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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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東京喰種 [one-eyed]

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  1. 1 : : 2015/10/11(日) 23:40:12
    ども、 heißeです。
    今回はとある喰種の、とある捜査官の、とある悲劇の英雄の、知られざる物語を書いていきたいと思います。誰の物語かは、英題からご推察下さい。
    それでは(=´∀`)
  2. 2 : : 2015/10/11(日) 23:48:31
    期待です!
  3. 3 : : 2015/10/11(日) 23:50:23
    お久しぶりです。
    期待です!
  4. 4 : : 2015/10/12(月) 00:02:16
    >>2,>>3わ! ありがとうございます。精一杯頑張りますので、よろしくどうぞ♪
  5. 5 : : 2015/10/12(月) 00:02:55
    登場人物。


    ぼく:語り部───死色の閃光。零凪彼方(ゼロナギカナタ)

    霧嶋新(キリシマアラタ)───骸拾い。

    霧嶋光(キリシマヒカリ)───ホッパー。

    咿草浩輔(イグサコウスケ)───絶対防御。

    井ノ上昴(イノウエスバル)───親友。

    礎蠍(イシズエサソリ)───毒牙。

    恵兎(エト)───隻眼の梟(高槻千(タカツキセン))。

    大守八雲(オオモリヤクモ)───ジェイソン。

    玖善(クゼン)───梟(芳村(ヨシムラ))。

    峠鳳輦(トウゲホウレン)───"V"創始者。赤鬼。

    硯尾芥子(スズリビカイコ)───"V"副長。青鬼。

    金木研(カネキケン)───眼帯の喰種。百足。

    佐々木琲世(ササキハイセ)───CCG真戸班所属Qs指導者一等捜査官。

    古間円児(コマエンジ)───魔猿。

    入見カヤ(イリミカヤ)───黒狗。

    神代叉栄(カミシロマタサカ)───鯱。

    戸影豪正(トカゲゴウマサ)───阿鼻狂官。

    無桐蕾(ムトウツボミ)───アカデミー同期。ロゼヴァルト家メイド。

    有馬貴将(アリマキショウ)───死神。

    篠原幸紀(シノハラユキノリ)───不屈の篠原。

    法寺項介(ホウジコウスケ)───虚々実々。

    黒磐巌(クロイワイワオ)───鋼の黒磐。

    瓜江久志(ウリエヒサシ)───即断即殺。

    真戸微(マドカスカ)────合理主義者。

    真戸呉緒(マドクレオ)────クインケ狂い。

    和修政(ワシュウマツリ)────血染めの頭脳。

    丸手斎(マルデイツキ)────狙撃者。

    伊庭藤重(イバフジシゲ)────尾赫使い。

    沙耶華(サヤカ)────人間。凡人。
  6. 6 : : 2015/10/12(月) 00:06:11



    #000「終極」



  7. 7 : : 2015/10/12(月) 00:11:55


    0

    さようなら、絶望。


    1


    ぼくは今、地獄にいる。
    ずっと前から、ここにいたような気がする。
    これからもずっと、ここにいるのだろうか。

    ぐるり、と周りを見渡してみる。
    気味悪くうねる、三途の川のほとり。
    墓石が、積まれていた。
    無個性で、無価値で、無意味な墓石だ。
    何のことはなく、整然と並べられていた。
    ふと、気付いた。これは。
    今までぼくが殺してきた人達の墓だ。
    今までボクが殺してきた喰種達の墓だ。
    今までぼくと関わって死んでいった人達の墓だ。今までボクと関わって死んでいった喰種達の墓だ。

    「ひとつ積んでは、父のため」


    地獄に住まう子ども。さながら、作りかけのプラモデルの顔を貼り付けたような子ども。銘々に小さな石を積んでは、不気味な童歌を口ずさむ。


    「二つ積んでは母のため。三つ積んでは兄のため」

    「四つ積んでは、エトのため」

    割って入ったぼくに驚いたのか、ある子は泣き出し、またある子は固まっていた。「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだ」と言って、小さな小さな体躯を抱擁する。

    冷たい。冷たかった。あるべきはずの体温は、すっかりごっそり抜け落ちていた。綺麗さっぱり失くなっていた。赤子はまだ泣いている。さらに強く抱きしめる。子どもは泣き止んではくれなかった。


    「ごめんよ……………」


    湿った死地にそっと下ろした。一陣の風が頬を撫でる。赤子はもう泣き止んでいた。どうやらぼくは、行かなければならないようだ。
  8. 8 : : 2015/10/12(月) 00:13:32

    行く当てもないまま歩く続けた。
    涙と、骨と、血が点々とした美しい花園を、目的もないまま寛歩してきた。埋めることは決して叶わない空白を、茫漠とした穴を、必死で埋めようと身を沈めたんだ。初めから何もないぼくに、そんなことはできるわけがないって、分っていたのに。どうして。ぼくはただ、ボクをぼくにしたいだけなのに。

    そして、不意に立ち止まる。
    真新しい墓石が、生白い面をして佇んでいる。
    そこには、どんな言葉も刻まれていなかった。
    そこには、どんな名前も刻まれていなかった。
    これはきっと僕の墓だ。そうか。
    ぼくは死んだのか。
    ボクも死んだのか。
    そうしてぼく達は沈んでいく。
    底無しの三途の川へ。
    とめどなく流れる濁流の中に。


    やがて俺は目を覚ます。
    真っ白なカーテンの隙間から、光が差し込むベッドの上で。ぼくでもなければボクでもない、他ならぬ俺は目を覚ます。枕元には閻魔様が、何を意味するでもなく微笑していた。敵だったはずの閻魔様は、柔らかな手付きで俺を撫でた。そして俺は、死神になった。

    始まりは終わり。
    終わりは始まり。
    全てが終わったぼくとボクは、俺として今、ここから始まる。





    東京喰種 Reaper[昔方]
  9. 9 : : 2015/10/12(月) 00:22:43
    期待です。
  10. 10 : : 2015/10/12(月) 00:22:43
    >>9ありがとうございます!
    ご期待に沿えるよう、頑張りますね。
  11. 11 : : 2015/10/12(月) 00:27:27



    #001「悲劇」


  12. 12 : : 2015/10/12(月) 00:29:43

    0

    僕の貴方の、私の君の、屍の前では泣かないで。

    1


    あ、れ。ここはどこだろう。
    暗い、暗い、喰らい。そうだ。
    ぼくはここを知ってる。ぼくはここにきたことがある。

    「沙耶華、子どもを連れて逃げろっ!」

    「白鳩だ、白鳩が来たんだ!」


    沙耶華って誰。教えて。教えて。
    子どもってひょっとするとぼくのこと?
    白鳩が来た。なんで白鳩が来ただけでそんな慌てているの。小さくて愛らしい、鳥のはずだろ。パンくずを撒くとおぼつかない足取りで集まってくる、平和の象徴。


    「……生きて……………」


    誰だよ、アンタ。
    なんで泣いてるんだよ。
    なんでそんな悲しそうなんだよ。
    なんでそんな血だらけなんだよ。

    「い………き……」

    絶えた。壊れて、壊れた。
    冷たい床に、崩れ落ちた。
    糸が切れた、操り人形みたいに。


    「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──────────」
  13. 13 : : 2015/10/12(月) 00:44:33

    「ど、どうした零凪⁈」

    「────────ぁぁぁぁぁぁぁぁっ……⁈」


    先生の一言に現実へと引き戻され、遠かった音が戻ってくる。ぶよぶよになった景色が光と影で鮮やかに彩られる。ズリ落ちた眼鏡をかけ直し、顔を上げた。いつもの机。
    いつもの椅子。いつもの悪夢。
    何のことはない、いつもの教室だった。緊張が走った次の瞬間には、爆薬でも放り込んだように教室中が湧く。うるさい。煩い。五月蝿い。恥ずかしい。

    「ハハッなんだなんだ」

    「おい、どうしたカナタ」
    「お前ついに思春期特有の厨二病発症か?」

    「静かに! 授業中だぞ」


    鶴の一声だった。
    束の間の喧騒は瞬きをするかしないかのうちに消え去った。短く咳払いをして先生は言った。


    「えー、オホン。零凪、大日本帝国海軍の戦艦で、敷島型戦艦の四番艦は?」


    なんだ、そりゃ。知らねえよ。
    と、俯いた視線は教科書のとある記述を捉えた。

    「……………ミカサ!」
    「正解だ」
  14. 14 : : 2015/10/12(月) 01:08:51

    日本史の授業とはいえ、そんなマニアックな問題を至極一般的な高校一年生に答えさせるのはどうかと思うな。しかもぼく寝起きだし。ぼさついた紺色の髪をガシガシと掻いて窓の外を見やる。雲の上で、神様が泣いていた。もしくは小便を漏らしているのか。

    嫌な雨だ。
    雨の日はいつでもアノ夢を見る。誰かが叫んでいたんだ。二人いた。男と、女が血だらけで。最後には必ず二人は死んでしまう。

    四時限目の授業はまだ終わらない。
    雨も一向に止む気配がない。遠くの、手の届かないほど(当たり前だ)遠くの雲間からスポットライトが差し込み、見事な光の舞踏会を披露するのが見えた。綺麗だ。同時に、勿体無い。これほど美しい景色を、人間は電線やら建物やらで汚してしまうんだ。


    「カナタ、お前傘持ってきた?」

    「一応、折り畳み傘だけなら」
    「ちぇっ、俺忘れたんだ」
    「ふーん」

    「ふーん、じゃねぇだろ⁈ 俺は傘忘れたんだよ、帰れねーの」

    「だから?」


    あ、ふてくされた。ぼくの隣のイノ───井ノ上昴(イノウエスバル)───はそっぽを向いてむくれていた。ちょっとからかいすぎたかな。


    「あはは………ごめんごめん、入れて欲しいんでしょ?」

    「分かってんじゃねーか!」
    「それが人にモノ頼む態度なのか」
    「あー、分かったよ。帰りお前の傘に入れてくれ」

    「うん、いいよ。イノは本当に素直じゃないね」
    「るっせ」



    限りなく黒に近い、グレーの雲から降り注ぐ驟雨。全ての終わりを告げるかのように、あるいは全ての始まりを告げるかのように降り注ぐ終雨。まさにこの日、ぼくは平和な日常に終わりを告げ、残酷な世界へと足を踏み入れることとなった。
  15. 15 : : 2015/10/12(月) 05:30:27
    期待してます!
  16. 16 : : 2015/10/12(月) 09:20:34
    >>15早起きですねw
    期待感謝感激です!
  17. 17 : : 2015/10/12(月) 09:22:06

    2


    雷鳴と共に、バケツをひっくり返したような篠突く雨が降り注ぐ逢う魔が時。イノと別れたぼくは、ちっぽけな折り畳み傘なんて知るもんかとばかりに人一人見当たらない住宅街を駆け抜けていく。家まであと数分って所かな。

    都内20区のとあるマンションに、ぼくは親戚の祖母と二人で住んでいる。隅から隅まで余すところなく凡人なぼく。ただ一つだけ周りの人と違うのは、父や母がいないことだ。祖母曰く、自動車事故で死んでしまったらしい。

    洞洞とした闇に、輝く稲妻が走る。
    雷は天を駆け、空を裂き、地を叩いた。
    雷。それは古来では、雷神────雲の上で虎の皮の褌をしめ、太鼓を打ち鳴らしヘソを取ると言われる────の怒りによって引き起こされる災いと信じられ、神鳴りとも呼ばれていた。勿論。今では雲と雲、雲と地表との間の生じる放電現象であることが科学的に解明されているわけだが。いずれにしても雷は良い兆候じゃないってことだ。

    どうでもいい御託を並べている間に、家の玄関前まで辿り着いた。そしてすぐ、違和感に気づく。

    玄関の前に、足跡。
    一つ、二つ…………四人だ。
    どうして。うちには祖母しかいないはず。
    おばあちゃんしか、いないはずだ。おかしい。
    それでは、不自然だ。
    それでは、不都合だ。
    それでは、辻褄が合わない。
  18. 18 : : 2015/10/12(月) 09:23:43

    どうか誤解でありますように。
    そう祈りながら、恐る恐るドアノブに手をかける。冷たい金属音。鍵は開いていた。果たして、悪い予感は的中していた。

    「あぁ? なんだテメーは」

    「このババァのガキだろ」


    家の中には、数人の、男たち。
    彼らの口から滴る血は、床に真っ赤な花を咲かせた。その花に負けず劣らず、赤く染まった彼らの瞳。

    そしてまた無個性な雷が一筋、同じように視界を呑んだ、その時。ぼくは見た。その向こう側に。彼らの向こう側に倒れ伏している、血塗れの"おばあちゃんだったモノ"を。


    「あ……あ……──────…っ」

    「このババァと違って柔らかそうだな」
    「おいがっつくなよ。小僧は四人で山分けだ」



    嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。
    嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だよね嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘かな嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だよな。嘘だよな。肩が疼く。
    こんなことがあってたまるか。
    こんなことがあってたまるか。
    こんなことがあってたまるわけがないだろう。


    「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────────」
  19. 19 : : 2015/10/12(月) 09:25:15

    「死ね、ガキぃ!」


    刹那。二人の、否、二匹の化け物が飛びかかって来た、まさにその刹那。体の震えが止まり、ぼくの全身を今まで感じたことのない奇妙な悪寒が駆け巡った。自分の身体を、完全に支配できたんじゃないかと思った。なんでもできると思った。そして今、気持ち悪いほどの気持ち良さと共に、両肩から金色に煌めく(はね)が飛び出す。
    羽化せり蝶よ。
    いざ、羽ばたかん。

    「──────ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あぁっ!」


    外で鳴り響く雷に比べれば遥かにか細く頼りない、それでもぼくの肩から迸る電撃は四人うち二人を瞬時にして吹き飛ばし、家の壁の一部を完膚なきまでに粉々にしていた。

    「ぐっ………ぅぁぁぁ」

    「ぅぅ嘘だろ、赫子だと⁈」
    「喰種なのか…………………?」


    何言ってんだよ。なんだよ、喰種って。
    なんだよ、赫子って。知らねえよ、そんなモン。


    「待てよコイツ、赫眼が、片目だけだ!」

    「ンなことどうでもいいだろ、ずらかるぞ!」
    「待ッ………………」
  20. 20 : : 2015/10/12(月) 09:26:14

    一瞬遅れて気付いた時には、既に男たちは漆黒の闇の中へ消え去っていた。独り取り残されたぼくは暫くの間、今しがた起こった一連の出来事の収拾がつかずに呆然と突っ立っていた。けれども本日何度目になるかもはや数えることすら億劫な雷鳴に我に返って、即座におばあちゃんの傍へ座り込む。否、"おばあちゃんだったモノ"だ。

    「……おばあちゃん?」

    夢だよな。夢だよね。どうか、夢であってくれ。いつものように悪い夢を見てるだけなんだ。大丈夫、もうすぐ覚める。覚める。覚める。お願いだ、覚めてくれ。

    「………………」


    ぼくの呼びかけに応える声は当然なく、代わりに光を失った虚ろな目が僕を貫くだけだった。死んだ犬は犬じゃない、"犬の形をした肉"だ。それと同じで、死んだ人は。内蔵がとっ散らかって脳漿撒き散らされて喰い散らかされた血だらけの人は。人の形をした───────否、もはや原型さえとどめていないから、ただの肉だ。

    「あ、あぁ、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


    もう一度大きく咆哮したところで、肩の痛みに侵されながらぼくの意識は落ちていった。暗く深い闇の中へ、どこまでも、どこまでも呑まれていった。



  21. 21 : : 2015/10/12(月) 09:57:14



    #002「翅化」



  22. 22 : : 2015/10/12(月) 11:34:30

    0

    普通なんてモンは存在しないよ。不都合の間違いだ。


    1


    ところで。
    世に言う哲学者は時に「枯れない花はないが、咲かない花はある。世の中は決定的に不公平だ」などといったありがたい文句を吟じる。なるほど、箴言だ。花に限った話ではない。人だって、動物だって。例えば、ペンギンは鳥なのに飛べない。アホウドリは飛ぶのに助走が10メートルもいると聞く。それに比べて、湖面を悠々と滑っている白鳥は、危険を察知するや否や即座に大空へと飛び立つことができる。そんな白鳥でさえも生後すぐに籠の中に入れられてしまえば、本能的に備わっているはずの飛び方さえも忘れてしまい外に出されても満足に羽ばたけないそうだ。

    ぼくは飛ぶために、その殻を破った。
    籠の中の空は、狭すぎるんだ。
    錆び付いた羽じゃ、どこへも飛べない。

    目が覚めるとぼくは、ふかふかのベッドの上にいた。カーテンの隙間から差し込む木漏れ日で視界が真っ白に覆われる。眩しい。眩しい。目がくらむ。

    「おぉ、起きたか。初めまして、零凪くん」

    「……………あの、ここは」


    大柄で優しそうな微笑みを浮かべた男性。
    彼の胸元の名札には、篠原と記されていた。後に、骨肉を分ける死闘を繰り広げなければならなくなることを、ぼくも勿論この人も知るはずはなかった。


    「ここはCCGの孤児院だよ」
    「CCG、ですか」

    「知ってるかい?」

    「一応、名前だけは」
  23. 23 : : 2015/10/12(月) 11:36:34

    名前だけは、知っている。
    名前のみならず、もう少し知っている。
    喰種対策局CCGだ。朝のニュースで必ずと言っていいほど報道されている。人を喰らう化け物。喰種。ふん、そんなもんがいてたまるか。これまでそう踏ん反り返っていたぼくは見事に鼻をおられたってわけだ。


    「辛いことがたくさんあった。君には十分な休養が必要だ」
    「…………………」
    「ところで、一つ聞いてもいいかな」
    「何なりと」

    「君は……その、襲われたときは祖母と一緒に居合わせたのかってことなんだけど」


    これは。
    正直に答えるのは得策とは言えない。恐れ多くも喰種対策局であるCCGの人間に向かってぼくは人類の敵たり得る存在かもしれませんよ、なんて自虐的なことを言うほど馬鹿じゃない(つもり)だ。


    「ぼくが家に帰った時には、既に………」

    「だ、だよね、あはは。すまんね、変なことを聞いてしまって」
    「いえ」
    「もし一緒に居合わせたのなら、君だけ生きていることは奇跡と言ってもいいからね」
  24. 24 : : 2015/10/12(月) 11:37:14

    はい。ぼくの肩から変なモノが噴出して襲ってきた喰種を吹き飛ばしたんです。なんて、台詞は呑み込んでおこう。ウソはついていない。ぼくが帰った時には既におばあちゃんは死んでいた。それは残酷だけれど、疑いようのない事実だ。


    「おっと、もうこんな時間か。これでも俺はCCGアカデミーの教官をやっていてね。申し遅れてたな、篠原幸紀だ」

    「あ、よろしくお願いします。零凪彼方です」
    「それじゃ、またね」


    そう言って篠原さんは去っていった。遠ざかる大きな背中を見送った後、再びぼくはベッドに潜り込んだ。微かに、汗の匂いがした。





    夢じゃ、なかったのか…………………
  25. 25 : : 2015/10/12(月) 14:07:29


    2


    CCG孤児院に入って数週間が過ぎ、ようやくほとぼりが冷めてきたある日、喰種捜査官育成アカデミーの説明会が始まろうとしていた。人ごみをかいくぐって会場内に入ろうとした、その時。

    「きゃっっ!」

    「痛っ………………」


    一人の少女が唐突にぶつかってきた。
    ぼくがお世辞にもガタイが良いとは言えない体型だったのと、その少女がそれなりにスピードに乗って走ってきたこともあり、ぼくは無様にひっくり返ってしまった。


    「いてて………」

    「あ、あの、大丈夫ですか………?」
    「いえ、大丈─────」


    ほっそりとして華奢な体躯。
    くりくりとして愛くるしい瞳。
    肩の下まで伸びた艶やかな髪の毛。
    キャミソールにミニスカート、おまけに少し踵の上がったハイヒール。高そうな装飾品で全身を隈無く包んでいる。可愛い。

    「すみません。本当に申し訳ありませんでした」

    場違いなほどに丁寧な態度と身なり。ここは孤児院だぞ。どこか名門出身のお嬢様なのかな。若干年下に突き飛ばされたことも忘れて見惚れていたぼくを他所に、頭を下げた彼女は急いで走っていった。おい。またぶつかるぞ。

    腰をさすりながら起き上がったぼくの足元には、彼女のものだと思われる財布が落ちていた(ご丁寧なことにこいつもブランドだ)。

    くそ。面倒が増えた。
  26. 26 : : 2015/10/12(月) 14:16:36

    3


    「本当にご迷惑をおかけしました」

    ぼくは極力人と関わることを忌避していた。喰種対策局のお膝元にいるんだ。つまり。いつ、自分が喰種かもしれない、ということがバレてもおかしくない状況にある。にも関わらず。


    「何とお礼を言って良いのか………」

    「あ、いや、見つかって良かったじゃないですか。そんなに落ち込まないでくださいよ」

    まぁ、財布を落としたんだから仕方ないか。
    無桐蕾さん、24歳。財布の中には立派な名刺が入っていた。説明会が終わったので昼食をと食堂へ向かうぼくの前に、不安げな顔で現れた彼女はどこからどう見ても中学生くらいにしか見えない。


    「お名前、なんて言うんですか?」

    「あっ、えっと………零凪彼方です」
    「カナタさん、でよろしいでしょうか。素敵なお名前ですね」

    「ありがとうございます」
    「改めまして、無桐蕾です。つぼみと呼んで下さいね」


    眩しいほどの純粋な笑顔。
    純朴で、純白で、純真無垢な微笑み。
    ついでに言うと、ぼくは食堂へと向かったその足でそのまま食堂に来ている。可愛い女の子(否、女性)と二人きり。誰もが羨む状況だが、今のぼくにはそれを楽しむ余裕など絶無的に皆無だった。

    「つぼみさん、少食なんですね」

    「はい。恥ずかしながら、ダイエット中で」
    「ダイエットって………その体型でですか」


    そしてさっきから彼女はほとんど食べていない。サンドウィッチの端っこをほんの少しかじっただけだ。

    女の子だ……………
  27. 27 : : 2015/10/12(月) 14:18:46

    「わたし、メイドだったんですよね」
    「はい⁈」

    びっくりした。手に持っていたグラスを取り落としそうになった。どうしてそんな紗也とした恰好なのかずっと気になってはいたけど、なるほど得心がいった。言われてみれば、確かにメイドの容姿だ。


    「あるお屋敷に仕えていたのですが、つい先日、そのお屋敷のご主人様一家は………襲われて…」


    ぼくと同じだ。いや、比べるにしては境遇が違いすぎるけど。ぼくは一般的中学生。対して彼女は、どこか名門の屋敷に仕えるメイド、か。
    くそう、ブルジョワめ。


    「それ以来、ずっと一人で………なのでこのように人とお話をすること自体久しぶりなんです」

    「友達、いらっしゃらないんですか?」
    「ともだち………ともだちってなんですか?」


    マジか、この人。
    これが深窓の令嬢ってヤツか。


    「じゃあ、言い方変えますね。これからも時々、ぼくとこうして一緒にご飯食べたりお喋りしたり、してくれませんか?」

    「えっ?」
    「あ、すみません、変なこと言ってしまって。嫌ならいいんです」



    何やってんだ、ぼく。
    こんなところで関係を作ってしまったら───一度作用し合ったら、もう、戻れない。人間関係は、化学反応なのに。


    「あ、あの…………カナタさん。わたしでよろしけば、是非お願いします」


    はにかんだ表情で。
    恥ずかしそうにほんのり、頬を染めて。
    それもまた、そつのない笑顔だった。

  28. 28 : : 2015/10/12(月) 15:13:17

    4


    それから。
    程なくしてぼくは、別段どうということもなくCCGの喰種捜査官アカデミーに入学した。基礎体力トレーニング。喰種対策法の熟読と暗記。実戦を想定した屋外演習。クインケの講義。その際に丸手上等、黒磐上等、瓜江上等なる方々が来てありがたい文句を並べていった。いや、あと一人いたんだっけ。白髪で死にかけの爺さんみたいな人がクインケについてやたらと熱く語っていた。名前は忘れたけど。


    何より。
    あの日から遠ざかっていけばいくほど。
    来し方行く末の季節が、次々殺されていけばいくほど。あの日の記憶は色褪せていった。

    そうだ。アレはやっぱり夢だったんだ。
    なんのことはない、ただの悪夢だったんだ。
    講義の内容とあの日の出来事を鑑みるに、ぼくは羽赫の喰種かもしれないってわけだ。だけれど。喰種には赫眼が発言すると聞く。ぼくは鏡の前で、何の変哲も無い自身の瞳を喰い入るように見つめた。すごく普通だ。最高に普遍的で飽きるほどありふれた人間の目だ。

    喰種は人間の食事は食べられないとも聞いた。けれどもぼくは、食べられる。味噌汁は、温かな水に溶けた味噌の味。鮭は塩気がきいて皮と身の間に脂ののった淡白な味。ご飯だって、噛むほどにデンプンが分解されて糖に変わっていき少しずつ甘味を増していく。



    終わったんだ。
    悪夢を見る時間は終わった。
    大丈夫、ぼくは人間なんだ。
    そうしてあの日のことを忘れかけていたぼくに、残酷な世界はある日突然、牙を剥いた。

    決然として。慨然として。敢然として。
    終わりを、否定するかのように。
    終わりなんてないと、言わんばかりに。


  29. 29 : : 2015/10/12(月) 16:43:03



    #003「鳴神」



  30. 30 : : 2015/10/12(月) 19:48:14

    0

    嘘や迷信だって、何百回、何千回と言えば真実になる。

    1




    月日が経ち、ぼくらは一回り大人になった。


    「つぼみさん、他の服ないんですか?」


    今日は喰種対策局CCGの、本局見学会。バスに乗って行くということで同期生は皆目大はしゃぎだった。ガキかよ。かくいうぼくもまだ15歳だけど。

    「あら。この服はお気に召しませんでしたか?」

    「いえ、そんなことは…………」


    そんなぼくの隣に座っているのは勿論つぼみさん。しかもお決まりのメイド服。まぁ彼女がメイド服以外の服を着ている姿なんかあんまり、いやほとんど、否、一度も見たことがない。別にぼくはメイドに興味があったわけじゃないし、かといって可愛い子なら誰でもオッケーというように度を越した色魔ってわけでもない。

    たまたま偶然か必然か縁あって一緒にいるだけで、この娘にすごく惹かれているとか愛しちゃっているだなんてことは、ない。いや、これは戯言(ザレゴト)ってヤツだ。それとも戯言(タワゴト)っていうのかな。



    バスは走り出した。
    車窓から外の景色を眺め、年甲斐もなく目を輝かせているつぼみさん。と、そこへ。

    「どうしたカナタ、彼女さんかい? 若いねぇ」

    「ッ……違いますよ、篠原さん。つぼみさんは友達です」
    「カノジョってなんでしょうか?」
    「知らなくていいよ」
  31. 31 : : 2015/10/12(月) 20:32:56

    今日の引率主任は篠原さんだった。ぼくがアカデミーに入学する以前から、彼は頻繁に訪ねてきて話をしてくれた。今思えば、あの日の悲劇から立ち直れたのもほとんどこの人のおかげだと言っても過言ではない。ただ、欠点。篠原さんは事あるごとにぼくをいじってくる。まぁそれも社交事例の一環なのだろうけど。


    「ふぅん、友達ねえ。二人が離れてるとこなんて見たことないけど。ずっと一緒にいるじゃない」

    「それはっ………他に友達がいないだけですよ」


    他に友達がいない。
    それは事実だった。
    ぼくは孤独だった。
    つぼみさんと出会うまでは。
    ひょっとして、作ろうと思えば作れたのかもしれない。けれどもぼくは、人と関わろうとはしなかった。否、やはりそれはできなかったのだろう。自分が異形な存在かもしれない、という不安は薄れてきたとはいえ、まだ完全に払拭されてはいないのだから。
    篠原さんは若干慌てた。


    「おっと、悪いこと聞いたね。すまんな」
    「いえ、大丈夫です。事実ですから」

    「…………わたしも友達はいませんよ」
  32. 32 : : 2015/10/12(月) 20:35:12


    いつの間にかこちらに向き直っていたらしいつぼみさんは、頬を膨らませて言った。


    「けど、わたしにはそれで十分です。カナタさんがいれば。彼がわたしと友達になってくれたことが、何よりも嬉しかったんです」
    「えっ………あの、つぼみさん?」

    「わたしはこれで、幸せですから」


    ………………。可愛い。
    結構、ヒットした。
    全く、貴方は。ぼくを萌え殺す気か。


    「…………うん、まぁ、アレだな。カナタ、いい友達を持ったな」

    「そう、ですね」

    その友達関係とやらがいつ進展するか楽しみに待ってるよ、と他人事のように(実際、他人事だ)笑いながら篠原さんは席に戻っていった。
    笑えねぇ。

    気まぐれな眠気が身体を支配する。眠いな。
    信号に差し掛かったバスは止まっている。
    本局まであと数分ってところか。
    僅かだが、眠る時間はある。目を閉じる。およそ心地いいとは言えないバスの座席にもたれる。ぼくの目に届く光が遮断される。

    再度、バスは走り出した。
    もうすぐ、降りなければならない。
    不意に、バスの座席よりもずっと柔らかくて暖かい何かがぼくの頭を抱えた。暖かい。上品で優しい芳香がぼくを包む。

    バスの中。つぼみさんの肩を借りたぼくに、やがて深い眠りが訪れる。

    こんな。こんな日に。
    こんなのどかな日に。
    水晶のように。どこまでも澄み渡る空の下で。
    あんな忌まわしい出来事が起こるなんて。神様、教えて下さい。貴方が描いた世界は、間違っています。貴方が描き間違えた世界は一体どこまで、残酷なんですか。



  33. 33 : : 2015/10/12(月) 22:39:44

    2


    ヒトは、生きる。
    この世界で、生きている。
    これからもずっと生きていくだろう。
    犬だって、猫だって。
    アリンコだってミジンコだって。
    ライオンだってイルカだって。
    それこそ人に害を及ぼす細菌だって。
    みんな、生きている。それなのに。


    「喰種はなお前らァ、見つけたら即ぶち殺せ!」


    本局に着いたぼくらの頭上には、不気味な色の雲が広がり始めていた。ついさっきまであれほど太陽が照っていたのに。そんな暗雲を吹き飛ばすかのようにテンションの高い(もしくはただ単に口が悪いだけか)捜査官は局内を案内しながら、言った。以前クインケの講義に来た人だ。確か、丸手上等。

    どうして。喰種は生きていてはいけないのか。
    ヒトだって牛や豚を殺して食べているじゃないか。喰種がヒトの死骸を喰らうのなら、ヒトは牛の死骸を喰らっているのではないか。
    簡単な、食物連鎖。
    単純な、食物網。
    無論、そんなことは目でも言わなかった。


    「おいガキンチョどもォ!今日は特別にこのCCGの裏側も見せてやる」

    「マル、もう少しお手柔らかに頼むよ」
    「見えるか、あのゲートだ」
  34. 34 : : 2015/10/12(月) 22:41:40

    篠原さんの言葉を空気のように無視して丸手さんは続ける。彼が指差したその先には、人一人が通れるほどのなんだかちょっと頼りなさげなゲートがそびえていた。

    「おいガキ、あれがなんだか分かるか?」

    「えっ……………分かりません」


    なぜぼくなんだ。唐突に質問されたぼくはちょっとだけびっくりした。ニヤリと口元がめくれ上がる準特等。そして、次の瞬間。ぼくはこの時のびっくりとは比べ物にならないほどのびっくりを覚えることになる。


    「アレはなァ………聞いて驚くなよ、Rcゲートつってな。なんと喰種を見つけ出すことができるゲートだ!」

    「…………………」

    うわあ、びっくり。
    聞いて驚くよ。
    驚き桃の木山椒の木だ。

    「あそこを喰種が通ればあら不思議、けたたましいサイレンが鳴り響くのさ」

    あそこを通れば、サイレンが鳴る。
    そりゃ最高だ。通るだけで喰種かどうか分かってしまうのだから。ぼくはもう一度そのRcゲートとやらを垣間見た。先ほどとは打って変わって、今度はあのゲートが罪深き煉獄への門に見えた。まさか、あそこを通るだなんて素晴らしいことは言わないよね。まさか、あそこを通るだなんてワンダフルなことは言いませんよね。どうか、言わないで────


    「まあてめぇらは人間だからな、残念ながら俺の鼓膜をサイレンが震わせるなんてことはねえわけよ」


    ですよね。言いませんよね。
    そう独りごちて、ほっと安堵したのも束の間。

    「よっしゃ、付いて来いガキンチョども。今からゲートの向こう側、CCGの内部を見せてやるぜ!」






    当たり前だった日常は、
    ある日突然に。
  35. 35 : : 2015/10/12(月) 23:33:26

    2


    嘘だ───嘘だ。
    これは真っ赤な嘘だ。
    締まらなくてあやふやで空虚なおとぎ話だ。

    「オラ!遠慮せずにさっさと来い」

    ダメだ。逃げることはできない。
    通らなければ怪しまれることは畢竟。
    どうする。どうしたらいい。どうするべきか。ショート寸前の電子回路みたいになったぼくの頭は停止した。放心したまま馬鹿みたいに突っ立っていると、同期生はどんどん先へ行く。ぼくの気持ちも知らないで。凡庸なくらいに何事もなく、Rcゲートを通過してゆく。

    遠くから、ずっと遠くから。
    気の遠くなるほど遠くから。
    いつの間にか降り出したニワカ雨の雨音が聞こえる。さながら、地獄の亡者たちのうめき声のように。あたかも、修羅の化け物たちの怒号のように。


    「おいカナタ、何ボーッとしてるんだ。さっさと行かないと遅れるぞ」

    ポン、と肩に手を置いた篠原さんの言葉に我に返る。大きくて、暖かな手。
    強く、不器用なほどに優しい笑顔。
    絶望のどん底に叩き起こされたぼくが。
    初めて安心できた、ぼくの居場所だ。
  36. 36 : : 2015/10/12(月) 23:35:03

    そうだ。大丈夫だ。
    ぼくは人間だ。
    アイツらバケモンとは違うんだ。
    この数ヶ月。赫眼も、赫子も見ていない。
    人間食だって食べられる。
    ぼくは、人間だ。
    そうだ。悪夢は終わったんだよ。
    そう、確信したじゃないか。

    「…………、そう、ですね」

    まだ通過していない同期生に紛れて。
    右足を上げる。
    前に体重を押し出す。
    一歩、踏み出す。
    また一歩、また一歩。
    ゲートが次第に近づいてくる。
    否、ぼくの方が近づいているのか。

    通過する。
    通り過ぎる。
    どくん。心臓の鼓動が聞こえる。
    どくん。篠原さんに気取られないよう、なるだけ平静を装う。どうか、鳴るな。鳴らないでくれ。

    「…………………ッ」

    悪夢なら覚めろ。
    ぼくは人間だ。そう、人間だ。
    ありったけの敬意となけなしの軽蔑を込めて、人から唯、"一般人"と呼ばれるただの人間に過ぎないんだ。鼻先からゲートに入る。生死を分ける水面に顔を突っ込む。続いて胸が入る。歩く。歩く。残された足も引き抜く。

    よし、鳴らなかっ──────


    「おいっ、誰だサイレンが鳴ったぞ!」




  37. 37 : : 2015/10/12(月) 23:50:59


    3


    失策(しま)った。
    けたたましく、サイレンが鳴った。
    ほんの一瞬のことのはずなのに。
    時が、止まったようだった。
    これは。傑作だな。
    本当に、欠作だ。
    間違いなく、欠策だ。
    それゆえの、失策だ。


    「うぅぅ嘘だろ⁈」

    「ソイツだ、ソイツを捕らえろ!」
    「うわぁぁぁあ⁈」


    驚くべき事に、同時に少し安堵した事に、丸手上等の指差したその先には。
    ぼく─────ではなく。
    ぼくとほぼ同時にゲートを通り抜けた無知なメイドがいた。



    「あ…………っ」

    「何やってる、早く捕らえろ!」

    バタバタと。
    バラバラと。
    喧噪な雨音と共に、生白い服を身に纏った白鳩が。バラ蒔かれた餌に群がってくる白鳩が。銀色の光沢を放つ箱を携えた捜査官が、瞬く間に彼女を取り囲む。何とも名状し難く複雑な表情で篠原さんはぼくを見た。


    「そんな───つぼみさんっ…………」
  38. 38 : : 2015/10/13(火) 00:02:22

    ぼくではなく、つぼみさんが。
    何故、貴方が。何故、喰種なんだ。
    止めろ。辞めろ。ヤメろ。
    ぼくをそんな目で見るな。
    ぼくはアンタとは違うんだ。
    ぼくは人間だ。ぼくは人間の、はずだ。
    そんなモノ欲しそうな眼差しを。
    そんな申し訳なさそうな死線を。ひょっとしたらぼくは、貴方に喰われたかもしれないのに。

    なぜ。なぜ、赫子を使わない。
    戦わなければ。闘わなければ。
    貴方は、奪われるだけだというのに。
    与えるか、奪うか。

    だけれどこんなぼくに。
    めくるめく禍々しい悪夢の前に。
    煌びやかで楽しい正夢を。
    無関心ではいられない。
    無秩序ではいられない。
    無意識ではいられない。
    無個性ではいられない。
    無関係ではいられない。
    無価値でもいられない。
    例えば優しい言葉。
    例えば仄かな想い。
    例えば仲睦まじい存在。
    言ってみれば愛しい存在。
    小鳥の歌に、耳を傾け。
    雪の白さに、頬を染めて。
    秋の声に、情をほだされ。
    太陽のような、暖かさを。
    教えてくれた、貴女は。
    神にも等しく、唯一無二で。
    現れては消え、消えては現れる。
    ただの影。ただの幻影。思えば投影。
    シルエットのように、神出鬼没。
    一筋縄ではいかない。
    一枚岩でもいられない。
    切なげな眼差しだったり。
    危なげな眼孔だったり。
    無垢な世界が揺さぶられ。
    完膚なきまでにぶっ壊れて。
    やり直しのきかないほどに歪んで。
    残酷に、残虐に、惨酷に、凄惨に。
    霧の中より不透明に。
    それでも理解できてしまう。
    切り刻まれたような快感。
    胸の奥をえぐられたような悦楽。
    むき出しの脊髄を舐め上げられたような愉悦。
    心の像を犯され。
    脳みそを吸い出され。
    全身の血液が湧き出す。
    そんな、微笑で。


    「カナタさん………」
  39. 39 : : 2015/10/13(火) 00:06:11

    名も知れぬ捜査官がクインケを振るう。
    空気が震えて、彼女の髪が微かに揺れる。
    ぼくはふと、あの時の彼女の笑顔を思い出していた。
    脳裏をかすめる、言葉たち。
    浮かんでは消え、現れては消えてゆく。

    『私でよろしければ………是非、お願いします』

    あの笑顔に、嘘はなかった。あれは本当に心からの笑顔だったと。そう、思う。疑う余地など微塵もないほど澄み切った、無邪気な笑顔。ぼくも貴方みたいに笑えたらどんなにかいいだろうと、羨望の念を抱いたり。嫉妬してみたり。

    『彼が私と友達になってくれたことが、何よりも嬉しかったんです。私はこれで、幸せですから』

    教えて下さい。
    貴方は今、ぼくを見て何を思う。
    頬は涙雨で濡れていた。
    つぼみさんは震える唇を噛み締め、一言、こう囁いた。


    「…………さよなら」


    壊れた翼は。片翼の翼では。
    錆び付いた翼じゃ、どこへも飛べない。
    怖い。怖い怖い強いコワい恐い。
    けれど昇天してしまいそうなほど心地好い寒気が。
    懐かしい、しっくりくるこの感覚。肩が疼く。
    他人のはずなのに。
    赤の他人のはずなのに。
    垢の他人のはずなのに。
    ぼくを、孤独な罠から救ってくれた。
    つぼみさんとは、会って数ヶ月のはずなのに。
    何でこんな気持ちになる。
    壊せるのか。ぼくに。
    これまで、築き上げてきたものを。
    壊せないのか。ぼくは。
    自分自身に嘘をついて。
    貴方を、傷付けたくは────ない。

    嫌だ。貴方が、死ぬのは。
    嫌だ。嫌だ。イヤだ。そんなの、許せない。





    「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」


    雷鳴が、轟く。
  40. 40 : : 2015/10/13(火) 06:56:20

    3

    人間だと、思ってたのに。
    脱兎のごとく駆け出したぼくの怒号が、局内に響き渡る。つぼみさんを取り囲んでいた捜査官はものの一撃でその殆どが散った。

    「カナッ………⁉︎」

    驚きの声を漏らした彼女には応えず、素早く抱きかかえる。数ヶ月前のアノ日が、まるで昨日のことのように鮮やかに想起され、甦る。生々しく、懐かしいこの感覚。肩を突き破り生えた生温い雷の翅。


    「わたしを、助けて…………?」


    やっぱり、ぼくは喰種だったのか……………。


    「おい阿藤、マツリと黒磐と伊庭と真戸を呼んでこい。コイツはヤバい。あ、真戸は妻の方な」
    「了解です」

    「他は全員待機で指示を待て…………、さて、どうしたモンか」


    全部、崩れてしまった。
    この数ヶ月間に積み上げたモノ全て。
    呆気ない。一枚の新聞紙が燃えてしまうのを見ているよりも呆気なかった。そうだ。アノ日もこうだった。当たり前だった日常が何の前触れもなく突然崩れ去る。なんて、奇跡だ。百万回に一回起こることは一番最初に起こるとはよく言ったものだ。
    嬲るように、詰るように、丸手さんは口を開いた。


    「ゲートは反応しねえ、おまけに赫眼だって片っぽにしか見られねぇ欠陥製品だけどよ、赫子がある以上てめェは喰種で良いんだな?」
    「…………………」

    「その沈黙は肯定と受け取った。既にてめェのおかげで負傷者が数名出てんだよ」


    やめろ。見るな。
    見つめないで。見つめナイデ。
    そんな化け物を見るような目で。
    そんな人でナシを見るような瞳で。
  41. 41 : : 2015/10/13(火) 06:59:20

    「……………カナ、タ………お前…」

    消え入るような弱々しい声に振り返る。今にも死んでしまいそうなくらい蒼白な表情を浮かべた彼は、クインケさえも展開していなかった。嗚呼、篠原さん。ぼくは貴方と共にした時は幸せでしたよ。それが例え、家族ごっこでも。それが例え、偽りの馴れ合いでも。ここからはお互い、憎み合う仲なのに。


    「無意味なんだ」

    「………………………」
    「あんなゲートのせいで。この数ヶ月間積み上げてきたモノ全部が、無駄になったんだ」

    「カナタ」
    「黙れ」
    「………………どうした。早く私の所へ戻ってこい」


    大きく両腕を広げて。厚く暖かな胸元を晒して。何もかも忘れてその胸に飛び込めたら、どんなにか良いだろう。こんな苦しみとはおさらばできたら、どんなにか良いだろう。
    実質。ゲートのせいなんかでなく、ぼくがつぼみさんを見捨てていればぼくはそのまま何不自由なく傍観者として生にしがみ付くことが出来ただろう。これは八つ当たりだ。逆恨みだ。復讐だ。贖罪だ。怨恨だ。だとしても。


    「よせ、篠原。ヤツは喰種だぞ」

    「………安心して下さい。ぼくは、地球が一秒間に9,786万回回転したってそんなことしませんよ」
    「カナタ………私はお前を」
    「聞きたくない。聞いたところで、所詮戯言だ」
    「………………」

    「貴方はいつだって知ったような口を利く。ぼくがこれまでどんな道を歩んできたか、貴方はご存知だと言うんです、か?」

    「なぁ、おぃカナ………」
    「ぼくが今までどんな目に遭ってきたか分かるか⁈」


    物心つく前から父も母も居なくって。
    女手一つで育ててきてくれたおばあちゃんも失って。いつの間にか、襲ってきた喰種を撃破したぼくは誰? そして今日、せっかく積み上げてきた信頼を失った。そのせいで命も、何もかも失うかもしれない。信頼なんて馬鹿馬鹿しい。
    信頼なんて虚しいだけだ。
    信頼できるかどうかは然程問題じゃない。問題は、裏切らないかどうかだけなんだ。


    「篠原、クインケ出せ。ヤツは危険だ」


    言われた篠原さんは未だクインケの箱に手もつけていない。どうせ最後だ、と嘆息したぼくは先程考えていたことを聞いた。


    「丸手さん。一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

    「ふん、辞世の句なら聞いてやる」

    「喰種は、生きていてはいけないんでしょうか?」
    「……………それがてめぇの辞世の句か」
    「辞世するつもりは毛頭ありません」


    どうやら丸手さんが呼んだ捜査官が到着したようだ。眼鏡をかけた冷徹そうな男性が一人。
    篠原さん以上に筋骨隆々の岩のような男性が一人。
    相反して華奢な矮躯の綺麗な女性が一人。そして、特に何の変哲もなさそうな男性がもう一人。
  42. 42 : : 2015/10/13(火) 07:01:32
    腕の中のつぼみさんが小さく悲鳴を挙げる。大丈夫。大丈夫だから。自分に言い聞かせるように、ぼくは震える彼女を一層強く抱きしめた。寒くないように。暖かいように。

    「ンなモンは決まってんじゃねーかよ、てメェら喰種が人を喰い殺すからだ。これ以上の理由はねぇ」

    「……そうですか。はッ…………結局、そうなんじゃないか。自分たち人間にとって都合が悪いから殺す? 馬鹿げてる、そんなの。ライオンがヒトを襲うから無差別に駆逐してるのと一緒じゃないか。ヒトはウシを殺して喰うのに、喰種が人を殺して喰って何が悪いんですか?」



    冷めた眼差しでぼくを見据える彼。どこか悟ったような表情を浮かべて、ポリポリと耳を掻いた。
    ふざける─────な。


    「こんな世界は、絶対間違ってる………歪めているのは貴方達だ」

    「そう睨むなよ。これは、仕事だ」


    彼のしたたかな一言が口火となり、ぼくとつぼみさんを囲む捜査官全員がクインケを解放した。臨戦態勢。目の端にアカデミーの同期だったヤツらが映る。どうしてそんな目でぼくを見る。
    ぼくのことなんか誰も分かってくれない。
    ぼくのことなんか、何にも知らないクセに。
    腹が立つ。




    「かかれェッ!」


    研がれ、神経。
  43. 43 : : 2015/10/13(火) 18:59:54


    4

    幸せの定義なんて、ぼくは知らない。よほど極端な例でない限り、物事に幸せも不幸もないんだと思う。他人から見れば幸福な人も、自分がその状況を不幸せだと思っていれば、それはきっと、不幸なのだろう。その逆も然り。貧乏で貧相な人は側から見れば不幸せに見えるだろう。しかしそれを当の本人が幸せだと思っていれば、それはきっと、幸せとなる。こんな風に、幸せか不幸せか、幸か不幸か、なんて全て当事者の判断(それも有耶無耶な価値観やあやふやな固定観念が内在している)に委ねられてしまうのだろう。


    「医療班、もっと人寄越せ!」

    「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
    「おい、左翼側が手薄だぞ!」

    「なんなんだあの赫子は⁈」

    そんなぼくの周りには。
    皮膚が千切れて鮮血が吹き出す音。
    脳漿が炸裂して内臓がはち切れる音。
    筋肉が断絶して細胞が悲鳴をあげる音。
    パンパンに膨らんだ風船に針を刺したように。
    心臓が勢いよく破裂し、血飛沫が螺旋する音。
    骨が風の前の塵に同じく木っ端微塵になる音。
    糸の切れた操り人形みたいに。
    冷めた冷たい肉塊が倒れ伏す音。

    あっという間に殺風景な局の床は、血湧き肉踊る花畑と化した。壊して壊れて、狂って狂わせて、犯して犯されて、冒して冒されて、苦しめては苦しんで、潰して潰れて、乱して乱れて、奪われ奪って、傷つけては傷ついた。

    「篠原、何突っ立ってやがる!」

    「目標は二体だ、2から4班は後方支援。残り全班で一気に叩け!」


    だから、ぼくは不幸だ。
    ぼくが不幸だといえば、それはきっと不幸。
    世界で一番不幸な人間─────ではなく。
    残念ながら、ぼくは喰種なのだ。
    生きたいと思って何が悪い。
    幸せになりたいと思って、何が悪い。
    そんなぼくの、


    「邪ン、魔、する、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


    そして世界は、真っ暗になった。
    遠くで、つぼみさんの悲鳴が聞こえた。
    遠くで、誰かの凛とした声が聞こえた。
    視界が霞んで、全ての音が遠ざかっていった。

    空っぽのぼくに、鳴り響いた。







  44. 44 : : 2015/10/13(火) 19:01:35



    #004「心相」



  45. 45 : : 2015/10/13(火) 19:56:33

    0

    赤く焼けた刃と、白く凍った刃。貴方はどちらで刺し、どちらで刺されたいですか?
    刃には刃を。目には目を。
    耳にはムカデを。指にはペンチを。
    1000−7=は?


    1


    ぼくは、死んだのかな。
    あれ。そこにいるのは誰?
    どうしたの。なぜ泣いているの。
    そうだ、君はイノじゃないか。
    そうさ。俺は井上昴だよ。
    どうしてこんな所に………って。嘘だな。
    貴方はイノなんかじゃ、ない。
    あ、バレた。じゃあ誰だと思う?
    篠原さんかな。
    フッ、どうだろうね。わたしはつぼみかもしれないよ。ひょっとしたら私はおばあちゃんかもね。あの日あの場所で無惨に喰い殺されたおばあちゃん。
    ぼくが知るもんか。
    これはカナタの夢なんだから、好きに考えてくれて良いんだよ。
    慣れ慣れしく呼ぶな。
    嫌だな、そんな他人行儀。
    ほら、誰かが君を呼んでいるよ。
    カナタ、カナタって。行かなくていいの?
    ぼくにはもう、帰る場所なんてどこにもない。
    そうでもないよ。世界は広いんだから。


    「……………………………タさん」


    教えろ。貴方は誰なんだ。
    ぼくの中に、誰かいるの?

    「……………ナタさん」

    ほら、呼んでいるよ。
    答えろ。貴方は、誰だ。
    オレは──────『 』







    「カナタさん!」
  46. 46 : : 2015/10/13(火) 20:17:42
    悲痛な声と、頬に滴る生温い雫の音でぼくは目を覚ました。ぼんやりとした視界へ真っ先に飛び込んできたのは、つぼみさんの苦悶に歪んだ紅顔。手の中にあったメガネをかける。


    「─────────────────………………………………………………おう」


    起き上がろうとしたぼくは、無様に無骨に地面に崩れた。身体が、冷たく光る鎖で縛られている。何とかして起き上がろうともがくぼくに、さらなる追い打ちをかけるかの如く皮膚に金属が喰い込み、噛み付く。痛い。傷い。悼い。


    「大丈夫ですか?」

    「………ご覧の通りです」
    「わたしを、庇って…………」

    今にも泣き出しそうな、いや、もうすでに泣き崩れているつぼみさんは全く思考が追いついていないぼくの頭を強く抱きしめる。ちょっ、つぼみさん、むむむ胸が、決して慎ましからぬつぼみさんの胸が!

    と、ぼくは視界の隅にぶしつけに座っている二人の男を発見した。そうだ。まずは今のこのシチュエーションを整理しなければ。ここはどこで、アレは誰なのか、と。男もぼくの視線に気づいたのか、鋭い目つきでぼくたちを見据えて言った。



    「………初めまして、零凪くん。いや、君が忘れているだけで私は初めましてではないな」
  47. 47 : : 2015/10/13(火) 21:26:29

    2



    「誰だ、アンタ。そしてここはどこだ」

    「誰か。ふむ、私の名前を忘れているのなら、やはり君は憶えていないのか」
    「質問してんのはぼくだ。大人しく答えて下さい」

    今時見かけないシルクハットに、熱くないのかと訝ってしまう黒ずくめのコート。男は帽子のつばを軽く持ち上げ、冴えない口調で答えた。

    「ここは見ての通り、東京郊外のとある洞窟だよ。そして、そうだな。私はしがない組織の長だ、とでも言っておこう」

    「そんな肩書きは聞いちゃいない。ぼくが聞いたのは、貴方の名前だ」


    「……………ふん、良いだろう。一度しか言わないから心して聞け。脳に深く刻み込め。そして記憶しろ。私の名は、峠鳳輦だ。組織"V"の長にして──」


    その時、ぼくは見た。
    ヤツの唇が皮肉に捲れ上がるのを。


    「────君の父親の友人だ。いや、悪友といった方が正しいかな」


    は、悪友だと。それに、ぼくの父さんだって。峠鳳輦、そう名乗った男はぼくを上から下まで品定めでもするかのように眺めて、ニヤニヤと不快な薄ら笑いを浮かべる。


    「そう睨むなよ。せっかく助けてやったというのに」


    どっかで聞いたセリフだな、と適当な感想を心中に述べながらぼくは自分が恐ろしい形相で彼をねめつけていたことに気付く。どうであれ。


    「………貴方には色々と聞きたいことがある。けど、まずはぼくを解放しろ。鎖がこの上なく邪魔なんだ」

    「ソイツは出来ない相談だな。解放すれば君は間違いなく私を襲うだろう」


    要するに、ぼくがアンタを襲うだけの文句を並べるつもりなのか。それだけ聞けば十全だ。




    「なら、力ずくで外させていただきます!」
  48. 48 : : 2015/10/13(火) 21:31:51

    言うなりぼくは、峠目掛けて駆け出した。洞窟を照らす一本の蝋燭がふらりと揺れる。鉄が巻き付き血がにじむのも構わない。完全に悦に入っていたヤツ目掛けて、一直線に。来い来い、赫子。


    「鳳輦様!」

    「良い。手出しするな」

    側にいたもう一人の男を制した彼は、一切合切動こうとしない。どこまでも舐めやがって。
    ぼくにできないとでも思ってんのか。
    このクソジジ──────


    「くあ…………っ⁈」


    頭に、肩に、筋肉に、心臓に、激痛。劇痛。撃痛。死痛。悲痛。なけなしの悪足掻きも虚しく、ぼくは痛みに悶えガックリと膝をついた。続いて吐血。口いっぱいにムカムカと吐き気を催す鉄分の味が広がる。ひどく、眠い。ひどく、空腹だ。充電が、必要だ。そうだ、電池の切れたスマートフォンには充電が必要だ。クソ。なんだよ、これ。


    「君は"食事"なしに身体に負担をかけ過ぎだ。そのままだといずれ、死ぬぞ」

    「……………は、死……」
    「そう結論を急ぐな。君だって分からないことだらけのパラダイスだろう?」

    視界の隅で、つぼみさんは心配そうな顔でぼくを見、彼を見て力なく座り込む。もうニヤけてはいない、落ち着き払った声で彼は手を差し伸べた。



    「知りたくはないか? 君自身と、君の成り立ちについてだ」
  49. 49 : : 2015/10/13(火) 21:57:15

    「……………ならサッサと教えて下さい」

    「その前に、これをやろう。いくらか気分が良くなるはずだ」


    ぼくの眼前に無造作に投げ出されたのは、恐らくヒトのモノだと思われる赤黒い肉塊だった。ペッと血反吐を吐いたぼくは毅然として断った。

    「断る。ぼくはこんなモノを食べるつもりはない」

    「フッ、お堅いな………私の察するに君は、人間の食事を摂ることで自分は人間だと盲信している。いや、盲信せざるを得なかったのかな」


    そうだ。ぼくの心に絡んで解けない数多くの疑問の一つは、それだ。ぼくは赫子がある。にも関わらず、普通の人間の食事を食べられる。ついでに言えば赫眼だって片方だけなのに加え、喰種特有の回復力さえ持ち得ない。CCGで孤軍奮闘した際に負った傷だって、とてもじゃないけど回復したとは言い難い惨状だ。

    そのおかげで、ぼくはこれまで何の迷いも躊躇もなく、極々自然にかつ必然に、かといってそれほど剛圧な風さながらの抵抗も感じられず、当たり前のように人間社会に溶け込めてきた。



    「どうやら図星のようだな。安心したまえ。君は、"人間"だ」
  50. 50 : : 2015/10/13(火) 22:11:20

    「は?」

    「否、人間だった(▪︎ ▪︎ ▪︎)。それも特別異常で異質で異端な人間だったと言わなければなるまい」

    「………そりゃまた、どういうことですか?」
    「Rc細胞は知ってるね?」
    「はい」

    「こんな疾病がある。Rc細胞過剰分泌症と言って、本来人間の体内にも微量に含まれているRc細胞が何らかの異常により過剰に生成される症状だ。100万人から300万人に1人発症すると言われている。主な症状は赫子に似た膿腫の形成で、症状が進行すると激痛や強い吐き気、記憶の混濁、精神の退行、五感の著しい鈍化などを引き起こす。治療法は発見されておらず、Rc抑制剤の投与で進行を抑えることが唯一の対処法となっている」

    「…………それと、ぼくと何の関係がある?」

    「そう急くな。話は最後まで聞くものだよ。で、このRc細胞過剰分泌症だが、発症した300万人に1人の中からさらに0.025%の確率で、周辺の組織が膿腫にバランス良く適合して、赫子に非常に似た器官が発達することがある。ごくごく稀にな。そのうちの一人が………」

    「ぼくだって言うんですか?」



    そんなことが。
    そんなことがあるのか。
    なんて、ご都合主義だ。
    笑ってしまうほど、都合の良いハナシだ。


    「ご明察だよ。そうして形成された赫包"もどき"では今尚Rc細胞が絶えず分泌されている。傷付く度にRc細胞管が伸び、少しずつ君の身体に広がっていく。人間だった君の身体は、次第に喰種の身体へと変貌を遂げていくのさ」


    次第に、喰種になっていく。
    次第に、ヒトではなくなっていく。
    ヒトのままでありたくとも、身体がそうは許さない。ヒトのままでありたくとも、周りがそうは許さない。


    「まぁ、君の身体はまだまだ発達段階と言えるだろう。赫眼が片目だけな所を見ると、喰種としての発達率は50%あたりだな。人間が半分で、喰種が半分。いわば、半喰種だ」

    「……………だから、ぼくの赫眼は片目だけ」
    「そう」

    「回復も遅いし、普通に人間の食事ができる」
    「その通りだよ」
    「ぼくがさっき倒れたのは……………」

    「赫子は本来、ヒトの肉を喰らってこそ真価を発揮する。お粗末な人間の食事では、それ相応の力しか発揮できないということだ」

    「なんで、そんなことを貴方が知ってるんですか。検査をしたわけでもないでしょうに」



    オチの分かっている漫才を眺めているような。
    結末を知っている小説を読んでいるかのような。筋を予め期している映画をエンドレスに鑑賞し続けているような。そんな、至極つまらなそうな表情で彼は続けた。

    「ふん、どうして知ってるか、か。さっきも言ったろう、君の父親と私は友人同士だったと」
    「それは………まさか、」

    「そう、そのまさかだ」


    蛙の子が蛙なら、喰種の子は、喰種。
    ヒトの子は、ヒトの子だ。
    つまり。要するに。つまるところ。




    「君の父親も、"異常"な人間だった」
  51. 51 : : 2015/10/13(火) 22:14:05

    3


    「………………ッ」

    言葉にならない嗚咽が漏れて、喉が詰まる。

    「咿草浩輔、という立派な男性だったよ。絶対防御のイグサ、なんて呼ばれていたな。もっとも、君の母親は"正常"な人間だったがね」


    これを聞いたぼくのおよそ回転が速いとは言えない頭には、新たな疑問が降って湧いた。おかしい。考えてみれば、不自然だ。
    考えるまでもなく、不自然だ。
    ぼくの姓名は、零凪だ。


    「おかしいじゃないか、ぼくの姓は零凪ですよ。咿草なんかじゃ、ない」

    「あぁ、そうだな。もう少し説明が要る」


    幾らか柔らかい口調で、彼はカビ臭い懐古に浸りつつ語り出した。




    「あれは今夜のように、雨脚強く妙に空気の重苦しい夜だった」
  52. 52 : : 2015/10/13(火) 23:40:06

    4


    その日。
    咿草浩輔と妻の沙耶華は、まだ名前も決まっていない我が子………つまり君のことだな。君を連れて私の元を訪れ、彼らは言った。名前をつけて欲しい、と。この私にだ。君の名付け親になってくれと頼まれた。どうも似つかわしくないことを頼まれて、お前の子だろう、お前が決めたらいいだのと、談笑していた。

    その時だった。
    数人の白鳩が私の家を襲撃してきた。当時私はなりを潜めていてヤツらの間でもそこまで名は広がっていなかったため、運良く逃げ果せた。しかし、だ。君の父親は「絶対防御のイグサ」などと呼ばれた超が付くほどキワモノで、白鳩に集中砲火を受けていた。そして彼を庇った沙耶華は負傷し、その悲しみと怒りに狩られて暴れに暴れたイグサはやがて力尽き、白鳩に駆逐されてしまった。

    そして時が過ぎたある日。
    私は聞いた。私の家だった所に残されていた子供を、とある人間が保護したことを。名を、零凪彼方と言った。



    「……………これが私の知る君の過去だ。これ以後については、君のほうがよく知っているだろう」

    長い夢から覚めたように、彼の回想はそこで途切れた。俄かには信じ難い話だ。胸糞悪い、とばかりにぼくは吐き捨てるように言った。


    「そんな取って付けたような作り話を信用しろ、と言いたいんですか」

    「信用するか否かは君の問題であって、私の問題ではない。だが、まぁそうだな。このマスクに見覚えはないかい?」
  53. 53 : : 2015/10/14(水) 00:04:36

    懐から取り出されたマスク。中世ヨーロッパの舞踏会で使われていたような口から下が開けたマスク。
    それは確かに、見覚えがあった。それは、どこかで。そうだ。確か、あの悪夢の中で。あれは、そういうことだったのか。
    全てが、繋がった。ジクソーパズルの最後のピースが、ピッタリと枠にハマるように。悪戦苦闘していたルービックキューブがようやく、完成したように。

    「君の、父親のモノだ。いや、だったと表現すべきか」

    「……………なんで」


    靄がかかった心が氷解する。
    絡まっていた糸がほどけていく。
    それと時を同じくして、ぼくの脳内を陣取っていた煩わしい疑問に取って代わり、持って行き場のない怒りが芽生えた。逆鱗が触発されるにはそれで十分だった。必要条件も十分条件も寸分違わず満たしていた。


    「なんでぼくの父さんを助けなかった⁈」
    「………………」

    「友人だったんだろ、悪友だったんだろ⁈ アンタはなんで逃げた、どうして自分だけのうのうと生き延びたんですか⁈」

    「あぁ、別に」


    はらわたが煮えくり返りそうになり、迸る破壊衝動を必死に抑えるぼくを前にして尚、彼は何ということもなく答えた。朴訥とした無表情で、何の滞りもなく、すらりとさらりと応えた。



    「頼まれなかったからなぁ………助けてくれ、とは」

    「っっっぅっざけんな‼︎」
  54. 54 : : 2015/10/14(水) 00:07:01

    ふざけるな。

    「ぼくは、ぼくがぼくであるための何かがずっと欲しかった! ぼくがぼくでいられる居場所がずっと欲しかった!」


    叫んだぼくは彼に飛びかかった。無意識的ではない。まるっきり確信的で統覚的に肉体は正常に動作していた。ただし思考は停止していた。

    ヒトの肉でも何でも構うものか。
    湿った地面に落ちていた肉塊をぼくは躊躇なく噛みちぎる。あいにく、いや幸い、不味かった。当然だ。ぼくの赫包から傷付くほどに伸びるRc細胞管も、まだ恐らく舌にまで届いてはいないのだろう。つまり、味覚は隅から隅まで普通の人間と一緒。不味い。地味に弾力があって噛むほどに血が滲み出て、そのくせ変に脂がのっている。 込み上げる吐き気を抑えながら、息も絶え絶えに叫んだ。


    「やっと手に入ったと思ったのに! おばあちゃんにもらったこの名前だけが、ぼくをぼくたらしめる唯一の救いだったのに! 全部違うじゃないか! お前ら喰種のせいで、アイツら人間のせいで、またぼくは自分が何者なのか分からなくなったっっ!」


    人間なんてクソ野郎だ。
    ぼくの名前は仮初の記号。
    喰種だってクソ野郎だ。
    最初から、ぼくには何もない。


    「喰種って言われたんだ、捜査官を何人も殺したんだ! 喰種になんか、なりたくない…………けど、人間の世界にも戻れない、ぼくは、独りだ…………ぼくの居場所なんて、もうどこにもないじゃないか!」


    「それは違う!」
  55. 55 : : 2015/10/14(水) 08:24:21
    先程までとは打って変わって、どこまでも真摯な瞳で彼は言った。まるでぼくには見えない何かを見ているような。そんな真っ直ぐな瞳で。


    「君の人生を狂わせたのは誰だ? 君を孤独な悲劇へと陥れたのは何だ? 人間か? 喰種か?」

    「…………そうだ。アイツら人間と、お前ら喰種が」

    「違う、この世界だ‼︎」


    世界、だと。詭弁を垂れやがって。


    「人間は猿人から旧人、新人と進化してきた。だが、喰種だ。喰種はどこから来た?なぜヒトしか食べられないのか……………分からない! こんなヒトと喰種が憎み合い殺し合う道を選ばざるを得ない歪んだ世界で、何が正義で、何が正解なのか? 私はこの事態を究明するべく、組織"V"を立てたのだ」


    空気が、震え。
    戦慄が、走る。


    「喰種にもなり得なく、人間の世界にも戻れない? そんなモンは所詮、ただの理屈だ。逆に考えろ。これ以上に有効なパラドックスなどない──────君は、喰種であり、人間だ。二つの世界に居場所を持てる、唯一無二の存在なのさ」


    ヒトと喰種の狭間のぼくは。半喰種のぼくは。
    喰種であり、人間である、唯一無二の存在。


    「ゆえに今、君がすべきことは復讐に燃えることでもなければ、怒りに駆られて自分を見失うことでもない。君のその赫子は類稀なる強力な雷を生み出すことができる」

    「…………、……、………………」
    「組織"V"で戦え、カナタ。お前の異能は我々に、否、世界にとって必要だ!」
  56. 56 : : 2015/10/14(水) 08:28:14
    何も言えなかった。言葉を口にすることも許されず、ただただ彼の熱弁に聞き耳を垂れることしかできなかった。どんな言葉も要らない。どんな修飾も要らない。どんな讃称にも値しない。洗練された疑いなき事実。


    「懐かしい気分だ。君を見ていると、イグサのことを思い出す。彼も、足掻いていた。容赦なく変わっていく身体に、苦しみ悶えていたよ」


    父さん。
    物心つく前から、ぼくを独りにした父さんと母さん。寂しかった。独りは、嫌だった。


    「沙耶華が君を身籠ってしまったときは殊更強く、嘆いていたな。もしかしたら子供も自分のようになってしまうのではないか、とな。けれども産まれてきた君を見て、何て言ったと思う?」

    「……………」

    「『この子なら大丈夫だ。この子なら、決して迷うことなく自身の力で茨の道を切り開いていくだろう。私は、そう信じている』そう言ったんだ。彼が信じた生命だ。無駄にするな、誇れ」

    「は、…………モノは言い様ですね」


    悪くない。
    嫌いじゃないよ、そういうの。


    「…………とりあえず鎖を解いてください。それから考えます」
    「ふん。考えます、か。考えますとは、協力してくれると受け取っていいのかな?」

    「その表現はあまり好きじゃないな。協力なんてのはいわば穏やかな争いでしかない。そこんとこお忘れなく」

    「肝に銘じておくよ」
  57. 57 : : 2015/10/14(水) 18:31:39

    鎖が解かれ、自由になった身体をうんと伸ばす。背後で蠢く黒い影法師。ぼくはそれを見て一瞬言葉を失うが、それがすぐに洞窟の壁に移った自身の影であることに気付いて、肩を竦めた。

    無垢な寝息が耳をくすぐる。壁にもたれて、うたた寝をしているつぼみさん。ぼくはそっと彼女を抱き上げ、側にあった木製の寝床へ横たえた。それを見届けた峠さんともう一人の男は、足音も立てずに颯爽と夜の闇へと消えていった。


    駆け引き、では人聞きが悪い。
    馴れ合い、は最悪だ。
    助け合い。まぁまぁかな。
    もう一押し。

    「ここからは…………、まぁ補い合いですかね」





    彼らの溶けた闇をしばらく覗き込んで、ぼくは誰にともなく、こう呟いた。
  58. 58 : : 2015/10/14(水) 18:36:14

    5


    かくして。ぼくと、つぼみさんは組織"V"に入ることとなった。


    「嘘をついていたわけではないんです。わたしは劣性遺伝で、生まれつき赫子が出せない体質でして…………ドイツでロゼヴァルト家のメイドをしていたんです」


    ロゼヴァルト家。
    ドイツきっての名門だそうだ。そんなロゼヴァルト家も数年前、風の前の塵に同じくほとんど例外なく滅殺されてしまったと聞く。


    「私ともう一人だけ生き延びて、とにかくドイツを出ようとある飛行機に忍び込みました。そして着いたのが、日本だったんです」


    この人も、だ。
    奪われ、失い、傷付けられてきた。


    「生き延びたもう一人の方は、どうされたんですか?」

    「それが……………途中で行き別れてしまって、今では生きているかどうかさえ、不明なんです」


    ふとCCGにいた時の食事はどうしたか気になったが、それは言わぬが花だと思ってやめた。いや、言わぬが仏か。



    実際、ぼくは強かった。
    羽赫の喰種。巷では《死色の閃光》だとか、《ナルカミ》だとか呼ばれるようになった。

    人も、喰種も。ぼくは誰彼構わず寸分の見境もなく、言われるがまま、流されるがままに殺して(バラ)して並べて揃えて晒してやった。足元で哀れに朽ちていく無表情な死体を眺めながる度に、ぼくの心を、闇が巣食う。組織は、ぼくの居場所にはなり得なかった。

    そして。
    自分が何者か分からなくなった、ある日。
    ぼくは聞いた。功膳という喰種が、"V"を抜け出し、行方を眩ましたことを。
  59. 59 : : 2015/10/14(水) 18:37:25



    #005「骨董」



  60. 60 : : 2015/10/14(水) 18:55:58

    0


    不幸も不吉も役不足だ。
    もっと苦しみを。もっと絶望を。
    もっと惨劇を。もっと悲しみを。
    一心不乱の堕落を寄越せ。


    1


    胸の大きく開いたダークレッドのシャツに、鮮やかなワインレッドのスーツ。華輦に燃え盛る地獄の業火の如き、赤く紅い髪。100人が100人まで認める極上のプロポーションとスタイル。ただし目つきだけに関して言えば、どんな人生を歩んできたらこんな目を所有することができるのだろう、と思わずにはいられないほどに眼光が炯々としている。根っからの主人公気質で熱しやすく冷めやすい熱血漢。信じて裏切られるのと、疑って信じないのとでは迷わず前者を選ぶ。これが"V"においてぼくのパートナーになった礎蠍、またの名を《真紅の毒牙》、のプロフィールといったところか。


    「なぁ〜カナたんはつぼみちんと付き合ってんのか?」
    「そうですね、数ヶ月前からお付き合いさせていただいてます」

    ぼくが答えるよりも早くつぼみさんが真面目に返答してしまった。彼女は未だに、恋愛における"付き合う"という言葉の意味をよく理解していない。

    「オッほ⁈ マジか」

    「礎さん、誤解しないで下さい。そっちの付き合うじゃありません」


    即座に否定するぼくを見た彼女は、殴りたくなるような薄ら笑いを浮かべた。そう、礎さんは女性なのだ。しかも非の打ち所がないほど美人。峠さんから聞いた名前と性格からして、完全に男性だと思い込んでいたぼくらの予想は、大きく裏切られたというわけだ。
  61. 61 : : 2015/10/14(水) 20:46:01

    「ふ〜ん、素直じゃないねぇカナたんも」

    「カナたんやめてください」
    「ほんじゃあカナたん、つぼみちんとキスしたことは?」

    「…………………」


    名状し難い気分になった。ぼくの発言を華麗に無視するだけならいざ知らず。つぼみさん、さすがにキスが何かは分かったらしく、顔を真っ赤にして俯いている。ぼくはなるだけ平静を装って答えた。


    「ありませんよ」

    「お堅いねぇ、若いんだからもっと盛れよ」

    その"若い"という一言には大いに反論があったが、それは口に出しては言うことでもあるまい。


    「じゃあ一緒に寝たことは?」

    「……………ぼくはこの間ずっとこんなセクハラい質問をされなければならないんですか」

    「いいだろ別に、暇なんだしよ」

    暇だ、という理由で片付けていいモノといけないモノがある。この場合確実に後者だ。つぼみさんはもうぼくらの方を向いてもいなかった。

    "V"に入って初めてのSS級任務。逃げ出した功膳を連れ戻せとの御触れだが、とても簡潔に明瞭にかつ濁り無くストレートに言えば、逃げたモンなんか追っかけても仕方ないのでは、というのが正直なところだ。

    そして任務出発十五分前。
    要するに、暇。
  62. 62 : : 2015/10/14(水) 20:47:46

    「………じゃあもう一つ聞くぞ」
    「お手柔らかにお願いしますよ」

    「つまりカナたんはつぼみちんを一人の女性として、恋愛対象として見ているわけではなく純粋な友情から行動を共にする、というわけだな」


    お。今度は比較的まともな質問だ。


    「要するにつぼみちんの子供(ロリィ)な体躯には欲情しないと」


    期待したぼくが馬鹿だった。


    「……………、いい加減にして下さい。ぼくはもう行きますよ」

    「あ⁈ マジギレかよ、そりゃねーぜカナたん」

    それにつぼみさんは身長が低いがために小学生に見えるというだけで、礎さんじゃないけど、別に子供(ロリィ)な体躯なわけじゃない。胸も決して慎ましい大きさではないし。そんな益体のないことを考えながら洞窟を出ようとした、その時。背後から可愛げのある声が響く。


    「行ってらっしゃいませ、ご主人様」


    あう。毎度この人はぼくの(さが)をむやみやたらと刺激してくる。

    「つ、つぼみさん、そんなこと言わないで下さいよ。ぼくらは友達でしょう?」

    「あら。お気に召しませんでしたか? わたしは貴方に救われた身ですし………それにそもそもわたしの本業はメイドです」
    「そりゃ、まぁ、そうでしょうけど………」

    「お帰りを、心よりお待ちしております」


    あぁ、もう分かったよ。好きにしてくれ。


    「行ってきます!」


    不意に見上げた空は、今にも泣き出しそうだ。雲行きはお世辞にも良いとは言えない。まだ昼間だというのに日の光は一筋として差さず、それどころか既に夜のように暗い。いっそ不吉だと比喩してしまっても許されるような鴉色の雲が、視界を覆っていた。どうしてどうして、ぼくが出かけるときはいつだって曇天だ。

    と。ぼくの鼻先にぽつり、と雨粒が落ちる。イノなら、井上昴なら、こんな空を『空が空を、雲が雲を、雫が雫を、切り刻んで渡る雲霞』とでもメタファーするのだろうか。いくら陳腐な形容であるとはいえ、それは微塵のほども疑いなく、紛れもない事実だった。
  63. 63 : : 2015/10/14(水) 22:17:42

    2


    死の定義について考えてみよう。
    心臓が止まる、のはほとんど即死。
    あるいは、大量出血、で失血死。
    あるいは、流水に沈んで溺死。
    もしくは、首を絞められ窒息死。
    たとえば、金属バットで頭を殴る。
    これでも十分死ねる。
    ただ、死を実感する当人にとっては死に方なんてどうでも良いことで、問題は"自分がこの世から消えてなくなる"ということだ。

    かの有名なゲーテ著の「ファウスト」で、主人公は人は死んだらどうなるのか、という永遠の謎を解明するために毒薬で自殺を試みた。人に限った話ではなくて、生物は死んだらどうなるのか。生憎、ぼくは死んだことがないので分からない。死に際に『自分はこれからどうなるのか』なんて荒唐無稽を考える輩がいるのか。いたとしたらそれは相当なフィロソファーか、ただの馬鹿だ。

    轟々と風を切るオープンカーの助手席から移り行く景色を眺めながら、ぼくはふと昨日殺戮(りく)った捜査官の、どんな光も宿らない虚ろな目を思い出す。
    ヌルヌルと滴る血液。
    だらりと力なく伏した肢体。
    徐々に失われていく人肌の温もり。彼は死に際に、一体全体何を考えていたのだろう。


    「カナたんはどうして"V"にいるんだよ?」
  64. 64 : : 2015/10/15(木) 21:47:11

    オープンカーの運転席には、勿論礎さん。
    それは話すと長いんですけど。
    一瞬の逡巡の末、ぼくは誤魔化した。


    「別に………ただの気まぐれですよ」

    「ふうん、気まぐれ、ねぇ。散々みっともなく泣き喚いた末、峠のヤツに口説かれて青臭い決意をした悲劇の英雄クンが気まぐれ、ねぇ」

    「………………っ、」
    「冗談だよ。そんな数秒後に世界が終わるみたいな顔すんな」
    「悪い冗談にも聞こえませんよ」


    というか、そんな顔をしてたのか、ぼく。


    「何だって唐突にそんなことを?」
    「ああ。別に、それこそ"気まぐれ"だぁな」
    「はあ……………」

    「しっかしよく分からネェヤツだよな、功膳も。知ってるか、アイツ人間とつるんでたらしいぜ」

    「人間と………って、どういうことですかそれ⁈ 初耳ですよ」


    功膳。"V"掃討屋。否、元"V"掃討屋か。
    現段階でCCGからはSS〜級扱いの、羽赫の喰種。先日"V"から逃げ出すばかりか、ベテランの追手をあろうことか撃退までした、相当な腕利きだと聞く。


    「なんでもその人間とハッスルしてハーフの子供まで作ったそうだよ。ま、その仲良しさんだった人間は"V"の追手に殺られちまったんだとか、殺られちまってないんだとか」


    人間と、喰種の子。半喰種。そんなもの成立するのか。
    それじゃあまるで───ぼくみたいじゃないか。


    「それで礎さん、その子供は? どうなったんですか?」

    「さぁな、そこまでは知らね…………つーか、あたしを苗字で呼ぶな」
    「えっ………なぜに」
    「蠍だ」


    問答無用だといった様子で。
    圧倒的な、存在感。絶対的な、威圧感。
    気圧されるように。気押されるように。
    睨まれた。こりゃちょっと逆らえない。


    「……分かりました、蠍さん」
    「分かりゃいーんだよ。ま、心配すんな。このあたしがそんなしみったれのヘッポコ野郎は畑の肥やしにしてやるよ」


    いや、あなたはレートBでしょうが。
    ぼくは現段階でCCG公認のS〜級だし。
    だがまぁ、しかし、だ。礎蠍。彼女はまだCCGに正体があまり露見していないだけで。恐るべき彼女の尾赫には────毒が仕込まれている。その彼女の赫子に貫かれたが最後───回避不可能、彼女の病毒の前には治療法など絶無的に皆無だ。それこそが、蠍さんが《真紅の毒牙》と謳われている所以。

    「っと、着いたぜカナたん」
  65. 65 : : 2015/10/15(木) 21:48:54

    蠍さんは、今時にしては少し古めかしい、けれどもどことなくしっくりくるcaféの前で車を停めた。功膳は、20区でとある喫茶店を経営している。ここまでは情報通り。大きな窓の向こう側で、人の良さそうな中年男性がやんわりと微笑みながら佇んでいた。
    店名は、────あんていく。
    あんてぃく────antique。
    成程、骨董ね。良いセンスだ。
    喫茶店のノブに手をかける。
    軽快な鈴の音が響いた。

    「いらっしゃいませ」

    「どうも…………、功膳さん」


    しばし、視線が交差する。
    先程までの綻んだ目元から一変して、鋭い眼光が僕を射抜く。重い空気に、戦慄が走る。


    「私をその名で呼ぶということは、どうやらお客様、というわけではないようだね」

    「………………」
    「その匂い。不思議な匂いだ。そうか、君が噂に聞く、《閃光》か」
    「ご明察ですよ」

    「『お客様は神様です』という言葉がある。それになぞらえて言うならば、さしずめ君達は地獄からの使者、といったところか」
    「そいつはどうも。当たりかどうかは判じ兼ねますが、外れでこそないでしょうね」
    「何が目的だ?」

    「…………"組織"に戻って来てください。大人しく着いて来い、と言って従わないことぐらいはわかってます。そのためにここにいる」
    「そうか…………残念だよ。もうこの"羽"は二度と使うまいと思っていたのに」


    言うが早いか、功膳の瞳が赤く染まる。



    「場所を変えよう。ここは私の大事な店だ」
  66. 66 : : 2015/10/15(木) 21:50:32

    3


    完全に化け物だ。
    人知を超えた化け物だ。
    人智を超えた化け物だ。
    なんてふざけた赫子だ。
    喰種の本来の姿なんかまるっきり無視している。


    「君は自由、という言葉をどう定義する?」


    両肩から伸びた鋭利な剣。
    背中から生えた針山地獄。
    不気味な仮面からは左目だけが覗いていた。


    「なんで今、そんな話を…………」

    「自由、という言葉は不自由があったからこそ生まれた。何者かによる束縛が存在したからこそ、人は解放を求め、自由という概念が生まれたのだ。そうだ、君はフランス革命を知っているかい?」


    フランス革命。
    中世ヨーロッパにおいて、ブルボン朝の絶対王政を倒した市民革命だ。その際、ルイ16世とその妃マリー・アントワネットがギロチンにかけられる。


    「まぁ、それなりに知ってます」

    「革命時に掲げられた人権宣言にはこうあるよ。人は生まれながらにして自由で平等な権利を持つ、とね。アメリカ独立宣言にも類似した内容が記載されている。さて、これを踏まえた上で君はどう思う?」

    「は? 何が言いたいんですか? 人が自由な権利を持つなら喰種も自由で平等だ、とでも言いたいんですか」
    「フ……………」


    不敵に、笑った。
    実際。彼の顔は君の悪い仮面に遮られ、見えていない。けれども彼は確かに、その仮面の向こうで───笑ったのだ。それはさながら、峠さんを彷彿とさせる笑み。


    「権力は存在しても、権力者は存在しない。ゆえに、誰も何者にも束縛される理由などない─────誰かを束縛する行為は等しく、罪だ」

    「へぇん、大層な考えをお持ちで」
    「権力者とは、罪、そのもの」


    そう言って彼は身を屈めた。
    臨戦体勢。飛んでくる、か。



    「罪には、罰が必要だ」
  67. 67 : : 2015/10/15(木) 21:55:33

    その文句が口火となって、功膳の背中から無数の弾丸が発射された。羽赫特有の弾丸が、ニワカ雨のように降り注ぐ。


    「ッハァ!」


    蠍さんは、空気を縫うように雨粒を躱し。
    ぼくは、瞳を閉じる。肩に全神経を集中させ、精神統一。皮膚を突き破って、パーカーを突き破って。紫とも青とも言えない、蒼白い稲妻が千鳥のように哭く。折り畳み傘のような、翅を広げて、降り注ぐ雨粒を凌ぐ。稲妻、天を呑み、地を斬り裂け。


    「驚いたよ。それが、《閃光》たる所以かな」

    「次は、ぼくの番です」

    胸を反らして、溜める。もっと。もっと、いっぱい。もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。膨れ上がれ。パンパンの風船のように。

    「…………綺麗だな」

    「そいつは、どうもっ!」


    パンパンの風船に針を刺す。
    弾けろ。痺れろ。吹き飛べ。

    ただ、哭け!

    はち切れんばかりに膨張したプラズマの球を、功膳めがけて一気に爆発させる。雷がアスファルトの道を一直線に駆け、深い爪痕をつけた。


    「ぬぐっぅぉ、ぉぉぉっ…………お!」


    こりゃ驚いた。ぼくの雷を、耐えた。傷一つ負わないとまではいかないけれども、ぼくの雷を受けて、死んでいない。肩から伸びる二本の赫子で稲妻を受け、規格外の体で踏ん張った彼は、弾けなかったし、吹き飛ばなかったし、勿論死んでもいなかった。が、唯、痺れはしたようだ。それで十全。十分以上。

    「蠍さん、」

    「ホイきた!」


    ぼくと蠍さんがなぜ、功膳の奪還を任せられたか。
    それは、相手の動きを止めることに関して絶対的かつ圧倒的な力を有しているからこそ、だ。ぼくが雷なら彼女は、毒だ。言わずもがな、彼女は毒牙。体内に蓄積させた数種類の病毒を駆使し、あくまで殺さずに動きを封じることは、赤子の手をひねるよりも容易い────はずなのに。


    「っあ……………?!」
  68. 68 : : 2015/10/17(土) 21:46:59

    不快な金属音と共に、彼女の尾赫は弾かれた。
    そんな。なんてふざけた肉体なんだ。あの研ぎ澄まされたナイフのような赫子が────言うに事欠いて弾かれた。


    「おいおいマジかよ………あたしの赫子が通らねえぞ!」

    「蠍さん、離れて」

    功膳への攻撃のために大きく跳躍した彼女の身体は、当然、踏ん張りがきかない。尾赫を伸ばしきった彼女の体はガラ空きだ。そこに功膳の巨大な赫子が伸びる。クソ。間に合え。すぐさま赫子を地面に突き刺し、電流を流し込む。面と向かえば防がれるのなら────今度は足元からだ。さあ、どうだ。


    「ぐガッハァぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁ?!」


    疾く、疾く、地を這った神鳴が一気に地面から槍のように突き出る。それをまともに喰らった功膳はあえなく吹っ飛んだ。良し。


    「大丈夫ですか?」

    「ケッ。要らネェ世話だよ、カナたん」
    「すみません」


    仰向けに倒れた功膳は、微動だにしない。まさか。SS〜級の功膳がこれほどまでにあっけないなんて、そんなことあるもんか。試しに彼の脇腹に蹴りを入れる。無音のまま、彼の身体がピクリと痙攣する。続いて、静寂。何も聞こえない。おかしい。


    「功膳さん? なんの夢を見てるんで、す──」


    ぐったりと横たわる彼の耳元で、軽口を囁いた次の瞬間。そこには、いかなる刹那さえも存在しなかった。いつの間にかぼくは、蠍さんの前に躍り出ていた。自己犠牲だったと思う。もっと簡単に言えば、ただのでしゃばりだったと思う。けれどもそれは圧倒的に統覚的で、絶対的に無意識的な動作だった。


    「──────カッ⁈」
  69. 69 : : 2015/10/19(月) 21:34:39

    小型トラック並みの巨体を一瞬で翻した功膳の赫子は、狙い通りに蠍さんの腹─────ではなく、彼等の間に割って入ったぼくの下腹部を捉えていた。薄手のシャツが裂かれ、薄手の皮膚が裂かれ、細い血管が勢い良く弾け飛ぶ。言い知れぬ痛みが走る。続いて、口いっぱいにお腹がムカムカする鉄の味。吐きそうだ。いや、もうすでに吐いている。吐血。もしくは喀血。


    「ッあ………ぐ、ゲホッ!」

    「ンの馬鹿野郎が!」


    蠍さんは思い切り悪態をつきながら、ぼくを抱きかかえ脇へ飛び退いた。


    「てメェ、いつあたしが守ってくれって頼んだんだよ⁈ いい加減その癖直しやがれ!」

    「す、みません…………、蠍さん」


    損傷した腹を触る。冷たい手が血塗れの生々しい肉の感触を捉える。目を閉じる。損傷部に全神経を集中させ、回復に専念。クソ。治れ。治れ。治れ。遅いぞ。治れ、治れ。早く、治れ。ぼくの異常なまでの回復の遅さに、彼女は訝しげな視線を送る。

    「おい、カナたんよ。まさかお前、」

    そう。そのまさかです。


    「まだ"肉"喰ってねェのか」
    「…………………」
  70. 70 : : 2015/10/19(月) 21:37:03

    ご名答。ぼくは、"肉"を食べていない。"V"で生きると決めたあの日から、ヒトの肉を口にしたことは一度もない。それがぼく唯一無二の誇りであり、何の恥ずかしげも無く自慢できることだった。功膳は耳が良いらしく、ぼく達のやりとりを興味深そうに聞いていた。目障りだ。


    「ほう、君は"肉"を食べていないのか」

    「……………アンタには関係ない」
    「君はどうして"肉"食べないのかね?」


    ぼくは。


    「貴方が知る必要なんて、ない」


    ぼくは。


    「それはまたどうしてだね? 君とは良い珈琲が飲めると思ったのだが」


    ぼくは。


    「貴方とご一緒するなんて、これまでも、そしてこれからだって未来永劫あり得ない」


    ぼくは。


    「そうか………そこまで嫌われているのなら仕方ない。他を当たるとしよう」


    ぼくは。


    「君には、」


    ぼくは。


    「私の娘も、助けて欲しかった」


    "ヒトのまま"でいたかったぼくは。
    ヒトの肉なんて、食べたくなかったんだ。
    あの日、峠さんは言った。
    『傷付くたびにRc細胞管は伸びる』
    逆手に取ろう。
    『傷付かなければ、細胞管は伸びない』
    更に言おうか。
    『傷付かなければ、ヒトのままでいられる』
    呆れるほどの希望的観測だ。
    そんなぼくの棘だらけの隘路を。
    何気ない功膳の、核心的な一言が。
    灼熱の炎と極寒の氷で、閉ざした。
    二度とは開くことができないほど。硬く、固く、堅く、確く、型く、片く、難く、克たく、過多く、頑なに。





    Reaper has already broken of the shell.

    《The juvenile tragedy》will be continued……
  71. 71 : : 2015/10/19(月) 21:39:40
    お疲れ様!


    次回作に期待です‼
  72. 72 : : 2015/10/19(月) 21:47:05

    さらに激化する功膳との闘争。
    やがて現れる儚い希望の光。

    力を振りかざすことが正義か。
    強きをくじくことが正義か。
    弱きを助くことが正義か。
    その答えは未だ、杳として知れない。悲しみに沈み、身も心も削られていく"ぼく"の前に現れたのは、青い髪の少年だった。

    そして。悲しい死が、"ぼく"を襲う。




    次章

    東京喰種 Reaper【仁广】

    次話

    #006「迷仔」
  73. 73 : : 2015/10/19(月) 21:52:48
    ─────アトガキ。

    はい。疲れました。
    とある悲劇の英雄の過去を紡ぐ物語、というわけで書き始めた今作品ですが、とにかく展開が急過ぎますね。客観的に見たら展開早すぎて、ぼくなんか頭痛くなっちゃいそうです。書きたい情景を一気に詰め込んでしまったんですよね。深く反省。

    誰の過去編かは、分かる人には分かっちゃってると思いますが、これからもこんな感じで悲劇は続いていきますのでよろしくお願いします。

    最後に、閲覧ありがとうございました!
    意見・感想、質問、アドバイス等ございましたら、気軽にコメントして頂けると嬉しいです。それでは。

    まぁ、次は大学受験終わってからかな。
  74. 74 : : 2015/10/19(月) 21:54:23
    >>71ありがとうございます!
    恐らく次回もドタバタめちゃくちゃな展開が予想されますが、よろしくどうぞ( ´ ▽ ` )ノ
  75. 75 : : 2015/10/19(月) 22:42:49
    お疲れ様ですー!
    とても面白かったです。
  76. 76 : : 2015/10/19(月) 23:43:26
    >>75コメントありがとうございます!
    楽しんで頂けたようで幸いです。
  77. 77 : : 2015/10/20(火) 00:26:40
    Pick up、載りました。
    読んで下さった皆様に、今一度感謝です。
  78. 78 : : 2015/10/21(水) 01:16:17
    ハイセさんっぽさ全開で面白かったです。設定変更もよかったと思います。
    続編も期待です。しかし勉強優先で(笑)
  79. 79 : : 2015/10/22(木) 21:40:29
    >>78ありがとうございます!
    そうですね、やっぱり個性は大事ですw
    思い切った設定変更だったので辻褄がちゃんと合ってるか不安でしたが、それを聞いて安心しました。

    えぇ、仰る通り勉強頑張らなきゃですね。
    もうセンターまで3ヶ月切っちゃったしなぁ…
  80. 80 : : 2015/11/23(月) 00:21:21
    お疲れ様でした〜(今更ですかねw)
    ちょっと最後の想像ついちゃいました…
    あれがああなってあれをああしてあれがああなるんですよね。
  81. 81 : : 2015/11/23(月) 10:29:19
    >>80いえいえ、コメントありがとうございます!
    そう、それです、あれがああなってあれをああしてあれがああなるんですよw

    結末は決まってますが、これからまだまだ原作と絡めた様々なストーリーが挟んであるので、乞うご期待です!

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