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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

帰ってきたR/この街を守るのは誰なのか【仮面ライダーW&ドライブ】

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  1. 1 : : 2015/11/20(金) 22:02:35

    タイトルでピンと来た方のみ閲覧推奨。
    脚本家繋がりで。

    コツコツ書きためてましたが、どうにも公式が妄想をマッハで追い抜いてきているので、フライングします。

    ってか、Vシネチェイサー……完全にWとのクロスオーバーやんか……!


    ※注意

    この作品に出てくるロイミュード、ガイアメモリ、ドーパントは全て執筆者の想像によるもので、公式には存在しません。

    なんやかんやで剛がチェイスを復活させてます。その辺りのエピソードは完全に捏造です。

    ライダーオタクではなく、どちらかというとにわかなので、細かい設定ミスは赦してください。
    特に、typeルパン、Vシネチェイサーの情報発信前から執筆してましたので、公式との矛盾点、ネタ被りが出てくる可能性が高いです。
    まあそこは二次創作ってことで…。


    ジャンルの性質上、Twitter等SNSへのリンク、転載はご遠慮くださいませ。

    感想用グループ→http://www.ssnote.net/groups/1870

  2. 2 : : 2015/11/20(金) 22:03:24



    深夜25時。

    研究室の灯りは煌々と輝き、室内の科学者はひたすらに計器を見つめる。

    彼にとって一日は24時間では足りなく、こうして睡眠時間を削って研究に励んでいる。

    「…よし、反応はいいぞ」

    満足のいく数値に科学者は笑みを浮かべた。


    ……そこへ現れる1つの影。


    実験に一生懸命の科学者は全く気付かなかった。1つに集中すると周りが見えなくなるのは学者の特徴といってもいいだろう。
    彼もその中の一人だった。


    《---!》


    カチリと何かのスイッチを押す音と共にそのメモリの機能を表す音声が流れた。




  3. 3 : : 2015/11/20(金) 22:07:38


    ――――――――――




    警視庁捜査一課。
    現在の(とまり)進ノ介(しんのすけ)の配属場所だ。

    ロイミュードとの戦いが終わり、彼は特状課から一課へと異動してきた。
    仮面ライダーになれなくても、命を掛ける現場には変わらない。


    ようやく今担当している事件も山場を越え、後処理に追われていた午後。

    ある一人の刑事の出現によって物語は大きく進む。




    《第1話 赤い刑事は何のために現れたのか》




    風都(ふうと)署の照井だ。ロイミュードのことで聞きたいことがある」


    突然の来訪者。

    応接室で出された警察手帳には『風都署 超常犯罪捜査課課長 警視 照井(てるい)(りゅう)』と書いてあった。

    「か、課長?!警視っ?!」

    呼び出された進ノ介は思わず照井の顔と警察手帳を何度も見直した。

    手帳の顔も目の前の男もどう見ても自分と同じか、下の年齢に見える。
    赤いライダースーツに茶色い髪の童顔。
    警察手帳を出されなければ刑事にすら見えない。

    それが課長。“超常犯罪捜査課”なんぞという、かつて進ノ介が所属していた“特殊状況下事件捜査課”と並んで怪しいネーミングの課だが、課長。しかも警視。
    キャリア組だとしても外見の年齢から察するに超エリートだ。

    半ば唖然としていた進ノ介に照井が苛立った声をあげた。

    「おい、聞こえなかったのか?ロイミュードのことで聞きたいことがある」

    パタンと警察手帳を閉じ、照井はソファに腰をおろした。
    慌てて進ノ介も座る。


    「えっと…、照井警視はロイミュードの何を…」

    聞きたいんですか、と言う前に照井の真っ直ぐな瞳が進之介を捉えた。


    「奴の倒し方だ」

  4. 4 : : 2015/11/20(金) 22:09:10


    「え………」

    「あの、身体が重くなるのが厄介だ。トライアルでもついていくのがやっとだった。
    泊巡査長、お前はロイミュード専門の仮面ライダーをしていたのだろう?奴との戦い方を知っているはずだ。さっさと教えろ」


    身体が重くなる。それはおそらく“どんより”のことだろうが、それは、つまり…。

    進ノ介は照井の発言を疑った。
    照井はさもロイミュードがまだ存在し、悪事を働いているように言っている。
    しかし、ロイミュードは108体、全て消滅した。
    この手で決着をつけた。


    進ノ介はソファから腰を浮かし、照井に迫った。

    「ちょっと……まって、ください。ロイミュードは全て撲滅したはずです。もう居るはずがない。しかも、倒すって……。

    大体あんたはどこから“ロイミュード”のことを……?」

    進ノ介が間を挟むテーブル越しに照井の肩に手を伸ばした。


    「俺に質問するな」


    伸ばした手を払われる。

    「なっ……!」

    落ち着け、と席に座るよう促される。
    進ノ介は一度深呼吸をして、ソファへと身を深く落とした。
    それを確認して照井が話し始める。

    「………一月ほど前から、機械工学……特にロボット工学や人工知能工学に明るい学者が襲われる事件が風都で多発している。
    その時の現場で重たい感覚……お前たちで言うところの“重加速現象”が起こった」

    「“重加速現象(どんより)”が……?」

    ああ、と照井は頷く。

    「そこから色々調べさせてもらった。どんより、グローバルフリーズ、ロイミュード……。
    今回の事件ではそのロイミュードという化け物が関与している可能性が高い」

    「まさか……」

    「まさか、だ」

    「でも……」

    進ノ介は拳を握り締める。

    だとしたら……俺たちの戦いは、ベルトさんの決意は何だったというのだろう。

    あの戦いに意味がなかった訳ではない。
    蛮野という性悪の根源は消滅し、人類総データ化は免れた。
    ハートたちロイミュードは全て消え、進ノ介は人間の中にある悪と戦う覚悟も決めた。


    「いいか?強大な悪を根絶するのはそう簡単ではない。大元を倒しても模倣犯や残党絡みの事件が後を絶たない。こればっかりは時間をかけてしらみ潰しにしていくしかないんだ。

    ……俺たちの街を守るためにも」

    まるで何か別のものを見ているように照井は言う。
    彼もまたその強大な悪と戦っているのだろうか。

    「街を、守る……」

    進ノ介にも覚えがあるフレーズだ。



    市民を守る!

    今まで何度心に誓い、何度声に上げてきたか分からないほどのお決まりの言葉。
    もし、まだロイミュードが存在し、それがまた人々を脅かすようなら全力で阻止するしかない。

    もう進ノ介は仮面ライダーにはなることは出来ないが、共に戦うことは出来るはずだ。


    進ノ介は真っ直ぐ照井を見た。

    「わかりました。もし、まだロイミュードがいるのだとしたら、俺でよければ力になります」


    「ああ。協力感謝する」


    照井が右手を差し出す。
    彼もまた真っ直ぐ進ノ介を見返した。
    触れる手は温かい。

    この照井という男は見た目は取っ付きにくそうだが、案外真面目で優しいのかもしれない。

    そう思うと少し張りつめていた心が軽くなった。


    「でも、照井警視。俺が元仮面ライダーってのはともかく、どんよりやロイミュードのことは情報統制されてたのによく調べられましたね」

    001の能力である記憶改竄(かいざん)によってグローバルフリーズやロイミュードの情報は最小限しか知れ渡ってないはず。
    その後も年月というのは残酷で、人々の記憶からあの惨劇の記憶が薄れていっているのが現状だ。

    照井の情報収集力を進ノ介が素直に褒めると、照井は初めて進ノ介に対して笑みを作った。


    「まあ……、俺だけの力ではないがな」



  5. 5 : : 2015/11/22(日) 23:14:15

    《第2話 相変わらずのN/こちら鳴海探偵事務所》



    「もう!竜くんってば勝手に一人で行っちゃうんだから!!」


    ベシベシベシ!
    いつもの緑のスリッパを振りながら、鳴海(なるみ)探偵事務所所長の亜樹子が叫ぶ。

    「痛てっ!くぉぅらぁ!亜樹子ォ!!俺に八つ当たりすんじゃねぇ!!」

    スリッパの矛先は(ひだり)翔太郎の背中。
    亜樹子のスリッパ攻撃は地味に痛い。

    「だって、だってぇ!私も久瑠間に行きたかったぁ!!」

    ハムスターのように頬を膨らませて、更に亜樹子はスリッパを振るう。
    ちなみにスリッパに書かれている金文字は『でぇとしたかった』である。
    今度は亜樹子の一撃を、翔太郎はしっかり避けきり自分のデスクではなく、応接のソファへと逃げるように座った。

    翔太郎より先にソファに座っていたフィリップが口を開く。

    「照井竜は仕事の一環で久瑠間に行ったんだよ」

    だから大目にみてあげなよ、とでも言いたいのはわかる。
    仕事、と言われれば黙るしかない。
    彼はこの風都を守る正義の味方の一人だ。

    「知ってるわよ。昨日、フィリップくんに散々検索してもらったみたいだし?」

    照井のことはお見通しとばかりに亜樹子が言う。
    フィリップの検索を使ったと聞いて、翔太郎が眉を上げた。

    「またドーパントか?」

    ドーパントを生み出すガイアメモリの流通は園咲(そのざき)家が無くなった後も続いている。
    風都だけではなく他の都市でもガイアメモリ犯罪が出てきたのか。

    「ロイミュードだよ」

    「はぁ?!」

    何だよそれ!と全く状況を理解できてない翔太郎が叫んだ。
  6. 6 : : 2015/11/22(日) 23:15:50

    「ロイミュード。ネットワーク上に潜む機械生命体。人間をコピーして負の感情を増殖させ悪さをするらしいよ。ドーパントと似ているけれど、ロイミュードは人の皮を被った怪物そのものだ」

    ドーパントは人間がガイアメモリの力で怪物化する。ロイミュードは怪物が人間に擬態している。
    どっちも似ているようで異なる。

    「んで?そのロイなんとかが風都とどう関係があるんだ?」

    「どうやらロイミュードらしき怪物が風都に現れたみたいだ」

    「ええーーっ?!私、聞いてない!!」

    「当たり前だろ!俺だって初耳だ!」

    亜樹子が大声を上げ、その声を制するように翔太郎も声を上げた。

    なんで教えてくれなかったんだよ、とフィリップを睨むが照井に口止めされていたか、詳細を言わずに検索を依頼したのかもしれない。
    フィリップが何の確信もなくベラベラ話す奴ではないことを照井も知っている。

    翔太郎は小さく溜め息をついてフィリップを見た。

    「ま、そのロイムーチョも俺たちが倒しちまえばいいってことじゃねぇの?」

    「ロイミュードだよ、翔太郎。ところが、ロイミュードにはコアと呼ばれる中枢的なモノがあって、それを破壊しないと何度でも甦るみたいなんだ」

    「じゃあそこは『マキシマムドライブ!』とりゃぁぁー!!で」

    亜樹子がドライバーの音声のモノマネをして必殺技のキックを放つ。
    矛先はもちろん翔太郎。

    翔太郎が煩そうに亜樹子の健康的な足をはたき、代わりにスリッパを額にくらう一連のお決まりのパターンをフィリップが冷ややかに見詰める。

    「ドーパントじゃあないんだから、どのみちメモリブレイクは意味がないね。それじゃあコアは破壊出来ない。
    どうやら久瑠間にそのコアを破壊できる仮面ライダーがいたらしくってね。照井竜は彼を訪ねに行ったってのが事の全貌だよ」

    「ほぇ~、さすがフィリップくん。色々説明してくれて便利~」

    さすが、地球上のあらゆることにアクセスできる本棚に入り浸っているだけのことはあるわ。

    亜樹子が思わず感嘆の声を上げる。
    少々扱いが悪いようにも聞こえるが彼女の通常運転なので、誰も突っ込まない。

    翔太郎も亜樹子の呟きを無視して、自身が引っ掛かった部分をフィリップに尋ねた。

    「いた?居たってどういうことだよ?」


    「彼は仮面ライダーを引退している」

    「引退?!」

    「ええっ?!仮面ライダーって引退出来るのっ?!」

    かつて、身内の殆どが仮面ライダーの状況に仮面ライダーアレルギーを起こし、ライダーになるの禁止!と、ひと騒動起こした亜樹子が叫ぶ。

    翔太郎もまさかの状況に頭を抱えた。

    「他、居ねぇのかよ?仲間は?」

    「本棚の情報では、対ロイミュードの仮面ライダーは三人。一人は死亡、一人は行方不明になっている」

    「つまり?」

    「一人が引退、もう一人が死亡、最後の一人が行方不明」

    「ダメダメじゃぁぁん!!翔太郎くん、行くよ!」

    亜樹子が帽子掛けから翔太郎の黒いハットを取りだし、彼に被せ、腕を引く。

    「は?何処に行くんだよ、亜樹子」

    落ちそうになる帽子を押さえながら翔太郎が立ち上がる。

    「調査よ!調査!そのロイ入道とかいうのを倒せる仮面ライダーが居ないなら、私たちが何とかしなくっちゃ!」

    「ロイミュードだよ、亜樹ちゃん。それに、僕たちじゃコアは壊せないってさっき……」

    「だったら、何としてでもその行方不明の人を見つけ出すのよ!」


    亜樹子は事務所のドアを開けた。力任せに翔太郎を引っ張る。

    「じゃ、フィリップくん行ってくるね!まってなさい!ロイ入道!」

    「オイ!くぉら!亜樹子ォ!!そのロイムーチョってのも何処にいるのかわかんねぇだろうが!」

    半ば引き摺られる体の翔太郎。

    ドタドタドタと事務所の階段を下りる二人の足音といつまでも続く言い合いを聞きながら、一人残されたフィリップが呟いた。



    「ロイミュードだよ。翔太郎、亜樹ちゃん」



  7. 7 : : 2015/11/27(金) 21:26:37

    《第3話 その時風都タワーで何が起こったのか》


    ハーフボイルド探偵とその上司が風都の街で調査を開始した同じ頃、定期バスが駅前の停留所で二人の青年を降ろした。

    二人とも同じような背丈に歳の頃。

    一人は明るい髪色で白地に赤いラインの入ったパーカーを羽織り、首には一眼レフカメラをさげ、軽快な足取りでバスのステップを下りる。

    もう一人は漆黒の髪に上下紫のライダース。服にはスタッズやチェーンがちりばめられており、表情はまばたきすら少ない無表情。
    こちらは手摺を掴み、どっしりと一歩一歩踏みしめるように段を下りた。

    ピィーとドアが閉まる注意喚起音がして、バスが次の停留所へ向かうのを見届けると、紫色の服を着た方が口を開いた。


    (ごう)。何故途中でバスを降りた?ここは久瑠間ではない」

    彼らの目的地は久瑠間。
    風都とは県境を跨いですぐのところにあるが、それでもバスで数十分はかかるだろう。徒歩で向かうには遠すぎる。

    「んなこたぁ、わかってるよ。チェイス。なんかさ、一回来てみたかったんだ」

    一陣の風が二人を後ろから押す。

    「………風が、強いな」

    乱れる髪を抑え、チェイスが呟いた。
    彼の服に付いたチェーンもジャラジャラと揺れる。

    「不思議な街なんだよなぁ…。一日中風が吹いていて」

    そう言いながら剛は一眼レフのカメラを構える。
    レンズの先には道路沿いのガードレールに付けられた幾つもの風車。

    「そうだな……」

    くるくると廻る風車を見ながらチェイスも同意した。

    カシャカシャッ、と何度かシャッターを切ったところで剛が振り返った。

    「よし!風都タワーに行こうぜ!あそこなら街を一望できるし、良い画が撮れそうだ」

    「風都タワー?」

    あれあれ、とカメラを片手に剛が指した先には大きな鉄製の風車があった。

  8. 8 : : 2015/12/01(火) 21:40:48

    ――――――――

    風都タワーは風都のシンボルタワーと呼んでもいいほど立派で、この風の街を象徴しているものだ。

    ぐおんぐおんと風車が風を切る音を聞きながら、剛とチェイスはタワーの中へと入る。
    自動ドアが閉じると、防音設備がしっかりしているのか全く風の音が聞こえなくなった。

    「展望台へは………って、今日は展望室に行けないの!?」

    インフォメーションの電光掲示板には展望室へのエレベーターが使用禁止と表示してあった。

    明らかに落胆した様子の剛に受付嬢が申し訳なさそうに答える。

    「申し訳ありません。今日はホールで講演会がございまして、混雑を防ぐためエレベーターはホールまでの階にしか止まらないんです」

    「そんなぁ~」

    「仕方ない。今日はそういうルールの日なのだろう」

    諦めろ、とチェイスが剛を受付から離す。

    ならばせめてホールまで、とエレベーターに乗り込む。ホールは13階。そこまででも結構な眺めになるだろう。

    「"AIの可能性と我々の生活"ねぇ……。あ、この博士の名前、ハーレー博士の所で見たことあるわ」

    上昇するエレベーターの中で、今日の講演会のチラシを見ながら剛が呟く。

    確か情報工学分野ではそこそこ名前の知られた教授で風都の大学に赴任していたはずだ。

    「知り合いか?」

    「いや、全く。顔すら合わせたことねーよ」

    そんな会話をしていたらエレベーターが停まった。
    最近の高速エレベーターは速い。

    すでに講演が始まっているのか13階のエレベーターホールは誰も居らず、遠くから拍手の音が聞こえてくるのみだった。

    「観客が出てくる前にチャチャッと撮っちまうな」

    「ちゃちゃっ?写真を撮る擬音はパシャやカシャではなかったか?」

    「手っ取り早くって意味だよ」

    「テットリバヤク?」

    首を傾げるチェイスをほおっておいて、剛は総ガラスの壁を見つけ、カメラを構える。

    やっぱりガラスは無いほうがいいんだけどなぁ、とボヤきながらファインダーを覗く。


    拍手の音が消えた頃、


    「うわぁーーーっ!!」


    近くで悲鳴が聞こえた。

    次の瞬間、身体に物理的な重圧がかかる。
    身体自体は重く動かし辛いのに、意識だけはしっかりと正常に働いているこの状態。
    この感覚に剛は覚えがあった。


    (重加速………!)


    重たい空気のなか、チェイスだけが普段と変わらない動きでポケットを探る。
    彼の手のひらには小さな紫色のバイクのミニチュア……シグナルチェイサー。

    それを剛の手に持たせる。

    シグナルチェイサーを手にした途端、剛の身体が大きく揺れる。
    急な重加速からの解放に転げそうになるのをなんとか踏みとどまり、チェイスを見やる。

    「サンキュ、チェイス。でも、なんで重加速……?」

    重加速はコアドライビアシステムから出る副産物。ロイミュードや仮面ライダーにしか発生させることは出来ないはずだ。

    「悲鳴はあちらからだったな。行ってくる」

    「おいっ、待てよ!チェイスっ!!」

    俺は何も言ってねぇだろが!と、剛はチェイスを追いかける。
    多分、あれだ。チェイスにはまだ人間を守るというプログラムが残っているのだろう。おそらく永遠に消えないプログラムが。
    だから人間の危機には即座に動いてしまう。

    ちったあ敵の情報とか動きとか考えてから行動しろよ!付き合う身にもなれ!

    「この…っ、ポンコツがぁっ!」

    久し振りの全力疾走に息を切らしながら剛はチェイスを追って角を曲がった。

  9. 9 : : 2015/12/16(水) 23:29:36

    《第4話 噂のP/物理学者沢神りんな曰く》


    照井が進ノ介に連れてこられたのは大学に付属した研究室だった。

    「ここでは最先端の物理学が研究されてるらしいですよ?博士曰く」

    おどけたように話す進ノ介に最先端、と照井が窓を見て呟く。

    ネジ式の鍵の窓を見るのはどのくらい振りだろう。ドライバー1本あれば外せそうな鉄格子といい、ここの防犯設備は杜撰すぎると見てしまうのは己が警察官だからだろうか。

    廊下は昼間にも関わらず、蛍光灯1本の照明が等間隔でつけられている。薄暗く、建物はお世辞にも新しいとは言えない。

    昭和の香り漂うこの建物の中で最先端の研究がされているのか。

    「ここです。おーい、りんなさーん」

    軽く進ノ介がドアをノックした。
    返事の代わりに金属を切断する機械の凄まじい音がドア越しに響く。

    二人が顔を見合わせた。

    「おい、泊。ここでは何をやっている?」

    工事現場か鉄工所かここは。いや、大学の研究所だ。

    「はは……。何でしょうね?」

    もう一度進ノ介がノックをすると、ノブが回り木製の古びたドアが開かれた。

    「いらっしゃーーい!進ノ介くん、お久しぶり~」

    出てきたのは妙齢の女性。
    茶色くウェーブのかかった長い髪を1つに縛り、ストライプのシャツに膝丈のスカート。足下はヒールのあるパンプス。
    白衣を纏ってなかったら、科学者には到底見えない。

    「お久しぶりです、りんなさん」

    進ノ介が長身を屈めて頭を下げた。

  10. 10 : : 2015/12/16(水) 23:42:52


    沢神(さわがみ)りんな博士。物理学の分野では名の通っている才女である。
    数年前まで警視庁特状課の客員として仮面ライダーのサポートをしていた。その時に開発された武器はいろいろな意味で伝説になっている。


    霧子(きりこ)ちゃんと英志(えいじ)くんは元気?」

    「はい。毎日騒がしいですけど」

    「騒がしいのはいいことよ。で、後ろのイケメンくんが例の?」

    世間話を適当に切り上げて、りんなは進ノ介の少し後方にいる照井を見た。

    「風都署の照井だ」

    進ノ介の時と同様に警察手帳を見せて自己紹介をする。

    「照井くんね。進ノ介くんもそこそこイケメンだけど、君はちょっと違ったタイプねー。彼女いる?」

    「いや、」

    上目遣いでジリジリと距離を詰めてくるりんなに照井は少し後ろにたじろいた。
    慌てて進ノ介が二人の間に入る。

    「ちょっと!りんなさん!!
    すみません、照井課長!!りんなさんギリアラサーで色々アレなんで、気にしないでください!」

    「しんのすけく~ん?」

    色々アレって何よ!とりんなが詰め寄る。

    進ノ介は焦りながら本来の目的を切り出した。

    「ほら!頼んでたやつ、見せてくださいよ!最新作!」


    それを聞いて思い出したようにりんなは作業台へと戻り、小さなサイコロ程の大きさの基盤を二人に見せた。

    「ジャーン!!重加速制御装置、通称・ピコピコ5号よ!!」

    「これがっ?!小さっ!!」

    「今の科学技術ではこのぐらい小さくなるのよ」

    進ノ介も背負ったことのある1号や追田が主に使用していた2号、3号を思い出す。あれは嵩張るし重かったし、……何よりダサかった。

    「スゲェ…。ゲンさんが背負ってた頃とは大違いだ……」

    思わず出た呟きにりんなの目が変わった。
    ギロリと進ノ介を睨む。

    「………ゲンパチの名前は今は出さないでくれる?」

    「あ、すみません………」

    絶対零度の視線に大きな身体をちぢこませる。

    ヤバいって、コレ絶対何かあったって。
    あるいは何もなかったか。

    進ノ介と同じ捜査一課の先輩、追田(おった)現八(げんぱち)とりんなの関係はあの頃から全く進展がない。

    鈍感極まりない追田に御愁傷様ですと心の中でエールを送り、進ノ介は黙った。
  11. 11 : : 2015/12/16(水) 23:43:47

    「で、これじゃあ小さすぎるから、今改造してたの」

    ほら、と渡されたのは腕時計のような形のものだった。見た目は前作のピコピコ4号と似ている。

    「携帯出来て、落とす心配が無いっていうとどうしてもこういう形になっちゃうわね」

    「いや、充分です」

    なんかもっといつものセンス大爆発な代物を渡されるかと思ったが、意外に普通で安心した。

    「一応、超重加速にも耐えれるようになってるわ。第2のグローバルフリーズぐらいの超重加速なら問題なく動けるはずよ」

    「すげえ」

    もうそれしか言えない。
    あの時は通常のシフトカーでは重加速についていけなくなっていた。

    「これで、あのロイミュードと戦えるのか?」

    ピコピコ5号を手に取り、照井が尋ねた。

    「そうね、重加速に対応できるという点ではね。
    でもそれだけじゃあ完全に消滅させられないわ。コアを破壊しないと……」

    「コアか……」

    結局そこに問題は戻ってくることになる。

    りんなも溜め息をついた。

    「クリムはまだ免許センターの地下にいるしねぇ……。せめてネクストシステム………マッハドライバーがあれば……」

    仮面ライダーになれるのに。
    シグナルバイクやそれに代わる物もりんななら作ることが出来るはずだ。

    「そんなこと言ったって、マッハドライバーのスペアはアメリカでしょう?それに剛が何処にいるかもわからないし……」

    仮面ライダーマッハの適合者である詩島(しじま)(ごう)はフリーカメラマンとして世界中を放浪している。
    都市部ならまだしも、携帯の電波の届かない辺境の地にいることもざらだ。
    滅多に連絡を寄越さないし、こちらからの連絡に応じることも少ない。

    最愛の姉である霧子が呼び出しても返事が来ないときだってあるのだ。

    また何か抱え込んでないといいんだけど。

    自他共に認めるトラブルメーカーの義弟に思いを馳せる。

    どうしようもないなと諦めた表情の進ノ介にりんなは目を開いて驚いた。


    「え?剛くん日本に来てるはずよ?」


    「えっ?」

    今度は進ノ介が目を見開く番になった。

    そんな話聞いてない。

    「やらなきゃいけないことがあるらしくって……。聞いてない?
    あれぇ?これって言っちゃあ駄目なやつかしら……?」

    ごめん聞かなかったことにして~、と軽く流すりんなの声は進ノ介に届いていなかった。

    「泊?」

    「どういうことだ?剛………?」


  12. 12 : : 2015/12/24(木) 20:45:07

    《第5話 イレギュラーな機械生命体はどのように作られたのか》


    剛が角を曲がった先には一人の男性が倒れていた。


    「大丈夫ですかっ?!」


    壁に背を預け、震える男に駆け寄る。
    彼がさっきの悲鳴の主なのだろう。
    重加速の中、恐怖の瞳がゆっくりと剛の方へと動く。

    意識はある。外傷も重大なものは無し。

    「あとは……」

    勝手に突っ走っていったダチを探さないと。

    首をまげ、周囲を見回す。

    長い廊下の先に紫色を見つけて、 剛は目を疑った。


    「なんだ…あれ……」


    そこではチェイスと化け物が取っ組み合いになっていた。

    シルバーグレイの身体に人間の頭蓋骨のような頭部。目にあたる部分は無く、剥き出しの上顎の歯列と昆虫の様な下顎が異様に目立つ。
    おそらくロイミュードの3つの素体の内の1つ……スパイダー型だ。


    知らず知らずのうちの一歩また一歩と剛は彼らに近づく。

    目を凝らすうちに、紫色のほうと目が合った。


    「ご…う…。来るな」


    歯を食い縛るチェイスから低い声が漏れる。
    化け物の手は彼の首もとへと延びていた。


    「チェイスっ!!」


    一気に駆け出し、チェイスの胸ぐらを掴む化け物の首を背後から腕を使って絞める。

    化け物が手を緩めた瞬間、チェイスが振りほどき、化け物の顔を殴った。
    見た目は優男でも中身は機械。化け物は2、3メートルほど吹っ飛んで瓦礫の中に倒れた。

    「大丈夫か?」

    ケホ、と軽く咳き込むチェイスに剛が駆け寄る。

    「助かった、剛」

    化け物が吹っ飛んだ先を警戒しながら、二人が並ぶ。

    「しかし、何故手を出した?生身で勝てそうな相手ではないぞ」

    「前にも言ったけど、お前は逆の立場だったら手ぇ出さねーの?」

    出すだろ?だから俺も出す。と言外に告げる。

    しかし、あの頃とは勝手が違うことをチェイスは知っている。

    あの時は互いに力を持つ仮面ライダーだったが今はその姿になる術がない。
    あるのはこの機械の身体だ。

    「俺はロイミュードだ。人間よりは頑丈だし、力もある」


    『……ロイミュード?貴様、ロイミュードなのか?!』

    チェイスの発言に化け物が動いた。
    瓦礫を押し退け、戦闘体勢に入る。


    「ああそうだ」


    チェイスは己の右の拳を左の掌にあてた。


    ― BLEAK UP ―


    地の底から這い出た死神のような重低音が響く。

    チェイスの身体は無表情の青年から、機械が剥き出しの隻眼の死神へと変わった。
  13. 13 : : 2015/12/29(火) 22:51:14

    「あいつ……。まだ死神になれるんだ」

    久々の魔進チェイサーの姿に剛が息を呑む。

    そんなプログラム組んだかなぁ、と一人ごちるがよく考えてみればチェイスの復元データはシグナルチェイサーから取り込んだものだし、シグナルチェイサー自体が魔進の腹筋(腹部パーツ)で作られたものだ。
    コアの再生能力の作用が魔進復活までさせてしまったのかもしれない。

    『ロイミュードは全て消滅したのではなかったのか』

    その言葉に剛は化け物の胸のプレートを見た。
    こいつは何番なのか。
    全てのナンバーを覚えているわけではないが、取りこぼしはどいつなのか、と記憶を引っ張りだすつもりだった。

    だが、本来3桁のナンバーが表示されているはずのプレートの中身は空白だった。

    「ナンバーが無い?!なんだこいつ、ロイミュードじゃねぇのか?」

    さっきの言い方といい、ナンバーが無いことといい、純粋?なロイミュードではないのではないか。
    そんな疑問が剛の頭を駆け巡る。


    『お前は何者だ』

    姿を変えたチェイサーに化け物が尋ねる。

    それはこっちがてめーに聞きたいよ。
    そう剛は思ったが、前に出ようとするとチェイサーに止められた。


    「蛮野の作ったロイミュードは全て撲滅した。俺は剛に新しい命をもらった、新しいロイミュードだ」

    『新しい……ロイミュード……』

    「馬鹿!余計なこと言うんじゃねぇよ!」

    剛がチェイサーの頭部をスパンと叩く。

    お前は悪事をペラペラと喋る悪役か!
    ……いや、実際に悪役だったんだけども。

    ロイミュードを製作出来る人間がいることは知られてはいけない。
    チェイス以外の機械生命体を作る気は剛には更々無いのだが、誰がどういう手を使ってその技術を悪用するか分からない。

    一応そうならないための手は打ってはあるのだが。

    『お前…。蛮野博士のロイミュード開発に関わったことがあるのか?』

    「ああん?ねぇよ」

    久しぶりに聞く名前に素っ気なく剛は返す。

    蛮野のロイミュード開発には関わってない。
    ちょっとチェイスを甦らせる参考に論文読んだり、残っていたデータを見させてもらっただけだ。

    思ったよりも"蛮野"の名前に感情が動かないことに安心する。
    もう剛にとって蛮野天十郎は父親ではなく、一人の忌まわしき研究者になっていたのだ。


    『そうか。だが使えるな』

    「その言い方……。すっげぇムカつくんだけど」

    人のことを"使える""使えない"と道具のように判断するやり方はどうしても蛮野を思い出してしまう。

    剛が拳を握り、化け物へと殴りかかろうとするのをチェイサーが止めた。

    「生身では勝てない、と言っただろう」

    「わかってるよ!」

    むくれる剛をいなし、チェイサーは前へと歩み出る。


    「お前の相手は俺だ」


    チェイサーが上段に構える。

    ブレイクガンナーがあれば遠距離攻撃やバイラルコアによるチューンアップが出来るが、それらは全ての久瑠間運転免許試験場の地下だ。
    攻撃の手段は肉弾戦しか残っていない。

    多少の躯体の損傷は免れないな、とチェイサーは覚悟を決めた。

    そのチェイサーを薄ら笑うように化け物がUSBメモリのような物を取り出す。


    『俺の相手はお前ではない』


    彼の右首筋には黒い紋様が浮き出ていた。


    ― KNOWLEDGE ―


    直ぐ様メモリをその紋様へと突き刺す。

    すると、化け物の身体はロイミュードの素体から本を幾つも重ねたような形の、またしても異形の化け物へと変化した。


    「何だよアレ?!進化態?」

    初めて見るロイミュードの姿に剛が戸惑う。
    チェイサーも首を降った。

    「わからん。コピー態を経ずに進化態になるなんて俺は知らない」

    通常のロイミュードは素体が人間をコピーしてコピー態へと成り、コピーした人間の感情を糧に進化態へと進化していく。
    001のフリーズや002のハートもそうだったし、プロトタイプである000のチェイスですらコピー態を経ている。

    「あいつも"新しいロイミュード"ってヤツか……?」

    二人が警戒体勢に入ったとき、



    「あーーーっ!いたぁ!ドーパントぉ!!」



    緊迫した空気には場違いな女の声がホールに響いた。

  14. 14 : : 2016/01/18(月) 22:45:06


    《第6話 捕らえられないK/ドーパントでロイミュード》


    風都タワー付近で身体の動きが遅くなるという奇妙な体験をして怪しいと思い、中に入ってみれば逃げ惑う人々の群れが押し寄せ、それらに逆行して行き着いた先がこのような状態だったなら、亜樹子が黙っているはずがない。


    「あーーーっ!いたぁ!ドーパントぉ!!」


    そんな大声出したら気付かれることこの上ないというのに。

    「くぉぅら!亜樹子ォ!!てめぇはしゃしゃり出てくんなー!」

    エレベーターを降りて全力疾走の翔太郎が肩で息をしながら叫ぶ。

    「何よ!私が見つけてあげたんでしょう?!……って、翔太郎くん!ドーパントが2体いる!そんなの私、聞いてない!!」

    視界に人外2体を認め、亜樹子は翔太郎の陰に隠れた。

    何も知らない彼らからしてみれば、一般人が化け物の抗争に巻き込まれている、の図である。
    この街であんな正体不明の化け物と言えばドーパントしかいない。

    翔太郎は懐からジョーカーのガイアメモリを取り出した。

    「…ちっ。おい、フィリップ!変身だ!」


    『了解だ、翔太郎』


    フィリップが探偵事務所で翔太郎の声に応える。
    彼の手にはもちろん、サイクロンのガイアメモリ。


    『変身』
    「変身!」


    掛け声と共にガイアメモリをWドライバーのスロットに嵌め込み、開く。


    ― CYCLONE ―
    ― JOKER ―


    小さな風が、風都の街を守る仮面ライダーを呼び出した。


    左半身は黒に近い紫。右半身は深く彩やかな緑。複眼のような瞳は赤く、大きい。
    余計な装飾や防具は無く、しなやかな身体はアメコミの某ヒーローのようだ。


    「「さあ、お前の罪を数えろ」」


    翔太郎とフィリップの声が重なり、瞳が光る。

    「覚悟しなさい!ドーパント!」

    そして何故か後ろの亜樹子が堂々とした物言いで化け物を指差した。


    『風都の仮面ライダーか……』

    怪物がWの姿を見て呟いた。
    この街で仮面ライダーWを知らない者はいない。
    新参者の彼ら以外は。
  15. 15 : : 2016/01/18(月) 22:46:03


    「えっ?」

    "仮面ライダー"の単語に剛とチェイスも突然の介入者を見た。

    「"仮面ライダー"って……。どういうことだ?」

    「クリムたちが作ったモノではなさそうだが……」

    敵か味方かもわからない。
    仮面ライダーの形をしている者の全てが味方ではないことは、経験上二人は知っている。


    『どうやらあまり時間がないようだ』


    怪物の手が剛へと文字通り、伸びる。

    「剛!」

    間にいるチェイサーがその腕を掴もうとするが、伸びた腕は彼を避け曲線を描き、大きな掌が剛の頭を掴んだ。

    「おわっ?!何だコレ?!」

    突然引っ付いた手に困惑して外そうとするが、外れない。

    この触手になんの作用があるのか。
    進化態ロイミュードは個々に特殊な能力を有していた。
    この化け物も同じなら……。

    色々考えを巡らせるが、剛にも怪物側にも変化がみられない。

    『お前…』

    「あ?」


    ― METAL ―

    化け物に何か言われかけたが、目線を向ける前にWがガイアメモリを入れ替え、手にしたメタルシャフトを化け物へと叩き付ける。

    よろめく化け物にチェイサーが拳を数発打ち込み、化け物の手が剛から離れた。


    「フィリップ、メタルブランディングだ」

    ここぞとばかりにWがメモリブレイクに持ち込もうとする。

    『了解』

    フィリップが赤いメモリを取り出す。


    ― HEAT ―


    Wの身体が緑と黒から赤と鉛色へと変化した。
    そして、メタルシャフトのスロットに鉛色のメモリを差し込む。


    ― METAL ―


    シャフトの先端に炎が上がる。

    メモリブレイク技であるマキシマムドライブを放てば、ドーパントの持つガイアメモリは砕かれる。


    ― MAXIMUM DRIVE ―

    メタルシャフトから準備完了の音声が流れる。
    それをうけ、助走をとろうと少し下がったところで、化け物の姿が消えた。


    「あっ、コラ!逃げんな!!」


    それと同じくして重加速が起こる。

    「またか………!」

    先程感じた重たい感覚がWの身体を包む。
    しかし、変身する前よりは動けるようだ。

    『仕方ない翔太郎。残っている方から片付けよう』

    右目が光り、残っているチェイサーへと視線を移す。

    「そうだな。さぁて……、お前の罪を数えろ」

    「俺の、罪……」

    言われてチェイサーが頭をかかえる。
    自分の罪は考え出したらきりがない。

    「本気で考えるな!あれだよ、マッハ~的な名乗りの口上みたいなもんだって!」

    「マッハーてき?なのり?」

    「もう、そういうのはどうでもいいから!取り敢えず変身を解け!」

    敵意が無いことを示せ!

    剛がチェイサーに怒鳴る。
    しぶしぶといった感じでチェイサーが人間態に戻ると、剛は振り返り、風都の仮面ライダーを見た。

    「多分……、あっちは味方だ」


  16. 16 : : 2016/02/23(火) 15:57:34


    ドーパントと思っていた一体が変身を解き、人間のままのもう片方に小突かれるのを目にして、翔太郎はこの二人は仲間同士なのだと確信した。

    「ちょっと?!翔太郎くん?」

    ドライバーを元に戻してメモリを引き抜き、変身を解除する。

    「来い。亜樹子」

    翔太郎と亜樹子が二人に近付き、変身解除したチェイスをまじまじと見た。
    メモリが出てきた気配もないし、ここでの仮面ライダーが一人で変身する為のロストドライバーを付けてもいない。

    「ドーパントじゃなさそうだな。お前たちがロイなんとかってやつか?」

    相手に直接聞くなんて、まったくもってハードボイルドなやり方ではないが、しょうがない。
    翔太郎が尋ねるとチェイスが眉をひそめた。

    「ドーパント?俺はロイミュードだが、剛は人間だ」

    「………だからさぁ、そう簡単に自分はロイミュードですって言うなよぉ…」

    人間、と言われた方が後ろめたそうな、呆れたような声を出す。

    「?質問されたら答えるのが人間のルールではないのか?」

    至極真面目に答えるチェイスに翔太郎と亜樹子は堪えきれず吹き出した。

    ここには居ない、どこかの赤い奴に教えてやりたい。

    ひとしきり笑ったあと、亜樹子がチェイスの顔を覗きこんだ。

    「貴方がこの街で暴れているロイ入道?」

    「違う」

    即答。

    「じゃあさっきのドーパントのほうが悪いやつってことね」

    即決。


    あまりの速さに翔太郎が亜樹子の肩を掴んだ。

    「亜樹子!何あっさり信じてんだよ」

    「だってこの人、嘘ついてるようには見えないんだもん」

    「顔が良いからって騙されるんじゃねえ」

    「そこは関係ないでしょ?!」

    口喧嘩を始めた翔太郎と亜樹子の間にチェイスが割って入った。

    「悪い良いは分からないが、俺はロイミュードだ。ロイミュード」

    「だから2回も言わなくていいって」

    剛がまたチェイスを拳骨で叩く。

    「確かに……こいつはポンコツロイミュードだけど、人間の敵にはならない」

    「ポンコツは余計だ」

    拳骨を甘んじて受けていたチェイスが表情を変えずに一言はさむ。

    「じゃあさっきのは……?」

    「そいつは俺達も聞きてーよ。ロイミュードは108体、確かに撲滅したはずなんだ」

    「え、でも……この人は?」

    ロイミュード、よね?と亜樹子がチェイスを指差すと、剛が苦笑いを浮かべた。

    「こいつはちょっと特殊なやつで……」

    剛が話そうとすると、エレベーターの到着を告げる音が半壊のホールに響いた。
  17. 17 : : 2016/03/12(土) 22:19:16


    「誰だ、こんなときに……!」

    翔太郎が開く扉を睨むと、そこからは見知った風都署超常犯罪捜査課の二人が制服の警官と共に出てきた。

    「おい!探偵!どうなってるんだ、これは!」

    「あ。マッキー」

    いつも通り、小うるさい真倉が翔太郎の周りをチョロチョロしだした。
    その後ろをゆっくりとヨレヨレのスーツにツボ押しを持った刃野が歩いてくる。

    「おう、翔太郎」

    「ジンさん!」

    「通報があって来てみりゃ……。なんじゃこりゃあ……」

    抉られたコンクリート、派手に削られた柱。
    確かに、なんじゃこりゃあ、である。
    主に破壊した側のチェイスは無表情に二人の眺めていた。

    「課長は出張中だし、変な事件は起きて欲しくないんだけどなぁ」

    「まーた科学者絡みですね」

    周りを見渡しながら不真面目な刑事二人がぼやく。

    「科学者絡み?どういうことだよ、ジンさん」

    「知らないのか?ここ数日、機械とかコンピューターだとかの専門の学者が襲われてるんだ。外傷はあったりなかったりだが………大体のやつが記憶喪失になる」

    「頭打っちゃってるんスよ!」

    「記憶喪失……」

    そういえば、さっきのドーパントの名前…。

    一度しか耳にしていないが、あまり聞き慣れない単語だった気がする。

    「それはそうと翔太郎。今日はいつもと違う奴らを連れてるんだな。友達か?ん?」

    「は?………あ。こいつらね」

    刃野に言われて翔太郎は気付く。

    この妙な二人組をどうしたらいいのだろう?

    刃野たちの言っていることが正しければ、彼らは関係者なのだろう。先程のドーパントはロイなんとかという化け物が変身していた。

    ただ、このまま刃野たちに渡しても事が解決しそうにはない。

    翔太郎が言い淀んでいると、チェイスが口を開いた。

    「いや、ダチではない。それより、記憶喪失というのは先程のロ……」
    「えっと、ダチっつーか、知り合い?丁度ここで待ち合わせしててっ、なんかよくわかんねーのに巻き込まれちゃってっ」

    先程のことを洗いざらい話そうとするチェイスを剛が慌てて遮った。
    それを不満気な眼差しで見やり、呟く。

    「剛。警察には協力するのが市民のルール……」

    「お前は黙ってろ」

    頼むから。

    訝しげな刃野と真倉に愛想笑いを浮かべ、剛がチェイスを翔太郎の後ろへと腕を引っ張る。

    翔太郎は自身の帽子をかぶり直し、刃野の肩を叩いた。

    「まぁ、そういうことなんで…。そろそろ俺たち帰るわ」

    「は?おい、探偵!そいつらなんなんだよ!」

    「そっか、じゃあまたな翔太郎」

    真倉が立ち去る翔太郎を引き留めるが、それを刃野が止める。
    翔太郎たちが事件に関わりがあるのをわかっているのか、わかってないのか。分からないがお咎め無しなので、翔太郎は振り返り、件の妙な二人組に笑ってみせた。



    「続きは事務所で話そうぜ。行こう」


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yg2go

キミドリ2号

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