このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
SIDESTORY:般若 Re:過去 [双赤星外伝]
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- 1 : 2016/09/11(日) 20:37:38 :
- このSSは「東方双赤星シリーズ」の外伝です。
オリキャラを含みます。
若干設定間違っているかもしれないけど許してthpr
命蓮がいます。
それでもいいならゆっくりしていってね!
http://www.ssnote.net/series/3015/←こっちが本編です。
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- 2 : 2016/09/13(火) 23:45:03 :
- これは、自らを知らず、故に先の読めない運命に巻き込まれてしまったひとりの僧侶の話である。
あまりにも速い自身と周りの変化に順応するために、彼女はどのように運命を選択するのだろうか。
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- 3 : 2016/09/13(火) 23:46:04 :
SIDE STORY 般若
Re;過去
「姐さん、どうしたんですか、その子。」
今から千年以上前、幻想卿にひとつの寺があった。
照蓮寺(しょうれんじ)。
住人は人間、妖怪あわせて8人。
この頃は狂暴な妖怪が多く、妖怪による虐殺、および人間から妖怪に対する恐怖、そして弱い妖怪、比較的善良な妖怪への虐待が現在より蔓延していた。
そんな中で、人妖ともに受け入れる寺はここしか無く、その存在は周りに不気味がられており人間の能力者達による制裁までは秒読みだった。
住職は、聖 命連。
徳を積み、若くして寺の住職になった名僧である。
美少年で、髪は青紫に黄色のグラデーションがかかったような色をしている。
彼には姉がいる。
聖 白蓮。
心優しい姉で、彼と同様、人間と妖怪の共存を望む数少ない人間である。
白蓮は、命連と尼僧達、幽霊や妖怪に囲まれている。
彼女の腕にはひとりの少女が抱えられていた。
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- 4 : 2016/09/15(木) 23:51:15 :
「道端に倒れていたのですよ。 衰弱しているみたいですから早く治療しましょう。」
ボロボロの服を着た血まみれのその少女は、かすかに目を開いている。
その目に映ったたくさんの妖怪を恐れているのか、体が震えている。
白蓮、命連がそばに跪き、使い古しているのか古い巻物を広げる。
二人が同時に経読を始めた。
命蓮が身体の蘇生の呪文を唱え、白蓮はそれのサポートをしている。
小さく、なおかつはっきりとした声はまるで少女の傷に吸い込まれるかのように消えた。
しばらくすると傷が閉じ、冷え切った体に体温が戻る。
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- 5 : 2016/09/16(金) 23:18:29 :
「う・・・ うわぁぁぁッ! 来るなアアアッ!!」
体に感覚が戻った瞬間にその少女は白蓮の腕から抜けて妖怪達とは反対の方向に走りだし、塀のそばの大木の後ろに身を潜めた。
恐る恐るちょこっと顔を木から出すと、反対側から顔を出す者と目が合う。
「ひゃぁっ!!」
思わず身をかがめると、今度は木からにょっと顔が出て来る。
「えっ・・・ うわぁっ!!」
短い悲鳴をあげて後ずさりすると、背中に何かが当たる。
冷たい塀に後ろを塞がれていて、逃げ道が完全に無い。
少女をまじまじと見つめる僧と妖怪を前に、恐怖で体が硬直してしまった。
「こ・・・ 来ないで・・・ 私・・・ まだ・・・」
さっき木をすり抜けて来た、彼女より少し年上に見える少女が駆け寄り、しゃがんでにっこりと笑う。
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- 6 : 2016/09/18(日) 01:39:25 :
「私、村沙。 ここの妖怪は何もしないから大丈夫だよ!」
村沙 水蜜。
どうやら幽霊らしく、木をすり抜けたのはそのためらしい。
この時代ではまず目にしない水兵服を着ている。
気が付くと後ろには僧と妖怪が全員集まっていた。
「そうだよ、ここの妖怪は殺生は絶対にしない。
お嬢ちゃん、名前は?」
その少女は命連を見つめて黙り込んだ。
恐れているというより、困惑しているようだった。
「僕達は何もしないから、さあ、名前を教えてよ。」
何か言いたそうだが、それを口に出せずにいる。
冬の冷たい風がびゅうびゅうと吹き、白蓮の長い髪がなびく。
「もしかして・・・ 名前が分からないのでは?」
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- 7 : 2016/09/19(月) 00:09:22 :
さっき目が在った少女の発言は合っているようで、小さく頷いた。
雲居 一輪。
この寺の修行僧らしく、両側の腰に黄金色の輪をぶら下げている。
髪は青色で、真面目そうな顔つきだ。
「それじゃあどうする? 名前がなければ家に帰せないし・・・」
寅丸 星。
この寺では3番目に偉い毘沙門天の代理の虎の妖怪。
「それなら身元が分かるまでここに泊めましょう。 それの方が安全です。」
白蓮の一言が決定打となり少女はこの寺に預かられた。
どうやら記憶を失っているようで、妖怪に襲われたところから前の事をまったく覚えていないらしい。
彼女は寺の一員達によって、“智慧”と名付けられた。
智慧は白蓮からの恩を返すために熱心に部経を進行し始めた。
その熱心さは命連も関心する程で、将来立派な僧になると彼は確信した。
また、村紗、一輪と仲良くなり、修行の時以外はいつも三人で鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでいる。
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- 8 : 2016/09/19(月) 23:46:13 :
そして時は川の濁流のように流れ、智慧は推定17歳になった。
幽霊の村紗は成長しないが、一輪は雲山を手なずけて入道使いという妖怪になり、一方智慧は仏教をすすめ徳の高い僧になった。
この時、命蓮は重病にかかっていた。
彼の呪文は蘇生をメインとしたものだが、彼は、呪文を使う度に寿命が縮んでいる事を知らなかったのである。
あと一年も持たないらしく、それでも彼は「僕一人の命で数人が助かったならそれでいい」と言っているそうだ。
そんな秋のある朝、智慧の運命は劇的に変わり、どん底に落ちてしまう。
それは彼女の“勘違い”によるものだが、それによって全てを失うことになってしまう。
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- 9 : 2016/09/22(木) 16:24:35 :
「ふぁあーー、よく寝たなぁ・・・ でも今日は村紗に起こされる前に起き・・・ん、何か体が変な感じが・・・」
起きてすぐに違和感を感じ、畳を転がりながら鏡に向かう智慧。
この時代にはなだガラスとアルミニウムや銀を使った鏡は研究されておらず、金属を磨いて作った者しか無い。
目をこすりながら寝ぼけた状態で鏡の中の彼女に目を合わせる。
「ん・・・? な・・・ え・・・」
言葉が出なかった。
髪がグラデーションがかかったような赤に、肌が砂のような乾いた白色に、結膜が黒に、瞳孔が黄色に変色している。。
体の筋肉が増加し、皮膚の一部が硬くなっている。
そして・・・
「角が・・・ 生えて・・・!?」
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- 10 : 2016/09/25(日) 20:31:38 :
「おーい、智慧~! 朝飯だぞー!」
遠くから村紗の幽霊とは思えないような元気な声がきこえる。
彼女は朝食をとらないが、必ず智慧を呼びに来るのだ。
いつもは元気に、もしくはだらけて答えるのだが、今の智慧にそれはできなかった。
今の彼女にとって、それは恐怖でしかなかった。
「おーい、返事し・・・ あれ?」
村紗が壁をすり抜けて部屋を覗くも、そこには誰もいない。
ふとんも片付けられておらず、ついさっきまでだれかが居たようにしか思えない。
この光景には、幽霊である彼女にとっても不気味に感じ取られた。
「え・・・ 智慧・・・?」
ふとんを見ると、枕に毛が付いている。
村紗はそれをつまみ上げた。
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- 11 : 2016/09/25(日) 20:32:28 :
「智慧のじゃない・・・」
元々、智慧の髪は黒かった。
しかし、この髪は赤い。
「村紗~、一体どうしたんだー?」
続いて村紗が来るのが遅いのを不審に思った一輪も部屋に入る。
乾いた風が吹き込み、村紗がつまんでいる毛が吹き飛んだ。
異常な事態が発生している事を、冷静な彼女はすぐに察知した。
「雲山ッ! 姐さんを連れて来てくれッ!!」
一輪の背中あたりから桜色のガスが吹き出る。
それはすぐに大きな人のような形になり、白蓮のいる茶の間へと砂嵐の如く飛んで行った。
聖 白蓮が智慧の失踪を把握したのは、智慧が起床してから8分あとのことであった。
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- 12 : 2016/09/25(日) 20:33:18 :
照蓮寺の全員が部屋をくまなく探した。
一輪、白蓮、修行僧達は敷地の外も探したが、果たして見つけることはできなかった。
ただ、一つだけおかしな点があったのだ。
智慧が寝ていた部屋の隣の部屋、そこは客をもてなす為の部屋なのだが、そこの家具の殆どが壊れていたのだ。
智慧にはそんな力がなかったため実行不可能である。
それに、更に謎を深めたのが、“天井に何かがぶつかった痕がある”ことである。
天地がひっくり返らない限りこんな傷を残すのは不可能だと思われた。
結局、その後智慧が照蓮寺に来ることは無かった。
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- 13 : 2016/09/26(月) 16:46:14 :
程なくして、再会を果たせぬまま、聖 命蓮は29歳でこの世を去った。
その時を待っていたかのように寺は能力者達によって占拠され、彼らによって取り壊された。
そしてしばらくの間、残った者は聖輦船の上での生活を強いられた。
彼が命を落としたことによる死の恐怖、そして家族も同然の存在が突然いなくなったことが強く影響したのか、白蓮は魔法に手を出した。
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- 14 : 2016/09/26(月) 21:39:35 :
智慧は怖かった。
この体の変化が仲間に知られることが。
親友達に知られることが。
恩師に知られることが。
知られるとみんなが怖がるから。
ただ恐怖から逃げるように、頭巾で顔を隠しひたすら走った。
ひたすら走り続け、足から血が出るまで走り続けた。
きっと、私は悪い事をしたんだ。
私は徳をつんでいるとおもっていたけど知らないうちに不徳な行いをしていたんだ。
私は、なんて最低な人間、いや、バケモノなんだ。
走りながら、彼女は自分を責め続ける。
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- 15 : 2016/09/26(月) 21:40:20 :
それは違った。
智慧は、般若になったのだ。
般若とは、徳を積んだ僧の体質が稀に変化し、誕生する存在である。
善い行いをした者が必ずなるわけではないが、般若になった人は皆徳の高い僧なのである。
しかし、それを知る者は少ない。
強烈なインパクトを放つその体は、人間にも妖怪にも恐れられる。
その姿は鬼に酷似しているからだ。
鬼はその力の強さから人間にも、その他の妖怪にも恐れられ、差別された。
この事実を知っているのはごく一部の僧だけで、照蓮寺には命蓮と白蓮しかいなかった。
般若になった者は智慧のように姿をくらまし、鬼に間違われて退治されるか、自ら命を絶つかで生涯をすぐに終えてしまうからだ。
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- 16 : 2016/09/26(月) 23:38:00 :
気が付くと、智慧は森の奥に来ていた。
この時代では、森ほど危険な場所はない。
狂暴で、見た者は構わず殺し捕食する妖怪が非常に多いからだ。
「ん・・・?」
智慧は、ふと気配を感じた。
後ろから誰かがつけて来ているように感じる。
頭巾を強く握り振り向いたが、強化された視力をもってしてもうっそうと茂る常緑樹しかない。
「美味しそうな人間じゃねぇか。」
いつの間にか回り込まれていた。
「さっさと肉をアタシによこせよ・・・。」
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- 17 : 2016/09/26(月) 23:42:04 :
白い髪の毛に、犬のような耳、鋭い牙。
ミハイル。 狼人。
肉食性の獰猛な妖怪だ。
「私に・・・ 近づかないで・・・」
「それじゃあ食えないじゃねえかよ・・・」
遠ざかっても近づいてくる。
そして頭巾から顔を覗こうとしてくる。
「やめて・・・ 私の顔を見ないで・・・」
しかし、頭巾は爪で引き裂かれ、顔面が露出してしまった。
つぎはぎだらけの布の袋に詰め込まれていた綿が飛び、うっそうとした木々の葉に当たって落ちた。
その瞬間、その狼人の顔が青ざめた。
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- 18 : 2016/09/27(火) 00:03:35 :
「え、お・・・ うそ・・・」
狼人が慌てて走り出し、遠ざかろうとする。
ああ、やっぱり私は醜い妖怪なんだ。
「そうだよね、私・・・ 醜いよね・・・」
その見た目とは対照的な哀しげな声に違和感を持ち、狼人の足が止まる。
そして恐る恐る智慧に近づき、顔を覗き込む。
どう考えても鬼だ。
それなのに、この大人しさ、それに人間らしさ・・・
「お前、何者なんだ・・・?」
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- 19 : 2016/09/27(火) 00:04:13 :
智慧は、彼女に全てを話した。
「そうか・・・ ならアタシはお前を食ってもいいんだな?」
「殺生はよくないよ。 やたらめったらに生き物を殺したら罰が当たる。」
それは実に仏教徒らしい答えだった。
「ふうん・・・ 怖い顔のくせに優しいんだな。」
「こんな姿になっても教えは絶対に守る。 それしか私には・・・」
ミハイルはここまで強い信念を持った人を見たのは初めてだった。
もっとも、人間を見つけた瞬間に捕食しているので話したことすら無かったが。
この信念に惚れ込んでか、ミハイルは智慧が森に来た時はもてなすようになった。
彼女の住処は、洞穴の中に小さな綺麗な丸い空間があるだけの簡素な造りだったが、椅子を作り、来る度に部屋の汚れを落とした。
掃除する度に部屋の半径が約1ミリずつ増えていったので、数百年、週に一度くらいのペースで来るとかなりの広さになった。
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- 20 : 2016/09/27(火) 22:59:06 :
ミハイルの所にいない時は、智慧は都をさまよっていた。
顔を見られないように藁傘を被り、修行僧のふりをしてなんとか食いつないでいた。
しかし、それでも彼女の顔を見られてしまう。
外の世界で産業革命が起こったころのある秋の昼下がり、台風の接近による強い風邪が吹いていた。
びゅうびゅうと風の笛が鳴り響く中、何かが家の扉に当たる。
「ん、何だ?」
家には夫婦と二人の幼い子供がいた。
男は誰かが戸を叩いたと思い、立ち上がった。
「あなた、扉を開けたら風で家が吹き飛ぶわ。 外の人には申し訳ないけど無視しるしか・・・」
「そんなにこの家がもろかったらもう潰れてるはずだろ。 大丈夫だって。」
扉はゆっくりと開かれた。
その音は、暴風の甲高い音に無力にかき消された。
男の目の前には、傘を取ろうとする者がいた。
そかし、その顔には、白く鋭い異様な物があった。
「あ・・・ ああ・・・」
その一瞬、智慧は無音の空間にいるかと錯覚した。
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- 21 : 2016/09/27(火) 22:59:40 :
男は慌てて部屋の中から何かを取り出した。
黒光りする短い物体を持っている。
その鉈の先端は紙の先のように細かく研ぎ澄まされており、妖怪でも斬られたらたまったものではない。
「来るな・・・ 俺の家族には指一本触れさせないぞ!!」
その声は震えていた。
少しすると、角の生えた少女は無言で立ち去って行った。
その表情はいっそう暗くなっており、黄色い目からは輝きが失われていた。
彼女の所だけ雨が降っておらず、近付いた水滴は高速で上空へと打ち上げられた。
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- 22 : 2016/09/30(金) 00:52:10 :
数時間後、藁傘を被った僧侶は誰も通りそうにない路地の裏にしゃがみこんでいた。
路地裏は比較的風が弱く、屋根の下にいれば若干なら雨も防げる。
それに、ここなら誰かに見られることも無い。
智慧は傘を外し、雨に濡れた赤く長い髪をほぐした。
人間だった頃に比べると異常に水が落ちやすく、すぐに髪は乾いた。
慣れない体に対する憎悪がいっそうこみ上げてくる。
こんな体じゃあ幸せに生きてゆけない。
どうして私はこんな不幸な目に遭わなければいけないのだろう。
そう考えている間にも、何かを叩くような音が小刻みに聞こえてくる。
人間が歩いてくる。
三人程の男の下駄が硬い地面に足跡を残す音だ。
智慧は急いで立ち上がり、顔が見えないように傘を被り直した。
少しすると、顔に傷やあざがたくさん付いた、いかにも悪事を働きそうな顔をした男達が智慧の前を通り過ぎようとした。
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- 23 : 2016/10/06(木) 11:21:22 :
しかし彼らは、通過することなく彼女を取り囲むようにして止まった。
一瞬、智慧はこの状況を理解できなかった。
「こんな所を一人で歩くなんてよぉ、命知らずだなぁ坊さんよぉ。」
酒に酔ったようなのらりくらりとした大声と同時に、智慧は他の二人に両腕を掴まれた。
「やめて、離し・・・」
「おいおい、こいつぁ女じゃねぇかよぉ。 今日は大収穫だなァ!」
その声に賛同するように両側の二人も完成をあげる。
やっぱり私は不幸に見舞われる運命なんだ。
ここで私は死ぬんだ。
そう思うと同時に、今までの彼女にはなかったある感情が浮かんだ。
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- 24 : 2016/10/06(木) 11:28:03 :
- 殺意。
死ぬまで抱くことは無いと思っていた感情が、無意識に芽生えていた。
何かが爆発したような爆音を聞きふと気が付くと、彼女はもう誰にも拘束されていなかった。
周りを見渡すと、まるで岩か何かに押しつぶされたように潰れた家屋が円状に広がっていた。
足元には、雨水で薄れた赤黒い液体、そして頭から全身にかけてグシャグシャになった男達の死体が転がっていた。
「い・・・ いやぁぁぁっ!!」
自分がした事を認めたくないので、智慧はその場にうずくまり、ただ怯えることしかできなかった。
その数秒もたたないうちに、彼女の姿はそこから消え去った。
もと居た場所には、智慧のともう一つの真っ赤な足跡が残っていたが、バケツをひっくり返すような雨に流されすぐに消えてしまった。
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- 25 : 2016/10/09(日) 00:40:07 :
「んん・・・? ここは・・・?」
気が付くと、智慧は毛布にくるまれ、ソファに横たわっていた。
起き上がり周りを見渡すと、オレンジ色の炎をあげる暖炉、大きな本棚、リンゴと書類が置いてあるテーブルが見える。
どうやらここは家のようだと察した。
壁には不気味なペストマスクが飾られており、得たいの知れないところに来てしまった智慧の恐怖心を煽った。
「ここは・・・ どこ・・・?」
立ち上がると、床がギシギシと音をたてる。
「やっと起きた・・・ どこか痛いところはない?」
床のきしみで気が付いたのか、本棚の辺りから声がする。
そして、同じようなきしみの音が本棚の後ろから聞こえた。
「やれやれ・・・ 今まで、君は本当につらい思いをしてきたようだね。」
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- 26 : 2016/10/09(日) 00:40:45 :
- その姿は、白っぽい長い髪を生やした女性だった。
高身長な智慧でも少し見上げるほどの背の高さで、顔に小じわが目立つ。
その視線はまるで目が針に刺されるほど鋭く、口が襟で覆われているため表情が読み取れない。
「君は・・・ 般若という妖怪を知っているかね?」
「えっ・・・ はんにゃ? し、知らない・・・です。」
外ではまだ雨が降っているようで、屋根を水滴が打ち付ける音が絶えず聞こえる。
「えーっと・・・ まあハッキリ言うと君のことだよ。
君がなってしまった妖怪の通称、となるな。」
般若。
智慧はその単語を聞いたことがなかった。
自らの種族を伝えられても、突然過ぎてわけがわからない。
「まあ、とりあえず座りなよ。 お腹がすいているようだし。」
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- 27 : 2016/10/21(金) 23:29:03 :
「私達のようなマイナーな妖怪は人間どころか妖怪にすら共感を得られない。
そこでなんだ。 私達で幻想卿を作り替えるべきなんだよ。」
「は、はぁ・・・。」
「君は強い。その力は、私達にとって必要不可欠となるであろう。」
智慧は迷っていた。
彼女の、エレン。ディアモンドダスト・マインダーの話によると、我々の安泰の実現には“殺す”ことも必要になるらしい。
仏教徒である彼女にとっては最もしてはいけないことである。
「私には・・・ 無理です。 殺しなんてとても・・・」
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- 28 : 2016/10/21(金) 23:30:09 :
「今更そう思う必要はない。 お前はすでに三人も人を殺したんだ。 数が少し増えたところで何ら変わりはしないさ。」
そう、智慧は人を殺した。
無意識のうちに三人のチンピラを圧殺してしまった。
殺生をしてはいけないという定めを破ったのだからもう仏の道には戻れない。
「お前は悩みを持っている。 深刻な悩みを。 しかし私は迷いを消して楽にしてやり、本当の向かうべき運命にのせてやることができる。 そこに立って、目を閉じてくれたまえ。」
エレンの左手には、いつの間にか水晶玉が乗っている。
その無垢なガラス質の球体は、まるで心の底を映し出すかのようだ。
操られるように智慧は食卓から立ち上がり、そっと目を閉じた。
透き通った黄色い眼がごつごつとした瞼に隠れ、視界は黒一色になった。
この日、純粋な心を持つ少女が一人、底のない井戸のような闇に染まった。
TO BE CONTINUED・・・
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- 29 : 2016/10/21(金) 23:30:51 :
- 本編が進行するごとにこっちも更新します。
まあ多分来年になるだろうけど。
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- 30 : 2016/11/23(水) 21:57:39 :
- 面白いですね。楽しみにしてます。
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- 31 : 2016/11/23(水) 23:24:28 :
- ありがとうございますッ!!
受験終わったらまた投稿します。もっと鬱展開になるけどよろしく
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- この作品はシリーズ作品です
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SIDESTORY:般若 [双赤星外伝] シリーズ
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