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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

アニ「七夕伝説」ベルトルト―ベルアニ純愛物語―

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  1. 1 : : 2014/07/03(木) 09:38:16
    七夕伝説に、進撃のキャラクターを当てはめたお話です

    カップリング要素あり

    キャスティング

    織姫 アニ
    彦星 ベルトルト
    天帝 エルヴィン

    他にもいろいろなキャラが出演します

    作者の妄想が多々あるお話ですので、実際の七夕伝説とは相違がある事をご了承ください





  2. 4 : : 2014/07/03(木) 09:44:22
    はるか遠い、遠い昔のお話です

    地上に住む人間たちの空の上の世界、天界

    そこには天帝というとても偉い神様が住んでいました

    その天帝には7人の孫娘たちがおり、天帝はたいそう大事に、かわいがっていました

    7人の孫娘たちはみなたいそうな美人で、天帝の自慢でした
  3. 5 : : 2014/07/03(木) 09:56:22
    その孫娘たちの中でも、末っ子のアニ姫は、一番の美人でその上機織りの名人でした

    アニ姫の織る美しい布は、天帝の大のお気に入りで、天帝はアニ姫の織った布しか身にまとわぬほどでした

    「アニ姫の織る布は、軽く柔らかく彩鮮やかで、なんて美しいんだろう。まるでお前の姿を現しているかの様だよ」

    天帝は目じりを下げて、アニ姫にいつもそう言っていました

    「エルヴィンおじい様。いいえ私は美しくなどありません。機織りも、もっと上手になりたいと思っております」
    アニ姫は美しいだけではなく、謙虚な心を持っていました

    こうして、天帝や6人の姉たちにかわいがられ、アニ姫はすくすくと美しい女性に成長していきました
  4. 6 : : 2014/07/03(木) 10:16:36
    そんな天の下にある地上では


    ある山間の小さな村に、一人の青年が住んでいました

    青年の名前はベルトルト

    たいそう背の高い、優しげな顔立ちの青年でした

    青年はとても真面目で、毎日毎日、日が暮れるまで一生懸命働いていました

    ですが、ベルトルトには友達が一人もおらず、唯一の友達は、飼っていた年老いた馬でした

    「ジャン、今日もたくさん歩かせてすまなかったね、疲れただろう」

    ベルトルトは自分が疲れている事も気にせず、いつも重たい荷物を運んでくれるジャンという名の馬の身体を丁寧に拭いてやっていました

    「僕は一人ぼっちじゃないんだ、君がいてくれるから」
    ベルトルトは毎晩、ジャンの鼻先に自分の頬をすりよせて、そう言っていました

    ですが、ベルトルトの瞳はいつも、さびしげに揺れていました
  5. 7 : : 2014/07/03(木) 10:29:34

    そんなある日、いつもの様に仕事に出かけようとジャンの元へ足を運ぶと、驚くべき事が起こりました

    「よう、ベルトルト」

    「・・・えっ?」

    愛馬ジャンが、言葉を発したのです

    ベルトルトは突然の出来事に、目を丸くしました

    「いつも真面目に働きまくって、ご苦労だな、お前」
    ジャンはそう言って、ヒヒンと鳴きました

    「・・・君は、話せる様に、なったのかい?」
    ベルトルトはおそるおそる、触り慣れたジャンのたてがみに手を触れました

    いつも通りのごわついた、手触りでした

    「ああ、そうさ。所でベルトルトよ、お前もそろそろ一人ぼっちは嫌にならねえか?」

    ジャンはベルトルトの顔を見上げながら言葉を発しました

    ベルトルトは首を振りました
    「いや、僕は一人ぼっちではないよ。だって君がいるじゃないか」
    ベルトルトはそう言うと、にっこり笑いました

    「やっぱりお前はいいやつだな。そんなお前にいい事を教えてやろう。いいか?良く聞け」

    ジャンは真摯な眼差しを、ベルトルトに向けて話し始めました


  6. 8 : : 2014/07/03(木) 10:43:07
    「しばらくすると、川に天女が水浴びにやってくる」
    ジャンは静かにそう言いました

    「天女って・・・天界に住む、天帝のお孫さんかい?」
    ベルトルトは空を指さして言いました

    「ああそうだ。たいそう美人揃いらしい。でな、ここからが重要だ。その天女が水浴びをしている間に、着ていた羽衣を隠してしまえ。そうすれば、天女は天界へ帰れなくなる」

    「そ、そんな事できないよ・・・。可哀そうじゃないか」
    ベルトルトは首を振りました
    真面目な彼にはそんなひどい真似ができそうになかったのです

    「じゃあお前、このままずっと一人きりで暮らすつもりなのか?天女はたいそう美しい。お前も一目見れば自分の物にしたくなるはずだぜ」
    ジャンの言葉に、ベルトルトは瞳を潤ませました

    「・・・一人ぼっちは、嫌だ。君はいてくれるけど、それでも・・・」

    「ああ、わかっているさ、お前の気持ちはな。だから俺はこうしてしゃべっているわけだ。お前がいままで俺にしてくれたことのほんの恩返しに過ぎねえよ。いいか、羽衣が無い天女にこう迫れ。羽衣をいつか返すかわりに嫁になってくれ、とな」
    ジャンはそう言って、ひひんと嘶きました

    「そ、そんな事・・・」
    言えるはずがない、という言葉をベルトルトは飲み込みました

    ずっと一人きりでいたさびしかった自分の生活を、顧みたのです

    このまま一人は嫌だ、それなら当たって砕ける覚悟で臨むしかない、一か八か・・・

    ベルトルトは心の声に、小さくうなずきました

    「できるだろう?ベルトルト」

    「・・・うん。やってみるよ」
    ベルトルトはそう言うと、視線を空へ移しました

    空の上の天女とは、いったいどんな人なのだろう・・・期待と不安に胸を膨らませながら、一人川へと足を運びました

  7. 11 : : 2014/07/03(木) 12:29:59
    「きゃあ、ミカサ姉さまったら冷たいよ!」

    金の髪に青い目を持った美しい天女が、突然かけられた水に身を震わせました

    「アニ、ほらーえいえい!」
    バシャッバシャッ・・・
    黒いの髪を持つすらりとした天女が、追い打ちをかける様に、アニ姫に水を掛けました

    今日は待ちに待った水浴びの日

    天女たちは天界でずっと閉じこもる様な生活を送っていましたが、年に数日だけ、こうして下界へ降りる事を赦されていたのでした

    下界へ降りると必ず行うのが、この水浴びでした

    美しい天女たちは、みずみずしい裸体を惜しげもなく晒し、水と戯れていました

    「ミカサはアニが大好きだよね。いつもそうやって、アニの嫌がる顔を見て喜んでる」

    ふわりとした髪を短くした、これまた美しい天女が、じっと水に浸かりながらほほ笑んでいました

    「私はナナバ姉さまが大好きだわ」
    「私も大好き」

    そう言ってナナバと呼ばれたふわりとした髪の天女に抱きつくのは、金の髪を持つ二人の天女でした

    「クリスタ、アルミン、私も貴女たちが大好きだよ」
    ナナバが二人に向かって微笑みかけると、クリスタとアルミンは頬を染めました

    「きゃーーー、もう男なんていりません。私にはナナバ姉さまがいればそれでいいの」
    「私も、ナナバ姉さまと結婚しますわ!」

    「困ったなあ。あはは」
    ナナバは鈴のなる様な声で笑いました
  8. 12 : : 2014/07/03(木) 12:32:54
    「私は、水をあびながら芋を食べるというこの瞬間を、どれだけ待ちわびた事か!!上ではエルヴィンおじいさまにしかられてしまうんですもん!もぐもぐ」

    「サシャ、はしたないわよ?地上でも天界でも、そんな事をしてはいけないわ」

    水の中をうろうろと歩きながら、芋を口にしている天女サシャに対して、苦言を呈するのは天女の長女ペトラです

    彼女は一番のしっかり者でした

    そんな美しい7人の天女姉妹

    彼女たちはのどかに水浴びを楽しんでおりました

    その姿を人間に覗き見られているとも知らずに
  9. 13 : : 2014/07/03(木) 12:49:08
    「本当に天女が水浴びなんて、しているはずないよなあ」
    ベルトルトは、ジャンに言われた事を半信半疑で受け止めながら、村から山奥に入ったところにある川へと向かいました

    山深いところにあるこの川は、地元の村人でさえもあまり近づかないような場所でした

    川のほとりに近づいたとき、ベルトルトの目に異変が飛び込んできました
    「・・・あれは?」

    緑に囲まれた自然の中で、一際輝く虹色・・・

    自然の物ではないそれはなんだろう、ベルトルトは目を凝らしました

    「・・・あれは、羽衣?」

    そうです、虹色に輝く物は、天女が羽織っていた羽衣でした

    ベルトルトは慎重に歩を進めました

    そして、木の影から川を覗くと・・・

    美しい天女たちが水浴びをしていました

    天女達は、一切の衣も纏っていませんでした

    「・・・!」
    ベルトルトは息をのみました

    天女達の美しい肢体に、思わず目を奪われてしまいました

    覗くなんていけない事をしているのはわかっていても、彼はその場を動く事ができず、その視線を外す事もできませんでした

    それほどまでに、天女達は美しかったのです
  10. 14 : : 2014/07/03(木) 12:53:03
    本当に水浴びをしていた・・・その事実に、ベルトルトの胸はどきどきと鼓動をおかしくしました

    「そ・・・そうだ」
    その時、ベルトルトはジャンの言葉を思い出しました

    『天女が水浴びをしている間に、着ていた羽衣を隠してしまえ』

    ベルトルトはその言葉通り、虹色に輝く羽衣を一枚手に取りました

    そして羽衣を胸に抱え、一目散にその場を後にしたのでした
  11. 15 : : 2014/07/03(木) 13:06:46
    ベルトルトは家に帰って屋根裏に、虹色の羽衣を隠しました

    そして、また山奥の川に戻りました

    すると、川から天女達の姿は消えていました

    ただ一人だけ・・・羽衣が掛けてあった木のそばで、慌てた様子で何かを探す天女の姿がありました

    ベルトルトはそっとその天女に歩み寄りました

    「・・・あっ。あんたは、誰?」
    天女は不安げな眼差しをベルトルトに向けました

    青い瞳は潤んでおり、今にもそこから涙があふれ出しそうな様子でした

    「僕は・・・ベルトルト」

    ベルトルトはそう言いながら、また一歩天女に近づきました
    青い大きな瞳に、金の髪
    髪の毛は無造作に後ろに束ねられていました

    とても、美しい天女でした

    ベルトルトは一目みて、その天女に目を奪われました

    その天女は体を隠す布を一切身に着けていませんでした

    風景が透けるのではないかと思うほど白い肌
    ほっそりとした手足
    柔らかそうな胸の双丘
    美しく凛とした顔だち

    全てにベルトルトは、心惹かれました
  12. 16 : : 2014/07/03(木) 13:15:49
    ベルトルトが歩み寄り、その身体に手で触れようとすると、天女は後ずさりました
    「やめて、触らないで。来ないで」

    天女は瞳に涙をためながら、首を振りました

    ベルトルトは、その表情を見て胸を打たれました
    ふうと息をつき、天女に触れるのをやめました

    「君が嫌がる事は、しないよ」
    静かにそう言いました

    天女は言いました
    「私の・・・羽衣をしらないかい?」

    ベルトルトは迷いました

    自分が羽衣を隠した、その事を言ってしまっていいものかどうか
    羽衣を返して、天女を天界へ返してあげるべきではないのか

    自問自答を繰り返しました

    ベルトルトは、目の前の美しい天女をじっと見つめました

    美しいこの天女を手放したくない、そう思いました

    「・・・知っているよ。僕が、隠したんだ。返してほしいなら・・・僕のお嫁さんになってくれないか」

    ベルトルトは、生まれて初めてわがままを言いました

    真摯なまなざしを、天女に向けて・・・
  13. 17 : : 2014/07/03(木) 13:21:02
    「どうして私が、あんたの嫁にならなきゃ・・・いけないんだい」
    美しい天女は、ついに青い瞳から大粒の涙をこぼしました

    ベルトルトは、どうしてよいかわからず、自ら目に涙をためました

    「ごめんなさい」
    そう言って、自分が来ていた薄汚れた衣を、裸だった天女にかぶせました

    天女はしばらくベルトルトを見ていましたが、やがてため息をつきました

    「返してくれる気はなさそうだね・・・どうせ羽衣が無ければ天界へは帰れない。わかったよ、あんたについていくよ」
    天女は小さな声で、そう言いました
  14. 18 : : 2014/07/03(木) 13:26:51
    村の家に帰ると、すでに辺りは夕焼け空になっていました

    ベルトルトは美しい天女と共に、家に入りました

    ずっと一人で暮らしてきたベルトルトにとって、自分以外の人が家にいる事など初めてでした

    ベルトルトはうれしくて仕方がありませんでした

    一方天女は、薄汚れた衣がはだけない様に前でしっかりと押さえながら、ずっと俯いていました

    かどわかされたも同然の自分の立場に、味わったことのない屈辱と、絶望を味わっていたのです

    天帝の孫として何不自由なく暮らしてきた天女にとって、この状況は耐えがたい物でした

    自然とぽろぽろと涙があふれて、床にしみを作りました

    後から後から流れ落ちる涙は、とどまるところを知りませんでした

    ベルトルトはその様子をみて、心を痛めました
    自分がやった事で天女を泣かせている

    ですが、ベルトルトはどうしても、もう一人になりたくありませんでした

    だから、隠した羽衣の場所を明かす事をしませんでした
  15. 19 : : 2014/07/03(木) 13:33:27
    夜になりました

    「さあ天女様、夕食だよ」
    ベルトルトはいつもよりずいぶん豪華な夕食を用意しました

    すこしでも、天女を元気づけたかったのです

    「・・・いらないよ。欲しくない」
    天女は首を振りました

    ベルトルトは項垂れました
    それから何度頼んでも、食事を口にしてはもらえませんでした

    結局その夜、ベルトルトも天女も、何も口にすることはありませんでした

    夜も更け、寝間の支度を整えたベルトルトは、天女に言いました

    「君はここで寝て。僕は外で寝るから」
    ベルトルトはそう言うと、外に出て行きました

    天女は拍子抜けしました

    男というのは、女を見るとかどわかし、その裸体をむさぼるものだと、教えられてきたからです

    当然自分もそうされてしまうのだろうと、恐ろしく思っていたのです

    天女は息をつき、布団にもぐりこみました

    不思議と涙が止まっていました
  16. 20 : : 2014/07/03(木) 13:42:40
    ふと目を覚ますと、見慣れない天井がありました
    天女は身体を起こしました

    いつも身に着けている羽衣ではなく、薄汚れた男用の衣を羽織っている自分の身体

    そこで、ここが天界ではないという事を再確認しました

    立ち上がり、家の扉をあけました
    鍵はかかっていませんでした

    逃げようと思えば、ここから逃げる事が出来る、そう思いました

    そっと扉の隙間から外にでました
  17. 21 : : 2014/07/03(木) 13:42:56
    ふと横を見ると、たくさんのわらが積んでありました

    そこには、一頭の馬がいました
    その馬の足元のわらの中に埋もれるように、男が寝ていました

    天女はそっと歩み寄りました

    自分をかどわかした男は、すやすやと寝息を立てていました
    ですが、その顔にはくっきりと涙の痕が残っていました

    天女はしばらくその寝顔を見つめていました
    すると、男が何かを口走りました

    「・・・なさい」

    一筋、男の目から涙が零れ落ちました

    天女はそっと跪きました

    「ごめんなさい・・・」
    今度ははっきりと、そう聞こえました

    そしてまた一筋、男の頬を涙が伝いました
  18. 22 : : 2014/07/03(木) 13:53:00
    「おはよう、天女様」
    朝日が昇り、ベルトルトは家に入って早速朝食の支度をしました

    天女は相変わらず不機嫌そうで、何も言いませんでしたが、ベルトルトが用意した朝食を食べました

    ベルトルトはその様子をみて、ほっと胸をなでおろしました

    このまま何も食べてくれないのではないかと、不安で心配でたまらなかったのです

    天女に用意した食事に比べれば、随分質素で量の少ない食事を平らげたベルトルトは、畑仕事に出かけて行きました
  19. 23 : : 2014/07/03(木) 14:00:38
    朝早くから外に出て、日が暮れるまでベルトルトは帰ってきませんでした

    天女は一人で、ずっと家にいました

    どんなにぼろでもいいから、機織り機があれば、布を織れるのに

    そんなことを思いながら、天女は身体を動かしました

    掃除や洗濯、出来る事をしました

    もともと働き者の天女、何もせずじっとしてはいられなかったのです

    それに、昨夜見た、ベルトルトの涙
    それが心にずっと引っ掛かっていました

    どうして泣くんだろう、泣きたいのは自分の方だというのに

    天女はそう思いながらも、逃げ出す事はせず、隠された羽衣のありかを探す事もせず、男の帰りを待ちました
  20. 26 : : 2014/07/03(木) 14:58:53
    日が暮れてしばらくすると、辺りが暗くなりました
    天女はだんだん心細くなり、また涙をこぼしました

    その時、家の扉が開きました
    男が帰ってきたのです

    男は顔も服も泥で汚し、疲れた表情をしていました

    ですが、部屋の奥でじっと座っている天女を見てにっこり微笑みました

    「ただいま」

    ベルトルトは、今までに一度も口にした事がない言葉を発しました

    部屋の隅にいる天女の表情は、ベルトルトからうかがう事はできませんでした

    ですが確かに、天女はベルトルトの方に顔を向けていたのでした
  21. 27 : : 2014/07/03(木) 15:05:35
    「お腹が空いただろう、すぐにご飯にするから、待っていてね」
    ベルトルトは優しい口調でそう言うと、囲炉裏に火を起こそうとしました

    その時気が付きました

    囲炉裏にはすでに火が灯っており、温かい汁の入った鍋が、ぐつぐつと音を立てていたのです

    天女はベルトルトがいない間に、食事の支度をしていたのでした

    ベルトルトは数回瞬きをしました

    何度見ても、その風景は変わりませんでした

    「・・・君が、作ってくれたのかい?」
    ベルトルトは震える声で、天女にたずねました

    「暇、だったから」
    天女は小さな声でそう返事をしました

    ベルトルトは、酷い事をした自分に対して気遣ってくれる天女の優しさに、思わず涙をこぼしました

    「・・・ありがとう」

    こらえようとしても涙は後から後からあふれ出し、止める事はできませんでした
  22. 28 : : 2014/07/03(木) 15:16:01
    それから、二人で囲炉裏を囲んで、天女が作ってくれた汁を飲みました

    とても暖かくて美味しくて、ベルトルトは体だけではなく、こころも温まった様な気がしていました

    この上ない幸せに、心が震えていました

    夕食を食べ終わったあと、ベルトルトは部屋がずいぶんきれいになっている事に気が付きました

    ベルトルトは、じっと座っている天女に、そっと歩み寄りました

    「君は、掃除までしてくれたのかい?」

    ベルトルトの問い掛けに、天女は頷きました

    「・・・暇だったから」

    天女は小さな声で言いました
    その透き通る様な白い肌は、微かに朱に染まっている様に見えました

    ベルトルトは跪き、思わずその頬に手を伸ばしかけました

    天女はその様子を、じっと見つめていました

    ベルトルトは、触れるか触れないかの所で、手をひっこめました

    そして、その手をぎゅっと握りしめ、天女にむかって泣き笑いの様な顔を見せました

    「今日はもう遅い、寝間の支度をするから・・・待っていてね」
    ベルトルトは立ち上がり、部屋の奥に行きました

    天女はその様子を、美しい青い瞳で、じっと見つめていました
  23. 31 : : 2014/07/03(木) 15:26:34
    寝間の支度を整え、ベルトルトは天女に言いました

    「じゃあ、僕は外で寝るから、ゆっくり休んでね。おやすみ」
    ベルトルトはそう言うと、踵を返して部屋を後にしようとしました

    「・・・待って」
    静かな声が、ベルトルトの耳に届きました

    鈴のなる様な、美しい凛とした声でした

    ベルトルトはその声の美しさに、心をギュッと掴まれた気がしました
    胸が苦しくなりました

    ふう、と息をついて、振り返りました
    「どうしたの?天女様」

    そう問いかけると、天女は窓を指さしました

    「今夜は雨が降るよ。だから、外では寝られない。濡れて、しまうから」

    ベルトルトは、目を見開きました
    雨が降る事を予知している事に驚いたわけではありませんでした

    雨が降る事は、ベルトルトにも何となくわかっていたのです

    それでもベルトルトは、少しでも天女を安心させてあげたくて、雨でも外で寝ようと思っていたのでした
  24. 34 : : 2014/07/03(木) 15:38:11
    天女にはだんだんわかってきていました
    このベルトルトという青年が、まじめで優しい人柄だという事を

    確かに無理やり自分をかどわかした、その事自体は到底許されるわけではありません

    けれど、青年の態度には自分を気遣う心があふれていて、天女はそれを心地よく思い始めていたのです

    ベルトルトをじっと見つめる青い瞳は、優しげな光をともしていました

    ベルトルトはその瞳に吸い込まれる様に、天女に歩み寄りました

    跪き、天女の顔をよく見ようとすこし、顔を近づけました

    美しい、顔でした
    大きな青い瞳は、自分の姿を映し出していました

    すらりと筋の通った形の良い鼻梁
    桜の花びらの様な美しい唇
    透き通るような肌の色

    ベルトルトは、その美しい顔に触れようと、手を伸ばしました

    天女は身動き一つしませんでした

    息すら、殺しているように、静かに、じっとしていました

    そして彼の指先が頬に少し触れた時

    天女は身体を震わせて、目を閉じたのでした
  25. 37 : : 2014/07/03(木) 15:50:12
    「ご、ごめん」

    ベルトルトはすぐに指先をひっこめました

    彼は大それた事をしている自分に、今更ながらに恐れを抱いていたのです

    この上なく美しいこの天女に触れる事は、大きな罪だと感じていました

    でも、そんな気持ちとは裏腹に、この美しい天女に触れたい、抱きしめたいと思う気持ちにうそがつけなくなっていました

    ベルトルトは、天女に完全に恋をしていました

    初めての恋でした

    どうすればよいのか、わかりませんでした


    天女は目を開きました

    今しがた自分の頬に触れた手を握りしめるベルトルトに、憂いを帯びた様な瞳を向けました

    そして、首を傾げました

    この男は、一体どうしたいんだろう、そう思いました

    お嫁さんになってくれと言われたはず
    それなのに、指一本触れようとしない
    触れても一瞬でひっこめてしまい、挙句の果てに謝られる

    天女には、男の考えている事がわかりませんでした
  26. 38 : : 2014/07/03(木) 15:55:34
    「やっぱり、僕は外で寝るから・・・ごめん」
    ベルトルトはそう言うと、天女の返事も待たずに家を飛び出して行ってしまいました

    「・・・」
    天女はため息をもらしました

    布団にもぐりこんでも、全然寝付けませんでした

    ザーザーと、音がし始めました
    思った通り、雨が降ってきたのです

    大雨でした

    天女は意を決して、布団から出て立ち上がりました
  27. 41 : : 2014/07/03(木) 16:03:26
    ベルトルトは家を飛び出して、家の外にある大きな木の下に行きました

    天女の美しい顔に触れた時

    自分の中で何かがぷつんと音を立てて崩れた気がしました

    狂おしいほどに、天女の身体を抱きしめたくなる衝動が抑えきれなくなりました

    それが怖くて、思わず家を飛び出してしまったのでした

    「僕は、どうしたらいいんだろう」
    ベルトルトは項垂れました

    天女に触れたい自分と、罪悪感にさいなまれる自分
    二つの自分に板挟みになっていました

    自分が蒔いた種なのに、天女を巻き込んでいるのは自分なのに

    ベルトルトがその瞳から涙をあふれさせたその時

    ザーザー

    雨が降り始めました

    まるで彼の心模様を映し出す、鏡の様な雨でした
  28. 42 : : 2014/07/03(木) 16:08:02
    大きな木の下にいても、びしょ濡れになるほどの大雨でした

    ベルトルトは構わずその場に佇んでいました

    明日、羽衣を返そう、そう思いました

    たった一日だけど、幸せな時を過ごせた事を、思い出に

    またいつも通り暮らしていこう、そう思いました

    辛くても、胸が苦しくても、それでいいと思いました

    天女への恋心もすべて、雨が流してくれたらいいのに

    そう思いながら、ベルトルトは涙を流し、雨に打たれていました
  29. 43 : : 2014/07/03(木) 16:22:23
    「ベルトルト」
    ふと、自分の名前を呼ぶ声がした気がして、ベルトルトは視線を前に向けました

    視線の先には

    大雨の中佇む天女の姿がありました

    雨にぬれようとも、天女の凛とした美しさは損なわれる事はありませんでした

    ベルトルトは、その姿を見た瞬間、心が震えた気がしました

    自分の名を、呼んでくれた気がしました

    空耳かもしれない、そう思った時

    「ベルトルト」
    もう一度、今度は確かに、自分の耳に天女の声が届きました

    「・・・天女様」
    ベルトルトは小さく震える声で、そう言いました

    ベルトルトは、天女の名前も知らなかったのでした
  30. 44 : : 2014/07/03(木) 16:26:18
    「・・・私の名前は、アニ」

    天女は大きな瞳をまっすぐベルトルトに向けてそう言いました

    ベルトルトは、流していた涙を拳でぬぐい、天女を・・・アニを見つめました

    「アニ・・姫」

    小さな声で、天女の名を呼びました

    「家に戻らないと、身体が冷えてしまうよ」

    アニはそう言うと、ベルトルトの手をぎゅっと掴みました

    そして、ぐいぐいと引っ張り、家の中に入れたのでした
  31. 45 : : 2014/07/03(木) 16:43:02
    ベルトルトは放心状態で、瞬きをする事すら忘れていました

    いましがた諦めようとしたはずなのに、結局手を引かれて家に戻っているこの状態に、頭が付いていけていなかったのです

    「ベルトルト、着替えはない?このままでは風邪をひいてしまう」
    アニは震えながらそう言いました

    その言葉に、ベルトルトはやっと人心を得ました

    「あっ・・・ごめん。すぐに用意するから」

    ベルトルトは慌てて部屋の隅にある箪笥から、着替えを取り出しました

    天女に、アニに似合う様な衣など、一着もありません

    一番綺麗な衣をアニに手渡すと、アニはその場でさらりと濡れた衣を脱ぎました

    「あ・・・!」
    ベルトルトは慌てて視線を外しました

    「どうしたの?」
    アニは怪訝そうな表情で、ベルトルトに問いかけました

    「いや、その」
    ベルトルトはしどろもどろに言葉を発しました

    頬は赤く染まっていました

    白く美しく穢れのないアニの身体は、ほっそりとして頼りなげなのに、柔らかく丸みを帯びていました
    ベルトルトはそんな天女の生まれたままの姿を目の前で見てしまい、面食らったのでした
  32. 46 : : 2014/07/03(木) 16:55:54
    「あなたも着替えないと、風邪をひいてしまうよ」
    アニの優しい言葉に、ベルトルトはまた瞳を潤ませましたが、辛うじて涙はこぼしませんでした

    ベルトルトは部屋の隅で、濡れた身体を拭き、服を着替えました

    そして、アニの方を振り返ると、彼女は先ほど手渡した衣に袖を通し、帯を締めていました

    ベルトルトは背が高かったので、その衣が身体の小さな彼女に合うはずもなく、ぶかぶかでした

    「・・・ごめんね、ちょうどいい、服がなくて・・・」
    そこで、屋根裏にかくした虹色の天女の衣の事を思い出しました

    あれなら、ぴったりなのに、そう思いました

    「いいよ、これで十分だから。少し長いけど・・・引きずりはしないし」
    アニは小さな声で言いました

    「アニ姫・・・あの・・・」
    ベルトルトは言葉を発しました
    虹色の衣のありかを、教えようと思ったのでした

    「ん、なんだい、ベルトルト」
    アニはベルトルトに歩み寄り、その顔を覗きました

    アニの顔は得も言われぬほど美しく、ベルトルトはその瞳にまた吸い込まれそうになりました

    「こ、衣の事なんだけど・・・」

    「・・・いいよ」
    アニはそう言って、ベルトルトの手を握りしめました

    「え?」
    ベルトルトはきょとんとしました

    「ここにいてあげても、いいよ」
    アニは静かに、でもはっきりと、そう言ったのでした
  33. 47 : : 2014/07/03(木) 17:05:44
    ベルトルトは目を大きく見開きました

    ここにいてもいいと、そう言ってくれた事が信じられなくて、嬉しくて
    今にも心が躍り出すような、そんな気分になりました

    「本当に、いいの・・・?」
    ベルトルトは震える声でアニに問いかけました

    アニは、こくりと頷きました
    「嫁になるんだろ、私は」

    「・・・本当に・・・?」
    ベルトルトは、今にも泣きだしそうな顔をしました

    アニはそれを見て、くすっと笑いました
    「あんたってさ・・・よく泣くよね」

    ベルトルトは顔を真っ赤にしました

    「ごめん、泣き虫で・・・」

    「それでいて、よく謝るよね、ふふ」
    アニは顔を真っ赤にして泣きそうな顔をしているベルトルトに、微笑みかけたのでした
  34. 48 : : 2014/07/03(木) 17:16:54
    ベルトルトは、自分の手を握るアニの手に、自分の大きな手を重ねました

    雨に濡れて冷たいはずの手は、何故か温かく感じました

    アニは、ベルトルトを見上げていました
    彼女は小柄なのに対して、ベルトルトはとても背が高かったのです

    「あんたって、背が高いよね。顔がよく見えないよ」
    アニは小さな声でそう言いました

    「そ、そうかな」
    ベルトルトはそう言うと、屈んでアニに自分の顔が見える様にしました

    アニはおもむろに、ベルトルトの頬に手で触れました

    ベルトルトはその感触に、思わず体を震わせました

    「寒いのかい?」
    アニは首を傾げました

    ベルトルトの身体が震えたのがわかったからです

    ベルトルトは首を振りました
    「いや・・・、その・・・」

    ベルトルトはしどろもどろにそう言葉を発しましたが、上手く言いたいことを伝えられません

    美しい天女が自分の頬に触れているというその事実に、体が震えただなんて、言えるはずもなかったのですが
  35. 51 : : 2014/07/03(木) 17:29:34
    アニの手が、またベルトルトの頬に触れました

    「確かに冷たいね・・・あんな雨の中、外に飛び出して行っちゃうからだよ」
    アニはそう言って、ベルトルトの頬を今度はそっと撫でました

    ベルトルトは、目を閉じました

    自分の頬に感じる、心地よいのに、どこか甘く疼くような感触を、はっきり心に留めておきたかったからです

    そして目を開けると、潤んだ瞳を自分に向けている、アニの顔が目の前にありました

    ベルトルトは跪き、アニの顔に手を伸ばしました

    指先でそっと触れると、アニはくすぐったそうに目を閉じました

    そのまま手のひらを頬に当てると、しっとりと、弾力のあるみずみずしい肌が、まるで吸い付くかの様な感触でした

    アニは目を開けました

    美しい青い瞳が、ベルトルトを映していました

    ベルトルトはその瞳をもっとよく見たくて、顔を近づけました

    鼻と鼻の先が触れ合うほどの距離になった時、アニはまた、目を閉じました

    桜の花びらの様な唇が、まるで誘う様に少し花開いていました

    ベルトルトはそのちいさな花びらをついばむ様に、優しく自分の唇を重ねました
  36. 64 : : 2014/07/03(木) 20:41:39
    唇が離されると、アニはふぅと大きく息をしました

    アニは異性と口付けを交わした事がありませんでした

    ですから、息をする事が出来なかったのです

    勿論ベルトルトも、初めてでした

    ベルトルトをじっと見つめる青い瞳は、潤んでいる様に見えました

    「本当に、僕の側にいてくれるのかい…?」

    ベルトルトは、アニの頬を撫でながら、恐る恐る尋ねました

    アニは頷きました
    「あんたは…悪い人ではないからね…むしろ、いい人だと思う。それに…」

    アニはそこまで言って、言葉を止めました

    ベルトルトが、今にも泣きそうな顔をしていたからです

    「…それに、私がいなくなったら、また一人になってしまうんだよね?それって、寂しい…よね?」

    アニはそう言うと、ベルトルトの頭に手を伸ばして、優しく撫でました

    ベルトルトは、瞳から涙をこぼしました

    「アニ姫…ごめんね…」
    小さな声で、言いました

    「ごめんね、はいらないよ。そういう時は、ありがとう、じゃないのかい?」

    アニはそう言うと、ベルトルトの頬を軽くつまみました

    「…あ、ありがとう…」
    ベルトルトは頬をつままれながら、笑顔を見せました

  37. 65 : : 2014/07/03(木) 20:57:37
    その夜は、二人手を繋いで寝ました

    でもベルトルトは、眠れませんでした

    本当に、夢の様だったのです

    今までずっと一人で寝ていました

    寂しいとは思いながらも、幼い頃に両親が亡くなってからずっと、一人でしたから、寂しさに慣れていました

    それが、今は…

    ふと隣を見ると、すうすうと寝息を立てる、美しい女性がいます

    安心しきったように、穏やかな表情で眠っています

    一目惚れでした

    初めて自分の物にしたいと思いました

    愛しくて、どうしようもありませんでした

    でもそのせいで、悲しませてしまいました

    とんでもない事をしてしまいました

    それなのに…

    隣で眠るアニは、それを許してくれたようでした

    側にいてくれると、言ってくれました

    自分はもう、一人ぼっちじゃないんだと思うと、とても嬉しくなりました

    「ありがとう…」
    ベルトルトは小さな声でもう一度、お礼を言いました

    そして、目を閉じました

    朝、目を開けた時、これが夢になっていませんようにと願いながら、眠りにつくのでした
  38. 66 : : 2014/07/03(木) 21:42:08
    翌朝

    アニが目を覚ますと、朝日が上っていました
    隣に寝ていたはずのベルトルトは、いませんでした

    体を起こすと、いい匂いがしました

    囲炉裏に歩み寄ると、美味しそうなお粥が、グツグツと炊かれていました

    そして、部屋の隅に、虹色の衣が置いてあるのに気がつきました

    アニは、衣を手にしました

    これで、天界へ帰れる…そう思いました

    ベルトルトの服を脱ぎ、虹色の衣を纏うと、体がふわりと軽くなった気がしました

    そのまま、外に出ようとしました

    「…」

    アニは、衣をまた脱ぎました

    そして綺麗に畳み、部屋の隅に置きました

    ベルトルトの服をもう一度羽織りました

    ベルトルトは、本当にお人好し

    私が帰ったら、寂しくて泣くくせに

    それでも…私の事を思って、衣を出しておいてくれた、優しい人

    アニは、いつしか自分もベルトルトに惹かれている事に気がつきました

    アニは、ベルトルトが用意してくれた粥を、味わうようにゆっくり食べながら、心を決めたのでした
  39. 67 : : 2014/07/03(木) 22:32:44
    アニは、部屋の掃除をしたり、夕食の支度をしたり、薪割りをしたりして過ごしました

    ベルトルトはきっと、畑仕事で疲れて帰ってくるだろう

    そう思って、湯の支度も整えました

    そうしているうちに、日が暮れて、夜になりました

    部屋の囲炉裏の側で腰をおろし、根菜の汁をかき混ぜていると、扉が開きました

    ベルトルトが帰って来たのです

    彼は、囲炉裏の側にいるアニを見て、驚いたように目を見開きました

    「アニ…帰って…なかったのかい…?」
    震える声で、そう言いました

    ベルトルトは、虹色の羽衣を隠すのをやめようと思いました

    愛しくて、愛しくて仕方がない程に、アニを愛してしまったベルトルト

    だからこそ、アニを悲しませる様な事をしてしまったせめてもの償いのつもりで、虹色の羽衣を出しておいたのでした

    ずっと、側にいて欲しい…そう思う自分を圧し殺して

    ベルトルトは、今日家に帰ったら、また一人ぼっちになるんだろうな、と思いながら、とぼとぼと家路についていました

    だから、扉を開けた時、アニが家にいた事に、狂わんばかりに喜び、胸を震わせたのでした
  40. 68 : : 2014/07/03(木) 22:53:48
    「なんだい、帰った方が、良かっ…」
    アニは口を尖らせて言葉を発したが、最後まで言えませんでした

    駆け寄って来たベルトルトに、抱きすくめられたからでした

    「…」
    ベルトルトは何も言いませんでした

    いいえ、言えなかったのです

    嬉しくて、嬉しくて

    言葉に出せないほど嬉しくて

    ただ、愛しいアニの体を抱き締める事しか、出来なかったのです

    アニの華奢で小さな体を抱き締めながら、ベルトルトはまた、涙を流したのでした

    ただこの涙は、暖かい、嬉し涙でした
  41. 70 : : 2014/07/03(木) 23:06:44
    「また、泣いてるんだね…?」
    アニは、ベルトルトの胸に顔を埋めながら、優しげな口調で言いました

    「…うん、ごめんね…いや…ありがとう」
    ベルトルトは、懸命に涙を堪えながら言いました

    「…虹の羽衣、出しておいてくれて、ありがとう。気持ちが、嬉しかったよ」

    アニはベルトルトの胸から顔をあげました

    ベルトルトは、目元を真っ赤にしていました

    きっと、畑でも泣いていたに違いない、とアニは思いました

    「…僕は…とんでもない事をしたのに…君は…君は…優しくて…」
    ベルトルトはまた、目に涙を溜めました

    「私はね、優しくはないよ。君が…優しかったから、今こうして、ここにいるんだよ」

    アニは微笑みながら、そう言いました

    「…ありがとう」
    ベルトルトは、笑おうとして、また涙をこぼしました

    「ベルトルト、変な顔…ふふっ」
    アニはその顔を見て、愉しげに笑いました

    その笑顔が眩しくて、ベルトルトは目を細めました

    そしてもう一度、強く抱き締めたのでした


  42. 74 : : 2014/07/04(金) 09:47:33
    それから二人は、暖かい食事を一緒に摂り、アニが沸かしてくれていた湯にも浸かって体を癒しました

    二人は沢山話をしました

    アニが天界の話をすると、ベルトルトは目をきらきらと輝かせて、興味深く聞いていました

    ベルトルトが、畑や馬の話をすると、アニは、穏やかな笑みを浮かべながら聞いていました

    そうしているうちに、二人の距離はぐっと近付いていました

    ベルトルトがアニの手を握ると、色白の頬が朱に染まりました

    その様子は得も言われぬ程に美しく、ベルトルトは吸い込まれる様に、その頬に指先で触れました

    頬に掛かる薄い金色の髪を、ゆびで掬いました

    その髪は、洗いざらしでいい匂いがしました

    ベルトルトはそっと、アニの頬に唇を落としました

    アニは、ベルトルトの胸に顔を埋めました

    息を吸うと、自分とは違う、男の香りがしました

    アニは唐突にそれを理解し、心臓が飛び出る程恥ずかしく、落ち着かなくなりました

    それでも…必死に、ベルトルトの体にしがみつきました

  43. 75 : : 2014/07/04(金) 09:58:21
    二人は、自然の成り行きに身を任せました

    吐息と吐息が混じり合い、体と体を重ね合わせ、やがて二人は一つになりました

    今までに一度も味わった事のない感覚に、何度も、身を震わせながら

    二人は必死に、お互いを求めあったのでした

    静かな夜に、微かに聴こえる二人の吐息

    重なり合うその姿は、窓からもれる、月明かりだけが見ていたのでした

  44. 76 : : 2014/07/04(金) 10:07:00
    夜が明けました

    二人は朝日が上っても、お互いの体を離そうとはしませんでした

    「ずっと…このままでいたい」
    アニは、小さな声でそう言いました

    「僕も、このままでいたいよ…もう、離したくない…」

    ベルトルトはそう言うと、アニの体を強く抱き締めました

    二人は朝日の中、また体を重ね合わせたのでした

    甘く刺激的なこの行為に、二人は夢中になってしまったのでした


  45. 77 : : 2014/07/04(金) 10:17:04
    その頃天界では、天女アニ姫が人間の男に拐かされ、さぞやパニックになっているだろうと思ったのですが…

    「そうか、上手くくっつく事ができたか」
    天帝エルヴィンは、満足そうに頷いていました

    「馬に喋らせるなんて、とんでもない方法だと思いましたが、上手く行って良かったですわ、お祖父様」

    天女の長女ペトラは、ほっと胸を撫で下ろしました

    そうです、馬がしゃべったのも、天女が水浴びをしたのも、羽衣を一番取りやすい位置に置かせたのも、全て天帝と、天女たちの仕業だったのです

    「あの真面目なベルトルトになら、アニ姫を嫁にやっても、幸せにしてくれるだろう」

    「そうですね、本当に真面目で優しく、働き者です、ベルトルトは」

    天帝は、以前から一人で寂しくも、毎日毎日一生懸命働く、真面目なベルトルトを気に入っていました

    彼になら、一番大切な末のアニ姫を嫁にやってもいいと思ったのでした

    こうして、天帝にも二人の結婚は認められたのでした

  46. 78 : : 2014/07/04(金) 10:20:20
    二人は結婚しました

    初めの頃は、ベルトルトは畑仕事に精を出していました

    アニは、ぼろの機織り機で、美しい布を織っていました

    夜はお互いを求め合いました

    ですが、日がたつにつれ、二人は段々働かなくなりました

    お互いの愛欲に、働く事を忘れるほど没頭してしまうのでした

  47. 79 : : 2014/07/04(金) 10:23:41
    やがて、そんな二人の間に、子どもが生まれました

    男の子をリヴァイ
    女の子をハンジと名付けました

    ベルトルトとアニは子どもをたいそう可愛がりました

    ですが、相変わらず働きませんでした

    たまに送られてくる、天帝からの贈り物で、生活していたのでした

    やがて、3年の月日が流れました
  48. 80 : : 2014/07/04(金) 10:27:05
    「おかあたま、今日もおとうたまと仲良しなんだね」

    女の子ハンジが、にまっと笑いながら言いました

    「おとうも、おかあも、ちっとははたらけよな」

    男の子リヴァイは、ベルトルトに似て真面目でした

    働かない両親に、毎日肩をすくめていたのでした

  49. 81 : : 2014/07/04(金) 10:30:44
    天界の天帝が、ずっとその様子を見ていました

    一年くらいならまだ許せました

    今まで散々寂しい思いをしながらも、真面目に頑張ってきたベルトルト

    だから、少し位は羽目を外しても許していました

    ですが、子どもが生まれても何も変わらない、その事に、ついに堪忍袋の緒が切れました

    「あんな怠け者に、アニをやったわけではない!!アニを天界へ連れ戻す!!」

    怒った天帝は、アニを無理矢理、天界へ連れ帰ったのでした
  50. 84 : : 2014/07/04(金) 12:39:46
    「アニを、アニを連れて行かないで下さい!!お願いします!天帝様!!」

    ベルトルトは、アニを羽交い締めにする天帝に、土下座をしました

    「離して下さい!!私はベルトルトと一緒にいたいのです!!子どもたちと一緒にいたいのです!!」

    アニは必死に天帝の腕から逃れようとしますが、無理でした

    「ベルトルト、お前を見損なったぞ!!真面目が取り柄のお前が、働きもせず毎日欲を貪りおって!!アニ、お前もだ!!機織りを怠けたせいで、皆着る服が無くなってしまったんだぞ!!」

    「大おじいちゃま、ゆるしてあげてくらさい…ゆるしてあげてくらさい…」
    ハンジは泣きじゃくりました

    「…ちっ」
    リヴァイは舌打ちをし、天帝を睨み付けました

    結局、天帝の怒りは収まらず、アニはベルトルトと、二人の子どもから引き離され、天界へ連れていかれました

    そして、ベルトルトたちが天界へ上がって来れないように、天界と下界の境に、激しく流れる川を作ってしまいました

    アニの羽衣は手元にありましたが、それを着て空を飛んでも、濁流の前で押し戻されてしまうのでした
  51. 85 : : 2014/07/04(金) 12:44:30
    3人は、肩を寄せあって泣きました

    毎日毎日泣きました

    「おかあたま…おかあたま…」
    まだ幼いハンジは、ずっと天を見上げて泣いていました

    「…仕方がねえ…おとうはちゃんと働かなかった…だからな。ばちがあたったんだ」
    リヴァイはそう言いながらも、ハンジの頭を優しく撫でてやるのでした

    「そうだね、僕が悪かった。リヴァイの言うとおりだよ。天帝に許して貰えるように、これからはまた毎日頑張って働くから、お前たち、泣かないで」

    ベルトルトがそう言うと、ハンジは大きな父に抱きつくのでした

    甘えるのが苦手なリヴァイは、そんなハンジを少し、羨ましげに見つめていたのでした

  52. 86 : : 2014/07/04(金) 12:49:29
    それからと言うものの、ベルトルトは毎日毎日、朝日がのぼって日が暮れるまで、一生懸命働きました

    子どもたちは、アニが残した羽衣を二人で羽織って空を飛び、天帝が作った濁流の川の水を、毎日毎日ちいさなひしゃくで掬いました

    水が少しでも減れば、おかあに会える、その一心で…

    小さな手で、時に挫けそうになりながらも、二人で励まし合って、それを続けました
  53. 87 : : 2014/07/04(金) 12:58:59
    一方天界では、アニが毎日泣き暮らしていました

    ベルトルトと二人の子どもに会いたくて会いたくて、胸が張り裂けそうでした

    働かなかった自分を悔いて、泣きながら機織りをしました

    そんな状態が一年近く続きました


    天帝はさすがに可哀想に思い始めました

    そこで、アニに言いました

    「真面目に一生懸命働いていれば、一年に一日だけ、川を渡すかささぎを飛ばしてやろう」

    その言葉は、下界のベルトルトにも伝えられました

    二人は、一生懸命一生懸命、働きました

    一日でもいい、もう一度会えるなら…

    その一心で、朝から晩まで働きました
  54. 88 : : 2014/07/04(金) 13:08:31
    そして、一年が経ちました

    今日は7月7日でした

    濁流の川は、静かな流れになりました

    川の畔で、ベルトルトと二人の子どもは、その時をじっと待ちました

    すると、川の向こう岸からかささぎが沢山飛んできました

    かささぎは羽を広げ、川の向こう岸まで橋を作りました

    ベルトルトは、二人の子どもの手を繋ぎ、橋を渡りました

    橋を渡り終えると、懐かしい顔が、出迎えてくれていました

    青い瞳は涙に濡れて、輝いていました

    ベルトルトは、駆け寄りました

    青い瞳を濡らしているアニも…ベルトルトに駆け寄りました

    会いたくて会いたくて、狂いそうだった気持ちを全てぶつけるように、二人は強く抱き合いました
  55. 89 : : 2014/07/04(金) 13:14:10
    「おとうたま、おかあたま、良かったね」
    ハンジは目に涙を浮かべて笑いました

    「…ああ、そうだな」
    リヴァイも、うっすら目に涙を浮かべていました

    ベルトルトと抱き合っていたアニは、二人の子どもに駆け寄り、強く抱き締めました

    「ごめんね…寂しかったでしょう…ごめんね」

    ハンジは母の胸の中で、わんわんと泣きじゃくりました

    リヴァイはただ母の胸に顔を埋めて、目を閉じていました

    「二人とも、ありがとう」
    ベルトルトは、3人まとめてぎゅっと抱き締めたのでした

    こうして、一年に一日だけ、7月7日の七夕の日だけ、家族で過ごせるようになったのでした

    ―完―
  56. 90 : : 2014/07/04(金) 13:15:02
    ここからは伝説とは何ら関係ないおまけ話になります

    ご了承頂けましたら、お付き合いください♪
  57. 91 : : 2014/07/04(金) 13:21:38
    「って言うかさ、大おじいはけちだと思うんだよね。おとうたまは毎日毎日真面目に働く様になったんだから、おかあたまを返してくれたらいいのにさ」

    五才になったハンジは、口を尖らせました

    リヴァイは頷きました
    「だよな、エルヴィンじじいめ、けちくせえ」

    リヴァイはますます口が悪くなっていました

    「あのさ、天女のおばさ…いや、お姉様方に頼んでみようよ!!おかあたまを下界に戻してくれるようにさ!!」
    ハンジは目をきらきらと輝かせました

    「おばさんなんて言ったらやばいぞ、ハンジ…。だがその案悪くねえ。丁度今日はペトラばばあとナナババアが来るからな、話してみるか」

    二人は顔を見合わせて頷きました
  58. 92 : : 2014/07/04(金) 13:26:24
    天界から、ペトラとナナバが降りてきました

    二人は小さな手を振りながら、出迎えました

    「あら、リヴァイ、あまり大きくなってないですね」
    ペトラがにこりと微笑みました

    「…1㎝はのびたぞ…失礼なペトラばばあ」

    リヴァイは毒づきました

    「ハンジは相変わらず落ち着きがないわねえ、ちょっとじっとしていられないの?」

    ナナバは、自分の手を握りながらくるくると踊るハンジに目を向けながら、肩をすくめました

    「えへへ、嬉しいんだもん♪」
    ハンジはそう言って笑顔を見せました
  59. 93 : : 2014/07/04(金) 13:37:51
    「相談があるの、ペトラおねえたま、ナナバおねえたま」
    ハンジは愛嬌のある笑顔を浮かべて言いました

    「何かしら?」
    ペトラは屈んで話を聞いてやることにしました

    「実はね、おかあたまをそろそろ、下界に戻して欲しいの…おとうたまだって、毎日頑張ってるし、またさぼろうとしても、わたしたちがちゃんと見張るし…」
    ハンジは泣きべそをかいた…ふりをしました

    ペトラはその表情に心を打たれました

    「そうよね、確かにもう、許していいと思うわ」
    ペトラは頷きました

    「私も、エルヴィンじじいはしつこいと思う。ねちっこいし」
    ナナバも小さな声でそう言って、頷きました

    「で、だ。俺が調べた所によると、エルヴィンじじいはいろいろと女性関係に問題がある…これを見てくれ」

    リヴァイは必死に調べあげたエルヴィンの弱みリストを、ペトラたちに見せました

    「…これ、本当なの…?」
    ペトラは愕然としました

    「ああ、それを見せて、おかあを戻せと脅してくれよ。もし戻さないなら、下界にこの話を言いふらすとな」

    リヴァイはにやりと笑いました

    「…リヴァイ…恐ろしい子」
    ナナバは背中を震わせました

    とにかく、ペトラたちは天界に戻り、天帝にリヴァイが書いたリストを手渡したのでした
  60. 94 : : 2014/07/04(金) 13:42:45
    「…なんと…これは…」
    天帝エルヴィンは絶句しました

    リストには、下界で手込めにした女の名前がずらりと記載されていたのでした

    「お祖父様…不潔です!!」
    アニは顔をしかめました

    「わ、わかった…アニ、お前は帰りたければ帰りなさい。その代わり…」

    「はい、真面目に働いて、立派に子どもを育て上げます、お祖父様」

    アニはそう言ってにっこり微笑むと、虹の羽衣を羽織り、空に舞い上がりました

    「お姉様方、ありがとう」

    下で手を降る姉たちにお辞儀をし、アニは下界へ降りたのでした

  61. 95 : : 2014/07/04(金) 13:47:13
    ベルトルトは、くたくたになりながら馬をひいて、家路につきました

    一年に一日のあの日のために、毎日毎日働いていました

    子どもたちを立派に育て上げなければなりませんし、休む暇はありませんでした

    今日も日が暮れてしまいました

    子どもたちに寂しい思いをさせているかと思うと、居てもたってもいられず、ふらふらになりながらも、急ぎ足で帰りました
  62. 96 : : 2014/07/04(金) 13:54:05
    「ただいま」
    家に入ると真っ先にそう言うのが日課でした

    いつもならそう言うと、すぐにハンジが駆け寄ってきて、頬にキスをくれるのですが、今日は違いました

    「…おかえり、ベルトルト」

    一年に一日だけしか聞くことを許されない声が、確かにベルトルトの耳に届きました

    ベルトルトは目を疑いました

    居るはずのない人が、家にいたからです

    「ア、アニ…?」
    これは夢かもしれない、そう思いました

    頬をつねってみると、痛みを感じました

    「夢じゃないよ…帰って来たんだ」

    アニのその言葉に、ベルトルトは弾かれた様に、彼女に駆け寄りました

    「アニ…アニ!!」
    愛しい人を、力強く抱き締めました
  63. 97 : : 2014/07/04(金) 13:59:56
    二人は激しく、お互いの唇を重ね合いました

    触れたくて触れられなかった頬に、額に、唇を沢山落としました

    「ハンジと、リヴァイは…?」
    ベルトルトは、子どもの姿が無いことを気にしました

    「二人は私の羽衣を着て、天界に遊びに行ったよ。明日、戻ってくるから」

    アニはそう言うと、ベルトルトの唇に、自分のそれを重ねました

    二人は話すことより先に…
    長く会えなかった、ふれ合えなかった時間を埋めるかの様に

    お互いの身体を求め合ったのでした
  64. 98 : : 2014/07/04(金) 14:08:43
    「リヴァイが…そんなことを、してくれていたんだね、僕たちのために」

    ベルトルトは布団の中で、アニの身体を抱きながらそう言いました

    アニは頷きました

    「ハンジとリヴァイに、感謝しなくちゃね」

    二人は顔を見合わせて、幸せそうに微笑み合うのでした
  65. 99 : : 2014/07/04(金) 14:19:30
    こうして、リヴァイの機転によって天帝の赦しを得たアニとベルトルトは、下界で四人仲睦まじく、幸せに暮らしたのでした

    ―おまけ 完―
  66. 110 : : 2014/11/21(金) 18:59:43
    いい話だあああ((号泣
  67. 111 : : 2014/11/21(金) 19:51:33
    >名無しさん☆
    わあ、ありがとうございます♪ベルアニは殆ど書かないので、そう言って頂いて嬉しいです(*^^*)
  68. 112 : : 2015/04/28(火) 20:23:58
    いい話
    感動しました
  69. 113 : : 2015/04/28(火) 20:25:24
    >名無しさん☆
    読んで頂きありがとうございます♪
    ベルアニ自体まともに書いたのがはじめてで……
    そう言って頂けて嬉しいです(*´ω`*)

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fransowa

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