

    ……重い…………

     そう思った田中は恐る恐る足下を見てみると、そこには先ほどの少女のうち3人が寝転がった状態で足を掴んでいた。

     先ほどは遠目で見えなかったが、田中の顔を見上げる少女の顔は目がなく真っ黒で、口もつり上がっていた。


    「ひぃぃぃぃ!!」


     田中は声にもならぬ声を上げていた。顔は青ざめ、いつ意識が落ちてもおかしくない状況だった。

     すると、今度は背中にズシッと圧力がかかっていた。今度はゆっくりと背中の方を見てみると、そこには先ほどいた少女がおんぶの状態で背中に乗っていた。


    「な……なにすんだ!!降りろ!!降りろぉぉぉ!!」


     田中が、体を左右に振って、その少女を振り落とした。肩の荷が下りた田中は前を見ると、そこには衝撃の人物がいた。





     




     














     ……西条だ…………

     そこにいた西条は首もついており、体、手足ともにいつもの西条だった。


    「さ……西条……無事…………だったんだな……」


     田中は西条が死んだという事実を捨て去り、そこにいる西条を抱きしめようとゆっくりと近づいた。

     すると、西条は無言のまま、顔を田中に近づけた。そして、キスするかぐらいのところで、西条の顔が変化した。



     あの少女達と同じ目と口に……
  46. 46 : : 2017/08/11(金) 14:54:13
    「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


     驚いた田中は叫び声を上げた。西条を拒絶しようと突き放すが、田中の手は西条の体を突き抜けた。


    「な……なんで、お前はオレを触れんのにオレはお前を触れねぇんだよ!!」


     田中はパニックに陥ってしまった。もうどうしようもないぐらいに暴れた。そんな田中の様子を気にとめることもなく、西条の顔はゆっくり、田中の耳元に近づき、最期(さいご)につぶやいた。
























    「…………還りましょ……」


















    「え……?は?え?」

     その声を聴いた田中は我に還った。



























    ……ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

     西条の声にあわせてけたたましい音を立てながら、フロアの床は砕けた。

     少女は田中から離れた。そして、田中に近づいた西条も、首から下がなくなり、そのまま田中とともに落下した。


    「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


     田中の叫び声が体育館中に響き渡った。しかし、






































    ……グシャッ…………

     と言う音とともに、その叫び声は二度と聞こえなくなった。
  47. 47 : : 2017/08/11(金) 14:56:46
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     中島達は廊下を保健室とは逆向きに走っていた。


    「さっきの叫び声!田中のだよね?優輝ちゃんに何かあったのかな?」


     高橋は走りながら中島に聴いていた。


    「恐らくね!じゃないと、あそこまで西条さんの名前を叫んだりはしないよ!」


     中島はそれに答えた。そう、彼らは田中の一回目の叫び声を聴いて、何かあったのではと思い、保健室を後回しにして体育館に向かって走って走っていたのだ。


    「(田中くん!西条さん!無事でいてくれ!)」


     そう思いながら走っていた中島達は体育館の前にたどり着いた。すると……

    ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

     と言う音が聞こえたので、中島と高橋は何かあったんだなと思い、音が鳴り止んでから入ろうとした。しかし、メインの入り口が何かにつっかえていて開かなかった。


    「なんで、開かないんだ?」

    「食堂からはいろうよ!」


     中島は高橋の提案に頷き、食堂側から体育館に入ることにした。


     体育館は惨状だった。上を見上げると、果てしなく高い天井。床が抜けたことは察知できた。一歩一歩、がれきの上を歩いて行く。


    「田中くん!西条さん!どこ?」


     中島は必死に呼びかけたが、中々見つからなかった。すると……


    「キャァァァァァァァ!」


     叫び声が聞こえた。中島は辺りを見渡すと、がれきの近くでうずくまっている高橋の姿をみつけた。
  48. 48 : : 2017/08/11(金) 14:59:24
    「くるみ!どうしたの?」


     中島は急いで駆け寄り、高橋の肩を持った。しかし、高橋は言葉を発さず、ポイントに向けて指をさした。その指は震えており、目も焦点が合ってなかった。

     中島は恐る恐る高橋の指の先を見てみると、そこには、首だけの西条とキスをしている田中の姿があった。

     西条は瞳孔が開ききっているので、死んでいることは確認できた。田中に関しては目を閉じていたため、瞳孔のことは分からなかった。保健の授業で習ったように脈を取ってみたり、心臓部分に手を当ててみたりしたが、鼓動は感じなかった。つまり田中も……


    「バカ……やろう…………」


     中島は涙を流した。今までの田中との思い出を思い出しながら泣いた。


    「まだ……崇史って…………言ってないのに……さきに…………逝くなよ……」


     中島と高橋はその場で泣いた。そして、瓦礫でお墓を作り、手を合わせた。そして彼らは彼らの目的を果たすために前を向いた。

     『七不思議リスト』を確認すると、赤く染まってないものは残り1つとなった。それを体験するとクリアだ。


    「保健室の天使……おそらくそいつが黒幕だ……こんな、ゲーム、早く終わらすぞ!」


     高橋は頷き、中島とともに保健室にむかった。
  49. 49 : : 2017/08/11(金) 15:28:09
     2人は保健室についた。窓から見える影から明らかに誰かがいる気配はある。しかし、その気配が天使かどうかは分からない。

     扉に手をかける中島の手は震えていた。これで終わりだという安堵感と、本当に終わるのかという不信感。2つの狭間に挟まれ、潰されそうだった。

     そんな中島に、高橋は扉を持つ中島の手をそっと握った。高橋の手のぬくもりに中島の震えは止まった。


    「(よし……いける……)」


     そう思った中島は高橋の顔を見てお互いに頷いた。そして、ゆっくりと……


    ガラガラガラ……

     扉を開けた。そこには、1人の少女が立っていた。高校生ぐらいだろうか……髪も長い。ただ、天使と言うにはあまりにも無愛想であり、手には鎌を持っていた。


    「な……なんで……」


     その声に気づいた中島は高橋の顔を見ると、高橋は口に手を当てて震えていた。


    「くるみ……知っているのか?」


     中島は恐る恐る聴いた。高橋は震えながらも答えた。


    「知ってるも……なにも……私たちと高校三年生の時に同じクラスだった、烏丸(からすま)今日子(きょうこ)ちゃんじゃない……」

    「烏丸今日子……確かにそんなやついた気がするな。ただ、別のところでも聴いた気がするぞ。」


     中島は頭をフル回転させた。そして、結論が出た中島の表情は驚きを隠せなかった。


    「まて!烏丸今日子って、死んだはずじゃ…………!?」


     それを言い切るか言い切らないかぐらいで、保健室の天使が鎌を2人の間に振り抜いた。中島は高橋を横に突き飛ばした。


    「……つぅ…………」


     中島は右肩に深いキズを負ってしまった。右肩はもはや上がらない。

     一方、高橋は中島が突き飛ばしてくれたおかげで、体を少しうっただけですんだ。すると、高橋は足下に紙が落ちていたことに気づいた。その紙を高橋は拾って見た。

     その紙には、1人でもこの学校から脱出したらプレイヤー全員が助かることが書いてあった。それを大声で中島に伝える。


    「玲!このゲーム、脱出に成功したら全員が助かるんだって!!今まで死んだ岩鬼くん達が助かるんだって!!」

    「本当か!!」


     中島は少し考えた。自分は手負いで、高橋はそうじゃない。それに、高橋は徒競走でもかなり足が速かった。肩がつかえないのであればボクが速く走るのはムリだ。


    「くるみ!お前がやれ!!」

    「え!?なんで、玲も一緒に!」


     高橋は叫んだが、中島は首を横に振り笑顔で高橋の方を見た。


    「ボクは状況的にムリだ!だから、くるみ!後は頼んだ!」


     そう笑顔で笑うと、高橋に向けて、何かを投げた。それと同時に保健室の天使の鎌が中島の首を切り落とした。
  50. 50 : : 2017/08/11(金) 15:28:49
    「イヤァァァァァァァァ!!」


     高橋は叫んだが、泣いてる余裕はないことは分かっていた。急いで、玲が投げ飛ばした紙を拾った。急いでその紙の中身を見ると、全部の文字が赤文字になっていた。


    「脱出できる!」


     そう叫ぶと高橋は全力で走っていった。保健室の天使も中島の首を持って、後から高橋を追いかけた。

     高橋は全速力で走った。ふと、後を振り向くと、そこには保健室の天使というよりかは、保健室の鬼という方が正しいぐらい、鬼のような顔をした少女が追いかけていた。


    「(下足室のほうまで走れば脱出できる!)」


     下足室まで残り100m……

     すると、後ろから大きな叫び声が聞こえた。


    「マテェ……ニゲルナァ……タダデハニガサンゾォ……」


     保健室の天使は手に中島の顔を抱えながら、大声を出して、高橋を追いかけていた。

     逃げている高橋は頭の中で考えていた。


    「(目の前で玲が殺された。あの女に首をはねられた。あの女に捕まれば私も殺られる!)」

    「(私たちは、ただ、ゲームのモニターに来ただけなんだ!)」


     色々な思考が頭を駆け巡る中、ついに、高橋は下足室の扉を見つけた。

     その扉に向けて彼女は手を伸ばす……下足室の扉に向けて……たくさんの人の思いを乗せて……


    「とどけぇぇぇ!!」
  51. 51 : : 2017/08/11(金) 15:33:31
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「っつぅ…………」


     目を覚ましたらそこは知らない天井だった。中島はVRの中から目を覚ました。


    「(あれ……ボクは首をはねられたはず。と言う事は、くるみが!)」


     そう思い、高橋のところを見たが、高橋はまだ目を覚ましていなかった。田中と西条もまだのようだ。

     すると、VRルームの扉が開き、岩鬼が部屋に入ってきた。


    「目を覚ましたか!玲!」

    「岩鬼くん!」


     中島は彼の胸に飛び込んだ。お互いに再会を喜んだのもつかの間、岩鬼が、烏丸の元に行くと言うことだったので、中島も同行することになった。


     ――VR監視室……そこに烏丸はいた。


    「おやおや、クリアされましたか……」


     烏丸は手に持っていたワイングラスを置き、近くにあった椅子に腰をかけた。


    「どうでしたか?楽しめましたか……私の考えた最高のゲームは……」

    「ふざけるな!こんな悪趣味なゲームを用意して……」


     荒ぶる中島を岩鬼が制止した。そして、中島が落ち着いたのを確認した後、岩鬼が烏丸に質問した。


    「よぉ……烏丸さんよぉ……なんで、こんな残虐のゲームを作ったんだ?『BATTLE!』を作ったときはこんな感情1ミリもなかったんじゃねぇのか?」


     その質問に烏丸は大きくため息をつき答えた。


    「確かに、あのシリーズの時にはなかったさ。ただね、あのゲームの題材となった学校に私の娘も通っていてね……君たちと同じ学年だったよ……」

    「烏丸今日子のことか。」


     中島は彼に聴いた。烏丸は静かに頷き、話を続けた。


    「今日子は私の一人娘だったんだ。しかしね、あの事件によって殺された。犯人グループも死んでいたからと警察もろくに捜査をしなかった。つまり、私の娘はあのときの社会に殺されたんだ!無能な警察や学校長の手によって!!だから、その復讐のために……」

    「ふざけんな!!」


     中島は声を荒げて叫んだ。その顔は岩鬼も見たことがないぐらい険しい表情だった。
  52. 52 : : 2017/08/11(金) 15:42:46
    「そんな社会の復習のために、彼女を成仏させずにあそこに閉じ込めているのかよ!!」


     その言葉に驚いた岩鬼は中島に説明を求めた。中島は保健室で起きたことを岩鬼に全て話した。


    「な……なんだって……保健室の天使が、烏丸今日子だと……?」

    「あぁ、そうだ!今日子には社会を見守ってもらわないとね?」


     岩鬼の驚きの声に烏丸は答えた。すると、それに続いて、中島が質問する。


    「ボクからも質問がある。なんで、僕たちをモニターにした!!」


     すると、烏丸は笑顔で答えた。


    「君たちが娘の同級生の中で優れていたからさぁ……今日子による『社会への復讐の生け贄』ねぇ……」

    「テメェ……」

    「おちつけ!玲!」


     普段とは立場が逆になってしまった岩鬼は、中島をなだめるのに必死だった。そして、岩鬼は手錠を出して、


    「烏丸雄一郎……殺人未遂の現行犯の容疑で逮捕だ。」


     彼に手錠をはめた岩鬼は『デビルズアーバン』の玄関まで烏丸を連行した。中島もその後をついていった。

     玄関にはパトカーが待っていた。岩鬼があらかじめ呼んでいたようだ。そのパトカーに乗る前に、


    「……中島くん」


     烏丸が口を開いた。中島は烏丸の顔をじっと見た。


    「次期社長は君がなってくれないか?」


     その烏丸の質問に中島は驚いた表情を見せたが、


    「ボクは『デビルズアーバン』の社長にはなるのは嫌だ。なるとしたら、『デビルズアーバン』をぶっ壊して別の会社にするよ。」


     と答えた。すると、烏丸は突然笑いだし、


    「交渉決裂か!まぁいい。どうせあの会社は倒産だ。煮るなり焼くなり好きにしろ!」


     そう烏丸が答えた後に岩鬼が烏丸をパトカーに乗せた。そして、パトカーは『デビルズアーバン』をあとにする。


    「ごめん!岩鬼くん!熱くなっちゃって……」


     中島は岩鬼に謝ったが、岩鬼は珍しいものが見れたと笑い飛ばした。

     そして、2人で部屋に戻ったら、田中と西条も目を覚ましていた。

     西条が先に目覚めたらしく、田中が目覚めたときにはなぜか怖がられて話を聴いてくれなかったということが30分ぐらいあったらしい。

     最終的には西条は全身を痛めていたが、田中を抱きしめたことで、西条の抱擁によるぬくもりが凍り付いた田中の心をとかして、いつもの田中に戻ったらしいが、西条に怯える田中も見たかったと中島と岩鬼は少し後悔していた。

     後は高橋だけだ。先輩の警官に呼ばれた岩鬼は病室を後にしたが、残りのメンバーで高橋が目覚めるのを待った。
  53. 53 : : 2017/08/11(金) 15:47:09
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「…………る……………………」


    「(あれ?誰か……呼んでる?)」


    「…………み……………る………」


    「(み……る……なんだ……人違いか……)」


    「……く……る……………くるみ………」


    「くるみ!!」


    「……ん…………んん……」


     目を覚ました高橋はベッドで横になっていた。辺りを見渡すと、見慣れた顔がいた。


    「……れ…………い……みん……な……いき…………てたの?」


     途切れ途切れの声の中、高橋は中島に聴いた。


    「うん、この通り!元気だよ!」


     中島はピョンピョン跳びはねながら答えた。しかし……


    「イテテテテ……」


     すぐに右肩を押さえてしまった。


    「ムリすんなって!実際にゲームで出た痛みまではそう簡単に解消されないみたいだからな……」


     そこには、田中の姿がいた。


    「え?田中は大丈夫なの?」

    「全身打撲で骨折が5カ所……全治1年だとよ!さっきチームに連絡入れてきたところだ。監督は手放すつもりはないからゆっくり治療しろだとよ!有り難いぜ!」


     よくみると、田中ともう1人車いすに乗ってる人がいた。西条だ。


    「私も田中さんと同じでしたが、少し首を痛めてしまいまして、コルセットを巻かないと生活できませんの……私は全治10ヶ月ぐらいですかね……」

    「そうなんだぁ!それで、なんで私はベッドなの?」

    「あぁ、ボクたちはVRで目覚めたんだけど、くるみだけ中々目覚めなくてさ、ボクたちが治療するために病院に行くことになったから一緒に運んでもらったんだよ!」


     高橋はそうなんだぁと脚の部分を見ると、包帯が巻かれていた。中島が言うには軽いねんざらしい。

     すると、病室の扉が開き、大男が入ってきた。岩鬼だ。


    「おう!くるみ!!目が覚めたか!助けてくれてありがとうな!玲から聴いたぜ!」


     まさか、岩鬼から礼を聴くとは思わなかったので、思わず笑ってしまった。


    「なんで、笑うんだよ!ったく!お!そうだ!他のメンバーには話を聴いたんだが、くるみはまだだったな!ちょっとここで、取り調べをさせてくれ!」

    「取り調べ?なんの?」

    「今回のVRゲームについてだよ!オレが調書を作って書類送検の手続きしないといけなくなったんだ!」

    「まぁ、あばら3本骨折ぐらいですんで良かったな!本当なら心臓なくなってるんだぜ?」


     田中がそう言うと、岩鬼は笑っていた。それを見て高橋は笑みを浮かべ、


    「(これが、私達の取り戻した未来なんだね……)」

     
     と思いながら、病院から見える空を眺めた。
  54. 54 : : 2017/08/11(金) 15:52:19
     『デビルズアーバン』は代表取締役社長である、烏丸雄一郎がつかまった。その後、烏丸の証言により、VRゲーム『Real Panic』に関わったメンバー30人を逮捕した。

     その後、それぞれ書類送検され、烏丸雄一郎と、制作にメインで関わった3人は有罪判決。それ以外の人は、重要な中身をあまり知らされることなくゲーム作成に励んでいたことから有罪判決となったが、執行猶予がついた。

     『デビルズアーバン』も社長不在と言うことで倒産したが、その『デビルズアーバン』の建物を『西条コンツェルン』が買い取り、新たなゲーム会社『クラウン』が設立された。

     社長には中島玲。社長秘書に高橋くるみを迎え、資金の全面バックアップ、及び筆頭株主には西条コンツェルン代表取締役の西条優輝が加わることとなり、超一流ゲーム会社へとなった。

     デビルズアーバンの元社員はそのままこちらに入るという形となり、楽しそうに仕事をしている。会社が明るくなったという人たちが増えた。


     そして、ここは社長室。


    「社長!急いでください!今日の会議間に合いませんよ!」

    「ちょっとまって!もう少し……よし!いこうか!くるみ!」

    「えぇ……いよいよ完成ですね!『Panic Real』」

    「あぁ……これが世に出れば、最高のゲームになるぞ!体験型ホラーで、クリアすると新しいコースに挑める仕組みとなっている。その中には我々の経験した『Real Panic』の改良版も入ってる。」

     中島と高橋は笑顔で、空を見た。もし、このゲームが売れれば自分たちの経験したものが他の人にも分かるだろう。

     目の前の明るい未来のために、中島たちは歩き始めた。







    『ホラー』それは架空の恐怖……

     現実世界には『ホラー』だけではない様々な恐怖がまち受けている。

     『死の恐怖』

     そして、『生の恐怖』


     そう……

     『Real Panic(本当の恐怖)』は終わらない!!
  55. 55 : : 2017/08/11(金) 15:54:12
    最後まで読んで頂きありがとうございましたm(_ _)m!


     今回はホラーに少しサスペンス要素を踏まえて何か書ければなぁとおもい、この作品に取り組ませて頂きました。


    もしよろしければ、冒頭にありますURLに他の作品のリンクもありますので、そちらもお楽しみください!


    ではまた次回の作品でお会いしましょう!(っ´ω`c)
  56. 56 : : 2017/08/12(土) 12:28:05
    いつも暇があったらルカさんの作品を拝見させていただいてます、乙でした!ルカさんのはバットエンドが少ないので安心して読めますね!
  57. 57 : : 2017/08/12(土) 12:54:52
    >>58
    そう言って頂けると助かります!バッドエンドも書いてみたいなとは思うのですが、それをできる力がまだないのです^^;

    いつも見て頂きありがとうございます!これからもよろしくですm(_ _)m

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