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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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秋田喰種~夏の巻~

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  1. 1 : : 2015/05/21(木) 22:34:51
    春の巻はこちらです↓
    http://www.ssnote.net/archives/33580

    秋田の夏は思いの外(?)暑いです。
  2. 2 : : 2015/05/21(木) 22:48:38
    まさかのシリーズとは…

    期待大です‼︎頑張ってください!
  3. 3 : : 2015/05/21(木) 22:56:02
    >>2
    期待&お気に入りありがとうございます。春夏秋冬を予定しています。
  4. 4 : : 2015/05/21(木) 23:20:38
    -Ⅰ-





    6月2日土曜日、秋田県能代市の廃墟に一組の父子の姿があった。

    父「はぁ、はぁ・・・大丈夫か、大斗」

    大斗「もちろん・・・だから、早く逃げようよ」

    二人は何者かから逃げている最中であった。つい先程まで全力疾走していた彼等の呼吸は荒く、眼球は深紅に染まっていた。

    二人の正体は喰種である。

    ????「おい!この建物から気配がするぞ!」

    ????「本当か!?すぐに向かう!」

    建物の外から叫び声が聞こえてきた。その声の主こそが、二人を追う者達である。

    大斗「ここに隠れてるのがばれちゃったみたいだ。早く逃げないと・・・」

    父「いや、このままではいずれ追いつかれてしまう。何とか巻こうにも、追手側に感覚の優れた奴が居てはどうしようもない」

    大斗「諦めたらダメだよ!さっ、行こうよ父さん」

    父「・・・俺が奴等を迎え撃つ。その間に大斗は逃げてくれ」

    大斗「なっ!?そんなの嫌だよ!一緒に逃げようよ!」

    父「父さんの言うことが聞けないのか!」

    大斗「・・・」

    父「大丈夫。父さんは強いから、必ず奴等を返り討ちにして大斗の所に戻ってみせる。だから大斗は父さんを信じて逃げてくれ」

    大斗「うん・・・分かった」

    父「うまく逃げたら山田さんに会いに行くんだ。彼ならきっと大斗を守ってくれる」

    大斗「分かった。父さんの言うとおりにするから、父さんも絶対約束を守ってね」

    父「もちろんだとも。さぁ、行くんだ」

    大斗「またね、父さん!」

    タッタッタッタッ

    一人の少年が廃墟を飛び出した直後、喰種同士の戦闘による轟音が廃墟に響き渡った。
  5. 5 : : 2015/05/25(月) 21:22:43
    6月3日日曜日の午後4時、喫茶店"ぬぐだまれ"には3組の客が来店していた。その中には、奈津美のクラスメイトである須田香織の姿もあった。

    香織「・・・このコーヒー、信じらんないぐらい美味しい!」

    奈津美「そう言ってくれて嬉しいよ」

    香織「奈津美が淹れたの?」

    奈津美「うん。普段は店長が淹れてるんだけど、今回香織が来るを聞いて店長にお願いして代わってもらったの」

    香織「へぇ~、うまいもんだね」

    奈津美「そうかなぁ」

    香織「コーヒー嫌いの私が美味しいと思ったんだから間違いなし!」

    奈津美「コーヒー嫌いだったの!?」

    香織「そうなのよ。前にお世話になったし、一回ぐらい行ってみようかなって思ってたんだ。でも、こんなに美味しいならまた来るよ」

    奈津美「それはありがたい。今後とも御贔屓に・・・なんちゃって」

    香織「あははっ・・・」

    香織は顔を綻ばせながらカップの中のコーヒーを飲み干した。

    香織「ご馳走様。これお代ね」

    そう言って奈津美にコーヒーの代金を手渡し、香織は店の出入り口へと体を向けた。

    香織「また明日学校で会おうね」

    奈津美「うん!」

    ガチャ ギィィ バタン

    佐藤「あれが奈津美ちゃんの友達か。君も可愛いけど、彼女もなかなかだね」

    奈津美「奥さんに言い付けますよ。店長が」

    秋田「ふふっ」

    佐藤「それだけは勘弁・・・」

    ガチャ

    佐藤「・・・いらっしゃいませ!」

    奈津美「いらっしゃいませ!」

    秋田「おや」

    香織と入れ替わりなるようなタイミングでぬぐだまれを訪れたのは、40代の男性と10歳前後の少年だった。どこか不安そうな表情や、少年のボロボロになっている衣類からは二人が来店した目的が普通ではないことを暗示していた。

    佐藤「あれ、山田さんじゃないですか。いつから秋田にいらしててたんですか?それに、そっちの子供は白鳥さんの息子さんの大斗君ですよね。白鳥さんもこっちに来てるんですか?」

    その二人を佐藤は知っているようだった。しかし、事態をよく呑み込めておらず、山田と呼ばれる男性に畳み掛けるように質問をしてしまう。彼以上に事態を理解できていない奈津美は呆然とその様子を眺めているしかない・・・ように思われたが。

    奈津美「大斗君て言うんだ!私は奈津美、よろしくね!」

    大斗「よ、よろしく・・・」

    年下好き(恋愛対象や食糧としてではない)である奈津美は獲物を見つけた肉食獣のように勢いよく大斗に歩み寄り、彼と挨拶を交わした。

    山田「・・・秋田さん!先程電話で言いましたが、改めてお願いします!この子を守ってください!」
  6. 6 : : 2015/05/26(火) 23:44:32
    奈津美「えっ・・・(守る?一体何から?)」

    秋田「その件だったら、もちろん我々も尽力するつもりだ」

    山田「本当ですか!?ありがとうございます!」

    秋田「ぬぐだまれの基本方針に従ったまでだよ。それに当たり、詳しい事情を説明して欲しい。店の奥に来てくれ」

    山田「分かりました。行こう、大斗君」

    大斗「うん」

    秋田「浩郎君、奈津美ちゃん、仕事の方は頼んだよ」

    佐藤「了解です」

    こうして秋田は山田と大斗を引き連れて『STAFF ONLY』と書かれた扉から店の奥へと向かった。

    奈津美「何事でしょうか」

    佐藤「さぁ。後で何かしら説明はあるだろ。今は仕事に集中だ」

    奈津美「その前に一つ質問なんですけど、さっきのとても可愛らしいショt・・・少年は何者なんですか?」

    佐藤「よしっ、絶対にお前に息子を紹介しない」

    奈津美「何でですか!?」

    佐藤「喰われそうで怖いからだよ!」

    奈津美「喰べませんよ!石川みたいな喰種とは違います!」

    佐藤「信用できん・・・が、さっきの二人の事は軽く紹介しておくか。大人の方は山田正。能代市に住んでいて、喰種の世界では情報屋として名が通っている」

    奈津美「情報屋。東京でいうイトリさんか」

    佐藤「そのイトリってのは分からんが、情報屋は東京も秋田も変わらないだろう。そして、お前が気になっている子供の方は白鳥大斗。彼自身にこれといって特徴は無いが、彼の父親は秋田ではそれなりに有名な喰種だ」

    奈津美「強いんですか?」

    佐藤「ああ。CCGからはSレート認定されている。でも、彼が有名なのは強さよりも・・・」

    客A「浩郎さん、コーヒー注文してもいいっすか?」

    佐藤「あっはい、只今。悪いが続きは仕事が済んだ後だ」

    奈津美「はい!」
  7. 7 : : 2015/05/27(水) 22:55:20
    それから二時間が過ぎ、閉店時刻の6時を回った。しかし店の奥から二人が出てくる気配は一向に無かった。

    奈津美「随分と長い話ですね」

    佐藤「後片付けが終わったら、少し覗いて見るか」



    山田「どこかありませんかね」

    秋田「う~む」

    コンコン

    佐藤「店長、後片付け完了しました」

    秋田「ご苦労様。それなら君達も話に参加してくれ。君達の力も必要になる話だ」

    ガチャ

    奈津美「失礼します」

    佐藤「どもっす」

    秋田「正君。まずは二人に事情を説明してあげて」

    山田「はい。今回ぬぐだまれを訪れた目的は、既に察しておられるかも知れませんが、大斗君の事なんです。皆さんご存知の通り、大斗君の父親はSレート認定される程の強力な力を持った喰種なのですが・・・昨晩、殺されました」

    佐藤「何だって!?」

    奈津美「殺されたって、白鳩にですか!」

    山田「違います。喰種にです」

    佐藤「一体誰がそんなことを・・・」

    山田「"なまはげ会"と言う喰種集団を、二人はご存じでしょうか?」

    奈津美「なまはげ会?やくざみたいな組織名ですね」

    佐藤「やってることもやくざと変わらねぇよ」

    山田「やはり知っておられましたか」

    佐藤「もちろんですよ。奈津美ちゃん、"なまはげ会"って言うのは秋田における武闘派喰種集団で、捜査官狩りに始まり喰場の独占、邪魔者の排除等好き放題暴れまわっている最悪の連中だ。秋田に久保田特等や摂津准特等みたいな本局の捜査官と遜色ないレベルの捜査官が常駐している原因もそいつらにあるといって良い」

    奈津美「本当に最悪ですね。でも、大斗君のお父さんはどうして殺されたんでしょうか」

    山田「殺された理由と言うか、襲われた理由であれば大斗君の父親が自ら推察していました。なまはげ会の目的は、大斗君の父親の赫子を手に入れることだったらしいです」

    奈津美「赫子を!?」

    佐藤「なるほど・・・でも、何のために?」

    奈津美「佐藤さん、一人で腑に落ちてるみたいですけど私にも教えてくださいよ」

    佐藤「悪い悪い。大斗君の父の赫子は、色が白く触れた者のRc細胞を活性化させるという特殊な力を持っていたんだ」
  8. 8 : : 2015/05/28(木) 23:19:02
    奈津美「Rc細胞を活性化!?そもそも白い赫子の存在が初耳です」

    山田「それはそうだろうね。長いこと情報屋をして、普通の喰種よりも多くの情報を得ている私でも他に聞いたことが無いから」

    佐藤「でも、狙いが赫子ってことは大斗君も・・・」

    奈津美「あっ!」

    山田「佐藤さんがお察しの通り、大斗君も狙われている可能性が高いんです。赫子は遺伝しますから。今回私はぬぐだまれの方々に、大斗君の護衛に力を貸していただくためここに来たんです」

    奈津美「もちろん協力しますよ!」

    秋田「私もそのように彼に話した。だけど、一つ問題があってね」

    佐藤「問題?」

    山田「大斗君が安全に住むことが出来る場所が見つからないんだ」

    佐藤「ここじゃダメなんですか?」

    秋田「喰種の間ではここは有名な場所だからね。目を付けられてもおかしくない」

    大斗「別にどこだって良いって!アパートか何かさえ貸してくれるなら、一人で暮らすよ!」

    山田「それではいざという時、近くに誰もいないという事態が起こり得てしまうんだ。だから、そういうわけにはいかないんだよ」

    奈津美「あの・・・それなら私の家に泊めるのはどうでしょうか?学校とかがあるので、付きっきりというわけにはいかないですけど、夜は常に近くに居られるし、なにより普通のアパートなので目を付けられにくいと思いますよ」

    秋田「それは名案だ」

    佐藤「確かにうちの店やどっかのアパートで独り暮らしさせるよりは安全だな。ショタコンが大斗君に手を出さないかが心配だけど」

    奈津美「そんなことしませんよ!」

    秋田「では、大斗君の住む家は奈津美ちゃんのアパートということで決定にしよう。大斗君はそれで良いかい?」

    大斗「・・・良いよ」

    山田「それなら、えっと・・・奈津美ちゃん、大斗君の事をよろしく頼むよ!」

    奈津美「任せてください!」

    山田「ありがとう。早速そのアパートを案内してくれ。護衛に関する詳しい話もそこでする」

    奈津美「分かりました」
  9. 9 : : 2015/05/29(金) 23:00:29
    大斗を奈津美の家に住まわせることが確定し、山田と大斗は奈津美の先導の下、彼女の住むアパートへと向かった。

    奈津美「ここが私の住んでいるアパートです」

    山田「君の言った通り、普通のアパートだね。これならそう簡単には見つからないだろう」

    奈津美「私の部屋は三階にあります。着いてきてください」



    ガチャ

    奈津美「どうぞあがってください」

    山田「失礼するよ」

    大斗「お邪魔しまーす。うわぁっ、思ったより広い!」

    奈津美「元々家族三人で暮らしていた部屋だからね」

    山田「さて、女の子の一人暮らしの部屋におっさんが長居するわけにはいかないし、手短に護衛に関する注意事項を話すとしよう」

    奈津美「お願いします」

    山田「まずは奈津美ちゃんへの最終確認だ。もし大斗君の存在が知られた場合、君がなまはげ会の刺客と戦うことは避けられない。そうなれば最悪の場合、Sレートの喰種を複数相手取ることも考えられる。もちろん私や秋田さん達も加勢に向かうけど、到着までの間は一人でそいつらと戦わなければならない。それでも、大斗君をここに泊めてくれるかい?」

    奈津美「・・・もちろんです」

    山田「そうか。ありがとう。では、今度は大斗君への指示だ。大斗君、君にはこの先・・・一切の外出を禁止する」

    奈津美「なっ・・・」

    大斗「ずっと外に出るなって事!?」

    山田「ほとぼりが冷めるまではね」

    大斗「それっていつだよ!下手したら永遠に外に出られないってことじゃないか!」

    奈津美「それは流石に大斗君が可哀想ですよ」

    山田「ああ、私としても非常に辛い。だがこれが大斗君を守るための最善の方法なんだ!なまはげ会は強大な勢力だ。今では100を超える喰種が所属し、町のどこに奴等が潜んでいるのか見当もつかない状況だ」

    奈津美「私がついていてもダメですか?」

    山田「いくら君でもダメだ」

    奈津美「・・・そうですか。了解しました」

    大斗「俺は納得してないよ!ずっと外に出られないなんてそんなの・・・」

    山田「分かってくれ大斗君!君のお父さんが命を捨てて救った君の命を、私は守り抜きたいんだ!やり過ぎかもしれない、自己満足かもしれない、でもこの策が最善であるのも事実だ!だから・・・頼む!」

    山田は大斗に向かって頭を下げた。

    大斗「わ、分かったって。だからそんなことしないでよ」

    山田「すまない。でも、分かってくれて嬉しいよ」
  10. 10 : : 2015/05/30(土) 22:56:45
    山田「では、そろそろ私は帰るとしよう。最後に・・・私の連絡先だ」

    山田は名刺を取り出し奈津美に手渡した。

    山田「何かあったら連絡してくれ」

    奈津美「はい。あっ、一つ質問してよろしいですか?」

    山田「何かな?」

    奈津美「私の力を信用しているような口ぶりでしたけど、店長から聞いていたんですか?」

    山田「店長から聞いていたのは君の名前と東京から来た喰種だということだけだ。でも、東京20区の"ハムスター"と言えば一時期相当有名な喰種だったからね」

    奈津美「情報屋なのは伊達じゃないってことですか」

    山田「そういうことだ。それではさようなら。大斗君を頼んだよ」

    奈津美「はい!」

    大斗「さようなら、山田さん」

    ガチャ ギィィ バタン

    奈津美「じゃ、大斗君の寝る部屋を決めるないとね」

    大斗「どこでも良いから任せるよ」

    奈津美「だったら一緒に寝る!?」

    大斗「なっ・・・遠慮するよ」

    奈津美「遠慮しなくて良いって!」

    大斗「お姉さん怖い・・・」

    奈津美「(しまった!このまま怖がられるとまずい。ここは自制心を強く持たないと・・・)それならもう片方の寝室を大斗君の部屋にしよっか」

    大斗「それが良いな」

    奈津美「よしっ決定!後はもう決めることは無いし、寝る時間までトランプでもして遊ばない?」

    大斗「二人で?」

    奈津美「二人でだって楽しめるものもあるよ」

    大斗「ふ~ん、じゃあやるよ」

    奈津美「やった!早速トランプを取りに行くね」

    奈津美は軽快な動きで寝室にトランプを取りに行った。彼女がリビングを後にしてから間もなく、彼女はトランプを右手に持ち再び姿を現した。

    奈津美「(何のゲームをやろうかな・・・)」

    彼女は大斗と何のゲームで遊ぶかを考える。そんな中、大斗の頭にふとした疑問が浮かんだ。

    大斗「そう言えば、お姉さんの家族って今どこに居るの?」

    その問いは、大斗が純真無垢であったが故に放たれたものであった。
  11. 11 : : 2015/05/31(日) 21:50:40
    奈津美「私の家族は・・・もう居ないよ」

    大斗「えっ!?」

    予想外に重い奈津美の答えに、大斗は驚きの声を上げる。

    大斗「どうして・・・居ないの?」

    自分は奈津美にとって忘却の彼方へと封印したはずの悲しい過去を思い出させてしまったのではないか、という恐怖から大斗の声は先程の幼気なものとは打って変わって不安に満ちたものだった。

    彼の声と表情からそれを察した彼女は、柔らかな笑顔を作って答えた。

    奈津美「私が5歳の時に、喰種に殺されちゃったの」

    大斗「それって俺と同じ・・・いや、5歳な分俺よりも」

    奈津美「大斗君の方が大変だと思うよ。私の両親が殺された原因は力を持て余した喰種による理由のない殺戮だったから、私自身が狙われることはなかったもの。でも、親を早くに失った子供の気持ちは良く分かる。だから私は大斗君を何が何でも守るし、何か悩みがあるのならいつでも相談に乗るよ」

    大斗「・・・あ、ありがとう」

    奈津美「どういたしまして。さて、辛気臭い話はこれくらいにしてトランプしよ!最初にやるゲームはスピードね!」

    大斗「負けないよ!」

    それから二人は10時半までトランプゲームを楽しんだ。余談ではあるが、動体視力に優れた喰種同士のスピードはハイレベルな争いになったと言う・・・



    夜の11時。大斗が眠りについたのを見届けてから、奈津美はいつものようにトーカに電話を掛けた。

    奈津美「もしもしトーカ、今日もお話ししよう」

    トーカ『はい。今日も楽しみにしてました』

    奈津美「ありがとう。なんと今日は重大発表があるの。実は・・・10歳の男の子を家で引き取ることになりました!」

    トーカ『本当ですか!?良かったですね!』

    奈津美「まぁ、その子の事情を考えると良かったなんて言えないんだけどね」

    トーカ『事情・・・?』

    奈津美はトーカに大斗の事情を簡単に話した。

    トーカ『可哀想ですね・・・』

    奈津美「喰種の世界では、子供の内に両親を失うことはよくあることだって分かってるけど・・・やっぱり、そういう子を見ると胸が痛むよ」

    奈津美「まるで自分を見ているみたいで」ボソッ

    トーカ『奈津美さん・・・』

    奈津美「トーカも同じだよね。そして私達は、芳村店長に救われた。だから私は大斗君を救いたい。芳村店長のように上手くはできなくても、力になりたい」

    トーカ『奈津美さんなら出来ますよ。だって私は、あなたにも救われたんですから』



    こうして奈津美と大斗の共同生活が始まった。

    それが彼女となまはげ会との激闘の序章であったとも知らずに・・・
  12. 12 : : 2015/06/01(月) 20:26:21
    -Ⅱ-




    ガチャ

    奈津美「いらっしゃいませ!」

    客B「今日もいつものでお願いします」

    奈津美「はい。店長、いつもので」

    店長「了解」



    奈津美「(大斗君を家に引き取ってから、今日で2週間。幸いなことに、今日までなまはげ会による動きは一つも見られず、平穏無事な日々を過ごしていた。でもその代償として、大斗君は2週間一度も家の外に出ることができないでいる・・・)」

    佐藤「奈津美ちゃん!」

    奈津美「あっ、はい!何でしょうか?」

    佐藤「今考え事してたでしょ」

    奈津美「ばれてましたか」

    佐藤「おおかた・・・」

    佐藤は口に出しそうになった言葉を一旦呑み込み店内を見回す。現在店内に居る客は3年以上の付き合いのある常連客だけだった。

    佐藤「おおかた、大斗君の事だろう?心配になるのは分かるけど、仕事中は集中しなきゃダメだよ。今日は用心しなきゃいけないお客様の予約も入っているからね」

    奈津美「用心しなきゃいけないお客様?」

    佐藤「そういや奈津美ちゃんの勤務中はまだ来たことが無かったっけ。そろそろ来るはずだから楽しみに待ってな」

    奈津美「用心しなきゃいけないんじゃなかったんですか?」

    佐藤「用心しつつ楽しみにしてなよ」

    ガチャ

    佐藤「おっ、いらっしゃい久保田さん!予約した時間よりも早いじゃないですか」

    久保田「仕事が少しはえぐに終わったもんだからね。そうそう、予約にねがったけど部下を連れてきたんだけども、良いべか?」

    秋田「もちろん、お客様の数が増えるのなら大歓迎だよ」

    久保田「そいだば良かった。二人とも、け!」

    奈津美「(この人が用心しなきゃいけないお客様なのだろうか。今のところはそうは見えないけど、久保田って名前はどこかで聞いたことがあるような・・・)」

    ??「久しぶりだね。佐藤さん、秋田さん」

    佐藤「どもっす、摂津さん」

    ??「良い雰囲気の店だべ・・・」

    奈津美「それはどうも・・・て、ええ!?悠介君!?」

    悠介「ああ!?なして奈津美さんがここに!?」

    奈津美「(ちょっと待って。悠介君の事を部下って呼んだって事は、この人達は・・・)」
  13. 13 : : 2015/06/02(火) 19:42:00
    期待です!
  14. 14 : : 2015/06/02(火) 23:24:38
    >>13
    期待ありがとうございます!
  15. 15 : : 2015/06/02(火) 23:59:23
    久保田「悠介~、こんなめんこい子と仲良しだなんてお前もすみに置けねぇな」

    悠介「奈津美さんはただのクラスメイトですよ」

    摂津「そう言えば見ない顔だが、新人さんかい?」

    奈津美「はい。春に東京から引っ越してきて以来、ここで働いています」

    秋田「せっかくだし、奈津美ちゃんに自己紹介してあげなよ。きっと驚くだろうからね」

    久保田「俺達の職業はあまり自分から名乗るべきもんじゃねぇんどもな・・・この店の従業員って事は長い付き合いになるだろうし、そうさせてもらうべ。実は俺達、喰種捜査官なんだべ」

    奈津美「・・・わぁ、すごいですね」

    久保田「反応薄くねが?」

    悠介「予想はしてたと思いますよ。奈津美さんは俺が喰種捜査官だって知ってますから」

    久保田「ええ!?知ってるの!?」

    奈津美「はい・・・」

    摂津「悠介、お前が捜査官だって事は必要以上に口外するなと言ったはずだが」

    悠介「仕方ないじゃないですか。二人で下校してる途中に喰種に襲われて返り討ちにしちゃったんで、隠しようが無いですよ」

    摂津「確かに、それは止むを得ないな」

    久保田「てか二人で下校って、お前らやっぱり付き合ってるんだか!?」

    奈津美「ち、違います!」

    悠介「ただのクラスメイトだってさっき言ったでしょう」

    久保田「ふぅん」

    佐藤「久保田さん、捜査官だって事は知ってたみたいですけど、階級を言ったらきっと驚くと思いますよ」

    久保田「そうか・・・そいだば、名前と合わせて階級を教えるとするか。俺の名前は久保田雅規、階級は特等捜査官だべ」

    奈津美「!?」

    摂津「俺の名前は摂津光尊だ。階級は准特等な」

    奈津美「なっ!?特等に・・・准特等・・・!?」

    久保田「うん、良い反応だべ。おじさんおもへよ」

    佐藤「あっ、"おもへ"って言うのは"嬉しい"って意味だから」

    奈津美「は、はい・・・(そうだ。どこかで聞いた名前だと思ったら、佐藤さんのなまはげ会の話に出てきた秋田に常駐している本局の白鳩に匹敵する捜査官の二人だった!)」

    秋田「さて、御注文をお伺いしましょうか」

    久保田「俺はブラックコーヒーで」

    摂津「俺は紅茶を頂きますか」

    悠介「俺はココアでお願いします」

    佐藤「かしこまりました。奈津美、一旦仕事に戻るぞ」

    奈津美「分かりました・・・」
  16. 16 : : 2015/06/03(水) 22:51:57
    奈津美「何で秋田トップ2の捜査官二人がうちの常連客なんですか」

    奈津美はカウンターでココアを用意しながら、捜査官の三人に聞かれないように小声で呟いた。

    秋田「何でと言われてもねぇ・・・うちの店の味を気に入ってくれたから、としか答えようが無いよ」

    奈津美「疑われてるって訳じゃないですよね?」

    佐藤「多分大丈夫だと思うぞ。あの二人・・・特に久保田さんがうちに来るようになってからは10年以上経ってるからな。疑われてたんならとっくに駆逐されてるよ」

    奈津美「それなら良いんですけど・・・」

    秋田「白鳩の相手は緊張するだろうけど、いつも通りにしていて問題ないよ。もしボロが出ちゃっても、よっぽどじゃなきゃフォローするから」

    久保田「さっきからヒソヒソ話して、どうかしたんだか?」

    奈津美「(ギクッ!)」

    秋田「いくら久保田さん相手でも話せない、店側の秘密の話だ」

    久保田「トップシークレットってやつだか~」

    奈津美「(ごまかせたのかな・・・それとも聞かれてたんじゃ)」

    佐藤「そう用心深くなさんなって。こうピリピリしてちゃあ人間との共生はおろか、共存だって出来やしないよ」

    秋田「浩郎君、奈津美ちゃん、注文の品を持ってって」

    佐藤「うっす!」

    奈津美「分かりました!」

    奈津美「(確かに、白鳩が相手だからって神経質になりすぎたかな。共生を目指す以上、いつかは解り合わなければいけない存在だし、相手の事を理解する良い機会だと思わなきゃ)」



    久保田「いや~、やっぱりここのコーヒーはうんめぇべ」

    摂津「紅茶も美味しいっすよ」

    悠介「ココアもしったけうめがったっす」

    秋田「喜んでもらえて何よりだよ」

    久保田「今日はご馳走様。また来るべ・・・あっ、最後に捜査官として一言忠告・・・」

    秋田「おや、なにかな?」

    久保田「最近、秋田で一番でっかい喰種集団があらげてるらしい。用心してけれよ」

    奈津美「(それって例の・・・)」

    秋田「そっちこそ気をつけなよ。まだ死ぬには早いからね」

    久保田「当たりめよ」

    悠介「目指せ超神ネイガーですからね」

    奈津美「超神ネイガー?」

    悠介「秋田の御当地ヒーローだべ」

    摂津「本物のネイガーになるっていうのが久保田特等の目標なんだよ」

    久保田「しょしからあんまし言うなって」

    奈津美「本物のヒーローにですか・・・なれるといいですね!私も応援します!」

    久保田「えっ、本当に!?おもへなぁ」

    奈津美「嬉しいって事ですよね」

    佐藤「その通り。今日でまた一つ秋田弁を覚えたみたいだな」

    久保田「それは良かった。そいだば、またな」

    悠介「バイバイ、奈津美さん」

    奈津美「またのお越しをお待ちしておりまーす!」
  17. 17 : : 2015/06/05(金) 22:25:23
    その夜、いつものように帰宅した奈津美を大斗が出迎えた。

    大斗「お帰りお姉さん」

    奈津美「うん、ただいま!今日もお留守番ご苦労さま」

    大斗「留守番なんて、いくらでも出来るよ・・・」

    10歳・・・普通であれば小学4、5年生の少年にとって、2週間全く家から出ないことがどれだけ苦痛であったか。それを示すようなか細い声の呟きに、奈津美は思わず無言になってしまう。

    無音の時が流れ始めてから数秒経ってから、大斗は吐き捨てるように怒鳴った。

    大斗「一体いつまでこんな生活を続けてればいいんだよ!」

    奈津美の家に住み込み始めてからこの日まで、大斗は小さな声でぼやくことはあっても、大声を出し感情をはっきりと表層化させたことは無かった。その結果日に日に溜め込まれ、今にも溢れ出しそうになっていた感情が怒声と共に一気に流れ出した為か、今度は地面に突っ伏し大きな泣き声を上げ始めた。

    それを奈津美は、静かに見守ることしかできなかった。

    しばらくして泣き止んだ大斗は、泣き疲れたのか真っ直ぐに寝室へと向かった。おやすみは言わなかった。



    プルルルル プルルルル

    午後11時、リビングに一人ポツンと座っていた奈津美の耳に、電話の呼び出し音が入って来た。

    奈津美「(・・・トーカだ)」

    ガチャ

    奈津美「もしもし?」

    トーカ『もしもし奈津美さん!?電話来ないんで、心配してこっちから掛けちゃったんですけど・・・何かあったんですか?』

    奈津美「うん、ちょっと考え事をね」

    トーカ『考え事ですか。良ければ話してくれませんか?』

    奈津美「それは遠慮させてもらうよ。トーカには私の事であんまり心配して欲しくないし」

    トーカ『そんなこと気にしなくて良いですって。私達、親友ですから』

    奈津美「ありがとう。でも、良いの」

    トーカ『そうですか・・・それなら、しつこくは聞きません。その代わり、楽しい話をしましょう。今日は他に何かありましたか?』

    奈津美「ん~・・・あっ!とんでもないことがあったのを忘れてた!」

    トーカ『とんでもないことですか!?』

    奈津美「うん。うちの店に捜査官が三人も来店して来たの。しかも、その内二人は常連らしくて、階級は准特等と特等」

    トーカ『三人も!?しかも・・・特等!!?』

    奈津美「あんていくも人間の常連さんは居るけど、流石に白鳩は居なかったからびっくりしたよ」

    トーカ『それって、大丈夫なんですか?』

    奈津美「さぁ・・・」

    それから、奈津美は今日の事を事細かに話した。その後はあんていくの常連客の事を話題に、二人は日付が変わるまで話し込んだ。

    トーカ『はぁ、今日は一杯話しましたね』

    奈津美「うん・・・ありがとうトーカ、お陰で元気が出てきたよ」

    トーカ『私は好き放題おしゃべりを楽しんだだけですよ。それではお休みなさい』

    奈津美「お休み・・・」

    ガチャ



    トーカとの電話により、後ろを向きかけていた奈津美の心は再び前を向き始めた。しかし大斗の心は、負の螺旋階段から抜け出せないままであった。
  18. 18 : : 2015/06/06(土) 19:49:11
    -Ⅲ-





    奈津美「それじゃあ、今日もお留守番お願いね。大斗君」

    大斗「うん。いってらっしゃい・・・」

    6月20日水曜日、奈津美はいつものように大斗に一言掛けてから家を出た。怒り、泣いたあの日から、結局彼がに外出の機会は一度も与えられず、不満が溜まっているのは明らかであった。

    もちろん奈津美も、何とか外に出る機会を与えてあげたいと思っていた。だが己の勝手な判断で彼を家から出すことで、彼に危険が及ぶことだけはあってはならない為、彼女は手をこまねいているしかなかった。

    そうしている間に、彼の我慢は限界をとうに超えていたことを彼女は気付けていなかった。



    奈津美が3年E組の教室に到着したのは7時50分だった。彼女の席の隣には既に悠介が着席していた。

    悠介「おはよう、奈津美さん」

    奈津美「おはよう、悠介君」

    朝の挨拶を交わし、奈津美は着席する。

    奈津美「(香織が来るまで悠介君と話してようかな。でも何を話そうか・・・あっ、そう言えば悠介君に聞きたいことがあったんだ)」

    奈津美「ねぇ悠介君。10歳の子供と遊びに行くのにお勧めの場所ってどこ?」

    悠介「急になした?」

    奈津美「実は今、従弟が遊びに来てるんだ。それでどこかに遊びに連れてってとせがまれたんだけど、どこに連れて行けばいいのか全く分からなくて・・・悠介君には10歳の妹が居るはずだからどこか知ってるんじゃないかって思って」

    悠介「そういうことだか。俺のお勧めは大森山動物園だべ」

    奈津美「なるほど、動物園ね」

    悠介「子供を連れてく定番スポットだし、園内には小規模だけど遊園地もあるから、かなり楽しんでけると思うだ」

    奈津美「へぇ~、何だか楽しめそう。ありがとう、参考になった」

    悠介「どういたしまして」
  19. 19 : : 2015/06/07(日) 17:39:54
    キーンコーンカーンコーン
    キーンコーンカーンコーン

    15時40分、6時間目の授業の終了を告げる鐘が校内に響き渡った。

    奈津美「ふぁあ・・・」

    奈津美は大きなあくびを一つして、机の中の教科書をカバンへと詰め込み始める。その最中、悠介が彼女に話しかけた。

    悠介「奈津美さん、わりども今日は一緒に帰れないや」

    初登校の日から、奈津美は毎日悠介と下校していた。先日ぬぐだまれで主張したように二人は付き合っている訳ではない。だが、他に家が同じ方向の部活動に入っていない生徒で仲が良い生徒がお互いにいないので、他に一緒に帰る人がいないのだ。

    毎日とは言ったが、一緒に下校しないときもあった。その理由の多くは悠介の"仕事"である。それはこの日も例外ではなかった。

    悠介「出動命令が出たべ」

    奈津美「そっか・・・じゃあ、また明日ね」

    悠介は急ぎ足で教室を後にする。その出動命令が一体どんなものであったか、喰種の奈津美は当然気になっていたが敢えて聞かず、黙って笑顔で彼を見送った。

    それから彼女はゆっくりと帰りの支度をし、昇降口へと向かった。するとスマホを片手に何かを話している女子が居た。その周りには彼女の友達と思われる2人の女子が彼女の話を聞いていた。

    女子生徒A「ねぇねぇ、ツイッターで見たんだけど南通りのファミリーマートの前で喰種同士が喧嘩してるらしいよ」

    女子生徒B「ええ~怖い~」

    近くを通るだけで勝手に耳に入ってくるほどの大声での会話を、奈津美が聞き逃すはずがなかった。

    奈津美「(南通り・・・うちのアパートの近くだ。悠介君の出動命令はこのことかな?それにしても、大通りに面したコンビニの前で白昼堂々と同種で喧嘩なんて、バカ過ぎるでしょ)」

    女子生徒A「でさ、これが現場の画像」

    女子生徒C「うわっ、本当に目が赤くなってる!」

    奈津美「(写真まで撮られてるって、どんだけ喧嘩に夢中になってんの!)」

    女子生徒B「でもさ、これって喧嘩って言うよりリンチじゃない?」

    女子生徒A「どういうこと?」

    女子生徒B「見た感じだけど・・・私には20歳前後の男三人は仲間で、三人がかりで一人のこの子供の喰種を襲っているように見えるなぁ」

    奈津美「(子供!?)ちょっと見せて!」ダッ

    グイッ

    奈津美「・・・そんな、やっぱり」

    女子生徒A「ちょっといきなり何よ!」

    奈津美「あっ、ごめんなさい!南通りって帰り道だから気になっちゃって。本当にごめんなさい」

    奈津美はスマホを持った女子生徒に頭を下げる。そして大急ぎで靴を履き替え昇降口から駆け出した。

    奈津美「(無事で居て・・・大斗君)」
  20. 20 : : 2015/06/08(月) 22:35:06
    タッタッタッタッ

    大斗「くそっ!ちょっと外に出ただけで・・・何で」

    南通りを駆ける大斗。彼の後ろにはなまはげ会の構成員とみられる3人組の喰種の姿があった。

    構成員A「ちょこまか逃げてんじゃねぇぞガキィ!」

    3人の内の1人が肩から羽赫を発現させる。そして、結晶化させたRc細胞を発射した。大斗は横へと跳び、何とかそれを回避する。しかし、その行動によって彼は3人組に追いつかれてしまった。

    構成員B「やっと捕まえたぜ!」ガシッ

    羽赫を発現させた喰種とは別の喰種が大斗の顔を右手で掴み、彼の体を持ち上げた。

    構成員C「赫子も出せない雑魚の癖に、手こずらせやがって」

    構成員B「まぁ良いじゃないか。後はこいつをボスの所へ届ければ、俺達は昇進間違いなしだ」

    大斗「この・・・放しやがれ!」

    大斗は腹筋を使って空中で体を折り曲げ、自身の足を構成員Bの右腕に絡みつかせる。そして、全身の力を用いてその腕を・・・

    構成員B「調子に乗るなよクソガキ!」

    大斗がへし折るよりも前に、構成員Bは大斗の体ごと自分の右腕を地面へと叩きつける。そして、腰から鱗赫を発現させた。

    大斗「ぐ・・・この・・・」

    構成員B「これ以上下手な真似したらぶっ殺すぞ!」

    構成員A「おいおい、落ち着けよ。俺達に出された指令は"白羽持ち"の生け捕りだぞ」

    構成員B「チッ・・・白鳩どもが来る前に、さっさと体を拘束して車に乗せるぞ」

    ???「あなた達、大斗君から離れなさい!!!」

    突如、南通りに女の声が響き渡った。声がした方に目を向けると、そこにはとっとこハム太郎のお面を被った女の姿があった。彼女の正体は、奈津美である。その事に気付いた大斗は、僅かに安堵の表情を浮かべた。

    構成員B「お前、このガキの仲間か何かか?」

    奈津美「保護者よ」

    構成員B「ふぅん。まあそこはどうでも良いが、大人しく引き下がる事をお勧めするぜ。なまはげ会を敵に回したく」

    奈津美「・・・」ダッ!

    構成員B「なか・・・!?」

    シュッ バキイッ!

    一瞬にして構成員Bに接近した奈津美は、彼の顎にサマーソルトキックを叩きこんだ。

    構成員B「ガッ・・・」

    ドサッ
  21. 21 : : 2015/06/09(火) 20:10:19
    構成員A「てめぇ!」ズズッ

    構成員C「よくも!」メキメキッ

    残った2人の喰種はそれぞれ羽赫と甲赫を発現させ、同時に奈津美に襲い掛かった。

    構成員A・構成員C「「死ねぇ!!」」

    2人の赫子による同時攻撃は大きな風切り音を立てる。そこに、奈津美の姿は無かった。

    構成員A「消え・・・」

    バキャッ! ドサッ

    後頭部に回し蹴りを食らい、構成員Aは倒れた。

    構成員C「な・・・なんて奴だ・・・」

    奈津美「残るはあなた一人ね」

    構成員C「!?」

    奈津美の鮮やかな格闘術に呆然としていた構成員Cは、彼女が放った"一人"という言葉で我に返る。それと同時に、彼の全身に震えが走り始めた。

    奈津美「ようやく目の前の敵の力量が分かったようね。あなたの身体が訴えているように、あなたに勝ち目は無い。つまり・・・死ぬしかない」

    構成員C「ひっ!」

    奈津美「と言うのが常識だけど、私は優しいの。だから、もう大斗君に手出ししないって誓うのなら見逃してあげる」

    構成員C「ち、誓います!」

    奈津美「オッケー、見逃してあげる。だからさっさと、周りでのびてる仲間を連れて私達の前から消え失せなさい!」

    構成員C「は、はいぃ!」

    構成員Cは情けない声で返事をすると、大急ぎで仲間を車へ運び始めた。

    奈津美「・・・大斗君、大丈夫?」

    大斗「う、うん。それにしても、お姉さんって強いんだね」

    奈津美「まぁ、この程度の喰種に苦戦はしないよ・・・!?」

    大斗「?」

    奈津美「掴まって大斗君!」ガシッ

    突然、奈津美が大斗の幼い腕を強く握る。そしてすぐさま飛び跳ねた。その瞬間、大斗の目に空を飛ぶ無数の"フキノトウ"の姿が映り込んだ。

    その奇妙なフキノトウたちは2人の身体を担いでいる構成員Cの身体に続々と突き刺さり、彼と彼の担いでいる2人の喰種の命を奪った。それと同時に、つい先程まで大斗が座っていた場所もフキノトウに覆い尽くされた。

    それは"フキノトウ"等ではなかった。

    大斗「(フキノトウ・・・みたいに結晶化されたRc細胞?)」

    摂津「いやぁ・・・雑魚を一網打尽にするつもりだったが、そう簡単にはいかないもんだねぇ」

    悠介「仕方ありませんよ。どうやら雑魚の中に活きの良いのが紛れていたみたいですから」

    大斗「(白鳩!)」

    奈津美「(悠介君・・・)」
  22. 22 : : 2015/06/10(水) 22:15:15
    摂津「通報だと現れた喰種は男3人にガキ1人だったはずだったんだが・・・あのハムスターのお面の喰種はガキを助けに来た保護者ってところかね?」

    悠介「恐らくそんなところでしょう。それと、あのお面はとっとこハム太郎です」

    摂津「何だそりゃ。まぁ何のキャラのお面かなんて、駆逐しちまえばどうでも良いんだけどな!」

    摂津が羽赫型のクインケ"フキノトウ"の銃口を奈津美達へと向ける。

    奈津美「大斗君、私の背中におぶさって!」

    摂津「喰種(グズ)には死を!くたばれ!」ガガガ

    摂津のクインケからフキノトウ型の結晶が放たれる。奈津美は大斗を背負ってすぐさま横に跳び、間一髪で攻撃を回避した。彼女が着地したと同時に今度はクインケ"キリタンポ"を持った悠介が襲い掛かる。

    悠介「わおっ!すごい身のこなしだべ!でも・・・」

    ガッ!

    悠介が振るったクインケを、奈津美は左腕で受け止める。しかし、クインケを直接身体で防御してダメージが無い筈はなく、彼女の顔に苦悶の表情が滲み出る。

    悠介「子供を背負ったままで戦える程、俺達は甘くないべ」ブンッ

    バキッ!

    悠介がフルスイングしたクインケが、奈津美の腹部を捉えた。彼女はその衝撃によって空中へと弾き出されるも、身体をうまくひねって体勢を立て直し、静かに地面へと着地した。そして、視線を悠介へと向けると彼はクインケの先端をこちらへと向けていた。

    奈津美「(羽赫の遠距離攻撃が来る。避けないと・・・)」

    羽赫と甲赫とのキメラクインケである"キリタンポ"の羽赫による攻撃に備え、奈津美は跳躍体勢をとる。ちょうどその時、視界の片隅にクインケを構えている摂津の姿を捉えた。

    奈津美「(しまった。跳べばやられる。でも、跳ばないで躱し切れるほど甘い攻撃じゃない。こうなったら仕方が無い・・・)大斗君、やっぱり抱っこさせて」

    大斗「え?」

    奈津美「早く!」

    大斗が奈津美の背中から降りる。それと同時に、悠介のクインケからRc細胞の弾丸が放たれた。しかし、奈津美は回避の意思を全く見せない。捉えた・・・そう悠介が思った瞬間・・・

    ドウッ!

    奈津美の身体から8本の鱗赫が放出され、彼が放った弾丸を一つ残らず弾き飛ばした。
  23. 23 : : 2015/06/12(金) 22:26:51
    摂津「何だあの赫子は。まるで・・・タコだ」

    摂津の発言を聞き、奈津美はマスクの下で小さくため息をつく。

    悠介「へぇ、8本も出せるんだか」

    摂津「赫子の本数や大きさがそのまま強さを表すってわけではないが、流石にこの本数は厄介だな」

    本数が多い上に異様な奈津美の赫子が、捜査官二人の足を無意識の内に一歩下がらせる。その間に、彼女は大斗を抱きかかえた。

    奈津美「さて、逃げるよ」クルッ

    奈津美は二人に背を向け逃走を試みようとする。

    摂津「逃がすな!」

    悠介「はい!」

    逃走を阻止すべく二人は瞬時に発砲するも、奈津美の赫子によって防御される。彼女はそのまま裏通りへと消えて行った。

    摂津「逃げられたか・・・しかし、見たことが無いマスクと赫子だったな」

    悠介「もしかして、さっきの喰種が追跡者(チェイサー)と戦ったと見られる例の喰種ですかね?」

    摂津「可能性は高いだろうな。とにかく局に戻ってあの二体の事を報告だ」

    悠介「レートはどのくらいでしょうか?」

    摂津「実力は未知数だからな。A~レートってところじゃないか。呼び名は・・・"オクト」

    悠介「"ハムスター"って言うのはどうですか?ピンチにならないと赫子は出さないみたいですし、こっちの方が分かりやすいと思いますよ」

    摂津「それもそうだな」



    大町六丁目にあるアパートの一室に、二人のヒトが帰宅した。

    奈津美「ふぅ・・・何とか無事に帰れた」

    大斗「それにしても、何で白昼堂々と襲われなきゃいけないんだよ。あいつらのせいで白鳩に顔が割れちまった・・・」

    奈津美「・・・大斗君」

    大斗「なに?」

    ペチィン!

    突如として、大斗の頬に平手打ちが浴びせられた。

    奈津美「どうして勝手にアパートを出たの!?今回は運良く助かったけど、もしかしたらあなたはなまはげ会に連れていかれてたのかもしれないのよ!」

    大斗「・・・」

    奈津美「いや、それならまだ助けに行けば良いよ。でも、最悪の場合白鳩に殺されていたかもしれないんだよ。そうなったら・・・私・・・」

    感情が溢れそうになり、奈津美は目に涙を浮かべる。

    大斗「・・・ごめん。でも・・・こんな生活を続けるなんて、やっぱり無理だよ」

    そう言い残し、大斗は一人自室へと向かった。

    彼は間違いなく反省していた。自分のした行いが正しいことではないことを理解していた。大斗を思いやる奈津美の心をしっかりと感じ取っていた。

    その上で尚吐き出された彼の本音は、奈津美の胸にどっしりとのしかかった。
  24. 24 : : 2015/06/13(土) 20:59:59
    その日の夜、奈津美はいつもするように受話器を握っていた。しかし、今夜はいつもと相手が違った。

    奈津美「もしもし、山田さんですか?」

    山田『奈津美ちゃん?どうかしたのかい』

    奈津美「それが・・・」

    奈津美は今日起きたことを山田に話した。

    山田『そうか、やはりなまはげ会は至る所に潜んでいるということだな』

    奈津美「それもそうなんですけど、私は大斗君をずっと家から出さないって言うのは流石に無理があったと思います」

    山田『なっ!?大斗君を外に連れ出そうって言うのか!?』

    奈津美「はい。このまま無理を続けてまた一人で出歩かれるより、私が付き添って定期的に外出するほうが安全だと思います」

    山田『いや、ダメだ!外はなまはげ会のテリトリーだということがまだ分からないのか!?そもそも、今回の件で大斗君の面は白鳩側に割れてしまったに違いない。彼はCCGにも追われる身になってしまったんだぞ』

    奈津美「変装させます。他人の顔なんて少し変わっただけで気付かなくなるものですよ。それに、もしなまはげ会の連中や白鳩が襲ってきたら、私が全部返り討ちにします」

    山田『そうなれば、君の面も割れることになる。今までのように平穏な生活はできなくなるぞ』

    奈津美「っ!・・・それは辛いです・・・でも、私はそれでも構いません!後悔しません!私は!私は・・・これ以上、大切な人を失いたくないんです」

    山田『・・・分かったよ』

    奈津美「えっ・・・本当ですか!?」

    山田『でも、簡単に外に出す訳にはいかない。だから、君が同伴すること以外にもう二つ条件を提示させてくれ』

    奈津美「条件・・・何でしょうか」

    山田『外出する際は必ず前もって私と秋田さんに連絡すること。それともう一つ・・・君以外にもう一人、ある程度戦い慣れした喰種と同伴すること』

    奈津美「もう一人・・・分かりました。では、それらの条件を揃えて外出の予定を立てたら連絡します」

    山田『ああ。では、これからもよろしく』

    ガチャ

    奈津美「・・・(戦い慣れした喰種をもう一人か。佐藤さんは仕事を外せないだろうし、他に喰種の知り合いは・・・あの変態しかいないし、弱ったな。でも、これ以上山田さんに無理を言う訳にはいかないし・・・)」

    受話器を握ったまま奈津美は考え込む。

    奈津美「取りあえず、トーカに相談してみようかな」
  25. 25 : : 2015/06/14(日) 23:06:37
    プルルルル プルルルル

    トーカ『もしもし?』

    奈津美「トーカ、相談があるんだけど」

    トーカ『相談!?ぜひ話してください!』

    奈津美「えっと・・・実は」

    奈津美はトーカに今日起きた出来事、そして山田から提示された大斗の外出に必要な条件について話した。

    トーカ『一日で喰種と白鳩の両方と対峙するなんて、大変でしたね』

    奈津美「喰種の方は大したことなかったよ。白鳩は面倒だったけど、逃げれば良いだけだったし」

    トーカ『それで、大斗君を外に出すための条件の事なんですけど・・・』

    奈津美「何か良いアイデアがあるの?」

    トーカ『アイデアって程ではないんですけど・・・私が同伴しましょうか?』

    奈津美「えっ・・・あ、その手があったか!でも、トーカは良いの?秋田に来るのって結構面倒くさいよ」

    トーカ『もちろん構いませんよ。店の方も今週は大丈夫だと思います』

    奈津美「・・・やったぁ!大斗君と出掛けられるだけじゃなく、久しぶりにトーカとも会えるなんて、こんなに嬉しいことは無いよ!」

    トーカ『そんな風に言われると・・・照れますよ。では、今週の土曜日にそちらに向かいますね』

    奈津美「うん!待ってるよ!一応、山田さんから許可を貰えたら連絡するね」

    トーカ『了解です。では、今週末会いましょう』

    奈津美「うん。じゃあお休み」

    トーカ『お休みなさい』

    ガチャ

    奈津美「・・・やっほい!!!」

    奈津美は興奮の余り、夜のアパートで叫び声を上げてしまう。次の朝、大家さんから注意を受けたのは言うまでもない。



    その後、奈津美は山田から大斗の外出許可を貰った。

    それからの木、金の二日間は彼女にとって気の遠くなる程に長い時間となった。
  26. 26 : : 2015/06/15(月) 21:39:22
    -Ⅳ-





    6月23日土曜日の秋田駅に、二人の喰種の姿があった。一人は女子高校生、一人は小学生の男の子であり、その姿は普通の人間と何ら変わりは無い。

    既にご存知の事と思うが、二人の正体はトーカを待つ奈津美と大斗である。

    大斗「トーカっていう人、まだ~?」

    奈津美「到着予定時刻にはなったし、もう少しで着くと思うよ」

    大斗「それまでカツラ取っちゃダメ?出来れば眼鏡も」

    奈津美「ダメ。いつどこになまはげ会の連中が潜んでいるか分かったもんじゃないんだから」

    タッタッタッタッ

    ???「あのクソ新幹線、どんだけ遅ぇんだよ・・・あっ、奈津美さん!」

    奈津美「トーカ!」

    トーカ「お待たせしてすみません」

    トーカは一言詫びの言葉を入れながら、改札口を通り抜けた。

    奈津美「ひっ・・・さしぶりぃぃぃ!!!」バッ

    ギュウ

    久しぶりの再開に感極まった奈津美は、自分の欲望のままにトーカを抱きしめる。

    トーカ「ちょっ、奈津美さん・・・」

    大斗「えっ、お姉さん達レズだったの?引くんだけど」

    トーカ「ああ!?何か言ったかガキッ!」

    大斗「ひっ!す、すみません・・・」

    奈津美「トーカ、大斗君を怖がらせてどうすんの」

    トーカ「ご、ごめんなさい」

    奈津美「大斗君も、私達はレズじゃないから。親友なだけだから。百歩譲って私はレズでもトーカはちゃんと男の子が好きだから」

    大斗「う、うん・・・」

    トーカ「ところで、今日の行き先は動物園でしたっけ?」

    奈津美「うん。大森山動物園"ミルヴェ"って所」

    トーカ「気持ち悪い名前ですね」

    奈津美「そういうこと言わないの!(私も思ったけど)」

    大斗「そろそろバス停に向かおうよ。バスの時間まであんまりないよ」

    奈津美「あっ、本当だ。じゃあ出発しようか」

    奈津美達は秋田駅西口のバスターミナルへと歩き出した。
  27. 27 : : 2015/06/16(火) 20:38:35
    秋田駅からバスで移動すること40分弱、一同は(恐らく)秋田県唯一の動物園である大森山動物園"ミルヴェ"に到着した。

    ミルヴェという名前は秋田弁の「見るべ」(標準語でいう見よう)から付けられている(と思われる)が、多くの秋田県民はこの名を知らない、或いは知っていても使おうと思わずただ"大森山動物園"と呼んでいる。

    因みに、秋田駅東口には秋田拠点センター"アルヴェ"というものがあり、これも秋田弁の「あるべ」(標準語でいうあるよ)から名付けられている(と思われる)が、こちらは良く使われている。しかし、多くの秋田県民はこのようなネーミングセンスを良く思っていない(かもしれない)。

    奈津美「というわけで・・・大森山動物園に着いたどー!」

    トーカ「早速入りましょう。入場料はいくらですか?」

    奈津美「なんと高校生以下タダ!」

    トーカ「えっ、高校生もタダなんですか!?それは素晴らしいですね!」

    大斗「何で宣伝してんの・・・」

    奈津美「秋田に観光客が来てほしいからだよ。さっ、入場しましょ」

    正面ゲートから入場すると、全身トゲトゲのヤマアラシが奈津美達を出迎えた。

    トーカ「うわっ、強そう」

    奈津美「確かに・・・さて、大斗君。どうやって回ろうか?」

    大斗「別にどうでも。お姉さん達で決めなよ」

    奈津美「ん~、じゃあ時計回りで順番に回ろっか」

    大斗「てことは、最初はウサギとかが居る所だね」

    タッタッタッタッ

    奈津美「あっ、ちょっと!離れちゃダメ!」

    駆け出す大斗を引き留めようと注意するが、彼は聞かずに最初の目的地へと向かって行った。

    奈津美「もぉ~」

    トーカ「奈津美さんのことだから子供の事は悪く言わないとは思ってましたけど、聞いていたのよりずっと可愛げのないガキですね」

    奈津美「そういうこと言わないっ」

    大斗の後を追い、奈津美とトーカの二人も最初の目的地"ふれあいランド"へ向かって歩き出した。



    大斗「・・・うわっ!すげぇ・・・変な顔!」

    ふれあいランドに着いた二人が最初に目にしたのは、カピバラを前に大興奮している大斗の姿であった。
  28. 28 : : 2015/06/17(水) 22:33:53
    トーカ「あれれぇ・・・楽しそうにはしゃいでるガキが居るぞ」

    ニヤニヤしながら、わざと大斗に聞こえるように呟くトーカ。大はしゃぎしている姿を見られた事に気付いた彼は、我に返ると同時に顔を真っ赤にした。

    大斗「実はさ、動物園に来るのは初めてなんだ。だから、つい浮かれちゃって・・・」

    トーカ「そういうことなら、最初からはしゃいでりゃ良かっただろ。ガキがガキみたいにはしゃいだって何も恥ずかしくないんだからよ。ね?奈津美さん」

    奈津美「恥じらってる大斗君かわいい・・・あっ、えっと、たまにしか出来ない息抜きなんだし、目一杯楽しもうよ!」

    大斗「・・・」

    トーカ「奈津美さん、最初の呟きで全部無駄になってます」

    奈津美「あはは、つい本音が出ちゃった。ささっ、次の動物を見に行こう」

    一同は、奈津美が作った微妙な空気に包まれながらペンギンの居るゾーンまで歩いた。

    大斗「うおっ!ペンギンだぁ!」

    愛らしいペンギンが、そして何より今まで奈津美に見せたことが無かった満面の笑みではしゃぎ回る大斗が、そんな空気を一瞬で吹き飛ばした。

    和気藹々とした雰囲気の中、一同はペンギンの次にレッサーパンダを見た後、ふれあいコーナーを訪れた。

    大森山動物園のふれあいコーナーでは、ウサギ・モルモット・ヒヨコ等を触ったり抱っこしたりすることができる。大斗達は、最初にウサギに触れ合うことにした。

    トーカ「よしよし、良い子だぞ~」

    大斗「すっげぇ懐いてる」

    奈津美「そりゃあマスクがウサギだもの」

    トーカ「それって関係ありますかね?」

    奈津美「私はハムスターによく懐かれるもの。さて、次はヒヨコと触れ合おうか」

    トーカ「ヒヨコですか・・・」

    ヒヨコという言葉に、トーカは僅かに顔をしかめる。それを見た奈津美は、ニヤニヤしながら大斗に何かを耳打ちした。

    大斗「トーカお姉さん、手を出して」

    トーカ「ん?良いけど、何を・・・」

    トーカが手を出した瞬間、大斗は両手で包んでいたヒヨコを彼女の手に載せた。

    トーカ「なっ!?ひぃっ!」

    手の上のヒヨコを見ると、彼女は慌てて手を振り回してヒヨコを払い落とした。

    大斗「ちょっと!ヒヨコが可哀想だよ!」

    トーカ「はぁ!?鳥は苦手なんだよ!そういうお前こそ何のつもり」

    奈津美「フフフフ・・・」ニヤニヤ

    トーカ「ああ!奈津美さんの仕業ですね!」

    奈津美「まだまだ甘い」

    大斗「・・・はしゃいでるのはどっちなんだか」
  29. 29 : : 2015/06/18(木) 21:33:33
    ふれあいコーナーでウサギ、ヒヨコと触れ合った後、一同はヤギ、ヒツジ、ポニーを見に行った。こうして、ふれあいランドを制覇した彼女達は、フラミンゴ、カンガルー、トナカイ等の動物を観察しつつ、王者の森と呼ばれるエリアへと移動した。

    王者の森にはライオンやトラ等の肉食獣が飼育されている。ずんぐりとした身体で、威圧感たっぷりに佇む姿に、大斗だけでなく奈津美とトーカの二人も圧倒された。

    それから三人はサル山、キリン、ペリカン等を見て回った。ペリカンを前に立つ彼女達の視界の端には、大森山遊園地の観覧車(ジャングルサークル)がそびえ立っていた。

    大斗「観覧車だ!初めて見たよ!」

    トーカ「こんな観覧車、東京に行けば幾らでもあるけどな」

    奈津美「こらこら、そういうこと言わない」

    大斗「本当に!?いつか俺も東京に行ってみたいな~」

    奈津美「なまはげ会が居なくなったら、私が何回でも連れて行ってあげる」

    大斗「約束だよ!奈津美お姉さん!」

    奈津美「うん!」

    大斗「それじゃあ、人生初の遊園地へレッツゴー!」

    タッタッタッタッ

    奈津美「あっ、ちょっと!さっきも言ったけど離れちゃダメ!」

    トーカ「はぁ~、入場直後と全く同じ状況ですね。テンションは全然違いますけど」

    奈津美「まさか大斗君がここまで楽しんでくれるとは・・・嬉しい誤算だよ」

    トーカ「ところで、さっきの話なんですけど」

    奈津美「さっきの話?」

    トーカ「大斗君を東京に連れて行く話です。なまはげ会が居なくなったらとは言わずに、今すぐにでも東京に高飛びすれば良いじゃないですか」

    奈津美「ん~、それは私も考えたことあるけど、あんまり良くないと思うな。なまはげ会の事だから、大斗君が東京に行ったらその事をすぐに察知するだろうし、東京に面倒事を押し付けるのも申し訳ないよ」

    トーカ「東京(ウチら)が抱えている面倒事に比べたら小さなものですよ。店長もきっと協力してくれますし」

    奈津美「それはそうなんだけど、何より大斗君はまだ秋田を離れたくないと思うんだよね。お父さんと過ごした土地だもの」

    トーカ「それは・・・そうかもしれませんね」

    奈津美「もし行くことになったら、トーカには一番に連絡するよ」

    トーカ「はい・・・あっ、話している内に大斗君が見えなくなっちゃいましたよ」

    奈津美「しまった!急いで追いかけるよ!」
  30. 30 : : 2015/06/20(土) 17:25:48
    大斗を追いかけて遊園地の方へと向かうと、彼は入り口で二人を待っていた。

    大斗「二人とも遅い!」

    トーカ「あんたねぇ・・・はしゃぎたいならはしゃげとは言ったけどもなぁ・・・」

    奈津美「あはは・・・最初は何に乗ろうか」

    大斗「あれ!」

    大斗は勢いよく自分が乗りたがっていたアトラクションを指差した。

    奈津美「ジェ、ジェットコースター・・・」

    トーカ「初遊園地の最初にジェットコースターを選ぶとはねぇ。あんた、思ったより度胸あるじゃん」

    大斗「あのくらいスリルないと面白くないよ」

    トーカ「言うじゃん」

    三人はジェットコースターの乗り場へと足を運ぶ。大森山遊園地のジェットコースターには"キリンフォレストのジェットコースター"という名があり、マシンの先頭にはキリンの親子の姿(当然だが本物ではない)を見ることが出来た。

    年齢制限は2歳以上となっており、そのためジェットコースターに慣れている者は大したスリルを感じられないであろう。だが、初遊園地の大斗を始めとして、奈津美、トーカの二人も余りジェットコースターに乗った経験は無い。

    奈津美「キャアアアアア」

    そのため三人は十分にスリルを味わった。特に奈津美は・・・

    大斗「お姉さん叫び過ぎ」

    奈津美「だってぇ、怖かったんだもん」

    トーカ「そう言えば、奈津美さんはこういうの苦手でしたね。無理しないで乗らなければ良かったじゃないですか」

    奈津美「せっかくの大斗君が楽しんでるのに、水を差したくなかったし・・・」

    トーカ「・・・相変わらずですね」ニコ

    奈津美「?」

    トーカ「次のアトラクションに行きましょう。次は・・・あれなんてどうですか」

    大斗「おお!行こう行こう!」

    奈津美「あれって・・・また怖いやつじゃん!!!」

    それから一同は大森山遊園地のアトラクションを一通り回った。最後に乗った観覧車の頂上からは、陽光を反射して光り輝く日本海が一望できた。

    観覧車から降りた時には、時計の針が4時を指していた。

    奈津美「もう閉園まで30分しかないや」

    トーカ「そろそろ帰りましょうか」

    大斗「ええ~、もっと遊びたいよ」

    奈津美「それは私達も同じだよ。でも、時間は守らなきゃね」

    トーカ「大丈夫。またこっちに来てやるから、その時にまた遊びに行くぞ」

    大斗「・・・うん!」

    遊園地を出た一同は、道中に居る動物を見るために所々で足を止めながら、正面ゲートへと歩いて行った。
  31. 31 : : 2015/06/20(土) 22:53:09
    大森山動物園からのバスが秋田駅西口のバスターミナルに到着した時、時計は5時半を指していた。

    大斗「着いちゃった・・・今日は楽しかったなぁ」

    奈津美「おやおや大斗君、そのセリフを言うにはまだ早いんじゃないかな」

    大斗「?」

    奈津美「なんと今日は・・・トーカが我が家に泊まってくれるのだ!」

    大斗「ふぅん」

    トーカ「なんだその反応は!しばくぞ!」

    大斗「ご、ごめんなさい!」

    奈津美「ゴホン・・・それでは、霧嶋董香を我が家へ案内致しま~す」

    三人は徒歩で奈津美の住むアパートがある大町六丁目へと向かい始めた。

    人の少ない秋田と言えど、土曜日の夕方の駅前はそこそこの賑わいを見せていた。この人込みの中に喰種が何体か混じっていても、恐らく誰もそのことには気付かないであろう。

    しかし、やはり人が少ない秋田は、駅から少し離れてしまえば一気に人の数は少なくなる。そして人が少なくなれば、今まで気付かなかった存在にも気付く。

    奈津美「トーカ、大斗君とこのまま一緒に歩いてて。私はちょっと行ってくる」

    トーカ「尾行・・・ですか?」

    奈津美「多分ね。ずっと一定の間隔を保ちながら歩いてる喰種が居る。まだなまはげ会とは断定できないけど、一応ね」

    トーカ「分かりました。こっちのことは任せてください」

    奈津美「よろしく!」

    大斗「お姉さん、気を付けてね」

    奈津美「ありがとう。でも大丈夫、私は強いから」

    タッタッタッタッ



    トーカ「・・・おいガキ、あんたに言っとくべき事がある」

    奈津美の姿が見えなくなったのを確認してから、トーカは大斗に話しかけた。

    トーカ「奈津美さんは優しい人だ。でもその分、人の為に自分を犠牲にしてしまいがちな人だ。今日のジェットコースターみたいに・・・」

    大斗「それは・・・分かってる」

    トーカ「そっか。それが分かってんなら話は早い。大斗・・・あんた、出来るだけ奈津美さんに苦労を掛けさせないようにしろよ。例えば、一人で勝手に外出する・・・とかな」

    大斗「聞いてたんだ」

    トーカ「ああ。でも奈津美さんは、あんたに怒るどころか逆にあんたを心配して、どうにかあんたを外出させたいと考えてた」

    大斗「・・・お姉さんは、どうして俺にそんなに優しくしてくれるの?」

    トーカ「奈津美さんがあんたを守る事を決意したのは、困っている人を放っておけないからだ。でも、あんたにこんなに尽くしてくれるのは・・・自分の大切な人を失うことを恐れているからだと私は思う」
  32. 32 : : 2015/06/21(日) 19:41:35
    大斗「恐れ・・・?」

    トーカ「そう、恐れ。多分奈津美さんは・・・毎日毎日、怯えながら過ごしている。あんたがいつ自分の所から居なくなるか不安で不安でしょうがないんだ。そして、あんたを守るためにがむしゃらに行動することで、その恐怖や不安を打ち消そうとしてるんだ。それこそ、自分を犠牲にするほどに」

    トーカ「あの人は強いから、今日まであんたを守り抜いて来た。でも、奈津美さんは強いけれど脆いんだ。だから・・・時折あの人は・・・私とか、長年一緒にいた人にしか分からない程の弱さで・・・救難信号を発することがある」

    大斗「トーカお姉さんは、それを感じたんだね」

    トーカ「本人に自覚は無いんだろうけど、電話の声に悲鳴が混じってる気がした。奈津美さん、演技とかあまり得意じゃないから。そして私は、そんな風に救難信号を発する奈津美さんを見るのが・・・途轍もなく辛いんだ」

    トーカ「だからあんたには、奈津美さんの恐怖を少しでも和らげてほしいの」

    大斗「約束する。こうして動物園に連れてってくれたんだ、そのくらいの事はしないと」

    トーカ「・・・ありがと。それと最後にもう一つ。もし・・・これは最悪の場合だけど・・・あんたがなまはげ会に連れていかれるようなことになったら、その時は・・・絶対死ぬなよ!どんな手使ってでも、生き延びろ!あの人に・・・もう、失う悲しみを味わわせないでくれ」

    大斗「それも約束する」

    トーカ「頼むぞ、ガキンチョ」

    大斗「でも、そんなになるまで自分で自分を追い詰めるなんて、昔何かあったの?」

    トーカ「!?」

    奈津美「お待たせ~!」

    トーカ「あっ、奈津美さん。どうでしたか?」

    奈津美「やっぱりなまはげ会だったから、ボコボコにしてきたよ!」

    トーカ「それはそれは、流石ですね」

    大斗「奈津美お姉さん!」

    奈津美「?」

    突然、大斗は奈津美を呼ぶ。次の瞬間・・・彼は奈津美に抱き着いた。

    奈津美「え、ええ!?」

    トーカ「(な、何のつもりだあのガキィ!)」

    大斗「その・・・いつも俺を守ってくれて、ありがとね」ニコッ

    奈津美「(て・・・天使やぁ)」

    トーカ「(確かに、奈津美さんにはあれが一番の特効薬かも。しかし、突然抱き着くとは、あのガキ末恐ろしい・・・)」
  33. 33 : : 2015/06/21(日) 22:30:46
    その日の夜、三人はトランプ等のゲームをして遊んだ。いつも二人で遊んでいた奈津美達は、三人で遊べるこの機会を大いに満喫し、ゲームは日付の変わる時間まで行われた。

    余談だが、翌朝大斗は同じベットで寝ている奈津美とトーカを見て、再びドン引きしたと言う。

    そして6月24日の正午、奈津美と大斗は東京へと帰るトーカを見送るため、秋田駅の改札前にいた。

    トーカ「二日間、私も楽しませてもらいました。名残惜しいですけど、ここでさよならですね」

    奈津美「本当はずっと居てほしいぐらいだよ・・・次はいつ会えるかな?」

    トーカ「夏休みにまた来るつもりです」

    奈津美「夏休み・・・一か月の辛抱かぁ」

    トーカ「一か月ぐらい我慢してくださいよ。大斗君だって居るんですし、寂しくはないでしょう?」

    奈津美「それはそうだけど・・・ねぇ」

    トーカ「ふふっ・・・では、行きますね」

    奈津美「・・・うん。またね・・・」

    トーカ「見送りの時ぐらい、本音は慎んでくださいよ」

    奈津美「ごめんごめん。またね、トーカ」

    トーカ「はい・・・」

    大斗「またね、トーカお姉さん」

    トーカ「おう!男なんだから、ちゃんと約束守れよ!」

    大斗「もちろん!絶対守るよ!」

    奈津美「約束?何それ?」

    トーカ「秘密です」

    奈津美「ええ!?教えてよ~」

    トーカ「ダメです!それでは今度こそ、さようなら!」

    タッタッタッタッ

    奈津美「に、逃げられた・・・」

    大斗「さっ、トーカお姉さんを見送ったことだし、早く帰ろう。俺があんまり外に居るのはまずいでしょ?」

    奈津美「そうだね。帰ろっか・・・(気のせいかな。大斗君、変わったな。何て言うか・・・大人になった気が)」



    約束を、そして大切な人を守るため、少年は成長する。
  34. 34 : : 2015/06/22(月) 20:22:39
    -Ⅴ-





    トーカが秋田を訪れてから一か月間、奈津美達は平和な日々を過ごしていた。

    一口に平和と言っても、なまはげ会の構成員との戦闘は何度か行われたのだが、どの相手も奈津美にとっては取るに足らない相手だった。

    そういうわけで、奈津美の身の回りには取り上げるべき事件が起らなかったので、ここは喰種捜査官である彼にスポットを当ててみることにしよう・・・



    7月8日日曜日。CCG秋田支部局の会議室では、報告会が行われていた。

    久保田「それじゃあ、それぞれ先週の報告を頼むべ」

    摂津「じゃあ俺達から。悠介、頼む」

    悠介「ええ!?摂津さんが言ってくれるんじゃないんですか?」

    摂津「たまにはお前が言え。調査報告の力も、捜査官には必要な力だぞ」

    悠介「はいはい・・・ええ、先週私達は、広面のマックスバリュー付近で恒常的に狩りを行っていた喰種を駆逐しました。周知の通りレートAの危険な喰種でしたが、特に被害を出すことなく駆逐を完了しました」

    捜査官A「さすが悠介君だなぁ」

    捜査官B「けっ、自慢かよ。裏口入局のくせに・・・」ボソッ

    悠介「・・・尚、この喰種がなまはげ会のメンバーである可能性は希薄であると見られます。以上です」

    久保田「うんうん」

    捜査官C「じゃあ次、俺が行きますね・・・」



    局内において、悠介の立場は非常に極端な所にあった。

    久保田特等や摂津准特等の二人を始めとした7割の捜査官は彼を"秋田の希望"として快く思っている。

    その一方で、残りの3割の捜査官は彼を"裏口入局の異端児"として彼の存在を快く思っていなかった。一部の者は、裏で陰口を叩くものまでいた。

    悠介「(でも、俺は捜査官を続けるしかねんだ。(のぞみ)の為に。そして、いつか秋田支部局の全員に俺の事を認めてもらうんだ)」

    捜査官D「以上で、我々からの報告を終わります」

    久保田「うん。これで全ての報告が終了したね・・・欠席の江畑ちゃんとこ以外は」

    摂津「江畑上等は現在例の喰種を追跡中ですから、仕方ないでしょう」

    久保田「そだね。それじゃあ、俺の方から最近のなまはげ会の動向について報告するだ」
  35. 35 : : 2015/06/23(火) 20:14:34
    久保田「秋田市内では、表立った大きな行動は見られないが、能代方面では最近捜査官が襲われる事件が多発している。月に3、4件のペースだども、今まで捜査官狩りなんてほとんど無かった秋田県からすれば異例の件数だべ」

    摂津「実行犯の喰種の目星は付いているんですか?」

    久保田「もちろん、赫子痕から特定済みだべ。捜査官狩りを行っているのは主に二体。皆も名前は良く聞いたことがあるだろう、"九尾"と"鴉"という喰種だ」

    捜査官A「"九尾"に"鴉"!?」

    捜査官C「最近鳴りを潜めていたから同種との争いによる死亡説も流れてたけど、普通に生きてたんですね」

    久保田「まあ、秋田にこの二体の喰種を倒せる奴なんてほとんどいないから、それは無いとは思ってたけどね。とにかく、両方レートはS~のしったけ危険な喰種だ。普段は襲われないように注意すると共に、戦う時になったら心してかかるように」

    コンコン

    ??「失礼します」

    ガチャ

    テクテクテク

    セミロングの黒髪をなびかせながら会議室に入ってきたのは、先程名前の挙がった女性捜査官、江畑美由紀であった。彼女は元CCG本局勤務で、三か月前に"対なまはげ会"のための増員として派遣され、それから秋田支部局に勤務している。

    久保田「おや、江畑ちゃん。例の喰種の追跡は終わったんだか?」

    江畑「千秋公園の方に追い込みました。あなた達が呑気に会議をしていらっしゃる間にね」

    久保田「ハハハ・・・」

    悠介「(江畑美由紀上等捜査官。東京では単独でSレートを討伐した経験もあるエリート捜査官だども・・・正直この人は苦手だ。んで逆もまた然り、この人もまた、俺を煙たく思ってる人の一人だべ)」

    摂津「追い込んだって事はまだ駆逐してないんだろ?あんたこそ呑気にこんな所に来てていいのか?」

    悠介「(さっすが摂津さん、もっと言っちゃってください!)」

    江畑「最後の追い込みの成功率を上げるために増援を頼みに来たんですよ。そこの・・・清原悠介君に」

    悠介「えっ・・・俺ですか?」
  36. 36 : : 2015/06/24(水) 21:55:40
    午後2時。千秋公園の周辺は、警察と喰種捜査官によって包囲されていた。当然、一般人は通行止めとなっているのだが、その包囲網の中に一台の車が入り込んだ。

    摂津「成る程、完全に袋の鼠ってわけだな。しかしこんな所に追い込んじまって、民間人に被害は出なかったのか?」

    江畑「最初からここへ追い込むつもりでしたから、数時間前から立ち入り禁止にしていました。それより摂津准特等。貴方をお呼びした覚えは無いのですが」

    摂津「生憎俺は、悠介のパートナーなんでね」

    江畑「・・・まぁ、准特等が増援に来てくださると言うのは心強いです。例え田舎の捜査官でも」

    悠介「ちょっと、あんたさっきから」

    摂津「やめろ悠介。上司だ」

    悠介「くっ・・・そんで、俺は一体何をすればいいんですか?」

    江畑「先程、摂津准特等が袋の鼠と言ったが、厳密にはこの包囲網は完全ではない。この広い千秋公園を包囲するには、この田舎は人手が足りな過ぎる。そして、その事を標的の喰種も察知している可能性がある」

    悠介「標的は"レッドテイル"でしたっけ」

    江畑「そうだ。今までの捜査報告書によれば奴は何度か我々の追跡を逃れた経験がある。我々の戦力も熟知しているだろう」

    摂津「となると、包囲網の穴が見つかるのは時間の問題・・・まずいんじゃねぇのか?」

    江畑「幾つか対処法はあります。例えば、誰かに立ち入り禁止に気付いていない民間人を装わせ、公園内をうろついてもらうとか・・・」

    悠介「囮作戦ってことですか!?」

    江畑「ああ。成功率は高いと思うぞ?奴は見つかるかわからない包囲網の穴を探すよりは、ほぼ確実に逃げ切ることができる人質作戦を選ぶだろうからな。CCGは民間人の人命を最優先にしている以上、人質を取られたら手出しはできないのも事実だ。だが、その人質が捜査官だったら?」

    摂津「江畑!!!お前、一人の命を踏みにじる気か!?」

    江畑「そんなつもりは無い。私の作戦では、人質を取るために奴が動いた所を叩くという寸法だ。そしてこの作戦を盤石のものにするために、人質役は捜査官らしからぬ人間がやった方がいい。例えば・・・"特例入局"により捜査官となった、高校生とか」

    悠介「!?・・・そういうことっすか」
  37. 37 : : 2015/06/26(金) 23:41:41
    摂津「悠介を連れて来たのは、囮に使うためだったのか!」

    江畑「何かいけないことでも?」

    摂津「ぐっ・・・」

    悠介「分かりました。その囮役、引き受けさせていただきます」

    摂津「・・・悠介」

    江畑「それはありがたい。では早速作戦を開始しよう。まずは、そのクインケの入ったギターケースを置いてもらおうか」

    悠介「分かってますよ」

    悠介は江畑の指示をすんなり聞き入れ、ギターケースを肩から下ろす。

    悠介「あっ、でも流石に手ぶらは怖いんで、傘を持ってもいいですかね?」

    江畑「傘?それぐらいなら構わないが、そんなもので喰種を相手に何ができると言うのだ」

    悠介「無いよりはマシ、お守りみたいなもんですよ。それに"特例入局"の先輩の有馬さんなら、傘でも喰種を倒せるかなと思いましてね」

    江畑「ほう・・・まあ良い。これからお前に奴をおびきだす場所を教える。確実に覚えろよ。間違えればお前は成す術もなく死ぬだけだ」

    悠介「はいはい・・・」



    午後2時半。千秋公園内を一人の高校生がうろついていた。

    眼鏡を掛け、服装は学ラン。どこからどう見ても普通の高校生である。

    悠介「(まさか着替えに変装までやらされるとは・・・)」

    眼鏡を掛けるように指示したのはもちろん江畑である。彼女は"レッドテイル"が悠介の顔を知っている可能性を危惧し、このように指示したのだ。因みに、カツラも着用している。

    悠介「(さて、そろそろ例の場所に向かうか)」

    公園内を一通り歩き回った悠介は、江畑に指定された待ち伏せ場所へと向かい始めた。

    江畑に指定された場所は、彌高神社という神社であった。

    千秋公園の奥にあるこの神社は、秋田出身の国学者である平田篤胤と、同じく秋田出身の思想家で彼の門人である佐藤信淵を祀っている。この二人はテストに出るので日本史選択の高校生は覚えておくことをお勧めする。だが、今回江畑がこの神社を指定した理由にこの事は無関係である。

    江畑がこの場所で待ち伏せすることを決めた理由。それは、この神社には千秋公園内を通らずに行くことができる抜け道が存在し、気付かれないように待ち伏せするにはこの上なく好条件であるからだ。

    悠介「(さぁ・・・来るならけ!)」

    手筈通り、彌高神社の近くにあるベンチに腰を掛ける悠介。丸腰同然で喰種と対峙することへの恐怖と緊張から、心臓の音がどんどん大きくなっていく。そして、その音が周りにも聞こえるのではないかと思えるほど大きくなりつつあったその時・・・

    木の葉が揺れる音がした。
  38. 38 : : 2015/06/27(土) 18:23:21
    彼はその音を聞き逃さなかった。即座に音の発生源へと目を向けると、そこには細身の男の姿があった。現在、立ち入り禁止令が敷かれている千秋公園内に、悠介以外に人間はいない。つまりその男は・・・

    悠介「(レッドテイル・・・)」

    ここで身構えては作戦が台無しになるかもしれない。あくまで彼は平静を装い、その男の正体に気付いていないふりをしようとする。

    しかしその男は、それを誰かに暴かれるよりも早く自らの正体を誇示した。

    レッドテイル「ちょっと良いかな、お兄さん」ビキビキ

    真っ赤に染まった眼・・・赫眼をしっかりと見せつけながら、レッドテイルは悠介に声を掛ける。

    悠介「ひっ・・・喰種!?」

    任務の為とは言えいささか屈辱的ではあったものの、悠介は喰種を前にして狼狽える振りをする。

    レッドテイル「喰われたくなかったら、ちょっと着いてきてくれるかな?なぁに、言うことさえ聞いてくれれば殺したりはしないさ」

    悠介「た、助けてぇ!!!」ダッ!

    レッドテイル「待て!逃げれば殺・・・」

    ??「死ぬのは貴様だ」

    レッドテイル「!?」

    突然の第三者の声に、咄嗟に彼は振り向いた。彼の眼には、尾赫のクインケ"マサムネ1/2"を両手に携え、自分に襲い掛かってくる女が映った。

    ザザンッ

    レッドテイル「がっ!」

    一瞬にして繰り出された二度の斬撃を浴び、レッドテイルは地面へと倒れ込んだ。

    レッドテイル「くそ・・・やられた。二刀流・・・本局から転属して来たって言う・・・江畑美由紀か」

    江畑「尾赫・Aレート"レッドテイル"、大したことなかったな」

    レッドテイル「大したことないねぇ・・・」ボソッ

    ズズッ

    悠介「上等!危ない!」ダッ

    江畑「!?」

    ギギィン!

    江畑の持つ二本のクインケが、レッドテイルの赫子によって弾き飛ばされてしまった。

    江畑「まだ動けたのか!」

    レッドテイル「チープな演技に引っ掛かりやがって、そんなんだから辺境まで飛ばされるんだよ!」

    江畑「!!」

    レッドテイル「死・ね・ぇ・?」

    ズブッ

    レッドテイル「っ・・・ぎぃああああああああああああああ!!!!??」

    悠介「喰種も眼球を始めとする粘膜はかちゃぺね(貧弱だ)ってね。ほら上等。傘を持ってきて正解だったでしょ?」
  39. 39 : : 2015/06/27(土) 22:30:22
    レッドテイル「ぐぬぅ・・・傘で攻撃だと・・・なめるなぁ!!!」ダッ!

    悠介「やばっ、ごしゃかれて(怒らせて)しまったべ」

    絶体絶命。悠介がそれを確信した直後、彼の視界が無数のフキノトウで覆われた。

    レッドテイル「!?・・・ぐぼぼぼっ!」

    ドサッ

    摂津「おいおいお前ら、危ないところだったな」

    悠介「摂津さん!」

    摂津「あれれぇ、江畑上等。クインケはどうしたのかなぁ?」

    江畑「くっ・・・」

    レッドテイル「・・・」ノソノソ

    摂津「おっと、トドメを忘れてた」ガガガ

    レッドテイル「ぁ・・・」ピタッ

    摂津「さて、これで"上等殿の作戦通り"レッドテイルの駆逐に成功したわけだ。祝杯を上げに近くの居酒屋にでも行こうぜ」

    江畑「・・・私には次の仕事があります!行きたければあなた達だけで行ってください!」

    テクテクテク

    摂津「あら、行っちゃった。ちょっとやり過ぎちまったかねぇ」

    悠介「あのくらいが丁度良いんじゃないですか」

    摂津「お前、結構酷い奴だな」

    悠介「だってあの人、嫌ですから」

    摂津「まっ、気持ちは痛いほどわかる。だけど江畑は江畑で苦労してるんだろうよ。秋田転属は"対なまはげ会"の名目があるとはいえ一種の左遷と言えるからな」

    摂津「それに、いつか嫌いな奴とパートナーになることだってある。そういう時には嫌いだった奴とも上手くやるのが良い捜査官だってことは覚えておけよ」

    悠介「分かったっす」

    摂津「しっかし、本当に傘で喰種に一泡吹かせちまうとは・・・末恐ろしいね」

    悠介「不意を突いただけですよ」

    摂津「そうかい。でも、もうあんな無茶はするなよ。お前はまだ死ぬわけにはいかないだろうし、CCGにとっても死んじゃ困る逸材なんだからな」

    悠介「こんな所で死ねませんよ。絞殺魔(グリッパー)をこの手で狩るまでは・・・」



    秋田を守る白い鳩。

    彼らが居る限り、秋田に悪は栄えない。
  40. 40 : : 2015/06/28(日) 22:35:06
    -Ⅵ-





    8月4日土曜日、午前11時。奈津美と大斗は秋田駅の改札口の前に居た。

    二人がここに居る理由は前と同じだった。夏休みということで、秋田にやって来ることになったトーカを迎えに来たのである。何故来訪日が夏休みが始まってから2週間経った今日になったかと言うと、7月21日に夏休みが始まってから昨日までは、秋田東高校では夏期講座が開かれていたため、実質学校があるのと同じであったからである。

    さて、先程述べたように二人がここに居る理由は同じである。しかし、今日は前回とは大きく違うことがあった。それは人の多さである。

    奈津美「何でこんなに混んでるの・・・(こんなに人が多いんじゃ全く気が抜けないよ)」

    大斗「今日は何か大きなイベントがあったような・・・何だったっけ?」

    タッタッタッタッ

    ???「あの新幹線。ノロマの癖に何であんなに混雑してんだよ・・・あっ、奈津美さん!大斗!」

    奈津美「トーカ!」

    大斗「久しぶり、トーカお姉さん」

    トーカ「おう、久しぶり」

    トーカは人込みを掻き分けながら二人の元へと歩み寄った。

    トーカ「すごい人だかりですね。一体何事ですか?」

    奈津美「大斗君によると何か大きなイベントがあるみたいだよ。それが何なのかは分からないみたいだけど」

    トーカ「肝心な所が分かってねぇじゃねぇか」

    大斗「うるさいな~」

    ティリリリリン♪ ティリリリリン♪

    奈津美「私の携帯だ。誰からだろう・・・香織!?」

    トーカ「奈津美さんの話によく出るクラスメイトですね」

    奈津美「そうそう・・・もしもし?」

    香織『もしもし奈津美、今夜って空いてる?』

    奈津美「えっと・・・実は今日、東京の友達が来てるんだ。だから今夜は空いて無いの」

    トーカ「私の事は気にしないで、遊びに行ってもいいんですよ?」

    奈津美「そういうわけにはいかないよ」ボソッ

    香織『そっか・・・それなら仕方ないね』

    奈津美「ごめんね」

    香織『ううん・・・いや、待てよ。今夜どこかに行く予定はあるの?』

    奈津美「今夜は家で遊ぶつもりだったけど・・・」

    香織『成る程、それなら・・・』

    奈津美「?」

    香織『もしその東京の友達が良ければさ・・・一緒に竿燈見に行かない?』
  41. 41 : : 2015/06/30(火) 22:17:19
    奈津美「あっ・・・それだ!」

    香織『え、何が!?』

    奈津美「いやその・・・東京の友達を出迎えに秋田駅に居るんだけど、すごい混んでるからずっと何でだろうって思ってたの」

    香織『なるほどなるほど。それで、どうかな?』

    奈津美「ちょっと相談するから、返事は後でで良いかな」

    香織『オッケーよ』

    奈津美「じゃあ、決まったらまた連絡するね」

    香織『りょうかーい!』

    奈津美「じゃあまた・・・」ポチッ

    奈津美「電話の内容は聞こえてた?」

    トーカ「ええ、大体は」

    大斗「昨日から竿燈だったってすっかり忘れてたよ」

    奈津美「それでどう?」

    トーカ「私は良いですよ。と言うかむしろ行きたいです。奈津美さんの友人に会ってみたかったですし、何より竿燈を見てみたいので」

    大斗「俺も行きたい。竿燈祭りにも行ったことが無いから」

    奈津美「となると・・・後は山田さんの許可が必要ってことね」



    奈津美「もしもし?」

    山田『奈津美ちゃんか。どうしたんだい?』

    奈津美「私の友達と遊ぶことになったんですけど、大斗君を連れて行って大丈夫ですか?もちろんトーカも居ますが」

    山田『友達って、人間のってことかい?』

    奈津美「はい」

    山田『う~ん、まあそれぐらいなら良いかな』

    奈津美「えっ、良いんですか!?」

    山田『大斗君もお父さんから人間社会に溶け込むための心得は教わっているし、問題はなまはげ会や白鳩に目を付けられないかということだからね。一般人との交流は何も問題は無いよ』

    奈津美「分かりました!ありがとうございます!」

    山田『警戒は怠らないようにね』

    奈津美「はい!・・・」ポチッ

    奈津美「よしっ、これでオッケー!早速香織に連絡しようっと」

    トーカ「あの・・・竿燈に行くって言わなくて良かったんですか?」

    奈津美「あっ・・・でも、別に大丈夫でしょ。動物園に行くのはオッケーだったんだし」

    大斗「動物園と竿燈じゃ、何かと規模が違いすぎるよ」

    奈津美「あはは・・・まあ気にしない方向で」

    トーカ「人が多ければその分見つかりにくくなるわけですから、きっと大丈夫ですよ」

    奈津美「そうだよね。じゃあ決定で!」

    大斗「後で山田さんに怒られても知らないよ・・・」
  42. 42 : : 2015/07/01(水) 22:37:39
    結局、山田からちゃんとした許可を得ないまま、奈津美は香織に竿燈に行く旨を伝えた。その後の話し合いの結果、香織とは18時半に奈津美の家で合流することになった。

    奈津美「約束の時間まで、家の中で暇を潰してようか」

    大斗「今日は人生ゲームで遊ぼうよ」

    トーカ「買ったんですか?」

    奈津美「トーカが来るのに合わせて昨日買ったの」

    トーカ「そういうことなら、やらない訳にはいきませんね」

    大斗「決まりだね!」

    三人は駅から真っすぐアパートへと移動し、それから18時半まで人生ゲームを始めとする各種ゲームで遊んだ。



    ピーンポーン

    奈津美「あっ、来たみたいだね」

    トーカ「それでは行きましょうか」

    三人はゲームを中断し、玄関へと向かった。奈津美が扉を開けると、廊下に浴衣姿の香織が立っていた。

    香織「東京の友達が来てるのに、急に誘ってごめんね」

    奈津美「良いよ良いよ。友達も竿燈には行ってみたかったって言ってるし、何より私が行ってみたかったから」

    香織「本当?良かった~。それで、東京の友達はどこに?」

    奈津美「玄関に居るよ。二人とも、準備は出来た?」

    トーカ「はい」ヒョコッ

    香織「おっ、奈津美に負けず可愛い子じゃない」

    トーカ「あっ、あなたが香織さんですか?」

    香織「そうそう、私が須田香織。初めまして」

    トーカ「初めまして。私の名前は霧嶋董香です」

    香織「トーカちゃんだね」

    奈津美「それともう一人・・・私の従弟が来てるの」

    大斗「白鳥大斗、よろしくね」

    香織「おう、よろしく!」

    奈津美「自己紹介はこんな所で大丈夫かな?」

    香織「そうね。20分後には竿燈の入場が始まるし、出発しちゃおっか」

    トーカ「そうしましょう!早く見たいな~」

    大斗「俺も!」

    香織「おしっ!東京の都会っ子達、私に着いて来なさい!」
  43. 43 : : 2015/07/02(木) 23:14:07
    香織の先導の下、一同は奈津美の家を出発し、竿燈大通りに向かって歩き始めた。

    道路に出ると、秋田では見たことが無いような数の歩行者が道を歩いていた。その多くは奈津美達と同様に竿燈大通りへと向かっている。子供から老人まで様々な人達が間近に迫る竿燈祭りに心を弾ませながら道を歩いている姿を見て、東京出身の二人は竿燈という祭りが多くの人に愛されている事をしみじみと感じ取った。

    大斗「すごい人だね」

    香織「秋田を代表する祭りだからね。東北三大祭りの一つにもなってるし、他の全国的な祭りと比べても勝るとも劣らないぐらい盛り上がるわ」

    奈津美「すごいお祭りなんだね」

    香織「秋田県民の誇りよ」

    竿灯大通りに近づくにつれ、入場待機中の竿燈がちらほらと目についた。そして歩くこと20分、一同は山王十字路へと到着した。

    交通規制によって通行止めとなっている竿燈大通りには、幾つもの太鼓を載せた車と、それに続いて竿燈を地面と水平にした状態で運ぶ集団がゆっくりと進んでいく姿が見られた。

    香織「あちゃちゃ・・・もう入場が始まっちゃってたよ」

    トーカ「あれが竿燈ですか!綺麗ですね」

    大斗「太鼓と笛の音も風情があって良いな~」

    トーカ「ガキの癖に風情とか使ってんじゃねぇよ」

    大斗「風情が分からないからって嫉妬するのは良くないよ」

    トーカ「んだと!」

    奈津美「二人とも喧嘩しないっ」

    香織「はははっ、仲良いんだね」

    竿灯の入場には約30分程度かかるのだが、その間和楽器によって奏でられるお囃子が絶え間なく流れ続けた。

    そして、277本(2012年の本数)の竿燈の入場が完了した。

    実行委員「それでは、皆様お待たせしました。ここで穂積志秋田市長より、皆様に開会の挨拶を申し上げます」

    穂積「えぇ・・・皆様、こんばんは~!!!秋田市長の穂積でございます!本日は全国各地、世界各国からようこそ、秋田竿燈祭りに御出でくださりました。皆様を心から歓迎申し上げます。本日は・・・」

    穂積市長が歓迎の言葉と、竿燈祭りを楽しむよう促す挨拶を"日本語"で語る。そして"日本語"での挨拶が終わると・・・

    穂積「Good evening.Ladies and gentlemen・・・」

    恒例の英語での挨拶が行われた。秋田訛り(?)の片言な英語であるのはご愛敬である。

    市長の全ての挨拶が終わると、実行委員長の挨拶となった。

    実行委員長「・・・それでは、まずは竿燈囃子からお聞きいただきましょう」

    実行委員長の言葉に続き、笛の音が鳴り響く。

    直後、竿燈囃子が一斉に流れ出した。太鼓が奏でる軽快なリズムと、横笛から響き渡る趣のある音楽が、竿燈大通り一帯を包み込む。

    そして、二度目の笛の音と共に・・・

    277本の金色の稲穂が、大空へと舞い上がった。
  44. 44 : : 2015/07/06(月) 22:24:30
    大斗「わあぁ・・・!」

    トーカ「きれい・・・」

    奈津美「本当・・・すごい」

    香織「秋田県民として、そう言ってもらえるのは嬉しいな」

    それから暫く一同は、目の前で繰り広げられる竿燈演技に、時に感嘆の声を上げながらただひたすらに見入った。



    香織「そろそろ屋台村に立ち寄ってみる?」

    奈津美「えっと・・・」

    香織の誘いに、奈津美は頭を掻きながら少し困ったような顔をした。それも当然、人間の食べ物が食べられない喰種にとっては、屋台村に行くことはデメリットしかないからである。しかし、人間であればそろそろお腹が空いてくる頃であり、理由も無しに断っては自分達の正体に勘付かれるかもしれない。

    どうする?と奈津美はトーカに目配せで尋ねた。彼女はそれに対し、こくりと頷いた。

    奈津美「そうだね。行こっか」

    香織「うん!案内するから私に着いてきて!」

    こうして奈津美達は渋々ながらも屋台村へと向かう事となった。



    屋台と言えば、読者の皆様は何を思い浮かべるだろうか。竿燈祭りに出店される屋台には、フライドポテトやフランクフルト、かき氷等の定番のものはもちろん、B級グルメの横手焼きそば等秋田特有の(?)ものもある。

    しかし、それらの食べ物は全て喰種にとっては食べ物ではない。だが何も食べない訳にはいかないので、三人はあまり噛まずに呑み込めるフライドポテトを購入した。一方、食いしん坊の香織は横手焼きそば、焼き鳥、ポテトリングの3つを購入した。

    香織「う~ん、おいしい!」

    奈津美「うん、おいしい(まずっ)」

    香織「他に食べなくていいの?もし欲しいなら、私の焼きそばあげるよ?」

    奈津美「良いの良いの!」

    大斗「さっき奈津美お姉さんの家でお菓子をいっぱい食べちゃって・・・」

    香織「祭りの前にはお腹を空っぽにするのは常識でしょ!」

    奈津美「うっかりしてたよ」

    トーカ「ところで、食べ終わったらどこへ行きましょうか」

    香織「ええっと次は・・・あっ!危うく忘れるところだった!」

    奈津美「?」

    香織「今日は悠介が竿燈を上げてるの!私、あいつに絶対奈津美と見に行くって約束したのよ!」

    奈津美「悠介君が!?」

    トーカ「(あれ、悠介って確か・・・)」

    香織「ローソンの前辺りで上げてる筈だから、食べ終わったら早速行こうよ!」

    奈津美「う、うん」
  45. 45 : : 2015/07/07(火) 21:10:33
    トーカ「あの・・・私はもうちょっと屋台を見て来ますね」

    奈津美「あっ、私も着いていこうかな。香織、大斗君をお願いしても良い?」

    香織「合点、承知」

    テクテクテク

    トーカ「さて、大斗君をどうしましょうか」

    奈津美「悠介君に顔見られちゃってるからなぁ。変装してるとはいえ流石に不安だし、トーカと一緒に私達とは別行動をとってもらおうかな」

    トーカ「私もそのつもりでした。問題は別行動をとる理由ですね」

    奈津美「大斗君がトイレに行くのに着いていってもらうとか?」

    トーカ「トイレなら待つと思いますよ」

    奈津美「確かに。う~ん、それなら・・・」



    テクテクテク

    香織「あれ、結局何も買わなかったの?」

    トーカ「はい。雰囲気だけでも十分楽しめましたよ」

    奈津美「それでこれからなんだけど、大斗君とトーカは別行動でも良いかな?」

    大斗「?」

    香織「良いけど・・・どうして?」

    奈津美「大斗君の友達も今日竿燈を上げてるの。そうだよね?」

    大斗「えっ・・・あ、うん!」

    香織「あれ、大斗君って東京から来たんじゃないの?」

    トーカ「昔は秋田に住んでたんですよ」

    香織「へぇ・・・」

    トーカ「じゃあ行こうか、大斗君」

    大斗「うん!」

    香織「それじゃあ、腹ごしらえも済んだし私達も行きますか」

    奈津美「そうだね(ふぅ・・・何とか上手くいった)」

    こうしてトーカ達と別れた奈津美達は、悠介が竿燈を上げているというローソン前へと向かった。

    香織「見つけた!山王三丁目が出してる竿燈!悠介はあそこで竿燈を上げてる筈よ」

    奈津美「悠介君って楢山に住んでるんじゃなかったっけ?」

    香織「小学校のころまで山王に住んでたらしいよ。あっ、居た居た!悠介~!」

    香織が大声で悠介の名を呼ぶ。

    奈津美「ちょっと、皆見てるよ」

    香織「気にしない気にしない。ほら、気付いたみたいよ」

    悠介が奈津美達の居るほうへと目を向けたので、二人は大きく手を振った。すると、彼も手を振って返した。

    香織「もっと近付くよ。離れないでね」

    奈津美「うん(あれ、今悠介君の所で竿燈を上げてるのって・・・)」

    久保田「どっこいしょ!どっこいしょ!」

    捜査官A「さすが特等!竿燈も特等級ですね!」

    奈津美「(やっぱり、特等の久保田さんじゃん!)」
  46. 46 : : 2015/07/08(水) 20:24:34
    摂津「あれ、奈津美ちゃん?」

    奈津美「ど、どうも(摂津さんまで居るし・・・)」

    香織「知り合い?」

    奈津美「店の常連さん」

    摂津「悠介の演技を見に来たってところだろう。どれ・・・悠介!次、お前が上げろ!」

    悠介「えぇ~、しょしっすよ」

    摂津「つべこべ言わずにやれ。上官命令だ」

    香織「上官?」

    摂津「年上ってことだ」

    悠介「はぁ~分かりました。久保田さん、変わります」

    久保田「おう!任せるべ」

    久保田は掌で支えている竿燈を正確に悠介へと受け渡した。竿燈を受け取った悠介は、一歩も動くことなく揺れる竿燈を静止させた。

    香織「うまっ!」

    奈津美「すごい・・・」

    摂津「折角だから、もっとすごいのを見せてやりな」

    悠介「簡単に言わないで下さいよ。まあどうせ拒否権は無いでしょうし、やりますけど」

    腹をくくった悠介は、右の掌で支えていた竿燈を指の間からずらして腰へと乗せた。

    香織「あれって"腰"じゃん!そんな技までできるの!?」

    奈津美「それってすごいの?」

    香織「うん。竿燈で一番難しい技だって言われてるよ」

    奈津美「へぇ・・・(秋田の有馬は竿燈も天才的だったってことね)」

    香織「あっ、ちょっとトイレに行ってきていいかな?」

    奈津美「分かった。ここで待ってるね」

    タッタッタッ

    奈津美「それにしても、山王三丁目の名でCCG秋田支部局で竿燈を出してるとは思いませんでしたよ」

    摂津「あれ、分かっちゃった?」

    奈津美「普通分かりますよ。捜査官の知り合いが三人以上いればですけど。どうして名前を偽っているんですか?」

    摂津「喰種に捜査官の顔が割れていいことは無いからな。無理に隠すような事はしないが、こっちから言いふらす事もしない。それに、嘘は吐いてないぞ。CCG秋田支部局の住所は山王三丁目だ」

    奈津美「はは・・・なるほど」

    悠介「ふぅ~・・・奈津美さん、来てくれてありがとうだべ」

    摂津「もう終わったのか?」

    悠介「はい。久保田さんが飢えた獣のような目でこちらを見ていたので、もう一度渡してきました」

    摂津「あの人の竿燈好きには天晴だよ」

    奈津美「悠介君の上げる竿燈、しっかり見させてもらったよ。かっこよかった!」ニコッ

    悠介「えっ・・・ど、どうも」

    摂津「照れんなって」ニヤニヤ

    悠介「て、照れてなんかいませんよ!」
  47. 47 : : 2015/07/09(木) 22:35:09
    タッタッタッ

    香織「お待たせ~」

    悠介「香織も来てくれてありがとうだ」

    香織「悠介があんなに竿燈が上手かったなんて知らなかったよ。どうして言ってくれなかったのよ」

    悠介「言いふらして失敗したらしょしぃもの」

    香織「男なんだからもっと自信持ちなよ。さて、そろそろ失礼させてもらうとしよっか。トーカちゃん達と合流しないとね」

    悠介「トーカちゃん?」

    奈津美「私の東京の友達」

    悠介「へぇ・・・」

    香織「それじゃあまたね!」

    奈津美「夏休み明けからまたよろしくね」

    悠介「おう」



    香織「トーカちゃんと連絡は着いた?」

    奈津美「うん。今は山王十字路にいるみたいだから、そこで待ってるように伝えておいた」

    香織「・・・そう言えば奈津美ってさぁ、悠介の事どう思ってるの?」

    奈津美「なっ・・・ななな何を言っているのかな君はぁ!?」

    香織「どんだけ動揺してんのよ。自ら暴露してるようなもんだよ」

    奈津美「あっ・・・」

    香織「やっぱり好きなのかぁ。悠介の演技を見てる時の奈津美の顔、今日で一番活き活きしてたから」

    奈津美「いや、好きって程じゃないと思うよ。気が無いと言えば・・・嘘になるかもだけど」

    香織「・・・まっ、私はお似合いだと思うから、本当に好きだった時には応援するよ」

    奈津美「ど、どうも・・・」

    テクテクテク

    奈津美「(確かに、彼の事が気になり始めてはいる。そしてそれが恋とは違うものだと断言することは出来ない。でも・・・彼とは、何があっても心の底から思い合う事は無いような気がする。その理由は、喰種と人間だからとかそういうことではなくて・・・だけど全く違う訳でもなくて・・・何だろうな)」

    奈津美「(結局は、ただの勘・・・か)」



    それから竿燈演技が終わる時間まで、奈津美達は四人纏まって竿燈見物を楽しんだ。

    この夏の思い出は、四人にとってそれぞれ最高の思い出となった。

    特に、奈津美と大斗にとっては・・・

    まごうことなく人生最高の思い出であった。
  48. 48 : : 2015/07/10(金) 22:20:15
    -Ⅶ-





    日常とは、一瞬で崩れ去るものである。



    8月31日金曜日。夏休みは二週間前に終わっており、長期休業明けのテストも済ませた秋田の高校生たちは平凡な日々を過ごしていた。

    奈津美「だいぶ涼しくなってきたな・・・」

    秋の訪れを肌で感じ、奈津美はしばし感慨に耽る。

    この日の下校は一人だった。悠介は定期的に開かれる捜査会議に出席するため、放課になって早々に教室を駆け出していった。

    奈津美「(結局、七月のあの事件から特別危ない場面は無かったな。"なまはげ会"にも大きな動きは無いし、このまま平穏無事で過ごせれば一番なんだけど・・・)」

    パチンッ

    自転車を漕いでいた奈津美は、突然自分の頬に自らの張り手を浴びせた。

    奈津美「(ダメダメ!平和を願うのは良いけど、腑抜けた考えをしてるといざって時に対応出来なくなるぞ!山田さんにも頼まれてるんだし、大斗君を守り抜くために一層気を引き締めないと・・・)」



    ???「・・・あれが"白鳥"の護衛役の喰種か。見た目は普通の女だな」

    ???「侮ってはいけませんよ。Aレート程度では歯が立たないそうですし、"追跡者(チェイサー)"を倒したという噂もあります」

    ???「へぇ・・・まっ、俺達の敵では無いだろう。問題は奴の家に"白鳥"が居るかだが」

    ???「私はどうだって良いと思いますよ。居ればそれでよし、居なければ奴を拷問して吐かせればいい」

    ???「怖いねぇ・・・だが、俺はクロバの意見に賛成だ」

    クロバ「それは良かった。では尾行を続けましょう。彼女が家に着いたらすぐに襲撃ですよ、ツクモ君」

    ツクモ「おうよ」
  49. 49 : : 2015/07/11(土) 22:28:27
    奈津美「ただいま~」

    大斗「お帰り、奈津美お姉さん。今日も仕事?」

    奈津美「うん。遊びに出掛けるために休みを貰ってることもあるから、その分何もない日はちゃんといかないと」

    大斗「そっか・・・」

    奈津美「いつも一人でお留守番させちゃってごめんね」

    大斗「ううん。こっちこそ、いつものことなのにいちいち聞いてごめんね。何だか急に、一人になるのが怖くなって・・・」

    奈津美「大丈夫?どうしてもって言うなら今日は休みを貰うよ」

    大斗「気にしないで。たぶん気のせいだから」

    奈津美「そう・・・」

    虫の知らせ。

    後になって見れば、大斗が感じたこの感覚はまさしくそれだったのだろう。しかし、彼女達がそれに気付く筈がない。仮に気が付いたとしても、この時にはもう・・・

    悲劇の運命を変える術は、断たれていたのかもしれない。



    パリィィン!!!

    大斗「!?」

    奈津美「ガラスが割れた音?(ボールがぶつかったのかな?でも、ここら辺に公園なんて・・・)」

    疑問を抱きながらも、奈津美は音のした方へと向かう。

    奈津美「!?」

    そこにはボサボサの茶髪を生やした中学生くらいの少年と、夏にもかかわらず黒いロングコートを着た長身で長髪の男がいた。

    クロバ「少々散らかし過ぎてしまいましたね」

    ツクモ「これからもっと散らかるんだ。構う事ぁねぇよ。それより・・・来たみたいだぜ」

    奈津美「あなた達、何者だ!?」

    クロバ「なまはげ会所属のクロバと申します。そちらの彼はツクモと言います」

    奈津美「(やっぱりなまはげ会・・・)どうしてこの場所が?」

    ツクモ「お前のことを尾けさせてもらった」

    奈津美「なるほど、"私"をね・・・」

    テクテクテク

    大斗「お姉ちゃん、何かあったの・・・だ、誰!?」

    クロバ「おや」

    ツクモ「やっぱビンゴか」

    奈津美「だ、大斗君!今すぐ逃げ」

    ツクモ「俺達から逃げれるとでも?」ゴゴゴゴゴ

    奈津美「・・・(この威圧感・・・私が尾行に気付けなかった事と言い、並の喰種じゃない。大斗君を一人逃がすのは逆に危険そうね・・・)」

    ツクモ「まあそう慌てるな。心配しなくても、"白鳥"はお前をぶっ殺してからゆっくりと拉致してやるからよぉ」

    奈津美「へぇ・・・やる気満々ってわけか」
  50. 50 : : 2015/07/13(月) 23:40:19
    ツクモ「そっちこそ、戦う覚悟は出来てるみたいだな。クロバ、お前は手を出すなよ」

    クロバ「10分以内に済ませてくださいよ。それ以上の長居は色々と面倒です」

    ツクモ「女一人にそんなに掛かるわけねぇだろ」

    コンコン

    奈津美「!?」

    隣人A「奈津美ちゃん、今何か大きな音がしたみたいだけど大丈夫?」

    奈津美「に、逃げてください!喰種が出」

    奈津美が隣人に逃げるように警告しようとしたその時・・・

    ヒュンッ

    ザクッ

    ツクモの尾骶骨付近から尾が現れ、その尾は瞬く間に伸び玄関の扉を貫いた。

    隣人A「あ・・・・・・」

    隣人B「・・・きゃあああああ!!!化け物ぉ!!!」

    ツクモ「チッ、もう一人居やがったのか」

    奈津美「お前ぇ!!!」ダッ

    奈津美は一瞬にして間合いを詰めると同時に、右拳を突き出した。しかし、難なく掌で受け止められてしまう。

    奈津美「くっ・・・」

    ツクモ「何だぁ?怒ってんのか?」シュッ

    もう片方の手で繰り出されたパンチを、奈津美は身を屈めて回避する。それと同時に、足払いを仕掛ける。

    ピョンッ

    ツクモ「全く・・・理解できねぇぜ」

    空中へと跳び上がることで足払いを躱したツクモは、今まで掴んでいた奈津美の右拳を放すと同時に、身体を捻り始める。そして・・・

    ツクモ「人間を庇う喰種の気持ちはよぉっ!」ブオンッ

    空中で身体を一回転させ、奈津美へと回し蹴りを叩き込んだ。

    奈津美「がっ・・・」

    大斗「お姉さん!」

    奈津美「大丈夫!心配しないで!」

    ツクモ「そういう甘ちゃんには、世の中の厳しさをキッチリ教えてやらないとなぁ・・・」

    ゾゾゾゾゾ

    ツクモの尾骶骨付近から新たに2本の尾が生え、合計3本の尾赫が発現した。

    奈津美「(身体能力、格闘センス、赫子の威圧感・・・どれをとっても並以上。これは出し惜しみはしてられない・・・)」

    奈津美「こっちこそ、大人になった気でいる中坊を黙らせないとね・・・」

    ドウッ!

    奈津美の腰付近から、8本の赫子が発現した。

    クロバ「ほう」

    ツクモ「・・・"8本"ね」
  51. 51 : : 2015/07/14(火) 23:43:58
    同刻、CCG秋田支部局に一本の通報が入った。

    捜査官E「摂津さん!喰種が出現したとの通報が!」

    摂津「分かった、直ちに出動する。行くぞ悠介」

    悠介「はいっ」

    摂津「それで場所は?」

    捜査官E「大町六丁目のアパートだそうです」

    悠介「え・・・?」



    奈津美「数の力を・・・見せてあげる!」

    ヒュヒュヒュヒュヒュン

    奈津美は5本の赫子を時間差を付けてツクモ目掛けて振り下ろす。

    ツクモ「数は多いが・・・淡泊なんだよ!」

    ツクモは5本の赫子を全て躱し、自身の3本の赫子を奈津美へ突き出した。しかし彼女にはまだ3本の赫子が残っており、それらを用いて彼の攻撃を防いだ。それと同時に・・・

    ギュオッ

    ツクモの背後から5本の赫子が、彼の体を貫かんと襲い掛かって来た。彼女の狙いは初めからこれだったのだ。

    ザシュ!

    ツクモ「ごっ!」

    奈津美「(一本しか当てられなかった・・・あれじゃあ直ぐに治る)」

    ツクモ「小細工しやがって・・・こんなん屁でもねぇんだよっ!」ダッ

    奈津美「だったら正々堂々と捻じ伏せてあげる!」

    赫子を振るいながら、勢いよく奈津美へ襲い掛かるツクモに対し、彼女は8本の赫子を以って迎え撃つ。

    ガインガインッ ガキィッ
    ガキィン!

    僅か数秒の間に、何十回にも渡って二人の赫子がぶつかり合う。

    大斗「互角・・・」

    クロバ「いや」

    ダッ!

    赫子が行き交う隙間から、奈津美がツクモの眼前へと飛び出した。

    ツクモ「な!?・・・もがっ」ガシッ

    奈津美はツクモの顔を鷲掴みにし、そのまま床へと叩き付ける。そしてすぐさまマウントポジションを獲ると同時に・・・

    ザクザクザクッ

    ツクモの持つ3本の赫子ごと自分の赫子を地面へと突き刺し、彼と彼の赫子の自由を奪った。

    奈津美「これで詰みね。死にたくなかったら投降しなさい」

    ツクモ「・・・お前さぁ、俺がCCGに何て言われてるか知ってる?」

    奈津美「関係無いでしょ。次に余計なこと言ったら本当に殺すよ」

    ツクモ「"九尾"だ」

    奈津美「あっそ、死んで・・・(えっ、九?)」

    ゾゾゾゾゾ

    ツクモ「お前が死ねよ」

    ドスドスドスッ!

    奈津美「ごっふっ・・・」

    ツクモ「バーカ」
  52. 52 : : 2015/07/16(木) 23:05:44
    突如現れたツクモの新たな尾赫に身体を数回に渡って貫かれ、奈津美は大きなダメージを負う。

    奈津美「(九本・・・の尾赫・・・私よりも・・・多い・・・)くっ」バッ

    少しでも傷を癒すため、奈津美はツクモから距離をとった。

    スグスグスグ

    ツクモ「やっぱ鱗赫だけあって治りが早いな。まっ、どうせまた空けられるんだけどなぁ!」ダッ

    奈津美「(さっきみたいに捌き切れるか?いや、やるしかない!)」

    ガキガキガキィン!
    キィン! ゴギィッ カイン!

    再び二人の赫子が高速でぶつかり合う。その速さは、人間は疎か並の喰種ですら動きを捉えることは不可能である程である。

    大斗「またさっきと同じ・・・」

    ツクモ「今度は逆だな」

    大斗「!?」

    ツクモ「お前の方が手一杯で、俺には余裕がある。赫子一本分な!」

    ザシュッ

    奈津美「がっ!」

    攻防の隙間を縫って、ツクモの赫子が奈津美の肩を抉った。

    ツクモ「仰け反ってる場合かよ!?」

    ザンッ ドシュッ

    奈津美「あ・・・う・・・(数がそのまま表れている。こちらが8本全てを使って奴の攻撃に対応しているのに対し、奴は常に1本フリーの赫子がある)」

    ツクモ「このまま終わりかぁ!?女!」

    奈津美「誰が終わるか!」ズアアッ

    ツクモ「!?」

    激昂と共に奈津美が取った行動は、防御の放棄だった。それと同時に・・・

    彼女の持つ全ての赫子が一斉にツクモへと襲い掛かる。

    彼女の狙いは速さ勝負だった。先程までの赫子同士のぶつかり合いは、ツクモの攻撃を奈津美が防御するという展開が主であり、謂わば彼女の防戦一方だった。その状況で、彼女が防御を捨てればどうなるか・・・

    答えは簡単。ツクモの赫子が一斉に彼女へと襲い掛かる。しかし、彼女はその攻撃が自分の身体に辿り着く前に自分の攻撃を届かせることで、起死回生の一発逆転を狙っていた。

    赫子が伸びる速さの勝負と言えど、スタート時点で彼女は明らかに出遅れている。だが彼女には自信があった。勝機があった。

    ツクモ「速っ!」

    奈津美「(届けぇ!!!)」

    奈津美の死ぬ気の攻撃の速度は凄まじく、彼女の策は成功するかに思えた。だが・・・

    ガガガガガガガガシィ!

    奈津美「!?・・・嘘でしょ」

    奈津美の8本の赫子は、ツクモの身体へと辿り着く寸前で彼の赫子に掴み取られた。
  53. 53 : : 2015/07/17(金) 23:03:35
    奈津美の考えでは、ツクモに防御の手段は無い筈だった。

    一度勢いよく放たれた赫子を戻すには、大きなロスタイムが生じる。その時間はこの状況においては致命的であり、彼には攻撃を続ける以外に選択肢は無い・・・その筈だった。

    しかし、彼は奈津美の8本の赫子全てを掴み、動きを止めるという行動を選択した。それは、自分より数の多い赫子と戦った経験がほとんど皆無の彼女にとって、全くの意識外の行動であったのだ。

    そして彼には、もう1本赫子があった。

    ツクモ「おらぁっ!」

    ガッ

    ツクモが放ったかかと落としを、赫子を封じられた奈津美は両手を交差して受け止める。この瞬間、彼女は両手をも封じられた。

    詰みである。

    ドスゥ!

    奈津美「・・・がはっ!」

    ツクモの最後の一本の赫子が、奈津美の胸を貫いた。

    ツクモ「幾らしぶとかろうと、こんだけ食らえばもう動けねぇだろ?」

    ズボッ

    奈津美の胸から赫子が抜き取られる。次の瞬間・・・

    ドゴオッ

    彼女は殴り飛ばされ、地面へと倒れ込んだ。

    ツクモ「地べたに這いつくばってろ」

    大斗「奈津美お姉さあああん!!!」

    ツクモ「うっせぇんだよ、クソガキ!」ダッ

    バキッ

    大斗「がっ・・・」ドサッ

    ツクモ「これで大人しくなったな」

    クロバ「大事な存在ですよ。もっと丁重に扱ってください」ギロッ

    ツクモ「わ、分かってるって。そんなに怒んな」

    バキィ

    ツクモ「どぉっ!?」

    突然、ツクモの身体が吹き飛んだ。

    奈津美「大斗君は・・・渡さない・・・もう誰も・・・失いたくない!」

    クロバ「おやおや。まだ動けるとは大した生命力・・・いや、精神力だ」

    ツクモ「おいおい、俺は地面に這いつくばってろって言ったよなぁ。それなのに・・・また起き上がってんじゃねぇよ!!!このクソアマがぁ!!!」

    奈津美「私は絶対倒れない!大斗君を守るために!」バッ

    奈津美はツクモに飛び掛かると同時に、再び8本の赫子での総攻撃を試みる。

    ツクモ「何回来ようが・・・」ヒュヒュッ

    ザザザザザザザザンッ!

    奈津美「そん・・・な・・・(全部切り落とされるなんて・・・)」

    ツクモ「無駄なんだよ・・・いい加減それを理解しろぉ!!!」
  54. 54 : : 2015/07/18(土) 20:02:39
    怒りに声を荒げながら、ツクモは赫子で奈津美の身体を掴み取り、絞めつける。

    奈津美「あ・・・ご・・・の・・・」

    ツクモ「力の差も分からない馬鹿には罰を与えないとな・・・」クイッ

    ツクモは奈津美を自身の眼前まで引き寄せる。そして、彼女をツクモの拳が届く範囲に入れるや否や・・・

    バキィ!

    彼女の顔面に強烈な右拳を叩き込んだ。それも、一発二発ではない。

    ツクモ「ムカつくんだよ!」

    バキッ

    ツクモ「てめぇみたいな」

    バキッ

    ツクモ「自分の力を弁えない奴や」

    ドゴッ

    ツクモ「誰かを守るだのと綺麗事をほざく奴がよぉ!」

    バキィ!

    度重なる攻撃に抗う力を失った奈津美を、何度も何度も何度も何度も何度も、殴っては蹴り殴っては蹴り殴っては蹴り殴っては蹴り殴っては蹴った。

    ツクモ「俺達は喰種だろ!どうせ奪って奪って(殺して)奪う(喰う)しかできねぇんだ。その喰種が・・・誰かを守るなんて言葉、口に出すんじゃねぇ!!!」

    咆哮にも似た怒声を放った後、最後に赫子で奈津美の身体を貫いた。

    奈津美「ぅぅ・・・」ドサッ

    ツクモ「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・もう行くぞ、クロバ」

    クロバ「そうですね。そろそろ時間です」

    ツクモは大斗を肩に担ぎ、出発の用意を整える。

    クロバ「さて、後処理を」

    奈津美「ま・・・て・・・」

    ツクモ「ああ!?まだ意識があったのか・・・」

    奈津美は今にも消え入りそうな意識を無理矢理保ちながら、ゆっくりと体を起こし始める。

    ツクモ「そうか、そんなに死にたかったのか!なら、望み通り」

    ザシュ!!!

    奈津美「な・・・?」

    漆黒の翼が、奈津美を切り裂いた。

    ツクモ「・・・クロバ?手を出すなと!」

    クロバ「10分経過しました。そろそろ出発しないと白鳩がここへ来てしまう」

    奈津美「(まだ寝るには・・・はや・・・・・・?・・・なにこれ・・・全身の力が・・・抜けていく・・・あいつの・・・赫子の力・・・?・・・)」

    クロバ「ツクモ君、台所から油を取ってきてください。この部屋を燃やしてしまいたい」

    ツクモ「燃やす?」

    クロバ「今回の我々の襲撃が白鳩側に知られるのはあまり得策ではありません。赫子痕ごと燃やしてしまいましょう」

    ツクモ「分かったけどよ、喰種の家に油なんてあるのか?」

    クロバ「彼女が人間社会に溶け込もうとしていた喰種なら、必ずあるはずです」
  55. 55 : : 2015/07/20(月) 22:57:58
    ・・・また失う。

    ツクモ「おっ、本当にあったぜ。どこに撒けばいい?」

    クロバ「燃えやすいものの近くにでも撒いてください」

    両親を失った。愛する人を失った。そして今、両親との思い出の詰まった家と、命に替えても守りたかった人を失おうとしている。

    クロバ「では、火を点けます。延焼を確認したらすぐに脱出ですよ」

    ボウッ

    でも、失うのも今日で終わり。最後に自分の命を失って、それでお終い。

    残念だけど嬉しくもある。だってもう、失うことを怖がらなくていいから。

    ああ、でも・・・

    もう一回くらい、トーカの淹れたコーヒー、飲みたかったな・・・



    摂津「おい!あれは一体どういうこった!アパートが・・・燃えてやがるぞ!」

    摂津の運転する車で、通報のあったアパートへと向かう摂津と悠介。彼等の目には、黒煙を上げ炎上するアパートが映っていた。

    悠介「奈津美さん・・・摂津さん!急いでください!」

    摂津「分かってる!」

    ブロロロ

    間もなく、彼等はそのアパートへと到着した。

    摂津「こいつは酷いな」

    消防隊員「あなた達は?」

    摂津「喰種捜査官だ。このアパート内で喰種が発見されたとの通報があった」

    消防隊員「喰種が!?しかし、この有様ではもう逃げてしまったのではないでしょうか。もしまだこの中にいるのなら、喰種と言えど命は無いですよ」

    摂津「確かに・・・」

    消防隊員「とにかくお二人とも、危ないのでお下がりください!」

    悠介「・・・まだ中にいる」

    消防隊員「へ?」

    摂津「喰種がか?それとも・・・」

    悠介「助けねば!」ダッ

    消防隊員「なっ!?待ちなさい!」

    意を決した悠介は、制止しようとする消防隊員を振り切って炎が燃え盛るアパートの中へと走り込んだ。

    摂津「馬鹿!戻ってこい!この燃えようじゃあもう助からねぇ!」

    摂津も悠介を引き留めようとするが、彼は聞き入れず、そのままアパートの中へと消えていった。

    悠介「(まだ助かる見込みはある。だって・・・)」
  56. 56 : : 2015/07/21(火) 22:57:06
    タッタッタッタッ

    悠介は全速力で階段を駆け上がり、火が回り切るよりも早くに奈津美の部屋へと辿り着いた。

    悠介「奈津美さん!どこに・・・!?」

    奈津美はリビングと思しき部屋で、意識を失い倒れていた。

    悠介「はぁ・・・はぁ・・・今助けるべ」

    悠介は腰を下ろし、奈津美の体を背負う。そして、すぐさま脱出しようとするが・・・

    ボウッ!

    悠介「そんな!玄関が・・・」

    唯一の廊下への出口である玄関に火が回り込み、退路を断たれてしまった。絶体絶命の状況に、悠介が諦めかけた時だった。

    摂津「悠介ぇ!飛び降りろ!」

    窓の外から、摂津の声が響いて来た。

    摂津「クッションは敷いた!三階ぐらい、お前なら無傷で飛び降りられるだろう!」

    悠介「はは・・・無傷でって、流石に厳しいですよ。でも、掠り傷で済ませるぐらいならやって見せますよ」

    覚悟を決め、悠介はベランダに出る。下を覗き込むと、三階と言うのは思ったより高く、これから飛び降りることを考えた彼は目が眩みそうになる。

    悠介「(怖い・・・けど、奈津美さんの命も掛かってるんだ。そんなこと言ってらんねぇべ!)」

    ペチィン!

    悠介は自分の頬を思いっきりぶつ。そして・・・

    悠介「行きます!」

    ベランダの手すりへと足を掛けた。

    悠介「うおおおおおお!!!」バッ

    叫び声と共に、奈津美を背負った悠介が、消防隊員が用意したクッションへと落下した。

    悠介「っ!!!」

    二人の体は一度大きく跳ね返されてから、クッションに着地した。

    摂津「大丈夫か!?」

    悠介「・・・ええ。指令通り、無傷です」

    摂津「ほっ・・・消防の皆さん、二人を病院に連れて行ってやってください」

    消防隊員「はい!後は任せてください!」

    悠介「全く、無茶させないで欲しいべ」

    愚痴をこぼしながら、悠介は奈津美へと微笑みかけた。すると、その声に反応したのかは判らないが、彼女の口が微かに動いた。

    奈津美「ごめんね・・・・・・海正」

    悠介「(・・・かいせい?)」

    それから二人は、救急車で中通病院へと搬送された。



    秋田「・・・奈津美ちゃんの診察を頼みます」

    ガチャ

    佐藤「とうとう、この日が来てしまいましたね」

    秋田「ああ。我々が戦うべき時が近付いているのかもしれないね」





    悲劇と共に、季節は流れる・・・



    to be continued
  57. 57 : : 2015/07/21(火) 23:02:37
    秋の巻はこちらです↓
    http://www.ssnote.net/archives/37435
  58. 58 : : 2020/10/26(月) 14:58:31
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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