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  1. 1 : : 2016/05/10(火) 23:28:24
    「ねえ、幸也」

    俺の隣に座る彼女ー篠崎雪見ーは、長い髪を揺らしながら俺に声をかけた。

    「できれば、名字で」

    「ねえ幸也」

    俺と交際関係にある雪見は、名字で呼べと言ってもお構いなしに幸也と呼んでくる。世間的には名前で呼び合うのが普通なんだろうが、未だに名前で呼ばれるのが照れくさくてつい名字で呼んでほしいと思ってしまう。

    今日も諦めて、ただの返事をした。最初からこれを聞き入れてくれるとは思ってなかった。


    「ああ、どうした」


    「最近元気なくない……?大丈夫?また何かされたの?」


    何かされた、か。特には何もされていない。が、強いていえば……。


    1度、いじめを受けていた時期がある。それはほぼ雪見のおかげで解消できた。


    未だに裏でいじめられてるのか、その心配をしてるのは理解しているが、毎回会う度にきかれるとうんざりする。


    そもそも、今元気がない訳ではない。単に話すことがないから黙っているだけだ。


    「いや、別に?アレは雪見が終わらせてくれたでしょ?」


    「そう?ならいいんだけど」


    午後6時半。初冬の時期ではあるがこの時間帯になると既に空は暗い。夜の空は無数の星によって綺麗に彩られている。


    雪見もいるから、早く帰ろう。そう思って、声をかける。


    「なあ、雪見」


    「ん?なあに?」


    俯かせていた顔をこちらに向ける。長い黒髪が少し揺れ、薄いピンクの唇が本当に色っぽく感じる。


    「もう、暗いしさ。帰ろう?」  


    「そう……だね。もう暗いもんね」


    そういって、俺より早く立ち上がった彼女は俺に手を差しのべる。萌え袖をしている彼女のそれに答えて立ち上がる。


    「なあ」


    「なにっ?」


    「好きだぞ」 


    「……うん」 


    俺が臭いセリフで告白すると、雪見は頬を赤く染めて抱きしめてくれた。


    でも、照れ臭くて顔を背けることしか出来なかった。


    これが俺の日常だった。

  2. 2 : : 2016/05/10(火) 23:32:02
    2日が経った。

    この2日、特にこれといったことは無かった。なかったのだが、雪見と会えていない。それは俺の中ではかなり大きかった。

    雪見とは別の学校だし、これはしょうがないのかもしれない。たったの2日間だが、心の中に大きな穴がぽこっと出てきたような、そんな感じがする。

    でも今朝届いた1通のメールで今日の俺は活気に満ち溢れている。雪見からメールが届いたのだ。中身は要約すると'放課後会えないか?'そういったメールだった。

    そのメールは俺を歓喜させるには充分だった。いや、歓喜を通り越して発狂した。事実、ベッドで暴れた。

    そういうことで、いつもは地獄としか思っていなかった授業もいくらかマシに感じる。それでもつまらないのは変わりがない。

    授業が終わる。最高速度で帰宅準備を済ませる。

    友達のいない俺は、いつも通り誰にも話しかけられず帰宅路に着く。

    あの後、雪見から待ち合わせ場所のメールが届いた。

    場所を再確認して向かう。

    雪見と会える、それだけで俺の身体は熱くなってしまう。いつものことだけど改めてそう感じた。あの場所へ脚を運ぶ。
  3. 3 : : 2016/05/10(火) 23:32:25
    待ち合わせ場所とは二日前ー雪見と最後に会った日ーのあの公園だった。たったの二日前なのにやけに遠い日のように思う。

    早く来ないかな。そう思いながら待ち続ける。

    そう思っていると人影が見えた。胸が高鳴る。雪見に違いない。

    「雪見?」

    ベンチに向かってくる人影に声をかける。

    「幸……也?」

    「ああ、俺は幸也だよ」

    「幸也……!」

    そういって彼女は腰に腕を回してきた。今度は俺も彼女を抱きしめた。久しぶりに会えて嬉しかった。背を低くして耳と耳がぶつかるぐらいの距離まで顔をうずめる。彼女の体温を直に感じる。なんて愛おしいのだろう。

    そこで彼女が涙を流しているのに気付く。なんか嫌な予感がする。

    「どうか……したのか?」

    「何でもないの……」

    「そう……」

    そういいながらも彼女は俺の胸で嗚咽する。

    何かを隠してるな。一目でわかる。雪見は、嘘はつかないが隠すところは隠す。俺に言わないのは自分で解決できるということだろう。
    なら無闇に首を突っ込まない方がいい。そう片付ける。それは帰って相手に迷惑になる行為だから。

    「何か困ったことがあったら、言ってくれよ」

    そんな言葉はただの気休めでしかない。

    「うん……」

    腰に回されている腕の力が強くなった。それを最後に身体が自由になる。

    お互い身体が自由になる。どうすればいいかわからなくて、顔を背けることしかできない。どうやらそれは雪見も同じらしい。

    照れ臭くてもう一度雪見を抱きしめてからベンチに誘導した。

    お互い腰を下ろしても、まだおどおどして顔を背けていた。






  4. 4 : : 2016/05/10(火) 23:32:43
    結局、2日ぶりに会ったが何もしなかった。

    会話なんて弾まなかったし、本当に何もしなかった。ただ、今思えば様子がいつもと何か違った気がした。

    多分ではあるが最初に泣いていたからだろう。これ以外に理由が思い付かない。まあ、明日になればいつもの雪見に戻っている。そう思いたい。

    でも会えるかはわからないけど。じゃあ寝よう。

    そうして夢の世界に飛び込んだーー。

  5. 5 : : 2016/05/10(火) 23:33:05
    昼休みの時間になる。周りのクラスメイトは「やっと半分終わった」「午後も頑張ろう」などと言っているが、これでもまだ半分だということに落胆する。

    あの後、雪見から連絡はなかった。

    いつもなら1日ぐらい連絡がなくてもどうってことなかったが、昨日なぜか雪見は泣いていた。それがどうも引っかかる。

    そういえば。雪見の涙を見るのは初めてな気がする。

    前の学校でも、進学して別の学校になってからも1度も見たことがないと思う。

    それが不安を煽ってくる。

    ずっと授業を受けていて雪見のことは頭になかったが、1度考えると止まらなくなった。

    1番可能性が高いものを考えてみる。

    いじめやら嫌がらせをされているのだろうか。

    1番ありそうなのはこれだろう。雪見にそれとなくきいてみよう。そう思った。

    雪見は今頃何かされているのだろうか……。

    心配なのでメールだけ送っておこう。

    送信完了の合図を確認してから。返信を待った。
  6. 6 : : 2016/05/10(火) 23:34:30
    学校の終了のチャイムが鳴り響く。雪見からの返信が来たか確認するべく携帯を掴んだ。

    雪見からの返信が届いていて携帯に飛びついた。

    俺はさっき身の安全を確認するメールを送った。勿論それについての返信。それ放課後の誘いのだった。

    『 本当に何もないの。今日も、会えるかな?』

    といったメールだった。雪見は「♪」やら顔文字絵文字は一切ない至ってシンプルなメールなのだ。

    『 会えるよ』

    『 じゃあ今から昨日と同じところね』

    『 わかった』

    メールのやり取りを終わらせて今日もあの公園に行く。
  7. 7 : : 2016/05/10(火) 23:36:19
    公園につくと、既に雪見はいた。

    ベンチに腰をかけていて、制服を纏って長い黒髪をそよ風が揺らしている。

    昨日と全く同じ容姿である。まあ制服なのは学校が終わってすぐなので仕方がないが。たまには私服も見たいと思っているところ。

    「あぁ、待った?」

    「あ、幸也。ううん、私も今来たばったかりだよ」

    そういって彼女はわらう。両頬にあるえくぼが、綺麗な雪見の顔の魅力を最大限に引き出している。

    隣に座ろうと思ったが、その前に雪見の後ろに回って腰に手を回す。いつもは正面を向いて腰を回すから別の方向からやってみただけ。

    「んっ……?」

    身体と身体が密着した瞬間、雪見は色っぽい声を出す。彼女の温もりを感じる。ただそれだけでも嬉しいことだった。

    「本当にさ、困ったことがあったら言ってくれよ」

    耳に口を近付けた。とてもいい匂いがする。少しだけ見える頬を紅潮させている。

    「うん……」

    心臓がバクバクする。何回もこうしたことはあるけど、今日はいつもより興奮してる気がする。

    十数秒同じ姿勢で密着していた。離れ時が掴めなくなり始めた時に雪見が口を開く。

    「そういえば、さ」

    雪見が空いているスペースのベンチを叩く。

    「うん」

    操られたように腰から手を離して隣に座る。その頬を未だに紅潮させている。

    「クリスマスって、どうする?」

    ああ、そうか。もう少しでクリスマスか。
    こんな会話を前にもしたことがある、そんな気がする。

    「俺は特に予定は……無いかな。俺の家そういったイベントあまりやらないし」

    「じゃあさ、一緒にどっか行かない?」

    「ああ、うん。空けておくよ」

    それはどうでもいい。少しの会話だったが、雪見は何かいじめなどの被害にあってる訳ではなさそうだ。そんな素振りは見てないし、それを匂わせるような発言もない。

    「なんかさ、最近変な夢見るんだよね」

    「え?夢?」

    突拍子のない言葉にマヌケな声が出る。

    「うん。なんか私が死んじゃう夢なんだけどさ」

    「不気味だね」

    「ほんとだよねー。よる寝るときたまに怖くなる」

    「じゃあ俺がいってあげようか?」

    「幸也が良いならぜひ来て欲しいな」

    「まあ、今度ね」

    実際、泊まりには行きたいのだが迷惑になりそうなのでやめておいた。

    今日も他愛のない話をした。

    こんな日常が続いてくれれば良いと思っていた。
  8. 8 : : 2016/05/10(火) 23:42:24
    雪見と暗い商店街を歩く。さっき公園でお互い満足いくまで話したので、話題がなくなってお互い無言になってしまった。

    俺の後ろからてくてく歩いてくる雪見は旗から見れば1人で夜の街を歩いてるようにしか見えない。

    やたら荒い運転だな、と思える車がある。さっきから蛇のようにくねくねしながら走っている。かなり危ない。

    雪見に振り返って歩道の奥に行くよう目で促す。彼女はしっかり察して移動しようとしたけど。途端に目を見開いたかと思えば次の瞬間俺は宙を舞っていた。
  9. 9 : : 2016/05/10(火) 23:43:32
    目を開く。視界に映るのはただの真っ白。状況が掴めなくて困惑してしまう。

    身を起こそうとするも、身体が思い通りに動かない。言う事をきいてくれない。

    せめての抵抗として首を曲げる。動いたのであたりを見渡した。

    どうやらここは病室のようだった。なんでこんなところにいるんだろう。思い出してみる。


    確か俺はあの日、雪見と商店街を歩いていて…。



  10. 10 : : 2016/05/10(火) 23:44:01
    車に吹き飛ばされたんだ。吹き飛んだ時に視界の隅に映っていたのを思い出す。

    「うぅ……う……!」

    呻き声をあげる。呼吸が荒くなる。落ち着くべきだとわかってるのに焦燥感や何もできないことへのストレスが溢れ出る。

    「あんた…起きたのか。医者を呼んでくる」

    「は……?」

    隣のベッドに横たわる中年の男性が口にしたことがかすかに聞こえた。起きたってどういうことだろう。俺は何日も眠ってたんだろうか。

    中年の男性はすぐに出ていった。かと思えばほとんど間も置かずに白衣を着た中年の医者が来た。

    「幸也さん」

    「え……?」

    「大丈夫ですか?足腰は動きますか?」

    そう問われて改めて動かそうと力を入れる。残念ながら動かないことに変わりはない。

    「そうですか」

    「すみません、名乗るのが遅れました。私は医者の久保山です」

    「早速ですが」

    「あなたは事故にあったのを覚えてますか?」

    「あ、はい……彼女と歩いていて……」

    「覚えてらっしゃるようですね」

    「実はその事故の後からあなたは1ヶ月間眠りについてたんです」

    「1ヶ月間も……?雪見は……俺と一緒に歩いていた女の人は?どうなったんですか?どこにいるんですか?」

    「その、残念ですが……あなたをかばって……」

    「はっ……?なんで……」

    「あっ……あぁ……」




















    「ううああああああああああああああああああ!!!!!」

    「落ち着いてください!」

    気が付けば絶叫ともよべる叫び声をあげながら頭を抱えていた。



  11. 11 : : 2016/05/10(火) 23:45:12
    結局退院するのに半年近くかかった。その間精神科やら遅れた授業の内容を取り返すためにプリントをやっていた。

    やっと家に帰れると思っても、もう雪見はいないのだ。正直どこにいようが場所なんかどうでもよかった。どこにいても連絡は取れないのに。

    親が見舞いに来た時に何で泣いてるんだろう、そう思った。俺は別に死んでなんかいないのに。泣きたいのは俺の方なのに。

    なんで俺なんかかばったんだろう。毎日毎日そのことばかりが頭に浮かんで離れない。答えが出ないことはわかってるのに答えを求めてしまう。そんなことはもう知れないのに。

    結局、彼女のことは何もわからなかった。あの日泣いていたことも(もしかしたら夢のことかもしれない)、彼女の学校でのことも何もわからなかった。それに彼女の家に泊まりも行っていない。が、俺は今でも彼女が好きなことに変わりはない。

    そんな彼女について無知な俺だけど、その上で言いたいことがある。

    もし、今でもおれのことを好きでいてくれているなら。伝えたい。

    今までも、これからも。




    君を本当に愛しているって。
  12. 12 : : 2016/05/10(火) 23:48:06
    途中トリップつけるの忘れちゃいました。もともと単なる暇潰しにかいて知り合いに見せてたやつだったんですが文の批評を求めて投稿しちゃいました。

    これから少しずつ投稿していく予定なのでよかったらこのID覚えておいてください。無理だったらいつでも見れるようにこのスレブックマークしておいてください。

    見てくれてありがとう。時間も時間なので寝ましょう。お休みなさい。
  13. 13 : : 2016/05/10(火) 23:50:59
    乙です

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