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【短編】とある蝉との奇妙な夏休み

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  1. 1 : : 2014/08/05(火) 10:30:03




    突然だけど、君の夏休みは楽しい?




    それとも、つまらない?




    僕はね、木の上から見てきたんだ




    遊び回る小さい子供達を




    部活動や勉強に勤しむ学生達を




    黙々と仕事をこなす大人達を




    皆揃って暑い辛いとか言うけれど




    それでも、ちゃんと帰る場所があるよね?




    家に帰ればクーラーの効いた部屋




    ベタついた汗を洗い流すシャワー




    新しい真っ白な着替え




    お風呂上がりのアイスクリーム




    その後は家族との団欒




    僕らは遠巻きに眺めるだけで、決して触れることは許されない




    それじゃあ、もしそんな帰る場所が無かったとしたら?




    その時は、一体どんな顔をすればいいんだろうね?




    僕には分からないんだ




    だってさ……




    「ねぇ……目を覚ましてよ」




    「もうそろそろ鳴く時間だろ?」




    「ほらほら、いつまで寝てるのさ?本当に寝坊助だね君は」




    「早く君の美しい鳴き声を聞かせてよ」




    「さぁ、いつもみたく君の全力を見せてよ」




    「ねぇったら……」




    「何で……寝たふりなんかして僕をからかうのさ?」




    「……届いてないの?これが僕の精一杯の鳴き声なのに」




    「ねぇ……ねぇってば」




    「……起きてよ」




    「お願いだから……」




    「……」




    「もう嫌だよ……こんな呪われたような運命」




    「僕は何のために鳴いているんだろう?」




    「あぁ……いつも知りたいことは知れなくて、知りたくないことは知っちゃうんだね」




    「もうじき僕も死ぬのだろうなぁってことは……分かるんだよ」




    「もしも……」




    「もしも神様が存在するのなら……せめて一日だけでも」




    「どうか……お願いします」




    すると、一匹のやかましい蝉の鳴き声が止んだ




    涼しげなそよ風が木の葉を揺らす




    その小さな体は、力無く地面へと振り落とされた




    そして、足を一度だけピクリと動かし、それきり動かなくなった




    どうしようもなくちっぽけな存在




    長い地底生活を経て、たったの一週間しか地上で生きられない儚き命




    そんな彼らがいくら死のうが、誰も気にかけたりはしない




    ただの空っぽな死骸がそこに残るのみ




    こんな過酷な運命を背負いながらも、やはり彼らは来世も鳴き続けるのだろうか?




    そして、これは運命のイタズラが引き起こした一夏の奇妙な物語




    ーーーーーーーーーーーー




    ーーーーーーーー




    ーーーー




    ーー



  2. 2 : : 2014/08/05(火) 11:14:56




    「おーい!起きろよー!」




    「……え?だ、誰!?」




    「誰とはひでぇな!?俺だよエレンだよ!!」




    「エレン?……って、に、人間が僕に話しかけてくる!!」




    エレン「はぁ?何寝ぼけてんだよ?お前も人間だろうが!!」




    「僕が……人間だって!?」




    反射的に僕はいつものように羽をはためかせて逃げ出そうとした




    「……あ、あれ?と、飛べない!?このままじゃまずいぞ!!こ、殺される!!」パタパタ




    エレン「あの、えっと……色々と大丈夫か?」ポカーン




    「き、君こそ……こんなに近くに蝉がいるのに殺さないのかい?」




    エレン「蝉ねぇ……お前疲れてるんだよ、今日の朝のラジオ体操は休んだ方がいいんじゃないか?」




    「ラジオ体操って、人間達が朝の公園で催すあの不思議な演舞のことかい?」




    エレン「ま、まぁ、一応そうだけど……そんな厳かな行事でもないだろ」




    「それより、何で君は僕と平然と話せるのさ?さっきから僕をあの忌々しい人間呼ばわりしてくるし!!」




    エレン「う〜ん……なんか俺とお前で全然話が噛み合ってないみたいだから、とりあえずこれ見てみ」スッ




    人間は僕に手鏡を向けてきた




    全く失礼な奴だ




    僕が蝉だからといってバカにするにもほどがある




    鏡くらい知っているさ




    そして、そこに当たり前のように僕の冴えない顔が映し出されるに決まっているじゃないか




    のはずだったが……




    「……に、人間が映ってる」




    エレン「そりゃそうだろ!で、目は覚めたか?」




    僕は今までの自分の何倍もの大きさの体をマジマジと見つめていた




    「す、すごいや……人間だ人間だ!!僕は夢にも見た人間になったんだーーーーーーーっ!!」パタパタ




    エレン「おいおい……本当に今日は朝からどうしちまったんだよ?」




    「そんなことより人間君!!何か人間的なことをしたいから紹介してよ!!蝉じゃ出来ないようなとびっきりの体験を頼むよ」




    エレン「お前……今日はあくまでもその蝉キャラでやり抜くのか?」




    「ねぇねぇ何か無いのかい人間君?」パタパタ




    エレン「あ〜もう分かった分かった!!今日はお前のその謎のキャラ作りにとことん付き合ってやるから、一々パタパタするな」




    「ありがとう人間君!!君はおっかない顔の割りにいい人みたいだね」




    エレン「人間君じゃなくて俺の名前はエレンだ!あと一言余計だぞセミオ」




    セミオ「セミオ?それは僕のことかい?」




    エレン「そうだ!蝉にハマってるみたいだから今日はお前をセミオと呼んでやるよ」




    セミオ「いいねいいね!名前を呼び合うなんて人間らしくて最高だよ」




    エレン「じゃあ早速顔洗って来いよ、寝起きでトイレも済まして無いだろ?」




    セミオ「わぉ寝起きに顔を洗うなんて実に人間的だね、じゃあ早速失礼して、放尿といきますか」ジュワッーーーー




    ふぅ……




    流石は人間のサイズだね




    放尿量が蝉のに比べると尋常じゃないよ



  3. 3 : : 2014/08/05(火) 11:16:40




    エレン「はあぁ!?ちょ、何お前いきなり人の布団でションベンかましてくれちゃってんの!?」




    セミオ「え?何か問題でも?」キョトン




    エレン「逆に問題しか無えわ!ちゃんとトイレ行ってしろよ!!」




    セミオ「なるほど、人間は放尿する場所を決めているんだね!これは失礼したよ」




    エレン「こっちはお前の役者魂に恐れ入るわ!!」




    セミオ「ご……ごめんよエレン君」




    や、やってしまった……




    人間は怒らせるとすぐに暴力を奮うから機嫌を損ねちゃいけないんだった




    やっぱり異種間文化の違いは恐ろしいなぁ




    エレン「まぁ、やっちまったもんはしょうがねぇよ、とりあえず着替えとタオル持ってくるから待ってろ」




    セミオ「え?……う、うん」




    でも、人間の中にもいい人はいるんだなぁ




    エレン「ほれ、これが着替えだ、俺のお古だけど我慢しろよ?」スッ




    セミオ「ありがとう助かったよ」




    エレン「それと、今日のお前は何をしでかすか分からないから、俺の監視下に置くからな?文句言うなよ?」




    セミオ「うん、色々と案内してもらうつもりだからむしろ好都合だよ」




    エレン「あぁ、そうかい……」




    セミオ「じゃあ次は顔を洗うんだったよね?」




    エレン「その通りだ、一階に行くぞ」




    セミオ「了解!!」パタパタ




    顔を洗うのは初めてだったから、とても新鮮な気分だったよ




    人間の体は蝉より圧倒的に手足が動かしやすくて力も強い




    頭の回転も断然良くて、一つ一つの動作でウロウロしなくて済むんだ




    それと目の前に大きな鏡があって、本当に人間になったんだって思ったなぁ




    これだけ大きかったら、鳥や猫なんかの天敵から襲われる心配も無いしね




    それに、エレン君のお母さんが美味しい朝ご飯を振る舞ってくれたんだ




    まぁ、命懸けの食料争奪戦を毎日生き抜いてきた僕から言わせれば、人間は親に依存しすぎだね




    あんなご馳走を前に、エレン君ってば何の感情の起伏も無く食べ始めちゃうんだもん




    僕なんか一口食べただけで、蝉の雄叫びを上げちゃったほどだよ




    エレン君のお母さんはそれに気を良くして「おかわりいる?」なんて言ってくれて嬉しかったなぁ




    どうやら人間の場合、泣くと目からしょっぱい液体が出てくるみたいだね




    それが思いのほか美味しくて、ご飯に乗せて頂いちゃったよ



  4. 4 : : 2014/08/05(火) 11:18:04




    セミオ「ところで、エレン君?」




    エレン「ん?どした?」




    セミオ「見たところ僕は部外者で、君の住処にいさせてもらっているみたいだけど、何か僕は君にお礼をした方がいいよね?」




    エレン「急に部外者なんて余所余所しい言葉使うなよ、友達を家に泊めるぐらい普通だろ?」




    セミオ「……友達?」




    エレン「そう、友達だ」




    セミオ「そ、そんなのおかしいよ!!キブアンドテイクが成立していないなんて自然界の掟に反してるじゃないか!?」




    エレン「あのなセミオ……いくらキャラ作りでもそういう野暮な話はしてくれるなよ?俺はそういうノリはリアルに傷つくぜ?」




    セミオ「そ、そういうものなんだね?」




    エレン「あぁ、友情はプライスレスだ」




    人間の考え方って僕には少し難しいみたいだなぁ




    エレン「うっし、気を取り直してプール行こうぜ!!」




    セミオ「あれ?ラジオ体操は?」




    エレン「いいってあんなもん!テキトーにミカサあたりから出席ハンコー回してもらうからさ」




    セミオ「そっか、ちょっと残念だけどラジオ体操はパスなんだね」




    エレン「そういうこと、そんじゃあ水着持ってプールへGOだ!!」




    セミオ「おー!!」パタパタ




    エレン君に連れ出されて辿り着いたプールという所は、大きな水溜まりみたいな所だった




    水着という防御力がガクンと下がりそうな服に着替えて、泳いだり皮膚を黒くするのが目的らしい




    自分の住処に水浴び場があるのに、わざわざ危険を冒して外の方を利用するあたりが食物連鎖のトップの成せる技だと思い知らされたよ




    セミオ「エレン君……あ、あれは?」




    エレン「おお!よくぞ聞いた!!あれが目当てで今日ここに来たといっても過言じゃないぞ?」




    セミオ「わぁ、物凄い勢いで人が滑り落ちてきたよ!!」




    エレン「あれは国内最大級のウォータースライダーだ!俺達も早速乗ろうぜ!!」




    セミオ「うん、やっぱり人間界って凄いね!どこまでも退屈知らずだよ!!」




    そこから高ぶる気持ちが抑えきれない僕らは螺旋階段を駆け上がったんだ




    プールサイドでは走らないように監視員の人に注意されちゃったけどね




    ウォータースライダーは左右に曲がったり、一回転したりと最高にエキサイティングだったよ




    それにプール後に食べたカキ氷の味が忘れられないんだ




    でも、頭がキーンと痛くなったのは何でかな?




    とにかく人間は娯楽を生み出す天才だね



  5. 5 : : 2014/08/05(火) 11:19:50




    セミオ「他にはどんな所に連れて行ってくれるんだい?」




    エレン「そうだな〜、あ、今日は近くで夏祭りがあるらしいから行くか?」ゴソゴソ




    セミオ「待ってました!!それ前から行ってみたかったんだよねー!!」パタパタ




    エレン「これ見てみろよ、せっかくだから着物を着て行こうぜ!!」ジャーン




    セミオ「おお!これぞ古き良き日本だね!!」




    エレン君の家には着物が二着あって、彼のお母さんが僕らに着付けてくれたんだ




    意外に風通しが良くて、日本の風土に合っている優れものだよ




    そういえば日が沈みかけた頃、風鈴が家にいい風を招いていたね




    庭に面したデッキで、足をプラーンって伸ばして、水々しいスイカを一緒に頬張ったなぁ




    さらに仲間達の鳴き声なんかも




    エレン「昼間はただうるさいだけなのに、この時間帯の蝉の鳴き声はなんか風情があっていいよなぁ」




    セミオ「ほらね、僕らもまだまだ捨てたもんじゃないでしょ?」




    エレン「本当に蝉になりきってるんだな今日は……」




    確かにひぐらしの鳴き声は実に情緒深いよね




    ちょっと嫉妬しちゃったよ




    だって僕は油蝉だもん……




    次第にお祭りの太鼓の音や盆踊りの曲が流れてきて、僕らは浮き足立つのを止められなかったなぁ




    エレン「行ってきまーす!!」




    セミオ「まーす!!」パタパタ




    カルラ「21:00までには帰るんだよ二人とも?」ギュー




    エレン「わ、分かってるって!!門限はちゃんと守るから耳つまむなよ母さん!!」ヒリヒリ




    セミオ「はーい!!」




    カルラ「あ、それと、セミオ君一ついい?」




    セミオ「はい、何でしょうか?」




    カルラ「私はあなたの鳴き声が結構好きよ……だからこれからも強く生きてね?」




    それは全てを見透かしたような清々しい見送りだったよ




    セミオ「は、はい……僕は頑張ります!!」パタパタ




    カルラ「ふふふ、元気でね」




    エレン君のお母さんには一切隠し事が出来ないみたいだね




    エレン「耳がヒリヒリするぜ、全く母さんは……」ブツブツ



  6. 6 : : 2014/08/05(火) 11:21:02




    夏祭りの会場は活気に溢れていて、老若男女問わず多くの人で賑わっていたんだ




    エレン「射的やろうぜ!あの一番上の景品を狙うんだ」




    セミオ「よ〜し援護射撃するぞー!!」




    結局、何回か挑戦したけど、お目当ての景品を撃ち落とすことは出来なかったんだよね




    きっとあの大きな箱の中には、重りが入ってたんだろうなぁ




    大人は子供達に夢を与えてくれるけど、たまにズルいよね




    エレン「熱!!熱!!」ハフハフ




    セミオ「トウモロコシって焼くとこんなにも美味しんだね!!タレとの相性が抜群だよ!」モグモグ




    蝉のままでは、こんな風に夏祭りに参加するなんて絶対に不可能だった




    それがやっと今、僕の長年の夢が叶った




    でも、何なんだろうか?




    この胸の奥に疼くスッキリしないものは?




    エレン「なぁ、さっきからボーッとしてどうしたんだよ?お前の金魚掬いの網破れてるぞ?」




    セミオ「あ、ごめん……ちょっと考え事してたんだ、おじさんもう一枚ください!」




    エレン君は器用なもんで、すでに自分の金魚茶碗をいっぱいにしていたんだよね




    エレン「そーいや、もうすぐあっちの河の方で花火大会が始まるんだぜ?」




    セミオ「は、花火大会だって!?見たい見たい!早く行こうよ」パタパタ




    エレン「はしゃぐのはいいけど、人が多いからはぐれるなよ?」




    セミオ「大丈夫さ!!」パタパタ



  7. 7 : : 2014/08/05(火) 11:22:30




    そして、花火が見やすい場所に腰を下ろすと、打ち上げ時刻ピッタリに第一発目が打ち上がった




    そこから流星群のように絶え間無く色とりどりの花火が人々の視線を釘付けにした




    エレン「た〜まや〜!!」




    セミオ「すごいね……花火ってこんなにも綺麗だったんだね」




    今ならこれだけ多くの人が見物に来るのも頷けるよ




    蝉の見てた世界と人間の見てる世界はこんなにも違ったんだ




    こっちの方がずっと色の違いがよく分かるもん




    エレン「いや〜それにしても絶景だな〜、どうだ?今日は楽しかったよなアルミン?……あ、じゃなくてセミオって呼ばなきゃな?」




    セミオ「……アル……ミン?」




    エレン「悪りい悪りい!今日のお前はセミオだったもんな?つい本名で呼んじまったよ」




    あぁ、そうか……




    そうだったんだよね




    楽し過ぎてすっかり忘れてしまっていたよ




    改めて現実を突きつけられると、なかなか堪えるものがあるね




    この体は自分のものじゃない




    僕は一介の蝉に過ぎない




    何かの間違いで、一時的にこの体の支配権を拝借しているだけ




    借りたものはきちんと返さないといけないもんね




    それにしても何かこの体の持ち主とは縁があったのかな?




    アルミンさん……だっけ?




    もしかして僕がミンミン鳴くからかな?




    何はともあれ、僕なんかに人間の生活を体験させてくださりありがとうございましたアルミンさん




    でも、あともう少しだけ貸してもらいますね?




    僕にはまだ、やり残してることがあるんです……




    セミオ「エレン君……僕ちょっとトイレに行ってくるよ」




    エレン「ん?おう、俺はここで待ってるからな」




    セミオ「じゃあ、またあとで」




    エレン「おう」




    セミオ「あ、エレン君……」




    エレン「ん?今度はどうした?」




    セミオ「今日は色々なことを僕に教えてくれて本当にありがとう」




    エレン「お、おう……何か今日のお前やっぱり変だぞ?」




    セミオ「うん、なんせ僕はセミオだからね」パタパタ




    エレン「ますます意味が分からん……」ポカーン




    セミオ「とにかく友達を大切にしてね……それと、たまには蝉の鳴き声にも耳を傾けてみてね?」




    エレン「まぁ、そうすることにするよ」




    セミオ「約束だよ?」




    エレン「おう、分かったよ、約束する」




    セミオ「それじゃあ……またいつか……ね?」ポロポロ




    エレン「ははは、トイレ行くくらいで何をそんなに泣いてんだよ?大袈裟な奴だなぁ」



  8. 8 : : 2014/08/05(火) 11:23:55




    花火の音がクライマックスに近づいてきた




    もうあまり時間は残されていないみたいだね




    急がなきゃ……




    地上を進むのは人だかりを縫っていかなければならないから大変だ




    こんな時に飛べたら空から一発で分かるのに




    皮肉な話だよね




    えっと確か……




    あの道を曲がって




    大きな通りを右に入って




    あのヘンテコリンな看板の近くに




    セミオ「あ、あった!!」




    やっと見つけたよ




    セミオ「ねぇ、聞こえる?」




    セミオ「あのね、僕ね……」




    セミオ「今日、生まれて初めて”泣い’’たんだよ」




    セミオ「とっても変な感覚だった」




    セミオ「嬉しかったり、悲しかったり、そんな感情が常にまとわりつくんだよ」




    セミオ「僕らの本能的な鳴くとはどこか違う複雑な感じ……」




    セミオ「今この瞬間、自分が生きてるって強く認識出来るんだ」




    そう言って僕は、木の下の二つの死骸を掌に優しく包み込んだ




    セミオ「でもね、僕は思ったんだ……」




    セミオ「この体を手に入れても、何かもの足りないなぁってさ」




    それから木の下に寝そべり、一つの死骸をそっと横に置く




    セミオ「ふふ、どうやら僕は……来世もまた君の隣がいいらしい」




    どこからか優しい風が頬を撫ぜる




    そして、安らかな表情で静かに目を閉じた




    セミオ「やっぱりここが一番落ち着くね」




    大切な日常を無くして初めて気がついた愚かな僕




    セミオ「やっと分かったんだ」




    セミオ「僕は君の傍らにいるために鳴いていたんだね」




    セミオ「なら僕はとっても幸せ者だ」




    だから、これからも変わらずに鳴き続けよう




    また君と会うその日まで




    そして、この一夏の思い出の空にいつまでも響けばいいな




    最後の特大打ち上げ花火が夜空を飾り、ゆっくりと消えていった




    ー fin ー



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著者情報
777

オッドボール三等軍曹

@777

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