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この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

【第一部】苗木の奇妙な学園生活【ポジティブフォーメーション】

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  1. 1 : : 2015/08/06(木) 21:43:01
    ダンガンロンパとジョジョの奇妙な冒険のクロスSSです。
    ダンガンロンパのキャラクターたちがジョジョ原作にあるスタンドのいずれかを持ち、「私立幽波紋(スタンド)ヶ峰学園」に入学する――というストーリーになっています。

    ジョジョ原作キャラも数名登場しますが、彼らは「彼らであって彼らでないもの」です。
    たとえば承太郎は登場しますが、彼はエジプトへとある敵を倒しに旅立ち戦いましたし、杜王町での戦いも経験しています。また、アメリカで娘を助けるための戦いも経ましたが、その際に仲間になったり、敵として戦ったスタンド使いやスタンドは“原作とは違うもの”でした。故に、この作中では、原作で敵として出会った者と邂逅したとしても、この世界では敵として戦ったわけではないため、そういった反応はありません。
    また、原作の承太郎が知っているスタンドを生徒の誰かが持っていたとしても、それについての反応もありません。
    何巡目かの世界、といった感じの認識でお願いします。

    なおスタンドにつきまして、一部、原作とは発動条件などの設定の変更を加えているもの、及び追加や効果の拡大解釈等しているものがあります。

    また、ダンガンロンパ、ジョジョの奇妙な冒険ともに、ノベライズ版(ダンガンロンパゼロや恥知らずのパープルヘイズ等)のネタ、および希望ヶ峰学園第七十七期生のサトウさんは入れないつもりです。
    あらかじめご了承ください。

    【追記】オリジナルキャラクターを含む、とした理由は原作には存在しないACT2やACT3、レクイエム化の要素を含むための念のための措置です。“キャラクター”という意味ではモブなどは登場するかもしれませんが、名前付きのオリジナル人物は登場しません。
  2. 2 : : 2015/08/06(木) 21:43:41
    苗木「私立幽波紋(スタンド)ヶ峰学園……」

    苗木(表向きには“超高校級”の才能を持った高校生のみを学園側からスカウトし、才能を育成する教育機関……)

    苗木(その実態は、優秀なスタンド使いを集め、スタンド能力を第一線で使えるようにするための“技術”を学ぶための教育機関)

    苗木(ボクはそんな学園の前に、今……立っていた)
  3. 3 : : 2015/08/06(木) 21:43:55
    #1
    苗木誠、幽波紋ヶ峰学園に入学す!
  4. 4 : : 2015/08/06(木) 21:44:11
    苗木(ボクの名前は苗木誠。スタンドが使える以外は至って平凡な男子高校生だ)

    苗木(その上ボクは別に、幽波紋ヶ峰学園にスカウトされるような優秀なスタンド使いではない)

    苗木(と言うのも……)

    ???『誠! オイ、誠! 自身ヲ持テッテ! 俺ガツイテンダカラヨォー!』

    苗木「……ヘイ・ヤー」

    苗木(そう、ボクのスタンドはヘイ・ヤー。その能力は……本体であるボクに助言をして勇気づけ、前向きな気持ちにさせてくれる)

    苗木(……ただ、それだけだ)

    ヘイ・ヤー『手キビシイゼッ! ケドナ、“幸運枠”ニ選バレタノハ“間違イナク”オ前ナンダカラヨ! 胸張ッテ門ヲクグレバイインダ!』

    苗木「それは……そうだけど」

    苗木(幸運枠。ボクは表向き、“超高校級の幸運”として入学する事になった。全国の平均的な高校生の中から一名を抽選で選出し、入学の権利を与える……というのが表向きの内容。勿論、あながち間違ってはいないんだけど、より正確に言うなら……)

    ヘイ・ヤー『全国ノ平均的ナ“スタンド使イ”ノ中カラ一名ヲ抽選デ選出、ダロ?』

    苗木「うん、そうだね」

    ヘイ・ヤー『マ、ココニイタッテ始マラネエゼッ! サッサト中ニ入ロージャネエカ!』

    苗木「そうだね、行こうか」

    苗木(こうしてボクは……ボク達は、幽波紋ヶ峰学園への第一歩を踏み出した)
  5. 5 : : 2015/08/06(木) 21:44:46
    苗木(教室に入るとそこにはもうボク以外のクラスメイトが全員集まっているようだった)

    苗木(疑心暗鬼の表情が一斉にボクの方を向く光景は、なかなかにキツいものがある)

    苗木(それもそのはずだ、この“スタンド能力”のおかげで今まで殺すか殺されるかという世界に身を置いていた人も大勢いるだろうし――幸運な事に、ボクはそんな世界に身を投じるような事にはならなかったけど――そうでなくとも、事前に幽波紋ヶ峰学園から届いた入学案内にはわざわざ“自身のスタンド能力の本質を教員や生徒に教える必要はない”と明記されていた以上、誰がどんな能力を持っているのか見当もつかない)

    ヘイ・ヤー『デモヨ、コウモ書イテアッタダロ? “タダシ、自身ノスタンドヲ使ッテ出来ル事ヲ自己紹介デ言エル用意ハシテオク事”……ッテナ』

    苗木「うわっ、急に出てこないでよ……」

    苗木(そう、たしかにそう書かれていた。それはつまり、たとえば“時を止め、本人のみが止まった時の世界を自由に行動できる”という能力があったと仮定しよう。だけどその能力を使って、“瞬間移動した”とその能力を体感した人に錯覚させることは出来る。つまり“時を止める”のがスタンド能力の本質だけども、自己紹介の祭には“瞬間移動”がスタンド能力だ、と偽っても構わない。そういう事だろう)

    苗木(とはいえ、ボクのスタンドの能力には“本質”だとか“使ってできる事”だとか、そんな複雑なものは一切ないわけで……だから素直に話すことに決めていた)

    苗木(そんな事を考えていると、オレンジ色の髪にオレンジ色の髭を伸ばした少年がボクの方へやって来た)

    ???「ソレが……オメーのスタンドか?」

    苗木「あ、うん……そうだけど」

    苗木(そうだ、スタンド使いのみんなの前で出したらそりゃ見られるに決まってるか。これが強力なスタンドだったりしたらそれだけでアドバンテージが、とか考えたんだろうけど……)

    ???「なーんか弱っちそうなスタンドだな」

    ヘイ・ヤー『ドウセ俺はヨワッチイスタンドダッ!』

    桑田「拗ねんな拗ねんな。あ、オレの名前は桑田怜恩だ。ヨロシクな!」

    苗木「あ、ボクは苗木誠です……よろしく」
  6. 6 : : 2015/08/06(木) 21:45:42
    苗木(明るく声をかけてきた彼を皮切りに、各々クラスメイトと簡単に名前だけ自己紹介していく。何とか全員の名前を聞いたところで、丁度教師と思しき、身長の高い、がっしりした体格の男が教室に入ってきて……)

    ヘイ・ヤー『イヤイヤ、イクラナンデモタイミング良スギンダロッ!』

    教員「……やれやれだぜ」

    苗木(今、この先生、ヘイ・ヤーの言葉に反応した……? この先生もスタンド使い?)

    教員「おれはテメーらの自己紹介が終わるのを待ってからこの教室に入って来たんだ。タイミングがいいのは当たり前だろーぜ」

    朝日奈「って事は……教室の外で話聞いてたって事?」

    教員「そういう事になるな。この学園に居る以上、お前らも情報収集の重要性は嫌というほど味わうことになるだろうぜ。このくらいの芸当、むしろ出来るようになってもらわねーと困る」

    十神「フン、そんな嫌味を言いにわざわざ入って来たのか? さっさと本題に入ったらどうだ」

    教員「……いいだろう」

    承太郎「おれは空条承太郎。お前らの担任になる。おれもスタンドを持っているからお前達のスタンドも見える、という訳だ。スタンドを日常的に使うのは構わねーが、悪さはするなよ」

    腐川「し、しないわよ……というより、出来ないし……」

    承太郎「……どうだかな。どんなスタンドでも使い方次第、発想力次第で思いもよらねえ効果を発揮したりするもんだぜ」

    承太郎「ま、その辺は今後の授業でも触れて行くことになる。今はそれより、“自己紹介”の時間だ」

    舞園「えっと、自己紹介なら今やったのを聞いてらしたんですよね?」

    承太郎「ああ。だが自分の名前だけを互いに教え合っていただけだったからな。入学案内にもあっただろうが、スタンド名と“スタンド能力で出来る事”を合わせての自己紹介を今からやってもらう。まずはおれが紹介する。終わったら出席番号順に紹介して行け」

    苗木(言うなり、空条先生は自身のスタンドを出して見せた)

    ヘイ・ヤー『ウオッ、カッケエ!』
  7. 7 : : 2015/08/06(木) 21:46:05
    承太郎「おれのスタンドはスタープラチナ。精密に素早く動作できる。それにパワーもあるぜ。もし悪さしてるとこを見つけたら容赦なくぶん殴るからな、覚えておけよ」

    苗木(……怖そうな先生だなあ)

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    担任教員
    ≪空条 承太郎≫
    スタンド:スタープラチナ(スターダストクルセイダース・他より、元本体名:空条承太郎)
    【破壊力】A
    【スピード】A
    【射程距離】C
    【持続力】A
    【精密動作性】A
    【成長性】完成
  8. 8 : : 2015/08/06(木) 21:46:23
    承太郎「こんな感じでいい。さあ、朝日奈から順にスタンドの紹介をやっていけ」

    朝日奈「う……うん。じゃない、はい!」

    朝日奈「私のスタンドはクラッシュっていうんだ。能力は“水の中を自由自在に移動する”って感じかな。私自身が、じゃなくてスタンド体が、だけどね。自分のスタンドと競泳とか出来て楽しいんだよ!」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:一番
    “超高校級のスイマー”≪朝日奈 葵≫
    スタンド:クラッシュ(黄金の風より、元本体名:スクアーロ)
    【破壊力】D
    【スピード】A
    【射程距離】B
    【持続力】A
    【精密動作性】A
    【成長性】C
  9. 9 : : 2015/08/06(木) 21:46:42
    戦刃「……私のスタンドはバッド・カンパニー。出来る事は……軍事行動なら任せて」

    苗木(……軍事行動?)

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:二番
    “超高校級の軍人”≪戦刃 むくろ≫
    スタンド:バッド・カンパニー(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:虹村形兆)
    【破壊力】B
    【スピード】B
    【射程距離】C
    【持続力】B
    【精密動作性】C
    【成長性】C
  10. 10 : : 2015/08/06(木) 21:46:58
    石丸「僕のスタンドはマジシャンズレッドだ! 炎や熱を操るスタンド、と言ったところか。僕自信、少々熱くなりやすい所があるからな。悪癖ではあるが……諸君、よろしく頼む!」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:三番
    “超高校級の風紀委員”≪石丸 清多夏≫
    スタンド:マジシャンズレッド(スターダストクルセイダースより、元本体名:モハメド・アヴドゥル)
    【破壊力】B
    【スピード】B
    【射程距離】C
    【持続力】B
    【精密動作性】C
    【成長性】D
  11. 11 : : 2015/08/06(木) 21:47:16
    江ノ島「よおし、次オレだな! いいか、耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ!」

    江ノ島「私様のスタンドはDirty Deeds Done Dirt Cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)……D4Cとでも呼んでくれたまえ」

    江ノ島「出来る事は……“パラレルワールドを覗く事”……ですね」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:四番
    “超高校級のギャル”≪江ノ島 盾子≫
    スタンド:D4C(STEEL BALL RUNより、元本体名:ファニー・ヴァレンタイン大統領)
    【破壊力】A
    【スピード】A
    【射程距離】C
    【持続力】A
    【精密動作性】A
    【成長性】A
  12. 12 : : 2015/08/06(木) 21:47:41
    大神「我のスタンドは……サバイバーという。能力は他者の闘争本能の刺激、といったところか。だが我は真に闘いを望む者としか拳を交えるつもりはない。故にそうそう発動はさせぬ、安心するがいい」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:五番
    “超高校級の格闘家”≪大神 さくら≫
    スタンド:サバイバー(ストーンオーシャンより、元本体名:グッチョ/DISC)
    【破壊力】E
    【スピード】E
    【射程距離】E
    【持続力】C
    【精密動作性】E
    【成長性】E
  13. 13 : : 2015/08/06(木) 21:48:19
    大和田「オレのスタンドは……クレイジーダイヤモンドっつーんだがよォ。なんつーかまあ、触れたモンを修理する能力、って感じか。怪我治したりなんかも出来るぜ」

    苗木(怖そうな不良かと思ってたけど、意外な能力だな……)

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:六番
    “超高校級の暴走族”≪大和田 紋土≫
    スタンド:クレイジー・ダイヤモンド(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:東方仗助)
    【破壊力】A
    【スピード】A
    【射程距離】D
    【持続力】B
    【精密動作性】B
    【成長性】C
  14. 14 : : 2015/08/06(木) 21:48:37
    霧切「私のスタンドはヘブンズ・ドアーよ。能力は……相手の人となりを知る事が出来る、といったところかしら」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:七番
    “超高校級の探偵”≪霧切 響子≫
    スタンド:ヘブンズ・ドアー(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:岸辺露伴)
    【破壊力】D
    【スピード】B
    【射程距離】B
    【持続力】B
    【精密動作性】C
    【成長性】A
  15. 15 : : 2015/08/06(木) 21:48:50
    桑田「オレのスタンドはレッド・ホット・チリ・ペッパー! 電気を操るスタンドだ。カッケーだろ?」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:八番
    “超高校級の野球選手”≪桑田 怜恩≫
    スタンド:レッド・ホット・チリ・ペッパー(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:音石明)
    【破壊力】A
    【スピード】A
    【射程距離】A
    【持続力】A
    【精密動作性】C
    【成長性】A
  16. 16 : : 2015/08/06(木) 21:49:04
    十神「わざわざ教えてやるなど、普段の俺なら却下するところだが……まあいい。教えてやる、光栄に思え。俺のスタンドはキング・クリムゾン。帝王として頂点に有り続ける為の能力……だ」

    苗木(……え、具体的には?)

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:九番
    “超高校級の御曹司”≪十神 白夜≫
    スタンド:キング・クリムゾン、エピタフ(黄金の風より、元本体名:ディアボロ)
    【破壊力】A
    【スピード】A
    【射程距離】E
    【持続力】E
    【精密動作性】?
    【成長性】?
  17. 17 : : 2015/08/06(木) 21:49:18
    苗木(あ、ボクか)

    苗木「えっと。ボクのスタンドはヘイ・ヤー。能力は……前向きに生きられる、って事かな」

    ヘイ・ヤー『大事ナ事ダゼッ!』

    桑田「……なんじゃそら」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:十番
    “超高校級の幸運”≪苗木 誠≫
    スタンド:ヘイ・ヤー(STEEL BALL RUNより、元本体名:ポコロコ)
    【破壊力】E
    【スピード】E
    【射程距離】E
    【持続力】B
    【精密動作性】E
    【成長性】E
  18. 18 : : 2015/08/06(木) 21:49:31
    葉隠「俺のスタンドはドラゴンズ・ドリームだ。カッコいい名前だろ? 能力は方角で吉凶を知る、って感じだべ。コイツを使って占い師としてちょいと稼がせてもらったりしてたんだけども……」

    承太郎「…………」

    葉隠「学園じゃ、控える事にしとくべ……」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:十一番
    “超高校級の占い師”≪葉隠 康比呂≫
    スタンド:ドラゴンズ・ドリーム(ストーンオーシャンより、元本体名:ケンゾー)
    【破壊力】なし
    【スピード】なし
    【射程距離】なし
    【持続力】A
    【精密動作性】なし
    【成長性】なし
  19. 19 : : 2015/08/06(木) 21:49:50
    腐川「……何よ。“あたしに”スタンド能力なんて無いわよ。そもそも見えてないしアンタらが何言ってんのかだってサッパリ分からないんだから……!」

    苗木(……どういう事だろう? 嘘を言ってる様子はないけど)

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:十二番
    “超高校級の文学少女”≪腐川 冬子≫
    スタンド:???(???より、元本体名:???)
    【破壊力】?
    【スピード】?
    【射程距離】?
    【持続力】?
    【精密動作性】?
    【成長性】?
  20. 20 : : 2015/08/06(木) 21:50:06
    不二咲「あ、ぼ……私のスタンドはベイビィ・フェイスって言うんだぁ。能力は、ちょっと条件を整えるのが難しいんだけど、行使の度に違ったスタンドを作り出し発動する能力……って感じかなぁ」

    苗木(凄まじい能力のような気がする……)

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:十三番
    “超高校級のプログラマー”≪不二咲 千尋≫
    スタンド:ベイビィ・フェイス(黄金の風より、元本体名:メローネ)
    【破壊力】A
    【スピード】B
    【射程距離】A
    【持続力】A
    【精密動作性】C
    【成長性】C
  21. 21 : : 2015/08/06(木) 21:50:21
    舞園「私のスタンドはハーミットパープルです。出来る事といえば念写くらいなんですけどね」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:十四番
    “超高校級のアイドル”≪舞園 さやか≫
    スタンド:ハーミットパープル(スターダストクルセイダースより、元本体名:ジョセフ・ジョースター)
    【破壊力】D
    【スピード】C
    【射程距離】D
    【持続力】A
    【精密動作性】D
    【成長性】E
  22. 22 : : 2015/08/06(木) 21:50:35
    セレス「わたくしのスタンドはアトゥム神といいます。能力としては……たいがいのギャンブルでは負けない能力、とだけ言っておきましょう」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:十五番
    “超高校級のギャンブラー”≪セレスティア・ルーデンベルク≫
    スタンド:アトゥム神(スターダストクルセイダースより、元本体名:テレンス・T・ダービー)
    【破壊力】D
    【スピード】C
    【射程距離】D
    【持続力】B
    【精密動作性】D
    【成長性】D
  23. 23 : : 2015/08/06(木) 21:50:48
    山田「ではトリを務めさせていただきましょう。グフフ、僕のスタンドはボヘミアン・ラプソディー! 能力は二次元と語らう事オオオオオオ! これ以上、素晴らしいスタンドがあるとお思いでしょうか!」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:十六番
    “超高校級の同人作家”≪山田 一二三≫
    スタンド:ボヘミアン・ラプソディー(ストーンオーシャンより、元本体名:ウンガロ)
    【破壊力】なし
    【スピード】なし
    【射程距離】∞
    【持続力】A
    【精密動作性】なし
    【成長性】なし
  24. 24 : : 2015/08/06(木) 21:51:07
    承太郎「……これでそれぞれ自己紹介は終わったな。おれから言う事は今は一つだけだ。お前らは今言った能力が“能力の本質”であるようにこれからの学園生活で振る舞え」

    葉隠「つまり……出来るだけ自分の能力を隠しきる生活をしろ、って事か?」

    承太郎「ああ、そういう事だ。だが自分が信用できると思った相手には能力の全てを明かす事までは禁じねえし、自分のスタンド能力の行使を含む情報収集で誰かの能力の本質を掴むという行動も自由だ。好きに動きな」

    十神「つまり上手く立ち回れる者が学園内で優位に立てる、という訳だな。フン、面白いじゃないか」

    承太郎「言っておくが、だからと言って無法地帯って訳じゃねえぜ。無用な喧嘩や命のやり取りは厳重に禁じられてるって事は覚えとく事だな」

    朝日奈「そりゃあ、私達だって殺し合いなんてしたくないし……それは、その方がいいよね!」

    承太郎「ひとまず、今日はこのくらいだ。今日はもう寮に帰りな。明日、簡単な試験を行う」

    江ノ島「うっはー、入学して早々にテストとかマジ絶望的ィー」

    承太郎「ペーパーじゃない、実技だ」

    腐川「実技って……どうすんのよ。あたしは何も出来ないわよ……」

    承太郎「腐川の事情は知っている。お前は学園長が直々に測るそうだ」

    セレス「学園長が直々に……ですか?」

    承太郎「ああ。学園長はこの学園に籍を置いている全ての学生、教員、研究員のスタンド能力を本質から全て把握している。逆に学園長はたとえ教員でもその辺りの情報は漏らさないんだがな……担任のおれですらお前らのスタンドの事は今訊いた以上の事は知らねえぜ」

    山田「なんだか気になりますなあ、腐川冬子殿のスタンド……」

    腐川「何よ……嘘は言ってないわよ。あたしにスタンド能力なんて無いわ」

    桑田「じゃあなんでこの幽波紋ヶ峰学園に居るんだよ?」

    腐川「それは……」

    腐川「……」

    舞園「…………」

    腐川「……何よ、こっちをじっと見て」

    舞園「……いえ。ですが嘘は言っていないようです。どうやら腐川さんはスタンド能力がない……あるいはないと“思い込んでいる”。そんな感じだと思いますよ」

    苗木(ニコリと笑って言う舞園さん。だけど……ボクは見てしまった)

    苗木(舞園さんの袖から紫色のイバラが伸びていたのを、だ)
  25. 25 : : 2015/08/06(木) 21:51:23
    苗木(寮に戻ったボクはヘイ・ヤーと相談する事にした)

    ヘイ・ヤー『自分ノ精神ノ具現化ト相談ッテノモ、ヤッテテ寂シクナラネーノ?』

    苗木「う、うるさいな!」

    苗木「それより……さっきの舞園さんの袖から出てたイバラ、どう思う?」

    ヘイ・ヤー『ドウモコウモ、アレガ舞園ノスタンド……“ハーミットパープル”ナンダロ?』

    苗木「そうかもしれないけど……」

    ヘイ・ヤー『カモシレナイ、トイウカ九十%クライノ確率デ断言デキルゼッ! ソウジャネーナラ舞園ハ別ノスタンド使イノスタンドニ寄生デモサレテルッテノカ?』

    苗木「いや、そんな感じもしなかったけどさ……」

    ヘイ・ヤー『ジャー、アレハ“ハーミットパープル”ナンダロ』

    苗木「うん、そうなんだろうけど。ボクが気になってるのはそこじゃなくてさ」

    ヘイ・ヤー『ナンデ姿ヲ見セテタノカ、ッテコトカ?』

    苗木「うん、まさにそれ。何かやった、って事だよね?」

    ヘイ・ヤー『能力ハ念写、ッツッテタヨナ、アノ女』

    苗木「言ってたね。でもそれは“本質”じゃない可能性が高い」

    ヘイ・ヤー『アルイハ“本質”カモシレネーガ、“全テ”ジャネーッテダケカモナ』

    苗木「ハーミットパープルを使って何をしたのか? ……うーん、考えて分かる事じゃないかも」

    ヘイ・ヤー『気ニナルンナラ直接訊イテミルッテノモ手ダローゼ。案外、教エテクレルカモナッ!』

    苗木「あはは、それなら楽でいいんだけどね。……にしても、舞園さんがスタンド使いだったなんて、知らなかったな」

    ヘイ・ヤー『同ジ中学ニ通ッテタノニナ』

    苗木「それもだけど、“スタンド使い”にも関わらず、アイドルとしてテレビでの露出も多い道を歩んでる。ちょっとした英断だと思うよ」

    ヘイ・ヤー『情報ノ露出ガ多ケレバ多イホド、弱点モ曝ケ出ス事ニナル、カ』

    苗木「ホント、上手く立ち回ってると思うよ。スタンドを隠すための労力も計り知れなかっただろうに」

    ヘイ・ヤー『ソウナルト、ドウシテ舞園ハ幽波紋ヶ峰学園ニ入学シタンダローナ? “スタンド使イ”ニ、自分ハスタンド使イダッテワザワザ教エタヨウナモンジャネーカ。アル種、一番情報ヲ探リヤスイスタンド使イにナッタローゼ』

    苗木「それもそうだけど……むしろ、どうやってこの学園はスタンド使いを正確に見つけられるんだろう? そこも不思議だよ」

    ヘイ・ヤー『ジャ、ソノ辺ヲマズハ探ルノカ?』

    苗木「探るって……ボクは別にそんな気はないよ。ただみんなと仲良くやって行けるかが不安だな」

    ヘイ・ヤー『イケルイケル、誠ナラ誰トデモ仲良クナレルゼッ! 俺ガ保証スルッテ!』

    苗木「まったく、ヘイ・ヤーは調子がいいんだから……」

    苗木(こうしてひとしきり舞園さんについてと、今後の事を相談して……ボクは眠りについた)
  26. 26 : : 2015/08/07(金) 20:16:58
    #2
    天国への扉 その①
  27. 27 : : 2015/08/07(金) 20:17:22
    苗木(翌日、ボクは寮の自室で食パンを焼いてマーガリンを塗る、というだけの簡単な朝食を食べ、身だしなみを整えて学校へと向かった)

    苗木(教室に入ると、数名のクラスメイトが既に登校してきているようで、ちらほらと席に付いている生徒が視界に入った)

    石丸「やあ、苗木君だったな。おはよう!」

    苗木「あ、うん。おはよう。石丸クンだっけ。早いね」

    石丸「ハッハッハ、何、早めに学校に来て自習しておくという癖が付いてしまっているだけだ。よければ君も一緒にどうだね?」

    苗木「あ、うん……遠慮しておくよ」

    石丸「そうか、残念だ。では僕は自習に戻るとしよう」

    苗木「うん、頑張ってね」

    苗木(石丸クンから目線を外し、他のクラスメイトに目を向け、挨拶をしておくことにした)

    苗木(今教室にいるのは、ボクと石丸クンを除けば霧切さん、不二咲さん、舞園さんの三人だけのようだ)

    苗木(ちょうどいいし、挨拶がてら昨日の事を舞園さんに訊いてみようかな……?)

    苗木(そう考えた時、声をかけられた)

    霧切「ちょっといいかしら?」

    苗木「あ、霧切さん、だったね。おはよう」

    霧切「ええ、おはよう。……少し、時間あるかしら」

    苗木「え、うん。あるけど」

    苗木(まだ入学して間もないんだし、用事と言える用事なんて発生のしようがない)

    霧切「じゃあちょっとついて来てもらえないかしら?」

    苗木「う、うん……いいよ」

    苗木(舞園さんへの確認は別に今じゃなくても、いつでも出来る。そう考えなおしたボクは霧切さんについて行くことにした)
  28. 28 : : 2015/08/07(金) 20:17:48
    苗木(教室を出て廊下を歩き、階段の裏の、影になっている小さな空間にボクは連れてこられた)

    苗木(……まさかカツアゲとかされるわけじゃないよね?)

    霧切「安心して頂戴、別に危害を加えるつもりはないわ。……少なくとも肉体的なダメージは無いはずよ」

    苗木「それって精神的なダメージについては保証してくれないの?」

    霧切「貴方にやましい事が無ければ別にないはずよ。……ヘブンズ・ドアー!」

    苗木「う、うわっ!?」

    苗木(霧切さんが己のスタンド名を小声で叫び、己のスタンド像を呼び出す。するとボクはわけのわからないままに……)

    苗木「う、うわっ!? 何これ!?」

    苗木(ボクの身体が次々にめくれていく!)

    ヘイ・ヤー『ウオオオオ、マジニ何ダコレ!?』

    霧切「安心して。別に痛みはないでしょう?」

    ヘイ・ヤー『痛ミヲ感ジネーノハムシロヤバイ証ダト思ウゼッ!』

    苗木(霧切さんは「ふう」とため息を一つ吐き、ボクの方へと歩み寄る)

    霧切「ちょっと調べさせてもらうだけよ。貴方の“人となり”をね」

    苗木(そう言えばそんな事、自己紹介で言ってたっけ、と思った頃には既に霧切さんはめくれ上がったボクに手をかけた。と、そこでボクは一つの事に気が付いた)

    苗木「……な、に……これ?」

    苗木(めくれ上がったボクの裏側には、ビッシリと何か文字が書かれていた)
  29. 29 : : 2015/08/07(金) 20:18:03
    苗木(よくよく見てみるとそこにはボクの名前と身長や体重、家族構成なんかのプロフィールが書き込まれている。他の場所に目をやると、飼育委員だった中学時代のボクが学校に迷い込んだ鶴を外に逃がした、といった過去のエピソードが書かれていた)

    霧切「ヘブンズ・ドアー。対象を“本”にする。それが私の能力の一つの側面よ。本にされた対象を読む事で、その“人となり”は分かるし……貴方のスタンド能力だってしっかり、明記されているのを読めば分かるわ」

    苗木(そう霧切さんが言い終えると、ボクの身体は元に戻った)

    霧切「どうやら……貴方は信用できそうね。自己紹介でのあなたのスタンド能力がイマイチどういう物か分からなかったから調べさせてもらったのだけれど。“嘘は無かった”どころか……本当にそれだけのスタンド能力だったみたいだし」

    苗木「イキナリでビックリするよ……。それにボク以上にわけのわからない事言ってた人いたのにさ。十神クンとか」

    霧切「ああ……彼は色んな意味で後回しよ。気にはなるけれど」

    苗木「どういう事?」

    霧切「空条先生も言っていたでしょう。“信用できる”と思った人には能力を明かすことは禁じない、と。それを、“自分が信用できると思った人を早い段階で味方にしておいて損はない”という意味だと私は解釈したわ」

    霧切「十神君はあの通りの態度だもの。スタンド能力を知ったところで、何の裏も無く味方になってくれるような人じゃないわ。そのくらい、ヘブンズ・ドアーを使わずとも分かる」

    苗木「あ……そう」

    苗木(なんだかドッと疲れてしまったボクには、それしか言う事は出来なかった)

    苗木(そしてその瞬間、チャイムが鳴る。きっともう教室にはほとんどのメンバーが集まっているだろう)

    霧切「急いで教室に戻りましょうか。今日は実技試験とやらをやるそうだし」

    苗木(そう言ってほほ笑む霧切さんを見て、ボクは“実技試験”という響きに嫌なものを感じるのだった)
  30. 30 : : 2015/08/07(金) 22:36:28
    #3
    ヘイ・ヤーとスタープラチナ その①
  31. 31 : : 2015/08/07(金) 22:36:46
    苗木(教室に戻ると、腐川さん以外のクラスメイトは全員教室に揃っていた)

    承太郎「苗木、霧切。やっと戻ったな。全く、カバンだけ置いてどこに行ってやがったんだ? ……まあいい、席に着け。全員揃ったようだし、実技試験の説明を始める」

    大神「……む? 腐川の姿が見えぬようだが……」

    承太郎「ああ。腐川は既に学園長の元へ向かっている」

    十神「そういえば、学園長が直々に測る、などと言っていたな」

    苗木(そういえば腐川さんは“スタンド能力はない”とか言ってたっけ。彼女も霧切さんの調査対象の一人……だったりするんだろうなあ)

    承太郎「腐川についてはこれ以上おれから言う事はねえ。それじゃあ始めるぜ、説明をよ。これから一人ずつ……そうだな、またか、と思うかもしれねえがそこは勘弁してくれ。出席番号順に別室に呼ぶ。呼ばれた者はおれに向かって“スタンド攻撃”をして来い」

    桑田「はあ!?」

    大和田「い……いきなり何言ってやがんだ……?」

    承太郎「おれも殺す気でかかる。お前らも殺す気でかかってこい。試験は“呼ばれた時点”から開始される。部屋に入る前に攻撃を仕掛けて来ても構わない。ちなみに、スタンドに攻撃能力が無い場合は素直に部屋に入ってそう言え。攻撃能力があるのに“攻撃能力は無い”と言って部屋に入る事は無しだ。その時点でお前らは“スタンド使いとして死ぬ”。肝に銘じておく事だな」

    セレス「どういう……意味でしょうか」

    承太郎「それを知る必要は……今の所はねえぜ。それじゃ、試験開始だ。朝日奈、来い」

    苗木(有無を言わせない語調と視線が朝日奈さんに突き刺さる。ビクつきながら席を立ち、そして彼女は空条先生に連れられ、別室へと案内された)
  32. 32 : : 2015/08/07(金) 22:37:15
    桑田「一体……何だってんだ? こりゃどういう試験なんだよ。殺す気で来い、だってよ」

    山田「おそらく、我々の力量を教師としてまず最初に知っておこう、というそれだけの話なのでしょうが……」

    十神「舐められたものだな。学生如きがどれだけ力を奮っても自分を殺すことはできないという自信の表れだろう。これで実際に俺が奴を殺してしまえば面白い事になりそうだな?」

    不二咲「で、でも……殺しちゃうのは嫌だよねぇ……ころ、殺す……のも、嫌だし……」

    苗木(朝日奈さんが出て行った後の教室は騒然となっていた)

    苗木(みんな、誰かといろいろとこの事態について会話をし始めている)

    霧切「苗木君。貴方はどう思うかしら? 空条先生の真意について……」

    苗木「う、うーん……。ボクらはやっぱり新入生なんだし、最初に力量を測っておきたい、ってだけだと思うけど」

    霧切「そうね、大まかには間違っていないと思うわ。けどもし……」

    苗木「もし?」

    霧切「……いえ、今言っても仕方ないわね。もしこの想像が正しければ、この試験とやらが終われば明らかになるでしょうし」

    苗木「何の話?」

    霧切「別に、大した話じゃないわ。それに、合っていたとしても、貴方は別に気にしそうにないし」

    苗木(何がだろう……)
  33. 33 : : 2015/08/08(土) 17:57:40
    #4
    ヘイ・ヤーとスタープラチナ その②
  34. 34 : : 2015/08/08(土) 17:58:09
    苗木(あれからすぐに朝日奈さんは戻ってきて……ボクの順番もそれに比例するようにすぐに回ってきた)

    苗木(戻ってきた人たちから話を聞いてみると、やっぱり純粋なスタンドによる戦闘が発生したのだとか。みんな良く無事だったなあ……)

    苗木(それと、霧切さんからは戻って来るなり、ボクだけに聞こえるように小声でこんな事を言って来た)

    霧切「私の想像、当たってたわ」

    苗木(……何のことだろう? たぶんヘブンズ・ドアーで空条先生の魂胆を“読んだ”って事だろうけど)

    苗木(廊下を歩きつつ、ボクを呼びに来た空条先生のそのあまりに大きすぎる背中を眺めつつ、そんな事を考えていた)

    承太郎「この部屋だ。中はかなり頑丈に出来ている。どんなに暴れても平気だぜ」

    苗木(ニヤリと笑って言う空条先生。けどボクは、ボクのスタンドはヘイ・ヤーで……)

    苗木「えっと……戦闘能力は、ありません」

    承太郎「……ほう。それはマジだな?」

    苗木「はい、本当です」

    承太郎「……分かった、ならまずはスタンドを出せ」

    苗木(何が起こるのか少し怖かったが、言う通りにする)

    苗木「ヘイ・ヤー」

    苗木(ヘイ・ヤーはボクの呼びかけに答え、右肩にちょこんとヴィジョンを現わした)

    承太郎「……スタープラチナ」

    苗木(それを確認した空条先生は、スタープラチナを呼び出した)
  35. 35 : : 2015/08/08(土) 17:58:34
    承太郎「苗木。そのスタンドでスタープラチナを殴ってみろ」

    苗木「……え?」

    承太郎「いいからやれ。全力でな」

    苗木「わ、分かりました……ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『合点ダゼッ!』

    苗木(ボクの呼びかけにヘイ・ヤーは勢いをつけてスタープラチナに向かって行き、そして……)


    ペチン!


    苗木「…………」

    承太郎「…………」

    ヘイ・ヤー『…………』

    承太郎「……分かった、マジに戦い慣れすらしてねえって事がな」

    苗木(ため息を一つつき、空条先生はそう言った)

    承太郎「なら、おれのする事は一つだ。おい苗木、オメーのスタンドの有効活用法を今、ここでおれと考えるぜ」
  36. 36 : : 2015/08/08(土) 17:58:54
    #4.5(おまけ)
    実技試験結果報告書 ―― 作成担当者:空条承太郎
  37. 37 : : 2015/08/08(土) 17:59:17
    朝日奈葵(クラッシュ)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    水が必要である事を告げた朝日奈。プールへの移動を提案。
    プールで試験を決行、クラッシュの攻撃は正に水中を自由自在。
    だが、水中に現れた瞬間が隙となる。狙いをすまし拳を叩き込み、試験終了。
    ≪勝敗≫
    勝者――空条承太郎
  38. 38 : : 2015/08/08(土) 17:59:38
    戦刃むくろ(バッド・カンパニー)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    部屋に入る前からスタンドで試験官の様子をうかがっていた戦刃。注意深さは評価点。
    試験官が部屋に入り戦刃に向き直るその直前に戦刃のスタンドが試験官に向け一斉射撃。
    だがスタンドの一体一体が小さいためか、一つ一つの銃弾はパワー不足である事は否めない。
    全ての銃弾を試験官のスタンド、スタープラチナのラッシュで弾くことは容易かった。
    それを確認した戦刃はその時点で降参、引き際も評価点か。
    ≪勝敗≫
    勝者――空条承太郎
  39. 39 : : 2015/08/08(土) 17:59:57
    石丸清多夏(マジシャンズレッド)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    元より規則を気にする性質なのか、部屋へ入る前の不意打ちは認可しているにもかかわらず仕掛けてこない気持ちのいい男。
    部屋に入り、互いにスタンドを出した時点で石丸のスタンドはスタープラチナに炎を放った。
    だがやはり火力が不足している。試験官のスタンド、スタープラチナの拳は炎をものともせず、その奥に居るマジシャンズレッドを撃ち抜く結果となった。
    ≪勝敗≫
    勝者――空条承太郎
  40. 40 : : 2015/08/08(土) 18:00:38
    江ノ島盾子(D4C)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    何が起こったのか理解できない。
    部屋に入り、江ノ島に向き直ると、試験官は複数の江ノ島を目撃。
    何を仕掛けてくるのか分からず身構えたが、その表情を見れただけで満足と言わんばかりに江ノ島は試験を放棄。いつの間にか他の江ノ島は消えていた。
    底の見えないスタンド。注意が必要。
    ≪勝敗≫
    勝者――便宜上、空条承太郎
  41. 41 : : 2015/08/08(土) 18:00:58
    大神さくら(サバイバー)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    試験官自身の闘争本能をも刺激するスタンドだったが、大神自身はスタンドによる攻撃ではなく、己の肉体のみでおれに向かって来た。
    たしかに極限まで鍛え上げられたその格闘技術には目を見張るものがあったが、スタンドによる攻撃が出来ないというのは少々課題点か。
    事実、試験官のスタンド、スタープラチナの拳を防ぐ手立てはなく、試験は終了。
    ≪勝敗≫
    勝者――空条承太郎
  42. 42 : : 2015/08/08(土) 18:01:16
    大和田紋土(クレイジー・ダイヤモンド)VS空条承太郎(スタープラチナ)!】
    ≪概要≫
    単純なる互いのスタンドのラッシュ比べに発展。
    大和田のスタンドにもパワーはあったが、しかし試験官のスタンド、スタープラチナを上回るほどの力は出すことは出来なかった。
    壊れた物を修理する、という付加能力が存在する事から、純然たるパラメータ上の不利はあるのかもしれないが、今後の成長に期待は出来る。
    ≪勝敗≫
    勝者――空条承太郎
  43. 43 : : 2015/08/08(土) 18:01:29
    霧切響子(ヘブンズ・ドアー)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    部屋に入るなりスタンドを発動する霧切。
    それにより試験官の身体がめくれ、試験官自身の情報を羅列した本と化した。
    その情報に少しだけ目を通した様子だったがその後、多少の会話を交わし、すぐに能力を解除。
    そこで霧切は試験を降りた。
    ≪勝敗≫
    勝者――便宜上、空条承太郎
  44. 44 : : 2015/08/08(土) 18:01:43
    桑田怜恩(レッド・ホット・チリ・ペッパー)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    部屋に入るなり、電撃を飛ばした桑田のスタンド。
    しかし、その電撃はさしたる速度を生み出すことができなかったようだ。
    事実、試験官には即座に対応できる程度でしかなかったため、そのまま試験官のスタンド、スタープラチナの拳で撃ち抜き試験終了。
    ≪勝敗≫
    勝者――空条承太郎
  45. 45 : : 2015/08/08(土) 18:02:06
    十神白夜(キング・クリムゾン)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    江ノ島と同じく、何が起こったのか理解できない。
    試験官はスタンドで攻撃し、たしかに命中する軌道だったはずなのだが、何故か命中しておらず、逆に圧されていた。
    結果、能力の詳細すら掴む事が出来なかった。現時点で、第七十八期生の中で最も優秀なスタンド使いであると言える。
    ≪勝敗≫
    勝者――十神白夜
  46. 46 : : 2015/08/08(土) 18:02:24
    苗木誠(ヘイ・ヤー)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    攻撃能力が無い、という苗木の言葉を受け、現時点においてそれが事実であると試験官は確認。
    その後、試験官は苗木に多少のアドバイスと知恵を授ける。
    そのアドバイスが活かされるかどうか、今後の成長に期待したい。
    スタンドバトルによる戦闘スタイルが確立されている他の生徒よりも伸びしろがある分、一番のダークホースと言えるが、スタンド自体の成長性はEのため、本人の成長に全てはかかっていると思われる。
    ≪勝敗≫
    勝者――なし
  47. 47 : : 2015/08/08(土) 18:02:43
    葉隠康比呂(ドラゴンズ・ドリーム)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    攻撃は一切加えようとしない代わりに、試験官の攻撃もどういう訳か一切意味をなさない。
    結果、勝負を付ける事は不可能と試験官は判断。
    攻撃ではなく守りという点で見るならば、おそらく第七十八期生でトップクラスの実力だろう。
    ≪勝敗≫
    勝者――なし
  48. 48 : : 2015/08/08(土) 18:03:52
    腐川冬子(???)VS学園長(???)
    ≪概要≫
    TOP SECRET
    ※編纂者:学園長ディオ・ブランドー
    ≪勝敗≫
    勝者――TOP SECRET
    ※編纂者:学園長ディオ・ブランドー
  49. 49 : : 2015/08/08(土) 18:04:18
    不二咲千尋(ベイビィ・フェイス)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    部屋に入るなり、素直にスタンドの“発動条件”を明かした不二咲。
    発動条件については本報告書には記載せずにおく。
    だがその困難な発動条件により、試験時点ではスタンドの発動が不可能であると試験官は判断。
    そのため、測定不能。
    便宜上、下位と認定。
    ≪勝敗≫
    勝者――なし
  50. 50 : : 2015/08/08(土) 18:04:29
    舞園さやか(ハーミットパープル)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    イバラ状のスタンドを鞭のようにしならせ攻撃するものの、パワーやスピードに乏しく、防ぐことは容易。
    それにより舞園、打つ手なしか。
    利点、欠点共に正しく理解しているようであはあるため、今後の機転や発想次第で伸びる可能性は高い。
    ≪勝敗≫
    勝者――空条承太郎
  51. 51 : : 2015/08/08(土) 18:04:41
    セレスティア・ルーデンベルク(アトゥム神)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    部屋に入るなりイカサマありと公言したポーカーを持ちかけるセレス。
    それがスタンド攻撃につながるならば、と受け入れる試験官。
    だが試験官もスタンドを使ったものを含めた様々なイカサマを用い当たったものの、全てのゲームにおいてセレスの完勝に終わる。
    ≪勝敗≫
    勝者――便宜上、セレスティア・ルーデンベルク
  52. 52 : : 2015/08/08(土) 18:04:57
    山田一二三(ボヘミアン・ラプソディ)VS空条承太郎(スタープラチナ)
    ≪概要≫
    試験官の周囲に様々なコミックのキャラクターを出現させる山田。
    だがそれによる意図は不明で、試験官に対し攻撃にはなっていない。
    意図を尋ねると、“対象を、対象自身が好きなキャラクターになりきらせ、それと同じ結末を辿らせる事が出来るスタンド”なのだという。
    恐ろしい能力ではあると感じたが、欠点は、大してそういった“キャラクター”に興味のない対象には無力である事か。
    ≪勝敗≫
    勝者――空条承太郎
  53. 53 : : 2015/08/08(土) 20:40:41
    #5
    第十六位、苗木誠!
  54. 54 : : 2015/08/08(土) 20:40:59
    苗木(全員分の試験が終了し、しばらくして空条先生は教室に戻ってきた)

    承太郎「これから今回の試験の結果を発表する。この発表でお前らの学園内での立ち位置も変わるからな」

    葉隠「……どういう事だべ?」

    承太郎「これから発表する試験結果……これは入学時点での、お前らの順位に他ならねえ」

    霧切「つまり……空条先生が実際に戦って感じた私達の強さをランキング形式で発表する、という事ね?」

    承太郎「……呑み込みが早いのはいいな」

    承太郎「とにかくそういう訳だ。ただここで発表するのはあくまで、“この学年内”の順位でしかねえ。他の学年とは比べられていない、って事は覚えておけ」

    桑田「ちなみになんスけど……」

    承太郎「何だ?」

    桑田「順位の変動とかってのはあるんスか?」

    承太郎「ああ……定期的に学園がトーナメント戦を行う。ひとまずお前らは一人の例外もなく全員強制参加の、一か月後に行われる第七十八期生大会に参加してもらうぜ」

    霧切「その大会で、クラスメイトと戦う……という訳ね」

    承太郎「ああ。一対一のスタンドバトルトーナメントだ。スタンドによる攻撃は勿論、相手を死に至らしめる事さえなけりゃあ武器の仕様も許可されている。好きに戦いな」

    十神「前置きはその辺でいいだろう。さっさと順位の発表でもしたらどうだ」

    承太郎「いいだろう。では第一位から順に発表していく。まず第一位は……」

    苗木(全員が息を呑むのが伝わってきた。それもそのはずだ、これでいきなり、このクラスで一番強いのが誰なのかを発表されるのと同じなんだから……)

    承太郎「キング・クリムゾン。十神、お前だ」

    十神「……当然だな」

    ≪第七十八期生 第一位≫
    十神白夜
    スタンド:キング・クリムゾン
  55. 55 : : 2015/08/08(土) 20:41:17
    苗木(そこから二位、三位と順番に順位が発表され……結果は、以下の通り)


    ≪第七十八期生 第二位≫
    腐川冬子
    スタンド:???

    ≪第七十八期生 第三位≫
    江ノ島盾子
    スタンド:D4C

    ≪第七十八期生 第四位≫
    葉隠康比呂
    スタンド:ドラゴンズ・ドリーム

    ≪第七十八期生 第五位≫
    セレスティア・ルーデンベルク
    スタンド:アトゥム神

    ≪第七十八期生 第六位≫
    大和田紋土
    スタンド:クレイジー・ダイヤモンド

    ≪第七十八期生 第七位≫
    霧切響子
    スタンド:ヘブンズ・ドアー

    ≪第七十八期生 第八位≫
    大神さくら
    スタンド:サバイバー

    ≪第七十八期生 第九位≫
    戦刃むくろ
    スタンド:バッド・カンパニー

    ≪第七十八期生 第十位≫
    石丸清多夏
    スタンド:マジシャンズレッド

    ≪第七十八期生 第十一位≫
    桑田怜恩
    スタンド:レッド・ホット・チリ・ペッパー

    ≪第七十八期生 第十二位≫
    山田一二三
    スタンド:ボヘミアン・ラプソディー

    ≪第七十八期生 第十三位≫
    舞園さやか
    スタンド:ハーミットパープル

    ≪第七十八期生 第十四位≫
    朝日奈葵
    スタンド:クラッシュ

    ≪第七十八期生 第十五位≫
    不二咲千尋
    スタンド:ベイビィ・フェイス

    ≪第七十八期生 第十六位≫
    苗木誠
    スタンド:ヘイ・ヤー
  56. 56 : : 2015/08/08(土) 20:41:39
    承太郎「……以上だ」

    苗木(やっぱり……最下位かあ)

    承太郎「今日はこれで授業は終わる。だが校内を見て回るくらいはしておいていいと思うぜ。まあ自由に過ごしな、って話だ」

    苗木(そう言って空条先生は教室から立ち去った)

    朝日奈「うーん、やっぱり“水がないと使えない”って制約が厳しいのかなあ」

    山田「僕なんか、ちーっとも攻撃できませんでしたからな……」

    舞園「私も似た様なものです」

    苗木(各々、試験での反省点や今後の身の振り方を考えているようだ)

    霧切「どう? 貴方はこの“順位”という要素、気にするようなタイプだったかしら? 私はそんな事はない、と予想していたのだけれど」

    苗木「あ、霧切さん……ひょっとしてさっき言ってた空条先生の意図についての想像って」

    霧切「ええ。私達の力量を測るというなら、ついでに数値化しておくのが合理的だもの。それに順位を付ける事で競争心をたきつける事も出来るでしょう? しない理由がないと思っていたわ」

    苗木「なるほどね……」

    霧切「それで、どうかしら。貴方は順位を気にする人かしら?」

    苗木「気にするも何も……順位になった以上、最下位なのは最初から分かり切ってたからね」

    ヘイ・ヤー『ソモソモ俺達、戦ウッツーヨリ助言貰ッタダケダシナッ!』

    霧切「ふうん……」

    霧切「まあ、いいわ。それよりちょっと話したい事があるのよ。良かったら一緒に学校の施設を見て回りましょう?」

    苗木「うん、いいよ」

    ヘイ・ヤー『予定モ寂シイモンダシナッ!』

    苗木「う、うるさいな!?」
  57. 57 : : 2015/08/08(土) 20:42:10
    #6
    天国への扉 その②
  58. 58 : : 2015/08/08(土) 20:42:44
    苗木(教室を出て、ボクらは二人並んで廊下を歩いていた)

    苗木(見た感じ、設備はかなりいい部類になるだろうけど、普通の学校と変わりないように思える)

    霧切「さて、苗木君。今朝の話の続きをしたいのだけれど」

    苗木「今朝の話の……続き?」

    霧切「ええ。貴方にヘブンズ・ドアーを使った事。忘れたとは言わせないわよ」

    苗木「そりゃ、勿論覚えてるけど」

    霧切「単刀直入に言うわ。苗木君、私と協力関係を結ばない?」

    苗木「協力関係って……え、ボクと?」

    霧切「貴方以外苗木君はいないでしょう」

    苗木「そりゃ、そうだろうけど……なんでボク?」

    霧切「なんで、というのはどういう事かしら?」

    苗木「だってほら、ボクのスタンドに、霧切さんが望むような利用価値があるとは思えないんだけど」

    霧切「むしろ……それがベネ(良い)、といったところかしら」

    苗木「というと?」

    霧切「貴方のスタンドはたしかにお世辞にも強いとは言えないし、使えるとも思わないわ」

    ヘイ・ヤー『ソコマデハッキリ言ウカッ!?』

    霧切「ごめんなさいね。でも……だからこそ。“無害だからこそ情報収集には向いている”とも言えるわ」
  59. 59 : : 2015/08/08(土) 20:43:11
    苗木「ヘイ・ヤーには情報収集能力も無いけど……」

    霧切「そうね。読んだから知ってるわ」

    苗木「じゃあなんで?」

    霧切「調べたい対象に“警戒されにくい”。これは立派な武器よ」

    苗木「あ、ああ……そりゃ、ボクなんか警戒したって仕方ないだろうしね」

    霧切「という訳で、私が何か調べたい時。貴方に協力を頼みたいの。勿論、私も何か手伝えることがあれば貴方を手伝うわ。ギブ&テイク。どう? 悪い話じゃないでしょう?」

    苗木「うーん、そうだね……うん、いいよ」

    ヘイ・ヤー『オイオイ、信ジルノカ? 今朝急ニスタンド攻撃仕掛ケテキタヨーナ奴ダゼ?』

    苗木「信じるよ」

    ヘイ・ヤー『……マ、ソーダヨナ。誠ハソウイウ奴ダ』

    霧切「話は纏まったようね。それじゃあ信頼ついでに一つ、貴方に情報を教えておくわ」

    苗木「情報?」

    霧切「ええ。……ヘブンズ・ドアーッ!」

    苗木「うわっ!?」

    ヘイ・ヤー『ウゲーッ! 誠ガ……誠ガマタ本ニサレチマッタッ!』

    苗木「な、何するのさ!?」

    霧切「私のスタンド能力、教えていなかったけれど、もう一つやれることがあるの」

    苗木「へ……?」

    霧切「それを今から実演してあげようと思ってね」

    苗木(言うと、霧切さんはポケットから万年筆を取りだした)

    ヘイ・ヤー『ナ、何スルツモリダー!?』

    霧切「そうね……たとえばこんなのはどうかしら」

    苗木(そう呟くと霧切さんは本になったボクのページに“ネイティブのようにノヴォセリック王国語の読み書きができる”と記した)

    霧切「……さ、解除したわよ。これで貴方は自由にノヴォセリック王国語を扱えるはず」

    苗木「えっ?」

    霧切「そういう能力なのよ。本にした対象に文字を書き込むことで、簡単な事ならある程度その対象を操作できるのよ。例えば……“霧切響子に攻撃できない”と書き込めば、私に対して一切の攻撃行動をとれなくなったりね」

    ヘイ・ヤー『ム……無敵ジャネーカッ!?』

    霧切「そうでもないわよ。そもそも本にして、近付いて、書き込む、と三つの工程を行えるだけの時間を戦闘中に確保するのは難しいし。そうなる前に対処が必要でしょうけど、やっぱりそんな隙を作るような相手、そうそういないもの」

    霧切「とにかく、教えたわよ。私はヘブンズ・ドアーで貴方の能力を知った。だから私も貴方に私の能力を教えた。これでどっちが上だとか下だとか、そういうのはナシね」

    苗木(そう言って笑みを見せる霧切さん。けどボクは……この時のボクはまだ知らなかった。まさかこの協力関係が、ボクの今後の学園生活に多大な影響を与えることになるなんて……想像もしなかったんだ)
  60. 60 : : 2015/08/08(土) 20:43:31
    #7
    納得は全てに優先する その①
  61. 61 : : 2015/08/08(土) 20:44:02
    苗木(空条先生の実技試験から三日が経過した)

    苗木(それはつまり入学式から四日が経過した、という事で……)

    葉隠「なあ、苗木っち……」

    苗木「葉隠クン? どうしたの?」

    葉隠「俺を助けてくれ!」

    苗木「わわ、突然どうしたのさ!?」

    葉隠「今日で入学から四日目だろ?」

    苗木「う、うん。そうだけど」

    葉隠「四って数字はな……シと読むだろ? だから昔から四はイコール死を思わせる不吉な数字だと言われてんだべ」

    苗木「う、うん……?」

    苗木(何を言いたいのか理解できない……)

    葉隠「だから俺は四って数字が大っ嫌いだし、関わるとロクな事にならねえんだ! だから苗木っち、今日一日俺の事守って!」

    ドラゴンズ・ドリーム『ナー、康比呂ッテ迷惑ダロ? モシ本当ニ何カアッテモ、俺ノ能力デ無力化出来ルッテノニナー』

    苗木「は、ははは……」

    朝日奈「葉隠の話には付き合ってられないよねー」

    大和田「まったくだぜ……」

    苗木(こんな具合に、今日まで特に何も問題なく、ボクらは学園生活を送っていた)

    苗木(いや、ひょっとするとボクがそう感じているだけなのかもしれない。ボクは最下位だから単純に狙われる価値が無いってだけで、ひょっとするとボクの知らないところで、水面下で何かが起こっている、という可能性はゼロとは言えない)

    苗木(と言っても、あれから霧切さんとも普通の友人付き合いくらいで、何かに協力したりしてもらったり、という事態には発展していないわけだし)

    苗木「平和だなあ」

    苗木(ぽつりと漏らしたボクの言葉に、しかし霧切さんが反応した)

    霧切「あら、それならちょっとお話、いいかしら?」

    苗木「ん、うん、いいけど……」

    苗木(なんだか、嫌な予感がする)
  62. 62 : : 2015/08/08(土) 20:44:22
    苗木「えっ!? 何者かに攻撃を受けてる……!?」

    霧切「しっ、声が大きいわ」

    苗木「あ、ご、ゴメン……でもいつから?」

    霧切「昨日の放課後からよ」

    苗木「そうだったんだ……それで、どんな攻撃を受けたの?」

    霧切「それが……よく分からないの。相手の姿も見えなかったし」

    苗木「よく分からないって……でも攻撃を受けた、っていう認識はあるんだよね?」

    霧切「ええ。詳しく話すわ」

    霧切「さっきも言ったけれど、昨日の事よ。放課後、学園内を散策していた時。中庭が誰もいなくて静かだったから、少し休憩しようと思って立ち入ったのだけど」

    苗木「うん」

    霧切「そこで……“何か”がものすごいスピードで私の方へ飛んできたわ」

    苗木「そ、それで……?」

    霧切「それについては間一髪って感じね。なんとかかわせたわ」

    苗木「そっか、良かった……。それで、その“何か”って何だったの?」

    霧切「そこなのよ、不思議なのは。後で周囲を探索してみたけれど、それらしいものは何も落ちていなかったわ。ゴミは散らかっていたけれど、その中にもそれらしいものは見当たらなかったし」

    苗木「そっか……攻撃はその一回だけ?」

    霧切「ええ、それ以降はなるべく人の多い場所に居るようにしたからかしらね」

    苗木「なるほど……」

    ヘイ・ヤー『ケド、ソンナ相談持チカケテドースルツモリナンダ? 俺ニハ攻撃能力ハネーゼ?』

    霧切「分かってるわ。苗木君に頼みたいのは調査よ」

    苗木「調査? ……跡形もなく何かを飛ばせるようなスタンド使いを探し出す、って事?」

    霧切「いいえ、たぶん敵が狙ってるのは私一人。なら、私が囮になって一人になってみるわ。だからその間に苗木君は周囲に怪しい人がいないか見張ってて欲しいの。……私から十分距離を置いた地点でね」

    苗木「でも、それって霧切さん危なくない? かわせたのだって運が良かったんだよね?」

    霧切「危険を避けてたら、結果は得られないわ」

    苗木(この目……覚悟を決めてる人の目だ……)

    苗木「……分かった。やるよ」

    霧切「ありがとう。それじゃあ今日の放課後、さっそく頼むわね」

    苗木「うん、なんとかやってみるよ」

    霧切「ええ。それともう一つ、頼みたい事があるのだけれど……」
  63. 63 : : 2015/08/09(日) 03:11:29
    #8
    納得は全てに優先する その②
  64. 64 : : 2015/08/09(日) 03:11:50
    苗木(あれから霧切さんの“もう一つの頼みごと”をこなし、普通に授業を受け、霧切さんが教室を出たのを確認し、ボクもいくらか間を置いて教室を出た)

    苗木(さて、霧切さんは……中庭かな?)

    苗木(遠くから様子を伺うと、やっぱり中庭にいた。その周囲には誰もいないようだ)

    苗木(じゃあボクはこの近辺を見張ってればいいのか……)

    苗木(と、次の瞬間!)


    ヒュゴォォォーッ!

    バシィン!


    苗木(何かが霧切さん目がけて飛び……今回も辛うじてかわせたものの、校舎の外壁にでも当たったのか大きな音を立てた)

    ヘイ・ヤー『飛ンデッタ方向カラシテ……敵ハアッチニイルンジャネーカッ!?』

    苗木「そうだね、行ってみよう!」

    苗木(走って何かが投げられたと思しき方向へ向かうと、走って中庭方向から遠ざかろうとする何者かの姿をとらえた!)

    ヘイ・ヤー『イタゾッ!』

    苗木「よ……よし!」

    苗木(その何者かは角を曲がった。それを追ってボクも角を曲がる。すると……)

    ???「何だよ……追って来たのは苗木かァ? てことはさ、別に返り討ちにしてやりゃいいだけの話だよなァ……」

    苗木(正面に立っていた男がそう言葉を漏らした。というかこの声……)
  65. 65 : : 2015/08/09(日) 03:12:05
    苗木「桑田クン!?」

    桑田「大正解、オレだ!」

    苗木「……なんで霧切さんを攻撃してたの?」

    桑田「……」

    桑田「オメー、オカシイと思わなかったの?」

    苗木「な、何の話……?」

    桑田「オレの電気を操るレッド・ホット・チリ・ペッパー! それが十一位で、本人曰く“人となりを知る”だけのスタンドが七位だァ?」

    苗木(……そういう、事か)

    桑田「オレより四つも順位が上……こんなん、納得できねえよなあ!」

    桑田「納得は全てに優先するぜッ! だからオレはオレが納得するために、霧切を倒さなきゃならねーんだ! “オレの方がたしかに強い”……って納得するためになァ!」

    霧切「ふうん、そういう事……」

    苗木「あ、霧切さん」

    桑田「チッ、もう来やがったか」

    霧切「ええ。苗木君が足止めしてくれてたおかげでね」

    桑田「クソ、霧切の仲間だったのかよ……けどまあ、どっちにしたって一緒だ。ここで二人ともブチのめせばいいってだけだもんなァ!」

    ???「ほう、面白い事を聞いたぜ」

    桑田「……え?」
  66. 66 : : 2015/08/09(日) 03:12:22
    承太郎「誰が……誰をブチのめすだって?」

    桑田「く……空条先生?」

    承太郎「おれはたしかに……入学式の日に言ったはずだな。“無用な喧嘩は厳禁”だと……」

    桑田「い、いやそれは……」

    承太郎「オラァ!」

    苗木(う、うわー……スタープラチナの殴り、凄まじいスピードだ……)

    桑田「グハァッ!?」

    桑田「ク、クソ……」

    承太郎「納得は全てに優先する? いいだろう。だったら存分に納得しな。来月の第七十八期生大会、その第一回戦で桑田と霧切が戦うようセッティングしてやる。そこでな好きなだけ戦えるわけだ。どうだ、これでこの場は納得したか?」

    桑田「く……は、ハイ……」

    苗木(そう言って桑田クンは意識を失った……)

    承太郎「じゃあな、おれは桑田を保健室にでも連れて行くぜ。情報提供感謝する」

    苗木「あ、は、はい」

    苗木(そう、霧切さんのもう一つの頼みごと……それが空条先生への連絡だった。何とかなって良かった……)

    苗木「それにしても……」

    霧切「何かしら?」

    苗木「結局、桑田クンの攻撃の正体、掴めたの?」

    霧切「いいえ……だけど、敵の正体が桑田君だったと分かったのよ。そのスタンド能力は電気を操る……あれは電気そのものという訳ではなかった。それは確かよ。だけど、そこから攻撃の正体を推測する事は出来るはずよ。今はまだ……分からないけれど」

    苗木「そっか」

    苗木「……大会、負けないでね」

    霧切「ええ、そっちこそ」

    苗木(そう言われてボクは……ボク自身が勝つ自信なんて全くない事に気が付いた。乾いた笑いを返す事しか、出来なかったんだ……)
  67. 67 : : 2015/08/09(日) 03:34:51
    すごく面白いです!
    >>61 で恐らく葉隠の台詞が苗木の台詞になってしまっているかと思ったのでコメントさせていただきました!
    引き続き期待しています(*^^*)!
  68. 68 : : 2015/08/09(日) 14:35:04
    >>67
    指摘ありがとうございます、修正いたしました!
    #18までは書き上がっているので、少しずつ投稿していきます。
  69. 69 : : 2015/08/09(日) 14:35:18
    #9
    購買部の怪 その①
  70. 70 : : 2015/08/09(日) 14:35:42
    苗木(空条先生が桑田クンを連れて行った直後。ボクは霧切さんに連れられて中庭の調査にやって来た)

    霧切「たぶん、何かの痕跡は残っているはずなのよ。それを見つけられれば……」

    苗木「でも昨日は何も無かったんだよね?」

    霧切「ええ。だけど、もしかしたら昨日は見逃していただけかもしれない。……あの人のスタンドがあれば分かるんだろうけれど」

    苗木「あの人って?」

    霧切「……父よ。だけど数年前から行方不明なの。今もどこで何をやってるのか分からずじまい」

    苗木「そっか……あ、でもさ」

    霧切「何?」

    苗木「そのお父さんもスタンド使いなんだよね? だったらこの学園が居場所を把握してるかもよ?」

    霧切「……学園長に問い合わせでもするつもり?」

    苗木「……」

    ヘイ・ヤー『アノ学園長怖エカラナー、行キタクネーナー』

    苗木(学園長……ディオ・ブランドー。通称、DIO学園長)

    苗木(なんというか、ものすごく怖い人だ)

    苗木(入学式の挨拶での第一声、“過程や方法なぞどうでもよいのだァーッ! スタンド使いたる者、あらゆる手段を用い、頂点を目指せッ!”は印象的過ぎる)

    苗木(軽く目がイッてたもんなあ……)
  71. 71 : : 2015/08/09(日) 14:36:00
    霧切「とにかく、ない物ねだりしていても仕方ないわ。ここの調査をしましょう」

    苗木「うん、分かった」

    苗木(と言っても……)

    苗木「ホントに……ゴミしか落ちてないね……」

    霧切「そうね……。……という事は」

    苗木「何?」

    霧切「このゴミの中に答えがある……とか」

    苗木「ゴミを投げてた、って事?」

    霧切「いえ、投げられた結果としてゴミに紛れた、とかゴミになった、って可能性はあるんじゃないかしら」

    霧切「たとえばの話だけど、大きな石の塊を投げて、それが壁に当たって砕けた結果、小さな石の破片ばかりになったから、それと気付いていないだけ……とか」

    苗木「なるほど……それはあり得るのか」

    苗木「ちなみに霧切さん、昨日はどのあたりに投げられたの?」

    霧切「だいたいあの辺ね」

    苗木「じゃあそっちも見に行ってみよう」
  72. 72 : : 2015/08/09(日) 14:36:17
    苗木(二ヶ所を調査した結果、奇妙な共通点に気が付いた)

    霧切「二ヶ所両方に落ちている“ゴミ”……があるわね」

    苗木「そうだね。この……ゴムの破片、か」

    苗木(昨日のポイントと今日のポイント両方に、そこそこの厚みのあるゴムの破片が散らばっていた)

    苗木「これが投げられたものの正体かな?」

    霧切「だとして、元が何だったのかが気になるわね……」

    苗木「うーん……あ、それならさ」

    苗木(ボクは思いついたアイディアを霧切さんに伝えた……)
  73. 73 : : 2015/08/09(日) 14:36:32
    大和田「このゴムの破片がどうしたよ?」

    苗木(例のゴムの破片を持って教室に戻ってきたボクらは、目当ての人物――大和田クンがまだ教室に居る事を確認し、声をかけた)

    苗木「大和田クンのクレイジー・ダイヤモンドは“壊れた物を直す”能力があるんだよね?」

    大和田「おう、あるぜ」

    苗木「じゃあこれが元は何だったのか、クレイジー・ダイヤモンドで直すことで分かったりしない?」

    大和田「そりゃ、出来るが」

    霧切「お願いできないかしら? これが何だったのか、知りたいの」

    大和田「ま、いいだろ。ほれ、貸しな」

    苗木(大和田クンにゴムの破片を渡す)

    大和田「クレイジー・ダイヤモンド!」

    苗木(大和田クンのスタンドがヴィジョンを現し、ゴムの破片を殴る! すると……)

    苗木「うわ、動き出した!」

    大和田「他の破片のある場所に向かってんだよ。追って行けば修復された状態で見つかるだろーぜ」

    苗木「そうなんだ……ありがとう、大和田クン!」

    大和田「なァに、いいって事よ! それよりさっさと追った方がいいんじゃあねーか?」

    苗木(ボクらは再度大和田クンにお礼を言って、ゴムの破片を追った)
  74. 74 : : 2015/08/09(日) 14:36:47
    苗木(中庭に戻ってくると、“それ”は転がっていた)

    霧切「ゴムボール……ね」

    苗木「そういえば……桑田クンの表向きの才能は“超高校級の野球選手”……ボールを投げる事には慣れてるハズだ!」

    霧切「と言っても、確実に桑田君が投げた物がこれだ、という確信にはならないわね……」

    苗木「まあ、たしかに他の誰かが遊んでてここで壊しただけかもしれないけどさ」

    霧切「これが桑田君のものだ、と立証できれば話は早いのだけれど」

    苗木「うーん……」

    朝日奈「あれ? 苗木に霧切ちゃん。まだ学校にいたんだ」

    霧切「あら、朝日奈さん」

    苗木「うん、ちょっとね……」

    朝日奈「あれ? それって」

    苗木「ん? このゴムボールの事?」

    朝日奈「うん。購買部で売ってるヤツだよね? 買ってきてボール遊びでもしてたの?」

    苗木「えっ……!?」

    霧切「購買部……購買部でこれを売ってるのね?」

    朝日奈「え? うん、そうだよ。というか、買って来た奴じゃないの?」

    苗木「えっと」

    霧切「今ここで拾ったのよ。それで、これが誰のものか探そうとしていたというわけ」

    苗木(……さすがだ、嘘は一言も言っていない)

    朝日奈「なんだ、そうだったんだ。じゃあ購買部に行ってみればいいんじゃないかな。誰が何を買ったか、逐一メモしてるみたいだし。私もこの前ドーナツ買ったんだけど、それもメモされたしね」

    苗木「そ、そうなんだ……」

    霧切「いろいろ教えてくれてありがとう、朝日奈さん。じゃあ私達はこれから購買部に行ってみるわ」

    朝日奈「うん、気を付けてねー」

    苗木(こうしてボクらは、購買部へと向かう事となった……)
  75. 75 : : 2015/08/09(日) 14:37:04
    苗木「購買部……来るのは初めてだけど……なんか凄いね」

    霧切「これ、どういうデザインなのよ」

    苗木(そこは購買部というより……物――おそらく商品だろうけど――が溢れかえってはいるものの、完全に牢獄のような空間だった)

    ???「フホホホ……いらっしゃいませ……」

    苗木「えっ!?」

    苗木(見た感じ、購買部には誰もいない……だけどッ!)

    霧切「今の声……この購買部の“中”から聞こえた……わよね?」

    苗木「うん……でも奇妙だ、誰もいないのに声なんて……」

    苗木(そう言った次の瞬間、牢獄……いや、購買部の中のベッドがむくりと起き上がった!)

    店主ポルポ「ポルポの購買部……へ」

    苗木「なっ……!」

    霧切「ベッドではなく……店主だった……!?」
  76. 76 : : 2015/08/09(日) 19:35:28
    #10
    購買部の怪 その②
  77. 77 : : 2015/08/09(日) 19:35:42
    苗木(とてつもない巨漢だ……)

    店主ポルポ「何をご入用かね? 菓子パンやおにぎりなんかは売り切れてしまっているが……。おやつ類ならあるぞ? ああ、このピッツァはわたしの私物だ……売り物ではないよ」

    苗木(ピザにぱくつきながら、巨漢の店主は言った)

    霧切「私達は……この店に、訊きたい事があってやってきました」

    店主ポルポ「……」

    霧切「この店で……このゴムボールを売っている、と聞きまして」

    店主ポルポ「……ああ、たしかに売っているな。ゴムボールが欲しいのか?」

    霧切「いえ。ここ最近、このゴムボールを購入した客について知りたいのですが」

    店主ポルポ「…………」

    店主ポルポ「わたしはね、君達……」

    苗木「は、はい……?」

    店主ポルポ「“購買部の店主”なんだ……物を買うというなら、それは客だ。わたしは客に対して物を売る。店主なのだから当然だな」

    苗木「は、はあ」

    店主ポルポ「そして……それと同時に」

    店主ポルポ「店主として……顧客のプライバシーは守らねばならん。たとえ知っていても、教えるわけにはいかんなあ……」

    苗木「そこをなんとか……」

    店主ポルポ「それにね」

    苗木「え?」
  78. 78 : : 2015/08/09(日) 19:36:05
    店主「人と人が付き合う上で最も大切な事……それは“信頼”だよ」

    苗木「信頼……」

    店主ポルポ「わたしは顧客を“信頼”している。だから物を売るし、よほどでなければたいていの取り寄せにだって応じる。それがわたしのポリシーだ」

    店主ポルポ「だからわたしは顧客の情報を流す事は絶対に出来ん」

    苗木「うう……」

    苗木(ど、どうするんだろう。結構頑固そうだけど……)

    霧切「……」

    霧切「もし」

    店主ポルポ「ん? 何かね?」

    霧切「もし、客側が……その信頼を裏切っていたとしたら?」

    店主ポルポ「……何だって?」
  79. 79 : : 2015/08/09(日) 19:36:36
    霧切「その場合、情報を開示してくれますか?」

    店主ポルポ「ほほう……興味深い。実に興味深い話だ」

    霧切「私の身に起こった事を……お話します」

    苗木(そう言って霧切さんは昨日の放課後と、さっきの中庭での出来事を店主のポルポさんに話し始めた)

    店主ポルポ「つまり君は……襲われた攻撃の正体を知りたい、と」

    霧切「はい」

    店主ポルポ「そしてそのゴムボールが攻撃の正体に繋がっている可能性がある、と」

    霧切「そういう事です」

    店主ポルポ「ふうむ……」

    霧切「“誰が”購入したかを教えていただく必要はありません。ただ、“桑田怜恩が”購入したという記録があれば……それを教えていただくだけで」

    店主ポルポ「……たしかに、その記録があれば果てしなくクロに近い。いや、君達の中では、そして君を襲った犯人という意味で言うならば、確定でクロだが……。わたしが言うのはそういう意味ではない」

    苗木「と言いますと……?」
  80. 80 : : 2015/08/09(日) 19:36:57
    店主ポルポ「仮に……桑田怜恩君。その人物がゴムボールを購入したという記録が……あったとしよう」

    苗木(言って、ポルポさんはバナナを齧った)

    店主ポルポ「だがそれが、本当に君への攻撃の正体だったという確証はまた、無いわけだ。全く関係ないかもしれない。ゴムボールなど使っていない可能性もゼロではない。疑わしくはあるだろうがね」

    苗木「それは……そうですけど」

    店主ポルポ「つまりわたしが言いたいのはこういう事だ。そのゴムボールが“確実に君を襲った武器だった”という点を証明してくれ。そうすれば、桑田怜恩という学生がそのゴムボールを購入したかどうか……を教えよう」

    店主ポルポ「尤も……それが証明できるのであれば、わたしからの情報など不要になるだろうがね」

    苗木(それはそうだ。ボク達はこのゴムボールが桑田クンが投げた物だ、という確証が欲しいのであって、このゴムボールを桑田クンが購入した記録があればそれが分かると思ってここへ来たに過ぎない)

    苗木(桑田クンが投げたものがこのゴムボールだったのか?)

    苗木(その答えが得られれば……それで目的は達成する。つまりこれはポルポさんからの無茶ぶりに他ならないわけで)

    霧切「では……“それを証明する手立て”なら用意して下さる。そういう解釈で構わないかしら?」

    店主ポルポ「ほう!?」

    霧切「そこまでならば手を貸して下さる。そういう意味だと捉えました。如何ですか?」

    店主ポルポ「フ……フフフ。ホーッホッホ! いやはや、面白いお嬢さんだ! いいでしょう、いいでしょう。では……こちらなどどうですかな」

    霧切「……これは、まさか」

    店主ポルポ「はい。所謂、指紋を採取するためのキットです。ゴムボールの指紋からその桑田怜恩君の物が発見されれば……」

    霧切「……協力、感謝するわ」
  81. 81 : : 2015/08/09(日) 19:37:13
    苗木(霧切さんはポルポさんから指紋採取キットを受け取り、ゴムボールに使う。するといくつかの指紋が浮かび上がり……)

    霧切「あとは桑田君の指紋が分かれば比較できるわね……これは空条先生に頼めば分かるかしら」

    苗木(それにしても、霧切さんの機転は凄かった……まさかああやって情報を引き出すなんて。ボクもそういう術を吸収していかないとな……)

    霧切「それじゃあ、ご協力、感謝します。ポルポさん」

    苗木(そう言って立ち去ろうとする霧切さん。しかし……)

    店主ポルポ「待ちたまえ」

    霧切「……何か?」

    店主ポルポ「……」

    苗木(ポルポさんは黙って手を前につきだし、こう言った)

    店主ポルポ「千二百八十円だよ、そのキット」

    苗木「……」

    霧切「……」
  82. 82 : : 2015/08/09(日) 19:48:51
    #11
    あと二週間!
  83. 83 : : 2015/08/09(日) 19:49:13
    苗木(あれから……)

    苗木(ポルポさんのキットのおかげでゴムボールから桑田クンの指紋が検出されたため、スタンド攻撃の正体はあのボールだったことがほぼ確定した)

    苗木(けど、ただボールを投げただけ、ってわけじゃないだろうし……その点については謎は深まるばかりだったけど、霧切さん曰く、「ここから先は私が突き止めるべき事」だそうで)

    苗木(また何か手伝ってほしい事が出来たら言うそうなので、それからボクはボク自身の心配をするようになった)

    苗木(正直言ってボクには――空条先生からの助言はあるものの――まったくと言っていいほど二週間後にまで迫っているトーナメント戦で勝てる自信がない)

    苗木(こんな時こそ霧切さんを頼るべきなんだろうけど……)

    苗木(授業を受ける霧切さんをちらりと横目で見る)

    苗木(……今は彼女も、自分の調査で手一杯、だろうし。相談するのははばかられる)

    苗木(そうなると……他のクラスメイトに相談してみる、っていうのも考えたけど)

    苗木(ボクだってみんなからしてみれば競争相手なんだ。断られるならまだしも、適当な事を教えられてはたまったものじゃない)

    苗木(こうなってくるとボクに出来る事は限られてくる)

    苗木(つまり……こうだ。その“出来る事”をノートに羅列し、じっくりと考えてみることにした)
  84. 84 : : 2015/08/09(日) 19:49:31
    三択――ひとつだけ選びなさい


    答え①ハンサムの苗木誠は突如自力でパワーアップの方法を思いつく

    答え②先生や先輩を頼って助けてもらう

    答え③打つ手なし。現実は非情である。
  85. 85 : : 2015/08/09(日) 19:49:43
    苗木(ボクが(マル)を付けたいのは本来は①だけど、残念ながらそんな唐突にパワーアップが見込めないスタンドだって事は僕自信が一番良く理解してる。というかそもそもハンサムのってなんだ。ボクは別にハンサムじゃない。ドゥーユーアンダスタン?)

    苗木(③はやめてほしい。非情すぎる現実に打ちひしがれたくなる)

    苗木(となると……②、先生や先輩を頼る、か。これはまだ何か望みがありそうな気がするぞ)

    苗木(だけど、ひとまず、といった気分で先輩にいきなり声をかけるのは入学して二週間しか経っていない一年生にはつらい物がある。ここは空条先生に相談してみようかな)

    苗木(以前もらったのは即席でなんとかするための発想法のアドバイスだったし。だから今度は地力を付けるためのアドバイスを貰えるといいんだけど)
  86. 86 : : 2015/08/09(日) 19:50:19
    承太郎「なるほどな……それでおれの所に来たってわけか」

    苗木「はい」

    苗木(放課後、職員室の空条先生の元をボクは訪れていた)

    承太郎「お前の推理は間違ってねえだろうぜ……クラスメイトを下手に頼るのはよっぽど信頼できる奴以外はやめておいた方が得策だ」

    承太郎「だが……獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすと言うぜ。おれは甘い教育は嫌いなんだ……忠告はしたからな。それでもおれを頼るってのか?」

    苗木(う、うう……すっごい怖い)
  87. 87 : : 2015/08/09(日) 19:51:02
    承太郎「まずは……苗木。お前に今“必要なもの”という現実を突きつけるぜ。いいか? その覚悟がねえ、とかいう泣き言は全部終わってから言いな、おれは聞く気はねえぜ」

    苗木(個室……というのも奇妙なたとえだけど、数名規模で模擬戦闘のような事の出来るようになっているトレーニングルームの一室に、ボクは空条先生に連れてこられた)

    苗木(ここは多少のスタンド攻撃にはビクともしない耐久性を備え、しかも防音性にも優れているので、スタンドの相談などにも適している……というのが空条先生の言葉)

    苗木「は……はい」

    承太郎「よし、じゃあ言うぜ。苗木……お前に足りない物、必要なものは」

    苗木「ひ、必要なものは……?」

    承太郎「スタンドによる攻撃方法。他にもいろいろあるだろーが、まずはこれを身に付けない事には話にならねえ。論外ってヤツだぜ……」

    苗木「え、あ……は、はい。ですよね……」

    ヘイ・ヤー『言ワレチマッタナッ!』

    承太郎「だが、困った事にだ。お前のスタンドの能力、それは“本体に助言し、励まし、勇気付ける”……それだけと来た。これじゃあスタンドによる攻撃なんか望めるはずもねえ」

    苗木「う……」

    苗木(返す言葉もないとはまさにこの事だ)

    承太郎「ならどうするか? 答えは簡単だ」

    苗木「え……えっ?」
  88. 88 : : 2015/08/09(日) 19:51:16
    承太郎「おい、ヘイ・ヤーと言ったか」

    ヘイ・ヤー『エ……俺カ?』

    承太郎「ああ。お前……本気で自分の能力を使ってみろ」

    ヘイ・ヤー『ホ……本気デッテドウイウ事ダ?』

    承太郎「だからよ……お前の能力は本体、つまり苗木を勇気づける事なんだろう?」

    ヘイ・ヤー『ソウダゼ』

    承太郎「だったら、本気で苗木を励ましな。話はそれからだ」

    苗木「本気でボクを励ます……?」

    承太郎「そうだ……苗木。お前は今、壁にぶち当たっている。その壁はどうやっても乗り越えられない。少なくともお前はそう感じているくらいに高い壁だ」

    苗木「そう……ですね」

    承太郎「そんな壁にぶち当たり、四苦八苦している今の状況、つまりくじけかけている現状にこそ……ヘイ・ヤーは真価を発揮するはずだろう? なのに何故ヘイ・ヤー。お前は“スタンド能力を発揮しない”?」

    ヘイ・ヤー『ア……ッ!』

    承太郎「まずは自分自身を立ち直らせてみな。というより、それがお前のスタンド能力なんだろう? だったら言われずともやって然るべきことのはずだぜ」

    苗木「う……わ、分かりました。……ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『合点承知!』

    ヘイ・ヤー『誠、オ前ラシクネーゼッ、悩ンデ立チ止マッテルナンテヨォーッ! ヒタスラ前ヲ向イテ歩イテイクッテノガ誠ノ取リ柄ダロッ!? ダッタラキットナントカナルッテ! ナンタッテ俺ガ付イテンダカラナ!』

    苗木(ヘイ・ヤーはそうしてひとしきりボクに励ましの言葉を飛ばした)

    承太郎「……どうだ? 正直にヘイ・ヤーの能力を受けた感想を言え」

    苗木「えっと……なんというか……正直、あまり響いてこない、です」

    ヘイ・ヤー『マジデッ!?』

    承太郎「だろうな……そうだろうと思った上でやらせたんだ。想定通りだぜ」

    ヘイ・ヤー『コレマタマジデッ!?』

    承太郎「いいか、苗木……それとヘイ・ヤー。これからおれはお前らに……“スタンドバトル”を教えてやる」

    承太郎「ちょいと痛い目も見るだろうが……なに、安心しな。殺しはしねえ。“課外授業”だ……始めるぜ」
  89. 89 : : 2015/08/10(月) 20:00:51
    #12
    空条承太郎の課外授業 その①
  90. 90 : : 2015/08/10(月) 20:01:31
    承太郎「おおおっ、スタープラチナ! オラァッ!」

    ヘイ・ヤー『グゲェーッ!?』

    苗木「う……ぐっがは……!」

    苗木(“課外授業”の宣言から間髪入れず、空条先生はスタープラチナでヘイ・ヤーを思い切り殴り付けた)

    承太郎「まずは挨拶代わりだ。受け取りな」

    ヘイ・ヤー『イ……イキナリ殴ル事ネーダr』

    承太郎「オラオラオラオラオラ! オラァ!」

    ヘイ・ヤー『グプベェーッ!?』

    苗木「うああ……ぐっ!」

    承太郎「フン……文句や批判は終わってから一人で呟いてな。聞く気はねえぜ……」

    苗木「う、く……」

    苗木(まさか……いきなりこんなスパルタで来るなんて!)

    承太郎「いきなり実戦でもいいが……さすがに何のコツも掴めてねえお前らには重荷だろう。準備運動くらいの軽い気持ちで一つ、ゲームをしようじゃあねえか」

    苗木「げ……ゲーム……ですか?」

    承太郎「ああ。おれはこのトレーニングルームに入ってからずっと、両手をポケットに入れたままだ」

    苗木(言われてみれば……そうだ)

    承太郎「ルールは簡単だ。どんな方法でもいい。おれの手を両方ともポケットから出させな」

    承太郎「おれ側の制約は二つ。一つは“自分の意思では絶対に出さない事”。そしてもう一つは“片手だけ出された場合であっても、再度ポケットにそちら側の手を入れる事は禁止”。つまり出せるならば片手ずつでもいい、というわけだな」

    承太郎「制限時間は無制限、おれの両手がポケットから出す事が出来たなら苗木の勝ち、苗木が降参したならおれの勝ち。もし片方の手だけしか出せずに苗木が降参したならドローって事にしておいてやる。このいずれかの条件を満たすまでゲームは続く」

    承太郎「そして公平を期すためにあらかじめ言っておくが……スタープラチナによる攻撃や防御は勿論、させてもらうぜ。スタープラチナの両腕はゲームには無関係だとあらかじめ言っておく」

    承太郎「何か質問は?」

    苗木「……ない、です」

    承太郎「そうか。じゃあ始めるぜ! ゲームをよ」
  91. 91 : : 2015/08/10(月) 20:01:57
    苗木(要求されている事、それは空条先生の両手をポケットから出させる……たったそれだけの事だ。普通の状況、普通の相手なら簡単に出来ると言っても過言じゃないし、方法はいくらでもある)

    苗木(けど……これが“スタンドバトル”で、しかもその相手が普段から何を考えているのか読めない“空条先生”……となると)

    苗木(どうやればいいのか……まったく、想像もつかないッ!)

    苗木(く……駄目だ、まずは落ち着いてボクのスタンドにできる事からどうするべきか考えよう)

    苗木(まず正攻法だ。ヘイ・ヤーを向かわせて、ヘイ・ヤーに引っ張り出させるというのは?)

    苗木(……いや、ダメだ。ヘイ・ヤーは破壊力もスピードも評価はE――所謂“超ニガテ”に属する。愚直に向かって行ったところでスタープラチナに妨害されるだろうし、妨害を潜り抜けられたとしてもパワー不足だ。引っ張り出すなんて出来るわけがない)

    苗木(唯一、持続力だけはB――“スゴイ”に分類される位置だ。だけど、これを利用しようにも、射程距離と成長性以外が全てA――“超スゴイ”のスタープラチナには通用しない!)

    苗木(唯一、スタープラチナに弱点があるとすればそれは……射程距離! たしか二メートルほどが限界だったはず。つまり……まずは何より、距離を取る事だ。スタープラチナを相手に接近戦は不利でしかないッ!)

    苗木(そう考えたボクはひとまず、空条先生から距離を取るために後退した)

    承太郎「ほう……下がるか。たしかにそこまで下がればスタープラチナの射程距離外だな」

    苗木(今は……この距離を保って、どうするかを考えるしかない。だけど……くっ、何も思いつかない……!)

    承太郎「さあ、どうする苗木。距離を取ったのはいいが、その距離だとお前のスタンドも射程距離外のはずだな。そこからどう動く?」

    苗木「う……くく……」

    苗木(考えろ、考えるんだ苗木誠……)

    承太郎「何もしねえなら……こっちから行くぜ!」

    苗木(来る――そう思って後退したボクの肩に、鋭い痛みが走った)
  92. 92 : : 2015/08/10(月) 20:02:11
    苗木「う……っぐ、ぐあああああああっ!?」

    ヘイ・ヤー『ア……アアアッ! コ、コレハ……ライフルノ弾ダッ! ライフルノ弾ガ誠ノ肩ヲ貫通シテイルッ!』

    苗木(壁に突き刺さったそれを見て、ヘイ・ヤーが声を上げる)

    苗木「ら……ライフルの、弾……?」

    承太郎「おれはな……自分のスタンドの弱点くらいは理解してるぜ。たしかに射程距離は短い。だがそれを埋める方法は……事前準備さえしてりゃあ幾らでもあるって事だ」

    苗木「そうか……スタープラチナの真価は純粋なパワーとスピード……ッ! 空条先生の、それこそポケットかどこかから、ボクが視認できないくらいのスピードで銃弾を抜き取って……そのパワーで弾いて“撃った”……ということか……」

    承太郎「ほう、撃ち抜かれてもそこそこ頭は回るみてえだな。出来のいい生徒は歓迎だぜ。そういう奴を教えるのは教師冥利に尽きる、って奴だ」

    苗木(く……くそ……これで“ボクと空条先生の射程距離外”は“ボクにとっての射程距離外”でしかなくなった……。ボクだけが不利ッ! このままではまずい……やられるだけだ)

    苗木(だけど……何の策も無いままじゃどの道……)

    苗木(……)

    苗木(待てよ? 策……そうか、策だ)

    苗木(ヘイ・ヤーのスタンド能力はたしかにボクを勇気づける、ただそれ一点のみ……だけど)

    苗木(能力じゃない。“利点”で考えるんだ……あるじゃあないかッ! ボクのスタンドの……ヘイ・ヤーの利点が!)
  93. 93 : : 2015/08/10(月) 21:58:09
    #13
    空条先生の課外授業 その②
  94. 94 : : 2015/08/10(月) 21:58:55
    苗木「空条先生……」

    苗木(撃たれたばかりでドクドクと血が流れ落ちる右肩を左手で押さえ、空条先生を見据える)

    承太郎「ほう……いい目だ。何かを思いついた、そういう顔をしている。いいぜ、なんでもやってきな。これはあくまで課外授業なんだからよ……」

    苗木「……宣言します。ボクはまず……空条先生のどちらか片手を……ポケットから出させてみせます」

    ヘイ・ヤー『エッ! ナ……何ダッテ!? 誠、何カ方法ヲ思イツイタノカッ!?』

    承太郎「フ……。いいぜ、気に入った。そういう趣向、おれ好みだ。だがな……そう宣言されちまうと、何が何でも出してやるものかと思っちまう性格なモンでよ……。その宣言、てめーでてめーの首を絞めただけだぜ。それに……苗木のスタンドには何も伝わっていないようだが?」

    苗木(空条先生の言葉を聞いて、ニヤリと笑って見せる)

    苗木「ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『オ……オウ? 何ダ?』

    苗木「行け! “正面から突っ込め”!」

    ヘイ・ヤー『ナ……何ダカワカンネーガ、合点承知ダゼッ!』

    ドギュゥン!

    苗木(正面へ……そう。ヘイ・ヤーは空条先生の“顔面”へ向けて移動する!)

    承太郎「フン……血迷ったか? 顔面に来れば手で払うとでも思ったのか……だが、スタンドはスタンドで殴れるんだぜ! オラァ!」

    苗木「……ぐっ!」

    苗木(……思った通り! 空条先生は“ヘイ・ヤーをスタープラチナで殴った”!)

    承太郎「……何ィッ!?」

    苗木「思うんですけど……スタンド使いって、時たま“スタンド使い”だって事が不利に働きますよね……」

    承太郎「これは……ぐ……そういう、事か……」
  95. 95 : : 2015/08/10(月) 21:59:15
    苗木「スタンド使いはスタンドが見える。当然の事です。だけど、だからこそ、スタンドが攻撃の意思を持って向かってくると、スタンドでスタンドを攻撃しようとする……」

    苗木「その時、どうしたって“向かってくるスタンドを見ている”わけです……特にそれが、自分の顔面に向かって来るなら、視界に敵スタンドの方から入って来るわけですから」

    苗木「けどそうなると、視界は……“スタンドが見えるばっかりに、スタンドで埋め尽くされることになる”。ボクはちょいと、そのスタンドの後ろから空条先生の目に狙いをつけて、今右肩に出来た傷から採った血を飛ばしてやれば、それは“普通の人には見えるけど、スタンド使いだからこそ見えない”攻撃になる……ってわけです」

    承太郎「フ……やるじゃねえか。だが……それが、どうした?」

    苗木「えっ……?」

    苗木(血が目に命中し、両目を閉じた状態の空条先生はそれでもなお笑みを崩さず言う)

    承太郎「たしかに実戦なら、これは致命的なミスになっただろうな……だが、悲しいかな、これは実戦じゃあねえ。あくまでゲームなんだぜ……。目に血を飛ばせば拭うと思ったか?」

    承太郎「残念だが、それはない。最初にルールを説明したはずだ。おれは、“おれ自身の意思でポケットから手を出すことはない”。つまり逆に言えば、出したくても出せねえのさ。いくら血を拭いたくってもな……」

    苗木「なんだ……そういう事ですか」

    苗木(正直言って……ボクは安堵していた)

    苗木「それならご心配なく……ボクはそんな事、ちっとも考えていませんでしたから」

    承太郎「ほう……」

    苗木(ボクの真意には……気が付いていない様子の空条先生に、安堵していた)
  96. 96 : : 2015/08/11(火) 18:03:21
    #14
    空条先生の課外授業 その③
  97. 97 : : 2015/08/11(火) 18:03:43
    苗木(ボクはまず、空条先生から距離を取った。理由は二つ。一つは、目を閉じた今の空条先生が相手なら狙いをつけられないだろうから銃弾が飛んでくる心配はないため)

    苗木(そしてもう一つは、“壁際に移動するため”)

    苗木(後者の方が大きい理由だ)

    承太郎「なら、おれの目を潰して何をしようっていうんだ?」

    承太郎「まさか逃げ回るための時間稼ぎ、ってわけでもねえだろう」

    苗木(ここで質問に答えるわけにはいかない)

    苗木(目の見えない今の空条先生が頼るべきは……声のする方向、という聴覚情報! その情報をわざわざ与える必要はない……)

    苗木(よし、壁際に……辿り着いた。次にする事は……)

    ヘイ・ヤー『……!』

    苗木(これで……たぶん、大丈夫のはずだ。あとは空条先生の元へ近付いていくだけ……出来るだけ、足音や気配は殺す必要がある)

    承太郎「何だ? 急に何もしゃべらなくなったな……どうした? 何もしてこないのか?」

    苗木(……よし、十分距離は詰めた。チャンスは一度きり。……ヘイ・ヤーが空条先生の背後に回り込んだのを確認し、合図を……送る!)
  98. 98 : : 2015/08/11(火) 18:04:02
    カツン……!


    承太郎「何……いつの間に!?」

    苗木(空条先生が物音に反応し、背後を振り向いたところでボクは一気に空条先生に向かって猛ダッシュをかける! そして……)

    苗木(掴んだッ! 空条先生の腕を掴んだッ!)

    承太郎「なッ……し、しまったッ!」

    苗木(そのまま力任せに、空条先生の腕を……僕自信が引き抜く!)

    苗木「ヘイ・ヤーァァァァァァッ!」

    ヘイ・ヤー『合点ダッ!』

    苗木(ボクの呼びかけに、ヘイ・ヤーはボクが掴んでいないもう片方の腕を引っ張り上げる! そして……)
  99. 99 : : 2015/08/11(火) 18:04:20
    承太郎「ふふ……見事だ。まさか両手とも引きずり出されるとはな」

    苗木(“ゲーム”が終わり、顔に付いた血をふき取りながら空条先生が言った)

    苗木「賭けでしたけどね……正直、ヘイ・ヤーを攻撃されて阻まれ、本体であるボク一人が腕を引っ張り上げる。ボクの想定ではそこまででした。そこでボクの方を攻撃されるようなら、その時点でもうどうにもできません。降参するつもりでした」

    承太郎「最後はまさしく、“幸運”だったわけだ……」


    苗木(どういう事か、説明しよう)

    苗木(まずボクは壁際に行き、血文字を書いた)

    苗木(“壁に突き刺さったライフルの弾を回収して先生の背後に回り込め”“合図があったら弾を落とせ”……と。つまりヘイ・ヤーへの指示だ)

    苗木(勿論、こんなに詳しく書くだけの時間は無かったから、もっと記号とかを盛り込んだ簡易的な指示ではあったけど、そこはボクのスタンドだ。だいたいの意図は伝わる)

    苗木(その後はさっき起こった通り、ライフルの弾が床に落ちた音に反応した空条先生に自分で突進し、腕を引きずり出させようとした……んだけど)

    苗木(まさか、“落としたライフルの弾に足を取られて空条先生が転倒、そのはずみで手がポケットから出る”……なんていうオチになるとは、さすがに予測していなかった)

    承太郎「だが、そこに至るまでのプロセス。まあ稚拙ではあるが……とっさに思い至ったトコは評価してやる」

    苗木「はい、ありがとうございます」

    苗木(ボクが思い至った“ボクのスタンドの利点”)

    苗木(それは……答えは既に、知っていた。それに既に聞いた言葉だった)

    苗木(それはつまり、“警戒されにくい”。それは“油断を誘える”という事に他ならない)

    苗木(“何かを思いついたようだけど、どうせ大したことは出来ない”……そんな具合に甘く見させる事が出来ればこっちのものだ)

    苗木(だけどこの策には欠点がある。それも重大な)

    苗木(それは……二度目は通用しない事。同じ相手には一度しか使えない。それどころか、こんなスタイルの戦闘、見られただけで対策は簡単にされてしまう)

    苗木(だって、対策なんて、“何があっても油断しない”、ただそれだけでいいんだから)

    承太郎「さて、どうやら新たな壁にぶつかっている、ってな表情だが……それも含めてだ。本番に入るぜ」

    苗木「えっ、ほ……本番?」

    承太郎「ああ。言っただろう。今のはゲームだ……準備運動みてーなもんだ、ってな」

    苗木「という事は……」

    承太郎「ここからが……空条承太郎の課外授業、その本番、だ」
  100. 100 : : 2015/08/11(火) 18:04:50
    #15
    空条承太郎の課外授業 その④
  101. 101 : : 2015/08/11(火) 18:05:05
    承太郎「ひとまず今ので、スタンドバトルのコツや勘みてーなものは分かったな?」

    苗木「は……はい」

    承太郎「スタンドバトルはただスタンドが強いだとか弱いってのは関係ねえ。重要なのは “敵スタンドと自分のスタンドの相性はどうか?”“相性が悪いとして、どんな策を用いれば勝てるか?”“相手のスタンドや本体に、自分が突ける致命的な弱点は無いか?”……といった、発想法や観察眼に他ならねえ」

    承太郎「ちなみにこの学園にいる間は“大まかに出来る事”が公表されてるからな。それに似たことを要求はされるが、本来ならば“敵スタンドの正体は何か?”というプロセスをたどる必要がある事も加えておくぜ。むしろ、まず最初に考えるべきことがこれだ」

    承太郎「この学園ではさっきも言ったが、大まかに出来る事が全ての生徒において公表されている。自称でしかねえが、それでもそのスタンドを使って出来る事である事には変わらないわけだが……しかしそこから、“公表されているスタンド能力と、実際に自分が体感したスタンド能力から、それらが可能になるのはどういった能力の場合か?”……を、考える必要がある」

    承太郎「お前の場合、自分で自分のスタンドに出来る事を過小評価しているフシがあったんでな。これじゃあこれらすべてを理解したところで勝てるものも勝てねえ。だから荒療治させてもらったぜ……」

    苗木(そう言って空条先生は煙草をくわえ、ライターで火を付けた)
  102. 102 : : 2015/08/11(火) 18:05:24
    承太郎「さて、これを踏まえた上でだ。課外授業本番……お前には“自由な発想法”を身に着けてもらう」

    苗木「発想法……ですか?」

    承太郎「この間の実技試験……あの時に教えたのは窮地に立たされた時に緊急回避をするために冷静でいられる事、それを前提とした発想法だ。今回はそれを上手く応用してやられた、といった感じだったがな」

    苗木「それじゃあ先生は、ヘイ・ヤーにもまだ先がある……と言いたいんですか?」

    承太郎「その通りだぜ」

    苗木「それって、どんな……」

    承太郎「おっと、そこから先は言えねえな」

    苗木「えっ!?」

    承太郎「おれはたしかに今言ったぜ……お前に自由な発想法を身に着けてもらう、ってな。おれがここで予測を語るのは簡単だが、それじゃあお前が発想法自体を身に付けたことにはならねえな」

    苗木「じゃあ、その発想法って……?」

    承太郎「……ヒントは」

    承太郎「“ライフルの弾”……だぜ」

    苗木「ライフルの……弾」

    承太郎「時間はたっぷりある……じっくり考えな」
  103. 103 : : 2015/08/11(火) 18:05:54
    苗木(ヒントはライフルの弾。つまり、空条先生がボクに撃った事……もしくは、ボクが空条先生の背後に弾を落とした事……この二択、いや違う。空条先生が足を取られて転倒した、ってのも含めて三択か。このどれかに答えがある……のかな)

    苗木(まず最初に、たぶん三番目の空条先生の転倒は関係ないと思う。先生自身、あれについて幸運だ、とさっき言及があった。つまり今は関係ないと考えていい。……たぶん)

    苗木(次に二番目……これもおそらく、違う。理由はこれも空条先生の言葉だ。“発想法を身に着けてもらう”……それはつまり、今のボクにはその発想法とやらは身に着いていない、ということだ。そうなら、ボクの行動が答えになっているはずはない。ボクが巡らせた策が答えなら、既にその発想法は身に着いている事になるはずなんだから)

    苗木(となると……残るは一番目。空条先生がボクを撃った事……か)

    苗木(あれにどんなヒントがあるのかと考えると……すぐに思い至った)

    苗木「空条先生がライフルの弾をスタンドで弾いて撃った……これはスタープラチナの射程距離の短さという弱点を補うための発想……って事ですか?」

    承太郎「惜しいぜ。たしかに、それはその通りだ。スタープラチナの射程距離はわずか二メートル……遠距離から攻撃してくる相手に対しては無力になっちまう。そうなると遠距離攻撃の手段は持てるならば持っておきたい……そこでおれは、銃弾やら砲弾をスタープラチナで撃つことにしたのさ。だがそれには一つ、どうしても重要な要素がある。それこそが最も大切な事だ。何か分かるか?」

    苗木「スタープラチナが……銃弾を撃つために必要な要素……」

    苗木「やっぱり、パワー、ですか?」
  104. 104 : : 2015/08/11(火) 18:06:11
    承太郎「……やれやれだぜ」

    承太郎「そこまで行きついて、解答に辿り着けねえのか?」

    苗木「えっ……違うのか……」

    苗木(だとすると……何だ?)

    承太郎「パワーとう答えもあながち間違ってはいねえ。だがそこからさらに発展させて考えてみな」

    苗木「パワーから発展させて……」

    苗木(たとえば……逆に考えてみよう。パワーが無ければ撃つ事は出来ない……?)

    苗木(違う、しっくりこない。“パワーがあったから撃てた”、これはこのままでいいはずだ。……あれ?)

    苗木(“撃てた”って事は……まず最初に“撃てるかどうか試す”必要があるって事になる……よね。つまり……)

    苗木「そうか分かったぞ!」

    苗木「“スタープラチナには撃てる、と信じた”……その結果として、撃てた。そう言う事ですか?」

    承太郎「……」

    承太郎「やりゃあ、出来るじゃあねえか」

    苗木「空条先生が言いたい事は要するに……“出来るはずだ”“出来て当然だ”と思う事。それがスタンドの能力を引き出すために必要な条件、という事……ですか」

    承太郎「そうだ。それが分かればあとは……自分がスタンドの事を信じてやるだけだぜ。それ以降はおれに……いや、お前以外の誰にだって、出来る事はねえ」

    承太郎「お前のスタンドに出来る事は、お前が考えて、それが出来て当然だと信じ込むしかねえんだからな」

    苗木「そういう、事か……」

    承太郎「さ、講義はここまでとしようぜ。最後の仕上げ……お前がどこまで“実践”出来るか。おれが直々に確かめてやる」
  105. 105 : : 2015/08/11(火) 20:19:45
    #16
    学食料理を食べに行こう その①
  106. 106 : : 2015/08/11(火) 20:20:11
    苗木(あれから数日……毎日放課後に、空条先生の鬼のような訓練が待っていた)

    苗木(おかげでスタンドバトルで必要なコツや勘、それに加えて身体能力は多少身に着いた気がする)

    苗木(ただ……)

    江ノ島「ギャッハハハ! 苗木が死んでるゥー!」

    朝日奈「ホント大丈夫? なんかここ最近毎日ぐでっとしてるけど……」

    苗木「だ、大丈夫だよ……うん。ただちょっと……疲れてはいる、かな」

    大和田「ふーん……ま、体には気ィ付けろよ」

    苗木「うん、ありがとう」

    苗木(正直言って、だいぶ疲労がたまってるのは自覚している)

    苗木(その様子を見かねてか、空条先生からは今日は休みにする、と言われているため、放課後は暇になったんだけど……特にこれと言ってすることもないんだよね)

    苗木(授業が終わり放課後になって……ボクはふらふらと教室を出た)

    苗木(今日はさっさと帰って休もう、そう考えたからだ……)
  107. 107 : : 2015/08/11(火) 20:20:26
    ドンッ


    苗木(ふいに、誰かとぶつかってしまった)

    苗木「おっと……」

    ???「やあ、ゴメン。前方不注意だったかな……」

    苗木「いえ、こちらこそ、ちゃんと前見てませんでした。すみません……」

    苗木(見ると、ぶつかったのは男子生徒のようで……見覚えが無い事から、先輩なのだろうという事は推測できた)

    ???「それにしても君……見覚えが無いな。新入生かい?」

    苗木(どうやら向こうも同じ事を思ったようで、ボクは挨拶をしておくことにした)

    苗木「ええ、はい。今年入った七十八期生の苗木誠です」

    ???「そうか、苗木君……か」
  108. 108 : : 2015/08/11(火) 20:20:43
    ジョルノ「初めまして。僕は七十六期生のジョルノ・ジョバァーナだ。イタリアからの留学生、って扱いになるのかな。ともあれ、よろしく」

    苗木「は、はい。よろしくお願いします……ジョルノ先輩」

    ジョルノ「そんなにかしこまる必要はないよ。むしろ気軽に接してくれた方が僕としても楽だ」

    苗木「は、はあ……」

    ジョルノ「それはそうと、何やら疲れているようだね……そうだ、いい事を思いついた」

    苗木「いい事、ですか?」

    ジョルノ「去年からね、ここの学食がリニューアルされたんだ。モノスゴク美味しくなったと評判でね。食べた後、体もすごく健康になったと感じる効果もあって僕も結構頻繁に通っているんだが……君も一緒にどうだい? 夕食を奢るよ」

    苗木「え、いいんですか?」

    ジョルノ「ああ。本業の方で結構稼いでるからね……奢るくらいわけないさ。どうだろう、一緒に“イタリア料理を食べに行こう”、ってわけにはいかないけど」

    苗木(さすがに……ここまで言ってくれて断るのは悪いな)

    苗木「じゃあ、ご一緒します……」
  109. 109 : : 2015/08/11(火) 20:21:11
    苗木(な……何だこの、凄まじくお洒落でアーバンな一角は!)

    ジョルノ「学生食堂“フルールヴィラージュ”……校内でも知る人ぞ知る、放課後の人気スポットだよ。昼食時は一昨年までと変わらないメニューだけどね。放課後から夜の八時までの営業時間……つまり夕食時はリニューアルされた学生食堂の本領発揮、ってな具合さ」

    ジョルノ「それまではただの学生食堂だったのが、急に“フルールヴィラージュ”なんて店名が付いたのも去年の事だよ」

    苗木「は、はあ……」

    苗木(なんというか……床とか柱とか、これってもしかして大理石ってヤツなんじゃ……)

    ジョルノ「さ、席に着こうか」

    苗木「えっと、食券とかは……」

    ジョルノ「昼は使うけど、放課後からはメニューすらないよ」

    苗木「え……!?」

    ジョルノ「その日、その人に合ったものをシェフが判断し、提供する……というスタイルなんだ。何が出てくるのか楽しみでもあって、僕は好きだよ」

    苗木(ジョルノ先輩はそう言って、適当なテーブルに着いた)

    ???「やあ、いらっしゃい。ジョルノ先輩と……おや? キミは?」

    苗木「あ、ボクは苗木誠です。今年入った新入生で……」

    ???「ああ、はいはい。そういう事ね」
  110. 110 : : 2015/08/11(火) 20:21:39
    花村「ンッフフ、ぼくは花村輝々。七十七期生、キミ達の一個上に当たるね……。この学生食堂“フルールヴィラージュ”はぼくの城みたいなものでね。放課後からはぼくが営業してるんだ。よろしく頼むよ」

    苗木「花村先輩、ですか」

    ジョルノ「ああ。フランス語でフルールは花。ヴィラージュは村という意味になる」

    苗木「そ、そうなんですか……」

    花村「どうだい? アーバン(都会的)なセンスを感じるだろう?」

    苗木「は、はは……そ、そうですね……」

    ジョルノ「さ、それより花村君。今日はどんな料理を食べさせてくれるのかな。僕はそれが楽しみで仕方ないんだ」

    花村「あ、うん。ちょっと待ってね」

    苗木(言うなり花村先輩はボクら二人を注視し始めた。そして……)

    花村「うん、分かったよ。じゃあちょっと待っててね」

    苗木(そう言って花村先輩は厨房へと引っ込んで行った……)

    ジョルノ「さて、苗木君。料理が来るまでの間、良ければだけど……君の疲れの原因、教えてもらえないかな」

    苗木「えっ?」

    ジョルノ「いや、別に意味なんてないよ。ただの世間話さ。人間、全ての事に意味を持たせていたらそれこそ疲れるだけだからね。僕は無駄な事は嫌う性格だけど、無駄な事と意味のない事は別物だよ」

    苗木「はあ……?」

    苗木(イマイチ、何を言いたいのか良く見えない人だ)

    苗木(だけど……なんというか。凄くサワヤカな人だ……というのは分かる)
  111. 111 : : 2015/08/11(火) 20:22:10
    ジョルノ「それで、何が原因で君はそんなにフラフラになるほど疲労しているんだい」

    苗木「ああ、えっと……実は……」

    苗木(言うべきか迷ったけど、ボクは“この人に隠しても意味がない”と何となく思ったので、正直に話すことにした)

    苗木(自分のスタンドの事、その能力について、それ故空条先生の訓練を受けている事、そしてその連日の訓練で疲れているだけだ、という事……)

    苗木(その辺りの事情を隠さず話すと、ジョルノ先輩は言った)

    ジョルノ「なるほどね……“超高校級の幸運”、か。そういうところは苦労するだろうけど、でも僕としては頑張ってほしいな。そういう人が成功するのを見ると悪い気持ちはしないわけだし」

    苗木「そ、そうですか……。そういえば、ジョルノ先輩は表向きはどういう才能で?」

    ジョルノ「ん? ああ、僕か。僕は一応、“超高校級のギャングスター”という扱いになっているよ」

    苗木「へえ、ギャングスター……って、ギャングスター!?」

    ジョルノ「そう怖がらなくていい。僕らギャングは別に一般人には危害は加えないよ。ただ道理に合わないものに関して、時に法の外側で対処する事はあるけど」

    ジョルノ「そういう意味じゃ、花村君と同じ七十七期の……九頭龍君だったか、彼とは話が合ったな」

    苗木「はあ……」
  112. 112 : : 2015/08/11(火) 20:22:25
    ジョルノ「とにかく、僕から一つ君にアドバイスをあげよう」

    苗木「アドバイス……ですか?」

    ジョルノ「うん、アドバイスだ。空条先生の言う、“出来て当然と思う事”、これはたしかに正しい。必要な事だ。だけどそれだけでいいわけは勿論、ない」

    苗木「と言いますと?」

    ジョルノ「いいかい。“出来て当然と思う”という事を行うためには――というのもなんだか奇妙な言い回しのような気がするけど――“何か”が実行可能であると信じるという事だ。その“何か”に該当する部分が無い限り……意味をなさないね」

    苗木「何を出来て当然と思うか……ですか」

    ジョルノ「そう。そしてさらに言うと、だ。“出来て当然と思い込む”ではダメなんだ。“出来て当然と思う”でなければね。思い込もうとしている時点でそれは、心の中に疑いが生じているに他ならない」

    ジョルノ「たとえば“水をかければライターの火は消せる”というのと同じように。出来て当然と思う事には、意識せずとも普通に実行できる、という事が必要なんだ」

    苗木「意識せずとも……」

    ジョルノ「さて、君は……どこまで“出来て当然と思う”を達しているのかな?」
  113. 113 : : 2015/08/11(火) 20:23:32
    #17
    学食料理を食べに行こう その②
  114. 114 : : 2015/08/11(火) 20:23:58
    苗木(ジョルノ先輩の問いかけに答えられずにいると、花村先輩が料理を運んでやって来た)

    花村「やあ、お待たせ。ジョルノ先輩には今日はこんなメニューを用意したよ」

    苗木(そう言ってジョルノ先輩の前に皿を差し出す花村先輩。そのメニューは……)

    ジョルノ「おっ、これは……タコのサラダじゃないか。僕の大好物だ……」

    苗木(そう言ってサラダを口に運ぶジョルノ先輩。すると……)

    苗木「……えっ?」

    苗木(急に、ドサドサとジョルノ先輩の服から何か黒い物が大量に落ちた)

    苗木(何だろう……?)

    ジョルノ「うん、ベネ。いつ食べても美味しい。それに肩も軽くなった」

    花村「それはぼくの料理なんだから、当然だよね」

    苗木「えっと、あの。ジョルノ先輩……何か落としましたよ?」

    ジョルノ「ああ、垢だよ。気にしなくていい」

    苗木「あ……垢……?」
  115. 115 : : 2015/08/11(火) 20:24:22
    ジョルノ「それより花村君。彼にも料理を運んであげなよ」

    花村「うん、そうだね、じゃあちょっと待っててよ」

    苗木(そう言って再度厨房へと引っ込んで行く花村先輩)

    苗木(ジョルノ先輩の方を見ると、今度は水を飲み始めた)

    ジョルノ「ここは水も美味しいんだよ。君も飲んでみるといい。今まで飲んだどの水より美味しいだろうと確信を持って言える」

    苗木「は、はあ……って、ええっ!?」

    苗木(今度は急に、ジョルノ先輩が大量の涙を流し、そして目がクシャクシャになった!)

    苗木「こっ……こ、これはッ!? これは一体……!」

    ジョルノ「ああ……気にしないでいいよ。何でもない」

    苗木「な、なんでもないって事は無いでしょう……! もしかして何者かからスタンド攻撃を受けてるんじゃあ……ッ!」

    ジョルノ「ああ……たしかにスタンドによるものだ。だが、悪い物じゃない。本当に気にしなくていいんだ」

    苗木(気が付くと……ジョルノ先輩の目は元に戻っていた)

    ジョルノ「うん、疲れ目が取れた」

    苗木「え、えっと……?」
  116. 116 : : 2015/08/11(火) 20:24:54
    花村「お待たせー。苗木君には……はい。これだよ」

    苗木「これは……」

    苗木「肉じゃが……?」

    花村「うん。これが今のキミに必要な料理だと……シェフとしてのぼくのプライドがそう言ったのさ……」

    花村「ま、食べてみてよ!」

    苗木「う、うん……頂きます」

    苗木(そう言って、肉じゃがを口に運ぶ。すると……)

    苗木「ん……」

    苗木「ンまあーいっ!」

    苗木「今まで食べたどの肉じゃがとは……明らかに違うッ!」

    苗木「あくまでここは学食。ジャガイモも肉も……特別高級なものを使っているという訳ではないはずッ! 素材の秘めた可能性を極限まで引き出す力……まさに神の腕と呼ぶにふさわしい……ッ!」

    苗木「お、おおお……おおーッ! みるみる元気が沸いてきたァーッ!」

    花村「ンッフフ。どうだい? ぼくのスタンド……パール・ジャムを味わった感想は」

    苗木「こっ……こんなスタンドも……あるのか!」

    花村「うん、そうだよ。ぼくは争い事は好まない性格だからね……学年順位は十六位だけど、こうやってお客さんをぼくの料理で幸せに出来れば、それがぼくにとっての一番の“勝利”なのさ……!」

    苗木「なるほど……」

    花村「まあ……勿論、トーナメント戦で手を抜いてるってわけでもないんだけどね……」
  117. 117 : : 2015/08/11(火) 20:25:11
    苗木「そうですか……」

    苗木「……あれ?」

    苗木(ふと気が付くと、ジョルノ先輩の姿が見えなくなっていた)

    花村「ああ……ジョルノ先輩。そよ風のように消えて行く人だから」

    苗木(そよ風のように、と来たか)

    花村「でもしっかりお代は置いて行ってくれるからね。文句はないよ。今回はキミの分も一緒に支払してくれたみたいだね」

    苗木「そうですね……ん?」

    苗木(返答をした時、ふと、壁に貼られた一枚の張り紙が目に入る)

    苗木「あれ、なんですか? 何か、人の名前が羅列されてるだけみたいですけど」

    花村「ん? ああ、あれね。あれは校内ランクの発表だよ。七十三期生の先輩が卒業して変動があったから、まだ新しいけど」

    苗木「校内ランク、ですか?」

    花村「そっか、新入生にはまだ説明がないんだね。これからの学年大会の話は聞いてるかい?」

    苗木「あ、はい。もうじき、七十八期生のトーナメント戦をやる、とか」

    花村「うん、そのトーナメント戦でキミ達七十八期生の順位が確定するんだ。実技試験を受けたと思うけど、そこでの順位は一応暫定って形なんだよね」

    苗木「そうだったんですか?」

    花村「うん。それで、トーナメント戦の結果、上位三位に確定した人が校内ランカーに認定されるんだよ」

    花村「この幽波紋ヶ峰学園は五年制だから、その五学年からそれぞれ三名ずつで計十五人。これがこの学園のトップって事になるね……」

    苗木「そんなシステムだったんですか」

    花村「とはいえ……今は一年生の上位三名は確定してないから、単純に卒業生が発生したことによる順位の繰り上げなんかが発生した上での十二位までしか、校内ランカーは存在しないんだけどね」

    苗木「なるほど……」

    苗木(つまりこの貼り紙に載っている人たちは、この学園の中でも特にスゴい人、って事か。見ておいて損はないかな、確認してみよう……)
  118. 118 : : 2015/08/11(火) 20:25:28
    ≪第一位≫
    【七十六期生】
    汐華・初流乃
    ― Haruno Shiobana ―
    スタンド:ゴールド・エクスペリエンス

    ≪第二位≫
    【七十四期生】
    空条・徐倫
    ― Jolyne Kuujou ―
    スタンド:ストーン・フリー

    ≪第三位≫
    【七十七期生】
    狛枝・凪斗
    ― Nagito Komaeda ―
    スタンド:キラークイーン

    ≪第四位≫
    【七十五期生】
    花京院・典明
    ― Noriaki Kakyouin ―
    スタンド:ハイエロファントグリーン

    ≪第五位≫
    【七十四期生】
    ジャン=ピエール・ポルナレフ
    ― Jean Pierre Polnareff ―
    スタンド:シルバーチャリオッツ

    ≪第六位≫
    【七十五期生】
    広瀬・康一
    ― Kouichi Hirose ―
    スタンド:エコーズ

    ≪第七位≫
    【七十七期生】
    終里・赤音
    ― Akane Owari ―
    スタンド:ザ・ハンド

    ≪第八位≫
    【七十五期生】
    山岸・由花子
    ― Yukako Yamagishi ―
    スタンド:ラブ・デラックス

    ≪第九位≫
    【七十七期生】
    田中・眼蛇夢
    ― Gandamu Tanaka ―
    スタンド:スカイ・ハイ

    ≪第十位≫
    【七十六期生】
    ナランチャ・ギルガ
    ― Narancia Ghirga ―
    スタンド:エアロスミス

    ≪第十一位≫
    【七十四期生】
    エルメェス・コステロ
    ― Hermes Costello ―
    スタンド:キッス

    ≪第十二位≫
    【七十六期生】
    ペッシ
    ― Pesci ―
    スタンド:ビーチ・ボーイ
  119. 119 : : 2015/08/11(火) 20:25:52
    苗木(十三位、十四位、十五位は欠番、か……)

    苗木(それにしても、さっきのジョルノ先輩って七十六期生って言ってたよね? つまり一位の人とクラスメイトなのか……)

    苗木(汐華……初流乃……シオバナ、ハルノ……か)

    苗木(……ん?)

    苗木(汐……しお……じょ……華……ばな……ばぁーな……汐華……ジョバァーナ……初流乃……も、初をジョ、流をル、乃をノで……ジョルノ……)

    苗木(…………)

    苗木(いやいや、“イタリアからの留学生”って言ってたじゃない)

    苗木(……まさか、ね)
  120. 120 : : 2015/08/11(火) 20:26:22
    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:十二番
    “超高校級の料理人”≪花村 輝々≫
    スタンド:パール・ジャム(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:トニオ・トラサルディー)
    【破壊力】E
    【スピード】C
    【射程距離】B
    【持続力】A
    【精密動作性】E
    【成長性】C
  121. 121 : : 2015/08/11(火) 20:27:02
    #17.5(おまけ)
    第七十八期生大会トーナメント表発表


    戦刃むくろ         ―|
                   |―|
    葉隠康比呂         ―| |
                     |―|
    霧切響子          ―| | |
                   |―| |
    桑田怜恩          ―|   |
                       |―|
    石丸清多夏         ―|   | |
                   |―| | |
    不二咲千尋         ―| | | |
                     |―| |
    朝日奈葵          ―| |   |
                   |―|   |
    山田一二三         ―|     |
                         |―
    苗木誠           ―|     |
                   |―|   |
    セレスティア・ルーデンベルク―| |   |
                     |―| |
    大和田紋土         ―| | | |
                   |―| | |
    舞園さやか         ―|   | |
                       |―|
    大神さくら         ―|   |
                   |―| |
    腐川冬子          ―| | |
                     |―|
    江ノ島盾子         ―| |
                   |―|
    十神白夜          ―|


    ☆次回、トーナメント戦開幕ゥ!
    ※バトル展開が続きます。ご了承ください。
  122. 122 : : 2015/08/12(水) 18:16:59
    #18
    第七十八期生スタンドバトルトーナメント
  123. 123 : : 2015/08/12(水) 18:17:15
    苗木(ボクらは今、空条先生に連れられて校内の敷地の奥へと進んでいる)

    苗木(あれから……ボクは一応の“武器”を得られた。と言っても、みんなに通用するかどうかは賭けにも等しい武器だ)

    苗木(だから最初の一回戦目は温存して、二回戦目以降に使う……って形が無難なのかな。勿論、一回戦目でもヤバくなったら使うつもりではいるけど……出来るだけ、使わずに粘りたい)

    承太郎「さあ、着いたぜ……ここが幽波紋ヶ峰学園が誇る、学生闘技場……通称、コロッセオだ」

    大和田「ス……スゲエ……!」

    山田「まさか……このように本格的な場が設けられていようとは……」

    苗木(まるでイタリアはローマのコロッセオを丸ごと盛って来たかのような威圧感。それはデザインや巨大さだけでは決してない。というのも……)
  124. 124 : : 2015/08/12(水) 18:17:29
    ドワアァァァァッ!


    霧切「おそらく……生徒を含める学園関係者が全員、観客席に着いているのね」

    承太郎「そんなトコだな。勿論、残念ながら全員じゃあねえぜ。たまたま出張で国内にすらいねえ教員や研究員もいるしな」

    朝日奈「へえ……それでも、結構な人数だと思うんだけど」

    承太郎「そうだな。正確な人数までは知らねえが、とりあえず千は超えてるだろうよ」

    苗木「せ……千……」

    承太郎「トーナメント表を確認してねえって事はねえだろうが……確認のために言っておくぜ。一回戦は戦刃と葉隠の試合になる。この二名は控室へ、残りの者は七十八期生指定の範囲内の席で自由に座ってろ」

    承太郎「試合が終わったら、次の試合に出る奴は速やかに観客席を立ち、控室へ行く事。控室では放送で呼ばれるまで待機していろ。呼ばれたらこれも速やかに係の案内に従って闘技場へ行く事。会場に入ったあとは、試合開始の合図が出次第、バトル開始だ。それ以降は好きに戦いな」

    承太郎「一試合の終了条件は、どちらか片方が相手を再起不能にするか……あるいは、どちらか片方が降参する事。この試合にドローはねえから注意しろ」

    承太郎「さあ、それじゃあ……入るぜ」
  125. 125 : : 2015/08/12(水) 18:17:46
    苗木(戦刃さん、葉隠クンの二人と入り口で分かれ、残りのボクらは空条先生と共に観客席へとやって来た)

    大神「ぬう……凄い熱気だな……」

    苗木(この中のどこかに……この間のジョルノ先輩や花村先輩もいるのかな?)

    承太郎「だいたいこのあたりが七十八期生の指定範囲だ。好きなように座りな」

    苗木(その言葉を受け、ボクは適当な位置に座る)

    霧切「苗木君。隣、いいかしら?」

    苗木「あ、霧切さん。うん、勿論」

    霧切「じゃあ失礼するわね」

    苗木「霧切さん。結局あれから、桑田クンの攻撃について何か分かった?」

    霧切「いえ……いくつかの推測を立てる、くらいでとどまってるわ。あとは試合本番で見極めるつもりよ」

    苗木「そ、そうなんだ……」

    苗木(それが出来る、と思う霧切さん……やっぱり凄いな……)

    霧切「それより……貴方もなかなかに努力を続けていたみたいじゃない」

    苗木「……まあね」

    霧切「どういう風の吹き回しかしら? 最初はあまり興味無さげだったのに」

    苗木「だって……霧切さんが言ったんじゃないか」

    霧切「えっ?」

    苗木「ボクにさ。“貴方も負けないで”……って。それ聞いたら、さ。無責任に霧切さんに負けないで、なんて言ったボクだって頑張らなきゃって思うよ」

    霧切「……そう。けれど、いい傾向だと思うわよ。向上心があって」

    苗木「そ、そっかな……」

    霧切「……そろそろ黙った方が良さそうね」

    苗木「え?」
  126. 126 : : 2015/08/12(水) 18:17:59
    ???「皆、静かに――」

    苗木(突如、落ち着いた男性の声がコロッセオ内に響き渡った。特別大きな声、と言う訳ではなかったけど、不思議とコロッセオ全体に響き渡る、美声と言っていいものだ。これが響くと同時に、それまでざわついていた会場が一気にしんと静まり返る)

    苗木(そしてこの声を……ボクは、知っている。そう、入学式で聞いたあの声……)

    DIO「改めて名乗る意味もないだろうが……私が――ディオ・ブランドー学園長である」

    苗木(その演説は静かに続く)
  127. 127 : : 2015/08/12(水) 18:18:36
    DIO「この度、第七十八回、新入生トーナメントが滞りなく開催するに至り、学園長として嬉しく思う」

    DIO「二年生以上の諸君。既に承知しているだろうが君達にとって、このトーナメントは非常に重要な意味を持つ。君達が初めて、新入生全員の能力を垣間見る機会であるからだ。新入生諸君のスタンド能力の考察、研究に励むよう教育者として祈る」

    DIO「教員諸君。君達にとっても、このトーナメントの重要性は言うまでもないものだろう。教育者として生徒諸君を導くためには、その生徒諸君の持てるポテンシャルを余すところなく引き出す能力が要求される。スタンド能力を知る事でその一助となれば、諸君らを率いる者として幸いである」

    DIO「研究員諸君。君達には私が言わずとも、私が想像している以上のこのトーナメントの重要性を知っている事と思う。スタンドとは。精神力とは。新入生諸君のスタンドを知る事で、世の節理が一つ紐解かれる機会となる事を、一人の真理の探究者として願う」

    DIO「予備学科生諸君」

    苗木(……予備学科?)

    DIO「上級生はともかく、新入生達の中には今一つ、このトーナメントの重要性を理解しきれていない者もいる事と思う。だが、このトーナメントを見ておく事は君達にとって間違いなく大きなプラスに働くことを保障しよう。スタンド使いの補助のためには、スタンドを知る必要があるのだ。スタンドを見る事は叶わずとも、それによっておこる現象を真摯に受け止める心を養ってもらえれば、財団への出資者としてこれ以上の喜びはない」

    DIO「そして最後に……第七十八期生諸君。このトーナメントは他ならない、君達にとってこそ一番重要性を持つ。このトーナメントの戦績次第で、諸君が事前に割り当てられた学年ランクが変動するものである。力を出し切る事はしなくて良い。全ての能力を見せずとも良い。その中で諸君らが全力で戦い、高め合い、時に友情を育む事を、学園長として望む」

    DIO「以上を以って開会の挨拶を終了するものとする。……この場に集う諸君! これ以上は堅苦しい言葉は言わぬ! このトーナメント戦という催しを存分に楽しんでくれたまえ! WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」


    ドワァアアアアアアアアアアア!
  128. 128 : : 2015/08/12(水) 18:19:06
    苗木(ウリイーってなんだろう)

    苗木(それよりも)

    苗木「ねえ、霧切さん。予備学科って何だろ?」

    霧切「ああ……貴方もスタンド使いなら、スピードワゴン財団は知っているでしょう?」

    苗木「うん。ボクらを援助してくれる大がかりな組織だよね。基本的には、スタンドの存在が一般に必要以上に漏れないよう、情報を統制したり、スタンド使いにしか出来ない仕事を適当なスタンド使いに依頼し、その仕事を補佐したりする組織……だよね?」

    霧切「ええ、そうね。予備学科は、スタンドについて知っているけれど、スタンド使いではない一般人を招き、スピードワゴン財団の人間として育成するための期間よ。財団に入るまでの間に、同年代のスタンド使いと触れ合う事でスタンドという物について肌で理解させる、という狙いもあるみたいね」

    苗木「なるほど、そんな事もやってたんだね……この学園」

    霧切「私達は予備学科に対し本科と呼ばれているのだけれど……本科生と予備学科生の交流はむしろ学園側からは推奨されているわ。貴方も今の間にコネクションを持っておくと、後々有利になる事も多いと思うわよ?」

    苗木「なるほど……うん、ありがとう」

    霧切「さ、そろそろお喋りはお仕舞い。そろそろ始まるみたいよ」

    苗木「あ、うん……よし」

    苗木(学園長の演説の前には既に、葉隠クンと戦刃さんはステージ上で向かい合っていたようだ。しっかり試合を見ておかないとな……)

    DIO「それでは……第一試合。出席番号二番、戦刃むくろ対、出席番号十一番、葉隠康比呂」

    DIO「始めェッ!」

    苗木(こうしてボクら、七十八期生スタンドバトルトーナメントの火ぶたは切って落とされた……!)
  129. 129 : : 2015/08/12(水) 18:19:24
    #19
    バッド・カンパニーVSドラゴンズ・ドリーム
  130. 130 : : 2015/08/12(水) 18:19:38
    霧切「苗木君はこの試合……どちらが有利だと思うかしら?」

    苗木「え? うーん……正直、二人のスタンドがどういう物なのか、イマイチ分かってないから何とも言えないかな……」

    霧切「たしかに……そうね」

    苗木(霧切さんと会話をしつつも、静かに戦闘は始まっていた)

    戦刃「……」

    葉隠「……」

    苗木「何か話してるみたいだけど……声は届かないようになってるんだね」

    霧切「そうね……読唇術が使えたり、そもそも聴覚や五感を強化するといったスタンド能力だったりすれば話は別でしょうけれど」

    苗木「読唇術はともかく、こういう学園だし、スタンド能力の方は対策がされてるかもね」

    霧切「その可能性は高い、わね」
  131. 131 : : 2015/08/12(水) 18:20:01
    コロッセオ、その中央に設えられたステージ上で戦刃むくろと葉隠康比呂は対峙していた。

    DIO「始めェッ!」

    学園長の試合開始の号令が響く。それと共に、まず先に動いたのは葉隠だった。じりじりとだが、後退を始める。

    戦刃「距離を取っているみたいだけど。遠距離から攻撃する能力があるスタンドなの?」

    葉隠「そいつはどうだろうな? わざわざ最初から教えてやるほど、俺は優しくねえべ」

    戦刃「そう。……その方が、私としても嬉しい」

    葉隠「ほう?」

    情報というものは、必要なものだ。当然の事を言うようだが、それは確かな事である。しかし戦刃はこう考える。

    信憑性の薄い情報は混乱の元でしかない。

    スタンドバトルにおいて、それは顕著に表れる。敵スタンド使い本人からもたらされる“能力に関する情報”ほど信憑性の薄い情報は無い。「この情報が真実か? 真実でないか?」を思考し、ほんのわずかであっても混乱が生じる。その混乱が、隙を産んでしまうのだ。

    それが戦刃むくろの持論であった。

    戦刃「それに……攻撃を受ける前に倒してしまえば、同じ事」

    冷静に言い放った戦刃は自身のスタンド、バッド・カンパニーを“展開”する。

    葉隠「それは、そうかもしれねえな。だけどよ……」

    葉隠が何かを言おうとしたその時。
  132. 132 : : 2015/08/12(水) 18:20:16
    タタタタタタタ……


    戦刃「……油断大敵」

    何か、“小さなもの”が葉隠目がけて各方向から一斉に飛ぶ!

    先に種明かしをしてしまえば、“小さなもの”の正体、それは小さな銃弾に他ならない。バッド・カンパニーの正体は群体型スタンドであり、小さな軍隊(カンパニー)を展開させ攻撃する事が出来るのだ。今、戦刃は葉隠を中心に円を描くように全方位に展開させたバッド・カンパニーの歩兵たちによる、M16カービンライフルの一斉射撃を食らわせた、というわけである。

    その銃弾は全てが葉隠に命中する軌道であり、たとえどれかをかわせたところで、全てをかわしきる事など到底不可能に思えた。だが……。

    葉隠「ったく、ヒトの話は最後まで聞くもんだべ?」

    戦刃「な……ッ!?」

    葉隠は一切の傷を負っていなかった。
  133. 133 : : 2015/08/12(水) 18:21:11
    戦刃には何が起こったのかとっさに理解する事ができなかった。間違いない、確実に当たるはずだった。たしかに小さなものではあるが、風に流されたという事はあるまい。全方位からの射撃攻撃を一斉に外すような風など存在するはずがないのだから……いや。

    戦刃「もしかして……“貴方を中心に風を起こす”……それが貴方のスタンド能力?」

    その風がもし、“スタンドによる風”だったなら――? 防ぐことは可能かもしれない。

    葉隠「んー、惜しいべ。たしかに今俺は風を使った。けど、俺のスタンド能力は風じゃあない……それともう一個教えといてやる」

    葉隠「“もうオメーは……俺に攻撃を当てる事は出来ない”。一応言っとくが、これは挑発でも宣言でもねーぞ? 単なる事実だべ」

    戦刃「どういう……事?」

    葉隠「どういう事も何もねーっての! 俺は親切心から、オメーの攻撃はもう全て無駄だって教えてやってんだ。ただそれだけの話に過ぎねーんだかんな」

    戦刃「く……」

    口先だけかもしれない。いや、口先だけだ。そう信じ、戦刃は再びバッド・カンパニーに射撃指令を飛ばす。だが……。

    葉隠「だからよ。もう俺に攻撃を当てる事は出来ない……そう言ったはずだべ。大人しく降参してくれりゃあ、これ以上何もしねえぞ?」

    やはり銃弾の全てが、葉隠に命中する事はなかった。

    戦刃「降参なんて……しない!」

    言うなり、戦刃は大きく後方に跳躍! と、同時に……。
  134. 134 : : 2015/08/12(水) 18:21:37
    戦刃「こういう事も出来る!」

    言って、戦刃は歩兵達を撤退させた。瞬間!

    葉隠「うごおおおおおお!?」

    葉隠の頬に貼り付いた、深々とナイフを突き立てる、小さな歩兵……いや! 特殊部隊(グリーンベレー)の姿があった!


    戦刃はこう考えた。「銃弾をが当たらないならば近接攻撃に切り替えてみては?」と。そして「正体は分からないがおそらく“射撃武器を防ぐ”スタンドが葉隠のスタンドなのではないか?」とも考えた。故に、銃を構えた歩兵を撤退させ、ナイフを持った特殊部隊を送り込んだのだ。大きく後ろに跳躍したその動きは、ただ葉隠の注意をひきつけるためだけの行動。特殊部隊を葉隠に気付かれないよう十分接近させるための時間稼ぎだったのだ。

    葉隠「ぐ……くっ、油断したべ……まさか、まさかあんな……」

    葉隠は何事かを呻いている。その呻きの内容を戦刃は「あんな攻撃方法もあったなんて」と解釈した。だが……。

    ドラゴンズ・ドリーム『オイオイ康比呂、カカシジャアネーンダカラヨ。ジット突ッ立ッタママノワケネーダロ?』

    ドラゴンズ・ドリームのその言葉に戦刃は違和感を覚えた。

    戦刃「どういう事……?」

    突っ立ったままのはずがない……それはつまり、突っ立ったままの状態である事が望ましい、という事になる。いや、深読みかもしれない。何せ、戦刃自身、敵が突っ立ったままでいてくれるならそれほど楽な事は無いのだから。そう思う事自体は別に何の問題も無い。だが……だが、である。果たして今、その言葉は必要だったのか――?

    戦刃はたしかに移動した。移動したが、移動した事と攻撃したことはこの場合、イコールで結ばれるわけではない。無理矢理納得しようとすれば、移動したことによって気を取られた結果攻撃が命中してしまった、という事実に対する窘めととることは不可能ではない。だが……何か、変だ。戦刃はそう直感した。

    葉隠「けどよ……もう油断しねえ。油断しねえぞ……ッ!」

    そう叫び、葉隠は移動を開始した。だが戦刃に接近するわけではない。じりじりとした横移動だ。その行動に戦刃は不気味なものを感じ取っていた。何故か、“ここに居てはマズい”と直感したのだ。再び大きく後方に跳躍する戦刃。しかし!

    葉隠「もう遅いッ! 俺が“ここ”に陣取った以上……もうオメーに安全地帯はないッ!」

    そう叫び……そしてその言葉は、現実のものとなった。

    戦刃「なっ、しまっ……!?」

    着地時、“たまたま”小さくステージに入っていた亀裂に足を取られ体勢を崩してしまった。そこまではいい。すぐに立て直せば、問題にはならない。そして安全に立て直すための時間を稼ぐ方法なら……。

    戦刃「バッド・カンパニーッ!」

    再び、歩兵達によるM16カービンライフルの一斉射撃! 今度は展開した全方位射撃ではなく、全員が正面から葉隠の顔面を狙った射撃である。たとえ防がれたとしても、向かっている最中は視界を遮る事が出来る! そう判断しての、防がれることが前提の攻撃だった。だが……これが戦刃の判断ミスに繋がった。

    葉隠「無駄だべ」

    ――風に押し返された。まさにそう表現するしか、この現象は説明できない。

    一斉に放たれた銃弾が突如進路を逆走する。解除は……間に合わない。その全てが、“戦刃へと”命中するその直前――戦刃は己の敗北を悟ったのであった。
  135. 135 : : 2015/08/12(水) 18:21:58
    DIO「……戦刃むくろを再起不能と判断する。第一試合、勝者――葉隠康比呂ッ!」


    ドワァアアアアアアアアアア!


    苗木(戦刃さんが倒れ、数秒が経過してのち、DIO学園長の宣言により、会場は沸き上がった。だけど……)

    苗木「霧切さん、今のって……?」

    霧切「さあ……何が起こったのか、よく分からなかったわね。戦刃さんも葉隠君も、何かをした。それは間違いないわ。だけど、可視化されない攻撃なのか、あるいは微小なサイズの何かで攻撃したのか……少なくとも、観客席から分かるものではなかった、わね」

    霧切「とにかく、今のを見ていて分かった事は、戦刃さんは何か“攻めあぐねている”ようだった……そこからヒントを得るしかないわね」

    苗木「そっか、次の試合は霧切さんか。そこで勝ったら葉隠クンと戦う事になるんだもんね……」

    霧切「ええ。……まあ、なんとかやってみるわ」

    DIO「両者退場を確認。第二試合の準備に入る。ステージの調整を行うため、この間に第二試合の選手は控室へ行くように」

    霧切「それじゃあ、行ってくるわね」

    苗木「うん。行ってらっしゃい」

    苗木(霧切さん……頑張ってね)
  136. 136 : : 2015/08/12(水) 18:22:10
    葉隠康比呂           ―|
                     |―|
    霧切響子          ―| | |
                   |―| |
    桑田怜恩          ―|   |
                       |―|
    石丸清多夏         ―|   | |
                   |―| | |
    不二咲千尋         ―| | | |
                     |―| |
    朝日奈葵          ―| |   |
                   |―|   |
    山田一二三         ―|     |
                         |―
    苗木誠           ―|     |
                   |―|   |
    セレスティア・ルーデンベルク―| |   |
                     |―| |
    大和田紋土         ―| | | |
                   |―| | |
    舞園さやか         ―|   | |
                       |―|
    大神さくら         ―|   |
                   |―| |
    腐川冬子          ―| | |
                     |―|
    江ノ島盾子         ―| |
                   |―|
    十神白夜          ―|
  137. 137 : : 2015/08/12(水) 20:21:39
    #20
    ヘブンズ・ドアーVSレッド・ホット・チリ・ペッパー
  138. 138 : : 2015/08/12(水) 20:21:57
    苗木(いよいよか……)

    苗木(いよいよ、霧切さんと桑田クンの対決が始まるんだ)

    苗木(この勝負はあの時……桑田クンが霧切さんにスタンド攻撃を仕掛けた時から始まっていた)

    苗木(……霧切さんには、勝ってほしい)

    DIO「それでは第二試合。出席番号七番、霧切響子対、出席番号八番、桑田怜恩」

    DIO「始めェッ!」
  139. 139 : : 2015/08/12(水) 20:22:12
    始めに桑田怜恩が思った事、それは“理不尽”であった。彼は自身の能力が万能でない事を正しく知っているし、自分の事を強いとは思っているが、上には上がいる事も自覚している。だから、“自分より上に人がいてもいい”と認めているのだ。だが、同時に高いプライドも持ち合わせていた。“上位でない事はあり得ない”と信じていた。

    だが実際、順位付けられてみればどうだ? 自分より明らかに弱そうな奴が自分より上に座っている。このような事態、認められようか!

    桑田「やっと……オメーをぶちのめせるな……霧切ィッ!」

    霧切「あら、それは無理じゃないかしら?」

    桑田「ハッ、まさかオレに勝てるとでも思ってんの? 思い上がりってヤツだぜ、そりゃあ……よおおーッ!」

    叫び、桑田は袖からゴムボールを手のひらに落とし、霧切へ向かって投げつける!

    霧切「……なるほどね。だいたい分かったわ」

    だが、霧切は予測していたのか、あっさりかわして見せる。

    桑田「ちッ、外したか……」

    霧切「ゴムボール……ゴム。ゴムといえば絶縁体として有名だから能力とは関係のない攻撃と思わせるのが狙い、かしら?」

    桑田「……何だって?」

    霧切「貴方が、おそらく絶対の自信を持っているのだろうその攻撃。“私には脅威にならない”……という事が、今ハッキリと分かったわッ!」

    桑田「は……ハッタリかましてんじゃあねーぜッ! オレの攻撃の正体が分かっただァ? 脅威にならねーだァ!? 寝言は……寝て言いなッ!」

    再度桑田は霧切に向かってボールを投げる! だが……。
  140. 140 : : 2015/08/12(水) 20:22:33
    パシィ!


    霧切「……言ったでしょう? “私には脅威にならない”……って」

    桑田「ば……バカなッ!」

    霧切は……桑田の投げたボールを、キャッチしていた。たったそれだけの事に、桑田は動揺していた。

    あり得ない、キャッチなんか出来るはずがない。何故なら……“キャッチできないよう、スタンドでたしかに細工したはず”なのだから……!

    霧切「……この私が、ファッションや酔狂で手袋をしていると思っていたの?」

    桑田「ど……ッ、どういう意味だ!?」

    霧切「貴方の狙い……ズバリ、“放電による熱”ね。絶縁体であるゴムにも熱は通る。おそらく、貴方の手を離れた瞬間にスタンドで電撃を浴びせ高温に熱した。そのボールが命中すれば……まあ、ひとたまりもないんでしょうね。結局一度も受けてないから知らないけれど」

    桑田「くッ……」

    完全に見切られていたことに、やはり桑田は動揺を隠せない。

    霧切「耐熱性くらい、備えているのよ。私の手袋は」

    桑田「そ……そんなモン、インチキじゃねーか!」

    霧切「あら、そんな事を言い出したらスタンド能力自体、インチキみたいなものだと思うのだけれど?」

    桑田「うぐっ……」

    霧切「さて……なら、次はこちらの番ね」

    桑田「な……に?」

    口元を歪め笑みを見せる霧切に、しかし桑田の頭は真っ白になっていた。理由は簡単だ。彼は霧切響子というクラスメイトを、“完全に甘く見ていた”。故に、そのスタンド能力では攻撃手段などない、だから楽に勝てる、と思い込んでいたのだ。

    事実、霧切のスタンド能力で肉体的ダメージを直接的に与えることは困難だ。だが……間接的になら出来る。相手のスタンドの研究を怠った桑田にも原因はあろうが、そういった戦い方が存在する、という事を隠し通した霧切の用心深さにも一因があると言えよう。

    霧切「ふふ……」
  141. 141 : : 2015/08/12(水) 20:22:49
    ピィイイイイイイイイイッ!


    唐突に。霧切は笛を吹いた。

    桑田「な……何だ? そりゃあ……ホイッスル……って奴かァ? そんなモン鳴らし……」

    ――てどうするつもりだ?

    そう言いかけた桑田の言葉は、そこで途切れた。コロッセオ全体を、影が覆ったのだ。桑田だけでなく、観客の大半もそれにつられ、上空を見上げた。

    ――鳥だ。鳥の大群だ。鳥の大群が一斉に桑田に猛突進をかけている!

    霧切「これで……終わりね」

    その光景を無表情で見つめ、呟く霧切。

    桑田「ぶグゥううううッ……!?」

    鳥達による突進を受け、桑田は吹きとび……試合は幕を閉じたのであった。
  142. 142 : : 2015/08/12(水) 20:23:01
    DIO「……桑田怜恩を再起不能と判断する。第二試合、勝者――霧切響子ッ!」

    苗木(学園長の宣言に、第一試合以上の歓声が観客席全体から巻き起こる。たぶんその理由は、第一試合の時以上に……決まり手がド派手だったからだろう)

    苗木(だけどボクはみんなと一緒に騒ぐ気にはなれなかった。理由は……)

    ヘイ・ヤー『ドウイウ事ダローナ? 霧切ニ動物ヲ操ル能力ナンテアッタノカ?』

    苗木「……分からない。ボクらには言わなかっただけで、あるのかも」

    苗木(そうしてひとしきり首をひねっていると、霧切さんが観客席へ戻ってきた)

    霧切「ふう……」

    苗木「お疲れ様。さっそくだけどさ、さっきの……どういう事? なんであんなに大量の鳥を呼べたの?」

    霧切「……ホイッスルで集まるように訓練してただけ、って言って信じるかしら?」

    苗木「いや……さすがにあの量は無理があると思うよ……」

    霧切「……いいわ、ヒントだけあげる。一つ。以前苗木君にやったように、“簡単な刷り込みは出来る”。二つ。私の能力は“動物にも使える”。それだけの事よ」

    苗木「な……なるほど。だいたい何をやったのか、分かったよ……」

    苗木(つまり……鳥を見かける度に……いや、もしかすると、動物を見かける度に。霧切さんは能力を使って、ホイッスルの音で反応して自分の敵を攻撃しにくるよう、ヘブンズ・ドアーで書き込んでいたという事だろう)

    苗木(……労力が凄まじすぎる!)

    苗木(ニヤリと笑う霧切さんを見て……この人は怒らせない方がいい、と確信した)
  143. 143 : : 2015/08/12(水) 20:23:13
    葉隠康比呂           ―|
                     |―|
    霧切響子            ―| |
                       |―|
    石丸清多夏         ―|   | |
                   |―| | |
    不二咲千尋         ―| | | |
                     |―| |
    朝日奈葵          ―| |   |
                   |―|   |
    山田一二三         ―|     |
                         |―
    苗木誠           ―|     |
                   |―|   |
    セレスティア・ルーデンベルク―| |   |
                     |―| |
    大和田紋土         ―| | | |
                   |―| | |
    舞園さやか         ―|   | |
                       |―|
    大神さくら         ―|   |
                   |―| |
    腐川冬子          ―| | |
                     |―|
    江ノ島盾子         ―| |
                   |―|
    十神白夜          ―|
  144. 144 : : 2015/08/12(水) 22:11:48
    #21
    クラッシュVSボヘミアン・ラプソディ
  145. 145 : : 2015/08/12(水) 22:12:06
    苗木「そういえば……不二咲さんの能力も今一つどういう物かよく分からないんだったよね」

    霧切「そうね。この試合で分かるかしら?」

    苗木「どうだろう……」

    DIO「……出席番号十三番、不二咲千尋より申告。“スタンド能力の行使に必要な条件整わず。試合の棄権を申請”……との事だ。よって第三試合は石丸清多夏の不戦勝とする」

    苗木「えっ?」

    霧切「たしかに……何も出来ないならステージに上がるだけ無駄でしょうけど」

    苗木(ブーイングとか凄いんじゃないか、と思ったけど、案外そんな事は無かった)

    霧切「よくある事なのかもしれないわね。発動条件が難しい、というスタンド能力はたまにあるし」

    苗木「たとえばどんなの?」

    霧切「昔……ヘブンズ・ドアーで本にした人の中にこんなスタンド使いがいたわ。記述によると“本格的な発動条件はスタンド使い本体の死”っていうのがね。スタンド名はたしか……ノトーリアス・B・I・G、だったかしら」

    苗木「死なないと発動できないスタンド……それはもう条件が難しいとかってレベルじゃないよね……」


    葉隠康比呂           ―|
                     |―|
    霧切響子            ―| |
                       |―|
    石丸清多夏           ―| | |
                     |―| |
    朝日奈葵          ―| |   |
                   |―|   |
    山田一二三         ―|     |
                         |―
    苗木誠           ―|     |
                   |―|   |
    セレスティア・ルーデンベルク―| |   |
                     |―| |
    大和田紋土         ―| | | |
                   |―| | |
    舞園さやか         ―|   | |
                       |―|
    大神さくら         ―|   |
                   |―| |
    腐川冬子          ―| | |
                     |―|
    江ノ島盾子         ―| |
                   |―|
    十神白夜          ―|
  146. 146 : : 2015/08/12(水) 22:12:32
    霧切「さて。ちょっぴり予想外な事はあったけれど。試合に集中しましょう。次は……朝日奈さんと山田君の試合ね」

    苗木「山田君はともかく……朝日奈さんはどうするんだろう? このコロッセオ、水場なんてないけど」

    霧切「それでも不二咲さんのように棄権をしないという事は、何か策はある……そう言う事だと考えていいんじゃないかしら」

    苗木「それもそうか。それに、実際は見たことないからどんな攻撃をするのか、知らないしね」

    DIO「それでは第四試合。出席番号一番、朝日奈葵対、出席番号十六番、山田一二三」

    DIO「始めェッ!」
  147. 147 : : 2015/08/12(水) 22:12:56
    山田「フッフッフ……正直言って……僕の相手が朝日奈葵殿で嬉しいのですよ……」

    学園長の試合開始の宣言の直後、山田はそう切り出した。

    朝日奈「……どういう事?」

    山田「グフフ……僕のスタンド能力を朝日奈葵殿に発動するのはたやすい……という事ですよッ! ボヘミアン・ラプソディーッ!」

    山田がスタンドの能力を行使する! そして……。


    ボワワン


    何かが……出現した。

    朝日奈「こっ……これは!」

    山田「ふっふっふ。さあ、ボヘミアン・ラプソディの能力に敗れ去るがいい……!」
  148. 148 : : 2015/08/12(水) 22:13:08
    朝日奈「ぽッ……ポン・デ・ライオン……ッ!」

    出現したのはポン・デ・ライオンであった。かわいいのである。

    山田「これで朝日奈葵殿の運命は決した……朝日奈葵殿の運命は……」

    そこまで言いかけて山田は気が付く。ポン・デ・ライオンのエピソードって何じゃらほい。そう考えたところで……山田は“それ”を目の当たりにした。

    なんと、朝日奈が、ポン・デ・ライオンのたてがみを形成するポン・デ・リングにかじりついているではないか!

    朝日奈「おいひー♪ 何これ、山田のスタンド能力って幸せだね……!」

    山田「ウソォーッ! ダメージゼロッ!?」

    どうにかしなければならない。ポン・デ・ライオンが効かないならば、何か別のキャラクターを……。だらだらと汗を流しつつ、脳内に適切なキャラクターが存在しないか検索をかける。だがその間に……。

    朝日奈「正直言ってね。私も山田が相手で嬉しいんだ」

    山田「……な、何ですと?」

    朝日奈「だって……私のスタンド能力で一番、やりやすい相手なんだもん」

    そう宣言した時には既に……山田は鮮血にまみれていた。何が起こったのか? 山田はそれを理解する事無く……あっさりと、勝負を決されたのであった。
  149. 149 : : 2015/08/12(水) 22:13:26
    DIO「山田一二三を再起不能と判断する。第四試合、勝者――朝日奈葵ッ!」

    苗木「な……何? 今、何が起こったの?」

    霧切「分からないわ……何か攻撃をしたという事は確かなんでしょうけど。その攻撃の正体、つかみ損ねたわね……」

    苗木(まさかこんなに……アッサリ終わってしまうなんて!)
  150. 150 : : 2015/08/12(水) 22:13:44
    葉隠康比呂           ―|
                     |―|
    霧切響子            ―| |
                       |―|
    石丸清多夏           ―| | |
                     |―| |
    朝日奈葵            ―|   |
                         |―
    苗木誠           ―|     |
                   |―|   |
    セレスティア・ルーデンベルク―| |   |
                     |―| |
    大和田紋土         ―| | | |
                   |―| | |
    舞園さやか         ―|   | |
                       |―|
    大神さくら         ―|   |
                   |―| |
    腐川冬子          ―| | |
                     |―|
    江ノ島盾子         ―| |
                   |―|
    十神白夜          ―|
  151. 151 : : 2015/08/12(水) 22:13:56
    霧切「次は苗木君の試合ね……勝てる見込みはあるの?」

    苗木「はは……微妙、かな。正直、セレスさんの能力については全く分からないわけだし」

    霧切「そう答えるという事は、棄権はしない。策はある。……そう捉えていいのね?」

    苗木「……」

    苗木「うん。一応」

    霧切「そう。じゃあ頑張って頂戴。応援しておくわ」

    苗木「ありがとう」

    苗木(そう答えてボクは、控室へと向かった)
  152. 152 : : 2015/08/13(木) 20:18:00
    #22
    ヘイ・ヤーVSアトゥム神
  153. 153 : : 2015/08/13(木) 20:18:16
    苗木(控室に入って……考える)

    苗木(もし)

    苗木(もし……霧切さんと戦えるとしたら。それは決勝になる)

    苗木(あんな戦いを見せたんだ。霧切さんはきっと決勝まで残れるかもしれない。だけどボクは?)

    苗木(……ムリだ。決勝なんて、まずムリだ)

    苗木(だけど負けるつもりはない)

    アナウンス『間もなく、第五試合が開始します。選手のお二方はステージへお進みください――』

    苗木「……行こう」

    苗木(とりあえず一試合。この試合だけでも、勝ちたい)

    苗木(そう切に願って、ボクはステージへと赴いた)
  154. 154 : : 2015/08/13(木) 20:18:37
    苗木「うわ……あ」

    ステージに立ち、観客の歓声を一身に浴びた苗木誠の反応がこれである。彼は今まで、このような歓声・視線の集まる場に立ったことなど一度として無かった。そのため、今までにない極度の緊張が襲う。

    対して、正面に佇むセレスはまるで心の読めない無表情を貫いている。もはやこの時点で負けている――苗木がそう思うのも無理はないだろう。

    DIO「第五試合、出席番号十番、苗木誠対、出席番号十五番、セレスティア・ルーデンベルク」

    DIO「始めェッ!」

    学園長の合図が響く。しかし。

    セレス「少々……よろしいでしょうか」

    苗木「な……何?」

    セレス「いえ。貴方ではなく……学園長。DIO学園長!」

    セレスは唐突に、学園長へ言葉を発した。

    DIO「……何かな?」

    セレス「始める前に、一つ確認したい事があります」

    DIO「ほう、いいだろう。では一時中断、といったところかな……。それで? いったいどのような確認かな」

    セレス「このトーナメント戦……“死に至らしめる事さえなければ”どのような手段で戦っても構わない。この認識に間違いはございませんでしょうか?」

    DIO「その通りである。認識に間違いはない。あまり好ましくはないが、言ってしまえばスタンドバトルトーナメントと銘打っているものの、スタンド攻撃を一切使わずに戦う事も禁じ手ではないよ……」

    セレス「いえ、さすがにそのつもりはございません。……それでは、次は苗木君。貴方への提案なのですが」

    苗木「て……提案?」

    セレス「貴方のスタンドに攻撃能力は無い。違いますか?」

    苗木「それは……その通りだけど」

    正確には、このトーナメントのために身に着けたものはある。だがここでそれをわざわざ明かす必要もないと考えた苗木はそう答える。その解答を聞いたセレスは一瞬目を泳がせたのだが、それに気付くだけの心の余裕は苗木には持ち合わせがなかった。

    セレス「……それでは、これからするわたくしの提案、是非とも乗っていただきたいですわね」

    苗木「だから……その提案って何の事?」
  155. 155 : : 2015/08/13(木) 20:18:57
    セレスは懐から、トランプを取り出して言った。

    セレス「この……トランプで勝負し、負けた方が素直に降参する……というルール。如何でしょうか?」

    苗木「トランプ……」

    セレス「はい。先に申しあげておきますが、わたくしのスタンド、アトゥム神はこういったゲームで相手の魂に負けを認めさせることで、その魂を奪う事が出来る能力……」

    苗木「たッ……魂を奪う……ッ!?」

    セレス「ええ。魂を奪われた人間は抜け殻のようになっってしまいます。……即ち、肉体的には死んでいるも同然。ですがご安心ください。この能力は“使わない”事も出来ます」

    苗木「つまり……負けても魂は盗られない、って事か……」

    セレス「はい。そう申し上げております」

    ここでスタンドバトルに発展しないというのは大きいかもしれない。苗木はそう判断した。

    苗木「分かった。受けるよ」

    セレス「Goodですわ。ではゲームは何に致しましょう?」

    苗木「二人でトランプするならポーカー……は慣れてそうだし。ブラックジャックでどうかな」

    セレス「いいですわ。ではブラックジャックで。ただこのゲームはその性質上、すぐに勝負が決まってしまいますから……そうですわね、こうしましょう。“先に五回勝った方の勝利”……いかがですか?」

    苗木「うん、異論はない」

    セレス「それではそのルールで。……そうそう、ルールといえば、これも始める前に言っておきますわ」

    苗木「何?」

    セレス「この勝負……“イカサマはあり”です」

    苗木「……えっ!?」

    セレス「イカサマはあり、と言ったのです。ただし、もしイカサマがバレた際には、一回分相手に勝利のポイントが加算される……どうです? 下手にイカサマ無しと言われるよりスリリングだと思いませんか?」

    苗木「そ、そりゃあ……スリリングだろうけど」

    ……確実に何かを仕掛けるつもりだ。苗木はそう確信した。だがそれを見破る力も、逆にイカサマを仕掛ける技術も苗木は持ち合わせていない。セレスの土俵に上がった事を、早くも後悔し始めていた。

    セレス「それではルールの確認です。一つ。イカサマあり。二つ。先に五回勝った方の勝利。それと……Aはどの場合でも1、JとQとKはどの場合でも10として扱う……こういった事も先に決めておくべきでしょう?」

    苗木「……分かった。ディーラーは?」

    セレス「あら、存外しっかりしていますのね。ですがここはあくまで二人の戦闘の場。互いに交代で……という形でよろしいのでは?」

    苗木「交代か。うん、それでいいよ」
  156. 156 : : 2015/08/13(木) 20:19:16
    一ゲーム目。

    念のため、セレスの用意したカードであったために、苗木にカードに仕掛けが無いかを確認させたのち、セレスによるカードのシャッフル、及びカードの配布が成された。念のため注視していた苗木だったが、何かをやっているのだとしてもサッパリ分からない、という事が分かっただけであった。

    セレス「……」

    苗木「……」

    互いに、配られた二枚のカードを確認する。苗木の手元に配られたカードは『ハートの3』と『スペードの4』。合計して7。

    ブラックジャックとは、最初に配られた二枚のカードにカードを足して行き、最終的により合計値が21に近い者が勝者となるゲームである。21より大きい数字になってしまえば、その時点で負けが確定してしまうため、どの時点でカードの追加をやめるかが考え時だ。

    とはいえ、だ。もしJを11、Qを12、Kを13として扱うのだとしても合計値が7では引いても安全だという事になる。

    セレス「カードを引くべきだ……と、そう考えていますね?」

    苗木「えっ?」

    セレス「ふふ、ポーカーフェイスのポの字も出来ておりませんわよ……さあ、引くのでしたらお引き下さいな」

    ――ワナなのか?

    一瞬そう考えたが、この手札の状況から仕掛けられる罠なんてあるはずがない。そう思い直した苗木は一枚、カードを引いた。三枚目のカードは『スペードのK』、つまり10プラスされて合計値は17。

    セレス「それでは、わたくしも一枚引きましょう」

    セレスも一枚カードを引く。

    苗木「うーん……」

    合計値が17という数字は、なんとも微妙である。勝てる気はあまりしないが、かといってこれ以上引いても21を超える可能性が高い。何せ、5以上のカードを引いた時点で負けになるのだ。相手が16以下で止めていればあり得るが……。

    セレス「どうしますか? 勝負いたしますか? それともカードを引きますか? 念のため、降りるという選択肢も提示しておきましょうか。勿論このゲームでは負けという扱いになりますが」

    苗木「ちょっと……どうするか考え中、かな」

    ヘイ・ヤー『オイ、誠。誠ッ! ココハ強気デ行クベキダゼ……俺ヲ信ジロッテ! 引クンダ、サア……カードヲ引クンダゼ……』

    ここに来てようやく、アドバイスらしいアドバイスをしてきたな、と苗木は思った。

    セレス「お引きなさるのですね? それではどうぞ……」

    ヘイ・ヤーの言葉通り、カードを引く苗木。すると……引いたカードは『クローバーの3』! 合計値は20!

    これは勝ちの目がある、と考えた苗木はここで引くのをやめる事にした。

    苗木「ボクはここで止めるよ。セレスさんは?」

    セレス「その表情……怖いですわね。よほどいい手に仕上がったという事でしょうか。もしかして“ブラックジャック”が完成したのでしょうか? それとも20……? うふふ、とにかく、そのレベルの手札になった、という表情です」

    苗木「そう言うセレスさんは……あまり怖がってる顔に見えないね……」

    ポーカーフェイスを貫くセレスに苦笑しつつ言う苗木。

    セレス「わたくしはこのままですわ。それでは……」

    互いのカードが開かれる。苗木のカードは『ハートの3』『スペードの4』『スペードのK』『クローバーの3』――合計値20。対するセレスは……『ハートのA』『ダイヤのK』『ハートの8』――合計値19。

    苗木「あっ……」

    勝っている! “何かを仕掛けているだろう”と警戒していた苗木は拍子抜けした。もしかすると“イカサマあり”という発言自体がブラフ、ハッタリだったのか……?

    セレス「あら、負けてしまいましたわね。ですがまだ一度負けただけ。……さあ、次のゲームですわ」
  157. 157 : : 2015/08/13(木) 20:19:37
    二ゲーム目、三ゲーム目、四ゲーム目。苗木はヘイ・ヤーの助言もあり、順調に勝ち進んだ。今まで経験のない程の連勝である。

    苗木「あとワンゲーム……」

    あとワンゲーム勝てば、この試合に勝てる……。

    セレス「さあ、配りますわよ」

    セレスによるカードの配布。配られたカードは『ハートのK』と『ハートのQ』。合計値は20……最初から強いカードが手札に配られた。ほぼ勝利を確信した。

    苗木「ボクはこのままでいいよ。セレスさんはどうする?」

    セレス「あら、随分と強気ですわね。そうですわね……ではわたくしは一枚引かせていただきますわ……あら」

    そう言ってカードを引いたセレスだったが、引いたカードを見るなり声をあげた。

    苗木「どうしたの?」

    セレス「うふふ……“ブラックジャック”ですわ」

    そう言って手札を広げる。セレスの手札は……『クローバーのA』『ダイヤのJ』……そして、『スペードの10』。21……だった。
  158. 158 : : 2015/08/13(木) 20:19:57
    まだ一度負けただけだ。そう考えた苗木は気を取り直し、六ゲーム目に入る事にした。カードをシャッフルし、配る。

    手元に来たカードは『スペードのA』と『ダイヤの8』でその合計値は9。

    セレス「わたくしはこのままで。貴方は引きますか?」

    苗木「うん、引くよ」

    引いたカードは『スペードの10』……合計値、19。これ以上引くのは危険だ。ヘイ・ヤーも何も言ってこない……。苗木はこのカードで勝負する事にした。結果、セレスの手札は『ハートの10』と『ダイヤの10』で合計値は20。再びセレスの勝ちとなった。
  159. 159 : : 2015/08/13(木) 20:20:17
    セレス「うふふ、ツキが回って来たようですわね……」

    言いながら、セレスは七ゲーム目のカードを切り始めた。対する苗木は、いよいよ何かを仕掛けて来たのかとセレスの一挙手一投足を注視する事にした。だが……対して怪しい点は見つける事が出来なかった。しかしここで何かを見つけなければマズい、このままズルズルと負けてしまうのでは……? その考えが頭から離れない。だが気が付いた事といえば、これまでより念入りにシャッフルしている、という事くらいで……。結局何も見つけられず、カードは配られた。

    苗木「……これ、は」

    結果、苗木に配られたカードは……『スペードのA』と『クローバーのA』。

    セレス「うふふ……引きますか?」

    苗木「……引くよ」

    引いたカードは……『ダイヤのA』。セレス共々、両者何度かカードを引いた。『ハートの2』『ダイヤの8』『スペードの5』……カード枚数六枚にしてようやく合計値は18。ここで勝負に出よう、と考えた苗木だったが……。

    ヘイ・ヤー『オイ、誠。誠ッ! 何弱気ニナッテンダ! 引ケ、引クンダ……引クンダヨッ!』

    苗木「ええっ!?」

    この状況で引いてセーフなのはAか2か3のみ。その内Aは手札に三枚、2も一枚存在しているため、引ける可能性があるのはたった八種類のカードしか存在しない。セレスの手元にその内の何枚かがある可能性を考慮すると、21を超えてしまう可能性が非常に高い。

    ヘイ・ヤー『イイカラ引クンダヨ……大丈夫ダ、誠ナラ勝テルッ! 俺ヲ、ソシテ自分ヲ信ジナヨ……』

    苗木「……分かった。じゃあ引くよ」

    ヘイ・ヤーを信じ、山札に手を伸ばす。引いたカードは……『ハートのA』! 合計値、19!

    越えなかったことに安堵しつつ……これ以上ヘイ・ヤーは何も言わない。そのため、これでいいんだと自分に言い聞かせ、勝負に出る。

    セレス「それでは……勝負ッ!」
  160. 160 : : 2015/08/13(木) 20:20:30
    苗木のカード、『スペードのA』『クローバーのA』『ダイヤのA』『ハートの2』『ダイヤの8』『スペードの5』『ハートのA』!

    セレスのカード……『スペードの2』『ハートのA』『ハートのQ』『クローバーの7』!

    苗木「セレスさんの合計値が20……ん? こっ……これはッ! イカサマだッ! 何か分からないけど、イカサマが起こっているッ!」

    セレス「そんな……まさか……ッ!」

    存在するはずのないカード……二枚目の『ハートのA』!

    セレスはスタンド能力がなくとも、巧妙なイカサマという技術を行使できる生粋のギャンブラーであった。故に、スタンド能力を多少は使ったものの、ほぼ自身の腕のみでこの勝負に挑んでいた。今回のゲーム、最初にあえて苗木を四連勝させることで自信を付けさせ、油断を誘い自滅させる……つもりだった。理由は簡単だ。相手の勝利にリーチがかかっている状況で戦う事で、わずかなミスすら許されない、そんなスリルの中に身を投じる為だ。

    だが……セレスはミスをした。自身が袖の中にあらかじめカードを仕込んで置き、最初の手札を確定させる。自分がディーラーの時であれば、そのカードが決して惹かれる事の内容細工をする事は彼女にとって至極簡単な事……だったのだが。“細工するカードを間違えた”。たったそれだけの事が、今起こったのだ。

    結果として……セレスは自身の負けを認めた。セレスのイカサマ発覚により、苗木に勝ち星が一つ追加され、苗木の合計勝利回数五回。この試合は苗木の勝利に収まった。
  161. 161 : : 2015/08/13(木) 20:20:45
    DIO「……セレスティア・ルーデンベルクの降参を確認。第五試合、勝者――苗木誠ッ!」

    苗木(か……勝てた……)

    苗木(今回の試合、ヘイ・ヤーは相性が良かった……そういう事、かな)

    苗木(そんな事を考えつつ、ボクは観客席へと戻る)

    霧切「おめでとう。何とか勝てたみたいね」

    苗木「ありがとう。でも今回はたまたまだよ……普通に戦う事になってたらどうなってたか」

    霧切「ふふ、次の貴方の試合、楽しみにしているわ。どうやって戦うつもりなのか、ね」

    苗木「それこそ、ヘブンズ・ドアーで読めば一発でバレると思うんだけど」

    霧切「あら、そんな事しないわ。その能力をどう使うか、まで見てしまったらつまらないじゃない」

    苗木「そっか……うん。じゃあ期待に添えられるよう、次も頑張るよ……」
  162. 162 : : 2015/08/13(木) 20:21:01
    葉隠康比呂           ―|
                     |―|
    霧切響子            ―| |
                       |―|
    石丸清多夏           ―| | |
                     |―| |
    朝日奈葵            ―|   |
                         |―
    苗木誠             ―|   |
                     |―| |
    大和田紋土         ―| | | |
                   |―| | |
    舞園さやか         ―|   | |
                       |―|
    大神さくら         ―|   |
                   |―| |
    腐川冬子          ―| | |
                     |―|
    江ノ島盾子         ―| |
                   |―|
    十神白夜          ―|
  163. 163 : : 2015/08/13(木) 20:21:14
    #23
    クレイジー・ダイヤモンドVSハーミットパープル
  164. 164 : : 2015/08/13(木) 20:21:26
    苗木「大和田クンと舞園さんか……」

    霧切「普通にやれば大和田君が勝つと思うけれど……」

    苗木「舞園さんが何か隠し玉を持っているかもしれない、か」

    霧切「そういう事ね」

    DIO「それでは第六試合。出席番号六番、大和田紋土対、出席番号十四番、山田一二三」

    DIO「始めェッ!」
  165. 165 : : 2015/08/13(木) 20:21:48
    学園長の試合開始の宣言を聞き、身構える舞園。それもそのはずだ、クレイジー・ダイヤモンドがパワー型のスタンドである事を知っていれば当然だろう。それに大和田紋土というクラスメイトが暴走族であるという事実も、突っ込んでくるだろうという予測に拍車をかける。しかし、どれほど身構えても、一向にその気配はない。むしろ、大和田は困ったような表情をしたまま立ち止まっている。

    舞園「……どうしたんですか?」

    大和田「なんつーかよォ……運がねえってのは正にこういう事だよな」

    舞園「運……ですか?」

    大和田「ああ。……オレはこれまで一度も女だけは殴った事がねえ。勿論これからもそのつもりはねえよ。ブスだろうが美人だろうが女を尊敬してるからな……」

    舞園「は、はあ……?」

    大和田「だからよ。女である舞園とこうして当たったのは……運がねえとしか言いようがねえ」

    舞園「それはつまり……棄権するという事ですか?」

    大和田「まさかだぜ。戦う前から負けるなんざ、オレの魂が許さねーよ」

    つまり何を言いたいのだろう? 舞園には疑問が尽きなかった。

    舞園「それじゃあ戦うって事ですよね?」

    大和田「もちろんだ。ただし……」

    舞園「ただし?」

    大和田「オレからは攻撃をしねえ」

    舞園「えっ……?」

    大和田「つまりだ。防ぎきってやる。そう言ってんだよ。それでオメェの攻撃手段が亡くなったなら、もうどうしようもねえだろ? そん時は諦めてくれ……って事でどうだ?」

    舞園「……防ぎきれるつもりでいるんですか?」

    大和田「さあ、どうだろーな。自信が無いわけじゃねえけどよ。防ぎきれるかどうかはッ正直……賭けだぜ」
  166. 166 : : 2015/08/13(木) 20:22:13
    馬鹿にしている……という気持ちも勿論あったが、これは舞園にとって嬉しい申し出でもあった。偽りなく言ってしまえば、舞園に……ハーミットパープルに、クレイジー・ダイヤモンドの攻撃を防ぐ手だてなどほぼ無いも同然だ。それを、“防ぐ必要がない”というところに持って行けるならば十分に勝機はある。

    舞園「……分かりました。受けましょう」

    大和田「そうかい……そう言ってもらえると助かるぜ」

    ……ここからだ。本当に難しいのはここからだ。ここまでの条件を整えられてもまだ舞園の胸中にはただ、どうやって大和田にダメージを与えるか。手の内を晒しきる事無く勝てるのか。そういった課題点ばかりである。

    舞園「ハーミットパープル!」

    ひとまず、大和田に対し紫のイバラを鞭のように叩きつけてみる。

    大和田「ドラァ!」

    だが、クレイジー・ダイヤモンドにあっさりと弾かれてしまい、やはり正攻法では無理だと悟る。

    舞園「となると……」

    呟く舞園だが、それを意に介さず大和田が言う。

    大和田「今のイバラみてーなのが舞園のスタンドか? その程度の攻撃、オレに通用すると思ったら大間違いだぜ……」

    舞園「安心してください、様子見です」

    大和田「グレート。いいぜ、どんどん来な」

    ならば、とハーミットパープルで間髪入れずに先ほどと同じような攻撃を加えつつ肉薄する。
  167. 167 : : 2015/08/13(木) 20:22:29
    大和田「くどいぜ! 手数を増やして対処のキャパシティを超えようってんだろーが、通用しねえ!」

    舞園「そんなつもりは……ありません!」

    叫び、“舞園自信が”大和田に殴りかかる!

    大和田「はっ、スタンド攻撃が効かねえんで物理攻撃か!? 舞園の腕力じゃあオレのガードを越えられねえだろう……何ッ!?」

    ダメージ。ガードした腕に、たしかなダメージを大和田は感じ取っていた。舞園の腕力を見誤ったのか? いや――違う!

    舞園「……ハーミットパープルにはこういう使い方もあるんですよ」

    大和田「コイツ……スタンドのイバラを拳に巻きつけて……ッ!」

    舞園「やあああああああッ!」

    手ごたえを感じた舞園は一気に両手でのラッシュをかける!

    大和田「ぐッ……くそッ!」

    この攻撃を防ぐことは簡単だ……クレイジー・ダイヤモンドで舞園を弾き飛ばせばいい。だが、大和田にはそれをする事は出来なかった。何故ならば、それは“舞園に攻撃を加える”事に他ならないからだ。それだけは嫌だ。やりたくない。先ほど大和田が口にした“女を尊敬しているから”云々は、嘘ではないが全てではない。そこには大和田の根幹となる価値観たる“男同士の約束”に関わってくる。故に……大和田にはこの攻撃を防ぐ手だてがない!

    舞園「これで……トドメッ!」

    大和田「く……ッそお……負けた……ぜ……」


    ドサリ


    大和田は……単なる試合への勝利よりも大切なもののために。大切だと思うもののために。舞園に勝利を託し、ダウンしたのだった。
  168. 168 : : 2015/08/13(木) 20:23:26
    DIO「大和田紋土を再起不能と判断する。第六試合、勝者――舞園さやかッ!」

    霧切「意外ね……大和田君がフェミニストだったなんて思いもよらなかったわ」

    苗木「……そうだね」

    苗木(単なるフェミニスト……なのかな? それにしてはちょっと様子が変だった気がするけど)

    苗木(……こうして考えると、そりゃあまだ出会って一ヶ月しか経ってないんだし当たり前だけど……ボクはみんなの事、何も知らないんだな。これからクラスメイトのみんなと分かり合って行けるといいんだけど)

    霧切「ところで……苗木君。次の貴方の相手は舞園さんに決まったわけだけど、今の試合を見てどうだったかしら?」

    苗木「あ……うん、そうだね。まだ何とも言えないけど……舞園さん本人の言っていた、“念写”以上の事はやっぱりあるんだと思う。スタンドは使い方次第とはよく言ったものだけど、舞園さんは……その辺をしっかり理解して戦っていた気がする」

    霧切「そうね……強敵には違いないでしょうから、油断しない事ね」

    苗木「うん。頑張ってみるよ」
  169. 169 : : 2015/08/13(木) 20:23:38
    葉隠康比呂           ―|
                     |―|
    霧切響子            ―| |
                       |―|
    石丸清多夏           ―| | |
                     |―| |
    朝日奈葵            ―|   |
                         |―
    苗木誠             ―|   |
                     |―| |
    舞園さやか           ―| | |
                       |―|
    大神さくら         ―|   |
                   |―| |
    腐川冬子          ―| | |
                     |―|
    江ノ島盾子         ―| |
                   |―|
    十神白夜          ―|
  170. 170 : : 2015/08/13(木) 20:23:49
    #24
    サバイバーVS???
  171. 171 : : 2015/08/13(木) 20:24:03
    霧切「さて……次の試合だけれど。おそらくこの試合、最も注目すべき試合と言って過言じゃないんじゃないかしら」

    苗木「……腐川さんのスタンド能力、か」

    霧切「ええ。まるっきり謎に包まれてるのは彼女くらいよ」

    苗木「そういえば、霧切さんは腐川さんにヘブンズ・ドアーを使って確認したりしなかったの?」

    霧切「していないわ……というより、空条先生から禁止されているのよ。実技試験の時に本にする能力は使ったから、その時にね」

    苗木「そうなんだ……あれ? って事は、霧切さんの本の能力の事はみんなは知らないの?」

    霧切「そうね。知っているのは苗木君と空条先生と……あとは可能性だけれど、私がさっきの鳥みたいな“準備”をしているところを誰かに見られていたなら、知られている可能性もあるわ」

    苗木「なるほど……じゃあ霧切さんが自分の意思で見せたのはこの学園では二人だけって事か」

    霧切「そういう事よ。だから極力使用は控えたいわね」

    苗木「なるほどね」

    苗木(そんな会話をしている間に準備は整ったようで……)

    DIO「それでは第七試合。出席番号五番、大神さくら対、出席番号十二番、腐川冬子」

    DIO「始めェッ!」
  172. 172 : : 2015/08/13(木) 20:24:23
    腐川「……ホントは嫌なのよ……こんな暴力的な催し……参加どころか本来は観戦だってしたくないのに……」

    開幕早々、ブツブツと不満を呟く腐川。

    大神「だが、こうして参加した上に不二咲のように棄権もしなかった。戦う意思はある。そういう事であろう?」

    腐川「そんな意思なんて無いわよ……! なんであたしがそんな意思なんて持たなくちゃあいけないのよ! だけど“アイツ”を抑えておくためにはこうして適当な時に解放してやるしかないんだからしょうがないじゃない! あたしはホントは嫌なのよ!」

    腐川の心からの叫び。だがそれは大神には理解が及ばない叫びであったし、この言葉を観客席の者が聞くことが出来たとしても意味を理解する事が出来る者はごく少数だったことであろう。

    大神「あいつ……とはいったい誰のことを言っているのだ?」

    腐川「あ、ああ、あた……あたしは……嫌なのよ……それと……。アンタ、一応忠告しといてあげるわ……」

    大神「忠告だと?」

    腐川「…………必死で抑える事ね……アイツを……」

    言って腐川は懐から何かを取り出した。

    大神「それは……何だ? 赤い液体の入った小瓶のようだが……」

    腐川「あ……ああ……ち……血ィ……」

    呟き、倒れ込む腐川。

    大神「ち……血だと? もしやその小瓶の中身は……」
  173. 173 : : 2015/08/13(木) 20:24:46
    大神が最後まで言い切る前に、倒れた腐川が驚異的なスピードで置き上がる!

    腐川?「ハァイ! 全く呼ぶのが遅せーっつーんだよ! っつーわけで……さくらちんでいーんだっけ? ヨロシク!」

    大神「な……なんだこの腐川の変わりようは……一体!?」

    ジェノサイダー「あー、アタシ“腐川冬子”じゃねえから。一緒にしないでくれるー? アタシにはー、ジェノサイダー翔って立派な名前があるんだからさー」

    大神「ジェノサイダー……翔……だとッ!?」

    ジェノサイダー「そ。ちょっと殺人衝動抱えただけのお茶目な乙女なの、アタシ♪」

    大神「さ……殺人衝動……? 一体何を言って……」

    ジェノサイダー「ほい、隙アリィッ!」

    叫ぶなり、これまた驚異的なスピードでいつの間にやら手にしていたハサミで大神を斬り裂くジェノサイダー!

    大神「ガッ……な……に……!?」

    鮮血が走る……という大神の予想は裏切られた。血が滴らないのだ。

    ジェノサイダー「アタシさー。殺しやるにもポリシーがあんの。それはハサミで殺るって事なんだけどさ。“この能力”を手に入れてからそれがやりにくくなって、すっげえフラストレーションたまってんのよね。だから……暴れさせてもらいまぁす♪」
  174. 174 : : 2015/08/13(木) 20:25:10
    宣言に、両手に構えたハサミを縦横無尽に振り回し大神を攻撃するジェノサイダー。何度か命中するものの、一切血が滴らない……。理由が分からず混乱する大神だったが、ふと傷口を見た時、そこにあり得ない物を大神は視認する。

    大神「なん……だ……この……ジッパーは……」

    ジェノサイダー「そう! それがアタシのスタンドッ! “スティッキィ・フィンガーズ”!」

    大神「す……スティッキィ・フィンガーズだと……!?」

    ジェノサイダー「イエスッ! その能力は“ハサミで斬り裂いた部分をジッパーにする”事ッ! おかげで死因が“刺されたor斬られたことによるショック死”でも“刺されたor斬られた事による失血死”でも、他のハサミの傷によるモンじゃなくて切り離されて放置されたことによる衰弱死になっちゃうんで殺れねーのよ! ゲラゲラゲラ!」

    大神「なんと……ッ!」

    ジェノサイダー「あー、でもー……もう一個ポリシーがあってね?」

    大神「何……?」

    ジェノサイダー「萌える男子しか殺んねーの、これが! さくらちんは萌える萌えねー以前に男子じゃねーから論外ねッ! ゲラゲラゲラゲラゲラ!」

    それ以前にこの試合、殺しはご法度なのだが、その点をまるっきり無視している様子のジェノサイダーに辟易する大神。自信のスタンド能力を発動したところで、闘争本能を余計に刺激してしまってはさらに手に負えなくなることは請け合いだった。それにジッパーになった部分がまるで戻る気配がない。スティッキィ・フィンガーズの能力が効果を発揮する範囲を離れればジッパーも元に戻るだろうが、どの程度の距離を離れればいいのかが分からない。コロッセオの外まで出なければならないのならば、この案は却下せざるを得ない。それよりは腐川……いや、ジェノサイダーを再起不能にする方が手っ取り早い。そう考えた大神は自信に付けられたジッパーを閉めてみる事にした。

    大神「ほう……こうやって一応の応急処置は出来るようだな」

    ジェノサイダー「あーらら、気付いちゃった? でーもー……遅い遅い遅い遅い遅い!」

    更なるスピードでハサミを振り回してくるジェノサイダーだったが、大神はこれに脅威の反応速度を見せ、鋏の腹の部分を叩く事でその全てを防ぎきる事に成功した。
  175. 175 : : 2015/08/13(木) 20:25:26
    大神「く……まさかこれほどのスピードが出せるとは……こうも違うものなのか……普段のあいつとはッ!」

    ジェノサイダー「だから言ってるっしょ? アタシは腐川冬子じゃねーの。まあ体は一緒だけどな。所謂“二重人格”……そう思ってくれりゃいいってカンジ? うーん、それはそうと……このまま攻めててもいーんだけど、そろそろ飽きてきたわ。一気に決めさせてもらうわねん♪」

    大神「何?」

    ジェノサイダー「スティッキィ・フィンガーズ!」

    瞬間、ジェノサイダーは己の立っている足場をハサミで斬り裂き、地面に開いた穴の中へと身を隠した。慌てて大神もあとを追おうとしたのだが、内側からジッパーが閉められ、完全に口が閉じた時にはジッパーはその場から消えていた。

    大神「く……ッ!」

    もはや大神には、“どこかから”ジェノサイダーが攻撃してくるために顔を出す瞬間を待ち構えるしかなかった。この場合最も警戒すべきはどこか? 当然、自分の足元だ。故に、全神経を足元に集中させる。だが……。

    ジェノサイダー「こっちでしたァ!」

    ジェノサイダーが現れたのは……大神の背後に位置する、観客席下の壁からだった!

    大神「な……に……!?」

    ジェノサイダーの勢いのあるとび蹴りをまともに食らった大神は……ドサリと。その場に倒れ込むのであった。
  176. 176 : : 2015/08/13(木) 20:25:37
    DIO「大神さくらを再起不能と判断する。第七試合、勝者――腐川冬子ッ!」

    苗木「今のは……どういう事……?」

    霧切「腐川冬子は二重人格だった……腐川冬子にはスタンドは扱えないけれど、もう片方の人格がスタンドを扱える……そういう事情だった。そう考えるべきでしょうね」

    苗木「だとすると……もう片方の人格がスタンドを使えるって言っても体は同じなんだから、腐川さんだってスタンドを使えるんじゃあ……?」

    霧切「いえ……それはどうでしょうね。スタンドとは精神のエネルギーよ。見合った精神力が無ければ、害にだってなる。腐川さんにその害が発生していないだけ、かなりマシな状況と言えるわ。尤も、腐川さん自身がスタンドを扱えるよう修行したなら話は別でしょうけれど」

    苗木「うーん、厄介な事情みたいだね……」
  177. 177 : : 2015/08/13(木) 20:25:54
    “超高校級の文学少女”≪腐川 冬子≫
    スタンド:なし

    “超高校級の殺人鬼”≪ジェノサイダー 翔≫
    スタンド:スティッキィ・フィンガーズ(黄金の風より、元本体名:ブローノ・ブチャラティ)
    【破壊力】A
    【スピード】A
    【射程距離】E
    【持続力】D
    【精密動作性】C
    【成長性】D

    ※原作との相違点
    原作:“触れたもの”にジッパーを付ける
    本作:“ハサミで斬り裂いた部分”をジッパーに変える
  178. 178 : : 2015/08/13(木) 20:26:09
    葉隠康比呂           ―|
                     |―|
    霧切響子            ―| |
                       |―|
    石丸清多夏           ―| | |
                     |―| |
    朝日奈葵            ―|   |
                         |―
    苗木誠             ―|   |
                     |―| |
    舞園さやか           ―| | |
                       |―|
    腐川冬子            ―| |
                     |―|
    江ノ島盾子         ―| |
                   |―|
    十神白夜          ―|
  179. 179 : : 2015/08/13(木) 20:26:21
    #24.5
    D4CVSキング・クリムゾン……?
  180. 180 : : 2015/08/13(木) 20:26:34
    霧切「これはこれで……気になる対戦カードね」

    苗木「うん。なんせ暫定一位と暫定三位の戦いだからね。どっちが勝つのか……」

    DIO「第八試合。出席番号四番、江ノ島盾子対、出席番号九番、十神白夜」

    DIO「始めェッ!」


    江ノ島「うぷぷぷ……」

    十神「……何がおかしい?」

    江ノ島「“今じゃあ……ないんだなあ……”」

    十神「……何?」

    江ノ島「たしかにさあ。ここで十神クンを倒しちゃって早期退場してもらうっていうのも、なかなか絶望的で楽しそうだけど」

    十神「フン、心配されずとも、お前如きに負ける俺ではない」

    江ノ島「でも、“今じゃあない”んだよ……十神君。君を倒すのはね。いや言い方を変えよう。“今だと困る”んだ……何せまだこっちは何も準備が出来ていないわけだからね。マークされるのは本意ではないんだよ」

    十神「何の話だ? さっきから何が言いたい」

    江ノ島「つまりだな……私様はここで棄権してやる。そう言っているのだ。人間よ」

    十神「棄権だと?」

    江ノ島「うん、そういう訳なのだよ。というわけで、私はこの勝負、降りる。十神君の勝ちという事で終わらせてもらえるかな、学園長」

    DIO「……フン、戦う意思を見せない者をいつまでもステージ上に置いておくだけ時間の無駄……か。いいだろう。江ノ島盾子の降参を確認、第八試合の勝者は十神白夜であるとするッ!」

    十神「……ちッ、興ざめとはまさにこの事だな」


    苗木「まさか……棄権するとはね……」

    霧切「もっと力を付けてから公の場に出たい……という事かしらね。その気持ちは分からなくはないけれど」

    苗木(本当に……それだけ、だといいんだけど)


    葉隠康比呂 ―|
           |―|
    霧切響子  ―| |
             |―|
    石丸清多夏 ―| | |
           |―| |
    朝日奈葵  ―|   |
               |―
    苗木誠   ―|   |
           |―| |
    舞園さやか ―| | |
             |―|
    腐川冬子  ―| |
           |―|
    十神白夜  ―|
  181. 181 : : 2015/08/13(木) 23:01:00
    期待です!
  182. 182 : : 2015/08/14(金) 18:31:11
    >>181
    ありがとうございます!
    そろそろ書きために追いついて来たので一話ずつの更新になって行くと思います……。
  183. 183 : : 2015/08/14(金) 18:31:14
    #25
    天国は凶なる方角に見ゆる その①
  184. 184 : : 2015/08/14(金) 18:31:29
    DIO「第一回戦、全ての試合が終了した。これより第二回戦の準備に入る。第二回戦第一試合は葉隠康比呂と霧切響子の試合である。両者、控室へ移動し、アナウンスを待て」

    苗木「……頑張ってね、霧切さん」

    霧切「ええ。能力の性質が見えないのが厄介だけれど……戦いながら情報を集めつつ、なんとかやってみるわ」

    苗木「あ、そうだ」

    霧切「何かしら?」

    苗木「能力の性質と言えるかわからないんだけど、一つ葉隠クンについての情報ならあるよ。と言っても役に立つかは分からないんだけど」

    霧切「ふうん……よければ教えてもらえる?」

    苗木「うん。入学式から四日が経った頃の話なんだけど、葉隠クンが騒いでた事があったんだけど……霧切さんはあの時の事、見てた?」

    霧切「いえ……たぶん知らないわ」

    苗木「そっか。じゃあ言うけど、その時葉隠クンが騒いでた理由っていうのが、入学式から四日が経ったっていう事が原因だったんだ」

    霧切「……何故それが騒ぐ原因になるのか理解できないのだけれど」

    苗木「ボクにもよく分からないよ……葉隠クンの言い分だと、“四は死を連想させる数字で不吉だ”……って事だったけど。葉隠クンはそういう迷信みたいなものを重要視する、変に信心深い所があるみたいなんだ。……って、こんなの何の助けにもならないよね」

    霧切「…………いいえ。参考になるかもしれないわ。貴重な情報、ありがとう。それじゃあ行って来るわ」

    苗木「えっ? あ……うん、行ってらっしゃい」

    苗木(参考に……なったのかなあ?)
  185. 185 : : 2015/08/14(金) 18:31:44
    DIO「それでは第一試合。出席番号十一番、葉隠康比呂対、出席番号七番、霧切響子」

    DIO「始めェッ!」

    学園長の宣言にも、対峙する両者は一歩も動かなかった。

    葉隠「今日の俺はツキにツイてるみてーだな……初期位置が“そう”だなんてよ」

    霧切「何が“そう”なのかしら?」

    葉隠「そいつは……言う必要はねえ事だべ」

    霧切「そう。ならこちらも……言う必要はないわね」

    葉隠「へえ?」

    余裕そうな葉隠の表情が気にはなったが、霧切はさっそくホイッスルを吹く。おそらく通用はしないだろうが、念のための行為だ。

    即座に、一回戦で桑田を襲ったように、鳥の集団が葉隠へ猛攻をかける! だが……。

    葉隠「意味ねえべ?」

    葉隠は身じろぎひとつせず、その場に立ち止ったまま。だが葉隠の方がかわすまでもなく、攻撃は当たる事は無かった。あまりにも大量すぎた鳥が他の鳥とぶつかり、ぶつかった鳥が弾かれてまた別の鳥にぶつかり……という事態が発生、結果的に鳥の群れは葉隠からそれた位置に“墜落”したのだった。

    霧切「ふうん……」

    葉隠「……だから言ったろ? 無駄だってな」

    だが霧切は決して見逃さなかった。今の葉隠の台詞に若干の躊躇い、戸惑いの色があった事を。おそらく、葉隠が起こらないと予想していた事が起こらなかった、或いは起こると予想していたことが起こらなかった……といったところだろうと当たりを付けた霧切はカマをかけてみることにした。

    霧切「貴方の能力……分かりかけて来たわ」

    葉隠「ハッタリだべ。まあ、ハッタリじゃなかったとしても俺のスタンドは無敵だ。負けはしねえけどな」

    この自信からしておそらく、かなり強い……あるいは葉隠が絶対の自信を持てる能力だということは想像に難くない。今までに得た情報を纏めると、苗木曰く「信心深い性格」であり、本人曰く今回の試合は「初期位置が良くてツイている」……そしてさらに、入学式当日の本人の言葉によると「方角で吉凶を知る」能力であるという事。ここから類推できる事柄は……。

    霧切「風水……」

    葉隠「……へえ?」

    霧切「風水ね。貴方の能力は……」

    これが、霧切の出した結論……であった。
  186. 186 : : 2015/08/15(土) 15:08:54
    #26
    天国は凶なる方角に見ゆる その②
  187. 187 : : 2015/08/15(土) 15:09:25
    葉隠「ハッタリじゃあ無かったんだな。一応、正解だと言っておいてやるべ。けどよ、だからどうしたってんだ? オメーの居る位置が大凶! 俺の居る位置が大吉! この事実は変わんねーぞ!?」

    霧切「あら、そうかしら? それが分かれば対処は簡単だと思うけれど。なにせ……この場所から移動すればいいッ! それだけよ!」

    言って、霧切は移動を走って移動を開始する。

    葉隠「はあ……無駄だって言ってんだべ」

    しかし、移動は出来なかった――いや、移動自体は出来た。だが……。

    霧切「えっ……!?」

    突如、先ほど墜落した鳥たちが起き上がり、再び葉隠へと突っ込んだ! しかしその影響で霧切と葉隠の間に入り込み、結果として霧切は元の位置に押し戻されてしまったのだ。しかも鳥たちはやはり先ほどのダメージが残っているのか、正確な狙いをつけられず、結局のところ軌道はそれたままであり、葉隠には傷一つ付けられていない。

    葉隠「もう俺の勝利は決定されてんだ。足掻いても意味ねーっての」

    霧切「……それはどうかしら」

    葉隠「どうかしらもこうかしらも鯛の尾頭付きもねーべ! ……ねーハズだべ……」

    葉隠のこの弱気。先ほどの躊躇いや戸惑いの、その正体。霧切には何となく察しがついていた。

    霧切「だとすると……おかしいわね? 貴方は今、私の居る位置が“大凶”だと言った。だけれど……私に対して一切の攻撃が飛んできていないわよ。本当に私の位置は大凶なのかしら?」

    葉隠「う……うう……どーなんだべ、ドラゴンズ・ドリーム!」
  188. 188 : : 2015/08/15(土) 15:09:47
    ドラゴンズ・ドリーム『アー、ナンツーカ……マア、大凶ッツーカ凶止マリカネ。ラッキーカラーハマジックバイオレット……』

    葉隠「ラッキーカラーまで伝える必要はねーべ!?」

    ドラゴンズ・ドリーム『エー、オ前、自分ダケズルクネー?』

    葉隠「あーもう、敵に味方すんのやめろっての! 泣くかんな!」

    ドラゴンズ・ドリーム『アー、ハイハイ、分カッタ、分カッタヨ。トコロデヨー、康比呂』

    葉隠「何だべ!?」

    ドラゴンズ・ドリーム『今、ソコ大凶ナ』

    葉隠「……へ?」

    気が付いた時にはもう遅かった。今度は正確に――鳥たちの猛突進が葉隠に命中し、吹き飛ばされたのだった。
  189. 189 : : 2015/08/15(土) 15:10:07
    DIO「葉隠康比呂の再起不能を確認。第一試合、勝者――霧切響子ッ!」

    苗木(まさかあの正体不明の能力に勝つなんて……!)

    苗木(能力の詳細を見切っていたようだったけど……さすがだな……)

    霧切「ふう、戻ったわ」

    苗木「あ、霧切さん。お疲れ様、それとセミファイナル進出、おめでとう」

    霧切「ありがとう。……セミファイナル。もうそんなところまで来たのね」

    苗木「うん……ところで、葉隠クンの能力って何だったの?」

    霧切「ふふ……一応秘密という事にしておいて頂戴。貴方に等価となる情報が提供できるなら話は別だけれどね」

    苗木「う……ないや、そんなの」

    霧切「まあ、今回の勝因というならそれは、“私のスタンド能力”を甘く見た葉隠君自身、という事になるかしらね」

    苗木「と言うと……?」

    霧切「“私が鳴らしたホイッスルの音聞こえたら私の敵に攻撃する”……という命令に失敗は無いわ。一回失敗しても二回目、二回目失敗しても三回目と、成功するまで続くんだもの」

    苗木「そ、それは……怖いね」

    苗木(うん、やっぱり霧切さんは怒らせないようにしよう……)


    霧切響子    ―|
             |―|
    石丸清多夏 ―| | |
           |―| |
    朝日奈葵  ―|   |
               |―
    苗木誠   ―|   |
           |―| |
    舞園さやか ―| | |
             |―|
    腐川冬子  ―| |
           |―|
    十神白夜  ―|
  190. 190 : : 2015/08/15(土) 18:02:53
    #27
    水面の暴れん坊は炎の中を泳げるか? その①
  191. 191 : : 2015/08/15(土) 18:03:08
    苗木「一回戦で不二咲さんが棄権したから、石丸クンがステージに立つのは初めてになるんだね」

    霧切「そうね。たしか熱と炎を操るスタンド、マジシャンズレッド……シンプルながら、だからこそ強いと思うわよ」

    苗木「実際、シンプルな方が強いっていうのは……分かるよ」

    霧切「あら、どういう事?」

    苗木「……ちょっと、ね。その内機会があれば話すよ」

    霧切「そう」

    DIO「第二試合。出席番号三番、石丸清多夏対、出席番号一番、朝日奈葵」

    DIO「始めェッ!」
  192. 192 : : 2015/08/15(土) 18:03:25
    朝日奈「いやー、私ってばラッキーだなあ」

    石丸「どういう事かね?」

    朝日奈「だって……山田の次に石丸が戦いやすそうなんだもん」

    石丸「ほう、その理由を聞かせてもらえると嬉しいが」

    朝日奈「言う訳ないでしょ……ッ!」

    言うなり、朝日奈は生身で石丸に突進した!

    石丸「甘いッ! マジシャンズレッド!」

    だがマジシャンズレッドの放つ熱気の壁が朝日奈を阻む!

    石丸「悪いが速攻で決めさせてもらうぞ、朝日奈君ッ! CFH(クロス・ファイヤー・ハリケーン)!」

    石丸が技名を叫ぶと、マジシャンズレッドは朝日奈に向かい、アンク型の炎を撃ち飛ばす!

    朝日奈「く……ッ、今は使いたくなかったけど……クラッシュ!」

    叫ぶのと、CFHの着弾は同時だった。もうもうと立ち込める土煙に、ついつい石丸は「やったか!?」と口走ってしまった。
  193. 193 : : 2015/08/15(土) 18:03:51
    朝日奈「石丸……その台詞ってね。やってないフラグっていうんだよ」

    石丸「何ッ!」

    直前まで石丸の正面に居たはずの朝日奈は、しかし傷一つなく石丸の背後に立っていた。

    朝日奈「覚えとくと、便利かもね」

    石丸「い……一体いつの間に!」

    朝日奈「だーから。秘密なんだってば」

    石丸「く……ッ!」

    朝日奈のスタンド能力の正体不明さ。そして朝日奈曰く、自分は山田の次に戦いやすそうな相手だという……。一体どんな秘密を持ったスタンドなのか? 優秀な頭脳を持った石丸ではあるが、だからこそ的確な判断のために必要な情報が不足しているという事態を正確に把握していた。

    情報を得るためにはどうするか? そう考えた石丸は一つの結論に辿り着く。――手数を増やして情報を引き出すしかない!

    石丸「ならばこれでどうだッ! CFHS(クロス・ファイヤー・ハリケーン・スペシャル)――ッ!」

    瞬間、大量のアンク型の炎をマジシャンズレッドがまき散らす!

    朝日奈「甘い……って、えっ!? 嘘……ううー、仕方ないか。クラッシュ!」

    そして着弾、爆音。立ち込める土煙……。

    石丸「ゴホッ、ゴホッ……ふう。だがこれだけやったのだ。一発くらいは命中したのではないかね?」
  194. 194 : : 2015/08/15(土) 18:04:07
    朝日奈「残念、命中せず。危なかったけどね……」

    石丸「これでも……ダメなのかッ!」

    朝日奈「それにしてもびっくりしたよ……まさか石丸には“効かない”なんて思わなかったから……」

    石丸「……効かない?」

    まるで心当たりのない事を言われ、疑問符を浮かべる石丸。

    朝日奈「考えてみれば……マジシャンズレッド。私にとって相性最悪だったかもね……いいと思ったんだけど、予想を超えてたよ」

    石丸「何の事やら分からんが……どうやら君は僕に攻撃を加えられない。そういう事かね?」

    朝日奈「いやいや、そうは言ってないよ? だってまだ、確実な方法が封じられたってだけなんだからさ。クラッシュの神髄……これからだよ」
  195. 195 : : 2015/08/16(日) 00:17:37
    #28
    水面の暴れん坊は炎の中を泳げるか? その②
  196. 196 : : 2015/08/16(日) 00:18:02
    まず先に種明かしをしよう。朝日奈葵の山田への攻撃の正体。それを成り立たせたものの正体は“山田の汗”であった。クラッシュは朝日奈の言った通り、水の中を自在に泳ぐことのできる能力だ。しかし彼女はあえて、拡大解釈しなければその真の能力に気付けない言葉を選んだ。クラッシュの能力の正体、それは“水から水へ瞬間移動する事が出来る”のである。その過程として、水の中に出現させる事も可能なのだ。この際、その水の大きさは関係ない。水に合った大きさとしてクラッシュを出現させることができるからだ。山田との試合の際、直接山田の汗にクラッシュを出現させ、攻撃した。これが朝日奈の編み出した戦法であったのだが……。

    対して、今回の試合の石丸も熱い性格であるから、汗をよくかくだろうと朝日奈は考えた。そして実際、汗をかいてはいるのだ。いるのだが……彼のスタンド、マジシャンズレッドの放つ熱により、即座に蒸発してしまう。よって、石丸の汗にクラッシュを出現させることが出来ないのだ。だからこそ、朝日奈は石丸を指して“相性最悪”と評したのだ。

    石丸「これから……か。それは実に怖い話だ。だが……その前に倒してしまえば同じ事ッ!」

    朝日奈「出来るの? 今まで全部かわせてるけど」

    石丸「ふふ……これならばどうだッ! ムウン! 赤い荒縄(レッド・バインド)!」

    瞬間、朝日奈を炎の縄が縛り上げる!

    朝日奈「うぐ……技の数も……多い……ッ!」

    石丸「僕のマジシャンズレッドは熱と炎を“自在に”操るスタンドだ。他にも出来る事はいろいろあるが……わざわざすべてを見せる必要はない。それに……“わざわざ能力の本質を教えない意味もない”。本質を教えたところで、そこから派生して出来る事の方が遥かに多いのだからな」
  197. 197 : : 2015/08/16(日) 00:18:30
    朝日奈「なるほど……ね……だけど……甘いッ! 甘いよ、石丸ッ! クラッシュ!」

    刹那――レッド・バインドは捕縛対象を失った。

    石丸「な……何ッ! 消えただと!?」

    朝日奈「こっちだよ!」

    石丸の右方向に出現した朝日奈が石丸に対し殴りかかる! 石丸の汗を利用できないならば、自分の汗を利用すればいい! 幸い、先ほどのレッド・バインドは炎の縄……つまり、熱かった。おかげで汗には困らない。クラッシュが潜む自分の汗を流した拳によるパンチ、これは賭けだ。たどり着くまでの間に全ての汗が蒸発してしまってはクラッシュの攻撃をかわす事は出来ない。そして、蒸発してしまえば、“逃げる方法も無くなる”。この手段に出た以上、この攻撃が事実上、朝日奈にとってラストチャンスになる。

    石丸「飛び込んでくるか! だがそれならば技など使う必要もないッ! 食らえ、マジシャンズレッドの炎を――!」
  198. 198 : : 2015/08/16(日) 00:18:44
    DIO「――朝日奈葵の再起不能を確認。第二試合、勝者――石丸清多夏ッ!」

    倒れ込む朝日奈はしかし、意識を失ってはいなかった。しかしそう判断されるという事は、意識こそあるが、その体にはもはや動かせるだけの力が宿っていないという事に他ならない。

    結局――マジシャンズレッドが素直に炎を噴出し、攻撃してきたことで。朝日奈の想像以上に汗の蒸発が早かった。クラッシュの攻撃は最後まで、石丸には届かなかったのだ。悔しい。その思いが朝日奈の胸中を満たす。ひとしきり悔しがったあと……このままではいけないと思った。もっと、クラッシュを活かせる戦い方を考えなければ――と。
  199. 199 : : 2015/08/16(日) 00:18:59
    苗木「いやー……見た目にも派手な戦いで見応えあったね」

    霧切「たしかにそうね……けれど、朝日奈さんの瞬間移動の謎。結局分からず仕舞いよ。それについても考えておかないと、いずれ困ったことになるかも……アレが見れたのは大きいと思うわよ」

    苗木「たしかに、ね……あれ以上の事が無かったって事は、朝日奈さんにとって切り札みたいな物だったのかもしれないし」

    霧切「可能性はあるわ。どのスタンドも可能性を秘めている。……勿論、貴方のスタンドもね。次の試合、期待してるわ」

    苗木「は、はは……頑張って来るよ……」


    霧切響子    ―|
             |―|
    石丸清多夏   ―| |
               |―
    苗木誠   ―|   |
           |―| |
    舞園さやか ―| | |
             |―|
    腐川冬子  ―| |
           |―|
    十神白夜  ―|
  200. 200 : : 2015/08/16(日) 00:19:17
    #29
    黄金の精神
  201. 201 : : 2015/08/16(日) 00:19:33
    苗木(観客席から控室へ移動するため、廊下を歩いていると、一人の男子生徒が壁にもたれかかって立っているところに遭遇した)

    苗木「あ……」

    ジョルノ「やあ、苗木君。この間ぶりだね」

    苗木「ジョルノ先輩。こんなところでどうしたんですか?」

    ジョルノ「待ってたんだよ。君をね」

    苗木「え……ボク、ですか?」

    ジョルノ「そう。君をだ」

    苗木「えっと、何か……?」

    ジョルノ「うん、この後試合がある訳だからね。単刀直入に言うよ」

    ジョルノ「僕は、君に期待している」

    苗木「えっ……?」

    ジョルノ「この間……少し話しただけだったけど。でも僕には分かるんだ。君には確かな正義の心が……“黄金の精神”が宿っているって事がね」

    苗木「黄金の精神、ですか?」

    ジョルノ「ああ。組織に入って……いや、入る前からだ。世の中の醜い部分を見てきたからね。僕は余計に、邪悪という物に……そして正義という物に敏感なんだ。僕自信、自分の中にある正義だけは譲れないと感じているしね」

    苗木「正義……邪悪」
  202. 202 : : 2015/08/16(日) 00:19:47
    ジョルノ「僕は君に期待している。ただし、それはこのトーナメント戦での事じゃあない。僕は君に、“より大きな正義としての成長”を期待している。そして……ギャングの僕が言うのもなんだけど、道を違えないでほしい。実戦であるトーナメント戦は特に能力の成長が著しい場だ。どれだけ力を付けても、その魂だけは大切にしてほしい。それを伝えたくてね」

    苗木「……よく分かりませんけど。その“黄金の精神”っていう言葉の響き」

    苗木「嫌いじゃ、ありません。そう在れたらいいと思います」

    ジョルノ「そうか。なら心配はなさそうだ。……それと、もう一ついいかな」

    苗木「はい?」

    ジョルノ「今回はあっさり試合を放棄してたけど……君のクラスメイトの江ノ島盾子。彼女には気を付けた方がいい」

    苗木「……江ノ島さんに?」

    ジョルノ「彼女からは……何となく、危険なにおいがしたんだ。僕らの世界とも……九頭龍君の世界とも違う、何か分からないドス黒い危険なにおいが。僕の杞憂だったらいいんだが……」

    苗木「うーん、そう言われても実感が……。そもそも、まだ出会って一ヶ月しか経ってないのでそれほど親しいわけでもないですし」

    苗木「それにしても、どうしてそんなに助言をいろいろしてくれるんですか? ジョルノ先輩にとっても後輩は脅威になるんじゃあ……?」

    ジョルノ「うん? ……ああ、校内ランクの事を言ってるのかな。僕は別にそんなもの、気にしちゃいないさ。それにね」

    ジョルノ「このジョルノ・ジョバァーナには夢がある!」

    苗木「夢、ですか?」

    ジョルノ「ああ。正しいと思う夢がね。それはギャングとしての成功だとか、そういう話じゃあない。勿論、かつてはそれを夢に抱いていたけど、今は違う。今の僕の夢は――」

    ジョルノ「……すまない。この話はまたにしよう。時間を取らせすぎても悪いしね。たまたまさっきの試合がステージに負担をかけるものだったから整備が長引いているけど、これ以上は余裕もないだろう。早く行った方がいいと思うよ」

    苗木「あっ! そ、そうですね。じゃあ、またお話しましょう」

    ジョルノ「うん。僕も後輩と語らうのは好きだからね。それに君のような人となら、是非」

    苗木「はい。それじゃあ行ってきます」

    苗木(第七十六期生、ジョルノ・ジョバァーナ先輩……理由は分からないけど、彼は信頼できる。何となく、そう感じた)
  203. 203 : : 2015/08/16(日) 00:20:00
    #30
    ビリーブハート・ヴィジョン その①
  204. 204 : : 2015/08/16(日) 00:20:35
    DIO「少々待たせてしまい申し訳ない。第三試合。出席番号十番、苗木誠対、出席番号十四番、舞園さやか」

    DIO「始めェッ!」

    学園長の言葉に、しかし両者は動かない。しかしその理由は相手の攻め方を見定めようだとか、動く必要がないから動かないだとか、そういった類ではない。……攻めあぐねているのだ。舞園は苗木の能力が未知であるため、どのように戦えばいいのか検討が付かず。また逆に苗木は苗木で、どうすれば自分の身に付けた能力を隠して戦えるかを、この段階になってもなお考え続けていた。結果……。

    苗木「舞園さん。ずっと気になってた事があるんだけど」

    苗木は考えるための時間を稼ぐことにした。

    舞園「何ですか?」

    苗木「入学式の日……腐川さんに“スタンド能力がない”って事にみんなが疑問をぶつけてた時の事だよ。あの時舞園さん、腐川さんにスタンド能力がない、って事に嘘はなさそうだって言ってたけど……あの時に舞園さんのイバラのスタンドが出てるところを見ちゃったんだ」

    舞園「ああ、見られていましたか……」

    苗木「あれって何かにスタンド能力を使ったって事だよね? どういう事なのか教えてもらえるかな」

    舞園「ええ、別にいいですよ。スタンドバトルで使うにはちょっと敷居の高い能力ですし」

    苗木「というと……?」

    舞園「最初に言いましたけど、私のハーミットパープルには念写能力があるんですが……これは単に視覚情報、聴覚情報だけではありません」

    苗木「うん……?」

    舞園「スタンドを対象に十分な時間触れさせることが必要ですが、考えている事や心の内を、大雑把にですが読めるんです。そう、たとえば腐川さんが“本当にスタンドを使えないのか?”という事柄程度は探ろうとすれば……」

    苗木「心が読める、か……」

    舞園「ええ」
  205. 205 : : 2015/08/16(日) 00:21:21
    苗木は……その言葉の持つ重要な意味に気付くことは無かった。スタンドを動かす原動力は“出来て当然と思う事”であると何度も苗木は聞いた。だがそれは実の所、正確ではない。“自分にはこれが出来て当然だ”と思うからこそ、そう言ったスタンドが発現している。苗木の場合、前向きに生きるという事が彼の価値観として“当然である”という部分に根差しているため、このようなスタンドが芽生えたのだ。そして舞園は、“心を読むことも出来て当然”だと思ったから、ハーミットパープルはそのような能力を備えて現れた。無論それを知るためにはスタンドが発現した時点で、そのスタンドで“こういう事が出来たらいいのに”という願望を抱き、実際に試してみる、という行程を経る事で初めてスタンド使い本体が認識する。要するに、舞園はそのような願望を抱いていた、という事になる。そのことに苗木は気が付いていなかった。

    苗木「そっか。これで疑問は解消されたよ……」

    舞園「それは良かったです」

    気が付いていなかった、というよりは気が付く余裕がなかった。そう言いかえよう。話がここで終わってしまった以上、考える時間は失われた。つまりこれからどう切り抜けるかを一番に、彼は考える必要があるのだ。

    苗木「さて……」

    どうしようか、というニュアンスを込めた呟きは、しかし舞園には「そろそろ始めようか」という意味を汲み取ったらしい。身構える舞園。結果として……。

    舞園「ハーミットパープル!」

    先手を打つべきだと判断した舞園によるハーミットパープルの攻撃が苗木に繰り出された!

    苗木「うわっ!?」

    だが、鞭のようにしならせて叩きつけるという攻撃方法故に、攻撃開始から苗木程度の身体能力でも十分にかわせるだけのタイムラグが存在する。そのおかげで苗木はダメージを受けずに済んだ。
  206. 206 : : 2015/08/16(日) 00:21:41
    舞園「うーん、やっぱりこれじゃあダメですかね」

    苗木「いや……立派に攻撃手段があるだけボクよりはかなりマシだと思うけどね」

    舞園「……どういう事ですか?」

    苗木「どうもこうも。最初に言ったでしょ? ボクのスタンドヘイ・ヤーは前向きに生きるためのスタンドだって。その能力は助言や応援をして勇気づけてくれる、ただそれだけだよ」

    舞園「えっと、さすがにそんなスタンドがあるっていうのは信じがたいんですけど……」

    苗木「そう言われてもな……」

    実際そうなのだから仕方がない。だが、苗木には“言っていない事”が存在する。それこそがこのトーナメント戦のために身に付けた苗木の能力の使い方なのだが……。

    舞園「まあ、それならそれで……楽なのでいいですけどね……ッ!」

    再び舞園の攻撃。しかし今度は鞭のような動きではなく、まっすぐに苗木に向かって伸びる。しかし……。

    苗木「ボクにはかわせるッ! そうだろう、ヘイ・ヤー!?」

    ヘイ・ヤー『ソノ通リダ、誠! 俺ガ付イテンダカラ、当タリ前ダロォー! ムシロ、カワセナイナンテ事ノ方ガアリエネー!』

    苗木「だったら!」

    身をかがめ、前方に突進する苗木!

    舞園「えっ!?」

    虚を突かれた舞園だったが、しかし正面から向かってくるなどハーミットパープルの餌食にしかならないと思い直し、スタンドを引っ込めることはしない。だが……苗木は“まっすぐ”前方に突進したわけではなかった。僅かに角度をずらしていた! 結果、ハーミットパープルは空振りに終わった。しかしそれだけではない。

    苗木「ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『大丈夫、ヤレル! ナンタッテオ前ハ“超高校級ノ幸運”ナンダカラナ!』

    苗木「……よし!」

    苗木はポケットからライターを取りだし、ハーミットパープルに火を近付ける。

    舞園「……少し驚きましたけど、そんなの無駄です! スタンド体にただの火が効くわけが……ッ!?」

    言いかけた舞園は口をつぐむ。何故なら……実際にハーミットパープルが燃え出したから、だ。
  207. 207 : : 2015/08/16(日) 17:51:29
    #31
    ビリーブハート・ヴィジョン その②
  208. 208 : : 2015/08/16(日) 17:51:45
    苗木「よし……上手く行った!」

    苗木の編み出したヘイ・ヤーの戦い方。それは別にライターの火でスタンドにダメージを与える、という内容ではない。ライターでハーミット・パープルに攻撃するという発想は苗木自身のものだが、ヘイ・ヤーはそこに一切何も関わっていないのだ。ヘイ・ヤーがやった事は、“何をやろうがきっと上手く行く”と苗木を勇気づけた。それだけだ。

    舞園「そのライター……何か仕掛けが……?」

    苗木「あ、このライター? これはポルポさんの購買部で買った、正真正銘ただのライターだよ。百円のね」

    承太郎との修行の中で苗木は、一つの事に気が付いた。承太郎の攻撃が来る時、例えばヘイ・ヤーが「右だ」と言えば右方向にかわすことで攻撃を受けずに済んだし、「左だ」と言えば左方向にかわして攻撃を受けずに済んだ。他にもヘイ・ヤーの助言通りにする事で上手く行くことが多々あったし、逆にヘイ・ヤーの助言通りに動いて失敗する事は一度も無かった事から、苗木は一つの仮説を立てた。

    即ち、ヘイ・ヤーの神髄は“励まし、勇気付ける”ことではなく、“助言”することにあるのではないか、と。苗木に行える、常識的に出来る範囲でのヘイ・ヤーの助言は苗木の動くべき指針となる。

    それに気が付いてからの苗木は、ヘイ・ヤーを信頼する事に務めた。ヘイ・ヤーの「こうしろ」「あれを使え」という具体的な助言ではなく、苗木自身が何かをしようとした時にヘイ・ヤーを呼ぶ。そこでヘイ・ヤーが「大丈夫だ」と言えばそれを信じて迷いなく実行する。そのために修行の時間を費やした。空条承太郎という男は教え子に対しても容赦しない性格であったため、恐るべきパワーのスタープラチナを相手に修行する事は正に恐怖を押し殺す心の強さを得るにはうってつけの相手だったと言えよう。

    苗木が今回考えたこと。それは“スタンドはスタンドでなければ倒せない”という原則を一度隅に置いて、“ヴィジョンがイバラ、つまりは植物なのだから火に弱いんじゃあないか?”というただそれだけであった。本来ならば、たとえ一瞬思ったとしても、スタンドにただの火で攻撃するなどという発想は捨てる。だが、ヘイ・ヤーは「大丈夫だ」と言った。だから苗木はそれを信じた……。実の所、何故ハーミットパープルが燃え上がったのか、その原理を苗木は全く理解していない。理解していないが……効いているなら、それでいい。そう思っていたのだが……。
  209. 209 : : 2015/08/16(日) 17:52:24
    舞園「なら何故燃えたんでしょうか……」

    苗木は違和感を覚える。おかしい。

    苗木「なんで……舞園さんにダメージが無いんだ……?」

    スタンドへのダメージは多かれ少なかれ本体へのフィードバックがあるはずだ。それが違和感の正体である。

    舞園「ああ……一つ教えておいてあげます。私のハーミットパープルは本体へのフィードバックが少ないんですよ。……少ない、んですけど」

    苗木「けど、何?」

    舞園「ま、考えてても仕方ありませんか。……というより、苗木君、よく都合よくライターなんて持ってましたね」

    苗木「そりゃ、ライターだけを都合よく持ってるならそれは奇跡ってものだろうけど。思いつく限りの安く手に入る、武器として利用できる物は一通りそろえてあるってだけだよ。さっきも言ったけど、僕のスタンドには戦闘能力は無いからね……」

    舞園「なるほど、そう来ましたか……」

    たしかに、苗木は今日のために、使えそうなものは一通りポルポの店で購入している。しかし量を購入するために安く済ませようと、一つ一つの質は追及していない。よって、大したダメージを与えることは難しいのも事実であった。これからどうするか、と苗木が思案を始めたところで……。

    苗木「うわっ!?」

    舞園が動いた!

    舞園「さっきはちょっとびっくりしましたけど……それだけです! ひるまなければいいッ! ただそれだけの事ッ!」

    苗木「うぐっ……!」

    苗木は舞園が伸ばしたハーミットパープルに縛り上げられ、身動きを封じられる。苗木は朝日奈とは違って瞬間移動のような事は出来ないため、逃げ出す事は出来ない。ためしにポケットからナイフを取り出してみるも、やはりスタンド体を斬る事は出来ない。もし自身に腕力のようなものがあれば、「きさまのスタンドが一番……なまっちょろいぞッ!」と言いつつ引きちぎる事も容易であったろうが、それもかなわない。

    舞園「刃物なんて無駄です! このまま締め上げれば……私の勝ちッ!」

    苗木「それは……どうかな……?」

    舞園「どういう事です?」

    苗木「それは……ヘイ・ヤー!」
  210. 210 : : 2015/08/16(日) 17:52:45
    ヘイ・ヤー『アア……“大丈夫ダッ”! 自分ヲ信ジテ何デモヤッテミルンダ、誠ッ!』

    その言葉を聞いた苗木は迷うことなく……再びライターでハーミットパープルに火を付けた。

    舞園「な……ッ!? なんてことを!」

    このままでは苗木自信が燃えてしまう。慌ててハーミットパープルを引っ込める舞園。

    苗木「あ……あはは……やっぱりだ」

    舞園「な、なんで火をつけたりなんか……!」

    苗木「だってそうすれば、“拘束から逃れられる”と思ったからね。思った通り、ハーミットパープルを引っ込めた」

    舞園「な……ッ! そのために……!?」

    苗木「それに……火は確実にハーミットパープルを伝わるって情報もあったからね。使える物は使うよ」

    舞園「くっ……」

    苗木「ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『“大丈夫ダッ”! 誠ハ幸運ダカラナ……信ジル事カラ始マルンダゼーッ!』

    苗木「よし……これで決めるッ!」

    言って苗木は手にしたナイフを投げる!

    舞園「な……ナイフ!?」

    慌ててハーミットパープルでキャッチする舞園。だが……その動作が命取り。その間に一気に距離を詰められ、舞園は苗木に背後を取られてしまう。

    苗木「もし……“それ”がバレてたら、ボクの負けだったかもね」

    舞園「え……ああっ、こ、これはッ! このナイフ……“おもちゃ”!?」

    苗木が投げたナイフはどこにでも売っているような、刃先を押すと引っ込む、あのおもちゃのナイフであった。それに気付き声をあげた時には……苗木によって当て身を食らわせられ、気絶する間際にまで迫っていた。
  211. 211 : : 2015/08/16(日) 17:53:03
    DIO「舞園さやかの再起不能を確認。第三試合、勝者――苗木誠ッ!」

    苗木(か……勝った……)

    苗木(当て身とかこういう技術も空条先生に教わっといて助かった、ってとこかな)

    霧切「お疲れ様。危うかったわね……」

    苗木「ボク自身、戦いながらずっとヒヤヒヤしてたよ……」

    霧切「けれど、結構上手くやっていたようじゃない。この調子で、決勝の舞台で会えるといいのだけれど」

    苗木「うん、ボクもそれが出来たらいいなって思うよ」

    苗木(次の試合で、ボクの準決勝での相手が決まる……)

    苗木(腐川さんか十神クンか。どっちであったとしても、勝てるヴィジョンがまるで見えないんだけどな……)


    霧切響子    ―|
             |―|
    石丸清多夏   ―| |
               |―
    苗木誠     ―| |
             |―|
    腐川冬子  ―| |
           |―|
    十神白夜  ―|
  212. 212 : : 2015/08/16(日) 17:53:20
    #32
    従えるは帝王たる資格 その①
  213. 213 : : 2015/08/16(日) 17:53:31
    霧切「それで、貴方としてはどっちと当たりたいのかしら?」

    苗木「正直言ってどっちも怖いんだけど……」

    霧切「腐川さんはさっきの試合で尋常じゃない動きを見せた……あの大神さんを圧すほどの動きをね。対して十神君は全てが未だ未知数……たしかに、私もこんな二択ならどちらも選びたくないわ」

    苗木「だよね……」

    苗木(……まるで予想がつかない。この試合、どうなるんだ……?)

    DIO「第四試合。出席番号十二番、腐川冬子対、出席番号九番、十神白夜」

    DIO「始めェッ!」
  214. 214 : : 2015/08/16(日) 17:54:09
    十神「俺にとって……腐川。お前の能力は最も警戒すべきものだった。何せお前の能力の情報は一切なかったわけだからな」

    試合が始まるなり、つまらなそうに話し始める十神。それを聞く相手は腐川ではない。今回の試合は最初からジェノサイダーになっている。

    ジェノサイダー「…………」

    黙って話を聞いている風ではあるが、その表情から考えている事は読み取れない。

    十神「だが、安心したぞ。やはりお前も俺の絶頂を妨げるようなスタンド使いではない事が先ほどの試合で分かった。もう十分だ、データは揃っている……負ける要素など一つも見当たらん」

    ジェノサイダー「……話終わった? んじゃあ一個言わせてもらうけど」

    十神「フン、愚民どもとは取るにたらん存在だが……何かを主張する時、その声の大きさだけは認めてやる。内容が伴っている事など無いと断言してやるがな」

    これが十神なりの発言の許可だと捉えたジェノサイダーは言葉を続ける。

    ジェノサイダー「アタシ、腐川じゃねーんですけど。さっきもさくらちんに言ったけど、腐川冬子はアタシのもう一つの人格ッ! アタシはアタシでジェノサイダー翔って名前があんの! そこんとこ間違えないでくれっかな?」

    十神「知るか。愚民の名前など、俺にとっては何の意味も成さん」

    ジェノサイダー「あっそー、そういう態度なわけねん。お姉さん容赦しないゾ?」

    十神「ハッ、お前如き虫けらの一匹が容赦なしに襲ってきたところで、俺には傷一つ付けられん」

    ジェノサイダー「へー。んじゃ、試してみる? ……よく見たらけっこー萌える顔立ちしてんじゃん。ポリシーに反するんで殺しはしないけど……ちょいと痛い目は見てもらおうかしらららーん?」

    十神「これだから愚民は愚民なんだ……出来もしない事を平然と言葉にして並べ立てる。お前は有言実行という美徳を知らんのか?」

    ジェノサイダー「あらん? アタシはするわよ、有言実行。こう見えて約束は守る女なの♪ ヘイ!」

    言って、ジェノサイダーは十神に斬りかかる。その速度と正確な狙いは、確実に十神の喉元を狙っていたはずなのだが……。

    十神「おいおい、どうした? そんなところで素振りか。ん? 俺に痛い目を見せるんじゃなかったのか? それともやはり口先だけなのか?」

    ジェノサイダーがハサミを振り下ろした地点よりも少しばかり先に十神の姿があった。

    ジェノサイダー「な……ッ!?」

    十神「ほら、俺はここだぞ。有言実行するんだろう? やれると言うならやってみろ」
  215. 215 : : 2015/08/16(日) 17:54:27
    ジェノサイダー「しゃらくせえッ!」

    狙いをつけて何度もぶんぶんとハサミを振り回すが、十神はいつもその数歩ばかり後ろにいる、――当てられない。

    十神「……やはりお前も口先だけの愚民だったようだな?」

    ジェノサイダー「ちッ……コイツのスタンド能力の正体は瞬間移動か!?」

    十神「おいおい、俺をそんな安い能力の男だなどと、たとえ勘違いでもしていい事と悪い事があるだろう。まあ尤も……お前如きが俺の能力に勘付けるとは思わんがな」

    ジェノサイダー「じゃあどんな能力だってんのよ!?」

    十神「ふん、俺をどれだけ過小評価しているのか知らんが……わざわざ教えてやるような愚か者でない事は確かだ」

    このような会話をしつつも、ジェノサイダーはハサミを振り回す手を止めはしない。だがその全ての斬撃が十神に当たる事はない。

    ジェノサイダー「クソ、能力の詳細さえ掴めりゃこんなメガネ……!」

    十神「さて、そろそろ飽きてきたな。終わりにさせてもらうぞ」

    そう十神が呟くと同時。

    ジェノサイダー「……あらン?」

    ジェノサイダーの腹に十神の拳が叩き込まれていた!

    十神「安心しろ……ルールだ。命までは取らずにおいてやる」

    いつの間に攻撃されたのかも分からないまま、ジェノサイダーは十神の拳によって吹き飛ばされていた……。
  216. 216 : : 2015/08/16(日) 17:54:44
    #33
    従えるは帝王たる資格 その②
  217. 217 : : 2015/08/16(日) 17:55:19
    十神は違和感を覚えていた。確かな手ごたえと共にジェノサイダーを殴り飛ばした。それについては確固たる自信がある。間違いのない事実だ。彼のスタンド、キング・クリムゾンが能力の一つ、エピタフの“裏付け”もある。だが……学園長が試合終了の宣言を飛ばさないのは何故だ? それが違和感となって十神にのしかかった。しかしその違和感の解答は思いの外、すぐに得る事が出来た。

    ジェノサイダー「あいってて……ものすんげーパワーねん」

    十神「何?」

    吹き飛び、倒れていたジェノサイダーが起き上がったのだ!

    ジェノサイダー「まったく、アタシじゃなかったら今ので確実に気ィ失ってたっつーの。ちったあ手加減しろよなー」

    想定外のジェノサイダーの頑丈さに、しかし十神は「バ……バカな!」とも「バ……バイツァ・ダスト!」とも叫ばない。

    十神「ほう、面白い。お前に対する認識を改めてやる。その頑丈さだけは褒めてやってもいい」

    ジェノサイダー「あらん、そいつは光栄ね」

    十神「だが……それだけだ。俺の勝利は揺るがん」

    ジェノサイダー「へーえ?」

    十神「反応してる暇があったら……回避というものを覚えたらどうなんだ? ん?」

    ジェノサイダー「な……ッ、ガハァッ!」

    やはりいつの間にかジェノサイダーは殴られ、吹き飛ばされる。それも……先ほどよりもパワーが上がっている!

    十神「今度こそは間違えん……確かな力加減だったはずだ」
  218. 218 : : 2015/08/16(日) 17:55:52
    ジェノサイダー「ざーんねん、アタシ頑丈さには自信あんのよね! ゲラゲラゲラゲラ!」

    十神「ちッ……しぶとい羽虫め」

    ジェノサイダー「んー……」

    途端に立ち止まり、何事か考え始めた様子のジェノサイダーに、十神は何か言い知れぬ“ヤバさ”を感じた。「このままコイツを放置しておくのはまずいんじゃあないか?」という類のヤバさだ。

    十神「次こそ決めるッ!」

    さらに力を込め、同じようにしてジェノサイダーを殴り飛ばす。だがやはりすぐにジェノサイダーは起き上がる。

    ジェノサイダー「うん、やっぱコレだわ」

    十神「まだ立ち上がれるのか……ッ!」

    さすがに焦燥感を覚え始めた十神に、ついに十神の感じていた“ヤバさ”が音という形となってこの世に顕現した。

    ジェノサイダー「白夜様ん♪」

    十神「……………………何を、言っている?」

    ジェノサイダー「いやさー、ここまで正体不明の回避に攻撃にってのはアタシとしても初めてなわけよ。しかもそれをこんな萌える男子に受けるなんてさ。アタシとしちゃあもうね、これ。惚れるしかないじゃあーん! ゲラゲラゲラゲラ!」

    十神「…………」

    絶句する十神にジェノサイダーは言葉を続ける。

    ジェノサイダー「つーわけで。アタシは白夜様に味方するわ。こう見えて結構尽くすタイプなの、アタシ♪」

    このなんとも奇妙な宣言こそが……ジェノサイダーの降参宣言に他ならなかった。
  219. 219 : : 2015/08/16(日) 17:56:14
    DIO「ム……ウ。青春の場には付き物……か。まあ、いい。腐川冬子の降参を確認。よって第四試合の勝者を十神白夜とする!」

    苗木(……なんだ今の)

    霧切「なんというか……降参の宣言としては果てしなく異質だったわね……」

    苗木「う、うん……」

    苗木(……けど、マズいな。十神クンの能力の正体……カケラも分からなかった……)


    霧切響子  ―|
           |―|
    石丸清多夏 ―| |
             |―
    苗木誠   ―| |
           |―|
    十神白夜  ―|
  220. 220 : : 2015/08/16(日) 21:57:19
    #34
    努力と勤勉と真実の求道者 その①
  221. 221 : : 2015/08/16(日) 21:57:31
    苗木(いよいよ準決勝……か)

    霧切「それじゃあ、行ってくるわね」

    苗木「うん。頑張って」

    霧切「ええ」

    苗木(それにしても……霧切さん、どうするつもりなんだろう?)

    苗木(石丸クンに鳥を突っ込ませても、焼き鳥になるだけのような気が……)

    苗木(何か策があるのかな?)

    DIO「それではセミファイナル第一試合を開始する。出席番号七番、霧切響子対、出席番号三番、石丸清多夏」

    DIO「始めェッ!」
  222. 222 : : 2015/08/16(日) 21:57:56
    石丸「さあ、どこからでもかかって来たまえ!」

    試合開始の宣言を受けるなり、石丸は身構え叫んだ。だが、霧切としては戦いにくい相手だと言える。事前に仕込んでおいた動物の類は、おそらく石丸の炎に阻まれて通らないだろう。そうなると石丸に直接ヘブンズ・ドアーを使って何かを書きこむという手段が真っ先に思いつくが……このような公の場でヘブンズ・ドアーの本の能力を使うのは、後々の事を考えれば少々面倒だ。そうなると打つ手なしのように思えるが……しかし、霧切にはまだ準備済みの策があった。

    霧切「あら、凄い自信ね。どこまでもつかしら?」

    石丸「はっはっは、無論自信はあるが、僕のこれは単なる性格だ。性格にもつももたないもあるまい?」

    霧切「ふうん、たしかにそうね。だったら私も……これが私の性格なのよ」

    石丸「む? 何がかね?」

    霧切「だから言ってるでしょう。“これが”……よ」

    言って、ゆっくりと石丸の元へと歩み寄る霧切。

    石丸「来るかッ!? ……な、何? これは一体ッ!」
  223. 223 : : 2015/08/16(日) 21:58:11
    観客席にいる人間には今、何が起こったのか理解できなかっただろう。霧切が石丸の元へ歩み寄っているさなか、唐突に石丸がうろたえだした。そのようにしか認識できなかったはずだ。だが当の石丸本人にとっては全く違った事象が起こっていた。歩み寄って来ていたはずの霧切の姿が見えなくなったのだ。周囲を見回すも、やはりその姿を確認する事は出来ない。

    直後……石丸は腹部に激痛が走るのを認識した。殴られている。腹部という事は真正面にいるはずだ。なのに見えない。――攻撃の正体が分からない!

    一方、観客席の人間には“何故石丸が回避行動をしなかったのか?”の方に疑問を抱いていた。霧切のとった行動は石丸に普通に近付き、普通に拳を叩き込んだだけ。そのように認識していた。実際、この場で霧切が行った事はそれが全てなのだ。“霧切の姿を認識できなかったのは、石丸ただ一人”なのである。

    霧切「…………」

    石丸が自分を視認していないという現状を正確に把握している霧切は、何かを話すことはしない。だが自信の拳では、たった一撃だけではダメージは軽いという事をも理解している。故に霧切は連続で拳による打撃を繰り出す!

    石丸「ぐ……ッ、攻撃の……正体は、分からん……が。対処法は……あるッ! おおおッ! マジシャンズレッド!」

    瞬間、石丸は周囲に炎をまき散らす!

    霧切「くっ……!」

    熱気に耐え切れず距離を取る霧切。だが……。

    石丸「む? そこにいたのか。ようやく姿が見えたな」

    霧切「計算ミス……ね」

    少々離れた距離に、石丸の視界にも姿を現した霧切はぽつりと、そう呟いた。
  224. 224 : : 2015/08/16(日) 21:58:24
    #35
    努力と勤勉と真実の求道者 その②
  225. 225 : : 2015/08/16(日) 21:58:44
    霧切の計算ミス。それは石丸が反撃に出る、という発想に至る前に決着をつけられると考えていた点にある。言ってしまえばここについてはぶっつけ本番であったため、ミスが出てもおかしくはない、と考えていた。よってある種、想定の範囲内ではあったのだが、あえて口に出して言った理由は他でもない。石丸に“そう思い込ませるため”だ。何を計算ミスしたのかを正確に把握はしないだろうが、とにかく霧切がミスをしたという点を思い込ませる事が出来れば、そこを考察し、突いて来ようとするはず。そこに隙が生まれる、と考えたのだ。だが、それは無駄に終わる。

    石丸「ふむ? ミスは良くないな。僅かなケアレスミスでも減点の対象となるのだからな。注意深さを身に付けたまえ!」

    霧切「……そうね」

    石丸はミスの内容には一切言及せず、ミスをしたという事実に対して意見を出すにとどまった。だが、大した無論反応が返ってこない事は織り込み済み……というより、意図する反応が得られるか得られないかは半々ほどに考えるべき事柄であったため、さして霧切も慌てる事はしない。霧切にとっての問題は――二度目は通用しないだろう、という事だ。一度対応されてしまった以上、今度は先ほどよりも早期に対処され、結果さしたるダメージは与えられないだろうという事は想像に難くない。想像に難くはないが……何事も実践あるのみ。

    霧切は再び、今度はゆっくりとした動作ではなく、素早く石丸の懐に潜り込む。

    石丸「むっ、また消えたか……だが、攻撃が当たる事はもう分かっているのだよ! CFH(クロス・ファイヤー・ハリケーン)!」

    叫び、石丸の正面にアンク型の炎が飛ぶ! だが……。
  226. 226 : : 2015/08/16(日) 21:59:00
    霧切「……」

    効いていない! その理由は単純だ。何故なら“当たっていない”のだから……!

    石丸「な、何だと……ぐウッ!?」

    それもそのはず。霧切は石丸の右方向に回り込み、わき腹を殴り抜いていたのだから!

    石丸「く……正面以外からも……消えられるのかッ!」

    言って、右側にCFHを放つ石丸。だが……。

    霧切「……」

    やはり当たらない!

    石丸「ガ……ッハ!?」

    今度は背後からの打撃。そう、霧切は常に移動しながら攻撃を加える事で石丸の反撃を回避しつつダメージを与える方法をとっていたのだ!

    霧切「……」

    無言で更に移動を続ける霧切。

    石丸「く……だが……これならばどうだッ! CFHS(クロス・ファイヤー・ハリケーン・スペシャル)!」

    今度は無数のアンク型の炎を周囲全体に打ち込む石丸。しかし、やはり当たらない! これには石丸も驚きと動揺を隠せない。周囲全体に撃ち込んだのだ、当たらないはずはない……。そこまで考えて、すぐにそれが違うという事に気が付いた。霧切の居場所。CFHSが当たらない唯一の場所。それは……石丸のすぐ間近!

    マジシャンズレッドの本体である石丸であっても、マジシャンズレッドの炎が効かないわけではない。自分自身、当たればダメージを受けるのだ。故に、CFHであれCFHSであれ、石丸からあまりに近すぎる距離には放たない。“放てない”わけではないが、放ったとして、それが敵に着弾したとしても、それに自分が巻き込まれない保証はないからだ。つまり、マジシャンズレッドの攻撃が当たらない場所となると、石丸のすぐそば以外にはありえない……。

    そう気付いた石丸はスタンドでの攻撃をやめ、両腕をまっすぐ横につきだし、回転を始めた。

    霧切「なっ……!?」

    突然の動きに驚いた霧切は声をあげ、後ろに下がってしまう。単純な、思考停止しているかのような物理攻撃方法であったが、シンプル故に有効な対処法であると言えよう。

    石丸「ふふ……再び見えたぞ、霧切君。見えなくなる手品のタネは見当もつかないが……一つ予言をしよう。それはもう僕には通用しないッ!」

    石丸の確固たる自信に、霧切は不吉なものを感じ取るのであった。
  227. 227 : : 2015/08/16(日) 21:59:14
    #36
    努力と勤勉と真実の求道者 その③
  228. 228 : : 2015/08/16(日) 21:59:27
    霧切「もう効かない……とは、随分大きく出たわね」

    石丸「今までは少々、驚きのあまり後手後手に回っていたが……もはやそれは無いと思っていただこう」

    言って、石丸は手のひらの上に炎を出現させた。

    霧切「それは……奇妙な形の炎をしているわね?」

    石丸「それはそうだろう。ただの炎ではないからな……だが、君のような相手にとってはこの上なく有効な手段のはずだ」

    二人の言う通り、その炎は奇妙な形状をしていた。地面に対し垂直な棒状の炎と、地面に対し垂直な棒状の炎が十字型に合わさったもの。さらに、その三つの棒状の炎の両端には小さな火球のようなものが灯っている。

    霧切「それが何か……と訊いても教えてくれないんでしょう?」

    石丸「当然だな。さあ、同じ方法でかかってくるか? かかってくるとしても、君の攻撃は見切れるがね」

    霧切「それは楽しみ……ねッ!」

    言って、再度石丸に肉薄する霧切! そして石丸の視界から三度消える……が、しかし。


    ボッ
  229. 229 : : 2015/08/16(日) 21:59:44
    唐突に、石丸が浮かべていた炎の、一つの火球が大きく燃え上がった。


    石丸「そこだッ! CFH!」

    今度は正確に……石丸のCFHが霧切に命中した!

    霧切「ぐうッ!?」

    石丸「安心したまえ。火力は抑えてある。それでも再起不能にするだけの火力は出していたつもりだ。ここで意識を保っているというのは目を見張るべき事実だが……もはやそうやって意識を保っているのがやっとだろう?」

    CFHの直撃に吹き飛ばされ、霧切を視認可能となっている石丸はしっかりと霧切の姿を見据え、言う。

    霧切「……ッ、心配は無用よ……まだ戦えるわ」

    立ち上がり、戦意を失っていない瞳を石丸に向ける霧切。

    ここで今更ではあるが、霧切の姿が石丸の視界から消失していたトリックを話そう。と言っても、実に簡単な事なのだが……。事前に彼女は、誰と当たっても問題ないよう、十神や江ノ島、禁じられていた腐川など一部のガードの硬い者や、彼女自身が“この人に使っては面白くなくなる”と感じた者以外にあらかじめヘブンズ・ドアーを使用していたのだ。

    ここで、以前に「苗木と承太郎以外の他の者は霧切の本の能力は知らない」と彼女自身が言っていた事と矛盾すると思う方もいるかもしれないが、そうはならない。嘘をついていたわけでもない。事実、“知らない”のだ。

    霧切がヘブンズ・ドアーを使ってした刷り込みは二つ。一つは“霧切響子が攻撃の意思を持って特定の範囲内に入った場合、視認する事が出来なくなる”。そしてもう一つは“霧切響子に本にされたなどという記憶はない”。これにより、今現在使っていた“石丸にのみ見えなくなる”という現象、及びその理由を完全に悟られる事無く実行できていたのだ。

    石丸「ほう、だがどうするのかね? もはや君の術は破ったも同然だと思うが」

    霧切「その炎……おそらく、生命探知機のような役割を持っているのね。それで私の位置を掴んだ……」
  230. 230 : : 2015/08/16(日) 22:00:01
    石丸「ほう、分かるのかね。御名答だ。だが、それが理解できているのならばこれ以上の戦闘は無駄だと思うのが自然だと思うのだが?」

    霧切「そうね。もし、他の策が何もないのであれば……だけれど」

    石丸「ほほう?」

    霧切「貴方が予言したように……私も宣言するわ。貴方のその炎の生命探知機を破って攻撃を叩き込む……と」

    霧切も今のCFHでかなりのダメージを負ったが、石丸とてこれまでの霧切の攻撃によるダメージが蓄積していないわけではない。故に、ここで霧切が本当に石丸の策を破り、攻撃を当てる事が出来たならば石丸は再起不能になるであろう。それは石丸自身も同じ意見だ。だがもし、その攻撃を外したならば致命的な隙となる。石丸による反撃を受け、霧切の方が再起不能になる。正真正銘、最後のぶつかり合いという訳だ。

    石丸「……いいだろう、受けて立とう!」

    石丸は正しくその現状を理解している。理解しているうえで、リスクだとかリターンだとか以上に、霧切の試合を諦めない姿勢を評価した。諦めない事というのは、彼の最も美徳と感じるところの“努力”に通ずるものがある。そう思ったのだ。故に彼は受けて立つ。

    霧切「それじゃあ……行くわよッ!」


    ピッピッピィィィィィィ!


    盛大にホイッスルを吹く霧切!
  231. 231 : : 2015/08/16(日) 22:00:15
    石丸「今更それかッ! マジシャンズレッドの炎の前では鳥の大群など無意味だ! マジシャンズレッド!」

    石丸の命を受け、中空へ向け炎を飛ばすマジシャンズレッド。しかし……。

    霧切「どこを……見ているのかしら?」

    炎は当たらない――いや。そもそも“鳥など飛んでいない”。

    石丸「しまった、今のホイッスルは陽動か……な、何ィーッ!?」

    慌てて視線を下におろした石丸は、そこに鳥ではない別の“大群”を目撃した。その正体は……。

    霧切「可愛いでしょう?」

    石丸「ね……猫だとッ!」

    猫の大群が石丸の元へかけより、周囲をうろつき始めた!

    霧切「…………」

    石丸「く……驚いたが、何をするでもなくただ周囲をうろついているだけではないか。いったい何のつもりで……はッ!? し、しまった、猫に気を取られている間に霧切君の姿が……。しかし僕には生命探知機がある事を忘れたかッ!」

    言って、生命探知機を確認する石丸。だが。

    霧切「言ったでしょう。生命探知機を破る、って」

    石丸「し、しまったァッ!」

    霧切の声が聞こえたのと、霧切の攻撃が叩き込まれたタイミングは同時であり……そして霧切の意図に石丸が気が付いたのも、同じタイミングであった。
  232. 232 : : 2015/08/16(日) 22:00:30
    DIO「石丸清多夏、戦闘不能! よって勝者、霧切響子ッ!」

    霧切「ふう……」

    大きく息を吐く霧切。実を言うと……彼女にとって、最後の攻撃は賭けだった。足場の阻害程度に使えるかと思い仕込んでおいた、ただうろつくだけの猫はしかし、自分の思った以上の成果を挙げたことに内心喜びを隠せない。

    猫を呼んだ理由は簡単だ。木の葉を隠すなら森の中というように、生命反応を隠すなら生命反応の中……である。つまり、多数の生命反応の中に紛れてしまえば、自分の位置は分からなくなるであろうという読みだ。これの何が賭けだったのか。それは“生命探知機”の仕様が不明であった点だ。もしこれが単純に生命を探知するのではなく、人間や、スタンド使い本体が視認していない者を探知するような効果だったならば、負けていたのは霧切の方であった。

    だが……彼女はその賭けに勝った。勝って、決勝へとコマを進めた。そして思う。どちら苗木と十神、どちらと戦う事になっても面白そうだが……叶うならば、苗木と戦ってみたい、と。


    霧切響子    ―|
             |―
    苗木誠   ―| |
           |―|
    十神白夜  ―|
  233. 233 : : 2015/08/16(日) 22:00:43
    #37
    音の力
  234. 234 : : 2015/08/16(日) 22:00:59
    苗木(観客席に戻ってきた霧切さんの姿を見て、ボクは初め、彼女に駆け寄ろうとした。だけど……すぐにやめた方がいいと思い直す)

    苗木(ここで十神クンに勝つことができれば、その時はお互い敵同士なのだ。今ここで馴れ合うのは良くない)

    苗木(そう判断したボクの心が彼女にも伝わったのか、霧切さんはニヤリと笑って一つだけ頷いた)

    苗木(それにならってボクも笑って頷いて……控室へと向かった。その途中の事だ)

    ???「あ……あの。苗木くん……ですよね?」

    苗木(誰かに声をかけられた)

    苗木「あ、はい。そうですけど」

    ???「あッ、その、ゴメンなさい! これから試合なのに急に声なんかかけちゃって」
  235. 235 : : 2015/08/16(日) 22:01:17
    康一「ぼくは広瀬康一。一応君の先輩になるのかな……」

    苗木「広瀬先輩……ん? ヒロセ……コウイチ?」

    苗木(どこかで聞いたような名前だ……)

    康一「あ……ッ、ぼくの名前、もしかして知ってるんですか?」

    苗木「え? あ、いえ、どこかで聞いた事あるような気がしただけで……ひょっとすると気のせいかも」

    康一「うわー……だとするとやっぱり恥ずかしいなあ。そりゃ強くなれるのは嬉しいけどさ……」

    苗木「えっと、広瀬先輩……?」

    康一「あ……うん。その、自分で言うのもあれなんだけど……苗木くんがぼくの名前を知ってるのはきっと……校内ランク、だと思う」

    苗木「校内ランク? ……あ、あああッ!」

    苗木(思い出した……校内ランク第六位、広瀬康一! スタンドはたしか……エコーズ!)

    康一「や、やっぱり見てたんだね、あの貼り紙……」

    苗木「え、ええ、まあ……。えっと、それで……その広瀬先輩がボクに何か……?」
  236. 236 : : 2015/08/16(日) 22:01:35
    康一「あ、うん。実はさっきのきみの試合を見て思った事があったから、ちょっと話をしたいなって……ホント、ただそれだけなんです」

    苗木「思った事、ですか?」

    康一「うん。きみのこれからの試合のためになれば、と思ってね」

    苗木「それっていったい……?」

    康一「それなんだけど……さっきの試合、苗木くんが結構戦いにくそうにしてたように思ったんだ」

    苗木「えっと、それはまあ……そもそも、ヘイ・ヤーには攻撃能力はありませんからね。どうしても搦め手が主体になっちゃう分、戦いにくさはありますよ」

    康一「攻撃能力がない……か。うーん、気にはなるけど、時間もないし今はいいか。だけどそれなら余計にぼくのアドバイスが役立つと思う」

    苗木「と……言うと?」

    康一「まあ見ててよ。……エコーズ!」

    苗木(広瀬先輩の呼びかけに、そのスタンドは姿を現した。尻尾の長い、小さなトカゲのようなスタンドだ)
  237. 237 : : 2015/08/16(日) 22:01:47
    康一「ここからだよ……よく見てて。エコーズ、ACT2!」

    苗木(広瀬先輩の呼びかけに応えるようにして……広瀬先輩のスタンド像の姿が変形した!?)

    康一「どう? ぼくのスタンドエコーズは成長して姿を変えて、しかも能力まで変化するんだ。ちなみにACT3まであるけど……さすがにこれは秘密って事で」

    苗木「す、スゴいですね……こんなスタンドもあるのか……」

    康一「ぼくは思うんです。たぶん、どんなスタンドでも、空条先生のスタープラチナの“成長性:完成”みたいな例外を除いてこういった成長は“する”んじゃあないかって」

    苗木「えッ!?」

    康一「だって、そう考えないとスタンドのパラメータとして割り振られている“成長性”って項目が浮いてるような気がするんです。単に基礎的なパンチ力が上がりやすいとかそういうニュアンスなのかもしれないですけど……でもぼくのエコーズは現に、こういう成長の方法を取った」

    康一「要はタイミングだと思うんです。運よくそのタイミングが訪れれば、どんなスタンドでもACT2やその先に成長する可能性は秘められているんじゃあないかって……」

    苗木「だけど……ヘイ・ヤーは“成長性:E”ですよ?」

    康一「Eだって、“なし”や“完成”じゃあないんですから、それは“成長する”って事でしょう。それにそういうスタンドの方が、実は成長した時の伸びは爆発的だっていうのがゲームとかでのセオリーですし」

    苗木(……スタンドはゲームじゃあないんだけどな)

    康一「とにかく、伝えましたから。次の試合も頑張ってくださいね!」

    苗木(そう言って駆けて行く広瀬先輩を尻目に、ボクは控室へと向かった)

    苗木(……それにしても、“成長”、か。ボクのヘイ・ヤーは……どんな成長をするっていうんだ?)
  238. 238 : : 2015/08/16(日) 22:03:41
    #38
    ガンマンズハート・キングスソウル その①
  239. 239 : : 2015/08/16(日) 22:03:59
    DIO「セミファイナル第二試合。出席番号十番、苗木誠対、出席番号九番、十神白夜」

    DIO「始めェッ!」

    学園長の宣言。十神はその直後に口を開く。

    十神「ひとまず……褒めておいてやる。貴様如きの能力でここまで勝ち上がり……かつ、この俺を前にして逃げ出さなかったその勇気だけはな」

    苗木「……ここまで来れたのも、運が良かっただけだよ」

    十神「だとしても、だ。勝負の世界における運の絞める割合は存外に大きい。俺はその存在を無視してはいないぞ。だからこそ……帝王はこの俺ただ一人だと決まっているのだがな」

    苗木「凄い……自信だね」

    十神「当たり前だ。まさかお前、俺に勝てるなどと思っているわけじゃないだろうな。そんな可能性、万に一つもあり得ん」

    苗木「言い切るね」

    十神「当然だ。お前の能力は既に把握している。その上で言っている。むしろ……お前自身が一番、俺に勝てる能力でない事は理解しているはずじゃあないのか?」

    苗木「はは……言うね。でもどうかな、僕には僕なりのやり方がある……やってみなくっちゃあ分からないよ」

    十神「やらなくては分からない? 違うな。“やらずとも分かる”。結果は既に確定している。そんな事も理解できないからこそ、愚民は愚民でしかないのだという事に気付くことだな」

    苗木「……ヘイ・ヤー!」
  240. 240 : : 2015/08/16(日) 22:04:13
    ヘイ・ヤー『……ダッ、ダメダ! コイツニハ……ドンナ攻撃モ通用スルヴィジョンガ見エネエ!』

    苗木「な……何だって!?」

    十神「フン、本体よりもスタンドの方がしっかりと力の差という物を理解しているなどと、笑い話にもならん」

    苗木「く……」

    十神「いいか? 一度だけ忠告してやる」

    苗木「忠告?」

    十神「退け」

    苗木「な……に?」

    十神「今退けば、お前には何のダメージも無くこの無意味な試合を終わらせることができるぞ? どうせ戦ったところで、俺の勝利以外の未来はないんだからな」

    苗木「……違うッ!」

    十神「ほう?」

    苗木「今退けば……それはボクにとって、“致命的なダメージ”になる、それだけは確信を持って言えるッ!」

    ヘイ・ヤー『マ……誠……』

    苗木「“ここで退いたらッ! ボクは一生、十神クンに腰が引けたままの、勝てないままの人生を歩むことになる”ッ!」

    十神「…………」

    苗木「だからボクは……戦う前から逃げる事はしない、絶対に!」

    十神「なるほどな。それは……お前の覚悟……と、受け取った」

    苗木「……覚悟?」

    十神「ああ。この試合、逃げずに俺と戦う。それはつまりお前にとって、負けて無様に倒れ伏すという結果意外にあり得ない選択だ。お前はその姿を晒す覚悟を持って俺に挑むと、そう言うんだな?」

    苗木「……そうかもしれない」

    十神「……何?」

    苗木「そうかもしれないけど、それでもッ! 逃げるって事だけは……しない!」

    十神「……正直言って、俺はお前を見くびっていたようだ」

    苗木「えっ?」

    十神「どうせ今の俺の言葉に、馬鹿のように“負けはしない、勝手みせる”などと現実の見えていない台詞を吐くんだろうと思っていたが……そうではなかったようだな」

    苗木「……ッ!」

    十神「いいだろう。お前の覚悟、受け取った。光栄に思え、相手をしてやる」

    ここからだ、と苗木は思った。ここからが十神との試合だ、と。既に学園長から試合開始の宣言があってしばしの時が流れてはいるが……奇妙な話ではあるが、それの時点ではこの試合は開始していなかったように苗木は感じている。本当に試合が始まったのは……今、この瞬間からなのだ、と。
  241. 241 : : 2015/08/16(日) 22:04:25
    #39
    ガンマンズハート・キングスソウル その②
  242. 242 : : 2015/08/16(日) 22:04:40
    大見得を切ったものの、苗木はこれからどう行動するかを決めかねていた。十神の能力の正体は依然として謎のままだ。正体不明の敵と戦う時に必要な事、それは相手のスタンド能力の正体を見極めるための情報収集だ。これは戦いつつ見つけて行くしかない。

    苗木「そうなると、ボクがする事は……ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『オウ、悪クネー選択ダッ! ヤッテミロ、誠!』

    苗木「よし! ……やあッ!」

    言って苗木は辺りに画鋲をまき散らした。

    十神「……何の真似だ?」

    苗木「お次はこれだ!」

    次に苗木は、大量のマッチを擦って十神に投げつける。下に落ちた画鋲、飛んでくるマッチ、全てをかわすのは物理的には不可能――そう、スタンドによる回避は必須のはず!

    十神「……フン、己のスタンドに攻撃能力がないからと、このようなチンケな攻撃しか出来んとはな……期待外れだぞ」

    苗木「……えっ!?」

    声は……苗木の背後からした。

    十神「いつの間に移動していたんだ、という顔だな。教えてやる。今だよ」

    ぽとり、と。何もない場所にマッチが落ちる。その瞬間――。


    ガツッ!


    十神による肘打ちが苗木の背に直撃する!
  243. 243 : : 2015/08/16(日) 22:04:57
    苗木「ぐ……ッ、ガハッ!?」

    分かりかけてきた――苗木は攻撃を受け、そう思った。十神のスタンド能力の正体、それは単なる瞬間移動なのか? たしかに腐川……いや、ジェノサイダーとの試合の際には、瞬間移動のようにしか見えなかった。だが……今、少しばかりのヒントを苗木は得た。“投げたマッチ”。あれはいったい、どういう事だったのか?

    苗木は見た。マッチを投げ、十神に当たろうかという瞬間に十神はその地点から消失し、苗木の背後に現れた。だが、起こっていた現象はそれだけではなかったのだ。十神が消えた瞬間に、マッチもまるで“瞬間移動”したかのように位置が変わっていた……いや。位置が変わっていたのではない。“数秒後にはマッチが辿り着いていたであろう軌跡をしっかりなぞったかのような位置にマッチは数秒早く移動していた”!

    これが何を意味するのか? 時を速める能力……いや、それは違う。もしそうだとしたなら、マッチと十神とが同時に効果を得ている時点で十神にかわす術は無かっただろう。そうなると考えられるのは……。

    十神「まあ、攻撃能力のないスタンドで、挑んできたその無謀な勇気だけは評価してやる。当然の結果だったと思って倒れておけ……」

    苗木「まだ……だ」

    十神「何? まだやられ足りないのか?」

    苗木「それはどうかな……分かったんだ。十神クン……君のスタンド能力の正体……が」

    十神「ほう? それは興味深いな。聞かせてもらおうか、お前は俺の能力をどういった能力だと推測したんだ?」
  244. 244 : : 2015/08/16(日) 22:05:21
    苗木「一定の時間を無かった事にする能力」

    十神「……ほう」

    苗木「十神クン、君の移動と共にマッチが数秒分程度だけど、瞬間移動したように先の地点に移動していたんだ……そこから考えられるのは一定時間を無かった事にする、しかない」

    十神「……まあ、いいだろう。及第点だ。お情けで正解という事にしておいてやる」

    苗木「えっ!?」

    もしこれが正しかったとしても間違っていたとしても……十神は正解だとも不正解だとも言わないだろう、と苗木は予測していた。

    十神「教えてやるよ。我がキング・クリムゾンの能力……それは“十秒間だけ時を消し飛ばす”能力だ」

    苗木「なッ!?」

    その上まさか、十秒間という具体的な数字まで明かす十神の行動に、苗木は困惑した。何だ、教える意図はいったい? 嘘なのか?

    十神「言っておくが嘘などではないぞ。俺がお前如きに嘘をつくなど、俺自身のプライドが許さん。お前には俺に嘘をつかれるほどの価値すらないんだからな。自惚れるなよ」

    苗木「じゃあ……なんで……?」

    十神「愚民にしては頭の出来は悪くないようだったからな。褒美をとらすのは帝王たる者の務めだろう?」

    苗木は理解した。十神は正に“帝王”としての振舞いに固執しているのだと。だからこそ、必要以上に自身を持ち上げ……その結果として、能力を明かさざるを得なかったのだ、と。正直に言ってしまえば、スタンド能力が分かったところで、ちっとも破れる気はしない。時間操作というのはそのレベルの強さを誇るのだ。しかし、本体である十神のその性格は弱点になるんじゃあないか? そこをなんとか利用できれば……。

    苗木「つまり……嘘はない……って事だね」

    十神「ああ、嘘はない。だが分かったところでどうするつもりだ? まさか我がキング・クリムゾンを破れるとでも思っているんじゃあないだろうな?」
  245. 245 : : 2015/08/16(日) 22:05:47
    苗木「分からないよ。やってみなくっちゃあ」

    十神「フン……だったら試してみるがいい。お前が何をしようと俺には効かんという事を」

    言い切る前に、苗木は十神に向かってビー玉を投げる! しかし……。

    苗木「な……んだって?」

    十神「改めて思い知らせてやる」

    十神は簡単にかわしていた。

    苗木「今のも当たらないのか……」

    十神「この程度、時を消し飛ばすまでもない」

    苗木「く……ッ!」

    十神自身の性格こそ、十神の弱点になる。それは間違いだった。十神はただ自信過剰なだけではない、たしかな実力を持った上で帝王として振舞っている……。それなら、もはや打つ手はない。十神の言う通り、苗木に勝ち目など最初からなかった……。

    十神「どうした、もう終わりか? つまりお前もようやく理解したという訳だ。俺に勝つなどと、想像の中でしかあり得んという事がな」

    苗木「く……くそ……ッ! ここまで……なのか……? ここで終わってしまうのかッ!」

    だが……勝ちたい。せっかくここまで来たんだ。なんだかんだと言いつつ、十神に認められもした。ここで……勝ちたい。苗木は強く願った!

    十神「な……んだ、それは……?」

    瞬間、十神が声をあげた。

    苗木「え?」

    十神が指差す方向を見ると……そこには。まるで西部劇に出てくるガンマンのような服装の――しっかりテンガロンハットまでデザインされている――ヘイ・ヤーの姿があった。
  246. 246 : : 2015/08/16(日) 22:06:13
    #40
    ガンマンズハート・キングスソウル その③
  247. 247 : : 2015/08/16(日) 22:06:43
    苗木「これは……まさか、まさかッ!」

    十神「……フン、姿が変わったんで一瞬驚かされたが……どうという事は無い。ただのコスプレか?」

    苗木「いや……違う。さっきボクは聞いたんだ……もしかして……発現したのかッ!」

    十神「なんの事だ……?」

    苗木「……ヘイ・ヤーACT(アクト)2!」

    十神「ACT2……だと!?」

    ヘイ・ヤーACT2『HEY! 誠、新シイ事ガ出来ルヨウニナッタミテーダゼッ!』

    苗木「それって……どんな?」

    ヘイ・ヤーACT2『ソレハ……ヤッテミレバワカルッ! イツダッテソウヤッテキタジャアネーカッ!』

    なんとも頼りのない発言ではあったが、しかし苗木にはむしろこれが励ましとなる。そうだ、自分がやってみようと思った事が、新しい能力になるんだ! それが疑いようのない核心として苗木の心に入り込んだ。

    十神「フン、馬鹿馬鹿しい。ACT2などと言って、自分で何が出来るのか分かっていないんじゃあないか。ここは試行錯誤の場ではない。帰ってから調べる事をお勧めするぞ」

    苗木「その必要はないよ……」

    十神「何?」

    苗木「だってボクは……『ここで負けたりなんかしない』からッ!」
  248. 248 : : 2015/08/16(日) 22:07:21
    ヘイ・ヤーACT2『YO! YO! 来ゼッ! Hey、誠ッ!』

    ここで負けたりなんかしない。その言葉をヘイ・ヤーACT2は文字通り“吸い寄せた”。そして腰に巻きつけていたガンベルトから一丁の銃を抜き取り、吸い寄せた言葉を“装填”、苗木に向かって撃ち込んだ!

    十神「な……何をやっている!?」

    苗木「……そう。これでボクは……負けないッ!」

    吼え、十神に向かって突進をかける苗木。

    十神「く……何やら分からんが……無駄だ! キング・クリムゾン! 俺以外の全ての時間は消し飛ぶ――ッ!」

    キング・クリムゾン。時を10秒間消し飛ばす能力を持ったスタンド……。だがその消し飛ばした時間の中を、本体である十神のみは自由に動くことができる。

    例えば……消し飛ばした時間の中で敵に攻撃を仕掛ければ! それは“結果”として消し飛ばした後の時間に反映される!

    十神は苗木の突進の軌道から外れ、逆に背後から少し小突いてやる。これだけで苗木はバランスを崩し、倒れ込むだろう……。そう確信し、そして時は正常に戻る。
  249. 249 : : 2015/08/16(日) 22:07:43
    苗木「う、うわっ!?」

    突如バランスを崩したように感じた苗木は、十神の予想通りに倒れ込む。――背後にいる十神に、結果として蹴りを叩き込む格好で。

    十神「な……何ィッ!」

    不可抗力であり、事故のような一撃ではあったが……初めて! 十神に攻撃が当たったのだ!

    苗木「い、今の手ごたえは……!」

    ヘイ・ヤーACT2『手ゴタエッツーカ、足ゴタエダッタケドナ……』

    苗木「いいんだよ、そんな細かい事は……それより、蹴りが入ったんだよね!?」

    ヘイ・ヤーACT2『オウ、ソリャアモウバッチリトナ!』

    十神「く……馬鹿な……馬鹿なッ!」

    苗木「十神クン……もう『ボクに攻撃しても無駄』だ」

    ヘイ・ヤーACT2『ヨシキタッ! YO!』

    ボクに攻撃しても無駄。その言葉を吸い寄せ装填し、十神に撃ち込むヘイ・ヤー!

    十神「何ッ!?」

    最初に苗木自身に撃ち込む、という行動をとっていたからか。“敵にも打ち込んで効果を発揮する”という考えが抜け落ちていた十神は反応が間に合わず、銃弾を受けてしまう。

    苗木「当たった!」

    十神「フ……フン。どうせハッタリだ。さっきまで自分の能力を理解していなかった者が、唐突に理解など出来るわけがない。……これで終わらせてやるッ! キング・クリムゾンッ!」

    再び時を消し飛ばす十神。今度は手を抜かない……全力で意識を飛ばしてやる。そう心に決め、苗木に向かって歩みを進め……渾身の力を込め、拳を叩き込む!

    時は正常に流れだし……。
  250. 250 : : 2015/08/16(日) 22:08:02
    苗木「……だから、言ったでしょ。無駄だって」

    十神「な……何ィーッ!?」

    十神の拳を受け止めるモノがいた――ヘイ・ヤーACT2!

    苗木「もし……キング・クリムゾンで殴られていたら、ヘイ・ヤーじゃあ受け止められなかった。その判断をできなかったのは……ボクがヘイ・ヤーACT2の能力を理解したからに他ならないんだよ」

    十神「どういう……事だ」

    苗木「……言霊って知ってる?」

    十神「言霊だと? フン……この国、日本における、所謂俗説という奴だな。言葉には魂が宿る……と。要するに自分の言葉には責任を持てという意味が込められたハナシなのだろうが、それがどうかしたか?」

    苗木「ヘイ・ヤーACT2は……“言霊”を“言弾(コトダマ)”に変換し……その弾を撃った対象に、その言葉を実現させる。ボクは“負けない”という弾を撃たれたから負けないし、十神クンは“攻撃は無駄だ”という弾を撃たれたから攻撃が失敗した……そういう事だ」

    十神「ほう……もしそれが事実なら……たしかに、強敵だな」

    苗木「ど……どういう事?」

    十神「お前の話には……一切の信憑性が、裏付けがないと言っているんだ。大法螺かもしれないし、そうでなかったとしてお前の単なる勘違いや思い違いという可能性が消えたわけじゃあない……」

    苗木「それは……どうだろうね」

    実際、苗木には確信があった。この能力が実際にヘイ・ヤーACT2の能力なのだ、という確信が。なぜなら、ヘイ・ヤーACT2自身が「やってみればわかる」と言ったからだ。それはつまり……苗木がやろうとしたこと、それがヘイ・ヤーに芽生えた新たな能力なのだ、とヘイ・ヤーが“助言”してくれた事に他ならない。だからこそ、苗木は信じて行動し、そして結果を得られた。――間違いない、ヘイ・ヤーACT2の能力はこれだ!

    十神「やってみれば分かる事だ……キング・クリムゾンッ!」

    再び時を消し飛ばす十神。そして――。
  251. 251 : : 2015/08/16(日) 22:08:55
    DIO「苗木誠、再起不能。勝者、十神白夜ッ――!」

    苗木(負けた……何故だ?)

    苗木(最後の十神クンのスタンド能力の発動……その最中にされた攻撃が、“当たった”。間違いはないはずなんだ、ヘイ・ヤーACT2の能力に間違いは……)

    苗木(そこまで考えて……ボクは気が付いた)

    苗木「ああ……そういう……事か」

    苗木(考えてみれば当然の事だった。“ボクは負けない”?)

    苗木(そんな強力なコトダマ……永続発動なんかするはずがない。制限時間があるんだ。そこに気が付かなかったボクの……完全な負けだ)

    苗木(キング・クリムゾンだって十秒って制約があったんだ、当然ことじゃあ……ないか……)

    苗木(そんな事を考えながら……ボクはステージを降り、観客席へと戻った)


    霧切響子  ―|
           |―
    十神白夜  ―|


    幽波紋ヶ峰学園 第七十八期生
    出席番号:十番
    “超高校級の幸運”≪苗木 誠≫
    スタンド:ヘイ・ヤーACT2(本作オリジナル)
    【破壊力】D
    【スピード】D
    【射程距離】D
    【持続力】E
    【精密動作性】D
    【成長性】E

    能力:苗木自身の言葉を言弾に変換し、銃で撃つ事で対象にその言葉の通りの現象を起こす。
       ただし、苗木自信が少しでも“そんな事出来るはずない”と思ってしまった事や、明らかに物理現象を無視した事、対象の能力を超えた事は起こせない(人間に対し『新幹線の速度で走る』など)。
       効果時間は十五秒間に限られる。
       また、事前にシリンダーに装填しておく事も可能で、最大装填数は六発。これについては効果時間はなく、装填した言弾は発射されるまで消えることはない。
  252. 252 : : 2015/08/17(月) 17:05:11
    #41
    戦地から戻った敗者より、戦地へ赴く勝者へ
  253. 253 : : 2015/08/17(月) 17:05:31
    霧切「お疲れ様……いい線行ってたように見えたけれど、残念だったわね」

    苗木「うん……でも、新しい力に目覚めたんだ。これは大きな収穫だと思う」

    霧切「ここからも見えていたわ。何か、ヘイ・ヤーの姿が変わったように見えたけれど?」

    苗木「うーん……うん。ここで話すのもなんだし、あとで“読む”といいよ」

    霧切「あら、いいの?」

    苗木「うん。霧切さんなら悪用しないだろうし。別にいいよ」

    ヘイ・ヤー『ナンツーカ、オ人良シッツーカ、何モ考エテネーッツーカダヨナー、誠ハヨォー』

    苗木「う、うるさいな……」

    霧切「あら? 元の姿に戻っているわね」

    苗木「あ、うん。いつもACT2のままになる、ってわけじゃないみたい。選択肢が単純に増えた、って感じかな」

    霧切「いいわね……」
  254. 254 : : 2015/08/17(月) 17:06:12
    苗木「……霧切さん。それと大切な話があるんだ」

    霧切「大切な話? 何かしら。まさかここでプロポーズなんて言わないわよね」

    苗木「プッ、プロッ……!? い、言わないよッ!」

    霧切「ふふ、冗談よ。それで? 聞かせてもらえるかしら、その話とやら」

    苗木「うん、十神クンの能力についてだよ」

    霧切「それは……確かに大切な話ね。聞かせてもらえる?」

    苗木「うん」

    苗木(ここでボクは……霧切さんに十神クンの能力について、ボクが知り得た情報を全て渡した)

    霧切「なるほどね……時を消し飛ばすスタンド……これは相当厄介ね」

    苗木「うん。ボクもあともう一歩だったんだけどね……」

    霧切「けれどさすがに対策まで考えてる時間はなさそうね。試合が始まってからも有効な手立てを見つけて行くわ」

    苗木「うん、そうした方がいいと思う」


    苗木(会話が終わり、霧切さんが観客席を離れ……しばらく経って)

    DIO「諸君。これで長きに渡った、第一回第七十八期生スタンドバトルトーナメントもいよいよ決勝、最終試合を迎えることとなった。ここまでの間に敗北を喫した十四名のスタンド使い諸君。……今抱いているであろう、悔しいという思い。そして苦々しく感じているであろう敗北の味を決して忘れるな。それはスタンド使いとしてではない。人間としての成長に必ず必要なものだ。どんな者であれ……人間である以上、敗北という経験は必ず必要なのだ」

    DIO「だが……今は一時、その感情を鎮め。諸君のクラスメイトたる、二人のスタンド使いの戦いを……その目に焼き付けておく事だ」

    DIO「それでは、いよいよ始めよう。決勝試合! 出席番号七番、霧切響子対、出席番号九番、十神白夜!」

    DIO「始めェッ!」
  255. 255 : : 2015/08/17(月) 17:08:18
    #42
    勝利の宿命(さだめ) その①
  256. 256 : : 2015/08/17(月) 17:08:49
    十神「さて……霧切響子、だったか。決勝まで残って来たんだ。当然、少しは俺を楽しませてくれるんだろうな?」

    霧切「楽しませるつもりはないけれど……勝つつもりならあるわよ」

    十神「全く、愚民というのはどうしていつもそうなんだ? 少しマトモなのは苗木くらいのものか……」

    霧切「……十神白夜。十神財閥の御曹司」

    十神「何?」

    霧切「日本有数の大財閥……世界を裏から牛耳る“真の支配者層”とまで言われる組織の一つ、十神財閥の跡取り。まさかある程度のプロフィールは知っていたけれど……この学園に来るまで、スタンド使いだとは夢にも思わなかったわ」

    十神「フン、俺は持つべくしてスタンドを持って生まれたんだ。“常に勝利し続ける”、そういう宿命の星の元にな」

    霧切「そう。つまらなそうな人生ね」

    十神「何だと?」

    霧切「さっき学園長も言っていたわ……“人間には敗北という経験は必要不可欠”と。それを知らずに生きて行かなければならないなんて、いっその事哀れの一言に尽きるわ」

    十神「フ、残念だが、それは間違いだ」

    霧切「……どういう意味かしら?」
  257. 257 : : 2015/08/17(月) 17:09:10
    十神「敗北という経験が必要不可欠となるのは“人間”ではない。“絶対勝者たる帝王以外の人間”だ。そしてその絶対勝者たる帝王というのは即ち俺を指す。要するに俺には必要のない経験という事だな」

    霧切「それはどうかしらね?」

    十神「……ならば問おうか。何故、敗北が必要なんだ? 答えてみろ」

    霧切「人は失敗から学び、成功していく生き物だからよ」

    十神「そうだな。異論はない。その通りだろう。だが……絶対勝者であれば、最初から成功しているんだ。失敗から学ぶという過程を必要としない。それだけスピーディに何事をもこなせるだけの時間を得られる。十神の名を継ぐ以上、俺にはそれこそが必要だという訳だ。……無論、必要も何も既に身に付けているわけだがな」

    霧切「ふうん、ただの自信過剰じゃなかったみたいね」

    十神「何だ? 俺の事をそんな風に思っていたのか。だがまあいい、愚民にどう思われていようとも――」

    霧切「ただの自信過剰じゃなく……ある種病的なまでの自信過剰、と言ったところかしら?」

    十神「……ほ、う」

    霧切「自分の事を絶対勝者だなんて、幼稚園児だって言わないわ。厚顔無恥とはまさにこの事ね」

    十神「……いいだろう。乗ってやるよ、お前のその挑発に。手加減はない物と思え」

    霧切「ええ……最初からそのつもりよ」
  258. 258 : : 2015/08/17(月) 17:09:24
    #43
    勝利の宿命(さだめ) その②
  259. 259 : : 2015/08/17(月) 17:09:44
    十神「キング・クリムゾン!」

    十神のスタンド能力の行使から試合は動き出した。十神以外の時間は消し飛び、十神は霧切の元へ一気に詰め寄る。そして……猛攻に次ぐ猛攻! 拳によるラッシュを仕掛ける!

    時の流れが正常に戻る頃合いを見計らい、反撃を受けないよう距離を取り……そしてキング・クリムゾンの能力は途切れる。

    霧切「ぐ……ッ! やはり脅威ね……貴方のスタンド……は」

    十神「当然だ。誰から見ても脅威でなければ勝ち続けるなど出来んだろう?」

    霧切「甘くみられることがないというのは……過大評価の対象になって失望を産む可能性が高いわけだけれど?」

    十神「忠告感謝する、有り難く受け流させてもらおう」

    霧切「……そう」

    問題は……霧切には、十神の能力を破る手立てを未だ思いつけずにいることだ。無策で何でもやってみて、出来る事全てに対策を取られてしまうのでは意味がないどころかデメリットにしかならない。

    十神「第一、いつでもその過大評価を超える言動を実行すれば失望など生まれようがない。俺にはそれが出来るんだよ。故に不要な心配だな」

    霧切「本当……実際にそう思っているようだから手に負えないわ……」
  260. 260 : : 2015/08/17(月) 17:10:29
    十神「しかしジェノサイダーといいお前といい、無駄に頑丈な奴が多いな。今の攻撃でお前は倒れると思っていたが」

    霧切「ジェノサイダー……? まあいいわ。それはつまり貴方の自信過剰が招いたミスととらえておくといいんじゃあないかしら」

    霧切は腐川の多重人格に気付いてはいても、会話内容までは届いていなかったため、ジェノサイダーの名前を知らない。だが言いたい事は伝わったため、そう返す。

    十神「口だけは達者だな……だが口だけだ」

    霧切「何ですって……?」

    十神「証拠に……お前は未だに一度も攻撃して来ていないじゃあないか」

    霧切「だったら……お望み通りッ!」


    ピッピッピィィィィィィ!


    十神「そのパターンは既に見たぞ。猫を呼ぶだけだろう? 攻撃でも、何でもなく……」

    霧切「そうね。これだけだとそうだけれど……」

    言っている間に、猫達が周囲に集いだす。

    十神「よくもまあゾロゾロとこんなにも呼べたものだな……。それで? これをどうするんだ?」

    霧切「……こうするのよッ!」

    言うと同時に、一匹の猫を捕まえた霧切は十神に向かって投げつける!

    十神「ほう、それで?」

    霧切「なッ!」

    十神はしかし……かわしていた。いや、投げつけようと霧切が猫を捕まえる動作に入ったと同時に十神はキング・クリムゾンによる回避に入っていたのだ。

    霧切には新たな疑問が生じた。苗木は十神のスタンドを“十秒間の時間を消し飛ばす”能力だと言った。おそらくそこに嘘はないだろうし、実際霧切が体感した現象はそれでほぼ説明が付く。だが……今のはどういう事だ?

    時間を消し飛ばし、その中を十神が動いて回避した……のは分かる。だが、今のタイミングでは、十神は“あらかじめ攻撃を知っている”必要がある。そうでなければあの時点で回避に入る事は出来なかったはずだ。

    まだ――何かある。霧切はそう確信した。
  261. 261 : : 2015/08/17(月) 17:10:40
    #44
    勝利の宿命(さだめ) その③
  262. 262 : : 2015/08/17(月) 17:11:01
    霧切の“対象を本にする”能力は、使ってしまえばその時点でこの場で見ている観客全体に知られてしまうリスクがある。このリスクをどうにかして避けて使用する方法は無いか? 霧切には案はあった。だがそれを実行する事はまず無理だろうという思いも同居している。霧切の案、それはこの場にいる全員を同時に本にし、十神を含む全ての対象に“コロッセオで見た霧切響子の本にする能力の事を忘れる”と書き込む……としたうえで十神に何かしらの刷り込みをついでに書き込めばしのぐことは出来る。出来るが、ヘブンズ・ドアーでは全体を対象に能力を仕掛けるなどという事は出来ない。対象は一人だ。それに全体を覆えるほどの射程距離もおそらくないだろう。

    実行できない案などただの空想に過ぎない。霧切はそれについては一度忘れ、新たに対策を練る事にした。

    十神「散々大口叩いておいて、やはり俺に攻撃を当てることすら出来んようだな。どうなんだ、え? 霧切よ」

    霧切「く……!」

    今のこの、霧切をナメきっている十神に霧切が勝つ事は簡単だ。今ならば油断している。ここでヘブンズ・ドアーを使えばいい……そして“霧切響子に勝つ事はできない”とでも書き込んでやればいい。だが先ほども述べたように、大勢の前で本にする能力を披露する事は避けたいし、今しがた感じた十神の未知のスタンド能力についても知らねば、そもそも不発に終わる可能性だってある。霧切はこの試合をどう切り抜けるべきか、妙案を思いつけずにいた。

    十神「何も出来んならば……さっさと降参するんだな」

    霧切「しないわ……こう見えて諦めは悪いのよ」

    十神「フン、それならばそれで構わんが、お前には俺を楽しませられるだけのエンターテイナーとしての精神が欠けているように思うがな」

    霧切「それはそうよ……エンターテイナーじゃあ……ないものッ!」
  263. 263 : : 2015/08/17(月) 17:11:17
    言って、霧切は十神のもう一つの能力を探るべく、新たにホイッスルを吹く。


    ピピッピピィィィィィィ!


    十神「ほう、聞いていないパターンだ。だが……な、何ッ!? お前、正気かッ!?」

    まだ何も姿を現していないにもかかわらず、十神が慌てだす。

    霧切「あら、どうしたのかしら? まだ何も……起こっていないわよ」

    十神「……くっ!」

    ――数秒後。観客席にどよめきが走る。コロッセオ内に入り込んできたモノ、それは……マムシだ! マムシたちはいっせいに十神の元へと向かう。

    霧切「何となく分かったわ……十神クン、貴方、マムシの姿が見える前からこの事に気が付いていたみたいね?」

    十神「ちッ……だったらどうだと言うんだ?」

    霧切「貴方のスタンドは……数秒程度先の未来を見る事が出来る……んじゃないかしら。それと同時に時を消し飛ばす能力も持ち合わせている。だから、スタンドが教えた未来を貴方は事前に回避できる。違うかしら?」

    十神「クソ……ッ! エピタフの能力まで知られたのか……!」

    霧切「エピタフ……それが貴方の未来を知るスタンド能力の名前なのね」

    未来を知る能力……。ポーカーフェイスを貫く霧切ではあったが内心、その脅威の能力にどう立ち向かうか、余計に悩む事となった。
  264. 264 : : 2015/08/17(月) 17:11:28
    #45
    勝利の宿命(さだめ) その④
  265. 265 : : 2015/08/17(月) 17:11:48
    十神にとって、エピタフがバレたという衝撃は勿論ゼロではなかったが、無視できる程度のものでしかなかった。それよりも彼は、現状最も注意を払わねばならないのはマムシを回避しきる事であると理解しているからだ。だが回避し続ける事はほぼ不可能だということも十神は知っている。葉隠と霧切の試合を見ていれば分かる事だ。コイツらは全滅させない限り“攻撃を当てる”まで確実に追尾してくる。無論、マムシに咬まれる事による致死性自体が低い事は十神は知識として知ってはいるが、確実な安全ではない。コーラを飲んだらゲップが出るというくらいに確実な安全でなければ、こればかりは無視するわけにはいかないのだ。

    しかし、である。マムシによる攻撃を回避するという事は、マムシの攻撃をよけ続ける事とイコールでは結ばれない。方策はいくつかある。例えば、マムシを殲滅する事。全てのマムシを殺してしまえば、結果的にマムシによる攻撃が起こるという事態そのものを“回避した”事に他ならない。しかし……十神は別の方法を使う事にした。

    十神「少しばかり驚かされたが……だが、この程度で俺を倒せるなどと思わん事だ」

    霧切「さっきの慌てようを見ると、その言葉がハッタリにしか聞こえないのだけれど?」

    十神「フ。一応忠告しておいてやる。コイツラを引っ込める事だな。でなければ……お前に確実な敗北が訪れるだろう」

    霧切「あら、それはどうかしらね?」

    瞬間……十神に向かって数匹のマムシが襲い掛かる!

    十神「キング・クリムゾン――!」

    時が正常に戻った時……霧切は十神の戦略を悟り、回避しようのない敗北の結果を見た。十神は――“霧切の目の前”に出現していた! その場に現れた十神を確認したマムシは再び十神に襲い掛かり……。

    十神「そして……再びッ! 俺以外の時間は消し飛ぶッ!」

    十神がキング・クリムゾンを発動させた。完全なる回避――そして、攻撃だ。十神が消滅した以上、マムシの攻撃の軌道上には、“霧切がいる”!

    マムシによる攻撃をかわす間もなく……霧切は自分自身の放った攻撃を受けた――。
  266. 266 : : 2015/08/17(月) 17:12:04
    DIO「――霧切響子、再起不能! よって……優勝者、十神白夜! 七十八期生ランク確定一位ッ!」

    苗木(倒れた霧切さんを見て……ボクは不安に駆られた)

    承太郎「……安心しな、苗木。死にはしねえよ……マムシの毒ってのは毒性は強いが致死率は低い。念のため医務室に運ばれるだろうが、この学園のスタンド使いが確実な治療をするだろーよ」

    苗木「そ……そうですか」

    承太郎「ああ。それより……これで一位と二位が確定したな」

    苗木「えっ? どういう事ですか?」

    承太郎「おいおい、しっかりしてくれ……決勝で戦ったのは十神と霧切だ。十神が一位確定、霧切が二位確定。三位以下は総当たり戦やったわけじゃあねえんだ、決まってるわけがない」

    苗木「そ、それじゃあ……まだ試合は続くんですか?」

    承太郎「いや、さすがにそこまで連戦を強いはしねえ。ここからあとはおれ達教師陣が試合内容を加味して順位を割り振って行くぜ。ただまあ、苗木はセミファイナルまで残ってるわけだからな。三位か四位は確定だぜ……」

    苗木「そ、そうなんですか……?」

    承太郎「ああ。石丸と苗木のどちらかが三位で、どちらかが四位。葉隠、朝日奈、舞園、腐川の四人の中で五位~八位。その他一回戦敗退の者たちで九位以下、って形だな……」

    苗木「な……なるほど」

    承太郎「何だ? 上位確定だってのに、冴えねえ表情だな」

    苗木「いえ……上位っていうのがちょっと、実感わかなくて」

    承太郎「……なるほどな。分からねえでもねえが、とりあえずは喜んでおけ」

    苗木「は、はい……」

    苗木(上位……確定か……)


    キング・クリムゾン・エピタフの原作との相違点
    原作:髪の毛に未来のヴィジョンを映して見ていた
    本作:メガネに未来のヴィジョンを映して見ている
  267. 267 : : 2015/08/17(月) 17:12:15
    #46
    閉会式
  268. 268 : : 2015/08/17(月) 17:12:31
    苗木(それから空条先生は、今しがた聞いたばかりの順位割振りの会議があるとかですぐに観客席から出て行ってしまった)

    苗木(出て行く前、この場にいるボクら七十八期生全員に“閉会式があるから待機してろ”とだけ言っていたため、ボクらはしばし観客席で座って待っていた)

    苗木(そうしている間に十神クンが涼しい顔で戻ってきて……それからすぐ、治療が終わったらしい霧切さんも戻ってきた)

    苗木「霧切さん……大丈夫?」

    霧切「ええ……迂闊だったわ。完全に私のミスよ……次はこうはいかないわ」

    苗木「は、はは……気合十分だね……」

    霧切「ええ。そのためにも……今後もお互い協力してやって行きましょう」

    苗木「うん、それは勿論だよ」

    霧切「……」

    苗木「えっと、どうかした?」

    霧切「いえ、別に何でもないわ」

    苗木(何か変な事言ったかな……?)
  269. 269 : : 2015/08/17(月) 17:13:07
    DIO「皆、静かに――」

    苗木(しばらく雑談していると、DIO学園長の声が響いた)

    苗木(一斉に、観客席が静まり返る)

    DIO「只今……七十八期生全ての順位が確定した。これより発表に入る」

    苗木(決まったのか……!)

    DIO「まず第一位――出席番号九番、十神白夜! そして第二位、出席番号七番、霧切響子!」

    苗木(ここまでは……決勝戦終了後から決まってた順位、なんだよね)

    DIO「続いて第三位……」

    苗木(うう、緊張するなあ……でもまあさすがに……)

    DIO「出席番号十番、苗木誠!」

    苗木「……」

    苗木(……ええっ!?)

    苗木(その後も粛々と順位は発表されていき……結果は以下の通りだ)


    ≪第七十八期生第一位≫ ―
    【出席番号:九番】
    十神白夜
    “キング・クリムゾン(エピタフ)”

    ≪第七十八期生第二位≫ ↑5
    【出席番号:七番】
    霧切響子
    “ヘブンズ・ドアー”

    ≪第七十八期生第三位≫ ↑13
    【出席番号:十番】
    苗木誠
    “ヘイ・ヤー”

    ≪第七十八期生第四位≫ ↑6
    【出席番号:三番】
    石丸清多夏
    “マジシャンズ・レッド”

    ≪第七十八期生第五位≫ ↓3
    【出席番号:十二番】
    腐川冬子(ジェノサイダー翔)
    “スティッキィ・フィンガーズ”

    ≪第七十八期生第六位≫ ↑8
    【出席番号:一番】
    朝日奈葵
    “クラッシュ”

    ≪第七十八期生第七位≫ ↑6
    【出席番号:十四番】
    舞園さやか
    “ハーミットパープル”

    ≪第七十八期生第八位≫ ↓4
    【出席番号:十一番】
    葉隠康比呂
    “ドラゴンズ・ドリーム”

    ≪第七十八期生第九位≫ ―
    【出席番号:二番】
    戦刃むくろ
    “バッド・カンパニー”

    ≪第七十八期生第十位≫ ↓5
    【出席番号:十五番】
    セレスティア・ルーデンベルク
    “アトゥム神”

    ≪第七十八期生第十一位≫ ↓5
    【出席番号:六番】
    大和田紋土
    “クレイジー・ダイヤモンド”

    ≪第七十八期生第十二位≫ ↓4
    【出席番号:五番】
    大神さくら
    “サバイバー”

    ≪第七十八期生第十三位≫ ↓2
    【出席番号:八番】
    桑田怜恩
    “レッド・ホット・チリ・ペッパー”

    ≪第七十八期生第十四位≫ ↓2
    【出席番号:十六番】
    山田一二三
    “ボヘミアン・ラプソディ”

    ≪第七十八期生第十五位≫ ↓12
    【出席番号:四番】
    江ノ島盾子
    “D4C”

    ≪第七十八期生第十六位≫ ↓1
    【出席番号:十三番】
    不二咲千尋
    “ベイビィ・フェイス”


    苗木(ボクが言うのもアレだけどさ……順位、変動しすぎじゃない?)

    苗木(ともかく、確定順位の発表が終わったところで学園長はやる気をなくしたのか、“最高にハイ、それじゃあ閉会しまーす。解散!”とだけ宣言して帰って行ってしまった。ホントなんなんだろう、あの黄色いおっさんは……)
  270. 270 : : 2015/08/17(月) 19:56:26
    うぉぉ!!期待しかないです!
  271. 271 : : 2015/08/18(火) 00:03:22
    >>270
    ありがとうございます!
    トーナメントが終わったのでしばらくはまったり進行で行きます。
  272. 272 : : 2015/08/18(火) 00:03:56
    #47
    空条承太郎の召集――十神白夜、霧切響子、苗木誠 その①
  273. 273 : : 2015/08/18(火) 00:04:14
    苗木(トーナメント戦、翌日)

    苗木(……筋肉痛が凄まじいんだけど!)

    苗木(幸いにも……というか、こうなる事が分かってだろうか。七十八期生は今日は授業は無い……つまり休日扱いになっているわけで)

    苗木(それで筋肉痛なら、今日は一日中家でゴロゴロしていよう……などと思っていた矢先)


    ピンポーン……


    苗木(部屋のチャイムが鳴った)

    苗木(……仕方ない、出るか)

    苗木「はーい……」

    苗木(ドアを開けると……空条先生が立っていた)

    苗木「あれ、空条先生? えっと、おはようございます……」

    苗木(まだ午前中だったのでそう挨拶をしたけど、それに対する空条先生の返事は少しだけ頷くだけだった)

    承太郎「少し話がある。時間はあるか?」

    苗木「え? は、はあ……分かりました。じゃあちょっと着替えるので待っててください」

    承太郎「分かった。ならさっさと着替えて来い……」

    苗木(わけもわからないまま、着替えて空条先生に連れられて、寮内を歩く。途中、十神クンと霧切さんの部屋も尋ね、二人も一緒に連れ……ボクら三人は校舎内の、小さめの会議室のような一室に通された)
  274. 274 : : 2015/08/18(火) 00:04:39
    承太郎「さ、この面子なんだ。ハナシはだいたいわかるな?」

    苗木(十神クン、霧切さん、そしてボク……つまり七十八期生の上位三名。となると……)

    霧切「学内ランク……の話ですね」

    承太郎「ほう、流石だな。その通りだ」

    苗木「たしか……それぞれの学年の上位三人が自動的に組み込まれるランクですよね? 十神クンが十三位、霧切さんが十四位、ボクが十五位……で合ってますか?」

    承太郎「よく知っていたな、まだ話していなかったはずだが……」

    苗木「あ、前に食堂で先輩に聞いたんです」

    承太郎「なるほどな、なら話が早い。その通りだ。お前らは七十八期生のトップスリーであると同時に校内ランカーとなり、それによってさまざまな権利を得られる」

    十神「つまり……その権利とやらをここで確認しておこうという話か」

    承太郎「まあ、そういう事だな」

    苗木(権利……そんな物があるなんて、知らなかったな)

    承太郎「まず一つ目は校内戦への出場権だ」

    苗木「校内戦……ですか?」

    承太郎「ああ。校内ランカーとして高みを目指すならば、出場は必須となるだろう」

    承太郎「校内戦は校内ランカーのみが出場するスタンドバトルトーナメントだ。これによって校内ランクが変動する、というわけだな……。しかしこれへの参加はあくまで権利だ。義務じゃあねえ。参加するかしないかは開催されるたびに自分で決めるんだな……」

    承太郎「だが、今後も学年別スタンドバトルトーナメントは行われる。つまりお前達は七十八期生大会だな。昨日の大会もわざわざ“第一回”と頭に付けていたはずだ……これは基本的に強制参加だぜ。棄権は許可されるが、その場合問答無用で下位に押し込まれる。それはお前らも例外じゃあねえ」

    霧切「つまり校内ランクを保持し続ける為には、毎回きっちりとトーナメントに出場して、毎回きっちりと三位以内に収まる必要がある……という事ね」

    承太郎「ああ、そういう事だ」

    承太郎「さて、話を続けるぜ。校内戦についてはそんなトコだがな。次の権利の話に移る」
  275. 275 : : 2015/08/18(火) 00:04:59
    承太郎「次の権利だが、これは単純だ。学内での行動可能範囲が広がる」

    苗木「えっと、そう言いますと……?」

    承太郎「学園の敷地内の奥に……スピードワゴン財団のスタンド研究施設があるんだが。普通の生徒には降りない侵入許可が、校内ランカーには認められている、って事だ」

    十神「何? それは……本当か?」

    承太郎「嘘は言わねえさ」

    苗木(十神クンのこの食いつきっぷり……どういう事だろう?)

    承太郎「……苗木はイマイチピンと来てねえみたいなんで詳しく話すがよ」

    苗木「あ、はい。お願いします」

    承太郎「スピードワゴン財団はこの世界で最もスタンド研究に秀でた組織だ。それはスタンド使いの補佐や補助の役目を負う事が多いからこその特権性だが……だからこそ、基本的にスタンド使いはスピードワゴン財団とのコネクションを持とうとする」

    苗木「それは、分かりますけど……でも、別に研究施設に入ってまでコネクションを結ぶって言うのはどんなメリットが?」

    十神「分からんのか。最もスタンドの研究に秀でた組織の研究施設だぞ? 俺達の知らん、未知のスタンド能力や、スタンドというものについての研究レポートなど、宝の山が築かれているという事に他ならんのだぞ?」

    苗木「う、ううん……」

    苗木(何が宝の山なのかボクにはサッパリだ……)

    承太郎「まあ、利用するもしねえも個人の自由だ。そこは好きにしな……」
  276. 276 : : 2015/08/18(火) 00:05:21
    承太郎「さ、次の権利だ。次は校内情報へのアクセス権限の拡大だな」

    苗木「えっと?」

    霧切「図書館の閲覧規制区域の書物の閲覧や、幽波紋ヶ峰ネットワークの情報検索機能の話かしら」

    承太郎「その通りだ」

    苗木「え、えっと……?」

    霧切「……知らないのね。いいわ、説明してあげる。まず図書館の閲覧規制区域だけれど、これは実際図書館に行ってみれば分かるわ。一般生徒には入れないよう、ロックがかけられた扉があるから。その奥に保管されている書物の閲覧が可能になる、という事ね」

    苗木「なるほど、そんな場所があったんだね」

    霧切「次の幽波紋ヶ峰ネットワークの情報検索機能だけれど……」

    霧切「これも図書館の話よ」

    苗木「え、そうなの?」

    霧切「ええ。図書館には個別ブースが設えられた区域があるのは知っているかしら?」

    苗木「えっと、いや、その……実は図書館自体まだ行った事無くて」

    霧切「……そう。そのブース、入るとPCが置いてあるのよ。そのPCは幽波紋ヶ峰ネットワークという……校内で、スタンドアローン状態で稼働しているサーバに繋がっているのだけれど。そこで生徒情報の閲覧や生徒の論文などを読めたりするのよ。けれど、生徒のスタンド情報には厳重にロックがかけられていてね……」

    承太郎「そのロックも校内ランカーは外されている、というわけだ。ただし……」

    苗木「た、ただし?」

    承太郎「今のお前らじゃあ、校内ランカー以外の生徒の情報に限り、だがな」

    十神「今の、という事は校内ランカーの情報を見る事も可能になる手段はあるという事だな?」

    承太郎「ああ。校内ランカーのトップスリーに入れば、自分の順位以下のランカーの情報も閲覧可能だ。つまり、一位にならなければ全員の情報は得られない、という訳だな……」

    霧切「……一つ、質問があるのだけれど」

    承太郎「何だ?」

    霧切「以前、幽波紋ヶ峰ネットワークにアクセスした際……学外のスタンド使いについての情報も結構充実していたように思えたわ。OBやOGのものも含めて、それらは全てアクセス権限無しだったけれど。その辺りも解放されているのかしら?」

    承太郎「いや、それは校内ランク十位以内で解放される。見たいならランクを上げる事だな……」

    霧切「……そう。分かったわ」

    苗木(そういえば……)

    苗木(霧切さんはお父さんが行方不明なんだっけ)

    苗木(探そうとしてたのかな……)

    承太郎「とにかく、目ぼしい権利はこのくらいだ。他にも購買部の商品のランカー割引の発生やらいろいろあるが、細かいものも含めて、権利の一覧は追って書面で渡そう」

    苗木「あ、分かりました」

    承太郎「さて、話はここで半分終わったな」

    苗木「え!?」

    十神「半分……だと?」

    承太郎「ああ。おれはまだお前らに与えられた権利の話しかしちゃあいねえぜ」

    承太郎「権利が与えられるって事はな。当然、義務も発生するんだ……そっちの話がまだなんでな。もう少しばかり付き合ってもらうぜ」
  277. 277 : : 2015/08/18(火) 00:05:45
    #48
    空条承太郎の召集――十神白夜、霧切響子、苗木誠 その②
  278. 278 : : 2015/08/18(火) 00:06:10
    承太郎「まず義務その一だ。他の生徒の手本になる言動を心がけろ」

    苗木「えっと、たとえば……?」

    承太郎「そうだな……お前らにとって不利になる事柄であったとしても、何か気付いた事があったなら積極的に助言をしてやったり、ってところか」

    十神「チッ、面倒だな……」

    苗木(……そうか。それで広瀬先輩はボクにACT2について教えてくれたのか)

    承太郎「次に義務その二。校内のイベントへの積極的な参加だ」

    霧切「それは……さっき空条先生自身が言っていた事と矛盾していないかしら?」

    承太郎「ほう? どういう事だ?」

    霧切「校内戦への参加は自由……校内戦だって校内のイベントなんじゃあないの?」

    承太郎「ああ、その事か。学年別トーナメント以外の、校内戦を含む各種スタンドバトルイベントは校内ランカーであっても参加は義務じゃあねえ。そこは安心しな……」

    苗木「あれ? 各種スタンドバトルイベント、って事は他の大会も存在するって事ですか?」

    承太郎「ああ、あるぜ。だがそれについては今はいいだろう。その内分かるだろーさ」

    承太郎「というわけで、義務その三。ランカー会議への出席だ」

    十神「ランカー会議だと?」

    承太郎「ああ。校内ランカーが集って……所謂定期的なスローガンの決定やら、生徒たちからの学園への要望の編纂……それから各部への部費の割り振りなどを行う場だ。別にランクが低いからと発言力が弱いとかそう言う事はないから安心しな」

    十神「待て。何故俺がそのような生徒会の真似事のような事をせねばならん」

    承太郎「それはな、十神。この学園じゃあ、校内ランカーイコール生徒会だからだ」

    十神「なん……だと……? おい、どういう事だ、聞いていないぞ」

    承太郎「そりゃあ、言ってねえからな。疑似生徒会長は校内ランク一位の汐華、疑似副会長は二位の……徐倫(ジョリーン)だ」
  279. 279 : : 2015/08/18(火) 00:06:35
    苗木「……あれ? そういえば、先生」

    承太郎「どうした?」

    苗木「前に校内ランカー一覧を食堂で見たんですけど……その二位の徐倫って先輩、先生と同じで苗字が“空条”だったような……?」

    承太郎「……知っていたのか。おれとしちゃあ複雑な心境ではあるが……徐倫はおれの娘だ。苗字が同じなのは当然だぜ……」

    霧切「む、娘さん……?」

    承太郎「ああ。幽波紋ヶ峰学園に入学するためにアメリカから渡って来た。とはいえ、あれもおれの子だ。なかなかにイイ性格してやがるぜ……それに二位だってことからも分かるだろうが、学内でも指折りの実力者だ。もし校内戦などで戦う事があるなら用心する事だな」

    十神「フン、相手が担任の娘だろうがなんだろうが、俺は手を抜く気は一切ないぞ」

    承太郎「グッド。いい心がけだ。おれとしてもそれを望むぜ」

    承太郎「さて……権利と同じくあとは細々としたものがいくつかあるな。だが重要なのはこの三点くらいだ。あとおれから言う事は、くどいようだが校内ランカーとして恥ずかしくない言動を心がけろ、ってくらいかな……」

    承太郎「それじゃあ、今日はもう帰っていいぜ。昨日の疲れもあるだろう、ゆっくり休むんだな」

    苗木(そう言って空条先生は部屋から出て行ってしまった。それに続くように十神クンも出て行って……)

    霧切「じゃあ私達も行きましょうか」

    苗木「そうだね……」

    苗木(ボクらも会議室を後にした)
  280. 280 : : 2015/08/18(火) 22:12:04
    #49
    ボクの欲しいもの その①
  281. 281 : : 2015/08/18(火) 22:12:41
    苗木(空条先生の話を聞いたあと、ボクと霧切さんは一緒に校舎を出た)

    霧切「……少し、肌寒くなってきたわね」

    苗木「もう十月だからね……」

    ※本SSは希望ヶ峰学園の入学式は九月説、及び希望ヶ峰学園からのスカウトは高校三年時説を採用しています。日時設定、年齢設定はそれら準拠となっていることをご了承ください。

    霧切「ああ、そうそう。苗木君」

    苗木「何?」

    霧切「今晩、私の部屋に来て頂戴。夕食を御馳走するわ」

    苗木「……へ?」

    苗木(唐突に何!? この青春の一幕みたいなイベント!?)

    霧切「だから、夕食を御馳走するって言ってるのよ。それとも……」

    苗木「そ、それとも?」
  282. 282 : : 2015/08/18(火) 22:12:58
    霧切「私の料理じゃあ、やっぱり“対価”として不服かしら?」

    苗木「…………対価?」

    霧切「そうよ。他に何だと思ったのよ」

    苗木「ちょ、ちょっと待って。対価って、何の対価? 話が見えてこないんだけど」

    霧切「何よ、貴方が言ったんじゃない。昨日、貴方に新しく発現したスタンド能力について“読ませてくれる”って」

    苗木「あ、ああ……その話か。それなら別に対価なんて」

    霧切「貴方には必要なくても、私には必要なのよ。借りを作るのは好きじゃあないの」

    苗木「そ、そうなんだ……」

    苗木(別に貸しにするつもりもないんだけどな……ボクがそう言ったところで霧切さんは納得しないだろうし)

    苗木「分かったよ、そういう事なら喜んで」

    霧切「そう。それなら……今晩、七時くらいに部屋に来て頂戴」

    苗木「了解、じゃあ楽しみにしてるね」

    霧切「……自分で言っておいてなんだけど、普通以上の味は出せないわよ」

    苗木「それは食べてみるまで分からないよ」

    霧切「……そう、ね。分かったわ。じゃあ期待していて頂戴」

    苗木「うん」

    苗木(そうして霧切さんと別れ、部屋に戻り……いい時間になったところで、霧切さんの部屋へ向かった)
  283. 283 : : 2015/08/18(火) 22:13:12
    霧切「ああ、来たわね。いらっしゃい」

    苗木「あ、うん。お邪魔します……」

    苗木(霧切さんの部屋は、家具なんかも必要最低限って感じでシンプルだった)

    苗木(いや、間取りとかは同じ寮なわけだし、ボクの部屋と大差ないんだけど)

    霧切「さ、食事の用意は出来てるわよ」

    苗木「メニューは?」

    霧切「何が好物か知らなかったから、ハズレは無いと思ってカレーにしたわ」

    苗木「あ、カレー好きだよ」

    霧切「そう……あとは辛さがちょうどいいといいのだけれど」

    苗木「そればっかりは好み分かれるからね」

    霧切「それじゃあ、座っていて頂戴。よそうわ」

    苗木「あ、うん。分かったよ」

    苗木(言われた通りにテーブルの前に座り、霧切さんを待つ。と言っても、カレーをよそうだけなのでそんなに時間が経つわけもなく……)

    霧切「お待たせ。どうぞ」

    苗木(二人分のカレーを盆に乗せてやって来たのは、すぐだった)

    苗木「うん。頂きます……」

    苗木(一口食べる)

    霧切「……」

    苗木「うん! おいしいよ。なんだか安心する味っていうか」

    霧切「そう……口に合ったようで良かったわ」

    苗木(ホッとした様子を見せる霧切さん。それからは二人で他愛もない話をしながら食事をした)
  284. 284 : : 2015/08/19(水) 20:15:32
    #50
    苗木こまるという少女 その①
  285. 285 : : 2015/08/19(水) 20:15:46
    苗木(えっと……。

    これからする話は、別に本筋には何も関係がない。これから先のボク達の物語に対して重要なメッセージや伏線が貼られているわけでもない。

    だから、不要だと思うなら読み飛ばしてしまっても何の問題も無い……そういう類の話だ。

    一つ言えるとすれば、このタイミングでこのお話を挿入するという事は、霧切さんとのこの会話のエピソード中に、今からする話を知っておけばちょっとは理解が深まる部分があるかもしれないということ。……だけどたぶん、読むことによってこれから先の物語の見方がガラリと変わるだとか、そんなエピソードじゃあない。

    これから語るのは、単純に……ボク、苗木誠というスタンド使いの……所謂アニメやマンガでいうところの“キャラクター設定”のようなものだと思ってほしい。それ以上の意味はないんだから。

    ボクには……こまるという名前の妹がいる。兄や姉、弟や他の妹はいない。二人兄妹だ。これはボクとこまるの、昔のお話)
  286. 286 : : 2015/08/19(水) 20:15:58
    苗木(十年くらい前になるかな……当時小学生だったボクは、良くも悪くも普通の子供だった。どちらかといえばのんびりした性格だったかも。

    そんな性質だったから、それなりに友達も多かった。

    ……そう。多“かった”。過去形である事からこれはそういう話であって……苦手だと思ったなら、くどいようだけど素直に読み飛ばしてしまって問題ない。

    話を戻そう。友達は多かったけど、その頃のボクはまだスタンド使いじゃあなかったし、スタンドなんてものの存在自体、知らなかった。

    友達と鬼ごっこをしたり、かくれんぼや缶けり、ゲームなんかも一緒にしたりして……それなりに楽しい日々を送っていた。

    ある夏休みの夜の事だ。ボクは複数の当時の友達と一緒に肝試しをする事になった。

    場所は普通の墓地で……今から考えたら、朽ち果てて誰も世話をしなくなった墓地、っていうのでもない限りお墓に幽霊なんて出るわけがない、と言える。だって、きちんと死者が供養されている場所なんだからね。化けて出るという事はないはずでしょ?

    けど、当時のボクはそんな事は考えもせず……ただ、夜の墓地という“怖い雰囲気”の場所に行くというだけだったんだけど、それでもドキドキワクワクしていたのは覚えている。

    その肝試しっていうのも、一人ずつ出発して……だとか、ペアを組んで……だとか、そんな準備をしっかりしたタイプのものじゃあなく、単純にみんなで一緒に進んで行って墓地をうろつくというだけのスタイル。

    だけど子供心に怖いものは怖くて……普段は前向きな性格なだけに、結構みんなに笑われたっけ。でも……その時。その時だ)

    ヘイ・ヤー『シッカリシロヨ……誠……何モ怖イモンナンカネーゼ……俺ガ保証スルヨォー……』

    苗木(ボクに初めて、ヘイ・ヤーの声が聞こえたのは)
  287. 287 : : 2015/08/20(木) 00:04:22
    >>259
    キング・クリムゾンが時を消し飛ばしてる間は攻撃出来なかったはずだが
  288. 288 : : 2015/08/24(月) 21:22:19
    面白いです!期待です!
  289. 289 : : 2015/08/25(火) 01:41:50
    >>287
    指摘ありがとうございます!
    教会地下でブチャラティと戦ってた時、チョップでブチャラティの肩あたりを裂いてたのを消し飛ばしてる間の行動と勘違いしていて、出来ると思ってしまっていました。
    と言っても修正出来ないので、このSSでは出来る、という事で一つ……。

    >>288
    ありがとうございます!
    第一部も中盤くらいなのでまったり楽しんでいただければ幸いです!
  290. 290 : : 2015/08/25(火) 01:42:11
    #51
    苗木こまるという少女 その②
  291. 291 : : 2015/08/25(火) 01:42:23
    苗木(その場でボクが「何か聞こえた」と言っても、肝試しという場だからだろう。ボクが場を盛り上げようとしているとしか認識されず、幽霊探しという名の探検が始まるだけで……。結局、何も見つからなかった、という事で数十分後、解散となった。次の異変は、家に帰ってすぐ)

    ヘイ・ヤー『ナ? 何モ無カッタダロ?』

    苗木(今度は確かなヴィジョンを伴って、ボクの前にヘイ・ヤーが現れた。当然、叫んだね。両親やこまるが何事かとボクの様子を見に来たけど、ヘイ・ヤーの姿は見えていないようだった。結局首をひねって戻って行く家族を尻目に、ボクはヘイ・ヤーになだめられ、自室に戻ったんだ。

    自室でボクはヘイ・ヤーに“スタンド”というものについて教えられた。そして自分はそれなのだと。それからは特に恐怖心も無くヘイ・ヤーと普通に接するようになった。だけどそれが、ボクの大きなミスだったんだ。

    ヘイ・ヤーはボクにいろんなことを教えてくれた。いろんなことを励ましてくれた。最初の内は頷いたりだとかその程度の反応しか返していなかったんだけど、だんだん慣れてくるにつれ、普通に会話するようになっていった。その様子を見た友人たちはどう思っただろう?

    もちろん――気味悪がった。次第にボクは孤立していき……いつの間にか一人になっていた。勿論ヘイ・ヤーは除いて、だ)
  292. 292 : : 2015/08/25(火) 01:42:37
    苗木(だけどボクが前向きさを失わなかったのには理由がある。それがこまるの存在だ)

    こまる「お兄ちゃん、最近一人でぶつぶつ言ってる事多いけど……」

    苗木(ある日、家の自室でゴロゴロしていると、こまるがそう言って部屋に入ってきた)

    こまる「もしかして、お兄ちゃん霊感に目覚めたとか!?」

    苗木(それは違う……と、否定した。その時ヘイ・ヤーはボクの隣で「正直に話せ」と言って来た。その頃にはヘイ・ヤーの言葉は正しいという事を何となく感じていたから、ボクはこまるに正直に、スタンドという物について話した)

    こまる「へえ……!」

    苗木(だけどこまるは気味悪がるでも遠ざけるでもなく、目をキラキラさせてボクにもっと話を聞かせて、と言って来た。

    後から聞いた話……こまるは当時――今もだけど――オカルトに傾倒していて、怪談や心霊写真、UFOだとかUMAだとか、そういうものに憧れていたんだそうだ。だからこそ、身内にそういう話が出来る存在が出来たと喜んでいたんだろう。

    その時には既にボクから友達が離れて行っていたから……ボクはこまるに心理的に凄く助けられていたんだ)


    苗木(――と、そういうお話。ボクが今日まで、前向きに生きてくる事が出来た理由のお話でした)
  293. 293 : : 2015/08/25(火) 01:42:51
    #52
    ボクの欲しいもの その②
  294. 294 : : 2015/08/25(火) 01:43:18
    苗木(晩御飯を食べ終わり、ボクは霧切さんのヘブンズ・ドアーを受けた)

    苗木(そこでボクの能力について霧切さんが読むところで、ボク自身、ヘイ・ヤーACT2の正確な能力を把握し終え……)

    霧切「なるほどね……これで多少は実戦向きになったんじゃあないかしら?」

    苗木「そうかもしれないけど、でもこのボク自身が“無理かも”って思った事は実行できない、させられないっていうのはなかなかにクセ者だと思うな」

    霧切「そうね。それに十五秒って縛りもちゃんと考えて使わないと、足元をすくわれる事になるわ」

    苗木「うーん、いろいろ考えないとな……」

    霧切「……ねえ」

    苗木「ん?」

    霧切「少し、提案があるのだけれど」

    苗木「何?」

    霧切「さっき空条先生は言ってたわよね? 校内ランカーとして、校内の生徒の手助けを積極的にするように、って」

    苗木「うん、言ってたね」

    霧切「……貴方、入る部活、決めた?」

    苗木「急に話飛んだね……いや、まだだけどさ」

    霧切「そう、それならちょうどいいわ。一緒に“探偵部”をやらない?」

    苗木「た、探偵部?」

    霧切「ええ。予備学科を含めればかなりの生徒がいるけれど……本科生だけなら生徒総数も少ない事から、新規クラブの申請には部長と副部長……即ち二名いればいいみたいなの。教員より部活動の方が多くなることがあるから、顧問の先生は不要だそうだし」

    霧切「これなら、私達に必要な情報収集も出来るし、空条先生の言う“他の生徒の手助け”も、依頼を受け付けるという形にする事でこなせて一石二鳥だと思うの」

    霧切「どうかしら?」

    苗木「なるほど……うん、ボクはいいよ。別に他に入りたい部活があるってわけでもないし」

    霧切「なら、決まりね。明日、一緒に申請しに行きましょう」
  295. 295 : : 2015/08/25(火) 01:44:07
    苗木(その後少し相談して、自室に戻った)

    苗木(……いや、別にそういう訳じゃあないけどさ)

    苗木(でもホラ、ボクだって思春期の男子なわけで……女子の部屋に呼ばれたら少しくらい期待しちゃうよ! 彼女なんか出来たこともないんだし!)

    苗木(霧切さんも綺麗な女性(ひと)だし……って、違う違う! 何考えてるんだボクは……)

    苗木(……)

    苗木(だけど)

    苗木(……ここから、協力者なんかじゃあなくって……友達とか仲間とか、そういうものになれたら……嬉しいな)

    苗木(…………)

    苗木(仲間、か)

    苗木(……寝よう)
  296. 296 : : 2015/08/26(水) 00:23:16
    #53
    第一の依頼人:大和田紋土
  297. 297 : : 2015/08/26(水) 00:23:41
    苗木(翌日の放課後、ボクらは新規クラブの申請をし、直後に部室を与えられた)

    苗木(何でも……校内ランカーの権利の一つとして、部活動の入部・設立の優先権が与えられているらしかった)

    苗木(校内ランク便利すぎじゃない?)

    霧切「さて……それじゃあ少し、依頼の募集をやっている、という貼り紙でも作って校内の掲示板に貼り付けましょうか」

    苗木「そうだね。そうでもしないと現状やる事ないし」

    霧切「それじゃあ……」

    苗木(霧切さんが口を開きかけたところで、部室のドアがノックされた)

    霧切「誰かしら。……苗木君、出て頂戴」

    苗木「了解、部長」

    苗木(苦笑交じりに返した言葉だったけど、すぐに)

    霧切「部長じゃあないわ……霧切探偵と呼びなさい」

    苗木「え、じゃあボクはどうなるの? 苗木福探偵……?」

    霧切「決まってるでしょう。苗木探偵助手よ」

    苗木「……は、はは。了解……」

    苗木(別に肩書は何だろうと異存なかったので、素直にドアを開ける。すると来客の正体は……)

    苗木「あれ、大和田クン?」

    大和田「おう……邪魔するぜ」
  298. 298 : : 2015/08/26(水) 00:24:16
    霧切「今日から始めた部活だったのだけれど、よく分かったわね?」

    大和田「ああ……オメェら休み時間に話してたろ、探偵部について。だから知ってたんだよ……」

    苗木「それで……何か依頼が?」

    大和田「ああ……まあ、そうなんだが……」

    大和田「……ゼッテー誰にも言わねえって誓えるか?」

    霧切「安心して頂戴。私は一応、仮の肩書とはいえ“超高校級の探偵”よ。そう呼ばれるだけの実績はあるし……守秘義務については問題ないと考えてもらって結構よ」

    大和田「そ、そうか……それと、もう一個確認なんだが……」

    霧切「何かしら?」

    大和田「そのよ……報酬とかはどうなってんだ? 何を支払えばいい?」

    霧切「ああ、その事。一応これ、部活動よ? 何かを要求するつもりは別にないわ」

    大和田「そ、そうか……分かった。じゃあ相談させてもらうけどよ」

    苗木「うん」
  299. 299 : : 2015/08/26(水) 00:24:28
    大和田「……実はよ、オレ……犬に目がねえんだ」

    苗木「うん。……うん?」

    大和田「いいか、ゼッテェ誰にも言うんじゃあねえぞ!?」

    苗木「い……言わないよ!」

    大和田「そ、それならいいんだけどよ……。で、だな。最近校内に野良犬が入り込んでるって噂があるの知ってるか?」

    霧切「いえ、初耳ね」

    大和田「そうか……。いや、オレも実際見たわけじゃあねんだんけどよ。でもそうい噂があるのも事実なんだ。それで……捕まったら処分されるんじゃあねえかとか思うと気が気じゃなくてな。オメェらに保護を頼みてえんだ」

    霧切「もしそれが単なる噂で……実際には存在しなかったとしたら?」

    大和田「そん時はそん時で問題ねえ。そうだったって事で報告くれりゃあな……。あ、あとよ。保護できたら……なんだ。飼い主とかが見つからねえようなら……オレが飼う。もし見つかったとしても、一目オレに……見せてくれ」

    大和田「オレからの依頼はこれで以上だ。……頼めるか?」

    霧切「もちろんよ。最初から断るなんて選択肢はないわ」

    大和田「そ……そうか! そんじゃあ任せたぜ!」

    苗木(嬉しそうにそう言って、大和田クンは部屋を去って行った)
  300. 300 : : 2015/08/26(水) 00:25:21
    #54
    ファインドドッグ その①
  301. 301 : : 2015/08/26(水) 00:25:33
    苗木「それにしても、校内に出没する野良犬かあ。たしかに放置しとくのも危ないし、早めに対処できるならその方がいいよね」

    霧切「そうね。それじゃあさっそく調査に行きましょう」

    苗木「あ、うん。けどどうするの? どこから探せばいいのか……」

    霧切「情報収集の基本は聞き込みよ。大和田君も言っていたでしょう? 噂になっているのなら、実際に見たという生徒や教師、用務員や警備員なんかがいるはず……とにかくなるべく多くの人に聞き込みをして、目撃情報から出没エリアを絞り込んで行く事ね」

    苗木「なんだか……気の遠くなりそうな話だね……」

    霧切「あら、だけど私達にとっては今回の依頼、願ったりかなったりよ?」

    苗木「どういう事?」

    霧切「聞き込みの最中に“探偵部の調査なのですが”と付けるだけで、ウチの部の知名度アップにもつながるわ」

    苗木「……なるほど」

    苗木(たくましすぎるよ、霧切さん)
  302. 302 : : 2015/08/26(水) 00:25:49
    苗木(手分けして聞き込みをする事になり、ボクは食堂に行ってみる事にした)

    苗木(ジョルノ先輩曰く、知る人ぞ知る放課後の人気スポット、という話だったから、誰かいるかもしれないと考えたためだ)

    苗木(そして実際行ってみると……)

    苗木「あ、広瀬先輩」

    康一「あ、苗木くん。この間の試合、凄かったね……! 助言した甲斐あったよ」

    苗木「いえ、こちらこそ、ありがとうございました……でも、えっと」

    苗木(最初は広瀬先輩しか見えていなかったんだけど……もう一人、テーブルに女子生徒が座っているのに気が付いてしまった)

    苗木「お邪魔……でしたか?」

    康一「え? あ……いや、そんな事ないよ。ねえ、由花子さん?」

    由花子「そうね……康一君の知り合いなら、私も別に何も言う事は無いわ」

    苗木(……由花子? これもどこかで聞いたような……)

    康一「それで、どうかしたの?」

    苗木「あ、そうでした。実は……」

    苗木(ボクはクラスメイトと一緒に探偵部を設立したこと、その依頼で野良犬の噂について調べている事を伝えた)

    康一「野良犬かあ……ウチも犬は飼ってるから、たしかに何とかしてやりたいな……」

    苗木「へえ、そうなんですか?」

    康一「うん。ポリスっていうんだけどね……でも今はその話はいいか。でも知ってる事はないかも……由花子さんは? 何か知らない?」

    由花子「……そういえば」

    由花子「見たかもしれないわ……野良かどうかは分からないけど。校内で犬を……」

    苗木「ほ、ホントですか!? どこで、どんな犬でした?」

    由花子「校内に教会があるのは知ってる? その周辺よ。小さな黒い犬だったと思うけど」

    苗木「そうですか……ありがとうございます!」

    苗木(幸先いいスタートだ!)
  303. 303 : : 2015/08/26(水) 00:26:04
    苗木(その後も暫く聞き込みをして、霧切さんと合流した結果……やはり教会周辺が怪しいとの事)

    霧切「あと得られた情報は……犬種はボストン・テリアらしい、って事くらいかしら」

    苗木「ぼ……ボストン・テリアかあ……」

    霧切「知らないのかしら?」

    苗木「いや……知ってるよ。凄く」

    霧切「何だか奇妙な言い回しだけれど……いいわ。それじゃあ教会の方へ行ってみましょうか」
  304. 304 : : 2015/08/26(水) 00:26:20
    #55
    ファインドドッグ その②
  305. 305 : : 2015/08/26(水) 00:26:46
    苗木(教会にやってきた)

    苗木「結構立派な教会だね……」

    霧切「そうね。たしか神父が一人、常駐しているらしいけれど……」

    ???「当教会に……何かご用かな?」

    苗木「あ……えっと……?」

    プッチ「ああ、失礼。わたしの名はプッチ。エンリコ・プッチという」

    プッチ「この教会の神父だよ。祈りに来たのか……それとも懺悔かな?」

    苗木「あ……いえ。実は……」

    苗木(プッチ神父にボクはボクらがここへやって来た理由を説明した)

    プッチ「ああ……なるほど。あの犬の事か。勿論知っているよ。わたしも見かけるとエサをやろうとするのだが、人間を警戒しているのか……受け取ってもらったためしがないね」

    霧切「警戒心が強い……ですか。放置しておくのは危険では?」

    プッチ「何、問題ないだろう。この学園はスタンド使いが集っているんだ……多少の事は対処できるだろう」

    苗木「あ……たしかに」

    霧切「なるほど。それではその犬が出現する時間帯などあれば……」

    苗木(霧切さんがプッチ神父に情報を求めようとしたその時)


    ガサッ
  306. 306 : : 2015/08/26(水) 00:27:06
    苗木(近くの草むらで、何かが動く音がした)

    プッチ「噂をすれば……という奴だ……来たようだね」

    苗木(そして……“それ”は姿を現した……)

    苗木「あ……あああッ!」

    霧切「思いの外早く見つかった……わね」

    苗木「……い」

    霧切「い?」

    苗木「イギーッ!」

    イギー「……いぎっ!?」
  307. 307 : : 2015/08/26(水) 00:27:26
    霧切「イギー……? 苗木君、この犬の事、知ってるの?」

    苗木「知ってるも何も……ボクの友達で……っていうか何でこんな所に!?」


    イギーは思った!

    イギー「犬のオレに訊いてんじゃあねーぜッ!」

    と! そして!

    イギー「つーかコイツ、苗木か!? オレの知ってる苗木より輝いて見えるぜ」

    とも思った!


    霧切「と……友達……とにかく、苗木君の知ってる犬なのね? だったら……」


    イギーは考える。

    イギー「そうだ……コイツが苗木なのかどうか、確かめる方法はあるッ! スタンドだ、スタンドを出させりゃあいいッ!」


    苗木(はッ! い、イギーのこの表情……まさかッ!)
  308. 308 : : 2015/08/26(水) 00:28:07
    苗木「霧切さん、プッチ神父さん! 気を付けて! “攻撃が来る”ッ!」

    霧切「こ……攻撃?」

    プッチ「少々大げさな表現じゃあないかね?」

    苗木「大げさなんかじゃ……くっ、来る!」


    ズザァァァァァ!


    イギー(愚者(ザ・フール)ッ!)

    霧切「な……ッ!」

    プッチ「何ィィィィィッ!?」

    苗木「イギーはスタンド使いなんだ! スタンド名はザ・フール! 砂のスタンドッ!」

    霧切「砂……?」


    イギーは思った!

    イギー「よそ見してんじゃあ……ねーぜッ!」


    苗木「そう……砂を変幻自在にってうわあッ!?」

    苗木(い……イギーの攻撃がボクに!? なんで!?)
  309. 309 : : 2015/08/26(水) 00:28:53
    苗木「く……くそッ! ヘイ・ヤー!」

    苗木(ヘイ・ヤーを出して応戦しようとする。けど……)

    苗木(あれ? ザ・フールが……)


    ヘイ・ヤーを見たイギーは思った。

    イギー「あのスタンド……間違いなく苗木か」


    苗木(な……なんだかよく分からないけど……)

    苗木「とにかく……大人しくなったみたいで良かった……」

    霧切「そ、そう……」

    苗木「あ、そうだ。改めて紹介するね。彼はイギー。ボクの数年来の友達だよ」

    プッチ「君……犬を友達って……」

    苗木「そ、そんなかわいそうな人を見る目はやめて下さいよ!?」

    苗木「と……とにかく。イギーはスタンドを使いはしますけど、悪い奴じゃあないんです。いい奴かって訊かれると……返答に困りますけど」

    イギー「ガウッ!」

    苗木「うわっ、ゴメンって……」

    霧切「……パワーバランスはイギーの方が上なのね」

    苗木「だ……だってザ・フールは強いんだよ。ホラ、前に言った事あったでしょ? “シンプルなスタンド程強い”ってのは身を持って知ってるってさ。それが……」

    霧切「イギーの事……というわけなのね」

    苗木「うん。そういう事。ただ気を付けて」

    霧切「何を?」

    苗木「イギーはヒトの顔面にへばりついて髪の毛をむしりながら……その。屁をするって癖があって……」

    霧切「何よそれ……よくそんなのと友達やってたわね」

    苗木「まあね……ボクの知る限り唯一のスタンド使いだったから……」

    霧切「ああ……。気持ちは、分かるわ」
  310. 310 : : 2015/08/26(水) 00:29:10
    苗木「それと……イギーの好物はこれ」

    苗木(言ってボクはポケットから、銀紙に包まれた“それ”を取り出した)

    イギー「……ワゥッ!」

    苗木(瞬間、イギーはにおいをかぎつけたのかそれを奪ってしがみだす)

    苗木「ああもう、銀紙くらい取って食べなよ……」

    霧切「何……あれ?」

    苗木「ん? ああ、コーヒー味のチューインガムだよ」

    プッチ「犬に食わせて問題ないのか……?」

    苗木「食べてるからには問題ないと思うけど。とにかくイギーはあれに目が無いんだ」

    霧切「扱いに慣れてるわね……」

    苗木「まあ、気のいい奴だからね。これで結構仲良しなんだよ?」

    霧切「そうなの……? なんだか下に見られているように見えたけれど」

    苗木「イギーは人間自体を下に見てるからね……」

    霧切「面倒そうな性格の犬ね……」

    プッチ「とにかく……知り合いだというなら話は早い。苗木君、だったか。君の方で彼を引き取ってもらえればわたしとしても助かるが……」

    苗木「んー、まあ寮は動物OKだし。分かりました、何とか連れて行ってみます」

    イギー「ワウ!」

    苗木(こうして……イギーはボクの部屋に居つくようになった)

    苗木(一応そういう依頼だったから大和田クンにも紹介したんだけど……目尻が下がってたよ……)


    イギー ―― 苗木の部屋に入居


    幽波紋ヶ峰学園 滞在者
    野良犬
    ≪イギー≫
    スタンド:ザ・フール(スターダストクルセイダースより、元本体名:イギー)
    【破壊力】B
    【スピード】C
    【射程距離】D
    【持続力】C
    【精密動作性】D
    【成長性】C
  311. 311 : : 2015/08/27(木) 01:58:16
    #56
    ハーミット・エンチャント
  312. 312 : : 2015/08/27(木) 01:58:30
    苗木(霧切さんと探偵部を始めて数日後の昼休み……)

    舞園「あの、苗木君。ちょっといいですか?」

    苗木「ん、舞園さん。どうかした?」

    舞園「少し、お願いしたい事がありまして……。放課後、少し時間いいですか?」

    苗木「それはいいけど。どうせなら部室においでよ。内容にもよるけど、依頼って事で請け負えるなら霧切さんもいた方が効率いいし」

    舞園「いえ、あまり多くの人に知られたくはない事なので……」

    苗木「なるほど……うん、分かった」

    舞園「ありがとうございます! じゃあ、お願いしますね」
  313. 313 : : 2015/08/27(木) 01:58:48
    苗木「――というわけで、少し部室に行くのは遅れるかも」

    苗木(放課後。ボクは昼休みの舞園さんとの会話を霧切さんに伝えていた)

    霧切「ふうん、分かったわ。さすがに無いと思うけれど、闇討ちとかには気を付けておきなさい」

    苗木「や、闇討ち!? いや、さすがにそんな事されるわけ……」

    霧切「ほぼ無いとは思うけれど、可能性はあるでしょう」

    苗木「な、なんで?」

    霧切「だって貴方、トーナメントで舞園さん倒してるじゃない」

    苗木「……あー」

    苗木(言われてみればたしかに……)

    苗木「まあ、一応気を付けてはおくよ。一応“装填”はしてあるし」

    霧切「そう。それならいいけれど」

    苗木(さて……行くか)
  314. 314 : : 2015/08/27(木) 01:59:33
    苗木(舞園さんに呼ばれてやって来たのは、トーナメント前に空条先生と死ぬほど特訓したトレーニングルームだった)

    苗木(……ホントに闇討ちとかされないよね?)

    苗木「えっと……お邪魔します?」

    舞園「あ、苗木君。来てくれたんですね」

    苗木「そりゃあ、呼ばれたからね……。それで、お願いって?」

    舞園「はい。それなんですけど……」

    苗木(死んでくださいとか言わないよな……)

    舞園「この間のライター、持ってます?」

    苗木「え? あ、うん。あるけど」

    舞園「それなら話は早いです」

    苗木(そう言って舞園さんはハーミットパープルを出し……ってホントに攻撃!?)

    舞園「あ、違います! 身構えないでください……」

    苗木「ど、どういう事?」

    舞園「お願いっていうのは……」

    舞園「この間の試合の時みたいに、もう一度、ハーミットパープルに火を付けて欲しいんです」

    苗木「……へ?」

    苗木(ど……どういう意味だろう?)

    舞園「正直に言いますね。実はあの時、ハーミットパープルが燃え上がっているにも関わらず、“私自身に一切ダメージが無かった”んです」

    苗木「え? でもそれは舞園さん自身が……」

    舞園「はい。たしかにダメージのフィードバックは少ないです。ですがそれは少ないだけであって、決して“皆無”ではないはずなんです」

    苗木「それは……つまり、どういう事?」

    舞園「それを確かめたくて、苗木君を呼んだんですよ。あの時の試合の詳細を知っているのは苗木君だけでしたから、苗木君が適任なんです」

    苗木「なるほどね……でも、ホントにいいの?」

    舞園「はい! お願いします!」

    苗木「分かった、そこまで言うなら……」

    苗木(舞園さんに歩み寄り、ボクはライターを懐から取り出して……ハーミットパープルに火を放った)
  315. 315 : : 2015/08/27(木) 01:59:57
    苗木「……たしかに、燃えるんだよね」

    舞園「はい。でも私にはダメージが無い……」

    苗木「よくよく考えれば、なんでスタンド体がただの火で燃えるのかっていうのも謎のままなんだよね」

    舞園「そうなんです。分からない事だらけで……」

    苗木「今までは似た様な事は起こらなかったの?」

    舞園「そうですね、特には……」

    舞園「……いえ。そういえば」

    苗木「何か……あったの!?」

    舞園「はい。その……ちょっと恥ずかしいんですけど」

    苗木(は、恥ずかしいような事って何だ……!?)

    舞園「以前、お料理をしている時に……その。横着してしまって。ハーミットパープルで冷蔵庫から食材を出したことがあるんですが」

    苗木(あ……ああ。そういう事か)

    舞園「食材を出した後……かすかに、ハーミットパープルに冷気がまとわりついてたんですよね。あれも現実の物理現象がハーミットパープルに影響を及ぼした例ではないでしょうか」

    苗木「ふむ、冷気が……」

    苗木(……ん? もしかして)

    苗木「ねえ、舞園さん。ちょっと思い当たる可能性が出てきたよ」

    舞園「ほ、本当ですか!?」

    苗木「うん。ただ……確証はないんだよね」

    舞園「一応、教えてもらえますか? そうすればあとで検証なりなんなり出来ますし」

    苗木「んー、それもそうか」

    苗木(一番手っ取り早いのは霧切さんのヘブンズ・ドアーで読む事だけど。さすがに頼りすぎるのもどうかと思うしね)

    苗木「ボクが思ったのは、舞園さんのハーミットパープル……“浴びたエネルギーを取り込んで、纏う事が出来る”……んじゃないかな。炎を纏ったり、冷気を纏ったりしてるわけだし。もしかしたら雷とか風とかも……」

    舞園「なるほど……可能性はありますね。ありがとうございます! 苗木君に相談して良かったです」

    苗木「いや、役に立てたなら良かったよ」

    舞園「また何かあればお願いするかもしれません。それじゃあ、また明日!」

    苗木「うん、また明日」

    苗木(そう言って、舞園さんは行ってしまった)

    苗木(……)

    苗木(ボクの予想、当たってたら舞園さん、かなり強化されるんじゃあ……?)


    ハーミットパープルの原作との相違点(拡大解釈?)
    原作:波紋を流す事が出来る
    本作:様々なエネルギーを流すことが出来る
  316. 316 : : 2015/08/28(金) 03:54:47
    #57
    誕生、ベイビィ・フェイス
  317. 317 : : 2015/08/28(金) 03:55:23
    苗木(舞園さんの一件が終わり部室に行くと、霧切さんだけでなく不二咲さんもいた)

    苗木「あれ? 不二咲さん……依頼?」

    不二咲「あ、苗木君……」

    霧切「無事みたいね。何よりだわ」

    苗木「えっと……話し中……だった?」

    不二咲「あ、ううん! これから話すところだったんだぁ」

    霧切「ナイスタイミングよ。さ、それじゃあ話してもらえるかしら? 貴女の依頼を……」

    不二咲「うん。えっと……実はぼ……じゃなかった。私のスタンドについての話なんだけど……」

    苗木(不二咲さん……たまにこうやって話が詰まる事があるんだよな。何か原因があるのかな?)

    霧切「貴女のスタンド……たしか、“ベイビィ・フェイス”だったかしら?」

    不二咲「うん。けど……実は、このスタンドを発現させるためには、二人分の人間の“遺伝子情報”が必要なんだぁ……」

    苗木「……遺伝子情報?」

    不二咲「うん。その遺伝子情報を組み合わせてスタンドを作って……それに学習させることでどんどん強化する事が出来るんだぁ」

    苗木「学習……かなり便利そうなスタンドだね」

    不二咲「そう……なんだけど。この“二人分の遺伝子情報”っていうのが曲者でね。私の遺伝子情報は使えないんだ……」

    霧切「へえ……けど、そこまで把握しているという事は、何度か使ったことはあるという事よね?」

    不二咲「ううん……そういう訳でもないんだ……」

    苗木「どういう事?」

    不二咲「えっとねぇ……ひとまず、これを見てくれるかなぁ?」

    苗木(言って、不二咲さんはノートパソコンを取り出した)

    苗木(……ん?)

    苗木「え!? ど、どこからノートパソコンなんて……!?」

    霧切「それ……もしかして、スタンド……?」

    苗木「え……?」

    不二咲「うん、そうなんだぁ。これが私のスタンド、ベイビィ・フェイス……の、準備段階ってところだよ。卵みたいなものだと思って欲しいかな」

    苗木「卵……」
  318. 318 : : 2015/08/28(金) 03:56:07
    不二咲「“これ”が発現して……使い方は分かるんだけど、使った事がない。そういう段階なんだ」

    霧切「なるほどね」

    苗木(毎回思うけど……幽波紋ヶ峰学園、よくこんな人材見つけて来るよね)

    不二咲「それで、その……私からの依頼っていうのは……もし、良かったらなんだけど」

    不二咲「苗木君と霧切さん、二人の遺伝子情報を貰えない……かな?」

    苗木「えっと……」

    苗木(ボクとしては別にいいんだけど。霧切さんはどうだろう?)

    霧切「……まずは、提供する事によるメリットとデメリットを教えて欲しいわね」

    苗木「そ、それもそうだね」

    不二咲「メリットとデメリットかぁ。うーん……ゴメン、実はそれもイマイチ分かってないんだ。たぶんどっちも“なし”だと思うけど」

    霧切「……そう。要するに、純然たる実験に付き合って欲しい、と。そういう訳ね」

    不二咲「そういう事に……なるねぇ」

    霧切「いいわ。付き合ってあげる。苗木君はどうかしら?」

    不二咲「え!?」

    苗木「ボクは別に、最初から断るつもりはないけど」

    不二咲「い、いいの?」

    苗木「そりゃあ、断る理由だって別にないし」

    霧切「それで? 遺伝子情報だったわね。具体的にはどうすればいいのかしら」

    不二咲「あ……髪の毛一本でも貰えれば……」

    苗木(不二咲さんの言葉に、ボクと霧切さんは一本、髪を抜いて不二咲さんに渡した)

    不二咲「あ……ありがとう! それじゃあさっそく、試してみるね……!」

    苗木(そう言って不二咲さんは、ノートパソコン――スタンド体らしい?――でボクら二人の髪の毛を何やら処理し始めた)
  319. 319 : : 2015/08/28(金) 03:56:38
    ???『……んあ』

    苗木(しばらく作業に熱中していた不二咲さんを二人で眺めているだけという静寂の空間を破ったのは、ノートパソコンから響いた声だった)

    霧切「今の声は?」

    不二咲「や……やったよ! 成功だ!」

    苗木「という事は……その、出来た……っていうのも奇妙な話だけど、不二咲さんの“スタンド”が……?」

    不二咲「うん! ……スリープ中みたいだけど」

    苗木「す、スリープ?」

    不二咲「うん……」

    霧切「それは……その。パソコンのスリープモードとかそういう……?」

    不二咲「ううん……文字通り、寝てる……」

    苗木「……」

    霧切「……」

    不二咲「と、とにかく、二人のおかげだよぉ!」

    ???『……ハッ! 寝てた……かもしれない』

    不二咲「かもしれないっていうか……寝てたよね……」

    苗木「らしいね……」

    霧切「一応、見せてもらえるかしら?」

    不二咲「あ、うん」

    苗木(頷いて、不二咲さんはボクらの方にPCのモニタを向ける)

    ???『あ、ちわーす』

    苗木「あ、うん……どうも……」

    霧切「初めまして……でいいのかしら?」

    苗木(モニタに映っていたのは、一人の少女だった)

    ベイビィ・フェイス『そうだね、初めましてかも。私は……ベイビィ・フェイス。お父さんのスタンドだよ』

    苗木「お、お父さん?」

    不二咲「……! わわ!?」

    霧切「不二咲さん?」

    不二咲「な、ななな、なんでもないよ! 何でもないから……!」

    苗木「う、うん……」
  320. 320 : : 2015/08/28(金) 03:57:01
    ベイビィ・フェイス『何か変な事言っちゃったかな……まあいいや。えっとね、それで、一応私はタイプワン……って事になるのかな』

    霧切「初めてスタンドを使った、と本人が言っていたし、そういう事になるんじゃあないかしら?」

    ベイビィ・フェイス『だよね。でもそれって何か味気ないし……私は二人の遺伝子情報から作られたんだよね?』

    苗木「そうだね」

    霧切「確かに、提供者は私達よ」

    ベイビィ・フェイス『だったらさ、私に付けてくれないかな? 私固有の名称……名前をさ』

    苗木「え……」

    霧切「それは構わないけれど……不二咲さんはいいの? 私達が付けても」

    不二咲「う、うん。いいよ! 私としても助かるかなぁ……!」

    霧切「そういう事なら……」

    苗木(そうしてしばらく、ああでもないこうでもないと名前を相談していった結果……)

    霧切「……結局、これが良さそうね」

    苗木「うん。……“七海千秋”。これがキミの名前だ」

    ベイビィ・フェイス(以下:七海)『七海千秋……うん、とってもいい名前だと思うよ。ありがとね?』

    苗木「いやいや、どういたしまして」

    霧切「ところで……七海さん、は。どういう事が出来るスタンドなのかしら?」

    七海『んー……言ってもいいの?』

    不二咲「私からもお願いしたいかな……自分自身、よく分かってないから」

    七海『うん、分かった。それじゃあ……よいしょ』

    苗木(言って、七海さんはモニタから這い出てきて……)

    苗木「って、えええええええ!? 出て来れるの!?」

    七海『そりゃ、だってスタンドだもん』

    霧切「なんというか……まあ、いいけれど」

    七海『というわけで、こんな具合にPCの中と外で活動できたり。PCからはネットワークにも入れる……と、思うよ』

    霧切「つまり……戦闘というよりは、情報収集に向いている……という事かしら」

    七海『うん、そうだねあとはナビゲートとかが主な能力になるんじゃあないかな』

    不二咲「なるほど……あとは学習次第って感じかな?」

    七海『うん、そうだね』

    不二咲「分かったよ。それじゃあしばらく休んでてね……」

    七海『はーい』

    苗木(そう言って不二咲さんは、スタンドのヴィジョンを引っ込めた)

    霧切「ともあれ……これで貴方もいっぱしのスタンド使いになれた、という訳ね」

    不二咲「うん! ホントにありがとう……! ここからは私が自分でいろいろ試して行ってみるよ!」

    苗木「分かった。けど、また何かあったらいつでも言ってね。力になれる事があれば手伝うよ」

    不二咲「ありがとう! それじゃあね……!」

    苗木(言って、笑顔を残し……不二咲さんは部室から去って行った)

    霧切「ふう……結構大きな収穫だったわね」

    苗木「え? 何が?」

    霧切「ベイビィ・フェイスよ。今まで謎のスタンドだったでしょう? その情報を得られたのは大きいわ」

    苗木「あ、ああ……たしかにそうだね」

    苗木(そんな事……まるで考えてなかった……)
  321. 321 : : 2015/08/28(金) 03:57:13
    ベイビィ・フェイスの原作との相違点
    ≪一≫
    原作:相性の悪い者同士だとより強力なスタンドが生まれる
    本作:別にそんな縛りは設けない

    ≪二≫
    原作:遺伝子の元となった人を母体として生まれる?(この辺実はよく分かってないです)
    本作:PC(スタンドの一部)上にAIとして生成、PCと現実を行ったり来たり出来る

    ≪三≫
    原作:外見が割とスタンドしてる
    本作:外見が七海千秋

    ……等々。最も原作との相違点を持ったスタンドとして扱っています。ぶっちゃけ七海を出す手段としてこれしか思いつかなかったとも。
  322. 322 : : 2015/09/05(土) 17:18:13
    #58
    洋館サバイバル その①
  323. 323 : : 2015/09/05(土) 17:18:43
    苗木(スタンド開発)

    苗木(幽波紋ヶ峰学園には、国語や数学に混じって、そんな名前の授業がある)

    苗木(勿論、この学園に入学してからこれまでも普通に受けてきたものだ。この授業は担任がやるらしく、空条先生が受け持っている。ちなみに空条先生自身の担当科目は生物という意外なもの。むしろ体育じゃなかったことに最初は驚いた)

    苗木(その内容は、スタンドという概念などについての講義の時もあれば、模擬戦という名のスタンドバトルによる実技の時もあり……実技の際は、クラスメイト数人とのタイマン――基本的に、あまり戦った事のない相手と戦う事になるよう、セッティングされている――でやり合う事になっていた)

    苗木(ボクはどちらかといえばこのスタンド開発の実技の授業はあまり好きではなく……)

    苗木(次の授業がそんなスタンド開発の実技だという事実に、重いため息を吐いた)

    大和田「――しっかしよ。いつも実技の時はトレーニングルームに集合だったよな? なんで今日は教室で一度待機なんだ?」

    石丸「空条先生にも考えがあるのだろう。授業のカリキュラムに生徒が口出しをするのはあまりよろしくないぞ、大和田君!」

    大和田「うっせえ! なんだ、その……仮……きゅうり……? ってのは!」

    山田「いえ……こちらが訊きたいのですが……仮のきゅうりって何?」

    苗木(教室で待機。事前に今日は実技だと聞いていたけど、この言葉が講義に変更、という意味だったらどんなに楽だろうと思ってしまう)

    承太郎「揃ってるな……」

    苗木(と、しばらく席について待っていると、空条先生がやって来た)

    承太郎「今日は実技をやるわけだが……」

    苗木(ああ、やっぱり実技か)

    承太郎「今日やるのはいつものタイマンじゃあねえ」

    桑田「そりゃ……どういう意味だ……?」
  324. 324 : : 2015/09/05(土) 17:19:41
    承太郎「そのままの意味だ……タイマンでないという事はチーム戦、って事意外にねえだろ?」

    大和田「ち……チーム戦だとォ!?」

    承太郎「ああ。これからお前らには四人ずつ四チームに分かれてもらう。チーム分けは好きにしな……」

    承太郎「チーム分けが終わったらお前らをある場所へ連れて行く。詳しい説明はそこでやるぜ」

    承太郎「というわけでだ。ひとまずはチームを作れ……」

    苗木(それきり、空条先生は口を閉じてしまった)

    苗木「えっと……ひとまず、霧切さん。一緒に行く?」

    霧切「そうね。勿論構わないわ」

    苗木「良かった。じゃああと二人だけど……」

    不二咲「あ、苗木君、霧切さん。その……良かったら……私も入れてもらえないかな?」

    苗木「あ、不二咲さん」

    霧切「そうね。不二咲さんは私達と組んだ方がいいでしょう」

    苗木「じゃあこれで三人決まったね」

    不二咲「あ、ありがとう!」

    霧切「あと一人ね……」

    舞園「なら、その一枠に入れてもらってもいいでしょうか?」

    霧切「舞園さん?」

    苗木「あ……そういう事か。うん、ボクはいいよ」

    不二咲「私も別にいいけど……霧切さんは?」

    霧切「私も問題ないわ」

    舞園「それじゃあ、この面子で決定ですね!」

    霧切「それにしても、見事に攻撃能力の薄い面子が集まったわね……少し不安だけれど」

    舞園「不二咲さんのスタンドは分からないので何とも言えないですけど……任せてください! これでもそれなりのアタッカーにもなれるように訓練したんですよ?」

    霧切「へえ? それは頼もしいわね」

    苗木(あれからモノにした……って事か)
  325. 325 : : 2015/09/05(土) 17:20:45
    苗木(そして……四チームが全て確定した。チームは以下の通りだ)


    ≪霧切チーム≫
    【リーダー】
    霧切響子
    【メンバー】
    苗木誠
    不二咲千尋
    舞園さやか

    ≪十神チーム≫
    【リーダー】
    十神白夜
    【メンバー】
    葉隠康比呂
    腐川冬子
    セレスティア・ルーデンベルク

    ≪大和田チーム≫
    【リーダー】
    大和田紋土
    【メンバー】
    朝日奈葵
    石丸清多夏
    大神さくら

    ≪桑田チーム≫
    【リーダー】
    桑田怜恩
    【メンバー】
    戦刃むくろ
    江ノ島盾子
    山田一二三


    苗木(チームが決まった時、それぞれ一人リーダーを立てろ、と空条先生が指示を出した。その結果が上記って感じだね)

    空条「さ……それじゃあ行くぜ。ついて来な」

    苗木(ボクらはそう言って背を向ける空条先生の後を追った)
  326. 326 : : 2015/09/07(月) 20:19:07
    #59
    洋館サバイバル その②
  327. 327 : : 2015/09/07(月) 20:19:43
    葉隠「学園にこんな場所あったんか?」

    セレス「うふふ……なかなかいい雰囲気ですわね」

    ジェノサイダー「今にも惨劇が起きそう、ってカンジ! ゲラゲラゲラ!」

    桑田「うお! いつの間にジェノサイダーになってんだ!?」

    苗木(空条先生に連れられやって来たのは、校内の森――なんであるのか分からないけど、実際あるんだから仕方ない――の奥に建てられた洋館だった)

    承太郎「あとで見せるが……この洋館は東西南北にそれぞれ入り口がある。それぞれチームごとに別々の入り口から入る事。全チームが館に入った事を確認したらアナウンスを流す。アナウンスの後、戦闘開始だ」

    十神「なるほどな。それで、勝利条件の確認をしておこうか」

    承太郎「勝利条件はそうだな、時間いっぱい、チームの中の誰か一人でも再起不能にならずに立っていればそのチームは勝利とする。勝利チームが複数出る事もあり得る、って事だな……」

    大和田「なるほどな」

    承太郎「館内にある物は好きに使え。罠を仕掛けたりギミックを利用したり、好きにする事だな……。それと、各チームごとに敵同士ではあるが、一時的に手を結んで他のチームと戦う、といった戦略はアリだ。勿論手を結ぶふりをして裏切るってのも自由だぜ。ただし遺恨は残らねえよう気を付けな」

    苗木(なんか……殺伐としてない?)

    承太郎「それじゃあさっき言ってた東西南北の入り口を案内するぜ……」

    苗木(言って、ボクらは空条先生に連れられてそれぞれの入り口を確認しに行った。見た感じ、違いはなさそうだ。それから空条先生はクジを取りだし、リーダーに引きに来るよう伝え……霧切さんは“東”を引き当てた。どうやらどの入り口から入るかを決めるものだったらしい)

    霧切「東側の入り口ね。じゃあ行きましょうか」

    苗木「そうだね」

    舞園「全てのチームが入ったらアナウンスをする、という事でしたよね?」

    不二咲「うん。監視カメラか何かで私達の動きは把握されてるとも考えた方がいいかもねぇ」

    霧切「さて、それじゃあ入りましょうか。一応、入った瞬間から気を張っておく事をお勧めするわ」

    苗木(霧切さんのその言葉を合図にして、ボクら四人はその洋館に入った)
  328. 328 : : 2015/09/07(月) 20:20:07
    舞園「結構本格的ですね……」

    霧切「そうね。だけどこれなら空条先生が言っていた意味も分かるわ」

    苗木「たしかに……」

    苗木(洋館の内部は、内装もしっかり作られていて……花瓶やら絵画やらも揃っていた)

    不二咲「部屋数も多そうだし、それぞれの部屋にもいろいろありそうだねぇ」

    霧切「空条先生は“ギミック”という言葉も出していたわ。物はただあるだけじゃないかもしれないわね」

    苗木「うん、隠し部屋とかもあるかもしれないね」

    舞園「上手くすれば、そこで隠れ続けて時間いっぱいやり過ごす、という事も可能かもしれないって事ですよね」

    苗木「そういう事になるね……」

    承太郎『聞こえるな? 全員館に入った……これよりチーム戦を開始する。それぞれ自由に館内部を探索し、戦う事。連携の確認も忘れるなよ……』

    霧切「……今のでアナウンスは終了みたいね」

    舞園「空条先生らしいといえばらしいですけど」

    不二咲「それより……連携の確認、って……」

    霧切「……それをするためにはまず、明かした方がいい、と自分が判断するところまでの自身のスタンド能力をそれぞれ明かしておくべきじゃあないかしら? でないと、連携も何もないわよ」

    舞園「そう言う霧切さんは何か明かすべき事が?」

    霧切「別にないわ。だって知ってるでしょう? トーナメント戦での私の戦い方」

    舞園「ああ……結局アレもタネは分かりませんでしたが」

    霧切「苗木君はどうするかしら?」

    不二咲「そういえば、スタンドの姿が変わってたよね!」

    舞園「アレってなんだったんですか?」

    苗木「えっ? う、うーん……一応秘密……って事で」

    霧切「まあ、賢明な判断でしょうね。いずれまた敵同士になる可能性が高いわけだし」

    不二咲「え、そ、そうなのぉ……?」

    苗木「第七十八期生スタンドバトルトーナメントは今後も定期的に開催されて順位は変動するからね。そこで当たる可能性はあるって事だよ」

    舞園「そういう事ですか……」
  329. 329 : : 2015/09/07(月) 20:20:24
    苗木「と言っても、わざわざ手の内を明かしたりはしないけど、みんなの強化は勿論手伝わせてもらうよ」

    不二咲「そっか……うん、その時はお願いするね」

    舞園「それじゃあ……残るは私達の能力について、ですか」

    霧切「ええ。私達からしてこうなのだから、無理強いはしないわ。話せる範囲でいいし。……不二咲さんはどうかしら。舞園さんに言える?」

    舞園「え? どうして私なんですか?」

    苗木「あ、あー……」

    不二咲「……ううん、いいよ。言うね。実は私のスタンドの発現のために、一度探偵部を頼ったんだぁ。だから私の今のスタンドの事は苗木君と霧切さんは知ってるんだよねぇ」

    舞園「なるほど、それで不二咲さんはこのチームに……」

    不二咲「うん。……出ておいで、千秋ちゃん」

    七海『ちわーす』

    舞園「え!? だ、だだ誰ですか!?」

    霧切「彼女が不二咲さんのスタンド……ベイビィ・フェイスの七海千秋よ」

    苗木(それから不二咲さんは、一通り七海さんに出来る事を舞園さんに伝えた)

    舞園「なるほど、この状況だとナビゲートの能力が活きそうですね」

    七海『舞園さんのハーミットパープルは念写が出来るんだよね? それも十分使えそうだけど』

    舞園「ああ……でも、精度は良くないんです。思い描いたものの周辺を写し取る事は出来ても、思い描いたものそのものを写し取る事は出来ないというか……」

    苗木「と言うと?」

    舞園「たとえば、とある街にいる知り合いの姿を念写しようとしたら、同じ街に潜んでいる殺人犯が映し出されてしまったり……といった感じですかね」

    霧切「それはまた……強烈ね」

    七海『うん、事情は分かったよ。じゃあ私はナビゲートに務める、でいいかな?』

    霧切「ええ、お願いするわ。それで……最後は舞園さんだけれど。アタッカーも出来る、と言っていたわね。あれはどういう……?」

    舞園「はい。ライターと団扇、それと冷却スプレーを購買部で購入してきました」

    霧切「まさかそれで攻撃……なんて言わないわよね?」

    舞園「まさか。炎や冷気といったものをハーミットパープルは一時的に取り込めるみたいなんです。実験してみたところ、団扇の風でも面白い現象が起こったんですよ」

    霧切「ふうん……じゃあ、披露の時を楽しみにしておくわ」

    舞園「はい」
  330. 330 : : 2015/09/07(月) 20:20:38
    霧切「さて、これからどう動くかを決めないといけないわね」

    不二咲「じゃあ……千秋ちゃん、お願い」

    七海『任せて、おと……チヒロ』

    苗木(何だ、今の間……?)

    舞園「七海さん、何か出来るんですか?」

    不二咲「ネットワークを探って、この洋館の見取り図を検索してもらってるんだ」

    霧切「あればいいけれど……」

    七海『うーん、ゴメン。見つからなかったよ。ネット管理はしてないみたいだね』

    不二咲「そっかぁ……ゴメンね、みんな」

    苗木「いや、こればかりは仕方ないよ。それじゃあとりあえず、この洋館の中を探索かな?」

    舞園「そうですね。どこに何があるのか、どこを拠点にするのか……何をするにもまずは探索から、ですし」

    霧切「それじゃあ……手近な部屋から少しずつ、探索していきましょうか」
  331. 331 : : 2015/09/07(月) 20:20:47
    #60
    東西通路の激突 その①
  332. 332 : : 2015/09/07(月) 20:21:07
    苗木(数部屋を確認し、ボクらは使えそうなものを適当に持ち出したり、何か仕掛けがないかを調べたりしていた)

    苗木(仕掛けの類は一つも見つからなかったけど、回収出来たものはいくつかある)

    苗木(そんなこんなで、誰かと会う事も無く適当にうろついていたんだけど……)

    霧切「……止まって」

    苗木「え?」

    舞園「何かありましたか?」

    霧切「ここから長い通路が伸びているわ……」

    不二咲「そうみたいだねぇ。誰かの待ち伏せとかも無さそうに見えるけど」

    霧切「それは……隠し通路のようなものが存在しない場合の話よ」

    舞園「あ……ッ!」

    苗木「この屋敷はそういった類のものは用意されている可能性が高い……となると、こんな何も無さげな通路こそ怪しい……?」

    霧切「ええ。私達は探索を入念にやって来たわ。探索をサラッと流して私達より先にこの通路に辿り着いたチームが、ここでそういった通路を発見していた場合は……」

    苗木「……不意を打とうと待ち伏せしてる可能性がある、か」

    舞園「念のため、警戒して進みましょう」

    霧切「そうね」

    不二咲「行かない、って選択肢はないもんねえ……」

    霧切「それじゃあ、私は後ろを警戒するわ。舞園さんは前、苗木君は通路右側、不二咲さんは普通路左側を警戒して進むわよ」

    苗木「了解」

    舞園「分かりました」

    不二咲「う、うん……!」

    苗木(霧切さんの指示に従い、警戒して歩く。だけど……)

    ???「そこだァッ!」

    苗木「ええッ!?」

    苗木(ボクらは……不意を打たれてしまった)
  333. 333 : : 2015/09/07(月) 20:21:25
    ――話は遡り、屋敷に各チームが入り終え、承太郎のアナウンスが終わった直後の場面となる。

    桑田「にしても、暗いな……」

    桑田はあまり真面目にやるつもりはなかった。リーダーになったのは、リーダーという立場がカッコいいからというだけであって、それは意欲とは直結しない。

    山田「それでは……これからどうしましょう? 桑田怜恩殿」

    桑田「オレに訊くなっての……」

    真面目に考える事を最初から放棄している桑田は、やはり真面目に答えるつもりはなく……しかし。

    江ノ島「うぷぷ……実はさあ。面白い情報を知ってるんだよね」

    桑田「面白い情報? なにさ?」

    江ノ島「実はさ……」

    江ノ島「どジャアアァァァアアアアン」

    戦刃「それは……地図?」

    江ノ島「そうそう。実はちょっと“隣”から拝借してきたんだよね」

    桑田「隣?」

    江ノ島「どーだっていいだろ、そんなのはよ!」

    江ノ島「重要なのは……これが“どこの地図なのか”……。そうではありませんか?」

    山田「では……一体どこの地図なので?」

    江ノ島「決まってんだろ! この屋敷の見取り図だよ!」

    桑田「……マジ?」

    江ノ島「マジだっての。これにはしっかり、隠し通路とか隠し部屋の場所まで描かれてんだよねー」

    山田「という事は……」

    江ノ島「そ。好きなところで待ち伏せし放題」
  334. 334 : : 2015/09/07(月) 20:21:45
    桑田「こんなもん、マジでどっから手に入れて来たんだ?」

    江ノ島「貴重なものだからね……普通に手に入れる事はまず無理だ、とだけ言わせてもらうよ」

    桑田「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ」

    桑田「普通、生徒には利用できないものを使おうってのか?」

    桑田「それって“違反”って事だろうッ!?」

    江ノ島「盗って来たのは私だよ。使うも使わないもキミの自由でいい」

    桑田「ナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナア」

    桑田「使うも使わないも自由って……オレは健全な野球少年としてこれでも甲子園に出てる人間だぜ……社会的に少しは有名なんだ」

    桑田「しかも! この見取り図には設計から完成まで五年かかったと書いてある! 自分の手でギミックを探して欲しいと願った建築家たちのご苦労は想像できない!」

    江ノ島「“反則”をします」

    桑田「だから気に入った」
  335. 335 : : 2015/09/07(月) 20:22:00
    江ノ島「良し(ベネ)。そう言うと思ったぞ、人間よ」

    桑田「単にメンドクセー事考えんのが嫌なだけだ。それより問題は……」

    桑田「どの地点で待ち伏せするか……だ!」

    戦刃「一番手近なのは……ここ」

    山田「東西通路、ですか」

    江ノ島「私達が入って来たのが西側の入り口。東側の入り口から入ったのはたしか……“霧切チーム”」

    桑田「霧切チーム……だと?」

    山田「どうしますかな?」

    桑田「……」

    桑田「行くぞ。そこで待ち伏せだ」
  336. 336 : : 2015/09/07(月) 20:22:15
    苗木(ゆ……油断した)

    苗木(まさか……)

    舞園「“天井から来るなんて”ッ!」

    苗木(前後左右に警戒を向けていたボクらは天井裏に潜む桑田クン達に気付くことが出来なかった!)

    苗木(結果的に、ボクは桑田クンに殴り倒された。意識が飛ぶほどじゃなかったのは幸いだ)

    桑田「今度こそ決着付けさせてもらうぜ……霧切ィッ!」

    霧切「決着ならもう既に付いた筈よね? 貴方は負けた。それだけよ」

    桑田「うるせェッ! オレはまだ納得してねーんだ! 言ったはずだぜ、納得は全てに優先する、ってな!」

    霧切「まったく……面倒な性格ね」
  337. 337 : : 2016/10/08(土) 22:43:59
    久々に更新していきます!
  338. 338 : : 2016/10/08(土) 22:44:17
    #61
    東西通路の激突 その②
  339. 339 : : 2016/10/08(土) 22:45:10
    苗木「さて……」

    苗木(桑田クンが出て来たという事は、他のチームメンバーもこの近辺にいるはずだ。油断は出来ない)

    舞園「……ッ! ハーミットパープル!」

    苗木(突然、虚空に向かって舞園さんが炎を纏ったハーミットパープルを伸ばした。すると……無数の、何か小さなものが燃え上がる!)

    苗木(舌打ちのようなものが聞こえたけど……それが何者によるものかはわからない)

    桑田「そもそも! マグレで勝ち上がったような奴らと、そもそも戦ってもいねえ奴! そんな連中にオレが負けるハズねえんだ!」

    霧切「マグレ……ね。そう思いたいのは自由だけれど、その考えから抜け出せないようじゃあ私達には勝てないわよ」

    桑田「ハン! そいつはどうだかな……。オレだってあれから少しは反省したんだぜ。霧切の自己紹介ん時のスタンド能力の説明、“相手の人となりを知る”。そいつを鵜呑みにしちまったのがオレの敗因だ。だからよ……」

    苗木「う、うわッ!?」

    苗木(眩しい……ッ! 急に光が!?)

    桑田「反省するとオレは強いぜッ! 今回は小細工抜きだ!」

    不二咲「雷の光……!」

    霧切「それ、は……」

    桑田「へ、コイツがオレの……レッド・ホット・チリ・ペッパー、その本体だ!」

    チリペッパー『オレ本体が出ると闇討ちにゃあ向かねえが、この方が……出力は上がるんだぜぇッ!』

    苗木「わわ!?」

    苗木(ボ……ボクの後ろにあったツボが破裂したんだけど!?)
  340. 340 : : 2016/10/08(土) 22:45:33
    桑田「さあ、霧切! オレと勝負しやがれ!」

    霧切「ふう……勝手ね」

    桑田「……なんだと?」

    霧切「聞いていなかったのかしら。これはチーム戦よ」

    桑田「だから何だってんだ?」

    霧切「つまり……もう始まっている、そういう事よ」

    桑田「は? そりゃ一体どういう事……」

    霧切「舞園さん!」

    舞園「はい、チャージ完了しました! ハーミットパープル!」

    桑田「だァァァァァアッ!?」

    苗木(瞬間、舞園さんのハーミットパープルが桑田クンに巻き付いた! でもたしかに、トゲのついたイバラ状のスタンドだから、痛いといえば痛いけど、それにしたって大袈裟な叫びな気が……)

    桑田「こ……これ、は……」

    霧切「私にばかり気を取られていたら、こういう事になるわよ?」

    桑田「チ、チクショウ……」

    舞園「ふふ、相性のいいスタンドみたいで助かりました」

    苗木(相性のいい……?)

    苗木「あ! そういう事か!」

    苗木(ハーミットパープルは炎や冷気なんかのいろんなエネルギーを流す事が出来る……つまり、レッド・ホット・チリ・ペッパーの電気のエネルギーもハーミットパープルは取り込むことが出来る……そういう事みたいだ!)

    桑田「クソ! 痺れて……何しやがった!? ただのイバラじゃなかったのかよ……!?」

    舞園「種明かしなんて、してあげません……ッ! このまま絞め落とします!」

    桑田「う……お……」

    苗木「す、スゴい……」

    苗木(これ、ボクと戦った時より、スタンドパワーが上がってるんじゃない?)

    桑田「おおおおおおおおッ! レッド・ホット・チリ・ペッパァァァァァ!」

    チリペッパー『おおおッ!』

    苗木「う、うわッ! また……!」

    苗木(眩しい……! けど、電気なら幾ら流したって、ハーミットパープルは取り込むはず!)

    舞園「……くぅっ!?」

    苗木「……えっ!?」

    苗木(そ……そんな、バカな! 舞園さんのハーミットパープルが……破裂した!?)

    桑田「何したか知らねえが、甘いんだよ! オレがそう簡単に落ちるかっての!」

    舞園「う……」

    苗木「ま、舞園さん! 大丈夫!?」

    舞園「ええ……私は大丈夫です。前にも言いましたが、私のスタンドは本体へのダメージのフィードバックは少ないので……」

    桑田「ちっ、めんどくせえな……こうなりゃ一気にカタ付けてやるぜ!」

    苗木(言って、桑田クンは大きく跳躍し……)

    苗木「…………」

    舞園「…………」

    霧切「…………」

    不二咲「…………」

    苗木「え、どこ行ったの?」

    舞園「さっき桑田君が出て来た天井裏に戻って行ったようですが……」

    霧切「おそらく……ここからは他の仲間の攻撃も来るでしょうね」

    不二咲「さっき、反省すると強い、って言ってたもんねぇ……油断せずに他のチームの仲間を頼って攻撃してくる、っていうのは十分考えられるよ……!」

    苗木(どこから……どこから攻撃が来るんだ……?)
  341. 341 : : 2016/10/08(土) 22:45:50
    #62
    東西通路の激突 その③
  342. 342 : : 2016/10/08(土) 22:46:41
    苗木(しばし、重い沈黙が流れる)

    霧切「……念のため確認するわ」

    舞園「なんでしょう……?」

    霧切「何があるか、は訊かないでおくわ。けど、“装填はしている”わね?」

    苗木「……! うん。もちろんだよ」

    ヘイ・ヤー『マカセトキナッ』

    舞園「そうてん……?」

    不二咲「トーナメント戦でのヘイ・ヤーの変身と関係があるのぉ?」

    苗木「ん……そんな感じ」

    霧切「いざという時はしっかり頼むわ。アレは……ある種、切り札だから」

    苗木「あ、はは……過大評価だよ……」

    霧切「そうかしら? 十神君に一泡吹かせたのは事実よ?」

    苗木「もう一度同じ事が出来るかって言われると、難しいと思うけどね」

    不二咲「……! 下がって、みんな!」

    苗木「えっ?」

    苗木(不二咲さんの言葉にとっさに従い、後ろに下がるボク達……瞬間!)

    タタタタタッ!

    舞園「この音、さっきも……」

    苗木「え?」

    苗木(そういえば、さっき舞園さんが“何か”を燃やしてたっけ。ボクは気が付かなかったけど、この音を聞いていたのか)

    霧切「これは……床に小さな穴が複数出来ているわ」

    苗木「何か、小さなものをたくさん飛ばして来たって事かな?」

    不二咲「けど……いったいどんな攻撃をするとこんな事になるのかなぁ……?」

    霧切「それは分からないわ。けど桑田君の攻撃でない事は確かでしょうね」

    不二咲「という事は……戦刃さんか、山田君か、江ノ島さんの誰かの攻撃……って事ぉ?」

    霧切「現状、その可能性が高いわね。尤も、別のチームとかちあってしまったという可能性もゼロではないから確証はないけれど」

    苗木「けど、トーナメントの時にこんな攻撃方法を取った人なんて……」
  343. 343 : : 2016/10/08(土) 22:47:05
    不二咲「可能性が高いのは……戦刃さんじゃないかなぁ?」

    苗木「戦刃さん?」

    舞園「たしかに、観客席からでは攻めているのは分かっても、どんな攻撃かまでは分かりませんでした。この極小サイズの攻撃があの場で行われていたのだとするとその点は合点がいきますね」

    苗木「なるほど……」

    霧切「それより、不二咲さん。さっきの攻撃、どうやって予兆を感じ取ったのかしら? 銃撃の前に回避行動が取れたのは不二咲さんのおかげだけれど……」

    不二咲「ああ、それは千秋ちゃんのおかげだよ。直接戦闘には貢献できないから、こうやってサポートくらいしか出来なくて……ごめんね……」

    苗木「そんなことないよ。さっきは助かった……」

    舞園「あ!」

    苗木「って、ど、どうしたの!?」

    舞園「あれ、見てください!」

    苗木「あれは……! …………あれは、何?」

    苗木(ちっちゃいロボがこっちを見てるんだけど……)

    「むむ……ジャスティスマシンガンはかわされましたか……」

    苗木「じゃ、じゃすてぃす……? いや、それよりこの声は……」

    山田「拙者ですな!」

    苗木「うわあ!?」

    苗木(天井裏から山田君が顔だけ出して来た……)

    舞園「山田君……!?」

    不二咲「それじゃあ今の攻撃は山田君が……?」

    山田「グフフ……ジャスティスロボの神髄はここからですぞ! いっけえええええ! ジャスティスミサイルゥウウウウウ!」

    苗木「み、ミサイルゥ!?」

    山田「あーんど! ジャスティスロケットパァァァァンチ!」

    苗木「ええええええ!?」

    苗木(ミサイルとロケットパンチが飛んできた!?)

    舞園「ハーミットパープル!」

    苗木「あ……舞園さん……」

    舞園「なんとか……止められましたね」

    苗木「あ、ありがと……」

    苗木(ミサイルとロケットパンチにハーミットパープルを巻き付け、なんとか食い止めてくれたみたいだ……)

    山田「ぐぬぬ……防がれてしまいましたな……それではこれにて失敬!」

    苗木「え!?」

    苗木(帰って行っちゃった……)

    舞園「な、なんだったんでしょうね……?」
  344. 344 : : 2016/10/08(土) 22:47:22
    #63
    極悪中隊の計略 その①
  345. 345 : : 2016/10/08(土) 22:47:44
    霧切「……妙ね」

    不二咲「ホント……あっさり退いちゃったねぇ。何がしたかったんだろう……?」

    霧切「いえ、そうじゃなく。私は、山田君が出て来たことそのものに違和感を覚えるわ」

    舞園「そのもの、ですか?」

    霧切「ええ」

    苗木「たしかに……言われてみればそうだよね」

    不二咲「どういう事ぉ?」

    苗木「今、山田君が出てきて攻撃してきたけど……さっきまでボク達は攻撃の正体について、戦刃さんによるものじゃないかって推測してたんだよ? そのまま勘違いさせておいた方が向こうにとっては有利なはずなのに……どうしてネタバラシしたんだろう?」

    不二咲「ああ……! たしかに、そうだよぉ!」

    舞園「単純に、こっちの言葉が聞こえてなかっただけって事は無いでしょうか?」

    霧切「可能性だけならなくはないけれど……希望的観測ね。何かある、と見ておくべきよ」

    舞園「……分かりました」

    山田「やっほー」

    苗木「うわあ!?」

    苗木(また出て来た……)

    山田「グフフ……舞園さやか殿が幾つ防ごうが関係ない攻撃方法を思いつきました故……」

    舞園「それは、どういう意味ですか?」

    山田「こういう……意味ですぞ!」

    苗木「う、うわ! これは……!」

    苗木(気が付けば……ボクらの周囲をぐるりと、複数の、さっきの……ジャスティスロボ? が取り囲んでいた!)

    苗木「これは……へ、ヘイ・ヤー……」

    ヘイ・ヤー『……何ダヨ?』

    苗木「……なんとか、なるかな?」

    ヘイ・ヤー『ナル……トイイナア』

    苗木「そんな!?」
  346. 346 : : 2016/10/08(土) 22:48:41
    山田「ではでは……ファイヤー!」

    苗木「うわあッ!?」

    苗木(一斉にミサイルとパンチが飛んできた!)

    舞園「こうなったら……撃ち落とします!」

    苗木「へ!? 撃ち落とすって……」

    舞園「ハーミットパープル! 霧切さん、団扇お願いします!」

    霧切「それでなんとか出来るのね?」

    舞園「はい! 思いっきり扇いでください!」

    霧切「分かったわ。なら……」

    苗木(どうやらいつの間にか預けかっていたらしい団扇で、霧切さんがハーミットパープルを扇ぐ。すると……)

    山田「こんな時に団扇で扇ぐなんて、何考えてるんでしょうかなあ……」

    シュルシュルシュル……

    不二咲「あ……風が……」

    苗木(ハーミットパープルの周囲で渦巻き始めている……)

    シュルシュル……シュルルルルル!

    苗木「う、うわ!?」

    舞園「皆さん、伏せてください!」

    苗木「え、わ、分かった……!」

    苗木(言われた通り、伏せる。すると……)

    ビシュシュシュシュシュ!

    苗木「え!?」

    ドドドドドドドッ!
    ドガァァァァァン!

    山田「な……何ですっとォォォォォ!?」

    不二咲「す……スゴい……」

    苗木(今……何が起こったのか?)

    苗木(どんどん強くなっていったハーミットパープルの周囲の風に、どうやらハーミットパープルの方が耐えられなくなったようで。イバラのトゲが外れ、それが風に乗って……周囲に撒き散り、結果、トゲがジャスティスロボの攻撃をことごとく撃ち落とした……という事みたいだ)

    苗木(そういえば、団扇の風でも面白い事が起きた、とか言ってたっけ……。これは、とんでもない強敵を生んでしまった気がするよ……)
  347. 347 : : 2016/10/08(土) 22:48:55
    山田「うむむ……致し方ありませんな……それではさらば!」

    苗木「また戻って行っちゃった……」

    不二咲「んー……意図が読めないねぇ……」

    舞園「そうですね……尤も、こちらもギリギリのところで対処しているので、助かってはいるんですけど」

    霧切「だからこそ、不気味とも言えるわ。もう少し攻めれば優位に立てる可能性が高いのに、そうしない。不二咲さんの言った事だけれど、意図が読めないわね」

    苗木「単純にこっちの力量を測りかねているのか、それとも……って事だね」

    霧切「……ふう。分からないものはいくら考えても仕方ないわね。それより苗木君」

    苗木「何?」

    霧切「少しこちらも、作戦を立てましょう」

    苗木「作戦……って言われても、向こうが出てくるのを待つしか出来る事は無いし……」

    霧切「出てくるまでの間に、準備をしておくことは出来るでしょう?」

    苗木「準備か……」

    不二咲「でも準備って言っても、何が出来るかなぁ?」

    舞園「たしかに、出来る事も限られていると思いますが」

    苗木「出来る事……」

    苗木(この限られた状況で出来る準備と言えば……あらかじめ、ヘイ・ヤーACT2の弾丸を撃っておくくらいしか思いつかない……けど)

    苗木「ボクの装填済みの“弾”の中には現状、使えそうなものは無いかな……」

    霧切「いいえ、それはさっきも言ったけれど、私達の切り札よ。もしあったとしても、使わせるつもりはないわ」

    舞園「その弾というのも気になりますけど……それじゃあ、何が出来るんでしょう?」

    霧切「さっきの探索で回収した物を使うのよ。ここが使いどころよ」

    苗木「え? たしかに幾つか使えそうなものを持って来てはいるけど……でも、大したものは無かったはずだよね?」

    霧切「それは、どうかしらね?」

    苗木(うわ……悪い顔になってるよ、霧切さん……)
  348. 348 : : 2016/10/08(土) 22:49:08
    #64
    極悪中隊の計略 その②
  349. 349 : : 2016/10/08(土) 22:49:58
    苗木(霧切さんを中心に、ボク達は持ってきたものを分配して作戦を練る)

    苗木(……こんなに悠長にしていても一向に襲ってくる気配が無いのが、不気味だ)

    舞園「来ません……ね」

    霧切「疑心暗鬼状態にして精神を摩耗させる……それが狙いかもしれないわ。気を抜けとは言わないけれど、張り詰めすぎないように注意して頂戴」

    不二咲「うん……わかったよぉ」

    苗木(再び、沈黙が流れる……すると)

    タタタタタッ!

    苗木(! また、さっき聞こえた軽い音が……ジャスティスマシンガン、だっけ)

    舞園「ハーミットパープル!」

    苗木(けど、舞園さんも再びハーミットパープルに火を付け、焼き落とす)

    苗木(よく見ると……なるほど、マシンガン。たしかに、小さな銃弾のようなものが足元に落ちてるな……)

    霧切「また、ジャスティスロボがいるわね」

    不二咲「あ……ホントだ!」

    苗木(言われて、ボクも銃弾の飛んできた方向に目を凝らすと、ジャスティスロボが数体こちらに狙いを定めていた)

    不二咲「……え!? みんな、気を付けて! 千秋ちゃんが……」

    霧切「七海さんがどうかしたの?」

    不二咲「ジャスティスロボの、うしろに気を付けてって!」

    苗木「うしろ……?」

    苗木(薄暗くてよく見えない……ん? 今、たしかに後ろが光ったような……)

    タタタタタタッ!

    苗木「うわっ!?」

    苗木(また撃ってきた! けど……あのロボ、マシンガンなんて撃ってたかな……?)

    霧切「そういう……事ね。みんな、気を付けて頂戴! あのロボは……」

    苗木(霧切さんが何かを言いかけた、その時!)

    不二咲「また撃ってきたよぉ!」

    タタタタタタタッ!

    苗木「また……うッ!?」

    霧切「苗木君ッ!?」

    苗木「う……うしろから……だっ……て……?」
  350. 350 : : 2016/10/08(土) 22:50:42
    苗木(たしかに、前方のロボの後ろから光が漏れていた……のに、銃弾はボクの後ろから来たッ! いったい、どういう事なんだ……!?)

    苗木(後ろを確認してみるけど……ダメだ、スタンドはおろか、スタンド使い本人がいるわけでもない……誰も、いないッ!)

    霧切「く……舞園さん! あのロボの後ろも巻き込める攻撃手段はあるかしら!?」

    舞園「それは……」

    不二咲「それなら、任せて!」

    霧切「不二咲さん? けれど貴女のスタンドは……」

    不二咲「任せて。ロボじゃなくて、“ロボのうしろ”を攻撃するんだよね? やれるよ……!」

    霧切「……そこまで言うなら、任せるわ。お願いするわね、不二咲さん」

    不二咲「うん! お願い、千秋ちゃん!」

    七海『ほいほーい。行ってきまーす』

    苗木「行くって……どこに……」

    霧切「苗木君はその事より、傷の事よ。応急手当するわ」

    苗木「手当って……」

    霧切「背中を撃たれたのよね?」

    苗木「うん……小さい割に、結構、ダメージは大きいから、気を付けてね……」

    舞園「言ってる場合じゃないですよ!」

    霧切「ひとまず、舞園さん。たしか包帯の準備はしていたはずよね?」

    舞園「ええ。こちらに」

    霧切「それじゃあ……消毒も何も用意が無いから出来ないけれど。一応、包帯だけは巻いておきましょう」

    苗木「う……ん。分かったよ……」

    苗木(霧切さんと舞園さん、二人がかりで――そこまでオオゴトにされるほどでもないと思うんだけど――包帯を巻かれている間に、どうやら不二咲さんの方は上手く行ったようで……)

    七海『ロボのうしろ、ちっちゃい軍隊みたいなのがいたよ。出来るだけ潰しては来たけど……すぐに見つかっちゃったからまだ結構残ってるね』

    霧切「そう……けど、どうやって攻撃したの?」

    不二咲「えへへ……それは簡単だよぉ!」

    七海『さっき、この館の地図を検索した時に、隠しカメラの映像とか放送設備とかがネットを通って管理されてるのが分かったんだ』

    不二咲「だからネットを介して、丁度ロボの後ろにあった隠しカメラから攻撃したってわけなんだぁ」

    霧切「なるほどね……妙にナビゲートが鋭いと思っていたけれど。情報戦となると、不二咲さんはあまり敵に回したくはないわね」

    不二咲「えへへ……」

    七海『って言っても、特殊な攻撃手段とかは無いから……手でぷちって潰してきただけなんだけどね』

    苗木(ぷちっと……)
  351. 351 : : 2016/10/08(土) 22:51:26
    山田「むむ!」

    苗木「うわあ!?」

    苗木(また出て来た……)

    山田「僕らの作戦は破られてしまったようですな……」

    苗木「え……作戦?」

    霧切「……あえてロボを見せ、攻撃させる事で、本命である……“軍隊”のスタンドの攻撃をロボによるものだと誤認させる……」

    山田「なぬ!?」

    霧切「たとえロボを倒したとしても攻撃が続行する事で更なる混乱を期待した、というところかしら」

    山田「ば……バレてるぅぅぅぅぅぅ!?」

    苗木(そんな作戦だったのか……)

    山田「す……少し取り乱しましたが」

    不二咲「立ち直ったよぉ……!?」

    山田「ですがもはや、本命部隊についてバレている事は承知でしたからな! あと僕がする事は……撃って撃って撃ちまくる事ッ! ジャアアアアアスティスミサイルゥゥゥゥゥ! Mk-Ⅱ(マークツー)ゥゥゥゥ!」

    苗木「うわわ! ミサイルが!」

    苗木(しかも、さっきより大きい!)

    舞園「大丈夫です! 霧切さん!」

    霧切「任せて頂戴!」

    苗木(再び、ハーミットパープルに霧切さんが風を送る。そして先ほどのようにトゲを飛ばす……が!)

    山田「ふっふーん、バージョンアップ済みのジャスティスミサイルに、そのようなものは通用しませんぞォォォォ!」

    苗木(……が、今度のミサイルにはトゲが弾かれてしまった!)

    山田「伊達にマークツー名乗ってはいませんぞ!」

    苗木「ど……どうすれば……ッ!?」

    苗木(この状況じゃ、さっきの霧切さんの策は使えないし……)

    不二咲「う……ッ!?」

    苗木「ふ……不二咲さんッ!?」

    不二咲「な……苗木君の時と……同じ……」

    舞園「え……? あ、ああッ!」

    苗木「不二咲さんが……後ろから撃たれてる……!」

    霧切「く……」
  352. 352 : : 2016/10/08(土) 22:52:04
    苗木(混乱している最中にもミサイルはこっちに飛んできていて……)

    苗木(…………)

    苗木(あれ?)

    苗木「ミサイルが……来ない……?」

    舞園「い……言われてみれば、そうです! 飛ばしてから結構経ってるのに……」

    山田「そりゃあ……単なる目くらましですからな!」

    苗木「威張って言う事なの、それ!?」

    苗木(けど……油断していたのは確かだ! ミサイルに気を取られすぎていた!)

    苗木(ボクを背後から撃った攻撃のカラクリも分かっていなかったっていうのに、完全に横に置いてしまっていた……ッ!)

    苗木(不二咲さんの背後を確認する。けど、ボクの時と同じく、そこには何もいない)

    苗木(どこか……隠れられそうなところはないか、探してみるけど。やっぱりそれらしいものも、何もない)

    苗木(あるものは床と、壁と……ん、これは……壁の下の方に、コンセントがある……いや、さすがにこれは関係……)

    タタタタタタッ!

    苗木「……えっ!? 霧切さん、危ないッ!」

    霧切「え……?」

    苗木(ボクの呼びかけが間に合ったのか、とっさに霧切さんはかわすことが出来たみたいだ……)

    霧切「どういう事? 攻撃の方法が分かったの!?」

    苗木「分かったというか……見えたんだ」

    霧切「見えた……って?」

    苗木「さっき、そこのコンセントが放電して……同時に、小さな銃弾みたいなものが飛び出すのを!」

    霧切「コンセントから……」

    苗木「あの中に敵がいる……って事なのかも」

    舞園「……いえ、それはありません」

    苗木「舞園さん! 不二咲さんは?」

    舞園「……はい。苗木君と同じように、処置はしておきました。ですけど、ダメージは大きいようでして」

    霧切「そう……なるべく早く終わらせて、ちゃんと治療した方がいいでしょうね」

    苗木(何か……奇妙な間があった気がしたけど。まあ、今はいいか)
  353. 353 : : 2016/10/08(土) 22:52:54
    苗木「それじゃあ、コンセントの中に居るわけじゃない、っていうのはどういう……?」

    舞園「だって、スタンドの受けるダメージは、多かれ少なかれ本体にフィードバックがあるハズですから。コンセントの中なんて入ったら感電死すると思います」

    苗木「あ……そっか」

    霧切「……レッド・ホット・チリ・ペッパー」

    苗木「え?」

    霧切「桑田君のスタンドなら、その限りではないんじゃあないかしら?」

    舞園「あ……電気を操るスタンド……!」

    苗木「そうか! それなら感電によるダメージは無い……!」

    霧切「もしくは、あったとしても最小限で済むはず。なのだけれど……」

    苗木「どうしたの?」

    霧切「レッド・ホット・チリ・ペッパーが銃弾のようなものを飛ばせるとは思えないわ。やっぱり、謎は残るわね……」

    苗木「あ……そっか。それで正解だと思ったけど、そうなると違うのか……」

    タタタタタッ!

    苗木「またッ!?」

    苗木(だけどコンセントから飛んでくるのは分かってるんだ! 今度はかわせ……ぐっ!?)

    舞園「な、苗木君!?」

    苗木(別方向から飛んできた……!?)

    苗木「く……」

    苗木(今度は肩にモロに受けてしまったみたいだ……)

    霧切「苗木君、大丈夫ッ!?」

    苗木「は……はは。大丈夫だよ……いざとなったらボクにはヘイ・ヤーがいる。どうにかしてみせるよ……」

    霧切「……そう。けれど、無理はしないで」

    苗木「出来るだけ……そうしたいけどね」

    舞園「さっきの攻撃……あの、方角的に、スピーカーのあたりから飛んできたようです」

    苗木(指をさす舞園さんの言葉につられてそちらを見ると、たしかに壁の高い位置にスピーカーが取り付けられていた。たぶん、館に入った時に空条先生が行ったような、放送を届けるためのものなんだろうけど……)

    苗木「く……コンセントの次はスピーカーか……いったいどんな攻撃ならそんな事が出来るんだ……!?」

    山田「むっふふ……これは“お二人”がいればもう僕は必要ありませんかなあ……」

    苗木(……二人?)

    苗木「ま……まさかッ! そういう事か!」

    山田「へ?」

    苗木「分かった……分かったんだ! 攻撃の正体が!」

    舞園「ほ、本当ですか!?」

    苗木「きっと……レッド・ホット・チリ・ペッパー、は。指定したものを……電気の流れる場所に、引きずり込む、事も……出来るんじゃあ……ないかな」

    舞園「えっと、それはどういう……?」

    霧切「……つまり。銃弾の攻撃は別のスタンドによるもので、その銃弾による“スタンド攻撃”を電気の中に引きずり込んで、タイミングを合わせて電気の通った場所から私達目がけて放った……という事?」

    苗木「それが……可能性が高いと思う」

    舞園「つまり、どの方角からでも攻撃が出来る……って事ですか!?」

    チリペッパー『チッ……山田ァ! 口滑らせやがって!』

    山田「あはははは……申し訳ありませんぞ」

    チリペッパー『まあ、いい……今更それを理解したところで、オレ達に勝てはしねーだろーしな……』

    霧切「今からこの周辺の電化製品の位置を調べるわけにもいかない、わね……」

    苗木「万事休す……か」

    チリペッパー『それじゃあ改めて……食らいやがれ! オレ達の……電撃戦(ブリッツクリーク)を!』

    苗木「それ絶対意味違うよね!?」
  354. 354 : : 2016/10/08(土) 22:53:12
    #65
    七海千秋の計略
  355. 355 : : 2016/10/08(土) 22:53:44
    苗木(それにしても……ツッコんではみたけど、桑田クン達の攻撃が脅威である事に変わりはない)

    苗木(どうやって対処すれば……!?)

    霧切「……仕方ないわね。最終手段よ。舞園さん」

    舞園「はい……?」

    霧切「“あれ”、やるわよ」

    舞園「……! ですけど、それは……」

    霧切「問題ないはずよ。石丸君だってこの中で戦っているはずなんだもの」

    舞園「ああ……言われてみれば、そうですね」

    苗木(そうか……さっきの作戦を実行に移すのか)

    霧切「おそらく……山田君の居る辺りに他のメンバーもいるはず。山田君の周辺を狙えば問題ないと思うわ」

    舞園「分かりました」

    チリペッパー『へーえ? 何か思いついたって顔してるけどよ……無駄だぜ! オレ達の勝利は揺るがねえ! くらいやが――』

    舞園「ハーミットパープル!」

    苗木(叫び、舞園さんは山田君から少しそれた天井を狙う)

    山田「おっと……狙いが甘いですぞ? かわすまでも無く当たりませんな」

    舞園「霧切さん!」

    霧切「ええ!」

    苗木(掛け声とともに、霧切さんがこれまた受け取っていたらしいライターに火を灯し……)

    山田「……え?」

    舞園「ハーミットパープル!」

    苗木(舞園さんが“これから放つ”ハーミットパープルに点火する!)
  356. 356 : : 2016/10/08(土) 22:54:20
    山田「ええええええ!? 二つ目ェェェェェ!?」

    舞園「二つ目? 違いますよ……よく見てください……一つ目を」

    山田「え? ……あ、あああッ! これは……」

    山田「ただのロープゥ!? っで、アヅゥゥゥゥゥ!?」

    苗木(よし、山田クンに直撃した! と同時に山田クンが落ちてきて……)

    舞園「このまま一気に決めます! ハーミット!」

    苗木(炎を纏ったままのハーミットパープルで今度は、天井を打ち付ける! すると当然、天井は燃え上がるわけで……)

    チリペッパー『な……何ィィィィィ!? なんてことしやがる!?』

    霧切「さあ、さっさと出てこないと丸焼きになるわよ?」

    チリペッパー『クソッ……仕方ねえ!』

    苗木(毒づいて、桑田クン……と、戦刃さんが天井から降りてくる)

    桑田「メンドクセー事しやがって……」

    戦刃「けど、この程度なら問題ないよ。作戦行動に支障は来さないから」

    桑田「そうか? まあたしかにオレのスタンドなら正面から戦ったところで負けはしねーだろーけど」

    苗木「それは……どうかな……」

    桑田「あ? 苗木……? ハッ! そんな満身創痍で何が出来るっての?」

    苗木「ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『オウッ!』

    霧切「!? 苗木君、それは……!」

    苗木「大丈夫だよ、霧切さん……よく見て」

    霧切「……? どういう事? どうして……」

    苗木(霧切さんの困惑も無理はない。だってボクが呼びだしたのはACT2ではなく、ACT1……元のヘイ・ヤーなんだから)
  357. 357 : : 2016/10/08(土) 22:54:41
    桑田「ハン! 今頃オメーのスタンドが出て来たところで、怖くもなんともねーっての!」

    苗木「へえ? どうしてそう思うの?」

    桑田「どうしてだと? そんなモン、オメーが一番よく分かってんじゃねーの?」

    戦刃「苗木君のスタンド……ヘイ・ヤーに特殊な能力は無い……」

    桑田「そーいう事!」

    戦刃「けど、油断は禁物。トーナメント戦での変身の謎は残ってるから」

    桑田「あ? ああ……そんなんもあったな。けどよ、どーせ見かけ倒しだろ? いや、見かけ倒しにもなってねえ。よわっちそーなままだったしな」

    戦刃「だから……油断は、禁物」

    桑田「あー、ハイハイ。分かった分かったって」

    苗木(これは……上手くいくかもしれない)

    苗木「ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『オウ、イケルイケル! ヤッテミロ、誠!』

    苗木「よし……だったらッ!」

    桑田「な……!? 突っ込んできやがった!」

    戦刃「やぶれかぶれ……? けど、そんなものは無意味……バッド・カンパニー!」

    苗木(……! あれが七海さんの言っていた、“小さな軍隊”か!)

    苗木(こっちに向かって撃ってくるみたいだけど……このまま突っ込む! ヘイ・ヤーがいけると言ったんだ、行ける!)

    苗木「……え!? うわ!」

    苗木(突進の最中、なにか……いや、倒れていた山田君に躓いた!?)

    桑田「な、な、な、な!?」

    桑田「何ィーッ!?」

    苗木(けどそれが功を奏し、銃弾を綺麗にかわすと同時に……桑田クンに体当たりが決まった!)

    苗木「よし!」

    戦刃「!? しまった!」

    苗木「舞園さんッ!」

    舞園「え? あ……はい! ハーミットパープル!」

    苗木(ボク自身が物理的に拘束していた桑田クンを、舞園さんがハーミットパープルで縛る)
  358. 358 : : 2016/10/08(土) 22:55:13
    苗木「……ふう。これでどうにか桑田クンは無力化出来たはずだ」

    桑田「おいおい……確かにオレは縛られてっけどよ。でも……甘いぜ! スタンドは自由ッ! このまま攻撃する事だって……」

    『それは違う……と、思うよ?』

    桑田「な!? だ、誰だッ!?」

    七海『あ、私でーす』

    桑田「……いやマジで誰だッ!?」

    七海『初めましてー、七海千秋でーす』

    霧切「七海さん? ……不二咲さんは?」

    七海『チヒロなら大丈夫。意識もしっかりしてるよ』

    不二咲「うん……ちょっと、ダメージは……大きいけどねぇ……」

    戦刃「く……」

    桑田「何なんだ、アイツ……? クソ、アイツもスタンド使いか!?」

    七海『あー、いやいや。私、スタンドだよ。チヒロの』

    桑田「……は?」

    戦刃「スタ……ンド? 貴女が……?」

    七海『そういう事。それで……とりあえず、電化製品を通した攻撃はもう来ない……と、思うよ?』

    桑田「ハァ? 何言ってんだ。やろうとすりゃあいくらだって……」

    チリペッパー『な……なんじゃこりゃあ!?』

    戦刃「ど……どうしたの?」

    チリペッパー『どうしたもこうしたもねえ! ち……チクショウッ!』

    チリペッパー『ここら一帯の電化製品が……ゴムで塞がれちまってるじゃあねーかッ!』

    霧切「なるほど……再起不能のフリをして細工をしていた、というわけね」

    七海『どや!』

    霧切「ふふ……なかなかに、したたかね」
  359. 359 : : 2016/10/08(土) 22:55:56
    桑田「クソ……だがよ、ちょっと搦め手が封じられただけじゃあねーかッ! レッド・ホット・チリ・ペッパーの電撃を正面から食らわせる事も……」

    七海『それももう無理なんだ』

    桑田「はあ?」

    苗木(その場の全員――七海さんと不二咲さんを除いて、だけど――が一斉に首をひねったところで……)

    ――サアアアァァァァァ……

    苗木「え? これは……あまもり……?」

    霧切「いえ……これは……スプリンクラー!」

    舞園「あ……ッ! さっき、天井を燃やしたから……!」

    チリペッパー『う、うわあああああッ! 水は……水はダメだ……クソォッ! 止めろ! 誰かスプリンクラーを止めろォッ!』

    七海『水は電気を良く通す……だからね、桑田君。レッド・ホット・チリ・ペッパーの電気が分散して無力化されるのは時間の問題だったんだよ』

    桑田「…………」

    桑田「くくっ」

    苗木(……え?)

    桑田「だーっはっは! 水は電気をよく通すだあ!? そりゃあその通りだなあ! けどよ、そりゃつまり……ほっといたって全方位に、つまりオメーら全員に! 電撃による攻撃が行くのと同じ事なんだぜ!?」

    苗木「それは……違うよッ!」

    桑田「な!? また苗木、オメーか!?」

    苗木「舞園さん! 頼むよ!」

    舞園「はいッ! ハーミットパープルッ!」

    苗木(流れてくる電気を含んだ水から、電気のエネルギーだけをハーミットパープルがどんどん吸収していく)

    桑田「なあッ!? こ……こんな……あ……ぐ……」

    苗木(そして……レッド・ホット・チリ・ペッパーの色がだんだんくすんでいくと同時に……桑田クンは意識を失った)

    戦刃「……くっ!」

    苗木(戦刃さんも、この状態では不利と悟ったのか戦線を離脱)
  360. 360 : : 2016/10/08(土) 22:56:20
    苗木「戦刃さんは……追わなくて、いいよね?」

    霧切「そうね……再び仕掛けてくる事は無い……と、思いたいわ。それより今は苗木君と不二咲さんの傷の手当てが必要よ」

    苗木「え、あ……ボクはもう平気だよ。授業が終わってから保健室にでも行けば……いや、その必要もないか。大和田クンに言って治してもらえば問題ないって」

    霧切「それでも、この授業いっぱい、何が起こるか分からないのよ?」

    苗木「それは……」

    霧切「ちゃんと動けるよう、最低限の手当ては必要よ」

    苗木「でも包帯なら巻いてもらったし……」

    霧切「だから、しばらくは探索を重点的に行いましょう。救急箱なんかが見つかるかもしれないわ」

    苗木「あ……そっか、その可能性はあるのか……」

    苗木(まあ、ボクは最悪ACT2でなんとか動けるようにはなるだろうからいいけど……不二咲さんの傷の方は心配だし)

    苗木「分かったよ、その指針に異論はないかな」

    霧切「ええ。……舞園さんに不二咲さんも、いいかしら?」

    舞園「ええ、勿論です!」

    不二咲「問題ないよぉ……」

    苗木「けど、不二咲さんはホントにつらそうだね……歩ける?」

    七海『あ、問題ないよ。私がおぶっていくから』

    苗木「あ……ああ、そう……」

    苗木(スタンドに背負われるってのも、なかなか無いんじゃあないかな……)

    霧切「あと……探索の合間にも考えておいてほしい事があるの」

    苗木「考えておいてほしい事? 何?」

    霧切「江ノ島さんよ。戦闘中、一切姿を見せなかった。その意図について」

    苗木「あ……!」

    苗木(そうだ、江ノ島さんの事をすっかり忘れていた!)

    苗木(慌てて周囲の様子を探ってみるけど、それらしい気配はない)

    苗木(どうやら本当に、江ノ島さんはいないようだ)

    舞園「たしかに……気になりますね」

    霧切「もしかすると、どこからか襲ってくるかもしれないわ。十分に注意しておいて」

    苗木「うん、分かったよ」

    霧切「それじゃあ……移動しましょうか」
  361. 361 : : 2016/10/08(土) 22:56:31
    #65.5
    もうひとつの戦い
  362. 362 : : 2016/10/08(土) 22:56:52
    霧切チームが桑田チームと激突していた丁度その時……十神チームと大和田チームにも動きがあった!

    石丸「マジシャンズレッド! 食らえッ! CFH――!」

    葉隠「だーから! 無駄だって言ってんべ!」

    ジェノサイダー「はいはーい、護りは任せたわよん! 攻撃はアタシが請け負ってやっから……よォ! スティッキィ・フィンガーズ!」

    石丸「な……しまったッ! う……腕が!」

    大和田「問題ねえ! クレイジー・ダイヤモンド! ドラァ!」

    石丸「む……治った! すまない、助かったぞ、大和田君!」

    大和田「いいって事よ!」

    派手に戦闘を繰り広げる四名。
    アタッカー同士、かつ片方はヒーラーとしての能力も持つ破壊力の高い大和田・石丸コンビはしかし、高い戦略性と防御性を誇る葉隠・ジェノサイダーコンビに苦戦していた!

    だがその一方で……

    セレス「全く……暑苦しいですわね」

    セレスは後ろでそんな様子を眺めながら、優雅に紅茶を一口。

    朝日奈「セレスちゃん、その油断が……命取りッ! クラッシュ!」

    セレス「……!?」

    瞬間、紅茶の中から朝日奈のスタンド、クラッシュが姿を現し、セレスに向かう!

    セレス「くっ……」

    だがセレスはすぐにティーカップを投げ捨て、攻撃を回避する。

    セレス「全く……お茶を楽しむ余裕も下さいませんのね」

    朝日奈「紅茶なんて、私にとっては格好の餌食だよ」

    セレス「全く……仕方ありませんわね。ですがもはやわたくしの手元に水分は御座いませんわよ? もはや打つ手なし。そうでしょう?」

    朝日奈「それはどうかな?」

    セレス「……く」

    セレスに襲い掛かった朝日奈は優位に戦闘を進めていた!
    そして……!

    大神「ふんッ!」

    十神「……」

    大神「ハァ……!」

    十神「……」

    大神「ぬうう……ッ!」

    十神「……つまらん」

    大神は十神に、その巨大な体躯から繰り出される強力な拳の一撃を何度も振るうが、全てをかわされていた!

    まさに一進一退、どちらも決め手に欠ける――尤も、十神は単にやる気を出していないだけなのだが――戦闘が続いていた。


    そしてそれは、幸か不幸か……決着がつく事無く、チャイムが鳴るまで続いたのであった。
  363. 363 : : 2016/10/08(土) 22:57:07
    #66
    疑惑のD4C
  364. 364 : : 2016/10/08(土) 22:57:28
    苗木(結局……あれから、ボクらは戦刃さんとも江ノ島さんとも、他のチームの誰かともかち合う事は無く……)

    苗木(チャイムが鳴り、館から出てみると、空条先生から集合をかけられた)

    承太郎「あー、まず、だ。時間になるまで再起不能にならなかった者……を、発表するつもりだったんだがな……」

    石丸「何か問題でもありましたか?」

    承太郎「いや、問題ってんじゃあねえ。ただ結果的に、再起不能になった奴の方が少なかったからな。そっちを挙げさせてもらうぜ」

    朝日奈「なるほど……そういう事」

    承太郎「再起不能になったのは……セレス、桑田、大和田の三名のみだ」

    セレス「全く……朝日奈さんにはしてやられましたわ」

    朝日奈「えへへ……」

    大和田「ちッ……オレも課題が見えてきた、ってトコだな……」

    桑田「スプリンクラーさえなけりゃあ……!」

    苗木「あれ、っていうか……山田クンは?」

    山田「チャイムが鳴る前に目を覚ましましたからな。それに元気でしたし。……尤も、既に誰もおりませんでしたが」

    苗木「あ……そうだったんだ……」

    承太郎「まあ、そういうわけでだ。一応、全チーム勝利条件を満たした、って事になる。なんとも味気ない結果だがな……」

    十神「……フン」

    承太郎「というわけで、だ。ここで解散とするぜ。けが人はしっかり保健室なりで休め」

    大和田「いや、オレが治せるから問題ねえ」

    承太郎「ああ……そうだったな」

    大和田「っつーわけだからよ、怪我したヤツはオレんと来い……」

    霧切「じゃあ苗木君と不二咲さん、お願いできるかしら?」

    大和田「あ? ああ、分かったぜ」

    苗木(言って、クレイジー・ダイヤモンドがボク達に触れる。すると……)

    苗木「ん!? す、スゴい……」

    不二咲「もう治っちゃったよぉ……!」

    苗木(なんて頼りになるスタンドなんだ……)
  365. 365 : : 2016/10/08(土) 22:57:44
    承太郎「……それで、だ。江ノ島」

    江ノ島「何かな」

    承太郎「お前、どこにいた……?」

    苗木「へ?」

    苗木(どういう意味だろう……?)

    承太郎「こちらから、他の連中の居場所は館内のカメラを通して把握していた。だが江ノ島、お前だけは最初に桑田たちと行動していた以降、一度別れてからどこにいたのか分からず仕舞いだ」

    承太郎「もう一度訊く。どこに居た?」

    江ノ島「……うぷ」

    江ノ島「うぷぷ……それってさあ……」

    江ノ島「ボクに“スタンドの秘密を話せ”って言ってるって事かなあ?」

    承太郎「何……?」

    江ノ島「監視カメラに移されていない以上、それはスタンド能力によるものの可能性が高い。……少し考えれば分かる事かと思われます」

    承太郎「……そうか。分かった。なら何も訊かずにおくぜ」

    江ノ島「あ……あっさり退いちゃうんですね……。でも懸命だと思います……」

    苗木(江ノ島さんのスタンド能力……か)

    苗木(…………)

    苗木(ジョルノ先輩は、江ノ島さんに気を付けろ、って言ってたっけ)

    苗木(たしかに、一切スタンドの能力が分からないのはクラスメイトの中だと、江ノ島さんだけだ。不気味といえば……不気味だな……)

    承太郎「さ、話は本当に済んだ。そろそろ教室に戻りな……戻り次第HRを始めるぜ」

    苗木(……今はあれこれ考えててもしょうがないか。空条先生の言う通り、教室に戻ろう)
  366. 366 : : 2016/10/09(日) 12:51:08
    #67
    召集
  367. 367 : : 2016/10/09(日) 12:51:55
    苗木(チーム戦の翌日……)

    苗木(これまでもいろいろあったから、さすがにもう筋肉痛もほとんどないけど、それでも少し疲れは残っていて……これがあるから、スタンド開発の実技は苦手なんだよなあ)

    苗木(それでいて今日も普通に授業があるわけで……しんどくって仕方ない一日を過ごし、その放課後)

    霧切「さ、苗木君。そろそろ部室に行きましょうか?」

    苗木「あ、うん……そうだね。でもその前にさ、食堂で軽くご飯でも……」

    苗木(そう言って立ち上がりかけたところで)

    承太郎「お疲れのようだな、苗木」

    苗木「あ、空条先生……まあ、昨日の疲れが、少し」

    承太郎「そうか。なら今から気合入れな」

    苗木「へ?」

    承太郎「苗木、それに霧切。召集だ」

    霧切「召集? 一体どこからでしょう?」

    承太郎「決まってるだろう。前に話した、ランカー会議だ」

    苗木「ああ……生徒会みたいなもの、なんでしたっけ」

    承太郎「ああ。活動の実態はな。ただ……」

    霧切「ただ?」

    承太郎「まあ、行きゃあ分かるだろうぜ。それより、十神はどうした?」

    霧切「十神君の事は私も分かりません」

    苗木「いつも個人で動いてるからなあ……十神クン」

    苗木(ボクとしては、いつかは仲良くなれるといいなって思ってるけど)

    承太郎「そうか。なら探すしか……」

    十神「その必要はない」

    承太郎「……何ッ!」

    苗木(十神クン!? いつの間に空条先生の背後に……)

    十神「フン、生徒相手だからと、少し気が抜けているんじゃあないか? 俺ならばいつでも、誰の寝首でもかける事を覚えておくんだな」

    承太郎「…………忠告、痛み入るぜ」

    苗木(十神クン……なんで空条先生にまで喧嘩腰なの……)

    十神「それよりもランカー会議だと言ったな。どこでやるんだ」

    苗木「あれ……前は面倒だって言ってなかったっけ。結構やる気だね」

    十神「フン。会議そのものは議題からして面倒な事この上ないが……学園の上位陣が一堂に会する機会だからな。情報を集めるために行かない理由は無い」

    苗木「あ……なるほど……」

    承太郎「そういう考えだったら丁度いいかもしれねえな」

    苗木「へ?」

    承太郎「場所は第五トレーニングルームだ。急いで行きな」

    霧切「トレーニングルーム? 会議のはずよね。生徒会室……いえ、せめてランカー用の会議室のようなものは無いのかしら?」

    承太郎「ああ……ある……いや、あったんだがな……」

    苗木(あった? なんで過去形……?)

    承太郎「去年いろいろあってな。ともかく、他の連中はもう集まってるはずだ。急いで行け」

    苗木「あ……はい、分かりました」

    十神「フン、ならば先に行かせてもらうぞ」

    苗木「あ、十神クン! ……行っちゃった」

    霧切「全く……仕方ないわね。私達も急ぎましょう」

    苗木「う、うん」

    苗木(なんか……嫌な予感するなあ)
  368. 368 : : 2016/10/09(日) 12:52:14
    #68
    ランカーVS……?
  369. 369 : : 2016/10/09(日) 12:53:11
    苗木(霧切さんと一緒に、トレーニングルームへの道中を急ぐ)

    苗木(……結構疲れが残ってるから、フルールヴィラージュ行きたかったんだけどな)

    「あッ……苗木君!」

    苗木(廊下を歩いていると、ふいに声をかけられた。この声って……)

    苗木「あ……広瀬先輩! それに、えっと……以前イギーの事を教えてくれた……」

    康一「イギー?」

    苗木「あ、ほら。例の犬の事ですよ」

    康一「ああ! あの時の。イギーって名前、付けたんですか?」

    苗木「いや……ボクの昔からの付き合いのある奴だったんですよ」

    康一「えっと……犬だよね? ペットじゃなく……?」

    苗木「あ、はは……アイツ、野良に誇り持ってるから……」

    由花子「奇妙な犬ね……」

    霧切「苗木君、知り合いかしら?」

    苗木「あ、うん。こちら、広瀬康一先輩。トーナメントの時に、事前にACT2について教えてくれた先輩なんだ」

    康一「まさか教えてすぐにものにするとは思わなかったけどね」

    苗木「それとこちらは、イギーの調査の時に情報を提供してくださった……えーと……」

    由花子「そういえば、自己紹介はしていなかったわね。私は山岸由花子よ。よろしく」

    苗木「……だ、そうで」

    霧切「広瀬先輩に山岸先輩……ね。こちらこそ、よろしくお願いするわ」

    康一「君は霧切さんだよね、七十八期生の。これからランカー会議でしょ? それなら二人も一緒に行きませんか?」

    霧切「え、一緒に?」

    苗木「広瀬先輩は校内ランク第六位、結構上位の先輩だよ」

    霧切「あら、そうだったの」

    康一「由花子さんもランカーだしね」

    苗木(ああ、どこかで聞いた事のある名前だと思ったら……たしかスタンド名は……ラブ・デラックスだっけ)

    由花子「私は八位だから、康一君の方が上ですけどね」

    康一「あはは……」
  370. 370 : : 2016/10/09(日) 12:53:36
    霧切「それで、どうするの、苗木君? 申し出は受けるのかしら?」

    苗木「あ、うん。霧切さんが嫌じゃなければ、ボクとしては是非」

    霧切「そう。それならお言葉に甘えさせてもらうわ」

    康一「うん。じゃあ行こうか。……それと、気を付けてね」

    苗木「えっ……気を付けるって、何に……?」

    由花子「ランカーには血の気の多い人もそれなりにいるの。たぶん今年も、新入生歓迎という名の総攻撃があるんじゃない……?」

    苗木(何その地獄)

    霧切「空条先生の言葉の意味が……なんとなくわかったわ」

    苗木(そういう事かあ……)

    苗木(広瀬先輩たちと話しながら、行きたくないなあなんて思いつつ歩いていると……当然、到着してしまう訳で)

    苗木「えっと……ここ、開けるんですよね?」

    康一「うん。気を付けて」

    霧切「私が開けてもいいわよ?」

    苗木「そんな事!」

    苗木(うん、これでもボクは男なんだ。そりゃ霧切さんの方が場数踏んでるだろうし頼りになるだろうけど……このくらい、へっちゃらだ!)

    苗木「し、失礼します!」

    苗木(気合を入れて扉を開ける。すると……)

    「おおおおおおりゃあああああああ! ザ・ハンド! ザ・ハンド! ザ・ハンドォォォォォ!」

    十神「ふん……まだやるか。無意味な奴め」

    「あんだとチクショウ!」

    「食らいやがれ! 銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)! おおおおおッ!」

    十神「全く持って俺の絶頂を妨げるスタンドではないな」

    「チックショー……ナマイキな後輩め! エアロスミスッ!」

    十神「全く、しつこさだけが評価点だな……」

    苗木「うわあ……」

    霧切「……予想して然るべきだったわね」

    「あんたたち……やっと来たのね」

    苗木「あ……すみません。えっと、あなたは……?」

    苗木(なんとなく、誰かの面影があるような……)

    「あたし? あたしは……」

    徐倫「徐倫……空条徐倫よ」

    苗木「あ……って事は、あなたが先生の……」

    徐倫「先生? ……あー、空条承太郎ね」

    霧切「ええ。私達の担任です」

    徐倫「そういうコト……ええ、たしかにあたしはあのクソ親父の娘よ」

    苗木「クソ親父……」

    苗木(……空条先生って妙にスパルタなところあるし、気持ちは分からないでもないか。ボクは立派な人だと思うけど)

    徐倫「ま、父さんはあんなんだし……あたしも一時期けっこー嫌いだったけど。あれで懐の深いとこもあんのよ。よろしくしてやって」

    苗木「は……はあ」

    徐倫「あと父さんと紛らわしいし、あたしの事は徐倫でいいわよ」

    霧切「それじゃあ徐倫先輩」

    徐倫「何?」

    霧切「これは……だいたい分かりますけど。何が起こってるんですか?」

    徐倫「入ってきた十神に血の気の多いのが攻撃仕掛けたら、今度は十神が煽って来てこのザマよ」

    苗木(煽ったんだ……なにしてんの、十神クン……)

    十神「……ん? 苗木に霧切。ようやく来たのか。俺は退屈していたぞ」

    「ぜー……ぜー……こ、コイツ……チャリオッツの攻撃をかわし続けて……それで退屈だとォ……?」

    「チックショー……オレのザ・ハンドも当たりゃしねえ!」

    「エアロスミスで連射しても当たらねえとかどーなってんだ……」

    徐倫「さて、と。そろそろ落ち着いて来たみたいだし」

    徐倫「みんな、気は済んだわね? それじゃあそろそろ自己紹介と行くわよ」

    苗木(結局ボクら、何もされなかったな。心配しすぎだったみたいだ……)
  371. 371 : : 2016/10/09(日) 13:04:25
    #69
    校内ランカー!
  372. 372 : : 2016/10/09(日) 13:04:45
    苗木(徐倫先輩の一声で十神クンや、十神クンと戦っていた先輩たちも、わざわざ持ち込んでいたらしいパイプ椅子に腰かけた)

    苗木(それで、改めて周囲を見回してみると……)

    苗木「あれ?」

    康一「どうかした?」

    苗木「いえ、ボクら含めても十四人しかいませんけど……全員で十五人のハズですよね?」

    康一「ああ……彼。彼はしょうがないよ、今日はそもそも日本に居ないみたいだし」

    苗木「え、日本に居ないって……」

    康一「忙しい人だからね。でも会議には出るだろうし、もう少ししたら来るんじゃないかな」

    苗木「そ、そうなんですか……」

    苗木(いろんな人がいるんだな)

    徐倫「で、よ。その居ないヤツが校内ランク一位なんだけど」

    苗木(って事は、たしか……シオバナ先輩……だったかな)
  373. 373 : : 2016/10/09(日) 13:05:48
    ※以下、ランカーの紹介が入りますが、ジョジョキャラの超高校級の肩書は超適当です。ご了承ください。



    徐倫「まずはあたしから自己紹介するわ」

    徐倫「あたしは空条徐倫。さっきも少し話したけど、あんたたちの担任の空条承太郎の娘よ。スタンドはストーン・フリー。よろしくお願いするわ」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十四期生
    “超高校級の囚人”≪空条 徐倫≫
    スタンド:ストーン・フリー(ストーンオーシャンより、元本体名:空条徐倫)
    【破壊力】A
    【スピード】B
    【射程距離】C
    【持続力】A
    【精密動作性】C
    【成長性】A
  374. 374 : : 2016/10/09(日) 13:06:13
    狛枝「あはっ……次はボクだね。ボクみたいな、ただ破壊力のあるだけのスタンドで第三位なんておこがましいにも程があると思うけど……ボクのスタンドはキラークイーン。よろしく」

    苗木(噂に聞いたな……なんでも幸運枠で第三位に入った前代未聞のヒトなんだっけ。凄いな……)

    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:四番
    “超高校級の幸運”≪狛枝 凪斗≫
    スタンド:キラークイーン(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:吉良吉影)
    【破壊力】A
    【スピード】B
    【射程距離】D
    【持続力】B
    【精密動作性】B
    【成長性】A
    ※キラークイーンといえばのアレとかソレとかはまた別の機会に。
  375. 375 : : 2016/10/09(日) 13:06:51
    花京院「僕は花京院典明。スタンドは法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)だ。よろしく頼むよ」

    「コイツ、新入生でランカーに入って来た時は緊張のあまり自分のスタンドを法皇の緑(ハイエロファント・エメラルド)って言っちまったんだぜ」

    花京院「だ……黙っていろ、ポルナレフ!」

    ポルナレフ「へいへーい」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十五期生
    “超高校級のレーサー”≪花京院 典明≫
    スタンド:法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)(スターダストクルセイダースより、元本体名:花京院典明)
    【破壊力】C
    【スピード】B
    【射程距離】A
    【持続力】B
    【精密動作性】C
    【成長性】D
  376. 376 : : 2016/10/09(日) 13:07:20
    ポルナレフ「そいで、次は俺だな。俺はジャン=ピエール・ポルナレフ。スタンドは銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)だ。ま、よろしく頼むぜー」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十四期生
    “超高校級の図書委員”≪ジャン=ピエール・ポルナレフ≫
    スタンド:銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)(スターダストクルセイダースより、元本体名:J・P・ポルナレフ)
    【破壊力】C
    【スピード】A
    【射程距離】C
    【持続力】B
    【精密動作性】B
    【成長性】C
  377. 377 : : 2016/10/09(日) 13:07:39
    康一「えっと……僕は広瀬康一っていいます。スタンドはエコーズ。よろしくお願いします!」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十五期生
    “超高校級の主人公”≪広瀬 康一≫
    スタンド:エコーズ(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:広瀬康一)
    【破壊力】E
    【スピード】E
    【射程距離】B
    【持続力】B
    【精密動作性】C
    【成長性】A
    ※データはACT1のものです。
  378. 378 : : 2016/10/09(日) 13:07:52
    終里「オレは終里赤音ってんだ。スタンドはザ・ハンド! オメーらともいずれバトりてえな!」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:一番
    “超高校級の体操部”≪終里 赤音≫
    スタンド:ザ・ハンド(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:虹村億泰)
    【破壊力】B
    【スピード】B
    【射程距離】D
    【持続力】C
    【精密動作性】C
    【成長性】C
  379. 379 : : 2016/10/09(日) 13:08:10
    由花子「私は山岸由花子よ。スタンドはラブ・デラックス。……よろしく」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十五期生
    “超高校級の美容師”≪山岸 由花子≫
    スタンド:ラブ・デラックス(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:山岸由花子)
    【破壊力】B
    【スピード】B
    【射程距離】C
    【持続力】A
    【精密動作性】E
    【成長性】B
  380. 380 : : 2016/10/09(日) 13:08:25
    田中「ほう……俺様の名を問うか? いいだろう、後悔せぬならばな……! 我が名は田中眼蛇夢ッ! “制圧せし氷の覇王”田中眼蛇夢だ……ッ! 我が能力、即ちスタンドはスカイ・ハイ!」

    苗木(濃い……)

    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:八番
    “超高校級の飼育委員”≪田中 眼蛇夢≫
    スタンド:スカイ・ハイ(ストーンオーシャンより、元本体名:リキエル)
    【破壊力】なし
    【スピード】なし
    【射程距離】B
    【持続力】C
    【精密動作性】なし
    【成長性】なし
  381. 381 : : 2016/10/09(日) 13:08:42
    ナランチャ「俺はナランチャ・ギルガ。スタンドはエアロスミス! 俺がお前らの先輩なんだからなー、ちゃんと敬えよッ!」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十六期生
    “超高校級のギャングダンサー”≪ナランチャ・ギルガ≫
    スタンド:エアロスミス(黄金の風より、元本体名:ナランチャ・ギルガ)
    【破壊力】B
    【スピード】B
    【射程距離】C
    【持続力】C
    【精密動作性】E
    【成長性】C
  382. 382 : : 2016/10/09(日) 13:08:55
    エルメェス「あたしはエルメェス・コステロ。スタンドはキッス。ま、適当によろしく頼むな」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十四期生
    “超高校級の姐御”≪エルメェス・コステロ≫
    スタンド:キッス(ストーンオーシャンより、元本体名:エルメェス・コステロ)
    【破壊力】A
    【スピード】A
    【射程距離】A
    【持続力】A
    【精密動作性】C
    【成長性】A
  383. 383 : : 2016/10/09(日) 13:09:07
    ペッシ「最後はオレだな……オレの名はペッシ。スタンドはビーチ・ボーイ! まあほどほどに頑張んな……」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十六期生
    “超高校級の釣り師”≪ペッシ≫
    スタンド:ビーチ・ボーイ(黄金の風より、元本体名:ペッシ)
    【破壊力】C
    【スピード】B
    【射程距離】C
    【持続力】C
    【精密動作性】C
    【成長性】A
  384. 384 : : 2016/10/09(日) 13:09:30
    苗木(一通りの自己紹介を聞いて、その後はボク達七十八期生の面々も自己紹介をした)

    徐倫「……よし、これでひとまず顔と名前、それとスタンドの名前くらいは覚えたわね。それじゃあ……」

    「僕が自己紹介をする番ですね」

    苗木(え? この声って……)

    徐倫「ああ……ようやく来たわね」

    ジョルノ「やあ、苗木君。少しぶりだね」

    苗木「ジョルノ先輩!? なんでジョルノ先輩が……?」

    徐倫「あれ、あんたら知り合い? まあ、いいや。なんでってそりゃ、そいつが校内ランク一位のジョルノ・ジョバァーナその人だからよ?」

    苗木(……え?)

    苗木「えええええっ!? 初耳ですよ!? それに一位はシオバナって先輩だったんじゃ……!?」

    ジョルノ「ああ、それは僕の日本での名前だね。一応それが本名って事になるから公的な書類ではそう扱われるけど……僕はジョルノとして生きている。そっちで呼んでもらえると嬉しいかな」

    十神「フン……ジョルノでもシオバナでもなんでもいいがお前が一位か」


    ジョルノ「そうだね。改めて、僕が校内ランク一位のジョルノ・ジョバァーナです。スタンドはゴールド・エクスペリエンス。尤も、本業が本業なので日本に居ない事も多いんですけど」

    ナランチャ「もうちっと学生生活満喫しよーぜー、ジョルノォー!」

    ジョルノ「ナランチャ……君はもうちょっとこっちに顔を出してくれ」

    ナランチャ「あっはは……」

    幽波紋ヶ峰学園 第七十六期生
    “超高校級のギャングスター”≪ジョルノ・ジョバァーナ≫
    スタンド:ゴールド・エクスペリエンス(黄金の風より、元本体名:ジョルノ・ジョバァーナ)
    【破壊力】C
    【スピード】A
    【射程距離】E
    【持続力】D
    【精密動作性】C
    【成長性】A
    ※アレはどうしたって? いやいや、こっちでも十分強いじゃないですか……。
  385. 385 : : 2016/10/09(日) 13:09:57
    徐倫「全く……とりあえずこれでホントに全員の自己紹介が終わったわね」

    霧切「それで、会議という事だったけれど。どんな議題があるのかしら?」

    ジョルノ「今日は議題というほどの議題は無いはずさ。僕らと新入生のランカー三人の顔合わせ、って意味合いが大きいはずだよ」

    花京院「尤も、他に議題が全くないわけじゃあないんですがね」

    苗木「たとえば、どんな議題ですか?」

    田中「(ふる)き我らが加護はもはや闇の彼方へと姿を隠した。亡者共は新たなる(天啓)を待つのみ……。であれば、神にも等しき我らが新たなる闇の衣にて彼奴らの世界を破滅で覆う必要があろう?」

    苗木(何言ってるのか分かんない……)

    狛枝「つまり、そろそろ新しいスローガンを掲げようって事だね」

    苗木「分かるんですか!?」

    狛枝「あはは、クラスメイトだからね」

    ポルナレフ「おれにゃ、未だにコイツが何言ってんのか分かんねーんだけど」

    ナランチャ「分かってねーのオレだけじゃなかったんだ! 良かったぜー!」

    苗木(意外と和やかな人達だな、校内ランカー……)
  386. 386 : : 2016/10/09(日) 13:10:37
    終里「けどスローガンつってもよー、メシとバトル以外になんかあんのか?」

    十神「……参考までに聞きたいが、昨年度のスローガンは何だったんだ」

    徐倫「ああ、一つだけ訂正させてもらうわ」

    十神「訂正だと?」

    徐倫「“昨年度の”じゃあなくて、“先月の”……よ」

    ペッシ「要するに、スローガンは毎月変わってるってわけだ」

    苗木(知らなかった……)

    エルメェス「で、先月のスローガンは……“ブッ殺す、そんな言葉は使う必要がねー。ブッ殺したなら使ってもいいッ!”ね」

    苗木「殺伐としてない!?」

    ペッシ「兄貴……いや、オレのクラスの担任のプロシュート先生の鶴の一声で決まったんだ」

    苗木(どんな先生!? ねえ、それどんな先生!?)

    由花子「その前の月のスローガンは、国語のギアッチョ先生が推してきた“言葉は正しく使いましょう”だったわね」

    霧切「随分と……高低差があるのね……」
  387. 387 : : 2016/10/09(日) 13:11:26
    十神「なんでも構わんが、教師が口出ししてくるのか?」

    ジョルノ「口出ししてくる、というよりは、僕らだけでは紛糾する事があるから意見をこちらから伺いに行く、というのがより正確かな」

    苗木「な、なるほど……」

    苗木(ギアッチョ先生はともかく、プロシュート先生は意見出してもらう先生間違えたんじゃあないかって思うんだけど……)

    ジョルノ「さて、ひとまずみんな、アイディアを出してもらえるかな」

    終里「だから、“たくさんメシを食ってバトル”でいいじゃあねーか!」

    康一「いやー、さすがに戦闘行為を僕らが推奨しちゃうのはマズいんじゃあないですか?」

    狛枝「うーん……。けど、先月のプロシュート先生のスローガンも似たようなものだったから、今更って感じにならないかな」

    花京院「では、直接的なスタンドバトルについてはあえて言及せずに、“勝敗による遺恨は残さないよう”程度にとどめてはどうだろう?」

    徐倫「なーんか、ちょっとお茶を濁してみました、ってカンジがしてビミョーね」

    苗木「というか、そもそも校則では無用な戦闘は禁じられていませんでしたか……?」

    ジョルノ「いや、それは誤りさ。禁じられているのは戦闘じゃあなくて、“暴力”と“殺し”だからね。両者合意の上での戦闘は“暴力”とは呼べないさ。もちろん、不意打ちのような攻撃は暴力とみなす事になっているけどね」

    十神「その定義が確かであるとするなら、スタンドバトルを推奨する事には何ら問題は無いという事になるな」

    ナランチャ「おお! 確かに!」

    ポルナレフ「いや、そうでもねーぜ。さっきジョルノも言ったが、合意の無い状態での不意を打つような攻撃はご法度だ。おれ達が推奨しちまった結果、そのご法度が解禁されたと勘違いしちまう連中が出てこねーとも限らねえ以上、早まったスローガンは掲げねえ方がいいぜ」

    苗木「なるほど、たしかに……」
  388. 388 : : 2016/10/09(日) 13:12:07
    ペッシ「ポルナレフがそうやって冷静な意見出すのも、珍しいな……」

    ポルナレフ「おれは別に不意打ちって戦術を認めてねーわけじゃあないんだがな。この学園に居る以上はあくまで“試合”の形式じゃあねーといけねーと思うのよ。試合が始まってからならともかく、始まる前から不意を打つってーのは、正々堂々としてねえ……気に入らねえってだけだぜ」

    花京院「なるほど、試合というのは尤もだ」

    終里「だったら“メシを食って正面からバトル”ならモンクねーって事だな!?」

    由花子「食事を摂る事を入れる意味は……どうなの?」

    徐倫「いや、でも放課後の食堂の飯は飛びてェほどうンめー、ってのは同意するわ」

    ジョルノ「うん。あれは実に美味しいね。僕もひいきにさせてもらってるよ」

    ポルナレフ「フランス料理を出されても、故郷のフランスで食う本場のフランス料理にも引けを取らねえ。アイツはスタンド能力が無かったとしても超一流の料理人だぜ……」

    苗木「分かります! あのご飯は一度行ったら病み付きになっちゃうっていうか……」

    霧切「そんなにおいしいの?」

    苗木「あれ、霧切さん、行った事無かったっけ?」

    苗木(そういえばさっき、誘おうとして結局行けなかったんだっけ)

    霧切「昼にはたまに行くけれど……たしかに学生食堂にしては奇妙なほど小奇麗なだとは思っていたわ。味は普通だったと思うけれど」

    苗木「昼じゃあ無いんだよ、昼じゃあ……! 放課後に行かないと!」

    霧切「そ、そう……」

    ジョルノ「あはは、苗木君もすっかり気に入ってくれたみたいだね。紹介した僕としても嬉しいな」

    苗木「あ、はい! あの時はありがとうございました!」

    霧切「……気になるわね。苗木君、だったらこの後一緒に行きましょう」

    苗木「あ、うん。もちろん!」

    ポルナレフ「なんだあ? この後デート、ってか? くー、羨ましいぜ!」

    苗木「で、デートって……そんなんじゃあないですよ……!?」

    霧切「そうね。苗木君はあくまで助手の立場だし」

    苗木(そういえばそんな肩書だった……)

    徐倫「はいはい、イチャつくのは後にしなって……それよりさっさとスローガンを決めちゃわないと」

    田中「さもなくば、終焉を告げるメロディが我らの頭上を鳴り響き、異界への門を潜らねばならん!」

    狛枝「そうだね、下校時刻のチャイムが鳴るまでには会議を終わらせないと、決まる前に帰らないといけなくなっちゃう」

    苗木(あ、そういう意味なんだ……)
  389. 389 : : 2016/10/09(日) 13:12:28
    苗木「あ、そうだ」

    徐倫「ん、なにかいいアイディアでも思いついた?」

    苗木「えっと、さっきの食堂の流れで思いついたんですけど」

    苗木「この学園って、スタンドバトルについて学ぶ事、結構多いですよね」

    花京院「そうだね。悪意や害意を持ったスタンド使いに襲われた時、身を守り戦う技術を洗練させるというのが学園のスタンスだったはずだ」

    苗木「それはそれで、いい事だと思うんですけど……でも、スタンドの“戦闘外”での利用法ってあんまり教えられないなって思って……」

    康一「あ、言いたい事、何となくわかるかも……」

    ペッシ「つまり、“スタンドの非戦闘用の利用法も模索してみよう”……って事かァー?」

    苗木「そう! そういうのも、大事なんじゃあないかって……」

    ポルナレフ「戦闘外の利用法……かァー。たしかに、チャリオッツを戦闘以外に使うなんざ、考えたことも無かったぜ」

    エルメェス「戦闘に特化したようなスタンドでも、何かしら応用次第ではやれるだろうしなあ……」

    ジョルノ「それに、殺伐としている事も多い学園だからね。時には平和的な思考を巡らす事で精神的な成長を促すというのは、学生としても悪い事じゃあない……うん、僕は賛成かな」

    終里「なんだ、バトらねえのか?」

    ナランチャ「それはそれでツマンネーぜ?」

    花京院「安心してください。あくまでスローガン、別に戦闘を認めない、という程の影響力があるわけではないですから」

    終里「マジか! おっしゃあ! じゃあナランチャ、この後バトろうぜ!」

    ナランチャ「おっしゃ! 望む所だぜ!」

    苗木(あれはあれで仲いいな……)

    ジョルノ「じゃあスローガンはそんな感じで……他に急ぎの案件は無かったはずだね」

    十神「全く、くだらん会議だった……」

    徐倫「そうは言っても、ちゃんと次も出なさいよね?」

    十神「言われずとも、だ」

    苗木(これを皮切りにそれぞれみんな部屋を後にして――終里先輩とナランチャ先輩はこの場に残ってバトってたけど――ボクは霧切さんを連れて、フルールヴィラージュへと向かい夕食を食べ、自室へと戻った)

    苗木(……ちなみに、料理については霧切さんからも“今まで食べたどの食事よりもおいしいわ”との感想を貰えた事は、ちょっと嬉しかったりする)
  390. 390 : : 2016/10/09(日) 21:31:44
    #70
    イギーと歩こう
  391. 391 : : 2016/10/09(日) 21:32:17
    苗木(ある日曜日――)

    苗木(さすがに学園生活には随分慣れてきたとはいえ、それでも入学する前よりはるかに高い密度でスタンドを扱っている以上、ハッキリ言って疲労は結構たまる)

    苗木(――ので、休みの日は自室で休むっていうのがボクのここ最近の日常と化している)

    苗木(けど――)

    イギー「ガウガウッ!」

    苗木「イギー? どうしたの?」

    イギー「ガウッ!」

    苗木「うわ、ちょっと! 引っ張らないでって……」

    イギー(今日は暇なんじゃあねーのかよッ! だったら散歩に連れてけ……いや、付き合わしてやるからさっさと来いッ!)

    苗木(……さすがにそろそろ、部屋にいるのも飽きてくる頃合い、か)

    苗木「分かった分かった……外に行けばいいんでしょ? 着替えるから待ってよ……」

    イギー「ガフッ」

    イギー(行くんだな? 行くんだな?)

    苗木(はあ……ま、しょうがないか。適当にその辺ぶらついてたら満足するかな……)
  392. 392 : : 2016/10/09(日) 21:32:41
    苗木(学園の敷地は、表向きとはいえさすがは“超高校級の天才たちを集めた超特権的教育機関”とも言うべきか、単に学校の敷地というだけじゃなく、ちょっとした街の様相を呈している)

    苗木(それっていうのも理由は単純で、市街地での戦闘を模すことも容易になるからってだけの事らしい)

    苗木(そんなわけで、学園の敷地内をイギーとうろつくだけで割と街の風景に“犬の散歩をしている人”として溶け込んでしまう)

    苗木(……それがいいのか悪いのかは分かんないけどさ)

    苗木(それにしても、イギーの奴、久々に楽しそうにしてるな。連れてきて良かったか)

    イギー「……いぎっ!?」

    苗木「……? イギー、どうかし……」

    苗木(……なんか、猛烈な勢いでこっちに走ってくる人がいる)

    苗木「……って、アレって!」

    ジェノサイダー「ハァイ♪ まこちんじゃん! なになにー、ワンコロの散歩中ー? ゲラゲラゲラ! ウケる! なんか一般人みたいでチョーウケる! ゲラゲラゲラ!」

    苗木「えっと……あはは……ふか……じゃなかった。ジェノサイダーは……なんでジェノサイダーに……?」

    苗木(自分でも何言ってるのか分かんないけど、気になるんだもん……!)

    ジェノサイダー「あん? 別に理由なんてねーけど……あ、そーそー。それよりまこちん、白夜様見なかった?」

    苗木「え、十神クン? いや、ボクも今寮から出てきたところだし、見てないけど……」

    ジェノサイダー「ちィッ! アタシとのデートの約束をすっぽかすなんて……!」

    苗木「え、デート……?」

    ジェノサイダー「ま、そんな約束してないんですけど! ゲラゲラゲラゲラゲラ!」

    苗木(……田中先輩とは違った意味で、ジェノサイダーの事がよく分からない)

    ジェノサイダー「ま、知らないならそれはそれで。んじゃ、アタシには白夜様を探すっていう崇高な使命があるんで! まったねー!」

    苗木「あ、ああ……うん……また……」

    イギー(なんだよ……誠の奴、あんなヤベェのといつも会ってんのか……?)

    イギー(なんか血のにおいのする奴だったぜ……)
  393. 393 : : 2016/10/09(日) 21:33:17
    苗木(ジェノサイダーと別れてからしばらくぶらぶらしていると)

    大和田「おっ、苗木……に、イギーじゃあねえか!」

    苗木「あ、大和田クン」

    イギー「いぎっ!?」

    イギー(さっきのとはまた別の意味でコイツもヤベェんだよ!)

    大和田「な……なあ、苗木……」

    苗木「あはは……うん、イギーがいいならボクは構わないよ……」

    大和田「お、おお! そうか! それじゃあ……イギィー……!」

    苗木(呼びかけて、大和田クンはイギーをなで始める)

    苗木(イギーも大人しい……というか、たぶん初めて会った時に思いっきり撫で回されたのが記憶に新しいからか、縮こまっている)

    大和田「やー……やっぱ犬ってな、いいモンだよな……。それにコイツはいい犬だぜ……利発そうな顔してやがる」

    イギー(当たり前だ……オレを誰だと思ってんだ、コイツ?)

    苗木「大和田クン、ホントに好きだね」

    大和田「当たりめえだろ!」

    苗木(ちなみに、大和田クンはイギーがスタンド使いだという事を知らない)

    苗木(というか、知ってるのはボクと霧切さんとプッチ神父、それとイギー自身を除けば・……念のために報告しておいた空条先生くらいのはずだ)

    苗木(ボクは誰にも言ってないから、他の誰かが言ってない限り、この学園でイギーがスタンドを使うという事を知っているのは全員になる)

    大和田「おっと、そろそろオレは行かねえと……」

    苗木「あれ、なにか予定でもあるの?」

    大和田「ああ、チームの連中と久々に集まるコトんなっててな」

    苗木「チーム……って、そっか。大和田クンって」

    大和田「おう。表向き、“超高校級の暴走族”だぜ。オレのスタンド、クレイジーダイヤモンドの名前はチーム名の暮威慈畏大亜紋土から取ったんだ」

    苗木「へ、へえ……」

    苗木(知らなかった……)

    大和田「んじゃ、名残惜しいがそろそろ行くぜ。イギー、また遊ぼうな」

    イギー「……いぎ」

    大和田「んじゃな!」

    苗木(言って、大和田クンは歩き去って行った)

    苗木(……幸運枠のボクと違って、私生活でもいろいろある人、当然だけどたくさんいるんだよなあ。調べたらジョルノ先輩なんか、世界最大規模のギャング“パッショーネ”のボスだし……)

    苗木(……いや、ジョルノ先輩は別に怖くないけどさ)
  394. 394 : : 2016/10/09(日) 21:33:50
    苗木(大和田クンと別れて、さらにぶらつく)

    苗木「……それにしても、平和だ……」

    苗木(ほんと、スタンドとかスタンド使いとか、忘れそうになるほど平和だ)

    ヘイ・ヤー『オレノ事忘レンジャネーヨッ!』

    苗木「いや、忘れないけどさ……」

    苗木(そんな他愛ない話をしていると……)

    朝日奈「あ、苗木だ!」

    大神「む? 本当だな……」

    苗木「朝日奈さんに大神さん。こんにちは」

    大神「うむ。こんにちは、だ」

    朝日奈「苗木は犬の散歩? ってか、犬なんて飼ってたんだね」

    イギー「ガウッ!」

    朝日奈「ひゃ!?」

    苗木「ちょ、い、イギー! ゴメンね朝日奈さん……イギーはプライドの高いヤツだから」

    朝日奈「ぷ、ぷらいど……?」

    苗木「そ。ボクなんか……というか、人間なんかに飼われるなんてまっぴらだ、みたいな」

    大神「では、飼い犬ではないのか……?」

    苗木「うーん、飼い犬っていうか、友達だよ。ボクの部屋で同居してるのは確かだけどね」

    朝日奈「どうしよう、それとペットの違いが分からないよ……!」

    苗木「ま、気難しいとこもあるけど悪いヤツじゃあないよ」

    大神「そうか……ある種、信頼関係のようなものを築いているのだな」

    苗木「ん、そんな感じかな。それより、二人は今日はどうしたの?」

    朝日奈「ああ、さくらちゃんにはちょっと訓練に付き合ってもらってたんだ」

    苗木「訓練?」

    大神「自身のスタンドの可能性の模索という事だ」

    苗木「ああ、なるほど……」

    苗木(それはボク自身、その壁には頻繁にぶち当たるから気持ちはよく分かる)

    朝日奈「って言っても、大して収穫はないんだけどね」

    苗木「そっか……」

    苗木「ボクも、朝日奈さんさえよければいつでも相談に乗るよ。空条先生にも、“ランカーとして困ってる人がいれば助けてやれ”みたいな事言われてるし……そうじゃなくたって、クラスメイトのみんなの力になりたいって思うし」

    朝日奈「苗木……」

    大神「ふむ」

    苗木「……えっと、どうかした?」

    朝日奈「……いいヒトだね!」

    苗木「え、え!?」

    朝日奈「同じ校内ランカーでも、十神だったら“知るか、勝手にやってろ”とか“如何に努力したところで愚民に変わりはない”とか言いそうじゃん!」

    苗木「ああ……それは、ちょっと分かるかも……」

    苗木(十神クンももうちょっと、クラスに溶け込んでほしいけどなあ)

    大神「霧切も底の見えぬ所があるからな。たしかに、クラスメイトの校内ランカーであれば比較的話を持ちかけ安いのは苗木であろう」

    苗木「まあ、ボクで力になれるかっていうと、それはまた別の話になるんだけどね」

    朝日奈「だとしてもだよ!」

    大神「うむ。他者の意見というものは、それがたとえ誰からもたらされるものであったとしても刺激になるものだからな」

    朝日奈「うんうん! だからさ、なにかあったら今度は苗木にもお願いするよ!」

    苗木「うん。いつでも言ってよ。あ、なんなら探偵部も頼ってね。みんなの助けになるように、って霧切さんと作った部活だしさ」

    大神「ふむ、そういえばそのようなものも作っていたな」

    朝日奈「うん、頼らせてもらうね!」

    イギー「……バフッ」

    朝日奈「あ……ありゃりゃ」

    大神「ふ、立ち話が過ぎたか。イギー、といったか? 苗木の友人がスネ気味だな」

    苗木「あ……あはは」

    大神「では、我らは行くとしよう」

    朝日奈「これからさくらちゃんとドーナツ食べに行くんだ!」

    苗木「そっか。それじゃあまた明日ね」

    朝日奈「うん! また明日ー!」

    大神「ではな」

    苗木(言って、二人は近くにあったドーナツ屋さんに入って行った)

    苗木(あの二人はクラスメイトの中でも比較的話しやすいんだよね。なんというか、友好的というか……)

    苗木(男子だと大和田クンや葉隠クン、石丸クンあたりかな?)

    苗木(桑田クンあたりも気は良さそうなんだけど……霧切さんとの確執がなかなか取れないからなあ。何とか出来るといいんだけど)
  395. 395 : : 2016/10/09(日) 21:34:13
    苗木(さらに歩く事しばし……)

    ポルナレフ「お? 苗木じゃあねーか!」

    苗木「あ、ポルナレフ先輩」

    苗木(ポルナレフ先輩とばったり遭遇した)

    ポルナレフ「ぽ……ポルナレフ“先輩”……。くゥーッ! 新鮮でいい響きだぜ……アイツら基本呼び捨てだからよー……」

    苗木(なんて、ポルナレフ先輩が感傷に浸っていると)

    イギー「……!」

    ポルナレフ「なんだあ? 犬っころなんて連れてよ」

    苗木(……ま、マズい! イギーのこの目は……)

    苗木「ポッ……ポルナレフ先輩ッ! かわしてくださいッ!」

    ポルナレフ「は? かわすって何を……んにゃあああああああッ!? こッ、このッ! やめ……!?」

    苗木(言った時にはもう遅く、イギーはポルナレフ先輩の髪をむしり始めていた)

    苗木「お……遅かった……」

    苗木「じゃない! イギー、こら離れろ……あッ、まずい……はやく引っぺがさないとッ!」

    ポルナレフ「ま、マズいって何だ!? これ以上何があるってんだァー!?」

    苗木「イギーのクセなんです! ヒトの髪をむしりながら顔面に屁をするのがッ!」

    ポルナレフ「にゃ、にゃにィーッ!? お、おいこのクソ犬ッ! やめろ、離しやが――」

    プゥー……

    苗木「……」

    ポルナレフ「……」
  396. 396 : : 2016/10/09(日) 21:34:46
    苗木(その後、なんとかイギーをポルナレフ先輩から引きはがし……というか、満足そうな表情で自分から飛びのいたんだけど)

    苗木(その後、ボクらは近くの公園にやってきた)

    苗木「えっと、ホントすみません、友人……いや、友犬(ゆうけん)のイギーが……」

    ポルナレフ「オメー……友達は選んだ方がいいぜ……」

    苗木「まあ、数年来の友達なんで……」

    ポルナレフ「ったくよォー、そもそもなんで犬と友達になってんだ?」

    苗木「それは……」

    苗木(……まあ、校内ランカーの先輩だし、伝えておいてもいいか)

    苗木「イギーはただの犬じゃあないんです」

    ポルナレフ「ってこたあ、あれかい。血統書でも付いてんのか?」

    苗木「いや、そういう事じゃあなくってですね。コイツ、スタンド使いなんですよ」

    ポルナレフ「ほー、スタンド使い……」

    ポルナレフ「……」

    ポルナレフ「はあ!?」

    苗木「イギー、どうせなら見せてやりなよ」

    苗木(声をかけると、イギーは面倒そうにしながらも……)

    ズザァァァァァ

    ポルナレフ「ま、マジで出しやがった、このクソ犬……」

    苗木「砂のスタンド、ザ・フールです。めちゃくちゃ強いんで気を付けてくださいね、ホント」

    ポルナレフ「強い……ねえ。どのくらいだ?」

    苗木「そうですね……前に空条先生に紹介したんですけど」

    ポルナレフ「ああ、あの学内最強の教師とまで言われる……」

    苗木(そんな評価だったの、あの先生!?)

    ポルナレフ「で? 空条先生に紹介して、どうなったんだよ?」

    苗木「……イギーが圧してました」

    ポルナレフ「……マジ?」

    苗木「ええ……スタンドが砂なんで、殴ってもダメージないですからね……」

    ポルナレフ「うええ……そりゃかなり強力だなあ」

    苗木「ですよ」

    苗木(イギーの奴、威張ってるな……)

    苗木(そんな話をしていると……)

    セレス「あら、苗木君ではありませんか」

    苗木「あ、セレスさん。こんにちは」

    セレス「ええ。ごきげんよう」

    苗木「セレスさんは今日は散歩?」

    セレス「ええ。優雅なティータイムのあとにはゆったりとお散歩するに限りますわ」

    苗木「そうなんだ……」

    苗木(ティータイムなんてした事無いから分かんないや……)
  397. 397 : : 2016/10/09(日) 21:35:11
    #71
    セレスティア・ルーデンベルクは騎士(ナイト)に憧れる その①
  398. 398 : : 2016/10/09(日) 21:35:43
    苗木(そういえば、ポルナレフ先輩が妙に静かだな……)

    ポルナレフ「…………」

    セレス「……どうかされましたか? わたくしをじっとご覧になっているようですが」

    ポルナレフ「おい、苗木!」

    苗木「えっと、どうしました?」

    ポルナレフ「知り合いなのか?」

    苗木「ええ、クラスメイトですけど……」

    ポルナレフ「なんだよ。だったら紹介しろよッ! めちゃくちゃカワイーじゃあねえかッ!」

    苗木「……へ?」

    ポルナレフ「いいか、苗木……青春ってなあ、ほんの数年しかねえんだ。すぐに過ぎ去っちまう。今、恋をする事は悪い事じゃあねーッ! そうだろ?」

    苗木「は、はあ……」

    ポルナレフ「というわけでだ、さっさと紹介したまえ、苗木君ッ!」

    苗木「わ、分かりました……」

    苗木(セレスさんのスタンド、魂を奪うとか物騒な事言ってた気がするけど……ええいッ! どうなっても知らないですからね……ッ!)

    苗木「えっと、セレスさん。紹介するよ。こちら、七十四期生のジャン=ピエール・ポルナレフ先輩」

    セレス「ふむ、ポルナレフ……フランスの方ですか?」

    ポルナレフ「ええ、そうですとも、 マドモワゼル(お嬢さん)

    苗木(急にピシッとしたな、ポルナレフ先輩……)

    苗木「えっと、ポルナレフ先輩は校内ランカー第五位の先輩だよ」

    セレス「まあ! さぞお強いんでしょうね」

    ポルナレフ「はは、それほどでも……」

    苗木「それで、ポルナレフ先輩。こちらはセレスティア・ルーデンベルクさん。ボクのクラスメイトです」

    セレス「うふふ、セレスとでもお呼び下さい。どうぞよろしくお願い致しますわね」

    ポルナレフ「ふむ、セレス嬢ですか」

    セレス「それにしても、フランスの方とは……わたくしの父もフランス貴族の出なのです。母はドイツの音楽家なのですが」

    苗木(そうだったの!?)
  399. 399 : : 2016/10/09(日) 21:36:13
    ポルナレフ「ほう! ではセレス嬢も故郷はフランス……いや、出自がということは、ドイツになるので?」

    セレス「いえ。宇都宮ですが」

    ポルナレフ「……はい?」

    セレス「ですから、宇都宮です」

    苗木「栃木県……?」

    セレス「ええ、その宇都宮です」

    ポルナレフ「えっと……」

    セレス「うふふ……」

    ポルナレフ「本名は……?」

    セレス「セレスティア・ルーデンベルクですわ。セレスとお呼び下さいませ……!」

    ポルナレフ「……さ、さいですか」

    ポルナレフ「さすがはスタンド使い、一筋縄じゃあいかねーな……だがおれも男だッ! めげたりするもんかよッ!」

    ポルナレフ「よ、よし……」

    ポルナレフ「ではセレス嬢。この後ご予定は?」

    セレス「そうですわね……今の所、特には」

    ポルナレフ「ではご一緒致しませんか?」

    セレス「わたくしは構いません。エスコートしてくださるんでしょう?」

    ポルナレフ「……! ええ、ええ。それはもちろんッ!」

    苗木(なんか、案外うまくいきそう……? それはそれで、いい事だと思うけど)

    ポルナレフ「それでは」

    セレス「ああ、少々お待ち下さい」

    ポルナレフ「は……はい?」

    セレス「ただそこらを歩くだけ、というのも面白くありませんわ。ここはひとつ、ゲームといきませんか?」

    ポルナレフ「げ……ゲーム?」
  400. 400 : : 2016/10/09(日) 21:36:33
    セレス「ええ。わたくし、表向きとはいえ、これでも“超高校級のギャンブラー”で通っている身なのです。さすがに、賭け事という訳には参りませんが……どのような事でも、ゲームにはなるものですわよ?」

    ポルナレフ「ふむ。いいでしょうとも」

    苗木(「カッコいーとこ見せるチャンス到来!」……とか考えてそうだなあ、ポルナレフ先輩)

    ポルナレフ「しかし……どのような事でも、と言ったが、いったいどんなゲームを?」

    セレス「そうですわね……それでは」

    セレス「ポルナレフさん。貴方が次に歩くとき、左足から前に出すか、右足から前に出すか……を、あらかじめ決めて頂きます。わたくしはポルナレフさんが歩き出す前に、どちらから前に出すかの予測を紙に書いておく。これが当たっていればわたくしの勝ち。はずれていればポルナレフさんの勝ち。如何でしょう? シンプルですが、なかなかスリルがあると思いませんか?」

    ポルナレフ「おれが……どっちの足から前に出すか……?」

    苗木(たしかにシンプルだけど……そんなの、セレスさんはどうやって予測するつもりなんだ……?)

    ポルナレフ「ふむ、いいでしょう。受けましょう。どちらにするかは決めましたよ」

    セレス「グッドですわ。それでは……ふむ。果たしてポルナレフさんはどちらの足から前に出すのでしょうか……右足から? それとも……左足から?」

    苗木(独り言のようにセレスさんは呟き、そして……)

    セレス「決めましたわ。それでは」

    苗木(紙に、セレスさんの解答を書く)

    セレス「それではポルナレフさん、お願いしますわ」

    ポルナレフ「いいでしょう」

    苗木(言ってポルナレフさんが前に出したのは……右足ッ! 右足から前に出したッ!)

    ポルナレフ「さて。セレス嬢、どうでしたかな?」

    セレス「……うふふ」

    苗木(笑みをこぼし、セレスさんは手にした紙をこちらに向ける……)

    苗木「あ……ああッ! これは……ッ!」

    ポルナレフ「ほほう」

    苗木(セレスさんの紙にはたしかに……“右足”と記されていた)
  401. 401 : : 2016/10/09(日) 21:36:52
    #71
    セレスティア・ルーデンベルクは騎士(ナイト)に憧れる その②
  402. 402 : : 2016/10/09(日) 21:37:14
    セレス「以前のトーナメント戦では苗木君に引けを取ってしまいましたが……これでようやく、ギャンブラーとしての面目躍如といったところでしょうか」

    苗木(とはいえ……内容は“右足を出すか? 左足を出すか?”という二択だ。別に、事前に利き足を質問したり、ってわけでもないし……純粋な二分の一。当たっても不思議はない、か)

    ポルナレフ「なるほどなるほど……」

    セレス「うふふ。お次はどのようなゲームに致しましょう? ポルナレフさんもアイディアがあれば、是非」

    ポルナレフ「アイディア……ねえ。それじゃあ、こういうのはどうだい」

    セレス「伺いましょう」

    ポルナレフ「おれが今から一つ、クイズを出す」

    セレス「クイズ……ですか。構いませんわよ。さあ、出題なさってくださいな」

    ポルナレフ「いやいや、早まりなさんな。クイズに答えるのはセレス嬢ではなく……苗木だ」

    苗木「え、ボク!?」

    ポルナレフ「しかも苗木はそのクイズの答えを確実に知っている」

    苗木「え、それって出題に何の意味が……?」

    ポルナレフ「苗木はそのクイズに正解してもいいし、わざと間違えてもいい。セレス嬢には苗木が正解するか、間違えるか? ……を、当てて頂きたい」

    苗木(なるほど、さっきと同じような形式だな)

    セレス「なるほど。……グッド、面白い趣向ですわね。よろしいですわ。それで、出題を聞いてからわたくしは判断してもよろしいのでしょうか?」

    ポルナレフ「もちろん。それでは出題しよう。苗木、準備はいいな?」

    苗木「はい、どうぞ」
  403. 403 : : 2016/10/09(日) 21:37:45
    ポルナレフ「では! ……苗木。おれの“スタンドの名前”は、一体なんだ?」

    苗木(ああ……たしかに知ってるや。これに正解してもいいし間違えてもいい……ってことか)

    苗木「うーん……」

    苗木(そのまま正解する? いやでもなあ。ちょっとスナオすぎるかなあ……。かといって、“スタンドの名前を間違える”って事は、それっぽい名前を自分で考えなきゃいけないって事だし。それはそれで難しい気も……)

    セレス「うふふ、どうするか、決めかねている様子ですわね」

    ポルナレフ「まあまあ、じっくり悩みたまえ」

    セレス「それで、わたくしもどうするか、もう決めなければならないのでしょうか?」

    ポルナレフ「いいや? 苗木と一緒にどちらにするか考えて大丈夫ですとも。最終的なジャッジは両者が決めるまで待つって感じか」

    セレス「なるほど……」

    苗木(んー……よし、決めた)

    セレス「と、言っている間に。苗木君はもうどうするか決めてしまったようですわね?」

    苗木「うん」

    セレス「……そうですか。さて、わたくしはどうしたものか……。苗木君は果たして、正解するつもりなのでしょうか? それとも、間違えるつもりで? ……うふふ、怖いですわね」

    苗木(なんか……セレスさんの眼って妙に迫力あるんだよなあ……)

    セレス「……決めましたわ。例によってわたくしは、事前に紙にでも予測を書いておいた方がよろしいでしょうか?」

    ポルナレフ「ふむ。ではそのようにお願いしよう」

    セレス「わかりましたわ。……っと、こちらの準備は完了です。それでは苗木君。どうぞ」

    苗木「うん。それじゃあ言うよ。……ポルナレフ先輩のスタンドの名前は」

    セレス「…………」

    ポルナレフ「…………」

    イギー(……オレはカンケーないだろ、映してんじゃあねーぜッ!)

    苗木「シルバー・チャオリ(・・)ッツ……です」

    セレス「……ふむ」

    ポルナレフ「……不正解ッ! おれのスタンドはシルバー・チャリオ(・・)ッツだ。さて、セレス嬢の解答や如何に?」

    セレス「こちらですわ」

    ポルナレフ「どれどれ……? おおッ! こ、これは……」

    苗木「また当たってる……!」

    苗木(そこにはたしかに、“間違える”と記されていた)
  404. 404 : : 2016/10/09(日) 21:38:14
    セレス「うふふ……またまたわたくしの勝ち、ですわね」

    ポルナレフ「なるほど。二分の一の賭けでは分が悪いらしい……と、いうことが分かりました」

    セレス「いえいえ。さあ、お次はどうしましょうか……と申し上げたいところですが」

    ポルナレフ「む。何か予定でもありましたかな?」

    セレス「そうではありませんわ。名前が出たものですから、少々、ポルナレフさんのスタンドに興味が沸いてしまいました。どのようなスタンドなのか見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

    ポルナレフ「ああ……ウィ。お安い御用です」

    苗木(言って、ポルナレフ先輩はスタンド像を出す)

    苗木(シルバー・チャリオッツ……前に十神クンを攻撃しているところを見てはいたけど、その姿は銀の甲冑に身を包んだ騎士、といった風貌だ)

    ポルナレフ「これが我がスタンド……銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)の姿です。セレス嬢」

    セレス「……まあ!」

    ポルナレフ「如何されましたかな?」

    セレス「……うふふ。わたくし、とても貴方のスタンドを気に入ってしまいました」

    苗木「……え?」

    苗木(気に入るも何も、まだ何もしてないんだけど)

    ポルナレフ「と、申しますと?」

    セレス「騎士(ナイト)はわたくしの、ある種憧れのようなものなのです」

    ポルナレフ「ほ……ほう!」

    セレス「まさに貴方のスタンドはナイトそのもの……うふふ。気に入るなという方が無理な相談です」

    苗木(えーっと……)

    ポルナレフ「いやあ……ははは……はっはっは!」

    苗木(ポルナレフ先輩もやたら機嫌がよくなってるし……)

    苗木(それから少し談笑して……イギーが暇そうにしていたので、ボクは中座して散歩に戻った)
  405. 405 : : 2016/10/09(日) 21:38:34
    苗木(翌日――)

    苗木「あ、セレスさん」

    セレス「なにか?」

    苗木「えっと、昨日の騎士(ナイト)がどうこうってやつ。どこまで本気だったの……?」

    セレス「さて、どこまでだとお思いになりますか?」

    苗木「いや、分からないから訊いてるんだけど……」

    苗木(セレスさんの表情は、やっぱりボクには読めそうもない事が分かった)
  406. 406 : : 2016/10/10(月) 18:02:02
    #72
    本物はどっちだ!? その①
  407. 407 : : 2016/10/10(月) 18:02:28
    十神「不愉快だ。なんとかしろ」

    苗木「いや、いきなり言われても」

    霧切「状況を説明して頂戴……」

    苗木(ある日の放課後……探偵部の部室に突如現れた十神クンの、第一声がこれである。うん、これだけで何事か察しろっていうのは、いくらなんでも無理がある)

    苗木(見ると、珍しく霧切さんも狼狽している様子。うん、そりゃいきなり依頼人がこんな状態じゃあね……)

    十神「分からんのか? 仮にも探偵を名乗っているのだろう。何の事か、本当に心当たりがないのだとすれば能力不足だと言わざるを得ん」

    霧切「……ああ、そういう事」

    苗木「え、分かるの?」

    霧切「ジェノサイダーの事ね」

    苗木「ああ」

    十神「違う。いやそれも不愉快だが、今言っているのはそっちではない」

    苗木(違うんだ)

    十神「……ちっ。校内で噂になっているだろう。そのことについてだ」

    苗木「ジェノサイダーと十神クンが付き合ってるって?」

    十神「違う。というか、おぞましい事を言うな」

    苗木(おぞましいとか言われちゃってるよ、ジェノサイダー……)

    十神「……ニセモノだよ」

    苗木「にせもの……?」

    十神「ああ。何やら校内で俺の偽物が出没しているらしい。不愉快だ。見つけ出して即刻やめさせろ」

    霧切「つまりそれが貴方からの依頼、というわけね……」

    十神「フン。探偵などと看板を掲げているんだ。やれて当然なんだろう?」

    霧切「それは、調査次第だけれど。意外ね」

    十神「何がだ」

    霧切「貴方が誰かを頼るのが、よ」

    十神「頼る? 何を言いだすかと思えば……」

    苗木「違うの?」

    十神「違うに決まっているだろう。俺は上に立つ者の役目を果たしているだけだ」

    苗木「えっと……どういう意味……?」

    十神「下々に仕事を割り振ってやるのは上の者の役割だろう。俺が直々に下賜してやる仕事だ。有り難く思って速やかに遂行するのがお前らの役割だ。違うか?」

    苗木(違うか、って言われても困る)

    十神「ともかく。今お前達が成すべきは俺の不快の元を早い所処理する事。話はそれで終わりのはずだ」

    霧切「ふう……。依頼だもの。やれるだけはやる、約束するわ」

    十神「曖昧だが……まあ、いいとしてやる。それでは行くぞ」

    苗木「行くぞって……え!? 十神クンも来るの!?」

    十神「ああ。愚民の分際で恥ずかしげもなく俺を騙る、極まった愚か者をこの目で見ておきたいからな」

    苗木「ああ……そう……」

    苗木(ついて来る……って事は、手分けして調査するわけにもいかないか。こりゃ三人で一塊になって行動するしかないかな、今回は)
  408. 408 : : 2016/10/10(月) 18:03:12
    苗木(その後、あちこちで聞き込みをしてみたところ。十神クンの偽物を見た、という情報は得られなかった)

    苗木「十神クン、本当に偽物がいる、なんて噂が立ってるの? 誰も見てないみたいなんだけど」

    十神「ああ。噂があるのは事実だ。……だが、こうも誰も知らないというのはいったいどういう事だ?」

    霧切「よほどソックリに化けていて、誰も気が付いていない……という可能性はあるけれど」

    苗木「そもそも、十神クンは誰からその噂を聞いたの?」

    十神「ジョルノ・ジョバァーナからだ」

    苗木「ジョルノ先輩か……」

    苗木(そりゃ、嘘とは思えないな……無意味に誰かをからかったりするような人でもなさそうだし)

    霧切「なら、ジョルノ先輩に詳しい話を伺いに行くのがベターかしら……」

    「それは無理でしょうね」

    苗木「え!?」

    苗木(背後から、誰かに声をかけられた)

    花京院「やあ、三人とも。少しぶり」

    苗木「あ、花京院先輩」

    霧切「ジョルノ先輩と話すのが無理、とはいったい……?」

    花京院「彼も一つの組織を運営する立場で忙しいから。今はイタリアにいるはずさ」

    苗木(日本に居ない事も多い……んだったね、そういえば)

    花京院「それより、ジョルノに何か用でもあったのかい?」

    苗木「あ、そこを聞いてたわけではないんですね」

    花京院「ああ。ジョルノに話を訊きに行こう、という会話が聞こえた物だから、つい話しかけてしまっただけでね」

    苗木「えっと、今探偵部の活動中で……」

    花京院「なるほど、そんな部活を立ち上げていたね。ということは、なにか調査を?」

    霧切「ええ。こっちで仏頂面をぶら下げてる十神君からの依頼で」

    十神「フン……」

    霧切「彼の偽物が出没するそうなの。花京院先輩は何か知っている事は無いかしら?」

    花京院「偽物? 偽物か……」

    十神「不愉快極まりない話だ」

    花京院「その気持ちは分かるよ。分かるが……」

    苗木(そう言って、花京院先輩は何事か考えるように黙り込んでしまった)

    花京院「少し、思い当たる事がある」

    苗木「本当ですか!?」

    花京院「ああ。以前、スタンド使いの仲間と共に行動していた時……僕は直接会ってはいないが、その仲間がね。僕そのものに化けるスタンド使いと戦い、倒したと聞いた」

    苗木「花京院先輩そのものに……化ける?」

    花京院「ああ。話を聞いた時は、全くいやな気分だ、と思ったものだが……」

    十神「全くだ」

    花京院「たしか、そのスタンドの名前は……黄の節制(イエローテンパランス)……だったか」

    苗木「イエローテンパランス……それが誰かに化けるスタンドって事でしょうか」

    花京院「ああ、だが……そのスタンド使いは高校生ではなかったはずだ。この学園の教員というわけでもないし……もし奴がこの学園に出没しているというなら、それは部外者が侵入しているという事。ランカーとしても捨て置くわけにはいかないな」

    霧切「たしかに、幽波紋ヶ峰学園が部外者の侵入を……それも、怪しげなスタンド使いの侵入を許してしまうような失態を侵すとは思えないけれど、仮にそれが事実だとすると少し大きすぎる問題かもしれないわね」

    苗木(な、なんか予想以上に大変な事になってきたな)

    苗木「えっと、先生にも報告して協力を仰いだ方がいいんでしょうか?」

    花京院「いや……捨て置くわけにはいかないが、現状では確実に部外者が侵入したという証拠があるわけじゃあない。教員に報告して協力を仰ぐなら、せめて確かな証拠を手に入れてからでないといけないだろうね」

    霧切「そうね……それに、少しくらい大きな問題であっても、対処できない生徒はこの学園は求めていないはずよ。先生に頼るのは本当の最終手段にした方がいいわ」

    苗木「あ、そっか……」

    花京院「僕としても気になる話だ。こちらでも少し調べてみよう」

    苗木「あ、ありがとうございます!」

    霧切「何か分かれば教えてもらえると助かるわ」

    花京院「ああ、約束しよう。それじゃあ僕は……」

    十神「待て」

    花京院「おっと。どうかしたかい?」

    十神「せっかく四人いるんだ。二人ずつに分かれた方がいいだろう」

    苗木(マトモな事言ってる)

    十神「そういうわけだ。俺は花京院と共に行くぞ」

    霧切「……そう。花京院先輩さえいいなら、異論はないけれど」

    花京院「僕かい? もちろん、問題なんてないさ」

    苗木「そうですか? じゃあ花京院さん、十神クンの事よろしくお願いします」

    十神「俺はお前によろしくと言われるほど、無能な人間ではないがな」

    苗木「あはは……」

    苗木(こうしてボクらは花京院先輩、十神クンの二人と別れ、霧切さんと二人での調査を行う事になった)
  409. 409 : : 2016/10/10(月) 18:03:33
    #73
    本物はどっちだ!? その②
  410. 410 : : 2016/10/10(月) 18:03:59
    苗木(うーん、調査も思うように進まないな……。花京院先輩の言う“イエローテンパランス”についての情報も集まらないし。結局ハズレなのかな……?)

    苗木(煮詰まって来たという事もあって、ボクと霧切さんは食堂で食事をしつつ、これまでの成果を整理する事にした。まあ成果って言ってもなんの手掛かりもないんだけど)

    苗木(結局、「今日もおいしいね」なんていう日常会話に至ったあたりで……)

    「ん? 誰かと思えば苗木と霧切じゃあないか」

    苗木(……え!?)

    苗木「あれっ……十神クン!?」

    苗木(なんだか少し違和感がある気はするけど……声のした方向を見ると、大量の料理をテーブルに置いて食事を摂っている十神クンの姿がそこにあった)

    霧切「貴方も休憩かしら?」

    十神?「休憩? ……まあ、そんなところだ」

    苗木「花京院先輩はどうしたんです?」

    十神?「花京院? ああ、校内ランカーの花京院典明か。奴がどうかしたのか?」

    苗木「え? だってさっき、花京院先輩と一緒に調査に出かけてなかった?」

    十神?「フン、そんなものは知らんな。第一、何の調査だか知らんが、何故俺が自ら足を動かす必要がある?」

    苗木「え、そりゃ、十神クンが乗り気だったからだけど……」

    十神?「あり得ん。足で稼ぐ調査などというものは痩せているもののすべき事だろうが。それともお前は俺に、この貴重な脂肪を失わせるつもりか?」

    苗木(言ってる事はいつもの十神クンとほとんど同じな気がするけど……何かが微妙に違うような……)

    霧切「確認するわ。私達は十神君。貴方の依頼で調査をしているのだけれど」

    十神?「依頼だと? フン、それは何かあれば依頼くらいするが。俺は知らんぞ」

    苗木「え!? でも確かに、十神クンの依頼でボクらは動いてるんだけど……」

    霧切「もしかして、私達に依頼して来た方が偽物……という事はないかしら」

    苗木「ええっ!?」

    十神?「偽物だと?」

    霧切「ええ。私達に依頼してきた十神君は自分の偽物が出るらしいと言って依頼して来たのよ」

    十神?「ハッ、十神の名を騙るなど、不届き千万だな」

    苗木(どういう事だろう……?)
  411. 411 : : 2016/10/10(月) 18:04:21
    苗木(ひとしきりボクらが混乱していると……)

    「おい、これはどうなっている……!」

    苗木「……えっ!?」

    苗木(い、入り口から……十神クンが入ってきた!?)

    十神(以下、十神A)「これはどういう事だ! 説明しろ、苗木!」

    苗木「説明って……ええっ!? 十神クンが二人!?」

    十神?(以下、十神B)「バカな! 何故俺がもう一人いるんだ!?」

    十神A「まさかお前のような奴が俺の偽物……だと……!?」

    十神A「というかお前ら、まさか本当にコイツを俺だと思っていたのか? あり得んだろう! 体型を見ろ、体型を! 全く違うだろうが!」

    霧切「いったいどっちが本物なの……?」

    十神A「霧切ィ! お前までか!?」

    十神B「クッ、精巧に化けているようだが……苗木、霧切。お前らはどっちが本物か、さすがに分かるだろう?」

    苗木「いや、分かんないよ!?」

    苗木(どっちだ? どっちが本物なんだ……?)

    苗木(花京院先輩と一緒に来たことを考えると、あとから来た方が本物……?)

    苗木(いやでも、最初に一緒に居た十神クンが本物だって保証はないし……風格で言えば最初に食堂に居た十神クンの方が本物っぽいし……)

    苗木(わ、分からない……ッ!)
  412. 412 : : 2016/10/10(月) 18:04:51
    花京院「ウッ クックックックックックッ」

    花京院「クックッ フヒヒヒ」

    花京院「フッフッフッ ホハハハフフフフヘハハハハフホホアハハハ」

    苗木「か……花京院先輩? どうしたんです?」

    花京院「ハハハハフフフ」

    花京院「フハハッ クックックッヒヒヒヒヒケケケケケ ノォホホノォホ」

    花京院「ヘラヘラヘラヘラアヘアヘアヘ」

    苗木「かっ、花京院先輩、何を笑ってるんです!?」

    苗木(まさか……いきなり二人の十神クンを見て混乱して気でもふれてしまったのか!?)

    花京院「クックックッ……いえ、せっかく僕らの前に二人とも現れてくれたんです。だったら笑ってしまうくらい簡単に、どちらが本物かの区別はつくじゃあないですか」

    苗木「……えっ!?」

    十神B「何だと? おい、その方法を早く言え!」

    花京院「本物ならば……キング・クリムゾンを出すことができるはず。違いますか?」

    苗木「あ……ああッ! そうか! 本物の十神クンのスタンドはキング・クリムゾン! “似たスタンド”、“同じタイプのスタンド”はあっても、“全く同じスタンド”なんて存在しない……!」

    十神A「ちっ、仕方ないな。……キング・クリムゾン」

    苗木(そう言ってキング・クリムゾンを出現させたのは……後から来た方の、花京院先輩と一緒に居た方の十神クンだ!)

    苗木「こっちが本物の十神クンだったのか……!」

    十神A(以下、十神)「……確認するが苗木。お前本当に分からなかったのか? 俺をおちょくっていたとかでなく」

    苗木「そんな……十神クンをおちょくるなんてボクには出来ないよ……」

    十神「ちっ……不愉快さが増しただけではないか。俺はもう帰るぞ」

    苗木「あ、十神クン……」

    苗木(……行っちゃった)
  413. 413 : : 2016/10/10(月) 18:06:12
    霧切「だとすると、一つ謎が残るわね」

    苗木「え?」

    霧切「私達に自身を本物だと思わせる事の出来る程の偽物……貴方はいったい、何者なの?」

    十神B「……くっ」

    十神B「俺が何者か? ……答えるとするなら、“何者でもない”が正解だ」

    花京院「ほう……どういう意味ですか?」

    十神B(以下、詐欺師の人)「俺には名前も戸籍も国籍も何一つとして存在しない。あるのはただ、“超高校級の詐欺師”という肩書、それだけだ」

    霧切「超高校級の……詐欺師」

    詐欺師の人「ああ。一応、これでも七十七期生、お前らの一つ上の学年に在籍はしている」

    霧切「という事は、貴方もスタンド使いという事?」

    詐欺師の人「当たり前だ。俺のスタンドはクヌム神。身長・体重・匂いに至るまで完璧に他者に化けられるスタンド能力を持つ」

    花京院「その割には……冷静に見ると、体型が随分と違うが」

    苗木「ほ、本当だ……! 気が付かなかった……!」

    詐欺師の人「体型は俺のポリシーだ。これだけの脂肪を付けるのにいったい今までいくらかけたと思っている?」

    苗木「いや……知らないですけど……」

    苗木(すっごくどうでもいいし……)

    花京院「だが、おかしいな」

    霧切「何がです?」

    花京院「君は七十七期生だと言ったね。だけど僕はこれまで、七十七期生のスタンドバトルトーナメントで君の事を見かけてはいない。もちろん、クヌム神のスタンドの名前も初めて聞いた。これは一体どういう事だろう」

    詐欺師の人「ああ、その事か。それには少し事情があってな」

    苗木「事情……?」

    詐欺師の人「……すまんが、これについては話すことは出来ん。少なくとも、今はな」

    花京院「ふむ」

    詐欺師の人「学外での活動の一環でどうしても学園に出る事が出来なかった、とだけは言っておいてやる」

    苗木(詐欺師の学外での活動って、犯罪臭がスゴいするんだけど)

    詐欺師の人「だが、早々に十神白夜は見破られてしまったな……いや、そもそもこの学園の生徒に化けるというところ自体に無理があったか」

    苗木「うーん……」

    詐欺師の人「何か対策を考える必要がある……が」

    花京院「名前も戸籍も国籍もない、では“化けずにいる”というのは難しいですからね」

    苗木「うーん……」

    霧切「もう十神君のままでいいんじゃあないかしら」

    詐欺師の人「何……?」

    霧切「別に、十神君そのものでなければいけなかったわけではないでしょう? 十神君を名乗っている別人である、という事なら受け入れられると思うわ」

    花京院「ああ……それはたしかに、そうですね」

    詐欺師の人「そうか……! なるほど、参考になった!」

    苗木「じゃあこれからも十神クンとして頑張ってね!」

    詐欺師の人「ああ、礼を言う。……さて」

    詐欺師の人「では、食うとしよう」

    苗木(宣言して……詐欺師さんはガツガツと食事を始めた)
  414. 414 : : 2016/10/10(月) 18:06:31
    苗木(――後日)

    十神「おい苗木、どういう事だ、説明しろ!」

    苗木「え、何の話?」

    十神「偽物の事だ……! 何故奴が未だに俺を騙っている!?」

    苗木「いや……だって、ねえ?」

    霧切「ねえ?」

    十神「ねえ、じゃあないだろう……! クッ……!」

    苗木(十神クンは不満そうだったけど、しょうがない……よね?)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:十番
    “超高校級の詐欺師”≪十神 白夜≫
    スタンド:クヌム神(スターダストクルセイダースより、元本体名:オインゴ)
    【破壊力】E
    【スピード】E
    【射程距離】E
    【持続力】A
    【精密動作性】E
    【成長性】E
  415. 415 : : 2016/10/11(火) 19:50:52
    #74
    昼下がりの迷子 その①
  416. 416 : : 2016/10/11(火) 19:51:28
    苗木(ある日の昼休み)

    苗木(昼食を食べ終え、適当にぶらぶらしていると……)

    苗木「……あれ? どこだろ、ここ」

    苗木(気が付くと、見覚えのない区画に入り込んでしまっていた)

    苗木(さすがに、もう新入生気分はだいぶ抜けてるとはいえ、まだまだ知らないところがあるんだな……)

    苗木(けど、困った。こういう時は誰かに道を尋ねればいいんだろうけど、何処にも人の姿が見当たらない)

    苗木(どうしようかと悩んでいると……)

    苗木「あ……朝日奈さん!」

    朝日奈「あれ……苗木!」

    苗木「良かったー……実は道に迷っちゃってさ。朝日奈さん、ここってどのあたりなの?」

    朝日奈「え、苗木も迷子……?」

    苗木「え?」

    朝日奈「えへへ……実は私も迷子中だったりして……」

    苗木「そうだったんだ……じゃあここがどこかは……」

    朝日奈「うん、分かんないや」

    苗木「そっか……しょうがない、じゃあ一緒に知ってる場所に出る道を探そうか」

    朝日奈「うん! 知ってる人が一緒に居る方が心強いしね!」
  417. 417 : : 2016/10/11(火) 19:51:52
    苗木(朝日奈さんと合流してからも、あちこち歩き回ってみるけど……)

    苗木(校舎内のはずなのに、まるで見覚えのある場所に辿り着かない)

    苗木「うーん……ホントにここ、どこなんだろう?」

    朝日奈「ここまで見おぼえないってなると……あ、そうだ!」

    苗木「何か心当たりがあるの!?」

    朝日奈「ここ、もしかして私達が普段使ってる校舎じゃなくて、予備学科の方の校舎って事、ないかな?」

    苗木(予備学科……その可能性もあるのかな? いや、でも……)

    苗木「ボク、本科の校舎から出た覚えないんだけど……本科と予備学科って、校舎繋がってるのかな?」

    朝日奈「そっか……そういえば私も校舎から出てないっけ……うーん、繋がってるとは考えにくいしなあ」

    苗木「うー、ん。仕方ない……あんまり気は進まないけど」

    朝日奈「なになに? 何か考えあったり?」

    苗木「その辺の教室に入れば上級生の先輩がいるんじゃあないかなって。そしたら道も訊けるでしょ」

    朝日奈「あ! そっか、その手段があったね!」

    苗木「けど、ボクらは下級生だからさやっぱり上級生の教室に入るのって勇気いるよね」

    朝日奈「あー、分かるかも……」

    苗木「ま、言いだしっぺなんだしボクがいくけど」

    朝日奈「うん、任せたよ!」

    苗木(と、いうわけで。手近な教室の前で足を止め)

    苗木「失礼しまーす……」

    苗木(と言って、ドアを開ける。すると……)
  418. 418 : : 2016/10/11(火) 19:52:49
    「……え!? あれ、なんで!?」

    苗木(教室の中には、一人の見覚えのない女子生徒が驚いた顔でこちらに目を向けていた)

    苗木(見覚えがない……って事は、やっぱり先輩だよね? 制服も本科のものだし)

    苗木「えっと……すみません、ちょっと道に迷っちゃいまして。よければ道を教えていただきたいんですが」

    苗木(ひとまずボクは状況を伝えるした)

    「道に……ってそりゃそうでしょうね……」

    苗木「え……? それってどういう……」

    「あ、ゴメンゴメン! すぐ解除するね!」

    苗木(そう先輩と思しき女子生徒が言うと……)

    苗木「……あれっ!?」

    朝日奈「え、どういう事!?」

    苗木(気が付くと、ボクらはトレーニングルームにいた)

    苗木「さっきまで教室にいたと思ったけど……」

    朝日奈「だよ、ね……?」

    「ゴメンね、なんか巻き込んじゃったみたいで……」

    小泉「あ、私は小泉真昼。アンタ達はたしか一年生よね?」

    苗木「あ、はい。そうです!」

    朝日奈「小泉さん……は、先輩ですよね?」

    小泉「うん。七十七期生。アンタ達の一個上ね」

    苗木「七十七期生……って事は、狛枝先輩たちのクラスメイトですか」

    小泉「あれ、狛枝の事は知ってるんだ……って、そっか。キミ、七十八期生の校内ランカーになったんだっけ。そりゃ、会う機会もあるか……」

    苗木「あ、はい。七十八期生の苗木誠です」

    朝日奈「同じく七十八期生、朝日奈葵です!」

    苗木(十神クン……みたいな詐欺師の人の事も訊いてみるべきか迷ったけど、やめとこう)

    朝日奈「って、それより! さっきのってどういう事なんですか? 一瞬で周囲の風景が変わったんですけど」

    小泉「ああ……まあ薄々は察してると思うけど、アタシのスタンド能力よ」

    苗木「スタンド能力……」

    小泉「そ。アタシのスタンドはティナー・サックス。幻覚のスタンドなの」

    朝日奈「幻覚……」

    小泉「言っとくけどただの幻覚じゃあないわよ? 視覚だけを操るんじゃあなくて、聴覚、嗅覚、触覚……そういったものも全て惑わせるんだから」

    苗木(たしかに、言われてみれば……何か一つでも違和感があれば、即座にスタンド攻撃だって理解してたかもしれない。でもそれを一切感じさせないっていうのは……相当にスゴいスタンドなんじゃあ?)

    朝日奈「でも、なんでまた今、その能力を使ってたんです?」

    小泉「あはは、アタシ、表向き“超高校級の写真家”でさ。だからこそのこのスタンドの“弱点”を知ってて……どうにかして克服する方法は無いかなー、って」

    苗木「弱点ですか……」

    朝日奈「うーん、弱点の克服……私も急務だよ……」

    苗木「克服が急務になる弱点の無いスタンド使いも、少ない気はするけどね」

    朝日奈「十神とかは?」

    苗木「……あれは、なんか別次元だよ」

    朝日奈「そっかあ」

    苗木「けど、ボクでよければ相談には乗りますよ? 何が出来るかは分かりませんけど」

    朝日奈「あ、私も私も!」

    小泉「んー……まあ、他学年だしいいか。じゃあちょっと相談に乗ってもらっちゃおっか」
  419. 419 : : 2016/10/11(火) 19:53:11
    #74
    昼下がりの迷子 その②
  420. 420 : : 2016/10/11(火) 19:53:41
    小泉「実はさ……さっきも言ったけど、アタシのティナー・サックスはヒト……っていうか、生物の五感を惑わす幻覚を操れるんだけど」

    苗木「はい」

    小泉「たとえば……こうして、幻覚を出すじゃない?」

    苗木(そう言って小泉先輩は、周囲を砂漠に書き換えて行く)

    苗木「うわ……暑い……」

    小泉「あははっ、まあそういうスタンドだからね」

    苗木(いやこれ……ちょっとシャレになってないスタンドなんじゃあないの!? こんなスタンド能力を持っててもランカーに入れないって……じゃああの三人はどれだけ強いんだ……?)

    小泉「でね。この状態で写真を撮ると……」

    苗木(言って、パシャリと手にしたデジカメで写真を撮る小泉先輩)

    小泉「ほら、見て」

    苗木(写真のデータを見ると……)

    苗木「あれっ?」

    朝日奈「これ……トレーニングルームの風景?」

    小泉「そ。あくまで“生物の五感”だから。写真や映像には写らない……つまり、そういう準備さえしてれば簡単に破られちゃうのよ」

    苗木「なるほど……」
  421. 421 : : 2016/10/11(火) 19:54:25
    苗木(けど)

    苗木「それは別に、大した問題じゃあないような……?」

    小泉「え? どういう意味?」

    苗木「いや……たとえばこの砂漠ですけど、かなり暑いですし。そうやって体力を奪って……とかいろいろやれるんじゃあ……?」

    小泉「ああ……それはそうなんだけど。それだけじゃあダメなのよ」

    朝日奈「ダメって?」

    小泉「今のこの砂漠だと……実は、アタシも結構暑いのよね」

    苗木「ふむ」

    苗木(自身にも影響するって事か)

    小泉「そうなると、アタシは対象外……つまり幻覚の外に居る方が都合がいいでしょ?」

    苗木「あ、自分を対象から外すことは出来るんですね」

    小泉「まあ、それはね。……けど、対象から外したところで、カメラで周囲の写真を撮りまくればアタシのいる位置は把握できる……つまり、攻撃は出来るってわけ」

    苗木「なるほど……」

    小泉「それでも攻撃できないように、トーナメントではアタシが立ってる位置に柱を設置して攻撃を防げるようにもしてみたんだけど」

    朝日奈「へえ! 随分いいアイディアじゃあないですか?」

    小泉「アタシもそう思ってたんだけど……赤音ちゃんに“削り取られ”ちゃったら意味ないのよ、柱なんか」

    苗木(削り取る……? “赤音”って、ランカーの終里赤音先輩の事だよな……)

    苗木「つまり、ガード不能攻撃みたいなのが飛んでくる、と?」

    小泉「まあ、そんな感じ」

    朝日奈「うーん……。……あ、そうだ! 小泉先輩、一つ確認したい事があるんですけど」

    小泉「どうかした?」

    朝日奈「小泉先輩のその悩みって、“七十七期生トーナメントで勝ち上がる”事を目的としてるわけじゃあない……で、合ってますか?」

    苗木「……ん? どういう意味だろう」

    小泉「それも目標にはしたいけど、たしかに最終的にはスタンド絡みのトラブルを切り抜けられるように、って感じかな」

    朝日奈「だったら……一つお願いしたい事があったり……」
  422. 422 : : 2016/10/11(火) 19:54:46
    小泉「お願い? 何?」

    朝日奈「ちょっと、水場を出してもらえませんか?」

    小泉「水場? そうね……砂漠だし、オアシスとかいいかな」

    苗木(言って、小泉先輩は砂漠の中にオアシスを作り出す)

    朝日奈「それじゃあ……クラッシュ!」

    苗木(ああ、そういう事か。でも幻覚だけど……出て来れるのかな?)

    朝日奈「……やった! 出て来たよ!」

    苗木「凄いね、幻覚の水でも使えるんだ!」

    小泉「えっと、葵ちゃんの……クラッシュか。それはどういうスタンドなの?」

    朝日奈「水の中に出現させられるスタンドなんだ!」

    小泉「へえ、水に……」

    朝日奈「だから小泉先輩! ……良かったらなんですけど、私と組みませんか?」

    小泉「え?」

    朝日奈「小泉先輩が“水場の存在する幻覚”を相手に見せる。私はその中で“水場から攻撃”する。その間に小泉先輩は幻覚の外から、“幻覚の中を操作”して私達に都合のいいように持っていく……」

    小泉「そっか! そうすると、言い方は悪いけど……葵ちゃんに敵は目を向けざるを得なくなるから、アタシは安全にスタンド操作できるってわけね」

    朝日奈「そう! まさにそれ! 私は私で、“水場が無いと攻撃が難しい”って縛りがあるから、小泉先輩のこのティナー・サックスはまさに助けになるし!」

    小泉「そっか……上手い具合に持ちつ持たれつ、ってわけね」

    朝日奈「そうそう!」

    小泉「……うん、じゃあよろしくお願いしちゃおっかな」

    朝日奈「……! やった! やったよ苗木!」

    苗木「うん、二人ともいっぺんに解決する方法が見つかったみたいで良かったよ」

    苗木(ボクは別に何もしてないけど)

    小泉「それじゃあ、ちょっといろいろアタシ達で出来る作戦とか考えてみよっか!」

    朝日奈「はい!」

    苗木(そう言って小泉先輩はスタンド能力を解き……)

    苗木(これ以上、ボクがいると突っ込んだ話が出来なくなるだろうって事で、軽く挨拶だけしてトレーニングルームを後にした)
  423. 423 : : 2016/10/11(火) 19:55:12
    苗木(教室に戻って、クラスメイトの何人かと雑談に興じていると、昼休みが終わる少し前に朝日奈さんが戻ってきた)

    苗木(それまではいろいろと悩んだ表情も多かった朝日奈さんだけど、その表情はこれまで見たことがないくらいに晴れやかで……)

    苗木(これからの二人の健闘を祈ってしまうボクだった)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:三番
    “超高校級の写真家”≪小泉 真昼≫
    スタンド:ティナー・サックス(スターダストクルセイダースより、元本体名:ケニー・G)
    【破壊力】E
    【スピード】E
    【射程距離】D
    【持続力】A
    【精密動作性】E
    【成長性】E

    ※ティナー・サックスについては原作での描写も少ないので「たぶんこういう感じかな?」で書いているところが多いです。
    また、朝日奈さんのクラッシュがティナー・サックスの幻覚の水でも発動する理由については、一応、

    スタンドは精神の現れであるから、そもそも実際の水か否かは関係が無い。
    故にティナー・サックスの幻覚はリアリティの非常に強いものであるから通用する。

    と勝手に解釈して設定しております。ご了承ください。
  424. 424 : : 2016/10/11(火) 21:38:35
    #75
    恋する乙女は気合で乗り切れ! その①
  425. 425 : : 2016/10/11(火) 21:39:12
    苗木(ある日の放課後)

    腐川「あ……ああ、あんた達も何か考えなさいよ……」

    苗木「何かって……」

    霧切「……何を?」

    苗木(うん、十神クンと同じく、もっと要点を話して欲しい)

    腐川「分かりなさいよ……! 白夜様と上手く行く方法に決まってるでしょ……!」

    霧切「ああ……」

    苗木「うん……」

    苗木(どうしよう。エベレスト級の難問を持ち込まれたよ……)

    霧切「……私達で腐川さんの依頼を解決する、というのは少し難しいわ」

    腐川「な、何よ……あた、あたしの依頼だから!? あたしの依頼だから蹴るっていうのね!?」

    霧切「落ち着いて。そうは言っていないわ。ただ一人……解決策を持つかもしれない先輩に心当たりがあるの。その人物を頼ってみる、という手段の提示は、腐川さんとしては問題ないかしら?」

    腐川「え……? そんな先輩、ホントにいるの……?」

    苗木(ボクも初耳なんだけど)

    霧切「……なんで苗木君まで驚いているの?」

    苗木「え、だってそんな先輩、知らないし……」

    霧切「ランカー権限でいろいろ調べられるでしょう」

    苗木「あ……」

    苗木(すっかり忘れてた。結局まだ一回も図書室行ってないや)

    霧切「私も、前回の“詐欺師”の件でより詳細に調べた、って感じだけれどね。……それで、行ってみるかしら?」

    腐川「……行くわ」

    霧切「分かったわ。じゃあ早速向かいましょう」

    苗木「その先輩がどこに居るか、分かるの?」

    霧切「見当はついているけれど」

    苗木「そっか。じゃあそこにまずは向かってみよう」
  426. 426 : : 2016/10/11(火) 21:39:36
    苗木(霧切さんに連れてこられたのは……)

    苗木(……グラウンド?)

    苗木(運動部と思われる人たちが走り回っているみたいだ)

    苗木「ねえ、ここにホントにいるの?」

    霧切「いるじゃない」

    腐川「どこによ……体育会系な連中が走ってるとこしか見えないわよ……」

    霧切「あそこで、大声で叫んでる男子がいるでしょう。彼よ」

    苗木「……」

    苗木(すっごいゴツい人が、たしかに「気合じゃああああ!」とか叫びながら走っている人たちにハッパをかけているようだけど)

    霧切「少し、いいかしら?」

    「……無ッ? ワシか?」

    霧切「ええ」

    霧切「七十七期生の弐大猫丸先輩、で合っていますよね?」

    弐大「応ッ! ワシが弐大猫丸じゃあああああああッ!」

    苗木(ものすっごい体育会系なんだけど……)

    腐川「やたら暑苦しいわね……」

    霧切「一つお願いがあって参りました。お話する時間を頂けますか?」

    弐大「噴……ッ! 構わんが、しばし待て。今はこいつらのトレーニング中じゃからな」

    苗木「しばし、って……どのくらい?」

    弐大「そうじゃのう……ざっと二十分程度か」

    霧切「分かりました」
  427. 427 : : 2016/10/11(火) 21:40:13
    苗木(そして約二十分が経過し)

    弐大「ガッハッハ! 待たせたのう! それで、ワシに話とは……何じゃあ?」

    霧切「腐川さん、話しても構わないわね?」

    腐川「ここまで来て拒否する方が馬鹿じゃない……」

    苗木(その返答に一つ頷いて、霧切さんは弐大先輩に状況を説明した)

    弐大「なるほどのう……。たしかに、ワシのスタンドならば状況を多少好転させることは出来るやもしれん。じゃが……」

    弐大「お前さん、ちと気合が足りとらんようじゃな」

    腐川「……は? きあ……は?」

    弐大「いいかッ! ワシが力を貸すからにはまず、ワシのスタンドによる能力ではなく、お前さん自身の気合を引き出す事から始めるぞッ!」

    苗木(なにか、とんでもないことに……)

    弐大「ガッハッハ! 任せておけ! この“超高校級のマネージャー”、弐大猫丸のマネージメントを見せてやるとするかのう!」

    苗木(マネージャーだったの!? キャプテンか何かだと思ってた……!)

    腐川「ま、まま、待ちなさいよ……! 気合って何よ気合って……!」

    弐大「噴……ッ! 気合は気合じゃあああああああッ!」

    霧切「……具体的には、何が必要だと?」

    弐大「そうじゃのう……まずは腐川といったな。お前さん、どのように自分を磨いておる?」

    腐川「磨くったって……あ、ああ、あたしなんか磨いたところで、どうせただすり減っていくだけでしょ……」

    弐大「そんな事は無いぞォッ! 事これに関しては結果は重要ではないんじゃあッ!」

    腐川「ど、どういう意味よ……」

    弐大「お前さんはどうやら極端に自分に自信が無いようじゃからなあ。まずは“己を磨く”という行動をとる事で、“己に自信を付ける”事から始めん事には話にならんわいッ!」

    腐川「そ、そんなの、結局磨いたところで何も得られなかったら……余計自信無くすだけじゃない……ッ! 嫌よ、そんなの!」

    弐大「そんな事にはならんわいッ!」

    腐川「どうしてそんな事、言い切れるのよ……ッ!」

    弐大「決まっておるじゃろう。恋という物はこの世で最も綺麗な感情じゃあ。そのために努力した結果に何も得られんという事は絶対にあり得んッ!」

    苗木(あの体格で“恋”について語られても)
  428. 428 : : 2016/10/11(火) 21:40:33
    腐川「……言いたい事は分かるけど」

    苗木(分かるの!?)

    弐大「そうじゃろう。恋とは、“快眠・快食・快便”並に綺麗なもんじゃからなあ! ガッハッハッハッハ!」

    腐川「いやそれは同意しかねるわ」

    苗木(そりゃそうだよね、うん!)

    弐大「なんにせよ、ワシがまず出来る事は、腐川。お前さんが自信を付ける、そのためのトレーニングに付き合ってやることくらいか……」

    腐川「アンタの……スタンド? とやらはどうしてすぐ使わないのよ……その方が手っ取り早いんじゃあなかったの?」

    弐大「無……ッ? “とやら”とは……」

    腐川「……あたしは二重人格なの。スタンドを使えるのはもう一人の方。あたしは使えないし、見えないわ」

    弐大「無ッ、不躾な質問じゃったな。すまん。……で、じゃ。疑問に答えると、ワシのスタンドはあくまで一時的な効果しか得られん。その後持続するかは結局お前さん自身の努力にかかっておるというわけじゃ。……故にッ! まずはその“継続”を行う気合があるかを試させてもらうという事じゃあああああッ!」

    苗木(なるほど、いろいろ考えてるんだな……)

    霧切「一時的な効果、ね。たしかにそれなら、きっかけを得る事は出来ても最終的には腐川さん本人の力がものを言う事になるわ」

    腐川「う……うう……分かったわよ……やればいいんでしょ、やれば……」

    弐大「うむ! 腹は決まったようじゃのう! ……ところで一つ聞いておきたいが」

    腐川「な、何よ……?」

    弐大「お前さんの継続する力をワシに証明して見せたところで、その“もう一つの人格”の方がどうなのかは分からんわけじゃが……」

    腐川「…………あ、アイツの事よ。きっと、白夜様のためなら何かを継続するくらい、わけないでしょうね……」

    弐大「そうか。そいつを聞いて安心したぞ! では、早速トレーニングに移るとしようかのうッ!」
  429. 429 : : 2016/10/11(火) 21:40:47
    #76
    恋する乙女は気合で乗り切れ! その②
  430. 430 : : 2016/10/11(火) 21:41:16
    苗木(それからの弐大先輩のトレーニングは……筆舌に尽くしがたいものがあった)

    苗木(それでもあえてボクから言えることがあるとすれば……)

    苗木(どう考えても、恋愛にフルマラソンは関係ないと思う)

    苗木(いや、走りきった腐川さんも腐川さん……と、思わなくもないけど、なんか途中からランナーズハイって奴なのかなんなのか、絶対ジェノサイダーに代わってた)

    弐大「うむッ! お前さんの気合は見せてもらったッ!」

    腐川「はあ……はあ……。……こ」

    腐川「これで……自分磨きになったとか……思えない……ん、だけど……」

    苗木(全くだよね!?)

    弐大「なあに、安心するがいいッ! 少なくとも、お前さんは“やりきった”んじゃあ! 何事であろうとも、“完遂する事”は必ずや自信につながるからのう……!」

    弐大「事実、お前さんも少しは自分に自信が持てたんじゃあないか?」

    腐川「……まあ、ちょっとは」

    弐大「ガッハッハ! そうじゃろう、そうじゃろう!」

    苗木(いや、それが目的なら他に幾らでも手段はあったような……)

    弐大「……さて」

    弐大「お前さんの気合はさっきも言った通り、十分に見せてもらったッ! 継続を怠らないその精神……見上げたもんじゃあ!」

    腐川「そ……それじゃあ……」
  431. 431 : : 2016/10/11(火) 21:41:31
    弐大「ああ。ワシのスタンドが責任を持って、お前さんに“チャンス”を作ろう」

    腐川「チャンス……ね。それで、どんなチャンスを……?」

    弐大「そう焦るな。……噴ッ!」

    苗木(そう弐大先輩は気合を入れるとスタンドのヴィジョンを出現させ……)

    弐大「シンデレラッ! お前さんにワシ特性の“アレ”……即ち“エステ”を施してやるわ!」

    腐川「え……? え、えすて……!?」

    苗木(ええええええええええ!? 急にエステなの!?)

    弐大「そういう訳じゃあ。苗木、霧切。お前さんらは席を外してくれんかのう?」

    苗木「えっと、霧切さんが問題ないならボクはそれで大丈夫ですけど」

    霧切「……仕方ないわね。じゃあ腐川さん。一応ここまで見届けたということで、依頼は完了でいいかしら?」

    腐川「そ……そうね。また何かあったらお願いすると思うけど」

    霧切「分かったわ」

    苗木(結果は……まあ気になるといえば気になるけど)

    苗木(ボク達はその場を後にする事にした)
  432. 432 : : 2016/10/11(火) 21:41:51
    苗木(――翌日)

    苗木「あ、腐川さん。昨日は結局、あれからどうだったの?」

    腐川「ふ、ふふ……うふふ……」

    苗木(すっごいニヤついてる……)

    腐川「あの後……“エステ”を受けて……」

    苗木「う。うん」

    腐川「そのあとすぐ、白夜様に会ったのよ……」

    苗木「へえ、運がいいね」

    腐川「なんでも、運を引き寄せるのもエステの効果とか……って、そんなのはどうでもいいのよ! それより重要なのは……」

    苗木「じゅ、重要なのは……?」

    腐川「びゃ、白夜様にね……」

    苗木(もしかして、告白されたとか!?)

    腐川「“今日は臭わないな”って……言っていただけたのよ……!」

    苗木「…………そ、そう」

    苗木(どう返答したらいいの、コレ?)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:十一番
    “超高校級のマネージャー”≪弐大 猫丸≫
    スタンド:シンデレラ(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:辻彩)
    【破壊力】D
    【スピード】C
    【射程距離】C
    【持続力】C
    【精密動作性】A
    【成長性】C
  433. 433 : : 2016/10/12(水) 19:25:22
    #77
    ソウルソング・ソウルサウンド・ソウルミュージック! その①
  434. 434 : : 2016/10/12(水) 19:25:57
    苗木(ある日の昼休み、する事も無かったので適当に中庭をぶらついていると)

    ズッタン ズッ ズッ タン!
    ズッタン ズッ ズッ タン!

    苗木(……何か聞こえるな。何の音楽だろう?)

    苗木(気になって音のする方向へと向かってみると……)

    ズッタン ズッ ズッ タン!
    ズッタン ズッ ズッ タン!

    苗木(……何してるの、アレ)

    ナランチャ「……ん? おー! えーと、たしか……ナエ……ギ……だっけ?」

    苗木「はい、苗木誠です……けど、ナランチャ先輩、いったい何を……?」

    ナランチャ「ん? おー、これな。これは一流のギャングならみんな踊れる“ギャングダンス”だ!」

    苗木「一流のギャング……って事は、ジョルノ先輩も……?」

    ナランチャ「もちろん踊れるぜ。ま、ことギャングダンスに関しちゃ“超高校級のギャングダンサー”のオレの方が上だけどな!」

    苗木「そ、そうなんですか……」

    苗木(ギャングダンサーって何かと思ってたら、ホントにギャングで踊りがうまい人の事だったんだ……)
  435. 435 : : 2016/10/12(水) 19:26:26
    ナランチャ「ちなみにこのダンスは……」

    苗木(と、なにかをナランチャ先輩が言いかけたところで)

    「ナランチャちゃーん!」

    ナランチャ「うげ!」

    苗木「……?」

    苗木(聞き覚えのない女の人の声が、ナランチャ先輩を元気よく呼んだ)

    「おろ、誰かと一緒だったんすね。誰っすか?」

    苗木「あ、えっと……苗木誠です……七十八期生の」

    「おー! 唯吹たちの後輩っすかー!」

    苗木(唯吹……?)

    澪田「唯吹は澪田唯吹っす! 七十七期生なんでー、誠ちゃんの一コ上っすね!」

    苗木「澪田先輩、ですか」

    澪田「先輩なんて堅苦しい呼び方しなくてもいいんすよ?」

    苗木「いえ……別に堅苦しいとかそんなつもりはないんですけど」

    澪田「そっすか? ならいいっすけど」

    苗木(……と、自己紹介していると、ナランチャ先輩がそーっとこの場を離れようとしている事に気が付いた)

    苗木「……ナランチャ先輩? どうしたんです?」

    ナランチャ「……ッ! な、苗木ッ、オメー余計な事をッ!」

    澪田「あーッ! そうっすよ! ナランチャちゃん!」

    ナランチャ「だー! だからダメだって言ってんだろー!」

    澪田「いいじゃないっすかー減るもんでもないしー!」

    苗木「えっと……何の話ですか……?」

    澪田「ナランチャちゃんにギャングダンスを教えて欲しいんすけどね。でも教えてくれないんす」

    ナランチャ「だから、ギャングになったら教えてやるって言ってんだろ! ギャングじゃないとダメなんだ!」

    苗木(なんで……?)

    澪田「でも、門外不出とかじゃないんすよね? 普通にその辺でも踊ってるっすし」

    ナランチャ「そーだけどよー……」

    苗木(そのあと、小さな声でナランチャ先輩が「でもこれ基本拷問用だしなー」と呟いた気がするのは気のせいという事にしたい)
  436. 436 : : 2016/10/12(水) 19:27:01
    苗木(そんなこんなで二人が言い争っている……というか、「教えて」「教えない」のやり取りをどうにか収めようと悩んでいると)

    舞園「ピザ・モッツァレラ♪ ピザ・モッツァレラ♪」

    苗木(なんかゴキゲンな様子で変な歌を口ずさみながら散歩してる舞園さんがこっち来てるんだけど)

    舞園「レラレラレラレラ……あれ、苗木君? こんなとこで何してるんです?」

    苗木「いやこっちが訊きたいんだけど……なにその歌……」

    舞園「あ、これですか? さっき唐突に思いついた『チーズの歌』です。二番はゴルゴン・ゾーラでゾラゾラの繰り返しです」

    苗木(そこまで教えてとは言ってないんだけど)

    ナランチャ「ピッツァかあ……オレは故郷のネアポリスのピッツァが大好物なんだよなあ」

    苗木「あ、ナランチャ先輩」

    澪田「唯吹もピザは好きっすよー! チーズどばっと使ったのが好みっす!」

    苗木「澪田先輩も……えっと。口論? はもういいんですか?」

    澪田「別に争ってたわけでもないっすしねー」

    ナランチャ「ま、挨拶みたいなもんだぜ」

    苗木「そう、なんですか?」

    苗木(まあ、仲が悪くないならそれでいいか)

    舞園「口論って、なにかあったんですか?」

    苗木「あ、うん。ナランチャ先輩のギャングダンスを澪田先輩が教えて欲しいって言うんだけど、ナランチャ先輩は教えられないって感じで」

    舞園「ぎゃんぐだんす……? よく分かりませんが、澪田先輩はダンサーなんですか?」

    澪田「あ、違うっすよ。唯吹は“超高校級の軽音楽部”っす」

    苗木(軽音楽部だったんだ……)

    苗木「軽音楽にダンスっているんですか?」

    苗木(いや、詳しくないからわかんないけどさ)

    澪田「いやー、いるとかいらないとかじゃなくって、ノリっすかね」

    ナランチャ「単にノリかよ!?」

    舞園「ふむ……でしたら」

    苗木「何かいいアイディアでもあるの?」

    舞園「はい! ふふ、お二人とも、少しいいでしょうか――」

    苗木(そうして舞園さんは二人と何やら相談を始めてしまった)

    苗木(ボクにはどうも関係なさそうだったし……適当に挨拶だけして、教室に戻る事にした)
  437. 437 : : 2016/10/12(水) 19:27:36
    #78
    ソウルソング・ソウルサウンド・ソウルミュージック! その②
  438. 438 : : 2016/10/12(水) 19:27:58
    苗木(ナランチャ先輩たちとのやり取りをしたその日のHR直後……)

    霧切「それじゃ、苗木君。部室に――」

    舞園「あ、霧切さん、苗木君」

    霧切「って、舞園さん? どうかしたかしら?」

    舞園「これから、時間ってありますか?」

    苗木「ん、別に今は依頼も特に無かったよね?」

    霧切「そうね。部室に直接依頼が来なければ今日も部室で暇してるだけだと思うけれど」

    苗木(誰か来ない限り、基本的には霧切さんと雑談してるだけだもんなあ)

    舞園「なら良かったです! この後中庭でコンサートを開くので、よければいらっしゃいませんか?」

    苗木「コンサートかあ」

    苗木(考えてみれば、この学園に来てからクラスメイトになったとはいえ、舞園さんの生歌なんて聴いた事無いな)

    霧切「そうね……私は構わないわよ」

    苗木「ん、ボクも勿論OK」

    舞園「良かったです!」

    霧切「それでコンサートって、舞園さんのソロかしら?」

    舞園「いえ、実は昼にちょっとしたユニットを組んだんです」

    苗木「昼って……もしかして」

    舞園「はい!」

    霧切「……? 心当たりがあるの?」

    苗木「いや、昼休みにナランチャ先輩と、七十七期の澪田唯吹って先輩との三人で何か相談してたみたいだったからさ」

    霧切「ふむ。ナランチャ先輩は彼の事よね。澪田先輩は……たしか、軽音楽部だったかしら」

    苗木「うん、そうだよ」

    苗木(さすが霧切さん……調査も行き届いてるなあ)

    霧切「なら、結構楽しめそうね。開演の準備には時間がかかるのかしら?」

    舞園「いえ、既にステージの設営も終わっているので、人が集まればすぐにでも始められますよ」

    霧切「そう。じゃあ適当に声をかけて行きましょう」
  439. 439 : : 2016/10/12(水) 19:28:31
    苗木(霧切さんと一緒に、数人に舞園さん達のコンサートが中庭で開かれると話をしつつ向かってみると……すぐに噂が広がったのか、ボク達が到着して少しすると随分と人が集まった)

    苗木「さすが、現役のトップアイドルともなると人もだいぶ集まるね」

    霧切「そうね。彼女のこの集客能力にスタンドは関係が無いというのも、また恐ろしい話だわ」

    苗木「ホントにね」

    苗木(周囲を見てみると、見知った顔、見知らぬ顔、ホントにいろんな人がいる……あ、空条先生まで見に来てる。意外だ……)

    苗木(そうして少しの間待っていると……)

    ナランチャ「うおッ! す、すげえ人集まってんじゃあねーか……」

    澪田「ひゃー、壮観っすねー……」

    舞園「そもそもこの学園、こんなに人いたんですね……」

    苗木(三人がステージ脇にまでやってきて、そんな会話をしているのが目に入った)

    ナランチャ「つーか聞いてねえよ、こんないるなんてさ。オレ、ギャングダンスじゃなくってホントにいいんだよな?」

    舞園「ええ。普通のダンスも一級品でしたから!」

    ナランチャ「お……おっしゃ。じゃあやるぜッ!」

    澪田&舞園「おー!」

    苗木(話はまとまったと言わんばかりに、三人とも踊り込むようにステージに上がる。すると周囲は大歓声に包まれ……)

    澪田「みんなー! こんなにたくさん、来てくれてありがとー!」

    舞園「今日はたくさん、楽しんで行ってくださいね!」

    ナランチャ「おっしゃオメーらー! 盛り上げてくからなー!」

    歓声「オオオオオオォォォォォォォッ!」

    苗木「す……すごい熱気だね、まだ始まってないのに……」

    霧切「ふふ、たまにはこういうのもいいじゃない。楽しくって」

    苗木「ん、それもそうだね」

    澪田「それじゃ、行くっすよー! イィィィィイイイイ……ヤッハアアアアァァァァァッ!」

    苗木(宣言と共に、澪田先輩がギターをかき鳴らす。と同時に、ナランチャ先輩の見事にアクロバティックなダンスが炸裂!)

    苗木(前奏……と思われる部分が過ぎると、舞園さんと澪田さん二人の歌声がそこに加わり……観客たちの熱気もガンガン上がって行く)
  440. 440 : : 2016/10/12(水) 19:28:49
    苗木(かくいうボクも少し興奮して来て……)

    苗木(…………)

    苗木(なんだか、体が勝手に踊り出す! さすがにナランチャ先輩みたいな動きは出来ないけど……おお、なんかわかんないけどひたすら楽しい!)

    霧切「こんなに楽しいのはいつぶりかしらね」

    苗木(見ると、霧切さんも踊り出していて……いや、よく見ると周囲の観客みんな、すっごい楽しそうに踊ってる! 空条先生の楽しそうなダンスシーンとかレアすぎるんだけど!)

    澪田「いいっすねーいいっすねー! 最高潮っす! じゃあもっと盛り上げていくっすよー……! いくっす! サイレント・ウェエエエエエエエエイッ!」

    苗木(ジャカジャアアアンッ! とギターをかき鳴らす澪田先輩。すると……)

    苗木(おお……ッ!)

    苗木(気が付けばあちこちでギターの音が反響しているのか、全方位から臨場感あふれるギターの生演奏が聴こえてくるような感覚に襲われる)

    苗木(……ホントのホントに、どんどん楽しくなってきたッ!)

    苗木「霧切さん、踊ろう、とにかく踊ろうッ!」

    霧切「異論はないわ……!」

    苗木(コンサートはその日、下校時刻のチャイムが鳴るまで続き、そしてコンサートが終わるまで観客まで踊り続けるモノスゴイ盛り上がりを見せるという、たいそう楽しいコトになっていた)
  441. 441 : : 2016/10/12(水) 19:29:38
    苗木(コンサートが終わり、満足げな表情で大半の観客は帰って行ったものの……)

    苗木「あー……楽しかった……」

    霧切「けど、少し疲れたわね。気持ちのいい疲れだけれど」

    苗木「そうだね」

    苗木(ボクらは少し、その場にとどまって休憩していた)

    ナランチャ「お! 苗木……に、きり……ぎり、だっけ?」

    澪田「来てくれてたんすね!」

    舞園「どうでした? 私達のコンサート!」

    苗木「うん、すっごく楽しかったよ……!」

    霧切「本当に。たまになら、こういうのも悪くないと思えたわ」

    澪田「いやー、良かった良かった! 唯吹もスタンド使った甲斐があるってもんっすよ」

    苗木「はは……」

    苗木「…………」

    苗木「え? スタンド?」

    澪田「そっすよ? 唯吹のスタンド、イン・ア・サイレント・ウェイ! このおかげでだだーんと! 臨場感あふれる音楽を大提供っす!」

    舞園「ほんとに、澪田さんのスタンドってすごいですよね! 私も羨ましくなっちゃうくらいです!」

    澪田「ふっふーん、楽しい事はいい事っすからねー!」

    ナランチャ「いやー……澪田の事は知ってたけどよー。こんなスタンド使うなんて知らなかったぜ」

    霧切「ということは、みんなが踊り出したのも……?」

    澪田「あ、それは関係ないっす」

    苗木「ないのッ!?」

    苗木(じゃあホントに……みんな楽しくなって踊ってただけ……?)

    霧切「……まあ、楽しかったからなんでもいいわ」

    苗木(霧切さんに“なんでもいい”と言わしめたコンサートは……ホントに、些事はどうでもよくなるくらい、ただただひたすらに楽しい催しだった)

    苗木(……翌日には、既に伝説のコンサートと化してウワサが学校中に広がっていたのは言うまでもない)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:十四番
    “超高校級の軽音楽部”≪澪田 唯吹≫
    スタンド:イン・ア・サイレント・ウェイ(STEEL BALL RUNより、元本体名: 「音」をかなでる者 (サウンドマン)
    【破壊力】C
    【スピード】C
    【射程距離】D
    【持続力】A
    【精密動作性】D
    【成長性】B
  442. 442 : : 2016/10/13(木) 17:52:20
    #79
    闘いの宿命 その①
  443. 443 : : 2016/10/13(木) 17:52:41
    苗木(ある日の放課後。今日は霧切さんにどうしても外せない用事があるという事で部活は無く……だけどなんとなくそのまま帰るって気にもなれず、校内をぶらぶらしていた)

    苗木(すると……)

    ドッゴオオオオオオオオ!

    苗木「な!?」

    苗木(何いまの音!?)

    苗木(なんかとてつもない破壊音が鳴り響いたんだけど……ちょっと様子を見に行ってみよう)

    苗木(そう思って、音のした部屋……トレーニングルームに近付くと)

    「これ以上はホントにダメですよぅ……どっちか大変な怪我しちゃいますぅ……!」

    「何言ってやがんだ、オレはまだまだやれるっての! ほらもっかい勝負しやがれ!」

    「いいだろう……かかってくるがいいッ!」

    苗木(何この会話)

    苗木(凄い嫌な予感がしたけど……何かあったら後味が悪いし、確認するだけしてみよう……と思って、部屋の中をそーっと確認すると)

    ドッガアアアアアアア!

    苗木(……反射的に扉を閉じてしまった)

    苗木(いやいや、何アレ!?)

    苗木(なんか大神さんと終里先輩が戦ってるのは分かったけど、なんで互いに拳を打ち付けあっただけであんな破壊音が鳴るの!?)

    苗木(もう一度……確認してみよう……)
  444. 444 : : 2016/10/13(木) 17:52:59
    終里「おおおおおおおおりゃあああああああああッ!」

    大神「まだまだ……一撃が軽いッ!」

    終里「ぐああああああッ!?」
  445. 445 : : 2016/10/13(木) 17:53:28
    苗木(なんであんな少年漫画みたいな事になってるの)

    「あ……ッ! た、助けて下さぁい!」

    苗木(……と。ボクの事に気が付いたのか、二人を止めようとなのか、あわあわしていた見知らぬ女生徒に助けを求められてしまった)

    苗木(そうなると、入って行かないわけにはいかなくなるわけで……)

    苗木「えっと……何かもの凄い音が聞こえたけど……何事……?」

    終里「あ? 誰だオメー?」

    苗木「え? いや、苗木ですよ。苗木誠……終里先輩、自己紹介しましたよね?」

    大神「む。苗木か」

    苗木(二人がこちらに気が付くのと同時に、戦闘がやんだ。……一時的にっぽいけど)

    終里「苗木ー……? いや、オレは知らねーぜ」

    苗木「ええ!? 前のランカー会議の時にちゃんと話しましたよね!?」

    終里「おー、ランカーなのか。悪いな、オレ人の顔と名前覚えんの苦手でよー」

    苗木「そ、そうですか……」
  446. 446 : : 2016/10/13(木) 17:53:56
    大神「それで、なにか用か? 苗木よ」

    苗木「いや、だから凄い音が聞こえて、何事かと思って……」

    大神「ああ、そういう事か。すまぬ、要らぬ心配をかけたな」

    「いらなくなんかないですぅ! これ以上はダメですってぇ……!」

    終里「ダメなんかじゃねえっての。なんなら罪木、オメーも入るか?」

    罪木「絶対入りません!」

    苗木「えっと……罪木、先輩? でいいんでしょうか。先輩はどうしてここに……?」

    罪木「あ、はい……私、罪木蜜柑といいまして……終里さんのクラスメイトです……」

    苗木「ああ、じゃあやっぱり先輩ですね」

    罪木「はいぃ……それでですね、あの、えっと、その……」

    終里「罪木のスタンドはスゲー便利でな。バトったあとの怪我治してもらうために呼んだんだ」

    罪木「という事ですぅ……」

    苗木「へえ……」

    苗木(大和田クンみたいなスタンドなのかな?)

    終里「んじゃ、大神……続けるぜ……ッ!」

    大神「よかろう……ぬうッ! サバイバーッ!」

    終里「へッ……見える……見えるぜえ……ッ! そこだッ! ザ・ハンドォォォォッ!」

    大神「甘いッ! 誘っているのが分からんか! ぬうんッ!」

    ドゴォ!
    グッガァン!
    ズドドドドド ドシャァッ!

    苗木(……いや何これ、ホントに何これ)
  447. 447 : : 2016/10/13(木) 17:54:08
    #80
    闘いの宿命 その②
  448. 448 : : 2016/10/13(木) 17:54:33
    苗木(戦いは終里先輩が攻め、大神さんが受け流し一撃を浴びせ、終里先輩が吹き飛び、体勢を立て直して再度攻め、また大神さんが受け流し一撃を浴びせ――というパターンで進み)

    苗木(ずっと続けていれば、さすがに終里先輩の方が体力の消耗が激しくなってくるわけで)

    苗木(結局、勝負は終里先輩が倒れるまで続いた)

    罪木「もう……あんまり無茶しないでくださぁい!」

    苗木(言いつつ、罪木先輩は何か、スプレーのようなものを二人の怪我してるところに吹き付けて行く)

    苗木「それ、なんですか?」

    罪木「あ……これは、クリーム・スターターといって……私のスタンドなんです」

    苗木「へえ……」

    苗木(スプレー型……って、そんなスタンドもあるんだ)

    終里「肉スプレーって感じでな。怪我とかすぐ治っちまうんだぜ!」

    苗木「へえ、便利そうですね」

    罪木「えへへぇ……このくらいでしか、皆さんのお役に立てないので……」

    苗木(いや、応用次第ではいろいろ出来そうなスタンドだと思うんだけど……それに、「このくらい」って謙遜するような能力でもないよね、これ)

    終里「にしても……チックショー……なんで勝てねえんだ?」

    大神「ふむ。……お主には欠けている物がある、という事であろうな」

    終里「欠けてる……? それがありゃ、もっと強くなれるって事か?」

    大神「或いは、そうやもしれんな」

    終里「そりゃ一体、なんだ?」

    大神「ふむ……」
  449. 449 : : 2016/10/13(木) 17:54:54
    苗木(そう言って大神さんはしばし、何事かを考えるかのように目を閉じ……)

    大神「終里よ。お主は何故、戦う?」

    苗木(目を開いた大神さんは、そんな事を口にした)

    終里「ハァ? そんなもん、スタンド使いだからに決まってんだろーが」

    大神「いや、そういう事ではない……すまぬ。より正確に問うならば、お主は何故、“戦いの中に身を置こうとする”?」

    終里「身を置こうとする理由……? どういう意味だ、そりゃ?」

    大神「お主はおそらく、スタンド使いでなくとも戦いの中に身を置こうとしたであろう。その理由を問うている」

    終里「そりゃ……ツエー奴とバトりてえから……だな」

    大神「では何故、強い者と戦いたい?」

    終里「んなもん、オレ自身が強くなりてえからに決まってんじゃねーか」

    大神「では強くなってどうしたい?」

    終里「はあ? そりゃ、そんなもん……」

    苗木(そこで、終里先輩は言葉を止めた)

    終里「……理由なんているかよ」

    大神「ならばそれが今のお主に欠けている物、という事であろう」

    終里「いるってのか? 強くなることに、理由が」

    大神「ああ。強さの果てに得る物、得ようとする“目標”。それが無ければ、ただ我武者羅に戦い、強くなったとしてその強さは無価値になってしまうからな」

    終里「無価値……」

    大神「真に強くなるためには、その強さを何に使うのか、それを知っている、定めている必要がある。そういう事だ」

    苗木(凄いな……ボクはそんなの、考えたことも無かった)

    苗木(強さを何に使うか……か。ボクも、これからスタンド使いとして能力を高めて行くうちに、考えないといけない事なんだろうな)

    終里「……じゃあよ」

    大神「なんだ?」

    終里「大神、オメーはどうなんだ? オメーの強さには、どんな理由があるってんだ?」

    大神「我の強さの理由、か」
  450. 450 : : 2016/10/13(木) 17:55:12
    大神「……初めは、宿命だった」

    終里「宿命……?」

    大神「ああ。我の家は代々続く格闘家の家系であったからな。我自信がどう、ではなく我の周囲が、我の弱さを認めなかった。必然的に強さを求められる、そういう環境だったのだ」

    終里「なんだよ、言ってる事がさっきとちげーじゃねえか。それってつまり、オメーだって強さを求める理由なんて無かったってことじゃねーか」

    大神「ああ。最初はそうであった」

    罪木「えっと……横からすみません……」

    罪木「最初は……という事は、途中からはなにか理由が出来たんでしょうか……」

    大神「……フ。そうだな。我には理由が出来た。だがこれは我自身の個人的な“感情”だ。残念だが、ここで言う事は出来ん」

    終里「なんだよそれ……わっけわかんねー……」

    苗木(納得のいかない表情の終里先輩だったけど……)

    苗木(結局、この後はまた戦う、なんてことにもならず)

    苗木(大神さんは話は終わったとばかりに、その場を去って行った)

    苗木(残されたボク達も、すぐに部屋を後にし……)
  451. 451 : : 2016/10/13(木) 17:55:29
    苗木(ボクは自室に戻って考える)

    苗木「戦う理由……か」

    苗木(そんなもの、ボクには今の所まるでない。というか、この学園に来るまでスタンドで戦った経験なんて皆無だったんだ。強さの理由なんて……)

    苗木「…………」

    苗木(以前の、スタンドバトルトーナメントの時の事を思い出す)

    苗木「勝ちたい、か」

    苗木(あの時のボクは……なんで“十神クンに勝ちたかった”のか?)

    苗木(考えてみるけど……今のボクにはその理由に、自分のことながらまるで見当が付かなかった)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:九番
    “超高校級の保健委員”≪罪木 蜜柑≫
    スタンド:クリーム・スターター(STEEL BALL RUNより、元本体名:ホット・パンツ)
    【破壊力】D
    【スピード】C
    【射程距離】C
    【持続力】A
    【精密動作性】E
    【成長性】B
  452. 452 : : 2016/10/13(木) 21:10:43
    #81
    僕にコーラをください
  453. 453 : : 2016/10/13(木) 21:11:02
    苗木(ある日の放課後……)

    苗木(今日は日直だったから、霧切さんは先に部室に行ってしまっていて)

    苗木(だからボクもこれから部室に向かう途中だったんだけど……)

    苗木(なんか、食堂が騒がしいな……)

    苗木(食堂を見てみると、そこでは……)

    山田「だから! コーラを下さいと言っているのです!」

    花村「だから! キミにはコーラは必要ないんだって!」

    山田「コーラは僕にとって命の水! 必需品! 必要に決まっているでしょう!」

    花村「いやいや……そういう意味じゃなくてさ……」

    苗木「山田クン……何騒いでるの?」

    山田「おお! 苗木誠殿ではありませんか!」

    花村「苗木くん! 知り合いかな? だったら説得してもらえると嬉しいんだけど……」

    苗木「えっと、詳しい事情が分からないと何とも言えないし……説明してもらってもいいかな?」

    花村「説明って言っても……」

    山田「僕はコーラを注文したのです。が、必要ないからの一点張りで注文を受けてくれないのですぞ……」

    花村「だってしょうがないじゃないかあ! 必要ないんだから……!」

    苗木「あー……」

    苗木(そういう事か……)

    苗木「えっとね、山田クン」

    山田「なんですかな?」
  454. 454 : : 2016/10/13(木) 21:11:29
    苗木「そもそも、放課後の食堂……“フルールヴィラージュ”は、“注文をとる”ってシステムが無いんだ」

    山田「……へ?」

    苗木「店のシェフである花村先輩が客を見て、必要な料理を判断して提供する……ってシステムなんだよ。だから何が出てきても、コース料金は一律三千五百円。それしかないんだ」

    山田「いやいや……客の食べたい物を食べさせないんですかな!?」

    花村「メニュー……献立表(リスタ)なんてもの……ウチには無いのさ……」

    山田「ぐぬぬ……なんという……」

    花村「だからさ、ぼくの料理で絶対に満足させてみせるから、料理については任せてよ!」

    苗木「味についてはボクも保証するよ?」

    山田「むう、そこまで仰るのでしたら……」

    苗木(良かった、何とか納得してもらえたみたいだ)

    苗木「さて、この場は収まったみたいだし……ボクはもう行くね? 霧切さんを待たせてると思うし……」

    花村「ああ、苗木くんにも是非食べて行って貰いたかったけど……待たせてるんじゃあしょうがないね。うん、ほんとにありがとね!」

    苗木「また食べに来ます! それじゃあ!」

    山田「また明日、ですな」

    苗木「うん!」


    苗木(翌日、登校すると……)

    山田「苗木誠殿」

    苗木「あ、山田クン。おはよう」

    山田「おはようございますですな。それより……」

    苗木「どうかした?」

    山田「いやー、花村輝々殿の腕前は本当に確かだったようですな。実によいひと時を過ごせました」

    苗木「ああ、そうだよね! 放課後のフルールヴィラージュはスゴいから……」

    苗木(こうして、花村先輩の店の常連客がまた一人増えた――)
  455. 455 : : 2016/10/14(金) 19:07:44
    #82
    罪と風紀
  456. 456 : : 2016/10/14(金) 19:08:05
    霧切「……というわけで、お願いできないかしら」

    苗木「そのくらい、お安い御用だよ」

    苗木(ある日の放課後。今日はこれから、霧切さんに予定があるらしく……)

    苗木(探偵部の活動はナシ、って事と同時に、今日が日直だった霧切さんが集めていた、空条先生に提出するプリントを代わりに持って行ってほしいと頼まれた)

    霧切「ありがとう。この埋め合わせは今度必ずするわね」

    苗木「いや、このくらい別にいいよ。普段から霧切さんにはお世話になってるしね」

    霧切「……別に世話した覚えはないのだけれど」

    苗木「そんなことないって……っと、霧切さん、用事の方は大丈夫なの?」

    霧切「そうだったわね。……じゃあ、プリントの件、よろしく頼むわ」

    苗木「うん!」

    苗木(そう言って教室から出て行く霧切さん)

    苗木「さてと」

    苗木(ボクもプリントを持って行こうかな)
  457. 457 : : 2016/10/14(金) 19:09:31
    苗木「失礼しまーす」

    苗木(一声かけて、職員室に足を踏み入れる)

    苗木「あ、空条先生」

    承太郎「……苗木か? 何かあったのか?」

    苗木「いえ、霧切さんがどうしても外せない用事があるって事で、代わりに」

    承太郎「ああ、プリントか。分かったぜ。悪かったな、手間取らせて」

    苗木「いえ、このくらい別に大した手間じゃないですよ」

    承太郎「ふ、素直な生徒は歓迎だぜ……」

    苗木(そんな話をしていると……)

    徐倫「うース」

    エルメェス「ちわース」

    苗木(あれ、あの二人って……)

    承太郎「……やれやれだぜ。全く、我が子ながらもうちっとばかし言葉使いってもんを学んでほしいものだが……まあおれが言えた義理じゃあねえか」

    苗木(空条先生も昔はあんな感じだったのかな……?)

    徐倫「あ、いたいた。父さん!」

    承太郎「全く……校内じゃあ空条先生と呼べと言ってるだろう」

    徐倫「んなこた知らないわよ、そもそも校内じゃ父親じゃ無くなるとか無責任すぎんでしょ」

    エルメェス「承太郎さん……これに関しちゃ、徐倫の言う通りですよ」

    承太郎「やれやれだ……それで、なにか用か?」

    徐倫「あんたんとこの生徒! なんとかしてくんない!?」

    承太郎「……? 何の話だ?」

    苗木「えっと、ボク……のクラスメイトですか?」

    徐倫「あ? ああ、苗木じゃん。おひさしぶりー……ってそっか、あんたのクラスメイトでもあんのよね。実はさ――」

    苗木(と、徐倫先輩が説明し始めたところで)

    「失礼しますッ!」

    苗木(元気のいい掛け声とともに、職員室の扉が開いた。……って、あれって)

    苗木「……石丸クン?」

    石丸「む? おお、苗木君……に、とうとう見つけましたよ、先輩!」

    徐倫「うげ……」

    承太郎「……全く、やれやれだぜ。事情は何となく察したがよ。こりゃキチンと事情を説明するしかないんじゃあねえのか、徐倫」

    徐倫「うっへえ……説明聞いてくれっかなァー……」

    エルメェス「そうだ。おい苗木、お前アイツとクラスメイトなんだろ?」

    苗木「え? ええ、そうですけど」

    エルメェス「頼む! 間に入ってアイツが大人しく話聞いてくれるようにしてくんねえか!」

    苗木「いや、そりゃまあ構いませんけど……」

    エルメェス「マジか! 恩に着る!」

    承太郎「なんだっていいが……ここは職員室だぜ。騒がしくすんなら場所移してやるこったな」

    徐倫「言われなくとも、こんなとこでハナシする気なんかないわよ」

    承太郎「そうかい」

    苗木(はは……この親子、仲がいいのか悪いのか……)
  458. 458 : : 2016/10/14(金) 19:09:57
    苗木(場所を移して、フルールヴィラージュの奥の一席。エルメェス先輩の要請でボクも同席する事になった)

    苗木「えっと、ひとまず……何がどうして石丸クンは徐倫先輩を追ってたの? ってか、知り合いだったの……?」

    石丸「ふむ? 苗木君は彼女の事を知っているのか?」

    苗木「知ってるっていうか……一度会ったっきりだけど。前にランカー会議……あ、校内ランカーが集まって生徒会みたいな事する場なんだけど。そこで知り合ったんだ」

    石丸「なるほど……という事は、ランカーだったのか……」

    徐倫「今更? まあなんだっていいけど」

    苗木「徐倫先輩は校内ランク二位だよ……」

    石丸「なッ……上位陣ではないか! これは由々しき問題だぞ!」

    苗木「なにが……?」

    エルメェス「苗木に説明するとな」

    苗木「はい」

    エルメェス「徐倫の超高校級の肩書、知ってるだろ?」

    苗木「はい。……あー、納得しました」

    エルメェス「そういう事だ」

    苗木(“超高校級の囚人”……囚人ってところが、“風紀委員”の石丸クンの琴線に触れたってトコか……)

    石丸「囚人などと、僕の手で更生させるしか道はあるまいッ!」

    苗木「でも何か事情があるみたいだったし、まずはほら、詳しい話を聞かないと。ね?」

    石丸「だが……」

    苗木「それに石丸クンは更生させたいんでしょ? だったらまずはホラ、話を聞いてカウンセリングみたいなところから始めないと」

    石丸「む……それは至極まっとうな意見だな。採用させてもらおう!」

    苗木(ふう……なんとか話の流れはコントロール出来たかな?)

    苗木「というわけなんで……徐倫先輩、お願いします」

    徐倫「ん、あんがと苗木。……で、事情ねえ。やっぱ話さなきゃダメ?」

    苗木「え、ええ……そうしていただいた方がこの場は収まるかと……」

    徐倫「んー……ま、いっか。でもあらかじめ言っとくけど、詳細に話すことは出来ないかんね」

    苗木「えっと……?」

    エルメェス「ま、いろいろ事情があるって事だからさ。深くは突っ込まないでくれ」

    苗木「はあ……」

    石丸「だが詳細に聞かねばこちらとしても判断のしようが……」
  459. 459 : : 2016/10/14(金) 19:10:24
    徐倫「まず単刀直入に言うけど。あたしは無実なの。冤罪で捕まったの」

    石丸「……何ッ!?」

    苗木「え……冤罪? でもそれじゃ、なんで超高校級の囚人なんて……」

    エルメェス「それは……」

    徐倫「いいわエルメェス。あたしから話すから」

    エルメェス「そ、そっか?」

    徐倫「ええ。……まずね。ホントの犯罪者だろうが冤罪だろうが、投獄された時点で立場は囚人なワケ。そこまではいいわよね」

    石丸「う、うむ……」

    徐倫「で、よ。その立場の中で、刑務所……あたしが入ってた場所は俗に“水族館”って呼ばれてたんだけど」

    苗木「すいぞくかん……?」

    苗木(なんか刑務所にしては楽しげな……)

    石丸「水族館、という事は……アメリカのグリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所の事だな」

    エルメェス「よくそんなん知ってるな……」

    石丸「一般常識だ!」

    苗木(いや、初耳なんだけど。グリーン……なに?)

    徐倫「……話を続けるわ。それで、その刑務所でね。あたしは同じく捕まってた連中の纏め役みたいになってたのよ」

    苗木「纏め役……ですか?」

    徐倫「そ」

    石丸「つまり……徐倫先輩は無実の罪で投獄され、並居る犯罪者たちを正義の心で正しき道に導いていたという事ですねッ!」

    苗木(いや……それは何か、違う気がする)

    エルメェス「……」

    徐倫「……」

    苗木(二人も微妙な表情で押し黙ってるし……)

    徐倫「そ、そーいう事ね。うん。あっはは……」

    石丸「なるほど! そのような素晴らしき人物に……失礼したッ!」

    徐倫「いやいや、うん。分かってくれればいいのよ。うん」

    石丸「それでは……と、詳しい事は話せないのでしたね」

    徐倫「……まあ、ね。そればっかりは話せないわ」

    石丸「そうですか、残念です。……では、僕はこの辺でお暇させていただきましょう」

    苗木「何か予定があったの?」

    石丸「うむ、自室に戻って自習せねばならないのだ」

    苗木「あ、そういう……」

    石丸「それではまた語らいましょう、徐倫先輩、エルメェス先輩!」

    苗木(そう言って、石丸君は颯爽と去って行った)

    エルメェス「……っはぁー、なんとかなったぁー」

    苗木「え?」

    徐倫「あれ以上突っ込まれてたらちぃっとばかしヤバかったわね」

    苗木「えっと、もしかして嘘……だったんですか?」

    徐倫「んー? いや、嘘は言ってないわ。ただ……」

    エルメェス「……ま、苗木ならいいだろ。あたしもなんだ」

    苗木「……? エルメェス先輩もって……何がですか?」

    エルメェス「あたしも、徐倫と同時に水族館に入れられたんだって話」

    苗木「へえ……ええ!?」

    徐倫「しかもエルメェスの場合、無実じゃなくてマジだからねえ……」

    苗木「何したんです……?」

    エルメェス「コンビニ強盗」

    苗木「……あはは」

    苗木(そんなマジな目で言われると怖いんだけど)

    苗木(なんにせよ……二人の、意外な過去を知ってしまったボクは……)

    苗木(……その日、エルメェス先輩に消されるんじゃないかと、眠れない夜を過ごす事になった)
  460. 460 : : 2016/10/14(金) 19:10:52
    #83
    魔獣、飼い慣らされず その①
  461. 461 : : 2016/10/14(金) 19:11:27
    苗木(日曜日。イギーと一緒に学校の敷地内をぶらぶら歩く)

    苗木(……ん? これまで気が付かなかったけど……)

    苗木(田中キングダム……? 動物園っぽいけど、こんなとこあったのか)

    苗木(入っても問題ないのかな……? ちょっと覗いてみよう)

    苗木(足を踏み入れてすぐに)

    苗木「えっ……? う、うわあああああああッ!?」

    苗木(き、奇妙な……爬虫類みたいなものがこっちに何匹も来るッ!)

    イギー「ガウ(ザ・フール)ッ!」

    苗木(瞬間、イギーがザ・フールで応戦し、すぐに無力化する事が出来た)

    苗木「あ、ありがと、イギー……」

    イギー「……バフッ!」

    イギー(全く、相変わらず苗木は頼りにならねえぜ)

    「も、申し訳ありませんッ! お怪我はありませんか?」

    苗木(……と。奥から女の人がこちらに走ってやってきた)

    苗木「あ、こっちは大丈夫です……えっと?」

    ソニア「あ、わたくし、ソニア・ネヴァーマインドと申します。七十七期生のスタンド使いですよ」

    苗木「ああ、なるほど……ソニア先輩ですね。ボクは七十八期生の苗木誠です」

    ソニア「苗木さん……その、本当に申し訳ありませんでした!」

    苗木「えっと……?」

    ソニア「今、恐竜に襲われましたよね?」

    苗木「きょうりゅう……って、恐竜!? もしかして今のが!?」

    苗木(恐竜って絶滅してるよね……?)

    ソニア「はい。正確にはバッタさんなのですが……」

    苗木「ば……バッタ? バッタってあの……緑色の……ピョンピョン飛ぶ?」

    ソニア「そのバッタさんです。ほら」

    苗木(そう言ってソニアさんが指を指すと……)

    苗木「あれ? さっきまでたしかに爬虫類っぽかったのに……」

    苗木(そこにはたしかに、バッタが数匹いた)
  462. 462 : : 2016/10/14(金) 19:12:11
    ソニア「わたくしのスタンド、スケアリー・モンスターズで恐竜化させたんですが……」

    苗木「きょ、恐竜化……!?」

    苗木(何それすっごいカッコいい)

    苗木(なんて思ってたら、奥から今度は見覚えのある人物がやってきて……)

    田中「ふん……不躾なる闖入者は罰せられねばならない……が、俺様とて常に悪鬼であるわけではない。貴様に慈悲をくれてやろう。すみませんでしたッ!」

    苗木「田中先輩……? そっか、田中キングダムって田中先輩の?」

    ソニア「あら、苗木さんは田中さんの事をご存知なのですか?」

    田中「ふ、我らがアスガルドへ至る門を新たに叩きし有資格者……それが苗木誠……」

    ソニア「なるほど! ランカーの方だったのですね!」

    苗木「……いや、そういう意味だったんですか!? 合ってますけど!」

    苗木(ちなみにさっきの恐竜について詳しい事情を聞くと……)

    苗木(田中先輩はスタンド能力とは関係のない、“超高校級の飼育委員”の才能で様々な生物を手懐ける事が出来……ソニア先輩の恐竜を躾けていたところ、侵入者に気が付いた恐竜がボク達を襲ってきた、という事らしい)

    ソニア「本当にすみませんでした」

    苗木「いえ、大丈夫ですよ……イギーもいましたし」

    田中「……なんだと!? く、俺様としたことが……牙を剥く事を忘れぬ孤高の魔獣の存在に気が付く事が出来ぬとは……こやつ、出来るッ!」

    ソニア「まあ! 本当、かわいらしいワンちゃんです!」

    イギー「ガウガウッ!」

    イギー(か……かわいらしいワンちゃんだとォ!? ンな扱いされてたまっか!)

    苗木「あっはは……」

    田中「貴様……」

    苗木「あ、はい? ボクですか?」

    田中「貴様が彼奴のマスターか?」

    苗木「……はい?」

    ソニア「苗木さんがこのワンちゃんの飼い主さんなのですか?」

    苗木「ああ……いや、飼い主とかじゃないですよ。友達です。ウチに住んでるけど」

    ソニア「……それを飼い主というのでは?」

    苗木「いや……違うよ。ね、イギー」

    イギー「いぎっ」

    イギー(分かってんのは苗木だけじゃあねーかよ……どいつもこいつも……)

    田中「なるほどな……盟友なる契約で結ばれているというわけか……クク、その心意気ッ! 気に入った!」

    苗木「……は、はは」

    田中「イギーといったな……フ、フハハハハ! 少しは楽しめそうだッ!」

    苗木「えっと、田中先輩?」

    ソニア「田中さんはイギーさんと遊びたいようです」

    苗木「ああ……まあイギーさえいいならボクはいいけど」

    イギー(ケッ……オレを楽しませる自信があるたぁ大したタマだぜ……ちっと遊んでやるとするかな)

    苗木(つまらなそうにしつつも、イギーはてこてこと田中先輩の元へ歩み出す)
  463. 463 : : 2016/10/14(金) 19:12:38
    ソニア「うふふ、本当に、かわいらしいワンちゃんですね」

    苗木「んー……あいつの前ではあんまり言わない方がいいかもですね……」

    ソニア「そうなのですか?」

    苗木「あいつ、プライド高いんで」

    ソニア「そうなのですか? ですがかわいらしい事に変わりはありません」

    苗木「……」

    苗木(イギーのこと、“かわいい”と思った事は……うん、無いな……)

    苗木「そういえばソニア先輩」

    ソニア「はい?」

    苗木「ソニア先輩って、外国の方ですよね? どちらから……?」

    ソニア「ああ! わたくしうっかりです!」

    ソニア「改めまして……ノヴォセリック王国より留学生として参りました、“超高校級の王女”ソニア・ネヴァーマインドと申します。以後、お見知りおきくださいませっ!」

    苗木「へえ……って、王女!?」

    ソニア「はい。あ、ですがそんなに畏まる必要はないですよ! むしろ、普通に友人として接していただけた方が嬉しいです!」

    苗木「そ、そうですか? じゃあ、普通の先輩として……」

    苗木(……ん? そういえば、ノヴォセリック王国って)

    ソニア「はい。これから宜しくお願いします」

    苗木(……ちょっと試してみよう)

    苗木「pijohijkpuhhyfyfijo(えっと、話せてますかね?)

    ソニア「!? ybnokogyftdrdskhyfdrdshijjohftd(苗木さん、ノヴォセリック王国の言葉が堪能で驚きました)!」

    苗木(スゴい、分かる……。前に霧切さんに、ヘブンズ・ドアーで話せるようにしてもらったのがこんなところで役に立つとは……)

    苗木(って言っても、普通に日本語で話した方が話しやすいな)

    苗木「実は、前に友達のスタンド能力で話せるようにしてもらった事があるんです。その影響ですよ」

    ソニア「なるほど……とても流暢だったのはそういうわけだったのですね」

    苗木(……と言っても、使う事はそんなにないか。ソニア先輩と何か内緒話でもする必要が出て来たら別だけど、さ)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:七番
    “超高校級の王女”≪ソニア・ネヴァーマインド≫
    スタンド:スケアリー・モンスターズ(STEEL BALL RUNより、元本体名:フェルディナンド博士)
    【破壊力】B
    【スピード】B
    【射程距離】D
    【持続力】A
    【精密動作性】C
    【成長性】B
    ※あっちのコレではないので自分は恐竜化出来ません。悪しからず。
  464. 464 : : 2016/10/14(金) 19:12:59
    #84
    魔獣、飼い慣らされず その②
  465. 465 : : 2016/10/14(金) 19:13:20
    田中「フハハハハハ! 恐れ戦くがいいッ! 俺様の名は田中眼蛇夢……イギーッ! 貴様を天へと至らせる男の名だッ!」

    イギー(へ……ッ! 上等、かかってきやがれッ!)

    田中「ゆくぞッ! 破壊神あん……」

    イギー(殺られる前に殺ってやるぜ! ザ・フールッ!)

    田中「……何だとッ!? こいつ……ッ!」

    ソニア「まあ!」

    苗木「あ、うん、言い忘れてましたけど……スタンド使いなんです、イギーは。スタンドの名前はザ・フールっていいまして」

    ソニア「そうなのですか。まるで破壊神暗黒四天王さんみたいですね!」

    苗木「……へ? 墓石……?」

    田中「フフ……フハッ! フハハハハハハッ! 面白い……面白いぞッ! よもや我が破壊神暗黒四天王の他にこのような魔獣が存在しようとは……」

    田中「ならば見せてやろうッ! 破壊神暗黒四天王よ、遊んでやるがいいッ!」

    苗木(田中先輩がそう叫ぶと……ストールの中からハムスターが出てきた!?)

    ジャンP「チュー」

    マガG「チュー」

    サンD「チュー」

    チャンP「チュー」

    苗木(何アレ、かわいい)
  466. 466 : : 2016/10/14(金) 19:13:42
    破壊神暗黒四天王「……チュゥー(ラット)ッ!」

    苗木「……ええッ!? 四匹のハムスターが……同じスタンドを出したッ!?」

    ソニア「はい。どうやら人間でない動物がスタンドを持つ場合、こういった事は稀にあるようなのです」

    苗木「そ、そうなんだ……」

    苗木(同じスタンドは存在しない……って思ってたけど。そうじゃあなかったって事か)

    田中「四天王よ……貴様らのスタンドは少々凶悪に過ぎる……忘れてくれるな。“遊んでやれ”ッ!」

    破壊神暗黒四天王「チュチュチューッ!」

    イギー「ガウ(来る)ッ!」


    苗木(しばらく(イギー)四匹のハムスター(破壊神暗黒四天王)の戯れる様子を半分くらい和みながらみていた。いやだって、みんなスタンド使ってないし……スタンドバトルだったら手に汗も握ったかもしれないけど)

    苗木(最終的には、五匹の間で「やるじゃねえか」「へっ、おめえもな」的空気を漂わせてるし)

    田中「見事な戦いであった……イギーよ、貴様も戦士として、さぞ名を馳せた存在なのであろうな……」

    イギー(へっ……オレを誰だと思ってやがる。野良の帝王イギー様だぜ!)

    田中「苗木よ」

    苗木「は……はい?」

    田中「俺様ほどの力を得られはせんだろうが……イギーと共に魔獣共の頂点を目指すのも、悪くないやもしれんぞ……」

    苗木「はあ……」

    苗木(ちょっとよくわからない)


    幽波紋ヶ峰学園 滞在者
    “田中眼蛇夢の配下”≪ジャンP・マガG・サンD・チャンP(破壊神暗黒四天王)
    スタンド:ラット(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:虫食い/虫食いでない)
    【破壊力】B
    【スピード】C
    【射程距離】D
    【持続力】B
    【精密動作性】E
    【成長性】C
  467. 467 : : 2016/10/15(土) 15:37:02
    #85
    兄貴はすげえや! その①
  468. 468 : : 2016/10/15(土) 15:37:36
    苗木(昼休み。放課後ほどじゃないとはいえ、昼の食堂も決して悪いものじゃあない。というわけで、食堂で昼食を摂ろうとやって来ると……)

    ペッシ「すげえや! さすが兄貴!」

    苗木(今の声って……ペッシ先輩だよね?)


    「おいおいペッシ……オメー、いつまでたっても兄貴、兄貴って言うがよ……ココじゃあオレの事は“先生”と呼べといつも言ってるよなァー……え? ペッシ」

    ペッシ「う……ご、ゴメンよ……」

    「違うだろ……“ゴメンよ”じゃあなく、“すみません”だろ? それが教師に対する生徒の態度ってモンだ。そんなだからテメーはいつまでも“ママっ子(マンモーニ)”なんだよ……」

    ペッシ「は……はい、すみませんです」

    「ったく……」


    苗木(何あれ)
  469. 469 : : 2016/10/15(土) 15:38:11
    ペッシ「……ん? おー、苗木じゃあねーか」

    「あ? ナエギ……? 誰だ、そいつは」

    苗木「あ、どうも、ペッシ先輩……と、えっと……?」

    ペッシ「紹介しますぜ兄……いや、先生。七十八期生の苗木誠、校内ランク十五位の後輩でさ」

    「ああ、そういう事か……」

    プロシュート「自己紹介が遅れたな。オレはコイツの担任のプロシュート。担当科目は体育だ。が……七十八期は教えちゃいねえから知らねえのも無理はねえ。来年以降、機会があったら受け持つかもな……」

    苗木「プロシュート先生ですか。よろしくお願いします……」

    苗木(……プロシュート先生ってアレだよね。ブッ殺すだのブッ殺しただののスローガンを提唱したっていうヤバそうな人)

    ペッシ「苗木、イマイチ分かってねえみてーだから言っておくがな……プロシュート先生はスゲエんだぜ?」

    苗木「凄いって……どう凄いんですか?」

    ペッシ「決まってんだろ! 生き様だよ、生き様! 男の生き様だ!」

    苗木「は……はあ」

    ペッシ「オレにとっちゃ、魂の師、魂の兄貴!」

    苗木(そう言われてもスゴさがよく分からない)

    ペッシ「男として、シビれるくらいカッコいいお人なのさ!」
  470. 470 : : 2016/10/15(土) 15:38:31
    プロシュート「ペッシよォ……オマエ、さっきからオレの事をやたら持ち上げるが……」

    ペッシ「な、なんですかい?」

    プロシュート「そんなんじゃあ……いけねえな」

    ペッシ「え? え? 何が……どういけねえってんですか!?」

    プロシュート「オレの生き方に憧れてくれるってな、一人の男としてスゲー嬉しいし、そういうヤツを教えるのも教師冥利に尽きるって思う……だがな」

    プロシュート「それ以上にッ! “オレを超えようとしてくれる奴”を教える方が、遥かに教師冥利に尽きるんだッ! ええ、分かったか? ペッシ!」

    ペッシ「……! わ、分かったよ、兄貴! オレ、絶対プロシュート兄貴を超えてみせるッ!」

    プロシュート「兄貴じゃあねえ! 先生だッ!」

    ペッシ「ハイ! プロシュート先生!」

    苗木(何この空間)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十六期生
    担任教員
    ≪プロシュート先生≫
    スタンド:ザ・グレイトフル・デッド(黄金の風より、元本体名:プロシュート兄貴)
    【破壊力】B
    【スピード】E
    【射程距離】C(列車一本分程度は可能)
    【持続力】A
    【精密動作性】E
    【成長性】C
  471. 471 : : 2016/10/15(土) 15:38:45
    #86
    兄貴はすげえや! その②
  472. 472 : : 2016/10/15(土) 15:39:04
    苗木(その後、なんとなく断りにくい空気になったため、ボクも食事を同席する事になった)

    苗木(その間、プロシュート先生が何か言うごとにペッシ先輩がやたらハイテンションな相槌を打つ、といった時間が流れ……)

    「あー? ……珍しい取り合わせだなァ」

    プロシュート「……ん?」

    「よ、プロシュート先生」

    プロシュート「ギアッチョ先生か」

    ギアッチョ「ペッシは分かるが……なんで苗木までいんだァ?」

    苗木(ギアッチョ先生。ボク達七十八期生も教わっている国語の先生だ)

    苗木(……ちょっとキレやすいけどいい先生だと思う。基本的には。うん)

    ペッシ「ついさっき合流したんすよ。なあ、苗木?」

    苗木「そうですね。ペッシ先輩に声をかけられて」

    ギアッチョ「ああ、そうか。お前らは知り合いだったな……ま、んなこたどうだっていいか。どうせならおれも同席していいかい?」

    苗木「ボクは構いませんけど」

    プロシュート「好きにしな」

    ペッシ「プロシュート先生がいいならオレから異論なんてねーな」

    ギアッチョ「なら、ご一緒させてもらうとするぜェー」
  473. 473 : : 2016/10/15(土) 15:39:19
    ギアッチョ「ところでよォ……」

    苗木(ギアッチョ先生が料理を持って来て食べ始めてすぐ、口を開く)

    ギアッチョ「『根掘り葉掘り聞き回る』の『根掘り葉掘り』ってよォ……」

    プロシュート「根っこは土の中に埋まっているから分かるが、葉っぱなんか掘ったらすぐに裏側へ破れちまって掘れやしねえ、ってか?」

    ギアッチョ「そう! イラつかねェーか、この言葉ァ! ナメてんじゃねーのか、エェッ!?」

    苗木(また変なところでキレてる……授業中も、ちょっとでも気になる言葉が出てくるとすぐキレるんだよなあ)

    プロシュート「テメーの言いそうな事だと思ったぜ……だがな」

    ギアッチョ「あんだよ?」

    プロシュート「根っこについては“土を掘って根を掘り出そう”としてるじゃあねーか。ならなんで葉っぱは“葉っぱそのもの”を掘ろうとしてんだ? “何かを掘って葉を掘り出そう”って前提じゃなけりゃ、筋が違うぜ、ギアッチョ先生」

    ペッシ「あッ……た、たしかに! さすがプロシュート先生!」

    ギアッチョ「……言われてみりゃ、そうだなァ。だがよ、だったら葉っぱは何に埋まってるってんだ!? 根っこは土の中に埋まってる、そいつはスゲーよくわかるッ! だが葉っぱはどこに埋まってるってんだ、エェッ!? 結局イラつくぜェーッ!」

    プロシュート「……葉っぱだって土の中に埋まってる事くらいあるだろう。それに秋になったら落葉のおかげで葉っぱの下に葉っぱが埋まってる、なんてこともザラなんじゃあねーか?」

    ギアッチョ「おお! 納得したぜ」

    苗木(妙にいいコンビ……なのかな?)
  474. 474 : : 2016/10/15(土) 15:39:35
    ギアッチョ「だったらよォ……」

    プロシュート「あ?」

    ギアッチョ「 ago in un pagliaio (干草の山の針)って言い回しよォー……あるじゃあねーか」

    プロシュート「……それがどうかしたか?」

    ギアッチョ「馬鹿じゃあねーのかッ!? なんでンなトコで針仕事してやがんだ!」

    ギアッチョ「しかも無くしやがった上にわざわざ探すなんざ余計に馬鹿丸出しだろーが! もう一本貰いに行けって話だ!」

    ギアッチョ「針一本がいくらする!? 貰えねーなら貰えねーでさっさと買いに行け! 畜生、馬鹿にしやがってイラつくぜこの言葉ァ!」

    プロシュート「……麦わらの上で針仕事する奴についてはまあ、擁護できねーが」

    プロシュート「そもそもその麦わら、干草は何の為の干草だ?」

    ギアッチョ「あ? んなもん、家畜の餌かなんかじゃねーのか」

    プロシュート「だとすりゃ、針を放置しちまうと家畜に誤って食わせてしまうかもしれねー……その時点で、“探す”って行為はやって当然じゃあねーか?」

    ギアッチョ「ああ……なるほどな、言われてみりゃあ確かに……」

    ペッシ「家畜の事まで気に掛けるとは、流石プロシュート先生!」

    苗木(もうやだこの空間)


    幽波紋ヶ峰学園
    教員
    ≪ギアッチョ≫
    スタンド:ホワイト・アルバム(黄金の風より、元本体名:ギアッチョ)
    【破壊力】A
    【スピード】C
    【射程距離】C
    【持続力】A
    【精密動作性】E
    【成長性】E
  475. 475 : : 2016/10/15(土) 18:16:12
    #87
    メカニカル・ブースト! その①
  476. 476 : : 2016/10/15(土) 18:16:34
    七海『こんちゃーす』

    不二咲「ど、どうもー……」

    霧切「あら、不二咲さんに七海さん。いらっしゃい」

    苗木「いらっしゃい。今日は何か困りごと?」

    苗木(放課後、和やかに部室で霧切さんと雑談していると、不二咲さんと七海さんがやってきた)

    苗木(……いや、七海さんはあくまで不二咲さんのスタンド、ベイビィ・フェイスなんだし普通に不二咲さんが来た、でもいいのかもしれないけど。何となくこう、一人にカウントしちゃうんだよね)

    不二咲「困り事っていうか……」

    七海『実は、私達じゃあなくってね?』

    霧切「どういう事?」

    大和田「オレだよ」

    苗木「あ、大和田クン」

    霧切「大和田君からの依頼、という事?」

    大和田「ああ」

    苗木(大和田クンと不二咲さん……? どういう取り合わせだろう)

    大和田「詳しく話すぜ。まず単刀直入に依頼内容からだ」

    霧切「ええ、頼むわ」

    大和田「オレのバイクをパワーアップして欲しい」

    苗木「ぱ……ぱわーあっぷ……?」

    大和田「おう。今でもジューブン“爆走(はし)”れっけどな……なんつーか、今のスピードに物足りなくなってきちまったんだ」

    不二咲「それを最初に私が相談されたんだけど……」

    七海『チヒロはあくまでプログラマーで、データ面での事なら相談に乗れるんだけど、機械そのものをどうこうするのは専門外なんだよ』

    不二咲「せめてPC、そうでなくてもPCの周辺機器程度なら何とか出来るんだけど……さすがにバイクまでは……」

    大和田「ま、そこんとこの違いってのをちゃんと理解出来てなかったオレも悪かったよ。……で、オメェらならなんとか出来ねえかと思って相談に来たんだが」

    苗木「うーん、さすがにボクもバイクをどうこうするのは出来ないしな……」

    霧切「私にもその技能は無いわね」

    大和田「そうか……まあ、ダメ元だったしな。悪かった、邪魔したな」

    霧切「いえ、待って頂戴」

    大和田「あ?」

    霧切「私にはその技能はない、ってだけで、何とかできそうな人を紹介する事は出来るわ」

    大和田「マジか!?」

    苗木「あ、もしかして先輩に何とかできそうな人が?」

    霧切「ええ。心当たりがあるわ。……というか、苗木君はもっと事前に調べておきなさい」

    苗木「う、うん。ゴメン……」

    苗木(行かないとな、図書室……)

    霧切「それじゃ、案内するわ。きっとあの先輩ならあそこにいるはず」

    大和田「ああ、頼むぜ」
  477. 477 : : 2016/10/15(土) 18:17:03
    苗木(ボクらは霧切さんに連れられて、物理室へとやってきた)

    霧切「失礼します」

    「あ? えーと……誰だ? つーか、なんか用か?」

    霧切「七十八期生の霧切響子と申します。こちらはクラスメイトの苗木誠君、大和田紋土君、不二咲千尋さん」

    苗木「ど、どうも、苗木です」

    大和田「大和田っす」

    不二咲「不二咲です……」

    「そうか」

    左右田「オレは左右田和一ってんだ。七十七期生、オメーらの先輩になるな」

    苗木(軽く自己紹介が済み、霧切さんが左右田先輩に来訪の意図を告げる)

    左右田「バイクのパワーアップ!?」

    大和田「ああ……頼めるなら頼みたいんすけど」

    左右田「それはどの程度のパワーアップまでOKなんだ?」

    大和田「やれる限りお願いしたいっす」

    左右田「……マジか!?」

    苗木(なんか乗り気みたいだな……)

    左右田「いやさー、オレ、やっぱエンジンブン回す機械ってのが好きなのよ。そりゃもう大好きなのよ」

    大和田「おお……」

    左右田「……けど、オレ自信は乗り物酔いが酷くてよ。作っても試せねえっつーもどかしさがあんだよ」

    霧切「つまり左右田先輩にとっても、大和田君の申し出は渡りに船……そう考えていいって事ね?」

    左右田「ああ! 思いっきり大改造施してやっから任せろ!」

    大和田「頼もしいっすね!」

    不二咲「そうだ、自動で障害物を認識してよける、みたいなAIの搭載とかなら私でも役に立てるかも……どうする、大和田君?」

    大和田「へえ、そいつは便利そうだが……だがチキンレースなんかの時はズルになっちまうしな。使う使わねえの選択が出来る、って事は可能か?」

    不二咲「オンオフ機能だね。もちろんできるよ!」

    左右田「おお……ハイテクになりそうだな。おっしゃあ! なんか気分がノッて来た! んじゃあ大和田っつったっけ、早速現物見せてくれ!」

    苗木(ハイテンションだなあ)
  478. 478 : : 2016/10/15(土) 18:17:40
    苗木(ボク達はあのまま帰っても良かったんだけど。なんとなく、ついてきてしまった)

    大和田「これがオレのモンスターマシンっすよ!」

    左右田「おー……なかなか、いいシュミしてんじゃねーか……へえ、なるほど。ここんとこを弄ってスピード上げてんだな……いい腕してるじゃねーか」

    大和田「……ああ。いい腕っしたよ」

    左右田「この改造した奴に頼んでも良かったんじゃあねーか?」

    大和田「……いえ、もう死んじまったんです」

    左右田「あ……あァ。そいつは悪い事言っちまったな。すまねえ」

    大和田「いや、いいっすよ。知らなかったんすから」

    苗木(大和田クンも、なにかいろんなものを抱えてるって事……なんだろうな)

    左右田「けどよ……だったらオレが弄っちまってもいいのか?」

    大和田「……兄貴との……」

    左右田「兄貴?」

    大和田「そいつを調整したのがオレの実の兄貴だったんすよ」

    左右田「そ、そうか。けどそれじゃ余計……」

    大和田「その兄貴との“男同士の約束”なんっす!」

    左右田「男同士の……約束?」

    大和田「ええ。“マシンを死なせるって事は魂まで死ぬって事だ。だから物足りねえと思ったらどんどん成長させて行け”……それが兄貴の言葉っした」

    左右田「……そうか。いい兄だったんだな」

    大和田「……ええ。正直、未だに遠いっすよ」

    左右田「そっか。……だったら大和田のその兄の遺志! しっかり継いでやんねえとな!」

    大和田「っす! よろしく頼むっす、先輩!」

    左右田「おう、任せとけッ!」

    苗木(いい話だなあ……)

    左右田「さて……んじゃ、早速始めるとすっか」

    苗木「え? 始めるって……部品も機材も何もないですよね?」

    左右田「あ? いや、あるぜ」

    苗木「え?」

    不二咲「えっと……見当たりませんよぉ……?」

    左右田「へっへー……それがあるんだよなァ……ここに、よ」

    苗木(そう言って左右田先輩がトンと叩いたのは、左右田先輩自身の作業着の、その胸ポケットで……)

    苗木「そこに入ってるんですか? でも、そんな小さいポケットじゃネジとかくらいしか入らないんじゃ……」

    左右田「そいつァどうかな……っと」

    苗木(そう言って、左右田先輩は胸ポケットから何かの紙を取り出す)

    大和田「設計図……っすか?」

    左右田「いいや、部品だぜ」

    苗木「部品……? 紙なんかバイクに使うの……?」

    大和田「いや、ンな話聞いた事ねえぞ」

    左右田「へっへっへ……エニグマッ!」

    苗木(左右田先輩が叫ぶと……紙が何かの部品に!?)

    大和田「その……エニグマ、っつゥーんすか? 紙を部品に変えるとは……なかなか便利っすね」

    左右田「おっとォ、そいつは違うな」

    大和田「違う……?」

    霧切「紙を部品に変えたんじゃなく……紙に“変えていた”部品を元に戻した……」

    霧切「ですよね、左右田先輩?」

    左右田「おう、大正解だ」

    不二咲「つまり……左右田先輩はそうやって、紙にしていろんな部品をいつも持ち歩いてる……って事ぉ?」

    左右田「便利だろ? かさばらずにいろいろ持ち歩けるんだぜ」

    左右田「いつ何の修理が必要になっても、オレに任せりゃ大概のモンは持ってるからな!」

    苗木(完全に便利屋根性じゃないか、この先輩……)
  479. 479 : : 2016/10/15(土) 18:18:02
    #88
    メカニカル・ブースト! その②
  480. 480 : : 2016/10/15(土) 18:18:17
    苗木(さすがにその日は、簡単な修理じゃなく、可能な限りの改造って依頼じゃあすぐに終わる作業になるはずもなく、数日を要するっていう左右田先輩の言葉に、ボク達はそれ以上その場に居ても仕方が無くなって部室に戻った)

    苗木(……で、その数日後)

    大和田「苗木! 霧切!」

    苗木「あ、大和田クン。いらっしゃい」

    霧切「どうかしたの?」

    苗木(再び大和田クンが部室を尋ねてきた)

    大和田「いや、左右田先輩と不二咲の、バイクの改造が終わってよ。これから試運転すんだ。良かったら見に来てくれよ」

    苗木「ああ、そういう事か。どうする、霧切さん?」

    霧切「そうね。どうせヒマだし、見に行ってみましょう」

    苗木「ってわけでウチの探偵の許可も出たんで、是非行かせてもらうよ」

    霧切「そんな保護者みたいに言われても困るのだけれど」

    大和田「おう! 来い来い!」
  481. 481 : : 2016/10/15(土) 18:18:31
    苗木(場所を移して、学園の敷地内のサーキット。いや、なんでサーキットが敷地内にあるのか疑問はもの凄いけど、そういえば花京院先輩もレーサーだし深く気にしない事にした)

    左右田「前より随分パワーは上がってるはずだぜ」

    不二咲「AIはまだまだ試験的なものだから、不備があったら言ってね。すぐに対応できるよう頑張るよぉ」

    大和田「ああ。……そんじゃ、男大和田紋土! “爆走(はし)”るぜコラァ!」

    苗木(その勇ましい宣言と共に……)

    苗木(…………)

    苗木(……大和田クンは、“旋風(かぜ)”となった)
  482. 482 : : 2016/10/15(土) 18:19:16
    大和田「いやー、満足満足……大満足っすよ、左右田先輩! 軽く“爆走(はし)”っただけでも、もう今までとは段違いの音! スピード! パワー! こんなに気持ちいいのは久々っす!」

    苗木(大和田クンのこんなイイ笑顔……初めて見たんだけど)

    左右田「満足してもらえたみてーでオレも嬉しいぜ!」

    大和田「マジに感謝っすよ!」

    大和田「それに不二咲のAIもかなり精度いいぜ。なんつーかよ、オレの好みにしっくり来るっつーか……カーブするタイミング指示とか出してくるけどよ、オレの“ここだ!”って感覚と完全にマッチしてんだよな。オメェの腕もマジに大したもんだ!」

    不二咲「えへへ……大和田君はクラスメイトだからね。そりゃあ好みもなんとなく分かるよ!」

    大和田「おう! ……いやけど、今回の事、ホント頼んでよかったよ。苗木に霧切、オメェらもいい先輩紹介してくれてあんがとな」

    霧切「いえ。これからも贔屓にしてくれると嬉しいわ」

    苗木「まあ、贔屓って言っても競合する人なんていないと思うけどね」

    大和田「けど、イギーの事もあるしよ……なんかしら礼がしたいが……」

    霧切「それなら、部の宣伝でもしてくれると嬉しいわね。まだまだ認知度は低いと思うし」

    大和田「そんなんでいいのか? それならお安い御用だぜ」

    苗木(なんかこう、ここまでみんなで“良かったね”で終わる事も滅多にないくらい、気持ちいい終わり方だなあ)

    苗木(こんな依頼ばっかりだとボクとしても……)

    左右田「ま、何だ。大和田、またなんかあったらいつでも言ってくれよ。オレもガンガンやってやっからよ」

    大和田「マジすか? じゃあチームの連中のマシンの調整も頼みたいんすけど」

    左右田「チームって……。……何人くらいだ?」

    大和田「だいたい千くらいっすかね」

    左右田「千人!? いやいやお前、そりゃ幾らなんでも……」

    苗木(そんな規模だったんだ!? っていうか、言ってたら左右田先輩だけ大変な事になってるような……)

    左右田「燃えんだろ! 燃えすぎんだろ! おっしゃ、千でも万でも持ってこい! オレが面倒見てやる!」

    大和田「マジっすか! 先輩“漢”っすね!」

    左右田「だろ!? だろ!?」

    苗木(……ああ、うん。まあそうだね。たまにはみんなハッピーでいいよね)

    苗木(……はあ、何故かボクが疲れたよ)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:六番
    “超高校級のメカニック”≪左右田 和一≫
    スタンド:エニグマ(ダイヤモンドは砕けないより、元本体名:宮本輝之輔)
    【破壊力】E
    【スピード】E
    【射程距離】C
    【持続力】A
    【精密動作性】C
    【成長性】C
  483. 483 : : 2016/10/16(日) 10:28:10
    #89
    葉隠康比呂の受難 その①
  484. 484 : : 2016/10/16(日) 10:28:40
    苗木(ある日の朝……)

    苗木「うわッ!? は、葉隠クン、どうしたの!?」

    苗木(葉隠クンがやたらゲッソリして登校してきた)

    葉隠「あ……な、苗木っち……」

    苗木「う、うん。ボクは苗木だけど……」

    葉隠「苗木っちィーッ!」

    苗木「うわわ!? 何!? どうしたの!?」

    苗木(急にボクに抱き着いて来た……今度は何の詐欺に引っかけようっていうんだ……)

    葉隠「助けて欲しいべ! 俺は今、何者かのスタンド攻撃を受けてるんだ!」

    苗木「は!? スタンド攻撃って……え、ホントに!?」

    苗木(それが事実だとすると、結構深刻な話だ。この学園、不意打ちみたいな攻撃は禁止になってるから……)

    ドラゴンズ・ドリーム『マア……攻撃ッツー程デモネーケドナ。ダメージハネーシ』

    苗木「あ、そうなの?」

    ドラゴンズ・ドリーム『ケド、康比呂ガ何ラカノスタンド能力ニヨル効果ヲ受ケテンノハ事実ダゼ』

    苗木「ドラゴンズ・ドリームがそう言うなら、心配だな……」

    葉隠「俺は!? なあ、俺自身の言葉はどうなんだべ!?」

    苗木「ちなみにドラゴンズ・ドリーム、今日の葉隠クンの運勢は?」

    葉隠「ああああああー! 恐ろしくて聞きたくなかった事を平然と!?」

    ドラゴンズ・ドリーム『コノ学園、ドコニ居テモ大凶ダナ。ラッキーカラー、ラッキーナンバー、ラッキーアイテム、ラッキーパーソン等々……イズレモ該当ナシ』

    葉隠「完全な死刑宣告じゃあねーかァーッ!」
  485. 485 : : 2016/10/16(日) 10:29:01
    苗木「……って事があったんだ」

    霧切「そう」

    苗木(しょんぼりした様子で葉隠クンが席について少ししたところで登校してきた霧切さんに、事情を話す)

    霧切「葉隠君についてはこの際どうでもいいけれど、葉隠君に対しスタンド能力を使っている相手は気になるわね……」

    苗木「だよね……」

    葉隠「聞こえてるからな!?」

    霧切「葉隠君だし、単に彼自身が恨みを買っているという可能性も高いけれど……」

    葉隠「そりゃどういう意味だべ……」

    霧切「無差別だった場合、誰に飛び火するかわかったものじゃあないし。今の内に犯人を突き止めて、理由を問いただす必要があるわね」

    苗木「その結果葉隠クンに恨みがある場合は?」

    霧切「……彼の場合、九分九厘で自業自得じゃあないかしら。放っておきましょう」

    苗木「だね」

    葉隠「ドラゴンズ・ドリーム……俺、なんか扱い酷くねーか……?」

    ドラゴンズ・ドリーム『身カラ出タ錆ダ、諦メロ』
  486. 486 : : 2016/10/16(日) 10:29:43
    霧切「さて、調査と言っても、まずはどうしたものかしらね……」

    苗木「そういえば、葉隠クンからどんなスタンド能力の対象になってるのか、までは聞けてなかったなあ。ねえ、それはどうなの? 葉隠ク……あれ、いない……」

    苗木(昼休み。午前中の授業は葉隠クンに変わった所は無かったけど、それは当然、授業中や短い休み時間にまでわざわざ葉隠クンに構う事はしないだろう、って霧切さんの意見に納得し、ならこの昼休みがまずは危ないんじゃ、と考えて早速の対策会議だったんだけど……)

    苗木(当の、葉隠クン本人がいなくなっていた)

    苗木「葉隠クン、教室出て行ったっけ……?」

    霧切「いえ、私は見ていない……わね」

    苗木「だよね……」

    承太郎「お前ら、授業が終わるなり難しい顔付き合わして……どうした?」

    苗木(と……そういえば、さっきの四時間目は空条先生の生物の授業で、教室を出る前に気になったからだろうか、声をかけられた)

    苗木「あ、空条先生……葉隠クンが教室を出る所、先生見ました?」

    承太郎「葉隠? ……いや、見ていない。が、たしかに……教室にはいないようだな。大方授業が終わるなり食堂にでも行ったんじゃあねーのか?」

    霧切「そうとは思えないんです、空条先生」

    承太郎「ほう? 詳しい話を聞かせな」

    苗木(というわけで、ボクと霧切さん、二人で葉隠クンの今朝の様子を伝える)

    承太郎「……全く、やれやれだぜ。凝りねえ奴だぜ、“あいつ”はよ」

    苗木「あいつ……?」

    霧切「この件の犯人に心当たりでも?」

    承太郎「ああ……見かけるたびに教師も注意はしてるんだがな。奴がやるのは攻撃ってまではいかねえ、イタズラレベルの事ばかりだから、強くも言えねえ……そこんトコ、上手く突いてやがる厄介な奴だ」

    苗木(空条先生をして厄介と言わしめる相手……か。これは相当に厄介なんだろうな。全くもう、葉隠クン、なんでそんなのに目を付けられるような事するかな……)

    承太郎「おれの方でもあいつを見かけたら注意はしておくが……」

    霧切「……いえ、空条先生」

    承太郎「何だ?」

    霧切「今回の件、私達探偵部で請け負わせてもらえないでしょうか」

    苗木(霧切さん、やる気だな……教師でも解決できない問題を解決する、っていうのが探偵の琴線に触れたのかな?)

    承太郎「……なるほど、な。教師がいくら言っても聞きやしねえ……なら、生徒の自主性って奴に頼ってみるのも悪い手じゃあねえ、か」

    承太郎「いいぜ。分かった。なら今回の件はお前らに一任する」

    霧切「ありがとうございます。……ですが、ひとまずは先生の知る限りの情報を――」
  487. 487 : : 2016/10/16(日) 10:30:00
    #90
    葉隠康比呂の受難 その②
  488. 488 : : 2016/10/16(日) 10:30:29
    苗木(空条先生から葉隠クンに攻撃……じゃないんだよね。イタズラを仕掛けている相手スタンド使いの情報を聞き出し、早速ボクらは動く……わけではなく、ひとまずおひるごはんを食べる事になった。おなかもすいてるし)

    霧切「苗木君は今日はお昼はどうするの?」

    苗木「ん、お弁当作って持ってきたよ」

    霧切「あら、料理出来たのね」

    苗木「はは……これでも一応、みんなに言えることだけど一人暮らしだよ? 全寮制なんだからさ、この学校」

    霧切「フルールヴィラージュに通ってると思っていたわ」

    苗木「いや……さすがに、毎晩三千五百円はキツいかな。内容を思うともっと取れるとは思うけどさ」

    霧切「それもそうね……」

    苗木「まあお弁当って言っても、炊いたご飯と冷凍食品をチンして詰め込んできただけだから、料理とは言い難いかもしれないけど。……霧切さんは?

    霧切「私は朝の人の少ない時間の間に購買でサンドイッチを買って来たわ。……授業終わってすぐにサンジェルメンに直行して、っていうのも魅力的ではあったけれど」

    苗木「あそこのカツサンドのカツは揚げたてだからねえ……ボクも一度しか食べた事ないや」

    苗木(サンジェルメン……正確にはサンジェルメン幽波紋ヶ峰学園支店は校内に存在するパン屋さんだ。値段も手ごろで味もボリュームも抜群として学生に人気が高い。人気メニューはカツサンド。すぐに売り切れちゃうんで、運が相当良くないと買えない)

    苗木(ちなみに本店はM県S市杜王町にあって、今のところはこの二店舗しか存在しないらしい)

    苗木(……故に、この味が忘れられない卒業生もたまに学園に顔を出しては買いに来ているんだとか)

    苗木(まあ、今は関係ないか)

    霧切「なら、ちゃっちゃとこの場で食べちゃって、調査に向かいましょうか」

    苗木「うん、そうだね」
  489. 489 : : 2016/10/16(日) 10:31:33
    苗木(昼食を摂り終わり、席を立ち)

    苗木「さて……と。空条先生の情報によると、一ヶ所にはなかなかとどまらない先輩みたいだから……居場所を特定するところから始めないと、か」

    霧切「そうね。ならまずは……」

    ドラゴンズ・ドリーム『ナー』

    苗木「うわ!? びっくりした……」

    霧切「ドラゴンズ・ドリーム? ……貴方の射程距離の評価は“なし”。おそらく能力に関してのものなのかもしれないけれど、そう本体から遠くへは行けないはずよね」

    ドラゴンズ・ドリーム『オー、ヨク分カッテンナ』

    霧切「本体である葉隠君本人はどこ?」

    ドラゴンズ・ドリーム『イヤ、イイ加減気付イテヤッテクレ』

    苗木「へ?」

    ドラゴンズ・ドリーム『下下、下見ロッテ』

    苗木「下?」

    苗木(言われて、視線を落とすと……)

    苗木「え!? は、葉隠クン!?」

    (葉隠「ようやく気付いてくれたべー!」)

    ドラゴンズ・ドリーム『ズット居タノヨナ、コレガ』

    苗木(ボクの足元に、ものすごく小さくなった葉隠クンがいた)

    苗木(ひとまず、葉隠クンをボクの手のひらの上に乗せ、持ち上げてみる。うん、これは確かに生きてる人間だ、人形とかじゃあない)

    霧切「空条先生から聞いた通りの状況みたいね」

    苗木「うん、どうやらそうみたいだ」

    (葉隠「朝からずっとこうなんだ……なあ、助けてくれって!」)

    苗木「うーん……けどまずはスタンド使い本体をどうにかして見つけないと……」

    苗木(あ、そうだ。こんな時こそ……そうだな、たとえば)

    苗木「ヘイ・ヤー。どうかな?」

    ヘイ・ヤー『イヤ、別ノ所ガイインジャアネーカ?』

    苗木「そっか」

    霧切「どこが駄目なの?」

    苗木「先輩の教室」

    霧切「ふむ、まあ有力候補の一つではあったけれど。そこが潰れたのは大きいわね……」

    苗木「けどこうやって絞り込んで行けばきっと……」

    霧切「いえ、それは時間がかかりすぎると思うわ。それよりいい方法を思いついたの」

    苗木「いい方法って?」

    霧切「……ドラゴンズ・ドリーム。“私達の運勢のいい方角”は?」

    苗木「あ、そっか。ドラゴンズ・ドリームなら……」

    ドラゴンズ・ドリーム『ナルホドナー。ンー……ッテ言ッテモナア』

    霧切「まさか無いって言うの?」

    ドラゴンズ・ドリーム『無イッツーカ、“ココ以上ハネー”ッテトコダナ』

    苗木「ここ以上は、って……この教室って事?」

    ドラゴンズ・ドリーム『教室……ヨリハ、チョビットダケ範囲広イカモ』
  490. 490 : : 2016/10/16(日) 10:35:45
    霧切「ふむ……」

    苗木「って事は、この教室内、もしくは教室周辺にスタンド使い本体がいる可能性が高いって事か……」

    霧切「もしくは、遠距離まで飛ばせるスタンドが周囲に居る可能性もあるわ」

    苗木「あ、その可能性もあるのか」

    (葉隠「けどよ、誰かスタンドにしろスタンド使いにしろ、その姿見たんか?」)

    苗木「え? どういう事?」

    (葉隠「だってよ、近くに居るって事は、“近くじゃねーと攻撃できねー”って事だろ?」)

    (葉隠「俺が今こうして縮んでるって事は、近くから何かしらやって来たはずだべ」)

    ドラゴンズ・ドリーム『オー、康比呂ニシテハ冴エテンナ』

    (葉隠「ドラゴンズ・ドリーム! オメーが言うんか!?」)

    霧切「けれど、たしかに……見ていないわね」

    苗木「うーん……いったいどこから葉隠クンを小さくしたんだろう……?」

    苗木(……と、悩んでいると)

    苗木「……あれ?」

    霧切「どうかしたの?」

    苗木「いや、あそこ……教室の隅……」

    霧切「隅……? ああ、サンジェルメンの紙袋があるわね。大方、誰かが捨てようとしてゴミ箱に入れそこなったんじゃあないかしら。横にゴミ箱もあるし」

    苗木「いや、なんかさっき、一瞬動いたような気がして」

    霧切「動いた? ……気になるわね。調べてみましょう」

    苗木(言うが早いか、霧切さんは即座に紙袋を持ち上げ、中を見る。するとその場で動きを止め……)

    霧切「苗木君」

    苗木「何?」

    霧切「見つけたわ」
  491. 491 : : 2016/10/16(日) 10:41:19
    (「もー、こんなすぐ見つけるとか、つまんないなー」)

    苗木(サンジェルメンの袋の中で、カツサンドにかじりついていた小さな――幼い、という意味ではなく、葉隠クンみたいに縮んでいる――女の子が開き直ったようにそんなセリフを言った)

    霧切「貴方が……七十七期生、西園寺日寄子先輩でいいのね?」

    (西園寺「うん、そうだよー!」)

    苗木(そう言って、西園寺先輩は元の大きさに戻る。……小学生程度の身長にも思えるけど)

    苗木(と同時に、葉隠クンも元に戻ったみたいだ)

    西園寺「改めて……わたしは西園寺日寄子っていうんだー。スタンドはリトル・フィート! 自分が小さくなったらサンジェルメンのカツサンドを普通よりもたくさん楽しめる、便利なスタンドでしょー?」

    霧切「それは……まあ、少し羨ましいけれど」

    苗木(そこは霧切さんも認めるんだ……)

    霧切「何故葉隠君も縮めたの?」

    西園寺「んー?」

    西園寺「そのモッサリした髪がウザかったからだけど」

    葉隠「それだけ!?」

    苗木「気持ちは分からないでもない」

    葉隠「ヒデーべ!」

    霧切「事情は分かったわ」

    葉隠「分からんでくれっての!」

    霧切「……西園寺さん。一つ取引しましょう」

    西園寺「取引?」

    霧切「こういったイタズラは、やっぱりあまりよろしくないと思うの」

    西園寺「まるで先生みたいな事言うんだ」

    霧切「だから、やるなら葉隠君相手だけにして頂戴」

    葉隠「いやいやいや、待ってくれ!? 何の解決にもなってねーぞ!?」

    西園寺「飽きるまででいいならそれで手を打った」

    霧切「交渉成立ね」

    葉隠「成立しちまったんかァーッ!?」

    ドラゴンズ・ドリーム『身カラ出タ錆ダ、諦メロ』


    苗木(結局……)

    苗木(しばらく葉隠クンの受難は続いたものの、一週間ほどで飽きられてしまったらしい)

    苗木(……残念)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:五番
    “超高校級の日本舞踊家”≪西園寺 日寄子≫
    スタンド:リトル・フィート(黄金の風より、元本体名:ホルマジオ)
    【破壊力】D
    【スピード】B
    【射程距離】E
    【持続力】A
    【精密動作性】D
    【成長性】C
  492. 492 : : 2016/10/16(日) 18:24:54
    #91
    ツートップ会談 その①
  493. 493 : : 2016/10/16(日) 18:25:22
    苗木(ある日の放課後、霧切さんと一緒に“フルールヴィラージュ”で夕食を摂る事になった)

    苗木「今日は何が出て来るかな……」

    霧切「それもあのお店の楽しみの一つよね」

    苗木「ホントホント。……花村先輩、ボクらより一年早く卒業しちゃうんだよなあ。この近くで店開いてくれたら嬉しいけど」

    霧切「そうね……けれど、多少遠くても通う価値はあると思うわ」

    苗木「うん、ちょっとくらいならボクも通っちゃうかも……」

    苗木(そんな話をしながら食堂にやってくると)

    苗木「あれ、ジョルノ先輩だ。今日は日本にいたんだ」

    霧切「本当ね……」

    苗木(と、話していると向こうもボク達に気が付いたみたいで)

    ジョルノ「やあ、苗木君。それに霧切さんも。少しぶり」

    苗木「ええ……そうですね」

    苗木(たしかに久しぶりってほど会ってなかったわけでもないか)

    「あ? ……ジョルノよぉ、誰だコイツら」

    「たしか七十八期生から校内ランカーに入った二人だったはずです、坊ちゃん」

    「ああ……なるほどな。ならジョルノとは知り合いってわけだ」

    ジョルノ「うん。そういう事。二人はまだ直接会った事は無かったかな。紹介するよ」

    「ああ、頼むぜ」
  494. 494 : : 2016/10/16(日) 18:25:58
    ジョルノ「彼が七十八期生、校内ランク十五位苗木誠君」

    苗木「七十八期生、“超高校級の幸運”の苗木です、よろしくお願いします」

    ジョルノ「でこちらの彼女が同じく七十八期生、校内ランク十四位霧切響子さん」

    霧切「お初にお目にかかります。“超高校級の探偵”霧切響子です」

    「ま、礼儀正しい奴らみてーで好感は持てるな……」

    ジョルノ「さて、続いて、彼は七十七期生の九頭龍冬彦君」

    九頭龍「九頭龍冬彦……“超高校級の極道”だ。よろしく頼むぜ」

    苗木(……極道ッ!?)

    ジョルノ「そして最後に彼女が同じく七十七期生、“超高校級の剣道家”辺古山ペコさん」

    辺古山「辺古山ペコという。……九頭龍組所属という形だ。よろしく頼む」

    苗木(九頭龍組ッ!? 国内最大級の指定暴力団じゃなかったっけ!? え、じゃあ九頭龍先輩って……ええッ!?)

    ジョルノ「あはは、焦ってるみたいだけど……大丈夫だよ、苗木君。彼らだってむやみにカタギに手は出さないさ」

    九頭龍「ま、こういう反応は慣れっこだけどな……」

    霧切「……」

    辺古山「霧切といったか。お前は探偵と言っていたが……さすが、物怖じしていないようだな」

    霧切「ええ。それよりも、極道という組織についての知的好奇心の方が勝っているわ」

    九頭龍「なるほどな……だが普段何やってるだとか、組織体系はだとか、そういった話は幾らなんだって出来ねえぜ?」

    霧切「ええ、でしょうね。あくまで私個人の好奇心だもの、満たして欲しいとは言わないわ」

    九頭龍「そうかい」

    苗木(……霧切さん、凄いなあ)
  495. 495 : : 2016/10/16(日) 18:26:31
    苗木「っていうか……ギャングのボスと極道の跡取りって、一緒に居て大丈夫なんですか? その、立場とか……」

    ジョルノ「ああ……問題ないよ。むしろ……」

    九頭龍「いい“取引相手”だぜ?」

    苗木(絶対ヤバい取引だよこれ。絶対深く突っ込んじゃいけない奴だよこれ)

    ジョルノ「あはは、安心してよ。取引って言っても別に変なものは取引しちゃいないさ」

    九頭龍「コイツの組織は……いや、オレんとこもだがよ。ヤクはご法度って決まってんだ。そういうモンはやっちゃいねえぜ」

    苗木(こういう人たちからヤクとかって言葉聞くと、それだけでもの凄い怖いんだけど)

    九頭龍「まあ……そうだな。たとえば……こういうモンとか、だな」

    苗木(そう言って九頭龍先輩が何かを取り出そうとしたその時!)

    辺古山「ハッ!」

    キン!

    苗木「……え?」

    霧切「……今のは?」

    ジョルノ「ふむ。……九頭龍君、君も大変だね」

    九頭龍「ま、スタンドも使えねえただの殺し屋(ザコ連中)なんざ、ペコがいりゃ心配はねえけどな」

    ジョルノ「それもそうか」

    苗木(床を見ると……銃弾が真っ二つになって落ちてるんだけど……)

    辺古山「どうします、坊ちゃん? 追いますか?」

    九頭龍「放っておけ。ザコ一匹潰したって何も変わらねえだろ」

    九頭龍「依頼したヤツんとこに直行するようなマヌケでもねーだろーしな」

    辺古山「は、ではそのように」
  496. 496 : : 2016/10/16(日) 18:27:01
    九頭龍「まあ、また仕掛けてくるようなら……ペコ、“覚えた”んだろ?」

    辺古山「はい」

    苗木「覚えた……って、なんです?」

    九頭龍「ん? ああ……ペコのスタンドだよ」

    苗木「辺古山先輩のスタンド、ですか」

    辺古山「ああ。私のスタンドはこれなんだ」

    苗木(そう言ってトン、と軽く、先ほど銃弾を真っ二つにした自身の刀を指で叩く)

    辺古山「私のスタンドはアヌビス神という。一度戦った相手の事を学習し、以降絶対に負けないようパワーアップする……というものだ」

    苗木(は、反則級だ……)

    霧切「そんなに強いスタンドで……何故ランカーに入っていないんですか?」

    辺古山「坊ちゃんより目立つわけにもいかんだろう。坊ちゃんの一歩後ろ、それが定位置であるべきだ」

    九頭龍「オレはンな事気にしねえんだがな……」

    苗木(なんか……ホントに“その世界”だなあ……)

    辺古山「それに、無尽蔵にパワーアップ出来るわけでもない。どうやっても勝てない相手には勝てない。現に、九頭龍坊ちゃんに勝った事は一度もないからな」

    九頭龍「コイツ、相手がオレでも勝負で手ェ抜くような奴じゃあねーからな……そこは信用していいだろうぜ」

    苗木「そ、そうですか」


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:十三番
    “超高校級の剣道家”≪辺古山 ペコ≫
    スタンド:アヌビス神(スターダストクルセイダースより、元本体名:キャラバン・サライ)
    【破壊力】B
    【スピード】B
    【射程距離】E
    【持続力】A
    【精密動作性】E
    【成長性】C
  497. 497 : : 2016/10/16(日) 18:27:22
    #92
    ツートップ会談 その②
  498. 498 : : 2016/10/16(日) 18:27:40
    苗木(霧切さんが随分乗り気だったため、ボクら二人もジョルノ先輩たちと同席する事になった)

    苗木(花村先輩の“判断”も終わり、あとは料理が来るのを待つだけ……といったところで)

    霧切「そういえば九頭龍先輩」

    九頭龍「あ? 何だ?」

    霧切「さっきの……その、狙撃で失念していましたが」

    苗木(良かった。霧切さんにとっても一応衝撃ではあったんだ)

    霧切「先ほど……何か取り出そうとしていませんでしたか?」

    九頭龍「何か……? ああ、コイツの事か」

    苗木(そう言って九頭龍先輩は懐から何かを無造作に取り出し、テーブルの上にゴトリと……って!)

    苗木「け、けけけ、け、拳銃!?」

    九頭龍「ああ」

    ジョルノ「まあ、こういう物は僕達にとってはある種生命線だからね」

    九頭龍「オレやジョルノ、ペコなんかはスタンドがあるが……組織に属する奴全員がスタンド使いなわけじゃあねーからな」

    辺古山「……尤も、他にいないというわけでもないが。それでも、使えない者の方が多数である事に変わりはあるまい」

    霧切「なるほど。たしかに、必需品……というわけね」
  499. 499 : : 2016/10/16(日) 18:28:02
    九頭龍「ああ。それに……」

    苗木「それに?」

    九頭龍「ペコの“刀”みたいなもんだ。オレにはコイツが必要なんでな」

    苗木「え、っと?」

    九頭龍「ま、ペコの場合は刀そのものがスタンドなわけだから、少しばかり事情が違うが」

    ジョルノ「つまり九頭龍君のスタンドには銃が必要不可欠なのさ」

    苗木「そんなスタンドも……あるんですね」

    九頭龍「ああ。なんなら見せてやろうか?」

    苗木(そう言って、九頭龍先輩は銃口をこちらに向ける)

    苗木「え……いやいやいや! いいです! いいです!」

    九頭龍「はっはっは、冗談だ冗談。オレだってメシ食う場所で発砲なんざしねーよ」

    苗木「は、はは……は」

    苗木(冗談が分かりにくい!?)

    九頭龍「ま、紹介だけはしといてやる。……おい、出て来い、No.1、No.2、No.3、No.5、No.6、No.7」

    「ヤッハー!」

    苗木「これ……は?」

    九頭龍「これがオレのスタンド……セックス・ピストルズだ」

    苗木「No.4が見当たりませんけど……」

    九頭龍「そりゃ、不吉な数字だからな」

    苗木(葉隠クンみたいな事言ってる……)

    ジョルノ「セックス・ピストルズは撃った銃弾を操作する事が出来る……僕も一目置いてるスタンドさ」

    九頭龍「へっ、よく言うぜ。校内ランク一位様よォ……」

    ジョルノ「いえ、事実です。少なくとも……九頭龍君と友好関係を築けて良かった。“敵でなくて良かった”……と考えてる事に偽りはないです」

    九頭龍「違えねえ。オレだってオメーとやりあいたくはねえよ……」

    苗木(その後もボクは、物騒なような和やかなような、聞いて良かったのか悪かったのか、って話をひたすら聞きつつ、無理にでも相槌を打つという、生きた心地のしないひと時を過ごすことになってしまったのだった……)


    幽波紋ヶ峰学園 第七十七期生
    出席番号:二番
    “超高校級の極道”≪九頭龍 冬彦≫
    スタンド:セックス・ピストルズ(黄金の風より、元本体名:グイード・ミスタ)
    【破壊力】E
    【スピード】C
    【射程距離】C
    【持続力】A
    【精密動作性】A
    【成長性】B
  500. 500 : : 2016/10/16(日) 18:29:17
    #93
    愛の力?
  501. 501 : : 2016/10/16(日) 18:29:36
    苗木(ある日の放課後)

    苗木「……霧切さん、ゴメン」

    霧切「どうしたの?」

    苗木「実はこの後ちょっと予定があってさ……少ししたら部活には出られると思うから、先に行ってて貰えるかな?」

    霧切「そう、しょうがないわね。じゃあ先に行くけれど……無理してまで部室に出ようとはしなくていいのよ?」

    苗木「うん、無理そうなら無理そうで、連絡だけは入れるよ」

    霧切「ええ、そうして頂戴」

    苗木(そうして霧切さんが教室を出るのを確認してボクは、“彼”との待ち合わせに向かった)
  502. 502 : : 2016/10/16(日) 18:29:57
    苗木(食堂にやって来ると、彼は既に席についていた)

    苗木「ゴメン、待たせちゃったかな?」

    桑田「いや……さっきHR終わったトコだろ。待つも何もねえって」

    苗木「それもそうだね」

    苗木(桑田クン……桑田怜恩。彼と霧切さんとの確執は根深く……たぶん、ボクも桑田クンからすれば気に入らない対象なんだろう、って思ってたんだけど……)

    苗木(今朝の事だ。霧切さんが登校してくる前に桑田クンに声をかけられた。“放課後、少し話せないか”と)

    苗木「それで……話って?」

    桑田「その、よ……」

    桑田「オメー、舞園ちゃんとそこそこ仲いいよな?」

    苗木「舞園さん……? そりゃ、まあそこそこ程度にはいいと思うけど」

    桑田「だったらよ……その、頼むッ!」

    苗木「へ!?」

    桑田「アピールしても全然振り向いてくれねえんだ! なんかいい方法ねえか一緒に考えてくれ!」

    苗木「……えええええッ!?」

    苗木(わざわざボクに声かけるくらいだから、もっと深刻な悩みでもあるのかと思ったのに、そういう方向の話だったの!?)

    苗木「っていうか、なんでボク……? 正直言って、桑田クンにはあんまり好ましく思われてないって……」

    桑田「あー……ぶっちゃけアレなんだよな。オメーの事はそんなに言うほど嫌っちゃあいなかったし……もう正直、霧切の事もどうでもいいんだよなァー」

    苗木(そうだったんだ……じゃあボクが気にしすぎてただけ……?)

    桑田「あ、でもいずれ霧切と決着はつけてえって思ってる。それは変わんねえけどな」

    苗木(ついてるよ……三回くらい、霧切さんの勝ちで決着ついてるよ……)

    桑田「んな事より! 今は舞園ちゃんだ! なんかいいアイディアねえか!?」

    苗木「う、うーん……」
  503. 503 : : 2016/10/16(日) 18:30:18
    康一「なるほどー……恋ですかァ……いいですねえ」

    桑田「うわッ!? だ、誰だァッ!?」

    康一「あ、驚かせちゃいました? すみません」

    苗木「ああ、広瀬先輩。それに山岸先輩も」

    康一「や、苗木君」

    由花子「久しぶり……な気がするわ」

    苗木「そうですね、あんまり会ってませんでしたし」

    桑田「苗木の知り合いか?」

    苗木「あ、うん。校内ランカーの広瀬康一先輩と、山岸由花子先輩」

    桑田「校内ランカー!?」

    由花子「ええ」

    康一「はい……えへへ」

    桑田「マジかあ……」

    康一「それよりそれより! 君、恋、してるんでしょッ!?」

    桑田「え、ええ……まあしてますけど」

    由花子「愛は大切よ。人を強くする……精神的にも、身体的にも。私だって康一君と知り合って……お付き合いするようになって、随分と成長した気がするわ」

    康一「いや……由花子さんは元から……」

    由花子「成長した気がするわッ!」

    康一「あはは……ハイ、そうですね……」

    苗木(なんか今、上下関係が見えた気がする)

    康一「でも、一方的な感情だとそれは“愛”じゃあなくって、“恋”……その恋だって、そのままにしてたら暴走しちゃってただの“自己満足”になっちゃいますからねえ……」

    桑田「は、はあ……?」

    康一「というワケで……僕らで良ければ一緒に相談に乗りますよ! ねえ、由花子さん」

    由花子「そうね、康一君が言うなら付き合ってあげるわ」

    苗木「こういう話題なら、お二人が居てくれると心強いですよ」

    康一「そう?」

    由花子「どんな話題でも、康一君がいれば心強いと思いますけど」

    康一「いやあ、そうかなあ……?」

    苗木(こうして桑田クンは、先輩二人に“愛”についての講釈を聞かされ……)

    苗木(しばらくの間、二人のアイディアを舞園さんに試しては撃沈する、という桑田クンの姿を見る事になった)

    苗木(……まあ、少なくとも確執の方は何とかなりそうで良かったかな)
  504. 504 : : 2016/10/16(日) 23:49:33
    #94
    狛枝凪斗
       ――破滅的に絶望的で爆発的に希望的な未来へ
  505. 505 : : 2016/10/16(日) 23:49:48
    その日、狛枝凪斗は不運だった。

    朝、朝食を摂ろうとした段階で冷蔵庫の中身を切らしている事に気が付き、仕方なく購買でパンを買って教室で食べようと考えたもののポケットに穴が開いていたせいで財布を落としてしまい結局パンを買えず、落とした財布を見つける事も出来ず……。

    ――本当に、ツイてない。

    しかしそんな状況下でも、狛枝は焦ることなく、にこやかな表情のままに「参ったね」と呟くだけ。
    それもそのはず、彼にとっては慣れっこなのだ。
    理由は原理は分からないが、彼は幸運を得ると必ず不運が、不運を得ると必ず幸運がやって来る、そういう星の元に生まれてしまった、としか言いようがない。
    ただ一つ言えることがあるとするならば、“理由や原理は分からない”……つまり、スタンドによるものでは無いという事も確定されている。

    さて、そんなわけであるから、彼が焦りもせず笑みも崩さないままに過ごせているそのワケ……不運の後には必ず、“幸運”がやって来る。
    彼はそれを信じているし、知っている、だから何が起ころうとも動じる事は無いのだ。

    そしてたしかに。

    この日狛枝凪斗に、その人生全ての中でも最大と呼べるほどの転機が訪れる。
  506. 506 : : 2016/10/16(日) 23:50:07
    狛枝はこれまで、この学園でいろんなものを見てきた。
    いろんな人物に、スタンド使い、スタンド……様々な出会いを経た。
    校内ランク一位、ジョルノ・ジョバァーナ。彼は言った。
    「“超高校級の幸運”として招かれたスタンド使いにこそ成功してほしい」と。
    彼と関わった“超高校級の幸運”は皆言われているのかもしれないが、だからといって狛枝への彼のその発言が嘘であったとはまったく思えない。
    だからこそ狛枝はジョルノに憧憬を抱くし、彼の言葉に全面的な信頼を置く。

    ジョルノは言った。
    「この世には、望むと望まざるとに関わらず、“吐き気を催す邪悪”と呼べるものが必ず存在する」
    「その邪悪に対し、“暗闇の荒野に、進むべき道を切り開く”かの如き『覚悟』を持って戦いを挑む事が出来る者こそ、黄金の精神を持つと言える」
    彼は狛枝に、黄金の精神を見出したとは言わなかった。
    だが狛枝は、その“黄金の精神”という言葉にとてつもなく魅了されてしまった。

    「『覚悟』を持って、邪悪を打ち倒す」……のではない。
    「『覚悟』を持って、邪悪と“戦う姿勢”」だ。
    それならば……と狛枝は思った。

    それならば、ボクにだって出来る。
    たとえ我が身を犠牲にしてでも、絶対的な希望のために絶望と闘う。
    自分など踏み台にしてくれて構わない、自分の死が希望の成長に、絶望を打ち倒すための糧になるのなら、幾らでも、何だって差し出す所存だ……。
    だから。
    だから、その時には……。

    ボクの事を希望だと。
    “黄金の精神”を確かに持つ者だと呼んでくれ。
  507. 507 : : 2016/10/16(日) 23:50:28
    狛枝「…………へえ」

    まるで貼り付けていたかのような笑顔を引きはがし、狛枝は一人ごちる。

    狛枝「なるほどね。ジョルノクンの言う“吐き気を催す邪悪”。たしかにこれは吐き気を催すよ」

    人一倍希望や絶望に敏感な狛枝だからこそだろうか?
    たまたま校内で見かけた二人の女子生徒に、“吐き気を催す邪悪(・・・・・・・・)”を感じ取った。
    いや、違う。
    確かに二人とも、邪悪と言える。
    だがより正確に言うとするならば、吐き気を催すほどの(・・・)邪悪は一人だ。

    狛枝は内心、歓喜した。
    ――これでボクも“黄金の精神”を持つ者の一人になれる!
    ――“あれ”と戦い、彼らに何かを遺すことが出来れば、ボクは“希望”になれるんだ!


    だが狛枝は決して馬鹿ではない。
    焦ってこのまま挑む事などという愚かしい行動はとらない。
    彼にとって、“希望になるため”の戦いはまだ始まったばかりなのだ――。
  508. 508 : : 2016/10/17(月) 18:20:14
    #95
    ランカートーナメント 開催!
  509. 509 : : 2016/10/17(月) 18:20:35
    承太郎「――とまあ、学業についての連絡事項は以上だ」

    苗木(ある日のHR。空条先生からの連絡事項はいつも通り、普通の学校と大差ないような内容の物……)

    承太郎「で、だ」

    苗木(と、思っていたんだけど)

    承太郎「十神。霧切。苗木」

    苗木「は、はい!?」

    霧切「何でしょうか」

    十神「……」

    承太郎「今週の土曜日、昼からだな。ランカートーナメントが行われる。参加するか?」

    十神「ふ、ようやくか。するに決まっている。……少しは楽しめそうだからな」

    霧切「ええ、します」

    苗木「えっと……ボクも一応」

    承太郎「そうか。向上心のあることで結構だ。おれとしちゃ全員参加は嬉しいぜ」

    承太郎「……三人以外の奴は、予定の合わない奴もいるだろうしな。別に義務付けたりはしねえが……ランカー同士のスタンドバトルだ。何かしら得るものはあるだろう……個人的には観戦を勧めるぜ。……ってなわけでだ、ひとまず三人はこの後職員室に来い。エントリーが必要だからな」

    苗木(と、それで話は終わったとばかりに空条先生は教壇を降り、教室から出て行ってしまった)

    大和田「ランカートーナメントか……へっ! オレが全力で応援してやらあ! オメェら気合入れてけよ!」

    朝日奈「うんうん! 試合、見に行くから、頑張ってね!」

    苗木「うん、やれるだけ、やってみるよ……!」

    苗木(クラスメイトみんなのエールを浴びながら、ボクらは職員室へと向かう事にした)
  510. 510 : : 2016/10/17(月) 18:20:58
    霧切「それにしても、苗木君も参加するとは意外ね」

    苗木「まあ、参加しない理由もないからね。ボク自身、下手したら一回戦敗退かもしれないけど……どこまでやれるか、試してみたいし!」

    霧切「そう。空条先生の言葉ってわけじゃあないけれど……向上心があるのはいい事よ」

    十神「向上心だけで上手くいくわけではないがな」

    苗木(十神クンは相変わらず、辛辣だなあ……)

    苗木(…………)

    苗木(ランカートーナメント、か)

    苗木(これまでボクは色んな人と会い、いろんなスタンドを知り、いろんな事を話し……)

    苗木(……やれるだけやってみる。さっきボクは教室で、そう言った)

    苗木(今のボクにとってはそれが全てなんだ、と思う。今はそれ以上の事は考えなくっていい)

    苗木(ボクには、ボクの精一杯を知ることが今、一番大切な事だと思うから)
  511. 511 : : 2016/10/17(月) 18:21:48
    抽選の結果、トーナメント表は以下のように決定ッ!
    ※ジョルノ・ジョバァーナは一位特権として、一回戦を免除されるッ!

    十神白夜             ―|
                      |―|
    狛枝凪斗             ―| |
                        |―|
    田中眼蛇夢            ―| | |
                      |―| |
    苗木誠              ―|   |
                          |―|
    エルメェス・コステロ       ―|   | |
                      |―| | |
    花京院典明            ―| | | |
                        |―| |
    ジャン=ピエール・ポルナレフ   ―| |   |
                      |―|   |
    ナランチャ・ギルガ        ―|     |
                            |―
    空条徐倫             ―|     |
                      |―|   |
    ペッシ              ―| |   |
                        |―| |
    霧切響子             ―| | | |
                      |―| | |
    山岸由花子            ―|   | |
                          |―|
    終里赤音             ―|   |
                      |―| |
    広瀬康一             ―| | |
                        |―|
                        |
    ジョルノ・ジョバァーナ        ―|
  512. 512 : : 2016/10/18(火) 17:56:43
    #96
    絶頂の王と退廃の女王
  513. 513 : : 2016/10/18(火) 17:57:02
    苗木(十二月に入って最初の土曜日――)

    苗木(以前、七十八期生スタンドバトルトーナメントでも足を踏み入れたコロッセオ)

    苗木(その観客席に、ボクはいた)

    苗木(第七十八期生に指定された一角へと足を踏み入れると……)

    霧切「あら、苗木君。来た、わ……ね……?」

    苗木「あ、はは……」

    苗木(霧切さんが訝しげに思うのは仕方ない)

    霧切「苗木君。……それは、えっと。どう判断したらいいのかしら」

    苗木「あんまり気にしないで……うん」

    苗木(だってボクは……いや、ボクの頭の上には)

    苗木(我が物顔で鎮座しているであろうイギーが乗っかっているんだから)

    苗木「そ、それよりさ! 最初は十神クンの試合だよね!? 席に座って応援しないと!」

    霧切「そ、そうね。まだ時間までは少しあるけれど……」

    苗木「そ、そう……だね」

    苗木(……イギー、暇だからって無理矢理ついて来ようとするんだもんなあ。はあ)
  514. 514 : : 2016/10/18(火) 17:57:20
    DIO「――さて、あまり長々と前置きをしていても仕方がないかな……」

    DIO「それでは第一回戦第一試合、第十三位十神白夜対、第三位狛枝凪斗!」

    DIO「始めェッ!」

    苗木「……それにしてもいきなり十神クンの試合かあ」

    霧切「あの狛枝凪斗という先輩も第三位につけるかなりの実力者……いきなり、大本命の対戦カードじゃあないかしら」

    霧切「苗木君は、どっちが勝つか……いえ、“どっちと当たりたい”かしら?」

    苗木「あ、そっか。次はボクの試合だから……」

    苗木(もし次、ボクが勝つことが出来れば、どっちかと戦う事になるのか。けど、それなら答えは決まってる)

    苗木「十神クン」

    霧切「へえ、意外ね?」

    苗木「そりゃ、リベンジしたいからね」

    霧切「そう。……まあ、今でなくってもいずれ、それが叶う事を願っておいてあげるわ」

    苗木「うん、ありがとう」
  515. 515 : : 2016/10/18(火) 17:57:47
    DIO「始めェッ!」

    学園長の宣言を受け、狛枝凪斗は口を開く。

    狛枝「悪いんだけどさ……」

    十神「なんだ。まさか棄権でもする気か?」

    狛枝「まさかだよ。……悪いんだけど、速攻で終わらせるよ」

    言うが早いか、狛枝は右手に握っていた“何か”を親指で弾き、十神に向かって飛ばす!

    十神「速攻で? はっ、馬鹿馬鹿し……何ッ!?」

    ドゴオオオオオオオン!

    悠々と“それ”をかわした十神であったが、しかし……十神には“それ”――小石が爆発するところまでは読めていなかった。
    投げられた小石をかわしていたために爆発そのものが直撃する事は無かったが、その爆風は確かなダメージとして十神に襲い掛かった!

    狛枝「あらら……当てるつもりだったんだけどな」

    十神「……ふ、ふふ。面白い……こうでなくてはな。ランカー上位ともなると腑抜けどもとは違うというわけだ……久々に楽しませてもらうぞ……」

    狛枝「へえ……普通なら爆風に巻き込まれるだけでも意識が吹っ飛ぶのに。そんな反応でいられるなんて……さすがは“超高校級の御曹司”十神白夜クンだよね!」

    十神「違うな……」

    狛枝「え……違うって、何が?」

    十神「俺は“超高校級の御曹司”などというちっぽけな存在ではない。いわば俺は“超高校級の完璧”……いや」

    十神「“超高校級の帝王”。それが俺だ」

    狛枝「帝王、か。その自信もさすが、といったところかな」

    十神「だが……」

    十神「お前の能力はどうやら爆弾のようだな。“何かに擬態した爆弾を産み出す”能力なのか、それとも“何かの条件で物を爆弾に変える”能力なのか……詳細は知らんが、だが爆弾である事に変わりはあるまい」
  516. 516 : : 2016/10/18(火) 17:58:06
    狛枝「あ、バレた?」

    十神「フン……バレるもバレないも、あの攻撃を受ければ馬鹿でも分かる」

    狛枝「それもそっか」

    十神「そしてそれが分かった以上……」

    十神「速攻でケリを付けられるのはお前の方だッ!」

    言い切ると同時に十神は大地を蹴り、狛枝へと肉薄する!

    狛枝「甘いよ……キラークイーン」

    瞬間、狛枝はスタンドのヴィジョンを現し、そのスタンドに何かを投げさせた。だがエピタフを持つ十神にはその正体が再び小石である事を知っていた……そして、飛んでくる事も予知していた!

    十神「甘いのはお前の方だッ! キング・クリムゾン!」

    十神はキング・クリムゾンの能力――十秒間だけ十神自身以外の時間を消し飛ばす――を使用し、小石を“すり抜け(・・・・)”、なおも狛枝に肉薄する足を止めない。

    十神「……十秒経過だ」

    十神がそう呟いた時には既に、十神は狛枝の眼前にまで迫っており……。

    狛枝「なっ!?」

    このまま小石を爆発させてしまえば、たしかに先ほどのように爆風を十神に当てる事は可能だろうが、それにより飛ばされる方向は狛枝にとって、自分の方角に他ならない!
    爆発させることは悪手でしかない……という判断が命取りとなった。

    十神「なかなかに気に入った。悪くない能力だ……久しぶりに少しだが楽しめたぞ。それに敬意を表し……」

    十神「キング・クリムゾンの一撃で終わらせてやろう」

    言って、十神はキング・クリムゾンの拳を狛枝へと叩き込む。


    だが十神は、気が付く事は無かった。
    拳を叩きこまれてなお、狛枝はその顔に笑みを貼り付けていることに――。
  517. 517 : : 2016/10/18(火) 17:59:09
    DIO「狛枝凪斗、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、十神白夜!」

    苗木「決着までが……速い……!」

    霧切「ふふ……望み通り、十神君が勝ったみたいね」

    苗木「みたいだけど……これ、はたから見たら大番狂わせもいいとこだよなあ……」

    霧切「あら、貴方がランカーに入った時点で既に大番狂わせは始まっていたと思っていたけれど」

    苗木「ひ、酷いなあ……まあ、事実かもしんないけどさ」

    苗木(っと、こうしちゃいられない)

    苗木「それじゃ、次はボクの試合だし、行ってくるよ」

    苗木(と、立ち上がりかけたところで)

    霧切「……待ちなさい」

    苗木「何? 助言とかあるの……」

    霧切「イギー。置いて行った方がいいと思うわよ」

    苗木「……ゴメン、ありがとう。忘れてた」

    苗木(ずっと頭の上に乗ってるんだもんな……)


    十神白夜               ―|
                        |
                        |―|
    田中眼蛇夢            ―| | |
                      |―| |
    苗木誠              ―|   |
                          |―|
    エルメェス・コステロ       ―|   | |
                      |―| | |
    花京院典明            ―| | | |
                        |―| |
    ジャン=ピエール・ポルナレフ   ―| |   |
                      |―|   |
    ナランチャ・ギルガ        ―|     |
                            |―
    空条徐倫             ―|     |
                      |―|   |
    ペッシ              ―| |   |
                        |―| |
    霧切響子             ―| | | |
                      |―| | |
    山岸由花子            ―|   | |
                          |―|
    終里赤音             ―|   |
                      |―| |
    広瀬康一             ―| | |
                        |―|
                        |
    ジョルノ・ジョバァーナ        ―|
  518. 518 : : 2016/10/19(水) 18:22:00
    #97
    魔獣大決戦 その①
  519. 519 : : 2016/10/19(水) 18:22:26
    田中「フ……この俺様の禍々しきオーラに恐れる事無く、この場に立った事は誉めてやろう」

    DIO学園長の試合開始の宣言と共に、田中は口を開く。

    田中「だが! 勝つのは俺様……」

    田中「俺様と! 破壊神暗黒四天王が一角、“蜃気楼の金鷹”ジャンPだッ!」

    ジャンP「チュー!」

    瞬間、田中の頭の上にジャンPが出現する!

    苗木「いや待って」

    田中「フン……今更に命乞いか?」

    苗木「いやそうじゃなくて! ジャンPは反則じゃあないのッ!?」

    田中「反則などではない……! ルールに則り、四天王ではなくジャンPただ一人を率いて来たのだぞ……ッ!」

    苗木「……え? どういう事……?」

    DIO「ふむ……詳細なルールを、七十八期生諸君はまだ知らなかったか。いいだろう。一時中断し、その部分についてこのわたしが自ら説明してやる」

    苗木「あ……学園長」

    田中「興ざめだが、致し方あるまい。このまま卑怯者の誹りを受けるは本意ではないからな」

    DIO「他のトーナメントでは個別にルールが存在するが……本ランカートーナメントに於いては“人間でないならば”協力者を取り付ける事を可としている。ただし、その個体数は“一”のみだ」

    DIO「無論、“スタンド能力によって動物を操る事”“スタンド能力によって生み出した生命を用いる事”はこの限りではない。好きな数だけ、可能な数だけ使用して問題が無いと言っておく」

    苗木「なるほど……」

    苗木「……ん、待てよ」

    苗木「だったら、今ボクはここに一人で立ってますけど……今からここに、ボクの方にも“助っ人”に来てもらうのはOKですか?」

    DIO「ふむ……すぐに用意できるのであれば可としよう。出来るのかね?」

    苗木「できますよ」

    田中「ほう」

    苗木「というワケだッ! イギー!」

    苗木の呼びかけに……イギーが観客席から飛び降りてくる!

    イギー「ぐるるるるるッ!」

    イギー(そうこなくっちゃあ面白くねえぜッ!)

    DIO「犬か? ……いいだろう。では……イギーといったな。この試合への参加を認める」

    苗木「よし」

    田中「フ……イギー。よもや再び貴様と刃をまじわす事になろうとはな」

    イギー「ばうッ!」

    イギー(うるせえッ! テメーとはまじわしてねーだろッ!)

    DIO「それでは改めて……第九位田中眼蛇夢対、第十五位苗木誠……始めェッ!」
  520. 520 : : 2016/10/19(水) 18:23:11
    宣言と共に、まず駆けたのはイギーであった。

    イギー(ザ・フールッ!)

    イギーはザ・フールを呼び出し攻撃……ではなく、イギー自身から苗木の眼前に至る砂の壁を打ち立てる!
    その数秒にも満たない後……イギーの発生させた砂の壁はどろりと溶ける。

    苗木「な……ッ!? 何これ!?」

    イギー(ケッ、なんか飛ばしてくんのが見えたと思ったが……こんな攻撃とはな)

    田中「フン……防いだか。だがジャンPのスタンド毒は見ての通りスタンドにも通用するッ! ダメージのフィードバックでイギーも無事では済むまい……」

    イギー(甘ェッ!)

    田中の言葉が終わるか終らないか。
    イギーは田中に思いっきり噛みつくべく突進を仕掛ける!

    田中「何ッ!? ダメージが無いだと!? く、スカイ・ハイッ!」

    ザ・フールは砂のスタンド。
    だがそれは“スタンドのヴィジョンとして出現する砂”ではなく、砂自体はただの砂なのだ。
    あくまで“砂と一体化しているスタンド”であるため、ダメージが無いわけではないが、比較的軽微な損傷で済む。
    だが、田中にはそんな事は知る由もなく……。

    ――とったッ!
    イギーのその確信も束の間、横腹に何やら違和感を抱いた。
    瞬間!

    イギー(ウゲェッ……!? な、何が……!?)

    イギーの眼は何も捉える事が出来ていなかった。
    生身の生物も、無生物も、スタンドすらも……何も見えてはいなかった!
    にもかかわらず、イギーの横腹には謎の腫れ(・・)が出来ている!
    ……だが、イギーは冷静だった。田中とジャンPの姿が見えているばかりにそちらに気を取られていたが、いざ冷静になってみれば。

    イギー(……いる! なんだか見えねーし分かんねーが……たしかに、何匹もその辺を飛んでるヤツがいる! オレの鼻にプンプン臭って来るぜ……!)

    イギー「ガウガウッ! ガウッ!」
  521. 521 : : 2016/10/19(水) 18:23:37
    苗木「イギー……!? くそ、イギーへの攻撃の正体……一体なんなんだ?」

    だが苗木は人間で、イギーの言葉が分かるわけでも、イギーのように鼻が利くわけでもない。“何か”が飛んでいる事に、苗木は今だ気付く事が出来ていない!

    田中「フハッ……! 貴様には攻撃の正体を考える時間をも与えんッ! ゆくぞ! スカイ・ハイ……ッ!」

    苗木「く、来るッ!」

    苗木は身構えるが……見えない攻撃に対処する事はおろか、防ぐことすらできない。
    どんな攻撃なのか分からないが、イギーと同じように苗木にも腫れが……右の手のひら全体が大きく腫れあがっていた。

    苗木「く……ぐ、ぐッ!」

    これでは手の出しようがない……せめて攻撃の正体さえ分かれば。

    苗木「く、ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『ダ、ダメダ! オレニモドコカラ何ガ来テルノカ分カンネーッ!』

    苗木「く、ヘイ・ヤーにも見えないのか……!」

    苗木はスカイ・ハイの物と思しき攻撃を受けながら、ちらりともう一人……いや、もう一匹の相棒を見る。
    だがいつの間にやら、イギーはスカイ・ハイではなくジャンPのラットによるスタンド毒の付いた針の攻撃を砂の壁で防ぐことで手いっぱいになっていた。
  522. 522 : : 2016/10/19(水) 18:23:53
    #98
    魔獣大決戦 その②
  523. 523 : : 2016/10/19(水) 18:24:17
    苗木は攻撃を受けながら考える。
    このスカイ・ハイはいったいどんなスタンドなのか?
    どうやってこの不可解な攻撃を繰り出してきているのか?
    その謎を解かない限り勝ち目はない……。

    苗木「だったら!」

    苗木は意を決して行動に移る。

    苗木「ヘイ・ヤーACT2!」

    田中「ほう?」

    苗木「『ボクには敵スタンドが見える』ッ! そうだろう!?」

    ヘイ・ヤーACT2『ヨシ来タ! 任セロッ!』

    ヘイ・ヤーACT2は事前に弾丸を装填しておく事は出来るし、事実弾丸は装填済みだ。
    だが装填済みの弾丸は実際に放つ際、“言葉を発して”“弾丸にして”“撃つ”という三つの行程を、“撃つ”という行程たった一つに絞る事が出来る代わりに、臨機応変さを失ってしまう。
    また、装填してしまった弾丸は実際に撃つまで消える事は無い……つまり、“能力の解除”といったリセット方法が存在しないのだ。
    故に、事前に装填しておく弾丸の数は三発を上限にしておく。
    これがヘイ・ヤーと共に決めた事だった。

    ヘイ・ヤーACT2『誠ッ! 行クゼッ!』

    ヘイ・ヤーACT2が今弾丸に変えた“言弾”を苗木自身に打ち込む。

    苗木「よし、これで攻撃が……」
  524. 524 : : 2016/10/19(水) 18:24:54
    苗木「そんな! 見えない……!?」

    ヘイ・ヤーACT2『馬鹿ナ……馬鹿ナッ! 弾丸ニ変エラレタッテ事ハ、効果ハ発揮スルハズナノニッ!』

    苗木にはヘイ・ヤーACT2の効果を以ってしても、攻撃の正体を掴むことは出来なかった。
    更に苗木は考える。これには何か意味があるはずだ。理由があるはずだ。
    考える……。
    攻撃の正体は何だ?
    スタンドの正体は何だ?
    何故弾丸の効果が出なかった?
    ――いや、違う。出ているはずだ。それでも見えなかったのは何故だ?

    イギーの応援を期待するが、やはりイギーはジャンPの攻撃の対処に追われていて……。

    苗木「……待てよ?」

    おかしい。
    田中の視点に立った場合、ジャンPと相性がいいのはどう考えても、最初に防ぐ手立てのある事が分かったイギーよりも苗木のはずだ。
    ならジャンPに苗木を相手にさせ、田中自身はイギーを抑えておいた方が優位に立てたはず……何故そうしない?

    苗木「……まさか!」

    そこに至って、苗木は“まさか、イギーは田中の攻撃の正体、もしくはそれを解くためのヒントに気付いたのでは?”という考えを閃く。
    だとするならば、イギーは“たった一度”攻撃を受けただけで正体を知った事になる。
    苗木は何度も――今もなお――正体不明の打撃を受けているに関わらず全くその正体が分からないのに、だ。
    イギーに分かって、苗木に分からない事。それはいったいなんだ?
    犬に分かって人間に分からない事……。

    苗木「そうか……分かったぞ! 攻撃の正体がッ!」

    田中「ほほう? 俺様の攻撃を受けながら……よもやそこまで思考を巡らせる精神的余裕を残していたとはな」

    苗木「イギーは犬だ……だからイギーがこの攻撃の正体に気付いたんだとしたらそれはきっと……臭い!」

    ヘイ・ヤーACT2『ナ……何ダッテ!? ダケド誠、スタンドニ臭イナンテ……』

    苗木「あるスタンドもいるかもしれないけど……この攻撃は少なくとも、スタンドが直接攻撃してるわけじゃない! たぶん物理的な何かだッ!」

    ヘイ・ヤーACT2『ブ、物理的ナ何カ!? ソノ何カッテ何ダ!?』

    苗木「そこまでは分からない……けど、イギーが臭いに“気が付いた事に気が付いた(・・・・・・・・・・・・)んだとしたら」

    苗木「そのためにイギーをジャンPに対処させてるんだとしたら! この可能性が高いッ!」
  525. 525 : : 2016/10/19(水) 18:25:36
    田中「ハッ……! だが、だとしたらどうする?」

    苗木「え……?」

    田中「依然、貴様は俺様の攻撃を受けていることにも、攻撃の正体が分かっていない事にも変わりはあるまい……イギーもッ! 我が配下の暗黒四天王が一角ジャンPが相手をしているッ! 貴様の不利に変わりは無いッ!」

    苗木「いや……そうはならない!」

    苗木「ヘイ・ヤーACT2ッ! 『素早く動けば攻撃は当たらない』ッ!」

    ヘイ・ヤーACT2『オウッ!』

    弾丸を装填し、ヘイ・ヤーACT2はイギーに(・・・・)狙いを定め、放つ!

    イギー(……! っしゃ、苗木のヤロー! ナイスフォローだぜ!)

    ラットの針を必死に砂の壁で防いでいたイギーだったが、ヘイ・ヤーACT2の弾丸を受け、壁を解除し、全速力でジャンPへと猛突進をかける!
    だがジャンPとてこれを好機とスタンド毒の針を飛ばし迎撃……だが、イギーは全速力!
    針など楽々とかわし……。

    イギー(オラァッ! イギー様ファイヤー!)

    そのままジャンPに体当たりをし、弾き飛ばす!

    ジャンP「ヂュゥー……」

    イギー(……へっ、ヤローはぶっ倒れたか)

    田中「なんと……ジャンPを打ち破るだと!?」

    苗木「そして……これでボクの勝ちだ」

    田中「……? 何を言っている? 確かに我が配下を破った事は誉めてやろう。だがまだ俺様のスカイ・ハイが破られたわけでは……」

    苗木「イギー! 砂だ! 砂を一面に巻き上げろッ!」

    イギー(なるほどな! よし、やってやるぜッ!)

    苗木の言葉を受け、イギーは周囲一帯を砂で覆う。すると……。

    苗木「な……なんだコレ!?」

    周囲を超高速で飛んでいる大量の“何か”が浮かび上がる。

    田中「貴様……やってくれる。我が配下、“幻影の暗殺者(ファントムアサシン)”をこのような形で視認するとはな……」

    苗木「ふぁ、ふぁんとむ……? 何?」

    田中「良かろう、教えてやるッ! かの魔獣共は我が配下であり……その種族は“竿(ロッズ)”!」

    苗木「ロッズ……?」

    苗木には田中とのそこそこの会話実績から、彼の言う“魔獣”が単に動物の事であると理解していた。
    だがそれにしても、このような奇妙な動物は見たことも聞いた事も無いし、ロッズという名前にも覚えが無い。

    田中「分からんか? ならばこう言い換えよう……ロッズ、別名……」

    田中「“スカイフィッシュ”だッ!」
  526. 526 : : 2016/10/19(水) 18:26:01
    #99
    魔獣大決戦 その③
  527. 527 : : 2016/10/19(水) 18:26:46
    苗木「す……スカイフィッシュだって!?」

    イギー(なんだそれ、知らねえ)

    スカイフィッシュ。俗に言う未確認動物(UMA)の一種。
    超高速で飛び回るために肉眼で捉える事は出来ず、ただカメラに映像記録が残るのみの不可思議な生物……。
    その正体はハエの一種だとか、単なるホコリの反射だとか、諸説ある。
    が、しかし! 今ここに、スカイフィッシュ(ロッズ)は実在という形を以ってその正体をあらわにしたッ!

    だが苗木はにとってそんな事はどうでも良かった。

    田中「フ。言っておくが我が配下“幻影の暗殺者”共はスタンドではない……実際の生命ある存在(もの)だ。だがこれが分かったからなんだという?」

    苗木「く……」

    苗木は、攻撃を仕掛けてくるものの正体さえ視認できれば状況は好転すると考えた。
    だが、ロッズの生態など苗木に分かるはずがない。
    依然として、ロッズが苗木やイギーに対し何を仕掛けてきているのか、まるで分からないでいるのだ。

    苗木「いったい何をすれば実際の動物がこんな事を出来るんだ!?」

    苗木は、なにか目に見えない物体を……それこそ、ジャンPのラットの放つ、しかし物理的な“スタンド毒”のようなものを飛ばして攻撃しているのだと考えていた。
    だが実際には……生物!
    考えてみれば、なにかが当たったような感触、ぶつかったような感触は一切無い。

    苗木「ロッズは……細菌でもまき散らしてるのか!?」

    叫びをあげるが、すぐに冷静を取り戻す。

    苗木「……いや、違う。細菌だっていうなら田中先輩にも同じ症状が出ていないとおかしい……病原菌、ウィルスなんかも違う……」

    イギー(コイツは……ヤベェかもな……)

    見ると、イギーも手足が腫れてきている。
    このままでは同時に倒れてしまう……。

    田中「クク、貴様は俺様の攻撃から逃れる事は出来ん……今の内に脱落の道を選ぶ事も出来るのだぞ?」

    苗木「はは、たしかに、何が何だか全く分かんないけど……」

    苗木「だけど、諦めるって事だけは、勝負から逃げる事だけはしないって、そう決めてるからね」

    田中「ほう、良い覚悟だ。気に入ったぞ……」

    田中「ならばッ! その覚悟に敬意を表し、このまま手を抜く事無く再起不能(リタイヤ)にしてやる――ッ! ロッズ共よ、やれッ!」

    指示と共に、ロッズの群れは苗木とイギーに向かって群れを成し飛ぶ!
  528. 528 : : 2016/10/19(水) 18:27:13
    苗木「攻撃の正体は分からない……だけど」

    苗木「分からないなら分からないで……やりようはある」

    苗木「ヘイ・ヤーACT2ッ! “二発目”だッ!」

    ヘイ・ヤーACT2『分カッタゼッ!』

    ヘイ・ヤーACT2は弾丸を、今度は田中めがけて放つ!

    田中「足掻きを……何ッ!?」

    だが田中はあっさりと、それをかわす……が!
    田中がかわした地点に着弾するよう、既にヘイ・ヤーACT2は“三発目”を放っていた!

    苗木「“二発目”は囮だよ……そして」

    田中「く……いったいどうした事だ……!? くそ、我が邪眼の能力が……ッ!」

    苗木「ヒットした“三発目”のおかげで、ボクらは戦えるッ! イギー!」

    イギー(おうッ!)

    巻き上げていた砂のおかげで分かる事ではあるが……今、ロッズ達は先ほどまでの統制のとれた動きを失い、縦横無尽に周囲を飛び回っている。
    それもそのはず、ACT2の放った“三発目”に装填していた言弾は『スタンドの制御が困難だ』。
    このおかげで今、田中はスカイ・ハイを通じたロッズの操作が上手く出来なくなっているのだ。
    故に、攻撃の狙いは苗木とイギーだけにとどまらず……田中自身にも向かっている!

    田中「……フハッ!」

    だが、この状況に至ってなお、田中は焦らない。

    田中「フハハハハハッ! いったい何をしたのか分からんが……この程度でこの俺様の焦燥を産もうとは片腹痛いわッ!」

    イギー(ザ・フールッ!)

    高笑いを上げる田中に対し、イギーはザ・フールで生み出した砂の塊を射出する!

    田中「我が“能力”がロッズだけと思うな! 我が名は田中眼蛇夢、“制圧せし氷の覇王”田中眼蛇夢ッ! 食らうがいい――I・U・F(インフィニティ・アンリミテッド・フレイム)――ッ!」
  529. 529 : : 2016/10/19(水) 18:27:33
    DIO「……田中眼蛇夢、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、苗木誠!」

    苗木(な……なんとか勝てた……)

    苗木(結局トドメはイギーに任せる事になったけど、危なかった)

    苗木(……けど、最後のいんふぃ……なんとかってなんだったんだろう。何も起こらなかったけど)

    田中「……フ。苗木誠……そしてイギーよ」

    苗木「あ……田中先輩」

    田中「いい戦いであった。貴様らを戦士と認め……頼みがある」

    苗木「た……頼みですか?」

    苗木(何だろう……)

    田中「世界を……宇宙の崩壊を止めてくれ……頼んだぞ……」

    苗木(それだけ言って田中先輩は意識を失った……)

    苗木「って、え!? 何それ!?」

    「あ、気にすんな。いつものコイツの妄言だから」

    苗木(……と。再起不能になった田中を医務室に運ぶためか、一人の男の人がやって来てそう告げた)

    苗木「妄言ですか……?」

    「ああ。まあコイツの癖みたいなもんだ。直に慣れるよ」

    苗木「そうですか」

    「おう。じゃ、俺は医務室に運ばないといけないから。もう行くぞ。お前……と、イギーだったか。一緒に一度医務室に行くか?」

    苗木「あ、いえ。大丈夫です」

    「そうか? 腫れが酷そうに見えるが……」

    苗木「観客席の方に居るクラスメイトに治してもらうんで。……ルール的には問題ないですよね?」

    「なるほどな、そういう事か。それなら問題ないぞ。ベストコンディションで次の試合に挑むのは当然の権利だからな」

    苗木「そうですか、ありがとうございます」

    「いや、いいよ。……じゃ、次も頑張れよ」

    苗木「はい!」

    苗木(ボクの返答を聞いて、男の人は田中先輩……と、ずっと気絶したままだったらしいジャンPも回収して去って行った)
  530. 530 : : 2016/10/19(水) 18:28:04
    霧切「なかなかやるわね、ACT2もそれなりに使えるようになっていたみたいだし」

    苗木「あ、霧切さん……うん、まあボクも訓練くらいはしてるからね。実践は前の十神クンとの試合以来だったけど」

    霧切「そう」

    苗木「それより……大和田クンは?」

    霧切「大和田君? それなら……」

    大和田「おい苗木!」

    霧切「……いるじゃない、そこに」

    苗木「ホントだ。大和田ク――」

    大和田「水臭えじゃあねえか! イギーがスタンド使いなの黙ってるなんてよ……マジにビビったぜ?」

    苗木「あ……あはは」

    大和田「オメェがイギー呼んだ時は正気を疑っちまったぜ……」

    苗木「まあ、言ってなかったのは悪かったよ。それよりさ」

    大和田「あ? 何だ?」

    苗木「イギーとボク……治してくれると助かるかな……」

    大和田「あー……そういやそうだったな。わーったぜ」

    苗木(こうしてなんとか、ボクらは大和田クンのクレイジー・ダイヤモンドで治療を受けることが出来た……)


    十神白夜               ―|
                        |―|
    苗木誠                ―| |
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    エルメェス・コステロ       ―|   | |
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    花京院典明            ―| | | |
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    ジャン=ピエール・ポルナレフ   ―| |   |
                      |―|   |
    ナランチャ・ギルガ        ―|     |
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    空条徐倫             ―|     |
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    ペッシ              ―| |   |
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    霧切響子             ―| | | |
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    山岸由花子            ―|   | |
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    終里赤音             ―|   |
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    広瀬康一             ―| | |
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    ジョルノ・ジョバァーナ        ―|
  531. 531 : : 2016/10/20(木) 20:40:58
    #100
    法皇に口づけを
  532. 532 : : 2016/10/20(木) 20:41:11
    霧切「次はエルメェス先輩と花京院先輩、ね」

    苗木「え、エルメェス先輩か……」

    霧切「……? どうかしたの?」

    苗木「いや、何でもないよ」

    苗木(前のコンビニ強盗発言からちょっと苦手意識が……)

    苗木(……いや、これって普通の感覚だよね? ボクがおかしいんじゃないよね?)

    霧切「そう? ……まあ、いいわ。それよりそろそろ始まりそうね」

    苗木「あ、だね」

    苗木(見ると、砂を掃除していた係員の人達が引いて行くのが見えた)

    苗木(……ホント、すみません)

    DIO「さて……少々待たせてしまい申し訳ない。それでは第一回戦第三試合! 第十一位エルメェス・コステロ対第四位花京院典明」

    DIO「始めェッ!」
  533. 533 : : 2016/10/20(木) 20:41:42
    エルメェス「さて、花京院。今日はあたしが勝たせてもらうぜ」

    花京院「さて、どうでしょうね。僕もやられるつもりはありませんから」

    エルメェス「当たり前だろ? 負けるつもりであたしの前に立ったりなんかしたら、その方が容赦しないって話……」

    花京院「ええ、全くです。ですから……」

    エルメェス「全力で行くッ!」
    花京院「全力で行きますッ!」

    エルメェス「キッス!」

    先に動いたのはエルメェスだった。
    いや、というよりも、花京院はその場に立ち止まったまま動かずにいた。

    エルメェス「おいおい、来るんじゃあなかったの……かッ!?」

    言うなり、エルメェスは手に持った万年筆をまるでダーツの如く花京院目がけて放つ。

    花京院「ふ……貴女も分かっているはずです。僕のハイエロファントは“静”なるスタンド……動く必要など無い事を」

    だが慌てることなく、花京院は万年筆を大きく横に移動しかわす。

    花京院「そしてこれが僕の反撃ですよ。……既に! この戦闘の舞台全体に法皇の結界は張り巡らされているッ!」

    そう、いつの間にやら花京院はハイエロファントで“結界”を周囲に巡らせていた!
    故に、万年筆はその結界に引っかかり……。

    花京院「エメラルドスプラッシュ!」

    万年筆ごと、その直線状に存在するエルメェス目がけて、“破壊のヴィジョン”を放つ!
    だが……。

    エルメェス「知ってるよ。あんたがそう来るだろうって事くらい……! キッス!」

    だがエルメェスとて、ランカーとして花京院の戦いは何度も見ている。
    そして対花京院用の戦法も編み出していた!

    エルメェス「がふっ! が……は……!」

    花京院「……? エメラルドスプラッシュが直撃……? 策がある物とばかり思っていましたが」
  534. 534 : : 2016/10/20(木) 20:42:22
    エルメェス「へ……へへ。被弾覚悟ってヤツさ……」

    エルメェス「だがおかげで、“シール”は貼れたッ!」

    花京院「なッ!? いったい何に……」

    言葉と同時に、エルメェスは手にした“それ”からシールをはがす。

    花京院「それは……ハイエロファントの放ったエメラルド……!?」

    エルメェス「そうさ……どうなるかは、賭けだけどな……!」

    エメラルドスプラッシュはあくまでスタンドの産み出すヴィジョンに過ぎない。
    だから放ったエメラルドがそのまま残るという事はない……が。
    エルメェスのキッスの“シール”は貼ったものを増やすという特殊能力を持つ。
    おかげで、“増やした方の”エメラルドはエルメェスの手元に残ったのだ。
    そして、増えた物はシールを剥がす事で互いに引き寄せられ、一つに戻ろうとする……が、その際に破壊を伴う。

    とはいえ、先ほども言った通り元のエメラルドは残ってはいない。
    存在するのはシールで増えたエメラルドが一つだけ……この状態でシールを剥がすとどうなるのか?
    それはエルメェスにも分からなかった。
    では実際、どのような結果になったのか?

    花京院「な……」

    エルメェス「なんだ……? この動きは……」

    ふらふらと、まるで周囲をさまようようにエメラルドが浮遊し始めた。

    花京院「探している……のか? 消滅したエメラルドを……」

    奇妙な現象ではあったが、しかしこれでは起死回生の展開など起ころうはずもない……。

    エルメェス「く、賭けは失敗か……?」

    エルメェスがそう呟いた時。
    浮遊していたエメラルドが、“法皇の結界”に引っかかった。と同時に……再度エメラルドスプラッシュが放たれる!
    ……その時!

    エルメェス「え!?」

    花京院「なッ!?」


    カンカンカンカンカンカンッ!


    “再び放たれたエメラルドスプラッシュ”に向かってシールで増えていたエメラルドが急激に方向転換、衝突する!
    その衝突で軌道のそれたエメラルドは別のエメラルドと接触しさらに別のエメラルドの軌道を変え、そのエメラルドもまた別のエメラルドと接触し軌道を変え……連鎖的にエメラルド同士が弾きあい、バラバラの方向、全方位に向かって飛ぶ!
    無論、その方向にはエルメェスは勿論、花京院の姿も存在し――。

    花京院「カ……ハッ……!?」

    エルメェス「うグげッ!?」

    両者に命中する!

    花京院「く……まさかこのような現象が起こるとは思いもよりませんでしたが……」

    エルメェス「う……く、そぉ。さすがに……無理か……あ……」

    花京院「エルメェスは先に一度、エメラルドスプラッシュを食らっている……その分のダメージが残っているはずですからね」

    そう花京院が呟くと同時に。

    DIO「エルメェス、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、花京院典明!」

    DIO学園長による宣言がなされた。

    花京院「……ふう。それにしても、キッス……恐ろしいスタンドだった。まさかこんな事が起こるとは……」
  535. 535 : : 2016/10/20(木) 20:43:12
    苗木「いやあ……さすが、先輩ランカー同士の戦闘は手に汗握るものがあるね」

    霧切「ええ。おそらく、去年からのデータも揃っているでしょうから……いろいろと研究が進んでいる分、派手にもなるのでしょうね」

    苗木「そっか……うーん、そうなるとボクとしても次の大会が怖くなってくるなあ」

    霧切「ふふ。まだ終わる前からもう次の話?」

    苗木「あ、そうだね。今は今の戦いに集中しないと」

    霧切「……尤も、次のランカートーナメントを開催する前には七十八期生トーナメントがまたあるでしょうけれど。そこで勝ち抜かないとね?」

    苗木「あ……はは。ホント、そうだね……」


    十神白夜               ―|
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    苗木誠                ―| |
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    花京院典明              ―| | |
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    ジャン=ピエール・ポルナレフ   ―| |   |
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    ナランチャ・ギルガ        ―|     |
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    空条徐倫             ―|     |
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    ペッシ              ―| |   |
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    霧切響子             ―| | | |
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    山岸由花子            ―|   | |
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    終里赤音             ―|   |
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    広瀬康一             ―| | |
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    ジョルノ・ジョバァーナ        ―|
  536. 536 : : 2016/10/20(木) 20:43:48
    #101
    騎士道とは正面衝突とみつけたり!
  537. 537 : : 2016/10/20(木) 20:44:00
    苗木「次はポルナレフ先輩とナランチャ先輩か」

    霧切「そうね」

    苗木(前に会議の時、二人とも十神クンを攻撃してたっけ)

    苗木(あの時を思い出すと……)

    苗木「やっぱり遠距離から攻撃できるエアロスミスの方が有利なのかな?」

    霧切「苗木君。スタンドに有利不利なんて言い出すのがそもそもナンセンスよ」

    苗木(相性はあると思うんだけどな……)

    DIO「さて、それでは……一回戦第四試合、第五位ジャン=ピエール・ポルナレフ対、第十位ナランチャ・ギルガ」

    DIO「始めェッ!」
  538. 538 : : 2016/10/20(木) 20:44:24
    ナランチャ「へへ、ポルナレフッ! 速攻で決めてやるぜ!」

    ポルナレフ「ほーう、たしかに……エアロスミスの射程なら何の問題も無くおれを狙い撃ちにできるだろォーなァ……」

    ナランチャ「分かってんなら話ははええや! エアロスミスッ!」

    ナランチャは自身のスタンド……プロペラ戦闘機のようなスタンドが出現する。

    ナランチャ「いっけええぇぇぇぇぇぇッ!」

    その指示と共に、エアロスミスはポルナレフ目がけて機銃を掃射する!

    ポルナレフ「まず一つッ!」

    ポルナレフも自身のスタンドを出現させながら言葉を発する。

    ポルナレフ「分かりきった事だが……ナランチャ、お前の“レーダー”は逃げも隠れもしてねーおれにゃ意味が無い……正々堂々正面から戦ってやる」

    ナランチャ「何言ってやがんだ? 戦うも何も、コレでジ・エンドだぜーッ!」

    ポルナレフ「そしてもう一つッ!」

    その言葉と共に、シルバーチャリオッツはポルナレフの前でレイピアを構える。

    ポルナレフ「……エアロスミスの攻撃はここまで届かんよ」

    キンキンキンキンキンッ!

    と、掃射された機銃による攻撃を、チャリオッツはレイピアで弾く、弾く、弾く!

    ナランチャ「げー……マジかよ」

    ポルナレフ「忘れたか? ならば騎士道精神に則り説明する時間を頂こう。……もしレイピアで弾けなかったとしても、我がシルバーチャリオッツには防御甲冑がある。チャリオッツに直撃したところで、ダメージはほぼ無いと言って過言ではないね……」

    ナランチャ「うっげー……そうだった……」

    ポルナレフ「はっはっは! これでエアロスミスの攻撃手段は封じたも同然ッ! いくぜ、チャリオッツ!」
  539. 539 : : 2016/10/20(木) 20:44:41
    と、ポルナレフがチャリオッツと共に駆け出したところで……。

    ポルナレフ「……ん? 待て! エアロスミスはどこ行った!?」

    即座に足を止め、視界から消えていたエアロスミスの行方を探す。

    ナランチャ「……へへ、気付くのがおせーよ、鈍足ゥー! まるで“()”みてーだ……なあ、亀のポルナレフちゃんよォー!」

    ポルナレフ「な……しまった!」

    だが気が付いた時にはエアロスミスの次なる攻撃は始まっていた。
    ――上空からの爆弾投下!

    ドガァァァァン!

    ポルナレフ「く……ッ!」

    それでも多少のダメージがある程度で済んだのは、流石はチャリオッツの防御甲冑と言うべきか。

    ナランチャ「オレもキシドーセーシンとかに則って教えてやるけどよー……エアロスミスの攻撃手段は機銃だけじゃあねーんだぜッ!」

    ポルナレフ「あんにゃろ……攻撃してから言っといてなァにが騎士道精神だ……!」

    ナランチャ「へへーん! 勝った方が勝者なんだぜ? 不意打ちでもなんでもするってんだ!」

    ポルナレフ「ほー、そうかいそうかい。……いーだろう、そっちがその気なら! チャリオッツ!」

    ナランチャ「おいおいポルナレフ……せいぜい今のオレ達の距離は短く見積もっても中距離! チャリオッツの射程外……うげッ!?」

    何が起こったか?
    解は簡単である。
    チャリオッツの右腕のレイピア、その剣身をナランチャ目がけて撃ち飛ばした、それだけである。
    チャリオッツ唯一の遠距離攻撃手段と言えよう。

    ポルナレフ「全く……おれにコイツがある事忘れたかよ?」

    ナランチャ「うお……お、おお……わす、れてた……ぜ」

    それだけ言って、ナランチャは地に倒れ伏したのだった――。
  540. 540 : : 2016/10/20(木) 20:45:06
    DIO「ナランチャ、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、ジャン=ピエール・ポルナレフ!」

    苗木「チャリオッツにあんな攻撃手段もあったんだ……!」

    霧切「だから言ったでしょう。有利不利で予測するのはナンセンスだって」

    苗木「ホントに……そうだね」

    苗木(それにしても……)

    苗木(次のボクの試合は十神クンと当たるわけだけど。もしそこで勝つことが出来れば、花京院先輩かポルナレフ先輩と戦う事になるのか)

    苗木(……正直、二人とも百戦錬磨って風格があって怖いな……)


    十神白夜               ―|
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    苗木誠                ―| |
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    花京院典明              ―| | |
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    ジャン=ピエール・ポルナレフ     ―|   |
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    空条徐倫             ―|     |
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    ペッシ              ―| |   |
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    霧切響子             ―| | | |
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    山岸由花子            ―|   | |
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    終里赤音             ―|   |
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    広瀬康一             ―| | |
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    ジョルノ・ジョバァーナ        ―|
  541. 541 : : 2016/10/21(金) 18:45:57
    #102
    石の海の釣り人
  542. 542 : : 2016/10/21(金) 18:46:14
    霧切「次は徐倫先輩とペッシ先輩ね」

    苗木「個人的には、やっぱり空条先生の娘さんって事もあるし徐倫先輩を応援したい気持ちがあるけど」

    霧切「そうね。空条先生にはいろいろとお世話になっているし……」

    苗木「……けど、空条先生の事だから、そんな理由で応援、なんて逆に叱られそうなんだよね」

    霧切「……あり得るわね」
  543. 543 : : 2016/10/21(金) 18:47:01
    DIO「それでは一回戦第五試合、第二位空条徐倫対、第十二位ペッシ!」

    DIO「始めェッ!」

    徐倫「そういや……ペッシ」

    ペッシ「あ?」

    徐倫「あんたとやり合うのは……なんだかんだこれが初めてね」

    ペッシ「そういやそうだな……って事はよ」

    徐倫「何?」

    ペッシ「オレが勝つ可能性も十分にあるって事だ! ビーチ・ボーイ、釣り上げるッ!」

    瞬間、ペッシの手にスタンドのヴィジョン……釣り竿が出現し、徐倫に向かって釣り糸を飛ばす!

    徐倫「……勝つ可能性、ねえ。本気で言ってる? ……はッ!」

    だが徐倫は飛ばされた釣り糸……その先に付いていた釣り針を自身のスタンド、ストーン・フリーでキャッチする。

    ペッシ「なぁッ!?」

    徐倫「あんたのビーチ・ボーイ……どっちかって言うと暗殺向きでしょ? 正面から飛ばされりゃ、そりゃあキャッチくらいするわ」

    ペッシ「……一瞬ビビっちまったけどな……」

    ペッシ「そいつはただの釣り針じゃあねーッ! スタンドなんだぜ!」

    徐倫「はッ!?」

    瞬間、ビーチ・ボーイの釣り針が蠢きストーン・フリーから逃れ……徐倫の首元目がけて再び飛ぶ!

    徐倫「く!」

    だが今度は徐倫自身の手で針をキャッチする!

    ペッシ「それで防いだつもりかァッ!?」

    ペッシの言葉通り、それでは防いだことにはならなかった。
    針は徐倫の手のひらに食い込み侵入し、腕を伝って体内を這う!

    徐倫「……ふう、なるほど、焦ったわ。けどこれなら何も問題ないわ」

    ペッシ「強がりをッ!」

    徐倫「強がり? …………。残念ね、強がりじゃなくて」

    ペッシ「どうだか……な、っと!」

    ペッシは徐倫の言葉の最中にも針と糸を体内から喉目がけて進ませる。
    しかし……。

    徐倫「ストーン・フリー……体を糸にするッ!」

    ペッシ「げ!?」

    徐倫は、釣り針が侵入中の自身の体の部位を糸にする事で逃れる!

    徐倫「そして……逃れた後は!」

    ペッシ「げげ……ッ!?」

    徐倫「ストーン・フリィィィィィ!」

    徐倫「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」

    ストーン・フリーによるラッシュでペッシを吹き飛ばすのであった……。
  544. 544 : : 2016/10/21(金) 18:47:55
    DIO「ペッシ、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、空条徐倫!」

    苗木「……徐倫先輩のストーン・フリー。糸……か」

    霧切「厄介な能力ね……防御面でも優秀そうよ。衝撃を散らす事も出来そうだし」

    苗木「それに、ストーン・フリーが糸に出来るのは徐倫先輩だけなのか、それとも対象者を選択できるのか……ってのも現状分かんないしね」

    霧切「そうね……西園寺先輩のリトル・フィートみたいな例もあるし、その辺も注意する必要があるかしら」

    霧切「けれど……」

    霧切「まずは、次の試合。山岸先輩に目を向けないと」

    苗木「うん、頑張ってね」


    十神白夜               ―|
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    苗木誠                ―| |
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    花京院典明              ―| | |
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    ジャン=ピエール・ポルナレフ     ―|   |
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    空条徐倫               ―|   |
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    霧切響子             ―| | | |
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    山岸由花子            ―|   | |
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    終里赤音             ―|   |
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    広瀬康一             ―| | |
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    ジョルノ・ジョバァーナ        ―|
  545. 545 : : 2016/10/22(土) 20:37:09
    #103
    天にも昇る感情、それは愛
  546. 546 : : 2016/10/22(土) 20:37:31
    苗木(霧切さんと山岸先輩か……)

    苗木(スタンドの有利不利とかじゃなくって、これって純粋に霧切さんが不利なんじゃ?)

    苗木(だって山岸先輩は前の七十八期生大会を観戦してただろうけど……ボク達は山岸先輩がどんな戦い方をするのか、知らないんだし)

    苗木(……いや、ボクが知らないだけで霧切さんは知ってるのかもしれないけど)
  547. 547 : : 2016/10/22(土) 20:38:17
    DIO「それでは一回戦第六試合、第十四位霧切響子対、第八位山岸由花子!」

    DIO「始めェッ!」

    山岸由花子のラブ・デラックス。そのスタンド能力は“髪を自在に操る”こと。
    過去の由花子の戦闘のデータからそこまでは掴んでいた。
    が、それ以上の何かがあるのではないか?
    霧切はそんな疑問を持っていたが故に、どう攻めたものか迷っていた。

    由花子「私はね」

    霧切「何……かしら?」

    由花子「康一君を信じているの」

    霧切「広瀬先輩? ええ……それは、なんとなく理解してますが」

    由花子「次の終里さんとの試合、その次のジョルノとの戦い……きっと勝ってくれるって。先で私の事を待っててくれるって!」

    由花子「だから私は負けない! 絶対に勝つ! 愛の力とはそういうものよ!」

    そう言い放つと同時、由花子の髪が伸び、霧切へと迫る!

    由花子「ラブ・デラックス! このまま捕えるッ!」

    霧切「……」

    だが直線的に伸びて来るだけならば回避はたやすい。
    かわして由花子へと向かうが、髪の動きはカーブし、なおも霧切に追いすがる。

    由花子「無駄よ……ッ!」

    前後左右、ジャンプを駆使した上方といった様々な方向へ逃げるがそれでも追いすがる髪に徐々に追い詰められていくが、それでも霧切はわずかな隙間を見つけて逃げ回る。
    そうしていくうちに、観客席からは舞台の九割以上が由花子の髪の黒色一色に見えるほどの戦況となっていた。

    由花子「逃げ回るしか出来ないみたいね……まあ、動物なんか呼ばれたって、私の髪で捕えてしまえば無意味ですもの、当然よねッ!」

    霧切「そうね。そう思って、動物は使わない事にしていたの」

    由花子「立ち止まったわね……つまり諦めるって事? なら……落ちなさいッ!」

    ニヤリと笑い、由花子は今度こそと霧切に向かって髪を伸ばす。
    ……が!

    霧切「だから、貴女自身に対応する事にしたわ。……素直に髪を伸ばして追って来てくれたみたいだし」

    由花子「……なッ!? これは!?」

    由花子は信じられない物を目の当たりにする。
    霧切に向かって真っすぐに伸ばしていたはずの髪が、もう少しで捕えようかというところで何故か霧切のいる位置から逸れたのだ!

    由花子「く! もう一度!」

    言って、再度霧切に髪を向けるが、やはり髪の方が霧切から逸れる。
    何度試そうとも、触れる事すら叶わない。

    由花子「何故……ハッ!?」

    気が付くと……霧切はゆっくりと、由花子の方へと歩を進めていた。
    しかしその軌道上に存在する髪は全て、まるで霧切を避けるように道を開いて行く――。
    その状況に愕然としてしまった由花子は、霧切から逃げるという思考を失ってしまっていた。

    霧切「……これで、おしまいね」

    言って霧切は、由花子に肘打ちを放ち……。
  548. 548 : : 2016/10/22(土) 20:38:51
    DIO「ふむ。……山岸由花子の戦意喪失を確認。よって勝者を霧切響子とする!」

    苗木(凄いな……いったい今度はどういうカラクリなんだろう?)

    苗木(いろいろと思考を巡らせていると……)

    霧切「ふう、何とかなったわね」

    苗木「あ、霧切さん。お疲れ様」

    霧切「ええ、ありがとう」

    苗木「ところで今回の試合、アレってどういう事だったの? 髪が霧切さんを避けてたみたいだったけど」

    霧切「簡単な話よ。大量に伸ばした髪の一部分だけを本にしてしまえば見られる危険性は低いでしょう」

    苗木「あ、そういう事か……」

    苗木(本にした髪に『髪で霧切響子に触れる事は出来ない』とでも書き込めば攻撃手段を封じられるって事ね……)

    霧切「けど、そろそろ私自身キツくなってきたわ……」

    苗木「というと……何が?」

    霧切「“本にする”能力を隠したまま戦うのが、よ」

    苗木「あ、そっか……」

    苗木(隠したまま戦うには今回みたいに、見えない、感知されにくいって状況で本にする以外には、前にやったような事前に書き込んでおいた生き物を利用するしかない)

    苗木(ワンパターンだと、いずれバレる可能性もあるって事か……)

    霧切「とりあえず、次の試合までにどうするか考えておく事にするわ」

    苗木「うん。何か意見が欲しいなら言ってね。役に立てるか分からないけどさ」

    霧切「ええ……その時は、頼らせてもらうわ」


    十神白夜               ―|
                        |―|
    苗木誠                ―| |
                          |―|
    花京院典明              ―| | |
                        |―| |
    ジャン=ピエール・ポルナレフ     ―|   |
                            |―
    空条徐倫               ―|   |
                        |―| |
    霧切響子               ―| | |
                          |―|
    終里赤音             ―|   |
                      |―| |
    広瀬康一             ―| | |
                        |―|
                        |
    ジョルノ・ジョバァーナ        ―|
  549. 549 : : 2016/10/23(日) 18:46:12
    #104
    掌を響かせて
  550. 550 : : 2016/10/23(日) 18:46:30
    苗木「終里先輩と広瀬先輩の試合か」

    霧切「ええ。一撃の強さなら終里先輩のザ・ハンドの方が上でしょうけれど……」

    苗木「ボクとしては、いろいろお世話になった広瀬先輩を応援したいかな」

    霧切「……私としては、徐倫先輩との戦いに勝てばその後に当たる可能性がある相手なわけだし。終里先輩に勝って欲しいけれど」

    苗木「そうなの?」

    霧切「……やりやすそうだもの。ザ・ハンドが、じゃなくて、終里先輩が」

    苗木「……ああ」
  551. 551 : : 2016/10/23(日) 18:47:21
    DIO「それでは第一回戦最終試合となる第七試合、第七位終里赤音対、第六位広瀬康一!」

    DIO「始めェッ!」

    終里「っしゃああああああああッ! いくぜえええええええッ!」

    学園長の開始の掛け声と共に、終里は康一に向かって猛突進をかける!

    康一「全くもう……終里さんは猪突猛進だなあ……」

    終里「ぼんやりしてる暇なんかねーぜ! ザ・ハンドッ!」

    終里は自身のスタンドの射程内に康一を捉えると同時にザ・ハンドを出現させる。

    終里「食らいやがれ――!」

    康一「いや……いくら僕でもそれをくらうのはちょっとな……ってわけで!」

    康一「エコーズ、ACT3!」

    エコーズACT3『ハイ! エコーズ 3(スリー) FREEZE!』

    終里「がァッ!?」

    台詞と共に、エコーズはザ・ハンドの右腕にラッシュを叩き込む……するとザ・ハンドの右腕、即ち終里自身の右腕にとてつもない重圧が加わり、地面にたたきつけられる!

    康一「これでザ・ハンドの“削り取る”攻撃は出来ないハズだ」

    終里「く……くっそぉ……」

    終里「ずりーぞ! 正面からバトりやがれ!」

    康一「正面から戦ったら絶対終里さんの方がズルいと思うんだけどな、そのスタンド……」

    康一「けど、このまま降参してくれると嬉しかったけど……さすがにそうはいかないか。とすると、どうしようかな……」

    終里「チクショー……こうなったら……」

    康一「……え?」

    終里「おおおおおおおおッ! 気合だアアアアァァァァァァァァッ!」

    康一「え、ええッ!?」

    果たしてそれは終里の気合によるものなのか……エコーズACT3の重圧の中、少しずつではあるが右腕が持ち上がり始めた!

    終里「そしてッ! ザ・ハンド! 気合見せやがれエエェェェェェェエエエエエッ!」

    ガオン!

    ザ・ハンドが右手を虚空に向かって振り抜く!

    終里「はあ、はあ……やったぜ、弐大のおっさんッ! 気合で乗り切ったッ!」

    康一「う、ウソォッ!? なんで!?」

    エコーズACT3『S・H・I・T(エス・エイチ・アイ・ティー)、ドウヤラ重クシテイタ“空間”ゴト削リ取ッタヨーデスネ』

    康一「そ、そこまで削れたのか……ッ!」

    エコーズACT3『ドーシマス?』

    これでは何度重くしたところで意味が無い……。

    康一「仕方ない! ここは……エコーズACT2だ!」

    エコーズACT3『了解シマシタ』

    そう言って一度エコーズACT3は引っ込み、ACT2が登場する。

    終里「ACT2が出てきたところで! オレは止めらんねーぜッ!」

    康一「ACT2! やれッ!」

    康一の指示と共に、エコーズACT2は尻尾を切り離し、尻尾文字として放つ!

    終里「そんなモンカンケーねえッ! 削り取ってやるッ!」

    終里は尻尾文字を削り取ろうとするが……寸前、地面に着弾!

    終里「おっとと……空振っちまった……わ、わわァ!?」

    その尻尾文字の付いた地面を踏んでしまった終里は……天高く吹き飛んだ。

    DIO「ふむ……本来ならばこのようなジャッジは下さんが……さすがにコロッセオの外まで飛び出してしまってはな。終里赤音を戦闘から離脱したものと見做し、この試合、広瀬康一の勝利とする!」

    康一「ふう……助かったァ……」

    康一は安堵しつつ、床に貼った尻尾文字……『ボヨヨオン』を改めて眺めるのであった。
  552. 552 : : 2016/10/23(日) 18:47:38
    苗木「終里先輩が飛んだ……」

    霧切「苗木君みたいに、スタンドの形態で色々とやれるみたいね……厄介な相手だわ」

    苗木「しかも広瀬先輩の場合、最初に出したのは見た事無かったから……たぶんACT3。最低でも三つの形態があるわけだから、その点でも厄介かもね」


    十神白夜           ―|
                    |―|
    苗木誠            ―| |
                      |―|
    花京院典明          ―| | |
                    |―| |
    ジャン=ピエール・ポルナレフ ―|   |
                        |―
    空条徐倫           ―|   |
                    |―| |
    霧切響子           ―| | |
                      |―|
    広瀬康一           ―| |
                    |―|
    ジョルノ・ジョバァーナ    ―|
  553. 553 : : 2016/10/24(月) 20:23:22
    #105
    ガンマンズ・リベンジ その①
  554. 554 : : 2016/10/24(月) 20:23:53
    DIO「第一回戦全試合が終了した。第二回戦第一試合は十神白夜と苗木誠の試合である。両者は控室へ速やかに向かうように」

    苗木「もう十神クンとの試合か……」

    霧切「ええ。……頑張って」

    苗木「うん。……行ってくるよ」


    苗木(少しの間、控室で待機する時間が出来た)

    ヘイ・ヤー『誠、勝算ハアルノカ?』

    苗木「勝算、か……。無いわけじゃあないけど」

    苗木「十神クンに通用するかが微妙なところかな」

    ヘイ・ヤー『一回戦ッテルカラナー』

    苗木「それよりヘイ・ヤー」

    ヘイ・ヤー『何ダ?』

    苗木「何だじゃないでしょ。ACT2になってよ」

    ヘイ・ヤー『へ? マアイイケド』

    ヘイ・ヤーACT2『ナンデマタ?』

    苗木「いや、田中先輩との試合で二発撃ったでしょ? だから弾補充しないと」

    ヘイ・ヤーACT2『アア、ソーイウ事カ、分カッタゼ』

    苗木「そうだな、じゃあ今度装填する言弾は……」
  555. 555 : : 2016/10/24(月) 20:25:23
    DIO「さて、待たせてしまったかな……」

    DIO「改めて、第二回戦を開始するッ! 第二回戦第一試合、第十三位十神白夜対第十五位苗木誠!」

    DIO「始めェッ!」

    十神「つくづく、お前も運の無い男だな……“超高校級の幸運”苗木誠」

    苗木「えっと……どういう意味?」

    十神「前回は準決勝で……」

    十神「そして今回は準決勝に行く事も無く、この俺に倒されるんだからな」

    苗木「それはやってみなくちゃ分からないよ」

    十神「フン、少しは例のACT2だとかに慣れたのかもしれんが、この俺の絶頂を妨げるほどでは無い。その事にいい加減、気付いた方が利巧というものだ」

    苗木「……たとえ今が無理でも、何度だって向かって行く! そうやって活路を開くんだ……ヘイ・ヤー!」

    ヘイ・ヤー『アア、悪クハネーガ、気ハ抜クナヨッ!』

    苗木「よし……!」

    苗木はヘイ・ヤーの同調を受け、十神から距離を取る。

    十神「ほう? 下がるか……理由は分からんが、愚直に突っ込んでくるよりは面白いな」

    苗木「まあ、ね。正面から戦ったってヘイ・ヤーじゃパワー不足なのは分かってるから」

    十神「そこまで分かっていて、それでもなおこの俺に刃向ってくるその精神は見事だがな」

    苗木「……十神クンなら“帝王に刃向うなど言語道断”なんて言うかと思ったけど」

    十神「フン、そんな事を言う奴は帝王でもなんでもない。ただの小物だ」

    苗木「小物とまで言っちゃうんだ……」

    十神「“ダモクレスの剣”という言葉があるだろう。俺はその緊張感の必要性を否定はしていない。それも分からんようでは王として失格だ」

    苗木「いや、あるだろう、って言われても……だも……? って何?」

    十神「ちっ、一般教養レベルだぞ。……まあいい、教えてやる」

    十神「古代ギリシアの逸話だ。ダモクレスという男がシラクサの僭主(せんしゅ)たるディオニウシスを権力などを羨み、賛辞を送る」

    十神「だがそれを聞いたディオニシウスはダモクレスに『ならば一度この玉座に座ってみるといい』と言って自身の座っていた玉座に座る事を勧める」

    十神「当然……そのような機会など滅多に得られるものでは無い。有り難く思って座るダモクレスだったが、座ってみてようやく、謁見の際には気が付かなかった“あるもの”に気が付いた」

    十神「……そうだな、軽く試してやるか。苗木、お前はその“あるもの”が何か分かるか?」

    正直に言ってしまえば、苗木はシラクサがどこだとか僭主とは何かとか、その段階で躓いていたのだが、唐突な十神の問いに何とか答える。

    苗木「えっと、話の流れからして……剣じゃないの?」

    十神「ただの剣であるはずがないだろう。……まあいい。続けてやる」

    十神「ダモクレスが気が付いた物はたしかに剣だ。だが……その剣は“玉座の上”に存在し、しかも“細い糸に吊り下げられた状態”だったんだよ」

    苗木「……え!? それって危険なんじゃ……?」

    十神「ああ。だがディオニシウスはそうやって、“上に立つという事は下々の連中よりも遥かに危険な立場に立つという事だ”と身を以って教えてやったという話だ」

    苗木「な、なるほど……」
  556. 556 : : 2016/10/24(月) 20:28:00
    十神「だからな、苗木」

    苗木「えっと、何?」

    十神「俺は誰が相手であろうと、何が相手であろうと……侮りはせん。尤も、俺の絶頂を妨げるものなど未だに見たことはないがな」

    苗木「……だったら、ボクがなってみせるよ」

    十神「面白い、なってみせろ。俺にとっても面白い相手が増えるのは歓迎するところだ」

    苗木は会話の最中も十神から距離を取り続けていた。
    そして、“そうなる未来”をエピタフで読んでいたからこそ、十神も悠々と話を続けていた。
    距離を取る理由は分からないが、攻撃をしてこないのならば取るに足らんアドバンテージでしかない、十神はそう考えたのだ。

    苗木「だったら……今ここで、十神クンを超えて見せるッ!」

    苗木「ヘイ・ヤーACT2! “二発目”ッ!」

    ヘイ・ヤーACT2『オウッ!』

    苗木の指示と共に、ヘイ・ヤーACT2は苗木に向かって銃口を向ける。

    十神「ち、妙な強化をされては敵わんな……キング・クリムゾン! 俺以外の全ての時間は消し飛ぶッ!」

    だがヘイ・ヤーACT2が弾丸を放つよりも先に、十神はキング・クリムゾンの能力を発動させる!

    十神「何をする気かは知らんが、させなければ同じ事だ」

    言いつつ、十神は苗木へと肉薄する。
    だが……苗木のそばまでやってきて、ようやく十神は気が付く。

    十神「……ち、なるほどな。思っていた以上にコイツは馬鹿ではなかったという事か」

    十秒経過。
    苗木にギリギリ、届かない。
    キング・クリムゾンに飛ばせる時は十秒間という情報を苗木は既に得ていた。
    だからこそ苗木は最初に距離を取り、十神から十秒では届かない(・・・・・・・・)位置に陣取ったのだ。

    苗木「読み通り……そして!」

    ヘイ・ヤーACT2『オウッ!』

    苗木に向けていた銃口を急速に十神へと方向転換し、放つ!

    十神「な……ッ!」

    十神がエピタフで読んでいた未来は消し飛ばした時間の中のみ……消し飛ばした“後”の事までは読み切れていない!
    ACT2の放った弾丸は十神に命中し……。

    苗木「やあああああああッ!」

    着弾を確認後、苗木は十神に向かって拳の連打を打ち付ける!

    十神「ぐ……ッ!? な、にィ……!?」

    苗木「……ッァァァアアアアアァァアア!」

    十神「この俺が……この程度の拳を……かわせんだと……!?」

    それもそのはず、苗木が、ヘイ・ヤーACT2が撃ち込んだ弾丸、その言弾は『攻撃をかわせない』。
    この言弾をヒットさせ、効果時間いっぱい、即ち十五秒間を苗木自身がラッシュを仕掛け、十神を落としきる……それが苗木の考えだった。

    何度も何度も、苗木は連撃を繰り出すが……十五秒が過ぎる。

    苗木「……くっ、はあ、はあ……」

    十神は十五秒という制約を知らない。
    だが、十神にはエピタフがある。どれだけの時間を耐えれば対処できるか?
    それを十神は知ることが出来る!

    十神「……お前如き庶民がここまでやるとは予想外だった」

    結果、十神はダメージを最小限に抑える事に全神経を集中させ、防ぎ切ることに成功していた……。
  557. 557 : : 2016/10/24(月) 20:28:30
    #106
    ガンマンズ・リベンジ その②
  558. 558 : : 2016/10/24(月) 20:29:00
    苗木「く……」

    十神「いったい何をしたんだ? 今冷静に考えれば反撃をすれば良かっただけだが……その発想すら俺に抱かせんとはな」

    『かわせない』という事は攻撃を受けざるを得ない状況にある……即ち、『攻撃を阻害する行動もとる事が出来ない』という状況に相手を追い込むことが出来ていた。
    それだけの事だが、苗木にはそこまでの考えがあって作った言弾というわけではなかったために答える事は出来ない。
    しかしその沈黙を別の意味にとったらしく。

    十神「……まあ、そうそう手の内は明かさんか。まあいいだろう」

    十神「いずれにせよ防ぎ切った以上……次は俺の番だ」

    苗木「しま……ッガハァ……!」

    直前まで十神にラッシュを仕掛けていた苗木であるから、当然十神の射程内でもある事になる……そのことに気が付いた時にはもう遅く、苗木の腹にキング・クリムゾンの拳が叩き込まれており、その衝撃で苗木は吹き飛ばされる!

    十神「苗木とは以前戦った事があったからな……正直期待はしていなかったが、少し楽しめた。それは褒美だ。一撃で倒れ伏す事が出来ただろう?」

    呟くが……しかし、学園長による勝利宣言は飛ばない。

    十神「……全く、しぶとい奴だ。まだ意識があり……しかも向かってくる意志も失っていないという事か」

    苗木「まあ、ね……そうそう諦めは出来ないよ」

    十神「そうか。……だが既に限界なんじゃあないのか? もう一度同じ一撃を受けて立ち上がれるかな……?」

    苗木「……たしかに、限界だよ。だけどね、十神クン」

    十神「なんだ?」

    苗木「ボクはまだ倒れないよ……」
  559. 559 : : 2016/10/24(月) 20:29:26
    苗木「ヘイ・ヤー! “一発目”ッ!」

    ヘイ・ヤーACT2『イ……一発目!? 大丈夫ナノカ!?』

    苗木「躊躇しなくていい! ここはやる場面だッ!」

    ヘイ・ヤーACT2『ク……ワ、分カッタゼッ! YEAH!』

    ACT2は苗木の覚悟を受け取り、一発目の言弾を苗木に放つ!

    苗木「……よし」

    十神「フン……どんな効果だか知らんが……」

    十神「そいつが切れた時。お前の負けが確定するッ!」

    苗木「その覚悟だッ! 行くよ、十神クン!」

    再度、苗木は十神に向かって生身で吶喊!

    苗木「やあああああああッ!」

    十神「くどいッ! 同じ攻撃を、そうそう食らうものか……こちらから食らわせるッ! キング・クリムゾン!」

    苗木の拳が届くより早く、キング・クリムゾンが苗木に拳を叩きつける!
    だが……。

    苗木「言ったはずだ! ボクは倒れない……やあああッ!」

    十神「何だと!?」

    拳を叩きつけた、それは間違いがない……にも関わらず!
    苗木はダメージを受けた様子も無く、勢いを緩める事も無く十神に拳を打ち込む!

    十神「お前……まさかッ!」

    苗木「たぶんその想像は正解だ……だからッ! これが正真正銘! この試合、最後の攻撃だッ! アアアアアァァァァァアアアアアアッ!」

    苗木は十神に再びラッシュをかける!
    十神の想像、そして実際に苗木がやった(・・・)事。
    それは実際に一致していた――苗木はACT2の弾丸でこの十五秒間、『痛みを感じることは無い』のだ!

    十神「クソ……なんて奴だ! 痛覚の遮断など……正気かッ!?」

    苗木「こうでもしなきゃ、勝てない……ッ!」

    苗木「そしてこれで……ラストだァァァァァァァッ!」

    その宣言と共に苗木が十神に最後の拳を叩き込み、十五秒が経過する。
  560. 560 : : 2016/10/24(月) 20:29:57
    苗木(…………ここは)

    苗木「……っく、つッ」

    苗木(どうやら横になっていたようで、起き上がろうとしたんだけど……腹部に強烈な激痛が走る)

    苗木(よくよく見ると、どうやらボクはベッドの上に寝かせられていたらしい)

    苗木「そうか……ここ、医務室か」

    苗木(……そうだ! 試合は……結果は!?)

    「……ああ、目が覚めたか」

    苗木「あなたは……さっき、田中先輩を医務室に運んで行った」

    「ああ。お前をここまで運んできたのも俺だ」

    苗木「そ、そうでしたか……ありがとうございます。それで……」

    「……試合結果か」

    苗木「はい」

    「お前は最後の拳を十神に当てたと同時に意識を失ってぶっ倒れたんだ。……分かるよな?」

    苗木「……負け、ですか」

    「ああ」

    苗木「そうですか……」

    苗木(今度も……勝てなかった。だけど、前回以上に惜しいところまで持って行けたはずだ。この調子でいけばいずれ……!)

    「……思ったより、へこんでないんだな」

    苗木「ええ。手ごたえはありましたから」

    「そうか。その様子なら大丈夫そうだな」

    苗木「ええ。……試合はどこまで進んでるんですか?」

    「いや、まだお前と十神の試合から進んでない。運んできてまだ一分も経ってないしな」

    苗木「そうですか。だったら、観客席に戻ります」

    「おいおい……お前、倒れる程のダメージだったんだぞ? もう少し休んでた方が……」

    苗木「いえ。……治してくれる友達も、いますから」

    「……そっか、そう言ってたな。分かった。肩、貸した方がいいか?」

    苗木「えっと……」

    苗木「そう、ですね。お世話になります」

    「……ははっ、そうか。分かった、じゃあ一緒に行くか」

    苗木「はは……」

    苗木(…………)

    苗木(笑ながら、思う)

    苗木(次こそは、超えてみせる。十神クン……!)


    十神白夜             ―|
                      |
                      |―|
    花京院典明          ―| | |
                    |―| |
    ジャン=ピエール・ポルナレフ ―|   |
                        |―
    空条徐倫           ―|   |
                    |―| |
    霧切響子           ―| | |
                      |―|
    広瀬康一           ―| |
                    |―|
    ジョルノ・ジョバァーナ    ―|
  561. 561 : : 2016/10/24(月) 20:30:13
    #107
    帰還
  562. 562 : : 2016/10/24(月) 20:30:35
    不二咲「あ、苗木君!」

    舞園「大丈夫なんですか!?」

    苗木「うん……いや、あんまり大丈夫じゃないかも……大和田クンに治してもらえたらなって」

    大和田「ったくよォ……ぶっ倒れるまでぶん殴るとか、ムチャしやがるぜ」

    苗木「あはは……」

    苗木(……そっか、ACT2の具体的な能力までは知らないから、そういう認識になってるのかな)

    霧切「…………」

    苗木(う、霧切さんの目が怖い……)

    「じゃ、あとは任せていいんだよな?」

    大和田「ああ、おう。わざわざ連れて来てくれたのか、サンキューな」

    「ああ。じゃあ俺は待機場所に戻るぞ」

    霧切「ええ、感謝するわ」

    苗木(彼が背を向けると同時に、大和田クンに治してもらい、ひとしきり惜しかったとか、ナイスガッツだったとか……言葉をかけてもらって)

    苗木「ふう……」

    苗木(席に着く)

    霧切「……さて、苗木君」

    苗木「…………えっと、何かな?」

    霧切「分かってるでしょう。……何をしたのか正直に言いなさい」

    苗木「え、えーと……」

    霧切「…………」

    苗木「ちょっと、十神クンの攻撃に耐えるために……痛覚を遮断して攻撃したんだけど」

    霧切「……全く、もうちょっと後先考えて行動なさい。そんなだから、あんな形で限界が来るのよ」

    苗木「う……き、肝に銘じるよ……」

    霧切「痛覚っていうのは体の危険信号なの。それを遮断するって事は、痛みを感じるより危険なんだから」

    苗木「そのくらいしないと、勝てないと思って」

    霧切「はあ……もっと自分を大事にしなさい」

    苗木「うん……そうするよ……」
  563. 563 : : 2016/10/25(火) 23:35:40
    #108
    法皇の緑と銀の戦車
  564. 564 : : 2016/10/25(火) 23:35:54
    苗木「……え、えと、そうだ! 霧切さん!」

    霧切「何?」

    苗木「次は……花京院先輩とポルナレフ先輩……でいいんだよね?」

    霧切「そうね、合っているわ」

    苗木「霧切さんはこの試合、どう見るの?」

    霧切「そうね……ちょっと読めない、というのが実際の所かしら」

    苗木「あれ、そうなの?」

    霧切「ええ。強いて言うなら、どちらが先に自分の土俵に相手を立たせることができるか。それが分け目でしょうね」

    苗木「なるほど……」
  565. 565 : : 2016/10/25(火) 23:36:33
    DIO「第二回戦第二試合、第四位花京院典明対第五位ジャン=ピエール・ポルナレフ!」

    DIO「始めェッ!」

    花京院「ポルナレフか……」

    ポルナレフ「けっ、なーにニヤついてやがんだ?」

    花京院「なに……ポルナレフの事はよく知っているからやりやすいと思ってね」

    ポルナレフ「ふん! ……そりゃおれにも言える事だぜ!」

    花京院「たしかに、相手の事をよく知っているという意味では同じかもしれないな。だが僕の方が圧倒的に……有利ッ!」

    花京院「エメラルドスプラッシュ!」

    花京院のハイエロファントが放ったエメラルドスプラッシュはしかし、間一髪でポルナレフにかわされる

    ポルナレフ「うおっ!? いきなりアブねーなァ」

    花京院「それでかわしたつもりか、ポルナレフッ! エメラルドスプラッシュ!」

    ポルナレフ「うげ……」

    先ほどの話の通り、ポルナレフも花京院の事はよく知っている。
    故に、花京院の狙いがどこにあるのか、この時点で気が付いた。
    花京院はあえて、エメラルドスプラッシュをポルナレフにかわさせ、どこか一点に誘導しようとしている!
    誘導の狙いはおそらく……チャリオッツの射程範囲――“奥の手”の剣身飛ばしを含める――の外にポルナレフを追いやり、一方的に攻撃する事!
  566. 566 : : 2016/10/25(火) 23:37:26
    ポルナレフ「だったら……こうすりゃいいッ!」

    言ってポルナレフはスライディングでエメラルドスプラッシュの“下”を潜り抜け、花京院へ近付く!

    花京院「な!?」

    ポルナレフ「そして……チャリオッツ!」

    十分な距離まで近づく事が出来たポルナレフはチャリオッツの剣による攻撃を繰り出す!

    花京院「く……!」

    だが花京院も大きく後ろに跳躍し距離を取り、エメラルドスプラッシュで応戦する。

    ポルナレフ「くそっ、厄介な奴だぜ……」

    花京院「それはこちらの台詞だ」

    花京院「だが……こうして距離を再び取った以上! もうはやポルナレフに打つ手はないッ!」

    花京院「エメラルドスプラッシュ!」

    ポルナレフ「く、くそっ!」

    なんとか再び回避には成功するものの、ポルナレフはここからどうやって戦うかのアイディアを閃けずにいた。
    再びスライディングで下を潜り抜ける事は出来そうにない。
    その理由は、今度のエメラルドスプラッシュは下を潜り抜けられる隙間を作っていないから……ではない。
    下の隙間はあるのだ。だが先ほどの回避方法を見た以上……それは明らかな罠!
    そこに誘い込み、潜り抜けようとしてきたところでそこにエメラルドスプラッシュを再度放てば回避は困難……いや、よほどの機転、よほどのスタンド能力がなければ不可能だろう。
    結果、ポルナレフは徐々に徐々に花京院から離れ……チャリオッツの間合を逃してしまっていた。

    花京院「ふふ……そんなに下がっては攻撃できないんじゃあないですか? ……近付いてこないんですか」

    ポルナレフ「チキショー……! よくもヌケヌケと! くそっ、こーなったら!」

    ポルナレフ「おらああああああッ!」

    気合の掛け声と共に、花京院に向かって走り出す!

    花京院「痺れを切らしたか……だがそれは愚策だ! エメラルドスプラッシュ!」

    ポルナレフ「チャリオッツ! 弾くッ!」

    エメラルドスプラッシュは一つ一つがそこそこ大きなヴィジョンだ。
    弾けるかは賭けではあったが……チャリオッツの防御甲冑なら、最悪弾けずともダメージは抑えられるッ!

    ポルナレフ「……ぐ!」

    花京院「甘い! エメラルドスプラッシュはその程度で弾けるほど、ヤワじゃあないッ!」

    ポルナレフ「だが……チャリオッツに直撃したところで、致命傷にはならねえ! このまま走り抜けるッ! チャリオッツ!」

    花京院「ぐ……ッ!」

    そこから先は……。
    近距離での、剣とエメラルドスプラッシュの打ち合い!

    ポルナレフ「おおおおおおおおおッ!」

    花京院「はああああああああッ!」

    両者、互いの攻撃をマトモにくらいつつの攻撃であったが……。

    ポルナレフ「っぐ……」

    花京院「く……!」

    ポルナレフ「らあああああああッ!」

    花京院「く、ダメ、か……!」

    最終的に、本来の射程内で攻撃を繰り出していたチャリオッツ(ポルナレフ)に軍配が上がることとなった。
  567. 567 : : 2016/10/25(火) 23:37:51
    DIO「花京院典明、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、ジャン=ピエール・ポルナレフ!」

    苗木「派手に攻撃が飛び交う試合だったね……」

    霧切「ええ。あのクラスの強力なスタンド使いのぶつかり合いになると、ほんのわずかな状況の差で勝敗が変わる、好例かしら」

    苗木「なるほど……」

    苗木(……ボクの場合はよっぽど状況が良くないと、あの二人に勝つのは難しそうだなあ)

    苗木(まあ、戦うのは十神クンなんだけどさ)


    十神白夜             ―|
                      |―|
    ジャン=ピエール・ポルナレフ   ―| |
                        |―
    空条徐倫           ―|   |
                    |―| |
    霧切響子           ―| | |
                      |―|
    広瀬康一           ―| |
                    |―|
    ジョルノ・ジョバァーナ    ―|
  568. 568 : : 2016/11/03(木) 21:59:39
    #108
    星を見る囚人は天国を見ない
  569. 569 : : 2016/11/03(木) 21:59:59
    苗木(次は霧切さんと徐倫先輩の試合か……)

    苗木(霧切さんには勝って欲しいけど、どうなるか予想が付かないな)

    苗木(霧切さんには勝算はあるっぽかったけど、どこまで通用するか、ってのもポイントかな)

    大和田「おい苗木!」

    苗木「わ、な、何!?」

    大和田「オメェ、もっと声張って応援すんだよ、オレらのクラスメイトだろーが!」

    石丸「うむ! 大和田君の言う通りだ! 頑張れー! 霧切くーん!」

    葉隠「頑張るべー!」

    不二咲「が、がんばれー……!」

    苗木「……はは、そうだね」

    苗木(そうだ、勝敗の予想なんかより今は精一杯応援しよう)
  570. 570 : : 2016/11/03(木) 22:00:31
    DIO「第二回戦第三試合、第二位空条徐倫対第十四位霧切響子!」

    DIO「始めェッ!」

    徐倫「全く……新入生相手ってのはやりにくいのよねえ」

    霧切「情報が少ないから……でしょうか」

    徐倫「そう、まさにそれッ! 特にあんたはさ……ゼッテーなんか隠してる。さっきの一回戦で確信したわ」

    霧切「能力の本質は隠すように生活しろ……」

    霧切「おそらく、形式上のルールにしかなっていないのかもしれないけれど。私はそれに従っているだけです」

    徐倫「はっ……模範的だこと」

    徐倫は動かずにいた。
    あえて待ちの体勢を取っているのだ。
    霧切のスタンドの秘密を知らねば、マトモに戦う事は難しい……そう考えたためだ。
    霧切がどう動くか……どう仕掛けてくるか?
    間近で見る事で何かヒントを得られるかもしれない。

    霧切「…………」

    徐倫「…………」

    だが霧切も動かない。いや、動きようがないのだ。
    前のトーナメントで見せたホイッスルによる動物の動員ではおそらく、簡単に衝撃を吸収されてしまうだろう。
    かといって直接徐倫を本にするには間合に飛び込む必要があり、危険が高い。
    そもそも、由花子の時は他の髪で隠れて見えなかったからいいものの、そのまま本にする能力を使用すれば徐倫だけでなく周囲全体にバレてしまうことになる。
    どうしたってこの試合、後手に回る……霧切はそのつもりで臨んでいた。
    故に、徐倫が見に回った事は霧切にとって想定外の事態なのだ。

    徐倫「……どーしたの? 来なよ」

    霧切「徐倫先輩こそ」

    徐倫「相手の間合も分かんないのに突っ込んだりしないわ」

    霧切「……そうですか。ですがそれはこちらにも言えることです」

    徐倫「……なーる」

    互いに攻め方が分からない。
    だが両者、この状況に焦ったり痺れを切らせたりせず、待つと決めたら待つ冷静さを持っていた。
    そのおかげで、試合開始の宣言からまだ両者ともに一歩たりとも動いていない。
    ……少なくとも、霧切はそう考えていた。
    だが。

    霧切「……! しまっ……!」

    徐倫「もう遅いッ! ストーン・フリー!」

    徐倫は既に動いていたのだ!
    自身のスタンド、ストーン・フリーを極々細い糸にして地面を這うように伸ばし、ゆっくりと霧切に迫っており……そして霧切はいつの間にか糸状になったストーン・フリーに、幾重にも巻きつかれていた!

    霧切「く……ッ!」

    徐倫「このまま……締め上げるッ!」

    霧切「締め上げる? ……たしかに、糸が巻き付いていて動きにくくはあるけれど、そんなパワーは……」

    徐倫「それはどうかしらね? よく見てみるといいんじゃない?」

    霧切「えっ? ……ハッ、こ、これは……ッ!」

    霧切に巻き付いていた糸は徐々に徐々に、少しずつ少しずつ、撚り集まっていき、いつの間にかちょっとした縄程度の太さを得ていた!

    徐倫「つーわけで! これで……お終いッ!」

    霧切「う……く、ヘブンズ……うっ」

    最終手段、ヘブンズ・ドアーで縄になったストーン・フリーを本にし、命令を書き込もうとした霧切だったが……そうする間もなく、意識を失ってしまうのであった。
  571. 571 : : 2016/11/03(木) 22:01:07
    DIO「霧切響子、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、空条徐倫!」

    苗木「霧切さんがあっさり負けるなんて……」

    石丸「今、いったい何がどうなったのか、見えたかね?」

    大神「どうやら、細い糸を縄に撚り上げて絞めつけていたようだな」

    桑田「見えんのかよ……」

    苗木(……なんてみんなで言っている間に、霧切さんが戻ってきた)

    苗木「霧切さん! 大丈夫!?」

    霧切「ええ……何もできなかったわね。正直、想像以上だったわ」

    苗木(さすが、空条先生の娘にして学園第二位は伊達じゃないって事か……)

    十神「担任、空条承太郎の娘、か。フン……奴が勝ちあがって来たとしても、なかなか楽しめるかもな」

    葉隠「十神っちはその前に準決勝だべ?」

    十神「そんなもの、俺が勝つに決まっているだろう」

    山田「相変わらずの自信ですな」


    十神白夜             ―|
                      |―|
    ジャン=ピエール・ポルナレフ   ―| |
                        |―
    空条徐倫             ―| |
                      | |
                      |―|
    広瀬康一           ―| |
                    |―|
    ジョルノ・ジョバァーナ    ―|
  572. 572 : : 2016/11/06(日) 20:50:10
    #109
    “黄金体験”
  573. 573 : : 2016/11/06(日) 20:50:35
    苗木「広瀬先輩と、ジョルノ先輩か……」

    霧切「ジョルノ先輩は本当にとんでもないスタンドを持っているみたいよ」

    苗木「そうなの? っていうか、ボク達じゃランカーの人達のデータは見られないんじゃなかったっけ……?」

    霧切「それでも、過去の大会のデータなどは閲覧できるでしょう」

    苗木「あ、そっか。そこから推測くらいは出来るって事か……」

    苗木「それで、どんな能力なの?」

    霧切「……ふふ。見ていればわかるわ。私としても、実際目の当たりにするのは初めてだから楽しみなのよ」

    苗木「そっか」
  574. 574 : : 2016/11/06(日) 20:51:56
    DIO「さて、第二回戦も最終試合だな。第二回戦第四試合、第六位広瀬康一対、第一位汐華初流乃改めジョルノ・ジョバァーナ!」

    DIO「始めェッ!」

    ジョルノ「さて、と……康一君が相手か」

    康一「ジョルノくん……覚悟はしてきたけど、やっぱりいざここに立つと……」

    ジョルノ「別に、緊張する必要はないよ」

    ジョルノ「……尤も、緊張してる暇なんて無いだろうけどね。ゴールド・エクスペリエンス!」

    康一「うッ!」

    ジョルノは康一に向かってゴールド・エクスペリエンスの拳を叩き込もうとするが、なんとか回避する康一。

    康一「危ないなァー……いきなりなんだもんなあ」

    ジョルノ「そう言いつつしっかり回避する。さすがは康一君だ」

    康一「だってゴールド・エクスペリエンスの拳は怖いですからねえ……前に一度受けたのでコリゴリですよ」

    康一とジョルノは何度かトーナメントで戦った事のある相手だった。
    その最初の試合、康一は一度、ゴールド・エクスペリエンスの“拳”をモロに受けてしまった。
    その事が苦い思い出になっている康一としてはこれだけは何としても回避したい攻撃だったといえよう。

    ジョルノ「けど当てたのはその一度だけだったはずだからね。僕としては悔しい思いもあるが……まあ、いいか。なら次はこれでどうかな? ……ふッ!」

    言って、ジョルノはゴールド・エクスペリエンスの拳を地面に向かって連続で叩きつけた。

    康一「ヤ……ヤバいッ! ACT3! ジョルノくんを重くしろッ!」

    ACT3『イエッサー。3 FREEZE!』

    ジョルノ「無駄だよ……」

    言って、ジョルノは地面から急速に生えてきた木によって押し上げられる。

    康一「ま、マズい! 手をひっこめろ、ACT3!」

    ACT3『S・H・I・T(エス・エイチ・アイ・ティー)……間ニ合イマセンネ』

    康一「ま……間に合わないって……ウゲェッ!」

    ACT3の拳はジョルノの乗った木に当たってしまう。
    勿論、ただの木であれば単なる回避行動でしかなかったのかもしれないが、残念ながらこれは回避ではなく攻撃(・・)だった。
    木を攻撃したACT3の攻撃は反射され、ダメージを受けるのはACT3……康一となる!

    康一「ア……ACT3……解除しろ……ッ!」

    ACT3『了解デス』

    ACT3の重圧を解除する康一だったが、既にジョルノは木の上。
  575. 575 : : 2016/11/06(日) 20:52:47
    ジョルノ「ふむ、これだけじゃあダメか……ならこういうのはどうかな?」

    そう言ってジョルノは懐からなにやら袋を取り出す。

    康一「な……何が入ってるの、それ……?」

    ジョルノ「今見せるよ。……そら!」

    宣言すると同時、袋の中身をジョルノは中空にぶちまける!

    康一「うわッ……こ、これは……」

    袋の中身はネジやナット、ボルト……所謂“何かの部品”に該当するような、大量の小さな金属だった。

    ジョルノ「そしてこれを……ゴールド・エクスペリエンス! 生命にするッ!」

    康一「あ……! ま、マズい、マズすぎるッ!」

    空中でそれらに対し、ゴールド・エクスペリエンスの拳を打ち込む。
    ……全ての部品が地面に落ちた時、ジョルノの乗った木、康一の周囲一帯は見事な花畑と化していた。

    康一「こ……これは」

    ジョルノ「さ、これで君は……もちろん僕もだが、移動する事は出来なくなった」

    康一「く……だけど、それならやりようはある! エコーズ!」

    康一が呼びだしたのはエコーズ、そのACT1だ。

    ジョルノ「なるほど、たしかエコーズのACT1、ACT2の射程距離は五十メートル……うん、十分射程距離圏内というわけか」

    だがジョルノはそれを理解してなお、冷静そのものだった。

    康一「ACT1、やれッ!」

    康一の指示と共にACT1はジョルノの正面にまで移動する。
    そしてジョルノの顔面に“文字”を貼り付けようとする……が!

    ジョルノ「康一君……君も学習しないね。さっき無駄だって言ったばかりじゃあないか」

    康一「えッ……あ、ああ! あ、ACT1! もど……」

    しかしやはりタイミングが悪く……いや、おそらくエコーズが引けなくなるタイミングを見計らってジョルノが動いているのだろうが、ジョルノはエコーズの攻撃を手にした“カエル”で防いだ。
    という事は、つまりカエルに文字が貼り付けられ……そしてそのカエルも勿論、ジョルノの生み出した生命だ。
    攻撃は先ほどのACT3の攻撃と同じく反射され、エコーズ……そしてエコーズを通じて康一自身に降りかかる!

    康一「う、うわァッ!」

    ACT1の文字の効果で、その文字の擬音が康一の頭に鳴り響く!
    その衝撃に驚き、康一はバランスを崩した!

    康一「ACT1……解除……しろォ……!」

    解除は何とか間に合ったものの、バランスを崩した時点で後ろに向かって倒れ掛かっており……。
    結局、倒れ込んでしまい、その下の花を押しつぶしてしまい、康一の意識は吹っ飛んだ。
  576. 576 : : 2016/11/06(日) 20:53:16
    DIO「広瀬康一、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、ジョルノ・ジョバァーナ!」

    苗木「……」

    霧切「……」

    苗木「ねえ」

    霧切「何?」

    苗木「ジョルノ先輩……無敵すぎない?」

    霧切「私としても……彼をどうこうするのは無理だと思うわ」

    苗木「なんとかできるとしたら……」

    苗木(ちらりと横目で、仏頂面で試合を眺めていたらしい十神君を見る)

    苗木(……十神クンなら、もしかすると、もしかするかも……?)


    十神白夜           ―|
                    |―|
    ジャン=ピエール・ポルナレフ ―| |
                      |―
    空条徐倫           ―| |
                    |―|
    ジョル・ジョバァーナ     ―|
  577. 577 : : 2016/11/16(水) 22:08:58
    #110
    imperatore (帝王) chevalier (騎士) その①
  578. 578 : : 2016/11/16(水) 22:09:22
    苗木「いよいよ準決勝か……」

    霧切「ええ。まずは十神君とポルナレフ先輩ね」

    苗木「十神クンはやたら自信満々だったけど、どうなるかな」

    霧切「……彼が自信満々なのはいつもの事でしょう」

    苗木「はは、そうだね……」
  579. 579 : : 2016/11/16(水) 22:10:08
    DIO「いよいよ準決勝になる。第一試合は第十三位十神白夜対、第四位ジャン=ピエール・ポルナレフ!」

    DIO「始めェッ!」

    十神「さて……ポルナレフ、といったな」

    ポルナレフ「何かね?」

    自身の方が年上のはずだが、ポルナレフはそれでも何故か十神に対して、このぞんざいな呼びかけを咎める気にはなれなかった。
    理由としては単純明快、それが年上としての心のヨユーというやつだ、と考えたためである。

    十神「お前では俺には勝てん。それでもやるのか?」

    ポルナレフ「なにぃ?」

    だが、このように言われてしまえば、話は別だ。

    ポルナレフ「ふ、お前のスタンドがどれほどのモンかは知らねーが……」

    チャリオッツの姿を顕現させる。

    ポルナレフ「おれのチャリオッツなら、オメーを細切れにしてやることくらいわけはねーぜ!」

    宣言、そして肉薄!
    だが……。

    十神「言ったはずだ。お前では俺には勝てんとな」

    ポルナレフ「な……!?」

    十神は既に時を消し飛ばし、ポルナレフの後ろにまで移動していた!

    十神「俺を細切れにする、などと言っていたな。……細切れにされるのはお前の方だ」

    ポルナレフ「な……!?」

    だが、そうポルナレフが気が付いた時にはもう遅い。
    キング・クリムゾンの手刀がポルナレフを左肩から斬り裂いていた!

    ポルナレフ「グ……ぐあああああああッ!」

    十神「フン、だから言ったろう。たしかに、シルバーチャリオッツの素の戦闘能力には目を見張るものがある。お前の戦闘経験もそれをより強力に伸ばしているな。……が、それはただそれだけだ。俺を超えるにはまるで足りん」

    これでポルナレフとの戦いは終わった、あとは決勝の時を待つのみ――。
    その十神の確信は、だがあっさりと打ち砕かれる。

    ポルナレフ「……けっ、言ってくれるぜ」

    十神「……どいつもこいつも、しぶとさだけは一級品だな」

    ポルナレフ「ま、チャリオッツにゃ防御甲冑があるからな……しぶとさってなら自信はたしかにあるぜ……」

    十神「俺はチャリオッツではなくお前自身の肩を裂いたはずだが」

    ポルナレフ「はっ、こんなかすり傷、いつもの事だぜ?」

    十神「減らず口を……」
  580. 580 : : 2016/11/16(水) 22:10:27
    ポルナレフ「さて、ちーっとばかし油断しちまったが……今度はこっちの番! 行かせてもらうぜ! チャリオッツ!」

    叫びと同時、チャリオッツは十神に対し剣身を飛ばす!
    だがその剣身はあっさりと回避されてしまう。

    十神「フン……ただ飛ばすだけか。つまらん、どうせなら飛ばしたあと軌道を操作するくらいしてくれんと楽しめんな」

    十神「……やはりこれで終わりか。つまらん男だ。さっさと決着を付けてやる。キング・クリムゾン!」

    ポルナレフ「はっ、来るかい……いいぜ、来な! だが、俺を狙っちゃあお前自身の格を落とすぜ!」

    十神「……何?」

    格を落とす――その言葉が十神の琴線に触れた。
    いや、ポルナレフは琴線に触れるだろう、と推測の上でこのセリフを言い放ったわけだが、なんにせよ乗って来た、と手ごたえを感じたポルナレフは言葉を続ける。

    ポルナレフ「いいかい? このままおれを攻撃し、おれを倒したとする。……そうするとオメーは、チャリオッツの防御甲冑に対しちゃ負けを宣言したも同然なんだぜ!」

    十神「フン……なるほどな。安い挑発だが、いいだろう。乗ってやる。……お前自慢の防御甲冑ごと、スタンドを撃ち抜いてやる!」

    宣言し、キング・クリムゾンはチャリオッツの腹をに拳を入れる!

    ポルナレフ「ガハ……!?」

    完全に決まった。
    拳がチャリオッツを打ち付けると同時、スタンドが破裂する。

    十神「あっけない。あまりにあっけなさすぎる。この程度で自慢するなどと……恥ずかしくはないのか?」

    言い放つが、ポルナレフからの返答はない。

    十神「……あんな風にスタンドが破裂したんだ。意識が無くて当然、か。やはりつまらん奴だった」

    十神がそう呟いた時だった。

    十神「なッ……! 何ィ!?」

    背後から十神が刺されたのは。
  581. 581 : : 2016/11/16(水) 22:10:42
    #111
    imperatore (帝王) chevalier (騎士) その②
  582. 582 : : 2016/11/16(水) 22:11:31
    十神「ポルナレフ……ッ!」

    ポルナレフ「はっはっはー! さっきてめえに後ろからやられた仕返しだ、そいつは!」

    十神「ちっ……!」

    チャリオッツの剣から逃れ、毒づく。

    十神「俺は今……怒りが沸き上がっている……」

    ポルナレフ「あー? そいつはおれにかい?」

    十神「自惚れるなッ! 俺が腹を立てているのはお前なんぞにではない……終了の宣言も無いままに、お前に油断を見せた俺自身に対してだ……」

    十神「最早! 油断は無いッ! ポルナレフ……今度は確実に意識を吹き飛ばすッ!」

    ポルナレフ「ほーお? やれるもんならやってみな……!」

    十神「俺には如何なる攻撃も……な、何ィッ!?」

    ポルナレフには十神の狼狽えの理由は分からなかった――その理由はエピタフによる予知であったからなのだが――が、これを好機と受け取り、チャリオッツで攻撃を開始する。

    ポルナレフ「何だかわからんが……チャリオッツ! お見舞いしてやれッ!」
  583. 583 : : 2016/11/16(水) 22:12:03
    ポルナレフの言葉と共に、十神を囲んだ(・・・・・・)チャリオッツ達が一斉に十神に対し攻撃を繰り出す!

    十神「ちっ、カラクリが分からんので驚いたが……俺には意味を成さん! キング・クリムゾン!」

    瞬間、十神は時間を消し飛ばし、チャリオッツの包囲を抜け、時間は正常になる。

    ポルナレフ「なぁ!? なんでてめえ、外にいやがる!?」

    十神「……出る前は、増えていた事に気を取られ気付かんかったが……」

    十神「ポルナレフ。お前のスタンドがやけに貧弱になっているように見えるな?」

    ポルナレフ「フン! 今更かい……防御甲冑を脱ぎ捨て、速度を極限まで高めた状態! それがこのシルバー・チャリオッツ アーマーテイクオフだ!」

    十神「なるほどな……では防御力はほぼ無い状態というわけか」

    ポルナレフ「当たらんから無意味だがね」

    十神「そうだな。無意味だ」

    ポルナレフ「……は?」

    十神「何故ならば……」

    瞬間、十神はポルナレフの眼前にまで肉薄する。
    だがこれはキング・クリムゾンの能力ではない。
    純然たる、十神自身の身体能力だ。

    十神「チャリオッツではなく、お前自身を攻撃すれば、甲冑があろうがなかろうが関係ないんだからな」

    言って、キング・クリムゾンの物と同時に十神自身の拳も叩き込み。
    今度こそ、ポルナレフの意識を奪い取ることに成功したのだった。
  584. 584 : : 2016/11/16(水) 22:12:31
    DIO「ジャン=ピエール・ポルナレフ、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、十神白夜!」

    苗木「うっひゃー……さすが十神クン、ポルナレフ先輩にまで勝っちゃった」

    霧切「ええ、さすがに私も、この結果には驚嘆せざるを得ないわ」

    苗木「これって、もしかするともしかして、ホントに一位に上り詰めちゃうかな?」

    霧切「どうかしら……ジョルノ先輩にしろ徐倫先輩にしろ、まさに格が一つ二つどころじゃなく違うスタンド使いよ」

    苗木「そっか……」

    苗木(だけど応援は全力でしよう。あまり溶け込んではいないけど……それでもクラスメイトだし、ね)


    十神白夜         ―|
                  |
                  |―
    空条徐倫       ―| |
                |―|
    ジョル・ジョバァーナ ―|
  585. 585 : : 2016/11/17(木) 22:55:09
    #112
    負けられない戦い その①
  586. 586 : : 2016/11/17(木) 22:55:32
    苗木「さて……その徐倫先輩とジョルノ先輩の試合、か。これってホントにどうなるんだろう?」

    霧切「予測なんて付くわけないじゃない」

    苗木「き、霧切さんでもかあ……」

    霧切「まあ、どちらが勝ったとしても十神君が苦戦するのは間違いないでしょうし」

    苗木「その前提なんだね……」

    霧切「……どっちが勝つか、じゃあなくて、どっちを応援したいか、でいいと思うわ」

    苗木「それもそっか」

    苗木(……空条先生には悪いけど、どっちかって言うとジョルノ先輩かなあ。いろいろお世話になってるし)
  587. 587 : : 2016/11/17(木) 22:55:52
    DIO「準決勝も第二試合となった。残る試合は本試合を含め二試合のみである。……それでは! 第二位空条徐倫対、第一位ジョルノ・ジョバァーナ!」

    DIO「始めェッ!」

    ジョルノ「……」

    徐倫「……」

    両者動かない。
    そして、なにかを話すでもない。
    勿論、悟られずにスタンドを操作している、というわけでもない。
    真の意味で、本当に両者全く動かずに、しばしの時が流れる。

    ジョルノ「……」

    徐倫「……はあ」

    ジョルノ「どうしましたか? ため息なんてついて」

    徐倫「いや……あんたとはなるたけやり合いたくねーなーって」

    ジョルノ「それはお互い様では?」

    徐倫「はっ、あんたからそう思われるってのはちっとだけ光栄ね」

    ジョルノ「僕もあなたからそこまでの評価を得ているというのは光栄の至りです」

    徐倫「あっそ……」

    徐倫は「さて、どうしたもんか」と考える。
    同時にジョルノは「さて、どうしましょうか」と考える。

    徐倫から考えれば、ジョルノは幾ら警戒しても警戒し足りない程の相手だ。
    攻めたところで、防がれるだけならば御の字。
    生み出した生命で防がれれば待つのは攻撃の反射だ。
    また、ジョルノの方から攻められたとして、上手く防ぐ自信は無い。
    もしゴールド・エクスペリエンスの攻撃を食らってしまえば、その先に待っているのは精神の暴走、故に確実な回避が必要なのだ。

    ジョルノから考えても、徐倫は十分な警戒が無ければ危険な相手となる。
    体を糸にする、という能力自体は、それだけ聞けば侮る相手もいるかもしれないがジョルノはそうではない。
    その恐ろしいまでの汎用性を理解しているし、その能力を扱う徐倫自身の脅威的な精神力も正しく評価しているからだ。
    ジョルノには、単に刑務所暮らしだったから、というだけではここまでの精神力を身に付けるに説明がつかないとすら思っているのだが……それは今はいいとしよう。
    問題なのは、徐倫との戦闘がジョルノにとって初ではないという点だ。
    それは当然だろう、ジョルノが一位で徐倫が二位、それはつまり前回決勝で戦ったという意味に他ならないのだから。

    問題は。
    ジョルノの能力の対策を、徐倫はどこまで出来ているのか?
    ジョルノにとって最も警戒すべき点はそこだ。
    だがそれを知るためには徐倫を動かす必要がある。
    しかし徐倫とて不用意な動きは見せないだろう。
    ならば……。
  588. 588 : : 2016/11/17(木) 22:56:35
    ジョルノ「このままでは埒があきませんね」

    徐倫「ま、警戒すんのは当然っしょ?」

    ジョルノ「それもそうです。……が、このままじゃあ試合にならない。ですから……」

    ジョルノ「ここは僕から動くしかないようですね」

    静かにそう言い放ち、ジョルノはポケットから取り出した小さな木片を徐倫に向かって投げつける。

    徐倫「ちィッ!」

    どんな生命に変化するか分かったものじゃないと、徐倫はすぐさま回避行動に移る。
    だがそこで徐倫は一つ、奇妙な事に気が付いた。

    徐倫「……変化しない?」

    そう、ジョルノが放った木片は木片のまま、地面へと落下したのだ。

    ジョルノ「……僕のゴールド・エクスペリエンスには一つ欠点があります」

    徐倫「突然、何? 欠点?」

    ジョルノ「ええ。生み出した生命を僕の意志で動かしたり命令したりって事は出来ない。そこのところが扱いのムズかしい部分なんです」

    徐倫「ま、そのくらいの不便が無いと完全無欠すぎでしょ」

    ジョルノ「それもそうです。まあ、そういうわけですから。むやみやたらと生命を産み出せばいいってものでもないんですよ」

    徐倫「なーる……じゃあ今の木片は何だったわけ?」

    ジョルノ「ちょっとした、そうですね……布石、とでも言っておきましょうか」

    徐倫「布石ィ?」

    ジョルノ「つまり……物質が生命に変化するか、しないか? それは全て僕の気分次第という事……!」

    言って、ジョルノは再び木片を飛ばす!
    だが今度は一つではなく、幾度にわたって複数の木片を投げており、そしてその一つ一つが変化するかしないのか、全くの不明な攻撃だ。

    徐倫「ち、そういう事……! 面倒ね……」

    徐倫は毒づき、回避行動に移る。
    いくつかは木片のまま落下し、いくつかはカエルやヘビに変化し地面に落ち……。
    しかしそうそう全ての木片をかわす事などできず、一つの木片が徐倫に命中する!
    だがそれは何かに変化する事無く、ただの木片のまま地面に転がった。
  589. 589 : : 2016/11/17(木) 22:56:51
    徐倫「ふうー、危ないわ……」

    ジョルノ「惜しい。……ですがそろそろ、ゴールド・エクスペリエンスの能力を付与したものも当たるかもしれませんね」

    徐倫「ち……」

    ジョルノ「そらっ!」

    掛け声一つ、再びジョルノは木片を飛ばし始める。

    徐倫「こうなったら、やるしかないッ! ストーン・フリィィィィ!」

    叫び、徐倫は自身の肉体を糸に変え、飛んでくる木片を生命非生命にかかわらず糸を巻き付ける形で受け止め、自身に危害が及ばないようにする。

    ジョルノ「なるほど、そう来ましたか。ですがいつまでもちますかね?」

    徐倫「ハッ……いつまでももたせる必要なんざ無いわよ」

    ジョルノ「ほう?」

    徐倫「こうすりゃいいのよ! 返品よ、受け取りなッ!」

    糸で絡めていた利点として、ただの木片のままかそれとも生命に変化するか、見てから対処が出来るという点にある。
    故に徐倫は“見てから”、蛇に変化したものをジョルノに向かって投げ返した!

    ジョルノ「なるほど、生命を逆に利用する。悪くないですが」

    だが蛇はジョルノを噛んだりはしない。
    それをあらかじめ分かっていたかのようにジョルノは、普通に飛んできた蛇を手で受け取っり、地面に下ろす。

    ジョルノ「無駄ですよ。僕だって自分で生み出した生命が自分に牙を剥く可能性だって考えないわけじゃないんです。誰を襲えだとか細かい命令は出来ずとも、僕自身に攻撃が来ないよう最低限の事はやってますよ」

    徐倫「ち……けどそれならそれで!」

    言うなり徐倫は糸で確保していた生命を全てジョルノに向かって投げ飛ばす!

    ジョルノ「ですから、無駄ですよ、無駄無駄……」

    だがジョルノはその全てをかわし、その間木片を徐倫に投げ続ける。

    徐倫「投げ返しゃあ、幾らこっちに寄越して来たってそれこそ無駄よ!」
  590. 590 : : 2016/11/17(木) 22:57:09
    #113
    負けられない戦い その②
  591. 591 : : 2016/11/17(木) 22:58:02
    ジョルノは木片を投げ続けるが、その際、これまでととある“変化”が訪れている事に徐倫は気が付いた。

    徐倫「これは……どういうつもり?」

    ジョルノ「さて、どういうつもりだと思いますか?」

    ジョルノが投げた木片は、その全てが小動物に変化していた!
    これは“キャッチし続けてくれるなら”というジョルノの賭けであったが、この賭けにジョルノは見事に勝利する事になる。

    徐倫「ま、全部が生命だってなら全部投げ返せばいいだけの話! てりゃあッ!」

    投げ返す、その間にも生命に変化する木片は徐倫に向かって飛び続ける。
    また、徐倫が投げ返した生命は一切、ジョルノに触れる事すらしない。
    ジョルノのそばに落下していくのだから、誤って踏んづければと思わなくもないが、それもジョルノは織り込み済みなのか、何も回避のための動きもごくわずかなもので、決して踏んだりはしない。

    そうして回避しながらジョルノはさらに、一度に飛ばす木片の数を増やし始めた。

    徐倫「ちィ……ッ!」

    徐倫はその全てを糸で受けながら投げ返す。

    ジョルノ「随分と辛くなって来たようですね?」

    徐倫「この程度、まだまだよ……ッ!」

    その言葉が強がりである事はジョルノにはすぐに伝わる。

    ジョルノ「……これはあくまで興味本位の質問なんですが、どうしてそこまでして自分を追い込むような戦い方を続けるんです?」

    徐倫「決まってんでしょ。負けらんないからよ」

    ジョルノ「負けられない、というならもっと負けない戦い方があるのでは?」

    徐倫「たしかに、そうすりゃ今ここでアンタに勝つ事くらいは出来るかもね」

    ジョルノ「ほう?」

    徐倫「けどそれじゃあ駄目よ。あたしはずっと……今も。“負けられない戦い”の中にいる。この戦いに負けないために、強くならなくっちゃあいけないのよ。それこそ、無理をしてでも」

    ジョルノ「よく分かりませんが……まあいいでしょう。そもそもこのトーナメント戦自体、ある種自己を鍛える場とも言えますし」
  592. 592 : : 2016/11/17(木) 22:58:32
    ジョルノ「ですが……どっちにしたってギリギリのラインの見極めは必要ですよ」

    徐倫「何、言ってんの?」

    ジョルノ「そらっ!」

    言ってジョルノはさらに木片を投げつける!

    徐倫「く……!」

    だがその全てを徐倫はやはり糸で受け止め、投げ返……そうとしたのだが、あまりに数が多くなった影響か、糸を伸ばしすぎたようで千切れてしまう!
    幾つかの生命は徐倫の糸が巻き付いたままジョルノに向かって飛ぶ!

    徐倫「くあっ……!」

    ジョルノ「そして僕はこれを待っていたッ!」

    ジョルノはそんな糸付きの生命を受け取り、糸を取り外し……。

    ジョルノ「ゴールド・エクスペリエンス! 糸を生命にするッ!」

    徐倫「な……!?」

    ジョルノ「先ほど僕は、産み出した生命に命令は出来ないと言いましたが……ターゲットに生命を向かわせる事自体は可能なんですよ」

    ジョルノ「そのターゲットの肉体の一部だとかを生命に変えた場合、帰巣本能ってヤツなのか……その元の持ち主の元へ戻って行く」

    徐倫「し、しまっ……!」

    徐倫の糸から変化した生命……それは蜂だ!

    ジョルノ「その蜂は幾ら回避しようとも貴女を自動追尾します。なんせ元は貴女の一部なんですから」

    徐倫「だけどさっきまでと同じように糸で捕まえておけば……!」

    言って徐倫は蜂を糸で捕獲する。

    ジョルノ「それこそ、僕にカエルやヘビを投げ返すより無駄ですよ」

    ジョルノの言葉通り、その蜂は糸で捕えようとも元の軌道を失うことなく、徐倫の元へと近付いて行く。

    ジョルノ「蜂は飛んでるんです……空中で動きを制御できない生命ならそれでも良かったでしょうけどね」

    徐倫「く……」

    ジョルノ「さて、糸付きの小動物は一匹じゃあありませんでしたね」

    徐倫「な……ッ!」

    更に何匹も……徐倫の元へ蜂が向かう。

    徐倫「うげぇっ!?」

    ジョルノ「安心してください。毒は持っていない種類ですから」
  593. 593 : : 2016/11/17(木) 22:59:17
    DIO「空条徐倫、再起不能(リタイア)ッ! 勝者、ジョルノ・ジョバァーナ!」

    苗木「派手に小動物が飛び交ってたね……」

    霧切「……徐倫先輩と戦った時、前の七十八期生大会の時みたいにマムシあたり呼ばなくて良かったわ」

    苗木「あはは……でも霧切さんのヘブンズ・ドアーで命令してるなら霧切さんを襲う事はないんじゃ? 十神クンとの試合の時は十神クンの戦略勝ちみたいなとこあったし」

    霧切「どうかしらね……丸きり同じとはいかないでしょうけれど、ああいう対処を徐倫先輩ならやってきそうじゃない?」

    苗木「ああ……」

    霧切「それより、ジョルノ先輩が勝ち上がったわね。ヒトの肉体の一部……でいいのかしら、あの糸。そういうものも別の生命に組み替える事が出来るというのは尋常じゃないわね」

    苗木「たしかに……」

    苗木(十神クンはどう戦うつもりなのかな?)


    十神白夜       ―|
                |
                |―
    ジョル・ジョバァーナ ―|
  594. 594 : : 2016/11/18(金) 22:18:49
    #113.5
    決勝戦のその前に
  595. 595 : : 2016/11/18(金) 22:19:59
    DIO「さて……準決勝の二試合が終了した。ここで通例に則り三位以下決定戦を挟む事となる。ここまでで敗退した者達は速やかに控室へ移動するように」

    苗木「……三位以下決定戦?」

    苗木(残すは決勝だけかと思ったけど……っていうか、前にはそんなの無かったよね?)

    苗木(横の霧切さんに視線で確認してみるけど、霧切さんも首をかしげている。どうやらよく知らないらしい)

    承太郎「そういえば……説明していなかったな。新入生の第一回トーナメント時点ではまだ体力もそんなにねえ奴がいても不思議はねえ。だからトーナメントだけやって後の順位は協議で決定するが……」

    霧切「なるほど。それ以降の大会では決勝の前に三位以下を何らかの方法で決めるという事ね」

    承太郎「ああ、その通りだ。その方法は種類によっていろいろあるが、ランカートーナメントでは一回戦敗退者グループ、二回戦敗退者グループ、そして準決勝敗退者グループ……と言っても準決勝敗退者は二名だが。このそれぞれのグループで総当たり戦ってヤツだ……」

    苗木「総当たり戦ですか……」

    承太郎「たしかに、トーナメントでやるみてえにフルで戦うなら疲労の蓄積は無視できなくなるだろうが、さすがにそんな事はしやしねえさ」

    苗木「と、言いますと……?」

    承太郎「ちょっとしたゲーム形式ってヤツだな……事前に装着された風船を先に割られた方が負け、ってだけのシンプルな試合だ」

    霧切「なるほど……風船を護りながら相手の風船を割る方法を模索しながら動かなければならない、というわけね」

    承太郎「ああ。ま、健闘は祈っとくぜ……」

    苗木(終わったと思ってたら……まだやることがあったとは……)


    第二回戦敗退者グループ

       |苗木 |花京院|霧切 |広瀬 |
    ―――|―――|―――|―――|―――|
    苗木 | / |   |   |   |
    ―――|―――|―――|―――|―――|
    花京院|   | / |   |   |
    ―――|―――|―――|―――|―――|
    霧切 |   |   | / |   |
    ―――|―――|―――|―――|―――|
    広瀬 |   |   |   | / |
    ――――――――――――――――――――

    ※SS上では苗木の参加する第二回戦敗退グループのみの描写となりますが、他のグループもちゃんと戦ってます。
  596. 596 : : 2016/11/18(金) 22:29:40
    #114
    総当たり戦! その①
  597. 597 : : 2016/11/18(金) 22:29:59
    苗木(控室で少し待っていると、誰かがノックの後に部屋に入って来た)

    苗木「あれ、あなたはさっきの……」

    苗木(田中クンとの試合の後に田中クンを医務室へ運び……そして十神クンとの試合の後にボクを医務室に運んでくれた、彼だった)

    「ああ。さっきぶりだな。準備が整ったから来てもらうぞ」

    苗木「分かりました。でもえっと、迎えが必要なんですか?」

    「ん、いやお前は新入生だろ? だからどこでやるのか知らないはずだ。そのための案内ってとこだな」

    苗木「あれ、って事はこれまでとは違う場所でやるんですか?」

    「ああ。……っと、いろいろ説明とか質問は移動しながらでいいか?」

    苗木「あ、そうですね。分かりました」

    苗木(そんなこんなでボクらは控室を出てその場所へと向かう事になった)

    苗木「あ、そうだ……あの、さっきはありがとうございました」

    「ん? ああ、二回戦の試合後の事か。あれなら構わないよ、俺のやるべき事だしな」

    苗木「それでもやっぱり、お礼は言わせてください。えっと……」

    「ん? あ、そういや名乗ってなかったな」
  598. 598 : : 2016/11/18(金) 22:30:13
    日向「俺は日向。予備学科生の日向創だ」

    苗木「日向……えっと、先輩ですよね?」

    日向「いや……まあ、たしかに入学自体は去年だからそうなるのかもしれないけどな。別に俺に対して先輩なんて付けなくてもいいよ。むしろ俺の方がお前らのサポートに回る立場なんだし、畏まられた方がやりにくいし」

    苗木「それもそうですか……」

    日向「ああ。だから別に敬語じゃなくてもいいんだぞ?」

    苗木「分かりまし……いや、うん、分かったよ、日向クン」

    日向「おう。そんじゃ、ちょっと説明するとな……」

    苗木(それから場所が変わる理由を聞いたところによると、総当たり戦をコロッセオの中央舞台でやるとなると、それだけで随分と時間がかかってしまう。だからコロッセオ地下に複数存在する闘技場にて、それぞれのグループごとに同時に始める事で時間を節約するのが目的なんだとか)

    苗木(ちなみに、試合内容は別に秘匿されるわけでもなんでもなく、観客席からはモニターを通して見る事が出来るようになってるんだとか)

    苗木(つまり、ボクは一回戦敗退グループの試合や準決勝敗退のポルナレフ先輩と徐倫先輩の試合は見る事が出来ない……いや、ボクらのグループの試合が全部終わって以降の一回戦敗退グループの試合は見る事が出来るのかな、ってくらいに考えておいた方がいいか)

    日向「…………」

    苗木「……?」

    苗木(少しの間そんな事を考えていると、日向クンがじっとこちらを見ていることに気が付いた)

    苗木「どうかした?」

    日向「……いや、何でもないよ。少なくとも今はな」

    苗木(含みのある言い方だな……何かあるのかな?)

    苗木(しばらくは無言で歩いていたボク達だけど、途中、日向クンが何かを呟いた気がした)

    苗木(よく聞き取れなかったけど……)

    苗木(“見極めないとな”)

    苗木(そんな風に、ボクの耳には届いたように思う。何を見極めるつもりなんだろう……?)
  599. 599 : : 2016/12/02(金) 00:38:33
    #115
    総当たり戦! その②
  600. 600 : : 2016/12/02(金) 00:38:54
    日向「さて、四人全員揃ったな」

    苗木(ボクらが戦う事になるらしい部屋に通され、待つ事しばし。全員が揃ったところで、同じく待機していた日向クンが言葉を発する)

    日向「それじゃあひとまず、苗木には自己紹介したし霧切にも。俺は予備学科生の日向創だ。霧切を案内してきた先生と一緒に審判とか記録係とか、まあそんなのをさせてもらう」

    霧切「日向先輩ね、覚えたわ」

    日向「はは……」

    苗木(さっき先輩はいい、なんて話をしてたからか、微妙な表情してるな……)

    日向「と、とにかく、先生も一応、自己紹介お願いします」

    「そうですね……」

    ペリーコロ「わたしは予備学科で教員をやっているペリーコロといいます。予備学科の方で教師をやっているのであまり会わないかもしれませんが、よろしくお願いします」

    苗木(ペリーコロ先生か……なんだか穏やかな印象の先生だなあ)

    苗木「えっと、よろしくお願いします」

    ペリーコロ「ええ。……というわけで。早速試合を始めましょう。まずは苗木君と花京院君ですね」

    花京院「分かりました。では苗木君、舞台に上がろうか」

    苗木「あ、はい!」
  601. 601 : : 2016/12/02(金) 00:39:10
    舞台へと上がった苗木と花京院はそれぞれ腕に、日向とペリーコロによって風船をくくりつけられた。
    この風船を先に割られた、割ってしまった方の負けというわけである。
    だが……。

    花京院「さて、あまり長引かせても仕方ないな」

    苗木「え?」

    花京院「ふ、この勝負は僕にとって、とても相性のいい形式だということだ」

    苗木「相性がいい、ですか」

    たしかに苗木にとってみればこの形式で何が出来る、というアイディアがまだ浮かんでいない。
    花京院には経験というアドバンテージがある以上それはたしかに、有利ではとは言えるかもしれないが……。
    と、苗木が思考を巡らせている間に。

    パァン!
    と、音を立てて苗木の風船が割れた――。
  602. 602 : : 2016/12/02(金) 00:39:29
    苗木「……えっ!?」

    花京院「ふふ、これで終了ですね」

    日向「ん、決まったな。苗木の風船が割れた。花京院の勝ちだ」

    苗木「い、いつの間に……!?」

    ヘイ・ヤー『ゼ……ゼンゼン気ガ付カナカッタ……ッ!』

    花京院「一つ教えておいてあげましょう」

    苗木「え……?」

    花京院「僕のハイエロファントグリーンは“他人に気付かれにくい”性質を持っているんですよ」

    苗木(き……気付かれにくい、か。それはたしかに、相性いいなあ)


       |苗木 |花京院|霧切 |広瀬 |
    ―――|―――|―――|―――|―――|
    苗木 | / | × |   |   |
    ―――|―――|―――|―――|―――|
    花京院| ○ | / |   |   |
    ―――|―――|―――|―――|―――|
    霧切 |   |   | / |   |
    ―――|―――|―――|―――|―――|
    広瀬 |   |   |   | / |
    ――――――――――――――――――――
  603. 603 : : 2016/12/06(火) 21:48:08
    僕が文章力を身に付けてもここまでのものは書けん…もけやんさんはやはり僕とは明らかなレベルの差がある!

    そして期待!
  604. 604 : : 2017/05/06(土) 23:59:52
    続きの見たいです!
    応援してます!
  605. 605 : : 2020/10/27(火) 14:22:42
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。
  606. 606 : : 2022/05/15(日) 12:30:14
    そして誰もいなくなった

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mokeyann

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