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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

永遠の翼【リヴァイ誕生日企画】

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  1. 1 : : 2014/12/19(金) 22:02:41
    こんばんは。執筆を始めさせていただきます。

    *せきせいいんこ*さんの企画に参加させていただきました。

    詳しくは、こちらまで♪→http://www.ssnote.net/groups/1006/archives/2

    今回の条件です↓↓↓

    * 亀さん更新

    * 『悔いなき選択』のキャラクター、イザベル、ファーランが登場します(なかでも、イザベルはメインキャラとして登場する予定です)

    * 読みやすさを優先し、コメントは制限させていただきます。

    感想やご意見など、こちら→http://www.ssnote.net/groups/964/archives/3にいただけると、たいへん励みになります。

    よろしくお願いします。
  2. 2 : : 2014/12/19(金) 23:03:13



    夢をみているのは、分かっていた


    「兄貴、見てみろよ!今日は、すごい良い天気だぜ!」


    なぜだろう。自分たちは、いつもの地下街ではなく、地上にいた。


    それも、美しい青空のもと、どこまでも続く緑の平原を、馬に乗り、駆けている。


    見たことのあるような場所だが、なんにせよ、暖かな陽射しもあいまって、ここは、とても心地好い。


    隣には…イザベル…そしてファーラン


    ファーランは、ふりそそぐ陽の光に、眩しそうに目を細めている。


    その顔は、とても清々しい。


    イザベルは、というと、ファーランと同じく、空を見つめ、それはもう、嬉しそうに笑っている。


    「兄貴、俺、今日はなんか…空も飛べそうだ!」


    イザベルが、こちらに笑みを向ける。


    「馬鹿か。」


    人間が空なんざ飛べるわけねぇだろ…


    リヴァイは、そう伝えたかったのだが、どうやらイザベルには、聞こえてないらしい。


    イザベルは、手綱を引き、馬の速度を上げる。


    「兄貴…俺、行くぜ!」


    そう言うが早いか、イザベルはリヴァイを残し、どんどん走ってゆく。


    見るとファーランも、同じように馬を走らせ、駆けてゆく。


    その表情はとても穏やかで


    まるでその先に、光輝く何かが、待っているかのようだ。


    待て…待ってくれ…


    リヴァイは、2人のあとを追う。


    しかし、追いつくどころか、2人との距離は、どんどん広がってしまう。


    「兄貴~っ!!!」


    イザベルの声。とても懐かしい。少し前まで、毎日のように聞いていたのに。


    うっとおしいほどに、聞こえていたというのに。


    それも…もう…





    ーガタン!

    「ーっ!?」

    窓辺から聞こえる物音に、リヴァイは目を覚ました。
  3. 3 : : 2014/12/21(日) 12:51:58


    ー850年


    音のする方を見る。窓辺。

    2羽の小鳥が、閉ざされた窓の向こうにとまっている。

    リヴァイは、窓に歩み寄った。

    人がすぐ近くにいるにもかかわらず、小鳥たちは飛び立つ様子もなく、羽を使って顔を撫でたり、お互いにつつき合ったりしている。

    リヴァイの目を覚まさせた原因がこの2羽であることに、疑う余地もなかった。

    リヴァイは何気なく、小鳥たちを見つめる。

    頭から首までと、尾の部分が茶色く、胴体は薄い灰色だ。


    そう、ちょうど今朝の空のような


    リヴァイは、そっと窓に手をかける。

    ガタン、と音を立て、その音に驚いたのか、2羽はほぼ同時に、空へと羽ばたいてゆく。

    2羽の羽ばたきを促すように、リヴァイは窓を開け放つ。

    小鳥たちは、自分の体とよく似た色の、どんよりとした灰色の空に向かって、どんどん舞い上がってゆく。


    季節は冬。


    冷気を帯びた空気が、きりり、とリヴァイの頬を刺す。


    『あいつら…どこ行くんだろうな…』


    ふと、懐かしい声が蘇る。自らの温かな場所に閉じ込めた、あの声。

    「…。」

    冷たい風が、リヴァイの体をすり抜ける。リヴァイはその寒さに身を縮こませ、開け放したばかりの窓を閉めた。


    彼らが飛び立ってゆくその先を、見ないままで。
  4. 4 : : 2014/12/25(木) 21:31:39
    着替えを済ませ、リヴァイは部屋を出た。

    朝食を摂るため、食堂に向かう。


    寒い。屋内にいても、吐く息がわずかに白い。

    食堂に近づくにつれ、食欲をそそるにおいが、リヴァイの鼻腔をくすぐる。


    「おはようございます、兵長。」


    食堂に入るなり、1人の女性兵士が、にこやかにリヴァイを迎える。

    彼女の名は、ペトラ・ラル。リヴァイを長とする特別作戦班、通称リヴァイ班のなかで、唯一の女性兵士である。

    「…ああ…」

    リヴァイは、そう一言告げると、空いている椅子に腰かける。

    「今、お食事用意しますね。」

    リヴァイのそっけない態度に気を悪くする様子もなく、ペトラは厨房へ向かう。

    「…ああ…」

    リヴァイは、先程と変わらぬ様子で応じた。
  5. 5 : : 2014/12/25(木) 21:54:30
    そこへ、2人の男性兵士が、食堂へとやってきた。

    2人とも、リヴァイの姿を認めるなり、そろって敬礼する。

    「おはようございます、兵長。」

    リヴァイは、そんな2人に視線を向けることなく言った。

    「…いちいち敬礼する必要は無い。早く席につけ。」

    「はい。失礼しました。」

    リヴァイの言葉に、2人は素直に敬礼をやめ、リヴァイとは少し離れた席に腰かける。

    2人の兵士の名は、エルド・ジン。そして、グンタ・シュルツ。ともに、リヴァイ班に所属する兵士である。

    リヴァイは、ふと2人に視線を向け、口を開こうとする。

    が、やめた。リヴァイの耳に、あわただしく近づいてくる2つの足音が飛び込んできたからである。


    「おはようございます、リヴァイ兵長!」

    食堂に入るなり、慌てて自分の前で敬礼してみせる少年の姿に、リヴァイは、ため息をついた。

    「…遅いぞエレン。ここは民宿じゃねぇんだ。のんきに朝寝坊してる立場じゃないことは、お前も自覚してると思っていたが…」

    色めき立つリヴァイの言葉に、エレンと呼ばれた少年は、さっと青ざめ、

    「…申し訳ありません、兵長。以後、気をつけますので…」

    リヴァイは、ペトラが運んできたコーヒーをすすりながら

    「…てめぇがどんな理由で寝過ごしたかは知らんが、次は許さん。…もういい。席につけ。」

    「…はい、すみませんでした…」

    エレンは、リヴァイの正面の席に腰をおろした。





  6. 6 : : 2016/04/14(木) 21:39:31
    リヴァイはペトラが淹れた紅茶を一口飲むと、新兵と共に慌ただしく起床してきた兵士に、鋭い視線を向ける。


    「オルオ」


    「は、はい!」


    「確か今朝のエレンの担当はオルオ、お前だったよな」


    オルオ・ボザドは、額に汗をにじませながら


    「はい、すみません兵長…エレンの奴がなかなか起きなくて…」


    今度はエレンに視線が移ると、エレンも必死に頭を下げ


    「本当に…申し訳ありませんっ」


    自らの体を巨人化させる能力を持つエレン・イェーガーは、常にリヴァイ班の監視下に置かれている。


    その朝エレンは、オルオが何度起こしてもなかなか起きて来なかったのだ。そのために上官から叱責を受けてしまい、オルオはうらめしそうに新兵をにらんだ。


    「エレン…大丈夫なの、どこか具合でも悪いの?」


    ペトラが心配そうにエレンの顔を覗き込む。


    「えっと…こんな事話すのも、どうかと思うんですが…」


    「なんだ。話すならさっさと話せグズが」


    苛ついた口調の上官を目の前にして、エレンは遠慮がちに口を開いた。


    「夢を…みたんです…」


    「夢…だと?」


    「いったい、どんな夢なの?」


    先輩に促され、エレンは続ける。


    「同期の夢です…」


    それを聞いたとたん、オルオは、ふん、と鼻で笑ってみせ


    「おいおい、どうやらまだ訓練兵の頃の甘ったれた気持ちが抜けて無いんじゃねぇか…まあ、俺の域に達すれば…」


    「甘ったれた気持ち…なのかどうかは、分かりませんが…」


    オルオが言い終えるより先に、エレンは続ける。


    「その同期たちは…もう死んでいるんです。そして、オレの夢の中でそいつら…泣いていたんです…」


    話を聞き終えた一同は、何かの痛みに耐えるかのように、沈痛な面持ちのまま、うつむいた。

  7. 7 : : 2016/04/15(金) 22:25:48
    「きっと悔しかったんでしょうね」


    ペトラは、ぽつりと言った。


    「きっとその夢に出てきた子たちは…死にたくなんかなくて、自分の夢を叶えたくて…」


    ペトラはそのまま、遠くを見つめていた。その先には、もう手の届かない何かがあるのだろうか。


    「…朝食の雑談はこれで済んだだろう」


    ティーカップを置くと、リヴァイは席を立った。


    「これからまた訓練だ。各々理解していると思うが、余計な雑念は即命取りだ」


    先程のエレンとペトラの会話を聞き、感傷に浸る班員たちを尻目に、リヴァイは足早に立ち去ろうとする。


    「兵長は」


    ペトラの声に、リヴァイは立ち止まる。


    「兵長は、強いから…私たちのこんな気持ち、分からないのかもしれませんね…」


    聞き取り様によっては反抗的とも言える発言に、エルドは眉を潜めた。


    「おいペトラ、お前なんて事…」


    「…いや、構わん…」


    リヴァイは言った。


    「ペトラ。そう思っていても、俺は構わん。ただ訓練は怠るな…これは命令だ」


    そして、部下たちに向かって


    「お前たちも同じだ」


    ガタンッ!


    窓だ。窓に何かがぶつかったようだ。


    「兵長…見てください…」


    いち早くぶつかった何かを確認したグンタは、リヴァイにそれを見せる。


    面倒とは思いながらも、リヴァイはそれを見るなり、眉間のしわを深くした。
  8. 8 : : 2016/04/16(土) 22:32:24
    皆も、グンタを取り囲む様にして、それを覗き込んだ。


    「鳥…ですね」


    「死んでるの?」


    「いや。まだ息はある。気を失っているだけだろ」


    グンタの手のひらでうずくまっている鳥は、体は小さく、頭と尾の部分が茶色くて胴体は薄い灰色だった。


    「また外に放しておくか」


    窓を開けようとするグンタにペトラは


    「でもその子大丈夫かしら…目が覚めたらまた飛んでゆけるかしら」


    見たところ目立った外傷は無いが、もしかしたら窓にぶつかった衝撃で翼の骨でも折っているのかもしれない。


    心配顔のペトラに、エルドは肩をすくめ


    「おいおい。まさかこの鳥を治療する、とか言い出すんじゃないだろうな」


    「そのまさかよ」


    ペトラはグンタからそっと鳥を受け取る。


    「おい、そんな事言って…」


    エルドは上官の顔色をうかがう様に視線を移した。


    リヴァイは黙ったままペトラを見ていた。ただその視線は、任務をないがしろにしようとする怒りや呆れと言うよりも、何か別の感情がこもっているように見えた。


    「…兵…長…」


    エルドの声に、リヴァイは我に返った。


    「…俺は知らん…好きにしろ」


    「はい。好きにします」


    ペトラはそう言い放つと、鳥を手のひらに包んだまま、食堂を出ようとして、振り返った。


    「でも、訓練はちゃんとやりますし、任務をおろそかにする事もしません。私、後悔はしたくないから…」


    リヴァイは、何も言わなかった。






  9. 9 : : 2016/04/17(日) 21:56:26
    「まずい事したかなぁ…」


    訓練も一段落し、食堂へと戻ったペトラは鳥の翼に薬を付けてやりながら、そう呟いた。


    「まずい事って、なんですか?」


    と、エレンはペトラの隣に腰かける。他の班員はそれぞれの自室に戻ったのか、ペトラとエレンの他には誰もいない。


    「今朝の事よ。私、兵長に歯向かうような言い方しちゃって…」


    「気にする必要は無いと思いますよ。兵長はそんな事いちいち気にするような方じゃないですし」


    と言ってはみたものの、エレン自身もリヴァイと出会ってから、ほんのわずかな日数しか経っていなかった。


    にも関わらずそう思えたのは、日頃から感情をあまり表に出さない上官の姿を、強く印象付けられていたからなのかもしれない。


    「そうよね…任務さえこなしていれば、大丈夫よね」


    「でもそんなに心配なさるんなら、どうして今朝そんな事を言ったんですか?」


    「う…ん…何て言えばいいのかなぁ…」


    鳥の羽に包帯を巻きながら、ペトラは言った。


    「私もエレンと同じように、死んじゃったはずの仲間が夢に出てくる事があるの。目の前で巨人に喰われた子の泣き顔が、何度も出てきた事もあった…その度に私はうなされた…私だけじゃない。兵士として巨人と戦った事のある人は誰でも経験していると思うの…エルドもグンタも、オルオだって…」


    ペトラはそこで言葉を切り、手の中で眠る鳥を、そっと撫でた。


    「でも、兵長はどうなんだろ…」


    エレンにも答えられなかった。完全無欠の、最強の兵士リヴァイ。そう謳われて久しいが、リヴァイ自ら自身の事について語った事は一度も無い。


    「兵長は強いかもしれない…でも、世の中には弱い人だってたくさんいる…私みたいに」


    「ペトラさんが?」


    エレンは思わず声を上げた。ペトラは言わずと知れた、調査兵の中でも精鋭の兵士である。だからこそ、特別作戦班一員に抜擢されているのだ。


    エレンの反応にペトラは不服そうに口を尖らせ


    「当然でしょ。私だって目の前で大切な人が死ぬのは怖いし、自分が死ぬのはもっと怖い。兵長にはそれをもっと分かってほしかったのよ。訓練とか任務だとか、それがどれだけ重要な事かは、充分過ぎるほど理解出来てるんだもの」


    「…なるほど…」


    エレンは審議所での出来事を思い返した。眉ひとつ動かさず自分を殴り続けるリヴァイに、恐怖を覚えなかったと言えば嘘になる。自分が調査兵団に入るために必要な演出と分かっているとはいえ、あの時の彼からは、何の感情も読み取れなかった。


    「もうちょっと分かり合えたらいいなぁ…せめて、壁外に出る前に」


    未だに垣間見る事の出来ない上官の心を探り当てるかのように、ペトラは負傷した鳥の傷口を眺め続けた。









  10. 10 : : 2016/04/18(月) 21:53:21
    リヴァイは目を閉じた。


    辺りが闇に包まれる。そして目を開いても、夜の闇がどこまでも広がる。


    1日の訓練を終え食事を済ませ、皆が自室に戻るなか、リヴァイは1人、誰もいない中庭に佇んでいた。


    『兄貴』


    聞こえる。懐かしい声だ。あいつは俺の事を本当の兄のように慕っていた。ゴミ溜めの中で育ち、幼い頃から人を傷つける事だけを磨き続けた、この俺を。


    ふと、冷たい夜風が頬を撫でる。


    『兵長は、強いから…』


    ペトラの言葉がよみがえる。


    強い、か。それでも良い。それで迷う事なく自分のもとで戦い続ける事が出来るのなら。


    自分はこれからも、最強の兵士であり続ける。


    だから…死ぬな。


    『兄貴ぃ…もう俺、ねみぃ…』


    『もうおねむなのか、イザベル。まだまだガキだなぁ』


    『なーにーっ!!!俺まだへ~きだしっ!ファーランだってもう3回もあくびしてるぜ!?』


    『してねーし!てか、何見てんだよ!?』








    …風の音だろうか。懐かしい声が聞こえた気がした。


    リヴァイは1人静かに、自室へと戻っていった。
  11. 11 : : 2016/04/19(火) 22:22:34
    数日が経ったある日の事。リヴァイが廊下を歩いていると、ふと窓辺に立つペトラの姿が目に留まった。


    「…あ、兵長…」


    「ペトラ…何をしている」


    窓辺に立っているだけなら気にも留めなかったのだが、彼女の手の中には、先日保護した鳥がうずくまっている。


    「この子に空を見せていたんです」


    「なぜそんな事をする。ケガが治ったんなら、さっさと放してやれ」


    「でも…実はケガは治ってるんですけど、全然飛び立つ気配が無くて…」


    ペトラは心配そうに手の中の鳥を見つめる。


    リヴァイは窓から空を見上げた。眩しい陽の光に思わず目を細める。


    「ほら、見てごらん。空はとっても美しいのよ。あなたのケガはもう治ってるのよ…さあ…」


    ペトラは空に向かい、鳥を高く掲げてみせる。しかし、鳥は空を見上げるだけで、翼を広げる事さえしない。


    「う~ん…どうしちゃったのかなぁ」


    鳥の頭をちょんちょん、と撫でてやりながら、ペトラはそうつぶやく。


    「飛び方を忘れちゃったのかな…それとも、ここが気に入ったとか。私は別にそれでも…」


    「怖いのかもしれないな」


    静かに言い放つリヴァイの言葉に、ペトラは思わず上官の顔を見た。寡黙な上官は空を見上げていた。


    「そいつは一度窓にぶつかり、死にかけている。おそらくお前が治療しなければ、死んでいたかもしれん。また空を飛べば、同じ目に遭うかもしれない…一丁前にそう考えてるかもしれんぞ、そいつは」


    ペトラの手の中で、鳥はいつの間にかリヴァイを見つめていた。そして話し終えると、まるでそうだよ、とでも言うように、ピィ、と鳴いてみせる。


    リヴァイは空を見つめて続けていた。時おり吹く風に、髪を揺らしながら。


    ペトラはその横顔に問うてみた。リヴァイ兵長、あなたも何かに怯え、怖いと思った事は、あるのですか…。


    どれだけの悲しみを、目の当たりにしてきたのですか。


    「…もう時間だ」


    その言葉に、ペトラは我に返った。


    「もうすぐ訓練を始めるぞ。今日はその後、エレンの実験も予定している。急いで支度して来い」


    「はっ…はい、兵長!」


    ペトラは足早にその場をあとにした。



  12. 12 : : 2016/04/20(水) 21:33:53
    さらに時は過ぎ、明日はいよいよ壁外調査だ。


    しかしながら、保護した鳥は未だ飛び立つ気配はなく、食堂に集まった班員たちは、テーブルの上で歩き回る鳥の姿を眺めながら、明日の壁外調査について語り合った。


    「ほら、おいで」


    鳥はすっかりペトラに懐いており、手を差し出すと手のひらに乗った。


    「もうすぐ、そいつともお別れだな」


    「壁外に連れて行くわけにもいかないからな」


    エルドとグンタの言葉に、ペトラはため息をついた。


    「そうよね…壁外に出てしまったら、私もこの子に構っていられないだろうし…」


    壁外に出れば、いつ巨人と遭遇してもおかしくない。一瞬の油断は、即死を招く。それは充分に理解していた。


    「しかし、兵長も何だかんだで、ペトラがその鳥を飼う事を許してくださっていたようだな」


    エルドの言葉に、ペトラははっとした。言われてみれば、はっきりと許しをもらえたわけではないにしろ、厳しく咎められた事もなかった。今にしてみれば、彼なりにこの鳥の事を見守っていたのかもしれない…。


    『怖いのかもしれないな』


    先日の廊下での会話がよみがえる。


    彼は誰よりも理解していたのだ。手のひらほどの大きさの、わずかな命の心を。


    ピピッ、と、鳥が小さく鳴いた。


    するとそれを合図にしたかのように、リヴァイがエレンを連れて食堂へとやって来た。


  13. 13 : : 2016/04/21(木) 21:36:42
    リヴァイは空いている席に腰をおろした。エレンもその隣に座る。


    「エレン」


    「は、はい」


    「まだ見ているのか」


    質問の意味が分からず、エレンは眉を潜める。


    「兵長、見ている、とは…」


    「前に言ってただろ。死んじまった同期が出てくる夢だ」


    リヴァイの言葉に、エレンのみならずその場に居合わせた班員たちは、意外そうに顔を見合わせた。


    確かにエレンはそんな事を話していた…もう、何日も前の事だ。


    周りの誰もが忘れかけていた出来事を、リヴァイは覚えていたのだ。もしかしたら、彼なりに気にかけていたのかもしれない…決して言動に表してはいなかったが。


    「えっと…今でもたまに見る事があります…オレ、どうしてやる事も出来なくて…悔しいし、悲しいって言うか…」


    エレン自身、どう言葉にすれば良いか分からなかったが、それでも懸命に言葉を探した。これは自分だけでなく、ペトラをはじめとする兵士たちの想いでもあるのだ。


    「オレがもっと強くなれば…こんな夢、見る事もなくなると思うんです…兵長みたいに」


    最後に向けられたエレンの言葉に、リヴァイはわずかに目を見開いた後、静かに口を開いた。


    「…こんな事を話したところで、何が変わるわけでもなさそうだが…」


    「いえ、兵長。話してみてください」


    ペトラが言う。その場にいる誰もが…鳥でさえ、口を閉ざし、じっとリヴァイの言葉を待っている。


    「…これは、ある男の昔話だ」


    そう前置きし、リヴァイは静かに語りはじめた…。
  14. 14 : : 2016/04/23(土) 22:19:52
    その男が生まれたのはほんの少し昔…まだ巨人が壁を破壊する以前の事だった。


    生まれてから何年もの間、空を知らずに育った男が生まれ育った場所は、俗に地下街と呼ばれていた。


    男にとっての空…それは母親だった。


    母さんがそばにいれば、他に何も要らなかった。


    わずかな光も無く凍えるような寒い日も、母さんが手を繋いでくれれば、平気だった。


    母さんの手は、温かかった。


    だが母さんは死んだ。まだ幼かった男を置いて、眠るように死んだ。


    それから男はその手で、人を傷つける事を学んだ。生きるために。


    失うものは自分の命。それだけだった。


    そんな折、気がつけば隣に、そんな自分に笑いかけてくれる人間が現れた。


    『…兄貴』


    男は思った。こいつらの、そばに居よう、と。


    だが、それも叶わなかった。


    男は涙を流す事はなかった。流れたであろう涙の分だけ、戦い続けた。


    そしていつしか、人類最強の兵士と呼ばれるまでになった。


    母親、そして仲間。男は何かを失いながら強くなり続けた。


    ただ、失いたくないという、想いにすがりながら。


    部下を従えるようになり、男が願う事はただ1つ…


    「…死ぬな…」


  15. 15 : : 2016/04/24(日) 23:05:08
    リヴァイが語り終えた後、しばしの静寂があった。


    嗚咽するペトラの横で、エレンが言った。


    「自分は…その男の気持ちが、ほんの少し分かる気がします…オレも兵士になるまでに、たくさんの…悲しい事が、あったから…」


    「ごめんなさい、兵長…」


    涙混じりに、ペトラが言う。


    「なぜ謝る」


    「だって兵長が…そんなに…」


    あとは声にならなかった。ペトラ自身、張り裂けそうな想いをどう言葉にしたものか、分からなかった。


    リヴァイは表情を崩す事なく言った。


    「俺は知らん。俺が語ったのは、今もどこかにいるかもしれない、ある男の話だ。ただ…」


    リヴァイは言葉を切った。突然、鳥がリヴァイの肩に乗ったのだ。まるで、彼の言葉を後押しするかのように。


    「…死んでいった者たち…そいつらは消えてしまったのではなく、今も記憶の中で、存り続けている…男は、その記憶と共に強くなった。男にとってそれは、翼と言えるものだったかもしれない」


    「翼…ですか」


    新兵は、自ら背中に背負う自由の翼を、そっと撫でてみた。これは兵団にとって人類が壁の外に羽ばたいてゆける自由の翼。その羽の一端に、今は亡き仲間、そして家族の存在を、感じ取る事ができた。


    もう目の前に、その人はいない。だがその想いを、背中に背負い羽ばたく事が出来る。


    ピピッ…


    「あっ…」


    開け放たれた窓辺から、鳥は大きく羽ばたいていった。その先には、青く澄んだ空がある。


    「よかった…」


    涙を拭いながら、ペトラは羽ばたく鳥を見送った。リヴァイも空を見上げた。


    「…あれは…」


    そしてリヴァイは目にした。ケガが治り、羽ばたいていく鳥を迎えに来たかのように、もう一羽の鳥が、寄り添うように空を舞っている。


    リヴァイの記憶の中から、イザベルとファーランの姿がふと、よみがえった。


    二羽の鳥は、旧本部の上を舞い続けている…まるで、こっちに来い、と誘うかのように。


    「…待っててねーっ、私たちも、いつかあなたたちみたいに、自由を手に入れてみせるからーっ!!!」


    空に向かい、ペトラは叫んだ。


    鳥たちはその言葉を待っていたかのように、飛び去っていった。


    壁に阻まれる事なく、どこまでも、ずっと。


    「さようならーっ!」


    ペトラは窓から身を乗りだし、大きく手を振る。それに倣い、エレンや他の班員たちも、鳥たちに手を振っている。


    『兄貴…』


    リヴァイは声を聞いた気がした。それは遠く、しかし決して消え入る事のない声だった。


    そして、彼は誓った。これからも羽ばたき続ける事を。


    永遠の翼と、共に。





    <終>



  16. 16 : : 2016/04/24(日) 23:06:07
    ※…以上で終了とさせていただきます。長い執筆期間にもかかわらず、読んでくださった皆さま、お気に入り登録してくださった皆さま、ありがとうございました。
  17. 17 : : 2016/04/24(日) 23:09:21
    執筆お疲れ様でした
    数珠繋ぎさんの作品はどれも大好きです
    素晴らしいお話をありがとうございました
  18. 18 : : 2016/04/25(月) 21:02:58
    >>17 ロマビムさん
    最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
    実に、2年越しの作品となってしまいましたが、おかげさまで完結することができました。
    今後も執筆中の作品を進めていきますので、よろしくお願いします。
  19. 19 : : 2023/07/22(土) 13:55:01
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    oppai_jirou
    catlinlove

    sukebe_erotarou
    errenlove

    cherryboy
    momoyamanaoki
    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
    shoheikingdom

    mikasatosex
    unko

    pantie_ero_sex
    unko

    http://www.ssnote.net/archives/90992
    アカウントの譲渡について
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3654

    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ

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kaku

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