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進撃の人狼ゲーム -アルミン主人公企画SS-

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  1. 1 : : 2014/05/15(木) 02:10:17

    お久しぶりです。
    泪飴です。


    今回、私が執筆を行いましたこちらの作品『進撃の人狼ゲーム』は、
    【進撃SS作家陣による制限SS執筆大会!】というグループにて開催された『制限付きSS投稿企画』へ向けて執筆した作品となります。

    今回の制限内容は『キャラクター』で、指定は『アルミンを主人公』となっております。

    こちらのグループに詳細が記載されてありますので、
    詳しく知りたい人や興味がある方、また他の参加者の作品を閲覧したいという方がいらっしゃいましたら、以下のURLからご覧になってください。

    http://www.ssnote.net/groups/132

  2. 2 : : 2014/05/15(木) 02:22:45


    ※この作品は、「人狼ゲーム」を題材にした作品です。
    作中で行われる人狼ゲームのルールは、皆さんのご存知のルールとは多少異なっているかと思いますが、もともと人狼ゲーム自体に様々なルールバリエーションがあるようなので、そこはご容赦戴けると助かります


    人狼ゲームのルールについては、作中で団長が丁寧に解説してくれてますので(笑)、やったことがない、知らない、という方も、安心してお読みください。


    誰が人狼なのか、よかったら、皆さんも予想しながら読んでみてくださいね♪


    では、行きます!
  3. 3 : : 2014/05/15(木) 02:23:38



    調査兵団本部のとある会議室。
    そこには、10人の調査兵が輪になって座っていた。

    調査兵団第13代団長。
    エルヴィン・スミス。
    その右腕であり、分隊長でもある。
    ミケ・ザカリアス。
    調査兵団兵士長。
    リヴァイ。
    巨人の研究に精力的な分隊長。
    ハンジ・ゾエ。
    その副官。
    モブリット・バーナー。

    そして、104期からは、僕の他にエレン・イェーガー、ミカサ・アッカーマン、ジャン・キルシュタイン、クリスタ・レンズが来ている。

    ミカサはともかく、僕達4人は顔色が悪い。
    当たり前だ、遠くから見かける程度ならともかく、団長達と輪になって座ることになるなんて。

    でも。
    僕の手の震えがさっきから止まらないのは、調査兵団のトップが目の前に揃っているから、という理由だけではない。

    不機嫌そうな顔のまま、兵長が僕を見る。

    「アルミン、時間がねぇから今すぐ決めろ……」

    「え…っと………」

    緊張で、掠れた声しか出ない。
    兵長の眼光が増す。

    「…この状況を生き残るため…俺達の中に潜む敵を倒すため…お前は誰を見捨てる?」


    そう、今、僕は大変な選択を迫られている。
    この中から、誰か一人を選び…切り捨てるという…非情な選択を。

    既に投票を終えたエレンが、小声で話し掛けてくる。

    「アルミン、オレは…その、怪しいのは幹部の人達だと思う…あの中に、必ず『いる』…きっとそうだ…そうじゃなきゃ、あんなに落ち着いていられるはずがねぇよ…」


    駄目だ…エレンが、団長達を疑うなんて……。
    この切迫した状況が、僕達の判断力を確実に削り取っていく…。


    「早く決めて、アルミン…兵長が待ってる」


    ミカサ…。
    言葉通りに受け取れば、単純に急げ、って意味だけど、そうじゃないよね……目が怖いよ……へ、兵長は僕の決定を待っているのであって、選ばれるのを待っているわけじゃないと思うけど…。


    「アルミン、時間だ。私達としても、これ以上は待てない…決めてくれ」


    団長が真剣な目で僕を見つめる。
    そうだ…決めるしかない……。
    大丈夫、自分なりに考えて、出した答えだ…。
    そうしなければ…大切なものを捨てなければ…この戦いに勝つことはできない…。


    「ぼ、僕は……!!」

    自然と、左胸に右手が伸びる。



    「ハンジ、分隊長を…選びます…!!」



    静寂が包み込む。
    全員が、一斉にハンジさんを見る。

    当の本人は、呑気に笑っている。
    自分が処されると決まって、へらへら笑っているなんて…やっぱり、噂通りの変人なんだろうか。
    でも、自分が犠牲になる覚悟を、しっかり持った人だ…それだけは、間違いない。


    例え、彼女が僕らの敵だとしても。





  4. 4 : : 2014/05/15(木) 02:24:11



    ハンジさんは立ち上がって、壁に設置されている黒板に、ふらふらとした足取りで向かう。
    チョークを手に取り、自分の名前の下に線を書き足して、ぽつりと呟く。

    「そっか……これで、私に入った票が一番多くなったね………ここまで、か」

    「ハンジ……」

    「気にしないで、ミケ。どうせ、この中から必ず一人欠けるはずだったんだ。それがたまたま、私だったってだけだよ…」

    「分隊長…」

    「モブリット………あーあ……皆でもっと喋りたかったけど………しょうがないね、先に逝くよ……」

    椅子に戻り、やれやれ、と力なく笑う。
    ぼんやりと遠くを見つめてから、兵長を見る。

    「リヴァイ…私の『処刑』は、やっぱり、あなたにして欲しいな」

    兵長はゆっくりと瞬きをして、頷く。

    「…いいだろう…」

    兵長が立ち上がって、ハンジさんの前に立った。
    いつもの無表情のまま、手際よく処刑の準備をする。

    手袋をはめたその手に、しっかりと凶器が握られたのを見て、ハンジさんが口を開く。

    「あ、ゴーグルしていい?直視するの、正直辛いんだよね」

    声が、震えている。
    仲間に処される哀しみか、単純な恐怖かはわからないけれど…。
    兵長も、静かに答える。

    「ああ…構わない……」

    ゴーグルをしたハンジさんの前で、兵長は右手に持った凶器をゆっくりと持ち上げる。

    横を見るとジャンが目を背けている。
    クリスタは、手で目を覆い隠している。

    2人は、ハンジさんには投票しなかったんだよね…。
    それなら僕は、ハンジさんに投票した者として、目を逸らさずに見届けるべきだ。



    彼女の末路を。



    「…行くぞ…」


    兵長は、右手に持った凶器を大きく振りかぶった。

    そして。

    ぐしゃ、という嫌な音と共に、




    ハンジさんの顔面にパイが叩きつけられた。

    渾身の、力で。




    「ぶばぁ!!!!!」

    顔をクリームまみれにしたハンジさんが、断末魔を残して後ろに倒れる。


  5. 5 : : 2014/05/15(木) 02:24:48



    「よ、容赦ねぇな……」

    ジャンが滝のような汗をかいている。

    いや、ジャンだけじゃない。
    さっきまでハンジさんの心配をしていたミケさんも、モブリットさんも、目を見開いて硬直している。

    人類最強が顔面にパイを炸裂させるのだ、当然の反応だろう。

    「よ、よし…ハンジは『処刑』された…今後、ハンジは、このゲームを進行する助手として参加してもらう……では、第2日目…昼のターンを終え…夜のターンに移る」

    団長も冷や汗を浮かべながら、司会進行を行う。


    そう、今、僕達がしているのは…



    ***



  6. 6 : : 2014/05/15(木) 02:25:04



    「人狼ゲーム、ですか?」

    たまたま5人で会議室の近くを通りかかった所を、団長達に呼び止められた。

    「ああ、最近街で流行っているらしい…我々幹部も、興味があってね……」

    へぇ、団長って意外にお茶目だ。
    凄く真面目で奇抜と言うか…悪く言えば、堅物で変人、ってイメージだったんだけど…。


    「…拷問に生かせないか、と、考えているところなんだ」


    違った。
    凄く物騒だ。

    団長は、とても親しみやすい笑顔のままで恐ろしいことを言う。


    「無論、同胞に手を掛けるなんてことはあってはならないことだ。だが、我々調査兵団は、どのような状況にも柔軟に対応しなければならない。だから、何らかの理由により、敵が人間になることもありうるわけだ。その場合、余計な血を流さないために効果的なのは、敵を心理的に追い詰めることだ。このゲームは、そのための訓練、及び実験として価値があると私は思う。どうかな?」

    どうかな、も何も、これは上官命令に等しい。
    参加しない、という選択肢は存在しないはずだ。

    僕達は、静かに部屋の中に通された。

    そして、この、地獄のようなゲームが始まったのだ……


    ******


  7. 7 : : 2014/05/15(木) 02:25:29



    部屋の中には、このゲームの参加者が輪になって座っている。

    一番上座にあたる部分に団長、そこから時計回りにミケ分隊長、ハンジ分隊長、モブリット副分隊長、ミカサ、僕、エレン、ジャン、クリスタ、兵長の順に座っている。

    「団長、人狼ゲームって…具体的にはどんなゲームなんですか?オレ…やったことなくて……」

    「何だよエレン、俺はやったことあるぜ?」

    「えっ…ジャン、それ、いつだよ!?」

    「エレンが参加できなかったのは仕方がないよ…ネス班長がね、陣形の講義の後に、新兵と親睦を深めたい、って言って、皆でゲームをしたの」

    「私は、エレンがいないので参加しなかった」

    「僕も、疲れてたから参加しなかったんだ…でも、ルールは知ってるよ」

    「そ、そうなのか…」

    「大丈夫、安心してくれ、エレン…先程まで、ここにいる我々で書物を読み合わせ、ルールは完璧に理解した…」

    へぇ、さすが調査兵団の幹部達だ…と思うことにする。

    え、もしかして暇なんですか?

    …なんて、死んでも言えないよね!

    「…もしかすると、君達が知っている人狼ゲームとはルールが多少異なるかもしれない。だが、それは、このゲームが口伝えにより継承されて来たことによる影響だ。ここでは、このルールに従ってもらう…いいね?」

    「了解です!!」

    エレンが心臓を捧げる。
    つられて僕達も敬礼をしてしまったけれど、今の僕達が、一体何に心臓を捧げているのか、いまいちわからない。

    「皆、いい表情だ……」

    団長がご機嫌みたいだし、たぶんこれでいいんだろう。



  8. 8 : : 2014/05/15(木) 02:25:51



    「まず、このゲームでは、参加者が5種類の役割に振り分けられる。人狼、占い師、霊媒師、騎士、市民だ。それぞれについて説明する」

    まずは、人狼。
    人狼以外の生存者1名を襲撃する。
    対象は、生存している人狼の協議によって決定される。

    占い師。
    夜のターンで、任意の生存者1名の正体を知ることができる。

    霊媒師。
    夜のターンで、任意の死者1名の正体を知ることができる。

    騎士。
    任意の生存者1名を人狼の襲撃から守ることができる。

    「これに入らない者は、皆、市民となる。市民は、他の4つの役割のような特殊能力は一切持たない。人狼を『人狼チーム』とし、その他を『人間チーム』とする。人狼チームの勝利条件は、生存者の半数を人狼で占めること。一方、人間チームの勝利条件は、人狼の生存数を0にすることだ。つまり、このゲームは、人狼チームと人間チームの、生き残りをかけた勝負だと言える」

    「役割は、ゲームの最初にシャッフルしたカードを引いて決定する…基本的に自分以外の役割はわからねぇが、その役割の人間が何人いるのかはわかる」

    「あ、自分の役割はゲーム中に告白してもいいよ。もちろん、嘘をついてもオーケー。でも、引いたカードはプレイ終了まで決して見せちゃダメだよ…えーと、後は…」

    「あと、人狼は他の人狼が誰なのか予め知っている。それから、騎士は自分自身を守ることができない…ですよね?」

    「そうそう!さすがモブリット!」

    「なるほど…説明、ありがとうございます。…どの役割も面白そうだけど、騎士、かっこいいな…なぁ、アルミン」

    「うん、僕もそう思うよ…敵である人狼から、戦えない市民達を守るなんて、まるで僕達兵士だ…!!」


  9. 9 : : 2014/05/15(木) 02:26:19



    「全くだな。自らの身を守らないところも、兵士としての心構えによく合っている。だが…君達は、このままのルールだと、少しばかり簡単すぎると思わないか?」

    え?
    団長…何を仰ってるんですか…?

    「うん、特に、人狼が何人いるのかわかっちゃうところとか、つまんないよね」

    え、いや…ハンジさん…それは…。

    「実際の戦いでは、敵が何人いるのかも、何を目的としているのかもわからねぇのが普通だ…こりゃ…あまりに甘過ぎる」

    へ、兵長…そりゃ、人類最強に言わせればそうかもしれませんが…。
    思わず、口を挟んでしまった。

    「で、ですが…人狼の人数がわからないと、人間チームがかなり不利になりませんか…?」

    「その通りだ。だが、現実の我々人類は、常に巨人の後手に回り、圧倒的に不利な状態が続いている…そう思えば、この程度のハンデなど、微々たるものだ」

    なるほど、さすがは調査兵団の幹部…。
    精神的な打たれ強さが常人の域を超えている。

    ゲームにまでそれを持ち込んで欲しくないけど、彼らが今まで乗り越えて来た修羅場の数々を想像すれば、それも仕方がないことなのかもしれない…。

    「というわけで、今回は、人狼の人数は、人間チームにはわからない、という特別ルールを付け加えることとする」

    「今回は、10人でやるから、人狼は1人から4人の可能性があるね」

    「よ、4人…って……一回でも予想を外したら、負けてしまうじゃないですか…!」

    「運も、時には必要だ。何、上手くやれば人狼が何人いても攻略は可能だ、問題ない…さて、次に、ゲームの流れを説明する」

    ゲームは、第1日目の夜から始まる。
    役割カードを全員にランダムで配る。配られたカードに記された“人間”“人狼”などの役割を、各自演じることになる。
    人狼は、進行役の指示に従い、他の人狼が誰か確認する。

    ゲームには、昼のターンと夜のターンが存在し、これを交互に繰り返して進行する。

    昼のターンでは、生存者の中に潜む人狼が誰なのかを全員で推理する。
    話し合いの時間は5分間とする。
    5分経ったら、多数決で誰かひとりを選び、その人物を「処刑」する。
    投票は、最後に死んだ人間の右隣に座る人間から時計回りの順番で行う。
    処刑された人物は、役割を隠したままゲームから退場する。

    一方、夜のターンでは、全員が目をつぶった後、ゲームマスターのサポートで人狼・占い師・霊媒師・騎士が順番に目を開いて能力を使い、再び目を閉じる。
    能力を用いた結果は、本人しか知り得ない。
    人狼に襲撃された人物は、役割を隠したままゲームから退場する。

    これを繰り返した結果、人狼が全滅したら、人間チームの勝利となり、生存者の半数が人狼になれば、人狼チームの勝利となる。

    「処刑」または「襲撃」によって殺され、途中で退場した人々も、勝利条件を満たせば勝利者に含まれる。

    「あ、人狼の『襲撃』は、特に何もしないけど、『処刑』はそれなりに本格的にやるよ…どんなものかは、最初の『処刑』が行われるまでのお楽しみだけどね」

    「え……それって…体罰みたいな……?」

    「いや、体には害はないよ!………エルヴィンの許可もちゃんと下りてるから!」

    「団長の許可」という言葉を聞いて、やっと安心した。
    団長が許可したなら、巨人の実験関連ではないんだろう…。

    「以上だ。質問が無ければ、さっそくカードを配るよ…ああ、進行役はとりあえず私が務める……最初の死者が出たら、その後はその人に引き継いでもらう」


  10. 10 : : 2014/05/15(木) 02:26:44



    【第1日 夜】

    ミカサから渡されたカードの山から、1枚取ってエレンに渡す。
    人狼を駆逐してやる…一匹残らず!!!と騒ぐエレンの声を聞きながら、恐る恐る取ったカードを捲ってみる。
    確認してみて、ふぅ、と息を吐く。


    僕は人間チームだ。


    ほっとしたような、ちょっと残念なような。
    とりあえず、最初に殺されないように気をつけなくちゃ…。

    「よし、全員取ったな…では、一度、皆目を閉じてくれ」

    ぎゅ、っと目を閉じる。
    少しの間をおいて、再び団長の声がする。

    「では、人狼になった者だけ、眼を開けてくれ。お互い目を合わせて、誰が人狼で、全体で何人いるのかをきちんと把握するんだ…約1分待つ」

    静かな部屋の中で、誰かの服が擦れる音がする。
    団長達の方から聞こえる気がする…でも、別にそれは、団長達の方に人狼がいるという証拠にはならない。

    「1分経った。全員、目を開けてくれ」

    団長の声を聞いて、ゆっくりと目を開ける。
    全員の顔を見渡してみるけれど、これといって変な素振りを見せる人もいない。
    まぁ、そう簡単には尻尾を出さないか…。

    「よし、このターンでは、人狼は誰も襲撃しないまま、朝になる。では、昼のターンに移る」


  11. 11 : : 2014/05/15(木) 02:27:05




    【第2日 昼 処刑後】


    「喋るなよハンジ…てめぇはもう死んでるんだからな…ゲームの進行に関係ないことは一言たりとも喋るな…」

    濡れタオルで顔を拭いているハンジさんに、兵長が新しい濡れタオルを手渡している。

    「団長…『処刑』って……マジでこれなんですか……」

    ジャンが頭を抱える。

    その表情は、トロスト区でガスの残量が少なくなった時と同じくらい、絶望と恐怖に満ちている。
    可能なら、僕もあの時くらい絶叫したい気分だ。

    「ああ…確かに、処刑人がリヴァイだったことで、私の予想の数段上を行く激しい刑となったが…さすがに、ここでやめるわけには行かないだろう。現に、ハンジは、既にその身を以て受け止めたのだから…あの、醜悪な…パイという凶器を……まあ、それもハンジの発案だったから…早い話がただの自爆だったな」

    団長が唇に指を当てて、目を伏せる。

    ハンジさんの社会的な死を悼んでいるように見えるが、実はめちゃめちゃ笑いを堪えている。

    なるほど、彼の人間性は恐らくとっくの昔に、壁外に捨てられてきたのだと思う。
    それに、あの口ぶりだと、団長も僕と同じ理由でハンジさんに投票したということだろう。

    そう、僕がハンジさんに投票したのは、ハンジさんが怪しかったからじゃない。
    ハンジさんが処刑の内容を知っている様子だったからだ。

    結果的には、幹部は全員知ってたみたいだから、別にハンジさんじゃなくてもよかったんだろうけど…改めて、自分が選ばれなくてよかったと思う…。

    「団長、提案があります…」

    「何だ、モブリット」

    「やはり、あの処刑方法は残酷ですので……せめて、女性に対しては行わないことにしませんか…?我々男性だったら、水でも浴びてくればよいですが、女性だと、いくら兵士と言っても、そうもいかないでしょうから…」

    モブリットさん、優しげな見た目通り、物凄く気が利く人だ…。
    ただ、ひとつ気になるのは、



    あなたの上官も女性なんじゃ…?



    エレンも同じ疑問を持ったらしい。

    「あ、あの…でも、ハンジさんも女…」

    「黙れエレン」

    「え、でも」

    「生き急ぐな…」

    「…はい」

    うん、何か大人の事情があるみたいだ。
    大人になったら、わかるのかな(棒読み)。

    まあ、ハンジさんの性別は「ハンジ」だ、って誰かが言ってたし、団長達がそういう見解なら仕方がない。

    「では、モブリットの提案通りにしよう。いよいよ…夜のターンだ…ここからは、ハンジに進行役を任せる」

    「はいよー!じゃあ、皆、また目を閉じて。薄目を開けるような卑怯者は、見つけ次第お仕置きだよ!女でも男でも容赦なくパイ叩きつけるからね!」

    ハンジさんの視力が正常なことを信じて、目を閉じる。



  12. 12 : : 2014/05/15(木) 02:27:25




    【第2日 夜】


    「じゃあ、まず、人狼の皆さん、目を開けて!で、唇だけ動かして、誰を襲撃したいか、私に伝えて。もし、意見が割れた場合は、私が、くじでランダムに選ぶから!」

    静寂の中で、思考を巡らす。
    人狼は、今、何人残っているんだろう。

    「はい、いいよー!じゃあ、次は占い師の人、目を開けて。口パクで、誰の正体を知りたいか教えてね」

    ハンジさんがもし人狼だったら、最大3人残っていることになる。
    人狼ではないとしたら、最大4人残っていることになる。

    でもこれは、占い師の力では判別できない。

    市民としては、せめて、占い師が運良く、生存者の中に潜む人狼を探り当ててくれることを祈るしかない。

    「はい、じゃあ、次は霊媒師!現時点で死んでるのは私だけだから、選択の余地はないね」

    そうか、霊媒師なら、ハンジさんの正体がわかる…もちろん、ハンジさんが霊媒師でなければ、だけど。

    ハンジさんが人狼でない場合、現時点で人間チームは5人生存していることになるけれど、これから人狼の襲撃が起こるから、1人減って4人になる。
    その瞬間、人間と人狼の生存者数が同数になって、僕達人間チームの敗北が決定してしまう。

    「では、最後。騎士の人、目を開けて、誰を守りたいか教えてね」

    ハンジさんが人間で、なおかつ人狼が4人居た場合、人間チームの敗北を回避できるのは、現時点では騎士だけだ。
    騎士が守る人が、人狼の標的と被れば、人間チームから誰かが死ぬのは防げる。
    無論、ハンジさんが騎士でなければ、だけど。

    「はい、では、これで夜のターンを終えるよ…皆、目を開けて!」



  13. 13 : : 2014/05/15(木) 02:27:59



    【第3日 昼】
    生存者:エルヴィン、リヴァイ、ミケ、モブリット、エレン、ミカサ、アルミン、ジャン、クリスタ

    「では、昨晩の、人狼による被害者を発表します!……人狼に襲われた可哀想な人間は……」

    嫌な緊張感が漂う。
    自分じゃありませんように、と息を詰める僕達を、ゆっくりと見渡してから、ハンジさんは、ニコッと笑う。


    「居ませんでしたぁあああああ!!!」


    へ?

    「えっ……!!」

    クリスタが、目を丸くしている。
    エレンも、首を傾げている。

    「被害者が出ねぇって…どういうことだ…なぁ、アルミン…!?」

    「人狼が狙った人物を、騎士が守ったんだ……凄い偶然だけど……」

    「そうか……こんなことが…本当に起こるんだな……」

    団長が楽しそうに目を輝かせている。
    僕も、声に興奮が籠るのを抑えられない。

    「これは人間チームにとってすごく有利な状況だ……まず、犠牲者が出なかったことで、人狼チームの人数との差が縮まらなかった。それと、ハンジさんが騎士ではなかったこともわかった。そして…」

    「…騎士が守った人間は、人間だと証明された…そうでしょ、アルミン」

    「うん、そうだ。それでいて、人狼チームはこれと言って新しい情報は得られなかったはず…だって、人狼には、最初から誰が人間チームかわかっているんだから…」

    「じゃあ、騎士の奴に名乗り出てもらえばいいじゃないか…!!この中で、騎士のカードを持っている人はいませんか!?」

    誰も手を挙げない。
    代わりに、ジャンが口を開く。

    「…いや…それは安易すぎねぇか、エレン…」

    「何でだよ、ジャン!?」

    「ジャンの言う通りだ…エレン」

    「兵長…!?…どうしてですか…?」

    「俺は別に、名乗り出るなと言ってるわけじゃない…まだ早いと言ってるだけだ…」

    「どうして……敵にとって厄介なのは、騎士のような能力持ちなんですよね?」

    「ああ、その通りだ……そして、俺が人狼なら、まず騎士を狙うだろうな…」

    エレンが困惑した顔をするのを見た団長が、ハンジさんに目配せして、苦笑いを浮かべる。

    「……すまない、リヴァイは時々、少し言葉が足りないんだ……つまり、リヴァイが言いたいのは……この中にいる騎士が正体を明かすべきは…果たして『今』なのかどうか、ということだ」

    モブリットさんが手を打つ。

    「そ、そうか…今正体を明かしてしまえば、騎士は人狼に狙われてしまう…」

    その通りだ。
    騎士に限らず、能力を持つ人にとってみれば、正体を明かす行為はリスクが高い。
    その次の夜のターンで、人狼に狙われる可能性が高くなるからだ。

    「何だ、モブリット…何か言いたげだが…?」

    兵長の言葉に、俯いていたモブリットさんが顔を上げる。

    「…はい…確かに、能力持ちが正体を明かせば狙われる…でも、それを恐れて黙秘してしまったら、人狼ではない人物が誰なのかもわからないままです。チームの勝利の為には、勇気も必要なんじゃないか、と思って…」

    全員が黙りこむ。
    その沈黙を破ったのは、意外な人物だった。

    「私も、モブリット副分隊長と同じ意見です…」

    クリスタ…?

    「このまま黙っていても、能力を持った人が、人狼の次の標的に選ばれない確証はどこにもありません…もし、正体を隠したまま騎士が死んでしまったら…せっかくの情報が、誰にも知られないままになってしまいます…」

    「…焦って正体を明かしても、無駄死にするだけだと思うが?……俺は無駄死には嫌いだ、するのもさせるのもな」

    「…そうかもしれませんね、兵長。たぶん、私がこんなことを言えるのは…私が、何の能力を一切持たない市民だから、なのでしょう…」

    さり気なく、クリスタが市民アピールを…。
    そう思った時、ハンジさんが手を叩いて会話を中断する。



  14. 14 : : 2014/05/15(木) 02:29:42



    「はい、皆さんちょっと注目!」

    「何だ、クソ眼鏡……今、話してる最中だろうが…」

    「うん、大変盛り上がってるところ悪いんだけどね…時間なんだよ」

    ハンジさんが、懐中時計を見せる。
    確かに、昼のターンになってから5分が過ぎてしまっている。

    「とはいえ、まだ何の情報も出てないよね…まぁ、残り時間が少なくなったことを警告しなかった私も悪いしね…今回だけは、特別に2分だけ追加ね。次からは、1分前に警告するようにするよ」

    「助かる、ハンジ」

    団長が頷く。

    とにかく、時間が無い。
    早く、人狼の手掛かりを見つけないと…。

    意を決したように、モブリットさんが話し始める。

    「……皆さん……私は、霊媒師です」

    モブリットさん…!?
    どうして今、正体を…兵長にも止められたのに……!?

    「昨晩の時点での死者は、ハンジ分隊長だけでした。そして、ハンジさんは…人狼、でした」

    「え…!?」

    「それは本当か…モブリット…?」

    「ええ、間違いありません…なので、現時点の人狼は、最大でも3人のはずです」

    「待ってください…ハンジさんがさっき投票したのは……」

    黒板を見ると、モブリットさんの名前の下にハンジさんの名前がある。

    「ハンジ分隊長が投票したのは、残念ながら私だ。霊媒師である私が人間なのは明らかだから…新しい情報にはならないな」

    「はい、1分過ぎたよ!急いで!」

    「…ただ、さっきハンジさんに投票しなかった人は、人狼である可能性が高いってことですよね?えっと、それって……」

    「私が見よう。うん…ミケ、モブリット、ミカサ、ジャン、クリスタの5人のようだな」

    「ミケさんはクリスタに、モブリットさんはエレンに、ミカサは兵長に、ジャンはミケさんに、クリスタは団長に、それぞれ投票してますね」

    「モブリットが白だとすれば…怪しいのはミケ、ミカサ、ジャン、クリスタの4人だな…チッ……残り40秒か……どうする…?」

    「ところで、ミケ分隊長……先程から、一言も発言なさっていませんが……大丈夫ですか?」

    クリスタの指摘に、全員がミケさんを見る。

    「確かにな……ミケ、てめぇはもともと喋らねぇ奴だが……一言も喋らねぇってのは怪しいな…?」

    「どうなんだ、ミケ。お前、まさか人…」

    「はい、そこまでー!!!話し合いは終了!投票に移るよ」

    ハンジさんの明るい声が、団長の言葉を遮る。
    ついに、ミケさんが口を開くことはなかった…。
    ミケさん……これでよかったのか…?

    「最後に死んだのは私だから、モブリットから時計回りに投票していこう。最後が、ミケね」

    「私は、ミケさんで。発言がゼロ、というのは怪しいと思います」

    「はい、モブリットはミケね…ミカサは?」

    「私は、兵長で」

    ミカサの無感情な言葉に、兵長の表情が険しくなる。

    「おい…てめぇ、確かさっきも俺に投票していたな…どういうつもりだ?」

    「こらこら、リヴァイ…ゲームなんだから恨みっこ無しだよ。それに、話し合いの時間じゃないんだから、そういう話はダメだよ!…次!アルミン」

    「僕は、ジャンで」

    「はぁ!?何で俺なんだよ!?」

    「さっき、役割をばらすのに否定的だっただろう?…兵長も同じ意見だったけど、前回、兵長はハンジさんに投票してるからね…君が怪しいと思う」

    「てめぇ…じゃあ、俺はアルミンに投票する!」

    「ちょ…、ジャン!もう少しちゃんと考えて投票しなきゃ…」

    「うるせぇ!大体お前は、いつもエレンとベタベタつるんでばっかで気持ち悪いんだよ!!」

    「な、何だよ、ジャンだって、さっきからミカサのことばっかり見てるじゃないか!」

    「う…そ、それは…!!」

    顔を赤くするジャンを見て、ハンジさんがにやりと笑う。

    「あはは、元気がいいねぇ。じゃあ、アルミンとジャンはお互いに一票ずつね…あ、ごめん、エレン抜かしちゃった!」

    「あ、大丈夫です!…オレは、ミケさんで。理由は、モブリットさんと同じです」

    「お、ミケに2票目が入ったか…次、クリスタは?」

    「私もミケさんで…」

    「俺も、ミケだ…悪く思うな」

    「私も、ミケに1票入れよう…すまないな、ミケ」

    「あらら、3票も……ミケ、ご愁傷様。一応聞くけど、誰に入れる?」

    「…クリスタで」

    「よし、リヴァイ1票、ミケ5票、アルミン・ジャン・クリスタが1票ずつ……というわけで、ミケが『処刑』決定!」


  15. 15 : : 2014/05/15(木) 02:30:15



    兵長が、静かに立ち上がる。
    暗黙の了解で、兵長が執行人になっている。

    「ミケ……余計なことを言わないお前の性格は嫌いじゃねぇが…こういう場面じゃ、静かすぎるってのも問題らしいな…」

    気のせいか、さっきよりも大きく見えるパイを持って歩み寄って来る兵長の殺気を感じ取ってか、ミケさんが嫌な汗を流している。

    「…来い、ミケ…せめてもの情けだ…外でやってやる………片付けもしやすいしな」

    兵長は、パイを片手にミケさんを連れて部屋を出て行く。
    人類最強が、人類ナンバー2にパイをぶつける日が来るとは……。




    扉が閉まって数秒後。




    「リヴァイ…もう少し下…」

    「あ?何か言ったか?」

    「…うわぁあああああああいやだあぁあぁっ…ぶはぁあっ!!!」





    今の、ミケさん?
    凄くイメージと違う悲鳴……。

    扉が静かに開いて、兵長だけ戻って来た。

    「ったく……びっくりしたじゃねえか……急にでけぇ声出しやがって……」

    「リヴァイ……あんたミケに何したの…?何か、凄い声聞こえたんだけど……」

    「あ?お前にやった時と同じようにぶつけただけだが…?」

    え、そうなんですか?

    「待て、リヴァイ…お前……鼻は避けたんだろうな?」

    「もちろ……いや……どうだったか……」

    え、そうなんですか!?

    「うわああリヴァイ最低!!ミケはもともとデリケートだけど、鼻は特にデリケートなんだぞ!?」

    え、そうなんですか。

    「……ミケ分隊長…可哀想に……」

    「…チッ……ふらついてはいたが、そのまま井戸に走っていったから平気だろう……」

    「後で謝りなよ……」


    こうして、僕達が体も思考も硬直させて見守る中、第3日目の昼のターンは終わった。





    ***


    さて、と。

    あーあ、せっかく人狼になったのに、あっという間に殺されちゃったな。
    しかも、モブリットが私の正体をすぐにばらしちゃったし…霊媒師なんだから、仕方がないけどさ。

    ミケの凄い悲鳴が聞けたのは収穫だったけどね!

    ま、人狼チームの生き残り達に期待だね…。

    ハンジは目を閉じた一同の表情を見渡して、くすり、と笑った。


    ***


  16. 16 : : 2014/05/15(木) 02:30:48




    【第3日 夜】

    「じゃあ、今まで通り、人狼から…」


    ***


    「はぁ…やっと落ちた……」

    濡れた前髪を掻き上げ、井戸の傍にへたり込む。

    リヴァイの奴…まさか、立ったままパイをぶつけて来るとは……。

    リヴァイと俺の身長差は約40cm。
    当然リヴァイはジャンプしてぶつけることになるが、ここで問題が生じる。

    人の鼻の穴は通常下向きについているものだ。

    あの時…。
    鼻に一直線に向かってくる、豪速球ならぬ豪速パイに、まるで無数の巨人に襲われるかのような恐怖を覚え、あれが鼻に当たったら…と想像した時には、あらぬ声を上げてしまっていた……。

    何とか顎でパイを受け止め、威力を殺すことが出来たからよかったものの、危ない所だった。

    「さて、戻るか……」

    兵団ジャケットを肩に掛け、ミケは会議室へと歩き出した。


    ***



  17. 17 : : 2014/05/15(木) 02:31:12



    「はい、じゃあ、夜のターンは終わり!…あ、ミケ!お帰り!!鼻、大丈夫?」

    「ミケ、悪かったな……鼻を狙っちまって」

    「平気だ…鼻への直撃だけは避けたからな」

    「そうか、それならよかった…鼻は大切にな、ミケ」

    無事でも、そうでなくても、鼻の話題で絡まれるのか。
    もはや、ミケさんの本体は鼻なのかもしれない。

    「しかし、兵長の攻撃を見切るなんて、さすがミケ分隊長ですね…!」

    「おっと、モブリット……君、笑ってる場合じゃないぞ?」

    「へ…?」



    「昨晩の犠牲者は…モブリット、あなただよ」



    な…!?
    いや……やはり、か。

    「…ってわけで、モブリットもこれからは喋っちゃダメだからね!」

    何だって…!?
    モブリットさんは、前のターンで、ミケさんが人狼だったのか否かを確認しているばずだ。

    「ま、待ってください…ということは……ミケさんの正体を知る術は無くなった、というですか……?」

    「そういうことになるね、アルミン…じゃあ、今度は制限時間通りにいくからね…話し合い、スタート!」



  18. 18 : : 2014/05/15(木) 02:31:32




    ***

    くそ……ミケさんの正体はわかったのに…。
    こうやって、人狼に狙われてしまえば、一言も話せないまま退場することになるのか…。

    それにしても、騎士は一体何をしているんだ……。
    騎士に守って貰おう、と期待していたのに。

    それに、気になるのはそれだけじゃない…。
    あの新兵…まさか…。

    私を嵌めるためにあんなことを…?

    モブリットの視線の先にいる人物は、モブリットの視線に気づかない。

    ***



  19. 19 : : 2014/05/15(木) 02:32:00




    【第4日 昼】
    生存者:エルヴィン、リヴァイ、エレン、ミカサ、アルミン、ジャン、クリスタ

    「ほらな、俺が言った通りじゃねぇか……能力持ちは狙われるんだよ…」

    ジャンの言う通りだ。
    そういう意味では、騎士と占い師が正体を隠したままなのは正解だったのかもしれない。

    だけど……おかげで、わかったことも幾つかある。

    団長が、顎の下に手を置いて話し始める。

    「とにかく、状況を整理しよう…まず、騎士は、モブリットではなく、誰か別の人間を護ったということだ。それから…占い師が未だに姿を現さない」

    「占い師が姿を現さないのは…恐らく、ここまでに行った2回の占いが外れ続けているからだと思います」

    「アルミン、それ、どういう意味だよ?」

    「もし、占い師が有益な情報を得ていたら…それこそ、人狼を探り当てていたら、自分から名乗り出ると思うんだ……だけど、そうしない。それは、今までに占った相手が、既に正体が明らかになった人か、既に死者となっている人だったから…じゃないかな…」

    「つまり、占いの結果が無益な内容だから、姿を隠している…と?そりゃあ、随分と控えめな性格の野郎だな…」

    兵長がため息をつく。

    「はい、残り2分!」

    まずい、時間が足りなくなってきた。

    落ち着け…考えろ…。

    「クリスタ、」

    え、団長……?

    「…君は、人狼か?」

    団長が、クリスタをしっかりと見ている。
    クリスタも、まっすぐに見つめ返して答える。

    「いえ……違います」

    「ならば、占い師か?」

    「いえ…私は、市民です」

    そうして、2人共無言になってしまった。
    団長、突然どうしたんだろう。
    まさか、時間が足りなくなってきたから、考えることを放棄し始めたのか?

    「あ、あの、団長…どうなさったんですか?突然、クリスタを質問攻めにして…」

    エレンの問いかけに、団長は爽やかに笑って返す。

    「いや…大したことではないんだ。ただ、ちょっと、クリスタが怪しいと思ってね」

    とても大したことじゃないか。

    しかも、団長、口元は笑っているのに、目が全然笑っていない。
    怖すぎる。

    「団長、もしよかったら、理由を教えてください…何故、クリスタなんですか…?」

    「ジャン…先程、ミケが殆ど発言していない、と言い出したのは誰だ?」

    「そういえば…クリスタ…です」

    「能力者が正体を明かすべきだと言い出したのはモブリットだが、彼の発言を積極的に支援したのはクリスタだった」

    団長の推理に、ミカサも腕組みをして付け足す。

    「しかも、クリスタは…一番最初の投票の時、ハンジ分隊長に投票していない」

    「クリスタ…どうなの?」

    クリスタは、悲しそうな顔で僕を見る。

    「私…市民だよ…最初に、ハンジさんに投票しなかったのは…ハンジさんはよく喋ってたし、エレンがハンジさんに、ジャンがミケさんに票を入れたから…私も別の人に、って思っただけ…モブリットさんの意見に賛成したのは、本当にそう思ったから……アルミン…信じて…」

    か、かわいい……それに、気のせいかクリスタの後ろに後光が差している……!!
    だ、だけど…。

    「はい、時間だよ!…ちょっとエルヴィン、可愛い子泣かせちゃだめだよー?じゃあ、ミカサから投票していこうか」



  20. 20 : : 2014/05/15(木) 02:32:29



    「私は、兵長で」

    「てめぇ…また俺か……理由はあるんだろうな…?」

    「兵長の発言が少なく思えましたので」

    「…普通に喋っているが…?」

    「私の方が喋りました」

    「嘘をついていて落ち着かねぇからベラベラ喋ってんじゃねぇのか?」

    「違います」

    「じゃあ黙ってろ」

    「兵長もよく喋りますね」

    「…」

    ミカサと兵長が、無言で火花を散らす。

    「ハンジ…俺の順番はまだだが、先に言っておく。俺はこいつに入れる」

    「はぁ、2人共仲がいいねぇ……じゃあ、そういうことにしておくよ…次はアルミン」

    「僕は、クリスタに入れます」

    「オレもクリスタに…」

    「俺も…」

    「アルミン、ジャン、エレンがクリスタに入れるんだね…さて、クリスタ…結構人気者だけど、誰に入れる?」

    「ミカサに……」

    え、ミカサ?
    いや、でも当然か。
    現時点で、兵長とミカサが1票ずつなのに対して、クリスタは3票。
    この場を切り抜けるには、兵長かミカサに票を投じた上で、団長に同じ人物に投票してもらうことで、決選投票に持ち込むしかないというわけだ。

    「ミカサは…さっきから兵長にこだわってるよね…それってもしかして、騎士が守っているのが兵長で、夜のターンでは殺せないからなんじゃないの?」

    クリスタの鋭い指摘に、ミカサは何も答えない。

    「…なるほど…それは面白い考察だね…さて、エルヴィンはどうする?」

    「……クリスタに。確かに、筋は通っている推理だが、根拠が薄い」

    「よし…リヴァイが1票、ミカサが2票、クリスタが4票…処刑されるのは、クリスタに決定!…では、夜のターンに移ろう」

    夜のターンは滞りなく進み、昼のターンになった。


    ***

    あーあ、処刑されちゃった…。
    でも、パイは免れたからよかった。

    女の子にはしない、って言ってたから、正直安心していたけど…。

    それに…まだ、人狼は生き残っているもの。


    特別、手強い人狼が、ね…。


    ***



  21. 21 : : 2014/05/15(木) 02:33:09



    【第5日 昼】
    生存者:エルヴィン、リヴァイ、エレン、ミカサ、アルミン、ジャン

    「はい、では、昨晩の被害者を発表します!昨晩の被害者は、いませんでした!」

    え…また?

    「ったく…どうなってる……人狼が間抜けなのか…騎士の勘がいいのか知らねぇが…」

    「でも、これで、まだ騎士が無事だということはわかりましたね」

    「じゃあ、今から5分間ね。話し合い、スタート!」

    「さて…問題は占い師だが……これでは、無事なのかどうかもわからないな…」

    「占い師は、頼りにしない方がいいかもしれませんね」

    今、生き残っているのは6人。
    ゲームオーバーにならないということは、生存している人狼は多くても2人…。

    現生存者の中で、最初にハンジさんに投票しなかったのはミカサとジャン…。

    「皆さん、今までの3回の投票で、自分が誰に投票して来たか、教えて戴けませんか?」

    「私は、ハンジ、ミケ、クリスタだな…」

    団長は、常に一番票数が多い人…つまり、処刑される人に投票している…。

    「俺は、ハンジ、ミケ、ミカサだ…」

    兵長も、ミカサ以外は団長と同じ…。
    兵長の場合、ミカサへの投票はただの応酬に近いし…団長と同じなのかな…。

    「俺は、ミケさん、アルミン、クリスタだな」

    「ジャン、僕に投票したのはただの勢いだったとして…最初、どうしてハンジさんではなく、ミケさんに投票したの?」

    「そりゃ、ミケさんが、話し合いの時に一言も喋ってなかったからだ…喋らない奴を処刑するのは、人狼ゲームの定石だからよ…」

    なるほど…それは正論かもしれない。

    「オレは、ハンジさん、ミケさん、クリスタだ…」

    団長と同じで、エレンも常に多数に投票している。

    「エレン、最初の投票の時、一番手は君だったよね…?どうして、ハンジさんに?」

    「何となく…後、罰ゲームを考えたのがハンジさんだったから…まぁ…な?」

    「う、うん…」

    実は僕も同じ理由でハンジさんに投票したから何も言えない…。
    エレンも、これといって怪しい所はなさそうだ。

    ただ。
    今日のエレンは、何だか変だ。
    凄く静かで、口数も少ない。

    ゲームが始まる前は、駆逐してやる、とか騒いでたのに…。

    まさか…エレンが沈黙を貫いている理由って……。

    「僕は、ハンジさん、ジャン、クリスタだ…ハンジさんに投票したのはエレンと同じで何となく…ジャンに投票したのは、その時に言ったかもしれないけれど、能力者が正体を明かすのに否定的だったからだ…」

    「否定的だったといえば、リヴァイ…お前もそうだったな」

    「あ?…確かにそうだが……今は、能力を持っている人間は早く正体を明かすべきだと思う……特に、占い師がな」

    「そうですか…で、ミカサはずっと兵長…だよね?」

    「ええ、そうよ」

    「……何故だ?」

    「最初は、なんとなく。2回目は、アルミンも言っていましたが、あなたが、能力者は正体を明かすべきでないと言ったから。3回目は、発言が比較的少なかったから」

    「…何となく、と言う割には、大した執念じゃねぇか……」

    「あと1分!」

    「…俺は、もう投票する奴は決めた」

    「奇遇ですね…私も決まっています」

    「私も決めた」

    「俺もだ」

    え…!!ちょ、ちょっと待ってよ…!!
    僕はまだ決まってないよ…。

    「え…何、じゃあもう話し合わなくていいってこと?」

    「ああ、ハンジ…」

    「じゃあ、30秒残ってるけど締め切るね。じゃ、リヴァイから投票!」




  22. 22 : : 2014/05/15(木) 02:33:39




    「俺はミカサだ」

    やっぱり。

    「私もミカサだ」

    やっぱり。

    「私は兵長に」

    やっぱり。

    「アルミンは?」

    「僕は、……」

    これは、正しい判断なんだろうか。
    でも、仕方がない。

    「ミカサに」

    その瞬間、ジャンと目が合った。
    目を見開いている。

    え……?

    すぐに、ジャンは目を逸らした。
    ジャン…?まさか、君は…!!

    「オレは、団長に」

    「俺は…兵長に」

    「…はい、じゃあ…エルヴィン1票、リヴァイ2票、ミカサ3票で…処刑はミカサに決定…夜のターンに移るよ」


    ***

    ちっ。
    あの目付きの悪いチビをパイまみれにしたかったのに…してやられた。

    でも、エレンを守ることができてよかった…あの危険なパイから…。

    私は、もうエレンを守れないけれど…この中に騎士がいるなら……例えそれがあの腹立たしいチビであっても……どうかエレンを守って欲しい…。

    ミカサは祈るようにマフラーを掴み、軽く座り直した。

    ***



  23. 23 : : 2014/05/15(木) 02:34:00




    【第5日 夜】


    ***


    「…じゃあ、占い師の人は目を開けてね」

    ゆっくりと目を開ける。

    ハンジさんが、どっちにする?と唇だけを動かして聞いてくる。

    そうだ。
    これで、人狼を追い詰められる。
    今まで沈黙を貫いて来た甲斐があった。

    …団長で。

    同じように、声を出さずに答える。

    ハンジさんの唇が静かに動く。

    「エルヴィンは、人×だよ」

    何だと……じゃあ…人狼は………。
    だとしたら、狙われるのは…!!

    まずい……。

    占い師の密かな計画が、音を立てて崩れていく。


    ***



  24. 24 : : 2014/05/15(木) 02:34:21



    【第6日 昼】
    生存者:エルヴィン、リヴァイ、エレン、アルミン、ジャン

    「さてさて、昨晩の犠牲者を発表します!昨晩の犠牲者は…」

    頼む、騎士の人…僕達を守ってくれ…!!!

    「エレン!!君だあ!」

    エレン……!?
    何で…何で、今、エレンなんだ…?

    「いよいよ大詰めだね…さぁ、話し合いを始めよう!」

    「さて…もう、この4人だけか……エレンが騎士でなければいいのだが…」

    「4人しか生き残っていねぇのに、ゲームが終わらない…ということは…」



    「残る人狼は、1人だけ…!!」



    4人共押し黙る。

    そう、この中で1人だけが敵だ。
    でも、嘘吐きは2人以上いる。

    僕の予想では、エレンは騎士ではない。

    まず、エレンの性格からして、ここまで沈黙を貫くとは思えない。
    そもそも、エレンは騎士に憧れていた。
    一番狙われそうだったモブリットさんを、あえて守らない理由がない。

    もし、エレンが能力を持っていたとしたら…それはきっと…占い師、なんだろうな…。


    ***


    くそ…まさかオレが、人狼に狙われるとは思わなかった…。
    色々考えているうちに、殆ど何も話せないままここまで来ちまった。

    皆はちゃんと気づいたのか…?
    占い師が、一体誰なのかを…。


    ***



  25. 25 : : 2014/05/15(木) 02:34:48




    団長、兵長、僕、ジャン。

    恐らく、この中に騎士はいる。
    未だに、名乗り出ることなく、人狼よりも慎重に、息を潜めている。

    人狼が1人、騎士が1人、市民が1人。
    人狼を選べば、その場で勝利が決まる。
    騎士を選べば、実質その場で敗北が決まる。
    市民を選んだ場合は、生き残った騎士の判断に全てが懸る。

    ここでの選択が、運命の分かれ目だ。
    とはいえ、ここまで生き残ってきた人狼だ…恐らく、上手く僕達を誘導しようとするはず。

    しかも、生き残ったのは全員男。
    処刑される人間は、パイ塗れになることが確定だ。

    そのせいか、団長と兵長の目がいつになく真剣だ…。

    「わかっているだろうが、ここで人狼を炙り出せなければ…人間チームは敗北してしまう。それぞれ、悔いの残らないようしっかり話し合おう」

    「前回の投票で…ジャン、お前だけがミカサに投票しなかったな…何故だ?」

    「あ…それは…俺が投票の順番が最後だったから、です…」

    「どういう意味だ…?」

    「エレンが団長に投票した時点で、ミカサの処刑は決定でしたから……せめてもの情けと言うか。ミカサが投票していた兵長に入れたんです」

    「なるほどな…確かに、あの状況じゃ、お前が誰に票を入れても状況は変わらないからな…その情報から、市民か人狼かを判断するのは無理ってわけだ…チッ…」

    「はい、残り1分!」

    「…もう時間が無いな……では、最後に聞くが……この中に騎士はいるか?いるなら、名乗り出て欲しい…」

    誰も、何も言わない。
    団長は、静かに目を閉じる。

    「そうか……なら、いい…」

    なら、いい?
    どういうことだ…?

    「…エルヴィン」

    「何だ?リヴァイ」

    「騎士が誰かを知って、お前はどうするつもりだ?」

    「騎士が分かれば、騎士が守ってきた人間が誰なのかもわかる……うまくすれば、この中で誰が人間なのか、2人も判明することになる…十分に価値がある問いだと思うが……」

    「そして、人狼にとっては、投票すべき相手がわかる」

    「…私が、人狼だと言いたいのか?」

    「お前の言動を見ていると、そう思っちまうな…考えてみりゃ、この席順だと、お前はいつも俺の直後に投票することになるんだよな?」

    「私が、お前の真似をしている、と…疑われないように…?」

    「唯一お前が俺と違う投票をしたのは、クリスタが処刑された時だが…あの時、お前は投票の順番が最後だったからな…十分に考えられる」

    「は…馬鹿なことを……」

    「…まぁいい……それぞれが納得のいく答えを選べばいいだけの話だ」

    兵長の目が、すぅ、と細くなる。
    団長は、それを楽しげに見下ろす。

    兵団のトップ同士の駆け引き。

    あまりの緊迫感に、口を挟む隙も見つけられないまま、時間が過ぎる。

    「はいはい、そこまでー!!じゃあ、投票に移りまーす!ジャンから!」

    「俺は…団長に」

    団長が、目を閉じた。

    「俺も、エルヴィンに入れる」

    「私は、リヴァイに入れよう」

    僕の番だ。
    わかっているのに、言葉にできない。

    「ん?アルミン…?どうしたの?」

    どうしよう。
    未だに、自分が決めた答えに迷いが付きまとう。

    「いえ……僕も……」

    団長と目が合う。
    その唇が音を立てずに紡いだ言葉を読み取ってみて、僕は決断した。

    「僕も、団長に」

    「はいよ…そうしたら、エルヴィンに3票、リヴァイに1票……あーあ、エルヴィン、頑張れ…!!」

    「…というわけだ、悪く思うなよ、エルヴィン…」

    人差し指でパイをクルクルと回しながら、兵長が団長の前に立つ。

    「リヴァイ、私をパイ塗れにするつもりか…」

    「ああ…そのために調査兵団に入った……わけではねぇが……、どうする?ミケみてぇに外でやるか?」

    「いや、ここでいい……濡れタオルも存分にあるようだしな」

    ミケさんとモブリットさんが既にタオルを絞って準備している。

    「…なら、遠慮なくいかせてもらう…!!」


    白い閃光のように、パイが飛ぶ。


    椅子ごと後ろに吹っ飛んだ団長の介抱はクリスタ達に任せることにしよう。

    それより、ハンジさんの指示だ。
    団長が人狼なら、夜のターンは来ないはずだ。

    しかし。

    「では……夜のターンに移るよ」




    やってしまった。
    人狼は、まだ生きている。




  26. 26 : : 2014/05/15(木) 02:35:10




    【第6日 夜】

    「はい、じゃあ、夜のターンだよ!」

    そうは言われても、もう僕には出来ることは何もない。

    皮肉なものだ。
    今になって、人狼が誰か、騎士が誰か、はっきりとわかるのだから。

    「じゃあ、目を開けて」

    すっかり諦めていた僕の耳に、ハンジさんの言葉が飛び込んでくる。


    「では、昼のターンに移るよ」


    ***


    まさか、私がパイの餌食になるとは。
    濡れたタオルをムンズと掴み、顔を拭く。

    普段、しっかりと分け目を作る前髪が、少し崩れて垂れている。

    …だが、そんなことはどうでもいい。

    むしろ悩ましいのは、殆どの者が、このゲームの本質を忘れてしまっていることだ…。
    リヴァイですら、見失いつつあるかもしれない。

    となれば、彼に託すしかないな…。

    私のメッセージの意味をしっかり理解してくれ…アルミン。


    ***



  27. 27 : : 2014/05/15(木) 02:35:36



    【第7日 昼】
    生存者:リヴァイ、アルミン、ジャン

    「じゃあ、犠牲者を発表するね。犠牲者は…」

    息を呑んで待つ。
    ハンジさんが大きく息を吸い込んで叫ぶ。

    「いませんでしたー!!」




    僕は、賭けに、勝った。
    自然と、口角が吊り上がる。



    「ありがとう、ジャン…僕を守ってくれて」

    「ああ……ったく、お前が団長に入れたからどうしようかと思ったぜ…」

    「…お前達、何を話してる?」

    「兵長、失礼を承知で申し上げますが……兵長は、僕の予想よりも、何倍も演技がお上手でした…」

    「…」

    『何かを得るためには…何かを捨てなければならない』

    団長の、無音のメッセージを思い返しながら、ゆっくりと、指をさす。


    「人狼は、あなたですね…リヴァイ兵士長」


    兵長が返事の代わりに、パイを掴んで、端を齧った。


    「ふん…言いたいことはわかるな…?」

    「根拠を示せ、ですよね…」

    「それは、俺が説明した方が早いと思います…」

    「ほぅ…」

    兵長は、パイを小さく千切って口に放り込む。

    「俺は、騎士です。そして、ここまでずっとミカサを守ってきました……最初にミカサを選んだのは、ゲームに関係ない理由です。でも。それが偶然、人狼の攻撃とぶつかったから…ミカサを守り続けていれば、人狼の正体が掴めるんじゃないかと思いました。でも、ミカサが、あの腐れ占い師…いや、エレンの代わりに処刑されてしまったので…アルミンを。そして、犠牲者は出なかった。俺が騎士で、アルミンが死ななかったということは、あなたが人狼以外あり得ない」

    「エレンが占い師の可能性が高いと考えたのは、エレンがいつになく静かだったからです。人狼ゲームに慣れていないから大人しかったのか、占い師であることを気づかれないように静かにしていたのかはわかりませんが…」

    「ま、ここまで人数が減ると、予想も確信と区別がつかねぇくらい近くなるからな……」

    ごくん、と最後の欠片を飲み込む。

    「好きにすればいい…俺は、俺が思う『敵』に投票する」

    兵長が僕を見る。

    やっぱり、さすが兵長だ。
    よく考えてる。

    「じゃあ、投票だよ!アルミンから順に言ってね」

    「僕は、兵長に」

    「俺も、兵長に」

    「俺はアルミンだ」

    「…ふふっ…はい、リヴァイが処刑決定!!…さぁ、アルミンかジャン、全力でやっちゃって!!」

    「楽しそうな顔すんじゃねぇクソ眼鏡…」

    「はいはい、じゃあパイを……って、あれ、パイは?」

    「小腹が空いた」

    「ああーー!!!だから、あんた、さっきから凄い早さでパイ食べ始めたのか!!処刑されるってわかったから!!」

    「…頭を使ったら腹が減ったから食った……そして、それがたまたま最後の1枚だっただけだ」

    へ、兵長ーー!!??
    な、何て荒業なんだ…!!
    というか、その無表情のままこんなお茶目なことをされても、笑うに笑えない…!!

    「リヴァイ……あんた…潔癖症だから、そりゃ、パイぶつけられるの堪らなく嫌だろうけどさ……まさか食べるなんて……」

    「はっ…あんなクリームまみれになるなんて俺はごめんだ。それに、俺は食べ物は粗末にしない性格なんでな」

    さすがです、兵長。
    そして、ごめんなさい。

    「兵長…」

    「あ?」

    「まだ、お腹空いてます?」

    「空いてるわけ…」

    言い掛けて、兵長が目を見開く。

    その先には、



    ジャム&チョコレート&ハニー on さっきのパイ。



    「団長とミケさんからの、差し入れだそうです」

    僕の背後で、エプロンを着けた団長達がにこやかに笑う。
    兵長の顔が、まるでトーンでも貼ったように暗くなる。

    「じゃあ、行きますね…」


    えいっ。




    …べち。


    汚ぇ…汚ぇ…と呻いて痙攣する兵長を団長達が清掃している。
    その後ろで、ハンジさんがお腹を抱えて笑い転げている。

    「たまにはお前が掃除されるのもいいだろう?」

    兵長の頭を掴んで顔をゴシゴシと擦っている。
    団長が黒い。

    「さて……まあ、皆わかってるとは思うけれど…これで、人狼は全滅しました!!人間チームの大勝利!!おめでとう!!」


    ***



  28. 28 : : 2014/05/15(木) 02:35:58



    「よっしゃ!!!やったな、アルミン!!」

    「うん、ジャンのおかげだ……」

    「いや、しかし…アルミンが市民でよかったよ……もし人狼だったら、絶対勝てねぇよ…」

    「僕は、団長が人狼の方が怖いけどね…」

    「はは、どっちもだな…それにしても…エレンの野郎は、占い師の癖に何で何にも……」

    「…ジャン、それなんだけどね」

    「何だ、アルミン…?」


    「はい、じゃあ、全員カードを回収するよー!」


    後ろでハンジさんが籠にカードを集めている。

    懐からカードを取り出して、ジャンに見せる。



    「僕は、市民じゃないよ」



    「は……何言って……」

    そこに書かれている3文字に、ジャンは絶句する。


    『占い師』


    だって、このゲームは、拷問の訓練と実験、なんでしょ?
    目的は見失わない。

    でも、これはゲームだ。

    ゲームは、楽しまなきゃ………ねぇ、団長?


    僕の視線に気づいた団長が、すっ、と唇に指を当てて微笑む。


    ふふふ。



    【完】
  29. 29 : : 2014/05/15(木) 02:54:45
    【蛇足】

    こんばんは、泪飴です。
    今回は、104期の頭脳、アルミン君が主人公指定ということで、最近流行りの人狼ゲームを題材にしてみました。

    最初は軽い気持ちで書き始めましたが、実際に書いてみると、大変難しい題材でした汗
    実は、私自身が人狼ゲームに参加したことがないので、スマホアプリをダウンロードして、友人の協力の下、何度かシュミレーションをしながら書き進めたりもしました。

    論理上の矛盾点が生じてしまったり、含みを持たせすぎて、読者さんに上手く伝わらなさそうな表現を取ってしまったり…。
    大学の友人や小説仲間さんのお力も借りつつ、そうした問題点を、時間の許す限り絞り出して修正したつもりです。
    そういった意味でも、この度の企画は、とても良い訓練になりました。

    今回の企画の中心となってくださったゆき様、小説執筆に協力してくれた沢山の仲間達に、この場を借りて、改めてお礼を申し上げたいと思います。
    ありがとうございました。


    ちなみに、実際の役割は以下の通りでした。

    エルヴィン:市民
    リヴァイ :人狼
    ミケ   :市民
    ハンジ  :人狼
    モブリット:霊媒師
    エレン  :市民
    ミカサ  :市民
    アルミン :占い師
    ジャン  :騎士
    クリスタ :人狼

    退場の順番は、ハンジ、ミケ、モブリット、クリスタ、ミカサ、エレン、団長、兵長の順で、生き残ったのはジャンとアルミン。


    口数が少なく、あからさまに怪しかったエレンではなく、実は主人公のアルミンが占い師だった、というのが、今回のオチです。
    自分が最後までゲームに参加し続けるため、そして、団長の言う「このゲームの本質」、すなわち「拷問の訓練と実験」…もっと突き詰めていえば、「人間性を捨てる」という目的の下、アルミンは、自身の正体を市民と偽りました。

    私がこんな展開にしてしまったのは、ただゲスミンが書きたかっただけです。笑


    では、ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました!!
  30. 30 : : 2014/05/15(木) 08:01:46
    良かったです
  31. 31 : : 2014/05/15(木) 19:51:39
    これは…!!!神作だ!!!!!
  32. 32 : : 2014/05/15(木) 21:10:49
    面白かったー!
  33. 33 : : 2014/05/15(木) 21:11:59
    死に急がなかったエレンwww
  34. 34 : : 2014/05/16(金) 00:46:57
    >>30

    >>31

    >>32

    >>33

    コメントありがとうございます♪
    楽しんで戴けてよかったです^^
  35. 35 : : 2014/05/16(金) 06:39:48
    人狼ゲームをテーマにしたという事でとても楽しみにして読み始め、見事にその世界観にのめり込んでしまいました!

    緊迫した空気も、人狼ゲームならではの疑心暗鬼になったり口数が少なくなったりしてしまう心情などもとても丁寧に、細かに描かれていて、最後の最後まで面白かったです♪

    しかしながら、私もアルミンはずっと市民だと思っていましたね、最後の最後でどんでん返しを食らった気分でした!w

    時折挟む投げパイ処刑シーンでのギャグ要素もクスリときました(・∀・`*)

    執筆お疲れ様です!
  36. 36 : : 2014/05/16(金) 14:00:17
    >>35

    ゆきさん、お疲れ様でした!
    コメントありがとうございます。

    今回の企画に参加するにあたって、私なんかが参加していいのかな、という不安がずっとあったのですが、そう言って戴けると安心します。

    アルミン=市民は、読者さんも騙せたら、と思って盛り込みました♪

    パイ投げの所は原作の様々なネタを盛り込みましたww
    幹部組には全力で謝りたい所存ですww

    これからも、よろしくお願いします!
  37. 37 : : 2014/05/17(土) 00:56:39
    人狼!!(笑)凄く懐かしいです(笑)
    めっさはまってましたよ自分w
    リヴァイ兵長の死刑のすごさが想像すると
    納得できますね(笑)
    凄く面白くて大好きな作品です!!ありがとうございました!!
  38. 38 : : 2014/05/17(土) 07:48:41
    こういう神作を待っていた…

    第二弾もやって欲しいです*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
  39. 39 : : 2014/05/17(土) 21:11:45
    >>37
    エレアニさん!
    ありがとうございます♪

    おお、実際に人狼知ってる方が読んで下さって、そういった感想を戴けるのは本当にありがたいです^^

    兵長の処刑は完全に大惨事ですよねwww
  40. 40 : : 2014/05/17(土) 21:13:59
    >>38

    だーくりあるみんさん、コメありがとうございます♪

    神作だなんて…!!汗
    …でも嬉しいです♪

    そうですね、いつか第二弾もやってみたいですヽ(*´v`*)ノ
  41. 41 : : 2014/05/18(日) 13:18:44
    兵長の処刑はミカサにしてほしかったな〜www
  42. 42 : : 2014/05/20(火) 22:31:29
    >>41

    アニたんとペトラLoveさん、コメありがとうございました!
    大変遅くなってしまって申し訳ありませんでした…

    確かにそうしても面白かったんですが、ミカサさんと兵長の不仲はあくまでもエレンをめぐってのものだと思うので、あえて直接対決は避けたんです汗

    次回、また書くことがあれば、是非アニたんとペトラLoveさんのご意見も反映させていきたいと思います♪
  43. 43 : : 2014/05/29(木) 19:53:08
    初めまして、お疲れ様です!
    人狼ゲームは、ちょっとだけやった事があるんですが、それ以上に面白かったです。けど、まさかアルミンが占い師だったなんて…。
    改めてお疲れ様です♪
  44. 44 : : 2014/05/29(木) 20:38:39

    >>43

    メイ・ザガリアスさん、読んで下さった上にコメまでありがとうございます!
    そうおっしゃって戴けて光栄です♪
    アルミンの役職は、読者さんに少し驚いて貰いたくて入れた要素なので、嬉しいです♪
  45. 45 : : 2014/09/03(水) 01:06:58
    1番最初のハンジさんが処刑されるところ、てっきり、血なまぐさいのが来るのかな…と思ったら、パイだったので、爆笑してしまいました!
    リヴァイ兵長から下される、パイ処刑…
    きっと、いつもは鋭い目付きをカッと見開かせるんだな〜と想像すると、とっても面白いです!
    リヴァイ兵長が処刑されるシーン…爆笑しました!
    最後、まさかのアルミン、市民じゃなくて、占い師だったとは…!とてもびっくりしました!
  46. 46 : : 2020/10/28(水) 13:24:23
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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tearscandy

泪飴

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