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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
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- 1 : 2013/12/14(土) 23:28:35 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』の続編の短編集
http://www.ssnote.net/archives/2247
オリジナルキャラのミランダ・シーファーはこの主役です。
『若き自由な翼たち』
http://www.ssnote.net/archives/414
最愛のミケ・ザカリアスを失ったイブキと
エレン・イェーガーを奪還するために右腕を失った
エルヴィン・スミスとの新たなる関係のオリジナルストーリー
オリジナルキャラ
イブキ(かつて、エルヴィンを狙っていたイヴと名乗っていた隠密)
ミランダ・シーファー
エルヴィンの同期であり彼と深く合いあっていた。
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- 2 : 2013/12/14(土) 23:29:20 :
- 調査兵として初めて『隠密』の仕事を
託された『くのいち』は
ウォール教の関連施設に忍び込んでいた。
緊張の面持ちのその『くのいち』のイブキは
ハンジ・ゾエに頼み黒い布を用意してもらうと
全身黒ずくめの忍装束を自ら作り上げ、身にまとっていた。
・・・やっぱり、このカッコウが動きやすい…
目を光らせウォール教の幹部の部屋に屋根裏から
忍び込もうとした瞬間だった――
・・・イブキ、よせ
「えっ…今のは…?」
ブキの心の中に『声』が沸いてきた感覚がした。
それは最愛のミケ・ザカリアスの声に似ていた。
・・・まさか、どうして…?なぜ、ミケの声が?
その瞬間、屋根裏のイブキが足を踏み入れようとした
ポイントに一匹の丸々と太ったネズミが走った。
そこには透明の糸が仕掛けられ、軽く触れるだけで
そのポイント目掛けいくつもナイフが飛んできては
ネズミは瞬く間に刺されて死んでしまった。
・・・まさか?ミケが…?私を…救った…?それにこの仕掛けは――
イブキが目の当たりにしたのは
隠密の仕掛けであることに気づいた。
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- 3 : 2013/12/14(土) 23:29:38 :
- ・・・ウォール教にも隠密が?…頭(かしら)が関連しているの…?
イブキはその施設から誰にも気づかれずに出て行くと、
巨人への手がかりはつかめず、
ただウォール教の秘密は『隠密が守っている』
ということしかわからなかった。
イブキはミケを失った後、まさに振りきるように数日間、
夜毎、ウォール教の関連施設に忍び込んでいたが、
この声を聞いたのは初めてだった。
・・・どうして…ミケ…あなたは…先に逝ったの…
調査兵団本部に戻り、
一人になるとミケのことを考えることが多かった。
イブキはミケのことを考えると胸が締め付けられるが、
声が聞こえたのは驚くだけだった。
そして同じ日の夜、イブキが戻る頃――。
本部内が騒がしく、そして慌しい様子が目に入った。
調査兵たちが戻ってきたのはわかったが、
さらに兵士たちが少なくなっていることに気づいた。
・・・調査兵って…失うものしかないの…?
「団長が意識不明だ!軍医を呼べ!」
イブキの目には
戸惑い、声を絞り上げ叫ぶ兵士が
視界に飛び込んできた。
エレン・イェーガー奪還に成功したのに関わらず
担架で運ばれる調査兵団団長の
エルヴィン・スミスの姿だった。
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- 4 : 2013/12/14(土) 23:30:11 :
- 「エルヴィン…右腕が…!」
イブキは右腕を失い根元を止血されて
意識がないエルヴィンを見ると言葉を失った。
「エルヴィンまでが…まさか…こんなことに…」
イブキは驚き戸惑いながら、本部内の病室に
運ばれるエルヴィンを呆然と見つめることしかできなかった。
そして病室を覗くと軍医や衛生兵に
囲まれ治療を受けるが、出血の酷さからか、
目覚める様子はなかった。
・・・エルヴィンも…もしかして…
伏目がちになると、そのまま自分の部屋に戻っていった。
ベッドに座り壁にもたれながら
「私もいつか…でも、あの声は何なの?ミケ…会いたいよ」
イブキは膝を抱えミケの声が
聞こえたことを思い出して涙を流していた。
イブキが窓の外を見ると、
月明かり温かく顔を照らしそして
部屋の中も柔らかい光に包まれていた。
「エルヴィン…大丈夫かな…?」
エルヴィンが気になると心配で
居た堪れなく病室へ向うことにした。
軍医や衛生兵は近くにいるものの、
病室には誰にもいないことに気づいた。
そしてそっとエルヴィンのそばに寄ると
「…ミランダ…」
エルヴィンは意識を失いながらも、
寝言でその名前を苦しそうに呼んだ。
それは同期でもあり、
かつてエルヴィンが愛しそして今でも
心の中に生き続けるミランダ・シーファーのことだった――
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- 5 : 2013/12/14(土) 23:30:31 :
- ・・・リヴァイが言っていたエルヴィンが愛した人の名前…?
エルヴィンはイブキはそばにいても気づく様子はなかった。
そしてすぐさま
イブキはエルヴィンの執務室に向うことにしていた。
・・・確か…私がエルヴィンの部屋を監視していたとき、
何か絵を描いていたような…もしかして
エルヴィンの執務室に忍び込むと、
いくつもある彼のデスクの引き出しを開けると
大事そうに保管された手帳が出てきた。
「これだ…この人が…ミランダ…?」
そこにはエルヴィンが描いたいくつもの微笑を浮かべた女性、ミランダがいた――
「ミランダさんって…光輝くような笑顔をしている女性だったんだ…
こんなにキレイな人を想いながらあいつは私を…って
今はそんなこと考えてはいけないか…」
イブキはエルヴィンが咄嗟に触ってくるようなことをしていたが、
あえて気にしないようにしていた。
「…右利きのエルヴィンは
これ以上描けないだろうけど…持って行ってもいいものか…」
イブキはうなされて名前を言うくらいのミランダの絵を
病室に持っていくべきか迷ったが、
余計なことかもしれないが、最愛の人にはそばにいて欲しいだろうと、
改めてエルヴィンの病室へ行くことにした。
音も立てず、手帳を彼の枕元に置いて、意識が戻らない彼の寝顔を見ていた。
・・・こんなに絵が上手に描けるなら、ミケの絵も描いて欲しかったな…
って今更思っても、酷だよね…
イブキは悲しげな表情で病室を後にした。
エルヴィンは意識が朦朧とている中でも、イブキの気配を感じ
そして枕元に何かを置いていくことに勘付いたが、
その正体についてまでは気づけなかった。
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- 6 : 2013/12/14(土) 23:30:51 :
- ・・・イブキ…か…
エルヴィンはイブキのことを一瞬思い出すと再び深い眠りに落ちた。
イブキがウォール教関連施設に忍び込んで数日、
隠密が関連するとわかって以来、
連続で忍べば正体が気づかれるために日を置いて行くことにした。
そして自分の部屋のテーブルで地図を広げ怪しそうな施設を探していた。
「ここが怪しいか…」
イブキがその施設を指差し、目星をつけているときだった。
鉄格子のドアが音を立てながらひとりでに開いたのだった。
「あれ…キチンと閉めたはずなのにな…」
イブキは半分ほど開いたドアを閉めながらミケのことを思った。
・・・まさか…また、ミケが…?
イブキの本当の故郷では人が死んで49日間はその魂は
死を受け入れられずさまよっていると信じられている。
ミケがイブキの元を去ってまだ49日も経ってないために
彼が何かを知らせたいのではとドアノブを握りながら感じていた。
イブキの部屋は夕焼けの影響でオレンジ色に染めていた。
「夕方か…エルヴィンの様子でも見てくるか…」
イブキは調査兵団本部では白いシャツに細身のパンツを履いているが
その姿で歩いていると、妖艶な美しさから息を飲む兵士も多かったが
エルヴィンが重体になって以来、気に止める者はいなくなっていた。
病室のドア付近から見ていると、相変わらず意識は戻る様子はなく
手帳も枕元にあることに気づいていた。
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- 7 : 2013/12/14(土) 23:31:10 :
- ・・・まだ…気づかないか…
イブキが病室から離れようとした瞬間、軍医がそばに立っていた。
短時間なら面会しても構わないと告げられると
エルヴィンのベッドの隣に置かれた椅子に座ることにした。
「こんなに憔悴して…」
いつもキレイに整えている髪は乱れ、
端整な顔も苦悶の表情で、無精ひげになっていた。
イブキはエルヴィンの顔に触れ、丁寧に髪を整えた。
そして軍医に会釈するとそのまま病室を後にした。
「団長…早く意識さえ戻って…あれ…?」
軍医は苦悶の表情ながらも、
エルヴィンの口角が上がってきることに気づいた。
「団長はイブキのこと…?まさか…」
すでにイブキが立ち去った後の病室の出入り口を
眺めた軍医は笑みを浮かべていた。
その翌日の夜。
イブキは目星をつけたウォール教の関連施設の
近くに忍び込んでいた。
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- 8 : 2013/12/14(土) 23:31:30 :
- ・・・あれだ…よし――
その時だった。静かに忍び込もうと身体を動かした瞬間、
身体が固まってしまった。
急に金縛りのように身じろぎさえ出来なくなっていた。
・・・どういうこと?何!?これは…
・・・イブキ、ダメだ
またイブキの心にはミケの声が静かに響いてきた。
・・・ミケなの?ミケ…どうして?
イブキの問いにはミケは何答えなかった。
動けないまま暗がりのその施設を見ていると
隠密の動きが伺えた。
・・・やっぱり…この施設がウォール教の『総本部』?
だから止めるの?ミケ…?
そのとき、イブキはここに忍べば殺される、
死んでミケに会えると思った瞬間、イブキの右手首は
誰かに強く握られ阻まれる感覚がしていた。
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- 9 : 2013/12/14(土) 23:31:49 :
- ・・・ミケ…この手首の感覚はミケだ…ミケ、ごめんなさい…
もう変なこと考えるの…やめるね…
イブキが静かに涙を流すと、金縛りもゆっくり解け始めた。
「ミケ…ありがとう…」
イブキは忍び込むのを止めると、
誰にも気づかれずに調査兵団本部に戻っていた。
・・・手がかりはないが…あの施設が一番怪しい…
だけど、どう報告するか…
イブキが戻る頃には明け方になっていたが、
そのままエルヴィンの様子が気になり、また病室を覗いていた。
「イブキ…団長のそばにいてやりなさい」
声を掛けてきたのは軍医だった。
「えっ…いいんですか?」
軍医はイブキが来ると、エルヴィンが
何らかの反応を示すことに気づいていた。
そのために何もしないよりも、
イブキにそばにいるように伝えたのだった。
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- 10 : 2013/12/14(土) 23:32:07 :
- 「エルヴィンは…まだ目が覚めないか…」
イブキはエルヴィンのそばに座ると、
枕元の手帳に気づいた。そして手に取ると
前のページが日記になっていることに気づいた。
・・・これは…私が読んじゃいけなね…
エルヴィン、愛されていたんだね
イブキはエルヴィンの左手を手に取ると、
手帳を握らせ、そして両手でエルヴィンの
手を握っていた。
そしてミケのことを思い出していた。
・・・ミケ…ここにいるの?いるなら、
エルヴィンをあなたのところへ来させないようにして…
まだ調査兵団はエルヴィンを必要としている…
そのとき、エルヴィンがうめき声を上げた。
「エルヴィン、大丈夫?聞こえる…?」
イブキの手にはエルヴィンの左手に力が入る感覚がしていた。
「よかった…ちょっとずつ意識は戻ってきている…?」
エルヴィンの口角は再び上がっていた。
まだまだ意識は朦朧として話せないももの、
エルヴィンはイブキがそばにいて
また枕元に置いていった正体が
自分が大切にしている日記だとようやく気づいた。
・・・イブキ…この日記を…すまない…
エルヴィンはそのとき夢を見ていた。
懐かしい後姿が見えると、
それはかつて心から愛したミランダだった。
エルヴィンが近づくと、ミランダが振り向き
懐かしくも少し悲しげに微笑んでいた。
「エルヴィン・スミス…
あなたは生き抜いて…『これ』は私が預かる。
でも『あなた』はまだここに来ないでね…」
ミランダは白い布に包まれた何かを
大事そうに抱きしめていたが
それが自分が失った右腕だとエルヴィンは気づいた。
ミランダはまた懐かしいイタズラっぽい顔を
エルヴィンに向けた。
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- 11 : 2013/12/14(土) 23:32:24 :
「恋をしたいなら…私に構わず、してもいいのよ…!」
その瞬間、意識不明から目覚め
エルヴィンは目を見開いた。
「エルヴィン…?わかる…?」
イブキが優しく声を掛けた。
「ミランダ…?」
「ごめん…ちがう…私はイブキ…」
「あぁ…イブキか…」
「そんなに…がっかりしないで…!」
エルヴィンが弱々しい声と共に
目を覚ますと、心配そうに自分を見つめる
イブキの輪郭が現われた。
そばで見ていた軍医は
・・・やっぱり…団長はイブキのことを…
エルヴィンの重体の様子を伺うと離れられないが
しばらく二人の様子を見守っていた。
・・・ミランダ…『恋』をしてもいいって…こんな時に何を…
軍医がエルヴィンに声を掛け、診察すると
意識が戻ったことに安堵で胸を下ろしていた。
そして朝になると、イブキは改めて枕元に手帳を置くと
また来ると告げるとそのまま部屋に戻っていった。
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- 12 : 2013/12/14(土) 23:32:48 :
- ・・・よかった…エルヴィン、目が覚めて…
イブキはシャワーに入り身支度を整えると、
再びエルヴィンの元へ向うと
病室前にまた軍医が待っていた。
「イブキ、お願いがあるのだが、いいか?」
「はい…なんでしょう?」
「今、団長から言いつけられている仕事があるだろうが…
それを後回しにして、
今は団長の身の回りの世話をしてくれるか?」
「えっ…?」
軍医はエルヴィンがイブキに『気がある』ことを感じていた。
イブキを近くに置いたことにより意識を回復させた
エルヴィンを看て痛感していた。
「君も辛いと思うが…頼む」
軍医もイブキとミケの仲を知っていたが、
それを承知の上でイブキに懇願していた。
「はい…わかりました…」
病室ではまだ眠りについている
憔悴しきったエルヴィンの様子を伺うと
引き受けることにした。
エルヴィンのベッドの隣に椅子を置き、
イブキはエルヴィンの寝顔を見つめていた。
・・・まだ…苦しそうだな…熱もまだある…
だけど、初めて会ったときは逆だったね…
イブキは暗殺者のイヴとしてエルヴィンたちに捕まった後、
熱を出してエルヴィンに一時的に看病してもらったこを
思い出すと、顔が綻んでいた。
「イブキ…何笑ってやがる…?」
エルヴィンは目を閉じながらも
苦しく、かすれた声で自分の隣にいるイブキに声を掛けた。
「エルヴィン…おはよう…!起きたの?
まぁ…今までのことを色々思い出していたら、なんだかね…」
イブキは目を閉じたままのエルヴィンを見つめると、
笑みを浮かべていた。
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- 13 : 2013/12/14(土) 23:33:12 :
- 「…あぁ…短い間だが…色々あったからな」
「そうだね…エルヴィン、
でも、ムリしてしゃべらなくてもいいよ。少しずつ治していこうよ」
「この腕をどう治す…?」
エルヴィンは力なく失った右腕のこと話していたようだった。
「ごめん…でも…生きているだけでも――」
そういいかけたイブキだったが、身体の一部を失ったものしか
わからない気持ちがあるかも、と咄嗟に思うと途中から
何もいえなくなってしまった。
エルヴィンはゆっくりと目を開けイブキの元へ視線を送った。
「まぁ…俺は簡単に死なせないってことだろう…これまで多くの命を死に追いやってしまった…」
エルヴィンのその目はまだ団長としての責任ある
力強い眼差しには戻っていないようだった。
「そう言うなら、私だって…まともな死に方しないよ」
「似たもの同士ってことか…?」
「かもね…」
エルヴィンが意味深な笑みを浮かべると
イブキもそれに答えるように口元を緩めていた。
「ところで…イブキ、何で君がここにいるんだ…?」
「あぁ…調査兵としてまた新たな仕事を与えられた」
「何だ…それは?俺は与えた覚えがないが?」
「そっか…止めとこうか?
『団長の世話』という仕事を…?」
イブキがイタズラっぽく言うとすかさずエルヴィンは
「よろしく頼む…」
意味ありげな笑みを浮かべ
イブキにお願いしていた。
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- 14 : 2013/12/14(土) 23:33:37 :
- ・・・まぁ…この体じゃ…私に触ったりすることはないか…
エルヴィンはベッドから動けないままではあるが、
イブキとは楽しげに話していた。
・・・やはり…イブキをそばに置いて正解だったか…
二人の様子を病室の入り口から伺っていた軍医は
エルヴィンが意識を回復させたあけでなく、
会話までし出したことに対して改めて正解だと思っていた。
「エルヴィン、お腹は空かない?食欲はあるの?」
「あぁ…食べたくない…が、喉が渇いたな…」
「そうか、ちょっと待ってね…」
エルヴィンは右腕を失ってまだ全身に力が入らないために
ベッドに横になったまま動けない状態だった。
イブキは『水飲み』に水を入れるとエルヴィンの
目線に合わせベッドの隣に膝を落とし座った。
「眠りながらじゃ…飲みづらいかもしれないけど…」
イブキが『水飲み』の先を
ゆっくりとエルヴィンの唇に入れると、
喉を鳴らして少しずつ水分が体の中に染み渡っていった。
・・・こんなに水が美味いとはな…
エルヴィンはイブキの目を見ながら、
命の水が自分に注がれる感覚がしていた。
エルヴィンは意識がだんだんと回復していくと、
少し前まで自分の命を狙っていたイヴがイブキとなり
今は自分の世話をしているのを目の前にすると
含み笑いをしていた。
「なに?エルヴィン?水を飲みながら笑うって気持ち悪いよ!」
水を与えながらイブキは笑みをこぼしていた。
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- 15 : 2013/12/14(土) 23:34:03 :
- 「あぁ…すまない、もういい、ありがとう…」
「うん…いいよ…!また飲みたくなったら言ってね」
イブキは丁寧にエルヴィンの口元を拭くと水飲みを
元の位置に戻すとまた椅子に座った。
「ところで、イブキ…ミケは…残念だったな…」
「うん…『行方不明』だって…私を残してどこに行ったんだか…」
イブキは目を合わせてエルヴィンと話をしていたが、
ミケの話になると目をそらした。
またこれまで多くの兵士たちを
『行方不明として処理』してきたエルヴィンは
ミケの最期がどうだったか、安易に想像することが出来た。
・・・ミケ、あいつが巨人に…一体、何があったんだ…
エルヴィンは天井を見つめながら、
調査兵団でもトップクラスの精鋭のミケが
巨人に喰われたということは、
得たいの知れない巨人が他にもいると確信していた。
そして視界の中に涙ぐむイブキが飛び込んできた。
「なんだ…イブキ…泣いているのか?」
「だって…急にミケの話するから…」
イブキは手のひらで涙を拭きながらも
自分の気持ちを抑えるかのように笑みを
浮かべエルヴィンを見つめていた。
-
- 16 : 2013/12/14(土) 23:34:23 :
- ・・・おまえは…幸せだったのか…ミケよ…
エルヴィンはイブキの涙を拭いてあげる
力もなければ気力もないために眉間に
しわを寄せいていた。
「エルヴィン、何?そんな怖い顔しないでよ!
私とミケのこと…そんなに気になっていたの?」
イブキは涙を浮かべながらイタズラっぽく言うと
無言になってしまった。
「そんなことないよね…
だって、あなたはうなされながらも
名前を呼ぶほどの女性が心の中にいるのだから」
「あぁ…この手帳、すまなかったな…」
エルヴィンは枕元に視線を送り
手帳を持ってきてくれたことに礼をしていた。
そして、ミケが『鼻で雰囲気を感じ取って』
描いたものだと話していた。
「ミケもいなくなり、俺の腕もこれじゃ…
もうこれ以上、この絵は増えないか…」
イブキはエルヴィンの話を聞くと再び涙した。
「ミケはやっぱり、すごいね…」
エルヴィンは涙するイブキを見ると、
まだ力は入らないままの残った左手を
今出せる力を振り絞って差し出した。
「イブキ、すまない…俺の命令に従って
命を落としたミケは…俺が殺したようなもんだ…」
「そんなことない!そんなことないよ…」
イブキはエルヴィンの左手を両手で握ると
額に当てた。
そしてイブキの温かい涙が自分の腕に
伝うのをエルヴィンは感じていた。
-
- 17 : 2013/12/14(土) 23:34:47 :
- ・・・ミケ、ミランダ…俺はイブキを…? いや、よそう…
温かい涙を感じたエルヴィンはこれまで
何度かイブキの言動や行動に翻弄されてきたが
また新たな気持ちが芽生えそうな
自分の気持ちを抑えていた。
意識を回復させただけで身動きできないエルヴィンは
その日はイブキと話したりすることで
生きていることに安堵していた。
翌朝。イブキがエルヴィンの病室に向うと、
手には花を持っていた。
ミケのことを考えると寝られないイブキは明け方、
本部の周りを散歩していると見つけた
小さなうす紫色の花だった。
・・・殺風景な病室よりも、まだいいよね…
小さなガラスの花瓶に花を飾りイブキがエルヴィンのそばに座ると
目を覚ました。
「おはよう!エルヴィン、今朝の具合はどう?」
「あぁ…相変わらずだ」
エルヴィンはまだまだ疲れた憔悴しきった顔を
イブキに向けていた。
「でも、やっぱり、食事はしないといけないよ…」
イブキはエルヴィンを抱えるように上体を起こすと
どうにかベッドの上に座ることが出来た。
-
- 18 : 2013/12/14(土) 23:35:06 :
- 「痛くなかった?大丈夫?」
「あぁ…なんとか…」
エルヴィンは痛みが走るもののイブキが
甲斐甲斐しく世話をする姿を見ると
痛みにも耐えていた。
そしてイブキが食事の用意をし始めていた。
「なんだ!食欲あるじゃない…!」
イブキが笑みを浮かべスプーンを
エルヴィンの口元に運ぶと彼は温かい気持ちに包まれた。
・・・この気持ちは…
ミランダと一緒にいたとき以来、感じたことない…
エルヴィンは懐かしい温かさと共に食事を終えていた。
「あぁ、エルヴィン、起きているついでだから、身体も拭こう」
「え、あぁ…わかった…」
目の前のイブキが丁寧にシャツのボタンを外すと
エルヴィンは改めて複雑な気持ちになっていた。
-
- 19 : 2013/12/14(土) 23:35:31 :
- ・・・俺は一体、イブキを…?
イブキが温かいタオルで丁寧に胸元や背中を拭いていると、
右腕に痛みが走った。
「うっ…」
「ごめん…大丈夫?痛かった?」
「あぁ…大丈夫だ、気にするな」
エルヴィンはイブキの心配そうな顔を見ると
ミランダが『恋』をしてもいいと夢で言われたことを
思い出していた。
・・・俺は…二人の女に翻弄されているのか…
イブキが再びエルヴィンのシャツのボタンを閉めていると
含み笑いをした。
「エルヴィン、また笑ってる…!」
「いや…何でもない、ありがとう、イブキ」
イブキがエルヴィンを抱え寝かせると、
片付けのために一旦病室を離れた。
「俺は…イブキに…でも、愛するのはミランダだけだ…」
思わず独り言を言ったエルヴィンは
枕元にあるミランダが描かれた日記に視線を送っていた。
イブキが世話をしているうちに、ベッドに抱えられながらも
座れるくらいの動きは出来るようになっていたエルヴィンは
自分が病室にいる間、作戦がどうなっているか気になっていたが
イブキを目の前にすると、あえて気にしないようにしていた。
-
- 20 : 2013/12/14(土) 23:35:52 :
- ・・・まぁ…リヴァイを始め…他の皆がやってくれるだろう…
イブキはエルヴィンの隣に座ると、
憔悴しきっていた顔が少しずつ穏やかな顔になっていることに
気づくと安堵していた。
・・・よかった…一安心か…
そのとき、軍医が病室に入ってきて
エルヴィンの調子を看ながら話し出した。
「団長…明日、駐屯兵団のピクシス指令が面会に来たいと
申し出があり…お受けしてもよろしいでしょうか?」
その声を聞いたエルヴィンは顔が引き締まり、すぐさま返事をした。
「もちろんだ、今すぐでも私は構わないが」
「いいえ…ご無理をなさらずに、予定通り明日ということで、返事をします」
軍医はエルヴィンの病室を後にしながら
・・・ここまで回復が早いのは…やはりイブキのおかげか…?
口角をあげながら、病室を出ると
駐屯兵団に面会の許可の返事をすることにした。
「エルヴィン、大丈夫なの?まだ万全ではないのに…?」
「俺は大丈夫だ、気にすることはない…」
「そう…ホントに無理はしないでね」
「あぁ…わかった…」
エルヴィンはイブキの心配そうな顔を見ると、
なぜか安心感に包まれていた。
「エルヴィン、もう寝る時間だよ」
太陽が落ちて、部屋が暗くなるとイブキは
ランプに火を灯していた。
病室は温かい灯りに包まれると、
エルヴィンを寝かせるために抱きかかえ
毛布を被せていた。
-
- 21 : 2013/12/14(土) 23:36:17 :
- 「明日、面会が来るなら、私は来ない方がいいかな?」
「なぜだ?」
「だって、大事な作戦の話があるだろうし…」
「いや、そばにいてくれ、誰が俺を起こしてくれる?」
「まぁ…それもそうね」
イブキは微笑みエルヴィンを見ていた。
「それじゃ、また明日ね…おやすみ…えっ?」
エルヴィンは自分の部屋に戻ろうとするイブキの手を
回復しつつある左手で握った。
「今夜はそばにいて欲しい…」
「えっ…」
エルヴィンはまた翌日から始まるであろう、
過酷な毎日を考えると、穏やかな気持ちにさせてくれた
イブキのそばにいて欲しいと思っていた。
「エルヴィン…?」
イブキが戸惑いながらエルヴィンの顔を見ていると
・・・イブキ、ダメだ…
そのとき、ミケの声がイブキの心の中に沸いてきた。
・・・ミケ…私の身の危険を察知した…?
イブキはイタズラっぽくエルヴィンに微笑むと
「エルヴィン…『ミケがダメ』だって…!でも、明日は早く来るから…ね!」
イブキはエルヴィンの手を握り返すと、そのまま病室を後にした。
・・・ミケが…おまえはイブキを見守っているのか…
エルヴィンは天井を見ながら笑みを浮かべていた。
・・・ミケ…大丈夫よ、私はあなただけだから…
イブキはミケの声がしてきた胸を押さえ微笑みながら
自分の部屋に戻っていった。
翌朝。イブキは早くからエルヴィンの病室へ向かい、
前日にガラスの花瓶に飾っていた小さなうす紫の花を取り替えていた。
-
- 22 : 2013/12/14(土) 23:36:37 :
- 「イブキ…おはよう…」
「エルヴィン、おはよう!起こしちゃった…?」
「あぁ…もう起きようとしたところだ」
イブキはエルヴィンを抱え起こし、ベッドに座らせた。
「みんなが来る前に身体拭くね」
「あぁ…頼む…」
イブキがエルヴィンの身体を拭いていると、
いつもより心臓の鼓動が激しいことに気づいた。
・・・久しぶりに作戦の話をするから、緊張しているの…?
イブキは深く気にせず、いつものように身体を拭いて
また丁寧に服を着せていた。
「ありがとう、イブキ…」
「ううん、いいのよ!」
イブキがエルヴィンに笑顔を向けたときだった。
「お主は…いつも美女に囲まれて羨ましいのう…」
そこには駐屯兵団のドット・ピクシス司令が
部下である女性兵士のアンカと共に現われた。
-
- 23 : 2013/12/14(土) 23:37:02 :
- 「ピクシス司令、わざわざ恐れ入ります」
「具合はどうじゃ?」
「少しずつではありますが、回復してきています。
ご迷惑をおかけしました」
エルヴィンのそばに座ったピクシスは安堵の様子を見せた。
そしてリヴァイが次に来て、イブキの様子を見ると舌打ちをした。
「イブキ、なんでてめーがここに…?情報収集はどうした?」
「私はエルヴィンの世話を優先している。情報は未だ…」
イブキは伏目がちになっていた。
「リヴァイ、まぁ…座れ、報告から先だ」
「あぁ…エルヴィン、右腕は残念だった…」
リヴァイもエルヴィンのそばに座ると話し出した。
イブキは身体を拭いたタオルの片付けのために病室から出ると、
廊下で会ったのはハンジ・ゾエとコニースプリンガーだった。
「ハンジ…!あなたもケガしたって聞いたけど、大丈夫なの?」
「あぁ、イブキ、私は大丈夫だよ!ありがとう」
イブキは元気そうなハンジを見ると安堵していた。
「そうだ…イブキ、実はこのコニーは104期で…」
ハンジは連れてきた目的はコニーは
エルヴィンと話があるためだったが
ミケの最期の姿を見たコニーだと思い出し、
そのことをイブキに話していた。
-
- 24 : 2013/12/14(土) 23:37:32 :
- 「え…あなたは…ミケの最期の姿を見たの…?」
「はい、俺たちはミケ分隊長に守られていましたから…」
イブキは息を飲みながら、コニーの話を聞いていた。
「そう…」
コニーはイブキが悲しそうにうつむく姿を見る
意を決したように話し出した。
「でも…ミケ分隊長が巨人に挑むあの姿は
なんというか…かっこよくて、男の中の男って感じで
俺もいつか、ああいう調査兵というか、
男になりたいと思いました…!」
「ミケ…!」
イブキは思わずコニーを涙ながらに抱きしめていた。
・・・俺はこんな美人に抱きしめられている…!
調査兵になってよかったかも
コニーは憲兵団に所属できる成績を
修めたにも関わらず、調査兵になったことに
後悔していたこともあったが、
調査兵になってよかったと思えた瞬間を迎えていた。
-
- 25 : 2013/12/14(土) 23:37:57 :
- 「コニー…ありがとう…ミケの最期が聞けてよかった。
あなたもミケの遺志を継いで立派な調査兵、
いや、男になってね…」
「はい…!」
最後は微笑むイブキに見送られると、
ハンジとコニーはそのまま
エルヴィンの病室に入っていった。
「ミケ…あなたは…最期まで使命を果たしたのね…」
イブキはタオルを洗うため洗い場にきたが、
ミケを思い出すとそのばにうずくまってしまった。
「ミケ…」
そしてミケが死んだことを勘付いたあの日以来、
声を抑えて泣くのは初めてだった。
・・・もう…ここまで泣かないと決めていたのに…
イブキが冷たい床でうずくまり泣いているときだった。
・・・イブキ…俺は大丈夫だ
「え?ミケ…?」
また心の中でミケの声が沸いてきたように
聞こえたかと思うと、イブキの背中が温かくなった。
「この温かさ…ミケだ…」
イブキはミケに後ろから抱きしめられたときの
ぬくもりを背中で感じていた。
「ミケ、私もいつまでも悲しんでいられないよね…」
洗い場の窓際に立ったイブキは窓を開け、
ミケがいるであろう空に向けて笑顔を向けていた。
・・・ミケ、ありがとう…愛している…
イブキの背中はさらに温かさが増しているようだった。
「あれ?ハンジたち…?帰るんだ…?」
イブキは窓の外から、
ハンジを始めエルヴィンの病室へ見舞いと称して
エルヴィンが寝込んでいた1週間の間にあった出来事を
報告しにいた皆が帰っていく様子を見送っていた。
イブキがエルヴィンの病室に戻ると、軍医から診察を受けていた。
-
- 26 : 2013/12/14(土) 23:38:22 :
- 「団長、あれだけの話を聞いてお疲れになったでしょう、
今日はもうゆっくりしてください」
「いや…執務室へ戻らねば…!」
「団長…!」
エルヴィンは皆からの報告を聞くと、
これ以上寝てられない、とベッドから降りて
自分の執務室に向おうとしていが、
それを軍医が阻止していた――
「エルヴィン、何しているの!?」
イブキが病室に入った瞬間、
エルヴィンが失った右腕の傷に痛みが走り、
うめき声上げながら、ベッドにうずくまった。
「…団長!」
「エルヴィン…!だから言ったでしょう…!」
イブキはエルヴィンの肩を抱きながらベッドに寝かせた。
軍医がエルヴィンの腕を看ると、
出血は見受けられないために安堵していた。
「焦るのはわかるけど、今は治療が優先だよ…!」
イブキがエルヴィンをなだめる姿を見ると、
軍医は安堵で胸を撫で下ろすと
病室を後にして二人きりにした。
-
- 27 : 2013/12/14(土) 23:38:42 :
- 「あぁ…わかっているが、もうこれ以上、寝てられ――」
エルヴィンがイブキの顔を見ると、涙の痕を見つけた。
「イブキ、泣いていたのか…?」
「え、まぁ…さっき、コニーからミケの最期を聞いたから、それで…」
「そうか…」
イブキが落ち着いたエルヴィンの様子を見ると
ベッドの隣の椅子に座り目を伏せていた。
「やっぱり…ミケはすごいね…」
「そうか…」
エルヴィンはイブキがムリに微笑む姿を見つめていた。
・・・イブキ…おまえは、それほどミケを愛するのか…
エルヴィンは天井を見据えると、その心では
何かが締め付けられる感覚がしていた。
「そろそろ、俺も復帰しなければならないが…」
「それより、身体が大事!優秀な部下を信じてあげなきゃ…!」
「あぁ…そうだな…イブキ、
すまないが、久しぶりに皆とたくさん話して喉が渇いた。
水を飲ませてくれないか?」
エルヴィンはイブキの方に身体を向けて話すと、イブキは
『水飲み』を用意して、ベッドのそばに膝をついて床に座った。
そして、イブキがエルヴィンの口元に近づいた時――。
・・・イブキ、避けろ…
「えっ…?」
イブキの心にミケの声が沸いてくるように聞こえた瞬間、
エルヴィンは左腕に力をこめてイブキを抱き寄せた。
-
- 28 : 2013/12/14(土) 23:39:03 :
- 「どうしたの?エルヴィン…?」
「俺は弱っているんだ…!かわいそうだと思わないか?」
エルヴィンがイタズラっぽくイブキに言うとイブキも微笑んだ。
「確かにかわいそうだけど…片腕だけでも力強いのね…!」
「まぁ…ね…!」
エルヴィンがイブキをさらに抱き寄せ、お互いの顔が近寄り
息遣いがわかるくらいの距離に近づいてきた。
「…エルヴィン、また、こんなことして…!
ミランダさんが許さないかもよ…!」
「いや…ミランダからの『許可』はもらった…」
「えっ…?」
イブキが戸惑っていると、
エルヴィンはイブキの唇にそっとキスをした。
「もう…エルヴィン…!
ミランダさんからの許可はもらったって…
でも、ミケは許さないと思う…」
イブキが意味深な笑みを浮かべてエルヴィンを見つめると
「ミケが…!?うっ…」
右腕にまた痛みが走りエルヴィンはうめき声を上げていた。
「ほら…ね!」
イブキはイタズラっぽい顔をするも、
エルヴィンは痛みで苦痛の表情を浮かべていた。
無理な体勢でイブキを抱き寄せた影響か、
それともミケからの本当に『反撃』があった影響なのか、
エルヴィンの右腕に痛みが走ったことには変らなかった。
-
- 29 : 2013/12/14(土) 23:39:39 :
- 「もう…大丈夫?また軍医さん呼ぶ…?」
「いや、必要ない。ミケからの攻撃なら、受けて立つよ」
エルヴィンは冗談っぽく答えると、天井を見据えていた。
そして痛みが治まると、ゆっくり話し出した。
「イブキ…俺は死んでもおかしくなかったのに…
ここまで回復できたのは君のおかげだと思っている。
ありがとう…」
「私は大したことしてないから、気にしないで…!」
「あぁ…だが、俺が復帰できるまで、そばにいて欲しいのだが…?」
その顔をは紅潮させ照れている様子だった。
「ミケに聞かなきゃ…!」
そのときはミケの声はイブキの心には沸いてこなかった。
・・・やっぱり、ミケは私に危険が及ぼうとしたときだけ
声を掛けてくるとか…?
「私は構わないけど…また私に何かしようとしたとき、ミケからの
攻撃があるかもしれないけど、それでもいいの…?」
「あぁ…受けて立つよ」
イブキとエルヴィンはお互いに見つめあうと、
笑みがこぼれていた。
・・・ミケ…私がエルヴィンのそばにいても、
私はあなただけだから…
エルヴィンはイブキの手を握ると、
笑みを浮かべ疲れもあり、
安堵から睡魔に襲われるとそのまま眠りについた。
・・・ミケ…すまないが、今の俺にはイブキが必要だ…
エルヴィンは安堵していた寝顔が
痛みで苦痛を何度か浮かべ、イブキを心配させるが
そのまま寝息を立てていた。
・・・ミケの反撃…さっそくあったのかな…
イブキはエルヴィンの寝顔を見た後、
ミケがいるであろう、
窓から見えるどこまでも広がる青空を
目を細めながら眺めていた。
-
- 30 : 2013/12/14(土) 23:41:37 :
- ★あとがき★
エルヴィンが右腕を失ったのに
髪が乱れ、無精ひげの姿に渋さに
ノックアウトされたエルヴィン好きな私は
『密めき隠れる恋の翼たち』の続編として描きました。
エルヴィンのあの『笑み』にはいろんなことを
想像させられますが、その『笑み』から色々想像して
書き上げました。
短編にする予定が結局、また長くなりましたが
短期間で仕上げたので一気に載せることにしました。
誤字脱字で読みにくい点がありましたら、
申し訳ありません。
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密めき隠れる恋の翼たち~ シリーズ
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