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  1. 1 : : 2015/03/23(月) 20:25:50
    初投稿です。生暖かい目でみていただけると、ありがたいです。
    ちなみにというより駄文ですので、あらかじめご了承ください。
  2. 2 : : 2015/03/24(火) 21:46:38
    #001 転生

     どこだ…ここは…? 病院?
     
     白髪の少年は、戸惑っていた。
     
     ここは一体?それより

     「どうして生きているんだ?」

     そう、少年はCCG 最強の死神によって殺された…筈だった…
     
     少年が状況を確認しようとした時だった。

     コンコンとドアがノックされた。

     「どうぞ」
      
     「おや、目が覚めたかい?」

     ドアにはカエル顔の医者がいた。

     「やあ、えっと金木研くんだね 学生証 見させてもらったよ」

     「? あっ…はい」どういうことだ?僕は学生証今は持っていないのに…

     「それにしても大丈夫かい?僕は医者結構やっているんだが…君ほどダメージを受けているのは数えるくらい  しかいないよ どうしてそうなったのかい?」

     「すいません 少し覚えていなくて…」(顎をさわる)

     「そうかい まぁそういう人もいるしね それにしても君、傷の治りが早いね 肉体再生の能力者か何かかい?」

     「えっ…?ええ そうです…」喰種とばれてない? しかも 肉体再生?能力者?一体どういうことだ それに

     「あの ここって東京ですよね ちょっと何かが違う気がして…すいません変なこと聞いて」

     「まぁ 来たばかりの学生はだいたいそうだよ そうここは東京の面積の3分の1を占める人口約230万人の8割が  学生の街 学園都市 だよ」

     「……えっ?」


     

     
     
     
  3. 3 : : 2015/03/26(木) 15:58:04
    感想を誰かください。お願いします。(土下座)
  4. 4 : : 2015/03/26(木) 15:59:48
    とあるシリーズとグール好きだから楽しみ
    続き期待
  5. 5 : : 2015/03/26(木) 16:44:18
    #002

     「どうしたんだい?金木くんそんなに驚く事じゃないだろう」

     「いや、ははは ちょっと戸惑っていて…」

     「そうかい…それなら結構」おかしい…まるで知らないことに無理矢理話              しを合わせているみたいだ…記憶喪失か?な              ら話さない理由はないし…それより

     「君に個人的な質問なんだが…いいかね」

     「はい 何ですか?」まさか僕が喰種だとばれたのか…



     「君



          どうして



                 髪が



                       白いんだい?」

     「えっ?あっあのーこれはそのー うっ、生まれつきで…」そっちかでも                           良かった

     「へぇーそうなんだ 面白いね君 僕はてっきり能力のせいかと思ってい  たよ そろそろ食事だよ じゃあ僕はこれで」

     「ありがとうございました。あのーすいません」

     「どこか傷むのかい?」

     「いや、後で少し話をと思ったんですけど…いや迷惑ですよね、お忙し  いだろうし…」

     「時間が空いたら来るよ、お大事に」

     「あっ、ありがとうございます」良かったでも頼りきるのは悪いし自分                でも調べてみるか…

     ドアが閉まる音を聞いた後、窓の方へ行き街を見た。その光景は知って いる街と明らかに違っていた。

     「ここは一体…まるで未来の街みたいだ…あれは風力発電かな?それに学  生が多いなさっき先生が言っていたのは冗談じゃなかったのか…」

     考えをめぐらしていると、突然稲妻のようなものが光りゴォーンと大き な音が聞こえた。

     「な…なんだ?」

     左眼を赫眼にして稲妻が見えた場所を急いで見るとそこには幼い少年に ナイフを突き立てている男がいた。

     「何を…助けないと…」

     窓を開け近くのビルに目で追えない速さで飛び移っていく。

     「早くしないと また…」僕は救えないのか?何のために喰種になったん          だ みんなを守らないと
         
     「僕が…」
  6. 6 : : 2015/03/26(木) 16:46:17
    初感想ありがとうございます。
    めっちゃ駄文ですが、これからもよろしくお願いいたします。
  7. 7 : : 2015/03/26(木) 22:37:33
    #003 強盗

     御坂美琴は暇だった。第4位との戦いを終え実験を中止させられたからだ。日常を取り戻したそう彼女は思って いた。そこで久しぶりにクレープを食べるため屋台を探していた。

     「クレープ屋は…あっあった。それにしても久しぶりね強盗の時以来ね…」

     彼女が思い出していると偶然なのか、必然なのかドォーンと大きな音が銀行から聞こえた。
     
     「強盗ね…まさか、でもこれってどう考えても…」

     「おい、早くしろ 急げ」

     「強盗なのえっ二度めなの?やっぱそうか はぁーー本当退屈しないわねこの街は」

     「車早くしろ」「なんか女いるけど」「気にするな突っ込め」

     強盗の車は速度を上げ少女に近づいていく。少女は

     「警備員も風紀委員もいないし」

     少女はポケットからおもむろにゲームセンターなどで見かけるコインを取り出し指で弾く。その間に右腕に電気
     を溜め彼女がレベル5と言われる由縁の「超電磁砲」を打ち放った。

     「ゴォーン」

     車は勿論吹っ飛び強盗達も意識を失った。

     「まったくここまで前とにているとはねーあの銀行呪われているんじゃない…さてクレープ」

     彼女は思ったこれで終わりだと ただ前と違う事があった。ひとつは彼女が一人なこともうひとつは強盗がもう一 人いたことだ。

     「おっおい、コイツがどうなってもいいのか どけ 動くな くっ来るんじゃねぇ」

     最後の一人はまだ幼い少年にナイフを突き立てて、来るなー離れろーなどと叫び興奮状態でいる。

     「っ!もう一人」ここから電撃でもあの子に当たるかもしれないし外れたら下手に刺激しかねない…警備員はまだ         なのせめて黒子がいれば…

     「そのまま動くな動いたら、コイツを殺すぞ」

     「その子は離しなさい」

     「離すわけないだろーコイツは人質だからなー」

     「っ!」あの子には悪いけどやっぱ電撃を…でも…

     そんな時、ビルの上から誰かが落ちた。否、下りてきた。

     「へっ?」

     強盗はそいつからドロップキック?をモロに喰らい倒れた。少年はへなへなとその場に座りこんだ。

     唖然としていたがひとまず少年に聞いた。

     「とりあえず、大丈夫?怪我してない?」

     「う、うん」

     「そう良かったわ」

        ピーポーピーポー

     警備員ようやく今更ねまったく、それより

     「あんた とりあえず、助かったわ ありがとう。てゆーか何でビルからドロップキック?身体強化の能力者なの?  あっ自己紹介まだね私は御坂美琴あんたは?」

     男はしばし考え

     「僕は…か」
  8. 8 : : 2015/03/27(金) 11:22:47
    #004 興味

     「僕は…か…」 

     男は後ろの警備員に気付くと言葉に詰まった。

     「?」

     少女も後ろに気付き男から目を離し背後を振り返った。

     「警備員じゃん、器物損壊および強盗の現行犯で逮捕するじゃ  んよ―――?ってどういう事じゃん?」

     警備員が車や強盗の有様に驚いていると少女が

     「警備員よね車をやったのはまぁ、私だけど…そこでのびてる  のは私じゃないわよ」

     「あぁ君は超電磁砲じゃん。それよりじゃあ誰がやったんじゃ  ん?」

     「誰って?見れば分かるでしょ。コイツよコイツ」

     後ろを指さしコイツと言う。だが警備員は首をかしげ

     「誰もいないじゃん?」

     「何を言って?」

     背後を振り返ったが警備員の言う通り誰もいない。

     「えっ?どういうことさっきまでちゃんといたのに…」

     「何言ってんじゃん最初から誰もいなかったじゃん?」

     どうしたんじゃん? 誰もいなかったじゃん? 鉄装もともと 誰もいなかったよなー そっそうですよー

     「だってよ」

     「いや、ほんとにさっきまでちゃんといたのよ…」

     驚きながらも落ち着いて状況を確認するため周りを探してみる が確かに誰もいない。

     「何で?」さっきまでいたのに…能力を使って逃げた?でも理      由は?

     一人で考えている間にその話は終わったらしく

     「それより怪我はないじゃん?」

     「私は別に大丈夫だけど…あの子は?」

     「無事じゃん」

     「よかった」あの男はひとまず 無事でよかった。

     「そういえばおい、鉄装」

     「はっ、はい」

     「子供の保護者は?」

     「それならもう…」

     と言い、ある方向を指さす

     大丈夫?怪我は してないよおねーちゃんたちにたすけても  らったの 後でお礼しなきゃ うん

     「無事みたいだし、犯人を連れて撤収じゃん君も日が暮れる前  に早く下校するじゃん」

     「分かったわよそれじゃ」

     帰路につくため元来た道を引きかえそうとする。

     「あのー」

     「はい?」

     「うちの子を助けていただきありがとうございました。なんて  お礼をすれば…」

     「あぁー勝手にやった事ですからお気になさらず」

     「本当にありがとうございました」

     「いえーではー」

     今度こそ帰ろうと歩を進める。「まったく近頃は不幸続きね」 なんて呟きつつ歩いていく。しばらくしたら下に学生証が落ち ていた。

     「ん?学生証ね えーと名前は「金木研」ね」

     
  9. 9 : : 2015/03/28(土) 19:48:11
    #005

    「僕は…か…」

    ピーポー ピーポー

    この音はCCGか?いや警察?どちらでも早く逃げないと…でも彼女を置き去りでいいのか?そもそも彼女は人間それとも喰種?いや多分人だ…CCGだとしたら普通逃げるだろうし…

    「?」

    振り返っている間に早く逃げないと…

    脚に力を入れ、跳躍する。初めにビルに飛び乗りそれからどんどん飛び移っていく。

    「確か、病院は……あった」

    窓が開いているか確認した。が

    「窓が開いてない…仕方ないな、入り口から行くか」

    人がいないのを確認し、ビルの下に降りる。そして普通に入り口から入るが、

    「先生、金木さんがいません!」

    「本当かい?それは?」

    「はい。多分外に出たのかと」

    そう言い入り口方を見る。

    「あっ、あれ?先生なんか…いました」

    「どこに?」

    「ここに」

    看護師がこちらを見て指を指している。

    どうしよう…ばれずに行けると思ったのに…言い訳はどうすれば…考えろ

    「―――くん、金木くん」

    「はっ、はい」

    「一体?どこに行っていたのかい?」

    「えっと…そのーですね、す、少し外の空気を吸いに出ました…そのー勝手 に出てしまい本当にすいません」

    「もう、金木さんいなくて驚いたんですからね、まったくこれだから若い 人は もう」

    「まぁそう言わずに。見つかって良かったじゃないか。でも今度からは一 声かけてから行ってほしいな」

    「すいません、以後気をつけます」

    「ほんと頼みますよ!」

    「は、はい」

    「はははっ、じゃあ僕はそろそろ行くねじゃあ金木くん後で」

    「はい。じゃあ金木さんも戻りますよ。食事ですからね」

    「えっ?食事ですか」

    「そうですよ。さっ早く行ってください」

    「分かりました…」食事か…どうしよう…
  10. 10 : : 2015/03/28(土) 19:51:34
    すいません度々題名を忘れてしまっています。
    ちなみに#002は、疑問です。
        #005は、病院です。

    以後気をつけます。
  11. 11 : : 2015/03/30(月) 19:49:47
    #006 食事

    病室に戻ると看護師が食事を運んできた。

    「金木さん食事ですよー」

    「はい…」食事か…どうしよう…

    「はいじゃあ、ここに置きますね」

    と言い、テーブルに食事を置いた。

    「また後で取りにきますねー」

    「ありがとうございます」食事か…でも、ここはまったく知らない街みた            だしひょっとしたら食べられる物があるかも…

    看護師がドアを閉めたのを見とどけ、箸を手に持ち、恐る恐る試しに白米を口に入れてみた。が

    「うっ」やっぱりダメだぁ!!まるで口の中で糊でもこねてるような気持ち    の悪さだ…嗚呼、気持ち悪い。とても食べられないな
    食べられないということは僕は喰種のままだということだ……これから食については、どうしよう。それに、ここはどこだ。僕はなぜ生きている。喰種は存在するのか?

    気づいたら、時間が過ぎていた。

    「金木さん。食事下げにきましたよ」

    「はい。じゃあ、お願いします」

    残った食べ物を見て看護師は

    「金木さん、食事ちゃんと食べなきゃとダメですよ」

    「すいません、あまり食欲がなく食べる気がしなくて」

    「そうですか。それになんだか顔色も悪いですし大丈夫ですか?なんなら 先生呼びますか?」

    「あっ大丈夫です。そこまでひどくないので、それに治ってきましたし」

    「そうですか、ならいいですけど。あまりひどいときは、遠慮しないでナ ースコールしてくださいね」

    「ありがとうございます」

    「それじゃあ」

    ――退院する数日前――

    「いやーなかなか時間が空いてなくて遅くなっちゃたね」

    「いえ、お忙しいのに時間を空けてもらいありがとうございます」

    「いいんだよ、それに患者と話すのは楽しいからね」

    「そうなんですか」

    「うん。病状も分かるし、能力の話も聞けるしね。おっと話が逸れてしま ったね、で話ってなんだい?」

    「話は…実はですね…僕はここの事、いや街の事が分からないんです」

    「どういうわけかな?美味しい店を知らないとかそういう話なのかい?」

    訝しげに聞いてくる。

    「……」話してみるか?でも、言ったところで信じてもらえるのか?

    「…簡単に言うと、今でも…自分でも信じられない事なんですけど僕は多分 …ほかの世界から来たんです…」

    長い沈黙は、多分数秒の事だったと思う。でも、僕は長い時間に感じた。

    信じてもらえる訳ないな…そもそも立場が逆だったら僕も信じ

    「そうかい、それは大変だったね。僕で良ければ何か手伝うよ。ちなみに これは、個人的興味なんだけどね、元いた世界はどんな世界だったのか い?」

    「えっ?」どうして…信じてもらえたのか

    「どうしたんだい?」

    「いや、信じてもらえないって思っていたので…その、意外で…」

    僕が驚いていると、君には、悪いけどねと前置きして

    「ハハッ、君は少し最初から何か変だと思っていたんだよね。能力者なの に学園都市に初めて来たような感じだったしね」

    まぁもっとも僕の想像の斜め上をいっていたがね、ハハハと笑っていた。

    「そうですか、でも元いた世界のことはあまり話したくないんです、すい ません本当に…自分勝手ですし」

    「聞きたいけど、話したくないなら無理に言わなくてもいいけどね。でも 話したくなったら遠慮せず話してほしいねなにせ僕は医者だからね」

    「あっ、ありがとうございます」

    「ところで、話はそれだけかい?」

    「それで僕はこの街、えっと学園都市?のことです。さっき言っていた能 力?のこととか…それに僕の家とか」

    色々教えてもらったが、喰種の話が出てこないことから喰種は存在しないということが分かった。つまり僕は食のことは自分でしなくてはいけないということだ…

    悩んだが結局僕は何もできず、退院するまでの数日を水と自販機の缶珈琲だけで過ごした。

    食欲は減る一方だ…



                            
  12. 12 : : 2015/03/31(火) 17:07:31
    #007 遭遇

    「ん?学生証ね、えーと名前は「金木研」ね」

    下に落ちている学生証を拾ってみたが、どうするか悩んでいた。

    「うーん、何かこの顔見覚えあるのよねー。」

    さっきから学生証とにらめっこしているが誰だか思い出せない。

    「まぁ、いいわ。後で黒子に渡しておくか」

    じゃあかえるかー 疲れたなー なんて呑気に考えていたが、よくよく見てみると

    「ん?でも、この白髪って」

    事ここに至ってようやく気づいた。

    「あー何で気づかなかったのよー!これって、さっきのアイツじゃない」

    あーもう何で忘れてたのよー 何でー と軽い自己嫌悪に陥っていたが、すぐさま気を取り直し

    「へぇーさっきの奴のねー」

    彼女いや、御坂美琴は攻撃的かつ負けず嫌い性格であるため

    「ふーん、さっきの奴がねーフフッ、そうさっきの奴なのねーなら、カッ コつけていなくなった貸し、返させてもらうわよ」

    その性格ゆえ、何かと喧嘩っぱやい行動をとるのだ。

    強そーだしー 久しぶりねー なんてことを楽しげ言っているのだ。

    「まぁ、とりあえず帰ってから調べるか」



    風紀委員である白井黒子には、愛すべき「お姉さま」がいる。でも、そのお姉さまは最近は帰らないし前言っていたヤボ用のことで明らかに悩んでいる。

    いつも一体どこで何を?

    考えていると、「ガシャン」とドアが開く音がした。

    綺麗な茶髪に2本のヘアピン常磐台の制服に主張の幼い胸これは、

    「おっおねえさまぁあああああああああああッ」

    「ただいまーって黒子!?」

    部屋に入った瞬間に、白井黒子は瞬間移動をして御坂美琴に抱きついた。

    「お姉さまお姉さまお姉さまぁ黒子は、黒子は、久しぶりに会えて嬉しい ですの」

    そんな変態な後輩を優しく撫でてあげている。だが、これ以上は

    スリスリスリスリ

    「っていつまでくっついてるのよぉおおお!」

    結果拳骨を一発おみまいした。結局いつもと変わらない仲睦まじい?光景が生まれ、まだこの時は2人共このまま平和が続くと思っていた。

    その日の夜

    「さてと、アイツについて調べてみるか」

    先程後輩に

    「黒子ーパソコン借りるわよー」

    「いいですが…どうしてですの?」

    「知りたい奴がいるからー」

    と軽く返事をしたら、

    「だっだっ誰のことですの?同性ですの?異性ですの?一体どこの誰です の?お姉さまとはどんな関係ですのおおお」

    とヒステリックに喚き散らし

    「お姉さまにあろうことか…気になる殿方が…黒子は、黒子は」

    あろうことか、勝手に決めつけたあげく放心状態である。

    「まぁ黒子は置いとくか。今声かけても無駄だろうし…」

    お姉さまがお姉さまが… ああああ、こうしてはおけないですの。すぐにでもお姉さまをたぶらかしたそいつの首を フフフッ 

    「なんか危ないけど…まっいっか。えーっと多分、身体強化系の高位能力 者だからすぐに見つかるはず…」

    そう思いパソコンを何十分も見ているが、一向に見つからない。

    「見つからないわねー」おかしいなーすぐに見つかると思ったのに?能力           が違うとか?でもなーあれはどう考えても

    「見つからないということは、ことは、くっ黒子の勝ちですの?というこ とは、おねえさまぁあああ」

    今度は背後から、抱きついてきた。

    「あーもう抱きつくなー!」

    結局見つからないまま数日たちその事を思い出した頃。丁度本人はなにも知らないまま退院した。



    ―――退院の日―――

    病院の前で3人が話していた。1人は、カエル顔の医者で白衣を着ていた。
    1人は、普通の顔立ちの看護師がいた。1人は、白髪の少年だ。

    「ありがとうございました」

    「金木さん元気になってよかったですね」

    「なにかあったらまたおいでね」

    「はい。それじゃあ僕は」

    「またね金木くん」

    ペコリとお辞儀をして歩いていく。

    向かっているのは、「寮」だ。何故寮のことが分かったのかというと、単純にあの後寮について話を聞いたからだ。今は無くしてしまった学生証に書かれていた学校の寮に向かい歩いている。
    ちなみに、服は元々学生服を着ていたということで今はその格好で街を歩いている。学生服には財布まであり中身はカードと数万円だった。

    「困ったな…見つからないな。とりあえず休憩するか自販機は、あった」

    小銭が無いためお札を入れるが

    「あれ?珈琲が出ない?おかしいな、故障かな?」

    何度も押すが出てこない。そんな時、茶髪の少女が

    「ちょろっとーぼけっと突っ立ってんじゃないわよ、買わないならどくど くー」

    「えっ?いや、ここ壊れて」

    「こちとら一刻も早く水分補給しないとやってられないんだから」

    こうして御坂美琴と金木研は偶然にも、遭遇した。
  13. 13 : : 2015/04/04(土) 12:03:14
    #008 

    誰だろうこの人?

    金木は戸惑っていた。見知らぬ少女が急に自分の手を掴んでグイグイと横に押したからだ。そのため形式的な質問をした。

    「……、誰ですか?あのー今忙しいので」

    「へぇー人にカッコつけといて自分は忘れてたんだー」

    急に少女は低い声で呟くと、

    「人が探してあげたのにその態度って…ふっざけんな!!」

    少女が怒鳴った瞬間、茶髪の前髪から青白い火花がパチンと散った。

    まずい。何か取り敢えず避けないと

    青白い雷撃の槍が襲いかかる瞬間、とっさに右側に体を倒した。

    「???」

    金木は目の前でムスっとしている中学生を見てみる。

    無意識の内に体が反応するのは、あの世界で生死をかけた戦いの影響だとしても、目の前の少女はどうして自分に電撃を飛ばしてきたのだろう?

    「なに奇妙な人を見る目でコッチ見んのよ」

    少女は両手を腰に当て

    「とにかく用がないならどけどけ。私はこの自販機にメチャクチャ用があんだから」

    「えーでも」

    金木は少女と自販機を交互に眺める。

    「えーと、その自販機壊れてるよ」

    「知ってるわよ」

    と、少女は一言で答えた。逆に金木の方は少女の意図が分からない。

    「???ならどうして?」

    「馬鹿ね。裏技があんのよ、お金入れなくってもジュースが出てくる裏技がね」

    少女はそう言った次には、

    「ちぇいさーっ!」

    というふざけた叫び声と共に、あろう事か少女はスカートのまま自販機の側面に上段蹴りを叩き込んでいた。
    ズドン!という轟音次いで、ガタゴトと何かが落下する音が響いて、取り出し口にジュースが出現した。

    「……」

    驚き絶句する金木に対し少女は

    「そういや、何でアンタこの自販機が金食い虫だって気づ」言いかけて、少女は少し黙った。

    「ひょっとして、呑まれた?」

    「……」

    無言の答えは肯定だった。

    「え、呑まれた?ホントに呑まれたの!?アンタこの自販機にお金呑まれて呆然としてたって訳!?」

    「そうだけど…」

    しばらく一人で笑っていたが、両手を腰に当てたまま溜め息をついた。

    「ちょっとアンタ一体いくら呑み込まれた訳?」

    「1万円」

    「1万も!くっく、あははははは!」

    変な方向にヒートアップしている少女を見て金木は何だこの人?と狼狽えている。

    「ほほう。ではその1万円が出てくる事を祈って」

    少女は自販機の正面に立ち、右手の掌をゆっくりと硬貨の投入口へ突きつける。

    と、金木はふと疑問に思った。

    「でも、どうやって自販機からお金を取り戻すの?」

    「どうやってって、」

    少女はキョトンとした顔をすると、

    「こうやって」

    瞬間、少女の掌から雷じみた青白い火花が飛び出て自販機に直撃した。

    ズドン!という凄まじい轟音と共に、メチャクチャ重たそうな自販機が相撲取りに体当たりされたようにグラグラ揺れた。自販機の金具と金具の隙間からもくもくと黒い煙が噴き出てくる。

    「あれー?おかしいわね、あんま強く撃つつもりなかったのに。あ、なんかいっぱいジュース出てきた。ねぇ1万円出てこなかったけど大体1万円分くらいジュース出てきたからこれでオッケー?」

    「……」

    唖然として状況についていけない金木は呟いた。

    「不幸だ」
  14. 14 : : 2015/04/05(日) 12:05:05
    #009 唖然

    自販機の警報が、辺り一面にけたたましく鳴った。

    直感的に「逃げないと」そう思った。それからよく考えずに走った。気付けば、金木は繁華街のバスの停留所のベンチに座っていた。ただでさえ知らない土地なのにここまで来たら寮を見つけるのはほぼ絶望的だ。

    「はぁーー」

    大きな溜息をつく。そこに、茶髪の少女がやってきた。

    「溜息なんてしてないで、ジュース持ちなさいってば。元々アンタの取り分でしょ?」

    と、隣に座っている少女は大量のジュースをポイポイ投げつけてくる。

    「熱っ!何でホットおしるこ?」

    「誤作動狙いなんだからジュースの種類までは選べないのよ」

    「でも、黒豆サイダーときなこ練乳って」

    「生ぬるいわねー。ガラナ青汁といちごおでんの二大地獄がやってこなかっただけでも美琴さんの強運に感謝しなさいっての」

    ん、そういえば天…少女は呟くとポケットに手を突っ込んだ。

    「あ、あったあった」

    満足げに言うとポケットから学生証を取り出した。

    「それ、無くしてた学生証」

    金木は驚きつつ少女に問う。

    「あーこれこれ、アンタがカッコつけといて逃げた強盗の時のよ。そういえば何で逃げたのよ?」

    「いや、逃げたというより帰ったんだけど…病院抜け出してたからだけど」

    「はぁ?何それ?まぁ色々あんのね…」

    アンタも…と小さく呟いた気がした。

    「返すわ、コレ」

    「ありがとう」

    「えーと、私の名前は御坂美琴よ。アンタは?」

    「金木研」

    「あぁ、確かそんな名前だったわね、よろしくね」

    「うん。よろしく…ところで、あの強盗の後どうなったの?」

    「んーと、子供の保護者が来て怪我確認して帰ったわよ」

    「君は?」

    「私?怪我なかったしフツーに帰ったわ」

    「なら、よかった」

    「ねぇ、気になってたんだけどアンタの能力って何?」

    「えっ?にっ、肉体再生…かな?」

    あの先生に聞いといてよかった。とほっとするのも束の間

    「はぁ?肉体再生?何で?どう考えてもアンタは身体強化でしょ」

    「いやーその、原石っていうやつみたいでよく分からないんだ」

    「ふーん、そーなんだ。まぁ、もういーからジュースお飲み。美琴センセー直々のプレゼントなんてウチの後輩だったら卒倒してるのよん」

    「卒倒?缶ジュースで?」

    「色々あるんですよー、いろいろ。むしろどろどろ?私が常盤台ん中でなんて呼ばれてるか教えてあげよっか?引くわよ」

    うふえへあはー、と美琴は力なく笑っていたが、

    突然その声は聞こえた。

    「お姉様?」

    不意に辺りに聞こえた鈴のような少女の声に美琴は背中に氷を突っ込まれたような顔をした。ひくり、と口の端が大きく歪む。

    お姉様?今のは一体誰が?

    顔を見るため振り返ると、ちょっと離れた場所に茶髪のツインテールの少女がいた。その少女は胸の前に両手を組んで目をキラキラさせると、

    「まぁ、お姉様!補修なんて似合わない真似をしていると思ったらこのための口実だったんですのね!」

    「ええっと、念の為聞くけど、この為とはどの為を言ってるのかしら?」

    「決まっています。そこの殿方と密会するためでしょう?」

    バチン、と美琴の髪の毛から火花が散った。が、少女は全く気にせず金木の方を見るとにっこりと満面の笑みを浮かべてベンチに近づいてきた。

    少女は金木の前に立つと半ば強引に手を掴んで両手で包み、

    「初めまして殿方さん。わたくし、お姉様の露払いをしている白井黒子と言いますの」

    はぁ、と戸惑っていると

    「この程度でドギマギしているようでは、浮気性の可能性がありましてよ?」

    「いや、僕と彼女はそんな関係じゃ「かっかっかっ、彼女!?いっ一体、くっ黒子の知らない間に…そんなぁあああああ」

    その後喚き散らした挙句唖然としている金木の襟を掴み怒鳴り散らす。

    「わたくしのお姉様に何をしたんですのぉおおおおおお」

    そんな中隣に座っている美琴がゆらりと立ち上がり、

    「あー、んー、たー、はー。この冴えない白髪が私の彼氏に見えんのかぁ!」

    微妙に人を傷つける発言と共に、美琴の前髪から青白い雷撃の槍が発射される。が、青白い火花が直撃する寸前に金木から手を離し、何の前触れもなくその姿が虚空に消える。

    「空間移動使ったわね変なウワサ流したら承知しないわよ!」

    美琴は何もない空に向かってバンバン電撃を撃つ。超能力クラスの電撃に道行く人の視線が集中する。そんな中、不意にベンチの後ろから声が飛んできた。

    「お姉様?」

    今度はどんな人だろう?振り返ってみると

    ベンチの後ろに、もう一人の御坂美琴が立っていた。

    「えっ?」

    そして金木は唖然とした。


  15. 15 : : 2015/04/07(火) 00:01:00
    #010 

    「えっ?」

    後ろに立っていたのは、「御坂美琴」だった。背格好や小物まで何もかもが完璧な「御坂美琴」が立っていた。

    でも、隣に座っているのも「御坂美琴」である。

    つまり…

    「双子かな?妹?」

    「妹です、とミサカは間髪入れずに答えます」

    おかしな口調だなぁと思うが口には出さない。

    「そうなんだ、似ているね…よろしく」

    「遺伝子レベルで同質ですから、とミサカは答えます。次いで、よろしくお願いいたしますとミサカは一般的な挨拶で返します」

    「はぁ…」

    双子でいいんだよね?と隣に座っている御坂美琴に助けを求めるが、美琴は何故か黙って妹を睨んでいる。

    「……?」

    どうしたのか見ていたら

    「――――――アンタ!一体どうしてこんな所でブラブラしてんのよ!!」

    いきなり黙っていた美琴が爆撃みたいな怒鳴り声をあげた。

    うわっ、と驚き疑問を覚え問いかけようとする。が、美琴は黙って妹の答えを待っている。

    しばらく沈黙が辺りをつつむ。

    「何かと問われれば、研修中です、とミサカは簡潔に答えます」

    「けん、」

    美琴は背中を打たれたように息を詰まらせ、それから目を逸らした。その顔はだんだん青ざめてくる。

    「大丈夫?顔色悪いけど…」

    「へっ?だっ、大丈夫よじゃあ色々積もる話があるから、色々。おい妹、ちょろっとこっちにきてみよーかー?」

    「は?いえミサカにもスケジュールはあります、と――」

    「いいから」美琴は妹の目を見て、「きなさい」

    その声には有無を言わせぬ気迫があった。

    「んじゃ、私達はこっちの道だから。アンタも寮の門限とか気にしなさいよ」

    「あっそれで寮の――行っちゃったか…」

    場所を聞こうとしたが行かれてしまったようだ。

    「自分で探すか…」

    現在地を確認してみたが、幸運にも案外寮の近くであった。でも

    「このジュースどうすれば…」

    金木はベンチの上の山積みの缶ジュースを眺めていた。

    そもそもコーヒー以外飲めないのに…

    運ぶしか無い以上両腕に缶ジュースを抱え歩き出す。

    寮へ向かい歩くが、これだけの缶ジュースを抱えると、視界が悪くなる。そして、足下に注意がおろそかになりついうっかりテニスボールを踏んでしまう。何とか転びはしなかったが、缶ジュースが道路に散らばる。

    「あー、やっちゃった、拾わないと…」

    しゃがみこみ缶ジュースを拾っているそんな金木の真上に影が落ちる。

    雲?と思い視線を上げる。

    目の前に御坂美琴が立っていた。

    「あれ、さっき妹連れて帰ったんじゃ…?」

    「……」

    何か違うな、と考えよく見てみる暗視ゴーグルらしきものがあった。

    「嗚呼、妹さんの方か…どうしてここに?」

    「必要ならば手を貸しますが、とミサカは溜め息混じりに提案します」

    「??でもスケジュールがあるって…」

    「今は空いています、とミサカは少し呆れつつ答えます」

    「はぁ…じゃあ頼みます」

    「はい、とミサカは返答します」

    「今度お礼するね、――っ!」

    そんな事を言っていたが、御坂妹さんを見た瞬間思わず呼吸が停止した。

    両足の間から何か白と青が覗いている。

    「……、何か?とミサカは確認を取ります」

    「あっ…!いや…えっと…なっ何か飲み物いる?」

    「今はそれより缶ジュースを拾うことが優先です、とミサカはこんな状況なのに能天気に話をするあなたに呆れつつも手を休めません」

    「ゴメン」

    拾い終わり御坂妹さんに感謝のきなこ練乳を渡すが、

    「いいえ結構です、とミサカはキッパリと断ります」

    「そう」

    と地味にショックを受けていた。

    「それで、このジュースはどこまで運べばいいのでしょうか、とミサカは両手いっぱいにジュースを抱えて問いかけます」

    「いや、大丈夫だよこれくらいなら」

    「それで、このジュースはどこまで運べばいいのでしょうか、とミサカは催促します」

    「いや、大丈夫だよ」

    「早くしてください、とミサカは――」

    「わっ、分かったから」


    幸い学生寮が見えてきた。裏路地のような隙間に潜り込み、入り口をくぐりエレベーターに向かう金木達の前方に清掃ロボットがやってきた。その清掃ロボットの上に中学生くらいのメイドが正座している。

    「うーい、お前が転校生なのかー」

    「あっそうだけど…君は?」

    「転校生の隣人の妹だー今日はエアコン壊れたから泊まりに来たー。今晩は兄貴ともども騒がしくなると思うけど堪忍なー」

    「あっああうん。分かった、よろしく缶ジュースいる?」

    「よろしくお願いいたしますだー緑茶があればもらっとくー」

    「…抹茶ミルクなら」

    結構と抹茶ミルクを引き抜く。ようやく1本売れたと喜びを露にする。

    「あなたも大変なのですねとミサカは小さく呟きます」


  16. 16 : : 2015/04/07(火) 23:28:55
    #011

    キンコーン、という電子音と共にエレベーターが7階に到着する。

    直線通路の先に自分の部屋があった。

    「ここか…」

    「今更ですが外部からの転校生だったのですね、とミサカは確認します」

    「うん、そうだよ」

    実際は違うけど…と心の中で呟く。

    ドアを開けるとフローリングと質素な家具が置いてある部屋が見えた。

    「学生寮だしこんなものだよね…」

    「いえ、名門校はオートロックがついていたり内装にこだわりがあっ――」

    「いや、その、もう大丈夫だよ」

    現実は辛いなあ、とショックを受けているそんな金木に対し

    「分かりました、とミサカは学生寮の格の違いを伝えることをやめます」

    「そうしてもらえると嬉しいよ」

    遠慮なく現実を伝えてきた。

    「話は変わりますがジュースはどこに降ろせばいいのですか?、とミサカは荷物を抱えながら提案します」

    「そうだね、床に置いてくれればいいよ。それとお礼に1本どうぞ」

    「必要ありません、とミサカは返答します」

    無言で床に缶ジュースを置き、それでは、――と御坂妹さんは缶ジュースをもらわずに立ち去ってしまった。

    「さてと、やることないな…あっ缶ジュースどうしよう」

    金木はコーヒー以外を学生寮の人に配り終えた。ちなみに貧乏学生には、神に映ったと後に語っていた。

    次の日は、暇だった。

    「やることないな…本買いに行ってみるか」

    本屋は昨日見つけたし、と意気込みドアに鍵を掛けてエレベーターに乗り外に出る。しばらく歩くと、美琴が何故か道路脇にしゃがんでいた。そこは風力発電のプロペラの真下で、支柱の根元にはダンボール箱が置いてある。そのダンボール箱の中に黒猫がいるのが見えた。

    「ん?妹さんの方かな?」

    小さく呟くと、御坂妹さんの動きがピタリと止まった。そのまま首だけ動かして金木の顔を見る。

    「昨日はありがとう」

    「……、特に謝礼が目的ではありません、とミサカは返答します」

    素直な感謝の言葉だったが、ムッとしたものを言葉に滲ませて返してくる。

    「はは、そっか、それより後ろの猫どうするの?見たところ君の猫じゃないみたいだけど…飼うの?」

    「……、ミサカには、この猫の飼育は不可能だと、ミサカは正直に答えます。ミサカの居場所は、あなたの生活環境とは若干異なりますから、とミサカは理由を述べます」

    寮の規約が厳しいのか?と金木は思った。

    「あなたは黒猫を拾う意思はありますか?、とミサカは問いかけます。あなたが拾わなかった場合、保健所の職員が――」

    「わ、分かったから保健所の話は…」

    あれ?動物飼ってよかったっけ?と今更ながら考える。

    「名前…どうするの?」

    「何故ミサカに聞くのですか、とミサカは問いかけます」

    「だって君の猫でしょ」

    そんな理由はお構い無しに御坂妹さんはちょっとだけ夕空を見上げ、

    「いぬ」

    「え?」

    「この黒猫には、いぬとミサカは命名します。……猫なのにね、ふふ」

    そんな顔が少し怖かった。

    そもそも自分は猫の飼育方法は分からないと気付いたのは空の色がオレンジから紫色に変わっている時だった。

    「猫の本も買うか…」

    そう呟やくと

    「本屋へ行くのが目的ですか、とミサカは問います」

    「そう、元々はね」

    「いぬの事が迷惑なら謝罪するべきでしょうか?」

    「いや、別にいいよ保健所に連れてかれるのは嫌だしね」

    「そうですか、とミサカは感謝します」

    「そうですかって感謝の言葉だったんだね…」

    そんな会話の後本屋に着いた。

    「そういえば猫を抱えたまま入っていいのかな?」

    「ミサカは磁場の出る体質なのでこちらに預けるのはご遠慮く――」

    「じゃあ早めに買ってくるね、猫よろしく」

    そう言った途端猫を渡して本屋へ入ってしまった。

    「……まったく。話を聞かずに行くとはどういう事なのでしょうかとミサカは一人呟やきます」

    猫はビクビクして怯えている。こんなに怯えられるのは傷つきます、と御坂妹さんは改めてもう一度溜め息をついて


    気づいた。







  17. 17 : : 2015/04/08(水) 22:07:50
    #012

    気づいた。

    夏休みという事もあり、夕暮れに染まる学園都市の表通りには私服の少年少女が溢れ返っていた。その中に一人だけ色素の抜けたような白髪のあの少年もかなり目立つがだが、それでも――視線の先にいる少年よりは遥かに人間らしい。

    髪も肌も恐ろしいほどに白い少年。白、と言ってもそれは色素が抜けたり清潔や潔白とは対極に位置する、濁りに濁った白濁の白。その腐敗する白を更に強調させるように、衣服は全て黒で統一されていた。

    そして、瞳。

    鮮血のように赤く、火炎のように紅く、地獄のように緋い、その双眸。

    遠く離れた雑路の中、けれど少年の存在はあまりに鮮烈だった。

    一方通行

    学園都市でいや、おそらく全人類の中で最強と謳われる超能力者はただ御坂妹を眺めていた。眺めながら、ただ静かに笑っていた。

    「……」

    御坂妹は、抱えた黒猫を静かに地面へ下ろす。

    殺される。このまま自分といては、確実にこの黒猫は殺される。御坂妹はそこまで分かっているのに、黒猫は彼女の側を離れない。逃げるのではなく腰が抜けたように御坂妹の顔を見上げて、みーと鳴いた。

    一方通行は、そんな御坂妹を見て笑っていた。


    白熱し白濁し白狂した笑みを。


    この瞬間から、彼女の地獄が始まっていた。

    一方、本屋は平和だった。冷房の利いた店内は快適で人が多くいる。

    「早めに買わないと…」

    高槻作品は無いし何買うか…と悩んでいる。悩んだ挙げ句

    「猫の飼育を勉強するから買わなくてもいいか」

    という単純な結論に至った。取り敢えず「猫の飼育」という本を買った。

    「あれ?」

    金木は本屋の紙袋を片手に思わず立ち止まって呟いた。

    黒猫はいるが、御坂妹がどこにもいない。帰ったのかと考えるが猫を置いて一人で帰るのは考えられない。考えもまとまらないので、辺りを見回してみる。

    「ん?」

    何故か違和感を覚えた。もう一度見回してみると分かった。路地裏に

    「靴?」

    茶色い革靴が片方だけ置いてある。否、落ちている。

    何があったんだ?嫌な考えが頭によぎる。でも、まさか…

    金木は路地裏へと一歩踏み込む。さらに進んでいく。路地の地面にもう一つの革靴が落ちている。

    金木の五感が告げている、この先から血が匂う、生半可な傷口じゃないと分かるくらいの濃密な血が匂う。

    グギュルル、と自分の腹が鳴る。最近は食事を食べていない。自分の喰種
    の本能が告げてくる。食べろ、喰わせろ、寄越せ、


    美味しそう


    「ぐっ、あぁあああああああああ」

    駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ…食べちゃ…

    自分で自分を抉る。比喩にあらず自らの手で抉り、正気を何とか保つ。

    服からは血が広がり、染みをつくっていく。そんな事は気にせず先に進んで行く。

    荒い息遣いのままゆっくりゆっくり、進んで行く。薬莢らしき物を真っ赤な血に染めて進んで行く。ほぼ絶望的な状況でも現実を知るため歩む。

    「み…みさか?いっいもう…と…さ?」

    そこで金木の意識は途絶える。皮肉にも自分でつけた傷口のせいで意識がなくなった。

    そんな金木の先に彼女はいた。

    御坂妹は、死体となって転がっていた。


    「うっ、あぁ」

    身体の痛みに思わず顔をしかめる。傷口はいくらかふさがっているようだ。

    「み、御坂妹さんは?」

    探すが、見当たらない。どうして?

    あり得ない。血が、あったはずの死体が無くなっている。

    「何で…?」

    自分は夢でも見ていたのか?でもこの傷は本物だ…

    「うっ」

    これ以上いても意味がない傷口を取り敢えず直す事を考え路地から出る。

    みー、と鳴き声が聞こえて猫が足元にすりよってくる。

    「猫…ここまで来ていたんだ…」

    よいしょ、そして猫を抱える。

    猫は腕の中で大人しくコッチを見上げてる。

    ゴソリと後ろの方から、暗闇の方から音がした。

    先程の事で敏感になっていた聴覚が聞き逃さなかった。猫を抱えたまま走る。着いた先で見た瞬間、驚きと衝撃でしばらく動けなかった。

    「どうして…君が…?」

    「申し訳ありません、作業を終えたらそちらへ戻る予定だったのですが、とミサカは初めに謝罪しておきます」

    この独特な口調、容姿どれをとっても間違いなく「御坂妹」だった。

    「えっと…御坂妹さん?だよね。ゴメン何か君が怪我というより重症の夢を見て、それで…」

    「いまいちあなたの言動には理解しがたい部分があるのですが、ミサカはきちんと死亡しましたよ、とミサカは報告します」
  18. 18 : : 2015/04/09(木) 19:50:23
    #013

    御坂妹がそう告げた途端、金木の呼吸が凍った。

    目の前の少女は間違いなく御坂妹本人だ。だが、そう言えば彼女が肩に担いでいる寝袋は何なのだろう?まるで壊れたマネキンでも放り込んだような関節の向きがおかしいシルエット。そこから血の匂いがする。と、何かが視界に飛び込んできた。寝袋のファスナーの合間から覗いているのは、茶色い髪。

    まさか…そんな…

    「念のために符丁の確認を取ります、とミサカは有言実行します。ZXC741ASD852QWE963とミサカはあなたを試します」

    「え?何、それ?」

    「今の符丁を解読できない時点であなたは実験の関係者ではなさそうですね、とミサカは自分の直感に論理的な証拠を付け加えます」

    「実験?何の話を?」

    金木はいぶかしむように御坂妹を見ると

    「その寝袋に入っているのは妹達ですよ、とミサカは答えます」

    と金木の疑問に答えたのは、間違いなく御坂妹の声だった。

    それから、カツンという足音は御坂妹の背後から鳴り響いた。カツコツとこちらに誰かが近づいてくる。

    「黒猫を置き去りにした事については謝罪します、とミサカは告げます」

    暗闇の向こうからやってきたのは、御坂妹と全く同じ造形をした少女だった。

    「?」

    「ですが、無用な争いに動物を巻き込む事は気が引けました、とミサカは弁解します」

    疑問は増え続ける。足音も増え続ける。

    「あなたについても同様に謝罪しておきましょう、とミサカは頭を下げます」

    「どうやら本実験のせいで無用な心配をかけてしまったようですね、とミサカは「しかし心配なさらずとも「警察に通報したのもあなたという事に「それは適切な判断「黒猫は大丈夫でしたか、とミサカは問い「ここにいるミサカは全てミサカです、と「しかし私が本当に殺人犯だったらどうするつもりだったのですか「詳細は機密事項となっているため説明できませんが、とにかく事件性はありません、とミサカは答えます」

    「……」

    金木は後ろから現れる「ミサカ」達に絶句した。

    目の前の光景が信じられない、自分が見たのはやはりミサカ達の一人で殺されてしまったという事なのか。だが、そもそもの発端としてまず双子がこんなにいる事がおかしい。

    御坂美琴という一人の少女にあまりにも酷似していた。まるで誰かに作られたような……

    そんな…でも法で定められていて…あ、そっかここは学園都市だ、知っている法と違ってもおかしくない…

    だとしてもどうして黒猫の事を知っているのか?

    「ああ、心配なさらず、とミサカは答えます」

    「あなたが今日まで接してきたミサカは検体番号10032号、つまりこのミサカです、と答えます」

    「えっと…記憶は、どうして?」

    「ミサカは電気を操る能力を応用し、互いの脳波をリンクさせています。他のミサカは単に10032号の記憶を共有させているにすぎません、とミサカは追加説明します」

    しかし、そんな事より

    「君は誰?」

    「学園都市で7人しかいない超能力者、お姉様の量産軍用モデルとして作られた体細胞クローン――妹達ですよ、とミサカは答えます」

    「こんな所で何やっているの?」

    「ただの実験ですよ、とミサカは答えます。本実験にあなたを巻き込んでしまった事には謝罪しましょう、とミサカは頭を下げます」

    何でこんな事が…

    金木は一人、黒猫を抱えて路地から抜け出ようとしていた。自分でつけた傷口が酷い。後ろを振り返ると、たくさんいた「ミサカ」達は闇に溶けるように姿を消していた。

    実験?何だそれは、少女を痛めつけるそんな事が実験?間違っているそんなのは実験じゃない止めないと、止めないと、止めないと

    「うっ、」

    だが動かす度に身体からは血が流れていく。

    意識がとんだ。丁度、路地を出た途端に。

    くそっ、こんな事してる場合じゃないのに…
  19. 19 : : 2015/04/11(土) 19:33:44
    #014

    バタリ、そんな人が倒れる音がした。

    おい、人が倒れてるぞ!

    そんな言葉を筆頭に人々が騒ぎ始める。

    救急車は? 病院に! 警備員に連絡は? どうなってんの?

    野次馬も現れ始める中、話の渦中の金木は気を失ったまま傷を治していた。

    血が流れているぞ! 止血は? 救急車まだなの? ねぇどうなってんの?

    金木は傷を治し終え、しばらく経つと目が覚めた。

    おい、目が覚めたぞ! どういう事だ? 傷が治ってる!? 能力者か?
    だからどうなってんの?

    「うっ、」

    「大丈夫か?」

    「っ、はい。大丈夫です」

    「そうかならいいが、念のため病院行っとけ。救急車来るから」

    「いや、すいません。でも急がないと…」

    そう思い身体を起こすが、

    「っ…」

    苦痛で顔が歪む。

    「ほら、傷が治ったとはいえまだ危ない」

    黒猫がみー、と鳴き心配そうに顔を覗いてくる。

    「でも、やっぱり行きます。ありがとうございました」

    そう言い、走り出す。

    「あ、待て。黒猫!忘れてる!」

    脇目も振らずに、走って行く。

    御坂妹達は、自分達は軍用量産モデルと言っていた。クローンを作るにはDNAが必要なはずだ…

    まさか…

    御坂美琴本人はこの事を知っていたのか?

    「とにかく話を聞かないと…」

    御坂美琴の居場所は分からないが、何となく検討はついている。もう空の色は、夜の蒼色に完全に色を染めている。完全下校時刻。大抵の学生はもう学生寮に帰っている。つまり常磐台という学生寮を見つければいいのだ。

    取り敢えずバスに乗る。前に聞いた話では、大抵のバスは○○校前という停留場があるため位置は分かるそうだ。

    バスが第7学区に差し掛かると

    「第7学区、常磐台中学学生寮前」

    というアナウンスが流れ到着した。

    「ここか」

    金木はバスから降りると、まず建物を見上げた。

    周囲は普通にコンクリートのビルが並ぶのに、何故かそこだけは石造りの3階建てだった。まるで外国にある宿舎のような、妙に歴史のある洋館じみた建物がドガンと建っている。

    金木はまず、正面玄関に向かったが予想通り厳重なロックが掛かっていた。ドアの横の壁には、無数のポストが並んでいる。ポストに書かれている名前を見る限り美琴の部屋は208号室のようだ。後はインターホンだけだ。美琴の部屋に連絡するのは簡単だ。208と番号を打ってインターホンを押せばいい。

    今すぐにでも実験を止めないと、たったそれだけの思いでインターホンを押す。

    かっちん、というプラスチックのボタンが押し込まれる音。

    ぶつっ、というスピーカーのノイズと共に

    「あ、えっと……」

    なんて言って良いか分からなかった。それでも何か言わないと

    「……、金木、だけど。御坂さんの部屋で、あってるかな?」

    出てきた言葉はひどく凡庸だった。

    ほんの数秒間の沈黙がやけに重々しく感じられた。ようやく聞こえた第一声は、

    「はぁ、カネキさんですのー?」

    やけに間延びした、絶対に美琴ではない声だった。

    「あ…すいません部屋番号間違えました」

    「いえ、いえいえ大丈夫ですの。お姉様に御用がおありでしょう?わたくし、お姉様と相部屋ですから」

    どこかで聞いた事のあるような独特な口調とお姉様という言葉。確か、白井黒子と名乗った少女なはずだ。

    「そうなんだけど、でもその様子だと今はいないのかな?」

    「はい。ですがお姉様ならすぐにお戻りになるかと。そこの玄関は門限と同時にセキュリティが働くのでお姉様に御用がおありでしたら、中に入って待つことをお勧めしますの。行き違いはお勧めできませんもの」

    ぶつっ、というインターホンの切れる音共に玄関のロックが外れる音が聞こえた。

    入ってって言われても…大丈夫なのかな?

    まぁ入れっていっていたし、そう考え思いきって中に入る。

    玄関ホールから左右へ伸びる廊下を無視して、二階三階の回廊へ繋がる階段へ向かった。おそらく二階のどこかにあるだろう、と検討をつけて階段を昇り、二階の左側の通路を歩く。208号室はすぐに見つかった。

    コンコン、と控え目にノックする。中から声が返ってきた。

    「どうぞ。鍵はかかっていませんので、ご自分の手で開けてくださいですの」

    白井黒子は部屋の中でもインテールのままだった。服装も夏服のままで、ベッドに腰かけているのが不自然なようにも見える。

    「ごめんなさい。元々寝て起きるための部屋ですので、客人をもてなすようにはできていないんですの。お姉様を待つのでしたら隣のベッドに腰掛けてくださいですの」

    「いや、本人の許可がないと駄目でしょう」

    「ご心配なさらず、そちらがわたくしのベッドです」

    「……」

    数秒間、部屋に沈黙が起きた。
  20. 20 : : 2015/04/12(日) 18:48:03
    #015

    「へ……変態…」

    「む、変態とは聞き捨てなりませんの人間、人には言えないもののみんな心の中ではこれぐらいオッケーと考えているものです、ほら好きな女の子のリコーダーに口をつけたり自転車のサドルをパクってきたり」

    「いや、しないよ。普通」

    はぁ、これぐらい誰でも通る道ですのに。と自説を唱えていると思いだしたように

    「それで、お姉様に何の用があっていらっしゃったんですの?」

    「えっ…あ」

    「お待ちなさい」

    凛とした声が響き、次に枕からくぐもった声が聞こえた。

    「聞いた所でわたくしの心は既に決まっておりますので」

    「はぁ…」

    そんな中廊下から、コツコツと音が響いてきた。

    「まずい、寮監の巡回のようですの」

    「…え?」

    予想外の意見にポカンとしたカネキをよそに黒子は非常に切羽詰まった顔で

    「ど、どうしましょう。あなたの事が寮監に知れるとまずい展開になりますのね」

    「寮監って、足音だけで分かるの?」

    「足音聞いただけで分かる程度に危険な存在ですの。とにかく抜き打ちで部屋をチェックしていく邪悪な存在ですので、あなたはベッドの下にでも隠れてくださいませ」

    言うか早いか、黒子はカネキの頭を押さえるつけるとぐいぐいと強引に美琴のベッドの下へと押し込もうとする。

    「痛っ、ちょっとこの隙間は」

    「ええい、うるさいですの。早くしないと寮監が」

    「わっ、分かったから。自分で入るから」

    「もう、空間異動で、あら入れたんですの?」

    「う、うん。なんとか」

    関節外れたけど、と自嘲気味に呟く。

    なんとか入れたが、ただでさえベッドの下は狭いのに、さらに先客がいた。カネキの身長と同じくらいの巨大なくまのぬいぐるみが押し込んであったのである。あまりの狭苦しさにカネキがぬいぐるみを退かそうとした時、ドアが開閉する音が響き渡った。低い女性の声が聞こえる。

    「白井。夕食の時間だから食堂へ集合せよ。……御坂は?私は外出届けを見ていない、門限破りなら同居人と連帯責任で減点一つとみなすが構わんか?」

    今度は黒子の声が部屋に響く。

    「いえいえ、本当に急な用件ならば外出届けなど提出している暇はないと思いますの。わたくしはお姉様を信じて減点を受け取る事できません」

    ぐいぐいと寮監の体を押しながら黒子は出ていったようだ。カネキはしばらくそのまま固まっていた。

    ふう……、一先ず危機は回避できたのかな?とカネキは少しホッとした。出ようとするがくまのぬいぐるみが邪魔をしてくる。くまのぬいぐるみごと脱出し、ぬいぐるみを戻そうとするが、触った途端違和感を感じた。首輪の辺りにゴツい南京錠が取り付けてある。だが半分だけそのファスナーは開いたままだった。中に入っているのは紙のようだ。人の物を除くのは、気が引けるがその紙にはワープロ文字でこう書かれていた。

    試験番号07-15-2005071112-甲
    量産異能者『妹達』の運用における超能力者『一方通行』の

    カネキはギョッとした。紙は端が飛び出しているだけで、先が読めない。
    これは、おそらく実験に関係するものだ。重ねて言うが、気が引けるが実験を止めるためファスナーを開ける。20枚近いレポート用紙が出てきた。

    『量産異能者「妹達」の運用における超能力者「一方通行」の絶対能力への進化法』

    レベルは確か5までしか無いって聞いたけど、レベル6って何?

    パラパラと斜め読みをする。とある一ヶ所でその手が止まる。

    『これを用いて「樹形図の設計者」に再演算させた結果、二万通りの戦場を用意し、二万人の妹達を用意する事で上記と同じ結果が得られる事が判明した』

    それを目に通した瞬間手の中のレポートを握り潰していた。

    「ふざけるな、そのために彼女達を殺したのか…そんなのは実験じゃない…頭のイカれた虐殺だ!」

    次の実験場所を知るためもう一度レポートに目を通す。捲っていく紙の中に、地図があった。それには赤い×印が書かれている。気になり調べてみると、

    『水穂機構 病理解析研究所』
    『樋口製薬 第七薬学研究センター』

    研究所のことはよく分からないがまさかこの研究所は実験に関わっていた場所なのか?×印があるということは、つまり

    「実験を止めるため、荷担した研究所を潰していた?」

    その可能性に出てきた言葉は

    「良かった…」

    どういう理由でカネキの前では笑顔を見せて、その事実を隠していたかはしらないけど。
    御坂美琴は、決して『実験』を何とも思っていなかった訳ではないのなら。

    だが、彼女は今、一体何処で何をしているのか。

    実験を止めるためなら研究所を破壊しているのか、それとも他に何かを…実験の事を知るためにはまず、彼女に会わないと…

    とにかく、外に出るため窓から外へ飛び出した。
  21. 21 : : 2015/04/13(月) 19:31:07
    #016

    窓から外へ出ると、ひたすら走った。探す宛も無くただ自分の目を頼りに走り探し続ける。

    が、やはりそう簡単に見つかる筈もなく

    「何処だ…此処は…」

    絶賛路頭に迷い中だった。

    「もう、一度路地裏にでも」

    「みー」

    ん?この鳴き声は…

    声が聞こえた方へ目を向けると、

    「みー」

    あの黒猫が足元に擦りよってきた。

    「あっ、そういえば忘れてた…」

    今更ながら気づいたカネキはどうするか悩んでいた。

    「どうしよう…」

    猫はそんなカネキを察して?みー、と鳴きながら歩いて行った。

    「あっ、ちょっと待って…」

    焦りながら猫を追いかける。猫は構わず進んで行く。

    鉄橋に着くと猫はみー、と鳴き橋の中心へ歩いて行く。

    走って追いつき鉄橋を見てみると、そこには一人の少女が立っていた。あまりにも弱く、もろく、今にも消えてしまいそうなほど、疲れきった少女の横顔。

    無意識に体は動き、美琴の前に立っていた。

    「どうしたの?」

    そう言うと美琴は手の甲で涙を拭いいつもの顔を上げる。

    「ふん。私がどこで何してようが勝手じゃない。私は超能力者で超電磁砲なのよ?夜遊びした程度で寄ってくる不良なんざ危険の内にもはいんないわよ。そもそもアンタなんかに言われる筋合いなんてないけど」

    さっきまでの美琴の姿を見てはそんな軽口はもう見ていられないくらい痛々しく見える。

    「何をしているの?」

    「何?別に夜遊びしているくらいでとや」

    「そうじゃない。実験の事は知ってるから。それで何をやるつもり?」

    持っていた何枚かのレポートを美琴に見せる。

    その瞬間、御坂美琴の『日常』は木っ端微塵に砕け散った。おそらく自分でも顔の筋肉をどう動かしているのか分かっていないのだろう。美琴の頬が壊れたように引きつっていた。

    「あーあ、何でこんな事しちゃうのかな?そのレポート持ってるって事は、アンタ私の部屋に勝手に上がり込んだって事でしょ。ぬいぐるみん中まで探すってアンタ小姑以上の執念じゃない?まったく、そんな周りが見えなくなるほど深入れしてくれたってのはありがたく思うべきかも知れないけどさぁ、アンタ普通だったら死刑よ死刑」

    「それで」

    そう前置きしてから一度言い淀み

    「結局。それを見てアンタは私が心配だと思ったの?私を許せない思ったの?」

    「……心配したよ」

    「ま、ウソでもそう言ってくれる人がいるだけマシってトコかしら、ね」

    「ウソじゃない」

    は?と美琴は眉をひそめ、

    「ウソじゃない」

    もう一度冷静な声で話す。

    「……あの子達ね。平気で自分達の事を『実験動物』って言うのよ」

    言葉を噛み締めるように言う。

    「あの子達はね、実験動物ってのがどんなものか正しく理解してる。そして、分かっていながら、それでも平然と『実験動物』って読んでるのよ」

    そんなものは耐えられないと、美琴は唇を噛み締めた。

    「でも、レポートがあるならこれを警備員に渡せば」

    「そんな事したら殺されるわよ。上の理事会は黙認してるから警備員だって動けない」

    「……間違っている」

    そう呟くと美琴はこっちを見て小さく笑った。疲れきった大人のように。

    「そう、間違っている。誰かに頼るのは間違っている。これが私の引き起こした問題ならば、その責任を取ってあの子達は私の手で助け出すべきなのよ」

    「……」

    「私が一方通行を潰す。例え殺人罪になってもあの子達が死なないなら」

    「勝算はあるの?第一位と第三位だけど、勝算はあるの?」

    「フフッ、まぁそりゃそうよね」

    美琴は自嘲気味に笑うと、

    「無理よ、私にそれだけの価値はない」

    「じゃあ、どうして?」

    「私を128回殺すとレベル6になるみたいだけど、私にそれだけの価値はないわ…だから私が無様に一方的に虐殺されれば実験は中止できるはず。オリジナルでも勝負にならないと思わせればいいの。私に出来ることなんてこんなもんよ」

    美琴はどこか達観した様子で話す。

    「さあ、分かったらそこをどきなさいよ。私はこれから一方通行の元へ行くだからそこをどきなさい」

    と冷たく言い放った。

    美琴の言っていることは分からなくもない自分なら間違いなく行くが、僕が守らないと、皆を、彼女を。

    「どかないよ」

    だからそう言い放った。





  22. 22 : : 2015/04/22(水) 21:50:12
    #017

    カネキの言葉に、美琴は心底驚いたようにカネキの顔を見返した。

    「どか、ない。ですって?」

    肯定するために、ゆっくりと頷く。

    わなわな、と。怒りに唇を震わせながら、美琴は信じられないという顔で言葉を紡ぐ。

    「なに、言ってんの?アンタ、自分が何言ってるのか分かってんの?私が死ななきゃ一万人の妹達が殺されるのよ。それとも、他に何か方法があるって言うの?まさか、劣化コピーだからって死んでも構わないとかって思ってんじゃないでしょうね……」

    カネキは、一万人の妹達が死んでも良い存在なんて思わない。得策がある訳でもない。美琴が死ななければ本当に一万人もの妹達が殺されてしまう事だって理解している、つもりだ。

    「それでも、嫌なんだ」

    何も出来ないのはもう嫌なんだ。

    「――――――――」

    美琴は一瞬、ほんの一瞬、何かびっくりしたような顔を浮かべたが、その表情は、すぐに怒りの中へと消えていった。

    「そう。アンタは私を止めるのね。一万人の妹達の命なんて、どうでも良いって言うのね」

    チリチリ、と周囲の空気に緊張が走る。

    「私はあの子達が傷つくのは見てられないの。だからこの手で守ってみたいと思っただけなのよ。……それを止めると言うならば、この場でアンタを撃ち抜く。さあ、これが最後の通告よ。その場をどきなさい」

    カネキは、黙って首を横に振った。

    美琴の唇の端が、歪む。

    「ハッ、面白いわね。そんじゃ、力づくで私を止めるって言うの?良いわよ、それならこっちも遠慮しない。アンタの能力は多分身体強化とかの高位能力だと思うけど、超能力者には勝てないわよ。だからアンタも死ぬ気で拳を握りなさい」

    パチン、と美琴の肩の辺りから青白い火花が散る。

    「さもなくば、本当に死ぬわよ」

    溢れ出る火花はブリッジを描き、鉄橋の手すりへ繋がって霧散される。火花の凶暴な音に驚いたのか、黒猫が美琴の側から離れた。

    カネキとミコトの距離はわずか7メートル。

    その7メートルが遠く見える。カネキの身体能力であればなんとか踏み込めるが、ミコトにしてみれば光の速度の雷撃をいくらでも放てるほどの射程距離内。

    どちらが有利なのか一目で分かる。

    「ちょっと、いつまでいるのよ、アンタ……」

    ミコトはいつまで経っても動かないカネキに向かってポツリと呟いた。

    カネキは何も答えない。

    その態度が許せないのか、ミコトは激昂して、

    「……戦いなさいって、言ってるでしょ?私を止めたければ、力づくで止めてみろっていってんのよ!ばっかじゃないの、たとえアンタが無抵抗でも私はアンタを撃ち抜くに決まってんじゃない!」

    ミコトの口から砲弾のように放たれる憎悪のこもった言葉。それに対して、カネキはポツリと一言だけ、答えた。

    「……ない」

    「―――?何を、言って?」

    ミコトはほんのわずかに眉をひそめ、

    「戦いたくない」

    カネキの言葉に、ミコトは愕然と凍りついた。

    ミコトは信じられないモノでも見るかのようにカネキを凝視して、

    「ばか、じゃないの?ハッ、アンタって本当に馬鹿じゃないの!私にはもうこの方法以外に道なんてない、だからそこをどきなさいよ!」

    「それでも、戦いたくない……」

    ミコトは肩を震わせ全身に帯電している青白い電気の蛇は手近な手すりや地面などに次々と散っていく。

    「く、そ。戦えって、言ってるのに……」

    カネキには動く気配は全くない。敵意も、殺気も、ただ同情の目を向けて
    いるだけだ。

    そんなカネキを見て、ミコトは全身から青白い紫電と感情を撒き散らし、



    「……戦えって、言ってんのよ――――――ッ!!」



    瞬間、ついにミコトの前髪から雷撃の槍が生み出された。自然界で生み出される雷の最大電圧は十億ボルト。ミコトのそれは雷に匹敵する。

    十億ボルトもの壮絶な紫電で生み出された、青白い光の槍。空気を突き破る電撃の槍は空気中の酸素を分解してオゾンに組み換え、一瞬にして7メートルの距離を詰めてカネキへと襲いかかる。

    ズドン!という轟音。

    青白い電撃の槍は、カネキの顔のすぐ横を突き抜けた。

    ミコトは歯を食いしばり、

    「戦う気があるなら拳を握れ!戦う気がないなら立ち塞がるな!ハンパな気持ちで人の願い踏みにじってんじゃないわよ!」

    パチン、という凶暴な咆哮と共にミコトの前髪から火花が炸裂する。

    電撃の槍が今度こそカネキの心臓目掛けて真っ直ぐ突き進む。

    そして、凶暴に吠える電撃の槍がカネキの心臓へ直撃した。







  23. 23 : : 2015/04/23(木) 17:25:11
    #018

    砲弾に薙ぎ倒されるようにカネキの体が地面へと叩きつけられた。そのまま勢いでゴロゴロと地面の上を1、2メートルも転がる。手足を乱暴に投げ出してうつ伏せに倒れるその姿はなんだか壊れた人形を連想させた。

    「―――――ッ!」

    避けなかった、自販機では避けられた電撃はまぐれだったのか…。驚きつつなぜだか諦めている自分がいる。

    もしかしたら、私の電撃も避けられて、肉体再生と身体強化の原石ならばもしかしたら…

    そんな

    淡い期待を

    していたのかも知れない

    あんな事を言ったのに……

    自嘲気味に、不意に、震える口を動かし、いつものように

    いつものように?いつもって何だっけ…?私のクローンが虐殺されているのにへらへら笑うこと?へらへらと…笑うこと…



    「あはっはははははははははははははははははははははは」



    このまま狂えたら楽なのに…


    ごめんね、みんな…それに…最後まで止めてくれたのに…私のせいで

    しばらくの静寂のなかカネキを見つめ、ミコトは実験場へ行こうとする。

    振り返る寸前、後ろで動くはずのない人間が動いた。
    さらに後ろで立ち上がる音がする。

    「な……」

    ……んで、と。その時ミコトは確かに呟いた。

    間違いなく直撃した。手応えもあった。でも…なんで?能力だとしても十億ボルトもの電撃を受けて立ち上がれるはずが…

    微かに肩を震わせながら後ろに振り返る。

    そこにいたのは十億ボルトもの電撃を受けてなお、無傷で平然と立っていたカネキだった。

    「…戦いたくない」

    な……、とミコトは思わず絶句した。

    「戦い、たくない?」

    全身を震わせ、ミコトは一瞬、ほんの一瞬、唇を噛んだ。

    何を言っているのだこの男は?電撃さえ放った自分に対してまだ…まだそんな事を…

    ここで助けてと言えば、助けて貰えるかもしれない。電撃を受けて立ち上がれる彼ならば

    だが、

    だとしても、

    それは絶対に許されない。

    プライドなんて捨てたミコトは本心をぶつける。

    「あの子達を助けるには、もう私が死ぬしかないんだから!だから、もうそれで良いじゃない!私一人が死んで、それでみんなが救われるなら、それはとても素晴らしい事でしょ!そう思うならそこをどいてよ!」

    ミコトは両手で耳を塞いで、硬く目を閉じて叫んだ。

    それでも、『戦いたくない』という声が聞こえた気がした。

    「……死ぬわよ」

    ミコトは目を閉じたまま、呟いた。

    「ここから先に救いはない!今度の一撃をまともに食らったらアンタは絶対生きられない!だから死にたくなければどきなさい!」

    ミコトの体から周囲に溢れる紫電の火花の音色が、重く鋭く変化していく。

    「……」

    それでも、一歩も動かない。

    ミコトは唇を噛み締める。薄暗い闇の中に光る月光にカネキの白髪が光る。深く突き刺さる、実験場でも見た髪も確かこんな色だった。

    ふと、一方通行と姿が重なる。

    瞬間、感情が爆発した。電撃もそれに呼応するかのような轟音を轟かせる。正真正銘の、天をも穿つ電撃の槍が発射された。

    ドォン!!

    爆発音が響き渡った。

    ミコトが恐る恐る目を開けると、何メートルも離れた場所に転がっていた。先程のように立ち上がらず、ピクリとも動かず転がっていた。

    「あ、」

    それで。

    終わった。

    今度こそ。

    本当に。

    「……」

    ミコトは歯を食いしばる。

    もう彼女を止めるものは何もない。諦めに似た何かがミコトの中にあった細い糸をブツリ断ち切った瞬間、ミコトは何かから解放されたような気がした。まるで糸の切れた風船がどこまでも飛んでいくように、何か決定的な破滅の待つ自由を手に入れたような、そんな感覚がしてもぞり、とカネキの指が動いた。

    「!?」

    あまりの現実を前に、ミコトは思わず凍りついた。

    うつ伏せに倒れ、投げ出された右手が、ピクリと動いた。ゆっくりと動き体を起き上がらせようと、ミコトを止めようとゆっくりと立ち上がろうと
    動くが、体が痺れているのかふらふらとして倒れた。

    「……ッ!」

    ミコトは駆け出した。

    「……どう。して?」

    走りながら、とうに錆びたはずの涙腺から、透明な錆びが落ちた。



  24. 24 : : 2015/04/24(金) 22:19:59
    #019

    風のない鉄橋の上に、カネキは横倒しに転がっていた。カネキは立ち上がろうと動いたが、体が言うことを聞かずに倒れてしまった。また立ち上がらず為体を起こすが、またふらふらとして倒れてしまう。

    「なに、やってんのよ。アンタ」

    そう声がする方向を見ると、ミコトがちょこんと正座していた。ミコトはカネキの頭を持ち上げるとミコトの脚へ乗せる。どうやら膝枕をしてくれるようだ。

    だが、

    「…早く、早く行かないと…僕が…」

    「……そんなにボロボロになって、汚い地面の上に転がって、短い間だけど、心臓だって止まってたかもしれないのに……」

    ミコトの声は震えていた。

    「何で、まだ行くなんて行ってられんのよ」

    ぽたぽたと、頭上から。カネキの頬に透明な雫が落ちた。

    悲しかった。目の前の少女を助けられないことが。

    目の前の少女から、罪悪感で目を離す。それでも少女は目から出てくる涙を手の甲で必死に拭い目を合わせようとする。

    その涙を止める為、必死に言葉を紡ぐ。

    「……分かったんだ…実験を…止める方法が…」

    ミコトの喉が、ひくっ、と驚いたように息を呑む音がする。その音で少しホッ、とする。

    「実験を…止めるには…僕が…僕が勝てばいいんだ…」

    「?勝つって…?アンタ何言って…」

    「もう…行くね…」

    体を無理矢理に起こす。多少痺れがあるが走れる。問題ない、これなら倒せる。

    「なに、言ってんの?」

    その目には驚愕の色が浮かんでいる。

    「無理よ、アンタは一方通行の力が分かってないからそんな事が言えるだけなのよ!あんな、世界中の軍隊を敵に回してケロリと笑ってられるような、マンガに出てくる反則じみた悪役みたいなヤツと正面から戦おうなんて考えがもうおかしいんだってば!」

    暫くの沈黙の後、ミコトが口を開く。

    「どうして?そんなに行きたがるの?知らないふりすればいいのに、どうして……ねぇ?」

    カネキは暫く考え、

    「何処に一方通行はいるの?」

    「もうあんな思いはしたくないんだ」

    「教えて」

    ミコトは泣き疲れた顔で答えた。



     
    カネキはひとまず黒猫をミコトに預けると、一人夜の街を走っていた。

    学園都市の西の外れには大きな工業地帯がある。そこにある列車の操車場が、第10032回目の『実験場』らしい。

    ひたすら走る。歯を食いしばってひたすら全力で繁華街を駆け抜ける。
    繁華街を抜け、住宅街を走り、少しずつ街の喧騒や灯りが遠ざかっていくような気がした。さらに走ると、学生寮もまばらになってくる。人工的に植えられた小さな林をくぐり抜けると、そこが工業地帯だった。背の高い、けれど窓のない『工業ビル』が延々と建ち並ぶ街だった。区画は妙に整理され、逆に生活感が欠片もない。

    まるで、死んでいるような街だな…

    カネキはそんな事を考えていた。



    御坂妹はいつものように、一方的に、一方通行に、殺されかかっていた。

    あと、たった一撃で。それなのに、何故か一方通行は動きを止めた。彼はゆっくりと肩越しに背後を振り返って、何かを見る。

    なに、が……?

    仰向けに倒れている御坂妹の位置からだと、丁度立ち塞がる一方通行の体が壁となって彼が何を見ているかが分からない。だが、一方通行はその場で凍りついていた。彼にとっては『最強』から『無敵』へ昇華するための大事な『実験』であるはずなのに、そんな事も忘れてしまったかのように。

    「……おい。この場合『実験』ってなァどうなっちまうンだ?」

    一方通行は、凍りついたままポツリと尋ねてきた。

    自分が殺そうとしていた相手に向かって尋ねるというのも変な話だ、と御坂妹はぼんやりと考える。しかし、一方通行はいつまで経ってもそのまま動かない。
    御坂妹は砂利の上を這って移動し、一方通行の見ているものを、視線で追いかけた。
    操車場の外周付近、山積みとなったコンテナの隙間の辺りに、誰かが立っていた。

    そこには、『実験』と何の関係もない一般人が立っていた。


      『金木 研』が、立っていた。







  25. 25 : : 2015/04/25(土) 17:28:10
    #020

    一般人へ介入された時のマニュアルというのうを一方通行は知らないのだろう。突然現れたただの高校生を、どう扱って良いか分からないという顔で見ている。一方カネキは御坂妹をチラリと、見て

    「……ごめん」

    そう呟いた。

    「な、にを、―――――」

    「僕のせいだ……ごめん」

    ボロボロの自分を見ながら謝ってくる。

    一方通行は何か興醒めしたという顔を浮かべ、

    「……ホントさァ、マジで頼むぜ。で、どうすンだよこれ。『実験』の秘密を知った一般人の口は封じる、とかってェお決まりの展開かァ?くそ、後味悪利ィな。なンせ使い捨ての人形じゃなくてマジモンの一般

    「黙れよ」

    低く、重く、鋭いその言葉は一方通行を黙らせた。そして次の瞬間には大きく引き裂かれた笑みを浮かべ、

    「オマエ、ナニサマ?誰に牙剥いてっか分かって口開いてンだろうなァ、オイ。学園都市でも七人しかいねェ超能力者、さらにその中でも唯一無二の突き抜けた頂点って呼ばれているこの俺に向かって、黙れ?オマエ、何なンだよ。カミサマ気取りですか、笑えねェ」

    低い静かな声に混じって静電気のような殺気が周囲の空気へ漏れていく。

    それでも、カネキは一方通行を睨んでいた。

    たとえ相手が最強だろうが最高だろうが最良だろうが、知った事ではないと。灼熱するその眼光は無言のままに告げていた。

    「……ヘェ。オマエ、面白れェな」

    一方通行の赤い瞳が凍る。

    「オマエ、本当に面白れェわ」

    一方通行の視界は、御坂妹からカネキへと移された。『実験』の事などさておき、とにかくカネキの視線を潰す方が百倍先決だと言わんばかりに。

    白い少年は再度、薄く広く笑みを浮かべる。

    カネキはそんな一方通行に向かい脚に力を入れ、何メートルかの距離を一気に詰める。

    ヘェ、身体強化のレベル4ってところかァ?

    そんなカネキに対して一方通行は一歩も引かずに拳すら握らず冷静に分析する。

    そして、まるでリズムを刻むように、足の裏で小さく砂利を踏んだ。


    ゴッ!!と。


    瞬間、一方通行の足元の砂利が地雷でも踏んだように爆発した。

    四方八方へと飛び散る大量の砂利は、言うならば至近距離で放たれる散弾銃を連想させた。

    「……ッ!」

    カネキは咄嗟に両腕で顔を庇う。あまり傷はつかずすぐに攻撃に移ろうとするが、

    「……遅っせェなァ、オマエの能力は身体強化じゃなくてェ肉体再生かァ?まァ、再生する前に殺せばァ関係ねェよなァ!」

    一方通行が地を踏みつける。

    たったそれだけで足元に敷かれていた銅鉄のレールが一本、バネに弾かれるように直立した。一方通行は裏拳で直立したレールを殴り飛ばす。

    ゴォン!!

    轟音が操車場に響き渡った。くの字に折れ曲がった銅鉄のレールが、まるで砲弾のような勢いでカネキの元へ一直線に飛んでくる。

    「!?」

    カネキは驚き横に跳んで避ける。そこに砂利が飛んでくる。

    ガードする前に無数の小石が当たるが多少の打撲はすぐに治る。そんなカネキへ向け再度レールが数本飛んでくる。レールが腹に当たり吐血し膝をつく。

    「ゲホッ!!」

    白いシャツに赤い血が染みる。一方通行はそんなカネキを見てつまらなそうに

    「ンだァ、もう終わりかよ、ンじゃとっとと終わらせ?」

    攻撃で破れたカネキのシャツからは、赤黒い触手のような何かが傷を治している。そしてゆらりと立ち上がる。

    「アッハッ!何だそれはァ、面白ェ」

    そんなカネキに思わず笑みを浮かべる。

    一方カネキは考えていた。どうしてだろう、と

    どうして、こんな強さを持っていて実験なんてしているんだろう…

    ふと、昔の事を思い出す。

    嗚呼、なんで気づかなかったんだろう…彼もそうなのか…

    「ねぇ、君の目的教えてあげようか」

    「?ついにイカれちまったかァ?目的なンて無敵に」

    「そうじゃない、君は何で無敵になろうとしているかっていう事だよ」

    カネキは正面から一方通行を見る。そして暫く黙って話す。



    「……傷つけない為なんでしょ。誰も、向かってこないように」




    反論の声は聞こえない。だが驚きのあまり、一方通行は目を見開いている。ようやく出てきた言葉は

    「ふざけんなァ、そんな理由じゃねェしオマエに関係もねェ。だからとっとと死にやがれェ!」

    そう怒鳴り付け、一歩で、たった一歩で数十メートルの距離を詰める。

    「でもね、そんな理由でも彼女達を殺したんだ。なら殺されても仕方ないよね」

    瞬間、赤黒い何かが一方通行に向かっていった。
  26. 26 : : 2015/04/26(日) 15:16:41
    #021

    赤黒い何かを見た一方通行は咄嗟に足のベクトルを変え横に大きく跳んだ。

    赤黒いモノは、後ろのコンテナを大きく抉った。コンテナからは白い粉末が出てくる。

    「ンだァ、それはァ?」

    一方通行はギョっとしてカネキに尋ねる。

    「………」

    カネキは何も答えずに、親指で人指し指の関節を鳴らす。ボキッという音が辺りに響く。

    「ハッ、教えねェってかァ。まァ殺すからァ関係ねェよなァ」

    一方通行は狂った笑みを浮かべ状況を考える。ふと白い粉末の正体に気づいた。

    「ふン。どうやらコンテナの中身は小麦粉だったみてェだが。今日はイイ感じに無風状態だし、こりゃあひょっとすっと危険な状態かもしンねェなァ?」

    カネキは驚き、一方通行が何をしようとしているか分かった。御坂妹の元へ脇目も振らずに一直線に走る。


    「なァ、オマエ。粉塵爆発って言葉ぐれェ、聞いた事あるよなァ」


    瞬間、あらゆる音が吹き飛ばされた。

    小麦粉の粉末が撒き散らされた、半径三十メートルもの空間そのものが、巨大な爆弾と化したのだ。まるで空気中に気化したガソリンに火がつくように、辺り一面の空間が爆発して炎と熱風を撒き散らす。

    その時、カネキはギリギリで御坂妹を抱え小麦粉のカーテンの中から脱出していた。が、衝撃波が背中に叩きつけられると、体勢を崩し倒れそうになるが何とか持ちこたえ御坂妹をそっと下に下ろす。

    御坂妹は分からなかった。自分にそうまでする少年の行動が、

    「何をやっているのですか、とミサカは再度問いかけます。いくらでも替えを作る事のできる模造品のために、替えの利かないあなたは一体何をしようとしているのですか、とミサカは再三にわたって問いかけます」

    「………」

    少年は黙って聞いている。

    「ミサカは必要な器材と薬品があればボタン一つでいくらでも自動生産できるんです、とミサカは説明します。作り物の体に、借り物の心。単価にして十八万円、在庫にして九九六人も余りあるモノのために『実験』全体を中断するなど」

    「……いいよ、もう。いいよ」

    御坂妹はギョっとして尋ねる。

    「な、にを?」

    「事情は分からないし、はっきり言うとどうでもいい。単純に、君には死んでほしくないから。それに悲しむ人もいるから、まぁ勝手だけどね」

    ハハッ、と軽く笑うその横顔は御坂妹にはどこかとても寂しく見えた。

    それでも御坂妹は自分の命なんていくら失っても問題ないと思っている。
    それでも御坂妹にはその言葉は深く、鋭く、突き刺さった。悲しむ人が、自分にもいるという言葉が突き刺さった。

    「だから、ちょっと待ってて」

    でも、あなたは何故ミサカに死んでほしくないと思うのですか?とミサカは考えます。

    そうして御坂妹は意識を失った。

    「オイ、もう安いメロドラマは終わりかァ?ンじゃとっとと終わりにしてもイイよなァ」

    突如、一方通行が足のベクトルを操作してカネキに右手を突きだす。

    そんな一方通行に向かってカネキは拳を握り殴り付けようとする。


    ゴキッ!!


    骨が砕ける嫌な音がカネキの拳からした。一方通行の反射でダメージがカネキに当たった。一方通行の右手は何とかカネキに当たらなかった。

    「ハハッ、まだ右手が当たらなくて良かったなァ。でも、そんな手じゃどっちみち死ンじまうけどなァ」

    カネキは骨が折れて力が入らない右手を見ると、また拳を握った。

    「肉体再生って厄介だなァ。攻撃しても治してきやがる」

    「このぐらいなら、何回でも戻せるよ」

    「でも、一瞬で死んだらどうなんのかなァ」

    再度、一方通行はベクトル操作をしてカネキに襲いかかる。カネキは拳を握らずに赤黒いモノを一方通行へ向かっていく。

    「ハッ、ンなもン反射し」


    ビシャ


    血が跳ねる音がする。

    今度は一方通行の腹部から血が跳ねている。

    ンだァ?なンで俺血なんか出して?

    「あ、は?い、たい。はは、何だよそりゃあ?面白ェ!」

    一方通行は血の向きを操り出血を押さえる。

    「これ、赫子って言うんだけど君には関係ないよね」

    ゾッとする声音でカネキはそう言う。一方通行が本能的に後退りをしたくらいだ。

    「っ!く、は、面白ェ、何なンだよそれはァ!」

    声を荒げて、再度襲いかかる。真っ白な髪に赤い血が付いている。いくら止血しても血は取り戻せない。もう一度攻撃が当たれば危険な状態だ。


    グシャ


    聞きたくもない音がその場に響いた。










  27. 27 : : 2015/04/27(月) 18:15:55
    #022

    「はっ……ハァ……!」

    一方通行は上体を起こし、前を見る。そこにゆらりと近づくカネキの姿を確認して、手だけを使ってずるずると後ろへ下がる。

    痛い。

    全ての攻撃を自動的に反射してきた一方通行にとって、それは未知の感覚だった。彼にとって痛点とは皮膚から快楽を脳へ伝える器官にすぎない。痛みに対する耐性をまるで持たない幼い痛覚神経が、過剰な信号を受けて焼き切れそうになっている。カネキが此方に近づいてくる。

    カネキとの距離、五メートル。

    一方通行は手に全神経を集中させる。あの赤黒いモノは反射できないし、レールを当てても再生してくる。ならば、

    一瞬で、殺せば関係ねェ

    そう結論づけカネキが近づくのを待つ。

    カネキとの距離、二メートル。

    一メートル、八十センチ、五十センチ、三十センチ。

    腕を精一杯伸ばす。そして、カネキの足を掴んだ。


    筈だった。


    一方通行が掴んだ瞬間、それはただの肉片になった。爆発した。

    カネキの体もそうなる


    筈だった。


    それなのに、カネキは生きている。

    「オマエ、まさか」


    「足を切り離したのかァ?」


    一方通行はあり得ないモノを見るようにカネキに問う。カネキの切れた断面からは再生をして足を取り戻している。

    確かに、足を切り離せば体が爆散することが防げるが、痛みや再生のことを考えれば普通の人間はやらない。

    「オマエ、何なンだよォォォォォォ!」

    一方通行は今まで一度も味わった事のない感覚。恐怖を覚えた。怒鳴り付け平静を保とうとするがそれでも体から嫌な汗が出てくる。本能が告げている。


     コイツは


             人間じゃない。


    嫌だ。死にたくない。こんな化け物に殺されるなんて。

    カネキは無表情で一切の感情を切り離しているように見える。それが、一方通行にとって、ただただ不気味で逃げたかった。

    手を持っている足から振り払い立ち上がろうと地につける。その時一方通行は確かに何かを掴んだ。


    風?


    一方通行は不意に気づいた。


    風。


    「く」

    一方通行は笑う。カネキは思わず立ち止まる。

    「くか」

    一方通行の力は触れたものの向きを変えるというもの。運動量、熱量、電力量。それがどんな力であるかは問わず、ただ向きがあるものならば全ての力を自在に操る事ができる、ただそれだけの力。

    ならば、同様に。

    この手が、大気に流れる風の向きを掴み取れば。

    世界中にくまなく流れる、巨大な風の動きその全てを手中に収める事が可能――――ッ!

    「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきこけきけけききくくくききかきくけこききこきかかか――――ッ!!」

    一方通行は見えない月を掴むように、頭上へ手を伸ばす。


    轟!!


    と音を立てて風の流れが渦を巻く。

    目の前の少年の顔色が変わった。今更気づいた所でもう遅い。すでに一方通行の頭上には、まるで地球に穴が空いたような巨大な大気の渦が、球形を取って砲弾のように待機している。バチバチと辺りの砂利が舞い上がり、直径十メートルに及ぶ巨大な破壊の渦が歓喜の産声をあげる。

    一方通行は笑いながら、

    殺せ

    と叫んだ。

    世界の大気をまとめあげた破壊の鉄球は風を切り、

    風速百二十メートル、自動車すら簡単に舞上げるほどの烈風の槍と化して見えざる巨人の手はいとも容易く少年の体を吹き飛ばした。

    風が死に、音が死に、大気が死んだ。






  28. 28 : : 2015/04/28(火) 21:33:28
    #023

    一方通行は己が作り上げた惨状を見渡す。操車場の地面を覆っていた砂利は風の塊に舞い上、所々は土の地面が見え隠れしていた。二十メートルも吹き飛ばされた少年は壊れた風力発電のプロペラの支柱に背中から激突して、ずるずると地面へ崩れ落ちている。風速百二十メートルで何かに激突するのは、交通事故で自動車にノーブレーキで撥ね飛ばされるのと大差ない。



    あの化け物の事だから生きている筈だ。

    一方通行は夜空を抱くように両手を広げて頭上へ吠える。

    「空気を圧縮、圧縮、圧縮ねェ。はン、そうか。イイぜェ、愉快な事思いついた。おら、立てよ化け物。オマエにゃまだまだ付き合ってもらわなきゃ割に合わねェンだっつの!」

    カネキは答えない。

    無数の鋼鉄レールが砂利の上へ十字架のように突き立つ景色の中、暴風と狂笑だけが墓地に流れる死風のように吹き抜けていた。

    美琴の足元で黒猫が、みーと不安そうに鳴く。

    その瞬間、御坂美琴は操車場の中へ踏み込んだ。

    「止まりなさい、一方通行!」

    美琴は何十メートルも離れた場所から、その手を突き出した。

    だが、一方通行は御坂美琴の超電磁砲の事など見向きもしない。

    やれるものならやってみろと言わんばかりに、さらに暴風に力を増す。

    攻撃すれば攻撃した分だけダメージは跳ね返る。

    強力な一撃を浴びせれば浴びせるだけ、その衝撃は舞い戻る。

    「……ッ!」

    美琴の指が震えた。

    超電磁砲など返されれば、美琴の体は音速の三倍で粉微塵にされる。

    超電磁砲と一方通行が戦えば、百八十五手で御坂美琴は惨殺される。冷たい機械が打ち出した決して変える事のできない演算結果が、美琴の心臓へ氷の破片のように突き刺さる。

    それでも、美琴は顔を上げる。


    敵が勝てる相手だから、誰かを守りたいのではない。
    誰かを守りたいから、勝てない敵とも戦うのだから。


    何か嫌だな。まだ死にたくないなぁ、妹達大丈夫かなぁ、それにアイツともっと話したいし。能力も聞きたいし……

    でも、やっぱり私が死ぬしかない。

    美琴は大きく深呼吸して、決して勝てない敵へと右手を突き出した。

    どうしてこんな事になっちゃったのかな、と美琴はぼんやりと考えた。

    何でもっと違う、ずっと異なる、誰もが笑って誰もが望む、最高に幸福な終わりはないのか。誰一人欠ける事もなく、何一つ失うものもなく、みんなで笑ってみんなで帰るような、そんな結末はないのか。

    ぼんやりと宙に浮かぶ美琴の思いを嘲笑うように、一方通行は両手を広げて夜空を見上げる。

    瞬間、街中を流れる風が一点へ集中した。そこに暴風が集められた瞬間、何か溶接のような眩い白光が生まれる。

    高電離気体。

    「――――――――ッ!」

    美琴の背骨が瞬間冷凍したように寒気を訴えた。

    あれはもう人類に防ぐ事のできる一撃ではない。

    美琴は電撃を操れても、風を操る事はできない。美琴は全く役に立たない己の力に歯噛みしてそこでふと気づいた。

    ようは、風さえ操れれば一方通行を止められるのか、と簡単な事に気がついた。

    「あ、」

    美琴は思わず馬鹿みたいにポカンと口を開けた。

    からからと。風力発電のプロペラが髑髏のような音を立てて回転している。
  29. 29 : : 2015/04/29(水) 19:56:39
    #024

    学園都市には、街中の至所に風力発電のプロペラがある。そして、そのプロペラは特定の電磁波を浴びせる事で回す事ができる。一つ一つは小さな風しか生まないプロペラでも街中のプロペラおよそ十万を超える数が風を撹拌するとなれば話は異なる。結果として、一方通行は、風の制御を手放す事になるかもしれない。

    だが、超能力者の御坂美琴がプロペラを操っては意味がない。この戦いに美琴が直接手を出しては、実験を止める事はできない。あくまで御坂美琴の能力はこの勝負に干渉しない、という条件を守るなら。


    これは世界でただ一人、御坂妹にしかできない仕事だ。


    美琴は砂利の上に置かれたままの御坂妹に駆け寄った。

    全身がボロボロの御坂妹は、自分の脚で立ち上がるだけの体力すら残されていないらしい。そんな状態の彼女にさらに無理を聞かせるのは気が引けた。

    だが、もう頼むしかない。

    「お願い、起きて。無理を言ってるのは分かっている。自分がどれだけひどい事を言ってるのかも分かってる。だけど、一度で良いから起きて!」

    だが、もう頼むしかない。

    「アンタにやって欲しい事があるの!」

    誰一人欠ける事なく、何一つ失うものなく。

    みんなで笑って、みんなで帰るためには。

    「たった一つで良い、私の願いを聞いて!私にはきっと、みんなを守れない。どれだけもがいたってあがいても、絶対に守れない!だから、お願いだから!」

    誰もが笑って、誰もが望む。

    そんな、最高に幸せな結末に辿り着くためには。

    「お願いだから、アンタの力でアイツの夢を守ってあげて!」


    御坂妹は、断続的に途切れる意識の中で、お姉様の叫びを確かに聞いた。

    支離滅裂で暴力的で訳が分からなかったけど、自分を失ったぐらいで悲しむ人が出てくるなんて事を知ってしまったらもう死ぬ事などできない。

    「その言葉の意味は分かりかねますが、何故だか、その言葉はとても響きました、とミサカは率直な感想を述べます」

    だから御坂妹は、まだ立ち上がる事ができた。



    轟!!



    という風のうなりと共に、いきなり頭上に浮かぶ球状の高電離気体の形が崩れた。

    「な……?」

    計算を間違えた覚えはねェ、一体何が……

    焦る一方通行はそこで、カラカラという乾いた音を聞いた。

    風力発電のプロペラが回る音を。

    確か、聞いたことがあンぞ。確か発電機のモーターってなァ、マイクロ波を浴びせっと回転するって話が……ッ!

    一方通行は自分が打ちのめしたはずの妹達の方を振り返る。

    だが、そこには死にかけの少女などいなかった。

    そこにいるのは一方通行の敵だった。

    今にも折れそうな脚で懸命に立ち上がり、全身に走る激痛に泣き言の一つも言わないで無言で一方通行を睨みつけているような、そんな敵がそこにいた。

    あの、ヤロウ。

    一方通行の赤い瞳が殺意に紅く色を変える。

    殺す、と

    一方通行は、顔面を引き裂くような」笑みを浮かべて妹達の下へと一歩踏み込んで、

    両者の間に、御坂美琴が割り込んだ。

    一方通行は、そんな美琴を邪魔だと思い、まずは彼女から殺してしまおうと考え


    ボキッ!!


    一方通行の背後で、何か物音が聞こえた。
  30. 30 : : 2015/05/05(火) 17:25:46
    #025

    「……」

    一方通行は、恐る恐る振り返る。

    そこに、分かっていた筈なのに信じられない光景が広がっていた。


    何一つ傷を負わず親指で人差し指を


    ボキッ!!


    と鳴らして、此方を睨んでいた。


    「……………………ッ!」


    一方通行の喉が、砂漠のように干上がった。

    あれだけの攻撃で何一つ傷を負っていない。だけでなく、腰の辺りから赤黒いモノを出している。体の隅々が、軋んだような危険信号を発していた。


    カネキは癒えた体を動かして一歩前へ進む。


    「面白ェよ、オマエ」

    一方通行は拳を握る。

    「最っ高に面白ェぞ、オマエ!」

    そうして夜空に吠えるように絶叫した一方通行は、カネキを撃破するために拳を握って駆け出した。例の、地面を蹴る足の力の向きを変更した。

    砲弾じみた速度であっという間に距離を縮めてくる。

    カネキは冷静に一方通行を目で追う。


    この速度なら、触手刺す暇もねェよなァ!!


    勝利を確信し、弾丸のような速度で真っ直ぐにカネキの懐へ飛び込んできた。

    右の苦手、左の毒手。

    共に触れただけで人を殺す一方通行の両手が、カネキの顔面と襲いかかる。

    「―――――」



    ビシャ!!



    カネキへ触れる前に一方通行の細い体が吹っ飛ばされる。

    赤黒いモノが一方通行を凪ぎ払った。僅かに一方通行に刺さったらしく血がカネキの白い髪に付いている。


    ありえない……


    美琴は驚き絶句して立ち尽くしている。回復力は勿論だが、それより赤黒いモノだ。

    そんな事を露とも知らぬカネキは、御坂妹と美琴の方へ真っ先に走っていく。

    御坂妹の所へ着くと、黙って背中に背負う。

    何か声をかけようとするが、何を言って良いのか分からず口をパクパクさせてしまう。

    別れ際にカネキが、


    「またね。御坂さん」


    そう言い、何処かへ行ってしまう。


    「ちょっ、待っ」


    追い掛けようとしたが、既にカネキの姿は見えなくなっていた。


    「もう、何なのよ」


    美琴は自分が知らぬ間に口許にうっすら笑みを浮かべていた。



    ――某病院にて――

    翌日

    「まったく、君はどうしてそんな血だらけなのかな?」

    「いや、これは、そのー」

    質問に対し戸惑いどうしようか悩んでいると、

    「その辺にしてあげてください、とミサカは助け舟を仕方なく出します」

    「仕方なくって……」

    はぁー、としょげるカネキをよそ目に二人は会話を続ける。

    「それにしても、君も凄い傷だったけど大丈夫なのかい?」

    「はい。大丈夫です、とミサカは答えます」

    「そうかい。でも昨日は驚いたよ、急患が血だらけだったしね。尚更」

    「それは申し訳ありません、とミサカは頭を下げます」

    ペコリ、と御坂妹は綺麗にお辞儀をする。

    「いいよ、これは仕事だしね」

    ちなみに二度目だしね、とカネキの方を見て言う。

    「ははっ、すいません」

    カネキも頭を下げる。

    気をつけてね、そうカエル顔の医者は言い去っていった。

    「あなたは、大丈夫なのですか?とミサカは心配に思います」

    「うん、特に怪我もないし大丈夫だよ」

    「ですが、その血や爆発の衝撃はどういう事なのでしょう?とミサカは疑問を問い掛けてみます」

    「このくらいは、大丈夫だよ」

    「そうなのですか?とミサカは問いかけます」

    「そう。それより御坂さん?は大丈夫なの?包帯凄いけど」

    「多少痛みますが大丈夫です、とミサカは答え腕を押さえます」

    「っとそれは大丈夫なんだよね?」

    複雑な言い回しにカネキは悩む。

    「はい、とミサカは答えます」

    「そっかならよかった」

    微笑すると、普段笑わない御坂妹の口許がうっすら笑みを浮かべていたような気がした。





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