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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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世界の果てで

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  1. 1 : : 2016/02/11(木) 15:21:45
    世界の果て。それはすなわち『カゲロウデイズ』のこと。ある年の8月15日、世界が飲み込まれそうになる。
    そんなときに、メカクシ団は世界の片隅で何をしていたのか。


    こんにちは、初めまして。殻です。本作にはエネ以降の団員は出てきません。出会っていない設定で書き進めますのでご注意ください。



    私がカノキドを好きなので、カノキド要素も含まれています。
  2. 2 : : 2016/02/11(木) 15:34:17
    この夏は伝染病が多い。夏風邪があるのは毎年のことだが、インフルエンザに酷似したような伝染病が流行るのは大抵冬で、湿り気が溢れ出そうな夏にこのような事態になるのはどう考えても異常だ。

    今年の夏、世界は大騒ぎとなっていた。どこから発症したのかはっきりしないほど驚くほどの速さで世界中へと飛び散ったその病気はとどまることを知らず、かけがえのない命を飲み込んでいっていた。

    もっと問題だったのは、日本が外国からの来日を規制していたにも関わらずいつの間にかその病気が入ってきたということだ。瞬く間に日本に広まり、一つの県に広まるのにたったの1日という恐ろしい感染力。日本でも沢山の死者が出ていた。


    《感染力は高いこのX病、日本では平均的に8月15日ごろに峠を迎え、たくさんの死者が出ると見込まれています》


    テレビやラジオ、新聞や週刊誌、ネットでまで大々的に取り上げられているX病。各地で学校閉鎖や閉店が続いているのにはわけがあった。

    その恐ろしい病気の内容のせいだ。



    X病はかかって三日しないと症状が現れないため、感染しやすい。しかも夏の、この湿り気を好むと言う例外の病原菌。そして、三日をすぎると…全身の感覚が麻痺していき、最後は酷い痙攣を起こして呆気なく逝く。

    ワクチンもいっこうに開発が進まず、世界は悩みに悩んでいた。
  3. 3 : : 2016/02/11(木) 15:42:33
    「また伝染病じゃん、大騒ぎだね〜」
    カノはテレビのリモコンを手に、お気楽にソファに寝転がる。伝染病に一抹の不安も感じていないのか、ずっといつものように笑ったままだ。

    「くれぐれも手洗いうがいは忘れない様に。まあ、うちの団は全体的に外に出ることも、人との関わりも少ないしな」

    「キド、油断は禁物っすよ!」

    食器を洗いながら本日五回目くらいの注意を述べるキドも、それほどまでは心配していなかった。団長より心配していたのは、放浪癖のために頻繁に外に出るセトだ。

    「換気するだけでも、外にはX病の菌が含まれているはずっす」

    「アジトの中でもマスクをしろっていうのか?」

    キドはさもうんざりした様子でセトを見やる。「この暑い最中、無理だろう」

    セトがうんざりするほど病気に気をつけているのは愛する彼女、マリーのためでもある。マリーは100年以上の時を森の中で本を読んで過ごしていて、歩くこともままならないほど体力がない。X病のウイルスにすぐやられてしまうと誰もが予想出来ることだった。
  4. 4 : : 2016/02/11(木) 15:43:01
    期待してます
  5. 5 : : 2016/02/11(木) 15:46:45
    >>4ありがとうございます。頑張ります
  6. 6 : : 2016/02/13(土) 18:25:48
    「ただいま戻りました〜……」

    「おお、キサラギ。ご苦労」



    さも疲れた様子でアジトに帰ってきたのは売れっ子アイドル如月桃……モモだ。毎週のようにライブを行う国民的アイドル。いまや日本人で「如月桃」の名前を知らないものはいないだろう。

    「はぁ……疲れた」

    「まあ、最近は休みなしだったからね〜?大丈夫?」

    「大丈夫です!バカは風邪をひかないっていうでしょう!?」

    「……まぁな」


    キドは苦笑する。セトも微妙な表情を見せていた。最近よくテレビで言われるようになった言葉……《バカは風邪をひかない、X病はバカがひく。》極端な言葉ではあるが、事実だ。

    つい最近の話だが、おバカキャラで売っていて、よくバラエティ番組に出演していたタレントが呆気なく逝った。30代前半の若さで、だ。

    そんな出来事から1週間も経たないうちにどこからか囁かれはじめたのがそれだった。用心できないバカはうかうかしているうちに、X病に侵されてしまう、と。
  7. 7 : : 2016/02/13(土) 18:29:26
    期待です!!
  8. 8 : : 2016/02/13(土) 18:35:25
    「ん……おはよう。」

    そこへ重い瞼を擦りながら、小柄な体が近づいてきた。絹のような滑らかさで体にかかっている白い長髪。メドゥーサの血を引いた赤い目。

    セトの愛しい彼女、マリーだ。

    「マリー、おはよう」
    キドはやや長い昼寝から目覚めたマリーに優しく声をかける。

    「あ、モモちゃんおかえり」

    「マリーちゃん!ありがとう!!」

    モモはいつも、癒し要素だらけのマリーに心を落ち着かせて貰っている。今日もよほど疲れていたのか、マリーの小さな体を抱きしめた。
  9. 9 : : 2016/02/13(土) 18:35:44
    >>7ありがとうございます!
  10. 10 : : 2016/02/14(日) 11:55:03
    「さ、キサラギ、手洗いうがいは念入りにしろ」

    さすが団長。自分はそれほどX病を気にかけていないが、団員の健康には気を配っている。

    「はい、了解しましたっ!」
    モモはHP回復、とでもいうように洗面所に向かい、鼻歌を歌いながら手洗いうがいをしている。まるで小学生のようだ。

    しっかりしたキド、微笑ましそうなセト、にこにこしているカノ、幸せそうなマリー、元気なモモ。

    いつものメカクシ団の光景だった。





    ーーーーーーーーーーーーーーーー


    「おはよっす!」
    「ああ、おはようセト」
    「キド、今日も早いっすねー」

    キドがいつものように早起きして朝飯を作り、セトが健康的な時間に起き、カノが普通の時間に起き、モモとマリーはまちまち。それがメカクシ団の朝だ。

    「おはよー」
    「あ、カノっす!」
    「おはよう、カノ。今日は目玉焼きだ」
    「ええ?また目玉焼きぃ?」
    「卵も高いんだぞ。つべこべ言うな」

    カノが起きてきて、和気藹々と話をする。

    「今日はマリーもモモも遅いな」
    「昨日、よっぽど疲れたんだね」
    「先に食べちゃおうっす!」
  11. 11 : : 2016/02/14(日) 12:07:38
    キドの料理はメニューも多く、シンプルながらも絶品だ。朝早くから料理を作っているキドの努力がうかがえるものばかりである。



    「今日も美味しかったっす!」

    「もうセト食べ終わったの?もうちょっと味わったほうがいいと思うよー」

    「まぁ、毎朝のことだからな」

    3人が朝飯を終える頃にモモが起きてくる。しかし、この日は起きてこなかった。

    「疲れたと言ってもこれはないだろう」

    朝型のキドはいらいらしている。料理も冷めてしまって美味しくなくなるだろう。

    「ちょっと起こしに行くっす!」

    「おう、セトはマリーを頼む。俺とカノはキサラギを起こしに行く」

    「しっかしマリーも、昨日昼寝したからあんま眠くないと思うんだけどね〜」



    ぶつぶつと言いながら、キドとカノはモモの寝室に、セトはマリーの寝室に急いだ。




    「おい、キサラギ入るぞ」

    「うーん……おはようございます」

    「おっはよ〜キサラギちゃん」

    「ちょっとカノさん!?入ってこないでくださいよ!」

    「ひどいな」



    モモは単純に疲れただけらしい。X病の兆候である咳や鼻水、熱といった症状はでていない。手洗いうがいをしたのと、モモのもともとの強い体が幸いしたのだろうか。


    「マリーちゃんはどこですか?」

    「今、セトが起こしにいっている」

    「マリーは寝てばっかだねー」

    「カノさん殺されますよ?」



    ふざけあいながら3人が部屋から出ようとしたその瞬間だった。

    「……マリー?マリー!?返事してっす!しっかり!マリーっ!」

    「…………」

    セトの叫びが聞こえる。しかしそれに対比したように、マリーの声は全く聞こえてこない。

    「カノ」

    「うん。キサラギちゃんはここで待ってるんだよ」

    「は、はいぃ……」


    状況を飲み込めていないモモを残し、2人は無言でマリーの寝室へ走った。
  12. 12 : : 2016/02/14(日) 12:15:51
    「セト!」

    「…………マリー…」

    「マリーから離れろ。…もしかしたら」

    「…疲れたんだね、マリー」



    セトの手にはぐったりとしたマリーの姿があった。息をしている音は聞こえるが、過呼吸にしか聞こえない。時折空咳の音がしていた。

    「これは、……ひどいな」

    「キサラギちゃん!救急車!」

    「はいっ!」



    廊下で立ち尽くしていたモモにカノが命令を飛ばす。モモが慌てて自分の寝室に入って携帯を取る音がした。



    「違うっすっ!マリーはX病なんかじゃっ……!」

    「そんなこと誰も言っていないだろう。マリーから離れろ」

    「嫌っす!」

    少年時代に戻ったかのようにセトは涙を零した。マリーの顔へと落ちて少し目が開く。

    「……!」

    セトが息を呑む。しかし、マリーの目はすぐに閉じてしまった。

    「マリーっ……」

    もう一度その名を呼ぶと共に、涙がもう一粒落ちた。
  13. 13 : : 2016/02/14(日) 14:17:29
    期待です。

    続きが気になる…!
  14. 14 : : 2016/02/14(日) 17:54:36
    >>13ありがとうございます!
  15. 15 : : 2016/02/14(日) 18:05:07
    「…………」

    お決まりのサイレンを響かせながら、救急車は去っていく。



    顔が見えないくらいの重装備を施した人々が次々吸い込まれた白い車両には、キドもカノもモモも、セトも乗ることが許されなかった。

    マリーの症状はX病を患った人々の初期症状に近いという。これ以上感染したら大変だから近づくな、と遠回しに言われたようなものだ。



    「マリーちゃん……」
    「戻ってこれるさ。……多分な」
    「そう、ですよね」
    「ま、大丈夫だよ」
    「…………」

    空元気を出す3人の横で、ずっと唇を噛み締めていたセトがようやく口を開いた。


    「みんな酷いっす……」


    「え…セト?」

    「あの隊員の人たちも、キドもカノもキサラギさんも、みんなマリーを穢れたX病みたいに……もう二度と戻れないって決まっているのが前提みたいに……」

    「セト。落ち着け」

    キドがセトに近寄り、頭一つ分高い肩に手をかける。

    しかし、セトはいかにも鬱陶しいというように、その細い手を勢いよく振り払った。

    「痛っ……」
    「団長さん!」
    「キド、大丈夫?」


    倒れたキドに駆け寄るカノとモモを無視するようにセトは続ける。

    「キドもカノもキサラギさんも他人事じゃないんすよ。みんなみんな、マリーが戻ってこない前提で接してるじゃないっすか!」




    「もう嫌っす……マリー」

    「ちょっ、セトさん!」



    セトは廊下を走り抜け、自分の部屋に入って扉を閉めた。
  16. 16 : : 2016/02/16(火) 06:58:16
    マリー………もしかしてモモのせi((殴

    期待です。
  17. 17 : : 2016/02/16(火) 20:52:33
    >>16ネタバレは禁止ですよ?←
    ありがとうございます!
  18. 18 : : 2016/02/23(火) 22:28:25
    続きをください…。
    期待してます!
  19. 19 : : 2016/07/05(火) 21:22:57
    >>18期待ありがとうございます!

    長い間放置してしまいすみませんでした。
  20. 20 : : 2016/07/05(火) 21:30:03
    いつも騒がしいアジトは一時間前から静まり返っている。



    「セト…」

    「団長さん、弱気にならないでください。団長さんのせいじゃないですよ」

    「そうだよキド、ひとりで責任負わなくていいじゃん」

    「カノ、キサラギ…」



    「俺、どうすればいいんだろう」


    キドの呟きはまるで飴玉のように口からこぼれ落ち、誰にも拾われることなく地面に落ちていった。




    「ちょっと、セトに声かけてくる」

    「団長さん!」

    「いや、いいんだ。ちょっとだけだから」

    「やめたほうが…っ」


    「キサラギちゃん」

    「カノさん…?」

    キドは廊下をまっすぐに歩き、セトの部屋に向かっていく。



    「いいんですか。セトさん、あんな状態じゃないですか」

    「いいんだよ。キドがしたいことをさせてあげればさ」
  21. 21 : : 2016/07/05(火) 21:40:08
    キドはセトの部屋の前に静かに立ち、聞き耳をすませる。向こうのほうでカノとモモが同じく静かにこちらを見据えているのが確認出来た。


    「マリー…」

    セトはまだマリーのことを根に持っているようだ。



    「セト」

    ぴたりと泣き声がやむ。


    「入って良いか」

    「…どうぞ」


    予想外だったが、セトはすんなりと部屋に入れてくれた。それならばと彼女も躊躇うことなく足を踏み入れる。その一室は酷くちらかっていた。しかしキドは見て見ぬ振りをしながらセトの近くに立つ。



    「セト、さっきはごめんな。こっちもマリーの大切さを理解出来てなかったのもあるし、何より理解できなかったんだよ。…ほら、救急車なんて初めてで」

    「…やっぱり、X病、なんすかね」



    キドは能力を発動させるかというほど驚きで目を見開いた。

    「セトっ!」

    「だって、しょうがないじゃないすか」

    セトの視線は床に向いていた。それはかつての楯山家でとった、キド、セト、カノ、そしてマリーの集合写真だった。おそらくアヤノか誰かが撮ってくれたのだろう。


    「あんなのおかしいっすよ」

    写真の中で、マリーははにかむように目を細くしている。


    「…マリーがあんなに苦しんでるなんて」


    「セト」

    「俺、マリーがX病でもなんでも、ついていきたかったっす、救急車」


    X病の危険があるからと、最近では救急車に関係者も乗せてもらえない。もしかしたらセトはそこにも怒りを覚えているのかもしれない。



    向こうで電話がなっている。キドはそれでも、セトを見つめ続けた。


    「セト、今は不吉なこと考えるなよ」


    「楽しいことだけ考えていればいいんだ」
  22. 22 : : 2016/07/05(火) 21:45:21
    「楽しいことだけ、っすか」


    「そうだ。昔のことでも、なんでもいい。ポジティブにやっていけば、それで…」


    「団長さん!!…グスッ」


    キドの声を遮る様に飛び込んできたのは、モモの赤子のような泣き声だった。ここまで走ってきたはいいが、途中でくずおれる。


    「キサラギっ!?」


    「うううあああああああああああっ!!!」


    「おい、しっかりしろ!」


    「キド、セト」

    カノが一語一語噛み締める様に口を開く。

    キドはカノが涙を流すところを初めて見たと思った。お門違いなことを考えるしかなかったのだ。そうしないと叫びだしてしまいそうだった。



    「今、病院から連絡があったんだ。」










    「マリーは、死んだ」


  23. 23 : : 2016/07/05(火) 21:51:19
    マリーはX病による急死と断定された。病院に運び込まれたはいいが、やはり体の弱さなども関係したのか症状は一気に悪化し、一か八かで手術をほどこそうと思った時にはもう息を引き取っていたらしい。簡単に言ってしまえば打つ手がなかったとそういうことだ。



    「…キド」

    「俺は泣かないんだからな」

    「…キド、キド」

    「絶対に泣かない。団長が泣いてどうするんだよ」

    「ねえ、キド」



    「涙、出てるよ?」


    「………」



    二人の沈黙の間にも、叫び狂うセトの声と、顔が真っ赤に腫れてもなお泣き続けるモモの声が響き続けていた。


    「…グス」

    「キド」

    「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」

    「キド」


    キドはその場にうずくまった。カーペットに涙の跡がすごい早さで落ちていった。カノは背中をさすってやる。キャラにあわないなんて言っている暇はない。涙を止めたいとも思わない。悲しいとも思わない。その感情を通り越していた。


  24. 24 : : 2016/07/06(水) 21:24:20
    「おい、モモ、セト」

    キドのよく通る声が廊下にこだましている。
    それをモモは黙って聞いていた。


    「これから夕飯を食うぞ。何がなんでもリビングに来い。来なかったら強制連行だ。いいな」


    何か変だ、と感じる。マリーが死んでから今日まで部屋から出ていないモモとセトには、毎食必ずキドのお手製料理が部屋の前においてあったのに。


    よっぽど伝えたいことがあるのかもしれない。


    「…マリーちゃん、助けられなくてごめんね」



    マリーが寝ている様子を盗撮した写真を見つめていたが、思い立った様にモモはスマホを置いた。


  25. 25 : : 2016/07/06(水) 21:28:32
    「おい、キサラギ」


    モモが少し出るのを躊躇っていると、キドの声がついにかかった。

    「す、すみません…」

    「セトはもう来てるぞ。早くしろ」

    「こんな状態…見せられないです」



    何しろモモは涙のせいでまぶたは腫れ上がり、しかも不眠不休で泣き続けていた為にニキビだらけになっている。加えてパジャマのままという、JKらしからぬ格好だった。


    「そんなこと、今はどうでもいい。とにかく早めに話し合いたいんだ。このままなんだったら、部屋に入るぞ」

    「すみません、今すぐ行きます」


    モモは勢い良く立ち上がる。キドが廊下をかけ戻っていく音が聞こえている。二日ぶりにドアを開けると、外でもないはずなのに新鮮な雰囲気がモモを包み込んでいた。
  26. 26 : : 2016/07/06(水) 21:32:33
    「やあやあ、全員お揃いのようで」


    いつもの軽さで登場したカノに、キドはいきなりにらみをきかせる。セトがまた怒りだすかとひやひやしたが、セトは憤っていた時とは別人の様にうつむいている。

    「カノ、これはおふざけじゃないんだからな」

    「そんなこと分かってるよ〜。僕、どうも真面目でかたいの嫌いでさ。ごめんごめん」



    「ところで、本題はなんなわけ?」


    ふざけたように見えるカノとて話し合いの主旨が気になっていたらしい。モモもここぞとばかりに身を乗り出している。うつむいていたセトがやっと顔をあげた。

    その目は全く光を宿していなかった。

    まるで死人のようだった。


    「セト…」

    「団長さん、どうしたんですか?」


    真っ赤に腫れた目で見つめられ、キドの意識はやっと現実に舞い戻る。


    「…実はな、俺、決めたんだ」


  27. 27 : : 2016/07/06(水) 21:33:29
    「マリーが死んだことは、ひとまず忘れよう」

    リビングは静まり返っている。


    「このままひきずっていてもしかたがない」

    セトも反論しない。モモも、カノも反論しない。



    何かがおかしい。

  28. 28 : : 2016/07/07(木) 18:24:05
    「…なんで」

    セトが呟くのが聞こえた。セトは死んだ魚の様な目でキドを見つめ続けている。


    「…なんで、忘れようなんて言えるんですか」

    「セト、敬語は禁止だと…」

    「そんなことどうでもいいっす!」


    セトは突然立ち上がったと思うと、のけぞったキドを大声で罵った。


    「なんでそうやっていつも話を逸らすんすか!?」

    「ちょっと落ち着け、セト」

    「だから言ったっすよね!?落ち着けるはずないって!」

    「そんなことはわかっている。だがな、マリーが死んでしまった以上、ここで立ち止まっているわけにはいかないと言っているんだ」


    正論に反論しかねたのか、セトはやっと椅子に座った。
    どれだけマリーをセトが愛していたのか、それは誰にも計り知れないほどのものだったのだ。



    「…マリーが、体強くないなんてことは、俺も重々承知してたっす。どれだけメドゥーサの血をひいていても、それはわかってたっすよ。俺にだって」




    「でも、信じられないんすよ。マリーがX病になったこと自体が。だってそうじゃないすか。マリーはここ最近…というか何年か、アジトから出てないわけっすから」


    モモがなぜか、肩を上下させるほど深呼吸をしている。

    「大丈夫か、キサラギ?」

    「す、すいません…」




    「キドだって、カノだって、キサラギさん…だっ…て……」


    沈黙が流れる。

    セトが静かにモモに視線をうつした。
  29. 29 : : 2016/07/07(木) 18:35:39


    「…ちょっ!ちょっと待ちなよセト。キサラギちゃんが犯人だって、決まったわけじゃないよね?そうだよね?」


    カノがにこやかな顔に汗をたらしながらセトの前に立つ。


    「そうだ、セト。そりゃ、俺だってカノだってお前だって外に出てないんだし、キサラギに押し付けたい気持ちはわかるさ。でもどこで感染したというんだ」


    「そうそう、どっかでそんなに二人はふれあってた?抱きついたりとか、してた?」


    「…カノっ!」


    「っあ…」



    モモがライブを終えたあの晩。


    「そうっ…すね」

    モモは確かにマリーに抱きついていたのだった。しかも、手も洗っておらず、うがいもしていないその体で。



    「キサラギさんの体には、さもたくさんの菌がついていただろうって感じっすね」


    「セト!待てセト!」


    「キサラギさん」


    「ひぎぃぃっ!」


    座っていたモモが立ち上がり、後退した。高身長のセトには、それだけ迫力が満ちあふれていたのだ。


    「ご…ごめんなさいっ」


    「謝ってマリーの命が戻るんすかっっ!?」



    セトは声をからして叫んだ。モモが後ろにあった椅子に足をひっかけて尻餅をつく。腫れたまぶたの上を、再び涙の粒が流れ落ちていく。


    「嫌だ、嫌ですっ、ごめんなさいっ、」


    「もういいっす。こんな団、マリーがいなきゃつまんないっすね!」


    「セト!」


    キドが怒鳴るが、聞く耳も持たず、セトは再び部屋に戻ってしまう。モモはそれを追うかの様に自分の部屋に駆け込んでいった。


    「キド…」

    「俺、ちょっと外の空気浴びてくるから」



    キドはそういってアジトを出る。
  30. 30 : : 2016/07/11(月) 15:46:36
    期待!!
  31. 31 : : 2016/07/11(月) 21:19:18
    >>30期待ありがとうございます!!
  32. 32 : : 2016/07/11(月) 21:27:09
    確かに、モモの体には沢山の菌がついていただろう。
    しかし、マリーの超貧弱体質も半分以上は関係しているはずだ。

    キドは考える。


    「…メカクシ団も、ここで終わりかもしれないな」



    キドはずっと、カノやセトと思春期を過ごしてきた。二人とのつきあいは幼馴染みと言い切れるほどとても長い。

    十年ほどの付き合いでも、セトがあんなに癪に触れられると怒鳴るなんてことは知らなかったし、カノがあんな顔をすることもわからなかった。

    幼馴染みなんてそんなものなのかもしれない、とキドは考える。


    マリーだって長い付き合いだが、幼少期に森で会っているセトとは少し長さが違う。その少しの違いが、こんな誤解を生んでしまったのだろうか。


    「…そんなわけ、なかったのに」


    モモも、マリーも、カノも、そしてセトもそうだ。キドと団員達はそれぞれ密な付き合いをしてきたはずで、簡単には崩れないはずの絆が出来上がっていた。

    そう思っていた。

    しかし、こんなことが起こってしまった今は受け止めざるを得ない。

    メカクシ団とは所詮そんな関係だったのだ。



    「…団長失格だ」


    自分が浴びているこの風にも、大量の菌がついているんだろうな、とぼんやりそんなことを思いながら歩いた。いつもと同じ、涼しい風のはずなのに、いつの間にこんな汚くなってしまったのか。



    頭の中を風が通り抜け、澄み渡っていく。キドは踵を返し、静かにアジトへ向かった。


  33. 33 : : 2016/07/11(月) 21:33:05
    「ただいま」

    「あ、キド。おかえり〜」


    ソファでカノがお気楽に漫画を読んでいる。まるで何事もなかったかのように。
    全く、とキドはため息をついた。さっきまであんなに殺気立っていたリビングが嘘のようだ。カノは持ち前の気楽さで、全てを変えてしまう。呆れる性質だけれど、キドはカノのそんなところが大好きだ。



    「キサラギちゃんがお風呂入ってるよ」

    「そうか」

    「キドが出てすぐ入ったから、もう一時間くらい経つんだけどなー…」


    そこで初めてキドは実感する。自分はぼんやりと色んなことを考えながら、一時間も無駄にしてしまっていたらしい。無駄でないことを願いたいが、あいにくキドは現実主義なのだ。



    カノに菌が移ってしまったらいけない。雑談を切り上げ洗面所に向かった。

    メカクシ団の洗面所の隣りには風呂が隣接している。確かにそこの明かりはついているので、モモが入っているのだろう。寝てしまっているのだろうか、物音はしない。

    手洗いうがいを終えても物音はしない。しかも一時間も風呂で寝ていたらそろそろのぼせてしまうはずだ。そうキドは考察して風呂の戸をあけた。


    「キサラギー」
  34. 34 : : 2016/07/11(月) 21:38:01
    「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」

















    一瞬で声がかれた。


    「キサ……ラ…、ギ…?」


    「キドっ!?」


    カノがかまわず駆け込んでくる。




    「え…?キサラギ、ちゃん…?」


    「カノ、カノ、カノっ、あああああああああああああああああああああああああああっ」



    キドは崩れ落ちる。カノに支えられても、掌のあたたかさも感じられず、ただただ体は痙攣し続けていた。



    そこにあったのは、ありえなすぎる光景だった。

    浴槽の湯は真っ赤に染まっている。まさに血の池の中で、顔色を失ったモモが今にも沈みそうだ。その出血量からしてもう助からないだろう。



    また一人、死なせてしまったのだ。
  35. 35 : : 2016/07/12(火) 21:30:26



    「きさ、らぎ、さん」


    セトのつたない声が聞こえる。それしかわからない。さっきからキドの視界は真っ暗だ。きっと普通ならば緑のつなぎが見えているはずなのに。






    「キド、大丈夫?」

    カノが近づいてくる。


    「キド…ねえ、答えてよ」


    「大丈夫なわけ…ないだろ?」



    怒鳴ろうとしたが、声が掠れてそれはかなわなかった。


    「何か食べる?」


    「食欲、湧かない」


    「そっか」


    マリーとモモが死んでから早一週間が経つ。それから3人になったメカクシ団を支えてくれていたのはカノだけだった。セトはさも微妙な気持ちでいるだろうし、キドは何も考えられない。カノもきっと辛いだろうに、しっかり支えてくれていた。


    「カノこそ、大丈夫なのか」


    うまく声がでないのがもどかしい。



    「お前、数日前からセトと俺に気を使ってばっかりじゃないか。お前は何か食べているのか」


    「…実は、僕も食欲が湧かなくて」


    「何か、作ってやろうか?」


    「いいよ。キドも疲れてるでしょ?」



    そう言ってカノが持ってきたのはインスタントラーメンだった。「セト、食べるよ」



    セトがふらふらとこっちによってくる気配がする。


    最近のセトは逆に、食欲が湧かないのではなくヤケ食いをしているのだった。セトは食べるのが好きだから、もう食べるしかなくなっているのだろう。メカクシ団のアジトにはラーメンのカップが積み重なり、捨てにいく人もいなかった。
  36. 36 : : 2016/07/14(木) 21:53:42
    うわぁぁ!続き期待です!!!!
  37. 37 : : 2016/07/18(月) 14:48:06
    >>36期待ありがとうございます!!
  38. 38 : : 2016/07/18(月) 14:51:46

    「…キサラギさん、俺のせいで自殺したんす、よね」


    「セト、どうしたんだいきなり」


    「だって、そうなんでしょう?」



    セトの瞳はビー玉のように光っていたが、人間味はまったく残っていなかった。


    「そう、っすよね。なんで俺、生きてるんでしょう」


    「何言ってんの、セト〜?」


    カノがわざと茶化すように言う。


    「そういうのいらないっすから!」

    「ご…ごめん。」




    嫌な予感を覚えた。

    キドが感じたそれは、錯覚ではなかったのだろう。
  39. 39 : : 2016/07/18(月) 15:05:34

    「…眠れない」

    キドは呟いた。



    深夜の2時をまわっている。最近0時をまわるまでにベッドに入ってもなかなか眠れないということがひたすら続いていた。今日もそれは直っていないらしい。



    「……」

    ガチャ




    キドの寝室を開ける音がした。



    「…キド、寝てるっすか?」


    セトの声だった。



    「……寝てる、っすよね?」



    起きている、とは言い出せず、キドの体は硬直した。ここで動いたらセトが何をしでかすかわからない。とりあえずじっとしていることが大事だと体が判断しているのだろう。





    「…キド、今までごめんっす。マリーが死んで、キサラギさんも死んじゃって。キサラギさんのほうは、ほとんど俺のせいっすよね」



    なぜ今更、と思った。


    今考えればそれはとても不自然な話なのだ。







    「せっかくお姉ちゃんが作ったメカクシ団なのに…せっかく集めた団員を失わせちゃって…すまなかったっす」




    キドが寝ていると思っているはずなのに、こんなに語りかけてくるのは、どう考えてもおかしかったはずなのだ。





    「だからねキド、僕、考えたんですよ」



    幸助。


    そうやって声をかければよかった。







    「僕らもお姉ちゃんのところにいけばいいんじゃないか、って」



    なんであのとき、止められなかったのだろう。




    「…すぐ、楽になれるっすから」


    まずい、と思った。今頃見開いた瞳には、セトと握られたナイフが映った。




    「セト!やめ…んっ!」


    反論しようと思った瞬間唇を押し付けられる。




    「はぁ…はぁ…っ」


    「そんなに抵抗するっすか…」



    セトの目はもうおかしくなっている。マリーのことなんて忘れてしまったのだろうか。



    「そっちがその気なら、こっちだって」


    「セト、やめないと…っ」



    セトは強引にキドの胸を鷲掴みする。



    「く…っ!だめ…だっ!」


    「キド…っ」


    セトは滑らかな仕草でキドのうなじをなめる。抱きしめるほうと反対の手に握られたナイフが、今まさにキドの首に触れようとしていた。



    「ぁん…っ」


    「キド…」


    「誰か…っ!」
  40. 40 : : 2016/07/18(月) 15:13:22

    「つぼみ!!」



    その瞬間飛び込んできたのはカノだった。


    「くそっ…!つぼみをはなせ!」


    「嫌っす!つぼみは俺のものだから…っ」



    セトはナイフを放り出してカノと殴り合いを始める。上半身を脱がされそうになっていたキドはやっと息を吸うことができた。



    「ちょっと、やめろ!」


    「つぼみは後ろに下がってろ!」


    「カノ、セト!お前ら気づけ、何かおかしいだろう!?」




    カノがセトを突き飛ばしてキドのほうに飛んでくる。


    「つぼみ、大丈夫!?痛いところはない!?」


    「カノ、落ち着け…ひゃんっ」




    押し倒されて上半身をめくられた。



    「ちょっとカノ、お前!」


    「傷は!?傷はないの!?」


    「修哉!つぼみに触れるな!」



    セトがカノを突き飛ばしてキドを抱きしめる。


    「ああっ…くそぉ…くそぉっ!」



    セトに足をなめられ、また身動きができなくなってしまう。こんなこと想像もしていなかった。何しろストレスがたまった男が女を求めるだなんて見たことがなかったのだ。



    「どけ…どいてよぉっ!」



    「つぼみっ、今楽にするから…!」



    「一緒に姉ちゃんのところに行こう!?」







    全部、なくなってしまえばいいのに。





  41. 41 : : 2016/07/18(月) 15:17:29





    キドの目に、転がったナイフが映った。



    獣のようにキドをなめ回す幼馴染み達が、目の前にいる。





    「あああああっ…くそっ…うあっ……」



    キドの手はいつしかナイフを拾い上げていた。




    「うああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」





    「つぼみ!?」















    「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」









    グサッ



    ドスッ




    勢い良く赤い液体が吹き飛んだ。









    目の前に、見たことのある青年が、二人倒れている。




    「あああ…ああ…」



    キドは知っている。



    そいつらが、もう二度とキドを抱いてくれないことを。












    「ううっ…うああああああああああああああああ!!」



  42. 42 : : 2016/07/19(火) 21:05:38
    >>1
  43. 43 : : 2016/07/19(火) 21:05:45
    お疲れ!
  44. 44 : : 2016/07/19(火) 21:06:54
    誤爆した
    期待
  45. 45 : : 2016/07/19(火) 21:15:29
    期待ありがとうございます!
  46. 46 : : 2016/07/19(火) 21:28:48

    目の前に広がる空は今日も青い。


    その空に、家族たちの楽しそうな声が吸い込まれていく。




    「…つぼみ、つぼみ」





    「お、姉、ちゃん」


    「大丈夫?」


    「うん。私は大丈夫だよ?」


    「ほら、早く行こ!修哉と幸助も待ってるよ?」


    「うん、ごめん、今行く」







    「お姉ちゃん…」


    キドは自分の声に顔をあげる。




    「…夢か……」



    そうだ。アヤノはもうこの世にいない。
    修哉と幸助なんて、もうここに戻ってくることはないのだ。




    つぼみは一夏で、大切な仲間を一気に失った。


    茉莉を殺したX病は、まだ潜伏している。桃をも巻き込んだその病は、いつまで続くのだろうか。


    だが、そんなことつぼみが知る由もない。




    「…全部、消えちゃえば良いのに」



    つぼみは時折そう呟く。




    「…人を殺すものなんて、全部、全部」





    自分だってX病と同じだ。当人が死んでも、のうのうと生き続けている。

    そんなこと、許されない。





    「案外、今日が来なくても…」





    そうしてつぼみはようやく、血だらけのナイフを自分の胸に突き立てる。



    「明日へ、先に」




    大きく息を吸い込んで。

  47. 47 : : 2016/07/19(火) 21:32:45
    おしまいです。ありがとうございました。

    バッドエンドにするつもりはあまりなかったんだけど…まあ流れ的にそうなってしまった…


    とりあえずキドさん。とりあえずキドさんでした。


    キドさんの強い心が描けてよかった。

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