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  1. 1 : : 2015/09/05(土) 19:24:43
    うつ注意です。
    半値はわかりやすいように<1>とします。
  2. 2 : : 2015/09/05(土) 19:29:47
    なんだろう、この音…。
    小石がたくさん地面に落ちるような、小豆を洗っているような音。
    ふと、鼻腔が独特な匂いで満たされた。
    あぁ、この音は雨なんだ。
    少し憂鬱な気分になってしまったけど、それを吹き飛ばすように勢いよくベッドから出て、大きく伸びをする。
    さぁ、今日も頑張ろう。
    …って。
    時計を見たら結構ギリギリな時間で。
    待ち合わせ場所に行くと、凛ちゃんも真姫ちゃんもいて。
    なんだか、申し訳ないなぁ…。
    ざぁざぁと私の頭の中に雨音が響いていた。
  3. 3 : : 2015/09/05(土) 19:30:20
    「かよちん?」
    不意に声が聞こえて、びっくりしちゃった。
    「どうしたの、凛ちゃん」
    「かよちん、なんかいつもと違う」
    なんて、言われちゃった。
    うん、自分でもわかってる。
    どうして……どうして、気付いてしまったんだろう。
    気付かなければ、迷惑をかけることもなかったのに。気分も、もっとあがってたろうに。どうして。
    「……花陽?」
    あ、真姫ちゃん……心配そうな顔してる。……ごめんね、花陽のせいで。
    「…なんでもないよ? ちょっと…寝坊、しちゃって朝御飯食べれてないだけ!」
    なんて、言い訳しちゃった。
    すると、二人揃って私の指先をじーって見つめて……。
    「……そう? ならいいんだけど」
    「かよちん、本当に何かあったら相談してね!」
    素直に嬉しかった、けど……胸が、痛いよ。
    ズキズキ痛んで止まらない。
    雨が私の中で降り続いていた。
  4. 4 : : 2015/09/05(土) 19:30:42
    私はただ、ありがとう……と言って口を閉じる。
    そのあとは、珍しく無言で登校。
    学校に着いてからも胸の痛みと雨の音は止むことはなかった。
    正直……もう、つらいよ。
    でも、誰に言えばいいの……?
    こんなこと……。
    「かーよちん! また暗い顔してるにゃー! ……無理、しないで」
    少し間を置いて、トーンを少し下げて、そう言った凛ちゃん。
    本当に心配してくれてる。
    ねぇ、凛ちゃん。
    そんなこと言われたら……。
    「……大丈夫だよ、凛ちゃん。ありがとね」
    って言って、少し微笑んだ。
    貼り付けたような笑顔にはなってないだろうか。
    声が震えてはいないだろうか。
    そんなことばかり気にしてるうちにHRが始まってしまった。
  5. 5 : : 2015/09/05(土) 19:31:11
    ねぇ、凛ちゃん。
    もし、もしもだよ?
    私が……好きだ、って言ったらどんな反応するの?
    ……ううん。これ以上は望まない。望んじゃいけない、よね。
    今のままで充分幸せでしょ? ……幸せ、なの、かな………
    自分の気持ちに嘘ついて? それで幸せって言えるの? ……あぁ、嘘じゃなくなればいいんだね…………そう思った瞬間にプツン…と何かが切れた音がした。いつの間にか雨の音は止んでいた。
  6. 6 : : 2015/09/05(土) 19:32:45
    ……気が付くと、何故か隣に凛ちゃんが心配そうに私を見つめていた。
    「り……凛、ちゃん?」
    なんだか、その目が少し怖くなって、怯んでしまった。
    「ぁ……かよ、ちん……?」
    …? なんか怯えてる……?
    「そうだけど……どうしたの?」
    「あ、れ……? かよちん、もう…平気なの?」
    平気、って……さっきのこと?
    …あれ? 時計……12時、7分
    さっきHRが始まったばかりじゃ……
    「凛…ちゃん」
    私は普通に、椅子を立った、だけ。
    「ひ……っ」
    なのに、なんで……凛ちゃん、怯えてるの……? 私は一体なにを……
    「ごめんなさい、かよちん……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
    泣きそうな顔で、そう繰り返す凛ちゃんの目は、どこか虚ろだった。
    なんで私は……覚えてないの…?
    「お願い……嫌いにならないで…悪いとこは直すから…」
    半泣きの状態の凛ちゃんの、この一言を私は聞き逃さなかった。
    「嫌いに、って……私が、凛ちゃんを……?」
    「……ぅ……うん」
    小さくだけど、返事をしてくれた。
    誤解を解かなきゃ。そう思って軽率に抱き締めたのが間違いだった。
    私のしたことは、逆効果だった。
    「……ゃ……だ……」
    ついに、泣き出してしまった。
    「り、凛ちゃん……? ……ごめん」
    「……? さっきと…違う……?」
    「さっきって?」
    「え……覚えて、ないの……?」
    なにが、そう聞こうと思ったが、視界が急に暗くなる。
    ざあざあと雨の音か響いている。
    これはなんだ、と思っていると、ふらふらとして立っていられなくなる。
    ガタッと音をたてて、私は倒れこんだ。凛ちゃんがなにかを言っているようだが、今の私には、雨の音しか聞こえない。ただひとつ、わかったことは、真姫ちゃんが少し遠くから私を見つめていたことだけ。
  7. 7 : : 2015/09/05(土) 19:33:30
    「……よ」
    なにかが聞こえる。全身がだるい。目を開けるのもだるい。もう少し…寝させてよ……。
    「……なよ…………花陽ッ!」
    誰かが私のことを呼んでる。
    ごめんね、もう少しだけでいいから……。
    「花陽ッ! 起きてよ!」
    なんでそんなに大きな声で……。じゃあ、起きようかな……?
    「……花陽」
    真姫ちゃんだ。……? なんで、泣いてるの?
    「よかった……本当に、よかった」
    なにがよかったんだろう?
    少し寝てただけなのに。
    「花陽……あなた……何かあったの?」
    あぁ、また迷惑かけちゃったのかな。
    「私でよければ……話くらいは聞くわよ……?」
    「話したくない」
    なんで? 私の意志と違う。どうして体が動かないの? どうして、口が勝手に……。まるで、誰かに操られてるみたい……。
  8. 8 : : 2015/09/05(土) 19:33:56
    「……え?」
    「聞こえなかったの? 話したくない。あなたに話したところで、何になるというの?」
    「話すだけでも……」
    「それは何になるの、と聞いてるの」
    「は、花陽……?」
    「ねぇ…………聞いてんの?」
    「わ……私はただ、仲間として……花陽のことを……」
    「へぇ……そうなんだ……なら、西木野真姫。あなたは花陽の仲間じゃない」
    やめて。どうして大切な真姫ちゃんにそんなこと言うの。私の体でしょ。どうして動かないの。話せないの。
    「……ッ!」
    真姫ちゃん気付いて。私じゃないよ。私は真姫ちゃんにそんなこと言わない……!
    「ご……めん……なさ」
  9. 9 : : 2015/09/05(土) 19:34:16
    真姫ちゃん泣かないで。そいつは花陽じゃない……。じゃあ…………誰?
    「仲間なんて……少しのきっかけで全部崩れるんでしょ? ただ、自分はひとりじゃない、って思いたいだけなんでしょ? あなたがやろうとしていることは、花陽のためじゃない。全部、自分がいい人だって思いたいだけ。違う?」
    私じゃない誰かは、早口でまくし立てる。……あれ? 私……自分のこと、花陽って…………?
    「私は、そんなこと……思ってない……」
    「じゃあ何? 仲間ごっこなんてして、楽しいの?」
    「ごっこじゃない!」
    今の、真姫ちゃんじゃない。
    よく聞き覚えのある声。
    昔からずーっと隣で聞こえてた声。
    私が大好きな……声。
  10. 10 : : 2015/09/05(土) 19:34:44
    「かよちん……いくらかよちんでもそんなおふざけ…………許さないよ?」
    凛ちゃんが……あの温厚な凛ちゃんが……目を真っ赤にして怒ってる。
    ……泣いてた、のかな。…………私のせいで。
    「おふざけ……って。あなたたちの方がおふざけでしょ? 大切な仲間(笑)…………そんなもん建前だよね? 本心なんて誰にもわからない。実際、あなたたちは、花陽の本心をわかってなかった。…………そうだよね?」
    「誰なの?…………あなたは」
    私が思っていることを凛ちゃんが言ってくれた。さすが凛ちゃん……ありがとう。
    「はぁ? 花陽でしょ? あなたの幼なじみ……大切な仲間(笑)の……小泉花陽。それ以外になんだと思うの?」
    「……違う。あなたはかよちんじゃない」
    「じゃあ……なんだと思う?」
    「鬼…………かよちんを返してよ」
    「じゃあ、ひとつ教えてあげるね」
    「……なにを? 」
    「鬼、っていうのは誰の心にも潜んでるの。それを人間は理性で押さえつけてる。でも、それが小さなきっかけで押さえきれなくなって、鬼が出てきてしまう」
    「……つまり、何が言いたいの?」
  11. 11 : : 2015/09/05(土) 19:37:12
    ?期待
  12. 12 : : 2015/09/05(土) 19:37:25
    「まぁ、言ってあげると……あなたが思ってるように、花陽は鬼。ある小さなきっかけで目覚めたんだよ。……それが何か、あなたにはわかる?」
    「…………わから、ない」
    「そうだよね。わかってたらこんな風には、ならなかった。あなたの中では本当に小さなことかもしれない。でも、花陽の中ではとっても大きなことだったんだよ」
    …………知りたくない。言わないで。
    「…………凛が、原因、なの……?」
    「まだ気付かない? ……花陽の小さな嘘…………あなたは表面しか見てなかった、ってことだよね?」
    「……ぁ……」
    真姫ちゃんが小さく声をあげる。
    「朝…………」
    「真姫ちゃんは気付いたみたいだね。どうかな、星空凛。あなたは気付いてないんだね?…………それがあなたの罪 」
    凛ちゃんは悪くない。私が臆病なだけなんだ……。
  13. 13 : : 2015/09/05(土) 19:39:44
    「つ、み……? 」
    「そう、罪。花陽はこんなにヒントをあげた。それでもあなたは気付かない。……そりゃ、鬼が出てもおかしくはないよね?」
    「…………黙って聞いてれば……」
    あー……真姫ちゃん、すごい怒ってる……。
    「あなた…………全部凛のせいにして、自分が臆病なのを人のせいにしてるだけじゃないの?」
    「ま、それもあるよね」
    <花陽>は意外にも、あっさりと答えた。
    「でもさ、こうも思わない?」
    「な、なによ……?」
    「孤独だった」
    「こ、どく………」
    「つらくても、逃げたくても、話せる人がいなかった。信頼していい人がいなかった。だから…………ひとりで逃げた、って」
  14. 14 : : 2015/09/05(土) 19:40:25

    「さっき…………私、話してって言ったわよね…………?」
    「あなたに花陽の気持ちがわかるとは思えない」
    「そんなの話してみなきゃ……」
    「わかるよ。花陽の嘘、ひとつも見抜けなかったでしょ? 今までの……ぜーんぶ」
    「見抜いてるわよ、あなた……凛が好きなんでしょ?」
    「じゃあなんで…………助けてくれなかったの?」
    「私が何かをやって成功しても……花陽なら喜ばない」
    「…………それのせいで花陽がぼろぼろになったとしても……それでもあなたは自分が正しいっていえるの?」
    「いえる。……だれだって自分が一番正しいと思ってるものよ」
    「そういうときは、他方からは正しいと思われてないものじゃない?」
    「そうね。それでもいいと思うわ」
    「…………なんで?」
    「私がいいと思ってればそれでいいの」
    「…………他人のことはどうでもいいってこと?」
    「あなただってそうでしょう?」
    「…………星空凛のためにたくさんヒントあげたじゃん? 自分の罪を教えてあげたよ?」
  15. 15 : : 2015/09/05(土) 19:40:59
    「そうよね…………それ以上、小泉花陽が傷つくのをみたくないんでしょ?」
    「…………」
    「あなたは……鬼ではないんでしょう?」
    「……びっくりだね。見抜くなんて」
    …………あぁ、やっとわかった。
    「…………もう、いいんじゃないの? ……花陽」
    これは全部、私の意志だったんだね。
    「どうして……<花陽>の嘘が?」
    「あなたが言ってたんでしょう?」
    【まだ気付かない? ……花陽の小さな嘘】
    「あはは……恐れ入ったね」
    「ヒントありがとね。おかげで気付けたわ」
    「…………それで、私に何かあるんじゃないの?」
    「……別になにもないわ」
    「へぇ…………」
    「あなたの意志だったんでしょう」
    「…………まぁね」
    「なら、何かを言う権利なんて私にはないわ」
    「ふーん……嫌いになったんじゃない? 私…………花陽の、こんなところを見て、さ……」
    「そうね。元から嫌いだわ。つらくても何も言ってくれないし、聞こうとしても遠慮して、壁をつくってるんだもの」
    「はは……厳しいお言葉だなあ」
    「さっきのお返しよ」
    「真姫ちゃん、凛ちゃん、あのね…………」
    いきなり、ぐわーんって頭の中で音がなる。……また、だ。…………ほら、ざあざあと雨の音…………。最後に目に入ったものは…………大きな……ハサミ。
  16. 16 : : 2015/09/05(土) 19:41:25
    「…………?」
    あれ、ここ……?
    「かよちん?」
    「…………凛、ちゃん?」
    「………うなされてたよ」
    「え?」
    「うなされてた、かよちん」
    「……うなされてた?」
    「うん…………やっぱり、朝、嘘ついてたね。サボっちゃって正解だったにゃ」
    「…………え? つまりそれ……」
    「いつの間にか嘘、上手になったね」
    「気付いて……?」
    「当たり前だにゃ! 何年一緒にいると思ってるの!」
    「……そうよ、私だって大切な仲間なんだから」
    「あー! 珍しく真姫ちゃんが素直にゃ!」
    「なによ、うるさいわね!」
    「…………ふたりとも」
    「あ、ごめんかよちん……うるさかった?」
    「ううん…………ありがとう」
    「「どういたしまして」」
    「ふふ…………ふふふ」
  17. 17 : : 2015/09/05(土) 19:42:01
    《ねぇ、聞いた?》
    《あのアイドルグループの子でしょ?》
    《そうそう、精神病んじゃったって》
    《なんか……可哀想だよね》
    《あの子、ひとりで話してるんだって》
    《…………もう、この話やめない?》
    《……え?》
    《いや…………前、見て》
    「凛ちゃん……心配しすぎだよぉ」
    「もう大丈夫だって!」
    「真姫ちゃんまで……さすがに学校行かないと海未ちゃんに怒られちゃうよ?」
    「ね? ほら、行こ!」
    《…………え、危な……!》
    《線路……!!!》
    「あは…………あはは……」
    《おい! 誰か救急車呼んでこい!!》
    《くっそ、なんで線路に飛び込んで……》
    「ふたりとも…………大切な…………仲間…………だ……よ……えへへ…………」

    Bad End
  18. 18 : : 2016/11/14(月) 19:03:11
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