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  1. 1 : : 2017/02/01(水) 19:36:08
    東京喰種の世界観で書くオリジナルストーリーです。東京喰種のキャラは直接的には登場しないです。出てくるキャラは全てオリジナルです。鈍足更新になると思いますが頑張ります。
  2. 2 : : 2017/02/01(水) 19:38:54
    僕「はぁ…はぁ…ぐぁ!!」

    野良喰種「おらっ!!」ドガッ

    僕「ゔぐ……!」

    僕は、襲われていた。他の喰種から喰われれそうになっていた。

    野良喰種「テメェみたいな孤児喰種は…俺の
    糧になれ!」バキッ

    僕「がぎゃ!…う…やめてよ…」

    …こいつに殺されるのかな…

    僕は、まともに反撃出来なかった。

    野良喰種「勝手にほざいてろ。大人しく…
    死ねェ!!」ドス

    僕「う……」ガク..グタッ

    僕はもう、虫の息だった。体は動かない。
    再生も間に合わない。視界もぼんやりと
    してきた。

    …終わりだ。死ぬんだな。

    野良喰種「やっと大人しくなったか…さてと、んじゃいっただーきまー…ん?」

    それは、僕にもわかった。
    誰かがそこに来た。…いや、現れた。

    急に『気配』が現れた。まるで最初からそこに居たように。

    ??「楽しそうな事、してるね。」

    野良喰種「お前は…!!何でこんな所に!?」

    ??「私も…混ぜて。」

    そう言って、『気配』は赫子を展開した。

    僕が出せない物、赫子。
    僕は赫子を使う事が出来ない。

    すべての赫子を見たわけじゃない。けど、その
    『気配』の赫子は間違いなく、色んな意味で
    規格外に思えた。

    ぼんやりとしか見えないけど、まるで電柱みたいな大きさの赫子が1本。『気配』の周りに
    とぐろを巻くように展開していた。

    その先端には、カマキリの手みたいな、折れ曲がってギザギザしてる赫子が2本生えていた。

    まるで巨大な、歪んだ十字架みたいだった。
  3. 3 : : 2017/02/01(水) 19:40:23
    野良喰種「や、やめてくれ!同じ喰種だろ!?
    な、な!?」

    ??「なら…どうしてその子を襲ったの?」

    野良喰種「こ、こいつは孤児なんだ!まだ
    ガキだぞ!?こんなやつ生きられねぇだろ!」

    ??「………」

    野良喰種「だから俺が食べるんだよ!と、
    当然じゃないのか!?なぁ!?」

    ??「私は…それでも…生きてる。」

    野良喰種「な、何を言って……!?!?」

    ザシュ

    …一瞬。

    あんなに大きな赫子が、あんなに速く動くなんて、僕には信じられなかった。

    『気配』は赫子を一振りした。表現が軽いかもしれないけど、『気配』にとってはこんな物、
    造作もない事なんだろうと思った。

    その赫子は、一瞬で僕を襲った喰種の喉を掻き切った。

    野良喰種「………」バタン

    …死んだ。

    叫びもせず、呆気なく。あとに残るのは、
    喉から血がゴポゴポ吹き出る音だけ。

    それもすぐ静かになった。

    『気配』は、喰種が事切れたのを確認すると、
    自分の赫子を収めた。

    周囲に赤くて濃い霧が立ち込める。赫子を収める時、赫子の細胞が辺りに拡散するからだ。

    ??「……」ブチッ

    『気配』が、死体の肉を一塊、ちぎり取った。

    それを、僕の所に持ってきた。

    ??「…ほら、あげる。」

    僕「……………」

    …僕は、固まってしまう。

    普通、獲物は一人で全部食べる物だと思っていた僕にとって、獲物を分け与えるという行動が理解出来なかった。

    ??「…?…どうしたの?」

    『気配』は、首を傾げた。

    やがて、その肉の塊を1口かじり、咀嚼して
    食べた。

    ??「…喰種の肉だけど…変な物、入ってないよ?」

    何を思ったのか、『気配』は毒見をした
    らしい。

    そして、再び肉を僕に差し出す。

    僕「……」

    僕は、無言で受け取った。そして、夢中で肉を
    食べ始めた。

    思ってみれば、まともな食事をしていなかった
    気がする。

    喰種の肉だけど、それでも美味しく感じた。

    肉塊を平らげると、僕は死体に飛びついた。

    ひたすら貪り食った。骨も内蔵もスジも関係なく、食べた。

    ……食事をしているうちに、だいぶ体力が
    回復してきた。視界もはっきりしている。

    『気配』の正体は、僕と同じくらいの歳の女の子らしい。

    髪は栗色をしていて、もみあげの長いショートボブみたいな髪型をしている。
    横の裾だけが長く、膝上まである黒いシャツに
    ホットパンツという格好だ。
  4. 4 : : 2017/02/01(水) 19:44:02
    僕「…ねぇ、名前…聞いてもいい?」

    ??「…私は…カノリ。」

    僕「カノリか…改めて、ありがとうカノリ。
    本当に助かったよ。」

    カノリ「…うん。…君は?」

    僕「僕は…センラだよ。」

    カノリ「…センラ?…変わった名前。」

    センラ「僕もそう思うよ。」

    そう言うと、カノリは僕の隣にしゃがみ込んできた。

    カノリ「ねぇ…センラには…家あるの?」

    僕は食事を止めて、答えた。

    センラ「いや、無いよ。眠くなったら、近くの物陰で野宿してる。」

    カノリ「…孤児って…本当?」

    センラ「まぁね…2年前まではお父さんと
    一緒に暮らしてたんだけど…捜査官に殺されちゃった。」

    カノリ「……」

    センラ「その時はね、家もあったんだ。
    けど…お父さんが殺されてから…帰って
    ない。」

    そう答えると、カノリは申し訳なさそうに

    カノリ「…ごめん…辛いこと聞いて。」

    と、俯きながら言った。

    センラ「ううん、慣れてるから平気。…でも、
    今までこの話した喰種は、皆襲ってきたんだ。僕を食べるために。何度も死にかけたよ。」

    僕は、自嘲気味に答えた。

    カノリ「…センラは、強いんだね。」

    カノリは、僕を見てそう言った。

    センラ「…そんな事ないさ。自分で反撃も出来ないんだよ?赫子が使えないからね。」

    そう、僕は赫子が使えない。だから狩りも大変だったし、襲われても必死に逃げるしかなかった。

    今回も、カノリが助けてくれなければ…僕は
    おそらく死んでいただろう。

    カノリ「…変。」

    カノリは、困ったような顔でそう言った。

    カノリ「センラからは…とても強い匂いが……赫子の匂いがするよ?」

    センラ「気のせいじゃないかな?」

    カノリ「ううん…私、普段はこんな事無いの。だって…自分の…赫子の匂いが強いから。」

    …確かに、そうだと思う。さっき見たカノリの赫子は、今まで見てきた喰種のそれとは大違いだ。形も、大きさも、速さも…。

    とにかく、規格外だと感じた。

    カノリ「でも…私より強い…赫子の匂いがした。それで見に来たら…センラが襲われていたの。」

    センラ「…僕が襲われて…傷ついていたからじゃない?結構血が出たし…」

    カノリ「…!センラ…傷は?」

    センラ「傷って…治ってるけど?」

    カノリ「…早い。普通あんな傷だったら…私
    でもまだ治ってないのに…。」

    センラ「昔から傷が治るのは早いんだ。
    だから今まで襲われて傷ついても、なんとか
    逃げ切る事が出来たんだ。」

    僕はこの体質のおかげで何度も助かった。

    カノリ「…センラ…赫子、出してみて。」

    カノリは、何かを確信したみたいな顔で
    そう言った。

    センラ「カノリ…僕は赫子が使えないんだ。さっきも言っただろう?」

    カノリ「使えないんでしょ?でも…出す事は
    出来るんじゃないの?」

    センラ「…わかったよ。でも、期待しないでね?」

    カノリは頷いた。

    …仕方ない。出すしかないだろう。
  5. 5 : : 2017/02/01(水) 19:49:40
    僕は背中に意識を集中させ、自分の赫包に力を入れる。

    センラ「……ッ!」メキメキッ

    僕の背中から、僕の赫子が伸びる。あっという間に、僕の身長の1.5倍くらいになる。

    …しかし、問題はこれからだ。

    カノリ「……!」

    赫子は、瞬く間に縮んでいき、僕の背中からまるで人参が生えてきたような、ちょんと突き出るだけの大きさになった。
    これではなんの使い道も無いだろう。

    センラ「…な?これで分かっただろう?」

    カノリ「…ちょっと待って。」

    カノリは、何か考え込むような顔をしながら、僕の背中の赫子をつついた。

    カノリ「…まだ、出てない。」

    センラ「え?」

    カノリ「まだ赫子…全部出てないよ?」

    センラ「いや、最初の大きさからここまで縮むんだよ、僕の赫子は。」

    カノリ「…センラ、赫子を全部出して。」

    …まだ僕から赫子が出るのか?試した事無いけど…

    カノリ「…さっきセンラの赫子が縮んだ時、霧が出来なかった。だから、勝手に収まったんじゃないと思う。」

    …確かに。赫子を収める時は、辺りに赤い霧が立ち込めるはずだ。

    …僕の周りに赤い霧は見当たらない。

    センラ「…分かった、試してみる。」

    再び僕は、赫子を出すために自分の背中、赫包に力を入れる。

    センラ「クッ……!」

    …変化が無い。やはりこれ以上赫子は出ないんじゃないか…?

    カノリ「…!!」

    カノリが、何かに反応して僕の背後に移動した。

    カノリ「センラ…もっと力入れて。」

    センラ「クッ…ウゥゥ…!!」

    背中に激痛が走った。ブチブチッと繊維が切れるような…そんな感覚…

    …その時だった。僕の背中から、赫子が伸びてきた。

    センラ「…う…クゥゥ!」

    僕は更に力を入れる。すると、赫子がまた僕の身長ぐらい伸びた。

    …しかし…

    センラ「…!」

    カノリ「…!」

    …縮んだ。
    さっきぐらいの大きさに戻ってしまった。

    …いや、若干…大きい…?

    カノリ「…センラ、ちょっと見せて。」

    カノリは、また僕の赫子をつついてきた。

    カノリ「…やっぱり。」

    センラ「どうしたの?」

    カノリ「…さっきより…赫子が丈夫になってる。」

    丈夫になってる…?どういう事だ?

    カノリは、なにか決めたような顔をして
    僕の顔を見た。

    カノリ「センラ…私と一緒に来て。会ってほしい人がいる。」
  6. 6 : : 2017/02/01(水) 20:46:08
    僕はカノリに付いていった。

    他に行く所も無かったし、なによりカノリが一緒なら少なくとも安全だろうと思ったからだ。

    数分歩いて、あるビルの裏で止まった。そしてそのビルの外側に付いている非常階段を屋上まで登った。

    そこには、まるでキャンプ場のようにテントが複数張られていた。

    そして、大人の喰種が1人、カノリや僕と同じくらいの歳の喰種が2人、談笑していた。全員女性のようだ。

    …なんだろう。なんか…居にくい…
    こういうの、ハーレムっていうんだっけ?

    女子A「お~カノリ~。おかえり~!」

    女子B「おかえりー!…って、その男子誰?まさか彼氏!?」

    カノリ「…!ち、ちが…!!」

    女子B「えぇー?怪しいー!」

    大人A「こらっユナ、カノリをからかわないの!おかえり、カノリ。」

    ユナ「はーい、おかえりなさーい!カノリ!」

    カノリ「ただいま。ユリ、ユナ、かーさん。」

    カノリ「こっちは…センラ。センラ、
    おっとりなのがユリ、元気なのがユナ、それからかーさんだよ。」

    かーさん「かーさんって言っても、カノリの母さんではないんだけどね。」

    微笑みながらかーさんは答える。

    かーさん「昔から愛称がかーさんだから、皆にもかーさんって呼んでもらってるんだよ。センラ君もかーさんって呼んでね。」

    センラ「分かりました。」

    ユリは、黒髪のショートヘアで僕やカノリよりも幼い印象だ。

    ユナは、黒髪を腰辺りまで伸ばしている。
    ユリと同じ歳くらいだろう。

    2人とも、パーカーに半ズボンという格好だ。こうして見るとまるで双子のように見える。いや、ひょっとすると双子なのか…?

    かーさんは、焦げ茶色の髪を肩辺りまで伸ばしたセミロング。歳は…20代後半と言ったところだろうか。
    スリムな黒のジーンズに、長袖のシャツを着ている。

    センラ「カノリ、会わせたい人って?」

    カノリ「そうだ…かーさん、こっち来て。」

    かーさん「なぁに?」

    ユナ「カノリー!私たちは?」

    カノリ「…ごめん…向こうで待ってて?」

    ユナ「はーい!行こ?ユリ!」

    ユリ「分かった~。」

    ユリとユナは、テントの中に入っていった。

    カノリ「かーさん…センラの赫子…見てほしいの。」

    センラ「え、カノリ!?」

    かーさん「…赫子…まさか!!…いや、
    カノリ、そんな訳」

    カノリ「いいから見て。センラ、赫子出して。」

    センラ「ちょ、カノリ!それは…」

    カノリ「早く…!」

    カノリは、かーさんの言葉を遮って僕に
    赫子を出すように催促した。

    センラ「…分かったよ。」

    僕は再び赫子を展開した。
  7. 7 : : 2017/02/01(水) 21:20:28
    センラ「…ッ!」

    最初に出した時と同じように、展開した直後は自分の身長の1.5倍くらいまで伸びた。しかし、やはり縮んでいき、情けない大きさに戻ってしまった。

    センラ「…これでどう?」

    僕はカノリに言った。

    カノリ「ありがとう、センラ。…かーさん、この赫子、やっぱり…アレだよね?」

    かーさん「…らしいわね。センラ君、
    ちょっと背中を見せてくれる?」

    センラ「はい…分かりました。」

    …一体僕の赫子は何だというんだ…?

    かーさんは、何かを確認するように僕の背中全体を指で押していった。

    かーさん「…まさか、本当なの…?」

    かーさんは相当驚いているようだ。

    センラ「あの…一体どうしたんですか?」

    かーさん「…センラ君、あなたの赫包は普通じゃ無いの。」

    それは分かる。なにせ情けない赫子しか出せないんだからな。

    かーさん「あなたの赫包は…とても細く分裂しているの。」

    センラ「…え?」

    それはどういう事なんだ…?

    かーさん「例えば、普通の赫包は…そうね、大体はその人の胃くらいの大きさなのよ。そして、おおよそ背中のどこかに配置されている物なの。」

    それは知っている。
    一体何を言いたいんだ?

    かーさん「でもあなたの場合…それが分裂して配置されているの。気泡の入った梱包材みたいにね。」

    …つまり、小さな赫包が何個も僕の背中に
    あるってことか?

    かーさん「ごくまれにこんな症状を持って産まれてくる喰種がいるの。でも本当に珍しいから…私はあなたを含めて2回しか見た事ないわ。」

    カノリ「私は、かーさんに話を聞いたことあるから知ってた。実際に見るのは…センラが初めて。」

    センラ「…そうなんだ…」

    つまり、僕は運悪くこの症状を持って産まれてきてしまったわけか。

    センラ「じゃあ…僕は赫子を使えないんですか?」

    かーさん「そうね…この症状の喰種は赫子を殆ど扱うことが出来ないの。ただ、普通の喰種よりも数倍は赫子の細胞を持っているから、傷の治りがとても速いという特徴があるわ。」

    …僕の治癒力は、そういう理由だったのか…

    カノリ「でも…例外があるの。」

    センラ「…例外って?」

    かーさん「…分裂して、バラバラになっている赫包の1つづつを操り、自分の持っている赫子の細胞をフルに使えるとしたら…どうなると思う?」

    センラ「…分かりません。」

    何が何だか…分からない。

    一体僕が何だというんだ?

    カノリ「…普通の喰種よりも大きくて、強い赫子になる…。」

    かーさん「…共喰いをしなくても、赫者と
    ほぼ対等なモノに成りうるの。」

    赫者…聞いたことがある。

    共喰いを続けた喰種の果ての姿らしい。
    赫者の赫子は、普通の喰種と比べ物にならないのだという。

    例えば身を赫子で覆って鎧のようにしたり、例えば赫子でバケモノを作り上げ、その中に入ったり、例えば高温の赫子をあたかも火のように吹いたり…。

    聞くだけでは信じられないような話ばかりだ。

    かーさん「それで…センラ君には、その力があるかもしれない…いや、ほぼ確実にその力を持っているわ。」

    センラ「…え?」

    今、なんて言ったんだ…?

    カノリ「センラ…その力、使えるように…
    なってみたくない?」

    センラ「僕が…いや、そんな事…」

    かーさん「…センラ君、あなたがその力を
    使いこなせる様になれば…もう誰からも襲われる事は無くなると思うの。たとえ捜査官に襲われようとも…あなたは負けない。」

    …そうなのか…?

    もう襲われる事が無くなる…それは、今聞いた中で1番魅力的な事だった。

    …僕は…もう嫌だ…

    センラ「僕は…襲われたくない…。もう二度と…!」

    僕の声は、震えていた。

    嬉しいのか、怖いのか…それは僕にも分からない。

    けど…いつの間にか本心を言っていた。

    カノリ「…かーさん、センラを練習させて
    あげてもいい?私が見るから。」

    かーさん「…センラ君が良いなら、私は異議無いわ。…どう?センラ君」

    僕に迷いは…無かった。

    いや、ちょっとだけあったかな?

    でも…それでも…そんな力を使う事が出来るなら…!

    センラ「…お願いします。教えて下さい。」

    僕は、その提案を受け入れた。
  8. 8 : : 2017/02/01(水) 22:31:19
    その日から、僕はそのビルの屋上で、ユリ、ユナ、かーさん、そしてカノリと暮らすことになった。

    男子1人だけという事を除けば、とても過ごしやすい場所だと思う。

    もっとも、今までの僕の生活が異常なほど苦労に明け暮れる日々だったのだが…

    あの後、さらに僕の赫子を調べてもらった。僕の赫子が小さくなる原因は…どうやら、僕の赫子の細胞が《圧縮》されているらしい。

    普通はこんな事、まずありえない。

    この《圧縮》は、すればするほど、通常の赫子の何倍もの強度を得られるらしい。

    僕としては…こいつを使いこなしたい。
    その気持ちでいっぱいだった。

    そして、その日からカノリが僕を訓練してくれた。

    訓練といっても、まずは赫子を出すことに集中した。

    でないと何も始まらない。

    カノリ「…もうちょっと…もっと力入れて…!!」

    センラ「クッ…!ゥゥウウ…!!」

    上手くいっているのか分からないが、赫子は伸び縮みを繰り返しながら、だんだん大きく展開していくようになった。

    カノリ「…よし、記録更新だよ。」

    センラ「フーッ…今何メートルくらい?」

    カノリ「…2.5mちょっとくらい。」

    センラ「そ…うか…だいぶ大き…くなるようになった…な…」

    僕の背中からは、真っ赤で細長い水晶のような赫子が出ていた。

    練習を何回かすると、だんだんコツがつかめてきた。

    何回も赫子を出すことにより、分裂している赫包を繋ぎ合わせるという訓練方法だ。

    しかし、これでけでかなりの体力を消耗する。これじゃあ赫子を展開しても戦えない。

    まだまだ訓練の必要があるみたいだ。

    センラ「カノリ…今日は…これで終わり?」

    僕は息絶え絶えに聞く。

    カノリ「…ちょっと待って、動かないでね。」

    カノリは、赫子を展開したままの僕の背中を指で押していった。

    これで、僕がもっている赫子のうち、どのくらいが展開されているかを調べているらしい。

    カノリ「…うーん…」

    センラ「…どう?」

    カノリ「…多分…まだ2割も出てないんじゃないかな…」

    センラ「…」

    …そうなのか…

    センラ「…一体…どれだけあるんだ?…僕の赫子は…」

    カノリ「…分かった。センラ、その赫子を動かしてみて?」

    センラ「え?まだ全部出てないんでしょ?」

    カノリ「うん、でも、とりあえず動かす練習してみよ?…そしたら赫子を使う事に慣れて、出るようになるかも。」

    センラ「なるほど…分かった。」

    とりあえず、カノリに言われたとおりに動かそうと試みる。

    カノリは、自分の赫子を展開した。
    辺りに赫子の匂いが立ち込める。

    カノリ「まず、左右に振ってみて?」

    自分の赫子を動かしながら、カノリは言った。

    センラ「…こう?」

    僕の赫子は、ガラスが割れる時のような、パリパリッと甲高い音を出しながら、左右に揺れた。

    しかし、どうもうまくいかない。カノリのように、滑らかに曲げられない。

    それに、僕の赫子は曲がる度に、表面の赫子が剥がれ落ちてしまう。

    剥がれ落ちた小さな破片は、地面に触れるなりすごい量の赤い霧になり消えた。
  9. 9 : : 2017/02/01(水) 22:35:16
    カノリ「…センラ、硬いまま動かしてもダメだよ?」

    センラ「え?」

    カノリ「赫子は、硬質化させたり液体化させたり、その柔らかさを調節しながら動かすんだよ。でも、センラは全部硬いまま動かそうとしてる。」

    …なるほど。確かに硬いまま曲げるのには
    無理がある。

    センラ「…分かった。」

    再び赫子に意識を集中させる。
    …柔らかく…そこから動かす…

    カノリ「…!センラ、その調子…!」

    さっきよりもかなり上手くいっているらしい。確かに、欠片も落ちてこないし、目立つ音もしない。影を見てみると、確かにそこには左右に揺れる僕の赫子が見えた。

    カノリの赫子ほどしなやかで生物的な動きでは無い。生物型ロボットのような、少々ぎこちない動き…それでも、ちゃんと赫子を操れている。

    センラ「…うん、ありがとうカノリ。今のでかなりコツを掴めた気がする。」

    カノリ「…良かった。じゃあ…そこに赫子を叩きつけてみて。…思いっきり…ね?」

    カノリは、ビルのコンクリート壁を指差しながら言った。

    センラ「…分かった。」

    いよいよ、自分の赫子の威力を見ることが出来る…まだ2割の赫子だけど…

    センラ「ふぅー……ッツ!」

    僕は息を整え、さっき覚えた動かし方で、自分の全力で、思いっきり…振った。
  10. 10 : : 2017/02/02(木) 07:27:50
    辺りには灰色の粉塵が舞っている。
    僕の目の前、ビルのコンクリート壁は、右上から左下へ一直線にえぐられていた。それは、勢い余って床にも続いている。穿たれた穴の中を覗くと、鉄筋の断面がきれいに見える

    これ程の大きさの穴が開いているのに、壁には一切ヒビが走っていない。そして、えぐられたスペースに入っていたであろう巨大なコンクリートの塊が、すぐそこに転がっていた。

    センラ「………」

    カノリ「………」

    絶句した。まさかこんな事になるとは…。

    カノリ「…すごい…」

    センラ「…うん…」

    言葉を失っていると、足音が聞こえてきた。

    ユナ「おーいカノリー!センラー!ご飯だから戻って…って…え?!なにその壁!?」

    ユリ「おぉ~、センラが覚醒しちゃった
    カンジ~?」

    センラ「いや、そんな訳じゃ無いけど…」

    ユナ「てか、どーやったのセンラ!?」

    センラ「どうもこうも…ただ赫子を壁に
    叩きつけただけなんだけど…」

    ユナ「いやいやいや、それだけなら壁が砕け散ってるって!でもこの壁は…何ていうか…」

    ユリ「そこの空間ごと消えちゃってるみたいだよね~。」

    ユナ「そうそう!最初から何も無かったみたいになっちゃってるもん!」

    センラ「…あれ?」

    カノリ「…あ、赫子…変わってる。」

    センラ「…全然気が付かなかった。」

    僕の赫子は、いつの間にか形を変えていた。まるで、ペラペラ曲がる刃物のような感じだ。横から見ると平らで、表面は継ぎ目が無くとても滑らか。幅は細く、フローリング板くらい。正面から見るとまるで紙を見ているようだ。正確に認識することが出来ない。ここまで赫子か薄くなるとは思わなかった。

    ユリ「…ん?センラ~、ちょっと赫子見せてくんない?」

    センラ「良いよ。」

    ユリ「…ねぇカノリ、もしかしてさ、壁に当たる時にセンラの赫子、曲がったんじゃ
    ない?」

    カノリ「…うん、多分。」

    ユリ「なーるなる、わかったわかった。」

    センラ「どういうこと?」
  11. 11 : : 2017/02/02(木) 08:44:48
    ユリ「えーとね、センラの赫子が壁にぶつかる時、真っ直ぐじゃなくて曲がってたんじゃないかなって。ハンガーのフックみたいに。」

    センラ「…はぁ…」

    ユリ「そんで、そのまま壁をくり抜いちゃったってことじゃない?って推測。」

    センラ「…なるほど。」

    ユナ「やっばいねぇーセンラ!!めっちゃ強いじゃん!!」

    センラ「いや、まだまだだよ。」

    ユナ「んなことなぁいよ!つか、この赫子もチョーカッコイイし!」

    ふと赫子を振ってみると、さっきよりもより生物的に動くようになった。しなやかに、そして思い通りに操ることができる。赫子の操作に慣れたからか?

    センラ「…これが…僕の赫子…」

    ユリ「軽そうだねぇー」

    ユナ「リボンみたい!」

    センラ「…でもカノリの赫子と比べたら貧弱に見えるんだけど…」

    カノリの赫子はもっと大きく、強靭さが滲み出るような外見をしている。僕の赫子なんて到底及ばないのだろう。

    カノリ「そんな事ない。軽くて扱いやすそう。」

    ユリ「弱いってことはないんじゃない?圧縮した赫子なんでしょ?」

    ユナ「そーそー!軽くて丈夫って本当に理想的じゃん!」

    センラ「…いや、まだまだだよ。僕の赫子はまだ2割の力なんだ。もっと強くならないと。」

    カノリ「そうだね。頑張ろう。」

    センラ「うん。よろしくね。」

    ユナ「うわぁ!お二人さんアツアツ!」

    センラ「…!違っ…そんなんじゃ…!!」

    ユリ「もー、いいから早くご飯食べにいこーよー。お腹減ったー。」

    センラ「うん。訓練で疲れたよ。エネルギー補給したいな。」

    ユナ「あー!そうだった!!行こ行こー!」
  12. 12 : : 2017/02/02(木) 12:18:38
    その後、食事をしながらかーさんに今日の成果を報告した。

    かーさん「へぇー、やったじゃないかセンラ。じゃあ、もうそろそろマスク作ってきたらどうだい?」

    センラ「マスク…ですか?」

    カノリ「捜査官と戦う時に付けるんだよ。素顔が向こうに割れると厄介だから。」

    かーさん「いざって時に無かったら困るからね。私の知り合いの店に行くといいよ。カノリ、ヒロちゃんのとこに案内してあげて?」

    カノリ「分かった。」


    食事を終えて、カノリについて行った。
    しばらく歩くと、落書きとゴミが目立つ裏通りに入った。

    カノリ「ここだよ。ヒロさんの店。」

    センラ「…へぇー…。」

    外見は…とにかく目立たない。それが第一印象だ。ビルの壁と上手く同化している。カノリと来なければ分からなかっただろう。

    ホテルの裏口のような扉から中に入った。

    カノリ「ヒロさん、こんにちは。」

    店内は…まるで和室のようになっていた。
    入口にまず土間があり、段差を上がるとすぐに畳が敷いてある。掘りごたつタイプの机が設置されていて、天井から提げられている球体状の照明が室内を明るくしている。

    ヒロ「はいよー、おや?カノリちゃんじゃないか。久しぶりだね。」

    部屋の奥の暖簾をくぐって出てきたのは、藍色の浴衣姿の男性だ。歳はかーさんと同じくらいだろうか。狐目がとても印象的だ。

    この人がヒロさんか…なんか予想と違ったな…なんかもっと…ピアスとか体中に開けてそうなイメージだったんだけど…
  13. 13 : : 2017/02/02(木) 19:43:50
    ヒロ「おや、初めて見る顔だけど…」

    カノリ「こっちはセンラ。センラ、この人がヒロさんだよ。」

    センラ「初めましてヒロさん。センラです。」

    ヒロ「うん、よろしく。…センラ…ん?」

    センラ「…どうかしましたか?」

    ヒロ「いや…センラ君、君の名前の漢字って…あるのかい?」

    センラ「まぁ、ありますけど…」

    ヒロ「もしかしてその漢字って…」

    ヒロはメモを取り出し、なにかを書き始めた。

    書かれていたのは、[ 暹羅 ]という漢字。

    ヒロ「もしかしてこう書いてセンラって読むのかい?」

    センラ「…はい、そうです。何故分かったんですか?」

    …この漢字、喰種で分かる人はいないと思っていたんだが…

    ヒロ「まぁね、ちょっと頭をよぎっただけさ。」

    微笑みながらヒロさんは言った。

    …何故だろう…変な感じだ。胸騒ぎがする…

    ヒロ「まぁ何はともかく、今日はどうしたんだいカノリちゃん?」

    カノリ「センラのマスク、作って欲しい。」

    ヒロ「うん、了解したよ。カノリちゃんは此処で待ってて?採寸してくるから。」

    カノリ「…うん。」

    ヒロ「じゃあセンラ君、こっちに来てもらえるかな?」

    センラ「はい。」

    さっきヒロさんが出てきた暖簾の奥に通された。そこには、作業台とイスがあり、壁一面にあらゆるマスクが掛けられていた。

    センラ「おぉ…」

    たくさんあるマスクに呆気を取られてしまった。

    ヒロ「じゃあセンラくん…マスクのデザインだけど…大体思いついてるんだ。」

    センラ「…はい?」
  14. 14 : : 2017/02/02(木) 20:29:17
    ヒロ「君の名前の漢字…暹羅と書いて、[センラ]。他に、[シャム]って呼び方もするんだ。」

    センラ「…シャム…」

    ヒロ「シャムはタイという国のほかの呼び方なんだよ。そして、シャム猫の語源だったりもする。」

    …シャム猫か…

    ヒロ「ってことで、猫をモチーフにしたマスクにしようと思うんだけど…いいかな?」

    センラ「まぁ…はい、お願いします。」

    ヒロ「って事なら、あと数分で出来るよ。」

    センラ「え、そんなに早く出来るんですか?」

    ヒロ「実を言うとね…猫をモチーフにしたマスクは1つストックがあるんだよね。」

    センラ「余ったんですか?」

    ヒロ「いや、受け取り手が…殺されたらしくてね…喰種の世界ではよくある事さ。」

    センラ「…そう…ですか…」

    ヒロ「まぁ、君用に手を加えるつもりだから。じゃ、ちょっと採寸させてもらうよ。」

    センラ「はい、分かりました。」

    採寸が終わると、カノリと待つように言われた。暖簾をくぐって出てみると、カノリが机に突っ伏していた。

    センラ「カノリー?…寝ちゃった?」

    すると、カノリは首だけこちらに向け、返事をした。

    カノリ「…ううん、寝てない。」

    センラ「…気分悪い?」

    そう聞きながら僕はカノリの正面に座る。

    カノリ「…悪くない。暇だっただけ。」

    センラ「あー…そうだね。でも、もうすぐマスク出来るらしいから、もうちょっとだけ待っててね。」

    カノリ「…え?もう出来るの!?」

    カノリはガバッと身を起こして聞き返してきた。

    センラ「う、うん。あと数分だって。」

    カノリ「…私のときは4日かかったのに…。」

    カノリは不満気に呟いた。

    センラ「…そういえば、カノリのマスクってどんなデザインなの?」

    カノリ「う…うん…えっと…笑わない?」

    センラ「う、うん。笑わないよ。」

    カノリ「…ん。」

    カノリは、ポケットから何かを取り出した。
    …白い布?のようだが…全貌が分からない。
  15. 15 : : 2017/02/03(金) 07:57:01
    センラ「ねぇ、被ってみてよ。」

    カノリ「えぇー…わ、笑わないでね?」

    センラ「笑わないよ。」

    そんなに変なマスクなのか?

    カノリ「…ん。」

    カノリは手ぐしで2、3回前髪を撫でつけ、白い布を被った。

    センラ「…おぉ…」

    カノリは、花嫁が頭にのせるような白いベールを被っていた。カノリの顔が透けて見えそうで見えない程度のベールだ。上のフチには白い花があしらわれている。

    カノリ「…どう?…おかしくない?」

    センラ「うん…すごく似合ってるよ。とても綺麗だね。」

    カノリ「き、綺麗…うん…ありがと…。」

    恥ずかしそうに俯くカノリ。その仕草を見ていると、不思議と心が癒された。

    ヒロ「お、久しぶりに見たなぁ。カノリちゃんのマスク。」

    カノリ「ヒ、ヒロさん!!」

    カノリは慌ててマスクを脱いでポケットに入れた。

    いつの間にか暖簾をくぐってヒロさんが
    出てきていた。その手には、猫のマスクがあった。

    カノリ「…猫だ。」

    鼻を中心に黒い模様が顔全体に広がっている。顔のフチは白く、耳は黒い。左耳には切れ込みが入っている。
  16. 16 : : 2017/02/03(金) 14:36:57
    ヒロ「センラくん、試しに付けてみてよ。」

    そう言いながらヒロさんは隣に座ってきた。

    センラ「はい、分かりました。」

    ヒロ「付け方は簡単だよ。マスクを顔に当てて、こめかみの上にベルトを通して後頭部で固定するだけ。」

    センラ「…はい。」

    言われたように付けてみる。

    ヒロ「どうだい?付け心地は?」

    …すごい。ぴったり顔に馴染んでいて、少しのズレもない。かといって窮屈な感覚も無く、視界も悪くなっていない。まるでマスクを付けている感じがしない。

    センラ「…とても良いです。自然と顔に馴染んできて、違和感もありません。」

    ヒロ「それは良かった。…これから2人はどうするんだい?もうしばらくゆっくりしていくかい?」

    カノリ「…ううん、今日はいい。今度皆で来るから、その時にのんびりする。」

    そう言ってカノリは立ち上がる。僕もつられて立ち上がり、ヒロさんに一礼する。

    センラ「今日はありがとうございました。」

    ヒロ「そうかい。じゃあ来る時はかずみちゃんに言って連絡してもらえるかな?準備しておくからね。」

    ヒロさんも立ち上がり、微笑んだ。

    センラ「…かずみちゃん…?」

    カノリ「あ、かーさんの本名だよ。…そういえばセンラにはまだ言ってなかったね
    。」

    センラ「…なるほど…そういうことか…。」

    ヒロ「まぁ、名前で呼ばれるのは嫌いだからなぁ…かずみちゃん。まぁ、よろしく言っといてよ。」

    センラ「分かりました。じゃあ、失礼します。」

    カノリ「失礼します。」

    ヒロ「…あ、そういえば」

    店を出ようとすると、ヒロさんが声をかけてきた。
  17. 17 : : 2017/02/03(金) 14:39:19
    センラ「どうしましたか?」

    ヒロ「…最近、この辺りへ捜査官が頻頻に来てるらしい。」

    センラ「え…。」

    ヒロ「その中には准特等クラスの捜査官も複数名いるらしい。…出会っても、すぐに逃げること。いいね?」

    センラ「…分かりました。忠告ありがとうございます。」

    ヒロ「特にカノリちゃんは…分かってるよね?」

    カノリ「…分かってます。…お邪魔しました。」

    ヒロ「…うん。気をつけなよ?」

    カノリ「…センラ、行こ。」

    センラ「う、うん。お邪魔しました。」
  18. 18 : : 2017/02/03(金) 17:32:46
    センラ「ねぇカノリ、さっきヒロさんが言ってた事って…どういうこと?」

    店を出てから数分歩いた所でカノリに聞いてみた。少し間を開けて、カノリは話し始めた。

    カノリ「…昔…かーさん達と暮らし始める前は…捜査官を頻繁に殺しての。」

    センラ「…そうなんだ…。」

    カノリ「ヒロさんとはちょうどその時期に知り合いになって…このマスクを作ってもらったの。これで心置き無く殺せるだろう?って、ヒロさんに言ってもらった。」

    センラ「ヒロさんが…そんな事を…?」

    カノリ「うん。それで私は…相当な数の捜査官を殺した。…殺しすぎた。」

    センラ「…………」

    カノリ「…そのせいで私は…私のマスクと赫子は…レートが付けられた。」

    センラ「…どのくらい?」

    カノリ「…SS~。」

    センラ「そ、そんな…!!」

    SS~って…かなり上じゃないか…!

    カノリ「…向こうは私をこう呼んでた。

    花嫁
    [bride]

    ってね。」
  19. 19 : : 2017/02/04(土) 01:06:27
    その後、しばらく黙って歩いた。住処にしているビルの近くまで来て、異変に気づいた。

    …誰かいる。…5人…それぞれアタッシュケースを持っている…まさか…!!

    センラ「捜査官…!!」

    カノリ「まずい!隠れて!」

    カノリに小路へと押し込まれた。
    隙間から様子を伺ってみると、何かを探しているようだ。

    カノリ「…センラ、よく聞いてね。」

    センラ「どうしたの?」

    カノリ「…私が…時間稼ぎする。その間にセンラは屋上まで上がって、皆に知らせて。…いい?」

    カノリは自分のマスクを取り出しながら言う。

    センラ「そんな…いくら何でもそれは…」

    カノリ「いいから!私なら大丈夫!!」

    カノリはマスクを被り、いつでも小路から飛び出せる体制になった。

    センラ「…分かった。でも、危なくなったらすぐ逃げて?…僕も急いで皆に知らせる。」

    カノリ「分かってる。…じゃあ、私が飛び出して5秒後にこの壁を使ってみんなの所まで登って?…赫子を使って登るの。いい?」

    センラ「うん。必ず伝える。だからカノリも…絶対無事に帰ってきて。」

    カノリ「…うん、約束する。」

    カノリと指切りを交わす。

    …数秒後、カノリは赫子を展開する。
    歪んだ十字架が紅く怪しく煌めいた。

    カノリ「…じゃあ…作戦開始。」

    カノリは…消えた。…速い…!!
    一瞬にして飛び出し、捜査官へと向かって行った。

    その後を僕は目で追った。

    まずカノリは背中から伸びた赫子を左脇腹を通り右上に曲げる。その状態で…前方の空間へと飛び、一気に距離を詰める。

    そしてカマキリのようなギザギザの刃を、捜査官の首へと…振り下ろした。

    捜査官A「…ッ!?」

    ヒュン、という風切り音と同時に、一番後ろにいた捜査官の首が…捌かれた。

    ドチャッ…っと捜査官の首が落ちる。一瞬遅れてドサッと首無しの身体が崩れ落ち、地面を血の色で染める。

    そしてカノリは着地した。直後、白いベールが風で波打った。

    …ここまでの時間、僅か5秒。

    僕は赫子を展開し、壁に突き立てながら登る。壁をこういうふうに登るのは初めてだ。壁に赫子を突き立てる時、もっと抵抗があるかと思ったが、そうではなかった。…抵抗がほぼ無いに等しい感覚。まるで布に縫い針を刺すような、ごく僅かな手応えしか感じられない。

    壁に突き立てた赫子をバネのようにしならせ壁を登ってゆく。…ビルの屋上には8秒ほどで上がることができた。隣のビルの上に、テントが見えた。そこまで助走をつけて飛んだ。

    ビルの上に着地すると、かーさんに鉢合わせした。

    センラ「かーさん!下に捜査官が…!!」

    かーさん「…うん、分かってるよ。」

    かーさんは落ち着いていた。
    後ろではユリとユナが荷物をまとめている。

    センラ「今カノリが1人で捜査官と!はやく逃げないと!!」

    かーさん「………」

    黙ってビルの下を見るかーさん。
    …僕も下の様子を伺った。
  20. 20 : : 2017/02/05(日) 10:07:46
    カノリ視点になります
  21. 21 : : 2017/02/05(日) 10:08:05
    私は残った2人を見据える。…正直言って、今殺した3人はただのゴミ。本命は…この2人…。

    捜査官B「…ふぅん…こいつがbride…」

    捜査官C「はぁ…関心してる場合じゃないですよ、ギョクさん?」

    ギョク、と呼ばれた捜査官は答える。

    捜査官B「まぁまぁ、ちょいと話をさせてくれよ。…なぁbride!見事な暴れっぷりだな。俺達の部下3人を数秒で倒すとは…あっぱれだ。…とは言っても、ペラッペラの新人だがな。」

    カノリ「………」

    こいつ…何が言いたいの?

    安遺「まぁ、自己紹介させてくれや。俺は安遺 泉玉[あゆい せんぎょく]、準特等捜査官だ。んでこっちは…」

    吊児「… 吊児 夜限 [つるしご よかぎ]。同じく準特等だ。」

    安遺は肩下まである長髪を後ろで結って一つにしている。

    吊児はフチなしのスクエア型メガネをかけていて、髪型はスポーツ刈りだ。

    安遺は一つ、吊児は二つアタッシュケースを持っている。

    …あの中にクインケが…

    安遺「しっかしまぁ…本当に遭遇するとはね…レートSS~のbrideさんよぉ。」

    安遺はアタッシュケースの取っ手のボタンを押して、クインケを展開した。

    細長い3本の管状のクインケが安遺の左腕にまとわりつく。上腕の方へと伸びるクインケは次第に細くなってゆき、肩あたりで止まっている。手の方へと伸びるクインケの管の末端はペットボトルの飲み口大の穴が空いていいて、手の甲側に1つ、手の平側に2つ配置されている。

    吊児「本来ならこんな体制で戦うのは自殺行為…でもギョクさんがやるってなら、仕方ねぇな。」

    吊児もクインケを展開する。
    両方とも刀のようなクインケだ。片方は
    日本刀の先端にサメの背びれのような刃が付いた刀。もう片方は、十手の鉤の部分だけが伸び、棒状の真を無くしたような形状。鉤の部分は、刀のように鋭利な刃になっている。

    吊児「ギョクさん、さっさと応援呼んだ方が良くないすか?レートSS~なんて俺ら2人だけじゃどーにもならないっすよ。」

    安遺「もう呼んでる。スマホの電波追っかけて来るんだとよ。それまで持ちこたえればいい事さ。」
  22. 22 : : 2017/02/06(月) 19:33:22
    吊児「はぁ…それでどのくらい待てばいいんすか?」

    安遺「さぁな?10分もありゃ来るだろ。」

    吊児「…冗談キツイっすよ…ッ!!」

    吊児は前方に飛び、カノリとの距離を一気に縮めた。左右からクインケで切りつけるが…それをカノリは赫子で受け止める。

    ガキィィィン

    鈍重な音が響く。

    吊児「……チッ」

    カノリ「……フッ!」

    カノリはそのまま吊児を弾き飛ばし、切りつけようと赫子を振り下ろす。
    吊児はそれを刀でいなし、横に飛び退いた。

    吊児「ギョクさんッ!」

    安遺「あいよっ」

    吊児が横に飛び退いた事で、安遺とカノリの間に射線が生じた。

    カノリ「…ふぅん…」

    安遺はカノリに向かって射撃する。
    シャラシャラッと、砕けたガラスが擦れ合うような音を立てて無数の赤い結晶が放たれる。

    カノリ「……ッ!」

    カノリは赫子を地面に叩きつけ、反動で空中に飛び上がる。そして赫子を振り回し、その重心移動でビルの間を不規則に動き回った。

    安遺「…クソッ…当たんねぇ…!」

    刹那、カノリは安遺に向けて飛び込んだ。とぐろを巻いた赫子を傘のように展開し、放たれる結晶を防ぎながら。

    安遺「ヤベッ!」

    吊児「うわっ!」

    間一髪、安遺と吊児はその場から飛び退きカノリの攻撃をかわした。
    カノリは間髪入れず、とぐろを巻いた赫子を伸ばしながら振り回す。それは飛び退いた2人を確実に捉え、勢いよくはじき飛ばした。

    安遺「グハッ…うぅ…」

    吊児「グフッ……ちきしょう…」

    はじき飛ばされた2人はビルの壁にぶつかり、うずくまったまま動かない。

    カノリ「…こんなもんか。」

    カノリは呟き、2人を見据える。

    カノリ「…ちょっとは楽しかったよ。」

    カノリが赫子をもたげ、先端の刃をめいいっぱい広げる。そして、2人に告げる。

    カノリ「さよなら。」

    2人に向かって、カノリは赫子を振った。


    ザシュッ


    的に刃が突き刺さり、壁に叩きつける。


    地面が赤に染まっていく。
  23. 23 : : 2017/02/08(水) 12:15:43
    カノリは動かなかった。



















    カノリは動けなかった。

















    突き刺され壁に叩きつけられたのは、
    カノリ自身だ。


    カノリの赫子と体を槍のような物が貫いている。そのままビルの壁に突き刺さり、磔のようになっている。


    カノリ「ッ!?」


    …私の赫子を…貫通した…!?


    安遺「……っぶねぇなぁ…もうちょいで御陀仏じゃねぇか…」

    安遺がよろめきながら立ち上がる。よく見ると左手に巻きついているクインケの形が変わっていた。射出口側の管3本が前方に伸び、お互い向き合うように湾曲している。

    吊児「…もうちょい早くソレ使ってくださいよ…マジで死ぬかと思いましたよ…」

    吊児も立ち上がった。

    安遺「なかなか射線が通らなくてな。しかし、コイツの [ 圧縮 ] の威力を証明出来たじゃねぇか。」

    …え…いま…なんて…?

    カノリ「あ…あっしゅく…」

    カノリは消え入りそうな声で言う。

    吊児「!!こ、こいつ…!!」

    吊児はクインケを構えた。

    安遺「そう驚くなよ、レートSS~の喰種がこの程度で死ぬ訳ないだろうに。」

    そういって安遺はケケッと笑う。

    安遺「ま、このクインケがあのbrideさんにも通用するって事は…少なくともアイツはレートSぐらいはあったって事か。」

    吊児「この前殺した ヴァイパー ですね?喰種のくせに一丁前に家庭を持ってたあの…」

    安遺「あぁ、そうだ。子供には逃げられたがな…確かに強かった。ま、あの時は人手が多かったしな…この状況と比べるに値しないだろう。」

    安遺はカノリを見て、クインケを構える。

    安遺「おいbride、てめぇ圧縮の事知ってるみたいだが…喋る気あるか?」

    カノリ「………」

    安遺「…そうか。じゃあおしまいだな。」

    3方向からクインケが赤い霧を吐き出す。それは互いに融合し、1本の赤い結晶になった。さながら赤水晶の長槍のようだ。

    安遺「そんじゃ…さよなら。」

    クインケから結晶が放たれる。赤い軌跡を描きながら、カノリへと飛ぶ。

    瞬間、何かが上から落ちてきた。激しい崩音が鳴り響く。辺りは灰色の粉塵に覆われた。

    安遺「……なっ…!!」

    放たれた結晶が、カノリの前に転がっている。放たれた時の形状ではなく、真っ二つに折られて…いや、切られていた。

    粉塵が晴れる。カノリと安遺の間に、人影が現れた。

    カノリ「…な…んで……!」

    安遺「おいおい!?んなの聞いてねーぞ!!」

    猫の面を付けた人…いや、喰種がそこに立っていた。背中からはリボンのような赫子が伸び、尾の如く揺らめいている。
  24. 24 : : 2017/02/08(水) 16:08:44
    期待です
  25. 25 : : 2017/02/08(水) 16:51:18
    期待です❗️
  26. 26 : : 2017/02/09(木) 07:32:50
    >>24.>>25
    ありがとうございます!
    更新頑張ります( ・ω・)ゞ
  27. 27 : : 2017/02/09(木) 21:44:27
    吊児(…見た事ないマスク…何なんだあのガキ…)

    吊児「ギョクさん…どうします?」

    安遺「…吊児、行けるか?」

    吊児「問題ねぇっす…ヨッ!!」

    吊児は猫のマスクを着けた喰種の懐に飛び込んだ。猫マスクの喰種は、自らの赫子を背後から柳の葉のように垂れ下げる。

    吊児「そんな紙みたいな赫子、何の役にも立たねェよッ!!」

    吊児は左右から挟み込むようにクインケを一閃させた。

    キィィィン

    甲高い金属音が響く。

    吊児「…なっ!?」

    吊児の攻撃は、いとも容易く受け止められた。それどころか、赫子がクインケにくい込んでいる。

    吊児「……チッ」

    吊児は素早く後退する。クインケを確認すると、大きく欠損していた。あと数回使うだけで折れてしまいそうな程に。

    吊児「…何なんだあの猫マスクは…」

    安遺「…吊児、bride見てろ。」

    吊児「え?ギ、ギョクさん!?」

    安遺「大丈夫だ。いくら赫子が丈夫でもこの 圧縮 には敵わない筈だ。……あの猫マスクが 圧縮 を持ってなければの話だが……」

    安遺はクインケを構える。3本の管から赤い霧が吐き出され、融合。赤い結晶を形成した。

    安遺「…小手調べだ。」

    突如、赤い結晶が変化した。全体が一気に引き締まり、より細長くなる。先端は針のように細く、根元は三又に分かれ、それぞれが管に繋がっている。さっきの結晶が長槍なら、今の結晶はレイピアと言った所か。

    安遺「…行くぞ…猫マスク…ッ!!」

    安遺は猫マスクに突進した。剣撃が届く範囲に入るなり、鋭い突きを繰り出す。
    猫マスクは赫子で防ぐ…

    ザザザッ

    シーツが引き裂かれるような音がした。

    猫マスク「クッ!」

    猫マスクの赫子は、安遺のクインケに貫通された…が、直撃するギリギリでクインケを止めた。

    安遺「…ケッ、上等だ。」

    安遺と猫マスクは、激しく剣技を繰り広げる。目に見えないほどの速さで、赤い残像が様々な弧を描きながら赫子とクインケがぶつかり合う。

    吊児「…なんだ、押されてるじゃねえか…あの猫マスク野郎。」

    …吊児が言う通り、猫マスクは押されていた。さっきから防戦一方だ。

    その時、パリーンと硝子が割る時のような高音がなった。と同時に、猫マスクが安遺に弾き飛ばされる。

    安遺「…っしゃ、割れた!」

    猫マスクの赫子が、クインケが貫通した穴の所から割れている。割れた破片は、猫マスクの横に転がっている。

    カノリ「……あッ…!」

    直後、破片から膨大な量の赤い煙が放出された。視界全てが赤に染まる。

    安遺「なっ…しまった…!!」

    吊児「ギョクさん!大丈夫ですか!?」

    安遺「吊児!brideから目を離すな!!」

    吊児「えっ!?ギョクさん、何を言って…グハッ!……」

    安遺「…吊児?おい吊児ッ!?どうしたっ!?」

    吊児は返事をしない。安遺は吊児のいた所…brideを磔にした場所に戻ろうとするが、辺りには赤い煙が立ち込めていて、方向感覚が掴めない。

    安遺「クソッ…吊児ー!!おい!返事しろぉぉ!!」

    安遺が吊児の名前を呼びながらうろたえる。

    数十秒して、赤い煙は晴れた。…安遺の視界に入ってきたのは…あちこちが傷つき、ひび割れたビルの壁…倒れている吊児…そして…地面に落ちた、brideを磔にしていたはずの結晶だった。

    捜査官「…安遺準特等?…安遺準特等!!ご無事でしたか!?」

    安遺が振り返ると、そこには駆けつけてくる捜査官が大勢いた。その中に…一際異様な雰囲気を放つ人物がいた。

    安遺「……い、否神特等!!」

    黒いアタッシュケースを持ち、黒く艶やかな髪を左側にサイドテールにしてまとめている。20歳に満たないほどの幼い顔にかけた白のオーバル型メガネを人差し指で上げながら、特等捜査官 否神 唯
    [いながみ ゆい]は安遺に近付いた。

    否神「大変な目にあったみたいだねー、ギョクっち?なんか赤い煙とか見えてたけど…一体どうしたのさ?」

    周りを見渡しながら、おどけるように否神は問う。

    安遺「…何もかも、語るには時間がかかります。そんでもって…何もかも、消えちまいましたよ。煙みたいに。」

    安遺は、肩を竦めながら答えた。
  28. 28 : : 2017/02/10(金) 10:31:57
    おぉ❗️期待です❗️
  29. 29 : : 2017/02/26(日) 05:09:07
    すいません…かなり間が空いてしまいました。
    また更新して行きます。
  30. 30 : : 2017/02/26(日) 05:09:33
    センラ「……」

    い草の匂いが鼻腔を掠めているのに気づき僕はうっすらと、そしてゆっくりと意識を取り戻していく。

    …あれ、どうなったんだ…?僕は…

    赫子が割れる。激痛が走る。辺り一面の赤い煙。そして、誰かを抱えてその場から必死に走り去る。それが覚えている限りの記憶。

    何の為にそんな事を…?

    …そうだ、助けたかったんだ。今もこうして僕が生きていられる理由。あの路地裏で、僕を助けてくれた人。赫子を使えるように僕を訓練してくれた人。…父さんを失ってから、初めて優しくしてくれた人。

    センラ「…リ…」

    カノリ「…!?センラ!?大丈夫!?」

    センラ「…カ…ノリ…」

    カノリ「大丈夫!ここにいるよ!!」

    目を開けると、すぐ目の前にカノリの顔が見えた。今にも泣き出しそうな、潤んだ目で僕を見ている。

    センラ「…無事で…良かった…」

    カノリ「…うん…うん、私は大丈夫だよ。センラのおかげで助かったんだよ!」

    カノリの頬を涙が伝い、僕の頬に落ちてくる。僕は手を伸ばし、カノリの頬から涙を拭う。

    センラ「…泣かないでよ…泣き顔なんて…カノリには似合わない…。」

    カノリ「……!!…う、うん…分かった…!」

    カノリは涙を拭う僕の手に、頬と挟み込むようにして自分の手を重ねる。

    カノリ「……うん…もう大丈夫。…ありがとう、センラ。」

    微笑むカノリの目が赤くなっている。赫眼になっている訳ではなく、それは今まで泣いていたからだろう。

    センラ「…ここは?」

    カノリ「…覚えてないの?…センラがここに連れてきてくれたんだよ?」

    センラ「…僕が…?」

    カノリ「そうだよ。…ここはヒロさんの店。」

    センラ「…かーさんは?…ユリにユナも…皆どこに…?」

    カノリ「他の皆は店の周りを見張ってる。大丈夫、ここは安全だよ。」

    首だけ動かして周りを見てみると、見覚えのある掘りごたつと球体状の照明が目に入った。確かにここはヒロさんの店だという事が分かった。…そして僕は、カノリに膝枕されている事も分かった。

    …膝枕…?

    センラ「…あぁ!ごめっ…うぅ…」

    カノリ「ち、ちょっとセンラ!無理しちゃダメだよ!」

    起き上がろうとしたが、体がだるくて動かない。

    センラ「…ごめん…体が思うように動かなくて…」

    カノリ「当たり前だよ!…センラはさっきの戦いで相当な量の赫子の細胞を消費したんだから…本当はまだ意識が戻るはずないのに…」

    センラ「そんなに…?…でも僕は赫子が割れただけで…体は傷ついてないよ?」

    カノリ「…そこだよ。センラは傷ついてもすぐ治る。けど、それは赫子の細胞が多いからなの。…でも、センラはその赫子の細胞だけを大量に消費したから…」

    センラ「…どういうこと?」

    カノリ「…センラの赫子は圧縮されてるから…先端だけで、ものすごい量の赫子の細胞が使われているの。だから、少しでも赫子を失うと大量の赫子の細胞も失われるの。」

    センラ「…でも…こんな状況で寝てられない…う、うぅ…」

    カノリ「だから無理しちゃダメだってば!」

    再び起き上がろうとするが、頭がふらつき倒れてしまう。

    センラ「…ごめん…」

    カノリ「ここは安全だから。安心して眠ってて?」

    センラ「……分かった。じゃあ…もう少しだけ…」

    カノリ「うん。おやすみなさい、センラ。」

    センラ「…おやすみ…カノリ。」

    カノリの微笑む顔を見て、再び目を閉じた。僕の頭をカノリが撫でているのが分かる。そのどこか懐かしい安心感もあってか、その後すぐに眠りに落ちた。
  31. 31 : : 2017/02/26(日) 07:31:18
    今更だけど役立たずでないの?
  32. 32 : : 2017/02/26(日) 11:35:24
    >>31
    その事は今後のストーリーに出てくる予定と
    なっています。
  33. 33 : : 2017/02/26(日) 17:49:54
    否神「ほうほう、それでその猫マスクの赫子を割ったけれども、その破片からRc細胞がドバーッと出てきて視界が悪くなって、猫マスクを見失い逃げられた…ということでよろし?」

    安遺「はい、その通りです。」

    ヒロと名乗る店主が経営する店が入っているビルからそう遠くない場所に、その地区を担当するCCGの地区統合部がある。
    その建物の上部に、特等捜査官 否神 唯の部屋がある。そこで、安遺と否神が猫マスクの喰種について話し合っていた。

    否神「ふーん…こりゃ新手の大物だね。」

    否神はペンを捻っては締め、捻っては締めを繰り返しながらふんふんと1人で納得したかのように頷く。

    安遺「…大物…ですか…」

    否神「そうだよー。だってさ、つるっちのクインケでも歯が立たなかったんでしょ?いや、刃が立たなかったか…ま、これだけでも大問題だよ。…そういえばつるっちは大丈夫?私が見た時は意識無かったみたいだけど?」

    安遺「…はい。吊児ならさっき目を覚ましたと報告がありました。大した怪我もないとの事です。」

    否神「それはそれは良かった。…ところで、この猫マスク…呼び方なんとかならないかなー?」

    安遺「…なんとか…ですか?」

    否神「うん。何かさー、猫にも色々あるじゃん?その猫マスクってどんなデザインだったの?」

    安遺「そうですね…確か、顔全体が黒くて…いや、顔のフチは白だったような…耳は黒でした。あとは…左耳に切れ込みがありました。」

    否神「ふむぅー、だとすれば…よし、決まった!猫マスクの名前は!」

    安遺「…名前は?」

    否神「猫マスク改めぇー

    シャム

    ですっ!ぱちぱちぱちーっ!」

    否神は自分で拍手しながら言った。

    安遺「…シャム…ですか…」

    否神「うん。特徴を聞くに、シャム猫が1番似てるかなーと。だからシャムにしたんだよ。じゃあ今日この時間をもってして、シャムをレートA~に決定!新たな脅威として、この地区担当の捜査官全員に警戒するよう通達するよ。」

    安遺「…では、私と吊児はそのシャムの捜索にあたります。」

    否神「うん、よろしくー。シャムはbrideと関わりがあるみたいだから充分注意するよーに。私もbrideについてもう1回調べてみるよ。」

    安遺「はい。…失礼します。」

    否神「…あ、ギョクっち。そっちの班に新しい人員が来たから確認しといてねー。」

    安遺が部屋を出ようとすると、否神が付け加えるように言った。

    安遺「…分かりました。」

    …新しい人員か…今度こそ死なせたら降格だな。

    そんな事を思いながら、安遺は部屋を出ていった。

    否神「…ふぅ…」

    否神は一息付くと、電話をかけた。部屋に備え付けの固定電話ではなく、個人のスマホからだ。

    否神「…あ、もしもしー?私だよー。…うんうん。名前はシャムにしといたよ。それで、自慢の新人さんは役に立つんだろーね?……ふぅん。せいぜい期待しとくよ。…ヤスヒロさん。」

    否神は笑顔で通話を終了した。
  34. 34 : : 2017/03/02(木) 12:36:35

    安遺「…はぁー、特等の相手は疲れるな…」

    安遺は自分のデスクに着くなり愚痴をこぼした。

    安遺のデスクのある部屋…安遺班の部屋には他に誰もいない。吊児は病院で検査中。そして他の3人は…brideにより殉職した。今、この部屋には安遺1人だけだ。

    安遺「…シャムとbride、か…厄介だな。」

    デスクの上に散らばっている資料をまとめながら、様々な考えを巡らせる。

    一体この2体の喰種には何の共通点があるのか。なぜシャムはbrideを助けたのか。

    一般的に、喰種は単体で行動するとされている。

    …稀に大規模な喰種集団が形成され、集団同士が激しく抗争を繰り広げる事もあるらしい。昔、犬を模した喰種集団と猿を模した喰種集団が衝突したのだとか…

    brideは現れた当初、単体で大多数の捜査官を殺害していた。その様子はまさに地獄絵図だったらしい。しかし突然、その虐殺は終わり、それ以来brideは息を潜めていた。

    仮に、brideが他の喰種と組む為に姿をくらませたのであれば、同時期に目撃されなくなった喰種と組んだ可能性がある。

    そう結論付けた安遺は、過去の喰種リストからその条件に当てはまる喰種を探した。

    安遺「…なるほど…組むとすれば…」

    リストに上がった喰種は3体。

    1体目は、Tear [ティア]と呼ばれる喰種。
    この場合のTearというのは、涙の事ではなく、裂け目という意味だ。この喰種に関しての戦闘情報はほぼ皆無と言っていいほど見当たらない。対処した捜査官はほぼ全員が殺され、生き残った者も引退せざるを得ない重症を負わされたからだ。レートはS~。

    2体目及び3体目は[振り子]と呼ばれている。2体目及び3体目、というのは、この喰種が目撃された時は必ずペアで行動をしていたからであり、2体まとめてこう呼ばれている。戦闘こそほとんど記録されていないが、その数少ない戦闘情報の中で飛び抜けた危険度を垣間見ることができる。赫子は鱗赫か尾赫、もしくはその両方の可能性がある。レートはA~。

    …この3体の喰種とbrideが組んでいるのだとすれば…相当厄介だな…シャムを含め早急に対応する必要がある。
  35. 35 : : 2017/03/02(木) 12:38:24
    安遺「…全く…どうしてこうも事が大きくなるんだか…クソッ…」

    安遺がため息混じりに悪態を付くと、コンコンッとドアをノックする音が聞こえた。

    ??「安遺準特等、いらっしゃいますか?」

    安遺「あぁ、鍵は開いてるぞー。」

    ??「失礼します!」

    ガチャ、とドアを開けて入ってきたのは、20歳ほどの若い女性だった。髪は赤茶色のセミロングで、深緑色の瞳が知的な印象を与える。

    國凪「本日から安遺班に配属された、國凪 彩幸 [くになぎ さゆき]です!宜しくお願いします!」

    自己紹介をして敬礼する國凪。

    …否神特等が言っていた新しい人員か…

    安遺「おう、よろしく。…ん?なぁ、ここに配属されるのは…國凪、お前だけか?」

    國凪「そのはずですが…どうしてでしょうか?」

    安遺「……國凪、実戦経験は?」

    國凪「1度もありません!」

    國凪は胸を張って答えた。

    安遺「……おいおい否神さんよぉ…そりゃねぇぜ…」

    …ただでさえ危険な任務請け負ってるのにいくらなんでも素人の新人1人だけとは…

    國凪「…あ、安遺準特等!」

    安遺「名前はギョクで良いよ。」

    國凪「は、はい…ギョクさん!否神特等から手紙を預かってます!」

    安遺「…否神から…?」

    國凪が差し出した封筒を受け取り、中身を確認すると短い文章の書かれた紙が一枚入っていた。内容は、『ギョクっちへ。彩幸ちゃんを甘くみないこと。今までの新入りとは比べ物にならないからね?彩幸ちゃんの戦闘スタイルにギョクっちとつるっちが付いていけたら、大幅な戦力増強に繋がるんだよー。以上。』

    ………………………………………………

    安遺「…やるしかないか…」

    國凪「…ギョクさん?どうしましたか?」

    安遺「いや、何でもない。とりあえず、吊児が来たら3人で戦闘訓練行くぞ。」

    國凪「はい!分かりました!」
  36. 36 : : 2017/03/09(木) 11:47:02
    ゴミと落書きで溢れた路地。ヒロの店の前に、2人の男女がいた。男は浴衣姿で、店の脇の壁に寄りかかっている。女は、男と向かい合うようにして、反対側にあぐらをかいて座っていた。

    かーさん「…さっきの電話…どうだったの?ヒロちゃん。」

    あぐらをかいている女…かーさんことかずみは、空を仰ぐように男に問いかけた。

    ヒロ「CCGはもう動き出したみたいだよ。…名前は シャム 。レートはA~。」

    問いかけられた男、ヒロは下を向いたまま答えた。

    かーさん「…今更聞くのも野暮ったいけどさ、その情報筋…一体何者なの?」

    ヒロ「それは知らないよ。こういうのは知らない方がお互いにとって幸せなのさ。」

    ヒロは無表情で答えた。

    かーさん「…それもそうか。…それで?また隠れればやり過ごせそうなの?」

    ヒロ「…多分、今度ばかりは無理だろう。…派手に殺り合う事になりそうだ。」

    かーさん「…そっか。良いよ、久々に暴れてやろうじゃないか。」

    薄い笑みを浮かべたかーさん。その眼は赫く染まっている。

    ヒロ「…君だけで済むような話じゃないよ。」

    かーさん「なに?今回はそんなに大目玉なの?」

    ヒロ「もちろん。何せカノリとセンラ…brideとシャムが手を組んだと向こうは考えているらしい。近々また戦いになるだろう。それもさらに戦力を増してね。」

    かーさん「…はっ、参ったねぇ。どーしたものかな…」

    薄い笑みを苦笑いに変えたかーさんは、脱力するように眼を閉じた。

    ヒロ「…今度こそ、死ぬかもしれないね。」

    かーさん「ヒロちゃん、あんた…戦えないじゃん。戦わないなら死なないでしょ?」

    ヒロ「…ハハッ…そう言われると何も言い返せないよ。」

    肩を竦めながらヒロは答えた。

    かーさん「全く…私達とは違って、ヒロちゃんは大人しく生きてるんだからさ。最後まで生き延びなよ。」

    ヒロ「…分かったよ。…それはさておき、センラたちはどうするんだい?」

    かーさん「…やっぱり私が代わりになるよ。それとなく関わりを持ってるように振舞って、もうbrideたちはここから去ったとでも伝えるわ。」

    ヒロ「…君が死ぬことはないだろう?いくら君が強くても…今回ばかりは…」

    ヒロが黙り込んだその時、店の扉が勢いよく開いた。

    ユナ「かーさん!私達も戦う!」

    ユリ「かーさんだけが背負うなんて、許さないからね。」

    ユリとユナは店から飛び出てきて言った。

    かーさん「ちょっと2人とも!店の中で待っててって言ったでしょ!?」

    ユナ「私達だって戦えるんだからね!!」

    ユリ「それに…あの2人だけは守ってあげたいから…さ。」

    ヒロ「ユリちゃん、ユナちゃん…」

    ヒロは困ったような表情で2人を見つめる。

    かーさん「…でも、やっぱりダメよ。危険すぎる。」

    厳しい口調でかーさんは2人をたしなめる。

    ユリ「私達がいれば勝算上がると思うよ?」

    ユナ「そうだよ!!かーさんにも負けないくらい私達すっごく強いんだからね!!」

    ユリは腕を組んで自慢げに、ユナは拳を振り上げながら言った。

    ヒロ「…確かに2人が加われば…勝算は無いことは無い…」

    顎に手をあて、納得するようにヒロは頷いた。

    かーさん「ちょっと、ヒロちゃん!!」

    ユナ「かーさん聞いて!…そりゃ私達だって…戦いたくはないよ。けどね、それであの2人が…カノリとセンラが助かるなら…戦うよ。」

    ユリ「うん。それに、あんなに幸せそうな2人を戦わせたくないしね。」

    ユリは振り返り、店の中を覗いて微笑んだ。かーさんとヒロも、店の中を覗く。
    そこには、カノリに膝枕されているセンラと、センラを膝の上に乗せたまま机に突っ伏したカノリが見えた。
    センラはどこか微笑んでいるような、穏やかな表情で眠っている。カノリも、呼吸に合わせて背中をゆっくりと上下させていた。

    ユナ「やっぱり2人とも、アツアツだねっ!」

    ユリ「…やっぱり、私達がやらないといけないよ。」

    かーさん「…はぁ…2人とも、本当にそれでいいんだね?」

    諦めた様子でかーさんは聞いた。

    ユナ「もちろんっ!!」

    ユリ「うん、良いよ。」

    2人は嬉嬉として同意した。

    かーさん「…分かったよ。じゃあ訓練に行こう。…ヒロちゃん、あの空き地ってまだ使えるの?」

    ヒロ「あぁ、まだ使えるよ。誰も近寄らないから赫子を出しても大丈夫だよ。」

    かーさん「よし…じゃあここは頼んだよ、ヒロちゃん。なにかあったらすぐ呼んでね?」

    ヒロ「了解したよ。」

    かーさん「じゃあ…ユリ、ユナ、付いてきてね。」

    ユリ「はーい。」

    ユナ「はーい!」

    かーさんとユリ、ユナは、路地の奥に消えていった。

    3人の後ろ姿をいつまでもヒロは見つめていた。
  37. 37 : : 2017/03/23(木) 17:33:11
    センラ「…ん?」

    目を覚ましたセンラは、起き上がろうと試みた…が、すぐ目の前にカノリがいる。

    …あ…そういえば膝枕されてたんだっけ…そのままそこで寝ちゃったんだよな…

    ……とてつもなく気まずい……

    しかも、カノリは覆い被さるようにして机に突っ伏している。センラの頭は、カノリの太ももと胸部に挟まれるような形になっていた。下手に動くと、ギリギリまだ触れていない胸部に接触してしまいそうだ…身動きが出来ない…

    センラ「…カノリー…」

    カノリ「……」

    センラ「…カノリー…起きてー…」

    カノリ「……ん…何…」

    センラ「あのー…動けないから起きてくれないかな?」

    カノリ「……はっ!?」

    カノリは目を覚ますと同時に起き上がった。

    カノリ「ご、ごめんセンラ!」

    センラ「いや、大丈夫だよ。」

    …よし、これで起き上がれる…

    カノリ「…あっ…ん…」

    センラ「え…えーと…カノリ?」

    カノリは、起き上がろうとした僕の額を手で抑えた。

    センラ「…カノリ…起き上がりたいんだけど…」

    カノリ「………」

    センラ「…いや、無理してないからね?本当だよ?もう回復したからさ。」

    カノリ「……このまま…」

    センラ「…え?」

    カノリ「…もうちょっと…このままでいてくれない?」

    消え入りそうな声で言うカノリ。その顔は紅潮しきっていている。

    センラ「…分かった。」

    再び頭をカノリの太ももに委ねる。

    カノリ「…ありがと…センラ。」

    カノリは嬉しそうに微笑んだ。

    センラ「う、うん…」

    カノリ「…ねぇ、センラ」

    気まずくて視線を合わせられずにいると、カノリが話しかけてきた。

    センラ「何?」

    カノリ「…センラって…いつから…その…1人なの?」

    カノリは真剣な顔で、少し躊躇するような感じで聞いてきた。

    センラ「うーん…もう半年は経つんじゃないかな。」

    カノリ「…じゃあ…半年前にお父さんは…」

    確認するようにカノリは聞く。

    センラ「うん。殺されたよ。」

    カノリ「…お母さんは?」

    センラ「うーん…母さんは…僕が生まれてすぐ家を出たらしいよ。その後僕と父さんはこっちに引越したから、もう分かんないや。」

    カノリ「…そうなんだ。…やっぱり、寂しい?」

    センラ「今はそんな事ないよ。カノリや皆がいてくれるから。」

    カノリ「…センラにとって…皆は…大切?」

    センラ「もちろん。1番大切だよ。」

    カノリ「…じゃあ…守らなきゃだよね。」

    何かを決意したようにカノリは言った。
  38. 38 : : 2017/03/23(木) 17:33:55
    センラ「…え?」

    カノリ「…これは、さっきかーさん達が話してたんだけど…私達、本格的にマークされちゃったみたい。」

    センラ「…ッツ!?」

    カノリ「私でも太刀打ち出来るかどうか…正直怪しいくらいに、向こうの力は強大らしいの。」

    センラ「…そんな…!!その話ってどこから聞いたの?」

    カノリ「…これはね、ヒロさんが仕入れた情報なんだ。私達が眠ってる間に、色々店の外で話してたの。…まぁ、私は眠ってなかったんだけどね。」

    センラ「…ヒロさんが…?」

    カノリ「うん。確かな情報筋とか言ってたよ。」

    …ヒロさん…やっぱり何か変な…胸騒ぎがする…

    センラ「それで…どうするの?」

    カノリ「今、かーさんとユリとユナが訓練に行ってる。…多分、私達を守るために戦う気だよ。」

    センラ「んな無茶な…!?」

    カノリでも勝てるか怪しい戦力相手に、かーさん達が束になってかかっても勝てるはずない!

    …そもそもかーさん達は戦えるのか…?

    カノリ「もちろん、そんなことさせない。私が止める。」

    センラ「で、でも…カノリじゃ太刀打ち出来ないって…」

    カノリ「…それでも、やる。私が皆を守る。」

    カノリの表情は決意に溢れていた。

    センラ「…なら、僕も行く。僕も戦う。」

    僕は起き上がって、カノリの隣に座り直した。

    カノリ「ダメ。…私1人で…終わらせる。」

    センラ「そんなの無理に決まってる!…僕は、皆に助けてもらったんだ。だから…だから…僕は皆の役に立ちたいんだ…!」

    頑なに拒否するカノリ。つい僕は声を荒らげてしまう。

    カノリ「ッ!…センラは…何も分かってない…!」

    絞り出すような声で言うカノリ。その固く握りしめられた拳は震えていた。

    センラ「…どういう事だよ…」

    カノリ「…センラはまだ…殺した事ないでしょ…」

    センラ「いざとなったら捜査官だって…殺してやる!」

    カノリ「それがダメなの!!…1度殺せば…もう元には戻れなくなる。」

    センラ「そんなの関係ないだろ!!そもそも僕らはアイツらに殺されかけたんだ!!僕らが抵抗してなければ…殺されてたかもしれないだろ…!?」

    カノリ「…センラ…」

    センラ「…そうだ…僕はもっと強くなって、アイツらを全滅させてやる!根絶やしだ!!そうすればもう戦わなくてすむじゃないか!!」

    カノリ「センラ!!落ち着いて!!」

    センラ「ッ!…ごめん、カノリ。」

    カノリ「…1度殺せば…元に戻れなくなるの。…今のセンラは…尚更。」

    センラ「…ごめん…で、でも!!僕は…僕は…カノリに…皆に恩返しがしたい…皆の役に立ちたいんだよ!」

    カノリ「…はぁ…そう…分かった」

    センラ「じ、じゃあ」

    カノリ「もういい。」

    センラの言葉を遮り短く返すと、カノリは立ち上がりドアの方向へと歩き出した。

    センラ「…え?…カノリ…?」

    カノリ「…センラ、よく聞いて。」

    ドアの前で止まったカノリは、こちらを見向きもせずに言った。

    カノリ「…センラ…あなたじゃ…何の役にも…立たない。」

    センラ「……え……?」

    冷たく言い放ったカノリ。その言葉に僕は、ショックを隠せなかった。
  39. 39 : : 2017/04/01(土) 12:47:00
    センラ「……ん……な……」

    今までになく冷酷なカノリの声に怯んでしまい、口が動かない。

    カノリ「…もう1度言う。あなたは誰の役にも立てないの。…約立たずなの。」

    ……約立たず………

    センラ「…………」

    ガチャ、とカノリは目の前の扉を開け、無言のセンラを残して店を出ていった。

    …バタン

    ……………………


    センラ「………はっ!」


    追いかけるようにして店を出ると、外は夜になっていたらしく、店からの光だけが辺りを明るくしていた。上を見上げると、満月を前を横切りビルの間を縫うようにして移動する歪んだ十字架が見えた。しかしそれはほんの一瞬で、すぐに闇夜に消えてしまった。

    センラ「……約…立た…ず…」

    脳内で繰り返されるカノリの言葉。それは今までに聞いたどんな言葉よりも深く胸を抉った。

    センラ「……僕は…約立たず…」

    ???「そ〜うなんだっ!!キミはや☆く☆た☆た☆ず☆だっ!!」

    センラ「…っ!?…だ、誰だ!?」

    突如暗闇から現れたのは、白衣の男だ。変な言動でこちらに近づいてくる。

    ???「キミの救済者さっ!!キミから約立たずなんていうレッテルを引き剥がしに来たんだよっ!!」

    丸メガネをかけたごま塩頭の初老男は、伸ばし放題の髪を振り乱しながら言った。

    センラ「は、はぁ…?」

    ???「ふぅむ、キミは困惑しているよぉうだねぇ?ほんとにそんな事出来るのかって?だーいじょうぶ!ノォォォォォプロブレムッ!!」

    …こいつ…頭おかしい…

    センラ「あの…人違いじゃ?」

    ???「そんなことないっさぁ!シャムくん!いや、センラくん!」

    センラ「なっ…!?」

    …こいつ…どうして僕の名を2つとも…!?

    ???「まぁ長話はなんだ、付いてきてもらぉうねぇ!」

    パチン!と男が指を鳴らすと、どこからともなくサングラスと黒スーツに身を包んだガタイのいい男達が現れた。
  40. 40 : : 2017/04/01(土) 12:48:00
    センラ「なっ!?」

    ???「はーいVIP1名様ごあんなぁーい!!」

    掛け声とともに黒スーツ達が僕を取り囲んだ。

    ???「全員、同時発現数は最低値に固定!なるべく傷つけないように!」

    黒スーツ達「了解」

    男達は一斉に赫子を展開した。全員甲赫のようで、右肩から発現している。

    …こいつら…喰種!?…こんなやつらに…捕まってたまるかっ!!

    センラ「…ッ!」

    僕も赫子を展開する。ずっと寝ていたから体力は回復していた。

    センラ「このッ!!」

    赫子を振り回し、男達を牽制する。

    …落ち着け、ここで焦っても埒が明かない。甲赫は…確か鈍重だから、動きは決して速くないはず…!

    相手の赫子を観察する。一見甲赫の方が大きく見えるが、こちらの赫子の方がリーチは長いようだ。めいいっぱい伸ばせば相手より早く…当たる!!

    センラ「…オラァァァ!!」

    1人の男に向かってめいいっぱい赫子を伸ばし、真正面から突きを繰り出す。







    ガシャッ!!









    センラ「……なっ!?」








    …確かにセンラの読みは当たった。男の赫子より先に攻撃を当てることは出来た。

    赫子は相手の右肩に突き刺さった…が、感触はまるで人とかけ離れている。

    それは、金属の塊を突き刺したかのような、無機質で硬い手応えだった。

    男を見ると、まるで平気なように佇んでいた。出血も見られない。

    代わりにバチバチと傷口から電流がほとばしっている。


    こいつら…何だ!?
  41. 41 : : 2017/04/01(土) 12:48:47
    男は、右肩に突き刺さったセンラの赫子を左腕で引き抜き、そのまま後方へと投げ下ろした。

    センラ「しまっ……グハッ!!」

    センラはそのまま地面に叩きつけられた。

    男「右肩を損傷、深刻な障害が発生。パージする。」

    男は機械的に言うと、左腕で右腕を掴みガコッと[取り外した。]

    センラ「……!?」

    こいつら…喰種なんかじゃない…!?

    取り外した右腕を男はこちらに投げた。

    ドスッ、と鈍い音を立て、それはセンラの隣に落ちた。本体から離れても尚、指や肘が痙攣したかのように動いている。

    センラ「なっ……」

    腕の断面は複雑な機械で埋め尽くされ、指や肘が動く度に機械音をたてた。

    センラ「こいつら…アンドロイド…!?」

    センラ「…と、とにかく離れ」バァン!

    突如、腕が爆発した。爆風でセンラは吹き飛び、壁に激突。意識を失った。

    ???「よく出来ました!…さて、そいつを持ってこい!!」

    黒スーツ「了解」

    片腕の無い黒スーツの男がセンラを持ち上げると、そのまま男達は闇夜に消えた。
  42. 42 : : 2017/04/21(金) 14:15:23
    カノリ「…ごめん、センラ…」

    月光が照らすビル群の間を縫うように飛び回るカノリは、かーさん達が訓練しているという空き地へと向かっていた。

    センラに悪口を言ったのは、自分についてこないようにするため。もちろんセンラに対してそんな事を思っていないし、自分で言ったことを酷く後悔していた。



    カノリ「センラ…ごめん…許して…」



    ひたすら独り言でセンラに謝りながらも、空き地が見えるビルの屋上に着いた。

    空き地はビルに囲まれるようにして存在しているので、航空写真でもない限り外部からバレる心配はほぼ無い。赫子を展開して訓練ができる数少ない場所だ。

    屋上から空き地を見下ろすと、3つの動く影を捉えることができた。赫子同士がぶつかり合う音が響き渡る。

    1人は、ツキハギだらけのぼろ衣ローブで身を覆っている。目元はフードで隠れ、怪しくニヤけた口元が見えている。

    カノリに引けを取らないほど大きな電柱のような赫子を振り回している。その表面には無数の赤い結晶が生えていて、さながら巨大な赤い釘バットのような見た目だ。

    2人目と3人目は、黒主体のマスクに黄色い輪郭で、それぞれ五芒星と六芒星が描かれたマスクを被っていた。五芒星の方はショートヘア、六芒星の方は長髪だ。

    2人とも同じような形状の赫子を1本展開している。2mほどの細長い赫子だ。

    2人はお互いをフォローするような動きでローブからの攻撃をかわしていた。


    カノリは白いベールを取り出した。手ぐしで前髪をとかし、ベールを被る。
  43. 43 : : 2017/04/21(金) 14:16:07
    歪んだ十字架を揺らし、白いベールを被ったbrideは空き地へと飛び降りた。
    地面に衝突する直前に、自らの赫子をバネのように使い衝撃をいなす。

    bride「…動き、訛ったんじゃない?」

    brideは3人に向けて言い放った。

    tear「…なんで来たの?bride。」

    ぼろ衣ローブを纏った喰種…tearは冷たく言う。

    tear「あんたが来たら…私達が戦う意味がないじゃないか…!」

    bride「私も戦う。…3人だけじゃどうにもならないのは分かってるでしょ?…特にNとR。あなた達はまだ未熟よ。」

    N「で、でも!!カノ……brideを守るために戦うのに…!!」

    Nと呼ばれた六芒星のマスクの喰種が必死に訴えた。

    R「…本人が戦うとか本末転倒じゃん…」

    Rと呼ばれた五芒星のマスクの喰種も共闘を拒否する。

    bride「私は大丈夫。センラが無事なら…それでいい。」

    tear「…本当、アタシらがバカみたいだよ。…それでいいんだね?bride。」

    bride「うん。…ところで、いつから気づいてる?」

    brideは声を潜めてtearに聞く。

    tear「あんたが来る数分前からだよ。…なにかコソコソやってるわね。」

    tearはフードの下から覗き込むように辺りを見回した。

    tear「…雑魚ばっか。あいつらぺーぺーの下っ端集団だね。」

    N「…ふん!随分舐められてるね…!」

    R「bride…私たちがやる。」

    bride「…うん。こんな奴らならあなた達でも大丈夫ね。…任せる。」

    tear「…brideが良いなら、異議ないわ。」

    tear、N、Rはbrideを見つめる。

    bride「…私達みんなで外に出る。奴らは無警戒に寄ってくるだろうから、そこをNとRが殲滅する。…これでいい?」

    N「もっちろん!!」

    R「まかせて。」

    bride「tearはついて来て。…多分、こっちに敵の本命が現れる。覚悟して。」

    tear「了解。…楽しくなりそうだ。」

    tearは軽くストレッチをしながら答えた。

    N「こっち終わったら私達もすぐ駆けつけるね!!」

    R「さっさと終わらせる。」

    bride「…それじゃあ、作戦開始。」

    4体の影は空き地の外へと消えた。
  44. 44 : : 2017/04/21(金) 14:17:14
    時間はかーさんとユリとユナが空き地へ行った頃に遡る。

    ヒロの店からそう遠くない場所にあるCCGの地区統合部。内部では、今に大戦争でも起こるかの如く職員達が慌ただしく動いていた。

    否神「…うん、分かった。場所はあの空き地?」

    その建物の上部にある部屋で、特等捜査官 否神 唯は自分のスマホで通話している。

    否神「…うん…3体…brideは?…ふぅん、その予定か…りょーかい。ありがとねーヤスヒロさん。」

    ヤスヒロという人物に礼を言って通話を終了する。その後、CCGの地区統合部内を繋ぐ回線電話を手に取った。

    否神「……あ、ギョクっち?つるっちと彩雪ちゃん連れてきてー。大至急ー。」

    そう言うと、一方的に電話を切った。

    否神「さて…時間だね。お返しはきっちりさせてもらうよ…ヴァイパー。」

    否神は笑顔を浮かべていた。
    だが、それは普段のイメージとはるかにかけ離れた、狂気がにじみ出るような笑顔だった。



    捜査官「おい、あいつら外に出たぞ!」

    捜査官「…い、今だ!!全員かかれー!!」

    捜査官達「うぉぉぉぉぉー!!!」


    大勢の捜査官があちこちから出ていく。目標はbride率いる高レート喰種の討伐。


    少数の喰種なら、大勢で攻めれば討伐出来るだろうという考えの元、この戦術は実行された。


    ざっと6、70人はいるだろう多勢の奇襲にも、bride率いる喰種達は動じなかった。

    もっとも、それはbride達にはバレバレであって、全く奇襲の意味を成さない物だったことは彼らは知る由もない。

    bride「…来たね。」

    N「bride、ここは任せて!!やるよR!!」

    R「…行くよ、N…!!」

    六芒星と五芒星のマスクの喰種が捜査官の集団に突進していく。

    捜査官「よ、よし!!返り討ちにしてやれ!!」

    捜査官達「おぉー!!」

    …と、叫んだのも一瞬で、次の瞬間には数人の捜査官が空中に舞っていた。

    それは決して上から攻撃しようとしたのではなく、六芒星と五芒星の喰種にはね飛ばされたからだ。
  45. 45 : : 2017/04/21(金) 14:17:45
    臭い

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