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エレン「たとえばお前が俺を忘れていたとして・・・・・・。」 ※プランツドールパロ
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- 1 : 2015/07/30(木) 16:25:50 :
- 一度書いてみたかったプランツドールパロです。
他のサイトで見たプランツドールパロのSSが素晴らしくて、こうして書いてみたくなった次第です。
*ご注意*
キャラ崩壊。
エレアル表現あり。
よろしくお願いします<m(__)m>
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- 2 : 2015/07/30(木) 16:27:00 :
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それは、夏の暑い日だった。
都会の雑踏。
暑苦しい昼下がり。
喧噪の片隅に、俺は小さな店を見つけた。
ショーウィンドウの中に、眠るように椅子に座っている、小さな少年の人形。
金髪の髪の毛をしたその少年に、俺は思わず釘づけになってしまった。
「まさか・・・・・・。」
そいつは、5年も前に行方不明になった俺の親友そっくりだった。
女の子みたいな可愛らしい服を着てるけど、間違いない。
「・・・・・・アルミン?」
まさか
そんなはずはない
あいつは・・・・・・・・・・・・
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- 3 : 2015/07/30(木) 16:29:09 :
「おやぁ? 気に入ったのかなぁ?」
暫く目線が釘づけになっていたせいか、後ろから声をかけられて思わず飛び上がってしまった。
振り返るとそこにはあ、眼鏡をかけた女性がいた。
眼鏡の奥には爛々と、好奇心に溢れた目線を投げかけている。
「あ、あの・・・・・・俺をじっと見て、一体何なんですか?」
「おっと、失礼したね。私の名前はハンジ・ゾエ。このお店の店長をやっているんだ。」
「は、はぁ・・・・・・。」
それから俺はもう一度ショーウィンドウに目線を戻した。
「!!! あれ? いなくなって――――――てうおっ!?」
いつの間にやら、アルミンそっくりのそいつは俺のそばまで来ていた。
どう見ても10歳前後、あの時と変わらない見た目のその人形は、その青い瞳で俺をじっと見つめている。
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- 4 : 2015/07/30(木) 16:30:07 :
「いやぁ、君、その子に気に入られちゃたみたいだね。」
「はっ!?」
そうこう言っているうちにその青い眼の人形は俺に頬を摺り寄せてきた。
何か必死に甘えてくる様子が中々にいじらしい。
正直、俺は複雑な気持ちだった。
勿論嬉しいのもある。
だが、所詮は人形だ・・・・・・。
「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったね。君、名前は何て言うの?」
「俺・・・・・・エレン・イェーガーって言います。」
「何だか女の子みたいな名前だね。」
「はは、よく言われます。」
目の前にいる女の子らしい幼馴染みに、俺はどう接していいか分からなかったから。
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- 5 : 2015/07/30(木) 16:30:40 :
「ところで君はさっき、ずっとこの人形を見つめていたけど、そんなにアルミンのことが気に入ったのかな?」
「えッ!?」
___________この人、どうしてアルミンの名前を知っているんだ?
「この人形は・・・・・・俺の幼馴染みにそっくりだったんです。」
「幼馴染にかい?」
「はい・・・・・・そいつの名前も、アルミンだったんです。」
逸る気持ちを抑え、慎重に言葉を選んで、俺はハンジさんに質問した。
すると、ハンジさんは得心がいったような顔をした。
「・・・・・・エレンくん。今から言うことは、君にとっては残酷な話になるかもしれない。それでも真相を聞きたいかい?」
一瞬の逡巡の後、俺はゆっくりと頷いた。
目の前の幼馴染みそっくりの人形。
俺だって真実を知りたい。
「・・・・・・お願いします。ハンジさん。」
ハンジさんは少し微笑んだ後、俺を気遣ってくれた。
「立ち話もなんだし、店の中に入りなよ。話はそこでしよう。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 6 : 2015/07/30(木) 18:09:59 :
- 期待!ざ、残酷だと…?
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- 7 : 2015/07/31(金) 15:52:04 :
- >>6
ご期待ありがとうございます!
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- 8 : 2015/07/31(金) 16:17:38 :
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ハンジさんのお店の店内は意外と清潔に保たれている。
ミルクと砂糖菓子の香りにふわりと包まれた、小さな人形たちの座って並んだ不思議な空間。
どの人形も見た目は10歳前後で、押しなべて眠っているように見えた。
「座って、エレンくん。」
促されるままに、俺はお店のバックヤードへと通された。
そこには巨大な棚が置いてあり、大小さまざまな紅茶の缶が置かれている。
意外と広いバックヤードの、丸テーブルの椅子に俺は座った。
「気になったかい? 世界中から買い集めたんだ。」
「これ、ハンジさんの趣味ですか?」
「いやいや、これは夫の趣味なんだ。おかげで掃除が大変でね・・・・・・おっと、つい長話をするところだったね。」
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- 9 : 2015/07/31(金) 16:33:24 :
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すると、そばにいたアルミンの人形が俺の膝の上に座ってきた。
ここは僕の席なんだぞ、といわんばかりに、ごく自然に座ってきたのには驚いた。
そのままどけてしまうのも可哀相なので、両腕を腰にまわして抱きかかえると、アルミンは本をひろげ、一心不乱に読み始めた。
「本当に気に入られたみたいだ、エレンくん。出会って数分でここまで甘えるプランツドールを、私は見たことがないよ。」
「あの・・・・・・このアルミンって、人形なんですよね?」
「そうだよ、エレン。私はこの店でね・・・・・・プランツドールを販売しているんだ。」
それからハンジさんは俺に、プランツドールについてたっっぷりと語ってくれた。
その愛情のこもった長話をかいつまんで話すとこうなる。
プランツドールは、波長の合う人間と出会うと目覚めるということ。
一日三回のミルクと週一回の砂糖菓子で生きる人形だということ。
そして、持ち主の愛情がなければ・・・・・・枯れてしまうということだった。
愛情を糧に生きる人形。
それが、プランツドールだ。
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- 10 : 2015/07/31(金) 16:45:55 :
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話を聞き終わる頃には、既に日が傾き始めていた。
本を読んでいたはずのアルミンは、いつの間にかスヤスヤと寝息を立てている。
「ハイ・・・・・・アリガトウゴザイマス、ハンジサン・・・・・・。」
アルミンを膝に乗せた状態で長話を聞き続けたせいか、足の感覚がだんだんなくなってきた。
すると、ハンジさんは一息、深呼吸をした。
「さて、エレンくん・・・・・・アルミンのことなんだけどね・・・・・・。」
やっと、俺の知りたかったことを話してくれる。
知りたいような、
知りたくないような、
矛盾する気持ちのおかげもあって、つい長話を聞いてしまったけれど、ここまで来たらもう聞くしかない。
俺は、腹を括って聞くことにした。
「・・・・・・死んだアルミンに似せて作ったんですね?」
「いや、違うんだ。」
「違う?」
「・・・・・・君の幼馴染みのアルミンは、その人形なんだ。」
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- 11 : 2015/07/31(金) 22:14:16 :
「・・・・・・はっ!?」
俺の幼馴染みが・・・・・・人形だった?
「お前ふざけてんのか?」
相手を罵倒する言葉が先に出てしまった。
それほどに、俺の受けた衝撃は大きかったのだ。
否定したかった。
アルミンに関する思い出が、偽物だったなんて信じたくはなかったのだ。
すると、ハンジさんは一冊のノートを取り出した。
「プランツドールの・・・・・・販売記録だよ。」
そこには、アルミンのおじいさんの名前が記されていた。
「7年前のことだったね・・・・・・たまたまこの店を通りかかったアルレルトさんに反応して、アルミンは目を覚ましたんだ。」
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- 12 : 2015/07/31(金) 23:21:25 :
_______________「何か気に入られたものはありましたか?」
「ん? そうじゃな・・・・・・もしわしに孫が出来たとしたら、ああいう子が欲しいと思うてな。」
その日は、今日のように暑苦しい日だったのを私は覚えている。
麦わら帽子をかぶったアルレルトさんは、見かけによらず繊細な人で、話してみると、文学に造詣の深い人だった。
「折角ですから、中でお話しませんか?」
「ええ、いいですとも。」
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- 13 : 2015/07/31(金) 23:22:07 :
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こうして意気投合した私たちは、夫も交えて話をすることにした。
その時だったんだ。
チョンチョン、と、アルレルトさんの袖を、アルミンが引っ張ったのは。
「む? これは・・・・・・!?」
アルレルトさんは驚いていたよ。
ただの人形だと思っていたものが、いつの間にか目を覚ましてそばにいたんだからね。
そしたらアルレルトさん、アルミンの前にしゃがみこんだんだ。
「ハンジさん、この子は何というんじゃ?」
「アルミンっていいます。」
「そうか・・・・・・アルミンや。」
アルレルトさんは目を細めて、アルミンにこういったのを私は覚えてる。
「・・・・・・わしの、孫になるのは・・・・・・嫌かのう?」
溢れんばかりの笑顔が、アルミンの顔に咲いた。
ほどなくアルレルトさんはアルミンを引き取って、孫として愛情をこめて育てることにしたんだ。
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- 14 : 2015/08/01(土) 08:42:35 :
アルミンを購入した後も、アルレルトさんは私の店によく顔を出してくれた。
勿論、プランツドール専用のミルクと砂糖菓子を買うためもあったけど、
それ以上に、アルミンの様子を、時には嬉しそうに、時には悲しそうに語ってくれたんだ。
自分と同じように文学を愛し、あっという間に言葉をしゃべれるようになったこと。
内向的で、中々自分からは外に出ていこうとはしないこと。
そして・・・・・・・・・・・・
「孫に初めて友達が出来たとき、アルレルトさんは大層喜んでこのことを私や夫に話してくれたんだ。君がその初めての友人、エレン・イェーガーくんだったんだね。」
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- 15 : 2015/08/01(土) 08:43:26 :
「アルミンのじいちゃん・・・・・・そんなに喜んでくれてたんだな。」
目の奥が熱くなった。
じいちゃんは両親を事故で亡くした俺にも優しかった。まるで、本当の家族みたいに扱ってくれたから。
「アルミンのじいちゃんは・・・・・・アルミンが行方不明になった直後に亡くなったんだ。」
「そうだね・・・・・・私たち夫婦も、アルレルトさんの葬儀に参列したから、よく覚えているよ。」
「じいちゃんが病に倒れて、アルミンが行方不明になって、俺は・・・・・・寂しかったんだ・・・・・・。」
「エレンくん・・・・・・。」
だからこそ、知りたいと思った。
「あの・・・・・・さっきは、生意気な口を利いて、ごめんなさい。でも、聞かせて欲しいんです。どうしてアルミンは今ここにいるんですか?」
ハンジさんは眼鏡をはずし、一息ついた。
「そうだよね・・・・・・エレン、知りたいと思うよね。」
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- 16 : 2015/08/01(土) 08:44:39 :
_________________アルレルトさんが倒れて数日後に、私たち夫婦は病室を訪ねた。
するとそこにはアルレルトさんの他に、色つやを失い、徐々に枯れていくアルミンがいたんだ。
こうなることは私たちには分かっていたんだけど、さすがにショックは隠せなくてね。
するとアルレルトさんは泣きながら、私たちにお願いをしてきたんだ。
「どうか・・・・・・アルミンを、メンテナンスに出しては、くれんか?」
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- 17 : 2015/08/01(土) 08:45:32 :
勿論、私の夫は反対した。
「おい、メンテナンスに出すってことは、こいつの記憶をリセットするってことだぞ? そうすれば確かにこいつは枯れることなく生き残るが、お前と過ごした日々は無かったことになる。それでもいいのか?」
でも、アルレルトさんは譲らなかったんだ。
「後生じゃ! ハンジさん! リヴァイさん! アルミンはまだ、本当の意味で生まれて、2年しかたっておらん! わしがそうしたように、ゲホッ! 誰かに、今度は末永く愛してほしいのじゃ!」
「私たちはアルミンをメンテナンスに出すよりほか、選択肢がなかった。自分と一緒に死んで欲しくない・・・・・・アルレルトさんの最後の頼み、聞かないわけにはいかなかったんだ。」
「じゃあ・・・・・・アルミンは?」
「当時のことはもう覚えていない。アルレルトさんのことも、君のことも・・・・・・。」
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- 18 : 2015/08/02(日) 00:55:06 :
俺の腕の中で眠っているのは、間違いなくアルミンだ。
その体温も、その髪の毛から薫る香りも、全部。
でも、中身はもう、あの時とは違う。
「そ、そんな・・・・・・。」
初めて親友になってくれたアルミン。
一緒に外の世界へと探検に行こうといってくれたアルミン。
あのアルミンは・・・・・・もう、いない。
そういえばアルミンは、今日一言もしゃべっていない。
もう俺に夢を語ってくれることもない・・・・・・。
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- 19 : 2015/08/02(日) 00:57:12 :
そう思うと、俺の双眸から急に涙が溢れてきた。
どうして俺は気が付いてやれなかったんだろう?
どうして俺はそばにいてやれなかったんだろう?
俺の大切な親友は、物言わぬ人形に戻ってしまった・・・・・・。
後悔ばかりが胸の中で一杯になり、目からとめどなく流れ落ちた。
「・・・・・・ハンジさん。」
「・・・・・・何かな?」
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- 20 : 2015/08/02(日) 00:57:43 :
「・・・・・・アルミンをもう一度、眠らせてやってはくれませんか?」
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- 21 : 2015/08/02(日) 01:02:05 :
「・・・・・・いいのかい、エレンくん?」
「俺には、分かりません。アルミンのじいちゃんが望んだことが何なのか・・・・・・。」
俺はこんなこと、望んでいなかった。
もう、あの頃のアルミンはいない。
同じアルミンでも、もう・・・・・・違うんだ。
「なぁ、悪いけど、起きてくれ・・・・・・アルミン。」
優しくゆすって、俺はアルミンを起こした。
ゆっくりと俺はアルミンを膝から降ろし、それからアルミンの前にしゃがんだ。
「あの頃とほんと変わんねぇな・・・・・・。」
これは、見た目の話だ。
アルミンはただただ俺の顔を見つめて、首を傾げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 22 : 2015/08/02(日) 01:03:19 :
「今日は本当にありがとうございました。」
「いや、こんな時間まで付き合わせてしまってホントに申し訳なかったね。」
気が付くと、店の外はもうすっかり暗くなっている。
店の前で俺はハンジさんに丁寧なあいさつを交わした。
アルミンは相変わらず俺をじっと見つめている。
・・・・・・見つめないでほしかった。
見つめられたら、俺の決心が鈍ってしまいそうだから。
でも、少しだけ。
少しだけ・・・・・・なら。
「・・・・・・また明日来るからな、アルミン。」
そう言ってアルミンの頭を撫でると、まるで向日葵が咲いたような、満面の笑みを浮かべた。
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- 23 : 2015/08/02(日) 01:04:15 :
「はは・・・・・・矛盾してるな・・・・・・。」
俺は自嘲的に笑った。
さっきは眠らせてほしいと言ったのに、アルミンの目を見たらそう約束せずにはいられなかった。
せめて・・・・・・。
せめて明日だけでも一緒にいてあげよう。
それから、俺のことを今度こそ完璧に忘れてほしい。
今のお前がいても・・・・・・辛いだけだから・・・・・・。
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- 24 : 2015/08/02(日) 01:04:46 :
「エレンくん。」
「何です? ハンジさん?」
「後悔だけはしないように、ゆっくり考えてから結論を出すんだよ?」
ハンジさんには俺の気持ちなんか、お見通しみたいだった。
「・・・・・・ありがとございます。また、来ます。」
あいつはもう、アルミンじゃないのに・・・・・・。
何か後ろ髪を引かれる思いで、俺はハンジさんの店を立ち去った。
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- 25 : 2015/08/02(日) 01:05:16 :
「・・・・・・あのガキは、帰ったのか?」
「あれ? いつの間に?」
私が振り返ると、そこには私の夫、リヴァイがいた。
プランツドールの材料を調達しに、今日は一日中飛び回っていたのだ。
「ついさっきだ・・・・・・アルミンは、目が覚めたんだな。」
その目に少し感慨深げな光を宿しながら、プランツドールの職人は呟いた。
「不思議なものだよ・・・・・・目覚めたきっかけが、あの子だなんて。」
「あのガキがどうかしたのか?」
「あの子・・・・・・アルミンにとって初めての友人だったんだ。」
「・・・・・・そうか。」
__________きっとエレンは明日もやってくる。
「さて、アルミン・・・・・・今日はもうおやすみの時間だよ?」
エレンが見えなくなるまでじいっと動かなかったアルミンは、寂しそうに店内の椅子に座った後、再び眠りについた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 26 : 2015/08/04(火) 01:47:54 :
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「どうしたの、エレン? 今日は一日中、上の空だった。」
翌日、俺は頑張って学校に行った。
行ったのは良かったのだが、ご指摘の通り、上の空だったことを白状しなければならない。
因みに、指摘したのは誰かって?
俺のもう一人の幼馴染み、ミカサ・アッカーマンだ。
「・・・・・・一緒に来てほしいところがあるんだ。これからちょっと時間あるか?」
「・・・・・・わ、分かった。」
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- 27 : 2015/08/04(火) 01:49:08 :
俺は素直に、ミカサにアルミンのことを話すことにした。
ミカサは俺にとって、もう一人の家族だ。
俺とアルミン、そしてミカサは、子供のころ、ずっと一緒にいたものだった。
夏休みの時など、それこそ一日中、飽きもせずに遊んでいた。
公園に出かけては三人で本を開き、アルミンの語りでいろんな所へ出掛けていたのが、まるで遠い昔のことのようだ。
「エレン? 私と来たい店って・・・・・・ここ?」
「・・・・・・あぁ、そうだぞ。」
俺はミカサと一緒に、ハンジさんの店にやってきた。
すると、何かを感じ取ったのか、店の中から、金髪碧眼の男の子が出てきた。
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- 28 : 2015/08/04(火) 01:49:48 :
ミカサは思わず手で口を抑えた。
「まさか・・・・・・アルミン?」
アルミンは俺に駆け寄り、そのまま俺にしがみつくように抱き付いた。
やっぱり寂しかったのだろうか・・・・・・精一杯頬を摺り寄せてくる。
思わず頭をくしゃくしゃに撫でると、アルミンの顔もくしゃくしゃになって笑みがこぼれた。
「やっぱり来たんだね! エレン!」
今度はハンジさんが店の中から出てきた。
「おや、君の隣にいるのは、エレンのガールフレンドかな?」
「ミカサっていうんです。俺の幼馴染みです。」
ミカサは昨日の俺と同じように放心状態になっていた。
だから俺が代わりに自己紹介をした。
「・・・・・・そうか、君もアルミンの親友だったんだね。」
「・・・・・・はい。」
「取り敢えず中に入ろうか。ずっと立っているのも疲れるだろうからね。」
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- 29 : 2015/08/04(火) 01:50:43 :
ハンジさんは店の奥、居住スペースにまで案内してくれた。
丁度紅茶を入れたばっかりのようで、奥のほうには男が一人、ティーカップを片手に新聞を読んでいた。
「今日はリヴァイもいるからね。まぁ遠慮せずに座って。」
俺たちもハンジさんに案内されてテーブルに座ると、やっぱりというべきか、アルミンが膝の上に乗ってきた。
出された熱々の紅茶を啜りながら、ハンジさんはミカサに、昨日起こった出来事を話してくれた。
「それじゃあ・・・・・・アルミンは、私たちのことを、覚えていないってこと?」
「・・・・・・そう言うことになるね。」
他人には分からないかもしれないが、付き合いの長い俺の目には分かった。
ミカサは動揺している。
動揺しないほうが無理だろう。
俺だって今だに気持ちの整理が付かないのだから。
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- 30 : 2015/08/05(水) 01:03:08 :
- 期待です
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- 31 : 2015/08/05(水) 10:03:09 :
- とても面白いです。切ない気分にさせてくれるお話ですね。
期待しています。
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- 33 : 2015/08/06(木) 15:33:04 :
「おい、ガキども。」
今まで黙って座っていたハンジさんの夫、リヴァイさんが突然口を開いた。
「これから夕食にする。お前らも手伝え。」
「「えっ!?」」
「遠慮することはないよ? エレンくん、ミカサさん。」
リヴァイさんは、その怖い見かけによらず、意外に気のいい人らしい。
一度は遠慮したものの、結局俺たちはリヴァイさんの夕食を頂くことにした。
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- 34 : 2015/08/06(木) 15:33:59 :
「そうだね、エレン。」
「なんでしょうか、ハンジさん。」
「アルミンのために、ミルクを温めてくれるかな?」
そう言うなりハンジさんは、冷蔵庫の中からミルクの入った瓶を取り出した。
それは如何にも高そうなミルクであり、何だか触るのも気が引けた。
ハンジさんは少し興奮気味に話し始めた。
「プランツドール専用、栄養満点のミルクなんだ。勿論私たちも飲めるけど、プランツドールにあげるためには、温めてあげなくちゃいけないんだよ。」
キッチンからミルクパンを取り出すハンジさん。
使い込まれた銅製のミルクパンは、古びた鈍い光を放っていた。
「ん?」
いつの間にかはわからない。
膝の上に座っているアルミンが俺をじっと見つめていた。
ボク、お腹空いたといわんばかりに、青い目がウルウルしている。
「じゃあ少し待ってろよ、今温めてやるからな。」
アルミンを膝から降ろし、ハンジさんからミルクパンを借りた俺は、ミルクを温めはじめた。
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- 35 : 2015/08/06(木) 15:34:30 :
「アルミン、ずっとエレンにしがみついてる。まるで子供みたい。」
ミカサがそういうのも無理はない。
俺がミルクを温めている間、アルミンはずっと俺にべったりだった。
___________昔のアルミンはこんなに甘えん坊だっただろうか?
俺が覚えている限りで、アルミンは意外と頑固者だった。
一度決めたことは、余程のことがない限り翻さないし、同年代の子供に虐められても、やり返そうとはしなかった。
それでいつもアルミンを助けるのは俺とミカサの役目だった。
俺はアルミンに聞いたことがある。
『なぁアルミン。何でやり返さねぇんだよ?』
『やり返したらあいつらと同レベルだ。それに、口で反論できないから手を出してくるんでしょ?』
何だか呆れたと同時に、
微笑ましい、
愛しいとさえ思ったものだった。
・・・・・・それを思い出すにつけ、今のアルミンはやはり昔とは違うのだと思わざるを得なかった。
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- 36 : 2015/08/06(木) 15:35:05 :
「よし、いいぞ、アルミン。」
テーブルの上のマグカップに注がれたホットミルクの甘い香りが部屋に広がった。
その香りに誘われるように、大きな椅子にちょこんと座ったアルミンが、マグカップの中を覗き込む。
尾行をくすぐる甘い香りにアルミンの顔が緩んでいく。
そっとマグカップを手に取り、ふーふーと息を吹きかけて、アルミンはゆっくりとミルクを飲み始めた。
ゆっくりとミルクを冷ましながら、ちびちびと飲んでいくアルミンの姿がなんともいじらしい。
すると、もう飲み終わってしまったのか、アルミンがため息をついた。
(な、なんだよ、これ・・・・・・。)
その蕩けた表情がこの上なく可愛らしくて、思わず胸がざわついてしまった。
何だか胸が・・・・・・うるさい。
こんな感覚は・・・・・・間違ってる。
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- 37 : 2015/08/07(金) 08:57:38 :
「おいガキども、出来たぞ。」
俺とミカサがアルミンの様子を眺めている間に、夕食は出来上がったようだった。
「おっ、今日は中華だね?」
「ありがたく食え。」
ハンジさんが目を輝かせる。
テーブルに並べられたのは、ハッポウサイにホイコーロー、チンジャオロースにマーボー豆腐。
食卓の上に花が咲いたような豪華絢爛さだった。
両親が亡くなってからというもの、俺はあまり食事らしい食事を作れなかったので、久しぶりの御馳走を堪能した。
父さんと母さんが生きていたら・・・・・・こんな感じだったのかな・・・・・・。
ふと、頭の中にそんな考えがよぎった。
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- 38 : 2015/08/07(金) 08:58:51 :
すると、何だか・・・・・・涙が出てきてしまった。
「あれ・・・・・・どう・・・・・・なってんだよ?」
「エレン?」
ミカサが心配して声をかけてくれる。
「いや・・・・・・父さんと母さんを・・・・・・思い出しちまって・・・・・・何でかな・・・・・・。」
女々しいぞと自分を叱ってみても、どうしようもなかった。
あぁ、俺は・・・・・・寂しかったのだ。
両親がいなくなって、親友がいなくなって・・・・・・。
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- 39 : 2015/08/07(金) 09:00:15 :
すると、椅子に座っていたアルミンが近づいてきた。
「アルミン?」
あっけにとられる俺の頬に流れる涙を、アルミンは拭ってくれた。
既に記憶を失い、
言葉すら話せない。
それでも・・・・・・。
_____________ずっとここにいた。
ここにいるのは間違いなく、俺の親友。
昔とはもう違うけど、間違いなくアルミンなんだ。
気が付くと、俺はアルミンをしっかりと抱きしめていた。
「俺・・・・・・離れたくない! 昔と違くたっていい! アルミンと一緒にいたいんだ!!」
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- 40 : 2015/08/07(金) 09:02:24 :
漸く俺は気が付いた。
空っぽだった俺の心を、アルミンが少しずつ満たしてくれていたことに。
「アルミン?」
その時、ミカサが驚嘆の声を上げた。
アルミンの双眸から涙が流れ、その粒が青と深緑、二つの結晶となって零れ落ちた。
「長年、俺はプランツドールを作ってきたが、こんなことは初めてだ。」
「そうだね、リヴァイ。私も驚いているよ。こんなことがあるんだね。」
長年プランツドールを扱ってきた二人にも、それは初めて見る光景だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 41 : 2015/08/07(金) 09:45:20 :
恥ずかしいことに、俺は大泣きしてしまった。
そして、泣き止んだ頃には、それはもういたたまれない感じがした。
ちなみに、当のアルミンは熟睡中だ。
・・・・・・疲れたんだろうな。
「それで、お前の腹は決まったんだろうな?」
リヴァイさんがその鋭い目で俺に尋ねてくる。
もう俺は・・・・・・迷わない。
「アルミンは、俺たちの大切な家族です。だから・・・・・・俺はアルミンを迎え入れます!」
「ひとつ、聞いていいかい?」
「なんでしょうか、ハンジさん?」
「昨日はアルミンとお別れを言うつもりだったのに、どうして迎え入れる気になったの?」
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- 42 : 2015/08/07(金) 09:45:46 :
確かにそうだった。
昨日俺は、お別れを言うつもりだった。
「・・・・・・記憶が無くなって、ただの人形に戻ったアルミンを飼う気には、どうしてもなれなかったんです。」
昨日ショーウィンドウの中に座っていたアルミンは、まるで人形そのものだったから。
「でも、俺が間違ってました。
確かに記憶は無いですし、以前のアルミンのように、沢山のことをしゃべってくれるわけでもありません。
だけど・・・・・・何て言えばいいのかな・・・・・・アルミンの、心がそこにあったんです。」
そう・・・・・・この人形が、ただの人形じゃなくて、間違いなくアルミンだと気付かせてくれたもの。
「俺は、アルミンの心に支えられました。だから、アルミンの心を俺が支えたいんです。」
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- 43 : 2015/08/07(金) 09:47:03 :
ハンジさんはゆっくりと立ちあがった。
「納得したよ、エレンくん。プランツドールはただの人形じゃない。持ち主の愛情が何よりの栄養なんだ。大切にしてあげるんだよ。」
「!!! はいッ!!!」
「さて、じゃあ商談に移ろうか?」
「えっ!?」
ハンジさんは請求書をさらさらと書き始めた。
「さて、プランツドール一体の値段は・・・・・・と。」
「えええぇええぇええぇええぇぇぇぇッ!!」
示された金額を見て、
俺は腰を抜かさんばかりに驚いた。
「あの、この金額って・・・・・・。」
「まぁ、サラリーマンじゃ一生かかっても稼げない程度かな。」
いやいやいやいや、いくらなんでも高すぎだろ!?
豪邸をいくつ立てられんだよ!?
後で知ったことなんだが、元来プランツドールはそのような大富豪が買うものなのだ。
孤児の学生がとても買えるようなものではなかった。
「じ、じゃあ俺はどうすればいいんだよ!?」
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- 44 : 2015/08/07(金) 09:47:45 :
すると、ハンジさんがくすくすと笑い始めた。
「いやぁ、ごめんよ。思った以上に驚いてくれたからさ。」
「ビックリするに決まってるじゃないですか! あんな金額見せられたら!」
よく見ると、リヴァイさんも顔をそらしている。
笑っているところを見られたくないらしい。
「さて、エレンくん。どうしてもアルミンを買いたいのなら、この宝石をこの店に持っていくといいよ。」
そう言って渡されたのは、宝石商の名刺と、さっきアルミンが流した青と深緑の、涙の結晶だった。
「これは『天使の涙』っていってね。プランツドール本体よりはるかに高値で取引される宝石なんだ。」
「天使の涙?」
「そうなんだよ、これを売れば一生遊んで暮らせるほどの大金が手に入るはずさ。」
「そんなに貴重なんですか!?」
「そうだね、早く行っておいで! 今の時間だったら、まだギリギリ開いてると思うからさ。」
逸る気持ちを抑え、エレンとミカサはアルミンを引き連れて、その宝石商の店へと走っていった。
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- 45 : 2015/08/07(金) 09:50:42 :
「ねぇ、リヴァイ。あの子たちなら上手くいくかな?」
「きっと大丈夫だろう。『天使の涙』は、十分な愛を受けたプランツドールが、その瞳に映ったものを写し取って流す涙の結晶だ。」
「きっとアルミンは、エレンの深緑の瞳と、自身の青の瞳を写し取ったんだろうね。」
「もう二度と見ることはないだろうな。」
「うん、いいものを見させてもらったよ、エレンくんには。」
人の愛情を糧に育つ、プランツドールの神秘。
お互いの愛情が形になって、お互いを救ったわけだ。
まぁ、本人たちには黙っておこう。
「さて、あいつらが戻って来て、アルミンが売れたら今日は店じまいだ。」
そんなこんなで、俺はアルミンを迎え入れた。
プランツドールとの、奇妙な共同生活が始まった。
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- 46 : 2015/08/07(金) 09:51:56 :
- 以上で終了になります。
最後は少し駆け足になってしまいましたが、いかがだったでしょうか?
感想を頂けると幸いです。
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- 47 : 2015/08/08(土) 02:44:55 :
- 素敵でした!
エレンとアルミンの友情がグッと来ましたね!
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- 48 : 2015/08/08(土) 20:47:08 :
- >>47
コメントありがとうございます。
素敵だなんて、本当にうれしいです!
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