この作品は執筆を終了しています。
アニ「私が壊した宝物」
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- 1 : 2014/04/30(水) 00:55:52 :
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アルミン「僕が見つけた宝物」
http://www.ssnote.net/archives/14266
の、続編です
いつ投稿できるか分かりませんが、スレッドだけ先にたてておきます。
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- 5 : 2014/10/20(月) 00:55:20 :
- 大変長らくお待たせいたしました。
やっと完成の見通しが立ったのでこれからぽつぽつと上げていこうと思います。
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- 6 : 2014/10/20(月) 00:55:55 :
「ねぇ………アニ」
「ごめん……ごめんね」
「でも僕は……」
「僕はっ────」
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- 7 : 2014/10/20(月) 00:56:35 :
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眩しくて目が覚めた。
きらきらした朝日に目を細める。
むくりと起き上がって辺りを見回すが、同じ部屋には既に誰の姿もなかった。
……寝坊したか。
寝坊しても訓練兵時代のようにガミガミと怒られることが無いのが憲兵団だ。
突然、扉がものすごい音を立てて開いた。
「ほら~アニったら早く起きてよねぇ!先輩待ってるよぉ?」
……教官はいないけど同期はいる。鬱陶しい。
私は彼女を拒絶するように再び布団に潜り込んだ。
「もぉ!起きなさいよ!」
彼女はそう叫びながら私の掛け布団を勢い良く剥いだ。
「はぁ………」
いつまでもぐずくずしている私に痺れを切らしたのか、彼女は子供のように地団駄を踏む。
「早くしてよぉ!今日は当番あるでしょぉ!」
……そうだった。
「はぁ………」
今日2回目の溜め息をつく。
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- 8 : 2014/10/20(月) 00:57:17 :
その時、部屋の扉がコンコン、と2回ノックされた。
「ヒッチ、アニ、いるか?」
「あー!マルロったらまた着替え覗こうとしてるのぉ?」
「ち、違う!それにまたってなんだ、俺はそんなこと一度も───」
「あーはいはい、わかったわかったからぁ。用件はー?」
「なっ………はぁ……もういい。用件はお前にだ、アニ」
支度をしていた手を止める。
「……何?」
扉が少しだけ開いて、隙間から手だけが覗く。
「ほら。お前宛てだ」
被りかけていたパーカーをきちんと整え、私はマルロが差し出している封筒を受け取った。
「へぇ、あんたに手紙?随分分厚いのねぇ」
なにを勘違いしたのか、ヒッチがにやにやしながら手元をのぞき込んでくる。
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- 9 : 2014/10/20(月) 00:58:02 :
「じゃ、渡したからな。それとアニ、今日のお前の当番は無くなった。予定が変わったらしい」
「はぁ!?なにそれ!私は!?」
「お前はそのままだ。早くしろよ。俺は先に行くからな」
「どうぞご勝手にぃ………うわぁ…マジで最悪なんですけど」
2人の会話を軽く聞き流し、封筒に目を落とした。
……これは……
封筒には焼き印が押されていた。
ぱしっ
「あ………」
封筒の焼き印を見つめたまま動かない私をみかねたのか、ヒッチが封筒を引ったくる。
取り返そうとしたが、もう手遅れだった。
「あんたに手紙を出すなんて物好きねぇ~。しかもこーんな分厚い手紙をさぁ……って、なにこれ」
部屋のなかをぐるぐると歩き回っていたヒッチが足を止める。
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- 10 : 2014/10/20(月) 00:59:10 :
「これ、調査兵団のマークじゃん。なんであんた宛てに?」
そんなのこっちが聞きたいくらいだ。
一体今更何を……
………いや
そんな、まさかそんなはずは……
「───ねぇ、アニったら!」
大声が聞こえてはっとする。
ヒッチが私の目の前に封筒を振りかざしながら、仁王立ちをしていた。
「これってさぁ、いつ書いたやつなのぉ?」
「は?」
「だって調査兵団って壁外調査から帰ってきたばっかりじゃなぁい?」
「…………」
「あ!もしかして壁外調査前に書いたやつ!?壁外調査で死んじゃうかもぉーなんて考えてさぁ!1人だけ憲兵団に行ったアニちゃんにお手紙出そーって……何よ」
ヒッチは私の顔をみてそれ以上続けるのをやめた。
「……返して」
手を差し出す。
ヒッチはため息を付いたが、素直に封筒を差し出した。
「はいはい、どーぞ!はぁーあ、つまんないのぉ。ちょっとからかっただけなのにそんな怖い顔しちゃってぇ」
「…………」
「ま、どーでもいいけどそれちゃんと読みなよ。今日はどうせ時間あるんでしょ」
そう言いながら彼女はドアに向かって歩いていった。
「じゃ、私は当番行ってくるから。はぁーあめんどくさい……」
ドアが閉まると、部屋の中は先程と打って変わって静まり返った。
手に持った封筒を見つめる。
ヒッチの騒がしい声が聞こえなくなった代わりに、自分の心臓の音が聞こえてきそうだった。
私は意を決して、その封筒を開封することにした。
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- 11 : 2014/11/23(日) 18:44:39 :
朝日が眩しい。
カーテンも窓も昨晩から開けっ放しになっている。
………結局一睡もできなかった。
体は疲れている。
でもそれ以上に心が疲れて、眠れなかった。
エレンはどうしているだろうか。
私達は本部に戻ったが、エレンと兵長はすぐに旧本部へ戻ってしまった。
今回の壁外調査でエレンは相当なショックを受けただろう。
信頼していた班員を目の前で亡くし、女型にも負け、危うく連れ去られかけたのだから。
壁外調査の帰り、目を覚ましたエレンは悔し涙を流していた。
その気持ちは痛いほどわかる。
自分の選択が間違っていたせいでたくさんの仲間を失った。
仕方のないこととはいえ、エレンが背負うにはあまりにも大きく、重すぎるものだ。
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- 12 : 2014/11/23(日) 18:45:15 :
「あれ……ミカサ、起きてたの……」
背後で欠伸混じりの声がする。
振り返ると、クリスタが上半身だけを起こして目をこすりながら私の方を見ていた。
「まだ起きるには早いよ……」
「うん……クリスタはまだ寝ていて。時間になったら私が起こすから」
「ん………ありがと……」
それだけ言うと、クリスタはぱたんと布団に倒れ込み、すぐに寝息を立て始めた。
彼女も相当疲れたのだろう。
クリスタだけではない。
壁外調査に行った全員が肉体的にも精神的にも疲労し、混乱していた。
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- 13 : 2014/11/23(日) 18:46:03 :
コンコン
誰かが部屋の扉をノックしている。
こんな朝早くに誰だろうと思ったが、私は扉を開けるために部屋を忍び足で横切った。
「朝早くにごめん、ミカサ」
扉を開けると、アルミンが立っていた。
「どうしたのアルミン……もしかして寝ていないの?顔色が良くない」
「ミカサも人のこと言えないよ。眠れてないんでしょう?」
アルミンは疲れた顔で笑う。
……どうやら彼に隠し事はできないらしい。
「考え事ばかりしていて……一睡もできなかった」
「やっぱり、そんなことだろうと思った」
「でもアルミンも寝ていない」
「そうだね、僕も寝てないよ……少し気になることがあって」
「気になること?」
アルミンは頷くと、そのまま黙って俯いてしまった。
私の質問には答えない。何かに迷っているような、葛藤があるような表情をしていた。
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- 14 : 2014/11/23(日) 18:46:32 :
……珍しい。アルミンかこんな顔をするなんて、よっぽどのことがあるのだろう。
私は彼の言葉を待つ。
やがて、顔を上げたアルミンは、何かを決心したような引き締まった表情をしていた。
「……話したいことがあるんだ。ここじゃみんなを起こしちゃうかもしれないから、場所をかえよう」
私が短く頷くと、アルミンはどこかへ向かって歩き出した。
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- 15 : 2014/12/03(水) 21:20:54 :
本当は信じたくない。
こんな考えに至った自分に腹が立つ。
でもそう考えれば全て辻褄が合う。
これは人類のため、人類の未来のためだと分かっていながら、ミカサに話すことでミカサがこの仮定を否定してくれはしないかと思う自分がいる。
そんな甘い考えの自分にまた腹が立った。
「アルミン………アルミン!」
ミカサの呼ぶ声ではっと顔を上げる。
「ごめん、ミカサ……」
「私は平気。アルミンの方こそ大丈夫?さっきから様子が変」
「うん……」
あたりを見回すと、食堂のすぐそばまで来ていた。
「この中で話そう」
「うん…」
扉を開けて中に入る。
食堂には当然誰もいない。
がらんとした空間が今は寂しく感じた。
適当な席に座る。
向かい側のミカサはまだ心配そうな顔をしていた。
「今から話すことはあくまでも仮定なんだ。事実と決まった訳じゃない。可能性が高いってだけで……」
大きく息を吐く。
ミカサは心配そうな顔で僕を見ていた。
「あのね、────」
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- 16 : 2014/12/03(水) 21:22:42 :
………とんでもないことを聞いてしまった。
盗み聞きはよくないと思いつつも、動くに動けず結局最後まで聞いてしまった。
食堂のカウンター裏に潜ったまま壁に寄りかかる。
旧本部にリヴァイの好きな紅茶でも届けてやろうと思ってカウンターの棚を漁ってただけなのに、こんなことが聞けるとは。
……女型が104期生の中にいるって?
にわかに信じがたい話だったけど、アルミンの説明の筋は通ってる。
彼は頭の良い子だ。何の根拠もなしに自分のかつての仲間を疑うことはしないだろう。
でもそれにしても………
今までこの壁の中に敵がいるなんて考えもしなかった。
しかもこんなに身近に。
憲兵団だけじゃなくて、もしかしたら調査兵団にも────
「ちょっと!探しましたよ分隊長!」
「うわぁびっくりした……もー驚かさないでよモブリット」
「それはこっちの台詞ですよもう……こんな朝早くに何してるんですかこんな所で」
「いやぁちょっと紅茶を探しててさぁ……どっこ探してもないんだよねー」
「紅茶なら分隊長がこっちの棚に昨日移してましたよ。ほら」
「ああ!忘れてた!」
「ご自分でされたことなのに……」
「いやぁついうっかり」
あはは、と笑って頭を掻く。
逆にモブリットは少し顔をしかめてのぞき込んできた。
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- 17 : 2014/12/03(水) 21:23:03 :
「分隊長、何かありましたか?」
「…………」
モブリットの鋭さに思わず黙る。
「分隊長はわかりやすいですからね、すぐに分かりますよ」
そういうと、モブリットは私が散らかしたカウンター裏を片づけ始めた。
「何があったかは知りませんけど、話せることなら話───」
「モブリット!一緒に来て!」
「え、ちょ、分隊ちょ──」
「片づけなんて後で良いから!早くエルヴィンの所に……!」
「は、え、エルヴィン団長にで──」
「その時に一緒に話すから!」
「分かりました!行きます!行きますから引っ張らないで!」
ジタバタともがくモブリットを引っ張って団長室へと歩き出す。
ぼやぼやしている暇はない。このことを一刻も早くエルヴィンに知らせなければ。
手遅れになる前に。
──────────
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- 18 : 2014/12/04(木) 00:48:36 :
いよいよ明日か……
「はぁ……」
何となく緊張を感じてため息をつく。
壁外調査から帰ってきてからの数日間、何もする気が起きず、部屋から出る気にもなれず、ただ何も考えずに目の前で起きたことを頭の中で反芻していた。
それにしても静かだな……
食堂には俺と兵長だけ。
初めて来たときも広いとは思ったが、今は心に空いた大きな穴のせいで、ますます広さも静かさも際立つような気がした。
また、数日前までここにあった4つの声。
それがないことが何よりもこの場所を寂しく静かにさせていた。
「すまない、遅くなった」
扉を開けながらエルヴィンが入ってくる。
その後にはハンジが続き、さらにミカサ、アルミン、ジャンが入ってきた。
「え、お、お前らなんで………」
状況が飲み込めなくて目を泳がせる。
エルヴィンはちらりと俺に目を向けると、小さく頷いた。
「エレン、これから君にはある重大な説明をする。明日の君の護送時の時の事だ」
「は、はい!」
「少々ショックを受けるかもしれないが……」
エルヴィンはそういって少し俯く。
しかし、すぐに顔を上げ、エレンの目をまっすぐ見た。
「どうか最後まで聞いてくれ」
「は、はい、わかりました」
そう答えたものの、内心不安で仕方なかった。
……俺に受け止められるのか。
このエルヴィン団長の眼差しを──
────────────
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- 19 : 2014/12/04(木) 00:48:58 :
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- 20 : 2014/12/04(木) 00:49:24 :
ああ
やっぱりあんただった
私をここまで必死にさせるのは
私をここまで追いつめるのは
そうだろうと思ったよ
手紙にも書いてあったね
「僕は必ずいつか君に追いついてみせるよ」って
こんなに早く追いつかれるなんてね
見直したよ
でもね
「でも……」
私も
「私が賭けたのは──」
あんたに追いつかれるつもりは
「──ここからだから!!」
まだないよ
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- 21 : 2014/12/04(木) 00:49:51 :
────────────
地下の通路に足音だけが響く。
誰も口を開こうとはしなかった。
「ほら、ここだよ」
ハンジ分隊長が扉を開いて私たちを部屋のなかに入れる。
私達が案内された先には、大きな空間があった。
その中心に、一際目立つ大きな水晶。
閉じこもった彼女の頬には涙があった。
「アニ……」
隣にいるアルミンが小さく呟く。
その声を聞くだけで、私も心臓をつかまれるように苦しくなった。
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- 22 : 2014/12/04(木) 00:50:12 :
「……好きなだけいるといいよ。私は扉の外で待ってるから」
ハンジ分隊長はそう言うと、そっと出ていった。
沈黙が流れる。
ここに来たときにエレンが怒鳴り始めないか心配していたが、彼はもう怒鳴る気力もないようで、ただアルミンを心配そうに見ていた。
「アニ……」
アルミンはもう一度小さく呟くと、ゆっくりと水晶に近付いていく。
水晶にそっと触れる。
「アニ、ごめんね」
「僕は結局、最後まで君を守れなかったよ」
「もし聞こえてるなら……聞いて欲しいことがあるんだ」
アルミンはそう言うと、水晶に額を近付けた。
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- 23 : 2014/12/04(木) 00:50:43 :
「君はずっと、僕のあこがれだったよ」
「強くて綺麗で……優しくて」
「いつか君を守れるように強くなろうって、ずっと思ってた」
「まあ、君は守られる必要なんかないと思うかもしれないけど……」
アルミンはそう言うと、自嘲気味に笑う。
しかしすぐに俯き、拳で水晶を叩いた。
「でもね」
「君は僕が守れる人じゃなかった」
「君は僕たちの敵だった」
「でも……今でもまだ信じられないよ……アニ」
私はいたたまれなくなって思わず目を逸らす。
隣にいるエレンも戸惑っているようだった。
「嫌だよ……なんで……なんで……!」
アルミンは悔しそうに言う。
彼の目には光るものがあった。
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- 24 : 2014/12/04(木) 00:52:18 :
「なんで!なんでなんだよ!」
「なんで僕がこんな思いしなくちゃいけないんだ!」
「よりによって君と……アニと戦わなくちゃいけないなんて……」
アルミンが悲しそうに涙を流す。
もう、そんな姿はこれ以上は見ていられなかった。
アルミンに近づこうと足を前に踏み出した。
その時。
「ねぇ……アニ」
俯いたままのアルミンがそれまでとは違った静かな声で呟く。
私は思わず足を止めた。
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- 25 : 2014/12/04(木) 00:53:05 :
「ごめん……ごめんね」
「でも僕は……」
アルミンが顔をあげる。
その目に涙はもう無く、代わりに力強い光を宿していた。
「僕はもう現実から逃げない。君が戦わなければいけない相手なら戦うよ」
「今は君に対する思いは断ち切る。それが僕の役目だから」
アルミンはふっと表情を和らげる。
「でもね」
「いつか、いつかこの世界が平和になったら」
「今度は君を守らせてね」
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- 26 : 2014/12/04(木) 00:54:07 :
彼はそっと微笑む。
そして水晶の中のアニを一瞬見つめると、すぐに目を逸らし、一度も振り返ることなく部屋から立ち去った。
強い。
私が思うよりも、アルミンはずっと強かった。
一番辛いはずなのに、もう前を向いている。
彼をここまで強くしたのは、間違いなく彼女と、彼女への思いだろう。
私もしっかりしなければ。
背筋が伸びるような思いだった。
私たちは水晶をちらりと見てから、一回り大きくなった背中を追って、その場を立ち去った。
誰もいなくなった部屋で、松明に照らされた彼女の涙が名残惜しそうにきらりと光った。
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- 27 : 2014/12/04(木) 00:54:37 :
~fin~
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- 28 : 2014/12/04(木) 10:34:33 :
- このお話も前作と同様に和歌がもとになっています
今はただ 思い絶えなむ とばかりを
人づてならで 言ふよしもがな
[訳] 今となっては、もうあなたへの想いをあきらめてしまおう、ということだけを、人づてにではなく(あなたに直接逢って)言う方法があってほしいものだ
今回はアルミン、アニの両方の立場から歌が通じる歌を選びました。歌の背景にある禁じられた恋の切なさを表現出来ていたら良いなと思います。
最後に、しばらく執筆を止めていたにも関わらずここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
- 著者情報
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