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カムクラ「絶望的でした」
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- 1 : 2015/04/25(土) 20:46:55 :
- 少しだけ書き溜めあります。
スーパーダンガンロンパ2の本編の前の話です。
カムクラって素晴らしい。カムクラはジーニアス。
そんなカムクラ視点のわりと珍しげなSSです。
では、どぞ
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- 2 : 2015/04/25(土) 20:47:26 :
- 【Chapter1 予測不可能の才能ジャンキー】
不規則な波の揺れ、冷たく簡素な船室、向かいに座る男。
僕は飽き飽きしていた。
何も面白くない世界で、ただ息を吸って吐いて、そこに存在するだけの僕。
彼女のゲームには参加できない。
そんなこと、分かっていた。
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- 3 : 2015/04/25(土) 20:48:52 :
- 狛枝「ねぇ…大丈夫?」
カムクラ「…は?」
分かっていた…はずだった。
狛枝「やっと目が覚めた…?」
カムクラ「ここ…は…」
狛枝「ここに来てからずっと寝てたんだもんね。分からないのも当然だよ」
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- 4 : 2015/04/25(土) 20:49:23 :
- 照りつける太陽、さざめく波、広がる青空…。
現実とは思えなかった。
それに僕がここにいるなんてあり得ない。
それでも目の前の男は僕に向かって、この場所の説明を始めた。とはいえ僕もここがどこなのかくらい予測できている。
それに彼らは、本当の意味ではまだこの世界の本質を知らない。
入学当時の記憶しか持たない彼らには、分かるはずがない。
問題なのは、『何故』ここに僕がいるのかだ。
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- 5 : 2015/04/25(土) 20:49:52 :
- 狛枝「と、いうわけなんだけど君の名前は?」
カムクラ「日向…創です」
狛枝「そう、よろしくね日向クン」
名乗るべきなのはこちらの名前だ。
カムクライズルはこの場所にいていいはずがない。
日向創。ひとまず僕はそう名乗ることにした。
男…狛枝凪斗は、僕をまじまじと見つめた。
カムクラ「…なんですか」
狛枝「いや…なんだかすごく圧倒されちゃうっていうか…君ってオーラが違うなって」
カムクラ「はあ」
狛枝「ね、君の才能は?どんな才能を認められて、あの希望ヶ峰学園に入学したのかな?」
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- 6 : 2015/04/25(土) 20:50:32 :
- カムクラ「…答える義理はありません」
狛枝「そっか」
狛枝「…それはつまり、ボクみたいなミジンコ以下の存在に教える才能はないってことかな。あはっ、さすがだね。痺れちゃうなぁ…」
うっとりと視線を落とし自分を掻き抱く彼。
ボクは踵を返し、ある場所へと向かうことにした。
狛枝「ちょ、ちょっと待ってよ。気分を害したなら謝るからさ…どこに行くの?」
カムクラ「あなたには教えません。ついて来ないでください」
狛枝「…あは、とことん嫌われちゃったかな。ま、仕方ないか。また話そうね日向クン」
カムクラ「………」
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- 7 : 2015/04/25(土) 20:51:10 :
- どうでもいい男のどうでもいい言葉を受け流しながら背を向けた僕は、閉じられた門を飛び越して、島と島を渡り歩き、テーマパークのような景観の場所へとたどり着いた。
ウサミと書かれた家のドアをノックすると、フェルト地のウサギのぬいぐるみのようなソレが、僕を出迎えた。
ウサミ「ほえ?あ…ああっ!だめでちゅよ日向くん!こっちは立ち入り禁止でちゅ!というかどうやってここに…」
カムクラ「ウサミ」
ウサミ「は、はい…」
カムクラ「僕が誰だか、わかりますか」
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- 8 : 2015/04/25(土) 20:51:52 :
- 僕の唐突な問に、元々間抜けな顔をさらにポカンとさせてから、ハッと何かに思い当たったウサミ。
ウサミ「ま、まさか…あんた、日向くんじゃありまちぇんね…!?」
カムクラ「気づくのが数テンポ遅いです。さすがポンコツAI…で、僕を正常な状態に戻すことは可能ですか」
本当なら自分でやりたいところだったが、ここはプログラム世界。
データの修復等を扱う権限は、僕にはない。
ウサミは難しい顔をして、ポツリと言った。
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- 9 : 2015/04/25(土) 20:52:19 :
- ウサミ「…とにかく、やってみまちゅ」
カムクラ「ありがとうございます」
ウサミ「あちしに送られてるデータによると…あなたはカムクライズルくんでちゅよね?」
カムクラ「…まあ、一応そういう区別をされています」
ウサミ「わかりまちた。本来その体を扱うはずの日向くんの意識を復旧させることは、あちしのお仕事でもありちゅから、もちろんやりまちゅけど」
カムクラ「………」
ウサミ「日向くんの意識が戻るまでは、カムクラくん、あなたもあちしの生徒でちゅからね」
今さらウサミから学ぶことなど何もありもしないが、僕はひとまず頷いた。
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- 10 : 2015/04/25(土) 20:52:45 :
- ウサミ「うふふ、頼りにしてくだちゃい!」
カムクラ「…任せましたよ」
頼りないが、ここは仕方ない。
僕はその言葉を信じて、ウサミの家を後にした。
コテージに戻り、一人ベットに腰掛けて明日から僕がするべきことについて考える。
…日向創がこの体に戻るまでは、僕はここで生活しなければならない。
彼が戻った時、他の面々に怪しまれては江ノ島盾子の計画に支障が出るかもしれない。
となれば、僕のすべきことは…。
僕はふと、ベッドに寝転がりため息をついた。
カムクラ「はぁ…ツマラナイ」
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- 11 : 2015/04/25(土) 20:53:11 :
- 適当に生活して、日向創の戻る前に記憶を操作し、僕がいた記憶を消せば何も問題はない。
…簡単なことだ。
カムクラ「もっとも、江ノ島盾子なら…」
カムクラ「計画が破綻することすら計画のうちに入れてるのかもしれませんが…」
僕は寝返りをうって、そのまま瞳を閉じた。
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- 12 : 2015/04/25(土) 20:55:08 :
- ドンドンドン。ドンドンドン。
ドアを乱暴にノックする音で目が覚めた。
激しく揺らされたドアはやがて、金属の割れる音ともにゆっくりと開きだした。
澪田「あっちゃー…唯吹ったら馬鹿力っすね〜…」
カムクラ「…どちらさまですか」
澪田「あ、おはよーございまむ!それとはじめまして創ちゃん!」
澪田「あ、創ちゃんの名前は凪斗ちゃんから聞いてるっすよ!」
カムクラ「…ああ」
カムクラ「そうですかあなたは…澪田ですか…」
世界に、生きることに絶望していた彼女しか知らなかった僕は、その明るく笑顔を見せる彼女と“あの”澪田唯吹とを、瞬時に結びつけることができなかった。
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- 13 : 2015/04/25(土) 20:56:15 :
- 何も知らない無垢な笑顔は、僕にとっては痛々しくすら思える。
澪田は、区切り悪く言葉を切った僕を見ながら、きょとんとして何かを考えていたようだった。
が、わずかの間をおいて、彼女は何事もなかったかのように再び笑顔を咲かせた。
澪田「んー…?唯吹、まだ自己紹介してないっすよね?どっかであったことあったっすかね?あ、もしかしてファンだったりしたっすか?」
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- 14 : 2015/04/25(土) 20:56:42 :
- カムクラ「ああ…いえ。あまり歌には関心がありませんので」
澪田「うーむ、でも歌を知らないとなると…唯吹単体がそんなに有名人だったってことっすかねー?」
カムクラ「そんなことより、なんの用ですか」
僕がここに来た用件を話せと端的に促すと、澪田は素直に僕の要求に答えた。
澪田「おっと本来の目的を忘れるとこだったっす!あのあの、今から朝ごはんをみんなで食べるから、創ちゃんも来るっすよ!」
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- 15 : 2015/04/25(土) 20:57:22 :
- カムクラ「…僕はいいです。後で一人でとりますから」
澪田「もー!そんなつれないこと言わないでくださいっすー!ほらほら、早く行くっすよー!」
カムクラ「ああちょっと…」
強引に手をひかれて、僕たちはコテージから飛び出した。
まあ、無理に逆らう必要もない…か。
僕は彼女に導かれるままにホテル・ミライの2階に位置するレストランへとたどり着いた。
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- 16 : 2015/04/25(土) 20:58:08 :
- 十神「そこにいるのが日向か…」
レストランへ着いてすぐのこと。
白い巨体を揺らしながら、何者かが僕をまじまじと観察しながら近寄ってきた。
十神「俺の名は十神白夜だ。お前は日向だな?まあ座れ」
長いテーブルには既に全員が着席していて、僕はひとつ空いている席へと座らされた。
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- 17 : 2015/04/25(土) 20:58:55 :
- …彼が十神白夜?
しかしその姿は僕の記憶する十神白夜とはかけ離れたものだった。
となると十神ではなく、彼の方だろうか。
超高校級の詐欺師の才能を持つ、名前なき彼を思い浮かべる。
…おそらく、入学時は十神に扮していたのだろう。
彼は悠々と歩きながら、自分の席へと座った。
十神「ふむ、これで全員だ。あとでお前には生徒手帳とやらを渡そう…持っていないのはお前だけだからな」
カムクラ「ああ、そうですか」
十神「なんだ、無愛想なやつだ。もっと楽しそうな顔をして飯を食え」
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- 18 : 2015/04/25(土) 20:59:21 :
- あいにくと、食欲はなかった。
だがここで食べないとそこの巨体の男に、また面倒くさいことを言われそうだったので僕は自分の皿に、盛りつけられた料理をほんの少し口に入れた。
…味わったところで評価に値しない、ツマラナイ味だ。
花村「あの、僕が作った料理なんだけど…口に合うかな…?」
小太りの男がそう聞くので、僕は当たり障りない返答をした。
カムクラ「ええ、とても」
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- 19 : 2015/04/25(土) 21:00:04 :
- 花村「そっか!あんまり美味しそうな顔してなかったからさぁ…ちょっと心配だったんだ!」
男は僅かに安堵した様子だった。
しばらくして食事が終わると、僕は十神に生徒手帳をもらうことにした。
必要ないといえばないが、受け取らない理由もない。僕は手渡された小さな端末を起動させた。
『日向 創』
まずはじめにディスプレイにはそう表示されて、メニュー画面が開かれた。
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- 20 : 2015/04/25(土) 21:00:36 :
- 操作すると、各生徒のプロフィールを閲覧できたり、無駄なように思える電子ペットの育成ゲームが遊べるようになっていた。
…ゲームは遊ばないにしても、プロフィールにはざっと目を通しておくことにした。
名前と写真、簡単な性格の説明。
こんなものか、と電源を落としポケットにしまいこむ。僕は全員分の名前と顔を記憶して、ため息をついた。
コテージに帰り、ウサミを呼んでみる。
カムクラ「ウサミ」
ウサミ「はいはい!なんでちゅか?」
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- 21 : 2015/04/25(土) 21:01:30 :
- カムクラ「例の件…成果は出ましたか」
ウサミ「そ、そんなに早くは無理でちゅよ…!」
カムクラ「…そうですか」
この程度のプログラムだと、やはり時間がかかるか。僕はもどかしい気持ちを抱えつつ、ウサミを下がらせることにした。
カムクラ「では、引き続き頑張ってください」
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- 22 : 2015/04/25(土) 21:04:28 :
- ウサミ「申し訳ないでちゅカムクラくん…あちしも精一杯頑張りまちゅから、カムクラくんも、みなさんと出来るだけらーぶらーぶしてくだちゃいね!」
勝手なことを言いながら、ウサミは何処かへと消えた。
僕は昨日と同じようにベッドに寝転びながら心の中で毒づいた。
今までなら、先行きの不安など感じることもなかったのに。
僕の人生は江ノ島盾子に出会ってからどこか狂ってしまった気がする。
…最悪、ともいえる。
カムクラ(絆を深める理由も意味も…僕には存在しませんよ)
カムクラ(むしろ関わらないほうが…お互いのためにいい)
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- 23 : 2015/04/25(土) 21:05:08 :
- まだ陽が高いうちなのは承知で、僕はもう眠ることにした。
時間をずらして、彼らとは顔を合わせないようにしよう。
必要以上に関わる必要はない。
そう決めて、ゆったりと僕は気だるい眠りへと落ちた。
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- 24 : 2015/04/25(土) 21:05:51 :
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目が覚めた。
外はもう暗く、しんと静まり返っていた。
コテージの壁にかかっている時計に目をやると、時刻は午前二時。ちょうどいい時間だ。
僕は気持ちとは裏腹に空腹を訴える体を引きずりながら、レストランへと向かうことにした。
小泉「あ」
カムクラ「………」
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- 25 : 2015/04/25(土) 21:07:18 :
- レストランに着くと、小泉が先に座っていた。
コーヒーカップを持っているところから、大方寝つきが悪くてコテージを抜け出してきたところであろうことは容易に想像がつく。
僕はそんな彼女の横を通り過ぎ、食事をしようと奥の厨房の冷蔵庫から適当に食材を選んで、調理を始めた。
小泉「ふーん…アンタって料理できるんだ」
カムクラ「まあ」
適当な返事をしながら、僕は鍋の用意をする。
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- 26 : 2015/04/25(土) 21:08:50 :
- 小泉「…ねえ、アタシのぶんって作ってくれたりする?」
カムクラ「あなたのぶんですか?」
小泉「面倒ならいいの。ただ…なんとなく言ってみただけだから」
カムクラ「太りますよ」
小泉「うっ…はっきり言うわね。いいのよ、一日くらいは、ね」
カムクラ「…仕方ありませんね。作りますよ」
小泉「…ありがと」
食材を切り分け、煮込み、味付けして。
小泉はその光景をぼーっと見つめている。
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- 27 : 2015/04/25(土) 21:09:29 :
- やがて料理が完成した。といっても手間暇のかからない簡単なものだが。
二人分のポトフをカップによそって、片方を小泉の方へ差し出す。
一口食べると、小泉は信じられないような顔で僕を見つめた。
小泉「おいしい…アンタ、料理できるどころかめちゃくちゃ上手いじゃない…!」
カムクラ「そうですか。よかったですね」
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- 28 : 2015/04/25(土) 21:10:10 :
- 僕も一口スープを飲んで、胃の中が温まるのを感じる。
僕にとっては、これくらい普通だ。
僕たちはポトフをすっかり食べ終え、小泉は僕に礼を言った。
小泉「あの、さ。アンタって見た目はパッとしないし冴えないけど、意外と頼りになるのね」
カムクラ「…用がないならもう帰りますが」
小泉「待ちなさいよ。…少しでいいからさ、アタシの話し相手になってくれない?まだ寝れそうになくて…」
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- 29 : 2015/04/25(土) 21:10:43 :
- 面倒だと思いつつ、僕は自分のぶんのコーヒーを淹れた。
小泉「…ありがとう」
カムクラ「なんのことでしょう」
小泉の向かいの椅子に腰掛けて、コーヒーを啜る。
小泉「ううん、何でもない」
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- 30 : 2015/04/25(土) 21:11:08 :
- カムクラ「不眠症かなにかですか?」
小泉「え?」
カムクラ「寝れないと仰っていたので」
小泉「ああ、違うの。まだ気持ちの整理できてなくて…」
小泉「狛枝のやつから聞いたでしょ?突然、ここで夏の間知らない人間と共同生活しろなんて…どう考えてもおかしいよね」
カムクラ「…そうですね」
小泉「…アンタって不思議。すました顔して、自分だけ大人みたいな態度とって…怖かったり…しないわけ…?」
小泉は胸の内の何かを紛らわせるようにコーヒーに口をつけた。
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- 31 : 2015/04/25(土) 21:12:38 :
- カムクラ「怖いとは思いません」
小泉「あっそ…」
カムクラ「ええ」
小泉「………」
カムクラ「………」
僕達の間に沈黙が訪れる。
小泉は何かを言いたそうに僕を見たりするが、ためらいがちに視線をそらす。
気まずいのなら、無理をせずとも良いのに。
小泉は相変わらずコーヒーを啜ることで、僕と目を合わせることから逃げている。
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- 32 : 2015/04/25(土) 21:13:12 :
- カムクラ「…目を合わせようとしませんね」
小泉「………」
小泉「…そうだね。自分から引き止めておいて、アタシあんまり気持ちのいい態度とってない」
小泉「何やってんだろ。アタシ…」
カムクラ「今度は自己嫌悪ですか」
小泉「落ち込んでるわけじゃないけどさ」
小泉は未だに視線を落としたままコーヒーを啜っている。
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- 33 : 2015/04/25(土) 21:13:43 :
- 小泉「あ、またアタシの話になっちゃうんだけどね?」
小泉「アタシから見た、アンタの第一印象ってなんだか分かる?」
カムクラ「仏頂面で面白くない男、とでも思いましたか?」
小泉「ううん、それだったら面と向かって言うよ…そうじゃなくてさ」
小泉「怖い…って思っちゃったんだ。なんでかな、ただの男相手に怖いだなんてアタシにしては珍しいとは思うんだけど」
小泉「でも意外と優しくて、案外普通だなって思ったら…なんか甘えちゃって」
小泉「ほんとアンタって不思議」
カムクラ「…そうですか」
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- 34 : 2015/04/25(土) 21:14:16 :
- 小泉「さ、そろそろ寝ようかな!」
小泉は、既に飲み終えたコーヒーカップを持って、席を立った。
僕もそれに合わせてコーヒーを飲み干し、小泉の持っていたカップを取り上げた。
カムクラ「僕が片付けておきますから、あなたは先に帰りなさい」
小泉「えっ!?い、いいよ!自分のぶんは自分で片付けるって!」
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- 35 : 2015/04/25(土) 21:14:45 :
- カムクラ「ほぼ初対面の男に夜食を作らせた人が何を言ってるんですか」
小泉「そりゃまあ…そうだけどさ…」
小泉「…わかった。ありがとね」
カムクラ「いえ」
小泉「おやすみ、日向」
カムクラ「はい、おやすみなさい小泉」
こちらに向かって手を振る小泉に、僕も小さく手を振り返して、彼女はやっと帰っていった。
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- 36 : 2015/04/25(土) 21:15:10 :
- カップを片づけて僕がレストランを出ると、空はまるで宝石のような星々に埋め尽くされていた。
現実の世界ではもう見られないような、澄んだ摩天楼。
僕はその足でコテージへと帰り、着替えとシャワーを済ませ、眠りについた。
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- 37 : 2015/04/25(土) 21:15:40 :
- ーーーーーーーーーーーー
朝。
カムクラ「ん…」
ゆさゆさと、誰かに体をゆすられる。
ウサミ「起きてくだちゃいカムクラくん!」
カムクラ「なんですか朝から騒々しい…」
ウサミ「さっきデータを調べてたらとんでもないことが分かりまちた!とにかく、すぐ起きてくだちゃい!」
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- 38 : 2015/04/25(土) 21:16:10 :
- カムクラ「うう…朝はもう少し寝かせてください…」
ウサミ「だめでちゅ!大事なお話なんでちゅー!」
カムクラ「あと3分…」
ウサミ「きゃあっ」
ポムポムと僕の上で跳ねるウサミを押しのけて、背を向ける。
朝は体が重いというか、やる気が出ない。
僕は再び眠りに…
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- 39 : 2015/04/25(土) 21:16:34 :
- ウサミ「かくなる上は…!ちぇすとー!」
カムクラ「ウッ…」
突然重みを増した毛布。
仕方なく目を開けてみると、そこには10体ほどのウサミが僕の上にのしかかっているのが見えた。
ウサミ達「「「早起きは三文の徳川家康ー!」」」
カムクラ「ええいうるさいですね。わかりました起きます。起きればいいんでしょう」
ウサミ達「「「やったー!やりまちたー!」」」
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- 40 : 2015/04/25(土) 21:16:58 :
- ぴょんぴょんと僕から降りていくウサミを煩わしく思いながら、僕はやっとの思いでベッドから起き上がった。
カムクラ「はぁ…で、何が分かったんですか」
ウサミ「それが…カムクラくんにとってはすごく面倒なことにってまちて…」
カムクラ「僕にとって面倒ですか」
ウサミ「はい…あの、本来の修学旅行のルールは知ってまちゅよね?」
カムクラ「希望のカケラを6つ集めろ…みたいな奴ですか」
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- 41 : 2015/04/25(土) 21:17:39 :
- ウサミ「今はその制度を休止して、課題もストップさせてるんでちゅけど…これはもしかすると、一度再開させないといけなくなりまちた…」
カムクラ「僕も参加するんですか」
ウサミ「そうなんでちゅ…。それで、カムクラくんにやって欲しいことがありまちゅ」
ウサミ「日向くんの人格を引き上げるためには、まずカムクラくんに卒業してもらわないといけないみたいで…」
ウサミ「1個ずつでいいので、みなさんから希望のカケラをひとつ集めて来てくれまちぇんか?」
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- 42 : 2015/04/25(土) 21:18:55 :
- ウサミ「カケラさえ集めてもらえれば、すぐにでも卒業試験を始めまちゅから…」
カムクラ「そう…ですか」
ウサミ「面倒な手順を踏ませてばかりで申し訳ないでちゅ…でもね、これも貴重な体験でちゅよ!これを機会にみなさんとらーぶらーぶしてくだちゃい!」
カムクラ「ら、らーぶらーぶ…」
ウサミ「カケラは生徒手帳からも確認できるから、あとは頑張ってくだちゃーい!」
カムクラ「………」
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- 43 : 2015/04/25(土) 21:20:18 :
- 騒ぐだけ騒いで、ウサミはどこかへと消えた。
試しに生徒手帳を起動させてみると、他の人間のプロフィールの右下に、アイコンが新たに追加されていた。
今持っているのは、小泉のカケラのみ。
昨日の夜たまたま話したからだろうか。
小泉のプロフィールの右下に輝く青いカケラのアイコン。
やけに誇らしげなそれを見て、僕はほんの少し嫌な気分で生徒手帳を閉じた。
…嫌な気分…?
なんとなく違和感を感じながらも、僕は朝食をとりにレストランへと向かった。
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- 44 : 2015/04/25(土) 21:20:51 :
- ふらりと現れた僕に、彼らはなんともいえない表情を見せた。
昨日からずっと素っ気ない態度をとってきたのだから当然だろう。
そんな中で目を引くのは、狛枝の笑顔だった。
狛枝「やぁ。隣いいかな?」
カムクラ「ご自由に」
狛枝「失礼するね」
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- 45 : 2015/04/25(土) 21:21:27 :
- 船で会った時と、あまり変わらない笑顔だった。
人間として何かが腐って、もう既に終わってるようなにおい。
彼は、ずっとこうだったのだろうか。
狛枝「日向クン」
カムクラ「なんでしょう」
狛枝「いやね、なんだか君が来てくれるなんて嬉しくてさ。昨日は朝食以外ロクに顔も出さずに引きこもってたみたいだし…もうボクたちと同じ食卓で同じご飯を食べてくれないかもなんて思ってたんだ」
狛枝「でもそれは考え過ぎだったみたいだね。あはっ、意外と寂しくなっちゃったりするのかな?それともただの気まぐれ?まあどちらにせよボクが君に会えて嬉しいっていう事実に変わりは」
カムクラ「食事中は静かに」
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- 46 : 2015/04/25(土) 21:22:09 :
- 狛枝「ああ…ごめん。つい。感極まっちゃって」
カムクラ「いえ」
狛枝「…あ、それはそうとさ」
カムクラ「………」
狛枝「今朝の放送聞いた?」
カムクラ「放送…」
ウサミがひどくうるさく僕を叩き起こしたことなら覚えているが、特に何か放送を聞いた覚えはない。
僕は無言で狛枝に返答を求めた。
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- 47 : 2015/04/25(土) 21:23:13 :
- 狛枝「その目は聞いてなかった、っていう目だね。じゃあ教えてあげるよ」
狛枝「今朝のことだよ」
ー回想ー
ウサミ『みなさん、おはようございまちゅ!えー、緊急放送でちゅよ!お耳をしっかり立てて聞き逃さないようにしてくだちゃい!』
ウサミ『今日から皆さんには、課題をやってもらいまちゅ!まあみんなでやる宿題みたいなものでちゅ!』
ウサミ『あーあー、みなさん聞いてまちゅか?今日から課題をやってもらいまちゅ!』
ウサミ『えーと、聞いてない人は…一人だけいまちゅね。全くもう…!』
ー回想終わりー
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- 48 : 2015/04/25(土) 21:23:48 :
- 狛枝「というわけで、ボクたちは協力して課題とかいうものをこなさないといけないみたいなんだけど…」
カムクラ「なるほど、その話なら聞いています」
狛枝「あれ?知ってた?」
狛枝「なーんだ、ボクはてっきり放送を聞き逃したうっかりさんは日向クンかと思ったのに」
なるほど。それでウサミは僕を起こしに来たのか。
確かに放送を聞き逃していたのは僕だが、それを狛枝に教えるのはやめた。
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- 49 : 2015/04/25(土) 21:24:19 :
- カムクラ「そのうっかりさんがどこの誰だか、あいにく僕には検討もつきませんが…」
カムクラ「いい加減に食事を再開してください」
狛枝「あはは、忘れてたよ。いただきます」
おどけたように笑いながら、焼いたトーストをかじり始める狛枝。
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- 50 : 2015/04/25(土) 21:24:46 :
- その姿を横目に見つつ、僕は淡い期待を抱きながら電子生徒手帳の狛枝のカケラを確認する。
しかしカケラのアイコンは灰色のまま。
さすがにそこまで簡単ではないのかと、いささかげんなりして、肩を落とした。
僕も食事を再開する。
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- 51 : 2015/04/25(土) 21:25:11 :
- ーーーーーーー
それなりに空腹を満たして、食後の余韻に浸っていると、ピピピと電子音が聞こえた。
電子生徒手帳を開くと、メールが届いていたようだ。差出人はウサミ。
どうやら内容は、今日から始まる課題についてだ。
狛枝「これが課題ってやつ?」
カムクラ「そのようですね」
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- 52 : 2015/04/25(土) 21:27:47 :
- 狛枝「ええと…なんだこれ」
カムクラ「今日の課題…やりなおすいっち…」
今日から1週間で作るものは…
『やり直スイッチ』です?
何かをやり直すスイッチだと仮定して、それはおそらく僕のことだろうか。
ウサミらしい安直なネーミングだ。
狛枝「それにしても、なんだろうねこれ」
カムクラ「さあ」
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- 53 : 2015/04/25(土) 21:28:14 :
- 狛枝「何かをやり直せるスイッチなのかな」
カムクラ「材料も書いてありますが」
狛枝「うーん、作れるかな」
カムクラ「一応作り方も書いてありますし、ウサミのことですから難易度は低いでしょう」
もちろんメタ的な意味で。
とにかくカケラを集め、課題を終えて、こんな舞台からさっさと降りてしまいたい。
僕は改めて、予測できなかった未来がここにあることを痛感した。
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- 54 : 2015/04/25(土) 21:31:31 :
- Chapter1 END
チャプターごとに日にちを変えて更新しようかと思いまする。
読んでくれてる人はいるかな〜
いなくても書くけどね〜うぷぷ
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- 55 : 2015/04/27(月) 09:49:31 :
- 期待です!!カムクラさんだー!ひゃつほーう!
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- 56 : 2015/04/28(火) 08:27:23 :
- 期待嬉しいっす!
カムクラいいですよね(*´Д`)
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- 57 : 2015/04/29(水) 13:42:45 :
- 前作も面白かったですが、今作も凄く面白いです!!
期待です!!
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- 58 : 2015/04/30(木) 10:19:21 :
- 期待アリガトゴザイマス!!
頑張ります!!!
-
- 59 : 2015/04/30(木) 21:42:56 :
- 【Chapter2 曇りのち雨サニーデイ】
僕たちは十神に声をかけられて、課題をすすめるために中央の島に集まった。
僕は各採集場所への人員配置を任せてほしいと十神に断りを入れ、ペア分けを担当することにした。
自分でペアを決められれば、カケラ集めが捗る。
しばらくして、ペアが決まった。
-
- 60 : 2015/04/30(木) 21:43:20 :
- 十神「よし、では行くぞ」
カムクラ「ええ」
まず最初に僕が採集のペアに選んだのは十神。
友好を深めておくなら、声の大きい、目立つ人間からが妥当だろう。僕たちは浜辺へと向かった。
十神「俺達が集めるのはジャバ真珠だったな」
カムクラ「そうです」
十神「しかし真珠を集めるというのは容易なことではない…まずは真珠貝を探すぞ!」
カムクラ「そうしましょうか」
-
- 61 : 2015/04/30(木) 21:43:52 :
- 僕はともかく、素人がこの短い時間で真珠貝から真珠を見つけることが可能だろうか…という考えがほんの一瞬脳裏をかすめたが、ここは仮想世界。
そのあたりは調整されているだろう。
エメラルドグリーンの海は太陽光を反射して無邪気に輝く。
僕たちは靴を脱ぎ、冷たく美しい水の中へと足を入れた。…水温は、なかなかいい具合だ。
僕は既に視界の端に捉えた真珠貝に気づかないふりをして、十神に話しかける。
カムクラ「見つかりますかね」
-
- 62 : 2015/04/30(木) 21:44:18 :
- 十神「見つけるしかないだろう」
カムクラ「たしか…5個見つけるんでしたよね」
十神「ああ」
カムクラ「…では、見つけるまでの間、楽しくお喋りでもしましょうか」
十神「………」
カムクラ「何か?」
十神「いや…お前は人と関わることを避けているように感じていたから、意外だった」
カムクラ「そうでしょうか。ともに作業する仲間と一切コミュニケーションをとらない方が、僕としては不自然かと思いますが」
十神「…そうか」
カムクラ「では、お話しましょうか」
十神「そうだな」
-
- 63 : 2015/04/30(木) 21:44:52 :
- 十神は海に入るなり熱心に貝を探していたが、僕の声にほんの少しペースを落とした。
カムクラ「…天気がいいですね」
十神「晴れているのはいい事だ」
カムクラ「晴れは好きですか?」
十神「まあな」
カムクラ「晴れのどのような点が?」
-
- 64 : 2015/04/30(木) 21:45:14 :
- 十神「どのような…そうだな。太陽は堂々としていて、いい。青空が太陽を引き立てる。晴れの日の太陽は、主役のようで気持ちいいからな」
カムクラ「では曇りの日は」
十神「ふむ…嫌いではない。曇りは、気分が晴れない曖昧さをうまく隠してくれる。ただ湿っぽいのはあまり好かんな」
カムクラ「なるほど」
十神「お前はどうなんだ」
カムクラ「…僕ですか?」
十神「好きな天気はあるのか?」
カムクラ「どうでしょう…それは考えた事がありませんでした」
-
- 65 : 2015/04/30(木) 21:45:46 :
- カムクラ「好きな天気…」
十神「無いならそれで構わん」
カムクラ「…では、今度はもっと話しやすい話題にしましょう」
十神「ほう、何について話すつもりだ?」
カムクラ「そうですね…食、について…なんていかがでしょう」
十神「なかなかいいセンスだ。ではグルメについて話すとしよう」
-
- 66 : 2015/04/30(木) 21:46:12 :
- 十神「時に日向…お前はポークとビーフ…どちら派だ?」
カムクラ「そうですね…ポークでしょうか」
十神「ふっ…分かっているじゃないか。」
十神「タンパク質やビタミンB1を多く含み、料理への活用範囲も広い…ポークほど素晴らしい肉はないだろう」
カムクラ「豚肉の脂身は口の中の温度でも溶けますからね。歯が弱い高齢者の方々にも優しいでしょう」
十神「ふん…日向、お前とは気が合うようだ」
カムクラ「それは光栄です」
十神「よし、それなら…お前が一番好きな食べ物はなんだ?」
十神にそう問われて、僕はふと思う。
僕個人は、食にあまりこだわりはない。
-
- 67 : 2015/04/30(木) 21:46:56 :
- なので僕は日向創のプロフィールを思い浮かべた。
たしか…草餅が好きだと表記されていた。
カムクラ「草餅…ですかね」
十神「意外だな。甘いものが好きなのか?」
カムクラ「ええ、まあ」
十神「あんこで言うなら、こしあんつぶあん、どちらがより好きなんだ?」
カムクラ「どちらでも美味しいと思います」
十神「なるほどな。…む?」
カムクラ「どうかしましたか」
-
- 68 : 2015/04/30(木) 21:47:24 :
- 十神が足元に落ちていた大きな貝を拾い上げる。
十神「これは…真珠貝じゃないか…?」
カムクラ「ああ確かにこれは真珠貝ですね」
十神「ああ、間違いない」
十神が手にした貝の中からは、2センチばかりの大きさの真珠が転がり出た。
それを合図にどこかから電子音が鳴り響く。
…僕の電子生徒手帳だ。
海水に濡れた手を服の端で拭い、僕は電子生徒手帳を確認する。
十神のカケラアイコンが、青く光っている。
-
- 69 : 2015/04/30(木) 21:47:47 :
- …順調だ。
僕はほんの少しの達成感を心地よく思いながら、再びそれをポケットにしまい込んだ。
カムクラ「さて、そろそろ帰りましょうか」
十神「だがまだ時間ではないぞ。それに真珠も…」
カムクラ「真珠なら、ここに」
十神「なに?」
僕はこっそり見つけておいた真珠を十神に握らせ熱い砂浜へ戻り、靴を履く。
十神「お前は…一体」
-
- 70 : 2015/04/30(木) 21:50:18 :
- カムクラ「偶然ですよ。帰りましょう」
十神「…そう、するか」
十神「そういえば」
十神「日向の才能を聞いたことがなかったな」
いつか十神にも聞かれると思っていたが、僕は自分の才能を正直に明かすつもりなど毛頭なかった。そもそも、僕のこれが才能といえるものか疑問だ。
かといってなにか適当に才能を偽るのも面倒だ。
カムクラ「………」
僕は逡巡ののち、やはり才能は隠したままにしておこうと決めた。
-
- 71 : 2015/04/30(木) 21:51:26 :
- 十神「…日向?」
カムクラ「たいした才能でもありませんよ。それに…」
十神「………?」
カムクラ「望まない才能だって、この世にはある」
十神「…わかった。望まない才能…たしかにそういうものもあるかもしれん。俺も深くは聞かん」
十神「帰るか」
カムクラ「そうしましょう」
才能のことを適当にはぐらかして、僕らは集合場所に予定よりも早く帰ってきた。
-
- 72 : 2015/04/30(木) 21:51:54 :
- 十神は『望まない才能』という言葉に、何か思い当たるものがある様子だった。
だがそれも当然。彼も『望まない才能』の持ち主だ。だからこそ、僕は逃げ口上にその言葉を使ったのだ。
ああ、この調子でカケラを集めて、本物の日向創にバトンタッチして、一刻も早く僕は眠りたい。
そんなことを考えつつ、僕は持参したカロリーメイトを頬張りながら、ぼぅっと採集メンバーが帰ってくるのを待った。
-
- 73 : 2015/04/30(木) 21:52:57 :
- しばらくして、パラパラと他の採集メンバーも集まってきた。
収穫のあるもの、ないものそれぞれだが、ただ一つ共通点を上げるとすれば…皆なにか充実した顔つきだったことだ。
僕は課題という口実を使って共同作業をさせるという方法は、非効率的で頭の悪いプログラムだと思っていたが、彼らの顔を見ているとあながち悪い方法でもないように思えた。
ウサミの間抜けな顔がよぎる。
…プログラミングはウサミじゃないのだから、一応理にかなった方法ではあるのか。
聞き及ぶところによれば、超高校級のプログラマーや神経学者がこの計画に携わっ
-
- 74 : 2015/04/30(木) 21:53:29 :
- 狛枝「…ーい、おーい。聞いてる?」
カムクラ「…なんですか」
狛枝「あははっ、聞こえてなかったみたいだね。なにか考えごと?」
思考を途中で遮られたことに、僕はほんの少し苛立ちを覚えた。
カムクラ「要件を完結に」
狛枝「うん、あのね、今日は夕飯…みんなと食べるのかなって」
カムクラ「まあ、食べると思います」
狛枝「そう、よかった。誰と食べるか決まってる?」
カムクラ「いえ」
狛枝「それなら一緒に食べてもいいかな?」
カムクラ「…いいですよ」
-
- 75 : 2015/04/30(木) 21:54:08 :
- 狛枝「…安心したよ。食事をともにすることを拒否されるレベルで嫌いではないってことか…うん、望みアリだね」
カムクラ「なんの望みかわかりませんが…まずは昼食を食べたらいかがでしょう」
狛枝「そうだね。一緒にレストランに行く?」
カムクラ「僕はもう食べました。あなた達が帰ってくるより早く作業を終えていましたので」
狛枝「そっか。それは残念だなぁ」
狛枝「じゃあボクはそろそろご飯食べてこようかな。日向クンも、また後でね」
狛枝は胡散臭い笑顔を見せて、僕に手を振った。
僕は手を振り返すことなく狛枝を見送る。
-
- 76 : 2015/04/30(木) 21:55:02 :
- …さて。
午後は誰と過ごすべきだろうか。
周りを見渡してみる。
ふと左右田と目があった。
午後は、彼と過ごすことにしよう。
僕は彼に近づいた。
カムクラ「左右田、この後は暇ですか」
左右田「へ?あ、ああ…まァ暇…だけど」
カムクラ「では付き合ってください」
-
- 77 : 2015/04/30(木) 21:55:29 :
- 左右田「何にでしょーか…」
カムクラ「遊びに誘っているのですが」
左右田「え?お前が?俺に?」
カムクラ「そうです」
左右田「いやまァいいけどよォ…突然だな」
カムクラ「では、行きましょうか」
左右田「ちょ服引っ張んな伸びるからっ…!」
左右田を連れて、僕は電気街へと向かうことにした。服を掴むと嫌がるので手を掴むと、左右田は微妙な顔をしつつ僕についてきた。
-
- 78 : 2015/04/30(木) 21:56:15 :
- 引き気味だった彼の態度も、電気街の外観が見えるにつれ次第に明るくなっていった。
左右田「すげェなあれ!基盤にコードに…お!モーターかこれ!?」
カムクラ「来てよかったでしょう」
左右田「おう!」
カムクラ「…おや」
左右田「どしたァ?」
カムクラ「このエンジンなんか、あなた好みなのではないでしょうか」
左右田「おーどれどれ…って、これ!SR20のターボじゃねェか!うおぉ…!やべェ〜!ブン回してェ〜!」
-
- 79 : 2015/04/30(木) 21:56:57 :
- カムクラ「シルビアなどに搭載されていたものですよね」
左右田「ああそうだな…ってもしかして日向、メカ語れるクチか!?もしくは相当のエンジンのソムリエ的なやつか!?」
カムクラ「ソムリエとは違いますが…まあ、少しくらいは語れますよ」
左右田「マジでか!!」
左右田は目を輝かせて僕を見た。
-
- 80 : 2015/04/30(木) 21:57:24 :
- 左右田「じゃあよ、そんなエンジンソムリエの日向に問題だ!」
カムクラ「ほう」
左右田「SRエンジンが高回転に弱いのは、日向なら知ってそうだな。じゃあどうしてSRエンジンは高回転に弱いのでしょう!」
僕はほんの少し考えるふりをして、ぽつりと呟いてみた。
カムクラ「アルミ製なので熱に弱い…といったところでしょうか」
左右田「ん〜、それも一つだけどもう少し詳しく答えて欲しかったなァ〜」
-
- 81 : 2015/04/30(木) 21:57:56 :
- 左右田「SRエンジンの悪いとこはよ、バルブクリアランスの調整が不要になる油圧式ラッシュアジャスターを採用したのは良いとしても、そこにロッカーアームを組合せてるのがいただけねー。
普通の運転状況ではメリットになるけど、レブリミット付近まで回ることが前提のスポーツ走行ではデメリットになっちまうんだ」
カムクラ「なるほど、さすがです」
左右田「ま、これでも超高校級のメカニックだかんな。伊達にメカをイジってきてねェってことだ」
カムクラ「では、他のエンジンはどうなっているのですか?」
左右田「おっ、気になっちまうのか?」
カムクラ「ええ、ぜひご教授願いたいですね」
左右田「し…仕方ねェなァ〜!」
-
- 82 : 2015/04/30(木) 21:59:20 :
- 左右田「そーだなァRB26DETT/1JZーGTE/4AGってのがあんだろ?
カムが直接バルブを開閉するから、「直打式」とか「直動式」と呼ばれてるメカニズムで、高回転向きのエンジンに採用される方式なんだけどよォ。
ラッシュアジャスター機構が無いから、一定のバルブクリアランスをシムで調整する手間がある代わり、ダイレクトなバルブ開閉動作ができっから、カムの作用角やバルタイがギリギリまでシビアに煮詰められるっつー魅力があるんだよな」
左右田「まァ俺は、SRエンジンの方が扱いやすくて好きなんだけどな」
カムクラ「ふむ、タメになる話です」
-
- 83 : 2015/04/30(木) 22:00:29 :
- 左右田「…なんか」
左右田「誰かとこういう話で盛り上がったのも久しぶりだな…」
カムクラ「そうですか?」
左右田「そりゃ家に帰れば親父が話し相手になってくれてたけどよ、俺のダチって別にみんな真面目じゃなかったし」
左右田「おんなじ高校通ってても、偏差値低いからって理由で受験した奴がほとんどだったし…工業高校ってそんなもんだと思うけどよ」
カムクラ「どこの高校でしたっけ」
左右田「 唐詩馬工業高校だ。まー自分で言うのもなんだけど、有名なバカ校だ」
カムクラ「そうでしたか」
-
- 84 : 2015/04/30(木) 22:00:57 :
- 左右田「日向はどこなんだ?」
カムクラ「小高高校でした」
左右田「お…?わりィ…そこは知らねェわ」
カムクラ「でしょうね。都内にあるごく一般的な高校でしたから」
僕は時計を確認した。もうすぐ夕方になる。
過去の話に触れ過ぎると僕も話さないといけなくなるだろうと思い、話のキリのいいところで左右田に声をかけた。
-
- 85 : 2015/04/30(木) 22:01:24 :
- カムクラ「そろそろ帰りましょう」
左右田「あーそうだな」
左右田「あと、日向」
カムクラ「なんでしょう」
左右田「これ、持ってくれ」
ずしりと重い鉄の塊を持たされる。
それはエンジンやモーターや…その他諸々、今日見つけた電子部品達だ。
カムクラ「これは」
-
- 86 : 2015/04/30(木) 22:01:47 :
- 左右田「お前がこんなとこに誘ってきたのが悪いんだからな!もうオレは…バラしたくて組み立てたくてウズウズしてんだ!」
カムクラ「だから運ぶのを手伝えと…そういうことですか」
左右田「言っとくけど、日向が持ってる分で半分だかんな!はァ〜…こういう時腕があと2本生えてたらなァ…」
カムクラ「…わかりました。運びましょう」
左右田「うっす!サンキュ!」
左右田も僕と同じか、それ以上の電子部品を両手に抱えて、僕たちはオイル臭い体で帰路についた。
-
- 87 : 2015/04/30(木) 22:02:25 :
- 小泉「あれ、日向と左右田じゃん」
小泉「って…なにこのにおい…」
左右田「げ…メンドクセー奴に見つかっちまった…」
小泉「ちょっとアンタ達?こんなガラクタをコテージに持ち込んで、一体どうするつもり?」
左右田「あ、いや、その…」
小泉「ちゃんと自分で掃除するならいいけど、左右田?アンタなんか特にだらしないんだから、片付けとかしないでしょ」
左右田「んなことねーよ!オレだってその、片付けくらいできるっつーか…」
小泉「さあどうだか。そもそも普段着がツナギって時点で普段の私生活なんかだいたい予想つくんだから」
-
- 88 : 2015/04/30(木) 22:03:57 :
- カムクラ「小泉」
小泉「…なによ日向」
カムクラ「掃除ならしっかりやらせますよ。だから今回は見逃してくれませんか」
左右田「ひ、日向ァ…!」
小泉「………」
カムクラ「…………」
小泉「…はぁ。もう、今回だけだからね」
左右田「ありがとうソウルフレンド!マジ助かるぜ!!」
カムクラ「調子に乗らないでください。掃除はあなたがやるんですからね」
小泉「もし部屋を汚くしてたら、すぐに没収するからね」
左右田「うっ…わ、わかってるって…!」
左右田の家に電子部品を置いたあと、僕は家に帰って、オイルのにおいが染み付いた体をシャワーで洗い、シャツを取り替えた。
何気なく電子生徒手帳を開くと、カケラアイコンがひとつ増えていた。この調子なら、すぐに集まるだろう。
-
- 89 : 2015/04/30(木) 22:04:26 :
- ベッドに腰掛けて一息つく。
まだまだ、集めなければ。
すると、タイミング良く扉からノックの音が聞こえた。
僕は扉を開ける。
カムクラ「…もう夕飯の誘いですか」
狛枝「わ、すごいや。そんなにすぐボクって分かるものかな?」
-
- 90 : 2015/04/30(木) 22:06:38 :
- カムクラ「別にすごくなんてありません。それより、なんの用ですか」
狛枝「ああごめんね。ほら、君の言うとおり夕飯の誘いだよ。全部見透かされちゃって恥ずかしいなぁ」
カムクラ「嘘をいいなさい。本当に恥ずかしいなら、その胡散臭い笑顔をやめた方がいいですよ」
狛枝「もともとこういう顔なんだけどなぁ」
のらりくらりとした会話をしながら、僕たちはレストランへと向かった。
-
- 91 : 2015/04/30(木) 22:07:03 :
- その日も特に変わったことはなく、狛枝の鬱陶しい会話と味気ない食事を終えて帰路についた。
自分のコテージが、なんとなく落ち着く。
誰かと積極的にコミュニケーションをとることは、思いのほか疲れる。
僕はもう一度シャワーを浴びて、ベッドに横になり眠りについた。
-
- 92 : 2015/04/30(木) 22:07:21 :
- 【Chapter2 END】
-
- 93 : 2015/05/07(木) 23:27:38 :
- 更新待ってます!面白いです!!期待
-
- 94 : 2015/05/28(木) 20:06:50 :
- つなぎツナギ… やらないか★……期待
-
- 95 : 2015/06/04(木) 09:10:02 :
- 【chapter3 無感情の終わりとハードボイルド・ワンダーランド】
ぼちぼち再開します!
更新亀でごめんなさい!
-
- 96 : 2015/06/04(木) 09:10:26 :
- 3日目の朝。
僕はやけに早くに起きた。
昨日よく寝たからかもしれない。
あくびを一つして、着替えて外に出る。
-
- 97 : 2015/06/04(木) 09:10:47 :
- ソニア「あら?日向さんではありませんか!」
田中「奇遇だな日向よ。よもや貴様もこの眩しく輝く朝日を見るために起きたのではあるまいな?」
カムクラ「おや、二人は朝日を見るために早起きを?」
ソニア「いえ…そういうつもりはなかったのですが、たまたま起きてしまいまして…そうしたら、田中さんが」
カムクラ「では三人とも偶然…ということですか」
-
- 98 : 2015/06/04(木) 09:11:04 :
- 田中「しかしこれも定められた運命やもしれん。でなければ仕組まれたか…」
カムクラ「それなら丁度いいですし、朝の散歩でもしませんか。海風にあたりながら、どうでしょう」
ソニア「ワォ!それはグッドアイデアです!田中さんも行かれますか?」
田中「再び深き眠りにつくというのも、我が身に負荷がかかりそうだからな…ククク、着いて行ってやろう…」
カムクラ「決まりですね」
-
- 99 : 2015/06/04(木) 09:11:28 :
- 僕たちはゆったりとした足取りで歩きだした。
雑談を交わしながら歩いていると、僕はふと道端に生えた小さな花に気づいた。
カムクラ「………」
ソニア「どうされました?日向さん」
カムクラ「いえ、花が」
-
- 100 : 2015/06/04(木) 09:11:49 :
- 田中「ふむ、よく見かける花だが…あいにくと名前が思い出せん。なんという花だったか…」
カムクラ「ネコノシタですよ」
ソニア「猫の舌…ですか?」
カムクラ「 別名、ハマグルマ…夏の海岸で咲く花です。試しに葉っぱを触ってみてください」
田中「ッ…!」
カムクラ「どうです。ザラザラしているでしょう」
田中「これは面白い…確かにこれは猫の舌でペロリとなめ取られる感覚に似ている…!」
-
- 101 : 2015/06/04(木) 09:12:17 :
- ソニア「日向さんは物知りですね!」
カムクラ「…植物図鑑に載っていたのを、覚えていただけです」
息を吐くように僕は嘘をついてまた歩き出す。
なぜ花などに気を取られたのか、僕自身にもわからないまま。
…しばらく歩くと、僕たちの足は自然と中央の島へと向いていた。
散歩をするには、この広い公園は丁度いい。
ぐるりと公園内を散歩していると、公園の真ん中に堂々と建つ大きな像に話題が移った。
ソニア「そういえば」
-
- 102 : 2015/06/04(木) 09:12:42 :
- 田中「む?」
ソニア「あの像ってどういった意味が込められているのでしょう?」
田中「そうだな…あらゆる動物と融合体になり巨大な生物となっている姿はまるで、キマイラのようでもあるが…」
ソニア「日向さんならば、なにか知っていたりしそうですね…!」
田中「博識な貴様なら、知ってそうだな」
カムクラ「なんでも博士みたいなポジションは嫌ですよ…そうですね、真偽の程は保証しかねますが、推測ならできます」
ソニア「ぜひ聞きたいです!」
-
- 103 : 2015/06/04(木) 09:13:07 :
- カムクラ「…いいでしょう。お二人は、不思議の国のアリスをご存知でしょうか」
ソニア「アリス・イン・ワンダーランド!わたくしも、少女の頃よく読み聞かせてもらいました!」
田中「言わずとしれた有名な物語だな」
カムクラ「ではその続編についてはご存知ですか」
ソニア「いえ…存在は知っておりましたが、実は続編についてはなにも」
カムクラ「鏡の国のアリス。それが続編のタイトルです。その物語内で登場する書物があるのですが、そこに『ジャバウォックの詩』というものがあります」
田中「ほう…」
-
- 104 : 2015/06/04(木) 09:13:30 :
- カムクラ「襲い来る怪物ジャバウォック。その姿をコンセプトにしたものがこちらの像…なのではないかと」
ソニア「ちなみに、ジャバウォックという名前には何か意味が込められているのですか?」
カムクラ「おや、ピンと来ませんか」
ソニア「その、造語だと思うので、わたくしにはどう捉えてよいものやら…」
カムクラ「まあ…そうですね。ジャバというのは議論、ウォックは子孫という意味だと、ルイス自身が言っていましたから…解釈するなら『議論のたまもの』というところでしょうか」
田中「つまり、今の俺様たちのように、この像の存在について議論することを目的としたもの…ということか」
ソニア「なるほど!腑に落ちました!」
-
- 105 : 2015/06/04(木) 09:14:03 :
- カムクラ「まあこれを建てた会社が、本当にそういった意図で作ったのかは分かりませんがね」
ソニア「それでもすごいです!なんだか…先生のようですね、日向さんは…!」
田中「まるで知識の森、賢者のようだな。様々な世界を渡り歩いてきた俺様には分かる。貴様こそ真の知識人だ…!」
ソニア「先生!」
田中「賢者日向よ!」
カムクラ「ああもう、やめてください。偶然ですから、そんな風に僕を呼ばないでください」
ソニア「では師匠と!」
田中「星詠み人でどうだ?」
カムクラ「さっきのほうがマシです…」
-
- 106 : 2015/06/04(木) 09:14:36 :
- ソニア「では日向さん!」
カムクラ「なんですか」
ソニア「人生楽ありゃ?」
カムクラ「苦もあるさ」
ソニア「きゃー!正解です!」
カムクラ「はぁ」
田中「ククっ…認めたくないものだな?」
カムクラ「若さゆえの過ちというものは」
田中「正解だ日向よ!」
カムクラ「何クイズですか」
カムクラ「というより、いつまで続ける気ですか」
ソニア「日向さんが答えに詰まるまでです!」
田中「俺様の夢幻の知識に抗えるものならやってみろ!賢者日向!」
カムクラ「その呼び名はもう決定なんですか」
-
- 107 : 2015/06/04(木) 09:15:09 :
- 田中「インフィニティアンリミテッドォォ!?」
カムクラ「フレイム」
田中「甘いぞ日向!もっと焼き尽くす業火をイメージして、叫ぶといい!」
カムクラ「っフレイム!!…はぁ」
ソニア「わたくしの出身国と本名を述べよ!」
カムクラ「ノヴォセリック王国第一王女ソニア・ネヴァーマインド…ですね」
ソニア「これはご丁寧に…!よきにはからえ!」
田中「このツボはぁ!?」
カムクラ「良いツボだ…」
ソニア「いっぺん…」
カムクラ「死んでみる?…あの、そろそろ」
-
- 108 : 2015/06/04(木) 09:15:34 :
- 田中「俺は悪くねぇ!」
カムクラ「ブリッジに戻ります。ここにいると、馬鹿な発言にイライラさせられる。…で、やめませんかいい加減…」
ソニア「クラシックの音楽家、エリック・サティの二つ名は?」
カムクラ「音楽界の異端児…です」
田中「鉄で出来たタコを一瞬のうちに消し去るアイテムといえば?」
カムクラ「タコけし…マシン」
その後もアホらしい会話を延々と続けさせられた。だがまあ…カケラは2つ集まったことだし、結果オーライといったところか。
-
- 109 : 2015/06/04(木) 09:16:07 :
- 朝食の時間が迫り、僕たちはレストランへと向かうことにした。
だがレストランに着いてすぐ…僕は謎の異臭に気がついた。
思わずあたりを見回す。まだ誰も気づいていないようだが、僕にはわかる。
異臭を放っているのは西園寺だった。
-
- 110 : 2015/06/04(木) 09:16:28 :
- カムクラ「ソニア、田中、先に食事にしてください」
ソニア「どうかされましたか?」
カムクラ「いえ、用事が出来まして」
田中「ふむ、収集作業に遅れるんじゃないぞ日向よ」
カムクラ「ええ、もちろんです」
-
- 111 : 2015/06/04(木) 09:16:47 :
- 僕は二人から一旦離れ、西園寺に近づき耳元で囁いた。
カムクラ「西園寺」
西園寺「な、なに?」
カムクラ「少し、お時間をいただけますか」
西園寺「なんで私があんたなんかのために、わざわざ時間を割いてやらないといけないわけ?」
カムクラ「…お願いします」
西園寺「えっ…」
西園寺「し、仕方ないなぁ〜…」
西園寺「…少しだけだからね」
-
- 112 : 2015/06/04(木) 09:17:19 :
- 僕は西園寺の肩を持って、レストランから抜け出す。
西園寺「それで?何のよう?」
カムクラ「あなた」
西園寺「なにさ」
カムクラ「もしや自分で着付けが出来ないのでは?」
西園寺「…は?」
西園寺「で、出来るに決まってるじゃん!何?そんなに私が不器用に見えるの?」
西園寺「くすくすっ…一度目ん玉くり出して石鹸で洗ってみたほうがいいよ…」
西園寺「第一、私が着付けできないなんてどこに証拠が」
カムクラ「お風呂に、入ってないんじゃないですか?」
西園寺「ちょっ…!?」
カムクラ「まだ並の人間が気づかないレベルではありますが…あと三日もすれば隠し通せるレベルではなくなります」
西園寺「な、な…!?」
-
- 113 : 2015/06/04(木) 09:17:51 :
- 図星をつかれて、西園寺の顔は怒りと羞恥で真っ赤に染まる。
僕はそんな西園寺の華奢な体を担いだ。
西園寺「さ、触んな変態!痴漢!ロリペド野郎!!!」
カムクラ「大人しくしなさい」
西園寺「うっ…」
カムクラ「すぐ済みます」
-
- 114 : 2015/06/04(木) 09:18:18 :
- そのままズンズンと僕がコテージに向かうのを悟り、西園寺は抵抗することを諦めた。
…ように見えたが、実はしっかり僕の背中に爪を立てて地味な攻撃を加えていた。
もちろん反応などしてやらないが。
西園寺のコテージに上がりこみ、やっと開放してやると、西園寺は物凄い勢いで後ずさりをした。
西園寺「何する気なのさっ!言っとくけど私は…!」
カムクラ「何を誤解しているんです」
-
- 115 : 2015/06/04(木) 09:18:48 :
- 西園寺「誤解なもんかっ!女の子の部屋に土足で入るとか無神経すぎるんじゃない!?そこから近づいたら噛み付いてやるから!」
カムクラ「…ひとまず、風呂に入りなさい」
西園寺「は?ふろ…?」
カムクラ「僕はあなたの未発達な裸になんか興味ありませんから、心置きなくどうぞ」
西園寺「〜〜〜…っ!」
西園寺「あーっそ!ならお風呂入ってやるけど、もし覗きになんて来たらシャンプーの泡で目潰しだからね!ふんっ!」
カムクラ「ええ、わかりました」
-
- 116 : 2015/06/04(木) 09:20:06 :
- 怒ったように浴室に向かう西園寺に背を向けて、僕は着物の用意をすることにした。
幸い、ベッドの下の引き出しには着物がある。
僕は流れてくるシャワーの音をBGMに、新しい着物や足袋を取り出した。
やがて、ガラリと浴室の扉が開き、ほどよくほてったタオル姿の西園寺が現れた。
西園寺「…着付けできないの、忘れてた」
-
- 117 : 2015/06/04(木) 09:20:40 :
- カムクラ「僕ができますから」
西園寺「ほんと?出来るの?日向おにぃに?」
カムクラ「ええ、出来ますよ。じゃなかったらこんな事しません」
西園寺「そっか…そうだったんだ。じゃあ、下心とかもなくて、本当に私の着付けしてくれるために…?」
カムクラ「はい」
西園寺「…ふ、ふーん。そう…なんだぁ…」
西園寺「じゃあ、さっさとやってよね!早く着ないと湯冷めするから!私を冷やしたら日向おにぃは枕の中アリまみれの刑ねー!」
カムクラ「はいはい」
-
- 118 : 2015/06/04(木) 09:21:23 :
- 途端に気丈になる西園寺を微笑ましく思いながら、僕は練習させながら西園寺の着付けを手伝った。
一度では覚えきれないと思い、紙に着付けの手順を書いて渡してやると、西園寺は大層喜んだ。
西園寺「分かりやすくてすごいよこれー!これなら一人でも着付けできるようになるかも!」
カムクラ「喜んでもらえたようでなによりです」
-
- 119 : 2015/06/04(木) 09:23:23 :
- 西園寺「…その」
カムクラ「お礼なら結構ですから」
西園寺「だっ…誰がおにぃなんかに…!」
西園寺「…ううん、でもこれはちゃんと言わないと、私が許せない」
西園寺「だからね、あのね…えっと」
西園寺「…あり、がとう…日向おにぃ」
カムクラ「どういたしまして」
-
- 120 : 2015/06/04(木) 09:23:58 :
- 僕は清潔になった西園寺とともに、遅めの朝食をとりにレストランへと戻った。
適当に余った食材でサンドイッチとスクランブルエッグを作って、西園寺の元へと差し出す。
西園寺「…なにこれ」
カムクラ「余った食材で作りました」
西園寺「…和食がよかった」
カムクラ「あいにくと、和食を作るには魚がありませんでしたので」
-
- 121 : 2015/06/04(木) 09:24:58 :
- 西園寺「それに、日向おにぃって料理できたんだ」
カムクラ「…ふふ、小泉と同じことを言うんですね」
西園寺「むっ…なんで笑うのさ!」
カムクラ「…え?」
西園寺「誰だって日向おにぃみたいな冴えない顔の小汚い男子高校生を見たら、自炊できなさそーって心の中で思うよー!」
カムクラ「僕は今…笑ってましたか…?」
西園寺「へ?あ、あー…うん、笑ってたけど」
カムクラ「…僕が、笑ってた…。そう、ですか」
-
- 122 : 2015/06/04(木) 09:25:27 :
- 予想外だった。
感情なんて持ち合わせていない僕が笑ったなんて。
西園寺「…日向おにぃ?」
カムクラ「ああ、いえ…なんでもありません」
加速度的に増す違和感を抱えながら、僕たちは中央の島へと向かった。
-
- 123 : 2015/06/04(木) 09:26:50 :
- 今日のペアは…終里と弐大。
山で赤い花を20本集めるのがノルマだ。
軽く挨拶を済ませ、僕たちは山登りを開始した。
-
- 124 : 2015/06/04(木) 09:27:17 :
- 終里「しっかしよぉ日向、オレたちにしっかりついてこれんのかぁ?」
弐大「むぅ、体力の差を考えてこまめに休むのも大切じゃからのぅ」
カムクラ「安心してください。足を引っ張るつもりはありませんよ」
終里「ならいーけどよ…お?んだよ早速あるじゃねぇか!赤い花みーっけ!」
弐大「なんと!目がいいのぅ!」
カムクラ「おや、早いですね」
カムクラ「僕達も早く見つけましょうか」
弐大「そうじゃのう」
-
- 125 : 2015/06/04(木) 09:28:02 :
- 探せば山のあちらこちらに赤い花が咲いている。
パートナーが肉体派ということもあって、本気を出す必要もないと僕は判断した。
少しは楽できるかと手を抜いていた矢先、僕は自らに迫る明確な殺意に気がついた。
力強いその拳を、僕は右の手のひらで受け止めた。
カムクラ「………」
終里「ッ!?」
-
- 126 : 2015/06/04(木) 09:28:41 :
- カムクラ「………」
終里「ッ!?」
弐大「何しとるんじゃあ終里ぃ!?」
終里「あ…いや…蚊が飛んでたから仕留めようと思って…」
カムクラ「…蚊ではなかったようですよ。ほら」
終里「いやそれより日向!」
カムクラ「なんですか」
終里「どうやってオレの拳を受け止めたんだ!?」
カムクラ「(しまった)」
-
- 127 : 2015/06/04(木) 09:29:08 :
- 終里「別に日向を殴るつもりはなかったから、オレ力いっぱい振りかぶったつもりだったのに…」
カムクラ「それは」
弐大「確かにあの動きはとても素人は思えなんだ…日向、お前さん何か格闘技でもやっておったか?」
終里「俺のパンチを余裕で受け止めたのは、弐大のおっさんを含めたらオメーで二人目だ!」
カムクラ「そうですか…」
カムクラ「…はぁ。まあ格闘技を学んだことは、あることにはあります」
終里「つまり強えんだな?」
-
- 128 : 2015/06/04(木) 09:29:38 :
- カムクラ「何故そうなるのかさっぱり…」
終里「オリャァァァ!!!」ブンッ
カムクラ「わかりませんが」パシッ
弐大「衝撃を受け流すための体重移動に足さばき…やはり少しかじった程度ではない…」
弐大「終里!体当たりではダメじゃ!寝技に持ち込むか、隙を作るんじゃぁぁあぁあ!」
終里「うぉぉおおおおお!!!」ダダダダガバッ
カムクラ「………」ヒラリ
終里「逃げんじゃねぇ卑怯者!!」シュッ
カムクラ「誰も戦うなんて言ってないのですが…」ヒラリ
-
- 129 : 2015/06/04(木) 09:30:03 :
- カムクラ「そちらが望むなら、僕も反撃に出ますよ」ドゴォッ
終里「うっ」バタン
弐大「なんとぉ!?あの頑丈な終里が一撃じゃとぉ…!?」
カムクラ「安心してください。みね打ちです」
カムクラ「…彼女は僕がコテージまで運びますから、弐大には引き続き採集をお願いしてもよろしいでしょうか」
弐大「それは構わんが…」
カムクラ「ありがとうございます」
弐大「待てぃ」
-
- 130 : 2015/06/04(木) 09:30:26 :
- カムクラ「…なんでしょう」
弐大「お前さん…スポーツ選手を目指してはみんか」
カムクラ「あいにくですが、目指すつもりはありません」
弐大「…そうか」
カムクラ「ええ、では」
終里を担いで、僕は山を後にした。
-
- 131 : 2015/06/04(木) 09:30:51 :
- まだ気絶している彼女をベッドへと横たえ、僕は反射的に電子生徒手帳を取り出した。
今ひとつ突っ込んだ話が出来なかったと、自分では反省していたのだが、それも杞憂に終わったようだ。
アイコンが無事に2つの光を灯しているのを確認して、再び電子生徒手帳をポケットにしまい込む。
…時間が空いてしまった。
今更山に戻る気分にもなれず、僕は終里の寝顔を眺めながらぼーっとしてみた。
-
- 132 : 2015/06/04(木) 09:31:17 :
- 終里「…く、しょう」
カムクラ「(寝言…?)」
終里「ちくしょう…」
悔しそうに引き結んだ唇に、涙がこぼれた。
うなされているようだったが、僕は終里を起こそうとは思えなかった。
しばらくすると、終里は何事もなかったかのように健やかな寝息を立て始めた。
-
- 133 : 2015/06/04(木) 09:31:42 :
- カムクラ「…そろそろ戻りますか」
集合の時間が近づいてきた。
僕は眠る終里を置いて、中央の島へと向かった。
終里の様子を伝え、点呼を取り終えるとやがて作業を終えた面々はポロポロと解散していった。
-
- 134 : 2015/06/04(木) 09:32:08 :
- 今日は誰と過ごそうか。
僕は例のごとく周りを見渡した。
花村と目が合う。
カムクラ「こんにちは花村」
花村「おやおやぁ?日向君から僕に声をかけてくれるなんて珍しいねぇ」
カムクラ「もしよければ、この後一緒に遊びませんか」
花村「遊ぶの?うん、いいよ!」
-
- 135 : 2015/06/04(木) 09:33:08 :
- 花村「あっ、ちなみにどういうプレイが好みなのかな…!?」
カムクラ「その表現は適切ではないと思いますが…」
カムクラ「そうですね…浜辺にでも行きませんか」
花村「泳ぐのかい!?」
カムクラ「すごい食いつきですね」
花村「それなら僕が日向君に似合う水着を選んでもいいかな?」
カムクラ「…お任せしましょう」
花村「はぁはぁ…!よぉし、僕好みの水着に身を包んだ日向君と…二人きりで浜辺デート…!」
花村「今から楽しみだねぇ!」
カムクラ「…そうですね」
花村「んふふ」
-
- 136 : 2015/06/04(木) 09:36:45 :
- ー浜辺ー
花村「さ!海に来たことだし、脱ごうか!」
カムクラ「ええ」ヌギヌギ
花村「…きみのそういう素直なとこ、嫌いじゃないけど、もう少し反応が欲しかったなー…」
カムクラ「なんの事でしょう」
花村「んふふ、またまたぁ〜!とぼけちゃってぇ〜」
花村「さ、シートを敷いてあげるからさ、ここに寝転んで!」
カムクラ「焼くんですか?」
花村「せ・い・か・い!オイルは僕が塗ってあげるから心配しないでね!」
カムクラ「…お願いします」
花村「じゃあ塗るよー!」
-
- 137 : 2015/06/04(木) 15:21:22 :
- 花村はそう言うと、やけに粘着質に僕の体をオイルで湿らせていった。
僕を動揺させて楽しむつもりか、彼はニヤニヤとしている。
花村の魂胆は分かっているが、あいにく僕は自分の感覚を自制することくらい眠っていてもできる。
非常に際どい場所を花村に弄られるが、僕はなんら反応しないことにする。
-
- 138 : 2015/06/04(木) 15:21:58 :
- 花村「あれれ〜…?日向君てば…もしかして不感症…?」
カムクラ「さあ」
花村「おかしいなぁ〜…このオイルなら絶対メロメロになるってウサミも言ってたのに…」
カムクラ「…ちょっと待ってください。今なんて言いました?」
花村「んふふ、ほんとならもう少し気持ちよくなるはずだって言ってるのさ!」
カムクラ「…それを見せてくださ」
風が吹くと共に体に異変を感じた。
これは…。
-
- 139 : 2015/06/04(木) 15:22:48 :
- 花村「あっ、もしかして今頃効いたのかな!?」
カムクラ「………」
花村「もしももっと塗ってほしかったら僕に言ってね!で…どうかな!?」
カムクラ「花村」
花村「なに?」
カムクラ「これは…」
花村「うんうん、どうしたのかな!?」
カムクラ「メントール成分入り…です」
風に当たると体が震えた。
さすがに寒い。
-
- 140 : 2015/06/04(木) 15:23:18 :
- 花村「え!?そ、それほんと!?」
カムクラ「嘘だと思うなら体感してみてください」
花村からボトルをひったくって、彼の体にオイルを塗りたくる。
花村「寒っ!?!?」
カムクラ「言ったでしょう」
花村「うー!ウサミの奴、なんてものを…!」
カムクラ「海にでも入りますか?」
花村「そうしよっか…」
-
- 141 : 2015/06/04(木) 15:24:28 :
- オイルを落とすため、ザバザバと海に入っていく。
波は未だ予測できない間隔で寄せては返す。
僕は夏雲を遠くに見据えて、それから花村を見た。
カムクラ「いい気持ちですね」
-
- 142 : 2015/06/04(木) 15:25:06 :
- 花村「ロケーションは最高だしね!あ、ロケーションとローションって似てると思わない!?」
カムクラ「それはそれとして…花村」
花村「ん?どうかしたかい?」
カムクラ「ここでバーベキューなんてしたら、さぞ楽しいことでしょうね」
花村「ああ、いいね!グリルとかがあれば今からだってやりたいとこだけど…どこかにあったかな?」
カムクラ「…いえ、やはりいいです。どうも最近の僕はおかしい」
花村「そうなの?そんなことないと思うけど…」
-
- 143 : 2015/06/04(木) 15:25:58 :
- 花村「あ、じゃあさ!この修学旅行が終わったらみんなで集まって、バーベキューをしようよ!」
カムクラ「…え」
花村「器具や材料は僕が用意するし!友達とバーベキューなんてやったことないから、楽しみだなぁ〜!」
カムクラ「修学旅行が終わったら…ですか」
花村「名案だと思うんだけど、どうかな!」
カムクラ「…いいですね。修学旅行を終えたら、ぜひ行きたいです。計画は十神に任せるといいでしょう」
花村「うんうんいいねぇ!じゃあ今から何を作るか考えておかなきゃ!」
カムクラ「そんな日が来るのを、心待ちにしています」
花村「僕のアーバンで完璧な料理に、ほっぺた以外の色々なものを落とさないよう、覚悟していてくれたまえ!」
カムクラ「…ええ」
-
- 144 : 2015/06/04(木) 15:26:30 :
- それから僕たちは日が暮れるまで水浴びを楽しんだ。
なぜ僕は来るはずもないその日を、願ってしまったのだろう。
それだけが心に引っかかったまま、僕は花村と別れた。
-
- 145 : 2015/06/04(木) 15:26:51 :
- ベッドに顔をうずめ、生徒手帳を確認する。
花村の希望のカケラが青く輝いている。
僕は安堵ではない、何かワカラナイ感情の混ざったため息をついた。
-
- 146 : 2015/06/04(木) 15:27:22 :
- 最近の僕は…僕じゃないみたいだ。
まるで…。
まるで普通の…。
-
- 147 : 2015/06/04(木) 15:27:55 :
- 【Chapter3 END】
-
- 148 : 2015/06/07(日) 23:59:45 :
- いーですねー。ほのぼのします 笑
カムクラはド変態かすっごくシリアスなものでしか見たことなかったので新鮮です!
更新たのしみにしてますね!
-
- 149 : 2015/10/30(金) 10:36:29 :
- およそ五ヶ月ぶりの更新…汗
【Chapter4 ライアーマン・ショー】
-
- 150 : 2015/10/30(金) 10:36:47 :
- いつもと同じ、ウサミによる朝の放送で目が覚める。
…僕はいつの間に眠ったのだろう。
昨日の夜から寝るまでの記憶がぼんやりとしていた。
シャワーを浴び、新しいシャツにネクタイを通し、僕はあくびとともにコテージを出た。
-
- 151 : 2015/10/30(金) 10:37:17 :
- 左右田「お、日向じゃねェか」
カムクラ「…おや、誰かと思えばあなたでしたか」
左右田「なんだなんだァ?やけに眠そうだな」
カムクラ「ふぁ…そう…でしょうか」
左右田「あー…予想以上に寝ぼけた回答だぜ…日向らしくもねェ。疲れてんなら今日の採集休んどくか?」
カムクラ「まさか、まだまだ僕は動けますよ」
左右田「ならいいけどよォ…。あんま無理すんなよな!倒れたら運ぶの大変だしよォ」
カムクラ「それもそうですね。善処します」
-
- 152 : 2015/10/30(金) 10:37:37 :
- 朝から元気な左右田との会話を楽しみながら、僕はレストランへと向かった。
階段を上がる。
すると僕に気づいた狛枝が緩慢な動きで近寄ってきた。
左右田は狛枝が苦手なのか、彼が近づいてくるなり距離をおいて逃げてしまった。
あとに残された僕は、胡散臭い笑顔を浮かべる彼を正面から見据える。
-
- 153 : 2015/10/30(金) 10:38:02 :
- カムクラ「…何か」
狛枝「君が良ければなんだけどさ、一緒にご飯食べない?」
カムクラ「またですか」
狛枝「あれ、やっぱ嫌かな」
カムクラ「構いませんけれど、随分と左右田に嫌われているようですね」
狛枝「ああ…それは多分君のせいかも」
カムクラ「何故僕のせいになるんですか」
狛枝「まあひとまずご飯を食べようよ!それからゆっくりお話しよう」
-
- 154 : 2015/10/30(金) 10:38:25 :
- なかば強引に、狛枝はトーストの乗った皿を僕に押し付けてきた。
わざわざ焼いて待っていたのだろうか、僕に渡されたトーストは僅かに温かい熱気をまとっていた。
マーガリンを塗る。
-
- 155 : 2015/10/30(金) 10:38:46 :
- 狛枝「ボクさ、君こそが真の希望なんじゃないかって思うんだ」
カムクラ「そうなんですか」
狛枝「そう思ったらさ、もう本当にそうなんじゃないかとしか考えられなくなって」
狛枝「君のことを知れば知るほどに、見れば見るほどに、尊敬せざるを得ないんだ」
狛枝「それでうっかり昨日、同じ採集場所だった左右田クンにポロッと言っちゃって」
カムクラ「気味悪がられている…と」
狛枝「まあそうかな」
-
- 156 : 2015/10/30(金) 10:39:09 :
- さすがに苦笑いを浮かべた狛枝。
僕は僅かに、僕と彼らとの関係が変化していることに気がついていた。
カケラを集めるということは、このプログラムにおいて僕の思っていた以上に大きな意味を持つようだ。
なんとはなしに、まばらに集まった彼らの顔を見渡す。
疎外感は…もうない。
-
- 157 : 2015/10/30(金) 10:39:33 :
- 狛枝「どうかした?」
カムクラ「いえ…何でもありません」
狛枝「そう?まあそれよりさ、今日のペアは誰なの?ボクはいつ君とペアになれるのかな?」
カムクラ「…僕とペアになりたいんですか?」
狛枝「まあね。もっと君のことが知りたいんだ。君の才能や…知識や…希望に興味があるからね」
カムクラ「…残念ですが今日のペアは罪木ですよ」
狛枝「ふぅん。ボクとペアになりたくないからわざとそうしてるの?」
カムクラ「やけに食い下がりますね」
狛枝「そりゃそうだよ。誰だって愛している人の近くにいる為には、多少強引になってしまうものだからね」
カムクラ「…それも希望のためですか?」
狛枝「うん、そうだよ。…おっと、そろそろ集合時間だね。この話はまた今度しようか」
-
- 158 : 2015/10/30(金) 10:40:05 :
- 皿を片付けて、狛枝は僕のもとを去った。
やはり面白くない男だ。
単純で、純粋に腐ったその思考が、僕は好きではないと感じた。
狛枝が立ち去るやいなや、陰から様子を伺っていた左右田が僕の元へ駆け寄ってくる。
-
- 159 : 2015/10/30(金) 10:40:36 :
- 左右田「なァ…お前妙に狛枝に好かれてんだな」
カムクラ「そのようですね」
左右田「アイツお前の才能が気になるっていつもうるせェけど、実際日向の才能ってなんなんだ?」
カムクラ「さて、何でしょうね」
左右田「ンだよ教えろよォ」
カムクラ「左右田もそんな事を気にしてる暇があったら皿を片付けた方が良いですよ」
左右田「あー、そうだな…。十神と小泉は特に遅刻に厳しいからなァ…」
左右田「ま、今回は大人しく引き下がるけどよ、いつか絶対教えてくれよな」
-
- 160 : 2015/10/30(金) 10:40:57 :
- 僕は片付けを済ませた左右田とともに、ジャバウォック公園へと向かった。
いつもの通りペアの指示を出して、各々が自分の採集場所へと向かった。
僕のペアは狛枝に教えた通り、罪木だ。
-
- 161 : 2015/10/30(金) 10:41:39 :
- カムクラ「僕達も行きましょうか」
罪木「は、はい…!」
おどおどと頼りない彼女を連れてロケットパンチマーケットに着くと、罪木がぎこちなく僕に頭を下げた。
罪木「えと…本日は、その…よろしくお願いしますぅ…!」
カムクラ「ええ、頑張りましょう」
今日集めるのは乾電池10個。
比較的楽に集められるだろう。
しかし問題は…
-
- 162 : 2015/10/30(金) 10:42:07 :
- 罪木「さ、さぁ!頑張りま…ふゆぅっ!?」ドベシャァ
こっちだ。
カムクラ「はぁ…全く、大丈夫ですか」グイッ
罪木「すみませぇぇん…ふえぇ…」
カムクラ「どうしてあなたは何もないところで転ぶんですか」
罪木「ごめんなさぁい……」
カムクラ「怪我はないですか」
罪木「へ、平気ですぅ!」
-
- 163 : 2015/10/30(金) 10:42:33 :
- 罪木「いたっ…」
床に落ちていた釘で怪我したのか、罪木の右手からは血が垂れていた。
それに気づくと彼女は慌ててその腕を背後へ隠した。
カムクラ「血が出ているじゃないですか」
-
- 164 : 2015/10/30(金) 10:42:59 :
- 罪木「あ、その…!気にしないでください…!この程度の怪我なら自分で手当出来ますからぁ…」
カムクラ「…仕方ありませんね」
罪木「ふぇ…?あの…?」
傷口を軽く押さえ止血をする。
僕は罪木の背と膝の裏に腕を通して、抱え上げた。
-
- 165 : 2015/10/30(金) 10:43:25 :
- 罪木「ふえぇぇええ!?」
カムクラ「僕が手当しましょう」
罪木「で、でも、日向さん、医療の知識とかあるんでしょうか…?」
カムクラ「心配無用です。あなたは新しい傷を作らないように大人しくしていてください」
罪木「わ、わかりましたぁ…」
状況を理解できず困惑する罪木を抱えて、僕はドラッグストアへと向かった。
-
- 166 : 2015/10/30(金) 10:43:49 :
- 店内には、扱いを間違えれば危険なものになる薬物や包帯やガーゼが所狭しと並ぶ。
僕は減菌ガーゼと消毒液、それと包帯とタオルを棚から探し出して机に並べた。
罪木を近くの簡易椅子に座らせて傷口を見る。
カムクラ「思ったより浅いですね」
罪木「あのぅ…本当に私、何もしなくて良いんでしょうかぁ…?」
カムクラ「そう言ったでしょう。おとなしく待っててください」
スタッフルームにあった洗面台でタオルを濡らし、傷口を優しく拭き取る。
消毒をして傷口にガーゼを当て、テープで留め包帯を巻いた。
-
- 167 : 2015/10/30(金) 10:44:19 :
- カムクラ「できましたよ」
罪木「随分と慣れてるんですねぇ…」
カムクラ「意外ですか?」
罪木「えっ…」
罪木「そう…ですねぇ…意外といえば意外…ですねぇ…」
カムクラ「そうですか」
罪木「あの…」
罪木「手当…ありがとうございましたぁ…」
カムクラ「いえ、僕があなたを手当したのは、作業に支障が出て僕が困るからです」
罪木「それでも嬉しいですぅ…うふふ…」
カムクラ「さあ、戻りますよ」
-
- 168 : 2015/10/30(金) 12:21:01 :
- 先ほどの怯えた様子とは違って、罪木は少し嬉しそうに僕の後をついてきた。
今度はもう転ばないでほしいものだ。
僕たちは再びロケットパンチマーケットに帰ってきた。罪木がまた怪我をすると面倒なので、彼女には動かないようにしてもらい、僕だけで乾電池を集めることにする。
今日のノルマを達成すると、僕は店に置いてある水を2本取って、片方を罪木に渡した。
-
- 169 : 2015/10/30(金) 12:21:35 :
- 罪木「あ、あの、水、ありがとうございますぅ…!」
カムクラ「いえ」
罪木「作業も…日向さん一人にさせてしまって…本当に私って役立たずでどんくさいブタですよね…モップとしてならお役に立てるんですけど…」
涙で滲む瞳を見て、僕はため息をついた。
カムクラ「それほど自分を卑下することはありません。もう少し堂々としてください」
-
- 170 : 2015/10/30(金) 12:22:04 :
- 罪木「あっ…ウジウジしてばかりで目障りですよね…えへへ…笑えば許してもらえますか…?そ、それとも何か芸でも…あっ私、ウミガメの産卵の真似が得意なんですよぉ…!」
痛々しい笑顔を見ながら、僕は罪木の肩に手を添えた。
同時にビクリと動く罪木。僕は構わずにそのまま黙って見つめ続けた。
罪木「あ、あの…?」
カムクラ「………」
そして、僕は嘘をついた。
-
- 171 : 2015/10/30(金) 12:22:29 :
- カムクラ「僕たちはもう友達です」
罪木「ふぇ…?えっ…えっ…!?」
カムクラ「友達というのは、損得勘定では図れない、対等な関係です」
罪木「ひ、日向さん…!?」
カムクラ「罪木は、僕と友達では嫌でしょうか」
罪木「そ、そんなことありません…!」
カムクラ「………」
罪木「でもその…なんと言いますか…そ、そんなこと言われたの初めてで…っ…わ、私どうしたらいいか…」
-
- 172 : 2015/10/30(金) 12:23:23 :
- 戸惑う罪木の様子に、僕は確信を得る。
彼女は僕に心を開く。
カムクラ「罪木、これから慣れればいいですよ。だからこれだけは覚えておいてください。僕たちは“対等な関係”ですよ」
-
- 173 : 2015/10/30(金) 12:24:06 :
- 罪木の中で何かが揺らぐ。
彼女は瞳を潤ませていた。
何かを言おうとしては耐えるように口を閉ざし、必死に泣くまいと耐えていた。
見たところ罪木はこういう言葉に弱い。
綺麗事だが、優しい言葉をかけられなかった彼女の人生の中では、僕の言葉は唯一の真実になる。
そして、少しだけ僕の胸はチクリと痛んだ。
カムクラ「…そろそろ帰りましょうか」
-
- 174 : 2015/10/30(金) 12:24:29 :
- 頷くことで意思表示をする罪木。
その手は僕のシャツの裾をぎゅっと握っていた。
僕はシャツを握る罪木の手をとって、歩きだした。
中央公園へと戻る頃には罪木も落ち着きを取り戻し、少しのぎこちなさを除けばいつも通りの彼女になっていた。
電子生徒手帳にも、青色のカケラが追加されていた。
-
- 175 : 2015/10/30(金) 12:24:49 :
- 他の面々もまばらに戻ってきては成果を報告しあい、全員が集合したあといつものように解散した。
僕はきょろきょろとあたりを見回す。
すると、いつも一緒に行動していた辺古山と九頭竜が別々の方向へ歩いていくのを見かけた。
僕は九頭竜を追うことにする。
追いついた小さな背中に声をかける。
カムクラ「九頭竜」
-
- 176 : 2015/10/30(金) 12:27:07 :
- 九頭竜「あ?…チッ…日向か…」
カムクラ「良ければ自由時間、一緒に気分転換でもしませんか」
九頭竜「わりぃが今はそんな気分じゃ…」
カムクラ「…ほら、行きますよ」グイッ
九頭竜「お、おい!?」
強引に九頭竜の腕を引き、僕は映画館のある島へと彼を連れて行った。
-
- 177 : 2015/10/30(金) 12:31:28 :
- カムクラ「ほら、丁度任侠ものの映画をやるようですよ。見てみましょう」
九頭竜「だから俺はッ…」
適当にファーストフードを抱えて座席に座ると、館内は薄暗くなった。
戸惑う九頭竜も流れる予告映像を見ているうちに、段々と映画に興味を持ち始めていった。
-
- 178 : 2015/10/30(金) 12:36:59 :
- おそらく九頭竜は、辺古山となんらかのトラブルを起こしたのだろう。
絶望時代でさえ彼らは常に行動を共にし、片時も離れたことはなかった。
僕がこの二人の間に入るとするなら、
今しかない。
-
- 179 : 2015/10/30(金) 12:42:35 :
- 九頭竜「あ…これ、前に俺が見たかった奴じゃねぇか…!」
カムクラ「おや、そうでしたか。誘って正解でしたね」
九頭竜「…おう」
カムクラ「………」
九頭竜「なんか気ぃ使わせちまったみたいだな…」
カムクラ「そんなことよりほら、始まりますよ」
九頭竜「…すまねぇ」
-
- 180 : 2015/10/30(金) 12:43:40 :
- 始まった映画自体はオーソドックスなもので、僕から言わせれば退屈でツマラナイものだ。
しかし九頭竜は終始興奮したようにスクリーンを見つめては登場人物に共感するように頷いたりしていた。
やがて上映が終わると、僕たちは映画館を出て物語の余韻に浸るように散歩を始めた。
-
- 181 : 2015/10/30(金) 12:44:03 :
- 九頭竜「山田組の組長の男気…ありゃあ本物だぜ…」
カムクラ「まさかあそこでドスを取り出すとは思いませんでしたね」
九頭竜「あれこそ詫びってもんだよなぁ。実際は命乞いするような軟弱者のが多くてよぉ」
九頭竜「…と、いうか…日向」
カムクラ「なんでしょう?」
九頭竜「誘ってくれてありがとな。最初はお前の強引さに戸惑っちまったけど…おかげですっきりしたぜ」
カムクラ「それはよかった」
-
- 182 : 2015/10/30(金) 12:44:35 :
- 付き物が落ちたように…とまではいかないものの、九頭竜の顔からは先程のような気の沈みは感じられない。
九頭竜「へっ…これくらいの事で落ち込むなんて俺らしくもねえな」
九頭竜「喧嘩しちまったんだ。その…アイツと…辺古山とよ」
カムクラ「おや、喧嘩ですか」
九頭竜「まあ俺が一方的に怒鳴り散らして、勝手に別れただけなんだけどよ…」
九頭竜「なあ日向」
カムクラ「なんでしょう」
九頭竜「もしもの話なんだが…」
-
- 183 : 2015/10/30(金) 12:46:33 :
- 九頭竜「もし、自分にとって大事な人間が、いやに遠く感じたら…どうすればいいと思う?」
カムクラ「…そうですね」
カムクラ「九頭竜がもし、彼女に『大事だと思ってること』をストレートに伝えていないのなら、伝えてみればいいと思いますよ」
九頭竜「…そうか」
九頭竜「って、てめぇ!もしもの話だって言ってんだろ!!お、俺は別に…!」
カムクラ「はは…そうでしたね…。ええ、もしも、の話でした」
九頭竜「………」
カムクラ「…どうかしましたか?」
九頭竜「おま…そんな顔できたのか」
-
- 184 : 2015/10/30(金) 12:47:14 :
- 僕は頬を右手で触れた。
カムクラ「…ああ…そう、ですよ。僕だって、笑いますよ」
九頭竜「いや…そりゃそうか…。へっ、てめぇが普段あんまりにも仏頂面だったもんだからよ」
九頭竜「まあとにかくだ!礼を言うぜ日向。それと、俺は用事を思い出しちまって…その」
カムクラ「ええ、僕には構わず行ってください」
九頭竜「悪ぃな。じゃあまた晩飯時に」
九頭竜は僕に背を向けると、どこかへと早足に去っていった。
僕も自分のコテージに帰ることにする。
-
- 185 : 2015/10/30(金) 12:48:58 :
- コテージに着くと、僕は軽くシャワーを浴びてベッドに倒れ込んだ。
電子生徒手帳に、二人分のカケラが追加されている。九頭竜と辺古山は上手くやれたようだ。
やがていつものように、コテージの扉を叩く音。
来訪者は僕の断りもなく扉を開けた。
狛枝「やあ日向クン」
-
- 186 : 2015/10/30(金) 12:50:26 :
- カムクラ「………」
狛枝「鍵くらいかけときなよ。物騒じゃない?」
カムクラ「あなたが一番物騒ですよ」
狛枝「あはっ…やだなぁ。僕は何もしないって」
カムクラ「それで、どうしましたか」
狛枝「うん、夕飯の支度ができたから呼びに来たんだ」
カムクラ「…そうですか」
-
- 187 : 2015/10/30(金) 12:51:41 :
- 渋々僕は狛枝とレストランへ向かった。
いつもと同じように食卓は騒がしく、そしていつもより和やかな雰囲気だった。
そろそろ島の生活にも慣れたのだろう。
明るい食卓には自然な笑顔が溢れていた。
僕は一人コーヒーを飲みながらそれを見ていた。
狛枝「日向クン」
-
- 188 : 2015/10/30(金) 12:52:30 :
- カムクラ「………」
狛枝「明日くらいは同じ採集場所に行こうよ」
カムクラ「…いいですよ」
狛枝「あれ?いいの?」
カムクラ「はい」
狛枝「なんか拍子抜けだな…えっと、本当にいいの?」
カムクラ「明日は僕とあなたが電気街で採集する予定です」
狛枝「もしかして、最初から決めてた?」
カムクラ「ええ、まあ」
狛枝「そっか…それならわざわざ言う必要もなかったね。あは…嬉しいなぁ」ゾクゾク
-
- 189 : 2015/10/30(金) 12:53:19 :
- カムクラ「………」
僕はコーヒーを啜る。
狛枝「ああ…やっぱりボクは幸運だなぁ」ゾクゾク
カムクラ「………」
コーヒーを飲み終えた。
-
- 190 : 2015/10/30(金) 12:54:17 :
- カムクラ「ご馳走さまでした」
狛枝「それじゃ、ボクは帰るね」
カムクラ「ええ、おやすみなさい」
狛枝「おやすみ日向クン。また明日」
カムクラ「ええ、また明日」
僕も自分のコテージに戻ることにする。
-
- 191 : 2015/10/30(金) 13:53:58 :
- 既に希望のカケラは揃いつつある。
僕がこのプログラムを離れる時もそう遠くない。
しかし何故だか僕の胸は、ギシリギシリと音を立てていた。
それは全身へと広がり、僕はその感情を理解していた。けれどまだその時ではなかった。
それに僕も、その感情を認めたくないと思っていた。
-
- 192 : 2015/10/30(金) 13:54:30 :
- カムクラ「また明日…か」
その言葉を、あと何回言えるのだろう。
引き延ばそうと思えばいくらでも。
しかしそれは僕には出来ない。
僕はまた落ちるように眠りについた。
-
- 193 : 2015/10/30(金) 13:55:24 :
- 【Chapter4 END】
-
- 194 : 2015/10/30(金) 20:23:07 :
- 【ChapterX この島で、希望は船を降りる】
読んでくれてる人がいるか…そんなことは関係ない。
俺は俺の物語を完結させる!!
-
- 195 : 2015/10/30(金) 20:23:23 :
- ここはどこだろう。
天と地の境目が曖昧だ。
僕はたゆたうようにそこにいた。
そして、そこには僕の他にももうひとり人間がいた。
-
- 196 : 2015/10/30(金) 20:23:45 :
- 江ノ島「やっほ」
カムクラ「あなたは…」
江ノ島「久しぶりカムクラ」
カムクラ「江ノ島盾子…?」
江ノ島「そうそう、覚えててくれた?」
カムクラ「それよりここは…どこなんでしょうか」
江ノ島「あれれ?超高校級の天才クンにも分からないことってあったんだぁ?」
カムクラ「………」ギロリ
江ノ島「あ、分かってます分かってます。本当は気づいているんですよね?ここがあなたの『夢の中』だという事に」
-
- 197 : 2015/10/30(金) 20:24:38 :
- カムクラ「夢の中…本当にここは夢の中なのですか。…夢なんて、初めて見ました」
江ノ島「うぷぷ…当たり前だよなぁ?だって天才クンは夢を見るも見ないも、自由自在にコントロールできるんだからよぉ!」
カムクラ「だけど僕は、夢を見たいなんて思いませんでした」
江ノ島「予想に反した出来事に困惑してる?戸惑ってる?」
江ノ島「ずいぶん感情豊かになったモンだなぁ?カムクラよぉ!!」
カムクラ「…仮にここが夢の中だとして」
-
- 198 : 2015/10/30(金) 20:25:40 :
- カムクラ「何故僕の夢にあなたが出てくるんですか」
江ノ島「それは私のことが大大大、大好きだからっしょ?」
カムクラ「ツマラナイ冗談も大概にしてもらえませんか」
江ノ島「やだぁ〜こっわ〜い!」
カムクラ「………」
江ノ島「ま、そろそろおふざけはやめといて、本題入るわ」
-
- 199 : 2015/10/30(金) 20:26:13 :
- 江ノ島「ねぇカムクラ、あんたって正直なところ、今の環境気に入ってない?」
カムクラ「と、いうと」
江ノ島「日向になってみない?本当の意味でさ」
カムクラ「僕は最初から日向創です。そして、同時にカムクライズルという存在でもあります」
江ノ島「いやいや、哲学の話してるわけじゃねーんだって」
江ノ島「もしアンタが望むなら少しだけ脳ミソいじくって、普通の人間に近づけてあげてもいいんだけどなー」
-
- 200 : 2015/10/30(金) 20:26:48 :
- カムクラ「…嫌です」
江ノ島「どうして?」
カムクラ「僕はもともとこのゲームに参加するつもりなんてなかった」
江ノ島「でもカムクラも案外島の生活を楽しんでたみたいじゃん?」
江ノ島「もしあんたが乗ってくれるなら、アイツラのコロシアイやめて、別の計画にチェンジしてもいいけど?」
カムクラ「僕は彼らのコロシアイなんてどうでもいい」
江ノ島「よく考えてみてよ。あんたは日向創として普通の人間として生活できる。仲良くなったお友達とも一緒にいれる。何にもデメリットないじゃん?」
カムクラ「………」
江ノ島「ね、そうしなよ」
-
- 201 : 2015/10/30(金) 20:27:20 :
- カムクラ「…るさい」
江ノ島「………」
カムクラ「うるさいんですよ…あなた…」
江ノ島「………」
カムクラ「僕はなにもかもどうでもいい」
カムクラ「最初からなにも期待していない。友達?なんですかそれ。そんなものいません」
カムクラ「僕は…何かを羨んだり楽しんだり、そんな感情は持ってない。あるはずがない。まやかしです」
カムクラ「真実なんてどこにもない」
-
- 202 : 2015/10/30(金) 20:27:47 :
- 江ノ島「動揺してるの?」
カムクラ「僕が動揺?まさか、するはずがないじゃないですか」
江ノ島「…おかしいなぁ」
江ノ島「…なんか、あんた本当に変わったね」
カムクラ「………」
-
- 203 : 2015/10/30(金) 20:28:18 :
- 江ノ島「はあ…やめたやめた」
江ノ島「今のあんたからは臭うのよね…くっさいくっさい希望の臭いがさ」
江ノ島「絶望に浸る希望っていうのがあんたのキャラであって、設定なのにさ。今のあんたは魅力ゼロ。失望したわ」
カムクラ「はやく帰ってくれますか」
江ノ島「はいはーい、言われなくてもー」
江ノ島「まあ…最後の最後で決断が揺らぐかもしれないし?期待しとくねー」
-
- 204 : 2015/10/30(金) 20:28:50 :
- 彼女の姿が空間に溶け出す。
僕は無感情に、
なるべく無感情であるように、
その様子を眺めていた。
夢。
これは江ノ島盾子の精神攻撃なのだろうか。
僕には区別がつかない。
才能に愛されているはずの僕。
人の心を読むことは簡単だった。
簡単だったはずなのに。
今は分からないことが多すぎる。
それはどうしてなのか…。
-
- 205 : 2015/10/30(金) 20:29:07 :
- 僕はその答えを導くことを先送りにしている。
非効率的な考えに囚われるのはどうしてか。
それを僕は、まだ考えたくなかった。
今はまだ…。
-
- 206 : 2015/10/30(金) 20:29:20 :
- 【ChapterX END】
-
- 207 : 2016/08/31(水) 14:58:26 :
- 続き楽しみだ期待
-
- 208 : 2016/09/02(金) 21:45:25 :
- 面白すぎかよ
これは続き期待せざるを得ない
-
- 209 : 2016/09/24(土) 17:25:21 :
- クッソおもろいわ
続き期待やで〜
-
- 210 : 2016/12/07(水) 11:03:26 :
- 【Chapter5 背中合わせの絶望】
まさか一年越しに更新されるだなんて誰が予測できたでしょうか。
亀更新どころの騒ぎじゃないが、それでも俺は完結させるぞジョジョーッ!
-
- 211 : 2016/12/07(水) 11:04:27 :
- 目が覚めると、背中が湿っていた。
ひどい寝汗だ。
なにか夢を見たはずだった。
だが、内容は思い出せない。
僕はシャワーを浴びて、シャツを替えた。
-
- 212 : 2016/12/07(水) 11:05:05 :
- 朝食を食べるような気分ではなかった。
僕はただベッドに腰掛けて、白い天井を見上げた。
何も考えずに。
馬鹿みたいに見上げ続けた。
やがて集合時間が近づいてきた。
僕は中央公園へと向かう。
狛枝は僕を見つけるやいなや、こちらに駆け寄ってきた。
-
- 213 : 2016/12/07(水) 11:05:37 :
- 狛枝「おはよう、日向クン」
カムクラ「おはようございます」
狛枝「朝食来なかったよね。どうかしたの?」
カムクラ「…お腹が空いていなかっただけです」
狛枝「…そう?」
狛枝「なんか、今日は元気がないね」
カムクラ「そうでしょうか…」
-
- 214 : 2016/12/07(水) 11:06:08 :
- 雑談もそこそこに、僕たちは電気街へ向かう。
他の面々も担当の場所へと向かい始めた。
狛枝と共に訪れたのは、
ガラクタの寄せ集めのような錆びついた街。
看板の取れかかった電気屋の前で僕たちは立ち止まった。
狛枝「えっと、電気屋に着いたわけだけど確認してもいいかな?」
カムクラ「なんでしょう」
-
- 215 : 2016/12/07(水) 11:06:37 :
- 狛枝「今日集めるものって…なにかな」
カムクラ「三種の神器を一つですね」
狛枝「あはは…やっぱり見間違いじゃなかったみたいだね。それってさ、なんなの?」
カムクラ「さあ、僕にもよくわかりません」
狛枝「うーん…参ったね」
僕は三種の神器なるものに、心当たりはない。
-
- 216 : 2016/12/07(水) 11:07:08 :
- 狛枝は手当り次第に、ガラクタの山をひっくり返し始めた。
カムクラ「…何してるんですか」
狛枝「…いやさ、ひとまずそれっぽいものを探そうかなって」
カムクラ「なんですか。それっぽいものって」
狛枝「名前からして、なんだか光ってそうだよね」
狛枝はひたすらにガラクタを掻き分ける。
-
- 217 : 2016/12/07(水) 11:07:39 :
- カムクラ「闇雲に探しても意味がないのでは」
狛枝「そうかな、きっと見つかると思うんだよね。だってボクは…」
カムクラ「……超高校級の幸運、ですよね」
狛枝「あ、覚えててくれた?光栄だなぁ。君みたいな素晴らしい人間に、ボクのゴミクズのような才能を覚えてもらえていたなんて」
カムクラ「僕の才能が素晴らしいかなんて、あなたに分かるんですか」
狛枝「わかるよ。君からは感じるんだ。才能を持つ人間の放つ、ある種独特なオーラを…」
-
- 218 : 2016/12/07(水) 11:08:04 :
- 狛枝「いや、それだけじゃないよ」
狛枝「君から感じるオーラは、常人の持つソレとは遥かに異質なもの。さらに超人すら凌駕するほどの『何か』を君からは感じるんだ」
カムクラ「…そうですか」
狛枝「あ」
狛枝は突然声を上げて、積み上げられたテレビ群の頂点を指差した。
そこになにか光るものが見える。
-
- 219 : 2016/12/07(水) 11:08:45 :
- 狛枝「ねぇ、アレじゃないかな?」
すると狛枝は、おもむろに廃棄テレビの山を登り始めた。
足場は不安定。
いつ崩れるとも分からないテレビの山。
狛枝は虚ろな光を瞳に宿して、頂点を目指した。
カムクラ「ッ…危ないですよ」
狛枝「平気平気」
-
- 220 : 2016/12/07(水) 11:09:14 :
- 危なっかしくて見ていられないと思ったその時、グラリと狛枝の足元が傾いた。
狛枝「あ…」
-
- 221 : 2016/12/07(水) 11:09:50 :
- 僕はとっさに地面を蹴り、
狛枝を空中で確保して、
なだれ込むガラクタを避けつつ着地した。
僕の着地のすぐあとに、耳障りな落下音が電気街に響き渡った。
狛枝は僕に抱えられながら、呆然と僕を見上げていた。
-
- 222 : 2016/12/07(水) 11:10:21 :
- カムクラ「だから危ないと言ったでしょう!」
僕の声に狛枝はビクリとして、
おずおずと口を開いた。
狛枝「あは…ごめんね…?」
カムクラ「全く…」
狛枝は僕の腕を離れて立ち上がると、少し考え込んで僕に近づいた。
狛枝「もしかして、心配してくれた?」
カムクラ「は…?」
-
- 223 : 2016/12/07(水) 11:10:59 :
- 狛枝「だって声を荒らげる日向クンなんて初めて見たもん…君って意外と優しいんだね」
カムクラ「ちょ、ちょっと待ってください」
狛枝「ほら、動揺してる。あはっ…大発見だよ…君のそんな表情が見れるなんて思ってなかったなぁ」
カムクラ「…とにかく、もう危ないことはしないでくださいね…」
狛枝「うん、しないよ。心配してくれてありがとう日向クン」
カムクラ「…別に心配しているわけじゃありません。僕が『迷惑』なんです」
狛枝「そっか。僕としても君に迷惑をかけることは本意ではないし…善処するよ」
-
- 224 : 2016/12/07(水) 11:11:33 :
- 僕はケロリとした表情の狛枝に呆れを感じた。
多分彼はまた同じことをやるだろう。
そんなことを思った矢先、狛枝がテレビ群の中から何かを発見した。
狛枝「あ、日向クン。なにかあるよ。キラキラしてる…三種の神器かな」
カムクラ「これは…」
-
- 225 : 2016/12/07(水) 11:12:12 :
- 狛枝の手の上で金色に光るソレは、まさに黄金のテレビと呼ぶに相応しかった。
ミニチュアの…黄金テレビ。
それで僕はピンと来る。
カムクラ「もしかすると、三種の神器とはテレビ、クーラー、車…の3つの家電製品のことではないでしょうか」
狛枝「え?どうして?」
-
- 226 : 2016/12/07(水) 11:12:56 :
- カムクラ「この黄金のテレビはよく見ると古いタイプのカラーテレビと同じ外見なんですよ」
カムクラ「カラーテレビといえば、日本の高度成長期60年代半ばの三種の神器の一つ」
カムクラ「つまり、あとはこれと同じように黄金で出来たミニチュアのクーラーと車を探せば良いのだと思いますよ」
狛枝「なるほど…さすがは超高校級の才能を持つ日向クンだね…!素晴らしい推理力だよ…!」
カムクラ「そういうのは結構ですから、早く探しますよ」
狛枝「ごめんごめん。じゃあ探そうか」
-
- 227 : 2016/12/07(水) 11:13:28 :
- 探すこと数十分。
さっきの雪崩のおかげで埋もれていたのが出てきたのか、黄金のクーラーと黄金の車はすぐに見つかった。
どちらもカラーテレビ同様、従来のサイズと比べるとよっぽど小さく、手のひらに乗るサイズだ。
カムクラ「予定より早く終わりましたね」
狛枝「あ、それなら少しそこで話さない?」
カムクラ「…いいですよ」
僕たちはガラクタ山の上に腰掛けた。
-
- 228 : 2016/12/07(水) 11:13:59 :
- 狛枝「ねえ日向クン」
カムクラ「なんでしょう」
狛枝「ここでの生活にはもう慣れた?」
カムクラ「それなりには」
狛枝「そっか」
-
- 229 : 2016/12/07(水) 11:14:28 :
- カムクラ「狛枝、あなたはどうなんですか」
狛枝「うーん…」
狛枝「ボクもそれなり…かな」
狛枝「ねぇ…日向クン」
カムクラ「………」
狛枝「ウサミは何を考えて、ボク達にこんなことさせるんだと思う?」
-
- 230 : 2016/12/07(水) 11:15:04 :
- カムクラ「…さあ」
狛枝「南の島で共同生活っていうのも結構だけど、ボクはもっと刺激があってもいいと思うんだ」
カムクラ「刺激ですか…例えば、なんでしょう」
狛枝「サバイバルもいいけど、…殺し合いとか」
カムクラ「ずいぶん物騒なものを望むんですね」
狛枝「あはは、単なる例えだよ。でもね、ボクは興味があるんだ。この世界でどんな才能が最も強く輝く希望となり得るのか…」
-
- 231 : 2016/12/07(水) 11:15:33 :
- 狛枝「子供の頃、昆虫バトルってやらなかった?強い虫同士を切り株に乗せて、戦わせてさ…」
狛枝「それはスポーツにだって置き換えられるかもしれない。甲子園もオリンピックも、全ては強者のためのステージで、みんな誰にも負けないチャンピオンを求めてるんだ」
狛枝「それと同じなんだ。ボクは未来の希望を背負う君たちの戦いを…その先にある完璧な希望を見てみたいんだ」
カムクラ「………」
-
- 232 : 2016/12/07(水) 11:15:58 :
- 狛枝「あ、ボクばっかり喋っちゃったね。日向クンは、この生活のことどう思う?」
カムクラ「特に、なにも」
狛枝「え…恐怖でも喜びでも不安でも…何かしら感じるものはないの?」
カムクラ「…いや、あることには、あったかもしれません」
狛枝「なんだ、よかった。よければ聞かせてくれないかな?」
カムクラ「…わかりました」
-
- 233 : 2016/12/07(水) 11:16:29 :
- カムクラ「なんと言ったら適切でしょう…。僕は元来、あらゆる物事において無感動な人間でした」
カムクラ「ですが、ここで生活を始めてからはほんの少し変わったように思います」
カムクラ「正直に言えば、最近は楽しいです」
狛枝「………」
カムクラ「………」
狛枝「え、それだけ?」
カムクラ「ええ」
-
- 234 : 2016/12/07(水) 11:17:07 :
- 狛枝「…話題を変えよっか」
狛枝「ねぇ日向クン。今日こそ教えてくれないかな…君の才能のこと」
カムクラ「またその話ですか」
狛枝「どうしても知りたいんだ。こんなお願い、おこがましいとは思うんだけどさ」
カムクラ「大したものではありません」
狛枝「………」
カムクラ「………」
狛枝「………」
-
- 235 : 2016/12/07(水) 11:17:38 :
- カムクラ「…教えませんよ」
狛枝「本当にダメなの?」
カムクラ「ツマラナイ才能です。知る価値もない」
狛枝「…わかったよ。残念だけど、これ以上の詮索は野暮だよね」
カムクラ「すみません」
狛枝「君が謝ることないよ!悪いのはボクの方だしね…あ、そろそろ時間だ」
-
- 236 : 2016/12/07(水) 11:18:06 :
- 狛枝「帰ろうか、日向クン」
カムクラ「ええ、そうしましょうか」
ガラクタ山から腰を上げ、数回ズボンをはたく。
三種の神器を持っていることを確認して、僕たちは中央公園へと戻ってきた。
-
- 237 : 2016/12/07(水) 11:18:44 :
- 気づけば集合時間ぎりぎりであったため、僕達を出迎える顔は割合と多い。
採集の成果を報告し終え、それぞれまばらに解散していく中、狛枝が僕に近づいてきた。
狛枝「お疲れ様、日向クン」
カムクラ「お疲れ様です狛枝」
狛枝「この後って暇かな」
カムクラ「ええ、暇ですが。何か用ですか?」
狛枝「よかったら一緒に過ごさない?チケット…たくさん余ってて使い道なくてさ」
-
- 238 : 2016/12/07(水) 11:19:19 :
- ポケットからぺらりとチケットを取り出して、狛枝は困ったように笑った。
僕は浅いため息をついて、少し笑った。
カムクラ「仕方ありませんね…どこか行きましょうか」
狛枝「それじゃあ図書館行ってみない?君の読む本にも興味があるし」
カムクラ「いいですよ。図書館へ行きましょう」
-
- 239 : 2016/12/07(水) 11:19:54 :
- この島に存在する巨大な図書館。
読書家であればあるほどよだれを垂らすこと請け合いな知識の海。
今さら創作物に心動かされることはないが、狛枝が好みそうな本は大体予測がつく。
適当に冒頭を読んで、狛枝の好みに合うであろうものを机に積み上げた。
他にもエッセイや古典を数冊抜き出して、それも机に積んだ。
-
- 240 : 2016/12/07(水) 11:20:31 :
- 狛枝「やっぱり本を見ると落ち着くよ。これが日向クンのおすすめ?」
カムクラ「ええ、きっと気に入りますよ」
狛枝「あはっ、日向クンがそう言うなら間違いないよね」
カムクラ「狛枝は普段から読書をするんですか」
狛枝「うん。本はいい暇つぶしになるから、これまで結構な量を読み込んできたつもりだよ」
カムクラ「そうですか」
狛枝「選んでくれてありがとう。日向クンも座りなよ」
カムクラ「そうします」
-
- 241 : 2016/12/07(水) 11:21:02 :
- 年季の入った木製椅子に腰掛けて、僕たちは向かい合わせで本を読み始めた。
かと言って僕は読書が好きではない。
「アルジャーノンに貝殻を」を開き、僕は最初の三ページで文字を追うのをやめた。
やはり展開の見える物語はツマラナイ。
僕にはすぐに結末が分かってしまう。
「冬への扉」、「月は無慈悲な夜の皇帝」、「クローン人間は電気猫の夢を見るか」その全てにおいて、わずか十ページ余りでストーリー展開が予測できる。
-
- 242 : 2016/12/07(水) 11:21:35 :
- すぐに飽きて向かいに座る狛枝を見ると、彼の方は物語にすっかり魅了されてるようで時折顎を撫でる仕草がなければ、まるで彫像のようにも見えた。
やがて狛枝が、満足げな息を吐きながらパタンと本を閉じる。
狛枝「これ、いいね。ボク好きになっちゃったな…さすがは日向クンのおすすめだね」
カムクラ「気に入りましたか」
狛枝「もちろん。とても面白かったよ」
狛枝が数冊の本をよっと持ち上げる。
-
- 243 : 2016/12/07(水) 11:22:14 :
- 狛枝「さて…じゃあこれは借りてくるね」
カムクラ「おや、コテージで読むんですか」
狛枝「ここで読むのもいいと思うんだけど、物語に集中するなら一人の時に読んだ方がいいかなって」
貸出コーナーにある名簿に書き込みを終えて、ふらふらと狛枝が戻ってくる。
重そうだったので僕が半分を持つと、狛枝は控えめにありがとうと言った。
カムクラ「あなたのコテージまで運べばいいんですよね」
狛枝「なんだかごめんね。そうしてもらえると助かるよ」
-
- 244 : 2016/12/07(水) 11:22:57 :
- 結局、狛枝が本を一冊読んだだけで僕たちは図書館を後にした。
気に入ってくれて良かった。
僕は終始嬉しそうに頬を緩める狛枝を横目に見ながら、足を進めた。
狛枝のコテージに着いて本を降ろすと、狛枝が何気なくベッドに腰掛けた。
-
- 245 : 2016/12/07(水) 11:23:24 :
- 狛枝「やっと採集が終わったのに、また力仕事させちゃって申し訳ないな…。あ、日向クンはそこの椅子に座りなよ」
カムクラ「ええ、失礼します」
狛枝「それにしても、日向クンってやっぱりすごいや。もしかして君の才能って、超高校級の読書家?それとも速読とか?」
どちらもあるとは言えず、僕はただ首を横に振った。
狛枝は期待に満ちた眼差しから一変、残念そうに視線を落とした。
-
- 246 : 2016/12/07(水) 11:24:09 :
- 狛枝「…そっか」
カムクラ「………」
狛枝「ごめんごめん。本当に詮索するつもりなんて無かったんだけど、気を悪くしたかな」
カムクラ「いえ、ですがあなたは本当に才能について過度に興味を示しますよね」
狛枝「そりゃそうだよ。僕は尊敬してるんだ。その分野で画一した才能を持つ人々、君を含めた希望ヶ峰学園の生徒をね」
カムクラ「あなたもその一人でしょう」
-
- 247 : 2016/12/07(水) 11:24:37 :
- 狛枝「ボクは違うよ。ボクのはただの運…言わば凡人。超高校級の幸運っていうのは、ボクのような凡人が君たちのような希望を体現する人たちに近づける唯一の“特等席”なんだよ」
カムクラ「でもあなたは自分の才能を信じているんでしょう。それに誇りも持っている。あなたがそれほどまでに劣等感を感じる理由が僕にはわからない」
狛枝はくすくすと笑った。
-
- 248 : 2016/12/07(水) 11:25:01 :
- 狛枝「これが本当の才能なら、ボクはボク自身の才能をコントロール出来るはずだよ」
カムクラ「…そうでしょうか」
狛枝「そうだよ」
僕は狛枝の中に、強烈な自尊心と劣等感と正義感とが複雑にせめぎ合っているのを感じた。
本音を幾重にもベールに包んで、誰も寄せ付けないような絶対防御の壁。
-
- 249 : 2016/12/07(水) 11:25:32 :
- 僕は知っている。
この壁はたくさんの隙間が空いていて、とても脆いものだということを。
たった一言で壊れるような脆いものだということを。
たとえばそう、友達になろうだなんて言おうものなら…。
しかし、その言葉を発することは僕にはできない。
だから代わりに、違う言葉を発することにした。
カムクラ「コントロールできない才能だってありますよ」
-
- 250 : 2016/12/07(水) 11:26:01 :
- 狛枝「え?」
カムクラ「例えばそう、絶望や希望といった概念です。これらは本人の意思と関係なく常に発揮されます」
狛枝「………」
カムクラ「だからと言ってはなんですが、
あなたの才能は、本物ですよ」
狛枝はぽかんとした顔で僕を見つめていたが、やがて肩を震わせて笑いだした。
-
- 251 : 2016/12/07(水) 11:26:37 :
- 狛枝「あはっ、そこまで肯定されたら反論できないよ。ふふ、参ったな…じゃあまあ、こんな暗い話やめにしようか」
カムクラ「ええ、そうしてください」
それから僕たちは他愛無い話をいくつかして、なんだかんだで時刻は日暮れをとっくに見逃していた。
僕はやっと腰を上げた。
-
- 252 : 2016/12/07(水) 11:27:06 :
- カムクラ「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
狛枝「それはこっちのセリフだよ!ありがとう日向クン」
玄関まで見送られる。
僕は狛枝と別れた後、電子生徒手帳を確認してみた。
-
- 253 : 2016/12/07(水) 11:30:35 :
- すると、あった。
たしかに青色に輝く希望のカケラがそこに表示されていた。
もうすぐ終わりを告げる予測不可能な毎日に、僕は密かに寂しさを…感じていた。
じきに夕飯時になり、レストランへ向かうとおっとりとした所作で七海が僕の隣に座った。
七海「日向くん、隣…いいかな?」
-
- 254 : 2016/12/07(水) 11:31:28 :
- カムクラ「もう座ってるじゃないですか」
七海「………本当だ」
カムクラ「どうかしましたか」
七海「あ、うん。ほら、希望のカケラ集めも残すところあと一人…でしょ?澪田さんのカケラを集めることが出来たら、卒業試験会場へ来て欲しいんだ。場所…わかるかな?」
七海が眠そうな瞳を僕に向ける。
覚えている。
僕はこの瞳を知っていた。
-
- 255 : 2016/12/07(水) 11:32:02 :
- カムクラ「ええ、希望ヶ峰学園跡地でしょう」
七海「そうだよ。うん、さすが日向くん…じゃあ私もそろそろご飯を食べようかな。いただきまーす」
そして、やはり江ノ島盾子の記憶消去などアテにならないと思った。
カムクラ「いただきます」
-
- 256 : 2016/12/07(水) 11:32:31 :
- 僕はもそもそと料理を口に詰めた。
味なんて相変わらずひどいもので、僕が作るものに比べればイタズラのような仕上がりだ。
それでも
花村が作った料理には、僕では作り得ない何かがあると気づいた。
…だからなんだと言うのか。
不意をつかれたように涙の雫がぽろりと目から溢れたのを、誰にも気づかれないように拭き取って、僕は花村に伝える。
美味しかったです。と。
-
- 257 : 2016/12/07(水) 11:33:12 :
- 夕飯を終え、僕は澪田のコテージを訪ねることにした。時刻は既に深夜。
星座表の通りそっくりそのまま煌めく星を一瞥してから、扉を数回ノックした。
扉を開けた澪田は嬉しげに僕に挨拶をする。
-
- 258 : 2016/12/07(水) 11:33:44 :
- 澪田「やっほー!創ちゃん!どうかしたっすか?」
カムクラ「ええ、眠れなくて困っているんです」
澪田「創ちゃんもっすか!?」
カムクラ「おや、澪田もですか?」
澪田「たはは…実はそうなんすよ…。ホントは作詞とかしてたんすけど、逆に目が冴えちゃって…」
扉から見渡す限り、丸められた紙が多く目につく他に、書きかけのような紙が机の上にあって、澪田がそれだけ書き直したことが分かる。
-
- 259 : 2016/12/07(水) 11:34:13 :
- 僕は勧められるままに澪田の部屋へ上がりこんだ。
書きかけのものを見てみると、そこにはどう考えてもキャッチーではない言葉が嫌というほど書き連ねられていた。
これはひどい。
カムクラ「澪田…」
澪田「なんすか?」
カムクラ「あなたに送った脅迫状…炙り文字でI love you…何ですかこの歌詞は」
-
- 260 : 2016/12/07(水) 11:34:50 :
- 澪田「ギャー!恥ずかしいんで読まないで欲しいっすー!?」
カムクラ「人でも殺すんですか」
澪田「あー…やっぱ暗いっすかね…?」
カムクラ「…いえ、僕がどうこう言うつもりはありません。ただあなたが送りたいメッセージは何なのかと思いまして」
澪田「おやおや?なんだか真面目な顔っすね?もちろんメッセージ性のない詩なんて唯吹は書かないっすー!」
澪田は屈託ない笑顔でそう言うと、澪田はペタンと床に座り込んだ。
-
- 261 : 2016/12/07(水) 11:35:28 :
- 澪田「ま、見ての通り、それってラブソングなんすけど…実は違うんっすよ」
澪田「そのー…お恥ずかしい話、唯吹の居たバンドは前に解散したんすけど、そのバンドメンバーに捧げたかった歌っていうか…レクイエムというか…」
弔うつもりですか。とツッコミたくなるのを抑えて僕は聞いた。
カムクラ「解散?どうして」
-
- 262 : 2016/12/07(水) 11:35:58 :
- 澪田「んー…やっぱ方向性の違いっすね。音楽業界なんかではよくある事なんで、それは気にしてねーっす!」
澪田「とはいえ…あのメンバーも好きっちゃ好きだったわけで…それなら綺麗な思い出はそのままに歌にすればいいかなーっと」
カムクラ「バンドメンバーに宛てたラブソングというわけですか」
澪田「ま、そんな感じっすねー」
-
- 263 : 2016/12/07(水) 11:36:41 :
- カムクラ「にしては猟奇的というか」
澪田「だから悩んでるんすよー!どーしても唯吹の趣味が出ちゃって書き直しのオンザ眉毛っすよ!」
オンパレードですね。と僕は絶対に言わなかった。
澪田はペンを片手に白目をむいて泡を吹いている。
そんな澪田に、僕はとある提案をすることにした。
カムクラ「では、こうしませんか」
-
- 264 : 2016/12/07(水) 11:37:23 :
- カムクラ「今からこの島をコースに10周マラソンをしましょう」
聞くやいなや澪田が前のめりになる。
澪田「おっ!そりゃー名案っすね!」
カムクラ「走りますか?」
-
- 265 : 2016/12/07(水) 11:37:57 :
- 澪田「もっちろーんっすー!悩んでるときはあえて遊ぶ!そんな当たり前のことに気づかせてくれた創ちゃんにはマジで感謝っす!ピース!」
ピョンと立ち上がると、澪田はゆるい準備体操を素早く済ませ、僕の手を引いて走り出した。
カムクラ「おや、手を繋いで走るんですか?」
澪田「音楽は一体感っす!手つなぎ鬼でもしてるような感覚になれて楽しいし、走るリズムを合わせることで正しい音楽理論も学べる最強の作戦っすよー!」
カムクラ「ふふ、そうですね」
-
- 266 : 2016/12/07(水) 11:38:37 :
- 澪田「あの夕日に向かって走るっすー!」
カムクラ「もう沈んでますけどね」
澪田「じゃあこの際星でも月でも海でもいいっす!とにかく走るっすよ創ちゃーん!」
-
- 267 : 2016/12/07(水) 11:39:14 :
- 澪田にあちこち連れ回されて、夜の島を走り尽くす。
澪田は疲れ知らずで、まるで子供のようにはしゃいで笑った。
いつの間にか繋いでいた手もほどけて最終的には追いかけっこへと競技も変わり、僕は澪田を追い続けた。
手加減しなければすぐにでも捕まえられるというのに、澪田との遊びにとことん付き合う僕はなかなかにお人好しなのだろうと思う。
-
- 268 : 2016/12/07(水) 11:39:47 :
- ようやく疲れたのか、澪田は浜辺に腰を下ろして肩で息をして僕を振り返った。
澪田「は、創ちゃん…なかなかやるっすね…」
カムクラ「澪田こそ大したものです」
澪田「そりゃ肺活量とか体力には自信あるっすけどぉ…創ちゃんの息が全然乱れてないのは…あれっすね…少し悔しいっす…!」
カムクラ「僕も少し疲れてますよ」
澪田「絶対嘘っす…!」
-
- 269 : 2016/12/07(水) 11:40:25 :
- 澪田の息が整うまで僕はそこに立ち尽くした。
夜闇の中、波の音はむしろ規則的で、まるで呼吸のようだった。
澪田の荒い呼吸は、やがて風の音にさらわれた。
全て本物であったらどんなに…。
…どんなに、なんだと言うのだろう。
終わりが近いことを嫌でも認識する。
澪田が深く息を吐いて、立ち上がった。
-
- 270 : 2016/12/07(水) 11:40:59 :
- 澪田「ふーっ…そろそろ帰るっす。やっと眠気も出てきたし、何かいい歌も作れそうな気がするっす!」
カムクラ「無理はせずに頑張ってください」
澪田「了解っす!ま…今回は全部創ちゃんのおかげっすね」
澪田「歌ができたらちゃーんと聴かせるっす!もちろん特等席で!」
カムクラ「はは…期待していますね」
澪田「じゃ、唯吹は一足先に帰ることにするっす。少し一人で歌詞を考えたいので!」
カムクラ「そうですか。気をつけて」
澪田「おやすみなさいっすー!」
カムクラ「おやすみなさい」
-
- 271 : 2016/12/07(水) 11:41:44 :
- 歩きながら手を振り続ける澪田に軽く手を振り返す。小さくなる澪田の姿を最後まで見送ると、一抹の寂しさが僕を震わせた。
終わりが近い。
僕は電子生徒手帳を開く。
やはり青いカケラがそこには一つ増えていて、いよいよ明日なのかと思ってしまう。
-
- 272 : 2016/12/07(水) 11:42:13 :
- 僕は緩慢な速度で歩きはじめた。
終わりへと向かって…。
-
- 273 : 2016/12/07(水) 11:43:05 :
- 【Chapter5 END】
-
- 274 : 2017/01/03(火) 18:06:17 :
- 読み返してたら更新してたぜ!続き期待
-
- 275 : 2017/01/13(金) 13:37:11 :
- 面白い! 続き全裸待機してます
-
- 276 : 2017/02/06(月) 18:19:57 :
- カムクラの卒業式楽しみ
-
- 277 : 2017/02/06(月) 19:09:24 :
- 更新されとる!?
超期待!
-
- 278 : 2017/02/16(木) 12:43:04 :
- 七海とのやり取りは食事以外無かった気がするのは自分だけか?
-
- 279 : 2017/03/01(水) 20:08:28 :
- あれから13日が経っているな?
-
- 280 : 2017/03/12(日) 22:10:18 :
- 花粉に耐えながら全裸期待!
-
- 281 : 2017/03/26(日) 07:49:22 :
- 【Chapter6 2つの名前】
カムクラの物語も、いよいよ終わりです。
彼がプログラム世界に迷い込んだのは、偶然か、はたまた運命か。
更新します!コメント本当に感謝してます!
-
- 282 : 2017/03/26(日) 07:51:17 :
- 僕は、いつもの通り目を覚ました。
そこにはいつからか見慣れた天井があり、鏡には見慣れた短髪の僕が映り、手帳を開くと見慣れた名前が表示された。起動時に僕の名前…正確には日向創と、遅れて彼らの名前が表示される。
希望のカケラが一つずつ、どこか誇らしげに並ぶ。
僕がその人間から信用を得た証だ。
-
- 283 : 2017/03/26(日) 07:51:57 :
- 今日が最後だ。
彼らにはもう会うことはないだろう。
思えば妙な巡り合わせだった。
僕にしても日向創にしても、現実世界における僕たちは、77期生となる彼らと全くと言っていいほど接点などなかったはずなのに。
朝食の集まりには顔を出さないことにした。
もう僕には関係ない。別れを告げたところで彼らがそれを覚えていられるわけじゃない。
-
- 284 : 2017/03/26(日) 07:52:21 :
- それなら…問題はないだろう。
僕は手早く支度を済ませ、試験会場となる…希望ヶ峰学園跡地へと向かうことにした。
-
- 285 : 2017/03/26(日) 07:52:49 :
- 跡地の前には七海が立っていた。
僕を見つけて、柔らかな笑顔を見せる。
七海「おはよう日向くん…いや、カムクラくん…かな」
カムクラ「どちらでもいいですよ」
七海「…そう?…うん、じゃあやっぱりカムクラくんって呼ぶね」
-
- 286 : 2017/03/26(日) 07:53:17 :
- 僕を気遣っているのだろうか。
久しぶりに名前で呼ばれたような気がして、妙な気分だった。
七海「カムクラくん、少し嬉しそう…?」
カムクラ「どうでしょうね」
-
- 287 : 2017/03/26(日) 07:53:40 :
- 僕は、それより…と言葉を区切った。
カムクラ「早く始めてくれませんか。…卒業試験とやらを」
七海「…うん」
-
- 288 : 2017/03/26(日) 07:54:01 :
赤錆びた鉄の扉には幾重にも蔦が絡まり合い、来るものを阻もうとする意思が伺えた。
七海は認証パネルにて、暗証番号を入力した。
11037…そう入力しているようだった。
苗木誠が設定したのだろう、その数字は過去に一度目にしたことがあった。
-
- 289 : 2017/03/26(日) 07:54:22 :
- 希望ヶ峰学園史上最大最悪の絶望的事件。
江ノ島盾子は、苗木誠たち78期生にコロシアイを強要し、その様子は全国に配信された。
重厚な鉄の扉が音を立てて開き始める。
絡みついていた蔦は、呆気なく引きちぎられてゆく。
道が開かれる。
-
- 290 : 2017/03/26(日) 07:54:40 :
- 七海「行こっか」
カムクラ「ええ」
僕らは扉の先へと進む。
七海が迷いなく歩いていくので、僕はそれに従って歩く。
-
- 291 : 2017/03/26(日) 07:54:59 :
七海「ねえカムクラくん」
カムクラ「なんでしょう」
僕たちは暗闇の廊下を歩く。
明かりなどはなかったが、なぜかお互いの姿ははっきりと確認できた。
-
- 292 : 2017/03/26(日) 07:56:17 :
七海「どこまで知ってたの?この島や、この島の外のこと」
七海「それと私の事とウサミちゃんのこと…」
カムクラ「…すべて知っていますよ」
七海「そっか」
カムクラ「でもこの島にいるうちに、僕は全てを理解した気になっていただけだったと…分かりました」
七海は僕を見上げた。
-
- 293 : 2017/03/26(日) 07:56:54 :
- カムクラ「ここに来る前…現実世界で船に揺られていた時。その時はまだ忘れていたんです。記憶を…あの学園での記憶を」
カムクラ「僕は覚えていなかった。狛枝凪斗という男を。以前あなたと共に地下の隠し部屋へ乗り込んできた男を」
-
- 294 : 2017/03/26(日) 07:59:05 :
- カムクラ「僕は江ノ島に記憶を消してもらうよう要求した」
カムクラ「だから狛枝とは初対面で当たり前なんですが」
カムクラ「プログラム世界に紛れ込んだおかけで、消してもらった記憶もすべて思い出してしまった」
七海「待ってカムクラくん、なんの話をしてるの…かな」
カムクラ「ああ、そうですよね。あなたは知らないんでした。でも聞いてください。あなたにも関係あることなので」
-
- 295 : 2017/03/26(日) 07:59:44 :
- 僕はどこまでも続く闇に僅かに恐怖していた。
先の分からない不安。
初めて感じる感覚。
これが心細いという感覚。
-
- 296 : 2017/03/26(日) 08:00:09 :
- カムクラ「僕は見てきました。雪染ちさの絶望も、江ノ島盾子の暗躍も…七海千秋の死も」
七海「私の死…?」
カムクラ「そうです。けれど今のあなたではありません。オリジナル…肉体を持った、生身の七海千秋でした」
七海「なんとなく、知ってる…ような気がする」
-
- 297 : 2017/03/26(日) 08:00:38 :
あの日七海千秋は死ぬ間際、僕に何かを伝えようとした。
けれど僕はなにも理解しようとせず、傍観を決め込んでいた。
そして死を見届けて、理由もなく七海千秋の亡骸から髪留めを手にとってみた。
以来ポケットに入れてずっとそのまま。
なぜ僕があの時髪留めを手に取ったのか、この島に来る以前の僕ではついに理解することはできなかった。
-
- 298 : 2017/03/26(日) 08:00:55 :
- 記憶に蓋をした。
江ノ島盾子に協力をしてもらい、77期生に関する記憶を消去した。
そうまでして忘れたのに。
このプログラム内では、その記憶消去も意味を成さなかった。
闇は続く。
-
- 299 : 2017/03/26(日) 08:01:19 :
- カムクラ「…おそらくは」
カムクラ「あなたは彼らの望む形なのでしょう。彼らにとってあなたは希望の象徴だ」
七海「…うん。みんなが私を想ってくれたから、私はここにいる…それは知ってるよ」
カムクラ「日向創も恐らく…あなたを想った」
七海「…うん」
カムクラ「僕よりもよっぽど、七海千秋の方が超高校級の希望に相応しい」
-
- 300 : 2017/03/26(日) 08:01:44 :
- それがたとえ彼らの絶望への堕落の要因になったとしても、僕はそう感じた。
カムクラ「…僕がこんなことを思うのは変なのかもしれない。でも、僕はずっと探していたんです。希望とは、絶望とは何なのか」
カムクラ「おかしな話ですよね。感情など、とっくに奪われてしまったはずなのに」
-
- 301 : 2017/03/26(日) 08:03:12 :
- 優しい顔で七海は僕の話を聞いていた。
僕はまだ信じられないような心地だった。
僕がこんなふうに、自分の気持ちを話すだなんて考えられないことだったから。
ただ全てが終わって、忘れられてしまう前に伝えたかった。
七海千秋が、それに一番適していた。
-
- 302 : 2017/03/26(日) 08:03:48 :
- 遠くに光が見える。
あれが闇の終わりだ。
カムクラ「…あの光の先に、試験会場があるんですか?」
七海「うん、私が案内できるのは…あの光の所まで」
-
- 303 : 2017/03/26(日) 08:04:10 :
- 僕らはただ光を目指して、歩き続けた。
隣で七海が、僕に優しい声で語りかける。
七海「…私はまだ日向くんと会ったことないし、ゲーム以外の知識はよく知らないし、もっと言えば単なるプログラムかもしれない。だけどね」
-
- 304 : 2017/03/26(日) 08:04:27 :
- 七海「私はちゃんと信じてるよ。監視役だとしても、こんな私でも、みんなの仲間として仲良くできるって」
七海「だからね、君にも信じてほしいんだ。君自身の可能性…そして諦めないで。君は感情のない人形なんかじゃない」
-
- 305 : 2017/03/26(日) 08:04:50 :
- じゃあ何だと言うんだろうか。
僕は一体、なんだと言うのか。
黙々と歩きながら、僕は言葉の続きを待った。
-
- 306 : 2017/03/26(日) 08:05:10 :
- 七海「君は、考えて、悩んで、人のことを想える人だよ。思い出して。感情がないなんて、嘘だよ。」
七海「ただのプログラムである私も、カムクラくんも、どんな才能をもった誰かでも、みんなと何も変わらない…ただの高校生なんだよ」
-
- 307 : 2017/03/26(日) 08:05:31 :
- ただの高校生。
そんな言葉をかけられるとは思ってもいなかった。
僕がただの、高校生。
-
- 308 : 2017/03/26(日) 08:06:07 :
七海「人は才能じゃない。才能なんかより大切なものがちゃんとあるんだよ」
七海「例えこの世界がゲームだとしても、君の人生はゲームじゃない」
七海「それに私は、どんな絶望がこの先待ち受けていても諦めたりなんてしない」
-
- 309 : 2017/03/26(日) 08:06:43 :
- 七海「やればなんとかなる!…君だってそうだよ」
七海「だから…こう言わせてね。行ってらっしゃい。カムクラくん」
-
- 310 : 2017/03/26(日) 08:07:13 :
- 光のすぐ近くまでやって来た。
彼女とはここでお別れだ。
僕は七海の顔が見れなかった。
徐々に視界がぼやける。
-
- 311 : 2017/03/26(日) 08:07:44 :
- それは臨界点を超えて、ついに溢れる。
一筋、僕の頬を濡らした。
次々と溢れて、止まらなかった。
止めることなど、もはや出来なかった。
-
- 312 : 2017/03/26(日) 08:08:06 :
- ポケットで電子音がする。
七海の希望のカケラが手に入ったのを伝える音だ。
優しく肩を押されて光が大きく輝いた。
僕はよろめいて光の中へ倒れ込むようにー…。
倒れる瞬間触れ合った七海の手は、あたたかく、そして次の瞬間には離れてしまった…。
-
- 313 : 2017/03/26(日) 08:08:22 :
- カムクラ「七海ッ…!」
叫んだ。
手放したくないとでも言いたげに僕の手が虚空を掴む。
カムクラ「お願いが…日向創の手助けをお願いしても…いいでしょうか…!」
-
- 314 : 2017/03/26(日) 08:09:20 :
- カムクラ「このプログラムに江ノ島盾子を持ち込んだのは僕です…勝手な願いかもしれませんが…」
七海の輪郭が光の中でぼやける。
闇が歪んで遠のいていく。
カムクラ「伝えてください日向創に…未来を…創ってほしいと…ッ」
-
- 315 : 2017/03/26(日) 08:09:50 :
- 七海は微笑みかけてくれるばかりで、やがて僕の周囲は光の波に飲み込まれた。
何もかもが光り輝いて…。
頭に響く、最後の声。
-
- 316 : 2017/03/26(日) 08:10:05 :
『約束するよ。この先どんな絶望があっても日向くんを、みんなを支える。君のことも…絶対に忘れな…い…』
-
- 317 : 2017/03/26(日) 08:10:38 :
- 気がついた時、そこはもう光の中などではなかった。
七海の姿はどこにもない。
僕は立ち上がり、改めて辺りを見回した。
漆黒の中に螺旋を描く緑の光。天地も定かではない曖昧な空間。自分の存在が不確かだ。
試験会場にはとても見えないその場所に一人、見覚えのある女がいた。
-
- 318 : 2017/03/26(日) 08:11:09 :
- 江ノ島「あーらら、念願叶ってやっと卒業できるってのに何その顔!なっさけなーい」
カムクラ「あなたは…」
江ノ島「やっほー!夢の中で会ったきりでしたー!江ノ島盾子ちゃんでーす!」
カムクラ「夢…」
-
- 319 : 2017/03/26(日) 08:11:48 :
- 彼女に言われてぼんやりと思い出す。
確かに僕は夢…を見た。
内容は思い出せないが、とにかく嫌な気分にさせられた気がする。
彼女はいつもの企むような目で笑う。
-
- 320 : 2017/03/26(日) 08:13:21 :
江ノ島「でさ、カムクラ先輩っ!卒業試験なんかする前に確認させてほしいんだけどぉ〜…」
カムクラ「………」
江ノ島「あんた本当にこのまま消えるつもり?昔は確かに日向創の身体だったかもしれないけど、今はあんたの身体っしょ?」
江ノ島「そもそもプログラムのアバターならもう誰のものでもない気もするし」
江ノ島「あんたが遠慮なんてする必要ないじゃん。だったら日向創として生きるのも悪くないと思うんだよねー」
カムクラ「僕はカムクライズルです。…日向創ではない」
-
- 321 : 2017/03/26(日) 08:13:56 :
江ノ島「えー!でもでもぉ、この島に来てからのカムクラ先輩って超楽しそうでしたよ?まるで感情があるみたいに振る舞っちゃったりして!」
カムクラ「………」
江ノ島「ま、素直には聞いてくれない思って代替案も持ってきたんだけどねー。はい耳穴かっぽじってよーく聞きやがれ!」
いつの間にか江ノ島はパネルを用意していた。
-
- 322 : 2017/03/26(日) 08:14:52 :
- 江ノ島がどういう意図でそれを用意したのか、僕には想像ができた。
パネルに描かれた僕と思わしき長髪の男。そしてもう一人、こちらも見慣れた短髪の男。
どちらも同じ顔をしている。
-
- 323 : 2017/03/26(日) 08:15:25 :
- 江ノ島「いーい?このまま卒業試験とかいうのを受けて、このアバターの操作権限を日向創に譲るとするじゃない?」
江ノ島「そしたら予定通りのプログラムが晴れてスタート!ってなる手筈なんだけど」
江ノ島「その場合あんたの存在は完全に消去されて、ついでに全員今日までの記憶がリセットされるの」
江ノ島「誰の記憶にも残らず、あんたは消えて、代わりになんの才能もない元予備学科がのうのうと生きることになるってわけ」
-
- 324 : 2017/03/26(日) 08:15:59 :
- 江ノ島「もちろんあんたが好きになっちゃったザコ共は日向創と仲良しこよし…もしかしたらあんたより仲良くなっちゃうかもね」
江ノ島「あんたそれでいいの?随分と日向創にとって虫のいい話じゃない?」
-
- 325 : 2017/03/26(日) 08:16:17 :
- 僕は江ノ島盾子の揺さぶりには応じない。
いつかのように丸め込むつもりだったのだろうが、それは無駄だ。
カムクラ「言いたいことはそれだけでしょうか」
-
- 326 : 2017/03/26(日) 08:16:42 :
- 江ノ島「ねぇカムクラ、あんたが日向創に成り代わるのが嫌なら、新しい別の人間としてだって生きることも出来るのよ」
カムクラ「…何を企んでいるんですか」
江ノ島「うぷぷ、何も企んでなんかいないよ!そもそもあんたがプログラム世界に入っちゃったのなんて、ただの事故だもーん」
-
- 327 : 2017/03/26(日) 08:17:15 :
- そうですか、と僕は短く返した。
カムクラ「とにかく僕は僕です。…新しいスタートなどいらない」
江ノ島「あっそ、まあ意外と頑固なあんたならそう言うと思ったけど…でも、そうね」
江ノ島「あんたがいなくなったら計画は確実に成功するわよ。あんなザコ共殺し合わせるのなんて楽勝だし」
-
- 328 : 2017/03/26(日) 08:21:34 :
- 江ノ島「でも絶望的!せっかく仲良くなったあんたの友達みーんな死んじゃうなんて…ひどい話よねー」
江ノ島「あんたが見捨てたから、みんな死ぬのよ」
僕は目の前の江ノ島盾子を押しのける。
江ノ島「ちょっ…」
カムクラ「僕は答えを見つけたんです」
彼女を追い越して、僕は歩く。
江ノ島「話はまだ終わってないんですけど?」
-
- 329 : 2017/03/26(日) 08:22:02 :
- カムクラ「予測不可能な世界は、あなたの言う絶望の中にはない。もっと身近にあったんです」
江ノ島盾子は追いかけては来ない。
カムクラ「僕は彼らと…七海千秋の希望を信じます。七海が僕の希望を信じてくれたように、僕も彼女たちの希望を信じたい」
カムクラ「彼らは、僕を認めて、僕の予測できなかった世界を見せてくれたから」
-
- 330 : 2017/03/26(日) 08:22:35 :
- 江ノ島「意味…わかんない」
背後の遠くの方で、そんな呟きが聞こえた。
僕の目の前に再び強い光が現れる。
僕はそこへ向かう。
決して江ノ島盾子のことは振り返らない
-
- 331 : 2017/03/26(日) 08:23:57 :
- 江ノ島「…はぁ」
江ノ島「そんなにあいつらが好きなら勝手にすれば。けど、絶対に後悔する事になるわよ」
江ノ島「あんたが信じるに値するほど、あいつらの希望は強くなんかない」
江ノ島「最後に絶望するのはあんたよ。…カムクラ」
江ノ島「てか…絶対絶望させてやるよ」
-
- 332 : 2017/03/26(日) 08:25:03 :
- 光が強く輝く。
彼女は闇の中に留まるつもりのようだった。
面白くなさそうな声で、僕を責める。
カムクラ「あなたの求める絶望ほどツマラナイものはない…」
カムクラ「僕は…あなたが絶望する未来を希望します」
僕の身体は光に溶け出した。
-
- 333 : 2017/03/26(日) 08:26:49 :
- 次に目を開けたとき、目の前にいるのはウサミだけで、そこは教室然とした普通の部屋だった。
ウサミ「よくいらっしゃいまちた!カムクラくん!」
カムクラ「ウサミ…」
-
- 334 : 2017/03/26(日) 08:29:24 :
- ウサミ「さ、準備はできてまちゅ。卒業試験を始めても平気でちゅか?」
カムクラ「構いません。僕が決めたことですから」
やっとこの場所にたどり着いた。
江ノ島のことをウサミに話そうかとも考えたが、それはやめた。
僕が話したところで何も変わらない。
手遅れにしてしまったのは僕なのだから。
-
- 335 : 2017/03/26(日) 08:30:38 :
- ウサミ「ではカケラの確認をしまちゅね!ひぃふぅみぃ…うんうん、ちゃんと全員分ありまちゅ」
ウサミ「ではカムクラくんはそこに用意されたみなさん特製の卒業ボタンを押してくだちゃい!」
ウサミに言われずとも僕はその操作盤の前に立っていた。
このボタン一つで全てがやり直し…。
思い返すのはこの島で過ごした短くも予想外の日々だった。
僕は迷わない。
-
- 336 : 2017/03/26(日) 08:32:21 :
- みんなでこのスイッチを作るために頑張った。
みんながこのスイッチを作ってくれた。
僕が消えてしまっても、この思い出だけは本物で、僕だけの記憶で、日向創のものなどではない。
それだけで…僕という存在には十分な事実だ。
みんなに希望を託すのは…僕自身の意志。
-
- 337 : 2017/03/26(日) 08:33:05 :
- ウサミ「なんだかカムクラくんには迷惑かけまちたね…あちしがちゃんと管理できていれば…」
カムクラ「いえ、今となっては感謝してますよ」
ウサミ「ほぇ…?」
カムクラ「ウサミも覚えていてくれますか。僕のこと」
ウサミ「それはもちろんでちゅ!最初に言ったはずでちゅよ!カムクラくんはあちしの大事な生徒で、それは変わりまちぇん!」
カムクラ「…そうですか」
-
- 338 : 2017/03/26(日) 08:34:39 :
- 僕はそれを最後の勇気に変えて、僕を排除するためのスイッチを…やり直すためのスイッチを…静かに押した。
その瞬間に僕の意識はプツリと、消えた。
闇に、もどる。
【chapter6 END】
-
- 339 : 2017/03/26(日) 09:16:58 :
- 【エピローグ 絶望的因縁に希望という弾丸を】
-
- 340 : 2017/03/26(日) 09:17:21 :
- それは、どこまでも続く海のようで。
どこにも行けるかもしれないし。
どこにも行けないかもしれない。
ただ可能性という名の無責任な概念と、それはとてもよく似ていて…。
この海に惹かれたのは、多分僕も日向創も同じ理由だ。
-
- 341 : 2017/03/26(日) 09:18:10 :
- 未来を生きるのがどれほど難しく、困難なことか、それはここにいる誰もが理解していた。
あの時、プログラム世界で懸けた望みは叶い、僕は日向創と共存する関係となった。
嬉しい誤算という言葉が当てはまるか少しだけ考えてみたのだが、やはり感情を用いる言葉にはまだ抵抗がある。
-
- 342 : 2017/03/26(日) 09:18:31 :
- 日向創は僕を受け入れ、僕は信じられないような毎日を送っている。
奇跡というものが毎日、起きている。
僕はそう思う。
-
- 343 : 2017/03/26(日) 09:18:57 :
- 日向「おいカムクラ、なに考えてるんだよ」
主人格である日向創が、脳内にいる僕に大声で話しかけた。
カムクラ「別に、なにも」
日向「嘘つけ。お前がなにか考えてると俺の考えと混ざるから混乱するんだよ!」
-
- 344 : 2017/03/26(日) 09:19:20 :
- カムクラ「それは失礼。しかし日向創」
日向「なんだよ」
カムクラ「いつも言ってるように声を出さなくとも、考えるだけで僕には伝わります」
日向「う」
カムクラ「事情を知らない人間からは一人で会話する電波ですよあなた」
-
- 345 : 2017/03/26(日) 09:19:44 :
- 日向「…お前の声ってかなり鮮明に聞こえるからつい話ちまうんだよ。悪かったな」
カムクラ「…ふふ」
日向「笑うな!悪かったって。これから気をつければいいんだろ?」
カムクラ「本当に…僕の主人格ですか?はは、なんだか面白いですよね…ははは…」
日向「俺は面白くないぞ…」
-
- 346 : 2017/03/26(日) 09:20:09 :
- 目覚めたとき、僕は笑うことや怒ること、悲しいことや思いやることを身につけた。
身につけた…というのは語弊があるだろうか。
いや、明らかにする必要なんてない。
曖昧でもいいことなんていくらでもあるのだから。
僕はカムクライズル。
もう一人の日向創。
それで…いい。
-
- 347 : 2017/03/26(日) 09:20:47 :
- カムクラ「さあ日向創、みんなを目覚めさせるプログラムは組み終わりました。あとはあなたが開始のボタンを押してください」
カムクラ「先ほど通信にもあった通り、未来機関本部が絶望の残党から攻撃を受けている」
カムクラ「あの江ノ島盾子のコロシアイの再現なんて悪趣味なテロ行為は早く止めなければいけません」
カムクラ「プログラムの都合上、一人目覚めさせるのに最大で24分はかかるんですからね」
日向「分かってるって。それじゃ、いくぞ」
-
- 348 : 2017/03/26(日) 09:21:24 :
- 僕らの指がボタンを押す。
未来を生き抜いた先に、必ず希望があるかといえばそうじゃない。
だからこそ僕は抗おうと思う。
最後の希望、苗木誠を救う。
僕たちにしかできないことを、精一杯やらなければ。
さあ日向創、あなたが道を見失いそうなときは僕が目となりあなたを助けます。
-
- 349 : 2017/03/26(日) 09:22:19 :
- だから必ずやり遂げましょう。
もしも世界中の絶望を背負っても僕たちなら、その先にある希望にたどり着くことができるから。
【END】
-
- 350 : 2017/03/26(日) 09:26:58 :
- はい…やっと完結いたしました。カムクライズルの物語。
このSSは実は本編の全く裏側、カムクラサイドを描いたSSでした。もうほんとに長い間お付き合いいただきました(泣)
完結させられてよかったです(号泣)
今度はV3でもSSを書きたいですね。
もし次回もお会いすることが出来ればぜひ、そちらもよろしくお願いします!
では最後に… くぅ~疲れた!
-
- 351 : 2017/03/26(日) 10:20:46 :
- 待ってました。完結おめでとうございます!お疲れさまです
3ある前に完結してたらどうなったかちょっと気になりました
-
- 352 : 2017/03/26(日) 10:40:07 :
- 僕は3のアニメ化まで予想済みだったんです。
時間調節をしていただけですよ。
…というのはジョークで、コメントありがとうございます!
とはいえ3のアニメを観る前のオチも、完結したこちらのSSもあまり変更点はありません!
自分が変更したのは会話内容を盛ったくらいなので!
-
- 353 : 2017/03/26(日) 10:51:55 :
- なるほど、みんなとの関わりでカムクラが変わっていくのが良かったです。
丁寧に書かれてて大好きなSSです、ありがとうございます。次回作も楽しみにしてます!
-
- 354 : 2017/04/08(土) 22:34:40 :
- カムクラが、希望に毒された(゚◇゚)ガーン
なんつってなwwww
-
- 355 : 2017/09/11(月) 21:34:08 :
- なにこれ、素敵過ぎて読み込んでしまいました!
('∀`)スンヴァラッッスィィィィィィィ作品です!!
こんな素敵な作品を読めて私は幸運ですね←
-
- 356 : 2023/06/26(月) 20:08:09 :
- スバラシイ作品でしたねカムクラファンの
僕にとって
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