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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

プラマイ零

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  1. 1 : : 2015/04/26(日) 20:29:20
    リレー小説です。(笑)
    二人で書いていこうと思います。
    私は@lie_is_my_life_にも出没してます。
    (みーさん)
  2. 2 : : 2015/04/26(日) 20:47:42
    もう1人の作者?です
    私は@namie_mina_00に居ますー
    ssnoteで執筆するのは始めてなので、生暖かい目で見守って頂ければ…(なみえみな)
  3. 4 : : 2015/04/26(日) 21:39:15
     夜風は生温かった。

     五月の夜に外に出るのは初めてだ。学校行事なんかないし、家でも引きこもりだった僕は、五月晴れのこの夜、それをひとり分の肌で感じるというのは初めての経験だった。
     そして、僕は後ろを振り返る。そこには家があった。居場所のない家。ひょっとしたら夜風より冷たい家。友達なんて呼んだことないから分からないが、両親の友人が来たりするといつも
    「立派な家だねえ」
    という評価をもらうのだ。そう言われるならそうなのだろう。謙遜はするが卑下はしない。素直になるが傲慢にはならない。その位が人間としてちょうどいいと思う。ただ、階級を見上げる人間がいたとするならば、上の人間はさぞかし傲慢に見えるだろう。それは下の人間が、自分の階級を認められない故だからだ。
     階級。この街には階級がある。上か、真ん中か、下だ。
     僕は上だ。傲慢ではなく他人から、或いは親族からの評価だ。絶対にダウンタウンに近づかないように――親や教師からこう言われた者は『上』と見なされるらしい。

     この街は二分化されている。アップタウンとダウンタウン。アップタウンには主に『上』『中』の階級が住んでいる。整備され、学校があり、仕事がある。平和な街だ。『上』の人間と『中』の人間に区別があるとするなら、それは家柄だろう。金持ち。権力持ち。なんでもいい。自称『中』の人間から『上』だと見受けられれば、それでその人間は『上』ということである。
    一方ダウンタウンは、皆が等しく『下』である。階級も差別もなく、誰もが一様に外道ならぬ下道である。獣道。そこは魑魅魍魎のようで純粋なひとつであり、有象無象のようでひとつの虚像を作り出していたのだった。彼らには学校や会社がない。職は等しく汚れ、家はすべて廃れている。ダウンタウンは、そんな危険な人物たちの根城だ。そう教えられてきた。
     何せ僕は過保護にされてきた身だ、体感したことはない。
     いまからしようとしているのだが。

     僕、山際ナダレは、家にある、ありとあらゆる、ありったけの刃物を鞄に突っ込んで、家出するところだった。

    (みーさん)
  4. 5 : : 2015/04/26(日) 22:26:54
     僕は刃物が好きだ。全ての刃物を愛している。切れようが切れまいが、サイズがどうあろうが、料理用だろうが人殺用だろうが、刃物であることに意味がある。何かを切ることに意味がある。さあ、何を切ろうか。果実?肉塊?植物?自分?考えるだけでゾクゾクする。ひねくれ者であることは重々承知。だけれど、この愛と衝動は、誰にもとめられない。
     だから目をつけられる。ぼくは昨日まで、精神科に通っていた。この程度のことで病院なんて、どんだけ過保護金持ちなんだよ、と思わされる。過去形なのはもう行かないと決意したからだ。誰も理解してくれなかったこの性癖は、隠し続ける度に渦を巻いて暴れだす。左腕に無尽に走った傷がその証拠だ。

     まあ特筆したくもない辛い日常があったんだ、僕には。
     そして家出。
     全くもって、考えなしだった。

     実際、未練があるかと言えばそうでもない。家なんて居るようでいないようなものだったし、親は僕より優秀な兄にご執心だったようなので、これと言って後ろ髪を引かれるようなことはなかった。

     振り返っていた首を前に向ける。そして歩き出す。

     夜道は暗い。怖い。しかし僕には刃物たちがついている。包丁。カッター。ナイフ。鋏。全て、僕の味方達だ。応援してくれている。だから自然と、心拍数は歩行速度のそれを保っていた。

     感覚が生温いというのは、厚着のせいなのかもしれない。家に帰れないことを考えると、つい多くを持って行きたくなる。今の僕は、シャツの重ね着をしているため、肌が異様に蒸されていた。仕方なく、人目をはばかりながら一枚脱ぐ。まあ、アップタウンの『上』の人々の住宅街、こんな時間に外にいる奴も珍しいが。

     僕はしばらく歩いた。
     すれ違う人は誰もいなかった。

     あの柵を越えれば、ダウンタウンだ。

    (みーさん)(PASS)
  5. 6 : : 2015/04/27(月) 19:13:14
    「はぁ」
    面白くもつまらなくもなく、可もなく不可もなく、有も無もない全てが虚像の様なこのダウンタウンのとある場所。
    雪崩れた瓦礫の上に立っているのは自分と、顔がはっきりと見えない誰か。対峙して、何も言葉を交わさずに時が止まったような状態そのものの空間となっていた。その中で。

    確かに、殺気を放っている自分が居た。

    ……そんな夢を見ていたようだ。
    目瞼を上げてみれば飽きる程いつも見ているボロい木材の天上で硬い床の上、いつものように薄い布を布団代わりにして寝ていた。壁の所々空いた隙間からは光が溢れていた。もう朝だろうかと思い、着替える服も無いのでそのまま立ち上がる。ギィ、と音が鳴る戸を開けて外を見る。

    朝なんかでは無かった。
    別に、何処かで火事が起こるなんて珍しくない。
    ただ、今回ばかりは、規模が大き過ぎたようだ。
    可哀想に。
    なんて思いながら家に戻り、古びたテーブルの上に置いてあるリュックをおもむろに持ち出す。中には仕事の相棒が入っているのだ。
    変な時間に起きてしまい眠気が飛んでしまったので、食べるものの調達にアップタウンへと足を運ぶことにした。

    (濤槐海雫)
  6. 7 : : 2015/04/27(月) 20:17:34
    ダウンタウンの現状でも少しお喋りしてみようか。
    ダウンタウンには法律の無い、弱肉強食の獣みたいな人間の街と化していて、学校も会社も無いから、ギルドを作って生活している。
    因みに自分は何処にも属しておらず、単独で「盗み」と「殺し」を繰り返しながら何とか死なないでいる。しかしそれでは生きているとは言えないのだ。

    自分の名は東東(ひがし あずま)。誰が付けたのか分からない名を、唯一他人に自分の存在を認められた証として、捨てずに持っている。

    この家は産まれる前からあったらしく、しかし誰も使っていないので勝手に住んでいる。自分のその名は、この家の中の一冊の日記に書かれていた。この日記は、家族の話。この家には確かに家族が居た。温かい家族の話だった。私は親に捨てられたのだろうか…

    そんなことはもう気にせず、リュックの中から相棒を取り出す。折り畳み式の大鎌だ。
    アップタウンとダウンタウンを裂く柵の周辺は人気が無い。

    この柵を越えれば、アップタウンだ。
    (なみえみな)(PASS)
  7. 8 : : 2015/04/27(月) 20:40:11
     そして僕は、ダウンタウンに足を踏み入れる――ことになる予定だったのだが、しかしここにきて躊躇してしまった。
     腰ほどある柵を乗り越えることは容易い。だが僕はダウンタウンどころかこの境界線にすら近付いたことが無かったのだ。

     怖い。
     今夜はじめて、そんな感情に出会った。

     もちろん刃物たちが応援してくれるのは分かっている。それでも、遠目ながら月明かりに照らされるダウンタウンの古ぼけた街並みは、侵入するのに勇気を要した。

     いや違う。あれは月明かりではない。燃える炎だ。端的に言うなら、火事だった。火事なんて起こった場面を見ることは初めてであり、アップタウンの頑丈な家は決してそんなことになったことはなかった。ますます恐怖心が増していく。

     しかし、帰ろうという気は起らなかった。今持っている刃物と、着ている服。僕はこれで逃亡すると決めたんだ。

     ダウンタウンには自由な人間がいる、そう信じて、決意の一歩を踏み出した。もっとも、一歩と言っても、不格好に柵を乗りあげるだけのことだったのだが。無事に足をついた。

     もうここはダウンタウンだ。

     ――と、その時。僕の右頬を風がかすめた。遠い火事場からの熱風ではもちろんなく、暑い夜にふさわしくない、爽やかな風。それはまるで何かが駆け抜けて行ったような――

     ばっ、と振り返る。最初はネコかと思ったが、影は小柄な人間だった。それでも足取りは、俊敏な動物を思わせるような――――あれ、しかし、ダウンタウンからアップタウンへ?

    「何をしに?」

     ………………しまった。
     話しかけてしまった。
     人影は振り向いた。

    (みーさん)(PASS)
  8. 9 : : 2015/04/27(月) 20:55:23
    後ろからの火事の熱風、前からの冷たい夜風。

    その中間の柵で、夜空を見上げる。今夜の月は何故か美しいと思った。こんなこと今までに無かったが。

    自分の住む街に本当の自由なんてない。
    あるのは「無」のみ。
    自分のことで頭が一杯でしょうがない『上』や『中』の人間なんて、そんな街のことなんて何かが無い限り忘れているのだろう。
    火事が起きようと。
    寧ろ『下』の階級の人間が居なくなって喜ぶのだろうに。
    腐っているのはどちらだ。
    そんな下らない全てを消し去りたい。

    一息吐いて前を見る。
    大鎌を担ぐようにして、低い柵を飛び越える。
    その刹那、人影があったような気がしたが、気にせずに横切ろうとする。しかし。
    「何をしに?」
    その人影に声を掛けられてしまい、足を止めてしまった。振り返ると、少年が立っていた。
    彼こそ、アップタウンからダウンタウンへ何をしに行くのだろう。どうせ縁の無い世界なのに。
    少し興味が湧いて、しっかりと彼の顔を見ることにした。
    (なみえみな)(PASS)
  9. 10 : : 2015/04/27(月) 21:57:54
     人影は少女だった。興味を表情にたたえ、僕の方を見ている。まるで獣のように、僕の目をしっかり見据えている。
     最初は警察とかだったらどうしようかと思ったが、違って安心した。いまどき警察だってダウンタウンには近付かないのだろう。と思ったのもつかの間、この少女はダウンタウンに住んでいる者、と気づいてハッとする。散々恐ろしいと教わってきたダウンタウンの人間である。もしかしたら僕を殺そうとするかもしれない。

     僕には刃物がある。心の支えがある。
     けれどもそれを打ち砕くかのように、少女は大きな何かを持っていた。
     直感で刃物だと分かる。これは僕の性癖が織りなす特技だ。
     そしてそれは僕の心を魅了してしまう。

    「ミーは生きに行くんだよ?」

     少女はそう言った。夜に透き通る綺麗な声だったが、喋り方はどこか違和感がある。

    「……僕もだ」

     ダウンタウンで、家に縛られずに暮らすんだ、と言った。少女は表情を変えず、ふうん、と言ったように、一歩、僕に近付いた。

     ダウンタウンの彼女はアップタウンから、アップタウンの僕はダウンタウンから、お互いを見つめていた。
     違う街ってどんな感じだい?

     少女は物を盗みに行くらしい。そう簡潔に、ぶっきらぼうに、あざとく教えてくれた。

    「じゃあ、僕の家に入ってくれ。どうせ高いものしか無い」

     少女は驚いたように僕を見た。僕は門のパスワードを伝えようとしたが、そんなものどうにでもなるらしい。どうなるのかは気になるが知ることはないだろう。

     じゃあ、と少女はアップタウンの方へ消えて行った。
     
     もしかしたらあの少女とは、もう一度会える気がした。
     そして、あの刃物を光の中で見てみたい。

    (みーさん)(PASS)
  10. 11 : : 2015/04/28(火) 20:10:02
    少年と別れてから。
    相棒を担ぎ直し、夜の妬ましい街を風と共に駆ける。
    彼の家は何処だか聞かなかったが、今回は『上』の階級の街に出向くつもりである。
    「あの僕ちゃんはミーのこと………」
    あの眼差しは羨望或いは憐れみか。どちらかかもしれないし、どちらでも無いかもしれない。
    きっと普段静かであろう『上』も、何だか騒がしいような感じがした。
    入りやすそうな屋敷を適当に選び、足を踏み入れる。
    門はパスワードを入れないと入れないらしい。この辺りの屋敷はみんなこういうセキュリティがあるのだろうか。
    「こんなの、ミーの前では意味を無くすよね」
    庭へ侵入し近くのきらびやかな扉に手を掛ける。すると、室内から声が飛び交っていた。
    「坊っちゃんは何処へ行かれたのか」
    「まさか家出……」
    「刃物が家の何処にも無いぞ!」
    「仮にそうだとしても、アップタウンからは出まい」
    思わず手を放してしまった。この短時間で当てはまる人物が居たからだ。
  11. 12 : : 2015/04/28(火) 20:39:23
    足音が近付いて来たので、屋根の上へと避難した。見回すと、遠くで炎が上がっている。まだ消えていなかったのか、というかあの規模の大火事がダウンタウンですぐ鎮火出来る筈がない。被害者側が、生活に困って自分の家に入ってくることはないだろう。
    何故なら、自分の何かに手を出した者は必ず命は無いからだ。
    ダウンタウンで自分、東東の名と力を知らない者は居ない。まぁ同時に、アップタウンで自分の名を知っている人など誰一人として居ない訳だが。
    というか今回は盗みだけ働くつもりだったので、相棒――――大鎌を態々出す必要はなかった。
    相棒はこの街の近くの海に放り捨てられていたのを誰かが広い、色々あって自分が所持している今に至る。
    ″これ″は呪われた刃物らしい。
    例外など1つもなく、全てを薙ぐ代物。″これ″の所持者は、必ず″大鎌に殺される″のだ。
    人々は″これ″を『拒絶』と呼んでいる。
    そう、自分の手元に来るまでに、今までの所持者は全員死んでいる。自分だって拒絶を持っていればいつかは拒絶に殺されるのだろう。だが、気に入らない全てを薙いだ後に拒絶に殺されるなら、本望だ。

    室内から数人出て行ったのを確認し、半開きの扉を音を立てずに開けた。

    (なみえみな)(PASS)
  12. 13 : : 2015/04/28(火) 21:13:47
     ……今頃、家『だったもの』はどうなっているのだろうか。僕のことなんて忘れ去ってくれればいいが、きっと慌てふためいているのだろう。まあ、僕を探しに来るのは当然だろう。
     面倒だ。さっさと逃げてしまおう。
     僕はダウンタウンに踏み出した。

     ……人がぞくぞくと出てきている。家はみんな古くなっていて、物置のような寝床から、男女子供が外へ顔を出している。
    皆火事の方を見ていて、ダウンタウンにそぐわない綺麗な身なりの僕には気づかない。
     と、思っていた。

    「火事はよく起こるのだけれど――こんなに大きいのは久々だ。驚いたかい、アップタウンの少年?」

     声は背後からだった。振り返ると青年がいた。
     炎に負けない萌える緋色の服、しかし彼が着ているシャツはぼろぼろで、ジーパンはあちこちが破けていた。

    「私はギルドクロウの、名も無い彩色朱珠(いろどりしゅしゅ)だ。君は名のある迷子かな?」

     青年は物腰柔らかにそう言った。

    (みーさん)
  13. 14 : : 2015/04/28(火) 21:36:18
    「……僕は山際ナダレという、名のある家出少年です」

     名のある、というのは家柄のことだろうか。とりあえず僕はそう名乗った。しかし、ギルド……?ゲームとかの何かだろうか。チームのような。

    「やっぱりアップタウンから来たのか……そうか、なら今すぐにお帰りなさい、お逃げなさい」
    「……どうせ帰ったって、居場所なんてありませんよ」

     ぶおっ、と熱風が来た。青年は長い前髪を掻き上げながら続けた。

    「身寄りのないダウンタウン生活ほど危険なものはない。君が今すぐに家に帰ったとしたら、まだ間に合うだろうけどね……。許されるうちに、帰りなさい」

     ぼくは沈黙してしまい、しかしわずかに首を振ることはできた。横に。

    「もし本当にダウンタウンで暮らすのなら、それはアップタウンにいた人間にとっちゃ自殺行為だ。まず入るギルドが無いと生きていけない――もっとも、強い例外は存在しているけれどね」

    「あの、僕は、ここで暮らしたいんです」

     そう言って僕は鞄の中を彼に――彩色に見せた。しかし彼はナイフ達に手をつけようとせず、少し外れたところを眺めていた。それが僕の傷だらけの左腕だと分かって、僕は慌てて手を引っ込めた。

    「…………わかった。もし君が、死んでもいいから生きたいと願うのであれば、私が、ギルドクロウがなんとかしよう」

     彼は笑った。

    「おいで。街案内だ。君は例外のようにはなれないだろうからね」

    (みーさん)
  14. 15 : : 2015/04/28(火) 21:42:52
     ここで僕の刃物好きに関して、少しだけ。

     人は愛を選ぶが、愛は人を選ばない。そんな言葉がある。
     それを言うなら、刃物は僕を選び、僕は刃物を選ばない、だ。

     日本刀に触れたことがある。父の友人である富豪が、骨董の個展を開いた時に、その家に遭ったものに触らせてもらったのだ。かの有名な和泉守兼定の本物だが、三代目のため価値が低いという。

     刀は人を選ぶとも言うが、僕は選ばれた気がした。例え価値が低くとも、僕は刃物を選ばない、とても嬉しかった。

     あのときの胸の高鳴りは忘れられない。
     父の友人の話によれば、初めて触ったはずなのに熟練の手つきだったらしい。

    僕は当時、五歳だったのだけれど。

    (みーさん)(PASS)
  15. 16 : : 2015/04/28(火) 22:35:59
    この家の使いたちが騒いでいる『坊っちゃん』探しの為か、屋敷内は割りと人が居なかった。自分にとっては好都合なのだけれど。
    まずは生活用品、次に食糧、最後に金目の物を拝借――――盗んだ。返すつもりは勿論無い。
    「誰だ」
    男の声だった。
    ほぼ脊髄反射で拒絶を出し、男の首をもう拒絶を真っ直ぐ後ろに引けば吹っ飛ばすことが出来るくらいにまでの体勢は作った。あとは拒絶を引けば…………
    「ま、待ってくれ、何者だ?お前はダウンタウンの者か」
    あくまで冷静を装った男は、脂汗を滲ませながら自分に問い掛けた。それに自分は答えない。
    「この際アップタウンでもダウンタウンでも良い、山際ナダレを知っているか」
    男の子だろうか?いや、男の子っぽい名前の女の子は現に居るではないか。自分だけど。
    「私は、その子の父親だ。見つけたら何でもしてやる」
    それでも沈黙を破らない。
    「まさかお前が拐ったのではなかろうな」
    「…………………まさか」
    呆れて乾いた笑みを溢してしまった。
    「違うのなら、何者なんだ、何が目的で…」
    「ミー?」
    獣の、野生の勘とでも言おうか。
    それだけで、この屋敷の人間が探している子があの境界で出逢った男の子だと思った。

    山際ナダレ、か………

    男から拒絶を解放し自分の元へ戻し、担ぎ直す。

    「ミーは、死神だよ、貴方の、若しくは貴方の息子さんの命を貰いに来たのかもしれないね」


    (なみえみな)
  16. 17 : : 2015/04/28(火) 22:46:22
    「暇なので貴方の息子さん探してみますよ、何でも願って良いんですよね?」
    「そ、そうだが?」

    「なら、死んでください」

    「…は?」
    男は絶句してしまう。
    「どうせ、生きていても価値の無い人間なのですよ貴方は、息子さんに家出されたのも、貴方がどうしようもない駄目な大人だからです、貴方が、捨てられたのですよ」
    こんなこと吐いたって、意味無いのだろうけど。しかしあの、男に拒絶を向けた時に殺意が一瞬で消えてしまったのは何故だろう。
    「では、」
    窓から出て、一気にダウンタウンへと帰った。

    まだ良いじゃあないか、安定した家があるなら。
    自分は例外だけど、中には家が無くて困っている人間だって少なくはない。アップタウンの人間は食べ物に悩んだことは一度でもあるのだろうか?そんなこと、文字通り考えるまでもない。

    取り敢えず戻ったら彼を探してみるか…。

    (なみえみな)(PASS)
  17. 18 : : 2015/04/29(水) 07:42:24
    「ナダレくん、と言ったかな。私達ギルドクロウは、主に人材の派遣を生業としていてね。私はその中でも、始末屋なんだよ」

     僕は彩色と名乗った男の人について行くことにした。

    「始末屋って……アサシンみたいな感じですか?」
    「ん、違う違う。始末するのは、人間じゃなくて事態だよ。死体とか残骸とか証拠隠滅の仕事」
    「……僕には想像もつきません、彩色朱珠さん」
    「朱珠で構わないよ。しかしアサシンなんて言葉、ダウンタウンの中でも教養がある僕がようやく知っているくらいなのだけれど、アップタウンでは普通なんだ?」
    「えっと……ゲームとか、よくやるので」
    「ゲーム?殺し合いかい?それともギャンブル?」
    「テレビゲームです」
    「テレビ?ああ、あの硝子とか金属が取り出せる箱か」

     なぜだろう、住む場所が違うだけで、身の上が違うだけで、こんなに話が理解し合えないものなのだろうか。朱珠さんは、遠慮や同情はいらないからと言ってくれたが、僕はまだ、どうにも距離をつかみあぐねているところがあった。

     ちなみに今は、炎が落ち着いてきた火事場を大きく迂回するように歩いている。燃えカスやビニール袋、果物の皮や割れたガラス、何のものかも分からない死体には思わず目を背けてしまった。

    (みーさん)
  18. 19 : : 2015/04/29(水) 08:42:54
    「ああ、ここら一帯は無事のようだね」
    そう行って朱珠さんは地面に座った。
     背後には穴のあいた木板の家があり、僕たちはそこに背を預けるようにした。

    「さっき、『例外』みたいな有名そうな人を言ってましたけど……朱珠さんは、ダウンタウンでは有名なんですか?」
    「有名、というのはどういうことかな?というか、アップタウンでの有名を知りたいな」
    「……アップタウンでは、家が広いとか、会社を持っているとかですね」
    「すまない、想像の範囲を超えた」
    「……すみません」
    「いや、いいよ。さっき、遠慮や同情はいらないと言っただろう?」
    「そうですか」
    「まあ、ダウンタウンではそうだね、寝床があるなら良い方かな。そういえば今夜はどうするんだい?」
    「そういえば眠いです」
    「じゃあそうだ、このボロ屋の前で寝てしまおうか。護衛は任せてくれ。それから、刃物を服に隠せ」
    「わかりました、ありがとうございます」

     僕は刃物が体に刺さらないように気をつけながら、眠りに落ちた。
     見上げると、月があった。綺麗……なのだろうか。

    (みーさん)(PASS)
  19. 20 : : 2015/04/29(水) 10:25:32
    屋根から屋根、木から木を飛んで走って、直ぐに境界へ着いた。
    まぁ、ダウンタウンの者がアップタウンへ等、自殺行為そのものだ。
    自分は恐らく相棒のお陰でアップタウンに繰り出しても生きていられるのだろうけれど。

    最近、烏?の象徴を身に纏ったギルドが活動範囲を広げたらしい。何でも、仲間増やしに勤しんでいて、規模もトップクラス。質を聞かれると中くらいだと思うが。

    忘れていたが、火事は収まったようだ。しかし被害は今までの事故より一番大きいかな。

    ナダレナダレナダレ………………

    ナダレちゃんは、今ダウンタウンの何処に居るのだろう。外で寝るのは危険を要する。何なら、自分がある程度迄養ってあげても良い。
    自分は誰かと一緒は堪らないので、その後は適当なギルドに入れれば安心だろうか。
    同居という環境になった時に一番恐れていることは、相棒を持ってナダレちゃんと過ごすなんてしたら、いつか彼を殺してしまうだろうということである。しかし。

    …そんな心配はなさそうだ。

    烏の象徴を身に纏った青年と、山際ナダレは一緒に寝ていた。

    (なみえみな)(PASS)

  20. 21 : : 2015/04/29(水) 11:04:15
    「起きろ―ナダレちゃん」
     ……声で目が覚めた。今は朝だろうか。
     腐敗した臭いにまぶしい朝日が差し込む。昨日の火事跡からは煙がもくもくと立ち上がり、白い光になって街を覆っている。
     ついでに僕の事も、影が覆っている。
    「あ、起きた」
     ……少女だった。
    「お久しぶり、昨日ぶりだね」
     …………昨夜の少女だった。

     見れば少女は荷物をもっていない。昨日見た(正確には見ていないが、感じた)刃物も今はご無沙汰なようだ。

    「ミーは東東。東と書いてトウちゃんって呼んでね」
    「……僕は山際ナダレ。再びお会いできて光栄だよ」
    「へえ、アップタウンではそんな挨拶するんだ?」

     それで、どうしよう。ギルドに入ることが必須とか言ってたなあ……と、ここで、隣に朱珠さんの姿がないことに気付いた。

    「ギルドクロウの人はさっきどこかへ行ったよ。ミーに任せてと言ったからね」
    「じゃあ君が」
    「面倒でも見てあげようかな?」

    (みーさん)(PASS)
  21. 22 : : 2015/05/03(日) 09:44:56
    「おいで」
    ほぼ無理矢理の形で彼を引っ張り、空いた片手で彼の荷物を持って、スタスタ歩こうとするが、彼は止まったままだった。
    「あの、………」
    「東ちゃんで良いよ」
    「東さ…東ちゃんはどのギルド?に属しているんですか?」
    「何処でも無いよ」
    彼は酷く驚いていた。
    別に意味の無い嘘なんて吐く必要なんてないし。
    「朱珠そんの言っていた『例外』てもしかして」
    「それも無いよ、あの人朱珠っていう可愛らしい名前があるんだね」
    何それ?と笑ってみた。バレたところでどうした?ってなるが、特別視みたいなものは好きではない。

    歩き進めば人がだんだん増え、それに伴い自分を見てひそひそと何かを話していた。
    恐らく、や、絶対自分が誰かと居ることを珍しく思っているのだろう。あまり良い気持ちではないのは確かだった。

    (なみえみな)(PASS)
  22. 23 : : 2015/05/03(日) 13:02:39
    「あっはっは……まさか『彼女』に会えるとはね」

     私、彩色朱珠はダウンタウンの朝の道を歩き帰っていた。
     日は昇り始め、人々が動き始めた。人間は夜に眠り、朝に活動するのが本能ならば、ダウンタウンに住む私達だって人間ということである。

    「おかえりなさい」「おかえりなさい」「おかえりなさい」
    「ただいま、あおい」

     しばらくして家に着くと、3人の少女が出迎えてくれた。家と言ってもそこに家屋はなく、ただ枯れ草の生えた空き地が小ぢんまりとあるだけの場所。

     3人の少女は、妹のような子達だ。親は分からず、ただ三つ子が捨てられていたためギルドクロウの誰かが拾ったらしい。
     皆がそれぞれ、黒くて硬い、薄いぼろ布を巻いて服としていた。

     緑がかった青い髪に左肩で布を結んだ『みどりのあおい』――碧。 
     混じり気のない青い髪に胸元で布を結んだ『まっさおのあおい』――蒼。
     紫がかった青い髪に右肩で布を結んだ『むらさきのあおい』――葵。

     別個体で同じ読みの名前を持つ、私の愛らしい妹だ。
     このようなこと、ダウンタウンでは奇異ではない。名前がない赤子だって沢山いるのだから。

    (みーさん)
  23. 24 : : 2015/05/03(日) 13:15:30
    「ギルドAを潰してきた」「アップタウンから頼まれた物をとってきた」「3人の勧誘に成功した」

     碧は実戦、蒼は用具、葵は勧誘が仕事である。私達は基本四人で暮らしているが、仕事内容はバラバラだった。

    「お疲れ様だよ、あおい達」

     そう言って私は横になった。
     あおい達はその場に突っ立っている。無表情なので何を思っているのかはたから見ればわからないが、私にはなんとなく分かった。

    「ああ、君たちもくつろいでくれ」

     私がそう言うと、3人そろって体育座りをした。可愛い子たちだ。

    「朱珠」「朱珠」「朱珠」
    「ん?なんだい?」
    「仕事したい」「仕事したい」「仕事したい」

     この子達が病的に仕事をしたいのは、仕事をすれば生きていけるからだろうか。物がもらえて、食べ物がもらえる。逆に、仕事がないと生きていけない。だから、仕事がない状態に不安を感じるのだろう。

     私は仕事を与えることにした。

    「なあ、昨日の火事……大き過ぎると思わなかったかい?」

     あおい達は一瞬で何処かへ行ってしまった。

    (みーさん)(PASS)
  24. 25 : : 2015/05/03(日) 20:04:17
    昨夜の火事はそもそも何故起きたのだろう。
    自分の家から意外と近かったし…
    「………ここがミーの家だよ」
    自分の家は他のダウンタウンの人間よりは随分家の形をしている。この街で家持ちの人間なんてほんの一握りだ。
    何時も通りぎぃ、と音を鳴らすドアを開けて先に自分が入って彼も入るよう促し、ドアを閉める。
    振り返って声を掛けようとしたら彼は唖然としていた。
    「ナダレちゃんどうしたの?」
    「あ、いや……随分個性的な佇まいですね」
    「それは誉め言葉ってやつなのかな」
    尋ねるも黙りこくってしまった。

    (なみえみな)
  25. 26 : : 2015/05/03(日) 20:19:56
    閑話休題。
    自分が盗ってきた物資を棚に適当に置いてからリュックを床にぼす、と音を立てて置く。
    年季の入ったテーブルを囲んで木製の椅子に腰掛けながら、
    「東ちゃんの昨日持ってた大鎌って何処にあるんですか?」
    「それはね」
    言いながら遠くの床に放っておいたリュックを見遣る。それにつられて彼もそれを見る。
    「秘密」
    「何でですか…」
    これは話して良いことなのか悪いことなのかまだ判断が付かないので軽い気持ちで口には出せなかった。
    「時が来たら話そうかな」
    「それ一体何処の小説の台詞ですか……」
    「小説って何、武器?」
    ぽつりと言ったそれが耳に入ってしまったのでつい聞いてしまった。
    「あ………しょうせつってアップタウンの何?」
    「本と言えば分かるでしょうか?お話が書いてある本です。暇潰しには持って来いですね」
    「あー、あれねぇ……」
    ちゃんと理解した。アップタウンとダウンタウンのこの知識の差はどうも天と地の差らしい。
    「ミーも勉強不足だなぁ、もっと頑張らないと…」
    と立ち上がり、のろのろ歩いてリュックを取る。
    「さて、やることが無いから、一緒に火事の原因探しに行こうか」
    この時の自分の目は、明らかに光っていたと思う。

    (なみえみな)(PASS)
  26. 27 : : 2015/05/03(日) 20:41:58
     おにいおにお兄さんお兄さんお兄さんお兄さん。たたたす助け助けてたす助けて。

     台詞において息の合わない三つ子を、私はよく覚えている。

     朱珠。朱珠。朱珠。大丈夫だよ。大丈夫だよ。大丈夫だよ。

     それが今では、ぴったり息の合った三つ子になっていた。

     今回の案件は実戦に類するが、三つ子は総出で仕事を行うつもりらしい。専門の碧についていけば大丈夫だろう。私は心配を最低限に抑え、彼女たちの動向について思う。

     あおい達が向かったのは恐らく焼け跡である。まずは現場検証といったところか。いや、勧誘が専門で人間との会話が得意な葵ならば、目撃証言を探しているのかもしれない。

     とにかく私は、柄でもないが、彼女たちのサポートに入ろうか。

     果たして今『あの人』は何処にいるのだろうか……。

    (みーさん)
  27. 28 : : 2015/05/03(日) 21:03:55
    「何もない」「何もない」「何もない」

     あるのは焼け跡。
     自分、あおいは昨晩の火事現場に来ていた。

    「待って、何かある」

     蒼が見つけたのは、焼け焦げた肉塊だった。

     それだけだ。

    (みーさん)
  28. 29 : : 2015/05/04(月) 21:23:09
    「おやおや君はギルドクロウの彩色朱珠くんじゃないか、青い三つ子を従えて庶務をこなしている始末屋の朱珠くんじゃないか。こんな所で何をしているのかな?火事の現場はあちらだよ、私のいるところ炎は立たないからね」

     私が振り返ると、『彼女』はそこに居た。ダウンタウンの外れにある、草の生えた道。日差しが眩しかった。

    「どうも久しぶり、情報屋の赤留魅瑠美(あかるみるみ)さん」
    「やだなあそんな畏まった挨拶しないで頂戴、まるでここがアップタウンじゃないか。私はあくまでダウンタウンのスタイルで来たんだから、そっちの方向性でやってくれないかなお兄さん?」
    「相変わらず饒舌でなにより。そしてお兄さんというには、私と君は同世代だと思っていたんだがね」
    「同世代?そうだね、確かそうだ。君の出生についても私は知っているのだけれど、やはり同世代とみてよさそうだね。しかしこれじゃあ、朱珠くん、君とキャラが被ってしまうじゃないか。一人称二人称といい、年齢といい」
    「それから、服もだね」

     彼女は緑色の麦わら帽子、破れて腹部が見えるセーラー服にジーンズを着用していた。
     ……たしかに、私の服も破れている。被っている。

    「私もそう考えめいたんだよ、朱珠くん。そこで私、そこら辺でシャツを拾ったんだが、欲しいかな?これは取引じゃない、友好の証としてのプレゼントだよ」

     そう言って彼女、瑠美は朱色のシャツを僕に放り投げた。見るとそれは少しヨレていて、中古品、ユーズドであったが、胸元に黒い鳥の刺繍が入っていた。芸が細かい。
     私はその刺繍に気づかないふりをして

    「ありがとう」

    と受け取っておいた。

    「それで、私は情報屋の君に世間話をしに来たんじゃない。次の会話は取引だよ、赤留魅瑠美くん。情報をくれ」

    (みーさん)(PASS)
  29. 30 : : 2015/05/07(木) 17:31:08
    「…これは、考えられない」
    彼が溢した言葉のように、自分の思考も気付けば止まっていた。

    目の前には焼け焦げた肉片が落ちていた。焼け焦げた匂いが充満していたので、最初から腐敗臭なんて気付かなかった。凡人には恐らくだが分からないと思う(当然ナダレちゃんは気付いていなかった。仮にそういう才能があったとしてもダウンタウン2日目で出来る芸当でもないが)。
    「事件って方向で捉えて良いと思う?」
    「これは明らかに殺人でしょう。何せ、肉片なんかが落っこちているんですから」
    「か、或いは…自殺と見ても有りかな、ここじゃあマイナーだけど」

    こんな、探偵(この単語はアップタウンで覚えた)みたいなことしているのはいつ以来だったか。あまりに暇だからしているだけに過ぎないけど。
    「聞き込みが無難でしょうか?」
    「そんなの当てに生きてたら間違いなく死ぬよ?ナダレちゃん、ダウンタウンで信じるものは自分とギルドメンバーだけにしておいてね。だから、ミーのことも信用しちゃ駄目だよ?」
    「でも」
    「でもじゃない。それがダウンタウンでの常識だからね」
    こんな話をしながら焼けた土地を一周してみたが、何の手掛かりも見つからなかった。
    「ミーはどんな時に火を放つのだろう。別に嫌いな人なんて居ないし、死にたいとも思わないし。……不始末?」
    「そういえば、ダウンタウンでは焚き火というものはするんですか?」
    焚き火。
    「それだ」
    「?あの」
    「ごめんナダレちゃん、家に戻ろう」
    (なみえみな)
  30. 31 : : 2015/05/07(木) 17:38:42
    家に戻り、戸棚を漁って、ライターとガソリンを取り出す。仕入れ先は、まぁ言わなくても分かるだろう。
    「これで火は炎になるわけだね?」
    「そうです。あとはガスも有りですけどここじゃ手に入らなさそうですし何より危険なので提案はしません」
    「がす?……まぁ良いや、やろ」

    自分たちは、ダウンタウンにあるもので、どうやったらあんなことになるのかミニ検証を始めようとしいてるのだ。
    犯人に成りきり、身近なアイテムを駆使すれば辿り着けるだろう。
    「ダウンタウンの火事は殆どごみからの自然発火なんだけどねぇ、あんな規模にはならないんだよ」
    「…………あれ?」
    何かに気が付いたのか、ナダレちゃんが神妙な顔付きになる。

    「何で、場所を限定されたように炎は広がらなかったんでしょう」
    「確かに、昨日の炎は縦に伸びた感じだよね」
    「その問題を解決すれば何とかなるのではないでしょうか」

    (なみえみな)(PASS)
  31. 32 : : 2015/06/28(日) 12:16:53
    シルバーの帽子掛けには、麦わら帽子が掛かっている。下には陶器の皿が置いてあり、僕の腕から帽子掛けの柱を伝う血液を受け止めている。

    ここはアップタウン。といっても、ダウンタウンとの教会近くにある、小さな家のひと部屋だ。
    周囲は宗教施設や公民館がある。

    「あの火事の現場はね、とあるギルドが根城にしてた家だったんだよ」

    向かい合って座っていた瑠美くんが、唐突に語り始めた。

    「しかしなんでも、仲違いの耐えないギルドのようでね……今回も喧嘩からあんな火事が起きたんじゃないかな」
    「喧嘩、か」
    「腕は痛くないかい?」
    「痛いに決まってるじゃないか」
    「そうかそうか。それでだ」

    痛いという訴えは聞き入れてもらえなかった。

    彼女の話をまとめると、あそこのギルドのトップとメンバーとの諍いから火事へと発展したらしい。火をつけたのはメンバー側だったとか。

    「それからもうひとつ。仲違いの原因は、メンバーがギルドを掛け持ちしていたことにある」

    (みーさん)(PASS)

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