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狛枝「ボクが転生?」
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- 1 : 2015/04/07(火) 01:05:48 :
- 狛枝視点の、現世転生パロです。
書き溜めあります。
ゆっくりしていってね|д゚)チラッ
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- 2 : 2015/04/07(火) 01:06:29 :
- 「…眠いなぁ」
カーテン越しの太陽はどこか懐かしさを感じさせる。
あの夏の日を想いまどろみながら、ボクは教科書を開いていた。
「本当に、ツイてないなぁ…」
あの日と同じくらい暑い教室。あの日と変わらないボクの姿。
だけど二つだけ、あの日と、あの世界と違うことがある。
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- 3 : 2015/04/07(火) 01:08:13 :
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この世界に産まれたとき、既にボクにはもう一つの記憶があった。
コロシアイ修学旅行、学級裁判、才能同士の醜い争い。
それは所謂、前世というものなんだろうけど、ボクには二回目の人生を素直に生きる気にはなれなくて。
派手な女子「…枝さん、狛枝さん!」
狛枝「ん…あぁ、なにかな?」
派手な女子「次の授業、移動教室だって!ボーッとしてると授業始まっちゃうわよ!」
狛枝「…ありがとう。すぐ行くよ」
変わったこと。そう、この世界には希望ヶ峰学園なんて学校は存在しない。
ついでに言えば、超高校級の才能なんて概念もないし、超高校級と称せるくらいずば抜けた人間もいない。
だからボクにも超高校級の幸運なんてものはないし、大切な人を奪われる心配もない。
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- 4 : 2015/04/07(火) 01:09:08 :
- 狛枝「…だけど」
クラスに溶け込む自分。普通。平凡。幸せ。前世で望んだ世界。
狛枝「だけどボクは、ボクには、今の自分が幸運だとは思えないんだ」
手早く準備を済ませ、次の教室へ移動を始める。ボクは、ただ虚しかったのかもしれない。
足枷でも嵌められたかのように重い足取りは、長い旅路を辿るように進められた。
いつまでボーッとしていたのか、気がつけば授業が終わり、教室にはざわめきと共に静寂が訪れ始めていた。
「…また夏だ」
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- 5 : 2015/04/07(火) 01:11:51 :
- ボクは、夏が好きではない。
夏が来ると思い出してしまう。
あの日の愚かな自分を、信じた才能と希望を、裏切られた絶望を、独りよがりなあの計画を。
「…帰ろう」
ボクは、一緒に帰ろうと誘ってくれた名前も知らない男子生徒を適当にあしらいながら、あえて一人で校門を出た。
下校時間。笑い声がグラウンドから響く。ボクの通う高校は、都内の結構有名な高校らしくて、大抵の受験生はまずここを目指そうと勉強に励む。
理由は呆れちゃうくらい簡単で、どこの高校よりも制服のデザインがいいから…らしい。
辺りを見回しても、ビルが建ち並ぶだけの光景はもう見飽きた。
もっともボクは、住んでるマンションから近いって理由で受験しただけなんだけど。
そこでボクは、止まらざるをえなくなった。
今日に限って駅の前の巨大な交差点の巨大な信号が赤く光って立ちはだかったのだから。
通称『開かずの交差点』一度赤信号になったら、一時間は足止めをくらうって有名な、迷惑な通せんぼ。
仕方がないから、ボクは普段使わない歩道橋を使おうと回れ右をした。
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- 6 : 2015/04/07(火) 01:13:07 :
- そして、彼と目が合った。
???「…狛…枝…」
狛枝「…あ」
なんてことだろう。
???「お前、狛枝だよな…?」
狛枝「…どう…して」
あの日と変わらない炎天下で、君に出会うなんて。
なんて、皮肉なんだ。
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- 7 : 2015/04/07(火) 01:14:21 :
- 日向「俺だよ俺。日向創。お前、狛枝だろ?」
狛枝「う…ぁ…」
とことんツイてない。
笑っちゃうくらい理不尽だ。
日向「あっどこ行くんだよ!」
狛枝「ッ…!」
気がつけばボクは、走り出していた。
回りの景色が飛ぶように変わっていって、人間ってこんなに早く走れたっけなんて思いながら、
実のところ再び出会った旧友のことばかりが脳内を占めていた。
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- 8 : 2015/04/07(火) 01:16:56 :
- 叫んでいたかもしれない。
獣の咆哮のような滅茶苦茶な奇声が耳に届く。
それが自分の声だと気づく頃には、もうボクは部屋の前まで来ていた。
どこをどう帰ったのだろう、あまり覚えてないが何もかも疲れ果てて、緩慢とした動きでドアを開き、枯れた喉が今度は嗚咽を漏らした。
扉が閉まると、ボクは立っていられなくなって膝を折り、声にならない叫びを上げた。
パクパクと魚のように口を開閉し、きつく閉じた目からは止めどなく涙が溢れ落ちる。
狛枝「うっあぁ…!」
狛枝「なんで…なんで彼がここに…!?」
何故泣いているのか、何故こんなに動揺しているのか、分からなくて。
狛枝「どんな顔して会えばいいっていうんだ…」
狛枝「ボク…は…」
ボクは玄関でうずくまったまま、
意識を手放した。
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- 9 : 2015/04/07(火) 01:20:50 :
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翌日
狛枝「…退屈すぎて死にそうだ」
カーテン越しの光に目を細めて、ボクは白紙のノートや教科書といつも通りにらめっこしていた。
そして昨日の醜態を思い出して、死にたくなった。
狛枝「知ってる人に偶然出会ってびっくりして叫んで泣きながら帰宅して気絶した…なんて情けないにも程があるよね」
ふっと力無く笑ってから、本気で死にたくなった。声になんて出すんじゃなかった。
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- 10 : 2015/04/07(火) 01:22:34 :
- ???「どしたの?狛枝くん?」
自分にも聞こえるか聞こえないかという小さな呟きに反応した彼。
面倒くさいなぁと心の中で舌打ちをしつつ、なんでもないよと笑ってみる。
それでも彼は、まだ授業中だというのに席を立ってボクの机に腰をかけた。
???「くさいなぁ…くさいなぁ…」
狛枝「…一応聞くよ。何がかな?ボクは洗濯なら毎日してるよ?」
???「イカくさいんだよねぇ…」
狛枝「………」
???「相変わらずノリ悪いね狛枝くん!」
狛枝「ノったら負けかなって」
???「えーいいじゃない。ほら、僕の秘蔵DVD貸してあげるから」
狛枝「いらないから。さっさとそのいかがわしいDVDをしまってくれるとありがたいな」
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- 11 : 2015/04/07(火) 01:23:58 :
- 彼のマシンガントークは正直恐ろしい。
終わることを知らない下ネタは、ボクの頭痛の原因だ。
そして彼は、授業中だというのに平然と席を立っても先生に咎められたりしない。
何故かと前に聞いたことはあるけど、結局ボクは今でもその答えに納得していない。
狛枝「でも本当にみんな気づかないね。神代クンのこと」
神代「そういう体質ですから!」
神代優兎。特徴という特徴を持たない顔付き。
驚異の存在感の無さ。
得意は下ネタ…最後のはいらない気がするけど、まあそれが彼。
ボクは彼の事を密かに"超高校級のスパイ"だなんて名付けていたりする。
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- 12 : 2015/04/07(火) 01:25:47 :
- 神代「で、さ。狛枝くん」
狛枝「…なに?」
神代「本題に入るけど、昨日何かあった?」
狛枝「…君が気にするようなことは何も」
神代「そー?結構深刻そうな顔だよ?」
狛枝「君には…関け」
神代「昨日、交差点にいたっしょ」
狛枝「ッ…」
なんで、知ってるんだろう。
歩道橋からでも見てたって言うのかい。
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- 13 : 2015/04/07(火) 01:27:40 :
- 神代「なにそのハトが顔射されたような顔はさ」
狛枝「…見てたの?」
神代「何言ってんの!僕たちは一緒に帰ってましたがな!」
狛枝「…は?」
神代「なーんて僕が勝手についていっただけなんだけどさー」
口ぶりから推測するに、歩道橋なんかじゃなくてすぐ近くにいたんだろう。
信じられない…って言いたいけど、信じるしかないんだろう。
この彼の前では。
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- 14 : 2015/04/07(火) 01:28:58 :
- 狛枝「じゃあ、知ってたんじゃないか…昨日何があったのか…」
神代「いやぁいくら僕でも狛枝くんの心は読めないしー」
狛枝「…はぁ」
神代「諦めて僕に全部話しなよ?実際気になって仕方ないんだ。夜もぐっすりだし」
狛枝「…わかった、わかったよ」
まさに言葉のドッジボール。コトダマのぶつけ合いだ。
もちろんボクの完敗だけどさ。
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- 15 : 2015/04/07(火) 01:30:34 :
- 狛枝「…でも今日は疲れてるんだ。また今度でいいかな?」
神代「もちろん!ついでに可愛い女の子を紹介してくれれば感無量ですがな!」
狛枝「ははは…考えておくよ」
丁度彼とのドッジボールの試合終了の気配とともに、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
ボクは次の試合が始まる前にそそくさと教室を後にした。
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- 16 : 2015/04/07(火) 01:32:09 :
- その後の授業は、どんな話もずっと頭に入らなくて、別のことが気になってボクは白紙のノートを何時間も睨み続けることになった。
絶望の残党。
予備学科。
短い間のクラスメイト。
仲間。
友達。
彼は、一体どういうつもりでボクに話しかけたのか。
出会い頭に一発殴られたっておかしくないようなことをしたボクに、どうしてあんなにも親しげに話しかけてきたのだろう。
聞きたいことは山ほどあった。だけど、もう一度会って話したいなんて、ボクには思えない。
できればもう、関わりたくない。
ボクはそう願った。
狛枝(もし会えても、ボクはまた逃げるだろうけど)
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- 17 : 2015/04/07(火) 01:35:08 :
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それから数日後
前世の記憶を辿って、苦楽を共にしたクラスメイトに会いに行く…なんて安っぽい青春映画みたいなシナリオに、ボクは準じるつもりはない。
日向「…また、会ったな狛枝」
狛枝「…やあ、日向クン」
なのに、同じ場所でこうして二度目の再会を果たすなんて、ボクは本当にツイてないなぁ。
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- 18 : 2015/04/07(火) 01:36:28 :
- *
この前のボクの醜態をきっとまだ覚えているだろう彼は、へらっと笑いながら片手を上げていた。
日向「狛枝、お前にも記憶、あるんだろ?」
狛枝「あったらどうする気?言っておくけど、ボクは君と話し合う気なんてさらさらないんだよね」
日向「お前にはなくても俺にはあるんだよ」
狛枝「そこをどいてよ。信号、また赤になっちゃうじゃないか」
日向「…いいから、ついてこい」
狛枝「え…ちょっ」
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- 19 : 2015/04/07(火) 01:37:34 :
- 彼らしくない荒々しい口調。強引に手を引かれてそのまま人の流れに逆らって歩いていく。
多分無理矢理手を振りほどこうと思えば、振りほどけた。
それをそうしなかったのは、なんでだろう。暫く考えて自分の中で満足のいく答えを出す前に、目的地に着いた。
そこを目的にしていたのはボクではなく彼の方だけど。
意外と近いところに住んでいたんだなと呑気に構えながら、ボクは彼が扉を開けるのを待った。
…待った?
何を待っているんだろう。手の拘束はいつの間にか無い。いつだって逃げられるはずだ。
どうしてボクは、
日向「…入れよ」
狛枝「………」
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- 20 : 2015/04/07(火) 01:38:58 :
- 促されて、ほとんど条件反射で彼の家にあがってしまった。
噛み合わない自分の行動に違和感を覚えながらボクはただ促されるままにリビングに腰をおろした。
短い沈黙の後、彼がふいに口を開いた。
日向「どうしてですか」
狛枝「…え」
日向「どうして貴方は生きているんですか」
狛枝「日向クン…?」
日向?「どうして日向創が消えて、貴方がのうのうとこの世界で笑っていられるんですか…?」
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- 21 : 2015/04/07(火) 01:41:40 :
- 様子のおかしい彼に、ボクはただ困惑を隠せなかった。
さっきまでと、口調も表情も態度も、何もかもが違う。
いや、そう思うことすら間違っているのかもしれない。
だって、さっきまでの彼に対してもボクは、違和感を感じていたはずなのだから。
心の奥で、この“日向クン”に違和感を覚えていたのだから。
狛枝「君…誰なの?」
???「それすら思い出す前に死にましたか。哀れで無様でヘドが出ますね」
自分に向けられた明らかな悪意や殺意、それらの黒々とした激しい負の感情が、痛いほどに突き刺さった。
???「僕の顔をよく見てください。船で、同室になりました。もしかしてそんなツマラナイこと、覚えていないでしょうか」
狛枝「船…え、今ツマラナイって…」
カムクラ「あなたに分かりやすく言うなら…超高校級の希望、カムクライズルです」
狛枝「あ…あぁ…!」
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- 22 : 2015/04/07(火) 01:42:50 :
- 酷い頭痛と共に蘇る不透明なビジョン。確かにそこには、髪の長い男が存在していた。
『ツマラナイ』が…口癖のようだった。
思い出すと同時に、ボクは歓喜した。
狛枝「思い出した…思い出したよ…!あはっ嬉しいなぁ…こんなところでまた君に会えるなんて…!ねぇ、どうして」
鈍痛。
ぐらりと脳ミソが揺れた。痛い。久しぶりに感じた痛み。
ボクは彼に殴られたのだと理解するまで、かなりの時間を要した。
カムクラ「だから…何を、笑っているんですか…!」
静かな怒り。
記憶には、彼のこんな表情はない。
そんな彼が不思議でキョトンと見つめていると、彼の目が赤く光った。
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- 23 : 2015/04/07(火) 01:47:15 :
- カムクラ「日向創がいないんですよ…!僕の中にも、世界のどこにも…!」
狛枝「……それで?」
カムクラ「ッ貴方は…!」
それしか感想はなかった。
やっと希望を見つけたんだ。それに、“僕の中”?
何を言っているのか、さっぱり理解できない。
その言い方だとまるで、二重人格の片側を失ったみたいで……あれ?
狛枝「…ねぇカムクラクン、もしかして君は…」
カムクラ「…もしかしてやっと理解したんですか。…そうです。僕は日向創の中に人工的に創られた人格。そう…創られた希望なんですよ」
狛枝「…創られた…希望…」
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- 24 : 2015/04/07(火) 01:48:48 :
- …それは笑えない。
笑えないよさすがに。
カムクラ「…貴方をわざわざ捕まえたのは、情報が欲しかったからです。日向創がどこかにいて、僕の知らないところで笑っているんじゃないかと…正直、悪あがきです」
狛枝「あは…なら残念だったね…ボクは知らないよ」
狛枝「ええ、それは反応で分かりました。だけど僕は…日向創を散々苦しめた貴方が、どうしても許せなかった…!」
だから殴られたのか、と納得して、ボクは殴られた頬をゆっくりと撫でた。
カムクラ「…すみません。つまりはそういうことです。もう帰ってもらって結構ですよ」
狛枝「…ああ、そう」
つまり八つ当たりか。妙に冷めた目線で、ボクはカムクラクンを見た。
人間らしい喜怒哀楽。いや、彼は多分もうただの人間なんだろうけど。
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- 25 : 2015/04/07(火) 01:50:10 :
- 退室の許可を得て、ボクは自分でも驚くほどあっさりその部屋を後にした。
恐らくは、希望の才能を持って"いた"彼への失望。この世界でただの人に成り下がってしまった彼への憤り。
きっとそれらがボクの足を早めたんだ。
何かに耐えるように下唇を噛み、自分の家に帰宅したあと、ボクはこの前とは違う感情のせいで涙を溢した。
この前とは違う、静かな涙だった。
何のために、誰のために泣いてるのか…ボクにも分からなかったけど。
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- 26 : 2015/04/07(火) 01:54:15 :
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もうノートすら開いてないボクの机。
何も考えたくなかった。だけどそれでも学校に来てしまうボクは真面目なんだろうか。
神代「さてと、狛枝くん」
いつの間に、なんて今更驚きはしない。
神代クンはにこにこと純粋な笑顔でボクの机に腰かけた。
狛枝「………」
神代「あらら、酷い顔だね。昨日腰を振りすぎた?でも約束したからね。教えてよ、君と彼のことをさ」
狛枝「…ごめん。今日は…ちょっと…」
神代「えー、またぁ?」
狛枝「色々あった…あとだから…混乱してて…さ」
神代「やだやだやだぁ、今すぐ教えてくんなきゃいやだぁ!」
駄々っ子のように机をガタガタと揺らし始める彼に多少のイラつきは覚えたものの、ボクは笑いながらごめんねと謝る。
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- 27 : 2015/04/07(火) 01:55:15 :
- 神代「うーん…じゃあさ、今日君の家に行くからさ、そのときにゆっくり話そうよ!」
狛枝「いや、だからさ…」
神代「うんうん、いい考えだね。これは名案だ。じゃあそういうことなんで、エロ本は隠しときなよ!あとゴミ箱も綺麗にしておきなよ?」
狛枝「ちょっと…!」
彼はそう勝手に決めて一人上機嫌に教室を出た。
…だから、授業中なんだけどなぁ。
ともあれ、ボクは了承してないし。いざとなれば居留守を使えばいいかな。
…なんて考えて授業を終えたボクは帰路についた。
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- 28 : 2015/04/07(火) 01:57:00 :
- 神代「あ、おかえり狛枝くん」
狛枝「…………」
神代「ご飯にする?ライスにする?それとも、お・こ・め・?」
狛枝「…どうして、ボクの部屋にいるの」
神代「え?だって今日言ったじゃない。話を聞きに来るって」
そこにいるのがさも当然という風な口調で彼は話す。
さすがにそれにはボクも呆れた。
だって、こんなの不法侵入じゃないか。
狛枝「…出てってよ」
神代「なんで?」
狛枝「勝手に家に不法侵入されて、怒らない方がおかしいよ」
神代「あれれ、狛枝くんもしかして怒ってる?」
狛枝「ボクを振り回すのは…やめてくれないかな」
神代「………」
狛枝「勝手過ぎるんだよ…ボクの問題に我が物顔で首突っ込んだりしてさ…!」
久しぶりに頭がカッと熱くなった。
辛いことを、わざわざ聞き出して、彼はどうしたいんだ。
他人の傷口に塩を塗って何が楽しいんだ。
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- 29 : 2015/04/07(火) 01:58:25 :
- 狛枝「なんで君は…」
神代「勝手に?」
狛枝「…え」
神代「勝手なのはどっちだよ」
狛枝「か、神代クン…?」
神代「話を聞かせるって約束したのは事実だろ。家に行くって言ったときにはっきり否定しなかったのは誰だよ。約束もまともに守れずに自分の意見も言えない奴が偉そうに説教か」
狛枝「え…あ…」
神代「どうせ居留守でもする気だったんだろ。だからわざわざ先回りして来てやったのに、お前は自分を棚上げして僕に説教してるんだもんな。笑っちゃうね。笑うと言えば、僕は君の作り笑いが大嫌いなんだよね」
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- 30 : 2015/04/07(火) 02:00:17 :
- 笑っちゃうねと言いつつ、その顔は全くの無表情だった。
それが不気味で、ボクは思わず後ずさった。
このまま、部屋を出てしまおうか。
神代「…そうやって僕からも逃げるんだ」
狛枝「…ッ?」
神代「お前は逃げてるだけなんだよ。僕からも、彼からも。…自分自身からもさ」
狛枝「なに…言って」
神代「なーんちゃって!」
狛枝「…は」
神代「びっくりした?冗談冗談、ちょっとからかっただけだよ」
狛枝「神代…クン」
神代「ん、なあに?」
狛枝「…話すよ」
神代「え、そう?じゃあ聞かせてもらおうかな!」
多分冗談、ではなかったんだろう。
怒っていたのか、叱っていたのか、分からないけどとりあえず、ボクは笑える気分じゃなかった。
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- 31 : 2015/04/07(火) 02:02:53 :
- こういったタイプの人間は初めてだ、なんて思いながら、ボクはポツリポツリとたくさんのことを彼に話した。
きっと彼なら、前世の記憶を話したって信じてくれるだろうと。
ボクは全てを話した。
狛枝「…だから、交差点で日向クンに再会してびっくりしたんだ」
神代「ふーん…」
狛枝「その後偶然また会ってさ」
神代「あーおっけおっけ。大体わかったよ」
狛枝「…もういいの?」
神代「その後の話は実際聞いてたし」
またか、と舌打ちしたくなる衝動を抑えて、代わりにため息をついた。
聞いてたって…どこまで聞いていたんだろう。
また勝手にストーカーされてたのかと思うと、げんなりする。
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- 32 : 2015/04/07(火) 02:05:55 :
- 神代「さて、聞くこと聞いたし、帰りますか!」
狛枝「え、ち、ちょっと待ってよ!」
神代「どしたの?」
狛枝「…話聞いて…それだけ?」
神代「他に何かありますって伏線はおいた覚えないけど?」
狛枝「じゃあ…」
神代「うん、単純に単なる好奇心だよ。そろそろ暗くなるし、僕は帰るねー!」
狛枝「…そう…」
神代「あ!それと…」
狛枝「…なに?」
神代「ベッドの下に隠すなんて定番すぎてすぐ見つかるよ?あとゴミ箱綺麗にって言ったじゃない。ちょっと過激すぎて僕はびっくりしたよ」
狛枝「ッ…余計なお世話だよ…」
バイバイと手を振りながら小さくなる彼を見送りながら、ボクは今日一番のため息をついた。
狛枝「隠す時間も、綺麗にする時間もくれなかったのは君だよ…」
一応隠し場所は変えておこうと、ボクはそう決意した。
狛枝「カッターナイフと、血のついたティッシュ…これはバレたかな」
狛枝「はぁ…」
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- 33 : 2015/04/07(火) 02:08:56 :
- ーーーーーーーーーーーー
神代「…もぐもぐ」
狛枝「………」
神代「…もぐもぐ」
狛枝「…なに」
菓子パンをひたすらに咀嚼しながら、この一時間、彼はずっとボクのことを舐めるように見つめていた。
あまりにも無言すぎて不気味になって、ボクがこのサイレントゲームに白旗を挙げたのがついさっき。
神代「…ごくん。いやさ、僕って短気じゃない?」
狛枝「突然同意を求められても…知らないよ」
たかだか一年に満たないくらいの時間、人に歩み寄ることを全くしてこなかったボクが君に何を言えるって言うんだ。
クラスメイトの名前すら曖昧なボクが、存在感の薄すぎる君を理解しているという道理が分からない。
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- 34 : 2015/04/07(火) 02:10:37 :
- 神代「うん?そうなの?まあどっちでもいいけどー…早くしてほしいんだよね」
狛枝「早くって…何を」
神代「君が本当は何をしたいのか。もう早く気づけっての!希望溢れる学園とやらが鍵なんでしょ?」
狛枝「え、え?したいこと…?鍵…」
したいことなんてない。
才能も希望もない世界で、なんの価値もなく腐るだけなんだから。
気づくまでもなく、答えは出ているはずだ。
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- 35 : 2015/04/07(火) 02:12:35 :
- 狛枝「君がボクにどうしてほしいのか分からないけどさ、…したいことは特にないよ」
神代「うっそつき~天の邪鬼~」
狛枝「だから…嘘なんて」
神代「狛枝くーん、君はとことんめんどくさい性格してるよね」
狛枝(…神代クンに言われたくない)
神代「会いたいんじゃない?実は会いたくて仕方ないんじゃない?まるで発情期の犬みたいに」
狛枝「…誰に?」
神代「えーと、あれ。カムクライズルだか日向創だか…」
狛枝「…彼は、別に」
神代「またまたぁ」
狛枝「………」
神代クンは、一体ボクにどうしてほしいんだろう。
にこにこと、ボクを見る瞳からは何も読み取れない。
会いたい、なんて今更思わない。
あくまで彼との関係は前世のことで、現在まで引きずるなんてそれこそお門違いだろう。
だってボクは、ボク達は今を生きてる。
この世界でコロシアイなんてしていないんだから。
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- 36 : 2015/04/07(火) 02:14:01 :
- 神代「とにかくさぁ」
狛枝「………」
神代「そろそろ動いてくれないと困るんだ。じゃないと、僕の責任になっちゃうし」
狛枝「責任…?」
神代「あ、いやいやこっちの話。まあちょっと考えてみてよ」
狛枝「…あ……」
そう言って、菓子パンを片手にまた教室を出ていく彼。
…もちろん授業中だ。
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- 37 : 2015/04/07(火) 02:14:48 :
- *
ドサリ、とベッドに倒れ込む。
ここ最近疲れることばかりだった。
あの島にいた頃は、ここまで疲れることはなかったのに。
幸運さえあれば、こんなに何かを心配をすることはなかったのに。
「あはっ…なに…言ってるんだろう…」
前世なんて関係ないって、そう考えていたのはボクだ。
今更、島だの幸運だのって…バカみたいだ。
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- 38 : 2015/04/07(火) 02:16:29 :
- 狛枝「…は、はは」
…………。
狛枝「ははは…はっ…」
…………。
狛枝「はは…ふっ…く…」
確かに。
狛枝「…う…あぁ…」
会いたい。
狛枝「あぁぁ…うぁぁ…」
予備学科がなんだ。
狛枝「うっぁ…ぐ…」
この世界じゃ関係ない。
狛枝「ぅ…」
ボクも、彼も
狛枝「…ぉ、なじ…」
同じ凡人なんだ。
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- 39 : 2015/04/07(火) 02:17:25 :
- 狛枝「…そう、か」
やっと分かったよ。神代クン。
君の方がボクを理解してるなんて少し悔しいけど、確かに会いたかったのかもしれない。
…そうさ、会いたかったんだ。
狛枝「…会いたいよ。日向クン…」
ほとんど空気を吐くように、ボクはそう呟いて、そして、そうしてボクは、ほんの少しの眠りについた。
今日は、もうナイフは使わない。
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- 40 : 2015/04/07(火) 02:39:49 :
- 蛇口をひねり冷たい水で顔を洗う。
射し込む朝日の光が、清々しい雰囲気を運んでくる。
狛枝「希望の朝…とはお世辞にも言えないけどね」
今日は学校も休み。
いつもなら引きこもって過ごすだけの休日。
今日は、彼に会いに行く。
狛枝「神代クン、悔しいけど君の言う通りだったみたいだよ」
普段は着ないコートを羽織り、ボクは陽の下へと躍り出た。
眩しいくらいの太陽は、まるでボクを待っていたんだとでも言うように燦々と輝いていた。
さあ、行こう。
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- 41 : 2015/04/07(火) 02:41:41 :
- *
コンコンと扉をノックをした。
しばらくの間の後、カチャリという音と共にヒョコリと彼が顔を出した。
カムクラ「…おや、貴方でしたか」
狛枝「やあ、カムクラクン」
少し驚いた後、彼は無言でボクを部屋へと招いてくれた。
…ずっと思っていたけど、やっぱり雰囲気が違う。
修学旅行へと向かう乗り物の中で見た彼は、もっと冷たくて無表情な人だった。
カムクラ「…どうぞ、座ってください。ペットボトルのお茶くらいしか出せませんが」
狛枝「うん、ありがとう」
ボクにお茶を出す彼を見ていると、やっぱり不思議な気持ちになる。
クスリとボクは笑ってしまった。それを彼が怪訝そうに覗くから、ボクは小さくごめんねと謝った。
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- 42 : 2015/04/07(火) 02:43:34 :
- カムクラ「…それで、僕に用があるんでしょう?」
狛枝「まあ、ね」
カムクラ「…この間と比べて随分落ち着いてますね。何か心境の変化でもあったんですか?」
狛枝「そんなところかな」
妙にそわそわする彼を一瞥して、ボクは姿勢を正し本題に入った。
狛枝「それでさ」
カムクラ「…はい」
狛枝「実は、大した用じゃなくてね」
カムクラ「…はい?」
狛枝「会いに来ただけなんだ」
カムクラ「…真剣に聞こうとして損しました」
狛枝「ごめん」
カムクラ「あ…その、謝るほどのことじゃありませんから…」
狛枝「いや、この間の事謝りたくて」
カムクラ「この間…?」
狛枝「ほら、日向クンがいないって話に『それで?』って感想しか言えなかったから…さ」
彼は目を見開いて少し驚いていた。
そして思い出したように口を開いた彼からは「何故」という短い問いが投げかけられた。
-
- 43 : 2015/04/07(火) 02:45:28 :
- 狛枝「何故って…謝りたかったから…」
カムクラ「…ッ違う。そういう事が聞きたいんじゃないんです…」
狛枝「え、じゃあ…何が聞きたいの?」
カムクラ「…いえ、貴方の…『それで?』以外の感想…です。…もしあれば…ですが」
狛枝「…感想…」
それはあまり深く考えていなかったなと。
頭を掻きながら、ボクはまだまとまらないままに答えた。
狛枝「その…一番は、悲しい…かな」
カムクラ「悲しい…んですか」
狛枝「うん…ボクって、自分が思った以上に日向クンのこと好きだったみたいでね」
カムクラ「…あれほど、嫌っていたのにですか」
狛枝「まああれは…何て言うか、恋は盲目…みたいな。きっと希望に恋い焦がれて何も見えていなかったんじゃないかなって…」
カムクラ「希望に…随分とご執心でしたからね」
狛枝「…ごめんね」
謝ってどうにかなる話でもないけど、なんだか無性に申し訳なくなってボクはつい反射的に謝罪の言葉を口にしてしまった。
そんなボクを咎めるでもなく、彼は無言で感想の続きを促した。
-
- 44 : 2015/04/07(火) 02:46:12 :
- 狛枝「それとなんだろう…多分、焦ってるのかもしれない」
カムクラ「…そうですか」
狛枝「叫び出したいような、うずくまって咽び泣きたいような、今すぐ走って探しに行きたいような…とにかく、考えがまとまらないんだ」
でもこの世界のボクは特別幸運な訳でもないから、きっと探しても彼は見つからないだろうね。
とつけ足して、自嘲的に笑ってみる。
そんなボクの肩を、カムクラクンが突然掴んだ。
-
- 45 : 2015/04/07(火) 02:48:48 :
- カムクラ「…貴方の本音が聞けて、僕は嬉しいです」
狛枝「嬉しいなんて、君らしくないよ…」
カムクラ「…今は、ただの人ですから」
狛枝「まあ…そうだろうけどさ」
カムクラ「……今更こう言ったら、貴方は怒るかもしれませんが」
肩を掴む力に、強さが増す。
「…日向創が見つかったと言ったら…貴方はどうしますか」
-
- 46 : 2015/04/07(火) 02:50:18 :
- ポロリと落ちたのは、紛れもなくボクの涙。
ハラハラと流れる滴に驚いた彼が、そっとハンカチを持たせてくれた。
狛枝「それ…そういうこと…?見つかったの?日向クン…?」
カムクラ「僕も…驚きました」
狛枝「…そっ…か」
嬉し泣きなんて本当にあったんだ、とか。
今日のでボクは一体何回目の涙だろう、とか。
そんなどうでもいいことを冷静に考えてしまうくらい、ボクは混乱していたようだ。
-
- 47 : 2015/04/07(火) 02:51:27 :
- カムクラ「…気がついたのは昨日の晩です。僕は料理を作っていた筈だったんですが、突然意識が数時間飛んでしまって、いつの間にか、料理は出来上がっていました」
狛枝「その数時間…日向クンが…」
カムクラ「ええ、恐らくそうでしょう。料理の隣には小さなメモ書きが置かれていましたし」
狛枝「…メモ書き、か」
話を聞くうちに涙もやっと落ち着いて、赤く腫れた目を労るようにハンカチを押し当てていると、カムクラクンは無言で目薬をくれた。
-
- 48 : 2015/04/07(火) 02:52:31 :
- カムクラ「…メモ書き、見たいでしょう?今取ってきますから、待っていてください」
狛枝「ああ、うん。お願い…」
貰った目薬を点しながら返事をすると、カムクラクンは自分のデスクに置かれた小型の収納ケースをごそごそと漁り、一枚の紙を取り出した。
目薬を点し終えたボクにティッシュを差し出す彼に、ありがとうとお礼を言って、ボクは改めて目の前に置かれたメモ書きを見た。
狛枝「…あ、」
何の変哲もない小さな紙に、書きかけのような文章が綴られていた。
-
- 49 : 2015/04/07(火) 02:53:29 :
- ―えーと、今何が起こってるのかさっぱりだけど、とりあえず料理は作っておいたからな。
材料的にカレーだったから間違ってたら…って違うな。
…多分、この体に元からいたのってカムクラ…なんだよな?
鏡見てきたけど見慣れた俺の顔がしっかり映ったし、表札も確認したけど日向ってあったし。
出来れば返事とかく
カムクラ「…ここで、タイミング悪く僕が起きてしまったのでしょうね」
途切れた文を指差しながら、カムクラクンは苦い顔をしていた。
きっと、彼にも思うところがあるんだろう。
日向クンが残したメモ書きは口調すら明るいけど、それが余計ボクらを不安にさせる。
-
- 50 : 2015/04/07(火) 02:54:26 :
- カムクラ「…とりあえず、返事を書くべき…なんでしょうね」
狛枝「まだ書いてないの?」
カムクラ「…ずっと迷っていまして」
狛枝「そっか」
きっと、彼はきっかけを探していた。
そんなときにボクが訪ねてきて、きっと彼は、きっかけを掴んだ。
だから今、彼はペンを持ち、伝えたい事を吟味しているのだろう。
…もちろんボクも、他人事ではないけれど。
-
- 51 : 2015/04/07(火) 02:56:20 :
- 狛枝「ねぇカムクラクン…意識が飛んだのって、何時頃?」
カムクラ「…確か8時頃だったと思います」
狛枝「なるほどね…じゃあボクはそろそろおいとまするからさ、8時にまた来るよ」
カムクラ「…わかりました」
立ち上がって、軽く伸びをして、ボクはお邪魔しましたと言いながら玄関を出た。
今朝とは打って変わって、この胸には希望が満ち溢れていた。
狛枝「…もうすぐ、会える…そうだよね?日向クン…」
そしてひたすら純粋に、ボクは君に会えると思うと嬉しかった。
-
- 52 : 2015/04/07(火) 02:58:59 :
- 8時になり、ボクは再びカムクラクンの部屋を訪問した。
扉を開けた彼は、やはり緊張した面持ちで待っていましたと短く告げた。
カムクラ「さあ、どうぞ」
部屋に足を踏み入れると、―懐かしい感覚がボクを襲った。
ゾワゾワと身震いするような、それでいて優しく母に抱かれているような。
だけど、長らく感じることのなかったその感覚の正体を、しかしボクは忘れてしまっていた。
狛枝「う…ん…?」
カムクラ「どうかしましたか」
狛枝「いや…なんでもないよ…」
どこかで経験したことのある感覚だったけど、それがどこだったか覚えていない。
思い出せない気持ち悪さに多少の不快感は残るものの、ボクは深く目蓋を閉じそれを上回る"希望"に意識を向けた。
-
- 53 : 2015/04/07(火) 03:01:08 :
- 狛枝「…日向クン、今日は出てこれるかな?」
カムクラ「どうでしょうね…」
緊張の為か、あまり言葉が出てこない。
一言二言会話を交わしたあとはもう話題も尽きて、部屋は秒針が時を刻む音のみに満たされた。
あまりに静かすぎて、ボクがほんの少し眠気を覚え始めた頃、彼から「ん…」と小さな声が漏れた。
ほんの数秒前まで忍び寄って来ていた眠気なんて吹っ飛んだ。
-
- 54 : 2015/04/07(火) 03:03:55 :
- 「日向クン…?」
ボクがそう呼びかけると、彼は眠そうに目を擦りあれ?と小さく呟いた。
そして彼の双眼が、しっかりとボクを捉えた。
日向「なっ…狛…枝…?」
狛枝「やっと…会えた…」
日向「…なん、だよ…なんでそんなに嬉しそうに」
狛枝「嬉しいさ。嬉しすぎてこれはもう知人の一人や二人死んでもおかしくな…あれ?」
日向「…どうした?」
どこかで言ったセリフだった。
ガツンと頭を殴られたような衝撃を覚えた。
―思い出した。
さっきの懐かしい感覚の正体。
前世で何度も味わった、あの感覚。
-
- 55 : 2015/04/07(火) 03:05:08 :
- 狛枝「…なんだ…そういうことだったんだ…」
日向「…狛枝?」
狛枝「あはっ…やっとわかったんだよ!」
日向「お、落ち着けって…何がだよ?」
そうだった。
やっぱりそうなんだ。
ボクはその才能に愛されている。
そう、君と会えることは奇跡なんかじゃなく、
必然だったんだよ。
狛枝(やっぱりボクは幸運だ)
「はいはい、ブラボー」
そして彼は姿を現した。
-
- 56 : 2015/04/07(火) 03:06:24 :
- 神代「まさかね、本当に出てきちゃうとは思わなかったよ」
そう言いながら、彼は心底どうでもよさそうに菓子パンを食べていた。
何故、という言葉は出てこなかった。何故なら彼は、そういう人間だから。
日向「なんで…、誰だよお前!」
代わりに日向クンが叫ぶように問うと、彼…神代クンはからからと笑った。
神代「なんでって…仕事だよ?それと、僕が誰かはそこの狛枝くんがよく知ってるんじゃない?」
狛枝「神代…クン」
日向「神代…?」
にこにこと相変わらずの無垢な笑顔。
手に持っていた菓子パンの最後のひとかけらを口に入れると、彼は再びまた違う種類の菓子パンを取り出した。
-
- 57 : 2015/04/07(火) 03:07:38 :
- 狛枝「…神代クンについては多分説明が長くなると思うから日向クン、君には後で話すけど…神代クン、仕事って?」
神代「本当にねー男だらけでむさっくるしい仕事だったよ」
狛枝「…神代クン」
神代「まあまあ、…それが僕にもよく理解できていなくてさ」
日向「理解できてないまま…俺達を監視してたのか?」
日向クンが睨むと、神代クンが違う違うとかぶりを振った。
-
- 58 : 2015/04/07(火) 03:08:33 :
- 神代「僕がしたのは監視じゃないよ!」
日向「じゃあなんなんだよ!」
神代「…ただ言われるままに、舞台を整えただけだよ」
日向「はぁ…?舞台って…なんだよ…」
日向クンがいい具合に絶望的な表情になってきたのを見計らってか、彼は突然演説でもするかのように両腕をパッと広げた。
神代「ミッションも結局失敗しちゃったから、特別に夜の生理くらいにはサービスしてあげるよ!」
日向「せっ…!?」
彼の下ネタに慣れない日向クンは一瞬顔を赤らめ、しかし聞かなかったふりをして話の先を促した。
-
- 59 : 2015/04/07(火) 03:12:21 :
- 神代「日向くんみたいに反応してもらえるとなんだか新鮮だよねー」
狛枝「神代クン」
神代「はいはい。…えーとね、実はね、元々僕のでっち上げだったんだよねー」
日向「何がだよ…」
神代「うーん…メモ書きとかー、カムクラクン眠らせて日向くんの存在をちらつかせたりとか」
日向「…え、ちょっと待てよ。メモ書きって…なんだ?」
自身の知らないコトダマに少し混乱する日向クン。
そんな当事者より、ボクは内心、荒れ狂う冬の海の如く混乱した。
神代「ほら、これが僕の書いたメモ書き。内容を考えたのは僕じゃないけどね」
日向「…これ、か」
神代クンから例の紙を手渡され、日向クンの目が大きく見開かれる。
でっち上げ…この手紙は全部嘘だったってことか。
-
- 60 : 2015/04/07(火) 03:15:00 :
- 日向「…なんだよ…これ」
狛枝「…どうして、こんなもの書いたのかな。神代クン」
神代「だからー仕事だったんだって」
狛枝「…依頼主は」
神代「言わないよ」
依然として笑みを絶やさない神代クン。本当に、スパイみたいな人だ。
神代クンのバックに、どんな人物がいてどんな目的でこんな事をしたのか、ボクにはさっぱりだけど
ボクは頭の中である決心をして、その決心を固めるため声に出して、宣言した。
-
- 61 : 2015/04/07(火) 03:15:59 :
- 狛枝「君が…君達が何をしようとしていたのかはわからないけど、ボクらはもう絶望になんか負けない」
日向「狛枝…」
神代「…なるほどねぇ。わかった!そう伝えておくよ」
狛枝「…うん。そうしてもらえると助かるよ」
菓子パンを食べ終わり、そろそろ真面目な話にも飽きたのか、彼は欠伸を一つして邪魔したよと笑いながら手を振り、帰っていった。
残されたボクらは、互いに互いを見遣り気まずく視線を落とした。
そのうちにどちらともなく沈黙は破られ、ボクらは昔のこと、謝りたいこと、言いたいこと、打ち明けたいこと、それから今のことを語り合った。
-
- 62 : 2015/04/07(火) 03:16:35 :
- 前世からの因縁が全て白紙になったかと言えば、きっとボクらは首を横に振るだろうが、それでもボクらは前世よりお互いを理解しようと、静かに歩み寄った。
新しい世界で、ボクは君を知りたい。
何があっても、ボクらは信じ合うんだと、そう誓った夏の日。
-
- 63 : 2015/04/07(火) 03:18:26 :
- 派手な女子「あー…そうなの」
神代「うん、やっぱり気づいてなかったみたいだよ」
ファーストフード店の一角で、妙に存在感の薄い男子生徒と、金髪の派手な女子生徒が楽しげに会話していた。
派手な女子「…やっぱり絶望的にツイてないわね」
神代「そう?十分幸運だと思うけど」
派手な女子「あぁん!?この俺に気がつかないなんて絶望以外の何物でもねェだろ!?」
神代「ああ…会話だってしてるのに、何も気づいた様子なかったもんねぇ」
派手な女子「わざわざ私様が移動教室だと教えてやったというのに愚かなことじゃ!」
くるくると表情を変える飽き性の彼女に、神代はでもさ、と続けた。
-
- 64 : 2015/04/07(火) 03:19:35 :
- 神代「戦刃ちゃんと狛枝くんは、前世で面識なかったんでしょ?」
戦刃「…まあ…そうなりますね…あの残念な姉の名前を名乗るなんて絶望的ですが…メリットもありましたし良しとしましょう…」
神代「前世の戦刃ちゃんは今どこにいるの?」
戦刃「…さあね、あっちはあっちで江ノ島盾子として残念に生きてんじゃない?」
あのド貧乳の体とか本当に絶望的、と悪態をつきながら彼女は楽しげに笑った。
-
- 65 : 2015/04/07(火) 03:20:44 :
- 戦刃「ねぇ神代、今回の依頼コケたんだから次も手伝ってもらうわよ」
神代「…はーい」
戦刃「どんな世界であろうと、また絶望に染めてみせます。私の計算に…狂いはありませんから」
神代「自信家だねぇ」
戦刃「きゃはっ神代もぉ…あんまり失敗ばっかやってるとぉ…」
おしおきだからね、と彼女はあくまで可愛らしく釘をさした。
そして彼女は、新しく見つけた絶望の種をゆっくり育てるように、神代の手を柔らかく握った。
途端にニヤける神代を見て、絶望的な嫌悪感が彼女を襲う。
それと同時に異なる世界で再び絶望を味わえることに歓喜し、そしてそんな自分に…絶望的に絶望した。
-
- 66 : 2015/04/07(火) 03:21:17 :
- 戦刃(強くてニューゲーム?望むところね。さて、白旗が上がるか黒旗が上がるか…楽しみにしてるわ)
END
-
- 67 : 2015/04/07(火) 03:24:52 :
- くぅ疲。
見てくれた方がいらっしゃるか分かりませんが、閲覧ありがとうございました!
中身が複雑なことになってますが、最後の神代と話してた女は江ノ島です。
記憶が残ってる狛枝やカムクラにバレないように残姉ちゃんの名前を名乗ってました。
こんなのが初SSとか絶望的ィ!
これからよろしくお願いしますm(_ _)m
-
- 68 : 2015/04/07(火) 04:03:12 :
- 凄く面白くて読み入ってました!
他の作品も楽しみにしてます!!
-
- 69 : 2015/04/07(火) 19:27:39 :
- ベータさんありがとうございます(*^_^*)
たくさん作品を上げられるように頑張りますよ〜ヽ(^。^)ノ
-
- 70 : 2015/04/08(水) 18:03:04 :
- 乙です!
-
- 71 : 2015/04/10(金) 08:15:05 :
- 太郎さんおつありです!
-
- 72 : 2015/04/11(土) 17:41:01 :
- つっきありませんか?
-
- 73 : 2015/04/12(日) 14:56:10 :
- 続きはありません。このSSはこれで完結となります!
-
- 74 : 2015/04/28(火) 21:04:45 :
- 久々に最後まで見たssでした!w
お疲れ様です!
-
- 75 : 2015/04/30(木) 10:18:22 :
- ヤダ嬉しい。ラッシュさん乙ありです!
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