この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
水葬
- ファンタジー × ホラー
- 1130
- 10
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- 1 : 2015/07/19(日) 21:23:31 :
- 海は広いな
大きいな(おっさんボイス)
※必読です↓
まさか予選突破するとは夢にも思わず、第四回天下一執筆会二回戦目(?)はいろはすさんこと水さんと対戦です。
正直びびりました
だってあの水さんと対戦とか。
対戦とか。
お題が「海」なのですんげえ悩んだのですが、とりあえず前回が小っ恥ずかしい青春臭漂うリア充の話だったので、今回はちょっと趣向を変えた男女の話にしました。
海なのでリア充がキャッキャウフフする話でも良かったんですが、それはそれで何か書いてる自分にダメージが深刻そうなのでやめました(こら)
ちょいとしたホラー要素的なものが混ざったりするかもしれないです。
ヤンデレ臭いところもオチ通りに行くとしたら多分多々出てくると思われるので苦手は方は余りお勧めしません。
n番煎じかも分からないネタです。
お題に沿えてるかどうかも怪しいですが、対戦相手の水さんと肩を並べても恥ずかしくない作品にはしたいです。………したいです(震え声)
本人がバイトと課外の合間に書いたりするので更新ペースはまちまちですが、締め切りまでには何とか間に合わせたいとは思ってます。
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- 2 : 2015/07/19(日) 21:48:23 :
- 『縋ってご覧、まだ生きたいだろう』
苦しくて苦しくて、朦朧とする意識の中、囁くように降ってくるその声は、酷く優しい声色だった。
『引き摺り込むのも、出来ないわけではないけれど』
霞む視界の中に、うっすらと見えた人影。
よくは見えないけれど、何となく笑っているような気がした。
『まだ、小さいからな』
少しの浮遊感。
一瞬だけ楽になったと思ったけれど、息は苦しい。というか、息は出来ない。
酸素を求めるように、縋るようにその人影へ手を伸ばせば、嬉々としたような声色で『縋ってくれるか、』と言った。
『利口だ。縋ればいい。そうすれば助けてやろう。幼子の人生を閉ざそうとする真似をするほど、俺もまだそこまで鬼じゃないもんでな』
縋った私の両手を包まれる。
少し痛いくらいに掴まれた。それを声に出すことも、出す余裕も欠片も無かったけれど。
『約束しようか、』
意識が戻ってくる。
視界もどんどんクリアになっていってる気がした。
それでも、その人影の顔は分からない。分かるはずが無かった。
『 』
何かを言ったのは分かったのに、その声は私が意識を失うまで聞こえなかった。
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- 3 : 2015/07/20(月) 21:20:40 :
- 「今日も今日とて、こんな狭い箱庭の中で過ごす日々はどうだい」
ぼんやりと部屋の中で読書をしていたら、聞き覚えのある声が降ってくる。
それは私にとっては、聞き覚えのある声であって、その声は私以外には誰にも聞こえない。
「かみさま、」
そう呼んだら、にんまりとその神様は笑う。
姿形は何ら人間と変わりないその神様は、私にとっては唯一、友人と言える存在であった。
広大な敷地を誇る屋敷の中一室。
1人部屋にしては広すぎるその部屋は、私に生まれた時から与えられた一室だった。
幼い頃からまるで囲むようにそこで育てられ、十を数年過ぎた今でも私はこの屋敷と部屋以外の外の世界には無知だ。
一度だけ、外の世界へと出た事はあるけれど、余り良い思い出は無い。
囲むように、隠すように私がここに閉じ込められている理由としては、原因は私自身にある。
呪術師と祓い屋の家業を営む私の一族は、依頼されれば化け物を祓い、封じるなどする対妖怪のスペシャリストのようなものだ。
妖怪や物の怪の類からしたら本来天敵であるのに、何故か私自身は、異常なまでに異形の類から好かれてしまうらしい。
体質なのかはよくわからない。
ただ、腐っても祓い屋の一族の端くれだ。私自身も何の力も無い人間だというわけでは無い。
多少は妖力とやらもあるらしいし、それが物の怪に波長が合っているから好かれているのでは無いのだろうかという父の解釈で今のところは納得している。
そんな体質は、私からしたら有難迷惑な話ではあるのだが、そんな私から守る為に下された決断は、この屋敷に私を囲む事。
だから、外に出された事なんて、片手で足りる程度だ。
外に出れば、物の怪から追いかけられる。
厳重な結界やら何やらを張ってはいるらしいから、屋敷の中は一先ず安心だと思っていたのに。
ある日突然、その神様は私の部屋にやって来たのだ。
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- 4 : 2015/07/20(月) 21:21:06 :
- 「随分と広い部屋だな」
出会いとしては、まずは驚愕しかなかった。
私の屋敷では見たこともない男が私の部屋の扉にもたれかかりながら、私を見てにっこりと笑った。
広大な屋敷故に、使用人も沢山雇っており、男の使用人も居ないわけではなかったが、私の身の回りの世話の使用人は女性しかいなかった。
だから男性の使用人が私の部屋に近付くことも無いというのに、見たことも無い男が、私に向かって進んで来たかと思えば、前にどっかりと胡座をかいて座った。
(え、何、誰、)
混乱で頭にクエスチョンマークを浮かべる私を見て、一つ笑いを漏らしたその人は、『自己紹介がまだだったな』と無邪気な笑みを浮かべた。
「お前達からすれば神様ってやつだ」
正直に思ったことといえば、『なんだこいつ』と思った私は決して悪くないと思う。
顔に出てしまっていたのだろう、『なんだその怪訝そうな顔は』と不機嫌そうにされた。
いや、突然初対面の人から自分は神様ですなんて言われたら、こいつ頭大丈夫か、なんて思うのは自然だと思う。
「………ジョークにしてはイマイチですね」
「冗句なものか。まあ確かに姿形は人間とは何ら変わりないが、紛れもなく俺は神ってやつだぞ?」
「証拠は?」
「と、言われてもなぁ…ああそうだ、誰でもいいから屋敷の中の人間と会うといい。俺はその後ろをついて行くから。」
「嫌ですけど。」
「中々正直だなお前は。」
ひくひくと顔を引きつらせるその人は、はぁ、と溜息を吐いた後、すっくと立ち上がった。
「まあ逢いに来れただけでも僥倖とするか。また来るぞ」
「は!?あ、ちょっと、」
ひらひらと手を振ってその人は私の部屋を後にした。
それが最初の日。
次の日、その人はまたやって来た。
私が縁側を歩いていると、よう、とその人は前からやって来て私に手を振った。
また次の日、その次の日、一週間、二週間と日々は過ぎ、その人はほぼ毎日私に会いに来た。
その間で分かったことは、この人は使用人でもなんでもなかったという事。
そして、強ち神様だというのは嘘ではないという事だった。
私以外にこの人の姿は見えていないらしく、年の近い使用人から『お嬢、一人で何をしていらっしゃるんです?』と不思議そうに尋ねられた事がある。
それは一回や二回ではない。縁側でその人と話していれば、『お嬢が独り言を言っている』と心配された事もある。
その時の神様の悪戯が成功したかのような顔と言ったら、最高に憎たらしい顔をしていた。
神様かどうかは今でもよく分からないが、少なくとも人間ではない。
まあ他に呼び名がないから神様だと呼んでいるのだけれど。
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- 5 : 2015/07/21(火) 18:18:52 :
- 「暇人ですね」
飽きもせずに毎日毎日私に会いに来るこの人に正直に言えば、やれやれと言ったような顔をする。
どっかりと近くに胡座をかいて神様は座れば、私が読んでいた書物を覗き込んできた。
「いいねえ、読書か。本は良いぞ、様々な事を識る事が出来る。」
「知ることも識ることも私は好きですよ。」
「知識欲が深い人間ってもんは良いんだぜ?最近の人間は腑抜け切った奴らばかりだからなぁ。
で、お前が読んでるのはどんな書物だ」
「………外界のことについて、ですかね」
別に閉じ込められるようにこの屋敷に居たって、困ることは特にない。
ない、けれど。人生の殆どをこの箱庭で過ごしている私にとっては外の世界というものは未知だ。
幼い頃に外の世界へ出た事あるけれど、それは決して良いものではないし、余り思い出したくない事でもあるのだけれど。
それでも、好奇心は、知識欲は欲する。
外の世界を知ろうとする。
外界の事を識ろうとする。
外の世界を羨望する気持ちは、誤魔化しきれてはいなかった。
「そうかそうか、まあ確かにこんな屋敷にずっと居ては退屈だろうな。」
「退屈、というよりはここにいるのが当たり前なので私に退屈っていう概念がないっていう方が正しいかもしれません。」
「そういうところは冷めているのに、知識欲はやたら追い求めるんだなぁ君は」
「人間は興味の対象に対しては欲深い生き物なんですよ」
知ってるよ、と神様は私の背中にもたれかかる。
程よい重さが背中にのしかかり、文句をひとつ言おうかと思ったが、視線は目の前の書物に奪われてそんな事を言う気も削がれた。
「人間は、興味の対象に対しては欲深い生き物だとお前は言ったな」
顔は見えないけれど、声色で何となく神様が笑っているような気がした。
それも何処か含みのあるような。
「言いましたけど、何か」
「なあに、欲深いのは人間だけじゃないって事だよ」
意味深な事をこの人は言ってくれるものだ。
その意味を追求する気も無く、そうですか、と適当に返事を返す。
拗ねたような抗議の声が上がったが、私はそれを悉く無視した。
無視していたから気付けなかったのかもしれない
「好奇心は猫をも殺すというのに」
神様の小さな小さなその呟きに。
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- 6 : 2015/07/21(火) 19:45:07 :
- 空気の泡が漏れてはその度に息苦しくなる。
ついにはそれさえも吐き出せなくなって、苦しみもがいて、苦痛の喘ぎさえも漏らせない拷問のような苦しさが続いて。
溺れていた。もがいていた。
無我夢中で手を伸ばしても、何かを掴むようにしても当然、何もつかめるはずも無く、私のその行動は無意味に終わる。
そこから視界が眩んで来て、漸く終わるのだと静かに瞼を閉じかけたとき、その声は突然降ってきた。
『思い出してごらん、約束を』
「………ッ!!」
大量の冷や汗を流して思わず上半身を勢いよく起こせば、犬のように浅い呼吸をした私の呼吸音が聞こえるだけだった。
辺りは真っ暗。
時間を確認すれば、丑三つ時に差し掛かっており、唯一の光源といえば、僅かに差し込んでくる月光だけだ。
じわりと、汗が染み込んだ着流しは気持ち悪くなって脱ぎ捨てた。
新しい着流しを出して着替えて再度布団に潜り込んだが、酷い夢見の悪さのあまりにもう一度眠る気なんて皆無に近くて。
こういう夢は幼い頃からよく見続けてきた。
いつ頃から見始めたのかも覚えていないほど、昔から見続けている。
溺れる私に悪魔のような囁きが降ってきてはそこで夢が覚めるの繰り返し。息苦しさも感覚なんかも夢じゃないと思うほどにリアルで、それに薄ら寒さを覚える。
頻度は何日間も連続で見続ける日もあれば、ぱたりと何ヶ月間も見ないときもある。
まるで私が忘れた頃を見計らうようにこの夢は何度でも見る。
今回がそれだった。
眠たいのに眠れない。
眠る気もないのに、眠気というものはやってくる。人間の生理現象だから仕方ないけれど、ここで寝落ちなんてしてしまったら、また夢を見てしまいそうで嫌だった。
あんな苦しくて、怖くて、リアルなあんな夢を見たくなんか無いのに。
「………ぅー…」
眠気により気怠い体を起こして、灯りをつける。
暗闇に慣れきっていた目は、突然の光に目がくらむが、数回瞬きをし、目を擦ったところで漸く少しずつではあるが慣れてきた。
のそりとした動きで、布団の近くに置いてあった書物に手を伸ばす。
昼間に読んでいたその本の栞が挟んであるページから読み進める。
外の世界の本、というか、名所だったり世界遺産が載っているだけのなんの変哲も無い本だ。
だがそれにさえ疎いから、こういう本だけでも、どこにどんなものがあるのかと分かるだけ私には非常に興味深かったりする。
こういう本を見てると、その名所に行きたくなってくる。
けれど、私は出られない。出てしまえば物の怪の類に追いかけられるのだから。
(あれ、そういえば神様は、どうやってここの屋敷に入ってこれたのだろう)
物の怪に限らず人外は決して入れない結界が厳重に貼ってあるこの屋敷に、神様はどうやって入ってこれたのだろうか。
(ああやっぱり、眠い)
色々考えたら余計に眠気が増す。こんな筈では無かったのに、確実に睡魔は私を蝕んできた。
考えていたことなんて頭の隅に、否、最早吹き飛んでしまった。
『夜更かしはいけないねえ』
夢と同じ声が、聞こえた気がした。
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- 7 : 2015/07/22(水) 17:52:22 :
- 「よう、ちっと寝不足かい?目が死んでるが」
結局あの後は寝落ちしてしまったけれど、何回か目を覚ましたりの繰り返しで結局余り眠れなかった。
当然ながら寝不足であり、閉じそうな瞼を必死に開こうとしながらしていると、神様が私の顔を覗き込んできた。
「ええ、まあ、ちょっと。」
「寝不足は美容の天敵だろう?女はそういうのに目聡いからお前もそういうの気にするタイプだと思ってたんだが」
「一応、気にしてはいますけど…。というか、前々から思ってたんですが、神様って口調とか色々人間事情に明るいですよね」
「まぁ伊達に神じゃねえしな。後、たんにお前に話を合わせるためにってのもあるんだが」
「へえ。 ………え?」
今この人は何を言った。
「………私と話を合わせるため?」
「別に驚く事でもねえだろ。お前さんは昔っから物の怪の類から好かれてる奴だ。昔、俺が何処かでお前の姿を見た事があってもおかしくはないだろうが」
「警戒せざるを得ない事を言ってる自覚はあります?」
「あるな。けど安心しろよ、今までの奴らみたいにお前を殺す事が目的ならとうの昔にやってる。
お前みたいな小娘の首を刎ねることくらい、造作もない」
「………やっぱり油断ならないですよね」
「化け物だけじゃなくて、人間にも言える事だろうよ」
「………」
くつくつと笑う神様は飄々としてて、そして何処か人間離れしていると思った。
この人は矢張り人間では無いのだと痛感する。
「……ちょっとさっきから引っかかってる事があるんですけど」
「おう、なんだ」
「『昔、俺が何処かでお前の姿を見た事があってもおかしくはない』って言ってましたが、私は昔貴方と出逢っていたという事ですか」
そこから沈黙が流れる。
耳が痛いくらいの沈黙。神様と言えば、目を丸くしていた。呆気にとられたような、予想外とでも言うような。
暫くは神様は目を丸くしたままで、ーーーーーーそしてにたりと嗤った。
不気味とも嘲笑ともつかない、その嗤いに何と名前をつけたら良いのかもわからない。
感情が読めない笑みを浮かべた神様は口角を上げる。
「さぁて、何の話やら」
何処までもこの人は分からない。
否、最初からこの人の事は何ひとつ知らない。
知れるはずも無い。この人は明かすつもりも無い。
けれども、翻弄される人間を愉快そうに上から眺める神のような立ち振る舞いに、私は漸くこの人が神なのだと悟りに至った。
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- 8 : 2015/07/23(木) 15:33:39 :
- 『そんなにあの娘が欲しいのか』
木の上から物の怪がそう俺に問うた。
天狗の類であろうその物の怪は、天狗の面を僅かにずらす。
僅かに覗いた眼光は、それは鋭いものだった。
普通の人間であれば失禁でもしかねないレベルだったが、それに怯みもしなければ怯えもしない。
「欲しいな。欲しい。あの子は俺が見初めた人の子だ」
『我らがこんなにも欲しいと望む獲物を横取りするとは、神とはそんなにも傲慢なものか』
「神は傲慢だよ。そして人間も傲慢だ。けれどもあの子は世間知らずであの屋敷に閉じ込められた籠の鳥だ。無知故に、純粋だ。だから俺はあの子が欲しい」
『恐ろしいものだ。手に入れた暁にはあの娘をどうするつもりだ?』
「さあな、どうしてやろうか」
威圧の意味も込めて神気を放出してやれば、天狗は溜息を吐く。
『我らですら破れぬ結界をお前は破れるから勝率はない。…というより神に勝てるわけがないしな』
「おや流石そこは分かっているじゃないか天狗殿。というより貴殿も山の神だろう。」
『お前よりも神格が高い神がそうそういると思うか?』
「滅多に居ねえだろうなぁ」
驕りな訳ではない。
実際、それは事実だ。良い年なのだからいい加減自分の実力くらいは把握している。
『あの娘とは、どのような関係だ?』
「なぁに。ちっと昔色々あってね」
『碌でもない事なのだろうな』
「おやおや、碌でもない事とは失礼だな」
では何だと問うてくる天狗に向かって笑う。
決まってるじゃないか、神が人間を見初め、追いかけ、手に入れたいとするまでしたい事など。
「逃げられないように契約したまでさ」
我ながら、あの子は可哀想だと思う。
こんな神に魅入られてしまったのだから。
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- 9 : 2015/07/27(月) 20:52:16 :
- 溺れたことがある。
比喩でも何でもなく、実際に、溺れたことがある。
自らが物の怪に好かれる体質だと自覚などしていなかった頃、一度だけ、子供のように海で遊んだことがあった。
きっと、最初で最後なのであろう、外へ出かけたことのある記憶。
無邪気に両親と遊んだ記憶も懐かしい。楽しかったことは覚えているというのに、その時の記憶は今では恐ろしく感じる。
海に溺れたことがある。
両親がほんの少し目を離していただけだった。
息苦しさも、沈んでいく感覚も今でも良く思い出せる。
酸素が口からこぼれていくたびに、意識が遠のくを感じる。苦しくて苦しくて終わらない苦しさが怖くて恐ろしくて、何かに縋るように手を伸ばして。
そこで何があったのだろう。覚えていない。思い出せない。
目を覚ました時には泣き腫らした目で私を見下ろす母と、心底安堵したような父と瞳がぶつかった。
どうやって助かったのかも覚えていない。それでも助かったことの安堵感と安心感で、母の胸で大泣きしてしまった。
其処から酷くなったように思える。
物の怪が私を追いかけ追い求められることが。
どんどんそれが酷くなって、囲むように閉じ込められるように、屋敷で守られるようになったのは、きっとその頃だった。
小さな小さな箱庭が、そこから私の全てになった。
溺れてしまったあの日から、きっと私は外の世界から切り離された。
外の世界のことには無知だ。
何も知らない世間知らず。
覚えているのは、溺れた恐怖だけ。
決して外にいい思い出など無いというのに、人間の好奇心というのは、どうにも追い求めてしまうものらしい。
外の世界を知ろうと思った。
識りたいと思った。
溺れても、何も知らなくて怖くても、だからこそ識りたいと思った。
その願いを聞き入れたかのように、まるで知っていたかのように、神様がやって来たのも、この時だっただろうか。
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- 10 : 2015/07/27(月) 20:52:48 :
- ずっとあの子が欲しかった。
欲しくて欲しくて仕方がなかった。
どれ程焦がれたのだろうか。どれ程手に入れたいと、囲みたいと思っただろうか。
この神の寵愛を一身に受けたあの子は、屋敷の中で籠の鳥のように閉じ込められ、守られた。
何処か退屈そうに外を見るあの子は、きっと気付いていなかっただろう。
外の世界を見る彼女の目は輝いていた。羨望の眼差しだった。
幼い頃、決していいとは言えない思い出があるというのに、人間の好奇心とは、どんなものでも追い求めてしまうものらしい。
それが神からしたら理解出来ない部分でもあり、好ましくも思う部分でもあった。
退屈そうなあの子に、やっと声をかけてみた。
見守り続けるだけなのも飽きていた。だから、声をかけてみた。
遠目から、少し遠くから見守り続けていたから、近付いたこの距離感は好ましい。
やっと近づけた。やっとここまで、手の届くところまで近付くことが出来た。
好都合なことに、この子以外に俺の姿は見えていないのだ。
ああなんて都合のいいことなのだろう。見えなければ、誰にも見えぬのなら、例えこの子に何を言おうとも誰も何も言わない。戯れようとも誰も何も気付かない。
自分だけのものになったような錯覚が心地よくもあったが、虚しくもあった。
(欲しい、欲しい、のに)
欲しいけど、手に入らない。
この小娘を無理矢理にでも手中に収めることも、命を握ることも出来なくもないが、それはかなりの面倒を要する。
なれば、時間はかかるかもしれないが、確実に手に入る方法を実行したほうが良さそうだ。
引きずり込めばいい。
堕としてしまえばいい。
『あれ』さえ手に入れてしまえさえすれば、逃げられないし、逆らえもしない。
ずっとあの子が欲しかった。
ずっとずっと待っていた。
成長するまで待っていた。
期待以上の成長をしてくれていた。
だから欲が深まった。
余計にあの子が欲しくなった。
欲しくて欲しくて仕方ないから、
だから君を俺に頂戴な。
神から愛されることがどういう事か、思い知るといい。
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