このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
東京無名‐トーキョーナナシ‐
- 東京喰種トーキョーグール
- 3772
- 131
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- 1 : 2015/07/31(金) 20:19:14 :
- 初めまして。初投稿させていただきます。
東京グールのSSをふと思い立ってので書き込みます。
気分で書き進めるので完結まで持っていくつもりですが、
かなりの遅筆になること間違いなしです。
そして誤字脱字や、口調が違ったりするかもしれませんがご容赦ください。
このSSには以下の成分が含まれているため注意が必要です。
※キャラ崩壊
オリキャラ注意
結構なネタバレ
勝手な推測
オリキャラ
ナナシ
記憶をなくした青年。はじめは子供っぽさが見えるが徐々に…。
記憶を取り戻したいとは思わないが、手に入れたものに強い執着心が見える。彼が金木達にどんな影響をもたらすのか。
鱗赫。白の長髪で、赫眼は両目に発眼する。
人の食べ物も食べられたり、他の喰種とは違った価値観倫理観を持つ喰種。
-
- 33 : 2015/10/31(土) 18:54:54 :
- 投稿にミスがあったため投稿しなおします。
――20区喫茶店「あんていく」
ここは「あんていく」小粋なマスターの経営するおしゃれなカフェ。
その実、20区を取り仕切る喰種達の連合のような場所。
想像もできないだろう。こんな街中に人を脅かす喰種という存在が、
人間と同じように生活し潜んでいるなんて。
ただ、他の区の喰種たちと違うところがある。
それは人を(滅多に)殺さないということだ(例外を除いて)
人間と喰種の共生。心から願い乞う人もいる(いや喰種か)
一週間ほど前、私は店の前で倒れているところをこの店のマスターこと芳村さんに介抱された。
どうやら私は記憶をなくしているようで名前も年齢もわからない。
あろうことか会話をして、頭が回るようになるまで常識すらも忘れていた。
………いろいろあったが今はこうして恩返しも兼ねて店で雇ってもらった。
今日もそろそろ閉店だ!部屋に戻ってシェイクスピアの続きを読もう!
カランコロンカラーン
「いらっしゃいませ!」キラッ
芳村「おや?今日は随分機嫌がいいみたいだね?何かいいことでもあったのかい?」
「…あ、マスターでしたか…いえいえ、笑顔でお客様を迎える。接客の基本中の基本ですから!」
芳村「フフフ…早くも馴染めたみたいで嬉しいよ。少し前まで何一つ覚えていなかったなんて、
信じられないくらい記憶力がいいね。」
「そうですね。以前の私がいるんだとしたら今の私をどう思ってるんでしょう?」
芳村「さぁ、どうだろうね。」
カランコロンカラーン
店内に鳴り響く来店音。わざと床を強く蹴りつけるような歩き方。
「…なにかいやなことでもあったの?…董香ちゃん」
董香「なんでもない!ナナシ!後でコーヒー淹れて部屋持ってきて!」
そういうと彼女は二階の部屋に行ってしまった。
芳村「…また、やっちゃったのかな?」
…そう、僕は名無し。私は名無し。俺は名無し。
自分でもこの名前をひどく気に入っているところがある。
なんだかしっくりくるんだ。
なぜだかね。
この名前は私がここに拾われた次の日に出会った少女が私に名前が無いことを知ったときに、
「じゃあ、あなたは名無しさんだね」
と、そこから始まったものだ。今ではみんなが私をそう呼ぶ。
なんて、思い出にふけりながらマスターに挨拶をし、コーヒーを淹れ運ぶ。
これが今日最後の業務だな。マスターを見送り、戸締りを確認し程よく出たコーヒーを
かわいらしい兎のついたカップに注ぐ。そうして私は早く自らの安寧を手にするため二階にいる、
彼女のもとへ向かった。
-
- 34 : 2015/10/31(土) 18:55:33 :
――――――
董香「だぁ~、わっかんねぇ!」バン!
ナナシ「机たたくな、さっきも教えたでしょ?ここを代入して求めればすぐだよ」
董香「!ああ!なるほど!」
ナナシ「数学は呑み込み早いなぁ…」
少しの沈黙があり、彼女は机から椅子を離して、天井を見上げる。
その後すぐの沈黙。私は彼女の隣でコーヒーをすすりながら本を読みすすめる。
その沈黙はすぐに切り払われる。
董香「…ナナシはさ、頭良いよな。記憶喪失だったとは思えないくらい。」
ナナシ「…そう…だね。」
確かに、自分自身でさえ自分の引き出しの多さに驚くことがあるくらいだ。
先日セメントの成分を客に不意に聞かれ答えられたときは自分でも引いた。
一体、記憶喪失前の私は何をしていたんだろう。
董香「アンタはさ、なんかイライラしたときとかどうしようもないくらいカッてなったとき、
どうしてる?」
こんな質問をしてくるとは、間違いなく何かあったのだ。ついカッとなるようなことが。
とはいえ…
ナナシ「私はまだ一週間しか記憶にないし、特にこれといったものはないかな…」
董香「…読書は違うのか?」
ナナシ「あー…うーん…確かにのめりこんでるときは…嫌なことも忘れてるな…
でも、多分董香ちゃんが言ってるように、ストレスを解消してくれるものとは違うかな?」
長い目で見れば欲を満たして、イライラを解消してるんだろうけど、激情型のこの子に、
第一活字が苦手なこの子に読書を進めたところで返ってくるのは、「キモイ」か「うざい」だろう。
董香「あっ…もうこんな時間か。明日も早いし、もう寝るかな」
ナナシ「もういいのかい?」
董香「ああ、今日の授業でやったとこはわかったし、予習もできた。」
ナナシ「そう、よかった。じゃあ、私はこれでお暇するよ。…また明日ね~」
董香「ぁ…」
ナナシ「ん?」
董香「んな!?なんでもない!!」
別れ際の彼女の表情が印象に残った。プイっと顔を背けた先の感情が僕にはまだわからなかっ
た。
-
- 35 : 2015/10/31(土) 18:55:51 :
- 少したって…
バイト仲間が増えました!
名前は「金木研」クン。大学生。私と同じくらいってことは私も大学生か何か?なのかな?
後輩ってなんだかうれしいな!
金木「あ、ナナシさん。これどうすればいいですか?」
ナナシ「あ、あっちの倉庫だったはず」
金木「はーい」
彼は元人間で喰種神代リゼの臓器を移植され、喰種となってしまった特異体。
今じゃ普通の食生活を送れず、かといって人だった時の倫理観から人は食えず。
なんて大変なことになってます。こないだは四方さんとあの仕事に行ったみたい。
頑張れ金木クン!普通に物食えるようになったらお兄さん奮発して、うまいもん食わせてあげる!
あ、喰種だった。
-
- 36 : 2015/10/31(土) 18:56:58 :
――――――
―――それは突然だったんだ。平和な生活を送っているとこれがずっと続くんじゃないかって…
そう思い込んでしまっていたんだ。あれは私がここにきて二か月ほどのこと。
―――絶望が突然やってきた。
その日も平凡で何も変わらない日だった。金木君が大学へ行ってる間、少ない客の相手をしながら、
彼と高槻泉の小説の話をするのを待ち遠していた。雨が降り少し憂鬱。いつもの日常。
カランコロンカラーン
いつも通りの来店音。変わるはずがない日常。いや、変わってほしくなかった日常。
そこにいたのは滴を溢す少女。それを慰めるようにしてそばに寄り添う金木研。
雛実「グスッ…ひぐ…ぅう…」
ナナシ「雛…実、ちゃん?」
その顔を見た途端だった。私の心は悲鳴を上げた。リョーコさんの姿が見えない。
それどころじゃない。雛実ちゃんから金木クンからリョーコさんの血の臭いがする。
私は逃げるようにして二階へ駆け上がった。
マスターに呼び止められたかもしれない。でも、その声は耳に遠く届きはしなかった。
制服を乱雑に脱ぎ捨て目立たない服に着替え、窓を開け放ち近くの電信柱へ飛び立つ。
人に見られることなどお構いなしだ。ビルの谷を縫い、雨にかき消される臭いを手繰る。
――――
リョーコ「雛実?ダメよ。そんなふうにいっちゃあ」
リョーコ「気に入ったの?そう…それなら…いいのだけれど」
―――――
はたから見ればどんなに無様で滑稽な顔をしていたのだろう。
そして、――---
一番臭いが濃くなった場所を嗅ぎ当てた。
強烈な血の臭いと、あのやさしい香り、そして興奮気味に息を吐く野次馬。
―――――
リョーコ「ふふ…息子が一人増えたみたい」
リョーコ「いいこいいこ。なぁーんてね?」
――――――
私はその場に座り込んだ。茫然と、雨の静寂。雨によって排水溝に汚い水と一緒になって流されていく、
赤い水たまり。どうにも、それが無性に愛おしくて、狂わしくて、稚拙にもったいなくて、あの人の存在があった確証がほしくて。
私は私の涙が雨に流され続けるのを、目は空でじっとしているほかなかった。
董香「…クソッ、ナナシのやつこんな時にどこ行きやがっ…」
董香は自分がマスターに借りている部屋の隣、つまり、ナナシの部屋のドアを乱暴に開ける。
董香は自身が出そうとした言葉の末端を最後まで出し切ることができなかった。
なぜならそこには、大きく目を開いたまま唖然として立ち尽くすびしょ濡れのナナシの姿があった。
董香「おっ…おい…か、帰ってたなら声かけるくらいしたらど…」
――――
リョーコ「ふふっ…―――雛実のことを…おねがいね?
ナナシ「あはははははははははははははははははははははははははははははははは――――――――」
――――お願い?ああ、ああ。どうしろというんだ。
貴方にもらった以外の母の記憶のない私に…代わりになれとでもいうのか?
その言葉の意味を…
――――――――――――――おしえてください
哀哭に似た笑いが部屋に大きく木霊する。その狂気の叫びを董香は黙って見ているしかなかった。
――――最後にポツリ
『リョーコさん』
それだけ言うと、彼は膝を崩したようにして床に座り込む。
その目は大きく見開かれたままであり、目尻から大粒の涙が溢れ、零れ落ちる。
その時のナナシは董香にとってどんなふうに見えていたのだろう。董香はどんな思いでナナシを見ていた
のだろう?
董香は床に崩れ落ちたナナシの肩をそっと抱きしめ、それ以上は何も言わなかった。
-
- 37 : 2015/10/31(土) 18:57:24 :
- それから、雛実ちゃんとよく話すようになった。
金木クンと私とで言葉を教えながら小説を読んだり、古間さんや入見さんと喰種の話をしたり。
実はそれ以外はぼーっとしていることが多くなった。董香ちゃんは捜査官に復讐してやるって、悔しそう
に、苦しそうに私に呟いた。
金木クンも思うところがあったようで、店の中の雰囲気は暗い。
そんな雰囲気を変えてくれそうな話題があった。マスターが私を見かねてか、遊園地のチケットをみんな
に都合してくれた。
目的の遊園地まではもう少し時間がある。董香と金木、ナナシは偶然にも三か月前のことを思い出してい
た。
自失気味なまま仲睦まじい母子を見送る。
ナナシが最初に雛実に、リョーコさんに出会ったときのこと。
店の仕事も板についてきてコーヒーを淹れられるようになった時のこと、
リョーコさんがナナシにアドバイスしていた。
『――――大事な人を思いながら淹れるとおいしく淹れられるわよ』
リョーコさんはからかい半分で言ったのかもしれない。
しかしその後、リョーコさんに向かって
『リョーコさんのことを思って淹れました。おいしくできてるといいのですが―――』
ちょっと突然すぎてリョーコさんは驚いた顔をしていたけれど、
『ん…おいしいわ。…ありがと』
そういって少し困ったように笑った。
二人が帰る姿を見て、最初に見た背中と同じ日常を見て、ナナシは芳村さんにこう言った。
『うわー…いいなぁ。ねぇ、マスター。私がいるってことは私にもお母さんがいるんですよね?
私にも、あんなふうに幸せそうに笑いかけてくれるお母さん。いますかねぇ?』にこっ
その場にいた全員が納得した。てっきりリョーコさんをそういう目で見てるんじゃないかと、
そんな考えがよぎった人も若干いたようだが、ナナシは羨ましかったのだ。
空っぽな心に母の愛。
芳村「うん、うん。そうだね。うん」
芳村さんはそのあと何度も優しくうなずいていた。
それから、ナナシはよくリョーコさんと話すようになった。
ナナシからしてみれば本物の母のような存在だったのだろう。
実母を失った雛実もそうとうな弱りようだったが、
空の器を満たす母愛、本当の家族のように輪に入っていたナナシも相当のショックを受けていたのだろう。
赫眼が暫く戻らず、赫子も操れなくなるほど不安定な状態に陥っていた。
今ナナシが少しでもマシな状況にあるのは金木や董香をはじめとする「あんていく」の助け合いの心が彼
を支えたからである。
―――本当に感謝してもしきれないな
-
- 38 : 2015/10/31(土) 18:57:50 :
古間「よおし!ついたよみんな」
古間さんが車を止める。20区の魔猿は車も運転できるのか…
雛実「ナナシさん大丈夫?」
ナナシ「へ?」
突然の声にびっくりして顔をあげる。
ルームミラーに映った僕の顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。
ナナシ「あ、ああ、大丈夫。大丈夫!」
金木「無理しないほうが…」
ナナシ「いいんだ。せっかくマスターがみんなのために用意してくれたんだ。
私も混ざらなきゃ損だよね!」
雛実「ナナシさんに命令です。今日一日は私と一緒にいること!」
入見「あら、雛実ちゃんたら…」
董香「ん?雛実はみんなとまわらないのか?」
雛実「そうしたいのは山々なんだけど…やっぱりナナシさんとお話ししたいから…」
董香「雛実…」
金木「董香ちゃん…雛実ちゃんに任せてみよう…」
董香「…まぁ、わかった」
古間「開園直後だからまだすいてるよ?ジェットコースターとか無難なのからまわろっか?」
金木「いいですね!初めてです。絶叫系。」
董香「あの友達とはこねぇの?」
金木「ヒデは好きでよく乗ってたけど、僕は食わず嫌いで遠慮してた」
雛実「さ、ナナシさんは雛実とあっちいこ?」
ナナシ「ん」
入見「わかってるわね?みんな」ひそひそ
董香「もちろんです」ひそひそ
古間「大丈夫、君の鼻があれば見失うことはないだろう。それになんてったって、魔猿もいるからね」ひそひそ
金木「…?」
みんな遊ぶ振りしてついてくる気満々か…
この日は素晴らしい一日となった。とはいっても、激しいものには乗らず、観覧車やコーヒーカップなど、
ゆったりしたものに乗りながら雛実ちゃんと話していただけだが。
私が普段金木クンと話しているような本の話、リョーコさんのこととか?
なんていうか、表現しにくい。言葉にできない。胸が詰まって息ができなくなる。
ただ、帰るときにみんなが二人とも顔色よくなったねって言ってた。ありがとう、みんな。
それから少しして、急に雛実ちゃんがいなくなってしまった。
寝泊まりしていたソファの上には董香ちゃんが与えた新聞だけが残っていた。
どうやら私たちが目を離した隙だったようで、臭いもきれいさっぱり雨にさらわれていた。
通り雨だったのか雨自体はすぐにやんだ。問題は臭いでは負えないことだ。
これじゃあ、いくら三人いるったって効率が悪すぎる。
董香「置いてくよ!」
金木「あ…待って!」
ナナシ「金木クン私も先に行く!マスターの言葉!忘れるなよ」
―――人を食べることも頭に入れておいてねってやつ
金木「え?…ああ!あ、そうだ!…も、もしもし店長―――」
金木(そ、そうだ、助け合い!!店長に掛け合えば増援をくれるかも)
董香ちゃんの後を追いかけ、ビルを垂直に駆け上がる。
董香「アタシはこっち!あんたはあっち!」
ナナシ「了解!見つけたら連絡ね!」
董香「行け!」
雛実ちゃん…いったいどこに!
ダメだ…町の端まで来ちまった。さすがにあの子の脚力じゃこの短時間(と、願いたい)でこんなところ
までは来れないだろう?多分。
落ち着け、全身の感覚を研ぎ澄ませ。わずかな臭いを、音を、探し当てる!
目をつむり息を深く吸い込む、少し上がった呼吸を整え全身の神経を研ぎ澄ませる。
少しづつ意識が飲まれていく。
異常を否定する日常に、あの幸せを元に戻したい欲望に。
?あれ?この臭い?なん…で?
―――リョーコさん?
少しづつではあるものの、間違いなく、確実に黒い感情の沼は足裏から徐々に上りつめていた。
――金木サイド
亜門「わかりました!すぐにそっちに…」
金木「そ、捜査官!?なんでこんなところに…!」
――董香サイド
董香「雛実?こんなところにいた…」
雛実「…」
董香「さ、帰ろう?こんなところにいたら…」
雛実「どこにいたって一緒だよ…どこにいたって殺されるんだ」
董香「雛実…」
雛実「どこに行ってもお母さんを殺した人たちが追ってくるんだ!」
董香「!?雛実!?…あんた何もって…?」
雛実「…お母…さ…んの…」
董香「!?」
雛実「喰種は…生きてちゃいけないの?なんで…」
董香「…私が守る。殺させない、絶対に約束する。
喰種が生きてもいいのかなんて私にはわからない。でも、きっと何か意味があるはずよ」
雛実「………うん」
―――とりあえず、二人に連絡を…
董香「金木?うん、雛実見つかったよ。え?うん重原小の…」
ゆらぁ
絶望の影が色濃く橋下の光に映し出される
-
- 39 : 2015/10/31(土) 18:58:14 :
- 真戸「反吐が出る。化け物の分際で穏やかな暮らしを望もうなどと。」
――――ぎりりっ
真戸「そうそう、『贈り物』は気に入ってもらえたかな?母親と離れて寂しいと思ってねぇ!
まんまと引っかかりおって!ククク!」カチリ
董香「テメェ!」
雛実「…!」
ギャリリリリリリリ――――
真戸「そうら!!」
董香「!」
大きな細胞を継ぎ合せたような尾が大きめのスーツケースから飛び出した。尾はよじれ一直線に董香と雛実を狙っている。
グザッ―――ギリリ――
まっすぐと伸びたそれは黒色の翼によって削り遮られた。
真戸「んん~?誰だァ?」
ナナシ「ブツブツブツブツ―――」ジロ
董香「な、ナナ…――
――ドォン
腰から伸びたずぶとい爪が地面を一度たたきえぐり、闇の指す橋下に揺らぐ。
真戸「良質なカグネだ…が、バカな奴だ!わざわざ割って入ってこなければ今日に死ぬことはなかっただ
ろうに!」ブンッ
もう一度のばされた尾は大きくしなり同じくそこを狙いたたきつけられた。
―――が、ナナシに届く前に大きな爪に巻きとられ、固定されてしまう。
そのすぐ後に勢いよく尾を奥の方に投げ飛ばす。その勢いは凄まじく、遠くにいたはずの持ち手も同様に
壁にたたきつけられる。
真戸「ぐはッ――――ククク…アハハ!イイぃ!欲しい!欲しいぞその赫子ェ!」
董香「お、おいナナシ!何とかい―――」
ナナシ「ココカココカカラリリホジイリリリョーコサンヒィィイノニオイガガガイイイイスルギュィ」ピキピキ
董香「ひっ…」
肩を引き寄せ顔をこちらに向けた…のだが、目があるべき部分は黒い骨格で覆われており、
四つの赫眼が片側だけギョロリと覗かせていた。
ナナシ「ボトムゥオオオオッマエハモウダマッテロォオオ?120エンノオカエシィィィ!!」
董香はその異様さに体をのけぞらせ離れる。
ナナシ「ウフフドコォハハハココハクライヨオオオヒヒヒメガメメメメメガガガガァアアヨッツツツウツッツゥゥ?」グリン
真戸「最高に狂ってるねェ!ハッ!」グイッ
同じくして尾を振りかざしナナシに狙いをつける。が、狙っていた場所にナナシはおらず、腰から伸びる
爪を二本に増やし、柱が並び立つ地下空間を自由自在に飛び回っていた。
ナナシ「アハハハハハハァ!コーヒーイレマスネェ!オイシイデショウ?アハハカカカグネェデヤツザキキキ!!」
真戸「チィ!早い!?こうなったら…」カチッ
董香「もう一個!?」
グオゥァ!
純白の花弁が開く。羽を広げた蝶のように堂々としていた。
――――それは
-
- 40 : 2015/10/31(土) 18:58:49 :
- ピタッ!!!!
雛実「ああッ!?うああああああああああ――――」
真戸「見覚えあるだろう?お前の母親だァ!!!」
雛実「いやぁぁぁああああああ!」
真戸「ハーハッハッハ!!!」
―――!!
董香「オイ!?ナナシ!?」
ナナシは大きく翼を広げたような白いクインケの前に立ち尽くしていた。
自身の赫子はそのクインケの寸歩前でぴったりと止まっており動く気配はまるで無い。
真戸「親子の感動の再開なんだ!邪魔者は眠っていなさい!」ブンッ
ナナシはその一撃をガードするもこともなく、受け入れる。肉が削げ、骨が折れる音がする。
―――ドォォォン
肉塊と化し壁にへばりついたナナシの身体だったものは、再生する気配すらも見せない。
雛実「いやぁ…いやぁぁ!!」
董香「お、落ち着け雛実!クソッ…ナナシ…――マジで死んじまったのか!?」
真戸「よそ見してる場合かラビットォォォォ!!!」
董香「!?――-----ぐあっッ!!」
ズドン、董香の腹を貫通した尾が柱に勢いよく董香を磔にする。
雛実「お姉ちゃん!!」
真戸「笛口の娘もこっちのほうが幸せだろう!!家族は一緒にいるべきだ!!」
董香「チク…ショウ――」
―――カネ…キ…
真戸が雛実にクインケを振りかざそうとした、まさにその瞬間だった。
振り上げたクインケが、腕が、宙に放り出される。
真戸(!?なんだ?クインケがはじかれた?いや、腕ごと…だと?)
真戸「ナナシクゥ~ン?君かいぃ?」
真戸がナナシを吹き飛ばし、肉片が散らばっていたであろう場所には紅く輝く八つの目玉がとぐろを巻い
ていた。
ナナシ「シューーーーーー」
真戸「なんだあれは…
ああ、赫者!赫者!忌まわしき梟と同じ!だが赫者のクインケがあれば、梟への報復…その価値無限大!!!欲しい!笛口の娘も!ナナシ!貴様もォ!!!」ブンッ!!
またしてもクインケをふるった場所にナナシはいなかった。
大きな音を立てて河岸のほうに着地した、それ、は人の原型をとどめておらず、きょろきょろと蠢く二列
に並んだ八つの目と、大きく膨らんだ腹(?)がより一層心理への恐怖を掻き立てる。
そこにいたのは、蜘蛛。直径約5mはあるであろう大蜘蛛がそこにいた。
真戸「おおおおおおおォォォォ!!!」ブゥン!!
二つの大型クインケを無駄なく振り回す。その体捌きはもはや特等以上の実力に見える。
必要最小限の動き、一進一退の攻防、あまりの激しい戦いに董香も雛実もあっけにとられていた。
自分と同じ喰種の変化した姿。いつものような笑顔と知性はどこにも感じられず、毒々しく恐ろしい。恐
怖だけが見るものを支配していた。
そして人間でありながら喰種の力を満遍なく使いこなす捜査官。この男の集中力と執念には気圧されるも
のがある。OCGの死神さえもこの間に入ろうなんては思いもしないだろう。
董香「捜査官のほう…片腕がないのに…なんであんなに…」
雛実「きっと…お姉ちゃんと同じだよ…」
雛実は小さな声ではなしだす。
董香「…誰があんな奴と!!」
雛実「同じだよ!私も…ナナシさんもお兄ちゃんも…失くしたくないもののために…」
―――――お父さん…
董香「…じゃあ、リョーコさんも。リョーコさんも雛実のためにああやって戦ってくれたんだ…」
雛実は目に大粒の涙をためながらゆっくりとうなずく。
雛実「私たちが人間で、出会い方が違えば…ちゃんとわかり合えたのかな…」
橋下に響く衝突音。激しい火花を散らしながらそれぞれの武器をそれぞれの理由で振り下ろす。
全ては愛する者のために――――
真戸「貰った!!」
不意に決まった不可視の位置からの一撃が蜘蛛の腹をとらえる。
真戸「笛口 一は扱いが難しい分、トリッキーな動きで敵を翻弄しながら死角からの攻撃が可能。
データをとることもできた。貴様のクインケをもらうとともにと礼を言うぞ!ナナシクゥ~ン!!!」
尾のクインケが勢いよく蜘蛛の頭まで駆け抜ける。
引き裂かれた腹からは、血なのか赤い液体、いや、気体が勢いよく噴出している。
真戸「…?」
董香(なんだろう…この霧、少し心地よい感じが…)
雛実「うあっ!」
董香「雛実!?」
真戸「!」
雛実「赫子が…!?勝手に?」
真戸「ほう…?父と母の形質を両方受け継いだようだな。うむ、間違いなくイイ赫子だ。
今日はいい日だ。素晴らしいクインケが三つも手に入るなんt…」
言いかけた真戸の背中には、今にも折れてしまいそうなか細い爪が深々と突き刺さっていた。
董香「え?」
雛実をかばう体勢でいた董香は突然のことにぎょっとする。
ナナシ「…チッ…頭が痛いです。割れそうです。」パラパラ
-
- 41 : 2015/10/31(土) 18:59:20 :
- ナナシ「…チッ…頭が痛いです。割れそうです。」パラパラ
そういった顔から、格は剥げ落ちていき、いつもの彼の顔が覗く。
真戸「フフ…本当にとんでもない回復力だな…敵ながら尊敬に値する。だからこそほし―――」
ナナシ「ねぇ、取引しませんか?」
董香「な!?」
真戸「くっくっく、気でも狂ったのか?さすがの私も喰種の医者は知らんぞ」
董香「あんたバカか!大体ここで見逃したって私等の姿はばれてるんだぞ!」
ナナシ「アンタは梟にどうやら固執している。そこで梟の情報を提供してやる代わりに俺たちを見逃さな
か?」
真戸「君たちは何かを勘違いしていないか?確かに私は梟を憎んでいる!すぐにでも殺してやりたい!だが、それ以前に私は喰種捜査官だ!市民が危険にさらされる可能性があるやつを放っておけるか!」
董香「それみろ知ったことか。今すぐそいつを殺―――」ギリリりりっ――!
ナナシ「やめてくれ。俺は今赫子を出せない。」
董香「はぁ!?」
真戸「?どういうことだね
先ほどの戦いぶりから見るにガス欠なんてのはありえんだろう?」
ナナシ「さっき、蜘蛛の腹から赤い霧が噴出されたろ?あれは俺がためていたRc細胞だ。
アンタの一撃がうまいところに入ったみたいでな、ほとんど抜けちまった。その上、赫胞も傷ついたっぽ
い。敵ながらあっぱれさんだよ。」
董香「まさか!私の傷の治りも雛実の赫子も!?」
ナナシ「ああ、多分な。俺が噴出したRc細胞だろ。クインケのほうも軋みはしゃいでるみたいだ。
しかもこないだ分かったんだが、俺は食ったものを消化でRc細胞に変えられるみたいだ。」
真戸「おもしろい!!その赫子欲しい!というか研究者として実験したい!」
ナナシ「それに、俺はリョーコさんを殺したこの男の命を、背負う気にならない」
真戸「後悔するぞ。敵は減らせるときに減らしておかないと!」
董香「お前にやる気がなくてもアタシが―――雛実のことを守らなきゃ!!」
ナナシ「腕もくっつけてやる。情報は随時送ってやる。20区にある喫茶店。呼び出したらそこに来い。」
董香「まさか――」
ナナシ「いや、そこじゃない」
董香「…」プイ
真戸「おいおい、まだ私が受けると決めたわけじゃないぞ…」
ナナシ「あんたは自分の命より自分の愛を優先する人間に見えた。ただそれだけだ。…娘が
若い娘がいるんだろ…?臭いがする。心配かけんなよ?」
真戸「喰種ごときが人間らしいセリフを吐く」
ナナシ「お前も人間にしちゃあずいぶんらしくないセリフを吐く」
二人「フフフふふふ…クハハハハハ!!」
董香「…なんであの二人、意気投合してるの?」
雛実「心の部分は一緒なんだよ!きっと」
真戸「笛口の娘。」
雛実「ふぇ!?」
真戸「悪かったな。今言った通り私には娘がいる。お前が親を失った悲しみは、私はわかるつもりだ。」
雛実「は、はぁ」
真戸「喰種に許してくれとは言わん。ただ、正義のもとであれ相手が悪であれ、笛口はお前のことを、そ
の妻も、最後までお前のことを愛していたぞ」
雛実「――――!!!!」
真戸「さぁ、今回は見逃してやる!行くがいいさ!」
ナナシ「連絡先はこちらに」
真戸「ああ?ああ、しっかり持って来いよ!」
董香「…なんだよ見逃してやったのはこっちだっつーの」
董香(なんか捜査官が雛実に謝ったせいで殺すタイミング失った…)
真戸「フン!私は捜査官だからな!」
董香「あっそ!」プイ
-
- 42 : 2015/10/31(土) 18:59:31 :
――――――――
亜門「真戸さん!…こ、これは」
真戸「いやぁ~、ひどい目にあった。」
亜門「よかったご無事で!!」
真戸「世の中には不思議な喰種もいるもんだねぇ…」
亜門「は?」
真戸「いや、こっちの話だ。それより、この間の笛口の娘、討伐こそできなかったものの深い傷を与えら
れた。もう脅威とはなりえないだろう。捜査にさかれる時間が惜しい。討伐対象から外しておいてくれたまえ!」
亜門「ええ!?真戸さん!一人でそこまでやったんですか!?さすがです!でも、いんですかね」
真戸「いいんだ。君としても一般人の脅威となりうる喰種を探したほうがいいだろう?」
亜門「確かに、そうですね。…――――――――」
「―――眼帯。お前は――」
真戸「どうかしたかね?亜門君?」
亜門「あ、いえすいません」
―――――――――――
雛実「私、生きてていいのかな?」
董香「あんた何言って…!」
金木「トーカちゃん…―――雛実ちゃん、リョーコさんはあの時雛実ちゃんに生きてって言ったんだと思
うよ」
雛実「…!うん!」
四方「ナナシ、ケン、それにトーカ、よくやった」
ナナシ「えへへ…」
董香「イラっ…四方さんこいつ聞いてくださいよ!捜査官と―――
―――――
ああ、またあの日常が戻ってきた。
あの時の董香ちゃんの表情、雛実ちゃんの涙。そして僕の困惑。
やっとわかった。あの時、寂しかったんだって。
ありがとう。みんな。
ナナシ「董香ちゃん」
董香「な!?なんだよいきなり?」
ナナシ「ごめんね?」
董香「…?…変な奴!」
-
- 43 : 2015/10/31(土) 19:00:17 :
- 私はナナシ。喰種でありながら人の世に身を置く、変わった(?)喰種です。
まぁ、20区では人と友好的な喰種は珍しくもないです。
今私は住み込み先の『あんていく』でお仕事をしています。
ちょうど昼時(人がいっぱい来る時間)が過ぎ、後来るのは常連さんか、大体が喰種となる時間帯です。
この時間になると私はシフト交代で学校から帰ってきた二人。董香ちゃんと金木クンに代わってもらいま
す。
ここから私は二階に上がり、雛実ちゃんがいる董香ちゃんの部屋に向かいます。
あ、本人に許可は取ってますよ?
―――コンコン
ナナシ「雛実ちゃん?はいるよ?」
雛実「あ、はーい」
ガチャリ
ナナシ「ふぅー、お疲れ様。今日も本読んでたの?」
雛実「お疲れ様です。はい!今日はお兄ちゃんから借りた高槻泉の新作を…」
ナナシ「あーいいねぇ。でもたまには外に出て体動かしたくならない?」
雛実「…うーん?たまに思うけど…その、ほら。」
ナナシ「あー、大丈夫だと思うよ?」
雛実「でも、お姉ちゃんはあの人たちは怖い人たちだから信用しちゃダメだって…」
ナナシ「うー、そうだねぇ。でも、たまにはお外…あ!」
雛実「ナナシさんどうして雛実をそんなに外に出したがるの?」
ナナシ「うーん、なんでって言われてもね?本を読むのは楽しいけど、実際に目にして手に取って感じて
ほしいから、かな?」
金木「百聞は一見にしかずってわけですね!」
ナナシ「うわっ!?いつからそこに?」
金木「董香ちゃんに言われて、コーヒー持っていけって」
雛実「あ、ありがとう!」
ナナシ「あ、ああ、金木はどっか、室内スポーツができるところとか知らないか?」
金木「え?ええ?そ、そうだな…僕はスポーツ全然ダメだからあんまりいかないんだよな…
あ、僕の友達のヒデだったら知ってるかも!」
ナナシ「ああ、あの子ね!…でも、あんまスポーツやる風には見えなかったけど?」
金木「ヒデは人当たりがいいから。たぶん、みんなで遊べそうな場所よく知ってると思うよ。」
ナナシ「なるほど、じゃあ、私が話しかけるのは明らかに怪しまれるから、聞いてくれ」
金木「いいですよ。んじゃ、またね雛実ちゃん」
雛実「うん!」
ナナシ「雛実ちゃんは外出るの嫌?」
雛実「ううん…そんなことないよ。ちょっと怖いけど」
ナナシ「大丈夫私がついてるから!」
雛実「赫子、元に戻ったの?」
ナナシ「あはは…」
雛実「でも、ナナシさんが大丈夫って言ってくれるなら大丈夫か…な?私もあの人のこと信じてみる。」
ナナシ「…!そっか、じゃあ、今週の日曜日は開けといてね?」
ドタドタ
ガチャ――
董香「おい、クソグルメが来てった」
ナナシ「?だれ?」
雛実「?」
董香「ああ?ああ、知らないのか。20区の厄介者だ。なんか金木の臭いを嗅いで帰ってった。」
ナナシ「そこだけ聞くとえらく変態に聞こえるんだが」
董香「そこ以外を聞いてもえらく変態よ」
雛実「変態さん?」
董香「とにかく!金木がなんか襲われそうなら助けてあげて!あんたも気をつけなさい。」
雛実「ナナシさんは人のご飯が食べられるから喰種のグルメが聞いたらうらやましがるね!」
ナナシ「雛実ちゃん、あんまりそれ人前…喰種前で言わないでね?」
雛実「え?…うん」
それにしてもグルメ…ああ、美食屋か。金木クンが来た時期から活動が活発になってきたって…
私には関係ないか…
-
- 44 : 2015/10/31(土) 19:00:32 :
~日曜日~
ナナシ「それ!」かこーん
雛実「えい!」すぱーん
ナナシ「わわっ!角度えぐい!」ずざっ
雛実「やった!」ぐっ
20区にある総合体育館。私たちは古間さんと入見さんをつれて四人できています。
今は卓球をやってます。古間さんと入見さんはどうやら外のテニスコートでテニスしているみたい。
入見さんのテニスウェア姿がたまりませんな!
雛実「ナナシお兄ちゃん!何かおかしなこと考えてたでしょ!」ほっぺたつねつね
ナナシ「い…いひゃいよ…もう、おかしなことってなんなのさ!」
雛実「え!?そ、それは…その…えっt
ナナシ「ふふ…雛実ちゃん。その先は許さないよ。」
雛実「アッハイ」
~~~~~
カヤ「行くわよ!」パコン!
古間「早い!」ポンッ
カヤ「全然ダメね!」スマッシュ!!
古間「うおおおおおおおっ!?」
ガットから放たれたボールはとてつもない勢いで古間さんの足元に着弾し、人工芝のコートにその爪痕を
残した。
古間「ひッひえええ…おっそろしいねぇ…君の細い腕のどこからそんなパワーが?」
入見「ふふっ、あ、二人とも戻ってきたのね。」
雛実「入見さん!雛実勝った!」
入見「まぁ…」
ナナシ「あ、あはは…」
入見「じゃあ、今度は私に付き合ってもらおうかしら?」
ナナシ「へ?」
古間「さ、雛実ちゃん、僕らはそっちによけようか」
雛実「ナナシお兄ちゃんテニスやるの?がんばって!」
天使や!
古間「The best of 1set match 入見 is serving. Play!」
入見「行くわよ!!!」ギラッ
古間さん本格派なんですね
ナナシ「おお、入見さんの目に熱がこもってる…」
天蓋に輝く太陽に向けてボールを真上に無回転で高く揚げる。
足全体を使ってボールに向かって大きく飛び上がり、ボールをその溢れんばかりの勢いで叩き込んだ。
ナナシ「はや<<<スパンッ!!>>>
後ろのフェンスにギュリギュリと、音を立ててのめり込むボール。
たまヒュンものですわ。
古間「15‐Love」
雛実「早い!!」キラキラ
入見「私のサーブは300㌔ちかいわよ?」
ナナシ「リニアモーターカーかよ…!!」
入見「さ、もう一球!!」ばしゅん!!
ナナシ「うわッ!!」ドタン!ギュルギュル――
古間「30-Love」
入見「ふふ…ナナシ君相手なら手加減はいらないわね!」
雛実「お兄ちゃん頑張れ!!」
入見「さぁ!まだまだ行くわよ!」
―――
古間「Game 入見 1games to Love 入見 reeding chenge coat!」
ナナシ「くッ…返せない…」
入見「さぁ…あなたの番よ?どんどん攻めてきなさい!」
…とはいっても、初めてやる(たぶん)スポーツに体が動いてくれるのか…?
フィーリングだ!
ナナシ「スゥ―――…ハァー――…」
古間「バーストブリージングを始めた…?」
雛実「え?なんですかそれ?」
古間「ロシアという国の屈強な戦士たちが心得ていた呼吸法だよ。
ああやって呼吸することで負荷の回復を早めるんだ。」
雛実「…?テニスで使うの?」
古間「呼吸法はなんにでも使えるもんだよ(過言)」
ナナシ「いきます!」
-
- 45 : 2015/10/31(土) 19:01:55 :
- ギュルルルルルルルルルル―――――
コートの白線上に凄まじい回転でバウンドしないボールが一つ。
雛実「!?」
ナナシ「…ふふ。審判?」
古間「ふぃ…15‐Love…!」
入見「ま、まさか…なんてこと…!」
雛実「ぜ、零式サーブ…?」
ナナシ「さぁ…もういっぱついきますよ」タァン!
入見「うあっ…」ギュルルルルルル!!
古間「30-Love」
雛実「…なんで打てるの?」
ナナシ「喰種ってスゲー(小並感)」
入見「…なんて子。初体験でお姉さんを出し抜こうなんて…」
古間「なんかエr」
ナナシ・入見「それ以上言ったら潰す(ナニを)」
古間「あっはい」
入見(それにしても…まさか某テニヌみたいなショットを打ってくるなんて…でも、零式なら…)
入見はコートの前衛に躍り出た。
雛実「あ、あんなに前に出たら…当たっちゃうよ!?」
ナナシ(…確かに零式のもっとも恐ろしいところはバウンドしないショット。しかし、ノーバンで返したからといってその回転が消えるわけじゃない…)
入見(おそらく頑張っても上にはじくのが限界…でも、サーブさえ返せれば…!)
古間(とはいえ…あの勢いのサーブを直で返すのは勇気と…それなりの実力がいる…)
入見(喰種の動体視力!舐めないでちょうだい!!)
タァン!
入見「ハァッ!!」バッ!
古間「返した!」
雛実「でもあれじゃ…」
入見(そう、スマッシュのいい的ね…でも、)
ナナシ「!?」
ナナシ(早くもあの人後ろに下がって前傾姿勢をとってる…)
古間「あの構えなら!スマッシュが来ても前に球を落とされても拾える!」
雛実「…じゃ◌かる桑原」
ナナシ「そんな位置にいられちゃ…仕方ないですね」トンッ
入見(スマッシュ!!)
ナナシ「俺様の美技に酔いな!」ダォッン!!
入見「なっ!?」ガァン―――カランカランッ!
雛実「跡部〇吾!!」ピー
撃ち出された弾丸は入見の手に収まっていたラケットを的確にはじき、高くバウンドする。
そこを一気に―――――
ナナシ「破滅への輪舞曲(ロンド)!!」ダァン!
勢いよくコートにたたきつけられた球はバウンドしフェンスに衝突した。
-
- 46 : 2015/10/31(土) 19:02:54 :
- ―――――――
――――――――――
古間「Game set won by ナナシ six games to two」
ナナシ「ありがとうございました!」
入見「…あ、ありがとうございました」ぷいっ
入見(初心者に負けるなんて…しかもこんな、こんな)涙目
ナナシ(かわい雛実(おにいちゃん?)こいつ直接脳内に!!」
カァー カァー
勝負が終わるころにはもうお日様は傾いていて、
夕日が四人の横顔を赤く照らしているころだった。
雛実「なんでテニスできるの?」
ナナシ「え?なんでだろうね…過去の私はテニスもできるのか」
古間「君の過去がどんどんわからなくなるね」
古間「みんな忘れ物はないかい?」
雛実「大丈夫だよ!」
入見「うぅ…」
ナナシ「入見先輩…なんかすいません」
入見「ふんッ…いいもんいいもん」
古間「ははっ…」
入見「笑ったわね!!あなたも一度やってみるといいわ!!お猿さんに向いたスポーツ…」
雛実「ゲートボール?」
古間「おじいちゃん!?」
ナナシ「マスターならゴルフやってそう」
雛実「あー…確かに想像できるね…」
お月様が顔を出す。夜のとばりが落ち始めたころ…
ナナシ「…」
入見「あら?どうかしたのかしら?」
ナナシ「二人は雛実ちゃんを連れて先に店に戻ってください。用事ができました。」
入見「用事?」
ナナシ「ええ、では。」
古間「ああ、まちたまえ!」
雛実「どうしたんだろいったい?」
-
- 47 : 2015/10/31(土) 19:03:21 :
- ―――――
喰種レストラン
――たくさんの喰種の臭い…それに混じって金木クンの臭いがする。
そこから導き出される答えは一つ。彼は喰種の立場に立とうとしてこそいるが、全員が全員人間との共生
を望まない、人をただの食料として見れない喰種もいる。
つまり彼は捕まえられた、と考えるのが自然だな。彼が不用意に喰種に接近するとは思わない。
し、『あんていく』に来る客であれば捜査官とタイマンした喰種とわかっているはずだ。
ならば外部犯行。―――――…いけるか?赫子無しでも…
まずは見つからずに入ることから始めなきゃ。
大通から見えにくい位置にいりぐちがあり、そこには仮面をつけ、スーツに身を包んだ男が立っている。
ナナシ「…?なんかのお店?」
‐喰種レストラン‐
喰種客「せっ…隻眼…ひぃいいい」ざわざわ
店の中騒乱が巻き起こっていた。
今日もいつも通り食事をするために入った人たちに大きな動揺が走る。
数年前、喰種捜査官、その他喰種達にも恐怖を植え付けた災厄・隻眼の梟
その伝説ともうたわれた隻眼がたった今目の前に現れたのだ。
梟とは違うが隻眼なのだ。10年前の恐怖。
月山<<<<隻眼…美味…珍味……独り占めしたい!!>>>>
金木「…くあっ……や、め」
マダムA「やってしまいなさい、タロちゃん!!」
タロちゃん「ママぁ…!!」
刹那、月山はタロちゃんの身体を引き裂いていた。
月山の美食への欲求が彼の身体を動かした。
マダムAが悲鳴を上げる。自分の飼いビトを平然と八つ裂きにされ、そのうえ代わりを用意する手筈まで
整えられ悲しそうな悔しそうな顔をする。
月山「ちょっとハードだったけど、忘れてくれないかな」
バキン
月山「!?」
ナナシ「ファ!?」
ナナシ「ファァァァぁああああああ―――――――!!≪ガンッ≫痛デッ」
月山「!?なんだいキミは!」
突然の来訪者に驚く。
月山「来訪者というより、屋根ぶち破って入ってくるところを見ると野蛮人だね」
ナナシ「…いや、入りたくて入ったんじゃなくて落とされたんですが」
入口にいた喰種「M.M様!侵入者でございます!!」
月山「ああ?ああ、たった今発見したよ」
金木「ナ…ナシさん?」
ナナシ「あ、いたいた。かえろーぜぃ?」
金木「どうし…てここが?」
ナナシ「私の鼻をなめないでおくれよ」
月山「フゥン…金木クンのお友達かぃ?」
ナナシ「そういうあなたは……?」
月山「ふふ、名乗るほどのものじゃ金木「月山習さんだよ」金木クゥン!!」
ナナシ「月山?へぇ、よろしく。血濡れの君」
月山「ああ?失礼。」
喰種客「え、M.M氏…」
月山「ん?ああ、どうぞ召し上がれ!私は少し用ができたから、彼らと帰るとするよ」
ナナシ「おおおおおお!アレ全部喰種!?いっぱいいる!」
月山「なんだいキミは。別に珍しくもないだろう?」
ナナシ「ん~、食料がいっぱい!」
客「ざわざわ」
月山「き、君は同種を好んで食うのかい?変わってるねぇ」
金木(喰種が喰種を食べると不味い。人間の食べ物ほどではないが、人間と比べるとおいしくない。
まぁ、聞いた話だけど)
月山「面白い、おmナナシ「というか、喰種しか食べない」!?」
金木「確かにナナシさん人食べてるの見たことないな…」
ナナシ「私は君たちと違って人の肉を食べなくても、普通の食べ物を食べれるし、Rcも摂取できる」
金木「ナナシさんほどの力ならより人間に遠くて人以外は食べれそうにないのに」
月山「そういうものじゃNothing。喰種の舌の作りが違うから食べ物が不味く感じるのであって、Rcの違いで差はないはずだよ。」
ナナシ「え?そうなの?まぁ、一周廻って舌がバカになったのかもね」
月山「人間の食事がとれるなんて…Jaloux!!(羨ましい)」
ナナシ「…金木クンが歩けないみたいだけど…何をしてたのかな?かなぁ?」
ナナシが月山を睨みつける。
月山「いやいや、ちょっとした余興のつもりだったんだよ」
金木「月山さん…」
ナナシ「その割にクインケまで用意されて…他の人間はそれぞれ殺されているし、金木クンを殺して食お
うとしていたのは火を見るより明らかだろ?」
そういうナナシからは紅く光を反射する黒色の翼が生えてくる。
金木「な、ナナシさん…だめです…ここじゃ…」
喰種客「なんだ?」
喰種客「早く食べたいのに…」
喰種客「M.M氏!悪いが行くなら早く、早くしてくれ」
-
- 48 : 2015/10/31(土) 19:03:41 :
- ナナシ「金木クンが嫌ならここでの戦闘はやめる。が、月山さん?だっけ?がこれから金木クンにちょっ
かい出すならここで潰すけど?」
月山「フフッ…この量の喰種を前にそのセリフが言えるとは!Calmato!」
金木「…あれ?それに赫子出せなくなったんじゃ!?」
月山「なに?出せなくなった?強い喰種と縄張り争いでもしたのかい?」
ナナシ「CCGだ」
月山「?白鳩?階級は?」
ナナシ「…上等捜査官」
月山「ぷ…あははは…ああ、すまない。上等捜査官に手間取るような喰種がこの月山習に戦いを挑もうなどと!!」
金木(美食屋・月山さんはSレートだっけ?上等捜査官は…?あれ、でもSレートだよな)
月山(…おそらく彼の実力は多く見てSレートってところだろう。
上等捜査官に赫子が出せなくなるまで追い詰められたなら、僕を殺すことは不可能に近い!!)
金木(ナナシさんがどれだけ強いかわかんないけど董香ちゃんが言ってたな…羽赫は甲赫に強い)
月山(彼の赫子は羽赫…そして甲赫の僕が負けるわけがない…)
二人とも睨みあったままじりじりと間合いを取る。
そして、二人は誰かが音頭をとっていたわけでもないのに同時のタイミングで動いた。
金木(…月山さんの赫子は…!!甲赫!?あ、相性が悪い!!)
月山「Calmato!」
ナナシは距離をとるために後ろにとび下がり、月山は甲赫の防御力を利用し近接に持ち込むべく前に飛び
出た。
金木(…月山さんは赫子を使った戦術を理解している…相性もあるけどやっぱりこの場所じゃ不利だ…)
喰種客「M.M氏が戦うみたいだぞ!」
喰種客「なんだ?喧嘩か?」
喰種客「そいつも食っていいのか!」
喰種客「M.M氏の華麗な戦いが見れるぞ!!」
金木(…僕が割って入るべきか?)
目の前ではナナシが後ろに下がりながら羽赫で猛烈な雨のような連撃を叩きつけている。
そして、前進しながらその攻撃を真正面から喰らいながらも甲赫で弾いている。
ナナシ(…なんで赫子が出るんだろう?間違いなく真戸との戦闘で絶対赫胞に傷がついてRc細胞が霧散し
たはず…赫胞は一つじゃないのか?)
月山(…赫子がおかしい?なんというか…定着している時間が短い感じが…その辺の雑魚なら気づかない
ような違和感。僕にはわかる…
赫子は四つの工程をサイクルとする周期により構成され続ける。しかし、今の僕の赫子は―――)
月山「崩壊の一手をたどっている!!」ガキィィィン
月山の甲赫がナナシがガードのために体を覆った黒い翼にぶつかった瞬間――――
――――――腕に巻き付いていた甲赫は音を発して砕け散った。
月山「Oh…しまった!!」
ナナシ「そぉらァ!!」
直後、黒い翼が月山の首筋に突き立てられる―――
が、鋸の刃のようなその鋭い翼が挽かれることはなかった。
月山「…降参だ」
ナナシ「二度と僕の大切な仲間に危害を加えるようなことはないようにお願いしますね?」
月山「…」
尻もちついて座っていた月山の足に羽赫の刃が突き刺さる。
月山「ぐぅあ!」
ナナシ「返事は?」にこっ
月山「わかったよJeunesse(青年)…」
ナナシ「…行こうか、金木クン」
動けない金木クンを抱え、歩いて出口へ向かう。
金木「あ、つ、月山さん!ナナシ「次は…ない」」
そう宣言すると足早に出口に駈け出す。
-
- 49 : 2015/10/31(土) 19:04:06 :
- 四方「まさか本当に月山とコンタクトをとり、レストランまで割り出してしまうとは…」
芳村「店に泊まっていたのかい?」
金木「はい…すみません勝手に」
芳村「いや、いいんだ。それにしてもよく帰ってこれたね…」
金木「いや…まぁ…」
芳村「そのレストランは私や四方君でも中の情報がよくわかってない」
ナナシ「月山って人…信用できないですねー」
四方「あったのか?」
ナナシ「ええ」
金木「…レストランでは…たくさんの喰種がいました。人が殺されるのを喰種達は仮面の中で笑っていま
した」
芳村「…うん」
金木「どうして喰種は人の命を軽視してしまうのでしょう…」
芳村「…君は調理された豚や牛の肉を見て人と同じようにかわいそうと思えるかい?」
金木「…それはちょっと…難しいです」
芳村「喰種もね、人を喰らっているうちに、そうしていかないと生きていけなくなってしまうのさ。
心だけは強く作られていないからね…」
芳村「そうやって生きることになった喰種は”命の価値”を忘れる」
ナナシ「…」
芳村「でも…君が出会った喰種はそんなものだけだったかな?」
ナナシ「!」
四方「…」
金木「!!
…いえ!」
――――
あんていく
金木「?あれ…貴未さん?」
貴未「!!」びくぅ
金木「!どうかしたんですか?」
貴未「あ、あなた!!その…あの…ニシキ君が…」
金木「あ!!あの、ここじゃなんなのでちょっとそt…奥に…」
貴未「!」
――――
あんていく二階
金木(誰も…いないな)
貴未「あの…」
金木「ああ…ど、どうしたんです、か?」
貴未「お願い!!ニシキ君を助けてほしいの!」
金木「!」
貴未「もうコーヒーだけじゃどうしようもなくて!傷も治らなくて…」
金木(…どうしよう。見捨てることは簡単だ…でも、)
金木「貴未さん!僕、みんなに掛け合ってみます!」
貴未「!!」
金木「僕だけじゃできないけど…ほかの人なら何とかできるかも!!」
貴未「ありがとう!金木君!ありがとう!」
――夜
貴未「ああ…神様、どうかニシキ君を助けて…」
謎の月山「君は自分の心配をすべきじゃないかな?」
貴未「!!」
-
- 50 : 2015/10/31(土) 19:04:27 :
金木「さぁて、かえろうかな~♪」
ナナシさんはもう寝ちゃったし、董香ちゃんも雛実ちゃんも部屋に入っちゃった。
戸締りをして、早く帰ってニシキ先輩のために喰種達に掛け合ってみよう…
気は進まないけど…≪ザザッ≫ん?この臭い…
気配を感じあんていくの扉を開ける…そこには―――――
―――一通の手紙にバラが添えられて置かれていた
金木(…こんなことするのは他にいない…)
月山さんからの手紙には確実に貴未さんを誘拐したであろう内容が描かれていた…こりてないな。
ナナシさんに言うべきか…いや、これは僕の戦いだ!貴未さんは僕に会いに来たがために巻き込まれた…
僕がやる…≪ゴンゴン!≫…?店の扉?
金木「は…い?ニシキ先輩!?」
錦「貴未はぁ…?ここにいんだろ!?」
金木「そ、それが…」
――――
錦「クソッ!どうしてこんなことに!」
金木「僕…行きます…必ず貴未さんを助けてきます!だから…」
錦「俺もつれてけ…」
金木「…ニシキ先輩…無茶ですよ」
錦「うっせぇ…」
金木「はぁ…わかりました。行きましょう…」
――――
指定された場所にて
幻想交響曲~♪
錦「貴未ィ!!」
月山「うん~?ニシキ君じゃないか…呼んでいないのに来るなんて…君はいやしい喰種だね…」猫ふんじゃったを弾きながら
金木「もう僕に付きまとうのはやめてください!ってかこの間ナナシさんに言われたばかりですよね!?」
月山「…僕をそうさせているのは君なのだから…」ヒュン
猫ふんじゃったを弾き終えた月山は、素早い足運びで金木までの間合いを詰めると―――
錦の襟をつかみ脇の席のほうに投げつける。
月山「君が責任を取りたまえ!」
金木「…」ササッ
金木はパンチやキックを繰り出すも、簡単によけられてしまう。
月山「幼稚な攻撃だ…これが…本当の拳!」バキィ
月山「そしてこれが…本物の蹴りだぁ!」ドカァ
金木「ぐ、えッ!」
月山「フゥン…まるで駒鳥のようだね…次はどんな攻撃をしてあげよう!」
ザっ…
刹那月山に一撃を打ち込みながら現れた影が割って入りこむ…
『こういうのはどう?
普通の不意打ち』
月山「おや…?これは思わぬ…かすり傷」ぴきぴき
――――
あんていく地下・水道橋付近
ナナシ「…四方さん、私の赫子…どう思います?」バッ
ズガガガガガガガガガガガ―――――
四方「…何とも言えないな。特にそこまでの火力があるわけでもないが…」パラパラ
ナナシ「そうなんですよね…羽赫、遠距離からの攻撃できなくて…」
四方「最大の利点なんだがな…」
ナナシ「ウ゛ッ…それ失ったらもはや羽赫でなくてよくなっちゃいますね…」
四方「ただ…直撃したらレートSSでも耐えきれないな」
ナナシ「黒いほうはそうですね」
あんていくの地下で二人は本気の組手をしながら話をしていた。
四方は大きく片側に羽赫を広げ、ナナシの攻撃を受けかわし、反撃のチャンスを狙っていた。
一方ナナシは、両肩に一対となる白と黒の羽赫を広げ、大量の刃を四方のほうに遊撃的に浴びせ続ける。
四方「お前、赫胞いくつ持ってるんだ?」
ナナシ「…詳しい数はわかりませんがどれも赫者よろしくって感じの力は出せるみたいです」
四方「…化け物…だな」
ナナシ「うっわ!傷つきます!」ダッ
四方「…」バキィ
ナナシ「おっとっと…!?」
四方「…」ズバァ!
どしゃぁ
一瞬のスキで翼を捥がれ四方の赫子によって地面に叩きつけられるナナシ
ナナシ「いてて…降参です」
その言葉を聞くと四方は赫子をしまい、少し離れた場所にコーヒーを取りに行く。
ナナシ「あ、四方さん。傷、治します」
四方「…ああ」
ナナシは白い羽をもう一度だしその刃ひとつを落とし、四方へと突き立てる。
すると、喰種の治癒がその刃の結晶と融合する形で始まり素早く傷をふさぎ癒してしまった。
四方「…Rc細胞を活性化させる力と、Rc細胞を失活させてしまう力…」
ナナシ「けっして威力の高い赫子ではないけど訓練練習なら便利ですね!」
四方(俺は実戦向きだと思うけどな)
四方「そうだな」
ナナシ「…?」
四方「?」
-
- 51 : 2015/10/31(土) 19:04:39 :
―――
時は再び教会、月山指定の場所
董香「ぐあッ!」
金木「うぐぅ!」
錦「アアァァァァアアアア――――」
月山「無駄だよ。昔の君にはあった冷たさ…今は何かが君の瞳に熱をともしてしまった…」
董香「がっはっ…」
金木「トーカちゃん!!」
月山「ディナーの邪魔だ!!」
金木(…まさかここまで実力差があるなんて)
月山「今こそ君に彼女を振舞おう!!」
月山は貴未のほうに歩いていく。金木に肉を食わせるため貴未の服を剥ごうとする。
月山「ン…?なんだこの醜い傷は…」
錦「き…み……」
錦回想割愛
錦「なんだこの俺のクソみてぇな扱い酷い」
錦「き…みィィィィィィィl」
月山「仲良くしようよ?」
とびかかってきた錦を月山は一刺しで床にぶちまける。
錦「俺…には…貴未しか…ねぇんだ…手ぇだしたら…コロス……シンデモコロス!!!」
月山「…!!」
鬱陶しい…鬱陶しい…うっとうしいうっとうしいうっとうしいウットウシイウットウシイウットウシイウットウシイ―――――
金木(…だめだ…このままじゃニシキ先輩が殺されちゃう…何とかしないと…でも…)
月山「…別に君を殺したいわけじゃないんだよ?大体、赫子も出せずに喰種同士の戦いができるわけがないじゃないか
喰種の力は…赫子に大きく依存する!赫子がエンジンなら!人の肉はガソリン!」
金木「!!」
金木(そうだ…でも…)
金木「トーカちゃん…全力の月山さんと本気の君、どっちが強い」
董香「…昔は同等くらいだったけど…なんで?」
金木「…考えがあるんだ」
月山「ふぅ…汚れてしまった」
董香「月山ァ!!」
月山「?」
離れた位置にいた二人は寄り添い合い、董香は金木の肩に首をもたれている。
董香「見んなよ…あむっ」
董香が金木の肩にかぶりつく、痛みに顔をゆがめ苦痛をこらえる金木を尻目に金木の肉を咀嚼する。
月山≪ヴォクのだぞ!!≫
怒りの激情に任せ、甲赫を大きくしならせたたきつけるようにして突き立てる。
バァキン!!
次の瞬間、鋼のように硬質化していた甲赫は砕け散る。
董香『テメエのものなんて…ここにはねえんだよ!』
董香の背中には美しく泡沫に広がる勇壮の翼が煌めいていた。
-
- 52 : 2015/10/31(土) 19:05:24 :
- 激戦の後
月山「かね…き…クンご…しょうだ…せ…めてひ…とくちだけ…も」ざしゅ
董香「テメェの肉でも食ってろよ。クソグルメ」
…問題なのはあの人間、殺さなきゃ
錦「き…み、まって…ろ、いま…たすけ…ッガァ!」
金木「!?待ってよ!董香ちゃん!」
董香「…」
錦「き…み」
金木「その人はニシキ先輩の僕にとってのヒデや、董香ちゃんにとっての依子ちゃんなんだよ!」
董香「…」ギリリッ
金木「依子ちゃんが君が喰種だって知ったら!!君は彼女を殺せるのかよ!」
董香「そうならないために!私は!こいつを殺さなきゃいけないんでしょうが!」
緋色の結晶が深々と錦の身体に突き刺さる。
錦「ぐはっ…」
貴未の目隠しに切れ目が入り、はらりと落ちる。
貴未『綺麗』
董香「…!!」
貴未「あっ、あっ…?ゴメンナサイ!」
董香「…」ばっ
金木「…?董香ちゃん?待って」
貴未「に、ニシキ君?ニシキ君!」
金木「!貴未さん。僕が運ぶからあんていくに…」
董香「…綺麗なもんか…」ぎゅ
金木「すいません…ナナシさん!」
ナナシ「うっわ、どうしたのその人!」
貴未「お願いです、助けてください!」
四方「…ケン」
金木「お願いします」
四方「トーカにキレられるな」
しばらくして―――
…あの一件が終わってから、トーカちゃんはどこか上の空だ。
金木(僕は…彼女に何もしてあげられない…。きっと揺れてるんだ。人で居たい気持ちと、喰種で居なきゃいけない理由に)
ナナシ「考え事かい?」
金木「…ええ?まぁ…」
錦「…」
ナナシ「そんな君にはこれ!人間失格!」
古間「喰種しかいない場所で読むには喜劇だね」
錦「タイトルはな」
ナナシ「…もう読んだだろう?でも、今君に必要なのはコレな気がする」
金木「どうしてですか」
ナナシ「我を通してはっきり決めなきゃ、後悔ばかりが目に余るよ」
錦「…そうだな、カネキはもうちょいはっきり言い切ったり、他人を流すくらいの勢いがあったほうがいいな。偶にな。」
金木「…そう…ですか」
古間「ふふっ…いやー人が増えてくれてうれしいな…白鳩を警戒してお客さんがめっきりだからね」
錦「そういや喰種は少ねぇな」
古間「捜査官が活発に動いてるからね」
金木「ああ、ニュースでも言ってましたね」
-
- 53 : 2015/10/31(土) 19:06:12 :
- ナナシ「11区を中心に捜査中とか」
錦「…?11区?」
古間「知り合いでもいるのかい?」
錦「いや…最近11区で喰種が喰種に殺される事件が多発してるとか?なんとか?」
金木「…?何かあるんですかね?」
錦「しぃらね…龍が出るらしいぞ」
ナナシ「龍?って、あの龍?」
錦「なんじゃねーの?風のうわさだ。」
カランコロンカラーン
錦「ほら客だ客」
扉に立っていたのは貴未と同じくらいの背格好の女。
ただ異質的なのは血のついたTシャツと同じく血だらけのジーパン。
女「…ここが、『あんていく』?」
四人「…!!」バッ
女「身構えなくていいですよ~?別に今すぐ殺そうなんてわけじゃないので」
…後では殺すのかよ
古間「…見たところ喰種…?かな?いったい何のようかな」
女「…魔猿に…眼帯…あとは雑魚と変なの一匹」
…変なのは間違いなく私のことだろう。と、言うことは
錦「あァ!!誰が雑魚だ!」
…かませ犬っぽい姿勢をとると余計に弱く見えますよー…なんていわない
女「この辺静かでしょ?だからこの辺に住もうかなって」
古間「へぇ…それにしては20区にはなじめそうもない感じだけど?」
女「ふふふ…ふふふふふふふふ」
気味の悪い…俗にいうメン〇ラ?キ〇ガイ?っていうの?
女「殺すよ」
一通り笑い終わったかと思うと鋭い眼光で睨みつけられる。
ナナシ「あはは、どMの古間さんにはご褒美でしょうけど、そんな穏やかじゃない目つきされてすごまれても…」
!
ナナシ「錦さん、左足一歩半後ろ」
錦「?」
錦が足をずらした直後、立っていた場所から大きな龍の頭が床を突き破って出てくる。
錦「うっあ…龍!?」
古間「!?じゃあ、こいつが噂の」
女「あらあら、かわされちゃいました」
金木「ちょッ…店が…」
女「分が悪いですね。私は九頭竜楓。また来ます」
ナナシ「そう簡単に返すかよッ!」
錦「やめとけ!」
ナナシ「!」
錦「今追いかけると…甚大な被害が」
ナナシ「ああ…」
古間「それにしても…なんなんだ…?11区の龍?なんでここに?」
夜―あんていく二階―
ここはナナシの部屋。今は金木と二人でコーヒーを飲みながら話をしている。
ナナシ「今日の昼のやつ…なんだと思う?」
金木「店長なら何か知ってるかも…明日は来るらしいからきいてみよう」
ナナシ「で、今日は店に泊まっていく?」
金木「そう、だね。ニシキ先輩は貴未さんが心配で帰ったし、古間さんも仲間と何かあるらしくて帰った。
僕は家で一人だし、ここにいたほうが安全かな」
ナナシ「もしもの時は私らでやらなきゃね」
金木「うん…二人もいるし」
董香「キャァァァぁああ!!」
二人「!?」
バタバタ――
二人「董香ちゃん!・トーカちゃん!」ガチャ!
董香「!?」
雛実「おおw」
二人「んなッ!?」
扉を開けるとかわいらしいフリフリのついた白のランジェリーをつけた董香が立っていた。
ナナシ(これは…)
金木(ものすごく不味いんじゃ…)
董香「ジロジロ見てんじゃねぇ!!死ねぇ!」ピキピキっ
二人「「あ゛あああァぁぁぁぁぁ!!」」
-
- 54 : 2015/10/31(土) 19:07:33 :
翌日―あんていく―
芳村「二人とも…その傷どうしたの?」
二人「あ、あははは…」
董香「…」プンスカ!
金木「あ、そうだ、店長11区の龍のこと知りません?」
芳村「11区の龍?確か…10年も前になるかなぁ…」
金木「10年!?」
ナナシ「…あの女そんなに老けてなかったけど」
芳村「女?いや、龍は確か男だったはずだけど…」
ナナシ「え?」
芳村「龍がどうかしたのかい?この店の損壊に関係が?」
金木(あ…これは怒ってらっしゃる…?)
ナナシ「彼女は身長164cm程の女性で体重は54kgくらい。臭いからおそらく同種喰いを繰り返していたとわかります。
名乗った名前は九頭竜楓。確認できた赫子は龍の甲赫。追加で赫子を遠隔操作できる模様。」
芳村「九頭竜?本当にそう名乗ったんだね?」
ナナシ「聞き間違いありません。金木くんもいましたし。」
董香「…私昨日そんな話聞いてないんだけど」
金木「話す間もなくぼこられたからね」
董香「あぁん?だから悪かったって言ってんでしょ!」
芳村「龍。10年前2区あたりで暴れていた喰種さ。」
ナナシ「2区?」
芳村「ああ、九頭竜雅。それが彼の呼び名だった。私はその時離れたところにいてね…あまり詳しいことは知らないが…」
四方「あいつは同種も人間も見境なく殺してたぞ。食い荒らし方でわかるくらいに狂暴だった。」
芳村「…らしいねぇ。自身の弱さを他人に見せつけないような圧倒的な強さだったらしいよ」
董香「…でも、そいつとは違うんでしょ?だいたい、あいつにうちらがちょっかい出される理由なんて…」
ナナシ「理由なんて…ないんだろうね」
董香「え?」
ナナシ「もし親子関係にあるとしても敵討ちでも復讐でも何でもない。だって、かかわった喰種、ここにはいないから」
九…隠者、優等感とかか。逆は劣等感や陰湿。
四方「…九頭竜は10年前、急に姿を消した。白鳩も喰種も追えなかったことから死んではいないと思うが…」
死んでいたら喰種内で噂になるだろうし、死体も見つかるはず。
芳村「その彼女の目…隻眼だったかい?」
金木「あ、そういえば…赫眼…見えてなかったですよね?なんで赫子が来るってわかったんです?」
ナナシ「本気で警戒してたから。場所が店でなければ殺しにかかってた。」
芳村「それにしてもよくもこんなに…店の再開は…しばらく先になりそうだね」
ナナシ(…赫眼。それもだし…赫子は彼女から出たものじゃない気がするんだよな。気のせいか?)
-
- 55 : 2015/10/31(土) 19:08:21 :
- 九頭竜楓の訪問から二日後。
キャスター『最近20区での喰種の動きが活発になっており、赫子痕や現場の状況から10年ほど前に暴れていた龍に類似している
ことから、龍の捜査本部が再度立て直されることが決定されました。』
金木「ずいぶん暴れてるみたいですね」
ナナシ「20区に越してくるってマジだったのか。冗談だと思ってた」
董香「笑い事じゃねぇだろ!このまま警戒が続けば…うちらだって…」
??「うちらだって、何かな?」
董香「!!」
??「…眼帯!?いや、似てるだけか…?」
真戸「やぁ…ラビット…」
董香「ちょちょちょちょ…!!なんでこいつらが!」
ナナシ「いらっしゃいませー。あいにく追加の情報は得られてないですよー」
董香「あんたなに普通に対応してるの!」
真戸「まぁ、喚くな。今はお前なんぞにかまってられんのだ」
董香「はぁ?」
亜門「我々は今再構成された龍対策本部のトップに選ばれている。そこで、」
ナナシ「ああ、協力を煽りに来たんですね」
真戸「喰種に協力なんぞ…と、いってられなくなったからな。准特等、特等達が何人もやられている。状況はいたって最悪だよ」
ナナシ「奇遇ですね。うちも店壊されて最悪ですよ」
亜門「あー、やっぱり眼帯に似てるんだよなぁ…」ぶつぶつ
真戸「君らに拒否権はないが、協力するだろう?」
ナナシ「殲滅でなく捕獲ならやるよ。」
真戸「?別に殺してもかまわんぞ?」
ナナシ「いや、それとは別に聞きたいことが山ほどあるから」
真戸「ふん…好きにしろ。お前たちが見つけられたらな」
金木(探さなくてもそのうち来るような気が…)
ナナシ「あ、10年前の龍の資料とかってあります?なにぶんうちも情報不足で」
真戸「亜門君」
亜門「はい!えっと、まずはだな、赫子の特徴は名前の通り龍のようで、甲赫かなり広域の範囲まで届いたらしい。そして、半赫者であるということ、そして行方不明になった龍の最後の痕跡が11区にあること。いま有力なのはこれだけだ」
金木「…九頭竜っていうとヤマトタケルが戦ったように、九つの首のある蛇みたいなのをイメージしますが…」
亜門(やっぱり眼帯に似てる…)
ナナシ「…赫子の感じは完全に龍だったから戸隠山の伝承のほうがイメージつくな」
真戸「…つまり赫胞が話の通りだと最低九つあるんじゃないかと?」
金木「予測ですが」
董香「…」(…何を言っているのか全く分かんないよぉ!)
亜門「ラビット許すまじ…」
董香「!?」
真戸「…ラビットは今回出る幕ないねぇ」
金木「そう…だね。相手が悪いし、レートは…」
真戸「今回のは一発SSSレート確定。下手したら10年前の災厄を超える天災になるかもなぁ…」
-
- 56 : 2015/10/31(土) 19:08:59 :
- ナナシ「ひえ…」
真戸「君も戦力としては同じようなもんだろう?」
ナナシ「…言っときますけど………あなたたちがつけたレートって覆すのがかなり大変で強弱で言うと割と的を得てるんですよ」
真戸「?…なにがいいたい?」
ナナシ「だから、レート一つ上相手じゃ、一対十でも分が悪いって言ってるんです。BがA狩るには10人要るし、AがS狩るにも10
人。…20区にいる喰種はおとなしいですから、平均してレートはAに満ちるか満ちないか。そのうち協力者は…災厄を超えると
なると減りに減るでしょう。白鳩がらみなんてなおさらね」
亜門「つまり圧倒的に戦力不足だと?」
ナナシ「あのSSS殺りたきゃ、有馬貴将5人連れてこいって感じですね」
真戸「そんなにかい?ってか、本物を見たのか?」
ナナシ「…」
真戸「ああ、店壊されたって龍にだったのか」
亜門(気付いていなかったのか…真戸さん!)
真戸「で、どうなんだね。相当な大男なんだろう?」
金木「女性でした」
真戸「は?」
ナナシ「…私たちが遭遇した龍は20代前半の女性。茶髪のセミロング。赫子は甲赫で龍の形。質からして共食いをしていたのは明白ってとこで、名乗りは九頭竜楓でした」
真戸「…まさか娘が…!?」
亜門「龍にパートナーがいた可能性があるだと!」
金木「それどころじゃありません…」
OCG二人「!?」
金木「もし…万が一人との子なら雑種強勢で親より強く…」
金木(イトリさんの言う通りなら…信じたくないけど…)
亜門「…20年前の記録の龍はすでにSSSレートで駆逐対象だった…」
ナナシ「もし雑種強勢が起きていたらSSSじゃすまないってことか」
真戸「ふむ…が、人間との交配はうまくいかないんだろう?」
金木「稀にある。らしいです…」
真戸「…」
ナナシ「実際自然界にだってあり得ない話じゃないんだ。あの感じじゃないとは言い切れない…」
真戸「ふむ、亜門君!すぐさま本部に戻り、上に報告だ!」
亜門「はい!」
真戸「龍の討伐レートをSSSから繰り上げ、SSS⁺とし、さっきの情報をまとめて発表してくれ!」
亜門「了解しました!真戸特等!」
からんころんからーん
金木「…あの人…出世したんだね」
ナナシ「…?ああ、今までは出世を断ってたらしいけど喰種と手を結んでからより悪への、梟への復讐心を燃やしているよ…」
董香「…私、なんか居づらいな…」
金木「…仕方ないよ。あの時は雛実ちゃんを守るので必死だったんだ…あの時の董香ちゃんは悪くないよ。悔やんでるんでしょ?」
董香「…!」
金木「ごめんね…今回戦いになったら巻き込まれてほしくないんだ。」
ナナシ「私もそれに同意かな。ちゃんと人として生活してなよ。なんかあったら雛実ちゃん連れて逃げて!」
董香「…なんで」
金木「え?」
董香「なんで!あんたたちはそうやって私を置いていくの!」
金木「そ、そういうわけじゃ…」
董香「雛実を助けたときのナナシも!月山と戦った後のあんたも!人に近いあんたたちにはわかっても、最初っから喰種の私にはわかんねぇっつの!!」
揺れてるんだ。人と、喰種の間で。
董香(殺すか殺されるかの関係のやつと仲良くなったり…殺されそうになった奴に綺麗って言ってみたり…)
董香「知れば知るほど…人間らしさがわからなくなるよ…怖いよ…」
――泣いている。いつも強気で気丈なあの子が。
董香「…私もみんなの力になりたいよ!でも、人の生活も…欲張りなのかな…」
―――神様って残酷だね
金木「トーカちゃん…ごめん…それでも、君を危険な目に合わせるようなところには連れ出したくないんだ」
ナナシ「…」
董香「…バカッ!!」
董香は勢いよく二階の自身の部屋に駈けていった
-
- 57 : 2015/10/31(土) 19:09:22 :
- あれから一週間が過ぎようとしている。
董香ちゃんはまだもやもやが晴れないみたい。
雛実ちゃんの前では明るくふるまっているが、学校でもどこか上の空だ。
え?学校見に行ったかって?いや、あの友達の子からのタレこみである。
よ…なんだっけ?まぁ、よっちゃんが言うには生理だよ!って言ってるけどすごく悩んでるみたい。だって。
でも、私にも話してくれないって、おこでした。
龍もおとなしくなったみたいで最近は動向を見せない。
ただ、客からの龍目撃情報は絶えない。
でも、目撃情報にもばらつきがあって、若い男だという人もいれば子供だって人もいる。
女性という情報は比べると少なかった。
…もし龍が女じゃなかったらあいつはいったい?
金木「ナナシ君!」
ナナシ「ハッ!?」
金木「どうしたの?なんか遠い目してたけど…?」
半喰種の彼はそういって微笑んだ。
ナナシ「ああ…いや、目撃情報と僕らが見た龍が一致しないなって」
金木「ああ…お客さんが結構持ってきてくれるけど…まばらだもんね」
ナナシ「あいつ…赫子のタイミングといい、臭いの感じといい、違和感しかないんだよね。」
金木「違和感?タイミングはそうかもしれないけど、臭いは普通に喰種の匂いでしたよね?」
ナナシ「いや、男の喰種みたいな匂いがしたんだよね。」
金木「え゛?じょ…女装してるってこと?」
ナナシ「そうじゃなくて、赫子や足音なんかから感じ取れる感覚で女性か男性かはすぐにわかる。」
金木「どんなふうに?」
ナナシ「赫子臭いは注意して嗅げばわかるよ。女性は少し血なまぐさい感じで、男性は汗っぽい臭い。あくまで個人的見解だけど。」
金木「…そうなんだ。」
ナナシ「まぁ、それぞれだから暇なときに確認してみたら?」
金木「僕他の喰種と比べて、そこまで感覚は鋭くないみたいなんですけど足音って?」
ナナシ「わかりやすいところで行くとおっぱいかな?」
金木「な゛ッ!?」
ナナシ「?どうした?」
金木「い、いや、なんでも…」
ナナシ「…走ったら脂肪が揺れるだろ?すぐわかる。でかいかちいさいか」
金木「…じゃあ、男は男根とか?」
ナナシ「うーん、地面まで反射するような勢いで走ってれば聞き取れるけど、筋肉の軋みかな?男は」
雛実「お兄ちゃんたち…?ナニヲハナシテルノカナ?」
金木「ひ…雛実ちゃん?なんでそんなにおこって…あぐっ…」
ナナシ「ちょwwwww」
雛実「オニイチャン…」
ナナシ「一体何に怒ってるのww」
雛実「もう!お客さんがいないからってえ…エ…ッチな話するのやめてよ」
ナナシ「…それは勘違いだ」
雛実「ふぁっ!?」
ナナシ「ただ足音男か女か判別する方法について話してただけで別に猥談してたわけじゃないよ?」
-
- 58 : 2015/10/31(土) 19:09:34 :
- カランコロンカラーン
ナナシ「あ、いらっしゃいま…」
楓「…」
ナナシ「…!!」
楓「…」
ナナシ「…」
楓「…ロリコン」
ナナシ「!?」
雛実「お、お客さんだよ!?」
ナナシ「違うよ…僕の言うことちゃんと聞いてね」
雛実「え?」
楓「お店、荒らされたくないんでしょ?外行きましょ?」にやり
不敵な笑みと同時に龍の赫子が向けられる
ナナシ「逃げろ!!」
楓「遅いわ!」
背中を押され二階への階段を走る雛実めがけて龍の頭が突き出される。
が、それはすんでのところで三本の赫子に止められた。
金木「僕がいることも忘れないでね…」ギリギリ
ナナシ「雛実と董香連れて逃げろ!」
金木「で、でm」
ナナシ「走れ!」
金木「…!も、もどってくるから!」
楓「逃がすと思って…!?」
ナナシ「どこ見てるのさ!」ヒュッ――――
ガキィン!!
全身の筋肉がしなり、骨が軋む音がはっきりと響く。突き出された拳は赫子を貫き、しっかりと細い体をとらえていた。
勢いよく店の外までぶっ飛ばされた楓は体勢を立て直そうと受けた損傷の治癒を始めていた。
ナナシの拳はすでに治癒が終わっており、龍赫の鱗の亀裂はすでに修復が終わっている。
大通りに面しているがこの時間は喰種しかいないため、騒ぎが起こるものの、龍とナナシの姿を見るとみなそそくさと姿を消す。
Pi!Pi!Pi! PulllllllPlllllガチャ
真戸「ナナシくんか?どうした?」
ナナシ「もしもしー≪ボゴォ≫。現在戦闘中でーす≪ドォーン!!≫」
真戸「すごい音だな。どこだ?」
ナナシ「移動するんでGPSつけとくんで追ってください。じゃ!」
通話中も楓から離れた位置から龍赫での攻撃を受けている。
楓「ちょこまかと…!!」
ナナシ「…」
ナナシ(なんだ?この違和感は…前回は錦の足元ジャストだった。でも今はギリギリ動かなくても体をそらすだけでよけられる。)
楓「まだまだ!」
ナナシ「あんた、目が見えてないのか?」
楓「!?何言ってるの?みえてるわ…よ!!」
≪ドォン!≫
ナナシ(見えているのにこの狙い方はおかしい。当てる気がないわけじゃないのにあたらない。…ここは)
ナナシ「…全速前進DA☆」
楓「!?逃がすか!」
-
- 59 : 2015/10/31(土) 19:09:46 :
廃居住区
楓「どこまで逃げる気だ!」
ナナシ「君の正体を暴くまで」
楓「正体だと?」
ナナシ「そうだよ。君と戦うには五感が訴える違和感が強すぎる」
楓「何を言って…あぐっぅ…」
鱗状のクインケが楓の脇腹を抉る
ナナシ「!」
真戸「余計な真似だったかなぁ?」
亜門「ナナシ君、我々はどうすればいい?」
ナナシ「ふふ…最初はあんなに嫌悪感剥き出しだったのに…ええ、見てるだけで結構です~」
真戸「やっこさんが起き上がったぞ~」
楓「!…捜査官だと!?チッ…」
ナナシ「あ、逃がすか!」
ナナシののばした赫子は間一髪で龍赫に防がれた。
真戸「おいおい逃げるぞナナシクン!」
勢いよく何かを破壊し突き抜けてこちらへ向かってくる音がする。
ナナシ「!!二人ともそこから離れ…!」
捜査官「うわぁあぁああ!」
真戸「おわっ…危ないねぇ…」
亜門「待機していた捜査官達か!」
捜査官「なんだこの喰種!!ぐあぁああ!」
真戸「そぉら!」ブゥン――
???「!?ガァ――」
ナナシ「ナイスヒット!」
亜門「だが…龍はあっちに逃げた。仲間がいるのか?」
捜査官「真戸特等!男です!男の喰種です!」
真戸「ん~?男か…」
捜査官「ぐあっ!」
捜査官「龍の赫子を確認!龍と思われます!」
亜門「何!?」
真戸「ああ~面白くなってきたねぇ~」
ナナシ「あーやっぱり?」
亜門「知ってたのか!?」
ナナシ「いや、なんとなく感じてただけ。無線かして。えーこちら援軍、人員残っていれば持ちこたえよ」
無線「―――」
ナナシ「…?全滅か?」
亜門「何!?あの一瞬でか!?」
真戸「うーん、やっぱり有馬貴将を五人ってのは割と冗談じゃないかもしれないね」
-
- 60 : 2015/10/31(土) 19:09:56 :
- 亜門「ただいまから、捜査官喰種共同戦線会議を開始したいと思う」
一同「…」
亜門「…」(どうしろっていうんだ…)
ナナシ「はいはーい。とりあえず今までの経歴を簡単にまとめたらいいと思いまーす」
金木「今までのって、龍が現れてからってこと?」
真戸「ふぅむ…その必要はありそうだねぇ」
金木「たしか…11区で連続して喰種が殺害されて、」
董香「そんで店に来たんだろ?」
真戸「その時現れたのは今回と同じく女性だった、間違いないね」
ナナシ「ええ、その時からもう一人男がいるってのを疑ってました」
亜門「その後はなりを潜めてどこかに潜伏していたとみられる」
金木「でも今日になって突然」
真戸「あの女性が現れた、と」
ナナシ「今回の違和感ははっきりしていた。私に当たらないんだ。攻撃が。」
金木「つまりナナシさんは彼女自身が赫子を操っているのではなく、第三者が、ナナシさんの捜索範囲外から赫子を操っていた、と」
ナナシ「私自身、自慢じゃないがかなり広くまで鼻が利く。まぁ、あんていくの前じゃ男の喰種が多すぎてわかんなかったけど」
真戸「なるほど、それで移動して敵の動向を見たわけか」
ナナシ「ええ、もっとも、大した情報は得られず龍が逃げるのに気を取られて、もう一人の接近に気付けませんでした。」
亜門「今回犠牲になったのは15人中7人。大打撃だ」
ナナシ「私たちだけでやりましょ。ほかの人たちはいても迷惑なので」
真戸「ほう、いうねぇ。強力な助っ人を用意したというのに」
ナナシ「?」
-
- 61 : 2015/10/31(土) 19:10:07 :
- うぃーん――
有馬「…」
金木「え゛っ」
ナナシ「…?」
董香「」ガタッ
真戸「君たちが待望していたCCGの死神こと有馬貴将だ」
ナナシ「待ってません」
有馬「…よろしく」
董香「…」(…え?これなんてはんのうすればいいの?)
金木「と、董香ちゃん?」
董香「て…」
金木「?」
董香「てへぺろ!」
金木「!?」
真戸「ブホゥ!!」
ナナシ「」チーン
有馬「喰種の諸君、協力感謝する。とはいえ、普段は敵同士。お近づきの印といってはなんだが」スッ
つ『ずんだもち』
真戸「ヒィ…アッハハハハハハ…フヒッ…ククク…」
金木(さ、さすが。やることが違う…)
ナナシ「ど、どうも?」
有馬「?お前、どこかであったか?」
ナナシ「え?いや、初対面ですが…」
有馬「そうか。ならいい。君は金木研だね。よろしく」
金木「!?」(なんで僕の名前知ってるんだ…!?)
有馬「…私が五人必要なんだろう?」
ナナシ「さぁ?どうでしょう。今のあんたの実力を知らないからな」
有馬「…昔のは見たことあるのか?」
ナナシ「…?あれ?しらないや。なんで有馬貴将五人なんて例えたんだろ?」
金木「…どうしましょう、董香ちゃんが壊れたままだ…」
董香「きゅぴーん!」
有馬「…今から五人でチームを組み龍討伐へ向かいたい。そこの女史は置いていこう。」
ナナシ「そうですね。ちょっと置いてきます」
-
- 62 : 2015/10/31(土) 19:11:07 :
- 有馬「…」
一同「…」どよんと
真戸「そういえば平子君が見えないが…?」
有馬「あ!」
金木「ど、どうしたんですか!?」ビクゥ
有馬「おいてきちゃった」
金木(さ、さすが。やることが違う…ん?二回目?)
有馬「それでタケ、龍の居場所なんだけど」
金木「いませんよね」
有馬「あっ」
ナナシ(こいつは全く…?あれ?)
金木(思ってたのと違う)
亜門「りゅ…龍は交戦地の廃ビルから北東へ」
有馬「…まぁ、歩いてればいずれ会えるよ。いこう」
真戸「ふぅ…少し準備しようか」
~30分後~
金木「有馬さん…?一つ質問が…」
有馬「なんだい?」
金木「なんですかそのバナナは…」
有馬「ああ、高栄養化でいいだろう?」
金木「違うそうじゃない」
ナナシ「いつもこんなんなのか?お宅の死神は」
真戸「どうだかねぇ…」
有馬「ナナシといったかい?臭いでおえたりしないか?」
ナナシ(あ、結局探すんだ)「無理だね、少なくとも感知できるところにはいない」
有馬「なぜ断言できる?」
ナナシ「臭いも音も気配も感じられない、からだけど?」
有馬「臭いは消せるし反射音だって変えられる。気配は知らないから何とも言えないが、不確定要素が多すぎていないといい難いが…」
ナナシ「じゃあ、CCGの建物内にいるとでも?」
有馬「中はなくても外には見張りしかいないからね」ガチャ
ナナシ「室内でその物騒なクインケを展開するのやめてくれる?」
有馬「例えば君たちの身体能力なら人目につきにくい極めて高い階層にあるこの部屋の外壁に張り付くくらいできるだろう?」
金木「…!たとえできたとしても、何のメリットが…」
有馬「君たち…ずっと監視されてたんじゃないの、龍に」
ナナシ「はぁ!?それならとっくに気付…い……て…」
金木「どうしたんですか?」
ナナシ「なるほど!」
-
- 63 : 2015/10/31(土) 19:11:20 :
- 有馬「簡単なことだろう?」バチチチチチチチッ
なるかみの雷が壁を貫通する。
ドォォオオオオオ!!!
太陽の光が亀裂から差し込む。そのわずかな亀裂から
金木「な!?何を…!あ!」
龍の赫子を盾にしたフードの男が表れる。
有馬「素敵な赫子だ。置き物にほしいな」
???「っ!」
金木「龍!?しかも男!?」
ナナシ「金木クン、私たちが最初に龍に会ったとき喰種は誰がいた?」
不意に投げかけられた質問に動揺するも必死に思い出す。
金木「え?えーと…あのときいたのは僕ら以外だとたしか錦先輩と、古間さんと…雛実ちゃんにトーカちゃん…くらいだったけど」
ナナシ「ちがうちがう。もっといただろう?」
くすくす笑いながらナナシは羽赫を構える。
金木「どこにですか?」
ナナシ「龍の圧倒的な感覚が全部さらってってたみたいだけど…」
金木「まさか店の外にいた喰種!?でも確かにあの龍のすごみがあったとはいえ何回も見逃すほどですか!?」
ナナシ「ご丁寧に殺した20区の喰種のコート来てる上にマスクもパクってりゃあ…さすがに気付かねぇよっと!!」
黒い結晶を撃ち出しとびかかる。
ナナシ「ホームズじゃあるまいし、さすがにマスクや背格好だけで何してる人だとかわかんないよね」
落下していく龍に向かって飛び出すと、そのまま龍を亀裂に叩きこむようにして背後から蹴りを入れる。
龍「グアッ!」
まぁ、もちろんのごとくそこにはなるかみを構えた有馬貴将が立っているのだが…
有馬「さよならだ」
龍「おせぇよ!!!!ドアホ!」
なるかみの刹那とも呼べるスピードの雷撃はいつの間にか展開されていた龍の赫子によって防がれていた。
真戸「早すぎないかい!?信じられん!」
有馬「まぁ、梟より討伐レート上なんだし当たり前なんじゃないの?」
亜門「確かに!!!」(一理ある!!)
金木「そんなにあっさり…」
亜門「ところで眼帯に似た君は赫子は使えんのか」
金木「え゛っ…!」
亜門「いや…使えんならよいのだ」
金木「そ、そうですね…あはははは…」(なんでこの距離で気付かないんだろう…)
体制を建てなおした龍、円形の会議室、龍の前に立ちはだかる四人、CCGの外壁を駆け上がってきたナナシが後ろに。
有馬「一つ質問いいかな。女の龍と君は同一人物。ってことでいいのか?」
龍「ハッ…答えるわけねぇだろばぁーか!」
有馬「…確かに、」
龍「ああ!?」
有馬「人ではないから人物ではないか…」
金木(そこ!?)
亜門「確k(ry」
真戸「納得してる場合じゃないだろう!!」
亜門「」
ナナシ「目的はなんだ…?なぜ20区に居座っている?どこから来た?共食いの理由は?」
龍「俺を殺れたら教えてやってもいい…
できればな!!」
一斉に9本の龍頭が放たれナナシ、真戸、亜門、金木に1本ずつ有馬に5本飛んでいく。
金木「わっ!?」(捜査官に気付かれたらつみっぽいから下手に赫子は出せない。あ、マスク…忘れた!!(泣))
亜門(あっちはよけたか…)「なんて、周りの心配してる場合じゃなさそうだ!!」
クラを展開し真っ向から龍を受け止める…が、さすがに分が悪いようでだいぶ押されている。
真戸「甘く見られたものだね。そんなことより有馬君、またごみを落とすと清掃係に文句を言われるよ…
フエグチ使いにくい!!!でもイイ!」
フエグチの圧倒的防御力にはさすがの龍も押し切れていない。しかも龍頭に対してフエグチのトリッキーな攻撃が何度も突き付けられているため
真戸は余裕そうに龍を見定めている。
そんなことよりバナナを食い捨てた有馬なのだが…
-
- 64 : 2015/10/31(土) 19:11:53 :
有馬「なんで私だけ五本なんだ…あ、置き物がほしいって言ったからか…」
その他全員(たぶん絶対違うと思う)
一方ナナシは…?
決着がついていた。
背中から胸にかけて貫き通された漆黒の赫翼。
溢れ出る血液、呼吸を荒くする龍。その後ろにじっとりと寄り添う形で立つナナシ。
龍「てんめッ…」
ナナシ「動かないほうがいいぞ。俺の質問に答えられたらはなしてやる」
龍「なん…だ…、傷が…なおん…ね…」
ナナシ「俺の羽赫はRc細胞を失活させる。らしいぜ?あんま強情張ってっと体が壊死すんぞ」
龍「ちっき…しょ…」
ナナシ「目的はなんだ?」
龍「報ゥ…復……だ」
ナナシ「誰に?」
龍「全部!!…ガハッ…世界全部だ…」
ナナシ「なぜ?」
龍「…」ギリリィ
傷口を広げるようにして赫翼をしならせる。
龍「ガァ!!…げ…ッほ…あぁ…ちくしょ…」
それぞれに向けられていた赫子も動きが止まり地面に首を垂れる。
ナナシ「なぜ世界に報復を?」
龍「お、俺たち…は、もともと…東京外に…住ん…でいたァ…。」
ナナシ「そんな喰種はたくさんいるだろう?」
龍「しらない……か…訳…ねェ…よな…」
ナナシ「何が言いたいんだ?はっきり言えよ」
龍「じゃあせめて赫子をしまえ」
ナナシ「アッハイ。断るけど。」
龍「…嘉納明博…とかいったか…」
金木「!?」
有馬「…」ピクッ
金木「…嘉納先生…!?」
龍「あいつはァ…都外の…喰種を集めてェ…実験かなんかにつかって…やがる…
必要なくなった奴らはァ………さぁ…げほっ…どうなったんだろうなァ……オークションに出されたやつもいるとか…」
ナナシ「オークション?」
龍「詳しくは知らねぇ…が、モノズキが集まる社交場みてぇなのがあるんだとよ…」
金木「嘉納先生はどんな実験を…!!」
龍「てめぇ…で…行きやがれ…!!」
ナナシ「!?」
不意を突いた鋭い蹴りがナナシの腹部をもろに捉えた。
スキのできた一瞬をみて龍が外へ飛び出そうとする。
真戸「逃がさん!!」
しなりあげたフエグチは勢いよく龍へ一直線に突き出されたが、かすめるだけに終わった。
龍は有馬の落としたバナナの皮に足をとられ亀裂から落ちていったのだった。
-
- 65 : 2015/11/01(日) 20:22:11 :
- 有馬「龍に逃げられたね」
金木「なんでそんなに明るく言うんですか」
有馬「別にいつも通りだよ」
ナナシ「…確かにまぎれられたし、探せなかったけど。やっぱりそこまでするメリットって欠片もないよね」
有馬「そこに気付いたか…僕もずっと気になってたんだ」
ナナシ「?あ、そこわからないのにあんなにどや顔でしゃべってたの!?」
真戸「いつものことだよ」
亜門「…」(クラにひびが入ってしまった…)
ナナシ「それにしたってわからん…ほんと、なんでつけたりしたんだ?最初の女の感じだとちゃちゃっと殺しに来てもよさそうなんだけどなぁ」
有馬「君に因縁があるとか」
ナナシ「あーあり得るかも…っつっても記憶がないんじゃ思い出しようもないしな…」
有馬「アオギリが絡んでるとか?」
ナナシ「アオギリって…?あのアオギリ?方針が違うしありそうだけど。さすがに組織が一人だけ出してくるのは考えにくいでしょ」
有馬「…」
真戸「どう考えても君の過去に一悶着に多票なんだが」
ナナシ「ねーやんなっちゃうよー」
金木「ずっとお思ってたけどナナシさん戦闘してるとコロコロ一人称変わりますよね」
ナナシ「え?そう?」
真戸「そうだね。前回戦ったときは俺だったし今の戦闘でも俺、という一人称だった」
金木「雛実ちゃんに話しかけるときたまに僕になりますし」
ナナシ「そうかぁ…そのうちワイとかうちとか言い始めるんじゃないかww」
有馬「それはそうと、嘉納?とかいってたな」
金木「嘉納先生…」(僕が喰種になった原因…)
有馬「知り合いだろう?カネキケン。」
金木「え?なんで…」
有馬「…なんでだろうな」
金木(…そういう言い方されると変に疑っちゃうよ…)
ナナシ「…嘉納って人について…誰か知ってる人いないかな…」ツイツイ
真戸「私も知り合いに当たってみるか」メルメル
金木(この二人がスマホいじってるのには途方もない違和感を感じる)
有馬「ぷふっ…」
金木(なんか噴き出したぞこの特等)
有馬(違和感wwwwww)
金木「で、いそうですか?」
ナナシ「喰種事件に多くかかわってるっぽい。医者として」
真戸「あーこれ教えられないやつだ…」
金木「なんですか!気になるんでもったいぶらないでください!!」
真戸「いやちょっと…これは国(CCG)の闇みたいなの見ちゃったわ…」
金木「くそッ!もったいぶられる!」
亜門「…」クラナデナデ
金木(僕の隣で捜査官がクインケ撫で始めた…)
有馬「…狙われている可能性があるのは二人か…」
金木「誰ですか?」
有馬「君とナナシ」
金木「え!?なんでですか!?」
有馬「喰種で、敵対しそうな組織にいるんだろう?」
ナナシ「アンタだって死神っていうくらい喰種殺してんならなんかの時に恨み買うようなことしたんじゃないの?」
有馬「どうだろうか」
亜門「俺たちは関係ないみたいですね」
真戸「そうだね。」
ナナシ「龍と私のルーツを探るために…二区に行こう」
金木「二区…ですか?」
ナナシ「ああ、無理してついてこなくてもいい」
有馬「二区は梟襲撃の時から復興してるとはいえ…喰種も少なくないからね。気を抜いたら…」
金木「い…行きます!!行かせてください!」
…カサッ
紙切れ「ここでは断れ。マスクつけて別の喰種だと偽って来い」
ナナシ「…やっぱり来ないほうがいい」
金木「あ…は、はい…じゃ、じゃあ、トーカちゃんをつれてお店に…」
ナナシ「うん、私も戻るよ。みんなに報告しなきゃいけない事も出来たし」
真戸「あ、ナナシクンこれをやろう。」
ナナシ「なんです?」
真戸「君の血液から精製した薬みたいなもんだ。」
ナナシ「勝手に作んなww」
真戸「喰種のRcを下げ、味覚を人間と同じ程度まで揃えてくれる」
ナナシ「わたしいらない。けど、まぁ、あずかっとく」
有馬「いったん解散ということか。では、二区で待ってるから」
-
- 66 : 2015/11/07(土) 11:36:02 :
あんていく
金木「というわけで…二区に。」
芳村「…うん。君がそうしたいと思ったならそうしなさい。それとナナシくんも。」
ナナシ「はい」
芳村「二人ともちゃんと帰ってくるようにね。」
ナナシ「わかってます」
その時勢いよくドアが開いた
董香「アタシも連れてけ…」
金木「トーカちゃん…!」
芳村「…二区、に、かい」
董香「なんていわれても行きますから!!」
芳村「…いいんじゃないかな」
董香「だから…!!…へ?」
芳村「…最近はずっとふさぎ込んでいたみたいだけど、うん、本気の目をしている。店は私に任せて、二人とちゃんと戻ってくるんだよ」
董香「!!!はい!」
古間「でも、学校とかあるだろ?長く休むのはまずいんじゃないかい?」
董香「うっ…そ、それは…」
入見「単位すでにヤばいんでしょ?」
ナナシ(保護者組がwww)
金木「大丈夫だよ董香ちゃん!依子ちゃんからノート借りてきてくれたら僕が教えてあげるよ!!」
董香「か、カネキィ…!!」感動
金木「トーカちゃんが苦手な古典もしっかり語句の意味からじっくり、文法とかもきっちり教えてあげる!!」
董香「あッ、あー、あの、やっぱり勉強って自分で…」
金木「でも勉強しないと目指してるところどんどん落とさなきゃいけなくなるよ?」
董香「う゛っ」タラー
金木「帰ってきたらじっくり勉強しようね!!」
董香「…」チーン
ナナシ「ああ、董香ちゃんが燃え尽きちまったぜぇ…真っ白にな。」
月山「大丈夫かい!?キリシマサァン!!」
董香「うぉぉおお!?どっから湧いて出た霧嶋ぁ!!」
月山「霧島は君だ。落ち着きたまえよ」
金木「生きてたんですね」
月山「うん」
ナナシ「うん、てww」
月山「いや…君がよんだんだろう!ナナシクン!これから演奏会に行くところだったのに!!」プンスカ
ナナシ「いや、ちょっと喰種オークションを調べてほしくて」
月山「えーいやだよぉー僕は美食家だぞぉー喰種が喰種を買うオークションなんて興味が無い」
金木「子供か!」
月山「そんなに僕に働かせたいなら金木クンを一口」
金木「イヤです!」
月山「あぁんまぁりだぁぁぁーー」
ナナシ「そうか…せっかくRc細胞を抑え味覚を人間に近づける薬をもらってきたというのに」
月山「それを早く言いたまえムッシュナナシ」
ナナシ「やってくれますね?」
月山「前払いで…」
ナナシ「私の赫子フルコースでどうだ?」
月山「いってきます!!」
ナナシ「はい、いってらっしゃい」
-
- 67 : 2015/11/15(日) 19:24:02 :
- 二区
有馬「日本橋の近くにホテルをとっておいた。はい鍵」チャリ
ナナシ「あ、ああ。どうも…」
亜門「ムッ!眼帯!」
金木「どうも…」
真戸「おや、まぁラビットまでついてきたのか」
董香「わるいか?」
有馬「僕たちは先に行っている。また後で合流しよう」
ナナシ「ああ、わかった」
???「…」ジィーッ
金木「?」
亜門「うむ、またな眼帯」
金木「え?あ、はい…?なんだったんだ?」
視線のあった場所にはもう何もなかった
董香「ボケっとすんな!」ドカッ
金木「いでっ…」
二区ホテル
董香「お!っはは!すっげぇベッド!」
金木「はしゃぎすぎ…だけど、こんなの初めてだよ…」
ナナシ「すんごいアンティークな感じ。臭いも。」
金木「高いものですか?」
ナナシ「そうとう」
董香「どんくらい?」
ナナシ「あんていくの給金では到底考えられない…いやこれ一個市の予算とかに匹敵するかも…」
董香「」サァー
金木「…顔青いよ?」
董香「ダイブしちゃった…」
ナナシ「いいでしょ別に。大体潜入のためのクインケケース渡された上に、捜査官のワッペン渡されたんだから私たちは今捜査官だ。喰種じゃない。壊してもCCGの負担にできるでしょ」
金木「それはそれで悪い気が…ってか、僕マスクのままなんですがどうしましょう?」
ナナシ「ん?コートがあったはずだ。フード付きのロングコートそれ使え。」
金木「…これももしかして高いとか言いませんよね」
ナナシ「大丈夫!ワッペンもいい素材だから!」
金木「なぜそんなに高価なものを…」
ナナシ「んじゃ、着替えてさっさと行こうか」
董香「にっくき捜査官の服を着ることになるとは…なんか感慨深いなぁ…」
金木「へぇ…」(そんな難しい言葉使えるんだ)
ナナシ「へぇ…」(そんな難しい言葉使えるんだ)
董香「あんたたち今バカにしたでしょ」
金木「いえ全然」
ナナシ「いえ全然」
董香「ぶっころ…」カクガン
ナナシ「あ、襲い掛かってくる喰種がいても赫眼出すなよ?」
金木「つまり赫子を出すなってことですか?」
ナナシ「そういうこと。クインケケースって言ったって中身はいってるから。」
董香「はぁ!?クインケの使い方なんか知らねぇよ!!」
ナナシ「まぁ、できないことができるようになるのって大事だよ。ちょっと広間借りてやってみよっか」
金木「そういえば有馬さん鍵二本持ってましたけど」
ナナシ「会議室のカギだよ。ちょっといって三十分練習していこう」
???「…」ジィーーッ
金木「!?」ばっ
董香「どうかしたのか」
金木「…いや、視線みたいなのが…」
ナナシ「ね、二区に入ってからずっとだ」
董香「あ?まじかよ…気付かなかった」
ナナシ「心の病み上がりだからエンジンかかってないんじゃない?」
董香「…そういうことにしとくか」
金木「んーなくなった?」
ナナシ「離れていくね」
董香「おわなくていいのかよ」
ナナシ「実害はないし接触したいならそのうち来るだろ。…その時に殺ればいいだけだ」
金木「…もし敵じゃなかったら?」
ナナシ「そん時はそん時考えればいいでしょ。ささ、練習練習!」
金木「もしかしてクインケいじりたいだけなんじゃ?」
ナナシ「ばれた?」
董香「そういや特等とかが使ってるクインケって、うちらと同じ喰種から作られたものって思えねぇほど強いやつあるよな。」
ナナシ「有馬貴将のなるかみなんてそれだよね。龍の赫子切ってたし」
金木「でもナナシさんも龍の赫子にひび入れてましたよね?」
ナナシ「あれはこっちも粉砕骨折してるから…」
董香「アタシ奥から見てたけど、飛んできた赫子にそのまま構えてスパーッっといっちまってたからな」
金木「…きっとすんごく強い喰種なんだろうな~」
-
- 68 : 2015/11/15(日) 19:25:26 :
-
ホテル 会議室
ガチャン
ナナシ「おおwww感動wwwすごいww」
金木「わわっなんだこれ!」
董香「うわぁ…鱗赫?重くはないけど使いにくいなぁ…金木の羽赫じゃん、それよこせよ」
金木「うーん…でも僕も刀は嫌だな」
董香「遠距離から卑怯に狙うの嫌いそうなくせして…」
金木「そういう言い方されるとそうなんだけど」
ナナシ「せっかくだしいいじゃんwwタイプの違う型を使ってみるのも」
金木「あ、それぞれ名前書いてますね。えーと、ナナシさんのがセツナ改。トーカちゃんのはシライ1/4改…僕のは…ヤナイ?」
董香「シライ…ね。金ぴかでかっこいいけど、性能としては…」
金木「イタッ!!ちょっ!?かすったんだけど!」
董香「よけんなよ」
金木「よけなかったら僕の腕一本落ちてたよ!?」
董香「今のお前ならちょっとくらい取れてもくっつくだろ。リゼの赫子だし」
ナナシ「ははwwあんまりやりすぎるなよww」
金木「止めてください!!」
ナナシ「あはは…いや、でも瞬発力のある羽赫が接近系のクインケ持ったら最強じゃね?」
董香「確かに!」キラキラ
金木「僕は遠近両用に…」
ナナシ「がんばって赫子制御できるようにならないとな」
金木「アッハイ」
少し前二区
有馬「…二区に入ってからずっと見られているね」
真戸「そうだねェ…」
亜門「数は多くありません迎撃しますか?」
真戸「様子見に一票」
有馬「そうしよう」
???ら「…」
クインケで遊んでいるのと同時刻
アオギリにて
???「リゼ持ちの回収どうしよっか?」
???「今は龍の動向のほうが先だ」
???「ニコォー!暇だー」
ニコ「いやん!アタシとランデブーしちゃう???ヤ・モ・リ?
-
- 69 : 2015/11/15(日) 19:27:54 :
- ニコ「初めまして!こっちはヤモリ、あたしはニコよ!んふっ!」
トーカ「おおおお…オカマ!」
ニコ「んもう!失礼しちゃう!」
ナナシ「…何の用だ?」
ニコ「龍を引き込みたいの、邪魔者には先に消えてもらおうと思ってね」
ナナシ「ほう」
クインケを展開し間合いを測り始める。
ニコ「あらッ!?喰種じゃないの!?いい男なのに残念…」
言い切る前にナナシは動いていた。ヤモリも見ていなかったようで反応してくれなかった。
ニコ「ねぇ!?ごるぱっ…」
ナナシの先手によって二人が引くと思いきや
ニコ「ん~~~~~いいわァ!!!この痛み!!!イケメン!!!ナイスコンビネーション!!」
董香「…うわぁ」
二人が引く結果となった
ニコ「んもう、人が話してるのに切りかかってくるなんて強引ねぇ…ってあら?」
ナナシの赫眼を見ると満足したような顔をした。
ニコ「…帰りましょヤモリ。」
ヤモリ「え?龍見るんだろ?」
ニコ「特等席がいいと思ってね。それじゃ、またね~イケメン君!」
董香「…頑張ってねーイケメン君…」
ナナシ「その励まし方やめて!」
-
- 70 : 2015/11/21(土) 17:24:51 :
- 少したった―二区 喰種レストランにて―
董香「こんの、バカネキ!!どこ行ってたのよ!!」
金木「あ、あははは…」
董香「まったく…なんにせよ合流できてよかったけど」
真戸「ナナシ、君に来客だ。ここで落ち合うことになっている」
ナナシ「私に?二区に知り合いがいるのか…」
亜門「もう少しで時間ですが…?」
有馬「お客さんざわついてるけど?」
ナナシ「そりゃあ、あんた、CCGの死神がこんなところに来てたらどいつもこいつも失禁ものでしょうよ」
有馬「そうか…コーヒー1つ」
店員「かッ…かしこまリましたぁ↑」裏声
董香「すごい焦りよう…私もコーヒーで…」
金木「ぼ、僕も」
真戸「私たちもだ」
亜門「俺は…別に…」
真戸「まぁ、いいじゃないか。何事も経験だ経験」
亜門「はぁ…」
ナナシ「私もコーヒーで頼むよ」
店員「ご、ごゆっくりりりりr…」
ナナシ「で、私に来客とはなんぞやら」
有馬「それなんだけど、僕らは二区探索中に喰種に出会った、君の匂いがするとね」
ナナシ「あ?おう」
有馬「話を聞くと、君に合わせたら情報をくれるらしかったから二つ返事でOKしてみた」
ナナシ「かるいね」
有馬「戦力的に問題ない」
董香「戦うこと前提なんだ」
有馬「ほかに何かあるのか」
金木「実は逃げるためのはったりだったとか?」
有馬「それならもっと早く逃げるし、しばらく無視していた時点でこちらに戦う気はないことはわかったはずだ」
真戸「つまり、本当に君に会うことが目的、らしいね」
金木「男の人ですか?」
亜門「いや、女の喰種だった。なんとも思わせぶりな感じの…」
ナナシ「おお…こわいこわい」
店員「い、いらっしゃいませ…」
六人が話していると入口が開き一人の女性客が入ってきた。
服装は華美なものではないが、金持ちでおしとやかな感じが漂っている。
おびえる店員と二言三言話したあとこちらへ近寄ってくる。
女性「久しぶりね、ヤオヨロズ。あのころとはすっかり変わってしまった」
長い髪を綺麗にまとめたその姿はまさに淑女と呼ぶにふさわしいだろう。
女性「…あなたが消えてからずいぶん経ったけど……みんな元気よ」
-
- 71 : 2015/11/21(土) 17:25:05 :
- ナナシ「…」
有馬「彼女が僕たちと接触を図った喰種、スミレだ」
スミレ「あなたがいなくなった分、仕事が増えたわ。」
ナナシ「…ひとついいか?」
スミレ「なにかしら」
ナナシ「誰ですか?」
スミレ「あら?」
金木「だとおもった」
真戸「しってた」
有馬「記憶喪失だって言わなかった?」
スミレ「聞いてないです」
有馬「記憶喪失です」
スミレ「遅いわッ!もっと早ぉ言ぅてつかぁさい!」
金木「広島弁!?」
スミレ「かぶれですけどね」
董香「で、なんなの?」
スミレ「そうそう、本来の目的を忘れておりました。こちらを」
スミレが出したのはクインケケースにも匹敵するサイズのジュラルミンケースである。
手際よく留め具を外すと中を開いてこちらへ向ける。中には
金木「?なにこれ」
真戸「赫胞?かね?」
赤黒く輝きを放つ結晶が突き出たなまめかしい臓器のようなものが保存されていた。
スミレ「正解ですわ。これは彼の失踪当時の現場であろうと思われる場所に残っていた唯一の証拠品」
有馬「その感じで行くと、記憶失う前に殺されかけたってことになるが?」
スミレ「ええ、真相はわかりませんが、赫子痕が大量にありましたから、戦闘はまず間違いないですわ。」
董香「で、これをナナシにどうしろと」
スミレ「食べればよいのでは?」
董香「は?」
スミレ「臭いなどからは間違いなく彼のものなのは明白です。それを本人にお返ししようと。」
ナナシ「…はあ、まぁ理に適ってますけど」
スミレ「私は組織を抜けますわ。あなたもずいぶん丸くなってしまったみたいだし、何か面白いものを探してぶらり、と」
有馬「組織とは?」
スミレ「Vですわ」
有馬「!?」
亜門「どうかしましたか?」
有馬「…いや、なんでもない…」
ナナシ「私が組織に消されたっていう可能性は?」
スミレ「利点が考えられませんわ。かなりの戦力でしたもの。それに、上層部が何人もいれば勝てるでしょうに」
ナナシ「上は腰が重いんだよ?機関って」
スミレ「普通にアクティブですわ」
有馬「…とりあえず、用事が済んだら一度戻ろう。話したいことがある。」
スミレ「では、私はこの辺で。しーゆーあげいん」
わざとらしく日本語の発音でいうと、店を出ていった。
ナナシ「…」
董香「掃除屋だったのね」
金木「本でしか見たことないけど…ほんとにいるんだ」
先ほどのやり取りは大きめの声で行われていたため客たちがさらにざわめきだす。
店員「お、おきゃくさま…」
真戸「ああすまないn」
ナナシ「…おい」
有馬「…」
有馬は目を向ける。殺気どころではない。常人なら殺せるんじゃないかと思うくらいの威圧を出したナナシの目を見る。
目は座っている。赫眼にも感情を感じ取ることができず、ただ淡々と言葉を述べるだけだ。
金木「どうしちゃったんだナナシ「喰べなきゃ…いけない気がするんだ」
亜門「…さっきの女性、死臭ナナシ「いいんだ。思い出したわけじゃない。でも、龍にはけじめをつけなきゃ。」
有馬「…何を思い出したか、言ってみろ」
ナナシ「ああ、この店が出せる限りのものを全部用意しろ。今すぐに」
店員「で、ですが…」
ナナシ「なんなら!…あんたを喰ってもいい」
店員「す、すぐに…」ビクゥ
-
- 72 : 2015/11/21(土) 18:03:52 :
- 何を考えているんだ。
僕は?俺は?私は?
何度も反響するな…頭の中で…
思考のじゃまだ…知らないやつが勝手に死ぬ。
それだけだ。なのに頭の底に、もっと根本的なそこにこびりつく。
この気持ちはなんだ?悲しいのか?苦しいのか?
どうしようもなく涙が出るんだ。我慢できないくらいヨダレがでるんだ。
どうしようもなく満たされない。
――――タベナキャ
違う!喰べたくない!
龍を殺すのは俺の目的だ!他の誰のものでもない。
それなのになんなんだこの憎しみは!
あの女だって、知ってただけで今は知らないだろう?
関係ないことだ。関係ない他人の死を悲しんでやるほどお人よしじゃない。
…でも、生きなきゃいけない。殺さなきゃいけない。守らなきゃいけない。
守れなかったものを。奪い返さなきゃ…!!!
――――――――――生きることは喰らうこと。
喰らうことは奪うことだ。
次に目を開くとき、『俺』は『僕』でも『私』でもなくなるだろう。
食欲(ホンノウ)のままに血肉を貪る喰種(ケモノ)だ。
-
- 73 : 2015/11/23(月) 16:58:49 :
- 真戸「よく食うねぇ…大食いより食べるんじゃないの?」
亜門「そういえば大食いの捜査…一向に進みませんね。」
董香(…リゼが死んだこと、知らないんだ)
有馬「…」
金木(リゼさん…)
ナナシ「龍、龍、龍。卑怯な男。人質、強奪、拷問。なんでもする。」
有馬「龍は駆逐されたはずだ。CCGにその記録が残っている。」
ナナシ「生きてる。あいつは生きてる。赫者になった。子供は違う。」
董香「しょっちゅうちょっかい出してくる龍以外にも同じような奴がいるってのか?」
ナナシ「いる、いる。ずっと見てた。わかった。違和感。最初、と二回目じゃ全然違った。」
運ばれてくる血肉を口に詰めながら話を進める。
半解凍のものもあるがやはりにおいがキツイ
金木「?どういうことです?」
ナナシ「来た楓、のバックにいたのが本物。二回目のはあの子供」
真戸「…龍が二匹いると…?そういっているのか!!」
亜門「落ち着いてください!」
ナナシ「龍も、俺も、Vの掃除屋。ある程度自由のある立場。」
有馬「…」
真戸「V…いったい…」
ナナシ「詳しくは思い出せない。でも。邪魔者殺す。俺は喰種専門。龍は人も食べた。」
真戸「君では勝てんのか?」
ナナシ「わからない。昔はどうだったか。今も。」
有馬「続けてくれ」
ナナシ「梟…。龍。梟来た。龍怒った。説得したが聞かなかった。」
ナナシ「…あと!わからん!!!」
あれだけあった血肉の山がきれいになくなっていた。その店の店長も他の客も不安そうな顔をしてナナシを見ていた。
ナナシ「店長」
店長「ふぁい!!!!」
ナナシ「上にはこう言え。ヤオヨロズが来た。と」
店長「や!?ヤオヨロズ!!!!!!!」
店長は名を聞いた瞬間白目をむいて昇天なさった
客「ざわざわ」
有馬「…騒ぎを大きくしているみたいだけど?」
ナナシ「龍は被害者だ。できれば処置は穏便に済ませたい」
真戸「…クインケ」しょぼん
有馬「ん゛ッん…善処しよう」
首をひねり骨を鳴らす。
ナナシ「さて、約10ぶりの友人に死の挨拶を持って出迎えますか。」
-
- 74 : 2015/11/23(月) 16:59:03 :
金木「…」
ナナシ「表情が暗いぞ青年!」
金木「ナナシさんは…」
口に出すのを戸惑う言葉をだす
金木「ナナシさんは掃除屋だったんですよね…記憶がもどっても僕たちと今まで通りの関係でいてくれますか?」
ナナシ「…さぁ?」
金木「!?」
ナナシ「未来のことはわからないよ。でも、恩も借りもある。あんていくには戻るよ」
董香「…なんで女の人追わなかったの?」
ナナシ「わからない。あの匂いを嗅いでたら自分の居場所を奪われるような。無意味な感覚が体を巡った。
満たされないんだ。どうしてだろうね。…あの人を追ってたら、我慢できたと思う?」
泣いていた。長いまつげが綺麗だった。窓からさす月明かりだけが僕らの言葉の道しるべだった。
ナナシ「…どちらにせよ。龍は殺す。子供は助ける。それだけ」
暗くてもわかった。しっかりした目つきで、赫悟を決めた目だった。
ナナシ「本当なんですね?月山さん」
会話の相手はナプキンで口を拭うと、今一度料理を食べるべくフォークとナイフを手に取った。
月山「ああ間違いないね。これでも頑張ったんだ。かなり大変だったよ。」
ナナシ「九頭竜楓と九頭竜雅が親子だった、と」
月山「驚くべきは龍の家系図だけじゃない。裏に詳しいジェントルマンからの話によると…
喰種が喰種を売る裏組織は今も存在する。だけではなく、トップはその九頭竜雅本人だって話さ」
ナナシ「だが、脱走した九頭竜楓と龍の少年の存在をどうとらえるんだ?」
月山「自分の手を汚さずに、君を葬り去ろうとしてるんじゃないのかい?」
ナナシ「…10年前の恨みを?わざわざ他人の手で?」
月山「その辺は君の記憶がはっきりとしないとね」
ウェイター「その話!聞かせてもらったわァ!!」
服を一気に脱ぎ捨てた。その場所にはふんどし一丁になったおかまの姿があった。
ニコ「いやん。ちょっとナレーター!」
ヤモリ「面白そうなもん聞いちまったなぁ」
ナナシ「邪魔するつもりなら怒るよ」
ニコ「いやーんこわーい!助けてヤモリ!」
ヤモリ「ひっつくな」
ニコ「んもう、つめたいわねぇ」
月山「…どうしようっていうんだい?」
ニコ「そうねぇ…アオギリに戦力としてほしいのよね、その雅とかいう男」
ナナシ「無駄だ。俺が殺す。」
ヤモリ「フン…アオギリが早く回収すればいいだけのこと。行くぞニコ」
ニコ「戦わなくていいの?」
ヤモリ「おそらく、どっちか死ぬぜ」
ニコ「そりゃあ、やりあったらどっちか死ぬでしょうよ!ほんじゃ、またね。チュッ」
投げキッスをしてビルから飛び降りていく。
月山「厄介なことになったね。僕は行かないよ?」
ナナシ「邪魔するものは消す。それだけだ。」
有馬「今までの話をまとめると、今と昔の龍は別人で、捜査記録の通りには駆逐されていなかった。
今では組織を作り嘉納という医者の下で喰種の売買をしている、と。」
ナナシ「そう言うことになる。くわえて龍は自分の娘を組織の育成施設に預けたようだ。今は三区だ。ついでに言うと
龍の娘を連れて脱走した少年だが、こっちは詳しくわかってない。流通したとき身元がはっきりしてないらしい。さらに、娘の楓は龍が自分の父だと知らないようだ。」
董香「…ひどいはなしだね…」(お父さん…)
金木「龍はいったい何のために娘をそのままにしてるんでしょう」
ナナシ「…俺が少年を殺した後出てきて実は本物は俺でしたってのを演出したいんだろ?あいつ相当イカレ野郎だから」
真戸「つまり、彼は君に嫌がらせするためだけに、少年と娘を逃がし、悲運にも少年に君を殺させようとしているのかね?しんじられん」
ナナシ「俺だって信じたくないよ。くだらない男の仕返しのために、何人の命が犠牲になったと思ってんだ。」
有馬「どうする?行くんだろう?」
ナナシ「みんなは施設へ向かってくれ、龍との決着は俺だけでつける。」
董香「そんな!危ないよ!!」
金木「そうですよ!せめて僕たちだけでも…」
有馬「やめておいたほうがいいよ」
金木「有馬さん!?」
有馬「怪獣大決戦が見たいなら別だけどね。命の保証もないし。おどろきの3Dだよ」
金木「…」
-
- 75 : 2015/11/23(月) 16:59:58 :
- 三区
作戦はない。邪魔するもんは全部潰す。潜伏場所は月山が教えてくれた。育成施設の場所は白鳩のほうで特定できた。
有馬のほうはちゃんとやってくれるだろうか。…助け出した子供はできれば殺さないでほしいという願いを彼は聞き入れるだろうか。
ナナシ「…」
考えていても仕方ない。誰も話しかけてこない。素晴らしい。順調だ。さっきにおびえて全員縮こまっている
首を動かし骨を鳴らす。
感情が必死に交感神経を震わす。怒りだ、龍に対する、少年たちの悲運に対する怒りが奥歯をかませ、こぶしを握らせ、はらわたを煮え繰り返させる。
人気が少なくなってきた、港が見えてくる。古くなり廃屋となった倉庫。
そこが現在龍の使う住処らしい。
気配はするが、出てこない。息を潜めておびえているようだった。
俺は今どんな顔をしているのだろう。はっきりと想像の付く孤独の悲しみを、あの時のあの子の表情を、理解できるまではっきりしてきた。
雛実「…おにいちゃん?」
ナナシ「!?!?」
雛実「やっぱり、お兄ちゃんだよね!ナナシお兄ちゃん!」
ナナシ「なんで…ここに?」
雛実「お出かけできたんだけど…お兄ちゃんみたいな背中を追いかけてここに…本物だった!ひさしぶりです!」
ナナシ「…まずいよ」
龍「まずいな」
ナナシ「…」
雛実「誰?」
龍「俺は天地響。喰種さ」
挨拶と同時に龍の赫子を並べる。
ナナシ「雛実ちゃん。離れないようにね。この辺危ないから。」
雛実「う、うん?あ、あれ、あの子!」
雛実が指をさした先には楓が立っていた。
響「よそ見してんじゃねぇ!!」
振り下ろした赫子がまっすぐナナシのほうに向かって突き出される。
ナナシはそれを難なくさばききっていた。赫子ではなく、素手で。
ナナシ「今度はケガもしないな。こんなものなのかい?」
響「何っ!?」
驚くのも当然だ。赫子で赫子を返されたならわかる。素手で赫子を破られたのだ。
ナナシ「きっと、その様子じゃ話も聞いてくれないんだろうね…」
響「だ、だったらどうした?」
強がっている。強がってはいるが動揺しているのがすぐわかる。
動揺は足をすくうには好材料
ナナシ「隙だらけだね」
気が付くと響は拘束された状態で組み伏せられていた。
驚いた楓が飛び出そうとするが…
???「ずいぶんといい格好になったじゃなぇか!ええ?ヤオヨロズさんよぉ」
楓を抑え込んでいたのは龍だ。10年前に失踪した龍本人だ。
響「おい!?おっさん!楓を放せ!」
龍「ああ!?ガキが!生意気な口ききやがって、今まで見逃しておいてやったんだ。ありがたく思いやがれ」
響「なっ!?」
ナナシ「驚くな、あれは九頭竜雅。九頭竜楓の実の父だ」
響「んなバカな!!父親が自分の娘を研究材料やら売る品物だとかに混ぜるはずねぇだろ!」
ナナシ「ほんとの話だ!」
-
- 76 : 2015/11/23(月) 17:00:10 :
- 龍「あーはっは!本当も本当!俺はこいつを最初から食うつもりで育ててきた!お前と一緒に逃がしたのも、お前が喰種に対して対抗心を持ってるからだ。良質な赫胞は良質な赫子を生む!!俺が赫子を使えねぇこいつを喰って、世界をぶっ壊してやるのさ!!」
そういって高らかに大声を出して笑う。楓はじたばたと動いているが、勢いよく背中を打たれ失神してしまったようだった。
響「そ、そんなこと言うやつが父親なもんか!!父さんはいってたぞ!親子は仲良く暮らすもんだって!!いるだけで幸せであったかいんだって!それなのに…そんなのって…」
ナナシ「助けてやるから心配すんな。」
龍「父親ぁ??仲良くぅ???そんなのは弱いやつの幻想だ!!あーはっはっはっはァ!!」
ナナシ「…くだらないな」
龍「はっはぁ…あぁ?なんだって?聞いてるぞ、捜査官なんかと組んでるらしいな。お前はほんとにイレギュラーだよ。
そのうえ俺とやった時のせいで記憶もなくしたんだってなぁ!!そこまで行くと無様だなぁ!!」
ナナシ「くだらない。くだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらない」
響「お、おい!どうしちまったんだよこいつ!!」
雛実「わ、わかんないよぅ!!お兄ちゃん!」
雛実はうろたえる。彼が怒るのを見るのは初めてではない。最初に見たのは雛実の母であるリョーコが捜査官の手によって殺されたときである。あの時の彼は一心に衰弱していった。
しかし今の彼の姿はどうだろう。鬼神のごときとはちがう。もっと荒々しくて狂っていて歪んでいる。
龍「あんまり怒りすぎて狂っちまったか?それに、仲間一人守れないお前に利益のない善行は似合わなすぎる。」
ナナシ「昔の話だ。」
龍「ふん、今からも、だ。お前を喰い殺した後に後ろの二人も喰ってやるからよぉ!!」
ナナシ「いいや、今度失うのはお前のほうだ。奪うのは俺だ。」
龍「懐かしいなァ?組織にいたころは何度もこうして互いの刃を交えたものだった!」
激しい音、深い赫子痕、吹き上がる海水。両者譲らず自分の目的を見据えている。
龍「てめぇも俺も悪人よ、しっかし、わかんねぇもんだな」
ナナシ「話す余裕があるとはな」
力強い鱗赫からの一撃が龍の側面をとらえる。
龍「ぐぅお…くっくっく……うれしいね。だが、あっちはどうかな?」
響「うわァ!?」
倉庫から何本もの赫子が突き出した。戦いを見守っていた二人からは予期せぬ攻撃だったようで、不意打ちはもろに決まってしまっていた。
龍「助けに行くよなぁ?ナナシさんよォ」
にたりと笑い渾身の一撃を打ち出すべく身構える。
が、
ナナシ「…愚問だな」
ナナシは雛実たちのほうを見向きもせず大きく振りかぶった龍の胴に本気の一撃を打ち込んだ。
雛実「くゥ…!?あ…ッ」
龍の赫子は雛実の翼によって防がれていた。
響「…??え!?」(強くね?)
距離が離れていたおかげか威力がそこまでなかったので何とか受け止めることができた。
雛実「だい…じょ…ぶ?」
衝撃に体を震わせ、ひざまずいてしまう。
響「さ、サンキュ…ど、どうようしてて…なんていうか…」
雛実「…許せないよ…」
響「え?」
雛実「あんなの…あんまりだよ!!」
雛実は怒っていた。
ナナシ「うくッ……ああっ…ぎ…あああああああああああああ!!」
赫子にもいつものような美しさが見えない。彼の感情に作用されているようで、不規則に形を変えてはどんどん歪んだ姿へと変貌していく。
龍「ほぉ…やっぱり赫者だったか…」
八本の鱗赫、八つの目は拡大していき、大きな蜘蛛に姿を変える。前回と同じものではない。歪みによって、全身は黒い羽赫で覆われている。
龍「まぁでも!!蜘蛛が龍に勝てるはずねぇけどなぁ!!」
楓を投げ捨てると巨大な龍に姿を変えた雅が蜘蛛の腹へとめがけて飛んでいく。
雛実と響は完全に取り残されている。
今までにないような光景である。巨大な赫子の化け物二体が戦っているのだ。
20区に暮らす雛実はもちろんのことだが、様々な喰種と対峙してきた響もまた同様だった。
龍「何!?」
龍の頭は腹を喰い破ることなく削り取られていた。全身を包む羽赫が勢いよく振動、反復など微細な動きを繰り返し、龍の堅い甲赫の赫子を根元から消し去った。
羽赫の持つRcを失活させる効力のせいなのか吹き飛んだ首の一本は再生しなかった。
雛実は怒り狂うナナシを、響は向こう側にいる楓のことを心配していた。
-
- 77 : 2015/11/29(日) 18:39:16 :
- 龍「死にさらせぇ!!」
ナナシ「お前がな」
響「映画でも見てるみたいだ…これがおんなじ喰種なのかよ…」
戦況は拮抗というほどでなかった。むしろナナシの赫子に龍が攻めあぐねているのは明白で、少しずつではあるが龍は後ろに下がっていた。
雛実「…?」
雛実は龍の動きの異変に気付いていた。最初こそ威勢よく激突していたが、距離を保って羽赫での攻撃に専念している。
龍は後ろに下がり続けている。押されているからではなく、自分の意志で。
雛実「あ!!」
響「!?いきなり大声出すなよ!」
雛実「あの楓って人助けなきゃ!!」
響「え!?突然何を言いだすかと思えば…そりゃ、わかってるけど…」
雛実「そうじゃなくて!あのおっきい龍逃げちゃう!」
響「た、確かに押されてるし逃げるかもだけど…」
雛実「違うの!最初から逃げるつもりだったんだよ!!」
響「何!?」
ナナシ「逃がすと思ってるの?」
龍「ハハァ!勘のいいガキもいるもんだぜ!遅いがな!!」
龍は赫子を一瞬でしまい込むと楓を抱えてすぐさま飛び立った。
雛実「!?間に合わなッ…!」
すでに予期していた雛実は龍の行動に誰よりも早く駆け出していたが、龍のスピードには届きそうにない。
ナナシ「…」
龍「あーばよーナナシ!次は無…!?」
しかし、大蜘蛛の中にすでにナナシの姿はないようで物の抜け殻となっていたようである。宿主を失った赫子は崩壊の一途をたどっている。
龍「な!?どこにッ…」
ナナシ「遅いよ、」
まさに目の前にナナシは立っていた。クインケを一線にかまえて。
突き出されたクインケは龍を切り裂くことはできなかったのだが…
龍「あ、あぶねぇ!逃走用にわざわざ赫子をしまってよかったぜ…」
間一髪龍の甲赫がクインケからの一撃を避けていた。
一方一撃のために赫子を切り捨てたナナシは電池切れのようでよたよたと倒れそうになる。
龍が再び逃げようととんだ瞬間だった。
???「ンー♪君はもう少し周りを気にするべきではないかな?」
声の主は…
月山「わすれてもらっちゃあこまるよ!」
協力はしないといったもののどうやらついてきていたようで、飛び出した龍にそのまま自身の甲赫を叩きつける。
月山「ボナペティ!!」
-
- 78 : 2015/11/29(日) 18:39:29 :
龍は月山の赫子こそはじくことはできたものの勢いをつけて殴打された自身の反発を受けきるには至らなかった。
ナナシ(月山か…悪いけど、もうだめかも…)
最大の敵を前にして万策尽きたようなナナシは龍が自分に飛んでくるのを傍観していた。
雛実「お兄ちゃん!!」
頭に響く甲高い声で引き戻された。続いて体に衝撃が走ると夢うつつからしっかりと体に感触が残るまでに至った。
響「何寝そうになってんだよ!あんだけ大口叩いたくせに!!」
雛実「もう少しだよ!!」
実のところ彼がなぜ戦っているのか雛実には理解できていない。彼の過去はまだ知らされていない。
しかし今の彼女には、龍を倒すことがナナシが目的とすることだというのはなんとなくわかっていた。
ナナシ「ああ……もう…………少し!!」
二人に体を支えられながらも突き出したクインケは龍の体を覆い切れていない隙間に突き立つ。
龍「チ…ク……ショ…ォォおお「ォォォオオオオオオ!!」
セツナは龍の赫胞をしっかりと捉え切り裂いた。
月山「ドルチェ!」
龍「俺はァ…やらねばならぬゥ…Vへの復讐をぉ…ヤオヨロズを超えて………」
龍「…」
月山「そんなちっぽけな復讐のために何人の犠牲を払ってきたんだい…?」
龍「V…V…VVVVVV!!!恨めしい!!」
セツナが龍の頭へとふりおとされる
ナナシ「知るか」
ナナシ「…おわったよ。うん。」
そこまで言うと、ナナシはその場に倒れこんでしまった。
-
- 79 : 2015/11/29(日) 18:40:45 :
- 彼の活躍はしばらくして月山や雛実ちゃんから入ってきた。
彼は彼の選択で前に進んでいる。…ようだ。
アオギリはどう見るか。
CCGは?…金木君。君は罪人になってしまうのか?
自らの居場所を守るためだけに周りも見ず、世界を吊るし混乱を導くものへ。そうなってしまうのかい?
ナナシ「どうなんだい?そこんとこ」
金木「元気になってから…口がきつくなりましたね」
ナナシ「わざわざ14区まで俺を迎えに来た。ってことは、僕に頼まなきゃいけないくらい手に負えないことが起きたんだろう?」
金木「…どうしてそう思うんです?」
ナナシ「…君は仲間がいる。それも、非戦闘員ではない。間違いなく戦闘向きの実績者。Sレートの月山に元アオギリの部下それらで足りなくなったんだろう?傲慢な金木君?」
金木「僕は…そうですね。傲慢です。みんなを守るためだから。神にだって悪魔にだってなりますよ」
ナナシ「…毒虫になれてよかったかい?」
金木「なんですかそれ」
ナナシ「高槻泉の好きな作品だろう?どうなんだい?人として、喰種として生きてみて喰種になれたことはうれしかったと胸を張っていえるかい?」
金木「…僕は感謝してますよ。」
ナナシ「医者にか?」
金木「ええ、真実を突き止めるだけの力を手に入れるきっかけだったんだ。捕まえてすぐにでも目的をはかせてやる。」
ナナシ「…失った人間が言うのもなんだけど、さ。失ってからじゃ遅いんだよ?」
金木「何のことですか?」
ナナシ「………いや、なんでもないよ。金木君。」
本来君が持っていた性質を。かわいそうに。強くならなきゃいけなかったんだね。
自分でそうしたかったわけじゃない。選ばざるを得なかった。君は責められるべきじゃない。でも、
見つけ出して、君の中に落とした一人を――――――――
ナナシ「…で、俺に何させよってんだ?」
金木「その前に、赫子は出せますか?」
ナナシ「そりゃもちろん。たくさん喰べたからね」
金木「人を、ですか」
ナナシ「残念、同種喰いさ」
金木「…やはりあなたでしたか。喰種が何人も行方不明になってる原因は」
ナナシ「そうかもね、何?真っ向から戦いに来たの?」
金木「いえ…少し稽古に付き合ってほしいな、と」
ナナシ「え?いいの?体に感触が戻ってきて下手したら殺しちゃうよ?」
金木「命を懸けた練習じゃないと強くなれないじゃないですか」
…君は十分強くなった。自分を選択できるほど強くなったじゃないか。
ナナシ「これ以上の力を望むと」
金木「今の僕ではだめだ。そう、わかったんです。」
ナナシ「…負けたんだね?」
金木「…」
ナナシ「……わかった。応じよう。場所はこの建物の屋上、リハビリ用の強化クインケ鋼でできた部屋がある。」
金木「ありがとうございます」
君に必要なのは”勝つ”ことじゃないはずだよ。強くなった金木君。
もうすでに見落としてるじゃないか。青年。
-
- 80 : 2015/11/29(日) 18:41:36 :
- ナナシ「いくら僕が元掃除屋だからといってね、どんなものでも受け付けてるってわけじゃないんだよ?」
ぬぼーっと地面に突っ立ってはいるが、赫子はせわしなく標的を追っている。
金木「わかってます…よっ…それをしのんでお願いに来てますから…」
軽い身のこなしで鋭い赫子の連撃をかわしつつ話を続ける。
ナナシ「海外さんなんてのは論外だぜ…」
わざと大きいすきを見せるが、なかなか誘い込まれはしない。
金木「彼らと渡り会うにはあなたの力が不可欠です…」
当てる気がないわけではないが、どちらも身を引いて戦っているようだ。
ナナシ「よし、ウォームアップはやめて組み手に入るか」
金木「はぁ…ナナシさんだけ全然動いてないじゃないですか」
ナナシ「動いたら当てちゃうだろ?」
金木「当てる気がなきゃ意味がないでしょ」
ナナシ「まぁね、一万の練習より一度の実戦。命を懸けた場所でのみ、体の真価が発揮される。」
腰を低くおろし構えをとる。組み手の開始だ。
金木「海外喰種は場所関係なく喰い荒らしてるみたいです。ほんと、侵略的外来種ですよ」
ナナシ「…僕も最近ずっと喰べてたからねぇ……人のこといえないけど」
金木「僕らだけじゃ…数が間に合わない。お願いできますか?」
ナナシ「情報は細部までわたってんだろうな…勘違いで捜査官とドンパチなんてごめんこうむりたい」
金木「さぁ…そこは管轄じゃないので…あの人にお願いするしかないです」
ナナシ「あ?ああ、真戸の部下か」
金木「ええ。捜査官のほうは彼がうまくやってくれるでしょう。」
ナナシ「…だといいがな…」
-
- 81 : 2015/12/05(土) 18:58:57 :
ナナシ「…チャイニーズに…フレンチ…アメリカンも…かな…?」
ここは三区。船の出入りがある中で、現在は人通りが最も薄いといえる区である。
ナナシ「…密入国ならこの辺かな、と思って来れば、まさにここか」
それにしたって多すぎないか。口から出そうになった文句を飲み込んで目測りで数えてみる。
…その数なんと500を超える。
ナナシ「ここを襲撃するのは…ちょっと…ないな」
ここを叩くよりは分散したのをつぶした方がまともな戦闘になるだろう。
周囲の警戒を最大限した後、敵の動向を探りながら撤退する。
ナナシ「…ペアを組むべきだな…」
現状最低限いえることはこれしかなかった。
ナナシ「ええ、月山くん…君はそのままあんていくに残ってください。雛実ちゃんと董香ちゃんのこと守ってあげてくださいね。」
ぴっ…ピピピ…ぷるるるるるる…
ナナシ「あ、イトリさん?どうもお世話になってます~ナナシです~。ウタさんと四方さんがいるなら、しばらく三人で行動してくださるよう言っといてください~。それでは、しつれいしま~す。」
ぴっ…ぴっぴっ…ぷるるる…
ナナシ「…あ、真戸さん?海外のやつらなんですけど、結構いますね~…あれは駆逐は厳しいですよ。…まぁ、そっちもペアを組んで、一人では行動しないように。いいですね。頼みますよ?」
ぴっ…
ナナシ「…部屋に戻って、金木君たちに情報を教えないとね…」
海外喰種「へっへっへ…」
ナナシ「…帰らせてくんねぇ…ってか?」ギロリ
赫眼を出し、殺気で威圧をする。
海外喰種「ひぃ…!?」
多少なりとも実力があるのだろう。しかし、生半可な力があるばかりに、圧倒的な威圧を受けいれ、おびえてしまう。
ナナシ「失せろ。肉塊になりたくなければな」
道を開けるようにしてよけた喰種達だった。
-
- 82 : 2015/12/05(土) 18:59:08 :
???「ヒュ~」パチパチパチ
切れかけた街頭。その上には旗袍を身に着けた短髪で細めの男が腰を下ろしていた。
ナナシ「あぁん?」
ナナシは睨みを利かせ、あえてあおるような口調で話を進める。
???「初めまして。私は余暉。中華系の喰種さ」
ナナシ「…中国人が自分を名乗るのに自分を中華系といったのは初めて聞いたぞ。」
余暉「仕方ないだろう?日本語って不便なんだ。それより君、強そうだねぇ…一戦やらないかい?」
余暉、と名乗った男は戦いたそうだったが、ナナシはさっさと帰ってこころをぴょんぴょんさせたかった。
ナナシ「…お前は他とは違うのか?」
余暉「戦いを娯楽にしているだけさ。それだけが生きがいでねぇ」
ナナシ「…マンダリングガウンを着てる男は初めて見たな…女だけかと思ってたよ。それ着るの」
余暉「マンダリング…?ああ、長杉のことかい?」
ナナシ「チャングシャンというのか…中国語はわからん…」
余暉「どうでもいいだろう?服なんて。さ、はじめよう」
余暉が構える。どうやら逃げることは…
海外喰種達「やっちまえー!!」
ナナシ「…無理そうだな!!」
二人の赫眼が閑散とした倉庫群に煌めく。宵闇は袂を別れ、二人によって縫い合わされているようだ。
激しい衝突音が幾度となく響き、叫びをあげる。
ナナシの鱗赫はなんどか余暉の体をとらえていたが、相性もあってか、余暉の尾赫にいなされ、思うように攻撃が当たらない。
長い足のような鱗赫を巧みに動かし、近距離に寄せ、蹴りや突きを放っても、綺麗に受け流され、どうにも攻めあぐねる。
ただしそれは余暉も同様で、いくら武術的に受け流して負担を減らしても、八本もある鱗赫をさばき切るのは不可能だった。
互いに近づいては離れ、距離を保ちスキをついては防ぎ、攻防は一進一退を繰り返していた。
先手を決めたのは余暉だった。
緻密な計算、冷静な判断で、ナナシの赫子を防御範囲外に置かせることに成功したのだ。
余暉「もらった――――
が、
余暉は自分が思ったよりも深く入らなかったことに疑問を抱いた。
よけることは想定してあったので、彼がよければより深い傷を受ける位置に狙って攻撃したのだ。
それが、黙って受けたわけでない。それなのに深い傷は与えられていない。となると――――
ナナシ「甘い!!!!!!」
一転攻勢。まさにそれだった。よけないわけでもなくよけるわけでもない。
自分の狙った一撃のカウンターのために多少のダメージを甘んじて受けたのだった。
身をひるがえした彼の鱗赫は一つにまとまり大きな蜘蛛の腹を連想させる形へと収束した。
地を砕いた衝撃は大きく町を揺るがせた。大地に震動が走り、疾風が空を駆けた。
腹はまた八本の足へ姿を戻し、ナナシは離れた場に足をついた。
ナナシ「…」じろ
睨みつけるが砂煙に動く気配は見られない。
余暉「…」くたぁー
どうやら伸びているようだ
ナナシ「…はぁ。おい、ギャラリー、仲間は伸びたぞ。とっとと連れて帰れ」
海外喰種「ま、まさか余暉さんが負けるなんて…!」
海外喰種は覚えていろ、といわんばかりの形相でナナシをにらむと、余暉を抱えて逃げていった。
-
- 83 : 2015/12/08(火) 21:22:29 :
- チャイニーズとの一戦のあと、そろそろ月が沈み、太陽が新しい一日の始まりを告げるような時間になったが、
私は家に帰るどころかいまだに帰路につけずにいた。
「どうしたってこんなこと…にっ!!」
取り囲む外国人たちを何度か組み伏せて進んでは組み伏せてを繰り返しだ。
日本の警備はどうなってるんですかね。密入国者多すぎじゃないですかね。
こうなってくると、自然と国内に手引きをしたものがいるはずだと考えられる。
「邪魔!」
鱗赫を最小限に震わせ軽く払う。
どうしてこうも苦戦続きなのは、A~Sレートの喰種がわんさかで、さっきのSSレート級(チャイニーズ)だって
スキがなければもっと長くやりあっていただろう。
14区まではもうすぐだ。
――――とはいえ数キロあるが。
嫌がっていたがいつまでも帰れないとなると話は別だ。
じめじめとした薄暗い細道を通ることにした。
ここを通るなら見つかりはしないし、一本道であるから撃退も楽だろうと考えたのだ。
「だいたいこういうときは、面倒ごとがお約束なんだよな…」
そのつぶやきが実現したのか、早くも路地には人影が差し込んでいた。
「やっこさんがきたみたい………?」
ゆらりとゆれたその影が、ナナシにとびかかってくることはなかったが。
-
- 84 : 2015/12/08(火) 21:22:42 :
(なんだろう?あたたかい。誰かに運ばれてる?助かったのかな?)
頬に当たる冷たい風とは裏腹に、程よい脱力感が全身を包んでいた。
髪は乱れ、服は泥に濡れ、末端は寒さで凍えてしまっている。
しかし、今、広い背中に抱えられ、安心感と温かみを感じて身をゆだねられる。
その場で自分の命が助かった、と認識できるには大きすぎる現状だった。
しかし、できすぎている感じもする。もしかしたら死んでしまったのでは…
信じてはいなかったが、死後の世界というやつなのだろうか?
だとしたら自分はどこへむかっているのだろう?
いや、自分を運ぶこの人はどこへ向かっているのだろう?
考えが先走り気味になるが、雨に濡れた体の疲労は思考をも鈍らせ、温かみによる安寧は彼女の意識を眠りの沼に落とした。
-
- 85 : 2015/12/08(火) 21:23:06 :
いくらの時間が過ぎたのだろう?
肌寒さは消え、心地よいやすらぎが体に巻き付いている。
誰かがカーテンを開ける。
朝日がまぶしく目に差し込んでくる。体の疲労はもうなく、目覚めも快調だ。
しかし、助かったとすると部屋に来たのは同僚だろうか。その顔を認識するために動く標的にピントを合わせる。
「…おや?目が覚めたみたいだね?」
聞き覚えのない声。視覚からも聴覚からも、自分の知っている人物とは判別がつかなかった。
唯一、唯一こんな雰囲気の人間を知っているとすれば、父だ。
喰種捜査官として働いていた父。しかし彼は果敢にも私が小さいころに殉職している。
幼い記憶でもしっかりと悲しかったのを覚えている。
では、誰だろう。だんだんとぼやけていた視界は鮮明になりはっきりと瞳に映し出される。
「自分が誰だかわかりますか?」
綺麗な白の長髪をしたまるでモデルのような人だった。
声からも男性か女性かを区別できないような中性的な人物だった。
「え、ええ…雨止…雨止夕です」
自分をあの喰種の大群から連れ出したのだとすると、何者なんだろうかと考えてしまう。
「捜査官の方…ですよね?」
「ええ…」
クインケはない。彼(彼女?)が保管してくれているのだろうか
「あ、あなたの所持品、あなたが動けるようになったらお返ししますね」
「な…!?それは困る!はやくにでも職場に戻らねば…ッ!?」
興奮して足を床につけた。とたんに流れた激痛はその先を言葉に表すことを許してくれなかった。
「…ほらいわんこっちゃない。命のかかった仕事をしてるんだから、休める時に休みなよ」
こうなることを予想していたのか、痛み止めと水を持ってきてくれた。
「はい、しばらく安静にしてなさい。ここにもあいつらはくる。…しばらく俺はここにいるから心配はないけどね」
ここまでやり取りをして自分は大事な質問を一つしていないことに気付く
「あ、あの!ここ、どこですか?」
現状把握しないことには前へ進む足がかりさえない。
「…ここは14区。俺はナナシだ。よろしく」
「…ナナシさん。ですか…命を救っていただきありがとうございます。このお礼何といっていいことか…」
「あー、いい。言わなくてもいい。俺は喰種だからな」
は?この人はとんでもないことをサラッと言いやがったぞ
-
- 86 : 2015/12/08(火) 21:23:27 :
「ぐ…喰種?あなたが?捜査官を助けた?」
「ほれ」
混乱する頭に確かな証拠を突き付けられた。赫眼だ。
「なっ…!?」
「いやー、あそこからお前運ぶの大変だったわ、海外喰種はわんさか来るわ、お前を運ばなきゃいけないわでめっちゃ疲れた!!」
「喰種ならなぜ助けた!!何の得もないだろう!?」
そうだ。喰種は敵だ。人の命を奪い、多くの人間に悲しみを背負わせてきた悪。
人を喰って生きる化け物。少しでも人々を喰種から守るために捜査官になった。それなのに
「喰種に…助けられるなんて…」
「捜査官の恥だな」
「…!!それならいっそ…!殺してくれれば…!」
「バカか?」
「…ぇ?」
悪の権化は自分を殺せと願ったことにひどく嫌悪を示した。
ぐっ、と女のほうへ顔をちかづけると
「命を粗末にするな。」
そう言い放って、女をベットに組み敷いた。
「…くうのか?」
ナナシはそこまで聞くとゆっくりと自身の唇を女の喉元まで寄せた。
雨止は目を固く閉じた。いくら捜査官とはいえ死ぬのは怖い。
きっとゆっくりと体を食べられていくんだ、と思い込んで震えていた。
が、やわらかい唇から牙が向くことはなかった。
「さっさと休め」
ナナシは雨止にデコピンすると足早に部屋を後にした。
雨止は緊張からか、また眠気がこみあげてきた。彼女は喰種の家だということを気にもせずゆっとりと眠りにい落ちていった。
-
- 87 : 2015/12/10(木) 18:50:21 :
- ベッドに座る女性と、椅子に座りそれを見つめる男性。
つまりは雨止夕とナナシなのだが、この狭い空間で二人はそれぞれの不満を抱えていた。
助けてくれたものが人間だったのならば、感謝せざるを得ないのだが、と雨止。
はやく飯食ってくれないかな、とナナシ。
前者の不満は解消しようもないが、後者の不満については、雨止が深い遅疑の念を持ち、出した食事に手をつけないからだ。
「早く食べなよ…」
「やだ」
ぐぅ~、と雨止のお腹からは催促の呼び出しがかかっているが、彼女は一向にそれを認めようとしない。
「お腹なってるし…」
「なってない」
子供か、と思いつつも、乗り掛かった舟なので彼女が多少歩けるようになるまでは看病するつもりではいる。
が、食事を受け取らないとなると治癒を待つとかの問題ではない。
「はぁ…まぁわかるけどね。命を助けた時点で理解してくれたっていいのに…」
ここ最近はだいぶ体を動かすことに不便を感じなくなっているらしいが、足の傷はひどかったので歩くには至っていない。
そのため、彼女の風呂やトレイの世話なんかも、一人でやっている。
当たり前だがものすごい剣幕で拒否していた。
が、助けてもらった御前。敵とはいえ気まずさがあったのか、しぶしぶ自分から申し出た。
「…はぁ、せっかく作ったのに」
「大体、喰種が人間のご飯を作れるんですか!?」
「え?……うん、おいしいけどな」
ナナシはあんていくでも人間の客に料理をふるまったことがあるくらいには料理ができる。
別に料理は過去の記憶からできたわけでなく、自分で番組やメニューを調べてるうちになんとなく身についたものだった。
「ええ!?味わかんないんでしょ!?」
「いや、別に」
「喰種なのに!?ありえない…!」
いや、喰種でもないあんたが言うな、とつっこみたかったが、せっかく会話が続きそうなのでそっちを優先する。
「ま、俺意外知らないけど。人間の飯食えるやつ」
「あんたたちは人間を喰ってるんじゃないの?」
「喰ってるよ?俺以外はね」
「…あんただけ特別ってわけじゃないでしょ」
「どっこい、特別」
「信じがたいわ。存在自体が」
「失礼な」
「だいたい!捜査官を助ける喰種なんておかしいわよ!後で食べるつもりとかなんでしょ?」
「食べませんよ…どうしたら信じてもらえるかな…」
「なんで初めに自分が喰種って名乗るのよ!」
「いや、逆に信用を得られないかなと。」
-
- 88 : 2015/12/10(木) 18:50:36 :
「ないでしょ」
「ですよねー」
正直言って人間を食べるよりなら喜んで同種を喰う。
金木くんが来てからは喰べていないが。
「じゃあ、どうしたら信じてくれます?」
「無理よ!私は喰種に父を殺されてるのよ!?あんたたちなんて最低のクズよ!駆逐されて当然!」
「お父さんも…お父さんも捜査官だったの?」
「…ええ、彼は龍の討伐に当たっていたわ…話じゃ…人質を取られて…殉職したって…その…」
話してるうちに声はどんどんと小さくなっていき、かすれ始めたかと思うと、頬を涙が伝った。
「あれ…なんだろ……今まで……なかったのに…」
実際、彼女が父の話をして涙を流すのは初めてである。
そうして自分が見ず知らずで、しかも喰種だという男に自分の過去をありありと語っている事に衝撃を受けた。
が、こぼれ始めた感情のしずくが止まることはなかった。
「お…と………さん………うっ……うぅ……なん…で…」
自分の中に芽生えつつあった安心感に気色悪さを覚える。
喰種に殺された父の話を、喰種に話して感極まって泣いているのだ。
雨止は幼いころから感情を表に出せない性格だった。落ち着いて大人びた様子をとっているのが常で、心を許している家族の前ですら泣きも笑いもしなかった。
市民のために命をなげうった父を尊敬し、自分も捜査官として人々の命を守るべく生きてきたのに。
その彼女が今、直接ではないとはいえ敵の前で涙を流しているのだ。
ナナシは突然のことでキョトンとしたが、話を聞き逃すまいと誠実に聞き入れた。
「…つらかったんだね。」
その言葉は崩壊した心のダムの最後の関を打ち砕いた。
「苦しかったんだね。ほんとはもっとあったんだよね。きっとね。うまく言い表せないけど、安心して。今ここにはあなたを縛り付けるものは何もないから。だから、ちょっとだけ素直になろう?私が全部聞き入れるから。」
雨止はきっと思いとどまれば泣き止むこともできただろうが、それはしなかった。
安心させる罠かもしれないとも考えたがそれでもいいと思えた。
泣きじゃくる自分の声を、姿を、過去を、必死になって聞いてくれる姿に、彼女は安堵と信頼を寄せていた。
それは悩みを聞くことだけではなくて、なんとなくナナシの雰囲気が父に似ていたからだった。
父をはやくに亡くした彼女が必要としていたものは、すべてを受け止めてくれる力強いやさしさだった。
-
- 89 : 2015/12/13(日) 17:28:48 :
- あの後思いっきり殴られた。
人が優しくしてやってるのに全くも~…
雛実ちゃんがたまに遊びに来る。…捜査官の前に出すのはまずいかと思ったが、なんか意気投合してるな。
「えぇ!?そうなの!?」
雛実ちゃんは雨止との会話を楽しんでいるようだ。
おーい、その子も喰種なんだけど―。反応おかしくなーい?もしもーし…
ダメだ…ぼっちが避けられない…
鍋にかけていた火を止める。シチューである。濃厚なホワイトソースにほくほくのジャガイモが艶を放っている。
このSS開始初期は全く何もできなかった私だが、このままいけば都内一人暮らしとか余裕だな
※もうしてます
はじめは道楽で書いてたうp主もちゃんとストーリーに意味を持たせようと考えてきたし、俺も海外喰種殲滅頑張るか~…
「二人ともご飯できたよ~」
女子トークに花を咲かせているところ悪いが食器をかたづけたいのでな。
「今日はシチューか…」
雨止が臭いをかいで料理を品定めしている。
「いいにおいだ。おいしそう」
殴られはしたが、散々泣きながら父親の話をして心を開いたのか少しはいうことを聞くようになった。
まぁ、彼女を利用しようという気持ちは最初からないのですんなり聞いてくれなくても、彼女に負担がかかるのだが。
「お前料理できないくせに口だけはいっちょまえだな」
歩けるようになった雨止は一応礼として、何かしたいと申し出たので、家事などをやらせてみた
が料理ができない。
一番大事なところなのに。
「ほ、ほっておけ!私だって…」
「早く食べよ!さめちゃうよ?」
雛実にせかされてぶつぶつ言いながらも席につく。
「いただきます」
「いただきまーす」
「…いただきます」
会話を弾ませながらも食事は進む。
ふと、雨止が一言。
「…私…こんなことしてていいのかな…」
雛実は
「いいんだよ。今は危ないから。怪我しちゃったならちゃんと休まなきゃ」
と、慰める。
「そうかもしれないんだが…その、」
歯切れが悪く、どうも言い出しにくいことらしい。
「何かあるのか?問題が。」
一応済ませてやってる上では不自由ないと思うが。
「そ、その…なんだな…やっぱり、後ろめたいんだ…」
きっと、わがままだと思って言わなかったんだろう言葉が紡がれる。
「仲間は戦ってるのに私は…喰種と一緒に飯を…」
当然である。捜査官として命を懸けて戦ってきた。その目の敵に養ってもらって、休んでいるというのはもちろんながらにマシマズである。
「…わかっている。お前がもう少し動けるようになったらリハビリを始めよう。少しずつやらないと」
「わがまま言ってすまないな」
-
- 90 : 2015/12/13(日) 17:29:00 :
そのとき、呼び鈴が鳴り、玄関の扉を開く音が聞こえた。
「うぅ…あ……ぁ……」
扉を開けるや否やで金木が倒れこむように入ってくる。
体のいたるところに再生しきれていない傷が残っており、かなりのダメージをおっている。
「なにがあった!?」
「そ、…さか…ん……が、……裏…切り……もの…が…」
そこまでしか聞き取れなかったが、彼は聞き返す間もなく気絶してしまった。
「おい…そいつも喰種…なのか…」
雨止が声を出す。
「ああ、僕の友人さ。海外喰種の脅威をいち早く日本に伝えた。彼がいなければ、もっと多数の犠牲者が出ていただろうな」
「そんなことは聞いていない!捜査官が裏切者が、だと!?」
怒りの表情を見せているが、ナナシはすぐに誤解に気付く。
「…君たちをののしってるんじゃない。おそらく、捜査官の中に裏切者がいたんだろう」
「信憑性は?」
「正直なところ、君たちでは彼に触れることさえ難しいだろうね。それがこんなにぼろぼろ。同種でさえ今の東京内では手出しできない存在だ。」
「捜査官に裏切者だと…ありえない」
雛実が話にはいる。
「話じゃないと思うよ…みんな悪い人たちじゃないけど…一つの組織だし」
ナナシは思い出したかのように携帯電話を持ち出し、番号へと通話をかける。
「おい、貴様どこへ…」
口の前で人差し指をたて、しぃーっというとちょうど電話がつながった。
「もしもし?真戸特等ですか?」
電話の相手は真戸呉夫。リョーコさんの仇。というものの協力関係にある。彼の梟に対する憎しみは信頼できる。
「こっちは戦闘中だ、忙しいから後にしてもらえるかね?」
「一言だけです。捜査官の中に裏切者がいるかもしれません。気をつけて」
「はぁ?何をい…つー…つー…つー
ナナシは一方的に用件を伝えて電話を切った。
後ろで雨止は目を丸くしている。
「ききき…貴様……なぜ真戸特等の携帯番号を知っている!!」
ナナシはしれっとかえす。
「ああ、龍討伐戦では協力関係にあったからね。」
「そんな話聞いてない!」
「当たり前言ってない」
ぐぬぬという顔をする雨止をしり目に金木を抱え二階のベッドへ移動させる。
優しく寝かせると、食べ終わった食器をかたずける。
「雨止、入るぞ」
了承を得、雛実を連れて部屋に入る。
「…」
やはり心持ちしずんでいるようにみえる。
「お前が望むなら明日からにでも、訓練を始める。」
顔をあげ、すこし明るくなった表情を向け
「いいのか?」
もちろん条件はあるけどね、とナナシは言う
「眼帯、雛実ちゃんとチームを組んでもらう」
「なんだと!?こんな小さい子も戦わせるのか?」
その言葉を聞きナナシは笑ってしまう
「捜査官のお前が喰種にそれを言うのか」
雰囲気の悪化を察した雛実は声をあげる。
「お兄ちゃん!!」
「お前たちの正義に文句をつけるつもりはない。だからといって俺も雛実ちゃんを傷つけるつもりはない。ただ、そうしないとまずいってだけだ」
雛実は疑問を思う。自分が戦場に立たなきゃいけない理由とは。
「海外喰種にCCGの裏切者…か、多少の防衛は自分でできてもらわないとな。」
「わ、わたしひとりでたたかうの!?」
「いや、常にチームを組んで動いてもらう。そのためにチームワークを生かせるように訓練すんの」
雨止は納得してくれないようである。
「だからといって喰種と戦うなんて…私には無理だ。」
「だったら犬死してもらうだけだ。おとりくらいはできるだろう?」
「お兄ちゃん!!」
最終的にしぶしぶ納得までもっていったものの、雛実の気苦労はしばらく続きそうである。
-
- 91 : 2015/12/23(水) 17:59:46 :
- 「そういうわけで、いいか?」
ベッドに座る青年はその言葉にうなずく
「ええ、…僕はかまいませんけど…あの人は了承したんですか?」
あの人、というのは雨止のことだ。それについては何とか言いくるめてある。
「ああ、なんとかね。ってなわけだから、病み上がりさっそくで悪いが訓練タイムだ」
ここ14区にある隠れ家は普通の廃ビルだ。それゆえに廃ビル街が並ぶその中でここを選んではいるやつはそういない。
逆に都合がよく、部屋一室をクインケ鋼と赫子で練り固めた強化壁なんかを作る時間があったわけだ。
「…いつ来てもすごいですね」
赤黒い赫子の壁、天井。かなり気合を入れてイトリとナナシで作ったため、ナナシが本気で暴れても穴が開くだけ。
しかも、即修復。これだけの設備を用意するにはかなりの金と素材が必要となった。
「気味悪いな…すべてお前の組織なのか?」
シライ1/4を手にした雨止が引いた顔つきで部屋を見渡している。
「雛実も見てたけどずっと資料とにらめっこしてたんだよ?」
「…さすがに喰べるわけでもないのに他の喰種を殺すのはちょっと…ね。だから、全部自分の内臓とか使って作ったよ」
触った感じはコンクリートと変わらないが、それでもじめっとした感じが伝わってくる。
「屋上の訓練場はどうなったんです?」
以前金木はこの建物の屋上で少しだけ組み手などをしていた。
「あ~…あれね、あれもこれ作るための素材になりました」
「雛実は何すればいい?」
戦闘訓練なんて初めての雛実は緊張からか周囲が戦闘に慣れ切っているようなそぶりのため心配を覚える。
(力になりたいけど、足手まといになるかもしれない)
「まずは喰種組は赫子に慣れてもらわないと、金木君もね」
「僕は…」
大丈夫。そういおうとした言葉に影が落ちた。
我を失い、自分の意志では止められなくなり、人の命さえ奪いかけた。
その事実は彼の自信を崩すには大きすぎる出来事だった。
「大丈夫じゃないだろ?お前の周りの大人はみんな教えてくれなかっただろ?なにも。せめて自分の身を守るすべくらいは教えさせてくれ」
金木がどんな過去を持っていたかは聞いている。
彼は父をはやくに亡くし、母もまた、彼の叔母を養うために犠牲となった。
犠牲になったといえば彼は怒るだろう。しかし、客観的にはそうなのだ。彼の母は、彼と自信の姉を天秤にかけられず、どちらも救えない結果となった。
月山は彼についている大人の中では学も考えもある。性格がああでなければもっと信頼できただろう。
いや、逆に今の性格だから信頼できるのか?
まぁいい。彼が我を失う自問自答には、失くしてしまったやさしさが必要なのだ。
「あ、それと、こいつらも一緒だから」
思い出したかのように奥の扉を開ける。
中には響と楓の姿があった。
「かわいい!」
雨止は誰よりも早くくいついた。
おーい、そいつらも喰種だぞ~
「うわっ…なんだよお前…」
「く、くるしい」
「おーい。はなしてやれ、話がすすまんだろう」
しぶしぶ雨止が手を放すと二人は大きく息を吸い込んだ。
「二人は龍討伐時の最初の被疑者だ」
「はぁ!?」
雨止が驚くのも訳はない
「こんな子供が龍なわけないでしょ!?」
ナナシはもうめんどくさくなったのか響に赫子出せといったニュアンスのジェスチャーを出した
「だいたい…ってええ!?」
響の甲赫は龍の形を模しており、捜査履歴に残っていた龍にそっくりだった。
「…う、うそ…」
「事実確認したところで響は実践、雛実ちゃんと楓ちゃんは隣の部屋で赫子を自由に使えるよう多少のトレーニングをしてもらう」
「私たちだけで?」
楓が困惑するのも当然で、楓は赫子の発現すらしていない。雛実も感情が高ぶった時にしか赫子を出したことがないため平穏時に使うにはアドバイザーが必要だと思っていたからだ。
「大丈夫だ。女子二人に新しい友達を紹介してあげるから」
-
- 92 : 2015/12/23(水) 17:59:58 :
別の扉を開けると、楓と同じくらいの年齢の女の子が出てきた。
「次から次へと可愛いな!!」
「その子は俺の隠し子だ」
「ふぁっ!?」
「お兄ちゃん!?」
「ってのは冗談で、スミレの妹だ」
ちなみに年齢順だとナナシ28(?)雨止25(推定)金木20楓17雛実、響13。
「…スミレって龍討伐の時の元同僚を名乗った女性ですよね」
「うん。すこし約束を思い出してね。まぁ、結構時間が経ってて探すのに苦労したけど」
「初めまして…ミソラといいます。今はご主人さまに仕えております」
丁寧に礼をした少女。沈黙する一行。
「貴様はそういう趣味があったのか」
「誤解です」
「お兄ちゃん不潔!」
「いや待て」
「みそこなったぞー」響&楓
「違うって、金木君はわかるよな!」
「ええ、もちろん。好きなんですよね?」
「お前もか」
彼女はスミレ(元同僚)の妹のミソラ(16)龍が賭けていたオークションで引き取った。
ナナシとは面識が少しあったらしい。当の本人は覚えてないが、その頃に約束をした、と。
スミレに何かあったらミソラを助ける。という約束は記憶にあるが、
ミソラがナナシに仕えるというのはナナシの記憶にはなかった。
「ミソラが勝手によんでるだけだ…」
「私はちゃん付けなのに、その子は呼び捨て!?」
雛実ちゃんの変なスイッチが入った。
「二人の時は呼び捨てるんで許してください」
「…ロリコン」
「楓ちゃんやめなさい」
なんとかメンツをそろえてナナシVS金木、雨止、響で戦闘訓練
雛実、楓、ミソラの三人で赫子のトレーニングをすることになった。
-
- 93 : 2015/12/23(水) 18:00:32 :
- 「改めましてよろしくお願いいたします。」
はきはきとした声で礼儀正しい。とても清楚である。というのが二人に与えた第一印象だった。
「こ、こちらこそ」
雛実は下手に出られる対応が苦手だった
「ねぇ、何て呼べばいい?」
楓はもうなじんでいるようだ
「気軽にミソラ、とお呼びください。あ、雛実様も…」
「様だなんて…とんでもないです…私も雛実で…」
「うんうん、私は楓!よろしくね!」
「雛実…楓………なんだかくすぐったく感じます////」
パーフェクトコミュニケーション!
アイマスかよ。
「ところで雛っちは赫子だせんでしょ?ミソラっちは?」
「わたくしはこの通りでございます」
彼女の体を取り巻くように大きなしっぽがくるりと回った。
「おお!尾赫なんだ~じゃあ私だけか~赫子出せないの」
「わ、私は…すぐにはちょっと…」
雛実は自信なさげに進言する。
「大丈夫にございます。そのために私めがご主人様に代わって、お二人を指導するよう任されたのですから」
「?」
二人は疑問符を並べた。
-
- 94 : 2015/12/23(水) 18:00:43 :
一方ナナシたちはかなり本気で訓練をしていた。
金木の赫者を垣間見るためには致し方ないかもしれない。
まず自分と向き合うこと。そうしないと喰欲に飲まれてしまう。
「三人とも遅い!もっと周りを見て、息をそろえる!」
大声を張りはげるナナシは赫眼を鋭く動かし、三人の動きをとらえつつ分析する。
雨止は赫子に翻弄されて前に出れない。金木は雨止をかばおうとするが、雨止がそれを嫌がる。
響は攻守を最小限に抑えて二人の行動を見ている。
「…雨止!やる気がないなら喰い殺す!敵じゃない!見方を見るんだ」
そんなことをいわれたって…苦しい言い訳しか出てこない。
私が彼らを信頼していないからなのはわかるが、そう簡単に埋まるものではない。
逆に眼帯くんは私をカバーしようと動いてくれる。彼らを信じなきゃと思えば思うほど焦ってしまう。
「わかってるわよ!!」
一本の爪が雨止の視界外から迫っている。雨止は気付いていない
「…わかってないから言ってるの」
つぶやくナナシの目は本気だ。殺すつもりしかない。
金木はそれに気づいていたのか
「………っえ」
間一髪、爪は雨止の脳髄を抉り取ることはなく、金木の腹部に深々と突き刺さった。
「ぐあぁぁぁあああああああああ!!!」
焦った雨止の思考は停止しなかったが完全に冷静さを欠いていた。
「眼帯君!」
爪を思いっきり斬り払って、彼をみる。
「ぐぅ……あ…かはっ…」
(殺す気だ…ナナシさん。…本気なんだ)
「おい!お前ら大丈夫かよ!?」
「自分の心配したらどうだ?」
響に残っていた爪が向けられる。
「うわっ…と!!」
鋭い衝突音が響く、金木は意識を失いかけている。
(ああ…また、目の前が真っ白に………ここにきてしまった)
「眼帯君!耐えてくれ!今奥に………!?」
腹部の傷は膨れ上がり流れ出た血液も彼の体に纏わりつくようにして太い血管のようなものを形作り脈打っている。
彼はうなるだけで返事はない。
「ついに見えるか…?」
-
- 95 : 2015/12/23(水) 18:00:55 :
すこしだけ心待ちにしていた。彼の本気を。
「…守れないのか………?」
「なんだ!?」
爪を刀で受け流しながら金木の言葉に耳を傾ける
「…ケッキョクジブンスラマモレテナイジャナイカ………アァ…どうして…」
「俺に勝たねば、先へは進めん。俺に勝てなければ、海外喰種の殲滅なんて夢のまた夢だ。董香ちゃんも、あんていくも、ヒデ君も…全部君の無力が原因で、死んでしまう!!」
横たわる金木に、わざわざ嘲笑うように言って聞かせる
「君が弱いせいで!!また何も守れやしない!」
「貴様ぁ!さっきからなにを…」
「この世のすべての不利益はァ……当人…の……の…うりょ…く…ぶ…そくっ……」
金木を覆う血管は大きく広がり、六本目の爪となり、金木の体を動かした。
「あ、………あれが赫者!?」
響は少し戸惑う。ナナシと龍の時もそうだったが、自分たちとまるで違う。
喰種よりもっと恐ろしい異形の怪物に見えた。
「くっ…いった…い…どうしたというのだ…!!」
雨止は後ろからの殺気を感じ、その場所を駆ける。
そのコンマ秒後、金木の赫子が雨止のいたところを突き砕いた。
床は再生する。が、雨止は金木の姿を見てぞっとした。
赫子は歪み、何度も結合と崩壊を繰り返し、増大し続ける。やがて金木の体を包む鎧のようになると、その仮面は顔を覆い、一つの赫眼がぎょろりとのぞいた。
「ああああ…アア…ウウぅ……ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァ!!!」
ムカデをかたどった赫子はすさまじい勢いでナナシに突進してくる。
ナナシはそれを何とか受け止める。四本使った。
「早いな…さすがは…さっきの二倍以上のスピードだ…ね!!」
響と雨止に向かわせていた残りの四本を引き寄せ、金木の体を思いっきりぶち抜いた。
「ガァァァァアアア!!」
叫びの絶叫が木霊する。
血が流れない。
金木の赫眼は一点を定めず動き続けている。
「君はァ…コーヒーを淹れてェ1000から摘んでデートして指をペンチでねじ切って7引いて喰い殺されてェェェェ!!」
「頭の中がぐちゃぐちゃなんだね」
「あハァ…!!!ねぇぇ…歪んでるよぉぉぉ」
「うおっ…!?」
ぐったりと床に垂れていた赫子は急に動きはじめさらに強度、素早さ、強さを増していた。
両腕をぶっ飛ばされたナナシは、驚いて後ろに下がる。壁だ。
腕は瞬時に再生するが、驚くべきは金木の再生スピードだ。
「…俺が体を貫く前から…細胞の修復を始めていたのか…?」
いくら喰種でも体を貫いても血が出ないなんてのはちゃんちゃらでたらめである。
「おい!ナナシ!何が起こっている…」
「近づかないほうがいい!」
響は以前の体験から割り込めないことは悟っていた
「できるだけ近づいてくれ、赫子に身を隠して様子を見よう。ああなったら止められない。どっちも」
その言葉通り、金木の赫子は新たな位置から出現し、ムカデと結合しさらに大きさを増した。
ナナシもうれしそうな顔で首を傾け音を鳴らし、赫者の姿へとなり替わった。
「せんひくゥ……ななひくななひくななひくななな…ひくひくひくななはァ!!!???」
「本当に君は毒虫になってしまったんだね………悲しいよ」
百足と蜘蛛の壮絶なぶつかり合いが始まった。
体を突き刺されては巻き付き、噛みつかれては叩き下す。
-
- 96 : 2015/12/23(水) 18:01:05 :
一進一退の均衡した勝負。
百足の大顎が蜘蛛の関節をとらえるが、蜘蛛は自身の爪で引きちぎる。
何度も再生する百足と蜘蛛。一つの目玉と八つの瞳が交差する。
それぞれが闇を抱え、失いたくないもののためにあらがってきた。
零れ落とさず救い上げるのは無理だった二人。
二人が互いに刃を交えた。
一歩早く追撃を加えたのは、百足だ。
蜘蛛は赫子を解き、自信に刺さった凶刃を抜くこともせず、二発目の貫通を待った。
「…」
口から血が垂れる。
やがておおくなり、大きくせき込む。
百足は刺さった体から赫子が抜けず踏ん張っていた。
「お前は…勘違いしてしまったんだ……確かに弱さを捨てた。だが、それと一緒にやさしさも捨てちまった。
弱さとやさしさがごちゃ混ぜになって、一緒に捨てちまってたんだ…帰っておいでよ。金木君。遅くない。
みんな、君の帰りを待ってる。……だから!!」
『『『自分を見つけ出せ!!!』』』
百足の赫子を思いっきり引き寄せ、金木の頬めがけて全力の拳を打ち込んだ。
諭すために体を張って攻撃を受け、彼に誰も教えられなかったことを教えた。自問自答の答えが正しいとは限らなかった。
百足の姿は崩れ金木は床にあおむけに倒れる。
ぼんやりと空を見つめた金木は一言
「傷つける人間より傷つけられる人間に…」
「それが優しさかどうかなんてわからない。だからちゃんと見て、向き合え。自分の中で問題を解決したことにするな。
問題はお前の外にある。」
金木は自分の中の幻影に翻弄され、自分を自分で押し殺していた。
それが今、ナナシによって砕かれたのだ。
隠したもう一つの夢の中に落とした一人を、見つけ出すことができたみたいだ。
「僕は…強くならなきゃ。」
「…」
「みんなと生きるために」
「ああ」
赫子をしまい様子を見る
「終わったのか?」
響が恐る恐る声をかける
「ああ…でも、今日の訓練はここまでにしてくれ…体がもたん」
「あ、ああ」
雨止が金木を背負い、響がナナシを抱える。
「ナナシさん」
「ん?」
「ありがとう…ございました」
「きにすんな」
ナナシはグーを作り金木の前に突き出す。
それを見て金木も微笑んでグーを重ねた。
(僕はもう、大丈夫。守って見せる。絶対に。)
薄れゆく意識の中、金木は心に決意した。
-
- 97 : 2015/12/23(水) 18:01:22 :
- 「いいですか?赫子が発現されるとき、というのは、主に感情が高まったとき、強い覚悟を持った時、です。
赫子を出せない方々は、素質がない、トリガーが引けない、Rcが極端に低い、などの原因があります。」
ミソラはできるだけわかりやすく端的に伝わるように努め、雛実と楓に丁寧にきかせる。
「お二人ともおそらくRcに問題はありません。し、素質も無いはずはないと伺っております。」
雛実は過去に赫子を使っているし、楓にいたってはSSレートの実子だ。素質がないとは考えられない。
「さすがにできないことをはいやって、といわれても、もちろん不可能ですので、段取りをもって進めていきたいと思っています。」
「具体的には…」
雛実が質問する。
「はい、具体的にはお二人にはまず妄想から」
「はい?」
「やはり覚悟を決めるにしても、感情を昂らせるにしても、そんなに日常的にあることじゃないですよね?
ですから、強い意志を引き出すためには、想像力を掻き立て、実際に立っているかのようなイメージに入る。これがいちば
んですから」
「なるほど…」
「それでは、少し想像してみてください。誰でも構いません、お二人の大事な方を想像してください。あっ、一人でなくと
もかまいませんよ?」
ミソラに言われたとおりに二人とも大事に思う人たちのことを思い浮かべる。
(響…あと…誰かいるかね~…)
(お兄ちゃんたち…それからあんていくのみんな…お母さん…)
「思い浮かばれましたか?それでは、その方々が外敵によって傷つけられている情景を思い浮かべてください。
対するのは捜査官、喰種もしかしたら事故かもしれません。あなたのために傷つき、倒れ、奪われてしまう。」
ミソラの言葉には感情がこもってゆき最後は叫んでいるような声の大きさになっていた。
もちろんプレッシャーを与えるためである。
-
- 98 : 2015/12/23(水) 18:01:36 :
雛実は早くも、赫子が開いているが楓のほうは…といった感じだった。
「まぁ…素敵な赫子…楓は…まだのようにございますね…」
「んー…いやー、あんまり響き負けてるの見たことないからなぁ…と」
「あ…確かにそうだね…ナナシお兄ちゃんとも結構張り合ってたし…」
「なんと!ご主人様と!?それはさぞお強い方なんですね…」
「んー…私は…なんだろ、施設で育ったからかな…あんまり、家族を失う、とか大事なもの、とかわかんなくて…」
楓の話はきくがわ二人の心をすこし締め付けた。
「…大丈夫にございますよ。大事なもの、自由になったのですから、今からでも遅くはありません」
「そうだよ、私も楓ちゃんが困ってたら助けになるように頑張るよ!」
「ヒナっち…ミソラっち…うん!ありがと」
「それでは別の方法で試してみましょ――――――――
ナナシと金木の戦闘後――
「よぉーっすチビども!やってるかァ?」
意気揚々に金木をおんぶしたナナシが部屋に入ってくる。
「あ、ご主人様…!!雛実は赫子を使いこなすのは難しくなさそうなのですが…楓は…もう少し時間がかかりそうですわ…」
「…ごめん」
「あーあー、気にすんなよ!誰だって最初から上手にできるわけじゃないもんな!な、金木!」
「そうだね、僕だって、はじめは赫子に翻弄されてた、いや、今だって、だから、少しずつ練習してちゃんと制御できるようにならなきゃ。」
「そっか」
「雛実ちゃんは?」
「私!?私は…その、」
「見せてよ」
「金木お兄ちゃん…」
「ミソラが自信をもって推薦させていただきますわ!」
「…わかった…」
雛実は息を整え、少し後ろに下がったのち、赫眼を見せ、同時に赫子を展開した。
「おおー、それ自分の意志で動かせる?」
「ちょ…ちょっとは…」
「おおーいつみてもすげー…楓もなんかあんなの出せるといいな!」
「響、無神経すぎ、結構気にしてんのに」
「わるいわるい、…どうだ?みんなとは仲良くやれそうか?」
「…ん、大丈夫」
部屋にもう一人の来訪者が現れる。
「飯の用意ができたぞ…って、これ、赫子か…」
「すごいっしょ」
「貴様のものではないだろ、嬉しそうに自慢するな…」
「ツンデレ乙…にございます」
「だぁ~…飯だ!全員いったん下に降りろ!」
「おー」
ぞろぞろと、7人が階段を下り、食卓へむかう。
このとき、まだ表面上では何も見えなかったが、水面下では密かに凶事が進んでいた。
-
- 99 : 2015/12/29(火) 18:39:58 :
- 「なんですって!?それは本当ですか?真戸さん!」
「これこれ、亜門君、あまり大きい声を出すんでない。マリスステラが驚いてしまうではないか」
「…何の話をしてるのだ?ほい、お茶」
二人はアキラの家に滞在していた。
そこで、亜門は真戸から信じられないような話を受ける。
「海外喰種対応中の捜査官に裏切者がいるですって…」
「父よ、本気で言っているのか?」
「ああ、あやつがわざわざ私のスマホに掛けてくるところを見ると本当だろう」
(スマホにしたのか)
「だが、喰種の言葉をそうたやすく信じるのは…」
「わかっている。だが、彼のことだ。何か考えがあるのだろう」
「芳村さん、間違いありません、ケンを攻撃した捜査官、数年前、喰種を先導し、捜査官の大量虐殺を行った捜査官で間違いありません」
「…やはりそうだったか。して、金木君は」
「今はナナシのところに転がり込んで修行中のようです」
「…ナナシくん、君は新しい風になってくれると思っていた…が、捜査官と手を組むのは予想外だった…危険はないだろうが…金木君にあまり変化が及ばないといいが…」
-
- 100 : 2015/12/29(火) 18:40:11 :
「まず、雨止…いや夕、話しておくことがある」
「裏切者の話か…?」
「…ああ、恐らく、そいつは数年前の捜査官集団殺人にかかわっていたはずだぜ」
二人きりの部屋に怒号が響く。
「ふざけるな!!私の父の命を奪ったものがCCG内部にいるだと!嘘をつくのも大概にしろ!!」
彼女がいかるのも当然である。父の敵をとるため、喰種を殺すため捜査官になったというのに、その真犯人が自分の所属する組織にいるとすれば…
「それが本当なら!…私は…なんのために……」
「ああ、わかってる。何も言わなくていい。無理を言っているのはわかっている。…が、間違いでないようだ」
ナナシには確信があった。
24区にいたときだった。偶然だ。24区の廃止されたはずれの区画への入り口を見つけたのは。
そこに何があったかまでは覚えてない。ただ、はっきり思い出せたことが一つ。
緑の髪の少女に出会ったこと、その子から渡された紙。指示書?あー若かりし日々。思い出せね…
でも間違いない鳩のマーク、その上に赫子で押されたような跡。
目視できた赫子痕、紙の記憶が間違っていなければ相似…いや一致している…。
なにぶん十数年前の話だ。掃除屋なんてやってないし、養護施設かなんか所属だったし。
「もし、もし本当に、その裏切者がCCGにいたとしたら…どうしたい?」
「どうって…」
「ここには君をとがめるものはない、いってごらんよ」
「………殺してやりたい…!父を奪い、母を自殺へ追いやり、最低の生活に陥れた、そいつを殺してやりたい!!」
「…」
そのとき窓が開き秋の身を削るような寒い風が吹き込んできた。風と一緒にかわいらしい声が聞こえてくる。
「いーこときいちゃったなぁ」
「誰だ!!」
「そーさかんとぐーるの協力なんてめんどくさいことしてくれるね」
「…アオギリだね……あんまりみないけど…隻眼の王?」
「ざーんねん、ハズレ、君は何がしたいのかな?ななしくん」
「…!しいて言うなら何もしたくないな」
「だったら陰でこそこそなんてしてないで、隠れてごろごろしてればいいじゃん」
「ところがどっこい、そういうのは向かなくてね、考えるのが下手なのに、嫌な想像ばっかして、自分が見たくないことを見ないようにしてるだけ。ただ、それだけ」
「ふーん、そっか、なんとなく興味出てきたな」
「うれしくねぇよ」
「――――!!っ…やっぱすごいね君、私なんかよりもよっぽど化け物だよ」
-
- 101 : 2015/12/29(火) 18:40:51 :
雨止はその言葉には疑問を思う。彼は赫眼を出して威嚇をしているようだが、場数をふんだ雨止から見てもその表情には不愉快、怒り、などの感情しか感じられなかった
「ほんと、君アオギリに来ない?たぶん大将もびっくりの特等席だよ?」
「話が過ぎたな、帰れ。」
「ほんとは君、全部わかって―――「帰れ」
「…ざーんねん、ふられちゃったか、んじゃ、ばーいばい」
雨止は少女から振り返ったナナシの顔を見てやっと少女の言葉意味を理解した。
彼の左の赫眼は彼の顔左半分全域に血縷を濡していた。
いくら強い喰種であってもこんな現象が見られるなんて聞いたことがなかった。
「…赫子の強さは血中のRc濃度で決まる。赫子の性質は…?きっと僕を形どってる記憶や土台に準じるものによってる。
…とおもう。もし、今の僕の姿が何かに見えるのなら、それはきっと僕のことをそういう風に見てるんだろうね。」
まるで過敏になった神経を直接撫でまわされるような圧倒的な恐怖。
「名無し…クク……面白いセンスしてるじゃないか…まったく、世界ってのはおもしろい…ククっ…」
「く…きゅるってる…」
「狂うぅ?…これが俺の本質なのかもしれないなぁ」
しおらしくこうべを垂れたナナシはベッドに腰掛ける。
「…もし、もしだ。もし俺が喰種でない何か、だとしたら信じられるか?」
「…な、何を言いだすかと思えば…信じられんに決まっておろう。貴様の赫子を見ているんだぞ」
「だよな…俺も自分が喰種だと思って何十年もやってきた。でもな、今でもわからなくなるんだよ…!」
「貴様の支離滅裂さには付き合ってられん!」
(…?支離滅裂?)
「…貴様、まさかとは思うが本当に何も考えてないのではあるまいな…??いや、考えられてないのでは…」
「さぁ…どうでしょう」
もし仮にそうだとしたら、こんな狂人がどこにいるだろうか
「…あきれた。今までさんざんえらそうなことを言っておいて何も考えていなかったとはな」
ナナシは自分の感情、考えを常にコントロールできない状況にあった。今まで人と話した言葉はすべて反射で返していたということになる。
「ムカデと同じような状態にあるわけか」
理解してるけど、理解していない。わかっているけどわからない。
「そうかもね」
「貴様が途端に意見を180度変えたりするのは貴様自身で考えた意見ではなかったから、ということか」
「…」
今更発覚したところでどうだというのだ。
「…貴様がどうであろうと関係ない、私は捜査を続ける…!海外喰種も裏切者も全部片付ける」
そういうと雨止は部屋を後にした。
-
- 102 : 2015/12/29(火) 18:41:25 :
ナナシは考えてみた。いや、考えるふりをした。
思考を遮断するものが多すぎて、何も考えられない。周囲の刺激に反応して、声は出るけど、悲しい時も、うれしい時も、それがしっかりと感じられたことに対する反応だったか、ナナシにはもうわからなくなっていた。
どうしようもなく答えは出ないから、すべての回路をシャットダウンし死んだような眠りについた。
…夢を見た。走馬燈のような夢。施設から組織へ、龍とは組織からのいわゆる幼馴染だったこと。
(全然記憶にない夢だな…ここまでくると現実味が薄れる)
組織で競って対象を殺した。…25くらいまで自分の人生を再生してみただろうか。龍の様子が明らかに別人になる瞬間があった。
流れていく映像のなかでだんだんと、龍の人格は変わっていっていた。
周囲との付き合いは悪くなり、ついにメンバーを殺し組織を抜けた。組織ははじめから彼を追う様子を見せなかった。
それどころか組織に彼に関する情報等の一切を口外禁止にされた。はじめは組織が消したのだと思っていた。
しかし二区では龍の活動報告が多数上がっていた。どういうことなのか。
そこでナナシは八枚のモニターの一枚に目を落とした。
再生時間のうちもう八割が消化されている。つまり、記憶を失い、こうなる直前の話ということになる。
(…いったい何が…!?)
自室の扉を開けて入ってきたのは捜査官だった。不気味な背格好、小さなクインケケースがアクセントをつけていた。
映像の中の自分はもちろん警戒態勢。見ているナナシにももちろん緊張が走る。
捜査官が差し出したのは組織の誓約書。署名と印が押されていた。こいつがのこり30分ほどのビジネスパートナーらしい。
(…この印!!この印だ、鳩のマークに上から赫子を押し付けたような印…クインケ痕だったのか…)
高身長ですらっと長い。まさにそう、スレンダ○マンのような不気味さを持っている。
男が契約書類を出したとたん、今までノイズだけで聞き取れなかった音声をはっきり認識できるようになった。
「君は組織にいて、つまらなく感じたことはないかい?物足りなかったことは?これからそれらはすべてなくなる。喰種と人間の全面戦争が始まるからだ!!君は退屈なく、殺し合いを楽しめる!」
「…はぁ?そんなの組織が許すわ…っ!?」
「君は心配せずに眠ってくれればいい。なに、手間は取らせない。………どうやらきいたようだな。必要なくなったら捨てればいい、喰種はいい道具になってくれる…」
(…!?映像は終わった…が、この後は?俺は龍に殺されたんじゃないのか?)
映像が再び再生され始めた。録画時間は0:00。本来なら収録されていない時間。
雨が降っている。曇天の夜空に激しい雨音。人の悲鳴と銃声。
雨がにじみ、ぼやけた視界にはマズルフラッシュが何度も光っている。
足元のクインケの残骸。
(…なんだ…これ…俺がやったのか…?)
次々と人を殺していく。何の躊躇もなくただ無意識に…
その時一人の男性捜査官の名札に目がいった。
【雨止】
(…まさか…)
そしてそのあとも画面の中で殺戮は続く。とうとう全員が動かぬ肉塊に変わり果てたころ、雨と血にまみれた地面に体を打ち付けた。
「お前は失敗したのか」
龍の声だ
「残念だなぁ。でも、ま、俺がきっちり食ってやるからよ」
「君には素質がなかったみたいだね。操り人形にすらなれなかったごみクズは、もう用済みだ。さようなら。ヤオヨロズ――――
男の声が聞こえたかと思うと体が跳ね起きた。目が覚めたみたいだ。
頭はクリアで視界は鮮明。今までごちゃごちゃしていたのがウソみたいだった。
そして、記憶も。完全に思い出せるようになっていた。
「あいつはなんなんだ…?組織があいつを取り込んだのか?…いや、組織が捜査官を受け入れるとは思えない。…となると…?」
捜査官であることを逆手にとって組織に近づいたとでも…?
どちらにせよ、目的は人類と喰種の全面衝突らしいな…。情報をもっと集めないと。それからみんなに謝んなくちゃな。
-
- 103 : 2016/01/08(金) 17:24:33 :
- 「僕は今から、君たちの知っている存在ではなくなる。何と呼んでもらってもかまわない。」
ナナシは淡々と言葉を並べる。
「これからの目的は海外喰種を元から絶つ。君たちの協力が必要だ。いいね」
「構いません。…たまによってもいいですか」
「ん?ああ、かまわないよ。終わっても絆は消えないさ」
「雛実はどうすればいい?」
「雛実ちゃんは金木、楓とともに行動してくれ。もう一チームは響とミソラ、雨止の三人だ。情報が取れ次第、無線で回してくれ」
「っ…!お前は本筋を叩くのなら私も行かねばなるまい!」
「それだとパーティが…」
「ちょっと…!アタシらのこと忘れてない?」
部屋のドアが叩き開けられる。そこには――――
董香、錦、月島、古間、入見の五人がたっていた。
「俺は嫌なんだけどよ…まぁ、なんだ。少し働いたよしみもあるしな…」
「今回ははじめから協力させてもらうよ?月山家の威信にかかわるんだ…」
「かわいい後輩が頑張ってるのを、黙ってみてるわけにはいかないでしょう!」
「そうね、勝手に縁を切りたいみたいだけど、あの時負けたのを挽回しないと気にくわないの」
「…まーたアンタらだけで危険を請け負おうとしたってそうはいかないんだから!!」
「…金木君またなんかやらかしたでしょ?」(小声)
「…ええ…すこし」(小声)
「で、アタシらのメンツ振りもしてもらえる?」
「…じゃあ、リーダーは俺、金木、響、董香、の四人。俺は雨止と、敵を殲滅しつつ他メンバーの情報を待ちつつ行動する。
金木組は6区を中心に索敵と情報集めメンバーは金木・楓・錦。
響組は港付近で索敵戦闘、派手にやってくれてかまわない。メンバーは響・カヤさん・月島だ。
トーカ組は20区で防衛線をはってくれ。できることなら客足に被害は出したくないし、20区の平穏を乱されるのは困る。
メンバーはトーカ・雛実・古間さん。…ミソラは一時待機、常時臨戦態勢で待て。いいね」
全員の返事が聞こえる。…過去にもこんなにそろった返事は聞いたことがないな、と思ってしまった。
「それじゃあ、行こう、みんな、ナナシさん。」
金木の声で、全員が一斉に走り出す。それぞれ自分が与えられた目的を果たすために。
-
- 104 : 2016/01/08(金) 17:24:56 :
――――少し時間が経過して14区ナナシの家周辺
「まーた面白いことしてんの?」
「…イトリか、世話になったな」
「あら?さん付けじゃないのね」
「四区にいたときはこんな感じだったろ。たぶん。」
「あ、思い出したんだ。あの時は二人はいなかったからね~」
「…どうりで四方さんやウタさんは知らなかったわけだ」
「昔話もいいけど…来てるよ?敵さん」
重たい尾赫の一撃がナナシの死角の位置を縫って繰り出された。
が、
「もう見えてる」
軽々しく片手で受け止めた。余暉の一撃は決して軽くなく地面に亀裂を走らせるほどの衝撃を持っていたがナナシはピクリともしなかった。
「好久…!会いたかったよ?名も知らぬ君!」
「俺に一撃でも当てられたら教えてやる。なお、血が出ない程度のダメージは一撃にカウントされない模様」
今の衝撃に驚いた雨止とミソラが降りてくる。
「おい!なにが……喰種!」
クインケを構え間合いを取る。
ミソラも尾赫を構え半歩下がる。イトリは先ほどから周囲を見回している。
「あーお二人さん、さっきの音で敵さん集まってるみたいだから、かっこ撃破を狙ったほうがいいよ~」
「っしかしご主人様は…」
「ミソラ、心配ない。おいき」
「…!はい」
「…そっちは貴様だけで足りるんだな!任せたぞ!」
「君すごい大世帯なんだね。意外だなぁ」
「御託はいい。かかってきな。お前は一度も俺に触れることなく、デッドエンドだッ!!」
二人の蹴りが交わりあう。空気は張りつめ、肌にピリピリと伝わってくる。
「赫子も出さずに勝てるはずがないだろッッ!!」
余暉は自慢の尾赫を振りかざす。それを見てナナシは距離を取り、再度赫子をかわしながら詰めていく。
「小癪ッ!!」
ナナシの視界には九本の尾が向けられる。その一本一本が鋭く深い紅色をしていた。
「君より一本多いぞ?どうだッ!」
九尾が一度にナナシに向かってくる。その突進は少し体をそらした程度では避けようがない。
-
- 105 : 2016/01/08(金) 17:25:13 :
だから、
「どぉぉぉぉッッ!!らぁッ!!!」
丸ごと抱え込み、その威力を利用して自身を円の中心にして振り回す。
「おっは?!」
予想外のことに驚きながらも体勢を立て直そうと、飛ばされた先に足をつく。…それがいけなかったのかもしれない。
嘶く轟音。余暉の顔の肉は剥げ、コンクリートの壁に深く埋まっている。ナナシは余暉の頭から足を退けると、さらなる追い打ちをかけようと首根っこに手をかけた。
「っ!」
一瞬、ほんの一瞬の隙が余暉の反撃を許した。腕橈骨筋を深く抉り喰われた。
顔側がコンクリートに当たっていたはずなのにどうして?
その牙は彼の肩甲骨あたりからむき出しになっていた。鼻根筋から額にかけて大きな三つの目玉を作り体を覆っていく。
宿主の瀕死に充てられたのか、はじめから隠していたのかその本能的な狂暴性が赫者の姿として牙をむいた。
「…化け狐だな」
ナナシは鼻で笑った。失われた繊維をゆっくりと再生する。
「試してやるよ。本当の自分ってやつをよぉ」
ナナシは拳を握り構えを取り、前に出した手の指をクイッっと動かした。
今の余暉には十分な挑発となった。禍々しい九本の尾と縦に並んだ三つの赫眼が闇に線を描きながら動き回る。
大きな音が鳴り響く。吹き通しとなった廃ビルの中で、ナナシは構えたまま立っていた。ただ、紅い瞳だけが忙しく動き回っていた。
確かに早い。狐の姿は暗闇に紛れ目では追えない。
「うるさいッ!!」
不意を突くつもりで背後に回った化け狐の懐に身をひるがえしながら滑り込み天井を突き抜ける勢いで蹴りあげた。
低い天井を何度もブチ破りながら、狐は上へ上へと飛ばされていく。
最後の一枚を突き破り、ついに屋上にでた。
狐は周囲を見渡し、自分の動きを邪魔するものがないことを確認すると、標的の影を追い、下に目を落とした。
もっとも、ナナシは蹴り上げた直後、赫子を使った高速移動によって狐とタッチの差で月明かりの照らす空に飛び上がっていた。
狐は蹴り上げられた勢いがなくなり下に落ちていく、ナナシは息を止め、狐が屋上に足をつけた瞬間、そこへめがけて自身の凶刃による強烈な一撃をうちはなった。
狐はビルと赫子でサンドイッチにされる。が、もちろんビルのほうが脆いのでどんどんと下に崩落していく。
狐はすさまじい勢いで一階まで叩きつけられた。
それに伴いビルが崩れ落ちる。疲弊した狐の上にがれきが容赦なく降り注ぐ。
ナナシは落下するがれきを器用に足場にして下まで降りてきた。
ナナシの足が地面に突くのと同時ほどに、がれきの山がしたからひっくり返され、狐がはい出る。ボロボロになった化け狐が恨めしい様子でナナシを睨みつけてくる。
ぴぴぴぴぴぴっ…
ナナシの携帯が鳴る。ナナシは躊躇なくその電話に出た。
しめた、と思ったのか狐が体に力を入れようとした瞬間だった。
狐の足元から何本かの赫子が勢いよく飛び出し、狐を拘束した。
素早く尾を丸め込み、胴を押え、口を閉じた。
「…はい?白と黒の服を着た隻眼の双子?なんですかそれ、面白そうですね。」
「すごい音だけど…!ッ!カネキィ!!」
「今決着つくんで、速攻向かうので持ちこたえ…いえ、拘束しておいてください。」
「チッ…無茶いうぜ全く」ぷつっ
「………というわけでお前との戦闘はこれでおしまい。」
動けない化け狐にゆっくりと歩み寄る。
「君は娯楽で戦闘してるんだっけか…俺は仕事だ。給料は出ないがな。」
赫眼から大きくはみ出た血縷が月明かりに反射する。
「他人の幸福を奪うつもりなんてないんだけどな?」
そう言いながら狐の喉元に歩を進め、腕を沈めた。
「まぁ、最後の戦いで赫者にも目覚められたし、満足じゃねーの?ま、生きてたらまたよろしく。死ぬならさよなら。」
それだけ言うと指先に伝わる確かな肉質を引きちぎった。
狐の姿はだんだんと消えていき、赫子もナナシの体に戻る。
月に照らされて、ヌラヌラと鮮やかな鮮血が映る。口へ運びゆっくりとかみしめる。
「まz…うまい、お前の命いただいてくよ。」
うつ伏せに倒れた余暉からはゆっくりと血だまりが広がっていく。
ナナシは報告にあった場所に向かうため、余暉の体を月に向けて座らせその場所を離れた。
-
- 106 : 2016/01/17(日) 13:19:54 :
- ―――少し前
「本当に知らないんですね?」
「しっ…しらねぇよ!!俺達はもともと呼び集められただけだ!」
「…そうですか」
なかなか有利な情報が出そろわない。これでは捜査どころか防衛さえままならないだろう。
「おいカネキ、カエデ、ほれ、あっちもだ」
「お前ちゃんと戦えよ!」
「錦先輩はたぶんあんまり戦闘向きじゃないんだよ…」
「んなわけないだろ!?こいつはじめはどーんとかいいながら敵の頭ぶっ飛ばしてたじゃねぇか!!」
「あ、ほんとだ。先輩戦ってくださいよ」
「えー…っと…?」
錦がたっていた位置に赫子が打ち付けられる。
「誰…ッ!?」
「パパの言う通りだ。シロ」
「うん、眼帯のマスクつけてるね。クロ」
「うへぇ…なんだこいつら…あしんとりーだ!」
「カエデ…色も違うからたぶんアシンメトリーとは違うと思うぞ?」
「二人とも下がってッ!!」
二人が下がると同時に金木の赫子が双子の足取りを追う。
かわされた初撃から流れるように左右に別れた二人を追跡する。
「¨おんなじ¨だ」
「そうだねクロ」
「…チィ!」
金木は街頭や壁の縁を使いちょこまかと動く標的に翻弄されながらも、双子を追う。
錦と楓は周囲を警戒しながらついていく。
場所は地下駐車場。(おっとアニメでの古傷が疼くぜ)
誘い込まれるように空間に入ってしまったが、入ってから気が付いた。
(…しまった。ここじゃあ)
「ここじゃあ、おにいちゃんには戦いにくいよね?」
「ぐあっ…チィッ!!邪魔だァア!!!」
金木の赫子は柱や壁に阻害され双子にあたることはなかったが、素早い二人の動きは狭い空間に入ったことでさらにキレを増し、金木への一方的なダメージを生み出していた。
「カネキィ!」
錦の赫子が柱を打ち砕きながらクロを追う。
「クロっ!」
「チッ…!」
「はくはつ危ないぞ!」
「カエデさん…ありがとう」
「相方の心配したいのはわかるが…お留守だぜ!」
錦の尾赫がシロの体を跳ね飛ばす。
「ぐっ…あっ」
音を立てて勢いに引きずられた二人は、ゆっくりと立ち上がった。
仮面を外し、互いの顔を見合わせると、左右対称に赫眼、赫子を出した。
「怒った?クロ」
「怒ったよシロ」
「私も」
「パパには少しだけって言われてたけど…本気出しちゃおっか」
「うん。いこう、クロ」
「うんシロ」
「…あの二人やる気みたいだね」
「しっぽさん…女に手をあげるのはどうかと思うゾ?」
「カエデ…TPOというものがあってだな」
クロとシロは同時に駈けだした。左右から挟み撃ちにするつもりだ。
金木はそれが容易に想像がついたので、四本の赫子を二本ずつ両方に盾として構えた。
(一本じゃあの二人の攻撃を防ぐのは無理だ…最低でも二本はないと…)
「白髪のあんちゃん!うちらもいるから!」
(…!そうだった。今僕らはパーティーを組んでる。頼らせてもらおう)
「左はお願いします…!」
「まかせろ!」
「しゃーねー」
赫子と赫子がぶつかり合う。
楓は猫だましなど姑息な技をつかっている。
「わわっ!?」
錦が介入し、楓のカバーをするが、時間稼ぎにしかならなさそうだ。
「君たちは海外喰種じゃないね…?嘉納先生の実験体?」
「答える義理は無い!!シロッ!!」
「うん」
完全にクロナに気を取られていた金木の後ろからナシロの赫子が体に突き立つ。
金木は反射的に体をそらしかする程度で済んだ。
が、ここから双子の連撃が金木を押し始めた。
錦も響も介入する余地はないほど両者は接近し、鋭いコンマ一秒の攻防を繰り返していた。
「どうする!ニシキ!」
「呼び捨てんな!今ナナシに…」
―――――ナナシはもう少しで来る!それまでは持ちこたえっぞ…?」
「うぅ…あ……」
突然楓が苦しみだした
「おい!どうし…た…おま…それ…赫子…」
「ああああああ……!!アああああああああああ――――――!!!!」
何事だと、金木は振り返る。シロとクロもその様子に目を向けた
「体がッ…あつ…い…赫子が……」
「シロ、厄介だよ!」
「クロ、あっちからやらなきゃ!」
「!!させるかッ…!?」
金木の膝は一歩動かなかった。足首から血が噴き出す。どうやら先読み的に攻撃を受けていたようだ。
(間に合え…!!)
「あああああああああ!!!」
楓の背中からは、腰のあたりから白く長い尾赫、肩甲骨から体を覆うようにして肋骨のような形の鎧が発現していた。
「「ぐッ!?」」
シロクロを一度はじき返すと、気絶してしまい、ニシキが楓をかばうように割って入る。
「そんなの見せられたら…」
「もちろんねらうよね?」
-
- 107 : 2016/01/17(日) 13:20:28 :
―――――再び時は戻り余暉とナナシの激戦からしばらく
「ぐはっ…!!??マジかよ…!」
「ニシキ!」
いつの間に起きたのか楓は錦をみて周囲の状況を伝える。
「ペッ…よびすてんじゃね…」
「危ないッ!」
白黒の挟撃が錦に降り注がれるが、金木が割って入り何とか防いだ。
「クロ、もっといこう」
「シロ、もっといこう」
(これ以上あげる気か…!?これ以上は………アノチカラヲ……!!)
「…?あんちゃん…音が…」
「っえ?」
地面を砕き、地下にスタイリッシュにナナシが登場する。
双子の頭を地面に叩きつけ、押さえつける。その体には大量の返り血とみられる赤と肉片がこびりついていた。
双子の顔面と同時に地面に着地したナナシの体から返り血や肉片が周囲に飛び散る。
結んでいた白い長髪についた血肉を払おうと首を左右に激しく振る。さすがに毛先についたものはとれず、少し不機嫌そうな顔をする。
「「チィ…!!」」
少し顔をそらした二人は片割れの間に座る標的へと赫眼を向けた。
「――――!!その二人まだッ!」
金木が叫ぶころには双子の爪はナナシへと向かって突き出されていた。
ナナシは金木の言葉を聞いてか聞かずか、双子の頭に頭をそろえて、喉の底から低い声でこうつぶやいた。
「…めっ」
その言葉には覇気こそなかったものの同種ならば離れていても完全に感じ取ることができるほどの殺気が込められていた。
二人が向けた刃は自然に納められ、ナナシが手を放したと同時に仰向けになり腹をあげた。
「……それは降参のしぐさ?それとも内臓を引き摺り出されたいの?」
「「ヒィッ…」」
「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――――っ!!」」
「許してあげる。君たちの飼い主は?」
その時駐車場の奥から白衣の男が歩いてくる。
金木はその姿にハッとする。
「嘉納…明博ッ!!!」
駆け寄ろうとする金木を制止し話を続ける。
「やーやー、先に手を出してきたのはそちらのペットですよ?躾がなっていないのでは?」
寝ていたクロとシロは嘉納の後ろへ回る。
「それはすまない。…それにしたって、君の体、素晴らしいね!ぜひ実験のモルモットにほしいくらいだ…」
「?はっきりしない言い方をする。欲しくないのか?」
「ふん…あの男の失敗作をほしくなるとは…やはりどうなるかわからないな…」
「…?俺のこといじくった捜査官もあんたの差し金だと思ってたぜ?」
「いいや、確かに面識はあるがね。元同僚三嶋昭道」
「…で、だれ?」
「おおっと、私はかかわりたくないんだがね…まぁ、情報の一つでもあげないと見逃してくれる隙すらない。」
「わかっているなら教えろ」
「そう焦るな。彼はCCGでクインケ開発や喰種の研究に尽力していた科学者だ。私とはそりが合わなくてね…好きではなかった。…が、彼は喰種の体を強制的に次の段階へ進める技術を開発したようだった。」
「…強制的に次の段階へ?」
「君も持っているだろう?赫者の力だ。もっとも、龍と君以外は当時はすべて失敗に終わったようだがね。もちろん体にかかる負担はただではない。術中に死んでしまうものもいたようだ。」
「…その時に洗脳とかするもんなのか?」
「彼が昔使っていたラボを二人に調べさせたときだ。当時のレポートが見つかったのだよ。」
「!?」
「君たちの実験結果や手術の行い方などね…。もっとも、今はもっと改善されているだろうが…これにより赫胞のRc蓄積量は通常の喰種の数倍になるようだ。君たち二人のRcを見れば一目瞭然。龍君は3870から8700、君が3790から6000」
「…?ずいぶん俺の伸びしろは少ないな。」
「ああ、レポートには成功/失敗と書かれていた。つまり、手術は成功したが、君に拒まれた、という意味だと思っているよ」
「…」
「彼は今海外喰種の手引きをしてる。間違いない。CCGに友達がいるなら、早く駆けつけたほうがいいかもなぁ!」
「何!?」
「やつの作戦書には今夜決行だと書いてあったはずだぞ!」
「俺が知ってるわけ…?」
で、電話しないとッ!」
-
- 108 : 2016/01/17(日) 13:20:33 :
――――――――
「おにいさん。これ」
「うわッちびっこ…ダメだゾーこんなところに…?なにこれ?紙?えっなにこれは(ドン引き)」
―――2000年第一回人類喰種総大戦
もし失敗があった場合は13年後にもう一度
「こんなのどこで…!?いねぇ…!?あれ?おーい?緑のちびっ子ー?…えぇ…」
――――――――――
「…あぁ…って…あれのことかよぉぉぉぉぉおおおおおおお!!覚えてねぇよ!!」
「でも好機じゃないですか…ほら、」
「慰めんなカネキ!」
「って、嘉納先生がいない!?」
「あん!?まじかよ!」
シロとクロの姿もない。気配すら見つからない。
「かなり逃げちゃってるね」
「お前ら二人で何してた?」
「後ろから喰種来てたんだよ、文句あっか」
「くっ…ミソラも連れてくるべきだった…!」
「そんなことより捜査官たちが危ない!!」
「ああッ!!
-
- 109 : 2016/02/02(火) 19:56:18 :
- 「待て…ッ!?君は梟襲撃時に死んだはず…な…ぜ……」
「真戸さん!!しっかりしてください!」
「っ!誰だ!」
ここは五区。CCGのアカデミーなどが収束されている場所である。
「ククっ…愚か者どもめが…死ぬがよい」
「亜門君…私はもうだめだ………むす…めを…たのむ…」
「ッ!!!???真戸さん!?駄目です!真戸さん!真戸さん!」
「ッ!貴様ァ!」
「おおっとこわいこわい…君たちの世代には初めましてだね。三嶋昭道だよろしく」
面妖な形をしたクインケからは真戸の血が垂れる。
「…貴様が…捜査官の裏切者…許さんぞぉ!!」
クラを構えた亜門が威勢よく叫ぶ。それに続きアキラもアマツとフエグチを構える。
「くくッ…貴様らの相手をするのは私ではない…お前たち!」
昭道が指を鳴らすと大量の海外喰種達がわんさか飛び出してきた。
(…ナナシ君。君はいったい何だったんだ…ああ、仇を…梟への復讐をとげていないのに…)
(アキラと亜門君の戦う姿が見える…すまない、二人とも…私にはもう無理そうだ…許してくれ…徹…)
「がぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
その時、海外喰種の大群の中から大量の絶叫が響き始める。戦闘中の二人に加え、敵味方関係なく振り向く。
「ドーモ。カイガイグール=サン。グールスレイヤーデス」
オジギ終了から0.02秒。グールスレイヤーは跳んだ。後悔は死んでからすればよい。今は目の前の敵を倒さねばならない!
「相手の返事なんて待ってられねぇ!!!全員奥ゆかしくアンブッシュ=ジツでワンパンだゴラァ!!!」
ナナシ、金木、楓、錦、雨止、ミソラの猛攻に海外喰種達も騒然
「アイエエ!?」
や、
「グールスレイヤーナンデ!?」
などとパニック状態になっている喰種達も少なくない。忍殺語は全人類に伝わる。いいね?(偏見)
-
- 110 : 2016/02/02(火) 19:56:34 :
- 「眼帯ッ!?」
「ご一緒させていただきます…捜査官さん…」
「真戸さん!?おっや…新生ナナシをご覧に入れようと思ったのに…」
「………君は……いつでも騒がしいね……………頼んだよ」
「…いわれなくてもかしこまりッ!!!全員全部全滅ゥ!!昭道ィ!!てめぇ以外はなぁ!」
「……??君はなぜ私の名前を知っている?君のような容姿の人物の知り合いはいない…はずだが…」
「髪がショートで黒けりゃ覚えてるか?」
「…!!ヤオヨロズ…!?生きていたのか!?貴様はあの時龍に殺させたはず…」
「龍は俺が殺した。さて…復讐劇を閉じさせてもらうぞ…」
「私を忘れているのか?」
「雨止…」
「なんだかんだで貴様と肩を並べるのは初めてだな」
「…ここでとんでもないこと一つ言うが、お前の父親に手を下したのは俺だ」
「ハァ!?」
「終わったら俺を好きにしろ。いくら操られていたとはいえな…とりあえず、あいつを殺さずには俺の体が言うこと聞いてくれそうにないから…」
「…殺すかっ…ばか…もう貴様は信じん…」
「…悪いな…さぁいこう!」
喰種を蹴散らし勢いよく昭道の前に躍り出た二人。
横から二人を邪魔したのはアメリカンな海外喰種
「Hey!お熱いカップル!糞くらえ!!」
「…言葉遣いが汚い!!」
「品がないぞ!!」
「Sorry…(ガチ萎え)」
「どぉぉぉぉっ!!」
ナナシの蹴りが油断したアメリカ人の腹に直撃する。
「Hau…やるね…だが残念ながら男の拳なら受けなれてるんでなぁ!」
「え゛っ…ってのわぁぁぁああああ―――」
対してノックバックしないことと今の発言に多少の困惑を覚え力を抜いたところ、足をつかまれて思いっきりぶん投げられた。
「ナナシ!?」
「お嬢さん!一人になっちまったぜ!うぶなねんねは帰りな!」
「…貴様…日本語が流暢でムカツクな…」
「ほめ言葉として受け取っておくよ」
「そ奴らの足止めを任せたぞ!私は20区に行かねばならない!」
「20区だって…!?」
「トーカちゃんたちが危ないかも…!」
「金木君ッ!!」
ふっ飛ばされたナナシが空から奇襲攻撃を与える。堅いアメリカンの甲赫にはあまりきいていないようだ。
-
- 111 : 2016/02/02(火) 19:57:29 :
- 「いきたいなら行ってもいいぞ?」
「…いえ、捜査官さんとの約束がありますから」
「そっか…ま、大丈夫だろ。困ったらミソラに行かせるし」
「私を使っていただけるのはうれしいのですが少し過信が過ぎるかと…」
「でも、やってくれるんだろ?」
「はい!ご主人様のためならどこまでも!」
「おわったらたらふく愛してやるよッ!!っと」
周囲の喰種を潰しながら雨止と背中合わせに合流する。
「わすれるなよ?終わったらお前は私が好きなようにするんだぞ?」
「お前も変な方向にこじらせてるな。…まぁ、いい、さっさとこのゲイ野郎をぶちのめすぜ!」
「ひよっこじゃばにーずに俺の防御を崩すのは無理さHAHAHAHAHA」
「そうか…ざんねんだ」
「おっけー!!いっけぇぇぇ!夕!!」
自身の赫子に雨止を載せて投げる。すかさず赫子を地面に移動させアメリカンの足を釘付けにする。
「What's!?」
「障害を排除しますッ!!てぇええええええええええ!!!」
「亜門上等!彼女は…」
「ああ?ああ、彼女はCCGの剣道部で何度も一位をとるほどの剣の達人、雨止夕だ。剣の腕だけなら特等をしのぐといわれている」
「ほう、彼女の使うクインケは?」
「戦闘中に興味を示さないでください!」
アキラへの攻撃を金木が赫子で受け流す。
「…仕方ないだろう!父と同じで…素晴らしい赫子やクインケを見ると…興奮しないではいられんのだ!!!!」
フエグチの凶刃が喰種達を一斉に切り裂く。
「ミソラっち~やっぱむりだよ~」
「いけませんわ!楓ならできますわよ!」
「そんなこといったって~」
「クソッ!こいつらちょこまかと!!」
「こうですわ!!」
「こうですか!!」
「ぐああぁぁぁあああああ!!」
「う~ん…楓、もう少し一点集中を…」
「次の人来たよ!」
「え?ああ、はい」
こちらのペアも仲良くやっているようだ。
「どーん」
「ぐへぇぶ」
「どーん」
「うべら」
「どーん」
「アバーーーー」
(…ニシキックの犠牲者がどんどん増えていく…)
「なんだこいつら…よゆじゃn…ぶぅ…!?」
「錦先輩!油断しすぎです。」
-
- 112 : 2016/02/02(火) 19:58:03 :
- 「きぇえええええええええ!!!」
「な、なんだこのクレイジーガールは…」
「…あれは剣道部特有の奇声だな」
「剣道!?もっとあともすふぃあーがッ!?」
「てぇええええええええ!」
雨止のうつくしい剣技による連撃により、アメリカンの甲赫は砕かれた。
「Oh…Nice girl…」
「しゃぁ!!」
「雨止キャラ代わりすぎ…」
「剣を持つと興奮がおさえられんのだ」
ここにも変なのが一名
「ふーチカレタゾ…響はなにしてっかなぁ…」
「ふぅ、ひと段落ですわね」
「眼帯…大丈夫か?」
「ええ、すこしもらいましたが…僕はまぁ、再生できるので」
「おとうさん……」
「そっとしておいてやれ」
「錦先輩…」
「大事な人を失ったときの悲しみは人も喰種もおんなじだ…」
「錦、すまないがこのまま20区に向かうぞ」
「そ、そうだ…あいつ20区に行くって…」
「眼帯!俺たちも増援をつけていく!間違ってもやられるなよ?」
「真戸さん……いや、考えるのはよそう…今はやるべきことがある。…いこう、みんな」
「ナナシ、大丈夫か?顔色が優れん」
「ま、連戦だしね。大丈夫大丈夫!いきますよ~イクイク!」
「おらガキども行くぞ!」
「錦様!おあいにくですが私はもう16でもう大人でございます!」
「未成年はガキだろ」
「私も16だもーん!」
「ちょっ…やめ…おわっ」
「こら!おいてくぞ!」
-
- 113 : 2016/02/02(火) 19:58:30 :
- 3区付近――はずれの港
「この辺にぃ、うまいラーメン屋の屋台、来てるらしっすよ」
「響君ラーメン食べられるの?」
「もともと俺は東京来るまで人たべたことなかったしなぁ…なつかしいなぁ…母さんの手料理…とか…うっ…」
「おいおい、気持ちはわかるが、今は大事なお仕事なんだ、少年、泣くのはおやめ」
「月島、あんたそんなキャラだったかしら?」
「まぁまぁ、入見さん、そういわずに、」
港を警戒しながら進む三人。暗くなり、倉庫の電灯以外は月明かりしか見えない。
海外喰種の目撃報告が一番多かったのがこの港のある地区だ。
「…おかしいな」
「どうしたの響君」
「気配、しないんですよ」
「そりゃあ、あなたたちが暴れたせいで昼も何もなかったでしょ?」
「入見さぁん!そう言うことじゃnothing!だろう?」
「うん、臭いはいっぱいするのに…」
「…そういえばそうねぇ…勘が鈍ったかしら?」
月が雲に隠れる。あたりにより一層深い闇が満ちる。
「…」ニタリ
「!!」
カヤは気配を感じた方向へ全神経を注ぐ。
「…?」
「どうしました?カヤさん」
「しっ…響君。どうやら何か見つけたようだね」
倉庫の間から一人の喰種が出てくる。銃を持った男だ。
「ほう…これはこれは、こんな夜更けに三人だけでどちらへ?」
「それはこっちのセリフだよ?ぅうん…君のような恰好をした人間があるくには少し緯度に違いが有り余るようだが?」
男の格好は確かにこの場においては奇抜だった。まさに平成のカウボーイといわんばかりの格好である。
「人の服装に口出しできるほど余裕があるのかい?」
「!?」
「ぐへっへっへ…」
後ろからは大量の喰種達が押し寄せている。
「…ここまで気配を消せるってことは全員相当できるわよ!二人とも、気を抜かないでちょうだ―――ッ!?」
間一髪、カヤの仮面に弾丸がかすった。額からは血が流れる。
――――――離れた位置
「あー、かわされちった…僕の赫子の精度じゃ、この距離じゃ外すわけがないんだけど…あの犬の仮面…かなりのやり―――てぇッ!?」
-
- 114 : 2016/02/02(火) 19:58:49 :
「あっ…捕まえた…」
「響君ナイス!」
「えっ(困惑)」
「さて馬のいないカウボーイさん、朝まで素敵なパーティしましょ?女の顔に傷をつけた罪は重いわよ?」
「うぅぅぅぅぅ―――――――んッ!!僕も久々に120%というものを試してみるとしよう!」
「こ、こいつ知ってるぞ!Sレートの美食屋だ!」
「何!?あのグルメか!」
「Wait!やっぱりあの女性はBlackDorberよ!!キャーーー!素敵―!」
「じゃああのちっちゃいのも…相当強いんじゃねぇか!?」
「…ちっちゃい?」ぴくん
「ひゃっはー!クソガキぃ!期待させてくれよォォ!」
「……クソガキ?」ビキビキ
「覚悟しなさい?お・ち・び・ちゃん?」
「…おちびちゃん」ビキィィィ!!
響は集団の前へひとりでに進んでいく。
「響?」
「少年!一人で勝手に…」
「だれが…」
「なに?」
『誰がチビだコラァァァァァアアアアアア!!!!!』
龍の赫子が地面を喰い破り海を波立てる。
-
- 115 : 2016/02/02(火) 19:59:09 :
- 「人が気にしてること連呼しやがって(泣)(心が)痛いんだよォ!!(マジ切れ)」
「はっは!ガキのくせにすげえ赫子だ!やっぱ、tokyoは修羅の国だぜ!」
その中でもやはり何人もその強襲を躱し、刃を向けてくるものがいる。
「かるまーた!落ち着きたまえ!と、いっても、僕も久々の本気に興奮を隠しきれないよッ!!」
強さの亡者達の中へ突っ走っていく月山。それを追いかける響。
「はぁ…あんたたち………あなたは参加しないのかしら?」
「おっっと…スキを突いて目ん玉打ち抜いてやろうと思ったんだけどな」
「あら、綺麗な顔して物騒なこと言うのね、やっぱり外国人て野蛮ね」
「すまねぇな、日本のサホーってやつはわからんので…なっ!!」
銃声が轟く。正確にカヤの目を狙ってきており、避けるのも容易でない。
一発は様子見で撃ったのかシリンダーを回し、一発をリロードする。
「おおっ!避けるねぇ!!いつまでもつかな!ウノドストレスクアトロシンゴセイスシエテオッチョ――――…」
「ドセッ!!」
12発の弾丸をすべて打ち切ると即座にシリンダーの中のカートリッジをカヤに飛ばす。
「小賢しい!」
俊足で動くカヤには当たらなかったが、突撃しようとしたタイミングで邪魔をしてきたのだから狙っているのだろう。
視界を奪い、赫子での一手を狙っているのだろう。
男はガンプレイしながらリボルバーの弾を装填している。
「器用ね!」
カヤの攻撃を最低限の動きで躱している。それなのに銃を取りこぼすことも、ましてや、よろけることもなかった。
「さぁ!次行ってみ…よぉ……?」
「悪いけど、あなただけに付き合ってられないの。」
四つん這いで立つ黒い犬の背には紅色に輝く結晶が突き出ていた。
胸に深い傷を負ったカウボーイは跪き、たそがれている。
「決めさせてもらうわ!!」
カヤが勢いよく飛び出した瞬間、男はその体勢のまま動かずにカヤに向けて発砲した。
もちろん、何の予備動作も筋肉の動きも見せずに発砲したものだから、カヤには予測して躱すことは不可能だった。
「なっ…!?」
「あーあーあぁ…もう少し遊ぶつもりだったが…受けちまったし仕方ねぇな、こっからはガチでやんぜ、お嬢さん!」
男は背中から大きな翼を生やす。カヤのものとは大きさも性質も違う感じがした。
「俺は…かく…なんとかじゃねぇが、その辺の強者には負けねぇ自信とテクがあんだよな」
男は赫眼をエモノに向け、捕食の態勢をとった。
「いくぜわんちゃん!」
「くっ…!!」
速い。目で追えないほどではないが、かなりのスピードだ。
(…この暗闇で目をならすのは骨が折れるわね…せめて月が見えれば…)
「おらおら!後ろがお留守だぜぇ!!」
「きゃっッ!?」
いつの間にか後ろに回られていた。赫子で少しはガードできたものの、もともと盾には向かない形をしているので受けたダメージはかなりのものだった。
倉庫のシャッターに叩きつけられたカヤ、そこに追撃が加わる。
「ろぉぉっとぉ!!よけたか?ぐあっ!?おお、ヒットアンドウェイね、甘い甘い!」
粉々になった鋼鉄製のシャッターを踏みねじり、カヤの次の行動に赫子を構える。
しかし、男はカヤを追う気はないようで、空に向けて羽赫による射撃を大量に行っている。
「どこうってんのよ!!」
「ぐあっ…さぁねぇ?でも、チェックメイトだワンちゃん。」
「!?何を…――――――がっ…!!??」
次々とカヤの身を引き裂く緋色の結晶。頭へ直撃しなかったものの、体中の筋繊維をずたずたに引き裂いた。
「自慢のスピードも出せないなぁ…?さよならだ」
「…そうかしら?」
「ああ?諦めが悪いのはブザマだといわれたぞ?」
「ふふっ…」
「なにがおかしいんだ?」
「いえ、勝敗が決してもいないのに的にむやみに近づくのはどうかと。ね」
「ふん、勝敗は今決する。これで最後だ!!」
「そうね、さようなら、素敵なガンマンさん」
「なっ…!?」
入見の赫子は入見の肩の肉を突き破ってカウボーイめがけてまっすぐ伸びていた。
-
- 116 : 2016/02/02(火) 19:59:20 :
「がはっ…おま…自分の体……貫通させて赫子出すとか……クレイジーだな…」
「…ありがとう、ほめ言葉として受け取っておくわ」
「おおい、おわったかい?」
「俺はまだやり足りないぞ!」
「あら、二人とも、きっちり終わらせたのね?」
「海外のやつらすごいんだゾ!ポッチャマ…みたいな赫子のやつが…」
「入見さん、ボロボロじゃないか」
「おーい、とどめはさしてくんねぇのか?」
「別に…反抗する意思がないことがわかっていればはじめから戦わなくてもよかったのよ?」
「…なんだいそりゃ…ま、負けちまったからな。ブエナスエルテ、いつかまた手合わせできたらいいな」
「いやよ、もう少しとげの少ない男になりなさいな」
雲がひらいて月明かりが差し込んだ。カウボーイはカヤたちの姿を見送った。
「…さて、いちど20区に戻りますかね。」
「それがいいだろうね。霧島さんたちも戦っているかもしれない」
「うおぉ!俺もまだやるぞ!調子出てきた~!」
-
- 117 : 2016/02/02(火) 19:59:46 :
- 「全員走れぇぇぇぇええええええ!!」
ナナシたちは捜査官組を残して海外喰種を引きつけできるだけ20区に近い場所まで移動しようと走り回っていた。
「HAHAHAHAHAHAHA!!君たちは逃げられないぜ!」
巨大なカニ…だろうか?もはやわからないし、気にしている暇もないが、赫子の形状からすると先ほどのアメリカ人だろう。
「おいぃ!雨止!お前とどめさしてねぇのかよ!!」
「殺したと思ったわよ!!」
「HAHAHAHA☆もう追いついたぜ!」
カニは大きな鋏を振りかぶり一向に叩きつける。
「うわっとぉ!?」
しまった、分断された。
「仕方ありません、ここで迎撃しましょう。ナナシさん」
「…金木君、そっち任せた!」
「いこう、雨止さん、錦先輩、楓ちゃん」
「あいあいさー」
「まったく…やっぱりついてくるんじゃなかったぜ」
「眼帯君、あいつの甲赫はかなり固いぞ?どう出る」
「錦先輩には揺動してもらいましょう…僕がその隙をみて全力で殴るので、そこにその鋭いクインケでブスリ、とお願いします。」
「おーい白髪~あたしは?」
「楓ちゃんは周囲を警戒しながら自分の身を守ってくれるだけで…いや、参加できるようなら力を貸してください」
「ほいほーい」
~~~~~~~~~~~~~
「さて、ご主人様とこうして肩を並べて戦闘を行うのは初めてにございますね」
「…そうだな、おまえは下がってていいぞ?」
「はて、なんのことやら。いつまでも元カノの妹を過保護に扱うのでしょう?」
「ぶっ!?…あー、そういう関係だったか…やっぱり」
「全部思い出したのでしょう…?まさか忘れたまま…」
「いやいやいや!違うから!確認とっただけだから…だから、行こうか」
「露骨に話を…まぁ、いいですわ。行きましょう!」
「会話はすんだか?」
目の前には大量の海外喰種達が迫ってきていた。
しかし、分断された全員の目には暗い色はなかった。全員が全員次のことを考えていた。
-
- 118 : 2016/02/02(火) 19:59:57 :
~~~~~~~~~~~
「Hey!よそ見してる暇はねーぜ!」
カニは錦の攻撃を受けてもびくともせず、攻撃の反応を待っていた錦にたいして間髪のない反撃を繰り出した。
「ちッ…あっぶね…俺の赫子が全然通らねぇ…」
錦はその巨体に気を取られ、自分の後ろに忍び寄る喰種の存在を認識していなかった。
「パーマ!後ろみろ!」
楓に促され、カニに注意を払いながらも振り返る。
「あぁ?」
そこには先端が鋏状になった喰種の尾赫が錦を真っ二つにする勢いで迫ってきていた。
「Hey!boy!こっちからも行くぜぇ!!」
カニのはさみも追加で両側から上下左右に鋏に囲まれた。
「くっ…先輩!」
間一髪、金木の鱗赫によってカニの鋏は軌道をそらされ錦に届かなかったが、もう一人の喰種の赫子はもう錦に触れる位置まで伸びていた。
「死ね!!」
「…どいつもこいつも日本語流暢でムカツクんだよぉ!!」
錦は立ったままの姿勢から鋏の片方を上に蹴り上げる。
「なっ…ぐぇ?!」
自身の赫子の質量によって少し体が宙に浮き、のけぞった喰種の隙を錦は見逃さなかった。
少し予備動作を余分につけ、遠心力と重心移動で綺麗に突き出された錦の蹴りが敵の腹に直撃!
相手の体を赫胞ごと貫いたようで、赫子は消滅へと向かっていた。
「ぬるま湯につかりすぎちまったみてぇだからな…金木が行っちまってから少しばかし鍛えてたんだぜ?」
足を引っこ抜くと血とともに体が地面に落ちる。
さすがに四方に引けを取らないと言った実力は伊達ではなかったようだ。
「…っ!?」
ガキィィィンと金属音が鳴り響き、雨止の体がはじかれる。
「HAHAHA!!俺の体はさっきよりずっと固くなってんのさ!そんなおもちゃに頼ってるようでは一生かかっても切れないぜ!!BUSHIDO見せろや!!」
「…カニには言われたくないッ!!」
いくら鍛えているとはいえど、女の華奢な腕では甲に刃が通りそうもなかった。
「てめぇもよそ見してんなよ!!」
そこに錦の赫子が鋏の関節をとらえた。
もげこそしなかったものの、ひびが入り砕けそうになる。
「やればできるじゃねぇか…まだまだだがな!」
「ぐおぉぉっ!?」
その巨体のどこからそんなスピードが出るのか、反対の鋏が瞬時に飛んできた。
さすがに構えていたおかげで受け身はとれたもの再生は少しかかりそうだ。
「ぱーまのあんちゃん!」
楓は心配して駆け寄る。
「ばっか、不用心に動くんじゃねぇ…死ぬぞ!」
「あんちゃんすごい傷だから!治したげよーと思って…」
「は…?そんなことできんのか…?」
「あたしの赫子ちゃんは意外とすげーやつだったのだ!」
-
- 119 : 2016/02/02(火) 20:00:10 :
「くっ…」
二歩、三歩と下がる雨止、それを追い詰めていくカニ。
(BUSHIDOだと…だいたいお前アメリカ人だろ!騎士道とかじゃないのか!?日本大好きか!?)
「変なこと考えてるだろ」
「っ…戦闘中にそんなわけないだろう!!」
図星である。
「っあぶなっ……」
スレスレで雨止への攻撃を金木が受け流す。
「捜査官さん、興奮してるのはわかります。仇が目の前に現れたらそうなるのはわかりますが…どうか落ち着いて」
「す、すまない…くっ…」
それもあるが別のことでボケっとしていて申し訳なく感じる。
「…あと、ナナシさんのこと、信じてあげてくださいね」
「…?」
(何を突然言い出すんだ?信じる?あのうさんくさい男をか?信じてないわけではないが…どうして今…)
雨止は自身へ向けられた凶刃を刀で受け流しながら考える。
(一撃が重い…やはり赫者相手には装備系のクインケがなければ…厳しいか!?…装備系?)
【そのクインケ、やるよ】
(あっ…)
【その刀はお前の俺に対する感情に反応して形を変える…半分嘘だ。やっかいだけど覚悟ってやつだな】
(そんなことを言っていたな…)
【いいクインケだって?当たり前だろ?俺産だぞ!】
(信頼…覚悟………そうだな、今は仇よりも目の前の敵を見なければな…早く奴を殺すためにも…!!)
(Oh…?girlの目つきがかわったな………!?)
壁際まで追い詰めたカニの鋏は彼女に止めを刺すべく、最後の一撃を振りかざしていた。
金木も錦も楓も、間に合いはしなかったが、雨止は自身の力で重力に逆らわない傲然たる一撃を見事にはじき返した。
「!」
「どうかされましたか?ご主人様?」
「…いや、正しい使い方をしているようだな、雨止。」
(普段の無口さからは考えられないようなお前の情熱は、お前の握る刀が大いに語ってくれるだろう。その身の覚悟を。)
雨止が握る刀はゆっくりと形状を変えていく。
まるで籠手のように腕に巻き付き、肩までを覆う鎧となった。
さらに刀部分も異なった形質を孕み、月影を反射し犀利に輝く。
「…ナナシ」
「…え?」
「クインケの名だ。こいつはナナシ。いくぞ………目標を排除します」
今までの目よりもいっそう冷徹な表情になった雨止はゆっくりとカニへと歩を進める。
「…なんだ、そんな顔もできるんじゃねぇか。昂るねぇ!!」
一層増した大鋏が雨止めがけて振り下ろされる。
「…」
雨止は何も言わずに刀を両手で持ち、構えをとる。そしてゆっくりと、美しいフォームを崩さずに振りかぶる。
そしてその寡黙な刃は頭上から降り注ぐ凶器を、一瞬で、けれども正確に真っ二つ切り分けた。
「What's!!??」
「眼帯君、右だ」
「言わなくてもわかってます…よッ!」
驚きのあまり後ろずさるカニの体に重心のかかった右側を思いっきりすくい上げる。
「…」
雨止は仰向けになったカニの真上に飛ぶ。そこには元気そうな錦と楓の姿があった。
「おらッ!」
「いっけー!」
錦は体を思いっきり捻り赫子で雨止をカニに叩きつけるようにぶっ飛ばした。
雨止はそれを足場にして勢いよくカニの、いやアメリカ人のいるであろう中央部位に狙いを定め、一直線に跳んでいく。
「…ハァァァッ!!!」
全身全霊を込めた雨止の一撃は見事カニの甲羅を砕いた。地面には蜘蛛の巣上に亀裂が走っている。
砕け、ゆっくりと気化する赫子の中からアメリカ人の声がする。
「…やるね………Good Luck」
「………そうか、ありがとう」
それだけ言うとみんなを連れて、はやくに20区へ向かった。
-
- 120 : 2016/02/23(火) 13:21:45 :
- ナナシはいくつかの負傷を負っていた。
何も海外喰種の手数、能力に圧倒されているわけではない。
「…!」
さすがに何度目かになったときにはミソラは気付いてしまった。
(さばききれない私への攻撃を受けているの!?)
またしても右斜め後ろ、ちょうど死角からの一撃に反応できずにいると無理な体勢からナナシが割り込んでそれをかばう。
そのあとは何事もなかったかのように次々と喰種を攻撃していく。
「ッ!!さっきからなんですの!ご主人様、そのような戦い方を…!」
「お前が危なっかしくて、な」
「だからといってお受けにならなくとも…!」
赫者、ほどではないがレートにしてS~SSがごろごろと次から次へと流れていく。
「お前はあいつの宝物だ。傷つけるわけにはいかない。」
「ッ!まだそんなことを!」
「駄目だ!これだけは譲れない。いいね?」
「私は私でございます!私の意志であなたについているんです!!あの人は関係ありません!!」
ミソラは声を張り上げた。
「………ダメだ。」
「!!あなたという人は…!!」
「それなら余計にお前を傷つけるわけにはいかないだろ!」
「!」
「俺を見ろ!」
真後ろにいたナナシの言葉に躊躇なく従い敵に背を向ける。
ナナシはしっかりとミソラを見ていた。
(…!今までずっと見ていてくれたのかしら…私が気付いていないだけで…)
ミソラの尾赫がナナシの背後の敵を薙いだ。ナナシは向かい合ったミソラの後ろの敵を引き裂いた。
「俺はお前を見ている、お前もしっかり俺を見ろ!」
その言葉通りまっすぐミソラはナナシを見据えた。
(わかる。眼球、筋肉の動き体の少しの駆動で…)
ナナシの目の方向に攻撃をすれば必ず攻撃が当たる。
「な、なんだこいつら…向かい合ってやがるのに…!攻撃が外れねぇ!?」
「まるでダンスでも踊っているようだ!!」
(…見ていなかったのは…私のほうなのね…今ならはっきりとわかります…)
――――――
二人が躍りはじめた武闘曲は五分ぴったりでやんだ。
もうどこにもベンチよりも高い影はない。
「いこうミソラ」
「はい!どこまでもお供させていただきますわ!!」
「テンションたかっ」
「愛しの人が私をずっと見ていてくださったなんて興奮が収まりませんわ!!」
「愛しの人!?え!?お前も俺のこと好きなの!?」
「姉妹ですから…仕方のないことですわ!」
「そういうものか?」
「恋に理屈は存在しませんゆえ」
二人もまた20区への道を駆けだす。
――――少し先、20区防衛組
「こねぇもんだな」
「油断しちゃだめだよお姉ちゃん!」
董香と雛実はあんていくの前にいた。
また、古間さんもいつもと変わらぬようにあんていくの中でコーヒーを飲んでいる。
「古間さんも!もぉー!いつ来たって知らないんだからね!」
「おい雛実、あれ、見えるか?」
「え?ああ、っと…男の人が乗ってる!喰種と一緒に!」
店の中から古間が出てくる。
「やっとお出ましかい?」
「…魔猿っすか」
「イかしてるだろう?」
「…そっすね」
董香と古間は勢いよく見慣れた街並みを駆ける。
あっという間に車との距離が詰まった。
そうして二人の赫子が確実に車を破壊した。
中から何人かが飛び出した。
「おお!やっぱり20区にもいたか!よかったよかった、これで出番なしじゃ、やってられないからな!」
生垣に身を隠していた雛実の赫子が先手を切った。
「おう!?いきなりかー…!」
雛実の赫子を見切りジャンプした男の前にはすでに董香がスタンバイしていた。
蹴りに赫子のおまけをつけて思いっきりかましてやった。
「やったか!?」
「古間さん!それフラグ!」
「…!おい!」
董香が一人だけ逃げる男に対して声をあげるが、
「じょうちゃん、博士はいま忙しいんだ、相手は俺らでしてやっから…な!!」
「がっ…!」
蹴り上げられた董香を古間がカバーする。
「ふぃーめーんどいねー」
さきほど董香の蹴りを食らった男も立ちなおしたのか、歩いてきた。
三対の赫眼が三人の前にはだかった。
「…ナナシ君…これは早めに来てくれよっ!」
-
- 121 : 2016/03/10(木) 15:01:09 :
- 「…やっぱり弱いな、アネキ」
点滅する街頭の上、
嵐のような赫子を纏ったアヤトがたっている。
海外喰種もそれに気付いたようで話しかける。
「おおう!アオギリのブラックラビットじゃないか!」
「…!?アヤト!」
「はぁ…おまえらもう少しぱっぱとできねぇのかよ」
「やってもいーならやるけーどね」
「…ウス」
「アヤト!なんであんたがここに…!」
「うるせぇよ…俺にだっていろいろあんだよ」
そこに良くも悪くも金木たちが到着する。
「…アヤト君…また半殺しにされに来たのかな…?いや今度は三分の2かな」
「勘弁してくれ」
即堕ち二コマのような光景を見た。
「…!」
金木の足元に鋭い赫子が及ぶ。
「ブラックラビット黙らせられるっちゃあ結構強いんじゃないのかい?あんちゃん!」
「…外人はどうも苦手だ…」
金木はやりづらそうに赫眼を出し、赫子を構える。
「おい、金っ…!」
「きみたちはぼくとあそぼーね」
「チィ…」
全員臨戦態勢をとる。
「俺はフィリップ、よろしくな!」
「ぼくはくーがーなのだ」
「…ウス」
三者三様の赫子が舞う。
「…どいつもこいつも厄介そうだな…フィリップといえばイギリスの指名手配じゃないか」
「おお!そっちの子はわかるかい?そうなんだよ、顔ばれちゃってさ!」
肩から凶悪な腕が二本生え、さらに体も赫子によっておおわれている。
攻守が取れたバランスタイプといったところか。
「よそ見してる暇があるんですか?」
金木の全体重をかけた飛び込み前宙からの一撃が炸裂する。
フィリップは大きくのけ反り、吹き飛ばされる。
「…やっぱ俺ついてるね!強いやつに当たれるとか!!」
「そのうちもっと痛いのが来るよ!!」
待ち構えていた董香の鋭い一撃がさらにフィリップに追い打ちをかけた。
「ぐぼぁ……もっと強いの来るのか…?燃えるねぇ!たぎるねぇ!」
金木と董香の挟撃を軽くいなすとそのまま二人の体をつかみ地面に叩きつける。
「ッ!!」
「そんなんじゃないんだろ?もっと本気で来いよ!!」
「ハッ!錦!」
「わぁってらぁ!!」
金属音が響き何度かいい当たりも見えたが、やつの体にダメージは無いようだった。
無言の男は全身にごっつい鎧をつけたような赫子をしており、全くにして刃が通らなかった。
「…ダメだな、ナナシの刃が通らん」
「…ウス」
ゆっくりとだが男は両腕を振りかざし大地を叩きつけた。
逃げる余裕もあったし距離は十分とっていた、が、
「っっっっ!」
体が強烈な振動でうまく動かない。
「あいかわらずすごーいなぁーぼくもやるかー」
研ぎ澄まされたカッターの刃のようなものが錦に飛んでくる。
「うおっ…!!」
瞬間的に両手両足に深い切り傷ができる。
「…!?なんだ?何を飛ばしてやがるんだ?」
(いや、赫子なんだろうが…かまいたちか…?)
「とにかく厄介だな…!!」
「そーらーなのだ」
立て続けに様々な位置へと刃が打ち出される。
「うっひゃあ!」
「わっわっ!危ない!」
雛実と楓が間一髪でよける。
「…?」
「ぐはっ!」
「えっ?!」
どうやらフィリップたちにもあたっている模様。
「こらぁ!ちったぁきをつけんさい!」
「すーませーん」
「ウス!!」
大男がまたしても大地を揺るがす。
「うわ…っ!!あっぶないでしょう!!」
何とか体勢を崩さず持ちこたえた雨止が刀を振るうがびくりともせずにはじき返されてしまう。
「…ッ!!やっぱりだめか…さっきのカニより全然固い…とは」
「…こっちも全然ですよ…」
「おら金木ィ!!サボってんじゃねぇ!」
「トーカちゃん…別にサボってるわけじゃないよ…おっと…」
「おしゃべりとは余裕だね」
「…厳しいですね…僕は最近相手をするあなたたち外人たちのテンションについていけなくてつらいんですよ」
「そいつは…まぁ、どんまいだ!」
四つの腕と四本の爪が交差する。
いくら半赫者の力を持つ金木の赫子だが、さすがにフィリップの大腕には追いつかない。
「すじはいいんだがねぇ…まだどっかで手加減してる感じだぜぇ?」
「そんなことありませんよ、ただ少し、時間を稼ぎたいだけなので」
「ああ?」
「あ、きましたね」
「いらっしゃいませぇぇぇえええええ!!!」
「ひぅおあ!なんだあのクレイジー…ぼ、ボーイ?」
「あってますよ」
「なんだい彼は?」
「はじめは僕らのお手伝いでしたが…お宅のボスさん見たとたん血相変えちゃって」
「博士を狙ってんのか?あーやめといた方いいぜ」
「?」
「あの人ハイパークレイジーだから」
-
- 122 : 2016/07/07(木) 20:18:50 :
- 「…ここから先は通行禁止だ」
静かな暗闇から静かな制止の勧告がはいる。
「………やっぱり、知ってたんですね?俺がVの掃除屋だったこと」
「…ああ、君にはこれでも感謝している。共闘という形でなら人と喰種が協力できるという姿を見せてくれたからだ。」
「きっと何も考えてませんでしたよ。今となってはそこそこ愚かだったと思ってますね」
「…彼を追いかけてなんになる」
「あいつをほおっておいても、人と喰種が全面戦争になるだけですよ?」
「それでも君をとおすわけにはいかない」
「…残念です。芳村さん」
月明かりが夜道を照らす。閑散とした大通りに相対する赫眼。
一人は大きな梟のような姿をし、もう一人は呆然と立ち尽くしているようだった。
「一度でいいからあなたと飲み交わしたかった…」
ナナシは走り出した。ほどけた長い髪が月の光を映し、きらきらと輝く。
梟はそれを見て思う。
(…やはり復讐、という形で彼を生かせるわけにはいかない)
ナナシが懐に入る。先手を切ったナナシは、地面に片手をつき、勢いよく梟の体を蹴り上げる。
確かに入ってはいたが、梟の体は重く、蹴りによって持ち上がることはなかった。
「…さすがですね」
梟の赫腕による一撃がナナシを地面にめり込ませる。コンクリートが叩き割れ、亀裂が周囲まで散らばる。
受け身をとったナナシは身をひるがえし、次の行動に移るべく距離をとった。
その挙動を梟の羽赫が追いかける。それをスレスレで柔軟に体を撓らせ避ける。
地に足を着くと、息する間もなく迫った梟による追撃が待っていた。さすがに避けようがなく両手で受け止める。
ナナシの体はビル二つを貫通しやっと止まった。盾に使った腕は、両腕ともねじ切れている。
容赦のない梟はさらに接近しさらなる一撃を構えていた。さすがに何度もくらうわけにもいかず、シャレにならないダメージになりそうなので体をねじり転がり、間一髪攻撃を回避する。
夜の20区、月明かりがビル間に差し込む。ナナシがこぼした血が道路に赤い導を作っている。
「…言いたいことはわかりますよ、でもやらなきゃ!あいつを殺すのは俺だ、恨みもつらみもそのまま返さなきゃ気がすまないね!」
回避の合間に再生した腕を受け身で地面につける。回避の勢いを反発させて、次のダッシュにつなげ、宙に飛び出る。
そのまま土煙にたそがれる梟めがけて自身の赫子に羽赫を絡ませ突き出す。
一歩早く梟が引く。赫子は壁に激突し、壁を深く抉り取った。ナナシの赫眼に血管がさらに浮き立つ。
ナナシが地に足を着く前には、さらに二本の赫子が引いた梟を追い、もう二本が地面を貫き、地下から梟を狙っていた。
赫子の動きを見抜いていたのか梟は高く飛び上がる。ナナシは地面に足がつき次第、すべてに赫子を一直線に梟に向かわせる。
防御不可能な八方向からの同時攻撃が梟を襲う。しかし、梟は一瞬でそれらを両手のブレードで捌き切った。
予想をしていなかったわけではないのだろう。梟が体を旋回させ、自分の赫子を迎え撃とうとするのが見えたと同時に羽赫の結晶を構え撃ち出す。
梟も同様に次の手を読んでいた。赫子を切り裂き、落下を待つと同時に下方向を向き、ナナシとほぼ同じタイミングで羽赫を打ち出した。
すさまじいスピードで流れていく深い読み合い、一瞬の判断が命取りになるような気の引けない拮抗した戦い。
月は雲に隠れ闇が街並みに満ちる。八つの瞳が獲物に向いた。
-
- 123 : 2016/07/07(木) 20:19:21 :
「…」
「はぁ…はぁ…もうおわりか?くぁねき?」
「金木、ですよ…」
「日本語の発音できなくてなぁ」
(ぺらぺらじゃねぇか…)
「…趣味…悪いですね…」
「ああ?ああ、逆さ吊りにすんのはな、愚か者を意味すんのさ」
「…タロットか何かですか…?」
「おお、あるな、吊るされた男、か…自己犠牲…だったか」
「…自己犠牲…そうか…ふふ…」
「ああ?よくこの状況で笑ってられるな。」
金木はさかさまの状態で顔をそむける。顔が見えない。光が差さず、表情は読み取れない。
「…ああ、はは…本当に、…ふふ、ァア…ハハ…まるでボクミタイダ」
金木が顔をあげる。赫子が金木の体全身に周り、顔を仮面のように覆っている。
一つの赫眼がフィリップをじろりと睨みつける。
「…!!お前…赫者だったのか!?」
その言葉を皮切りにムカデのような形をした赫子が仲間の吊るされた両側に這いずり歩くように伸びる。
全員を拘束していた糸のような赫子をブツン、ブツンと音を立てながら断ち切っていく。
それと同時に四本の鱗赫がフィリップたち三人を襲った。
「あーぶなー」
「…ウ…ス…」
「…!!早いな…それにさっきと全然違うじゃないか」
大柄な男を盾上の赫子ごと貫きとおした。ズズゥンと音をたてて倒れる。
「…まじかよ…しんじら…!?い、いねぇ!!どこ行った!」
「あーっちだー」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
口から言葉にならない感情的な声だけが漏れている。壁と壁の間を飛び交い、本物のムカデさながら、立ち並ぶ家の壁を這いずり駆けまわる。
先ほど三人を襲った四本の赫子は二つづつくっつきはじめさらにムカデの形をとり始めている。
「か、金木…?」
董香が表紙の抜けたような声をあげる。
「あああああああああ!!あーあーアーアーアーアーヤトクーン!君は半殺しだ!!」
「へぶっ!!」
傍観していたアヤトに突然、攻撃の矛先が向けられる。
街頭の先から思いっきり地面に叩きつけられたアヤトはまるでヤムチャのようなポーズで倒れている。ヤムチャしやがって…
アヤトの代わりに街頭の光の上に足を下ろした金木は両足をそろえて膝を曲げ、手でも長い赫子を維持する体を支える。
奇妙なことに首だけをグリンと回して、フィリップたちのほうを向く。
「半殺し…!僕の居場所を奪うやつには容赦しない…?じゃあ、全殺しぃ???ふひはっ…だぁめだよォォォ?」
「…どうしちまったんだ…!?」
「そうだ…!トーカちゃん!ダメ?守らなきゃ?殺されちゃう?…!!あ…あ゛ア゛ア゛ァァァァァ!!!許さない!!摘まなきゃっ!!」
「駄目だラビット!!ああなったら手をつけられない!」
「捜査官!どういうことだよ!カネキはどうしちまったんだ?」
「私が知るか!後でもナナシに聞け!」
「チィ…」
「とにかく今はいったん引くぞ!誤認識で攻撃されかねない」
「…カネキ…」
「おらクソトーカ!ボケっとしてんな!」
「…!!うっせぇニシキの分際で!」
「アーーー僕外国人は苦手だなァァ!話がかみ合わないんだ!か、みっ…噛み殺す??そうだ!優しく噛み殺してあげる!!赫子で腹を掻き切って内臓をぐちゃぐちゃにかき混ぜちゃう!!」
「…お前も十分いかれてるぜ…」
「…くるぞー」
街頭を蹴った金木の姿が一瞬間でフィリップの前へ踏み込みが入る。
「…ッ!?早っ…」
言葉にする前には吹き飛ばされていた。ドス黒い笑顔が、金木の頬を歪め零れる。
「ひぃあ…ぁああ!!目の前にいるからぁぁぁ!!!ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃ―――――――――ッ!!」
「…!」
踏み込まれた右半身を軸にして左側に立っていたクーガーにも赫子が振りかざされる。
真横から叩き込まれたせいで、立っていた位置からまっすぐ右側に受け身をとる暇なく叩きつけられる。
そうして奥に飛ばしたフィリップを追いかけるためにジャンプした瞬間に後ろのほうで折れた街頭が地面に落ちる音が響いた。
倒れたフィリップに三本のムカデ型の赫子を体を前転させ、遠心力を使い、身をひるがえし赫子をさく裂させる。
「ヒィハハハハ!!ヒデ!ムシヲツブシチャッタ!!あああああああ!!」
「……誰が虫だって?オォラァ!!」
勢いよく金木の体が弾き飛ばされる。深々と陥没した地面から大きな指が覗く。
さっきよりも一回りも二回りもでかい。4本の腕がフィリップからはえていた。
「俺の赫子…ほかのやつと違ってグロいよなぁ…」
自問しているのか自分と金木を見比べてがっかりしているようだった。
-
- 124 : 2016/07/07(木) 20:19:45 :
- 「いやだぁ!!ヒデを殺さなきゃいけないなんて!!僕を人殺しにしないでくれ!!一人にしないで!カアサン!!」
もっとも、金木には届いていないようではあったが。
耳に響くのは荒い息遣い。早く、それでいて深く。しっかりと全身に酸素が回るように。
向かい合った赤い目は互いに一歩も引く様子はない。
声を掛け合うことはない。目だけで語り合っているようだ。
静かな時間が流れる。しかしそれは気分のいいものではない。重く暗い沈黙だった。
そうして最後の一撃が始まる。
お互い音もなく、血を浴びたもの同士、静かにゆっくりと終わりを告げようとしていた。
大きな衝突音、すれ違う二人。その足が地についた瞬間、力なく倒れたのは…ナナシのほうだった。
もちろん梟のほうにダメージがなかったわけではない。大きなダメージを負った。だが、ナナシの受けたダメージはそれをはるかに超えるものだった。
臓器、器官に深刻な裂傷が走っていた。治ろうとしているのか少しずつ傷口が収縮していくが、ふさがるまでには至らない。
「君には…復讐であの男を殺してほしくない…わかってくれ」
「………お…れの…命に…人…間と…喰…種の…命をかけ…る…おもさは…あったので…しょうか…」
「私はそれだけ思っているよ、君もこれからの社会をになっていくべき人材だと。」
「か…ねき…くんが…やってく…れます…よ…」
「…君がいてくれなければ困る、彼はまだ不完全だ」
「…こまっ…たな…芳村さんの…たのみ…じゃ、こと…われない…な…」
「ナナシ!!…梟!?」
「…私は行こう…君に託すべきものはすべて託した。」
「…わかりま…したよ…喰種と…人間の…えいこ…う…をねが…って…乾杯」
梟は会場を立つ。舞台から役者は降り、閉幕となったステージで、もう一度立ち上がった男が一人。
「お相手さんは?」
「あ?ああ。眼帯君が赫者化してしまって…」
「どんなかんじ?」
「まだ舵はとれていないようだ…ラビットたちは置いてきたが…」
「…美食家は?」
「…いや、見ていない。まだどこかで交戦しているんじゃないか?」
ナナシは考える。このまま追うのか?今の力で勝てるのか?応援を…
しかし待っている暇などないだろう。今捜査官たちは住民の避難を急いでいる。
彼が持って行ったのはおそらく地下24区を通る下水の鍵。あの辺にスタンバイさせてんだろうなぁ。
「歩けるか?」
「…なんとかな、これが終わったら、しばらく動けない生活が続くな」
ため息をつきながら歩き出す。
人類と喰種最大の決戦の火ぶたが、切って落とされるはずとなった現状で引くことはできない。
傷が治りきらない体を引きずりながら二人は歩いていく。
-
- 125 : 2016/07/07(木) 20:19:59 :
「がぁ……死ぬ…か…」
「ああはぁ…今から優しくペンチで五指捻じ切ってあげるねぇぇぇぇ!!」
半赫者と化した金木の暴走はだれにも止められない。
腕を自分の外側にそらせ、顔と体と四肢でまったく別の方向を向かせている。
「やめろ!!バカネキ!どうしちまったんだよ!」
董香が後ろから金木に抱き着く
「と…かちゃ……」
一度収まりかけたように思えたが、また赫子が金木を蝕み始める。
「ぐっぁあああああ!!ダメだぁ!!ダメだってばァ!!」
金木は頭を掻きむしり、トーカに手を掛ける。
董香にはその声がどうしても過去の自分に通ずるものがあるように感じ、一層かけられた手に沈む手の力が強くなる。
「戻って来いバカネキ!!あんたを置いてどこにも行ったりしないっつの!」
その言葉を聞いたとたん金木の体から力が抜ける。言葉に反応したのか、赫子は徐々に崩れてゆき、顔を覆う仮面が剥げ落ちた。
「………………ありがとう……………董香ちゃん」
掛けていた手をそのままに董香になだれ込むようにして倒れると安心したような顔で董香の顔を見つめた。
「…あんたが何でも抱え込もうとするのはいつものことでしょ?」
その様子を見ていたフィリップは少しバカにするような口調で言い放った。しかしそれにはもう敵意はない。
「…は…は、愛の力ってやつか…日本の喰種はいいな」
「…あんたたちに愛ぐらいあるだろ」
その姿を見ていた董香がフィリップに問いた。
「ねぇよ…俺たちには、親も、権力も、金も、なんにもねぇ、だからこうやってバカやらかしちまうのさ」
「…」
「霧島さぁん!!カネキクン!」
空気を読まない月山たちがそこに合流する。
「おお!?楓が赫子出せるようになってる!?」
一時の再会を果たし、自在にうねる尾赫を見た響は驚きの声をあげる。
「おおー響~おかえり~」
「ってのんき言ってる場合か!ナナシは?」
いつも以上にノリツッコミが激しい気がする。
「先にいっちまったよ、捜査官も行かせた」
「…僕たちも行くべきだ、残るチームと行くチームで別れよう」
「そうだな、全員で言うわけにもいかない」
結果として、響、楓、月山、カネキの4人が向かい、それ以外は防衛を続けることにした。
「くっ…そ」
「アヤト!!無事だったの?」
「無事に見えんならてめぇの目は確実に節穴だクソ姉貴!」
「…だよね」
-
- 126 : 2016/07/07(木) 20:20:10 :
「やって参りました24区………はぁ………」
「くかかかかかかっ!!!こぉぉぉぉぉすぅぅぅぅぅうううううう!!」
「なっ…なんだこいつは…」
目の前に現れたのは狭い下水道いっぱいに体を構える巨体の………生き物。
「…これもあの野郎が作ったものなのか…?」
「ころぉぉぉぉぉぉぉすっっっ!!」
どうやら話し合いもできなさそうだ。
勢いよく大きな血塊が飛んでくる。雨止の剣さばきにより一刀両断されたが、とてもじゃないが受け止められないサイズだ。
「…っなんだこれは…」
「ははっ…規格外だな」
でかぶつの赫子に新たな血塊が装填される。
赫子の位置は羽赫。
「…羽赫だが通常のケースとは違うな…あれも実験の成果なのか…?」
「超重量一撃必殺ってとこだな…再装填にかかるまでの時間は約12秒。あの感じじゃ防御は固そうだよな…」
「なぜそう思う?」
だいたいどこかが優れているとどこかがだめであるものだ。攻撃力が高く機動性の低いキャラの防御は高いと相場が決まっているのだ。
「そんなきがするぅっ」
ナナシの熱論に全く耳を傾ける様子はなく、いつもの調子で適当に返事をする。
「はっ…突っ込むぞ!!」
雨止が先手を切って走り出す。敵の砲弾は発射される寸前。発射される頃には雨止は備えられた大砲の目の前までせまっていた。
「――――――っりゃッ!!」
撃ち出された直後の砲弾はすぐさま真っ二つに裂け勢いを失い地面に落ちた。
衝撃で後ろに飛ぶ雨止の影から八本の赫子が交わることなく躍り出る。
その赫子はでかぶつの頭を一点に貫き、その地点からそれぞれ八方向に空間的に炸裂した。
脳髄や血、骨が飛び散る。そして巨体はあっけなく大きな音を立てて崩れ落ちた。
「あんがい脆かったな…」
「やはり貴様の勘はあてにならん気がする」
「はぁっ…はぁっ…」
「追いついたぞ昭道!!」
よたよたと走る背中に追いつく
「はぁ…君たちィ…しつこいよ…」
左右から先ほどとは形状の異なる赫子を持つでかぶつが現れる。
「ちっ…」
「じゃあねぇ…君たちは敵同士なんだ、そう仲良くするなよ、反吐が出る」
「待てっ!!」
「左はお前、右は私がやる…」
「駄目だ、お前はあいつを追え」
「!!」
「はやくしろ!」
「…ッ!!」
「はやく!!」
「すまない…!任せた!!」
駆け出し雨止が次の部屋へ続くであろう廊下へ足を踏み入れたときだった。
背後から崩れるような轟音が響いた。
「ナナシッ!?」
振り向いた彼女の目には、先ほどの光景は何一つ映らなかった。
落ちた床、地下深くまで続く虚空。
「ま…まさか…落ちた…のか?…あいつ…これがわかってて…?」
考えている暇はない。今の彼女に必要なのは涙ではない。雨止は後ろ髪を引かれる思いを置いて足早にそこを去った。
-
- 127 : 2016/09/01(木) 22:20:25 :
- 【じゃあ、あなたはナナシさんだね】
【…………………】
【・・?・・・。・・・・・・・・・・・】
【いいですよ、素敵な名前です】
【・・・・・・?・・…・・・・…・・・・・・・】
(なん…だ…?これは……)
【・・…・・・・・・・・みたい】
【お、お母さん?】
【・・・・・こ。なぁーんてね?】
(まだ記憶がはっきりとしない…?なんだろう…とても心地いいな…ずっと昔の記憶みたいだ…)
『――――大事な人を思いながら淹れるとおいしく淹れられるわよ』
『リョーコさんのことを思って淹れました。おいしくできてるといいのですが―――』
『ん…おいしいわ。…ありがと』
(………!!!リョーコさん!!なんで俺は忘れていたんだ…!?…ッ…頭が痛い……ガンガンする…)
【ふふっ、どう?似合う?】
【ああ、すっげーにあってる】
【…あなたとこうして一緒にいられるだけで幸せものね。私。】
(ス………ミレ…………)
少しづつ記憶のパズルが縫い合わされていく。
(俺は…考えてなかったわけじゃない。考えられなかったわけじゃない。………考えたく…なかったんだ。)
リョーコさん。スミレ。…龍も。俺は…自分の大切なものが誰かに蝕まれていることが認められなかったんだ。
それなのに意地っ張りで…それを認めてしまうのはきっと怖いだけだったんだ。
なんだろう。どうしてだかわからないけどあたたかい。誰かに優しくなでられてるみたいだ。
いったい…だれが…
「…」
「ひ……なみ………ちゃん………?」
ナナシの目の前にいたのは雛実だった。
雛実はナナシを膝枕し、そのまま寝かせていた。
「ど…して…?」
「…アオギリのね…エトって人が、ナナシさんはここにいるって教えてくれたんだよ」
「え…ト……」
脳が感覚に追いついてきたのか体中が痛かった。
目を動かし見てみると全身裂傷だらけ、おまけに足は骨も見えてぐちゃぐちゃになっていた。
「治るまでは少しかかるよ。Rc活性剤飲ませたから」
「……ど、こで?」
「真戸さんに以前もらったの、なにかあったらって」
「ま…ど…さん」
あっけなく昭道に殺されてしまった真戸さん。あんなにも偉大な人の最後があんなものなんて許されるはずがなかった。
できることなら助けたかった。そう後悔する。
「あの道をまっすぐいったらきっとナナシさんがもとめてたものが見つかるって。エトさんが言ってたよ」
「もと…め?もの…?」
「うん。…今は何もわからないけど、終わったら雛実にも教えてね?」
「…う…ん」
「ほら、そろそろ大丈夫!雨止さんがきっとまってるよ」
「…ありが…とう…雛実」
「うん、いってらっしゃい、ナナシさん」
「いってきます」
それだけ言って歩きを進めた。エトがなぜ俺が求めたものを知っているのかは知らない。し、どうでもよかった。
最後だ。俺のすべてが終わる。本当の最期。
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- 128 : 2016/09/14(水) 20:38:23 :
【ちびっこー…?あいつマジでどこ行きやがったんだ…?まいっか、これを埋めて…っと】
【なに埋めてるの?】
【あー?俺はぐーるなんだぞ~?怖がれよ!】
【私も私も~】
【ああん?何言ってんだコイツ…じゃますんなよ?】
【お兄さんお名前は?】
【俺?…名前はないよ、しいていうなら0027かな】
【何かの番号?】
【掃除屋に名前は必要ないんだとさ。この番号も何の番号かさえわかんねぇ】
【そうなんだ】
【お前…変わってるな】
【…そう?あなたも十分変わってると思うけどなぁ…」
24区のはずれ。仮面の底でエトは深く微笑んだ。
「……………これが………俺が求めたもの…?」
小さな箱に入っていたのはどうやら掃除屋時代に使っていたと思われる仮面だった。
「…紙が入ってる…?」
その紙には、スミレの字と思しきものが書き綴られていた。
『未来の私たちへ。今も幸せでいますか?これを読むときはいつものみんなで読みたいです。誰もかけてませんか?私は今不安でいっぱいです。未来の私は幸せだといいな。結婚して子供も欲しいな。』
途中まで読んでなんだか照れくさくて悲しくて、不覚にも笑ってしまった。
「みんな一緒どころか…俺一人だよ。まったく…」
龍がスミレを殺し、その龍は俺(?)が殺した。
俺たちが生きるにはすこし自分を汚しすぎたのかもしれない。
『全然想像つかないけど、人と喰種のバランスが取れて和解できたら素敵だと思います。もし私が死んじゃっても誰かが叶えてくれることを願います。きっとそれは難しいとかそういう話じゃなくて、不可能かもしれませんが、私は今のスリルある生活も嫌じゃないけど、人間として平和に生きてみたいです。』
「…なぜ彼を行かせてしまった?そんなにも彼に肩入れをする意味がわからない」
仮面の男は闇に紛れた梟に問いかける。
「私には彼があの子の願いを反故にするとは思えなかった。だからこそ、彼が今あれを手にするべきかを吟味し、行かせたのだ」
その声には固い決意と、強い意志が感じられた。
「面倒を見てやった恩も忘れて貴様は我々に牙を剥いた。いい加減、お前も潮時ではないのか?」
「…………」
(ナナシ君。私は間違ったとは思わない。半喰種である金木君とは別の、強みがあると思ったんだ。君が店の前に現れたとき、そう、感じたのだ)
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- 129 : 2016/09/14(水) 20:38:43 :
「追いついた!止まりなさい!」
逸る呼吸を抑え込みながら声を張り上げる。
「しつこいねぇ…まぁ、ここで終わりだ!」
クインケをしまい込み、両手を地面につく、すると昭道の背中から、音を立てて赤い刃が出現する。
「!貴様……それは……」
「ふふ、驚いたかねぇ!これが私の研究の成果だ!私はこの赫子とクインケで、世界に新たなる変革をもたらすのだぁっ!」
「……どこまでも狂った男だ……自分の体に赫胞を移植するなど…」
太く伸びた二本の腕から大剣が伸びたかのような形をした甲赫が宙をブォンと音を立てて斬る。
「………くだらない」
「ああっ?」
声の先には眼帯のマスクをした金木達の姿があった。
「僕が食べやすいように切り落としてあげよう、響君、フォローを頼むよ」
「あいあいさー!」
渦巻く剣と禍々しい龍の赫子が狂気の瞳へと向かっていく。
「目標を視認、攻撃を開始する」
「!」
地下に響く銃撃に昭道は一手はやく体を避ける。そしてさっきまで昭道がたって交戦していた場所にいくつもの羽赫の結晶が突き刺さる。
「負荷30%…」
「!?」
突然、昭道の体を裂くようにして雷が流れる。
「ぐぅっ!?なんだ?」
「あれは…」
「OCGの死神…有馬貴将」
「…ナルカミ」
そして一瞬のうちに、またしても地下に響き渡る轟音とともに雷鳴が昭道を翻弄する。
大きな腕を使って、地下の狭い空間を右へ左へと移動する昭道の動きは予想が厳しく、なかなか当たる様子はない。
しかし、ナルカミの動きを注視していた昭道は他の伏兵の存在に気付いていなかった
「残念だが…」
「お前の野望はここで終わりだ!」
「ぐぉぉぉぅッ!!??」
バックステップで飛ぶ昭道の背中に、一槌の打撃が入る。
そして不意に打ち上げられた昭道の体を背骨のごとき凶刃が取り巻き切り裂く。
「ちぃぃ…!小癪な!」
なんとかフエグチの攻撃範囲から逃れた昭道だったが、彼らによる猛攻はまだまだ続くようだ。
「んーむっ!こちらのほうが少しお留守になっているんじゃないかな?ボナペティッ!!」
「なにっ!?」
足をつき身を潜めたと思った矢先に、後ろから月山の剣が昭道を殴打する。
「うーんッ!こんなものを金木君に出すわけにはいかないが……いたし方あるまい」
「ぐぅ……すこし持っていかれた……が…喰種の回復力をもってすれば、なんともない!」
「おっさんよゆうだね」
吹き飛ばされる昭道の横を、まねた態勢で飛ぶ響はまじまじと昭道を見ている。
「頑丈だね、おっさん!!」
突如として現れた龍の赫子が昭道を下方向にぶっ飛ばす。
「僕はピタゴラスイッチみたいで好きだな、こういうの」
「ナルカミ…負荷120%………」
「あっ…有馬貴将ぅぅぅぅぅうぅぅうううう!?」
まさにその顔は死をみとるにふさわしい表情をしていた。死神有馬貴将は笑うこともなく、その体をナルカミの紫電の一閃で貫いた。
「………かっ……」
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- 130 : 2016/09/14(水) 20:38:56 :
そして…
「これで…ッ!終わりだぁぁぁぁあああああ!!!」
雨止によるその最後の一撃が放たれ、昭道はその場に崩れ落ちる。
倒れ込む昭道の表情は見えない。
「…おわったんですね」
「ああ、カネキケンか…」
有馬は金木のほうを一瞥し少しつぶやき他の部隊への連絡へ移った。
「金木君、響君、楓さん、僕たちの仕事は終わった、あとは捜査官たちに任せて、帰ろう」
「月山さん、ナナシさんが…」
「…いいんだ。彼は彼のやるべきことがまだある。必要ない役者ははやめに舞台を下りなければね」
「……?」
(……そうだろう?ナナシ君)
「雨止二等捜査官、ご苦労だった。」
「ありがとうございます…」
「君達は先に帰ってかまわない。処理はこちらで行う」
「あ、…いえ、私も最後までいます…」
その時、不気味な笑い声のようなものが暗い路地に響いた。
「ぁぁあああ…まぁだおわらせんよ………私の目的をぉ…悲願をぉ…」
うつ伏せに倒れている昭道の体がぼこぼこと飽和する様に膨張し、じょじょに人の形を失っていく。
「……ほぉ…まだ動けるのか」
「…!」
「下がってください雨止さん、あなたはもう十分戦った」
「どいてください亜門さん、私は父の仇を…」
「そうだな、父の仇、とらねばならない」
「アキラ…」
完全に化け物の姿に変わってしまった昭道と、捜査官四人が対峙する。
化け物はいまだに膨張を続けており、様々な生き物が混ざったようなグロテスクな姿をさらす。
「……ナルカミだけでは防ぎきれないか…」
そういいつつ、もう一本のクインケIXAを取り出す。
「新しく調整したクインケの調子はどうだ亜門上等」
一新されたドウジマを掲げる亜門にアキラが問いかける。
「問題はない。むしろ好調だ。」
「……ナナシ、あんたの分も…ここで…」
そういってナナシを強く握る。その矛先はしっかりと怪物に向けられている。
「後に続け、散!」
言いながら飛び出した有馬を皮切りにそれぞれが駆け出していく。
赫子の化け物はそれに反応するかのように、鞭状の組織を振り回す。
激しく動き回るそれは、フエグチによって斬り放され、彼らを阻害しえなかった。
一番最初に化け物に攻撃を加えたのはやはり有馬貴将だった。
IXAとナルカミの二つの刃がその巨体を引き裂いた。しかし、その肉の厚さからか、まったくもってダメージが入ったようには見えなかった。
「…!」
直後、斬り開けられた組織から鋭い槍のように赫子が伸び、有馬を貫く。間一髪で背中をのけぞらせ避けるが、眼鏡が飛ばされてしまう。
「うぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
また、その横では亜門がその鋭い矛先を自身のハイパワーを持って振るっていた。何度か反撃を受けそうになるが、アキラのしならせるフエグチがそれを許さなかった。
雨止も必死になってその刃を振う。しかし、どんな攻撃をしても、怪物はびくともしないし、ダメージを負っているようには見えない。
「…どこかにコアのようなものがあるのか…?」
雨止のつぶやきに有馬が答える。
「これすべてが大きな赫子だとするならばあり得なくもない話だ。……だとしたら。」
そうだ、昭道の体から大きくはみ出たこれがすべて赫子だとするならば、その本体をたたけば倒せるはずだ。
「…しかしどうやって…!」
そうだ、昭道の体から広がったこれは、昭道を覆い、潰しのしかかるようにして昭道の上にのさばっている。
本体に到達するにも、その巨体と赫子の再生能力のせいでとらえきれない。
そんなとき…
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- 131 : 2016/09/14(水) 20:39:17 :
「おこまりかい?」
後ろから声をかけてきたのは禍々しい装飾の面をつけたナナシだ。
いつもの彼ではない。そう感じさせる何かが、今のナナシから発されていた。
歩き方…しぐさ…雰囲気が根本的に違う。
「………ヤオヨロズ」
ゆっくりと歩みを進めるナナシの赫眼にはいつものだるそうな様子はない。確かな覚悟が視界を刺す。
「もう、逃げられない。逃げたくない。逃げない。」
「…な、ナナシ…?」
「こんのぉぉぉぉ…!!!失敗作がァ!!」
振り翳された刃を紙一重に躱す、その足は止まらない。
「死ね!死ねッ!死ねぇぇぇエッ!!」
何本もの刃がナナシめがけて飛んでくる。
しかし、赫子を出す様子もない。
「何をしているんだ彼は…!」
見ているアキラが疑問を投げかけるが、誰もそれにこたえられるものはいない。
「わ、我々も加勢を…」
「よせ」
「有馬特等…」
「巻き込まれるぞ」
「…!?」
「来るな!来るなぁッ!!」
その巨体から考えられないスピードで攻撃が次々と飛んでくる。
ただ、大きなモーションは見られず、その攻撃は躱されていく。
そして距離が縮んでいくに従って大ぶりな攻撃は窮屈になり、その手がやんだ。
そしてナナシは昭道の前でぴたりと止まった。
「これは龍の分だ」
ナナシの尾赫が何の所作もなく叩きこまれる。赫子で膨張した昭道の体は徐々に硬質化していき動きを止める。
「なっ…!?なんだ…!?」
「これがスミレの分」
瞬時に伸び纏われた甲赫が固まった赫子を安易に打ち砕いた。
「ひっ…」
「そして俺から」
黒い羽赫の翼がゆっくりと広げられ、そこから数発の鋭い刃が撃ち込まれる。
「ぐぁぁぁ!?」
「最後は、今まで、現実を見ようともせず、嫌なことから目を背けて逃げ続けた俺への戒めだ!!」
八本の鱗赫がのびる。ゆっくりと関節を形成し、さらに先へとのびていく。
「ヤオヨロズゥゥゥゥ!!!きさまぁぁぁあぁああああああああああああああ!!」
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―――――――
「さよなら、今までの全部」
ぐちゃり、と肉と骨が砕ける音がする。周囲に飛び散った肉片が再生の兆しを見せることはなく、暗い地下道にはただただ重い沈黙だけが流れている。
「…ナナシ」
「我が名はヤオヨロズ。掃除屋だ。」
「………」
「復讐も、決別も終わった。……でも、もう少し彼の動向を見ていたいな」
「カネキケン」
有馬がクインケを下ろし、ナナシに向き合う。
「…そう睨まないでよ。とって食いやしませんよ。」
暗い地下道に光る赫眼は不気味に四人の捜査官を見つめている。
「さよなら」
誰が、ともなくそう言う声が響いた。
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